14 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/04/25(日) 11:27 [ LgjpIS.M ]
「右舷より艦橋!二時の方角に岩礁発見、付近の洋上に人影を確認!」
艦内電話を通じて、艦長へと報告が届けられる。
何故右舷から報告が来るかと言えば、それは見張り員がそこにいるからだ。
日本が「転移」と呼ばれる別時空への移動現象を経験して以来、衛星関連の
装備と蓄積データは、その殆どが役に立たなくなっていた。
貿易と工業設備も壊滅的打撃を受けたため、まともに電装品も使えない。
そのため洋上の監視は、その多くを肉眼に頼らざるを得なくなっていたのだ。
「人影?」艦長は報告を聞いた瞬間、なぜこんなところに人が居るのかと
いぶかしんだ。自分の乗艦は海洋観測艦「あかし」であり、日本近海の
海図基礎データの取り直し中である。つまりは異世界の海へ乗りだした
第一陣であるはずだった。
現在民間船は出航差し止めになっているから、恐らくはこの「異世界」の原住
生物か、防衛の乱れの隙をついて「新天地」への密航を企てた者かのどちらか
だろうと想像出来た。
「右舷より再度報告!人影は全員女性の模様、被服はなし!泳いでいる!」
泳いでいるとの言葉に、艦長はそれらを現住生物だと考えた。未知の海で
海水浴をするような人間は、常識では考えられない。
「海獣か何かの誤認では無いのか?」
数秒後、確認を取った連絡士官が返答を返す。
「間違いなく人間、それも日本人では無いようです!」
艦長の頭は、完全に混乱した。
15 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/04/25(日) 11:46 [ LgjpIS.M ]
訳が分からなくなり始めたが、艦長はそれでも無理矢理それらしい理屈を
練り上げてみる。恐らく在留外国人が出航禁止令を破って密航、そして
誰にとっても未知の海で迷った挙げ句、難破したのだろうと考えた。
服を着ていないのは、恐らく重かったから脱いだ為で、それならば近くに
船の破片や油などが浮いているはずだ。
「付近に難破した船の形跡は?」
再度士官は見張り員と連絡を取り、返答した。
「付近海面に漂流物などは見当たらず!」
漂流物が見当たらないと言うことは、人か船のどちらかが大きく流されている。
ならば泳いでいる女性達は、それなりの時間を裸で泳いでいる事になる。
例え真夏の南洋であっても、泳ぐ事は大きく体力を消耗させるから、
彼女たちはかなり疲れている可能性がある。
艦長は決断した。彼女らが何者であれ、人間、しかも危険な状態に
あると想定される者であるならば、救わねばならないと。
続く、かなあ。
61 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/05/17(月) 23:10 [ LgjpIS.M ]
>>13-15続き
艦長の命令があってから数秒後、艦の底から沸き上がる響きが強くなる。
スピードを速めた艦は、徐々に右側へと向きを変えていく。
艦が概ね正面を向いたところで、新たな掛け声がブリッジを行き交う。
「かじ、もどーせー」
「舵、戻しました」
艦が完全な直進に入ると、速度がグンと速くなる。それとほぼ同時に、
艦長はボートの搭乗班を編制、発進準備をするように命じる。
相手が密出国者であれなんであれ、溺者であれば救助しなければならないと
艦長は考えていた。現状で救助が可能なのは、自分の乗艦だけだからだ。
沿岸ならばともかく、「公海上と思われる」この海を航海しているのは、自分の艦
以外には殆どいない。本土のシステムは未だに混乱しているから、救助要請を送った
ところで、それは全く意味を為さない。
そう言った訳で艦長は救助を決意していたが、同時に用心も欠かさなかった。
班員は警戒の為に武装して行くようにと命じたのだ。武装といってもせいぜい
鮫撃ち用のショットガン程度だが、何も無いよりははるかにマシである。
相手は溺者であったが、やはり日本からの脱走者でもある。例え女子といっても、
掴み合いや殴り合いにならないとも限らない。護身ナイフなどを隠し持った者もいるかも知れない。
そんな相手と部下を素手だけで渡り合わせる気など、艦長にはさらさらなかった。
「ま、他にも心配事はあるしな」
艦長はそう呟くと、前方の海面にある小さな黒い点にしか見えない岩礁を見つめた。
62 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/05/17(月) 23:11 [ LgjpIS.M ]
十数分後、岩礁まで残り5、6浬という距離まで近付いたとき、新たな報告が入った。
「報告!泳いでいた人影の一部、岩礁に上がった!」
「人影の様子は?」
「手に何かを抱えている模様!」
恐らく浮力のある手荷物でも持っていたのだろう、と艦長は判断した。
一部が助かったことに安堵しつつ、全く気は抜かない。海面から上がったところで、
結局それは水面から引き上げる労が減るだけであり、救助の必要があることには変わり
無いからだった。
「報告!岩礁に上がった一部、再度海中に戻った!」
艦長は報告を受けると、ふむ、と一言唸ると険しい顔つきになった。
彼女らの行動そのものは予想が付く。恐らく仲間の救助だろう。
体力の弱い者、泳ぎの下手な者を支援するために向かったのだと考えられる。
63 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/05/17(月) 23:12 [ LgjpIS.M ]
まったく迷惑な話だ、艦長はそう思った。溺れる者に引きずり込まれたり、回復が
十分で無いのに泳いで溺死される可能性があるからだ。その場合も、死体は照合せねば
ならないから、水葬に伏す訳にも行かない。全員が助かるかは分からないが、
出来れば運ぶ遺体や遺品は少ない方が良い。乗組員の士気にも関わる。
「行動は?どこへ向かった?」
返答は予想していたが、それでも一応聞いてみる事にした。
そして艦長の予想は、思い切り裏切られた。
「一部は西方に向かって移動中!」
艦長は一瞬、あっけにとられて動けなくなった。岩礁の西方には、人影は
存在しないはずなのだった。
221 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 00:02 [ MSZ8PKC. ]
書き込みも無いようですし、ちょいと萌えSSでも書きますね。
「180秒?の戦い」
「敵大型合成獣、接近してきます!」
眼鏡に光を反射させながら、オペレーターは勢いよく報告を上げた。警戒用
レーダーの画面には、大型目標の数倍もあるような光点が現れている。
「煙幕弾頭展開!全軍は直ちに所定の地域に退避し、状況完了までの間
支援戦闘に当たれ」
慣れた口調で基地司令は命令を下すと、同時に手元の通信機を作動させた。
「スクランブル、スクランブル。主要戦闘魔導士は、全員儀礼を開始せよ」
「ガラティア、今日は貴男の出番よ。頑張って」
緊急出撃命令を受けた魔法管制室では、既定の手順に従って魔力が編まれ始めていた。
日本式やエルフ式を始めとする様々な聖衣を纏った巫女達が、一心に呪文と魔力を
構成し始めている。宗教的統一を行わないのは、敵の種族・属性に対する不利を
なくすためである。(尤もこれのせいで、属性的優位も得にくいが)
聖衣と言っても殆ど裸同然のものや、下手をすれば数千年の昔から受け継がれた
ボロボロの布を「被せて」居るだけのものもいるが、それでもその効果には疑う
所が無かった。彼女らの体は魔法力の集約を示す、淡い白光を放っていたからだ。
222 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 00:18 [ MSZ8PKC. ]
純白の光に包まれる中で、戦闘要員たるガラティアは隊長から訓辞を受けていた。
「が、頑張ってはみますけど。でもストナ隊長」
ガラティアは額のクリスタルを閃かせながら、少しばかり渋るように黙った。
「どうしました?貴男はこれが初めての戦いでもないでしょう?」
ストナはガラティアの間を読んで接していた。戦闘に怯える臆病な子でも無いし、
一体どうしたのだろう、とストナは気がかりな声で尋ねた。
「ま、前がちょっと動いちゃって」
小さくつぶらなグリーンの瞳には、哀願するかのような色合いが滲んでいた。
今にも泣きそうな声を聴きながら、ストナは取り敢えず<<どっちが?>>と
思った。しかしそれは口に出さず、出来る限り厳しい口調を作るよう努力した。
「戦闘前に準備もしておかないなど、戦士としての恥です!もう時間は
ありません。そのまま出撃なさい!」
険しい隊長の声に、少しばかり恐ろしくなったが、ガラティアは反論というより
言い訳に近い言葉を口にした。
「やっぱり前を固定するのは辛いんですよ。私の場合二つあるし」
「言い訳無用!準備できたわ。さっさとあの贅肉をぶち落としてらっしゃい!」
ストナが最後に集成の言葉を発すると、蓄えられた魔力は一点に集約し始めた。
「よう。今日の撮影準備はどうだ?」
巨大なグリフィンもどきが空を舞う中、緑色の鉄帽を被った自衛隊員は呑気に
話している。直接化け物に絡んでも被害が広がるだけなので、事前に設定した所に
逃げ込んでの防戦が最近の主流な戦法であった。
223 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 00:37 [ MSZ8PKC. ]
被害を受けない戦いとなると、隊員にも多少の余裕は生まれる。また日々の娯楽が
少ない土地では、娯楽の生産もまた生活の一部として機能するのだ。この時二人の
自衛隊員が話しているのも、丁度それに近いものだった。
「カメラ良好・録画媒体と電源も闇からばっちり!」
眼鏡と髭がひどく似合わない隊員が、醜い笑顔で返答した。顔の輪郭はまるで
歪んだカンナのようであり、目は濁りきって腐ったヨーグルトのようであった。
「ふひっ。そうかいそうかい。今日もいい記録が出来そうだねぇ」
壊れかんなの言葉を聞いたのは、これまた輪郭が人類の標準値を大きく上回る
男だった。良く言えば太っちょ、悪く言えば○○○○○と言うような顔つきの男で、
黄色く曇った眼鏡の底からは北の将軍様のような目が覗いていた。
この二人は元々戦闘記録撮影班だったのだが、異世界での戦闘が確立されると
その内に徐々に本性を現していった。元来の生息域が電脳上か逆ピラミッドの
内部でしか無いような連中だったので、行動力だけはピカイチであった。
本質的には高さの次元を認識しない男達が、なぜ別個の戦闘記録なるものを
危険を犯してまで撮影しようというのか?その答えは簡単である。立体の中にも
彼らの腐りきった欲望を満たす対象が現れたからだ。
二人の変態がカメラワークについて(悪い意味で)常人の及ばぬ領域にまで
踏み込んで語り合い始めた所で、彼らの待ち望むそれは現れた。
「さーて今日は誰が来るかナー?げっ!ガラティアかよー最悪だ!売り上げ
がた落ちになるぜ、ちくしょうめぇ。せめて剥かれてくんねぇかなあ」
「ぶふっ。やったぜ万歳!今日の担当でホント良かったよ。ていうか俺の
ガラティアたんを呼び捨てにするな!」
営内の『近付きたくない生物ワースト』を1・2フィニッシュで飾る二人は、
それぞれにひどく腐れた感想を漏らした。
224 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 00:51 [ MSZ8PKC. ]
二人の目の前に現れたのは、超超巨大化したガラティアであった。いや、正確には
ガラティアの姿をした巨人と言うべきなのだが。魔法力を使って周辺物質を実体化
しているトークンなので、厳密には生物でもない。
額に輝くクリスタルの結晶と、金色に輝く軽くウェーブした髪の毛が光を反射する。
その姿は正に大地母神の名に相応しい美しさであり、一種の神々しさを持っていた。
目鼻立ちも正しく神の御技と言うべき端正さであり、唇などは触れただけで
火山を吹き荒れさせんばかりである。
そして顔から下と言えば、全身を神聖紋様で覆われた聖衣に包んでおり、張り付く
ようなその服からは、豊穣さであふれんばかりに実った身体があった。
二人は早速撮影を開始したが、その途中で彼女の股ぐらに妙な膨らみがあることを
察知していた。そしてその正体についてあれこれ下卑た考えを巡らせている。
そんな二匹の悪魔の事など知る由もなく、ガラティアは攻め入ってきた合成獣と
正面から対峙した。鋭い爪とくちばしで威嚇するグリフォンに対して、丸みを帯びた
ガラティアでは迫力が不足していたが。
「せえのっ、そりゃあ!」
まずガラティアはその大きな足で踏み込むと、地面を揺らしながら相手との間合いを
詰める。そして首を右腕の脇に抱え込むと、いきなり羽根を掴んで立ち上がった。
完全に垂直な姿勢になると、ガラティアはそのまま後ろに倒れ込む。
数秒後、地面は巨人の寝返りそのものの地響きを立てた。ガラティアよりも高く
持ち上げられていた合成獣は、位置エネルギーをたっぷりと運動エネルギーに変換されて
地面に叩き付けられる。
225 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 01:10 [ MSZ8PKC. ]
合成獣が立ち直る前に、素早く立ち上がったガラティアは大きくジャンプした。
山が降るような轟音と共に、10mほども飛び上がった状態から両足を揃えて
合成獣の頭めがけて両足を叩き下ろす。
しかし合成獣もやられるばかりではない。片羽を広げた反動で身体をかわし、
ガラティアの足は虚しく大地に大穴を開ける。
「ぐぅっ!っつぅっ」
柔らかい目標を狙っていたガラティアの足は、予想外の衝撃を受けた。その
ダメージはトークンの依り代となっている本物のガラティアにも負担を掛ける。
足裏を襲う痺れに、思わず本体も叫んでしまったのだ。
「グギェエェェエェエーーーー」
人間には衝撃波にすらなりうるほどの叫びをあげて、合成獣が突っ込んでいく。
相手の動きが鈍ったチャンスを、見逃すほど戦闘生物は甘くなかったのだ。
「くっ!」
人の耳にはひどく低く聞こえる声を上げながら、何とか半身になってガラティアは
身をかわした。しかしダメージのせいか見切りが甘く、服の一部が寸断されて
肌が露出してしまった。
「きゃあぁっ!」
近くの鳥すら落としそうな声を上げながら、ガラティアはどうにか破れ目を防ごうと
しゃがみこんでしまった。しかしそれはより事態を悪化させ、腹部の裂け目は縦に
横にワイヤのちぎれるような音を響かせつつ広がっていく。
226 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 01:31 [ MSZ8PKC. ]
影の通称『オークに劣る豚野郎』が、カメラを回しながら大声を上げた。
「おおっ!やばいよやばいよ。今回の敵はちょっと分かってる奴が居る!」
これも嬉しい悲鳴と言うのだろうか、口許から汚い泡を飛ばしながら
基地内で魔物と半公認されている男は、仲魔を呼びつけた。
非公認名称『ニセ春一番』は、薄汚い同志からの呼びかけに答えなかった。
撮影対象が興味の外だと分かって居たので、股間の膨らみについて議論が終わると
すぐにゲームを始めてしまったのだ。ノートパソコンに違法に保存された年齢
制限付きゲームで、現実では有り得ない数の美女を口説いていた。
(0は何倍してもゼロである。単純な数式だ)
「いいから早く!すっげえ事になってるんだから!ふひぃっ。マジでさ!」
一瞬呼吸障害を起こすほど、熱のこもった口調で豚野郎は想いを語った。
耳障りでしかもかんに障る声を、とにかく仲間に叩き付けている。
「あーあー。もう分かったよ!ったく何が凄いってんだ、あんな女の」
攻略に失敗してCGモードを見ていたアゴ男は、いい加減デブのうざったさに
負けたのか、渋々後ろを振り向き、そして絶句した。
しゃがみ込んだガラティアの服は、もはや限界に達しようとしていた。そして
合成獣がATMと重迫に気を取られているとも知らず、片方の手で必死に追い払おうと
空気を掻き回している。つまりガードは甘い。
そして西遊記の手下妖怪のような二人は、見てはいけない物を見てしまった。
「ガメラーガメラーつよいぞガメラー」
「ま、マジかよ。これって」
それを目にした瞬間、二人はオスとしての負けを悟った。しかも自らの装備は
未使用品で不完全体となれば、もはや勝算はなかった。そこにあるのは、ただただ
圧倒的な敗北である。
227 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 01:48 [ MSZ8PKC. ]
この戦闘の映像は、当然ながら基地司令部にもリアルタイム中継されている。
数分前までは特撮ヒーローショウだった画面は、最早倫理規定を無視したAV
そのものであり、常人の感覚では付いていけないマニア物になっていた。
「え、映像に一部修正を掛けろ!早くしないとえらいことになる」
司令が慌てふためき指示を下すが、オペレーターは極めて冷静に対処した。
<<今からそっちにスクリーンショットとデータの一部をを送るわ。
極秘ファイルに保存しておいて。コードは・・・>>
「あと数秒お待ち下さい。数コマ後には修正が入ります」
もちろん発覚すれば免職では済まない行為だが、彼女は一切その事を無視して
秘密裡に情報操作を行っていた。下着まで乾く生活よりは、ちょっとした違法と
言うわけである。
もちろんモザイクを掛けたからと言って、現実にガラティアの危機が救われる
訳ではない。大型合成獣は自衛隊の火器での撃破が非常に困難であるし、通常兵力への
対応もあるため、そう派手に火力戦が展開できないのだ。だからこの情報はすぐに
魔法管制室へも報告され、事態の打開命令も下された。
「うーん、拙いわね。いまさら一から練り直す魔力も無いし」
ストナは周囲の魔導士と術式を見回しながら、方策を練っている。年齢をそのまま
美しさへと変化させたような彼女は、柳眉を動かしながら頭脳を回転させた。
「一部変更なら持つかな?この程度ならちょっと変えれば、うん」
少しばかり呟いたあとで、ストナは一部の魔導士を起こして術式を書き換えた。
変更は素早く行われ、同調中のガラティアとも審議を行った上で正式発動される
ことになった。
228 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 02:14 [ MSZ8PKC. ]
「えーと、それホントに大丈夫なんですか?下手すると今よりまずいんじゃ」
術式の説明に移った途端、ガラティアは疑問の声を上げた。いくらなんでも
最悪現状より悪くなる、と即座に理解できる内容だったからだ。
「ごちゃごちゃ言ってると素っ裸で戦わせるわよ!もう自衛隊の方でも
弾の使用制限近いって言ってきてるし、どっちがいい?裸と」
ストナは一切甘えを許す気がなかった。実際羞恥心で命や戦略・戦術レベルの
状況を変化させて良いはずもない。これは冷静な戦士としての判断であった。
もちろんこれだけ言われれば、ガラティアも承伏するほか無かった。全裸で
アマゾネスファイトをやるよりは、どんな案でも多少はマシだと思ったからだ。
「術式変換。これよりトークンの一部を強制分解、変形再構成に移る」
ストナの命令と共に、救済手段は実行に移された。
支援砲火が目立って減り始めた頃、ガラティアのトークンに異変が起こった。
全身を包む聖衣が、純白の光を帯びて輝きだしたのである。光がある程度強くなった
所でガラティアが立ち上がると、身体は光の固まりにすら見えるほど輝いた。
「すげえ、すげえよ!変身魔女をリアルで見られるなんて、生きててよかったぁ!」
完全なる敗北から甦った、魔物よりもしぶといカンナ男は大声を上げた。彼がカメラを
回すその先には、光の化身と化したガラティアがいる。全身を覆っていた聖衣は
上半身から風化するように剥がれていき、そして今や全裸になっていた。
光り輝く裸身像と化したガラティアの身体には、徐々に再構成された聖衣がまとわり
付いていく。以前よりも布面積がいくらか縮小していたが、それでも危険な部位は
的確に覆い隠された状態になって復活していった。
229 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 02:42 [ MSZ8PKC. ]
「さあガラティア、思う存分戦ってらっしゃい!」
「あのー、これちょっと隠れてない部分があるんじゃ」
ストナはガラティアの反論を聴いた瞬間、赤軍督戦隊すらおののかせる表情で
一言こう言い返した。
「今度トークン作る時は、二度と嫁に行けないようなの着せるわよ」
ガラティアのやり場のない怒りと悲しみと憎しみは、全て合成獣に向けられた。
早い話がやつあたりである。
「このバカ鳥ぃっ!絶対生かして返さないからね!ロブスターキック!」
衣装のフリルとへソ出しは、完全に女子プロレスの世界観である。衣装がいきなり
ウルトラの母から、ワンダーウーマンロボへと移り変わったとも言えるが。
(服装には術者の意志が反映されるため、これはストナの趣味であると言える)
「よし!そこで回り込んでキャメルクラッチ!腕が遅い!そのままヒップドロップで
繋げて逆エビ!」
竹刀とジャージでも着せた方が良いと思えるほど、鬼のような督戦をストナは行った。
何故か技を知っているのは、営内の誰かがプロレスを教えたからだった。
ガラティアは逆エビ固めで合成獣の片足を折った後、すぐさま腕の関節を
叩き潰す作業に入った。たとえ両翼が生きていても、手足のバランスが狂っていれば
飛んで逃げられることもないからだ。
腕を脇の下に入れ込むと、そのまま寝ころんで胸に腕を押しつけた。この状態なら
関節の逆方向に力が掛かるから、勢いを付ければ関節を破壊することが出来る。
230 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 03:02 [ MSZ8PKC. ]
「せえのっ!」
上に乗られて既にグロッキーになっていた合成獣は、抵抗する力もなく腕を折られた。
森の木が嵐で倒れるような音をさせ、関節は本来なら有り得ない方向に曲がった。
「よーし、トドメの一撃!」
ガラティアは今までにない高さへジャンプすると、叩き付けるように
ニードロップを合成獣の首に打ち込んだ。
ガラティアの質量と落下速度は、合成獣の頸椎と気管を完全に破壊した。
周囲には首を砕いた音なのか、地面を砕いた音なのか分からない大音響が
大気を震わせるほどの勢いで伝わっていった。
「で、今回の件はどういう事なんだね?」
司令の詰問するような口調は、ストナとガラティアに対する悪意に満ちていた。
親の敵を見るような目付きで睨みながら、司令は二人に質問した。
「はっ。周辺環境の破壊については、戦闘規模から見て必然の物であり
遺憾ではありますが許容せざるを得ません。戦闘を中途で停止した件につきまし
ては、完全に私の監督不行届でありました。責任は取らせて頂きます」
ストナは詰問内容を先回りした解答を行ったが、司令は依然として二人を
睨み付けていた。解答自体は良くできたものだったので、ある程度怒りは消えていたが
それでも全く悪意は消えていなかった。
「えーと、あと始末を付けるべき事としては」
ガラティアは冷や汗をかきながら答えようとしたが、その寸前に目線はストナに
集中していった。
231 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 03:19 [ MSZ8PKC. ]
「司令、もしや私の戦闘指示に問題があったのでしょうか?」
ストナは残る問題点を思いつくと、取り敢えず上げてみた。しかしそれでも
司令は殆ど感情を変化させなかった。
「もうそんなことは、今までので慣れている。私が言いたいのは、例の
巨大化体の事だ」
この質問は予想していなかったため、ストナもいくらか慌てて原因を考える。
「トークンになにか問題でも?動きが遅かったとか、味方を巻き込んでいたとか?」
「いや、そうじゃない。なぜそのトークンは、造形があんなに細かいんだ?」
技術的な問題に付いてだろうか。魔法力の無駄遣いだと思われているのか、それとも
そこに負担を掛ける位なら、戦闘力を上げろとでも言うのだろうか?
ストナがそんな事を考えていると、司令は妙に辛そうな顔つきになった。
何かをしかねている表情というか、ひどく悩んでいるようにも思える。
「どうしました?やはり、もっと戦闘力の強化が必要ですか」
ストナは少し司令の具合を心配した。万年胃痛持ちの予備軍に入っているような
仕事場の人だから、最悪血を吐くかもしれないと思ったのだ。
しかし司令は苦しげというより、むしろ恥ずかしげに質問を返した。
「いいや、もっと単純な事なんだが。つまり何でナニがついているんだね?
必要なのか?しかも血管まで緻密に再現したような奴が」
この言葉を聞いた瞬間、ストナは合点が行き、ガラティアは卒倒しそうになった。
つまりは無修正のリアル動画が注意もなしに流れたのが問題なのだ。今後何度も
同じ事態が起きるというのは、余りにも拙い。
232 名前:S・F (7jLusqrY) 投稿日: 2004/12/19(日) 03:26 [ MSZ8PKC. ]
冷や汗が脂汗に変わった瞬間を感じながら、ストナは司令の質問を理解した。
「同調を行ったり戦闘時の破壊を知るには、ある程度現実に即する必要があります。
ここは絶対に変更できません。ですが、大雑把な形さえあればそこは事足りますから
細部に拘る必要性は、必ずしもありません」
「よろしい!では今後は細部を出来る限り削ってくれ」
オスとしての敗北を感じたのは、司令にしても同じだった。大画面で迫りくる
脈打った逸物に対して、何も出来ない屈辱と恥辱を味わったのだ。
こうして自衛隊の共同戦力たる魔法トークンは、最終的に光ののっぺらぼうへの
道を歩むことになったのだった。
END
・・・さて、夜逃げの準備でもしますかね。