78 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:14:51 [ BTJz1L2w ]
投下。架空軍隊v.s.近未来日本。
雪風のパク……もといリスペクト。
もうF世界でも何でもないけドナー。まあ、過疎ってるからいいでしょ。
他に行く所がないのよ( つд`)
読みにくかったらごめんね。文句が出たら次からsage or 逃亡します。
仮題:ALIS・春風の吹く場所で
最初に異変に気付いたのは極東の島国の天文学者だった。
いまや世界各国から衛星軌道にまで広がった彼らの天体観測装置の情報網を統括する
セントラルコンピュータは、昼夜問わず集積される膨大なデータの解析の結果、
宇宙の膨張がとまった……もしくは極緩やかになったことを示す数値をはじき出した。
同時刻。
一条の光が天空より飛来する。
それは立ち篭める雲を貫き、ネバタ砂漠へと落下した。
やがて乱された大気の乱れも静まり、地表がいつもの静寂を取り戻すころには、
其処で何かが合った痕跡など何処にも見当たらなかった。
ただ一つ、発生した地震を自動で記録すべく設置された無人観測計をのぞいては。
早ければ、明日には調査隊が派遣されて来る事になろう。
多くの人間の足音に乱される前に、砂漠は束の間の安寧を貪ろうとしているように見えた。
其処に暮らす多くの人間の営みを呑み込んだまま、街は未だ眠り続ける。
ありふれた日常を掠めた気紛れが、何を産む事になるのかを、
神ならぬ人間の身が知る由もないままに。
79 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:15:54 [ BTJz1L2w ]
降り立った先には、写真でみた通りの風景が広がっていた。
朽ちかけた桟橋に吹き付ける潮風は、灯油のような粘性を帯びて絡み付き、
ジリジリと照りつける太陽と相まって私には酷く不快だった。
チャーターした船の船主に迎えに来てもらう日時を確認すると、
私はリュックを背負い直し、海猫の声に見送られながら「街」の中へと足を踏み出した。
半分趣味のかけ出しカメラマンである私が、大学の夏休みを利用し、
嘗ては対バグ戦の中枢基地の一、SB-3として知られた巨大な海上構造物の残骸を訪れたのは、
何も仕事の予定がなくて暇であったからだけではなかった。
偶然立ち寄った古本屋で、埃に埋もれていた冊子。
何気なく手にとったそれは、嘗ての「戦争」についてのものだった。
これといった目標もなく、怠惰な日々を過ごしてきた私にとって、其の内容は正に衝撃だった。
私は自分の無知を恥じ、同時に「戦争」の史跡めぐりをすることに決めた。
計画をたてるにあたって問題になったのは、まず、私の社会的信用がそう高いものではないのも然る事ながら、
戦跡が大平洋に広く点在している事、其の多くが一般人の立ち入りが制限されている事だった。
私は、今まで発揮した事もなかったような熱意でもって関係各所に掛け合った。
このような場合、国防庁長官を伯父にもつと言うコネは、私にとって有利だった。
80 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:17:07 [ BTJz1L2w ]
いや、正直に言おう。
組織のトップたる伯父の名前を持ち出さなければ、私のような若造など相手にもされなかったに違いない。
兎も角わたしは、大平洋の果てのこの人工島に念願の第一歩を踏み入れた。
周りを見渡せば、廃虚、廃虚、廃虚――およそ生命活動の断片さえも感じられない。
かつての繁栄を想起させる海上都市の構造物が、今は只惨めな骸を曝しているのは、
何も十年という月日だけが原因ではない。
これも嘗てこの世界を巻き込んだ「戦争」の爪痕――いや、名残りと言った方が正しいのかも知れない。
あの戦いを、単なる「戦争」と定義して良いものなのか、未だに私には分からない。
嘗て世間に流れた情報の殆どは今は霧散してしまっており、
他に遺された確かな資料もまた、其の多くが「最高機密」の名の下に、
今も一般人の目の届かぬ軍の資料室の奥深くに眠っている。
だがそこには過去の戦争と同様に、戦いの時代を生きた人間が遺した幾つもの苦悩が、そして葛藤が存在し、
それらは幾筋もの軌跡をおりなす生きた劇画となって、確実に現在の我々の中につながっている。
其の事に思いを馳せる時、明日をも知れぬ戦いの日々の中で、
多くの若者達がそれぞれの思いを胸に、誰かの為に、或いは自分の為に、
散っていった事実もまた、厳然たる壁となって我々の前に現出するのだ。
彼らは我々に様々な問題を提起する。
彼らの後に続く世代として、我々には其の問いに答える義務が存在するのだ。
81 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:17:40 [ BTJz1L2w ]
ふと、目の前の瓦礫が動いた気がして、私は前方に目を転じた。
壊れたフェンスの向こう、一目で空軍基地と分かる建物の少し奥まった場所に、
白い人影が佇んでいる。静謐な瞳が、大きく見開かれて私に注がれていた。
――だれ?
私の頭の中で誰かが囁いた、気がした。そよ風にも似た、微かな声。
それは私にとって余りにも予想外で、唐突な経験だった。
お蔭で私は間抜けにも、彼女の前で声の主を探して辺りを見回す羽目になってしまった。
再び、彼女の口元が動いた。
――あなたは、だれなの?
退廃的で、限り無く無機的な風景の中。
私はそこで、一人の『少女』と出会った。
82 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:18:10 [ BTJz1L2w ]
ええ。此処にはずっと私独り。
――ええ。こうして人と話すのも44314時間28分ぶりになる。
どうぞ。……大丈夫。毒は入っていない。
わたし?此処で?……違う。
――人を、待っている。
そう。ずっと、ずっと前に行ってしまった。
そう。此処から。
いいえ。寂しくはない。
……約束をしたから。必ず帰る、と。
もうこんな時間。少し、喋り過ぎた。
貴方はもう、寝た方が良い。私は、もう少し……。
もぞもぞと動いていた寝袋は、やがて微かな寝息を立て始めた
それを足下に、小さな影は空を見上げ、銅像のように佇む。
冷えきった月明かりが其の姿を艶やかに照らし出した。
吐く息が白い煙となって昇って行く。人影は微動だにしない。
其の頭上を満天の星々がゆっくりと巡って行く。
空が白む。夜があける。風がひび割れたアスファルトに息づく草を揺らして吹き抜ける。
それらは互いに笑いさざめき合いながら天空へと駆け昇り――
83 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:18:42 [ BTJz1L2w ]
昇りかけた朝日を背景に、一枚の影のように黒い翼が一機、
眼下に連なる薄雲に小さな影を投げかけている。
高度30000フィートの静寂を切り裂いて轟く、ターボファン特有の金属的な飛翔音。
複座の双発機だ。角張った形状の空気取り入れ口は両主翼の上面にある。
コックピットの下には、パーソナルネーム。小さく、品よく、漢字で「春風」。
ステルス性を意識し、継ぎ目なくなだらかな曲線で構成された機体と、
同じくステルス性を意識し、幾分傾いた二枚の垂直尾翼。水平尾翼は……ない。
いまは垂直尾翼の位置にある可動式の尾翼が、必要に応じて其の角度を最適に自動調整するのだ。
FBL方式で機体を制御を統括するフライトコンピュータとダイレクトに接続された各翼は、
それを装備するものから、飛翔体としての性能の限界を引き出す事が出来る。
フライトコンピューターは、中央コンピュータとは別に三系統の予備を持ち、
静止状態で負の安定性を持つ機体に、癖のない滑らかな操縦性を保証している。
その高性能な情報処理能力は、開発者の言を借りれば、それこそ、
「エンジンさえあれば、自由の女神だって曲芸飛行させてみせる」だろう。
光ファイバーによって迅速かつ大容量な機体内情報のやり取りを可能にした航空機は、
それ自体が有機的に作動する一つの巨大な飛翔システムだ。
84 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:20:00 [ BTJz1L2w ]
――大尉、基地よりIFF信号。個体識別コード送信要求。
心地よいエンジンの鼓動に包まれたコックピットの中で、
沈黙を破ったのは、基地からの交信を伝える後部座席から「報告」だった。
「実行せよ。短信、一発」
後席にそう命じ、前席に座るパイロット、太刀川颯大尉は照度を落とした計器へと目を転じた。
声には出さなくとも良い。
ヘルメットに繋げられた同調機は、装備した者の脳波を感知して
後席に伝え、また、後部からの情報を直接脳に送り込む事で、
音声によらない迅速な意志及び情報の伝達、意識の一部共有を可能にしていた。
――実行。
報告。指向性の電波にのせて、暗号化された識別信号が放たれる。そして暫しの間。
――承認された。音声回線をつなぐ。
報告と回線が繋がるのと同時。
聞きなれた空電音に向かい、颯は最早習慣となった耳なれた言葉を吹き込む。
「SB-3、特殊作戦群指令室へ。こちらRFS-00-3、ハルカゼ、太刀川大尉。
戦闘哨戒任務終了。異常なし。これより帰投する」
『こちら指令室、了解。指令に変更なし、事前の帰投コースを使用せよ』
「ハルカゼ、了解。以上」
短いやり取りの後、通信は終了した。
颯は無言でサイドステイックを繰り、機体を降下させる。
眼前一杯に幾重にも連なった雲の畝が迫り、広がり、辺りを包み込む。
突如として視界が開けた。薄雲を抜けた先には、朝日に煌めく太洋の蒼が広がっていた。
85 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:20:35 [ BTJz1L2w ]
黒翼の、巨大な機体がファイナルアプローチに入ろうとしている。
ギアを下ろし、ファンエンジンの金切り音を上げながら被いかぶさるように。
接地する姿は、宛ら獲物を見定め、襲い掛かかろうとする怪鳥だ。
長大な滑走路を存分に使って着陸を完了すると、今度はエンジン出力を上げ、
地上からの誘導に従って滑走路を出る。格納庫直上の、分厚い対爆、対NBCドアで仕切られた
買い物篭のお化けのような収納エレベータの前迄行き、右エンジンの出力を上げて排気。
左もそれに習う。完了――エンジン停止。すかさず待機していた数人の整備員が駆け寄って来る。
春風はロボットに連結され、エレベータ、そして専用格納庫の中へと牽引された。
専用格納庫は巨大な地下構造物だ。温度、湿度を一定に保たれた空間は、
天井は10m、奥行きは200mを超え、10機が格納できる駐機スペースがある。
其処に翼を休め、次の出撃を待っているのは全てRFS-00、戦略空軍の最新鋭の支援戦闘偵察機。
現在、戦略空軍で運用される制空の戦闘用航空機には、三種類ある。
Fで表される戦闘機、FSで表される支援戦闘機、RFSで表される支援戦闘偵察機がそれだ。
戦闘機は、言わずと知れた空戦の主役、機関砲、ミサイルで武装し、
攻撃機の護衛、敵機の迎撃、一定空域の航空優勢の確保を主任務とする、小型の高速機だ。
対して支援戦闘機とは、様々な手段を用いて味方戦闘機を支援する複座戦闘機を指す。
FSは極めて強力なレーダーと、高度な電子機器を搭載し、
完全分業制の座席の前部にパイロットが、後部に電子オペレーターが搭乗する。
AWACSの支援が期待できない状況でも運用できるため、汎用性が高く前線部隊で重宝されている。
普通に使用されるのは既存の機体に改修を施したしたものだ。
戦闘機を生徒、AWACSを専門の先生軍団に例えるならば、
支援戦闘機は言わば勉強の良くできる友人に相当する。
86 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:21:11 [ BTJz1L2w ]
支援戦闘偵察機・RFSは、FSを更に高度に洗練し、其の任務の範囲を偵察にまで広げたものだ。
搭載するシステムは性能も、そしてその方式も、他の機種とは一線を画し、
機体自体も新たに開発された専用の機体、RFS-00があてがわれている。
彼女達が搭載するシステムは、正式名称を空中情報共有システム、略称、ALIS。
初めは発展型FSとして計画されたこの機種が、偵察機としての任務も帯びるようになった背景には、
ALISを搭載する事で得られた副次的な恩恵、
レーダー及び光学受動センサーの分解機能の飛躍的な向上が大きい。
そう言った性質上、戦闘機や支援戦闘機とは異なり特殊作戦群で一括運用される
支援戦闘偵察機にはスクランブル任務がなく、また、高性能に見合うだけデリケートだったから、
格納庫も掩蔽壕や大格納庫に収納されるF、FSと違い、専用の地下格納庫が用意されている。
尤も10機収納可能な専用格納庫も、現在は春風を含め三分の一以下の三機分しか埋まっていない。
これもRFS-00の機体自体が高価な為と、
搭載されるシステムの中核を為すハードの供給が難しい為だった。
RFS-00は箱入り娘だ。それぞれにパーソナルネームが与えられている。
87 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:21:48 [ BTJz1L2w ]
RFS-00、特殊作戦群3番機、春風は所定の位置まで移動し、そこで翼を休めた。
ラダーを昇ってきた整備員の作業服とは異なる制服を身に付けた一人にノックされ、
颯はキャノピーを開いた。
「どうでしたか?」
颯が飛行装備を外すのを手伝いながら、其の若い地上要員はいつものように笑顔で尋ねた。
彼の肩には電子システム関係の士官である事を示す、蜘蛛の巣をあしらった白い肩章が縫い付けてある。
「問題は何も」
颯は短く答えた。無愛想とも言える態度だったが電子システム士官は満足そうに頷き、
其の時後部のキャノピーが軽い音と共に開いた。
颯との会話を打ち切ると、彼は慌てて後席の方に寄り、其処に座っていた人影が装備を外すのを手伝いだす。
やがて、昆虫のような飛行ヘルメットの下から表れたのは、
驚いた事に女性――まだ少女と言う形容が許される女性だった。
紫檀の瞳、肩の上の辺りで無造作に切りそろえられた髪。
一般的に見られるような無骨なフライトスーツと違う、
細い体の線を浮き出させるような独特のフライトスーツを身に付けている。
88 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/11(水) 06:22:23 [ BTJz1L2w ]
奇妙な事に、彼女の首筋からは太いコードの束が伸び、それは座席を通して機体内部へと繋がっていた。
人体と言う有機体から、酷く無機的な要素であるコードの束が垂れ下がっている光景はいかにも異様で、
其処に接続されているのが華奢な少女である分だけ、余計にグロテスクだった。
「やあ、アリス。調子はどうです?」
電子システム士官は陽気に笑いかけた。表情を欠いた静謐な瞳が彼を捕らえる。
ややあって、小さな顎が、注視していなければ分からないほど微かに引かれた。――頷いたのだ。
「問題はない――なにも」
無愛想な態度から言葉使いまで、パイロットとそっくりだった。
いつもの事といえばそれまでだが、其の様子が何処か可笑しくて、彼は声に出して笑った。
そして手を貸し、少女の首のコードの接続を解除してやる。
その様子を颯は春風のレドームの下から見守っていた。
やがて地面に降りた少女は、颯の隣に立った。颯は無言で歩き出す。それに同じく無言の少女が続く。
それぞれの仕事にかかり始めた整備員達を尻目に、
彼らは任務の報告を為すべく、指令室へと歩を進めた。