113  :長崎県人:2007/05/30(水)  01:57:58  ID:2MxH4A12O
1942年5月25日、ヴェネチア


朝靄がヴェネチアの街をひそやかに隠している。港の桟橋には、いつもの日伊の艦長が二人
『いよいよ、ですね』
アルは特徴のある叩かれた跡を顔にひっつけていた
『そうですな』
一方志摩は、げっそりしている。雰囲気的に
『今回、軽速部隊の指揮官なぞを私は仰せつかってしまいましたよ』
志摩は肩をすくめて笑った。ひどく渇いた笑いだ
『栄転ではないですか』
海軍軍人にとって、まさに花形だ
『・・・私が指揮官向きの人間に見えますか?』
志摩は自虐的に自らを指差す
『う・・・しかし、この作戦を思いついたじゃないですか』
あんな奇計はそうそう思いつけるものじゃない
『司令部はその責を取れとの事です』


ほんの数日前、実験結果の報告のために、山城を訪れた志摩は尋ねた。誰が戦隊の指揮をとるのですか、と。未だ内示も何もなかったからだ
『志摩君、君が戦隊指揮官だ』
栗田の言に、志摩は衝撃を受けた。先のマタパン岬沖海戦で、自分の適性のなさは、司令部でも把握しているはず。艦長職は人員不足から外されなくとも、もっと適性のある他艦を戦隊旗艦に選定したり、司令部から人員を一人でも派遣した方が良いに決まっているのに  


114  :長崎県人:2007/05/30(水)  01:59:50  ID:2MxH4A12O
『君が一番作戦への理解が深い、発案者なのだから』
『はい、しかし中将、戦闘指揮の面で、私には問題が・・・』
栗田は志摩への視線を外した
『確かにそれしか手がないのはわかる。今持って来た結果は見た。確かにやれるかもしれない。だがな、あまりに奇抜過ぎる』
稀代の笑い者の種になりうる位置に、誰も居たくないのだ。その馬鹿げた作戦を採り、実行した戦闘指揮官として
イタリア人達であれば、冒険的な行為にラテンの血を燃やしていたかもしれない・・・しかし、栗田中将以下の司令部要員達は、つくづく日本人であった。この時点で、彼等は事なかれ主義に陥っていたのだ。勿論その背後には、本土からの戦艦維持命令が出ている事も考えるべきだろう
『わ、わかりました。でしたら、私が戦闘指揮はやります。ですが、愛宕らの指揮に誰か一人だけでも・・・』
作戦を立てた者だ、失敗の汚名を着るのは構わない。そう志摩は思った。だが、戦隊の指揮はそうはいかない。出来る人間がやった方がいい
『・・・』
司令部の誰もが答えようとはしなかった
『あの・・・』
司令部の一人くらい、融通が効くでしょう、と言い募ろうとした所で、栗田中将が頭を下げた
『君には悪いと思っている』  


115  :長崎県人:2007/05/30(水)  02:01:43  ID:2MxH4A12O
わかった・・・志摩は理解してしまった。司令部の要員達は、山城という、この艦隊が持ち得る。最高の防御施設から出ていきたく無いのだ
しかも俺が指揮するのは軽速艦艇だ。敵に突っ込むという事は死亡率も高い。いや、俺だってこの地位から変わってもらって、戦場から離れたいという気持ちは同じだ・・・しかしそれを心の中に飲み込み、次善の策である戦闘指揮の上手い人間に指揮してもらい、自分達が生き残りやす
「ようにする事すら拒否される事になろうとは
『・・・トルコ経由で君の家族は日本に帰してやろう。私が君に対して出来ることは、これだけだ』
栗田が言うそれは、個人単位なら、外交員としてトルコからソ連経由で日本に戻れる。そのルートを使うのだ
『・・・わかりました。戦闘指揮の件、引き受けます』


そりゃ喜べない・・・というか
『汚ねぇやり方しやがって・・・!』
アルは自分の事の様に憤った
『いや、それよりも桂さんはそれで納得したんですか!?』
司令部に単独強襲をかけかねないぞ、あの女(ひと)は
『気絶させて来た・・・ベッドで。後の事はミスミに任せておけば、なんとかなる。本土の知り合いにも電報を打ったし』
げっそりしているのはその為か・・・  


116  :長崎県人:2007/05/30(水)  02:03:36  ID:2MxH4A12O
『・・・我が艦隊は、海戦途中で戦闘に支障をきたす恐れがある。戦艦も、そして私も。中佐、頭に入れておいて欲しい』
志摩はそれが言いたかったのだ。けっして日本海軍はイタリア海軍と一枚岩になって決戦に臨むわけではないと
『・・・わかりました』
ナポリについたら、親父にいっておかなきゃな・・・大佐もそれを望んでいるのだろう
『しかし、ま、積み込み等間に合ってよかったですよ。フェラーリ技師には、感謝してもしきれない』
話題を志摩が変える。魚雷艇について、だ
『ナポリにヴェネチア、トリエステ、走り回っていただきましたからね。期日に間に合わせたのは、さすがです』
カタパルトのある殆どの艦に、MTSM艇が搭載を完了していた。フェラーリ薫製の緩衝材兼、姿勢安定翼と共に
『あとの問題は戦艦戦力ですが、ローマも無理矢理戦力化したのでしょう?』
儀装途中だったはず
『突貫でなんとか。乗員は修復のメドが立っていないアンドレア・ドリアから全て異動させまして』
サウスダコタにアーカンソーの乗員を移したのと同じ手口である。とりあえず戦う事だけは出来る。そんな状態だ


ドコドコドコドコ


二隻の重巡の艦長を迎えるべく。内火艇が桟橋に近づく  


117  :長崎県人:2007/05/30(水)  02:07:09  ID:2MxH4A12O
『さて、行きますか』
志摩は姿勢を正した
『名残惜しそうですね』
アルが言う。しかし志摩は首を横に振った
『もはやそんな事言ってられませんよ、不得手でも、指揮官として全力を尽くすだけです。あなた方にかける迷惑は、最小限にしなければなりませんから』
日本人らしく、志摩は覚悟を決めた
『そうですか・・・』
全く、難儀な奴。俺は日本人じゃなくてよかったぜ
『では、御武運を』
『お互いに』
敬礼と共に互いの内火艇に乗り込む。海戦終了まで、面と向かって逢うことはほぼ無かろう。これが永久の別れともなりうる・・・男同士でも、まぁそれなりに感慨深いものであった。お互いがヴェネチアの街から背を向けたその時
『志摩っ!!!』
志摩達の居た桟橋を、桂が駆けてくる
『そんな、馬鹿な』
ヴェネチアは水路に区切られている。このサンタエレナ島の桟橋まで来れる筈が・・・
『帰って来なかったら・・・来なかったら承知しないからぁっ!!!』
あ、物凄い勢いでコケた・・・後ろからミスミが追い付いて起こしている
『あの馬鹿』
隣の艇のアルはこちらを向いて笑っている。気付けば、志摩は苦笑しつつも、自然と憑き物が落ちたような、すっきりとした顔に戻っていた  


122  :長崎県人:2007/05/30(水)  08:35:37  ID:2MxH4A12O
『なんとか間に合いましたね』
遠退く内火艇から、志摩が帽振れをしている。聞こえたのだ
『顔面強打した・・・いったぁ〜・・・腰がガクガクするし』
『・・・あれで良く走れましたね(汗)』
ミスミも走れないような腰が抜けたような状態で、リアルト橋の近くのホテルから飛び出て、早朝の新聞配達にきていた青年のゴンドラを交渉という名のお金の押し付けで強奪、大運河からジュデッカ運河、サンマルコ運河へと流れるように力任せでサンタエレナ島に到着、ダッシュで桟
エに向かったのだ
『やり逃げなんて許せないでしょ?間に合ってたら、一発ぶん殴ってたわ、あんなの』
ミスミに手渡していた日本への帰国の手順、資金、電報を打ったこと、遺書じみた手紙
『戦艦が10隻だろうが100隻だろうが・・・死ぬ事を前提に出ていくなんて・・・絶対にさせないんだから!』
『ええ・・・』
それには同意する。だからミスミも手伝ったのだが・・・こんな体の状態で
『あいたた・・・ごめんミスミさん、立てないみたい』
桂は尻餅をついたまんまだ
『わかりました、おぶりますね』
『ごめん』
『いいんですよ、私も一目見れてよかったですし』
女二人に見守られて、内火艇は靄の中に消えていった  


118  :長崎県人:2007/05/30(水)  02:09:46  ID:2MxH4A12O
日を空けて、5月26日。メッシナ海峡を抜けた日伊の艦隊は、サレルノ湾で分厚い上空直掩を受けながらイタリア主力艦隊と合流。取り急いで石油の補給を受け、陣形を整えると、敵状の報告と共に出撃した
同日九時、英米の連合艦隊がサルディニヤ島南端、スパルディペンデ岬の南を通過、マルタ方面に居た艦隊と合流を果たした事が判明したからだ
その地点からサレルノ湾の距離は約400キロ、互いの巡航速度から割り出した会敵にかかる時間は二十八時間。この事から、敵の電探が優位を持たないよう、日伊の合同艦隊は昼間決戦を選び、出撃した事がわかる



そしてついに、1942年5月27日。マレッティモ島沖合50キロの海上で、両艦隊は決戦の時を迎えるのである  


127  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:43:54  ID:2MxH4A12O
1942年5月27日・マレッティモ島沖、ヴィットリオ・ベネトー


『いよいよ、か・・・』
もうすぐ決戦が始まる。普通の戦いならば、ほぼ間違いなく敗れる戦いが
敵艦隊との距離は四万、戦艦隊は単縦陣、ベネトー、リットリオ、ローマを第一戦艦隊とし、残り三隻を第二戦艦隊。その後ろに日本の山城を付けている。その山城には、松級の駆逐艦が六隻ずつ挟むように続き。その隊列をまた挟むように、日伊の軽速艦艇群による単縦陣が敷かれ、さ
轤ノ遠くには、日本の軽空母二隻が存在し、我々の頭の上をカヴァーし続けている
『唯一、分があるとすれば』
放蕩息子が持ち込んで来た、あの馬鹿げた作戦・・・不安が無いといえば嘘になる。だが、何の手も尽くさずに、祖国を踏みにじられるのは、イタリア海軍の軍人としてどうしても許すことが出来なかった・・・笑うならば笑え、私はそれを誇りに思う。方法や結果など二の次だ
『軽速部隊に命令を下す・・・各艦、糸を垂らせ』
ベルガミーニはそう命令した


各自、糸を垂らせ


発光信号でベネトーからの命令が伝わっていく
『人形の糸が絡まるのは我々か、それとも踊るのは観客か・・・いや、むしろ己の愚かさを裁かれるのはどちらか、だな』  


128  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:45:34  ID:2MxH4A12O
愛宕


ベルガミーニが、海戦をその芸術性と結果から人形裁判という俗名を得る発言をしていた頃、志摩の乗る愛宕にもその命令が届いていた
『ベネトーより発光信号、糸を垂らせ、です!』来たか・・・!
『射出機、用意は出来てるな?』
本艦が射ち出す魚雷艇は三隻、両カタパルトから射ち出して、クレーンでもう一隻、四隻目は間が空き過ぎて無意味だ
『こちら射出機、準備良し!舷側に射出機向けます!』
『わかった』
後続する指揮下の足柄、青葉以下、大淀級二隻でも、同じような事が為されているだろう。ちなみに彼が指揮する軽速部隊は他に二番砲塔が前回の海戦で吹っ飛んだままの秋月級が一隻居るだけである


ブォーン!!!


後方から小さく、プロペラ音が聞こえて来た。カタパルトに乗せられた魚雷艇がエンジンを始動させたのだ
『波の具合いは・・・悪くない』
荒天であれば、作戦自体が実行し得なかった。しかし今日の天気は、地中海気候の実例とも言うべき晴れだった・・・
『敵艦隊との距離、三万五千、切りました!』
敵艦隊に突っ込むまで、おおよそ三十分、この三十分で海戦の勝敗は決定する・・・志摩は深呼吸し、命令を叫んだ
『魚雷艇、射出開始せよ!!!』  


129  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:47:57  ID:2MxH4A12O
『射出開始!』
『射出開始!』
復唱されながら、命令が射出機に伝わる。兵達は、魚雷艇に乗り込んでいるイタリア兵に対して敬礼や帽振れを行う。そして・・・


ポン!!!


火薬でカタパルトが弾ける音と、それによってカタパルト台を魚雷艇が滑るシュララララという音と共に、魚雷艇は射ち出された
『おお、よく緑に光っとる』
飛んでいった魚雷艇が光るのをを見て、ニンマリと担当は笑った。その後に、風が強く吹き抜ける
『さあ!あと一艇!急ぐぞ、敵は待っちゃくれん!風の魔石はちゃんと取り付けたか?何度も確認しろ!後付けだからな!』
そう、ヴェネチアで志摩が改修を必要ないといったアイディアはそれだった



風の魔石、ダークエルフが、唯一海軍で第一人者と言える位置につけたものである。これは本来軽空母に於いて、限定的ながら発艦促進材(及び、わずかな速力増進)として使われていた。使うと風が出るから、風の無いときに使う。そんなものだ
しからば波は、なんによって出来ているだろうか?それは風である。少なくとも、自ら風を吹かせられるならば、限定的にでも波を抑えられるのではないか?

そう志摩は思いついたのだ。原理としてはホバークラフトに近い  


130  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:51:12  ID:2MxH4A12O
問題としては、風の魔石の効果が切れるまで、魚雷艇は海面すれすれを飛び続けることであるが・・・これは改修せずとも、エンツォ・フェラーリ薫製の安定翼がある!というわけだ


『成功しろ・・・成功しろ・・・成功しろ・・・!』
志摩は手持ちの双眼鏡で緑の光を追う。光は段々と力を失い、弱くなる。魚雷艇は300m程滑空して着水した
『どうだ!?』
着水時にバランスを崩して転覆が一番失敗で多い


バシャン!!!


安定翼兼着水時の緩衝材、芸術的とも言えるそれが、真ん中から真っ二つに割れて跳ね飛んだ。真ん中から、という事は、水平に近い状態で着水したという事、ならば!
『見えた!』
エンジンを全開にして、波を切る魚雷艇の姿が現れた・・・他の光にも双眼鏡を移動させる。よし・・・よぉしっ!
『第三艇、射出します!』
報告があった。愛宕から射ち出す魚雷艇はそれで終わりだ、まだ自分の目には入っていないが、艦隊全部で保持していた40隻の魚雷艇で、着水に失敗したものもいるだろうから、損失をこの調子なら二割とすると、32隻の魚雷のプラットフォームを、我々は得たのだ
『これを最大活用するならば・・・』
やる事は一つしかない、あとは俺が決めるだけだ  


131  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:55:07  ID:2MxH4A12O
志摩は胸元を見られないように抑えた。そこには桂とミスミ、三人で撮った写真が入っている。そういえば、写真の意味がわかってなくて、ミスミがストロボに驚いて写真機ぶっ壊して大変だったっけ
『行ってくる、桂、ミスミ・・・』
志摩は真正面を見つめた。高雄級の精悍な20センチ砲塔が鎮座している・・・やれる、やれるさ!
『機関最大戦速!我が部隊は敵艦隊に対して肉薄!魚雷艇の援護を為す!魚雷艇で空を飛ぶという偉業を成し遂げた勇者を、我々は最後まで援護する!彼等に続けぇっ!』
水雷艇の航跡が、操り人形の糸の様に敵艦隊に向けて水上を走っていく。蜘蛛の糸のようなそれが、敵艦隊という獲物を踊らせ、絡めとるのに、糸の数は多い方が良い・・・例え、その時いくらかの糸が切れてしまうとも
『砲雷撃戦用意、二万五千から撃ち方始め!目標は敵巡と駆逐艦!彼等の邪魔をさせるな!戦艦は接近してから魚雷で食う!』
一瞬だが艦橋内に、また小物狙いか、臆病者め。という空気が流れた・・・前回の指揮が前回だ、仕方あるまい
『・・・本艦は反転しない、必ずだ』
トーンを落として呟く。失われた評価というものは、何をやってもなかなか覆らない。示していくしかないのだ、態度で  


132  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:57:14  ID:2MxH4A12O
一方ゴリツィア


イタリア重巡の多くは、艦首にカタパルトを埋め込んである。その為、飛ばした魚雷艇が前方の艦と衝突しないよう、一斉回頭と共に魚雷艇を射出していた為、志摩ら日本の軽速部隊が突撃するのに、少し遅れて気付いていた
『あのペラペラな重巡で、よくまぁ突撃出来るもんだ』
アルはそれに気付くなり呆れた。死にたいのかね、あの御人は
『彼はストイックだからね。暴れるときは、スゴイですよ、で・・・続くかい?』
航海長、好きだからといって、頬を赤らめながら言わんでくれ
『ボルツァーノからの指示は?』
アルはあくまで中佐で、艦長でしかない。たとえ続きたくとも、戦隊指揮官がウンと言わねば動けない
『ベネトーから発光信号!各隊、日本海軍に続け、です!』
はん。さすがに抜目ないな、親父は。俺達の枷を外したわけだ
『ボルツァーノ変針します!』
『航海長!助けに行きたきゃ好きにしろ』
『アイ』
茶目っぽく航海長は舵をまわしてアルに敬礼した
『砲術!』
アルは伝声管の所に行き、叫んだ
『はい』
『しばらくお前らの趣味に付き合う!目に入った敵巡以下を撃て!』
戦艦には撃たれっぱなしで居るという事だ
『ですから俺達にそんな趣味なi』  


133  :長崎県人:2007/05/31(木)  20:59:10  ID:2MxH4A12O
反論途中で伝声管の蓋を閉じる。艦橋内の全員がこちらを見ていた
『さて、後部指揮所の、ハゲた皮肉屋の副長なら、サイコロでも投げますか?とでも言うのだろうが』
アルは自軍の戦艦を指差す。ジュリオ・チェザーレだ
『あれが居ちゃあ、俺が言うのも場違いだ』
肩をすくめる
『俺は突撃が、必ずしも正しいとは思わない。だが、すこーしみんな思い出してくれ』
にやっとアルは笑った
『日本の艦には、うちにも乗ってくれている人魚ちゃん達が二人ずつ乗ってる』
つまり、志摩が引き連れて突っ込んでいく六艦で
『艦長、大変です!数えるのに両手の指がおっつきません!』
古参の兵が笑って両手で数える真似をした。良いあいの手だ
『そうだ!つまり、あれにたーくさん乗ってる。可愛い人魚ちゃん達を救えるのは俺達だって訳だ』
よーっく理解できるように、少し間を開ける
『ヤンキーとライミーに、人魚ちゃん達を好きにされたいか?』
ブーイングが沸き上がった
『ありえねぇ!そいつぁありえねぇぜ艦長!』
『味音痴と野蛮人に、女の子の扱いなんて!』
アルは片手を上げる。ブーイングは止んだ
『では諸君、突撃だ』
喜びの歓声があがる。ゴリツィアが一つに纏まった瞬間だった  


134  :長崎県人:2007/05/31(木)  21:02:32  ID:2MxH4A12O
英米連合艦隊、総旗艦・ネルソン


『敵艦隊内で緑色光!』
『な、なんだ・・・?』
英米の艦隊では、まだ距離的に高さの無い魚雷艇の姿は見えない。ただ、断続的に緑色の光を観測出来るだけである
『皆、落ち着きたまえ。その反応こそが敵の喜ぶ反応だ。我がロイヤルネイヴィーは、この現世の、あらゆる事象に対処する。それだけの事が出来ると私は確信している』
パウンドは落ち着き払って場を諌めた。さすがに年季が違う
『米艦隊にも、うろたえぬように言い伝えよ。みだりに陣を乱してはならぬ』
指揮系統上、最上級者であるパウンドが艦隊全般の指揮を執っている。少なくとも、米艦隊を率いるインガソルという男は、それが良くわかっているようだ
現在英米の艦隊は、ネルソン、ロドネーを先頭に、マレーヤ、リヴェンジと続き、米海軍のニューメキシコ級二隻に、サウスダコタ、ニューヨーク級二隻と隊列を形作っている
『砲力は十分、巡洋艦への対処も考えている。王は不動の如く、だよ』
特に日本の巡洋艦は痛い一突きをもっているようだが、もし突進してきたならば最後尾、ニューヨーク級の二隻がこれを阻止する。本来は新戦艦のサウスダコタが行うはずだったが、位置を変えていた  


135  :長崎県人:2007/05/31(木)  21:04:04  ID:2MxH4A12O
これは隊列的に、アイダホまでで日伊の戦艦を相手どるつもりであったが、かの艦が空襲で撤退してしまった事が原因である
本来なら最後尾であったサウスダコタでなく、素直にニューヨーク級を陣形的につめれば良かったのだろうが、敵の中に居る日本艦、フソウ級は14インチ砲を十二門搭載している。十門のニューヨーク級では不安だったのだろう
『幸い、サウスダコタの技量は悪く無かったからよいが・・・』
巡洋艦を相手にするのに、ニューヨーク級は確かに十分な戦力だ。しかし、Q・E級よりも古い艦故に、対応し切れない可能性がある。そこに新戦艦のサウスダコタが居たならば、と考えていたが・・・
『彼等はどうしても戦艦を沈めたいからな』
そこが全体の綻びにならぬよう、我がロイヤルネイヴィーが技量を発揮してみせるしかなかろう
『あれは光学的な欺瞞かも知れぬ。敵艦隊への注意は怠らぬ事、しかし人員を増やし、交代制で対処したまえ』
『はっ!』
とりあえず、我々に出来る対処はそれくらいだ
パウンドは時計を見やる。午後一時を回った所だ
『三時の紅茶に勝利の美酒を垂らすことが出来るよう。諸君、頑張ろうじゃないか』
英国人を奮い立たせるには、それだけで十分だった  


144  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:44:56  ID:2MxH4A12O
愛宕


突撃開始から十分が経過し、敵艦隊との距離が二万五千に近づいたその時だった
『敵戦艦、隊列を離れ発砲!敵巡洋艦部隊、向かってきます!』
ニューヨーク級の二隻が動きだした。しかも俺達を確実に止めるつもりだ
『魚雷艇が気付かれた気配は無い。敵の目は確実にこちらに向いている』
まぁしかし、発見は時間の問題だろう。その時、どれだけ援護が出来るか・・・


ザッパーン!!!


ニューヨーク級の14インチ砲弾が落ちて、巨大な水柱を生み出した。古い艦であるが故に精度が高く、近い・・・!あとどの程度戦力を維持して居られるか
『近場の巡洋艦を探せ!撃てる内に撃つ!』
接近中の巡洋艦や駆逐艦をを相手にしないと。魚雷艇には彼女等が一番の天敵だ
『・・・二万一千にニューオリンズ級が居ます!』
見張り員が報告する
『よし、そいつだ。撃ち方始め!とにかく当てろ、戦闘能力を低下させるのだ!』
そして俺達に注目しろ、海面を見るな!


ゴロゴロゴロ


トップの主砲指揮所の動きに合わせて主砲が旋回する
『敵巡発砲!』
発射は敵の方が早かった。めくら撃ちでも俺達をビビらせるには十分て訳か
『そんなもので、愛宕は引き下がりはしない!』  


145  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:47:16  ID:2MxH4A12O
ズバババババ!!!


先ほどよりは小さい水柱が林立し、愛宕はその間を縫うように駆け抜ける。その間にも、主砲は微調整を続け、それがピタリと止んだ
『行けぇっ!』


ドドドドドド!!!


愛宕の主砲が遂に吠える。後続の重巡らも、それを合図としてそれぞれの目標へ砲撃をかける
『よし!』
こちらも撃ち始めれば、自分も含めて、兵に精神的な安定をそれなりに持たせられる。撃たれっぱなしが一番まずい


ドドドドドド!!!


お互いが、撃ちつ撃たれつを繰り返す。しかし愛宕は、今回の海戦に於いて、あまりに不運な立場に置かれる
『敵戦艦第二斉射!』
愛宕を狙っていたニューヨークの第二斉射、しかも狙いからは完全に離れたイレギュラーな一弾。それが愛宕の魚雷発射管を貫き、その缶室へと飛び込んだのだ
被弾した魚雷発射管は魚雷の詰まってない方だったが(であればこの時点で爆沈している)缶室に飛び込んだ砲弾は信管を作動させ爆発、中にあった高圧蒸気と共にその爆発エネルギーは開放され、四番高角砲と後部煙突を下から吹き飛ばし、近くにあった後部指揮所を消滅させて、機械室
フ一つを修理不能なまでに破壊した
目に見えてがっくりと、愛宕は速力を落とした  


146  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:49:29  ID:2MxH4A12O
『が・・・はっ!』
志摩は爆発の衝撃で舵に叩きつけられて吐血した。後でわかったことだが、あばらの一番下の骨が折れ、腎臓の一つが潰れていた(ぶつかった舵の取手が身体にめり込んでいた)
回りの人間も大なり少なり怪我を・・・新しい航海長が頭を窓枠にぶつけて死んでいる。陥没骨折だ
『応急・・・修理班急げ・・・!被害報告・・・!』
悶えつつ、そう命じて舵から身体を離す
『主砲指揮所、怪我人あるも損傷なし!戦闘可能!』
『こちら電探室、死者二名なれど健在!後部煙突が吹き飛んでる!後部指揮所が見えない!』
『機関長戦死!機関長戦死!』
処理すべき多数の情報が上がってくる
『主砲!攻撃を絶やすな!機関室、指揮を引き継げ!君、人員を引き連れて機関室へ応援を・・・!』
なんて事だ、よりにもよって戦艦の弾を喰らうとは
『可能速力18ノット!』
『後続の艦に下達、我に構うな、だ』
速力がそれでは先頭はきれない
『浸水に注意せよ、本艦は独自に突入する』
志摩自身で舵を切った。ここからは単独行だ
『・・・砲撃が遅い』
敵のさらなる砲撃があって良い頃だが、砲弾が襲ってこない。つまり・・・
『やっと気付いたか、ふふ・・・』
志摩は満足げに笑った  


147  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:51:06  ID:2MxH4A12O
ネルソン


『魚雷艇、だと?』
『はい!近海用の小型水雷艇です!』
『・・・なるほど』
報告を受けたパウンドは頷いた。どういった手を使ったかはわからないが、敵は手札に魚雷艇を隠していた。これが切り札か
『・・・!』
そういう事か!と、パウンドは手を握り締めた
『実際は戦艦の隻数以外、本艦隊は数的劣勢にある。ならば、戦艦の対応能力を越えた隻数を投入し、飽和状態にするのは、取りうる手か!』
ただ、この外洋に水雷艇のような小型快速艦艇が存在し得る可能性を考えなかった、己の怠慢が恨めしい
『閣下!艦隊の中には、先の空襲によって銃座を破壊された艦が多数あります!』
そうだ、全てはこの瞬間の為にイタリア人と日本人は用意したに違いない
『しかも、共に巡洋艦を突入させる事によって、機銃座の射撃を妨げる事も可能としている』
機銃座に兵が居るというのに、主砲を撃つ訳には行かない。戦艦が使えなければ、数的優勢は彼にあって我には無い。主砲を使えば、機銃座の撃てない合間に、魚雷艇の多くが射点を得るだろう。上手く考えている
『このままでは・・・!我々はどうしたら』
それがわからぬ我がスタッフでは無い。ざわめきが起きた。我々は不利なのだ  


148  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:53:18  ID:2MxH4A12O
『諸君、落ち着け。我々はあらゆる現世の事象に対応する』
取るべき手は一つ。パウンドは語った
『ノイス少将に至急連絡、彼等も彼等で忙しいだろうが、空から奴等を阻止するのだ』
今となっては、イタリア空軍のこれほどぶ厚い上空支援も納得できる。現在、ワスプ、フューリアス、ヴィクトリアスと日本の軽空母、並びにイタリア空軍戦闘機部隊の間で、激しい空戦が行われているが、我々にその手を実行させにくくする為だろう
『しかしサー、戦闘機は手がいっぱいでは・・・』
『私はまだ、米空母に艦爆や、艦攻がいくらかでも健在であると記憶している』
制空戦闘は確かにできないだろう。だが、対空火器など一切ない魚雷艇の制圧なら?
『閣下・・・!』
スタッフが喜色を浮かべる
『急ぎたまえ、彼等が到着するまで、我々は耐えなければならない。そしてそれは苦しい物だ』
だが、その先に楽があるからこそ耐えられる
『はっ!』
パウンドはイタリアの主力艦隊の方を見やり、呟いた
『やはり来るかね?希望が砕かれて、戦意が失せてしまう前に』
イタリア海軍の誇る新戦艦、リットリオ級。良いだろう。このロイヤルネイヴィー最強の戦艦、ネルソンとロドネーがお相手してさしあげよう  


149  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:57:10  ID:2MxH4A12O
ヴィットリオ・ベネトー


シンクロニティー、とでも言うのだろうか。ベルガミーニもまた、言葉を発していた。パウンドの言葉に答えるかの如く
『結構、存分に戦わせてもらおう』
英米連合艦隊は、ニューヨーク級戦艦二隻を分派した。隻数の上ではこれで同数だ。ならば、剣を交えずして、何の為の戦艦か・・・!
『速力は我々が優速だ。ならばネルソンの頭を抑える・・・!』
たとえ主砲口径に差があっても、あの主砲配置では艦首方向の射界に問題がでる。六門対九門なら、このベネトーにも十分に勝ち目はある。我が国の15インチは、ドイツの物と一味違うことを思い知らせる事が出来よう
『問題はベネトー以下の戦艦だが』
改装したとは言え13インチ砲艦。砲門数からも、英15インチ砲艦や米14インチ砲艦の火力にはやや劣る。防御も対応防御を考えるならば、かの艦らが大口径である事からして、距離を開けてはむしろ不利である
『刺し違えか・・・』
近距離での殴りあいでは、お互いが致命傷を得やすくなる。艦を、それも戦艦という大艦を失う・・・長年身体に染み込んだ、フリートビーイングの思想が身体を震わせる
『大丈夫だ、今の地中海には、彼と我しか存在しないのだ・・・』  


150  :長崎県人:2007/06/03(日)  22:59:40  ID:2MxH4A12O
この戦いに勝たねば本土が、故郷が踏みにじられる・・・出し惜しみは無し、そうじゃなかったのか?カルロ・ベルガミーニよ!
『二万を切るまで接近する。艦長、最大戦速で舵を大きくきれ』
たかぶるな、ただ静かに指揮を執り続けろ。怒りも怯えも内包し、部下の模範たれ。我が海軍の将兵は空気に弱い。将の態度が、そのまま艦隊の勢いに直結する
『閣下!日本の巡洋艦が!』
スタッフが叫んだ。先陣を切っていた日本の巡洋艦が火を噴いている。彼等の存在は、いかに不利な状況でも、彼等なら何とかしてくれるだろうという、将兵達の心の支えの一つとなっている・・・ちょっと待て
『だからどうしたというのか。引き返すのか?』
少し語気を強める
『え?あ、いえ・・・』
そのスタッフは、己が言った事がどういう事かわかっていなかったようだ・・・どこまで日本人に、いや、これまでのようにドイツや諸外国に、頼る気なのだ?我々は!
『恥じたまえ、そしてそれをそそぐよう努力せよ、いいな』
それが出来る場に、今我々は立っているのだ
『はっ!』
そのやりとりを艦橋のスタッフ全員が見ていた。ベルガミーニが気付いて、口角を引き上げた
『これより敵艦隊を突く、よそ目をくれるな』  


151  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:02:11  ID:2MxH4A12O
ゴリツィア


『こいつッ!しつっこいんだよ!』
一方イタリア軽速部隊は、英海軍の巡洋艦部隊の迎撃を受けていた
アルの乗るゴリツィアは、その中のエクゼターに迎撃を受けていたが、これがもうしつこい、ラプラタ沖海戦でのグラフ・シュペーの苦悩がよくわかる
『やるね、魚雷艇も抜かせないとは』
魚雷艇群も突破をはかるが、エクゼターらは上手く艦を壁にしていて、突破が出来た艇はそれほど多くない。魚雷艇には一本しか魚雷を積んでいない為に、戦艦に取っておきたい心理が働いていたのと、速力が32ノットしかない。敵艦をぶっちぎる事が出来ないで居るのだ
『魚雷が無いのがこれほど恨めしい事とは・・・!』
ザラ級は重装甲を旨とし、魚雷兵装を搭載していない。もっとも、あったとして、イタリア海軍の造艦姿勢は片舷二門(しかも重巡は固定式)。魚雷に関して力を入れまくっていた日本がした試算で、命中を期せる数は六本。全然足りない、役に立ったかどうか
『砲術!』
『め、命中させてますがな!』
そう、エクゼター自体はゴリツィアからの砲弾を被弾して中破状態。砲術長は良い仕事をしている
『命中箇所を変えられるか?』
『・・・艦長、砲術って奴は確率の問題ですから』  


152  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:03:29  ID:2MxH4A12O
どこを狙うって事は出来ても、あそこに狙って当てろって言うのは無理だ。漫画であるまいし
『ちっ・・・無理か』
水線下に当てて、奴の足を少しでも遅くしてやれれば
『確率の神様に祈るしかないね・・・その時は』
航海長は舵を握り締めた
『僕の腕の見せ所なんだけどな』
腕は確かなのだ。今までエクゼターの砲撃を被弾せずに済んだし、命中弾を出せるような針路を取ってくれている・・・バイで受けなのが問題だが
『っ!愛宕被弾、爆発!』
見張りが叫けんだ
『なにぃっ!?』
爆発だと!?
アルは胸にかけていた双眼鏡で愛宕の居るであろう場所を見た
『おいおい・・・喰らい方からして戦艦か?』
洒落になんねーぞ、おい
『砲術撃て!可及的速やかに撃て!何としてもあのしつっこいのを潰せ!早く片付けてあの艦長を助けないと、イタリア海軍は帰っても壊滅だ!』
青ざめて伝声管へ、帰って来たのはマゾの砲術長ではなく、澄んだ女性の声
『ソナー室、敵魚雷1、命中コース』
アルが振り返るのと同時に見張りが叫ぶ
『右舷、魚雷来まぁす!』
『航海長!』
それだけで十分伝わった
『アイ!僕も見えた』
航海長は舵を回す。魚雷の白い航跡は艦の傍を高速で通り抜けていった  


153  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:05:35  ID:2MxH4A12O
数的に優勢に立っているイタリア軽速部隊が、英海軍部隊を抜けない理由はこれである。戦艦戦力に優位にある彼等に、魚雷を惜しむ必要は全くない。数が多いイタリア軽速部隊にとって、めくら撃ちに撃たれる魚雷は厄介きわまりなかった
『ムツィオ・アッテンドーロ被雷!落伍します!』
くそったれめ・・・!
『主力部隊増速して変針!敵戦艦隊へ!』
『おお・・・!』
感嘆のため息が聞こえる。イタリアの戦艦部隊が前に出る。それだけの事だが、それが行われたことがどれだけあるか
『親父め、イタリアの戦艦という戦艦を引き連れて殴りあいをする気か・・・洒落てやがるぜ』
えーかっこしーが、態度を演技してそこまでやるか・・・!
『急がねばますますまずい事になるぞ・・・女の子を口説く為の獲物がなくなっちまう!』
出航前に、ヒレでおもいっきり叩かれたのは、もう覚えていないらしい
『敵巡の水線に命中!速力落ちます!』
悪い事だけでなく、好機というものも、連れだって来るらしい
『航海長!』
『もうしてる、さっ!』
敵の速力低下を見越して、素早く航海長が舵を切った。魚雷艇も突破の穴が出来た筈だ。そこに、嬉しい知らせが届いた
『敵ニューヨーク級戦艦に水柱!』  


154  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:07:59  ID:2MxH4A12O
愛宕


ニューヨーク級二番艦、テキサスに魚雷を命中させたのは、炎上中の愛宕の成果だった
『ほぼ海中投棄に近かったが・・・どうだ!』
内出血のためか、激痛によって立っては座りを繰り返しながら志摩は指揮を執っていた
『炎上がひどく、戦闘・・・不能と見たのが。運の尽きだ・・・!』
息も絶え絶えに志摩が宣う。運悪く受けた被害を、これは利用できるのではないか?そう思った志摩は、主砲を段階的に停止(しかも狙いを外して撃たせた)。一時的に注水をして被害を偽装してから、魚雷を隠密発射したのだ。魚雷の入った後部発射管に火災が近づいているというのもあ
チたが
それが不意打ちとなって、テキサスに命中魚雷二本という大戦果を得た、かの艦は急速に傾斜(Q・Eよりも古い艦だ、それに酸素魚雷二本はキツい)もはやそれを復することはなかろう
『が、まぁ・・・彼等を怒らせたかな?』
志摩が指揮していた本隊の方に追い縋っていた米巡洋艦部隊の最後尾が、テキサスをやった奴、つまり俺達にあたりをつけたらしい
『敵ブルックリン級大巡、近づきまぁす!』
『傾斜復旧急げ・・・!あれは手強いぞ』
それを手もなく倒せる一撃は、もう無くなったのだ。砲戦で相手取らなくては  


155  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:10:16  ID:2MxH4A12O
『速力さらに低下します!14ノットまでしか出ません!』
応急班をしている者が、報告をあげてくる。注水のリターンは大きかったが、リスクもかなり大きいものだ
『敵巡が後部に回ります!』
そう、別に足の遅くなった相手に合わせて砲戦をする必要は全くない
『舵をなんとかあてて追随しろ』
まぁでもこれで、魚雷艇もいくらか突入しやすくなったに違いない(事実、ブルックリンの本来居た位置から6隻の魚雷艇が抜けている)


いよいよ年貢の納め時かな?


心の中でそう思った。この損傷では、袋叩きがオチだ
『ブルックリン級に命中弾!な、なにぃっ!?』
見張り員が奇妙な声を出した
『報告・・・しろ!』
『は、はっ!砲塔に確かに命中したのですが・・・弾かれました!』
弾かれた、というよりかは砕けたというのが実際だ
『弾が当たれば・・・どこかしらイカれる。人間の身体と同じだ。うろたえるな・・・喜べ』
砲弾が効かないという事は無い。無い筈だ・・・
『砲術、射線が開けてる今の内に撃て!』
有効な射撃が出来る内に、敵の攻撃力を削がなくては
『敵巡、発砲を開始しました!』
ブルックリン級、主砲一斉射、6インチ十五門の火力。どれだけ持たせられるか・・・  


156  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:12:56  ID:2MxH4A12O
サウスダコタ


『まずいね・・・』
いくらかの魚雷艇に、戦列を突破された事が、両巡洋艦部隊から報告が入ってきた。あげくテキサスの被雷、戦闘不能だ
『これから砲戦が始まるってのに』
迎撃が困難になる。ノイス少将が機体を上げるまで、もう少し時間がかかる。その間隙を突かれる形に
『どうにかならないかな?』
そう、なにか、適当な距離でぶどう弾のように、主砲弾が分裂してくれるようなものがあれば・・・って、無い物ねだりしてもはじまらないな
『艦長!敵戦艦との距離、二万八千を切ります!』
主砲を命中させるのが期待できる距離に入った。あとは艦隊旗艦の発砲があり次第、砲戦を開始できる。イタリア海軍は戦艦隊まで突っ込ませて来ている。敵対姿勢を上手くとらないと、敵にやられかねない
『敵は意図的に頭を抑えに来ている。この艦はともかく、他の艦は足が遅いから・・・どうするんだろう』
あのパウンドさんが何も手をうたないとは思えない。そこがこの海戦の見せ場になる
『艦長、各艦に命令・・・ネルソンタッチ、と、それだけ』
『ネルソンタッチ!』
速力に劣る以上、敵に合わせていては、いつまでも不利なままだ。ならば、敵隊列を割ってしまえという事か!  


157  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:16:19  ID:2MxH4A12O
本家本元がやるのだ、その名がつけられた艦でそれを。考えてみれば、ネルソン級の前部への主砲集中配置と、それに伴う重装甲はこのような時にこそ、発揮できる物に違いない。まさに自艦に対応した戦場を彼女は得たのだ
『さっすが、ロイヤルネイヴィーだ』
でも、問題があるとしたら、彼女らが相手取るリットリオ級戦艦が、ネルソン級より新しく、火力的に大きな物を持っており、距離を詰めるが故に、想定以上の打撃を受けてしまうのでは無いかという事。先頭艦が詰まってしまったら・・・それは悪夢だ
『艦長!ネルソン撃ち方始めました!』
思考の迷宮に嵌まろうとしていたジョニーははっと我に帰った
『撃てる内はどんどんぶっぱなして!砲力で圧倒するよ!』
そう、巧遅より拙速。敵はこっちに向かって来てる。考えていたら、何も出来なくなってしまう・・・成程、海戦とはこれで速く展開するものなのか!
『良いと思われる判断を、必要となった時に躊躇わず行う』
それが英国海軍なのだ。さすがとしか言いようが無い。俺達と較べものにならないほど戦慣れしている
『イタリア人だって、壊滅覚悟で突っ込んで来てるけど』
さらにそのうわてをパウンド元帥はいってる。今はこれで良いのだ  


158  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:18:39  ID:2MxH4A12O
ネルソン



勿論、英艦隊司令部でもジョニーが考えることは考慮されていた
『魚雷艇はイタリアの物、だったな?』
『は、間違いありません!』
イタリアの小型魚雷ならば、ある程度その威力も知れている。パウンドは巡洋艦以下の軽速部隊の部下達を信じたのだ。彼等の奮戦あらば、そう多くの魚雷艇は抜け出てこれまい。一本や二本の被雷は、良くは無いが許容範囲だ(イタリアの小型魚雷の炸薬量は110キロ〜115キロ、通常魚雷
の半分以下である)敵も自ら近づいてくる現状で、それほど重く気にする事か?と、なったのだ。もし日本製や新型であれば、彼等はさらに慎重な姿勢をとってまた別な対応をしたであろう


ドドドドドド!!!


ネルソンの主砲が断続的に吠える。敵の一番艦の足を止めれたなら、今度はこちらが敵の頭を抑えられる。そうなれば
『チェックメイトだ』
敵の新型戦艦を一隻ずつ喰っていけば良い。他は何もしなくても互角以上に戦える


そんな巨砲の饗宴に、ゴリツィアが作った隙間から抜け出た魚雷艇の一群が、ネルソンに迫っていた。彼等の放つ魚雷は確かに弱い。だが、ネルソンは水面下に一つの爆弾が存在していた。パウンドの想像を越える威力を持つ爆弾が・・・  


159  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:20:49  ID:2MxH4A12O


ズズーン!!!


ネルソンの巨体が、巨大な水柱にわずかに揺れた。艦首方向を横切るように魚雷艇が駆け抜ける
『艦首方向の防御に難があるな、この艦型は』
後部の副砲、機銃群と較べて層が薄い為、狙われると対応できない
『その分頑丈ですから・・・応急修理班急げ!』
報告が入る前に艦長が命令する。だが、彼は少しばかり安心していた。水柱の高さは、その艦の装甲と爆発力の反発で装甲が厚い程大きくなる。つまりあの大きい水柱は、敵の魚雷をどれだけ弾いたかの証明なのだ。艦長の目算では、ネルソンの水中防御は見事にその役目を果たしたようd



ズゴゴゴゴ!!!


今度は大きくネルソンが揺れる。先程とは較べるほど馬鹿らしい衝撃だ
『ダメージリポート!』
なんだ、何が起こった!?
『魚雷発射管近くに被雷!その衝撃で魚雷が誘爆しました!』
『魚雷・・・!』
艦長は絶句した。ネルソン級の魚雷発射管。長門などにも竣工時には取り付けられていた物だが、改装によって撤去されていた。ネルソン級にはそれが開戦に間に合わず、そのままになっていた。ビスマルク追撃戦でも使用されたものだが、まさかこんな時に限って・・・!
『浸水により、速力落ちまぁす!』  


160  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:23:17  ID:2MxH4A12O
ネルソンの魚雷発射管に装填されていた魚雷は62.2センチと酸素魚雷よりも大きな代物だ。破孔もその分大きな物になる。破孔を塞ぐには、速力を抑えて入り込む海水の圧力を下げねばならない。無理に速力を維持しては、艦のダメージは取り返しのつかないものへなってしまう
『申し訳ありません閣下・・・』
これで我が艦隊は圧倒的不利な状態へと・・・
『構わん。苦難の時を強いられる時もあるだろう。その時、いかに戦うか、だよ』
泉下のネルソンもそうだったはずだ
『ただ、ロドネー以下をどうするか、だが・・・』
速力が低下したネルソンを避けさせてネルソン・タッチを続けさせるか・・・
『閣下、あれをご覧下さい』
スタッフは微笑んだ。ネルソンを楯となって守るように敵艦側に舵を切り、敵艦隊へとネルソン・タッチを続けるロドネー以下が、存在していた
『トラファルガーの海戦も、ネルソンが英雄的に倒れた事により、我が海軍は勢いを得た、か・・・』
パウンドも微笑む。どこにでも、なにかしらの希望はあるものなのだな
『艦長、彼等の好意に甘えよう。だが、復旧は可及的速やかに、だ』
『アイ!』
最後まで勝負を捨てるような事など、ロイヤルネイヴィーには許されないのだ  


161  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:25:14  ID:2MxH4A12O
ヴィットリオ・ベネトー


『敵先頭艦爆発!後落します!』
先頭に立っていた旗艦であろうネルソン級が速度を失う・・・魚雷艇が魚雷でやりおったのだ
『よし・・・!』
ベルガミーニはひそかに拳を握り締めた、幸先が良い・・・息子の案も、捨てたもんじゃないな
『砲撃目標を変更!敵二番艦に砲撃集中、16インチ砲艦を沈黙させるぞ・・・!』
『ジュリオ・チェザーレ被弾!』
『敵R級戦艦に命中弾!』
距離が近づいて来たことにより、互いの命中弾の数が増えてきた
『まだだ、まだ接近して頭を抑える・・・!』


ゴロンゴロンゴロン


重低音と共に、新しく目標に選定されたネルソン級に砲塔が旋回し、止まる
『砲術、撃て!』


ドドドドドド!!!


号令と共に、ベネトーの砲弾が、今度はロドネーに飛んでいく
『気をつけよ、勝利の時にこそ、死は存在する』
気を抜けば一気に覆されかねぬ状況である事に違いは無い。まだ我等は劣勢なのだ
『敵艦の変針を良く見て・・・逃げられぬように頭を抑え続けねば』
イタリア艦隊の持つ問題は一つ、ベルガミーニは指揮を執ることに集中し過ぎており、英米の艦隊がネルソンタッチを始めたことに全く気がついて無かった事だ  


162  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:27:15  ID:2MxH4A12O
山城


山城の艦橋は、ベルガミーニの指揮に青くなるどころか、まるで葬式のような雰囲気だったという
『チェザーレが・・・』
目の前を進むジュリオ・チェザーレが、重なる被弾により火達磨になっていく。それでもチェザーレは戦いをやめずに戦い続けているが、栗田の司令部に関しては逆効果だったようだ
『この近距離で16インチ砲弾を浴びるなど・・・!』
この山城にとっては自殺行為だ・・・!幸い、敵の練度がそれほどでも無い為か、まだ命中弾は無いが、それもこのままでは危うい・・・
『チェザーレが後落すれば・・・』
避ける為、として戦線を離脱することも可能になるというのに
『足柄の方に連絡はつくかね』
栗田は司令部その参謀達の様子に眉をひそめてから、通信長に問うた
『はい、出来ます』
『・・・魚雷を放て、無理をするなと伝えよ、艦を失って、誰が邦人の帰りを護衛するのか、とな』
彼は彼なりに考えていたのだ。邦人達へ自分達が出来る事を
『あの、愛宕には・・・』
通信長が迷って聞いて来た。愛宕はまだ敵巡と戦っている。離脱を他の艦が行えば見殺しになってしまう
『・・・諦めろ、もはや修理も出来ぬ上に、足手まといだ』
少し考えて、栗田は断じた  


163  :長崎県人:2007/06/03(日)  23:29:40  ID:2MxH4A12O
事情を知っていれば、我々は戦艦を、山城を失う訳にはいかないのだ・・・!という栗田の心中にある悲痛な叫びを理解できるかもしれない
負け続けの合衆国にとって、海戦に於いて日本の大型艦が沈む。これだけ宣伝文句になる事柄は無い
山城が戦い、失われる事でイタリアは救われたとしても、それでは日本が救われない。戦争に希望を得た合衆国はその巨大な工業力で、日本を押し潰しにくるだろう。それではいくら奮闘しても意味が無いのだ・・・!
『・・・よほどの事がなくば、16インチ砲弾でもそうそうはこの山城、沈みはしない』
チェザーレがその損害によって後落するのが先に起こるのは間違いない。その時を待つのだ
・・・味方がやられるのを待つ、なんとも醜い所業だな
『しかし、被弾によって機関がやられましたら・・・』
『何の為の駆逐艦かね』
速力が足りないとして手元に置いた松級、これが持つ酸素魚雷が生きてくる。敵から逃げるのに使うのは十分だ。手はうってあるのだ・・・知らぬは志摩君達、という訳だ。彼等の誰かが沈めば、イタリア海軍への言い訳のネタになる
『・・・』
栗田は愛宕の方を見た。被弾の閃光が光っている・・・おそらく持つまい
『すまんな、志摩君』  


176  :長崎県人:2007/06/12(火)  22:59:30  ID:2MxH4A12O
愛宕


愛宕はブルックリンの攻撃を受け、断末魔の状態に近くなっていた
『後部全ての主砲大破!敵艦に撃てるのは高角砲一基だけです!』
今し方の被弾で、四、五番砲塔が潰されたのだ。後方射界があって、対艦能力があるのは報告の通りである
『くっ・・・』
総員退去を命じるべきであろうか?さすがに敵も、退去中の艦までは撃ち続けまい
しかし、それは・・・この身体と怪我・・・泳いで耐えるにはほぼ確実に持つまいな
『頭はなんとか回せないか!?』
前部の砲が使えれば、まだ戦える・・・!
『ダメです!敵の方が早く反応して、相手になりません!』
もはや・・・これまで、か
『皆、良くやってくれた。これ以上のk』
抗戦は無意味だ、総員退去。と言う途中で爆音に志摩の言葉は掻き消された
『何事か!?』
志摩が見た先では、艦首を大きく持ち上げて沈み行くクインシーと、大きく傾いて黒煙を噴き上げるヴィンセンズの姿、それに雷撃姿勢から離脱行動を執る足柄以下の戦隊
『敵巡変針します!』
いままで俺達を叩きのめしてきたブルックリンが戻っていく。あちらの巡洋艦がやられた事で開いた穴から出た魚雷艇を追うのだろう。あの速射能力は有効だ
『足柄を呼び戻せ!』  


177  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:00:37  ID:2MxH4A12O
こんな時にこそお前達が必要なのじゃ無いか!魚雷を戦艦に叩き込むでもなく、巡洋艦に叩き込んだんなら!
『無線室!・・・ええぃくそっ!』
無線室はやられてしまって使用不能だった
『発光信号!』
『申し訳ありません!缶室爆発の際壊れてしまい、あと回しにしておりました』
くっ・・・!そうだ、艦の運営の為の応急修理を先にしたのは俺だ
『魚雷艇を敵戦艦に送りこまねば、なんの意味もないというのに・・・!修理急げ!』
それを行う役目を仰せつかったのが俺だ、そう指示すべき時に指示出来ないなんて・・・!
『敵ニューヨーク級戦艦に水柱3!』
先行した魚雷艇6隻による戦果だ、後続の為に魚雷を使ったに違いない。ニューヨークはテキサス程では無いにしろ、ゆっくり傾いていく。しかしこのままでは、後続が敵本隊に到着する前に全滅してしまう・・・!
『誰か・・・!誰かあいつを止めろ!』
志摩が叫ぶが、それを止められる存在は、もはやこの海域には存在しなかった


ギュボォアッ!!!


志摩達はそれなりに距離をとっていた為、どの艦よりも早く、その事態に気付くこととなった
『報告!今のは何だっ!?』
『艦長!あれを!』
見張り員は、主力部隊を指差した  


178  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:02:19  ID:2MxH4A12O
ジュリオ・チェザーレ


1914年生まれの彼女にとって、彼女より1ランク格上のニューメキシコら米戦艦と撃ちあうのには、やはり無理があった

命中弾は19000の距離から五発。致命傷になったのは220oの垂直装甲と、さらに70oの装甲を突き抜けて、第二砲塔下の弾庫に進入した14インチ砲弾だった
『弾庫注水!急げっ!!!』
弾庫長の命令は届かなかった。なぜなら飛んできた破片によって、彼は下顎の半分を削り取られ、まともな言語を喋っていなかったし、次の瞬間には砲弾の爆発で消滅していたからだ
チェザーレは、この海戦に於いて既に被弾。大火災を起こし、応急要員をその消火に回していた。彼女にとって、受ける被害のキャパシティの上をいってしまったのだ
『なっ・・・!』
チェザーレの艦橋に居た者は、有り得ない光景を目撃する。第二砲塔が沈み込み、傾く姿を。そして驚きの表情のまま、艦体断裂を伴う本格的な誘爆によって命を奪われた
続いて第一砲塔下の弾庫に火が回るとともに、缶室での水蒸気爆発。艦の前部のほぼ全てをチェザーレは失って、停止した
ちなみに、この伊戦艦に乗っていたレーヴァテイルは、あまりの爆圧を至近で聞いてしまった為、ショック死したと思われる  


179  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:05:29  ID:2MxH4A12O
山城


この艦はまだ奇跡的に無傷だった。挟叉はされていたので、被弾は時間の問題とはなっていたが
『チェザーレ、沈没します!』
『舵をとれ、戦線を離脱する』
栗田中将が命じた。戦術行動として撃沈、または後落した味方艦を避ける針路をとるのは当然の行動だ。後は、離れ過ぎてしまえば良い・・・戦列復帰には時間がかかる故、以後、遊撃行動を採るなど名目をつけて。伊達に水雷屋をやっては居ない。足を使うのにはそれなりに自信がある
『成果もこれで十分だろう』
戦艦1、重巡2、水雷艇を通らせた分も考えれば、それに戦艦1が加わる。ネルソンも落伍した事だし、ロドネーも・・・水雷艇やイタリア艦の残りを考えれば、最悪共倒れは堅い。そこに付き合うつもりは無い。そこまでするには、山城は高すぎる。これで十分だ
『ベネトーに転舵を信号。加えて舵機損傷、合流は遅れる、とな』
たとえ不審は抱かれても、海戦中に調べる事はできまい。帰れたなら、古い艦の事と開き直るまで
『完璧だ、とりあえずはな』
あとは確率の目が、この艦に当たらぬよう祈るだけ、だな
『長官!ベネトーが!』
舵をとって戦列から離れる山城の視界に、炎上するベネトーが入ってきたのはその時だった  


180  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:07:26  ID:2MxH4A12O
英伊、両艦隊の先頭を進むベネトーとロドネーは、激しく撃ち合いながら互いの距離を縮めていった。距離が距離の為、命中率はほぼ同率。こうなると自艦の優速で得た射界を得て、手数に優るベネトーが優位に戦闘を続けていた筈なのに
『何があった!?』
ベネトーからの信号が無い、指揮官無事とも、戦死とも、うんともすんとも言わない。主砲は撃ち続けているが、これでは後続は不安でたまるまい。何をやっているのだ!ここで伊艦隊が壊乱してしまえば、全く、なにもかもが無駄になってしまう!
『かといって指揮を受け継ぐわけにも・・・』
そう、我々はこれから離脱するのだから・・・しかしこのままでは
『他の艦より発光信号多数!』
他艦も不安になってきたのだ。誰だって突撃は恐い。刹那的な楽しさはあるが
『ロドネーが下がります!戦闘不能の模様!』
前部に集中して配置された主砲も、この近距離の撃ち合いで貫かれ、沈黙させられたようだ。他艦の砲戦を邪魔する前に退いた方がいい・・・うん!?
栗田は閃いた、これは!
『見張り員!敵が変針する様子はあるか!?』
『・・・?ありません、まっしぐらにこちらへ』
間違いない。栗田は叫んだ
『これはネルソンタッチだ!!!』  


181  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:09:35  ID:2MxH4A12O
時を少し遡り、ベネトー


ベネトーの艦橋では、ロドネーに命中弾が出るたびに歓声があがっていた。明らかにこちらが押している。あの世界のビック7であるロドネーをだ
『早くドリア以下を楽にしてやらねばな。他の艦の状況はどうなっている』
『はっ!本艦は被弾三発、三番砲塔が旋回不能の他、支障ありません』
スタッフが今まで上がって来ている報告を読み上げる

リットリオ・被弾五発、後艦橋全壊
ローマ・被弾二発、左舷高角砲群全損
アンドレア・ドリア・被弾六発、前艦橋破損、二番砲塔使用不能
カイオ・デュイリオ・被弾三発、一番砲塔使用不能
ジュリオ・チェザーレ・被弾七発、三番、四番砲塔使用不能、右舷副砲群全損。大火災

くっきりとリットリオ級以下との性能の差が出ている。特にチェザーレは危険な状態だ
『既にロドネーは主砲を三門しか使えぬ状態です。これさえ沈黙させてしまえば』
『まだだ、仮定の話が期待出来る相手か?相手はあのロイヤルネイヴィー、全てを沈黙させてから話せ、いいな!』
調子に乗りすぎているスタッフに、ベルガミーニは強い調子で釘を刺した。自分も舞い上がりそうだったから


ドドドドドド!!!


ベネトーの砲が再び吠える  


182  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:12:02  ID:2MxH4A12O
『敵艦も主砲を撃ちました!』
ほぼ同時の射撃か・・・
『弾着まで、3・2・1・・・今!』


ズカカカカッ!!!


よしっ!艦橋にかなりの弾がいっただけでなく、無事であった二番砲塔にも黒煙があがった。これなら・・・!


これならなんだというのだ


死神はそう呟いたに違いない。ロドネー最後の主砲射撃は、ベネトーの艦橋を含む中央部に二発の命中弾を得た。それがもたらしたのは、艦橋の傾斜と司令部の壊滅、第一煙突の倒壊に伴う大火災である

ベルガミーニが意識を取り戻した時には、艦橋に生存者は他に居なかった。あれほど居たスタッフはどこに・・・そして彼は自分の姿にも気付いた。足が無い、腕も一本しかなく、血が頭から垂れてくる
『これが16インチの威力、か』
ある腕を動かして、胸ポケットの中にあるタバコを取りだし、マッチも取り出して火をつける・・・痛み止めのつもりだ。もはや助かるまい
『指揮を継がせねば・・・』
しかし足が無い。艦内電話はそこにあるというのに、どんなに遠い事か。そして気付いた。艦橋が傾いでいる。艦自体の傾斜か?いや、これほどのものはまだあるまい。となれば艦橋そのものが傾斜しているのだ
『這いずるしか無いな』  


183  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:14:14  ID:2MxH4A12O
一刻一刻と自分に残された命は、流れて失われていく


ズリッズリリ・・・


ベルガミーニは血の跡を床にべったりと残しながら艦橋を這った。電線が切れているかもしれないが、伝声管を選べる状況でもない。可能性に賭けるしかない
『・・・こちら艦橋、聞こえるか』
雑音交じりの受話器から、返事が戻ってきた
『無事かどうかはどうでも良い。指揮をリットリオのモンタッネリ君へ委譲したまえ・・・ここには死者しか存在しない。私もその一人だ』
時間が無いのだ
『それから、全艦隊へ電文。一言で良い、護れ、とな・・・繰り返せ、護れ、だ』
電話を切る。はは、主語を出さず、ただ護れとはなんとも舞台的。人生とは舞台、人は皆役者。将となり、いったいどれだけの役割を演じてきた事か
『人は果てる時、常に一人、か・・・』
演じる必要が無いというのは、なんとも楽なものだな・・・
噛み締めたタバコの灰が、吹き込んできた風で落ちる。湿気を多く含んだ風は、タバコの火も消してしまった
『馬鹿野郎め、火が・・・消えちまったじゃねぇか』
元来の性格から来る言葉遣いで罵って、ふっとベルガミーニは笑う。タバコが口元から落ち、最後に一筋だけ、白煙が薄く立ち昇って消えた  


184  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:16:07  ID:2MxH4A12O
ゴリツィア


ベネトーの被弾に、心中穏やかならぬ者がこの艦には居た。アンサルド・ベルガミーニ。艦長のアル、その人である
『親父・・・っ!』
イタリア軽速部隊は、ようやく水雷艇と共に、英軽速部隊の壁を通り抜けた所だった
『何もかもが・・・遅すぎだ!』
俺達がライミーにてこずりさえしなければ・・・!
『艦長、まだ戦いは終わってないよ、なにやってんのさ!』
航海長が叱責した。これから逆転してやればいいじゃないか・・・!
『こちら通信室、ベネトーから通信で全艦隊へ・・・《護れ》と発信を続けてます』
アルは震えた
『最期まで格好つけやがって・・・!』
死は、生きている者の言葉を奪う。しかし始めに言葉ありき、そして表情が戻ってくる・・・アルもまたそうだった
『通信室!思いつく限りの我が国の都市の名を打ち続けよ!この海域全てに伝わるようにな!』
《護れ》という言葉はそういう事だろう?親父よ。イタリア海軍とは、己の生まれ育った、魂のありかを護る者だと
『歌え!己の生まれ育った町の名を!ある限り歌い上げるのだ。敵に聞かせろ!我々の覚悟を!!』
『うぉおおおおおっ!!!』
乗員達は、雄叫びを上げる。護るのだ、己の故郷を・・・!  


185  :長崎県人:2007/06/12(火)  23:18:07  ID:2MxH4A12O
ニューメキシコ


米艦隊にとって、この状況は難しいものとなっていた。英艦隊のネルソンタッチに続くのもいいが、それは日本の戦艦を喰えるという前提があっての話だ
『ヤマシロ、離脱していきます!』
『このままでは・・・!』
『インガソル司令!』
大西洋艦隊を指揮するインガソル大将にとって、至上命令とされたそれが逃げるのを見過ごす訳にはいかない。だが、指揮権は落伍したネルソンのパウンド元帥にあるのだ。ここに至ってロドネーの大破も大きい。ここで我々が日本艦隊を追ってしまえば、あと戦艦が二隻しかいない英艦
烽ヘ絶望的な戦いを強いられる
『ぐぅ・・・!』
早く決断を下さなければ、優速のヤマシロを取り逃がしてしまう!だが、だが・・・!
『長官!我々は戦艦二隻を失いました!ここで日本艦を討たなくては、戦争そのものを失います!』
スタッフはそう叫ぶが、言う程簡単な事では無い。英国との関係にすらヒビが入りかねない。ならばサウスダコタだけ前に出すか?馬鹿な・・・合衆国海軍のもはや数少ない戦艦で、最新鋭艦だぞ?リスクの分散の上でも、敵戦艦撃破の上でもここは手数がいるシチュエーションだ。中途
シ端が一番いかん・・・!
『我が艦隊は・・・』  


188  :長崎県人(おまけ投下):2007/06/13(水)  12:35:31  ID:2MxH4A12O
閑話・ローマの街、紹介します


あなたがローマに行った時、ちょっと参考になるかも知れません
『ここは日本大使館ね』
『旦那様、もとい、志摩さん達が働いている場所はここです。ローマを流れるテベレ川沿いのマルゲリータ橋のすぐ傍にあります。大使館の前は広場なんですよ』
『じゃあちょっと歩くわね』
桂が歩き出す
『大使館から見える距離に、正確に言うと大使館から直線で北東に500m。ここにアル君と娼舘について話し合った海軍省ビルがあるわ、かなり近いので、便利便利♪』
『海軍省近くにはボルゲーゼ公園て物凄く広い公園があります』
『野外プレイをするならここね♪』
『け、桂さん!ここわっふるスレじゃありませんよ!(汗)』
南に行こうか北に行こうか迷う二人
『まぁ北は地図が切れてるから却下で』
『中の人の都合ですか』
ジト目のミスミ
『な、中の人なんていないわ!フラミニア通りに沿って北にいくと競技場があるわ・・・豆知識だけど、ドゥーチェはASローマのファンなんだって♪』
『あ、話題変えた』
『う・・・ち、ちなみに飛行場もフラミニア通り沿いにいってテベレ川を渡るとあるわよ♪・・・ミスミさん、これ以上つっこんだら、夜ヒドイ事するわよ』  


189  :長崎県人:2007/06/13(水)  12:37:46  ID:2MxH4A12O
桂の言葉にミスミが汗をかいた
『で、では、南に行きましょうか』
『南に真っ直ぐ進むとポポロ教会とその広場があるわ』
『あ、三差路ですね』
『リベッタ、コルソ、バブイーノの通りよ』
『リベッタ通りを南に進むとマダマ宮、イタリア議会の上院が、コルソ通りを南に進むとコロンナ広場の隣に下院があります。さらにその南には市庁舎が、コロッセウムもこの近くですね』
『私たちはバブイーノ通りを行きましょ♪』
テクテクと歩いて一キロ程
『ドゥーチェの働いてるクィリナーレ宮殿の官邸がここ、ちなみにドゥーチェの長女のエッダさんはチェロを、長男の新聞記者やってるヴィットリオさんはバンジョーを、亡くなられたブルーノさんはトロンバ、ロマーノさんはジャズピアノをしてるらしいし、ドゥーチェも色々やってる
枕lえると芸術家一族ね、ホント』
『意外性満載です(汗)えっと、ここから9月20日通りを進んで共和国広場に出るんですよね』
『そうそう、そのまま五百人広場へ。ローマテルミニ駅があるから・・・ミラノへ行くわよ!志摩の出迎えに!』
そう、彼女達はヴェネチアから列車の乗り換えに歩いていたのだ
『待ってなさい!ナポリでもタラントでも迎えに行くんだからね!』  


193  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:12:51  ID:2MxH4A12O
山城


『ネルソンタッチが、どうしたのですか?』
栗田のスタッフが疑問を口にした途端、栗田に怒鳴られた
『わからんのか!』
そう、ネルソンタッチは敵隊列への突入、分断行為、当然イタリア艦隊へと敵艦隊は突入する。ではその後は?
『・・・!』
そう、イタリア艦隊の頭を抑えつつ、こちらに向かってくる事が可能だ
『我々の離脱に用意した魚雷が意味を為さなくなるぞ、このままでは・・・!』
そして、駆逐艦に残してある、離脱用の魚雷。角度を付けられ広がっていくそれは、酸素魚雷の長射程もあいまって、イタリア艦隊を楯に取られた形になる
『伊艦隊の司令部は砲力で勝っておきながら、ネルソンタッチを採るなど、考えていない』
当然、同航戦を考えていただろうベルガミーニ中将、そして彼が指揮権を委譲したであろうなにがしも、だ
『最悪の状態が訪れる・・・!』
イタリア艦隊で、敵艦隊とまともに戦えるのはリットリオのみ、これまでは位置と速度の優位をもってアンドレア・ドリアら以下は戦えたに過ぎない。完全に戦況を覆されてしまう・・・なんたることか!
『ですが、中将が気付かれたなら、イタリア艦隊に知らせれば良いではないですか』
手は打てるのではないか  


194  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:14:34  ID:2MxH4A12O
『もう遅い、火力が足りなさ過ぎる・・・!』
戦艦が四対五、総合の砲力は完全に向こうが上、ベネトーが無事ならまだやりようがあったかもしれないが、阻止砲火どころではなく、その火力に足をすくまされる可能性の方が高い・・・己の無能さに腹が立つ!確かにイタリア艦隊を差し置いて撤退を考えた。だが、彼等が負けてしま
、ことを望んだりはしていない(あるべき消耗は望んだが)・・・
『なんとか・・・なんとかならんのか・・・!』
ここに於いて栗田は、インガソルと似た境遇に置かれた。そして、その時とった行動によって大きく運命を分かれさせる事になる
『くぅっ』
参謀ら栗田のスタッフは一言も言葉を発しない、将を支えるときに、彼等は全く行動をとらなかった。そして、栗田の凡なる頭脳は採るべき行動を全く見出だせなかった。戦うのか、離脱をするのか命令の無いまま無為の時間を過ごしてしまったのだ
そしてその優柔不断さが、インガソルが苦渋の断を下す原因となった
『長官!米戦艦が離脱行動をとります!』
『なんだと!?』
米戦艦が頭をふり、突入ではなくこちら側に大きく艦首を向ける針路を取ろうとしている
『・・・そこまでしてこの山城を沈めたいのか、米海軍は!』  


195  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:16:29  ID:2MxH4A12O
ニューメキシコ


全く行動を起こさず、離脱していく山城を遠目に、インガソルは決断した
『我が艦隊は・・・隊列を離脱!ヤマシロを討つ!』
艦橋がざわついた
『これを現在指揮を取っているマレーヤ艦長に通達!』
戦術的敗北は幾らでも取り返せる。しかし、これだけの損害を出して山城を取り逃がしたとあっては、それは戦略的敗北となってしまう。私には関係の無いことだが、現ルーズベルト政権の政治的敗北にすら繋がりかねない。合衆国の脱落は英国も望みはすまい、英国の戦艦戦力が減り過
ャるなら、いいだろう。我が国が幾らでも供給しようじゃないか、空母だって景気良く譲っている。戦艦だとて構うものか
栗田が叫ぶように、なんとしても米国は戦艦を沈めたかったのだ
『それからパウンド元帥に意見具進!全艦隊の撤退を要請!イタリア艦隊の撃滅は出来ようが、これではこちらも撃滅されてしまう!』
・・・受け入れてくれるだろうか?背信とすら言われかねないこの判断を
しかし、この海戦で日本人が無敵ではない証を、合衆国海軍が日本海軍に劣らぬ事を知らしめねば、何の為に艦と将兵らは沈んだのか・・・!
『砲術!必ずだ、必ずヤマシロを沈めろ!(シンク・ザ・ヤマシロ!)』  


196  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:18:35  ID:2MxH4A12O
サウスダコタ


『艦長!』
サウスダコタの主であるジョニーにとって、この状況は屈辱であった
『仕方ないよ、悔しいけどさっ・・・!せめて、イギリスの巡洋艦部隊を突破したイタリアのそれを止めなきゃ!』
顔向け出来ないよ、死力を尽くしてる英海軍に。そして、こんな状況を生み出した不甲斐ない自艦の責任は果たさなきゃならない。その為に出来る事はこれしか無い!
『サウスダコタの暖気はもう済んだ、これから本当の力を発揮するんだ!』
英海軍の巡洋艦部隊を突破し、ベルガミーニ親子の激によって突撃してくる巡洋艦と駆逐艦、そして水雷艇の群れをジョニーは睨む
『再照準、急げ!出来次第撃ち方始め!』
闘志は十分、技量はこれまでの砲戦で上がってきた、あとは成果を挙げる。それだけでこの艦は戦闘艦として完成されたものになれる
サウスダコタの主砲塔が鈍い音を発しつつ旋回し、微調整を続ける
『やれる、やれる、やれる・・・ぶっ倒す!!!』


ドドドドドドド!!!


ジョニーの気合入れと共に、サウスダコタの持つ九門の主砲が吠え、16インチ砲弾がイタリア艦へと飛翔していく。戦いが終局へと加速していく始まりの鐘の音は、彼によって鳴らされたのであった  


197  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:21:55  ID:2MxH4A12O
ゴリツィア


砲煙弾雨の中、ゴリツィアは駆ける
『進めっ!進めっ!』
アルの乗るゴリツィアの後方には炎を噴き上げる三艦が、ルイジ・カルドナとトレント級の二艦、トレントとトリエステだ。サウスダコタの砲撃精度はこの時最高の値を示していた。まさにぶっ倒すというジョニーの言葉は実行されていた
『艦長、どこまで接近するんだい?』
航海長が舵を回した
『機銃を撃って当てられるくらいにきまってんだろ、体当たりする気で突っ込んじまえ!』
『アイ、艦長』
笑ってアルは言い返し、航海長も答える。機銃の射程内、4000m以内と言った所か・・・相当無茶である。艦内電話が鳴った、後艦橋の副長だ
『あー、こちら副長。艦長、この調子じゃ後ろの艦が我々におっつきません。速力を少し落としてください。このままじゃ突出しすぎたネイ元帥n』
皮肉屋の副長から注進がだ、しかし
『黙ってろ!』
そう言って受話装置を置く。この勢いとリズムが大事なのだ、遅れてくる奴なんて構ってらんねぇ!大体例えるならイタリアの偉人にしろっつの!
『だから副長は女にフラれて、ヤれないから太るんだ、だろう!?』
艦橋が爆笑した。ちなみにイタリア、わっふるを朝のスポーツと言うらしい  


198  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:24:41  ID:2MxH4A12O
アルの論理はこう。イタリアのうまい食事を毎日食う→仕事と女性の朝のスポーツでカロリーを発散しない→太る。仕事はきちんとしている、ならば原因は一つしかないという訳だ。アルは別の部署へそのまま艦内電話を使う
『砲術!射撃速度を緩めるなよ!トドメは俺達じゃないが、痛め付けるのは可能だ!』
敵の戦艦をすんなり逝かせてやるのに、前戯はたっぷりとしてやらにゃならん。目の前のそれは、とんでもないアバズレだが、その分殺り甲斐があるってもんだ


ドドドドド!!!


ゴリツィアの主砲が弾けるように砲弾を放ち続ける
『こちら水測室』
凛とした声が聞こえてきた。レーヴァテイルのカーヤだ。アルは艦内電話から離れようとして、すぐに受話装置に噛り付いた
『どうした!?魚雷か!?』
『敵艦の音に乱れ、スクリューに命中弾』
すぐに見張りから報告が入った
『敵戦艦速力落ちまぁす!』
おそらく水中弾だな、運が良い!しかし
『素晴らしいよカーヤ!敵が何故速力を落としたか丸わかりだ!愛してるぞ・・・!』
『リーリャ、次から報告変わって』
あ、怒った。向こうでごにょごにょ喋っている
『き、機嫌を直してくれ・・・(汗)』
カーヤは剣もほろろな性格なのだ  


199  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:26:39  ID:2MxH4A12O
『艦長』
『いや、名前をあんな風に』
『・・・艦長!』
アルにカーヤが怒鳴った。彼女の基準で、だが
『あ、あん・・・?なんだ?』
『針路変更を具進します』
突拍子無くカーヤが意見具進した
『何故だ』
『魚雷が・・・日本の魚雷が先頭の戦艦に命中します』
『な、なにぃっ!?』
遠くから爆発音
『どうしたっ?』
同じく見張りから報告という名の絶叫が
『敵戦艦に水柱っ!!!』
そう。インガソルがネルソンタッチを行わずに針路変更を行ったが為、山城に付き従っていた松級は、自艦の持つ酸素魚雷を放つことが出来たのだ。その結果ニューメキシコに一本の酸素魚雷が突き刺さり、爆発した。破孔から海水が大量に流入し、彼女はがっくりと速力を落としてしま
チた
『航海長!針路変更だ!奴は脅威だが、速力が落ちたなら放っておけ!』
戦域を離脱できない奴の始末は後からでも出来る。ならば後は一隻、無傷の敵戦艦を狙うべきだ。しかしまぁ、味方の魚雷すらこの砲煙弾雨の中聞き分けて、その命中する艦を知らせるとは・・・
『空恐ろしいな、日本海軍全体にどれだけのレーヴァテイルが居るのかわからんが、一体どれだけの利点とノウハウを得てるんだか』
心強いもんだ・・・!  


200  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:28:43  ID:2MxH4A12O
ネルソン


『ニューメキシコ被雷!サウスダコタの速度、落ちます!』
敗勢になってしまえば、これほど加速度的に状況が進んでしまうとは・・・インガソル君が進言したのを取り入れ、撤退を指示したが(パウンドは元帥で中央官庁に居た為に、インガソルの苦悩も理解できたのだ)英艦隊にも被害は広がりつつあった
『マレーヤがっ・・・マレーヤ大火災!傾斜していきます!』
米海軍が抜けた事から四対二の形になった英伊の戦艦対決で、英戦艦が勝てる目はやはり少ない
『撤退はジブラルタルへ、巡洋艦部隊は援護をしたまえ。なに、こちらが辛いときはあちらも辛い、敵にとってもこれは押されれば崩れかねない優位にしかすぎん』
しかしそれほど危うい敵の優位を覆せるだけの力さえ、魚雷を使い果たした我が巡洋艦部隊には無い。巡洋艦や彼等が水雷艇を通す為に駆逐艦を狙った事で、こちらの取れる行動の範囲を狭められてしまった・・・実に見事な戦い方をイタリア人は見せている。日本人にテコ入れされたの
ゥは知らないが。ここまでやるとは・・・だがな
『我々は諦めん、何度でも戻ってくるぞ』
七つの海を制して居るのは我がロイヤルネイヴィーなのだから
『閣下!ノイス中将の航空隊が!』  


201  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:32:28  ID:2MxH4A12O
魚雷艇を駆逐する為に派遣を要請していた攻撃機及び爆撃機だ
『なかなか良いタイミングだ』
彼等が飛び去った方向から黒煙が上がる。爆弾まで・・・あれは250ポンド爆弾ぐらいか?機銃だけで良いといったのに、危険を冒してでも搭載して我々を支援しようと・・・感謝の意しか出ようが無い
『畜生・・・もう少し早k』
上層部の事情や苦悩なぞわからない兵卒が毒づいたのをパウンドは聞き止めて怒鳴った
『口を謹みたまえ!彼等へ指示が遅れたのは私の責任だ。罵るなら私を罵るように・・・!』
『は、はっ!』
兵はパウンドの怒気に直立不動で答えた。パウンドはその兵卒を追い払う
爆弾を抱えた攻撃隊に、奴らは恐怖を感じるだろう。魚雷を、または爆弾をもっと積んでいるのではないかと・・・この状況でそれは最良の支援である
『撤退はうまくいくか・・・砲術、気を抜くな。これでも向かってくる奴を撃たねばならんからな』
追撃の出鼻をくじくのはこのネルソンだ。必要とあらば、喜んで旗艦として殿軍を勤めよう。それが勤めだ
『敗走に秩序を失うな、隊伍を組め。隙を見せては死神を呼ぶ、さぁ戦おう』
パウンドは艦橋のスタッフを見渡して、莞爾と笑った
『これからが紳士の時間だ』  


202  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:39:06  ID:2MxH4A12O
イタリア艦隊の指揮を受け継いだモンタッネリ少将は、パウンドの言の通り、ノイス中将の送り込んだ攻撃隊に恐怖した。というより、彼も精神的な限界に達していた。二万、いや、最短で一万五千での戦艦同士の撃ち合い。重なる大型艦の喪失及び大損害。戦果も十分に上げた彼に浮か
ヤ思いは一つ


もう終わってくれ!


だけである。そこに航空機による阻止攻撃と敵艦隊の撤退。渡りに船と追撃戦を叫ぶアルら軽速部隊の嘆願を退け、ナポリへと針路を取ったのであった


ただ、一つだけ日伊の艦隊に凶事が起きた事を書いておかねばなるまい。一部の艦から放たれた対空砲火によって捕らえられたSBDが、その名の如く山城の艦橋に突入、爆発炎上した。栗田中将は命を取り留めたものの全身に火傷を負い重傷、スタッフはほぼ全滅、司令部はその機能を
クってしまったのであった・・・
一方米海軍もニューメキシコ座上のインガソル大将らを失い、アイダホとサウスダコタを除いて四隻の戦艦を喪失してすら目的を達することに失敗してしまう
英海軍はというと、ネルソンで殿軍を勤めたパウンド元帥が、役目は果たしたとでも言うように、ジブラルタル目前で病状が悪化し、眠るように息を引き取っている  


203  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:42:06  ID:2MxH4A12O
こうしてイタリア海軍史上最大の海戦であるマレッティモ島沖海戦は幕を閉じたのであった。両軍の損害を掲示したい(沈没艦のみ)


イタリア海軍
戦艦
ヴィットリオ・ベネトー自沈(航空攻撃を恐れたモンタッネリ少将の誤断とする声も多い)
ジュリオ・チェザーレ
重巡
トレント
トリエステ
軽巡
ルイジ・カルドナ
ライモンド・モンテクッコリ
ムツィオ・アッテンドーロ
駆逐艦6隻・水雷艇全損(乗員は救出)


米海軍
ニューメキシコ(被雷後、イタリア水雷艇の雷撃にて転覆)
ミシシッピ(ゴリツィアの超近距離砲撃により操舵室破損及び艦橋被弾、ジュゼッペ・ガリバルディらの雷撃で撃沈)
ニューヨーク
テキサス
空母
レンジャー
重巡
クインシー
ヴィンセンズ
オーガスタ
駆逐艦2隻


英海軍
ロドネー(英海軍により海戦途中で自沈)
マレーヤ

空母
アーガス
重巡
サフォーク(トリエステらの砲撃により炎上のち沈没)
オリオン(イタリア軽速部隊との砲戦で戦没)
フィービ(同上)
駆逐艦20隻(海峡喪失分を含む)

日本海軍
駆逐艦三隻(流れ弾と副砲弾)


ここに上げてない艦も、その殆どが被弾、要修理の状況に陥っている事からも、海戦の激しさが見てとれる  


204  :長崎県人:2007/06/17(日)  01:44:37  ID:2MxH4A12O
1942年5月28日ナポリ


この日の夕刻。かの海戦を戦った、最後の艦船が帰還を果たした。その名は愛宕。機関を吹き飛ばされ、ブルックリンに打ちのめされたその体を引きずり、かの艦は一日遅れで帰って来たのだ
そしてナポリの埠頭には、その帰りをずっと待っていた影が二つ、じっとその姿を見つめているのであった  


213  :長崎県人:2007/06/17(日)  23:47:25  ID:2MxH4A12O
1995年、沖縄嘉手納


ジェットの轟音が響くなか、退役軍人の帽子を被った老人が、楽しそうに空を見ていた
『艦戦はまた川西の陣風Uに取られてしまったが、なんとも美しい飛行機だと思わんかね?川西のは、私から見ればマッシヴ過ぎる』
そのパイロットは余命半年を告げられた事で、私の書く記事に協力してくれる話がついた
『私が最後に乗った麗風は傑作だったが。まさにその直系だよ、雪風は・・・さて、何から話そう』
ゆっくりとその老人は飛行場と空を見ていた目をこちらに向ける
『初期の沖縄沖航空戦の話です』
『そうさな、あの時はまさに狩場だった。フィリピン、沖縄の間で空戦を行うことが出来た。撃墜比率は20〜25:1、話半分でも10機は落としてた。逆に落とされる者は運が悪かったとしか、当時は言ってなかったね。それに、連合軍と違ってパイロットは戻ってくる確率が非常に高かった
x
私は頷いた
『台湾の存在ですね』
『そうだ、機体不調が起きて墜落、または敵機に撃墜されても現地の方々に救助されたからな。私も一度世話になった。良い所だぞ、あそこは。行ったことは?』
もう一度頷く。この取材の前に台湾のスクラップヤードと呼ばれる飛行機の墓場を見に行って来た  


214  :長崎県人:2007/06/17(日)  23:50:02  ID:2MxH4A12O
『結構。あそこの機体が当時の戦況を物語っている。あそこにあった機体を解体、分析して今の台湾は本土に続く航空機産業のメッカになった。まぁ、富士になってもシェアを奪われ続けて本土から追い出された旧中島の資本の後押しもあったがね。軍用機はともかく、少なくとも旅客機
ナは一流になった。早い、安い、旨いでインドネシア他、第三世界、そして内南洋では引っ張りだこだ。商売がうまくいってれば戦争は起きん。少なくともこちらからはな』
『すいません』
私は彼の話を折った
『おお、すまんすまん・・・最初はまだ那覇にも統制設備が出来ておらず、大規模の迎撃には空母の指揮所を利用した。今思えば、戦場の近海に空母が常駐する形、ヤンキーが言うステーションというのの走りだったかもしれんな。あの六隻の空母には良く着艦もしたからね、良い思い出
オかないよ。飯も旨いしな』
にやっと老人が笑った
『沖縄じゃ陸海合同の大所帯、飯の食い場も競争でな、どうやって奴らを出し抜くか頭を絞ったもんじゃ。正直、連合軍を落とすよりずっとな』
・・・切磋琢磨した、としておこう
『しかし、元空母艦載機のパイロットの方々が、殆ど敵の事を米軍と呼びますが、連合軍、ですか?やはり』  


215  :長崎県人:2007/06/17(日)  23:55:32  ID:2MxH4A12O
『まぁ、初期の印象が深かったからな。連合軍はあらゆる機体を注ぎ込んだ。ボーフォート、バッファロー、フォッカーにブーメラン。ありとあらゆる国籍の機体と戦ったから、グラマンとばかり付き合っていた空母乗りとはやっぱり考え方は違ってくるだろうね。だからこそ、今でも空
鼕ヘ載機と地上運用の戦闘機の二本立てで開発を帝國海軍が行ってるんだろう。そのおかげで雪風は廃案にならんで済んだ。本当に軽いんだ、空母に乗せたって良いくらいに。艦や艦隊そのものの対空砲火の凄まじい所の直援と、飛行場の上で張り付いてなきゃいけない直援はやっぱり違う
のかね』
この老人は・・・本当に戦闘機が好きなのだな
『ああ、悪い。戦闘機は風の神様に後押しされている機体だから、すぐ魅入られてしまう』
あ、照れた
『・・・戦況は三段階で変わっていったよ、一つはパラオの再占領。一つはカラスの配置が始まった事。そして最後の一つが、空母が引き上げられた事だ。あの・・・』


キィイイイイイー!!!

老人の言葉は雪風の離陸音にかき消されて、記者に届くことはなかった
『スクランブルでしょうか』
空を見上げる。この老人が飛んでいた60年前と変わらず、ここの空は騒がしいままだ  


216  :長崎県人:2007/06/17(日)  23:57:33  ID:2MxH4A12O
かつてのパイロットだった人々が沖縄に集うのは、そんな・・・なつかしさを得るためなのかも知れなかった



雪風の舞う空は、南国の光を受けて、どこまでも青く広がっていた