4 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:05:56 ID:2MxH4A12O
1942年5月14日、ヴェネチア
入港の笛を吹いて、ヴェネチアの港にザラ級唯一の生き残り、ゴリツィアが入港してくる。傍らには、愛宕と工作艦がぴったりと附いている
『うーん・・・』
岸壁に佇んで桂は唸った。あのナンパ男と、見た目全然ぱっとしないメガネの志摩(ひでぇ)が両方とも艦長で軍艦を操っているなんて
『世も末ね』
ため息をついた
『あ、来ますよ』
停止したゴリツィアからは多数の乗員がわらわらと内火艇やカッターに乗り込み、こっちにやってくる。一方愛宕からは一隻だけ、おそらく志摩だ
『おーい!』
大声を出して、桂が手を振る。イタリア側のカッター群は三倍速で向かってくる。乗ってる全員が桂に手を振り返していた
『もしかして・・・全員が軽薄・・・?』
その様子にミスミが薄く汗を浮かばせた。案の定、近づいて来て、居るのが女二人とわかると、身を乗り出してピューピューと口笛を鳴らしている
『これでいいのかしらね・・・?』
『さぁ・・・』
志摩がこういう風にしてくれ、と頼んできたのだ、珍しく
『そういえば、市庁舎の方にも慌ただしく旦那様の御同僚らしき方達が向かってましたね』
ミスミも首を傾げる。何か大掛かりな事でもやるのだろうか
5 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:07:49 ID:2MxH4A12O
『全員整れーつ!』
岸壁についたゴリツィアの面々は、アルの号令であっと言うまに列を作った
『皆さんお久しぶりです!』
そう言ってぺこりと一礼する桂とミスミ。面識があるのは一部だが、噂は既にゴリツィア内に響き渡っている
『会いたかったですよー!』
『ヴィーバ!!!』
『ハートを撃ち抜かれたー!!!』
列は崩さないが、盛り上がるゴリツィアの面々・・・何と言うか
『盛り上がっておりますな』
後ろから志摩が現れた。うかつにも、夫の出現にブーイングをした乗員を、桂が一人一人丁寧確実に、奥様の為の四十八の必殺技(民明書房)で黙らせていく
『志摩大佐、ご要望の通り半舷の乗員を集めました・・・ゴリツィアの装備品受領の為と聞きましたが、これはまさか、二人に会わせる為に、ですか?』
アルはさすがに困惑半分、嬉しさ半分といった所だ
『装備受領ですよ、あなた方の目をそちらに向かせたかったので、二人にはあんな真似をしてもらいました』
『目を?』
志摩の後ろ、彼が乗ってきた内火艇に目をこらす
『おおお゛っ!?』
それは驚くだろう。第二次マタパン岬沖海戦の救助活動中、姿は見たが、未だ信じられない人物(?)が、日本海軍の制服を着てそこに居たのだ
6 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:09:23 ID:2MxH4A12O
『あっ、あれ!あれは!』
うろたえるアルを気にせず続ける志摩
『レーヴァテイルです、協定により、我々の艦の一部を解体し、その備品を譲ることになっておりますが、あれは貴艦へ早速取り付けるべき、備品です』
備品、という所で志摩の顔が嫌悪に歪んだ。だが、それだけだった
『分解しようなり、好きにしたらよろしい・・・カーヤ君!』
そのレーヴァテイルの名を呼ぶ。彼女はもう一人のレーヴァテイルと共に岸壁に上がってきた
新たな女性の登場に、一瞬盛り上がったゴリツィア乗員だが、それが驚きや恐怖に変わっていく
『に、ににっ!人間じゃない!?』
『Ho(オ・イタリア語の感嘆詩)!マーメイド!?』
その様子を見ながら志摩は腕の時計を見る・・・そろそろ時間か
♪〜ごらん、星がこんなに近く
「手が届きそう」なんて はしゃいだりしてた
そしていくつか季節は流れ
今ここで夢を見る あの頃のように・・・
どんなに遠回りでも
確かなその景色へ
漕ぎ出そう I wish
聞かせてブルーリア
近づくウィンディア
空と海が重なるAQUA WAVE
迷いの言葉も忘れるくらいに
光がやさしく包んでゆく
遥かな夢、追い風に乗せて〜♪
7 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:11:08 ID:2MxH4A12O
風を通して、ヴェネチアのあちこちから歌が聞こえてくる。カーヤは歌っていないが、もう一人の方は楽しげに歌っている
『この歌は・・・』
混乱が沈静化していく・・・心に響く歌だ
『いい歌・・・さすがは音姫と呼ばれるだけはあるわね』
桂らも耳をすませてその曲を聞く
『あ、ゴンドラを見てください、レーヴァテイルが・・・』
ミスミが指をさす。水上都市、ヴェネチアの名物であるゴンドラには、ゴンドラを操作する水先案内人と、そのへ先にレーヴァテイルが腰掛け、歌を歌っていた。足は水中から現れたのかヒレのままだ・・・しかし物凄く絵になる光景だ
水先案内人はおっかなびっくりで櫓を漕いでいるが、仕事をこなしている。事前になにか伝えられていたのだろう。故に市庁舎へ慌ただしく日本海軍の士官らが向かっていたのだ
『我が海軍では、装備の方が大事な場合もあります』
あっけにとられているアルに、志摩がささやいた
『大事にしてやってください』
栗田長官ら在伊艦隊首脳部は、ヴェネチアからレーヴァテイルら異世界の存在をしらしめる事と、彼女達の一部をイタリア海軍に供する事で、こちらに回ってくる面倒事を減らそうと決めたのだ
『こんなバカバカしい事を・・・』
8 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:13:32 ID:2MxH4A12O
志摩の主観からは許せない行為だが、彼は組織の人間という枠を五島のようには越えられない人間なのだ
『ヴェネチアで、人魚らしき目撃談は頻出していましたが・・・』
やはりそれでもアルは現実を受け入れるのに難渋しているようだ
『我々の艦には、大抵二名ずつのレーヴァテイルが乗っています。つまり、このアドリア海には、200名を越えるレーヴァテイルが存在している計算になる』
ちなみにそこに居るカーヤは愛宕に乗っていたレーヴァテイルだ、愛宕から出たいと、他の娘と代わって志願してくれた・・・詳しくは聞けなかったが、どうも前艦長関連らしい・・・志摩は心が痛んだ
下手をすれば解剖されてしまうかもしれないというのに・・・
『あなた達に、一体何があったというのですか・・・!』
我々の装備を取り付ける予定の、他のイタリア艦でも同じ言葉が投げ掛けられていることだろうな・・・こっちは都市ごとだが
『説明は追って・・・今は、彼女達の歌を聞きましょう。彼女達の願いの歌を』
しばらくの間、彼等は歌声に耳を傾けた
レーヴァテイル達の歌が終わったあと、ヴェネチアは拍手の音が多く聞こえてきた。なんとか、大規模なパニックは避ける事は出来たようだ
9 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:16:04 ID:2MxH4A12O
聞き終わるとすぐに、アルは一番の疑問を質問してきた
『なぜ公開を?保護の観点からみれば、隠しておいた方がよかったはずです』
しかも街ごとなんて
『政治ですよ・・・ヴェネチアを一種の情報爆弾に仕立てあげたのです。我々が見聞きした事を言うより、白人、特にスイスに根を張っているであろう各国諜報機関が、ここを知り、彼女達の存在を本国に伝える事を重視したのです。情報封鎖や、諜報員の特定がこの街ならしやすい、と
「うのもありますが』
水の都、ヴェネチアに入るルートは限定されている。逆に言えば、情報が漏れるルートもまた限定されているという事だ。そこが味噌である
『情報を出し過ぎず、段階的に、多方向から、ね』
捕虜の返還前に、事前情報を連合側に与える必要があると本土上層部は考えたのだ。それでヴェネチアでの情報公開となった訳だ。これまでの戦いで、ミステリアスな日本というイメージは付いた。その内実を知りたいという連合国首脳部は多いはず
『ちょっと待ってください』
アルは気付いた
『それは連合国側へ寝返ると!?』
志摩はアルから目を反らしていった
『寝返ったら、我々は瞬く間に繊滅させられるでしょうね』
それも良しと本土は判断したのだ
10 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:17:41 ID:2MxH4A12O
『・・・っ』
こちらに居る日本人達を取り巻く状況がどうなるか・・・子供でもわかることだ
『我々は、抵抗し続けるしか道は無いのです・・・いかなる決定が本土で行われたとしても』
だから、電探だけでよかったはずの装備品委譲だけでなく、人身売買のようなレーヴァテイルの引き渡しを、栗田中将ら、在伊艦隊上層部が決定しても・・・志摩は嫌悪しながらも、完全に理解してしまったのだ。仕方ない判断だ、と
本土上層部の考えも解る。たかだか四十万人の人間で、一億人の命が危険にさらされなくて済むならば・・・有り得べきペイだと
『まぁ、連合国側が交渉を言い出してくれるなら、だがね』
まずはそこにたどり着けなければ、どうにもならない・・・それをするために、我々大日本帝國海軍は存在しているのだ
『・・・大佐。少なくとも、それが出来得る状況になるまでは我々の味方、そうですよね』
アルはその苦悩を察して、慰めるように言った
『私の苦悩より、預かるレーヴァテイルの二人の事を・・・くれぐれも』
志摩は頭を下げる。組織の枠は外せなくても、彼はそういう人間だった
『それは・・・大丈夫でしょう。見てください』
アルは志摩に、アゴでゴリツィアの乗員達を示した
11 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:20:16 ID:2MxH4A12O
『一生この私と一緒に歌を歌ってくれませんか?オ〜♪』
『ああっ!てめえ!抜け駆けは許さんぞ!こっちも歌え!歌え!』
『キュウ♪』
ゴリツィアの乗員達の反応に楽しそうに小首を傾げるリーリャ
『・・・』
ツンとしたままのカーヤには砲術長以下の指揮所連中がメロメロ(死語)になっている・・・殴られたい、とか、叱られたいとか聞こえたのは聞こえなかった事にしよう
『解剖だとか、彼女達に下手な事をしようとすれば、逆に暴動がおきますよ』
アルは笑った
『どうしようもなくなっったら、手と手取り合って俺は彼女と逃げるぜ!ぐらいはしてくれる奴らです・・・こら!お前ら!話を聞かんか!お前らが騒ぐと、我が艦に彼女達を迎え入れる事が出来んだろうが!』
しーん・・・
その言葉に、ぴったりとざわめきがやんだ。手を振っている奴はまだ居るが。アルはそれを見て志摩に頷いた
『こほん・・・彼女達は優秀な水測士であり、彼女達の聴音出来る範囲の水中は丸見えです。彼女達を備品として、電探装備と共に、日伊海軍の掛橋となるよう、ゴリツィアに譲渡するものです。アンサルド艦長、許可願いたい』
『諸君!依存はあるか!?』
『ノ!ノ!ノ!(イタリア語でいいえ)』
12 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:21:52 ID:2MxH4A12O
『さっさと許可しろヘボ艦長!』
何と言うか、えらい言われようである
『許可します。名前は・・・』
『カーヤとリーリャです』
『カーヤ君とリーリャ君を、我がゴリツィアに受け入れる!』
『『イエアーッ!!!』』
その宣言と共に、大歓声と歓喜の口笛が沸き上がった。まさにイタリアである・・・が、彼女達に人権を認め、人相応に扱っていたら出来ない相談だった。イタリア海軍だとて、他国の海軍軍人をむやみに艦に乗せることは出来ない、備品扱いだからこそ出来ることだった
『あー・・・お前ら!艦長の許可なくば、艦の備品である彼女達を持ち出したり・・・これはないと思うが、傷つけたりしたら、射殺だからな、射殺!』
『艦長、独り占めする気ですね』
小太りの副長がボソリといった
『当然だ。あ・・・』
聞こえる範囲の部下に睨まれていた
『職権乱用だー!』
『横暴だー!』
『だまらっしゃい!悔しかったら偉くなれっつの!』
置いてかれる日本人三人
『とりあえずは・・・良し、かな』
レーヴァテイルに関しては安堵する・・・しかしまぁ
『・・・あれで統率が成り立つのでしょうか』
ミスミさん、鋭過ぎるツッコミです。普通は心配になる光景である。うん、確かに
13 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:23:36 ID:2MxH4A12O
『統率の仕方はそれぞれだから』
どっちかというと、艦の統率に問題があるのは俺の方だし・・・マタパン岬沖で味方をスクリューで刻んだあげく、決められた距離まで踏み込まずに魚雷を放ち、反転したという事実は兵にぬぐえない不信感を与えている
『なに落ち込んでんのよ』
ドンと桂に背中を叩かれた
『そ、そうか?そんなつもりは無かったが・・・』
何故かそういう事を考えているのを桂は敏感に感じ取るのだ
『いちいち気にしてたら精神的にまいっちゃうわよ?精神的にまいったら、本来はしもしないような事やっちゃったりするんだから・・・て、ともかく!あんたは開き直りを覚えなさい!』
衆目の場で言う言葉じゃ無いものを、危うく飲み込んで顔を赤くしながらゲシゲシと脛を蹴る桂、地味に痛い
『わかった、わかったから・・・あたたた』
『ふふっ』
ミスミはその姿を少し羨ましそうに、微笑みながら見ていた
この日、イタリアの主力艦艇10隻に電探と共に、二十名のレーヴァテイルがイタリア海軍に引き渡された。彼女達は一様に譲渡艦の士気を引き上げたが、それがどのような手段であったかは記録に残っていない。ゴリツィアのような幸せなケースであったか・・・全くの闇である
14 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:25:00 ID:2MxH4A12O
同日、ローマ・首相官邸
『閣下!ドゥーチェムッソリーニ閣下!』
慌ただしい足音がムッソリーニの居る部屋へと駆け込んできた
『どうした、騒々しい・・・』
見れば、イタリア諜報部の人間だった。ドイツの諜報部の影に隠れているが、地中海の船舶情報について、かなりな成果をあげている部署である・・・報告がドイツの後追いになる事が殆どであるが
『わ、我々はイギリスのマルタ島や北アフリカに対する輸送船舶の位置・目的地を探っておりました・・・それで、今回。その情報をトレースしていた所、これを!』
震える手で紙を渡す
『・・・』
しばらくの間、黙って渡された紙の内容を見ていた
『嘘だっ!!!』
そして唐突に叫んだ。冷汗が額に浮かんでいる
『馬鹿な!これほどの戦力集中を行えるはずが無い!』
『ほぼ、確定な情報です』
諜報部の人間は顔を伏せた
『だぁからぁぁ間違いだと、言ってるだろうがぁぁぁっ!!』
既に絵が崩れております。ムッソリーニ閣下
『合衆国からの、確かな筋です・・・間違いでは有り得ません!』
そう、確かな筋。イタリア系のシカゴマフィア・・・つまり、ムッソリーニの取り締まりから逃れたマフィア達の口から出て来たものだからだ
15 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:26:03 ID:2MxH4A12O
彼等は、米英の大艦隊が近づく事を知らせる事で、ムッソリーニの政権を揺るがそうと考えて、あえて情報を漏らしたのだ。抵抗が不可能な程の艦隊が送られる事を知って・・・何故彼等がその事を知り得たか?簡単である。禁酒法時代にかれらはこぞって酒を貯蔵する倉庫の利権を買い
さった。倉庫に入っている物の物流を、ある程度知ることが出来たなら、聡い者によっては、史実の日本陸軍がしたように、現在動いている艦隊の規模を予測できるのだ
『ドッドド、ドイツだ!ドイツに援軍の要請を!』
『それが・・・』
これはそのまま報告するにはあまりの情報なので、裏打ちを求めるべくドイツにも恥を忍んで確認を取りに行ったのだが・・・
『北アフリカに上陸するというフェイクの情報であり、これに引っ掛かり航空戦力を動かすのは愚である。と』
物資の移動を元にこれだけの確証のある情報を回しても、ドイツはまともに請け負ってはくれなかった
あまりにドイツは戦線が広がり過ぎていて、しかもその中でもメインの東部戦線が敗勢という事で余裕が無くなっている。そして、大西洋では二次大戦始まって以来無かった大艦隊という異常事態。イタリアの諜報部より、自分達の方が上手であるという自負
16 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:28:08 ID:2MxH4A12O
その全てがドイツ諜報部をミスリードしていたのだ
『ですから、ケッセリング少将の手にあるシチリアの第10航空軍集団以外はドイツの援軍は期待できません』
『なんたることだ・・・』
そのケッセリング少将の部隊が、イタリアにとって限られた物である事をこれまでの戦いからムッソリーニは理解していた
『稼働率は八割と考えて、軍集団400機で320機、北アフリカ展開分を引けば、200機を切る・・・現在攻略に手間取っているマルタ島空爆に50機は確保してもらいたいから、手元に残るのは・・・』
150〜120機の間。米空母二隻でおつりが来る程の戦力しかない。そしてそれは各飛行場に分散している。敵輸送船を沈めるなら手広くやれるそれも良いが、艦隊攻撃、ましてやこんな大艦隊相手には各個撃破の的にしかならない
『ケッセリング少将はドイツ将官らしく、艦隊攻撃を要請しても輸送船を積極的に狙いに行くでしょうね』
彼はイタリア海軍を全く信じていない。自分の部隊で出来る事をする筈だ。そしてドイツ海軍譲りか、彼には通商破壊が染み付いている。輸送船を倒しても、砲撃を受ければ半島国家である我がイタリアは終わりだと言うのに
『我々は、彼に艦隊攻撃を強制する立場にありません』
17 :長崎県人:2007/05/16(水) 23:30:06 ID:2MxH4A12O
『・・・我々のみで、この艦隊を退けねばならないんだな?イタリアという国家の全力で』
ムッソリーニはそういってがっくりと肩を落とした
『・・・日本の艦隊と航空隊を使ってはいかがか?我々は彼等に宿を貸しているのです』
『そうだが・・・戦艦はたった一隻だぞ?』
しかも旧式な
『しかし、不利な状況からイギリスの戦艦、そして空母を撃破しました・・・それに賭けるしか』そう、無いのだ。戦力を増やす方法等、それしか・・・逃げることも出来ない。マルタを復活され、沿岸都市を燃やされる事は、国家を預かる首領としても、一個人としても許せるものでは
E・・いや、許せるものか!
彼は恐れの限度を越えると怒りが戻ってくるタイプだった
『在イタリア本土の陸軍部隊全てを、日本人居留地に差し向けよ!それから大使館に連絡、陸海の責任者と謁見したいと伝えてくれ。我がイタリア三軍の長も同じくだ。マスコミには日本のヨイショを徹底的に行うように』
ムッソリーニは矢次ぎ早に命令を下す・・・立ち向かって行くしか無い。でなければ我が身の、そして、イタリアの破滅が待っているだけだ・・・やってやろうじゃないか!
『我がイタリアは、戒厳令をもって、敵艦隊を迎え撃つ!』
31 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:28:55 ID:2MxH4A12O
1942年5月16日、ヴェネチア
《このイタリアに向かいつつある米英の艦隊は・・・》
ラジオからムッソリーニ自身の肉声による放送が流れている。昨日から一定時間ごとにこの放送が流されているのだ
『下手に情報を隠していれば、体内でその情報は腐り、自らを蝕んでいく』
とはムッソリーニの言だと言われている。マフィア達が自分の政権を揺るがすために敵艦隊の情報を広める前に、自分から公開してしまおうとしたらしい
『イタリアに、逃げ場なし!ね・・・』
アルはグラスを傾けた。ここはアドリア海に突き出た形で店を開いているバーだ
『あまり朝から酒を飲むものでは無いと思うが、中佐』
付き合っているのは志摩だ。日伊の艦長による勉強会と建前はそうなっている
『気付け酒のような物ですよ』
アルはどこ吹く風だ
『逃げ場がないなら戦うしか無い。しかし方法が無い』
各軍が頭を捻っている最中なのだ。イタリア空軍は陸軍の第五航空集団(加藤大佐率いる戦闘機隊)との合同演習を行い、シチリア島に全機展開の予定である。合同演習にはイタリアの主要なエースのほぼ全員、フランコ・ルッキーニ、アドリアノ・ヴィスコンティら集合している。イタリ
Aの本気度が解ろうものだ
32 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:29:58 ID:2MxH4A12O
彼等は、我々に絶対の制空権を与えられるよう全力を尽くそうとしているのだ
しかし、制空権を得たとしても、残念ながら艦隊への攻撃能力はイタリア空軍は劣ってしまうのが問題として浮き上がって来ている。陸軍が合同演習しているように、海軍もまた大鷹級二隻の天山部隊、合計12機を艦隊攻撃の教官役としてイタリア空軍へ送ったのだが、技術的に難しい面
ェ多いらしく、即座の効果は上げられそうに無いと報告が上がって来ている
『いくらか減らすだけじゃ、俺達に勝ち目はないっつの・・・』
そんな状態の空軍(それでも撃退されない意気込みを持ってくれたのはありがたい)で、最低減らすべき戦艦数である四隻を喰うのは無理な話だ。戦艦が四隻も余っていたなら、そいつらに俺達巡洋艦部隊は食い荒らされちまう。第一次のマタパン岬沖海戦のように・・・唯一なんとか戦え
サうな俺達がいなくなればどうなるか・・・火を見るより明らかだ
『魚雷も足りない・・・』
一発逆転を狙える酸素魚雷は、第二次のマタパン岬沖海戦で使って、片舷一斉射分しか残っていない。数字で言うと松級を動員して70発程度しか残っていない。命中率からして一発当たれば良いな、でしかなく・・・とても戦艦四隻は食えない
33 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:31:55 ID:2MxH4A12O
『さぁて、どうするかね』
アルは頭を掻き毟った。まったく、酒を飲みたくなる気分だ
『・・・』
未だ志摩にも妙案はないようだ。陸軍からは、というより陸軍の飼っているダークエルフからは、魔法が使えるようになったので、対艦魔法の槍を制作してはどうか、との発言もあったが、海戦まであと二週間切っている・・・迎撃できる代物でしかないそれを投入しても、一隻食えるか
ヌうか限りなく怪しい
『使える魚雷、または隻数が増えないとどうにもならない』
戦艦四隻を海戦前に食っておけないならば、その戦艦四隻と、重巡以下の艦艇の阻止砲火を突き抜けて魚雷を叩き込めるだけの隻数が確保できれば良い
『それがありゃあとっくに解決してる話です』
アルがぶっきらぼうにうそぶく。
そう、問題はとっくに判明して、解決方法も乱暴ながら明示されている。だが、それを行う戦力がどこにも無いのだ
『潜水艦は艦隊阻止には全く向いていないしな』
魚雷と言えば、日伊の潜水艦が存在している。が、それを行うには余りにも多くのファクターを必要とする・・・まず実現不可能だ。それを必然として作戦を編むわけには行かないのだ
『マスター、レモネードを』
気分転換に冷たい物を志摩は頼んだ
34 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:33:20 ID:2MxH4A12O
『潜水艦を浮上させて、駆逐艦と同じように使う・・・のはダメか、やっぱり』
いくらなんでも洋上での速度が遅すぎる。いたずらに指揮を混乱させる上、艦隊速力を潜水艦に合わせていたら、イタリア艦特有の高速による位置遷移の優位さえ失ってしまう
ブオオオーン
アルと共に頭を悩ませ、レモネードに付いた水滴を志摩が指で弾いていると、外から軽いエンジン音が聞こえてきた
『ん?』
志摩は首を傾げる
『あー・・・魚雷艇部隊です。あれはあれでうちでは優秀ですけど、海戦を行う海域には連れてけませんよ?敵艦隊を近海まで待つなら別ですが・・・』
近海まで待てば確かに使えるだろうが、海戦をするにはそれなりの範囲が要る。近海での行動は我々主力部隊の行き足を鈍くさせ、敵の数を生かす結果になろう。それでは結局力負けしてしまう
『いや、魚雷艇にしては随分小さいんだなと』
志摩が見たのはMTSM型、45p魚雷を二本積めるタイプだった
『たしか、一隻で3トンだったはずです。小型過ぎて速力は32ノット程ですが』
『3トン、か・・・』
志摩はアルの言葉に黙り込んで考えている
『いや、積んでいくにしたって、海戦中にいちいちクレーンで降ろしてられませんって』
35 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:34:38 ID:2MxH4A12O
『カタパルトで、飛ばせないかな、あれ』
ブッ!!!
アルはバーボンを吹いた
『そりゃぶっ飛び過ぎですって。確かに3トン前後ならカタパルトを使えますが、着水にはとても耐えられませんよ』
アルは頭の中で射出されてはひっくり返る魚雷艇達が幻視されていた
『じゃあ、安定するように翼でもつければ・・・』
着水をゆっくりできるように安定させられないか?
『はっはっは!レモネードで酔っ払わないで下さいよ、船に翼なんて・・・翼・・・あり、ますわ』
そう、水中翼の特許はイギリスで1896年に取られているが、最初に完成させたのはこのイタリア、1906年の事である。水中翼に関しては、本家とすら言っていいだろう
『え・・・?じゃあこっちの艦のカタパルトはほぼ開店休業だから、フルに使える・・・と、考えて』
乗せられるのは水偵搭載数と同じと見積もれば、うちは8隻積める
『積むだけなら、こっちは33隻程は・・・』
『合わせて41隻、いや、青葉の後甲板に5500トン級のようにスループを設ければもう5隻は固い!』
いけるんじゃないか?そんな考えがアルと志摩の頭に浮かんだ
『いや、まさかそんな、妄想が過ぎますよ大佐』
『・・・他に出来そうな手、あるか?』
36 :長崎県人:2007/05/18(金) 20:36:00 ID:2MxH4A12O
志摩がアルに問う
『それこそ、水上機や高速機開発はそちらの十八番、翼もうまい事出来ると思うが』
『う・・・いやいや、他にもっと手が、うーん・・・』
そんな乱暴な方法以外にもある・・・筈なんだが
『思いつきません・・・』
がっくりとうなだれる。二週間以内に出来そうな事などたかが知れている。翼も飛び続ける訳じゃない、簡易な物で済むだろう・・・利点はそこにもあった
『まずはやってみるべきだ。私は山城の司令部に伝える。中佐の方も上に技術者の要請を』
やるしか・・・ないのか・・・無茶の無茶の大無茶を
『わかりました・・・わかりました、よっと』
ドゥーチェも言っているように《イタリアに逃げ場なし》ならば、どっちにしろ無茶を通すしかない・・・まだ自分がやらない分だけマシか?
『すまんな、中佐・・・』
ああもう、あんたはまた責任問題か!
『決めるのは上ですよ、あなたじゃない』
『・・・そうか』
『とにかく動きましょう。時間がない』
敵艦隊は待ってはくれないのだ
50 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:18:15 ID:2MxH4A12O
1942年5月20日、ヴェネチア
『マエストロ(師)・フェラーリ・・・完璧です!』
アルは呟いた。そこには二つのタイプの改良型魚雷艇が置かれていた
一つは普通の水中翼船、もう一つは大きなサーフボードを下に敷いたようにしてある
『コンセプトとして着脱式を意識させてもらった。3トンの船体への改装による重量増加は、より船体の大きな魚雷艇と較べて、速力を大きく減じてしまうからな』
頬が少しこけたエンツォ・フェラーリ技師は、伸びをするように、その大きな体をのけぞらせた
『提案から実質三日で、ここまで美しい造型が出来るなんて』
志摩がしきりに感嘆する。さすがはレース大国イタリア、としか言いようがない
『あんたか?魚雷艇を飛ばそうだなんてイカれた事を考える馬鹿は』
フェラーリは志摩の肩を叩く
『久々の面白い仕事だった。ドゥーチェが金に糸目をつけなくていいようにしてくれたしな』
どうやらフェラーリは十分に儲けを得たようだ
『マエストロ・フェラーリ、前々から思っていたのですが。F1も、戦闘機も、あなた方はどうすればこのように機能的な美を現すことが出来るのですか?』
どうやらアルは、レーサー時代のフェラーリからのファンであるようだった
51 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:20:20 ID:2MxH4A12O
『私は何もしとらんよ』
フェラーリは断言した
『私やスタッフはエンジンをいじっているだけだ』
そう言って笑う
『形を作るのは風さ、風がマシンを彫るのさ。航空機も、F1も変わらない』
アルは目を輝かせてそれを聞いている。好きなんだろうなぁ・・・
『では、カタパルトで実際に飛ばしてみましょう』
そう、出来るかどうかを試さずに魚雷艇を乗せる訳にはいかない。理論値と現実は往々にして違う物だ
・・・そしてそれは事実だった
『そうか、着脱式では航空機のように操作が出来ない。突風が吹けば横転してしまうのか・・・!』
実験は完全に失敗だった。水中翼をつけた魚雷艇は、つけた水中翼が横風によって片方だけ着水してしまい、着脱式故の構造のもろさに過重が加わった事によって、片方の翼だけ先に折れてしまったのだ。あとは重心の移動により、横転するのは当然の話だ
サーフボードを模した、板の上に乗せられた魚雷艇の方もまた失敗だった。着水まではサーフボードは耐えられた。横風にも大きさと重量から比較的強い。だが、波に乗りすぎる為か、魚雷艇が着水して発進しようとした所、空中に飛び出してしまい、空中で一回転して落下、おじゃんに
ネってしまったのだ
52 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:22:42 ID:2MxH4A12O
『波を見計らって発進したらいいんじゃないか?マエストロの改造は間違ってないと思うが』
アルはそう言ってフェラーリを弁護した
『中佐・・・外海で波を考慮しないというのは出来んよ』
波待ちをしていて突入のタイミングがズレたならば、敵艦隊に対応の時間を与えてしまう。小型水雷艇に防弾等無い・・・機銃に対応されたらひどい事になる。そうさせない為のカタパルト射出とフェラーリの改造なのであるのに、これでは・・・
『試験結果をみるに、ボードの方を重点的に考えよう。あまりに造り過ぎた。頭を重くしたら良いかも知れぬ』
フェラーリは唸ってそう言った。彼にとって出来自体は間違いの無いものだが、(波乗りの)性能が良すぎて、こうなるとまでは予測出来なかったようだ
『フェラーリ技師、それでどのくらい日数がかかりますか?』
重量配分の変化・・・全体の改修が必要になるに違いない
『・・・三日、いや、二日でやってみせる』
『そのあと試験、量産・・・技師の事ですから、これも数を揃える造りでしょうが、間に合うか・・・』
あと、一週間しか無いのだ。敵艦隊の来週まで
『それは我々への挑戦か?』
むんずとフェラーリに両肩を掴まれ、睨まれる
『しかし・・・』
53 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:25:44 ID:2MxH4A12O
『不可能を可能にする。それが技術者の仕事であり醍醐味だ。しかし、とか、これでは、とか、自分のならともかく、他人の限界を勝手に決めるんじゃない!』
『う・・・』
この場合、フェラーリの方が正しかろう。諦めたら、そこで試合終了なのである
『技術者にとって、それは苦痛であり、侮辱なのだ!いいだろう。今日もシェスタ(昼寝)はキャンセルだ、待ってろ!』
ドカドカとフェラーリは行ってしまった
『しびれるぜ・・・不可能を可能にする。か・・・口説き文句に加えとくか』
アルは何やらメモ帳を取り出し書き込んでいる。全部口説き文句ですか、それ・・・
『私は技師に、とてつもなく無礼な事を言ってしまった』
フェラーリ技師を怒らせてしまった。なんたる失態だ
『ん?よかったんじゃないのか?やる気満々だったぜ?』
発破をかけた、アルはそう思ったらしい
『いや、せっかく制作していただいたのにケチをつけて』
『あれに乗る奴の命かかってるんだ、それは言うべき事だろ?設計に間違いがあるというのなら相手になるがな』
しゅっしゅっとアルはシャドーをしてみせる
志摩とアルの反応は、もらった兵器に人を合わせる日本と武器を合わせる欧州の違いと言った所であろうか
54 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:27:37 ID:2MxH4A12O
『それにマエストロ、笑ってましたよ?燃えるんですよねぇ、お前はそこまで、とか言われると』
ラテンの血が騒ぐらしい
『そんなものなの・・・かな?』
志摩が、納得してよいものやらと首を傾げる
『そんなに気にしてたらハゲますよ?大佐』
アルは確信した。目の前の男は、全くもって指揮官、いや、何かの長向きでは無い人物だ。首席では無い参謀あたりで、適当にプレッシャーを与えないように使ってやるのが、一番の適職だろう・・・というより、このままであれば、確実にどこかでトチって死ぬな、うん
『ともかく、しっかりしてくださいよ大佐』
『う、うん』
まぁアルにしても、未亡人の言葉には惹かれるが、悲しむ女を見たくは無い。志摩にはしっかりしてもらわねば困る
遠くの海面に、発着艦訓練をRe2001を使って行う大鷹級の一隻を眺めることが出来た
『しっかし、魚雷艇がダメだったら、どうしたもんやら・・・我々の艦だけ逃げますか?手と手を取り合って』
アルは冗談を飛ばす。しかし志摩は上の空だ
『・・・っ!』
口をパクパクさせて空母の方を見ている
『・・・どうしました?』
そんな、酸欠の魚みたいに
『技師を戻してください!改良は必要ありません!』
55 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:29:02 ID:2MxH4A12O
同日、チレニア海
美しい夕日が、日伊の潜水艦群を照らし出す。併走する先頭の二艦は日本の伊号潜水艦だった
『確かに、イタリアは現存する大型潜水艦の全てを失っても構わないとなっては、我々だけ脱出用に残ってる訳にはいかんな』
伊号潜水艦の艦長は後ろを見ながらそう呟いた
『艦の集合、終わりました。一隻の欠けもありません』
先任が報告する
『右から行きます。オタリア、ピエトロ・ミッカ、ピエトロ・カルヴィ、ジュゼッペ・フィンチ、エンリコ・タッツォーリ、アトロボ、ゾエア、バルバリゴ、ダンドロ、エモ、モチェニーゴ、モロシニ、ヴェニエロ、コマンダンテ・カッペリーニ、ブリン、グリエルモッティ、アルキメー
f、アルビーノ・バニョリーニ、レジナルド・ジュリアーニ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ルイジ・トレーリ、アミラリオ・カーニ、アミラリオ・ミロの合計23隻です』
艦長は微笑んで、現在水測室となっている水上機格納庫の上に腰掛けたレーヴァテイルに声をかける
『おい、音姫さんよ、これまでで最多のお客さんだ。目一杯の歌を歌ってくれよ』
『はい!』
ぴょんと格納庫から降りて、そのレーヴァテイルは潜水艦の艦首へ移動する。彼女のステージはそこだった
56 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:31:16 ID:2MxH4A12O
ブオオォーン!
上空を、三発のSM79の四機がオーバーハングした。最後の航空直掩である。そして先頭を進む伊号潜水艦の二隻のへ先に、レーヴァテイルが一人ずつ立った。ジブラルタルへ向かう潜水艦隊、彼女達は沈む太陽に照らされ、流線形の出る所のでた身体の陰影を浮き彫りにしている。ま
驍ナフィギュアヘッドだ
♪〜陽炎の向こう横切る 旅人の声が聞こえる
若いトゥルバドール キスを投げて 私、恋に落ちたの
さぁ、あの月をさらって ここまで運んでおいで
青い瞳が笑う まるで神秘の海
深く底知れぬ 意地悪な瞳
灼熱の楽園に 逃げ惑う蝶 虹の色
幾千の色彩が 色褪せるまで空に舞え
羽根をすくう風 蹴散らして 朝日の中を行け〜♪
『先任、蝶は欧州では魂を意味する様に言われる事があるようだ』
『は?』
先任が艦長の唐突な言葉に首を傾げる
『色褪せるほど、魂を燃やし尽くしたいものだな』
作戦内容の事を言っているのだろう。ほぼ必死の作戦である。先任は笑った
『艦長の手なら、必ずや出来ると思っております』
『そうか』
それに・・・と先任は続ける
『船乗りを海底に引きずりこむセイレーン本人が我々の仲間なんです。勝ちますよ、必ず』
57 :長崎県人:2007/05/20(日) 22:34:29 ID:2MxH4A12O
イタリア艦の方から歓声が聞こえてくる。総員上甲板で聞いてくれているらしい。なるほど、セイレーンが我々の仲間なら、これだけ心強い事は無いという事か
『キュ〜♪ありがとうございます〜!』
我らの音姫が、一曲歌を歌い終わるとそう言って頭を下げてから手を振る。それに歓声に口笛やアンコールが加わった・・・いや、共に歌おうとしている。自分の故郷に伝わる歌、好きな音曲、恋愛歌、内容は様々だ
『そうだな、今は直掩も居てくれる。験かつぎに、日暮れまでしばらくは好きにさせてやろう。先任、こっちも交代で全員を上甲板へ』
『はい、わかりました』
先任は笑みを浮かべて敬礼し、司令塔の中へ入っていった
こうして日伊潜水艦隊の間で行われた歌合戦・・・生還率24%という、イタリア防衛最初の作戦はこうして始まったのである。凄惨さを押し潰すほどの美しさを、その目に焼き付けて
68 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:03:21 ID:2MxH4A12O
1942年5月23日、ジブラルタル海峡
ジブラルタル海峡、それは、水深286m、海峡の幅14キロ〜44キロ、長さ60キロからなる狭い海峡である
『情報部の情報によれば、日伊の潜水艦隊がここに向かってくるとあったが』
何を考えているのだろうか?ハント級駆逐艦、ミョーンの艦長は考えた。確かに、数時間後通過する大艦隊をなんとかするならば、ここでどうにかするしか無い。しかし逆に言うなれば、ここを重点的に我々は守れば良い。我が大英帝国海軍はこれを見逃す程愚かではない・・・それぐら
「イタリア人だってわかりそうなものだが
『第一、この水深と幅、この海峡を突破できるものは、あんまり無い』
筈である。ヘッジホッグを搭載してからはなおさらだ。潜水艦にとってここは逃げ場が全くといっていいほど無いのだ・・・しかし、日伊の潜水艦隊は仕掛けてくるという
『なけなしの駆逐艦を集めたんだ。艦隊のお嬢様方に手は出させんよ』
ペデスタル作戦に合わせて、ジブラルタルにも16隻の駆逐艦が配備され、防備をきっちり固めた
『まずは沈める、話はそれからだ』
地中海戦線にケリをつける。その為にはここで艦隊を躓かせる訳にはいかないのだ
『艦長!ソナーに感あり、敵潜です!』
69 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:04:33 ID:2MxH4A12O
一方、伊号潜水艦
『キュ・・・艦長さん、気付かれたみたいです。本艦に向けて音源3、近づいてきますよ〜』
調音器具に向かい合ったレーヴァテイルが報告する。彼女の力のおかげで、少し前から駆逐艦の存在はわかっていた
『よし、音姫さんよ、練習通り頼むぞ。水雷長、合わせろ』
練習、そう。レーヴァテイルが乗るようになった帝國海軍は、ある射方を実用しようとしていた
『両舷微速、取舵一杯でしばらくは固定、旋回する』
伊号潜水艦は頭を振り出す
『キュ〜ン・・・最初に見つけたの、ちょっとズレちゃった・・・』
彼女の頭の中で、位置関係が正確に描かれていく。やがて・・・
『今です!』
レーヴァテイルが艦内無線に叫ぶ
『一、二番発射管てっ!!!』
シュボッ!!
水雷長の号令と共に、圧縮空気によって魚雷が押し出され、発射される
『次、今です!』
矢次ぎ早にレーヴァテイルが叫ぶ
『三、四番発射管てっ!!!』
また発射音。レーヴァテイルは音源を聞き分け、手元の海図に書き込んでいく。そう、レーヴァテイルが海中が見えるというならば、人間が音源を元にやるよりも正確な予測雷撃が出来ると帝國海軍は考え、今まで備品の彼女らを訓練して来たのだ
70 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:06:34 ID:2MxH4A12O
射距離は1500、雷速は40ノット、敵駆逐艦はこっちに向かって来ていたから、発見して回避に使えるのは一分。この時、撃たれた二隻の駆逐艦艦長は高を括っていた。潜望鏡深度にすら上がらず、めくら撃ちした魚雷なぞ、当たる筈が無い、と。大体、ほぼ潜水艦に向けて垂直、被雷面積
ェ小さくてどうにもならない、ただでさえバレバレな位置をさらして、馬鹿め、と
艦首、艦橋直下で両艦が真っ二つに叩き割られるまでは
これが可能と見た帝國海軍は、艦首波で自爆しないよう、一部魚雷の信管を磁気信管にした。この戦果は、整備や調達に手間がかかるのを覚悟の上で搭載した甲斐があったというものだった
『・・・キュウっ!?探知範囲に新しく音源、増えていきます!現在さらに3隻、敵の一番艦、さらに近づきまぁす!』
爆発の直前にヘッドホンを外していたレーヴァテイルがそれを被り直すと、新しい状況報告を行った
『後部発射管、そろそろ敵一番艦ヘ向けられる筈だ、用意!』
艦長が告げる。さらに続けて
『一から四番発射管の再装填急げ、魚雷を撃ち尽くすまで戦うぞ!』
とにかく、我々の目的は敵駆逐艦の数を減らすこと。この煩い伊号潜水艦は敵にとって、さぞかし目障りな事であろう
71 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:08:03 ID:2MxH4A12O
戻ってミョーンでは
『出来るかぎりの増援を要請しろ!一隻では囲いきれん!航海長!ジグザグ運動を不定期に、君の好きな様にしたまえ!』
二隻の喪失を目の当たりにした艦長が、この状況を立て直そうと必死になっていた
『艦長!あまり舵を切りすぎると調音が・・・!』
『かまわん!敵の位置ははっきりしている!』
あれだけ音を出してれば大まかな位置は解る。潜水艦の運動性はともかく、機動性は知れたものだ。ここでいくらか見失っても対応できる!
『雷跡二本確認!外れます!』
甘い舵を取っていたら当たっていたであろう場所を、薄い航跡を曳いて魚雷(後部発射管のもの)が通り過ぎていった
『なんて正確な雷撃だ・・・』
まるで我々の行動が見えているかのようではないか・・・!
『ヘッジホッグ投射用意!ソナー!敵潜の大まかな予測海域を指示しろ!』
自分が狙われているというプレッシャーを与えるのだ。いくら魔弾の射手といえども、心を乱されては正確な攻撃はできない
『予測・・・出来ました!ヘッジホッグの攻撃可能範囲だと思われます!』
ヘッジホッグの網に捕われて、平静でいられるか!?
『良し、ヘッジホッグ、投射!』
『投射!』
シュババババババ!
72 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:09:51 ID:2MxH4A12O
復唱と同時にヘッジホッグが射出される
『失礼します!艦長、ジブラルタル(司令部)が警戒線から六隻向かわせたとの事です!』
伝令が伝えに来た
『よぉっし!』
支援に来てくれた近場の三隻と合わせて九隻、これで確実にヤれる
『さっさと撤退するがいい、でなければ、なけなしの生還率が無くなるぞ!』
この海に逃げ場は無いのだ
『ヘッジホッグ着水!敵潜の深度まで、8、7、6・・・』
カウントダウンが始まる・・・これで一隻取れるか?
『海面下よりピン音!』
ピン?どんな悪あがきをするつもりだ?
『警戒を厳となせ!』
気を抜くなと自分に言い聞かせる。相手は味方艦二隻を喰う事をやってのけているのだ
『砲術!咄嗟砲戦用意!』
苦し紛れに一発逆転を狙って浮き上がって来たら、そこに高角砲とポムポム砲を叩き込んでやる・・・!このハント級、水上砲戦だと撃ち負ける可能性がある。先手必勝だ
『・・・3、2、1、時間です!』
艦橋の全員が、ヘッジホッグの落ちた海面を注視する
『爆発・・・しない』
つまり、外れたという事だ
『ヘッジホッグ次発装填、急げ!』
そうか、さっきのピンで爆雷の位置を・・・ちょっと待て
『それが解る精度のソナー・・・だと?』
73 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:10:55 ID:2MxH4A12O
伊号潜水艦
多少時間を遡る
『艦長さん!直上にたくさんの着水音です!』
キュウキュウと慌てるレーヴァテイル
『なにっ!?』
これは伊号潜水艦にとって不意打ちだった。彼等にとっても、前投兵器による攻撃を受けるのは初めての経験だったからだ。たとえ、五島による前投兵器開発が知れていたとしても、実感はそう湧くものでは無い
『っ・・・!見えなく、なっちゃった・・・どうしよう』
そう、レーヴァテイルは音を見る。爆雷が落下時に纏った気泡が無くなれば、レーヴァテイルにとって見えなくなってしまうのだ。それ自体が音源である魚雷と違って
『艦長!ピンを打たせてください!』
人間の音測員である乗員が進言した
『爆雷の間を抜けるんです!その為には・・・!』
レーヴァテイルの目が要る。出来るかどうかはとにかく、このまま手をこまねいてはダメだ!
『この後に及んで、位置秘匿は無意味か・・・!許可する!』
コーン!!!
音波の波が海中を伝わっていく
カン!カン!キン!コキン!
音の反射がレーヴァテイルの彼女の耳から脳髄に映像を残していく
『どこか入れる所は無いかい!?』
『取り舵、一杯ちょっと・・・でも』
彼女は口ごもった
74 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:13:34 ID:2MxH4A12O
『でも!?』
あるがままを言ってくれないおっとりなのが彼女達の珠に傷だ
『縦幅が・・・キュウ』
足りないのだ
『艦長!!』
音測員は伝声管に叫んだ
『取り舵一杯、制動なしで加減をとる!』
それから、縦幅・・・縦幅・・・くそっ!
『前部からアップトリム!出来得るかぎりだ!総員、傾斜に備え!』
こうすれば、縦幅は減るはずだ!
ゴボボボボボ
傾斜が増していく。各々が固定物を掴んで身を預け、爆雷が当たらない事を祈るしかできない
『くっ・・・』
レーヴァテイルの彼女がソナーで位置を確認してから、もうそろそろ俺達の居る水深まで爆雷が落ちてくる。潜水艦は一発でも当たればそれでオシマイだ、伊号潜水艦のような大型潜は特に。くそっ・・・胃が重い、冷汗が頬を流れ落ちる
『時間・・・ですっ!』
誰も声を発しない。緊張と静寂が場を支配する・・・あると思われた爆雷の爆発音は一切しなかった
『よしっ!五、六番発射管開け!奴を慌てさせろ!』
艦長が命令する。お互いが位置を把握しているのならば、お互いがあらゆる手を使って化かしあうしかない。キツネとタヌキ、どちらがキツネで、どちらがタヌキか知らないが
『簡単にやられる訳にはいかんな!』
75 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:15:48 ID:2MxH4A12O
ミョーン
『直下から発射管注水音!』
ミョーンにとって不利であるのは、レーヴァテイルが聴音員として存在しない為、水中の伊号潜がどのような体勢でいるかわからないことである。そして先の正確な雷撃による駆逐艦撃沈
『航海長!とにかく舵を切れ!』
やはり用心を考えれば、こうするのが適当だったろう。しかしミョーンはこれで、伊号潜を仕留める絶好のチャンスを失ったのであった。この判断を下した理由にはもう一つ重要な要因がある
『ミストレイン以下三隻、囲い込みに入ります!さらに後方に味方艦六、増援です!』
そう、彼等は圧倒的戦力を保有したのだ。もともと対潜戦闘は一隻で行うものでは無い。徒党を組んで追いつめる。それがセオリーだ・・・幸か不幸かミョーンの艦長は手堅い性格の持ち主のようであった
だが、この海域に進入した伊号潜は一隻だけではなかった。そう、チレニア海で集結した潜水艦の中で、伊号潜は二隻存在していた
もう一隻は、レーヴァテイルには淀んで見える冷水塊に艦体を潜ませ、虎視淡々と待っていたのだ、レーヴァテイルという海中からの目を通してその時を・・・
味方の伊号潜に引き寄せられて、敵の駆逐艦が横腹をさらすその瞬間を
76 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:17:50 ID:2MxH4A12O
『前部発射管一斉射!撃ち方始め!』
シュボボボボッ!!!
盛大に気泡を上げて六本の魚雷が射出される
『次発装填急げ!』
次の二斉射目と同時に、音を立てて移動を開始する。潜水艦はあちらだけでは無いと敵艦群に喧伝するのだ
『こちら魚雷室、装填完了!』
『よぅし!第二射、てぇっ!!!』
シュボボボボボッ!
同じ様に魚雷が発射される。ちなみに第一射も、距離が遠く、レヴァ子による読み撃ちは難しいと思われたので、通常の扇状に開いていく普通の射方である
『艦長〜魚雷が気付かれたみたいです・・・回避行動してます〜』
レヴァ子が報告する
『今更遅い・・・』
電池魚雷の様に見えにくく、かつ早くて遠距離から撃てる酸素魚雷に出会った不幸を呪え
『第一射、二艦に命中・・・第二射も二艦・・・四隻撃沈です!』
ジブラルタルという狭い海峡で、密接な陣を一時的にとっていた故の被害だった。連合国側では、この被害を信じられず、受けた雷撃は四隻以上の潜水艦による雷撃であるとすら記録している
『これで、六隻だな・・・』
イタリア諜報部からの報告によれば、ジブラルタルにある駆逐艦は16隻
『もう少し、俺達と踊ってもらいますよ・・・!』
77 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:19:56 ID:2MxH4A12O
それからの戦闘は泥仕合そのものだった。お互いが位置を解りあって攻撃や回避のタイミングの奪い合いをする、神経戦の体を深めていくのである
横合いから魚雷攻撃をかけた伊号潜は、ミョーンの追い掛けていた伊号潜よりも多くの駆逐艦から追い回され(複数艦存在すると思われた為)、攻撃してきた駆逐艦二隻をほふったものの、残りの駆逐艦による、危険を省みないヘッジホッグ重ね撃ちによって命運を絶たれる。唯一この様子
伝えたのは、乗員達により、海中に逃がされたレーヴァテイルの二人だけであった
海戦後、生き残りのイタリア艦にたどり着いた彼女達も、ヘッジホッグの爆発に巻き込まれて消耗と怪我をしており、すぐに息を引き取ってしまったが
もう一隻はミョーンとミストレインに追い回され、爆雷(ミストレインのスキッド)によってソナー室が破損、重傷をおったレーヴァテイルが息を引き取るまで聴音で正確な回避を続け、駆逐艦を一隻沈めるも、遂に電池切れ、雄々しく浮上砲戦を行い、ミョーンによって撃沈されるのであ
驕B生存者は無かった。だが、彼女達の働きは無駄ではなかった
この激しい対潜戦闘で、在ジブラルタルの駆逐隊は戦力だけでなく、爆雷を消耗しきってしまったのだ
78 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:21:56 ID:2MxH4A12O
それを、遠くから見ていた一団がいた。海峡出口に展開を終了させたイタリア潜水艦隊である
『爆雷音が無くなった、という事は、やられちまった・・・て事だよな』
『おそらくは・・・』
乗員の一人が潜望鏡を受け取り、艦長の言葉に答える
『乗ってるあの娘達も・・・やられたんだよな?』
人魚といえど、爆雷の爆圧に耐えられるはずが無い。あの夕日を背に、綺麗な歌声を響かせていた彼女達が、なぶられるように追い回され、傷つき、殺されたのだ
『連合側のおかげで、俺らの好みな女性が、永遠に失われた訳だ』
艦長が静かに怒っている・・・本気で。いや、艦長だけではない。あの歌声を聞いたイタリア潜水艦隊の全員が、だ
『・・・ただでは済まさん!』
ギラついた目が光った
『敵艦隊、現れました』
お誂え向きに、日本の潜水艦がやられた報告を受けてか、例の艦隊が現れたようだ
『予定通りの行動を行う。潜望鏡下げ、隊旗艦の魚雷発射と合わせろ』
この狭い海峡、お互いに逃げ場は無い・・・!今度は俺達が、貴様らをなぶってやる!
『隊旗艦、発射管扉開きました』
『魚雷発射管を開け!』
これで敵にこちらの存在は知れたな
『俺達を怒らせた、あんた達が悪いんだぜぇ』
79 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:23:39 ID:2MxH4A12O
やがて来る一斉発射の号令
『隊旗艦、魚雷発射!』
『よし!全部だ、全部ぶちかませ!』
23隻、前部発射管全てで100発の魚雷が発射される。イタリアの魚雷は30ノットで12000mを疾走する。炸薬量は260キロ、距離的に言ってギリギリの所を狙っている。この魚雷の目指す先は・・・
ミョーン
『艦隊の連中、駆逐艦を前面に押し出してきたか・・・!』
英米連合艦隊は駆逐艦を地中海、アレキサンドリアからの艦を除くと30隻連れて来ている。その内、英駆逐艦の15隻と軽巡2隻を前に押し出して来ていた。この海峡が唯一不安材料だと、パウンドも十分に理解していたのだ・・・主力艦さえ生きていれば他はどうにでもなる、と(勿論、常
ッ的な考えとして先ほどジブラルタルの部隊と死闘を演じた潜水艦がたった二隻だとは思っていない。あとは航路上に散在する。と、考えていた)
『っ!?複数の魚雷発射管注水音!』
ソナー室から報告があがる
『まだ居るのか!艦隊に警戒するよう報せ!』
艦長が通信長に命じる。そこへ
『魚雷発射音!馬鹿な!まだこんなに居たのか!?』
爆雷を切らしたものの、哨戒を続けて就いていたミョーンは有り得ない程大量の魚雷が発する音をその耳に捕らえたのだ
80 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:25:59 ID:2MxH4A12O
結果的に言うならば、英国駆逐艦群は、よき羊飼いであった
『取り舵!我が艦は本隊の楯になる、総員上甲板!急げ!急げ!』
いや、主を守る騎士道精神からと言うべきかもしれない。彼等は進んでその身体を投げうったのである
発射地点から、イタリアの魚雷が主力艦の存在する地点までは、届かないという事を忘れて
いや、それを簡単に責めることは出来ない。大英帝国海軍は第二次マタパン岬沖海戦で、米海軍より先に酸素魚雷の驚異にさらされ、素直にその長射程を戦訓として取り入れていたのだから。軍人は、酸素魚雷による海峡雷撃戦という最悪の事態を考慮に入れなければならなかった・・・
サれがイタリア海軍に凱歌をもたらした
イタリア海軍初の遠距離飽和雷撃で、発射した100発の魚雷の内、21発の命中弾による駆逐艦9隻と軽巡2隻の撃沈という、一度の雷撃であげた、潜水艦戦史上最高の戦果を彼等は成し遂げたのだ
『お、おのれぇっ!!』
生き残りの前方進出部隊、駆逐艦6隻とミョーンら海峡部隊は次発装填の前部発射管による雷撃を、回避行動を一切行わず突破(海峡部隊の一隻が被雷、大破)
今度はイタリア海軍潜水艦隊との血みどろの激戦を繰り広げるのであった
81 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:27:51 ID:2MxH4A12O
イタリア潜水艦隊の方も、ただでやられるつもりは全くなかった
『ち・・・ネタがバレたらすぐ対応してきやがる・・・!反転!後部発射管、発射用意!』
『僚艦よりタンクブロー音!浮上するつもりです!』
奴ら・・・
艦長には思い当たる節があった。おそらく浮上しようとしているのはピエトロ・ミッカやフォカ級の二隻だろう。彼女らは機雷敷設潜水艦、機雷を投射しながら海上を逃げることで囮になろうとしているのだ!
『他にも複数のブロー艦!』
畜生!畜生め!カッコいいことしてくれるじゃねぇか
『砲戦が始まれば、聴音は難しい・・・!我々は反転、敵主力艦を狙う!』
彼と同じ行動を取ったものは実に多かった。それが生還率24%の由縁だが、その成果として空母アーガスと重巡オーガスタの撃沈を彼等は挙げている。この戦果が釣り合うかどうかは、今でも意見が分かれる所である
一方囮や逃げをうった艦はというと、英駆逐艦を四隻を道連れに撃沈され、囮は全滅している。特にミョーンは艦首でピエトロ・ミッカを叩き割り撃沈、中破しており、お互いの激戦ぶりが伺える
後にジブラルタル海峡は沈んだ艦の多さからこう言われる事となる・・・鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)と
82 :長崎県人:2007/05/25(金) 15:29:40 ID:2MxH4A12O
こうして英米連合艦隊は多大な出血しながらも、主力艦に大きな被害を出す事なく、地中海入りを果たしたのであった
これにてイタリア海軍史上、最大の海戦の第一幕は降り、続いて第二幕である、地中海海上航空戦ヘとその舞台を移していくのである・・・
英米と日伊の最終激突まで、あと四日・・・イタリアの命運が決まるまで、あと、四日・・・
その時、チレニア海は朱く染まる
90 :長崎県人:2007/05/28(月) 00:49:22 ID:2MxH4A12O
1942年5月25日、サルディニヤ島
多くの黒煙がこの大きな島の至る所で立ち上っていた
《奇襲は成功した、さすがはノイス少将だな》
噴き上がる黒煙の元は、サルディニヤに展開していたドイツ空軍の各基地と撃墜されたメッサー達だ。イタリア空軍はシチリアに集結を終えていた為、ほぼ無傷ですんでいる
《アウトレンジ戦法、欧州機はバッタだからな》
《数もちげーよ、おっと、お客さんだ》
各基地の配備機数、来襲時期を読み違えた為の逐次投入、空中集合にかかる時間。そして練度の違い・・・ドイツ空軍第10航空軍集団は、ろくに戦う前から、その戦力を半減させられようとしていた
《ははっ!また一機落としたぞ!》
《てめっ!次は俺によこせ!》
加えて言うならば、戦艦戦力の圧倒的優位から二隻の米空母、ワスプとレンジャーはワイルドキャットを絶賛増量中で搭載していた。それで居て、彼女らはワイルドキャットを米海軍で最初に配備された母艦、練度的にも十分以上のものがあった・・・日頃の北アフリカのロンメル支援、
A送船団攻撃で基本的にどうしても疲労してしまうケッセリングの部隊が優位に立てる訳が無い。そしてワイルドキャットは欧州機と比べて、けして劣るものでは無い
91 :長崎県人:2007/05/28(月) 00:51:29 ID:2MxH4A12O
《歯ごたえがねぇな〜抱きついたらすぐに折れちまう》
それはグラマンアイアンワークスが特殊であって、世界的にスタンダードではない。独英ソ、それぞれ12.7o機銃や7.7o機銃でよく落とされている(ワイルドキャットも実際はよく落ちてるが)日本機の防弾も、システム的な優劣はあろうが、紫電改以降の辺りだと馬鹿に出来無くなってく
る・・・20o機銃で有り得ないほど穴だらけになっても帰ってくるコルセアになるともはや規格外だが、まだそれは姿を現していない
《イタ公の姿が見えないな》
落ちていくのはクラウツどもばかり。同じく展開しているはずのイタリア空軍機が存在しないことに、彼等は気付き始めていた
《いつも通り逃げたんじゃねぇか?》
《いやいや、いくらなんでも自分の故郷だぜ》
そう、いくらなんでもおかしい・・・
《攻撃完了、引き返す、集まれ、集まれ》
《燃料もビンゴだ、行こうぜ》
《あ、ああ・・・》
これは報告しなければなるまい・・・ドイツの奴らは自然なままにやられている。しかしイタリアの態度はあまりに不自然過ぎる
合計百機を越える米海軍第一次攻撃隊は、大戦果をあげてサルディニヤ島を後にした
それを高空からじっと見つめる機影が、二機
92 :長崎県人:2007/05/28(月) 00:53:28 ID:2MxH4A12O
『機上電探の調子がいい・・・ばっちり映っている。天恵だな』
サルディニヤ島から去り行く米航空隊を見張っていたのは、在伊艦隊の天山だった。大鷹と雲鷹、二隻の搭載する天山は12機、イタリアに存在する天山はそれで全てである。彼等は電子の目をもってその機影をトレースしていた。そして、ろくに予備部品の無い在伊艦隊。いつ機上電探が
フ障してもおかしくない。故になけなしの2機をシチリアに配備し、送り狼にと今回出していたが、どうやらその心配は杞憂のようだ
『シチリアに展開していて正解でしたね』
『少なくとも第一撃は受けなくて済むしな・・・見失わないように、追うぞ』
そういって少しドイツ空軍に気の毒に思う・・・いいようにやられっちまって、悔しい思いをしているに違いない
『自分の場に引きずり出せなければ、いくら精強でもこんなものか』
場を作る。支配するという事は大事なのだ。ドイツ空軍は、本格的な海上航空戦という初めての経験を、今、味わっているのだ。余程の事が無ければ、基地航空隊は空母に勝てない・・・ふ、陸さんが聞いたら怒りだすな
『ともかく・・・案内してもらおう、奴らの巣まで』
日伊による本当のアウトレンジ攻撃というものを見せてやる
93 :長崎県人:2007/05/28(月) 00:55:21 ID:2MxH4A12O
二時間後、シチリア島・パレルモ飛行場
イタリア空軍のSM84やP108がタキシングする間に、帝國陸軍航空隊の疾風や屠龍が交じって発進準備を行っている。既にそれぞれの訓辞は済んだ。あとは飛び立つばかりである
『タケオ、行くのか?』
愛機の疾風に加藤が乗り込もうとしたとき、空戦訓練で仲良くなったイタリアのパイロットが声をかけてきた
『ああ、ラッキーニか』
『ルッキーニ、だ。いい加減覚えろ』
ルッキーニ、他でも無い、イタリア空軍で一位二位を争うトップエースである。類は友を呼ぶというか、加藤とルッキーニは合同演習以降、何かと馬があったらしく、良く行動を共にしている
『いいじゃないか、ラッキーの方が縁起いいし、なんだ?』
『お前・・・わざと間違ってるだろう。ま、なんだ。ほれ、こいつをやる』
投げ渡された皮袋を受けとる。中身は液体だ
『これは?』
『隊秘蔵のワインだ、密造酒だがな。うまいぞ』
ルッキーニがウィンクして笑う
『この前貴様が挽いてくれたコーヒーの礼だ。死ぬ前に渡しとかんと、ケツの締まりが悪い』
嫌みの無いルッキーニの笑みに加藤も笑う
『仕方ないな、胃の消毒にでも使ってやるか。ありがとよ』
皮袋を懐にしまう
94 :長崎県人:2007/05/28(月) 00:57:15 ID:2MxH4A12O
『さっさと帰ってこいよ、俺が楽できないからな』
ルッキーニらは航続距離からアドリア海からナポリに集結したイタリア主力艦隊へ合流する日伊艦隊の上空直掩に就くようになっている
『あんたよか腕はいい、まぁ待ってろ、楽させてやる』
入り込んだ疾風のコクピットから、加藤はにやっと笑ってキャノピーを閉めた。勿論
『お前は機体がいいだけだろうが!』
と、言うルッキーニのやっかみは全く聞こえていない
やがて、加藤の戦闘機隊が青空(陸軍用語の発進)する番が回って来た
『一宿一飯どころじゃない借りがこの国にはあるんだ、目一杯全力で戦うってのが筋だろうよ』
全身に力がみなぎる。開戦以来、陸軍航空隊はまともに戦っていない。陰謀好きの海軍の奴らもいろいろ考えてやってるかも知らんが、この筋を通さずして何が出来ようか
ブロロロロ!
エンジンの回転数を上げ、滑走路に移動する。機体の前で、誘導員が旗を振り、機体の前から邪魔しないようにどいた
《加藤戦闘機隊、行くぞ!》
《応!!!》
無線機の反応は良好だ。機体の前からどいた誘導員が旗を大きく振った
《各機、青空!》
加藤の疾風を先頭にして、青空に吸い込まれるように、彼等は飛び立っていった
95 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:00:49 ID:2MxH4A12O
同刻、西地中海・英米連合艦隊、ワスプ
大勝利を挙げた航空隊が帰って来た。地上撃破は100機を越え、サルディニヤの戦力は地に落ちた
『イタリア機が来なかったという話もあるが、本土とシチリアに集結しているのだろう』
機動部隊を預かるノイス少将はそう判断した。イタリア人達が攻勢を考えたとしても、ドイツ機より足は長いが、その足は我が艦隊には届かない。爆撃機に関しては2000は飛べるから問題は無いが、爆撃機を無護衛に飛ばす事は出来まい。ならば考えられるのは、チレニア海に入った所で
Tルディニヤ島のドイツ航空隊を抑えに、挟み打ちにする。といった所か
『抑えに復活されぬよう、もう一度叩いておく・・・か?』
イタリアから航空部隊がサルディニヤに移動してくるとも限らない
『一つ一つ被害をうける可能性を潰していけば良い』
艦隊を守り切れば今海戦はどうにかなる。イタリア本土への攻撃をフリーハンドでニューメキシコに乗っているインガソル大将からは許されているが、それはマルタ島まで、いや、イタリア艦隊との決戦まではしっかり護衛を勤めあげてからの話だ
『ヴィクトリアスの位置は?』
アレキサンドリアに配置されていた英空母の状況をスタッフに尋ねる
96 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:04:16 ID:2MxH4A12O
『は、チレニア海の入口付近で、マルタ島守備隊と、我々と合流する艦隊の頭を守り続けております』
我々と合流する艦隊、戦艦マレーヤとリヴェンジを基幹とする部隊だ、これが合流すれば、水上戦はほぼ負けまい、駆逐艦がジブラルタルでかなりやられてしまったが、その足しにもなり、合流したならば敵よりも三隻から四隻の戦艦数の優位を得る訳で、この優位はナルヴィク海戦のよ
、に、英海軍と我々の戦艦が敵の小艦艇を討ち倒す事を可能にする
『勝って合流したいな、ヴィクトリアス以下英空母にはシーファイアしか搭載していない。マルタ島への地上支援も急がねばならない問題だ』
三月末の空挺降下とイタリアの上陸部隊(逐次投入だが)、いつ落ちてもおかしくないのだ
『しかし一つずつ、ですね?』
ノイスの教育はスタッフに行き渡っていた
『そうだ、その積み重ねこそが勝利をもたらす原動力だ・・・パイロット達を今の内に休ませておいてくれ、すぐに再出撃だ』
『はっ!』
その時、上空直掩のワイルドキャットとシーファイアがワスプの上を通り過ぎる。ノイスはそれを艦橋から頼もしげに見つめた。少なくとも、英米の艦隊にとって、ほぼ予定通りにここまで事が進んだのだ・・・ここまでは
97 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:06:49 ID:2MxH4A12O
一時間半後、サウスダコタ
艦隊前方上空に、飛行機雲の渦と黒煙がたなびいている。ワスプとレンジャー、そしてフューリアスの直掩が敵編隊を抑えるべく、空中戦を行っているのだ
『こんな距離まで、護衛をつけて攻撃なんて・・・』
CICに入ったジョニーは呟いた。内南洋決戦にしろ何にしろ、まだ日本の戦闘機の持つ長航続距離は一度も発揮されていない。内南洋決戦で、全ての戦闘力に於いてワイルドキャットより上と米海軍が判断した紫電改だが、自国のメンツの為、というよりかは、そんな戦闘力を持って航
ア距離まで長いとは全く考えなかった(第三艦隊も先に攻撃を受けているし、実証もあった)おそらくワイルドキャットと同等としていた
『ガーランド大佐、これでは空母が・・・』
そう、不意をうった攻撃は、サルディニヤ島への攻撃隊発艦とタイミングを同じくしてしまったのだ
『落ち着いてちゃんと対応したならば、なんでもない問題さ』
ホントはなんでも無い訳ないのだが、平静を装う
『ノイス少将は発艦を続けるようです』
フリップを担当が書き込んで報告する
『よし、じゃあサウスダコタはワスプの横に付こう。機関、最大戦速』
『空母の楯になるんですか?』
乗員達が驚く
98 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:09:17 ID:2MxH4A12O
戦艦が空母を守る為に楯になる。飽くまで空母以下は戦艦の為にある、そう考えている世代がまだまだ沢山居た頃である。ジョニーの判断は多少奇異に見えても仕方ない。そしてサウスダコタにはアーカンソーに乗って若い水兵に技術を教えていた古株が多い
『守れるなら守った方がいいだろ?本艦にはそれが出来るだけの速度があるし』
ジョニーは肩をすくめる
『それに、艦長の俺が言うのもなんだけど、まだ俺達の戦力って不安定だから』
サウスダコタが艦隊戦でどれだけ戦えるか、少々あやしい
『今必要な戦力はサウスダコタでなく、ワスプの方じゃ無いかな?』
そして、ワスプと併走して護衛するのはサウスダコタ以外の戦艦では無理だ
『わかりました、各艦にフォーメーションの変更を伝えます。ノイス少将にも』
『うん、頼むよ』
納得した様子で乗員達が動きだす
『敵編隊の様子は?』
『空戦は継続中ですが、突破されました、こっちに来ます』
空中の状況を、ワスプの無線を聞いていた乗員が報告する
『よぉしっ!頑張るぞ!』
小さい体を伸ばして腕を振り上げるジョニー
『それじゃ、俺は艦橋に戻るから、みんなもベストを尽くしてくれよなっ!』
ニカっとジョニーは笑って出ていった
99 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:11:23 ID:2MxH4A12O
『・・・なんというか、艦長って、ガキだよな。悪い意味でなく』
『ん、ああ・・・でも、事の本質は見抜いてる気はするし、やる事はやってるよな』
『32で戦艦の艦長を任せられるだけはあるって事か・・・』
CICでそんな会話がされているとは露知らず、ジョニーは艦橋へと舞い戻っていた
『航海長、話は聞いてるよね?』
『アイ、ガーランド艦長。ワスプの左舷側につけました』
舵をとっている航海長にジョニーは頷く。外を見れば、黒い塊が空に散見できる。ごくりと生唾を飲み込んだ
『大丈夫!本艦は合衆国海軍の最新鋭戦艦なんだから』
彼が就任して以来、その子供のような反応の仕方が、こいつの為にやってやらなきゃという気持ちを乗員達に沸き立たせていた・・・やはり統率の仕方というのは、その艦毎によるらしい
『ワスプ、発艦を開始します!』
この時間が、この時間こそが一番危険なのだ。直進しなければならない発艦の瞬間が
そして、その時を狙わない程、イタリア空軍のパイロット達は愚かではなかった
『敵機、突っ込んできまぁす!!!』
見張りの叫びに、ジョニーは顎をひいて腹を決めた
『対空戦闘開始!』
サウスダコタが行う初めての戦闘が、今、始まった
100 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:14:06 ID:2MxH4A12O
《ちっ・・・こいつら出来るな!》
その頃、疾風で戦闘指揮を行っていた加藤は舌打ちをしていた。ワイルドキャットは、全然倒せる敵ではあるが、敵の腕が良ければ撃墜に時間はかかるし、気を抜けば逆転も有り得る。一機に拘束される時間が増えれば、より多くの敵機体が護衛対象に取り付くことになる
《前回より戦闘機の数も多い・・・!》
開戦時の空中戦はイラストリアス級二隻とイーグルの持つシーファイアだけだったが、母艦に乗っている数が違う為か、ワイルドキャットの数が多くて疲労感を覚える
《味方機から離れるな!爆撃機を守れ!》
無線には、くどい程何回もそう叫ぶが、中々うまくいかない。あまりに襲撃数が多いのだ
『これで、三機目・・・!』
見越し射撃で今日三機目のワイルドキャットを喰う。狙われていたSM84の機銃座の乗員が手を振る
『お安い御用だ』
バンクを振る。高揚感もしてやった感もない。守れなかった機体の方が多いのだから
『ぬぅ・・・!』
しまった!一瞬気を抜いた。影が覆い被さって来る。シーファイアだ!
ダダダダダ!!!
『っ!?』
襲ってくるはずの銃弾は襲って来なかった
《隊長、頑張り過ぎですよ》
この声は・・・
《檜!》
101 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:17:48 ID:2MxH4A12O
《年で腕落ちたんじゃないっすか?》
檜大尉、加藤が鍛えた部下でも天才肌の男で、感覚だけで空を飛ぶような奴だ
《さっさと他の機の支援にいけ!まだ敵は居る、ルッキーニに酒をもらったから、帰ったら分けてやる》
《やりぃ!約束ですよ!?》
檜の疾風はダイブしてあっと言う間にワイルドキャットを喰う
『あいつ・・・』
本当に俺より腕は上かもしれない
『いやいや、俺も負けんぞ!』
指揮官業をやってる分の差にしか過ぎないと強がる加藤。あいつに空戦指揮をやらせてみろ、うまく出来っこない。あとで鍛え直さなきゃならんな
《隊長!屠龍隊が突っ込みます!》
イタリアの奴らの為の露払いだ、敵艦の対空砲火に穴を開ける事で後続を助けるのだ
《よしっ、敵に取り付かせるな!空戦に持ち込め!》
もう少しだ、もう少しで艦隊に一撃を加えられる。戦闘機が少ない為(屠龍を除く)爆撃機にかなり被害が出ている。しかし、ドゥーチェが本気になって伊空軍を大量動員したおかげで、母数となる機数が多く、被害の実態を隠している。今までのイタリア空軍であれば、撤退していたはず
セ
ふと、加藤は海面を見てあきれた
『おいおい、イタリア人は四発機に海面這わせて何させるつもりだよ』
102 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:19:52 ID:2MxH4A12O
『どけぇぇぇっ!!!』
40o機銃と五インチ高角砲の立てる水柱を縫って屠龍隊は突撃する
『目標、敵戦艦!(重巡の誤認)』
空母に付いているこの艦に、八機の屠龍で突撃して、うち三機がここまでで失われていた
ガタガタガタガタ
機体が振動で揺れる。操縦管が暴れて直線を維持しようとしないのを力任せに抑える
『どけよ、俺達はテメェの向こうに居る空母に用があんだ・・・』
37oの銃把をゆっくりと握る。そんな事を言っても、勿論、敵艦が射撃をやめることは有り得ない
『念仏は唱えてやる・・・どかないなら、ブチ抜かれろっ!!!』
彼は銃把を引き絞った
ドッ!
『南』
ドッ!
『無』
ドッ!
『阿』
ドッ!
『弥』
ドッ!
『陀』
ドッ!
『仏!!!』
37o機関砲と12.7o機銃が吠える。狙われた敵戦艦・・・米重巡のヴィンセンスに着弾の火花が散って黒煙が噴きあがった。五機の屠龍から、念仏と同じだけの砲弾。放たれた35発のうち20発以上が彼女をえぐり、12.7o機銃は爆ぜてヴィンセンスの乗員を殺傷した
『次はあんたらの出番だ、空母は任せたぜ』
屠龍隊は一気に上昇する。屠龍隊の後には、P108とSM84の編隊が続く
103 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:24:33 ID:2MxH4A12O
《重巡はやり過ごせ!狙いは空母だ!これ以上戦闘機を上げさせるんじゃない!》
先頭を進むP108は、対艦装備を備えたA型だった。本来なら試作の一機だけの制作だったが、英米の連合艦隊来襲にしたがい、何機かがさらに改修されてこの戦いに参加していた。通常型は水平爆撃を行う為、上空に展開している。他にもカプロニ爆撃機やら、イタリアの爆撃機、攻
k@の勢揃いだ
『俺達のデッカイのは用意できたかぁ!?』
『当然!』
デッカイの・・・P108Aの武装は、104o機関砲四門である。とても機関砲だとは思えない、単位を変えれば10p砲四門である、駆逐艦が空を飛んでると言っていい。というか、ここまでアホ(褒め言葉)な機体をこさえたイタリアを尊敬する
ブオン!!!
火力の弱まったヴィンセンスをP108らは飛び越える。目の前にはレンジャーの230mを越える巨体
『俺達の熱いのを喰らえっ!』
ドドドドッ!!!
弾づまりなく砲は放たれた。最高だ!念入りに整備しても、無茶して搭載したそれだ、いつ故障してもおかしくないのに
『当たったか!?』
『はい!確かに四発、愛しの彼女にブチ込みました!』
彼等の期待した以上の光景が眼下には広がっていた
104 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:28:28 ID:2MxH4A12O
レンジャー攻撃に加わったP108Aは三機、10p砲弾十二発が1000mよりも近い距離でレンジャーに叩き込まれたのだ。うち、プラットフォームが航空機で空中という不安定さから二発が目標から外れ、十発が彼女の身体をえぐった。単純に考えて、駆逐艦二隻が超至近距離で一斉射をく
れてやった計算になる。発艦作業を行っているその場所に
『ダメージコントロール!ダメージコントr』
艦長の叫びの途中で、レンジャーのあらゆる所から火が吹き出る
『くっ!機体を投棄しろ!艦上で爆発させるな!』
『艦長!フィッシュ(魚雷)が!』
続けてSM84の雷撃が続く
『ハードスターボード(取舵)!!』
魚雷を当てられてしまったら終わりだ、と急転舵をするレンジャー。確かに魚雷をいくらかは避けることに成功した。が、投棄の為にストッパーを外された機体が滑り、ダメコンに駆け付けたチームの一つをミンチにして、飛行甲板を血の海にしながら滑り落ちて水柱をあげる・・・しか
オそれでも、戦場で取り付いた死に神を払うことは出来なかった
『くそっ!避けきれん!』
ズバババ!!!
レンジャーは魚雷二本を左舷側に受けて停止してしまう。イタリア機が舞うこの戦場で、それは致命的だった
105 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:32:50 ID:2MxH4A12O
同刻、サウスダコタ
『レンジャー被雷!』
『助けなきゃ!』
対空砲火の轟音の中その報告を聞き分けたジョニーは叫んだ
『もう無駄です、艦長』
手負いとみたイタリア機がレンジャーにたかり始めた。これからいかに対空砲火の網を重ねようとも、彼女は助かるまい
『ワスプを守りきるのが先決です』
『くっ・・・!でも、あの大型機、すごい火力を・・・』
『とんでもなく贅沢な攻撃ですな、大型機を通す為に襲撃機を使い、大型機でもさらにこちらの火力を減らした所を中型機でトドメ』
コストパフォーマンス的にひどく高い攻撃だ
『戦艦の防御砲火を考えたんだな、きっと』
最初に攻撃をかける機体は機銃群を、大型機は高角砲を、それぞれ確実に潰して戦艦を丸裸にし、魚雷を叩き込む
その攻撃方法を空母にしたら、破られてしまうのは仕方ない・・・戦艦に攻撃が向けられないだけ良しとすべきだろうか
『敵編隊来ます!大型機、三!他多数!』
おいでなすったか・・・!
『ここを抜かれる訳にはいかない、砲術長!』
『砲術です』
少し間があってトップに居る砲術長が出た
『主砲、撃てる?』
『目標はなんです?』
砲術長は怪訝そうに聞いて来た、対空砲火に主砲を使うなんて
106 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:35:37 ID:2MxH4A12O
『爆撃機に向けて、別に命中しなくていい、ブラストでバランスを崩したい』
大型機であればある程、バランスを崩したら立て戻すのは難しい。ああいう大口径砲という重たいものを積んでいたならなおさらだ
『わかりました、やってみます』
『頼むよ、機銃員に一時退避命令、主砲を撃つ!』
一時的に対空砲火は高角砲のみになるが、機銃員に向けて、銃撃が行われる現状では、一時的に退避させた方が精神衛生的にもいいかも、うん
ゴロンゴロンゴロン
主砲が旋回する。石臼を回すような音が聞こえ・・・るような気がする
『お前らに、ワスプをやらせはしない!』
ドドドドド!!!
40p砲が唸る。ブラストと共に、空気の流れを乱す砲弾が空を切り裂く
ズゴァッ!!!
『あ、当たった!?』
運の悪いP108が40p砲弾を喰らって飛散する。そしてその破片は他の列機にすら被害を及ぼしすらした
『艦長、機銃員を銃座に』
見とれているままでは艦長職は勤まらない。頷いたジョニーは命令を下す
『機銃座再配置!』
これでワスプの脅威は薄れたはずだが、空襲はまだ続いている。予断はけっして許されない
『機銃、撃ち方始め!』
防空戦はまだ終わっていないのだ
107 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:38:12 ID:2MxH4A12O
サンピエトロ島沖海戦
この、イタリア空軍と日本陸軍航空隊の合同した航空隊による英米連合艦隊との航空戦を指す海戦は、空母レンジャー撃沈、戦艦アイダホ中破(米駆逐艦一隻をつけ、ジブラルタルへ回航)、被弾及び至近弾による損傷艦多数で幕を閉じた
史家の中には、イタリア空軍機の動員数から、この戦果を過小に見る向きも大きい
しかし考えていただきたい、サルディニヤでドイツ空軍が敗れたように、イタリア空軍もまた、これまでの航空戦で疲労していたのだ。そして、このように大規模な艦隊への攻撃はイタリア空軍では想定していない。自分達があまりに纏まった数での攻撃隊である事も。むしろ、焼き付け
黷フぶっつけ本番で行ったも同然の攻撃で戦果をあげたことを褒めるべきだろう
一方、英米連合艦隊も攻撃をただ受けただけではない。ワスプが攻撃のさなか放った攻撃隊は、修復中のサルディニヤの飛行場を痛爆、燃料が足りなくなった機や損傷機が着陸できず、80機が失われ、戦艦が八隻という対空砲火の凄まじさも加わり、日伊の航空隊は総計で1は50機以上の作
戦機を失っているのだ
それでも彼等は攻撃を諦めなかった。しかし、これ以上の攻撃はイタリア本土の楯を失うことになる
108 :長崎県人:2007/05/28(月) 01:40:48 ID:2MxH4A12O
イタリア海軍主力艦隊の司令官となっていたカルロ・ベルガミーニは、臨時にナポリに置かれた陸海空の統合作戦司令部で、必死に敵艦隊への再攻撃を、といきりたつ空軍幹部達を前にこう言ったという
『空軍の諸君、諸君らの気持ちはわかる。だが、君らは陸軍の皆と共に、最後まで国民の支えであり、楯であってほしい。だが、我が海軍はその前に、祖国に向かい来る敵艦隊を退けるという己のもつ、本来の責務を全うせねばならない。これは・・・意地なのだ』
なおも言い募ろうとする幕僚らを目で抑えると提督は立ち上がり、テーブルに自らの持つ短剣を抜き、突き刺した。元来物静かな提督の行動に、場は静まりかえったという
『我が海軍は、友邦である日本海軍の艦隊と共に、全滅を賭して出撃します。敵艦隊を退けなば、我等一同、死、あるのみ・・・!』
勝利か死か、それだけ言うと、全てを断ち切るように身を翻して沖合の艦隊に戻っていったという。背後に会合へ参加した全員の敬礼を受けて
これを境に、英米と日伊の海上決戦は最終局面へと突入していくのである