712 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/09(月) 01:10:45 [ PX2g/hVY ]
東京、陸軍省
『何故に!何故に大陸側から香港を!マレーを!シンガポールを攻めさせてもらえぬのでありますか!皇軍の実力を持ってすれば、東亜打通はたやすい!』
参謀総長の前で力説する男が居る
『そうは言うがな大佐、我々は海軍に運んでもらわねば戦えぬのだ。残念ながらな』
転移以降、増強の一途を辿る海軍に、予算、人員、その全てを削られ、帝國陸軍は縮小の嵐。その代わり戦車等は数が揃ったものの、重装備を持てば持つほど、船舶の手配が必要となり、さらに海軍へは頭が上がらなくなっている。
さらにいえば、戦車等が配備されたことで得をしたのは戦車屋、いままで主流派でなかったかつての親英米派達で、主流派だった歩兵科などの諸科は全く恩恵に浴していない。配備された戦車もチセを始め、実態は全く正反対なのだが、海軍の兵装を利用した物とあっては、海軍に媚びへ
ツらって良い目みやがって。が、陸軍の大勢だ
『情けない!閣下は私の志を理解して下さると思いましたのに、出てくる言葉は海軍、海軍!我が陸軍は海軍の為にあるのではありませんぞ!』
『わかったわかった。献策は大臣にしておく』
ウザったそうに手をヒラヒラさせる総長、このような懇願はいつもの事だ
713 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/09(月) 01:12:46 [ 7Vp0wi8U ]
『閣下!せめて私を大陸に渡らせてください!沿岸部を守るしかしない部隊を鼓舞してやりましょうぞ!』
真顔になる総長
『君は国内での勤務が大事でないとしたいのかね?私は君の才能を買っておるのだ、私の後ろ立てはそんなに頼りないか?』
これにはその大佐も顔を青くした。この陸軍の縮小期に後ろ立てを失うのが、どれだけ恐ろしい事か
『い、いえ!総長にはながらく世話になっており、その恩はこの辻、重々承知しております!失礼します!』
陸軍大佐、辻政信は総長室から出て行った
『まったく、世に出すのは危険だから、といってわしに押し付けおって』陸軍総長岡村寧次はため息をついた。ああいう手合いをいなすのは、勤務よりキツい場合もある。砲兵科上がりのわしが怒鳴ったりすれば(砲声に負けないよう大声が出せるスキルがつく)、大抵は引き下がる。それ
セけが救いだ
『ああいった人材も確かに必要ではあるのだが、アクがあり過ぎる』
どこでも持て余すし、命令を待たず、突出してしまう。時にはそう言った独断専行も必要になるが、今、戦域を広げる訳にはいかない。まったく、あれもそれなりの年を食っておるだろうに
『もう少し落ち着けば、将としてやっていけるのだが・・・』
714 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/09(月) 01:14:07 [ /9tm..U. ]
総長室を出た辻に一人の少佐が声をかけた
『辻、政信大佐殿とお見受けします』
冷酷そうな冷えた目に、どちらかといえば細い体躯・・・一般の陸軍将校とは趣が違う人間だった。そういった趣なのは少佐の彼についている副官の方が相応しい
『いかにも、貴殿は?』
『これは失礼。本官は矢鹿長武(やしか・おさむ)、と申します。こちらのこれは木野瀬、と』
生理的に辻は嫌悪感を感じた。理由は特に無いのだが
『何用かね』
しかし尊大な態度は崩さない
『私も閣下と同じく、今後の陸軍を憂えております。このまま海軍の奴輩に好きにさせてよいのか、と』
ほう、と辻が矢鹿を見る
『閣下に耳にしていただきたい情報があります・・・』
矢鹿は、誰も居ないのがわかっている顔であたりを見回した。演技だ
『海軍無しで、我が皇国に全世界を膝まづかせる策と物がございます』
『何を荒唐無k・・・モノ、だと?』
笑い飛ばそうとして、辻はつまった。策があるならば、言ってくるやからはいくらでも居る(お前が言うな)だが、モノまで揃えてくるやからは少ない
にやりといやらしく矢鹿が笑った
『お聞きなされますか?』
辻は慌てて答えた
『う、うむ!聞かせてもらおう。話はそれからだな』
715 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/09(月) 01:17:49 [ ewIsKeyI ]
『細菌兵器を、ご存知か?』
場所を辻の部屋に変え、二人は会話を始める
『大陸に居た時に使った噂は聞いたがな』
なんだ、と辻が肩を落とす
『ここで、ある世界史の事実を述べさせていただきたい』
矢鹿の目が光った
『かつて国死病が流行った際、ヨーロッパの人口の四分の一、二千五百万人が病死しております。1918年には、閣下も覚えていらっしゃるかと思いますが、スペイン風邪は推定二千万人が死んでおります。先の大戦はこの風邪によって終結されたとする論もあります』
一気に矢鹿はここまで言って言葉を区切る
『我々は切り札を用意してあります』
『まて!スペイン風邪は我が国でも猛威を振るった。貴様はまさか!』
ああ、と苦笑する矢鹿
『ワクチンは既に用意してあります。他国は人間の免疫が自然に対応できるようになるまで死に続けますが、我が国は違う』
他国にレーヴァテイルから採れた免疫ワクチンなぞ用意できない、分けてもらいたくば土下座でもするしか無い
『我々はあちらの世界で新種の出血熱を保持しています。そして抗体も』
そう、彼等は以前五島とやりあった防疫部隊の二人だった
『なんと!』
『しかし我等は防疫部隊、金も無ければ人も使えませんのです』
716 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/09(月) 01:21:16 [ XK2obbq6 ]
『加えて、こちらに戻って来てから、種そのものの力も衰えております・・・閣下のお力が必要なのです!そこで聞いた所によると、閣下は満州にパイプがあるとか・・・』
『金は・・・まぁ用意できなくも無いが、なんだ、その種としての衰えとは』
『それを治すが為に、閣下の力で、ダークエルフをお貸ししていただきたいのです。彼等もこちらに来たことで力を失いました。何らかの関係をもつ可能性が大かと・・・彼等の力を復活させる為、という行動の隠れ蓑も得られます』
あなたには損はさせない、手を出してもらえないか
矢鹿は辻の計算高い性格を読んでいる、大陸から手を帝國がひくならば、予防線として危うい金の流れを弱みを握った人間に渡しておこうと考えてもいいはずだ。ダークエルフへ恩を売っておくのも良い
『わかった、貴官は皇国と我が陸軍の事をよーっく考えてくれている!この辻政信、応援させてもらおう!』
あくまで応援といって言質は与えないが、これは承諾したという事だ
『ありがとうございます!』
これで、俺の研究は大きく進む。あの時以降、誰もが俺に冷や飯をくらわせ、見向きもしなかった奴らに、こいつの金で、俺は研究者として名を上げる、勝利者となるのだ!
731 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:17:16 [ ewIsKeyI ]
1942.4.19、イタリア、ローマ・イタリア海軍省
そこを志摩とスーツ姿の桂が二人で歩いていた
『んで?あたし達はどこに行けばいい訳?』
桂が真面目な顔、しかしどこか嬉しそうな顔をして聞く。イタリア語の出来る彼女は通訳として(志摩も一応英語は出来る)付いて来てもらったのだ
『資源分配に関しては栗田中将らがやってくださる。俺がやるのは福利厚生の一部・・・ま、簡単に言うとうちの海軍将兵が使う娼舘の手配、だな』
海戦後、娼舘でのトラブルが絶えない。万単位の若い男、客を取られた、女を巡っての喧嘩、今後起きるであろう妊娠問題
『・・・あんた、一体何やらされてんのよ』
『世間からの俺達の評判からすれば・・・まぁ・・・仕方ない気もするが。巡洋艦の艦長がわざわざ出向いてすることじゃ無いな、本来は』
しかし、高い階級に居る人間は総じて忙しく、こんな仕事してられない。それなりに階級が高く、問題アリの人間・・・実にうってつけといわざるをえない
『これなら疑いを持たれずに済むと思ってな、それに』
『それに?あっ!』
通路の角から突然現れたイタリア人将校、中佐に桂が指をさして驚いた、中佐の方は軽く手をあげて言った
『ようこそ!我等が城へ』
732 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:21:10 [ CDVnjlgM ]
『おいおい、指をむやみに指すなよ・・・桂の知り合いか?』
『いやぁ、あなたまでいらっしゃるとは、今日は私のよき日です。さ、さ!こちらへ、御同伴も』
アルがイタリア語でまくし立て、素早く桂をエスコートして部屋へ連れていこうとする
『まって、彼、身体が少し不自由だから。するなら私より彼をエスコートして』
『おお、貴女はなんて優しいのでしょう・・・私感激です!』
一々オーバーリアクションである
『中佐、英語は出来るかな?』
少しイラッとして階級章を見た志摩は、英語で慇懃に問い掛けた
『わかりますよ、大佐。さぁ手を』
『構わん、ゆっくり歩いてくれればそれで良い・・・それから、彼女は私の妻だ』
桂がニヤついている、イラッとしてるのが嬉しいのだ
『いやぁ羨ましい!しかし、この仕事を引き受けるとは。てっきり、巡洋艦の艦長となれば、エリートかと思っておりましたが・・・この担当になったと聞いて、無理矢理に志願をねじこみ、幾多のライバルを蹴散らして、ようやく案内役を勝ち取ったのですよ?』
ライバルとかはともかく、それは嫌みか?
『アンサルド・ベルガミーニです。アルとお呼び下さい。無線で一度お話を』
ようやくアルが志摩に敬礼をした
733 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:23:06 [ BWp6c0w2 ]
答礼をして手を降ろす。となると海戦場で会ったあの中佐か?鼓膜をやられてたせいで、文面からしか彼を知らなかったが、こんなに軽薄とは
『志摩だ。それから、仕事が私はしたいのだが。桂、訳せ』
仕事はガールハント(?)を、する時間とは分けるべきだ
『う、うん!』
この意が伝わるといいが・・・(この後は桂の通訳でイタリア語進行だが、同じ言葉と、アルの桂に付け加える賛辞の言葉は省略する)
『しかし大佐、ここでするのは書類の受け渡し程度ですが?』
『まずはそれが無ければ組織は動かない、そちらもそうでは?内容もいくらか見させていただくし、行ける所には連れて行っていただく。夜までかかるでしょう、一夜は明かすつもりです。ともかく書類を』
『おお!それは勿論ですとも!我々用の部屋はそこなのでしばらくお待ちを、すぐ持ってきます』
アルが近くの扉を指差す。とたたた、と彼は小走りに去っていった
『うぇ〜・・・今日徹夜?』
部屋に入りつつ、桂が呻いた
『・・・字は完全に読めん、苦労を今回はかける。女性から見て気付くこともあったら言ってほしい』
・・・桂は気付いてないのだろうか?
『今さっきも言ったが、現場にも行くぞ』
じっくり十秒、間があった
734 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:25:08 [ ibELFYCQ ]
『志〜摩ぁ〜っ!!!』
がしっと右腕と襟首を掴まれる。とんでもなく速い、神速だ
『ちょっと待て!使うのは設備だけで相手はおまe』
『でぇぃやぁっ!』
言うが早いか、掛け声と共に既に空中(上方)に投げられていた
『成!敗!』
俺が落ちてくるのに合わせて、少し後ろに下がって、桂が足を大きく振りあげる。スーツの股、破れたらどうするつも
『ごふぁっ!!!』
一気に振りおろされた足ごと地面に叩きつけられる。何故か用意してあるケチャップを口から吹いた。ここはスイカの汁でもキムチ汁でもお好みで選択できます
『・・・はっ!?』
こっちの世界へ戻ってきた
『だ、大丈夫ですか?』
アルが心配そうに覗き込む
『私はどのくらい気絶を?』
『せいぜい、五分て所よ・・・あ、あんたが何を言いたかったのかは、わ、わかったから・・・紛らわしく言わないでよねっ!』
桂が答えてくれた、それなら良い。理解するより先に手足が出てこなくなれば・・・まぁ、そうなったらそれで桂らしくないと思わないでもないが
『・・・?』
それは日本語なので、アルが目をぱちくりさせている
『いや、大丈夫です。まだ軽い方ですから・・・それよりも書類を』
埃をはらって立ち上がる
735 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:27:43 [ O28l2xuA ]
『・・・(軽い方って)こちらになります』
アルが手渡した書類を志摩は桂に手渡す
『読んでくれ』
『うん、えっと・・・日本海軍将兵はローマの一部指定娼舘、ブリンディシ、バーリ、アンコーナ、ラヴェンナ・・・各都市の娼舘、指定する業者の40%を利用すること。娼婦に対する通貨は、以前協議して発行中の手形を使用する事を許可する』
お金はイタリアリラか現物でないとダメとかの問題も発生している。これはこれで問題として大きい。食料も邦人達によって土地を借りての農業が始まっているが、収穫はまだ先。物々交換で部隊内のものを持ち出されては、機密維持にも関わる
『われわれ海軍軍人は女性に弱いですからな』
肩をすくめるアル。航海という長期の禁欲生活、帰って来ては貯まった金をはたいて豪遊。つまりは飲む、打つ、買う。が出来る。
財布の紐が緩いと気分も緩くなる。酒の勢いもこれに加わる、金があるから女の方もおだてて、奉仕する。持ち上げるのだ・・・情報が漏れるのはある程度仕方ない事だが、歯止めをかけないのも問題なわけで。歯止めをかける為に、今ここで志摩が取り組んでいるのである
『・・・衛生サックの供給はいかほどに?桂、そっちのリストに載ってるか?』
736 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:29:38 [ M7VYRcWY ]
『増産を指示しております、故に数を明記することが出来ませんで』
衛生サック・・・いわゆるゴム鉄帽と呼ばれるコンドームである。病気が移るのを防ぐのは勿論だが、野放図に守る人間を増やしてもらうのも困る。戦争はいつか終わる。が、造られた命は戦いのあとも続くのだ
といっても・・・私自身は何言われようと増やすが
『そんなものまで置いてんの!?軍艦て』
桂が驚いた
『ん?ああ、甲板に出る扉の所に山積みに置かれて、好きなだけ持って行っていい、という事になってる。普通に考えて、たまってる海軍軍人が一人一個で済むわけが無い』
全員が持って行くわけでもなかろうが・・・一夜にどれだけ持ってかれるか考えると供給はかなり大事な問題であると言うべきだろう
『へぇ〜』
『感心してないで、続けて読んでくれ』
仕事に従事している女性の衛生状態の管理、軍医の派遣頻度・・・数々の項目が桂によって読まれ、志摩が質問し、アルがそれに答える。という形がしばらく続いた
『いやはや・・・あなた方は仕事熱心ですね』
アルが伸びをする。既に針は二十時を回っていた
『あまり直接的な表現はしたくないが、傷ついた柿の木のように、海戦後の将兵は女性を求め、励みます』
737 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:31:17 [ mkePZZZM ]
『私は妻が居るからいいが、そんな幸運は他の将兵には無い。これは一刻を争うのですよ』
待たされる方もたまったもんじゃないだろう
『そういえば、あの時一緒に居た麗しいメイドさんは?』
アルが今更ながらミスミの姿を探す
『・・・』
急に志摩が黙り込んだ
『ああ、ちょっとこいつがやり過ぎちゃって、家でお休みさせてるの』
桂がニヤニヤしてアルの質問に答える
『こ、こらっ!そういう情報は言わんで良い!』
『ほぉ〜・・・』
まじまじとアルが俺の顔を見る。これではまるで俺が破廉恥な男みたいではないか、こっち見んな!
『おかげさまで、今日の夕飯はあたしが作るか外食なんだけど、今まで仕事してたでしょ?もう作る程の時間ないけど』
ガジガジガジ
唐突に桂が志摩に噛み付いた、そのままの意味で。効果音はウガーだろうか
『腹減ったっつーの!飯食わせろーっ!』
『これは素晴らしい愛情表現ですね』
ええぃ、だから生暖かい目でこっち見んな!
『わかりました、ここらで食事にしましょうか。中佐』
『アル、で、お願いします』
よし来た!と、微笑むアル
『いい店をここらで知らないか?アル。しゃちほこばってない所ならなお良い』
というより桂が持たない
738 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:32:41 [ kXkOHBG6 ]
『まかせてください、ローマは庭みたいなもんですから。それに女性を口説くにはうまい酒と料理はかかせませんしね』
ウインクするアル
『酒は少々遠慮したいが・・・食べたらそのまま現場まで赴く、案内も任せるよ』
今日中に視察他済ませておこう
『勿論です・・・いい女がいっぱいいますよ』
アルはぼそっと耳打ちした・・・いや、俺は買わないんだが・・・
『さっ!食べに行きましょ!』
桂はノリノリである
『では、まいりましょうか。桂さん、そこは鰻料理の実にうまい店でして』
ちなみにアドリア海では鰻の養殖がさかんで、しかも、イタリア語のごちそうの意は鰻のイタリア語読みから来ている。魚醤を使ったり、リゾット等で米を使ったりと、イタリアには日本食にも繋がる食材が多く揃っていて、邦人達が胸をなで降ろしていた。ただ、酒に関しては、インデ
Bカ米でなんとか日本酒が出来ないか奮闘中と風の噂で聞いている。あと、納豆菌の問題で、納豆のレートが非常に高くなっている。関西以西の人間の俺にはどうでもいいが
『志摩〜?置いてくよ〜』
桂の声で気付くと、桂とアルがすでに部屋から居なくなっていた
『ああ!今行く!』
いかんいかん、これでは食いっぱぐれてしまう
739 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:35:12 [ wFko1i7. ]
とある居酒屋
カウンターに修理した跡があり、店長が何故か恐怖にひきつった目で桂を見ている店で、三人は食事をしていた。桂と志摩が隣同士に座り、桂の前にアルが座る形だ
『桂さん、覚えていらっしゃいますか?私はあなたとここで初めて出会ったのです』
『ああそうそう!放り投げた所からしか覚えてないけど』
カウンター割ったの覚えてませんよ、この人。ラム酒五本空けての話だから、それでもすごいが
『それで大佐は生きて帰って来た。なんたる御縁でしょう』
まぁそれで作戦が破綻しかけたが・・・というのは飲み込んでおく。アルにはともかく、桂に悪い
『そうなの?』
『大佐には海戦海域で救助の手伝いをしてもらった』
実際はそれ以上の事は全くしていないが・・・そこまで言うのは気が引ける
『そこで、得体の知れない物を見ました・・・それは明らかに、人魚でした、艦に居た人間で見た者は全て、口を揃えて間違いないと申しておりました・・・一体どういうことなのですか?』
『!』
こいつ!
『ああ、それはレーvむぐっ』
うなぎ料理の一切れを口走ろうとした桂の口に放りこむ
『これもおいしいから食べなよ、桂・・・その件に関しては、私に聞いていただきたい』
740 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:37:24 [ zIQO46G. ]
志摩が恐い目をする
『これはオフレコのつもりですが?あなたもいらっしゃいますし・・・あなた方が来てからの新聞を漁りました所、ヴェネチア周辺に人魚らしき目撃証言が多数出てます。扱いは小さいですが』
海戦からそれほど経っている訳でない。そんな中で調べものの裏を取ってくるとは、やる事に抜け目がない・・・
『この件に関しては、この戦争の推移にすら関わりかねません。本国の方の許可がでなければ、お話できかねます・・・桂に聞くとなれば、不本意ながら、私と同伴でないかぎり、桂は二度と出歩けなくなるでしょう』
これはこの日、日本側の方から指示が解かれる。スプルーアンスらを捕らえ、情報を流す道具が用意できたからだ。といっても、欧州の指導者にすぐに見せても信用されない。アルのような中堅将校から攻めて行くような通達を志摩は翌日に受けることになる
『それは困る、ここから見える、壮麗なヴァチカンの建物が失くなるぐらい致命的でs』
ズグゥァーン!!!
くぐもったような、激しい爆発音が、耳をつんざく。ヴァチカン方面から煙がモクモクとあがった。アルは開けた口そのままでパクパクとしている。志摩は桂を咄嗟に引き倒し、楯になるよう覆いかぶさった
741 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:39:24 [ ibELFYCQ ]
ドン!ドン!ドン!カタタタタタ
小さい爆発音(手投げ弾だろう)に機関銃の銃声
『ちょっ!何!?何が起きてんのよ!志摩!?』
『中佐!』
『ヴァチカンが襲われるなんて・・・』
枢軸も連合も、曖昧ながら、絶大な影響力を持つヴァチカンを、わざわざ敵に回すことはしたくないはずなのに・・・
『中佐!このあたりに部隊は展開していないのか!?中佐!』
『はっ・・・ああ、えぇはい!殆どマルタ島攻略やアフリカ、東部戦線に行ってます!あるのはドゥーチェの黒シャツ部隊がいくらか、かと!空軍も右に倣えです!』
アルが気を取り直して志摩に教える、一体何なんだ、というのは志摩も、桂や、アルと同じだが、全員が呆けているわけにもいかない
『まずいぞ・・・』
スイスガードが、あまり評判のよろしくない黒シャツ部隊到着まで持つだろうか?それまで法王、ピウス12世の玉体が無事であろうか?
『マスター!バーボn・・・いや、とにかく酒の度数の高い順から、あるだけ持ってこい!それから部隊、海軍省、政府機関の電話が繋がる所全てにかけ続けろ!ヴァチカンが襲撃されているとな!』
『はっ!はいぃっ!』
マスターは酒倉へかけていった
『酒で一体何をするんです!?』
742 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:41:23 [ Xq7PfW/w ]
『火炎瓶を作る。襲撃者って奴は。強盗でも、何でもいい。そういう奴らは後ろから何かされるのが一番イヤなんだ。効果がなくても、後ろに抵抗する奴が居れば、動きが鈍る!』
いくらなんでもローマ市街地。襲撃者が100名を越えることはあるまい、冷静に考えれば、最初の爆発は相手の冷静さを失わせ、こちらの数を幻惑させること・・・速攻があちらの肝だ、それを防ぐにも、後ろからの素早い反撃の一撃が必要なのだ!
『ば、馬鹿!数が少な過ぎるわよ!』
桂が必死につっこむ
『無理に攻め込む訳じゃない。警官隊ならすぐ来れるだろうし、広場にも交番にも、警官の頭数がそれなりにあったはず。ただ後ろから拳銃を散発的に撃ったり、火炎瓶投げるには十分だ!指揮は中佐が取れば良い』
こういった時に畑違いでも、指揮を採れる人間が居ると初動が全然違ってくる
『あ、ああ、わかった!』
アルが頷いた。理解してくれたようだ
『桂はここに残れ』
『私はって・・・その身体で何ができるのよ!』
『発案したのは自分であって、その案で他人を危地に送り込むというのに、自分だけ後ろに居る訳にはいかん!』
あいつのせいで、と、指差される。または指揮官陣頭で死ぬことは、統帥に必要なのだ
743 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:43:35 [ jqMmKaZo ]
『だったらあたしも行く!』
『何を馬鹿な』
『行くわ!身体的能力はあんたより上よ!』
パシン!
志摩が、桂の頬をおもいっきりはたいた
『素手で戦争が出来るか!!!』
はたかれた頬に手をあてて桂は逆上した
『うっさい!身体障害者のあんたに誰かが附いていなきゃいけない時点で、足手まといの癖に!指揮官陣頭なんて言うんじゃないわよ!そんなの、あたしの前にまともに帰って来れてからいってよ!いつも傷だらけで、海軍の伝統がなによ!海軍の栄光が何よ!馬鹿志摩!・・・そんな身
フで出ていって、気が気でないまま残される・・・あたしの身・・・にも・・・なってよ・・・!』
そして逆上して感情が高ぶり過ぎ、泣き出す桂。だが、志摩は首を縦にふらない
『新しい命を創り、育てる存在が、我が子を守るためならともかく、人を殺めちゃいかんよ・・・な、桂』
抱きしめて口づけする
『帰って来たら、続きをしよう。仕事のついでだが』
『馬鹿・・・』
桂はそれだけ言うと、ぺたんと座り込んでしまった
『いくぞ、中佐』
『女泣かせですな、大佐』
『言わんでくれ、結構気にしてるんだ』
肩をすくめるアル。女性が泣いているのに残らないとは・・・我々では考えられない
744 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/14(土) 13:44:55 [ ewIsKeyI ]
居酒屋から出て、あまりの突発事態に右往左往する警官らをまとめあげ、なんとか編成をしているうちに、警官の一人が騒ぎだした
『お、おい!空が異様に紅くないか!?』
『こんなときに何言ってる、火災が起きてれば普通に・・・なんじゃこりゃあ!!』
そしてそれは伝幡する
『・・・空全体が紅い、中佐、イタリアじゃこんな事が?』
『いや、初めてだ、こんなのは・・・』
帯状にもなってないことから、オーロラとも違う。彼等は知らないが、ツングースカ大爆発の際に、ヨーロッパ各地では白夜のような現象を引き起こしている。今回はそれに似ているが・・・これは紅い、まるで血の様である
『襲撃者の奴らは何者で、一体何が起きてるんだ?何をやらかしたんだ?ヴァチカンで・・・』
呟くアルと同じ様に、爆発音に引き付けられたローマの市民は不安げに空を見上げる・・・
紅き夜に、ダークエルフの根幹たる魔導は復活を遂げようとしていた
761 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/16(月) 10:37:56 [ JaGeE3cU ]
志摩大地(しま・たいち)
1916年、志摩競(きおう)陸軍大佐宅にて、生を受ける
1922年、尋常小学校入学。桂の父、霜島甚八郎海軍中佐。シベリア出兵にて戦死、以後、別棟ながらも桂とその母と同居
1925年、軍縮により、父、志摩競陸軍大佐は退官。予備役に編入
1928年、中学校に入学
1932年、海軍兵学校へ入学。この時始めて桂と契る
1936年、海軍兵学校を、海兵63期生として卒。少尉候補生として、能登呂乗り組み。同県出身の柳本柳作艦長に影響を受ける
1937年、蓼乗り組み。少尉に任ぜらる。艦内では蓼食い虫とあだ名されていたようだ・・・桂と付き合っているのを見ればそうなるのかもしれない
1938年、第二十七駆司令部附き
1939年、中尉に任ぜらる。八雲に乗り組み、遠洋航海を行う
1940年、厳島乗り込み。当時戦闘を行っていた能登呂、駆逐艦、強行敷設の為の敷設艦乗り組みと、戦術的に内懐に潜り込むやり方はここで得たと思われる
1941年、山城乗り組み。大尉に任ぜらる。桂と結婚、大日本帝國、異世界へ転移
1942年、異世界に於ける海軍活動海域拡大により、異動距離の長さから混乱を期さぬよう、部署の配置替えを控える措置が採られる
762 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/16(月) 10:40:14 [ kXkOHBG6 ]
1943年、軍令部副官部へ配属(桂の為、海大に入れるよう軍令部でこままわり開始)
1944年、永野軍令部総長の副官・従兵勤務(副官部から愛想を尽かされた永野を押し付けられた)
1945年、少佐に任ぜらる。陸軍との油田折衝の随行員。レーヴァテイル実戦試験担当。五島典礼参謀救出作戦の為、那智に便乗、救出の後ヴァイスローゼンへ。志摩報告書発信。ヴァイスローゼン事変で左腕四分の三を損失
1945年、海軍特別佐官として退役を逃れ、ヴァイスローゼンに駐在とす
768 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:37:56 [ wFko1i7. ]
ローマ・ヴァチカン
『教皇様を守れ!進入者を扉ごとに食い止めるんだ!』
ヴァチカンを守るスイスガードは兵100名、士官5名、司令官1人の計106名からなる。時勢が時勢である為、これに三個小隊60人を増強したのが現在のヴァチカンを守る楯である。そしてヴァチカンの建物は分厚い木の扉や石造りの壁で出来ており、船と同じく閉めてしまえば、封鎖が可能
ナある。例え突破されようとも、一つ一つを抜くのに時間はかかる
『何者だ!?』
司令官が問い質す
『発砲音はイギリス軍のブレンガンです!制服も爆煙ではっきりとは見えませんが、間違いないかと!』
派手な制服があわただしく動いている。礼拝堂の長椅子を運び、扉の前にバリケードを構築しているのだ
『外縁部の隊が近接戦闘に巻き込まれているようです』
スイスガードは外縁の隊ほど若い者から配備されている
『やはり狙いは教皇様か!』
近接戦闘、つまり襲撃そのものが目的でなく。突破した先にある物が目的、という事か
『プロテスタントの馬鹿どもめ・・・一体何を考えている!』
それとも別の国か?ドイツか?それともソビエト?あらゆる可能性があり得る
『だがな、我々が居る限り、何者にも教皇様に手出しはさせん!』
769 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:39:32 [ Vs9CdO7s ]
一方
『教皇様!あぶのうございます!お下がりを』
シスターと神父達が最後の楯となるべく。ここ、教皇のピウス12世の居た謁見の間に集結していた
『現在、スイスガードの皆さんが応戦しておられます。抜かれることは無いと思いたいですが、この部屋では十二課までの職員を以てお守りいたします!』
シスター長の言に、回りのシスターらが頷いた
『番外の課も既に動いてあります。何も問題ありません。戦艦の艦砲射撃、重爆の大規模爆撃でも無い限りは、ここは安泰です』
神父がピウス12世の耳元でささやいた
『・・・外の、様子はどうなっていますか?』
ピウス12世は、落ち着いたそぶりで問いかけた。さすがに聖職者と言えど、銃声程度では動じない。部下達がきちんと対応をしている事もあろう
『外が燃えているのか、空が異様に紅いとは聞いています』
狙撃や爆弾などをされないように、窓は一早く締め回していた。彼等は外の情報からも、安全の代わりにシャットアウトされていた
『紅い・・・今日は確か晴れでしたね、火災が発生して、紅い、というのは・・・』
それだけの炎を映す爆煙が発生するものだろうか?・・・まさか!
『収蔵庫長に、連絡をつけなさい、今すぐです!』
770 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:41:20 [ BTaSp5ZA ]
ヴァチカン襲撃から少し時を遡り、ローマ、アポイナの塔
『確かにここは・・・隠し物をするには絶好の場所ね』
ローマの中でも寂れた周辺の町並。塔に沸き立つ、マナの波動。まるで周りのマナを吸い続けていたような、竜巻に引き込まれる流れが肌から感じられるのだ。こういう場所には異質な生物や現象が多く現れやすい
『弾を沢山もらい過ぎたわね』
爆薬はヴァチカン攻撃に男衆が殆ど持って行ったが、塔を占拠する役割を担った女衆は、銃器の弾を多めに配分してもらっていたのだ
『ここは観光地ではない』
まず、そういって来た二人のスイスガードに銃弾を叩き込み、倒した後は、40人程度の女衆と18人のスイスガードの戦いとなった。こうなれば後は人数と弾数の問題になる
『くそっ!跳弾が!ぐぁっ!』
狭い塔の通路や階段は弾数の多いダークエルフの女衆達の方が有効な跳弾を送り込む率は高い。彼女達に、弾をもらい過ぎたと言わせる原因はここにもあった
『壁に彫られてるようだけど、これは彫刻じゃない』
扉には息を吹きかけたり、ラッパを吹く天使が描かれている
ォォォォォ
何人、いや、何千人もの人間が放つ呻きのような、もしくは嘆きのような音が漏れ聞こえてくる
771 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:43:23 [ 9TlQkVJc ]
いつまでも見ている訳にもいかない。リーダーの氏族長の妻が告げる
『みんな、円陣を組んで』
これを開けるには、扉にマナを吸収させつつ開けるしかない。手や、爆薬でどうにかなる代物では無いことはすぐわかった・・・そのあたりの技術はエルフには劣ったとはいえ、ダークエルフは精通している
帝國の持ち込んだ科学のすごさはわかる。しかし、マナを元にした魔導も捨てた物では無い、何故このような面倒なやり方で、集めて封印してしまったのか。両方使えば良い物を
『手を繋いで、私に直接マナを』
魔硝石も含めて、魔導をこちら側で使うと希薄なマナの大気にマナを取られてしまい、こちらの世界にダークエルフが魔導が使えなくなった訳だが、身体越しに、直接送るのは問題無い
円陣を組んだダークエルフの女達が、念じ始める。魔導とは、魔法・魔術とも言われるが、読んで字の如く、マナを導く術なのだ。彼女達に反応し始めたのか、床面が紅く光る。それに呼応してか、空も紅く染まっていく
『マナの脈動を感じる・・・』
中からマナが出たがっている。まるでダムの一箇所に小さな穴が開いたことから、その回りを水圧で押し広げて、一気に噴出するかのようなイメージだ
『開けるわよ!』
772 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:44:54 [ m81TCG2. ]
手が触れた
『な、なによこれ!』
マナが吸われる、尋常じゃない勢いで
『キョエエエエエェー!!!』
組んだ輪の一番外側の娘が、突然現れた紅い光の柱に飲み込まれた後、墨のようになって消滅した
ギギギギギギギ
扉が開いていくとともに、部屋全体から塔そのものが紅く染まっていく
『キョエエエエエェー!!!』
『キィヤァアアアアア!!!』
最初の一人から両脇の二人、その次の四人、と加速度をつけて光の柱として、絶叫ともつかない声を上げて消えていくダークエルフの女達。手を離して逃げようにも、回路が繋がってしまった線を切るには力が要る。しかし繋げた線を扉が維持しようとする力は彼女達よりも大きかった
ギギギギギギギ!!!
そして扉は開き切った。扉の向こうは真っ赤な世界だった。紅しかないのだ。全体が真っ赤であり、これは・・・!
『キィヤァアアアアア!!!』
『ヒュヤァアアアアア!!!』
そこに居た全員が光の柱に飲まれた。光の柱は拡張していき、紅い空の元、塔を基部として500メートルの高さまで立ち上った。この様子はローマ市街全体から視認できた
『あれは・・・バベルの、塔?』
市民の間では誰が言うでも無く、そう言い合ったという
773 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:46:54 [ e.yRiOXc ]
ローマ、ヴァチカン入口
その伸びた光の柱はスイスガードと激戦を続くここからも良く見えた。若いダークエルフの一人がそれに最初に気付いて呟いた
『あれは・・・』
数の優位はあるものの、銃の弾が既に不足をきたし、近接戦闘。つまり剣戟の打ち合いが多く行われていた。なんとか押しているが、銃弾の不足はこちらの死傷者を敵よりも大きくしていた
『女衆の、魂の輝きだ』我等が事、成れり。この襲撃を主導したダークエルフの氏族長が答えた。おそらく我が妻は鬼門を既に潜っていることだろう・・・自分も続かねばなるまい
『もう使えるのでしょうか?』
試そうとした青年を制止する
『使うな、今後我々の仲間が、帝國の為に使う魔導から言質を取られかねない』
あとは抵抗を続けて、銃弾でぐちゃぐちゃになって死ねば良い。死んだ仲間(動けない重傷者も)の頭にも、不足気味な銃弾を証拠隠滅の為にわざわざ撃ち込んでいるのはそのためだ
これは、ダークエルフと人間を比べて、外見上特異な点は耳しかないからだ
加えて、英軍制服が足りなかった為、着ていない者には、ユダヤという種族とわかる衣装を内に着込むようにし、証明書も、倉庫街近くのユダヤ人集落の一つを襲って手に入れた
774 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:49:36 [ ewIsKeyI ]
なにも問題は無かった。倉庫街を襲った連中は間違いなく内陸部に押し込まれて居たユダヤ人を逃走に利用しており(これは事実だった)一部村落に関しては、襲われた日本側の面子を持たせる為、調査を任せる所もあり、調査しに行った所を襲って来た為反撃したとすれば、皆殺しにして
煌ネ単に偽装は出来た。何せ彼等の持つ武器は、逃走した連中が破棄したものなのだから
ユダヤ人問題に関してドイツに突き上げられているイタリアも、一村落とはいえ、消したのはドイツに対する言い訳に好都合だったし、自分達の手を使わずに行えたのは、ユダヤ人からの恨みを逸らすのにもうってつけだと思った為、ろくに焼き払われた村の調査を行わなかった・・・つ
ワりは、誰がやったかわからないようにする細工は完全にやり遂げた、という事だ。ここで魔導を使っては元も子も無い
ガシャン!!!ボアアアアア!!!
どこからともなく火炎瓶が降って来た
『官警の増援か・・・早かったな』
我々の最後を遂げる準備は調った訳だ
パンパン!パンパンパン!
拳銃の散発的な銃声、前門のスイスガード、後門のイタリア官警。さて、最悪の場合、下手人を特定されかねない死体を保管されるならどちらが好都合か
775 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:50:56 [ TpKp83XI ]
『全員集まれ!』
氏族長は声を上げた・・・勿論、こういった号令の時に使うのは日本語では無い。英語でだ
『死体は間違いなく片付けたな?』
『一人も漏れはありません。間違いないです』
生き残っている皆が頷いた。このあたりの結束と貫徹性はダークエルフの良点である。故に諜報畑で重宝されていたのである
『では、全員でこのヴァチカンの敷地から出て、応戦しよう。皆とはここで今生の別れとなる。見事に散ってくれ』
『『おう!!!』』
人間換算で12歳〜70歳に至る者は全てこの襲撃に付き合わせている・・・その罪悪感に氏族長は身体を震わせた。死んでも、血統を絶やした俺は祖先の霊に詫びきれないやもしれんな・・・
『身体をさらして戦い続けろ!その雄々しさは、誰に理解されなくとも、祖霊様だけは照覧して下さる!戦い、そして倒れよ!突撃!!!』
先頭に立ち、今まで襲っていたヴァチカンの建物を背にして駆け出す。棒立ちしていたうかつな警官を三点射で撃ち倒した
『逃すな!撃てぇっ!!!』
後方から叫びが聞こえた。十字砲火を受けるのも考慮の内である
ダダダダダダダ!!!
仲間が、家族が、蜂の巣にされていく。息のあるものは、自分の頭に向けて銃弾を放つ
776 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:53:25 [ .V7VR5C. ]
警官隊
警官が撃ち倒されるのを志摩とアルは目の当たりにした
『くそっ!俺のせいだ』
志摩が毒づく
『アイツがマヌケだっただけですよ大佐』
ぼーっと突っ立っていたら、ああなるのは仕方ない。個人の責任だ
『ヴァチカンのスイスガードも後ろから押し出して来たし、あなたの策通りに敵はハマって勝ち戦です』
もっとスイスガードに対して押し込んでいるかと思ったが、スイスガードが強いのか、襲撃者が弱いのか、あるいはその両方か。ともかく、後ろから襲ったおかげで敵は襲撃を止め、こちらに矛先を向けた。大成功じゃないか、うん
『いや、俺のせいだ。俺が反撃を言い出さなければ、彼は死なずに済んだ・・・突っ込んでくる!むやみに近づくな!後退しつつ撃て!撃ったら身を隠すんだ!撃ち返してくるぞ!』
志摩が叫ぶ。戦争が始まる前は、世界に名だたる観光都市、ローマ。案内をする為に、警官が英語他が出来るのはありがたかった
『ジャポネの女性には、そういったナイーブな所がいいのかな?』
アルはその様子を見て呟いた。それは敗北すれば、考えざるをえないだろう。敗者なのだから。敗者は得るものは一つも無いし、自分が奪われる物をどれだけに出来るか考える必要がある
777 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:55:12 [ 6IS4voV6 ]
だが、勝者に何を気に病む必要があろうか。勝者は与えられるだけの栄誉と金と女を得るべきであって。死者の為にもそれを謳歌するべきなのだ。気に病んで居たままでは・・・報われねーよ、両方とも
『絶対にお互いの射線に入るな!同士討ちになる!』
『そんくらい、マフィアと日々やり合ってる警官方も理解してます!』
警官隊よりもマフィアの方が大抵装備が良いのがなんともイタリアだが、故にアルや志摩が統合指揮している警官隊の死傷者は少なく済んでいる
ダダダダダ!!!
射撃がこちらに向けられた。弾が頭を掠める。指揮に声を張り上げ過ぎたのだ
『やばっ!こっちに来る!』
一応指揮を取るこの場所は、火線を集中させやすい場所をアルの見立てで置いたが、拳銃ではやはりキツいか!
アルが物影に隠れて拳銃を撃ちだす。志摩は腰の短刀を抜いた
『サムラァイという奴ですか?』
この勢いでは後退している暇は無い、アルは志摩に笑いかけた
『銃は両手で保持できる君に任せただけさ、射撃の腕は負けんよ』
志摩の唯一誇れる実技だ・・・他は桂に完敗なのだが。そして付け加えた
『夜の方もな』
アルの目が一瞬点になる。志摩というこの人間は、ただの悩める人でもないようだ
778 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 00:57:43 [ 889qtgy6 ]
『・・・ハハハハハッじゃあ奥様に私の銃の腕も判定してもらi』
『今、この場で殺すぞ』
即答ですか、そうですか
『もうヴァチカンを襲っている訳でもないのに、空が紅いまま・・・本当に自然現象なのか?』
聳えたつ塔のような光
ダンダンダンッ!!!
『考え中悪いですが、こっちの旗色も良くないん・・・でぇやっ!』
飛び込んで来た襲撃者にカフェテラスの傘の柄を折った物、簡易の槍だ。を、喉に突き刺す。血が飛び散った
『危ないっ!』
『くぅっ!』
もう一人飛び込んで来た襲撃者が志摩に銃を向けようとする
ガキィン!!!
良く見れば、志摩は普通の刀の持ち方をしていない。まるで包丁のように持っている。それをそのまま真っ直ぐ振りあげて、相手の銃口を短刀の背で押し上げたのだ。そして志摩は、振り上げた短刀を襲撃者へ振り降ろす
ザシュ!!!
『か、かはっ!』
肺を裂いたのだろう、襲撃者は血を吐いた。志摩は振り降ろした体勢のまま相手に体当たりし、武器を手ばなさせると共に倒れさせる。制服が返り血で真っ赤だ
『ぅく、くそ・・・』
倒れた襲撃者が、手放した武器に手を延ばす
『大佐、そこを退けっ!』
アルが自分が倒した襲撃者の武器を奪う
780 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 01:01:03 [ bBlcovoo ]
志摩がアルの注意に地面に倒れ込む
ダダダッ!!!
なんとか銃を手に取られる前に、アルが襲撃者の上半身を蜂の巣にした
『無事ですか!?』
『ああ・・・』
手をついて起き上がる。銃声が多少収まって来ている
『突破の阻止に成功したのか・・・』
あまりこちらはよい状況ではなかった、敵は無理にでも突破して、市街に逃げ込めばやりようがあるのに・・・
違和感を感じた。襲撃には中途半端だし、離脱する気もあまり無い気がする。あまりに勘繰り過ぎか?それではまるで壊滅する為に襲撃したようではないか・・・そんな馬鹿な事はあるまい。こちらの抵抗に退くしかなかったのだろう
『た、たたたっ大佐!』
アルが変な声をあげる
『どうしました!?』
『塔が・・・!塔が!』
『っ!?』
それを見た志摩は、アルと同じような反応しかできなかった
塔は幾つもの線に別れ、まるで、糸を切るとその繊維がバラけていくように、螺旋を描いて空に広がっていく。空に観測衛星から見た台風が浮かんでいるのを想像してもらえるとありがたい。それが一番近いと言える。加えて光は靄のようになっていて、向こう側の月がはっきり見える
志摩は呟いた
『何が起きているんだ・・・一体』
781 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 01:03:02 [ cnmf7h96 ]
同時刻、アポイナの塔
アポイナの塔はローマ郊外にあった為、連絡を受けた黒シャツ部隊でヴァチカンに向かう部隊より割かれた隊の方が現場に先に着いていた
『光がキツい・・・!』
目を開けていられない。しかしそれでも光は弱くなってきている
『な、中から何か出てきます!』
『降車!包囲しろ!』
運転手の兵の言に、助手席に居た部隊長がトラックの荷台に居る兵に発破をかける。装備はカルカノ小銃、しかも形式はM1938、黒シャツ部隊だからこその新装備だ
塔の敷地を囲ってある。2メートルほどの壁、それを背にして黒シャツ部隊は展開する
ドーン!!!
『なんだ?』
『何か大きな物が落ちたような・・・』
ドガァッ!!!
壁に多くのつぶてがぶつかる音と衝撃が壁ごしに聞こえ、入口の所からは砕かれた石やなにやらが飛んでいくのが見える
『キィヤァアアアアアー!!!』
『ヒュヤァアアアー!!!』
叫びをあげる腐肉と石と骨の塊・・・いくつもの埋め込まれた顔のような部分からは嘆きのような悲鳴が、絶えずあげられている。なにより・・・それは体高が四メートルはあった
『化け物だ!』
『う、撃て!かまわん撃てーッ!!!』
射撃命令は下された
782 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/20(金) 01:04:35 [ 889qtgy6 ]
その腐肉と石と骨の塊は、ただ撃たれるつもりはなかった。わきわきと腕が四対生え、それには銃が握られている。ダークエルフの女衆が使っていたものだ
壁があってもあちらは四メートルの高さから見下ろしている。丸見えだ
『う、うおおおーっ!!!』
ダダダダダダダダダダ!!!
銃弾の雨が黒シャツ部隊に降り注ぐ。彼等が血の池に沈むまで五分かからなかった
『あ、あああ゛ああ・・・なぁああぁ〜だぁぁああ゛・・・』
その化け物はヴァチカンの方を向くと、下半身から六本の太い(手は人と変わらない)足を生やし、その大きさからは想像もつかない速度で(千◯千尋の暴走顔◯しぐらい)移動を始める。勿論、障害物という障害物を破壊しながら
ヴァチカン襲撃は、人の域を離れた存在によって、新たな局面を迎えようとしていた
791 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:18:58 [ wslbeVyE ]
ローマ、首相官邸
『そうだ!映画の撮影用ライトを至急用意しろ』
ヴァチカン襲撃の報に接し、ここの主が発した第一声はそれだったという
『黒シャツ部隊は至急ヴァチカンに迎え!訓練所の戦車もだ!市街地で戦車は使えない?イメージだ、陸軍大臣!広場に並べて、ヴァチカンの守護が我がイタリア軍であるというのを市民、そして教皇様に見せなければならない!急ぎたまえ、これは国家的重大時である!』
ここの主、ムッソリーニは電話の相手に怒鳴った。言い方こそ恰好良く言っているが、言い訳の演説をみずからの保身の為行う、という事だ。幸い、教皇は無事で、戦況は優勢に移ったと報告があった。ならば戦車など必要ない、となりそうものだが、戦車はヴァチカンの一大事にはこれ
ルどの部隊を出しますよ、というイタリアの誠意と、敵を撃退したのはイタリア軍であるとの威信を国民に植え付けること(負け続けの挽回になると踏んだのだ)。そして、もしもの場合、自分が逃げる事の出来るよう、安全の為に必要なわけだ
『その罰当たりな奴らは今どうなっている』
迎えに現れたSPに聞く
『警官隊によって脱出を阻まれ、広場中央で撃ちすくめられております。制圧はすぐかと』
『よろしい』
792 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:20:44 [ /nd8Ea2c ]
『では、現場へ向かうぞ』
これにはSPが慌てた。ただ演説するだけかと思っていたが、今すぐ行こうだなんて
『ドゥーチェ、危険過ぎます!もしもの事があれば・・・!』
『匂いだ、匂いが必要なのだ。戦場の匂い。今そこで戦いがあり、その場にわしが居ることが重要なのだ。誰が清掃され、片付けられた戦場に立つ将軍に誰が敬意を払う』
伊達に映画に関わっていない。人が何を見れば惹かれるかわかっていなければでない言葉だ
『民衆も女も同じだ、雰囲気に弱い。どう場の雰囲気を作ってベッドに持ち込むかが全てなのだ』
ちなみにムッソリーニ、関係を持った女性は数百人、とか。ともかく、モテモテなのだ。一人、エヴァを愛し続けたちょび髭さんとはエライ違いである。そして彼を首長に持ってくるあたり、実にイタリアである
『ですが、外は異常な状況でして』
紅い空、光の塔。国家元首が出ていくには・・・まずい
『そうだな・・・ならば小銃、古いのがいい、わしが昔使ってた方のカルカノを用意してくれ』
『ドゥーチェ!』
食い下がるSPに、ムッソリーニは僻えきした
『ヴァチカンへの襲撃以外、君達や市民が外に出て、何か異常になったかね?ただ主がお怒りになっているだけさ』
793 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:22:39 [ YYyvVf0I ]
ムッソリーニは深く考えてなかった。襲撃者を撃退すれば、空も元に戻ると思っていたし、高い緯度の所では紅い月は珍しくない。紅い空があったって問題無いと思っていた。むしろ、異常な状態のローマ、ヴァチカンを、国家元首さえもが銃を取り、守ろうとした。その絵(ムッソリーニ
の脳内妄想)の素晴らしさに、これしかないと思った。勿論、絵の中央には銃を持ったムッソリーニ自身。下がり気味の支持も大回復だ、間違いない
『さっさと命令に従いたまえ!』
こういわれてはSPも退きさがらざるを得ない
『ああ、乗り物は最悪オープントップを用意しろ。ジープあたりだと、なお良い』
『わかりました』
SPはため息と共に同意した。こうなったら、いくらドゥーチェでも止められない。チアノ外相が居たらまた別かもしれないが
『そうだ、貴様らも拳銃を見える所に持つか、小銃を携行しろ、あらゆる戦力を投入したようにみせねばならんからな!』
SPの装備にまで口を挟む事あるまいに
『わかりました、意に沿うようにします』
SPはまたため息をつくように答え、部屋から出ていった
『よぅし、準備はこれで整う・・・むふぅ』
ムッソリーニはにたりと笑った
『わし、かっこ良すぎかのぅ』
794 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:24:23 [ E0XZvauo ]
ローマ・ヴァチカン前広場
ダークエルフの男衆達最後の生き残りは、広場中央の噴水池に漬かりながら、ようやく銃弾の雨をしのいでいた
『これが最後の弾倉です!』
氏族長に付いてきていた最年少の青年・・・少年と言っていい、が弾倉を氏族長に渡す
『私は身体を蜂の巣にされるのはごめんです。お先に!』
ダン!!
既に銃に入っていた弾丸で彼は自決した。耳にみずから銃口をあてて・・・言葉をかける暇もなかった。噴水池が血で真っ赤に染まっていく。生き残りはもはや十人を切った
『続々と増援が到着してるな』
さかんにトラックが到着し、黒シャツを着た兵士達を吐き出す。つまりは絶望だ、絶望。生きる見込みは無い、これで終わりだ
『皆の衆!!!』
まったく、とんだ馬鹿野郎だ、俺は
『おう!!!』
そして、こいつらも
『いくぞぉおおおっ!!!』
ドダダダダダ!!!タタン!タンタンタン!
軽機関銃、小銃といったありとあらゆる小火器の銃弾が四方から彼等に撃ち込まれ、切り裂いていく。弾の衝撃は身体をきりもみさせ、有り得ない方向へ曲がらせる
それでも彼等は駆けた。全てを我が身に着て滅びる為に、ダークエルフの氏族の為に、そして帝國の為に
795 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:25:55 [ BTaSp5ZA ]
襲撃者達はぼろ雑巾のように撃たれ続けた
『馬鹿野郎め』
指揮を現れた黒シャツ部隊の指揮官に移行し、アルと志摩はその様子を見ていた
『降伏すりゃあいいものを・・・』
志摩が死体を睨みつつ吐き捨てた
『許しませんよ、降伏なんて』
アルはそれに答える
『ここは欧州で、ヴァチカンは我々の魂の御座のような場所です。下手をすると、各国の王侯の宮殿よりも大事な場所。もし、あなた方の王室を何者かが襲ったならば、そいつらを許しますか?』
キリスト教圏の人間にとって、こんな事をするやからは悪魔そのものだ。そして欧州は、そういった存在を許しはしない。昔から。いくらイタリアでも、だ。
『・・・まず無いね、面子からも。失言だったな』
『いえいえ、だいぶ参考になります』
基本的にやりすぎない事、かな?ジャポネの女性に対しては。ま、二人きりになってからは力押しでこちらのペースにしたらいい。
他の艦の奴らのしつこさに参っている所を優しく助け、かいがいしく世話をしてからお持ち帰りがベター・・・これはゴリツィアの部下に教えてやらにゃならんな
『・・・なんの参考だ?』
『あー・・・まぁその、今までのイタリア的戦術に、日本的深みを持たせる参考です』
796 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:28:15 [ wshQOogU ]
『・・・?まぁいい、とりあえず。これで終わりかな』
『みたい、ですね。空も元に戻ったし』
見れば、空が元通りの夜の空になっている
『一件落着でしょう・・・あー気持ちわる』
アルは制服の上を脱ぐ
『あ・・・まずいな。制服に今、換えが無いんだ』
自分の制服を見る。アルと同じく、襲撃者の血で血まみれだ。既に固まってきて黒ずんでいる。気持ち悪い
『それにこれは誤解されちまうな』
ぽりぽり頭を掻く
『志摩は?志摩ぁっ!』
聞き覚えのある声が・・・
『こっちです桂さん!』
アルが脱いだ制服を振りながら答える。志摩は慌てた
『あ、中佐!ちょっと待t!』
片腕なので服を脱ぐのに手間取る
『志摩っ!?ちょっとその血は何っ!?怪我したの!?』
『いや、そrげぶはっ』
アルをふっとばして桂が近寄る。気が気でなかったので、黒シャツ部隊の展開と共に走って来たのだ(この時点でムッソリーニの演説の第一報が入った為、阻止しなかった。幸運にも)
『いや、そのな・・・抱きつくのはいいんだが』
桂は一心不乱に身体をまさぐっている。怪我の箇所を探っているのだ
『怪我はしてないよ』
『・・・』
『愛されてるねぇ、志摩大佐』
余計な茶々をいれんでくれ、中佐
798 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:30:28 [ JlgIauw. ]
桂が自分の周りを、強張った顔で見回した。勿論イタリア人達はにやにやとこちらを見ている
『ま、まっ紛らわしい事しないでよっ!こ、こっち見んなっ!にやにやするなぁっ!』
真っ赤になって手を振り上げ、抗議する桂。恥ずかしいったらありゃしない
『桂、もういいから。行くぞ。中佐、仕事の続きは明日に、いろいろあり過ぎて疲れた』
『ちょっ!元はといえばあんたが!』
キッと志摩を睨みつける桂
『第三中隊、どうした?第三中隊!』
無線機にむけて黒シャツ部隊の通信兵が怒鳴っている。なにかあったのだろうか?桂に苦笑しつつそちらに顔を向ける
『ちょっと!聞いてるの!』
ドガァッ!!!
『っ!?』
轟音が鳴り響いた。広場に居た全員がそっちに視線を向ける。一区画向こうの交差点。その上をぐしゃぐしゃになった自動車が吹っ飛んでいった。なにか大きな物体にぶつかって弾きとばされたような・・・
ドシン!ドシンドシンドシン!
ニヤついた笑いを消したアルが呟いた
『・・・やばそうな感じがする』
ぬぅっ
ビルの影から現れたモノ、いや、モノと言っていいものか、迷う。その異様さに、誰もが言葉を失った
『ああ゛ああなぁああ゛あだぁああっ!!!』
799 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:34:04 [ TpKp83XI ]
声を発した、はっきりと。それがあれが幻でない事を全員に知覚させた。そしてこっちを向く。見ているのはぼろぼろになった死体達だ
『確かに、相当・・・まずそうだ』
志摩は桂を抱きしめて、アルの呟きに答えた
ドドドドドド!!!
こちらを見たそれは物凄い勢いで迫って来た
『ば、化け物だ!撃て!撃てぇっ!』
黒シャツ部隊の指揮官が命令を発したが、銃火器は広場中央に向けていた為、取り回しの効く物しか向けられず、そして誰もが得体の知れない物に恐怖していた
タン!タン!タン!パタタタタ!!!
『くそっ!弾が出ない!この化け物めっ』
この兵士の例の場合。彼は恐怖と驚きのあまり、弾倉の入れ替えを失念している・・・練度が低いといってしまえばそれまでだが、彼と同じようなミスをした者が、この時沢山存在した。そして最悪な事に、腐肉と骨、石で出来たこの化け物。小火器をただはなっただけでは、かすり傷し
ゥ負わせられなかった
武器が効かない・・・!
・・・イタリア的発想として、効かない武器で攻撃しても意味が無い。なら逃げても問題無い。大体、こんな化け物と戦うなんて聞いてねぇぞ!となる
『に、逃げろォッ!』
誰かが逃げ出せば早い早い
800 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:35:31 [ 889qtgy6 ]
黒シャツ部隊の兵士達が統制も無く、武器をほっぽりだして(イタリア兵いわく、効かない武器をもっていても意味が無い)逃げる。この様子を見れば、教皇がヴァチカンにイタリア兵でなく、スイス傭兵を招き入れたくなるのもわかる
『逃げるなっ!戦えっ!』
我先に、と逃げ出さなかった稀有な指揮官が叫ぶ
『ああ゛ああなぁああ゛あだぁああっ!!!』
化け物は身悶えするように身体を震わせ、そう絶叫すると死体に近づく・・・死体は当然ながら動かない
ガツッガリッグチャッ
『食ってる・・・仲間の死体を』
桂が青ざめた顔で呟いた
プップーッ!!!
そんな時だった。空気を読まずに、クラクションを鳴らしながらムッソリーニの乗った、オープントップの車が広場に入って来たのは
『どこの馬鹿だ!逃げる兵士が見えんのか!』
志摩が怒鳴った
勿論、運転や、護衛についたSP達はいぶかしがってはいた。兵士が武器も持たずに流れてくる。しかし、直前まで制圧終了という報が入っていた事と、黒シャツ部隊側も、異様な化け物に気を取られ、第一報が遅れた事。それから、制圧直後がいいという、ムッソリーニの我が儘のせい
ナもある
『あああ゛ああ』
化け物の目が向けられる
801 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:37:20 [ ClyEUp7U ]
化け物の口元には死体がくわえられ、血が滴っている
『ひいっ!』
SP達も、兵士達と同様な反応を示した。数少ない勇敢なSPは、ムッソリーニの指示で携行していた銃火器で応戦したが、効かないのを目の当たりにする。そして自分の頭の上から反撃の銃弾の雨を浴びせかけられては、転がりまわって逃げることしか出来なかった
『こらっ!貴様らっ!わしを守らんか!』
車に残されたのは、ムッソリーニただ一人。逃げなかったのは、国家元首である、という見栄からだけだ
『まずいわ!助けなきゃ!』
あのおっさんやられちゃう!そう思うがいなや、桂は飛び出していた
『おい!桂!あの馬鹿!』
その、思い立ったら即行動はどうにかならんのか!
志摩も不自由な身体ながら、桂の後を追って飛び出す。全力疾走の桂に、追いつけるはずが無い。右腕を誰かが掴んだ。アルだ
『あなた方だけに、良い恰好はさせませんよ!』
アルが志摩の腕を引っ張る
ドシン!ドシン!
化け物が、歩いてムッソリーニの乗った車へと近づく
『そんな馬鹿な・・・っ!』
ここでようやくムッソリーニは恐怖した。こんな、訳のわからない化け物に殺されて、イタリアを支えて来たわしは人生を終えるのか、と
802 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:39:45 [ L6SZuRPE ]
『おっさん!しっかり捕まって!!』
ムッソリーニの視界外から、華麗に、スーツ姿の女性が運転席に飛び乗った。アクセルをおもいっきり踏み込む
キキィーッ!!!
急発進した車を操る。今まで居た所に、銃弾の雨が降り注ぐ、間一髪だった
『桂!!!』
『桂さん!』
『二人とも!乗って!!!』
あとから、血まみれの日本海軍士官と、ああ!我が海軍の士官ではないか!その二人もこの車に飛び乗った
『逃げるわよっ!!いいわねっ!』
ギャリギャリと車を操る。どこから逃げるか探しているのだ
『狭い路地に逃げましょう!道は良く知ってます!!』
アルが叫ぶ
『馬鹿!狭い路地じゃ、私達は助かるかもしれないけど、あいつに巻き込まれて、沢山街が壊されちゃう!』
『馬鹿もの!わしの支持基盤をブチ壊すつもりか!!!』
桂とムッソリーニの反対する声がハモる
『中佐、狭い路地ではあの火線を避けきれんよ、なるべく広い場所へ!』
頷く桂、頼れる夫っていいわぁ
『了解!じゃああそこっ!』
アクセルをまた踏み込む。見た感じ一番広い道路だ
『あああ゛ああ・・・』
腐肉と骨と石の化け物は首を曲げてその様子を追って見ていた。混濁した化け物の意識に、何かが芽生えた
803 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/22(日) 14:42:46 [ O28l2xuA ]
うらやましい・・・
私達は・・・こんな・・・肉を喰らって・・・あの夫婦・・・肉を・・・憎い・・・憎い憎い憎い憎いニクイニクイ!!!
『こロすゥぅゥゥ!!!』
死ねなかった。死にぞこなった悲しい女達の、悲しい嫉妬だった
ドシン!ドシンドシン!!!
六本の足を器用に動かして、向きを変えた。桂達が乗っていった方向へ
『あああ゛ああ!!!』
化け物は嘆きをあげつつ、来たときのように突進を開始した。路上に置かれた全ての物を押し倒しつつ
809 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/24(火) 21:56:29 [ 6IS4voV6 ]
ちょっと詰まってるので、大雑把にこんな計算もしてみますた
ロス・ジャーディナス岩礁沖海戦(内南洋決戦)
戦果トン数
戦艦25万トン(8隻)
空母5万トン(2隻)
重巡9万トン(9隻)
軽巡6万トン(7隻)
駆逐艦1.7万トン(16隻)
輸送船62万トン(126隻)
フィリピン方面(含む東シナ海)
戦艦3.2万トン(1隻)
輸送船9.4万トン(19隻)
第二次マタパン岬沖海戦(地中海方面)
戦艦6.7万トン(2隻)
空母5.4万トン(2隻)
軽巡2万トン(2隻)
駆逐艦0.3万トン(2隻)
合計135.7万トン
126隻のトン数はUボートの奴から逆算してみますた。ただ、今回空荷がないのでもう少しいく、かな?
トン数で見ると、あの戦果もそうでもないんじゃないかと思えてきて泣きそうです。開戦二ヶ月、デーニッツさんの算出した月間目標撃沈トン数70万トンをなんとか維持できれば・・・orz
ちなみに、少し前に志摩の年から逆算して経歴を創りましたが、一番世話になるおふくろ三号さん(つまり61期生)で有名所を探したら・・・空飛ぶべらんめえ親分の野中さんと、不死身の板倉さんのお二人というあまりに濃過ぎt(ry
817 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:20:09 [ m81TCG2. ]
『素晴らしい!素晴らしい!あなたは私にとってのジャンヌダルクだ!』
広場から脱出するとムッソリーニは桂をべた褒めした
『あたしは聖と言うわけでも、処女(おとめ)という訳でもないわよ』
そういって桂は振り向き、ウィンクした
『あんまり無茶してくれるな、桂。寿命が縮む』
志摩が息を吐いた。席の位置は、助手席にアル。後部座席に志摩とムッソリーニが隣に座る形だ
『・・・君らは』
『残念ながら夫婦です、ドゥーチェ』
アルがそう答えて肩をすくめた
『君のような素晴らしい女性は恋愛をもっと楽しまねばならない!そして度量のある男として、素晴らしい妻の行動を認めるべきだと思うがね』
・・・俺に喧嘩売ってんのか、このおっさんは
『私は幸いながら、多少の日本語が出来る。是非とも我が住まいで日本語の教師に』
『あはは、お誘いは嬉しいですが、私は身も心も奴隷のように彼に捧げてますので・・・それに彼が航海から帰って来たら、あたしのドックでまた出ていくまでずっと整備してあげなきゃいけません。かかりきりじゃないと動いてくれないんですよ』
桂は、これをイタリア語で言ったつもりだった、が、志摩が慌てる
『ば、馬鹿!なんつーこっぱずかしいことを!』
818 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:21:17 [ cnmf7h96 ]
『えっ?ええっ!?イタリア語で言ったのに!あー・・・その、あの・・・』
ぼふんと湯気が立つように桂の顔が真っ赤になった
『ちょっと桂さん!前見て前!』
キキィッ!!!
アルが横からハンドルをきって駐車車輌を避ける
『ご、ごめんごめん』
運転に精神を再集中・・・事故ったら助かった意味無いわよね
『イタリア語・・・?俺は日常会話をほんの少し理解できるだけだ・・・だのに・・・』
あんなスラングだらけの会話を・・・?
ドガァッ!!!
『・・・』
『何!?今の何の音っ!?』
後ろに振り返れる三人が何も言わないので焦る桂。隣のアルは口を開けたまま氷ついている。我に帰った志摩が叫んだ
『桂!ハンドルを右に切れ!車が飛んでくるぞ!』
キキィッ!ドシャン!!!
空から車が降ってきた。今さっき危ない所で避けた車だ
『今です!左に切って!』
また車が降ってきた。その巨体で撥ね飛ばしつつ追ってきている
『一体わしになんの恨みが・・・!』
ムッソリーニは頭を抱えた
『音、か?』
そこのムッソリーニ自身、というよりSPが鳴らしたクラクション。音が原因なら、適当に逃げる間、なんとか連絡をつけて別方向へ誘導出来れば・・・
819 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:24:23 [ dqay7chg ]
化け物をよく見てみる
『そこ、右に切って!やばい、また飛んできた、左!左!』
『ああん、もう!捕まって!』
アルと桂の掛け合いの後、車が勢いよく傾く。さすがイタリア車、スピードがよく出る
ドシャン!プァアアーッ!!!
また至近に車が落ちてきて潰れる。ブザーが押しっぱなしになったままなのか、クラクションが鳴り響く。しめた!
『ムッソリーニ閣下、これで逃げられるやも知れません!』
『そ、そうなのか?』
志摩は今のうちに、とオープンカーの内装を確認する。元首が乗っている以上・・・あった!
『中佐!足元に無線機がある!なんとか連絡をつけてくれ!』
『おお!こんなところに!何故気付かなかったんだ!』
異常事態によって、お互い慌てて乗ったため、周りが見えてなかったのだ
『え?もう追って来てないの?』
桂がスピードを緩める
『ああ、音があいつを引き付けてくれるd』
後ろにまた振り向こうとして、横のムッソリーニの顔が、凍りついているのに気付いた
『桂!今すぐアクセルを踏み込め!!!』
『え?ええっ!?』
ダダダダダダ!!!
ガキン!
降り注いだ銃弾の雨が、車体後部を掠める。もし少しでも動いてなかったら・・・
820 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:27:08 [ KRpK8t7E ]
『音に惹かれたんじゃないのか・・・!』
一体なんだっていうんだ・・・あれは!まさか、生物じゃないというのか!馬鹿な!
『アル君、大丈夫?』
『ひ、ひたひ・・・舌噛んだ』
桂が心配そうに尋ねた。アルが黙ってるなと思ったら、そういう事か・・・ええいくそっ!それよりもあいつをどうにかしなきゃ
『小火器はまず効かない』
これは黒シャツ部隊の応戦で良くわかった
『足止めするにも、多少の重さでは無意味』
車を撥ね飛ばしている。装甲車、いや、戦車でも足元に突っ込ませないと足止めさえ無理だ
『わしは、わしはこんな所では死なんぞ!死なんからな!』
ブルーになっていたムッソリーニが、今度は真っ赤になっている。恐怖を超越したせいで、逆に怒りが頭にのぼってきたのだ
『この化け物め!』
今の今まで車の床に置きっぱなしだったカルカノ小銃を構えるムッソリーニ
『小銃は効きません!閣下!危険です!』
『ええい!どいてくれ!何かせんと腹が立って納まらん、わしに撃たせろ!』
そういって志摩の制止も聞かずに撃ち始める
ターン!ターン!ターン!
カシュン!
その中の一弾が化け物に命中した。距離からすればムッソリーニの腕は中々なものと言える
821 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:28:19 [ FOuc4Za. ]
ただ、今までの銃撃と違った事は、迫ってくる化け物の一部がこそげ落ちた事である
『ああ゛ああああ!!!』
初めて、初めて化け物が反応を表した
『効いた!?』
今までの銃撃が効いていたのか?いや、しかし小銃弾だぞ?ムッソリーニ閣下が撃つ前に撃たれた弾と同じかそれ以上の威力を持つ物が効かなかったのに
『撃たれた事で脆くなってるのか?』
全ての弾を弾いたわけではない、という事か?
『思い知ったか化け物め!』
志摩みたいに、特に思い悩むことの無いムッソリーニは素直に喜んでいる
『ムッソリーニ閣下!』
『な、なにかね?』
志摩の鬼気迫る顔に、ムッソリーニは身を退こうとする
『どこを狙ったんです!?今まであれにダメージを与えられなかったのですよ!?』
少なくとも見た目や反応的には
『え、えっとな・・・』
逆上して撃っただけなので、特に狙いはつけていない、しかし何か言わないと殺されそう(気迫が)だったので必死にムッソリーニは考える
『そ、そうだ!目、目を狙った』
『目?目なんて』
腐肉の中にいっぱい浮き出ているじゃないか
『石の目だ、石を割るときにはそれを見る。わしは昔石工をやったことがある!石も化け物も塊の集合体だからな!』
822 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:31:46 [ m81TCG2. ]
『気付きますかね?』
ムッソリーニ達と化け物の通った通りの建物の屋根にシスターと神父の影が二つ
『あの男に他に思い浮かぶ事は無かろう。思い浮かばなければ死ぬだけだ。そしてあの無能者が死のうが死ぬまいが我々には関係の無いことだ』
『相変わらずですね、天使の塵』
ヴァチカンからあれを遠ざけた功績の為、彼等に奇跡の一押しを、と教皇様に命じられたのだ、課外の彼等に
『ふん・・・主が望むならそうあれかし、だ』
ムッソリーニの放ったカルカノ小銃弾はそれほど役に立っていなかった。彼等の攻撃が実際のところ化け物にダメージを与えていたのだ
『では、戻りましょう。日本式のカレーも食べてみたい事ですし』
『・・・』
神父の方が何かをシスターに投げつけた
『にんじん?』
『うちの神学校で採れた、食わせてやれ』
シスターの得物の向こうに幻影が揺らめく。とても嬉しそうだ
『・・・ふん』
神父は鼻を鳴らしてそっぽを向いた
『感謝します。スープカレーの予定でしたが、具に足しておきます』
幻影があうーと滝の涙で泣いている。そのまま食わせてやればいいものを・・・
『では私は行きます』
『また逢うことも無かろう』
『『神の御加護を(エイメン)』』
823 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:34:29 [ EixJOQD. ]
ヴァチカン・教皇ピウス12世の独白
『あれはアポイナの塔を守るガーディアンだった』
マリスがある頃は無差別に侵入者を襲う機構として存在していた化け物(ミディアン)で、塔の壁に塗りこまれた、塔に幽閉されてそのまま死んだ罪人達を、主のおわす天に昇らせず、魂だけ捕らえて現世をさ迷わせる重き罰をもって扉を守護させ、時が至るたびに課外の者を向かわせ、取
闕桙ワれた人間の部分を破壊しては、浄化させていた
『あれらはマリスが、形あるものを記憶の媒体として生きている代物。形を崩す、つまり砕けば砕くほど弱体化、消滅する』
わかりやすく言えば、マリスそのものが情報生物であり、形ある物は記録媒体・・・パソコンのソフトとディスクの関係といっていい。ハードディスクが物理的に壊れたり、クラスタ欠損が出たりすれば、ソフトの保存や読み出しにエラーが出る。加えて小さい程容量が足りなくて自力で
s動できなくなる・・・つまりは化け物としての死に至る
『そして普通の人間も死ににくくなる』
というよりは死に至る時間が長くかかるようになる。その間の悲嘆や嫉妬をマリスが好むが故に
『放たれたマリスをまた封じる為に、ヴァチカンは動き出さなければならない、か』
824 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:37:26 [ ewIsKeyI ]
独白も聞けず、屋根の上の二人にも一切気付かなかった四人は化け物に追い詰められ、焦り続けていた
『ちょっと!そろそろ車が持たないわよ!?』
急スピン、急カーブ、に振動・・・むしろ、ここまで良く持ってくれたことを車に感謝すべきだろう。そうとう桂はこの車を振り回している
『閣下!とにかくその、石の目を狙って撃ってください!』
『ああ!』
SP達にも小銃を装備させた都合で、オープンカー内に弾薬櫃が一つあったのは幸運だった。そして、カルカノ小銃は威力は小さいが、弾が多く持てる利点がある。弾を惜しむ必要がとりあえずは無い
『大佐、ローマ騎兵学校、っと、うちの戦車部隊とは連絡がついた!』
無線機の受話装置を片手にアルが振り返った
『よしっ!で、その戦車部隊はどこに居る!?』
これでなんとかなる。嬉色を浮かべて志摩は問い質した
『それなんだがな・・・』
困ったように、アル
『こちらの移動が速いのと、ローマ市街での発砲は出来ない』
『許可はわしが出す!阿呆か、そいつは!』
途中でムッソリーニが間に入った。市街や市民を巻き込まないのは、もう前言撤回ですか
『あ、いえドゥーチェ、撃つなら、被害の少なく出来る場所へ誘導してくれ、と』
825 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:38:54 [ vEJ1auuw ]
『何それ!?普通そういうのあっちが言ってくれるもんじゃないの!?』
桂が憤りをあらわにする
『いかんせんこちらの移動が早過ぎて、市民の避難も出来んのでは・・・なんとも。らしい』
全ての道はローマに通ず、の格言のように、ローマは縦横に道路が通じており、ちょこまか逃げるのには適しているのだが、逃げる方向や、位置が確定できないため、逆にアンブッシュや足止めをしにくくしていたのだ
『あーっもう!!郊外に逃げたって、あいつを何とかしなきゃあたし達、おしまいよ!』
いずれガスは切れるのだ・・・この状態で停まれば、確実に命は無い
『どこかの区画に押し込められれば・・・』
しかも車以上の重さを持ち、騎兵学校の戦車部隊到着まで、あいつを足止めできなきゃならない。しかも今すぐに、ここにある物だけで
『無理だ・・・』
とてもじゃないが、出来るような状態じゃない。くそぅ・・・せめて桂だけでも・・・
『ねぇ!』
沈思する志摩をよそに、唐突に桂が叫んだ
『なんですか?桂さん』『あいつって馬鹿!?』
『はあ?』
アルは首を傾げた・・・質問が何の意味かわからなかったのだ
『いいから答えて!あたしは真面目に聞いてるの!あいつ馬鹿だと思う!?』
826 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:40:42 [ L6SZuRPE ]
『まともな思考は出来ちゃおらんだろう』
まともな頭の持ち主なら、俺達をここまで追い続ける事はしない
『ものっ凄い馬鹿な考えなんだけどさ!アレって使えない!?』
桂が顔を向けたその先を全員が注視する
『コロッセオか!』
いや、正確に言うとそれを巡る周回道路!ここを回っていれば、この区画だけ封鎖し、戦車部隊を待つことが出来る!
『素晴らしい!素晴らしいですぞモーリエ(奥さんのイタリア語)!』
『聡明さは美徳、その体現者なのですね、桂さんは!』
『まったく・・・どいつもこいつも歯の浮くようなセリフを・・・』
志摩は天を仰いだ。イタリア人とは・・・
『・・・桂』
俺はとやかく言うまい
『なに?』
『任せた。頼む』
それだけで十分だった
『うん!じゃあ・・・』
ハンドルを握りしめ直す
『いっくわよぉおおおっ!!!』
車を傾け急カーブをきめる
『ドゥーチェ!今のうちに撃っておきましょう!わずかでもあれにダメージを!』
『わかっとるわい!』
ムッソリーニが小銃を構える。勝ちに乗っているときのイタリア人は強い
『騎兵学校!騎兵学校!出てくれ、良い案がある!そっちはどの程度時間がかかるか教えてくれ!』
アルは無線機にがなりたてた
827 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:42:13 [ sllZbCOI ]
問題は唯一、あの化け物が賢く、自分がこの区画をぐるぐるまわらされている事に気付き、逃げようとしてしまわないかという事である
『桂さん、速力を落とせませんか?』
馬面ににんじんをぶら下げるように動かなければ諦められてしまう。掴めそうで掴めない、そんな距離に居るべきだ、周回コースに乗った所で、アルは切り出した
『なっ!馬鹿な事を言うな!』
桂を危険な目にあわせられるか!と、志摩。彼にとっては彼女さえ無事なら、どうでもいいのだ
『もう十分危険な目にあってるし、今更だと思うけど?』
『桂、その、もうとか、今更って慢心が最悪の事態をまねくんだよ』
『あー・・・わしの射撃も、この距離では少々キツいんだが』
言わなくて良いのにムッソリーニが間に入った
『桂の安全が最優先です!』
こう言ってしまうあたりが彼の限界といえよう
『それであいつに逃げられたら、街の人達がやられちゃうでしょ!?そうなったら、たとえあたしが助かったとしても嬉しくない!』
『夫としてお前に命令する!速力を落とすな!』
『馬鹿!今ハンドル握ってるのはあたしよ?あんたに自分の責任だとかは絶対させないからね!』
いつも自分のせいにしてまであたし達を守ろうとする
828 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:45:22 [ 6IS4voV6 ]
『あー・・・御両人、喧嘩は構わないが』
さすがに夫婦喧嘩は犬もイタリア人も食わない・・・が、言わないと殴られそうなので言っておく
『階段で飛びますよ』
ブロロロロロォーン!!!
その速度故に、空中にオープンカーがジャンプする
『ええっ!?』
『ぬあっ!?』
ドシンッ!
『きゃっ!』
桂がでこをハンドルにぶつける
『大丈夫か!?』
少し切れて血が滲んでいる。志摩の顔が真っ青になった
『大丈夫!車の負担も抑えたいから、速度落とすわよ!いいわね!?』
『あ、ああ!』
条件反射的に頷いてしまった。にやりと桂
『あ、おい!やめろ!』
『あなたの負けですよ、大佐』
よかったよかった、とアル
『貴様!ええい!閣下!』
『な、なんだ!?』
『距離が近づくのですから、必ず当ててもらいます!そして、狙うのはあの腕を落とすように、良いですね!?』
国家元首になんたる言い分だが、自分も近づいた方がいいと言っていた為、ここでそれはダメだとも言えなかった(自業自得)
『化け物の腕は四対、八本。化け物が持ってる銃器を全部はたき落とせば!』
こんな時、両手が揃っていたならば、他人に任せずに自身の手で桂を守れるのに!なにもかもがもどかしい
829 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:46:40 [ u9FMJxgs ]
『ああ゛あああああーっ!!!』
剥がれた分身は心底救われたという想いだけを残して消えた。この生き物、といっていい物だろうか、に対して、その死は救いなのだ。無限の苦痛を味わうよりは
羨ましい・・・妬ましい・・・
そして残された者達に、より深くマリスの糧となる念を生じさせる
私は無実だぁあああっ!!!
出して!ここから出してよぉっ!
ダークエルフの女達だけではない。アポイナの塔に閉じ込めれていた者達の意識も封じられているのだ
より良い自由を求めて生きるイタリア人。とても仲の良い夫婦。人としての良性を見せつけられるのが彼等にとって、一番の苦痛と言えよう。もはや得る事の出来ない喜びなのだから
カキュン!バキッ!
また一人、塊から分離させられる。ああなればたとえ動ける状態であっても、普通に銃で撃てば倒せる。所詮は腐肉か、骨か、石でしかない
羨ましい・・・妬ましい・・・何故お前だけ・・・悔しい・・・
砕けば砕くほど、壊れて、その感情に忠実になる。目の前の憎い相手、それを破壊にかかるのだ
だから気付かなかった。自分が同じ箇所をまわらされている事に。外に繋がる全ての道路に塞ぐように戦車が展開した事も
830 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:48:11 [ O28l2xuA ]
『この区画は戦場になります!避難してください!』
ドゥーチェが自らの身体で引き付けている間に、市民達の避難が黒シャツ部隊によって行われていた
『そりゃ避難はするが、一体何が起きてるんだい?』
コロッセオの周回道路にある料理店の店主が、妻と共に出て来て聞いた。『わからん。だが、あの化け物が倒せそうなんだ、協力してくれ』
ブロロロロロ!!!
『いかん!みなさん中に入って!危険です!』
聞こえてきたエンジン音にその黒シャツは慌てた
『みなさん!私の店の中に!』
店主の好意により、急いで集められた市民達が逃げ込む。その直後、化け物を連れた車が現れた
ブオオォン!!キキィーッ!!
目の前の階段の段差で車が飛ぶ。同時に乗っている人間も身体が浮き上がっているのが見える
『ドゥーチェだ!』
ドゥーチェは浮き上がった状態に動揺せず(そう見えた)、銃を構えて
タン!タン!タン!
化け物に対して銃を撃ち放った
『すげぇ!あのドゥーチェが落ちながら戦ってる!』
そしてあっという間に車は過ぎ去っていった
『うおっ!まぶしっ!』
過ぎ去ったのを見越して、すぐさまライトをつけたトラックが入って来て、兵士を吐き出し離脱する
831 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:49:38 [ EixJOQD. ]
『では、行きましょう!』
吐き出された兵士はコロッセオの中に消えていく『一体どうするんじゃ?コロッセオが無くなってしもうたら・・・』
みんなで移動しながら、不安そうに爺さんが聞いた
『俺は聞かされてないけど・・・集中砲火だと思うよ、爺さん』
コロッセオからは、兵士の射撃を。戦車は、ぶつけてでも化け物を足止めする役割だ。本来ならもっと遠距離で撃つ方が良いのだろうが、流れ弾でコロッセオを破壊しまいとしたのだ
『俺も近くの生まれなんだ、ガキの頃からコロッセオは見てる。俺達も頑張るから』
ただの兵士一人に言える事はこれだけしかない
『頑張っておくれよ』
おばさんが声をかけてくれた
『はい!ありがとうおばさん』
『ああは言ったが、無茶して死ぬんじゃないぞ』
爺さんはそういって肩を叩く
『わかってますって。でも、みんなの家や店を守らないとだから。うん、ここからは向こうに仲間が居ます。それじゃっ』
『ちょっと待ちなさい』
行こうとする兵士を料理店の主人は呼びとめた。顔を皆と見合わせると全員が頷いた
『店や家は壊したって構わない、生きてりゃまた造れる。コロッセオだってね』
『みなさん・・・』
『帰って来るんだよ』
『はい!』
832 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:51:27 [ wslbeVyE ]
ムッソリーニは射撃の体勢から車がジャンプした事により、危うく転がり落ちるところだった
『閣下!』
『す、少しちびった』
さすがに車から放り出させる恐怖にはかなりなものがあったようだ
『腕は残り三本です、さあ!』
銃弾を渡す志摩
『畜生め・・・わしは元首なんだぞ、イタリアの・・・』
愚痴りながら銃弾を受け取る
『騎兵学校の戦車部隊から、あと10分ほどで展開が完了する。だそうです!コロッセオの方にも兵を入れてるみたいですし、もう少しです!』
アルが受話器を片手に振り向いた
『ただ、できるだけ足に打撃を与えておいて欲しい、と・・・』
走りながらの追い撃ちは効果が薄い上に外れ弾も多い
『どいつもこいつも注文ばかりしおって!わかったわい!』
銃の狙いを足の付け根の石の目へと向ける
『・・・銃弾もあちらは尽きたのか散発的にしか撃ってきません、いいでしょう』
志摩もここに至って同意した
タン!タン!タン!
『それで、避難は進んでるの!?』
桂はそちらの方が気にかかっているようだ。車が通っている間は化け物に見られぬように避難しているから当然ではあるが
『大丈夫、こっちの手で滞りなく行われているよ』
アルがウィンクする
833 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:52:55 [ O28l2xuA ]
『お前の手柄じゃないだろうに・・・』
こんな状況になっても口説くような態度は改めない・・・まったく、いい根性してるよ
『よし!弾があったな、砕けたぞ!』
実のところ、アポイナの塔で壊滅した部隊や、ヴァチカン前広場で逃げ出した黒シャツ部隊の射撃は無駄ではなかった。化け物を砕くことができなかった銃弾が化け物の体内に残り、ムッソリーニの放った銃弾によってさらに奥を貫く事が可能になった。ノミとハンマーの原理である
『ああ゛あああああーっ!!!』
砕けた事で、自重により足を一本失った化け物はバランスを少し崩し地面に滑り込んだ
『今だ!!!』
脇をイタリアの中戦車、カーロアルマートが急発進してすれ違った
位置的関係から、二台で化け物を挟みこみ(といっても、真正面にならないようにはしている)そのまま突進する
バガン!!!
戦車との衝突で残りの足の殆どが折れた。それでも化け物はうごめく
ギャリギャリギャリ!!!
カーロアルマートはキャタピラを鳴らして少し後退する。次の一撃を叩き込む為だ
『総員構えーっ!』
次の一撃とは、コロッセオに配置された兵士達だ
『撃てーッ!』
ドダダダダ!!!
銃弾の雨が降り注いだ
834 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:54:40 [ vEJ1auuw ]
この銃撃は効かなくてもいい、その場に釘づけにできれば・・・!
後退したカーロアルマートの砲塔が狙いをつけている。そのまま後退せずにゼロ距離のまま撃ちすくめつつ撃てばいいじゃないか、と思う人も居らっしゃるだろうが、その・・・カーロアルマートはイタリアンティーハーとでも言うべきか、ハッチ部は装甲が8oしかない・・・下手に銃弾
を受けては危険だったのだ
ドン!
カーロアルマートの47oが火を吹いた
ガコン!
腐肉や骨、石で構成されたそれに、カーロアルマートの弾丸を耐えることは不可能だった。そしてもう一弾が叩き込まれる
黒煙が、コロッセオの反対側に車を止めた四人の目に入る
『終わった・・・のかしら』
『終わってないと、困る』
『いやぁ・・・エライ目に合いましたね』
『わしはもう二度とこんな事は勘弁だ』
四人四様の反応を示す。何にしても、長い一日だった
タンタンタン!タタタ!!!
『残敵掃討に移ったな・・・』
無線機からはそういった内容の会話が流れてくる
『あたしは、前の方ばっかり見てたけどさ・・・』
『なんです?桂さん』
『あの化け物がさ、どこか、憎めなくて・・・なんというか可哀相・・・って』
835 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:57:08 [ vEJ1auuw ]
『あれがか?桂』
『うん・・・なんとなく、だけど』
これは欧州の二人にはいまいち理解できない感情のようだ
『化け物はともかく、わしは戻って休む!休むからな!』
何度もいっているがわしは国家元首だというのに、何故このような・・・
『そうもいってられないようですよ、ドゥーチェ』
アルが背後を親指で指す。振り向けば、市民の群れ
『こ、これは・・・!?』
たじろぐムッソリーニにアルは告げた
『イタリアとヴァチカンを救ったのはドゥーチェ、あなたなのですよ、自ら戦って』
どの場面に於いても、彼は銃を持って戦い、そして勝利した。市民は隠れながらも、それを目に焼き付けていたのだ。お誂え向きに、場所はコロッセオ
『俺達の街を守ったのは誰だ!』
アルが一度叫ぶだけで、答えはすぐさま帰ってきた
『ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!』
『お、おお・・・』
市民が段々と増えてくる。その全てがムッソリーニ支持者と化していた。そして彼等は、英雄の言葉を待ちわびていた
『わ、わしは・・・』
心を落ち着かせつつ、ムッソリーニは息を一気に吸い込む
『私、ことベニト・ムッソリーニは、我が身命をもってしても、我等がイタリアを守る!守ってみせる!』
836 名前:長崎県人 投稿日: 2007/04/30(月) 02:59:17 [ KYi//xS. ]
『いいぞぉー!ドゥーチェ!』
『ヴィーバイタリーア!ヴィーバドゥーチェムッソリーニ!!!』
この日を境に、バドリオ元帥派はその命脈を絶たれる。なぜなら、元帥はこの危機に何の手も打てないどころか、報告に上がってきた化け物の存在さえ否定して、家に帰ってしまったのだ。それをすっぱ抜かれ、元帥は退役してしまう
演説を始めたムッソリーニをよそに、残りの三人はその場を離れようとした。演説に引き出されては堪らない。長丁場になりそうだったからだ・・・今はただ、休みたかった
『あたし、シャワー浴びて寝るわ、手が汗でしわしわよ』
『俺も入って今日は寝る。手伝ってくれ』
『いいですね、私も同はn』
『『殺すぞ(わよ)!』』
『(´・ω・`)』
『そんな顔してもダメなものはダメ!つか、ダメに決まってるでしょうが!』
『まったく・・・怒りで胃が痛くなるのは久しぶりだぞ・・・』
あれが一体何なのか、これから何が起きるのか・・・こんな脱力な会話がかわせるのも最後かもしれない。そんな考えを振り払うように志摩は身体を震わせた
・・・考えるのはまた明日、明日は必ずどこの世界にもやってくるのだから