607  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:39:11  [  2aOBt6HQ  ]
米第一任務部隊、ペンシルヴァニア


『敵艦隊接近!四万ヤード(約37キロ)を切りました!』
電信員が報告する、まだ視認できる距離では無い、射出した水偵らからの報告だ
『そろそろ、だね。三万ヤード(27キロ)をあたりで、まずはやり合うよう遷移だな。まぁパイならわかっているとは思うが』
実際の所、もうキンメルにはすることが無い。艦隊の先頭は第一戦艦隊、ビック7のメリーランド級三隻が進み、そのあとをペンシルヴァニアらが単縦陣を組んでいるからだ。これは先頭に配置した有力艦を指揮官が有効に指揮活用する為と、敵の火力が集中するであろうかの艦らに司令
狽置いていては危険、だからでもある。合衆国海軍はビック7の彼等を編成からも十分に使う気であったのだ
『リー少将の艦はもうそろそろ撃てる距離に入りますから、さっさと撃たせろと言ってくるかもしれませんね』
ノースカロライナ級の二隻からなる第六戦艦隊は、まだ練度が不十分と判断され、戦艦隊最後尾に存在していた
『なに、我々もとりあえずは三万三千(30キロ)から撃ち始める。七千ヤードくらい我慢してもらってもかまわんだろう』
もっとも、視認も出来ない内から撃つような事を彼がするはずが無いがな  


608  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:41:52  [  e.yRiOXc  ]
いかに日本人があがこうが、火力の差という物理法則には勝てまい。マリアナ失陥は日本にとって最悪のシナリオだ、あちらも、戦況不利な中向かってくるしかなかったのだろう・・・ならば、戦力差を覆す為に夜襲を何故かけてこなかったのか疑問だが・・・我々が警戒していると見て
A出来なかったのか?そうであるならば、敵は慎重な指揮官だ。それとも、新戦艦の三隻がこれほどの劣勢を覆せるものと判断したのか・・・?
『いまさら航空機というのも信じかねる』
飛んでくるには時間がかかる、内懐に入る為、我々に混乱を与える為には(勿論、航空機に戦艦を撃沈できるとは思えないが)接敵前に一撃を与えなければならない。あといくらかもすれば砲撃戦が始まり、来るのが遅くなれば遅くなる程、肝心の突入戦力がすり減らされるのだから
『敵艦隊!同航に入ります!距離、三万八千(35キロ)!!』
キンメルの顔が歪んだ、哀れむような、蔑むような、そんな顔だ
『長官、これは』
マクモリスが驚いた顔をする
『まったく驚きだよ、偵察機があるとはいえ、日本人はこの距離で砲戦をやるつもりだな』
なんたる愚策、あまりに遠距離過ぎ、あまりに非積極的である
『弾の無駄遣いをしてくれるらしい』  


609  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:44:13  [  XK2obbq6  ]
武蔵


『観測機との連絡を密となせ』
三万五千、この距離はやっとまともに働くようになった射撃用電探の使える距離では無い、ようやくトップで敵艦のマストが見えるかどうかの距離だ
『砲術、大和無く、同調射撃が出来ぬとあっては、それほど期待してはおらん』
他にも言いようがあるだろうに、宇垣が言った。だから気を楽にしろ、といった意味なのだろうが、人に対する言葉(態度も)が足りないのである。だから、黄金仮面と言われるのだ・・・宇垣は戦隊司令も兼ねている為、続ける
『目標、先頭のコロラド級、紀伊、尾張の二艦は二番艦を射撃せよ』
武蔵は単艦で、紀伊と尾張は同調射撃により敵を狙うのだ。この距離から撃ち始めるのは16インチ砲艦の第二戦隊、長門と陸奥を合わせたこの五艦である。長門と陸奥はコロラド級の三番艦を狙う、伊勢はさすがに最大射程ギリギリな為、この射撃戦よりは外されている。分隊司令にな
チている伊勢艦長の黛君はフラストレーションが貯まる事だろうが、仕方ない。敵の射程外から撃つことが必要なのだ、最初から敵の火力に押し潰されぬ為には

ゴロンゴロンゴロン

石臼を挽くような音をさせながら主砲塔が旋回する。そして砲身がうごめいて微調整  


610  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:47:06  [  O28l2xuA  ]
宇垣の試算としては命中率は0.5%でも構わないと思っていた。同調射撃装置のおかげで、紀伊と尾張、長門と陸奥はそれぞれ16インチ24門艦と16門艦として計算できる。紀伊と尾張なら約八斉射で命中弾がでる計算だ。それから、この遠距離からの砲撃だ、命中弾は大落角で敵の甲板に
落ちる、まず抜けると思っていい。普通の撃ち合いとして、廃艦所要数なるものが扶桑を前提として組まれたが、これが大和級の18インチで九発、だがこれはあくまで普通の撃ち合い、全て大落角の砲弾で考えている訳では無い。戦闘力を失わせるにはもっと少なかろう
前提としてこれを六発としておく。この六発が敵艦に突き刺さるのに必要な斉射数は50斉射、50分の砲撃、これまでに長門と陸奥は四発、この武蔵は二発を敵艦に命中させていることになる。50斉射ということは、弾庫の半分が空になる計算だ
『確率の問題である以上、当たる当たらぬは運次第、だが米海軍よ、その50分、貴様達に耐えられるか!?撃ち方始め!』
『撃ち方始め!!』
宇垣の命令とその復唱、その後ブザーが三回鳴らされた後、数瞬

ドドドドドドドドド!!!

我に平れ伏せよ

我に平れ伏せよ

今ここに、18インチ砲弾の雄叫びを聞け!  


611  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:48:47  [  cnmf7h96  ]
米第二任務部隊、コロラド


『落ち着け、あたりはせん』
E・パイ中将は静かに言った。艦は人を作るという。戦艦のような大艦に乗っていると、おのずとどんとかまえ、何事にも冷静さを崩さないような態度を培うようである。日本の艦隊から予想外の遠距離発射を己に受けても、パイが示した反応はそれだけだった。指揮官がそうであれば自
Rと部下にも姿勢は伝わっていく、その弾着が全て遠弾ならなおさらだ
『いかな巨砲を保持していようが、乱射して弾を失ってはなんの意味もない』
ましてや我々は数に勝る。一隻に多くを費やしては後につかえる。ま、近づいて来ても袋だたきだが
『我々は耐えるだけでいい、腕を賦して待つのだ。敵が近づかねばならぬその時まで』
加えて言うなら、砲の摩耗も馬鹿にならない、すり減ったライフリングは砲弾の安定性を失わせる。耐え忍んだ後の砲戦は、さぞ愉快な事になるに違いない
『諸君、まずは殴られてやろう。殴られたならば、何倍にもして返す。ボクシングの基本がそれだ』
パイは不敵に笑った、合衆国海軍の戦艦ではボクシングが甲板でよく行われる。パイもよく行わせ、観戦してきたものだ。しかし、武蔵に対し殴られてやる、は相当パイも剛毅である  


612  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:50:57  [  t4UopWMg  ]
武蔵、主砲射撃指揮所


『ベタ金どもめ・・・』
今現在、怒っている彼がパイの言を聞いたならば、さらにその怒りの度を増していたことだろう
『期待していない、だと?』
たしかにこの遠距離、砲撃戦としては類を見ないものだろうし、ベタ金、宇垣中将が言うのも、考えはわかる。十数門で一目標を連携して撃った方がいいに決まっている。だが、期待していないとはなにか!

ドドドドドドドドド!!!

第二斉射が観測機からの無線で修正され放たれる。あのベタ金は我々の運用能力を信用していない、かつてドイツに居たと聞く。そこで冷徹な数値を見るだけの人間に磨きがかかったのだろう。ふざけるな!俺達主砲射撃指揮所、しかも栄えある第一戦隊の内、二隻しかない18インチ砲
ヘの武蔵に勤務する我々が、どのように血の滲む鍛練をしてきたかご存知無い
『我々職人を・・・培ってきた技術を・・・なめるなぁあああっ!!!』

ドドドドドドドドド!!!

見せ付けてやる、熟達した兵員が、どれだけの技量を見せるのかを、この18インチ砲の砲弾で
《・・・第三射、遠、遠、近、近、遠、近、遠。挟叉!いいぞ、そのまま撃て!》
『よぉっし!』
俺達が、敵戦艦を叩き潰してやる!  


613  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:53:10  [  /9tm..U.  ]
同艦、昼戦艦橋


『挟叉?三斉射でか?』
宇垣は思わず聞き返す、まだ紀伊と尾張、長門と陸奥の二組による同調射撃は未だに挟叉弾を得ていない、だというのに、一艦単独で射撃しているこの艦がもう挟叉を得たのだ、聞き返したくもなる
『第四斉射弾着!・・・挟叉です!』
武蔵が放った第四斉射も挟叉を得た。偶然が重なり過ぎている・・・いや、これは完全に補足したと言っていい。宇垣はうなって、褒めの言葉を忘れていたのに気付き、伝えた
『砲術、ただいまの射撃、見事である』
これは完全に良い方向で予想外である。命中率が0.5%から1%になるだけでもだいぶ違ってくる。同じだけのダメージを与えるのに25斉射。弾庫の具合いからも、大変によろしい。米艦隊にたいしての圧力もその重みを増すであろう
『観測機から無線、米艦、回避行動開始!』
米艦は撃たれるだけで撃てないならばその選択肢もよかろう
『距離を詰められぬよう報告を密にせよ』
『敵三番艦挟叉!』
今度は長門と陸奥のペアが挟叉を得た。最大射程に近いというのによくやる。むしろこうなると、弾数の多い割に、紀伊と尾張の射撃精度が落ちるのが疑問である。それなりの練度のものが配置されているはずだが・・・  


614  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:56:07  [  mkePZZZM  ]
武蔵の主砲射撃指揮所に居る連中なら、こう答えただろう。
紀伊と尾張はまだ就役して一年と少しであるが、まだ砲弾のデータが揃い尽くしていなかった。金剛・扶桑・伊勢の三クラスは同一主砲で長い実績があり、長門や陸奥も、異世界に於いて改装後の加賀級の主砲塔でさんざんぱら撃つ機会があった。大和級の武蔵も建造から六年、射撃もよ
ュ行ったし、油の乗り切った時分だ、差が出るのも無理は無い。しかし、一般の人間が考えるなら、結局は長門と同じ16インチ45口径ではないか?となるだろう
だが、違うのだ。紀伊と尾張に搭載された砲は、もともと大和の様になるはずでは無かった金剛・扶桑級代艦で建造する16インチ砲艦、その搭載する主砲の90式16インチ主砲である。最大射程距離は38400、まわりまわって金剛代艦として復活したこの紀伊級に搭載したはいいが、ま
だ熟成したとするには早い砲なのだ・・・あるだけで使えるなら、試験した事のある19インチ(最大射程44000)20インチ(最大射程48000)を使ってもいいはずである。だが、現実はそうでは無い。それが全てである
『カタログデータが全てでは無い。人の力こそが!』
そんな血の滲むような職人達の声が聞こえてくるようである  


615  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  19:58:38  [  jqMmKaZo  ]
米第一任務部隊、ペンシルヴァニア


『挟叉、だと!?』
宇垣と同じような呻きをキンメルは漏らした
『・・・相当に敵は遠距離射撃に腕を磨いて来たようですね』
マクモリスは下唇をつよく噛みしめている
『水偵を呼び戻せ、上の観測機を追い払う!』
キンメルは命じた
『しかし長官、それでは我々の砲撃の際に支障が・・・』
航空参謀の言だ
『撃てない主砲に意味は無い!観測ができなくなれば敵の射撃精度は落ちる。近づいて来ざるを得なくなる、そうなれば逆転できる!』
そうそう日本人の好き勝手をさせるものでは無い!
『砲撃は確率の問題です、まぐれも有り得ますが』
マクモリスが気を取り直して進言した
『いや、日本人はここを勝負所、と考えている。でなければ戦艦7隻で11隻相手に昼間砲撃戦など挑みはしない!』
そうか、正確な観測が必要なのだ。遠距離射撃にたけた彼等でも、見えない場所まで撃てはしない!キンメルは日本人が行った行動の謎が解けたように思えた
『海戦に、最初から正念場でいかんという法は無い!』
ならば我々のすべき事は一つ
『敵に近づく!彼等は距離を取る気だろうが、そうはさせるか!巡洋艦戦隊、駆逐戦隊を前へ!敵隊列を掻き回せ!』  


616  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:00:00  [  25Xn9yoU  ]
第三任務部隊、アストリア


このキンメルの命令が出された時点で、太平洋艦隊がこの場に用意した巡洋艦は二十一隻を数えた。十二隻の日本側よりも大幅に有利、と言えた
『精密な遠距離射撃、ね・・・』
確かにこれを続けられるなら、日本側はやれそうではある
『スプルーアンス司令、第一任務部隊と第二任務部隊の艦が向かっていきます。我々にも命令が出ました。司令、我々もいきましょう!』
ムーアを無視してスプルーアンスは考えている
キンメル長官は我々が日本人的な戦術行動をとっている事に気付いているだろうか?軽速部隊による突入で発生した混乱を利用し接近、陣形再編等に戸惑って居るうちに火力投射を行う
『日本人達はこのやり方を熟知している筈だ』
やすやすとこれを通らせるだろうか?
『スプルーアンス司令!』
『まさか、いや・・・有り得る。となれば・・・っ!いかん!これは日本人の仕掛けた罠だ!』
我々が日本人の基本戦術をとっている、ならば、合衆国海軍の戦術を日本側がとった場合!
スプルーアンスが思い至り、叫んだその時、ウェストバージニアに着弾の閃光が走った、状況を一変させる閃光が

今、太平洋艦隊は帝國艦隊の顎に捕らえられようとしていた  


617  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:01:44  [  XK2obbq6  ]
第一水雷戦隊・第11駆逐隊、島風


『ウェルカム、米海軍のお歴々』
艦隊駆逐艦の決定弾と言われ、配備された島風級駆逐艦、その八隻で、ネームシップとなった島風に、かつて第二十一根拠地隊、筑紫の艦長を勤めていた一支は存在していた。彼は根拠地隊の司令から三年の時を経て、第一水雷戦隊の第11駆逐隊司令(隊番号の十の位は水雷戦隊の番数、一
の位は構成する駆逐隊の番数である)に抜擢されたのだ
『対馬ぁ、タイミング外すなよ?』
隊内電話を取る
『うっさい!二水戦の奴らに合わせるのに必死なんだこっちは!』
聞き慣れた声が聞こえる。実は対馬も第12駆逐隊司令に抜擢されてたりする

現在、水雷戦隊は島風級二隻、秋月級二隻、陽炎・夕雲級四隻の八隻の二個駆逐隊で構成されていて、一支が指揮するのは島風・秋月のグループ、対馬は陽炎・夕雲のグループを受け持っている
この決戦に参加した四個水雷戦隊は、二個水雷戦隊ずつの二列縦隊で第一戦隊ら戦艦部隊、第四戦隊ら巡洋艦部隊のあとに続いていた。先程、米巡洋艦部隊が動いたのを隊旗艦の阿賀野から知らされ、対馬の第12駆逐隊と二水戦の第22駆逐隊が魚雷を放ったばかりである。すべて陽炎・夕
_級であるから、射線数は64だ  


618  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:03:44  [  BWp6c0w2  ]
しかし、何故水雷戦隊がこんな形になったのかは、防空火力の必要性と魚雷発射管数が関係している。秋月級は対空火力はあるものの、魚雷発射管は一基しかない、それを埋め合わせるのが五連装発射管三基を持つ島風、という訳だ。しかしそれで水雷戦隊を統一する事には至らなかった
B島風には次発装填装置が無いからである。経戦能力に限れば、一つ前の陽炎・夕雲級より劣っている。簡単に似たような編成を探せば自衛艦隊の汎用DD的な役割を彼女達がになっていると言えばわかりやすいであろうか
『米巡はおのおの30ノット、駆逐艦は35は出るが他艦に合わせるだろう。米艦の魚雷の射程を一万五千として(実際はこれより無い)絶対防衛線と為す』
つまり、敵は二万五千の距離を詰めねばならない。実際は我々も航行中であるからもっとかかる、二十五分は堅い、この間、魚雷を途切れぬよう投射するのだ
『艦長、定時だ。やれ!』
『魚雷、撃ち方始め!』
『てぇっ!』

シュポ!シュポ!

圧搾空気によって魚雷が射出されるのが聞こえる。今度は76射線、今つけた時間差が、敵が我々の魚雷を見つけ、回避運動をして再突入を始めようとした所に襲いかかる
『第二十一駆逐隊射出!ドンピシャです!』  


619  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:10:49  [  FOuc4Za.  ]
さて、また次は対馬らが次発装填して64本の魚雷が放たれる・・・つまりは、だ二個水雷戦隊で三波、この艦隊では合計六波の魚雷が突入してくる米艦隊のお歴々を出迎える訳だ。まったく、よくいらしてくれた、ウェルカムというのは冗談でもなんでも無い
おっといけない、我が軍は巡洋艦にも魚雷を搭載し、次発装填装置がついている。一波に最上級が24発、高雄・妙高級が32発、阿賀野級が32発の合計88発これが二回だ。ま、これは最後にとっておきとして最終防衛線にかかった時に放たれる手筈になっている。しかしまぁもったいなくは
る、これは皆全て敵戦艦を食うためと整備して来たのだから
『わざわざ夜襲を捨てて、格下のてめぇらを阻止する為に温存してやったんだ。歓迎するぜ、たんと味わいな!』
総投射魚雷数、八波、584本。この全てを防御に使ったらどうなるか、何故今まで誰も考えていなかったのだろう。なんとも愉快な状況だ。この策を水雷戦隊の面々に言いに来た宇垣中将は言ったものだ
『諸君らは魚雷という槍をもって、敵の大将たる敵戦艦を討ちに行くつもりだろうが、今決戦は違う。戦艦は我々がなんとかする。諸君らは我々に襲いかかる騎馬武者を突き破るパイクであって欲しい』、と  


620  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:13:39  [  qolO/Z6Q  ]
第一戦艦隊、ウェストバージニア


愉快な状況、それは日本側にとってであって、ここでは修羅場が展開されていた
ウェストバージニアは第一戦艦隊の三番艦としてこの決戦に参加していた。彼女は彼女自身のライヴァルである長門級二隻から射程外より撃たれていた。その時戦艦を射撃していた五隻の戦艦のうち、長門と陸奥が最古参であるが故の正確さで五斉射目で挟叉を得たあとの三斉射目、第八
ヒで16インチ砲弾をその身に受けたからである。
命中確率128分の1、0.8%可能性が彼女を捉らえたのだ。捉らえた場所は第三砲塔、米戦艦はいうなればずんぐりむっくりな形をしていて、比率から言って日本艦より太い。三連装砲塔を搭載する艦が多いからでもあろう。190mしかない船体で命中弾を受けるということはその間に何か
しらの物が存在するということであり、計画時14インチ砲の三連装を予定していて大きく幅を取る砲塔は被弾する可能性は大きく。そして実際に被弾した
コロラド級の主砲天蓋がもつ装甲は127mm、三万五千の距離で16インチ砲弾が貫く装甲は200oを越える。耐えられる筈がなかった。天蓋を抜けた砲弾はその中身を破壊しつつ落下、揚弾器の途中で信管を彼女の体内で作動させた  


621  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:15:50  [  zIQO46G.  ]
爆発は彼女の弾庫まで被害を及ぼさなかった。最悪爆沈していた可能性もあったが、その代わり行われた緊急注水によりウェストバージニアは速力を落とさざるを得なくなった。砲塔は爆発の衝撃により台座から外れてしまい、勿論使用不能である

なんとかしてくれ!

そういった苦情・・・懇願といってもいい。が、コロラドのパイ中将に届くのも無理は無い、全く抵抗できない上で撃たれ続けて平静で居られる人間なぞ、そうは居ない。パイ中将自身は18インチ巨砲の乱打を、さっきのはまぐれだ、当たらないと思う事で耐えていた。そんな中、当て
轤黷ス!どうにかしてくれ!と、わめくウェストバージニアの艦長は耳障り過ぎた。いきおい、第二任務部隊所属の巡洋艦部隊に対して、敵隊列への妨害を急かす声は大きくなった
第一任務部隊、全ての部隊の長でもあるキンメルもまた、ウェストバージニアの被弾で配下の巡洋艦らを突入させる事を急かしている。何の事は無い、第一戦艦隊、第二戦艦隊と並んでいる位置関係を考えればいい、ウェストバージニアはペンシルヴァニアの目の前で被弾したのだ。観測
@の観測阻害を命じ、あともう少しで敵の砲撃は精度を失う、戦力維持を考えるなら、焦るのも無理は無い  


622  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/29(木)  20:27:03  [  wslbeVyE  ]
巡洋艦部隊の指揮官らも、この戦局を変えるのは俺達だ、と意気込んでいた。誰もが変化を望んでいた。
唯一スプルーアンスは先に内南洋に展開し、輸送船や工作艦がやられていたことで魚雷に対する警戒がまず頭に入っていた事と、第三任務部隊として、部隊が別れ、指揮系統がキンメルが上にあるもののまだ自由にやれた、これが大きかった。だからこそ


だからこそ、ブルックリン級の一艦、フェニックスが水柱によって艦首を真っ二つに折られたことを端緒とする【最初】の悲劇には巻き込まれずに済んだのである


帝國海軍がイニシアチブを握ったまま、まだまだ日米両海軍の死力を尽くした決戦は続く・・・  


631  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  00:49:53  [  2FpTlyyE  ]
第五巡洋艦戦隊、ノーザンプトン


『なんてぇこったい・・・』
ノーザンプトンの艦橋からスタントン・メリル少将は呟いた。先行しているブルックリン級のフェニックスが、魚雷の一発で艦首を叩き折られたのを見せ付けられたのだ
『見えない上にあの威力かよ!』
見張りがぼやくのも無理はなかった。彼等がそれを見逃せば、その威力を身を持って味あわされるのだ
『・・・』
見張りは海面に向けて双眼鏡を滑らせる。発見さえ早ければ避けられる。避けた後はお返しとして盛大に撃ちまくってやる
『右舷に魚雷!距離五千!一本です!』
いくら酸素魚雷であっても、いくらかは内包してしまう窒素と、溶けきれない二酸化炭素は航跡として現れる。注視してみれば、見れない物では無い
『見張り、よくやった!艦長!』
メリルが汗を拭う、英海軍が報告してくるだけはある、厄介だなこいつは
『艦首向けます!面舵一杯!』
艦長が頷いて航海長に命じ、頷いて航海長は舵を回した

ズババババ

『うおっ!?』
突然の水柱にメリルは手摺りを掴んだ
『敵の魚雷の暴発か!?』
敵艦隊への距離はまだ二万七千、いくら敵の重巡でも撃てる距離で無い。そこに最悪の報告が届いた
『戦艦です!』  


632  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  00:52:46  [  vmEEgS4w  ]
第二戦隊第二分隊、伊勢


『避けろ避けろ、当たれ当たれ!』
メリルのノーザンプトンに砲撃を放ったのは伊勢と日向の二艦だった。彼女達の指揮官である黛大佐は、相反する二つの言葉を口走っていた
『パイクには敵の勢いを食い止める置き石が必要だ、その置き石というのは俺達の事だ!』
彼はかなりフラストレーションが貯まっていた。決戦に於いて戦艦を指揮しながら一発もぶっぱなせていない。そんな所に米巡洋艦部隊が突っ込んで来たらどうなるか。嬉々として射撃命令を出したものだ。勿論、それを見越しての宇垣中将の作戦だったし、第二戦隊司令の松田中将も好
ォにやりたまえと言ってくれていた
『避ければその海域に位置する時間が長くなり、突き進めば命中確率は高くなる』
避けろ避けろ、当たれ当たれ!とはそういう意味だ。ましてや伊勢と日向は12門艦、同調射撃装置付きで精度も古いが故にデータが揃っている。戦艦にとって二万七千やそこらは丁度良い砲戦距離でしかない
『命中です!敵甲巡真っ二つに折れました!』
艦首をありえない方向に向けて折れている。14インチ砲弾が数発も当たれば巡洋艦ではどうにもならない
『次の目標を狙え!敵はまだたんまりおるのだからな!』  


633  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  00:55:23  [  7ctwgltA  ]
ブルドックのような顔を黛は歪ませる、笑ったのだ。巡洋艦の数はあちらが三倍近くある、いくら魚雷を投射しようが漏れは絶対出るだろう。戦艦をやる前の試し斬りだ、さんざんぱら斬り捨ててやるさ
『命中!敵ブルックリン級乙巡に命中です!大火災!行き足止めました!』
目標を修正して三斉射、今度はブルックリン級の一艦が艦上構造物を綺麗さっぱりなぎ払われて炎上しだした。三斉発、72発に数発、命中は3%といったところか、斉発ならこんな物だろう
『交互射撃始め!日向にも伝えろ!』
斉発は交互射撃よりも50%程命中が悪化するといわれている、当たれば斉発は数発の命中が多く期待できるが、この局面なら、交互射撃で一発一発確実に当てて行った方がいい、なにせこいつや、日向は戦艦なのだから。その砲弾の一発や二発食らえば巡洋艦なぞ大破確実だ
『よぉし・・・次は』
どれを狙うか戦況を見る。勇気を持って直進してくるやつ程狙わなければならない、そしてそういうやつ程手強く、厄介なのだ
『おっ!?』
こいつだ!と思った甲巡が連続で被弾し、横倒しになった。第四戦隊の白根と鞍馬の射撃だ
『いい所をうまくやっておるわい』
教官の頃に付いた癖で黛は二艦の射撃を評価した  


634  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  00:58:51  [  mkePZZZM  ]
第四戦隊、白根・主砲射撃指揮所


『がーっはっはっはっ!!遠近良し、挟叉じゃ!主砲、てーっ!!撃って撃って撃ちまくれぇ!』
禿げた頭の血管を浮き上がらせ、拳をふり上げては身体全体で喜びを表現している、禿げた頭の砲術長、特務大尉の吾妻(あの扶桑で、機銃群の一つを統制していたおっさんだ)がハイになって吠えていた
『ああもう、主砲の射撃音よりうるさいのは勘弁してくれ・・・』
肩を落とすのは新城、もはや腐れ縁のように吾妻と彼の勤務は重なってしまうようだ
『伝令!伊勢艦長より第四戦隊の射撃、見事なり、です!』
伝令が入って来て伝える
『よーおっし!!』
対馬丸事件で息子を失って以来、復讐戦の舞台となった扶桑で生き延び、数少ない大規模戦闘の経験者として海軍に奉職するしかない自分が、ここぞという所で役に立てている。この昂揚を得ることは、退役を間近に控え、もはやあるまい。ここで燃え尽きると決めたのだ、わしは
『さぁ次だ新城君!』
『は、はい!』
指揮装置をまた別な目標へと指向させる、この超甲巡、敵の優勢な巡洋艦戦力を撃ち倒すがために生まれてきたのだ。その存在証明を果たすために、米巡洋艦部隊は撃ち倒されねばならないのだ・・・!  


635  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:05:11  [  /9tm..U.  ]
白根の12インチ砲が猛り狂う、白根も交互射撃に移行しているため、今回は六門が火を吹いた。続けて今度は三門が
試製乙砲、白根と鞍馬と彼女達が装備する大剣に付けられた最初の名称はそれだった(甲砲の方は有名な紀伊の最初期計画案の20インチ砲である)日本海軍として珍しい五十口径の砲身に重量弾(射程が通常弾より落ちるが、完全に射程内に入ってる為、白根らだけでなく、伊勢や日向もこ
れを使っている)が撃ち出される
一隻一隻、魚雷の間隙を突いてこちらに突っ込んでくる巡洋艦を狙い撃つ、魚雷を避けることで(勿論当てられる事で)各個撃破の形を形成するのだ
でなければ二十一隻もの巡洋艦と三十六隻もの駆逐艦を食い止めきれる物では無い。魚雷の命中率は5%を予定している。かつての夜戦想定で15%、昼間決戦で10%を言っていた時期からは控え目な命中率と言えよう
5%、一波の魚雷が60を割ることは無い、つまり、確実に三本の魚雷が命中し、一隻か二隻が脱落する。六波の水雷戦隊の雷撃が終わった時点で十隻近くは脱落している。魚雷だけで、そして戦艦、超甲巡各二隻の巨砲による正確な中距離火力支援。離脱するにも、踏み込んだ同等かそれ以
上の時間を必要とする。まさに最悪だった  


636  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:08:04  [  2lSfKk9s  ]
第五戦隊、最上


『まさに地獄の大窯じゃの』
第五戦隊は水雷戦隊指揮官から、順当に位を上げてきた水雷屋、田中頼三中将が指揮をとっていた。ここまで来て、戦隊司令が中将?と疑問に思う人は居るかもしれないが、異世界における統轄地域の拡大、海防艦ら艦艇への兵員拡大、諸国王への謁見その他典礼参加のため、軍艦長・戦
熬キの階級上げとその人員維持といった状況の変化は、帝國海軍をしてこのような形にして落ちつかざるを得なかったのだ。違和感はあるだろうが、我慢していただきたい
『敵巡撃ち方始めました!』
閃光が林立する水柱の向こう側からキラリと輝いた
『残念ながら、当たらんよ』
田中は哀れむような声で一人ごちた。彼等が何故こちらに突入しようとしているか考えてみれば良い。こちらの隊列を、回避でも撃沈でも良い、で乱して、主力戦艦隊の突入と敵戦艦の射撃精度を低下させること。である
ならば、自身が回避しながら、最大射程(現在、敵巡洋艦及び駆逐艦部隊は、その先頭が二万四千から二万七千の距離まで接近していた)に近い距離で、戦艦の主砲弾より軽い(状況に作用されやすい)砲弾を撃って当たるのか?当たるはずがない
『当たるのは日頃の行いが悪い奴だけだ』  


637  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:10:12  [  2aOBt6HQ  ]
米海軍の巡洋艦のうち、甲巡はその射程距離が29000程、重量弾を使うならば射距離は2000程短くなるが、まぁ射程距離内に入っていると言えよう。乙巡の場合、24000であり(SHS)、これは本当にギリギリの距離である
『砲術、敵甲巡を狙え、無理に接近してくる勇敢な馬鹿は、伊勢や白根が始末してくれる。敵の反撃能力を潰すぞ!』
そして伊勢に乗っている黛さんらが良くわかっている砲撃を続けてくれていた。魚雷を無いものとして考え、強行突破して来る奴だ。これが突破して、有効な射撃を始めたとしたら・・・
篭城戦と同じだ。敵兵の方が数が多く、城内に敵が入り込み始めたら、我も我もと勢いづいて敵は突っ込んでくる。慎重に避ける冷静な臆病者達が、勇敢な馬鹿になれるのだ。そうなると歯止めは効かない、乱戦になる。隊列は乱れる、という訳だ。勝敗の境目はそこにある

ドドドドド!!!

最上の8インチ砲が発射される。敵巡よりはずっと条件が良い、米側の弾よりは当たりやすかろう
『あとは・・・』
田中は遠目に敵主力を眺める。一際高い黒煙が立ちのぼっていた。こちらの主力がなにかやったようだ
『来るのであれば、最初から全艦艇で突っ込んでくるべきだったな、米軍さんよ』  


638  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:14:39  [  zIQO46G.  ]
第一任務部隊、ペンシルヴァニア


『巡洋艦部隊、苦戦しています!』
戦艦まで使用しての阻止砲火
『長官、あれでは』
あまりに損害が大き過ぎる。マクモリスはそう進言しようとした
『いや、突破されてはまずいからこその、あの分厚さなのだ!』
しかしキンメルはこの状況で確信を得てしまっていた。これ、と決めてしまった心理状態から抜け出すことは難しい。しかし、朝礼暮改で前言を翻すのも指揮官としてどうか、という問題もあるので難しい話ではある
『スプルーアンスの考えはわかる。だが、その罠を喰い破って貰わねば困るのだ』
十分な戦力が太平洋艦隊にはあるではないか!躊躇って突入しない、という事の方が問題だろうに、スプルーアンスはそこがわかっていない!
『敵戦艦が邪魔だ、というなら・・・そうだな、第六戦艦隊。リー少将を付けよう。練度が多少低いかもしれんが、28ノットの速力があれば巡洋艦戦隊に追随はできるだろう』
イセ・クラスにはけして撃ち負けぬだけの性能は保障できる
『魚雷はいずれ切れる、火力さえ保持出来るならば、必ず抜ける!』
マクモリスが何か言おうとした、その時

ズグゥアーン!!!ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

爆音が、彼等を遮った  


639  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:18:35  [  CDVnjlgM  ]
確率、というのは残酷だ、何事にも可能性は発生している。もしも、もしも何かが足りなければ、もしくは何かが足りていれば。
大日本帝國が異世界に転移していなければ・・・熟練した大和級などという化け物と戦う事もなかった

コロラド級、その長姉であるネームシップのコロラド。遅れていた近代化改装をようやく済ませたばかりの彼女。武蔵から放たれた第十七斉発、その内の二発がその身体をえぐった。153分の2、命中率1.3%、第三・第四斉射で挟叉を得てからおおよそ十分、ようやくの命中弾である。この
時点ではけして高いとは言えぬだろう

問題は抜けた砲弾である。ウェストヴァージニアが被弾した時にとつとつと述べたが、米戦艦の短い艦の長さ、広めの砲塔(あくまで比率で、だが)被弾した場合、重要箇所に当たる可能性は高い、無論短いからこそ被弾面積は減り、重防御を施せたのだが、それは14インチ砲艦としての
bだ。対抗の長門級どころかもう一ランク上の大和級の砲弾、抜けたらそこにあるのは危険な箇所が詰まっている。とも言えるだろう
そこへ高落角の角度を付けられた二発の18インチ砲弾が落下し、約1.5トンの砲弾は、彼女の全ての防御区画を貫いて、その奥深くで力を解放した  


640  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/31(土)  01:25:34  [  7mGOixHY  ]
第二砲塔下の弾火薬庫、コロラドの心臓であるバコック&ウィルコックス社の重油缶室、どちらも彼女が生き残るには致命的な箇所である
『艦の保全をっ・・・!!!』
最優先に、と、パイが艦長に伝えようとして、伝えられなかった。艦がまるで浮き上がるかのような衝撃を感じ、そのまま艦橋にいた全員が意識を天の御座、その右側に送り込まれてしまったのだから
コロラドは艦の前部の上構のほとんどを吹き飛ばされ、爆煙を艦の奥底から噴き上げた。それでもすぐに沈まないのは流石は米艦とも言えよう、それが後部で生き残っていた米兵達の命を助けることに繋がった。

キンメルらの会話をとぎらせ、田中が見た爆煙とは、この光景だった訳だ

最悪の可能性、可能性はどこにでも潜んでいる
キンメルは一早く表情を整えた、おそらくは艦橋に居た皆が呆けたような顔をコロラドに向けていた筈だから。隊列を、敵隊列を乱さねば!

『第六戦艦隊に突入を命ずる!メリーランド艦長は指揮を受け継げ、コロラドを回避する!各艦へ警告!いいな!?』
幕僚達に投げ掛ける、マクモリスを始め、キンメルに意見する者は居なかった。コロラドの死は、彼等から議論を重ねる余裕と時間を奪ってしまったのだ  


651  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  08:58:30  [  bBlcovoo  ]
第三任務部隊、アストリア


『くっ・・・』
キンメルの再度の命令に、ここで始めてスプルーアンスの顔が苦悶に歪んだ。ダメなのだ、むやみに艦を動かしては、特に、速力があっても、全長の長いノースカロライナのような戦艦を投入しては、魚雷のいい餌食になる
『しかし司令、このまま抗命し続けますと・・・』
ムーアが心配そうに言う、彼はスプルーアンスに全幅の信頼を置いているが、軍令には従わなけばならない
『確かに火力は欲しい』
ここまでの時間に、突入を行った部隊は十三隻が失われ、大損害を受けている。
正確に述べると、魚雷によって五隻(フェニックス・ポートランド・デトロイト、駆逐艦二隻)砲撃によって八隻(ノーザンプトン・シカゴ・サヴァンナ・ヘレナ、駆逐艦四隻)他にも、被弾している艦は多数に及ぶ。こういった状況を引き起こしたのは敵が戦艦まで使って火力を投射したか
轤セ。これに対抗するのに、戦艦が欲しいというのはわかる。確実性から、16インチ砲艦で速力のあるノースカロライナらを投入するのは採られてしかるべき策だ
『だが時期尚早だ、魚雷が切れるまで待つのだ、それまで待てば、第六戦艦隊で押し切れる!突入した部隊には気の毒ではあるが・・・』  


652  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:00:01  [  ibELFYCQ  ]
スプルーアンスの推論は、敵の動きと編成から魚雷攻撃を五波程であろうと考えていた。味方の被弾と回避状況からして、現在は4波が抜けた所である。キンメルにあと一度、あと一度だけ我慢して貰えれば、魚雷は切れる。しかしキンメルら太平洋艦隊司令部は損害の大きさに待てない
ニいう
『・・・仕方あるまい。本部隊は第六戦艦隊の前に出る、あと一波。我々が盾になることでリー少将らを無傷で進出させ、本海戦を有利に導く』
彼が、いや、米海軍が日本海軍の持つ次発装填装置の存在を知らない、というのが次なる【悲劇】の幕開けとなった・・・しかし、その悲劇にもまだ前座が残っていた
スプルーアンスは第六戦艦隊、ノースカロライナのリー少将に回線を繋いだ
『リー少将、我々が周囲の護衛につきます。時間はかけませんから少し速度を落としてもらいたい』
既に二艦はキンメルの命により、沈み行く艦と水柱が林立する魔女の大窯へと歩みを始めていた。命令系統に挟む物が無いからだ
『了解した、だが、急いでくれ。これ以上やつらを好きにはsザザッ』
リーとの会話が途中で途切れる
『っ!どうしました!?リー少将!』
代わりに見張りが答えを伝えた
『ノースカロライナ、被雷!!!』  


653  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:03:23  [  .V7VR5C.  ]
時に、日本は貧乏である。貧乏である事が幸いする事もまたあり得る。日本海軍が保有する九三式酸素魚雷、そしてその改型の五式酸素魚雷(史実の九三式三型をお考え下さい)今回五百数十本の魚雷を揃えたが、新型の五式は次発装填装置に入っている分が殆どで、初撃からしばらくは初
型の酸素魚雷(勿論試射等はしているので鈍化はばっちり終わらせている)だった。
つまり、36ノットで四万メートルというあまりに長過ぎる射程。日本側すら期待していなかった巡洋艦部隊を通り過ぎて、未だ海中を走り続けていた魚雷が、ノースカロライナの第一砲塔下にその威力を叩きつけたのだ


悪いことは続けてやってくる。状況が不利な時はどうしてもそうなってしまうらしい。第六戦艦隊の二番艦であるワシントンは速力を落としたノースカロライナを避けようと舵を切った・・・最悪な事に日本側に向けて。いや、ワシントンはたとえ一艦でも苦戦中の巡洋艦部隊を助けるつ
烽閧セったのだろう。
しかしそれは、艦を最短距離で日本艦隊へ突っ込ませるコースであり、黛らがもっとも警戒すべきとした行動だった。しかも戦艦の身で・・・伊勢、日向、白根、鞍馬。四艦の射撃が彼女に集中した
42門対9門、勝てる筈がない  


654  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:08:47  [  mkePZZZM  ]
練度の差も状況を悪化させた(なにせワシントンは出来て一年経ってないのだ。一年半程になる紀伊・尾張よりも悪い)被弾状況も悪すぎた。二万九千の距離で伊勢の放ったワシントンへの第四射は三発が命中、後部艦橋を崩壊せしめ、カタパルトとクレーンを海へと吹き飛ばした。続く日
の弾は艦首を貫きつつ爆発、見た目派手な破孔を造り、右舷高角砲群をなぎ払った
ここまでにワシントンは伊勢に対して四斉射を送り込んで挟叉を得たが、白根の第八射がワシントン艦橋部に集中して着弾。その装甲に弾かれたものの、艦橋より上の塔部分は半壊。頼り所のレーダーと射撃指揮装置が架台から外れてしまう。次の鞍馬の射弾は煙突部に集中。排煙能力の
瘟コで速力を減ぜざるを得なくなった
データの途切れたワシントンであるものの、距離二万八千ですぐさま第五射を伊勢に向けて放っている・・・その敢闘精神を持ってしても命中弾は出なかったが、その行為に同意し、感服した四艦はさらに射撃をもって報いた
ちなみに伊勢は、散布界66メートルというとんでもないレコードを保持している。ワシントンの全長は220メートル・・・交互射撃であるため、着弾は二回に分けてだが。何が彼女に起きたかは筆舌に尽くし難い  


655  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:11:10  [  cnmf7h96  ]
海上に浮かぶ溶鋼炉・・・ワシントンは伊勢のあとにも日向と白根、鞍馬の砲弾を受け、篝火のように燃え上がり、停止した(水雷戦隊が最後に行った第六波魚雷により沈没)

それは、米巡洋艦部隊の心が折れた瞬間だった。終わらない魚雷発見の叫び、正確に、雨あられと降ってくる敵弾(伊勢級の二艦と、白根級の二艦が砲撃の矛先を変えたため、なんとか駆逐艦部隊と共に二万を切る所まで迫っていた)最強の盾であり、矛になってくれるはずだったワシント
唐フ大破、ノースカロライナの被雷、後落

ストレートとカーブの魔境

米海軍は非公式ながらこの火力集中点(ポケット)をそう呼んだ。魚雷のストレートに、やまなりのカーブを描いて落ちてくる砲弾が形作った魔の境目を

『む、無理だ、とても突入なんて出来ない!』
『司令!撤退を!撤退を!ああっ!』
『シンシナティーが吹っ飛んだぞ!?早く離脱しろ!巡洋艦すら持たないのに、駆逐艦なんてすぐにボロ雑巾にされちまうぞ!』
『ブルー!どこへ行く!命令もなく隊列から離れるな!』

記録されているTBSの会話内容は、ワシントンの戦闘不能から支離滅裂なものに変わっていく。加えて、部隊の旗艦が失われて、隊列を乱す艦も現れ始める  


656  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:13:17  [  KRpK8t7E  ]
米艦隊上空


『よっしゃっ!敵の三番艦落伍じゃ!』
『長門と陸奥の弾はようけぇあたるけぇのぅ・・・ありゃあ持たんさ』
眼下には黒煙を盛大に吹き出したウェストバージニアが舵を左、第一艦隊とは逆の方向に切って後続艦に追い抜かされていく
『もう少しだまっとき・・・やっとこっちの弾も集まりだしたとこやけん』
彼等は紀伊と尾張の弾着観測をやっていた。彼女達が目標としていたのはメリーランド。発砲から既に30分が既に過ぎ、命中弾3発。三十斉射、720分の3、命中率0.4%の比率は武蔵に宇垣が期待した数値より悪い
『メリーランドかて、火ィ吹き始めとる。気に病みなさんな。お前さんが悪いんじゃない、距離も距離やし、お前さん一人でやってるわけでもないやん』
観測任務は基本として三機一組である。勿論一機でやっている所も多い
『・・・わかったから身をのりださんと、影入ったがn』
・・・ここは空の上である、覗きこむなんて無理だ

ダダダダダ!!!

《気をつけろ!敵の水偵が襲ってくる!機体性能はこっちが上だ!避けて反撃しろ!》
無線機ががなりたてる
『おそいっ・・・ちゅうねん』
相手は低性能だ。機銃も固定は一丁だけ、だが。ガラスを打ち抜けば別だ  


657  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:15:31  [  wshQOogU  ]
第一戦隊、武蔵


『観測機、撹乱されます!』
一機、つぶての様に瑞雲が落ちていく
『こちらの上空から観測機を撤退させて、か、なりふり構ってられなくなったな』
宇垣は一人ごちる
『第五、第七、第八戦隊に水雷戦隊旗艦による第七波魚雷、射出完了です』
報告が上がってくる。いかに敵の軽速戦隊を食い止めるかにかかっているこの作戦。もし突破された場合の為に、報告はまめに入ってくる(勿論、これも勝っているからだ。態勢を崩された方はどうしてもワンテンポ遅れてしまう)
『・・・』
敵の戦艦は16インチ艦が既に三艦戦闘不能に陥っている。そして二艦が戦力半減状態と言っていい、この二艦を一隻分と考えて、残りが14インチ艦五隻、六対七・・・通常砲戦でも、もはや何の問題も無い。敵の軽速戦隊も壊乱状態、多少数が多くとも押し切れる
『敵の頭を抑える!予備命令、達せよ!』
『おぉ・・・!』
『これは・・・T字ですな!?』
宇垣は微笑んだ。幕僚の連中、皆お見通しか
『出来たら、だがな。距離を詰めるのが目的だ』
相手も距離は詰めたい筈、宇垣の大部分を占める冷たい部分は、艦隊運動がそうなる事は無いとしているが、頭を抑える。となるとやはり考えてしまう  


658  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/03(火)  09:17:21  [  LIawiXzY  ]
『第四戦隊以下は魚雷投射を第七射で止め、次発装填が出来次第、敵隊列への突入、敵軽速戦隊への追撃に備えよ!』
準備が出来次第、こちらも詰めにかかる。魚雷は七波で終わらせたので、次発装填を行えば、巡洋艦は両舷に魚雷を残したまま突撃出来る。秋月級にも一応残っている。先に出した五百何十本は、数えればお分かりになるだろうが、巡洋艦の反対舷分の魚雷と、秋月級の次発装填装置分の
尢汲ヘ加えられてない(最低限の予備である。最悪魚雷や砲撃を全く当てられず、お互いの潰しあいをしなければならない時の分は残してあるのだ)
『するとなれば・・・ここで撤退を選べるか?米軍よ』
遠距離に陣取っている以上、逃げるのにはアドバンテージがある。我々との五〜七ノットの差は、相手に無理に距離を詰められないようには出来るが、相手を追う、となると少々骨が折れる速度だ。だからといって米艦隊を楽に逃がすつもりは毛ほどにも無いが
『長官!第五戦隊以下、次発装填完了です!』
水雷戦隊という餓狼を解き放つ準備が出来たようだ。そして始まるのだ、互いの戦艦がその命の限界を見切りつつ戦う、ボーダーオブライフとも言うべき本来の戦艦砲戦が
『全艦、一斉回頭!決着をつけるぞ!』  


667  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:19:55  [  2aOBt6HQ  ]
第一任務部隊、ペンシルヴァニア


この時、ペンシルヴァニアの艦橋を支配していたのは蹄念だった
『ノースカロライナ、最大速力16ノットまで可能です、前部弾火薬庫に注水、第一砲塔射撃不能、レーダー他、損傷の為修理中との事!』
キンメルは伝令の報告に一瞥しただけだった
『ここまで、だね。各巡洋艦部隊に離脱を命じたまえ』
もはやあの壁を抜けるだけの戦力は存在しない。日本の奴らは自分の場を作り出して、そこを壊されないよう全力を尽くして守りきった
『長官!日本艦隊が!』
二つのグループ、戦艦隊と巡洋艦以下の艦艇に別れてこちらに・・・!
『当然だ、戦艦の数でも同等以下に抑えた。巡洋艦以下も被害甚大だ。あとは畳みかけるだけさ』
そしてこれから対応する各戦艦ごとの能力もあちらが上だ、16インチ砲艦が皆失われるか、何かしらで戦闘力発揮に難がある。となっては・・・日本人も強気に出る、我々の計画はみんなご破産、もはやこれまで。さて、どうするキンメル
『長官!撤退しましょう!我々が携わることは出来ないでしょうが、後任に戦力と、艦の将兵達の悔しさは残していけます!』
それが次に・・・次こそは合衆国海軍が日本人を打ち破る為の原動力になる!  


668  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:21:53  [  7mGOixHY  ]
『長官!!』
黙したままのキンメルにマクモリスが訴えかける。そうだ、諦めてはいけない、諦めないのがヤンキー魂だ
『・・・わかっておるよ、マクモリス君。では、損傷し、速力のでないメリーランドとノースカロライナに、無傷の本艦で敵を支えきれると思うかね?』
足の遅い味方が離脱するには足止めが必要だ
『旗艦とはそうあるべき、違うかな?諸君らを巻き込むことになるのは心苦しいが』
スタッフを移乗させる余裕はない、ハワイには間違いなく戻れない
『当然です、旗艦が逃げて戻っては。合衆国海軍のファイティングポーズに問題が出てしまいます』
付き合いますよ。他の幕僚達も頷く。後の者が戦う意志を失う事の方が問題なのだ
『しかし無理でしょう、第二戦艦隊の三隻、壊乱状態に陥っていないスプルーアンス少将の第三任務部隊、これならば部隊の形が調います』
『テネシーやカルフォルニアに、スプルーアンス君もか・・・』
彼らにも災難な話だ
『スプルーアンス少将の艦らは速力がありますから、なんとか逃げられるよう我々が努力しましょう』
マクモリスがキンメルの意を汲み頷く
『他の各隊には、トラックまで各自撤退してもらう。その指揮は第四戦艦隊のキッド少将に』  


669  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:24:50  [  a1KJrS8g  ]
ネヴァダにアリゾナとオクラホマ、この三艦だけは守らなければ!
『第四戦艦隊は反転離脱せよ!本戦隊、ならびに第三任務部隊、残存のノースカロライナ、メリーランドは敵隊列へ!敵艦隊の追撃を阻止する!全艦!オールウェポンズフリー!繰り返す、オールウェポンズフリー!味方をこれ以上やらせるな!』
命令は出し終わった、あとはどれだけ戦えるかだ
『ネヴァダのキッド少将から返信!ウィ、ウィル、ウィン!それだけです!』
単語が三つのわかりやすい言葉、意訳すれば、勝てるさ!という意味と、今は敗北しても、最終的には勝つさ!という不屈の精神を表している。殿への離別の言葉としてはこれほど相応しいものはない
『ウィ、ウィル、ウィン・・・そうだな、我々もこれでいこうじゃないか』
キンメルが微笑んで制帽のつばを上向けた。眼前に広がるのは圧倒的優位にたった日本艦隊
『敵に大破を与えれば、我々の撃沈と同意です。やりようによっては勝てますとも』
マクモリスも笑う。和やかな雰囲気がペンシルヴァニアの艦橋にはあった
『第四戦艦隊、離れまぁす!』
『敵戦艦、発砲を始めました!』
ほぼ同時に見張りが告げる。キンメルは快活に宣言した
『さぁ、勝ちに行くぞ!』  


670  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:28:24  [  KRpK8t7E  ]
第三任務部隊、アストリア


『やはり、こうなって・・・しまったか』
ノースカロライナの被雷、ワシントンの大破炎上の後の横転。加速度的に状況は悪くなっていった・・・そしてキンメル長官からの命令
『司令!』
『ムーア君、我々はノースカロライナを守る、もしかしたら機能が回復して有効な射撃が行えるようになれば、日本艦隊がした事を小規模ながらやり返せる』
運がよければ、壊走中の巡洋艦戦隊や駆逐艦戦隊から戻って来てくれる艦が居るやもしれない
『やり方次第さ』
スプルーアンスはムーアに目配せした。敗戦の一端は自分にもある。最初の命令で躊躇った。我々が動いていたら敵の対応能力は飽和していたかもしれない。殿もれっきとした任務だ、そう言うように
『そう・・・ですね。今度は敵も近づいてくる。魚雷で痛い目にあわせてやりましょう!』
ムーアはスプルーアンスの言に、己がこの海戦を指揮したキンメルらに責任を押し付け、スプルーアンス、いや、自分が殿をやるなんて!と考えていた事を恥じた。それはただのヒステリーではないか!自分の仕事はなんだ、ムーア?と
『殿は難しい任務ですが、司令ならやれます』
スプルーアンスは微笑んだ
『君らとなら、だよ』  


671  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:30:49  [  JlgIauw.  ]
第二戦隊、伊勢


もう少し痛ぶったほうがよかったんじゃねぇか?黛はそう思った。敵のノースカロライナ級戦艦の一隻は片付けたが、もう一隻は魚雷をくってふらついているだけだ。気を取り直したら、艦の戦力は減っていようが戦艦らしい暴力を我が艦隊に叩きつける事が可能になる
『白根と鞍馬で抑えきれるとは思うが・・・』
ここまで来たんだ。パーフェクトゲームにしたい『伝令!艦長、割り当てが来ました』
艦隊の位置を変え、遷移する距離を近づける間に誰が誰を撃つか割り当てをするのだ
『伊勢・・・と日向は敵の四番艦、テネシー級か』
紀伊と尾張はそのままコロラド級を、武蔵はペンシルヴァニア級を一隻で、長門と陸奥は我々と同じくテネシー級を、確実に仕留めるつもりだな、宇垣さん
『うむ・・・』
艦を分けてノースカロライナも撃つよう進言するべきか・・・いや、無傷のテネシー級を始め、一隻対一隻で相手するのもわざわざ損害を増やすようなものだ。貴重な戦艦を失いかねないような事は避けるべきである
『さっさとこちらを片付けてやることが一番の支援かね・・・よし!砲術!今までのように頼むぞ!』
黛の頭の中からノースカロライナの事はきれいさっぱり追い出された  


672  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:32:17  [  5dL2ey5s  ]
第四戦隊、白根


ここではちょっとした問題が発生していた
『司令!我々は戦艦を撃つべきです!』
『何を言っている!本艦の砲では敵戦艦に致命傷を与えるのは不可能だ。敵巡を撃ち減らすのに使うべきなのだ!』
砲術長の吾妻と司令の白石中将の意見が割れてしまったのだ
『戦艦を撃って、損害を蓄積させるべきなのです!敵が砲撃を再開させる前に!この艦の砲でもそれぐらいはできます!放置が一番いけません!』
『敵巡を排除して魚雷を一早く叩き込めば済む事だ!』
どちらも一理ある、敵の巡洋艦排除に時間がかかり、復帰されても問題であるし、今すぐにも復帰されてしまうかもしれないなら、敵戦艦を抑えないとまずい
『司令に砲術長、そろそろ撃ち始めませんと』
支援そのものが手間取る、と艦長が仲裁に入る。艦長としては、砲術長の意見を司令に通してみただけで、こんな事になるとは思いもしなかったのだ。白石が自分の意志を曲げない性格なのが災いした
『ともかく、敵巡だ、敵巡を砲撃しろ!いいな!』
白石は艦内電話を一方的に切ってしまった
『この艦は超甲巡、敵の巡洋艦を撃つ為の物である!』
先ほど攻撃したのは補助として、だ。戦艦を沈めるのは魚雷の役目である!  


673  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:34:03  [  CDVnjlgM  ]
白石はそう考え
魚雷を運ぶプラットフォームである巡洋艦を一番阻害できる戦艦を、半身不随の内に叩けるのは本艦しかないのだ!巡洋艦と駆逐艦はこちらに数の優位がある、何故余裕を持った考えができないのか!
と、吾妻はそう考えていた
『・・・照準は敵巡に!さっさと片付けるぞ!新城君!急ぎたまえ!』
『は、はい!』
照準を変えなければならない。吾妻の予備命令で、指揮所は既にノースカロライナに照準を合わせていたからだ

砲撃にわずかであるが、間隙が生じた

再照準にはそれほどの時間はかからない、だが、あるはずの恐怖が訪れない、または遅れている、という事を人間が知ったならばどのような反応を示すのか

喜ぶのである。たとえ来るのがいくらか遅くなっただけであっても、最悪ではないという事が彼等を奮い立たせるのだ。完璧な仕事をしている人間がちょっとしたミスをしたのを見て喜ぶような後ろ暗い、あまり良い喜びようではないが、生き死にがかかっているとなれば、それも仕方な
「だろう。そして奮い立った人間はいつも以上の働きを見せる

白石、吾妻、両者意見を違えども、考える最悪の事態が、第四戦隊以下を襲うことになる

ノースカロライナが復帰したのだ  


674  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:35:55  [  5k.cDmFg  ]
第五戦隊、最上


『こりゃあいかん』
田中は思わず呟いた。相手側が勢いを取り戻しつつある。戦艦が射撃を開始しただけで、こうも違うものか
『さらに接近するぞ!』
第二次マタパン海戦でもとられた手だ。確実に食らったら抜かれることがわかっているならば、上から降ってくる砲弾よりも、横殴りに襲ってくる砲弾の方が艦へのダメージを抑えられる可能性が高い
『いわばこれは蝋燭が燃え尽きる前の輝きだ、アメリカ太平洋艦隊という蝋燭のな!』
奴らは消え去る、安ずることはない、我々の灯火が彼等に代わり、太平洋を照らすことになるのだ
『魚雷を積んでるのは秋月級の艦と俺達しかいない、接近するのは好都合じゃないか、そうだろうみんな!』
こうと決めたら水雷屋の血が騒ぐ。タフネス田中、タフネス最上、大戦を通じて、彼と彼女につけられたあだ名はこの戦いから米海軍に広がっていく事になる

ズバババババ!!!

最上を重巡の砲弾が生み出した水柱が包み込む、挟叉だ
『敵の甲巡はこっちを狙ってきたか!』
その水柱に最上は突っ込み艦首で切り裂く。高い所まで噴き上がり、落ちてくる水柱をかぶれば、身体が流されそうになる
『邪魔を・・・するな!!』
田中は叫んだ  


675  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:37:28  [  wshQOogU  ]
第一水雷戦隊、島風


『この野郎っ!』

こいつ・・・出来やがる!

一支にそう思わせたのは、敵の二つある駆逐隊の内の一つだ。なんとも動きが大胆で素早く、機敏で、力を抜く所は抜いている。隊内電話に一支は噛りついた
『対馬!逃がすな!そっちいったぞ!何とかして止めろ!オレがケツからかましてやる!』
『貴様が逃したのか・・・わかった!』
野郎、良い目までしてやがる。対馬の駆逐隊の方が火力が弱いのを一目で見分けやがった!

魚雷兵装の面での経戦能力にたける陽炎・夕雲級駆逐艦だが、昨今の対空火力増強と機銃座増備の為、二番砲塔を撤去していた。砲戦能力では島風・秋月で編成されているこちらの方が上なのだ。そして敵のサマーズやポーター、マハンやリヴァモア級と陽炎らを較べると砲門数で1〜4門
フ差がある

『気をつけろ!手強いぞ!』
駆逐艦同士の戦いとなると、比較的艦長クラスの指揮能力が大きく左右する。うまくあしらわれた訳だ、俺は
『魚雷を撃たせるべきだったか・・・!』
駆逐艦相手に、と秋月らの魚雷をケチった結果がこれだ
『砲術長!回避予測は要らん!進路前方に弾をバラ撒いて避けさせるんだ!』
テメェらの好きにさせてたまるかよ!!  


676  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:39:43  [  gPuSt/kQ  ]
第七戦隊、妙高


かの艦は戦闘序列から、第五戦隊、第六戦隊の次、重巡の隊列から七番目の位置にあった。そこは急速な突進を開始した第五戦隊、少し遅れて第六戦隊、また遅れて第七戦隊と動く(車で考えるといい、前の車が発進して次の車が発進するのに少し間が開く、次の車の時は前の車より間が開
く。これが積み重なると何も無いのに渋滞なってしまう、がこの場で起きたのだ)ノースカロライナは応急修理で復帰したばかり、砲門数も六門しか残ってない、確実性をノースカロライナのリー少将は選んだのだ。接近する第五戦隊らに主砲を追随させつつ撃つよりは、というのもある。
ともかく、そのような理由の積み重ねで、16インチ砲弾が妙高へと降り注いだ。そして四斉射目、一発の砲弾が彼女を捕らえる

宇垣が出した命令が彼女にとって命取りとなった。魚雷は第七波で打ち切り、次発装填の後、突入。そう、魚雷発射管に魚雷がつまったままだった。しかも次発装填によって五式魚雷、炸薬量780キロのそれが四本、三トン超の火薬が16インチ砲弾と共に爆発すればどうなるか・・・そし
て隣の魚雷発射管へと飛び火していく。そこにも三トン超の火薬がつまっている

閃光が、一気に彼女を包み込んだ  


677  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:41:34  [  62Dc2aCc  ]
後続の那智では、閃光の次に、むせかえるような、濃い火薬の匂いがした、と戦闘詳報には書かれている

この海戦のあと、米海軍に於いて、のきなみ日本艦に対する評価がべた褒めになるなか、妙高級だけは、スペックは優秀であるが、防御薄弱でこけ脅しである。と、酷評される。これには海戦に参加した巡洋艦で沈まなかったクラスが存在しないとなり、面目丸潰れな米設計陣に対するリ
bプサービスである。と、今では論じられているが、そう書いて良いだろうとされるほどの爆発を妙高が起こしたのは違いない

このあと後続の那智は、妙高の残骸を避けるために舵を切った為、田中の突撃行に参加できなくなった上に、第一水雷戦隊を突破してきたアーレイ・バーク中佐指揮の駆逐隊に魚雷を二本命中させられ(爆発したのが二本で、実際は五本が命中している)駆逐艦二隻を道連れに自沈処分にな
チている

それは、勝ちに乗じていた日本艦隊に冷水を浴びせるには十分な被害であった。始まりは、あっても問題の無い意見の不一致。それがもたらした結果としては、あまりに痛い結果であった

しかし、ノースカロライナと第三任務部隊が出来た抵抗はここまでであった。状況からすれば、十分以上と言えるだろう  


678  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:43:50  [  zeLnApqc  ]
第一戦隊、武蔵


『・・・しぶといな』
二艦ずつ同調射撃を行われている艦は、次第に戦闘能力を失わされ、沈黙していく。だのに、この武蔵が撃ち据えている艦は未だ屈せず射撃をこちらに続けている
『こちらの損害はいかほどか』
そろそろ総括をせねばならない
『多少第五戦隊以下が手荒な事になっておりますが、本艦に二発被弾した他は長門に三発、伊勢に一発、いずれも戦闘に支障はありません!』
『うむ・・・』
武蔵は先ほど、艦橋に居た皆が唸るほど見事に敵弾を弾いた。いや、敵は14インチ砲艦、18インチ砲艦としてすら過剰とされる大和級の防御であれば、当然の結果と言えるかもしれない
『敵ノースカロライナ級戦艦!沈みまぁす!!』
見張りが叫んだ。宇垣が双眼鏡を向けると、横転するノースカロライナ級の向こうに、第五戦隊らが駆け抜けるのが見えた。最上は薄く煙を噴いているようだが・・・
『思ったより損害と時間がかかった・・・追撃は出来んな』
戦艦三隻、取りのがすには惜しい戦力だが・・・突入前に撃沈した艦艇は戦艦三隻、重巡五隻、軽巡七隻、駆逐艦十隻に上る。これに、殿に残った戦艦五隻以下が加わる。十分、だろう
『・・・あとは山口、奴の問題だな』  


679  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:46:02  [  gY4wlmWo  ]
第三任務部隊、アストリア


『ここまで、だね』
アストリアは白根や鞍馬の射撃によって行き足を止め、甲板が波に洗われていた。総員退艦命令も出した。この艦はもう、持たないだろう
『バーク君が逃げられたらいいのだが・・・』
駆逐隊に突入を命じたのは敵後方へ逃す為でもあった。抜けられたならば、後方は一番安全とスプルーアンスは見たのだ
『バーク中佐なら大丈夫でしょう。必ずトラックに戻ってくれるはずです』
『31ノットでかな?』
『31ノットででしょう』
ゆったりと笑いあう二人
『まぁ、敵の巡洋艦を食ったのは予想外でしたが』
『こっちはいくら撃っても食らってないかのように突っ込んで来たがね』
全くとスプルーアンス
『理不尽ですな』
最上を撃っている間、白根らに撃ちすくめられ、こうなったのだ
『司令、そろそろ・・・』
伝令が艦橋に入って来た、退去が終わったのだ
『うん。行こうか』
スプルーアンスは艦橋を見回す
『感慨の一つも湧くかと思ったが・・・』
脱出しても、彼等は日本の捕虜になるしかない【合衆国領土】には当分戻れまい
『司令・・・』
『待たせたね、行こう、溺死は趣味じゃ無い』
スプルーアンスらは粛々と艦を降りていった  


680  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:48:18  [  9TlQkVJc  ]
第一任務部隊、ペンシルヴァニア


『日本艦隊が、一時的休戦に応じてくれて助かりました』
ペンシルヴァニアは四基の砲塔全てを武蔵の18インチ砲弾に貫かれ、沈黙せざるをえなくなった。この場に残った他の艦は、最後まで勇敢に戦ったあと、それぞれ静かに沈んでいった
『うむ・・・彼等もそういう事をしてくれるという事は、追撃する意志を無くしてくれたのだろう』
キンメルとマクモリスの制服は、煤と血で真っ黒になっている
『それに、あくまで休戦である、というのに応じてくれた』
降伏では無い、白旗でなく、星条旗を揚げたままで良いとしてくれたのだ
『マクモリス君・・・永の別れになるね』
キンメルは肩章と制帽をマクモリスに渡した
『必ずや、奥方様に』
『ああ・・・それから、会うことが出来たならば、ハルゼーに、済まないと』
アイツが身体を張ってくれたのに、勝つ事が出来なかった
『君やスプルーアンス君で、我々を打ち破った日本という国を見て来てくれ・・・それを、捕虜交換なりで戻ったなら、米海軍にフィードバックしてほしい。私が願うのは、それだけだ・・・さっ、休戦の刻限が切れる。急ぎたまえ、砲弾が降ってくるぞ』
キンメルは一人、艦橋に残るのだ  


681  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:52:50  [  XK2obbq6  ]
第一戦隊、武蔵


『長官・・・刻限、切れます』
『結局、キンメル大将は降りられなかったか・・・』
降りない星条旗と、大将旗を見て、宇垣が珍しく表情をあらわにした。その表情は悲しみだ
『敵のカッターから発光信号、退艦完了、貴官の厚情を感謝す、です!あっ!敵艦!傾きまぁす!』
ペンシルヴァニアがゆっくりとではあるが沈んでいく
『キングストン弁を抜いたか・・・周辺海域に存在する兵員の救助を全力で為せ』
最終的な戦果は戦艦八隻、重巡九隻、軽巡七隻、駆逐艦十六隻。この海域だけで、二万五千名を越える米兵が投げ出された計算になる。こちらは妙高、那智の二隻に、駆逐艦が雪風を始め四隻失われている。二千四百名近くが同じく海に投げ出された勘定だ

ふと、海から歌声が上がった

♪O.say,can  you  see  ,by  the  dawn's  early  light♪

アカペラで、歌える者全てが沈み行くペンシルヴァニアに向けて物悲しく星条旗を歌い上げている
『長官』
『かまわん、歌わせてやれ。せめて沈むまではな』
キングストン弁と砲弾によって、各所に穴が開いたペンシルヴァニアが沈む速度に加速がかかる
宇垣らは、武蔵からペンシルヴァニアが沈むまでを挙手の礼をもって見送った  


682  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:57:11  [  25Xn9yoU  ]
ペンシルヴァニアが沈むのを見送って、時計を見れば午前10時を回った所であった。この海域の日の出時間である午前五時二十分頃に合わせて海戦を始めたので、この一大決戦は、四時間半で決着がついた事になる。二日かかったユトランド海戦を考えるとなんと短縮化した事か
『宇垣長官』
伝令が入って来た
『第三艦隊から、敵輸送船団を発見!これより攻撃に移る。との事です!』
遂にこの決戦の肝が始まる。これからの事に較べるなら、我々の戦果など、刺身のツマとなるやもしれない
『来たか!敵がまさかという所まで、航空機を侵入させる事が出来る。その後方浸透能力こそ空母の利点だ』
全てはそこに攻撃力を投入する為にあったのだ

簡単に考えてもらいたい、内南洋一帯に兵力を展開する為の員数と、航空基地や司令部設営の為の機材と資材。敵艦隊の排除と船舶の使用期限(各地域からの貸し借りがあるのだ)港の能力。全てが終わってから動かしたのでは、相手に再編をし、襲撃を行う隙を生じさせてしまう。そうな
轤ネい為には、決戦の後すぐさま着上陸出来るよう港から出て、集結しておく事である。勿論安全地点に。だが、そこが安全な地点でなかったならばどうなるか


答えは虐殺である  


683  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  22:59:10  [  2FpTlyyE  ]
ウェーク島南東海域・第三艦隊、信濃


『一隻も残すな!全て沈めろ!』
山口のこの音頭の元、米輸送船団に攻撃隊が送り込まれる。一次攻撃隊を放った後も、全ての流星改に魚雷を搭載させ次の攻撃隊を用意させるよう命令を出した。米空母に対して一波のみの攻撃、しかも魚雷は半数で送り出した人間とは思えない
『敵は概算150隻!一隻に3機で攻撃するとして、一攻撃隊に各空母18機の流星改が参加している、それが七隻。敵輸送船42隻を一回の攻撃で沈めれる計算だ。四回だ、最低四回攻撃隊を送り込む!』
ボロボロになった敵機動部隊や時代遅れの戦艦なんぞに使う魚雷なぞ、一本の残っちゃいない、そういう訳だ
『しかし司令、抵抗できない輸送船を・・・』
『中に乗っ取る兵隊は銃が撃てる、それだけで十分抵抗している、違うか!?』
積載された物資が、人員が、陸揚げされたら最後、我々日本人への抵抗の為に使われる。何も出来ないうちに、海上で撃沈し、海に捨てさせ、溺れさせた方が良いに決まっているのだ。武士道や騎士道、軍人としての道徳にすら反しているかもしれないが、それが事実である
『こんな好機は二度と無いのだ!これ程の船舶数で、これ程無防備な船団を叩く機会はな!』  


684  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/06(金)  23:01:07  [  50Ied/7E  ]
・・・結局、その日が暮れるまでに五波の攻撃隊が送り込まれ126隻の輸送船、輸送艦が失われた・・・失われた、と一言で済ませられる物では無いが、済ますしか無いほどの惨状なのである。126隻、ただ輸送船の乗員を100名と考えて、その時点で海に投げ出された人間は一万二千人を越
える・・・輸送されていた人員、資材・・・主力のバンデクリフト中将指揮の海兵隊は戦う前から皆殺しにされ消滅し、シービーズと呼ばれるはずだった設営隊はもはや再建の見込みが無い程叩きのめされた
ハワイから必死の救助作業が行われたものの、戦死三万五千、行方不明五千(ほとんどがフカに喰われたと思われる)この阿鼻叫喚をどう筆にしろというのか・・・
この海域だけで四万の死者、太平洋艦隊の壊滅で戦死・捕虜・行方不明の三万・・・都合七万の軍人であり船乗りである技術者の喪失。合衆国海軍の根底のなにもかもをこの海戦は変えてしまった

『エイプリルフールはとうに過ぎたぞ』
と言いつつ、報告を受けたFDRは、身体を震わせながら趣味の集めた切手を整理して、気持ちを落ち着かせようとしたが、切手を落とした拍子に号泣した・・・その落とした切手とは、ペンシルヴァニアが描かれた勇壮な切手だった  


699  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:22:23  [  WERj3NJg  ]
1942.4.18マリアナ沖


『ムーア君、腕の方は大丈夫かね』
アストリアが沈んだ後、カッターに乗せられたスプルーアンスとムーアであるが、ムーアの方はアストリア被弾時に腕を折り、手を釣っていたのだ
『はい、まだ痛みはありませんが・・・』
『緊張しているからだろう、あまり動かさないように』

この海域に浮いている人間が多すぎるのだろう。日本艦隊が必死に引き揚げてくれているのはわかるが、まるで手が足りていない
『この艇を移動させて、引き揚げてもらいましょうか?』
スプルーアンスらは立場から言えば一早く引き揚げられて当然なのだが
『いや、下手にこちら側に艦を寄越してもらっては、スクリューに巻き込まれて死ぬ乗員が出かねない。外周から救助してもらった方がいい。皆も疲れているだろう?体力は温存させておくべきだ。私は大丈夫だ、幸い怪我も無い。司令や少将という事は考えなくて結構だ』
しかし、日本海軍とて、少将というこの海域に浮かぶ最高位の人間を放っておくつもりはなかった
『おぉぉわぁっ!?』
『ゴッズネイブル!』
鮫などに襲われたのとはちょっと違う悲鳴が海面に沸き上がる
『なんだ!何が起きている!?』
『司令!』
ムーアが叫んだ  


700  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:23:41  [  u9FMJxgs  ]
『なんでしょう・・・これ』
叫んだムーアが指差したそこには
『キュ?』
女の子が浮いていた。場違いに
『こ、こっちにも!』
『ああっ神様!』
『ヒレだ!足がヒレだぞ!こいつら!』
上半身はゴム製のピッチリとしたウェットスーツ。襟首の所には金色の刺繍で碇と桜
『待て!騒ぐな!』
スプルーアンスは信号弾なり手持ちの、武器を向けようとした部下を制止する
『はい、これ〜♪』
日本語で言って、水中ボードをスプルーアンスに手渡す人魚・・・つまりはレーヴァテイルである
『・・・彼女達はあやしい者では無い、艇を牽引させるので、了解してほしい、第一水雷戦隊司令』
・・・どうみてもあやし過ぎるぞ、これは
『キュ〜、キュッ!出来たっと♪』
ぬめっとした手をうまく使い、カッターに縄を結わえた彼女達は、尾鰭を蹴ってカッターを動かし始める
『し、司令!?』
『任せよう、我々が暴れても、良い事は一つも無い』
『しかし、これは・・・私達は幻覚を見ているのでしょうか?』
信じられないのはスプルーアンスとて同じである
『彼女達を見せた、という事は、日本側からそれなりの説明が行われると見て良いだろう』
でなければなんの為に我々を驚かしたのか・・・  


701  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:25:27  [  qolO/Z6Q  ]
埼玉、大和田通信所


第一艦隊、第三艦隊があげた戦果を、松浦が傍受したのは夕刻になってからだった
『ま、及第点ですかね』
戦艦八隻に空母二隻、甲巡九隻、乙巡七隻。もっと沈めてもらったほうがよかったのだが、あちらはあちらでやることやっての結果であるから、俺がとやかく言うもんじゃないやな・・・うん
『艦政本部はこれから大忙しだな』
遠距離砲撃戦をやったという事は、強装薬でバンバンやったという事で、磨耗した砲身の交換が必要となる。沈むよりは全然マシなのは確かだが、当分使いものにならないのは確定である。敵の戦力が健在だと、非常に厄介な存在となり得るわけだ
『敵将を捕縛するのもきちんと果たしてらしてるし、流石は宇垣さん。手堅いねぇ』
捕まえた敵将の名前を知って、伊藤さんがいきなり志願して、取る者とりあえず、艦隊に向かったのは予想外だったが・・・知り合いかな?
とにかく、こちらの国内の事を、出来得るかぎり上の階級の人間に知ってもらい、使者として役立ってもらうのだ
『火山列島づたいに南下した輸送船団と山口さんの第三艦隊の空爆と、随伴艦で艦砲射撃をし、マリアナを落としたら一段落だな』
爆弾は空母に余っているし、十分出来よう  


702  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:27:09  [  X8fclSxo  ]
『魚雷と爆弾も増産か・・・』
第三艦隊も、空母の弾薬庫を空に近くなるまで使い切る予定だ・・・艦政本部から死人がでるんじゃなかろうか?過労死の
『休養も考えれば、我が海軍は半年は軽く開店休業とあいなり、政治の季節がやってくる。と』
大和や第三戦隊らで次の作戦をやる可能性はあるが
『しかし、ね。米軍もこちらの本土をやっちゃってくれてるし』
松浦はそばにあった電話の受話器をとる。交換手が出た
『横須賀の第六艦隊司令部に、ああ、それから横須賀空にもその次に繋げる用意しておいてくれ』
お返しに敵の安全と思っている本土を叩かねばならない。今回はそれなりの戦果をあげたので、あまりあちらに衝撃的過ぎない場所を攻撃しなければならない
『港湾施設や工廠は衝撃的(さらに艦を沈めたり、修理できなくなってしまうからだ)だが、攻撃の規模から見合った戦果を得られそうに無い、却下だ』
飛行場は数が多すぎて手に余る。だから、相手の偽装にかかってやる
『いくら偽装とは言え、それが全てでは無いだろう』
敵は余裕があるとは言え、あれほどの艦隊を動かして、備蓄に余裕があるとは思えない。そこを叩く!そう、目標は


『ハワイの石油タンク、ここを叩く!!』  


703  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:30:21  [  25Xn9yoU  ]
同刻、ホワイトハウス


同刻、といっても埼玉とは十時間程の時差がある。FDRの話し相手の方はさらに深夜の時間帯に起こされ、明らかに不機嫌だったが、事の次第にそれを表には表さなくなった
『チャーチル卿、先方のマルタ島支援の艦隊派遣を取り消していただきたい』
『事がここに至りましては仕方ありますまいな・・・』
ニューメキシコ級らからなる大西洋艦隊が行うはずだったマルタ島支援の作戦が中止されるという事は、マルタ島の失陥が確定となったわけである。チャーチルの心中が穏やかであるわけが無いのだが、FDRの手前、わめく事は出来ない
『それで、それほどの被害を受けて、国民にどのような発表をするおつもりですかな?』
国民の反応が大事に至る国だ、ここで合衆国に離脱してもらう訳にはいかない
『そこで、です・・・今回の被害を数回に別け、期日をずらして発表したいのです』
チャーチルは合点がいった
『BBCの放送内容をしめし合わせてほしいのですな?』
信憑性を増させる事が、それで可能になる
『ええ、こちらのワシントンタイムズ紙他、ユダヤ系新聞は全て抑えました』
こちらはナチス打倒にこり固まっている。そう工作を行うのは訳なかったであろう  


704  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:32:13  [  KYi//xS.  ]
『合衆国はゲームを降りません、それだけはお約束できます』
うむ、宿題だけは必ず果たしてくるな、彼は
『それはありがたい話ですな・・・わかりました。私の方も細工させていただきましょう』
合衆国の生産力がこの戦争には必要なのだ、そのためにはジャーナリズム等必要ない。国あっての報道だ
『ナチスドイツ打倒の暁には、我がロイヤルネイヴィーも、極東の蛮族の打倒に力をお貸ししましょう、もっとも、我々も痛い目にはあわされておりますがな・・・あ、いやしかし、閣下がもっとお力添えをなさるなら、我々もやりようがありますのですが・・・』
香港やシンガポールも気になるが、マルタ島が先ずは問題である。今さっきは仕方が無いとは言ったが、ここで引き下がるようでは英国宰相などやってはおられぬ
『現有戦力が足りませぬから、それは・・・』
しぶるルーズベルト、当然である
『大西洋からの移動には時間がかかりますでしょう。国民に戦果を示すのにはうってつけではないでしょうかな?日本の艦も、戦艦を含めて幸いながら存在しておりますな。スエズからフィリピンに向かうのも手かと思われますが。ああ、地中海をお通り為されるなら、道中の支援を我が
C軍も惜しみませんぞ』  


706  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:34:10  [  niTZ37Wk  ]
ルーズベルトの挽回心をチャーチルは擽る。今となっては日本本土を突ける唯一の要衝となったフィリピンに戦力を送れて、マルタ島支援はしなければならないが、英海軍の支援も受けられて、その海域にいるはずの日本艦を沈めればそれなりの宣伝になる
『わかりました・・・考えておきましょう』
電話の向こうのチャーチルはしてやったりと笑みを浮かべている事だろうが、ルーズベルトにとって、確かに魅力的だったのだ
『フィリピンではロイヤルエアフォースもかなりの損害を被っておりますことをお忘れなく』
全く抜け目がない・・・これだからブリトンは
『であるならば、欧州に送るB17の配分を・・・』
『いやいやルーズベルト閣下、そういう訳にはいきませんな』

それから一時間ほど両国間の間で当たり障りの無い電話会談が行われた
『しかし、日本問題を含め、もう一度大西洋憲章と同じように話し合わねばなりますまいな、忌々しいが』
『同感です。といっても、以前のように会談に戦艦を持ち出すにも、我々の戦艦のほとんどははもう海の底ですが、ね』
FDRはため息をついた・・・
『そう気を落とされるな、私もフッドを失いました。今度の会談の時には、笑顔で会えましょうぞ』  


707  名前:長崎県人  投稿日:  2007/04/07(土)  22:39:32  [  hxY6CuZ2  ]
イタリア、ローマ・ヴァチカン


ヴァチカンの管理内に非公式だが、一つの塔がある。アポイナの塔、元々は人知れず消されてしまった政治犯や、邪教に堕ちたとされる姫君らが幽閉され、そのまま死ぬまで閉じ込められた欧州には良くある牢獄
そこは怨恨に塗れ、霊的にも保護されている。ヴァチカンは聖骸布など、多数の宝物が保管されているが、ここにもそう言った物が保管されている。勿論、スイスガードのいくらかが外を守り、中は祝福を受けたパラディンが剣を持って守っている
『司祭・・・最近嘆きの扉が、いつも以上に嘆きをあげているように思えるのですが』
『戦の世に反応しているのでしょう。東部戦線では日々多くの人の命が失われています。先の大戦でもこの扉は嘆き続けでした』
司祭は十字を切る
『しかし・・・』
パラディンは少々気になると食い下がる。開くような気配がしたのだ
『いやいや、あれは壁に彫りこんだもの、開くことはございませんよ』
司祭は塔を見上げる
『開くことはあってはならないことなのです』
あれが開くことは・・・すなわち・・・