402  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/04(日)  03:59:34  [  M7VYRcWY  ]
アメリカ合衆国・ニューヨーク港岸壁


『うん、いいね!新しい艦は』
新しいペンキの匂い、公試運転を終え、ようやくこの艦は合衆国海軍に編入された
『ジョニー、ううん。艦長さん、と呼んだ方がいいかしら?』
『よしてくれよ、シャナイア』
こそばゆそうにアメリカ海軍の制服を来た若い大佐が頭をポリポリと掻く
3月20日をもって合衆国海軍に編入された巨艦、サウスダコタがその身を横たえていた
『でも、これの出番があるころに、戦艦として撃ちあえる相手が居るかなぁ』
現在太平洋では戦艦11隻と在ハワイ15万の兵力から7万を抽出し、用いた内南洋の一大根拠地化作戦、英国から要請で行われる地中海、マルタ島への5隻の戦艦、空母2隻を使用した大規模空中、並びに海上支援作戦。正直な所、汚いやり口で艦を増やした日本が不気味だが、とうて
「負けるとは思えない
『そんな事言わないの、どうせお飾りなんだから』
この人の不正は許さないという、その性格からこの戦争の象徴として最新型戦艦のこの艦に乗せられたのだ。最年少33才の大佐として
『ひ、ひどいなぁ確かにそうかもしれないけどさ』
『あなたは戦後の講和会議あたりの補佐がお似合いよ』
取り付く島も無い  


403  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/04(日)  04:01:35  [  hxY6CuZ2  ]
『トホホ・・・』
『やっぱり任地は太西洋でここに籍は置くのかしら?』
まぁ・・・どこの夫婦も離れ離れになるのはいやなのであって、そういう事である。好きな、または愛した人間を死地である戦場に好き好んで送り出す人間なんて、居るものか
『どうだろう、戦局次第かな?当分は訓練だし、さっそく太平洋にいったノースカロライナ級の2隻の代わりは勤めなきゃだから』
戦艦や空母等の、進水や就役の映像をニュース映画に普通に流す国だ、これぐらいは話しても問題無い。太平洋の場合住居をどうするかも考えなきゃならないからでもあろう
『・・・それから、前言ったわね』
『精霊が騒いでる。だっけ?』
シャナイアはインディアンのシャーマンだった。時たまこういう事を言う。何かあるかどうかは半々といった所だ
『ええ、日本と関係あるかはわからないけど・・・やつらと戦うときは、気をつけて』
騒ぎだしたのが日本が消えた日時と現れた日時。なにか、ある
『わかってるって。ま、当分は訓練航海だから、安心して』
『あなたで大丈夫かしら・・・』
『大丈夫だって!艦の連中には訓練航海でニューヨーカーの底力を見せつけてやるし』
どうも子供っぽいのが抜けないのよね、この人  


404  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/04(日)  04:04:00  [  gPuSt/kQ  ]
ため息をつくシャナイアにジョニーがプイと港を向き直した。子供っぽいからこそ正しいと思ってる事を素直にいったり出来たりするのが良い所でもあるのはわかってるのだけど、なんというか、いつ見ててもどこかでコケそうな気がするのだ。母性本能をくすぐられるというか
『はいはい、小さい身体ですねると、さらに威厳が無くなりますよ、大佐』
『だれがチビだって!?』
ちなみにシャナイアとジョニー、シャナイアの方が身長が高い、ジョニーが合衆国人として小さいだけなのかもしれないが
『・・・』
『・・・』
ジョニーが振り向いた所をシャナイアが口を口で塞いでおります
『じゃ、すねないで仕事を頑張りなさいね?ニューヨーカーの底力、見せ付けるんでしょ?』
こつんと軽く頭突つ
『わ、わかってるよ!・・・て、信用してないでしょ!?じゃあ今度、心底俺に感服させた艦の部下、目一杯連れてきて、食事の準備とか、家事大変にさせてやるからな!』
からかうと面白いのよね、この人
『そう、じゃ何人連れて来れるか、期待しておくわ』
『あーっ!いったな!いったな!?約束だぞ!?手伝ってやらないんだからな!』
『望む所よ』
微笑ましく言い合いながら、二人は港を後にした  


405  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/04(日)  04:06:46  [  zIQO46G.  ]
ちょっと番外・アドリア海の艦隊が英海軍に空襲される少し前の事

トルコ・イスタンブール


そこにはかつて日本海軍が所有していた12隻の艦艇が存在していた
『軽巡2、駆逐艦4、海防艦6隻、確かにそちらにお渡し致します』
『確かに受け取りました』
トルコが保有する戦艦、ヤウズ・スルタン・セリムの艦上で文章の交換が行われた
『これらの艦に乗船した約四千名の民間人を、どうか、よろしくお願いします』
日本側の代表士官が深々と最敬礼する
『我が国の栄誉に誓って、必ず。エルトゥール号の恩を、我がトルコ海軍は忘れておりませぬ、ですから頭をお上げください』
『いいえ!貴国の温情もさる事ながら・・・我々はたった四千人しか、自国の国民を安全な場所へ送還できない。その不甲斐なさを、軍人として謝らねばならぬのです!』
英国から艦と物資の売却、人員の過大な輸送は兵力の移動と見なし、敵対行動として攻撃すると勧告されたが、これ以上耐えきれるものではなく。本土からの許可もあったため、最小限でも英軍から攻撃される前に民間人を移送しようと、海域の突破速度も考えて、快速艦艇を集め、送り
桙ンはしたが、どうしてもこれだけの数しか乗せられなかったのだ  


406  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/04(日)  04:09:09  [  JlgIauw.  ]
『我が国は地勢的に優位にあるため、両陣営が強く責められない立場にあります、ですから中立を保って居られます。英国も一度入った日本人の処遇に関してとやかく言ってくる事は無いでしょう。枢軸側としてそちらが立った後では別の話となりますでしょうが』
『しかしこれではドイツからのアプローチが多くなるのでは?重ね重ね申し訳ない』
日本海軍の士官は土下座しかねない勢いである。トルコ海軍の士官は笑っていった
『その時はスピットファイアの大量購入を契約しますよ、だから、大丈夫です。お顔をお上げください』
ぽんぽんと肩を叩く
『四千人という同朋の命をあなた方は確実に救ったのです。全員を救う事ができるならば勿論良いです。しかし、まずは救う事が大事であり、何人の命を助けるかが問題では無いでしょう?それに、まだまだ諦めるつもりも無い、そうでしょう?』
『はい・・・!この恩はいずれ必ず!』
トルコ海軍の士官は手をさしのべて言った
『いいのです、困ったときはお互い様、ですよ。これが、エルトゥール号に乗っていた、私の親族が教えてくれた日本の言葉でして。私はあなた方の役に立てたことが、今、とても嬉しいのです』
二人はがっちりと硬い握手を交わした  


412  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:21:58  [  KYi//xS.  ]



燃え盛る艦橋、あの人は包帯を巻かれつつも指揮をとり続けている
『旦那様!』
声が届いてないの!?
『志摩さん!ああっ!?』
叫びと同時に艦橋に被弾した、スローモーションで志摩の身体が切り裂かれつつ空中に放り出される。志摩の口からはたった一言だけ紡がれた
『桂・・・』
場面が暗転した・・・忘れたい記憶、これは、夢?
『ミスミ、これはお前が求めた行為だったはずだが?イッヒッヒッヒッ』
その中のラスプーチンがこちらを見て笑っている
『・・・消えて』
『哀れよの・・・あの男は所詮哀れみからお前を囲っているに過ぎない。違う世界にお前が関与できうる事象は無い、つまり、あの男にとって、お前を守ってやる必要は無くなった・・・用済みなのだ』
『消えて!!!』
ラスプーチンの顔が変わった
『捨てられたく無い、独り占めしたい、全てをあの男に委ねたい、だがその前にはあの女が居る、子供も産めない癖に』
それは、自分の顔
『私なら、殺せる』
ナイフを手にしている
『あの女を手も無く、証拠も無く消せる』
『消えて!お願い・・・だからっ!』
人影が・・・桂だ
『駄目っ!そんな事・・・私は望んでない・・・!駄目!駄目ぇ!』


ゴイーン  


413  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:27:15  [  t4UopWMg  ]
はね起きたら頭に何かぶつけた

『あっ!?ごめん!大丈夫?』
『いたた・・・』
桂さんだ、フライパンとおたまを持っている、私はフライパンに頭をぶつけたらしい
『あなたらしくなく、寝坊してたし、物凄くうなされてたから・・・鐘を打ち鳴らすと悪いものを払うって言うのがあるから、持って来たんだけど』
結婚式のあと、車の後ろにつける空き缶と同じ考え方だ、近所迷惑は考えないところは桂さんらしいというか
『いえ・・・ありがとうございます』
『夢の内容は聞いてもいいかしら?あなたがうなされるなんて』
『・・・』
ミスミは黙り込んだ
『ごめん、悪いこと聞いちゃって、朝ご飯は私が作ったから食べましょ』
くるりと背を向けて桂はミスミの部屋から出ていこうとする
『・・・桂さん!』
『ん?』
ミスミは意を決した
『私は・・・卑劣な事を願いました』
『ミスミさん?』
ミスミは堰を切ったように夢の中身をぶちまける
『それは当たり前の話じゃない?』
『え?』
『誰よりも優れていたい、誰よりも愛されたい、より上へ、より深く・・・戦いがあって、自分の夫や息子が死ぬより、他人が死んで帰って来た方がホッとするもの。それを卑劣というならあたしもそう』  


414  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:36:46  [  ibELFYCQ  ]
『誰かより優れていたい、生き残りたい、邪魔な他人を排斥したい・・・そういえば、ミスミさんは志摩の出陣を見送るのは初めて、でしょ?』
自分も志摩がヴァイスローゼンに行ったと聞いた時は、いても立ってもいられなくて、お百度参りしたものだ
『そういう暗い感情が沸き上がってしまうものなの、戦争って』
不安なのだ、残された者は誰も彼も、そして自分だけは、あの人だけは、と思う
『あたしだって志摩があなたを抱くの嫌よ?それは・・・あれ以降あたしの比率が多くなったけど』
『・・・』
『ねぇ、あなたの知る志摩は、憐れみや戯れで妊ませようとする人?』
ハマの街で復興事業に手を出し、現地の金を稼ごうとしていたのは一体誰の何の為か
『私は・・・』
『あなたもあの人の事を真剣に考えているから苦しいんでしょ?それでいいじゃない。ちゃんと理解してくれる、そういう人だから。あたしは嫌なんだけどなぁ〜』
ぺろっと桂が舌を出す
『ふふっ・・・桂さんは嫌なままでいてくれますか?』
ミスミに笑顔が戻った
『勿論よ、あなたには負けないわ』
『私も、負けません!』
桂が少し顔を曇らせる
『ただね。戦う相手の方にも、私達みたいな人達が一杯居るはずなのよね』  


415  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:38:54  [  ibELFYCQ  ]
アドリア海・海中


シャッシャッシャッ
スクリュー音が上を過ぎ去っていく、ソナーマンが叫んだ
『敵艦!爆雷投下!!!』
『全員何かに掴まれ!!』
何故だ、何故ピン一回でこうも正確に我々の位置を捕らえることができるんだ!?大体、対潜戦闘というものは仕留める事を目的とすれば長く時間がかかるのが普通だ、この海域には、この艦を含めて4隻の潜水艦が居たはずだ。それが二、三回の投射の内に撃沈されてしまったようなの

『どういうことなんだ!一体!まるで海中の様子が、見えているようじゃないか!』
艦長の呻きと共に爆雷が爆発した

ドゴォッドゴォッドゴォッドゴォッ

『前部魚雷室進水!』
『トリム水平保てません!沈下していきます!!!』
『こちら機関室、ガス発生!ガス発生!!』
艦のあちこちから被害報告が届く、間違いない、完全に補足されている、ありえない!
『次弾の爆雷が・・・畜生!真上です!!』
絶望的な報告がもたらされた
『・・・ペイシー、すまん』
スコットランドで帰りを待ってくれている妻の名前を艦長が呟いたその時、英潜水艦は爆雷の直撃を受けてまっ二つに分裂し、海底へ戻ることの無い潜航を始めた。勿論、生存者は存在しない  


416  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:44:32  [  7ctwgltA  ]
松級駆逐艦・橡(くぬぎ)


『キュ〜キュキュキュっ目標は二つに別れました〜』
『ご苦労さん、耳の方は大丈夫か?』
艦長が艦橋に隣接されたソナー室で直に海図を睨んでいる
『少しじんじんします〜』
松級の第三期型であるこの橡はレーヴァテイルからの情報が直に入りやすいように艦橋をソナー室を隣接する形(新型潜の方と同じコンセプトだ)で設置している。たとえレーヴァテイルが居なくともソナーからの情報が直に入る為、報告と反応が速くなる利点がある。ただし、聴音器から
」してある為音の質が多少落ちる事、配線の断線がまま起きるのが短所としてあげられる
現在は第四期として、大型艦から配備が始まっている中枢指揮所が配備されつつある。一箇所に情報機器を集中配置しては大型艦と比べ、防弾に不安がある駆逐艦は、不運な一撃で指揮能力を失うのではないか?とあまり艦政本部は乗り気でないようだが
『しかし、居場所を完全に把握された潜水艦ほど、脆いものはないな・・・哀れだ』
『しかし場所がわかってから一々敵潜の直上に行くのはめんどくさいですな。艦長、爆雷八個を投射、浮遊物確認、撃沈確実です』
水雷長が入って来た
『水雷長、報告の順番が逆だぞ、撃沈からだ』  


417  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:46:53  [  HVdVzoX.  ]
『は、申し訳ありません・・・上も理解はしているようで、前投兵器自体は開発しておるようですが、欧州に居る我々に届くことは無いのでしょうな』
肩をすくめる水雷長
『前投兵器ならば爆発地点が遠くなるためレーヴァテイルの耳にも悪影響を与えにくくなる、そこら辺が元の開発理由だったか?聞いた話では。たしか、責任者はあの五島とかいうレーヴァテイルの・・・まぁ確かに開発されようが欧州の我々には関係ないな』
日本からはどうやっても持って来ようがない
『んきゅ〜・・・狭苦しい・・・キュ〜』
拡大したとは言え、駆逐艦のソナー室に、レーヴァテイル二人、ソナー員二人、艦長と水雷長・・・すし詰めである
『おぉ!すまんすまん』艦橋に艦長と水雷長の二人は戻る
『しかし、今日確認されたものだけで、既に11隻の潜水艦が撃沈されている、うちの主力が居ない間に火事場泥棒するつもりだったのだろうが・・・運が無かったな』
レーヴァテイルは居たまま転移して来たし、奇襲やトルコへの輸送でそれなりの数が失われたが海防艦や松級の駆逐艦はまだまだ数が居る。空母だって・・・英海軍にしては無謀この上ない
『・・・我々を引き離そうとしている?しかし引き離して何が出来る』  


418  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:55:28  [  62Dc2aCc  ]
『伝令!伝令!!』
伝令が電信室から駆け込む、どう報告しようか首をふっている
『構わん、そのまま読め!』
『はっ!海岸倉庫群に砲撃!砲撃は巡洋艦クラスの連続射撃!!陸さんが支援を求めています!』
狙いは倉庫かっ!
『馬鹿な!?水上艦が入り込める要素など、どこにもありはしないぞ!』
水雷長が叫んだ。そうだ、潜水艦が巡洋艦クラスの砲撃力など持ち合わせている筈が・・・よしんば持っているとして、伊号のような単装砲の場合、手動装填、どうしても連続射撃とはいかなくなる、一体何者なんだ!?
もう一人駆け込んできた
『次電です!近隣に駐屯していた陸軍戦車隊が出るそうです!』
『よしっ!とにもかくにも、こちらも全速で戻るぞ!陸さんに迷惑はかけられん!』
こっちの普通に搭載している潜水艦の豆鉄砲でも、陸さんにとっちゃ重砲そのものだ、いくら戦車だって分が悪い、そしてうちの戦車はぺらぺらのやわらか戦車が相場なのだ
『倉庫をこれ以上焼かれるわけにはいかない・・・!』
我々の命運はそこにある資源にかかっているのだ  


419  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/06(火)  23:59:40  [  5dL2ey5s  ]
倉庫街


『海側の方、かなり派手な事になってる見たいだなぁ』
あちらから炎があがっているのが見える、砲を発射する音も断続的に聞こえてくる
『ここの倉庫群を焼かれたら大変な事になる、あっちで食い止めてもらわなきゃな。俺達がどうこうするようになったらおしまいぁ・・・』
黒装束の何者かに首を切られ倉庫番はコヒュコヒュと血を吹き出しつつ気管から空気を漏らしながら倒れた
『な、なんだおま』
もう一人は状況を把握する間もなく、投げられたナイフをその胸に突き立てられた
『部隊を分ける、アドルフ・フランコ小隊は2ブロック先から破壊工作を始めろ、ベニト小隊はここに陣地構築、奴ら倉庫そのものを巻き込んで焼くことは躊躇うはずだ、他はついてこい!敵部隊を後ろから撃って撹乱させる!後はそこここを破壊しつつ後退戦闘!破壊工作はイタリア人
フ専売特許では無い事を見せてやれ!ゴー!ゴー!ゴーッ!』
黒い群れは分散して行動を始めた


『に゛ゃっ!?温かい血の匂いがするよ親方!港の方も騒がしいし!』
『落ち着け!』
若い獣人達は驚きと興奮に獣化した鼻と耳をひくひくさせ騒いでいる。獣人達の宿舎が近くにあったのだ
『しらねぇ匂いがする!敵襲だ!』  


426  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  01:46:16  [  t4UopWMg  ]
アドリア海岸・帝國転移資源倉庫街


ガキィーン!!!


その異音と、夜目にもはっきりとわかる火花は英海軍の将兵達よりも、帝國陸軍の将兵達の方が驚きを隠せないでいた
『う、うちの戦車が敵の弾を弾いた・・・』
被弾したのは英潜水艦の備砲として標準的な4インチ四十口径砲、実際の所は角度がよかったのだろうが、それはあくまで装甲が十分にあるからこそ出来る奇跡である
『無事か!?』
『車長!チセは大丈夫です!』
『馬鹿か!お前らの事だ!』
被弾の衝撃で頭がぐわんぐわんする、鼻血も出ている
『海に見える船はなんでもかまわん!とにかく砲弾を叩き込め!』
海軍め、あのような奇襲は二度とできない、アドリア海は安全地帯だとか抜かしやがって、おもいっきり襲われてるじゃねぇか!

ドゥン!

主砲発射、ちっ!その海軍の奴らがくれた砲だが、元が高射砲であるだけあって弾道の伸びがいい、潜水艦らしき低い艦舷の船体に光が走った、命中!
『よし!第二小隊の三両が来るまで耐えるぞ!』
そうすればチセが六両、それだけあれば駆逐艦とだってやり合える、ましてや直接照準の潜水艦なぞに我が帝國陸軍は、チセは負けはしない!
『航空支援はないんですか!?』  


427  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  01:51:03  [  62Dc2aCc  ]
操縦手の疑問を車長は頭から否定した
『それはダメだ!』
ダメだダメだ、マズすぎる
『し、しかし・・・』
『奴らがなんでわざわざ俺達でも戦える岸壁近くで攻撃を行っているのかわからんのか!』
これほど近づけば、航空攻撃で撃沈されても外れ弾で港湾施設に損害が出る。それは資源も大事だが、その積み出しを行える港もまた大事なのである。俺達が本土に帰るためにも港はできるだけ破壊を避けねば・・・しかし資源なくば明日の身さえ危うい
『アテはどこにいる!アテも十両は居た筈だ!甲板を掃射して砲を沈黙させるんだ!』
アテ、海軍の25o三連装機銃を車体前面の防盾だけのっけた対空(対人掃射)戦車である。正式にはAntiAirTankを略してAT車と命名され、配備されている。兵からはアテと呼ばれている
『くそっ!肝心な時にアテにならない!』
こういう使い方をよくされる、アテにしてる。はよいが、アテが外れた。などひどい言われようも・・・それなりに頼りにされている証拠だろう
『対空車輌ですから、各所分散してて取り纏めに苦労してるんじゃないですか!?』
『苦労してるのは俺達だ!』
一両でもアテがあれば少しは戦況が良くなるのに!
『こちら第二小隊、聞こえるか』  


428  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  01:53:40  [  KRpK8t7E  ]
こんなに明瞭ではなかったが、雑音交じりにそう聞こえた
『こちら第一小隊、早く来てくれ!火力が足りん!』
怒鳴り返す。お互いが続けている射撃で耳がおかしくなりそうだ
『待ってろ、今、アテ二両とチへ改三両をおまけに連れて来てやる』
予想以上だ、それならやれる!いままでうんともすんとも言わなかったのも勘弁してやろう、畜生め!
ちなみにチへ改は、チへに対人用噴進弾(弾頭は海軍の12センチ噴進弾)を二基を砲塔左右にくくりつけたもので、他は特に変わっていない、だが、その噴進弾は実にこの戦場向きだ
『第二小隊!あとどのくらいで来れる!?』

ズガーン!!!ズガーン!!!

『!?』
爆発音が複数別方向から?
『すまん・・・第一小隊、到着が遅れる』
『何!?どういうことだ!?今さっきの爆発音は・・・』
『敵の地上部隊だ、後方から進入していたらしい、まずい!アテが奪われた!』
ズガガガガガと無線に銃声とわかる雑音が交じる
『しばらく持久してくれ!アテが二両とも奪われた!あれに暴れられると厄介な事になる、止めろ!止めるんだ!!』
何てこったい・・・このイタリアという、まがりなりにも枢軸の中核を成す国の本土に敵兵が上陸してきただと?  


429  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  01:55:56  [  M7VYRcWY  ]
少し時間を遡る
『フレックス、見ろ』
『・・・戦車ですね、デカいのも居る、それにあれは・・・対空戦車、でしょうか?』
戦車に機銃を括りつけたような奴だ、銃手が居る所は後ろから剥き出しになっている
『やつらはまだ俺達に気付いていない、通過した所を後ろから。あの対空戦車をいただこう』
隊の皆が銃をもう一度チェックする
『手溜弾は極力使うな、奪うんだからな』
『コピー』
『アイ、コピー』

キュラキュラキュラキュラ

よし、やつら、イタリア本土だからと安心して周囲警戒を行っていない。真っ直ぐ港へと向かっている。デカい戦車と普通の戦車に箱がついてあるのが彼等の居る倉庫脇を横切った、そうだ、気付くな、いっちまえ!さぁ次だ

キュラキュラキュラキュラ

通り・・・過ぎた!
『いくぞ!!!』
道路に飛び出た、さすがに正面以外はガラ空きの対空戦車の射手達はこっちの存在に気付いた
『て、敵襲!!!ぐぼあっ!!!』
ただ、遅かった。機銃台を旋回させる事もできないうちにブレンガンで蜂の巣にされた
『乗れ!』
飛び乗って拳銃を取り出し、ハッチを開けて操縦手らを射殺する。もう一両の方もどうやら上手く行ったようだ。邪魔な死体が捨てられた  


430  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  01:59:25  [  LIawiXzY  ]
機銃をチェックする、これが弾倉で・・・旋回は・・・このハンドルか!
『タップ!動かせるか!?』
操縦席に潜り込んだ仲間に声をかける
『見た感じルノーの系統だ、ダンケルクの前にいじったことがある、大丈夫だ、まっかせろぉい!』
よし、思う存分暴れてやる!
『ぶちかまして後退する!撃ったら全力でバックだ!建物の影に入る!』
近くの戦車、真正面に居るあいつだ!何かがこちらに起こったのは気付かれている。だが遅い!弾倉を皆で嵌めて、ハンドルを回し、機銃を調整する。正確な照準はしてられない、目くらましだ
『くらえっ!!!』

ガガガガガガガガ!!!

伸びた火線が敵戦車の一両に吸い込まれていく、弱装甲なのか、こいつの威力が凄いのか文字通りバラバラに解体していく。その光景がオープントップなのでまざまざと見せ付けられる
『やった・・・戦車がズタボロだぜ!』
やがて破局は訪れる。25o機銃弾がチへ改に搭載されていた12センチ噴進弾の入っているケースを貫通、そのロケット燃料に火をつけた。爆発は穴だらけになり、搭乗者も死に絶えたチへ改の弾薬へも波及し

ドゴァッ!

『うおっ!?』
爆発炎上した
『後退だ!デカくてヤバいのが来るぞ!』  


431  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  02:03:05  [  HVdVzoX.  ]



『武器がないと戦えない・・・!』
ダークエルフと日本人、そして獣人の人々が郊外に集まっていた、皆軍人で休暇だった者か、軍役にあった者らだ。一般人居住区が少し倉庫街から離れているのが幸いした。しかし武器はイタリア本土ということもあり駐屯地外では、個人所有がこの当時認められているとはいえ、最低限(
拳銃・猟銃・三八式が少数)しかなかった。駐屯地からの部隊はこちらに向かって来ている筈だが、待ってる間に事を成されてしまっては意味がない。しかし敵上陸部隊が相手では、促成の部隊を捻出し、送り出したって無駄死にがオチだ
『俺達には武器がなくともこの体と爪がある!港と倉庫がなくなっちまったら俺達だけじゃねぇ、みんなの居場所がなくなるんだぜ』
倉庫街自体は他にもあるが、資源類の六割はここにある、それがなくなれば・・・一気に我々の立場は悪くなる
『親方のいう通りだ!突入!突入!』
獣人達は気楽に言ってくれるが、普通の人間(その割増程度のダークエルフ)が体術で何とかできるレベルじゃない。獣人達も銃弾の嵐がどんなものかわかってない
『駄目だ!無秩序な突入はさせない、許可しない!頭を冷やせ!』
帝国人でこの場の最上級者(少佐)が怒鳴った  


432  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  02:05:46  [  h7T8ta3M  ]
『策の一つでもなければそんな事は出来ん。諸君らの妻子を路頭に迷わせる訳にも、またいかんのだ!』
異世界へ大陸派遣軍が派遣されるようになって約八年。なりふり構わぬ派遣から、余裕が出だしたこの頃は、妻子持ちは内地、一人身は大陸というような形も陸軍内に出来上がっていた。かつての満州と同じだ、内地で政治工作や内部工作ができなかった者(むろん、大陸に尽くそうとする
者も沢山居た)が流される所として使われていたのだ。
日本人、つまり帝国人がここに居る中で一番身持ちが軽い、安易な突撃も構わぬだろう。何かしらのアクションが今は必要だ。だが、ひるがえって転移してきた彼等を見てはどうか?異世界列強の迫害から家族・部族単位で逃れ、国を創った、彼等の自由と幸せの全てがここにあるといっ
トいい。それを享受すべき者達が望んでいるから、とは言え、無下に散らせる気はその少佐にはなかった。
『相手は我々のような特殊な浸透部隊でしょう、生半可な手が通用するとは思えません』
ダークエルフの軍属、女性だ。ダークエルフに至っては女まで戦場に投入しやがる。獣人さん達と違って理解が早いのはいいが、勘弁してくれ
『君は部下を率いたことはあるか?』
ふと聞いてみる  


433  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  02:11:43  [  JaGeE3cU  ]
『退役前に不正規任務で十人程』
『それ以上の人間を統制できるか?』
しばしの沈黙
『無理です。それ以上の数を束ねた場合、なにかしらのしくじりを起こし、全滅したならば、我々のような諜報・工作部隊では組織的に大きな穴が生じてしまいます。そのような事がないようにするためもあり、我々は大人数での活動を行った事がありません』
うん、と頷く
『君達のように統制が取れていて、装備の良い部隊が倉庫にたて篭っている。しんがりとして腰を据えて、だ・・・数はこっちが多いだろう。しかし、手と手を取り合って突っ込んでもろくな事にならん』
何か手は無いものか
『俺達獣人が屋根に登って、上から襲いかかるのはどうだ?足音は砲撃の音で聞こえねぇぜ』
獣人の間で親方と呼ばれている男が提案した
『倉庫内の奴らが片付けられないわ、蜂の巣にされるのがオチよ、でも、一人ずつ私らがおびき出して人数を減らすには、時間がない』
女のダークエルフ軍属が指摘する
『倉庫内の奴の目をどうにかして眩ませれば・・・』
上から人がこの状況で降りてくるとは思えない、何とかなるかもしれない
『屋根の上に乗ってる換気筒落とすのはどうだ?』
倉庫にそれぞれ三個ずつ乗っている物だ  


434  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/12(月)  02:16:30  [  O28l2xuA  ]
『いや、それじゃ駄目だ、いくら君達でも上手く落ちるかわからない、さらに、一瞬でも何かに引っ掛かって間が開けば彼等は我に返る。』
何を行うつもりか一瞬あれば気付くだろう、ましてや兵が襲われているのが見えるのだ、隊をわける分、撃破もされやすい
『煙幕かなにか・・・しかしそういう弾は手元にない』
しかしまぁ、倉庫は空間的に広い、あったとしても上手くいくかは未知数だ
『・・・スプリンクラーは使えませんか?水道の細工は、外部からもできます』
ダークエルフ軍属の女史が思いついたように言う・・・水なら霧状に噴霧され、視界を遮るのも早い、うん、いける!
『それだ!』
『ただ・・・あの砲撃と火災ですから』
他の所で作動していて水量が足りず、まったく役に立たないかもしれない
『出来ないなら出来ないで次善として換気筒を落とそう、だが今はあなたの案が一番リスクが少ない、そして素手でやり合うような近接戦なら・・・!』
親方と呼ばれている獣人を見る
『そうだな、そうなれば、俺達は負けやしねぇ!』
いや、負けられないのだ、己の存在のために!
皆が頷いた
『班を分ける!反撃開始だ!!』  


443  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:15:12  [  5k.cDmFg  ]
第11海軍航空廠・広島空港


ブルォン!ブロロロロ・・・

回されていたプロペラが発動機が停まったことで停止する。ハーネス等を外してパイロットが機外に降りた。機附きの整備員が駆け寄る
『中佐!お疲れ様です!』
『おう、良い整備もあってか、こいつは最高だったぞ』
こんこんと機体を叩く
『加賀にこのまま持って帰りたいくらいだ』
『志賀中佐、そりゃあ誉め過ぎだ、技術者としてそんな言葉を聞けば、こんなものでいいのかと満足してしまうぞ』
チーフらしい人物が巌のような顔で、はにかみながら言った。志賀淑雄中佐、今度加賀に飛行長として赴任する事になり、呉に寄ったついででここに足を延ばしたのだ。ここには紫電改のテストパイロットをしていた志賀の知り合いが大挙して押し寄せていたからだ。そう、最終調整中の
汪主力艦戦、陣風が居たのである
『じゃあちょっと気になった所だけ言っておくかな?』
『そら来た、ありがたいんだ、技術者にパイロットさんの言葉ってのは』
今度はニカっと笑うチーフ
『機銃が30o四丁になったのは良いが、機銃が大型過ぎるのと、それに付随する防弾が気になる』
陣風の機銃は元は30oと12.7oのニ丁である。それが増備されていた  


444  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:17:28  [  fIFx11L2  ]
翼にこぶが見える、ここに食らったらと思うと背筋が凍る。30oの機銃弾、暴発すればさぞ派手な事になるだろう
『ああ、うーん・・・乗る人はみんな言うねぇ』
頭をチーフはボリボリと掻く
『そのこぶは防弾の為で、入りきれてないという訳じゃないんだ。確かに30oはデカかったがな』
思い出すように言う
『戦闘機でありながら襲撃機なんだ、こいつは』
『どういうことだ?』
『いや、艦戦は艦隊攻撃の時、直掩をしてますわな』
『ああ、敵直掩機の排除を行う』
『ヴァイスローゼン事変がありましたでしょ?あの時、敵のワイバーン隊は爆弾を落としたのにもかかわらず攻撃隊に加わって機銃座の目標を分散させ、ブレスで機銃座を沈黙させようとしたんですわ』
『そりゃ上空支援がなかったからだろう?』
首を捻る、そこまでこだわる事か?
『最近は機体に電探をのっけとる機がありますな、彩雲とかいうて。あれの存在がまず、うちの社長の頭に浮かんだんですわ』

敵の動きを知った上でぶつかるなら、先ず起きるは戦闘機同士の空戦、その間に攻撃隊の突入となる、ただこの時、空戦を行う機と直掩を続ける機に別れる。直掩を続ける戦闘機が行うことは艦隊を攻撃する味方を見るだけか?  


445  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:20:55  [  5dL2ey5s  ]
『じゃあ、攻撃隊よりもさらに先行して敵の機銃座を制圧するべきじゃないか、と、おっしゃいまして』
『流星に既に20oが積んであるじゃないか』
『魚雷を抱えていては敵機銃座を自在に攻撃、制圧をするのは不可能です。進路上打ち込めれば、の話ですよ、それは』
チーフが近寄って来て陣風の機体を叩いた
『こいつは零戦の20oを受けてもなんとか持つようにしました、少なくとも紫電改の三割増しは硬いはずです・・・その代わり加速性能が悪化して、最高速も680行くはずが、642ぐらいに落ちてしまいましたが』
『加速は言おうと思っていたが、速力はそれほど落ちてないだろう?そうだな・・・もう20は速かった気がするが』
『本土ですからね、調子がいいんです。エンジンも一つ一つ、レーヴァテイルさん達が調音して調べてくれてますから』
様々な機械の職人の中でベテランともなると、機械の調子を音で言い当てる、レーヴァテイルはその面でも役に立っていた。不具合の検査にである
『だが、戦地ではそうはいかない、そうですよね?』
『劣悪な状況下でも642は必ずでる、と』
『はい』
志賀は唸った
『加速が遅いのはちょっと問題があると思うが、これは何故許容したんだ?』
気になる  


446  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:23:12  [  FOuc4Za.  ]
『それは先程話した社長の話と同じ経過ですよ』

機上電探で相手直掩編隊の位置が遠距離からわかるのであれば、会敵時までに最高速に持っていくのは容易な事だ

『だそうです』
『先に最高速に上がった方が高度を取れるんだが・・・』
『敵直掩が艦隊から離れるならよろしいのでは?攻撃隊は低空進入が主です。そしてこいつはしぶとい、旋回性能も紫電改並にはありますし、防御も怠ってないので降下もやれます。電探の妨害や、その支援のない場合になれば、また別な話になるでしょうが・・・艦載並びに機上の電探
フ普及で、空戦が何をしてもがっぷりよっつに組んでしまう事態になっているのですよ、数と数とのぶつかりあいに、そうであるならば、機の数を維持する必要があります。そこで必要なのは硬さです。ここだけの話ですが、実は生産効率が紫電改よりは落ちてしまいましたので、今は落ち
てもらうと困るんです・・・あ、それでも部品数は零戦並に抑えたんですよ?』
チーフが言うには、こぶのあたりがその原因らしい
『零戦は深窓の令嬢、紫電改は下町のおてんば娘といったが、こいつはまるで鎧を着込んだ巴御前のような機体だな』
まったく、川西は日本のどこよりもマッシブな機体を造る  


447  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:25:56  [  kXkOHBG6  ]
が、しかし志賀にとっては、チーフの空戦の形が変わりつつある、というのが衝撃であった。いや、航空屋としての衝撃かもしれない。数と数ががっぷり四つに組むのであれば、経験上、損耗率はお互い変わらなくなる(この率を減らす為に川西は防御を選んだのだろう)米軍が我々と同じ
セけ、いや、それ以上の機を出して来たら?間違いなく抑えるだけで手一杯で、最悪差し違えになる。そのあとは?
『・・・結局は大砲屋が戦いの主力だと言うのか!』
航空屋として志賀にも誇りがある、自分達こそが聯合艦隊の主力である、という自負、それが揺らいだのである
『志賀中佐?』
チーフが怪訝な顔をする。どうやら声には出さずに済んだらしい
『ま、30oの四丁搭載はあっちの』
チーフが指差した
『九州飛行機の震電と共用というのが大きかったりするんですがね』
そうすれば需要が大きくなる、ラインを増やしたり、変えたりする必要のある企業に対して十分な利益と仕事を与えることが出来る。勿論、運用上融通もしやすいというのもある
『弾や銃身の方は大丈夫なのか?』
『12.7oの普及で、7.7oが彩雲用除いてラインを廃止されましたから、それが30oに変わりつつあります。滞りなく揃うでしょう』  


448  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/19(月)  17:28:26  [  62Dc2aCc  ]
『中佐が前線に戻られる、という事は決戦が近いのですか?いや、防秘でしょうからおっしゃらずに結構ですが』
チーフが真正眼に志賀の目を見据えた
『こいつも、こいつの次も、こっちは出来るだけの設計と性能を出して見せます。でも結局は乗る人がいなきゃ始まらない。中佐も含めて、部下の方々も必ず帰って来て下さい』
チーフらが頭を下げる
『紫電改で培ったノウハウを、完全に出し切ったつもりです。紫電改は水上機上がりでしたが、完全な川西戦闘機として、これにこそパイロットの方々に乗ってもらいたいのです』
確かに、紫電改で指摘された脚の弱さや、空戦フラップの可動性、折りたたみの性能悪化抑止、良く取り組んでくれている
『わかりました、確かに部下に伝えておきます。新しい玩具を造ってあるんだからもっと働け!とね』
ニカっと笑う。そうだ、主力がどうとか、何を俺はつまらない事を考えているのだ。パイロットは目の前の敵と戦って、生きて帰ってくるのが大事であり、開発・生産している人々が機体に込めている願いでもあるのだ
『戻ります。久しぶりの空、楽しかったですよ』
志賀は一礼する
『中佐・・・御武運を』

加賀に陣風が搭載される三ヶ月前の出来事だった  


456  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/26(月)  18:46:35  [  fIFx11L2  ]
イタリア・アドリア海沿岸倉庫街


『どう思う?給水指揮施設に敵は居ると思うかい?』
獣人の親方を見張りに残してダークエルフ女史と少佐はそれぞれの種族の部下を連れ、建物に隠れつつ近づいていた。手には拳銃が握られている
『相手側は被害を拡大させたいに違いありません、手勢に余裕があるならば抑えておきたい所です。砲撃で倉庫街に居た人間がどこで何をしているのかわかったものではありませんから、指揮施設から応答が無くても仕方ないし、また誰か人員を寄越したとしても、入った途端に射殺では
A不運に砲撃で吹き飛ばされた、としか送った側は考えようがありません、普通は』
もともと本土に敵部隊が入り込んでいる、というのが間違いなのだ
『ドアは押し戸ですか?それとも引き戸』
ダークエルフ女史が聞く
『引き戸だ、窓は無い、換気孔はあるが人一人がやっとだ』
『厄介ですね』
引き戸は突入する際どうしても開く人間と突入する人間を分けてしまう、押し戸なら両方とも転がりこめるのだが・・・
『ドアを銃で打ち破るのが出来ると思うのは』
『映画好きのド素人』
二人ともニヤリと笑う、扉を破壊して入るには手間がかかるし、音が立つ、気付いた敵に蜂の巣がいい所だ  


457  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/26(月)  18:48:36  [  2FpTlyyE  ]
『手投げ弾の一つでもあればな』
少し開けて、放りこんでやれば良い
『ないないづくしを言っていても始まりませんから』
『やっぱり人海かね?』
手が無いなら数で押すしかない
『楯になりそうな物を持てたら良いのですが』
『そいつの腕は確実に折れそうだがな』
銃弾からの衝撃は、たとえ貫通を防いだとしても凄まじい。防弾チョッキを着ているから平気だぜ、は、漫画の世界だけである
『見張りは出てると思うか?』
『無いと思います。誰かが何も知らずに開けた所を射殺するのが一番奇襲効果を得られますから・・・もし居たなら、私らのこいつで』
女史はボウガンを取り出す、自作らしい
『音が無いのが良いです、即効性の毒を塗ってありますから銃よりも使いでがある時もあります。ダークエルフとしては、木の上に隠れ、弓の弦を引く、というのが正しいスタイルなのでしょうが』
にこっと笑った、冗談のつもりらしい
『なら、私は刀を振り回さなきゃなりませんね』
実際同じようなものだが
『いない、は楽観しすぎですかね?』
『だといいな、でしょうね』
統制室が見えて来た、見張りは居ない、場に居る全員が息を殺して移動する。
扉の前、いるか、いないか

『突入!!!』  


458  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/26(月)  18:51:27  [  qolO/Z6Q  ]
一方、奪われたアテ車


『良いぞ!手当たり次第破壊しろ!!』
オープントップな為、フレックス達は手持ちの火器も撃ちまくる、時たま手投げ弾のピンを抜いては倉庫に投げ入れたりもした。あのデカいのとやりあわなければ、充分に暴れられる
『アイツを見つけたら逃げる、待ち伏せだけはされないよう気をつけろ!周囲警戒を怠るな!』
もう一つ、俺達がやったように銃火を後ろから投げ掛けられてはかなわない、周囲警戒こそが自分達を助ける
『ライト!機銃の残弾をカウントしておけ!こいつが使いものにならなくなったら捨てるからな!』
兵器にこだわり過ぎても死に神はやってくる、こいつはなかなかの物だが見切りはつけなきゃならない
『あいよ!』
部下が元気に答える
『・・・支援砲撃が減ってる。潜水艦部隊も限界、か』
耳をよくすませばわかる、あのデカいのとやり合えば火器の少ない潜水艦じゃ相当キツいはず、無理に無理を重ねて良くやってくれた
『こっちは引き上げ時か・・・十分に目立った、あっちの班が派手な仕掛けを無事に用意し終わっているのを祈ろう』
残りの倉庫に爆薬を仕掛け、撤退の際に時間差で爆破する。日本人達はこっちの人数の把握は出来るまい、撹乱だ  


459  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/26(月)  18:53:38  [  XK2obbq6  ]
『いいですか分隊長!』
『どうしたケーン』
部下の一人が質問する
『いったい帰りはどうするんで?』
呆れた
『おいおい、聞いてなかったのか』
潜水艦の中で言ったじゃないか
『山にしばらく篭る』
イタリアは半島として朝鮮と同じく山がちの地形である。しかし文明が流入したのが早い為、交通網は整備されている、移動には支障が無い
『そこでユダヤ人協力者の保護を受ける手筈が調っている』
イタリアはドイツからのユダヤ人排斥の要請を、ユダヤ人の沿岸からの退去だけで済ませていた、そこを逆手に取る
『その後はシチリア系のマフィアを使い、スイス、または海上路経由で本国に戻る』
イタリア史上、もっともマフィアに対して規制がかけられたのがムッソリーニ政権下と言われている。史実のシチリア上陸戦でもマフィアの手引きがあったとされる。イタリアンマフィアにとって、ムッソリーニは何よりも憎い敵なのだ。その政権を崩壊させることが出来るならば、外国
ィ力と手を組んだって構わないのだ
『マフィアって・・・悪役みたいでいいっすね!』
『葉巻くわえてマシンガンぶっぱなす訳じゃ無い、あまり期待するなよ』
苦笑する。そういえば、しんがりはどうしているだろうか  


460  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/26(月)  18:56:38  [  KYi//xS.  ]


哨煙と血の匂い
『・・・何人取られた』
『六人。少佐の方は七人』
たった五人がろう城するだけでこの損害か。この場に居たダークエルフはこれで私を含め四人・・・手痛い損害だ
『女史、器械の操作は私といくらか人を割いてしよう、残りは君が率いろ、武器も渡す。突入する親方の援護を』
声をかけられた。少佐だ
『しかし少佐、ここの防衛は・・・』
どうするのです、と聞きかけて絶句した。腹に被弾している
『ははは、かなり至近だったからね、体には残っていない、大丈夫だ』
少佐は笑って見せるが大丈夫には全く見えない、脂汗が頬をつたっている
『で、ですが再奪取されては・・・』
作戦に関わる
『床に転がってる奴らをうまく利用する。任せたまえ。近代兵器の扱いを、君達に誰が教えたと思っている』
『それはそうですが』
指揮の力量はこの人の方が上だ、私では不安過ぎる
『貴様、抗命するのか!』
『は!』
怒声に反射的な敬礼を返す
『行きなさい、こんなやり取りに力を使いたくない。あなたなら出来ます』
ここまで言われては・・・
『指揮を・・・預かります』
『ああ、頼む』
少佐はにこりと笑った
『すぐに戻ってきます!』
そう言う事しか出来なかった  


468  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:46:19  [  zeLnApqc  ]
伝えられた放水の開始は十五分後、その開始時間に何とか私は間に合った
『よう、遅かったじゃねぇか』
既に獣化していた親方が素早い動きで倉庫の屋根づたいに降りてきた
『敵の排除に多少時間がかかった。もうすぐ放水が始まる、覚悟はきまった?』
『当然だ!・・・?そういえば少佐殿はどこにおられるんだ』
・・・ダメだ。おそらく彼が少佐の負傷を知ったら、戦力を割いて助けに行く。もしくは行かせてくれと懇願して、一人だけでも無許可でも行かせてしまうだろう事は想像に難くない。そんな種族なのだ・・・解ってて行かせましたね?少佐
『機器を誰か守らねばならん、機械は少々苦手だ』
嘘をついた。事もなげに。我々ダークエルフはそれが出来る
『考えてみりゃそりゃそうか。おし!じゃあ頃合見計らって突入だな!』
耳としっぽを嬉しそうにふるふる震わせている
『ああ。倉庫から飛び出て来た奴らは我々が始末する。安心して暴れてこい』
『おう!まかせときな、ねぇちゃん!』
そう言うと親方は壁づたいに屋根へ登り、仲間の元へと戻って行った
『問題は敵がどの程度の時間で我にかえるかね』
いろいろ思うことはある。少佐の事。自分達の事。しかし今は目の前の事をやる時だ  


469  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:47:32  [  BWp6c0w2  ]
『作戦はほぼ成功だな』
『仕上げがまだだが、な』
倉庫の開き扉の両側に隠れて見張りの二人が注意の目を反らさず外を確認していた。倉庫内には中にあった資源の入った箱やらなにやらの影に身を隠している仲間が時間潰しに所持している武器のチェックを行っていた。最後に暴れるのは自分達だ、と気合を入れて

パシャッパシャッ・・・

『うん?』
上の方から音が

シャアアアアアア・・・

『誤作動か!?』
『スプリンクラーだ、誰か配管いじって止めろ!ずぶ濡れは勘弁だ』
仲間が口々に言う。扉の所に居た二人も咄嗟にうしろをむいてしまっていた。そしてそのまま息を引き取った
『でぇりゃあああああっ!!!』
一人は空中から回転しつつ落ちて来た獣人の爪が、背中から大きく肉を削ぎ背骨を破壊され、一人は着地したと同時に繰り出された鋭い突きに体を貫通されたからだ。降りてきた獣人達は倉庫の扉を力任せに一気に開く。突入孔が開いた!
『突っ込めぇっ!!!』
『てっ敵襲!!!』
英兵が叫ぶ。しかし滝のように降ってくる水と自分達が遮蔽用に置いた物資の為に視界が遮られ、なかなか捕捉ができない
『ちぃっ!奴ら早い!照準が合わせられん!』
ブレンガンを振り回す  


470  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:49:18  [  FOuc4Za.  ]
『馬鹿!構わずぶっぱなせ!中の物はどうせ敵の物なんだ!』

スタッ

『っ!?』
こいつ!毛皮を着ている!?
『うおおおおっ!!!』
銃を振り向ける、この距離なら!

ごきゅっ

撃てない、馬鹿な・・・!違う。腕がぼっきりと折られ、銃ごと別の方向を向いてしまっている

めきょり

妙な音を聞いた。それが彼が殴られて自分の頭蓋骨が内側にめりこんだ音だと気付く事はなかった
『ば、化け物だ!化け物だ、ちくしょう!なんなんだよこいつらはぁっ!!!』
『パニックになるな!手近な仲間と円陣を組むか背中を合わせろ!!』

部隊長らしき男が命令を叫ぶ、しかし耳の良い獣人がそれを聞き逃すはずがない。まずは頭を潰す。戦の常道だ

『ウオォォォォーッ!!!』
ウォークライが倉庫にこだまする
『ぐっ!』
どうしても落ちてくる水で視界が遮られ反応が遅れる。のしかかって来るのを銃で受けるので精一杯だ、だが、その隙があれば!
体を反らし片手を外す、くそったれ、銃が軋んでいやがる。なんて力だ!

シュッ

グルカナイフを引き出して脇から切り上げ・・・堅い!いや、それよりも血がそこから直接出ている
『こいつは、着ぐるみでも防弾着でもない!!』  


471  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:50:53  [  5dL2ey5s  ]
『ウォーウルフっ!?』部下の一人がその様を見とがめて叫んだ。馬鹿な!神代の化け物がこの世に存在するはずが、ない!
『グゥオオオオッ!!!』
ガパッっと開いた口には牙が生え揃っている。くそったれめ!
『構わん!俺ごと撃て!!!』
『う、うおおおおっ!!!』

ダダダダダダダダ!!!

ブレンガンの銃火にズタズタに裂かれている。まぁそれは俺もだが。こいつらは神代の化け物じゃない。我々にも倒せる、確かに倒せるのだ
ニヤっと笑って部隊長はその獣人と共に倒れた。しかし獣人を一人でも倒せたことで隊に冷静さがいくらか戻った
『この場じゃ戦えん!外に何としても出るんだ!』
指揮を受け継いだ次席が叫ぶ。この場にとどまっては分が悪すぎる!

『ぐぎゃっ!!』
『おわぁあああああっ!!!』

走って扉の外へ出ようとする英兵が後ろから順に始末されていく
『なっ・・・!』
やっとの事で倉庫内から出て視界が開けた彼等には、水の代わりに矢と三八式の銃弾だった
『ふっ!伏せろ!地面に伏せるんだ!!!』
隠れる場所もない、戻ったら化け物が圧倒的に有利な近接戦闘。出ても地獄、戻るも地獄
『くそっ・・・味方が戻ば!』
数、火力ともに圧倒できるのに  


472  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:53:27  [  ibELFYCQ  ]
その願いは聞き入れられた

『おらおら!騎兵隊だ〜っ!!』
敵側に奪取されたアテである。25oを乱射しながら遮二無二になって突っ込んでくる。敵の頭を伏せさせる為、めくらうちもめくらうちだが、これは効いた
『こいつの影に入るんだ!!』
フレックスが叫ぶ。車体はいい遮蔽物になる
『助かった!身動きが取れなかったんだ!』
『どうして中から出て来たんだ、篭ってた方が戦えるだろう!?』
フレックスの言は当然の疑問だ
『わからん!化け物だ、化け物がいきなり現れたんだ』
『化け物?なんだそりゃ!?』
フレックスに答える前に彼は三個ほどいっぺんに手瑠弾のピンを引き抜き倉庫ヘと放り投げる

ドドーン!!!

ドチャッ

毛むくじゃらのちぎれた腕が倉庫内から飛んで来た。銃弾を避けて中に篭っていた獣人のうち、だれかのものだろう
『な、なんだこりゃ!?人か!?』
『投げろ!ありったけ投げるんだ!』

『やらせない!』
女が一人飛び出して来た
手瑠弾を投げようとした何人かの兵の手にボウガンの矢が突き刺さり、手瑠弾をぽろりと落ちた
『や、やばっ!』
フレックスは咄嗟に防盾に隠れる

ドーン!!!

近くに居た兵を巻き込んで手瑠弾は爆発した  


473  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:54:52  [  9TlQkVJc  ]
べちょっ

何かが顔に張り付いた。くそったれめ、それが何かは考えたくもない
『ビッチ!』

ドガガガガガ!!!

女だろうが関係なかった、生き残って銃のとれる者はすかさず手持ちの火器で応射した。その女は弾かれるようにうしろにのけぞりそのまま動かなくなった。耳が長かったような気がするが、それはどうでも良いことだ
『砲を旋回させるぞ!倉庫にこいつを叩き込んでやr』

ドグォアッ

今さっきの女が弾け飛んだように、景気よく弾を吐き出していた隣のアテが弾け飛んだ
『隊長!あのでっかいのです!!』
『拘束され過ぎたか!』
今までなんとかふりきってきたものの、追い付かれてしまったのだ。
『ここまでだ!脱出しろ!』
場所が悪すぎた、こいつを動かして路地に入る前に砲弾を叩き込まれちまう。路地に逃げ込むなら生まれ持った足を使った方が今は早い!
『隊長!他の隊は待たなくていいんすかっ!?』
部下と共に銃を乱射しながら路地に駆け込む。後ろの方で散々世話になったアテが吹き飛んだ
『殿がこうなってんだ!あっちで考えつくさ!今は俺達が生き延びるのが先だ!ここに留まったらやられる!』
幸い、兵が持つ火力はこちらが上だ。逃げきってみせるさ!  


474  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:56:54  [  O28l2xuA  ]
給水指揮施設


『げぱぁっ!!!』
最後まで扉の所で抵抗してくれていた部下が頭を四散させた。私ももう意識が危うい所まできている
『てこずらせやがって』
『隊長の遺骸を探せ!起爆装置があるはずだ』
英兵がどかどかと突入してくる。
ダークエルフの女史を行かせたあと、死体を漁ってみれば運よく敵部隊の隊長で、起爆装置をその服の中に持っていたのだ。ダークエルフは諜報を主体として爆破などの荒事はそうはしない為、女史は見てもわからなかったのだ
そして考えてみれば、脱出の際、燃えていない箇所を調べたりする上でもここは都合が良い。指揮官が居てもおかしくはない。偶然ではない、必然だったのだ
『爆薬もここにあるな。ん?信管がささって・・・』
そして撤退時に他に設置した爆薬を起爆させつつ、最後にここを爆破するならば。消火は全て人力に頼ったものになる。それは大きい。ま、それは
『おい!こいつ生きてるぞ!』
場に居る英兵が銃口を全てこちらに向けた。にこりと笑ってやる。後ろ手に持っていた起爆装置を見せ、押し込んだ

カチャリ

『やっ!やめろぉーっ!!!』
私に阻止される訳だ

部屋は真っ白に染まっていき、全てを区別なく押し流していった  


475  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:58:17  [  M7VYRcWY  ]
倉庫街沿岸


『第一分隊はまだこねぇのか!』
今、彼のチセは係留してあった輸送船の影から顔を出しては下がりつつ敵潜に砲撃を加えていた。敵潜のもつ10センチ砲をまともに食らいたくなかったからだ
『徹甲瑠弾!最後の一発です!あとは徹甲弾のみです!』

ドン!

しかし今のでもう弾も撃ち尽くしてしまった。これではどうしようもない
『ええぃ!補給所に戻る訳にもいかん!撃ち続けるしかなかろう!』
あちらも痛手は払っているようだ。少なくとも、岸壁近くに居る潜水艦はもはや潜水できそうにない程ボロボロになり、甲板には死体が山積みとなっている
『海軍の奴らはどこほっつき歩いてるんだ!』
本来この場所まで近づけないのが奴らの役割だろうが!カッコつけの役立たずめ!さっさとその鉄クズ溶かしてチセの一両でも造ったらどうなんだ!
『せめて対人噴進弾でもありゃ・・・』
戦闘を開始したときにも言った言葉だが、恨めしい
『こち・二号・・・キャ・・・ピラ・・損』
くそっ!今までよく当たらなかったものだが。被害車輌が出た

ザッパーン

不意に、戦車砲とは質の違う水柱が立つ音がした。分隊長の彼の顔が歪んだ

『やっと来たか、おせぇんだよ、タコが』  


476  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  15:59:40  [  XK2obbq6  ]
自由フランス海軍・シュルクーフ


『来たか・・・』
水柱が林立した。かなり自艦から距離が離れている。艦長にはそれが、最大射程ぎりぎりからの射撃だという事がわかった
『駆逐艦らしきマストが三本!それから小さいのが三・・・四・・・五本!』
日本海軍側は、単艦ごとの逐次投入を恐れ、周辺に居る艦をなるべく集めてから来たのだ。その分到着が遅くなってしまったが・・・
『君、英軍の各艦に連絡を、撤退だ』
連絡士官が首を横に振った
『各艦共に被弾多数です。とても潜航航行できるものではありません。本艦のみの撤退となります』
『な・・・!』
『今ならば、本艦一隻抜けても捕らえにくいでありましょう。我が軍の潜水艦も引き際は弁えております。ある程度抗戦したら白旗をあげますが、この拘束にも敵は艦を割かねばなりません』
艦長は考え込んだ
『本艦だけ逃げのびろ、と?』
『仮定の話になりますが、たどり着いた艦が多かったならば、被弾していない艦は来たときと同じように分散し離脱できた事でしょう。ですが、たどり着いた隻数は少なく、かつ陸上戦力も少なからず機敏に反撃してきました。ならば遠距離から撃ち込める本艦以外が離脱できる可能性は
A極めて低い』  


477  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  16:41:53  [  7mGOixHY  ]
艦長が言葉のあとを引き継いだ
『そして本艦が生き残れば、自由フランス海軍が。いや、自由フランス軍そのものの存在を世界にアピールできるようになる、か?』
若い連絡士官が頷いた
全ては計算ずくか、イギリス人め・・・!いや、どうせ陸軍のドゴールも噛んでいるに違いない
『旗頭が必要なのです。どんな戦にも』
この若い連絡士官は、仲間を見殺しにする重責に耐えて己の職分を今、果たしている訳だ
『本艦は大きいし、特異性も十分だ。たしかに効果的だな』
ドゴールが持つ期待のリシュリューは破損したままだ。それが修理を終え、暴れ回るには時間がかかる。政治屋が考えそうな事だ
『離脱してください、艦長!』
本土を取り戻す。それが本来の目的の筈です。そう言うように連絡士官の彼は私を見つめた。
『わかった・・・砲撃止め!急速潜航!準備急げ!』
水柱が林立する。日本艦は己の存在を知らせようとしているのだろう。これ以上陸を砲撃されないように
『英艦から発光信号!貴艦の武運が神に祝福されん事を。さっさと逃げろ。以上です』
艦長は制帽をくっと目ぶかに被った。彼は泣いているのかも知れなかった。そして、ぼそりと呟いた

『逃げ切ってみせるさ、必ずな』  


478  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/09(金)  16:46:31  [  2lSfKk9s  ]
そして永い永い夜が明けた

結局の所、最後まで抵抗した英潜水艦は降伏した三隻を除き沈没した。その抵抗の激しさは、海防艦が一隻撃沈されている事が良く示していることだろう
一隻脱出を図った艦があり、レーヴァテイルに捕捉されたものの、この抵抗の為艦を差し向けることが出来ず、脱出に成功している

倉庫街の被害は凄まじく、全体の四割が失われた。この倉庫街は全体の六割の資源その他を溜め込んでいた為、被害は全体の24%。三割で全滅であると考えれば、その被害の大きさの深刻さがわかる。ここから上がる黒煙は、ヴェネチアからも見えたとする証言もある。
だが今は、その損害を集計するものはいない。ただ、脱力感だけが街を包んでいた


『ありがとよ・・・あんたが飛び出したおかげでミンチにされずに済んだ』
一方、ダークエルフの女史は虫の息でだが、まだ生きていた。といっても顔に奇跡的に被弾していないが上半身はぐちゃぐちゃである。獣人の親方は血だらけになりながらも無事であった
ぶつぶつと意識が混濁しているのか、彼女は何か言っている。親方は聞き取れなかったが、彼女は息を引き取るまでこう言っていた
『止めなきゃ・・・彼等を・・・止めなくては・・・』  


481  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:41:32  [  bBlcovoo  ]
第一任務部隊(H・E・キンメル大将直率)

第2戦艦隊
ペンシルヴァニア・テネシー・カルフォルニア

第四戦艦隊
ネヴァダ・オクラホマ・アリゾナ

第六戦艦隊
ノースカロライナ・ワシントン

第一空母戦隊
レキシントン

第三巡洋艦戦隊
ホノルル・フェニックス・サヴァンナ

第九巡洋艦戦隊
ヘレナ・セントルイス

第一水雷戦隊
デトロイト・ミルウォーキー・ローリー・シンシナティー
矯導駆逐艦2隻・駆逐艦16隻


第2任務部隊(E・パイ中将)

第一戦艦隊
コロラド・メリーランド・ウェストヴァージニア

第五巡洋艦戦隊
ノーザンプトン・チェスター・ソルトレイクシティ・ペンサコラ

第六巡洋艦戦隊
インディアナポリス・シカゴ・ポートランド・ルイスビル

第四駆逐連隊
矯導駆逐艦1隻・駆逐艦8隻

第三任務部隊(R・A・スプルーアンス少将)

第四巡洋艦戦隊
アストリア・ミネアポリス・ニューオリンズ・サンフランシスコ

第五駆逐連隊
矯導駆逐艦1隻・駆逐艦8隻

第四任務部隊(W・F・ハルゼー中将)

第二空母戦隊
サラトガ・エンタープライズ

第三空母戦隊
ヨークタウン・ホーネット

駆逐艦8隻  


482  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:43:55  [  2aOBt6HQ  ]
第一艦隊(宇垣中将)

第一戦隊
武蔵・紀伊・尾張

第二戦隊
長門・陸奥・伊勢・日向
第四戦隊
白根・鞍馬

第五戦隊
最上・三隈・鈴谷・熊野

第七戦隊第一分隊
高雄・鳥海

第八戦隊第一分隊
妙高・那智

第九航空戦隊
千歳・千代田・瑞穂

第一〜第四水雷戦隊
阿賀野級四隻・駆逐艦32隻(島風級8隻秋月級8隻陽炎・夕雲級16隻)


第三艦隊(山口中将)

第一航空戦隊
信濃

第二航空戦隊
瑞鶴・翔鶴

第三航空戦隊
蒼龍・飛龍

第四航空戦隊
赤城・加賀

第三戦隊
金剛・比叡・榛名・霧島

第六戦隊
利根・筑摩・伊吹・剣

第五、第六水雷戦隊(空母附きの艦を再編成)
根拠地隊統括艦2隻・秋月級16隻  


483  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:46:47  [  KRpK8t7E  ]
1942.4.5トラック環礁・アストリア


トットットット

小走りな足音が艦橋へと近づいて来る。その男はコーヒーを飲み干すとカップを従兵に渡した

『スプルーアンス司令!』
『ムーア君。また、かな?』
スプルーアンスは落ち着くように、コーヒーでも飲むかね?と言葉を添えてムーアに向きなおった。衣住まいを正し、ムーアは通信紙を差し出してから、コーヒーを頼む。と従兵に頼んだ
『輸送艦の損耗が多すぎるね』
この海域に展開してからこの方、既に七隻の輸送船と一隻の工作艦が失われている
『護衛についていた駆逐艦も共に三隻喰われています・・・これは予想を遥かに上回るペースです』
『敵もここを我々に固められたくは無いだろうからね』
本格的に基地化するにはキンメル長官がハワイから輸送船団を引き連れて来てもらわねばならないが、それまでに手堅く。両軍の決戦準備の合間を縫い、少しずつでも物資兵員を送っておこうとスプルーアンスがキンメルに提案し、輸送船のいくらかを貸してもらい海上輸送を行ってきた
ェ、どうも裏目に出ている
『しかし不可解だ。この時期に、ここで日本海軍が潜水艦を積極的に使ってしまうという事はどういう事か、ムーア君、わかるかね?』  


484  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:49:20  [  .V7VR5C.  ]
『決戦に於いて、彼等のドクトリンである漸減作戦に潜水艦を用いない。という事になります』
潜水艦の搭載魚雷数、航海日数、乗員の士気。この調子では、一度退かせる必要があるだろう、それも決戦前に
スプルーアンスが頷いた
『しかし、自国艦艇の数に問題が無くなったから・・・とも考えられますが』
開戦理由のそれだ。ドイツが戦車をトラクターと偽ったように、日本は我々を倒す為、牙を隠し、磨いて来た
『キンメル長官じゃないが、マニラのハート大将の居るABDA艦隊などに対する備えも必要だ。我々とそれ程数が違えるとは思えん・・・日本の一ヶ月の消失というのは気になるが、状況が彼等にとって優位かと言うとそうでもない』
実際、日本の真珠湾と呼ばれるここトラックに、無傷で我々は存在するのだ
『漸減作戦は各個撃破の危険性はあるが、有意な作戦だ。多大な混乱を敵部隊に与える事が出来る。戦闘とは常に混乱を伴うものだが、それを納めるには小さな集団ほど有利だ。彼等、日本海軍はその混乱を生かす知識とパワーを持っている』
だからこそ不可解なのだ。勿論、敵がそのような行動を取って来たならば打ち破る自信はある。先にも言ったが、各個撃破のチャンスでもあるのだ  


485  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:52:42  [  jqMmKaZo  ]
『お互いが全力で潰しあう戦いも嫌うだろう。彼等と我々、生産能力の差はいかんともし難い』
彼等は出来得る限りのパーフェクトゲームを行う事を望んでいる。その場を作るのが漸減作戦ともいえる・・・それを放棄するというのは国情にも合わない筈だ
『どこかで、何かを仕掛けてくる。と、司令はお考えなのですね?』
『ああ、特に夜戦は気をつけた方がいいね。例のインヴィジブル・トピードーがある』
英海軍から、注意事項として報告があったのだ
『輸送船の乗員の言い訳かとも考えましたが。地中海で英海軍が日本艦隊と対峙した際。同様な被雷をした、とあっては認めるしか無いでしょう。敵には見えない魚雷があります。それも高性能な』
これが敵にとっての切り札ではないのか?考えているスプルーアンスからその言葉が出る事をムーアは期待した
『しかしだね、英艦隊の隊列への突撃によって日本艦隊は大打撃を受けている。魚雷攻撃は敵隊列が大幅な進路変更を取らないというのが前提だ。英海軍は戦艦四隻の火力で日本艦隊を押し潰す寸前だった。ギリギリの所で日本艦隊に勝利の女神は微笑んだが、あまりにも投機的に過ぎる
Bこんな戦術行動は絶望的な状況でも無い限り、行うものじゃ無い』  


486  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  10:59:57  [  X8fclSxo  ]
こんな行動を取る事に国の命運を賭けた決戦で行うだろうか?
『しかし、我々太平洋艦隊は巨大です。変針する回数は艦隊行動の上で、日本艦隊より比較的少なくなると見れば、魚雷に賭けるのも理解できなくありません』
『それを行うには、我々巡洋艦部隊や駆逐艦隊というバリヤーを抜ける必要がある。金剛級を投入する可能性?ただでさえABDA艦隊の抑えに戦艦が割かれている。漸減作戦でこちらの戦艦を減らせても、ぶつかる主力が減っていては意味が無い。ただ、互角になっただけだ』
ならば航空機か?違う、日本空母は搭載機が少ないし(戦前の米軍はそう見ていた)東シナ海で、在比陸軍の爆撃阻止に六隻が展開していることが確認されている。空母でも互角以上はやれる
『ウィルなら上手くやってくれるさ』
少なくともただでは負けまい
『司令?』
『・・・ともかく、だ。海戦に於いても何に於いても、敵の行動を良く見ておく必要がある。おそらく神経戦になるぞ』
ムーアにそれだけ言って、スプルーアンスは大きく伸びをした
『しかし、ま、出来る事をやるしかないね。ムーア君。見張り強化の訓練、できるかね』
『調整ですね。わかりました』
今は、自分達の穴を潰していくしかないのだ  


487  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:03:29  [  PX2g/hVY  ]
同日、横須賀・料亭小松


丸みのある顔の男と謹厳実直を絵に描いたような男が二人、机を挟んで対面していた。
『決意してくれたか?』
表情を変えずに、一献飲み干して男が言った。丸みのある顔の男が、ピクリと頬を震わせた。しばらく考えて、彼も酒をあおってから言った
『貴様の方こそ、出来るのか?宇垣』
宇垣、現第一艦隊司令その人だった
『七対十一、白根級二杯を足しても九対十一、補助艦艇は欧州に三割近く行ったおかげで優勢とも言えない』
『・・・餅は餅屋だ、勝つ算段はある。任せろ。問題があるとすれば』
宇垣は天井に指を向けた
『これだけだ。もし敗北しても、貴様の機動部隊に本土の大和、出来たばかりの紀伊級二杯が居る。最悪柳本が指揮をとっている雲龍級の六杯を足してもいい、まだ戦いようはある・・・がだ。多聞よ。貴様が本当に人殺し多聞にならん限り、帝國に勝機は無い』
丸みのある顔の男、現第三艦隊司令の山口は唸った
『敵主力への航空攻撃は本当にいらんのだな?』
『ああ』
『・・・まったく。自分を死地に置いて、同期の俺に人殺しになれとは、前々から強引だったが、加えて随分悪どくなったもんだな!』
『で、どうなんだ』
宇垣が身を乗り出す  


488  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:05:58  [  QDKBCzwM  ]
ぼりぼりと山口は頭を掻く
『わかった・・・面倒を押し付けやがって。やってやる。だが、貴様も必ず勝て、いいな!俺だけ後ろ指差されるのは真っ平ごめんだ!』
この二人、GF長官の小沢と、松浦とかいう大佐の手により喧嘩別れしているとの噂が立っている。しかし、本当の人殺し多聞とはいったい・・・
『航空隊の連中の鼻息は荒い、か・・・まぁそう躾たのは貴様の、いや、山本さんからか。だろうが、俺は知らんな』
少しだけ相好を崩し宇垣が酒をもう一度あおる。冗談のつもりらしい。そして言った
『勿論、主力艦隊決戦でも我々は勝つ。なんとしてもな』
戦艦十八隻、白根級を含めば二十に達する戦艦巨砲の宴・・・海軍軍人として血のたぎる思いだ
『俺達が居ると無粋ってか?』
山口はまだ愚痴り足りなさそうだ。
『初めての空母決戦でもある。あちらも空母を五隻揃え、七対五。必ずしも何も起きないとは言い切れまい。足元をすくわれぬようにな』
宇垣にとってみれば、航空機は未だ変数的、振り幅が大きいものであるとの認識のようだ
『昔と違って今は電探も、防空火力もある。実戦もワイバーン相手にあった・・・ま、これは戦隊司令として、現場を直に見ていた貴様の方が詳しいか』  


489  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:08:04  [  CDVnjlgM  ]
宇垣が首を横にふった
『戦訓は第一艦隊より扶桑らの戦訓の方が余程大きい。うちがメインでやった虫どもとの交戦は特殊だ。それでも、敵航空部隊の拘束・味方部隊の一撃離脱。それに伴い行われる対空砲弾の投射タイミングの研究は、随分力を入れられたがな』
扶桑での戦訓はというと、機銃座の指揮管制に統制装置(または人)の有用性、対空噴進弾の活用と改良(次発装填がしやすいよう全弾きちんと発火するよう精製するのと、不発の除去を容易に出来るようにした)、対空陣形の精査と回避行動の手本の作成(松田中将薫製)と枚挙にいとまがな

『ワイバーン隊は技量はあったが攻撃力は低かった。おかげで艦隊に対する大規模空襲のいい予行練習になった・・・重い対価は払ったがな』
戦隊司令として大和に乗り込み、自分の目の前で処分され、見事に沈んでいった扶桑が瞼に浮かぶ
『扶桑はまだ戦えた。だが、作戦上沈んでもらうしか無かった・・・』
しかしそのおかげでヴァイスローゼン戦役以降、列強とのデタントをスムーズに行うことが出来たのだ。だが、扶桑よ・・・お前も出来得るなら、戦艦と堂々と戦い、果てたかったろう?
『貴様は不愉快かもしれんが、戦艦は戦艦で決着をつけるべきなのだ』  


490  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:10:38  [  .V7VR5C.  ]
『手間と数がかかるのは認めるがな、あの試算はどうかと思うぞ』


海軍ではある試算が行われた。戦艦一隻を沈めるのに、一体いくらの航空戦力が必要となるのか?
結果から言うと、扶桑級撃沈に必要とされた被雷数は三本から四本とされ、この本数を命中させるには正規空母2隻が最低限必要とされたのだ。理由は攻撃機数の減少である。雲龍級を基本として考えてみよう。雲龍級は搭載機数65機、この内空撃がすぐさま出来るのは予備機等を除き54
@(27×2)となる。基本的に航空攻撃は発艦のスペース等必要になる為、半数出撃となる訳だから。戦艦側は27機の攻撃を考慮すればいい事になる。しかし無防備に航空隊を飛ばせる訳にも行かない、戦闘機がその中に交じる訳だが、戦:攻を1:2として攻撃機は18機となる
戦艦に致命傷を負わせるには、命中率約18%を維持できれば良い訳であるが、これは全機投弾できたらの話であって、敵に有効な対空射撃や援護機があった場合等を考えると非常に厳しい数となる。また機数が少なければ、どうしても被撃墜率が高くなってしまうというおまけ付きだ
『あて嵌めれば、通常の航空攻撃で現在の第三艦隊が撃沈破できる戦艦は四隻にしか過ぎないとなるな、試算によると』  


491  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:17:39  [  JaGeE3cU  ]
『たしかに敵空母の存在を考えれば、攻撃に本腰を入れて行えないとも考えられる』
山口は言った
『だが、俺は搭乗員達を信頼し、機体を整備してくれている整備員達を誇りに思っている。彼等なら実戦で、試算以上の成果を上げられる!そして、最悪四隻の撃沈破としても!』
貴様の持つ戦艦数と同数にしてやれる。同数ならば!そう考えたからこそ、米主力部隊への攻撃を求めたというのに
『死中にこそ活あり、だ。貴様の申し出はありがたく思っている。だが、それは出来ん相談だ』
空母が叩くべき目標はそこじゃない。勿論、戦艦の晴れの舞台を邪魔してほしくない、という気持ちもいくらかはあるが
『今日は飲もう。貴様と俺の仲じゃないか』
もう何も言ってくれるな。宇垣の目はそう語っていた
『宇垣・・・よし、今日は潰れてもらうからな!』
酒瓶を掴んだ。こうなったらこいつはてこでも動かない奴だ、望む事をしてやるしかない。それが俺の手向けだ  


492  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:20:55  [  vmEEgS4w  ]
翌日、呉・聯合艦隊司令部


『お呼びでしょうか?小沢長官』
『おう、松浦大佐か。ちょうど会議が終わった所だ』
鬼瓦と呼ばれるその緻密な猛将は気軽に手を挙げて松浦を迎えた
『上陸中すまないな、KAがそろそろ臨月なのだろう?』
『腹黒さは変わりません、尻に敷かれてますよ。おっと、内緒ですよ?』
『ふふ・・・わかっておる』
実の所、小沢のKA、こと奥さんも相当な傑物である。いや、扱いに困っているだけなのかもしれないが。小沢は松浦から見ても不器用であるし
『来てもらったのは他でも無い、内南洋決戦後の事だ』
第二段作戦の事を会議では議論していた筈だ
『一介の大佐ふぜいが、といった所だろう。案件はその事ではない』
『と、いいますと?』
決戦後の事後処理は決して楽なものでは無い筈だ
『君は基本的に国内外の反応を調査・検討・対策を仕事としていたな』
松浦は今、軍令部の第三部第一課にいる
『ええまぁ・・・自軍内部の噂を操作し戦意や危機感を上げるなんて奇特な事をしとりますが』
『そこが気に入って総長の古賀さんに寄越してもらったわけだ。それからの付き合いだな』
相性が良かったのか、松浦は客将的に聯合艦隊司令部に出入りしている  


493  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:27:03  [  hxY6CuZ2  ]
『聞きたいのは決戦後にダメ押しを必要とするかどうか、だ』
面白そうに小沢が言った。ダメ押しの作戦案が余程気に入っているらしい。すぐに表情を元に戻したが機嫌はよさそうだ
『最悪、我々が敗北することも考えねばならないが、最低限の戦力は宇垣さんのおかげで残せそうではある。その時は確実に実行するが』
『問題は勝利時、ですね』
『そうだ』
頷いてから小沢は周りを見た。
『立ち話もなんだ、部屋に来い、適当にくつろいでかまわん』
GF長官の前でくつろげもないだろうが、小沢の部屋に移動しつつも頭の中で考えを纏める
小沢が先に切り出した
『戦術的には是非ともやるべき作戦だ、戦略的にも、といって構わない』
『作戦自体がわかりませんと』
『潜補だ』
その一言でわかった
『ああ、なるほど。あれですか』
どうだろうか。戦勝の度合いが高ければ、センセーショナルな追加の戦勝は国民感情を興上させ過ぎる。どの段階でも停戦や講和が結べる状況が作りたいならば、勝ち過ぎても問題なのだ。だが戦時に確実性を求めるのは愚かな事だ。講和も停戦も今は絵空事に過ぎない、ならば実行の形
ノしておいた方がいい
『規模を状況に合わせて変える必要があります。その選定は』  


494  名前:長崎県人  投稿日:  2007/03/11(日)  11:38:46  [  7mGOixHY  ]
『君がやりたまえ、松浦君』
何かを言う前に小沢に言われた
『そんな!適任は他にいくらでもいらっしゃるでしょう?敵情操作の実行部隊の指揮までは私ではとても・・・!』
『指揮は一時的なものだ。いつまでも関わるわけでは無い、引き受けたまえ。大和田通信所に席をもうけ、国内外の新聞を読んで、ラジオを聞いているだけで戦争が出来るようにしてやる。時々こちらに呼び出すがな』
それに大和田なら決戦が行われている間、直に情報を得る事が出来るし、今回の実行部隊もまぁ近い。
『そういう部隊があって良いのでは。そう山本さんに話したら、二つ返事で了承してくれたよ。実の所を言えば、これは命令でもある』
鬼瓦がにやっと笑った。嵌められた!最初からそのつもりで俺を呼んだのだ
『・・・謹んで拝命します』
『永野さんばりの策謀を見せてくれると助かる。期待しているぞ』
ちと、有名になり過ぎたらしい・・・しかし、戦略的な部分でヴァイスローゼン事変という舞台をどう作り上げたのかを知るのは俺しか居ない・・・こうなるのも仕方ないのかも知れない。義務、と言うべきか
『伝令!』
その時、唐突に部屋に伝令が転がり込み、凶報を伝えた
『仙台が空襲を受けています!』