220  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  19:49:02  [  wFko1i7.  ]
2月15日・豊後水道


黒光りする船体が海面を滑っている。低い艦舷にちょこんと乗っただけの艦橋構造物、潜水艦だ。それも最新型伊ー204潜だ

『上は相当紛糾しとるなぁ、第六艦隊だけ先に内南洋や、南シナ海に展開しろとは』
『芝村艦長、本艦の任務は偵察なのですか?攻撃なのですか?1〜3Fが出なければ、漸減にもならないのですが』
決戦の前に我々潜水艦が攻撃して、敵戦力に穴が開いたところで主力が攻めたててこそ意味があるというのに
『偵察の範囲もこのクラスは他艦と比べて狭いですし』
この艦はあれほど帝國海軍が愛した小型偵察機の搭載を廃止していた
『この艦は長距離を進出して、作戦行動を続ける事を目的としている』
そして水中機動力を従来潜より高めたものだ、出来得るならば、潜水したまま敵艦隊に追随する事も目的としている。艦そのものの役割から見れば攻撃である
『しばらくは音姫に米艦の流す曲でも覚えてもらうさ』
この艦は水中高速潜であるのに加えてレーヴァテイルの存在を前提とした初めての艦なのだ。改善点はソナー室を司令塔に増設する形で設置し、艦の首脳部へレーヴァテイルが描いた水上目標を直接、リアルタイムで伝えるれるようにした事だ  


221  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  19:51:32  [  jqMmKaZo  ]
利点は大きい、潜望鏡による敵情の把握が限りなく必要としなくなったこと、海中は音という信号にあふれている、それをすぐさま正確に、絵にして描き出せる。海中、海上問わずにだ・・・海中に潜む御同類すらもこちらは撃破が楽に出来るのだ
『逆に駆逐艦に音姫を乗せた場合、絶対に逃げられないからこそ、他の艦種よりごっそり削減されてしまったがな』
レーヴァテイルは我々潜水艦にとって天使なのか悪魔なのかわからんな
『・・・速水君、上が悩んでいるのは山口3F司令と宇垣1F司令のやり取りが原因さ』

江田島・海軍兵学校
『金剛級の4隻を護衛に?それは無理だ、敵戦艦は11隻、大和が修理中の今、7隻で立ち向かえというのか・・・!』
山口多聞3F司令は3Fの対空網強化の上で金剛級4隻の1Fへの分派は認められないとごねたのだ
『元々金剛級4隻は米戦艦と足を止めてまともに撃ちあえる艦では無い、3Fは空母を集めるからこそその攻撃力があるが。翻って攻撃を受けてしまってはもろい。戦艦4隻の対空砲火網は何としても欲しい』
囮としても、対空砲火の強火点としても、欲しい
『勿論、敵空母撃滅後、敵主力部隊への攻撃はかける。戦艦の4隻程度、我が艦隊にかかれば』  


222  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  19:54:12  [  cnmf7h96  ]
『・・・敵空母撃滅はいいが、米国のドクトリンとして敵空母は単艦または2艦程度で行動している。撃破にはそれなりの時間と移動が必要とするだろう。どうするのだ、多聞よ』
空母は確かに邪魔だ。叩くことに異存は無い。だが、決戦に参加してもらわなくば何の意味も無い
『ジュトランド海戦を見るに大規模海戦で発生する混乱の中では、双方痛み分けの感多く、東郷元帥が行った日本海海戦のような一方的勝利は望み難い。たとい決戦前に攻撃の機会なくとも、我々航空攻撃を決戦の決定打としてみせましょう!』
『つまりそれは、我々1Fの敗北を前提としての話か?現代の海戦は高速化している、それは航空機だけでは無い。軍艦と軍艦との対艦戦もだ。あい中の時間等存在しないのだ、多聞よ。算定では、決戦の開始から十分の間に決定打が発生するといわれている。つまり我々には決戦前か決
後しか存在しない。そして現状のままでは我々は敗北する!貴様が仇を取ったとしても、それは勝利では無い!貴様は自論の航空主兵が証明されればいいのだろうが、こちらは1F全ての将兵の命がかかっているのだ!負ける戦はさせられない!』
『私を、主義の為なら味方の損害を厭わないと侮辱するか纏ぇ!!!』  


223  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  19:56:34  [  7mGOixHY  ]


『同期のせいもあってか二人とも掴みあい殴りあいの大喧嘩やっちまってな、小沢GF長官がなだめに入ってるものの、なかなかな・・・』
『あ、あはは・・・』
あの人殺し多聞と黄金仮面がやりあったのか・・・想像してみて冷汗が出た
『かといって敵空母を撃滅してからの決戦では時間が空いて相手に内南洋での地歩を固められる。地上航空兵力を相手にしなきゃならんのでは結局同じだ。むしろ二度手間になる・・・しかし敵空母をほったらかしにするのも空母を知る山口さんにとっては許し難いし、脅威に見えるのだ
う。実際、敵主力への攻撃の際には3Fに対して敵機動部隊が付け入る隙ができる訳でもあるしな』
難しいもんである
『うーん・・・』
速水が考えて唸っている、考え過ぎるきらいがあるからな、先任は
『それを考えるのが上の仕事なんだろうが、なかなか決まらないと俺達下が困る訳だ』
『あ・・・そうですね』
下が考えてもどうにもならない
『どっちにしろ、思ったよりつらい戦いになるだろう。俺達も奮わなきゃな』
『八年も俺達は備えて来たのに』
全くもって有利の目が見えないなんて
『米国とはそういう相手だ、肝に命じておけ』
しかし上の話がここまで漏れるとは  


224  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  19:58:39  [  wslbeVyE  ]
横須賀・連合艦隊司令部


『だいぶ、流布に成功した模様です。小沢長官』
『まぁ二人が頭の痛い案件で喧嘩しとるのは事実なんだがね、松浦大佐。永野さん仕込みの印象操作か』
小沢の質問に頷く松浦
『八年の準備期間があった為、兵の中には米英何するものぞという考えが蔓延しとるのは確かです、それを払拭しなければなりません』
ただでさえとんでもない相手と戦っているのだ
『兵の信頼篤い山口君に大砲屋として数字に強く、冷静に物事を見る目のある宇垣君。彼等が喧嘩するとなれば、兵もおのずと興味が湧く』
小沢の口角があがった
『足を止めるならよろしい、遠くから撃ち込んでやればいい、か。確かにアウトレンジはあくまで出来ればよい、として我々は技術や艦を磨いてきたが。まさか主戦術になるとはな』
『敵は内南洋にあり続けなければなりません、であるならば手の出ないところからちまちま減らしてやればいい、出てくるならば結構、優速を生かしてひっ掻き回す。戦略的に漸減作戦は出来なかったかも知れませんが戦術的なものはまだまだできる筈、でしたな』
作戦は単純明快、決戦は受けて立つ、が、水雷戦隊の突入も行わせず、ただ、遠距離に遷移して敵艦隊に砲撃を行うのみ  


225  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  20:02:01  [  50Ied/7E  ]
大和や竣工直前の紀伊級2隻が居たならば普通の勝負を挑んでもよかったろう。だが、今それは無い、であるならば消極的であろうと、目的を遂げることが出来るであろう戦術を取るだけだ

逃げれば良し、来るなら距離を保って撃ち続ける

『水雷屋を納得させるのに苦労したよ、敵戦艦に必殺の魚雷を叩き込むのが夢だからな、ま、私もその一人だが』
『彼等には、決戦時、いずれしびれを切らして突撃してくるであろう敵巡洋艦、駆逐艦群を白根、鞍馬の装甲巡と共に喰い散らかしてもらいましょう、餓狼の名に相応しく。しかし、ギリギリでしたな、巡洋艦は欧州に行った分が大きい』
『彼等をどうするかは未だ宛が無いままの開戦か・・・』

サイレンが政府広報を告げ、ラジオを聞くようにとのアナウンスの後鳴り響く

『大陸派遣艦隊が損害を受けたのが昨日・・・国民感情は盛り上がるな』
宣戦布告の文書引き渡しは終えたと聞いている
『落とし所を求めるしかありますまい、それまでは』
『GFとして勝利を貪欲に求め続ける、わかっておるよ』
ドアが唐突に開かれた
『台湾市街部が英米合同の爆撃隊に爆撃されています!』
小沢は瞑目して呟いた
『・・・死ぬる時節には、死ぬがよく候』  


226  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/28(木)  20:03:52  [  JlgIauw.  ]
同刻・尖閣諸島沖


『父ちゃん父ちゃん!あれ!』
『あんだぁ?』
子供が空を指差す、高い高い空を沢山の飛行機雲がたなびいている
『すっげぇ〜』
『おお〜、海軍さんやろか?それとも陸軍さんやろか?』

それが、台湾への空襲部隊を囮とし、長崎と八幡製鐵所へ向かうBー17群の第一発見であっても、開戦をまだ知らぬ彼等にとっては空を盛大に利用したアートにしか過ぎなかった


そして迎撃は第2発見者の手に委ねられることとなった  


237  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:16:18  [  5dL2ey5s  ]
第六航空戦隊・葛城


『佐世保の五航戦は出たんだな!?』
開戦と同時の台湾空襲、アメリカへ無用な刺激をせぬよう戦力展開こそしていなかったが、飛行場用地を含めて全てが灰塵に帰そうとしていた。
『柳本司令!七航戦より、台湾に向けて戦闘機隊発艦完了との事です!』
『よし!上海方面も国民党軍の動きを見逃さぬよう、陸軍さんとの連絡を絶やさぬようにせねばな!蒋介石は狡猾だ、チャンスには必ず出てくる!』
この海域には中国大陸支援と台湾防衛の為、転移からすぐに常駐4隻、予備2隻の雲龍級6隻からなる臨時編成の部隊が展開していた。そして開戦したことによりその任務の繁雑さはピークを迎えていた
『五航戦、佐世保より出航、これより全速で向かうそうです!』
『ようし、やつらの出鼻をくじくぐらいには戦力がそろうな!』
どすんと、腕を組んで柳本はお猿の腰掛けと呼ばれる椅子に座る、後は任せた感だ
『電探室!電探に感あり、高度八千!数、多数!』
『なにっ!?えらく高いな・・・方位は!』
『南西です!』
敵だ!しかしちょっと待て、何故まだ捕まってない
柳本は台湾の爆撃された時刻と地図を頭の中で描くやつら、台湾への爆撃隊の上を飛んできやがったな!  


238  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:19:20  [  cnmf7h96  ]
なる程、手ではある。離島に置かれた電探では精度が悪くて、中高度を飛んだ台湾への爆撃隊と高高度を飛ぶ爆撃隊の区別はつきにくい。そして迎撃も迎撃のしやすい中高度の隊をどうしても狙ってしまう。これは管制の面が大きい
完璧な迎撃とまでは言えないが、そこまでの精度を持つ電探と管制ができるのはGFの大型主力艦艇、東京を始めとする主要都市と鎮守府ぐらいだ
しかし、いきなり本土にやってくる等、誰も考えていない。皆がビシー海峡か沖縄とのあいだでやり合うものだと考えている、意表をつかれた!
『いかん!目標は本土だ!沖縄の陸軍さんに問い合わせろ!九州一帯の基地にも知らせ!』
ここは上海沖、一番近い長崎までは400キロあまり、一時間半しか時間が無い!九州の基地空の迎撃が間に合うか・・・高度と追う事を考えたなら・・・
『畜生・・・長崎は俺の故郷なんだぞ!』
やらせてたまるか!
『本戦隊の戦闘機隊は全てこの編隊の迎撃に使用する!発艦!発艦!一機も残すな!!・・・沖縄への問い合わせはまだか!』
『今来ました!えっと・・・全て台湾への迎撃に出払ってるそうです!』
柳本が舌打ちする、ええぃ!思い切りが良すぎだ、予備を残しておくのが常道だろうが!  


239  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:23:42  [  X8fclSxo  ]
九州の他の部隊は陸も海も緊急発進の準備はしてない筈だ、関東近辺ならば奇襲も有り得ると体制を整えているが、なまじ沖縄や先島諸島があり、台湾他の敵にとって攻撃すべき目標がある為、無いものと誤解した・・・すぐ飛び立てる機体が九州に、いったいいくらあることだろうか
『五航戦への連絡を忘れるなよ!』
彼等が一番手っ取り早く多数の機体を上げられる筈だ
『発艦始めェ!』
甲板員が手旗を叫びと共にふり降ろしている。後部エレベーターはせわしなく動き、紫電改を送り出す・・・本艦の戦闘機隊は18機、予備機は6機が紫電改だが、すぐに出せないのでは意味が無い!
『五航戦の36機が最後の楯か』
おそらく敵はBー17、紫電改なら落とすこと自体は出来るだろう、しかし敵が多数であることは戦果を相対的に低くする事だろう
『どうしても被害を出さなければ改善できないのか!我々は・・・!』
備えても備えても不備は無くならない、そして余人の理解も得られない。そして払われるのは血の代償だ、そしてここで逃したら、払うのは我々軍人でなく一般市民の血だ
『たしかBー17の積載量は8トン、しかし追加の燃料分や機を軽くする必要がある。一機3トンと見て・・・』
畜生め!  


240  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:26:20  [  ewIsKeyI  ]
在フィリピン米陸軍航空隊


台湾を過ぎてしばらくは、ジャップをうまくダマせたし、楽勝な任務だと思っていた
『やべっ!機体の上につかれた!上部銃座、撃て!撃て!』
『誰だよ!ジャップの機体がこいつの飛べる高度まで上がって来れないなんて言いやがったのは!ひ、火がぁああああっ!!!マリィイイイイ!!!』
無線からは絶望の悲鳴があふれている
『三番機、翼が折れました!きり揉みで脱出は・・・』
うしろから糞速いのがついてくる、一回の攻撃で確実に何機か喰われてる、70機居たのがすでに40を割った。敵は見たことの無い新型で2、0oクラスが四丁に12.7oクラスを二丁・・・それでいてあの性能かよ!
『ええぃ!一度挟み討ちを受けてからは散々だ!』
『脱出しろスティーブ!!』
隣の機が火を吹いた、燃料を過載してるせいか今までほとんどの機体が火を吹いて落ちていった。隣の機から乗員が飛び出す、二人目で既に火達磨だった。あれじゃパラシュートは・・・
『隊長機より、爆撃目標変更!全機を以て長崎の敵戦艦を叩くそうです!』
さっさと身軽になって、とっとと戻りたい
『爆撃手、もういい!配置につけ!』
負傷した機銃手の代わりをしていた爆撃手を照準に戻す  


241  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:29:33  [  wFko1i7.  ]
『後ろからこっちに敵機来ます!もうだめだぁぁっ!!!』
上部銃座の奴の声だ、死に神め、今度は俺達か、くそっ!くそっ!くそっ!
『爆撃s』
『・・・あれ?奴ら撃ってこないぞ』
爆弾を捨てろと命令する直前で上部銃座の奴が気付いた
『ははは!そうか!やっぱり流石は空飛ぶ要塞だ!奴ら、今までの奴らに弾を使い過ぎて、俺達の分まで弾が残っちゃ居ないんだ!』
弾がなきゃ落としようがない!もう俺達は大丈夫だ!他の機も迫りはするが機銃は撃っていない
『みんな!爆弾を捨てるんじゃない!奴ら弾切れだ!』
歓声が無線からあふれる、現金な奴らだ。ま、歓声をあげたのは俺も同じだが
『旋回点のケープノモを確認しました!長崎半島です!』
長崎半島にそって北上すれば目標の長崎はもうすぐだ・・・!
『・・・っ!?目標艦発見!』
『何?まだ目標は先だぞ?』
『確かに軍艦です!デカい!艦識にもありません』
空襲の知らせを受けて艦を出したのか?しかしドック入りは確実とトミーが・・・
『その艦は動いているか!?』
『・・・いいえ!』
曳船で無理矢理引っ張って来たとなれば納得がいく
『島じゃ無いだろうな!?』
『全く緑がありません、そんな島有るはずが!』  


242  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:32:16  [  WERj3NJg  ]
『そうだな・・・』
マンハッタンさえ公園の緑がある、勘繰り過ぎか・・・
『隊長機に連絡、我々が矯導して爆弾するとな!頼むぞ!』
爆撃手に声をかける
『ノルデンがないですが、停止目標なら外しゃしません!操縦は任せました!』
フィリピン配備のBー17からはノルデン照準器をわざわざ外されて配備されていた
『レディ・・・』
全ての空中状況を考慮に入れて照準器を爆撃手が覗く、覗きながら爆弾倉の扉をペダルを回して開く、照準が目標の艦へと近づいていく・・・焦るな、焦るんじゃない・・・来た!
『・・・ゴー!!!』
爆導策を力任せに引くと1000ポンド爆弾6発が落ちていく

ヒュルルルルル〜

機体が軽くなり機体ががくっと加速する
『後続機も無事投下!』
爆撃手はそのまま爆弾の行方を見ている
『いいぞ・・・!うまく囲んでいる、よし・・・よし!!イィヤッホォオウッ!!!』
水柱とともに爆煙が見える、命中した・・・!命中した・・・!!
『すげぇ・・・誘爆してやがる』
火柱があがった。艦の甲板を抜いて弾火薬に達したようだ、あれではどんな艦だろうが助かるまい・・・!
『見ろよ!俺達、今、国一番の英雄だぜ!』
『ざまぁみろジャーップ!!!』  


243  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:34:38  [  mkePZZZM  ]
長崎・三菱重工ドック、大和


『奴らはどこを爆撃しているのだ・・・?』
一矢でも報いようと、ドックの中で主砲の仰角をあげ、三式弾を用意したばっかりだ。大和は現在、瀕死のタヌキも同然で、爆撃されれば避けようが無いのにあいつら・・・そういえば、そこでなんとも言えず佇んでいる水兵が呟いている
『軍艦島が・・・』
『軍艦島?』
『黛艦長・・・あちらにある島の本当の名は端島です。ですが、長崎で造ってて、ワシントン条約で泣く泣く処分された土佐に形が非常に似ていることから軍艦島と言われているんです。そしてその炭鉱は日本一の石炭紘で俺達長崎県人にとって誇りだったんです』

ドドドドド!!!

南西の方向から大音響と共に、大きなキノコ雲がまきあがった

『あの島に人の居ない所なんかありません・・・爆撃なんかされたら・・・ああぁ・・・』
となるとあの爆発は爆弾の着弾から時間があったから、おそらく炭塵爆発・・・人だらけとなると、そりゃ酷いことになっとるぞ・・・!
『警戒体制解除!軍医と本艦の医薬品、内火艇は全部使え!端島の地方人の救助を行う!』
『艦長・・・』
『しゃきっとせい!土佐は大和をはじめ、日本の新戦艦の産みの親じゃ!』  


244  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/30(土)  02:37:55  [  /9tm..U.  ]
『そいつを二度も殺してくれるたぁやってくれる。その無念はこの大和とわしがいずれ晴らしてくれる!だから貴様は、ぼぉっとしとらんで、こっちの出なら県庁と連絡とるなり、自分の持っとる情報を活用せんか!』
こういう時は慰めるより喝を入れた方がよい
『は・・・はい!』
水兵が艦矯から慌てて出ていく
『ふぅむ・・・』
つまり、間一髪だったということか・・・炭鉱も大事だが、造船施設、市街地、そしてこの大和はすべて無事だ。何の損害も無い
『もしかしたら・・・土佐が救ってくれたのかもしれんな』
条約を抜けることで産まれたこの大和を、条約によって消されてしまった土佐が身代わりになってくれた。その分戦えということだろう、望む所だ・・・!
『仇は取る、必ずな・・・』


後に長崎ドックで大和が精密調査と艦首部修理を終え、艦隊に復帰する際、市長から託された軍艦島で亡くなった方々の名簿を元にその名を主砲弾一つずつにしたためて、南シナ海で英東洋艦隊他のABDA艦隊と雌雄を決するのはまた別の話である  


258  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:40:58  [  CDVnjlgM  ]
1942.3.7イタリア・ローマ


『マルタ島への空挺降下作戦?』
『はい、IJNの皆様』
ドイツ海軍から出向してきた中佐が地図を背に栗田中将を始めとした面々に説明を始める
『マルタ島はまるで我々の頚動脈に突き付けられた短剣です、地中海での行動はこの島に常に左右されます。だが、この島を手に入れたならば』
ピシッと地図を指差す
『地中海のミリタリーバランスは大きく入れ代わります』
栗田中将が問う
『開戦からこの方、何故放置したままアフリカ戦を?』
先ず攻め込むはそこだろうに
『ドゥーチェにはドゥーチェなりの、奇怪な戦略があるのでしょう』
中佐は苦笑して肩をすくめる。ドゥーチェ自体はマルタ島を出血点にするつもりだったようだが、彼は自軍をしらなすぎた、出血になったのはイタリア軍の方だった
『だが、あなた方はちゃんと指摘した、そして我々はそれに全然同意します』
ニヤリとして中佐
『この島を得たならば、貴国の民をヴィシーフランスでも、スペインでも好きなように移送する事も可能になりますかと・・・つまり、我々はここに利害の一致を得ました、作戦には貴艦隊に是非とも参加していただきたいのです』
栗田以下、参謀連中が顔をお互いを見あう  


259  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:43:34  [  O28l2xuA  ]
『それは、我々に囮になれ、ということですかな?』
マルタ島への上陸・・・まぁこの場合は降下だが、を阻害するもの、それは航空戦力。これは我々の転移と先の奇襲に空母を使用した関係でかなり低下している。独伊の空軍でもやりようがある
もう一つは水上艦艇、後続の部隊なくば降下部隊は孤立して包囲せん滅されてしまう、そして輸送船団を送り込むのに英海軍は執拗に手を変え品を替え妨害をしてくるだろう。これを防ぐ楯が必要だ。イタリア海軍はタラント空襲後、ナポリに引き篭っており、さらに油の問題で動きが鈍
ュなってしまっている。だが我々は油を保持し、イタリア海軍より技量が上であるという自信はある
『油の共用ができますれば、お手を煩わせずに済みますのですが』
そんな事をすれば、物資は奪われ、主導権を失い、好き勝手に使われてすり潰されるだけだ・・・!この地に存在する邦人の為にもそれは出来ない相談だ
『やらせていただきましょう』
栗田が頷く
『結構な事ですな』
満足そうに中佐が頷く、ドイツ海軍から見ても地中海に英海軍の戦力が割かれるならば、チャンネルダッシュ後、引きこもらざるを得なくなったティルピッツを始めとする主力艦が生きてくる事になるのだ  


260  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:45:44  [  wshQOogU  ]
翌日、イタリア・ローマ、志摩達の宿舎


『なんで・・・なんであなたなのよ・・・!』
桂とミスミに志摩が敬礼して報告している。桂はあんまりな事に泣き崩れており、ミスミには何の事かイマイチわかっておらずオロオロしていた
『仕方ないさ、ようやく給与問題とかがはっきりして、奇襲の被害からの再編もなったんだ。そこで余っている人間が私しか居ないなら私が行くしかなかろう』
転移と共に問題になったのは食料だけでは無い、給与の問題も為替の問題も含めて深刻化していた。物々交換で過ごしていくのも限界がある、ようやく本土に連絡と調整を行い。特殊な軍票を創ることで対応したのだ。独伊にも使えるように対応してもらっている・・・備蓄していたゴム
糟ケの四分の一を手放して、だが
『重巡の愛宕に乗ることになった。沈んだら死んだと思ってくれ。死ぬ気は無いが、足もろくに動かない、片腕も無い、ではな』
こちらの艦隊の問題は替えの人員が全く存在しない事、愛宕の艦長が先の奇襲で戦死したが、その階級は大佐、低階級化が進んでいる駆逐艦や海防艦の艦長職の人間では、すぐに替えとして任せられる人間が居ないのだ
『でも・・・あなたは本来は軍籍に無い人間なのよ!?』  


262  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:47:51  [  wFko1i7.  ]
『だがこういう事も有り得るとして特佐の階級を得たんだよ、私は』
まぁ元はそういった現地の駆逐隊、根拠地隊の司令あたりに好きにされないよう特佐の階級が与えられたのだが・・・そのうえミスミの安全やら給金やら、ずいぶんな恩給を受けている
『だから今更、逃げられないよ。それに・・・これからの戦いは桂とミスミ、それから邦人さん達の脱出路を啓く戦いだ・・・桂、やらせてくれないか、私に』
抱きしめて起き上がらせる
『うん・・・』
『志摩さん・・・今度は戦さ場に出られるのですね・・・』
ミスミがじっとこちらを見る
『ミスミ、身勝手な願いだが、聞いてくれるかな?』
『はい・・・!』
『もしもの時は桂を守ってやって欲しい、桂は強い、だが一人ではダメだ。そしてなんとしても手を汚させたくない・・・私の為に、桂の為に汚れてくれるか?』
『喜んで、任せてください・・・!』
『すまない・・・』
『で・・・出立はいつなのよ?』
『明日の朝、一番で向かう。こんな状況では艦から離れられんだろうから、かなり長い間会えないだろう』
『じゃ、じゃああたし達もそっちに・・・』
『ローマに居ろ!バチカンもある、連合国も手ひどいことはすまい・・・いいね?』  


263  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:50:56  [  5k.cDmFg  ]
1942年3月9日、アドリア海・愛宕


こうして二人と一日しかない別離を惜しんだ後、私はここに居る、登舷梯と艦内のタラップを苦労しつつ上がって艦橋スタッフと顔合わせをする、そして恥ずかしながらこんな訓辞を垂れた

『皆、この栄えある重巡愛宕に私のような、軍務にさしさわりかねない人間が着任したことに、思うことが沢山ある事だろう。それから私のあることないことの噂を聞いたこともあるだろう。だが、私はこの体だ、沈めばまず助からん。だから、私の妻を始め、邦人達と共に日本に帰るま
ナ、この艦を沈めるつもりは無い。その為にも皆の力を貸してほしい』
偽っても仕方がない為、そう言った。一部軟弱と不評だったが、まぁ私自身をわかってもらえたと思う、愛宕自体は精鋭をうたわれた艦だ、不足はない
そしてその日の内に司令部から告げられた出撃準備の命令に、艦の首脳部を集めた
『この集まりは何なのです?隊の指揮は摩耶艦長に従うはずですが?』
何の用だ、と言わんばかりである
『私は幸いローマに居た、欧州の情勢は他の艦長よりも知っている。何者と我々は戦うのか、知りたくないか?』
『・・・』
『敵は地中海艦隊、戦艦4隻、これを我々は食い止めねばならない』  


264  名前:長崎県人  投稿日:  2006/12/31(日)  16:53:55  [  CDVnjlgM  ]
『戦艦の1隻はマレーヤ、残りの3隻はR級、重巡は2隻、ヨーク級だ、軽巡も2隻、タウン級にフィジー級が参加すると思われる』
『戦艦4・・・』
不満そうだった皆が顔色を変える
『英国は本気で我々を叩き潰しに来るって事だ。随分見慣れてしまったからわかっているだろうが、我々には戦艦が山城1隻のみ、重巡は5隻、軽巡が2隻、他に5500トン級があるが、船団護衛に必要だから出すのは無理だな』
まぁ、つまりなんだと頭を掻く
『生き残る為には重巡で戦艦を喰わなければならない、そういう勘定になる・・・雷撃を行うにも、本来なら水雷戦隊と共に突入しリスクを分散することも出来ようが』
欧州にある我々の駆逐艦に陽炎や夕雲といった艦隊駆逐艦は存在しない。全て、松、秋月級でしかないのだ、秋月級とて第十一航空戦隊の三隻のみ、そして雑木林では速力が足りない
『だが、やらねばならない。砲煙弾雨を駆け抜けて、な・・・この話を何故皆にしたか。今度の戦いは死戦だ、いつ指揮系統が断絶するかわからぬ、各々が考えて誰かが舵をとり、動くことが大事なのだ。各艦の長だけでなく、艦の中でもな』
そうでなければ生き残れぬ戦いがやってくる
『各員、出撃準備をなせ、かかれ!』  


278  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  02:44:42  [  dqay7chg  ]
1942.3.23・マタパン島沖、愛宕


『摩耶より発光信号!左舷統制魚雷戦用意!』
『水雷長、左舷統制魚雷戦用意を為せ・・・やはり遠距離発射、か』
命令を下してから志摩が呟く、計算したところ艦隊の片舷一斉発射数は48発、反転してもう一回するときは秋月達の分が減って36発。射距離は・・・三万。我が海軍が想定している、敵に魚雷を発射して、命中が発生する確率が生じるのが6本に一発、海野十三の架空戦記風味に、確率があ
れば命中するもの、として14発。実際に全力発射をするなら、片舷ずつ二回に分けなければならない、各雷撃で一本ずつ。2発命中すれば御の字だ。
現実はもっと厳しい、急変針をされたら、まず当たらない。その為、針路を維持しなきゃならんから、突入前に撃つのはこの一斉発だけ、一発当たるか当たらないか・・・それも戦艦に当たればいいな、といった程度だ
『いかんな、考え方が大砲屋になってる』
水雷長に聞かれたらソッポ向かれちまう
『砲術長、山城はQ・Eクラスとやりあって勝てるか?』
『単艦での話ですが、主砲口径は先方が上、投射弾量ならこちらが上、攻撃力はほぼ互角です、Rクラスならば近代化改修が間に合いませんでしたので、優位に立てるかと』  


279  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  02:46:34  [  ApfSecOw  ]
すぐさま慇懃かつ、平板な答えが返ってきた、単艦での比較が無意味だと言いたいのだろう
『摩耶、魚雷発射!』
摩耶を注視していた見張り員から報告が入る
『追随発射・・・!』

パシュンパシュンパシュンパシュン!

こちらは統制に入ってるので、水雷長があちらのタイミングを合わせて撃つだけだ。圧搾空気の押し出す音と共に九三式酸素魚雷がその姿を海中へと隠す
『次弾装填いそげ!』
『摩耶艦長より信号、重巡と第64駆逐隊は陣形を維持したまま我に続け!各自砲戦自由・・・です!摩耶、左に舵をとりまーす!!』
『操舵手、操舵は任せた!・・・山城は動いてない。これは・・・ネルソンタッチか!』
山城は敵艦隊へ並走する針路をとったままだ。そして思いついた。ネルソンタッチ、つまり、敵隊列への突撃、しかもネルソンを泉下に守護し、薫陶を受け続けているロイヤルネイヴィーに対して・・・!
『確かに手だ・・・!いや、しかし・・・』
もし突入に成功したならば、効果は大きい。が・・・出来るのか?
『操舵手!突入するにしても逃げるにしても舵をすぐきれるよう準備しておけ・・・!』
突入するのは一つ、大破壊力を持つ戦艦の大落角砲弾を船体内に潜り込ませない為だ  


280  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  02:48:43  [  50Ied/7E  ]
近距離の横から殴りつけるような被弾なら、いくら威力が大きくとも、被弾した箇所が浅く吹き飛ぶだけなので(それでも大損害だが)艦は沈まない。沈まなければ砲弾を吸収できるかもしれないし、復旧も可能だ。内蔵さえ喰い破られなければ艦という生き物はそうそう死なない。死なな
ッれば必殺の一撃を放つことが出来る
『摩耶が被弾して行き足が落ちたり、針路がぶれる可能性がある、その時の為にも摩耶から目を離すな・・・!』
『はっ!』
といっても、被弾するのが摩耶でなく本艦である可能性も同じく存在しているのだが
『ネルソンタッチを受ければ、英海軍はどうでる・・・受けるはずだ、偉大な先人が行った、彼の国の海軍軍人なら熟知しすぎるほど熟知している戦法、これを撃破でき無かったとなれば、これ以上の恥は無い』
何よりこの戦法の前提として受ける側の砲術の未熟さがありきのものだ、英海軍からしたら、舐めているとしか思えないだろう
『魚雷を少しでも当てやすくするためか!』
受けて立つなら、陣形と針路を維持し続ける事だろう。針路が変わらぬなら撃った魚雷の命中率は必然として高くなる。自縄自縛に陥れさせ、雷撃に利用する・・・水雷屋の栗田中将らしいやり方だ・・・!  


281  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  02:51:05  [  /9tm..U.  ]
英地中海艦隊、マレーヤ


『彼等は夜襲が得意と聞くからね』
地中海艦隊が目的とするのは揚陸戦が行われるとされるマルタ島近海への突入。だが、これにはまだ引き篭っていない日本の艦隊が邪魔だ。よってこの阻害物を確実に叩き潰す為に、戦艦4という大戦力を投入している。確実性をますために混乱が発生しやすい夜戦を選択しなかった。RD
Fを利用しようか、とも思ったが、戦力的に圧倒できるなら普通に押し潰してもよかろう、ま、これは攻撃側の利点だな、うん
参謀の一人が彼等の司令官に声をかけた
『サーカニンガム、日本人達はどういった事を仕掛けてくるでしょうか?この圧倒的不利な状況で』
カニンガムは手を顎にあてて笑った
『イタリア人なら逃げる、間違いなく逃げる。だがあいつらは日本人だ、我々の薫陶を受けた、な』
『では、相手の行動を推し諮るならば、我々ならどうするか、で、よろしいですな』
聞いてきた参謀もニヤリと笑う
『はっはっは、そうだな、クラウツどもよりは考えやすいが、手強くてならんな・・・だが、面白い!』
前の海戦の時のイタリア重巡には哀れさすら覚えた。だが、東洋の弟子達はそんな事はすまい
『敵部隊変針しました!』
『どこへだ?』  


282  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  02:53:16  [  a1KJrS8g  ]
声は厳しくないが誰もが服従してしまうような声でカニンガムが見張りを問い質した
『こちらにまっすぐ向かってきます!!!』

『ふっ・・・ふふふっふはははははははっ!!!』
報告に、さも満足であるかのような顔で笑いだすカニンガム
『提督?』
『見ろ、これが、これこそが日本人、いや、大英帝国海軍の弟子を名乗るものの戦い方だ!たいした馬鹿どもだよ、よかろう、よかろう!我等を滅び行くアルマダとして見なすなら見なすが良い!』
自らが不利で、何をしたらいいかわからない時、よろしい、砲声のする方向へ突撃したまえ、なんともなんとも英国(ブリトン)らしい事をしてくれるじゃあないか・・・!
『よかろう日本人!貴公らが弟子を標榜するならば、我等は師、ということになる。諸君!彼等がそういっている以上、教育してやりたくは無いかね?我等の持つ幾多の砲火と、諸君らの働きによって生み出される海戦術の神髄によって、な!』
艦橋内の全員を見回す
『では、高い授業料をせしめてやりませねば』
『ネルソン提督をあちらがやるならば、こちらはトーゴーのT字だ!思う存分砲弾の教鞭を叩きつけてやりますわい!』
『模範回答だけで合格点なんて与えてはやれませんな!』  


283  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/03(水)  08:13:08  [  QDKBCzwM  ]
カニンガムが手を上げると響いていたざわめきが止んだ、だが、艦橋、いや、艦に熱気が篭っている。艦の前後の砲塔が旋回し、突っ込んでくる巡洋艦ヘと照準を向ける
『オールウェポンズフリー、さぁ諸君!授業を始めたまえ!』


ドドドドドドドド!!!

38センチ砲が唸る、マレーヤの発砲と共に後続のR級も発砲を始める、重巡と軽巡はまだ射程外の為、発砲していないがじきに加わるだろう
『日本人よ、ネルソンは死んだのだぞ・・・そして被弾してからも行動できる程、現代の海戦は甘くは無い・・・!お手並み拝見と行こうか・・・!』


愛宕

『敵戦艦発砲!』
見張りが叫ぶ、志摩が空を見上げた、こっちを狙っているのはR級か・・・一瞬赤熱した砲弾が見えたような気がした
『汝にただ突き付けるはhopeless  resolution(希望無き決意)といったところかな・・・』

ズバババババババ!!!

水柱が林立し、愛宕はそれを突っ切る。他艦も同じだ。敵隊列への突入も、魚雷の射点もいまだ遠く、砲煙弾雨の嵐は始まったばかりであった・・・  


289  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/04(木)  02:27:03  [  gY4wlmWo  ]
それより八日前。イタリア・ローマ


『ごらぁっ!!!店主、もっと酒もってこぉい!!!』
『桂さん、地が出てます、地が・・・!』
桂がカウンターで酔っ払っている
『お、お客さん・・・ラム酒を五本お一人で空けてますが』
『持って来いっつってんのよ!!!』

バキャッ

カウンターの客側が桂の叩きつけた拳で折れた
『あわわわ・・・はいぃぃぃっ!』
店主が転がるように貯蔵庫ヘ走っていく
『お、おい、なんだ?俺の行きつけの店が・・・マフィアの襲撃にでもあったのか?』
一人、イタリアの海軍軍人が入ってきた
『桂さん!他のお客さんの邪魔になりますよ!』
『おおぅレディ〜なにを荒れているんだぁ〜い?』
体感的に音速を越えて男が桂の横の椅子に座る
『私でよければ聞きますよ?』
胸に手を当ててキザっぽく言う、この国の男は何でこんなにも・・・
『人妻よ、私は』
『いや、このような美人かつ(考えつく限りの美辞麗句)を妻に出来るとは、なんて羨ましい。なにか悩んでらっしゃるよう・・・私に出来ることはして差し上げたく』
じと目で桂がその男を見る
『海軍の人ね、あなた』
『アンサルド・カンピオニ、アルとお言い下さい、マダム・・・』
『桂よ』  


290  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/04(木)  02:29:44  [  KRpK8t7E  ]
『こっちではサインとしてKと書くだけ、覚えやすいわよね?覚えた?』
にんまりと桂
『もちろん』
いい感じだ、とアルも微笑みを浮かべる
『ふげっ!』
『け、桂さん!?』
アルを桂があっという間にふんじばってカウンターに顔を押しこんでいる
『あんたらがちんたらちんたら手間取ってるから志摩が危険な目に会うんでしょうが!!!どうにかしなさいよ!え!?どうにかしろっていってんのよ!!!』
さすが酔っ払い、行動が読めません
『ど、どこにいるんですか?』
『志摩がいるのは主力部隊!愛宕!相手は戦艦4隻!!』
『あー・・・それは無理d』
アルが背負い投げでふっ飛ばされた
『沈んだら出会うイタリア海軍の水兵将校全部ふんじばって木に吊してやるー!!!うっ・・・ううっ・・・』
『っつつ、いや、軍人たるものいつ死んでm』

シュカカカカ!!

『死んでみます?』
叩きつけられた壁の顔周りに投げナイフが正確に突き立っている
『け、けけけっ・・・結構だ!』
こ、このメイド、ただ者じゃ無い!!
『桂さん、身体に障っては志摩さんに怒られますよ?』
『お、親父なら・・・もしかしたらなんとか出来るかm』

『『嘘だったら、本気で消します(すわよ)』』  


291  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/04(木)  02:34:33  [  wshQOogU  ]
こっちを同時に見た二人から時間が止まったかのようなプレッシャーを受けた。命の危険を物凄く感じる・・・!この人達殺る気満々ですよ!
『名前を確認します、階級も、所属艦もお願いします。方法は私たちが面倒をしょいこみたくないので言わなくて結構です』
メイドが平板に言う
『嘘だとしたら今なら吊されるだけで済むわ、裸に剥かれて両手をしばり、真実の口に手を突っ込んで私は嘘つきで女の敵ですと大書きしたプラカード張り付けてあげる。もし志摩が、あの人が死んだら何も言わせない、何もさせない、あたしの命を賭けて、あんたの首をねじきって、志
の元に送りつけてから死ぬわ!』
やだ、どっちもやだ・・・!
『ちゅ、中佐だ、ゴリツィアという巡洋艦に乗ってる』
『『じゃあ、やるってことですね(わけね)』』
『は、はい!!!』

お、親父になんとかあって何とかしなきゃ、俺は・・・俺は確実に、死ぬ!!!  


296  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/06(土)  18:40:27  [  h7T8ta3M  ]
1942.3.23・マタパン島沖、山城


『各隊突撃に移ります!栗田長官!』
栗田は静かに言った
『うむ、こちらは敵隊列に並行したまま射撃を開始せよ』
艦橋内がざわめく
『我々は突撃しないのですか・・・!?』
栗田は答えない、何かを考えてるのか口内でぶつぶつ呟いている
『敵は八門艦・・・一分一斉射ならば4艦で・・・突入までに960・・・命中はかのロイヤルネイヴィー、5%は見積もって48発、重巡の5艦に9〜10の被弾・・・』
『長官・・・!』
『山城がその間撃てるのが360、我々の帝國海軍最悪の練度から命中2.5%と見積もって9発・・・戦艦の撃沈が1に小破が1隻、それに魚雷が多少色をつけるかもしれない、といったところか』
重巡への英艦隊が得れる命中率を甘く、我々と同じように想定しても、戦艦の主砲弾がそれぞれ4発は敵陣に突き進む彼女達に叩きつけられる。その間、山城は敵を減らせるだけ減らすしか無い
『山城に近づく敵は大淀、仁淀の2隻に突撃に向かないが隊列追随は出来る雑木林が防ぐ』
特に大淀と仁淀の15.5センチ砲は敵駆逐艦をうち据えてくれるだろう。副砲を降ろし、高角砲を積んだ山城では射距離的に駆逐艦らを防げない可能性がある
『突入した隊は・・・』  


297  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/06(土)  18:42:05  [  wslbeVyE  ]
『死んでもらうしかない』
そう呟いた時、見張り員の絶叫が響いた
『摩耶被弾!!!』


愛宕

『摩耶が・・・!!』
命中したのは後しょう基部、つまり後部指揮所だ
『被弾状況はいい!行き足をよく見ろ・・・!』
志摩が見張り員に注意する。とりあえず自分も後部指揮所が吹き飛んだとき、人の形をしたものが一緒に飛んでいったのを見たのを頭の中から切り離す
『大丈夫です!速力は維持してます!あ・・・!』
『どうした!?』
『ワレ、敵に補足された模様、統制射撃並びに雷撃戦の指揮を委譲する、との事です!』
次の射撃が重巡達を包んだ。摩耶は完全に補足され、挟叉されてしまっている。相手は近代化改装のなっているQ・E級、マレーヤか・・・!そして摩耶艦長は逃れきれぬと覚悟した
『敵まであと二万五千です!』
まだ五分少ししかたっていやがらないのか・・・!
『これより本艦が統制艦となる!目標、敵巡洋艦!巡洋艦は軽巡から砲撃せよ!あとは砲術長、任せる!』
『戦艦を狙うのではないのですか!?』
砲術長が異を唱える
『接近する上では小口径の砲も厄介だ、特に戦艦のケースメイト砲より新型砲で威力も高く、砲門数も多い軽巡をやった方が突入に有利だ!』  


298  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/06(土)  18:45:00  [  BWp6c0w2  ]
ヨーク級の重巡は英海軍自身が言ったように砲門数が六と少ない
『戦艦を撃っても、目つぶしとして効くような相手とは思えない!目視、光学どちらも英海軍だ、手だれと見ていい・・・!』
『わかりました!目標タウン級!』
上の砲撃指揮所が測距を始める、他の艦も統制装置に従い砲を旋回させている事だろう
『摩耶がまた・・・!』
『今度は2発か・・・!』
まず被弾したのは前部主砲塔三基、薄い装甲を突き破って艦の至近で砲弾が爆発した、しかし爆発と衝撃波で三基とも潰れてしまったのは変わりが無い。以前のここでの海戦でのザラ級の場合、なまじ装甲があるため、内部で爆発してしまったに違いない。もう一発は後部煙路、つまり煙
ヒに穴を開けた、支えを失った煙突は落ちて四番高角砲や機銃座と、そこに就いていた兵員を挽き潰し、焼き殺しつつ、海にころげ落ちていった
『摩耶火災発生!拡大中!』
先の後部指揮所での被弾により、破断され火の点きやすくなっていた内火艇の残骸が燃えだしたのだ
『火災や煙は敵の砲撃のいい指標になる・・・次の砲撃は・・・砲撃!撃ち方まだか!』
一矢報いずして、摩耶を死なせてなるものか・・・!
『砲撃、開始します!』
『てぇーっ!!!』  


299  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/06(土)  18:49:41  [  wFko1i7.  ]
ドドドドドドドド!!!


志摩の烈拍の叫びと共に、各艦合計40門の20.3センチ砲が火を吹く、すぐさま二斉射目を放りこむ
『命中した・・・!』
タウン級の艦橋付近に光が走った!・・・一発、だけか・・・

『・・・っ!!!』

その時、音は大き過ぎて聞こえなかった。不意に志摩は正面を向き直して絶句した、摩耶が・・・摩耶が・・・!
『ま、摩耶、艦中央部大爆発・・・!!!』
連続して中央部に被弾した戦艦の砲弾により魚雷が誘爆、艦の機関部にも砲弾が侵入、蒸気の圧力と共にその威力を外に吹き出させた、その結果が・・・英語で言う、ジャックナイフ
『か、艦体断裂しましたぁっ!』
『操舵手!面舵15!指揮を受け継ぐ、続けと発光信号!急げ!』
『15度ではギリギリです・・・!それに面舵では・・・!』
沈んでいく摩耶を楯に・・・
『下手に舵を切れば被弾面積が増える!ぶつける気で行け!』
楯にすることには何も言わない、そしてギリギリの所を抜けることで起こる悲劇
『投げ出された乗員が海面に・・・!艦長!回避を!回避を!』
見張り員が回避を懇願する間にも、愛宕の艦体に巻き込まれて摩耶の乗員が海中に引き込まれたり、スクリューで細切れに裁断される  


300  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/06(土)  18:52:24  [  2aOBt6HQ  ]
『今回の敵斉射は狙いが外れて全て遠弾となっている、再照準や砲塔旋回の時間とて我々は貴重だ・・・生きて帰るには、自分が生き残るためには腐った事もする!悪いか!!!』
軽蔑の目が注がれる、ああそうさ、生き残りたいのは女の為さ、たとえ他人を、味方を殺してだって、自分が生きて、あいつらをかわるがわる抱いていたいんだ!死んでたまるか!
『軽巡への砲撃を続けよ!すぐ再照準してくるはずだ!・・・何をしている!今度は本艦が一番砲弾を受けならがら、後続の艦を射点まで連れていかねばならんのだぞ!!』
『・・・』
無言で各員が持ち場に専念する。見張り員が双眼鏡で敵艦隊を見つつ言った


『敵隊列まで、あと二万!!!』  


307  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/07(日)  21:51:41  [  62Dc2aCc  ]
『手強い・・・日本人め、ここまで前菜で喰いごたえがあるとは』
カニンガムが微笑む、砲術長は申し訳なさそうに言った
『いささか前回の海戦より命中数が落ちておりますな、喝を入れねばなりますまい』
『前回はさらに近距離であったし、パスタどもは我々に気付いていなかった。普通の相手なら、こんなものさ』
それに、船団護衛等に借り出されてる間、操艦はともかく、砲術の練度は落ちてると見ていい(乗員の練度にもたらす背景としては、日本の大陸派遣艦隊と同じかそれ以下の状況だったのだ、英艦隊は)
『そろそろ・・・あちらも厄介になって来たしな』
山城からの砲撃、先ほどは挟叉された
『ニューキャッスル航行不能!隊列より離脱します!』
ち、軽巡が一隻やられたか・・・
『あちらはどうやってるのかは知らんが、一艦に砲撃を集中させても測距に難がないようだな』
何より撃ち続けている我々でなく、軽巡を狙うだけの肝と判断力がある。まったく、喰いごたえがあるが、そろそろ前菜をさげてオードブルと行きたい
『敵の行き足を止めさせる、巡洋艦戦隊、射程に入り次第、魚雷戦を為せ!』
魚雷はいくらなんでも大きく舵をきって回避せねばどうにもならない、そこをイタダキ、だ  


308  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/07(日)  21:54:32  [  QAIBb81Q  ]
山城の砲弾がマレーヤに命中したのはその時だった。命中弾は一発、Y砲塔天蓋、そこの150o超の装甲はそれを弾き返す筈だった、砲塔内に入り込んだ砲弾は遅延信管を発動させ爆発、砲塔内をめちゃくちゃにしたが、火は下の弾薬庫までは届かなかった
『Y砲塔被弾!使用不能!』
『相手の距離は28000、か、その距離であちらもやる・・・しかし14インチにしては・・・』
カニンガムが抱いた疑問は事実だ、威力が以前より強くなっていた。最近になって、九一、一式、と改良を加えられて来た戦艦砲弾だが、さらに新式の六式、この重量弾を一式の徹甲弾と混載するようになっていたのだ(重量弾は射程が短くなる為)

ただしタングステン等をふんだんに使用したせいで、一発の値段が高いことこの上ない

重量弾作成の計画自体は超甲巡、現在の白根級の主砲弾の為にあったのだが、帝國海軍は三式弾を12.7センチ砲弾まで造るような集団である、資源は異世界からじゃんじゃん持って来れる、じゃあ、全部の砲に用意しとこうじゃないか、と造ってしまったのである。おかげで六式を使用す
黷ホ重さは二割増し、大和に至っては砲弾重量が1.8トンと、恐ろしい存在と化していた
しかも予定はそれだけではなかった  


309  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/07(日)  21:59:18  [  BWp6c0w2  ]
金剛・伊勢級と山城の主砲換装である。今まで14インチで英国式の砲を使っていた訳だが、完全な国産に換装してはどうかとの意見が発生していた、新式に換えれば、特に伊勢級の12門はかなり魅力的な存在になる。金剛級だって、一発のパンチ力が増えたなら、排水量の増加著しくなる
ナあろう巡洋艦勢ヘ、必殺打を与え易くなるんじゃないか、そう艦政本部は考えた。
長門へは加賀級の砲から、この前それの改良型の砲を造って乗せた紀伊のを後日また換装すればいいから問題無い、次は彼女達の改装だ、と、決まっていたのだ。砲は長門に搭載されたもののスケールダウン、14インチから正14インチへとし、細部を完全に日本式としたものである

再転移と建艦で先延ばしになりそうだが。日本側で転移した伊勢や金剛達がマリアナの決戦で生き残れば、順次搭載されていく事だろう。山城に積まれる可能性は限りなく低くなっているが、砲弾の強化だけでも御の字である

話を元に戻そう
『艦尾に被弾したが速力に問題は無いか?』
先頭で指揮をとり続けるには速力が問題だ
『大丈夫です!X砲塔にも問題ありません!』
報告がすぐさま上がってくる、マレーヤは戦闘可能だ
『諸君、戦いの本番はこれからだ!』  


310  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/07(日)  22:03:19  [  wFko1i7.  ]
愛宕


『敵巡洋艦隊、駆逐艦隊、双方こちらに突撃してきます!!』

ギリィッ・・・

志摩の歯ぎしりの音は廻りの音にかき消され、誰も聞こえない、いや、聞いていない
『命令!第111駆逐隊に達する!敵水雷戦隊をその身をもって食い止めよ・・・!加えろ、死ね!以上だ』
『し、死ね、ですか?』
『我々より速いが射線が足りん!奴らの前でとどまって防いでもらわねば全てが瓦解する!そして三隻が無事でいられるなど私には考えられん、さっさと伝えんか!』
『はっ』
死ぬのが嫌だったら、あがいて、もがいて、最大限抵抗してくれ、そしてそれが一番の足どめ方法なのだ
くわえて巡洋艦には片舷三門の魚雷発射管にJ級以下、英駆逐艦五隻には次発装填装置は無いものの五連装発射管が2基、一回の魚雷戦での投射量は我々よりも大きいと見ていい・・・伊達に以前からジェーン年鑑をかつかつと買って眺めていた訳じゃ無い
『距離一万七千!』
『あと五千はつめるぞ!』
一気に飛んでくる弾の量が増えた、戦艦4隻の副砲群だ、片舷各六門、計二十四門・・・知識があるのも嫌なもんだな・・・くそ!換えが無い砲塔と魚雷発射管には当たらんでくれよ・・・そして俺にも、俺は死にたくない!  


323  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/09(火)  21:14:22  [  7mGOixHY  ]
『急げ!海戦が先に終わっちまったら、俺たちゃ皆殺し、全殺しだ!』
ザラ級唯一の残存艦、ゴリツィアが海面を走る。追随するのは駆逐艦五隻
『ジュリオチェザーレとの連携が出来なければどっちにしても全殺しですが!』
ハゲな副長が速度を出したことで発生する風に制帽を飛ばされないよう押さえながら進言する
アルの指揮するゴリツィアは同級艦が残らず沈んだせいで戦隊を組む相手がいなくなり、外様として他の戦隊に組み込まれたり、単艦で行動することが多かった。艦長の気質とそういった一匹狼な俺達ってかっこいいし、そのイメージを保った方が女にモテるよな、と、この艦の人間は敵
ゥら逃げだすことはけして言い出さない
『合わせてたら間に合わん!あのレディの言じゃ、その羨ましい男はおそらく、突撃してハラキリをする部隊だ、海戦最初に死んでる恐れすらある!』
『それじゃ俺達が行く意味あるんすか!?そりゃあの女は恐いですが』
実はゴリツィアの乗員の20%の人間が一度は桂かミスミにアタックをかけたことのある人間だった。特に上陸してローマに行っていた、あるいは行けた艦の上層部ほどその割合が高い
『仇討ちしたなら殺されまい!そう願いたい!そうであって欲しい!』  


324  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/09(火)  21:16:47  [  LIawiXzY  ]
『あわよくば慰めることで上手く行くかもしれんし、男が助けた御礼に一人ぐらい分けてくれるかもしれんぞ!?』
分けられる当人が聞いたら即座に目と耳と喉、そして股間の急所に投げナイフが突き立ってる事だろう
『やる気が湧き出てまいりました!』
副長が真面目腐った顔で答えている。しかしまぁ流石は、である
『俺達が出るのだって俺が苦労したんだ、俺が分けてもらうのが筋ってもんだぞ!』
そう、確かに苦労した


『だから親父!どうして俺達も出してくれない!日本人達と一緒にトミーを討つ絶好の機会じゃ無いか!』
アルの父親、ベルガミーニ中将は呆れ果てたような顔で見るといった
『マルタ西方から来る輸送船団他を見逃すのか?まともな装備も無く降り立つドイツの降下部隊の地上支援もほっぽりだして。クレタ島でひどい目にあったからこそドイツの奴らは我々に支援を申し込んできたのだ。加えて、まともな連携を行ったことも無い日本艦隊と海戦を行っても、
ャ乱を招くだけであり、相手の戦力も戦力だ。戦艦4、いくばくかの戦力を回してやるより、各々が目的を達して後、全力で英艦隊にあたってこそ勝機が見える、どこか間違いがあるか?』
う゛っ・・・全くもって正論である  


325  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/09(火)  21:18:41  [  M7VYRcWY  ]
『それに・・・これはオフレコだぞ?日本の軍人階級の人間が減れば、その分我々は強権をもって、彼等が転移してきたといって我が領内に存在する石油を始めとした資源を大量に接収できやすくなる。そして交戦し弾を使わせれば使わせるほどこちら側に依存せざるを得なくなる・・・
ツまりは、そういうことだ』
アルが苦虫を噛み潰したような顔をする、女性に対してはあの手この手を用いはするが、そりゃいくらなんでも卑怯過ぎる、女にモテなくなるぜ、ヤダヤダ・・・いかん、このままじゃなんにしろ死を待つばかりだ・・・そうだ!
『しかし、クラウツどもに協力したとても、もらえる資源はどれほどになるのですか』
『・・・』
『冬将軍に阻まれたロシアを始め、ロンメル将軍の居る北アフリカ、これらの戦線を持つクラウツどもにとって資源や物資は喉から手が出るほど欲しい筈、今のイタリアに分けられる、いや、イタリアにはこれだけ分けて貰いたい、と言って実現させられるだけの政治家が、我等がドゥー
`ェを含め、存在するでしょうか?』
ベルガミーニは不満げに腕を組んだ
『それは政治の領分だ、国王陛下がかの男を首班として戴いている以上、それに従い戦うのが我々だ、易は少なくともな』  


326  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/09(火)  21:21:14  [  7mGOixHY  ]
『日本人の危機を救い、恩を売ることで、ドイツ抜きに日本人の持つ資源を直接我々が買い付ける、あるいは分割していただける量を増やして貰った方がイタリアという国家に関しては得策、と、私は考えますが?』
ベルガミーニは唸った
『お前にしては考えてみていい意見だな・・・言うのがもう少しはやければ・・・だが』
日本側と打ち合わせる時間も無い、完全な単独行動だ
『そこをなんとか!』
包み込むようにアルがベルガミーニの手をとる、うざったそうにベルガミーニはアルの手をふりほどく
『男に手を握られても嬉しかないわい・・・だがな、私は今回艦隊を任された訳では無い、イアッチーノ大将に頼んではみるが・・・それからタラント警護にあたっているジュリオチェザーレが出せるかどうか・・・』
『別に撤退を支援するだけでもよいのです・・・!イアッチーノ大将には私も言ってみますが、許可が貰えれば百人力!ありがとうございます父上!』
ここぞとアルはたたみかける
『あ・・・ああ、わかった。好きにするがいい』


と、この後イアッチーノ大将に直談判に行ったり大変だったのだ
『それを横から掠め取ってこそ我々イタリア男というものでしょう』
ニヤリと副長は言った  


327  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/09(火)  21:23:43  [  a1KJrS8g  ]
『いったな副長、ハゲの分際で』
アルも笑う
『なに、カエサルも小太りでハゲていましたさ』
肩をすくめて副長が続ける
ゴリツィアの見張り員が叫んだ
『前方に黒煙!!敵味方不明!』
ともかく遠距離からでも支援してやらなければ
『では、現代のカエサルよ、我等もサイを投げにいこうか』
『了解です、私は後部艦橋に移ります』
『うん、頼んだ・・・総員戦闘配置!これより日本艦隊の救援のための戦闘に突入する!ゲイシャにモテたきゃ精一杯踏ん張りな!』
『おう!!!』



こうして第二次マタパン海戦に誰も予測しなかったイレギュラーたるイタリア艦隊の姿を加える事となった。そしてそれが両軍ともに、大きく海戦の歯車を狂わせていく・・・  


335  名前:長崎県人(F世界関連まだかかりそうなので間話として投下)  投稿日:  2007/01/10(水)  03:18:36  [  M7VYRcWY  ]
同日・ローマ、とある酒屋


カウンターが一部壊れている店に、二人の男女が座っていた
『やはり、我々が魔導を使えなくなったのはマナがこの世界には枯渇しているからだ』
『魔法の槍や魔硝石が使えないのも、使うその時に、貯めてあったマナが枯渇したこの世界に奪われてしまうから、て訳ね』
男が拳を握り締める
『魔導なく、地の利も無く、言葉も通じない・・・諜報人種としての俺達は死んだも同然だ、レーヴァテイルや獣人たちは帝國の役に立てるというのに』
レーヴァテイルのヒレやら、獣人の獣化は生理的なものであるから影響が無かったのだ
『居場所の無い異民族がどうなるか・・・』
女の方は肩を震わせた。帝國の転移でダークエルフは八年の安息を得た。恐いのだ、失うのが
『しかし調べてみればこの世界、最初からマナが無かった訳では無いようだ』
手には古めかしい本が
『何者かがマナを収集、封印してしまった。どうしてかはわからないが』
『つまり、封印されたマナを解放すれば私たちも戦えるのね?』
『ああ!たが、これは複数箇所ある。世界中のマナだ、当然だろう、そしてその一つが・・・』
店から窓の外を見る。そこにはヴァチカンの壮麗な建物が聳え立っていた  


343  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/11(木)  23:20:58  [  5dL2ey5s  ]
愛宕

『ぐあっ!』
被弾の衝撃に志摩は転倒して頭をうつ。左腕がないため受け身が取れないせいだ、足も不自由な為、踏ん張りも効かない、そんな訳で死ぬような怪我は負ってないものの、額から血を流し、切羽詰まった今の状態を如実に表している
『被害報告っ!』
手から離してしまった杖を持ち直し、支えにしながら立ち上がる。近づく事で雨あられと降ってくる戦艦の副砲弾は愛宕を確実に追い込んでいく・・・主砲弾をまだ受けてないことが救いだが、それもいつまで持つか・・・
『右舷高角砲全滅!探照灯も、全て破壊されました!』
『浸水は!?』
『報告ありません!』
よし、速力が落ちなければ・・・まだ、やれる!『艦長!距離一万五千!!撃たせてください!艦長!このままでは!』
水雷長が悲痛に叫ぶ、このままでは撃つ前に破壊されるか沈んでしまう
『くっ・・・!』
この距離からならば敵も魚雷を発射したとわかるだろうから、回避行動に移るだろう、その間は砲撃の精度が低下するが、今されては隠密発射した魚雷が用を為さなくなる。この艦で戦艦に通用する武器はそれしかないというのに・・・だが、沈められては・・・
『あれは・・・艦長!新手です!』
『な・・・に?』  


344  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/11(木)  23:22:38  [  KRpK8t7E  ]
マレーヤ


突如現れたイタリア艦隊を見てカニンガムは舌打ちした、相手をするのは日本人だけじゃなかったのか?
『やれやれ、諜報部や空軍もなかなかに頼れんものだな』
カニンガムが乗るマレーヤは最初の被弾以降、さらに山城の砲弾を二発受け、速力にこそ問題はないが黒煙を吐き出すようになっていた
『巡洋艦を呼び戻しますか?』
『いや、いまさら無理だ』
軽巡のウガンダと駆逐艦一隻がトドメをさされ、ニューキャッスルは被弾炎上しつつも敵駆逐艦を駆逐しつつある、突破はもうすぐだ、引き返させる等、とんでもない
『レゾリューション艦長にに後続艦の指揮を任せる!本艦はイタリア人を討つ!手負いだがイタリア艦隊を引き付けることぐらいはできよう・・・!』
被害担当艦になるのも悪くない。とにかく、厄介な魚雷を撃たせない事、これを忠実に守れば戦力に勝る我々は必ずや勝てる
『レゾリューション艦長より返信!誓って勇者の帰りを待たん、委細承知!との事です!』
『では、取り舵だ、艦長。イタリアのアバズレ娘にもこのパーティに参加したならばエスコートして差し上げるのが筋というもの』
艦長が笑って答えた
『粗野な彼女らに足を踏まれぬよう、軽やかに、ですな』  


345  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/11(木)  23:25:49  [  t4UopWMg  ]
山城


『これは、突入戦力が増えたと見ていいのか?』
栗田は迷った、イタリア艦隊を数に加えていいものか・・・指揮だって席順はどちらが上かわかったものではない。艦の大きさで階級が決まる訳でも無いからだ
『敵一番艦、イタリア艦隊へ変針します!!』
『馬鹿野郎!せっかくの隠密発射が!』
艦橋が騒然となる、全てが水の泡に・・・
『・・・後続艦の針路はどうだ?見張り員、知らせ』
栗田は冷静に見張り員に命じた
『針路・・・変わりません!いまだ愛宕らに砲撃を続けています!』
栗田は息をついた、とりあえず戦法を大きく変える必要はなさそうだ
『砲撃目標を二番艦へ、一番艦はイタリア艦隊に責任を取ってもらう。目標変更、いそげ』
『はっ!』
こうしてイタリア艦隊と敵の一番艦を頭から切り離す、敵の優位は全然変わっちゃおらんのだ
『羽黒、青葉!両艦被弾!!主砲弾です!羽黒、行き足停止しました!青葉は火災発生!三番砲塔が吹き飛んだ模様!』
羽黒は進退窮まったな・・・残り三艦
『空月、流月没します!蒼月、いまだ戦闘中!しかし一番砲塔被弾!崩壊!敵巡洋艦部隊に突破されます!』
いや、進退窮まったのは我々全体だ
『戦える艦を持ち帰るべき、か』  


346  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/11(木)  23:29:46  [  CDVnjlgM  ]
愛宕


『相対距離、もう一度知らせ!』
あと三千、数分で到達できる距離がこうも永いとは・・・

バキャン!ゴアアァ!!!

またどこかの壊れる音、艦の悲鳴が聞こえる
『距離一万三千!被弾は三発!カタパルト・クレーン損壊!内火艇全損!』
魚雷を今撃って到達は約10分後・・・!三万から撃った魚雷と緩急合わせたかったが・・・もう、もたない、自分が乗って脱出できる唯一の手段、内火艇もたった今全滅した三万の距離から18分、俺達はよくやった、よくやったんだ!逃げても構わないはずだ!
『水雷長、魚雷発射、撃ち方始め!』
艦橋の注目がまた志摩に集まった
『取り舵反転!離脱する!ただし羽黒は見捨てない、敵巡洋艦を黙らせるぞ!』
速力が出ない以上、それの後は置いていくしかないが
『魚雷、発射します!』

パシュンパシュンパシュンパシュン

相変わらず気の抜けた圧搾空気の魚雷射出音が聞こえる、今度は射程を短くして炸薬を増やした五式魚雷だ、当たれば只ではすまんぞ・・・!
『くそっ!敵戦艦引き続きこちらへ砲撃を!どうして山城を撃たないんだ!』
見張り員が感情的になって報告する
『ギリギリまでこちらを潰す気だ、巡洋艦部隊への援護を兼ねて』  


347  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/11(木)  23:33:44  [  5dL2ey5s  ]
『しかし何故』
あ・・・イギリスさん、こちらの魚雷の速さを知らないのか!
実際、酸素魚雷はその長射程が取り沙汰されるが、もう一つ、他国の魚雷と同距離で発射した場合、それらよりずっと速いということが言える、よってR級戦艦三隻はその回避のタイミングを味方を援護で失っした事に気付いていない
『当たる!当たるぞ!』
もし、あの三艦全てに当たるなら・・・そんな思いを持ったその時、至近弾、いや、命中弾が窓枠を横からブチ抜きつつ艦橋内をすりぬけていった。志摩の持っていた杖が折れながら海面へと飛ばされていく


同刻、ローマ・志摩達の宿舎

『つ・・・』
『痛っ!』
桂とミスミ、二人は、志摩が帰ってきた時に、イタリアの地で、できるだけ志摩が好きな料理を出せるようにと、手に入れられる食材を手に入れては、二人で料理の研究をしていた。そして二人同時に指を切った
『ふ、二人同j』
『言わないで!』
ミスミが青い顔をして言うのを桂が泣きそうな顔で遮る
『これぐらいの痛み、大怪我してるかもしれないあいつに比べたら・・・!比べたら・・・』
ピザ生地に血が交じるのも構わない、そして涙も
『あたし達は、志摩をただ待つしか、ないんだから・・・』  


357  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:00:43  [  bBlcovoo  ]
レゾリューション


主砲の発砲煙がたなびく、命中率はイマイチだが、十分に押し込んでいる。副砲弾は既に五発は先頭になった敵二番艦(愛宕)に命中していた
『見張り!魚雷の発射する兆候を見逃すなよ、つまらんミスで勝ちを失いたくないからな』
R級三隻の指揮を受け継いだレゾリューション艦長が見張り達に告げる
『いよっし!ヒットした!』
敵の三番艦(羽黒)が被弾してつんのめった、機関室をやったな。足を怪我させた狐を狩るのはたやすい、動きの鈍ったところにトドメの一発をおくればいい、血を辿って忠犬たる軽速戦隊が喉笛を噛み切ってしまうのもよかろう
『敵艦、舵を切ります・・・!敵魚雷発射の恐れあり!・・・あれ?』
見張り員がそう叫んだあと怪訝そうな声を出す
『どうした!魚雷か!?相対距離報告!』
『一万三千・・・敵艦魚雷発射、ですが、魚雷がしばらくは航跡を曳いていましたけれども消えてしまいました・・・』
着弾の水柱で見にくかったが、きちんと白い航跡がはっきり見えたのに消えてしまった
『魚雷を投棄したか・・・日本人が全てサムライというわけではないということだな』
この状況なら撤退も無理は無い、突入した艦の半分が既に撃破されているのだ  


358  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:03:22  [  wFko1i7.  ]
『だが、逃がさん。我々も任務でな。こちらにのこのこ現れたそちらが悪いのだよ、砲術!ケリをつけてやれ!!』
『アイ・サー!』
デリックの方では見張りと兵がはしゃいでいた、魚雷の心配が無くなったのは大きい、安堵したのだろう
『惜しい!今あの馬鹿デカい艦橋を掠めたぜ!』
『次は当たるさ!日本人どもめ、ざまーみろってんだ。イラストリアスとイーグルの恨みだ!』
彼等の話に割って入る
『諸君、そういう話は帰るまで取っておいた方がいいz』
目の端に何かが映った。海面下を青白い何かが走っている。鮫か?いや、鮫があんなに速いものか!
『ハードスターボード!急げェ!』
『か、艦長、それでは砲撃に支障が』
航海長の疑問には見張り員が全てを答えてくれた
『ぎょ、魚雷だあぁっ!!』
なんで魚雷がこんな所に、魚雷は投棄されたんじゃなかったのか・・・?いや、考えるのはまだ早い、今は回避だ。しかし速い、我が軍の物より断然速い、間に合うか・・・ダメだ
『タイミングを失したか!』
航跡が見えていれば、たとえ速くとも避けられたかもしれない、が、後の祭だ
『総員!衝撃に備え!』

突き上げられるような衝撃がレゾリューションとラミリーズの2隻を襲った  


359  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:05:26  [  gPuSt/kQ  ]
ゴリツィア


『戦艦一隻、向かってきます!』
『おいおい・・・』
戦艦一隻軽く捨て潰してでも日本人を叩きのめすつもりなのか?トミーは・・・
『あちらさん、やる気満々ですがどうします?日本人の真似するなんて聞いてませんよ?』
『わかってる!』
副長が伝声管からちくりと言ってきた。ゴリツィアには魚雷兵装が無い、しかし遠くからの砲戦だけで済まなくなった
『駆逐艦戦隊!自由行動を許す!相手は手負いだ、魚雷を叩き込んでやれ!』
駆逐艦に自由行動を許す、旗下の駆逐艦五隻がバラバラに飛び出す。一列縦隊でなく、バラバラのあたりが奴ららしい。まぁ一列縦隊の場合連鎖的にやられてしまう可能性がある、問題は組にしてない射撃や雷撃は命中率が下がることだ、タイミングも合わせにくい
『で、本艦がどうするか、だが』
というより、突入を指示した以上、俺達もいかなきゃカッコ悪い噂が立ってモテなくなりそうだ・・・駆逐艦や小型艦艇の連中はよく言い触らすんだ、港のねーちゃん達の店でモテるために
『とにかく当てて、副砲を潰す!敵主砲は後部砲塔が一つ潰れてるから、後ろに回って悶えさせるぞ!』
ま、あたればこいつの砲弾でもどっかぶっ壊れるんだ。それでいい  


360  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:08:31  [  FOuc4Za.  ]
伝声管で射撃指揮所を呼び出す
『砲術長、射程内に入り次第撃て、とにかく当てて。生きて帰りゃモテモテの貴様の未来が羨ましいぞ!』
すぐに答えがあった
『生きて帰れるようにしてくださいよ!?あの姐さん(桂)を吊されるまで、どれくらい引き延ばして口説いてられるか、指揮所の連中で競うんです』
『・・・口説き落とすんじゃ無くてか?』
目的が変わっとる、目的が
『べ、べつに誰も吊されたいとか考えてませんよ!』
・・・何故慌てる、アルはため息をつく
『お前らの趣味はいい・・・とにかく当てろ、いいな』
反論を許さず話を締める。砲術長ら変態集団はこれでいいとして
『航海長』
『なんだいアル?』
『指揮所の連中が悲鳴を上げるぐらい艦を振り回せ、敵艦の後ろに回ってカマを掘る、得意なんだろ?』
『ぼかぁ掘られる方なんだけどなぁ・・・で、ご褒美は?』
『・・・生きてたら旦那の方は任せた』
その趣味には砲術長以上に付き合い難いが、腕は一級だ
『冗談だよ、僕は全ての人に対して女でありたいだけさ。了解しました、艦長』
航海長は笑ってくだけた敬礼を返した、あとは俺の覚悟だけだ
『おおし!いくz』
『むこうの敵戦艦に水柱!!』
な、なんだって!?  


361  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:11:20  [  62Dc2aCc  ]
マレーヤ


『馬鹿な、何故だ。魚雷はあれほど注意していたはずだろうに』
カニンガムが呟く。レゾリューション艦長は無能の謗りを受けるような人物では無かった、何か特異な事態が起きたに違いない
『レゾリューション停止!傾斜していきます!ラミリーズも被雷!行き足落ちます!!』
『くっ・・・』
予想外だ、敵の巡洋艦戦隊はこのまま戦えば無理無く全滅させられよう。が、敵戦艦や残りの艦艇との戦闘を考えれば、こちらの全滅とあちらの全滅がお互いイーブンにもたらされる。その場合、戦略的に不利になるのはこちらだ、イタリアの主力はまだ残っているのだから
『パウンド海軍卿の作戦がうまくいくならばそれでも構わないが・・・』
決断に苦しむ・・・彼にはソマーヴィル大将経由で、海軍省主導の作戦が進行していることを伝えられていた
『・・・勝利を前提に作戦を組む、それこそ無能の極致、か』
味方を置き去りにした批判は間逃れぬだろうが・・・英国の勝利のためだ
『リヴェンジ艦長に通達!撤退する!航行に支障が無い艦を連れて、アレキサンドリアへ引き上げたまえ・・・次は、負けん!』
苛立ちは次の機会にぶつけてやる
『本艦はイタリア艦隊を突っ切って撤退する!』  


362  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:14:30  [  KYi//xS.  ]
愛宕


志摩は、とりあえず生きていた、理由は簡単だ。足が弱ってたことと制服の左腕の部分を切り取らずにひらひらさせていた事。砲弾が艦橋を察過した際、まず衝撃で杖を手放してバランスを崩した。そしてほぼ同時にひらひらさせていた制服の左腕の部分に当たった破片に引きずられて体
イと強烈に床に押し倒された。他の艦橋要員達は衝撃に志摩より強かったし制服に肉の通って無い部分なぞ存在しない。愛宕の艦自身の破片にずたずたに切り裂かれ、まるで人形の部品のように転がっていた
『生きてる、生きてるな・・・?』
頭がガンガンする、小便漏らした、体のあちこちが痛い、起きれない、何がどうなってんだ
『誰か!!艦の状況を報告!救護班!』
あれ?考えられるけど声が出てない?喉をやられた?くそぅ!
取り付けが悪くなったのか、艦橋への入口の扉を蹴り飛ばして兵が入って来た。ともかく、声を出さなければ
『救護班!助けてくれ!喉をやられた・・・!指揮を誰か』
皆がこちらを見た、聞こえたらしい。口をパクパクさせながら駆け寄ってくる
『ーー!ーー!?』
耳鳴りか?声が聞こえない
『喉をやられた!起き上がらせてくれ!』
左腕の袖に突き刺さった破片を必死に指差す  


363  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:17:20  [  QAIBb81Q  ]
救護班の兵が紙を出してなにか書いた
『艦長は鼓膜をやられております?』
動く右手で手を耳にあてる、たぶとかは無事だが血が出ている
『の、喉は!?』
兵が紙に書き足した
『治療します、黙ってて下さい!』
『魚雷はどうなった?指揮は!?』
埒があかない、制服の左腕に突き刺さった破片が切り離されたのを見て、無理に立ち上がる
『つっ・・・』
支えに手を置いた所がささくれていたためか手を切る、くそ、ズボンが冷たい、体がメキメキ悲鳴を上げている
『他の生存者、は・・・!?』
周りを見渡せば、誰かの身体の部品の山に、床一面の血の海、そうか・・・破片でみな・・・
『艦橋内で助かったのはあなただけです、指揮は上の砲術長が。ここへは生き残った見張り員の報せで・・・戦闘の方は、我々はまったく、各所の被弾した箇所へかけずり回ってましたので』
かいつまんでその兵は書いてくれた。ありがたい
『時間が惜しい、君から見て、今から私が指揮を戻した方が良いか判断してくれるか?』
少し考えて兵は紙に書き込んだ
『無理です、鼓膜破裂、頭部殴打、裂傷。おそらく骨にもひび、身体の筋も痛めてます。擦過傷も多数、気力が切れたらショック死の恐れがあります』  


364  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:19:43  [  gPuSt/kQ  ]
レゾリューション


『本艦は、ダメだな・・・』
二発の魚雷、この大威力の魚雷は艦の主要部を喰い破り、艦の機能は停止しかけていた
『砲撃は可能か?ラミリーズが退避するまで時間を稼ぎたい』
立場替えだ、撤退を本艦が支援する、ラミリーズは11ノットで退避を始めていた、そのラミリーズを今敵戦艦(山城)は砲撃している
『傾斜がキツいです、注水区画がもう少しあれば・・・』
R級は扶桑級よりも全長全幅が短い、水中防御も魚雷の性能が向上していく上に、水中弾を考慮しては改装した日本艦よりは少々落ちる
『・・・弾火薬庫注水準備!今の内に砲塔に砲弾を人力で揚げられるだけ揚げろ!』
傾斜で揚弾器が動かない、しかし傾斜を回復させるには弾火薬庫に注水させるしかない
『こちら弾庫長、俺達に構わず注水してください』
『しかし・・・!』
作業をしていたら勿論彼を含めそこに居る者達は逃げ遅れてしまう
『本艦がもう死んだと思ってるやからに手痛い一発がやれるなら本望です』
敵戦艦は状況が決まってから初めてこちらに接近する針路を取っていた
『何斉射できます?』
『おそらく再び傾斜で射撃不能になるまで十分、十斉射』
『命をかける価値は、十分にありますぜ』  


365  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:22:03  [  50Ied/7E  ]
『すまん・・・弾火薬庫注水!傾斜復元が戻り次第、砲術!与えられたチャンスは十回だ!』
注水によって弾火薬庫に水が進入してくる。弾庫員達はただ陽気に歌って揚弾の作業をしていた、逃げる者は一人も居ない

おお、主よ、神よ立ち上がられよ
汝と君の敵を消散せしめたまへ
打ち砕きたまへ
彼等が策を惑わせたまへ
彼等が騙し手をくじきたまへ
我等が望みは汝の上に!
神よ我等を救いたまへ

英国国歌が弾庫に響く、腰まで水が漬かって来た時、揚弾器が動き出した。これで艦の命は尽きたも同然だが、射撃も揚弾も可能になる

『射撃準備、完了です』
『よし、撃t』
その時。射距離三万、実走距離三万六千、到達時間35分。愛宕らが17分間肉薄し、一万三千の距離からあまり角度をつけずに発射された五式魚雷が敵艦到達までに要したのは8分、それから10分後。レゾリューションの存在するその位置と魚雷の射線は交錯した。
そしてQ・E級のバーラムが転覆に要した魚雷本数は3発、限界まで溜め込んだ海水に加えて、被害を食い止めていた防水材を押し流して破孔から流入した海水は、レゾリューションは傾斜を一気に高め
『か、艦が転覆するぞ!』
彼女に存在する生命の殆どを抹殺した  


366  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:25:52  [  wFko1i7.  ]
ゴリツィア


『ちっ、あっちも突っ込んで来やがる』
大番狂わせだ、日本人め、やりやがった。こっちは相手が艦隊に対して足を止めて、楯になる事を前提に突撃しているのに、あちらがこちらに突撃して来たら、それはまずいことになる。相対速度が50ノット越えている、つまり時速100キロだぞ、100キロ!そうなると手数の多い方が有利
セ、しかし・・・
『こちら砲術、早くて砲塔の旋回が間に合いません!』
『うるさい!気合で回せ!』
このザラ級はかなりな装甲を持たせられている、建造された当初は装甲巡洋艦と呼ばれたぐらいだ。おかげで砲塔の動きが他艦よりも多少遅い。それに隊をバラけさせたせいで駆逐艦には戦闘に参加できてない艦も居る
『日本人め、なんて事してくれやがるんだ!』
『んー、今のアルの発言は無茶苦茶だね』
砲がウィーンと旋回し、止まった。射撃

ドドドドドド!!!

『よぅし行けぇっ!』
砲弾の軌跡が一瞬目に焼き付く、そして弾着
『命中!』
初弾で、である。回避のため高速機動している中だ、まぐれ当たりにしてもこの悪条件で照準を正確に捕らえた証拠だ
『アル、追うかい?』
航海長が操舵を握ってこちらを向く
『馬鹿言え、巡洋艦じゃ無理だ』  


367  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:29:28  [  cnmf7h96  ]
『まずはあちらさんの無事を・・・』
調べた方がいい、そう言おうとして絶句した。三万トンもの巨体が水柱が上がったあと一気に転覆し、爆発した。そんな光景を見る機会は軍人にだって殆ど無い、あってはならない物だろう
『主よ・・・』
トミーとはいえ、あれほどの災難に遇うのは気の毒に思う、乗り組みの将兵は殆ど生きては居ないだろう・・・闘志が萎む、頭が冷えて落ち着いた
『速力落とせ、航海長、海面に漂う兵を救助する、巻き込まぬよう丁寧に操舵を、伝令、駆逐艦にも報せ』
ともかく、その男が無事か問い合わせなければ。海に落ちているならば拾い上げてやらなきゃならん。
『アイ、艦長』
実力を見せる上では肩透かしを食らってまんまと逃げられたが、ま、一発は叩き込んだ、まともに戦わなくてすんで良かったのだろう、じゃあここからすべきは口説き落とすための人脈作りだ
『(日本のゲイシャガールが何を好むのか聞き出す必要がある。恩を売って、そういった場所に連れて行ってもらうのも・・・ふふふふふ)私が陣頭指揮をとる!一人でも多く、同盟国の人間を救うのだ!』
こうして彼は図らずも、こちらの世界の人間として初めて、異世界の種族と直接の接近遭遇を果たす事になる  


368  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/23(火)  15:33:01  [  7mGOixHY  ]
山城


『追撃戦を行う、転舵せよ、被雷した艦を逃すな』
魚雷が命中したとき、栗田はすぐさま命令を下していた
『雑木林には停止した敵戦艦の処分を命ずる』
しかし、と栗田は思った。海戦などする物では無いな・・・結局は確率のさじ加減で何が起こるかわかったものではない、艦隊があり続けることこそが重要なのだ。今回はドイツの連中に押し付けられたとも言えようが、全てを失う可能性も大いにあった
『溺者救出は愛宕らに命ずる。敵味方問わず引き上げてやれ』
現実を直視すれば、こういった事は今後何度も起こり得る事だ、捕虜にたいして厚遇を処し、英米のもろもろの感情を和らげる行為も必要だろう
停止した敵戦艦の横を通り過ぎる、あそこまで傾斜し、舷が深く沈み込んでしまっては長くは持つまい、潔く降伏してくれるといいが
『司令!敵艦の傾斜が!』
『なに・・・!?』
まだ戦うのか!?いや、この距離であれば・・・!
栗田は被弾を覚悟した。しかし砲弾が飛んでこない。見れば敵戦艦は水柱を上げた後、転覆、爆発した
『最初の魚雷のようです、助かりました』
艦長が安堵して告げる。栗田は英戦艦に己の惰弱を咎められたような気がして、目を反らす事しかできなかった  


374  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/25(木)  02:13:35  [  zeLnApqc  ]
ロンドン・ダウニング街一番地


『今日は英海軍創立以来最悪の日となりそうだな海軍卿』
『さようですな』
地中海からの報告にチャーチルは葉巻をくわえて唸った
『マルタ島への支援に向かった艦隊は、戦艦3隻を含むイタリア艦隊にヴァイアン少将は勇敢に立ち向かい、全滅した』
パウンドはチャーチルの言に付け加えた
『正確に言うと軽巡2、駆逐艦4、それに輸送船を5隻、計11隻の艦船を艦籍名簿から消すことになりますな』
『一方、戦艦4隻を引き連れて日本の艦隊を叩きに行った艦隊は戦艦、軽巡、駆逐艦を各2隻失った。忌々しいことに、敵は巡洋艦、駆逐艦の2隻とを失っただけ』
チャーチルは言葉を切る、言葉には怒りがあふれている。完全な敗北だ
『これはどういう事かね?』
『日本人が存外に強かった事と、彼等が楯となり枷の無くなったイタリア艦隊が自由に追撃戦を行えた、要因はこんな所でしょうか・・・ですが、我々はこれで戦争を得ました』
パウンドが言い切る。苦虫を噛み潰したようなチャーチル
『聞こう、聞かせてもらえるか?この大敗北を勝利と成す方法を』
『現在、アドリア海に、特殊部隊の乗った特殊潜、同盟国潜、合わせて23隻の潜水艦が存在します』  


375  名前:長崎県人  投稿日:  2007/01/25(木)  02:17:45  [  niTZ37Wk  ]
『随分な戦力集中だな』
少なくとも潜水艦の海域展開数では英国始まって以来の数だ
『我が潜水艦隊もなかなかに励みまして。それに、目標は艦船ではありません。地上目標です』
はたとチャーチルは気付いた
『日本人の石油か!!』
『そうです。今後マルタ島の支援や、アフリカのロンメルに対する輸送船団の護衛に必要な石油、両国が欲しがり、在欧日本人の保険でもある資源の備蓄された倉庫、これを焼き尽くします。我々はたしかに海戦には負けたかも知れません。ですが、戦争目的は必ず達成します』
備砲の数を増す、その為の23隻であり、日本人の在アドリア海戦力を減らし、あわよくば艦隊その物を消し飛ばそうとする為のカニンガム艦隊であり、イタリアの主力艦艇を出撃させ、なけなしの石油を使わせたのも、またこの為であった
『マルタ島へ降下した敵部隊も輸送が無ければ孤立します。ですが石油不足の為、輸送も、また護衛にも、戦力は限られ、絶対的有利が我々に転がって来るのです。地中海はこの戦いで膠着します。我が海軍の勝利をもって』
パウンドは不敵にニヤリと笑った
『まったく、まさに英国だな』
『英国ですとも』
しかし彼等は日本が持つ不確定要素を知る由も無かった  


384  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:41:23  [  dqay7chg  ]
マタパン沖・ゴリツィア


この海域に於いて、日英両海軍は海戦を行い、現在8隻の艦艇が沈没した。投げ出された人間の数は、神の御座に行ったであろう人間も含めて5000人を越える。これを救うのは海域を制した者の義務だ
『毛布と温かい料理だ、ああ主計長。腕によりをかけろ。ただし、噛む力も弱ってるかもしれない、具は小さめにな』
アルは甲板に降りて、指揮を取っている。主計長への指示を終えると降ろされる内火艇にバランスよく飛び乗った。人が増える事に少しイヤな顔をした艇長にはこう言っておいた
『トミーって奴らは形式を重んじる。乗艦許可を艦長の俺自身が言った方がおとなしく従うさ』
地中海とは言え三月の海だ。時間が経てば経つほど生存者は減っていく、余計な時間は短縮したかったのだ
『ひでぇな』
艇に乗っていた兵がそう呟いた、無理も無い、爆沈した摩耶や、横転したレゾリューションの生存者は少なく、浮いているのは砲弾を多数命中させられ沈められた英軽巡らの乗員に、全艦炎上し、総員退艦が出された羽黒、滅多撃ちにあって沈んだ秋月級の2隻の乗員達が主だ。要するに
A怪我をしていない人間の方が稀なのだ、そしてその怪我から流る血が体温をさらに低下させる  


385  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:43:14  [  wshQOogU  ]
『まずいな、このままでは死人がもっと増える。各艇、引き上げ急げ!』
ゴリツィアを経由した無線を通じて呼びかける。アル自身も勿論、救助に加わる
ゴリツィアとの間を2往復したぐらいの時、日本の位の高そうな服を着た士官が泳いできた。腹に何かを括りつけている
『手を延ばせ!』
イタリア語でそう言って手を延ばした、意味はわかるはずだ。しかしその士官はごそごそと括りつけた何かを外そうとしている
『何をしている!そのまま掴まれ!』
士官は括りつけてあった。今は何かの額縁だとわかるそれをアルの手のに差しのべた。受け取った。アルはそのまま彼を引っ張ろうとしたが、士官は手を離した。いや、もう力が無かったのだろう。心底安堵した顔のまま、彼は沈んでいった。額縁をみれば、勲章を吊った、朴訥そうな彼
凾フ君主の写真
『馬鹿野郎!』
死に間際に出すのは好きな女の写真が定番じゃないか!なにを好き好んで国王とは言え野郎の・・・!馬鹿野郎!
『艦長・・・』
兵に言われるまでも無く、アルは御神影をそっと脇に置くと救助を再開した。中には自艦の旗を身体に巻きつけた者すら居た。助けられた彼は、問われるとこう言った
『こいつはあの艦の魂みたいな物ですから』  


386  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:45:09  [  X8fclSxo  ]
わからない、心底日本人をわからないと思った。旗にしろ何にしろ物は物ではないか。命を賭けるに値するのは故郷と女、時々料理、この三つで十分だ
『愛宕は沈んだのか?』
別な水兵に聞いた、イタリア人から愛宕の名が出てくるとは思ってなかったらしく、その水兵は首を横に振った
『片腕の男が艦長をしていたはずだが、知ってるか?』
これもジェスチャーで通す。水兵は頷いた
『なんで貴官がそれを知っている』
拾い上げた士官が英語で話し掛ける
『その奥方から夫を助けてくれって言われてな、女性の頼みは断れまい?』
ちなみにこの発言で志摩はおもいっきり栗田を始め、救い上げられる兵達はともかく、士官以上の上層部から嫌われることになる。当然だ、結果論的に今回の突撃は成功したが、イタリア艦隊の出現で英艦隊の針路が変わり、魚雷の命中数がゼロになる恐れすらあったのだ
それで動くのも動く方だが
『日本艦隊来ます!』
救助を命じられた愛宕らである
『愛宕、愛宕』
水兵が指を差して教えてくれた
『・・・ボロボロだな』
艦の中央部は15センチ砲弾でズタボロにされている。艦橋は、と
『・・・』
艦橋の窓枠が内側にねじりこむように破壊されている、こりゃあ・・・  


387  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:47:35  [  wFko1i7.  ]
またゴリツィアを仲介させて無線で呼びかける
『こちらイタリア海軍巡洋艦ゴリツィア艦長のアンサルド・ベルガミーニ中佐だ、そちらの責任者、艦長らは無事か?引き上げた貴国の将兵を引き渡したい』
しばらくして応答があった
『こちら大日本帝國海軍巡洋艦愛宕、艦長は・・・あ、大丈夫なのですか?は、解りました・・・艦長は現在鼓膜をやられておりますが、今こちらにみえています』
途中日本語で、これからもっと傷ついた兵達が来るのに、私くらいがベッドを独占するわけにもいかん。という声が入ったが、アルに日本語はわからない、まぁあの二人にこの世から消される事は無くなったなと安堵した
『愛宕艦長、志摩大地です。大佐をやっています。貴艦のご配慮、有り難く思います。ただ、本艦を含めて、こちらの艦は自艦の負傷者が既に存在しており、収容しきれるか覚束ない状況なのです。出来うれば、港までそのまま運んでいただきたい。兵に代わります・・・どうぞ』
なかなか透る声だ、悪くない。無線の向こうで何かが動く音が聞こえた、代わったらしい
『了解した。と、伝えてくれ。しかしそうなると、将兵の送還にはなんらかの代替を要求することになるやもしれないが、よろしいか?』  


388  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:51:19  [  7mGOixHY  ]
足元を見るようで悪いが、そこの筋は通さないと軍人としていろいろ問題になる。しばらく間があってあちらは答えた
『構わない。とにかく拾ってくれ、我々には人員の補充もないのだ』
技術を必要とする科員の長らは特に、である。
『引き換えに、何がどこまで出来るかは約束できないが。出来るだけの事はしよう』
本来ならば何も言わず善意を現すだけで救助を始めていいはずだ、どうやらゴリツィア艦長はフェアプレーをその旨としているようだ
『あんたの奥さんとメイドでも連れて、うちの艦に訪ねて来てくれればいい、皆喜ぶ』
落とせるかどうかは皆の腕次第だが、お近づきを得るのが先きだ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よだ。今度は間があった
『それは構わないが・・・あまりはしゃぐと、そちらの命の保障が出来ないが。いや、脅すわけでは無いが、その、うちのはちょっと特殊でな』
『知っている、以上だ。救助活動に戻る』
無線を切る、最後になんで知ってるんだ、と呟いていたが、やはり日本語なのでアルにはわからない
『ジュリオチェザーレだ!』
うちの水兵が叫んだ
『中将旗・・・親父だな』
アルが呟く。チェザーレはこちらに何もよこさず山城の向かった方へと向かっていった  


389  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:55:21  [  Xq7PfW/w  ]
『あっちはあちらの頭の方と連絡が取れたわけか』
親父は俺のように飛び出したりはしないタイプだ。チェザーレはそれで出るのが遅くなったに違いない。出るにしても、大概はイタリア的風潮で大型艦ほど重役出勤になる・・・まあいい、愚痴はやめておこう
『生存者は一人も見逃すな!』


両軍共同で救助活動を行う、時間が経過したことで、海水に体温を取られ沈む将兵が増えてくる
『多少苦しんでも、傷が増えても、身体を掴んで引き上げろ!上げさえすればまだ手はある!』
アルが声を上げる、ゴリツィアとの間を何往復しただろうか
『キュイ、キュイ』
何の音だ?

ザパァ!

『うおっ!』
黒い流線形の何かが救助者を抱えて勢いよく内火艇の横に浮かんだ
『キュ・・・この人を早く上げて!』
マスクを外す、アクアラングに艶やかな髪の毛がかかり、軟骨が放射的に伸びた特徴的な耳がある、というか耳なのか、あれ?いや、なによりも女!?
『引き上げてやれ!』
『は、はい!』
日本語はわからなかったが、上げろという意志は通じた
『ありがとう』
彼女は頭を下げる、そして目をパチクリさせた
『ま、まぶたが横から!?』
そこに居たイタリア人全員が驚いた、無理も無いが  


390  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  02:57:40  [  7ctwgltA  ]
『キュ?』
驚いてる彼等に首を傾げたあと、マスクとラングをつけ海中に戻る、跳ねた足は太いのが一本しかなかった。まるで
『ひ、ひひ・・・ヒレ!艦長!ヒレが!』
『落ち着け!とにかくは女だ!サイズは89と見た!』
『どこ見てんすか!』
・・・畜生、まるで人魚じゃないか。というか人魚じゃないというならなんだってんだ?でもなんか喋ってたぞ?人間と喋れるのがバレたら泡になっちまうんじゃ・・・というか、えー?えーっ!?
『艦長?』
『とりあえず落ち着け、あの胸の事を考えて落ち着け、落ち着け・・・よし、落ち着いた。あとでアタックをかけに行く、それでいい、俺達的に何も変わらない、全く問題無い。ゲイシャガールの他にマーメイドまでいるとは、日本は不思議の国だなぁ!』
『全然、まったく落ち着いてないっすよ、艦長・・・』
アルの慌てぶりに周りが沈静化したらしい。ほかの艇からも驚きの悲鳴が聞こえてくる・・・しばらくそれは止まりそうに無かった
『あ、レヴァ子しらないのか、こっちじゃ』
救助された日本兵が呟く
『レヴァ子?それは個人を指す言葉だよな?レヴァ子、レヴァ子というのかあの娘は。オーケー刻んだ!』
聞き止めたらしい・・・日本語なのに  


391  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  03:00:20  [  KRpK8t7E  ]
愛宕


『イタリア艦側からの応答要請が殺到している?なんのだ?』
レーヴァテイルの事らしいと無線士が紙に書いた
『・・・!』
救助活動と船外活動を行うのに、今となってはレーヴァテイルを伴うのが常とされているのを忘れていた
この転移以降全く信用されないか、生半可でない事態が起こりかねないので異世界から転移して来てくれた人種、ダークエルフ・獣人・レーヴァテイルの存在は公式化されていない、が、そのうちエルフの人達は我々とそれほど違わないため、一定範囲内での行動の自由が許されている。
b人は獣化しなければ、問題が無いのだが、突発性を持つため邦人居留地内のみ、レーヴァテイルは完全にシャットアウトしていた。彼女達には人目を忍んでヴェネチアの沈んだ建物部分を観光させたりしかさせられてない
『仕方あるまい、知らぬ存ぜぬを貫くしかないだろう。しかし、何故レーヴァテイルを使う事を私に報告にこない』
『おそらくは全力で救出にあたれ、というのが・・・』
そうか・・・そうだった、確かに全力だ
『レヴァ子達を引き上げさせますか?』
『・・・いや、救助者はこちらの内火艇に乗せること、艦に戻る時はイタリア艦の影になる所から、そう伝えてくれ』  


392  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  03:02:00  [  7Vp0wi8U  ]
アドリア海・海中


それは巨大といわれる日本の伊号潜水艦に勝るとも劣らない巨艦だった
『全てが真であり、全てが虚、だな連絡士官』
その巨艦を操る艦長の制服はフランス海軍の制服だった
『ええ、艦長。4隻、全五グループが囮であり、また攻撃部隊でもあります。確かに、ですが陸側からの攻撃という敵側からみてありえない、とされる攻撃を行えるのは我々だけです』
この潜水艦グループは3隻、内2隻は武装を外した旧式潜水艦で、陸軍の特殊部隊を二百名弱乗せている。潜水艦はそのまま廃棄の予定だ
『我々の立場でも言えるが、決死隊になってしまうのではないか?』
その連絡士官は胸をはった
『そのあたりは、日本側の問題というのもありますが、覚悟の上です』
ゲリラ的に、戦えるだけ戦ってもらえればいい。支援は在地中海の艦隊を全て使って、できるかぎり行う、それがこの作戦の筋だった
『覚悟、か・・・しかしこのシュルクーフの火力を活かせる戦場に巡り逢えるとは、おもわなんだ』
役立たずのまま退役だと考えていた
『地中海全ての沿岸海底を熟知している貴官が無くば、陸軍部隊を始め我々はここに居ません。たとえこの1隻であろうとフランスの助力は大きなものです』  


393  名前:長崎県人  投稿日:  2007/02/01(木)  03:05:11  [  2lSfKk9s  ]
そうか・・・悪く取るならば、今のままでは我がフランス海軍そのものが役立たずの烙印を押されたも同然。という事か・・・それはなんとか返上したいものだ
『・・・うむ、ありがとう。そういってくれると助かる』
しかし、だ。考えてみれば、流浪の艦隊になってしまった我々自由フランス海軍は、突然本土から切り離され、流浪の身になってしまった日本人達の苦衷を一番わかっている・・・彼等はその中で必死にもがいている、我々と同じ様に。そこを我々が攻撃する
『因果よな・・・』
ボソリと呟いた
『艦長?』
『いや、なんでもない・・・そろそろ分岐点だろう?我がフランス海軍のためにも派手に暴れるとしよう』
一旦言葉を切る・・・だが、な、日本人よ、同じ立場だからこそ、負けられないのだ
『メインタンクブロー!上げ舵15、シュルクーフ、浮上する!浮上次第、砲撃準備を成せ!』
気泡を纏い、20センチ連装砲という、潜水艦に於いての大剣をその身につけた鋼鉄のキメラは、今まさにその剣を抜き放とうとしていた