7  :長崎県人:2007/10/21(日)  11:53:06  ID:2MxH4A12O
1943年7月4日、ラハイナ泊地


『敵艦隊の大部分が離脱していきます』
ハワイオアフ島から東、モロカイ島、ラナイ島、そしてマウイ島に挟まれたラハイナ泊地には、丁寧に偽装がなされたオマハ級が四隻に、フラッシュデッカーが八隻の艦隊が、日本艦隊の動向をじっと見つめていた
『いいぞ、そろそろだな』
ラハイナ泊地の艦隊を率いるブラウン少将は呟いた。彼は米海軍の中で水雷畑を歩んで来た人物である
『残ってる奴らの情報をくれ』
『はい、ただいま』
ちなみにラハイナには海底ケーブルで真珠湾の太平洋艦隊司令部と電話が繋がっており、直接話すことが可能であった
『敵警戒隊に、コンゴウ級戦艦四隻、新型重巡四隻、駆逐艦が八隻が、地上支援には5500トン級らしき艦が六隻に駆逐艦が三十隻以上です!(正確には三十三隻)』
まず勝ち目は無い数の差がある
『戦艦がやはりいくらかは残ったか。それにゾンビーが四隻・・・こいつらをどうにかしなきゃあな』
実は手がある。だが、ここで本当に使うべきかは長官に問わねばならない
『ハルゼー長官に巣をつつきたいと伝えてくれ、それからミツバチの巣との回線をホットに』
ジャップどもにミツバチの痛い針を刺してやらなきゃならない  


8  :長崎県人:2007/10/21(日)  11:54:05  ID:2MxH4A12O
『ハルゼー長官が許可を出しました!』
五分とせずに返答が返ってくる、ハルゼー長官お得意の即決は、現場の人間としてはやりやすくてありがたい
『偽装解け!出るぞ!』
兵員があわただしく、艦に掛けてあった偽装を取り外してゆく
『錨あげ!一列縦隊をもって突撃する、我に続けと各艦に』
動き出したオマハ級に、それぞれが序列に従って動き出す


ザッパーン


ラハイナ泊地を出る水道を通ると、悪天候による波の動揺をモロに受ける
『巡洋艦より下の艦はキツいな』
フラッシュデッカーはかなりがぶられているだろう。戦闘が出来るかも怪しいかもしれない。ハワイの水雷艇は出撃するのも無理だ
『天候ばかりはどうしようもない、か』
敵も悪天候の中の上陸作戦という無茶をしている。味方の水雷艇から受ける被害と、この悪天候で受ける被害、ほぼ同一と見ていい。いや
『悪天候の方が被害が大きいかもしれない』
戦闘は全ての艦艇に及ぶわけでは無い。しかし悪天候は全ての艦艇に影響を与える
『やりようは、ある』
悪い要素だけでは無いのだ
『敵警戒隊、我々に気付きました!向かってきます!』
島の影から出たところを電探で捉らえたか、予定通りだ
『行くぞ、みんな!』  


9  :長崎県人:2007/10/21(日)  11:55:42  ID:2MxH4A12O
第四戦隊、金剛


ブラウンの水雷戦隊を見つけたのは、金剛級でも大和級のテストベッドとして最後に改装され、機器の新しい比叡だった
『やはり、居たな』
敵がどこかに艦船を隠して、闇に紛れて接近してくるであろうことは十分予測されていた
『中将、この規模であれば第九戦隊と二水戦を回せば阻止できますが?』
第四戦隊を預かる大西新蔵中将に、参謀が問い掛ける
『おいおい、せっかくの接敵だぞ?』
『ですよね』
大西中将は何をバカな、と鼻で笑う。言った参謀も肩をすくめて苦笑する。この第四戦隊の金剛級四隻は、開戦からこのかた、一度も水上戦闘を行ったことが無い。そして主力部隊にも置いて行かれた以上、積極的に前に出なければ、ここハワイでも地上への射撃だけで終わってしまう。
アれでは、兵が腐ってしまうのも無理は無い
『丁度良い腕鳴らしでは無いか』
敵は水雷戦隊の規模。魚雷は驚威だが、この天候では余程接近されない限り、雷道を安定させる事ができず、当たるものでは無い。砲戦主体なら、戦艦である我々が出向けば敵を圧倒できることは確定であり、揺るぐ事はあるまい
『しかしまぁ、用心に二水戦は連れて行くか』
駆逐艦で取りこぼしを抑える。これで完璧だ  


10  :長崎県人:2007/10/21(日)  11:56:45  ID:2MxH4A12O
そうして、第二次ハワイ沖海戦が勃発するのである。しかし、海戦は日本軍有利とは進まなかった。なぜならば・・・


『第七斉射、弾ちゃーく、今!』
『いよっし!命中した!』
悪天候の海面上から、小さい艦体を震わせて敵は砲火を投げ掛けてくるが、やはり、艦の動揺は抑え切れず、正確な射弾は送ってこれていない。こちらは戦艦で艦が大きい事もあり、命中弾が発生しだしていた
『しかし、古い艦が多いな。それに、波のがぶり方があれでは、駆逐艦は戦闘すら出来まい』
一方こちらの駆逐艦は、第四艦隊事件の教訓からか、この悪天候でも戦闘が可能であった。駆逐艦同士での戦闘はなぶり殺しも同然で推移している
『敢闘精神は認めるが、な』
これでは全くの無意味ではないk


ザババババババババ!!!


『うおおおっ!?』
いきなり現れた、無数の水柱に金剛が揺さ振られる
『何事か!』
この水柱、戦艦クラスではないか!
『敵に戦艦級の艦影は見られません!おそらくは未発見の地上砲台です!』
大西はその事実をすぐには認められなかった
『有り得ん!ハワイの高所にある観測所は悪天候で観測不能だ!この距離の測距が出来る筈が無い!』
しかし現実に砲撃を受けている  


11  :長崎県人:2007/10/21(日)  11:58:02  ID:2MxH4A12O
『どこで観測を・・・』
そこで大西ははたと気付いた。あんな戦闘もまともに出来ない状況で米軍が出てくるのは・・・
『あいつらが情報を送っているのか!』


ザババババババ!!!


もう一度金剛の周囲に水柱が林立する
『急げ!あいつらを全滅させるんだ!』
もし、もしだ。我々が砲撃を受けるのはともかく、上陸部隊が見える位置にこいつらを逃したならば・・・!
『是が非でもっ!』
我々は米軍を舐めるべきではなかった。あらゆる手をあいつらは使って
『敵第三射!来ます!』
ハワイから、赤熱した筋が降ってくる。大西に知覚出来たのはそれまでだった


金剛に命中した砲弾は、放たれた二十二発の砲弾のうち五発。その全てが金剛の装甲を貫通して内部で爆発した
一発目は大西のいる夜戦艦橋を貫き、254oの装甲を持つ司令塔内部で爆発し、指揮機能を麻痺させた
二発目は同じく254oの装甲を貫き、三番砲塔
内部で爆発して弾火薬庫へ火炎を送り込んだ
三発目と四発目は102oの甲板装甲を貫いて、艦の奥底で炸裂し、大量の兵員をこの世からあの世へ送りつけた
そして五発目、これも二番砲弾を貫通し、爆発。火炎を弾火薬庫へと届かせた


艦の前後で大爆発が発生した  


12  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:00:09  ID:2MxH4A12O
艦の前後で発生した爆発の爆風は、砲塔そのものを吹き飛ばしたものの、その殆どの勢いは艦中央へと向かって行き、缶室を破壊して超高圧の蒸気と共に、金剛の艦体を中央から破断して天高くその力の強暴さを誇示した


『こ、金剛爆沈!金剛爆沈!!!』
『回避行動!回避行動!!』
金剛が爆沈したことで、第四戦隊の戦列が乱れた。それまで正確な射弾を送り続けていた第四戦隊だが、急転舵によって命中率は急落した
『二水戦は早急に敵を撃滅せよ!』
『霧島被弾!速力落ちまぁす!』
二水戦が今までの余裕をかなぐりすてて、手早く片付けにかかるが、砲撃は変わらず続き、被害と混乱は止まる事を知らずに広がっていった
『霧島が滅多撃ちにあってます!』
最初の一弾目で機関室に被弾した霧島は、さらに集中して攻撃を受けている
『これでは我々は壊滅してしまう!』
二水戦と第五戦隊の誰もが、焦躁に飲まれて見失っていた。かの米艦隊が修正その他を行っているならば、それを伝えるために無線や信号などの通信が、解読は出来なくとも飛び交っていなくてはならない。それが無いのに気付いていなかったのだから


しかし、例外が居た。上陸船団の護衛艦隊、そして第九戦隊の四艦である  


13  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:02:05  ID:2MxH4A12O
上陸船団護衛艦隊・阿武隈


『太田中将、おかしいです!あの米艦隊が誘導をしているならば、無線などの交信が飛び交っている筈です、だのにそれが無いと言うのは』
上陸船団の責任者となっていた太田実中将につめよるのは、参謀徽章をつけた、五島その人であった
『うむ、それは理解できる。しかし・・・』
太田は口ごもった。今、あの混乱している味方部隊に伝えても効果があるかどうか・・・
『ではせめて、まだこちらに居る第九戦隊にだけでも!第九戦隊の紗那と鈴鹿の艦長は知り合いなんです!必ず理解してくれます!』
紗那には一支が、鈴鹿には対馬が、かつて筑紫に乗っていて世話になった上官が指揮をしてくれている
『うん、それはかまわんやりたまえ』
太田が頷く、それなら効果があるだろう。しかしだ、と続ける
『では何をもって米軍が測距を行っているのかを、突き止めねばならないぞ』
今我々には何故こうなったのかが求められている。これが示されなければ、混乱はこちらにも波及していくだろう
『必ず。何もせぬよりマシでしょう』
このまま無為に攻撃を受け続けるよりはマシに五島は思えたのだ。艦内電話を彼は受けとる
『紗那に繋げてくれ』
一刻も早く手をうたねば  


14  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:04:41  ID:2MxH4A12O
紗那


『なんだ!?この忙しい時に』
第九戦隊の旗艦である紗那で、艦長を名指しで呼び出してくるなんぞ
『一支大佐!』
『五島、お前か!』
『叱責はあとで聞きます!あの砲撃の測距は敵の艦隊から行われている物ではありません!』
一支は頭を傾げた。第九戦隊にも敵艦隊迎撃参加の要請が来ているが、それであるならば、行くだけ無駄という事になる
『納得させるだけの理由があるんだろうなぁ!?』
とりあえず、聞くだけ聞いてやる
『無線や通信が出てません!艦から測距をしているならば、なんらかのシグナルをださなきゃなりません!』
『っ!?海域統制艦だった5500トン級でも掴めんのか?』
5500トン級は、異世界に於いて展開した海防艦、および松級駆逐艦を通信的に統制する艦として改装されており、必要性から通信機器が強化されている(だからこそ護衛艦隊に彼女達が附いていたのだ)それに引っ掛からない周波数はまず有り得ない。つまり、敵水雷戦隊は情報を一切出し
トいない。弾着の修正なぞ行ってはいないのだ
『はい、全くです』
一支はにかっと笑った。あいつは目のつけ所だけは間違わないな、これだけの証拠があれば
『大森中将!第四戦隊への援護、待ってください!』  


15  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:06:32  ID:2MxH4A12O
『どういう事かね、艦長。それに今のは』
橋本中将は振り返らずに聞いてきた
『我々が討つべき敵は、第四戦隊と戦っている敵ではありません』
橋本中将はちまちまと理由を聞くような人間では無い、簡潔に一支は答えた
『信頼できる情報元です』
一瞬だけ思考の間の開いた後、橋本中将は一言だけ言った
『あまり待てんぞ』
『ありがとうございます』
あまり待てない。敵の測距元を突き止めずに時を費やせば、元の木阿弥という事だ。なにも行動しないという事になってしまう。もう一度五島と受話器を通して会話する
『五島、金剛や、霧島を殺るほどの砲弾だ、砲弾は戦艦クラスにちげぇねぇ』
『ええ、今まで発見されていないことから海岸沿いでなく、比較的内陸側に砲台はあると思われます。戦艦級の砲となれば、防御も相当な物があるでしょうから、我々や、そちらの重巡では潰せないでしょう』
一支は頷いた、それは基本認識として頭に於いて置かねばならねぇ
『『やるべきは、測距箇所の破壊』』
しかし、目ぼしい場所はあらかた戦艦隊の砲撃で吹き飛ばしてしまっている


ジリリリリ


一支の使う隣の受話装置が鳴った。こんな時にかけてくる馬鹿はこの海域にはあと一人しかいない  


16  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:08:23  ID:2MxH4A12O
『鈴鹿艦長だ、一支艦長を出してk』
出た奴は思ったとおりだ
『オレが出てる。対馬、どいつもこいつも馬鹿ばかりだな』
『どいつもこいつも?』
『五島、対馬からも連絡が来た、少なくとも重巡の二隻は用意してやる』
『ありがとうございます』
その会話の向こうで対馬が嘆息した
『五島もやっぱり怪しいと思ったんだな?』
『おう、それで測距箇所がどこか問題になってる』
対馬の受話器の向こう側で、なにか紙に文字を書くような音が聞こえてくる
『一応俺は航海屋だ、距離は読めるつもりで居る。この雲は400を切ってる、主要なハワイの高所からの測距は確実に不可能だ。上陸にかかわる南部で観測出来そうな場所はあらかた潰したしな』
それで、だ。と対馬は続けた
『俺は建物を利用しているんじゃないかと思っている』
『私もそう思います。高ければ高いほど良い、一支さん。金剛の装甲を、あんな爆発を起こすように抜くのには、近距離か、あるいは』
専門の分野を、一支は皆まで言わせるつもりは無かった
『遠距離、25キロから35キロって所が相場だぜ。金剛の装甲は古い分薄いってのもあるが、それぐらいは要る』
つまり
『『『それだけの距離を見渡せる場所に存在している』』』  


17  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:11:16  ID:2MxH4A12O
30キロ近い距離を見渡せる場所
『戦艦と同じだ、海軍で一番高い長門のトップが確か43m、それぐらいの高さにある物を撃てばいい!』
しかし、それだけの高さの物なんて・・・海岸線の建物は野砲の観測に使われないよう、10m越す物はあらかた狙われて消し飛ばされてるか、今現在に於いて、上陸船団の護衛艦隊によって撃たれている
『なんかねぇのか・・・?』
どこかで俺達は取りこぼしているに違いない
『測距をやる以上、見晴らしの良い場所である筈なんですが』
『そんな場所は、大抵が人の手が加わっている。痕跡を残さないなんて事は出来ない、どこかにある』
三者とも、考えながらハワイの海岸線を舐めるように見回す
『・・・』
『・・・』
『・・・』
あの第一艦隊が撃った海岸線だ。目ぼしいものが残っている筈がない
『戦艦と同じくらいの高さを持つ物なんて、そうそう・・・』
五島の言葉が途中で止まった
『どうした!?』
『何か見つけたのか?』
一支と対馬が同時に突っ込む。悔しさを滲ませて、五島は報告した
『なんで俺達は、あんな物を見逃してたんだ!戦艦です!戦艦が真珠湾に居ます!』
『『なんだと!?』』
二人の艦長は、真珠湾へとその目を向け、絶句した  


18  :長崎県人:2007/10/21(日)  12:13:16  ID:2MxH4A12O
そう。彼女はフォード島の隣に最初から鎮座していた。改装された部分を濃い灰色で塗り、これまでの部分を明るい灰色で目立たせ、何も変わって居ないように見せかけていた。いわゆる艦船版カウンターシェードである。その戦化粧に身を包んだ彼女の名は・・・



USS・BBー31、ユタ


フロリダ級の二番艦である彼女は、標的艦として真珠湾に居続けていた。内南洋で自分を練習台にしていた戦艦達は殆ど沈んでしまい、その身を持て余すしかなくなっていた。その彼女に、新式砲を搭載したために要らなくなったネヴァダとアリゾナの砲を使った砲台を測距する観測所の
割という白羽の矢が立ったのである




第一次大戦型の旧式戦艦対最新型重巡の対決は、これより始まるのである  


25  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:33:34  ID:2MxH4A12O
『中将!』
受話器を片手に、一支は振り返って叫んだ
『戦艦だぞ?』
大森はそれだけ言った。確かにこの距離からの砲戦で制圧するには時間がかかるし、接近には米軍も黙ってないだろう
『しかしやらねばいずれ、その砲火は我々に降りかかります、早いか、遅いか、です!』
それも戦艦主砲を利用したそれがだ
『おおよそ・・・一万五千、出来るか?』
一支は炎をあげるハワイの沿岸を見た。敵の戦艦から一万五千。ヒッカム航空基地に限りなく近い、ワイキキからアラモアナ公園にかけてと、ナナクリからエワにかけての海岸は、部隊が上陸している関係上念入りに耕されているが、ヒッカムの海岸線は怪しいものがある
『艦は本艦と鈴鹿だけを連れて行きます』
俺と対馬なら、少なくとも地上設置の魚雷ぐらいは避けきってみせる。砲弾は、こいつの防御力を信じてやれば良い
『わかった』
大森中将は首肯した。万事この調子であるから、幕僚の方々もなし崩しに賛成する。言葉静かに他を圧する、大森はそんなタイプの指揮官だ
『黒姫、音羽には距離を五千空けて後続するよう指示します、海岸線近くに火点を発見次第潰してもらいます』
こうしておけば、陸さんも助かろう
『対馬!聞いたか!?』  


26  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:35:54  ID:2MxH4A12O
『やれやれ、また貴様と五島の無茶に付き合わされるわけだな』
受話器の向こうから、呆れた声が聞こえる
『避けれないとは言わせんぞ?それとも、陸に上がっている内に腕が錆びちまったか?』
天津風を沈めてしまった対馬が、鈴鹿の艦長を拝命するまでには、ちと時間がかかっていた
『阿呆、貴様の操艦なんぞ、レヴァ子が居て始めて一人前だ。誰に物を言っている』
伊達に二水戦に回されていたわけではない、それに対馬の操艦技術はもとからピカ一だった
『安心したよ、じゃあ問題ないな』
『当然だ』
向こうで対馬が胸を張っているのが目に浮かぶ、艦を一度失って殊勝になっているかと思えば・・・ま、いいか。と、一支は苦笑する
『というわけだ、五島。俺達が接近する』
『いえ、この艦も』
予測した通りの答えが返って来た
『お前は上陸船団の護衛の指揮官を連れて何する気だよ。それに武装も戦艦を、いや、真珠湾そのものを相手にするにはちょいと力不足だ』
海域統制艦にされた5500トン級は、その武装を連装高角砲が二基に、対帆船用として舷側に機銃を並べた(史実回天搭載型に酷似)姿をしており、海岸近くまで接近しての地上支援はともかく・・・
『まぁ見てろ、俺達の手腕をな』  


27  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:38:20  ID:2MxH4A12O
同刻、太平洋艦隊司令部


『敵戦艦、二隻目横転します!』
『よぉーしっ!よくやった!』
ここハワイに残ったジャップどもの戦艦はその半分を失った。この調子で行けば、全部撃沈することも可能かもしれない
『これが死んだハズの分と、世話になってるレイの分だ!』
まだまだ奴らに振るう拳は残っている
『長官!敵重巡の四隻が動きません!』
参謀の誰かが伝えた
『混乱してやがるのか?いや・・・ジャップを舐めちゃいけねぇ、気付きやがったな!』
ユタの測距による、内陸部設置で射角制限を受けることに目をつぶっての奇襲隠匿砲撃、敵がブラウンの部隊に釣られて向こうに行き、帰ってくるまで撃ちまくるのが、計画だったが、全ての艦をジャップの奴らはブラウンの迎撃に送らなかったし、救援の報を聞かせられても動じなかっ
スとなれば、敵は気付いたとしか考えようがねぇ!
『ユタに目標の変更を命じるか?』
・・・ハルゼーは腕を組み、足を踏み鳴らしてしばし考えた。いや、それは有り得ない
『ヒッカムの部隊に連絡!出し惜しみは無しだ!撃って撃って撃ちまくれ!ユタを守りやがれ!』
ハルゼーは思い出した
『この司令部にも戦車隊が居たな、かまわんから全部もってけ!』  


28  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:42:17  ID:2MxH4A12O
ハワイ南岸


『魚雷発射準備!連続発射だ!足りなかったら潜水艦基地からかっぱらってこい!』
これまでの砲撃を、戦々恐々とした想いで眺めていた将兵が、やっと反撃できるとばかりに偽装していた魚雷発射管に群がる
『海面状況は、やはりよくないか・・・』
『あいつらから接近してくんだ、多少ブレても当ててやりまさぁ!』
心配そうな若い士官を、古参の兵が安心させるように言う
『そう、だな。この海岸には、発射器が二十基以上あるんだ』
絡めとれない敵なんか存在しない
『おい!滑走路の方を見てみろよ!』
誰かが呼びかけた。みれば、砲撃されて穴ぼこだらけになったヒッカム飛行場の滑走路を、M4シャーマンが五十両近く展開しようとしている
『ありゃあ司令部に置かれてた戦車部隊の最終予備じゃねぇか』
敵がワイキキからあがってくるのは、予測の内にあった。上陸は防げないとしても、ハワイ南岸に存在する、セオナルア川やハラワ川を始めとする河川に、それぞれ戦車部隊が配備されており、太平洋艦隊司令部のそれはその最終予備だったはず。それだけじゃない
『ハルゼーのおっさん、本気で動く気ねぇんだな・・・』
長官に対する最後の壁の役割も持つと言われていた  


29  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:44:16  ID:2MxH4A12O
『はっ!陸軍のショート大将とはえらい違いだな』
兵士達の間では、オアフ島中央部、ホイラー飛行場とショフィールド兵営、そしてカーラ山に連なる陣地帯に篭って地上戦の指揮を行うつもりである彼を、卑怯者とする人間も居た。ハルゼーという強大な個性の塊のような人間と、立場が同じ(陸海の違いはあれど)では、どうしてもハル
[ーに兵達は引きずられてしまうのは仕方がない。良し悪しの問題ではない所が厄介だが


ヒュルルルル


『撃って来たぞ!後ろの二艦だ!』
『馬鹿!頭を隠せ!』
空気を砲弾が切り裂く音に、誰もが首をすくめたり、地面に伏せたりする


ドドドドドド!!!


そして着弾の爆発音
『先頭の奴らが突っ込んでくる!』
荒波を蹴立てて、敵の巡洋艦が突っ込んでくる。距離を縮めて、ユタを正確に撃ち抜こうという腹だ
『野郎!やらせてたまるか!被害は!?』
『戦車隊が主に撃たれてます!』
ハルゼーは言いはしなかったが狙っていた。静目標より動目標を人間は優先的に狙うきらいがある。まずは手強い(動く)奴から片付けて、というやつだ。その点、戦車隊は全ての条件を満たしていた
『魚雷発射を急ぐんだ!このまま撃たれっぱなしで居てやるものか!』  


30  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:46:38  ID:2MxH4A12O
今のうち、とばかりに作業に取り掛かる米軍将兵
『用意でき次第発射しろ!』
『発射!!!』


シュババババ!!!


米軍の発射管は、日本のように空気で射出するものではないから(夜戦時に発生する光を嫌ったらしい)ロケット花火を発射したかのような音が、あたりから断続的に聞こえてくる
『替えの魚雷もってこぉい!ストップウォッチ、押したな!?』
まだまだ攻撃の機会はあると、作業を続ける
『しかし、魚雷の調整が間に合ってない魚雷もありますが・・・』
パラオでの海戦から帰って来たスコット中将の提言が生かされて、艦に搭載される物を優先的に改善していっているが、地上設置のものは、先に発射した一斉射分と少ししか用意できなかったのだ
『んなのは敵には判らん!かまわんから詰めろ!』
敵の進路を妨害できればそれでいい、戦車隊だけでなく、生き残った砲台の火力も期待できる。近づけなきゃ良い
『見てろよジャップ!ユタには一歩も近づけさせんぞ!』
古参の下士官は、そういって親指を下にした。確かに、鉄壁の防御であったろう
『敵艦が転舵を始めました!』
『そんな・・・馬鹿な・・・』


レーヴァテイルによって、魚雷の軌道が読まれ切っていなければ  


31  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:48:56  ID:2MxH4A12O
紗那


『キュ!右から二本、当たるのはそれです!』
『取舵一杯!魚雷が過ぎたら肩を叩け!すぐに真珠湾に向けて舵を取り直す』
『了解です!』
紗那と鈴鹿はまるでダンスのステップを踊るかのように魚雷をかわし続けていた。ただ、回避に時間をかけているので、ユタにはなかなか接近できないでいたが
『砲術!もう少し待て!あともう少ししたら直線運動をしてやるからな!』
回頭運動をしながらの砲撃は当たるもんじゃない、たとえ相手が動かぬ目標だとしても
『黒姫、音羽の射撃、効いてます!』
滑走路の戦車を、根こそぎ吹き飛ばしている。直撃は受けなくても、そう、例えるならば超絶に速射の出来る野砲陣地から砲弾の雨を食らっている状態だ。しかも8インチは地上で言えば最大級の野砲、痛いじゃすまない


ガキィンッ!!!


突然どこからか撃たれた砲弾が、一番砲塔に命中し、鈍い轟音を立てて弾かれた
『どこからだ!どこから撃たれた!?』
一支は怒鳴る
『ワイパフ方面からです!』
あそこは戦艦隊が叩いた筈、生き残りか!
『他の火点からも撃ってきます!!!』
真珠湾全方位から自艦に撃ち込まれているような錯覚をうける、が、一支はそれでいても冷静だった  


32  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:52:32  ID:2MxH4A12O
『見張り!出来る限りで良い!火点を見つけて地図か何かに印せ!』
ハワイの攻略は一日や二日では終わらない、この海戦自体は今日明日中には終わる、そのあと潰すためのデータは取っておかねば
『着弾、来ます!』
艦橋の全員が衝撃に備える


ガガガッ!!!ゴアッ!


『被害報告!』
思ったほどではないが、被弾した。しかし、最後の音が気になる
『右舷高角砲大破!!!小規模火災!消火急がせます!!!』
『ああ、急げ!』
兵員がキビキビと動いてくれている。これなら、報告の通りすぐ消火出来るだろう。あとは艦長の俺がしっかりしなきゃな
『魚雷の続報知らせ!』
水測室のレーヴァテイルへと呼びかける
『キュ・・・!艦長〜、音が少なくなってまぁす!弾切れかなぁ?』
一支は笑った、当然か、魚雷を揃えるには金と時間がかかる、それは米軍も同じという事か、ようやく同じステージに降りて来てくれたな米軍さんよ
『わかった、引き続き頼む!』
『はぁい♪』
しかし、レヴァ子の返事の間延びは緊張感が失せるな、うん
『が、まぁいいか』
俺がリラックス出来ていればそれでいい
『まってろよ、今にその喉元に喰いついてやる』
真珠湾という火吹き龍さんよ・・・!  


33  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:55:42  ID:2MxH4A12O
同刻、ハワイ北東海域・伊勢


『白根と鞍馬、離れまぁす!』
主力本隊付きの警戒隊となった第三戦隊第二分隊の伊勢と日向、そして第四水雷戦隊の隣を真珠湾に向けて、第五戦隊の白根と鞍馬が秋月級を四隻だけ共にし、カウアイ海峡へと向かって行った
『あっちはずいぶん錯綜しとるようだが・・・』
分隊を預かる黛は双眼鏡を降ろして独り言をした
『金剛と霧島が殺られたっちゅうとるが』
無為に第五戦隊を行かせたのはまずかったろうか・・・?混乱に巻き込まれては、増援も意味がない。味方撃ちの可能性すらある
『黛艦長、主力は今頃どうしてるでしょう?・・・出来うる事ならば、その戦いに参加したいものですが』
航海長が話し掛けて来た、気持ちは黛も一緒である。敵戦艦部隊を最初に発見したのは自分達であるのだから
『電探に敵戦艦の全ては映っていなかった。仕方あるまい』
二隻分の空白を見過ごすことは出来ない。という宇垣長官の言うことに間違いはない、だが、感情は満足できないでいる
『せっかくの新装備だが、ままならぬものだ』
電探機能は十分過ぎるほど働いてくれている、しかし改装されたのは電探ばかりではない。主砲だとて新式になったのだ。戦艦とやり合いたい  


34  :長崎県人:2007/10/27(土)  16:58:41  ID:2MxH4A12O
そう思うことは罪ではなかろう
『考えるに、敵戦艦が居るならば高速、あるいは巡洋戦艦の類いだろうな』
足の速さを使っての襲撃を行うつもりだろう
『くるならば、我々が戦うのは米国の新戦艦となる。それを期待するしかあるまい。そう期待していいものか判らんがな』
航海長は頷いた。うん、とりあえず、接敵が無い方が良いと判っているなら問題ない
『電探に反応!西方海域に戦艦らしき艦影!』
唐突に、電探室からの報告が飛び込んで来た
『では、先程の第五戦隊の誤認はありませんな』
航海長が面食らいながらもそういった
『第五戦隊はこちらの電探に映ってます、間違いありません!』
ならば、確定だ
『噂をすれば影だな、航海長。だが』
黛は肩を震わせた、笑いを堪えている。それでも喜色は隠せない。彼もたまらなく好きなのだ、戦艦同士の砲戦というやつが
『これで我々も戦が出来るぞ』
改装なった伊勢の力を十分に発揮できる。しかも相手が敵の新戦艦とあれば、暴れ甲斐があるってもんだ
『全艦最大戦速!これより我々は、敵艦隊への阻止戦闘を行う!』
黛の号令と共に、伊勢の、そして日向と他の9艦の機関が唸りをあげた



まるで戦う事が喜びとでも言わんばかりに  


35  :長崎県人:2007/10/27(土)  17:01:59  ID:2MxH4A12O
米高速打撃部隊・アイオワ


アイオワとニュージャージーを預かったキャラガン中将には、必勝の信念があった
『ハワイではおやじさんが既に戦艦二隻を沈めたらしいな、ありがたいことだ』
敵の主力八隻はスコット中将が引き受けてくれている、つまり、自分が相手にするのは最高で古臭い14インチ艦が四隻かそれ以下、護衛も比較的練度の高い艦でまとめられており(ブルックリン・フィラデルフィア・オークランド・クリーブランド・モントピーリア・コロンビア、駆逐艦
9隻)これを我々は突入する戦力として持つ、申し分ない
『悪天候に感謝せねばならんな』
そう、この天候ならば不安材料である日本軍お得意の魚雷攻撃は、ほぼ封殺されて間違いない。砲戦能力であれば、我が方が敵艦より優位である事は間違いない、そう特化したのだから
『ま、私の見立てでは、そろそろ接触するかな?』
ハワイの近海にはまだ戦艦が二隻いるらしいから、居たとして二隻、イセクラス。戦艦としてはペンシルヴァニアクラスと同等、集中して鍛え上げた電探射撃を用いれば負ける気はしないし、速力をいかして、敵陣を無理矢理突破するのも悪くなかろう
『なにせこのアイオワは、最高速力が33ノットなのだからな』  


36  :長崎県人:2007/10/27(土)  17:06:01  ID:2MxH4A12O
既存の戦艦とはあきらかに一線をかくしている
『それに、な』
使いたくはないが、彼女が居る。暴れるだけ暴れて、沈んでもそれはそれで良い。つまりは
『フリーハンドを俺は与えられているわけだ』
ここまで来た自分だ。自慢では無いが、無能という事はなかろう。まわりもそう期待してくれている。ならば、自分がふるえる力は全て振る舞い尽くすつもりだ。軍人としてこれだけ贅沢な事があろうか
『レーダーに反応!敵艦隊です!』
キャラガンの元に報告が上がってくる
『いよいよだな』
彼は拳を握りしめた、汗ばんでいる。服にそれをなすりつけて、もう一度握りしめ、号令する
『全艦最大戦速!ジャップをキリキリ舞させてやれ!』
比較的高緯度であったこともあり、月は海面近くに紅くその姿を浮かべてアイオワの姿を見つめて居た




時系列的に第四次ハワイ沖海戦と呼ばれる事になる、この紅き夜のマスカレイド(仮面舞踏会)は、今まさに開催されたのだ。日米合わせて28人の戦乙女の参加者によって  


43  :長崎県人:2007/10/29(月)  14:41:56  ID:2MxH4A12O
1942年8月12日、イタリア・アドリア海のとある孤島


『ようこそプライベートビーチへ』
アルの操縦する内火艇で、志摩ら三人が連れてこられたのは誰も居ない砂浜。ひさびさの休日をそんな所で過ごしてみないか?というアルの誘いで、連れて来てもらって居た
『済まないな、国葬が終わって間もないのに』
『いいえ、英雄の息子も面倒ですから。休めるときに休めってね』
ラフな恰好をした志摩とアルは、停船の作業を始める
『小さい島ですし、反対側の浜に俺は居ますから、回って来て下さい』
『ああ、わかった』
アルはそわそわと桂達が着替えているであろう後ろの船室が気になるらしい
『水着なら、ミスミがワンピースを、桂がタンクトップのようなのにパレオ付きのやつを選んでたぞ』
『・・・ちょっと空気読んでくださいよ、何着てくるか楽しみだったのに』
アルがむっとして志摩をちょっと睨む
『水着より中身が問題だろ・・・じゃあ、スリーサイズでも、教えてやろうか?』
『是非!いやぁさすが旦那、わかってらっしゃる!・・・て、大佐、そんな会話出来たんですね』
アルが感心している。おいおい、俺を何だと、ま、いいか
『桂が上から82・58・83、ミスミが90・58・86だ』  


44  :長崎県人:2007/10/29(月)  14:44:40  ID:2MxH4A12O
アルが眉をひそめた
『嘘だぁ。大佐、ミスミさんのはともかく、桂さんはあって80、いやいや、70台ですよ、自分は結構目利きに自信があるんですから、間違いありませんて』
『いや、だがな。あいつ着痩せする方で』
一応水着を買ったんだから、サイズは間違いない
『ないない、あの胸は間違いなく』
『間違いなく、なんですって?』
ドスの効いた桂の声が後ろからかけられる
『いや、そのですね、ギャアアアアアアア!!!』


ああ・・・桂が肘を突き出して突進し、アルの腹に食い込ませたあと、おり曲がった体をそのままひき倒して頭を木の箱・・・魚つり用のエサ箱だ、に突き刺して硬直した足を掴んだ
『おい、ちょっと待て!』
俺の叫びも空しく
『道頓堀に飛んでけーっ!!!』
まるで某カーネ◯サンダース(んなもんは勿論当時には無い)のように、アドリア海に向けて、一直線に飛んで逝った。誤字は気にしない方向で、あ・・・何故か空に彼の顔が
『お前、アルがいなきゃ、内火艇をどう処理するつもりだよ』
作業が大変になる、俺は片腕だし
『大丈夫よ、どうせそのうち彼女が来るわ、それまでは浮いてるでしょ』
桂が断言した。何でわかるんだ?それに
『彼女って誰の事だ?』  


45  :長崎県人:2007/10/29(月)  14:46:52  ID:2MxH4A12O
『五人分用意があるんです。グラスとか、寝具とか』
答えながらミスミも部屋から出てくる。白いワンピース水着がまぶしい
『あの人が女無しでやってくるとは思わないでしょ?』
『そうか、そうだな・・・』
それは愚問というやつだ。勿論言うまでも無いが、この二人は俺のもんだから、絶対に手出しはさせん
『じゃあ、距離も無いし、泳いで上陸するか』
片腕でもこの距離ぐらいは
『そうね』
『はい!』
アルをふっ飛ばした方とは反対側に、桂とミスミが飛び込む、そして俺も服を脱いで海パンになる
『・・・』
うーむ、ちょっと恐くて海に入るのは引くな(汗)が、待たせるのも悪い、ええぃままよ!


ドボーン


30分後
『志摩生きてる〜?』
『死んだ』
『志摩さん、これを』
ぐったりとした志摩に、心配そうな桂とミスミが飲み物をもってきて顔を覗き込む。隣では、アルが入り込んで来た魚でいっぱいの箱を頭に突き刺したまま寝かされている
『ありがとうカーヤさん』
『別に・・・お魚がいっぱいとれたから』
アルの連れは多分彼女だろう。彼女は足を出す作業にかかっている
『泳ぐどころじゃなくなっちゃったわね』
桂がぼそり、と呟いた
『・・・すまん』
こんな事に  


46  :長崎県人:2007/10/29(月)  14:50:16  ID:2MxH4A12O
『あ、ううん、いいのよ!』
桂はぶんぶんと手を横に振って否定する
『取り敢えずこの箱取って良いですか?』
アルの箱をミスミが抜く、あーあー、顔と頭が魚臭いことに
『・・・おいしそう』
あ、カーヤさんが


がぷっ


『ヒギャアアアアアア!!!』
アル君あの世から復帰です、よかったよかった
『ま、まずい・・・』
カーヤは顔をしかめている、本気でかじったみたいだ
『人の顔かじってそれかぁあああっ!!!』
アルが上体を起こして抗議する
『あなた、おいしい部分無いの?』
・・・気付けば、アルの体のあちこちに噛みあとが
『そりゃあ・・・』
『おい中佐、そこを指摘するのは死亡フラグだぞ』
アルが男の尊厳を指差そうとするのを止める、そいつをかじられたら終わりだ、色んな意味で
『おおっと・・・(汗)』
『ま、それだけは回避よね』
『私もさすがにそこは痛そうで・・・』
うんうん、男にとっての恐怖が良くわかってらっしゃる
『キュ?』
そっか、レーヴァテイルには男が居ないからなぁ、基本的に
『ともかく明日の昼まで自由にする、そうだったな、中佐』
『ええ。私は反対側の岩場で釣りをして居ますから、それでは・・・カーヤ』
『ふん・・・』  


47  :長崎県人:2007/10/29(月)  14:53:25  ID:2MxH4A12O
足を出したカーヤを、アルが食料とかなり水に濡れて無くなってしまったエサ箱を手に連れて行く
『うまくは、いってるみたいだな』
その様子に目を細める
『ですね』
ミスミが頷く
『あたし達はどうする?』
そうだ、そういえば来る事に夢中でノープランだったな
『私は島の林に入って、薪と、なにか食事の付け足しになりそうな物がないか探してきます』
『んじゃあ、私は海で泳ぎつつ貝でも探しますか!』
二人は別々に行動するようだ
『あ、志摩は少し休んどきなよ』
『ああ、でも、後で手伝いにいくよ』
こうして俺は四人と別れた。この後は・・・?




ルート>>1・桂の手伝いに行く

ルート>>2・ミスミの手伝いに行く

ルート>>3・アルとカーヤの様子を見に行く

ルート>>4・島を散歩する




続きと選択はわっふるスレで  


62  :長崎県人:2007/10/31(水)  16:11:44  ID:2MxH4A12O
伊勢


『敵艦隊増速!距離、三万切ります!敵速30ノット!』
黛はひゅう、と口笛を吹いた。敵の戦艦は、30ノットでるらしいな(凌派性の問題から、アイオワはこの速度で最大だった)俺達の鼻先を掠めてでもカウアイ海峡を突破する気らしい、だが、させん!
『おもぉかぁじ!いっぱぁい!』
黛が命令すると、件の航海長が舵を復唱して回す
『これで奴らは離脱するか、同航戦を行うか、T字のまま突き進むか、もしくは反航戦を行うか・・・四水戦は進路そのまま!敵の反航戦に備えたし、と伝えよ!』
さて、手はうった。相手が普通の相手ならば、ああするのが適当だろう
『敵艦隊変針!反航戦を行う模様!』
さっきの報告より前の報告で、随伴艦はあちらの方が多いのはわかっている、それに三水戦の相手をさせて、自分達は反航戦で撃ち合いつつ抜ける。それで十分だろう。確かに、その速度が維持できれば。四水戦をうまく抑えることが出来たならば
『砲術長、データが切れるが準備はいいか?』
トップの主砲指揮所への伝声管に声をかける
『光学照準で十分やれます』
『頼んだ』
上には大和から村田さんが出ばって来ている。伊勢と日向には、光学照準に於いてとびっきりの人材を揃えている  


63  :長崎県人:2007/10/31(水)  16:12:40  ID:2MxH4A12O
中には、伊勢が演習で出した散布界の最高記録である87mを出した時の乗員すら存在している、こんな配置が許されたのは他でも無い
『後部指揮所に連絡』
あれの存在、マスカレイド、仮面舞踏会の仮面をつける瞬間が来たのだ
『はい、後部指揮所です』
副長が伝声管に出る
『・・・妨害装置を作動させよ』
静かに黛は告げた。かの装置だけに発電機すら搭載した。内部環境は、後部艦橋が伊勢の改装のなかでも一番大きい場所と言えるだろう
『妨害装置、作動します』
『・・・』
作動します、と言われてもなかなか実感が湧くものではないが、あらゆる周波数に於いて、妨害電波が強力な出力で行われている。行ったテストでは艦から四十キロ圏内がその範囲だ
『どうだ?』
問題はこちらからも敵が見えなくなること。敵味方構わず力任せのジャミングしか出来なかったのだ・・・日本の技術の限界だった。それでもこの海面状況では、お互いの姿が日米共に一斉に消えてしまったのと同じ事が発生していた
『今の内に距離を詰める、取り舵いっぱぁい!』
『とぉりかぁじ!』
伊勢の艦首が、ぐいっと左に進んでいく。敵が混乱し、それから回復して電探を敵が切る予測はおおよそ五分、相対速力54ノット  


64  :長崎県人:2007/10/31(水)  16:13:48  ID:2MxH4A12O
単純計算でおおよそ8000mの距離を詰める事が出来る
『敵艦発見!そのまま直進しています!距離、二万四千!』
帝國海軍が優秀さを誇る見張り員の目が、敵の姿を捕らえる
『主砲、撃ち方始め!』
『撃ち方始め!』
ゴロンゴロンと、伊勢がもつ六基の砲塔が旋回して仰角を取り始める
『やぁ、またあったな、ヤンキーの諸君』
黛は餓狼のような笑みを浮かべた
『距離二万二千!』
その報告と共に、黛とトップの主砲指揮所に居る砲術長の口が異口同音の形を為した
『撃てェーっ!!!』


ドドドドドド!!!


光が闇を切り裂いた後、砲煙が後方に流れていく。敵艦隊の反対側、四水戦の居る方向からも、連続的に光がまたたいている、あちらもうまく接敵したらしい、いいぞ、うまくいっている
『第一射着弾・・・今!』


ズバババババ!!!


敵艦を包み込むように水柱が発生した
『第一射で狭叉したか!』
手だれを集めたとは言え、この状況で狭叉を得るとは。黛は続けた
『交互撃ち方始め!』


パパパッ!!!


光がフラッシュのように瞬いた
『敵艦発砲!』
ははっと黛は歯を向き出して笑った。敵は撃った、主砲を。主砲の発射には、正確なデータが要る、つまり  


65  :長崎県人:2007/10/31(水)  16:15:00  ID:2MxH4A12O
『後部指揮所!敵は電探を切った!妨害装置解除!電探再起動!』
電探の復帰を敵は待ち切れなかったに違いない。こちらが妨害をしているのもわかったはずだ、だが電探を切ってから、こちらが妨害を切り、電探を復帰させるタイミングは掴みようがない


ドドドドドド!!!


第二射が飛んでいく、弾着、また狭叉を得た
『次だ・・・』
トップの連中には、取るに足らない情報であるかもしれないが、こちらの電探の情報も加えられる。正確度はなんにしてもこれからの方が高い


ドドドドドド!!!


また伊勢の主砲が吠える


ズバババババ!!!


あてずっぽうの方向に、敵の砲弾は空しく水柱が林立する、その水柱は想像していたよりも高い。おそらくは重量弾だろう。ま、当たらなければどうということも無い
『命中!命中!』
見張りがはしゃぐ、斉射数が十以下で命中弾を出した。命中率はおおよそ5%、夜戦、悪天候の今、満足していい結果だ
『敵艦、速度落ちます!』
『なに?』
いくらこの距離での砲弾だとしても、それは効き過ぎだろう。一体何が・・・
『そうか、艦首部喫水線への被弾です!』
航海長が思いついたように叫んだ
『あの速度で、そこに被弾すれば』  


66  :長崎県人:2007/10/31(水)  16:16:00  ID:2MxH4A12O
当然の話だが、戦艦の全ての部分が装甲に覆われているわけでは無い
アイオワの高速を得る為の、その大和をしのぐ長大な船体の艦首部、その比較的弱い部分に穴が開いた。優秀な米海軍設計陣は、良くその部分を守るような構造を造っていた。だがしかし、30ノットという高速と悪天候の波が想定以上の圧力を生み出して隔壁を襲い、被弾により脆くなっ
トいたそこを歪ませ、突破した
物凄い勢いで大量の海水がアイオワに浸入する。必然的に傾斜が発生し、注水が必要とされた。でなければ砲戦が出来ないし、測距も行えない。結果として艦首は下がり、速度は大幅に低下した
黛は航海長の言葉で、すぐにこの事に思い至った、となれば、だ
『突破できないとなれば、敵は腰を据えて撃ってくる、油断するな!』
敵は戦艦を戦艦らしく使ってくるしかない
『敵二番艦にも命中弾!』
日向も敵を捉らえたようだ
『このまま押し込む!撃ちまくりゃあ!』
速力の落ちた敵を、主砲門数を生かして乱打戦に持ち込む。敵は目をやられた、またはやられたと思い込んでいる。今がチャンスだ
『命中!命中命中命中!』
敵戦艦から連続した命中弾に炎があがる。トップの連中にこのチャンスを逃す人間は誰一人居なかった  


67  :名無し三等陸士@F世界:2007/10/31(水)  16:17:54  ID:2MxH4A12O
アイオワ


一体何が悪かったのだろう。キャラガンは呆然とそう考えていた。床に倒れ伏し、脇腹に弾片が刺さって、血がかなりの勢いで流れ落ちているせいかもしれない
『なぜ、こんな』
電探がいきなり使えなくなってから、不慣れとは言え、撃たれっぱなしにならないよう、急いで光学照準の射撃に切り替え、とにかく撃った。咄嗟の対応としては、決して間違った事はしていないはず。なのに・・・こんな・・・
『第一砲塔被弾!前盾抜かれました!大破!』
馬鹿な・・・!砲塔前盾が抜かれるなぞ・・・ああ、そういえば、五十口径砲を搭載する事で前盾の隙間が大きいというのを聞いたことが・・・


ドガッドガガガッ!ドガッ!



また連続的に敵の弾が命中する。この天候と夜の闇に、一体どれだけの・・・
『長官!!!』
誰かが体を揺さ振る
『長官はもうダメだ!艦長の治療を優先しろ!』
そうか、自分はもうダメなのか・・・もう声も出ない
『ニュージャージーの左舷、爆発しました!』
畜生・・・畜生・・・なんで俺がこんな目に、ただ暴れる事も出来ないなんて
『・・・』
キャラガンが絶命した後も、絶望的な報告は続いた
『傾斜回復出来ません!ダメコン隊はどした!』  


68  :名無し三等陸士@F世界:2007/10/31(水)  16:22:31  ID:2MxH4A12O
ダメコン隊は全力を尽くしていたが、流星雨の如く横殴りに飛んでくる14インチ砲弾の前には、その努力も全く無駄だった
『ニュージャージー・・・停止します!』
ニュージャージーに起きた爆発は、高角砲への直撃弾から発生した火災をうまくダメコン出来ず(復旧に向かったダメコン隊を日向の弾が全滅させた為)弾庫に誘爆した際に発電機を破壊してしまい、全艦停電という事態に陥っていた
『傾斜が10度を越えまぁす!!!』
アイオワもまた、砲戦が不可能な状態に陥ろうとしていた
『て、敵艦接近してきます!』
奴ら、接近してトドメを刺そうとしている。しかしもう、我々はどうする事も出来そうにない・・・負傷しつつも艦の指揮をとり続けていたアイオワ艦長は、断腸の思いで決断した。
『これ以上の戦闘は無意味だ・・・総員退艦!急げ!』
『総員退艦!!!』
その命令が伝わるやいなや、兵員達が海に飛び込み始める
『たった五ヶ月の命だったな・・・』
巨額の建造費を投入したこの高速戦艦のアイオワ、それがたった五ヶ月で海に沈むなんて・・・
『ニュージャージーに集中射が・・・!』
電装系統が途切れたニュージャージーは、退艦の命令が遅れためか、また袋だたきにあっている  


69  :名無し三等陸士@F世界:2007/10/31(水)  16:26:31  ID:2MxH4A12O
『あっちは二ヶ月か・・・』
悲惨だ、何もかもが燃え尽きていく。ああ、ニュージャージーの塔状マストが折れて海に落ちた
『傾斜15度を・・・越えます。艦長!そろそろ退避を!』
ぐぐぅっと艦が傾いていく
『この傷だ、泳げんよ、カッターは殆ど焼けている。行きたまえ』
アイオワ艦長は巡洋艦部隊が戦っているだろう別方向の海を眺めた。


『願わくば、彼等に神の御加護のあらんことを』


アイオワが完全に転覆したのは、それから40分後の事だった  


84  :長崎県人:2007/11/04(日)  23:31:45  ID:2MxH4A12O
ブルックリン


『カー司令!ニュージャージーが!』
『なんてこったい』

先行していた高速巡洋部隊が、自軍の置かれた状況をはっきり示されたのは、伊勢と日向の集中射でニュージャージーが大爆発を起こしてその姿の崩れる様を、夜の闇に浮き上がらせた時だった
『これじゃ意味がないではないか』
俺達はあの戦艦二隻をハワイに届けるために先行していたんだぞ


この時カー少将指揮下の部隊が置かれた状況は、決して良好な状況ではなかった。就役して時間が経っているこのブルックリンを始めとする大型軽巡洋艦三隻以外は、電探妨害が始まるや否や突っ込んで来た四水戦に、隊列に入り込んでの猛射を受けていた。カーは、その状況に自分達も
ェき込まれぬよう、ついてくる艦だけで行動をしていた
『司令、どうしたら!?』
ここまであちらが何も言ってこないと言う事はキャラガン中将は鬼籍に入っている可能性が高い、こちらが勝手に動いた方が得策だ
『退くぞ!このまま敵を抜けても軽巡三隻で何が出来るか!』
『しかし退くとなりますと・・・』
一旦離脱した乱戦海域、そこにいる味方艦をどうにかしなければ
『一隻ずつ片付けていくしかあるまい!』
カーは素早く算段をつけた  


85  :長崎県人:2007/11/04(日)  23:33:45  ID:2MxH4A12O
ほぼ零距離からの撃ち合いになるだろう、衝突の危険も避けられない。しかし、今はこれがベストだ
『駆逐艦の砲弾でも馬鹿にならん損害を受けるが、こいつの門数だ、押し込める可能性も高い』
それで戦闘海域を抜けていく、速度の落ちた艦は置いて行くしかない、下手にかまえば、アイオワとニュージャージーをやった戦艦・・・相手は伊勢級と聞いていたんだが、畜生め、アテになるもんかい。ともかく、アイオワを手も無く捻る有力な戦艦が俺達を潰しに来る、そうなってか
轤カゃどうにもならない
『全艦旋回頭!』
『アイサー!』
ブルックリンが波を蹴立てて回頭する、それに同級の二隻が艦首波を大きく蹴立てて続いた
『さぁ戦いはこれからだ!』
そういえば、以前イタリアでこのブルックリンが、日本の重巡をたたきのめした事があったな・・・確か名前が
『アタゴと同じ目に遇わせてやろうぜ!』
ブルックリンの士気は、このカーの言葉でいやがおうにも盛り上がった。負け続けの米海軍の中で、日本艦をたたきのめしたという経験は、かの艦に乗り込む者にとっての誇りであり、自慢になっていた。それを刺激したのだ
『咄嗟砲撃戦用意!突っ込むぞ!』
燃え盛る海に、三艦は再び戻って行った  


87  :長崎県人:2007/11/04(日)  23:36:51  ID:2MxH4A12O
夏潮


陽炎級駆逐艦三番艦である夏潮は、今、その人生に於いて最良の時を過ごしていた。彼女の横には、炎上し沈まんとしているアトランタ級四番艦オークランドが居た
『阿呆みたいに砲塔つみゃあ強いってもんじゃねぇぞ、アメ公め、ザマァみろ!』
他にコロンビアとモントピーリアが燃え上がりながら絶望的な抵抗を続けている。オークランドが最初にこの状態においちいったのは他でもない、戦訓によって15センチ自動砲を積んだのはいいが、電探妨害と乱戦で真っ先に故障して反撃不能になっていたからだ。弱った相手を餓狼のよ
、に四水戦は食いちぎった
『もうよかろう、次の目標へ移る。撃ち方やめ!』
機銃増載の為に四門となっている砲に、一時停止を命じる艦長
『艦長、伊勢は敵戦艦を黙らせたみたいです!』
『そうか!』
見張りからの報告に艦長は喜色を浮かべる。これなら完勝に出来るかもしれない、それこそ日本海海戦並の・・・いや、結果はまだだ
『しかし、海面状況がよくないな』
荒天であることで、燃え上がる油や漂流物が拡散して煙幕の代わりになっている、このまま単独で暴れていては隊での行動に支障が出てしまう
『っ!?』
オークランドの煙の中からなにか出て来る!  


88  :長崎県人:2007/11/04(日)  23:38:57  ID:2MxH4A12O
あの方向に味方はいないはず
『砲術!』
射撃を再開させようと口を開いたとき、それは煙を切り裂いて姿を現した。最初の乱戦の中、戦域からの逃亡をした艦だ、乱戦に巻き込まれる事を恐れて、落ち着くまでは、ほうってかまわないだろうと我々は判断していたが、かえって来たのか・・・!
『畜生!』
誰かの罵り声が聞こえた。あっちはすでに用意していたのか、砲塔をこちらに向けている、こちらはそれからだ。間に合わない!砲術への指示よりもしなければならないことは
『戦隊司令部に連絡!敵艦発見!注意されたs』


ドドドドドドド!!!


敵巡の砲が一斉に火を噴いたのが一瞬目の端に映った
『伝令、急げぇ!!!』
艦長は絶叫した


夏潮は、この五分後、艦体断裂と共に海中に没している。その生存者名簿に夏潮艦長の名前は無い


日米両海軍の、本当のマスカレイドはこれからだった  


107  :長崎県人:2007/11/07(水)  23:56:29  ID:2MxH4A12O
それより少し前の時間、ハワイ南東海域・モンタナ


この海域には、世界に於いて最強と呼ばれてしかるべき戦艦隊の二つが、雌雄をけっすべく同航を始めていた。神、あるいは天候がよければ偵察機から見える陣形は巨大なハの字を描いているように見えたことだろう
『いよいよか・・・』
スコットは感無量で自艦隊の編成を思い返した。モンタナに前期型サウスダコタ級の全て、そしてこれまでの激戦を生き延びて来たアイダホ・アリゾナ・ネヴァダのベテラン艦、この艦隊が敗北し、内南洋のようになったならば、合衆国海軍は回復に半年、戦力として同規模以上までに復
するには一年以上の月日を必要とするだろう
『ある分全部持ってきたからな、負けたらすっからかんだ』
しかし、そのリスクよりも、ハワイの失陥はもっと耐えられないものだった。だから俺達はここにいる。日本人どもがハワイの攻略を諦めるようにするために
『しっかし、豪華な顔触れだぜ』
スコットはハワイからの報告を思い出した。敵戦艦は八隻、パラオで殺されかけたヤマトが二隻、モンタナ相当のキイが四隻、顔なじみのビッグセブン、ナガトが二隻ときた。練度は俺達よりも格段に上と見ていい、まさに勝ちようがない相手だ  


108  :長崎県人:2007/11/07(水)  23:59:34  ID:2MxH4A12O
が、それでも戦わなくちゃならねぇ
スコットは一週間前に行われた水上砲戦部隊のミーティングのやり取りを思い出していた


『やっと全員集まれたな、レディを連れたジェントルマン達』
参加者は司令官であるスコットと、各戦艦の艦長である。彼等は艦の体裁が出来次第で大西洋からの回航となっていたため、綿密な連携行動をとるための会合がなかなか開けないでいたのだ
『さて、ようやくハルゼーのおやじさんも納得できる敵情報告が出来上がった。読んでほしい』
各艦長が置かれた冊子をめくる。そこには、パラオでの海戦で得られた不発の18インチ砲弾のデータ、そして、潜水艦からのものであろうかと思われる不鮮明なヤマト級を始めとする、注釈付きの写真だった
『もうちょっと鮮明な写真は無いのですか?これでは推測の域を』
越えられないと、アラスカ艦長は質問した
『それを撮るのに、15隻を越える潜水艦を失っちまってる、勘弁してやってくれ。それだって、奇跡的に撃沈された艦の漂流物をひろって手に入れたんだ』
ウェークでの海戦のあと、敵の水上艦艇は鳴りを潜めたが、通信量が時たま跳ね上がる事があった。おそらく演習中なのだろう、これ幸いと潜水艦を偵察任務に向かわせた  


109  :長崎県人:2007/11/08(木)  00:04:40  ID:2MxH4A12O
結果はくだんの通り、潜水艦の大量喪失となった。敵の対潜能力は以前よりさらに強力になったとおもわれ、今現在では、のべ200隻いた潜水艦も稼動40隻以下の水準にまで落ち込んでいる。あれ以上偵察に突っ込んだらとおもうと寒気が走る。演習を利用した罠だったのだ、明らかに
『わかりました』
アラスカ艦長は不満げに背中を揺らして椅子に座り直した。アラスカは空母直衛の任務が基本であるためか、対空射撃のデータをはじめ、なにかしらのデータをえることに気を回す人材が選ばれたようだ
『潜水艦による漸減は不可能、というわけですな』
アリゾナ艦長が、胡麻塩のような頭を撫でて言った
『ああ。タワーズ閣下の空母と我々、そしてハワイだけが頼りとみて間違いねぇ。そして、今回日本人どもが向かってくるのはここハワイだ、空母やハワイの戦力だけでケリがつくような戦いは有り得ない』
最後は俺達が決めなきゃならんだろう
『しかし、タワーズ閣下はそうは考えていらっしゃらないみたいですが?』
金髪のアホ毛を揺らしてサウスダコタの艦長が言った。こんななりでかなり若い艦長だが、ここに集まった新戦艦の中では一番の実戦経験と練度を持つ
『お前さんの経験だとどう判断する?』  


110  :長崎県人:2007/11/08(木)  00:09:07  ID:2MxH4A12O
逆にスコットは質問を返す
『楽観は出来ません。しかし、悲観をしても状況は変わりません』
勝つことを考えることがもっとも必要だ、そんな目をしている。若いな
『私は日本の将兵が、兵たちが噂されているように超人だとは全く考えません。私達と同じく、恐怖し、逃げ出したい気持ちでいるはずです。チレニアで私はそれを見ました。勿論我々と同じく勝利に身を捧げる人々も居ます、ですから楽観は出来ません。ですが、悲観までにはいかない
フです。我々にはまだ勝ち目がある、そうでしょう?』
でなければなんで我々はここに来たのか?そんな言い回しを彼はした
『確かにな、俺もそう思う。そうなれば、とはな』
スコットは頷く
『だが、俺達は最悪にも備えなければならねぇ』
『はい』
アホ毛が素直に縦に揺れた。うん、そこらへんの理解力もあるなら安心だ
『では、先にハワイに取り付かれた場合での対応を打ち合わせようか』
スコットは話はじめた。この席上で、アイオワ級の遊撃戦力化がまず話し合われ決定された。隊を組むには練度が低く、なにより速度が違いすぎる
『思う存分暴れて見せるよ、彼女はわんぱく娘だからな、引っ掻き回すのは大の得意さ』
キャラガンは楽しげに笑った  


111  :長崎県人:2007/11/08(木)  00:13:16  ID:2MxH4A12O
『それで俺達の方だが、さっき渡した資料の砲弾の貢を見てくれ』
皆がページをめくるのを待つ
『こいつを喰らえば、モンタナでもやばい。他の艦なら尚更だ。そしてこいつをつんで対応防御をしてるだろう艦は、それこそとんでもないことになっている』
予測値も資料には添えられている
『内南洋みたいに普通の海戦をしていては、勝ち目が無い』
遠距離砲戦はあちらの得意とするところ、しかし中距離の砲戦では敵の防御に防がれてしまう
『うーむ・・・』
唸りだす艦長連中にスコットは笑みを浮かべた
『簡単だ、近距離まで突っ込めばいい』
『それだと内南洋と同じではありませんか』
数の優位はあったが、距離を取られ遠距離砲戦に終始されたキンメル艦隊は、巡洋艦部隊を送り込んで足を止めようとし、これに失敗している
『俺達全員で突っ込むのが違う』
『!!!』
場がどよめいた
『全力で突き進む。キンメル大将はオーソドックスにやり過ぎた。あれじゃ敵の対応力を越えることはできねぇ』
魚雷に刺される戦艦もでるだろう。だが、敵の意表をついて、至近距離に近づける可能性は低くない。なにせ全艦で突っ込むのだから
『差し違えも覚悟の上。しかし、一番可能性のあるやり方だ』  


112  :長崎県人:2007/11/08(木)  00:18:00  ID:2MxH4A12O
『一番可能性の高いやり方か・・・』
スコットの意識は今現在へと戻って来た。大筋ではかわらないが、彼女のおかげでちょっとした変更を余儀なくされた。それに護衛にアラスカ級の二隻を取られた事は惜しいが、本当の勝ち目を得ることが出来た事は御の字とすべきだろう
『敵艦隊との並列に入りまぁす!!!』
いよいよ、だ。この悪天候のおかげで、魚雷の驚異は劇的に低下した。これほど突っ込むのに好条件なことはない。今敵は、この並列の航路に合わせて照準を始めている事だろう、それを狂わせてやる


パパパパッ!


突然海上が明るくなる。敵の星弾だ、ついに時が来た。スコットは裂帛の叫びと共に、握りしめた拳を振り上げた




『敵にきっついタッチダウンをお見舞いしてやれ!!!全艦突撃!!!』


ほぼ同時刻に行われたハワイを巡る三つの海戦、そのうちの一つである第三次ハワイ沖海戦は、米艦隊の一斉回頭に続く突撃によって幕が開かれたのであった  


165  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:16:39  ID:2MxH4A12O
同刻・大和


おおっ・・・!


米艦隊が一斉回頭を行ったことが知れたとき、大和の艦橋では、ざわめきが起きた
『思い切りは良し、だがな』
ふふん、と宇垣は鼻で笑ってみせる。現代砲戦を突撃行を行うことがどれだけ危険かわかっているのか、米軍よ
『敵は指向できる火力を減らしている。修正いそげ』
宇垣はするべき指示を出す
『はっ』
内南洋決戦で俺は、今米軍がやっている事をするべきだったな、と言った。だが、それを支えていたのは我々よりも優勢な戦艦戦力、そして巡洋艦戦力を保持していたからだ。つまり、戦艦が突撃しても数の優位から火力の減衰がいくらか補えると考えたからだ。だが、今あるのは同数、
サして戦艦の質もこちらが優位・・・彼らの行為は、自殺行為に等しい
『ハワイを取られる事で焦ったか、勝ちは貰ったような物だが・・・いいだろう。海で死なせてやる』
それが俺達の流儀だ
『艦長、探照灯照射用意、各艦にも伝えよ』
『司令?』
現状でも戦況は優位だ、しかし、砲撃は確率問題だ。この悪天候ではもしもが有り得る。敵の火力が減っている今なら、命中率を上げるためにこのような手を使う事も出来よう
『私は用意と言ったぞ、艦長』
『は、はっ!』  


166  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:18:47  ID:2MxH4A12O
『探照灯照射準備!』
『探照灯照射準備!』
艦長の命令とともに復唱が艦に伝わっていく
『おい!照射準備だ!』
『俺達の出番か!』
そして探照灯班に命令が来た時、彼等は狂喜した。電探の発達により、探照灯は減らされる一方だった。無くなることはないだろうが、あとは減らされる、あるいは小型簡易化が行われて、もはやお先真っ暗と言われている部署だ。だから、この決戦場で、出番がそうあるとは思っていな
ゥったのだ
『探照灯まわせ!』
大和の150センチ探照灯が、主砲を乱射しながら突き進んでくる米戦艦を追随する。その作業を行う水兵達を、大和の主砲発射で生じたブラストが照らし出す
『照らす艦を間違えんじゃねぇぞ!』
旋回盤を回す水兵のヘルメットを、班長が叩く
『わかってます!』
続けて班長は命じる
『おい!もう一度今のうちにソーフで表面を拭け!湿気で曇りだしているぞ!』
『はい!』
様々な作業が続き、ついに準備が完了する
『照射準備完了!』
『照射準備完了!』
今度は命令が来た時とは逆に報告が返っていく、そしてそれは宇垣の元へ
『よし、二万を切り次第、照射』
宇垣は決めていた、大和の安全距離である一万五千、ここまでに決着をつけようと  


167  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:21:54  ID:2MxH4A12O
『砲術、当たれば抜ける、当てて見せろ』
たしか、並列の状態で戦闘を開始したのが二万八千から七千だった。最初に敵は、16インチ重量弾で、ぎりぎりこの大和、あるいは紀伊を貫ける距離を選択したのか、と思っていたから間違いない。その距離でも宇垣は負ける気はなかったが
『第六戦隊以下はどうなっている』
宇垣に付いていた随伴艦は、第六戦隊の最上級四隻に、第七戦隊の高雄級二隻に伊吹級二隻、そして第一、第三の二個水雷戦隊、阿賀野級二隻に駆逐艦十六隻の二十六隻だ
『距離をつめられないよう遷移しつつ、敵艦隊後方へ回り込みつつあります!』
『そうか』
流石は田中だ、と、宇垣は口角をつりあげる。魚雷が使えぬ状況ではあるが、あいつに海戦でとやかく言う事自体が間違いだったな。軽艦艇は任せてよかろう
『弾着まで、3、2、1・・・』
計時係が、ストップウォッチを睨んで報告する
『弾着、今!』
様々な作業を将兵が行っている艦橋だが、だれもが次に来るであろう報告を待ち望んでいる。そしてそれは現実の物となった
『・・・敵一番艦に命中弾!』
見張りが喜色ばんで報告する
『砲術、よくやった』
宇垣が砲術を褒める。散布界に捉えれば、後は時間の問題である  


168  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:24:27  ID:2MxH4A12O
『敵三番艦、四番艦にも命中弾!』
シンクロニティとでも言うのだろうか。紀伊と尾張の砲弾も、敵艦に吸い込まれていた。しかし、敵もさるもの
『武蔵被弾!』
武蔵の艦中央部に光が走るのを、後部の見張りが報告してくる
『損害を知らせるよう伝えよ』
宇垣が命じる。もしかしたら、米軍は砲弾を更新して威力を増しているかもしれない、用心に越したことはない。そして武蔵からの報告が続く
『高角砲二基損失なるも、我健在!省みることなかれ!以上です!』
安堵の空気が広がる。流石は過剰とさえ言われた対18インチ防御、おそらくは16インチと思われる砲弾に対して、見事な防御を為している
『抜けていて、たまるか』
宇垣がぼそっと呟いた。その言葉をききとめた将兵が見えないように笑う。ああ、宇垣さん好きなんだなぁ、と。そして戦艦に乗る将兵で、戦艦が嫌いな奴は滅多に居ない。司令官が愛着を持って指揮をしてくれるなら、それは好ましいことだ
『武蔵は無事だ。敵に新戦艦ありとても、大和はそれを打ち破る事を教育してやれ!』
周りの様子に気付いたのか、宇垣は制帽のつばを下げてそう言った。明らかに照れている
『よそ目をくれてくれるな』
そう、敵もまた健在なのだから  


169  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:26:15  ID:2MxH4A12O
最上


一方田中率いる部隊であるが、宇垣達程余裕をもって戦っていたわけではなかった。自分達と同じ敵のエスコートは、重巡六、軽巡六、駆逐艦十八を数えており、隻数に於いて敵に劣っていたからだ。もしここに初期計画に存在していたアラスカ級二隻に、重軽の巡洋艦各一隻があったな
轤ホ、阻止は出来たとしても大損害は間違いの無い所であったから、最悪ではないだろうが
『どうも動きにバラつきがあるな』
そんな中ではあったが、田中はどこ吹く風で敵艦隊を眺めていた。敵は全艦が横隊となってこちらに突撃して来た。しかし、こちらがそれに対して後ろに回り込むような針路をとったら、そのまま突撃を続けようとする艦と、こちらを押さえようとする艦、そのふたつのグループに別れた
フだ
『どちらか一方に集中すべき所だろうに』
しかし、それに対する答えも、田中は心中に見出だしていた。おそらく突撃を続けている艦は、練度に自信を持てなかったのだ。陣形を組んで高速でやり合うスキルを持たない艦を入れて我々と戦っても勝ち目は薄れるだけだ、ならば
『・・・相当運営に苦労しておろうな』
それだけはこちらの部隊に問題は無い。好きなように動かせる。田中は敵将の立場を哀れんだ  


170  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:28:55  ID:2MxH4A12O
向かってくるのは、重巡が三隻に軽巡が二隻に駆逐艦が九隻・・・手だれは半分以下というわけだ
『ではやるか』
指揮官がこんな調子であるから、最上は数的劣勢にあっても、まったく不安がなかったと何人かの乗員が戦後に証言している
『三水戦は離脱して敵突入部隊を迎え撃て!残りは我に続け!三水戦に追加、敵は砲力による妨害を企図している計算大なるも、練度に問題あると思われる、撃破より隊列妨害に主軸を置かれたし』
矢継ぎ早に田中は命令を下していく
『こちらの阻止に来る艦は二隻ずつ相手をする、彼等は手だれだ、丁重にもてなしてやれ!一水戦の阿賀野にはキツイがしばらく耐えてもらう』
二対一なら、魚雷が使えないのと、砲塔防御のマイナスを加えても、まずは負けない。相手を撃ち破った艦から阿賀野の援護に向かわせてやればいい
『戦艦屋に、水雷屋のせいで負けた何て言われたら、末代までの恥だ、気合い入れていけ!』
田中が言い終わると同時に、三水戦の矢矧が大きく舵をきって離れていく。残った艦も、砲の仰角を上げ、担当とされた艦に向けて、発砲の時を待つ
『二万を切り次第、撃ち方始め。なかなかこの距離で当たるもんじゃないが、敵をきりきり舞いさせてやれ!』  


171  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:32:42  ID:2MxH4A12O
チェスター


『日本艦隊が隊を分けます!軽巡一、駆逐艦八!』
『オーケィ、それならなんとかなるかもしれんな』
田中の言っていた事は真実であったが、彼等を率いるアーレイ・バークはむしろ安堵した。敵が分派した一個水雷戦隊であれば、技量に問題があるバルティモア級の三隻や、クリーブランド級の四隻で止められない事もなかろう。魚雷も使えない現状では、条約型巡洋艦から見てありえな
「ほど巨大化している彼女達が沈められる可能性が大きいとは考えられなかったからだ(そのかわり俊敏な舵取が必要な高速戦には練度が要り、参加させる事が出来なかった)
『問題は俺達か』
敵は巡洋艦戦力で二倍、その練度は内南洋で嫌というほど見せ付けられている。が、なんとかなるだろう。耐えて見せるさ
『敵対距離、二万を切ります!』
電探室から報告が上がってくる
『敵艦隊の方向より発光!発砲と思われます!』


ざわっ


チェスターの乗員がざわつく。巡洋艦で二万の距離で撃ってくる。これまでの海戦でろくな勝利のない米海軍の将兵にとって、日本海軍の技量が超人的なイメージを持つようになっているのは先に述べた。もし、この距離で当てられるスキルが日本人にあったら・・・  


172  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:36:01  ID:2MxH4A12O
『落ち着け、電探射撃だとしても、そうはあたりはせん』
ピシッとバークが水を差す。浮足立つのが一番いけない、敵は抜目なくそれを狙っている
『こちらは一万五千で撃ち始める。心配するな、先に撃った奴はだいたい負けるのが西部劇のお約束だ、敵の地元の内南洋じゃ違ったかもしれないが、ハワイは俺達の地元(ホーム)だ。俺達の流儀で動いてもらう、そうだろ?』
野性的に笑って見せるバーク。砲弾が降って来て、水柱を立てても変わることはなかった。それが兵達を落ち着かせていく、そして
『やったろうぜ!』
『今に見てろジャップ!』
バークは顔には出さないが安堵する。こういった芝居が出来なきゃ指揮官はやってられない。しかし、ベテランが比較的多いこの艦ですらこれでは、全体がいつ崩れてもおかしくない。これは、根が深い・・・
『が、ま、それも計算の内ですか?』
バークはスコットが乗るモンタナの居る方向に一瞥をくれた。火線が交錯している。どちらがどうなっているかははっきりしないが、間違いなく戦況は一変する。本当の戦いはそれからだ。それまでは
『付き合ってもらうぞ、日本海軍!』  


173  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:39:05  ID:2MxH4A12O
7月3日、横須賀


かりかりかりと、鉛筆の走る音が、借家の部屋に響いている。それが少し止んで、その部屋の主がため息をつく。それを見計らったように扉が開き、給湯ポッドをメイドが入ってくる
『あの、旦那様、少しお休みになられませんと』
そのメイド、ミスミは心配そうに旦那様である志摩を覗き込む
『ああ、わかってる』
欧州から返って来て以来。志摩ら帰還した艦隊の士官は、運んで来た邦人のリストをチェックし、それぞれの一時受け入れ(獣人らの事や、二十万人を越える人々の住家を用意しなければならない)居住場所への振り分けする作業を行っている。志摩は立場上トップに近い人間になってい
スため、なんにでもお鉢が回ってくる訳だ。それに途中まで同行したフランス艦隊、特にダンケルク級に関する予測性能の報告、欧州情勢の予見、全て彼に回って来ている
『だが、立ち止まってはいられない』
桂が南米で待っているんだ。一秒でも出来ることを早く済まさなければ
『でも・・・』
ミスミは心配していた。自分に対しても、彼はおろそかにしていなかった。異世界人でも特殊な転移タイプ、数少ない普通の人間であるミスミ、その彼女の国籍取得にも、奔走してくれていたのだから  


174  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:40:32  ID:2MxH4A12O
7月3日、横須賀


かりかりかりと、鉛筆の走る音が、借家の部屋に響いている。それが少し止んで、その部屋の主がため息をつく。それを見計らったように扉が開き、給湯ポッドをメイドが入ってくる
『あの、旦那様、少しお休みになられませんと』
そのメイド、ミスミは心配そうに旦那様である志摩を覗き込む
『ああ、わかってる』
欧州から返って来て以来。志摩ら帰還した艦隊の士官は、運んで来た邦人のリストをチェックし、それぞれの一時受け入れ(獣人らの事や、二十万人を越える人々の住家を用意しなければならない)居住場所への振り分けする作業を行っている。志摩は立場上トップに近い人間になってい
スため、なんにでもお鉢が回ってくる訳だ。それに途中まで同行したフランス艦隊、特にダンケルク級に関する予測性能の報告、欧州情勢の予見、全て彼に回って来ている
『だが、立ち止まってはいられない』
桂が南米で待っているんだ。一秒でも出来ることを早く済まさなければ
『でも・・・』
ミスミは心配していた。自分に対しても、彼はおろそかにしていなかった。異世界人でも特殊な転移タイプ、数少ない普通の人間であるミスミ、その彼女の国籍取得にも、奔走してくれていたのだから  


175  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:43:30  ID:2MxH4A12O
当然ながら志摩と桂は結婚している。異世界人であるミスミを嫁として籍にいれて日本人にする事は出来ない。この場合、誰かの養子として入れるのが順当だった(陸軍はこの手を多用してダークエルフらを本土に招いていた)志摩はその養子先として、桂の母に頼みに行ってくれたりし
スのだ。桂を置いて来た事の詫びと共に。自分の不義を晒しに。そして二人とも手放さない事も
『倒れられでもしたら・・・!』
『大丈夫、今日も君を抱いてみせるよ』
そう、桂から言われた『次はミスミさんよ』という言葉を履行すべく  、志摩は無理に無理を重ねていた。過労死してしまいます!という叫びを、ミスミが堪えるのも限界に達しようとしていた
『しかし、やつれただけでなく白髪も!』
『何もせんほうが精神的にやつれる。仕事をしているか、君を抱いてないと落ち着かないんだ。わかってくれ』
いつもこんな調子であるため、今日の給湯ポッドには、睡眠薬をしこんでいる
『わかりました、でも、お茶ぐらいは飲んでいただきますからね』
『わかったわかった』
ミスミに入れられたお茶のコップを、志摩が口をつけようとした時だった


ピンポーン


何と間の悪い客人か、と、ミスミが一瞬目を細めた  


176  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:46:12  ID:2MxH4A12O
『よう』
『こんばんわ〜』
玄関に行くと、居たのは子連れの松浦夫妻だった。現れた志摩を見て、二人とも目を丸くする
『あらあら、ずいぶんおやつれね』
『大丈夫か?』
『久しいですね、先任。さ、どうぞ。ミスミ、さっきのお茶、二人に』
『は、はい!』
二人の心配をよそに、志摩は夫妻を招き入れて、居間に四人で座る。子供は幽弥さんの背中でぐっすり眠っている。今のうちと話始めたのは松浦からだった
『大和田に居ると言ったのに、中々来ないからな、寄らしてもらった。積もる話もしたいところだが、言わなきゃならん事があってな』
『はい?なんでしょう?』
志摩には特に思い当たるふしがない
『南米行きに頑張っとると聞いた』
『ええ・・・桂が、待ってますから』
松浦の顔が曇った
『朝陽が貴様の動きに気付き始めている。今、イケイケでその論調をぶち上げられては困る。そう海軍は判断した・・・貴様は今月付けで予備役、年度終わりで退役してもらう』
『そ、そんな馬鹿な!今更!それに、今すぐ南米に向かおうとは思っていません!』
志摩が大声を出して立ち上がった。松浦は顔を曇らせたまま続けた
『奴らは現役の海軍士官に取り巻いて、国策を動かそうとして居る』  


177  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:49:22  ID:2MxH4A12O
『妻を救いに行く夫という英雄性。市民のハワイさえ攻略した海軍ならば救えるという不確かな知識からくる盲信。なにより今度は、フィリピンどころでは無く米本土への直接攻撃という冒険性、朝陽はそこから国民世論に火をつけようとしている。貴様を使ってな』
大したジャーナリズムだよ、と、懐から煙草の代わりに棒のついた飴玉をしゃぶる松浦
『今、それをやられては困るのだ。困る所では無い、戦争すら失いかねん』
今回のハワイ攻略は、米国民に現実を突き付ける為の戦いだ。しかし、米本土をやってしまったならば、祖国を守るためにどんな事情があろうとも、米国民は立ち上がる。そうなれば全てがご破算だ
『そんな・・・!』
『貴様が現役に居るとだな、貴様の提案を受けた海軍は何故動かんのか、という話になってしまうのだ。家庭周辺から突き上げられる士官将官も増えよう。貴様が望んでなくとも、一大徒党になるぞ?実際、艦を遊ばせることになるから、さらにまずいことになる』
海軍が割れる形になるのは、悪夢以外のなんでもない
『将官の中にも、ただ攻撃あるのみ!とする勢力も居ないでは無いからな、特に源田大佐あたりが急先鋒になってな』
にがにがしく松浦は飴玉をかみ砕いた  


178  :長崎県人:2007/11/12(月)  00:52:55  ID:2MxH4A12O
『ですが、ハワイ攻略が失敗したならば!』
『負けたら救出どころではなくなるぞ、貴様が海軍に居続ける事は出来ようが。それに現地の情勢も悪くなる』
それまで二人の会話を聞いていた幽弥が口を開いた
『退役して個人で動くのも、チャンスが無いわけではないわ・・・でも、一度かぎり、それも命懸けの。あなた、確か近々帰還艦隊の首脳陣に叙勲があると言ってたわね』
『ん、ああ・・・おい!まさか!』
松浦が無理だと言わんばかりに驚きの声をあげた
『たしか帰還艦隊の功は、階級的に菊地中将の物になってるけど、参加者には志摩さん、あなたも入ってるわね』
『はい、恐れ多い事に』
幽弥は怜悧な目を志摩にむけて向けて言った



『直訴なさい、陛下に』  


189  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:09:16  ID:2MxH4A12O
モンタナ


ドガガガガガ!!!


スコットは再び訪れた振動に耐えて、前を向き直した。モンタナも大和に答えるかのように主砲を吠えさせた。しかし、当たらない。急転舵を交えての事であるから、ある程度は仕方ないとはいえ、距離はもう二万五千ヤードを切るほど接近している・・・これがこの艦の練度の限界とい
、やつか
『艦の損害は!』
『先程の被弾で左舷高角砲群全滅!ダメコン隊が向かってます!しかし、ダメコン隊の損耗も限界です!』
よし!と、スコットは頷いた。艦の運営には、まだ問題をきたしていない。まだ、やれる!
『砲塔要員をいくらか割いてあたらせろ!』
まだ、ここでやられては食いついて来ない!
『敵二番艦に命中弾!畜生!あの野郎弾きやがった!』
武蔵にサウスダコタがはなった砲弾は、舷側410ミリの傾斜装甲に弾かれて、ろくな損害を彼女に与えなかった。この距離でサウスダコタの貫ける装甲は舷側382ミリ。貫くには、ちと辛い
『サウスダコタは良くやっている』
防御ではこのモンタナに劣る艦で、あのヤマト級とやりあっているのだ
『サウスダコタに負けるな!俺達もやれるって所を見せてやれ!』
スコットが兵達をアジる。しかし、それにも限度がある  


190  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:11:44  ID:2MxH4A12O
『インディアナ爆発!』
ついに隊列から三番目を走っていたサウスダコタ級の次女が、盛大な爆発音と爆煙とともに艦の動きがふらつく。彼女を襲った紀伊の九四式16インチ砲弾(もともとは平賀案等で載るはずだった九十式、凍結されていたそれを新しく改設計し、諜報的に混乱しやすいよう、大和の砲のダミ
[として出した砲の名前を継いだ)は、インディアナの両用砲弾庫を貫通。破壊と共に大規模な爆発を引き起こしたのだ
『マサチューセッツ大火災!』
尾張と撃ちあっていた三女のマサチューセッツも、ついに被弾によるダメージを抑え切れずに燃え上がる。そしてこちらは、大規模な爆発を起こして火災そのものを吹き飛ばしたインディアナと違い、己の姿を夜の闇に浮き上がらせた。尾張の砲弾が火災を目標にして投げ掛けられ、被害
フ度合いは、急速に増していった
『司令!これ以上の突撃は無茶苦茶d』
『いまここで躊躇えば、キンメル大将の二の舞を演じる事になる!突撃!突撃せよ!たかが戦艦二隻を失ったところで怯むな!』
スコットがそう言っても、砲弾は弾かれ、味方がやられる姿を見ては士気があがりようもない
『・・・』
スコットは確信した。これでは元の計画だと失敗していたな、と  


191  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:13:27  ID:2MxH4A12O
『他の艦の状況はどうか!』
スコットは怒声を発した
『サウスダコタは被弾四なるも健在!アラバマは被弾二、こちらも健在!アイダホは被弾なし!アリゾナ被弾六、砲塔二基損壊なるも航行に問題なし!ネヴァダは被弾五、艦長戦死!』
そろそろ限界が近い。このモンタナや、サウスダコタは奮戦しているが、もしもがある。アラバマとアイダホはまだ持つだろうが・・・ナガト級と戦っているアリゾナとネヴァダはもはや青色吐息だ
『距離、二万二千ヤード(二万)を切ります!』
あと五千。あと五千踏み込めれば戦える。だが、それはあまりにも遠い


ピカッ


『なっ!』
夜の闇を切り裂いて、光がスコット達を照らしだした
『ジャップめ!舐めやがって、サーチライトを着けやがった!』
見張りが毒づく、奴らも我々をこれ以上進めるつもりはないらしいな。発揮できる火力が少ない相手なら、サーチライトで狙いをつけるのは有効な手段だ。艦隊が、艦隊があともう少しまともな状態ならば、こんな手を使った事を後悔させてやるというのに!
『・・・』
スコットが艦隊行動を次のフェイズへ移行させようとした時だった
『司令!ボストンが!』
味方の重巡が、燃えながら敵の隊列へと向かう  


192  :名無し三等陸士@F世界:2007/11/20(火)  23:17:21  ID:I3Ap.MhM0
支援砲撃です!  


193  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:18:14  ID:2MxH4A12O
『舵をやられたな』
スコットの推測は正しかった。水雷戦隊と戦っていたボストンは、偶然に発生した水中弾(荒天の海面状況では奇跡に近い)によって舵を破壊されていた。その時点でかの艦長は、艦の生還を諦めた。彼は舵をなんとか固定して、機関を公試出力以上に暴走させたのだ。爆発と隣り合わせ
セが、一隻でも突入出来たならば・・・その一心だった。そして彼の決断が、海戦を変えた
『っ!?ヤマトが舵を!』
『うまいぞ!』
ボストンの進むコースには、大和の船体が横たわっていた。宇垣は再転移直後に、大和をレパルスにぶつけた経験がある。迎撃より先に、咄嗟の判断で回避命令を出してしまっていた。そして、回避した方向はスコット達から離れる方向。それに、武蔵、そして第二戦隊の紀伊、尾張と続
「ていく。その途中で変針にともない、照準を変えた甲斐と播磨の射撃によってボストンは沈められた。だが、彼女の残骸をさけるべく長門と陸奥はスコットらのいる方向へ舵を切ってしまっていた(長門の針路へ差し掛かるように、ボストンが沈没しながら惰性で進んでいた為)
『これは・・・!』
スコット達が気付けば、自分達の目の前に存在するのは、長門と陸奥の二隻だけとなっていたのだ  


194  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:20:48  ID:2MxH4A12O
『やれ!あの二艦を集中射だ!サウスダコタ、アリゾナ、ネヴァダは今の内に退け!』
戦果をあげつつ退却するには、ここしかない。あとは指揮官の俺と、アイダホとアラバマで食い止める
『司令!サウスダコタ艦長です!』
TBSでサウスダコタの艦長が掛け合いにきたのだ
『俺だ、スコットだ』
電話口にでたスコットに、若い声が不満もあらわに言う
『まだ戦えます!是非!』
『ブリーフィング通りだ、今でないと君らは逃げられん。アリゾナとネヴァダを頼む』
最後の楯となってやってくれ、と言葉に含める
『ですが!』
『君はわかっていたはずだ』
この戦いがどうなるかを
『我々もすぐにケツを捲くる。行け!このチャンスを生かして、逃げ切るにはこれしかない!』
損傷した戦艦ではその役を果たせない
『・・・御武運を!』
『君もな、ジョニー』
TBSを切った。日本の戦艦群は次々とライトを消し始めている。奴ら、慌てている。人間らしいところを見せ始めたな
『今更慌てても遅い!砲術!』
撤退を開始したサウスダコタらを除く三艦が、砲を長門と陸奥に照準を向ける
『なんなりと』
砲術長が合わせてくれた事にニヤリと笑ってスコットは叫んだ
『奴らを打ち倒せ!!!』  


195  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:23:39  ID:2MxH4A12O
大和


『抜かった!艦長!舵を戻せ!』
宇垣は、自らのミスを悟った。このままでは!
『制動にしばらくかかります!もう少しお待ちを!』
大和の巨体は、回りだすと早いが(重巡並と言われる)先程舵を切ったばかりで、反対側に動きをむけるには、あとしばらく時間が必要とされていた
『長門と陸奥が!』
敵戦艦と反航戦の形で撃ちあっている。距離は一万五千を切っている。弾が当たればいつ吹き飛んでもおかしくない


ギリィッ


宇垣の唇から、一筋の血が流れる。耐えろ、耐えてくれよ、長門と陸奥よ。そう祈るしかない。くそっ!肝心な時に俺は!
『長門被弾!行き足、落ちます!』
宇垣が目を見開いた。この時彼女に襲い掛かったのは、モンタナの16インチマーク7の砲弾である。それの一万五千付近の貫通力は垂直565ミリ・・・耐えられるはずがなかった。以前はケースメイト式副砲があった箇所を貫いて、機関室で砲弾は爆発し、彼女の速力を大幅に減じさせた
『陸奥、前進します!』
『いかん、よせ!』
敵の第一斉射を運よく避けた(咄嗟射撃であったのと、やはり米側の練度は低かった)陸奥は、長門の速度低下に合わせて速度を落とす所を速力を上げた。その意味するところは  


196  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:27:02  ID:2MxH4A12O
『陸奥が長門の盾に・・・!』
誰かが悲痛な声で叫んだとき、横並びに並んだ二艦を水柱が包み込んだ。この時射撃を行ったのは戦場に残った米戦艦の中では一番の練度をもつアイダホである


ドドドドドド!!!


水柱を切り裂いて、陸奥の砲撃が行われた時、誰もが一度安堵の吐息を吐き、現れた陸奥の様子を見て絶句した

陸奥への被弾は五発。この距離での14インチ砲弾の舷側貫通力は456ミリ。これを越えるのは、加賀に搭載予定であったものに取り替えた主砲塔前盾しか存在しない。陸奥は艦橋に二発の命中弾を受け、その艦橋の姿を大きく傾げさせていた。もう一弾は後部指揮所上部を、跡形もなく吹き
飛ばし、残りの二弾は喫水線部分に命中して、大量の浸水を発生させた

日本の将兵を絶句させた、傾いだ艦橋と、炎をふきあげる後部指揮所をみれば、陸奥が戦闘不能におちいったのははっきりしていた。唯一の救いは
『敵戦艦に命中弾!傾いて行きます!』
陸奥が放った砲弾がクロスカウンターでアイダホに三発命中し、舷側を突き抜けて大被害をもたらした事だった
『回頭、開始します!』
ここでようやく、大和の舵が効き始める
『奴ら・・・逃げるのか?敵艦隊、撤退していきます!』  


197  :長崎県人:2007/11/20(火)  23:31:05  ID:2MxH4A12O
見張りが報告するように、長門と陸奥にとどめを刺すでもなく、米戦艦二隻は逃走を計る。未だ沈んでいない味方戦艦が居るというのに
『やり逃げかつ、置き去りかよ・・・』
参謀の一人が苦々しげに呟いた
『宇垣司令!』
あんな奴らを生かしておいいていいものか!とばかりに、また別の参謀が上申する
『・・・上等だ、この距離まで近づいて、無事に逃げおおせる事が、我々から出来るとでも思っているらしいな』
のちに、宇垣がやんちゃが過ぎた、と言ったのは前記した。それが示すように、彼は少々冷静さを失っていた
『追撃を開始する!田中中将は、目の前の敵を必ず押さえ切れ!第三戦隊の西村中将は長門と陸奥の保全に勤めよ』
宇垣には、去っていくモンタナとアラバマの艦尾が、まるで自分を嘲笑っているかのように見えていた


東の空が、ほのかに明るい(ハワイの七月の日の出は4時21分である)それぞれの朝が、一体どのような形で訪れるか。今はまだ、定かではない