611 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:48:06 ID:2MxH4A12O
四航戦・加賀
月は沈み、夜明けの朝靄が加賀を包み込んでいた
『台風一過、だな』
岡田中将は空を見上げる。今日は昨日とは違って晴れそうだ
『攻撃隊発艦準備、完了しました!』
伝令が報告しに来た。甲板には、陣風と流星がタキシングを始めている。機数は38機、本来は29機、流星が18機に陣風が9機、彩雲が2機なのだが、参謀から
『敵の稼働出来る空母は一隻かそこらです。この戦力で自艦隊を守り切る為には、戦闘機をより多く、もしくは完全に切り替えて搭載していると考えられます』
との進言により、同時発艦能力の向上しているこの加賀より、直援機用の9機を加えての攻撃隊発艦となった。赤城は普段と同じく29機、合計67機からなる第一次攻撃隊である
『よかろう、攻撃隊発艦!』
準備完了を伝えに来た飛行長に頷く
『攻撃隊発艦!』
復唱が加賀の艦内を駆け巡り、甲板長が旗を大きく振って攻撃隊に発艦を伝える。既に艦は風上へ、合成速力は十分だ
『帽振れ〜!』
手隙の整備員達が帽子をふって見送る中、するすると陣風は甲板を走り、空へと駆け上がった
『昨日、我々が暴れられなかった分を取り戻さねばな』
夜戦での苦戦は自分達のせいでもある。借りは返さねばならない
612 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:50:48 ID:2MxH4A12O
ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!
第一次攻撃隊を送り出してまもなく、加賀の艦内に警報が鳴り響いた
『何事か!』
岡田が艦橋内に戻ると艦長が問い質していた
『南方から敵編隊!接近中です!』
『南方?ウェークからか?まさか!?』
南鳥島からの空襲効果は十分と聞かされていた。復旧には時間がかかるはずだ。しかしこの時間帯・・・母艦での発艦の可能性は限りなく低い。波の動揺を始めとしたファクターから、夜中の発艦は危険過ぎるからだ。なんらかの方法で飛行場を復旧させたに違いない
『赤城に直援機発艦急げと伝えよ!本艦の物はどうか!?』
『二次攻撃隊の物を転用します!補用機はまだ無理です!』
つまり、すぐ出せる直援機は赤城の陣風が9機のみ。それに、現在本艦らには、秋月級が二隻しか存在しない・・・なんと間の悪い!
『いや、ウェーク島からならいくらかは消耗している飛行隊と見ていい。ともかく戦闘機の発艦を急げ、対空戦闘用意!』
それに加賀や赤城だからこそ一隻で9機も出せるのだ。これが雲龍級や飛龍であれば、陣風を僅か3機しか出せなかった所だ。まだ最悪ではない
『全速力で松田中将の部隊と合流するんだ!』
そう、味方だって近くに居るのだから
613 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:52:08 ID:2MxH4A12O
赤城戦闘機隊
赤城から飛び立った陣風は、赤城からの誘導により(彩雲も飛べたが、先に戦闘機の数をとなった)敵航空部隊との接敵を果たそうとしていた
『敵は多数、こちらは少数、陣形を組んでいても必ずや割り込まれるだろう。かといって一回のダイブ攻撃で離脱していては直援機としての任を果たせん』
こんな時に、速度だけの戦闘機は苦労する。小回りが直援機には必要な要素と成り得ることが多い。対ワイバーン戦を主とした制空戦闘で、進攻戦が多かった陸軍が焔風で速度を求めたのに対し、海軍の陣風が比較的鈍足で妥協をしめしたのはそういう違いが背景にあっての事だ
『死ねとは言わんが、陣風の防御力をたのんでの個人戦闘に徹し、一機でも多くの敵機を落とせ。母艦を守るんだ!』
出撃前の隊長の指示は、かくの如しだった為、赤城戦闘機隊は、母艦による誘導により敵編隊の上空に出るよう指示されたあとは、各機がバラバラに行動していた(隊長の考えとしては、それで突入のタイミングをずらし、時間を稼ごうと考えていたようだ)
キラッ
『いたっ』
雲間にある黒い胡麻粒が、昇った朝日の照り返しでキラキラと光を反射している。敵編隊だ
《こちらアカ3の4、突入します!》
614 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:53:25 ID:2MxH4A12O
無線機に一報を入れる。昔は隊長機だけ話すことができて、部下は受話のみだったのに較べて、えらい進化を遂げている(編隊戦闘を好む隊長の場合、そのままにしている者も居る)。少なくとも母艦機乗りで、無線機を降ろすような馬鹿はいない。母艦との繋がりが、どれだけ海上で大事
ゥは、骨身に染みてわかっているからだ
『機種は・・・SBDと、ドラ猫、それに例の新型かっ!?』
メザシと呼ばれる双胴の機体だ。与し易しと聞いてはいる。敵の数は・・・二十まで数えて諦めた
グォオォーン!!!
上空からつぶての如く急降下する陣風を操りつつ、狙いをSBDへ
『もらったぁ!』
ドドドド!!!
30o機銃が吠える。対艦用さえこなすこいつの弾をくらって、無事な機体などありはしない。確かにSBDは機銃弾を受けて四散した
『くぅぉおおおっ!』
そのままダイブしていかないよう、旋回しようとするが、なにせ陣風はかなり重い。それでいて自動空戦フラップ他のおかげか小回りが効く。そうなると強烈なGがパイロットの身にふりかかる。飛行服の改良してくれないかな?と頭の端で考えるが、すぐ忘れた
『ブチかましてやらぁっ!』
彼の陣風は、30oを吠えさせて再突入した
615 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:55:10 ID:2MxH4A12O
その頃、赤城戦闘機隊の隊長は、部下達が突入していくのを見ながら、まだ上空に待機していた
『あいつか・・・』
部下の襲撃を受けても混乱せずに母艦へと向かう機体、これを落とす為だ
『あれが一番危険なのだ・・・危険は排除させてもらう!』
そしてまた彼は部下とは違い、緩やかな降下でSBDへと喰らいついた。勿論、緩やかな降下である以上、迎撃される。SBD編隊からは7.7o旋回機銃の銃弾の雨が、一斉に彼に向けて放たれる。しかし彼はそれを無視した。下手に運動していては、落とせる機体数が少なくなる。彼は自
分が部下に伝えた、陣風の防弾をたのむ事を、自ら実際に行ったのだ
ピシィッ!!
風防の防弾硝子に、7.7o機銃弾がひびを作る。しかし一発では貫通は出来ない
『一機目!・・・二機目!』
ピシピシィッ!ガキン!
『三機目っ!』
防弾硝子の一部が割れて、彼を傷つける。風防の支柱に弾痕を残す
『四・・・機っ!』
ドガガガガ!!!
後ろからも機銃弾を撃ち込まれる。ドラ猫だ。しかし放っておく。戦闘機で空母に何が出来るかっ
『五機目だっ・・・!』
バカンっ!!!
五機目のSBDに銃弾を叩き込もうとした、その時だった
616 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:56:30 ID:2MxH4A12O
風防の支柱に二度目の敵弾が命中し、それが折れて、彼を守っていた風防が吹き飛ぶ
ダダダダダダ!!!
7.7o機銃弾は、陣風の機体を貫くのはほぼ不可能であったけれども、人間を貫くのには十分過ぎた。コクピットが血に染まっていく。同時に風圧で、妻と一緒に撮った写真や、娘からもらったお守りの人形が空中に巻き散らされる。それらを追うようにちぎれた腕が空中に飛んでいった所
で、その陣風にはトドメがさされた。後方から12.7oをいくら撃ち込んでも落ちない陣風に業を煮やしたF4Fに、無理矢理呼ばれたP38による20oの至近射撃だった
『隊長ぉおおっ!!!』
そのP38を、紙一重で間に合わなかった陣風が撃墜する。思い切りよく機体を捨てて脱出した米機のパイロットは、皮肉にも自分の機体の尾翼で真っ二つに両断された。彼は頼まれれば断れない性格で、コチカネット州生まれで恋人がいた。帰ったら結婚するんだが口癖だった
『『貴様らぁああああっ!!!』』
お互いが恩讐の念を増していく。そこに国家も人種も・・・時代が進めばおそらく性別もない感情が存在していた
ともかく、赤城戦闘機隊の奮戦を以てしても、米編隊は、四航戦の元へとたどり着きつつあった
617 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:58:23 ID:2MxH4A12O
四航戦・赤城
『冬月、射撃始めます!』
僚艦の秋月級駆逐艦が、その優秀な砲を掲げて対空射撃を開始する。しかし、たった一艦で出来る事は少ない
『戦闘機、発艦急げ!』
赤城の甲板上には、未だ発艦出来ていない陣風の姿があった。一方、加賀の方はというと、発艦を諦めて回避行動に移っていた。これは、赤城が9機の陣風を先に飛び立たせた事で、次も出せる!と、判断したのに対して、陣風の発艦準備を一からしなくてはならなかった加賀が、回避を優
先に考える判断を採ったことに起因する。ちょっとした士気の高低による判断の違いとは、ここまで影響を与えるものなのだ。勿論、艦隊を組んでいれば、別な判断をしていただろう事は間違いがない
・・・結論を言うならば、加賀が回避行動に入ったのに対して、赤城は発艦の為に直線行動をとったという事だ
『敵機直上!急降下っ!』
『機関最大戦速!真ん中を突っ切れ!』
敵機も、大抵は目標とする艦が、どちらかに舵を切る事を見越して爆弾を投下する。真っ直ぐ最大戦速で走ってればなかなか弾は当たらん!と、剛毅にも赤城艦長は考えていた。実際に攻撃した米軍パイロットもこう残している
『次は必ず曲がるはずだとおもったんだ』、と
618 :長崎県人:2007/08/02(木) 07:59:40 ID:2MxH4A12O
だが、物事にはいつも例外が存在する。例えば、攻撃する機のパイロットが未熟な腕であったならば?そう、左右どちらに目標とする艦が切るか読み切れず、真っすぐにしか投弾出来なかった場合だ
『敵機爆弾投下!直撃します!』
『くそっ・・・総員、対衝撃態勢!』
ドドーン!!!ドゴアアッ!!!
身体に感じた衝撃は二つ
『被害報告!くっ!煙が・・・防毒面装着急げ!』
前方視界が遮られる
『前部飛行甲板に二発被弾!左舷前部機銃座全滅!もう一弾は遮風柵に被弾!炎上しています!』
赤城の艦長は安堵した。遮風柵と機銃座のすぐそばに前部エレベーターが存在している。そこに飛び込んだなら・・・大惨事はまのがれなかったであろう
『加賀の方はどうか!?』
はっと気になって艦長は問うた
『大丈夫です!元気に走ってます!それから、松田中将の部隊が見えてきました』
見張りは笑顔で答えた
『そうか!』
これで好き勝手にはやらせないで済む。なぁに、爆弾の一発や二発で沈むほど、赤城はやわではない
『しかしまぁ、加賀も良く無事で』
これにもやはり理由がある、幸運にも、例の斜めに曳いた発艦及び着艦のラインによって、米軍機は加賀の進行方向を撹乱されたのだ
619 :長崎県人:2007/08/02(木) 08:00:52 ID:2MxH4A12O
『しかし、最後に投弾した機は、見たことのない機体でした』
見張りは、流れてきた煙にけほけほと咳込みつつ報告した。敵機は空域から撤退しつつあった
『ふむ?』
艦長にはそれが少し引っ掛かった
『我が艦の攻撃隊が、敵艦隊を攻撃中』
『いよぉっし!やり返せー!』
電信室から、士気上げの為にだろう、攻撃隊の様子が艦内放送で伝えられる。艦内から歓声が沸き上がる。しかしその中で艦長は見張りの言葉を黙って考え込んでいた
『新型機・・・最初はこれまでに見られていた旧式機か、地上基地で運用する機体・・・今現在に於いて、我々の攻撃隊は敵艦隊を攻撃中・・・これは』
少々気をつけて置かねばならないかもしれない、もしかすると、後半の攻撃隊は敵の母艦機によるもn
『さ、左舷低空より、敵雷撃機!!!』
そう、艦長の想像通り、彼等の攻撃はまだ終わっちゃいなかったのである。低空進入してくるTBFが12機、電探は確かにそれらを捕らえては居た。しかし重なる波状攻撃に、対応能力が飽和していた。これを防ぐための彩雲であり、艦隊陣形の維持、役割の分担であるのに、それが出来
ネかった結果がこの状況である・・・そして、魚雷を赤城が回避するには、何もかもが遅すぎた
620 :長崎県人:2007/08/02(木) 08:03:20 ID:2MxH4A12O
致命的だったのが、左舷側被弾を原因とした、火災の煙による視界の欠如だった。艦長が敵がどの位置にあるのかわからなければ避けようが無い。もし、赤城の艦橋が左舷でも、加賀のように前方寄りであったならば・・・いや、愚問である。そうであったならば、今回の被弾であれば、
ヘ橋直撃となっていた事であろう
『対空砲!奴らをどうにかしろ!戦闘機隊を呼び戻せ!』
艦長が叫ぶが、先にも言った通り、何もかもが遅すぎた
『そんな・・・こんな・・・こんな所で』
12機のTBFが、赤城の上空をフライバイする
『艦長!雷跡がっ!艦長!艦長!』
見張りの叫びなど、もはやどうでも良かった。帝國海軍の空母として象徴的な位置にあった赤城を失うことに、艦長は茫然自失していた
10秒後、最初に四発、そしてすぐさま後続の一発の魚雷が、赤城の左舷をえぐった。片舷五発の被雷。巡洋戦艦として生まれて来るはずだったその船体は、その打撃に耐えられなかった。戦艦として生まれる筈であった加賀なら、なんとかなったかもしれない。つくづく、赤城はツキから
ゥ放されていた
『傾斜止まりません!艦長!』
『総員・・・退艦、私は残る』
艦長の彼に出来る事は、もうそれしか残されていなかった
621 :長崎県人:2007/08/02(木) 08:04:28 ID:2MxH4A12O
サラトガ航空隊
『ひゅう!やったぜ!傾いてくぞ!爆発した!脱出中のジャップが吹き飛んだぞ!イェイ!』
パイロットが拳をふりあげた
『レディレックスがやられてんだ!お前も沈んでないと割にあわねぇんだよ、糞ジャップ!』
TBFの中で、搭乗員達がはしゃいでいた
『写真撮ったかカメラ屋!』
『はい!ブッシュ少尉!バッチリです!』
一番びりっけつの新米少尉に、カメラ屋・・・アニー・パイルはカメラを抱えて答えた。ピュリッツァー賞ものがカメラの中に納められている
『あとは逃げるだけです!』
『たりめぇだ!死んだら意味無いしな!』
『しかし、戦艦が沈むとこが撮りたかったです。あそこに居たのに』
松田中将の部隊に、サラトガの航空隊は気付いていた
『隊長が、護衛を突破すんのが難しいから、止めるといっちゃあ仕方ねぇよ。あの空母煙吹いてたし、デカかったし、俺達にとってジャップの空母は仇敵でもあんだ。次は必ず沈めてやっから』
と、なだめる。俺だって戦艦を沈めたかったさ
『ジョージ!怒った敵さんが向かってくる!いいから逃げろ!』
『おうよ!』
スロットルを全開にする。俺はいつか、もっとでっかい事をやるんだ。死んでたまるか!
632 :長崎県人:2007/08/05(日) 21:54:58 ID:2MxH4A12O
第一次攻撃隊
『なんだこの迎撃機の数は!』
彩雲の偵察員(電探も扱う)は冷汗をかいて、電探の反応を確認した。間違いない
『戦闘機隊!敵は直援に50機以上の機体を繰り出している!攻撃隊より先行し、排除せよ!繰り返す、排除せよ!』
しかし50機・・・空母の搭載機を全部戦闘機にしたって一回の直援で上げておける機数じゃないぞ!しかも未だに反応が増えている。つまり、奴らは前回の海戦で俺達がやったように、大多数の戦闘機で押さえ込むつもりだ
『奴らどんなまじないを使いやがった!』
第三艦隊ですら、直援機として常用してあるのを数えても78機でしかないというのに・・・!(これを憂えたからこそ、三浦級を建造しようとしていた訳である)
それに一度接敵してしまえば、彩雲の電探での指示は、限りなく難しい・・・最初の一撃で、どれだけ喰えるか・・・こちらは増強されてすら、戦闘機を27機しか連れて来ていないのだ
『頼む・・・落としてくれ』
電探で、陣風を示す光点が、敵を示す光点へと重なっていく
『俺達には見ることしかできない。誘導が出来るだけでも、奴らには大きな支援さ』
パイロットは慰めるように言った
『畜生め・・・』
悔しいのは誰も彼も一緒なのだ
634 :長崎県人:2007/08/05(日) 21:56:30 ID:2MxH4A12O
加賀戦闘機隊
先行した四航戦の戦闘機隊は、敵直援機隊の上空にたどり着いていた。敵は二倍以上、こちらに気付いて上昇し始めている。まったく面白くない状況だ
《こちらアカ1ー1、網を被せる。先陣は任せられたし》
例の新兵器か・・・
《任せた、それに賭けてみよう》
空対空噴進弾、赤城から飛び立った9機に各四基搭載されている(満載するならば八基搭載できるが、攻撃隊参加とあっては戦闘機動時の燃料消費を考え、抑えた搭載をしていた)
『しかし、なんとも中途半端だな』
一斉に噴進弾を撃ち込みつつ、機銃を乱射しながら突入と言う事も出来たろうが、我々にそれが無い以上、同じ行動は取れない。ま、飽くまでそれが有効な兵器であればの話であるが・・・まったく。敵の見積もりを誤った上に、敵で新兵器を試そうとした傲慢の結果がこれか・・・無線
@から再び声が流れた
《赤城戦闘機隊、全機、矢を放て!繰り返す、矢を放て!》
シュババババババ!!!
先行してダイブした赤城隊の翼から、不規則な白い筋が伸びる。やはり風に影響されるのか、全体的に右にズレているようだ
バババババババ!!!
上昇し始めていた敵編隊の間に、小さい黒煙が沸き上がった
635 :長崎県人:2007/08/05(日) 21:57:40 ID:2MxH4A12O
『やるなぁ』
眼下の様子を見て、加賀隊の隊長は唸った。噴進弾の爆発で、何機か落ちたものの(降下機動で打ち下ろしてその程度か、というのは置いておく)もっとも戦果を挙げたのは、噴進弾の発射と爆発に驚いた敵機が、ヘッドオンの状態から回避行動をとったことによる、被弾面積の増大を狙っ
トの機銃弾の掃射だった。うまく新兵器を使う方法を考えている。よし、なら俺達も行くか!
《加賀戦闘機隊、まだ上がって来る奴を狙え、突っ込むぞ!》
皮肉や不満を言っていても始まらない。今は、やるべき事をやるだけだ
《了解!》
《隊長、敵のドラ猫、いつもより太っちゃいませんか?》
部下の一人が尋ねる。どうやら新型機のようだ。それを言うならば、自分達も新型機を受領したばかりと言えるが
《関係ない。向かってくる奴は全て・・・狩れ》
我々は戦闘機乗り、数が少ないからと、部隊をただ守るだけの牧羊犬で納まるつもりは無い・・・また、狩るつもりでやらなければ、攻撃隊も守れやしないだろう。彼はフットバーを蹴飛ばしてダイブに移る・・・指揮官に必要な演技ってのも、面倒な話である。仕上げにこう叫んで部下
アジった
《続け!陣風の如く、敵を圧せよ!》
ああ、恥ずかしい
636 :長崎県人:2007/08/05(日) 22:00:07 ID:2MxH4A12O
先行した戦闘機隊は、ベテランぞろいの四航戦らしく、奮戦した。各機がそれぞれ一機ずつ撃墜する快挙をして見せたのだから・・・全て戦闘機相手にの話である。逆に被撃墜の陣風が四機、撃墜比率が27:4、陣風が一機落ちるうちに、F6Fが七機近く落ちている計算になる。とすれば
烽チとわかりやすいか
しかしそれでも、二十機近いF6Fが攻撃隊へと向かう。その結果は・・・悲惨きわまり無いものだった
《高、低、中高度に奴ら別れてる!魚雷だ、魚雷を積んでいやがるのは低空を飛んでる奴だ!狙え!狙え!》
爆弾搭載の流星は高空に、噴進弾搭載の流星は中空に、魚雷を搭載した流星は低空に、と別れていた事が、裏目にでた。また、一編隊ずつの機数が少ないため(魚雷18・500キロ爆弾9・対艦ロケット弾9)投げ掛けられる弾幕の濃さも、厚い物となった事が、敵艦に対する魚雷の命中が無かっ
たという結果をもたらした
《畜生!いくら機体性能が良くたって、数が揃えられなくちゃ、意味が無いじゃないかっ!うわぁああああっ!》
雷撃隊の生き残りが聞いた、撃墜されたパイロットの悲痛な叫びである
『数が揃ってないだと?馬鹿を言うなっ!四航戦以上の運用数を持つのは一航戦しか居ないんだぞ!』
637 :長崎県人:2007/08/05(日) 22:01:29 ID:2MxH4A12O
搭載する機体の新型化、大型化で、攻撃隊として運用する数が減少し、対艦攻撃力が落ちているなぞ・・・認めてたまるか!第一、信濃級だって流星の数は一緒なのだ。一個戦隊での攻撃が物の役に立たないとなったら、我等の存在意義は一体どこにあるのか!
『戦艦を沈めてみせるんだ!』
対艦噴進弾を積んだ赤城攻撃隊は、アリゾナに向けてその槍を放ってみせる
ドドドドド!!!
『本機の噴進弾、命中です!』
後席が叫ぶ
『どうだっ!』
先述したように、今回の攻撃での魚雷の命中は発生しなかった。故に爆煙から現れたのは、炎上しつつも速力は落ちず、主砲塔は稼働し、ワンテンポ遅れた回避行動(ロケット弾ではなく、緩降下爆撃と誤認していた)を行うアリゾナの姿があった
『我々の・・・我々の武装では殺しきれないとでも言うのか!いや、まだだ!赤城に戻りさえすれば、魚雷がまだある!』
必ず、必ず戻って来てやる。戦艦が航空機に敵う事など有り得はしないのだ!
彼等が赤城の沈没を知ったのは、空中集合を終えて帰路につき、誘導を開始した彩雲からであった。そして彼等が、今回の米軍作戦案を創り出したキッド中将を戦死させたことは、ついぞ終戦まで知る事はなかった
638 :長崎県人:2007/08/05(日) 22:03:59 ID:2MxH4A12O
サラトガ
サラトガの艦橋には、空中集合を終え、帰っていく日本の航空隊を見つめるブローニングの姿があった
『なんとか・・・やり過ごしましたが』
どっと疲労感が襲ってくる。追撃や第二撃はしない、ここからは傷ついた戦艦部隊らを守ってハワイに持って帰らなければならない
『司令!アリゾナから・・・』
蒼白な顔をして、伝令が艦橋に入ってきた
『どうした?』
『キッド中将がっ・・・戦死なされました!』
『なっ』
あのロケット弾の攻撃だ。対空砲火潰しの贅沢なやり方だと思ったが、よりにもよってキッド中将を・・・海戦前のやり取りが思い出される
『ウェーク島の復旧能力を駆使して航空優勢を得るのが本作戦の骨子だが、飛行機は天候によっては飛べ無い時がある、その時ハルゼー長官ならば』
キッドの言葉の後を、ブローニングは取った。長官ならこう言う筈だ
『こう言うでしょう。天候が調い次第、今出せ!すぐ出せ!とっとと出せ!とね』
うんうん間違いなくね、と笑いながらキッドは頷く
『多分それは日本海軍も同じだろう・・・だったら』
と、地上基地からの夜間発進による直援機の増援と、地上基地からの攻撃隊の艦隊攻撃に紛れての横撃を考えたのは彼だった
639 :長崎県人:2007/08/05(日) 22:05:36 ID:2MxH4A12O
昨日から今日に渡って行われた、我々米海軍の最初の反撃は、キッド中将の手による物と言ってよかった。その彼が・・・
『わかった。下がって良し』
ブローニングは伝令を下げる。指揮の方はスコット中将に移行された事だろう。次席は彼だ
『司令』
参謀が心配そうに声をかけてきた
『キッド中将は言ったさ、We will win、とな。我々は勝たなきゃならない。それが約束なのだ。国民に対しても、そして先に逝ってしまったキッド中将に対してのな』
しばらくの間、我々も動くことは出来なくなるが、交換比率はひどく悪い物だが、今回の海戦で敵の動きを拘束出来るだけの損害は与えられた。次は勝つ。次の次はさらに完璧に勝つ
『課せられた約束を果たせるよう、各員、努力を惜しまぬようにな・・・』
『はっ!』
参謀ら、話を聞いていた人間がブローニングに敬礼を返す。彼は頷くと、自分の任務を勤めることに頭を切り替えた
『直援機収容を急げ!周囲警戒を怠るな!見張りを増やせ!』
ハワイ近海やトラック・ギルバート諸島では、敵潜水艦が跳梁して輸送船を沈めている。警戒を緩めていい事は一つも無い。最後に一言だけ彼は付け加えた
『我々は帰ってくるぞ(アイシャルリターン)!』と
646 :長崎県人:2007/08/06(月) 15:56:31 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日新京
『やぁ。お待ちしていましたよ、矢鹿少佐』
白系ロシア人が経営している喫茶店へ、初老の小人が手を挙げて、矢鹿(と木野瀬)を出迎えた
『・・・教授、何の御用でしょうか』
『なに、一度日本にも居るマリスの解放者に会っておこうと考えましてね』
ピクリと矢鹿の眉が動いた
『どこまで知っている』
『とりあえず、日本にある全てのマリスの解放が行われたならば、国土の17%と、一次被害として人口の14%が失われる見込みという事でしょうか』
矢鹿は胸ポケットに手を入れた。射殺するつもりだった
『い、いえいえ!極東の島国で何が起きようと、私は一向に構いませんが、同じ事を合衆国、いえ、南北の米大陸で行おうとする人間が、居るとしたら?』
矢鹿は銃から手を離した。それを見て教授はにんまりと微笑んだ
『ま、私達のやろうとしていることは、貴方が行おうとしている解放とは、少しやり方が違いますがね。ですが間違いなく、南北の米大陸に存在する国は滅びを迎える事でしょう。それが目的なのですから』
私は違う目的なのですがね、結果は同じですからまぁいいでしょう。この男は何をする気なのか
『私が行う解放は二カ所だけだ』
ボソリと矢鹿は言った
647 :長崎県人:2007/08/06(月) 15:59:21 ID:2MxH4A12O
1899年・とある東北の寒村
『卑怯者の子が来たぞォー!』
『賊軍の子が来たぞォー!』
矢鹿の父は、困民党の首謀者の一人で、武力蜂起を止めようとしたが、止められず。東北まで逃げてきた人間だった
『石だ!石を投げろ!』
『さっさと死んじまえ〜』
人間という者は恐ろしい。松方デフレ等で、東北の農民達だって不満でいっぱいだった。困民党の蜂起、秩父事件だとて心の内では喜んでいた筈だ。しかしそれがお上によって鎮圧されると態度は一変した。矢鹿の父は役所には突き出されなかったものの、牛馬と同じような扱いを受け、
竄ェて疲労死した。残された母と矢鹿は、なんとか食い繋ぐ生活をしていたものの、周囲の目は冷たいままだった。そしてそれは、子供同士の間で如実に現れる
ゴツっ
石が矢鹿の額に当たる。熱い・・・血が出たのだろう。この時は耐えるしかなかった。そして時が経ち、母が血を吐いて稼いだ学費で学校を卒業し、陸軍で軍医として働きだすと、周りの態度はさらに一変した・・・それが彼の精神を黒いものを残した。彼の出世を喜ぶ筈だった母も、既
ノ恍惚の人・・・痴呆症にかかり、彼が誰かもわからぬ者と成り果ててしまっていた
だから消さねばならぬ
648 :長崎県人:2007/08/06(月) 16:02:36 ID:2MxH4A12O
それで選んだのだ、この場所を
『一つは秋田県黒又山、もう一つは・・・封印されし魔都、長岡京』
教授は首を傾げた
『京都、ですか。事を起こすには、警備が厳しいのでは?』
今度は矢鹿が、笑みを教授に向ける番だった。ちなみに京都といっても、正確には長岡京と言うわけでも無い
『都は蓋、封呪機構であることは知ってらっしゃるんでしょう?そして封ずるべきものは水によって覆われている事が多いことも』
秋田の黒又山の近くには、十和田湖が存在している。では京都には?勿論存在している。オグラ池と呼ばれた、巨大な湖が
『そこは埋立てられて、現在使われているのですよ、京都第16師団司令部としてね』
入り込むのはたやすい。自分が力を見せるのにも相応しい場所であり、我々を、父を罰した元凶である天皇の御座を無くして差し上げるのだ・・・一体何万人死ぬだろうか?必ずや、この災厄の責任に天皇を求めるだろう
『それは誠に重畳。ま、我等と同じく、そのような事、起きるまで誰も信じませぬでしょうが・・・足元を掬われぬよう』
教授は店から出ていこうとする
『貴様らもな・・・1899年の復讐者。踊狂の韻を踏む者達よ』
『おや、調べられたので?』
教授は足を止めた
649 :長崎県人:2007/08/06(月) 16:04:13 ID:2MxH4A12O
1899年・アメリカ南部
『黄色い猿どもをブチ殺せ!!!』
タンタン!ダダン!
いわゆる世の移り変わりの時に、何かが起きる。と信じる考えを持つ人間は少なくない。それが欝屈された状況にある人間であればなおさらな事。アメリカ合衆国に於いて、マイノリティーであるインディアンの人々は、世紀末に踊り狂った
『白人の世は終わる!さぁ皆踊れ!彼等の抵抗が、その証拠なのだ』
彼等は抵抗しなかったし、暴力行為も決して行わなかった。だが、虐げられている人間達が徒党を組み、町を熱狂的に練り歩く姿は、白人達に恐怖を与えた
『いいか!奴ら人間じゃねぇっ!撃ち殺せ!!!』
『彼等は滅ぶ!滅ぶのだ!』
ながされた血は、殺戮の興奮と、殉教の喜びを与えるだけであり、なんら事態を変える力を持たなかった。そして結局、インディアン達は皆殺しにされた。神は彼等を殺す約束を果たしてくれなかった
『約束は履行されなければならない!』
ちりぢりばらばらの彼等が復讐者としてひそかに立ち上がるまで時間はかかりはしなかった。神々との約束が履行される為には
幻視の夜をこの大陸にもたらす為には
世界の大乱と、マリスの充実が必要不可欠であったのだ
650 :長崎県人:2007/08/06(月) 16:06:34 ID:2MxH4A12O
『まぁ、今となってはどうでもいい事かもしれませんがね・・・ところで少佐、口封じは?』
教授はあごで示した
『これにやらせるつもりだが?』
矢鹿は木野瀬を指差す
『では、これは私のサービスという事で』
教授が虚空に四角く指で切ると、そこが光りだす
『私らは、これを窓、もしくは門と呼んでおります』
その中から異形のモノが現れると、厨房の方へ。店の主人が居る筈だ
『ひゅぎゃあああああああっ!!!』
あっと言う間にブラッドバスの完成と言うわけだ
『感謝する』
『いえいえ、互いの成功を祈ってますよ』
教授は軽い足取りで店を後にした
『木野瀬、アレを処分しろ・・・憲兵司令部か?殺人事件だ。来てもらいたい』
木野瀬が異形を殺す間に、矢鹿は電話する。後片付けはこれで十分だ。ここで何が起こったかなぞ、誰もわからない
『あとは、機、か・・・』
どのタイミングで事を起こすべきか。海軍は赤城を失って戦略が狂い、次の手を模索している
『くっくっくっ・・・せいぜいあがけ海軍。戦争の行方は私次第だがな』
賊の子である私こそが、帝國の行方を握っている。これほど愉快な事があろうか
『くはっ!くははははっ!』
矢鹿の笑いは、店の中に響いて消えた
658 :長崎県人:2007/08/10(金) 13:22:14 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日、呉・聯合艦隊司令部
『よく来たな。まぁ座れ』
小沢長官の部屋に呼ばれた松浦は、備え付けのソファーに身を沈めた。小沢は冷蔵庫から氷とウィスキーを取り出す
『報告会では皆、意気消沈しとったよ。赤城は長らく在籍しておったからな。空母の一隻を失っただけでこのショックというのは、相変わらず貧乏性というべきか・・・飲め』
小沢はグラスを渡す。ロックだ
『空母はまた造ればいい、戦略はまた練り直せばいい。はまり込むともう終わったような雰囲気になるのが我々の悪い所だ。で、君の見直した戦略を聞きたい』
松浦はウィスキーを飲み干すと、その香りに心を落ち着かせつつ話始めた
『米国や英国からの外電を収集する限り、我々は戦争の相手として米国民に見られておりません。または米英の両政府は効率的に損害の隠蔽や軽減工作を行っており、米国民は未だ勝っているという意識が強いと思われます。敵の本土を日々爆撃しているのが大きいと言えるでしょう』
米軍も敗北の一部を、だから日本も必死なのだ、と、言い訳の一つとして利用している
『私は、そして日本は、米国が自分達との戦争を注目してみていると思っていました。その前提での戦略を立てていました』
659 :長崎県人:2007/08/10(金) 13:24:34 ID:2MxH4A12O
日本はその国力の低さから常に戦争は全力と見てよかった。だが、米国は違う
『だから先ず前提として、米国民の目をこちらに向けさせる必要があるわけです』
小沢はグラスに二杯目を注ぐ、さすが酒豪、ペースが早い
『フィリピン、かね?』
『いえ、違います。確かに米国民はフィリピンの動向に注目を向けるでしょう。しかしフィリピンは米国から遠く、我々日本が、多少巻き返した程度にしか思わぬでしょう』
相手の首ねっこを掴んでこっちを振り向かせるには足りないのだ
『まさか・・・!』
小沢は目をみひらいてウィスキーのグラスを置いた
『いくらかイタリアに取られてはおりますが、我が国の船舶数は一千万トンを越えております。これを使うならば』
太平洋の中心点にして米海軍の根拠地たる
『ハワイ準州のオアフ島を占領する事は、可能です』
松浦は言い切った
『準備に一年はかかるぞ?それに維持は別問題になる。陸軍との折衝も含めなければならない』
『一年あれば、損傷した伊勢級の修復や、東シナ海に展開している雲龍級六隻と代替する航空隊も用意できましょう。空母は現有二十隻全てを注ぎ込みます。これだけのものを用意するならば、陸軍も否は言いにくかろうと思います』
660 :長崎県人:2007/08/10(金) 13:26:29 ID:2MxH4A12O
伊勢級の修理には、同時に改修も行われ、一時期白根級に搭載される予定だった36センチ新砲塔(前盾400o、固定式)に取り替えられる事になっている。攻防走揃って14インチ砲艦最強を狙っているとの事・・・また金剛級の乗員が冷や飯を食っているが仕方ない(つい先日、砲身交換
ェ終わってた)ともかくそれが終わるのに一年。戦艦戦力もその全てを投入する。その他もしかり、紗那級も揃いぶみだ
『長官は言っておられましたはずです、戦は質もさる事ながら、量だ、と。今回の海戦でああなってしまった以上、出し惜しみは無しです』
小沢は頭を抑えた笑っている
『君は皆と逆方向にはまり込んだわけだな、まったく。だが、問題は海上、そして航空戦力だけとはいってられなくなる。ハワイのダイアモンドヘッド要塞を始めとする沿岸砲台はどうする』
松浦は頷いた。陸と艦が撃ちあえば、艦が不利なのは間違いない
『最近、正野重方という学者をお知りではありませんか?』
小沢は首を横にする。時事通信みたいなものである朝陽ジャーナルは購読しているが、学者に誰が居るかはまったくもって不得手である
『気象学者の方なのですが、面白い研究をしております』
『ふむ?』
小沢は興味を引かれた
661 :長崎県人:2007/08/10(金) 13:29:02 ID:2MxH4A12O
『人工的に雨を降らせる研究なのですが、化学的に上手く行きそうなのです』
史実では、どこかのだれかが降雨実験を1946年に成功させたらしい(スーパーストームっていう某国営放送の番組で言ってた)
『なるほど・・・!位置を変えられる艦と、変えられない砲台、及び観測所を考えるならば、雨天での砲撃戦こそその活路と言うわけだな!?』
小沢は膝をうつ
『はい!ある一定を越えた荒天下であれば、ハワイに展開するであろう魚雷艇等の小艦艇の行動を防ぎつつ、十分な砲撃を行うことさえ可能です』
一日だけでも上陸前にそんな日を作れればいい。そして制空権は先に述べたように、我が海軍が保有する二十隻の空母全てで維持して見せる
『面白い・・・面白い作戦案だ。気に入った。山本さんに上拝してみよう。多分両手を上げて賛成なさるだろう。あの人はハワイに行きたがっていたからな』
そして帝國の命運を分けるような賭博性、やらない筈がない・・・ちょっと待て
『松浦君、この投入数は君の発案か?』
『う・・・幽弥です』
そうだろう。松浦ならば本土に空母をいくらかは残す事にしていただろう
『やはり戦は人格よ』
男は時に手堅くなり過ぎる。時には別性の意見というのも悪くない
662 :長崎県人:2007/08/10(金) 13:30:53 ID:2MxH4A12O
『幽弥が言うには、全力で出ることになれば、閣下が出ばることになるから、気分的に悪くは言われないでしょう、と・・・』
松浦が冷汗をかいている
『そこまで読んだか、君のKAは・・・狐め』
『も、申し訳ありません!』
松浦が頭を下げる
『いやいや、私は褒めている。そう落ち込むな』
自分が司令部に篭らず、陣頭指揮をとる。確かに悪くない
『は、ありがとうございます』
『空母を欠いた状態でのフィリピンに対する防空体制の構築。減った陸軍戦力の内、本土にあるその殆どの部隊の動員。準備期間が一年でもキツい事には変わらないな』
出来なくはないだろうが、骨であることは確かだ
『しかもそれが前提ときた』
戦争はそれからだと松浦は断言した。そしてわし、聯合艦隊司令長官のこの小沢もそれに同意しようとしている
『いいだろう。振り向かせてやろうじゃないか』
大体、それでは今まで死んでいった米兵が哀れ過ぎる。彼等は何の為に死んだのか。そして彼等に勝つ為に必死だった我々は一体なんなのか
『松浦君、君は引き続き戦略を練ってくれたまえ。下がって良し』
『は!』
敬礼をして松浦は退出する。そこで小沢は思い出した
『あ、いかん。スイカを渡すのを忘れた』
678 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:05:53 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日・沖縄
『うそぉ〜』
『うそじゃないよ』
陸軍航空隊の待機室で、パイロット達が談笑していた
『俺達、少なくとも一機はそれぞれB公を落としてるよな、だから、俺達の戦隊だけでも27機は落としてる。この沖縄に居るのは、こっち(陸軍)の戦隊がみっつ、あっちが二つ、海軍の奴らが半分しか落としてないとして、108機は落ちてる』
『ふんふん、だからどうしたんだ?』
そのパイロットは髪の毛をくしゃっと掻き回した
『B公には10人ぐらいのヤンキーが乗ってるって聞いたんだが、それなら、少なくとも1080人のヤンキーが死んでるって事になる』
周りが海なこのあたりじゃ、制海権とってる俺達はともかく、アメリカの搭乗員達は死ぬか、捕虜になるしか無い。潜水艦は事如く討ち取られてるらしいし
『うそぉ?』
パイロットじゃなくとも、搭乗員が1000人以上失われても、あっちは爆撃を止めない。実際は死んでないんじゃないかと思うのも無理は無い
『うそじゃないよ!』
というより、実態はそれ以上だった。東シナ海の雲龍級、奄美の震電を中心とした海軍航空隊、九州各地の航空隊。縦深のある敷陣が待ち構えて居たのだから
『だったらなんで奴らは爆撃を続けられんだよ』
679 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:08:44 ID:2MxH4A12O
『知るか』
何度か本土への爆撃を許すようになったが、効果が薄いことは解っているだろうに
『っと、爆撃ごとに保有機数の半分を迎撃させると考えて、沖縄で60機、空母が50機〜6、70機、奄美が10〜20機、九州が・・・大体90機か、絶望した!あんまりな防空網に絶望した!』
『糸色、自重しろ』
頭を殴って、糸色と呼ばれたパイロットを黙らせる。
『おぉ〜い!』
ドタドタとまた別なパイロットが待機室に入ってきた。手には羊かんがたんまり
『おおっ!海軍の奴らのを盗んで来たな!』
あっという間に全員に分けられて懐に隠される
『士官室からたんまりよ、って、そうじゃない!海軍の奴ら、戦闘機がさらに増やされるそうだ!しかも、陣風が200機!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
いきなり最新鋭の戦闘機が二百機増える事になれば驚く
『これはもしや・・・』
『っ!知っているのか雷電!』
相撲オタクで、あの有名な相撲取りである雷電の事ばかりまわりに言っている事から、あだ名にまで雷電とつけられたパイロットに注目が集まる
『うむ。機数から言って空母の機体の転用に間違いあるまい。パイロットも海軍の中で腕っこきが揃っている。何かをやるつもりだな、海軍さんは』
680 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:11:26 ID:2MxH4A12O
『なにかってなんだ?』
『・・・俺にだって、解らないことぐらい・・・ある』
まぁ当然である。海軍がハワイの攻略に着手し始め、手始めに母艦パイロットの養成と共に航空隊を遊ばせないようにしようとしている等、彼等は知りようが無い
『迎撃に半分使うとして、全部で戦闘機が300機か?』
こんな所に爆撃をかけるなんぞ馬鹿げた話になるじゃないか。防御三倍の法則に従えば、千機爆撃でも行わない限り、全滅させられるだけじゃ無いか
『でもよ、こういう時は大抵』
また待機室の扉が開いた。戦隊長だ
『お前ら喜べ、黒江隊が、黒龍が来るぞ!バシバシ鍛えてもらうからな!』
黒江隊。少数生産に終わったハ44搭載型の疾風改を装備した、アグレッサー部隊であり、機体色は黒に統一されている
『やっぱり張り合うんですね、うちの軍は』
『どっちもどっちだろうよ』
パイロット達はため息をつき、そして思った。俺達はため息で済むけれども、連合軍の奴ら、涙目になるしかないんじゃなかろうか、と
航空自滅戦
米軍の爆撃継続に、日本側がつけた評価である。第三艦隊の艦載機が戦闘を開始する七月下旬から、在比米軍の航空部隊は、急速なカーブを描いて壊滅していく事になる
681 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:13:45 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日・ビッグベン地下
葉巻の匂いが充満するこの地下の空間で、チャーチルは苦笑していた
『我々の味方は、空母一隻沈めるのに狂喜乱舞する程弱かったみたいですな』
円卓に呼び出されて、ルーズベルトの様子を聞かれたチャーチルはそう答えて苦笑していたのだ
『チャーチル卿、戦勢を我々に傾ける為に植民地人を味方にしておいてそれは人が悪かろう。卿にそれを言うのは馬鹿げていると、理解はしているがね』
『極東の帝國があれほど戦えるとは誰も思っていなかったのですよ。トーゴーには我々のありとあらゆる支援があったが、今は無い。だから植民地人でも、手をかけずに勝てると我々は、そして植民地人も踏んだのですよ。これならば日英同盟を続けていた方がよかったかもしれませぬな
x
まるで人ごとのようにチャーチルはうそぶいた
『チャーチル卿、インドより東のRAFは既にフィリピンで壊滅状態。地中海・アフリカ戦線もマルタが落ちた事で、事実上敗退が決まったような物だ。増援も出せん。その為の合衆国参戦だったのだからな。どうする気かね?』
チャーチルは肩をすくめて、円卓の面々にさらりと言ってのけた
『いつもの行動を取ってもらえばよろしい。イタリアに』
682 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:16:04 ID:2MxH4A12O
『元々お歴々もそのつもりだったのでしょう?』
ドイツの東部戦線での敗勢が、イタリアを始めとする同盟国や支配地域の発言力を強めている。そこにイタリアは海戦での勝利を得て、ドイツの言いなりでは無く、自主的な戦なり外交なりを求める風潮が出来つつある。寝返らせるなら今だ
『・・・チャーチル卿、そこにヴィシーフランスも付け加えたまえ』
今度はチャーチルが目を剥く番であった。ヴィシーフランスが裏切ると!?
『ヴィシーフランスは今までの所、ナチスへの積極的な参戦を拒んできたが、そうはいかなくなった。しかし負けている軍に付きたい馬鹿はおらぬ。ここで我々に恩を売っておけば、戦後も安泰と考えるのは当然の話だろう。逆にそちらの方が、あの男より外交上では楽だ』
あの男、シャルル・ドゴールである。自由フランスで辣腕を振るう彼より、ヴィシーフランス政権の人間との交渉の方が与しやすいと円卓は考える訳だ
『確かに彼はヴィシーの連中の下にはつけそうにありませんからな』
頷くチャーチル。悪どいのはどっちもどっちである
『東・南・西と三方向から攻められてはドイツも堪るまいて』
チャーチルは気付いた
『しかしこれには、イタリアの日本人が邪魔ですな』
683 :長崎県人:2007/08/13(月) 22:18:06 ID:2MxH4A12O
欧州の枢軸陣営にとってアイドルになり過ぎている
『彼等は祖国に帰りたがっている。チャーチル卿、我々の腕は長くてね。アドミラル栗田とも我々は接触していた。フランスを通して間接的に、だがね』
これだから円卓の連中は・・・チャーチルは呆れた。なにがどうするのかね?だ、回る所には全て手を回しているじゃないか
『地中海での海戦に勝っておればこんな事はせずとも良かったろう。だが、負けた場合の行動にも手を回すのは当然の義務だよ』
チャーチルの心中の毒づきに答えるように円卓の一人は答えた
『それで、我々が支払うべきペイは?』
何事にもそれが必要だ
『輸送船団を一つ、彼等には油と食料が必要だからね。我々も必要だが、下手に居座られてこちらが失うものよりは少ない』
ロドネーを始めとして、多くの艦を失ってしまったが、自軍をもって瀕死のそれを倒そうとする愚は犯したくない
『始末は太平洋で植民地人が行うだろう。少なくとも大西洋で我々は関与しない。どう日本人が困難をはね除けるか見物だよ』
そこで円卓の老騎士達はため息をもらしたり、肩をすくめたりした
『一番の問題は、今、彼等でそれを動かす立場にいるのは、無名の一大佐に過ぎないことなのだよ』
691 :長崎県人:2007/08/16(木) 14:19:33 ID:2MxH4A12O
《志摩家の食卓byミスミの日記》
旦那様は、桂さんが言うには日本の人に珍しい朝はパン派で、そして最初にバターを塗ってから食パンを焼くのがお好みのようです。子供のころはそれに砂糖をふりかけて食べてたとおっしゃってました、贅沢です。何度か試しに食べてみるか?とおっしゃいまして、私もいただいたので
キが、砂糖のざらっ、焼けたパンの外側のぱりっ、バターとモチモチの中身のじゅあっとした感覚が嬉しい食べ物でした。でも、ちょっと甘過ぎるかな?
桂さんは完全な和食派、卵焼きか塩魚のひらきにおひたしかたくあんにご飯が毎朝の基本、とおっしゃってます。ちなみに私はヴァイスローゼンに居たころに、諜報関係の仕事をしていましたから、チーズ等日持ちの効く乾物系の食べ物が主食で、他に、歌うために喉を痛めないよう、喉
ノいいものを食べさせてもらっていました。蜂蜜が私の好物だったりします。利き蜂蜜なんかも出来たりします
ともかく朝は三者三様、桂さんも時々手伝ってくださいますが、お二人の食事を用意するのが私の日課になっています
昼には、ここイタリアに居るのもあってか、旦那様はかなり頻繁にピザを食べに行こうか、とおっしゃいます。かなり大好きな御様子
692 :長崎県人:2007/08/16(木) 14:21:23 ID:2MxH4A12O
旦那様が居ないときは、桂さんと野菜を中心にしたメニューであっさりした物を選んでいます。何故かは知りませんけれども、桂さんがキャベツを多めに噛りながら私の胸を見てきます。この前、貧乳はステータスなのよ!希少価値なのよ!とおっしゃっていたので、そうですね、大きい
ニ重いですし、桂さんくらいの大きさは目立たなくていいですよね(桂の脳内変換ボイス・巨でも貧でもない胸は不幸ですよね)と言ったらうわぁああああん、と泣きながら部屋に去っていったのと関係あるのかしら?
夜は本当に自由です。ご飯がつけばなんでも、といった所でしょうか。ただ、旦那様は片腕なので、ご飯を召し上がるときはおにぎりにする必要があります。ですから、おにぎりを握るたびに、少し心が痛みます・・・よくよく考えてみれば、朝昼の食事に片腕でも食べられる物が多くな
チたのはもしかして、私の心痛を和らげるため、なのでしょうか?
・・・志摩さん、お慕い申し上げております
『ミスミさーん、志摩が帰って来たわよ〜』
『はい、ただいま!』
日記をしまうミスミ、志摩が大使館から帰って来たらしい。出迎えなくては、最高の笑顔で、そして言うのだ
『お帰りなさいませ、旦那様』、と
693 :長崎県人:2007/08/16(木) 14:23:58 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日・甑島簡易飛行場
『遂に来たニダ』
『そうニダ、遂にウリ達の実力を見せる時がニダ』
『『ウェーハッハッハッ』』
再転移に伴い、帝國は帰って来た訳なのだが、実は、半島に居た朝鮮人パイロットの処遇に非常に困っていた。何せ彼等は数日前まで九七式戦や、九六式艦戦に乗っていた連中だ、いきなり紫電改や陣風、疾風や焔風に機種改変出来る筈が無い。しかし彼等はやる気を見せたため、陸軍は(
海軍のパイロットも陸軍預かりになった)焔風を与えたが
『き、機体の加速が早すぎるニダ!引き起こしが効かない!アイゴー!!!』
と、一機は海に
『き、機体の大きさを間違えたニダ・・・申し訳ないスミダ』
と、駐機の際に盛大にクラッシュして二機喪失
『ファッビョーン!誰ニダ!こんな所に防空壕掘ってんのは!(自分達)おっこちたニダー!!!』
支えが悪かった防空壕が崩落し、その穴に機体を嵌めてしまってまたまた一機喪失。さすがの陸軍も、ここまで来ると顔が引きつってくる。しかしニダー、めげない、悪びれない、反省しない。やる気だけは満々だった。だから陸軍は、あの機体を彼等に配備した
『電探にも探知されない傑作機ニダ』
『この機体で活躍して、ウリナラの誇りになるニダ』
694 :長崎県人:2007/08/16(木) 14:25:56 ID:2MxH4A12O
彼等は最新鋭機を渡されたと喜んでいるが、接着剤の開発がうまくいかず、かつ木製になったおかげで、速度は100キロ以上も落ちている代物だ。異世界に居る内はそれなりに存在の意味があった。もし異世界の大陸で資源がとれない、あるいは時間がかかるというときには、性能は下がっ
ても飛べる機体が欲しいというのは健全な発想である。それに基づき、木製機の研究も含めて造られた。しかし、採掘はうまくいき、木製機は必要なくなったあげく、帰って来たとあっては、性能も問題になってくる・・・埃被ってキノコが生えていたのを、彼等に与えたのだ(さすがに取
り替えられる部品は入れ替えたが・・・)
『ウェーハッハッハッ、それで中隊長ニム、ウリ達の任務は何ニダ?制空任務ニカ?』
『潜水艦狩りニダ、味方が落とした敵のパイロットを救助に出てくる潜水艦を狩るニダ戦隊長様から、お前達にしか出来ない任務と言われたニダ!』
『それは誇らしいですね、ホルホルホルホル』
勿論、海軍の駆逐艦を始めとして潜水艦狩りをやってはいるが、それを本職でやる航空隊は未だなかった(東海は給油・偵察機扱い)それに、救助を行ってる相手を撃てるか!といった意見もあり・・・幸か不幸か、彼等にその白羽の矢が刺さったのだ
695 :長崎県人:2007/08/16(木) 14:28:00 ID:2MxH4A12O
『ふっふっふ、だからお前は甘いニダ、心の広い戦隊長様はそれだけでなく、なんと!機体の色も好きにしていいとおっしゃって下さったニダ』
『ということは、ウリナラの国旗も自由に描いていいし、機体を真っ赤に塗っても良いニカ!?』
『その通りニダ!』
彼等はわかってない。下手をすると漂流中の敵パイロットを撃たねばならないダーティな任務、それに従事していた人間をはっきりさせるつもりなのだ。機体色を明らかにするのには、このほかにも潜水艦に対して自機を発見されやすくし、敵潜水艦を潜航させ、パイロットの救助を妨害
キる意があった
『『ウェーハッハッハッ!!!ウェーハッハッハッ!!!』』
勝ちに乗った彼等の働きは目覚ましい(統制は取れてないが)二十機の木製疾風によってこの七月から半年の間で潜水艦の撃沈戦果三隻をあげ、救助作業の妨害効果著しく、味方からはハゲタカ、あるいはカラス(決して良い意味では言われてなかったようだ)と呼ばれ、敵からは機体色から
アう言われた。
赤い悪魔、レッドデビルズ、と
703 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:25:37 ID:2MxH4A12O
1942年7月1日プラハ
『ふぇっくし!』
志摩は大きなくしゃみをした
『風邪ですかな?』
隣に居るハイドリッヒがハンカチを差し出す
『いや、失礼。誰かが私の噂をしたらしい』
フランスのノートルダム寺院に行く為に欧州歴訪を始めた志摩達であったが、イタリアからベルリン行きの列車で移動するなか立ち寄ったプラハで、このハイドリッヒの誘いにあい(総統閣下への目通りを受けた方が動きやすいと言われた)、二週間の逗留を行っていた
『・・・』
桂はチェコに来て以来、むっすーとだんまりを決めている。まぁ仕方あるまい。桂の親父さんが死ぬ原因になったのは、ここ、チェコの兵救出を名目に行われたシベリア出兵なのだから。そしてプラハに来て初日にあれを見てからは、ハイドリッヒに嫌悪をしているようだ
『お父上を知る人物がなかなか見つからず申し訳ありません』
『お心づかいに感謝します・・・桂!』
『・・・ありがとうございます、閣下』
桂の慇懃な言い方にハイドリッヒは肩をすくめる
『嫌われてしまったようですね』
志摩達がプラハに来て見たもの・・・プラハは尖塔の多さから、百塔の町と呼ばれるが、そのいくつかの尖塔の先に、死体が突き刺さったままだったのだ
705 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:28:40 ID:2MxH4A12O
『いささか治安が悪化しましてね、見せしめとして置いてあるのですよ』
ハイドリッヒは志摩に説明を求められると、笑ってそう答えた。これで完全に桂の不興を買った。ミスミは異世界で見慣れた、というよりかはよく知った方法だったし、志摩も嫌悪はしたが、歴史的に欧州じゃ絵に描いてでも縛り首を残したりしている事を知っているので、ハイドリッヒ
ノ対しては三人の反応に温度差が生じていた
『化粧品や、衣服のショッピングはお好みではないのでしょうか?』
ちなみにこの一週間、そのシベリア出兵で救ってくれた日本の軍人(その娘)と、ドイツの軍人が手を取り合って歩いているというポーズをプラハ市民、ひいてはチェコの国民に見せ付ける為に、ハイドリッヒと一緒に出歩く事が殆どだった・・・自分の父の事を利用されれば、不機嫌にな
驍フはしょうがないだろう。あてがわれたハイドリッヒの屋敷の部屋で、ストレス解消に枕を投げつけられたり、殴られるのはしょっちゅうだ
『結構です』
『桂!』
『いいんですよ、なかなかベルリンからの返事もありませんし。だいぶ長い間、あなた方を引き止めてしまっていますから』
ハイドリッヒは頭を下げる。しかし、その頭の中では別な事を考えていた
706 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:30:46 ID:2MxH4A12O
1942年6月27日・ベルリン
アララがゲーリングと共に総統官邸に訪れるようになって一週間が過ぎていた
『ふぅ・・・お眠りになられましたわ』
アララは額の汗を拭うと、ゲーリングに報告した
『うむ・・・最近、少しは眠れるようになったと総統閣下はおっしゃっておられた。感謝しておるよ』
もはや旦夕に迫っていたヒトラーの容体であるが、アララの施術によって回復の兆しを見せていた
『しかし、一気に払うとかは出来んのかね。いや、厄介払い等とんでもなく。エッダとはよく遊んでもらって感謝し切れないくらいだが、私は魔術には疎い』
確かに疑問だろう、アララは答えた
『ゲーリング閣下には見えないでしょうが、死んだイギリス魔女どもの魂が、総統の身体からその魂を引き剥がして持って行こうとしています』
魔女達の姿は死んだときのままで潰れている。見せられたもんじゃない
『それを総統の魂から魔女だけをはがして、やっつける必要がある訳です。ですが、私が一気にイギリス魔女どもの魂を剥がすような魔術を使った場合、総統の魂まで身体から剥がしてしまうのです。それじゃ元も子もありません』
ヒトラー総統を殺してしまっては意味が無い。魂の分離に手間がかかるのだ
707 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:33:05 ID:2MxH4A12O
『意外と手間なんだな』
ゲーリングは嘆息した。聞く限り、紅茶に交ぜたミルクだけを取り出すような作業らしい。難儀なもんだ
『手間でなかったら、廃れてませんわ』
ましてや、キリスト教を始めとして、世界各地でマリスはほぼ完全に封じられてしまった(独占とも言う)この状態では本当に高位の人間でなければ術は使えない
『とはいえ、今はちょっとおかしい状態なんですけどね』
エッダちゃんも私が魔力を封入した(結構疲れる)箒だったら飛べたし・・・ゲーリング閣下まで飛んでみたいというのは正直閉口したけれども、少し浮いただけで子供みたいに物凄くはしゃいでいた。もっと飛べるようにとモルヒネを一切止めて、ダイエットにすら励むようになったのは
{当に予想外だったわね
『さて、今日はどうするね?ホテルまで送らせるが?』
そして閣下は本当に良くしてくださる
『はい、失礼させていただきますわ』
『そうか、では総統』
ゲーリングは寝ているヒトラーに静かに手を挙げて礼をし、退出する。その後にアララも続く
『おお、ヒムラーではないか、こんな時間にどうした?』
『ハイドリッヒから閣下に報告があってな』
アララはヒムラーに違和感を得た
『閣下はお休み中だから』
708 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:35:16 ID:2MxH4A12O
『狗の匂いがしますわ』
ゲーリングの言葉の途中で、アララは唐突に言った
『い、いきなりなにを言いだすのかね』
そしてヒムラーの言葉にゲーリングは凍りついた
『ハイドリッヒから報告があってな』
まったく同じトーン、同じ息継ぎ、同じ表情でヒムラーは同じ事を言っていた。こいつ・・・ヒムラーではないのか?
『尻尾が隠れていなくてよ』
アララの言葉に、手を尻にあてるヒムラー、しかしそんなものは無い
『誰に使役されてるか知れないけど、何のつもり?』
グルルルルッ!!!
ヒムラーは伸びた犬歯を向きだしにすると、あとずさった
『ま、ただ任を遂げるだけがあなたの役割だから、仕方ないとは言え・・・無謀ね』
アララはどこからともなく大鎌を取り出す
『アララ!』
『わかってます。殺しはしないわ』
それでもこの魂を刈り取る鎌の事、多少寿命が縮むかもしれない、でも、早急に分離しないと結局は同じ事
『残念。運が悪かったわね』
グゥルアオーッ!!!
ヒムラーがアララに向けて跳びかかってくる。アララはそれを軽ろやかに避けるとヒムラーの背中を撫でるように鎌で一閃した。そして切り離された何も無い空間をダンスでも踊るように切り裂いた
709 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:38:54 ID:2MxH4A12O
キャイン!キャイーン・・・
犬が負けたときに放つような声が部屋にこだました。アララはふぅと息をついた
『よほどの術力を持つ人間でないと、死物あるいは死にかけ、腐れかけに取り巻く物であるマリスは使えない、知り合いにこんな事する奴は・・・』
『おい!大丈夫か!?』
倒れたヒムラーをゲーリングが揺さぶる
『・・・っ!?閣下!離れて!』
ヒムラーが手に持っていた報告書が紅く光る
『なっ!』
むくりと四つん這いで起き上がったヒムラーはヒトラーの部屋へと突進しようとする
『閣下の部屋に入れてたまるか!』
ゲーリングが咄嗟に倒れ込むようにして押さえ込む。ダイエットを始めたとは言え、100キロを越える体重だ。細身のヒムラーに払いのける力は無い
『ぐえっ』
ゲーリングの体重にヒムラーは潰れる
『ヒムラー!観念しろ!』
『まだです!』
報告書がしゅるしゅると飛んで行き、ヒトラーの部屋へ。アララが走りこんで、その大鎌を振るう
ギャヒィィィィィ!!!
断末魔の叫びを残して、紅い光が天ヘと帰っていった
『遅延式の術、手のこんだ事ね』
床に落ちた報告書をアララが取ろうとする。そこに甲高い怒鳴り声がかけられた
『何をしておる!』
710 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:42:09 ID:2MxH4A12O
そこには寝起きでイラついているヒトラーの姿があった。アララとゲーリングは硬直する。はたからみれば、自分達はヒムラーを押さえ付けて報告書を奪っている形になる・・・なにかしら疑われてもしょうがない
『なんだ?報告書か、見せてみろ』
恐縮するアララからヒトラーは報告書を奪う
『閣下!いけません!それを読んでは』
ゲーリングが制止するが、もう遅い
『ん?ハイドリッヒから日本の海軍士官が欧州を巡るので、ポーズにも一度お目通り願いたいとあるだけではないか』
ヒトラーは寝起きから頭を覚醒させてゲーリングを見直す。何をしてるんだ、こいつは
『ゲーリング、お前は何をしているのだ?』
『ゲーリング閣下はヒムラー閣下を不法進入者と勘違なさいまして。先程痛みが悪化したので、閣下への対面も終わりました故、モルヒネを射ったのですが、私が量を間違えてしまい』
咄嗟にアララは状況を取り繕った
『お、おお!ヒムラーではないか!』
ゲーリングもアララの嘘に合わせる。下手くそだが
『・・・余の治療の時に間違えるのだけは勘弁してくれたまえよ。ゲーリング、お前ももうモルヒネは控えろ、幻覚まで見だしたらおしまいだぞ』
『はっ!わかりました、総統閣下!』
711 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:44:48 ID:2MxH4A12O
『まぁいい、余はもう少し休ませてもらおう。いつもより気分が良いからな。ヒムラーにはこの件、考えておくと伝えてくれ』
そう言うとヒトラーは扉の向こうへ消えて行った
『ハイドリッヒ・・・あの若造か』
『ゲーリング閣下、今その方を近づけるのは危険です。もう少し解呪が進むまでは』
人を操る術にたけている。明らかにその男は総統に何かを掛けるつもりだ。それを跳ね返す上でも、ヒトラーの復調は大事だ
『・・・出来るだけはやってみよう。しかし、閣下が会うと言い出したならば、止めようが無いぞ』
『その時は・・・私が出ましょう』
これだけの力、調べないなんて事は出来ない。直接顔も拝んでおくべきね
『・・・頼む。閣下に手出しはさせん!さて、ヒムラーはどうしたもんか』
完全にのびている
『適当な所で兵に預けましょう。酔い潰れたとでもして、閣下はアルコールを?』
『大丈夫だ、理由にはなる。この腹はビールで出来たようなものだからな』
アララはゲーリングと色々と確認する。あれこれ手間暇がかかることは確からしい
『閣下にシオネの御加護を』
『君にもな』
それから二人は、ハイドリッヒに対する調査と足止めをし始めたのだった
712 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:47:09 ID:2MxH4A12O
そんなこんなで、ハイドリッヒは自身の計画が失敗している事を知らぬ為、何故とどめ置かれて居るかを理解していなかった。が、これほど間があけば気付く
『・・・しくじったか』
何か別の手を考えるしかあるまい
『ん?なにか?』
『いえ、しかし志摩大佐、奥方とは長いので?』ハイドリッヒは話を反らす
『結婚してから、となりますと七年になりますか』
本当に付き合いだすようになってからは十六年になるが
『いい頃合いですな、若い夫婦には深さが無い、しかれども老いた夫婦には未来が無い、さぞかし愛し合って居るのでしょう?』
『い、いやまぁ、あははは』
つまり、殺し時という事だ、どちらか、あるいは両方を互いの目の前で死なせれば(無論即死では無く、ゆっくりと)恨みと無力感、そして後悔で、いいマリスの苗床となるだろう。あとは刺客として送り込む。ヒムラーを操るのに使った、死にかけの犬に取り付いたマリスをわざわざ引き
高ェして報告書に仕込むやり方より、冗長性を持たせられる。この夫婦が命令を拒否する事はできない、なぜなら私はマリスを引き剥がせるからだ。引き剥がせばそれはほぼ完全な死(本能的な原形は残る。犬は命令を遵守した)逆らう事など出来はしない
713 :長崎県人:2007/08/18(土) 22:49:30 ID:2MxH4A12O
問題はどこで殺すか、だな。これだけ宣伝した以上、チェコ国内では少々まずい
『そういえば、シベリア出兵では、ポーランドの難民も保護していたと聞きます。もしや、お父上が関与なされていたのは・・・』
ぶっきらぼうに桂は答えた
『わからないわ、本土の母に聞かない限りは』
これは好都合、ハイドリッヒの口角があがる。ポーランドにはイエジキ部隊を始めとする抵抗勢力があって、必ずしも安全とは言えない土地だ。
『では、我が国より先にポーランドへ向かってみては如何か?これ以上旅のさなか留め置く訳にも参りませんし、私もさらに手を尽くしましょう』
『なにから何まですみません』
志摩が頭を下げる
『いえ、よろしいのですよ』
私の手駒になっていただくのですからね
『では、私の屋敷へ戻りましょう。善は急げです。明日にでもポーランドへ発ちましょう』
『わかりました。ミスミにも伝えておきます。ま、彼女に任せておけば用意はすぐですよ』
彼女は今、我々をもてなしてくれているハイドリッヒの奥方の手伝いをしている
『では、今晩はごゆっくりなされませ、移動中はなかなかゆっくり出来ませぬからね』
ハイドリッヒは笑った、せいぜい最後の逢瀬を楽しむがいい、と
719 :長崎県人:2007/08/20(月) 19:12:25 ID:2MxH4A12O
米海軍艦政本部某所
『ボフォースの連装砲塔・重防楯化は進んでおるかね?』
『はい、この度就役するマサチューセッツからの装備になります。他の艦も順次・・・しかし追随速度はかなり遅いものに』
本部の人間はため息をついた
『水兵の数が足りん。錬成時間も限られている、今は考えなくていい。直接防御が優先だ』
『はっ!』
また別なデスクでは
『駄目だ駄目だ!貴様は馬鹿か!戦艦一隻に2000人も使うなんぞ論外だ!500は削れ!出来ない?日本は長門級をそれだけで動かしているぞ、貴様は日本に出来て、合衆国は不可能だと言うつもりか!?頭ブチ抜くか、首括るか、辞表出すかしろ!ん?誰だ!クリーブランド級を計画の1200
名のまま出した奴は!200削れと言っただろうが!そんなに野郎を乗せたいか!?ホ◯野郎!』
随分な言いようである。そこに彼等の上司が入ってきた
『聞いてくれ!残念だが20oはF6Fに取られた。艦の近接防御には28oを使う。そっちの図に変更してくれ!』
ため息が各々から漏れた、しかしそれだけでまた作業を再開した
今は一艦でも多くの艦を
本土に居る我々が、前線の水兵達の為に出来ることはこれしかないのだから、と、彼等は信じていたからだ
720 :長崎県人:2007/08/20(月) 19:14:11 ID:2MxH4A12O
一方、米航空本部
『これは・・・どうにかならんものか』
海軍は先のウェーク島を巡る戦いまでで、母艦機の1000人に及ぶ空中勤務者を、陸軍は2000人(フェリー及び戦闘機分の損失も含む)近い空中勤務者を失っていた。史実の英軍が、終戦までにアジアで失った空中勤務者が5000人弱である事から見て、半年足らずで失っていい数ではない
『我が国が空中勤務者として出せるのは十万人が限度だろう。その3%が失われてしまった』
おおよそ三割減で全滅判定とすると、このままではあと三年四ヶ月で合衆国の航空戦力は全滅する。いや、十万人とは動員と訓練を終えての話であるから、現状は全滅一歩手前としか言いようが無い
『なんとか日本機に対抗できる戦闘機を送り出してやらねば』
爆撃機の護衛さえうまくいけば、損失は減るのだ
『艦政本部から20oが取れたのは何よりだったな』
ブローニングでは、なかなか落ちないという事は無くなるだろう
『これでなんとかなってくれるといいが』
イギリス本土でも馬鹿にならない機体と乗員を失っている。そちらへの機体とパイロットの分配も行わなければ・・・頭痛の種は無くなりそうに無い・・・くそっ
『このままでは我々は空でも負けてしまうぞ』
726 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:26:29 ID:2MxH4A12O
1942年7月3日・ワルシャワ行き列車、貴賓室
結局の所志摩一行は、列車の都合もあり、一日開けての出発となっていた
『ハイドリッヒ閣下は至れり尽くせりで、申し訳なかったな』
志摩はゆったりとくつろいでいる
『あたしは清々したわ、なによあいつ。なんか気味も悪いし、人の事にづけづけと・・・志摩も喋り過ぎ!』
『下手に隠すべきではないだろう、何かしら怪しまれてしまうかもしれないし。それにチェコにせっかく居るのだから、桂の親父さんの事、俺も調べたいと思っていた』
二人には、本当に小さい頃の思い出にしか桂の父は存在しない
『どんな人であったかは桂だけじゃなく、俺も知りたかったんだよ』
それが、桂を自分の伴侶とした自分の義務だと思ったから
『む〜』
そういわれると強くは言えない
『・・・?ミスミ、どうした?』
志摩が問い掛ける、なにやらずっと考え事をしている
『はい?あ、いえ、なんでもありません』
ミスミの返事には、桂の方が驚いた
『めっずらしーわね、ミスミさんが上の空なんて、調子悪いの?』
でこに手をあてる
『女中さんのつもりでミスミを傍に置いてるわけじゃないんだから、働き過ぎはいかんぞ、桂にやらせたっていいんだからな』
727 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:28:12 ID:2MxH4A12O
『いえ、病気とかそういうわけでは・・・』
恥ずかしがりながら、桂の手をどけるミスミ
『ただ・・・』
ミスミが口ごもった
『ただ?』
さらに問おうとしたその刹那だった
ドゴン!!!
何か鈍い激突音が聞こえてきた
『あ、ああっ、アアアア゛ーッ!!!』
ガシャーン!!!
そして絶叫と、ガラスの割れる音
『二人ともここに居ろ・・・何事か!!!』
この列車の貴賓室には、部屋に繋がる通路に兵を二人、そして通路を出た隣の車輌の入口に二人の兵を護衛として貸してもらって居た
『・・・っ!』
隣の車輌の入口の窓が、血で真っ赤に染まっている。通路に居た兵二人もア然としている
『戦闘用意!構え!』
志摩の命令に我に帰って護衛兵も小銃を構える。志摩も拳銃を取り出す
ガララララッ
扉は唐突に開かれた。そこに立っていたのは、頭部を布で纏った、血まみれのドイツ兵。武器は持っていない
『誰か!』
誰何する、しかしそれは答えない。扉の向こうには、死体が一つ転がっている
カツ・・・カツカツカツ
軍靴の音を響かせて、そのドイツ兵は向かってくる。背筋が凍った
『撃て!撃てーっ!!』
志摩は命令を下す、アレは・・・危険だ!
728 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:29:59 ID:2MxH4A12O
パン!パンパン!
護衛の兵も同じく恐怖を感じたのだろう。モーゼル小銃が火を吹く。しかし倒れ臥すはずの強襲者は、今尚近づいてくる
『お、う、うわぁあああっ!!!』
パン!パン!パン!
前の方に居た護衛兵が銃を乱射する。しかし強襲者は意に介する事なく拳を振りあげた
グキャ!!!
護衛の彼の頭が文字通り、潰される。なんて事だ
『ば、化け物!化け物!!!』
生き残りの護衛の一人は逃げようとするか、戦おうとするか迷い、逃げようとしてソレに捕まった
『は、離せ!離せぇっ!ギャアアアアアア!!!』
首を180度回転させられ、彼は絶命した
『志摩さん!』
ミスミが後ろから来ようとする
『来るな!!!来るんじゃない!!!このっ!このおっ!』
タン!タン!タン!
やはり、というか小銃が効かない相手に拳銃をいくらブチ込んでも無意味だ
『志摩さん!動かないで!』
ミスミが投げナイフを投げる、ほとんどが少し刺さっただけでポロリと落ちる。唯一の戦果は、頭の布を切り裂いた事。そこから出て来たのは・・・
『ぐっ・・・』
顔面を撃ち抜かれた状態の頭部、正直グロい
『・・・ローマのあれと、御同類という訳だ。まいったね』
729 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:32:34 ID:2MxH4A12O
志摩は相手をそれと無しに読んだ。しかし、あの時は車もあったし、逃げ込む場所もあったが、この閉鎖された列車内。身体を引きちぎるだけの威力がある武器も無い・・・絶体絶命だ
『ミスミ、戻って窓から外を調べろ』
志摩は後退りつつ覚悟を決めた
『志摩さん!』
『屋根に登れそうなら、桂を連れて逃げろ!俺が食い止める!』
拳銃で牽制する。奴に火器は無い、それだけが救いだ
『行けっ!片腕じゃ壁は登れない!』
『ですがっ・・・!』
ミスミが頑固に踏みとどまる
『投げナイフよりかは、短刀の方が敵の身体は切れるさ!』
あの系統の敵は、断ち切らなければ意味が無い。投げて刺突する事が目的の投げナイフより、切る為の短刀の方が確かに適任だった
『行け!!!』
奴が近づいてきた。もはや振り向いたり、喋ったりするような余裕は無い
『必ず戻ってきます!ですから・・・!』
『ああ・・・!』
ミスミには、生きていてください、というそれが言えなかった。この場に残るという事は・・・
つつ・・・
噛んだ唇から血が流れる。断腸の思いとはこの事を言うのだろう
『さぁ来い化け物!相手してやんよ!うおおおおおっ!!!』
後ろから、志摩の雄叫びがこだました
730 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:35:37 ID:2MxH4A12O
『桂さん!』
『ミスミさん!志摩は!?』
ミスミが出るときに桂は車輌の奥に隠れるように指示した為、置いてあるソファーの影から桂が首を出して聞く
『窓を!逃げますよ!』
ミスミは窓を開けて列車の外壁を確認する。向こう側ならば・・・いけそうだ
『志摩は!?』
『足止めをなさってくれています』
なるべく勤めて冷静さを装ってミスミは答えた
『足止め・・・って、あの身体で戦える訳ないじゃない!何の為にミスミさん向こうに行ったのよ!!』
一筋だけ、ミスミの目から涙がこぼれた
『敵は・・・ローマのあれと、同じ種類の敵なんです・・・!』
『そ、そんなっ!』
じゃあ、志摩は命を賭けて私たちを・・・!
『さ!登ってください!でないと私も、志摩さんを助けに行けないんです!』
それが約束だから、志摩さんとの
『早く!』
『・・・わかったわ』
桂が窓枠を掴んで外を見る。夜の闇に吸い込まれそうだ
『足元をきちんと確認してくださいね』
『ええ、わかっt』
ガッシャーン!!!!
通路への扉を突き破って、薄汚れた白い物体が投げ込まれた。桂が見紛うはずが無いその物体。桂は絶叫した
『志摩っ!!!』
その声に反応して、それは桂の方を向いた
731 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:38:50 ID:2MxH4A12O
『馬鹿・・・早く逃げろ・・・』
志摩は咳込みつつそれの足にしがみつく。化け物の胸には志摩の短刀が突き刺さったままだというのに、それは悠然と歩いてくる。しがみついた志摩をそのまま引きずったまま
『あ、あたしの志摩を・・・よくも、よくもぉぉっ!!!』
『桂さん!ダメです!』
逆上した桂が化け物に殴りかかる。ミスミが制止するが、一歩遅かった
『桂!来るなっ!!ぐああああっ!』
『きゃあああっ!!!』
化け物は志摩のしがみついた足を振り上げて、桂を志摩ごと吹き飛ばした。志摩がクッションがわりになって、桂が直接蹴りを受けなかったのが幸いといえば幸いだった
『つ・・・志摩っ!』
『桂、逃げるんだ・・・早く・・・!』
『そんな事、出来る訳ないじゃない!』
桂が志摩を抱きしめる
『くっ・・・効果が無い!』
ミスミがありったけの投げナイフを投げるが、奴は歩みを止めない
『頼む・・・桂だけは・・・助けてくれ』
志摩がフルフルと力を振り絞って、哀願しながら桂を少しでも後ろへとやろうとする
『お願いだ・・・後生だから・・・』
それが拳を振り上げる。トドメを刺すつもりなのだ
『や、やめて・・・そんなの・・・い、嫌っ!嫌ぁああっ!!!』
732 :長崎県人:2007/08/23(木) 17:40:38 ID:2MxH4A12O
志摩に迫る死に、桂が悲鳴を上げたその時だった
ドゴァッ!!!
貴賓室の屋根が、左から半分近く吹き飛ぶ。さすがにこの爆発には、化け物も体勢を崩して尻餅をついている
『あっちゃあ・・・さすがに一気に外から纏めて倒すのは、話がうますぎたわね』
破孔から箒に乗った女性が入ってくる。アララだ
『志摩っ!志摩っ!?』
桂は志摩にしがみついている。爆発で志摩は気を失ったらしい。
『なんだ、まだ化け物になってないみたいね。運がいいですわ、危うく纏めて吹き飛ばす所だったし』
志摩と桂は床に座り込んでいたからアララには見えていない。だから、ミスミには被害が極力かからないようにとは考えたが、まともに試製(量産は1943年から、ゲーリングが回してくれた)パンツァーファウストが命中した場合、志摩と桂も死んでいたはずだ
『な、何者です!?』
ミスミが身構える。ワイバーンからならともかく、人が箒に乗って降りてくるなんて
『とりあえずは味方』
アララは笑った
『さぁて』
化け物が起き上がる
『さっさと終わらせましょうか』
もう一本持って来ていたパンツァーファウストを軽やかに構える
『はい、さようなら』
そして再度の爆発が、列車を揺るがした