400  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:44:33  ID:2MxH4A12O
1942年6月7日、チェコ



タァーン!!!


この日、ラインハルト・ハイドリヒの人生は終わりをつげた筈だった
『どうして私が・・・こんな終わりを・・・』
彼は若く、有能で、SS、そして第三帝国そのものを引き継ぐとすら言われていた。しかしそれは生きていてこそだ
『認めない・・・認めてたまるものかぁ・・・!』
自分の血の池で這いまわるハイドリヒ。暗殺者達は、彼を史実のように即死させることが出来なかった。故に彼は目をつけられた、マリスの渦の中に生まれた意思に
人の負の意思によって具現化された存在。どの世界に於いても人の意思と同じき悪神は存在する。欧州で多くのマリスを吸ってきた渦が生み出したのは、悪魔と呼ばれる存在であった


そんなにお前は生きたいか?


ハイドリヒに《それ》は問い掛けた


妬ましいか?生きる者達が、悔しいか?権勢をふるえぬ事が


『ああ・・・!』
そうハイドリヒが叫ぶと、赤い光の渦が柱となり、ハイドリヒを貫いた


ならば授けよう。我が倦族を、そして欲望のままに生きるのだ。彼の者は、お前の国を助ける力を持つ・・・更なるマリスの波動をもたらし、わが依り代を!我が名はアスモデウス、汝の主なり!  


401  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:46:17  ID:2MxH4A12O
『我が名はブネ・・・アスモデウス様の意のままに・・・』


光が消えたあと、ハイドリヒはすくっと立ち上がった


『い、一体なにが!?こ、こいつ!まだ生きて!』
『馬鹿な!確かに致命傷を!』
銃を構え、ハイドリヒを取り囲む暗殺部隊
『撃て!撃てぇーっ!』


ウゥオオオオーッ!!!


ガキンパキンガキン!


放たれた銃弾は、ハイドリヒの雄叫びと共に弾かれる
『我が魂の鎧はヒスイ、その程度の攻撃で、砕けると思うてか!』
ハイドリヒの背後には三つ頭のドラゴンが浮かび上がる。異能となってしまえば、四肢を断裂する攻撃でない限り、意味がない。そして彼は、ブネの特徴であるヒスイの硬度を手に入れていた
『な!効いてないだと!?』
『一人では面倒だな』
唖然とする暗殺部隊を尻目に、ハイドリヒは護衛についていた軍曹(即死)に近づく。手をかざすと軍曹は脳が飛び散ったそのままの姿で起きあがる。そう、ブネの能力は死者を操ること
『なるほど、我がドイツを救うという事はそういう事か』
ハイドリヒは笑った。東部戦線は人が死なぬ、死人が動く、といった面で両軍に被害が増え、人員に劣る我が軍が敗退を繰り返している。では、私が死者を操るならば?  


402  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:48:42  ID:2MxH4A12O
『くはっ!くひゃひゃひゃひゃ!!!』
死人が戦い、死人が死人を生む、勝利も敗退も我が糧とする。なんと効率的な事か、そうなれば国防軍も俺に従わずにはいられまい。政治的にも東部戦線を勝利に導く俺を無視できる訳が無い。笑いが全くとまらない。そうだ、この力はオカルト趣味で引き篭ってるヒムラーに付き合って
ト手に入れたとでもすればいい・・・!よく考えてやがる、あの男なら死体にせずともいくらでも操れるしな、ふふっ!ふははははは!
『ひ、退けっ!退けぇっ!』
ハイドリヒ暗殺部隊は異常事態に撤退を決定した、が、遅かった
『この力、どれほどのものか、貴様達に試させてもらおうか!アーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!』
ハイドリヒの目が紅く染まる。その人外の力で暗殺部隊が、文字通りバラバラにされるのに、あまり時間はかからなかった・・・


こうしてナチスの中枢に、東部戦線の巻き返しと引き換えに、あってはならない狂気がもたらされようとしていた  


403  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:51:20  ID:2MxH4A12O
1942年6月7日、ホワイトハウス


『我が軍は本当に戦争が出来るのかね!!!』
イタリア海軍との海戦の敗北を聞き、ルーズベルトはそう叱責したと議事録に残されている
『イタリア海軍が予想外の戦法をとったのです。日本の戦艦は残念ながら沈められませんでしたが、イタリアの戦艦は二隻を撃沈しております』
フォレスタルの報告に、ルーズベルトはこつこつと机を指で突いた、イラついている
『今度の撃沈戦艦は田中に、家康、秀吉、だったな?』
戦艦平沼に引き続き、架空の日本戦艦のラインナップだ
『はい。被害を小出しに発表し、戦果を挙げたことを新聞社に細工していれば、特に問題ありません。株価自体はストップ高になっております』
新聞社への工作は、好調に行われていた。事実、史実の湾岸戦争まで記者達は軍からの情報を受けるだけだった。故に新聞社を始め、情報を受けるだけの民衆は、苦戦しながらも米軍は奮戦している、としか思っていない。実態はそんな物だ
これを打ち崩すには、余程の死者が出なければどうにもならない。現状では陸上戦が行われている訳ではないので、海軍の将兵という技術者集団はぼろぼろだが、数的に見れば、アメリカにとって蚊がさした程度だった  


405  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:53:20  ID:2MxH4A12O
『それより閣下、今後の増艦計画はご覧に?』
『ああ、大型艦だけな』
ルーズベルトは資料を取り出した
『戦艦二十六隻、出来るのかね?』
『既に起工がなされているアイオワ級六隻、モンタナ級五隻は45年までには揃います。計画で隻数が縮小するエセックス級空母八隻分のドックで、サウスダコタ級六隻、並びにフロリダ級四隻を建造します。その分エセックス級は45年までに九隻しか揃いませんが、護衛空母の三十四隻を
Lャンセルして造る十二隻の高速軽空母、並びにインディペンデンス級九隻で、補充は効きます』
ルーズベルトは唸って念を押した
『これが本当に45年までに揃うのだね?』
『はい。フロリダ級は二隻が一年ずれ込むかもしれませんが。鋼材も最悪の場合、既に起工しているバルティモア級四隻を除く十〜十八隻分の縮小も考慮の内です』
アラスカ級の三隻減や二百隻の駆逐艦の減も考えれば、十分やれる。フォレスタルはそう踏んでいた
『少々空母が気になるがな』
『大丈夫です。航空基地自体は、フィリピンとシナに確保してあるのですから、陸軍の協力さえあらば、日本の航空戦力はそう動かせません。我々は奴らの戦艦を打ち破る事に集中すべきです』
フォレスタルは言い切った  


406  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:54:42  ID:2MxH4A12O
『わかった。海軍は最優先で戦艦を造るよう、大統領命令として出そう』
ルーズベルトは腕を組んで頷いた
『ありがとうございます』
フォレスタルは微笑む。大統領の応援があるとなれば、工期の短縮も幾らか楽になる
『それで、陸軍の努力というのは、例の爆撃機かね?』
『はい。ボーイングBー29、スーパーフライングフォートレス。エンジンの選定に戸惑っておりましたが、高空性能を取り除きましたら、全ての要求を満たすという事なので、既に五百機を発注したとの事。この機ならばシナの南京から、日本全土を空襲できます。フィリピンからの一
向かつ九州までの限定的なものでなく、多方向から空襲をかけられる事はかなり大きいと言えるでしょう。経済的損失は計り知れませんし、生産能力を削ぐのにも有効です』
フォレスタルは銀行家かつ株式の相場師らしく、経済的側面から有用性をルーズベルトに説いて、Bー29を褒め讃えた。しかし、話はそれに留まらず、次期戦闘機から動員計画まで多岐に渡った
『なるほど、君が言うとわかりやすい。引き抜いて正解だったよ』
ルーズベルトはフォレスタルの長広舌に笑った。『こ、これは失礼を』
ルーズベルトの笑いに、フォレスタルは苦笑した  


407  :長崎県人:2007/07/07(土)  23:57:24  ID:2MxH4A12O
『いや、いいんだ。君の話は私の知識を増やしてくれる。政治面ではホプキンスが居るが、軍事面では君に限る』
フォレスタルは頭を掻いた。照れている
『えっと・・・私はどこまで』
『ヘルキャットが百機揃って、ラインをもっと増やせ、とか。フィリピンで長距離護衛が出来るライトニングを増産しろって所かな』
『ああ・・・そんな話まで、申し訳ない』
フォレスタルは赤面した。ルーズベルトは思った。この男は、起きた事に神経質過ぎる。ストレスで擦りきれてしまわなければ良いが
『君の言うことはいつも正しい。その関連事項の書類を探させて、詳しく見ておこう』
『申し訳ない。大統領の仕事を増やしてしまい』
『勝つためだ。何の問題もないさ』
そう、世界の主要諸国が自国を戦場とすることで落ちぶれていく事だろう。その後に全世界を導くのは、この合衆国なのだ
『合衆国無しでは世界は成り立たぬ、それを示していかねばならない』
その為に、極東の猿を利用した。欧州にその零落を自覚させ、世界に合衆国の威様を知らしめす為に
『大統領閣下』
『我等は勝たねばならんのだ、あらゆる勢力にな』
ルーズベルトは外を眺めた。そこには、ワシントンD・Cの青い空が広がっていた  


423  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:32:02  ID:2MxH4A12O
1942年6月7日、神戸・試験艦白鷹


『私はあれの投入には反対です!現状でも彼女達、レーヴァテイルの能力は最大限に引き出せます!』
五島は殆ど見せることの無い、激昂の表情を見せていた
『対レーヴァテイル用の兵器を、同じ様に対潜兵器として使うなぞ!』
『そうは言うがな、大佐。音源が多数あった方が有用なのは君もわかるだろう?既にある物を使って、更なる戦果を求めるのが戦争という物だ』
『しかしっ!いくら音源があっても、それを聞く耳を破壊しては!』
ふぅ、と志摩の上官の少将はため息をついた
『勿論距離は取れるよう発射するさ』
『あらゆる状況が戦争だからこそ発生し、それこそ好きなように指揮官達はあれを使うでしょう。間違いなく、人間の思う感覚で。しかしそれが彼女達にとって致命傷になり得るのですぞ!』
五島は上官に掴みかからんばかりだ


五島をそれほど激昂させる代物とは何かというと、レーヴァテイルと接触した帝國海軍の制作した、対レーヴァテイル用の音響爆雷である。元は信号爆雷の類いではあるのだが、発生させる音響をさらに大きく高い物にし、レーヴァテイルの聴覚、並びに脳神経をフラッシュバックさせて
トき切る事を目的とした兵器である  


424  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:33:37  ID:2MxH4A12O
なぜこんな物が存在するのか?それは、帝國海軍が純血主義をとったからである。帝國陸軍が、現地の勢力を取り込んで、共に歩む道(人員をごっそり削られた事もある)を進んだのに対し、海軍は組織としてあの世界の存在を信用できなかったからにほかならない。いつか反乱なぞ冒され
スらどうするのか?世界の全てを抑えることなぞ出来はしない。ならば、我々が保護した種族の間諜がいつ紛れるかもわかった物では無い。故に海軍は、ダークエルフや獣人を編入しない、編入するならば、いつでも殺しきれる兵器を・・・音響爆雷とはその為の物だった


それをレーヴァテイルの為に噴進爆雷を造った五島が許容できるはずが無かった
『・・・君は言ったな?レーヴァテイルと人間に命の差は無いと』
『はい!当然です!建前とは言え・・・備品扱いも』
許せる物ではありません!そう言い放つ前に、上官は五島を叱責した
『これを実用化して死ぬレーヴァテイルよりも、救える人間の方が圧倒的に多い事は間違いない・・・貴様は将兵の命を、レーヴァテイルの下に見ておるのか!』
『う・・・』
そう、彼の言うことはある意味正しい。五島は人間とレーヴァテイルをニーギの事もあり、無意識に差別をしていた  


425  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:38:31  ID:2MxH4A12O
『本来の場合、自艦から発せられるピンが、敵潜水艦を捉らえ反射して戻ってくる。これを兵は聞き、レーヴァテイルは見る。聞くだけではたとえ爆雷の音響を強くしても、捉らえられる範囲は限られる。だが、彼女らは違う。反響があれば、敵潜水艦の位置が把握できる』
そう、探知範囲をさらに広がらせる事が出来れば、この五島が開発した噴進爆雷を、もっと有効に活用できるのだ。相反する思想を持つ兵器が、このような事になるとは、なんという皮肉か
『これが理解できないなら・・・貴様は残れ!』
五島は決意を目に宿らせて上官を見返した
『・・・私も行きます!正式化が避けられぬなら、安全距離を的確に調べるのが、私という人間の役目です!』
そうだ、それができれば人間も、レーヴァテイルもより多くを救える手段となるのだ。その機会をフイにする事は出来ない!
『良かろう・・・それが正しい答えだ。私だとて、レーヴァテイルが無為に失われるのは避けたいのは一緒なのだ』
まぁ・・・こんな問答が許されるのも、戦勢が優勢だからだろうが・・・今後、敗勢となった我々からいついかなる時に、技術的狂気に彼女らがさらされてしまうという可能性は、決して少ないとは言いきれないのだ  


426  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:40:41  ID:2MxH4A12O
1942年6月7日、沖縄


空襲の無い一日、待機所に詰めていなければならないパイロット達は、いくらか早めの夏日にうなだれていた
『あぢぃ〜・・・こういう時にだけ敵さん来やがらねぇ』
『上にいきゃあ日には焼けるが寒いぐらいだしなぁ』
彼等は陸軍航空隊の所属であった。といってもここ、嘉手納飛行場では陸海合同だから、海軍のパイロットが居てもおかしくないが、必要ないのに待機所も二つに別れていた
『今度来る新型機についてなにか知ってる奴いるか?』
一人のパイロットが椅子に抱きついて笑った
『ん?ああ、キ94だろ?たっぴ(立川飛行機)の』
海軍に予算を取られて、更新がしばらく滞っていた陸軍航空隊だが、ようやく新しい翼を手に入れようとしていた
『焔風(えんぷう)に名前が正式に決まったそうだ。ほむらかぜ、なかなか良い名前だよな』
『にしてもお前はこの前落とされたから、当分疾風で我慢だがな』
ニヒヒ、と、別のパイロットが笑う
『けっ!言ってろ。だがこれで海軍の奴らをノロマと言ってやれるぜ』
奴らの一部が乗る震電が704キロが出るのに対し、焔風は710キロ、海軍の新型である陣風は642キロ。プラス20は川西らしく出るらしいが、それでも焔風より遅い  


427  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:43:26  ID:2MxH4A12O
『しかし、奴らの事だ、軽武装、弱装甲と言ってくる事は見えてるぜ』
『ありゃ陣風がイカれてんだ、仕方ねぇだろ』
焔風の武装は三十oと二十oがニ丁ずつ、三十o四丁の陣風や震電よりは確かに軽い、だが、これには理由がある。地上支援の多い陸軍の戦闘機、掃射の為には弾が多い方が良いとの事で、二十oをニ丁入れてあるのだ。陣風も襲撃機の側面を持つ機だが、狙うのが艦船の幅か地面という
痰「が搭載武装を異なる物とした。防御は地上からの砲火と艦隊の違いがあり、陣風が化け物になるのも仕方が無いものがあるが
『しかし夜はどうしても屠龍にたよっちまうよなぁ・・・どうにかしねぇと』
『それに誘導されて一撃は出来るけど、一撃した後は電探も俺達と敵を判別出来ねぇしな』
機載電探をつけるには、単発機はやはり厳しいらしい。彼等は地域区分を作って、夜間はここをどの部隊が襲って離脱、していない場合は敵と見なして撃墜、なんて対応をしているが、やはり食いついていけないのは不満だった
『海軍の奴らは、元の中翼紫電にフロートの代わりに付けりゃいいって嘆願書送るらしいぜ』
『使えるんか?それ?』
『震電を見るまでもねぇが、あいつらはあいつらで変態に走るからなぁ』  


428  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:46:55  ID:2MxH4A12O
陸軍のパイロット達は脱力した
『ま、機載電探は高いし、小型化も精度もまだまだ、当分は無理だろう』
事実、陸軍は夜間戦闘機に於いては双発を選び、海軍機を大きく引き離すが、それで安心してしまい、後に海軍の実用化した小型の機載電探を譲ってもらうようになってしまうのだが・・・これはずっと先の話であり、夜の闇は陸軍の物であった


ウウゥ〜!!!


胃に悪い警報が基地中に鳴り響く
《空襲警報!空襲警報!西表電探監視所より南方五十キロに敵影!待機要員は》
『今日は東回りか!ビー公め!』
待機所からパイロット達は飛び出した
『陸軍のノロマども、先行くぜぇ!』
褌に飛行帽だけの海軍のパイロットが震電に乗って笑っている。あいつ海で泳いでやがったな!俺たちゃ我慢してたのに・・・!
『うっせぇ!さっさとその変態機で足止めして俺達に横取りされてろ!』
『吠えてな〜♪おいしい所は全部俺達がいただきだ!』
『やらせるか!おらっ!整備兵!早く回せ!海軍に負けんな!奴らには死んでも勝てっ!』
整備兵をパイロットはどついた。良いとばっちりである。ちなみにパイロット同士はこんな感じであるが、整備兵同士は陸海仲が良い。おそらく親近感からであろう  


429  :長崎県人:2007/07/08(日)  20:51:40  ID:2MxH4A12O
お前ら一体どこと戦っているんだ、というツッコミはともかく。沖縄を中心とした防空網は、陸海の協力(?)と共に、強大な壁を作り出そうとしていた


これを破るのは、果たして・・・  


456  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:32:26  ID:2MxH4A12O
1942年6月11日、ローマ・日本大使館・海軍部


もはや主のいなくなった海軍部の夜に、志摩と本間は佇んでいた。桂達はローマの宿舎へ着替え等を取りに戻っていた
『何の話かね?一介の大佐が私を呼んで』
本間は腕組みし、志摩を見つめた
『栗田さんから聞かされたK計画というワード。いろいろ考えて見ましたが、思い当たるとすれば、新田義貞の事です。ですが、彼の事ならば、日本通の人間にバレてしまう可能性があるし、バレても攻撃計画としか考えないでしょう。だから、彼自体がキーであるとは思えません』
あくまで志摩は、本間が知っている物として話を進める
『ではKeyとはなにか?Kに由来する物と私は思いつきました。新田義貞が鎌倉攻めの際、黄金の太刀を海に投げ入れたとする話があります。この時の地名や、行われた時期、政治、配下の武将の問題かとも思いましたが、そこはむしろシンプルに黄金の太刀という、海を割る鍵(Key)に注
レしました』
『面白い話だね、だからどうしたといった風の事だが』
頷く本間に力を得て、続ける
『黄金の太刀、金の装飾刀というのはさておき、黄金そのものを指すものと私は思っています』
『では、その心は?』
『K(金純度)に戻る、です』  


457  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:34:07  ID:2MxH4A12O
『K計画とは』
『本土帰還計画』
さらに言い募ろうとした志摩に、本間は言葉を被せた
『正解だ。そして会話の場所にここを選んだのもな。どこかの会食場であれば、永遠に君は同志とならなかったろう』
『栗田中将は基本的に山城か、ここにしか滞在しませんでした。洗濯(盗聴器の除去)は為されていると思いまして。最近掃除屋や、職員が入った形跡もありませんでしたしね』
この会合が夜になったのも、ローマについた志摩が、記録を洗った為である
『正直に言わせてもらって、正気の計画とも思えませんが』
率直に志摩は言った。地中海から日本だぞ?無理に決まってるじゃないか・・・!
『まともに考えればな。志摩君といったね、日本までは、ここからどれほどのくらい距離があるか知っているかな?』
そこはまともに考えるべきだろうに・・・!という叫びを飲み込んで、志摩は答えた
『・・・おおよそ三万海里、でしょうか』
『そうだ、三万海里だ。山城で二回給油を行えば事足りる。巡洋艦はおおよそ四回、市民を乗せる輸送船は三回から四回だな。駆逐艦は十回は見越さねばな』
なんとも絶望的な数字だが
『駆逐艦を途中で諦め、通商破壊を行いながらであれば、出来ない数値ではない』  


458  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:36:15  ID:2MxH4A12O
そんな馬鹿な!あまりの事に、志摩は本間に噛み付いた
『何をおっしゃいますか!不可能です!拿捕だけで航海を成り立たせるおつもりですか!』
そりゃドイツ海軍の中には、拿捕した船舶の物資を利用して活動を続けた前例があるが
『それに一体何隻の船が必要なのか、わかっているのですか!』
本間中将は首を振った
『そこの所は栗田中将がやっていた。だから私は知らぬのだ、どうするべきかをな。ただ、市民の輸送に使う船舶の量は60隻と聞いている』
60隻、ああ、英米の輸送船団を参考にしたんだな。その最大規模だ・・・人間と食料、そして油だけを積むとして、一隻5000人が限度と考えると、三十万人・・・そもそも乗り切れてないじゃないか!
『ああ、我が陸軍部隊は残って最悪の場合に備える。これを知っているのは、陸軍で私だけだがね』
最悪の場合・・・イタリアやドイツとやり合うつもりなのだ。いや、下手をするならば独伊英米その全てと
『安心したまえ、残るからには賊軍として討たれる事も覚悟しておる。本土に迷惑はかけんよ。ともかくこちらに来てしまった市民・・・邦人達を、なんとしても日本へ送り帰してやりたい。我々はその理念の元、陸海の垣根を越えて動いていたのだ』  


460  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:37:59  ID:2MxH4A12O
現実から乖離しすぎちゃいないか・・・だいたい、ザ・ロックことジブラルタルや、紅海を抜ける為のスエズ運河、そのあとのインド洋他は一体どうするのか
『・・・まさか、私が解決すべきは』
『その通りだ。実行するかどうかは、直接護衛部隊を指揮する水上部隊指揮官に一任される事になるが。君が任されたのだろう?だから好きにするといい・・・どちらにしろ、何かしらのアクションを取らねば状況は悪化していくだろうがな』
話せることは終わった、と本間中将は背中を向け、陸軍部に戻ろうとする
『本間中将!』
志摩は本間を呼び止めた
『何かね?』
『フランスのパリに、何か関係は、無いのですか!?』
そうだ、栗田中将はパリに行けと最期に遺した、その意味は・・・
『いや・・・私にはなにも聞かされていない。だが、彼がそう言ったのかね?』
本間は首を傾げて逆に聞いてきた
『はい、確かに。ノートルダム寺院へ行け、と。あとは11月までが期限とも。私が知るのはそれだけです。本間中将』
なにか、何でも良い。手掛かりを・・・
『スマンが確定的な情報は持っておらん。ただ、11月・・・これが少々引っ掛かる。適当に洗っておこう。君はその間に、パリに行ってきたまえ』  


461  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:40:10  ID:2MxH4A12O
本間中将の情報だけではどうにもならない。という訳ですか、栗田中将。あなたは一体何を企てていたのです
『しかし、日本の海軍士官が突然パリに行くというのは、なにかしら怪しまれませんか?』
これ程の大事、おおっぴらにやれる訳が無い
『パリ行きの便は、私が取ってやれるが・・・そうだな。次期作戦計画立案の為の、同盟国訪問の参謀旅行としたらどうかね?ある意味真実だが、だからこそ言い訳は立つ。他の国も回らねば怪しまれるがね。家族と一緒になら、申し分ない』
多少危険な旅になるやもしれぬ。そう本間は言葉に含めた
『少し考えさせてください。答えは明日にでも』
志摩は即答を避けた。家族連れ、桂とミスミと共に動くなら、危険を承知で来てもらわなくてはならない
『ああ、あと五ヶ月。時間がある訳でも無いが、すぐという訳でも無い。じっくり考えてきたまえ』
本間は優しく微笑んだ。そして付け加える。これは軍命ではないのだ、と。大それた事だが、しなくてもいい事なのだから、あまり気負うなと心配してくれたのだ
『ありがとうございます!』
海軍部から出ていく本間を、志摩は敬礼で送った


今まさに、在伊日本人の全てが、運命の岐路に立たされようとしていた  


462  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:41:50  ID:2MxH4A12O
1942年6月11日、ハワイ・真珠湾


『暗号解読が全く出来ないだと?』
二式大艇による真珠湾奇襲で、レキシントンと共にスタッフの半分を失った太平洋艦隊司令部であるが、猛牛・ハルゼーがその司令官に附いたおかげで、フルピッチで復旧が行われ、損傷艦艇の修理も、有り得ない程の早さで進んでいるなか、なんとか戦死をま逃れた暗号解読班長のロシ
フォード中佐は、少なくなった人員で、なんとか日本海軍の動きを掴もうと奮闘していた
しかし、彼は憔悴しきってハルゼーにそう報告してきた
『・・・一体何の言語を使っているのかから、さっぱりわかりません。どこが文節となるか、いや、単語がどこで分かれるのか。全く新しい暗号言語のような物を、日本海軍は使用しています』
日本海軍は、暗号に異世界に行っていた頃に掻き集めた文言や、レーヴァテイルの古来から持っていた歌のフレーズを元に、新たな暗号を作り出していた。故に、史実の暗号で行われた方便での暗号文よりも難解どころでは無い物に変化していた
『今後、敵のデータを集めれば、ある程度の解読は可能と思われますが』
人手が足り無さ過ぎる。言語学者から、下手をするならば歌手すら巻き込んで解読を行わなきゃならない  


463  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:44:06  ID:2MxH4A12O
『なんとかできねぇのか?』
さすがにハルゼーはその部分には疎い。人員の面で、ロシュフォードの案を渋った
『無理です』
しかし、ロシュフォードは即答する。今の内に文言の蓄積ができなければ、暗号解読は完全に後手後手に回っていくだろう。それでは、少なくなった戦力の有効活用なぞ、夢のまた夢だ
『わかった。航海局長の・・・タワーズに言っておこう』
因みに、合衆国海軍はポストの面でエライ事になっていた
合衆国艦隊司令長官のキングと、ニミッツの後任に付いたタワーズの仲があまりにも悪すぎるのだ。キングは唯我独尊な性格で、自分に頭を下げない人間は排除するような人間であるが、ニミッツを初めとして、権力の把握に成功を納めようとしていた。それが今回の敗戦で、おじゃんに
ネった
タワーズという人間は面倒見のいい人間だが、生っ粋の航空機乗りで無ければ、空母指揮官なぞ有り得ないとする人間で、帝國海軍での源田實なみの航空機キチガイであり、やはりキングと同じく閥を作っていて、フォレスタルと懇意。つまり、政治に食い込む人間でもあった
『人事の調整に、いらん手間がかかってたまらん!まったく!』
と、ハルゼーの怒りが彼等のいざこざの全てを物語っていた  


464  :長崎県人:2007/07/11(水)  20:46:20  ID:2MxH4A12O
ハルゼー自身は、どちらにも顔が利く人間であるが(キングと同じく年を取ってからのパイロット資格持ちであり、タワーズの批判対象であった。しかし、彼の幕僚のブローニングはタワーズ閥である)
『ともかく、お願いします・・・』
『おぅ。貴様も少しは休めよ』
憔悴しきったロシュフォードは答礼すると、フラフラとハルゼーの部屋から退出した。皆がオーバーワークになっていると言うのに・・・
『くそったれめ!』
ハルゼーは机をおもいっきり蹴飛ばした。海軍上層部の連中は、自分達が権力を得ようとする為に、戦争をほっぽりだして暴れ回っている
『奴らは誰が一番暴れたいと思ってるのか、わかってるのか!!!』
そう、ハルゼーもまた潮の香から離れたことで、ストレス(欲求不満)が限界に達しつつあった



翌日、ロシュフォード中佐は過労で倒れ、病院送りとなり、暗号解読の作業は停止状態に陥ってしまう


そんな中で、アイザック・キッド中将が持ってきた、ウェーク島防衛に関する攻勢防御(アクティブディフェンス)の作戦案に、ハルゼーが飛び付いたのも無理は無い。彼等には、ストレス発散の場が必要とされていたのだ



海戦が、必要とされていた  


487  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:34:44  ID:2MxH4A12O
米太平洋艦隊・OP.ウッドペッカー参加艦艇


戦艦アリゾナ  ネヴァダ  オクラホマ

空母サラトガ(先行量産型F6FとSB2C及びTBF搭載)
護衛空母ロングアイランド(F4Fのみ搭載)

重巡チェスター  ルイスビル  インディアナポリス

軽巡ホノルル  セントルイス  サンジュアン

駆逐艦  15隻


聯合艦隊・第一次遊撃作戦参加艦艇


第二戦隊
紀伊  尾張  甲斐  播磨
第三戦隊第二分隊
伊勢  日向

第六戦隊
高雄  鳥海  伊吹  剣

第四航空戦隊
加賀  赤城  秋月×2

第二水雷戦隊
能代  島風×2  秋月×2  甲型×4

第四水雷戦隊
酒勾  以下2水戦と同様  


488  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:36:55  ID:2MxH4A12O
1942年6月12日・聯合艦隊司令部、会議室


パサリ


各戦隊指揮官らが勢揃いする中、小沢は樋端の上げてきた作戦に参加する艦艇名簿を見て、嘆息すると共に質問した
『初期の案より艦艇数が増えているが、これはどういう事か?』
参加する戦艦が戦隊ごとではないばかりか、四隻ではなく、六隻を投入している
『は、最初の一撃を大きくする事で、米海軍の動きをさらに牽制することが出来ます』
『おいおい、それじゃあまるで敵が出て来て欲しくないみたいじゃないか』
第二戦隊司令の松田千秋中将が不満そうに言った
『私は転移前に総力戦研究所に居たからわかるんだが、この戦は結局総力戦で進むよ。講和なんかは二、三年は先の話になるだろうから、今は敵を叩き続けるべきと考えるが?』
彼は、聯合艦隊に於ける積極交戦派の一人としてその名を連ねていた
『早く国内を戦時体制に持ち込む為にも、更なる戦果が必要である。それに、講和の為には日露の時の米国のような、友好な大国が必要である。との私の観点からするならば、英国脱落の為の作戦案・・・内南洋方面での作戦よりも、フィリピン方面のものを進めていくべきと考えるが』
松田中将の言に頷く将官は、かなりの数、存在した  


489  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:39:35  ID:2MxH4A12O
松田の質問に、弱り切った樋端を見て小沢は笑った
『こらこら、松田君。それは戦略の域で、作戦に対する質問では無いよ。あまりいじめてくれるな・・・それに関しては私が答えよう』
小沢は話始めた
『実際の所、松田君の意見は大きな説得力を持っている。しかし、戦略的にはこれを採り得る事は無い』
何故か、と続ける小沢
『我々は少なくとも、米国の無理な要求を退ける為に、受けて立ったという立場だ。幸い、大陸からは、殆ど手を退いてしまっている我々が、南方にまた進出してしまったならば、米国の主張を正しいと認めてしまう物になる。これは避けたい』
米国としては、我々に何が起きたかを知るよりも先に、欧州の大戦に手を出したかった。なにより、我が国を潰せると断じた。太平洋での戦域拡大は、植民地を持つ欧州勢にとって、負担でしかありえない。恩の押し売り時というわけだ
『だから、我々は勢力的には内南洋方面を取り戻す為の戦いのみを行うべきなのだ。無論、攻撃自体は否定しないがね』
松田中将は頷いた。納得しているようだ。ここらあたりは、さすがの人間である
『あと、君は総力戦というがね、仮に戦いが上手くいっても、帰ってくるのは内南洋の各諸島だけだからな』  


490  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:41:44  ID:2MxH4A12O
『総力戦に移行しても、帰ってくる見返りが薄い、と?』
松田は小沢が言葉を継ぐ前に、言った
『そうだ。それに現状ある艦をすり潰す形で行く方が、後の為になると思われるからね』
もし、敗退して我々がすり潰されたなら、米国は我が国に対しての戦争目的を果たした事になる。勿論、そのような終焉は認められないが、考えておくべき事ではある
『・・・わかりました。第二戦隊は内南洋で働きましょう』
松田は頷いて、すまなかったと樋端に頭を下げた。樋端は、では続きを、と、始める
『動かせない地上施設や輸送船を破壊して回るのも、敵にとっては痛手に違いありませんから、そちらの面で各戦隊指揮官の方々は暴れていただきたい』
『しかし、この戦力では、米海軍は出て来んでしょうな』
第三戦隊を率いる西村祥司中将はため息をついた。樋端を始め、残存兵力からして、米海軍が現有兵力で仕掛けてくるのは自殺行為と判断しており、この兵力に対してはさらに可能性が無くなったと断じるのは無理も無い
『空母は我々だけか?』
唯一、第四航空戦隊の指揮官である、岡田次作中将が不安そうに声をあげた
『南鳥島からの航空機によるカヴァーは確実に行います。偵察を含め、ご安心下さい』  


491  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:44:09  ID:2MxH4A12O
ウェーク島と南鳥島の距離は1000キロ程度、バックの厚さを考えるなら我々の方が分厚い。電探のある昨今、艦隊が奇襲を受ける可能性は絶無に等しく(樋端はECM戦について欠落していた。といっても、帝國海軍が遭遇した事があるのは、超強力なバレージジャミングで、計器ごとぶっ
壊すような代物だったので無理は無い)不安要素は無いと判断していた
『・・・わかりました。最善を尽くしましょう』
岡田中将は腕を組んで押し黙った
『しかし今回。砲身交換の順番を我が戦隊を押しのけて、先に伊勢と日向を持って来たのは納得行かんのだが』
第四戦隊を預かる。大西新蔵中将が樋端に訴えた
『持っていくなら戦隊全て、金剛級四隻、紀伊級の四隻とすれば良いでは無いか。私はともかく、第三艦隊のお守りをしていた4艦の将兵は、また置いてけぼりか!と、くだを巻いておるのですぞ』
そこら辺の意向もなるべく通してくれと言う訳だ
『確かに伊勢級二隻よりも、金剛級四隻を持っていく方が戦力的には大きいですし、戦闘も最終的には勝利を得るでしょう』
しかし、だ
『戦艦として考えるならば、金剛級は米太平洋艦隊が保持するアリゾナ、及びネヴァダ級戦艦とは砲戦能力で比較すると少々不安です』  


492  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:47:41  ID:2MxH4A12O
下手をしたら、撃沈されかねない。金剛級は結局、古い巡洋戦艦にしか過ぎないのだ。機動部隊の護衛か、戦線が落ち着いた海域で使うのが一番であり、無茶は出来ない
『ここは自重してください。必ず第四戦隊の出番は来ます。それまでは』
ようは、使い所を誤らぬようにしなければならないという事だ
『ふん・・・っ。艦を失う事を恐れて、戦が出来るか!とも思えるが、砲身交換がまだでは仕方あるまい。しかし、第四戦隊の出番は約束してもらうぞ。多少性能が劣ろうが、米戦艦に将兵一同、負ける気は無いのだからな』
士気が高すぎるのも、良し悪しである
『まぁまぁ、そういう時もあるさね』
第七戦隊(利根級二隻からなる)の曾根中将がなだめに入る。彼も居残り組だ
『うむ・・・塞翁が馬という言葉もあろう』
髭を扱きながら、第六戦隊を預かる木村昌福中将は、ほっほ、と、まるでサンタクロースのように笑った。場が自然と和やかになる
『他の方は、何か質問は?』
樋端は作戦案を読み上げると、会議室を見回した。挙手もなく、不満を漏らす者も居なかった
『では諸君、出撃準備だ』
小沢はそう言って会議を締め括った


聯合艦隊は新たな戦場を求め、内南洋へと歩み出そうとしていた  


493  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:49:18  ID:2MxH4A12O
1942年6月12日・加賀


呉に於いて会議が行われる中、第四航空戦隊の旗艦である加賀に、新型戦闘機である陣風に更新を終えた戦闘機隊の最後の機が、斜めに着艦した
『いくら本艦が古い母艦で、信濃級に次いで艦幅が大きいからとはいえ、斜めに着艦するのは冷汗もんだな』
艦長が嘆息した。加賀には斜めに着艦のラインが描かれ、同時着発艦能力を試験的に上げられていた
『私は着艦に失敗した機を踏まずに済むので、喜んでおりますが』
こちらは上機嫌な航海長
『どうも、同じく戦艦改造の信濃級のテストベッドとして、この加賀を最後までいじくり回す気がしてな。それは構わんのだが、実戦で不具合を出してもらっても困る』
艦長として考えるならそうだろう。そしてそれは正しかった
『その分、この加賀には海軍一の腕っこきが集まっとりますがね。第一、第二、両加賀戦闘機隊、陣風の受領を完了しました』
甲板から上がって来た志賀飛行長が報告した
『新型弾薬の方は赤城の担当ですから、我々としては向こうの方が良いとするパイロットも居ますよ』
それなりに第四航空戦隊は、パイロット達に喜ばれる職場らしい
『ご苦労だったな』
艦長は書類を受け取ってサインし、答礼して返した  


495  :長崎県人:2007/07/14(土)  08:51:11  ID:2MxH4A12O
『しかし新型弾薬か・・・大鳳で懲りたんだろうな』
大鳳が噴進機の試験で、様々な要因が重なり爆沈した関係上、新型機や新兵器を使うのは比較的古い艦から行うことが常になっている。新しい酒は、古い皮袋へ、という訳だ。特に大型艦であるこの加賀は、新型機の搭載機数も稼げるし、赤城は弾薬の調整数も稼げる。たしかに試験には
揩チてこいだ
『旧式な母艦の戦力維持の面もあるでしょうね。二艦に役割を分ければ、比較も出来ます』
志賀の言は正確に的を得ていた
『なんにしても沈みさえしなければ、この加賀は赤城よりも長生きは間違いないですな』
これは航海長の言。空母自体の運営問題ともなると、船体をいじる事が多く。賭けた金が帰ってくるまで、加賀は働かなければならない。少なくとも調整室の改装だけで済ませた赤城よりは
『例えるなら、馴染みの女を着せ変えさせて、刺激を求めるようなもんです。いろいろ手を替え品を変えやってる方が男女も艦も長く続くのは道理ですよ』
言い得て妙である
『ともかく、次の出撃はいつになるだろうかな。司令が帰り次第、聞いてみよう』
前回の海戦では敵空母を一回だけ攻撃し、あとは輸送船団を攻撃しただけだった。今度こそ、敵主力を・・・  


504  :長崎県人:2007/07/16(月)  15:49:49  ID:2MxH4A12O
1942年6月13日・ゲーリング邸


その日、自らの進退を左右するであろう空輸作戦を前に、空軍元帥ヘルマン・ゲーリングは、自宅に戻って娘と一時の休暇を過ごしていた
『こぉら!エッダ、待ちなさい!』
『キャハハハハ!パパ遅い〜』
太った身体を揺らして、七歳になる娘のエッダと追い掛けっこをしている。ちなみに、彼はムッソリーニと仲が良く、彼の娘と同じ名前を自分の娘にも名付けている
『ひぃ・・・ふぅ・・・エッダ・・・ちょっと休もう』
ゲーリング、息も絶え絶えである
『もう。パパったら〜♪えいっ!』
エッダは駆け戻ってくると、息切れしているゲーリングに、タックルするように抱きついた。ゲーリングが、げふっ!とダメージを受けているのもお構いなしだ
『パパのもちもちぽんぽん気持ち良い〜♪』
『あいたたっ!つ、つねっちゃダメだよエッダ、いたたた!』
現代で言うならメタボリックなお腹は、ムニムニしている娘にとっては良いおもちゃだった
『パパ。パパにだけエッダの秘密教えてあげる』
エッダは嬉しそうにゲーリングを上目使いで見つめた
『まさかボーイフレンドが出来たとかいうんじゃないだろうね?』
ゲーリングは身体を屈めて、エッダに耳を向けた  


505  :長崎県人:2007/07/16(月)  15:51:50  ID:2MxH4A12O
『えっとね♪えっとね♪昨日ね、エッダ、本物の魔法使いさんと会ったの』
『魔法使いさん?あの、箒に跨がる?』
なんだ、夢の話か・・・よかった!ホントによかった!ありがとう!神様!(正直、ボーイフレンドの話でなくて、安心した父親の実直な感想)
『そう、でもね、お婆ちゃんじゃなくて、ママみたいに美人で。病気の人がいるから、治療に来たんだけど、その人のお家に入れなくて困ってるんですって』
『魔女も大変だね、よし!じゃあ、エッダが今度会ったら伝えなよ、パパが何とかしてあげるって』
パパは偉いんだぞ、と胸をはる
『うん!約束だよ!』
ニカっとエッダは微笑み返した
その日はエッダと一緒に寝て、楽しい一日を終えるはずだった


夜半
『パパ、パパ!』
エッダの呼ぶ声
『・・・なんだい?トイレは一人で行けるだろう?』
明日は早いんだ、と寝返りをうつ
『魔女のおねぇちゃんが来てくれたんだよ!?』
『はいはい』
例の夢の話か
『もうっ!えいっ!』


ぼふんっ!


七歳児の体重が空中からふってくる
『エッダ!いい加減にしなさい』
ゲーリングは起きあがってエッダを捕まえた
『あの・・・初めてお目にかかります』
エッダとは別の声がした  


506  :長崎県人:2007/07/16(月)  15:55:28  ID:2MxH4A12O
『誰だ!?』
ゲーリングは太った体にしては俊敏な動きでエッダを背中に移すと、声の主をにらみつける
『シュバルツバルト・アララ・・・この後は、母やばば様らの名前が四十三個続きます故、アララ、とお呼びくださいませ』
部屋の影から、いかにもな衣裳を着て、箒をもった女が現れる
『娘には、手を出させんぞ・・・!』
叫べば衛兵が飛んでくるだろうが、これではエッダが・・・!
『何もしません。ゲーリング閣下・・・私は、呪いを解きに来たのです』
アララはゲーリングの前にかしづいた
『総統閣下は、原因不明の病に耽っていらっしゃる筈です』
『何故それを・・・!』
ゲッペルスが巧妙に隠蔽したはずの事を、この小娘が知っている!アララはふふふっと魅力的に笑った
『私は魔女ですから。本当は現世に手を出すつもりはなかったのですけれど、イギリスのにわか魔女が総統閣下を呪い殺そうとしています』
本当なら、にわか魔女の術なんて効くわけないのに、南から厄が広がって、にわか魔女の術に力を与えてしまった
『解呪できたなら、森に帰ります』
『信じられるか!』
当然だ
『パパ魔女のおねぇちゃん助けてくれるって約束した!嘘つき!』
背中をエッダはポカポカ叩く  


507  :長崎県人:2007/07/16(月)  15:59:19  ID:2MxH4A12O
ナチス幹部で、一番夢見てそうな人だけど、無理だったかしら?総統官邸に入れてもらうのは。と、聞かれないようにアララは呟いた
『エッダちゃん。お父さんをいじめちゃダメよ?おねぇちゃん無理な事言ってるんだから』
アララが諦めて、エッダをなだめにはいる
『パパ偉いんでしょ?お空を飛ぶものは、みーんなパパの友達なんでしょ?おねぇちゃんもお空を箒で飛ぶんだから友達でしょ?友達が困ってるときは助けなきゃいけないって言ったのパパじゃない!嘘つき!嘘つき!』
さすが子供、凄い論法でゲーリングにたたみかける
『エッダ!下がってなさい!』
『パパのわからずやっ!』
エッダは遂にすねて、捕まえているゲーリングの手をはね除けて、アララの所に行ってしまう
『エッダ!離れなさい!』
『イーっだ!』
『あらあら、エッダちゃん。ほっぺなんか膨らませて』
ぷにぷにと、アララはエッダの頬をつつく
『何をする気だ!』
ゲーリングは気が気でない
『娘さんを笑顔にする方法ですよ』
アララはゲーリングにウィンクした
『ほら、ほっぺを膨らませてると、魔女のおねぇちゃん特製のクッキーが食べれないわよ〜』
クッキーの袋を取り出して、一個だけ摘んでエッダの口元へ  


509  :長崎県人:2007/07/16(月)  16:01:10  ID:2MxH4A12O
『うう・・・』
クッキーの香ばしいかおりに耐えかねて、エッダは息を吐き出す
『はい♪』
笑顔のアララから、クッキーを受け取って、エッダは口に含む
『おいし〜!!!』
エッダが嬉しそうな顔をする
『お菓子の家を造るぐらい、魔女はお菓子を造るのが得意なの。パパと仲良くしなくちゃ、ダメよ?』
『うん!』
袋を渡すと、エッダは夢中になってクッキーを食べている
『貴様!』
ゲーリングはもはや噴火寸前だ。あのクッキーに毒でも入っていたなら・・・!
『おねぇちゃんに一つだけちょうだい』
『うん、いいよ!』
アララは、大丈夫。とでも言うようにクッキーを一つ口の中へ投じる
『んくっ・・・無理なお願いをして、お騒がせして申し訳ありませんでした』
アララはクッキーを飲みこんで謝ると、窓へと出ていこうとする
『どうする気だ!』
ちなみに、寝室は三階である。飛び降りて無事には・・・
『それは魔女ですから、これで』
アララが箒に腰掛けるとふわりと浮き上がった。ゲーリングは絶句する
『じゃあエッダちゃん。おねぇちゃん行くね』
『えぇ〜?また、来てくれるよね?』
エッダはさみしげだ
『ん〜いい子にしてたらね?』
アララはエッダにウィンクした  


510  :長崎県人:2007/07/16(月)  16:04:51  ID:2MxH4A12O
『うん!』
とびきりの笑顔で、エッダは頷いた
『では、失礼します』
アララと箒は窓から室外へと・・・
『待て!待ってくれ!』
言葉を失った状態からゲーリングは復活した。ゲーリングはアララを呼び止める。目の前で飛ばれては、信じざるをえない。それともこれは、モルヒネの幻覚か?いや、エッダも見てる。間違いない!
『詳しく、話を聞かせてくれ!』
ゲーリングの豹変に、アララが目をぱちくりさせている。箒で飛ぶのが当たり前過ぎて、なぜ、ゲーリングが話を聞くようになったのか解ってない・・・結構彼女も抜けている。ゲーリングは叫ぶように問うた
『総統閣下を助けられるんだな!?』



この出会いの後、アララが空軍嘱託としてゲーリングと共に、総統官邸を訪れるのには、それほど時間はかからなかった。それほど総統の病状は悪化していたのだ
そして、チェコから紅き瞳の不死者が、ベルリンへとその歩みを進めようとしていた  



530  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  12:52:19  ID:ePWzTpwk0
1942年6月20日、ミッドウェー沖・アリゾナ


Opウッドペッカーのために、ミッドウェー島には米太平洋艦隊の稼動艦艇の殆どが集まっていた。その作戦の発案者であるキッド中将は、アリゾナの艦橋で、つい今しがた、撃沈されたと思われる潜水艦がもたらした情報に目を通していた。
『ようやくお出ましだな!戦力は・・・』
戦艦2、空母2、軽巡3(秋月級の誤認)駆逐艦多数、他の艦隊も存在する可能性は否定しきれないが、この艦隊とならば・・・やれる!
『この位置ならば、まず間違いなく敵の狙いはウェークでしょう。昨日、及び今日の激しい空襲は、この空母のものに間違いありません』
参謀長も情報を見て、そう判断した。ウェーク島には、いつもの定期便として、マーカス島からの空襲はたびたび行われていた。しかし機数は限られたものであり、昨日今日の空襲の規模は、その域を越えていた
『理由としてマーカス島は、ウェーク島と同じく物資の制限される小さな島です。島からの大規模な空襲は、その物資を大量に消費します。めったに出来るものではありません。そのめったを行ったとしたならば、マーカス島はしばらくのうち、無力化していることでしょう』  


531  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  12:53:29  ID:ePWzTpwk0
どちらにしても、敵のエア・カヴァーが薄くなっている事は明白だった
『レディサラとロング・アイランドだけでも、撤退時の制空権維持は出来そうだな』
キッドは大きく頷いた
『それで、ウェーク島の被害は?機体はどうでもいい、ドーザーだけ話してくれ』
ウェーク島のブルドーザー。この存在は、本来この島に、大量には存在しないものであった。しかしその状況が変わったのは、二ヶ月前のあの決戦だ。あの時後方で、輸送船団は日本の機動部隊による空襲で、殲滅に近い損害を受けたが、その中で、シービ−ズのドーザーを積んだ輸送船
ェ、瀕死の体ながら、ウェークにたどり着いた。それがこの作戦を可能にしたのだ
『基地能力をなかなか失わないウェークに、日本人どもは完全な破壊をもとめ、さらなる圧力を掛けようとするでしょう。何しろ、我々太平洋艦隊は壊滅状態なのですから。しかしその油断を、我々は稼動艦艇全艦を以って奇襲をかけ、叩き潰します。撤退の援護は、ミッドウェー島に配
uした航空機と、レディサラと、ロング・アイランドで、行う事が可能です。ミッドウェーの航空機は、例え前日に空襲を受けたとしても、今のウェーク島ならば、朝までには修復可能ですから、そこに降りれます』  


532  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  12:58:41  ID:ePWzTpwk0
この明瞭快活な作戦案に、ハルゼーが飛びつかないわけが無かった
『ドーザーは、まだ三十両以上が確保されています』
参謀長は、頼もしそうに答えた
『ウェーク島がラグーンであればこうはいかなかったな』
キッドは嘆息した。ウェーク島は火山の火口部が海面上に浮いている形の島であって、珊瑚礁ではない。土を掘って地下を有効に使えるのは、基地の維持にとって非常に大きい
『潅木が少ない分、艦砲射撃を受けるとキツイが、そんなことはさせんよ』
敵の戦艦は二隻。前の決戦であれだけ撃ったんだ。敵は稼動戦艦を増やす上でも、全力は出せまい。ならそこに戦艦が三隻で奇襲をかけたなら?数的優勢、制空権の維持、この二つが保たれて負けるというのなら、それは将である自分が無能であると言うしかない。このキッド、ここまで
衆国海軍に奉職してきた以上、無能と呼ばれるには我慢ならない
『さあ行こう!錨を揚げよ!汽笛を鳴らせ!これは、太平洋艦隊の行う最初の復讐戦だ!』
アリゾナが、ネヴァダが、太平洋艦隊の復讐者達が、機関音を高めてミッドウェーから離れていく。会敵時間は明日の午前3時。夜戦ならば、前回のように距離は取られない。日本人どもめ、今度は同じリングに叩き込んでやる・・・!  


533  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:00:29  ID:ePWzTpwk0
1942年6月20日、第三戦隊第二分隊・伊勢


空は重くたれこめた曇天であり、多少大きなうねりが、駆逐艦をふらつかせていた
『熱帯低気圧が発生しとるようですな。夜明けには落ち着くかと』
伊勢の黛艦長は、第二分隊に乗り込んできた西村中将を快く受け入れ、前進部隊の指揮を渡し、艦長職に集中する事が出来ていた
『航空偵察が出来なかったのがちと痛いな。それに、前日、前々日の南鳥島からの空襲にあわせて、今日は四航戦に駄目押しの攻撃をしてもらいたかったのだが』
なかなか航空機というものも、使いづらいものがあるな、と西村中将。四航戦は、前進部隊から分かれて、一時後退していた
『大艦巨砲こそ我々の生きる道、ですよ。天気がわるければ、航空屋はすぐこれです』
黛は肩をすくめた。根っからの大艦巨砲主義者の彼から言わせれば、それみたことか、が本音だろう
『空母は有用だよ、黛君。出来うるなら対地攻撃で砲身を磨耗したくなかったが、しかたあるまい』
艦砲射撃ともなると、それなりの弾数を消耗するし、命数も少なくなる。継続して戦うつもりならばある程度力を抑え、適材適所で事を運ぶべきだ。と、西村中将は考えていた。出なければ、めぐり合わせによっては次の決戦に参加できなくなってしまう。それでは本末転倒ではないか
『短絡的思考でしたな。申し訳ありません』  


534  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:03:46  ID:ePWzTpwk0
黛艦長も、西村中将の言わんとする事が理解できたのだろう。軽く頭を下げる。この人には実績もあるのだ。先の内南洋決戦で彼が直接指揮をした長門と陸奥は、砲弾の消費を抑えることに成功し、続くパラオ攻略戦に参加する事が出来ていた
『誇りを持つことは構わん。ここからは君の腕の見せ所だしな。だが、彼らも同じように帝國海軍の戦力としての誇りを持っておるのだ。一艦の指揮官である君がそれでは困るよ』
あらゆる職の人間が己の職分を果たしてこそ、聯合艦隊は成り立っているのだから
『肝に銘じておきましょう』
黛は恐縮した
『なら、構わん』
その様子を見て、西村中将は莞爾と笑い、話を締めくくった。後に遺恨は残さない。それが西村のやり方だった。照れ隠しに、黛は咳払いをすると伝令を呼んだ
『電探の調整を怠らぬようにしておくよう伝えてくれ。気象状況が、必ず良くなるとは限らんからな』
『はっ!!』
若い伝令は、駆け足で電探室へと去っていった
『そういえば、電探はこの艦が初めて装備したのだったね』
『ええ、電探射撃に関してならば、日向と共に聯合艦隊一と思っとります。荒天下であれば、大和とともやりあってみせます』
これは虚勢でもなんでもなく、本気で黛は思っていた。荒天下の海域であれば近距離に寄る事が必要の上、測距も困難を窮める。電探はここで大きな役割を果たす。勿論、荒天は電探にも悪影響をもたらすが、装備年数が長い分伊勢と日向は、電探からもたらされる虚実の混じった情報の
I確な処理に長けていた。だから、大和の装甲すら撃ち抜く距離に接近し、手数で押せば、大金星を挙げられる可能性は高い。ま、大和は味方であるから、その部分を米新型戦艦と入れ替えても良い。旧式戦艦と舐めてかかると、痛い目にあわせるだけの力をまだまだこいつらは確保してい

『頼もしいな。もし敵艦隊が出てきたならば、頼むぞ』
『腕利きの二水戦が付いております。必ずや』
西村に黛は頷いた。手だれの戦艦二隻に、GF最強の水雷戦隊である。たとえ敵が現れたとしても、第二戦隊の戦艦四隻と他が増援として到着するまで、互角以上に戦える事は間違いない。黛は、言葉をかぶせて続けた
『必ずや、敵に痛打を与えてみせましょうぞ』  


535  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:05:46  ID:ePWzTpwk0
1942年5月21日午前3時30分、クレ島沖・ホノルル


太平洋の復讐者達と、帝國海軍の手だれ達が会敵したとき、最初に相手を発見したのは米海軍の方だった。海面状況は良好とは言えない状態で、日本艦隊を発見したのは先頭を進むサン・ジュアン。何故彼女が先頭だったかと言うと、新鋭艦であるが故に、最新のレーダーを持っていたか
轤セ。そして、パラオ沖での海戦で一水戦の旗艦であった紗那が、先にスコット艦隊を探知できた理由で二水戦を発見していた。そう、阿賀野級よりレーダーの設置位置が高かったからである。発見の報告は、軽巡戦隊の旗艦をつとめるホノルルを経由して全艦隊へと伝えられた
『各艦一列横隊を為せ!敵の駆逐艦は鋭い牙を持っている!艦首を常に向ける形で突っ込むぞ!砲力に任せてぶっ潰せ!』
その指揮をとる、アーレイ・バーク少将は叫んだ。内南洋海戦では駆逐隊を率いていた彼だが、ハワイについたあと昇進し、太平洋艦隊の軽巡戦隊を預かっていた。重巡戦隊には、ハルゼーの強い要請で、スコット中将が任についている
『サン・ジュアン、遅れます!』
バークの早い決断と動きに、新鋭艦ゆえ錬度の足りないサン・ジュアンはついていけないでいるのだ
『後から来い!陣形に手間取れば喰われるだけだ!』
相手の強烈なストレートをかわすには、フットワークが大事だ。足を止めたらやられる・・・!
『敵艦隊!機動を始めます!』
あっちも気付いたか!奇襲とはいかないもんだ
一拍おいて、戦場に光が溢れた。他の艦も動き始めたのだ。見張りがその事を報告してくる。その報告は、バークが望んでいる物と合致していた
『アリゾナ!撃ち方始めましたっ!オクラホマや、ネヴァダもです!』
『スコット中将のチェスター、突撃しますっ!』
いいぞ!いいリズムだ!誰も彼もが、敵を見つけた途端、火の玉みたいになっている。日本人どもめ、今回は火傷どころじゃ済ましてやらねぇぞ!
ふと、自艦の事を振り返って不満を覚えた。あってしかるべきの戦場音楽が、自分の乗る艦から発せられていない
『砲術!どうした!?届かなくても構わん、景気付けにぶっぱなせ!どうせお互いの位置は割れてんだ、やる気みせろ!やる気ぃっ!!!』


ドドドドドド!!!


ホノルルで前方射界のある二つの砲塔が、鎌首をもたげて火を噴く。その砲炎に照らされるなか、バークは満足の笑みを浮かべていた。海戦は間違いなく、彼らの手の内に握られていた  


536  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:06:45  ID:ePWzTpwk0
二水戦・能代


『統制魚雷戦用意!』
敵艦隊発見の報を受けた二水戦司令の有賀は、すぐさまそう命じた。敵を寄らせるとまずい。こっちの戦力は、後ろの艦隊を合わせれば必ず戦力的には上だから、敵の勢いを消してやれば、自ずと勝利は我々に転がってくる。前の海戦とやり方はほぼ同じだが、それが間違っているとは思
ない
『敵は砲力に優る!どこかで必ず艦腹を見せるのは間違いない!統制が取れ次第、魚雷を放て!!』
魚雷によって航路を乱すのだ・・・!
『敵重巡部隊、伊勢の方へ向かいます!』
見張りが叫んだ
『敵巡に魚雷は無い!構うな!戦艦は重巡ごときの砲では沈まん!』
それに、伊勢級には、副砲が撤去されたとはいえ、秋月級と同じ砲が12基、搭載されている。敵が本気で伊勢にダメージを与えたいと考えるならば、その弾幕を抜けていかなければならない。それこそ、敵は酷い事になるだろう。安心して俺達は戦ってられる。これが金剛級であったな
轤ホ?
『下手をすればやられかねない・・・なるほど、樋端大佐の言う通りというわけだ』
『第三戦隊、撃ち方始めました!!』
伊勢と日向が、砲煙と共に浮かび上がる
『西村さん、受けて立つ気だな』
有賀は笑みを浮かべた。これでこそ帝國海軍だ
『各艦との統制とれました!』
準備は調った
『魚雷発射始め!』
『テーッ!!!』

シュババババババババ!!!


圧搾空気によって酸素魚雷が、一斉に放たれる。その音を聞いて、有賀は次の命令を下す
『自発装填急げ!砲術長、射程に入り次第砲撃開始!門数が少なかろうと、撃ち負けるな!』
『敵戦隊、一列横隊で突撃してきまぁす!!!』
見張りが報告してきた。有賀は一瞬考え込んだが、すぐ理解して拳を握り締めた
『奴ら、一艦一艦で、自分の砲撃力さえ殺して魚雷をかわす気だ!』
勿論、この夜の海だ。魚雷を発見して避けるということは、かなり難しいと言える。前回の海戦で奴らは魚雷によって大被害を受けた。だからこその艦隊運動だ。一戦一戦ごとに学習してきやがる・・・手強い!
『だが、おかげで我々は何もしなくともT字を描ける。二水戦の技量は、雷撃戦によるものだけではないことを、思い知らせてやる!』
手強いのはこっちも同じなのだ。俺の水虫にやられてぼろぼろの足のように、目も当てられないようにしてやる・・・!
有賀は伝声管に向けて叫んだ
『砲術長!奴ら、まっすぐこっちに向かってくる気だ!含みを持たせるな!奴らは回避運動などせん!』
砲撃の常として、回避運動も加味して砲術長は射撃を行おうとしていたであろう。しかしそれは、今回に限っては敵に利してしまう
『・・・わかりました!やってみます!』


ドドドドドドド!!!


能代の全主砲が吼える。敵も同様に射撃を開始した。門数はお互い六門、まるっきり互角だ。艦首方向から、敵の動きを読み込んで撃ちこむ能代と、面積の広い、艦腹へと撃ちこむホノルル。二艦のデッドヒートは、まだまだ始まったばかりであった。  


538  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:08:47  ID:ePWzTpwk0
第三戦隊・伊勢


電探からの敵艦隊発見の報告にあわせて、見張り員のもたらした報告に、西村中将らは驚きを隠せなかった
『戦艦、重巡、軽巡共に三隻を確認だと!?』
それじゃあなにか、米軍はこの海域に残存全戦力を持ってきているということか?
『上等です!我々の手で米太平洋艦隊に引導を渡してやる事が出来ます!』
黛の雄叫びに、西村は我に帰って、己の闘志に火を付けた。そうだ、ここでケリをつけてやる。食べ残しを、そのままにしておくわけには、いかんよなぁ!
『主砲、左砲戦!統制射撃は行わぬ!日向は敵二番艦を受け持て!一番艦は本艦がやる!どちらかが片付き次第、三番艦だ!撃ち方用意!』
大きく黛は頷いた。戦艦とは戦う艦、そうこなくては!
『左砲戦!弾種徹甲!距離は!?』
『21000です!敵戦艦、撃ち方始めました!』
良い距離だ、決戦距離というわけだ。敵も生きが良い。喰いごたえがあるぜ
『よぅし・・・交互射撃、撃ち方始め!』
『撃ち方始め!』
命令が復唱によって艦内に伝えられていく。そして・・・


ドドドドドド!!!!


旋回していた砲塔が、敵に狙いを定めると火を噴いた。眩むような閃光が、乗員達の目に残像を焼き付ける
『どんどこいけぇっ!!!』
斉発ではなく交互射撃であるから、各砲塔から休み無く、あわせて六発の砲弾が放たれ続ける。敵であるアリゾナ(ペンシルヴァニアの最後は看取っていたから、特定できる)は、八発と四発の砲弾を交互に伊勢に対して送り出している。被弾しようとしなくとも、砲塔の中の人は、炎熱
n獄の中にいる事だろう。
『敵第一斉射!来ます!』
21000の距離を、おおよそ30秒から40秒で渡りきり、八発の砲弾が海面と接触し、巨大な水柱を発生させる。水柱の数が減ったならば、それは命中したと言う事だ
『測距はいい・・』
続いて敵の第二射だが、広い散布界が禍してか、全弾が遠弾となった。やる事が無くなり、もはや見ているだけしか出来なくなった西村中将は敵の射撃を見て、呟く
『だが、修正は下手だな』
『こっちの弾はどうなった!?』
黛が問う。こっちもそろそろのはずだ
『くそっ!全弾遠弾、外れました!』
こっちはこっちで、散布界が狭く、狙いが正確に定まらないと全部外れるという状態であった。しかしこれは逆を言うならば、敵艦を捉えさえすれば、恐ろしいほどの命中弾を敵に与えられる事が出来る。勿論、米軍の広い散布界にも利点がある。狙いの甘い初期の射撃でも、命中弾が期
メできる。個人的な考えだが、米海軍は、何よりも先に、敵に弾を当てたほうが勝ちだと思っているようでならない。一発の威力が大きい戦艦では、こっちが正しいとも言える
『修正急げ!敵は三艦だ、第二戦隊に出番を与えてやるな!それが奴らへの手向けだ!』
そうだろう?米海軍よ。新型戦艦相手ではなく、時代のライヴァルと目してきたお互いが、こうやって戦い、雌雄を決する機会が来たのだ。どっちが優れているのか、解答のすり合わせといこうじゃないか!負ける気はまったく無いがね・・・!
『敵重巡接近してきます!!!』
敵の重巡が白波を蹴立てて向かってくる。良い度胸だ!
『左舷高角砲!射程に入り次第、迎え撃て!』
10センチ高角砲は二万近く届く、以前の14センチ副砲と射程的にそうは変わらない。それが片舷6基12門、門数も、14センチ副砲の頃を上回っている。劣るのは一発の威力だが、そこは弾数でカヴァーすれば良い
『炎が・・・空を舞ってる・・・』
隣で戦闘詳報を書き連ねている主計大尉が呟いた。確か、名は中曽根と言ったか。お互いの砲火が、闇を切り裂いて飛び交う様を上手く表現していた
『炎よ・・・群れて舞え・・・』
祈るように西村中将は呟いた
『群れて舞って・・・不死鳥の如く、敵を打ち砕け!』


伊勢の放った砲弾が、アリゾナに命中弾を得たのは。その時だった  


539  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:09:46  ID:ePWzTpwk0
アリゾナ


被弾は唐突に訪れた
『うおおおおおおっ!!!』
命中箇所は、艦橋右舷の副砲郭と、三番砲塔。特に、副砲に命中した弾は、艦橋を大きく揺らし、キッド中将らを振り回した
『ダメージリポート!』
艦長が叫び
『砲撃を絶やすな!撃てるうちは全部撃て!』
キッドは、順調な砲撃のリズムが途絶える事を恐れて檄を飛ばす
『三番砲塔、敵弾をはじき返しました!被害ありません!』
報告が次々と上がって来る。戦闘に支障のある損害は無いようだ。流石は重防御でなる米戦艦である
『こっちの射撃はどうだ!?』
撃たれっぱなしでいては、前回と同じ結果になるだけだ。キッドが知る限り、この艦は訓練の時以上の錬度を見せていた。既に命中弾を得るための条件である挟叉を得て。後は、命中弾を得るだけなのだ。このままでは、せっかく復讐戦だと盛り上がった士気が大幅に落ちてしまう。モラ
汲フ低下は、錬度にも大きく影響を及ぼす。しかも今度は二回目、立ち直れないほどのショックを与えられてしまう事だろう
だが、キッドの焦慮は杞憂に終わった。アリゾナの射撃が、ついに伊勢の船体をを捉えたのだ
『イエァ!!!敵艦にクリティカルヒットーッ!砲塔を一つ潰しました!ざまぁみやがれっ!!!』
『砲塔が!?確かか!?』
キッドも往々にして、自艦と敵を同一のように見がちであるが、日本の14インチ砲塔は、比較的弱装甲である。角度も良かったせいか、アリゾナの砲弾は、伊勢の第五砲塔内に突入、爆発した。遠目からは、その中身がどうなっているかは解らない。だが、他の砲が鎌首をもたげるよう
ノ仰角をとっているのに対し、その砲塔は、だらりと砲身をさげて沈黙しつづけている。間違いなく戦闘能力を失っている事は確かだ
『ジャップの戦艦は脆いぞ!!押せっ!押していけっ!!』
『サー!イエッサー!!!』
士気の底上げにはもってこいなラッキーヒットだ。してやったりと笑いながら部下をアジる。しかし、相手はまだ、ネヴァダと同じだけの力を保持している。なるほど、多砲塔というのも、結構いいものなのだな。こっちは砲塔一つ失えば、三門の戦力減だ。これが連動して背負い式に積
だ砲塔に及べば8:6。同じ調子で砲塔が失われるとすると不利は否めない。気を引き締めねば


ドガがガガガガ!!!


再びアリゾナを衝撃が襲う。そうら来た。殴られたら殴り返す、喧嘩のやり方が良くわかってるじゃないか!
『さあ、戦いはこれからだ!奴らをぶちのめせ!』  


540  :名無し三等陸士@F世界:2007/07/18(水)  13:11:23  ID:ePWzTpwk0
第二戦隊・紀伊


『太平洋艦隊の全力だと!?』
前進部隊と、太平洋艦隊の激突は、第二戦隊他からなる本隊にとって最悪のタイミングだった。前進部隊との距離があまりにも開き過ぎ、すぐには救援へと向かえなくなっていた。理由は前進部隊に付いていて、天候の不良で下がる事になった四航戦を出迎えに移動していた事である
『くっ』
紀伊級は大和級を準拠して造られたので、速力は27ノットしか(無理すれば大和より軽い分、長い時間30ノット近い速力で走れるが)出ない。全艦一緒に動いていては、海戦の趨勢が決まる頃にしか到着できない
『松田中将!第六戦隊から発光信号!ワレ、前進部隊の救援に向かわんとス、以上です!』
『木村さん・・・!』
四水戦も一緒に、いや駄目だ。荒天の吹き戻しの動揺で、この海域での駆逐艦の速力は落ちている。早さを求めるならば、木村中将に行ってもらうしかない
『了承したと伝えよ!第三戦隊を頼む、とな!』
日向は思い出の艦なのだ、沈んで欲しくない
『第六戦隊、速力増します!』
紀伊の前方を高雄と鳥海、そして伊吹と剣が34ノットで駆けていく。木村中将の技量は折り紙付きだ。必ずや、何とかしてくれるだろう。それまで
『それまで耐えてくれ、西村中将・・・!』  


585  :長崎県人:2007/07/27(金)  23:58:19  ID:2MxH4A12O
二水戦・能代


『敵軽巡に魚雷命中!横転します!』
この、歓声をあげるべき報告に、艦橋では何の反応も示さないほど、能代は追い込まれていた
『第三砲塔はダメです!総員全滅!』
『第一砲塔は!?』
有賀は叫ぶように問う。第一砲塔は砲塔後背部を弾片により切り裂かれ、人員の大半が死傷していた
『人員を回しておりますが、発射速度は落とさざるを得ません!』
『くっ・・・』
有賀は唇を噛み締める。血の味がした。ここに紗那級があれば・・・!大和に乗ってた頃の勢いでこいつを振り回し過ぎたか!?
『駆逐艦は押してます!隊を分けて魚雷を振り向けてはどうでしょう!?』
参謀が意見具進する
『まだだ!魚雷はせめて重巡に向かって撃たねば・・・!』
二艦だけで戦っている伊勢と日向に申し訳が立たない・・・!なにより、我が2水戦が米艦隊に敗北するなど、あってはならない事なのだ!


ドグァッ!!!


能代の船体が震えた。被弾したのだ
『被害報告!』
この叫びをあげるのも、何度目の事だろうか?
『飛行機整備甲板に被弾!炎上しています!消火は困難!魚雷に火が!』
まさに最悪の事態だ。この闇夜で火災を発生させ、甲板下の魚雷は火に焙られ続けている  


586  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:01:22  ID:2MxH4A12O
有賀は決断した。この艦は戦闘力を著しく消耗した。ならばこれからは、いくら敵の弾を吸収できるかだ
『探哨灯照射!敵の姿を浮き上がらせろ!』
火災を発生させている艦が、今更隠れていても意味がない、だったらこれしかなかろう?弾を受ける能代の兵には申し訳なく思うが
『司令・・・!』
参謀の呼びかけに振り返ると、艦橋に居る全員がこちらを見ていた。こわばった、笑みのような表情を浮かべている
『我等一同、お供します!』
まったく。度し難い馬鹿どもだ。死にたがりめ・・・!有賀は笑った。声をあげて
『水虫持ちが供だと、あの世でも貴様らは苦労するぞ?』
『あの世では水虫も増えんでしょうから、苦労するのは少将だけです!』
これは艦長の言葉だ。それもそうか、あの世なのに水虫でも命が生まれちゃ困るよな
『敵弾が集中してきます!敵の陣形が崩れました!』
各員が頷きあう
『むさい野郎ばかりで、華がありませんな』
参謀が肩をすくめた。その様子が本当に残念そうで、思わず笑いだす者も居た
『なぁに、元来艦は女だ。能代の魂が我々を案内してくれるさ・・・すまn』
有賀が言い終わる前に、能代の艦橋に砲弾が飛び込んで、有賀達をバラバラにして吹き飛ばした  


587  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:03:34  ID:2MxH4A12O
ホノルル


バークは満足していた。完全にこちらは押している。モタついていたサン・ジュアンが魚雷で沈んだのは仕方ないとしても、戦況を有利に進めるためのペイとしては安く上がってると言える
『ダメコン隊に、人員を最大限渡せ!』
しかし、こちらも楽に勝っている訳では無い。あちらは驚異的な命中率で、こっちを痛め付けている。駆逐艦らはそのおかげで厳しい戦いを強いられているし、このホノルルもあちらこちらがぶっ壊れている


ピカッ


『うおっ!』
敵の軽巡から光紡が伸びてくる。奴ら、サーチライトを!
『セントルイスが攻撃を敵軽巡にかけます!いいぞ!集中攻撃だ!』
見張りがはしゃいでいる。セントルイスは相手が駆逐艦であったから、一方的に敵駆逐艦の一隻を沈めて、次にかかっていた。いや待て、サーチライトをつけた奴を潰すのは良いが・・・
『陣形が崩れた?いかん!』
敵味方の陣形を脳裏に浮かべて、バークは気付いた。奴らも軽巡を一隻ペイして俺達を抜き、アリゾナへと向かう気だ!
『セントルイスに、元の位置に戻るよう伝えろ!今すぐだ!』
『しかし、敵艦を沈めるには今が・・・!』
事態の飲み込めていない艦長は、何をここで、といった風情だ  


588  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:06:39  ID:2MxH4A12O
『そのためにアリゾナらを沈められては元も子もない!』
あいつらの魚雷は、一発でとんでもない威力を発揮する・・・!俺はこの前の海戦で、たった一発の被雷によって艦首を叩き折られた重巡を見ている。あれはシャレにならない
『敵の駆逐艦が針路を変えます!』
くそっ!駆逐艦はこっちが劣勢で、それをおぎなっていたのがセントルイスであったというのに、敵艦を撃沈できるとなったらこれかっ・・・!
『砲術長!駆逐艦は狙えるか!?』
砲術長の返事は、芳しいものではなかった
『ここからでは不可能です!セントルイスに当たってしまいます!』
くそったれめ!今さっきセントルイスに隊列に戻るように言ったのが仇になっている
『わかった、警報をアリゾナのキッド中将へ!スコット中将にもだ!急げ!』
下手をしたら、この海戦の敗因は俺となってしまうかもしれない。そんな事させてたまるか!
次の行動を取らせようとするバークに、見張りが叫んだ
『敵軽巡、魚雷発射!』
能代は誘爆阻止のために撃ったものだが、そんな事はバークらに知ることはできない
『畜生!針路を維持せよ!魚雷をやり過ごせ!』
この投棄魚雷によるバーク隊の針路変更の遅れが、海戦の趨勢を大きく変えた  


589  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:09:11  ID:2MxH4A12O
第二戦隊・伊勢


『艦長!大丈夫か!?』
『なんの!ですが、舵はお願いします!』
伊勢とアリゾナの砲撃戦は、殴りあいの様相を深めており、艦橋付近への命中弾は、艦長の黛のふとももを切り裂き、西村中将が舵をとる事態となっていた
『さすがに重巡にまで撃たれると手ひどいですな!』
黛は立ち上がると、足を引きずりながら、西村の傍らに立って言った。艦橋付近への命中弾は敵重巡によるもの。戦艦の砲弾であれば、今頃二人とも死んでいる
『あちらも相当に燃えておる。お互い様だ』
対するアリゾナは、命中率の上で伊勢らの方が上手なため、砲塔二基を潰され、火災を発生させていた


ドガァッ!!!


振動と、何かが吹き飛ぶ音。敵の弾がまた命中したのだ
『四番砲塔に被弾!右砲欠損!砲撃不能!』
被害報告がすぐさまあがってくる
『どうも後部への当たりが多いな』
五番砲塔への貫通しかり、他の命中弾の殆どもそうだ
『米艦より我々の艦の方が速いですからな、そのためでしょう』
後ろにある程度流れているのだと、黛は判断していた
『中央から後部にかけて砲塔が存在する本級には、あまりありがたい話ではないな』
これで二つの砲塔が稼働不可能になった事になる  


590  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:11:38  ID:2MxH4A12O
日向は二隻から撃たれて居るのだ。あと一隻を相手取るのに、戦力を保持しておかなければならない
『日向の状態はどうか?』
これまでの報告の様子では、被弾数は伊勢とほぼ同程度で善戦している
『日向は三番砲塔使用不能、後部艦橋倒壊なるも、健在です!』
『おそらく、敵は二隻で撃つのに慣れていないな。それが幸いしたか』
報告に西村中将は嘆息する・・・観測に手間取っているのだろう。各艦で修正しながら撃つより、一艦にデータを集めて射撃を行う統制射撃戦指揮装置を、なんとか大和就役以来こつこつと改修して全ての戦艦に搭載して来た帝國海軍だが、米海軍はそこまで行きつけていないようだ。で
ネければ、日向は相当の損害を受けていたはずだ
『水柱の着色等、我々はたゆまず努力してきましたからな』
黛がほくそ笑んだ。狙いが正確ならば、狭い散布界で命中弾が一気に出る。それを以て敵艦を早期に押し潰し、我が海軍は数で劣る状況を打破しようとした。こういった場面での適応力は上だ
『敵二番艦速力落ちました!後落していきます!』
遂に耐えかねたのか、敵の二番艦が落伍していく。喫水線に食らって穴が空いたか、水中弾でも食ったのだろう
『よぉしっ!これで二対二だ!』  


591  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:14:00  ID:2MxH4A12O
アリゾナ


『オクラホマ、離脱します!』
ちっ・・・命中弾を先に得たものの、日本人どもが狙いを定めてからは、ドカドカと砲弾が一塊になって落ちてくる。いっぺんに被弾するので、ダメコンが間に合わなくなってきているのだ。オクラホマもそれでやられている
『なにか目くらましになるものが出来れば・・・!』
それこそ散布界の狭さから、被弾率を大きく下げることが出来よう。スコット隊も撃ち込んでくれてはいるが、どうも芳しくない
『・・・そうだ!砲術!星弾を敵の目の前に叩き込む事は可能か!?大まかで良い!』
砲戦中とは言え闇の中。間近で星弾の光を見れば、視覚が幻惑される事は間違いないだろう。それほど時間は稼げぬだろうが・・・
米海軍は夜目が黄色人種よりかは利かない事を理解してか、星弾の運用に関しては日本海軍より熟達している。期待した返事が、キッドへと返って来た
『やれます!しばし時間を!』
『急げ!頼むぞ!』
今装填している弾を撃って、星弾に変えるにはそれなりの時間が要る。三斉射ほどか


ドドドドドド!!!


アリゾナで健在な六門が吠える
『形勢を優位に保つには、ここしかない・・・!』
祈るような口調で、キッドは一人呟いた  


593  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:34:31  ID:2MxH4A12O
第六戦隊・高雄


『どうにも、いかんのぅ』
松田中将の命のもと、木村中将率いる第六戦隊の重巡四隻は、荒波を蹴立てて第二戦隊らの救援に向かいつつあった。しかしいまだ戦闘海域へとたどり着けてはいなかった
『二戦隊の事ですから、手荒く戦って居ると思うのですが・・・』
木村の参謀は、しきりに双眼鏡を掲げて周りを見回してはその呟きを繰り返していた
『なぁに、そのうち見つかるさ。ちと、時間がかかり過ぎておるがの。短気は損気、じゃ』
木村は髭をひねりつつ、その参謀をなだめた
『うまく敵勢を掴めば奇襲にもなり得る。ただ見つけるだけが良い事とは限らんしのぅ』
戦さの流れという物はそういうものだ。ただ押さえるだけでなく、状況を受け流す事も必要じゃ・・・木村のやり方はそうだった。言うはたやすいが、これが実行出来るかとなると、なかなか難しい。木村が決して凡将では無いという証といえよう
『っ・・・針路前方に青色光!明滅して落下しつつあり!』
『閣下!』
みなまで言わずとも解る。星弾だ。海戦はそこで行われているのだ
『相対位置確認を怠らぬように・・・さて』
木村の雰囲気が、のほほんから、凛とした物に変わる
『では一つ、戦ってみるかの』  


594  :長崎県人:2007/07/28(土)  00:37:18  ID:2MxH4A12O
クレ島沖海戦の夜戦は、第六戦隊の突入をもって、米艦隊の撤退戦に移行していくことになる。二水戦はスコット隊に阻まれるも、第六戦隊が到着したことを確認すると魚雷を発射し、インディアナポリスを撃沈する事に成功している。件の第六戦隊は落伍していたオクラホマを雷撃、こ
黷撃沈している


状況的に見れば、後方の艦隊をあてにし、追撃をかけるべき状況である。しかし追っ手である帝國海軍に、それは果たせなかった。伊勢と日向の砲撃は、星弾の光に幻惑され、一時的に麻痺していた。そこに、敵の撤退時の大規模な変針により、追随しての有効な射撃は不可能になってい
ス事と、二水戦が能代を失い、魚雷を使い果たした事、そして、米艦隊のしんがりに付いたバーク隊が魚雷を発射し、運悪く鳥海がそのうち二本を被雷して大破してしまった事がその理由である


現有戦力では追撃は能わず


木村中将は、松田中将に対してそう連絡を取っている。松田中将は追撃を望んでいたが、松田中将の部隊は遠く、それでいて重巡が三隻だけで追撃するには、あまりに危険要素が多すぎた


よって彼等は夜明けの航空攻撃で、米艦隊にトドメを刺そうとした・・・それが米艦隊のトラップだとも知らずに