868  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  21:58:38  [  zHthby0g  ]
第15話  太平洋艦隊、北進

1482年  2月12日  バルランド王国ヴィルフレイング  午前7時

暗闇が、次第にオレンジ色の光に照らされ、港の周囲が、光の下に次々と曝け出されてくる。
オレンジ色の光は、やがてヴィルフレイングの港全てを照らし出し、そこにたむろする艨艟達を、眠りから覚ました。

「出港用意!」

泊地から、凛とした声音が響き、それが合図だったかのように各艦の煙突から一層多くの排煙が噴出し、艦深部のエンジンが唸りを増す。
ヴィルフレイングの住人達は、突然の慌しい物音に起き上がり、港に視線を送る。
各艦の艦首から錨がけたたましい音を立てて艦内に吸い込まれて行き、やがて止まった。
騒音に代わって、今度は喨々たるラッパの音色が泊地内に響き渡り、出入り口に近い艦から出港を開始し始めた。
この世界の住人には理解しがたい音色だが、この音こそ、アメリカ海軍軍人にとっては聞きなれた軍歌、「錨を上げて」である。

「第14任務部隊、出港を開始しました!」

第1任務部隊旗艦、戦艦コロラド艦上で、見張り員の報告が艦橋内に届く。
第1任務部隊司令官である、ウィリアム・パイ中将は、出港していく空母レキシントン以下の第14任務部隊に視線を送る。
まずは駆逐艦から外海に出始め、次に巡洋艦、その次に空母という順番で、ゆっくりと出港していく。
第14任務部隊が出港を終える間際、第1任務部隊所属の駆逐艦も出港を開始した。

「駆逐艦ショー、出港します!」
「ポートランド、出港を開始します!」

時間が経つにつれて、第1任務部隊の所属艦も次々と出港を開始していく。  


869  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:00:40  [  zHthby0g  ]
寮艦が出港していく中、ついにコロラドの出番がやって来た。

「前進微速。」
「前進微速、アイアイサー。」

艦長が機関科に支持を送り、機関科員が指示通りに動いてボイラーの圧力を高めていく。
やがて、コロラドの艦体がゆっくりと動き始めた。

「いつ見ても、大艦隊が出撃する光景は、胸躍るものだ。」

パイ中将がやや上機嫌な面持ちで言う。

「これが、本来の目的での出撃なら、もっと胸躍るものなのですが。」

参謀長のリーガン大佐がいささか不満気な表情で言ってきた。

「作戦に、本来も不本来もあるまい。成功するためならどんな事もいとわぬさ。」
「これだけの規模の艦隊が出港するのですから、敵のスパイからは隠しようがありません。」

情報参謀のパール中佐は、リーガン大佐とは対照的にやや楽しげな表情で言う。

「それは当然だろう。戦艦、空母を主力とする艦隊が、堂々と出港していくのだからな。
まあ、我々としては、敵さんのスパイに報告してもらったほうがありがたいではある。」

パイ中将は自信ありげな表情だ。むしろ彼は、敵に報告される事を大いに望んでいた。  


870  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:03:38  [  zHthby0g  ]
「そうすれば、ガルクレルフの敵主力出てくるだろう。舞台の準備はしっかりやらないとな。我々と、敵とで。」

彼の言葉を聞いて、艦橋の幕僚達は一斉に笑い声を上げた。
第1任務部隊が港外に出ると、“第2任務部隊”主力の戦艦ネヴァダ、重巡ポートランド、ソルトレイクシティ、
護衛空母ロングアイランドを始めとする艦隊が出港を開始し、その後、第16任務部隊の空母ヨークタウン、
戦艦ノースカロライナを始めとする艦群が、ゆっくりと出港を開始した。

ヴィルフレイングの入江より北1マイルの高地で、アメリカ艦隊の出港を見守っていた乞食は、その全体の戦力をやっと理解でき、
それをすぐに魔法通信で送ろうとした。

「大変だ・・・・・・アメリカ人共は、早速主力を出してきやがった。」

乞食は震える手で望遠鏡を引っ込めると、一目がないことを再度確認し、濃い林に隠れた。
そして、頭の中で情報を整理し、魔法の構成式を展開、送る文案を考えた。

「本日8時、アメリカ太平洋艦隊、ヴィルフレイングより出港せり。敵艦隊は4個艦隊であり、
第1群は空母1隻、巡洋艦5隻、駆逐艦10隻以上、第2群は戦艦4隻、巡洋艦2隻、駆逐艦10隻以上、
第3群は戦艦3隻、空母1隻、駆逐艦10隻、第4群は戦艦1隻、空母1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦8隻なり、
針路は北、時速9リンルで向かいつつあり、警戒されたし」

1482年2月12日  午前9時  ガルクレルフ

「何ぃ!?アメリカ太平洋艦隊が出港しただと!?」

シホールアンル南大陸東艦隊司令長官である、ジョットル・ネーデンク大将は報告を聞いた瞬間、思わず叫んでしまった。  


871  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:04:43  [  zHthby0g  ]
「それは本当か?」
「は、はい。」

魔道参謀のヘイ・イーリ大佐はどもりながらも答える。

「敵の戦力は?」
「スパイ情報によりますと、敵は4個艦隊に分かれており、総合で戦艦8隻、空母3隻、巡洋艦、駆逐艦30隻以上と推定されています。」

作戦室には、幕僚や職員、合わせて20人ほどがいたが、突然の報告に、誰もが凍りついたような表情になった。

「戦艦8隻・・・・・空母3隻・・・・・・敵は本気で攻めてきたぞ。」
「敵艦隊の針路からして、恐らくカレアント公国の沿岸、もしくは内陸の地上軍や、港湾施設を狙うと思われます。」
「なんという事だ!地上軍はやっと、補給が満足に行きかけて、大攻勢を準備しつつあるのに。
それに、港湾施設だって、やっと簡易の建物ができたばかりだと言うのに!」

ネーデンク大将は、その丸顔を真っ赤に染めた。

「すぐに出航の準備だ!」

ネーデンク大将はすぐに決断を下した。
これ以上、アメリカ艦隊に好き勝手させるわけにはいかなかった。
「やつらはおいたが過ぎた。ちょうど良い、この機会に痛い目に合わしてやろう。
幸いにも、この西海岸にはやつらと渡り合える程度の数の船を揃えている。
それに、今からワイバーン部隊の増援も行える。」
「では司令長官、隷下部隊に出撃準備を整えさせましょう。」
「急いでやれと伝えろ!」  


872  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:07:19  [  zHthby0g  ]
その言葉が響いた後、幕僚達は慌しく動き始めた。
予想外の出撃準備に、司令部のみならず、隷下部隊の艦隊は困惑したが、今まで散々煮え湯を飲まされてきた
憎きアメリカ艦隊と決戦を行うと聞かされると、準備に拍車が掛かった。
元々、弾薬や消耗品はある程度積み込みを終えており、足りぬ物資等を積み込むだけで準備は着々と進んだ。
出撃は翌13日の午後2時に決定。
アメリカ艦隊の来襲予想地であるカレアント公国南部のジェング岬沖に出港する予定となった。



とある1個艦隊を除いては。



2月13日  午後11時50分  ガルクレルフ

「こんな事なら、砲身交換をもっと早めにやっておくのだったな。」

第3艦隊司令官であるイル・ベックネ少将は苛立っていた。
ガルクレルフを埋め尽くしていた味方艦隊は、大半が既に南下しており、今ガルクレルフにいるのは、
第3艦隊の戦艦レンベラード、マルヒナスと巡洋艦5隻、駆逐艦12隻、その他に本国から送られてきた増援部隊の巡洋艦1隻、駆逐艦4隻。
その他は掃海艇や小型の哨戒艇、輸送用の帆船しかいない。
ガルクレルフには艦隊の他に、2つのワイバーン発着基地があったが、2つの基地、合計で240騎いたワイバーン部隊は、今や116騎と半分以下に減っていた。
このワイバーン部隊も、アメリカ機動部隊の艦載機に備えるため、戦力を南部に転出されている。

「出港時間は、未明の3時になりそうです。」
「3時か・・・・・・・畜生め!」

ベックネ少将はそう吐き捨てた。  


873  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:09:08  [  zHthby0g  ]
「こっちは西海岸で2ヶ月近く任務に当たっていたのだ。
このような事態になるのならば、主砲の砲身交換をもっと早めにやっておけばよかった・・・・・
早く出港せねば、艦隊決戦に間に合わなくなる。」
「会戦予定日は16日のようですな。」
「ああ、そうだ。だが、ここでモタモタしていたら、私たちは16日の決戦に間に合わなくなる。
クソ!なんて間の悪い時期に敵は出てきたのだ!」

出撃命令が下って以来、ベックネ少将はずっとこの調子である。
第3艦隊は、南大陸侵攻作戦が始まって以来、ずっと陸軍の支援やミスリアルの艦砲射撃を行ってきた。
12月の後半には一度、北大陸の西海岸で洋上補給を受けたが、それ以来補給を受けずに陸地の艦砲射撃や対空戦闘を行ったため、
弾薬や食糧の備蓄が残り少なくなっており、更には船の整備も行う必要があった。
ガルクレルフに移動した際、ベックネ少将は艦の整備を優先的に行わせ、次に消耗品の補給、その仕上げに主砲の砲身交換を行っていた。
その矢先に、アメリカ太平洋艦隊北進の情報が入ったのだ。
既に装備品の積み込みを終えていた他の艦隊はスムーズに準備を整えることが出来、第3艦隊が慌しく砲身交換や準備作業に追われている傍ら、
主力部隊は次々と出港して行った。

「しかし司令官、出撃は3時ですが、これでも早まったほうです。本来なら5時頃にずれ込む予定でしたが、
乗組員の努力のお陰で3時に短縮できたのです。」
「そうか。まあ、出撃が予定時刻より縮まったと言う事は賞賛に値する。流石は熟練の第3艦隊だ。
とりあえず、休める者は休めておけ。出撃後は忙しくなるぞ。」
「司令官、心配には及びません。各乗員とも、定期的に休憩は取っておりましたので、体力の消耗はある程度抑えられております。」

主任参謀は自信ありげに言った。他の幕僚達も、艦隊の準備状況を伝えてくる。
報告からして、出港準備はあと一息のところで終わるようだった。

「まあ、とにかく。今は3時頃までに出港し、主力部隊と合流する事を考えねばな。
私達に早くも屈辱を味合わせた、アメリカ艦隊にたっぷりとツケを払ってもらおう。」

ベックネ少将はようやく、焦燥に覆われた表情をやや緩ませた。  


874  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:11:11  [  zHthby0g  ]
午前3時20分、第3艦隊は、新たに加わった巡洋艦1隻、駆逐艦4隻を配下に加えてガルクレルフを出港。
一路南に向かった。

2月14日  午前7時  ガルクレルフ沖南東80マイル沖

ガルクレルフに駐留する、第47空中騎士隊と、第49空中騎士隊は、いつもの通り2騎ずつの偵察ワイバーンを洋上に飛ばした。
偵察ワイバーンは、普段使う地上攻撃用ワイバーンを偵察用に仕立てたものである。
攻撃用ワイバーンは、最高速度が210レリンク(420キロ)、航続距離は500ゼルドである。
体系はやや大型のワイバーンであり、色は濃い青色である。
この日、第47空中騎士隊に所属する2番騎は、ガルクレルフ沖南東方向を偵察飛行していた。
120レリンクの巡航速度で、240ゼルド先に進めばガルクレルフに戻ると言う単純な任務である。
2番騎の竜騎士であるカイゲ・オェンス軍曹は、欠伸をかみ殺しながら海上を見回していた。

「暇で仕方ないな。こんな敵のいない海を見張るぐらいなら、戦場に出たほうがマシだぜ。」

彼は内心、この偵察任務が嫌だった。
偵察任務は、常に退屈との戦いになる。
オェンス軍曹は別に退屈に慣れていないわけではないが、空中戦や地上支援任務と比べると、物足りないにも程があった。

「せめて、目の前に敵の艦隊でも現れないかねぇ。最も、アメリカ艦隊に限らず、南大陸の弱小艦隊でも構わないが。」

半ば本気で、彼は会敵したいと思っていた。
そうすれば、このような退屈な気分も、一気に解消するであろう。

「それにしても、今日は雲が多いな。」  


875  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:12:57  [  zHthby0g  ]
オェンス軍曹はやや姿勢を屈めながら雲の下を覗き込むが、それだけで見えるはずが無い。
太陽はまだ上がり切っておらず、洋上にはオレンジ色のグラデーションが現れ、それが徐々に鮮やかになりつつある。

「偵察任務でも、こういう光景が拝めるからまだ我慢できるよな。」

彼は大自然の光景にしばし見とれていた。
それからしばらく立って、彼は周囲に視線を巡らせた。
辺りにはやけに多い断雲と、その隙間から見える海が見えるのみ。
耳に入ってくる音は、風を切る音と、相棒が羽ばたく音ぐらいだ。

「50分が経過か。今は120レリンクで飛んでいるから、60ゼルド飛んだ事になるな。まだまだ先は長いねぇ。」

彼は相棒に語りかける。相棒は何も反応せず、ただひたすら飛行を続けているのみだ。

「宝物でもそこらに漂流していないかな。」

彼はもう一度、洋上を眺めた。
まず、右側を眺めて確認。比較的、雲量は少ない。めぼしいものは何も無い。

「右は以上なし、と。」

次に左側を見る。右側と比べて、雲量は多いものの、洋上は見渡せ、その洋上に黒いものが大小幾つか・・・・・・・
幾つか・・・・・・・・・・・

「あれは何だ!?」

思わず叫んでしまった。  


876  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:15:18  [  zHthby0g  ]
雲の端から、突然黒い船の影のようなものが幾つも見えた。
その幾つもの船らしき陰は、陣形を組んでいた。形はややはっきりしている。
距離はこちらから5ゼルドあるかないかだ。

「もしかして・・・・・・もしかして・・・・・・」

彼は震える手を抑えながら、腰のポーチから小型の双眼鏡を引っ張り出した。
一見、おもちゃのような小さな双眼鏡だが、中には特殊な魔法石が入っており、
普通の望遠鏡並みの倍率で、遠くのものを見ることが出来る。
双眼鏡の向こう側に見えたモノ。
まず、小型艦らしき船が一番外周に居座り、次いで巡洋艦らしい船がいる。
その更に奥には、真っ平の甲板で、その中央部に纏められた、異様に大きな艦上構造物。
煙突と艦橋が少しだけ離れている。
彼は、1週間前に送られてきた船のイラスト書かれていた名前欄の言葉を思い出した。

「レキシントン級空母だ!」

その独特の艦容は、紛れも無く、レキシントン級正規空母そのものであった。

「なんてこった!本当に敵が来やがるとは・・・・・・それも、一番タチの悪い奴らが!!!」

彼はすぐに魔法通信を送ろうとした。
まず、頭の中で魔道式を展開。次に送る文案を考え、それを魔道式に結合させる。

「よし、まずはガルクレルフに送る」  


877  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:17:22  [  zHthby0g  ]
言葉が最後まで言えなかった。突然、グオオオーン!というものものしい音が聞こえた。それは1秒経つごとに唸りを増しつつあった。
ぎょっとなって、音のする正面を見てみる。
突然、断雲を破って4機の見慣れぬ飛空挺が、彼の前に現れた。

「逃げるぞ!」

彼は相棒に指示を送り、向きを変えさせる。
ワイバーンが鮮やかな動作で反転し、速度を上げてガルクレルフに向かっていく。
すぐに210レリンクのスピードに上がり、ワイバーンは猛スピードで現場空域を離れつつある。
だが、後方の4機の飛空挺は追って来た。
差は広まるどころか、すぐに縮まりつつあった。
(緊急!ガルクレルフ沖60ゼルドの海域で、敵レキシントン級空母を発見せ)
刹那、後方から連続した発射音が聞こえた。
振り返ると、オレンジ色の小さな光弾が無数に向かって来た。
オェンス軍曹の意識はその直後に消えた。


「ガルクレルフのワイバーン部隊は、合計で110騎ほどにまで減少していると、スパイからの情報で判明しています。」

空母エンタープライズの作戦室で、ラウスの妙に間延びした声が響いた。

「その内、戦闘ワイバーンは4割、又は5割程度を占めると思われます。」
「5割だとして、50〜60騎か。第1次攻撃隊なら対等に戦えるはずです。」

航空参謀のタナトス中佐が自信ありげに言って来た。それにハルゼーも納得したように頷く。  


878  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:19:15  [  zHthby0g  ]
「さて、航空参謀の案通りにして見たが、後の結果は神のみぞ知るだな。
後は第1、第2次攻撃隊がシホット共のワイバーンを封じ込めれば、戦いは楽になる。」

ハルゼーは広げられた地図を眺めながらそう言った。

「キッド部隊はちゃんと続行しているか?」
「はい。艦隊の後方10マイルを21ノットで航行しています。」
「よし。作戦の第1段階に入ろう。」

そう言うと、ハルゼーらは艦橋に上がった。艦橋に上がった時、

「敵味方不明機接近!」

の声が艦内を巡った。
そして10分後、

「TF15上空にワイバーンが出現しました。」
「何だと!?」
ハルゼー中将はやや驚いた表情で叫んだ。
「現在、直衛機が追跡しているようです。」
「・・・・・ラウス君。TF15の上空にワイバーンが現れたようだが、ワイバーンに乗っているパイロットは魔法通信が使えたな?」
「使えます。」
「使える・・・・・か。これは、ガルクレルフの敵に報告されたかもしれないな。」

彼は一瞬、表情を曇らせるが、すぐに元の平静な表情に戻り、タナトス中佐に顔を向けた。  


879  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:21:04  [  zHthby0g  ]
「航空参謀。第1次攻撃隊の発艦準備は整っているな?」
「はい。5分前に準備を完了しています。TF15も先ほど、発艦準備を完了した模様です。」

その時、艦橋に別の通信士官が飛び込んできた。

「報告、直衛隊は敵機撃墜に成功しました。」
「うむ。だが、これで敵のワイバーン部隊が来る可能性があるな。早めに第1次攻撃隊を発進させよう。」

午前8時  ガルクレルフ

「敵です!敵が来ました!」

第47空中騎士隊隊長であるナルバ・ロッポ大佐は、やや安堵したような表情を浮かべる。

「どうやら間に合ったようだな。」

ロッポ大佐は、双眼鏡で二つの飛行編隊を見る。
1つ目の編隊は、海側から聞きなれぬ音を発しながら迫りつつある。
視線を変えて、ガルクレルフ港上空の編隊をみてみる。
こちらは普段見慣れた戦闘ワイバーンである。
速度は245レリンクを出せ、信頼性もある赤いワイバーン達は合計で52騎いる。
本来なら、ワイバーンは戦闘用、攻撃用会わせて116騎はいたが、ガルクレルフ上空を飛行している52騎以外に、
今朝方、味方の偵察ワイバーンが発見したレキシントン級空母を中核とする米機動部隊攻撃に42騎の戦闘ワイバーン、攻撃ワイバーンを割いている。
「敵編隊は約40〜50機か。そのうち、あの忌々しいグラマン機が3分の1、良くて半分か。敵機部隊の指揮官はさぞかし驚いているだろうな。」
もし、グラマンが半数の20機以上だとしても、こちらが迎撃に用意したワイバーンは52騎。
いくらこちら側のワイバーンにあれほど煮え湯を飲ませたグラマンとはいえ、流石に押さえ切れぬだろう。  


880  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:22:46  [  zHthby0g  ]
半数はグラマンとの戦いに拘束されるだろうが、残りは心置きなくドーントレスやデヴァステーターに取り付ける。

「フッフッフッフッ。あの忌々しいグラマンや攻撃機群の命も、もはや尽きたな。特に攻撃機は1機も生き残れまい。」

彼の脳裏に、片っ端から光弾を叩き込まれ、ブレスに焼かれて墜落していく米軍機の姿がよぎった。
この攻撃さえ抑えれば、後は有利に事を運ぶ事が出来る。
それに、アメリカ艦隊攻撃に向かった攻撃隊が敵の空母叩きのめせば、第47、49空中騎士隊の名声は世に知れ渡る事になる!

「シホールアンルの力を、とくとご覧に入れようぞ。」

彼は獰猛な笑みを浮かべながら、ワイバーン隊が米艦載機隊と交戦に入るのを待った。
ほどなくして、ワイバーン隊が増速して高度を上げ始めた。
空中戦で有利なポジションを取るために必要な行動であり、戦闘ワイバーンの竜騎士達にとって、いつもやり慣れた動作に過ぎなかった。
双眼鏡を米軍機に向けなおす。芥子粒ほどの米編隊は、先頭の機がやはり高度を上げ始めた。
先頭は攻撃隊の援護に付くグラマンであろう。

「さて、どんな戦いぶりを見せてくれるかな?」

彼は双方の激突を今か今かと待ち構えていた。
先頭の機が上昇を始めると、後続機、その後続機も次々と上昇を始める。
先頭の10機ほどの梯団が上昇し始め、次にその後続の小編隊も上昇を始める。
そして、後方、またその後方の小編隊も先頭隊に続いて上昇を始め、なぜか最後尾部隊までもが上昇を開始した。

「?????」

ロッポ大佐は戸惑った。  


881  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:24:37  [  zHthby0g  ]
なぜか、敵攻撃隊の全機が上昇を始めたのだ。
そしてその動きは早かった。中空を悠々と飛行しているはずの攻撃機は1機もいない。

「まさか!」

ロッポ大佐は驚愕の表情を浮かべた。
なんと、敵攻撃隊は、全機があのグラマン戦闘機なのだ!
双方が上昇を終え、その先頭が接触した途端、空中戦が始まった。
上空にグラマンのエンジン音が響き渡り、機銃の発射音が微かながら聞こえてくる。
この時、アメリカ軍の第1次攻撃隊は、54機全てがF4Fであった。
攻撃隊の内訳は、エンタープライズ隊が28機、サラトガ隊が26機である。
1機のF4Fのバックに、ワイバーンが迫り、光弾を叩きつけてきた。
光弾のうち何発かがコクピットを直撃してパイロットの体をギタギタに引き裂いた。
操縦者を殺されたF4Fが機首を下にして墜落していく。
F4Fを撃ち落したそのワイバーンの横合いから別のF4Fが突進し、12.7ミリ機銃をぶち込んで、撃ち落とされた味方機の後を追わせた。
別のワイバーンは、グラマン機の真正面からブレスを吹き付けたが、グラマンは上手く避けて逆に4丁の12.7ミリ機銃弾をしこたま振るわせた。
赤いワイバーンの胴体や翼に高速弾が数十発単位で殺到し、魔法障壁を難無く突き破って胴体や翼を引きちぎった。
痛みに悶えるワイバーンが、悲痛の叫びを上げながら墜落していく様は、悲惨の一語に尽きる。
急降下で突進してきたグラマンに気付かず、前方のグラマンを追い回していたワイバーンに機銃弾のシャワーが降り注ぎ、
グラマンが下に飛び抜ける頃にはワイバーンも射手も射殺され、グラリと傾いて下界に真っ逆さまに墜落していった。

「なんて事だ・・・・・・・な・・・・なんて事だ・・・・・」

ロッポ大佐は目の前の光景が信じられなかった。
つい2週間前まで、南大陸軍相手に大いに暴れ回った歴戦のワイバーン部隊が、同数程度の敵相手に良くて互角か、悪くて苦戦を強いられている。
墜落していくグラマンも5機ほど数えたが、その間に味方のワイバーンは実に10騎以上が叩き落された。  


882  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:26:45  [  zHthby0g  ]
双方一歩も引かぬ激しい空中戦だが、格闘戦に全く乗らぬグラマンは、常に一撃離脱の戦法に徹している。
それに対し、何が何でも格闘戦に引きずり込もうとするワイバーンだが、相手はいっこうに乗って来ないため、
空しく旋回を続けるワイバーンが何騎もいる。
そのワイバーンに優位な高度から急降下して、攻撃を仕掛けるグラマンも1機や2機と言うちゃちい数ではない。
そして空中戦開始から20分が経った時、味方のワイバーンは6割程度にまで撃ち減らされていた。
敵グラマンも明らかに数は減っているが、味方よりはまだまだ数が多い。

「俺の・・・・・俺のワイバーン部隊が!」

目の前に現れた、残酷な事実に、ロッポ大佐は思わずへたり込んだ。
彼は気付かなかったが、この時、南東の洋上から新たな編隊が姿を現しつつあった。
それこそ、本命の打撃部隊である第2次攻撃隊であった。


9時30分  ガルクレルフ沖南東60マイル地点

「レーダーに反応!北西針路320度方向より接近する敵編隊あり。距離30マイル」

第15任務部隊の空母サラトガのレーダーが、接近しつつある第47、第49空中騎士隊の攻撃隊を捉えた。

「直衛戦闘機をすぐに向かわせろ!」

CICの中は、たちまち出入りする兵や士官で慌しくなった。
現在、上空警戒に残されたF4Fは18機で、それらはサラトガ、エンタープライズの指示を受け取るや、
すぐさま会敵点へと向かった。  


883  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:28:39  [  zHthby0g  ]
10分後、

「直衛戦闘機隊より受信、敵編隊のうち、20騎がTF15へ向かうとの事です。」

第15任務部隊指揮官であるジョン・ニュートン少将は舌打ちした。

「よりにもよって、我が艦隊に向かってくるとはな。F4Fはどうした?」
「敵ワイバーンとの戦闘に拘束されています。敵編隊、我が艦隊まであと10マイルです。」

ニュートン少将は、敵が来ると思われる北西の方角に双眼鏡を向けた。
雲はちょうど少なく、遠くまで見渡せる事が出来た。
ニュートン少将は、程無くして、両翼が上下運動を繰り返す飛行物体を発見した。

「敵ワイバーン部隊視認!」

すると、敵ワイバーン部隊はいきなり二手に分かれてきた。
敵ワイバーンは21騎いたが、一方は9騎、一方は11騎に別れ、11騎のほうは艦隊の前方を大きく迂回し、
やがて右舷側から低空、高空の二手に分かれて向かって来た。
それと同時に、対空砲火の射程外にいたワイバーン9騎も首を輪形陣に向けてきた。
敵ワイバーン部隊は、TF15の左右両側から挟み撃ちを仕掛けるようだ。
やがて、輪形陣外輪部の駆逐艦が両用砲を放った。
ワイバーン編隊の周辺に高角砲弾が炸裂し、辺りに小さな黒い花が咲く。
敵ワイバーン隊は400キロ近いスピードで輪形陣に迫って来た。
第49空中騎士隊に属する攻撃ワイバーン11騎は、初めて経験するアメリカ艦隊の対空砲火に度肝を抜かれた。

「こりゃあ、想像以上に難物だぞ!」  


884  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:30:21  [  zHthby0g  ]
指揮官は、辺りで炸裂する高角砲弾に怯えながら前進を続けた。
米駆逐艦が打ち上げる高射砲の弾幕はなかなか激しく、編隊の前面には、黒い小さな煙が無数に湧き上がって、
それが壁を形成しているように見えた。
ドン!ドン!と砲弾が炸裂するたびに、火薬のきな臭い匂いが鼻を突き、魔法障壁に破片が当たってけたたましい音が耳の奥を掻き毟った。
駆逐艦まで距離600グレルまで達すると、無数の光弾が飛び上がってきた。
指揮官はアメリカ艦隊の輪形陣を見てみた。
外周部には小型艦が占位し、陣形の少し内側には巡洋艦、そして真ん中に空母がいる。
左舷側の中型艦の艦も、姿ははっきり見えないが恐らく巡洋艦だろう。
こちら側が見える巡洋艦は、空母の前を行くものと、空母の右前斜めを行くのがブルックリン級だ。
そこまではすぐに分かった。
だが、空母の右後ろ斜めを行く艦は判別がつかなかった。
一見すると、駆逐艦の艦体を伸ばしたような形だが、その見た事も無い船が一番激しい対空砲火を放ってきている。

「なんて量の対空砲火だ!」

指揮官はあまりの濃密な弾幕になぜか呆れてしまった。

「後続騎!ついてきているか!」
「2番騎と7、8番騎が落とされました!」

そんなに!?
指揮官は仰天した。
今までは、多くて、1週間に2騎ほどの損害が常であった。
だが、戦闘開始からわずか10分足らずの短時間に、対空砲火のみで3騎も落とされたのは初めてだった。
駆逐艦の上空を飛びぬけると、今度は巡洋艦の防御ラインにぶち当たった。
高角砲弾のみを放っていた巡洋艦が、堪えきれぬ怒りを爆発させたかのように大量の機銃弾を放って来た。  


885  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:33:05  [  zHthby0g  ]
それまで高度3000メートルで急降下爆撃を行おうとしていた4騎のワイバーンも、この瞬間に2騎が連続して叩き落された。

「敵のワイバーンはかなり勇敢だぞ!」

ニュートン少将は、サラトガの艦橋上でワイバーンの戦いぶりを見ていたが、凄まじい対空砲火を受けても引く事無く、
向かいつつあるワイバーンの闘志に頭が下がる思いだった。

後年、クリーブラン級軽巡やボルチモア級重巡、それにアラスカ級巡洋戦艦やアイオワ級等の優秀な護衛艦艇を加えたアメリカ機動部隊は、
シホールアンル側の航空攻撃に対して鉄壁とも言える対空砲火で多数のワイバーン、飛空挺を撃墜している。
その時の対空戦闘に比べれば、この最初の対空戦闘は可愛い気のあるものだったといわれている。
だが、それを知らぬ当時の者達は、この時の対空砲火も、いつもに増して濃密に張り巡らされていると思っていたが、
ワイバーン群は犠牲もいとわずに、ひたすらサラトガに接近して来た。

最初にサラトガの至近にやって来たのは右舷側のワイバーンだった。
海面を這うような低空でやって来た2騎のワイバーンは、サラトガ自身の対空砲火も受ける。
サンディエゴを出港する直前に換装された艦橋前、後部前に設置された5インチ連装両用砲に、28ミリ4連装機銃2基、
20ミリ機銃16丁が雨あられと高角砲弾、機銃弾を注ぎ込む。
距離800メートルで先頭のワイバーンがズタズタに引き裂かれ、バラバラになりながら海面に叩きつけられ、血混じりの水柱を吹き上げる。
2番目のワイバーンは距離600メートルで、腹から爆弾を投下した直後、高角砲弾が右の翼を叩き切り、もんどり打って海面に叩き落された。

「爆弾が来まーす!」

見張りの絶叫が響いた。
2番目のワイバーンが放った爆弾が、テンテンと海面を飛び跳ねながら向かって来たのだ。
ニュートンが右舷側に目を向けたとき、爆弾は艦橋後部の5インチ連装両用砲座下に舷側に命中した。  


886  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:35:03  [  zHthby0g  ]
ズガァーン!というけたたましい爆発音が鳴り、衝撃にサラトガの艦体が僅かに震えた。
爆弾は舷側に突き刺さると、その場で炸裂した。
75リンル(140キロ)爆弾が炸裂し、無数の破片が四方八方に飛び散らされた。

「上空より敵機急降下!」

残る2騎のみとなったワイバーンが、見事な体勢でサラトガめがけて突っ込んで来た。

「取り舵一杯!」

艦長のオーウェン大佐が緊急回頭を命じる。
上空のワイバーン2騎は、操舵員が必死の形相で舵をぶん回し、早く曲がれと祈る間にも確実に高度を下げつつあった。
サラトガの艦首がようやく曲がり始める。その次の瞬間、艦首右舷側の海面に水柱が吹き上がった。
次に艦橋右舷側海面に爆弾が落下し、高々と水柱を吹き上げた。
2騎のワイバーンの攻撃をかわしたまでは良かった。だが、別の脅威がサラトガに迫りつつあった。

「左舷側低空よりワイバーン4騎接近!」

左舷側より進入して来たワイバーン4騎が巡洋艦の防御ラインを突破し、サラトガの左舷側に迫って来たのだ。
左舷側の20ミリ機銃16丁に28ミリ4連装機銃2基、それに5インチ単装両用砲が狂ったように撃ちまくる。
他の護衛艦からも援護の対空砲火が4騎のワイバーンに伸びてくる。
4騎中、2騎が叩き落されたが、残る2騎が距離500メートルで75リンル爆弾を投下した。
爆弾のうち1発はサラトガの至近で爆発して空しく飛沫を跳び散らすが、残る1発が左舷側中央部の舷側に命中する。
命中の瞬間、ドーン!という爆発音が鳴り響き、サラトガの艦体が再び揺れた。
爆発の瞬間、爆風の影響をもろに受けた28ミリ4連装機銃座は、真下から無数の破片に機銃座をズタズタに引き裂かれ、
操作要員、給弾要員が全員戦死してしまった。  


887  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:37:24  [  zHthby0g  ]
また20ミリ機銃2丁が銃身を破片にすっぱり切断されたり、ひしゃげられて使用不能に陥った。

「舷側より火災発生です!」
「ダメージコントロールチームは急いで損傷箇所の消火に当たれ!」
「右舷側の火災は小規模、負傷者多数、至急救護班をよこして下さい!」

艦橋内にひっきりなしに報告が届き、オーウェン艦長がそれにひとつひとつ、指示を下していく。
サラトガは両舷からうっすらと黒煙を噴き出しており、傍目から見れば無視しえぬ損害を負ったように思える。
しかし、実際の被害は思ったより少ない。
それに、空母の命とも言える飛行甲板は無事であり、機関にも損傷は無かった。

「司令、第1、第2次攻撃隊より入電です。我、ガルクレルフワイバーン基地の攻撃に成功!敵の基地機能を完全破壊せり!」

一瞬、騒がしかった艦橋内が静かになり、やや間を置いて誰もが安堵したような表情を滲ませる。

「まずは第1段階成功、と言う事だな。」

ニュートン少将は無表情のままそう呟いた。

「だが、僅かながらの敵が、このサラトガに手傷を負わせた。あのワイバーン隊の連携は見事だった。
この事からして、シホールアンルは侮れない敵であると、今一度認識せねばならない。」

午前11時50分  ガルクレルフ

ガルクレルフにあった、2つのワイバーン発着基地は、濛々たる黒煙を吹き上げていた。  


888  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:39:06  [  zHthby0g  ]
アメリカ軍の艦載機は、第1次攻撃隊を戦闘機のみで固めて、こちら側の迎撃部隊を蹴散らすと、第2次攻撃隊が2つの発着基地に殺到し、
次々に爆弾を叩き付けて行った。
指揮所、野ざらしの弾薬集積所、備品倉庫は真っ先にドーントレス群の急降下爆撃を受けてことごとく叩き潰され、
200メートルの短い滑走路は水平爆撃隊によって穴だらけにされていた。

「こっ酷くやられてしまったなあ。」

第49空中騎士隊隊長であるジャーバン大佐は頭を抱えながらそう呟いた。
惨憺たる様相を呈した発着基地ではあるが、迎撃隊、攻撃隊の損害も目を覆わんばかりだった。
迎撃隊は11機のグラマンを撃墜したが、逆に27騎を撃ち落された。
攻撃隊にいたっては、護衛のワイバーン20騎、攻撃ワイバーン22騎で洋上の米機動部隊を攻撃したが、
護衛のワイバーン8騎、攻撃ワイバーン14騎を失って得た戦果は、レキシントン級空母1隻に爆弾2ないし4発命中、
敵機2機撃墜のみであった。
迎撃ワイバーンと攻撃隊は、南200ゼルドにあるレンバリアの基地に避難して行ったが、激烈な戦闘を終えたばかりであるから、
更に何騎かが途中で脱落した事は明らかである。

「あれから3時間が経った。もうそろそろ、敵の第3次攻撃隊が来てもおかしくない。」

ジャーバン大佐は、あの恐ろしい甲高い轟音をはっきりと聞き取っている。
攻撃機の中で、特にドーントレスの発する甲高い音は、まるで死神の呼び声にも似ているようで、思い出すだけでぞっとする。

「隊長―!」

魔道士官が息を荒げながら、彼の側に走り寄ってきた。

「どうした?」  


889  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:40:53  [  zHthby0g  ]
「第3艦隊がガルクレルフに向けて反転を開始したそうです。」
「第3艦隊が来るのか・・・・・・第22竜母機動艦隊はどうなのだ?」

ジャーバン大佐は肝心な事を問いただす。

「アメリカ側が空母でここを叩こうとしている今では、こちらもワイバーンで敵に対抗せねばならない。
そのワイバーンを積んでいるであろう、第22竜母機動艦隊はどうなっている?」
「ヘルクレンス少将の艦隊は、正面の太平洋艦隊主力と決戦を行うべく、依然として艦隊主力に続行しままで。」
「畜生め!」

ジャーバン大佐の口から罵声が飛び出した。

「ここには前線部隊に欠かせぬ物資が大量にあるのだぞ!それを敵機動部隊の艦載機に吹き飛ばされれば、
前線の地上軍は満足に戦えなくなるのに!」

腹立ち紛れに、彼は被っていた帽子を地面に叩き付けた。

「レンバリアの基地に応援要請だ!至急、ワイバーンを上空によこせと伝えろ!」

彼はすぐに指示を下した。
魔道士官はその命令を受け取ると、すぐに魔法通信を送る準備に取り掛かった。
突然の空襲に、ガルクレルフのシホールアンル軍部隊は浮き足立っていた。
普通なら、アメリカ軍の機動部隊は全て、遠い南の海域で自軍の主力艦隊と行動を共にしている筈なのだ。
だが、比較的安全だったはずのガルクレルフに、アメリカ機動部隊はその刃を突き立てて来た。

「襲来してきた艦載機の数からして、空母の数は攻撃を加えたレキシントン級1隻のみではない。明らかにもう1隻いる!」  


890  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:43:06  [  zHthby0g  ]
ジャーバン大佐は、今朝の戦闘を見てそう確信していた。誰もが、次の空襲を恐れていた。
そう遠からぬ時間に、港や平野に溜められた補給物資は、敵飛空挺の銃爆撃に晒される事は、誰から見ても明らかだった。
せめて、少しだけでも補給物資を内陸に運ぼうと、一部の馬車部隊が木箱を荷台に積み込み始めている。
必死に救助作業や、物資の搬送作業に励む中、水平線上にぽつんと、船の形が浮かび上がった。


第2任務部隊司令官のアイザック・キッド少将は、ガルクレルフの陸地を双眼鏡で眺めていた。

「あれがガルクレルフか。」
「現在、ガルクレルフまでは約5マイルあります。」
「5マイルか。もう少しだな。」

彼は抑揚の無い口調でそう呟いた。
既に射程内だが、キッド少将は未だに発砲命令を出さない。

「4マイルまで近付いて回頭し、南側から北側に航行して港とその少し内陸を砲撃する。
ニューオーリンズとアストリアは続航しているな?」
「はい。1000メートル間隔で続航しています。」

第2任務部隊は、護衛の軽巡、駆逐艦を左右に配置し、戦艦、重巡計4隻で1つの単縦陣を形成している。
5マイルから4マイルに縮むのにそう時間はかからなかった。

「4マイルです。」
「よし。全艦一斉回答、艦隊針路360度」
「全艦一斉回答、艦隊針路360度、アイ・サー。」

復唱のこえが響いて間もなく、第2任務部隊はガルクレルフ港の南側から一斉に北へと転舵した。  


891  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:44:23  [  zHthby0g  ]
転舵を終えると、ガルクレルフ港の南側の防波堤が左舷側に見えた。

「左砲戦、砲撃用意。」

キッド少将は淡々とした口調で命令を下した。
アリゾナの3連装45口径14インチ砲計12門が、一斉に左舷側に向けられる。
砲塔が左舷側に向けられると、14インチ砲ひとつひとつが、陸地に狙いを定める。
戦艦部隊がまず狙うのは、南側に堂々と構えられている木造の倉庫群である。

「全艦、砲撃準備完了です。」

ヴァルケンバーグ艦長が報告して来た。キッド少将は頷き、早くも次のステップに取り掛かった。

「撃ち方始め!」

大音声で命令を下し、その数秒後にアリゾナの各砲塔の1番砲が火を噴いた。
ズドォーン!という重々しい発砲音が、ガルクレルフに響き渡った。
後続のペンシルヴァニア、重巡ニューオーリンズ、アストリアも適宜射撃を開始した。
上空には、弾着観測機がおり、それらが観測結果を報告する事になっている。
やがて、倉庫群の前面に数本の水柱が立ち上がった。その水柱の隙間から、弾着の閃光が垣間見えた。

「陸地に4弾命中。倉庫群に目立った損害無し。」

20秒後に第2射が放たれた。土煙が上がっている陸地に14インチ砲弾が殺到し、着弾する。
またもや盛大な爆発が起こり、大量の土砂が上空に噴き上げられる。  


892  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:46:57  [  zHthby0g  ]
「倉庫群に1弾命中。倉庫1棟を完全破壊。」

次に、修正を加えた第3射がぶっ放された。
三度陸地に爆発が起こり、今度は建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ様子が艦上からも見て取れた。

「新たに倉庫5棟を破壊せり。」
「いいぞ、その調子だ。」

キッド少将は満足気に頷いた。
その直後に第4射が放たれ、14インチ砲弾が陸地に向かっていくアリゾナ、ペンシルヴァニアから放たれた砲弾が倉庫群に着弾し、
一気に7棟の木造倉庫が吹き飛ばされた。

「一斉撃ち方。」

弾着が良好になったと判断したヴァルケンバーグ艦長は、ついに一斉撃ち方へと切り替えた。


太平洋艦隊司令部が立てた、ガルクレルフ砲撃作戦は実に手の込んだものであった。
まず、10日の未明にTF2、TF15、TF16が、夜逃げをするようにこっそりとヴィルフレイングを出港した。
その2日後の12日、太平洋艦隊主力は堂々と、ヴィルフレイングを出港していった。
この時、監視に当たっていたスパイは、太平洋艦隊の陣容を伝えたが、報告の中には戦艦が8隻とあった。
だが、主力部隊は戦艦を6隻しか伴っていなかった。
本当ならば、6隻しかいないはずなのに、報告では8隻に増えたのだ。
この時、アメリカ側は、夜中に出港した真打の打撃部隊を、全く関係の無い艦隊と思わせるために、本体の出港時に
わざわざ偽装した第2任務部隊までも用意したのだ。
それに、キンメルはトリックを使った。それは、戦艦と重巡を混ぜて出港させた事である。  


893  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:49:00  [  zHthby0g  ]
米重巡の初期型に属する、ソルトレイクシティ、ペンサコラ級、ノーザンプトン級、ポートランド級は、普段は戦艦の側を航行しているが、
今回は敢えて、一列に並ばせ、一緒に航行させた。
これらの重巡は、近場で見たら一目瞭然だが、遠目で見ると、その独特の三脚マストや艦上構造物が米戦艦の形に似ている。
スパイはキンメルのトリックにまんまと引っ掛かり、あたかも主力部隊が総力出撃したように見せかけたのだ。
そして、北進を続ける太平洋艦隊主力は、敵の主力部隊を南に引っ張り出す、“えさ”であった。
太平洋艦隊北進のニュースに引っ掛かったシホールアンル艦隊は、ほぼ全力を出港させ、南に向かってしまった。
そこに大回りで接近してきたTF2、15、16がガルクレルフを奇襲したのである。
米側の本当の目的が分かった頃には、もはや手遅れだった。


アリゾナ、ペンシルヴァニアが一斉撃ち方に入ると、ガルクレルフ港はこれまで以上に激しく破壊され始めた。
先の交互撃ち方で、既に半数近い数を叩き潰されていた倉庫群、合計24発の14インチ砲弾が降り注ぎ、たちまち10棟単位の倉庫が粉々に吹き飛ばされた。
倉庫には、兵士達が使う防具や剣、盾などが入っていたが、それらが一瞬にして叩き潰され、ただのゴミクズに変換されてしまう。
その無数のゴミクズの真上に第2斉射の14インチ砲弾が突き刺さり、大音響とミクロ単位の細切れになった。
第3斉射で倉庫群が1棟残らず全て吹き飛ばされた。
次の目標に主砲が向けられる。今度の目標は、港に野ざらしにされた、山積みの木箱の群れである。
その木箱の群れに14インチ砲弾計24発が殺到する。
着弾の瞬間、木箱の山は一瞬にして消え去り、または空高く舞い上がって、地上に勢いよく叩きつけられた。
第5斉射が放たれると、木箱の合った区画は一瞬にして砕け散り、人も物も全て無に還元された。
重巡2隻の8インチ砲弾も、戦艦よりは威力は無いものの、係留されていた哨戒艇や帆船を片っ端から砲撃し、次々と打ち沈める。
陸地に向けられれば、固いレンガ造りの倉庫と言えども、雨あられと降り注ぐ8インチ弾の前に2分と持たず、あえなく崩壊していった。
山積みになった木箱群は、戦艦の斉射を受けた後には1箱も無事なものは残っておらず、
比較的損傷の低い物でも、内容部が著しく損壊し、もはや2度と使い物にはならなかった。
軍港の中央側には、分解された投石器や大砲、弾薬が詰められたテント郡があったが、それもアリゾナ、ペンシルヴァニア14インチ砲弾の餌食となっていく。
1トン近い石を放り投げる事の出来る投石器が、鉄の砲弾に直撃され、基部が木っ端微塵に破壊される。  


894  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/13(土)  22:50:35  [  zHthby0g  ]
とある14インチ砲弾は、別のテント群に突き刺さって炸裂。
その瞬間、大音響と共に紅蓮の火柱が吹き上がり、シホールアンル側のみならず、砲撃を行っていた米側も思わず仰天してしまった。
南大陸最大の後方兵站基地と言われ、同時に将兵の急速の場所として知られていたガルクレルフが、
1回の斉射の度に醜く変貌し、対応のしようがない大損害を与えられていく。
14インチ砲弾が、保管されていたゴーレムも荷台も一緒くたに吹き飛ばし、
連続で放たれた8インチ砲弾が、木箱の中の服や、兵達の家族から送られた差し入れを一寸刻みに破壊していく。

北側も砲撃され、射撃目標が内陸部に及ぶ頃には、ガルクレルフの港は、砲撃前の光景とは全く違う光景。
まるで、地獄そのものをそっくり移転させたような光景に変わっていた。  





938  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  09:54:03  [  zHthby0g  ]
第16話  バレンタインデーの海戦

1482年2月14日  ガルクレルフ  午後1時

水平線の向こう側から、濛々たる黒煙が噴出し続けている。
今現在、第3艦隊はガルクレルフより南東5ゼルド沖にいるが、直接ガルクレルフを見ないでも、その黒煙を見る限りは大体予想がついた。

「被害は甚大のようです。」

ずっと、ガルクレルフの方向を見つめているイル・ベックネ少将に、主任参謀が持っている紙を読み上げ始めた。
その表情は、やや引きつっていた。
ガルクレルフ空襲さる!
この魔法通信を受けたのは、ちょうどガルクレルフから56ゼルド南を、時速12リンルで航行していた時であった。
知らせを聞いた第3艦隊は、すぐに反転、ガルクレルフへと向かった。
ガルクレルフに向かう際、スコールに20分ほど当てられた。
もし、スコールに当てられていなければ、第3艦隊は機動部隊である第15、16任務部隊から発艦したドーントレスに発見されていたが、
幸か不幸か、ドーントレスはスコールを避けて飛行したため、第3艦隊を発見する事が出来なかった。
思わぬ空襲を受けずに、ガルクレルフの近くまでやってきた。
だが、現場に辿り着いた時には、米艦隊は既に仕事を終えて立ち去る時であった。
第3艦隊は、第2任務部隊のガルクレルフ砲撃阻止に間に合わなかったのだ。

「港湾部の集積所は全て壊滅、平野部の物資集積所も艦砲射撃を受けて、ほぼ全滅状態との事です。」
「全滅か・・・・・・主任参謀。確か、ガルクレルフには、70万の将兵を、4ヶ月ほど満足な状態で、
敵地に攻撃を続行させる程度の物資があったと聞いているが。」
「はい。4ヶ月と言う数字は眉唾物ですが、最低でも3ヵ月半、最悪で2ヶ月強は
本国からの補給なしに現地軍に攻撃を続けさせる事が出来ます。」  


939  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  09:55:37  [  zHthby0g  ]
「その分の物資・・・・・それも馬鹿にならない補給物資が、わずか1時間足らずの砲撃で全て吹っ飛んだ・・・・・・
これでは、前線軍の補給は滞り、進撃は必然的に止まるだろう。」

その時、別の報告が艦橋に響いてきた。

「アメリカ艦隊視認!艦数約20!」

この時、砲撃を終えて退避中の米艦隊の姿が見えてきた。

「速力は?」
「約10リンル程度です!」
「遅いな。」

レンベラード艦長のロスグタ大佐は嘲笑うような口調で呟く。

「戻ってきた甲斐があったな。流石は13.5リンルの高速を誇るオールクレイ級だ。
低速の艦隊なぞ、すぐにでも追い付いて、巨砲で吹き飛ばしてくれるわ。」
ガルクレルフの被害報告を聞いて、落胆したベックネ少将も、真剣な表情で米艦隊の方角、右舷前方のおぼろげな艦影群を見つめている。

「貴様らが、ガルクレルフの味方に味あわせた恐怖を、そっくりそのまま返してやる。変針!!」

ベックネ少将は、さっきとは打って変わった快活のある声音で、第3艦隊の全艦に命じた。

午後1時10分  ガルクレルフ沖10マイル

「右舷後方より敵艦隊視認!時速26ノット以上で接近中!距離17マイル!」

第2任務部隊旗艦アリゾナの艦上で、報告を聞いたアイザック・キッド少将は眉をひそめた。  


940  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  09:59:45  [  zHthby0g  ]
「敵艦隊の一部が、思ったより近くにいたようだな。」
「少し厄介な事態になってきましたな。」

参謀長のリーアム・ライアン大佐が能面のような表情を浮かべて言う。

「サラトガ、エンタープライズから発進したドーントレスは何をやっていたのだ?」
「ガルクレルフ南沖、北沖にはドーントレス12機を飛ばして索敵に当たっており、敵影なしとの報告が届けられています。」
「何が敵影なしだ。現に敵が迫っているじゃないか。TF15、16に送った支援要請の返事は?」
「まだありません。敵艦隊の陣容については、観測機が間もなく報告を送ってくるはずです。」

その1分後、観測機からの報告と、TF15、16から返事が届いた。

「敵艦隊の勢力は、戦艦2、巡洋艦6、駆逐艦15ないし16。」
「TF15、16より報告。攻撃隊発進までは最低50分間の時間を要する見込み。」
「う〜む・・・・・どれもこれも良くない情報だな。」
「それからたった今、TF16より巡洋艦のノーザンプトン以下の第5巡洋艦戦隊を援護に向かわせるとの事です。」
「TF16との距離は?」

キッド少将がすかさず質問する。

「TF16は、我が艦隊の北東18マイル付近にいます。」
「第5巡洋艦戦隊は、最高速度が32ノットだから、20分は耐えねばならぬか。まあいい。
このアリゾナ、ペンシルヴァニアを連れては優速の敵艦隊に追いつかれる。それよりかは戦いを挑んで追い払おう。対艦戦闘用意!」

キッド少将は、まず敵艦隊と戦闘を行う事を決めた。
その時、観測機から新たな報告が届く。  


941  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:01:13  [  zHthby0g  ]
「敵艦隊の陣形は単縦陣。陣形は3列。うち2列が前面に突出しつつあり。」
「おそらく、巡洋艦、駆逐艦を伴う快速部隊だな。第3水雷戦隊、第4水雷戦隊、突出する敵艦隊を迎え撃て!」

キッド少将の命令が、左舷、右舷に展開している第3、第4水雷戦隊に発せられると、すぐさま回頭を行い、
突出し、こちら側に向かいつつある敵艦群に突進して行った。

「敵戦艦群、巡洋艦群、あと14マイル。」

その時、敵戦艦1番艦が前部主砲をぶっ放した。
砲弾の飛翔音が徐々に大きくなり、それが極大に達すると、ペンシルヴァニアの右舷2000メートルに水柱が立ち上がった。
止まれ、でなければ殺す。といっているようにも思えたが、ガルクレルフを焼き討ちにされた以上、行き足を止めて
降伏しても、たちまち袋叩きにされるだろう。

「面舵一杯!」

キッド少将は命令を発した。

「敵戦艦の後方に追随中の敵巡洋艦4隻、突出しつつあり。」
「ニューオーリンズ、アストリア、シンシナティに応戦しろと伝えよ。」

見張りの報告に、アリゾナ、ペンシルヴァニアに追随している3巡洋艦に向かって来る巡洋艦4隻の応戦を命じる。
既に、第3水雷戦隊と、第4水雷戦隊は、猛速で敵快速艦部隊に突っかかり、激しい撃ち合い演じている。
双方の巡洋艦、駆逐艦に被弾し、炎上する艦が出始めた時、全ての共連れを引き下げたアメリカ、シホールアンル双方の戦艦は、
22000メートルの距離で並び合った。
同航戦の構えである。  


942  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:02:22  [  zHthby0g  ]
「弾薬を4割しか使わないで良かったな。あのまま調子に乗って撃ちまくっていたら、目も当てられん状況になっていたな。」
「備えあれば憂いなし、と言う事でしょうか。」

キッド少将の言葉に、ヴァルケンバーグ艦長は軽い口調で答えた。

「そう言う事だな。」

アリゾナ、ペンシルヴァニアの45口径14インチ砲12門が敵戦艦2隻に向けられる。
敵側は既に主砲を向けており、中断した射撃をすぐにでも始められるようになっている。

「意外とスマートな外観ですな。」
「ああ。どことなく古ぼけた印象が少ない。むしろノースカロライナ級と似たような感じだな。
中央部に何も無いのが艦容を損ねているが。」

敵艦の砲弾がアリゾナの左舷800メートルの海域に突き刺さって高々と水柱を吹き上げた。

「目標、敵1番艦。撃ち方用意よし!」

砲術長から報告を聞いたヴァルケンバーグ艦長は、頷いて命令を下す。

「撃ち方始めぇ!」

その次の瞬間、アリゾナの14インチ砲が咆哮する。各砲塔一問ずつの交互撃ち方である。
アリゾナ、ペンシルヴァニアの砲弾が落下する前に、敵艦も主砲を斉射してきた。
敵戦艦の右舷側で14インチ砲弾が落下し、水柱を吹き上げた。
その直後に、アリゾナの右舷側海面に8本の水柱が立ち上がる。  


943  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:03:46  [  zHthby0g  ]
「それぞれ1隻ずつ相手取ったか。」

キッド少将は、敵艦に視線を送りながらそう呟いた。艦橋から見る敵戦艦の姿は小さい。
しかし、互いに近付きつつあるため、その姿は徐々に大きくなってきている。
きっかり15秒後に、各砲塔の2番砲が14インチ砲弾をぶっ放した。
その数秒後にシャシャシャシャ!という不気味な飛翔音が木霊し、アリゾナの左舷側海面に水柱が立ち上がる。
第2射は敵戦艦の左舷側前方に着弾していた。
第3射が放たれると、これもまた敵1番艦の左舷側海面に着弾し、空しく水柱を吹き上げるだけに終わった。
第4、第5、第6射がアリゾナ、ペンシルヴァニアの砲口から放たれ、敵戦艦に殺到するが、どれもこれも海面を抉っただけに留まる。
傍目から見れば、狙いも付けられぬ下手糞が、のんびりと銃を撃っているようなもどかしさを感じるだろう。
しかし、アリゾナの艦橋上では、空振りばかり繰り返す砲術科を「下手糞めが!」と罵る者など一人もいない。
むしろ逆であった。

「第6射の着弾はいずれも敵戦艦より100〜200メートルの範囲内か。上出来だ。」

ヴァルケンバーグ艦長は結果にほぼ満足していた。
予想なら、主砲散布界の広いアリゾナやペンシルヴァニアが夾叉を得るのは第8射か第9射。
直撃弾は第10射あたりで出るだろうと事前に推測されていた。
だが、アリゾナの砲術科員の腕前は、推測値よりも良いようだ。
この調子でいけば、次の射撃で夾叉を得られるかもしれない。
その次の瞬間、敵戦艦の第6斉射がアリゾナに振って来た。
弾着の瞬間、ズズーン!という下から突き上げるような振動が、艦体を少しばかり震わせた。

「夾叉されました!」

見張り員の声に、一瞬艦橋内は静まり返った。  


944  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:05:20  [  zHthby0g  ]
この時、アリゾナの周囲には8本の水柱が林立し、5本が左舷側、3本が右舷側に立っていた。
まさか、敵戦艦がこうも早く夾叉弾を得るとは。誰もが敵戦艦の乗員の錬度の良さに息を呑んだ。
だが、悲観的になるものは誰1人いなかった。

「お返しをくれてやれ!」

ヴァルケンバーグ大佐が吼えるように言うと、OK!とばかりに第7射が1番砲よりぶっ放される。
その数秒後に、敵戦艦の左舷側に3本の水柱と、右舷側に1本の水柱が立ち上がった。

「夾叉!夾叉です!」

見張りが声のトーンを上げて報告して来る。
敵戦艦も第8斉射を放ってきた。
砲弾がドカドカと落下し、またもや林立する水柱に囲まれた。
水柱が崩れ落ちると同時に、2番砲が第8射を発砲する。
やや間を置いて、敵戦艦の右舷側に2本の水柱と、左舷に1本の水柱。
そして後部に爆炎が吹き上がった。

「命中です!」

ヴァルケンバーグ大佐はすかさず次のステップに移した。

「一斉撃ち方!」

彼はここで勝負に出た。弾道が良好なら、後は一気に勝負をかけるのみだ。
しばらくアリゾナの主砲が唸りを止めた。  


945  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:08:23  [  zHthby0g  ]
その直後、敵戦艦からの砲弾が周囲に落下し、ついでガガァン!という衝撃が艦体を揺さぶった。

「うぬ・・・・・敵もやるな!」

衝撃に耐えたキッド少将は、恨めしげに呟いた。
敵戦艦の13ネルリ砲弾は2発がアリゾナの中央部を叩いた。
5インチ両用砲2門と12.7ミリ機銃3丁が吹き飛ばされ、火災が発生したが、砲弾はヴァイタルパートを貫く事は出来なかった。
アリゾナの12門の14インチ砲が一斉に火を噴いた。斉射の瞬間、アリゾナの艦体は左舷に傾いだ。
やや間を置き、敵戦艦も斉射を放ったが、その次の瞬間、多量の水柱が敵1番艦の周囲に乱立し、完全に覆い隠してしまった。
水柱が崩れ落ちる直前、敵の斉射弾も落下してきて、アリゾナの周囲に水柱を吹き上げ、1発の砲弾が後部甲板に突き刺さった。

「後部甲板に被弾!火災発生!」

後部甲板に突き刺さった敵弾は、最上甲板を貫いて第2甲板に達し、便所の中で炸裂すると、周囲の兵員室や用具入れを一緒くたに粉砕した。
水柱が崩れ落ちると、敵1番艦に異変が起きていた。
後部の2基の砲塔のうち、一番後ろの連装砲だけが、砲が別々の方向を向いており、天蓋が大きくまくれ上がっている。
その更に後ろ部分の後部甲板からは、どす黒い煙を噴き上げていた。

「敵の主砲塔を1基潰したな。」

ヴァルケンバーグ艦長は、キッド少将の嬉しそうな声を聞いた。

「これで砲戦力の25%を奪った。」

キッド少将は、自分が艦長を勤めたこのアリゾナが、世異界の戦艦相手とはいえ、本来の戦いをこなせている事がなにより嬉しかった。

「まだまだ気は抜けませんぞ。」  


946  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:10:42  [  zHthby0g  ]
「分かっている。敵の砲戦力をさっさと奪って、この場から逃げないといけないからな。」

ズドォーン!という交互撃ち方とは比べ物にならない斉射音がまたもや辺りに木霊する。
敵1番艦の周囲に12発の14インチ砲弾が落下し、敵艦のスマートな艦影が水のカーテンに覆い隠され、その僅かの間から爆炎が踊るのが僅かに見えた。
水柱が崩れ切らぬうちに敵1番艦も撃ち返してきた。
巨大な飛翔音が徐々に大きくなり、誰もが耳を塞いでその場にうずくまりたい感に駆られる。
(今度も来るぞ!)
キッド少将がそう呟いた刹那、グガァーン!という強烈な衝撃がアリゾナ揺さぶった。
スリットガラスの何枚かがけたたましく割れ、何人かが悲鳴を上げつつ、床に這わされ、壁に叩きつけられた。
キッド少将は飛び散ったガラスの破片で、額を切ってしまった。
ヴァルケンバーグ艦長がぎょっとなって側に駆け寄った。
「司令官!」
「私の事はいい!大丈夫だ!」

艦長に対して、キッド少将は叩きつけるように叫んだ。

「ガラスで少し切ってしまった程度だ。何ともない。それより、被害はどうなっている?」

ヴァルケンバーグ大佐は、この時アリゾナがどのような被害を受けたのかすぐに分からなかったが、
敵1番艦・・・シホールアンル側戦艦レンベラードの放った13ネルリ砲弾は、1発が前部甲板に突き刺さって
第2甲板の兵員室区画を吹き飛ばし、もう1発がアリゾナの第2砲塔付近に命中していた。
命中箇所は台座の付け根であり、この被弾が恐れていた事態を早々と引き起こした。

「第2砲塔旋回盤損傷、火災発生!使用不能です!第2砲塔内で負傷者多数!」

ヴァルケンバーグ艦長は、一瞬表情を歪めたが、すぐに元の表情に戻って指示を下す。  


947  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:12:07  [  zHthby0g  ]
「火災をすぐに消せ!負傷者は医務室に運び込め!」

小癪な!とばかりに、残り9門となった14インチ砲が咆哮する。
敵1番艦の周囲に第3斉射の14インチ砲弾9発が雨のように降り注いで、幾度目かになる水の神隠しが現出される。
水柱が崩れ落ちると、敵1番艦は新たに中央部から煙を噴き上げていた。
その敵1番艦も残り6門の主砲をぶっ放す。
13ネルリ砲弾が周囲に落下し、アリゾナの中央部と艦橋右舷側甲板に着弾しておびただしい破片が、火炎と共に吹き上がった。
第4斉射が放たれ、敵1番艦に新たに4発が叩き込まれ、うち1発が前部甲板に命中し、
新たな火災を引き起こすも、健在な主砲6門が相変わらず斉射弾をアリゾナに撃ち込む。
今度はアリゾナにも3発が命中し、2発が中央部よりやや後ろの位置に着弾して、そこにあった3艘の救命ボートを木っ端微塵に打ち砕き、
クレーンの根元を破片がギタギタに引き裂いて倒壊に追い込んだ。
アリゾナの火災も、次第に酷くなりつつあった。
中央部と後部甲板の火災は、時間が経つたびに延焼していき、損壊した区画はもちろん、無傷の区画にまで炎が暴れ込もうとする。
その炎に消火班が意を決して立ち向かい、フル出力で水を叩き付けた。
唐突に、アリゾナ、ペンシルヴァニアの後方海面で、何かの轟音が鳴り響いた。


第3水雷戦隊旗艦の軽巡洋艦ラーレイ艦上のコリン・ハーバーズ少将は、戦闘中と言う事も忘れて、艦橋の右舷側で唖然としていた。
彼の視線の先には、シホールアンル艦隊と交戦中の第4水雷戦隊がいたが、その中でも濛々たる黒煙を吹き上げ、
左舷に大きく傾斜し、停止している艦・・・・・
第4水雷戦隊旗艦の軽巡洋艦メンフィスに視線は注がれていた

「第4水雷戦隊司令部、通信途絶です。」

通信士官の言葉に、ハーバーズ少将は唸るような声で答えた。

「こんな事が起こるとは・・・・・」  


948  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:16:54  [  zHthby0g  ]
ハーバーズ少将の表情は、一瞬だけだが、死人そのものに見えた。

第4水雷戦隊と第3水雷戦隊は、それぞれがほぼ同数ずつの敵と戦っていた。
この内、第4水雷戦隊は敵とすれ違う前に、距離5000メートルで左一斉回頭し、敵巡洋艦、駆逐艦群に魚雷攻撃を浴びせようとした。
だが、先頭のメンフィスが回頭を開始した直後、敵艦群は主砲を撃ちまくりながらもバラバラに散開してしまった。
そして、半数の艦が、あろう事か米艦群に突入して来た。
第4水雷戦隊司令官のドナルド・クラウンティー少将は止む無く魚雷発射を行ったが、敵駆逐艦1隻を撃沈し、1隻を大破させたのみに留まった。
魚雷発射を完了したと見たシホールアンル艦は、バラバラの隊形のまま反転。
左舷の魚雷発射管を使おうと回頭中の第4水雷戦隊に襲い掛かった。
同士討ちもいとわぬ格好で突入して来たシホールアンル艦に対して、米側は統制を欠いた隊形で戦うしかなかった。
旗艦のメンフィスは左舷の魚雷発射管を使おうとして、左に回頭しようとした寸前に、敵巡洋艦に頭を抑えられ、
そのまま同航戦で激しく撃ちまくった。
しかし、オマハ級は6インチ砲12門という、一見すると、後年のクリーブランド級巡洋艦並みの重武装であったが、
敵に向けられた主砲は、構造上の問題から8門のみであった。
それに対し、敵巡洋艦は1〜2年前に就役した新鋭のルオグレイ級巡洋艦であり、7ネルリ(179ミリ)砲8門という重巡並みの主砲を持っていた。
そして、8門全てをメンフィスに対して撃ちまくってきた。
双方一歩も引かぬ激しい撃ち合いになったが、敵巡洋艦が前部砲塔2基中1基を叩き潰された前に発射した斉射弾が、
8000メートル向こうで、15発の7ネルリ弾を受けてグロッキー気味であったメンフィスのとある部分にクリーンヒットした。
そのとある部分とは、左舷後部の魚雷発射管であった。
中には、Mk−14魚雷3本が入っていた。

7ネルリ弾が命中した次の瞬間、3本の魚雷が一気に誘爆を起こし、3本計900キロの炸薬エネルギーがメンフィス自信に襲い掛かってしまった。
爆発はメンフィスの艦体を大きく抉り取り、4本の煙突のうち、2本が根元から吹き飛ばされた。
爆発のパワーは艦上構造物のみに留まらず、内部に位置する機関部にも暴れ狂い、機関科員の大多数が戦死して、缶室や機械室にも壊滅的な打撃を与えた。
又、水線下に大きな裂け目が生じて、そこから大量の海水が入り込んできた。  


949  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:20:16  [  zHthby0g  ]
ただでさえ、度重なる被弾で力尽きる寸前の旧式軽巡には、この災厄に耐えられる術は無かった。
たちまちガクリとスピードを落とし、誘爆後、たったの150メートルを進んでから停止した。
メンフィスを撃沈確実に追い込んだ敵巡洋艦バンラーグでは、初めて米軽巡を撃沈した事に誰もが肩を叩き合って喜んだ。
そのバンラーグの左舷側から、米駆逐艦2隻が接近して5インチ砲弾を乱射して来た。
2隻の米艦のうちの先頭艦に7ネルリ砲をぶっ放し、米駆逐艦がそれを食らって黒煙を吹き上げた。
しかし、スピードは1ノットも落とさぬまま、時速36ノットの高速で、距離4000メートルでバンラーグの手前で右回頭した。
回頭を終えた2隻の米艦の左舷側から、何かが落下して水飛沫を上げる。

「魚雷と言う奴がまた来るぞ!回避!」

艦長はあらんかぎりの声を上げて、自らの艦を少しでも魚雷から逃れさせるために、敢えて敵の魚雷と向かい合う形で進む。
先頭艦の魚雷4本は、バンラーグの左右両舷を空しく通り過ぎるのみ終わったが、もう1隻が放った魚雷は、いきなり艦首の真正面から突っ込んできた。
高速で、あっという間に艦首の至近に迫った魚雷を見て、誰もが当たる!
と思った瞬間、艦首から大水柱が吹き上がり、第1砲塔前からの区画が一瞬にして叩き潰され、次にもげ落ちた。
更にもう1本の魚雷が、左舷の第1、第2砲塔の間付近に突き刺さった。
艦の乗員はこれでおしまいだと思った。

魚雷が突き刺さった。まだ辛うじて立っている者、床に転倒し、受けた傷に悲痛の唸りを上げる者も、身をすくめて爆発を待った。
だが・・・・・爆発は起きなかった。
乗員は拍子抜けしてしまった。
魚雷は不発であり、艦体に突き当たったまではいいが、肝心の信管が作動せず、へこみを作っただけで海中に沈んでいった。
乗員は皆、安堵したが、バンラーグの災難はまだ始まったばかりである。
艦首の被雷箇所からの浸水は未だに続いており、バンラーグはじわじわと沈みつつあった。
第4水雷戦隊の他の艦艇も、シホールアンル艦と盛んに殴り合っており、
態勢を立て直して統制の取れた戦いが出来た第3水雷戦隊とは違って、まさに乱戦状態となっている。
重巡部隊も、敵巡洋艦2隻を撃破したが、最初に軽巡のシンシナティが全砲塔を叩き潰されて脱落。  


950  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:22:12  [  zHthby0g  ]
その次にニューオーリンズがこれまた8インチ砲全損で後退し、アストリアのみが健在で敵巡洋艦2隻と激しく撃ち合っているが、
次第に被弾数が増えていき、アストリアが交互撃ち方から再び一斉撃ち方に切り替えた直後、後部の第3砲塔に敵弾が命中して
使用不能に陥り、次第に押され始めた。
米側も精鋭艦隊だったが、シホールアンル側も精鋭艦隊であり、その事が両軍の被害拡大に繋がっていた。

第5巡洋艦戦隊は、戦闘開始から20分ほど経ってから現場海域に到着した。
司令官のレイモンド・スプルーアンス少将は、第4水雷戦隊の惨状を見て思わず唸った。

「相当やりあったようだな。メンフィスがもうすぐで沈みそうだ。」

既に、メンフィスは左舷に大傾斜し、いつ横転してもおかしくない。
他にも、第4水雷戦隊の駆逐艦8隻のうち、1隻は既に沈み、3隻が艦上をぼろぼろにされて、戦闘不能に陥っている。
第3水雷戦隊でも、旗艦のラーレイが後部砲塔等に命中弾を受けて中破程度の損害を受け、駆逐艦3隻が大破、もしくは中破しているようだ。

「重巡部隊も苦戦しているようです。戦艦部隊はほぼ互角の戦いを繰り広げているようですが、
アリゾナ、ペンシルヴァニア両艦も無視しえぬ損傷を負っているようです。」

参謀長のジュスタス・フォレステル大佐が浮かぬ表情で報告する。

「旧式戦艦を殴り込ませたツケが一気に回ったな。まあ、いろいろ言うのは後だ。」

スプルーアンスは怜悧な表情を維持したまま指示を下した。

「本艦とシカゴは重巡部隊の支援を行う。ルイスヴィル、ブルックリンは苦戦している第4水雷戦隊の援護に当たれ。」
「アイアイサー。」  


951  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:24:14  [  zHthby0g  ]
スプルーアンスの指示を受けた各艦が各々の目的地にへと向かう。
5分後、スプルーアンス少将が率いるノーザンプトン、シカゴは苦戦する重巡部隊を視認した。

「右舷前方4000メートルにアストリアです!敵巡洋艦2隻と撃ち合っています!」
見張りの声が響き、スプルーアンスは双眼鏡で孤軍奮闘するアストリアを見る。
アストリアは、後部砲塔部分と、後部艦橋を破壊されて黒煙を噴いている。
前部の3連装砲塔はどうやら無事らしく、敵艦に向けて撃ちまくっているが、敵巡洋艦の斉射弾が降り注いで、
アストリアの艦体に幾つもの爆炎が吹き上がる。
アストリアの右舷側の洋上には、敵巡洋艦がいるのだろう。そこからも黒煙が吹き上がっている。

「どうやら、アストリアは敵巡洋艦に打撃を与えているようだな。」
「しかし、敵巡洋艦は2隻、それに対し応戦しているのはアストリアのみです。早めにこちら側が加わらねば・・・・・」

アストリアは撃沈されます、という言葉を、艦長は言いかけたが、寸でのところで飲み込んだ。

「分かっている。だからこうして急いでいるのだ。アストリアの後方についたら、敵巡洋艦を砲撃する。
敵艦は2隻いるから、1番艦はこのノーザンプトン、2番艦はシカゴに相手取らせる。」

それから、アストリアの後方1000メートルに付き、向けていた8インチ砲を発砲するまで6分かかった。
その6分の間、アストリアは度重なる被弾にも屈せず、敵巡洋艦の艦長が思わず感嘆したほどだった。

「撃ち方始め!」

艦長が命じると、右舷7000メートル先の巡洋艦2隻に向けられた8インチ砲が咆哮した。
この時、敵の巡洋艦のうち、先頭の1隻は使用可能の大砲が6門中4門に減らされており、前部と中央部からどす黒い煙を噴き上げていた。
応援に駆けつけたノーザンプトン、シカゴに負けじと、ボロボロに打ちのめされたアストリアも最後の力を振り絞って、射撃可能な第2砲塔で敵1番艦を砲撃した。  


952  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:26:03  [  zHthby0g  ]
ノーザンプトンは最初の第1射は大きく外れたが、第2射からいきなり夾叉を得、次の第3射で2発の8インチ砲弾を叩き込んだ。
ここで一斉撃ち方に入るのだが、スプルーアンスは念の為第4、第5射まで交互撃ち方で射撃をし、弾道が良好なのを確認させた後、斉射に入った。
そして、ノーザンプトンが第5斉射を叩き出すと、唐突に敵1番艦が後部から大爆発を起こし、少し進んだ後、完全に停止した。
シカゴと撃ち合った敵2番艦はしたたかだったが、シカゴから17発の8インチ弾を受けた時には、ニューオーリンズ、シンシナティと同様に使用可能の主砲を全て叩き壊され、その場から逃げ出していった。

アリゾナが23斉射目をぶっ放した。
それと同時に、敵戦艦も30斉射目をたたき出した。双方の主砲弾が上空で交錯した後、それぞれの目標に降り注いだ。
2本の水柱が吹き上がり、2度の強烈な衝撃がアリゾナの艦体を揺さぶった。

「後部甲板に命中弾!カタパルト損傷!」
「右舷中央部に命中弾!」

悲鳴のような報告が入った後、敵戦艦の周囲に5本の水柱が立ち上がり、第1砲塔付近から1つの閃光が煌き、次いで爆発が起こった。

「敵1番艦に更に1弾命中!」

既に、互いの距離は13000メートルにまで狭まり、戦いは正面からの殴り合いとなっている。
アリゾナには24発の13ネルリ砲弾が命中し、前部第2砲塔は旋回盤が歪み、後部第3砲塔は砲身を1本吹き飛ばされ、
2本をズタズタに引き裂かれて使用不能に陥っている。
右舷中央部からは大火災が発生し、艦後部は黒煙に覆われている。
優秀なダメージコントロールチームのお陰で、なんとか延焼は食い止められているが、このまま被弾が相次げば沈没の憂き目に逢いかねない。
敵1番艦も状況は似たようなもので、アリゾナからの14インチ砲弾26発を被弾して後部砲塔2基を叩き潰され、
前部甲板、左舷中央甲板、後部甲板から猛烈な火災煙を吹き上げている。
ペンシルヴァニアと敵2番艦の状況も似たり寄ったりだ。
アリゾナが15度目の斉射を放ち、それと同時に敵1番艦も残る第2砲塔から砲弾を撃った。
やがて、敵1番艦の前部にと後部に閃光が走った。その直後、ガァン!という振動が伝わった。  


953  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:27:31  [  zHthby0g  ]
次いで、アリゾナの右舷側前部海面に水柱がたちあがる。
だが、砲弾の炸裂は無かった。

「第2砲塔基部に命中弾!されど、爆発はなし!」

その声を聞いたキッド少将は、やや安堵したような表情になった。

「不発弾のようだな。」

ヴァルケンバーグ艦長も頷いた。

「第2砲塔の基部と言えば・・・・・先ほど被弾のあった箇所とほぼ同じ部分です。」
「炸裂していたら危なかったな。」

そう言って、2人は小さな幸運を素直に喜んだ。その時、

「敵1番艦右回頭!」

見張りの言葉に、ヴァルケンバーグ艦長とキッド少将は耳を疑った。

「右回頭というと、まさか。」

そう、そのまさかだった。なんと、敵1番艦は回頭し、戦線から離脱しつつあった。
この時、もはやレンベラードには主砲は1門も無かった。
いや、砲撃前には8門あったのだが、相次ぐ被弾によって次々と潰されて行き、ついには最後に残った第2砲塔が粉砕され、反撃手段を失ってしまった。
その直後に入った、マルヒナス航行不能の通信にベックネ少将は戦意を喪失。  


954  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:30:08  [  zHthby0g  ]
レンベラードを撤退させる事にした。

「すぐに追いましょう!」

主任参謀がキッド少将にそう言った。

「既に敵2番艦が停止し、傾斜している以上撃沈したも同然です。それなら、あの敵1番艦も追撃して撃ち沈めるべきです!」

だが、キッド少将は頭を振った。

「残念だが、答えはノーだ。主任参謀、我々が敵と出会うまで何していた?」
「撤退していました。」
「そう、撤退だ。我々は今、“撤退中”なのだ。あの敵艦隊とやり合ったのは、敵を撃破せぬ限り、逃げられないと思ったからだ。
敵戦艦が撤退した以上、他の艦艇を呼び寄せて、撤収を再開するのが賢明だ。」

そう言うと、彼は主席参謀の後ろに立っていた通信参謀に視線を向けた。

「通信参謀!今、敵艦隊の状況はどうなっている?」
「第5巡洋艦戦隊が応援に駆けつけた後は、情勢は我が方有利になりました。
敵巡洋艦部隊はニューオーリンズ、アストリア、シンシナティに大破同然の被害を与えましたが、
逆に1隻を撃沈、3隻を大破させて追い返しています。」

それだけではなく、乱戦状態であった第4水雷戦隊も、重巡ルィスビルと軽巡ブルックリンが来てからは態勢を立て直し、
最終的に敵巡洋艦1隻に撃沈確実の被害を与え、駆逐艦2隻を撃沈、3隻を大破させ、残りも手傷を負い、無傷な船はいなかった。
一方、第3水雷戦隊は最終的にラーレイを始めとする5隻が損傷したが、敵駆逐艦3隻撃沈、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻を大破させて追い払った後、
第4水雷戦隊に加わって残りの敵を追い払った。  


955  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:32:22  [  zHthby0g  ]
「敵艦隊を追い払ったか。結果的には、堂々たる勝利だな。だが、」

キッド少将は左舷後方のペンシルヴァニアを見た。
ペンシルヴァニアは、敵2番艦に事実上撃沈確実の被害を与えたが、ペンシルヴァニアも、主砲全てを使用不能にされ、
後部艦橋は無残にも倒壊し、ペンシルヴァニア級独特の艦影は著しく損なわれている。
幸いにも、アリゾナ、ペンシルヴァニア共、機関部の損傷は無く、依然として濛々たる黒煙を吹き上げてはいるが、
弾火薬庫の誘爆などは今現在起きてはおらず、火災もそれ以上の延焼は食い止められており、じきに鎮火に向かうと見込まれている。
それに暫定報告ではあるが、苦戦した第4水雷戦隊では旗艦を始め、沈没艦も何隻か出ているそうだ。

「こっちも手痛い被害を受けたな。シホールアンル海軍は、陸地の艦砲射撃が専門という海軍ではないようだ。」

キッド少将は、シホールアンル海軍は侮れぬ敵であると、この時確信していた。


1482年  2月14日午後4時

ヴィルフレイングを出港した太平洋艦隊主力は、一度北進した後、反転、南下してヴィルフレイングに戻りつつあった。
第1任務部隊旗艦コロラド艦上で、司令官のウィリアム・パイ中将は第2任務部隊から送られた報告を聞いていた。

「沈没、軽巡洋艦メンフィス、駆逐艦フェルプス、ポーター。大破、戦艦アリゾナ、ペンシルヴァニア、
重巡洋艦ニューオーリンズ、アストリア、軽巡シンシナティ、駆逐艦モフェット、ファラガット、エバール、
中破、軽巡ラーレイ、駆逐艦ラドロー、プランケット、モンセン、小破、重巡洋艦シカゴ、軽巡ブルックリン、
駆逐艦グレイソンとなっております。」
「21ノットのアリゾナ、ペンシルヴァニアを連れて来るより、ノースカロライナを連れて行ったほうが良かったのかもしれないな。」

パイ中将は苦虫を噛み潰したような表情になった。  


956  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:34:17  [  zHthby0g  ]
第2任務部隊は、ガルクレルフの物資集積所の破壊は成功したが、たまたま近海にいた敵主力の一部に追いつかれて戦闘になってしまった。
そのため第2任務部隊は、沈没艦はなんとか3隻に押さえられたが、多くの損傷艦を出してしまった。
その前にも、サラトガ被弾炎上の報告が入っていた。
最初、司令部は色めき立ったが、すぐにサラトガの被害が小破程度の物だと分かると、誰もが安心した。
だが、この送られてきた損害状況は、いかに敵艦隊の攻撃振りが凄まじかったかが見て取れる。

「戦果のほうですが、撃沈が戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦6。大破が戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦4、中小破が駆逐艦7隻となっています。」
「数字的には、わが方の圧勝だな。だが、損傷艦はどちらも似たり寄ったりだ。」
「現地点でははっきりいえませんが、シホールアンル側も海戦のやり方はかなり熟達しているようです。
そうでなければ、第2任務部隊はこのような損害を受けるはずがありません。」
「シホールアンル、侮れがたし、だな。」

パイ中将はしんみりとした表情でそう言い放った。

太平洋艦隊主力が反転しようとしたのは午後1時になってからだった。
第1任務部隊の前方400マイル地点で哨戒戦を張っていた潜水艦のうち、ノーチラスから、

「敵艦隊主力、北に反転せり」

という情報を受けた。
この時、パイ中将は当初の計画通り、敵艦隊の反転を確認した後に太平洋艦隊も反転、ヴィルフレイングに引き返すつもりであった。
だが、
「司令官、ここはガルクレルフ公国沿岸の敵軍を叩くべきです。
敵主力艦隊が反転した今なら、水上からの援護の無い沿岸のシホールアンル軍など、鎧袖一触です!」

突然、参謀長のリーガン大佐が意見具申を行って来た。  


957  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:35:03  [  zHthby0g  ]
パイは言い返そうとしたが、タイミングを見計らったかのように、他の巡洋艦戦隊や水雷戦隊からカレアント公国沿岸を攻撃されたし、
の意見具申が相次いだ。
だが、反対の声もあった。
カレアント公国沿岸の攻撃を反対したのは、空母部隊である第17、第14任務部隊であった。

「君は、ここ数日で、カレアント公国沿岸地域のワイバーン部隊が増強されているのを知らないのかね?
敵も何度も奇襲を許すほど馬鹿ではない。我々がカレアント沿岸に向かう時には、何百というワイバーンが待ち構えている可能性がある。
そこに、増強したとは言え、たったの120機しかいないF4Fや艦載機を送り込めるのかね?」

もはやパイ中将は、ガルクレルフ攻撃が成功した以上、太平洋艦隊の任務は終わったと思っていた。
リーガン大佐や他の戦隊の指揮官は意見具申を繰り返したが、

「我々の任務は、敵主力を南部に釣り出し、その隙にガルクレルフ攻撃部隊の攻撃を成功させる事だ。
それが成功した今は、あたらに損害を増やす事はしてはいかん。」

と、反対意見を退けて艦隊を反転させ、帰路についた。

「現在、第2任務部隊は21ノットのスピードでサンディエゴに向かっています。途中、補給部隊とランデブーを行う予定です。」
「追撃部隊は無いか?」
「ガルクレルフ攻撃部隊を追う敵は、今の所おりません。」
「そうか。それならいい。」

そう言って、パイは満足気な表情を浮かべた。  


958  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:38:35  [  zHthby0g  ]
後年、もし太平洋艦隊がカレアント公国沿岸に接近していたらどうなっていたか?
と海軍関係者から戦史研究者によく言われていた。
彼のうち、何人かは、太平洋艦隊はカレアント攻撃をやらなくて正解であったと言っている。
なぜならば、カレアント沿岸には、総計で300以上のワイバーンが集結しており、うち180騎は、F4Fでもてこずる戦闘ワイバーンだった。
もし、艦載機部隊が攻撃を行っていたら、総力出撃してきた戦闘ワイバーンの前に甚大な損害を負っていただろう。
それに、後年の鉄壁な対空砲火網を形成した米海軍の防御砲火も、この時代についてはまだまだであり、
攻撃ワイバーンが突入していれば無視できぬ損害を負っていたと言われている。
それに、北進を開始したシホールアンル艦隊も、太平洋艦隊の後背を突く可能性があった。
勝てたにせよ、負かされたにせよ、カレアント攻撃をやっていたら、太平洋艦隊は間違いなく大損害を負っていたのである。


2月14日  午後10時  ガルクレルフ沖200マイル地点

夜闇の海上は、海面部分は真っ暗であまり見えなかったが、辛うじて寮艦のシルエットだけは見える。
空は雲に覆われており、月明かりが空に輝く事は無い。

「時間が経つにつれて、なんか眠くなってくるぜ・・・・」

ラウス・クレーゲルは、エンタープライズの飛行甲板脇の張り出し通路で海面を眺めていたが、やがて眺めるのも面倒になってきた。
ただ、ひんやりとした夜風は気持ちいもので、ふとすれば、このまま眠ってしまいたい感覚に囚われる。

「飛行甲板はベッドじゃないぜ?魔道参謀。」

後ろから聞きなれた、野太い声が響く。
振り向くと、声の主は、この機動部隊の主である、ウィリアム・ハルゼー中将であった。  


959  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:40:52  [  zHthby0g  ]
「ベッドは艦内にある。間違えるなよ?」
「まっさか。自分もそこまで馬鹿じゃないっすよ。」

そうぼやきながら、ラウスは大欠伸をかいた。

「念の為さ。君は疲れていると、煙突の上でも眠りそうだからな。」
「うえ、ひでえ言い様で。」

ラウスが少しげんなりした表情になると、ハルゼーは大笑いした。

「なあに、冗談だよ。とりあえず、連絡役ご苦労だった。君がいるだけで、情報の面でも苦労しなくて済むよ。」
「まあ、自分もそう言われると嬉しいですね。」

ラウスははにかみながら言った。

「おっ、そういえば今日は・・・・・」

ハルゼーが何かを思い出した。

「どうかしたんすか?」
「今日はバレンタインデーだな。」
「バレンタインデー?????なんですかそれ。」
「俺達がいた世界ではな、2月14日は少し特別な日なんだ。
2月14日は、恋人や親しい者に何かしらのプレゼントを贈る日とされている。わしはワイフに何度か貰ったり、
あげたりしているが、どうもここ最近は忘れていた。」
「へえ、そんな習慣があるんですか。」  


960  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/21(日)  10:41:31  [  zHthby0g  ]
「まあな。バレンタインデーに何か貰うと、その日に限って嬉しかったりするものだよ。」

ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべながら言う。

「よく考えたら、俺達もでかいプレゼントを贈っているな。」
「でかいプレゼント・・・・・ああ、ガルクレルフですね。」
「そうだ。シホット共に爆弾や大砲の弾をプレゼントしてやった。恐らく、シホットの奴らは大喜びで受け取っただろう。」

そう言うと、ハルゼーは満足気な笑みを浮かべる。
(プレゼントねぇ・・・・・まっ、俺達はまだいいけど、シホールアンルのお調子者陛下が、損害報告を見たらどう思うかな。
何はともあれ、シホールアンルにとっては、最悪のバレンタインプレゼントだな)



この日、ガルクレルフはアメリカ第2任務部隊の艦砲射撃で、物資集積所の大半を焼き討ちにされた挙句、現地のワイバーン部隊、
救援にやって来た第3艦隊に壊滅的な損害を与えられてしまった。
米側も少なからぬ損害を受けたものの、作戦は成功裏に終わった。
後にガルクレルフ沖海戦、別の名でバレンタインデーの海戦と呼ばれる一連の戦いは、双方にとって忘れる事の出来ぬ戦いとなった。

1482年  2月15日。
カレアントのシホールアンル軍は、全戦線で進撃をストップした。  




987  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/23(火)  21:22:01  [  zHthby0g  ]
皆様レスありがとうございますm(  __  __  )m

シホールアンル陸海軍の強さや装備面での質問が幾つかあがっているようなので、
まとめてレス返し&説明を行います。

シホールアンル陸海軍のうち、今の所、アメリカ側の最大の脅威となっているシホールアンル海軍。
シホールアンル海軍は730年に建国と同時に創立されました。
創立当時は、小型帆船20隻、大型帆船7隻の小海軍ですが、年を追う毎に規模は大きくなりました。
シホールアンルの技術革新の影響を一番に受けたのは海軍であり、新技術が開発されると、それを
取り入れて、周辺諸国との戦争に広く活用していきました。
また、建国当時から、シホールアンルは製鉄技術、生産技術、魔法技術においても周辺国と比べて一日の長があり、
強力な軍艦を作る事が出来ました。
また、1300年代後半に起きた、世界各国の鋼鉄艦ブームの先取りは、今は無きヒーレリからでしたが、その
5年後にはヒーレリに勝るとも劣らぬ鋼鉄艦を建造して世界をあっと驚かせました。
設立以来、海軍力の充実させてきたシホールアンルですが、そこには周辺国との戦争で得た教訓も
多数取り入れられています。
そえに、シホールアンルの周辺諸国は、海軍兵力が充実している国が多く、戦争となれば常に激烈な
海戦が繰り広げられました。
中でも、1450年に起きたヒーレリとの紛争では、敵側の軍艦、要塞砲を相手取った海戦が起こり、
シホールアンル側は敵の要塞、軍艦群を壊滅させて勝利を収めますが、シホールアンル側も参加戦艦
7隻中5隻喪失という甚大な損害を負いました。
当時のシホールアンル艦は、既に魔法石動力で航行が可能でしたが、防御面については難があり、
これが、通称ヒーレリ紛争時の戦艦戦力の壊滅という悲劇をもたらしています。
この当時のシホールアンル艦は時速18ノットが出せる事が出来、周辺国の軍艦の中では、シホールアンル海軍
はどれも高速艦揃いでした。
ですが、速力を得た反面防御はなおざりとなり、それが要塞砲、敵艦隊との決戦時に甚大な被害を出した
原因となりました。  


988  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/23(火)  21:22:35  [  zHthby0g  ]
これをきっかけに、シホールアンル海軍は防御にも力を入れた艦艇の開発を行いました。
元々、魔法石動力で機関系統が占めるスペースは、石炭艦と比べても小さく、その分防御に回せたため、
シホールアンル海軍は戦艦ラインブラング級という艦を就役させて以来、次々と優秀な戦艦を送り出しました。
ガルクレルフ沖海戦で、アメリカ側の旧式戦艦アリゾナ、ペンシルヴァニアと撃ちあった戦艦は、オールクレイ級
と呼ばれる軍艦で、全長はメートル法に直すと、204メートル、幅は29メートル、速力は27ノットで、
主砲は33.4センチ砲と積んでいます。
実はこのオールクレイ級は、他のジュンレーザ級の25ノット、ゼイルファルンザ級戦艦が23ノット出せる
に対して、一段上の27ノットというスピードが出せます。
オールクレイ級は、元々15ネルリ(38.5センチ)砲を8門積んだ上で高速力で動ける、巡洋戦艦に似た
艦として竣工する予定でしたが、防御に難があるのを危惧した海軍上層部は、15ネルリから13ネルリに
砲のクラスを下げ、元々30ノット出せるスピードを、27ノットに制限して防御強化を計っています。
なので、シホールアンル戦艦は基本的に打たれ強く、魚雷攻撃以外ならばある程度の打撃は耐えられます。
戦艦の砲弾は、魔法石のエネルギー弾ではなく、普通の装薬と実弾を使用しているため、発射速度は米戦艦
と同等か、劣ります。

次に竜母に関してですが、きっかけはとある陸軍のワイバーン乗りが、海からワイバーンがやって来たら、
敵はどのような反応を示すだろうか?と言った事から始まります。
その陸軍ワイバーン乗りの言葉を真剣に理解した友人の海軍軍人は、ワイバーンを乗せた竜巣母艦の開発を
海軍上層部に働きかけます。
最初、海軍上層部は突拍子の無いこの竜巣母艦の案を握り潰そうとしましたが、それに興味を示したのが、
オールフェスの父であるクレンデルス・リリスレイ皇帝です。
リリスレイ皇帝の鶴の一声で始まった竜巣母艦の建造は順調に進み、1470年には試作艦が竣工し、この
試作艦は、ワイバーン運用に優秀な成績を収め、1473年に建造された大型竜巣母艦のチョルモール
が竣工し、後の北大陸統一戦争で大きな威力を発揮しました。

海軍は、古来から進化し続けてきた戦艦、新発想のワイバーンを積んだ竜母によって大きく進歩しました。  


989  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/23(火)  21:23:17  [  zHthby0g  ]
これに対して、陸軍は海軍ほどの進歩は遂げてきませんでした。
建国以来、海軍と同等の勢力であった陸軍は、最初は主に剣と盾、それに一部の魔道師から成る編成
でした。
陸軍もまた、時代を追う毎に進歩を続けてきました。ですが、他の周辺諸国も装備は似たようなもの
であり、戦い方さえ間違えなければ、どのような戦場でも勝て、又、勝てぬまでも負けぬ戦いを繰り返して
来ました。
1200年代には大砲が装備されて、陸軍の戦術にも火力を重視にした者が多くなりましたが、最終的には
歩兵同士がぶつかり合う白兵戦で決着は付けられています。
大きな流れのあったのは1300年代初頭で、魔法技術で生まれたキメラを投入しての戦術が確立され、
シホールアンルは起こる戦争、紛争、内戦でこれを幅広く活用して数多の勝利を得ました。
ですが、頼りになるキメラも、対キメラ戦術が取られると瞬く間に効果は薄くなり、改良版のキメラ
を登場させて一時は勝利を得るものの、また新たなキメラ戦術が出ては効果は薄くなるの繰り返しで、
シホールアンル陸軍は苦悩します。
1200年代末には、キメラより頑丈なゴーレムが登場し、前線はもちろん後方でも活躍しました。
しかし、1300年代に入ると、シホールアンルのみならず、周辺諸国も似たような戦術が出てくるようになり
シホールアンルは1321年、1345年に起きた戦争では、勝利を収めたものの、陸軍兵力を多数すりつぶし、
陸軍兵力の再建途上に従事していた1380年代のヒーレリとの戦争では、初戦から海沿いの最重要拠点を
占領される一歩手前まで行きました。
しかし、この時展開していたシホールアンル海軍の鋼鉄艦3隻と、大型武装帆船4隻はありったけの弾を撃ちまくり、
ヒーレリ軍を2日足止めし、その間に戦場にやって来た陸軍の精鋭部隊は、効果的な支援砲撃の元にヒーレリ
軍と決戦を行い、辛うじて撃退しました。
この時から、陸海軍の共同作戦は広く行われ、1450年の2ヶ月紛争、1453〜55年のベランギル事変
以外の平和な期間中、シホールアンルは陸海共同戦術を研究し続け、ついに1474年、シホールアンルは
北大陸統一戦争を開始しました。  


991  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/23(火)  21:24:56  [  zHthby0g  ]
しかし、1380年代に起きたヒーレリ戦争時の陸海共同の戦いは、同時に陸軍の砲技術、火力戦力充実
を大きく遅れさせる原因(その時から、重砲を持つ海軍に砲撃を頼めば大体は解決が付くと思われてしまった)
になり、進化は海軍に比べて陸軍は遅れました。
それでも、シホールアンルは陸海共に世界で1位の実力と謳われていますが、陸軍は、銃火器の早期開発、
実戦配備を行わなかった事を、深く後悔することになります。

とりあえず、シホールアンル陸海軍の技術差の真相はこのような物です。