776 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:23:44 [ zHthby0g ]
第13話 南西太平洋軍

1482年 1月19日 カリフォルニア州サンディエゴ 午前7時

空は雲に覆われており、見る人にとってはどこか憂鬱な気分を誘う天気だ。
しかし、人はぞれぞれで、空を見て顔をしかめる者もいれば、そんなものはどうでも良いとばかりに張り切って仕事に励む者もいる。
サンディエゴ軍港内に建てられているとある2階建ての宿舎に、1台の車が向かって来た。
宿舎の前には、佐官以上の階級章をつけた陸軍軍人や、小銃を構えて待っている兵が多数見受けられた。
車はスピードを落とし、宿舎の側に来ると、玄関の前で停止した。

「テーンハァッ!(気をつけ!)」

どこからか、気合の入った声が辺りに響き、小銃を構えた兵が直立不動の態勢で、捧げ銃を行う。
後部座席のドアが開き、そこから将軍の階級章をつけた男が出てきた。
将校たちが敬礼でその男を出迎えた。

「お待ちしておりました、司令官閣下。」

待っていた将兵の中で、一番階級の大きい男が出迎えた。
出迎えられた男、ドワイト・アイゼンハワー中将は、温厚で人懐こそうな顔に微笑を浮かべた。

「出迎えご苦労。私にはおあつらえ向きの出迎えだよ。」

アイゼンハワー中将は答礼しながらそう言った。

「本当はもっと多くの人員で出迎えようと思ったのですが。」

777 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:25:58 [ zHthby0g ]
「今は戦時中だ。将兵にもそれぞれの役割があるんだから、このような出迎えには少数でやるのがちょうど良い。」

アイゼンハワーは参謀長のハリー・コナー准将にそう言いながら、臨時に設けられた南西太平洋軍の司令部に入って行った。
アイゼンハワーは1890年にカンザス州に生まれた。
軍歴は1911年の陸軍士官学校に入学した時から始まった。
年齢の割には、昇進は早いとは言えず、1930年あたりから昇進はストップした。
しかし、ダグラス・マッカーサー大将の主任補佐武官を務めた時に中佐に昇進し、再び階級が上がり始めた。
そして2週間前の1月5日、彼は陸軍中将に昇進し、南西太平洋軍司令官に任命された。
彼は人柄が良く、部下にも慕われている。
部下の中には、影でアイクと愛称をつけている者もおり、陸軍内では少し知られた人物である。
臨時司令部の中に入ると、彼は早速、南西太平洋軍の編成内容を確認する事にした。

「まず、南大陸に派遣される陸軍地上部隊は?」

彼の言葉に、情報参謀が反応し、用意していた紙を読み上げた。

「まず第1軍団ですが、第1軍団は第7歩兵師団及び第27歩兵師団、第1機甲師団の3個師団です。
次に第2軍団が第23歩兵師団、第2機甲師団となっております。人員総数は88000人となっています。
航空部隊は第3航空軍の第398戦闘航空隊、第83戦闘航空隊、第12爆撃航空隊の計364機であります。」
「そのうちの第1陣となる第1軍団が、3月に出発する言う訳か。海兵隊の編成はどうなっている?」

彼は通信参謀に再び聞いてみた。
南西太平洋軍は1月の5日に編成され、各地から南大陸に派遣される部隊が慌しくサンディエゴに移動しつつある。
準備は未だに終えてはおらず、現状では第1軍団の第7歩兵師団が、やっと編成を終えてサンディエゴに迎えると言う状況だ。
唯一、航空部隊は、一部が手早く編成を終えたため、第3航空軍の第83戦闘航空隊がヴィルフレイングに派遣される事になった。
南西太平洋軍には、陸軍の他にも、海兵隊の師団や航空隊が加わり、総兵力では20万近い兵員が、年末までには南大陸に派遣される。

778 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:28:01 [ zHthby0g ]
南西太平洋軍の編成

司令官 ドワイト・アイゼンハワー中将
第1軍団 ビーン・マッキンタイア中将
第7歩兵師団 
第27歩兵師団 
第1機甲師団

第3軍団 オマリー・ブラッドリー中将
第2機甲師団
第23歩兵師団

第3航空軍 司令官ケネス・コール少将
第398戦闘航空隊
P−40ウォーホーク74機
P−39エアコブラ36機
第83戦闘航空隊
P−40ウォーホーク62機
P−39エアコブラ36機
P−38ライトニング12機
第12爆撃航空隊
B−17フライングフォートレス34機
B−25ミッチェル86機
A−20ハボック24機

第1海兵軍団
第1海兵師団
第2海兵師団

第1海兵航空団
第119海兵航空隊
VMF−24F4Fワイルドキャット64機 
VMB−12SB2Uヴィンジゲーター24機
第127海兵航空隊
VMF−25F4Fワイルドキャット52機 
VMB−16SBDドーントレス24機 
VMB−21SB2Uヴィンジゲーター18機

779 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:30:37 [ zHthby0g ]
「平時編成から戦時編成に移行したばかりですので、準備に時間を取られる結果となりました。」
「それは仕方ない。」

アイゼンハワー中将は大きく頷いた。
「むしろ、3月に兵員を南大陸に送れる事は評価に値する。本当なら、第1軍団の派遣も5月になる予定だったからな。」

遠征軍の派遣には、色々と準備がかかるものだ。
一定期間分の弾薬、衣類、食料はもちろん、基地建設用の資材や雑品等の各種物資を揃えるには、
大工業国アメリとはいえ、戦時体制に移行したばかりなので、1ヶ月そこらで定数量を確保し、集めるのは容易ではない。
それが、派遣軍の規模が大きければ大きいほど、準備期間はそれに比例して伸びて行く。
この作業を最初から始めると、普通に3〜5ヶ月、下手すれば半年ほどは待たねばならない。
しかし、アイゼンハワー中将や幕僚達は、陸軍省や各基地、各州の生産工場を回って、なんとか間に合わせてくれと頼み込んで来た。
中には相手側と押し問答を繰り返し、つかみ合い寸前の激論に発展する事もしばしばであったが、
努力の甲斐あって、3月頃には一部の兵力を南大陸に派遣する目処が付いた。

「第1軍団は3月、第2軍団は7月に順次派遣される予定です。
遅くても、8月中か、最悪でも9月に初旬には、南西太平洋軍は全軍が南大陸に派遣できるでしょう。」
「あちらこちら回った甲斐があったものだ。お陰で少しは気が楽になったよ。」

アイゼンハワーはニヤリと笑みを浮かべた。

「ところで、問題の南大陸の戦況はどうなっている?」
「戦況は、依然としてシホールアンル軍が有利との情報が届いています。」

参謀長が答えた。

780 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:32:54 [ zHthby0g ]
「しかし、シホールアンル側の侵攻スピードは1ヶ月前と比べて大幅に落ちており、
現在、最先頭がカレアント公国のホリウングより南20マイルの位置で反撃にあっており、昨日は前線の後退は500メートルに抑えられたようです。」
「南大陸の友軍はかなり頑張っているな。」

アイゼンハワー中将は満足したように頷く。

「最初、シホールアンル軍の快進撃を聞いてから、これは派遣軍を送っても一緒に飲まれてしまうのではないか?
と思ってしまったが、今ではそう思った自分が恥ずかしい。」
「この粘りこそが、南大陸連合軍の本来の姿かもしれませんな。
彼らは初戦で手痛い敗北を被りましたが、今ではある程度戦えるレベルにまで達しています。」
「彼らの奮闘振りには、頭が下がるよ。だが、陸戦ではほぼ互角の南大陸軍も、航空兵力や海上兵力ではシホールアンルに及ばない。
その不足している兵力を、一刻も早く南大陸に送らねば。」

従兵がコーヒーを持ってきた。アイゼンハワーは礼を言って、コーヒーを口に含む。
コーヒーは苦味がやや強かった。

「彼らのスケジュールを乱すきっかけを作ったのは、我が合衆国の海軍だが、敵の侵攻を食い止めているのは南大陸軍だ。
今も、あの太平洋の向こうでは、彼らはワイバーンや敵の猛功にじっと耐えているに違いない。」

アイゼンハワー中将は、窓に歩み寄った。窓には、軍港の様子が見え、その奥の太平洋も見渡せた。
そして、太平洋の向こう側には、今も必死の防戦を繰り返す南大陸軍がいる。

「彼らが捻出した時間を、最大限に有効活用しなければな。」

彼は改めて、南西太平洋軍の司令官として意を決した。

781 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:37:13 [ zHthby0g ]
実質的に、南西太平洋軍の先鋒を務めたのは航空部隊であった。
第3航空軍の第83戦闘航空隊は、帰還したばかりの護衛空母ロングアイランドの甲板にP−40戦闘機2個中隊半、
30機が乗せられ、残りは分解され、輸送船に分譲してヴィルフレイングに向かっていった。

1482年 1月21日 ニューヨーク州

ニューヨーク州にある造船会社の中で有数の規模を持つトライドッグ社ニューポートニューズ造船所は、今活気に満ちていた。
海軍側から注文の入った軍艦や輸送船は、それぞれのドックで建造されており、工事関係者は急増した仕事量に誰もが目を回していた。
ひっきりなしに溶接の音や、ハンマーが叩く音などが聞こえ、新人やこの造船所に始めてきた者は、余りの騒音に顔をしかめ、
とある者は耳を押さえたい気持ちに駆られる。
この活気に満ちているドック群だが、とあるドッグでは、いつもと違う光景が見られていた。
そのドックには、全長の長い船が台に載せられており、船体部分はほぼ完成に近く、
船体に開けられた穴にようやくボイラーやスクリュー等の機械設備を入れようとしていた。
本来ならば、これらの機械設備は既に入っていてもおかしくないのだが、1ヶ月ほど前の12月20日、突然工事中止の命令が下った。
戦艦アイオワの工事主任であるアルフレッド・カイテルは、その日、会社のお偉方を激しく呪った。

「何で、今更設計の終了した軍艦を改めて設計しなおすのかねぇ。連中、頭がどうかしてる。」

彼はとある休日に、同僚仲間と一緒に行ったバーで、工事中止を下した会社の上司や海軍側を酷く罵った。
アイオワ級戦艦は1938年の時点で既に設計を終了し、工事が開始されている。
開戦後には労働者や搬入される資材も増えて、進水期日も早まる事が期待されたが、突然の工事中止でそれも水の泡になった。
だが、今ではあまりお偉方や海軍側をそれほど憎んではいない。
元々、アイオワ級は高速重武装の戦艦として完成するはずだった。
だが、カイテルは徐々に出来上がっていくアイオワを見て、期待する半面、どこか不安もあった。
船と言うのは幅と長さのバランスが整えば、航行時に安定性が良くなる。
カイテルは元々漁師であり、どのような船がスピードも出せ、安定性を保てるか分かっていた。

782 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:39:26 [ zHthby0g ]
アイオワ級はどちらかというと、細い割には全長が長く、人間に例えると、痩せっぽちで早さが取り柄の人間に見えた。
(高速航行時には安定性が悪そうだな)
彼は日頃からそう思っていた。しかし、それも工事が進むにつれて風化していった。
今、彼は造船所の副主任や、技術者達と共に改修箇所や設計変更箇所を見て回っている。
先月から改修、設計変更箇所の工事から始めたら、就役はどこまで伸びるのか、それの調査に当たっている。
流石に、艦体の大きな艦だけはあり、関係箇所を調査するには時間が掛かった。

「鋼板の準備数は、これで決まりました。後は進水予定日がいつになるか推測してみるだけです。」

カイテルは紙に文字を書き終えると、関係者らにそう言い、21日の午前の仕事はこれで終わった。

4時間後の午後3時、カイテル主任らが最終的な進水予定日、竣工予定日の推定を出す事が出来た。
カイテルは造船所長に、立った今書き上げた文書を持ち込んで行った。
入ってきた時、所長は電話で誰かとやり取りしていた。
電話のやり取りは、彼らが入って1分後に終わった。

「やあカイテル主任。工事の期日予定日は推定できたか?」

所長は粋のいい声で聞いてきた。

「ええ、推定できました。この文書に書いてあります。」
「どれ、見せてくれ。」

紙を取り出してしばらくは、所長は何も言わずに読み続けた。
紙を渡されてから5分が経ち、所長がおもむろに口を開いた。

783 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:43:00 [ zHthby0g ]
「進水予定が今年の12月1日・・・・・竣工予定日が43年の10月か。半年以上も完成が伸びてしまったな。」

所長は胸ポケットから眼鏡を取り出して、それをかけてから、差し出された紙に目を通した。
所長は大きくため息をついた。
本来ならば、竣工予定日は来年の2月末に予定されていたのだ。
それが一気に半年以上も伸びたのだ。
他の艦艇の建造計画も入っている今となっては、余計な仕事を増やされたような感がある。

「でも、これで安定性のある船が作れますよ。」

カイテルは自信ありげな口調で言い放った。

「君もそう思うかね?」
「ええ、思います。余計な仕事が入ってきたような感じはしますが、あのまま完成していれば、
アイオワ級はスピードは速いが、安定性に欠ける船として評判を落としていたでしょう。」
「分かっているじゃないか。」

所長はわが意を得たりといった表情で席から立ち上がった。

「私としても、こんな安定性の欠ける戦艦を作ると聞かされた時は、海軍も落ちたなと思ったが、
ようやくいい戦艦が作れるようになった。これも、パナマ運河がなくなったお陰だな。」

そう言って、所長は高笑いを挙げた。
設計変更となれば、現場に余計な負担をかけてしまう事になる。
だが、今回の事件では、彼らのみならず、アイオワ級の設計変更を喜ぶ者は、憎む者よりも遥かに多かった。
物を作る職人というものは、誰しも評判がよく、皆に信頼されるような物を作りたいと思うものである。

784 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:45:25 [ zHthby0g ]
「アイオワのこの推定日は、ある程度建造行程が進んでいたからあのような数字が出たのですが、
アイオワより建造行程の進んでいないニュージャージーやミズーリ、ウィスコンシンなどはアイオワよりは比較的、工事しやすいでしょう。」
「2度手間をやる箇所が少なくなるからな。
むしろ、後に建造される艦のほうが、アイオワの建造日数より少ないかもしれん。」

所長はそう言ったが、彼は余計に増えた建造日数を気にする事はなく、逆にいい戦艦を作れると言う喜びに満たされていた。
現在、建造が予定されているアイオワ級戦艦は、
アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン、ケンタッキー、モンタナ、イリノイの7隻である。
ケンタッキー、モンタナ、イリノイは1943年初頭から建造が開始される予定で、これらの担当の建造主任が目下、建造に必要な鋼材の下調べや準備に取り掛かっている。

「あと1年と10ヶ月ほどで、世界最強の戦艦が作れるぞ。」
「あと1年10ヶ月ですか。果たして、長いのか、短いのか。」

カイテル主任はしんみりとした表情で呟くが、

「短いさ。平時ならもっとかかるぞ。むしろ、これだけの日数で完成するの事は非常にいい事だ。」

所長は満面の笑みを浮かべながら言った。
こうしてアイオワ級戦艦は、建造関係者の喜びや、苦情を交えながらも、海に出るまでの短くない時間を、余計に船台上で過ごす事になる。

一方でアラスカ級巡洋戦艦は、4隻全てが建造を開始された。
それぞれの名前は、アラスカ、コンステレーション、コンスティチューション、トライデントと名付けられ、
1943年末から44年の中盤に次々と就役する予定だ。
アイオワ級、アラスカ級のみならず、これからの主役たるエセックス級やその他の艦艇も、急ピッチで建造されつつある。
軍艦のみならず、航空機、戦車、軍用者等の製造、開発もフルスピードで行われていた。
開戦から2ヶ月近く経ち、アメリカの工業力は、ようやくフル稼働し始めた。

785 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:47:54 [ zHthby0g ]
1482年1月26日午後6時 バルランド王国ヴィルフレイング

コーデル・ハル国務長官は、1月7日にグレンキア、1月12日にミスリアルを訪問し、
両国の元首と会談した後、1月23日には輸送船に乗って本国に帰っていった。
その間、ヴィルフレイングには、完成したばかりの飛行場に航空機が駐留し始めた。
護衛空母ロングアイランドと、輸送船に乗せられて来た、第3航空軍の第83戦闘航空隊は、25日の早朝に到着するや、
早速陸揚げされ、その日の夕方までには全機が飛行場に展開できた。
そして今日の早朝には、新たに第1海兵航空団の第119海兵航空隊の一部である、VMF−24の64機の戦闘機が進出し、
完成したばかりのヴィルフレイング第1飛行場の滑走路脇は陸軍、海兵隊の航空機で埋まった。
この頃には、簡単なレジャー施設や店なども完成しており、寂れた町であったヴィルフレイングは、僅かながら賑わいを取り戻していた。
そんな中、ラウス・クレーゲルは、ヴィルフレイングの空き地だった場所を歩き回っていた。

「すげえな〜・・・・・・たった1ヶ月かそこらで、ちっこい町を作りやがった・・・・」

建設されたレジャー施設群を全て見回った彼は、思わず度肝を抜かれていた。
レジャー施設の中には、アメリカ人が行う、野球や、テニスというスポーツを行う場所も取られていた。
それ以外にも、飲み屋のような建物や、別の場所には病院もあり、必要なものはほとんど揃えられていた。
元々、空き地が呆れるほど大きかった場所だったが、その空き地を、アメリカ人達は有効活用して、娯楽施設等を建設したのだ。
それも、1ヶ月少々しか経っていない時間で。

「物持ちが良いもんだ。そこらの国とは全然次元が違う。」

ラウスは眠たそうな声でそう呟いた。
その時、

「やあ、ラウス君じゃないか!」

後ろから聞き覚えのある声が響いた。

786 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:50:28 [ zHthby0g ]
振り返ると、そこにはハルゼー中将と別の仕官がいた。

「あっ、ハルゼー提督。」
「君も散歩かね?」
「まあ、そんな所っすかね。」

ふと、彼はハルゼーの右隣にいる士官と目が合った。
どことなく知的な感じがし、端正な顔立ちである。会議で1、2度見たことがある。

「あなたは、スプルーアンス提督ですね?」
「そうだが。」

スプルーアンスは抑揚のない声で答えた。

「ラウス君、これからメシでも食いに行かんかね?」
「メシですか?」

いいです、と断ろうとしたが、いきなり腹の虫がなってしまった。

「正直だな。」
「まあ、そのようで。」

スプルーアンスの言葉に、ラウスはやや照れながら返事する。
思えば、ラウスは今日、首都からここに来たばかりで、昼食をとっていない事に気が付いた。
首都から戻ってきたのは午後1時ぐらいで、普通なら昼食を取っているだろうと、誰もが思うだろうが、
ラウスは馬車でもずっと眠り、馬車から降りた後も、割り当てられた宿舎で午後4時まで爆睡していた。

787 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:52:26 [ zHthby0g ]
今日は休日であったため、彼はとことん寝てやろうと、昼の大半を夢の世界で過ごしたのである。

「決まりだな。ではメシだ。」

ハルゼーは張りのある声音そう言うと、先頭に立って歩き始めた。
店内には非番の兵達で賑わっており、店中に肉の焼ける音やそれぞれの話し声が混ざり合っている。

「ラウス君、肉は好きかね?」

席に座るなり、ハルゼーはラウスに尋ねた。

「肉ですか・・・・・あまり食べないですけど、嫌いではないです。」
「どんな生き物の肉を食べた事がある?」
「え〜と・・・・豚肉とか、キジェント肉とか・・・・」
「キジェント肉?」

ハルゼーが頓狂な声を上げる。

「ビル、きっとここの大陸だけの生き物の肉だろう。そのキジェント肉というのはなんだ?」

スプルーアンスが質問した。

「あっ、ちょうどキジェントという生き物の絵がありますけど、見ますか?」
「ちょっと見せてくれ。」

ハルゼーは頼み込む。

788 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:54:09 [ zHthby0g ]
ラウスは二つ返事で快諾し、懐からキジェントという生き物の絵を取った。
ハルゼーはそれを手にとって見る。

「な、なんだいこりゃあ!?」

彼は仰天した。
なんと、そのキジェントという生き物は、ムカデに似た毛虫のような生き物だった。
見るからにして気持ち悪い。

「見た目に反して、かなり美味っすよ。」
「馬鹿野郎。なんてゲテモノを見せてくれたんだ。」

彼は思わず目を覆いそうになった。
心底気持ち悪がるハルゼーに対し、スプルーアンスはあまり驚かなかった。

「こいつは、またまた驚きの発見だな。この絵は、虫嫌いの者に見せたら跳び上がる事間違い無しだろう。
・・・・・・ふむ、上手く描けているな。」
「あっ、それ自分が描いたんですよ。ちなみにキジェントの肉料理は、バルランドでちょっとしたブームになってるんですよ。
とくにキジェントの下腹部分とか上手いですよ。」

ハルゼーはラウスの顔をまじまじと見つめた。

「せめて、もう少し漫画チックに書いてくれんかねぇ。こんなリアルなゲテモノ絵なんぞ見たくもない。」

この絵で一気に機嫌が悪くなったのか、ハルゼーはややけんか腰の口調で言った。

789 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:56:26 [ zHthby0g ]
「漫画チック?・・・・・ちょっと可愛げなものという意味ですか?ならばここに別の生き物の」
「もういい、分かったから!な?」

手さげカバンをまさぐるラウスを、ハルゼーは慌てて制止した。

「絵はまた次の機会に見せてもらうとして、飲み物でも飲もうかね。レイ、君は何がいい?」
「私はコーラで結構だ。ラウス君はドリンクは何が良いかな?」
「種類はビールにウィスキー、ソフトドリンクはコーラとオレンジジュースだ。
君も酒が飲める年だから、ビールを飲まんか?」
「ビールですか。それってうまいですか?」
「うまいに決まってるじゃないか。さあ、どうする?」

ラウスはすぐに、

「じゃあ、ビールって奴を飲んでみます。」

ビールを頼んだ。
3人の中で、コーラはスプルーアンスが、ビールはラウスとハルゼーが頼んだ。
しばらくして飲み物が渡され、その5秒後には頼んでおいたステーキが届いた。
ステーキを置かれた瞬間、ラウスはそのボリュームに目を丸くした。
彼は適当にハルゼーと同じものを頼んだのだが・・・・・・
(ちょっと・・・・・まずったなぁ)
早速後悔した。
ジュージューと鳴る鉄板上のステーキ肉のボリュームは、普段彼が食べる量の2倍近くはあった。
ラウスは少し小食であり、肉も1月に2回食べれるか食べられないかだ。
だが、眼前のステーキ肉は、彼からしてみれば余りにも大きかった。

790 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:57:58 [ zHthby0g ]
「どうしたんだ?早く食べんと冷えるぞ?」

既にステーキにがっついているハルゼーがそう言ってきた。
ちなみに、スプルーアンスの肉の量は、この肉と比べて、2回り小さかった。
スプルーアンスがラウスの視線に気付くと、そっと耳打ちしてきた。

「無理して全部食べんでも良いぞ。腹八部だ。」

そういい終えて、スプルーアンスは再び食べ始めた。

「で、では、いただきます。」

ラウスはまずナイフで肉を切って、フォークでそれを口に放り込んだ。味はかなり良い。

「ハルゼー提督、この肉はなかなかうまいですね。」
「そうか。そう言ってくれると、誘ったわしも嬉しいよ。」

そう言って、ハルゼーは笑みを浮かべた。

ラウスは後悔していた。
食べ始めてから40分が経過し、なんとかステーキを食べきろうとしたが、あと2割を残してギブアップした。
一方のハルゼーはとっくに食べ終わっており、うまそうにビールを飲んでいた。

「も、もう限界っす。」
「初めてにしては上出来だよ。ほら、ビールで喉を潤せ。」

791 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 17:59:54 [ zHthby0g ]
ハルゼーはそう言うが、彼としては苦しい満腹感のあまり、何も口にしたくなかった。
ビールは半分ほど残っている。
彼は初めてビールと言う酒を飲んだが、苦味はあるもののかなり上手かった。
しかし、胃袋の要領には限界があった。

「腹が膨れたところで、すぐに動いても気持ち悪くなるばかりだ。少し休もう。」

スプルーアンスの言葉に、ハルゼーとラウスは頷いた。

「あの、ちょっとばかり、うっ・・・あ、すいません。ちょっと聞いていいでしょうか?」

ラウスは2人を交互に見ながら聞いてみた。

「アメリカは、本格的な反撃を始めるのはいつ頃と決めているのですか?」
「本格的な反撃か。」

ハルゼーは、途端に真剣な表情になって考え込む。

「来年の中盤頃だろうな。」
「来年の中盤ですか。何か時間が掛かりすぎていませんか?」
「ラウス君、これでも少し早いぐらいだよ。」

スプルーアンスが言った。
「今、アメリカは戦時体制に入っているが、開戦からまだ2ヶ月と経っていない。
本格的な反撃をするには、そのための準備期間が必要なのだ。」
「そうだ。」

792 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 18:02:04 [ zHthby0g ]
ハルゼーは頷きながら言う。

「特に陸上兵力に関しては、必要な物を揃えるにはかなりの時間が掛かる。
まあ、無理に1ヶ月や2ヶ月で直ぐに現場に送れない事もないが。」
「なんでそれをやらないのです?」
「必要な重火器の弾薬とか、部隊の規模を削ってとかしか、早期に派遣できないのさ。
早期に派遣して、一時は優勢を確保しても、物が足りなければまたぞろ敵に押し返されて、
せっかく確保した地域をまた敵の手に委ねてしまう。それが繰り返されたら戦争はだらだらと続いてしまう。」
「空母機動部隊があるじゃないですか。それに強力な戦艦部隊も。あの艦隊さえいれば、どんな敵にも有効だと思いますけど。」
「暴れまわる事はできるが、占領は出来ない。」

スプルーアンスが言う。

「いくら爆撃で山を焼こうが、艦砲射撃で地面を耕そうが、海軍の軍艦にできるのはそれだけだ。
結局は地上軍の手で敵地を占領しないと、それらの努力は全く無駄になってしまう。その最後の役割をこなす地上軍が頼りにならなければ、
戦争と言うものは全く先に進まないのだよ。」
「なるほど・・・・・地上軍には万全を尽くしてもらいたいから、準備に時間をかけるのですね。」

ラウスは納得してそう言った。

「その通り。」

ハルゼーは満足したように頷いた。

「流石はバルランドでも有数なベテラン魔道師だ。物分りが良いな。」

スプルーアンスも、少しばかり感心したような口調で言う。

「とりあえず、南西太平洋軍の主力が来る3月までは、南大陸軍に頑張ってもらわねばな。
俺は一介の艦隊司令官に過ぎないが、シホット共の侵攻を遅らせるためには、何だってやるよ。」

793 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 18:03:24 [ zHthby0g ]
気が付けば、外は晴れていた。
心地よい陽光が、フェイレの体に当たり、冷え切った体に温かみが戻る。
各地を転々としている彼女にとって、久しぶりの太陽は眩しかった。
足に何かが絡みついた。

「?」

フェイレは足に引っ掛かった紙を取る。
再び丸めて、そこらに放り投げようとした時、彼女は紙の文面に目を曳かれた。

「シホールアンル艦隊、アメリカ艦隊の攻撃を受け、撃退される!」

一際書体の大きい文字が、見出しを飾り、文面にはその見出しの詳細が載っていた。

「アメ・・・リカ?」

初めて聞く言葉だ。そもそも、アメリカと言う軍は、バルランドにあったのか?

「何かの新兵器を開発したのかな。」

彼女は、アメリカ軍と言う言葉を繰り返し口にした。
だが、彼女の脳裏にはアメリカ軍のイメージは全く沸かなかった。
だが、ここ最近のバルランドの大衆紙にしては、この記事は、これまでの憂鬱な報道内容とは一変して、
アメリカ軍の勝利を喜ぶかのような文字が書かれている。

794 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/07(日) 18:04:12 [ zHthby0g ]
「私には・・・・関係のない事。」

すぐに興味をなくした彼女は、新聞を草むらに放り投げると、そのまま道なき道を歩き始めた。
彼女に決められた寝床はない。
寝床は、木の上であったり、廃屋だったり、洞窟の中だったり、様々だ。
だが、彼女はこの孤独な一人旅を辞めようとは思わなかった。

「あたしは、自分の能力を守る。例え、野垂れ死にしようが、最後まで自分らしく・・・・」

そう呟きながら、フェイレは山道を歩き続けた。



825 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:25:52 [ zHthby0g ]
第14話 境目のオアシス

1482年 1月31日 ガルクレルフ

西海岸に配備されていたシホールアンル軍第3艦隊は、30日に急遽東海岸の回航命令を受けた。
途中トラブルがあったものの、艦隊は午後2時に、東海岸のガルクレルフに到着した。

「やっと到着したか。」
「ええ。」

戦艦レンベラードの艦橋で、2人の仕官が談話を交わしている。
第3艦隊司令官イル・ベックネ少将が言うと、艦長のロスグタ大佐が短く返答する。
ベックネ少将は、顔立ちは鋭く、痩せてはいるが、どこか獰猛な肉食獣を思わせるような風体だ。

「それにしても、オールクレイが抜けたのは少し痛かったな。本来なら、戦艦3隻を加えて、
アメリカの主力艦隊を迎え撃てると思ったのだが。」
「オールクレイは、機関の魔法石の調子がすぐれないようです。オールクレイは万が一のために、本国に戻って修理を受けるようです。」
「修理か・・・・・・・まあ、戦闘中にいきなり停止して、足を引っ張られたらかなわぬからな。
グジェンガー艦長の判断は一応、間違いっていないか。」

そう言いながら、ベックネ少将は、ガルクレルフの港を見てみた。
ガルクレルフの港は、今や北大陸から輸送されてきた物資で溢れ返っていた。
港には、うず高く積み上げられた木箱や布袋が幾重にも続き、それは2ゼルド離れた内陸でも同様である。
ガルクレルフを占領した時にはなかった、物資を保管する倉庫は60ほど建てられ、
満杯になれば1個軍が1ヶ月戦える両の物資が蓄えられる。
しかし、現状ではそれ以上の必要物資が、このガルクレルフに所狭しと溢れ返っている。

826 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:28:11 [ zHthby0g ]
「木箱の町、と言ったほうが正しいのかね?」

ベックネ少将はニヤリを笑いながら、港のほうに顎をしゃくった。

「どこもかしこも木箱や布袋しか見えんのだが。」
「ここは元々、後方兵站基地として活用されていますからな。ここで本国からの物資を蓄えた後、
前線部隊に一定量の補給を行っているのでしょう。でも、本当ならこのガルクレルフに、
こんな過剰なまでに物資が蓄えられる事はなかったのですが。」
「この木箱の山を築いた原因は、あのアメリカ空母部隊にある。」

ベックネ少将は、こうなるように仕向けた下手人が分かっていた。

「そうです。本来なら、この補給物資は前線軍の後方に分散された簡易集積所に集められる予定でしたが、
どうしてか、アメリカ軍艦載機が簡易集積所ばかりを爆撃して、少なからぬ物資がオシャカになりました。」
「私も知っている。あの“挨拶回り”だな。アメリカと言う国は、どこを攻撃すれば、何がどうなるかしっかり分かっているな。」

ベックネ少将は感心したように呟いた。

「そのアメリカ艦隊は、いまやそう遠くない地域に艦隊の主力を貼り付けてきおった。」
「ヴィルフレイングですね?」

艦長の言葉に、ベックネ少将は頷く。
シホールアンル海軍の将兵にとって、もはやヴィルフレイングといえば即座にアメリカ艦隊という言葉を連想するまでになっている。
これまで、ヴィルフレイングといえば、一昔前の魔法事故で、大惨事を引き起こした悲劇の港町、あるいは呪われた町、というイメージが圧倒的に多かった。
これは、アメリカ艦隊がヴィルフレイングに現れるまで健在だった。

827 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:31:22 [ zHthby0g ]
だが、第6艦隊やシホールアンル地上軍等を一気に叩きのめしたアメリカ空母部隊や、太平洋艦隊の主力が
ヴィルフレイングに陣取るや、悲劇の町というイメージはたちどころに吹き飛び、シホールアンルの喉元に突きつけられた匕首、
という意識が将兵の頭に埋め込まれている。
その戦力たるや、これまで判明しただけで、戦艦8隻、空母4隻、巡洋艦、駆逐艦合計で40隻以上というとんでもない物である。
もしこれらが一気に押し掛けて来れば、主力戦艦6隻しか持たぬシホールアンル艦隊は甚大な損害を被る。
せめて、戦艦戦力だけでも優位を保たねば・・・・・・
海軍上層部は第3艦隊を東海岸に派遣する事に決め、うち戦艦1隻が魔法石の調子が悪く、回航途中でリタイアしたが、
残りは北大陸南部のマルヒナス運河を通り、無事にガルクレルフに着いた。
これで、シホールアンル艦隊は戦艦8隻になり、とにもかくも、戦艦戦力はこれで互角になった。

「戦艦のみならず、竜母も東海岸に回せばよかったのですが」

話を聞いていた、参謀長のリギングラ准将が残念そうな表情で言ってきた。

「第24竜母機動艦隊も加えれば、母艦戦力は6対4の優位に立ち、まず相手側の空母を血祭りに挙げられる筈ですが。」
「それは出来んかもしれない。」

ベックネ少将はかぶりを振る。

「アメリカ空母部隊は、どこに出没して暴れ回るか分からん。28日だったかな、グレンキアの南端に左遷されたスパイが、
沖で訓練を行うアメリカ機動部隊を発見したそうだ。諸君らも、この報告を聞けば何か分かるだろう?」

彼はイタズラ小僧が浮かべるような表情で、周りを見回した。誰も直ぐには分からなかったようだ。
(これがヘルクレンスや、モルクンレルなら直ぐに理解できただろうな)
幕僚達が、ようやく分かったと言わんばかりの表情を浮かべた。

828 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:35:05 [ zHthby0g ]
「つまり、アメリカ空母部隊は、西海岸に回り込んで、手薄の我が艦隊や北部戦線を襲う可能性がある、と言う事ですね?」
「その通りだ。これを恐れた西海岸区司令官が、第24竜母機動艦隊を手放さないのだ。
まあ、ここで西海岸区司令官の文句を言いたい者もおるかも知れぬが、彼の気持ちは分からんでもない。」

彼は艦橋の窓の外に手をかざした。

「この境目のアオシスから、カレアントの戦線までは、充分な数のワイバーンが配備されている。
だが、西海岸戦線では、軍の大半をカレアントに持っていかれているため、ヴェリンス共和国の残りの領土や、
ミスリアル王国に地上軍を押し込む事も、ワイバーンの大空襲も頻繁には加えられない。」

事実、シホールアンル軍の侵攻軍は、東海岸戦線偏った形になっており、西海岸戦線はヴェリンス残存軍の抵抗を思うように突破できないでいる。
ワイバーンの配備数も、東西の比率で表すと、3:1である。

「頼りになるのは海軍のワイバーン部隊や、主力艦隊だが、その一翼が抜けた今、アメリカの空母部隊が、分力でも攻め入ってきたらどうなると思う?」

アメリカ主力艦艇の性能は、今やシホールアンル海軍の全部隊に知られている。
アメリカ側の空母は特に侮りがたい性能である。
一番搭載数の少ないワスプ、レンジャー級でさえ、80機以上。
ヨークタウン級、レキシントン級の大型正規空母となれば搭載数は90〜100と、一気に戦力が上がる。
もし、アメリカ空母部隊の分力、2隻を中心とする艦隊が西海岸に現れれば、
そして、それが不意を突いて、地上軍や艦隊に襲いかかれば、たちまち大混乱に陥る。
これに対抗可能なのは、モルクンレル部隊であろうが、モルクンレル部隊はワイバーン総数272騎に対し、
敵2隻がワスプ、レンジャー級であれば、160機程度で、モルクンレル部隊が優位だ。
しかし、その差も、敵の空母がレキシントン級、ヨークタウン級と来ればたやすく縮まってしまう。
増してや、敵の空母部隊が4隻全てを投入する可能性もある。
それを恐れる西海岸区司令官は、モルクンレル部隊を手放したくなかった。

829 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:37:39 [ zHthby0g ]
「だから、敵が来た時には、この艦隊の戦力で戦うしかない。まあ要するにアレだ、無い物ねだりしても始まらぬという事だ。」
「なるほど。しかし、来年の中頃には、我々もホロウレイグ級竜母が複数登場します。
それに36騎搭載可能の高速小型竜母も、増産が決まり10隻が続々と作られます。この年で、アメリカ軍や
南大陸軍の反撃を上手く押さえ込めば、勝機は自ずとこちらに転がって来ますぞ。」
「そうだ!アメリカの戦艦如き、わがオールクレイ級の足元に及ばぬ!」
「むしろ、敵が来た時こそ好機です。それに、我々は陸軍のワイバーン部隊の援護を受けながら敵と向かい合う予定です。
もし、あの忌々しい高速空母部隊が来ても、ヘルクレンス部隊と陸のワイバーン部隊と協力すれば、奴らを海の藻屑に出来ぬこともありません。」
「ふむ、そうだな。」

ベックネ少将は、幕僚達が戦意を失っていない事に満足していた。
(これだ。敵が優勢なほど、戦意を掻き立てる。これこそが、我がシホールアンル海軍のいい事だ。
彼らのような戦意旺盛な部下がいれば、我々も負ける事はあるまい)
彼は、次第にアメリカ艦隊の決戦を望むようになって来た。

「出るなら出て来い、アメリカ軍。我々シホールアンル海軍の実力を見せてやる。」

1482年2月3日 バルランド王国ヴィルフレイング

この日、戦艦コロラドの会議室で、本国からやって来たキンメル太平洋艦隊司令長官と幕僚2人を交えた作戦会議が行われた。
「であるからにして、この作戦は未だに進撃を続けようとするシホールアンル側の意図を挫くと共に、
南西太平洋軍がカレアント南部に進駐するまでの時間を捻出するのが目的である。」

言い終えたキンメル大将は周りを見回した。
面白そうだなと顔を緩めている者、少し危険すぎるのではないか?と顔を強張らせている者がいた。
そのうちの面白そうと思っている者、第16任務部隊司令官、ウィリアム・ハルゼー中将が口を開いた。

830 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:39:14 [ zHthby0g ]
「なかなか面白い作戦だ!これなら、シホールアンル軍を大きく足止めできるぜ。」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。
その一方で、顔を強張らせている者、第2任務部隊司令官、アイザック・キッド少将も口を開く。

「しかし長官、古来から言われるように、敵に当たる時は全力で、との言葉があるではありませんか。
分力で敵の肝心な所を叩き、混乱に陥れると共に心理的ダメージは計り知れない事になるでしょう。
しかし、失敗すれば貴重な高速空母や、旧式とは言え、まだ使い道のある戦艦を無為に失う可能性もあります。」
「ミスターキッド。確かに君の言う事は重々承知できる。」

キンメルが深く頷く。

「だが、この作戦は敵が未だに戦力を満足に補充し得ていない今だからこそ、出来る物だ。
戦力が整えば、強引に出来るかもしれないが、それはいつになると思う?」

「・・・・・・・・」

キッド少将は言葉に詰まった。
だが、内心ではこのような投機性の高い任務は賛成できぬという思いが強い。

「投機性が高いのはよく分かっている。だが、この作戦は今をおいてしか出来ない。」

キンメルはずいと、前のめりに姿勢を傾ける。

「機動作戦には、旧式戦艦には不向きです。司令官、せめて・・・・ワシントンは太平洋に回せぬのでしょうか?」

831 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:41:21 [ zHthby0g ]
キッドは縋るような口調で言う。

「ペンシルヴァニアやアリゾナは21ノットしか出せない低速艦です。しかし、ワシントンなら、28ノットのスピードが出せ、
機動部隊にも随伴できます。そのワシントンを、回せませんか?」
「残念だが。ワシントンは大西洋から回せない。現状の戦力で作戦を行うしかない。」

キンメルはきっぱりと言い放った。
会議室に、重苦しい沈黙が流れた。
本来、機動作戦とは高速艦でやるものだが、わざわざ低速艦で行うのは、自殺行為に等しい。
だが、キンメルの言った作戦は、はっきり言って正攻法ではなく、奇策そのものである。
失敗すれば少なからぬ戦力を失ってしまう。
だが、新鋭艦の就役する43年まで余裕の無い太平洋艦隊は、駐留予定の南西太平洋軍や南大陸軍の作戦をやりやすくするために、
こうやって時間を敵から捻出するしかない。

「分かりました。」

キッドは決心した。
確かに、犠牲の大きくなりそうな作戦だが、これで成功すれば、厄介者呼ばわりされる旧式戦艦にも花を持たせられる。

「やりましょう。我が戦艦の14インチ砲で、敵地を綺麗さっぱり吹き飛ばしてやりましょう。」
「そうか。やってくれるのだな。」
「はい。」

キッド少将は、先ほどまで胸につかえていた不安が、嘘のように引いていった。

「第2任務部隊の上空援護は、我々が抜かりなく行う。だから貴官は思う存分やってくれ。」

832 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:42:58 [ zHthby0g ]
ハルゼー中将も微笑みながら、キッド少将に語りかけた。

「よし。これで皆の腹も決まった事だろう。さて、これからは作戦を成功させために、色々問題点が出てきた。
これからはその問題点を解決させるために、細かいところを調整しよう。」

1482年2月6日 バルランド王国ヴィルフレイング 午前8時

ラウス・クレーゲル魔道師は、眠たそうな顔を張り付かせながら桟橋に向かった。
服装はいつものように黒いローブと、下はいつも変わった白のハイカラーである。
桟橋に辿り着くと、3隻の内火艇が係留されていた。

「エンタープライズ行きはどれっすか?」

彼は強面の下士官に尋ねた。その下士官はラウスを見ると、

「目の前の船ですよ。乗るんですか?」

と、内火艇のへりを棒でコンコン叩く。

「今から発進させようとしてたんですが。」
「じゃあ乗ります。」

そう言って、ラウスは内火艇に飛び乗った。
内火艇が発進しようとすると、後ろから慌てた声が聞こえてきた。

「おーい!ちょっと待ってくれ!」

833 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:44:32 [ zHthby0g ]
下士官が振り返ると、1人の将校が走ってきた。

「あ、マクラスキー少佐。」
「すまんな、待たしちまって。」
「もうすぐで出るところでしたよ。昨日はたっぷり楽しめましたか?」
「辛うじて合格点と言う所かな。」

そう言って、マクラスキー少佐は笑いながら内火艇に飛び乗った。
彼が乗った事を確認した内火艇は桟橋から離れ、800メートル沖合いの空母エンタープライズに向かった。

「ん?おいあんた。」

ラウスは、そのままぼーっと船の左舷側を見つめていたが、唐突に横から声をかけられた。

「あんた魔道師だろ?」
「ああ、あなたは確か・・・・・・」

ラウスはしばらく考え込んでから、思い出す。

「ウェイド・マクラスキー少佐、でしたっけ?」
「そうだ。よく覚えててくれたな。」
ラウスは、レアルタ島沖海戦や北東沿岸爆撃の際に、何度か報告のため、艦橋に上がってきた彼を見ているから、自然に顔と名前を覚えていた。

「また今度もエンタープライズに乗るのかい?」
「ええ、そうですよ。なんか、本国からエンタープライズにずっと乗っとけと言われまして。」
「へぇ〜、魔道師さんも大変だな。」

834 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:45:27 [ zHthby0g ]
「ラウスです。ラウスで結構すよ。」

そう言いながら、彼は大欠伸をかいた。

「前にも思ったんだが、ラウスはよく眠たそうな顔をしてるよな。眠り病にでもかかってるのかい?」
「別に病気じゃないですよ。ただ、元々こういう体質なもので。」

そう言ってまたもや欠伸。

「それで、バルランドで有数の魔術師か。なあラウス、こういうような言葉を聞いた事ないか?」
「どのような言葉っすか?」
「時たま耳にするんだが、有能な奴は面白い一面を持っている、って奴さ。うちのブル親父を見て最初どう思った?」
「ブル親父とは、ハルゼー提督の事ですよね?」
「ああ、そうだ。」

マクラスキー少佐の質問に、ラウスは最初の出会いを思い出した。
最初、ハルゼーは彼らと会った時、かなり不機嫌そうに見えた。
いかつい顔つきは今にも怒鳴ってやろうか、と思うほど強張っており、口はへの字に曲げられていた。
いかにも感情型の闘将という雰囲気を出していた。

「怒り出したらおっかないおっさん、と言った感じでしたね。」
「君もそう思ったか。俺もだよ。」

マクラスキー少佐は自分に親指を指してそう言った。

「でもな、本来はかなりの努力家なんだよ。」

835 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:48:29 [ zHthby0g ]
「知ってますよ。なんでも、空母の艦長になる時に、高齢にもかかわらず強引にパイロットの教育課程を受けて
パイロットになったって、本人に聞かされました。」
「チッ、本人から聞かされたのか。あっと驚かせようと思ったんだが。でもな、あんなすぐに物事を決めそうな
ブル親父でも、本当は人一倍努力する人なんだよ。」
「確かに、面白い一面ですよね。」
「ああ、全くだ。」

マクラスキー少佐は笑いながらそう言う。

「それは、君も一緒だよ。巷では優秀な魔道師、ラウス・クレーゲルも、本当は眠るのが唯一の楽しみな若者!
と、俺の中ではそうなってる。」
「ええ〜、勝手に決めないで下さいよぅ。」

ラウスは困った顔つきで、マクラスキー少佐に抗議した。

「でも、大体は合ってるだろう?」
「ま、まあ、確かに。」
「まっ、要するに俺が言いたいのは、有能な人間ほど、面白い一面を持っていると言う事だ。それだけかな。」
「ハハハハ、よく考えれば、確かに。」

ラウスはふと、スプルーアンス提督の事を思い出した。
あの巡洋艦部隊を束ねる男も、結構驚く一面を持っている。
気が付くと、目の前にはエンタープライズの巨大な艦体が迫っていた。
内火艇はエンタープライズの艦尾左舷側から近付くと、一度離れて半周し、内火艇の左舷側をエンタープライズの左舷が会談に、ゆっくりと接舷した。
マクラスキー少佐が先に降り、次にラウスが降り、階段を上がって行く。

836 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:49:16 [ zHthby0g ]
「やっぱ、司令官と同じサイズのステーキは、私もとてもじゃないですが食べ切れません。」

ブローニング大佐が苦笑しながら言った。

「2、3日メシ抜きにすりゃあ誰だって食べれるよ。」

と、ハルゼー。
その時、艦橋に若い兵が入って来た。

「ラウス・クレーゲル魔道師がただいま着任いたしました。」
「おう、入れてくれ。」

ハルゼーは機嫌がよさそうに頷く。しばらくして、ラウスが入って来た。

「こんちわーす。」
「ようラウス君。たっぷり眠れたかね?」
「まあ、ぼちぼちと。」

ラウスは、眠たそうな顔に苦笑を浮かべながらそう答える。

「今度の作戦でもよろしく頼むぞ、“魔道参謀殿”。」
「ええ、微力を尽くしますよ。」

ラウスがやや、力の入った声音で言い、ハルゼーとブローニングの2人と、代わる代わる握手をした。
魔道参謀というのは、ハルゼーが勝手につけた名前だが、実質的にラウスの立場は、魔道参謀そのものである。

「今回は前回以上に厄介な仕事だが、連絡役の君にも色々期待している。お互い、今度の作戦成功を祈って頑張ろう。」

837 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:50:49 [ zHthby0g ]
「これが成功すれば、シホールアンルの前進は完全にストップしますからね。自分としても、自然に気合が入りますよ。」
「成功すれば、ラウス君の眠る時間も飛躍的に増えるでしょうな。」

ブローニングの何気ない言葉に、3人は思わず笑ってしまった。

「とりあえず、出港までまだ時間があるから、前に使った部屋でゆっくり休むと言い。
これから眠る時間も少なくなるから、今のうちに寝溜めしたほうがいいぞ。」
「わかりました。では、お言葉に甘えるとします。」

2月8日 午後11時 ネバダ州ロスアラモス

南大陸側の特使達は、ラウスが南大陸に戻った後もアメリカ本土に留まっていた。
アメリカ政府の高官との協議や、各州の工場などを見学し、彼らはアメリカという国の真の姿を目の当たりにしている。

「アメリカからは、多くの事を学べるかもしれない。」

派遣特使団のリーダーであり、レイリー・グリンゲルはそう思っていた。
その旅路も2ヶ月以上続き、そろそろ南大陸に戻ろうと思ったある日彼とルィール、ヴェルプはとある場所に呼ばれた。
丸1日移動した後、彼らが連れ来られたのは、砂漠の峡谷の中にある何かの研究施設だった。
彼らは、別に用意された建物の個室に案内された。
個室には、太平洋艦隊司令部で見かけた顔、レイトン中佐と、始めてみる白髪の老人が座っていた。

「よく来てましたね。ささ、どうぞこちらへ。」

2人は訝しげな表情を浮かべながらも、ソファーの向かい側に座った。

838 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:53:46 [ zHthby0g ]
「初めまして、私はアルベルト・アインシュタインと言う者です。」

白髪の人物は、にこやかな笑顔を浮かべながら自己紹介を行った。
2人もそれぞれ自己紹介を行って、話は始まった。

「遠いところからわざわざ有難うございます。このアインシュタイン博士とは初対面となりますが、アインシュタイン博士は理論物理学者です。」
「物理学者ですか・・・・・レイトン中佐、なぜ私とルィールをこのような辺境の地に呼んだのですか?」
「それは、君達が腕の立つ魔法使いだからです。」

レイトン中佐は即答した。

「君達が使っている魔法の中に、通信魔法という物があるのは既に知っていますが、この通信魔法は普通の人間には使えないのですよね?」
「ええ。短距離通信魔法は、平の魔道師でも使えますが、大陸間の長距離通信魔法となると、
約5年〜6年程度の中堅、又はベテランの魔道師しか使えません。普通の人間に送っても、何ら感触はありません。」
「なるほど、魔法使い同士でやり取りできるコミニュケーションですか・・・・・いやはや、凄い物だ。」

唐突に、アインシュタイン博士が面白げな笑みを浮かべながら、言葉を発した。

「では、私達が使う交信装置の事は分かるかな?」
「ええ。電波、ですよね?」
「そうです。あなた方は本国と頻繁に魔法通信で連絡を取り合っているようですが、この魔法通信は、敵側の魔法通信も受信できるのですか?」

レイトン中佐が聞いてきた。

839 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 21:56:17 [ zHthby0g ]
「いえ、受信はできないことは無いですが、受信できても解読できません。時折、頭の中で何かが通るような感触、
あなた方の主に使う電波放送で言えばノイズや雑音でしょうか、それと似たようなものを感じるのです。
魔法通信には、敵側に通信内容を解読されぬために、魔法の構成式に暗号のような妨害式を交えてから作り、
送り主に発信するのです。これは敵も同様であり、今の所、双方の魔法通信は解読できない状況になっています。」
「なるほど・・・・実はですね。今回お2人にここに来てもらったのは、あるプロジェクトに参加してもらいたいからです。」
「あるプロジェクト?」

アインシュタイン博士の言葉に、レイリーとルィールは首を捻った。

「ええ。それはですね、我々が使う無線機に魔法通信も傍受出来る様にしたいのです。」
「現在、我々情報部は、敵が使う魔法通信を全く知る事が出来ない状況にあります。そこで、南大陸では有数の魔道師である
お2人に協力してもらいたいのです。」

2人は一瞬唖然となった。

「驚かれるのも無理はないでしょう。科学技術と魔法技術。この2つには接点などあまり無い様に見えますからね。
しかし、魔法は火を起こしたり、強力な力を発生させて物を吹き飛ばしたり等、様々なことができます。科学も、
ほとんど物の助けは借りますが、同じように火を起こしたり、強力な力を発生させたりできる。要は物を使うか、使わないかなのですよ。
それさえ無ければ、不思議な事に魔法と科学は似ているところが幾つもあります。
まあ、私はあなた方の世界の魔法を本格的に見た事がないので、お2人にはデタラメな事を言っている様に聞こえるでしょうが。」

そう言って、アインシュタイン博士は照れくさそうに頭を掻く。

「要するに、魔法と科学の接点は多い、と言う事ですね?」

レイニーは姿勢を前のめりにして言う。

840 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 22:00:27 [ zHthby0g ]
「その通りです。」
「まあ、魔法と言っても、時たま手製の杖とかを使って発動する時もありますけど。」

ルィールが無表情のまま言う。

「でも、アインシュタイン博士の言う事は理解できました。」
「分かってくれましたか。」

アインシュタイン博士は、どこか安堵したような表情になった。

「どんな言葉が返ってくるかと心配していましたが、ふう良かった。」
「何を心配していたのです?」

ルィールは怪訝な表情で質問する。

「ええ、実はですね。さきほどの説明で、お2人からしたら間違っていると思う部分があるのではと思っていましたが。」
「いいえ、そんな事はありません!」

レイリーが慌ててかぶりをふった。

「むしろこちらが驚いたぐらいです。どうも博士は、年齢の割には柔軟な考えをお持ちのようですね。」
「いやいや、買い被らなくても。私なんぞ、年ばかり気にしている一介の老人ですよ。」

自嘲気味に言って、アインシュタイン博士は笑った。それにつられて3人も笑ってしまった。

「さて、場が和んできたところで話を戻しましょうか。」

841 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 22:01:24 [ zHthby0g ]
レイトン中佐がそう言って、話は元の路線に戻った。

「我々としては、見方同志は勿論、敵シホールアンル軍の魔法通信を傍受でき、それを解読できる無線機を開発する事が目的です。
先の話でも出てきましたように、南大陸軍、シホールアンル、マオンド軍の魔法通信は盛んに発せられているといえ、内容は解読できません。
敵陣営が発する魔法通信の中に重大な通信文が入っているのは確実です。これまで、我々は航空偵察や味方潜水艦を使って
敵情の把握にあたりましたが、これではすぐに限界が生じます。」

レイトン中佐は、一度水を飲んでから再び言葉を続ける。

「この戦争では、情報を多く掴んだ方が戦争に勝つといっても過言ではありません。今のように、味方のみの通信を受け取って、
敵の情報は傍受して確認しない、では今後の作戦遂行に大きな支障を来たします。そこで、わがアメリカは、あなた方と協力して、
敵側の魔法通信を傍受、解読できる装置を開発しようと考えたのです。」
「・・・・・・・これは少々、いや、かなり難しいかもしれません。」

レイリーは表情を強張らせながらそう呟いた。

「魔法通信の構成式は、短距離用、長距離用では違いが生じます。それに、構成式に加える妨害波も一定のパターンはあるとは言え、様々です。
私としては、開発は相当難しいと思われます。ですが、」

一瞬、レイリーが吹っ切れたような表情になった。

「やる価値は充分にあります。それに、魔法通信を解読しようとしているのは、我々南大陸のみではありません。
シホールアンルやマオンドも魔法通信を解読する研究は盛んに行われています。もしこを我々が開発したなら、敵に情報の面に関して
大きく差をつけることが出来ます。」
「私も、この研究開発は、今後の戦争において有意義なものになると思います。
それに、これは個人的見解ですが、これほど面白そうで、やり甲斐のある研究は初めてです。」

842 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 22:08:12 [ zHthby0g ]
2人のエルフはやる気満々であった。元々、魔法研究が一番盛んなミスリアル人だ。
持ち前の探究心や好奇心が、この新たな無線機開発に参加するきっかけとなった。

「引き受けてくれるのですね?」

レイトン中佐が聞くと。

「「もちろんです!」」

2人は威勢のいい声で即答した。
それを聞いたアインシュタインも満足そうに頷く。

「これなら話が早いですね。今後も、お2人と詳細を協議して、近いうちにマンハッタン計画を実行に移しましょう。」

1481年2月10日 午前3時20分 バルランド王国ヴィルフレイング

未だに夜の開けきらぬこの日、一群の艦艇がゆっくりと、ヴィルフレイングを出港しつつあった。
出港しつつある船の1隻である第2任務部隊の旗艦、戦艦アリゾナ艦橋で、寮艦の出港風景を見守るアイザック・キッド少将は、内心寂しい思いをしていた。

「夜中に、なるべく音を立てずに出港とは。これではまるで、夜逃げみたいだな。」
「ですが、借金取りはおりませんから、安心できますぞ。」

艦長のフランクリン・ヴァルケンバーク大佐が冗談を言ってきた。

「借金取りとは物足りない。せめてギャングと言ってくれれば良いのだがな。」

844 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2007/01/09(火) 22:11:45 [ zHthby0g ]
「アル・カポネから逃げる被害者家族、とでもしましょうかな?」
「ハハハ、それは傑作だな。」

ヴァルケンバーグ艦長の言葉に艦橋要員からも失笑が漏れた。

「とは言っても、この作戦、失敗すればかなり危ないからな。」
「ノースカロライナ辺りに任せれば、もっと効率がいいでしょうに。」
「艦長、ノースカロライナのみだったら、1隻で敵地を艦砲射撃をしないといけない。
それに、今回は旧式戦艦だからこそ、このような任務に参加するべきなのだ。」
「心理作戦も兼ねていますからな。とは言っても、機動部隊で叩けば・・・・
いや、今じゃ機動部隊でも前のような戦果は挙げにくいですかな。」
「そうだろう。敵も2、3度奇襲を受けるような馬鹿ではないからな。最も、」

キッド少将は艦橋の左舷側を眺めた。
洋上は暗闇に包まれて見えないが、左舷側海域には、出港したTF16が艦隊の集合を行っている。

「こっちはワイバーンの妨害さえ受けなければ、任務を達成できる。F4Fがどれだけワイバーンを減らしてくれるか、
それによって作戦がやりやすいか、やりにくくなるかが決まる。」

キッド少将は深くため息をついた。

「とりあえず、この2隻の旧式戦艦でも、暴れる場所を用意してくれた事に感謝しておくか。」
「老いたりとは言え、アリゾナ、ペンシルヴァニアの14インチ砲24門は侮れないですからな。
いずれにしろ、ガルクレルフの兵站基地なぞ、綺麗さっぱり吹き飛ばして、シホールアンルの侵攻軍に休暇を与えてやりましょうか。」
「ああ、長い休暇を与えてやるか。」

キッド少将は頷いた。
出港しつつある第2任務部隊の後には、ニュートン少将の第15任務部隊が、間を置かず出港する手筈になっていた。

848 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2007/01/09(火) 23:25:40 [ .jjCc2jM ]
711です
修正&最新ver
北大陸
 シホールアンル帝國  北大陸の強国、現在南大陸に侵攻している
 首都 ウェルバンル
  皇帝        オールフェス・レリスレイ    亜麻色の長髪の若い男。国民に慕われているが敵には厳しい
  国内相       ギーレン・ジェルクラ      国内省は治安や政治を担当する、裏では政治犯の投獄・処刑、
                               敵勢人物や団体の摘発、鍵の捜索も担当している
  国外相       フレル               相手の苦悩ぶりを見て楽しむサディスト、一応国内では敏腕外交官である
                               有能だが、力押し外交に慣れ過ぎてすっかりアホの子に相手の狼狽を見て楽しむサディスト
  陸軍総司令官  ギレイル元帥
  海軍総司令官  レンス元帥
  竜母指揮官    リリスティ・モルクンレル中将 第24竜母機動艦隊指揮官でハルゼーと同じタイプ、皇帝とは15年以上前からの付き合い、
  船長        リィルガ中佐           高速輸送船のレゲイ号の船長
  第6艦隊司令官 ウルバ・ポンクレル中将    海戦の後、艦と一緒に没
  第6艦隊主任参謀ファルン・ジャルラ少将
  尋問師       チェイング・            チェイングの兄妹の兄、名前はまだ登場してない
  尋問師       チェイング・セルエレ      チェイングの兄妹の妹、尋問が趣味というサディスト、鍵の捜索班員でもある
  第3艦隊司令官 イル・ベックネ少将       ベックネ少将は、顔立ちは鋭く、痩せてはいるが、どこか獰猛な肉食獣を思わせるような風体だ。
  レンベラード艦長 ロスグタ大佐          戦艦レンベラードの艦長

 元ヒーリレ公国     北大陸ではシホールアンルに次ぐ強国にであったが、シホールアンル帝國の脅迫外国にひれ伏した

南大陸
南大陸連合軍(大陸の北側順)
 レンク皇国

 ヴェリンス共和国

 カレアント皇国

 ミスリアル王国     魔法に関しては世界一

 バルランド王国     現在シホールアンル軍の南大陸侵攻に対して派兵している
 首都 オールレイング
  国王         アルマンツ・ヴォイゼ 
  国防軍総司令官 グーレリア・ファリンベ元帥
  第27連隊長    リーレイ・レルス大佐
  魔術師       ラウス・クレーゲル       ベテラン魔術師。その腕はミスリアルの魔術研究者らも認めているほど、年齢は26歳
                                今はエンタープライズにいて、魔道参謀をしている
  魔術師       ヴェルプ・カーリアン      ラウスの同僚、米国特使派遣団員
  エルフ        ルィール             米国特使派遣団員、現在は新たな無線開発している
  ダークエルフ    レイリー・グリンゲル      ミスリアル王国では一番の腕を持つ魔術師、南大陸連合国の米国特使派遣団のリーダー、米国特使派遣団員

 グレンキア王国
 首都 レルペレ

レーフェイル大陸
 マオンド共和国    レーフェイル大陸の覇者、シホールアンル帝國と同盟関係にある

  駆逐艦艦長     ルロンギ少佐

  鍵           フェイレ             この物語のキーパーソン?特殊な力を持っている。
                                6年前にこの力が暴走して村人200人が亡くなった
           

戦況
南大陸に侵攻して2ヶ月足らずのうちに、北端のレンク皇国とヴェリンス共和国がシホールアンルの手に落ちた。
シホールアンル軍はカレアント公国のホリウングを占領したが、要塞内に立てこもる南大陸軍の包囲殲滅は完全に失敗した。
米国軍がヴィルフレイングの町でシービーズが滑走路の建設をした、
現在はヴィルフレイングから第2任務部隊、第15任務部隊がガルクレルフの兵站基地を吹き飛ばすために出港した

距離
1ロレグ=15mm
1グレル=2m
1ゼルド=3km
速度
1リンル=2kt
1レリンク=2km
質量
1ラッグ=1.5t

最新ヴァージョンできたよ(・∀・)
誰かコレWiki掲載頼んでいい?

てゆーかアホールアンル、アホットが定着してしまった・・・_| ̄|○・・・

あと聞きたいんだけど、コレ新キャラ出るごとに更新する?それとも当分いらない?