668  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:15:01  [  zHthby0g  ]
第11話  暖やかな流れ

1481年12月8日  午前9時  カレアント公国ルーガレック郊外

カレアント公国ルーガレックを縦断する街道は、南大陸の中では道幅が広く、通りやすいために馬車や人通りが多い。
このような街道沿いの町は、旅人や冒険者といったさまざまな者達の格好の休憩所となり、
それらの者達が落としていく金は馬鹿にならない。
人通りの良かった街道は、今や北から来た人達で満杯であった。
露天商の看板娘や、人のいい店主は、この北から人達に対して、いつもの通りに物を積極的に売ろう、とはしなかった。
むしろ、いずれは自分達もここを捨てていくのか、と思い、憂鬱な気分になった。
この人の大群は、全てが北から来た難民達であった。
家財道具を抱えてきた者達もいれば、着の身着のまま逃げ出してきたのか、明らかに絶食していると思わせる、不健康そうな者も飽くほど見受けられる。
露天商で、野菜を売っていたクグラ・ラックルも、のろのろと歩く集団を見て、自分達の前途に不安を抱いていた。

「この人達はどこの町の奴らだい?」

彼が腕を組んでぼーっとしていると、隣の金物屋の店主が話しかけてきた。

「ホリウングらしいぞ。」
「ホリウングか。20ゼルドしか離れていないな。」
「シホールアンル帝国軍がホリウングに猛攻撃を加えているようだ。昨日は第2防衛戦を突破されて、
ホリウング市内にある連合軍の要塞に迫っているらしい。」
「誰から聞いたんだ?」
「ホリウングに向かっている連合軍の兵から聞いた。野菜を少し分けてやったらべらべらと喋ったよ。」

クグラが微笑んだ。彼の頭の犬耳がひくひく動いた。  


669  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:16:21  [  zHthby0g  ]
ここカレアント公国は、獣人の国である。人口は2400万人で、人口のほとんどは獣人だ。
獣人にも種類はあり、主に犬系と猫系がいる。種類はそこから更に分かれるが、大雑把にこの2種類に分けられている。
比率は犬系が6、猫系が4といった具合だ。
カレアントも南大陸連合軍を編成している国で、軍も半数以上の兵を前線につぎ込んでいる。
しかし、兵力、兵器の差はいかんともしがたく、常に後退続きである。

「俺はさっき、避難してきた奴から聞いたんだが、こっから10ゼルド北の辺りでは、
敵のワイバーンが10騎ほど飛んで来て、避難民を片っ端から焼き払ったようだぞ。」
「本当かおい?10ゼルドといったらすぐそこだぞ。もうそこまで敵のワイバーンが来るようになったのか。」
「本当らしい。」
「クソ!俺たちから税を巻き上げながら、軍は何やってるんだ。何がシホールアンルを叩き出すだ。南大陸から叩き出されてるのは俺達じゃねえか!」
「ごもっともだぜ。」

2人は顔を赤くして憤った。
すぐそこまでワイバーンが来ているという事は、防衛戦の行われているホリウングでは、連合軍の上空でワイバーンが暴れ放題と言う事だ。
このような事は軍人じゃなくても容易に分かる。
「うちのカカアは店を閉めて南に行こうと言ってるけど、俺にはどうしたらいいか分からないよ。
見ず知らずの土地に行っても、やっていけるかどうか分からないし。」
「命は助かるだろう。」
「命はな。だが、ここで築き上げた物はどんどん無くなっていく。」
「留まるのも難。行くのも難・・・・か。」

常に住人の気前がよく、活気に満ちていると言われたルーガレックの町も、近頃南に逃げ出すものが後を絶たない。
シホールアンル帝国の占領地では軍政が敷かれているが、時折占領地の町から、住人が家族ごと消えると言う噂がある。
果たして、どうなったのか?
誰も知らぬ、消え去った家族の行方は、行くところで憶測を呼ぶ。良い憶測ではなく、悪い憶測を。  


670  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:18:07  [  zHthby0g  ]
「命があれば、何とかやっていけると思うがね。」

クグラはそう言うが、もはや言葉すら、いくばくか弱々しいものになっている。
ふと、人より感受性の高い耳が、聞き慣れぬものを捉えた。
うずめていた顔を上げ、クグラは音のする方向を見つめた。

「おい、この音は何だ?」

金物屋の店主も聞こえたのだろう。

「さあ、聞いた事が無いな。」

聞きなれぬ音は、南西の方角、海の方角から聞こえてくる。

「あそこは、10ゼルド先は海のはずだが。」
「海からやってきたのか?」
「ワイバーン・・・・・・いや、ワイバーンは静かだ。ワイバーンでなかったとしたら・・・・この音は一体?」

彼らだけではなく、街道をノロノロと歩いていた難民達も何かの音に気が付き、足を止めた。
しきりに首をきょろきょろとさせるが、誰もが最終的にある方向に向いた。
それは、南西の方角であった。
その日は良く晴れていた空だった。憂鬱な者も、その空を見て少しは気分を浴するような天気だ。
その青空から、小さな点があった。
それらは1つ1つではなく、何十と言う単位だった。
気が付くと、それらは姿がおぼろげながら分かる高度で、ルーガレックの町上空を通り過ぎていった。
ワイバーンでもないその飛行物体群は、整然とした編隊を組んでホリウングに向かっていった。  


671  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:20:14  [  zHthby0g  ]
午前9時10分

目的地までもう少しだったが、
後方から襲い掛かる影が、疾走する集団に覆いかぶさり、炎を吐いた。
悲鳴と共に、甲冑やクロスボウを持っていた騎士や歩兵が炎に飲み込まれた。

「連隊長!急いでください!」
「言われなくても、そうしてるよ!!」

リーレイ・レルス大佐はそう叫びながら、必死に走り続けた。
後方でババババ!という音が鳴り、肉を砕く音や悲鳴が聞こえる。
その音の元を振り返ろうともせず、彼女はやっとの事で、地下要塞の入り口に飛び込んだ。
走りながら飛び込んだため、固い床に肩を打ち付け、奥に転がってしまった。
飛び込んだ瞬間、紅蓮の炎が入り口付近を蹂躙し、扉を開いて待っていた兵士2人が悲鳴を上げる間もなく焼死した。
「ワイバーンの奴、やりたい放題だねぇ。」
リーレイは忌々しげにそう吐き捨てると、更に奥に進んで言った。
要塞の内部は薄暗かったが、あちこちに甲冑姿の警備兵がたたずんでいる。
その者達はリーレイが近付くと、直立不動の態勢で敬礼を送る。
適当に答礼しながら、リーレイは司令部に進んで言った。
途中で被っていた頑丈そうな兜を取り、左脇に持った。
赤毛の長髪が垂れ下がり、気の強そうな顔立ちが露になる。
一見すると、気丈そうな美人といった感じだが、戦場で受けた硝煙や泥が付き、台無しになっている。
彼女は角を曲がると、威儀を正して大声で言った。

「リーレイ・レルス第27連隊長、入ります!」  


672  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:23:18  [  zHthby0g  ]
扉を押して開けると、そこにはバルランド軍第42歩兵師団の師団長が机に座って、幕僚と話していた。
どれもこれも厳しい顔つきだ。

「よく来てくれた。さあ、掛けたまえ。」

禿頭の師団長は、くたびれた顔に微笑を浮かべながら、椅子に座るように言うが、

「結構です。」

彼女は断った。彼女は今すぐにでも、前線に出て部隊の指揮を取りたかった。
それ以前に、彼女はこのホリウングで骨を埋めるつもりだった。

「そうか。ところで、戦況はどうかな?」
「最悪です。」

彼女はキッパリと言った。

「シホールアンル軍は、ワイバーンや砲兵、投石器部隊の支援を受けながら進軍を続けています。それに対し、
我が方には満足な支援もありません。ただでさえ、敵のキメラやバフォメット相手に苦戦しているのに、更に
敵の正規軍部隊や航空部隊を相手取るのは、荷が重過ぎます。一刻も早く、援軍をよこして下さい。」

「レルス君、君の言いたい事は分かるよ。だが、制空権を敵に握られているために、部隊を輸送しようにも、
そのままの状態で前線に送り出す事が出来ないのだ。情報も最近は、敵の妨害魔法によって魔法通信がまともにできぬ状況だ。
いまのところ、前線部隊が良く頑張ってくれたお陰で、増援の3個歩兵師団を前線に送ることが出来たが。」
「そのうちの1個師団は、既に戦力の5分の1を失いました。私の連隊の目の前で。それに、ここに来る途中、
4騎のワイバーンに襲われ、随行していた部下がほとんどがやられました。敵のワイバーン部隊や砲兵部隊は優秀です。
これでは、いくら兵力を注ぎ込んでも、損耗するだけです。」  


673  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:24:48  [  zHthby0g  ]
リーレイは哀れむような表情で行った。
元々、南大陸と北大陸の境目で、国境防衛軍に所属していたリーレイは、部下と共にこのホリウングに落ち延びてきた。
これまでの経験からして、南大陸連合軍のワイバーンは敵のワイバーンに同数でかかっては必ず負け、
5割り増しでもよっぽどのことが無い限り、大多数を失って逃げ帰る。

砲兵の支援は、敵の大砲のほうが射程が長いため、砲戦を行うにも射程外のために撃ち合いにすらならない。
唯一、陸上の要たる歩兵などは互角だが、それも敵が持っているキメラやバフォメット等の生物兵器を投入されれば、一気に苦戦に陥る。
何もかもが、不足していた。

「師団長、本国から魔法通信です。」
「ほう、珍しいな。」

リーレイの後ろから、通信兵が紙を持ってきた。
ここ3日ほどは、敵軍の強力な妨害魔法にあって、魔法通信がまともに機能しない。
だが、今日は珍しく魔法通信が届いたようだ。

「読んで見ろ。」

師団長は無表情のまま、通信兵に読ませた。読まなくてもどうせ、いいニュースではない。
そう確信しているかのようだった。

「援軍が9時頃に、空から一時的に、以上です。」
「なんだ・・・・たったそれだけか?」

突然終わった報告に、師団長は苦々しげな表情を浮かべる。  


674  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:27:10  [  zHthby0g  ]
「途中で、魔法通信が切れたのか?」

リーレイは通信兵に聞いてみた。

「ええ。受信中に突然術式が乱れてしまい、慌てて受信を止めたのです。」
「空から一時的にとは、一体なんなのでしょうか?」

リーレイは師団長に聞いたが、

「さっぱり分からんね。しかし、空からだと、援軍のワイバーン部隊でも来たのかな。」

師団長はそう言い放った。師団長は期待していないようだ。

「とにかく、レルス君。君をここに呼んだのは、ある重大な任務を頼みたいからなのだが。」
「重大な任務、ですか?」
「そうだ。」

師団長は大きく頷き、一旦言葉を止めた。
そして、深く呼吸してから言葉を続けた。

「君に、後退の殿軍を勤めてもらいたい。もはや、ホリウングも各防衛戦を突破され、あとは市街地と、
中の要塞しかいない。今、シホールアンルの2個師団が、大砲と投石器で市街地の外壁を攻撃している。
外壁が崩れるのも時間の問題だろう。」
「殿軍・・・・ですか。」

追撃の激しい事で知られるシホールアンル軍では、急ごしらえに作られた殿軍などたやすく飲み込まれてしまう。  


675  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:29:12  [  zHthby0g  ]
「君は、シホールアンル軍と一番多く戦っている。その戦った経験を、殿軍として役立ててもらいたいのだが」

その時、

「師団長!南東の方角から、未確認の飛行物が来ます!」

伝令が駆け込んできた。

「未確認の飛行物体?」
「はい!見張り台に来てください!」

師団長とリーレイ、それに幕僚達は伝令の言葉が良く理解できなかった。しばらくは誰もが首を捻ったが、

「とりあえず、見てみない事にはわからん。」
師団長は立ち上がって、見張り台にへと向かう。リーレイも自然に後を追っていた。

見張り台、とは言っても、瓦礫に上手く偽装されたちょっとした高台だ。
上空のワイバーンからは、倒壊した建物の影に隠れて見えづらいが、南大陸連合軍の将兵は、ホリウングの町に
幾つもの似たような見張り台を立てて、そこから上空のワイバーン等を盗み見している。
ホリウング市街の地下は、縦横に巡られた地下要塞になっているため、守備軍の兵は、地下要塞に関しては自由気ままに行き来できた。
師団長とリーレイは、その見張り台の天辺に案内された。

「あれを見て下さい。」

伝令が南西の方角を指し、望遠鏡を渡した。
しかし、伝令が見せたいものは、既に肉眼でも見えるような距離まで迫っていた。  


676  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:30:52  [  zHthby0g  ]
空には、羽虫にしてはやたらに重々しい変わった音が木霊している。
唐突に、どこから沸いてきたのか、30騎余りのワイバーンが上空を飛んでいった。

「隠れてください!」

伝令と師団長、リーレイは慌てて中に押し戻された。
幸い、ワイバーンは彼らに気付くことなく飛び去って言った。
少しばかりの時間が経って、グオーンという、小さいながらも何かが吼えるような音が聞こえた。
(まるで、敵に挑みかかっているような音みたい)
リーレイは思わずそう呟いた。

「もう大丈夫です。」

先に上に上がり、安全を確認した伝令が手招きして2人を呼び寄せた。

「ワイバーンは、あそこの方角に飛んで行きまし・・・・た・・・・」

伝令は、ある一転の方角を見つめたまま、言葉を詰まらせた。
外の世界は、何かの音が甲高くなったり、連続で何かが撃たれる様な音に満たされ始めた。
2人は何事かと、見張り台の天辺によじ登った。
そこには、信じがたい光景が写っていた。
なんと、先ほど見かけた、見慣れぬ飛行物体の一群と、シホールアンル軍のワイバーンが空中戦を行っているのだ。
リーレイは、自前の望遠鏡を使って、空中戦の行われている空域を眺めた。
唐突に、見慣れぬごつい小型機が移った。
その後ろには、見慣れた憎き敵、大型の敵ワイバーンがいた。  


677  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:33:45  [  zHthby0g  ]
「くそ、やられる!」

後方に付かれたら最後、ブレスか、光弾を浴びせられておしまいだ。
しかし、リーレイは目を疑った。

ごつい小型機は、なんと急降下しながらワイバーンをぐんぐん抜き放っていた!

ワイバーンは懸命に追おうとするが、差は縮まるどころか、みるみる開いていく。
その次の瞬間、ワイバーンの前面に横合いから4本の変わった光弾が差し出された。
ワイバーンは、顔面から光弾らしきものを受けてしまい、何かの破片が飛び散った。
そのワイバーンは、そのまま墜落していった。
その上空を、別のごつい小型機が通り過ぎていった。

「ワイバーンが落ちた!」
「あっ、ワイバーンが光弾を受けた・・・・・・信じられん。あんな多数の光弾を放てるとは。」

3人は、自分の目を疑った。
見慣れぬ小型機は、遠くから見るとどこか鈍重そうで、頼り無さそう見えた。
だが、その姿に似合わず、シホールアンル軍のワイバーンを翻弄している。
ワイバーンが後ろに付けばすぐに急降下で逃げ、光弾をかわすといきなり上昇して雲に逃げ込む。
どこにいるのかワイバーンが探しながら飛行すると、突然あらぬ方向からごつい小型機が現れ、瞬時に多数の光弾を叩き込んで、
あっという間に叩き落す。
ごつい小型機も何機か落ちていったが、数えてみたら、小型機は3つほどが落ち、ワイバーンは10ほどが叩き落されていた。
数はごつい小型機のほうが多い気がしたが、この状況ならば、ほとんどの場合はシホールアンル側が勝った。
だが、見慣れぬごつい小型機はワイバーンを遠距離射撃や、一撃離脱戦法でばたばたと叩き落した。
ごつい小型機は傘にかかってワイバーンに挑みかかり、さらにいくつものワイバーンが力なく墜落していく。  


678  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:36:13  [  zHthby0g  ]
小型機のほうも無事では済まず、2機が墜落していく。
だが、いつの間にかワイバーンは半数以下の数になっており、それらは慌てふためいたように北の方角に逃走していった。
その時間は、わずかに20分足らず・・・・・・
あまりの出来事に、3人。
いや、他の見張り台や地上で眺めていた将兵達は、誰もが呆然としていた。
呆然としている間に、いつの間にか戦闘は外壁の外に移っていた。
気が付いたのは、聞き慣れぬ甲高い音が耳に入ったからだ。
遠いながらも、心臓を締め付けるよう音は、外壁から少し通い市街の中心部でもハッキリと聞き取れた。
大砲や、投石器の猛威に晒されていた、外壁の守備兵達はまるで夢を見ているかのようだった。
草原の向こうに配備された大群の奥に、見慣れぬ飛行物体が1機、また1機とつるべ落としのように降下して行き、
まるで墜落しているだろうと思わせるような急角度で、真っ直ぐ降下していく。
高射砲が応戦しているが、全く当たらない。
何か黒いものを落とした飛行物体は、聞き慣れぬ呻き声を上げつつも、低空で水平に飛行に移っていく。
突然、敵軍の群れの向こうで爆発が起こった。それを境に、横一列に爆炎、黒煙が吹き上がった。
黒煙が吹き上がったのは最初4箇所だったが、別の飛行物体が、またもや急角度で降下して行き、腹から何かを投下して低空で水平に移る。
最終的に36の爆発が起こった。その直後、一際巨大な大爆発起こり、何かの破片が舞い上がった。

「砲列が・・・・・・シホールアンル軍の砲列が吹っ飛んでいる!」

誰かが驚きと、歓喜が混じった声で叫んだ。
彼らは知らなかったが、この時、ドーントレス艦爆隊は、全機が歩兵の後ろで砲弾や、巨大な石を放っている砲列を急降下爆撃した。
1000ポンド爆弾は、大砲に直撃すれば要員ごとこれを粉々に叩き潰し、投石器の至近に着弾したものは爆風で、
ただでさえトップヘビー気味の投石器を叩き倒した。
とある1弾は、砲弾、装薬、投石用の石が置いてある集積所に命中し、周囲の大砲や投石器と
操作要員をひとまとめに吹き飛ばしてしまった。
外れた1弾は、ホリウング市内に突入しようと、待機していた最後尾の歩兵の一群に落下して、数十人単位で敵兵を爆砕する。  


679  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:44:29  [  zHthby0g  ]
ドーントレス群はこの歩兵部隊を狙っていなかったが、すぐ後方の砲兵部隊の惨劇を目の当たりにした彼らは、
自分達もああなると確信してパニックを起こした。
最後の仕上げに、デヴァステーター隊が上空に覆いかぶさり、高度2000メートルで500ポンド爆弾を投げ落とした。
今度は、混乱して崩れかけていた敵兵の集団の中に多数の爆発が沸き起こった。
水平爆撃が終わったのを見計らったかのように、F4Fが低空に舞い降りて、シホールアンル軍の先頭部隊に機銃掃射を仕掛けた。
これらの追い打ちが、突撃軍の混乱に拍車をかけた。
先頭部隊は、ゴーレムやキメラ、バフォメットといった生物兵器、あるいは頑丈な兵器で占められていたが、
ワイルドキャットは、そんなものは関係ないとばかりに、目に見えるモンスターや馬車、ゴーレム、敵兵などに片っ端から12.7ミリ弾を浴びせた。
とあるキメラが、後ろにいた魔術師を庇ったが、機銃弾はキメラに容赦なく突き刺さり、頑丈なはずの皮膚が
何十発と襲い掛かる高速弾にたちまち貫かれ、臓腑を抉り、頭を吹き飛ばした。
機銃弾のシャワーは、結果的に後方の魔術師にも幾つか命中して絶命させ、キメラの努力が無為に帰す。

とあるバフォメットが珍しく、恐怖の雄叫びを上げて後方に逃げていく。
モンスターの巨体が、後方に待機していた重装騎兵を弾き飛ばし、踏み潰してしまう。
そこにF4Fが猛然と突っかかって12.7ミリ機銃を背後から叩き込んだ。
あっという間に幾発もの機銃弾を叩き込まれ、バフォメットの狂気の暴走が強引に終了させられた。

シホールアンルの前衛部隊は、何十機と言う米艦載機の編隊にたかられていた。
最先頭のモンスター部隊が数機の小型飛空挺に暴れ込まれている。
ひとたび突入してくれば、強靭な防御力と、巨体で味方の前線を引っ掻き回したモンスター達が、上空の新たな天敵によって蹴散らされていた。
不意に、一頭のモンスターが岩を投げるが、全く届かなかった。逆に火箭をしこたまふるわれて、原形を留めぬまでに叩きのめされた。
今や、整然と隊列を組み、砲兵の支援の下に突入しようとしていた敵の突撃軍は、見るも無残に隊形を崩され、四分五裂となっていた。
ワイバーンを蹴散らしたごつい小型飛空挺は、最後まで戦場に留まって他の機を後退させた後、全機が引き上げていった。
引き上げる際、飛空挺のうちの数機がこちら側に気が付いたのか、華麗なアクロバット飛行を披露してくれた。
その時、南大陸連合軍の将兵達は、この思わぬ援軍を前に盛大な歓声を上げた。
その時間、わずか30分足らず。
その30分足らずの間に、シホールアンル軍は突撃軍に夥しい死傷者を出してしまった。  


680  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:46:31  [  zHthby0g  ]
「こうもあっさりと、敵のワイバーンを撃退し、地上軍を混乱させるとは。」

師団長は沸き立つ歓声の中、目の前の光景が信じられなかった。
リーレイは、何度も目を擦って、眼前の光景が夢でない事を確かめる。
遠目ながら、敵突撃軍の隊形は大幅に崩れており、隊形を立て直すには最低でも2時間は下らぬだろう。

「師団長、もしかして、先の魔法通信の援軍とは、あの未知の飛空挺の事ではないでしょうか。」
「いや、恐らく、あれはアメリカという国の飛空挺だろう。」
「アメ・・・リカ?」

リーレイが初めて聞く言葉だ。
アメリカと言う国?そんなものがあったのだろうか・・・・

「そうだ。東のレーフェイルと、この北大陸、南大陸の間にある国らしい。私はそれだけしか聞いていないが、
もしかしたら、そのアメリカと言う国の軍が南大陸に援軍をよこしてきたのだろう。」
「あのような援軍がいれば、我々も敵と互角に戦い合うことが出来ますね。」

リーレイは興奮したような口調で言った。
飛空挺、彼らが後に知る事になる、アメリカ軍航空機との出会いは、このホリウングから始まった。
この日以来、シホールアンル側のワイバーン無敵神話は次第に影を潜めていった。

1481年12月14日  午後7時  シホールアンル帝国首都ウェルバンル

寝室のドアが開かれると、オールフェスはさっさと入り、苛立ち紛れに閉めた。
着替える事も無く、そのままベッドに仰向けに倒れた。  


682  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:48:49  [  zHthby0g  ]
「・・・・・・・・クソ!」

やりきれぬ怒りに、彼は震えていた。
怒りの原因は、ここ数日の南大陸の戦闘であった。
今にして思えば、1週間前の12月7日から全てが変わり始めた。
12月7日、レースベルン公国砲撃に向かっていた第6艦隊が、レアルタ島沖で突如アメリカ軍機に襲撃された。
2波200機以上の攻撃隊を繰り出したアメリカ軍は戦艦ジュンレーザとヴェサリウス、駆逐艦2隻を撃沈してしまった。
艦隊司令官のポンクレル中将は戦死し、残った艦隊は北に撤退していった。
この報告が届けられたのは、首都を散歩していた時だった。報告を聞いた瞬間、オールフェスは我が耳を疑った。
なぜなら、南大陸にアメリカ軍が進駐したと言う報告は全く入っていなかったからだ。
なのに、突然アメリカ軍機の大群が沸いて出てきたのだ。
首を捻った彼だが、疑問はすぐに氷解した。
後に送られてきた第6艦隊の戦闘詳報には、敵飛空挺群は南南東の方角から来たと伝えられていた。
南南東には陸地は全く無い。
そう、アメリカ軍は空母機動部隊を投入してきたのだ。
東海岸にいる空母ではなく、別の場所にいた空母を、わざわざ南大陸にまで派遣してきたのだ。
とすると、第6艦隊を嬲り者にした空母は、攻撃機の数からして2隻ないし3隻いることになる!

受難は更に続いた。

翌8日。ホリウング攻撃中の第62軍団が、突然アメリカ軍機の攻撃を受けたのだ。
アメリカ軍機はやはり、第6艦隊を襲った空母のものであり、敵飛空挺部隊はワイバーンの迎撃を、
信じられぬ事にこれを蹴散らし、陸軍部隊相手に爆弾を見舞った。
米艦載機の攻撃は執拗に繰り返され、4波もの米攻撃隊が第62軍団に襲い掛かり、
所属していた各師団は片っ端から爆弾や機銃弾を浴びせられた。  


683  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:51:35  [  zHthby0g  ]
そして、9日から13日までに、米機動部隊は占領したばかりのカレアント第2の都、ポーラインや、
輸送船の泊地であったクルグ、交通の要衝ネルジェレ、ヴェリンス共和国の片田舎でありながら、物資集積所のあるセルンポレに、
まるで挨拶回りを行うかのように次々と攻撃した。
被害はいずれも馬鹿にならぬもので、暫定的に戦死者8700名、負傷者2万、そして前線部隊に届くはずの各種物資が2割ほど焼かれてしまった。
わずか1週間足らずで、米機動部隊は南大陸の北東沿岸を荒らし回ったのだ。
その機動力、攻撃力が、シホールアンルの持つ竜母と同様、侮れない事をシホールアンル側は思い知らされた。
アメリカ艦隊の予想よりも早い登場により、シホールアンル軍の侵攻スピードは急激に落ちてしまった。
まるで、濁流のど真ん中に突如放り投げられた巨大な障害物に、流れを制限された小川のように。

「激流を、暖流に変えるとは・・・・・・とんでもねえぜ。」

オールフェスの脳裏には、早々としゃしゃり出てきたアメリカ軍に対応するための策が練られ始めていた。
しかし、いつもはすぐに浮かんできた案が、この日に限っては、全くといっていいほど出てこなかった。
ただひたすら、無為に休憩時間を過ごすのみであった。
彼のみならず、シホールアンル帝国の首脳部は、誰一人として不安を隠せなかった。
詳細な情報を知り、少なからぬショックを受けた首脳部に対して、詳細な情報を知らされていない
シホールアンル国民は、呑気な日々を送っている。

1481年12月17日  午後3時  バルランド王国ヴィルフレイング

シホールアンル軍は、暴れ回る米機動部隊を捕捉しようと、盛んに偵察ワイバーンを洋上に飛ばしたが、
米機動部隊は13日の空襲以来、忽然と姿を消した。
それ以降、南大陸に展開したシホールアンル陸海軍は、どこから来るか分からぬアメリカ艦隊に備えて、常に警戒態勢についていた。
このため、ホリウング攻略は当初の予定を遅れ、15日にやっと占領できた。
占領できた事は喜ぶべきであろうが、それよりも重要な任務、要塞内に立てこもる南大陸軍の包囲殲滅は完全に失敗した。
態勢を立て直した部隊が、やっと外壁の近くに来た時には、市内や地下要塞にはただの1人も残っていなかった。  


684  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:53:54  [  zHthby0g  ]
ホリウングは落ちた。
だが、アメリカ空母部隊の突然の襲撃の影響で、ホリウング攻略はシホールアンル帝国にとって非常に不本意な結果に終わった。

第8、第10、第12任務部隊の各艦は、バルランド側が用意した港に近付きつつあった。

「司令官、ヴィルフレイングまでもう間もなくです。」

参謀長のマイルズ・ブローニング大佐は、司令官席に座るウィリアム・ハルゼー中将に語りかけた。

「マイルズ。ホリウングは結局、シホット共に渡ってしまったか。」
「ええ。ですが、現状では致し方ないことだと思います。」
「俺もそう思うよ。せめて、もう少し北上してシホットの奴らに挨拶したかったが、まあ兵は引き際が肝心と言う言葉もある。」

ハルゼー中将はやや笑みを浮かべながらそう言った。

「それに、敵に与えたショックも大きいだろう。」
「ええ。それに、こちら側の艦載機は思ったよりも損耗が少なく済みました。
出港時と比べると、やや見劣りしますが、それでも作戦行動は可能です。」

第8、第10、第12任務部隊は、レアルタ島沖のシホールアンル艦隊を撃退させた後も北上を続け、
翌8日にホリウングのシホールアンル地上軍を痛撃した。
4波合計300機の攻撃隊のうち、F4F7機とSBD、TBD各2機を失ったが、敵のワイバーン26騎を撃墜し、
突撃直前だった敵地上軍に爆弾の雨を降らせ、機銃弾のスコールをお見舞いした。
その後、カレアント公国内や、その北のヴェリンス共和国のシホールアンル軍に“挨拶回り”を行った後、南に反転した。
そして南大陸東岸の南部にあるヴィルフレイングに向かったのである。
レアルタ島沖海戦からTF8、10、12はF4F18機、SBD24機、TBD27機を失ったが、
結果的にホリウングの連合軍の撤退成功や、シホールアンル軍の侵攻スピードの低下など、得られた物は大きかった。  


685  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:57:23  [  zHthby0g  ]
「作戦行動が可能とは言っても、少なくない航空機を失っているからなあ。
依然200機以上の航空兵力を有しているとはいえ、これ以上の連戦は避けたいものだ。
太平洋艦隊主力は2日前に出港したそうだが、今頃はサンディエゴから900マイル沖を航行している頃か。」
「恐らくそうでしょう。アラスカ防衛に戦艦2隻を抜かれていますが、低速とは言え戦艦7隻を主力とする本隊の来援は頼もしい限りですな。」
「今は今日のように、積極的に打って出られないから、しばらくはヴィルフレイングに居候する事になるだろうが、
東海岸に関する限り、シホット共もこれからは好き勝手に暴れ回れないだろう。」

サンディエゴから出港した第1、第2任務部隊は、空母部隊に用意された同じ港、ヴィルフレイングに向かっている。
ちなみに、ヴィルフレイングはバルランドが唯一所有する南大陸東海岸の港で、町の人口は1000人とそれほど大きくない。
最初の話しでは、西海岸側に回ってからバルランド王国の持つ港に停泊しようとした。
しかし、距離の問題や、敵シホールアンル軍の抑止となるには、前線から未だに遠くて、かつ、設備は整っていないものの、
泊地能力の高い港が良いと、米側は要求した。
このヴィルフレイングは、小さな町で、港湾施設は小さいながらも、その入江は大きく、その気になれば300隻の大型船は余裕では入れる大きさがあった。
最初、このような辺鄙な港にアメリカ艦隊を入れるのは大変失礼であると、バルランド側は慌てて西海岸の
設備の整った港を用意しようとしたが、米側は拒んでヴィルフレイングに入港する事にした。
現在、空母部隊には、途中で合流した補給船団20隻もおり、合計で60隻近い大艦隊がヴィルフレイングに入港しようとしている。
その入港も、すぐ先の事であった。
第8任務部隊が、先頭を切ってヴィルフレイングの入江に入って来た。
陸地には、木造の村や小ぢんまりとした集落などが散見される。
港には、少数の帆船が停泊しており、船員が突如現れた見慣れぬ艦群に目を丸くしていた。

「寂しいところだな。」

とある水兵は思わずそう呟いた。
泊地能力としてはいいが、それに反比例して住んでいる住人は思いの他少なく、陸地側には建物が1、森林が9という具合だった。
空き地は、港の付近にかなり残っているようだが、それがかえって寂しさを強調していた。  


686  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  00:59:19  [  zHthby0g  ]
「ラウス君、どうもここは少し物足りない場所だな。」
「ここは過疎地ですからねぇ。旅人や冒険者がたまに来るぐらいです。
自分も子供の頃、1年ほどここに住んでましたけど、若い働き手はほとんど町に移っています。」

エンタープライズの艦橋で、寂れた大地を見つめていたラウスとハルゼーは無表情で話し合っていた。

「なんでこんなに人が少ないんだね?港町なら、そこそこ賑わっていそうだが。」
「ここは、元々曰くつきの土地なんです。」
「曰くつき?魔法がらみかね?」

ハルゼーはただ言っただけだが、ラウスは少しばかり驚いていた。

「えっ?分かるんすか!?」
「な、何をだね?」
「提督の言うとおりですよ。ここは昔、魔法の暴走によって大勢の命が失われた土地なんですよ。」

ラウスの思いがけない言葉に、ハルゼーは内心仰天した。

「そうなのか。」
「はい。とは言っても、事件がおきたのは70年以上前なんすけどね。
ここの土地は別に呪いとかの類は無いんですけど、人はあまり寄り付こうとしないんです。」
「魔法の暴走とは・・・・・一体どれぐらいの人が亡くなったのだ?」
「ざっと1万人です。一夜にね。」

思わず、ハルゼーは息を呑んだ。  


687  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  01:01:12  [  zHthby0g  ]
「もっと話を聞きます?」
「いや、どうも話を聞く気が失せたね。
なるほど、バルランド側がやたらにここを使わせたくないのも、納得が行くな。確かに縁起が悪いな。」

彼は思わず身震いした。
これから、敵との真剣勝負を行うと言う時に、用意された寝床といっても言い場所が、
突然の大事故で大惨事を起こした曰く付きの土地なのだ。
この世界の人間は、現地の人間以外は大抵、そう言う場所には近寄りたくないようだ。

「だが、泊地としてはなかなかいい所だ。俺達が来れば、シホット共を叩き潰した起源として、別の意味で語られるだろうよ。」
「別の意味っすか。」
「そうだよ。まあ、そう気に病む事でもない。」

そう言って、ハルゼーは微笑んだ。
唐突に、こちらをじっと眺めていた帆船の乗員達が、第8任務部隊の艦艇に向けて手を振ってきた。
第8任務部隊の艦艇も、乗員達がそれに答えて、手や帽子を力一杯振った。
それが合図だったかのように、それまで閑散としていた港に人が集まって、入港してきた米艦隊に手を振ってきた。
誰もが満面に笑みを浮かべて、入港してくる艨艟に力一杯手を振り、英雄達を歓迎していた。

「おい!シホールアンルに煮え湯を飲ました異世界の軍艦がやって来たぞ!港に行って歓迎してしようぜ!」

未だ家にいた住人は、港に向かう途中の住人に声をかけられると、慌しく家を飛び出して港に出て行った。
無人となった家には、それぞれ共通する紙面がテーブルや床に置かれていた。
それは、バルランド王国が定期的に発行する大衆紙で、ニューヨークタイムスやワシントンポストといった、
アメリカの新聞に比べるとどこか見劣りする。
その見出しには、アメリカ軍、侵攻するシホールアンル軍を撃破!という文字が載っていた。  


688  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  01:05:48  [  zHthby0g  ]
1841年12月18日  ワシントンDC  午前8時

「・・・・・・なるほど。パナマの制限がなくなった以上、33メートルの幅に固執する必要も無いからな。」

海軍作戦部長のアーネスト・キング大将は、渡された紙を見ながらそう呟いた。
現在、海軍省の会議室には彼の他に、8人の高官が会議に参加していた。
この日、会議の開始の際に渡された、次期主力艦艇の設計変更案の最終案が渡されていた。
まず、設計変更の1番の項目に載っていたのは、アイオワ級戦艦であった。
設計変更前の、この戦艦の性能は、まず全長が270メートル、幅が33メートル。
基準排水量が45000トン、速力は33ノット、50口径16インチ砲3連装3基、5インチ連装両用砲10基、
40ミリ4連装機銃20基、20ミリ機銃49丁というものである。
このアイオワ級戦艦は、れっきとした戦艦ではあるが、全体的に見れば巡洋戦艦をさらに大型化した印象が強い。
これは、長年の悩みのタネであった、パナマ運河の制限幅に原因があった。
しかし、パナマ運河の制限は無くなった事から、設計が見直された。
改訂案の性能は、次の通りである。

全長270メートル、幅36メートル。基準排水量50000トン、速力32ノット。
50口径16インチ砲3連装3基、5インチ連装両用砲10基、40ミリ4連装機銃20基、20ミリ機銃49丁。
性能面から見れば、幅と重さが変わったように感じられるが、前案では高速性能を求めるために、
艦体が異様に細長くなり、やや安定性を欠いた設計となっていた。
しかし、パナマ運河の制限が解消された事から、新案のアイオワ級は、前案の一見ほっそりとした体系から、
どっしりと構えるような体系に変わり、危惧されていた安定性の問題もある程度解消できると考えられている。
次の項目には、大型巡洋艦アラスカ級に関する事が書いてあった。
元々、アラスカ級は、日本海軍の超甲巡や、ドイツ海軍のシャルンホルスト級に対抗するべく、設計を進められていた。
これまでの案では、大型巡洋艦という艦種での性能であったが、新案では、アラスカ級は巡洋戦艦という項目である。
これまでの案での性能は、全長246メートル、幅27.7メートル、速力31・5ノット、基準排水量27000トン。
50口径12インチ3連装砲3基、5インチ連装両用砲6基、40ミリ4連装機銃18基、20ミリ機中34丁であった。  


689  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  01:09:56  [  zHthby0g  ]
新案では、前案とは大きく変わっていた。

全長246メートル、幅32.5メートル、基準排水量31500トン、速力32・5ノット。
55口径14インチ砲3連装3基、5インチ連装両用砲6基、40ミリ4連装機銃18基、20ミリ機中34丁。
アイオワ級は、一見ちょちょいと変えてみました、という感じの設計変更である。
だが、アラスカ級ではまさに大手術といっても過言ではないほどの設計変更だ。
この新案には誰もが度肝を抜かれたが、前案でのいくつかあった問題点が、この新案では解消される事が見込まれていた。
例えば操舵性、凌波性の問題。
元々、アラスカ級は巡洋艦の船体を伸ばし、そこに戦艦並みの主砲を搭載したような艦になる予定だった。
ところが、このような方法で建造すれば、高速航行時の急回頭や荒天時の凌波性に大きな問題を起こすと指摘があがった。
用兵側からも、一部の者からは艦隊行動時に隊形を乱す原因になるのではという声もあがっていた。
だが、新案では細かった幅を大幅に太くし、元々狭そうな船体であったのが、全体的にゆとりを持たせたような設計になっている。
これによって、問題視されていた安定性や凌波性が、用兵側に求めていた物に近くなった。
それに、これから開発される55口径14インチ砲はアラスカ級を特徴付ける武器であり、
従来の14インチ砲よりは、初速や威力、発射速度において上になるものと見込まれている。
元の50口径12インチ砲にこだわる者も多かったが、バルランドから派遣されてきた特使からの情報では、
シホールアンル海軍の戦艦は、最低でも32センチ口径(単位がネルリであったが、特使側の説明で1ネルリ約2.57センチ
と分かった)の主砲を採用している情報から、新案の14インチ砲案が取られた。

「なかなか、思い切った案だな。」

キング大将は内心、この新案どおりに作られた2種類の軍艦を見てみたいと思った。

「アイオワ級戦艦、アラスカ級巡洋戦艦か・・・・・問題点は色々ありそうだが、検討してみる価値はありそうだ。
さて諸君、この2つの新案を取るか、又は再びお蔵入りさせるか、検討してみよう。」

キングは周囲を睨みつけるように見回すと、会議を始めた。

機動部隊の守り神と謳われたアイオワ級戦艦と、アラスカ級巡洋戦艦の生涯は、ここから始まった。  


690  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/12/31(日)  01:10:55  [  zHthby0g  ]
1481年12月25日に決定された主力艦、中型艦艇建造予定計画

サウスダコタ級戦艦4
アイオワ級戦艦7
アラスカ級巡洋戦艦4
エセックス級正規空母20
ミッドウェイ級正規空母3
護衛空母67
ボルチモア級重巡洋艦10
クリーブランド級軽巡洋艦32

駆逐艦、潜水艦等の建造計画は現在討議中  




714  名前:711  投稿日:  2007/01/03(水)  15:07:45  [  UW5AKRrc  ]
修正ver

北大陸
 シホールアンル帝國    北大陸の強国、現在南大陸に侵攻している
 首都  ウェルバンル
   皇帝            オールフェス・レリスレイ        亜麻色の長髪の若い男。国民に慕われているが敵には厳しい
   国内相          ギーレン・ジェルクラ            国内省は治安や政治を担当する、裏では政治犯の投獄・処刑、
                                                   敵勢人物や団体の摘発、鍵の捜索も担当している
   国外相          フレル                          かつて有能だったが、力押し外交に慣れ過ぎてすっかりアホの子に  
   陸軍総司令官    ギレイル元帥
   海軍総司令官    レンス元帥
   竜母指揮官      リリスティ・モルクンレル中将    第24竜母機動艦隊指揮官でハルゼーと同じタイプ、皇帝とは15年以上前からの付き合い、
   船長            リィルガ中佐                    高速輸送船のレゲイ号の船長
   第6艦隊司令官  ウルバ・ポンクレル中将          
   第6艦隊主任参謀ファルン・ジャルラ少将
 

 元ヒーリレ公国        北大陸ではシホールアンルに次ぐ強国にであったが、シホールアンル帝國の脅迫外国にひれ伏した

南大陸
南大陸連合軍(大陸の北側順)
 レンク皇国

 ヴェリンス共和国

 カレアント皇国

 ミスリアル王国          魔法に関しては世界一

 バルランド王国        現在シホールアンル軍の攻撃に
 首都  オールレイング
   国王            アルマンツ・ヴォイゼ  
   国防軍総司令官  グーレリア・ファリンベ元帥
   第27連隊長    リーレイ・レルス大佐
   魔術師          ラウス・クレーゲル                ベテラン魔術師。その腕はミスリアルの魔術研究者らも認めているほど26歳、
                                                     今はエンタープライズにいる
   魔術師          ヴェルプ・カーリアン              ↑の同僚
   ダークエルフ    レイリー・グリンゲル              ミスリアル王国では一番の腕を持つ魔術師
   エルフ          ルィール

 グレンキア王国
 首都  レルペレ


レーフェイル大陸
 マオンド共和国        レーフェイル大陸の覇者、シホールアンル帝國と同盟関係にある

     駆逐艦艦長    ルロンギ少佐


   鍵              フェイレ                          この物語のキーパーソン?特殊な力を持っている。
                                                     6年前にこの力が暴走して村人200人が亡くなった
                     

戦況
南大陸に侵攻して2ヶ月足らずのうちに、北端のレンク皇国とヴェリンス共和国がシホールアンルの手に落ちた。  
現在はカレアント公国のホリウングをシホールアンル軍が占領したが、要塞内に立てこもる南大陸軍の包囲殲滅は完全に失敗した。

距離
1ロレグ=15mm
1グレル=2m
1ゼルド=3km
速度
1リンル=2kt
1レリンク=2km
質量
1ラッグ=1.5t

こんなかんじ?  




724  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:01:11  [  zHthby0g  ]
第12話  南大陸の楔

1481年  12月30日  アイダホ沖北10マイル地点

12月28日  アメリカ海軍上層部は新たな建造艦艇を決定すると共に、太平洋方面に増援部隊を派遣する事を決定した。
それと同時に、ノーフォークに停泊しているイギリス第12艦隊は、サマービル中将の同意のもと、正式に合衆国海軍に編入される事が決まり、
イギリス第12艦隊は、新たに第26任務部隊として太平洋艦隊に編入、大西洋方面の守備に就くことになった。
一方、太平洋方面では、既に太平洋艦隊の主力部隊は南大陸の南部、ヴィルフレイングという港に移転が完了。
28日の午前には、飛行場建設を主任務とする海軍設営大隊、愛称シービーズを乗せた輸送船団が、主力部隊の後に続いてヴィルフレイングに入港、早速滑走路の建設を始めた。
こうした中、大西洋方面からも、空母1隻を根幹とする機動部隊を派遣する事が決まった。
そして、白羽の矢が立てられた部隊が、ボストン沖海戦の殊勲部隊であるTF25である。
当初、フレッチャーはTF25の太平洋派遣に反対であった。
なぜなら、東のレーフェイル大陸にはシホールアンルの同盟国、マオンドが控えており、開戦から間もない次期に早々と侵攻艦隊を差し向けてきた。
ボストン沖海戦では、TF25、27を始めとする大西洋艦隊が迎撃して、敵に多大な損害を与えて追い払ったものの、
いつまた、マオンドが大挙して侵攻部隊を送ってくるかわからない。
太平洋と同じように、大西洋艦隊も、マオンドの動向に神経を尖らせていた。
その矢先にTF25の太平洋派遣である。

「敵の侵攻部隊がいつ来るかも分からないのに、おいそれと艦隊の要である空母部隊を派遣できるはずが無い。」

と言ってフレッチャー少将は難色を示したが、これを解決したのがイギリス艦隊の合衆国海軍編入と、空母ホーネットの就役である。
第26任務部隊と改名されたイギリス艦隊には、搭載機は少ないとは言え、空母のイラストリアスと軽空母のハーミズがいる。
それに、護衛艦艇として最新鋭戦艦のプリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レナウンも在籍し、他の護衛艦艇も実戦経験を積んだものばかりだ。
そして、空母ホーネットを主軸とする第24任務部隊も編成され、大西洋艦隊は開戦時と比べて大幅に戦力が向上した。
大西洋艦隊の主力は、太平洋に派遣されるTF25以外で、米英合わせて4隻の空母、9隻の戦艦、巡洋戦艦がいる。
これなら、マオンド軍が再度侵攻してきても、充分に迎え撃てると判断したのだ。
新鋭空母の就役と、英空母の参加で母艦戦力に余裕が出たと判断した上層部は、より空母が必要だと思われる太平洋戦線にTF25を派遣させたのである。  


725  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:03:20  [  zHthby0g  ]
第25任務部隊は、アメリカ“北海岸沖”を20ノットのスピードで航行していた。
空母ヨークタウンを輪形陣の中央に据え、周囲を巡洋艦、駆逐艦といった艦艇が取り囲んでいる。
その機動部隊の左舷側には、この変異があったからこそ見る事の出来たものがあった。

「参謀長、まさかロッキー山脈が、海から見れるとは思わなかったな。」

TF25司令官であるフランク・フレッチャー少将は感嘆したような口調で言った。
参謀長のグリン・ガース大佐も頷いた。

「本当に変わった光景です。」
「バルランド側も、お手柔らかにわが国を召還できなかったものですかねえ。」

航空参謀のジョイ・アーサー中佐がやや皮肉るような口調で、会話に入って来た。

「ロッキー山脈をぶった切るなんて、荒っぽすぎますな。」
「それしか方法が無かったのだろう。致し方あるまい。とは言っても・・・・」

彼は艦橋の左舷側に見えるロッキー山脈に、改めて視線を注ぐ。

「地層の見える山脈は、世界で初めてだろう。」

実はこのロッキー山脈、召喚の際に国境の向こう側の山々と、まるで鋭利な刃物で唐竹割りにされたようになっている。
山の断面が綺麗に見えており、遠目でも地層の色の違いが見て取れる。

「まさに、一大スペクタクルショーだな。」  


726  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:05:55  [  zHthby0g  ]
そう言うと、艦橋の皆が爆笑した。

「噂によれば、この変わったロッキー山脈を利用して、金儲けを企む奴もちらほらと出ているようですぞ。」

ガース参謀長の言葉に、フレッチャー少将は眉をひそめた。

「観光料が狙いかね?」
「そのようです。最も、私は言った事が無いので詳しくは分かりませんが。」
「どこの土地にも、超常現象を金儲けに利用する輩はいるものだな。」

そう言って、フレッチャー少将は苦笑した。
ヨークタウンの司令部面々のみならず、艦隊の将兵の誰もが、ロッキー山脈の断面を見て驚き、それぞれの感慨にふけった。

TF25は、北海岸沖を西に航行し、サンフランシスコ沖で洋上補給を行った後、太平洋艦隊主力が置かれる事になったヴィルフレイングに向かう予定である。

1482年1月5日  ヴィルフレイング

魔法技術開発の悲劇。
魔に呪われた港町。
この言葉は、ヴィルフレイングの町のあだ名である。
元々、ヴィルフレイングは港町として栄えていて、最盛期には18000人の住人が住んでいた。
しかし、70年前に起きた、郊外の魔法研究施設が突然大爆発を起こし、その魔法施設で開発されていた呪術系の魔法が暴走、
闇夜で眠りを貪る住人達の半数以上を、真の眠りへと誘ってしまった。
死者のみならず、この呪術魔法の呪いにかかった受症者も、その後、年が過ぎても、ある者は耐え切れずにあの世に逝き、
ある者は完治した後も、心に深く刻まれた傷に苦しみ続けた。
ヴィルフレイングからは人は減り続け、ここ最近では、わずか1000人の人が住んでいるのみ。
しかし、この寂れた港町も少しずつ変わりつつあった。  


727  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:08:09  [  zHthby0g  ]
第1任務部隊旗艦コロラドの応接室では、第1任務部隊司令官のウィリアム・パイ中将と国務長官のコーデル・ハルが話し合っていた。

「国務長官、昨日の国王陛下との会談、如何でしたか?」
「上々だったな。あのフレルとかいう気違い小僧とは大違いだ。私はね、フレルの事をあのヴォイゼ国王にも言ったんだ。
国王陛下はなんと言ったと思う?」
「さあ、分かりませんな。」

パイは無表情のいかつい顔を変えずに言う。

「よく言ってくれた、フレルにはいい薬になったと言われたよ。」
「いい薬ですか。ハハハ、確かにそうかもしれませんなあ。」
「本当は、ノーフォークの港から海に放り込んでやろうかと思ったよ。それを抑えてあのような言葉を口走ったんだが、
場合によって言葉は実力行使よりも役に立つな。」

ハルはコーヒーを一口すする。

「明日からは大忙しですな。」
「これも私の仕事だよ。南大陸の南端のグレンキア、ミスリアルにも行かねばならん。
海兵隊が1個中隊を護衛に付けてくれるそうだが、グレンキアまでは街道の道幅が大きいからジープで行けるが、
ミスリアルは途中、馬車に変えねばならんからきついな。」
「ミスリアルの隣国は戦闘中ですぞ。いささか危険ではありませんか?」
「危険だが、仕方ないだろう。」

ハルは冷静な表情で言った。

「あちらの事も考えれば、こちらから出向いて話し合う必要がある。それに、この世界では勇気ある者は評価されると聞く。
前線の近付くミスリアルにアメリカの要人が危険を顧みずに入っていく。これだけでも、アメリカと言う国は勇気のある国だ、
と、認めてくれるはずだ。」  


728  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:10:57  [  zHthby0g  ]
ハルの決意は固いようだ。
シホールンアンルの勢力圏はカレアント公国の7割を呑み込んでいる。
実を言うと、シホールアンルの本来の侵攻スピードなら、とっくにカレアント全土を潰して、
矛先は隣国のミスリアルに向いている筈だった。
だが、米艦隊の思わぬ奇襲によって侵攻スピードは遅れ、後方のバルランド軍に態勢を立て直す時間を与えてしまった。
再び侵攻を開始したシホールアンルは、新たに増援を受けた、カレアントを始めとする南大陸連合軍の防戦に手を焼いていた。
それに、太平洋艦隊の主力が、ヴィルフレイングに入港した事も少なからぬ影響を与えており、
シホールアンル側は従来の戦いぶりを発揮できないでいた。

「勇気も確かに必要でしょう。しかし、ハル長官は合衆国のかけがえのない人材です。ここでハル長官を失いでもしたら大きな損失ですぞ。」
「買い被らんでも良い。」

ハルは苦笑した。

「ズルズルと、8年も国務長官を続けてきた私だ。
本国には私よりも優秀な者は大勢いるよ。おっと、この言葉は言わなかったほうが良かったな。」

彼は慌てて口を塞ぐ。

「いや、構いませんよ。この部屋には私とハル長官の2人しかおりませんから。」
「ははは、済まないな、愚痴を言ってしまって。年を取ると、愚痴ばかり言ってしまって仕方が無い物だ。」

彼は肩をすくめた。

「それにしても、太平洋艦隊司令部は思い切った策を取ったものだな。」  


729  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:14:27  [  zHthby0g  ]
「私も最初は耳を疑いました。
まさか、アラスカ派遣部隊を除いて、主力のほとんどをこのヴィルフレイングに回すとは、そこまで考えていませんでした。」

パイ中将は、最初こう思っていた。
南大陸に派遣される艦隊の規模は、空母部隊の全てと、戦艦部隊のうち、第1か、第2任務部隊のいずれかであろうと。
しかし、キンメル司令長官は思い切って、戦艦部隊のほぼ全力をヴィルフレイングに派遣したのである。
お陰で、昨日来訪してきたヴォイゼ国王は、コロラドの応接室で何度も、パイやハルに対して感謝しますと述べていた。
それに加え、戦力に余裕の出た大西洋戦線から、TF17(改名したTF25)が回されてきた。
これで太平洋艦隊の戦力は、主力だけでも戦艦8、空母4を有する大艦隊となった。

「シホールアンル海軍は、今の所東海岸地域ではガルクレルフに留まっているようです。
西海岸ではミスリアルに嫌がらせの艦砲射撃や空襲を仕掛けているようですが、近いうちにそれも出来なくなるでしょう。」

そう言って、パイ中将はニヤリと笑みを浮かべた。

「もし、シホールアンルの主力と戦えば、太平洋艦隊は勝てると思うかね?」

ハルはパイに聞いてみた。

「勝てます。」

パイ中将はきっぱりと答えた。

「勝てます。ですが、敵も総力を上げてこちらとぶつかってくるでしょう。そうなると、大きな被害を受けるでしょう。
下手すれば、このコロラドが武運つたなく沈む事も有り得るかもしれません。ですが、犠牲は出るにしても、苦闘はするにしても、
勝つのは我々です。」  


730  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:15:17  [  zHthby0g  ]
彼はいかつい顔を紅潮させながら言った。

「そのために、太平洋艦隊は訓練を行ってきたからな。それに、期待しているのは我が合衆国だけではない。」

ハルはコーヒーを一気に飲み干してから言葉を続ける。

「南大陸諸国の、この先の希望を掴むかどうか、それは太平洋艦隊の頑張り次第でもある。」

パイ中将は思わず、身が引き締まるような感じがした。
期待しているのは、アメリカ本国だけでなく、南大陸の諸国も同様。
いや、期待の大きさは南大陸諸国のほうが遥かに大きいだろう。
何しろ、シホールアンルの凶牙が突き立てられているのは、この南大陸だ。

「戦いをする前には、まず敵の手を知る事だ。」
「その通りです。前回の作戦でシホールアンル軍を撃破したといえども、あれは虚を突いたから出来たような物です。
今度ばかりは敵も警戒の目をそこらに張り巡らしているでしょう。備えた敵に不用意に突っ込むのは、あまりいい目に逢いませんからな。」
「軍事力では侮れないからな。だから上層部は、戦力が揃うまでは防御に努めると判断している。」
「まだまだ、学ぶべきところは多い。」

パイは腕組みしながら、浮かぬ表情でそう言った。

「その前に、私も南大陸諸国を一回りしなければならない。各国の首脳の意見をしっかり聞かないと、
我々合衆国もどこからどうやればいいか分からんからな。」
「出発は明日ですか。」
「ああ、そうだよ。気の重いドライブになるが、これも仕事だからね。」  


731  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:18:03  [  zHthby0g  ]
1月7日  午前8時  シホールアンル帝国クルーレンブ

空母レキシントン所属のVB−2飛行隊員であった、バン・クランキー少尉は、今、猛烈に死にたいと思っていた。

「よし、いい子だ。次にヨークタウン級と言われる船の絵も書いてくれ。」

薄暗い牢獄のような取調室で、目の前の緑色の紙の若い男が、嘲るような笑みを浮かべて彼に頼んだ。

「い・・・・嫌だ・・・・・書きたくない・・・・」

彼は拒絶した。だが、彼の言葉とは裏腹に、ペンを持った手は、紙に何かを書いていく。

「や・・・・やめてくれぇ・・・・お願いだ。殺してくれ・・・・・」

クランキー少尉は泣きながら懇願する。

「大事なお客さんを殺せるわけがないじゃない。それぐらい常識でしょう、坊ちゃん?」

若い男の隣にいた若い女性が、同じように馬鹿にしたような口調で言ってきた。
正直、これほど自分の絵の才能を呪った事はなかった。

クランキー少尉は、ホリウング攻撃の際にワイバーンの奇襲を受けて乗機を被弾、不時着させてしまった。
不時着して間もなく、シホールアンル兵が向かってきた。
彼は逃げる際にコルトガバメントを乱射して2人を撃ち殺し、1人の腹に銃弾を打ち込んで戦闘不能に陥らせたが、
多勢に無勢、彼は捕まり、しばらく袋叩きに会った。
後部座席の部下は3人を射殺したが、首を跳ねられて死んだ。  


732  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:21:16  [  zHthby0g  ]
彼も殺されると思ったが、何を思ったのか、シホールアンル兵は彼を捕虜にした。
そして目隠しをされて幾時の時間が経ったか・・・・・・・
気が付けば、彼は尋問を受け、答えなかったら背中や腹、足をぶん殴られ、踏みつけられた。
尋問を受け続ける事2時間、別の取調官が来てからは、彼は頑固な態度を改めさせられた。
きっかけは、2人の男女が、彼の頭に触れてからだった。
それ以来、嫌と思っても彼は得意の絵を彼らに披露させられた。
元々、画家を目指していたクランキー少尉は、ちょっとした休憩の合間には鉛筆を握って、紙に寮艦の勇姿を描いていた。
誰もが彼の画力に驚かされ、レキシントン艦長のシャーマン大佐に、自分の描いた母艦の絵を譲ってくれと言ったほどである。

その自慢の画力が、敵に利用されている!

頭にうずく鈍痛や、顔や体に響く鋭い痛みに泣いているのではなく、自分が敵に協力していると言う事に、
彼は深く怒り、そして悲しんでいた。
紙には、ヨークタウン級の精悍な艦影が書かれていた。
特徴のある煙突と艦橋が一体化となった艦上構造物にシャープな艦体。
空母の他にも、戦艦、巡洋艦の姿が描かれた紙が、10枚ほど、2人の男女の後ろの男に渡されている。
1隻の船の絵を描くたびに、何度も船の名前を言わされた。もはや幾多もの軍艦の名前が、彼らに知らされている。
手が止まり、ヨークタウン級空母の絵が完成した。

「出来たぞ。」

男は素っ気無い口調で紙を男に渡す。紙を渡された男は、ずっと驚きの表情を表している。

「ど・・・・どうだい・・・・・俺達、アメリカの軍艦は・・・・・」

クランキー少尉は、かすんだ声音で聞いた。  


733  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:24:04  [  zHthby0g  ]
「全く、驚かされるものだね。つくづく、アメリカは嫌な国だな。」
「そのアメリカも、遠からず自分達のものになるけどね。」

2人は特に気負う様子もなく、淡々とした口調で答えた。

「どうだい・・・・・いい気分だろう?」
「・・・・・・・」

クランキー少尉は何も言わない。

「そろそろ効果が切れる頃だな。」
「開発したばかりの尋問魔法だけど、効果は2時間てとこね。まずまずじゃない。」
若い女は笑みを浮かべた。クランキー少尉は、その笑みが悪魔のような笑いに見え、内心ぞっとした。
「効果はバッチリだ。少し聞けばベラベラ喋るぜ。さて、最後までやってもらおうか。
次は別の物を書いてくれ。飛行機の名前は聞いたから、今度はその飛行機の絵を描いてくれ。」

若い男は満面の笑みを浮かべて新しい紙を差し出す。

「・・・・・・もう・・・・嫌だぜ・・・・・」

クランキー少尉は涙声で言いながら、彼の意に反して手が、力なくペンを握り、紙に触れた。
その瞬間、クランキー少尉の頭の中で、何かが吹っ切れた。
紙に何かを書き始めてしばらくして、若い男が怪訝な表情を浮かべた。

「おい坊や。そんな読めない字は書かなくていいから、絵を描いてくれないかな〜?」

彼はわざとらしい口調で言ってきた。  


734  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:27:13  [  zHthby0g  ]
「・・・・・・・何コレ?」

若い女は読めないアルファベットの羅列に首を捻った。
紙には、F、U、C、K、Y、O、Uという文字が次から次へと書かれている。

「なんて書いてあるんだ?」

意味の分からない言語を理解しようと、若い男は聞いた。

「ファックユー・・・・・ファックユー・・・・・」

同じ言葉を2回、小さく呟いた後、クランキー少尉は突然、豹変した。
「ファックユー!」
突然、クランキー少尉は取調室にいるシホールアンル人に向けて中指を立てた。

「ファックユー!つまり貴様らはマヌケ野朗って事だ!
何がアメリカは遠からず自分達の物になるだ!馬鹿も休み休み言え!!!!」

突然の出来事に、取調室の空気はガラリと変わった。

「貴様らの国力如きでアメリカを屈服させる?一体何の冗談だ!?
必ず自分達の思い通りに行く事しか考えない脳足りん共が偉そうな事抜かすな!
アメリカはな!貴様らの持っている軍事力なんざ、いつでも凌駕できるほどの国力を持てるんだよ!
何が竜母を10隻以上保有できるだ!何が戦艦をもっと増やせるだ!
俺達の国はてめえらの持つ国力なんざと大違いだ!今に見てろ!我が合衆国は空母や戦艦をわんさかと押し立てて、
貴様らの国に攻め入ってくるだろうよ!空母や戦艦なんか、一気に20隻、30隻作る事なんざ屁でもないわ!
航空機も何万機と作れるんだからな!今に自分達の行動を後悔する日が来るさ!ハッハッハッh」  


735  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:29:31  [  zHthby0g  ]
唐突にクランキー少尉の言葉は終わりを告げた。
少尉の首は胴体と離れ、床に転がった。
切断部分から赤い液体が噴き出し、取調室中にむせるような血の匂いが充満した。

「ふう、セルエレ。またやっちまったのか?」

セルエレと呼ばれた若い女は、冷たい表情のまま、死体を見ていた。

「ちょっとうるさかったから。まあ、何にしても、今日はいつも以上に綺麗に出来たわね。」

彼女は持っていた短剣の血を拭いて、鞘に収めた。クランキー少尉の命を絶ったのは、彼女であった。

「効果はとっくに切れていたのか。それにしても、いきなり喚き出すとはな。」
「よっぽど参っていたんでしょう。人間、精神がやられると、滅茶苦茶な事しか言わないから。」
「だな。戦艦や空母がいっぺんに20隻、30隻なんて・・・・どこの夢物語なんだか。
まあいい、仕事は終わったわけだし、早く司令部に戻ろう。」

そう言って、2人の男女は取調室から出て行った。
代わりに、衛兵が入って来て、嘔吐感を抑えながら、不運なアメリカ人パイロットの死体を片付けていった。

1482年1月12日  シホールアンル帝国ウェルバンル

皇帝オールフェス・レリスレイは、ウェルバンルにある海軍総司令部に来ていた。

「スパイからの情報によりますと、アメリカ軍は、南大陸の東海岸に派遣部隊を停泊させています。
派遣先はヴィルフレイングで、元々過疎地でしたが、泊地の能力が高く、一昔前まではバルランドでも有数の港町でした。」  


736  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:30:54  [  zHthby0g  ]
海軍総司令官のレンス元帥は、地図のとある地点を指示棒で指しながら説明した。

「前線からは遠いが、それでも最前線まではたったの700ゼルドか。厄介な所に艦隊を持ち込んだものだな。」

オールフェスは眉をひそめながらそう言った。海軍総司令官のレンス元帥は説明を続ける。

「今現在、判明しているアメリカの派遣艦隊の戦力ですが、連中は近いうちに大事を起こすかもしれません。」
「どれぐらいの戦力だ?」
「大まかですが、アメリカ艦隊は戦艦7、もしくは8隻、空母2〜3隻、巡洋艦10隻以上、駆逐艦30隻以上をヴィルフレイングに駐留させています。」
「うわ〜・・・・・確かに大事だな。」

オールフェスはわざとおどけたような口調で言った。
いや、そうしないとどこか変になりそうだった。
現在、シホールアンル軍はガルクレルフに4個艦隊、西海岸地区に3個艦隊を配置している。
東海岸側には第6艦隊、第8艦隊、第10艦隊、第22竜母機動艦隊。
西海岸には第1艦隊、第3艦隊、第5艦隊となっている。
戦力を見てみると、まず東海岸では、第6艦隊は戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦8隻。
第8艦隊は戦艦4隻、巡洋艦4隻、駆逐艦12隻。
第10艦隊は巡洋艦4隻、駆逐艦8隻。
第22竜母機動艦隊は竜母2隻、巡洋艦2隻、駆逐艦7隻。
合計すると戦艦6隻、竜母2隻、巡洋艦10隻、駆逐艦30隻を保有する。
西海岸には第1艦隊が戦艦4隻、巡洋艦5隻、駆逐艦16隻。
第3艦隊が戦艦3隻、巡洋艦5隻、駆逐艦12隻。
第5艦隊が巡洋艦7隻、駆逐艦14隻となっている。
合計で戦艦7隻、巡洋艦17隻、駆逐艦32隻を保有する。
それ以外にも、本土近海待機の第12、第14、第15、第17艦隊や、西海岸に航行中の第24竜母機動艦隊がいるから、
南大陸に配備されている艦隊だけでも侮れないものである。  


737  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:33:30  [  zHthby0g  ]
この大海軍が、シホールアンルの侵攻作戦成功の原動力となってきた。
だが、米艦隊は無視できぬ戦力をヴィルフレイングに派遣して来た。
その戦力比たるや、東海岸のみを見ると、戦艦は7〜8隻に対し、シホールアンル側は6隻。
空母は3対2。
そして巡洋艦、駆逐艦の数は同等か、下手したらシホールアンル側の方が劣るかもしれない。
そして、アメリカ艦隊には、シホールアンルが保有していない不気味な海中航行艦を多数保有している。
明らかに劣勢ではないが、主力艦の数からすると見劣りを感じさせられずにはいられない。

「こりゃあ全力でぶつかったら、こっちも手痛い損害を被るぞ。」
「ですが陛下、何も悪いニュースばかりではありません。」

レンス元帥は右隣にいる情報参謀に視線を向けた。
頷いた情報参謀が、棚から束ねた紙を持って来た。

「陛下、2日前にクルーレンブから送られてきた、捕虜から聞き出した情報です。」
「ちょっと見せてくれ。」

オールフェスは紙の束を渡されると、一気に目を通した。
捕虜から聞き出した情報には、飛空挺の名前や船の絵、それにヴィルフレイングに在泊している艦隊の名前も分かった。

「・・・・・・なるほど、ヴィルフレイングの艦隊は、太平洋艦隊というのか。太平洋って一体なんだ?」
「さあ、そこまでは分かりません。なにしろ、捕虜がいきなり暴れ出したもので。」
「その捕虜は死んだのか?」
「取調役が首を跳ねました。」
「なるほど。」

オールフェスはそれだけ言って、報告書に目を通し続けた。  


738  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:35:13  [  zHthby0g  ]
「敵の空母は4種類か・・・・・レンジャー・・・レキシントン・・・ワスプ・・・ヨークタウン・・・・・
読みにくい名前ばかりだな。」

彼はアルファベットの上に訳されたシホールアンル語を読みながら、忌々しげに呟いた。
取調役は、艦名を聞く際に、わざわざ復唱させながら書かせたため、容易に名前が分かった。

「飛行機はグラマンワイルドキャットにドーントレス、デヴァステーターか・・・・・・
よくここまで聞き出せたな。」
「腕利きの取り調べ役がおりましたので。」
「もしかして、チェイング兄妹か?」

オールフェスはあてずっぽうで呟いただけだが、

「ええ、その通りですよ。よく分かりましたね。」

正解だった。

「おっ、偶然当たったな。国内省の聞き上手達がなんで軍に?」
「たまたま、国内省から出向で、尋問の仕方を講義しに来ていた様で。チェイング兄弟とはどのような者なのですか?」
「一言で言えば、尋問が趣味な奴らさ。」

(鍵の捜索班員でもあるけどな)
オールフェスは最後の一言は言わなかった。

「いずれにしろ、初戦はこいつらにやられたわけかぁ。
ていうか、飛空挺の搭載数が馬鹿にならないほど多いのは、一体なんの冗談だ?」  


739  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:37:22  [  zHthby0g  ]
「さあ、それも詳しくは・・・・・」

レンス元帥と情報参謀は首を捻るが、オールフェスは報告書に書かれた、空母の搭載機数を見て、目を丸くしていた。
ちなみに、シホールアンル帝国が持つ竜母は3種類ある。
まず、古参であるチョルモール級は50騎、ギルガメル級は61騎、クァーラルド級は76騎である。
2年後に就役予定のホロウレイグ級は96騎と、格段に搭載数があがっている。
しかし、アメリカ海軍は、一番数の少ないレンジャー級、ワスプ級でさえそれぞれ80機以上搭載可能である。
レキシントン級では90機、ヨークタウン級にいたっては100機という、シホールアンル側の基準からすればとんでもない数の飛空挺を積める。
そして、太平洋艦隊の持つ空母は搭載機数の少ないレンジャー、ワスプ級としても、3隻合計で240機以上。
これがレキシントン、ヨークタウン級であれば数は更に増える。
それに対し、東海岸にいる第22竜母機動艦隊は、チョルモール級竜母2隻にワイバーン100騎。
これでは、勝敗など最初から決まっているようなものだ。

「チョルモール級に、余分にワイバーンを積めるか?」
「6騎までなら、なんとか。」
「話にならねえぜ。」

積めるだけ積んでも、240対112・・・・・2分の1以下!
これで正面から対決すれば、自分から竜母2隻の戦果をあげますよ、と言うようなものだ。
全滅覚悟で頑張れば、相手側の空母にも甚大な損害を負わす事は出来るだろうが、全滅しては元も子もない。

こちらから侵攻していけば、必ず大損害を被る事は確実である。
そして、陸軍側もこれまで通りの侵攻作戦を取れにくくなる。
つまり、アメリカは南大陸に楔を打ったのだ。

「幸い、陸軍のワイバーン部隊もいるから、差は縮まるだろうし、東海岸沖ではなんとか互角に戦えるだろう。
しかし、なんて厄介な物を持ち込んできやがったんだ・・・・・」  


740  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:39:58  [  zHthby0g  ]
彼は、思わず髪を掻き毟りたい感情に駆られたが、何とか抑えた。

「しかし陛下、これなら敵に対して対応策が取れます。何も知らぬよりは、ずっと良いでしょう。」

レンス元帥の言葉に、オールフェスも幾らか心が落ち着く。
とは言っても、突然の情報に驚きはしたが、実際あまり動揺はしていない。
「そうだな。目隠しで戦うよりかは遥かにマシだな。さて、これからヴィルフレイングのアメリカ太平洋艦隊に対して、
どう対応していくか。これを話そうか。」

1482年1月15日  カリフォルニア州ロサンゼルス  午前8時

平日のロサンゼルスはいつもの通り、これから出勤していく車や人で賑わい始めていた。
だが、人によっては何の変哲のない光景が一生忘れられないものになる。

「いよいよだな。カズヒロ。」

父の言葉に、カズヒロ・シマブクロは深く頷いた。

「あんたが決めた道だから、母ちゃんや父ちゃんはとやかく言わない。
でもね、あんたの道は厳しいものだからさ、これから身に起こる事は、ちゃんと覚悟するんだよ?」
「ああ、分かってるさぁ」

カズヒロは母に対して、勤めて呑気な口調で言った。

「お前は軍隊に勤めるから、死ぬかもしれない。でもな、お父さんとしてはこれだけは言っておく。命どぅ宝どぉ。」
(命どぅ宝・・・・・)  


741  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:41:14  [  zHthby0g  ]
カズヒロは心の中で反芻した。沖縄の方言で、命は宝であると言う言葉で、命を無駄にするなと言う意味である。

「分かったよ父ちゃん。よっぽどの時以外は、諦めんよ。」

そう言うと、母と父はカズヒロを抱き寄せた。
これから、死地へと向かうであろう息子に対して、もはややれる事はこれだけしかなかった。
家の側に、バスがやってきた。バスは停車すると、ドアを開閉して何かを待った。
ドアが待っている誰かとは、もはや言うまでも無い。

「じゃ父ちゃん、母ちゃん。行ってこうね!」
カズヒロは元気のある声でそう言った。

「・・・・頑張って来いよ!」

父がそう告げただけで、母何も言わなかった。
後ろめたい気持ちを抑えながら、カズヒロはバスに乗り込んだ。
バスの中は、人が3分の1しか入っていなかった。
カズヒロが入るのを確認すると、運転手は彼が座らぬ前にバスを発進させた。
彼は一番前に座ろうとしたが、そのすぐ後ろの席に見知った顔があった。

「・・・・誰だお前は!?」

見慣れた顔に聞き慣れた突っ込み。それは彼の親友で、空手仲間でもあるケンショウであった。

「お前こそ誰だよ。ていうかなんでやーがいる!」

沖縄の方言混じりの日本語で、彼は詰問した。  


742  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:44:04  [  zHthby0g  ]
「俺を待ち伏せていたな!」
「馬鹿か。なんで男を待ち伏せんといけない?」
「黙れ!」
「いや、それはそちらさんではありませんか?」
「この曲者め!」
「そう言っている本人のほうが曲者じゃないば!?」
「と、いつもの挨拶はここまでな。」

思わず脱力感を感じながら、彼はケンショウの側に座った。
ふと、他の乗っている者たちが視線を送っていた。
中には、彼らの意味不明なやりとりを面白がっている者もいる。
カズヒロは思わず顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

「やーが馬鹿な事言うから、思いっきり恥かいただろ!」

彼は小声でケンショウに言う。

「そういうお前だって、楽しそうだったな。」
「こいつ・・・・・まあ、それは置いといて。なんでお前もこのバスに?」
「実はな、俺も募集の受付をやっといた。」
「いつ?」
「3ヶ月前さ。」
「館長に報告したか?」
「昨日した。思う存分暴れて来いって言われたよ。」

彼らが通う空手道場の館長は、29歳の時にアメリカに移民したが、移民前は日本海軍の航空隊に所属しており、空母鳳翔に5ヶ月いた。  


743  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:45:32  [  zHthby0g  ]
「本当は館長が暴れたいんじゃないか?」
「多分そうかもしれんな。今も時たま、飛行機借りて乗ってるし。」
「まあ、カズヒロも俺も、こうして海軍航空隊に行く事になったけど、お前は何に乗りたい?」
「俺か、そうだな。」

カズヒロはしばらく考えた後、答え言った。

「艦上爆撃機かな。お前は何に乗る?」
「俺は戦闘機さ。」
「戦闘機ねえ、お前らしいな。」

ケンショウは、道場では優秀な部類に入るほうで、空手の試合の時には素早い動作で相手を翻弄し、
相手の隙を突いて渾身の突きや蹴りをぶち込んで、幾人もの相手を床に沈めた。

「お前のほうこそお似合いだな。一撃必殺を狙う奴は、乗る機種も一撃必殺を得意とするものか。」
「なんか合ってるかなあと思ってさ。」

カズヒロはそう言いながら微笑む。
カズヒロは、道場では普通のほうだが、彼の繰り出す突きや回し蹴りはなかなかキレが良く、仲間内では
一撃必殺のカズヒロと噂している。ケンショウも彼の繰り出す突きと蹴りはなるべく食らいたくないとこぼしている。
最も、カズヒロはケンショウとはやり合いたくないと逆に言っているが。

「これから、どんな厳しい訓練が待ってるかな。なんか緊張してくるな。」
「なあに、どんな厳しいものでも、粘れば出来るよ。なんくるないさ(何とでもなるよ)。」

緊張するケンショウとは裏腹に、カズヒロは妙に落ち着いた声で呟いた。  


744  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2007/01/04(木)  22:47:05  [  zHthby0g  ]
彼ら2人の日系人のみならず、アメリカ全土の若者はこぞって兵役に志願して行った。
パイロットに志願する者もいれば、歩兵に志願する者もおり、軍艦、戦車の乗員に志願するものもいる。
前線勤務のみならず、後方勤務を志願するものは情報部や後方兵站、司令部の事務に回される者もいる。
千差万別ではあるが、それぞれの志願者は、自分達のできる現場で本文を果たそうとしていた。
全ての者に共通する思いは、愛する人や家族、国や未知の大陸を守るため、シホールアンルを倒す一翼となる、というものであった。