179 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:48:21 ID:4CUjn9IY0
第50話 夜海の松明
1482年(1942年) 10月24日 午後11時10分 ノーベンエル岬沖北東80マイル沖
竜母部隊から増派された護衛艦隊と、アメリカ側の襲撃艦隊が激戦を繰り広げている間、輸送船団は
上陸地点よりあと3時間の地点にまで迫っていた。
上陸部隊は主に3つに分かれている。
先頭を行くのは第17軍の3個師団を乗せた輸送船団である。
第17軍司令官であるアルズワク・ルーカリア中将は、盛んに明滅する後方の海域に見入っていた。
「激しいですな。」
彼の副官が、不安そうな表情でルーカリア中将に言った。
「戦いが始まってから既に40分。護衛艦隊は奮闘しているようですが・・・・・」
「安心せい。敵の潜水艦に減らされたとはいえ、第8艦隊は5隻の戦艦を持っているんだ。例え負けても、
敵に深手を負わせているだろう。我々は、上陸した後の事を考えれば良い。」
不安げな表情の副官に対して、固太りのルーカリア中将は誇らしげに胸を張りながら言葉を続ける。
「それに、一旦陸に入り込めば、後はわしらの独壇場だ。ミスリアル軍の大半は頭部に駆り出されて、
西部にはせいぜい3万ほどの軍しか残っておらん。数の少ない敵軍なぞ、我が歴戦の精鋭軍にとっては
赤子と大人ほどの違いがあるぞ。」
ルーカリア中将はそう言いながら、後方の別の船団を指差した。
180 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:50:12 ID:4CUjn9IY0
「それに、今回は本国から第3特殊軍という超一流の兵士ばかりを集めた味方も来ている。魔法技能、
戦闘技能、いずれにおいても優秀。人によっては、奴らに対して劣等感を感じる奴もいるようだが、
わしにとっては、第3特殊軍の作戦参加は心強い限りだ。」
そう言って、ルーカリア中将は高笑いを上げた。
第3特殊軍は第72魔法騎士師団、第66特殊戦旅団で編成されている。
特筆すべき事は、シホールアンルでも精鋭中の精鋭である第72魔法騎士団が参加している事だ。
魔法騎士師団。それは、各国が編成する軍のなかで最も異質かつ、優秀な部隊である。
国の中には、この魔法騎士団が負けたら国自体も負けるといわれるほど、貴重な部隊であり、
通常の国家は旅団編成で2〜3個旅団を保有し、大国クラスならば師団編成で1、2個師団保有している。
シホールアンル帝国は、流石は超大国と言う事もあり、6個師団と2個旅団を保有している。
それでも、貴重な部隊である事には変わらず、この魔法騎士団の実戦投入はその戦争の正念場か、
敵に対する最終攻勢の場合のみである。
滅多に前線に出てこない事から、帝国本土のお飾り部隊と蔑む者も少なくないが、師団を構成する兵員は
どれもこれも優秀な魔法技術を持っており、隊長クラスの中には敵1個連隊を少数兵力のみで圧倒したとか、
襲ってきた暗殺者をものの数秒で一蹴したなど、武勇伝を持つ物もいる。
更に、個人技能では普通の正規軍を上回る精鋭部隊がこの魔法騎士団に付いて来るとなると、ミスリアルの
上陸作戦は手早く成功するであろうと、誰もが確信していた。
問題は、それらを阻もうとする者達。
アメリカ機動部隊から分派されて来た襲撃部隊を撃退できるかだ。
「魔法騎士団の活躍ぶりは、父親から聞かされていますが、1個師団で小規模の国を占領できるほど凄いらしいですな。」
「その通りだ。わしも、魔法騎士団の戦いぶりは見たことが無い。この上陸作戦で、そいつらの活躍を是非とも見てみたいものだ。」
(それと同時に、第3特殊軍の司令官とお近付きになれれば、ルーカリア家の株も上がる)
ルーカリア中将は、第3特殊軍の司令官であるとある青年、ルイクス・エルファルフ少将の顔を思い浮かべる。
181 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:52:00 ID:4CUjn9IY0
僅か30代で将軍になった秀才ぶりは尋常では無いが、モルクンレル家とタメを張れるほどの名家の血縁者と
仲良くなれれば、まだ二流貴族であるルーカリア家も首都で名を広められるだろう。
「クックックッ。早く上陸せんものかな。」
ルーカリア中将は、上陸開始を心待ちにしていた。
その一方で、第12艦隊の巡洋艦と駆逐艦が、慌てた様子で船団から離れ始めた。
「ガルクレルフで使ったような、オトリ戦法を使うんすよ。」
ラウスのややだらけた口調で紡ぎ出された一言。
その一言がきっかけで、この艦隊はノーベンエル岬にまでやって来た。
「リー戦隊、依然として敵主力艦隊と交戦中の模様。現場海域はかなりの激戦のようです。」
別働隊旗艦である軽巡洋艦へレナ艦上で、ノーマン・スコット少将は険しい表情でその報告を聞き入っていた。
「無線交信の中に、ノーザンプトン、サヴァンナ喪失という言葉があったが、リー戦隊の損害も無視出来ん事になってるだろう。」
スコット少将は、内心はすぐにでもリー戦隊に加わって敵艦隊と砲火を交えたいと思っている。
だが、彼らは決して、敵主力艦部隊と出会ってはいけない。
敵主力艦隊と戦うのは、リー戦隊のみと事前に決まっていた。
何故なら、リー戦隊は敵護衛艦隊を輸送船団から引き離すために作られた、“えさ”なのだから。
「しかし、リー戦隊が敵主力艦を引付けてくれたお陰で、俺達は本来の任務に没頭できる。」
スコット少将は、リー戦隊の奮戦に感謝しつつ、指揮下の部隊を時速32ノットで敵船団を追跡していた。
182 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:53:12 ID:4CUjn9IY0
スコットに与えられた艦は、旗艦の軽巡洋艦ヘレナを初めに、就役したばかりの新鋭軽巡クリーブランド、
対空軽巡のアトランタとジュノー。
それに駆逐艦クレイブン、ダンラップ、ハンマン、ベンハム、エレット、ローウェン、オースチンの計11隻。
この11隻が、敵船団の前方から襲いかかるべく、敵と約20マイルほどの距離を開けながら東に向かって航行している。
そして午後10時55分。
「司令官、敵艦隊を追い越しました!」
「ようし、各艦へ通達。戦隊進路変更、取り舵一杯!これより敵輸送船団に向かう!」
スコット少将が無線機のマイクを取り出して、各艦に通達してから、彼はそれを置いた。
やがて、ヘレナを先頭に、スコット戦隊は左に回頭し始めた。
各艦が回頭を終えると、スコット戦隊は単縦陣のまま、32ノット以上のスピードで敵船団の前方に躍り出た。
敵船団の前方20マイルの距離に進出したスコット戦隊は、再び進路を変更し、今度は敵船団の真正面から突っ込む形で、
距離を急速に縮め始めた。
距離が14マイルを切ろうとした時、SGレーダーに移っている光店のうち、最先頭の4つが急にスピードを速めた。
「敵船団の最先頭が急にスピードを上げました!どうやら護衛艦のようです!」
CICからの報告に、スコット少将は僅かに頷いた。
「ついに気付いたか。恐らく、船団の周囲にへばり付いている護衛艦だな。」
スコット少将はそう呟くと、深呼吸をしてから指示を下した。
「砲戦用意!」
183 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:54:52 ID:4CUjn9IY0
第12艦隊旗艦である巡洋艦レルバンスクの艦橋では、アメリカ艦隊の突然の襲撃に半ばパニック状態に陥っていた。
「おのれぇ、アメリカ人共め!あの襲撃部隊は囮だったのか!」
艦橋に詰めているマリングス・ニヒトー少将は、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「姑息な手を使いおって。迎撃だ!第12艦隊の総力を持って、新たに現れたアメリカ艦隊を殲滅する!全速前進!」
ニヒトー少将の号令の下、まず船団の先頭を航行していた巡洋艦レルバンスク、ヒルヒャが先頭に立ち、後方から
6隻の駆逐艦が16リンルのスピードでアメリカ艦隊に向かう。
他の駆逐艦はまだ船団の側方に張り付いているため、すぐには戦闘に参加できない。
そのため、他の駆逐艦が来るまでは、この8隻の艦で敵を食い止めねばならない。
「反応増大!敵艦隊は本艦の右舷前方に居ます!」
魔道将校の言葉に、ニヒトー少将はすぐに聞き返した。
「距離は!?」
「5ゼルドです!」
「よし。主砲の射程距離だな。艦長、照明弾発射!」
「了解!」
ニヒトー少将に命じられてから10秒後に、レルバンスクは照明弾を発射した。
右舷前方の海域に照明弾が上空で炸裂する。
眩い光の下に、アメリカ艦隊はいた。
「アメリカ艦隊視認!敵は巡洋艦2、大型駆逐艦2、駆逐艦7!」
「大型駆逐艦か。敵の進路は!?」
184 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:55:54 ID:4CUjn9IY0
「依然、直進中・・・・あっ!1番艦が左に変針!続いて2番艦も変針します!残りは直進を続けます!」
「変針した2隻は巡洋艦か・・・・・」
ニヒトー少将は、この2隻がどのような艦が大体予想は付いていた。
(恐らくブルックリン級だな)
彼は内心でそう思いながら、あの日の事を思い出していた。
ニヒトー少将は、去年の11月12日、第13艦隊所属の巡洋艦、レルバンスクの艦長としてアメリカ艦隊攻撃に加わっていた。
その時、レルバンスクは2番艦に位置していた。
あの海戦で、レルバンスクは見たことも無い敵巡洋艦と戦い、撃ち負けた。
その巡洋艦というのが、今では知らぬ者はいない化け物。ブルックリン級巡洋艦である。
レルバンスクは、矢継ぎ早に発砲して来るブルックリン級に撃ち負けて大破し、生き残った寮艦と共に本国に戻った。
それ以来、ニヒトー少将はブルックリン級と再び戦う事を決めていた。
そして、復仇の機会はついにやって来た。
「面舵一杯!敵巡洋艦と並べ!敵駆逐艦は後の艦に任せる!」
ニヒトー少将は敵艦の目的が、彼の巡洋艦を引付ける事であると分かっていた。
だが、彼は敢えてそれを引き受けた。
やがて、敵と並び合ったレルバンスク、ヒルヒャは照準を米巡洋艦に合わせた。
左舷に位置する敵巡洋艦の上空に、間断なく照明弾が炸裂し、闇夜の向こうにおぼろげなアメリカ巡洋艦が見える。
前部、後部に並べられた5基の主砲。頑丈そうな箱状の艦橋に2本煙突。
紛れも無い、ブルックリン級巡洋艦だ。
不思議な事に、敵艦はまだ撃って来ない。
(どうした?貴様らは俺達がここに居る事を知っているだろう。撃つなら撃て。)
185 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:56:57 ID:4CUjn9IY0
ニヒトー少将は米巡洋艦に向けて、内心で語りかける。
「・・・まあよい。射撃準備はできたか!?」
「ハッ!全主砲、射撃準備完了です!」
艦長のその言葉に、ニヒトー少将は獰猛な笑みを浮かべてから命令を発した。
「レルバンスク、目標1番艦、ヒルヒャ、目標2番艦。主砲撃て!」
その直後、6門の7.1ネルリ砲が咆哮した。
斉射の瞬間、艦が僅かに反対側に傾ぐ。
同時に、アメリカ巡洋艦も発砲を開始していた。発砲炎はかなり大きい。
「敵艦、射撃開始!斉射です!」
やがて、ブルックリン級巡洋艦の周囲に6本の水柱が立ち上がる。
「夾叉です!」
「ようし!流石は12艦隊の中で最も優秀な艦だ!」
ニヒトー少将は満足したような表情で叫んだ。
その一方で、敵巡洋艦は第1斉射から6秒後に第2斉射を放つ。
第1斉射弾はレルバンスクを飛び越え、第2斉射もまた同様に反対側に飛び抜けていく。
更に第3斉射が敵巡洋艦から放たれる。
「早速やりやがったか。ブルックリン級自慢の速射術!」
186 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:58:09 ID:4CUjn9IY0
ニヒトー少将は、全身に冷や汗が吹き出す感覚を覚えながらも、豪胆な笑みを浮かべる。
6秒おきに10発以上の砲弾を放つブルックリン級の射撃は、まさに砲弾の雨さながらだ。
アメリカ側でブルックリン・ジャブと言われるこの猛射に、何隻ものシホールアンル艦が犠牲になっている。
第1斉射から21秒後に第2斉射が放たれる。
弾着までの間に、更に敵巡洋艦は2度斉射を行うが、不思議な事に、命中も、夾叉もしない。
「撃つだけなら簡単だが、当てるのは難しいぞ。アメリカ人!」
ニヒトー少将は、空振りを繰り返す敵1番艦を嘲笑する。
その時、敵1番艦の周囲に水柱が吹き上がる。それと同時に、2つの閃光が走った。
「2弾命中!敵艦の中央部より火災発生!」
その報告に、艦橋内で歓声が爆発した。
「猛訓練の甲斐があったな。この調子で、ブルックリン級を倒す!」
ニヒトー少将は、第2斉射で命中弾を出すという偉業を目にした事から、彼はブルックリン級に勝てるかもしれないと思った。
中央部から火災を起こした敵1番艦だが、これだけでは参るはずも無く、相変わらず15門の大砲を乱射する。
第3斉射を放つ直前に、敵の斉射弾がレルバンスクを夾叉した。
「夾叉されました!」
見張りが悲鳴じみた声でそう叫んだ。
「怯むな!当たりをつけたのはこちらが先だ!」
187 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 15:59:10 ID:4CUjn9IY0
ニヒトー少将の叱咤と同時に、レルバンスクが第3斉射を放つ。
この時、魔道将校がヒルヒャからの緊急信を報告して来た。
「ヒルヒャより報告!敵2番艦はブルックリン級にあらず、新型巡洋艦の可能性が大なり」
「新型巡洋艦、だと?」
ニヒトー少将は怪訝な表情を浮かべながら、望遠鏡で敵2番艦を見る。
敵2番艦もまた、照明弾の光でおぼろげな姿を現すのみだが、よく見ると、発砲炎が1番艦より少ない。
発砲炎の数は、1番艦15あるのに対し、2番艦は12か10程度だ。
「敵2番艦は、砲力に関しては1番艦より弱いな。なら、ヒルヒャはやりやすいだろう。」
その時、物凄い衝撃がレルバンスクを襲った。
被弾の衝撃がレルバンスクを地震のようにひとしきり揺らす。
衝撃から立ち直らぬうちに、新たな命中弾が揺れを継続させる。
「いかん!敵弾が命中し始めた!」
ニヒトー少将は、青ざめた表情で叫んだ。
その間、レルバンスクが放った第3斉射は敵1番艦。
ヘレナの右舷に3発命中し、第1両用砲を粉砕した他、20ミリ機銃2丁と28ミリ4連装機銃1基を破壊し、火災を拡大させた。
だが、この命中弾もヘレナの深部を傷つける事は出来なかった。
第4斉射が放たれる間、レルバンスクに3斉射分の6インチ砲弾が降り注ぎ、合計で9発を被弾してしまった。
命中弾が艦上に備え付けられた魔道銃や高射砲を千切り飛ばし、細かい破片に変える。
別の命中弾が後部艦橋の至近に命中して、後部艦橋の要員をひやりとさせるが、幸運にも主砲塔には損害は無い。
第4斉射が轟然と、レルバンスクから放たれる。
188 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:00:35 ID:4CUjn9IY0
そして、次の斉射を待つ間にも、レルバンスクには6インチ砲弾が雨あられと降り注ぐ。
しかし、レルバンスクは幸運であった。
敵弾が前部甲板を引き裂き、中央甲板から火災を発生させても、主砲塔には敵弾は降って来ない。
逆に第5斉射、そして第6斉射弾を放つ。
ヘレナの艦上に敵の正確な射弾が降り注ぐ。右舷に残っていた機銃や両用砲が粉砕され、艦の外容が醜くなっていく。
第6斉射の砲弾は、ヘレナの第3砲塔に命中した。
砲弾が命中した瞬間、敵弾が中に込められた3発の砲弾を誘爆させて天蓋がまくれ上がる。
敵艦に向けられた3本の砲身は、それぞれがでたらめな方向に向いてしまった。
「敵1番艦の主砲塔を1基潰しました!敵艦の火災がまた広がります!」
「ようし、その調子でどんどん押していくぞ!」
レルバンスクは、更に6発の敵弾を浴びるが、第7斉射を放った時も、6門の7.1ネルリ砲は無事であった。
この斉射弾は、敵の前部甲板に1発、そして後部に2発命中した。
特に後部に命中した砲弾は、第4砲塔のバーベットを歪ませて、戦闘不能に陥れさせた。
「敵1番艦の砲塔、更に沈黙!」
見張りが喜びの混じった声音で報告する。
「凄い、一時はそのまま押され通しになるかと思ったが。このままいけば、敵艦を脱落させることができる!」
(最も、この艦もそろそろ限界だが)
ニヒトー少将は、最後の一言は言わなかった。
レルバンスクは既に23発の敵弾を浴びており、中央部と後部から火災を起こしている。
左舷側の魔道銃、高射砲は全て粉砕され、後部艦橋とも連絡が途絶えているが、奇跡的に3基の主砲塔と、
艦深部の機関室には被害は及んでいない。
189 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:06:33 ID:4CUjn9IY0
このまま行けば、砲塔や機関室に食らって戦闘不能になるだろうが、せめて、相対する敵も道連れにしたい。
(貴様だけは絶対に行かさんぞ)
ニヒトー少将が、内心でそう思った時、唐突に後方から眩い光が沸き起こった。
次いで、凄まじい爆発音が海上を圧する。
「ヒルヒャが大爆発を起こしました!」
その悲報に、ニヒトー少将の表情は凍りついた。
軽巡洋艦クリーブランドの艦上では、初めて目にする敵艦轟沈に、誰もが言葉を失っていた。
「て、敵2番艦。轟沈しました。」
見張りが、幾分ためらいがちな口調で報告して来る。
その声で、艦長のトレンク・ブラロック大佐は我に返った。
「分かった。砲術!目標を敵1番艦に変更する。」
「目標を敵1番艦に変更、アイアイサー。」
その言葉を最後に、ブラロック大佐は受話器を置く。艦橋内には、先と打って変わってどこか浮ついた空気が流れている。
初めての水上砲戦で、敵艦撃沈という戦果を挙げたのだ。誰もが内心、喜びで一杯であろう。
だが、乗員達は誰も歓声を上げる事無く、ただ自分の職務を黙々とこなしていた。
(よく分かってるじゃねえか。そうだ、まだ戦闘は終わってないからな。笑う事は戦いが終わってから出来る。
その事を、こいつらはようやく理解したか。口酸っぱく注意した甲斐があったな)
ブラロック大佐は、日々、部下達に対して戦闘中に歓声を上げたりするなと何度も言っていた。
190 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:08:42 ID:4CUjn9IY0
気の緩みは、即、死に繋がり、取り返しの付かぬことになる。
彼はクリーブランド艦長に赴任してから繰り返し言い続け、兵達は彼の言い付け通り、余計な感傷は表さなかった。
「しかし、流石は54口径砲だ。47砲口径砲とは威力が違うな。」
ブラロック大佐は、感心したような表情で、旋回する2門の6インチ砲を見つめた。
クリーブランドは、敵2番艦を相手に砲門を開いた。
最初、砲弾はなかなか命中しなかったが、第8斉射で2弾が命中してからは、砲弾は次々と命中した。
第23斉射で14発目が命中した時、敵2番艦は急に速力を落とし始め、24斉射目で新たに5発が命中した直後、
敵2番艦は後部から火柱を吹き上げ、艦首を逆立てながら急速に沈んでいった。
クリーブランドが2番艦を撃沈確実に追い込んだのに対して、1番艦のヘレナは敵1番艦30発ほど命中させているが、
逆に砲塔2基を使用不能にされて、互角か、やや押され気味になっている。
彼はまだ知らなかったが、クリーブランドの54口径砲から放たれた6インチ弾は、敵艦の内部に必ず侵入してから
炸裂し、艦内を著しく破損させていた。
だが、ヘレナから発射された6インチ弾は、艦内に侵入する物もあれば、甲板上で炸裂する物もあり、見た目ほどには
敵艦にダメージを与えていなかった。
クリーブランドが12門の主砲を敵1番艦に向けた時は、敵艦は後部砲塔を粉砕されて砲力が衰えていたが、
まだ前部4門の主砲でヘレナを砲撃していた。
クリーブランドが射撃に加わってからは、敵1番艦は2分ほどで沈黙し、大火災を起こしながら速度を落とし始めた。
「砲撃止め。」
スコット少将が命じた時、敵1番艦は艦橋のみを残して、艦体表面が破壊し尽くされていた。
「あれなら、もう戦闘行動を取れないだろう。しかし、敵1番艦はなかなか強かだったな。」
「射撃精度が良すぎましたな。一時はどうなるかと思いましたが、何はともあれ、敵巡洋艦は全て潰しました。」
191 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:09:58 ID:4CUjn9IY0
ヘレナ艦長の言葉に、スコット少将は深く頷いた。
「針路変更!これより敵船団に向かう!」
「て、て、敵だぁ!」
輸送船で、海戦の成り行きを見ていた兵士が、怯えた表情で叫んだ。
輸送船団の前方からやって来る幾つ物艦影。
それは近付くにつれて、輸送船上の将兵達の恐怖感を増大させていく。
階段状に3基設置された砲に、頑丈そうな箱状の艦橋を持つ巡洋艦が2隻。
そして、後方に付き従う駆逐艦と思しき艦が7隻。
それらが、白波を蹴立てながら、飢えた猛獣の如き速さで、船団との距離を急速に縮める。
この敵に立ち向かっていった6隻の駆逐艦は、ことごとく返り討ちに合い、生き残った艦は間断ない砲撃の前に追い散らされた。
そして、この敵艦隊はついに、輸送船団の面前に現れたのだ。
輸送船団の右横を、3隻の駆逐艦が駆け抜けて行き、勇敢にも敵に立ち向かっていく。
その時、敵巡洋艦2隻から主砲が放たれる。
発射間隔の短さは、異常だった。
4秒おきに繰り返される猛射に、早々と先頭の駆逐艦が被弾し、火災を吹き上げた。
まだ傷が浅いのか、駆逐艦は16リンルの高速で敵に突進していく。
駆逐艦に対して、より激しい砲撃が加えられ、駆逐艦に次々と命中弾が相次ぐ。
力尽きた駆逐艦は、海上に停止して一叢の炎に成り代わり、後の2隻の駆逐艦も、1分と経たずに先頭艦と同様の運命を辿る。
阻む物が居なくなった船団に、運命の時はやって来た。
敵艦が船団の針路を阻むように回頭する。巡洋艦2隻が回頭を終えるや、主砲を手近な輸送船に向けて撃ちまくる。
軽巡洋艦アトランタ、ジュノーが放つ28門の5インチ砲弾は、先頭の大型輸送帆船に雨あられと降り注ぎ、次々に命中した。
輸送船は全体に満遍なく5インチ砲弾を浴び、あちこちで火災を発生する。
192 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:12:24 ID:4CUjn9IY0
火災が発生した後は早かった。
まるで、松明に火をつけたかのように、その輸送船は全体を火に包まれ始め、火の手から逃れようと、
大勢の将兵や船員が我先にと海上に飛び込んでいく。
米艦隊は他の船にも主砲を撃ちまくる。
とある砲弾が、輸送船のマストに命中する。マストが音立てて折れて、逃げ惑う兵達を巻き込みながら甲板上に倒れた。
別の大型輸送船は、いきなりスピード緩めた寮船を避けようとして、急に回頭を始める。
不運にも、その輸送船のすぐ側を航行していた中型輸送船がまともに体当たりされて、2隻共々、その場に停止する。
その停止した場所は、まだ先頭に近い場所であった。
互いの船の乗員が罵声を投げ合っている中、海面から白い航跡が何本も走り去る。
その中の1本が中型輸送船に突き刺さった。
次の瞬間、大音響と共に中型輸送船が木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
この中型輸送船には、大量の火薬や調理用の固形燃料が積載されており、魚雷が命中、炸裂した場所には、
ちょうど火薬の積めた木箱が大量に置かれていた。
爆発は中型輸送船のみならず、ぶつかって来た大型輸送船の船体をも叩き割り、あっという間に炎に包まれていった。
対空軽巡の5インチ砲弾が輸送船の船体を一寸刻みに傷つけ、発射した魚雷が脆い下腹を抉って、船の竜骨を一撃の下に叩き折る。
9隻のアメリカ軍艦が輸送船団の前面を行ったり来たりしながら猛砲撃を浴びせ続けて早30分が経つと、新たな巡洋艦2隻が
“狩り”に加わった。
加わった2隻の巡洋艦は、ヘレナとクリーブランドである。
ヘレナとクリーブランドは、まだ無傷を保っている別の集団に距離10000まで近付くや、主砲を唸らせた。
主に砲撃を受けていたのは、船団の先頭部分であったが、今度は南側の船団にも砲弾が飛んできた。
47口径6インチ砲9門、54口径6インチ砲12門、計21門の6インチ砲が、6秒おきに砲弾を放ち、
目に付く輸送船を手当たり次第に襲う。
小型スループ船、中型輸送船、大型輸送帆船が、無差別に砲弾をぶち込まれ、片っ端から炎上していった。
被害は先頭集団を編成する第17軍のみならず、中央船団を編成する第3特殊軍にも及ぶ。
ひとしきりいくつかの船団を叩きのめしたヘレナとクリーブランドが、第3特殊軍の船団にも襲い掛かったのだ。
193 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:15:22 ID:4CUjn9IY0
ヘレナとクリーブランドは、残弾を気にする事無く、新たな敵船団に対して距離9000メートルから砲撃を開始する。
今度は健在な両用砲も交えた砲撃であり、特にクリーブランドの射撃は凄まじい。
54口径6インチ砲12門、5インチ連装両用砲8門の連続射撃を行うクリーブランドの姿は、まさに怒れるモンスターが
地鳴りのような咆哮を挙げつつ、諸手を振り上げて敵に襲い掛かる様を想像させる。
いくら優秀な魔法使いが居るとは言え、彼らの魔法が有効に働くのは、敵が100〜600メートルほどの距離にいる時だ。
9000メートルの彼方から高速弾を乱射して来る米軽巡の前には、最精鋭と謳われた魔法騎士師団も、
特殊戦に長け、血を見る事自体を好みとする特殊戦旅団の将兵も無力であった。
6インチ砲、5インチ砲の猛射が、1隻、また1隻と、輸送船を次々と松明に変えていく。
とある輸送船では、優秀な魔法使いにふさわしく、魔法防御を持って降り注ぐ砲弾を防ごうとした。
10人から20人が強力して発動させた防御魔法は、急造ながらも見事に起動し、アメリカ軽巡が放つ砲弾を無為に炸裂させた。
「やったぞ!思い知ったか!これが俺達魔法騎士団の実力だ!」
防御成功に気を良くした将校が、砲弾を放つアメリカ軽巡向けて嘲笑を浮かべて。
だが、防御の時に作動した光が、ヘレナとクリーブランドの注目を浴び、より一層砲弾を招き寄せてしまった。
魔法防御を施した輸送船に雨あられと砲弾が落下する。
10発、20発と、魔法防御は良く耐えたが、急造の術式では2隻分の弾雨にはかなわず、しまいには魔法防御を
打ち砕かれ、船もろとも魔道士達が吹き飛ばされる。
砲弾が輸送船に着弾する度に、悲鳴が鳴り響き、船に火の手が上がってそこかしこで兵や船員達が海に飛び込んでいく。
そこに砲弾が何発も着弾して、少なからぬ人数が砕け散った。
スコット隊の乱入で、シホールアンル軍輸送船団の隊列は半ば崩れていた。
後方集団を成していた第20軍は、先を行く輸送船団が次々と襲撃されている様子を見て撤退を決意し、
残りの全輸送船に避退を命じたが、この時、更なる脅威が彼らの後方に迫っていた。
それは、リー戦隊の残存部隊であった。
残存部隊とは言え、戦艦ワシントン、サウスダコタを中心に、重巡洋艦アストリア、ヴィンセンス、
駆逐艦11隻を加えた強力な艦隊である。
194 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:18:12 ID:4CUjn9IY0
リー戦隊は、敵船団まで20000メートルまで近付くと、16インチ砲を発射した。
木造船とは言え、密集隊形で航行していた輸送船団は、SGレーダーに捉えられており、リーは部隊が接近しきるまでに
主砲を撃ちまくろうと決意した。
正確無比なレーダー射撃の前に、図体だけは戦艦並みの大型輸送帆船が1.2トンの砲弾に無残に叩き割られ、
ちっぽけなスループ船が神隠しに遭ったかのように水柱に掻き消され、二度とその姿を見せなくなった。
ようやく避退に移りかけた船団だが、速いもので僅か10リンルしか出ぬ輸送船は、高速艦揃いのアメリカ艦に
容易に追いつかれ、次々と撃沈されていく。
ワシントン、サウスダコタが斉射を行う度に、最低1隻の輸送船が大音響と共に吹き飛ばされるか、あるいは
姿そのものを消してしまう。
戦艦部隊は、10000メートルまで距離を縮めると、主砲のみならず、5インチ両用砲までも発砲して、
敵船団を叩き潰した。
第12艦隊所属の勇敢な駆逐艦数隻が、ワシントン、サウスダコタに襲い掛かるが、護衛の重巡や駆逐艦に
滅多打ちに遭って、残らず沈黙していく。
ブライトン隊の駆逐艦が、邪魔者を排除した後に、未だ健在な輸送船団に向かって、ありったけの53センチ魚雷を発射した。
瞬く間に8隻の輸送船が被雷し、うち3隻が火柱を上げながら轟沈する。
ノーベンエル岬沖に繰り広げられる地獄は、収まる所か、より苛烈さを増していく。
米軽巡の速射砲が一寸刻みに輸送船の船上構造物を毟り取り、乗っている兵員をなぎ倒していく。
駆逐艦の雷撃が大型船、小型船の区別無く命中し、10人単位、100人単位の敵平野船員が死んでいく。
輸送船内で、前線で大いに活躍するはずだったキメラが、席巻していく炎に巻かれて、悲鳴を上げながら絶命した。
船倉のゴーレム保管室に16インチ砲弾がぶち込まれて、直後に10体以上の頑丈なゴーレムが、紙細工よろしく砕け散った。
敵軍の後方で、撹乱作戦に当たるはずだったエリート部隊が乗る船に、100発以上の5インチ、6インチ砲弾が命中し、
甲板上に出る間もなく、船共々海没処分にされる。
これまでの戦争で名を挙げた魔道士が率いる部隊の輸送船に魚雷が命中し、船がすぐさま沈下を始める。
195 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:20:04 ID:4CUjn9IY0
危機的な状況に対して、理性を維持できる人間と言う者は少ない場合が多い。
この部隊も例外ではなく、数分前まで尊敬していた先輩を、罵声を浴びせ、または踏みつけながら甲板に出ようとする。
中には親しい戦友を殺してまで脱出を試みる者も出て来る。
その者共の輸送船に止めとばかりに、6秒おきの砲弾のスコールが降り注ぎ、スコールが終わった後には、静寂のみが残される。
アストリア、ヴィンセンスが、距離8000程度にまで迫ってから、無傷の船団に向けて8インチ砲弾を撃ちまくる。
船体の小さい小型船は1発で叩き折られ、中型船は間を置いて火を噴き始めて、大型船は動きが鈍い上に図体ばかりが
大きいため、遠距離からでも面白いように砲弾が命中する。
そう間を置かずに、10隻程度の梯団は片っ端から叩き据えられ、海中に送り込まれて行った。
もはや、この海域は殺戮に狂う米艦によって作り上げられた、阿鼻叫喚の巷と化していた。
午前1時30分 ノーベンエル岬沖北東60マイル沖
海上は一面、オレンジ色に染まっていた。
戦艦ワシントンの艦橋から、海上を双眼鏡で眺めていたウィリス・リー少将は複雑な表情を浮かべていた。
「この様子だと。敵船団500隻のうち、半数以上に被害を与えたようだな。」
「確かに。スコット戦隊からは、砲弾の残りが1割を切った艦にあるようです。」
「このワシントンもあと3割程度しか砲弾は残っておらん。任務とは言え、どうもやりすぎたような気がするな。」
別働隊のスコット戦隊と、リー戦隊は輸送船団襲撃に成功し、暫定ながらも半数以上の輸送船を撃沈、
または撃破したと判断された。
残りの敵船団は、リー戦隊、スコット戦隊が足止めを食らった敵船団や敵駆逐艦を相手している時に、なんとか逃げ帰って行った。
船団の完全撃滅とまではいかなかったが、アメリカ艦隊は敵の上陸作戦を頓挫させる事に成功したのだ。
196 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:22:15 ID:4CUjn9IY0
だが、その一方で、リーの内心は晴れ晴れとしなかった。
「とにかく、これで敵の新たな脅威は去り、戦局は当面、シホールアンル側に不利になるだろう。
後は、後発の海兵隊がミスリアルに上陸し、空母部隊がどれだけミスリアル軍や海兵隊を支援できるかに
かかっている。ミスリアルからシホールアンル軍を追い出すまでは、気が抜けぬ日々が続くだろう。」
リー少将はそう言いながら、再び海面を見つめた。
無数の血が流された海は、まるで血に染まったかのように明るかった。
昼間の機動部隊同士の決戦であるリルネ岬沖海戦。
夜間の主力艦同士の決戦と、アメリカ軍の輸送船団襲撃が行われたノーベンエル岬沖海戦。
この2つの大海戦は、後に第2次バゼット半島沖海戦の総称でくくられ、後の歴史に名を残す事になった。
戦争の転換点となったこの大海戦のきっかけを作った、ミスリアル王国第4皇女ベレイス・ヒューリックは、
2週間後に遺体を発見された。
アメリカ海軍では、彼女の勇敢なる行動を称え、後に竣工するギアリング級駆逐艦にその名が与えられる事になるが、
それはまだ先の話である。
197 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:23:10 ID:4CUjn9IY0
第2次バゼット半島沖海戦 両軍損害表
シホールアンル帝国軍
喪失 正規竜母クァーラルド イリアレンズ リギルガレス ゼルアレ
戦艦ジェクラ ロジンク クロレク
巡洋艦ルオグレイ オーメイ ジャンビ レンガキ ヒルヒャ
駆逐艦18隻
大破 正規竜母ギルガメル モルクド 小型竜母ライル・エグ
戦艦リングスツ オールクレイ
巡洋艦ラスル ネルジェリン レルバンスク
駆逐艦8隻
中破 巡洋艦ジョクランス
駆逐艦2隻
輸送船152隻沈没 142隻大破、放棄(後の航空攻撃、潜水艦部隊の攻撃も含む)
上陸部隊損失人員58329人
ワイバーン358騎喪失
198 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/07(土) 16:23:43 ID:4CUjn9IY0
アメリカ合衆国軍
喪失 正規空母レンジャー
重巡洋艦ノーザンプトン 軽巡洋艦サヴァンナ サンファン
駆逐艦デューイ ブルー マグフォード 潜水艦トリガー キャシュロット
大破 正規空母ホーネット
戦艦ノースカロライナ
重巡洋艦ペンサコラ 軽巡洋艦ナッシュヴィル
駆逐艦フレッチャー リバモア
中破 正規空母エンタープライズ ヨークタウン
戦艦ワシントン ノースカロライナ
重巡洋艦アストリア クインシー 軽巡洋艦ヘレナ
駆逐艦オバノン
小破 正規空母ワスプ
重巡洋艦ヴィンセンス 軽巡洋艦アトランタ クリーブランド
航空機喪失208機
209 :名無し三等陸士@F世界:2007/07/08(日) 14:58:29 ID:h0j7WCwE0
最新
北大陸
シホールアンル帝國 F世界最強国家。現在南大陸に侵攻しているが、南大陸連合軍が自由と正義を愛する某合衆国を召喚してからケチが付きはじめる
首都 ウェルバンル 最近敗北が続いており、亡国の始まりである情報操作が始まっている
皇帝 オールフェス・レリスレイ 亜麻色の長髪の若い男。敵には残虐に成れるが国民にはやさしい。しかし最近負けが込んでるので民意が軽く
離れてきている。最近ちょっと戦線が心配で心に余裕がない
国内相 ギーレン・ジェルクラ 国内省は治安や政治を担当する、裏では政治犯の投獄・処刑、
敵勢人物や団体の摘発、鍵の捜索も担当している
国外相 フレル 相手の苦悩ぶりを見て楽しむサディスト、一応国内では敏腕外交官である
有能だが、力押し外交に慣れ過ぎてすっかりアホの子に相手の狼狽を見て楽しむ変態
陸軍総司令官 ウインリヒ・ギレイル元帥
海軍総司令官 レンス元帥
南大陸東艦隊司令長官 ジョットル・ネーデンク大将 アメリカ艦隊の侵攻を受け、東艦隊で迎撃に行った
南大陸東艦隊魔道参謀 ヘイ・イーリ大佐
西艦隊司令長官 カランク・ラカテルグ大将 大陸西方の司令長官、
第2艦隊司令官 ワルジ・ムク少将
第3艦隊司令官 イル・ベックネ少将 アメリカ艦隊侵攻時、ちょうど主砲の交換をやっていて艦隊決戦に遅れて出港した。
そのあとアメリカ第2任務部隊に挑むも撃退された
第6艦隊主任参謀 ファルン・ジャルラ少将
第12艦隊司令官 マリングス・ニヒトー少将 船団護衛艦隊指揮官
第22竜母艦隊司令官 ヘルクレンス少将 南大陸東艦隊隷下の機動部隊。
第24竜母艦隊司令官 リリスティ・モルクンレル中将 第22竜母艦隊よりも規模が大きい、ハルゼーと同じタイプ、皇帝とは15年以上前からの付き合い、
チョルモール艦長 ルエカ・ヘルクレンス少将 32歳。体つきはがっしりとしており顔は端整な顔立ちである。
レンベラード艦長 ロスグタ大佐 第3艦隊所属戦艦レンベラードの艦長
第34空中騎士軍司令官 ベルゲ・ネーデンク中将 カレアント公国ポリルオ基地に司令部を置いている。4月8日の空襲で司令部の幕僚ともに戦死
第49空中騎士隊隊長 ジャーバン大佐
第72空中騎士隊 レネーリ・ウェイグ中尉 シホールアンル軍エース、B-17を個人で2機、共同で4機撃破または損傷。
またB-25を1機。A-20を3機。P-38を2機撃破している
第3特殊軍 ルイクス・エルファルフ少将 シホ軍精鋭部隊
第17軍司令官 アルズワク・ルーカリア中将 上陸軍司令官
第5砲兵連隊 ムッル・ピルネ一等兵 第10歩兵師団所属第5砲兵連隊所属
第5補給中隊長 ラッヘル・リンヴ大尉 第152補給旅団第1補給大隊所属、第5補給中隊長
第2小隊長 ポイエンク・リルンカ中尉 第66特殊作戦旅団第2小隊長
船長 リィルガ中佐 高速輸送船のレゲイ号の船長
尋問師 チェイング・ チェイングの兄妹の兄、名前はまだ登場してない
尋問師 チェイング・セルエレ チェイングの兄妹の妹、尋問が趣味というサディスト、鍵の捜索班員でもある
元ヒーリレ公国 北大陸ではシホールアンルに次ぐ強国にであったが、シホールアンル帝國の脅迫外国にひれ伏した
210 :名無し三等陸士@F世界:2007/07/08(日) 14:59:27 ID:h0j7WCwE0
南大陸
南大陸連合軍(大陸の北側順)
シホールアンルの侵攻を受け絶体絶命。某合衆国を召喚して一発逆転を狙い、現在進行形
レンク皇国
ヴェリンス共和国
カレアント皇国
露天商 クグラ・ラックル ルーガレックから避難し、ロゼングラップの知人の家に逃げ延び露天商をやっている
ミスリアル王国 魔法に関しては世界一
第4皇女 ベレイス・ヒューリック ミスリアル王国の第4皇女。ダークエルフ。同時に特別諜報部の局長でもある、
グンリーラ島沖海戦の戦勝パーティーでスプルーアンスと踊ったひと。伝令の途中で討たれる。
第12連隊長 フルク・キルラン大佐 ミスリアル陸軍第37歩兵師団の第12連隊長
バルランド王国 現在シホールアンル軍の南大陸侵攻に対して派兵している。
首都 オールレイング
国王 アルマンツ・ヴォイゼ
国防軍総司令官 グーレリア・ファリンベ元帥
首都防衛軍副司令官 ウォージ・インゲルテント大将 陸軍大将でバルランド王国有数の名門貴族の当主。しかし、兵の受けは良くない
参謀副長 クー・アールンク少将
司令官 ベルージ・クリンド中将 グンリーラ島に残されている精鋭部隊司令官
主任参謀 クリンド中将 ↑の主席参謀。特徴のあるごつい顔から、闘魂のレンネルとあだ名されている
第112歩兵師団 エルッカ・ロークッド中尉 レルス大佐とシホールアンル侵攻時から共に戦って来ている。年齢は24歳
第27連隊長 リーレイ・レルス大佐 ↑の隷下である第112歩兵師団隷下の第27連隊長
折衝役 ガンク・ルンキ大尉 ヴィルフレイングに出向していたがグンリーラ島駐留部隊救出に出た米軍との折衝役
折衝役 リワン・フリック少佐 ↑と同じ
魔道士 ラウス・クレーゲル ベテラン魔術師。その腕はミスリアルの魔術研究者らも認めているほど、年齢は26歳
今はエンタープライズにいて、魔道参謀をしている
魔道士 リエル・フィーミル 明朗闊達な女性であり、ラウスと幼馴染みの魔道士である
魔道士 ヴェルプ・カーリアン ラウスの同僚、米国特使派遣団員
エルフ ルィール・スレンティ レイリーよりは明るい、冷静沈着であり、レイリーよりも早く仕事をこなす事も。原子力研究チーム
ダークエルフ レイリー・グリンゲル ミスリアルでトップクラスの魔道士、頭が切れ、運動神経抜群というパーフェクトマン、見た目は冷たい感じ
研究チームのムードメーカー的存在
グレンキア王国
首都 レルペレ
211 :名無し三等陸士@F世界:2007/07/08(日) 15:00:14 ID:h0j7WCwE0
レーフェイル大陸
マオンド共和国 レーフェイル大陸の覇者、シホールアンル帝國と同盟関係にある
首都 クリンジェ
国王 ブイーレ・インリク 48歳。痩せ型で、病弱そうな体つき。黒い髪は短く刈り上げられ、顔は理知的であり、
普通の人よりは数段頭がよさそうに見えた。
首相 ジュー・カング
大陸南艦隊司令長官 テレッグ・オンポロア大将
第97空中騎士軍司令官 ルポード・ウェギ中将 陸軍の第97空中騎士軍の司令官であるである
駆逐艦艦長 ルロンギ少佐
旧ヘルベスタン王国 十年前にマオンド共和国に占領され、今ではマオンド共和国の地方
領主 ジヘル公爵 エルケンラードの領主、良くある悪役領主、若い娘の精神壊すような変態
諜報員 クルッツ・ラエク 米国の送り込んだ諜報員、マオンド共和国の反体制派
その他
鍵 フェイレ この物語のキーパーソン?特殊な力を持っている。
6年前にこの力が暴走して村人200人が亡くなった
戦況
7月 1日。 空中騎士団がTF26を追撃。米軍空母1隻に戦艦1隻に爆弾を命中させた
8月16日。 ジェリンファへ向かうバルバラントの輸送船団が文字通り全滅
8月23日。 TF2と第24竜母機動艦隊が戦闘。米軍の艦艇、護衛空母2隻、輸送船2隻撃沈確実。戦艦1隻中破。1隻小破
8月25日。 TF17と第24竜母機動艦隊が戦闘。レキシントン空母1隻大破とヨークタウン級空母1隻中破。
米軍の攻撃隊が正規竜母クァーラル・ギルガメル大破、戦艦ケルグラスト中破。小型竜母リテレ大破。
9月10日。 船団護衛中のTF13がラエンガを敵と誤認、これを撃破
10月16日。シホールアンル軍がミスリアルに侵攻開始、同時に魔法通信妨害開始
10月19日。TF15・16・17がヴィルフレイングからバゼット半島沖へ向け出港
10月24日。上陸しようとするシホ軍と阻止しようとする米軍で大規模な海戦が発生。両軍の損失
沈没はシホ軍竜母4隻・戦艦3隻・巡洋艦5隻・駆逐艦18隻・輸送船152隻。米軍 空母・重巡各1隻・軽巡2隻・駆逐艦3隻・潜水艦2隻
大破はシホ軍竜母竜母2隻・小型竜母1隻・戦艦2隻・巡洋艦3隻・駆逐艦8隻。米軍空母・戦艦・重巡・軽巡各1隻・駆逐艦2隻
中破はシホ軍巡洋艦1隻・駆逐艦2隻。米軍空母・戦艦・重巡各2隻・軽巡・駆逐艦各1隻
小破は米軍空母・重巡各1隻
航空機(騎)シホ軍358騎。米軍208機
単位
距離
1ロレグ=15mm
1グレル=2m
1ゼルド=3km
速度
1リンル=2kt
1レリンク=2km
質量
1ラッグ=1.5t
No,3スレの711です。
亡くなった人は削除しました。
けど、この人死んだのにまだ残ってる。
ってのがあったら指摘お願い、次回に直します
236 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:30:51 ID:4CUjn9IY0
第51話 ヤンキーステーション
1482年(1942年)11月2日 午後3時 エバルク・コースク
「・・・・来た!シホールアンル軍だ!」
岩場の上から、上ずったような声が響いた。
その声を聞いた兵達が、配置場所から長弓を構えたり、愛用の長剣を鞘から抜く。
部隊付きの魔道士は、すぐに魔法が放てるように、敵が来る方向に向けて両手を差し出す。
彼らの布陣する岩場は、エバルク・コースクの東3ゼルドに位置する丘にある。
岩場の前面は、広い平野となっており、その平野の向こうにはシホールアンル軍が布陣している。
「これで、6回目だな。」
中佐の階級章を付けたダークエルフがうんざりしたような口調で呟く。
ミスリアル軍第19歩兵旅団に所属する第3連隊所属である、第3大隊長の隊長バルシスク・ランドアルク中佐は、
これまで6度も、シホールアンル軍の攻勢を撃退してきた。
彼ら第19歩兵旅団が布陣するエバルク・コースクは、魔法都市ラオルネンクより北西30ゼルド、
海岸線より150ゼルド離れた中小都市である。
昔から交通の要衝として栄えた町で、シホールアンル軍が侵攻してくる前までは、3万の住民が住んでいた。
今は第19歩兵旅団と、第21歩兵旅団の兵、合わせて1万がいるのみである。
本来なら、ミスリアル軍の人員は師団で12300人、旅団で7100人である。
この町には元々、2個旅団合計14200人の兵員が配置されていた。
だが、相次ぐ敵の攻勢によって、2個旅団合わせて10000程度にまで討ち減らされているのだ。
対する敵軍は、未だに30000以上の兵がこのエバルク・コースクに向けられている。
シホールアンル軍は、大半の兵をラオルネンク攻略に差し向けてはいるが、一部の軍にはこうして、
エバルク・コースクのような中小都市を攻略させていた。
237 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:33:38 ID:4CUjn9IY0
このエバルク・コースクが落ちれば、ラオルネンクの西側を守る第5軍が側面を敵にさらしまう。
現在、ミスリアル軍全軍は、組織的後退に成功した後、残存軍を持ってラオルネンク以西の防衛に当たっている。
未だに魔法通信が使えぬ中、ミスリアル軍各部隊は伝令等を使ってかろうじて連携をとり、シホールアンル軍の力押しに耐えている。
「せめて、魔法通信が使えれば、敵の最初の攻勢であんな無様な敗退を喫す事など無かったのだが・・・・
まあいい。南大陸諸国や、アメリカから救援部隊が来るまで、我々は耐え抜くまでだ。」
ランドアルク中佐は、改めて決心した。
魔法通信が使えぬから、彼らは10月24日に起きた大海戦の顛末を知らない。
敵の力押しにいつまで耐えられるか分からない。今日は耐えても、明日には壊滅するかもしれない。
あるいは、今日の攻勢にも耐え切れずに、部隊は全滅するかもしれない。
(俺達の防衛戦が破られるなら、せめて、敵兵の多くを道連れにして死んでやる!)
彼が悲壮な決意で、敵の来襲を待っていた時、ついに敵の先頭が姿を現した。
敵の先頭集団は、やはりゴーレムとキメラ、歩兵の合同部隊だ。
「野砲、撃て!」
生き残った4門の野砲が一斉に撃ち出される。彼らの布陣する岩場から、敵の居る平野までは
距離からして1000メートル程度。
ミスリアル軍の野砲の射程距離は4000メートル程度だから、充分に届く。
先頭を走っていたキメラの前面で砲弾が爆発し、大量の土や破片を浴びたそのキメラが、首を粉砕されて息絶えた。
第2射のうちの1弾がゴーレムにぶち当たり、太くて固そうな右腕が吹き飛ばされる。
敵との距離が更に縮まると、待ち構えていた魔道士が一斉に攻勢魔法を放った。
火の玉のようなものが地面に当たるや、周囲8メートル四方が一気に火に包まれ、随伴していた歩兵達が、
悲鳴を上げて転げまわった。
雷系の攻勢魔法を食らったキメラが一瞬、ビクンと痙攣するや、次の瞬間には膨張し、爆発して
グロテスクな光景を現出させる。
238 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:36:31 ID:4CUjn9IY0
だが、シホールアンル軍も黙っては居ない。
いきなり、敵軍の後方から砲声が聞こえたと思うと、大量の野砲弾が岩場に落下してきた。
「敵の砲弾が来るぞ!伏せろ!!」
誰かが叫んで、何人かが岩場や掘った穴に隠れた時、野砲弾が地面に落下、炸裂した。
ひとしきり敵の支援砲火を浴びせられた後、一度前進をストップさせていた先頭集団が再び突撃し始めた。
最初のキメラが、岩場に踊り込んで来た。
そのキメラのすぐ近くにいた魔道士が、攻勢魔法を用いて仕留めようとするが、呪文詠唱に入る前に、キメラによって八つ裂きにされる。
暴れ込んだストーンゴーレムが、ミスリアル兵を隠れた岩ごと叩き潰し、又は穴を踏み潰してから陣地の奥へ、奥へと進んで行く。
ゴーレム、キメラに別の魔道士から攻勢魔法が放たれて、みるみるうちにゴーレム、キメラが討ち減らされていくが、
その間に仕留められるミスリアル兵も少なくない。
ゴーレム、キメラが半分弱に減った後には、すぐに敵の歩兵が暴れ込んで来た。
死闘が陣地の中や外で繰り広げられた。互いに体を叩き付け、剣で切り合いながらも、第3大隊は敵の先頭集団を押し返し、退却させた。
だが、第3大隊が受けた被害は、甚大であった。
「大隊長!」
エルフの女性下士官が、泣かんばかりの表情でランドアルク中佐に報告して来た。
その女性下士官は、右腕から血を滴らせていて、見るからに痛々しい。
傷口を押さえることすらしない事から、恐らく興奮と緊張で痛みを感じる事が出来ないのであろう。
「敵部隊に大損害を与えて撃退しました。しかし・・・・・しかし・・・・・」
口ごもる下士官に対して、ランドアルク中佐は穏やかな口調で言う。
239 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:38:02 ID:4CUjn9IY0
「なんだ?言ってみろ。そうでないと俺も分からないよ。」
「は・・・はい。我が中隊は、士官が全て戦死しました。今、中隊の残余は定数の3割で、私が指揮を取っています。」
「3割・・・・か。凄まじい物だが、全滅するよりはまだいい。分かった。引き続き敵の襲撃に備えてくれ。
苦しいだろうが、救援が来るまでの辛抱だ。持ち場に戻れ。」
彼はそう言って、下士官を戻らせようとしたが、下士官は不満気な表情を見せながら、彼の天幕から出て行った。
その後、他の中隊からも続々と被害報告が寄せられた。
この事から、第3大隊の戦力は、定数の4割にまで落ち込んでいる事が分かった。
「敵の第2集団!接近しつつあり!上空には20騎のワイバーンがいます!」
休む暇も無く、敵の新たな突撃部隊が迫りつつある。既に野砲は無く、兵は半死半生の者がほとんど。
(それでも、俺達は戦う。長い間、蔑まれてきたエルフ族がやっと持てた国なんだ。この国を、北大陸の
野蛮人共に取られて溜まるか!)
部隊が半分以下になろうとも、ランドアルク中佐は、いや、大隊の将兵のみならず、今他の戦線で戦っている
ミスリアル兵達は、誰もがそう思いながら、勇敢に戦い続けていた。
その悲壮な思いも、新たな報告によってたちまち消え去った。
「大隊長!北西方向より飛空挺の大編隊です!」
「飛空挺、だと?」
いきなりの報告に、ランドアルク中佐は怪訝な表情を浮かべた。
「そうです。飛空挺です!聞いてください、この音を!」
彼は副官が言うままに、聞き耳を立てた。
240 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:40:22 ID:4CUjn9IY0
すると、確かに何かの音が聞こえて来る。音がする方向に目を向けると、そこには飛空挺の群れが、北西の空を飛んでいた。
飛空挺の集団は、轟々たる発動機の音を響かせながら、彼らが守る岩場の上空を飛び越えて行く。
飛空挺の胴体には、どれもこれも、誇らしげに青地の上に白い星が描かれている。
「アメリカ軍だ!騎兵隊がやって来たぞ!」
副官が、熱に浮かされたような口調で叫んでいた。
「騎兵隊、だと?」
「そうです。騎兵隊ですよ!自分は6月から9月までヴィルフレイングに行った事がありまして、
その時に出来たアメリカ人の知り合いに色々教えてもらったんです。」
「そうなのか・・・・・・なるほど。」
中佐は感心した表情を浮かべた。
アメリカ軍機の編隊は、そのうちの一部が急に増速し、今しも接近しつつある敵地上軍の上空にいるワイバーンに突進していく。
いきなりのアメリカ軍機出現に泡を食ったのか、ワイバーンの集団は慌てて散開しながら、アメリカ軍機に応戦する。
ワイバーンはしきりに格闘戦を仕掛けようとするが、アメリカ軍機はそれに乗ってこない。
急降下から、水平飛行に移った1機のアメリカ軍機にワイバーンが取り付くが、その背後から別のアメリカ軍機が迫り、機銃弾を撃つ。
ワイバーンは逃げる間もなく機銃弾に絡め取られて、地上に墜落していく。
良く見てみると、アメリカ軍機は常に、離れた位置にペアの1機を配置し、互いに蛇行しながらワイバーンが間に飛び込んで来るのを待っている。
この戦法の意味を知らぬワイバーンは、アメリカ軍機の後方に付くや、すぐさま後続機に討ち取られて散華するものがあちこちで見られる。
「なるほど、2機1組でワイバーン1騎にあたるか。合理的な戦法だ。」
ランドアルク中佐は、初めて見るサッチウィーブに思わず感心していた。
今まで、敵のワイバーンには好き放題やられてきた彼らだが、その憎きワイバーンがいいようにあしらわれている様を見ると、
それまで鬱屈していた気分は一気に吹き飛んだ。
241 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:42:48 ID:4CUjn9IY0
「大隊長!敵部隊が前進を止めました!」
「何、本当か!?」
ランドアルク中佐は、側に置いてあった望遠鏡を手に取り、それで敵第2集団を見てみた。
先頭に立つゴーレムやキメラが、魔道士の指示に従っているのか、行き足を徐々に鈍らせている。
中には、慌てて引き返しつつある部隊も見えた。
だが、アメリカ軍機が見えた今、シホールアンル側の判断は遅すぎた。
ずんぐりとした飛空挺が40機ほど、無防備に姿を晒す敵第2集団の上空に達した時、胴体から爆弾を投下した。
この時、アベンジャー隊は腹に2発ずつの500ポンド爆弾を抱えており、1300メートルほどの高度で
敵地上部隊の上空に達するや、一斉に爆弾をばら撒いた。
少しの間を置いて、敵軍の集団の中に次々と爆発が起こった。
500ポンド爆弾の炸裂によって、頑丈なゴーレムやキメラが粉砕され、後ろに詰めていた騎馬部隊や歩兵部隊が
ひとしなみに爆風に薙ぎ倒された。
アベンジャー隊は敵歩兵部隊を狙ったが、随行していたドーントレス隊46機は、ミスリアル軍の前線より7キロ離れた
平野に布陣する砲兵部隊を狙った。
流石に砲兵部隊も以前のように丸腰ではなく、配置された地上部隊用の魔道銃や高射砲を打ち上げる。
だが、ドーントレス隊を食い止めるには力不足であった。
ドーントレス隊が目標を見定めると、高度4000から釣瓶落としに急降下し始めた。
ハニカムフラップから発せられる甲高い轟音が大地を圧し、砲兵部隊の将兵が耳を押さえながら、大砲の周囲から逃げ始めた。
30門あった各種野砲に1000ポンド爆弾が落下し、野砲を1つ、また1つと叩き潰していく。
火柱が上がり、破片が飛び散り、負傷した兵が泣き叫びながらのたうち回る。
F4Fのみならず、ドーントレスやアベンジャーは爆撃が終わるや、地上スレスレに降りて傍若無人な機銃掃射を
入れ替わり立ち代わり繰り返した。
ワイバーンを蹴散らされたシホールアンル側は攻撃終了まで30分の間、アメリカ艦載機に蹂躙し尽くされ、第2集団は戦力の3割を
戦わずして失い、ミスリアル軍陣地の突入を断念し、後方に布陣していた砲兵隊は、急行下爆撃によって壊滅してしまった。
「来てくれた・・・・・救援が来てくれたぞ!」
空襲が終わった後、逃げ帰るシホールアンル軍を見て誰かがそう言ったとき、第3大隊の将兵達は大地に響かんばかりの歓声を上げた。
242 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:50:30 ID:4CUjn9IY0
この日、バゼット半島の北海岸沿岸部に陣取ったアメリカ機動部隊は、ようやくミスリアル地上軍の支援攻撃を始めた。
最初の第1撃は、ミスリアル側と事前に協議を重ねた結果、一番苦戦しているといわれているエバルク・コースクに
向けられ、これには前線に留まっているヨークタウン、エンタープライズ、ワスプの3空母から述べ240機が参加し、
エバルク・コースク攻撃を担当していたシホールアンル第74軍に大打撃を与えた。
4日には、急遽、ヴィルフレイングから出発した後発部隊の第1、第2海兵師団がミスリアル王国南西部のバジャウルンガに
上陸し、飛行場の建設を開始した。
又、同日には第3航空軍が、稼動全機を持って、シホールアンル側の占領地であるカレアント、ミスリアル国境を絨毯爆撃した。
第3航空軍は、妨害魔法が発せられている場所に向かう際、南大陸軍側から大量に魔道士を借り受け、共に爆撃機に乗せてから
妨害魔法が起動している位置を捜索した。
妨害魔法は、効用範囲内では起動している場所すら分からなかったが、効用範囲外ではあっさりと位置を突き止められた。
爆撃は3日に渡って続けられ、妨害魔法の効用範囲はミスリアル王国の北西部の一部から北東部全体に限定され、実に3分の1の
地域が魔法通信を使えるようになった。
8日には飛行場が完成し、同日午後には第1海兵航空団、第3航空軍所属の戦闘機、爆撃機合わせて130機が到着し、同日3時には
海兵隊航空隊所属のF4Uコルセア4機とF4F18機、SBD、TBF各12機に陸軍航空隊のA−20ハボック12機が出動し、
苦戦するミスリアル軍に対して航空支援を行った。
この戦闘で、初陣となったコルセアは1機の喪失も無く、逆にワイバーン2機を撃墜し、2機を傷つける戦果をあげた。
10日からは第1、第2海兵師団が前線に現れ、南部一帯に潜む敵特殊部隊をあぶり出しにかかった。
後方撹乱を主任務とする精鋭部隊も、武器の優劣にはかなわず、立ち向かえば無数の銃弾や火砲で歓迎される始末であり、
11日には海兵隊の進撃を阻む物は正規軍のみとなった。
12日までには、圧倒的な火力と物量によって南部のシホールアンル軍は40キロも押し返され、北部分を攻め入るシホールアンル軍8万は
エバルク・コースク、ブレガーンド湾の攻略を諦め、南部軍と合わせる様に後退を始めた。
ミスリアル侵攻を行って1ヶ月足らずで、一時はラオルネンクを占領寸前にまで追い詰めたシホールアンル軍は今や勢いを失い、
体勢を立て直したミスリアル軍やアメリカ軍に徐々に押されていった。
243 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:54:41 ID:4CUjn9IY0
11月14日 午前8時 ブレガーンド沖北西110マイル
「司令官、来ました。サラトガとレキシントンです。」
第16任務部隊司令官であるウィリアム・ハルゼー中将は、ブローニング参謀長が指差す方向に顔を向けた。
「おお、ついにお出ましか。待ってたぜ!」
ハルゼーは、2隻の空母の姿を見るなり、満面の笑みを浮かべながら言った。
「レディ・レックスとシスター・サラさえ来れば、ミスリアルに張り付くシホット共をより早い時間で
追い出すことが出来るぞ!」
「敵さんも、ラオルネンク攻略を諦めて後退戦に移っていますからな。大勢は決したも同然です。」
「俺達、アメリカがいる限り、シホット共には思い通りにはさせんさ。今頃、敵機動部隊の指揮官は
歯噛みして悔しがっているだろうな。」
と、ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべる。
第16任務部隊は、他の2個任務部隊と共にバゼット半島の北海岸沖を遊弋しながら、ミスリアル軍の航空支援を行って来た。
航空支援を開始する前は、10月24日の第2時バゼット半島沖海戦で受けた傷を癒したり、損傷の大きい艦を後方に下げたり、
船団攻撃で捕虜にした12000の敵兵を、第2任務部隊が護衛しつつ、随行させてきた輸送船に乗せて、後方に送ったり等、
海戦の後始末に追われていた。
ちなみに、ノーベンエル岬沖の戦いの後に行われた、敵の捕虜救出作業は思いのほか難航を極めた。
救出作業には、船団攻撃に参加した艦すべてが当たり、大破し、沈没しつつある輸送船から脱出した物や、船から投げ出された
敵兵を片っ端から救出した。
救助作業中に力尽きて沈んでいく兵や、大破、炎上した船に取り残されたまま息絶える兵が続出し、現場海域は地獄さながらであった。
本来であれば、このような救出作業は行わぬ予定だったのだが、第5戦艦戦隊司令のリー少将の判断で救助活動が行われた。
244 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:56:42 ID:4CUjn9IY0
最初、救助に当たった際は、逆上した敵兵から抵抗を受けたが、抵抗を受けた場合には容赦なく排除した。
これを見て敵はショックに陥ったのか、予想された混乱は最初のみであり、後はスムーズに救助活動が進んだ。
救助するなり、手を差しのべたアメリカ兵を睨みつけるシホールアンル兵は多かったが、船団壊滅のショックや、
疲労困憊したシホールアンル兵に抵抗する気力は無かった。
こうして、思いのほか従順になったシホールアンル兵のお陰で、救助作業は順調に進み、各艦艇の甲板上には、
合計で14000名のシホールアンル兵が収容され、後に2000名が、25日の午後やって来た輸送船に
移される前に戦傷死した。
リー少将のこの行為は、当初は敵に対する過剰な甘えであると、激しく非難された。
だが、後に敵味方から立派な行為として賞賛を浮ける事になるが、それは戦後の話である。
11月4日から、本格的に航空支援を開始したTF16を初めとする米機動部隊は、エバルク・コースクから
ブレガーンド湾沖を常に遊弋している。
今では、エバルク・コースク、ブレガーンド湾周辺の海域は、ヤンキーステーションと呼ばれ(この名前をつけたのは、
第2任務部隊司令官のアイザック・キッド少将である)、この海域からアメリカ艦載機は、ミスリアル軍の航空支援を続けている。
そのヤンキーステーションに、開戦以来の戦友であるサラトガとレキシントンが加わったのである。
新たに加わるのは、サラトガ、レキシントンの他に、新鋭軽巡のコロンビアと駆逐艦6隻である。
予定では、サラトガは第16任務部隊に、レキシントンは第17任務部隊に配備され、これまで通り航空支援を行う。
航空機の総数は412機までに回復し、敵地上軍に対してより強力な打撃力となるであろう。
「ハルゼー提督。」
唐突に、後ろから声がかかった。やや気だるげな声の主は、当然ラウスであった。
「おう、ラウス君。相変わらず、さっぱりとした顔つきをしとるな!」
ハルゼーはそう言いながら、ラウスの左肩を叩いた。
245 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 11:59:07 ID:4CUjn9IY0
ラウスの顔は、普通のさっぱりとした顔つきとはどこか違う物であるが、ハルゼーやTF16の幕僚達はもはや
気にしていなかった。
「はは、ども。そういえば、ハルゼー提督は、先の海戦で戦った敵竜母部隊の指揮官はどう評価されますか?」
「どう評価されるかだと?それはもう分かってるぜ。大胆かつ、勝負に強い、おまけに判断力に優れている。
過去の海戦で、敵さんはいずれも俺達をあっと驚かせるような戦法を取り入れてきた。確かに俺達は勝ったが、
こっちも参加空母全てを傷物にされた。この事からして、俺は敵将を、ある意味で尊敬に値する男だと思っている。
あの野郎が生き残っていれば、また戦いたいものだ。」
ハルゼーは感慨深げな表情で言った。
あの海戦が終わった後、ハルゼーは敵将を出来る奴と思い、ある意味で尊敬していた。
「そうですか。あっ、これあげます。」
ラウスは、持っていた紙をハルゼーに渡す。
「ん?何だねこれは?」
彼はそう言いながら、紙を見てみると、そこには絵が描いてあった。
絵は女の絵である。顔立ちは流麗で髪は紫色の長髪、目つきはどことなく鋭いが、やや少女のような
面影も滲ませている。誰に尋ねても、この女性は美人であると言うだろう。
全体的に、頭の切れそうな顔つきでもあり、見る人が見れば、その視線に釘付けになるだろう。
「ラウス君。俺は女の子の絵は欲しくないのだが。」
ハルゼーは怪訝な表情でラウスを見つめる。ラウスは苦笑しながら、絵を指で突付いた。
246 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 12:01:54 ID:4CUjn9IY0
「あなたがまた戦いたいと言った敵将が、この女の子ですよ。」
「ハッハッハ!ラウス君、アイスクリームでも食い過ぎたかね?」
ハルゼーは冗談だと思って、笑い飛ばした。だが、ラウスは言葉を続ける。
「この人はリリスティ・モルクンレル。年齢は30歳。シホールアンル海軍所属の海軍中将で、
第24竜母機動艦隊、アメリカ海軍でいれば、TF16や17に相当する機動部隊を率いていました。
昨日送られて来た魔法通信に、彼女の似顔絵が混じっていたので、そえを克明にスケッチしたのが、
これですよ。」
「まだ冗談を言うのか!困った物だ・・・・・・・・・・・・何!?」
途端、ハルゼーの表情が変わり、絵をまじまじと見つめる。
「ラウス君は、今までに嘘を言った事は無いからな。だとすると・・・・・・司令官。我々は
女性と戦っていた事になりますな。」
「・・・・・こんな小娘が、俺達と機動部隊決戦をやったのか。30歳とは、俺からしたら
子供のようなもんじゃないか!」
ハルゼーは顔を真っ赤にして叫んだ。
「信じ難いとは思うようですが、事実っすよ。彼女、シホールアンル国内では有名で、シホールアンル帝国内の
名門貴族の令嬢でもあります。昔から軍事の才に長けているようで、よく士官学校の教官連中を驚かせていた、
という噂があります。真実かどうかは分からないっすけどね。」
ラウスののんびりとした口調に、ハルゼーは危うく激発しかけたが、寸出のとこで抑える。
247 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 12:05:48 ID:4CUjn9IY0
「そうか。こんな小娘が・・・・いや。まだ若いからこそ、頭が柔軟で、より効果的な作戦を考えられるのかも知れんな。
確かに、出来る奴のいい見本だな。このような若い司令官がシホット共には何人もいるのだろう?」
「ええ。表に出ていない奴も含めれば、かなりの数になるかと。」
ラウスの言葉に、ハルゼーのみならず、TF16のスタッフ全員が震え上がる。
リリスティのような英傑が、種類を違えど、まだまだ居るというのだ。
確かに、合衆国軍は強いが、敵も強い。
その強さの秘訣は、リリスティのような優秀な司令官がいるからであろう。
「開戦直後に、早々と敵国本土に侵攻しようとか発言した輩が、本国に何人もいたそうだ。うちのシャープエッジが
防御、防御攻勢、攻勢防御、攻勢の4段階案を発表してからはそんな妄言を吐く奴は居なくなったが・・・・・・
さっさと攻め込んでいたら、今頃は危なかっただろう。」
「同感です。下手をすれば、主力艦をあたらに喪失し、新鋭艦が配備されても、満足な作戦行動が出来ぬ可能性も出たでしょうな。」
「事前に、敵の戦力を少しずつ減殺していく形で、今に至ったからな。結果的にいい方向に行っていると思う。それに、
来年の6月までには正規空母3隻と軽空母2隻が配備される。こいつらが加われば、敵の少し後方にも空襲をかけられるだろう。」
太平洋艦隊は、来年の6月までには、エセックス級空母のネームシップであるエセックスとボノム・リシャール、イントレピッド。
それに軽空母のインディペンデンスとプリンストンを受領する事になっている。
これらが加われば、太平洋艦隊は正規空母8隻、軽空母2隻を保有する事になる。
正規空母のうち、ワスプが空母戦力が拡充した後は大西洋艦隊の所属に戻る事になっているが、それでも、大小9隻の
空母を保有する事になり、太平洋艦隊司令部では来年6月に、空母3隻ずつ主体の機動部隊を3個編成する方針だ。
「先の話はこれぐらいにして、今はミスリアル領からシホット共を叩き出す事が先決だ。
参謀長、今日の第1次攻撃隊は何時に出れそうかね?」
「8時30分までには発艦を開始します。第1次攻撃隊はTF17のヨークタウンと合同で行います。」
248 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/13(金) 12:08:04 ID:4CUjn9IY0
「よろしい。1日でも早く、ミスリアルの戦友達を安心させたいものだな。」
ハルゼー中将は頷きながら言うと、いつものように張り出し通路に出て、飛行甲板上で発艦準備中の艦載機群を眺めた。
ヤンキーステーションから発艦した艦載機は、11月4日から、シホールアンル軍がミスリアル領から完全撤退する
12月中旬まで述べ2000機に及び、その間、機動部隊は機体の補充を受けながらも、ミスリアル軍の上空を守り続けた。
ミスリアル軍の将兵達は、アメリカ軍機が支援に来る度に、口々に騎兵隊が来たと言って常に歓迎していたと言う。
258 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:22:04 ID:4CUjn9IY0
第52話 シホールアンル皇帝の憂鬱
1482年(1942年)11月17日 午前9時 ミスリアル王国 レルジェンディア
その日、第16空中騎士隊に所属する68騎のワイバーンは、レルジェンディアの森林地帯に布陣する
ミスリアル軍を攻撃するため、ルルラミルスの急造基地から飛び立った
このワイバーン部隊を指揮する飛行隊長であるヌバレク・ラジェング少佐は、出撃時から不安を抱いていた。
「隊長。どうかされましたか?顔色が悪いですが。」
ふと、魔法通信が飛び込んできた。
「なんだ、ヴェレンジ大尉。俺はどこも具悪くないが?」
「いえ。隊長がそうであるなら自分も安心です。何しろ、隊長は78騎撃墜のエースですからね。」
ヴェレンジ大尉は、誇らしげな口調でそう言った。
ラジェング少佐は、北大陸統一戦争の時からワイバーンに乗っており、これまでに78騎のワイバーンを
撃墜してきたエースである。
この頼りになるベテランに誰しも憧れ、第16空中騎士隊の顔役と言われる存在になっている。
その第16空中騎士隊が、15日にミスリアル王国北東部のルルラミルスの急造基地に急遽派遣された。
ルルラミルスには、第16空中騎士隊の他にも2個空中騎士隊が配属されていたが、ここ一連の航空戦で消耗したため、
第16空中騎士隊が代わりに送られて来たのだ。
その第16空中騎士隊の初陣が、ラオルネンクの南東側のレルジェンディア空襲である。
「なあ、ヴェレンジ。あいつは出てくると思うか?」
「あいつ?ああ、湾曲の凶鳥ですか。」
ヴェレンジ大尉は、どこか震えるような口調で、とあるアメリカ軍機の渾名を呼んだ。
259 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:24:32 ID:4CUjn9IY0
「それは分かりません。どこの戦場にも必ず現れる、という訳では無いですけど、可能性はあるでしょうね。」
「ワイルドキャットやウォーホーク、それにエアコブラなら、一応自信はあるが・・・・ライトニングや、
コルセアが出てきたらちとやばいかもしれん。」
ラジェング少佐が不安げな口調で呼ぶ湾曲の凶鳥。
最近登場した、アメリカ軍戦闘機の新鋭機であるF4Uコルセアは、その特徴である逆ガル姿や、翼の付け根から
発するおぞましい音から、シホールアンル竜騎士達からその湾曲の凶鳥という渾名で呼ばれている。
F4Uコルセアが、最初に姿を現したのは11月8日で、当時、ミスリアル軍の地上攻撃を行っていた戦闘ワイバーンに突如、
見慣れぬ戦闘機が猛速で襲撃して来た。
今までのアメリカ軍機の中で、極端に折れ曲がった翼を持つアメリカ軍機は、あっという間に2騎のワイバーンを撃墜し、
2騎に傷を負わせた。
すぐさま別のワイバーンが追撃をかけたが、そのアメリカ軍機はあっという間にワイバーン群を引き離して、
どこぞに消え去って行った。
この日、姿を現したのは、海兵隊航空隊のF4Uコルセア4機であり、彼らは地上攻撃の後にミスリアル軍を攻撃する
ワイバーンを見つけるや、650キロ以上の猛速で突進し、敵ワイバーン2騎撃墜した後、これまた猛スピードで戦場を離脱した。
この日以来、コルセアの姿は各所で散見され、コルセアの行く所、ワイバーンの喪失は増えていた。
「あいつに出会ったら、骨が折れそうですな。」
「それに、名前と姿が妙に一致している。ああまでもピッタリな敵は初めて見るよ。」
雑談を交わす間にも、時間は過ぎて行き、気が付いた時には攻撃目標が見え始めていた。
「レルジェンディアです!」
ヴェレンジ大尉がラジェング少佐に言う。
260 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:25:36 ID:4CUjn9IY0
「見えた。畜生、上空に何か居やがるな。」
良く見てみると、目標の上空には、小さな粒が幾つも飛んでいる。
上空には、いつの間にか飛空挺特有の爆音が鳴り響いている。
「ようし、これより攻撃に移る。攻撃ワイバーンは敵戦闘機に注意しながら敵地上部隊を攻撃。
戦闘隊は第5中隊までは俺に続け、残りは攻撃ワイバーンの援護に付け!」
「「了解!」」
飛行隊長の指示の下、全てのワイバーンが機敏な動きでそれぞれの目標に向かって行く。
ラジェング少佐を始めとする20騎の戦闘ワイバーンは、目の前のアメリカ軍機に向かって行く。
目の前のアメリカ軍機は10機程度と、こちらより数は少ない。
姿は、開戦以来馴染みとなっているワイルドキャットだ。
(ワイルドキャットなら、互角に戦いを進められるだろう)
彼はそう思ったが、しかし、戦いに入る前の注意は怠らない。
「常に四方に気を配れ!アメリカ野朗はどこからでも襲って来るぞ!」
ラジェング少佐が、魔法通信で部下達に注意を促しながら、自らも周囲を確認する。
右上方の雲を見、それから下を見ようとした時、視界の端で何かが浮き上がったような気がした。
すかさず、視線を右上方の雲に向けた時、いきなり8機のアメリカ軍機が急降下で襲ってきた。
「右上方にアメリカ軍機!散開しろ!!」
彼の命令を受け取った各ワイバーンが、命令が聞こえるなりパッと四方に散らばった。
グオオオーン!という発動機の唸りを上げながら、急降下してきたアメリカ軍機は機銃を乱射する。
261 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:28:03 ID:4CUjn9IY0
素早く散らばったワイバーン群には1騎も命中せず、ただ空を切るのみに終わった。
アメリカ軍機が下方に猛速で飛びぬけていく。
ラジェング少佐はその姿を見た時、一瞬背筋が凍り付いた。
極度に湾曲した主翼にワイルドキャットよりも大きく、細い印象を受けながらも、その姿が湾曲した主翼と
見事に合っており、敵ながらも思わず見とれてしまいそうになる。
その優美な敵新鋭機は、紛れも無いコルセアであった。
「敵はコルセアだ!単純運動しか出来ん野郎だが、速度は速い!気付かれんうちに突っ込まれるな!」
ラジェング少佐は魔法通信でそう伝えながら、別のコルセアの銃撃を巧みに避けた。
コルセアが飛びぬけたすぐ後に、ラジェング少佐は最後尾の敵機に取り付く。
しかし、光弾を放つまでも無く、コルセアはぐんぐん下方に離れていく。
「くそ、追い付けん!!」
ラジェング少佐は悔しがった。
彼の乗るワイバーンは、最大速度が255レリンクまでしか出ないが、ワイルドキャットではほぼ互角に戦える。
ウォーホークやエアコブラ相手でも、戦術次第では勝ち得る。
だが、目の前のコルセアには勝ち目が無い。
コレセアは、控え目に見ても300レリンク以上のスピードであっという間にワイバーンを抜き去った。
そしてコルセアは、その猛速を生かしたまま攻撃ワイバーンに襲い掛かろうとしている。
「危ない!攻撃隊、後ろ上方にコルセアが迫っているぞ!」
ラジェング少佐の魔法通信が届いたのだろう、慌てて護衛に付いていた戦闘ワイバーンがくるりと向きを変えてコルセアと対峙する。
14騎のワイバーンが、8機のコルセアに光弾を放つが、コルセアも、両翼を真っ赤に染めて機銃弾をぶっ放した。
262 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:29:27 ID:4CUjn9IY0
2機のコルセアが、胴体や主翼に光弾を受ける。だが、落ちない。
頑丈な事で定評のあるアメリカ軍機の特徴は、このコルセアにもしっかりと受け継がれていた。
逆に、3騎のワイバーンが機銃弾に絡め取られた。
そのうちの2騎が仰け反ったように停止し、次の瞬間には森に向けて真っ逆さまに墜落していった。
戦闘ワイバーンとコルセアの正面戦闘はこれだけで終わり、あっという間にすれ違った。
反転したワイバーンが、がむしゃらに光弾を放つが、コルセアにはかすりもしない。
300レリンク以上の猛速で攻撃ワイバーンに迫ったコルセアが、遠慮介錯なく機銃弾を放ち、下方に
飛びぬけた後には実に5騎の攻撃ワイバーンが墜落し始めた。
8機のコルセアは一気に低空まで駆け下りると、再び上昇して、今度は攻撃ワイバーン隊の下方から迫って来た。
その間には、他のワイルドキャットと戦闘ワイバーンの空中戦も始まっており、辺りは乱戦の巷と化している。
「させるか!」
ラジェング少佐は怒りの形相でそう喚くと、攻撃ワイバーンとコルセアの間に入る形で急降下した。
彼の後ろに、他の護衛役のワイバーンが付いてきた。
コルセアの特徴的な機影が、あっという間に迫って来る。
「放て!」
彼は相棒に命じ、口から光弾を吐き出した。狙いは先頭のコルセアだったが、これは敵機の右横を空しく通り過ぎる。
コルセアもまた両翼を発射光に染める。ラジェング少佐の両脇を、6条の火箭が飛び抜けた。
その次の瞬間、コルセアが轟音を立てながら1機、2機と通り過ぎていく。
「早過ぎてまともに狙いがつけられん!」
ラジェング少佐は、コルセアのスピードに戸惑いながらも、後続機に向けて当てずっぽうに光弾を放つ。
263 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:31:51 ID:4CUjn9IY0
当然、残りのコルセアに光弾は当たらず、コルセアの12.7ミリ弾も、機敏な動きを行うラジェング騎を捉えられない。
7番機に放った光弾も、これまで同様外れるとラジェング少佐は思った。
だが、偶然にも、コルセアは機首から光弾の弾幕に突っ込んでしまった。
数発の光弾が、防弾装備の施されていない3枚の長いプロペラを根元から吹き飛ばした。
エンジン内部に突き刺さった光弾が、内部のシリンダーを引き千切り、気筒をいくつも叩き壊す。
いくつかの光弾がコルセアの機首に命中した直後、そのコルセアは通り過ぎ間際に機首から白煙を噴出していた。
8番機が轟音を上げながら通り過ぎた時、ラジェング少佐は気になって後ろを振り返る。
彼と、護衛のワイバーンと打ち合ったコルセアは、攻撃ワイバーンの下方から突っ込んで、新たに4騎の
攻撃ワイバーンが撃墜されるが、コルセアの数が1機減っていた。
「もしや・・・・」
彼は、ある期待を込めて何かを探した。
その何かはすぐに見つかった。
1機のコルセアが、機首から煙を吹き出しながら、真っ逆さまになって墜落していく。
コルセアが森の海に消えた後、そこの位置から黒煙が噴出し、離れた場所にはコルセアの御者らしい敵兵が、
落下傘で降下しつつあった。
「やったぞ・・・・・コルセアを叩き落してやった!」
ラジェング少佐は、一瞬舞い上がりそうな気分になったが、その気分もすぐに冷めた。
「隊長!敵の新手が西から向かって来ます!数は40機以上!」
彼は、その言葉を聞いて西の上空を見てみる。
264 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:34:21 ID:4CUjn9IY0
西の方角に、確かにアメリカ軍機と思しき編隊が迫りつつある。数は少なくとも40ほどはいる。
「こちら攻撃ワイバーン隊指揮官騎です。敵戦闘機の攻撃が激しすぎます!ここは一度撤退しましょう!」
「撤退だと?何騎やられた!?」
「既に11騎を叩き落されました!あっ、また向かって来る!」
攻撃ワイバーン隊に、コルセア群は執拗に攻撃を仕掛けていた。護衛の戦闘ワイバーンも、コルセアのスピードに付いていけない。
「全騎へ!ここはひとまず退却だ!全滅する前に戦場を離脱するぞ!」
ラジェング少佐は、内心を屈辱的な思いに苛まれながら、ついに撤退する事を決めた。
30分後、戦場を離脱したワイバーン達は、再び集結してから基地に戻りつつあった。
ラジェング少佐は、編隊の先頭に立ちながら、後続する味方騎を何度も振り返ってはその数の少なさに愕然とした。
「戦果はコルセア1機、ワイルドキャット5機。被害が戦闘ワイバーン7騎に、攻撃ワイバーン14騎か・・・・・
こりゃ、どう見ても俺達の負けだな。」
ラジェング少佐は、悔しげに呟いた。
今日初めてコルセアと対峙し、初めて撃墜したが、それはまぐれ当たりで得たものであり、真の戦果とは言い難い。
6機を撃墜し、21騎を喪失。誰の目から見ても、彼らの負けだった。
「隊長、そんなに気を落とさないで下さい。」
ふと、聞きなれた声が頭の中に響いた。
265 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:36:22 ID:4CUjn9IY0
「ヴェレンジ大尉か。」
「ええ、そうです。隊長、戦場と言うものには、敗北という要素はつき物です。しかし、自分達は一方的にやられた
だけではありませんよ。あのグラマンを5機落としましたし、何よりも、隊長がコルセアを落とした事はいい事ですよ。」
ヴェレンジ大尉は、どこか諭すような口調で言って来る。
その口調に、意気消沈していたラジェング少佐の内心に、再び闘志が沸き起こってきた。
「今まで、どこの隊もコルセアを落とす事は出来ませんでした。そのため、あの新鋭機は絶対に落とせないとまで
噂されていたようです。でも、隊長が落とした事で、萎えかけていた各空中騎士隊の士気もある程度は回復するかも
しれません。飛んでいる以上、どんなワイバーンであろうと、飛空挺であろうと、落ちないという事は無いんですよ。」
その言葉に、ラジェング少佐は苦笑した。
「そうだな。貴様の言う通りだ。確かに、飛ぶ物は必ず落ちるからな。そうなら、いつまでもくよくよしてられん。
今日散っていった仲間達のためにも、これからは無様な戦は見せられんな。」
彼はヴェレンジ大尉にそう返事した。
ふと、彼は思った。
(アメリカは、開戦から僅か1年足らずの間に、ライトニングやコルセアのような、300レリンク以上の戦闘機を
惜しげもなく戦場に投入してきている。俺達のワイバーンはまだ新しい方だが、それでも300レリンクなんて
スピードは出せない。もし、俺達が300レリンク以上出せるワイバーンに乗っても、アメリカが更に高速の、
350レリンク以上を出せる戦闘機を出してきたら・・・・・俺達はまた・・・・・)
一瞬、彼はアメリカの本当の姿を垣間見たような気がした。だが、この日はそれ以上思い詰める事もなかった。
266 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:39:05 ID:4CUjn9IY0
11月18日 午後1時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル
オールフェスは、昼食を食べ終わった後、帝国宮殿内にある大会議室にへと向かった。
大会議室に入ると、会議の参加者達が立ち上がり、一礼してきた。
「「こんにちは、皇帝陛下。」」
「ああ。」
オールフェスは、やや不機嫌そうな口調でそう言ってから、玉座に座った。
「さて、忙しい中、集まってくれて礼を言う。今日はいつもの通り、定例の報告会だが。まず・・・・」
オールフェスは、一度言葉を区切り、改まったような口調で紡いだ。
「ミスリアルの情勢を・・・聞こうか。」
その言葉を聞いた陸軍総司令官のウインリヒ・ギレイル元帥が、冷静な表情を維持しながら口を開く。
「現在、ミスリアル侵攻軍の最先頭は、ラオルネンクから東70ゼルドまで後退しております。
一方で、南東部の部隊は、アメリカ地上軍、ミスリアル正規軍と交戦中でありますが、現地部隊の指揮官からは
敵軍の進撃を食い止めるのは困難であると、報告が来ています。」
「ボロボロじゃねえか。せめて、ラオルネンクが落ちてからなら、まだ救いはあったんだが。」
オールフェスが、うんざりしたような口調で言った。その言葉に、参加者達が肩を震わせる。
「そういえば、最近、アメリカ野朗がまた新しい戦闘機を出して来たようだが。そいつの名前とか正体は
分かっているのか?」
267 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:42:42 ID:4CUjn9IY0
「はっ。既に判明しております。」
ギレイル元帥はそう言ってから、副官に目配せする。副官が頷くと、オールフェスの側にやって来て、丁寧な作法で渡した。
オールフェスは渡された紙に描かれた絵を見てみた。
「・・・・こいつはまた、ゲテモノだな。何だこの極端に曲がった翼は?いつもながら、アメリカ人って、飛空挺のデザインが
なってないよな。で、こいつの名前は?」
「捕虜から聞き出した情報では、その新鋭機の名前はチャンスヴォートF4Uコルセア。速力は330レリンク以上を
出す事ができ、機銃を6丁搭載しています。」
「330レリンクだと?ライトニングより早いじゃないか。」
オールフェスは呆れた表情で、紙をテーブルに置いた。
「その速度だったら、ウチのワイバーンでは用意に手が出せねえ訳だ。フレル、こいつはちょっと厄介な事態になって来たな。」
唐突に声をかけられた国外相、グルレント・フレルが狼狽したような表情を見せた。
実を言うと、フレルは内心、アメリカに啖呵を切った事を後悔し始めていた。
オールフェスの直接命令でやったとはいえ、フレルはアメリカと言う物をよく見ていなかった。
いつもの通りにやった外交手法で、敵を脅したつもりが逆に言い返された。
その後、アメリカ艦隊を不意討ちで襲撃してはどうか?と提案し、マオンド派遣から帰投中の攻撃をさせたら、一応平穏を
保っていたアメリカは掌を返して怒涛の反撃に出て来た。
以来、時折見せるアメリカの力に、フレルは自分の判断が浅はかであったと気付いたのである。
無論、シホールアンルは負けないだろう。
(だが、最終的な勝利を望めないのでは?)
シホールアンルは、苦戦した戦争もあったが、常に勝ちを収めてきた。
だが、アメリカ相手には、城下の盟を行う事が出来ないかもしれない。
268 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:46:19 ID:4CUjn9IY0
「確かに、アメリカは厄介な相手ですが、戦場はまだ南大陸です。バゼット海海戦でアメリカ機動部隊は
大損害を被っておりますぞ。時間的にはまだ余裕があります。」
フレルは、楽観した口調でオールフェスに言ったが、海軍総司令官のレンス元帥が目を剥いた。
「確かにアメリカ機動部隊には痛撃は与えましたぞ。初めて正規空母を撃沈し、敵の参加空母全てを
損傷させました。しかし、こっちも手痛い損害を受けました。国外相は時間的余裕があるといいましたが、
敵は南大陸だけではありませんぞ。北大陸の東には、アメリカの直接の領土であるアラスカ、それに
アリューシャン列島がある!そこに有力な敵機動部隊にでも居座られでもしたら、稼動竜母が小型のリテレ
しかない我が海軍は対応が難しいのです。敵がアラスカ、アリューシャン列島から我が本土に侵攻するとしたら、
時間の余裕は全くありません!」
バン!と、左手でテーブルを叩きながら、レンス元帥は言い放った。
アメリカが召喚されてから、シホールアンル帝国は北大陸の側面に大きな脅威を受けている。
その脅威とは、アメリカ合衆国の領土である、アラスカと、そこから伸びるアリューシャン列島である。
この方面の情報は手に入り難かったのだが、去る9月に、チェイング兄妹の兄であるレガルが、この方面に関する
詳細な情報を捕虜から聞き出して来た。
それによると、アリューシャン列島の最西端に位置するアッツ島やキスカ島には既に航空基地と、島防衛の陸軍部隊が
配置されており、後方の拠点にはウナラスカ島のダッチハーバーと呼ばれる港に置いてあり、そこに艦隊を配置して、
交代でアッツ島、キスカ島の周囲を航空機と共に警戒しているという。
この情報は、シホールアンル軍上層部に大きな衝撃を与え、首都ウェルバンルに展開する精鋭師団や、前線に配置予定で
あったワイバーン部隊のいくつかが、首都防空部隊に加えられるなどの対策が取られている。
「敵さんが、南方面を重視にするなら、余裕はあるでしょうな。新鋭竜母や戦艦も、来年には揃い始めますから。
ですが国外相、アメリカは南のみならず、東にもいる事を、忘れてはなりませんぞ?」
269 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:49:06 ID:4CUjn9IY0
レンス元帥は、皮肉めいた口調で言う。
それにフレルが怒声を上げかけたが、彼はなんとか冷静になって、気分を落ち着ける。
「問題は、ミスリアルに布陣したアメリカ地上軍と、バゼット半島北海岸沖で盛んに活動しているアメリカ機動部隊だ。
あいつらを何とかしない限り、ミスリアルの撤退戦も悲惨な結末になるぞ?」
オールフェスは、どこか憎らしげな口調でそう言った。彼の脳裏に、あの日の事が甦る。
10月25日 午前7時 その日、寝室から出たばかりのオールフェスは、侍従武官から信じられない報告を受けた。
それは、リリスティ、ヘルクレンスの竜母部隊がアメリカ機動部隊に敗北し、ミスリアルに送るはずであった8万の上陸部隊が、
アメリカ機動部隊から分派した砲戦部隊に襲われ、大損害を被ったという情報であった。
ミスリアル上陸部隊が受けた損害は凄まじかった。
竜母4隻、戦艦3隻、巡洋艦、駆逐艦合わせて20隻以上喪失も信じがたい物だが、特にショックを受けたのは、上陸部隊の損害だ。
500隻中、120隻余りが夜間の砲撃で沈み、現場で大破、放棄された数は130隻以上。
翌日の空襲と、潜水艦の襲撃も含めれば、直接失った船の数は150隻以上に登る。
そして、輸送船上に乗っていた各部隊もまた壊滅的打撃を受けていた。
まず、先頭部隊であった第17軍のうち、第182歩兵師団が損失人員12000人以上。
第205重装騎士師団が13000人。第163騎兵旅団が3100人。
第3特殊軍では、第72魔法騎士団が9200人以上、第66特殊戦旅団が全てを損失。
第20軍では第2重装騎士師団が7800人、第57騎兵旅団が3000人を損失した。
合計で50000以上の兵員が、アメリカ艦から一方的に砲弾、魚雷をぶち込まれ、航空機から爆撃を浴びて、海底に叩き込まれたのである。
特に、貴重な魔法騎士師団や特殊戦旅団が壊滅した事は大きな痛手であった。
いくら高度な魔法技術身に付けた魔道士といえど、一般兵の数人程度なら、軽く捻れる腕を持つ精兵といえど、
米艦の猛砲撃の前にはただの標的に過ぎなかったのだ。
一瞬、オールフェスは目眩を起こしかけたものの、なんとか気を取り直して軍の首脳を宮殿に集めて、緊急の会議を開いた。
270 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:52:42 ID:4CUjn9IY0
オールフェス曰く、その報せはシホールアンル帝国始まって以来の凶報であると述べていた。
10月27日には、オールフェスはこの海戦の顛末を国民に知らせた。
「去る10月24日。我が勇敢なるシホールアンル海軍は、敵アメリカ海軍の主力部隊と決戦し、我が方は
竜母4隻を失ったものの、敵機動部隊にも壊滅的被害を与えた。だが、敵艦隊は苦し紛れの艦隊戦を挑み、
我が方は敵艦隊に大損害を与えて撃退したが、我が戦艦部隊、輸送船団も大損害を被り、撤退を余儀なくされた。
このように、我がシホールアンル帝国は初めて敗北したが、それは敵アメリカが侮れぬ敵であったからであり、
この敗北は、我々の次なる勝利に繋がる物である。国民諸君は、このアメリカという強大な敵に対し、国民1人1人が
一致団結して、アメリカを打ち倒すきっかけを作らねばならない。」
大衆向けの広報紙に描かれたバゼット海海戦の顛末は、多くの人に衝撃を与えた。
だが、輸送船団の損害の詳細をぼかした事や、アメリカ艦隊の損害を誇張した事が幸いしたのか、人々は戦意を
萎えさせるどころか、逆に上げて行き、打倒アメリカを声高に叫び始めた。
とある居酒屋の男などは、
「アメリカと言う奴は、この最強の国を初めて負かしたそうだが、戦争をやってるんだから負けても仕方ねえ。
今までの奴らが軟弱なだけだったんだ。戦争は、強い奴がいねえと張り合いにならんわな。次の戦いは俺達
シホールアンルが勝ちを取らせてもらうぜ!」
と言って、豪快に笑い飛ばしていた。
アメリカ側としては、この海戦の結果で、シホールアンル国民の戦意を削げればと期待していたが、
結果は正反対の物となり、この真実と嘘の混じった広報発表は、後にアメリカを苦しめる事に貢献する事になった。
それでも、オールフェスの内心には、今回も彼の野望を阻んだ疫病神の如き存在、アメリカ機動部隊に対する
憎悪が荒れ狂っていた。
この忌々しい艦隊さえ完全に排除する事が出来れば、どれだけ気分が良くなるであろうか。
271 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:55:49 ID:4CUjn9IY0
「とりあえず、現状維持は困難である事は重々承知した。もはやミスリアルはこの際どうでもいい。
後は、いつまでにミスリアルから撤退できるか、だな。」
「状況によりますが、このままで行くと、12月の下旬までには、侵攻部隊はカレアント、ヴェリンス領に
避退できるでしょう。侵攻部隊の損害は無視できませんが、それでも部隊の7割は未だに健在です。」
「それなら良い。ミスリアル戦に参加した侵攻軍は後の戦いに回せるからな。ギレイル元帥、侵攻軍の将兵は、
1人でも多く救えよ。」
「はっ。分かりました。」
オールフェスに対し、ギレイル元帥は恭しく頭を下げた。
「レンス元帥。モルクンレル中将は今どうだ?」
オールフェスは最も気掛かりな事をレンス元帥に聞いた。
「モルクンレル中将は、現在絶対安静の状態が続いていますが、意識はしっかりしており、次の作戦にも参加したい
としきりに言っています。医者からの診断では、今の所、健康状態は良好であると言われています。」
「分かった。なんとかリリスティ姉は復帰できそうだな。」
言葉の中盤部分からは、誰にも聞こえぬ小声で呟いた。
リリスティは一時、脇腹から体の奥深くに刺さった破片がもとで心配停止の状態に陥っていたが、その後は順調に回復し、
今では話が出来るまでに回復している。
オールフェスとしては、近いうちにリリスティに直接会って、あの激戦の様子を聞きたいと思っている。
272 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/14(土) 15:57:48 ID:4CUjn9IY0
「とにかく、我が国の現状は、特別にやばいでもないが、良いとも言えないな。それも、敵の視線がミスリアルに
向いている今だから言える事だ。今後は、アラスカ方面に展開する敵の動向も探りながら、対策を練っていこう。」
オールフェスは一旦言葉を区切り、渇いた喉を水で湿らしてから続けた。
「それからもう1つ話がある。」
「話しとは・・・・ミスリアル情勢についてですが?」
レンス元帥が言って来るが、オールフェスは爽やかな笑みを浮かべながら首を振った。
「いんや、もっと未来の話さ。おいたが過ぎる敵を潰すための罠を作ろうぜ。」
後年の歴史家が言うには、この一言から、後にアメリカ海軍のみならず、バルランドの名門貴族までもを巻き込んだ
事件に発展した、最大の悲劇。
通称、レビリンイクルの悲劇は始まったと伝えられている。