94 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 11:58:01 ID:4CUjn9IY0
第48話 リルネ岬沖の決闘(後編)
1482年 10月24日 午後3時 リルネ岬南西沖480マイル沖
シホールアンル帝国海軍第22竜母機動艦隊は、リルネ岬沖南西の海域を、時速11リンルの速度で航行していた。
旗艦ゼルアレの艦橋では、司令官であるルエカ・ヘルクレンス少将が幕僚達と話し合っていた。
「一応、第2次攻撃隊を出すんだが、それにしても、結構な数のワイバーンがやられちまったな。」
ヘルクレンスは、紙に書かれた内容を見つめて、先から複雑な表情を浮かべていた。
第22竜母機動艦隊は、午前中にアメリカ機動部隊に向けて攻撃隊を出した。
この竜母部隊は、旗艦ゼルアレが戦闘ワイバーン24騎、攻撃ワイバーン32騎。
寮艦リギルガレスが戦闘ワイバーン26騎、攻撃ワイバーン40騎積んでいた。
攻撃隊は、戦闘ワイバーン30騎、攻撃ワイバーンの全力で編成されている。
攻撃のタイミングはピッタリであり、空母レンジャー級1隻、巡洋艦1隻を撃沈。
空母1隻大破、巡洋艦1隻中破、グラマン7機撃墜の戦果をあげた。
だが、帰還して来たワイバーンは、出撃前と比べてかなり減っていた。
ゼルアレに帰還したワイバーンは、戦闘ワイバーン9騎に、攻撃ワイバーン16騎。
リギルガレスは戦闘ワイバーン11騎、攻撃ワイバーン21騎。
実に戦闘ワイバーン10騎、攻撃ワイバーン33騎を失ったのだ。
そして、使用不能と判断されたワイバーンは攻撃ワイバーン5騎。
損耗率は5割近くに達する。
たった1度の攻撃でこれほどの犠牲が出たのである。
ちなみに、第24竜母機動艦隊から出撃したワイバーン隊も大損害を受けている。
出撃した戦闘ワイバーン72騎、攻撃ワイバーン98騎。
帰還したワイバーンは、戦闘ワイバーン52騎、攻撃ワイバーン53騎である。
95 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 11:59:59 ID:4CUjn9IY0
「再出撃が可能なワイバーンは32騎。これでは、残りの敵空母を攻撃しても、撃沈できるかどうか・・・・」
幕僚の1人が、憂鬱そうな口調でヘルクレンスに言う。
「だが、竜騎士達は攻撃させてくれと言って来ている。お前達も見ただろう?」
10分前、突然竜騎士達が艦橋に押しかけてきて、艦長とヘルクレンスに第2次攻撃を強く要望してきた。
「敵空母5隻のうち、1隻は撃沈し、3隻は大破させました。残るはあと1隻です!確かに、アメリカ機動部隊の
対空砲火はかなり激しい。しかし、あと1隻の空母を沈め、いや、飛行甲板を破壊すれば、敵は艦載機が使えなく
なります!そうすれば、戦闘行動可能な空母を失ったアメリカ艦隊は必ず撤退します!」
竜騎士達は掴みかからんばかりの勢いで言って来たが、ヘルクレンスは答えを出さず、検討すると言って彼らを追い返した。
それから、彼らは第2次攻撃隊を出すかどうかを話し合っているのだが、現実は厳しい。
「半数以下に減ったワイバーンで敵空母を攻撃しても、攻撃隊の損耗ぶりから見ると、沈める事は難しそうです。」
主任参謀が言う。
彼は内心、攻撃隊を出したくは無いと思っている。
しかし、同時に残り1隻の空母を仕留めたいという気持ちもある。
「分かってるよ。確かに、沈める事は難しいだろう。だが、甲板に穴を開ける事は出来る。
要は、アメリカ野朗の飛空挺が飛ばないようにすればいいんだ。そうすりゃ、しばらくは安泰だ。」
ヘルクレンス少将は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「第2次攻撃隊を発進させる。目標は、無傷のアメリカ空母だ。」
96 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:01:06 ID:4CUjn9IY0
彼は決心した。それから、第22竜母機動艦隊は、第2次攻撃隊の発進準備を急いだ。
午後3時20分、新たなる戦いに挑もうとしていた第22竜母機動艦隊の上空に、1機のドーントレスが現れた。
午後3時20分 第15任務部隊旗艦空母ワスプ
「7号機から入電。我、艦隊より南西海域、方位230度方向に敵機動部隊発見。距離は220マイル。
敵は艦隊に竜母2隻を伴う。司令官、ついに見つけました!」
参謀長のビリー・ギャリソン大佐は弾んだ声音で、ノイス少将に言った。
「うむ。この報告を、直ちにTF16、17に伝えろ。それから第2次攻撃隊発進準備を急がせろ。」
彼は、急いで他の任務部隊にも情報を送らせた。
ヨークタウンとエンタープライズの修理は、攻撃隊が戻って来た午後2時50分には終わっていた。
両空母の応急修理班はよく働き、約束通りの時間に穴を塞いでくれた。
戻って来た攻撃隊は、乗員の歓呼を浴びながら無事、母艦に足を下ろす事が出来た。
攻撃隊の損害は少なくなかった。
TF16は、F4F48機、SBD40機、TBF32機を出した。
帰還機は、エンタープライズがF4F17機、SBD12機、TBF12機。
ホーネットがF4F23機、SBD14機、TBF13機。
TF17は、F4F36機、SBD36機、TBF28機が出撃。
帰還機は、ヨークタウンがF4F14機、SBD11機、TBF12機。
レンジャーがF4F10機、SBD12機、TBF10機。
そして、TF15ワスプの帰還機がF4F8機、SBD10機、TBF10機。
現地で被撃墜、途上で脱落、海没した機はF4F24機、SBD28機、TBF17機。
そのうち、ホーネット所属機、レンジャー所属機はヨークタウン、エンタープライズ、ワスプに入るだけ収容された。
97 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:03:27 ID:4CUjn9IY0
そのお陰で、ヨークタウン、エンタープライズ、ワスプはフル編成に戻ったが、入り切らぬ艦載機は全て海没処分された。
喪失機は、艦隊上空で行われた空戦で撃墜された14機のF4Fと、修理不能と判断された機、ホーネットで焼失した分、
レンジャーと共に沈んだ機も合わせて、計178機に上った。
決戦前には462機いた艦載機のうち、4割ほどを一挙に失ったのである。
これは余りにも痛すぎる損害であった。
だが、中破したヨークタウンとエンタープライズは応急修理で甦り、ワスプも健在である。
艦載機は284機を保有しており、まだまだ戦える。
「攻撃隊の発進準備はどうか?」
ノイス少将は、航空参謀に聞いた。
「発進準備はあと1時間で終わります。」
「そうか。」
航空参謀の答えに、彼は満足気に頷いた。
ワスプは、攻撃に参加していなかったドーントレス4機、アベンジャー4機のうち、ドーントレス4機を索敵に出していた。
残ったアベンジャーは雷装のまま待機させた。
その他、ワスプに着艦してきた艦載機のうち、再出撃が可能と判断されたドーントレス16機、
アベンジャー12機に爆弾、魚雷を搭載中である。
この他に、TF17のヨークタウンも、ドーントレス14機、アベンジャー16機が再出撃可能であり、
これも1時間後に出撃が可能となる。
その一方で、TF16のエンタープライズは敵輸送船団の索敵を行うため、2時頃にドーントレス3機、
3時頃にアベンジャー4機を発艦させている。
その一方で、ハルゼー中将は、ミスリアル沖に展開している潜水艦部隊の報告を心待ちにしていた。
潜水艦は第18、19任務部隊の合計30隻がバゼット半島周辺や艦隊の側方警戒に配置されているが、
その潜水艦部隊も、未だに敵輸送船団を発見出来ないでいる。
98 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:04:32 ID:4CUjn9IY0
「輸送船団の事も気になるが、後方の敵機動部隊も脅威だ。こいつらを速めに片付けておかないと、後々面倒な事になるからな。」
「依然として、敵はワイバーンを保有していますからな。夕方までには決着をつけませんと。」
「夕方までか。私としては、今すぐにでも後ろの敵さんを片付けたいよ。敵船団の攻撃に、エンタープライズのみの
攻撃隊では足りなさ過ぎる。敵は500隻だ。ボストン沖海戦では、レンジャーとヨークタウンがマオンド軍の輸送船団を
存分に痛めつけたが、艦載機のみで沈めたのは200隻中50隻程度だ。これがビッグEのみなら撃沈できる船は
もっと少なくなる。だから、私は早めに敵と決着を付けたいのだ。」
最も、夜までに敵船団を見つけなければ、攻撃できるかどうかも分からんが・・・・・
ノイス少将は、最後の一言は言葉に出さなかった。
「今は、攻撃隊が発信準備を整えるまで待とう。」
午後4時30分 リルネ岬沖南南西110マイル沖
「司令官。TF15、16より第2次攻撃隊発艦しました。」
司令官席に座るウィリアム・ハルゼー中将は、不機嫌そうな表情崩さぬまま頷いた。
「これで、背後に隠れていたシホットの竜母はなんとかなるだろう。あとは、どこぞに雲隠れした輸送船団だが・・・・」
彼は艦橋の前をずっと見続ける。
リルネ岬の北200キロにあるノーベンエル岬。その沖合いにシホールアンル側の輸送船団がいる事は確かだ。
だが、どの海域にいるのか、ノーベンエル岬からどの方向の海域にいるのかが全く分からない。
数時間前に攻撃した敵機動部隊の動向は、潜水艦から報告があった。
報告によると、竜母3隻、戦艦1隻を含む有力な艦隊が北東方面に避退中のようだ。
これで、当面の脅威は去った。
次の目標は輸送船団である。その輸送船団は、どこを目指し、どこにいるのだろうか。
99 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:06:29 ID:4CUjn9IY0
「クソ!早い時期に海兵隊をミスリアルに入れておけば良かったかもしれんな。
そうすれば、陸上の航空基地と共同で、敵の艦隊を探す事が出来たろうに・・・!」
ハルゼーは苛立った口調でそう呟いた。
ふと、空を見てみる。
空は、まだ青空が広がっているが、日は大分傾いている。
気象予報班の報告によれば、今日の日没は6時半になると言う。
だとすると、攻撃隊を今から発艦させても、敵艦隊に取り付くのは良くて、日没前となる。
帰還時には、既に夜になっており、パイロットは不慣れな夜間飛行を強いられる。
まだアメリカ海軍の空母艦載機隊は、夜間飛行の訓練をあまり行っておらず、満足に夜間飛行をこなすパイロットはいない。
そのパイロット達に、不慣れな夜間着艦を強要できない。
「とりあえず、報告が入らん事にはどうにもならんな。」
ハルゼーはため息混じりに呟いて、報告を待った。
偵察機から報告が入ったのは、午後5時10分であった。
午後4時25分 リルネ岬沖南南西120マイル沖
「敵編隊接近!総員戦闘配置!」
第15任務部隊の全艦に突如警報が発せられた。
この時、TF15の南西70マイル沖に50騎以上の機影をレーダーが捉えていた。
すぐに、ワスプからF4Fが発艦し、敵編隊に向かって行く。
戦闘機隊の発艦からそう間を置かずに、F4Fとワイバーンが空中戦を始めた。
他の任務部隊からやって来たF4Fと合同で、敵編隊を叩くが、最終的に23騎の攻撃ワイバーンが
TF15の輪形陣に迫って来た。
100 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:07:45 ID:4CUjn9IY0
「敵編隊艦隊の左舷側、方位260度より急速接近中!」
CICで、レーダー員が緊張に声を上ずらせながら、艦橋に報告する。
ワスプの左舷後方に位置する軽巡洋艦クリーブランドは、向けられる5インチ連装両用砲を左舷に向けた。
「来たぞ。シホット共がよだれを垂らしながらワスプを見てやがるぜ。砲術長!VT信管は各砲塔に回したか!?」
艦長のトレンク・ブラロック大佐は、快活な声音で電話の向こうにいる砲術長のジョシュア・ラルカイル中佐に聞いた。
「各砲塔に一定量の砲弾を回してあります。時限信管と一緒に発砲する予定です。」
「OK!VT信管の実戦テストだ。観測班にしっかりデータを取れと言ってやれ。」
「アイアイサー」
そこで、電話が切れた。
やがて、ワイバーン群が輪形陣の左側から進入してきた。
ワイバーン群は400キロ以上のスピードで、高度4000メートルほどの高さから一気に駆け抜けようとする。
そこに高角砲弾が炸裂し始めた。ワイバーン群の周囲に、無数の高角砲弾が炸裂し、黒い小さい煙が一面に広がる。
だが、ワイバーン群は数が少ない事をいい事に、飛行機では出来ぬ機動を繰り返して高角砲弾の破片に当たるまいとする。
それでも、1騎のワイバーンの至近に高角砲弾が炸裂し、そのワイバーンはバランスを崩して墜落していった。
激しい対空砲火だが、駆逐艦群があげた戦果は、今の所1騎のみだ。
前方の軽巡ナッシュヴィルが高角砲を撃ち始めた時、
「両用砲、撃ち方始め!」
ブラロック大佐は大音声で命じた。
左舷に向けられていた、5インチ砲8門が発砲を開始する。
各砲塔2本の砲身が、4秒置きに1発の割合で交互に射撃を繰り返し、ワイバーン群の周囲により一層、多くの砲弾が集中する。
唐突に、先頭のワイバーンの至近に2つの爆煙が沸き起こる。
101 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:09:58 ID:4CUjn9IY0
その瞬間、翼を分断されたワイバーンは錐揉みとなって墜落していく。
3番騎も高角砲弾に引き裂かれ、1番騎の後を追うかのように海面に突っ込んだ。
「いきなり2騎撃墜か!テスト開始早々、戦果を挙げたか!」
ブラロック大佐は満足気な笑みを浮かべて、初戦果を上げた砲術を褒める。
「砲術!いいぞ、その調子だ!」
その後も、ワイバーン群は進み続けるが、これまでより一際激しい対空砲火に次々と撃ち落されていく。
クリーブランドが放つVT信管は、額面通りに作動しない砲弾もあり、普通の時限信管と同じように
見当外れの位置に爆発する物もある。
が、額面通り作動した砲弾は、ワイバーンの至近距離で炸裂し、ワイバーンと竜騎士に無数の破片を浴びせてずたずたに引き裂いていく。
これに、他の巡洋艦の高角砲も加わる。
この輪形陣でも、やはりアトランタ級軽巡の砲撃は凄まじかった。
アトランタ級軽巡サンディエゴは、他の姉妹艦と同様、5インチ砲14門を乱射して、敵のワイバーン群を高射砲弾幕に捉えていく。
正確無比のVT信管や、機関銃の如く放たれる高角砲弾に、ワイバーン群はこれまでにないペースでバタバタと叩き落されていく。
だが、それでも全てを落とす事は至難の業であった。
残る8騎のワイバーンが、1本棒となってワスプに急降下して行った。
「機銃、撃ち方始め!」
砲術長のラルカイル中佐が、鋭い声音で各機銃座に指示を飛ばす。
クリーブランドの右舷に配置されている40ミリ連装機銃4基、20ミリ機銃10丁が猛然と撃ちまくる。
40ミリの図太い火箭がワイバーンの横腹に吸い込まれる。
その次の瞬間、ワイバーンの胴体が真っ二つに別れ、血を撒き散らしながら海に落ちていく。
VT信管の炸裂をすぐ後ろに受けたワイバーンが、背面を切り刻まれて、無念の雄叫びを上げて墜落していく。
102 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:11:25 ID:4CUjn9IY0
ワスプ上空に打ち上げられる弾幕に次々と討ち取られていくが、ワイバーンはそれを振り切ってワスプに接近していく。
ワスプが急に、左に艦首を回してワイバーンの投弾コースから逃れようとする。
また1騎のワイバーンが、機銃に撃ち抜かれて墜落するが、先頭のワイバーンは高度600付近で爆弾を投下した。
急転舵するワスプの右舷側海面に水柱が吹き上がる。
次いで2番騎の爆弾が右舷後部舷側付近に落下して、衝撃が14700トンの艦体を小突き回す。
3番騎の爆弾は左舷側海面に落下する。
「もう少しだ!頑張れ!」
誰もが、全弾回避してくれと、ワスプの奮闘を見守る。
4番騎の爆弾も見事にかわし、右舷側海面に無為に海水が吹き散らされる。
このままワスプの強運が打ち勝つと誰もが確信した時、いきなり飛行甲板の前部に黒い粒が刺さったと見るや、
そこから火柱が上がった。
火柱は黒煙に変わり、被弾箇所から多量の煙が吹き上がって後方にたなびいていく。
「ああっ、ワスプが!」
ブラロック艦長は、呻くような声でそう言った。
最後の最後で、ワスプは被弾してしまったのだ。
敵弾は第1エレベーターから8メートル後ろに離れた位置に突き刺さった。
飛行甲板を貫通した爆弾は格納甲板に踊りこみ、そこで炸裂した。
炸裂の瞬間、前部に集められていたF4Fのうち、7機が爆砕され、爆風が格納庫の周囲に損傷を与え、
飛行甲板の穴を押し広げた。
だが、ヨークタウン級並みか、それ以上の装甲を施された防御甲板は敵弾の貫通を許さず、事前に格納庫の
シャッターを開けていた事も幸いして、爆風の過半は艦外に放出された。
このため、ワスプの被害は傍目よりは少なかった。
103 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:14:26 ID:4CUjn9IY0
ワスプは黒煙を噴きながらも、前と変わらぬスピードで航行している。
その事が、護衛艦の艦長たちを安心させた。
「どうやら、ワスプの被害はそれほど深刻でもないようですぞ。」
副長のラリー・ウェリントン中佐がブラロック艦長に言って来た。
「命中箇所は、あの位置からすると第1エレベーターより後ろ側ですな。あの位置ならば、甲板に穴が開いた
だけなので、鎮火すれば応急修理が可能です。それに、命中弾は500ポンドクラスが1発だけですから、
被害は思ったより軽微でしょう。」
「なるほど。となると、ワスプは母艦機能を維持できると言う事か。なら安心だな。」
ブラロック大佐は、そう言ってホッと息を吐いた。
この攻撃で、米側はF4F6騎を撃墜され、ワスプが命中弾1を被ってしまったが、火災は20分ほどで
消し止められ、破孔は40分後に、応急修理で塞がれた。
第22竜母機動艦隊が放ったワイバーンは総計で54騎であったが、帰還の途につけたのは、
戦闘ワイバーン7騎と、攻撃ワイバーン3騎のみであった。
午後5時50分 リルネ岬沖南西340マイル沖
「リギルガレスと駆逐艦2隻が沈没。このゼルアレが大破か・・・・・また酷くやられたもんだな。」
第22竜母機動艦隊の司令官である、ルエカ・ヘルクレンス少将は、乾いた口調でそう呟いた。
30分前に、彼の艦隊はアメリカ軍艦載機に攻撃された。
艦隊はよく戦ったが、リギルガレスがヨークタウン隊の集中攻撃を受け、爆弾4発、魚雷4本を左舷のみに受けて沈没。
ゼルアレも爆弾5発、魚雷1本を左舷に受けて大破された。
104 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:16:58 ID:4CUjn9IY0
この他に、駆逐艦2隻が爆弾を浴びて沈没し、艦隊の隊形は大きく乱れていた。
「司令官。ワイバーン隊からは、ワスプ級空母1隻に爆弾を命中させましたが、爆弾1発のみでは戦闘能力を奪ったか
否か、微妙な所です。ここは、攻撃隊を収容後にエンデルドに戻り、再起を図ったほうがよろしいかと。」
「もちろんさ。ワイバーンの数がこんなに減ったんじゃ、満足に戦えない。でも、今回の海戦では、
敵も全ての空母に手傷を負わされている。俺達は、敵の機動部隊相手にほぼ互角の戦いが出来た事になるな。
確かに満足いく戦果ではねえが、それは敵も同じだろう。お互い、目的は敵の母艦を全て沈める事だったはずだ。」
ヘルクレンスはそう言いながら、敵味方が受けた損害を思い出していた。
味方の竜母部隊は、合計で3隻の竜母を失い、4隻が大中破している。ワイバーンの損害は300騎を超える。
だが、こっち側に大打撃を与えたアメリカ側も、正規空母2隻を失い(ホーネットを撃沈したものと誤認)
2隻を大破、1隻を中破させられ、巡洋艦1隻撃沈、1隻中破させ、飛空挺の損害は200機を超えるだろう。
戦術的にはややこちらの不利だが、手持ち空母を全て傷付けられたアメリカ機動部隊は、輸送船団に対して
航空攻撃を思うように仕掛けられない。
空母部隊が引っ込んでいる間、こちら側はミスリアル西部に上陸部隊を上げる事が出来る。
つまり、肝心の上陸作戦は成功裡に終わる事になり、戦略的な勝利はシホールアンル帝国が得ることになる!
そして、ミスリアルの魔法都市ラオルネンクを占領し、魔法技術を奪えば、今日の大海戦で失われた将兵も浮かばれるに違いない。
「結果的にはこちらの不利だが、まともにぶつかれば、アメリカ側も大損害を受ける事は避けられぬと
分かったはずだ。それだけでも、今回の海戦で得られた教訓は大きい。」
「では、攻撃隊が帰還した後は、艦隊をエンデルドに戻してもよろしいですね?」
「ああ。ここは一度戻って、兵達をゆっくり休ませよう。」
ヘルクレンスは主任参謀にそう返事した。
「それにしても、リリスティの姐さんが負傷するとは思わなかったな。指揮は第2部隊のムク少将が引き受け、艦隊は北東に避退中
である事は既に確認済み。第24から輸送船団に回された戦艦と巡洋艦は何時ぐらいに合流する?」
105 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:18:57 ID:4CUjn9IY0
「予定では、夜の7時あたりに船団護衛の艦隊と合流する予定です。万が一、アメリカ軍の戦艦が襲ってきても、
あちらは3隻、こっちは6隻ですから船団に近づけませんよ。」
「船団護衛に関しては万全と言う訳か。怖いのは敵の潜水艦だな。海軍の大半の艦艇に、生命反応探知装置が行渡ってはいるが、
深深度に潜り込まれたら使えんからな。」
「確かに。司令官、とにかく急いで艦隊を集結させましょう。各艦ともバラバラになっています。」
主任参謀の提案にヘルクレンスは頷き、各艦に集合の指示を伝え始めた。
潜水艦のノーチラスはこの日、作戦中の機動部隊の側方警戒の任を帯びて、機動部隊より南西200マイルの海域を航行していた。
艦長のトーマス・グレゴリー少佐は艦橋で他の見張り員と共に周辺の海域を捜索していた。
「艦長、TF17を襲った敵機動部隊は、機動部隊より南西側の海域にいるみたいですぜ。」
グレゴリー艦長の隣で見張りをしている哨戒長が、彼に言って来た。
「俺も聞いたよ。レンジャーが沈められたらしいな。ハルゼー親父は恐らく、カンカンに怒って、南西側の海域に
偵察機を飛ばしているだろう。残りのシホットは、機動部隊がさっさと片付けちまうだろうよ。」
「機動部隊がですか・・・・・機動部隊がやるのもいいですが、たまには自分達も大物を食ってやりたいですな。」
哨戒長は半ば本気、半ば冗談の口調で言った。
「その気持ちは分かるな。潜水艦屋は、水上艦乗りの奴らからはどこか見下されているからなぁ。
俺もたまには考えているよ。一度でいいから、戦艦か空母を沈めて、そいつらを見返してやりたい、と。」
そう言ってから、グレゴリー少佐は肩をすくめる。
106 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:20:39 ID:4CUjn9IY0
「まっ、その考えがすぐに実現できれば、俺は嬉しいのだがね。人間、高望みする奴に限ってよくよく運が
無いからな。戦争に生き残っていくには、焦らず、目立たず。ごく普通がいいのさ。」
「ごく普通ですか。自分としてはもちっと、理想を高くしてもいいと思うんですがね。」
「ふむ。それもそうか。」
「私としては、念願のアイスクリーム製造機が配備されたので充分満足してますが。」
「哨戒長!言ってる事が普通ですぜ。もっと高望みしないと!」
右舷を見張っていた水兵がニヤニヤしながら、言葉の矛盾を突いてきた。
「だまっとれ!人間と言う生き物はな、心変わりがしやすいんだよ。
この野郎、あれこれ口出しすると、海に放り込んじまうぞ!」
哨戒長は水兵の首根っこを掴んで、海に落とす真似をする。もちろん本気ではなく、哨戒長もにやけながらやっている。
その行動に、見張りに立っている水兵達が笑い声を上げた。
艦長も思わず微笑んだ。その時、
「艦長!レーダーに反応です!」
突然伝声管からレーダー員の声が聞こえた。
「レーダーに反応だと?どこからだ?」
「南西の方角、方位260度から飛行物体です。距離は20マイル」
「南西の方角からか。明らかに敵だな。」
グレゴリー艦長は確信した。南西の方角に味方機動部隊はいない。
だとすると、TF17を襲った敵機動部隊から発艦した、第2次攻撃隊であろう。
107 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:22:22 ID:4CUjn9IY0
「急速潜行!」
グレゴリー艦長はすぐにそう命じ、見張り員達を全員艦内に入れた。
それからノーチラスは、潜望鏡深度で敵編隊が通り過ぎるのを待っていた。
「敵編隊、通り過ぎました。」
レーダー員の言葉に、グレゴリー艦長は頷いた。それから、彼は副長に顔を向けた。
「副長、ちょっと来てくれ。」
彼は副長のアイル・ワイズマン大尉を呼びつけた。
2人は海図台の所まで移動した。
「さっき、シホールアンル側のワイバーンの編隊が通り過ぎていった。敵編隊は我が艦の南西20マイルの距離に現れた。
この敵編隊が味方の機動部隊を狙っているのは確実だ。恐らく、敵さんはこの方角の海域に潜んでいるのだろう。」
グレゴリー艦長は、チャートに赤い線を引いた。赤い線は、ノーチラスを中心に左右に伸びている。
右上には味方機動部隊の位置を示すマークが書かれている。赤い線は、敵編隊の進路を表している。
「敵ワイバーンの航続距離は500マイル。ですが、それはあくまでカタログ数値ですから、実際にはもっと近寄っている
可能性がありますね。理想的な距離として、約250マイル程度の距離が欲しい所でしょう。」
「と、すると。ノーチラスの近くに敵機動部隊がいるかもしれんな。」
グレゴリー艦長は唸るように言った後、しばらく考え事を始めた。
108 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:24:25 ID:4CUjn9IY0
「艦長。もしや・・・・」
副長はまさかと思いながらも、グレゴリーに聞いてみる。
「おっ。分かったかね?」
グレゴリーは、自らの意図を察した副長に微笑む。
「そう。俺は大物を狙うと思っている。敵の竜母をな。」
「なるほど。」
副長は深呼吸をしてから、言葉を続ける。
「お言葉ですが、艦長。ノーチラス1艦のみで敵の機動部隊に飛び込むには、余りにも無謀かと思います。
敵艦隊には、最低でも8隻ないし10隻程度の駆逐艦がいます。敵の駆逐艦は、マオンド軍駆逐艦が持っている
生命反応探知装置を装備しています。ソナーと違って魔法石で動いているようですが、これに探知されると、
撃沈される可能性があります。」
「だが、その魔法使いの作った装置も、ソナーと同じように万能ではいない。」
グレゴリー艦長は怜悧な口調で言い返した。
彼の目は鋭く、一瞬ワイズマン大尉はその視線に射すくめられた。
「俺の友人に、イギー・レックスと言う男がいる。そいつは大西洋艦隊で潜水艦セイルの艦長をしているんだが、
俺は2ヶ月前にそいつと会ったんだ。そいつは俺に色々語ってくれたが、確かに敵駆逐艦のマジック・ソナーには
手を焼かされたと言っていた。だがな、同時に弱点も教えてくれたよ。」
グレゴリー艦長は、左手に丸まった紙を、右手に消しゴムを持った。
彼は紙を消しゴムの上に移動させる。
109 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:26:40 ID:4CUjn9IY0
「この紙が敵駆逐艦。消しゴムが潜水艦だ。俺はレックスから聞いたんだが、敵の駆逐艦はマジック・ソナーで
こっちの生命反応を探している。効力は潜水艦の深度が浅ければ浅いほど強力になる。深度20メートル程度の
海底にボトム(沈底)しても、見つかったら袋叩きだ。だが、このソナーも、深度40メートルあたりからは
効能が半減し、80メートル当たりだと敵艦は思うようにこちらを探せないらしい。」
彼は紙と消しゴムを移動しながら説明した。
「要するに、敵さんが来る時は、こっちは深みに潜ってやり過ごせばいいんだ。敵の駆逐艦が来たら、
その都度深く潜行してやり過ごし、去ったら浮上しつつ、目標に移動していく。難しいかもしれんが、
やってやれん事は無い。」
「艦長の言う事は分かりました。ですが、この海域にはノーチラスしかいません。他に味方が居ないのでは、
攻撃はおぼつかないでしょう。」
「うむ、確かになぁ。」
グレゴリー艦長は顎の無精髭を撫でながら頷く。だが、彼の表情は明るくかった。
「確かに、この海域には近くに味方は居ない。そう、今の時間はな。」
彼は不敵な笑みを浮かべながら、真上を指差した。
「だが、数時間以内には味方が敵機動部隊攻撃に向かう。恐らく、敵艦隊は艦載機の攻撃に回避運動を行うだろう。
その際、敵艦隊の陣形は崩れている可能性が高い。俺達はそこを狙って、味方が打ち漏らした巡洋艦か、竜母を沈める。」
「では艦長。本艦の向かう先は?」
「南西だ。」
グレゴリー艦長はそう言うと、艦の針路を南西、方位260度の方角に向けた。
110 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:29:10 ID:4CUjn9IY0
それから、浮上航行で17ノットのスピードで向かっていたノーチラスは、途中味方空母艦載機の大編隊を発見した。
遠くの編隊はノーチラスに気付く間もなく、同じ方角を進んでいった。
10分後に、敵艦隊を視認したノーチラスは、再び潜行し、海中から忍び寄って行った。
午後5時40分
「潜望鏡上げ!」
グレゴリー艦長は、潜望鏡上げさせた。
ブーンという小さくも無いが、大きくも無い駆動音と共に、潜望鏡が上げられる。
やがて、音が鳴り止むと、彼は潜望鏡に取り付いた。
海面に突き出された潜望鏡が、ぐるりと回転する。回転は、とある方向にレンズが向いた時に止まった。
「いたぞ。敵艦隊だ。」
グレゴリー艦長は敵艦隊を確認した。
これまで、ノーチラスは味方機に攻撃され、必死にのたうち回る敵機動部隊の様子を、海中から伺っていた。
目には見えないものの、高速艦が鳴らす高速推進音に至近弾の爆発、そして、魚雷の重々しい炸裂音が何度も聞こえていた。
特に魚雷が炸裂する音は大きく、その音の数からして、敵の竜母1隻は沈没確実の被害を受けたと、誰もが確信している。
それ以上に、彼らにとって嬉しい事がある。
それは、敵が自ら、ノーチラスのいる海域にやって来た事である。
回避運動を繰り返した敵機動部隊は、知らず知らずのうちにノーチラスが航行していた海域にまで到達していた。
そして、グレゴリー艦長は確認のため艦を潜望鏡深度にまで浮上させたのである。
「信じられん。竜母だ!目の前に敵の竜母がいる!」
グレゴリー艦長は、嬉しい誤算を目の前にして喜びを抑え切れなかった。
111 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:31:22 ID:4CUjn9IY0
潜望鏡の向こうには、ノーチラスから5000メートルの距離に、のっぺりとした平の甲板に、申し訳程度の艦橋の敵艦。
極上の得物である竜母が、艦首から白波を蹴立てて航行している。
ノーチラスに左舷を晒す形で航行する敵艦は、飛行甲板からは黒煙を噴いており、まだ損傷箇所の消火活動を行っているようだ。
幾分左舷側に傾いている事から、この敵艦は左舷に雷撃を食らい、艦腹に海水を飲み込んだのであろう。
「副長、見てみろ。」
彼はワイズマン副長に代わる。
「明らかに敵の竜母です。左舷に航空魚雷を食らったようですな。」
「ああ。速力はせいぜい12ノット程度だ。」
ワイズマン副長が潜望鏡から離れ、再びグレゴリー艦長が潜望鏡をのぞく。彼は竜母のみならず、周辺を見渡す。
いくつか、駆逐艦らしき護衛艦が複数点在していたが、いずれも距離は離れている。
しかし、その舳先はどれも竜母を向いていた。
「何隻か護衛艦が見える。どうやら旗艦の周りに集結中のようだ。潜望鏡下げ!」
グレゴリー艦長は潜望鏡を下げさせた。
あたら長い時間潜望鏡を露出すれば、敵艦に発見されて位置を晒す恐れがある。
「どうします?やりますか?」
ワイズマン副長は艦長に尋ねた。
現在、敵の竜母はノーチラス右舷前方から左舷側に向けて航行している。
敵はこちらに気付いていないのだろう、ちょうど面積の大きい舷側をノーチラスに晒す格好である。
願っても無い雷撃の機会だ。
112 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:32:48 ID:4CUjn9IY0
「俺達はツイているようだな。副長、やるぞ!」
グレゴリー艦長は真剣な表情で副長に言った後、電話で水雷室を呼び出した。
「水雷室!」
「はっ。こちら水雷室です。」
「今から敵艦を攻撃する。魚雷発射管1番から4番まで発射する。」
「1番から4番までですな。分かりました!」
電話の向こうの水雷長は弾んだ声でそう言うと、電話を切った。
グレゴリー艦長は、敵艦隊を視認した後、予め水雷室に魚雷発射管に魚雷を装填させるよう命じていた。
ノーチラスの前部発射管のうち、1番から4番発射管には、既に魚雷が装填済みであった。
それから6分後、6ノットのスピードで前進を続けたノーチラスは、再び潜望鏡を上げた。
潜望鏡が海面に突き出され、レンズがとある方向でピタリと止まる。
「ようし、竜母はまだいる。絶好の射点だぞ!」
敵の竜母は、ノーチラスから4500メートルほどの距離を、先とほぼ同じ状態で航行している。
違う所といえば、先はやや斜め前から見ている格好であったのに対して、今は横側から見る格好である。
「目標、艦首前方の敵母艦。距離4500メートル。雷速44ノット。水雷室、発射準備いいか?」
グレゴリー艦長は水雷室を呼び出した。
「艦長、発射準備OKです!いつでもどうぞ!」
彼は躊躇わず、発射命令を下した。
113 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:34:43 ID:4CUjn9IY0
「魚雷発射!」
その命令の直後、1番発射管と3番発射管から魚雷が放たれ、2秒後に2番、4番発射管から魚雷が撃ち出された。
12ノットという、のんびりしたような速度で航行していく竜母の横腹に、4本の航跡が吸い込まれるように進んでいく。
(あれなら全部命中するな)
グレゴリー艦長はそう確信しながら、すかさず次の命令を下す。
「潜望鏡下げぇ!急速潜行!」
「潜望鏡収納、急速潜行、アイアイサー!」
ノーチラスの2730トンの艦体は、徐々に深い海中に沈み始めた。
潜行開始からそう間を置かずに、ズドーンという、くぐもったような爆発音が聞こえた。
「魚雷命中です!」
ソナー員のベンソン1等水兵が大声で報告して来た。喜ぶ間もなく、またズドーンという魚雷炸裂の音が聞こえて来た。
「もう1本命中!」
次の瞬間、ノーチラスの艦内で歓声が爆発した。
「やったぞ!シホットの軍艦を叩き沈めてやったぞ!」
「これで水上艦の奴らに胸を張って言い切れるぜ。」
「2本も命中すれば手負いの敵艦なぞ轟沈だ!シホットめ、サブマリナーの意地を思い知ったか!」
初めての敵艦撃沈に、ノーチラスの乗員たちは喜色満面でそれぞれの感想を口にする。
114 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:36:06 ID:4CUjn9IY0
「浮かれるのはまだ早いぞ!」
乗員達の心中を察したグレゴリー艦長がすぐに、天狗になった彼らの気持ちを戒めようとする。
「これからは護衛艦の攻撃があるかも知れんぞ。シホット艦から遠く離れるまで、決して油断するな!」
グレゴリー艦長の言葉をこれだけであったが、すぐに乗員達の興奮は収まった。
「これから本艦は、この海域から離脱する。各員、これまで通り持ち場で義務をこなしてくれ。」
艦長はそう言って、マイクを置いた。
「しかし、2本のみ命中とはな。俺はてっきり、4本とも命中したと思ったんだが。」
グレゴリーは頭を捻りながら、そう言う。
すると、ソナー員のベンソン1等水兵が意外な言葉を口にした。
「4本とも当たっていますよ。」
「・・・・何?それは本当か?」
「ええ。ちゃんと聞こえましたよ。最初の2本が敵艦の横腹に当たった音が。」
「と言う事は・・・・・恒例のアレか。」
「ええ。そうなります。」
ベンソン1等水兵は、ソナーに耳を傾けたままそう返事した。
実を言うと、アメリカ海軍が保有するMk14魚雷は欠陥魚雷である。
Mk14魚雷の信管は衝突で作動する起爆尖であるが、この起爆尖が目標に命中しても作動しない場合が多かった。
115 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:37:35 ID:4CUjn9IY0
魚雷が命中しても爆発しない、という報告は大西洋艦隊所属の潜水艦部隊から多数報告されており、
海軍兵器局は新たな信管の開発に頭を捻っているようだ。
その不発魚雷の欠陥振りが、ここでも遺憾なく発揮されたのである。
「なんてえ魚雷だ。それで2回の炸裂で終わった、と言う事か。」
グレゴリー艦長はげんなりとした表情で、ため息を吐きながらそう言った。
「下手すりゃ、4本とも起爆しなかった、て事も有り得ますよ。今回はむしろ、運が良かったかもしれません。」
「なるほど・・・・運が良かったか。それで、敵艦はどうなった?」
「その敵艦ですが、魚雷命中のあと、敵艦のスクリュー音が途絶えました。恐らく、航行不能になったかと。
それに、何かが誘爆するような爆発音も微かに聞こえました。僕の判断ですが、あの敵艦は長く持たないでしょう。」
「と、言う事は、撃沈確実と言う事か。」
彼の言葉に、ベンソン1等水兵は頷いた。その時、ベンソンが耳に手を当てた。
「・・・・艦長!左舷前方より敵艦らしき高速推進音!他にも、いくつかの推進音が聞こえます。」
ベンソンはそう言った後、すぐにヘッドフォンを耳から外す。
「くそ、奴さん、竜母がやられたんで、俺達を探して居やがるな。おい、今の深度は!?」
「50メートルです!」
潜行開始から10分が経つが、まだ50メートルの深度だ。
(この艦も古いからなあ。所々、カタログ通りにいかぬ部分があるな)
グレゴリー艦長はそう思いながら、ノーチラスが早く潜ってくれる事を祈った。
敵艦の推進音が右舷後方に抜けようとした時、
116 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:40:00 ID:4CUjn9IY0
「着水音探知!爆雷です!」
ベンソン1等水兵が緊迫表情で艦長に言って来た。
「爆雷が来るぞ!総員衝撃に備え!」
グレゴリーが発令所の皆に向けて叫ぶ。
艦内の空気が一気に冷え付き、誰もが上を見上げてその時を待つ。
潜水艦乗りにとって、場くらい攻撃と言うものはどんな事よりも恐ろしい物だ。
爆雷がひとたび炸裂すれば、満足な防御を持たぬ潜水艦は海中で衝撃に小突き回される。
乗員は狭い艦内で壁に叩きつけられたり、床に転倒する。
爆雷炸裂の衝撃をモロに食らえば、艦体は叩き割られて海底に没していく。
水上艦の沈没は、まだその最期を看取る寮艦等がいるが、潜水艦の喪失と言うものは誰も看取るものが存在せぬ、
ひどく寂しい物だ。
乗員の誰もが緊張の面持ちで、じっと待っていると、突然ドン!という小さな爆発音が聞こえ、艦が微かに揺れる。
最初の爆発は怖くないが、時期にそれが近くなり、最後には艦を炸裂の衝撃で激しく揺さぶる。
「深度、60」
観測員が現在の深度を読み上げる。
2回目の爆発が聞こえる。振動が先ほどより大きい。3回目、4回目と、爆発音と振動は徐々に大きくなって来る。
「大丈夫、外れるぞ。」
グレゴリー艦長が陽気な声でそう言う。
その直後、ダァン!という爆発音が鳴り、ノーチラスが大きく揺れる。
乗員が壁に叩きつけられたのか、一瞬悲鳴らしき声が聞こえた。
117 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:42:11 ID:4CUjn9IY0
ドダァン!という先のものより倍する爆発音が聞こえ、艦体が激しく揺さぶられる。
いきなり側壁のパイプから水が勢い良く吹き出す。
「バルブを閉めろ!」
グレゴリーがすかさず指示し、2人の兵が慌ててバルブを閉める。
その直後に炸裂音が鳴り、三度ノーチラスが揺らされる。一瞬発令所の中が真っ暗になり、2秒後には再び電気がつく。
炸裂音が鳴り、衝撃に揺さぶられるたびに、発令所ではひっきりなしに報告が舞い込み、指示が各所に飛んで行く。
「畜生ぉ・・・・俺はこんなとこで死なんぞ!」
とある兵曹が、必死の形相で喚きながらバルブを閉めていく。
その兵曹は、ヴィルフレイングでカレアント出身の女性と付き合っている。
1度だけ写真を見せてもらったが、獣耳を生やした若くて、可愛げのある女性だった。
その彼が、自らの生のために行動しているのか、女性とまた会いたいがために行動しているのかは分からない。
分かる事は、それぞれの乗員達が、このノーチラスを沈めまいと懸命に努力している事である。
10月24日 午後7時 リルネ岬沖南南西100マイル沖
第16任務部隊司令官、ウィリアム・ハルゼー中将は、暗くなった海面を見つめていた。
エンタープライズの前方には、軽巡洋艦のフェニックスがいる。
本来ならば、前方にいるのは戦艦のノースカロライナのはずである。
だが、TF16には今、ノースカロライナはいない。
「ラウス君。君の案を取り入れて、とりあえず襲撃部隊を送ったが、俺としては勝算は五分五分。
悪くて四部六部であちらが有利だと思う。」
118 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:44:11 ID:4CUjn9IY0
「まあ、とりあえずは敵の戦艦をなるべく叩いてから、船団を襲った方がいいです。そうでなければ、
後々、退路を絶たれて酷い損害を負いますからね。」
ラウスはどこかのんびりとした口調で言う。
「まっ、後はリーらに任せるしかないな。今は結果を待つしかない。」
その時、通信参謀が入ってきた。
「司令官、潜水艦のノーチラスから入電です。」
「ノーチラス?まさか、別の艦隊を見つけたとか言うまいな!?」
ハルゼーは怪訝な表情で通信参謀を見つめて、紙をひったくった。
「いえ、どうやら違うようです。」
通信参謀はそう言うと、ハルゼーに微笑んだ。
「我、機動部隊より南西220マイルの位置を航行中の敵竜母部隊を捕捉、雷撃により敵竜母1隻撃沈確実
・・・・・そうか!ノーチラスはよくやった!」
ハルゼーの顔に笑みがこぼれた。
「ラウス君。南西のシホットの竜母は、2隻とも沈んだぞ。襲撃部隊が敵に取り付く前に朗報が舞い込んでくるとはな。」
「これで、後方の敵は心配しなくて済みますな。」
ブローニング参謀長の言葉に、ハルゼーは満足気に頷いた。
「後は、リーらが残りのシホットを叩きのめすだけだ。」
119 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/01(日) 12:45:17 ID:4CUjn9IY0
午後7時30分 ノーベンエル岬南南西250マイル沖
ハルゼーが、敵竜母撃沈の朗報に胸を躍らせている時、ノーベンエル岬の南南西の方角を、一群の艦艇が航行していた。
艦艇群は3隻の巨艦に、6隻の中型艦、16隻の小型艦で成っている。
その艦艇群は、アメリカ機動部隊から抽出された輸送船襲撃部隊である。
襲撃部隊は、主力に戦艦ノースカロライナ、ワシントン、サウスダコタで編成している。
それを支えるのは、重巡洋艦アストリア、ヴィンセンス、ペンサコラ、ノーザンプトン、ナッシュヴィル、サヴァンナ。
駆逐艦デューイ、エールウィン、モナガン、シムス、グリッドリイ、ブルー、マグフォード、ラルフ・タルボット、
パターソン、ジャービス、リバモア、デイビス、フレッチャー、オバノン、ニコラス、モンセン。
計25隻の艨艟が、針路を北北東に向けて、時速24ノットのスピードで航行している。
これらの艨艟が向かう先には、護衛艦群に援護されながら、上陸地点に急ぎつつあるシホールアンル輸送船団があった。
この世界初の大規模夜戦となるノーベンエル岬沖海戦は、刻々と、開始の時間を迎えようとしていた。
127 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 18:51:36 ID:4CUjn9IY0
第49話 リー戦隊奮戦
1482年 10月24日 午後10時 ノーベンエル岬北北西70マイル沖
アメリカ機動部隊から抽出され、輸送船団攻撃に向かっていた襲撃部隊は、潜水艦ナーワルの報告を元に
北東に向かっていた。
「参謀長、味方潜水艦が敵戦艦1隻に魚雷を命中させて、戦列から引き離したそうだが、1隻減った分、
私達も幾分楽になったな。」
襲撃部隊の指揮官に任じられた、第5戦艦戦隊司令官のウィリス・リー少将は、傍らに立って話を聞いている
参謀長のリューエンリ・アイツベルン大佐に言った。
「確かに。ですが、まだ油断できません。敵艦隊には依然として、4隻ないし5隻の戦艦があります。
戦艦はジュンレーザ級とオールクレイ級の2種類、砲の口径は33センチと、我々の戦艦より劣りはしますが、
あちらは5隻で、数の優位は敵にあります。」
「それに対し、こっちは3隻。ジュンレーザ級、オールクレイ級共に33センチ砲8門搭載で、合計で40門。
こっちは16インチ主砲9門搭載、合計で27門。数字の上ではシホールアンル側が有利だな。だが、そう悲観する事でもない。」
リー少将はそう言いながら、周りを見渡した。
リーとリューエンリがいる場所。そこは、戦艦ワシントンの艦内にあるCICである。
CICには各種レーダーの表示機が並べられ、その前には、操作する兵がPPIスコープを睨んでいる。
「こちらにはレーダーがある。SGレーダーなら、敵に見つかる前にこちらが相手を見つけることが出来、
正確な射撃が出来る。」
「しかし、敵にも探知魔法を使う魔法使いが乗っています。大西洋方面では、20マイル以上離れたマオンド艦隊が
TF26を捕捉し、砲戦を挑んでいます。」
128 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 18:54:40 ID:4CUjn9IY0
「ふむ。魔法使いか・・・・・あいつは始末に悪い。」
リーが顔を眉をひそめながら唸った。
「だが、それは腕のいい魔法使いの話だろう。並みの魔法使いなら、SGレーダー並みの探知能力は持たぬと聞いている。
これはクレーゲル魔道士から聞いたことだが。」
「それでも、用心したほうがよろしいでしょう。」
「そうだな。まずは、敵艦隊を見つけることが先だな。」
リー少将とリューエンリはひとしきり会話を交わすと、再び黙って敵との対決を待った。
午後10時30分、ついにレーダーが反応を捉えた。
「レーダーに反応です!北東の方角、方位45度方向に反応。数は10隻。反応、増大中です。
速力は12ノット!」
レーダー員の言葉に、リューエンリはリー少将に顔を向けた。
「司令官、敵艦隊です!」
「うむ。ついに見つけたな。」
リー少将は表情を変える事無く返事した。
彼はマイクを取ると、直ちに全艦に向けて指示を伝えた。
「全艦に告ぐ。我が艦隊の方位45度方向、距離20マイルに敵艦隊を発見した。これより、我々は全艦を挙げて
敵に決戦を挑む。各艦の健闘を祈る!」
次いで、リー少将はワシントンの艦長を電話で呼び出す。
129 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 18:56:50 ID:4CUjn9IY0
「艦長、速度を28ノットに上げよ。敵と一戦交えるぞ。」
「アイアイサー」
それから間もなく、ワシントンのスピードは24ノットから最高速度の28ノットに上がった。
距離は20マイルから19マイル。19マイルから18マイルと縮まっていく。
「敵艦隊の反応は今の所無いな。サマービル部隊はすぐに敵が向かって来たといっていたが、どうやら、
敵艦隊の魔法使いの腕は、飛び切り優秀ではなく、並みだな。」
「なるほど。今に敵が向かってくるのかと思っていましたが、このまま気付かれずに近寄って、
有利な位置から砲撃を加えた方がいいでしょう。」
「私もそう思っている。相手は強力な護衛を持っているからな。とりあえず、14マイルまで近付いてから砲撃に移ろう。
レーダー射撃でも、遠くからの及び腰では当たる物も当たらん。」
リーは襲撃部隊をもう少し、敵艦隊まで近づけることにした。
その間にも、敵艦隊との距離は縮まっていき、レーダーの反応は増えつつある。
16マイルまで接近した時、レーダーの光点の一部がやにわに動き出した。
「一部の敵艦、反転しつつあり。反転中の敵艦は単縦陣を形成しつつあり!」
その報告に、リー少将は舌打ちした。
「やはり思い通りに行くほど、甘くは無いな。レーダー員、敵の詳細知らせ。」
「敵艦隊は4つの単縦陣を形成しつつあります。そのうちの1つの単縦陣の反応が大。戦艦クラスかと思われます。」
「何隻だ?」
「5隻です。」
リーはしばしの間、考えた。
130 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 18:58:16 ID:4CUjn9IY0
今、こちらの存在を察知した敵艦隊は反転し、こちらに近付きつつある。
敵艦の主力のうち、戦艦と思しき艦は5隻。
それに対してこちらは3隻だ。
16インチ砲搭載の新鋭戦艦とはいえ、幾分不利な戦いを強いられるのは目に見えている。
「・・・・・最初は仕方ないな。」
リーは頭の中で最初のやり方を決めると、再びレーダーを見続けた。
それからしばらくして、米艦隊に向かって来る単縦陣が4つ出来上がった。
「敵巡洋艦9!主力艦群の前方へ突出します!左舷前方から向かいつつあり!」
「キンケード少将に指令。敵巡洋艦群を撃滅せよ!」
リーはキンケード部隊の巡洋艦6隻に敵巡洋艦部隊の相手を任せた。
次に敵駆逐艦20隻が右舷から突っ込もうとするが、これも味方駆逐艦16隻引付けられて行き、残ったのは
5隻のシホールアンル戦艦と、3隻の米戦艦のみとなった。
「敵巡洋艦、面舵に転舵!」
巡洋艦部隊司令官であるトーマス・キンケード少将は、旗艦アストリアの艦橋から、暗闇の向こうの敵艦を見つめていた。
「敵艦隊、30ノットの速度で回頭中。距離は14000メートル!」
「ようし、敵さんも乗ってきたな。」
キンケード少将はまず、敵巡洋艦が戦艦群に向かうのを防ぐべく、敵艦の前方を塞ぐ形で取り舵に転舵した。
131 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 18:59:42 ID:4CUjn9IY0
このままでは集中砲火を食らうと確信した敵艦隊の司令官は面舵に転舵した。
結果、互いに同航戦を挑む形で洋上を突っ走っていた。
「右砲戦!砲撃用意!」
キンケード少将は鋭い声音で、アストリア以下の巡洋艦に指示を伝えた。
前部の8インチ3連装砲2基が右舷に向けられ、暗闇の向こうのシホールアンル巡洋艦へと向けられる。
今頃、敵艦隊でもこちら側に砲身を向けているだろう。
「CICより報告。敵速30ノット。距離14000メートル。徐々に接近しつつあり。針路は変わらず。」
「ようし。艦長試合開始だ。撃ち方始め!」
「目標、敵1番艦。撃ち方始め!」
キンケード少将の指示の下、アストリアの8インチ砲が咆哮する。
レーダーから送られて来る情報を下に、推測した敵の位置に向けて、各砲塔の1番砲が放たれる。
順繰りに、後方の巡洋艦も射撃を開始する。
しばらくして、第1射が敵艦の左舷側海面に着弾した。
「第1射、敵艦の左舷側海域に着弾。」
続いて、2番砲が砲撃する。この時、敵艦隊の方から発砲炎が浮き上がった。
やがて、アストリアの上空に緑色の光が輝いた。照明弾である。
2番砲が砲撃して10秒後に3番砲が放たれる。第3射は敵艦を飛び越して右舷側に水柱を上げた。
「レーダー射撃といえど、すぐに命中弾を得る事は難しいな。」
キンケードは小さい声で呟く。敵1番艦から第1斉射が放たれる。
132 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:01:18 ID:4CUjn9IY0
「やはり斉射で来たか。」
アストリア艦長は別段驚く事も無くそう言う。
敵が交互撃ち方をやらずに、すぐに斉射に入る事は既に予想済みである。
1番砲が再び発砲した直後、何かが空気を裂いて落下してくる音が聞こえた。
「敵の弾か。」
キンケードが呟いた瞬間、アストリアの左舷側海面に水柱が立ち上がる。
水柱の数は6本である。
(オーメイ級だな)
キンケードは水柱の数で、敵巡洋艦の艦型を見破った。
シホールアンル海軍が主に配備している巡洋艦は、オーメイ級とルオグレイ級である。
前者は7インチ口径の主砲を6門、後者は8門装備している。
アストリアが対決しているのは、オーメイ級巡洋艦と言う事になる。
敵艦が第2斉射を撃った。それと同時にアストリアも第7射を撃つ。
「ノーザンプトン、夾叉されました!」
「何ぃ?」
見張りの声に、キンケードは思わず耳を疑った。
ノーザンプトンは、今年の5月までは第5巡洋艦戦隊の旗艦であり、乗っている乗員の錬度も高い。
その証拠に、ガルクレルフ沖海戦ではシホールアンル巡洋艦を叩きのめしている。
キンケードとしては、ノーザンプトンが最初に有効弾を出すだろうと思っていた。
ところが、件のノーザンプトンが先に夾叉されている。
133 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:02:47 ID:4CUjn9IY0
「敵にも腕のいい奴がいるのだな。」
キンケードはそう呟いた。その時、ノーザンプトンの右舷に6本の水柱が立ち上がる。
落下地点はアストリアより500メートル離れている。
「第7射、敵艦を夾叉しました!」
見張り員が弾んだ声で報告して来た。
「ようし。次か、その次あたりで命中が出るぞ。」
アストリアの艦長は笑みをこぼしながら、そう言う。
敵艦も第3斉射を放って来る。敵の斉射弾が殺到してくる前に、アストリアの2番砲から第8射が叩き出される。
そう間を置かずに、敵の斉射弾が落下して、アストリアの右舷に水柱が吹き上がる。
落下地点がこれまで以上に近距離であったのだろう、アストリアの艦体が僅かに揺れる。
水柱が崩れ落ちた時、敵1番艦の中央部付近に発砲とは異なる閃光が発せられた。
「敵1番艦に命中弾!」
「一斉撃ち方に移行する!」
すかさず、艦長は交互撃ち方から一斉撃ち方に切り替える。
弾道が良好であるなら、後は9門の8インチ砲で一気にカタをつけるのみだ。
敵1番艦が20秒ほどの間隔を置いて第4斉射を撃って来た。
砲弾の飛翔音が極限にまで大きくなった直後、アストリアの左舷側に水柱が吹き上がる。
6発の7.1ネルリ弾が左舷側70メートルの位置で着弾し、水中爆発の衝撃がアストリアを再び揺さぶる。
その直後、アストリアの9門の8インチ砲が一斉に火を噴いた。
134 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:04:21 ID:4CUjn9IY0
艦橋の前面が一瞬真っ白に染まり、9発の8インチ砲弾が敵艦に向かっていく。
敵1番艦も負けじと、第5斉射を撃った時、周囲に水柱が吹き上がり、その中に2つの閃光が煌いた。
「2弾命中!」
「ようし。砲術科、いいぞ。その調子だぞ!」
艦長が満足気な表情を浮かべて、砲術科に褒めの言葉を送る。
その時、アストリアの周囲にも水柱が吹き上がる。水柱は左舷側に2本、右舷側に4本である。
「艦長、こっちも夾叉されたぞ。」
キンケード少将は戒めるように艦長に言う。額にじわりと汗が滲んだ。
「こうなったらどちらがノックアウトするか、殴り合うまでです!」
第1斉射から18秒後に第2斉射が放たれる。
第2斉射は3発が敵1番艦に命中、その直後、中央部から火災を発生させた。
すぐ後に敵1番艦も第6斉射を放った。
砲弾の飛翔音が、今まで以上に大きく聞こえた。
(こいつは来るな)
キンケード少将は内心そう思った時、艦の周囲に砲弾が落下した。
2度ほど艦が激しく揺れ、何かが壊れるようなけたたましい音が響いた。
「右舷中央部に敵弾命中!3番両用砲、28ミリ機銃座1基破損!」
被害報告を聞いた艦長は、一瞬安堵したような表情を浮かべる。
135 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:06:58 ID:4CUjn9IY0
敵1番艦がまだ健在なうちに、主砲塔の1基でも使用不能になれば不利になる。
被弾と同時に艦長はそう危惧していたのだが、それが的中せずに済んだので、内心ホッとしたのだ。
お返しだとばかりにアストリアが第3斉射を発砲した。
火災を起こしている敵1番艦に、更に3発の砲弾が前部と中央部に命中した。
命中の瞬間、敵艦の前部側から火炎が吹き上がり、その中に棒状のような物が混じっていた。
これだけでは敵1番艦は参らない。敵艦も矢継ぎ早に第7斉射を放つ。
だが、敵1番艦からの発砲の閃光は先と比べて小さい。
先の命中弾は前部に集中している。その時の1弾が、敵の第1砲塔を叩き潰したのであろう。
敵艦の第7斉射が落下してきた。1発がアストリアの後部に命中し、2つあるカタパルトのうち、1本を真ん中から叩き折る。
「カタパルト損傷!火災発生!」
その報告に目を剥いた艦長が、すぐに消火せよと命じる。
夜戦では、火災を発生すれば、それが格好の目標となり、敵弾を次々と吸い寄せる副作用を生む。
そうなれば、最悪の場合、艦体中をあちこち打ち抜かれ、蜂の巣の如き様相を呈するであろう。
「主砲塔は1つ潰したんだ。こっちが有利なのは変わらないぞ。」
艦長が、自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた時、アストリアが第4斉射を放つ。
今度は1発のみが中央部に命中する。
先と比べれば命中弾の数は少ないが、これは中央部の火災をより大きくする結果をもたらした。
だが、敵も強かであり、アストリアに向けて第8斉射を叩き込んで来る。
4発中、1発がアストリアの中央部に命中し、5インチ砲1基と20ミリ機銃2丁を叩き壊す。
アストリアが第5斉射を放ち、敵1番艦に殺到。4発が敵1番艦の中央部から後部に満遍なく命中する。
命中の閃光が上がる度に、敵艦の艦上で甲板の破片が飛び散り、火災がより拡大して行く。
都合13発もの8インチ弾を浴びた敵艦だが、それでも30ノット以上の速力を保ち続け、アストリアに
向けて健在な7.1ネルリ砲4門を撃ちまくる。
136 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:09:27 ID:4CUjn9IY0
今度はアストリアが2発受けた。1発は第1煙突の横側の右舷甲板に着弾して、機銃と高角砲を吹き飛ばし、
2発目が左舷後部の、もう1つのカタパルトを直撃し、これも叩き折って火災を発生させた。
アストリアも第6斉射を放ち、新たに5発を叩きつける。
この被弾によって、前部甲板、中央甲板の火災がより一層酷くなるが、それでも4門の7.1ネルリ砲を撃つ。
唐突に艦橋の目の前がカッと白く光る。
その次の瞬間、金属的な叫喚が鳴り響き、艦橋のスリットガラスが音立てて砕け散った。
「くそ、今のは凄かったな。」
キンケード少将はよろめきながらも、敵1番艦を双眼鏡で見つめる。
お返しだ、とばかりにアストリアも第7斉射を放つが、キンケードはこの斉射が、先の斉射よりもどこか頼りなさげに思えた。
一瞬首を捻りかけたが、彼は艦長の言葉を聞いて、どうして頼りなさげに思えたのか理解できた。
「なにぃ・・・・第2砲塔損傷だと!?・・・・・そうか。砲塔の真正面から弾を食らったのか。」
艦長は電話の口の向こう側にそう言いながら、艦橋の目の前にある第2砲塔を見てみた。
先ほどまで、8インチ砲弾を放っていた第2砲塔が、3本の砲身のうち、2本が根元から大きくひび割れ、真っ黒に染まっている。
先の敵弾は、1発が砲塔の真正面に着弾した。爆発エネルギーは砲塔内に及ばなかったものの、飛び散った破片が
3本の砲身のうち真ん中と右側の2本を切り刻み、衝撃が砲塔内の装填機構に重大な損傷をもたらした。
幸い、火災は発生しなかったものの、第2砲塔は使用不能に陥ってしまった。
アストリアが放った斉射弾は敵1番艦の前部に2発が命中した。
その10秒後に敵1番艦も発砲するが、その時には後部砲塔のみが火を噴いていただけであった。
この斉射弾はアストリアの右舷側海面に空しく水柱を吹き上げたに留まり、その後の第8斉射で中央部と後部に命中弾を浴び、
内1発が艦深部の機関部を損傷させ、第9斉射が敵の後部砲塔を叩き潰したところで、敵艦は力尽きたように隊列から落伍していった。
137 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:13:34 ID:4CUjn9IY0
「敵1番艦沈黙!」
艦長は敵1番艦の撃破を高々に宣言した後、目標を2番艦に変えようとした。
この時、見張りから悲痛な叫びが上がった。
「ノーザンプトン大火災!スピードを落としています!!」
アストリアは敵1番艦の強靭さに舌を巻きつつも、なんとか戦闘不能に陥らせたが、米巡洋艦群の全てが
アストリアと同じような戦いをしているわけではない。
2番艦ヴィンセンスは命中弾4発を受け、中央部の機銃、高角砲に損害は出ていたが、主砲塔や機関部は無事であった。
その代わり、ヴィンセンスも空振りを繰り返し、ようやく3発の砲弾を敵に叩きつけ、調子が出始めたところだ。
ペンサコラは敵3番艦相手にアストリア以上の激しい殴り合いを行っていた。
ペンサコラは敵3番艦(これもオーメイ級)の前部第2砲塔と、後部の第3砲塔を吹き飛ばし、中央部と後部から
大火災を起こさせていたが、ペンサコラもまた、後部の第3、第4砲塔を叩き潰され、後部艦橋が破壊されて
大破に等しい損害を負っている。
それでも、敵3番艦とペンサコラは飽く事無く、互いに砲弾を叩き込み続けている。
不運に見舞われたのはノーザンプトンであった。
ノーザンプトンは敵4番艦のオールクレイ級巡洋艦と撃ち合ったが、敵は第3斉射で夾叉を、
第4斉射でいきなり4発を命中させた。
この時、ノーザンプトンでは1発の敵弾が破片でSGレーダーを破壊してしまった。
ノーザンプトンは光学照準に切り替えてから砲撃を続行したが、6度ほど空振りを続けた。
ようやく、8インチ弾2弾を敵に叩きつけた時は、7.1ネルリ弾を16発受けており、第1、第2砲塔は破壊され、
艦橋にも命中弾を受けて艦橋要因のほぼ全員が戦死してしまった。
止む無く、生き残った副長の指揮の下、隊列から離脱しようとした時、敵弾が新たに4発命中した。
そのうちの1発は前部第2砲塔のすぐ横に命中した。
その命中箇所は、2度ほど7.1ネルリ弾が着弾しており、強度が弱くなっていた。
138 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:16:50 ID:4CUjn9IY0
敵弾は強度の弱くなった装甲に穴を穿ち、弾薬庫に達してから炸裂した。
その刹那、ノーザンプトンの前部から火山噴火さながらの火炎が吹き上がった。
敵弾は弾薬庫に収められていた数百発の8インチ砲弾を一斉に誘爆させ、爆発エネルギーは上へ。
そして、横や下にも向かった。
艦体は爆風に食い破られ、ノーザンプトンは第2砲塔の部分から断ち割られた。
ノーザンプトンが沈没確実の被害を追った2分後、更なる悲劇が米巡洋艦列の最後尾で起こった。
アメリカ巡洋艦6隻のうち、最後尾の2隻はブルックリン級軽巡である。
5番艦ナッシュヴィル、6番艦サヴァンナは2隻で5隻の巡洋艦と渡り合っていた。
敵5、6番艦はナッシュヴィルを、7、8、9番艦はサヴァンナを相手取り、これらは相手がブルックリン級だと分かると、
死に物狂いで主砲を撃ちまくった。
この5隻の巡洋艦は第24竜母機動艦隊からの増援であり、うち6、7、8、9番艦はまだ新しいルオグレイ級である。
数からしてシホールアンル側が優勢だが、相手は2隻とは言え、15門の速射砲を備えた化け物である。
他の味方がブルックリン級と対戦して、幾度も苦い目に合っている事は、各艦の艦長たちは知っている。
そのため、シホールアンル巡洋艦は目の色を変えてこの2隻の制圧にかかった。
ナッシュヴィル、サヴァンナに多数の7.1ネルリ砲弾が降り注ぐ。
だが、砲弾はなかなか2隻の軽巡に命中しなかった。
この猛砲撃に対して、ナッシュヴィル、サヴァンナは定石どおり、交互撃ち方から入った。
ナッシュヴィルは第5射で、サヴァンナは第7射で夾叉を得ると、しばらく沈黙する。
10秒ほどの間に、ナッシュヴイル、サヴァンナが各1発ずつを初めて被弾する。
それに触発されたかのように、2隻のブルックリン級軽巡は本来の姿を現した。
47口径6インチ3連装砲15門の主砲が一斉に放たれ、15発の砲弾がショットガンの散弾のごとく、
敵艦の周囲に落下する。
その6秒後に第2斉射が、そのまた6秒後に第3斉射が、そしてまた6秒後に第4斉射と、多量の6インチ弾が
雨あられとシホールアンル艦に襲い掛かる。
シホールアンル艦の7.1ネルリ砲は21秒に1発の速さで砲弾を放てる。
だが、ブルックリン級はその間に3回砲弾を撃てた。
139 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:22:12 ID:4CUjn9IY0
真っ先に狙われたシホールアンル巡洋艦5番艦、7番艦は1分間の間に2回か、3回の斉射を放ち、
それぞれが12発又は24発の砲弾をブルックリン級に放つ。
それに対して、ナッシュヴィル、サヴァンナは1分間の間に、砲1門につき10発。
艦全体で150発もの6インチ砲弾を放っていた。
この間に、5番艦は19発、7番艦が16発を被弾していた。
最初に狙われた5番艦、7番艦は悲惨さを極めた。
ブルックリン級の斉射弾が降って来るたびに艦体が激しく揺れ、破片が高々と飛び散る。
艦上に設置した魔道銃、高射砲が細切れにされて、しまいには小石ほどの大きさに分解されて海にばら撒かれる。
こちらがあと6秒ほどで撃ち返せると希望を持つと、ブルックリン級はその希望を刈り取るかのように
15門の6インチ砲を乱射して来る。
強固な装甲で覆われたはずの平な中央部甲板が、みるみるうちに醜いあばた状の凹凸に変えられる。
強度の弱くなった装甲部に3発から4発の6インチ砲弾が叩き付けられ、敵弾が艦内に踊り込んで炸裂する。
機関部にぶち込まれた6インチ砲弾が炸裂し、動力として機能していた魔法石が魔道士と共にひとしなみに粉砕され、
艦の動力が一斉に止まる。
ブルックリン級が斉射に移行してからわずか5分足らず。
その5分足らずの間に、5番艦は58発、7番艦は46発の6インチ砲弾を食らい、艦全体を蜂の巣状に打ち抜かれ、
火達磨になりながら速力を落としていく。
唐突に、7番艦が閃光を発し、大音響と共に真っ二つとなって轟沈した。
そのままの勢いで、ナッシュヴィル、サヴァンナは6番艦、8番艦に挑んだ。
確かに、ブルックリン級は強い。
5、7番艦に満足な反撃をさせぬままあっという間に撃沈破した事は、本級の優秀さを如実に現すものである。
だが、その強さも最初だけであった。
いかなブルックリン級といえど、数の優位には敵わなかった。
ナッシュヴィル、サヴァンナは5、7番艦を痛めつけている間、自艦もまた6番艦や8、9番艦に撃ちまくられていた。
砲を別の敵艦に向けた時、ナッシュヴィルは13発を、サヴァンナは17発の7.1ネルリ弾を受けていた。
140 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:25:46 ID:4CUjn9IY0
特にサヴァンナの損害は酷く、8番艦に向けて発砲を開始した時は後部の第4、第5砲塔は破壊され、
中央部から後部にかけて大火災を起こしていた。
それでも機関部は無事であり、残り9門の6インチ砲を初っ端から斉射で砲撃した。
またもや始まった6インチ砲の高速射撃は、瞬く間に8番艦を捉え始める。
後にブルックリン・ジャブと呼ばれる矢継ぎ早の砲撃に、敵8番艦は一寸刻みに艦体を痛めつけられていく。
だが、同時に8番艦、9番艦からの砲撃も、容赦なくサヴァンナに放たれ、次々と命中していく。
1発の敵弾が、まだ健在であった2本の煙突のうち、第2煙突の根元に突き刺さって爆発する。
根元から叩き折られた煙突が、右舷側甲板に金属的な叫喚を上げながら、無傷の機銃座を押し潰しつつ、倒壊する。
別の1弾は、奇跡的に無傷であった水上機用の燃料タンクに命中し、禍々しい火炎がサヴァンナの後部一面に広がる。
まだ火炎は瞬く間に後部艦橋に広がり、生き残っていた後部艦橋の要員が、生きながらバーベキューにされていく。
別の7.1ネルリ弾がまとまって中央部に命中する。
炸裂が粗大ゴミに変換された機銃、高角砲の残骸を跳ね飛ばし、
他の火災が新たに起きた火災と合体してサヴァンナの艦体を炙っていく。
巨大な炎を中央部から後部にかけて身に纏いながらも、サヴァンナは前部3基の6インチ砲を6秒間隔で必死に撃ちまくる。
だが、シホールアンル艦の新たな斉射が、ちょうど破壊された5番砲塔に落下した時、砲弾が不運にも、
シホールアンル側にとっては運良く、弾薬庫の砲弾、装薬を誘爆させた。
誘爆は、第4砲塔弾薬庫の誘爆を招き、次の瞬間、サヴァンナの後部から真っ白な閃光が走った。
シホールアンル艦の乗組員達は、目の前のブルックリン級から発せられる閃光に目潰しを食わされ、呻き声をあげる。
次に目を開けた時、サヴァンナは中央部から後部にかけて真っ赤な火災炎を吹き上げながらも、
艦首を心持ち上げた状態で、海上に停止していた。
サヴァンナの散華を目にしたナッシュヴィルの乗員達は、戦意を衰えさせるどころか、より熱く滾らせた。
ナッシュヴィルの周囲に多量の7.1ネルリ弾が落下する中、ナッシュヴィルは修羅と化して
目前のシホールアンル艦に向けて、撃ち減らされた6インチ砲を撃ちまくった。
141 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:29:45 ID:4CUjn9IY0
一方で駆逐艦部隊も、敵駆逐艦部隊と激しい乱戦を繰り広げていた。
駆逐艦部隊の方は、巡洋艦部隊よりはやや有利な形で戦闘を展開している。
しかし、敵シホールアンル艦もまたしたたかであり、米駆逐艦に魚雷を発射させまいと、頻繁に転舵を繰り返して、
米駆逐艦の艦長を悩ませていた。
双方はこのままでは埒が明かぬと見て、接近しながら主砲を乱射した。
互いの砲弾が上空で交錯し、彼我の艦艇の周囲に水柱が上がり始める。
被弾した艦はすぐさま炎上し、それが敵側の照準をやりやすくして、より多くの砲弾を受けた。
巡洋艦群、駆逐艦群がほぼ互角か、やや押され気味の戦いを繰り広げている中、戦艦同士の砲撃戦は、
反航戦の体制で始まろうとしていた。
「敵戦艦部隊。右舷前方13マイルに接近!時速25ノットで尚も接近中です!」
レーダー員が敵との距離を読み上げる。
「反航戦を挑んでくるか・・・・・このままだと、いつ始まってもおかしくないな。」
「てっきり、同航戦を挑んで来るかと思ったのですが。」
リー少将の言葉に、リューエンリは少し納得しがたいとばかりに眉をひそめる。
「我々は28ノット。敵は25ノットです。反航戦を挑んで、もし我々の戦艦を1隻でも打ち漏らせば、
敵には後がありません。あの戦艦部隊の背後には、輸送船団がいます。戦艦が1隻でも暴れ込めば、
もはや目も当てられぬ結果になるのは分かるはずなのですが。」
「参謀長。確かに君の言う通りだ。敵の司令官は・・・・もしかしたら迷っているのでは無いかな?
手っ取り早く終わらせる反航戦でやるか。時間はかかるが、堅実な同航戦でやるか・・・・・
君は、敵がどう出ると思う?」
142 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:31:56 ID:4CUjn9IY0
リーの問いに、リューエンリは即答した。
「同航戦を仕掛けてくるでしょう。彼らの任務は、大事な輸送船団を守る事。我が方の戦艦を1隻でも
逃がさぬと考えるのならば、必ず頭を抑えに来るでしょう。いや、そうしなければ、我々は捕まえられません。」
その時、敵艦隊が回頭を始めた。
「敵艦隊、面舵に転舵!」
その言葉に、リーは頷いた。
「参謀長の言う通りだ。このまま進んでも、頭から敵の一斉射撃を受けてしまうな。戦隊進路変更!取り舵一杯!」
リーの命令が発せられてから40秒後、ワシントンの艦体が左に振られ始めた。
「敵艦隊と同航戦を行う。だが、発砲する前に、敵艦隊との距離を20000メートルまで広げろ。」
やがて、米戦艦3隻は、敵戦艦5隻と並び合う形になったが、シホールアンル側は発砲する事無く、
逆に開いた距離を縮めようと、徐々に近付いて来る。
「敵艦隊、徐々に近付きます。現在、距離18000!」
「参謀長、どうやら敵さん、夜間は20000メートル以内の距離で砲撃するらしいな。」
「20000メートル以内ですか。今も距離を詰めつつあるとすれば、夜間の砲戦距離は16000から
5000と言うところでしょうか。」
「恐らくそうだろう。だが、敵さんが砲撃できる距離まで、近付くのを待つ義理は無い。」
143 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:33:23 ID:4CUjn9IY0
そう言って、リーは決断した。
「砲戦用意!目標、左舷方向の敵戦艦!」
シホールアンル海軍は、夜戦を行う際には5.4(16200メートル)ゼルドまで近付いてから、
砲撃戦を行うのが決まりとなっている。
この時も、ジュンレーザ級戦艦ジェクラ艦上のウランク・バルグランス少将はその砲戦距離に達してから
砲門を開く予定であった。
「敵の生命反応が徐々に近付きつつあります。司令官、あと少しで砲戦開始であります。」
面長で、鼻の下に八の字髭を生やした中年の魔道参謀が、自信ありげな口調で報告して来た。
「距離はどれぐらいだね?」
「現在、5.7ゼルドを切りました。」
「うむ。」
バルグランス少将は鷹揚に頷いた。
「たった3隻で来るとは、舐めた真似をしてくれる。目に物を見せてやるぞ、アメリカ人共!」
彼は、唸るような口調で呟いた時、不意に左舷側の海面から発砲炎と思しき閃光が走った。
「!?」
一瞬、バルグランス少将は何が起きたのか理解できなかった。
144 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:35:21 ID:4CUjn9IY0
次に聞こえてきたものは、待機を切り裂きながら落下して来る轟音であった。
「撃ってきたのか!まだ射程内とはいえ、5.6ゼルド以上もあるのだぞ!」
バルグランス少将は信じがたいと言わんばかりの表情で叫んだ。
その刹那、ジェクラの左舷側に3本の水柱が立ち上がった。
その大きさたるや、これまで見てきた水柱より高く、太かった。
「なっ、なんて大きさだ!」
初めて見る16インチ砲弾の着弾に、バルグランス少将は度肝を抜かれていた。
水柱が晴れない内に、敵戦艦はまたもや砲撃してきた。
そして、第2射の砲弾はジェクラの右舷側を飛び越した。
これで、水柱がジェクラより離れていれば、ただのメクラ撃ちとして笑えただろう。
だが、この水柱は、ジェクラより150メートルという僅かな距離で立ち上がっていた。
「馬鹿な!視界の悪い夜間、まだまだ遠距離といってもいい場所から、どうしてこんなに精度の良い射撃が!?」
彼が驚いている間にも、敵戦艦は第3射を放つ。この砲弾もまた左舷側のさほど離れていない海面に落下した。
「司令官、撃たせて下さい!」
唐突に、ジェクラの艦長がバルグランス少将に言って来た。
既に、砲身はアメリカ戦艦のいる方向に向けられており、いつでも砲撃は可能だ。
「このまま撃たれっ放しでは我慢なりません!射撃許可を!!」
バルグランス少将の決断は早かった。
145 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:37:58 ID:4CUjn9IY0
「よし、砲撃を行う!敵1番艦にジェクラ、リングスツ。敵2番艦にロジンク、オールクレイ。
敵3番艦にクロレクを割り当てる。調子に乗るアメリカ人を叩き潰す!」
バルグランスの命令を受け取った各艦の艦長は、まずアメリカ戦艦の位置を確認するために照明弾を撃った。
舷側の高射砲から3発の照明弾が放たれ、しばらくして3つの光が、暗闇の向こうを明るくする。
照明弾の向こう側に、おぼろげながらも戦艦らしき姿が見える。
これまで、絵で見て来たメリーランド級やアリゾナ級等といった旧式戦艦ではない。
艦橋は、それまでのアメリカ戦艦の特徴であった、籠マストや三脚マストではなく、尖塔のようなすっきりとしたものだ。
思いのほか綺麗に纏まった艦上構造物の前、後部に砲塔と思しき物が3つある。
「対空火器、速力を向上させた噂の新鋭戦艦だな。」
バルグランス少将はすぐに分かった。この間のバゼット海海戦で初めて姿を現した、謎の新鋭艦である。
その性能は、3連装式の主砲を3基装備し、大きさはこれまでのアメリカ戦艦を凌ぐと思われている。
「オールクレイ級と同格の戦艦だな。ならば、貴様の首。不肖バルグランスが刈り取ってやろう。」
バルグランス少将は、不敵な笑みを浮かべながら、砲撃を続けるアメリカ戦艦を睨み付けた。
敵戦艦の第4射がジェクラの左舷側に着弾して、これまた物凄い水柱を吹き上げる。
(まさか、敵は対空火器、速力のみならず、砲力も強化させたか?)
バルグランスは何気なくそう思ったが、その次の瞬間、彼は背筋が冷たくなった。
「司令官、発砲準備完了です!・・・・・・司令官?」
我を取り戻したバルグランスは、ジェクラ艦長に向き直った。
146 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:40:22 ID:4CUjn9IY0
「あ?おお、すまんな。全艦、撃ち方始め!」
45口径7.1ネルリ砲8門が轟然と咆哮した。
やがて、おぼろげな姿の敵戦艦に13ネルリ砲弾が降り注いだ。
敵戦艦の前面に8本の水柱が立ち上がる。その1秒後に新たな水柱が上がった。
2番艦のリングスツも、目標は敵1番艦である。
2艦合計16門の砲が、敵戦艦1隻に対して注がれているのだ。
(これなら、いくら新鋭艦とはいえ・・・・こっちより上の砲力を持つ艦とはいえ長くは耐えられまい)
バルグランス少将は余裕の笑みを漏らしたつもりだが、傍から見ると、笑みはどこか控え目に感じる。
その水柱の合間から、閃光が煌いた。敵戦艦が主砲を放ったのだ。
そして、敵弾はジェクラの左右に落下した。左舷に1本、右舷に2本。
「きょ、夾叉されました!」
「魔道参謀!距離は!?」
バルグランスは、叫ぶような口調で魔道参謀に言った。
「距離は・・・・・5.5ゼルドです。」
「・・・・たった5回の砲撃でか!?」
バルグランスは驚愕した。
夜間の砲戦で、斉射を10回ほど繰り返しても、目標を夾叉出来ぬ事は頻繁にある。
ジェクラの砲術科は、ベテランばかりが揃っているが、その彼らとて、目標を夾叉したのは最短で7射だ。
それなのに、アメリカ戦艦は第5射で、こちらを正確に捉えている!
「一体、敵戦艦の砲員は、どのぐらい腕利きが乗っているのだ?」
バルグランスは搾り出すような口調でそう言った時、ジェクラの8門の主砲が火を噴く。
147 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:41:38 ID:4CUjn9IY0
それと同時に、アメリカ戦艦も第6射を放った。
やや間を置いて、不意に上空から空気を切り裂く音が聞こえ始める。
威力の大きい攻勢魔法が、頭上を通過するような音だ。その音は、すぐに大きくなった。
「これは」
当たる。ジェクラ艦長はそう言おうとしたが、言えなかった。
突然、大地震のような衝撃がジェクラを大きく揺さぶった。
「うおっ!?」
今まで経験した事の無い衝撃に、バルグランス少将は床に転倒してしまった。
揺れが収まると、すぐに主任参謀が起こしてくれた。
「司令官!お怪我は!?」
「あ・・・・ああ。大丈夫だ。何ともない。」
バルグランス少将はしきりに頭を頷かせる。
「被害報告!敵弾、左舷中央部に命中!第3甲板兵員室で炸裂、火災発生!」
「応急修理班、被害箇所に急げ!早く火を消せ!」
艦長がすかさず、指示を飛ばす。
その一方で、バルグランス少将は今受けた衝撃が忘れられなかった。
「今の衝撃・・・・・・もしかして、敵の主砲は15ネルリ相当の主砲なのか・・・・?」
148 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:43:58 ID:4CUjn9IY0
彼は、対峙するアメリカ戦艦に向けて問いかける。
そのアメリカ戦艦からは、何の反応も無い。
代わりに、ジェクラ、リングスツが発砲し、その砲弾がアメリカ戦艦の前方に着弾する。
(一体・・・・・貴様の持つ主砲は・・・・どれぐらいの大きさなのだ?)
バルグランス少将の問いは、アメリカ戦艦の斉射で返された。
まるで、身を持って知れと言わんばかりに。
戦艦ワシントンは、第6射で命中弾を出した後、一斉撃ち方に移行した。
その間、敵の第2斉射弾がワシントンの右舷600メートルの海域に落下し、10本以上の水柱吹き上げさせる。
「敵1番艦と2番艦がこのワシントンを集中攻撃しています。精度はさほど悪くありませんな。」
ワシントンのCICで、戦況を見守っているリューエンリは、リー少将に向けて怜悧な口調で言う。
「確かにな。あちらさんも主力戦艦だ。大事な戦艦に下手糞を乗せるほど馬鹿ではあるまい。
確かにこっちは斉射に移行したが、戦況は良いとは言えん。勝負はここからだぞ。」
リー少将は真剣な表情で、そう断言した。
ドドォーン!という強烈な轟音と衝撃がCICにも伝わって来た。
「うぉ・・・・流石は16インチ砲9門の斉射。艦内にあるCICにもしっかり伝わりますな。」
リューエンリは半ば驚いたような口調で言った。
149 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:45:38 ID:4CUjn9IY0
「君は巡洋艦乗りだから、戦艦の斉射を体験するのは初めてだったな。まあ、最初は少々きついが、
慣れたら頼もしく感じるぞ。」
リー少将が微笑みながら、自慢するように言ってくる。
「最初の斉射弾で何発命中するか。できれば、この斉射弾で敵の重要な部位を傷付けて貰いたいものだ。」
その頃、艦橋上では、ワシントン艦長のハワード・ベンソン大佐が、敵艦を双眼鏡で眺めながら艦の指揮を取っていた。
第1斉射を放った20秒後、敵1番艦の周囲に幾本もの大水柱が吹き上がり、敵艦からも発砲炎とは異なる閃光が光った。
「敵1番艦に2弾命中!」
第1斉射から30秒後に第2斉射が放たれる。ドドォーン!という雷鳴のような砲声が、闇夜に響き渡る。
敵1番艦も撃ち返して来る。
先の命中弾の影響であろう、敵1番艦は中央部と後部から火災を発生させている。
だが、その発砲炎は先のものと変わらない。
第2斉射弾が敵1番艦の周囲に落下して水柱を吹き上げ、束の間敵1番艦を覆い隠す。
その時、敵艦の斉射弾も落下してきた。
10本以上の水柱がワシントンの周囲に吹き上がる。
いきなりガガァン!という何かに叩かれる様な衝撃がワシントンを震わせた。
「敵弾、右舷中央部及び第3砲塔に命中!右舷第2両用砲損傷!」
その言葉を聞いたベンソン大佐は思わず舌打ちした。
「2発か。恐らく、今の射弾は敵2番艦の物だな。」
150 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:46:48 ID:4CUjn9IY0
ワシントンに命中した2発の13ネルリ弾のうち、1発は右舷第2両用砲に直撃し、木っ端微塵に吹き飛ばしたが、
装甲を貫く事は出来なかった。
2発目は第3砲塔の天蓋に命中して炸裂したが、これも砲塔にかすり傷を負わせただけであった。
第3斉射が敵1番艦に向けて放たれる。この斉射弾は、敵1番艦の艦体に2発命中した。
第2斉射弾は1発が中央部に命中していたが、これは不発弾であり、敵艦に突き刺さっただけに終わったが、
次の2発は通常通り、信管を作動させた。
双眼鏡の向こうの敵1番艦から2度閃光が煌いた。
1つは前部甲板、もう1つは中央部分であり、前部甲板からは火炎と共に破片のような物も吹き上げられた。
だが、敵1番艦は相変わらず8門の13ネルリ弾をワシントンに向けて放って来た。
この時の斉射弾は、ワシントンに3発の命中弾を与えていた。
2発は右舷中央部に命中したものの、分厚い装甲の前に弾き返された。
残る1発は後部甲板に命中し、2本あったカタパルトと、28ミリ4連装機銃2基を根こそぎ粉砕し、火災を発生させた。
「後部甲板より火災発生!」
「ダメージコントロール!後部の命中箇所の火を消せ!」
艦長は素早く、ダメコン班に指示を下した。火災を起こせば、敵の砲撃はより一層正確になって来る。
ワシントンは、これまでの戦艦より高速かつ、頑丈ではあるが、戦艦の主砲弾を繰り返し受けてしまえばそれ相応の被害を受ける。
「敵にダメージは与えているが、ここで敵の主砲塔なり、艦橋なりに16インチ砲弾をぶち込まんと、後がやばいかも知れん。」
ベンソン大佐は額の汗を拭いながら、ぼそりと呟く。
第4斉射が放たれ、砲弾が敵1番艦めがけて殺到していく。敵艦も、ワシントンの発砲と同時に、斉射弾を放つ。
互いの砲弾が上空ですれ違い、そのまま目標に落下していく。
敵1番艦の周囲に水柱が上がった直後、ワシントンの周囲にもドカドカと砲弾が落下し、35000トンの艦体が揺さぶられる。
衝撃が4度、ワシントンを襲った。
151 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:48:01 ID:4CUjn9IY0
3度目の衝撃は特に強く、ベンソン大佐は危うく床に転倒しかけたほどだ。
10秒ほどの間を置いて、被害報告が届けられた。
「第2砲塔に敵弾命中せるも、砲員は全員無事。以降の操作に支障なし!」
「右舷甲板に2弾命中!右舷第1両用砲全壊!火災発生!」
「左舷後部に命中弾!火災発生!」
ベンソン大佐は思ったより酷くやられたなと思いつつも、それらの報告に対して、1つ1つ適切な指示を下していく。
(敵1番艦はどうなっている?)
彼は内心で呟きながら、双眼鏡で敵1番艦を見てみた。
敵1番艦は、後部の火災が先程より酷くなっている。
(あの火勢の大きさだと、敵艦の後部砲塔の1基ぐらいは潰したかな?)
ベンソン大佐はそう思ったが、その時、敵1番艦が発砲してきた。
発砲炎は前部と後部に見えた。が、後部の発砲炎は先程よりも、明らかに小さかった。
(よし!敵の砲塔を1基潰したぞ!)
彼は、敵の主砲塔を1基潰した事でワシントンが有利に立つだろうと思った。
ワシントンも第5斉射を放った。
敵艦の斉射弾が着弾する前に、中央部付近と後部付近に3つの閃光が光った。
その直後、艦の前面に水柱が吹き上がった。
ワシントンにも5発の敵弾が命中する。
3発は装甲板に弾かれたが、1発は前部甲板の非装甲部に命中し、夥しい破片が主砲塔や甲板上に撒き散らされる。
5発目は右舷中央部の第3両用砲と第2両用砲の間に命中し、第3両用砲は破壊され、残骸と化していた第2両用砲座から
折れた砲身や、破片が海上にばら撒かれる。
「ワシントンに対して、敵さんは2隻で挑んでいるからな。命中弾も多くなる。」
152 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 19:49:03 ID:4CUjn9IY0
ベンソン大佐が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた時、ワシントンも第6斉射を発砲する。
この斉射弾は、敵1番艦の前部と中央部、後部部分を満遍なく叩いた。
前部に命中した砲弾は、第1砲塔の天蓋を突き破って内部で炸裂し、爆発によって2本の砲身は吹き飛び、
砲塔自体も原型を留めぬまでに破壊された。
中央部に命中した砲弾は装甲を突き破って第3甲板の兵員室で炸裂し、多数の寝具や私物が粉砕され、
僅かなチリのみが残される。
後部を叩いた砲弾は後部甲板に命中し、第4甲板にまで到達して炸裂した。
重傷を負った1番艦だが、それでも艦橋や残りの主砲、機関部といった重要部はまだ無事であり、新たな斉射弾を
ワシントンに向けてたたき出した。
今度はワシントンが砲弾をぶち込まれた。
4発の砲弾は中央部と後部に叩き付けられた。
中央部に命中した砲弾のうち、1発がワシントンの装甲に弾き飛ばされるが、2発目が破壊された第3両用砲と
射撃用レーダーの間に命中。
この爆発で根元を叩き折られたMk5レーダーは甲板に倒壊し、先端のレーダー部分は折れて、海中に叩きつけられた。
後部甲板の2発はいずれも装甲を貫けず、その場で炸裂したが、その命中箇所からも小火災が発生した。
舐めるなとばかりにワシントンが第7斉射を撃つ。
この時、後方からオレンジ色の光がぱあっと煌き、すぐに消えた。
「ノースカロライナ大火災!損害大の模様!」
「何だって!?」
いきなりの凶報に、ベンソン大佐は後ろを振り向いた。ワシントンの姉であるノースカロライナは、艦橋からでは死角になって見えない。
この時、ノースカロライナは敵3、4番艦と撃ち合っていた。
リー少将はワシントンに敵1、2番艦、ノースカロライナに3、4番艦、サウスダコタに5番艦を割り当てた。
ノースカロライナは敵3番艦を砲撃し、既に敵艦の主砲2基を使用不能にし、更なる斉射弾を浴びせようとしていた。
153 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:00:37 ID:4CUjn9IY0
だが、ノースカロライナ自身も14発の敵弾を受けており、前、後部の非装甲部や中央部から火災を起こしていた。
そして、敵の新たな斉射弾がノースカロライナに命中した時、それは起こった。
新たに被弾した弾は4発。そのうちの2発が中央部の右舷第5両用砲にほぼ同じ場所に命中した。
戦場というものは、時として残酷な一面をもたらす。
先の1発が命中した時、台座の装甲は辛うじて耐えた。
だが、連続してやって来た敵弾には耐え切れなかった。
2発目の爆発はそう後部を叩き割り、エネルギーの過半を両用砲弾庫にまで及ばせた。
そして、200発分の5インチ砲弾が一斉に誘爆したのである。
ノースカロライナは火炎を吹き上げ、爆発エネルギーは後部艦橋を一部焼き、第2煙突を焦げた炭のごとく、
真っ黒に染め上げた。
その瞬間、シホールアンル艦隊では一気に歓声が上がった。
今まで何発のもの砲弾を浴びても、平然としていたアメリカ戦艦が、火炎を吹き上げて苦しんでいるのだ。
萎えかけていた士気は一気に向上し、ここぞとばかりにノースカロライナを滅多打ちにする。
「ノースカロライナに更に命中弾!ノースカロライナ、主砲沈黙したままです!」
その報告を聞いたリー少将は、初めて焦りの表情を見せた。
「司令官。敵1番艦を戦闘不能に陥れた後は、本艦とノースカロライナ、サウスダコタで敵1艦に砲撃を集中し、
1隻ずつ討ち取ったほうがいいかもしれません。敵は5隻。こちらは3隻です。」
リューエンリはリーにそう進言した。
「このままでは、ノースカロライナは袋叩きです。」
「・・・・そうだろうな。だが、今の所は大丈夫だ、参謀長。」
リー少将は、どこか自信ありげな口調でリューエンリに言った。
154 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:03:07 ID:4CUjn9IY0
「大丈夫・・・・ですか?」
「そうだ。ノースカロライナは、確かに砲は沈黙しているが、ノースカロライナからは主砲が使用不能になった、
という報告は届けられていない。この場合は通信設備が損傷して報告出来なくなったという事も考えられるが、
その時は発光信号で状況を伝えてくる。それが無いのならば、最悪の事態に陥ったか、
あるいは単にレーダーがやられただけか。」
その時、ノースカロライナから通信が入った。
「ノースカロライナより報告!我、レーダー使用不能、これより光学照準に切り替えて砲撃を行う。」
続けて、サウスダコタからも報告が入った。
「サウスダコタより報告!我、敵5番艦を撃破せり、敵5番艦は沈没しつつあり、我が艦の損害、被弾9、
右舷側両用砲3基、機銃28丁破損、目標を敵4番艦に変更して砲撃を続行す。」
その報告に、リューエンリとリー少将は顔を見合わせた。
「サウスダコタかやりよったな。竣工から1年も経たない新米艦だが、乗員の腕は確良いな。」
「そのようですな。それよりも、ノースカロライナは健在です。サウスダコタが敵4番艦を砲撃すれば、
敵4番艦はサウスダコタを相手取らなければなりません。そうなれば、ノースカロライナもやりやすくなりますな。」
その刹那、グァガアン!というけたたましい轟音と、衝撃がワシントンを揺さぶった。
「今のは危なかったな。」
リーはため息をつきながらそう呟いたが、10秒後に行われた斉射で、彼は何かが欠けたなと思った。
155 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:04:21 ID:4CUjn9IY0
この時、艦橋ではベンソン大佐が目眩を起こすような報告が届けられていた。
「第2砲塔基部に命中弾!第2砲塔旋回不能!」
「旋回不能だと?砲塔はどうなっとる!?」
「砲塔は無事ですが、被弾の影響で旋回盤が歪んだため、砲の旋回が不可能になりました。」
「砲の旋回が不能・・・・・なんてこった!」
ベンソン大佐は叫ぶように言うと、受話器を叩きつけるように置いた。
ワシントンの損害は無視できぬ物になっている。
前部甲板、後部甲板の消火は思うように進捗せず、中央部付近の火災は拡大の一途を辿っている。
主砲は立った今、第2砲塔が使い物にならなくなった。
ワシントンが第8斉射を撃つ。
6発中、1発が新たに敵艦の後部艦橋に命中した。
ベンソン艦長からは、背の低い後部艦橋の上部が、火炎を吹きながら打ち砕かれる様子が見て取れた。
既に、互いの距離は12000メートルまで接近しており、互いにノーガードの殴り合いと化している。
敵1番艦が前部砲塔を煌かせて、斉射弾を送り込んでくる。1番艦、2番艦合計12発の13ネルリ弾が、
ワシントンに降り注ぎ、新たに3発が有効弾となる。
ワシントンも撃ち返す。
第9斉射が1番艦に向けて弾き出され、やや間を置いて、敵1番艦の周囲を巨大な水柱が立ち上がる。
その中に2回の閃光が発せられる。
水柱が崩れ落ちた時、敵1番艦は艦首を沈み込ませていた。
命中した2発の16インチ砲弾のうち、1発が敵1番艦の艦首横に命中した。
炸裂した砲弾は敵1番艦の艦首をざっくりと引き裂き、その大穴から大量の海水が艦内に流れ込んできた。
あっという間に2000トン近い海水を飲み込んだ敵1番艦は艦首を沈み込ませ、速力を著しく低下させた。
それでも新たな斉射弾を送り込んできたが、砲弾はワシントンを大きく飛び越えていった。
敵1番艦に対して、ワシントンは第10斉射を放つ。
156 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:07:47 ID:4CUjn9IY0
6発中、1発が前部第1、第2砲塔の真ん中で、1発が後部の艦尾部分に命中した。
爆炎が吹き上がり、敵1番艦は艦全体を黒煙に覆われながら、やがて海上に停止した。
「敵1番艦撃破!」
見張りから、敵1番艦撃破の報告が聞こえる。
「よし!目標を敵2番艦に変更!」
ベンソン艦長の指示の下、第1、第3砲塔が敵2番艦に向けられる。
その敵2番艦は、相変わらずワシントンに向けて斉射弾を放って来る。
残る残存戦艦は3隻。こちら側も3隻だが、ノースカロライナは先の集中射撃がたたって満身創痍だ。
苦しいのはシホールアンル側は、アメリカ側も同じである。
だが、事態は米側有利に進みつつあった。
「前方より未確認艦!高速接近!」
新たな報告に、ベンソン艦長は眉をひそめた。
「敵か?」
「おそらく、敵・・・・いや、敵ではありません!あれは味方です!」
見張り員が、強張らせた表情を次第に緩めていく。
前方に現れた未確認艦。それは、敵駆逐艦部隊を打ち破った味方駆逐艦部隊であった。
157 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:13:32 ID:4CUjn9IY0
駆逐艦部隊は4個駆逐隊16隻で、敵駆逐艦20隻と渡り合った。
最初、駆逐艦部隊司令官である、エルハルト・ブライトン少将は魚雷攻撃で持って敵駆逐艦部隊を早めに片付けようと考えた。
だが、敵駆逐艦は回頭を繰り返して、アメリカ駆逐艦の魚雷攻撃を何度も断念させた。
最後には激しい撃ち合いとなった。
その結果、アメリカ側はデューイ、ブルー、マグフォードが撃沈され、フレッチャーとリバモアが大破したが、
敵駆逐艦8隻を撃沈、5隻を大破漂流させて残りを追い散らした。
駆逐艦オバノン艦上のブライトン少将は6隻を巡洋艦部隊援護に、オバノンを初めとする5隻を戦艦部隊の援護に回した。
2つに分かれた駆逐艦部隊のうち、最初に目標に辿り着いたのはブライトン自ら率いた部隊であった。
「おうおうおう、リー戦隊は派手にやってるな!」
駆逐艦オバノン艦上で、司令官であるエルハルト・ブラウトン少将は、互いに砲弾を叩き込み合っている戦艦部隊の
戦いぶりを見て、陽気な口調で叫んだ。
「ノースカロライナが酷くやられてますな。」
オバノン艦長は、ノースカロライナを指差しながら言う。
ノースカロライナは、右舷側から濛々たる黒煙を引きながら、16インチ砲弾を敵戦艦に向けて放っている。
重傷は負っているが、自慢の主砲はまだ健在のようだ。
「ようし!これより敵戦艦部隊を雷撃する!リー戦隊と敵戦艦部隊の間に入るぞ。雷撃距離は5000だ!」
ジャービス少将の号令の下、オバノン以下4隻は36ノットのスピードで突進し始めた。
味方戦艦群は3隻とも戦列に留まって砲撃しているが、いずれの艦も各所から火の手が上がっている。
一方で敵戦艦3隻の内、後方の2隻は盛大に黒煙を吹き上げているが、先頭の1隻は損傷が少ないようで、煙を引いていない。
その先頭艦の周囲に16インチ砲弾の着弾と思しき水柱が吹き上がる。
158 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:14:47 ID:4CUjn9IY0
水柱は6本上がり、4本が左舷側、2本が右舷側で立ち上がっている。
ワシントンは夾叉を得たのだ。次か、その次辺りで命中弾が出るだろう。
オバノンを始め、ジャービス、デイビス、ニコラス、モンセンが、主砲弾が飛び交う海面に突っ込んでいく。
主砲の射程距離に達すると、5隻の駆逐艦は5インチ砲を発射した。
各艦5門、又は4門の5インチ砲が4秒おきに放たれ、曳光弾が敵戦艦に注ぎ込まれる。
そのうちの1発は、敵3番艦の艦橋に命中して、艦橋要因多数を死傷させた。
対して、敵戦艦からは副砲の反撃等は無い。
恐らく、相次ぐ被弾で大半が破壊されたのだろうとブライトン少将は確信した
やがて、5隻の駆逐艦は敵と反航する形で雷撃距離5000に到達した。
「5000です!」
「各艦、魚雷発射せよ!」
ブライトン少将が大音声で命じた。
オバノン、ニコラスから5本、ジャービスから4本、デイビス、モンセンから5本。
計24本の53センチ魚雷が3隻のシホールアンル戦艦に殺到した。
5隻の駆逐艦は、5インチ砲を乱射しながら、リー戦隊、敵戦艦部隊との間をすり抜けていった。
シホールアンル艦はアメリカ駆逐艦の雷撃に、慌てて回頭を命じたが、その時には、魚雷は舷側に迫っていた。
まず、先頭に立っていた2番艦が艦首に魚雷を食らい、次に中央部に被雷した。
次に3番艦が3本被雷し、その直後、後部部分から大爆発を起こして転覆した。
最後に4番艦が魚雷2本を被雷。
うち、中央部に命中した1本は不発であったが、艦尾に受けた魚雷はしっかり起爆し、推進器を破損した4番艦は
速力を急激に衰えさせた。
辛うじて拮抗していた砲撃戦は、ブライトン隊の乱入によって、一気にアメリカ側有利へと傾いて行った。
159 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/05(木) 20:18:40 ID:4CUjn9IY0
それから10分後。サウスダコタが敵4番艦を沈黙させた後、3隻の米戦艦に砲撃を行うシホールアンル艦はいなかった。
CICに詰めているリー少将とリューエンリは、砲戦が味方の勝利に終わった事で、やや安堵した表情を浮かべていた。
「敵戦艦3隻撃沈、2隻大破ですか。こちらはノースカロライナが主砲塔2つを使用不能、右舷中央部火災と艦首に
浸水して判定は大破。我が艦とサウスダコタが主砲塔1基を使用不能にされて共に中破。あれだけ激しい砲撃戦にも
かかわらず、1隻も沈まなかった事は幸いでしたな。」
「敵の主砲弾がわが戦艦の装甲を貫けなかった事と、味方駆逐艦が乱入してきた事が幸いしたな。問題は大破して、
速力が低下したノースカロライナをどうするかだな。それと、敵の輸送船団だ。」
その時、リューエンリの側に通信将校がやってきた。通信将校は彼に紙を渡してきた。
内容を一読すると、彼はリー少将に視線を向けた。
「司令官、キンケード部隊から報告です。我、味方駆逐艦と共に敵巡洋艦4隻撃沈、3隻を撃破せり。わが方の損害は
ノーザンプトン、サヴァンナ喪失、ペンサコラ、ナッシュヴィル大破、アストリア中破、ヴィンセンス小破。
これより貴隊と共に輸送船団撃滅に向かう。どうやら、巡洋艦部隊もなんとか敵に打ち勝ったようです。」
リューエンリの報告に、リー少将は深く頷いた。
「こっちもかなりやられたな。特にノーザンプトン、サヴァンナと、巡洋艦を相次いで2隻失ったのは痛いな。
だが、まだ仕事は残っている。この残された戦力で、敵船団に殴りこみをかける。」
リー少将は、意を決したような表情で言うと、無線機のマイクを握った。
「襲撃部隊の諸君!強力な敵護衛艦隊との戦い、誠にご苦労であった。我が部隊は、これより残存勢力を持って
敵輸送船団撃滅に向かう。最後の仕上げだ、抜かりの無いように任務に当たれ!私からは以上だ。」
リー少将は短い訓示を言い終えると、マイクを元に戻す。
この時、ワシントンのSGレーダーには、18マイル先の輸送船団が映っていた。
最初にレーダーで敵船団を捉えた時、その無数の光点は立派な隊列を組んで進んでいたが、今では、その隊列は半ば崩れていた。
173 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/07/06(金) 15:02:54 ID:4CUjn9IY0
ここで艦名表の一部を投下します。
エセックス級空母初期
CV−10エセックス
CV−11ボノム・リシャール
CV−12イントレピッド
CV−13フランクリン
CV−14タイコンデロガ
CV−15ランドルフ
CV−16ゲティスバーク
CV−17レンジャーU
CV−18バンカーヒル
CV−19ハンコック
CV−20ベニントン
インディペンデンス級軽空母
CVL−21インディペンデンス
CVL−22プリンストン
CVL−23ラングレーU
CVL−24タラハシー
CVL−25ベローウッド
CVL−26モントレイ
CVL−27フェイト
CVL−28カウペンス
CVL−29キャボット
CVL−30サンジャシント
CVL−31ノーフォーク
CVL−32ロング・アイランドU
CVL−33シアトル
CVL−34ライト
エセックス級空母後期
CV−35ボクサー
CV−36シャングリラ
CV−37アンティータム
CV−38ヴァリーフォージ
CV−39オリスカニー
CV−40グラーズレット・シー
リプライザル級大型正規空母
CV−41リプライザル
CV−42キティホーク