4  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/19(火)  10:02:59  ID:4CUjn9IY0
1482年10月22日現在  バゼット半島沖に急行中の両軍の水上部隊

シホールアンル軍
第22竜母機動艦隊  ルエカ・ヘルクレンス少将(旗艦ゼルアレ)
竜母ゼルアレ  リギルガレス
巡洋艦レンガキ  オレンク  ミルエヅ
駆逐艦13隻

第24竜母機動艦隊  リリスティ・モルクンレル中将(旗艦クァーラルド)
第1部隊  モルクンレル中将直率
竜母クァーラルド  モルクド  小型空母ライル・エグ
戦艦ケルグラスト  クロレク
巡洋艦オーメイ  ジャンビ  エフグ
駆逐艦13隻

第2部隊  ワルジ・ムク少将(旗艦イリアレンズ)
竜母ギルガメル  イリアレンズ
戦艦オールクレイ
巡洋艦ネーリンク  ヒェルク  ラビンジ
駆逐艦10隻  

第8艦隊  ウランク・バルグランス少将(旗艦ジェクラ)
戦艦ジェクラ  リングスツ  ロジンク  ヒレンリ
巡洋艦ルオグレイ  ラスル  ジョクランス  ネルジェリン
駆逐艦16隻

第12艦隊  マリングス・ニヒトー少将(旗艦レルバンスク)
巡洋艦ヒルヒャ  レルバンスク
駆逐艦34隻
輸送船500隻  


5  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/19(火)  10:03:32  ID:4CUjn9IY0
アメリカ軍
第15任務部隊  司令官  レイ・ノイス少将(旗艦ワスプ)
正規空母ワスプ
戦艦サウスダコタ
重巡洋艦ウィチタ  ルイスヴィル
軽巡洋艦ナッシュヴィル  セント・ルイス  クリーブランド  サンディエゴ
駆逐艦デューイ  エールウィン  モナガン  シムス  ハンマン  モーリス  ウォールデン  バートン  スミス
マハン  クレイブン  ダンラップ

第16任務部隊  司令官  ウィリアム・ハルゼー中将(旗艦エンタープライズ)
正規空母エンタープライズ  ホーネット
戦艦ノースカロライナ
重巡洋艦ノーザンプトン  ペンサコラ  ヴィンセンス
軽巡洋艦ブルックリン  フェニックス  アトランタ
駆逐艦グリッドリイ  ブルー  マグフォード  ラルフ・タルボット  パターソン  ジャービス  リバモア  デイビス
ベンハム  エレット  ローウェン  スタック  アンダーソン  ステレット  ウィルソン  ウォーカー

第17任務部隊  司令官  フランク・フレッチャー中将(旗艦ヨークタウン)
正規空母ヨークタウン  レンジャー
戦艦ワシントン
重巡洋艦アストリア  クインシー
軽巡洋艦サヴァンナ  ヘレナ  ジュノー  サンファン
駆逐艦フレッチャー  オバノン  ニコラス  モンセン  カッシン  ダウンズ  オースチン  ヒューズ
メイヨー  グリーブス  ランズダウン  ベンソン  

補給部隊  司令官  アイザック・キッド少将(旗艦アリゾナ)
戦艦アリゾナ  ペンシルヴァニア
重巡洋艦チェスター  ヒューストン  
駆逐艦10隻  給油艦8隻  補給艦6隻  



9  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:33:08  ID:4CUjn9IY0
第46話  リルネ岬沖の決闘(前編)

1482年  10月24日  午前5時  リルネ岬沖南南西150マイル地点

上空の闇は、水平線から染まりつつあるオレンジ色の陽光によって、徐々に払拭されようとしていた。
未だに暗い空模様には雲が少なく、夜が明ければ、見事な晴れ模様が上空に現れるだろう。
その薄暗い中を、第16任務部隊は24ノットのスピードで航行していた。
司令官のウィリアム・ハルゼー中将は、艦橋の張り出し通路に出て、索敵隊の発艦準備を見守っていた。

「第1索敵隊は5時20分までには発艦準備を終えます。本艦からはドーントレス6機が索敵に出ます。」

傍らにいた参謀長のブローニング大佐がハルゼーに言って来た。

「TF16だけで12機、TF15、17も含めれば計28機か。」

ハルゼーはぶすりとした表情で返事する。

「第2索敵隊も含めれば、48機が出撃します。この策敵機で濃密な索敵網を形成出来ますから、
敵機動部隊は間違いなく見つかるでしょう。」
「そうだな。敵も母艦5隻を投入してくるようだから、索敵役のワイバーンをわんさか飛ばすかも知れんな。
こっちが見つかる可能性も高いな。だが、」

ハルゼーの口元が歪む。

「正面切っての殴り合いとなるなら面白い。こっちの母艦が全て沈む前に、敵の竜母を綺麗さっぱり消し去って
やろうじゃないか。ワイバーンが来たとしても、直衛機と艦隊の対空砲火で盛大に歓迎してやろう。」
「そうですな。開戦以来、我が機動部隊のパイロットもそうですが、対空砲火も強化されています。
これなら、敵のワイバーンに大損害を与えられそうです。」  


10  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:35:23  ID:4CUjn9IY0
「うむ。シホットのワイバーン如きに俺の空母は沈めさせんぞ。」

と、ハルゼーは獰猛な笑みを浮かべながらブローニングに言った。
その会話を聞きながら、ラウスは周りの僚艦を、ぼーっとした表情で見渡す。
エンタープライズの左舷前方には、高い艦橋が特徴である重巡のペンサコラがいる。
艦首右舷前方には戦艦のノースカロライナが同じスピードで航行し、左舷真横には軽巡のブルックリン、
左舷後方にはフェニックスがいる。
空母を守る艦は、この4艦の他に、右舷側にノーザンプトン、ヴィンセンス、アトランタがホーネットの右舷前方、
真横、後方に位置し、来るべきワイバーンの襲撃に備えている。
艦隊全体が、決戦前の緊張した空気に包まれている。
外見はただ呆けているように見えるラウスも、内心ではこれから始まるであろう大規模な海戦に胸を躍らせぬはずが無かった。
(アメリカを召還して早1年か。時の流れは早いものだなぁ)
ラウスはふと、これまでの出来事を思い出していた。
この大規模な召喚作戦を打ち明けられた時、彼はどこの御伽噺の話だと思った。
命令のまま術式を作り、そして皆と協力して呼び出した国。
それが、このエンタープライズを作ったアメリカ合衆国だ。
その国は、自分達から見たらどれもこれも常識外れの物しか持っていなかった。
アメリカがこの世界に呼び出されて早1年。
数々の激戦を潜り抜けたアメリカは、今、この戦争の行方を左右するであろう、決戦に挑もうとしている。

「考え事かね?」

唐突に、野太い声が聞こえて来た。声がした方向に振り向くと、見慣れた顔が彼を見ていた。

「いつも眠たそうな君が、今日は珍しく真剣だな。」
「ハルゼー提督、自分はいつも真剣っすよ。」
「そうか!俺はてっきり寝る方を真剣にしているかと思っていたが。」
「あっ、ちょっと。今のは聞き捨てなりませんな。」

顔を膨らまして怒るラウスに、ハルゼーはがっはっはと高笑いして宥めた。  


11  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:36:42  ID:4CUjn9IY0
「なあに。ジョークだよ、ジョーク。君が伝達役として頑張っているのは分かってる。おまけに必要な
敵の情報は教えてくれるし、俺の家庭教師までこなすのだから、君は充分に優秀だと思うぞ。」
「は、はあ。どうもっす。」

思わず、ラウスは照れ笑いを浮かべる。

「しかし。今度の戦いはこっちの飛行機の数が多いから有利に戦いを進められるとは思うのだが、あいつらも
空母5隻という極上の得物に全力で向かってくるだろう。」
「それだけではありません。奴らは後方に数百隻以上の護送船団を伴っています。第19任務部隊の潜水艦ガトーからの
報告によりますと、敵護送船団は本日午前1時頃には、ノーベンエル岬沖北北西400マイルの地点を時速12ノットで
航行しているとあります。既に別の潜水艦2隻が攻撃すると無電を打っておりますが、潜水艦トリガーが午前4時の
定時連絡に報告を送っていません。」
「消息不明・・・・か。無事を祈りたい物だが。」

ハルゼーは声を曇らせながら、トリガーの安否を気遣う。

「いずれにせよ、敵の大船団を叩く前に、敵機動部隊を捕捉せねばならんな。」

その時、飛行長がマレー大佐に報告して来た。

「艦長、偵察隊の発艦準備終わりました!」

艦長は呟くと、時計を見た。時間は5時20分を回っていた。

「艦首を風上に立てる。取り舵一杯!」

マレー大佐の号令の下、エンタープライズが40秒ほど間を置いて、左に回頭した。
ホーネットや他の寮艦もエンタープライズに合わせて一斉に回頭する。
やがて、エンタープライズの飛行甲板から、最初のドーントレスが飛び立って行った。  


12  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:40:09  ID:4CUjn9IY0
10月24日  午前8時30分  リルネ岬沖北西200マイル地点

リリスティ・モルクンレル中将率いる第24竜母機動艦隊は、午前6時に14騎のワイバーンを索敵に
出し、その30分後には12騎のワイバーンを出した。
それから3時間近く経った。
リリスティは、旗艦クァーラルドの艦橋で、長官席に座って報告を待っている。
彼女はいつも冷静か、明るい表情で皆と話すのだが、この日は特別に苛立っていた。

「・・・・・遅い・・・・・遅い・・・・・」

しーんと静まり返る艦橋上に、リリスティのうめくような声が響く。
彼女としては小さい声で言っているつもりなのだが、その声は周りからハッキリ聞き取れるほど大きく、明瞭だった。
彼女は、苛立っている時には努めて、小さい声で文句を言うのだが、実際に出る声はこのように、
明瞭なために度々喧嘩の原因となる。
今ではそれも無くなっている筈なのだが、今日の苛立ちはいつも以上のようだ。

「航空参謀!」

彼女の凛とした声が幕僚達の肩を震わせた。

「はっ!」
「第1索敵隊は今どこの海域にいるの?」
「この時間ですと、あと30分ほどで反転地点に到達するでしょう。第2索敵隊はあと1時間ほどで
反転地点に到達予定です。」
「そう。」

彼女はため息混じりにそう呟いた。  


13  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:41:37  ID:4CUjn9IY0
「分かったわ。ありがとう。」

リリスティは航空参謀を下がらせる。
本当であれば、この時間には既に敵を見つけて、攻撃隊を発艦させている筈なのだ。
第1索敵隊は西から南西海域。第2索敵隊は南西海域から南東海域を捜索している。
索敵線は事前に計画された物で、見落としが無いように決められている。
だが、アメリカ機動部隊はまだ見つからない。

「早く見つからないかな。」

リリスティは焦りの混じった声音で呟いた。
彼女としては、早く敵を見つけて勝負を決めたいと思っている。
前回はこちらが先手を打ったとは言え、正規空母2隻を大破させたのみで、上層部に戦果充分と判断され、
撤退命令が出た。そのため、あの時は不完全試合だった。
だが、今度は正面きっての殴り合いである。
あの時味わった屈辱的な思いを、アメリカ空母を叩き沈めてうさを晴らし、敵にも、そして味方にも
シホールアンル竜母部隊の戦いと言うものを思い知らせてやる。
彼女はこの戦いに臨む前からずっと、そう思っていた。


だが、索敵隊の情報が入る前に、艦隊の上空で恐れていた事態が起こった。

「第2部隊の上空にアメリカ軍機!触接されました!」

魔道将校からもたらされた報告に、リリスティの顔は悔しげに歪んだ。

「早く落としなさい!敵機動部隊に報告されるわ!」

彼女はすぐにそう命じた。
しかし、アメリカ軍機はワイバーンの攻撃をなんとかかわしながら、雲に隠れた後、どこぞに逃げて行った。  


14  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:44:15  ID:4CUjn9IY0
「なんて事・・・・・・敵に先手を取られる前に、第2索敵隊が敵を見つければ・・・・」

彼女は悔しげな口調でそう祈ると同時に、前回の海戦でも行った艦隊の進路変針を行った。
一旦、西南に向かった艦隊だが、その30分後の午前9時30分
第1部隊の輪形陣上空に、1機の米軍機が現れた。

「アメリカ軍機接近!我が第1部隊の左上方です!」

その報告を聞いて、彼女は望遠鏡で、遠くのアメリカ軍機を見た時、彼女は愕然となった。

「チッ・・・・アメリカ軍もやるものね。」

彼女は憎らしげにそう呟いた。1度ならず、2度までも艦隊が発見されたとなると、後は防戦しかない。
しかし、運はまだリリスティ達を見放していなかった。

「司令官!」

突如、魔道将校が顔に笑みを浮かべながら紙を持って来た。

「第2索敵隊から報告です。我、敵機動部隊を発見せり。位置は艦隊の南南東200ゼルド。敵勢力は
空母2、戦艦1、巡洋艦4、駆逐艦多数。他にも、敵はこの艦隊の西側の海域に同規模の機動部隊を伴う。
敵は北に向かいつつあり。」

参謀長がリリスティの顔を見つめた。

「司令官、アメリカ機動部隊です!」

彼女の決断は早かった。  


15  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:45:31  ID:4CUjn9IY0
「全攻撃隊出撃。アメリカ機動部隊を殲滅する!それから、」

彼女は魔道将校に振り向いた。

「第22竜母機動艦隊に連絡。敵見ゆ、直ちに攻撃隊を送られたし、以上。」

魔道将校は内容を紙に書き写すと、すぐに艦橋を飛び出していった。
この時、2騎のワイバーンに攻撃されたアメリカ軍機は、必死に逃げ惑っていたが、努力叶わず撃墜されてしまった。
リリスティはその一部始終を見た後、飛行甲板が見渡せる位置に移動した。
飛行甲板には、既に戦闘ワイバーン26騎、攻撃ワイバーン18騎が並べられている。
今回、第24竜母起動艦隊には、第1部隊のクァーラルド、モルクドがそれぞれ戦闘ワイバーン34騎、攻撃ワイバーン32騎。
小型竜母ライル・エグが戦闘ワイバーン23騎、攻撃ワイバーン14騎。
第2部隊のギルガメル、イリアレンズはそれぞれ戦闘ワイバーン32騎、攻撃ワイバーン32騎を積んでいる。
そのうち、攻撃隊に参加するのは、第1部隊が戦闘ワイバーン40騎、攻撃ワイバーン52騎。
第2部隊が戦闘ワイバーン32騎、攻撃ワイバーン46騎。
計170騎ものワイバーンがアメリカ機動部隊へと向かう。
残る戦闘ワイバーンは83騎であり、これで襲撃してくるであろうアメリカ軍攻撃隊を迎え撃つ。
甲板士官が両手に持った旗を勢いよく振り下ろすと、竜騎士の乗ったワイバーンが飛行甲板を少しばかり滑走してから飛び立つ。
滑走距離は、メートルに直せばわずか30メートル程度。
そのたった30メートルで、風を掴んだワイバーンは、左右の翼を悠然と羽ばたかせて大空に舞い上がる。
残りのワイバーンも次々と発艦していく。流石は歴戦の猛者揃いだけあって、無様に発艦を失敗するワイバーンは1羽も居ない。
米攻撃隊の発艦に比べれば、神業ともいえる短い時間で発艦した攻撃隊は、170騎の大編隊を組んで艦隊上空をフライパスする。
飛空挺のようなエンジンの爆音は無いものの、100騎以上のワイバーン群が悠然と空を飛ぶ様は、誰しもが胸を躍らせる。
やがて、艦隊将兵の声援に送られながら、攻撃隊は南東の方角に消えていった。

「さあ、思う存分暴れてきな。あたし達の力を、アメリカ人達に見せ付けるんだ。」

リリスティは火が灯ったような双眸で、ずっと南東の方角を見つめていた。  


16  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:47:50  ID:4CUjn9IY0
10月24日  午前9時35分  リルネ岬沖南南西130マイル地点

「頑張れよー!シホット共のケツを蹴り飛ばして来い!!」

ハルゼー中将は、発艦して行くアベンジャーにガッツポーズをしながら見送る。
右舷側を航行する空母ホーネットも艦載機を発艦させており、上空には発艦済みのドーントレス、
ワイルドキャットが編隊を組みつつある。
飛行甲板の両側には、手空き要員が口笛を吹き、別の者は指でピースサインを作って発艦していくアベンジャーを見送った。
シホールアンル機動部隊が発見されたのは、午前8時20分を回ってからであった。
ホーネットから発艦したドーントレスが機動部隊より北北西320マイルの海域でシホールアンル機動部隊を発見した。
最初、ブローニング大佐は攻撃隊を出すのはもう少し距離が縮まってからにしてはどうかと提案したが、

「敵も遅かれ早かれ、こっちを見つける。モタモタしているとこっちが先に噛みつかれるぞ!」

と言って、攻撃隊を発艦させる事にした。
そして、艦載機を3分の2ほど送り出した時、シホールアンル側のワイバーンがTF16まで8マイルの距離に接近していた。
10分後に撃墜したが、これでアメリカ側も敵に発見された事になった。
発艦開始から30分が経ち、米攻撃隊は敵機動部隊に向かって行った。

「さて、これから忙しくなるぞ。あと1時間かそこらでシホット共がやって来る。
そいつらを迎撃して、こっちの空母を守らにゃならんぞ。」
「以前より、対空砲火は強化されたとは言え、同じ状態で挑んだ前回の海戦では、レキシントン、ヨークタウン共に
被弾していますからなあ。敵に殴りこまれたら、いささかしんどいですぞ。」

ブローニング大佐が不安そうな表情で言うが、ハルゼー中将はむしろ、活き活きとした表情で返事した。

「なあに、そん時ぁこのTF16に囮にして他を救うさ。来年からはエセックス級やインディペンデンス級軽空母が
艦隊にどしどし入って来る。敵を全て叩きのめす代償に、エンタープライズとホーネットが沈んでも、充分にお釣りが来る。
要は、シホット共に、自分達は一生、俺達相手では満足行く戦いが出来ないと、思い知らせてやればいい。」  


17  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:50:01  ID:4CUjn9IY0
そう言って、ハルゼーはニヤリと笑った。彼の双眸は、今まで以上に熱く燃え滾っていた。

「まっ、TF16が壊滅する時は、敵が全滅する時だがね。」


午前10時20分  リルネ岬沖北西50マイル沖

アメリカ機動部隊から発艦した攻撃隊は、母艦ごとの梯団を組みながら、時速220マイルの巡航速度で、敵に向かっていた。
機動部隊から敵艦隊までは距離にして約320マイル。今、行きの行程を半分消化したところだ。
攻撃隊は、TF16からF4F48機、SBD40機  TBF32機。
TF17からF4F36機  SBD36機  TBF28機。
TF15からF4F12機  SBD14機  TBF14機。
そのうち、TF16、17からF4F2機とSBD1機、TBF3機がエンジン不調のため引き返した。
結果、計254機の大編隊が、待ち構えているであろうシホールアンル機動部隊に向かいつつある。
その道中、

「ん?」

攻撃隊指揮官であるウェイド・マクラスキー少佐は、前方にある何かを見た。
最初は気にならなかったが、やがて、それはある物体の形となった。
遠くで固まっている無数の粒。その粒は、大きくなるにつれて両側を上下させている事が分かった。
空を埋め尽くさんばかりのワイバーンの大編隊であった。

「「隊長!右前方に敵ワイバーンです!」」

部下の切迫した声が無線機に流れた。

「「すげえ数だ。100、いや、200はいるかもしれんぞ。」」
「「奴らも、俺達の母艦を叩き潰そうとしてるんだ。」」
「「帰ったらビッグEがなくなってるって事は、死んでも想像したくねえぜ。」」  


18  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:51:28  ID:4CUjn9IY0
マクラスキー少佐は部下達のどよめきを気にもせずに、全機に指示を下した。

「全機に告ぐ。下手に敵に手を出そうとするな。奴さんがこちらに向かって来ねえ時はこっちも静かに通り過ぎよう。
ただし、敵が向かって来た時は応戦していい。いいか、絶対にこっちから手を出すな。」

彼は攻撃隊の全機に対して、念を押すと、無線機を置いた。
そのまま張り詰めた空気が流れていく。
互いの編隊は、一触即発の空気を孕んだまま、互いの目標へと向かいつつある。

アメリカ軍機の大編隊が何事も無く去っていった時、攻撃隊指揮官であるベンク・ルクーロ中佐はほっと胸を撫で下ろした。

「隊長、今のアメリカ軍の編隊、すごい数でしたね。」

部下の竜騎士が、魔法通信で彼に聞いてきた。

「ああ。こっちと同じか、それ以上はあるんじゃないかな。奴らも本気なのだろう。」

部下の女性竜騎士がしばらく黙り込む。この竜騎士も、彼と同様に長い間、前線で戦ってきた猛者だ。
性格は明るいが、腕は確かであり、ジェリンファ沖海戦では小型空母に、バゼット海海戦ではレキシントン級空母に
爆弾を浴びせている。
その腕っ節と破天荒振りからして、第2のリリスティと噂されるが、その女性竜騎士も、今回のような決戦では緊張するのだろう。

「行きの行程の半分は終わった。さて、後の半分が終わったら俺達の出番だ。今のうちに気晴らしに好きな事でも考えてろ。」
「「了解!」」

魔法通信越しに、部下達の気合の入った声が聞こえた。
(大丈夫だ。士気は高いぞ。)
ルクーロ少佐は、彼らの士気の高さに満足した。
(首を洗って待ってろよ。アメリカ軍)  


19  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:53:16  ID:4CUjn9IY0
10月24日  午前11時10分  リルネ岬沖南南西110マイル沖

空母エンタープライズのレーダーに、北北西から迫る大編隊を捉えた。

「敵大編隊接近!敵編隊はおよそ150〜200!方位は335度。距離は約70マイル。時速250マイルで接近中!」
「迎撃戦闘機を飛ばせ!敵を出来るだけ食い止めるんだ!」

号令一下、直ちに発進可能なF4Fが各母艦から上げられる。
最終的に、発艦したF4Fは90機に及び、敵編隊に向かって進んでいった。
F4F群は、高度5000メートルから敵に突っ込んで行った。
敵の戦闘ワイバーンが、待ってましたとばかりにF4Fと対峙し、互いに機銃弾や光弾を浴びせる。
たちまち、彼我入り乱れる大乱戦となった。
戦闘ワイバーンが、猟奇殺人者に襲われたかのように全身から血を噴出して墜落する。
翼を叩き折られたF4Fが、悲鳴のような音を上げながら、錐揉み状態で海面に突っ込む。
犠牲は攻撃ワイバーンにも及ぶが、攻撃ワイバーンはF4Fの妨害に屈す事無く機動部隊へと向かっていく。
そして、シホールアンル側の攻撃隊は、米機動部隊を発見した。
狙われたのは、TF16であった。

「敵ワイバーン群多数、戦闘機の防御ラインを突破!」

CICからレーダー員の声が艦橋のスピーカーに響いた。
ハルゼーは、艦隊の左舷方向から近付いて来る敵編隊を双眼鏡で眺める。
「ううむ。100機近いF4Fを投入しても、敵にある程度の護衛が付いていれば完全阻止は難しいな。
しかし、向かって来るシホット共の多い事。」

ハルゼーは双眼鏡下ろすと、苦い表情でそう呟いた。
TF16に向かいつつあるワイバーンは、見た限りで60騎以上はいる。
対空砲火で半数を叩き落しても、15、6機のワイバーンがエンタープライズとホーネットに向かって来る。
唐突に敵のワイバーン編隊が別れた。
半数ずつに別れたワイバーン編隊のうちの1つが、猛速で輪形陣の右側に移動していく。
ラウスは、貸し与えられた双眼鏡で、その機敏な動きを見ていた。  


20  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:55:26  ID:4CUjn9IY0
「あいつら、手練ですね。動きが速い。」
「そうだろうな。」

ラウスの言葉にブローニング大佐が反応した。

「空母でもそうだが、洋上の母艦から飛び立ち、目的地に到達するまでには難しい航法やある程度の操縦技術
が必要になる。特に難しいのは着艦だろう。あれが満足に出来るようになれば、後の事はすんなり行く。」
「つまり、母艦に乗る奴はどいつもこいつも手練、ということですね。」
「そうだ。ラウス君。」

ハルゼーが振り返って、ラウスに言った。

「だから、俺は普段の訓練の時にボーイズを厳しく鍛えてるんだ。このような時に生き残れるように。」

やがて、左右に展開したワイバーン隊が輪形陣に突入し始めた。

「左舷側よりワイバーン群30、突入開始しました!」
「右舷側からワイバーン40以上、接近します!」

敵ワイバーン群の狙いは、エンタープライズとホーネットであった。
敵の先頭が駆逐艦の至近に達する前に、高角砲が射撃を開始した。
それまで、澄んだような青に染まった空に、高角砲弾が炸裂し始めた。ワイバーン群の周囲に多数の黒い花が咲き始める。
敵ワイバーン群は、400キロ以上のスピードで高度3000付近から迫って来る。全騎が急降下爆撃を行うようだ。
巡洋艦、戦艦も5インチ両用砲を撃ち始め、敵編隊の周囲に一層多くの高角砲弾が注がれる。
早くもワイバーンが1騎、2騎と落ち始めた。
輪形陣の左右に、濃密な弾幕が張られ、ワイバーンは次々と叩き落されているが、高射砲弾の炸裂は、前へ前へと移動している。
各艦とも、5インチ両用砲を激しく撃ちまくる。
特に、ホーネットの右舷後方を守る軽巡アトランタは、向けられる5インチ砲14門をガンガン撃ちまくり、
ホーネットを狙おうとしているワイバーン群を次々と撃ち落していた。  


21  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  22:57:16  ID:4CUjn9IY0
「弾幕の密度は・・・・・悪くないが。」

ハルゼーは対空戦闘を見守りながら口を開いた。

「シホット共は進んで来る。高角砲弾がただ炸裂するのみじゃ、敵の戦力を思ったように減殺できんな。」
「砲弾は時限式ですからな。噂のVT信管が実用化されれば、少しは改善されるでしょうが。」

ブローニング大佐がそう言った時、左舷側上空で一際大きな爆発があった。
この時、高角砲弾が1騎のワイバーンのすぐ下で炸裂した。
その破片はワイバーンや竜騎士を引き裂いたが、爆弾にも命中してこれを誘爆させた。
戦友の壮絶な散華に、しかし、他のワイバーンは決して諦めていない。
いくら叩かれようが、引き裂かれようが、ワイバーン群は米空母に近寄ってくる。
そして、ついにワイバーンは米空母に襲い掛かった。
最初に襲われた空母はホーネットであった。

「敵ワイバーン、ホーネットに急降下!」

見張りの声が聞こえた時、ハルゼーらはハッとなってホーネットを見た。
エンタープライズと同じ姿の妹の上に、幾つもの小さい影。
シホールアンル軍のワイバーンが1騎ずつ、釣瓶落としのように急降下を開始した。
ホーネットに迫ったワイバーンは30騎余り。それらに対して、寮艦や、ホーネット自身も対空砲火を撃ちまくる。
多量の高角砲弾が炸裂し、火のシャワーが吹き上げられている中を、ワイバーン群はドーントレス顔負けの
急角度で突っ込んで行く。
唐突に3番機が左の翼を機銃弾に吹き飛ばされた。
3番騎は断面から何かの液体を撒き散らしながら、バランスを崩して落ちていく。
続いて5番騎、7番騎が相次いで撃墜される。
ワイバーン群は1騎、また1騎と、櫛の歯が欠けるかのように次々と撃墜される。
対空軽巡のアトランタのみならず、重巡のノーザンプトンやヴィンセンス、ノースカロライナ、姉のエンタープライズまでもが、
向けられるだけの砲や機銃をワイバーン群に向けて狂ったように撃ちまくった。  


22  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:00:39  ID:4CUjn9IY0
しかし、ワイバーン群も味方がいくらやられようと知った事ではないとばかりに、急降下を続ける。
1番騎が高度600メートルで腹から爆弾を放出した。それと同時に、ホーネットの艦首が右に振られる。
ホーネットの左舷側中央部の海面に高々と水柱が立ち上がった。
続いて2番騎の爆弾も空しく水柱を吹き上げたに留まる。
ホーネットの艦長は、パイロット出身のマーク・ミッチャー大佐だが、最初に指揮する回避運動にしては悪くない。
このままかわし続けるか。
ホーネットの奮戦を見守る誰もがそう思ったが、その思いは唐突に打ち砕かれた。
ホーネットの飛行甲板中央部に閃光が走った直後、火炎と共に夥しい黒煙と破片が吹き上がった。
この爆弾は、ホーネットの中央部、第2エレベーターに命中して貫通、そのまま格納甲板に達して炸裂した。
炸裂の瞬間、第2エレベーターが僅かばかり浮き上がり、爆弾の入った穴は爆風によって更に押し広げられ、
直径は5メートルにも達した。
彼女はこの戦争始まって以来、初めて敵弾を味わったのである。
ホーネットの受難は、まだ始まったばかりであった。
シホールアンル側のワイバーンは、次々と急降下してはホーネットに爆弾を叩き付けていく。
3発目の爆弾は右舷後部側に至近弾となり、20ミリ機銃3丁が破壊され、機銃員2名が海中に投げ出された。
4発目が飛行甲板前部に命中して格納甲板で炸裂、そこで駐機していたF4F3機が炸裂の影響で木っ端微塵に吹き飛び、
夥しい破片を格納甲板前部にばら撒いた。
5発目の爆弾はホーネットの飛行甲板右舷側に命中し、爆弾が甲板を貫通して海中に突き刺さる寸前に爆発した。
この炸裂は、空中で爆発した榴弾と同様な作用を生み、爆炎と爆風が舷側機銃員を火達磨に変えたり、四肢をちぎり飛ばす。
飛行甲板の端が繋ぎ目からまくれ上がり、無数の破片が薄いハンガーを突き破って格納甲板に踊り込み、そこにいた運の悪い
整備兵6名を殺傷した。
ハルゼーは悪夢を見ているかのようだった。
今しがた、3発目の命中弾を喫したホーネットの飛行甲板に、更に2つの命中弾炸裂の閃光が煌く。
黒煙を噴き出す甲板の前部と後部から新たな黒煙が吹き上がり、より一層濃い煙となって後方になびいていく。

「くそったれ!ホーネットがやられたか!!」

ハルゼーは半ば信じられない気持ちだった。しかし、ホーネットへの被弾は更に続く。  


23  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:02:21  ID:4CUjn9IY0
ホーネットや他の護衛艦の放つ対空砲火は、決して飾りではない。
現に、ホーネットに襲い掛かろうとしていたワイバーン群の周囲には無数の高角砲弾が炸裂し、機銃弾が雨あられと注がれている。
それに絡め取られて落ちていくワイバーンは、1騎や2騎といった少数ではない。
しかし、それでも、残りのワイバーンはエンタープライズの妹を容赦なく叩きのめした。
ホーネットを襲おうとした最後のワイバーンが撃墜された時、ホーネットは9発の命中弾を受けていた。

「ホーネット被弾!行き足鈍ります!」

見張りの悲痛な声が艦橋に届いてくる。
ホーネットは、飛行甲板前部から後部にかけて濛々たる黒煙を噴き出し、更には28ノットの速度を維持できないのか、
艦隊から落伍しつつあった。
艦橋は無事なのであろう、ホーネットから発光信号が届けられた。
しかし、その頃には、エンタープライズも敵ワイバーンに狙われていた。

「敵ワイバーン、左舷上方より急降下!」

その報告を聞いたマレー大佐はかっと目を見開いて、すかさず指示を下す。

「取り舵!」

彼は迫り来るワイバーン群を睨みつけながら、操舵室に命じる。
ワイバーンがぐんぐん高度を下げながら、エンタープライズに迫って来る。
ワイバーンは航空機と違って、自分の翼で飛ぶ生き物であるから音があまり無い。
ほぼ無音のまま襲い掛かって来るワイバーンの事を、アメリカ側はサイレントアサシンと呼んで畏怖している。
そのアサシン達が、翼を震わせながらエンタープライズに迫って来る。
マレー大佐はワイバーンをじっと見つめながら、タイミングを計っていた。
そして、ワイバーンの姿が一定の大きさになった時、

「取り舵一杯!」

彼は大音声で命じた。  


24  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:03:59  ID:4CUjn9IY0
すると、10秒ほどの間を置いてエンタープライズの艦首が左に振られ始めた。
19800トンの巨艦にしては軽快な巡洋艦並みのしなやかさで、ぐんぐん回頭していく。
その時、ワイバーンの1番騎が爆弾を投下した。
その直後、1番騎に機銃弾が集中され、あっという間に全身を満遍なく撃ち抜かれる。
爆弾がエンタープライズの右舷側100メートルの海面に突き刺さるや、轟音と共に火薬混じりの水柱を吹き上げた。
エンタープライズの急回頭によって照準を外されたワイバーンは、それに後一歩のところで気付かずに爆弾を投下した。
エンタープライズの右舷側海面に2本、3本、4本、5本と、20騎近い数のワイバーンの爆弾が次々と落下しては、
イルミネーションの如く順番良く水柱が吹き上がった。

「よし!いいぞ艦長!手練はやはり違うな!」

マレー大佐の鮮やかな操艦ぶりに、ハルゼーは褒めの言葉を送った。
ハルゼーが豪快に笑う中、唐突にエンタープライズの後部から激しい振動が伝わった。

「いかん、やられたか!?」

マレー大佐はぎょっとなって後部に眼をやった。後部右舷側海面に至近弾の水柱が立ち上がっている。
かなり近いところで爆弾が落下したため、炸裂時の衝撃波が艦隊を叩いたのだ。

「右舷後部第3機銃群、機銃2丁破損、戦死2名!」

被害報告が届けられるが、損害は思ったより少ない。
(まだだ、敵ワイバーンはまだいるぞ!)
彼は気を引き締めてから、再びワイバーン群に目を向ける。
残り10騎余りとなったワイバーン群がエンタープライズに急降下して来る。
そのワイバーンに寮艦と、エンタープライズの対空砲火が迎え撃つ。
5インチ高角砲弾が炸裂し、40ミリ機銃、28ミリ、20ミリ、12.7ミリ機銃弾がワイバーン群に十字砲火を浴びせる。
唐突に1騎のワイバーンが高角砲弾によってバラバラに砕け散る。  


25  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:05:58  ID:4CUjn9IY0
別のワイバーンが御者共々、突き上げられた40ミリ弾に撃たれてミンチとなる。

「舵戻せ!面舵一杯!」

マレー大佐が次の指示を下す。
操舵員がマレー大佐の指示を復唱しながら、舵を回す。
先ほどは、少しだけ舵を切った後に回頭を行ったから利きは良かったのだが、今度はそのまま面舵一杯だ。
先とは違って家事が利き始めるまでに30〜40秒の時間を要する。
その間にも、ワイバーンは投下高度に達しつつある。
エンタープライズの舵がやっと利き始め、艦首が回り始めた時、ワイバーンの1番騎が150リギル爆弾を投下した。
爆弾は回頭しつつある艦首の左舷側海面に至近弾となった。
艦首が束の間、下からアッパーカットを浴びせられたかのようにやや突き上げられる。
2、3、4番騎の爆弾もエンタープライズの右舷側に落下して水柱を吹き上げた。
吹き上げられた海水が飛行甲板に叩きつけられ、甲板の右舷側が水浸しとなる。
8発目をかわした所で、誰もが全て避けきれると確信した。その直後、左舷側前部の高角砲座が突然爆発を起こした。
9番騎の投下した爆弾は、左舷側前部にある5インチ高角砲座に命中すると、そこで爆発を起こした。
150リギル爆弾の炸裂は高角砲弾の誘爆を招き、2つあった5インチ砲のうち1つが根本から叩き折られ、
もう1本がアメ細工のようにぐにゃりと捻じ曲げられた。
その砲座で高角砲弾を打ちまくっていた兵は全員が戦死してしまった。

「左舷第1砲座に命中!砲員は全員戦死の模様!」

マレー大佐がその報告に顔を歪めようとした瞬間、ドガァーン!という爆発音が鳴り響き、エンタープライズの艦体が
激しく揺さぶられた。
続いて甲板右舷側前部に爆弾が命中した。命中して1秒後に爆炎と夥しい破片が宙に吹き上げられた。
炎は黒煙に変わり、艦橋の視界が徐々に悪くなり始めた。  


26  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:10:05  ID:4CUjn9IY0
「結局、ホーネットもエンタープライズもやられちまったと言う訳か・・・・!」

ハルゼーは、予想していた事とは言え、TF16の2隻の空母が被弾炎上させられた事に無性に腹が立ってきた。

「おのれ!シホット共め!俺の空母を傷付けやがったな!だが今に見てろ。俺が向かわせた攻撃隊が、
貴様らの竜母を1隻残らず叩き潰しているだろう!俺の味わった屈辱をたっぷり味わうがいい!」

彼は周りの視線も気にせず、飛び去っていくワイバーンに向かって喚き散らした。

「司令官!TF17より緊急信です!」

突如、通信参謀が艦橋に入って来た。
ハルゼーは不機嫌そうな表情を浮かべたまま通信参謀の持って来た紙をひったくった。

「・・・・・・なんて事だ・・・・シホット共・・!」


午前11時30分  第17任務部隊

ハルゼー部隊が攻撃を受けている頃、フレッチャー中将率いる第17任務部隊はそのハルゼー部隊の西側
10マイルほどの距離を航行していたが、空母ヨークタウンの艦橋で、艦長のバックマスター大佐は青ざめた。
「なぜ敵編隊が南西側から現れた!?」

ヨークタウン艦長バックマスター大佐は、CICからの報告が信じられなかった。

「本当に敵なのだな!?」
「そうです。南西の方角、60マイルの距離に80ないし100騎の敵編隊がこちらに向かいつつあります。
この方角には、味方空母部隊はいません。TF15の位置は我が部隊より南東側です。」  


27  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:11:48  ID:4CUjn9IY0
「そうか。分かった。」

バックマスター大佐は受話器を置いた。
彼の青ざめた表情を見て、フレッチャーは敵が来ているなと確信した。

「艦長、敵編隊だな?」
「そうです。レーダーが南西側より接近しつつある未確認編隊を捉えました。明らかに敵の竜母から発艦したワイバーンでしょう。」
「司令官、どうやら敵は奇策を用いたようですな。」

参謀長のグリン・ガース大佐が複雑な表情を浮かべながらフレッチャーに言って来た。

「敵はこちら側が、竜母2隻が大破して、しばらく作戦に参加できぬと前の海戦時に思わせたのでしょう。
攻撃隊の戦果報告は小型竜母1隻撃沈、竜母2隻とありましたが、実際はそれほど深い傷を負っていなかった。
一度は損傷した竜母を本国に戻しましたが、敵側はこちらが竜母2隻に深い傷を負っていると思い込ませ、
我が機動部隊の目の前に“残存部隊”を出現させて、堂々たる決戦を挑んで来た。」
「だが、裏を返せば別の敵艦隊が我が部隊の後方に回り込んで、タイミングを見計らって攻撃隊を出した、か。」

フレッチャーは深くため息をついた。

「迎撃隊は今どうなっている?」
「艦隊の北20マイル付近で敵のワイバーンと交戦中です。」
「そうか、分かった。」

フレッチャーは頭が痛くなるのを抑えて、TF17の全艦に対空戦闘用意を命じた。


それからあまり間を置かずに、敵のワイバーン隊は姿を現した。
迎撃隊のうち、10機ほどがこのワイバーン隊と渡り合ったが、阻止はおろか、攻撃ワイバーンにすら近付けなかった。  


28  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:13:37  ID:4CUjn9IY0
ワイバーン隊は、戦闘ワイバーンと分離した後、攻撃ワイバーンが高度3000メートル付近と、高度1000メートル付近に
分かれ、4つほどの梯団を組みながらTF17に向かって来た。
最初の梯団、高度3000メートルからのワイバーンが輪形陣に近づいた時、対空砲火が放たれた。
空母レンジャーの艦橋前に配置されている28ミリ4連装機銃2基のうち、2番機銃座の射手を務めるレニング・エルバート兵曹は、
高角砲弾を浴びながらも輪形陣に迫りつつあるワイバーン群を緊張の面持ちで見つめていた。

「畜生・・・・来たぜ。シホット共が来やがったぜ!」

後ろで機銃弾の装填手を務めるイルバ・ラングス1等水兵が震える声でそう言った。

「おい坊主。強がるのはいいが、お前緊張しているぞ。今のうちに深呼吸をしておけ。」
「えっ?あ、はい!」

ラングス1等水兵は彼が言った通り、3度ほど深呼吸して気を落ち着けようとする。
完全にではないが、少し緊張が収まった。

「先輩は怖くないんですか?さっきから妙に落ち着いていますが。」
「ラングス。俺がそう見えるのか。まあ、ハッキリ言うと怖いな。だが、それも戦闘が始まる前だけだ。
戦闘になれば自分の仕事に専念するから、怖いのなんて吹っ飛んじまうよ。」

エルバート兵曹は振り返ると、ラングス1等水兵の肩を叩いた。

「だから、お前もしっかり、他の奴と一緒に弾を装填してくれよ。」

そう言って、彼は再び左舷に振り向いた。
ワイバーンの第1梯団は、数を減らしながらも輪形陣中央へと向かいつつある。
そのワイバーン群に対して、レンジャーが搭載する高角砲や巡洋艦群の対空砲火が間断無く放たれる。
その中でも、レンジャーの左舷真横を航行する対空軽巡のサンファンは他の艦よりも激しく高角砲を撃ちまくる。
5インチ連装両用砲8基のうち、向けられる7基14門の砲撃はまさに火の嵐だ。  


29  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:15:02  ID:4CUjn9IY0
その証拠に、ワイバーンが次々と叩き落されている。

「すげえな。火山が噴火しながら移動しているみたいだ。」

エルバート兵曹はサンファンの奮戦に舌を巻いたが、その時、第1梯団の動きに異変が起こった。
突然、先頭のワイバーンが急降下を始めた。それを皮切りに、残存11騎にまで減ったワイバーン群が次々に急降下を始めた。
レンジャーを狙うにしては急降下に移るタイミングが速い。

「あいつら、海に突っ込むつもりですかい!?」

別の水兵が頓狂な声を上げて、ワイバーン群の奇怪な行動に目を見張る。

「・・・・いや、奴らの狙いはレンジャーじゃない。それに、海でもない。」

エルバート兵曹は、先頭のワイバーンがサンファンを狙っている事に気が付いた。

「サンファンだ!あいつらはサンファンを狙っている!!」

ワイバーンの先頭にサンファンの5インチ砲16門に28ミリ機銃、20ミリ機銃が注がれる。
レンジャーではなく、自艦が脅威に晒されたと知ったサンファンの艦長は、全力射撃を命じて小癪なワイバーンを追い払おうとする。
先頭のワイバーンが顔面を機銃弾に吹き飛ばされて射殺される。
2番騎が後ろから高角砲弾炸裂のあおりを受ける。
その直後、無数の破片が竜騎士やワイバーンの背面をズタズタに引き裂いた。

「射撃始め!」

機銃座指揮官から射撃の合図が伝わり、ワイバーン群に向けられていた28ミリ4連装機銃が火を噴いた。
ドドドドドド!というリズミカルな音を立てて、4本の銃身が間断なくスライドする。  


30  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:17:18  ID:4CUjn9IY0
エルバート兵曹の機銃座のみならず、他の28ミリ機銃や20ミリ機銃が、サンファンに襲い掛かる敵ワイバーンを撃ちまくる。
サンファンやレンジャー等の寮艦の援護射撃で新たに4騎を撃墜したにもかかわらず、残りはサンファンまで
高度400付近まで突っ込むと、爆弾を投下して来た。
サンファンは左に急回頭して、まず1発目の爆弾をかわした。サンファンの右舷側海面に水柱が吹き上がる。
続いて2発目がサンファンの右舷側後部海面に突き刺さって、これも無為に海水を吹き上げただけに留まる。
3発目、4発目と、次々に爆弾はサンファンを捉えきれずに海水を吹き上げさせる。

「いいぞ!その調子だ!」

思わず、レンジャーやヘレナ、クインシーの甲板上から声援が上がった。
が、サンファンの奮戦もそこまでであった。
いきなり後部第5高角砲から爆発が起こった。5発目の爆弾が第5高角砲座を直撃したのだ。
爆弾炸裂によって連装両用砲は中の砲弾、装薬までもが誘爆を起こし、砲塔自体が木っ端微塵に吹き飛んだ。
その影響で、4番高角砲にも夥しい断片が突き刺さり、4番高角砲も使用不能と言う由々しき事態に陥った。
これだけならば、サンファンは中破の判定を受けたのみに留まったであろう。
しかし、続く6発目の爆弾が、サンファンの運命を大きく変えてしまった。
6発目の爆弾は、第4高角砲のすぐ至近の左舷側甲板に命中した。
命中した爆弾は甲板を叩き割り、艦内に踊り込む。そして、両用砲弾庫にまで達した爆弾はそこでエネルギーを解放した。
次の瞬間、サンファンの4番高角砲の根元から強烈な閃光が発せられた。
サンファンを見ていた誰もが、目を手で覆って強烈な光から目を守る。
遮った視界には何も移らなくなったが、代わりに耳が強烈な爆発音を捉えた。
エルバート兵曹が目元から手を退けた時、サンファンは後部甲板から大火災を起こしていた。
ついさっきまで、階段式に並んでいた3つの連装砲があった部分は、今や大穴が開いており、
そこから紅蓮の炎と、多量の黒煙が吹き出ていた。
そして、サンファンは後部を幾分沈み込ませながら、力尽きたように艦隊から落伍していった。

「あ・・・・ああ・・・・サンファンが・・・・サンファンが!!」  


31  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:18:34  ID:4CUjn9IY0
ラングス1等水兵が、サンファンの惨状を見て全身を震わせるが、

「馬鹿野郎!しっかりしねえか!」

エルバート兵曹が彼の胸ぐらを掴んで怒鳴った。

「今は戦闘中だ!余計な感傷は今はいらん!泣くのは敵が去ってからだ。分かったか!?」

エルバート兵曹の剣幕に、ラングス1等水兵はっとなってから彼の顔をまじまじと見つめ、そして深く頷いた。

「よし、それでいい。」

エルバート兵曹はそう呟きながら、再び座席に座る。
既に、敵の第2梯団が駆逐艦の防御ラインを突破して、輪形陣の中央に向かいつつある。
第2梯団はレンジャーを狙わずに、重巡のクインシーに殺到した。
クインシーもまた、急回頭しながら敵の暖降下爆撃をかわし続けるが、3発の爆弾を受けてしまった。
致命傷を被ったサンファンと違い、クインシーは当たり所が良かったのか、黒煙を吐きながらも定位置に留まって、
早くも接近してきた第3梯団に向けて高角砲と機銃を撃ちまくる。
しかし、クインシーの対空火力は先と比べると、格段に少なくなっていた。
第3梯団の残存12騎は、薄くなった弾幕を突っ切ると、その矛先をレンジャーに向けて来た。

「敵ワイバーン、左舷上方より急降下!高度2500!」

機銃座指揮官の声が聞こえ、28ミリ機銃の銃身が、急降下して来るワイバーンに向けられた。
航空機よりも俊敏で、獰猛そうなワイバーンの姿がみるみるうちに大きくなって来る。
ワイバーンが28ミリ機銃の射程距離に入る間、エルバート兵曹は発砲を今か今かと待ち侘びた。
(クソ!緊張で足が震えてきた。早く撃たせてくれ!)
1秒が1分にも、10分にも感じられる。緊張で喉がカラカラに渇いてきた。  


32  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:20:33  ID:4CUjn9IY0
ひょっとすると、このまま干上がってそのままミイラになってしまうのでは、というふざけた考えが頭をよぎる。
彼が早く撃たせてくれと願って5秒後、射撃開始の合図が下された。
高度2000まで降下した敵ワイバーンに向けて28ミリ4連装機銃が吼える。
照準器に敵のワイバーンを合わせて発射するのだが、どうしてか、弾はなかなか当たらない。
曳光弾は確かに敵ワイバーンに向かっている筈なのだが、敵は平然と急降下を続ける。
唐突にレンジャーの艦首が左に振られる。
それに従って、照準器までもが敵ワイバーンを大きくはずれ、機銃弾は明後日の方角に飛んでいく。
旋回手がハンドルを回して狙いを修正する。
28ミリ機銃座の後ろでは、装填手が空になったカートリッジを取り出して、弾の入ったカートリッジを入れていく。

「当たれ!当たれ!当たれ!さっさと当たれ畜生が!」

エルバート兵曹は、なかなか命中しない事に苛立ちの声を上げながら、機銃を撃ち続けた。
先頭のワイバーンに曳光弾が向かって行った、と思った直後、右の翼が根元から叩き切られた。
そのワイバーンは錐揉みになってレンジャーの右舷に墜落した。
敵ワイバーン1騎撃墜の戦果に酔う暇も無く、2番騎に照準を合わせて機銃を撃ちまくる。
しかし、なかなか当たらない。

「パッと当たってくれりゃあ楽なんだが!」

エルバート兵曹は思わずそう漏らしたが、その声も周りの喧騒にかき消された。
2番騎がはっきり見分けられる高さまで降下した時、胴体から爆弾を投下した。
その爆弾は、レンジャーの飛行甲板後部、両舷に3本ずつ配置された煙突がある真ん中の場所に命中した。
爆弾は飛行甲板を叩き割ると、格納甲板、そして第4甲板の機関室にまで達した。
ダァーン!という爆発音と共にレンジャーの巨体が激しく振動する。
2発目、3発目はレンジャーの右舷に落下するが、4発目が前部、5発目が中央部に命中した。
そして、どの爆弾も第3甲板、第4甲板で炸裂し、艦内に甚大な損害を与えた。  


33  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:23:47  ID:4CUjn9IY0
レンジャーは、アメリカ海軍が始めて建造した開放式格納庫であり、ヨークタウン級、エセックス級といった
新世代の空母建造の土台となり、アメリカ海軍の空母建造に大きな功績を残している。
だが、一見立派に見えるレンジャーは、大きな問題を抱えていた。
それは、防御力が他の正規空母と比べて、極めて貧弱である事だ。
レンジャーは、ヨークタウン級やエセックス級のように格納甲板を防御甲板としておらず、格納甲板の層は極めて薄かった。
目立った防御を施されたのは舵機室と弾薬庫部分のみであり、心臓部とも言える機関部にはなんら防御が施されていなかった。
防御力は、改装を受ける前のワスプ以上に悪いのだ。
レンジャーは既に2回の実戦を経験しているが、いずれも敵地に対する一方的な空襲のみである。
大西洋方面よりも、激烈な海戦が繰り広げられる太平洋方面には、レンジャーは連れて行けないのでは?
との声が幾つも上がったが、未だに空母数が充分とは言えぬ事と、レンジャーエアグループの錬度が高い事が理由で、
ホーネット、ワスプと共に太平洋に回航されたのだが、その結果は悲惨な物になりつつあった。
3発の命中弾は、いずれも艦の深部を酷く痛めつけ、特に最初の命中弾は缶室1つを破壊して速度低下を招いてしまった。

「お、おい。速度が落ちてるぞ!?」

射撃中に、エルバート兵曹はレンジャーの速度が落ちていることに気が付いた。
この時、28ノットで航行していたレンジャーは、24ノットの最高速度しか出せなくなっていた。
そのレンジャーに、第3梯団の残りが次々と襲い掛かる。
被弾し、速度の落ちたレンジャーに、TF17旗艦ヨークタウンが高角砲、機銃を撃ちまくってワイバーンを阻止しようとする。
他の寮艦もレンジャーを支援するが、ワイバーン群はいくら落とされようがひるまない。
6発目の爆弾がレンジャーの左舷側に至近弾となり、それまで撃ちまくっていた20ミリ機銃を2丁潰し、
兵2人が降りかかってきた海水に艦上からはたき落とされた。
7発目が最初の命中箇所とさほど離れていない位置に叩きつけられる。この爆弾も初弾同様、機関部にまで達して炸裂する。
本来なら、53500馬力の出力で、レンジャーを29ノットのスピードで走らせる機関も爆弾の炸裂によって缶室が破壊され、
機械部にも夥しい破片が流れ込んで仲の兵員を殺傷する。
第4缶室で働いていたパース・トレイン兵曹は、突然の衝撃に転倒してしまった。
ダーン!という爆発音に鼓膜が麻痺し、前のめりに倒れたが、彼は受身を取ったお陰でかすり傷を負ったのみで済んだ。  


34  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:27:11  ID:4CUjn9IY0
「うわあ、またやられたなあ。」

最初の感想がその一言であった。
彼は起き上がってから缶室を見渡した。缶室に立ち込めている蒸気は先と比べて一層濃くなり、視界は極端に悪くなっている。

「チーフ!無事ですか!?」

いきなり、後ろから声をかけられた。彼は振り向くと、部下の水兵が右腕を抑えながら彼を見つめていた。
「ああ、無事だぞ。それより貴様、その右腕どうした?」
「さっきの衝撃で壁に叩きつけられましてね、その時器具の角に腕をぶつけてしまったんです。
どうやら、折れちまったみたいで。」
「何かで腕を釣っておけ、そのままにしておくよりはマシだろう。他の奴らは無事かな?」

彼は他の部下達が心配になって名前を呼んでみた。
部下達は全員が生きており、彼の傍にやって来た。
集まった部下のうち3人が手を抑えたり、足を引きずったりしていたが、命に関わるような怪我を負った者はいなかった。

「こりゃ交代要員を呼ばにゃならんな。」

彼がおどけた口調でそう言った時、通路を耐火服を来たダメージコントロール班が慌ただしく駆け抜けていった。
その中の1人がトレイン兵曹の缶室に入って来た。

「ああ、生き残りがいたか。」
「ああ。こっちの缶室は全員生きてるぜ。どこの缶室が吹っ飛んだ?」
「どうやら第1缶室と第3缶室が爆弾を食らったらしい。それにしても酷い視界だな。おまけに熱い。
あんた達もここから逃げたほうがいいぞ。通路のあちら側は火の海だぜ。」
彼はトレイン兵曹に通路の先を見せた。10人ほどのダメコン班員が火に消火剤を吹きかけている。
しかし、火は大量の消火剤を散布しない限り、収まりそうにも無い。  


35  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:29:02  ID:4CUjn9IY0
「チーフ!先の被弾でどっかのパイプがいかれたようです!缶の圧力が弱くなってます!」

部下の1人がトレイン兵曹に報告して来た。彼はその部下が見た圧力計を見てみた。
確かに、缶の圧力が弱くなりつつある。
このままでは、レンジャーはスピードを落とし続けるだろう。それに、彼らのいる缶室も温度が上昇し始めていた。

「これ以上この缶室にいたら危険だ!蒸し焼きになる前にここから逃げるぞ!」

トレイン兵曹はそう言って、部下達と共に缶室から逃げ始めた。
その間にも、敵ワイバーンの爆弾が2発、レンジャーの後部と前部に叩きつけられた。
9発目が機銃座の10メートル横に落下した時、爆発音が鳴り響いた。
咄嗟に床に伏せたエルバート兵曹は、硬い金属が壊れる音や爆風が流れ去っていく音、そして大地震のような振動を同時に味わった。
それからの記憶は酷く曖昧であった。
更に3回の強い振動を受けると、レンジャーが力尽きたように止まった。その次には乗員総出で消火活動に当たった。
そして、気が付く頃には、エルバート兵曹は救命筏に乗り込もうとしていた。
(なぜだ?なぜ俺は救命ボートに乗ろうとしている?)
漠然とそんな想いが沸き起こったが、上から他の兵が縄梯子から続々と降りて来るので、彼は慌ててボートに乗り込んだ。
筏には、ラングス1等水兵が既に乗っていた。ラングス1等水兵は、頭に包帯を巻いており、包帯に血が滲んで赤く染まっている。

「先輩、ここに座ってください。」
「ああ、ありがとう。」

エルバート兵曹は彼の傍に座った。座った時、背中がヒリヒリして痛い。

「あれ、他の連中はどうした?」

彼は何気なく聞いたが、ラングス1等水兵は顔をうつむかせて、しばし黙り込む。そして、意を決したように口を開いた。

「2番機銃座で生き残ったのは、自分と先輩だけですよ。」

エルバート兵曹は、頭の中が真っ白になった。  


36  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:31:10  ID:4CUjn9IY0
レンジャーは第3梯団、第4梯団からの爆撃を受け、実に爆弾9発を受けて、格納甲板や艦内各部に大火災が発生。
機関室は壊滅し、乗員総出で行われた消火活動も満足に出来なかった。
敵はレンジャーのみならず、ヨークタウンにも襲いかかった。
第4梯団の分派された、10騎のワイバーンに襲われたヨークタウンは、前部左舷よりの甲板に1発、第2エレベーターと
第3エレベーターの間に1発と、左舷側に1発、計3発を被弾した。
爆弾はいずれも格納甲板で炸裂し、F4F2機とアベンジャー3機を破壊した。

この時点で、戦況はアメリカ側にとって不利な物となっていた。


午後0時20分  第15任務部隊旗艦空母ワスプ

「司令官。戦況は予想以上に深刻のようです。」

参謀長のビリー・ギャリソン大佐は、司令官席に座るレイ・ノイス少将に向けてそう言った。
ノイス少将もゆっくり頷く。

「まさか、4隻の空母が被弾するとはな。」

アメリカ側が受けた被害は甚大であった。
TF16はホーネットが爆弾9発を受けて、後に燃料庫が誘爆を起こして大破確実となった。
現在、速度は14ノットしか出せず、火災が鎮火出来なければ処分も考えられているようだ。
エンタープライズは3発を受けて、現在航空機の着艦不能。
火災は鎮火しつつあるが、飛行甲板の応急修理が可能かどうかは分かっていない。
TF17の被害はTF16より深刻である。
TF17の主力であったヨークタウン、レンジャーのうち、レンジャーが爆弾9発を受けて大破炎上。
機関系統はほぼ壊滅し、航行不能となった。艦は大火災を起こしており、鎮火は難しかった。  


37  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:33:47  ID:4CUjn9IY0
レンジャーの艦長はこれ以上の犠牲は避けるために、弾薬庫、燃料庫が誘爆する前に総員退艦を命じ、
現在乗員の救助作業が行われている。
他にも、軽巡洋艦サンファンが大破炎上し、左舷に傾斜。これも手の施しようがないと判断されて総員退艦を命じられ、
僚艦が乗員を救助している。
ヨークタウンはエンタープライズ同様、鎮火次第甲板の応急修理に取り掛かるようだ。
重巡のクインシーは敵弾3発を受けて、第2砲塔が破壊され、20ミリ機銃3丁と28ミリ4連装機銃1基が破壊されたが、
航行には支障が無いようだ。
5隻の空母のうち、1隻が沈没確実、1隻が大破炎上。2隻が中波の損害を受けたのである。
そして、無傷の空母は、TF15のワスプ1艦のみ。

「攻撃隊からの報告は、未だに入って来ていません。もうそろそろ敵に取り付いても」

その時、無線機から聞き慣れた声が流れてきた。

「「こちらブランクリル1。敵機動部隊を発見した!これより攻撃に移る!」」

ノイスとギャリソンは顔を見合わせた。
ブランクリル1とは、ワスプのドーントレス隊指揮官のコードネームである。
この放送を聴いた艦内の将兵は、一斉に歓声を上げた。

「司令官!」
「ああ。ついに敵に取り付いたな。攻撃隊が、こちらが受けた被害を倍以上に叩き返してくれる事を期待しよう。」

ノイス少将はようやく、安堵したかのような表情で言う。  


38  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/23(土)  23:35:37  ID:4CUjn9IY0
「参謀長。各TF旗艦に通信を送ろう。それから私達の背後に隠れている敵機動部隊を暴き出すぞ。」
「分かりました。では、どのような内容で送りますか?」

ギャリソンの質問に、ノイス少将は少しばかりの間、文案を考えた。

「こう送れ。ワスプは健在なり、これより敵機動部隊捜索を行う、全将兵の士気は未だに旺盛なり。」  


51  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:29:05  ID:4CUjn9IY0
第47話  リルネ岬沖の決闘(中編)

1482年  10月24日  午後0時

アメリカ軍攻撃隊は、高度4000メートルで北西に向かっていた。
敵機動部隊までもう少しの距離まで到達した時、突如、敵の戦闘ワイバーンの群れと遭遇した。
そのワイバーン群の後方には、いくつもの航跡が海上に刻まれている。

「敵ワイバーン群接近!護衛戦闘機は敵のワイバーンを阻止しろ!」

攻撃隊指揮官のウェイド・マクラスキー少佐は戦闘機隊にすぐさま命じた。
戦闘機隊を束ねるのは、1ヶ月前、サラトガからヨークタウンの戦闘機隊長に任命されたジョン・サッチ少佐である。

「OK!任せておけ。」

サッチ少佐はマクラスキーに気合の入った声で返事すると、ヨークタウン、エンタープライズ、レンジャー、
ワスプの戦闘機隊を引き連れて敵に向かって行った。
ホーネットの戦闘機隊は敵が彼らの妨害を突破した時のために、攻撃隊の至近に展開させておく。
70機のF4Fは、猛速で戦闘ワイバーンの群れに向かっていく。

「いいか!絶対にペアと離れるな!正面攻撃が終わった後は訓練通りにやれ!」

サッチ少佐はそう言って無線機のマイクを置き、敵のワイバーンを睨みすえる。
互いに同高度、500キロ以上のスピードで飛んでいるから、その姿は徐々に大きくなって来る。
サッチ少佐は正面のワイバーンに狙いをつけた。
ワイバーンまでの距離が700を切った所で機銃を撃った。
両翼から4丁の12.7ミリ機銃が射撃を開始し、曳光弾がワイバーンを包み込んだ。
ワイバーンも光弾を撃った。その直後、ワイバーンが赤い光を発した後、体から何かを噴出していた。  


52  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:33:42  ID:4CUjn9IY0
サッチ少佐はそれを確認しただけで、ワイバーンと通り過ぎる。
F4Fとワイバーンは最初、真正面からぶつかり合った。互いに被撃墜機を出しながらも空中戦開始の儀式は終わった。
ワイバーンの編隊を飛びぬけた後、サッチ少佐はペアに声をかけた。

「タイラー中尉、生きてるか?」
「隊長、生きてます。」
「よし。これから訓練でやった奴をやる。君は離れていろ。」
「了解!」

サッチ少佐の指示に従い、ペアのタイラー中尉は周囲を警戒しながら、サッチ少佐機から後方に離れていく。
タイラー中尉がある程度の距離まで離れ、サッチ少佐は機体をしばらく、真っ直ぐ飛行させる。
10秒ほどで、1騎のワイバーンが突進してきた。
サッチは増速してそのワイバーンから逃げようとする。ワイバーンはそのままサッチ少佐機を追撃にかかった。
F4Fのスピードは最大で517キロ、一方のワイバーンは255レリンク(510キロ)のスピードが出せる。
速度性能ではF4Fがわずかに速いだけだ。
そのワイバーンは、サッチ機から距離700メートルの位置のまま追いつけないでいる。
ワイバーンは遠くから光弾を放って来たが、サッチ少佐は機体を巧みに動かして光弾をかわす。
右に、左にロールを繰り返しながら避けるF4Fに、竜騎士はむきになって更に光弾を乱射させた。
その時、後ろから強烈な殺気を感じた。と思った直後、竜騎士はワイバーンもろとも無数の12.7ミリ機銃弾に貫かれた。
何が起きたのか理解できぬまま、ワイバーンと竜騎士はそのまま海面に落ちていった

「隊長!1騎撃墜しました!」
「上出来だ!やっぱりこの戦法は使えるぞ!タイラー、もう一度離れろ!」

サッチ少佐は近寄って来たタイラー中尉を再び後方に引き離した。
彼らは再度、ワイバーンとF4Fが戦う空戦域のど真ん中に突っ込んだ。
ワイバーンが奔流のごとく吐き出される機銃弾にズタズタに引き裂かれる。
かと思えば、いつの間にか後ろに回られたF4Fがワイバーンの光弾をしこたま食らい、火を吐いて海面に直行する。  


53  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:34:59  ID:4CUjn9IY0
互いに組んづ解れづの空中戦を演じているが、よく見てみると、落ちていくのはF4Fよりワイバーンの方が多い。

「本格的に取り入れたのは今日が初めてだが、こいつは予想以上だ。」

そう言って、サッチ少佐はニヤリと笑みを浮かべる。

「隊長!4時方向に敵機です!」
「来たか!」

サッチ少佐はそう呟いて、再び愛機を最大速力まで増速させようとした。
しかし、狙われたのはサッチ少佐ではなかった。

「自分の後方にワイバーンがいます!回避します!」
「そっちに行きやがったか!」

狙撃役のタイラー中尉がワイバーンに狙われたようだ。
サッチ少佐は急いで機体のスピードを上げ、大きく左旋回した。
タイラー中尉はサッチ機の後方1000メートルで引っ掛かる敵を待ち構えていたが、ワイバーンが
タイラー機に襲い掛かって来た。
タイラー中尉は必死に愛機を操る。右ロールで敵の光弾を避ける。
しきりに首を後ろに向けながら、操縦桿を右に、左にと、機体を小刻みに動かして光弾をかわすが、
唐突にガンガン!と機体に振動が走った。

「クソ!ツイてねえ!」

タイラー中尉は叫びながら、機体を急降下させる。しかし、ワイバーンもなかなかの手練であった。
タイラー機が急降下に移ったと見るや、その進路の前方に光弾の弾幕を張った。
緑色の光弾が胴体や右主翼に刺さった。  


54  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:46:39  ID:4CUjn9IY0
「あいつ、腕が良い!」

タイラーは背筋が凍り付くような感覚に見舞われつつも、機体の急降下を続けさせる。
だが、ワイバーンはまだ充分に離れ切っていない。あと2、3撃は確実に食らう。
彼が死を覚悟した時、サッチ機が急降下するワイバーンに向けて、横合いから12.7ミリ弾を放った。
12.7ミリ弾は命中しなかったが、ワイバーンは急にタイラー機の追跡を止めて反転上昇し、そのまま離れて行った。
タイラー機は急降下をやめて水平飛行に入り、速度を落としたところでサッチ少佐が右横に並んだ。

「タイラー中尉!無事か!?」
「ええ。なんとか。隊長、ありがとうございます!」

無線機からタイラー中尉の声が流れて来た。彼に向かって元気に手を振っている。
どうやら、彼は無事のようだ。

「機体の調子はどうだ?」
「幸い、軽傷のようです。空戦には支障ありません。」
「ようし。それならもう一戦やるぞ。こっちよりワイバーンは多く落とされているようだが、敵さんも数が多い。
敵をもっと減らして、攻撃隊が敵艦隊に取り付けやすくするんだ。」
「分かりました!」

一通り会話が終わると、2機のF4Fは再び互いに距離を開けながら、空戦域に戻っていった。


竜母クァーラルドの戦闘ワイバーン飛行隊長であるデワルク・ジュング少佐は自分の目を疑った。
空戦開始から既に10分が過ぎたが、落ちていくワイバーンは、敵のグラマンより多い。
ここ最近、ワイバーンの飛行性能が上がったため、グラマンと互角の戦いが出来るようになった。
だが、目の前の空戦では、ワイバーンが5騎落とされている間、グラマンは1、2騎程度しか落とされていない。  


55  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:48:06  ID:4CUjn9IY0
「どうしてだ?俺達は互角に戦い合える筈なのに・・・・これではまるで、初戦の時と同じでは無いか!?」

彼は、クァーラルドに乗る前はチョルモールに乗艦していた。
そこで、彼は始めて、グラマンと交戦している。
あの時、ワイバーン隊は敵の高速性能、急降下性能に翻弄され、苦い敗北を喫した。
それからと言うもの、ワイバーン隊はグラマンに対し優勢を取れなかった。
ようやくまともな戦いが出来るようになったのは、8月のジェリンファ沖海戦からである。
ワイバーンも新しくなり、乗っている竜騎士も精鋭揃いだ。
ジュング少佐は味方のワイバーンが、グラマンを蹴散らし、後方にいる攻撃機に襲いかかれるだろうと思っていた。
だが、グラマンはこちらとほぼ同数で立ち向かっていた。
ここまでは予想範囲内であったが、まさか、味方のワイバーンがバタバタと撃ち落されるまでは考えていなかった。

「どうしてだ・・・・・・どうして、このような事に!?」

ジュング少佐はとにかく、原因を探ろうとした。
ふと、彼はアメリカ軍戦闘機の奇妙な行動を目にした。
2機のグラマンがいる。だが、その2機は、互いから離れている。
距離は1000メートルほど離れており、なぜかゆっくりとだが、互いに蛇行しながら飛んでいる。

「編隊・・・・・にしては離れ過ぎだ。アメリカ人共は相互支援が出来んのか?」

ジュング少佐はそう思ったが、唐突に先頭のグラマンに、横合いからワイバーンが突っかかって来た。
ワイバーンの突っ込みは見事な物であったが、グラマンもまた、鮮やかな機動で光弾を避けた。

「互いに上手いな。」

彼は素直に双方を褒める。褒められたワイバーンは先頭機の後ろに張り付いて光弾を1連射、2連射と浴びせる。
この時、異変が起こった。  


56  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:50:21  ID:4CUjn9IY0
後ろに離れていた2番機が突如、増速したのだ。そのごつい鼻面は、先頭機を狙うワイバーンに指向されていた。

「危ない!そのグラマンから離れろ!」

ジュング少佐はそのワイバーンに喚いたが、時既に遅し。
グラマンの火箭が、ワイバーンに向けて注がれる。
慌てたワイバーンは避けようとするが、機銃弾を全身に満遍なく受けてしまい、竜騎士、ワイバーン共に
ボロ布のようになりながら墜落していった。

彼は知らなかったが、この日、アメリカ軍制空隊は初めてサッチウィーブを大々的に使用した。
サッチウィーブ。それは、ジョン・サッチ少佐が編み出した、対ワイバーン用の戦法である。
この戦法はまず、2機1組になる事から始まる。
2機が1組になると、誘導役と狙撃役に分かれる。狙撃役は誘導役の後方に離れて行き、誘導役は敵が食いつくのを待つ。
そして、ワイバーンが誘導役に食いついた時に、狙撃役は急進して敵のワイバーンを狙い打ちにする。
これがサッチウィーブである。
シホールアンル側のワイバーンも相互支援を行う場合はあるが、シホールアンル側は主に単騎格闘戦法を好む傾向がある。
サッチ少佐は、5月のグンリーラ島沖海戦で得たヒントと、南大陸側から得た情報を元にこの戦法を編み出したのだ。
この戦法を行う時は、必ず2機1組。格闘戦は行わない。仕掛ける場合は必ず一撃離脱に徹する事。
互いに離れる距離は最低でも1000メートル、最大でも2000メートルまでにする等、様々な取り決めが行われた。
アメリカ側は、各母艦航空隊に入念な訓練を行わせた後、この海戦に臨んだのだ。
かくして、サッチウィーブの成果は現れ始めていた。
ジュング少佐はその後、2機のF4Fを撃墜したものの、空戦開始から20分で、38騎のワイバーンが撃墜され、
アメリカ側は14機のF4Fを失っていた。


制空隊はワイバーンの大半を引き受けていたが、10騎ほどのワイバーンが制空隊の防御を突っ切って攻撃隊に殺到した。
これには攻撃隊についていたF4Fが迎撃したが、それでも3騎のワイバーンが攻撃隊に襲い掛かった。
狙われたのはホーネットのアベンジャー隊で、あっという間に3機が撃墜された。  


57  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:52:05  ID:4CUjn9IY0
追撃してきたF4Fが小癪なワイバーンを追い回し、2騎を撃墜したが、1騎はまたもやホーネット隊に突っ込み、
今度はドーントレス1機を撃ち落して逃げていった。
しかし、残りの攻撃機は無傷であり、順調に敵機動部隊へと向かっていた。
そして午後0時20分、ついに眼前にシホールアンル艦隊が現れた。
シホールアンル艦隊は、2つの輪形陣を組んでおり、1つめの輪形陣は竜母2隻、2つめの輪形陣は竜母3隻を基幹としている。
その周囲には戦艦、巡洋艦、駆逐艦が展開しており、堂々たる陣形を組み上げている。

「マザーグース、マザーグース。こちらレランデット1。敵機動部隊を視認した!これより攻撃に移る。」

攻撃隊指揮官であるウェイド・マクラスキー少佐は母艦に報告した後、攻撃隊の各機に指示を下した。

「こちら攻撃隊指揮官だ。これより敵艦隊を攻撃する!TF16は右の竜母2隻を中心とする艦隊。
TF15、17は左の竜母3隻を中心とする艦隊を狙え。全機、突入せよ!」

マクラスキー少佐が無線機越しに指示を下すと、編隊は大きく別れた。

「こちらはホーネット隊指揮官のウォルドロンだ。マクラスキー、君らはどの艦をやる?」

無線機にホーネット隊指揮官の声が流れる。

「俺達は前の敵空母を狙う。」
「じゃあ俺達は後ろの奴を狙おう。グッドラック。」

その声を最後に、無線通信は終わった。
ドーントレス隊は高度を5000メートルまでに上げる。その一方で、アベンジャー隊は高度を下げて行く。
決められた高度まで下がり切ると、二手に分かれて敵の輪形陣の左右から進入を開始する。
エンタープライズ隊のドーントレス20機は、高度5000メートルまで上がった所で、輪形陣の左から進入を開始した。
上空は所々雲が出ているが、この海域は雲が余り無い。  


58  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:53:53  ID:4CUjn9IY0
天気はとても良く、澄んだ青空が上空に広がっているが、その青空に高射砲弾が炸裂して、マクラスキー隊を脅かす。
高射砲の炸裂煙は周囲に沸き起こっている。
時折、近い距離でドン!と砲弾が炸裂し、機体が大きく揺れる。
高射砲の射撃はなかなか激しい。

「あちらこちらに高射砲弾が炸裂してます。前の海戦と比べると、少し密度が濃いですな。」
「敵も必死なんだろう。ウチの艦隊が放つ高射砲弾幕は凄いからな。それに倣ってシホールアンル側も
対空砲を増やしたのかも知れん。」

言葉が終わると同時に、ボォン!という爆発音が鳴って、機体にカァン!と破片が突き当たる。
進めば進むほど、対空砲火の密度は上がっていく。
巡洋艦の上空に来る頃には、前面が高射砲弾炸裂の煙で埋まっている。
いきなり、後方からオレンジ色の煙が湧き上がった。

「2小隊2番機被弾!」

後部座席のファレル兵曹が報告して来た。
そのドーントレスは、機体の右横で高射砲弾の破片を受けた。
破片をもろに受けた機体は、右主翼から火を噴き出し、やがて機首を下にして墜落していった。
続いて、第2中隊でも被撃墜機が出る。

「頑丈なドーントレスでも、被撃墜機が出る事はさけられんか・・・!」

マクラスキーは相次ぐ仲間の散華に歯噛みしながら、降下地点に向けて機体を進め続ける。
周囲には間断なく高射砲弾が炸裂し、爆風や破片がドーントレスの機体を小突き回す。
更に1機のドーントレスが犠牲になった。そのドーントレスのコクピット前面で高射砲弾が炸裂して
破片が2人のパイロットを薙ぎ払う。
パイロットを粉砕され、コクピット部分を真っ赤に染めたドーントレスが錐揉みになって墜落していく時、
マクラスキー機は敵空母の左舷上方に来ていた。  


59  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:55:25  ID:4CUjn9IY0
「ようし、突っ込むぞ!」

自らに気合を入れるかのように叫ぶと、彼は機体を左にくるりと回転させ、機種を敵母艦に合わせた。
急降下を始めたドーントレスは、エンジンを絞り、両翼から無数の穴が開いたハニカムフラップを立ち上げ、速力を抑える。
すると、上空に凶鳥の叫びのような甲高い音が鳴り始めた。
その音は、ドーントレスが敵に向かう時発する雄叫びでもあった。

「4600・・・・4400・・・・4200・・・・」

ファレル兵曹が高度計を読み上げる。
高度が下がるにつれて敵艦隊から放たれる対空砲火が熾烈さを増す。
機体がガタガタ震え、爆撃コースから離れそうになる愛機を、マクラスキーは慣れた手つきで、
しかし、懸命に力を込めて爆撃コースから離れまいとする。
右に回頭し始める竜母に、機体を動かして照準を定める。
高度が2000を切ると、敵竜母からカラフルな光弾が飛んで来た。
機体の左を、右を、上を、光弾が掠め去っていく。
ふとすると、全てが自分に命中するのでは無いかと思われるが、マクラスキー少佐は恐怖感を露にする事無く、
逆にそれがどうしたとばかりに敵艦を睨み付ける。

「1400・・・・1200・・・・1000・・・・」

投下高度は、600メートルだが。この調子で行けば爆弾は当たるかどうか微妙だ。
もう少し高度が下がれば、狙いも正確になって爆弾を叩き付けられるかもしれない。
しかし、猛烈な対空砲火と、そうでなくとも70度の急角度で低高度まで突っ込んだら、引き起こす際に
機体を海面に叩きつけてしまう可能性がある。
だが、マクラスキーは躊躇わなかった。  


60  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  19:57:24  ID:4CUjn9IY0
「400まで行くぞ!」

彼はガタガタと震える愛機を懸命に抑えながらファレルに叫んだ。
一瞬、後ろで息を呑む音が聞こえたように思えた。だが、ファレルは恐れた様子を見せず、高度計を読み続ける。

「800・・・・600」

その時、機体にガリガリ!という鉄を引っかくような振動が伝わる。
しかし、致命傷を免れたのだろう、愛機はエンジンが止まる事も無ければ、主翼から盛大に火を噴くことも無い。
照準器に、敵竜母の飛行甲板が溢れるように写っていた。

「まだまだぁ!」

マクラスキー少佐は吼えるように言い放つと、ファレル兵曹が待望の降下高度を読み上げた。

「400!」

その刹那、マクラスキーは投下レバーを握った。

「投下ぁ!」

気合と共にレバーが引かれ、ドーントレスの胴体から1000ポンド爆弾が放たれた。
懸架装置にプロペラの回転圏外にまで誘導された爆弾は、パッと懸架装置から離れる。
その間、マクラスキー少佐は思い切り操縦桿を引いていた。
急降下から水平飛行に移る際の強烈なGが体を押し潰そうとするが、マクラスキー少佐はその圧迫感に耐えながら
懸命に愛機を水平飛行に移行させようとする。
必死の努力が実り、愛機が高度100付近で水平になろうとした時、

「隊長!命中です!敵艦のど真ん中に爆弾が命中しました!」  


61  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:00:08  ID:4CUjn9IY0
ファレル兵曹が自機の成果を、絶叫じみた声でマクラスキーに報告していた。

「よし!後は対空砲火の射程外に逃げるだけだ!」

マクラスキー少佐は額に滲んだ汗を拭いながら、愛機を輪形陣の外に誘導して行った。
エンタープライズ隊が狙った竜母は、第2部隊の旗艦である竜母イリアレンズであった。
ドーントレスの放った爆弾は、急回頭するイリアレンズのど真ん中に突き刺さった。
爆弾は飛行甲板を叩き割って格納庫に達し、そこで爆発した。
爆発の衝撃で格納庫の側壁が海面に吹き飛び、閉鎖甲板であった格納庫が、米空母のような開放式格納庫に
強引に“改造”されてしまった。
2番機の爆弾はイリアレンズの左舷側に至近弾となり、3番機は投弾前に叩き落された。
4番機の爆弾は飛行甲板の前部に突き刺さり、格納庫で炸裂し、そこにいた6騎のワイバーンを粉々に打ち砕いた。
5番機、6番機の爆弾は後部甲板に命中し、これは格納庫を貫通して深部である第3甲板に達し、そこで炸裂した。
爆発エネルギーは保管されていた魔法石を1つ残らず叩き潰し、あるいはヒビを入れてただの石クズに変えてしまう。
ドーントレスが降下する度に、イリアレンズは1000ポンド爆弾を叩き込まれ、着実に蝕まれていく。
1発の爆弾は艦後部の第2魔法動力室に達した。
そこには直径5メートル、長さ3メートルほどの緑の魔法石が2つ並べられ、そこに男女12人の魔道士が
作業を行っていたが、1000ポンド爆弾は2つのうち、1つの魔法石を叩き割ってから信管を作動させ、
爆発エネルギーが魔道士達の悲鳴を発する間もなく室内を席巻した。
イリアレンズもただやられている訳ではない。
増設した魔道銃を含む、46丁の魔道銃をドーントレスに浴びせかけ、3機のドーントレスを叩き落す。
だが、その報復は何十倍にも増して叩き返され、最後のドーントレスが去った時には、イリアレンズは
11発の1000ポンド爆弾を叩き付けられ、大火災を起こしていた。
しかし、イリアレンズは完全には死んだ訳ではなく、依然8リンルの速度で海上を走り続ける。
黒煙を濛々と吐き、満身創痍となった感のあるイリアレンズの戦いは、まだ終わっていなかった。
ドーントレスが去った直後、イリアレンズの左右には16機のアベンジャーが、10メートルの低高度で接近して来た。
護衛艦が魔道銃、高射砲を撃ちまくり、小癪なアメリカ雷撃機を落とそうとする。
しかし、アメリカ軍機はなかなか落ちない。  


62  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:02:24  ID:4CUjn9IY0
とあるアベンジャーには、確かに光弾が命中しているはずなのに、そのアベンジャーは破片は散らせど、落ちる気配が無い。
逆に護衛艦に向けて機銃掃射を行う始末だ。唐突に、1機のアベンジャーがコクピットを真っ赤に染めたかと思うと、海面に突っ込む。
バウンドしたアベンジャーの機体は、次の瞬間、大爆発を起こして砕け散った。
搭載していた魚雷が爆発したのだ。
その後、護衛艦は2機を撃墜したが、残りはイリアレンズに左右から肉薄して行った。
濛々たる黒煙を噴きながらも、魔道銃を撃ちまくりながら必死に左回頭を行って、アベンジャーの狙いを外そうとする。
だが、歴戦の手練に率いられたアベンジャー隊は執拗にイリアレンズを追い回す。
そして、アベンジャー隊がイリアレンズの真横に魚雷を投下した。
機関の一部が破壊され、動きが鈍くなったイリアレンズだが、しかし、懸命に右回頭を行って魚雷を外しにかかる。
その行動は功を奏し、アベンジャーの魚雷は2本、3本と次々と外れる。
が、逃げ場の無い夾叉雷撃の前には、その努力も無に返した。
イリアレンズの右舷側後部に2本の水柱が吹き上がる。
2本の魚雷を食らった艦体が、下から蹴り上げられたかのように海面から少しばかり浮き上がる。
その次に、左舷艦首部から1本の水柱が立ち上がる。その一撃で、イリアレンズが一瞬止まった。
それも一瞬で、再び前進し始めた時、2本の魚雷が左舷中央部に相次いで命中した。
止めともいえる一撃に、イリアレンズは完全に停止。
その10秒後、突如イリアレンズは後部から大爆発を起こし、艦体が後部からズブズブと沈み始めた。
それから20分後には、700名の乗員を道連れに、海面から姿を消す事になる。
イリアレンズがエンタープライズ隊の猛功の前に力尽きた時、ギルガメルはイリアレンズより少しましな戦いをしていた。
ギルガメルはホーネット隊の爆撃を次々とかわし、逆に3機を撃墜してなかなか命中弾を与えなかったが、
最後に爆弾3発を前、中、後部に満遍なく受けた。
その次に、夾叉雷撃によって左に1本、右に2本を受けた。
右に受けた魚雷の内、1本は不発であり、突き刺さっただけに終わったが、それでも艦体に与えたダメージは凄まじく、
ギルガメルはわずか8リンルの最高速度しか出せず、事実上大破の状態に追い込まれた。  


63  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:04:25  ID:4CUjn9IY0
「アメリカ軍機、約80機以上!我が第1部隊に向かって来ます!」

第2部隊の竜母が、エンタープライズ隊、ホーネット隊によって断末魔の状態にある中、第1部隊にもアメリカ軍機はやって来た。

「ついに来たわね。」

リリスティ・モルクンレル中将は、接近しつつあるアメリカ軍機を見て息を呑んだ。
前回のバゼット海海戦で、第1部隊はアメリカ軍機の空襲を受けたが、今日は前回の戦いよりも数が多い。
果たして、攻撃を凌ぎ切れるだろうか?
リリスティは、内心そんな不安が沸き起こった。こちらも精鋭だが、相手も精鋭である。
アメリカ軍機が攻撃に移る直前に送られて来た魔法通信では、第1部隊の攻撃隊はヨークタウン級空母2隻に
命中弾を与え、1隻は大火災を起こして傾斜し、もう1隻も甲板から多量の黒煙を噴いていたという。
ヘルクレンス少将の第22竜母機動艦隊も、100騎のワイバーンで別のアメリカ機動部隊を攻撃し、
レンジャー級空母1隻を撃沈確実、1隻を大破させ、巡洋艦1隻撃沈、1隻中破の損害を与えた。
この報告を聞いたリリスティは直ちに、全艦隊に向けて魔法通信で報告し、艦隊将兵の士気は天を衝かんばかりに上がった。
そして、彼らはあと少しで手に出来る勝利を得ようと、全将兵はそれぞれの持ち場で任務をこなしている。

「凌ぎ切れば、後はこちらのもの。残った竜母とワイバーンで、残るアメリカ空母を沈めてくれる。」

彼女は、やや余裕めいた笑みを浮かべ、それをすぐに打ち消す。
今、彼女が出来る事は、この航空戦の推移を見守るだけだ。艦の事は艦長に任せるしかない。

「アメリカ軍編隊、分離します!」

見張りの声が艦橋に届く。80機以上いたアメリカ軍機が、いくつかの編隊に分かれる。
一部の編隊は、左右に分離した後、低空飛行しながら輪形陣の側方に向かって突進している。
高空の敵編隊、ドーントレスと思われる敵機も、輪形陣の右側に回りこむようにして旋回している。
その高空の敵機に向けて、各艦の高射砲が射撃を開始した。  


64  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:07:05  ID:4CUjn9IY0
既に高空の敵は、一部が輪形陣の右側から進入を開始している。その敵機群の狙いはこのクァーラルドであった。
彼女らは知らなかったが、この時、クァーラルドを狙っていたのは空母レンジャーの攻撃隊である。
レンジャーのドーントレス16機は、高射砲弾の炸裂に小突き回されながらも、高度5000メートルの高みから
クァーラルドの上空に向かいつつあった。
クァーラルドからは、粒のようなドーントレスが、単横陣の隊形で上空に覆い被さるように接近する様が見て取れた。
そのうちの1機が唐突に爆発を起こす。

「よし、まずは1機!」

リリスティは、最初の戦果にわずかながら愁眉を開いた。
このまま2機、3機と連続で叩き落される事を期待したが、激しい対空砲火にもかかわらず、ドーントレスの編隊は
なかなか落ちる様子を見せない。
時折、よろける機もあるのだが、すぐに体勢を立て直して編隊に続行する。

「チィッ、アメリカ軍機は頑丈だとは聞いているけど、こうして落ちない姿を見ると、私達が馬鹿に
されているような気がする!」

リリスティは、落ちる様子を見せないアメリカ軍機に向けてそう言い放った。
ドーントレスに向けられたリリスティの鋭い視線が、高い攻撃能力を持っていれば、ドーントレスは1機残らず落ちただろう。
それほど、彼女の双眸は鋭かった。だが、実際はそのような事が起こるはずが無い。
ようやく、別の1機が白煙を引きながら真っ逆さまになって落ちて行くが、残りは臆した様子も無く、傍若無人に突き進んで来る。
やがて、クァーラルドの右舷上空に到達したドーントレスは、1機、また1機と、つるべ落としのように次々と翼を翻しながら、
クァーラルドに向けて急降下を開始した。
上空に、甲高い音が聞こえ始めた。
最初は対空砲火の喧騒に消されがちな、小さな音なのだが、ドーントレスが高度を下げて来るにつれて、
悪魔の鳴き声のような甲高い音は上空に響き渡る。

「ドーントレスの奴、悪趣味な音を撒き散らして!!」

耳を塞ぎたい気持ちを抑えて、リリスティは憎らしげに呟く。  


65  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:09:00  ID:4CUjn9IY0
クァーラルドに取り付けられている魔道銃、高射砲はこれまで以上に激しく撃ちまくっている。
ドーントレスの2番機が高射砲弾に機首の真正面から直撃され、その刹那に一塊の火の玉と化した。
5番機が魔道銃から吐き出された光弾を集中されて火を噴く。その2秒後には機体が空中分解を起こした。
目を覆うような対空砲火にも臆さず、ドーントレス群は急降下でクァーラルドに迫りつつある。

「面舵一杯!」

艦長が大声で指示を下す。
クァーラルドは30秒ほどの間を置いて、指示通り艦首を右に回し始めた。
その時には、ドーントレスは投下高度ギリギリまで迫っていた。
魔道銃、高射砲の猛射を潜り抜けた1番機がクァーラルドの右舷上方、高度500メートルで爆弾を投下した。
甲高い轟音が少しばかり鳴り止み、代わりにグオオーン!という発動機の唸りが左舷方向へ駆け抜けていく。
その1秒後、クァーラルドの左舷側に水柱が立ち上がった。至近弾となった爆弾は、水中爆発の衝撃波でクァーラルドの艦底を叩いた。
やや突き上げるような衝撃が伝わるが、クァーラルド自体は損傷を負っていない。
2機目のドーントレスが胴体から1000ポンド爆弾を投げ落とす。
今度は左舷側艦首付近に落下し、水柱が吹き上がる。
3発目も同様に左舷側海面に落下するのみである。だが、4発目の爆弾はクァーラルドを逃がさなかった。
爆弾はクァーラルドの後部に命中し、飛行甲板を突き破ると格納庫に達し、そこで爆発した。
ズドーン!という強烈な爆発音が鳴り、地震のような衝撃がクァーラルドを揺さぶった。
続いて、5発目の爆弾がクァーラルドの飛行甲板中央部に叩き込まれる。
連続して起こる被弾の衝撃に、クァーラルドの艦体は大きく揺れ動き、乗員の半数以上を壁に叩きつけ、床に這わす。
クァーラルドは相次ぐ被弾に屈する事無く、回頭を続けるが、レンジャー隊は容赦しなかった。
更に3発目、4発目、5発目と、クァーラルドは次々に被弾する。
6発目が突き刺さった時、一瞬艦橋の外が真っ白な閃光に覆われた。

「艦橋の近くに」

リリスティが驚愕の表情で放った言葉は最後まで言えなかった。  


66  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:10:50  ID:4CUjn9IY0
突然、雷鳴を耳のすぐ側で聞かされたかのような轟音が鳴り、次に何かがけたたましい音を上げて砕け散った。
彼女は左頬と左横腹に激痛を感じた瞬間、衝撃で後ろの壁に叩きつけられた。

「・・・・・あ・・・・はっ!?」

背中と腹が無理矢理くっついたような圧迫感に、リリスティは目を丸く開き、声にならない悲鳴を上げる。
次に目を開けた時、クァーラルドの艦長がリリスティの肩を揺さぶっていた。

「司令官、大丈夫ですか!?」

艦長は額を真っ赤に染めながら、強張った表情で彼女を呼んでいた。
リリスティは大丈夫と言おうとしたが、左頬と左横腹が焼けるように痛んだ。
痛みに顔をしかめそうになるが、彼女はそれを抑える。

「え、ええ。大丈夫。」

彼女は頷いてから立ち上がった。
艦橋の内部は、スリットガラスが全て砕け散り、そこから黒煙が中に入り込んできている。
内部は酷く傷付いていて、8人ほどの艦橋職員、幕僚が倒れている。
そのうち、4名が動かなかった。戦死したのか、彼女と同じように気絶しているのかは判然としない。
クァーラルドは酷くやられたようだが、それでも、艦は13リンル以上のスピードで海上を突っ走っている。
船としての機能はまだ生きているなと、彼女は確信した。

「どのぐらいやられたの?」

リリスティは傷の痛みを堪えながら、艦長に被害状況を聞いた。その時、  


67  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:12:22  ID:4CUjn9IY0
「左舷側方より雷撃機来ます!」
「右舷側方よりアメリカ軍機!低空で接近してきます!」

更なる刺客が迫っている事を、見張りが報告して来た。


空母レンジャーのアベンジャー隊を率いるウィル・パーキンス少佐は、目の前の竜母を見つめながら、
機銃手のヘンリー・リッティングトン兵曹に声をかけた。

「ヘンリー!後ろの奴らは全機ついて来ているか!?」
「残り6機、全機ついて来ています!」
「ようし。敵は大物だ。気合を入れていくぞ!」

パーキンス少佐は眦を決しながら、愛機を輪形陣の内部に進めた。

「隊長!TF16の連中が空母1隻を撃沈しました!」

真ん中の電信員席に座るアレク・ヴェラーレル少尉が、TF16の戦果を報告した。

「そうか!TF16の連中がやったか!なら、俺達も負けてられんぞ!」

パーキンス少佐は、味方が挙げた大戦果に浮き立つような高揚感を感じながら、機体を高度10メートルほどの低空に下げていく。
彼を含む7機のアベンジャーは、ほぼ横一線に並びながら駆逐艦の上空をフライパスした。
シホールアンル艦が必死に魔道銃と高射砲を撃ってくる。
周囲にカラフルな光弾が海面を縫い、高射砲弾の破片が海面を泡立たせる。
目の前の敵竜母1番艦は、飛行甲板から濛々たる黒煙を上げている。
ドーントレス隊の1000ポンド爆弾が、敵艦の甲板を抉ったのであろう。
黒煙が噴出している破孔からは、時折オレンジ色の炎が見え隠れしている。  


68  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:13:54  ID:4CUjn9IY0
傍目から見て、この竜母が今後の戦闘に使えない事は明らかである。
(だが、船としての機能はまだ生きてやがる)
パーキンス少佐はそう確信した。火災炎を上げる竜母は、27ノット以上のスピードで海上を驀進している。
どうやら、ドーントレス隊の爆弾は、機関部などの艦深部にはダメージを与えていないのだろう。
ここで逃がせば、後方で修理されて再び前線に出て、味方に害を成すかもしれない。

「ならば、俺達の魚雷で仕留めるまで!」

パーキンス少佐は目の前の竜母を睨みつけながら、機体を徐々に敵に近づけていく。
中央部に近付くにつれて、対空砲火は苛烈さを増し、護衛艦や目の前の竜母が放つ光弾で、目の前が思ったように見えない。
ガツン!という衝撃が機体を揺さぶった。
一瞬ひやりとするが、

「胴体に被弾!しかし、損傷は軽微です!」

ヴェラーレル少尉が報告して来た。思ったよりも深く傷ついていないので、パーキンス少佐はやや愁眉を開いた。
巡洋艦の防御ラインを突破し、ついに敵の右後方から竜母を眺められる位置にまで近付いた。
距離は1500メートルほどだ。

「800で投下するぞ!」

パーキンス少佐は必中を期すため、1000メートル以内の距離で魚雷を投下する事にした。
雷撃は、投下距離が短いほど、命中しやすくなる。
しかし、敵もただで沈められるほど馬鹿ではない。敵艦は常に対空砲火を放ってくるため、投下距離が短い分、
敵の対空火器も命中しやすくなり、自機が撃墜される確率は高くなる。
その危険に、パーキンス少佐はあえて挑んだ。
カラフルな光弾がアベンジャーの周囲を通り過ぎ、至近で高射砲弾が炸裂するが、アベンジャー隊は止まらない。
距離が1200切ろうとした時、唐突にガガァン!という強い衝撃に揺さぶられた。  


69  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:15:47  ID:4CUjn9IY0
今度の衝撃はかなり強かった。
(今度こそやられたか!)
一瞬、パーキンス少佐の脳裏に、自機が海面に突っ込み、水柱を吹き上げる様子が浮かんだ。
だが、機体は主翼から火を噴くことも、エンジンが以上を来たす事も無い。

「・・・・・一応、致命傷は避けられたか。」

彼はそう言ってから、おもむろに右主翼を見た時、その先端部分がささくれ立っていた。
だが、不思議とアベンジャーは飛行を続けている。
彼の言った通り、損傷は致命傷とならずに済んだのだ。

「あと少し傷が大きけりゃ、今頃・・・・・」

ヴェラーレル少尉が声を震わせながら呟く。後一歩で、この未知の海で散華していたのだ。
恐ろしくないはずが無い。

「安心しろ!グラマン鉄工所の機体は、シホット共のひょろひょろ弾なんぞに簡単に落とされはせん!
今のがいい証拠じゃないか!」

パーキンス少佐は2人を元気付けるように、大声で叫んだ。
その2秒後、唐突に2番機が主翼から火を噴いた。
彼はハッとなるが、2番機に顔を振り返ることは無い。彼は前を見続ける。
2番機はそのまま滑り込むようにして、海面に突っ込んだ。
犠牲を出しながらも、アベンジャー隊と敵竜母の距離は、徐々に狭まりつつある。  


70  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:17:57  ID:4CUjn9IY0
そして、

「距離800!」
「魚雷投下!」

ヴェラーレル少尉の報告と共に、パーキンス少佐は魚雷を投下した。
胴体から放出された魚雷が、海面下に落下し、少しばかり沈下する。
やがて、魚雷は自らの動力で動き出し、敵艦の艦腹を目指して突進して行った。
パーキンス少佐が魚雷を投下した事を確認すると、残りのアベンジャーも一斉に魚雷を投下した。

「前方に味方機!」

ヴェラーレルが、前方から向かって来る機影を見つけた。それは、先ほど分離した残りのアベンジャー隊である。
パーキンス少佐は全速力で敵竜母の甲板スレスレを掠めた。
そして反対側からやって来たアベンジャーとすれ違う。
敵艦の左舷に抜けて少し間が経った時、右舷側に水柱が立ち上がった。

「敵艦の右舷に水柱1!いや、もう1本、更に1本上がりました!」

リッティングトン兵曹が上ずった声音で2人に報告して来た。
3本のMk−13魚雷は、敵竜母の右舷中央部と後部に突き刺さり、高々と水柱を立ち上げる。
激痛に身悶える竜母に、左舷側から新たに1本、2本、3本と前、中、後部に魚雷が命中し、申し合わせたかのごとく、
順番に3本の水柱が立ち上がった。

「更に3本の魚雷が命中!隊長、やりました!」
「ブラボー!これでレンジャーの仇は取ったぞ!」

パーキンス少佐は、その報告に破顔して歓声を上げた。  


71  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:25:33  ID:4CUjn9IY0
ドーン!という重々しい爆発音と共に、左舷に水柱が立ち上がった。

「うわあぁ!?」

リリスティは激しい衝撃に耐えることが出来ず、床に転倒してしまった。
クァーラルドは新たに命中した魚雷の炸裂に、海面から飛び上がった。
それから、クァーラルドは力尽きたのか、ガクッと速度を落とし、100メートルほどゆっくり進んだ後、
海上で停止してしまった。
被雷から10分後、艦橋に副長が上がってきた。副長の顔は煤で真っ黒だった。

「艦長。左右浸水は止まりません。それに、艦内での火災が酷く、遠からぬうちに火は弾薬庫にまで延焼します。」
「なんとか・・・・・なんとか、できないものか?」

艦長は、どこか懇願するような口調で、副長に聞いた。だが、

「このままでは、無為に乗員を犠牲にするだけです。前回の海戦よりも被害が大きすぎて、許容範囲を超えております。」
「いや、乗員総出で消火活動にあたれば何とかなるかもしれない。」
「・・・・もう・・・無理よ。」

唐突に、凛とした、それでいて苦しげな口調が響いた。
その声は、リリスティであった。
彼女は左頬を血で染め、左横腹を右手で押さえている。その美しい長髪は乱れており、気品を幾らか損なわせている。
それでも、彼女の口調は落ち着いていた。

「確かに、このクァーラルドは大切だけど、こうも酷く傷付けられては助からない。ここでクァーラルドが沈んでも、
船はまた作る事が出来る。でも、船の扱いに慣れた乗員は、失っても作れない。だから、船から乗員を降ろすべきよ。」

「・・・・・司令官。」
「今のうちに命じた方がいい。命令が早い分、多くの命が救われるよ。」

リリスティの言葉に、艦長は肩を震わせた。  


72  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:29:25  ID:4CUjn9IY0
少しばかりの沈黙の後、艦長は命じた。

「分かりました司令官。総員退艦を命じます。司令官は、寮艦にお移り下さい。」
「ええ・・・・分かった、う」

彼女は言葉を言い切らない内に激しく咳き込んだ。その時、彼女は思わず血を吐いた。

「司令官!?」

幕僚達が慌てた口調でリリスティを呼ぶ。

「あ、あたしの事はいい!それよりも、各部隊に伝える事がある・・・わ。」

いきなり、右の横腹が。いや、横腹だけではない、体の内部からも激痛が走った。
(破片が体の中、それも、奥に入ってる)
先ほどの吐血からして恐らく、内臓が傷付いているのかもしれない。
一瞬、痛みの余り目眩がしたが、リリスティは痛みに耐えつつ、途切れ途切れの言葉で、艦隊の各部隊に今後の方針を伝えた。
それが終わると、彼女は力尽き、意識を失ってしまった。


第2部隊のクァーラルドがレンジャー隊に襲われている間、残りの竜母、ゼルアレ、ライル・エグも
ヨークタウン隊、ワスプ隊の艦載機に襲われた。
ゼルアレは艦長が巧みな操艦ぶりを発揮し、ヨークタウン隊の爆撃、雷撃を次々とかわしたが、
爆弾3発、魚雷2本を受けて速度が10リンルにまで低下した。
ライル・エグは爆弾4発、魚雷1本を受けて叩きのめされたが、ゼルアレ、ライル・エグ共に大破止まりであり、
一応沈没は免れそうであった。  


73  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:31:32  ID:4CUjn9IY0
午後1時  第16任務部隊旗艦空母エンタープライズ

エンタープライズは、先のシホールアンル側の攻撃で爆弾3発を受けていた。
そのうち、2発が飛行甲板に命中した。
火災は15分ほどで消し止められ、今は飛行甲板の応急修理を急ピッチで行っている。

「2時間か・・・・・微妙な所だな、艦長。」

ハルゼー中将は、エンタープライズの艦長であるマレー大佐に険しい表情で言った。

「修理班の班長はそう申しておりました。本当なら長くて3時間はかかる予定でしたが、前部左舷側砲塔の
修理を棚上げにしたお陰で、なんとか2時間に短縮出来ました。」

マレー大佐はそう答えるが、ハルゼーとしてはもっと短い時間に修理を終えてもらいたかった。
機動部隊の南西方面には、未知の敵機動部隊がいる。
TF17はその機動部隊に襲われて、レンジャーを火達磨にされ、ヨークタウンを傷付けられた。
その敵に対して、TF15のワスプとサウスダコタが、ドーントレス4機とキングフィッシャー2機を上げて索敵当たっている。
だが、ハルゼーとしてはこの数字は少ないように見える。せめて、10機程度は欲しいと思っている。

「司令官、TF17のレンジャーがたった今、駆逐艦によって雷撃処分されました。残りの乗員はクインシーと
ランズダウン、グリーブスに収容されました。」

ブローニング参謀長が、勤めて冷静な口調で報告して来た。

「ヨークタウンはどうなっている?」

ハルゼー中将は、ブローニング参謀長に気になっている事を聞いてみた。  


74  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:34:40  ID:4CUjn9IY0
「ヨークタウンは火災が鎮火し、現在飛行甲板の応急修理を行っています。速ければ、2時間ほどで終わるようです。」
「そうか。ボーイズ達が戻って来るまでにはギリギリで間に合いそうだな。」

そこへ、通信参謀が艦橋にやって来た。

「司令官!攻撃隊より攻撃成功との連絡が入りました!」
「おお!やったか!」

ハルゼーは、先まで浮かべていた憂色を吹き飛ばして、笑顔で叫んだ。

「戦果は、敵竜母2隻撃沈、3隻大破。敵ワイバーン46騎撃墜です。攻撃隊の被害は調査中です。」
「竜母2隻撃沈、3隻大破か。こっちはレンジャーが沈み、ホーネットが大破。ビッグEとヨークタウンは中破だが、
応急修理で復活できる。第1ラウンドは我々の勝利だな!」

彼は満足気な口調でそう叫んだ。

「これで正面の敵は全て叩きました。ですが、まだ敵には竜母2隻が残っています。これを叩かねば、敵は第2、第3波の
攻撃隊を送り込んでくる可能性があります。」
「ああ。それは分かっている。今、ノイス部隊が策敵機を飛ばしている。攻撃隊が戻ったら、格納庫で残っている分も
含めて第2次攻撃隊を編成し、後方の敵を見つけ次第叩くぞ!」

ハルゼーや幕僚達が、今後の方針を決めている最中、ラウスは片隅で考え事をしていた。
(とりあえず、正面の敵はこれで叩きのめされた。ハルゼーのおっさんは後ろの竜母部隊を叩くと言っている。でも・・・・)
ラウスは頭の中に、バゼット半島と、シホールアンル輸送船団の位置を描いていく。
朝の索敵で見つけたのは、あくまで敵の前衛部隊だ。
その後方にいる輸送船団は、6時間以上前の潜水艦の報告以来、情報が入っていない。
今行われている戦いは、この海域の制空権を握るために行われているが、本来の主目標である輸送船団はノーベンエル岬沖より
300マイル程度しか離れていない。  


75  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:37:49  ID:4CUjn9IY0
もし、別の竜母部隊を攻撃している時に、敵輸送船団が変針したら・・・・・
ラウスはハルゼーに声をかけてみた。

「あの〜。ハルゼー提督。」
「ん?どうした?」

ハルゼーは微笑みながら彼の側に近寄った。

「輸送船団はどうするのでしょうか?」
「輸送船団だと?」
「ええ。もしですよ。仮にこっちが南西の敵部隊を叩いている間、敵部隊の司令官が、竜母部隊の大損害を受けた事に
ショックを受け、慌てて輸送船団を上陸地点に向かわせたら、その時はどうするのでしょうか。」

一瞬、艦橋内に重い空気が漂った。
(・・・・まずい質問しちまったかな?)
ラウスは後悔した。だが、

「そうか。敵の司令官が、輸送船団を早々と上陸地点に向かわせる事もあり得るな。」

彼らは再び、険しい表情で、その不測の事態が起きた場合を考え始めた。

「ラウス君の言う通り、輸送船団が竜母部隊の庇護を受けられぬと判断した場合、強襲軍の上陸を早める事は
充分に有り得ますな。」
「こっちには無傷の空母が1隻残っているからな。それに襲われぬ内に事を済ます、と言う事か。
ミスリアル軍の大半は東部に移動している。防備の薄い西部に纏まった軍が上陸すれば、ミスリアルは
大打撃を被るな。そうなっては、敵の思う壺だ。」
「そうならぬ為には、早めに後顧の憂いを絶ち、残った航空機で敵船団を叩かねばなりませんな。」  


76  :ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ:2007/06/28(木)  20:38:24  ID:4CUjn9IY0
ブローニング参謀長の言葉に、幕僚達は頷く。

「と、すると。時間は余り無いな。こりゃ攻撃隊に速く戻ってもらわんと、取り返しの付かん事態になるぞ。
後方のシホットに構っている間に日が暮れたら、艦載機の出番は明日までお預けと言う事になる・・・・・
畜生、何か妙案は無いものか・・・・」

ハルゼーは今後の方針を考えながら、艦橋の張り出し通路に移動した。
海は心地よい風が吹いていて、焦り立つ心を癒してくれる。
後方に目を向けると、未だに火災の鎮火しないホーネットが遠くを航行している。
ミッチャー艦長の報告では、延焼はなんとか食い止めており、あと1時間ほどで鎮火に向かうと言われている。
(ホーネットはこの海戦が終わったら、本国のドックで入院させねばならんな。)
ハルゼーはそう考えながら、艦首側の海域に顔を向けた。
エンタープライズの前方には、戦艦ノースカロライナが航行していた。
先の防空戦では、ノースカロライナは20門の5インチ砲を乱射して、寮艦と共によく戦ってくれた。
彼はノースカロライナの姿をしばらく見つめていた。
ふと、ある考えが彼の頭の中に浮かんだ。