150 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:33:26 ID:QPTW.pJg0
第20話 天空の怪物

1842年4月8日 午前7時 カレアント公国ヴィルフレイング

「母さんの馬鹿野郎!」

古ぼけた家から、突然子供が飛び出し、親を罵りながら外に走っていった。

「ちょっと待ちなさい!カル!話はまだ終わってないよ!」

頭に青筋を浮かべながら、猫のような耳を生やした女性が追いかけようとしたが、息子は既に丘を
駆け下りていく最中であり、追いつくのは難しかった。

「あの・・・・・チッ。」
「どうしたんだ?朝から騒がしい。」

家の奥から眠たそうな声が聞こえた。
女性が振り返ると、同じく猫耳を生やした男が、服をだらけさせながら起きてきた。
「あの子、同級生とケンカして怪我を負わせたのよ?それを注意したら、カルは自分は悪くないって
言い始めて、それで口喧嘩になったの。」
「口喧嘩・・・・・か。」

男は家の周囲を見回した。
よく見てみると、口喧嘩をした割には、割れた皿等が床に散乱し、本や勉強道具などが洗い場や、
寝室に放り出されている。
どう見ても口喧嘩で収まったようには見えない。

151 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:35:27 ID:QPTW.pJg0
「今から探して来る。」
「そっとしておけ。」

男はぶっきらぼうな口調で、外に出ようとする妻を制止した。
その言葉を聞いた女性が目を剥く。が、男はたじろいだような様子は見せなかった。

「あいつも12だ。何が悪いのか、悪くないのか分かる頃だ。
それに、どうして同級生とケンカしたのか、それを考えないといかん。
君はそれを踏まえたうえで、カルと話そうとしたかい?」

口調は柔らかだが、明らかに詰問しているようだ。

「・・・・・・・いえ、でも、悪いのはあの子よ。」
「確かにな。でも、その現場にいなかった俺達があれこれ言ったって始まらないよ。
まずは、本人から詳しく聞く事だな。とりあえず、今はそっとしてやろう。」

男はそう言うと、やる気なさげな動作で家の中を片付け始めた。

気が付けと、カルは最近出来た、アメリカ軍基地のフェンスの前に立っていた。
フェンスの向こうには、薄い茶色に塗装された初見参の飛空挺が、何十機と駐機していた。
発動機は左右に2基ずつ、合計で4基積んでおり、その周囲をアメリカ兵達が取り囲んでなにやら作業をしている。

「うわぁ〜・・・・・すげえ。」

カルは興奮したように目を瞬かせ、耳がひくひくと動いた。
今まで見たアメリカ軍機はいずれも常識はずれだなと思わされた。

152 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:37:22 ID:QPTW.pJg0
特に2つの発動機を持った高速機、双胴の狩人はことさら異形で、それでいて新鮮に思えた。
だが、その双胴の狩人とは違って、この4発機はまさに、巨人であった。

「アメリカか・・・・・・どんな国なんだろう。一度は行って見たいな。」

少年が興奮に胸を躍らせていると、不意に1機の4発機がエンジンをゆっくり回し始めた。
止まるか、止まらないかの勢いでしばらく回り続け、すぐに勢いが付くと、轟々と唸りを上げた。
1基のエンジンが回転すると、残りの3基が次々と回り始めた。
静かだった飛行場は、この巨人機の発するエンジン音をきっかけに、騒音をより大きくしていった。
騎士達の雄叫びのように、第81爆撃航空群のB−17フライングフォートレス48機は、
力強い轟音を飛行場内に響かせた。
B−17は、最初の1番機が誘導路に乗って、ゆっくりと滑走路に移動すると、途端に4基のエンジンを
一層がなり立てて滑走を開始した。
カルは、その重たそうな機体がスピードを上げて滑走し、ゆっくりと上空に舞い上がる瞬間まで、瞬きせずに見守っていた。

第1中隊最後のB−17が滑走路を離陸していくと、第2中隊の1番機は誘導路から滑走路にへと機体を移動させた。

「こちらイリス・ブリジット、管制塔へ。離陸準備OKか?」
「こちら管制塔、イリス・ブリジットへ。離陸を許可する。シホット共にボーナスを与えて来い。」
「こちらイリス・ブリジット、了解!」

イリス・ブリジット号の機長であるダン・ブロンクス大尉は後ろに声をかけた。

「これより離陸する!」
「「了解!」」

乗員達の威勢のいい声が返って来た。

153 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:38:42 ID:QPTW.pJg0
それを確認したブロンクス大尉はブレーキを解除し、スロットルを開いた。
B−17の巨体がぐんぐん速度を上げていく。周りの風景が早く後方に流れていく。
4基のライトR1820−1200馬力エンジンが一層轟音を響かせ、巨体をぐいぐいと前方に引っ張り、
やがて、上空にへと誘っていこうとした。
ほどなくして、2000メートルを越えた時点でイリス・ブリジットは巨体を大空へと舞い上がらせ、上昇を続けた。
高度1000まで上昇し、イリス・ブリジットは集合地点にへと向かった。

ロゼングラップ基地から48機のB−17が離陸すると、今度は第31航空団の第14戦闘航空群のP―38が48機、
離陸を開始し、B−17隊の後を追った。

B−17の編隊は、護衛のP−38とロゼングラップ北方50マイルの空域で合流した後、北西に針路を変更。
一路ポリルオに向かった。

編隊は時速220マイルの速度で、高度5000メートルを飛行していた。
イリス・ブリジット号の航法士であるヘンリー・ギャビン少尉は、飛行経路図に新たに進んだ分の印しを書き込んでいた。

「機長、ポリルオまであと150マイルです。」
「OK。」

ブロンクス大尉は機械的な口調で返事を下す。

「この調子で行けば、あと30分ほどで敵地上空だな。」
「先の攻防戦では、敵のワイバーン部隊は大分痛めつけられたようですが、ミッチェルやハボックの連中が言うには、
未だに多くのワイバーンが残っているようです。」

副操縦士のリーネ・カースル中尉が話しかけてきた。

154 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:40:21 ID:QPTW.pJg0
「大方、本国からの増援を受けたのかもな。戦闘機隊の奴らが、最低でも400騎以上のワイバーンを
叩き落しているから、本国や他の戦線からあちこち引き抜いて、こっちに持ってきたのかもしれん。
敵が戦力回復に時間を取られているお陰で、俺達はこうして、愛機をシホット共の頭上に飛ばしている。
敵に感謝しないとな。」
「奴ら、このB−17を見たらどう思いますかね?」
「FBIに踏み込まれて、仰天するギャングのチンピラ共のような気持ちになるだろうよ。」

ここでカースル中尉は声を上げて笑った。

「なるほど、いい例えですな。」
「最も、敵さんはチンピラじゃなくて、コワモテのおあにいさんばかりだがね。」

ブロンクスは苦笑しながらそう付け加えた。

「男だけじゃなくて、女性の竜騎士も結構いるみたいですぜ。捕まえた墜落機の御者のうち、
2割の割合で女性の竜騎士が混じっていたようで。」
「ほう。それじゃ怖いおあねえさんも加わってくるから、気をつけないとな。」

と、2人は一層声を上げて爆笑した。

「編隊指揮官機より各機へ、編隊指揮官機より各機へ。」

第1中隊の先頭を飛行中の1番機を操縦する、カーチス・ルメイ少佐の声が聞こえてきた。

「あと20分で敵最前線上空を通過する。各機警戒を怠るな。」

155 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:42:31 ID:QPTW.pJg0
淡々とした、それでいて有無を言わせぬような声が聞こえた。

「おい!聞こえたな?そろそろ敵地上空だ。いつワイバーンが襲って来るか分からん。きっちり見張っておけ!」
「「ラジャー!」」

他8名の乗員達の返事が返って来た。
声音からして皆元気がいいが、乗員達の中には、新兵も混じっている。
怖くないのか、それともあえて抑えているのか。
ブロンクス大尉からはどちらなのか判然としなかった。
既に全10丁の12.7ミリ機銃は既に動作確認は終えており、いつでも戦闘に入れる。
搭載している500ポンド爆弾14発も全て異常は無い。
準備は整った。あとは、敵との対決を待つのみとなった。

乗員達が眦を決して、襲い来るであろう敵に備えてから20分が経過した。

「目標地点まで、あと30マイル。」

ギャビン少尉は、いつもの通り機長に報告した。
そのやり取りを聞いていた、胴体上方機銃座の機銃員であるルーク・クリストファー軍曹は、
護衛のP−38の動きに異変が起きた事に気が付いた。
「こちらウェルバ1!敵ワイバーン編隊を視認。前方2000メートル、高度5500メートル上空にいる。
これより迎撃する!」
「こちら編隊指揮官機、ウェルバ1へ。了解した。ワイバーン共を近寄らせないでくれ。」

B−17部隊の指揮官機と、P−38隊の指揮官機が一通りやり取りを終えると、護衛についていた48機のうち、
半数が増速し、編隊から離れていった。

156 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:45:27 ID:QPTW.pJg0
やや間を置いて、前方でワイバーンとP−38の空中戦が開始された。
ワイバーンはP−38とほぼ同数である。P−38が猛速で突っかかって、機首の12.7ミリ機銃
4丁、20ミリ機銃1丁を撃ちまくる。
ワイバーンは手練が操っているのか、火箭をひらりとかわして反撃の光弾を放ってくる。
運が悪かったのか、1機のP−38が光弾に片方の尾翼をちぎり取られた。
強烈な打撃によろめいたP−38に別のワイバーンが更なる光弾をぶち込んで止めを刺した。
最初にアメリカ軍機を撃墜した事で、ワイバーン群の士気は上がった。
だが、それと比例するかのように、P−38群の攻撃はより仮借ない物となってきた。
米軍機を撃ち落してわずか20秒後に、別々の場所でワイバーンがP−38の機銃弾を食らって相次いで撃墜される。
仲間を撃墜された事で怒り狂った竜騎士が、互いの性能差も忘れてP−38を追撃に掛かる。
だが、P−38は残酷なまでに早すぎた。
あっという間に630キロのフルスピードでP−38はワイバーンから逃げて行った。
これに余計に怒りを爆発させた竜騎士が、今度は手近な位置を通り過ぎたP−38に矛先を向けようとしたが、
注意散漫になっていたその竜騎士とワイバーンの下っ腹から、急上昇して来たP−38がしこたま機銃弾を振舞った。
たちまちズタズタに引き裂かれ、分断されてグロテスクな光景を現出させた。
だが、P−38群が相手取っているワイバーン隊は、本命ではなかった。
本命のワイバーンは別のところにいた。

「3時方向より新たな機影!」

クリストファー軍曹の声を聞いたブロンクス大尉が、3時方向、コクピットの右側方に目を向けた。

「畜生、他にも用意してきたか。」

そこには、距離3000メートルの位置から向かって来る40騎以上のワイバーンの群れがいた。

157 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:47:10 ID:QPTW.pJg0
すぐさま、残りのP−38がこれに当たる。
そこでも激しい空中戦が繰り広げられるが、それでも10騎以上のワイバーンが群れを成して向かって来た。
ワイバーンは、ブロンクス大尉の第2中隊に向かいつつあった。

「敵が来るぞ!準備しろ!」

ブロンクス大尉は落ち着いた、それでいて大きな声音で残りの乗員に告げた。
先日行われたB−25、A−20による爆撃で、7機のB−25、A−20がワイバーンによって失われている。
全体的に見れば、微々たる損害ではあるが、犠牲が出ているのだ。
ひょっとしたら、このB−17の中にも・・・・・・・・
ブロンクス大尉はそう思いかけたが、頭を振り払ってそれを消した。

「大尉、心配する事はありません。俺達が乗っているのは防御も火力も整った空の要塞です。
シホットの空飛ぶトカゲどもに負けっこありませんぜ。」

副操縦士のカースル中尉が不敵の笑みを浮かべた。

「まあ、そうなるように信じておくぜ。」

クリストファー軍曹は、旋回機銃を粒のようなワイバーンに向けた。
ワイバーンは、一旦5700メートル付近まで高度を上げると、散開し、第2中隊に襲い掛かって来た。
そのうちの2騎がイリス・ブリジット号に襲い掛かって来た。
2騎のワイバーンが右側上方より突っ込み始めた。

「落ち着け・・・・落ち着け・・・・俺はやれるんだ。」

158 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:48:59 ID:QPTW.pJg0
クリストファー軍曹は、高鳴る鼓動を抑えようとするが、抑えようとすればするほど、鼓動はまずます高鳴っていく。
手袋の中の手は汗でぬるぬるとしており、気色悪い事この上ない。
目測で、ワイバーンが900メートルを切った時、クリストファー軍曹は12.7ミリ機銃2丁をぶっ放した。
ドダダダン!ドダダダダダン!という、重々しい発射音が断続的に鳴り、曳光弾が煙を引きながらワイバーンに注がれていく。
ワイバーンはくるりと機銃弾を避ける。
その憎らしい姿にまたもや12.7ミリ機銃をぶっ放した。
胴体側や、胴体下方の12.7ミリ機銃も発砲し、無数の曳光弾がワイバーンを包み隠そうとするが、ワイバーンを操る竜騎士も
手練なのか、2騎のワイバーンも必死にかわしながら、イリス・ブリジット号に迫って来た。

「ちょろちょろと動きやがって!」

クリストファー軍曹は喚き散らしながら発射ボタンを押して機銃弾を撃ちまくる。
距離400メートルで、先頭の1騎が口から光弾を放ってくる。これは外れたが、2番騎が続けざまに光弾を放った。
緑色の光弾がガガガン!とB−17の胴体に突き刺さり、破片を飛び散らせた。

「胴体上方に命中!」
「皆大丈夫か!?」

ブロンクス大尉はすかさず聞いた。

「大丈夫です!」
クリストファー軍曹はすぐに返事を返した。他の乗員達も怪我は負っていなかった。
ワイバーンの光弾は、イリス・ブリジット号の胴体上方に命中したが、装甲板がなんとかこれを食い止め、
光弾が機内に暴れこんで来る事は無かった。

「フリー・ラインヴァン号に3騎向かいます!」

イリス・ブリジット号のすぐ右後方のフリー・ラインヴァン号にもワイバーンが突っかかって来た。

159 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:51:30 ID:QPTW.pJg0
今度は後ろ後方から襲おうとしている。
クリストファー軍曹は旋回機銃を回すと、12.7ミリ機銃をフリー・ラインヴァン号の上空にぶっ放した。
フリー・ラインヴァン号からも機銃弾の奔流が吐き出され、無数の曳光弾が3騎のワイバーンに注がれている。
先頭のワイバーンが機銃弾を避け損なって集中打を叩き込まれ、力なく墜落していく。
続いて2騎目のワイバーンが、横合いから田楽刺しにされるように脇腹を抉られ、
竜騎士がワイバーンから放り出されて、大小2つの影に分離し、そのまま落ちていった。
最後のワイバーンが光弾をぶっ放す。緑色の光弾のうち、何発かが翼や胴体にぶち込まれる。
束の間、命中箇所から破片が飛び散り、うっすらと白煙が吹き上がる。
だが、フリー・ラインヴァン号はまるで蚊に刺されたな、と言わんばかりに平然と飛行を続行している。

「ヒュー、大したもんだぜ。」

クリストファー軍曹は思わず感嘆した。
フリー・ラインヴァン号はイリス・ブリジット号よりも光弾を食らわされていた筈だが、
損傷はしても4基のエンジンは何ら変わり無く運転を続けている。
搭乗員の安否は定かではないが、機体の状態に関しては何ら問題は発生していないのだ。

「さすがは空の要塞。」

思わず、クリストファー軍曹は誇らしげな気持ちになった。
しかし、それも一瞬で振り払って周囲に視線を巡らせて警戒にあたる。
右方向から別のワイバーンが1騎、イリス・ブリジット号に向かって来る。
距離は1000メートルを切るか、切らぬ近距離だ。

「くそ、エンジン音が無いもんだから、やりにくいぜ!」

クリストファーは苦々しげに呟きながら旋回機銃をそのワイバーンに向ける。

160 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:53:10 ID:QPTW.pJg0
旋回機銃を向け終えると、すぐに機銃を発射した。
普通の航空機なら、咆哮するエンジン音を聞いてどこにいるか見当が付くが、エンジンではなく、自分の翼で
飛行しているワイバーンが相手だと、ほぼ無音であり、いつの間にか接近して光弾を叩き込んで来る、
というケースが幾つか起きている。
そのケースがここでも発生しつつあった。
そのため、乗員達は常に、周囲を警戒せざるを得なくなっていた。
2丁の12.7ミリ機銃がけたたましい音を立ててぶっ放され、曳光弾が注がれる。が、
ワイバーンは小癪にも、左右にひらりとかわしながら接近してきた。

「落ちろ!シホット野朗!」

クリストファーは引き金を引き続ける、ドダダダダダ!という重々しい発射音と共に機銃弾をさらに注ぐが、
ワイバーンも光弾を放ってきた。
緑色の光弾が数発、胴体後部に突き刺さり、イリス・ブリジット号が振動する。
光弾を叩き込んだワイバーンがイリス・ブリジット号の下方を飛びぬけた。
胴体下方機銃座がワイバーンの背中目がけて機銃弾をぶっ放すが、命中しなかった。

「5時下方にワイバーン!」

後部機銃手が上ずった声音で叫ぶ。ワイバーンが下方から猛然と上がって来た。
2騎いる。500キロ近いスピードを維持しながら、イリス・ブリジット号に向かいつつある。
他の寮機、フリー・ラインヴァン号や別の機が援護射撃を行う。
イリス・ブリジット号も向けられる尾部銃座と下方の連装機銃を猛然と撃ちまくった。
寮機と、イリス・ブリジット号の十字砲火に絡め取られたワイバーンの1騎が、あっという間に火箭に包まれて
羽根や御者の体がずたずたに引き裂かれて、破片をふりまきながら墜落していった。
残る1機がなおもイリス・ブリジット号に肉薄した。

161 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:55:45 ID:QPTW.pJg0
猛烈な弾幕射撃の中、距離600にまで迫ったワイバーンが光弾を放つ。
光弾の大部分はイリス・ブリジット号を外れたが、2発が胴体下方の機銃座のすぐ側に命中した。
機銃座の機銃手は、すぐ側に命中した光弾に肝を潰した。
ワイバーンがイリス・ブリジット号の機体上方に飛び抜けた。

「畜生が、調子に乗るなよ!!」

クリストファー軍曹が、視界に入ったワイバーンを罵りながら、すかさず向けた12.7ミリ機銃を撃った。
2本の銃身が火を噴き、機銃弾が過たずワイバーンの背中に注がれた。
その次の瞬間、ワイバーンは右の翼をもぎ取られた。
ワイバーンの口があらん限りに開かれ、御者らしきものが一瞬頭を抱えているように見えた。

「やった!シホットを撃ち落したぞ!!」

クリストファー軍曹は拳を握り締めて、そう叫んだ。
しかし、ワイバーン群は執拗にB−17群にまつわり付いて来た。
最前線を越えるまで、第2中隊から銃声が止む事は無く、どの機も四方から襲い来るワイバーンに機銃を撃ちまくっていた。
気が付いた頃には、目標の上空にあと3マイルまで迫っていた。
第2中隊は、第1中隊の後に続くようにして、高度4000メートル、南東方向からポリルオの上空に差し掛かろうとしている。
攻撃目標は、ポリルオにあるワイバーン専用の基地及び、隣接する後方兵站基地をたたく事。
第2中隊は、第1中隊と同じワイバーン発着基地を叩き、第3、第4中隊は後方兵站基地を叩く手筈になっている。
その第1中隊の周囲に、高射砲の射弾と思しき小さな白煙やカラフルな煙があちこちに湧き出ている。

「敵の高射砲は、かなりの高度まで届くようだな。」
「この世界にも、ワイバーンという航空兵力がありますからね。あって当然でしょう。」

カースル中尉の言葉に、ブロンクス大尉は頷く。

162 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:57:05 ID:QPTW.pJg0
第1中隊は速度400キロでポリルオ上空に到達しつつある。腹の爆弾倉は既に開かれている。
恐らく、投弾を今か今かと待ちわびているに違いない。

「機長、右にちょい修正。」

機首下部にある爆撃照準器を覗いている爆撃手が、指示を下してきた。

「右にちょい、修正、と。」

ブロンクス大尉は操縦桿をわずかに動かす。

「行き過ぎです、左にちょい修正。」
「左に・・・と。」
「OKです!針路、速度そのまま!」
「了解。」

その時、イリス・ブリジット号の至近で高射砲弾が炸裂した。
破片が機体に当たって振動するが、揺れは小さかった。
それを皮切りに、第2中隊の周囲にも高射砲弾が炸裂するが、至近で炸裂するのは少なく、他は見当違いの場所で炸裂していた。

「機長、敵さんは下手糞ですな。」
「下手糞でちょうどいい。その分、仕事をキッチリこなせる。」

ブロンクス大尉はさも当然とばかりに言い放つ。

「目標まで、あと1マイル!」

163 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 13:58:39 ID:QPTW.pJg0
航法士の声が聞こえた時、第1中隊が爆弾を投下し始めた。
開かれた爆弾倉から500ポンド爆弾がズラーッと並んだまま落ちていく。
第1中隊の12機が落とした500ポンド爆弾168発が、下方のシホールアンル軍ワイバーン基地に落下していった。
それから1分後、第2中隊も目標のワイバーン基地上空に達した。

「針路、速力OK!投弾準備よし!」
「爆弾投下!」

ブロンクス大尉が命じると、爆撃手が投下スイッチを引いた。
カチリという音が鳴り、爆弾倉の500ポンド爆弾が一斉に落ちていった。
投弾の直後、イリス・ブリジット号の機体がフワリと浮き上がった。
後方のフリー・ラインヴァン号や、ルー・インゲール号等の寮機も、イリス・ブリジット号に習って爆弾を投下する。
投下された爆弾は、尻をふりふりさせながら、泳いでいる魚のように数秒ばかり、空中散歩を行う。
そして、空中散歩を満喫した爆弾達は、その首を地面にへと向け、猛速で地面に落下していった。
投弾して数秒後に、地上で爆弾の炸裂する様子が見て取れた。

「敵の大型飛空挺が前線に向かっています!」

第34空中騎士軍司令官である、ベルゲ・ネーデンク中将は、突然執務室に飛び込んできた魔道士官に対し、不快な表情を見せた。

「君ぃ、何をそんなに慌てているのだね?それなら、迎撃のワイバーン隊を出せばいいじゃないか。」
「し、しかし。スパイからの情報によりますと、8時頃に未確認の大型飛空挺がバングラ上空(ポリルオと
ロゼングラップの中間地点)を通過しているとの情報が入っています。」
「未知の大型飛空挺か。この間のアメリカ軍の空襲にも、未知の大型飛空挺とやらが出てきたが」

164 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:01:12 ID:QPTW.pJg0
ネーデンク中将は、側に置いてあった紙を取り出した。紙には、2種類の飛空挺が描かれていた。

「大きさも大してなく、爆撃能力はそこそこの飛空挺だった。ワイバーン隊の指揮官からは頑丈で
落ちにくいと言っていたが、この飛空挺を初めて見たスパイが、興奮して大げさに報告したのではないか?」
「はぁ・・・・・それも考えられぬ事ではないですな。」
「とりあえず各空中騎士隊に連絡だ。このアメリカ軍飛空挺部隊をすぐに迎撃しろ。
本国からやって来たばかりの部隊には苦労をかけるが、腕前を拝見と行こう。」

ネーデンク中将はそう言って、迎撃のワイバーンを60騎送り出した。
ここ最近、ネーデンク中将は彼我の損耗率に対して頭を悩ませている。
アメリカ軍機はいずれも、シホールアンル自慢の戦闘ワイバーンに勝っており、特に発動機を2基つけた双胴の悪魔は始末に悪い。
2日前に、戦闘ワイバーンの能力向上型が34騎ほど、本国から送られてきたが、それでもスピードは252レリンクで、
300レリンクオーバーの双胴の悪魔に対してはまだまだ役不足だ。
ネーデンク中将としては、もはや敵の完全撃滅にこだわってはおらず、どれだけ犠牲を少なくし、どれだけアメリカ軍機を減らせるか、
という事をしきりに考えていた。
2回のアメリカ側の空襲で、シホールアンル側は7機の中型爆撃機と、6機の双胴の悪魔を撃墜しているが、シホールアンル側は
ワイバーンを28騎失っている。
明らかに分が悪い。それだけに、ネーデンク中将は不安な日々を過ごしていた。
そして、午前9時。ワイバーン部隊が前線から10ゼルド南方でアメリカ軍の戦爆連合編隊と接触、戦闘に入った。
だが、この敵部隊は、今までの敵と大きく違っていた。
戦闘機のほうは、2機ほど撃ち落したものの、驚くべき事に、爆撃飛空挺はいくら光弾を叩き込んでも落ちぬという報告が入って来た。
最初、ネーデンク中将は首を捻ったが、その疑問は、短い時間で氷解した。
少し曇りがあるが、それでも気持ち良い空模様。
見る人が見れば心を癒されるであろうその空に、“怪物”はやって来た。

「・・・・・怪物だ・・・・・」

ネーデンク中将は、執務室の窓から見たその巨体に見とれていた。

165 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:03:05 ID:QPTW.pJg0
高度はそれなりに高いであろうが、本来なら粒にしか見えぬはずの姿が、はっきりとした形になっている。
大型のワイバーンでも、あれほどの巨大さは無く、それでいて安定している編隊飛行は、ある種の美すら感じさせた。
その巨大飛空挺の周囲で、高射砲部隊の砲弾が炸裂するが、飛空挺はあえて無視しているのか、真っ直ぐとこの基地に向かいつつある。

「あれだけでかいとなると・・・・・一体どれぐらいの量の爆弾を積んでいるのだ?」

彼は力の無い声音でそう呟く。後ろから、主任参謀が走り寄ってきた。

「閣下!ここも爆撃される可能性があります。早く避難を!」
「あ、ああ。分かった。」

放心状態から抜け出たネーデンク中将は、頷いて執務室から出て、更に指揮所を抜けて外に走り出た。
ふと、上のアメリカ軍機を見てみる。アメリカ軍機の胴体から、何かがばら撒かれていた。
それが何であるかは一目瞭然だ。

「急ぎましょう!」

主任参謀が急かす。ネーデンク中将は急いで、急造の避難壕に逃げ込んだ。
彼や幕僚達が避難壕に飛び込んだ時、地面が大地震のように揺れた。
ドカン!ドカン!ドカン!という轟音が周囲を打ち振るい、業火で焼き尽くす。
1発の爆弾は指揮所に直撃するや、半分を木っ端微塵に吹き飛ばして、残骸を周囲にばら撒いた。
とある爆弾は、負傷してしばらく休養が必要となった、ワイバーンの宿舎に落下し、身動きの取れぬ3頭のワイバーンが、
何が起きたのか分からぬ内に粉砕された。
別の爆弾は無人の兵員用住居に命中すると、私物もろとも叩き潰し、次いで炎上させる。
また、とある爆弾は不運にも避難壕の至近に落下、炸裂し、そこにいた30名の基地要員が全員戦死してしまった。
一瞬のようで、長いように思えた第1中隊の爆撃が終わった。

166 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:05:22 ID:QPTW.pJg0
幕僚達は、誰もが黙り込んでいた。黙り込んでいる者の中には、しきりに股間のあたりを気にしている。
漏らしてしまったのだろうか。ネーデンク中将はそう確信した時、またもや何かが落ちてくる音が聞こえてきた。

「アメリカ軍の奴ら。俺達を皆殺しにする気か。」

彼は何気なく呟いた。
その直後、ガツン!という音が鳴り、頭上から殴られたような衝撃があった。
何事かを理解しようとした刹那、猛烈な轟音を聞きかけて、ネーデンク中将の意識はそこで無くなった。
第2中隊の投下した爆弾はより深刻な損害を与えた。
1発の爆弾は、まだ無傷であった弾薬庫に命中すると、盛大に火柱を吹き上げさせる。
別の1発は、作業用のゴーレムに直撃した。
頑丈な体が一瞬のうちに、綺麗さっぱり吹き飛び、煙が晴れると、神隠しにあったかのような状態になっていた。
だが、更に不運な事は、別の爆弾が第34空中騎士軍の司令部幕僚が避難した壕に直撃した事であろう。
ネーデンク中将の言葉通り、司令部幕僚は、彼も含めて皆殺しにされてしまった。

第72空中騎士隊に所属する、レネーリ・ウェイグ中尉は、ポリルオ爆撃を終えて帰還しつつあるアメリカ軍機に再突入しようとした。

「皆!アメリカの奴らがこの空域を出るまではまだ時間はある。その間、存分に痛めつけるのよ!」

彼女は魔法通信でそう伝えると、他の竜騎士達からも肯定の意が伝えられた。
アメリカ軍ご自慢の双胴の悪魔は、別の空中騎士隊との戦闘に忙殺されており、目の前の大型飛空挺群には護衛はいない。
大型飛空挺群は約200レリンク以上のスピードで逃走を図っている。
今の所、あの大型飛空挺を撃墜した隊は未だに無い。
撃墜するどころか、返り討ちに会うワイバーンが続出している。
ウェイグ中尉は、第81空中騎士隊のワイバーン12騎と共に、一度大型飛空挺を攻撃したが、
信じられぬ事に、大型飛空挺は充実した対空火力を有していた。

167 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:07:06 ID:QPTW.pJg0
おまけに、光弾を当ててもビクともしない。
逆に、81空中騎士隊の3騎、彼女の部隊の4騎が撃墜されている。
この恐るべき敵に有効と思える対抗策はあらかた出尽くしている。
(一見、ただ組んでいるように見えるあの編隊。でも、侮って突っ込んだら恐ろしい事になる)
ウェイグ中尉は、不用意に編隊の中を飛びぬけようとしたワイバーンが、周囲から放たれた光弾の嵐にもみくちゃにされ、
無様に落とされたのを見ている。
そうならないためには、まず外側の大型飛空挺に数騎ずつで接近し、目一杯近付いたところで光弾か、ブレスを叩き込むしかない。
数を減じた彼女のワイバーン隊が、再び大型飛空挺群に接近していく。
彼女は知らなかったが、それはブロンクス大尉の率いる第2中隊であった。
彼女らは第2中隊の右上方からつっかかる形で接近していた。
大型飛空挺から光弾が放たれてきた。1機だけじゃない、数機以上が一斉に光弾を打ち上げている。
目を覆うような防御放火だ。
それを何とかかわしていく。
(お願い!光弾を叩き込むまでは当たらないで!)
ウェイグ中尉は必死に祈った。
4つの発動機を積んだ、薄茶色の大型飛空挺は何度見ても圧倒される。
1機だけでも相当の威圧感があるのに、それが40機以上も徒党を組んで飛行している。
(こんな化け物を、惜し気もなく投入して来るアメリカって・・・・)
妙に冷静な頭で考えながら、目標の大型飛空挺の至近に迫った。

「味方の仇!」

彼女はブレスではなく、光弾を放った。
ブレスを放つ際は、溜めの時間がいるため、動きが鈍くなる。
そこをやられたワイバーンは少なからずいる。
だから、自分が囮役になって敵の銃火を引き付け、部下に落とす役目を果たしてもらおうと決めていた。

168 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:09:05 ID:QPTW.pJg0
ワイバーンの口から緑色の光弾が放たれ、大型飛空挺の発動機や胴体に突き刺さった。
ふと、胴体上方の丸いガラスの中にいる乗員と目が合った。
一瞬のうちに大型飛空挺の下方に抜ける。
ダダダダン!ダダダダダダダン!という、何かが放たれる音が一瞬聞こえ、曳光弾が周囲を通り過ぎる。
耳のすぐ側で機銃弾が飛びぬける音が聞こえ、彼女はぞっとした。
少しでもずれていたら、光弾に頭を吹き飛ばされていた事は確実である。
下方に飛び抜けて少し立った時に、後方で爆発音らしきものが響いた。

「火の球だぁ!!!」

クリストファー軍曹はその瞬間、死を覚悟した。
3騎のワイバーンが至近距離にまで迫り、うち2番騎を叩き落したが、3番騎が通り過ぎる寸前、口からブレスを吐き出したのだ。
光弾よりも何倍もでかい火球が右主翼の至近に来た時、クリストファー軍曹は、いや、イリス・ブリジット号の乗員達は駄目だと確信した。
誰もが目をつぶる。火球は右主翼に当たり、内部のガソリンタンクに引火する。
その直後にガソリンが燃え広がり、イリス・ブリジット号の10人は手早く火葬にされるだろう。
その少し後、後方でドーン!という轟音が聞こえた。束の間、やられたと思ったが、

「「ああ!?フリー・ラインヴァン号が!!!!」」

寮機のパイロットから、悲鳴のような声が上がった。
クリストファー軍曹は目をゆっくりと開け、そして仰天した。
フリー・ラインヴァン号が・・・・・・木っ端微塵に吹き飛んでいる!
クリストファー軍曹は知らなかったが、フリー・ラインヴァン号には5騎のワイバーンが襲い掛かっていた。
フリー・ラインヴァン号は2騎のワイバーンを七面鳥でも落とすように屠ったが、3騎目の放ったブレスが、
フリー・ラインヴァン号の右主翼の付け根と胴体部分にまともに命中した。

169 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:13:12 ID:QPTW.pJg0
その瞬間、機内に残されていたガソリンが火球の着弾によって一気に燃え広がった。
乗員の誰もが絶望の表情を浮かべた時、燃料タンクで抑えられていた爆圧が開放され、
フリー・ラインヴァン号は大爆発を起こした。

「フリー・ラインヴァン号が・・・・・・・・」

クリストファー軍曹の声が、耳のスピーカーから聞こえてくる。
ブロンクス大尉は沈んだ表情で前を見据えている。
フリー・ラインヴァン号の機長はアリゾナ州出身のやや気弱な男だったが、ブロンクス大尉とは妙にウマが合った。

「シホット共なんざ、このB−17で2、3度出ていって爆弾をプレゼントすれば、すぐに降参するぜ。」

出撃前、フリー・ラインヴァン号の機長は珍しく、自信満々で言い張っていたが、ブロンクス大尉が聞いた彼の声は、
そのまま遺言となってしまった。
投弾前に撃墜されなかった事が、唯一の救いと言うべきであろうか。
いつの間にか、ワイバーン群の襲撃はぱったり止んでいた。

「俺達はブレスを吐き掛けられても、それが外れて助かった。だが、フリー・ラインヴァン号の奴らは、
それがクリーンヒットして・・・・・」

ブロンクス大尉はその後の言葉を言わなかった。いや、言えなかった。
口を開いた瞬間、彼は泣き出したい気持ちに駆られていたが、理性がなんとか抑えていた。
「運と不運。それが戦場というものでしょう。自分が言うのもなんですが、自分達が生きられたのも
運があったからです。」

カースル中尉が、神妙な面持ちで呟いた。

170 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/02/18(日) 14:14:35 ID:QPTW.pJg0
「フリー・ラインヴァンの奴らは運が無かったんです。悔しいですが、現実とはそういうものです。」
「運と・・・・不運か。」

ブロンクス大尉は小さく呟いた。4基のエンジンは、快調に回っていたが、ともすれば、今しがた散った
10人のB−17の乗員達に向けて送る、鎮魂歌にも思えた。

この日の空襲で、アメリカ側はP−38を3機、B−17を1機失ったが、逆にワイバーン23騎を撃墜し、
ポリルオのワイバーン基地と後方兵站基地を完全破壊した。
シホールアンル側は、初見参のB−17に対して驚き、今後のアメリカ軍機対策に苦心惨憺する事になる。
この空襲で、シホールアンル側は1週間後の再攻勢開始を2週間後に延期する事になった。
このポリルオ爆撃は、ハルゼー部隊が行った挨拶回りのような意味合いも兼ねて行われたものである。
結果、爆撃隊に被害は出たものの、シホールアンル側の頭痛のタネが、また1つ生まれたのであった。

175 :名無し三等陸士@F世界:2007/02/18(日) 21:36:15 ID:sGKGa33E0
711です。

最新ver
北大陸
 シホールアンル帝國  北大陸の強国、現在南大陸に侵攻している
 首都 ウェルバンル
  皇帝             オールフェス・レリスレイ    亜麻色の長髪の若い男。国民に慕われているが敵には厳しい
  国内相            ギーレン・ジェルクラ       国内省は治安や政治を担当する、裏では政治犯の投獄・処刑、
                                     敵勢人物や団体の摘発、鍵の捜索も担当している
  国外相            フレル               相手の苦悩ぶりを見て楽しむサディスト、一応国内では敏腕外交官である
                                    有能だが、力押し外交に慣れ過ぎてすっかりアホの子に相手の狼狽を見て楽しむサディスト
  陸軍総司令官       ウインリヒ・ギレイル元帥
  海軍総司令官       レンス元帥
  竜母指揮官         リリスティ・モルクンレル中将 第24竜母機動艦隊指揮官でハルゼーと同じタイプ、皇帝とは15年以上前からの付き合い、
  船長             リィルガ中佐           高速輸送船のレゲイ号の船長
  第6艦隊司令官      ウルバ・ポンクレル中将    海戦の後、艦と一緒に没
  第6艦隊主任参謀     ファルン・ジャルラ少将
  尋問師            チェイング・            チェイングの兄妹の兄、名前はまだ登場してない
  尋問師            チェイング・セルエレ      チェイングの兄妹の妹、尋問が趣味というサディスト、鍵の捜索班員でもある
  第3艦隊司令官      イル・ベックネ少将       アメリカ艦隊侵攻時、ちょうど主砲の交換をやっていて艦隊決戦に遅れて出港した
  レンベラード艦長      ロスグタ大佐           戦艦レンベラードの艦長
  南大陸東艦隊司令長官 ジョットル・ネーデンク大将   アメリカ艦隊の侵攻を受け、東艦隊で迎撃に行った
  南大陸東艦隊魔道参謀 ヘイ・イーリ大佐
  第22竜母機動艦隊   ヘルクレンス少将        南大陸東艦隊隷下の機動部隊
  第47空中騎士隊隊長  ナルバ・ロッポ大佐       第47空中騎士隊の名前が知れ渡ることを夢見ていたが、攻撃隊全てが戦闘機とゆう予想外の攻撃で
                                    全滅した
  第49空中騎士隊隊長  ジャーバン大佐
  第34空中騎士軍司令官 ベルゲ・ネーデンク中将     カレアント公国ポリルオ基地に司令部を置いている
  第72空中騎士隊     レネーリ・ウェイグ中尉

 元ヒーリレ公国     北大陸ではシホールアンルに次ぐ強国にであったが、シホールアンル帝國の脅迫外国にひれ伏した

南大陸
南大陸連合軍(大陸の北側順)
 レンク皇国

 ヴェリンス共和国

 カレアント皇国
  露天商           クグラ・ラックル      ルーガレックから避難し、ロゼングラップの知人の家に逃げ延び露天商をやっている

 ミスリアル王国     魔法に関しては世界一

 バルランド王国     現在シホールアンル軍の南大陸侵攻に対して派兵している
 首都 オールレイング
  国王             アルマンツ・ヴォイゼ 
  国防軍総司令官      グーレリア・ファリンベ元帥
  第27連隊長         リーレイ・レルス大佐
  魔術師            ラウス・クレーゲル       ベテラン魔術師。その腕はミスリアルの魔術研究者らも認めているほど、年齢は26歳
                                     今はエンタープライズにいて、魔道参謀をしている
  魔術師            ヴェルプ・カーリアン      ラウスの同僚、米国特使派遣団員
  エルフ             ルィール             米国特使派遣団員、現在は新たな無線開発している
  ダークエルフ         レイリー・グリンゲル      ミスリアル王国では一番の腕を持つ魔術師、南大陸連合国の米国特使派遣団のリーダー、米国特使派遣団員

 グレンキア王国
 首都 レルペレ

176 :名無し三等陸士@F世界:2007/02/18(日) 21:36:55 ID:sGKGa33E0
レーフェイル大陸
 マオンド共和国    レーフェイル大陸の覇者、シホールアンル帝國と同盟関係にある
 首都 クリンジェ
  国王            ブイーレ・インリク       48歳。痩せ型で、病弱そうな体つき。黒い髪は短く刈り上げられ、顔は理知的であり、
                                普通の人よりは数段頭がよさそうに見えた。
  首相            ジュー・カング        
  駆逐艦艦長         ルロンギ少佐

  鍵               フェイレ             この物語のキーパーソン?特殊な力を持っている。
                                    6年前にこの力が暴走して村人200人が亡くなった
           
戦況
ヴィルフレイングから10日未明10日の未明にTF2、TF15、TF16が12日に太平洋艦隊主力TF1、TF14、ガルクレルフの兵站基地を吹き飛ばすために出港した
シホールアンル物資集積地ガルクレルフを第2任務部隊が月面に変えた
その後救援にやって来たシホ第3艦隊に壊滅的な損害を与えたが米側も少なからぬ損害を受けた
米軍はカレアント公国ロゼングラップで飛行場を建設中、P-4038機、P-3936機、P-3812機の計86機が駐機してある
シホールアンル軍はカレアント公国ポリルオにワイバーン基地を急造、94騎のワイバーンが派遣されてる
シホールアンル軍はロゼングラップに奇襲攻撃を加えようとしたが、撃退された
4月8日、B-1738機、護衛のP-3948機がポリルオのワイバーン発着基地と後方兵站基地を吹き飛ばした
コレにより、シホールアンル側は1週間後の再攻勢開始を2週間後に延期する事になった。

距離
1ロレグ=15mm
1グレル=2m
1ゼルド=3km
速度
1リンル=2kt
1レリンク=2km
質量
1ラッグ=1.5t

違っていたら指摘ヨロ


205 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:34:12 ID:4CUjn9IY0
第21話 銃火の壁

1842年4月23日 午後10時 カレアント公国ループレング

突然、ピカッ!と夜空が光、直後に腹に応えるような音が鳴った。
バルランド軍第112歩兵師団に所属するエルッカ・ロークッド中尉は、雷の音に首をすくめた。

「どうしたい、貴族のぼっちゃまは雷が怖いのかい?」

薄暗いテントの中から皮肉るような口調が聞こえてきた。
最も、皮肉るといっても憎々しい響きは込められておらず、どこか親しげな物だ。

「そういう連隊長こそ顔が真っ青ですぜ?」

「ああ?何言ってんだい。顔が青く見えるのは中が暗いせいだよ。それよりも、手っ取り早く手入れを済ませときな。」

連隊長と呼ばれた女性、リーレイ・レルス大佐はカップに入っていた水を飲み干した。

「へいへい。仰せのままに。」

ロークッド中尉は苦笑しながら、自分の鎧の手入れを続けた。
年齢は24歳で、顔立ちは若く、髪は肩まで伸ばしてあり、一見するとどこにでもいそうな男だが、
シホールアンル侵攻時から常に、リーレイと共に最前線で戦って来ている。

「なあエルッカ、アメリカ軍の奴らだけど、どう思う?」
「どう思う、ですか・・・・・・まあ、自分達には無い武器を大量に持っていて強そうですね。
あれなら、シホールアンル軍1個軍が襲ってきてもへっちゃらですよ。」

206 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:36:31 ID:4CUjn9IY0
「そりゃあそうだろうさ。うちらはシホールアンル野朗に満足に撃ち合える大砲もないし、携帯武器も剣とか盾、
いい物でクロスボウしかない。なのに、アメリカの奴らは銃っていう武器もあるし、戦車っていう訳の分からない
ものもわんさか持っている。でもね、」

途端、リーレイの表情が引き締まった。

「あたしが気になるのは、あの将軍さ。」
「あの将軍・・・・・」

エルッカは思い出した。
あの将軍とは、応援にやって来たアメリカ軍2個師団のうちの第1機甲師団の師団長の事である。

「パットン少将の事ですね?」
「そうさ。パットン少将だよ。あんたも分かるかい?」
「な、何がですか?」
「あの将軍さんの気合ぶりだよ!他のアメリカ人の将軍は、みんな澄ました様なツラしてんのに、
あのパットン少将だけはどっか違うね。」

リーレイがパットン将軍に出会ったのは、1週間前の事である。
その日、彼女は自分の所属する連隊の報告書を書いていた。
その時、テントの外から複数の気配がした。
何事かと出てみると、珍しい事にアメリカ軍の士官、それも将官や佐官といった高級将校がいたのだ。

「やあ、忙しいところすまんな。あんたが歴戦の連隊長、リーレイ・レルス大佐かね?」
「ええ、そうですけど。まあ、歴戦の連隊長といっても、逃げ続けてばかりですけどね。」

207 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:37:48 ID:4CUjn9IY0
リーレイはアメリカ人士官相手に敬意もへったくれも無いような態度で話した。

「あなたの名前は?」
「俺か?」

アメリカ人士官の中で最も階級の高い男が言う。

「俺はパットン。ジョージ・パットン少将だ。アメリカから馬鹿なシホットのケツを蹴っ飛ばしに来た。」

そのアメリカ人将軍、パットン少将は誇らしげにそう言い放っていた。
その時、リーレイは、パットンの素っ気無い言葉に思わず面食らった。

「しかし、この土地に来てからは、俺達はまだまだ不慣れな点が多い。
そこでだが、この前線の南大陸軍の中では、君の連隊が一番多く、シホットと戦ってきたようだな。」
「まあ、そうですね。ホリウングの戦いではあなた方アメリカ軍に感謝していますよ。
それで、私に何か聞きたいのでしょう?」
リーレイは女性らしからぬ獰猛な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。君も交えて、色々と話したい。一緒にシホット共を叩き潰す案を考えようじゃないか。」

「今まで、色んな将軍を見てきたけど、あの将軍は本物の戦士だね。」
「本物の戦士っすか。口だけじゃないんですか?」
「それも考えないではなかったけど、口ぶりからして彼の自信は相当な物。むしろ、異常と言ったほうが正しいかな。」

そういいつつ、リーレイは空のカップに水筒から水を注いだ。

「何はともあれ、シホールアンルの奴らが行動を起こす日は近い。
前線の斥候からは、減退していたワイバーン部隊も再び増強されつつあると報告が届いている。」

208 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:40:30 ID:4CUjn9IY0
「ここ数ヶ月、シホールアンル軍は攻勢を仕掛けていませんから、怖い限りですな。」
「ああ、あたしもさ。最近はシホールアンルの奴らも鬱憤が溜まっているだろうから、これまで以上に
激しく攻め立ててくるかもしれない。そうなると、あたしら最前線部隊は、これまで同様、血で血を争う激戦を繰り広げるかもしれないね。」

リーレイはやや陰鬱な表情でそう呟いたが、

「連隊長、それももうすぐで終わるかもしれませんよ。」

その貴族出身の士官は、意味ありげな表情でそう言った。

「空にも、地上にも、頼れる戦友がいますからね。」

1482年4月25日午前6時 ループレング

突然、向こうの森の奥から閃光が走った。
1つ1つはちっぽけな煌きであったが、それらが横一列に何十個という数で光った。

「来るぞ!タコツボに隠れろ!!」

とある下士官が喚き、周囲の兵士が塹壕やタコツボに身を躍らせた。
ほぼ全員が隠れた時、それはやって来た。
陣地の周囲にドカンドカンドカン!という太鼓を耳の側で打ち鳴らしたような音が鳴り響き、
地面が痛いと泣き喚くようにしきりに揺れた。

「この砲撃、何度経験しても慣れないぜ。」

209 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:42:02 ID:4CUjn9IY0
この陣地を守る、カレアント公国軍第98重装騎士師団に所属するとある士官は忌々しげな口調で呟いた。

「アメリカ軍の陣地も猛砲撃を受けているようです!」

塹壕から確認したのか、部下の兵士が報告してきた。
犬系の獣人である彼らは優れた感覚を持っており、人間が見えぬ遠い距離の物体もはっきりと見える。
「恐らく、ここら一体の前線は満遍なく砲弾をぶち込まれているよ。全く、3ゼルド以上の射程がある大砲があれば、
あの畜生共をぶっ飛ばせられるんだが。」

その刹那、ダァーン!という轟音が鳴り、隠れていた塹壕がこれまで以上に揺れた。
背中に土砂が雪崩落ち、一瞬生き埋めになったのではないかと勘違いする。

「至近距離に砲弾が刺さったようですよ。危ないところでした。」
「頭上げるなよ。爆風に首を持ってかれるぞ。」

そう言い合っている間にも、シホールアンル軍の砲撃は続いている。
とある1弾がタコツボに直撃して、うずくまっていた騎士を粉々に吹き飛ばしたばかりか、タコツボの穴を何倍もの大きさに作り変えた。
また、別の1弾は塹壕の至近距離で炸裂し、大量土砂を塹壕内に被せて、そこで耐えていた10人の将兵を生きながら埋葬してしまった。
砲撃の次には、地上攻撃用のワイバーンが押し掛け、その次にはゴーレムやキメラ等を前面に押し立てた地上部隊が出張ってくる。
誰もが地獄が始まったと確信していた。
とある一部を除いては。

シホールアンル軍第10歩兵師団に所属する第5砲兵連隊では、兵員達がせわしなく動き回り、砲を操作していた。

「撃て!」

という号令の下、口径3・5ネルリ(8・9センチ)の砲が込められた砲弾を撃ちだす。

210 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:44:10 ID:4CUjn9IY0
砲弾は弧を描いて、3ゼルド先の敵軍の陣地に振りそそぎ、陣地に飛び込んで炸裂していた。
装填係りをやっていたムッル・ピルネ一等兵は、重い砲弾を抱えながら次の装填を待っていた。
砲兵というものは楽な物だ。と、彼はそう思っている。
砲弾の調整や砲の操作など、色々面倒な事は出てくるが、それでも直接、長剣を振りかざし、長弓を抱えながら前線に乗り込んで
苦労するよりは、ここで砲兵の仕事をしたほうが良いと考えている。
幾らかは気楽であり、今回も、あの忌々しいアメリカ軍機さえ来なければ、平凡な一日に終わると確信していた。
大砲が砲弾をぶっ放し、装填係のピルネの体が自然に動く。
手馴れた手つきで砲弾を装填し、砲長に装填よし、と叫んだ時であった。
不意に、何かの音が聞こえてきた。小さい物が、高速で飛んでいくような・・・・・
その音は、他の大砲の発射音に隠れるが、気が付いた時には空気を切り裂く音が辺りに木霊し始めていた。
誰もがぎょっとなった時、唐突に、後方で爆発が起きた。爆発は4箇所、いずれも砲兵部隊の少し後方である。

「な、なんだぁ!?」

一部の兵がそれを見て仰天する。
間を置かずに別の飛翔音が響き、砲兵部隊の後方、それも先程よりも近い位置に落下した。

「いかん!敵の砲撃だ!」
指揮官が顔を真っ青にして叫んだ。
誰もが、敵からの砲撃を受けたと確信していた。だが、それをやってのけた敵と言うものはどこにいるのか?
南大陸軍か?いや、南大陸軍の大砲で、射程が3ゼルドを超える物は無く、せいぜい2・5ゼルドまで伸びれば上出来と言う代物だ。
だが、彼らは南大陸軍と戦っているのではない。
ピルネ一等兵の部隊の相手、それは、アメリカ軍第7歩兵師団であった。
「もしかして、アメリカ軍の奴ら、俺達と同等の大砲を所持しているんじゃ・・・・」
誰もが事実を知り、余裕を浮かべていた表情が瞬時に引き締まった。
最初、一行に撃ち返して来ないアメリカ軍に、大した奴らではないと思い込み始めていたが、その考えはもはや消え去った。

211 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:45:33 ID:4CUjn9IY0
「小癪なアメリカ野朗の砲兵陣地を叩き潰せ!」

彼の砲兵小隊の小隊長が叫び、観測員がアメリカ側の陣地に視線を集中させた。
観測員は、専用の望遠鏡を除き込み、草原の向こう側の陣地を睨み据えた。
アメリカ軍の陣地は、他の南大陸軍の陣地とは異なって色々変わっているが、それに目を奪われている暇は無い。
その陣地の後方で何かの煙が上がった。

「アメリカ側の砲兵陣地を確認!距離は約3・2ゼルドです!」
「ギリギリだな。だが、届かないではない。撃ち方用意!」

砲長の指示に従い、ピルネ一等兵は持っていた砲弾を装填した。
砲身が最大仰角にまで上げられ、発射態勢が整った時、三度飛翔音が響いた。
爆発音が鳴り響いた後、悲鳴や何かの破壊される音が聞こえた。
飛んできた数発の敵弾は大砲を打ち砕き、操作要員を吹き飛ばしたのだろう。

「撃て!」

小隊長が怒りのこもった声音で命じ、小隊の4門の大砲がぶっ放された。
やや間を置いて、敵陣の後方に爆発が沸き起こった。遠い先の出来事なので、砲兵隊には結果は分かりにくい。
その直後、草原の向こう側から一斉に閃光が走った。それに気が付いたのは、砲弾を装填しようとしたピルネ一等兵ただ1人であった。
そして、これまでとは比べ物にならぬ飛翔音が周囲を圧した。

「やべえ、いっぱい降って来たぞ」

誰かの震える声が聞こえた時、周囲に何十発という砲弾が落下してきた。
爆発音が1秒間に数え切れぬほど沸き起こり、その中に味方の大砲が爆砕される音や、戦友の悲鳴も混じっていた。

212 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:47:38 ID:4CUjn9IY0
1発の砲弾は、装填作業中の大砲に叩きつけられるや、それを叩き割り、破片を周囲に撒き散らして
10人単位の将兵を肉片に変えてしまった。
別の1弾は弾薬を運んでいた馬車に直撃し、けたたましい音と共に荷台が、御者や馬をチリ1つ残さぬまでに爆砕された。
シホールアンル側は被害にめげる事無く砲撃を続行する。
中には、片腕を吹き飛ばされながらも、必死に観測を続行する者や、両目を失明しながらも、砲弾の装填係りを続けようとした者もいる。
しかし、いくら大砲の弾を撃ちまくっても、アメリカ軍の砲撃を弱まろうとしない。
それどころか、ますます砲撃は激しくなり、砲撃の精度も次第に良くなりつつあった。

「何故だ!これだけ撃ち込んでも、どうしてアメリカ野朗共は撃ち続ける!?」

砲長が泣き出しそうな表情で喚いた。
ふと、ピルネ一等兵は、互いの射程距離が違うのでは?と漠然と思った。
(いや、そんな事は考えたくもない)
ピルネは頭を振る。射程の違いで一方的に撃たれまくる事など、砲兵にとっては悪夢である。
しかし、観測係りの上げた声が、彼の思いを現実のものにしてしまった。

「敵の砲兵陣地は、3・5ゼルド先にあります・・・・・」
「何ぃ!?」

砲長は仰天した。

「3・2ゼルドではないのか!?」
「観測し直したところ、アメリカ軍の砲陣地までは、大雑把ですが3・5ゼルド前後の距離があると推定できます。
互いに距離が同じであれば、今頃、互いに火力を弱体化させられているはずです。それなのに、こっち側には
敵の砲弾が届き、あちら側にはこっちの砲弾が届いていない、と解釈すれば、このような」

突然、目の前が真っ赤に染まった。

213 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:50:07 ID:4CUjn9IY0
轟音が鼓膜を打ち震った、と思ったその次には、ピルネ一等兵はなぜか仰向けに倒れていた。
彼が目にした光景は、無残にも撃ち砕かれた、味方砲兵陣地の姿であった。

この時、アメリカ第7歩兵師団に所属する第19砲兵連隊では、105ミリM2A1榴弾砲及び、155ミリM1榴弾砲で砲撃を行っていた。
シホールアンル側の大砲の射程距離が3・2ゼルド、6マイルに対し、アメリカ側の砲はいずれも7マイルオーバーであった。
この射程距離の差は残酷なまでに現れ、今まで南大陸軍相手に、好き放題砲弾を撃ち込んでいた第5砲兵連隊は、
逆にアメリカ軍に対して好き放題砲弾を撃ちまくられ、次第に叩きのめされていった。

この日、攻勢に打って出たのは、シホールアンルカレアント侵攻軍に属する第2軍団と第8、第9軍団である。
この3個軍は、いずれも2個師団、又は1個機動旅団で成っている。
総兵力は約11万を超える。それらが、一気にループレングの南大陸軍に襲い掛かったのだ。
まず、シホールアンル側は事前砲撃で、南大陸軍側の前線を耕した。
この方法は従来通り行われて来た方法であり、この日も効果を発揮し始めていた。
だが、この事前砲撃に対して、きつい反撃を見舞わせた部隊がいた。
それは、応援として駆けつけ、防衛戦の中央部に配備されたアメリカ第7歩兵師団であった。
アメリカ第7歩兵師団は、4月8日にこの防衛戦に配備されるや、海軍建設大隊や陸軍工兵隊が陣地構築に当たり、
南大陸軍の兵達があんぐりと口をあけて見守る中、瞬く間に陣地が、それも、南大陸軍側の陣地と比べると、
遥かに先鋭的な物が出来上がった。
のみならず、シービーズや陸軍工兵隊は、隣接する南大陸軍の陣地構築にも協力し、一部ではあるが、
南大陸軍側の防御線も以前よりも強化された。
配備されてから2週間、ようやく敵の攻勢を出迎えた第7歩兵師団は、それぞれが塹壕やトーチカに立て篭もって砲撃に耐えた。
急ごしらえとはいえ、陣地は良く耐えた。
被害は12人の兵が戦死し、32人が負傷したが、各部隊とも戦意旺盛であり、いずれ始まるであろうシホールアンル軍の突撃に備えていた。
シホールアンル側の砲兵陣地が沈黙して30分後、敵側前線から、何かが動き始めた。
第17歩兵連隊の第2大隊B中隊は、塹壕やトーチカの中から、機銃や小銃、対戦車砲を構えて敵を待っていた。

214 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:51:35 ID:4CUjn9IY0
第7歩兵師団を砲撃した敵の砲兵部隊は、第19砲兵連隊の返り討ちに逢うや、20分ほどで完全に沈黙し、
第7歩兵師団に飛んでくる砲弾は無かった。
B中隊隊長であるロン・ジャード大尉は、ふと、森の上空に何かが飛んでいるのを見つけた。
それが何であるか、彼にはすぐに分かった。

「奴ら、ワイバーンを繰り出して来たぞ。」

そう呟きながら、ジャード大尉はシホールアンル側の考えを予想してみた。
まず、ワイバーンを先行して陣地や砲台をあらかた潰した後、地上部隊を自分達の前線に叩きつけて追い出すか、全滅させる算段なのだろう。
この方法は従来取られて来た、シホールアンル側お得意の戦法だ。この戦法で、自分達第7歩兵師団に挑もうと言うのだろう。

「さて、そう上手く行くかな?」

ジャード大尉は人の悪そうな笑みを浮かべた。
小粒に見えたワイバーンは、次第に形が大きくなっていく。その下では、うっすらとだが、何かが前進して来ている。
恐らく、キメラや戦闘ゴーレムと言った化け物を前面に押し立てて、接近しつつある敵地上部隊に間違いない。
ちなみに、阻止砲撃は最小限に抑える予定である。

「後方より、友軍機です!」

部下の声に、ジャード大尉は後方を振り返った。見ると、何十機という航空機が、第7歩兵師団の上空に近付きつつあった。
第3航空軍の戦闘機隊が前線にやって来たのだ。轟々と音を立てながら、50機は下らぬP−38が第7歩兵師団の上空をフライパスし、
猛速でワイバーン部隊に向かって行った。
ワイバーン隊も、ここで会ったが100年目とばかりにP−38の挑戦を受けて立った。
たちまち、組んづ解れづの乱戦が始まった。

215 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:53:13 ID:4CUjn9IY0
その間、敵地上部隊は第7歩兵師団の前線に近付きつつあった。
速度はやや遅いが、明らかに強そうな、異形の物体が先頭を進んでいる。
やたらに角張った人型の物体がゴーレム。
凶暴そうな目つきに、体中が体毛に覆われたり、背中に棘のような物を幾つも生やし、
ゴーレムと同様の体格を持った凶獣キメラ。
それらが距離3000にまで達した時、キメラがやにわにスピードを上げた。
その時、後方の砲兵陣地から105ミリ、155ミリ榴弾砲が一斉に発射された。
突然、四つん這いになりながら30キロほどのスピード走っていたキメラの前面に爆発が起こった。
キメラは爆煙を突っ切って、突進を続行するが、その数は若干減っていた。
続いて第2斉射が降り注ぎ、地上が砲弾によって耕された。
唐突に、後方から新たなエンジン音が鳴り響いた。と思いきや、20機ほどの単発機が猛速で陣地の上空を通過して行った。
申し合わせていたのか、砲兵隊の砲撃は止んでいる。

「こちらオヴニル1、敵の化け物を確認した。これより掃射に写る。」
「了解、オヴニル1。あの化け物共を退治してくれ。」

地上から期待する声が届く。
第13戦闘航空群の24機のP−39を束ねるニック・バーンズ大尉は、各機に散開の指示を伝えた。
散開したP−39は、低高度を540キロのスピードで飛行し、第7歩兵師団の陣地をフライパスした後、前線に向かいつつあるキメラを見つけた。

「まずはあいつからだ。」

バーンズ大尉は照準器に、四つん這いで走るキメラに狙いをつけた。射撃の機会は一瞬である。
距離500に迫ったところで、彼は機銃を撃った。両翼の12.7ミリ機銃4丁が放たれる。
短い射撃で弾道を確認した後、機首の37ミリ機関砲をぶっ放す。
ドン!ドン!ドン!という格段に重い音と、振動が機体を打ち震った。
1発の37ミリ弾が、キメラの頭部に吸い込まれたと思われた時に、それは後方に流れていく。

216 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:55:09 ID:4CUjn9IY0
確認は出来なかったが、バーンズ大尉は少なくとも手傷は負わせたと確信した。
次いで彼はゴーレムを狙った。ゴーレムは、いかにも自分は固いですよ、と宣伝しているかのように、体があちこち角張っている。
見た所、本当に固そうである。

「ミッチェルのパイロットが言う通り、12.7ミリじゃあすぐに通用しねえな。」

照準器にゴーレムの体が合った。距離は300メートルだ。

「なら、37ミリではどうかな!」

彼は吼えながら、機首の37ミリ機関砲、両翼の12.7ミリ機銃をぶっ放した。
12.7ミリ機銃の曳光弾が、線を引きながらゴーレムを縫った。
その時には、まだ前進を続けていたゴーレムだが、続いて襲って来た37ミリ機関砲弾に右の脚部を打ち砕かれた。
バーンズ大尉は、ゴーレムがガクリと崩れ落ちるのを見て思わず歓声上げた。

「イェア!37ミリなら石のデカブツを潰せるぜ!」

バーンズ大尉は興奮を抑えると、次の目標を見定めるため、一旦高度を上げる事にした。

突然やって来たP−39の襲撃に、キメラは撃ち砕かれ、又は蹴散らされたが、
それでも5分の1のキメラが、生きた人間の肉を求めて向かいつつあった。
しかし、キメラを出迎えたのは・・・・・・

「撃て!」

うまそうなご馳走ではなく、銃火の壁であった。

217 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:56:23 ID:4CUjn9IY0
最先頭を走っていたキメラに対戦車砲弾が命中した。
顔面に砲弾が突き刺さり、爆発が起きるや、体があっという間に砕け散った。
機銃座から放たれる無数の火箭が、別のキメラに突き刺さり、頑丈なはずの体が一寸刻みに抉り取られ、次第にスピードが落ちていく。
限界を向かえ、その場に倒れこんだキメラの死体に迫撃砲弾が至近に落下して、その体をばらばらに吹き飛ばしてしまった。
猛烈な銃砲火の前に、キメラはばたばたと撃ち倒され、その骸さえもが別の射弾にちぎり飛ばされ、あるいは砲弾によって叩き潰された。
200体を投入されたゴーレムは、P−39の攻撃で大きく数を減らしながらも、半数が陣地に近付きつつあり、
その200メートル後方からは、馬に跨った騎士達が殺到しつつあった。
騎士達の指揮官は、ゴーレムを盾に前進を続行しようとしたが、その考えは間違いであった事をすぐに思い知らされた。
ゴーレムには、P−39が襲い掛かっており、そのうち、何機かのP−39が好機だとばかりに、疾走する騎馬軍団にも襲い掛かった。

P−39が両翼を真っ赤に染めながら、上空を通過するや、10は下らぬ数の騎士が、頼りになるはずの鎧を打ち砕かれて絶命した。
とある大隊は、このままゴーレムと一緒にいても埒が明かぬと思い、ゴーレムの脇をすり抜けて、突出し始めた。
「ゴーレムの側から騎士が出てきたぞ!第2小隊、あの騎馬部隊を狙え!」
ジャード大尉は、第2小隊に指示を送って、この新たな敵を迎撃させる。7.62ミリ軽機関銃や12.7ミリ重機、それにガーランドライフルや迫撃砲がこの新たな目標に向かって一斉に撃ちだされる。
たちまち、突出して来た騎馬のうち、最先頭が蜂の巣になってその場に昏倒する。
続いてそのすぐ後方も同様の運命を辿った。
集中してはやられると思ったのか、他の騎馬隊は横に散開しつつ、猛速で突っ込もうとするが、無数の火箭が吹き飛ぶ前には、この方法も無駄に終わり、そう時を置かずしてほとんどが銃弾に倒れた。

それから20分後、ジャード大尉は目の前の状況に、思わず言葉を失った。
濃密な銃砲火の前に飛び出した敵部隊は、半数以上が撃ち倒され、草原にその骸を横たえている。
「他の戦線はどうなっているか分からないが。ここに関して言えば・・・・」
ジャード大尉は双眼鏡から目を話しながら呟いた。
「敵の撃退、という作戦目的は達せられたな。」
今の所、第7歩兵師団側には、突っ込んで来た敵騎馬隊との戦闘で、3人が戦死、10人が負傷したが、被害はそれだけである。
逆に、敵は数え切れぬほどのキメラやゴーレム、それに人員を失って、第7歩兵師団の前面から撃退された。
だが、他の南大陸軍の陣地では、第7歩兵師団ほど上手く行った部隊は無かった。

218 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:58:21 ID:4CUjn9IY0
午前8時40分

「師団長、防衛戦の右翼がシホールアンル軍の圧力に潰されかけています。」
第1機甲師団の司令官であるジョージ・パットン少将は、表情をしかめるどころか、逆に面白いといったように輝かせた。

「右翼には南大陸軍側の精鋭が貼り付けてあるはずだが、なるほど。敵もここには精鋭をぶつけてきた訳か。では、諸君。」

パットンは、おもむろに言い放った。

「我々も出ようとするか。シホット共に戦車の威力を思い知らせてやる。」

午前9時20分
シホールアンル第23機動騎馬旅団は、南大陸軍の右翼を力攻めで押し返しつつあった。
第23騎馬旅団長は、損害に構わず前進せよと命じ、ゴーレムやキメラと共に、塹壕に立て篭もっていた南大陸軍の兵達を追い払いつつあった。
異変か起きたのはこの時であった。とある騎士は、後方から聞こえてくる聞き慣れぬ音に首を捻った。

「この音は?」

音の方向は、少し高い丘の向こうに隠れている。その音の主が姿を現すまで時間は無かった。
突然、見たことも無い物体がぬうっと姿を現したかと思うと、それらが横一列、何十と言う大群を成して、彼らの下にやって来た。
見慣れぬ物体は、全体的に高さがあり、傍目から見ればちょっとした小屋が移動しているように見える。
その移動している小屋の上部が回転するや、その先に取り付けられた棍棒、いや、大砲が彼らに方向向けられた。

「大砲だぁ!!」

誰かが悲鳴を上げたと同時に、大砲が火を噴いた。爆発と共に、騎士や馬が中に吹き上げられた。

219 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 13:59:59 ID:4CUjn9IY0
この最初の一撃で、恐慌状態に陥ったこの騎馬中隊は、一斉に逃げ始めた。
逃げようとする騎士達の背後から、移動式砲台、もとい、アメリカ軍戦車のM4A1シャーマンは砲撃や銃撃を続ける。
機銃弾に縫われた馬と騎士が、仰け反って草原に倒れこんだ。
別の所では、爆発に吹き飛ばされた騎馬が草原に落下して、見るも無残な光景を現出した。
パットンの率いる第1機甲師団は、元々、機動兵団として活動するつもりであった。

今回の防衛戦で、アメリカ軍はまず、前線に引き付けられている敵部隊を、機甲師団の機動性を生かして
これを包囲、殲滅するという作戦を立てた。
最初、この案が上手くいく筈は無いと思われたが、シホールアンル軍は、アメリカ軍が加わっている中央部や、左翼に攻撃を仕掛けながら、
半数の軍を右翼部分に集中させ、戦線を突破する腹積もりだった。
現にこの作戦は、右翼側の防衛を担当していた南大陸軍に多重な負担を与えた。
アメリカ側は、第3航空軍のP−38、P−39を100機近く派遣したが、この戦線に関しては敵側も100騎以上のワイバーンを投入しており、
アメリカ側は満足に航空支援をする事が出来なかった。
勢いに乗るシホールアンル軍は、右翼戦線を早くも突破できる寸前まで行ったが、そこに第1機甲師団が、横合いから現れたのである。

第21戦車連隊に属する第3大隊の戦車部隊は、後方にハーフトラックを従えながら、シホールアンル軍を南の方向にじりじりと追いやりつつあった。
エーリヒ・ヴェンク少尉は、前方に向かって来る何かを見つけた。

「11時前方、何か来るぞ。」

ヴェンク少尉は注意を促した。
「ありゃゴーレムですぜ。騎兵や歩兵では太刀打ちできねえと判断して、ゴーレムを投入してきたんですな。」

よく見ると、逃げ行く敵歩兵の流れに逆らうように、20体ほどのゴーレムが第3大隊の所へ向かいつつある。
そのずっと後方には、歩兵の群れで分からないが、恐らく魔道士が操っているのだろう。

220 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:01:38 ID:4CUjn9IY0
「魔道士が近くにいりゃあ、75ミリを使うまでも無いんだが、ゴーレム本体が来るとなれば仕方ねえ。砲を向けろ!」

ヴェンク少尉の指示に従い、75ミリ砲がゴーレムに向けられる。人ごみを抜けられたゴーレムはやや速度を上げた。

「弾種徹甲、距離800、撃て!」

ドン!と、主砲が唸った。砲弾は惜しくも、ゴーレムの後方に落下した。

「外れだ!」
ヴェンクは苦い表情を浮かべて叫んだ。

「もう一度だ!次は外すなよ!」

装填手が75ミリ砲弾を装填する。

「照準よし!」
「撃て!」

再び75ミリ砲が咆哮した。砲弾はゴーレムの胴体に命中した。
徹甲弾をぶち込まれた胴体は、命中時に大きくひびを生じ、その次の爆発でひびは一気に広がった。
その2秒後には、自重に耐え切れなくなった胴体が割れ、いくつもの破片となって崩れ落ちた。

「ナイス!次だ、次を狙え!」

ヴェンク少尉は、先と打って変わった上機嫌な口調で命じた。
その頃には、第3大隊の他の戦車も、ゴーレムに砲撃を加えている。

221 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:02:28 ID:4CUjn9IY0
頭部に砲弾を食らったゴーレムが、情けなく仰向けに倒れこんでピクリとも動かなくなった。
別のゴーレムは脚部に命中弾を受け、前のめりに倒れた。片足が無くては、動く事もままならないが、
それでも、両腕でずり、ずり、と這う様子は、魔道士というより、作られたゴーレム本体が、
身が砕かれようとも敵を討つまでは諦めぬと思っているように見えた。
そのゴーレムに別の75ミリ砲弾が2発命中し、執念の行動は無為に返した。
気が付くと、ゴーレムは全て撃破されていた。

「前進再開!」

中隊長車からの指示が、ヴェンク少尉の戦車にも伝わった。

「前進再開だ。包囲の輪を閉じるぞ。」

ヴェンク少尉は、淡々とした口調でそう言い、操縦手が再び戦車を前進させた。
彼の戦車だけではなく、第3大隊の戦車は再び前進を再開した。
今、目に見えている仲間の戦車で、破壊された物は1台も無い。
(味方の被害、ゼロか。まあ、当然だわな。)
ヴェンク少尉は哀愁を含んだ思いでそう思った。なにしろ、敵側には戦車という概念は存在しない。そのため、対抗可能な武器など無いに等しい。
勝って当然と言えるが、彼としては、一方的に蹂躙されるであろうシホールアンル軍に対し、少しばかりの同情の念が沸き上がっていた。

「一方的に戦いを進められる気分はどうだ?シホットさんよ。」

ヴェンク少尉は、遠くに逃げ散って行ったシホールアンル兵達対し、そう呟いていた。

222 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:04:56 ID:4CUjn9IY0
午後7時

シホールアンル兵達の表情は、どれもこれも死人と見紛うほどであった。
ハーフトラックの車上で、アメリカ兵の監視の下、後方にへと連れて行かれる捕虜の集団を、パットン少将は無表情で見つめていた。
「今頃、敵の親玉は胃薬を大量に飲みまくっているだろうなぁ。」
「そうかもしれませんな。」

参謀長が頷きながら言った。

「自信を持って開始した大攻勢が、見るも無残な失敗に終わったのですから。」
「それも、これまで経験した事のないほど、大損害を受けて、だからな。」

早朝に開始された、シホールアンル軍地上部隊による大攻勢は、アメリカ軍を含めた南大陸軍の防戦によって、わずか1日で瓦解した。
その最大の原因となったのは、右翼戦線の主力部隊壊滅であった。
シホールアンル側は、前線に渡って激しい砲撃を行ったが、中央戦線を担当したシホールアンル軍1個師団と1個旅団は、まず砲撃戦の時点で
アメリカ軍砲兵部隊によってアウトレンジで砲撃され、成すすべも無く壊滅した。
次いで突撃に移った部隊も、第3航空軍の航空支援や濃密な銃砲火によって阻止され、半数以上の戦力を失って後退した。
左翼戦線ではシホールアンル軍、南大陸軍とも激しい白兵戦を繰り広げたが、最終的には損害に恐れをなしたのと、助攻の役目を逸脱すべきではない
と言う上層部の判断から、左翼戦線もなんとか保たれた。
問題は、右翼戦線であった。右翼戦線には、なんと2個師団及び1個機動旅団が攻め入り、右翼戦線は一時崩壊の危機に見舞われた。
そこに駆け付けたのが、パットンの率いる第1機甲師団であった。
第1機甲師団は、がら空きであった敵攻勢部隊の側面を突く事に成功した。
初めて見る戦車に、シホールアンル将兵はまともな対抗策を取れる筈も無く、次々に蹂躙されていった。
それのみならず、第3航空軍の他の航空部隊も、第1機甲師団の後背を突こうとしたシホールアンル軍を食い止め、
第1機甲師団と右翼戦線に阻まれた攻勢部隊も猛爆撃を受けて、戦力をすり減らされていった。

223 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:07:09 ID:4CUjn9IY0
そして午後7時、膨大な犠牲を出した敵攻勢部隊主力は、南大陸軍とアメリカ軍に白旗を上げた。
その間、敵主力軍は10200人の戦死者と、13000の負傷者を出し、壊滅状態にあった。

「持つ物と、持たざる物。それが全力を出して戦えば、どのような結果を招くか。俺は思い知らされたような気がするよ。」

パットンは神妙な面持ちで呟いた。

「思い知らされた、ですか。」
「ああ。俺達は敵が持ち得なかった武器を使ったからこそ、このような大勝利を得ることが出来た。
ミスターケインズ。今後もこのような大勝利を得られると思うかね?」

パットンは意味ありげな声音で、参謀長のケインズ大佐に問うた。

「勝てます。」
「俺もそう思う。もう1つ質問だ。被害は減ると思うか?」
「えっ?」

ケインズ大佐は言葉に詰まった。一瞬、パットンは何を言っているのかと彼は思った。

「俺は、なかなか減らせんと思うぞ。」

この日、勝利の原動力となった第1機甲師団だが、被害をゼロに抑える事はついに出来なかった。
敵部隊の中には、突如、大量のキメラやゴーレムを押し立てて反撃するものもいれば、P−38の迎撃を掻い潜って、
爆弾を叩きつけて来るワイバーンもいた。
その影響で、M4戦車が2両、M3軽戦車が4両にハーフトラック7両が破壊された。
兵員の戦死者は49人、負傷者は120人を出している。

224 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:08:51 ID:4CUjn9IY0
戦果の割には少ない損害とは言えるが、圧勝とも言える戦いでも被害は出たのだ。

「敵が、俺達の持っている物を知らなかったからこそ、これだけの被害で済んだのかもしれん。
だが、敵も戦車の存在を知った。これからは、俺達の戦車を目標に、訓練を施された部隊も
出てくるかもしれん。損害を出さぬようにするのは、これから難しくなっていくだろう。」

途端に、パットンの表情が変わった。

「だが、張り合いの敵が出てくるのならば、むしろ上等だ。俺達はそいつらを打ち破って、
貴様らシホットが、俺たちに勝ち得る事はない、と言う事を改めて教えるだけだ。」

彼は獰猛な笑みを一瞬浮かべ、すぐに捕虜の列にへと視線を戻した。
捕虜の表情は、先の連中と変わらない。いずれもが、どこか抜けたような表情になっていた。
そんな中、1人だけ居丈高な高級将校を見つけた。その将校は、パットンと目が会うと、嘲笑を浮かべながら、前に視線を戻した。

「おい、そこの将校。君だ。」

パットンがその将校に声をかけた。
別のシホールアンル兵がその将校を見た。
腑抜けのような表情に、一瞬怒りの色が見えたが、すぐに感心を無くした様に側を通り過ぎていく。
(もしや、あの将校は・・・・)
ケインズ大佐はある思いがよぎった。

「私かね?」

その初老の将校は、立ち止まってパットンに声をかけた。

225 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:11:24 ID:4CUjn9IY0
「そう、あんただ。あんた将軍かね?」
「いかにも。私は第97機動旅団長、ウルック・モールレウト准将である。」

モールレウト准将は、痩せた体系ながら、威厳のある姿勢でパットンに答えた。

「私を呼んだからには、貴官にも質問に答えてもらおうか。あなたの名は何か?」

「俺か?俺はパットン、ジョージ・パットン少将だ。今回の手合わせに参加してもらい、礼を言うぞ。」

そう言いながら、パットンはハーフトラックから降りた。

パットンは、周囲を通り過ぎる兵らしき物達の眼が、この准将を見るときだけ、なぜか怒りの色を見せている事に気が付いた。

「あんたらの兵は、よく戦ったよ。絶望的な状況になっても、対抗策を講じて立ち向かって来た勇気はなかなか見応えがある。所で、」

パットンの眼が鋭くなった。

「准将殿、あんた何をしていた?」
「何をしていた?ふん、私は貴様ら卑怯者に対すべく、部隊の指揮を取っていただけだ。
まあ、講じた対抗策は全て無駄になったがね。」

そう言って、モールレウト准将は立ち去ろうとした時、

「何が指揮を取っていただ。自分だけは敵の見えない所で喚いていただけの癖に。」

通り過ぎた女性兵が、忌々しげな表情で呟いた。その声を、パットンはしっかり聞いていた。

226 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/04(日) 14:13:47 ID:4CUjn9IY0
モールレウト准将の表情は、いささか青くなっていた。

「ほう・・・・立派な旅団長だと事で。」

そう言いながら、パットンは感心を無くしたと言わんばかりに、モールレウトから視線をずらした。
事実、モールレウト准将は、あの戦いの時、自分だけは比較的安全な場所で支離滅裂な命令ばかりを繰り返していただけに過ぎなかった。
それ以前に、彼は旅団中からあまり好かれていなかった。
元々、貴族出身のコネで、軍に入ったようなもので、性格は一見鷹揚だが、裏では不祥事を起こしては揉み消しを繰り返していた。
肝心の作戦指導に関してはそこそこ優秀と言う評価があったが、それも信用し難い物だ。
モールレウトは顔を真っ赤にしながらその場から立ち去ろうとした。その時、

「そうだ。私はとある目的を持って、アメリカから来たのだが、それはな」

パットン何気なく呟いた。モールレウトは足を止めて振り返ろうとした。
その刹那、尻に強い打撃が加わり、モールレウトは転倒した。
この時、パットンは彼の尻を、思い切り蹴り飛ばしていたのだ。
通り過ぎようとしていた捕虜や、パットンの部下たちが、パットンの突然の行動を見て目を丸くしていた。
姿勢を起こしたモールレウトが、理解しがたいとばかりに、パットンをまじまじと見つめた。

「馬鹿なシホットのケツを蹴っ飛ばす、と言うものなのだ。俺が言いたいのは、これだけだな。」

そう言いながら、パットンはハーフトラックに乗り込んだ。

その日、シホールアンル軍は、戦死者23000、負傷者22000、捕虜12000人という膨大な損害を被り、
満を持して開始された攻勢は、わずか1日で頓挫してしまった。



235 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:09:15 ID:4CUjn9IY0
第22話 忘れ去られた島

1482年 5月2日 グンリーラ島

遠くから見れば、その島は小さく、それでいて緑の多い島であった。
規模としてはそこそこ大きく、南北に30キロ、東西に最大で8キロの規模を持っている。
誰もが、将来ここに家を構えてのんびりと過ごしたいと思うであろう。
しかし、この島には、先客がいた。
望まぬ休日を送る者達が・・・・・

物悲しい音楽が鳴り止むと、整列していた兵達は解散を命じられ、それぞれの配置に戻っていった。
兵士と言えば、健康的な体つきという印象があるが、この兵士達にその第1印象は当てはまらない。
頬は痩せこけ、肌の色は情けなく薄い。
しかし、眼だけはぎろぎろと光っており、ともすれば飢えた悪鬼を思わせる。

「補給が途絶えて、早半年以上か・・・・・」

力なく、解散していく将兵を見ながら、ベルージ・クリンド中将はしわがれた声で呟いた。
この島には、現在3万の南大陸軍が常駐している。
いや、正確に言えば、常駐せざるを得ないと言ったほうが正しいであろうか。
元々、この島にいる3万のバルランド兵は、バルランド王国でも屈指の精鋭部隊であり、シホールアンルとの戦争が開始されれば、
高速船に乗り込んでシホールアンル軍の後背を突き、前線の主力軍と共に揉み潰す、という派手ながら、困難な任務を与えられた部隊だ。
だが、シホールアンルとの戦争が開始された直後、泊地に集結した高速輸送船は、事前に察知したシホールアンル艦隊の艦砲射撃で
片っ端から叩き沈められ、3万の将兵はシホールアンル側に相手にされず、そのまま取り残された。
そして、味方の南大陸軍からの補給船も、派遣される度にシホールアンル側の警戒艦に撃沈され、補給物資を送る事もままならなかった。
幸いにも、ある程度の食料は残っており、彼らは小食に抑えつつ、来るべきシホールアンル側の侵攻に備えた。
だが、シホールアンル軍は一向に来ず、南大陸軍も本土の防衛に必死になっており、小島に救助用の船を派遣する余裕すらなかった。
そして、半年以上が経った現在、島には病気が流行しつつあり、ある程度は抑えられている。
しかし、病気自体は大したものではないのだが、栄養状態が悪いのと、食物を十分にとっていなかった事が災いし、
今や10人の兵が亡くなり、300人の将兵が病床で苦しんでいる。

236 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:11:00 ID:4CUjn9IY0
「司令官。」

クリンド中将の傍らにいた主任参謀のレンネル准将が声をかけた。
元々、精気に満ち溢れ、特徴のあるごつい顔から、闘魂のレンネルとあだ名された彼も、今では病人のように顔色が悪い。

「我々は、見捨てられたのでしょうか?」
「まさか。」

クリンド中将は笑いを浮かべて、彼の言葉を否定した。
「魔法通信にはこの島を見捨てる、とは伝えられていない。
それどころか、いずれ救助部隊をよこすといつも伝えているじゃないか。」
「そうですが、最後に魔法通信が届いたのはいつであるかご存知でしょう?」

レンネルの言葉に、グリンド中将はうっと唸った。

「1ヶ月以上前です。それ以来、魔法通信は全く送られていません。
海に見えるのは、悪くてシホールアンル軍の艦艇がたまに見えるぐらい、良くて鳥がどこぞに飛んでいくのを見るだけです。」

最初、頻繁に艦砲射撃を仕掛けてきたシホールアンル海軍も、ここ2ヶ月ほどは遠くを通るぐらいで、何ら手出しをしていない。
敵がこちらに関心を無くしたのなら歓迎だが、今や味方の魔法通信すら全く届かない。
そして、衰弱しつつある将兵達は、1人、また1人と、普段であれば治し得る病気にすら勝てず、無念の死を遂げつつある。

「諦めるのかね?」

クリンド中将はややとげのある口調で質問した。

「・・・・・・・・」
「君としてはそうであろうが、私は諦めない。そうでなければ、この島で、祖国の事を思いながら逝っていった将兵は浮かばれない。」

237 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:13:10 ID:4CUjn9IY0
クリンド中将はそう言うと、共同墓地から移動を始めた。
残余3万。
この島に派遣されて以来、31000を数えた兵は、既に1000人ほどが、この共同墓地の中で眠っていた。

1842年5月5日 午前10時 バルランド王国ヴィルフレイング

ハズバンド・キンメル大将は、久方ぶりにヴィルフレイングを訪れていた。

「急の頼み事とは、バルランド側もらしくない事をするな。」
「人間、犯した失敗は隠したがるものです。その点は分からんでもありません。」

隣に座っているスミス参謀長が言うと、キンメルは頷く。

「しかし、半年以上も放って置くとは。このような事はもっと早く言ってもらいたい物だ。」

彼は、少々不満気な口調で言いながら、2日前の事を思い出していた。

それは、サンディエゴの太平洋艦隊司令部で、レイリー・グリンゲル魔道士と久しぶりに会った時だ。

「グンリーラ島の味方軍を救出して欲しい?」
「はい。実は昨日、本国から長距離魔法通信を受け取ったのです。」

レイリーの話によると、バルランド王国側が、ミスリアルの本国を通じてレイリーに、グンリーラ島の陸軍部隊を、
アメリカ海軍の協力の下に救助して貰いたいとの要請があったのだ。

238 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:14:18 ID:4CUjn9IY0
いきなりの事に、キンメルは思わず面食らった。

「グンリーラという名前なんぞ、今まで聞いた事が無いぞ。それに、第一どこにあるのかさっぱり分からん。」
「位置は分かります。ですが、ここ最近の戦況が厳しかったせいもあり、グンリーラ島の救助計画は一時棚上げにあったのです。
実は3度ほど、輸送船を送ってグンリーラ島救助作戦を実行したのですが、3度とも失敗しています。」
「失敗だと?すまんが、ちょっと来てくれないかね。」

キンメルは立ち上がって、レイリーに机に広げられている地図を見せた。

「グンリーラ島とやらは、どこにあるのだね?」
「ここです。」

キンメルは、思わず頭を抱えそうになった。
なんと、グンリーラ島とは、ガルクレルフより南東600マイルの位置にある小島で、地図には、ノミのように小さく載っている。
「ガルクレルフは、2月の作戦で第2任務部隊が叩き潰したが、周辺海域は未だにシホールアンル側の勢力圏だ。
そのような島に3万以上の兵員を送り込むとは。」
「バルランドの作戦計画では、南大陸北端に侵攻したシホールアンル軍を、精鋭軍によって後方逆上陸して退路を断ち、
南大陸軍本体と共に挟み撃ちにして殲滅するか、南大陸侵攻を頓挫させる予定でした。しかし、開戦直後に、グンリーラ島に
集結した高速輸送船すべてが、シホールアンル海軍によって撃沈され、3万の精鋭軍は島に孤立しました。
恐らく、シホールアンル軍に察知されていたようです。」
「その兵達がいる島の制海権は、シホールアンル軍が握っている。そのシホールアンル軍に互角以上に戦える合衆国海軍に
援護してもらい、島の陸兵を一気に救助してもらう、と言う事か・・・・・こりゃ厄介な事になりそうだ。」

キンメルはそう言って苦笑したものだ。

239 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:16:52 ID:4CUjn9IY0
(厄介事を押し付けてきたバルランド側と、今日会って話をするわけだが、さて、どうなる事か)
キンメルが回想から抜け出した時、ドアが開かれた。
キンメルは、入ってくるであろう相手を出迎えるために、椅子から立ち上がった。
ドアから出て来たのは、バルランド王国の国防軍総司令官であるグーレリア・ファリンベ元帥と、脳紺色の軍服を付けた、痩せた軍人である。
顔はどことなく理知的だが、現場に出るような印象は無く、陸上勤務を中心に軍人生活を送っているように見える。
アメリカで言えば、海軍省や国防総省に勤める官僚型軍人のような色が濃く感じられる。

「ようこそおいで下さいました。」
「お出迎え有難うございます。こちらは、私の参謀副長を勤めます、クー・アールンク少将です。」
「初めまして、アールンクと申します。以後、お見知りおきを。」

アールンク少将は、やや表情を固めながら、キンメルらに挨拶した。
一通り挨拶が終わると、キンメルやファリンベらは席に座った。

「早速ですが、私共がここに赴いたのは他でもありません。」

一瞬、右隣に座るマックモリス大佐がほら来た、とばかりに顔を引き締めた。
「我々は、グンリーラ島の友軍部隊を救出すべく、近々救出部隊を派遣する予定であります。
しかし、グンリーラ島の周辺海域は、あなた方もご存知のようにシホールアンル側の勢力圏となっています。
我がバルランド、いえ、南大陸連合軍の艦艇では、高速艦でも容易に侵入、離脱が出来ぬ海域です。
そこで、シホールアンル軍と同等以上の戦闘力を有する、アメリカ海軍に協力を申し込みたいのです。」
「ファリンベ閣下。そのお話、よく分かりました。しかし、はっきり申しまして、我々には気になる点があります。」

キンメルは穏やかな口調でありながら、鋭い眼つきでファリンベを見つめる。
「なぜこの事をつい最近になって、我が合衆国に知らせたのかと言う事です。」
「う・・・・それは・・・・」

240 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:19:35 ID:4CUjn9IY0
ファリンベは一瞬、戸惑ったような表情になる。そこに、話を聞いていたアールンク少将が口を開いた。

「軍内部に、グンリーラ島を見捨ててはどうか?という意見がありました。」
「見捨てる?」

マックモリス大佐が少し高い声音で言う。

「なぜ見捨てるのです?」
「輸送船が足りなく、それに、周辺海域は常に、シホールアンル海軍の艦艇が出現する可能性が高かったからです。
現に、過去3回ほど行われた救助作戦は、事前に待ち伏せていたシホールアンル側の艦艇によって全て失敗に終わっています。
この事から、救助の見込みの無い島など見捨てるしかない、との意見が台頭し、1ヵ月半前に放棄が決定したのです。」
「アールンク少将の言う通りです。」

ファリンベ元帥は相槌を打った。その表情に、どこか憤りの色が隠れていた。
(?)
ふと、キンメルは、アンルーク少将が勝手に口を開いたから怒ったのか、と思った。
(このファリンベ元帥、いまいち足らんのかな)
キンメルはそう思ったが、その思いを振り払って言葉を放つ。

「なぜ、我々に言わなかったのです?放棄を決定した1ヵ月半前といえば、3月の中旬です。
我々は今現在、敵に対して防御の姿勢をとっていますが、必要あらば南大陸軍に協力せよとの命令も受けています。
要請されるならば、今ではなく、未だに損害の回復し切れていない筈の3月頃に要請をされておけば、我々としても
作戦を立てやすかったのですが。まあ、それはさて置き、救出作戦の実施については我々も賛成の意です。
しかし、問題は場所です。」

キンメルが言葉を切り、マックモリス大佐に視線を向ける。

241 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:21:43 ID:4CUjn9IY0
マックモリスが頷くと、席から立ち上がり、壁に賭けられていた地図の前に立った。

「グンリーラ島の救助作戦を行うとすると、いくつか問題点が出てきます。
まず、問題点に挙がるのはこの、グンリーラ島の周辺海域です。」

マックモリス大佐は、ちっぽけな島の周囲を指示棒で撫でた。

「先の話にも出ましたように、グンリーラ島の制海権は、シホールアンル海軍が握っております。
グンリーラ島は、ガルクレルフから南東600マイル、その北のネイレハーツからは南南東800マイルの
距離にあります。ガルクレルフ、ネイレハーツはいずれも、シホールアンル海軍の根拠地となっている場所です。」

更に、陸地側の2箇所の地点を指示棒でトントンと叩いた。

「現在、我が潜水艦部隊によると、ガルクレルフには戦艦、竜母を中心とした主力部隊はおりませんが、
それでも巡洋艦5隻、駆逐艦18隻の存在が確認されています。そして問題なのが、このネイレハーツです。
ネイレハーツにはシホールアンル海軍の主力部隊がおり、戦艦6隻、竜母2隻、巡洋艦、駆逐艦合わせて31隻の
存在が確認されています。もし、我が合衆国海軍や貴国の救助部隊が、グンリーラ島に迫ると分かれば、
これらの部隊が大挙出動し、戦いを挑んでくる可能性は十分にあります。」
「しかし、2月のガルクレルフの戦いで、シホールアンル軍は貴国の艦隊に敗れています。
もし総力で出撃しても、シホールアンル側は損害を恐れて」
「出てこない、とでも言うのでしょうか?」

情報参謀を務めるロシュフォート少佐が言葉を遮った。束の間、ファリンベ元帥の顔が赤く染まる。

「出てくる可能性は、十分にあります。シホールアンルは負け過ぎました。
殊更、我が合衆国と刃を交えている戦いでは必ず負けています。人には、勝てずにいる相手が目の前に出てくれば、
すぐに逃げ出したくなる、という者がいます。ですが、全ての人が果たしてそう言えますかな?」

242 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:24:01 ID:4CUjn9IY0
ロシュフォートの言葉にファリンベは面食らった。彼は更に続ける。

「勝てずにいる相手が出てくれば、より一層闘志を燃やして、相手を叩きのめそうとする事も
考えられない事ではありません。負け続けているシホールアンル軍とはいえ、彼らの戦力は未だに
強大です。特に海軍に対しては、負け戦とはいえ何隻もの合衆国海軍の艦艇を沈めたり、傷付けたりしています。
負けん気の強いシホールアンルが、出て来ぬと考えるのは早計かと思われます。」
「なるほど、浅はかな考えでありました。」

ファリンベ元帥はあっさりと非を認めた。これにロシュフォート少佐は拍子抜けたした。
彼としては、ファリンベから罵声のいくつかは浴びると思っていたのだが、
足りないと感じさせる割には、割り切りの良い人間なのだろう。

「今回の作戦では、一見シホールアンル海軍との総力決戦になると考えがちかもしれませんが、
我々としてはそうは思いません。」
「それは、どういうことで?」

アンルーク少将がマックモリスの言葉に反応した。

「あなた方の要請は、グンリーラ島の友軍部隊救出とありました。
グンリーラ島周辺は、今もシホールアンル海軍の制海権下にあります。要するに、これは隠密作戦です。」

次に、スミス少将が口を開いた。

「バルランド側は、輸送船を準備してあるとおっしゃられましたな?」
「ええ。敵の目が突きにくいように、南大陸の南端で待機させております。」
「準備が早くて、我々も助かります。」

243 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:26:07 ID:4CUjn9IY0
スミス少将は頭を下げる。

「しかし、少々残念な事を申さなければなりません。」

スミスは一呼吸置くと、意を決したように言った。

「あなた方の用意した輸送船は、残念ながら使いません。」
「なっ!?」

ファリンベ元帥は驚いた。

「何故です!?我々バルランドの船を馬鹿にしているのですか!」
「そうではありません。」

いきり立つアンルーク少将を、キンメルが冷静な口調で抑えた。

「作戦上の問題から、使いたくても使えぬのです。ソク。」

キンメルはマックモリス大佐に指示した。

「南大陸には、シホールアンルシンパのスパイが多数潜入しているとの情報がもたらされています。
もし、救助船団の北上を知らされれば、途中でシホールアンル側の迎撃を受ける危険性があります。
南大陸の南端に準備された船団は停泊しているようですが、その時点で、スパイに察知されている可能性はゼロではありません。
出港時点で一時に何隻も船が出港すれば、何かしらの行動があると予想されます。」
「では、友軍部隊の輸送はどうされるのです?」
「わが合衆国の輸送船を使います。」

244 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:27:54 ID:4CUjn9IY0
マックモリスが即断した。

「万が一、出港時に発見されなくとも、救助部隊は必然的に大陸に沿って北上します。
そうすると、洋上とは言え、途中で発見される可能性があります。ですが、敵に察知されていない航路はあります。」

彼はそう言うと、地図の一番端。
アメリカ本土からヴィルフレイングまでを、指示棒ですうーっと撫でた。

「この航路です。この航路は、わが合衆国海軍の物資輸送艦や輸送船が通るものであり、常時30隻の輸送船団が行動しています。
それに、合衆国本土にはシホールアンルシンパのスパイは1人もおらず、南大陸側の人間も、ごく一部の者しか入国していないため、
航路は察知されにくくなっています。我々は、この利点を生かして、合衆国本土から輸送船団を一気に、グンリーラ島にまで向かわせ、
貴国の部隊を収容後、速やかに同島を離脱し、迂回航路を取りながらヴィルフレイングに向かいます。」
「なるほど・・・・そう言う手がありましたか。」

ファリンベ元帥は納得したようにそう言った。

「輸送船団には、高速航行の可能な船を使います。この作戦には隠密性が重視されますので、快速船で編成します。
それに、万が一の事態に備えて太平洋艦隊からも機動部隊を護衛につけます。」
「と、申しますと、あなた方の持つ空母を1隻、回してくれるのですな。」
「いえ、念のため正規空母2隻を護衛に付けます。」

次いで、キンメルも発言した。

「空母は第16任務部隊と第15任務部隊を配備し、輸送船団の側面援護に当たります。」
「そうえすか・・・あなた方の配慮に、バルランド、いえ、南大陸を代表して、深く礼を申し上げます。」
「ありがとうございます。しかし、礼を言うのは、まだ早い。作戦が成功したら、改めてお礼の言葉をお願いします。」
「では、作戦の大まかな内容はこれで決まりました。次に、この作戦の細部について、これから検討をしたいと思います。」

その後、4時間の協議が重ねられ、グンリーラ島撤収作戦の骨子は早い段階で決まりつつあった。

245 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:31:33 ID:4CUjn9IY0
1482年 5月7日午後10時 ヴィルフレイング沖北東70マイル

第16任務部隊は、訓練のため港外に出ていた。
その旗艦である空母エンタープライズの司令官室。ここで、2人の男が、机越しに向かい合っていた。

「う〜ん・・・・・ここが動詞だよな?ラウス先生。」

ウィリアム・ハルゼー中将は、本を持って向かい合うラウス・クレーゲル魔道士に質問する。

「そうっすよ。ここが動詞です。」
「その次がどうも分からんなぁ・・・」

ハルゼーは鉛筆を机に放り投げると、側にあったコーヒーカップを手に取った。

「小休止だ。ちょっと疲れちまったな。」

ハルゼーは微笑みながらコーヒーを啜った。疲れが滲んでいるが、表情はどことなく爽やかだ。
一方のラウスは、

「ああ・・・・眠ぃ。」

と、ハルゼーに聞こえぬように、そっと呟いていた。

「どうだい、ラウス“先生”。俺も大分覚えてきただろう?」
「良くなっていますよ。」

ラウスは空元気を出して答えた。

246 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:34:12 ID:4CUjn9IY0
「そうかそうか。それにしても、シホット共の言葉は難しいものだな。よくこんなのを覚えられたものだ。」
ハルゼーは、ラウスに感心してそう呟いた。
実を言うと、ラウスはハルゼーに対して、シホールアンル語を教えさせられていた。
きっかけは、ある日突然、

「ラウス君、シホットの言語とはどういうものだね?」

と、ハルゼーが聞いた事から始まった。
それが2週間前である。それ以来、ラウスはハルゼー専門の語学教師として、9時から11時までの間、
小休止を入れてシホールアンル語を教える事になった。
ちなみに、ハルゼーは気前が良く、報酬に葉巻を差し出してくれたが、ラウスは断った。
彼は葉巻というよりも、タバコの類は嫌いであり、吸うのは真っ平ごめんだと公言している。
それはともかく、9時から11時まで教えるという話であったのだが、どうしてどうして、ハルゼーは優秀な生徒であった。
2時間のはずの勉強が、今や2倍の4時間にまで増えてしまった。
元々、50歳の年齢にもかかわらず、実際に飛ばねばパイロットの気持ちなぞ分からんと言って、自分の息子のような新兵と肩を並び合ってパイロットの資格を取った努力家だ。
ラウスは二つ返事でハルゼーの要望にこたえたが、ハルゼーが持ち前の努力家ぶりを発揮した今、彼は心底後悔していた。
でもって、ここ数日間ほどは、再びラウスの部屋から、しきりにめんどくさいという言葉が聞かれるようになったと言う。
そのラウスも、ハルゼーの前でめんどくさいとは言わない。
(言っちまったら、この炎のおっさんにどやされるかもしんねえからな)
内心でそう呟き、思わずため息が出た。

「ラウス君、疲れたかね?」
「ええ、少々。」

ハルゼーはコーヒーを飲み干すと、机に置いた。

「それにしても、今度の作戦は面白くないでもないが、面白いとまでもいかんなぁ。」
「それは、どういう事っすか?」

247 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:35:23 ID:4CUjn9IY0
「今回の救助作戦ではな、シホットが制海権を抑えている島にこっそりと忍び寄り、こっそりと逃げ帰ってくる、
というこそ泥みてえな物なのだ。これが成功すれば、シホット共の面子は丸潰れになって、愉快な気持ちになる。
だが、俺としてはちょっと物足りんな。ラウス君、空母の敵は、なんだと思う?」

ハルゼーの質問に、ラウスはすぐに答えた。

「戦艦や、敵軍の急所ですか?」

このエンタープライズに乗って早5ヶ月になるが、ラウスも空母戦闘の特性を少しずつ理解している。

「その答えなら、50点だな。」
「厳しいッすね。」
「当たり前だ。わしに評価を下させると、よっぽど気に入らん答えが出ない限り厳しくするぞ。
それはいいとして。空母の敵はな、空母だ。」

ハルゼーはニヤリと笑みを浮かべた。

「この世界には、航空機を載せる空母はいないが、代わりにワイバーンを載せる竜母がいる。
形は違えど、特性は共に同じだ。それらが、直接相対した戦いは、今まで一度も無い。
わしがやりたい戦いは、互いに機動性を持ち、航空戦力でもってやるかやられるかの戦いだ。
だが、今回の作戦では、それは望みにくいだろう。なにしろ、発見されにくい事が条件でな。
発見されたら敵がわんさか出てくる。そしたら、輸送船を守りながらの戦いとなるから、
作戦上はあまりいいとは言えない結果になりやすい。」
「なるほど、よく分かりましたよ。」

ラウスは、ハルゼーらしい言い分だなと思った。

248 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/03/07(水) 00:35:55 ID:4CUjn9IY0
積極果敢をモットーとするこの提督には、今回のような作戦は少々不満があるのだろう。

「・・・どうも今日は疲れたな。」

ハルゼーは、大きくため息をしながらラウスに言った。

「ラウス君、今日は早めに切り上げようか。」
「え、もう終わりっすか?」
「どうも、今日は思った以上に疲れとるようだ。明日に持ち越そう。」

頬を掻きながら言うハルゼーに、ラウスは不謹慎ながらも叫び声を上げたい気持ちに駆られた。
それを寸手の所で抑える。

「はい。分かりました。じゃあ、明日と言う事で。」
「いつもすまんな。君には助かっとるよ。」

そう言うと、ラウスの肩をポンと叩いた。
ラウスははにかみながらも、司令官室を出て行こうとした。

「おやすみラウス君、今日は目一杯眠れよ。」

ハルゼーの言葉を返しながら、ラウスは司令官室の扉を閉めた。
ふと、左頬に発疹らしきものが見えたな、と思ったが、彼は別に気にしなかった。