4 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/22(土) 10:23:20 [ D4VsWfLE ]
1098年9月の米側戦力
×は喪失 △は損傷、修理中 ○は損傷したが、修理して復帰
戦力
第5艦隊(レイモンド・A・スプルーアンス大将)
第58任務部隊(マーク・ミッチャー中将)
第1群(ジョセフ・クラーク少将)
空母 ホーネット ヨークタウン
軽空母 ベローウッド バターン
重巡 ボルチモア ボストン キャンベラ△(大破、修理中)
防空巡 オークランド△(大破、修理中) サンファン
駆逐艦 ブラッドフォード ブラウン バーンズ ボイド コウエル シャーレット
コナー ベル イザード ヘルム マッコール モーリー グリッドレイ
クレイブン
第2群(アルフレッド・モンゴメリー少将)
空母 ワスプ バンカーヒル○
軽空母 キャボット モントレイ
軽巡 サンタフェ モービル○ ビロクシー
駆逐艦 ルイス・ハンコック ステファン・ポッター マーシャル ザ・サリバンズ
デューイ ハル ヒコックス ハント マクドノー ミラー オーウェン
5 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/22(土) 10:23:56 [ D4VsWfLE ]
第3群(ジョン・リーブス少将)
空母 レキシントン○ エンタープライズ
軽空母 プリンストン サンジャシント×
重巡 インディアナポリス
軽巡 バーミンガム クリーブランド○ モントピーリア○
駆逐艦 ワッドワース ガトリング○ インガソル△(大破、修理中) ナップ アンソニー
コグスウェル クラレンス・K・ブロンソン ブレイン テリー ケイパートン ヒーリィ
コットン ドーチ×
第4群(ウィリアム・ハリル少将)
空母 エセックス ランドルフ
軽空母 カウペンス ラングレー
軽巡 ヒューストン マイアミ ビンセンズ
駆逐艦 スタンリー コンバース スペンス サッチャー ダイソン ランズダウン
チャールズ・オスバーン ラードナー マッカラ エレット ラング スタレット
ウィルソン ケイス
第7群(ウィリス・A・リー中将)
戦艦 ワシントン○ ノースカロライナ アイオワ△(大破、修理中) ニュージャージー
サウスダコタ△(中破、修理中) アラバマ インディアナ
重巡 ミネアポリス○ ニューオーリンズ○ サンフランシスコ ウィチタ△(大破、修理中)
駆逐艦 モンセイ× ゲスト△(大破、修理中) ヤーノール○ ベネット× セルフリッジ×
バグリー マグフォード パターソン フラム カニンガム ハドソン ハルフォード
ストックハム トワイニング
6 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/22(土) 10:24:35 [ D4VsWfLE ]
攻略船団司令官 リッチモンド・ターナー中将
第5水陸両用軍団司令官 ホーランド・スミス中将
第51任務部隊(輸送船団)
トーマス・ワトソン少将(米海兵隊)指揮第2海兵師団
ハリー・シュミット少将(米海兵隊)指揮第4海兵師団
ラルフ・C・スミス(米陸軍)指揮第27歩兵師団
アーサー・M・ハーパー准将(米陸軍)指揮第24砲兵隊
(これらの部隊は、サイフェルバンに上陸済み)
第52任務部隊(護衛空母部隊)
タフィ1(レイノルズ少将指揮)
護衛空母ガンビア・ベイ キトカン・ベイ
ファーション・ベイ カリーニン・ベイ マニラ・ベイ
重巡洋艦ノーザンプトン 軽巡洋艦ホノルル× デンヴァー○
駆逐艦6隻
タフィ2(ブランディ少将指揮)
護衛空母セント・ロー ネヘンダ・ベイ
ホワイト・プレーンズ キトカン・ベイ ナトマ・ベイ
重巡洋艦ルイスヴィル 軽巡洋艦スプリングフィールド ブルックリン
駆逐艦6隻
第53任務部隊(輸送船団)
グレーブス・アースカイン少将指揮(米海兵隊)第3海兵師団
ロバート・ウィルキンス准将指揮(米海兵隊)第7海兵旅団(第6海兵師団より分派)
第54任務部隊(ウィリアム・コットン少将指揮)
軽巡洋艦フェニックス セントルイス トペカ
駆逐艦12隻
13 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:36:39 [ D4VsWfLE ]
9月5日 午前8時 サイフェルバン
病院船のコムフォートは、7月の上旬にサイフェルバンに到着して以来、ずっと沖合いに停泊し、
幾多の傷病兵を看護してきた。
サイフェルバンには、サービス部隊の浮きドッグが2隻、その他の工作艦などが派遣され、
損傷艦艇の修理に当たっている。
浮きドッグ2つのうち、1つは空だが、もう1つには軽巡洋艦のオークランドが乗せられ、修理を施されている。
そのオークランドも、大体の修理は終わり、後はドッグから出て、工作艦に横付けして最後の修理をするのみだ。
ナスカ・ランドルフはサイフェルバンの光景を飽くことなく見ていた。
視線を沖合いに転じれば、第58任務部隊の諸艦艇が、錨を下ろして停泊している。
最初、初めて空母を目にした時はその異様な艦影に唖然としたものだ。さらにこんな事もあった。
起きてから最初、ナスカは案内をしてくれたハートマン軍医中佐に軍艦の名前を教えてもらおうと、1隻の空母を指差した。
「ああ、あれか。あの空母の名前はエセックスと言うんだ。」
ハートマン軍医中佐は何気なく言った。
コムフォートのすぐ近くには、第58任務部隊の第4群の艦艇が停泊しており、
旗艦のエセックスが、コムフォートの左舷900メートルのとこに停泊している。
「え?セックス?」
だが、なぜかナスカは顔を赤らめてしまった。ハートマンはどうしたと言った。
「な、なんか、卑猥な名前ですね。」
最初は分からなかったハートマンだが、すぐに理解した。
14 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:38:52 [ D4VsWfLE ]
(この娘も、アレと間違えたか)
空母のエセックスは、時折猥談などのネタに上がることがあり、エセックス乗員の中には、
自分の艦の名前にかこつけた戯れ歌まで作って、歌いだす始末である。
よくよく変な話題に上がるこの船だが、このエセックスこそ対日反攻作戦の中核として、信じられない
スピードで量産されているエセックス級空母のネームシップである。
1943年中ごろの真珠湾に勇姿を現したエセックスは、僚艦と共に太平洋を暴れ回り、
数々の武勲を立ててきた歴戦の空母である。それに乗員の士気も高い。
ハートマンは、元々の名前と、前者の話を含めて説明すると、ナスカは納得した。
「てっきり、変な人がつけた名前かと思っていました。」
そう言って、ナスカは誤解したことを恥じた。
それから彼女はずっと、艦艇群に見入っていた。
「ここがバーマント公国の領土、サイフェルバンかぁ。なんかイメージしていたのとは、ちょっと違うなあ。」
ナスカは、バーマントの飛空挺や戦列艦の高性能ぶりを知っていた。
その事から、バーマント公国は機械文明が優れた国であると思っていた。
だが、陸地を見る限りでは、それほど進化したとは思えなかった。
確かにヴァルレキュアよりは格段に進歩している。
軍港などを見ても、よく整備された建物がそこかしこにある。作りもなかなかいい。
しかし、イメージとしては、少々違っていた。
「まっ、イメージはイメージだね。」
ナスカはそう苦笑して呟いた。そこに後ろから誰かが肩を叩いた。
「ナスカ、いつまでここにいるんだ?」
後ろを振り返ると、男性が笑みを浮かべながらそう言ってきた。彼はローグ・リンデル。
ナスカと同じ魔道師である。普段はとても明るい性格で、召喚メンバーのムードメーカーである。
15 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:39:34 [ D4VsWfLE ]
だが、彼自身、魔法技術については彼女と同じく、一流のレベルを持っている。
「ん〜、ちょっと暇つぶしかな。」
ナスカはニコリと笑って言う。
「暇つぶしねえ。それにしても、最初これを見せられた時にはおったまげたぜ。巨大な大砲を持つ軍艦、
そして間ッ平らな甲板の船。どれもこれも凄いものばかりだ。」
ローグは、おどけながらそう言った。
「そういえば、リーソン師匠が、リリアとマイントを連れてこの船に来るらしいぞ。」
「本当?」
「ああ、本当だとも。」
レイムらの名前を聞いた瞬間、ナスカはどこか懐かしい思いになった。
(4ヶ月・・・・たった4ヶ月しか会っていないのに、今では4年ぶりに会うような気がする。)
ナスカは、内心懐かしい気持ちになった。
インディアナポリスから内火艇で向かうこと10分、目の前に赤十字のマークを描いた病院船が見えてきた。
レイムらの仲間が治療に使っていた、コムフォートという名の船だ。
「レイム君、どうだね?久しぶりに仲間に会う気持ちは。」
カーキ色の軍服に身を包んだスプルーアンスは、僅かに微笑みながら右隣のレイムに聞いた。
「正直言って嬉しいですね。一時は、彼らはもう助からないと思ってましたから。
16 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:41:00 [ D4VsWfLE ]
召喚成功後、ローグ、ナスカ、フレイヤの3人はその場に倒れこんだ。
昏倒してから2分後に3人の心臓は止まってしまい、死にかけた。
だが、レイムらの必死の看護によって命を取り留めた。
だが、医者からは最悪の場合、一生眠り続けたままと言われ、レイムは彼らの直談判に屈した事
を激しく後悔していた。
普段の仕事をこなしている時にも、その思いはレイムの心に重くのしかかっていた。
昨日、インディアナポリスの作戦室で、休憩間際に第5艦隊の司令部幕僚と談話を交わしていた。
時間は午後11時と遅かった。
「レイム君、時間が遅いからそろそろ寝たほうがいいぞ。」
参謀長のデイビス少将が気遣って、眠るように勧めた。彼女は断ろうと思ったが、
「なあに、私達もすぐに寝るよ。今日はもう仕事も終わったし。」
と、フォレステル大佐の一言で断るのを辞めた。
「では、お言葉に甘えて。」
レイムは踵を返し、部屋から出ようとしたとき、情報参謀のアームストロング中佐が急ぎ足で作戦室に入ってきた。
「おお、リーソン魔道師ちょうどいいところに居た。」
「何か、私に用でも?」
「ああ、実は君に知らせたいことがあってね。」
知らせたいこと?レイムは最初何事か分からなかった。だが、ある言葉が彼女の脳裏に浮かんだ。
17 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:41:53 [ D4VsWfLE ]
(まさか・・・・)
「病院船コムフォートにいる君のお仲間が、意識を取り戻した。」
「え・・・・・それ、本当ですか!?」
普段冷静沈着な彼女に珍しく、アームストロング中佐に詰め寄った。
「彼らが目覚めた・・・・・・本当ですね!?」
「おお、おいおい。そんなに詰め寄るな。ああ、本当だ。今のところ、なんて言ったかな。
ああ、そうそう。ナスカ・ランドルフ魔道師のみだが、その女の人が気がついた。」
彼の言葉に、レイムは内心で狂喜した。
それから1時間後に2人の魔道師が意識を取り戻したと、インディアナポリスに電報が入った。
3人が意識を取り戻した・・・・・・・・・・
レイムは1人、誰も居ない部屋で安堵していた。その両目にはうっすらと、涙が浮かんでいた。
「だが、3人はちゃんと意識を取り戻した。ハートマン軍医中佐からの報告では、3人とも元気だと言っている。
まあ、まずはゆっくり、彼らと話でもしようじゃないか。」
「はい。」
レイムはそう頷く。病院船まではすぐ側まで来ていた。
18 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:43:29 [ D4VsWfLE ]
3人の病室に入ると、そこには元気な彼らの姿があった。
「レイム姉さん!」
「リーソン師匠!」
「お久しぶりです。」
3人は同時に声を上げた。
「久しぶりね、みんな。よく戻ってきてくれたわ。」
レイムは満面の笑みを浮かべて、彼らの回復を祝った。
リリアと、マイントも彼らの回復を祝い、次にスプルーアンスら、第5艦隊の幕僚である
デイビス少将とフォレステル大佐が部屋に入ってきた。
「皆さん、回復おめでとう。私は召喚者の代表である、合衆国海軍第5艦隊司令長官、
レイモンド・スプルーアンス大将です。あなた方の話はリーソン魔道師から聞いている。
とりあえず、おめでとう。」
そう言うと、スプルーアンスは1人1人に握手を求めた。3人は彼の意に答え、固い握手を交し合った。
「同じく、第5艦隊の参謀長を務める、デイビス少将です。」
「同じく、第5艦隊の作戦参謀を務める、フォレステル大佐です。」
2人は直立不動の体勢で、自己紹介を行った。
「2人は、私の優秀な部下だ。これまでにも何度か、彼らに助けられている。」
自己紹介が終わると、看護婦が用意した椅子に腰を下ろす。
「さて、ゆっくりと話でもしようか。君達も聞きたいことが山ほどあるだろう。何でもいいから聞きたまえ。」
スプルーアンスが軍帽をとりながらそう言う。だが、ナスカらはどことなくぎこちない。
19 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:45:14 [ D4VsWfLE ]
無理も無いだろう。ローグらの相手は大将であり、召喚者の代表である。
「あ、あのう〜。ちょっと・・・・聞いてもいいですか?」
右のベッドの女性、レイムと似たような黒髪の女性で、どことなくおとしやかなイメージがある。
「ああ、良いとも。」
「あなた方は、国ごと召喚されたのですか?」
「いや、違う。我々はマーシャル諸島と呼ばれる諸島ごと、ここに呼ばれた。言うなれば、一部の軍隊のみがここに飛ばされたのかな。」
「数は何人ぐらいですか?2万人ほどでしょうか?」
「14万だ。」
スプルーアンスの答えに、フレイヤは一瞬唖然となった。
まさか、10万単位の軍が召喚できると思わなかったのである。
召喚メンバーの考えでは、とてつもない攻撃力を持つ軍を呼ぶことであり、兵力は多くて2万〜5万人ほどだと思っていた。
だが、話を聞くには、それの3倍近くの兵力がこの世界に召喚されている。
しかも、想像していなかった多数の異形の兵器を携えてやってきたのである。
「そもそも、マーシャル諸島というのはここから南東に離れた群島でね。大小様々な島で成り立っている。
召喚されたあの日、我が第5艦隊は、日本と言う国の保有する重要拠点を、これから攻撃しに行くところだったのだ。
それで、マーシャル諸島には、その拠点制圧用の上陸部隊などが多数集結していて、出動準備を終えていたのだ。」
スプルーアンスはこれまで起こったこと全て答えた。いっぽう、3人はスプルーアンスらに次々と質問をぶつけた。
バーマント軍にどれだけの被害を与えたのか?アメリカ側の被害はどんな感じなのか?
士気は大丈夫なのか?
様々なことを3人は聞いた。スプルーアンスらはそれによどみなく答え、3人はようやく、今起こっている現状を理解できた。
20 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:46:25 [ D4VsWfLE ]
「お答えいただき、ありがとうございます。」
ローグは、親切に答えてくれたスプルーアンスらに礼を述べた。
「それにしても、まさか首都爆撃敢行するとは驚きでした。」
「驚きか。」
スプルーアンスは苦笑を浮かべた。
「作戦自体が派手な内容だったからね。だが、あの爆撃作戦は、バーマント国民に対する示威行動も混じっている。
それなら思いっきり暴れたほうがいいと、陸軍航空隊の司令官が言ってきたのだ。」
「効果のほどは、未だに確認できていない。」
参謀長のデイビス少将が言う。
「だが、我々の軍が直接、首都を叩ける兵器を持っている、というメッセージは伝えた。
そういうのを知る知らないだけで、人は大きく変わるものだ。あの爆撃作戦で、直接、
自分達に脅威が迫っていると思わせただけでも、効果はあったと思う」
「なるほど。」
ベッドの3人は頷いた。
人を殺すだけが戦争ではない、威力を見せつけ、相手を驚かして戦意を失わせる。そういうやり方も戦争なのである。
「さて、君達、話題でも変えないかな?起きてから戦争の話ばかりではつまらんだろう。」
スプルーアンスは話題をがらりと変えた。
「君達の話を聞いてみたいね。」
「どんな話でもいいでしょうか?」
ナスカが、おずおずとした口調で聞いてくる。
21 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:47:25 [ D4VsWfLE ]
「かまわん、何でもいいぞ。」
スプルーアンスはあっさりと承諾した。
「そういえば、リリアはどんな調子でした?」
ローグがぶしつけに聞いてきた。
「ん?あたし?」
リリアはきょとんとして逆に聞いてきた。
「ああ、そうだよ。リリアは普段ドジが多いから、皆さんに迷惑をかけているのではないかと思って。」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。
「ああ、ひどい!あたしだってちゃんとやってるよ!」
リリアは顔を膨らませて抗議した。
「最初はちょっと目立ったかな。」
作戦参謀のフォレステル大佐が口を開いた。
「一度、リリア君が私ごと倒れたことがあったね。あの時は痛かったなあ。それから重要書類をゴミ箱に
放り込みそうなときもあったし、熱いコーヒーを他の士官の服にぶっかけたこともあったね。色々やっていたよ。」
「こんの、ドジッ娘リリア!さっさとそのドジ癖直せよ。」
「あんた、起きてからすぐそれ?もっと気の聞いたこと言ってよ。」
「それが、俺さ!」
「あっそ。」
あっさり受け流される。意外な事にローグは拍子抜けした。
ローグの顔があまりにも滑稽だったので、病室につかの間爆笑が木霊した。スプルーアンスも微笑んでいた。
22 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:48:53 [ D4VsWfLE ]
「あっそ、って、受け流してないでもっと突っ込んで来いよ!昔のお前なら、その後にバカ!
とか、話にならない!とか言ってグダグダ言うのに。どうしたんだ?熱でもあるのか?」
ふと、ローグはリリアの雰囲気がどことなく変わっているのに気が付いた。
以前はどことなく自身があるのか、無いのかという雰囲気がしばしば見られた。
だが、今のリリアは堂々としていて、自信がついている。
「あたしも色々経験させてもらったの。」
「リリアはね、第58任務部隊の旗艦であるレキシントンに、ヴァルレキュア側のオブザーバーとして乗り組んでいるの。
レキシントンの艦長から、リリアはよく頑張っていると聞いているわ。」
「マイントも、なんか前とは違うような気がするな。お前もどこかの船に乗り組んでいたのか?」
ローグはマイントに視線を向けた。
「僕も、第5艦隊の旗艦であるインディアナポリスに乗り組んでいるんだ。
そこでリリアのようなオブザーバーの仕事をやっている。」
「なるほど・・・・・どうりで最初、成長したなあと思ったなあ。」
ローグはうんうん頷きながら納得した。
「人とは、経験をしていけば変わるものだよ。」
スプルーアンスが神妙な顔つきで言ってくる。
「どんなに慣れていない仕事でも、人はそれに順応するものだ。そしてそれを楽しいと思えば、
自ずと自信もついてくるのだよ。人間とはそういう生き物だ。」
スプルーアンスの言葉に、ローグはそうなのか、と言ってさらに納得した。
23 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/23(日) 09:50:36 [ D4VsWfLE ]
(まっ、私も最初は軍隊というものは好きじゃなかったけどな)
ふと、彼はそう思った。
スプルーアンスはもともと、軍隊という職業が大嫌いだった。
それなのに海軍兵学校に入ったのは、自腹で金を払わずに学べるからである。
だが、海軍に入って以来、彼は真面目にその職を全うしてきた。
その努力は常に成果を見出し、スプルーアンスの自信をつけていった。
(海軍に入る前には、軍なんか嫌いだと言っていた私が、今では14万以上の大軍を率いる海軍大将か
・・・・・・・本当に、人は変わるものだな)
そう思うと、スプルーアンスは苦笑した。
その後、1時間半ほどにわたって、彼らは思う存分話し合い、次第に打ち解けていった。
35 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:24:27 [ D4VsWfLE ]
バーマント海軍
重武装戦列艦ウエンディール級
全長171メートル 幅27メートル
基準排水量23000トン 満載時30000トン 燃料石炭
兵装 26.8センチ連装砲3基6門 8センチ副砲10門 11.2ミリ機銃32丁
乗員890人 速力17ノット
同型艦 ウエンディール シンファニー
重武装戦列艦ムルベント級
全長179メートル 幅27メートル
基準排水量26000トン 満載時31000トン 燃料石炭
兵装 26.8センチ連装砲4基8門 8センチ副砲6門 7.5センチ高射砲4門
11.2ミリ機銃34丁
乗員1200人 速力19ノット
同型艦 ムルベント ドルベント ファンボル
快速重武装戦列艦バージル
全長180.5メートル 幅26メートル
基準排水量27000トン 満載時33000トン 燃料石炭
兵装 33・8センチ単装砲4門 8センチ副砲10門 11.2ミリ機銃22丁
乗員900人 速力24ノット
36 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:25:11 [ D4VsWfLE ]
重武装戦列艦ザイリン級
全長202メートル 幅31メートル
基準排水量31000トン 満載時40000トン 燃料石油 機関出力7万馬力
兵装 33・8センチ連装報4基8門 8センチ副砲12門 7センチ高射砲6門
11.2ミリ機銃38丁
乗員1600人 速力23ノット
同型艦 ザイリン グラングス エリーブ グリルバン ファルアット ウロンズ
ロンボスト
重武装戦列艦ゲルオール級
全長207メートル 幅34メートル
基準排水量33000トン 満載時41000トン 燃料石油 機関出力9万馬力
兵装 35・7センチ3連装砲2基、連装砲1基8門 8センチ両用砲10門
11.2ミリ機銃44丁
乗員1900人 速力25ノット
同型艦 ゲルオール リルオール ファルグリン
中型戦列艦オースルレイグ級
全長168メートル 幅17メートル
基準排水量7800トン 燃料石炭
兵装 17センチ連装砲3基6門 8センチ副砲4門 11.2ミリ機銃18丁
乗員640人 速力25ノット
同型艦 オースルレイグ アイルンファッグ ドリニート ヘイルズリ
37 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:26:10 [ D4VsWfLE ]
中型戦列艦プリングラッド級
全長172メートル 幅18.2メートル
基準排水量8000トン 燃料石炭
兵装 17センチ連装砲4基8門 8センチ副砲5門 11.2ミリ機銃24丁
乗員800人 速力26ノット
同型艦 プリングラッド ゾンビル ネクロマンサー レイル クライク ファボリア
チョングル チャイエイト ヘレクセル ワルベリア ゲリア モルトルエ
高速戦列艦ガスターク級
全長177メートル 幅18.2メートル
兵装 14・3センチ連装砲4基8門 8センチ副砲7門 8センチ高射砲6門
11.2ミリ機銃26丁
乗員720人 速力28ノット
同型艦 ガスターク ヘルゴラート サイフェルバン グリルバン ララスクリス
クロイッチ ロイオロ ゲヘナ オルシトリス モアズ
小型戦列艦EA−21級
全長107メートル 幅9メートル
基準排水量1250トン 燃料石炭
兵装 9センチ単装砲4門 6センチ速射砲2門 11.2ミリ機銃8丁
乗員180人 速力25.4ノット
同型艦EA−21〜EA−32 計11隻
小型戦列艦EA−33級
全長109メートル 幅9メートル
基準排水量1500トン 燃料石炭
兵装 9センチ単装砲4門 6センチ速射砲3門 11.2ミリ機銃8丁
乗員190人 速力26ノット
EA−33〜EA−49 計16隻
高速小型戦列艦EA−50級
全長111メートル 幅11.4メートル
基準排水量1800トン 燃料石油4万馬力
兵装 9センチ単装砲4門 6センチ速射砲4門 11.2ミリ機銃12丁
乗員220人 速力28.4ノット
同型艦EA−50〜EA−70 計20隻
帆船部隊 海竜部隊は略
38 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:27:35 [ D4VsWfLE ]
アメリカ海軍
(同型艦の艦名は、一緒に連れ来られた艦のみ)
戦艦ノースカロライナ級
全長222.1メートル 幅32.9メートル
基準排水量35000トン 満載時45320トン 機関出力121000馬力
兵装 45口径16インチ3連装砲3基9門 5インチ連装両用砲10基20門
40ミリ4連装機銃15基60丁 20ミリ単装機銃55丁
偵察機3機 乗員2500名 速力28ノット
同型艦 ノースカロライナ ワシントン
戦艦サウスダコタ級
全長207メートル 幅33メートル
基準排水量3500トン 満載時44374トン 機関出力130000馬力
兵装 45口径16インチ3連装砲3基9門
5インチ連装両用砲8基16門または10基20門
40ミリ4連装機銃14基56丁 20ミリ単装機銃40丁
偵察機3機 乗員2354人 速力28ノット
同型艦 サウスダコタ インディアナ マサチューセッツ アラバマ
戦艦アイオワ級
全長270.43メートル 幅33メートル
基準排水量4500トン 満載時57000トン 機関出力212000馬力
兵装 50口径16インチ3連装砲3基9門 5インチ連装両用砲10基20門
40ミリ4連装機銃20基80丁 20ミリ単装機銃49丁
偵察機3機 乗員2808人 速力33ノット
同型艦 アイオワ ニュージャージー
39 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:28:07 [ D4VsWfLE ]
正規空母エンタープライズ
全長246メートル 幅33.4メートル
基準排水量19800トン 満載時25000トン 機関出力120000馬力
搭載機数100機
兵装 5インチ単装両用砲8門 40ミリ4連装機銃10基40丁 20ミリ単装機銃50丁
乗員2800名 速力32ノット
正規空母エセックス級
全長265.8メートル 幅45メートル
基準排水量27100トン 満載時36380トン 機関出力150000馬力
搭載機数100機
兵装 5インチ連装両用砲4基8門 単装砲4門 40ミリ4連装機銃12基48丁
20ミリ単装機銃55丁
乗員3200名 速力33ノット
同型艦 エセックス ヨークタウンU ホーネットU ランドルフ レキシントンU
バンカーヒル ワスプU
軽空母インディペンデンス級
全長189.7メートル 幅33メートル
基準排水量11000トン 満載時15100トン 機関出力100000馬力
搭載機数45機
兵装 40ミリ連装機銃10基20丁 20ミリ単装機銃20丁
乗員1800名 速力31ノット
同型艦 プリンストン ベローウッド カウペンス バターン サンジャシント
ラングレー モントレイ キャボット
40 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:29:17 [ D4VsWfLE ]
護衛空母カサブランカ級
全長144.5メートル 幅24.4メートル
排水量7800トン 機関出力9000馬力
搭載機数28機 兵装 40ミリ連装機銃6基12丁 20ミリ単装機銃12丁
乗員1000名 速力19ノット
重巡洋艦ノーザンプトン級
全長182.9メートル 幅20.1メートル
基準排水量9300トン 機関出力107000馬力
搭載機数3機
兵装55口径8インチ3連装砲3基9門 5インチ両用砲8門
40ミリ連装機銃6基12丁 20ミリ単装機銃28丁
乗員1020人 速力32.7ノット
同型艦 ルイスヴィル チェスター
重巡洋艦ポートランド級
全長186メートル 幅20メートル
基準排水量9950トン 機関出力107000馬力
搭載機数3機
兵装55口径8インチ3連装砲3基9門 5インチ両用砲8門
40ミリ連装機銃6基12丁 20ミリ単装機銃28丁
乗員1200名 速力32ノット
同型艦 インディアナポリス
重巡洋艦ニューオーリンズ級
全長179.2メートル 幅18.8メートル
基準排水量9950トン 機関出力107000馬力
兵装55口径8インチ3連装砲3基9門 5インチ単装両用砲8門
40ミリ連装機銃5基10丁 または28ミリ4連装機銃6基24丁 20ミリ単装機銃26丁
搭載機数3機
乗員1050人 速力34ノット
同型艦 ニューオーリンズ サンフランシスコ ミネアポリス
41 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/26(水) 23:29:49 [ D4VsWfLE ]
重巡洋艦ウィチタ
全長186メートル 幅18.8メートル
基準排水量10000トン 機関出力100000馬力
兵装55口径8インチ3連装砲3基9門 5インチ単装両用砲8門
40ミリ連装機銃6基12丁 20ミリ単装機銃26丁
搭載機数3機
乗員1100人 速力34ノット
重巡洋艦ボルチモア級
全長205.7メートル 幅21.6メートル
基準排水量13600トン 機関出力120000馬力
兵装55口径8インチ3連装砲3基9門 5インチ連装両用砲6基12門
40ミリ4連装機銃12基48丁 20ミリ単装機銃24丁
搭載機数3機
乗員1700人 速力33ノット
同型艦 ボルチモア キャンベラ ボストン
軽巡洋艦ブルックリン級
全長185.5メートル 幅18.8メートル
基準排水量9700トン 機関出力100000馬力
兵装47口径6インチ3連装砲5基15門 5インチ単装両用砲8門 または連装両用砲4基8門
40ミリ連装機銃10基20丁 20ミリ単装機銃26丁
搭載機数3機
乗員1050名 速力34ノット
同型艦 ブルックリン ホノルル セントルイス フェニックス
軽巡洋艦アトランタ級
全長165.1メートル 幅16.2メートル
基準排水量6000トン 機関出力75000馬力
兵装 5インチ連装両用砲6基12門 40ミリ連装機銃8基16丁 20ミリ単装機銃24丁 53センチ4連装魚雷発射管1基
乗員780人 速力32.5ノット
同型艦 オークランド サンファン
軽巡洋艦クリーブランド級
全長186メートル 幅20.3メートル
基準排水量10000トン 機関出力100000馬力
兵装47口径6インチ3連装砲4基12門 40ミリ4連装機銃4基16丁 連装6基12丁 20ミリ単装機銃24丁
搭載機数3機
乗員1250人 速力33ノット
同型艦 クリーブランド サンタフェ モービル ビロキシ バーミンガム モントピーリア ヒューストン マイアミ ビンセンズ デンヴァー トペカ スプリングフィールド
駆逐艦、潜水艦は略
44 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:28:47 [ D4VsWfLE ]
大陸暦1098年 9月7日 午後10時 プリングルッド
プリングルッドは、サイフェルバンの40キロ西に位置する町で、人口は元々10万を超える中規模な都市であった。
だが、今、このプリングルッドの町には人の姿は絶え、代わって軍人の姿が目立っている。
このプリングルッドには、東方軍集団の総司令部があり、第8軍が駐留している。
プリングルッドの北6キロには軍集団所属の第4軍、南7キロには同じく第12軍が駐屯している。
この東方軍集団は、アメリカ軍がサイフェルバンに強襲上陸を行った3週間後に急遽編成された。
東方軍集団の目的、それは、勢いに乗って侵攻してくるであろう異世界軍の陸上部隊を、これ以上内陸に進ませないこと。
それが任務である。
サイフェルバンが陥落したときは、次はプリングルッドに攻めてくると、東方軍集団の将兵は誰もが覚悟した。
サイフェルバンが包囲される以前、プリングルッドに逃げ出してきた部隊がいくつかあった。
その部隊の将兵は、いずれも酷い有様だった。
何よりもまず、覇気が無かった。それに負傷者が多く、健全なものが少なかった事。
脱出した兵が、集団で歩いているさまは、まるで幽鬼のようだったと、彼らを見かけた東方軍集団の将兵はそれぞれ口にしている。
サイフェルバンが陥落した2週間後には、サイフェルバン、プリングルッドの境界線付近に、敵軍が集結中との報告が入ると、
東方軍集団司令官のオリオス・ルーゲラー騎士元帥は全軍に警戒態勢を取らせた。
だが、待てども待てども敵軍は現れず、結局は、東方軍集団の警戒レベルを最低レベルまで引き下げた。
待機状態に入っているさなか、ルーゲラー騎士元帥のもとに何度も部下の将官が押しかけた。
45 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:29:58 [ D4VsWfLE ]
「司令官閣下、今こそサイフェルバンに侵攻し、奴らの息の根を止めるべきです!」
「そうです!我々の総兵力は17万、それに対し、敵はたかだか6万ではありませんか。
全軍を投入すれば、サイフェルバンのローグレル閣下の仇が取れますぞ!」
「そうだ!今すぐ待機から攻勢に転じるべきです!」
だが、部下の強硬論も彼は拒んだ。
「皇帝陛下の意を忘れたのかね?陛下も同じ気持ちであろう。
だが、陛下は我々にここを死守せよと言っておられるのだ。それは今も変わらぬ。」
彼はそう言って部下達をたしなめてきた。
だが、9月1日、東方軍集団が震撼する出来事が起きた。それは首都ファルグリン空襲である。
この報告を魔法通信で受け取った時、ルーゲラー元帥は思わず愕然とした。
彼はこれまで、東方軍集団がサイフェルバン付近にいる限り、どこに新劇出来まいと思い込んでいた。
しかし、ルーゲラーは米航空機の航続距離を全く知らなかった。
敵の飛空挺が飛んできても、せいぜいウエイリンズ(サイフェルバンより西400キロ)まで届くかどうかと思っていた。
しかし、そんな思いはこの報告によって消し飛んだ。東方軍集団は、ただ地上にいるだけで、敵の大型飛空挺の進撃を防げぬのである。
そう、飛行機と人間では、全く話にならない。言うなれば、東方軍集団の存在価値が全くないということと同じである。
その事を、米軍はバーマント軍に知らしめたのである。
翌日の9月2日、ファルグリンの陸軍総司令部より魔法通信が入った。
「東方軍集団は、全兵力を持ってサイフェルバン方面のアメリカ軍を殲滅されたし。」
ごくそっけない文面ではあったが、その文の裏には、言い知れぬ激情が詰っていた。
この命令文を受け取った東方軍集団は、早速準備に入った。
46 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:31:39 [ D4VsWfLE ]
ルーゲラー元帥の副官であるエンボスト少佐は、彼の部屋を訪れた。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「おう、入っていいぞ。」
明瞭かつ、野太い声が中から聞こえた。それを確認したエンボスト少佐はドアを開けた。
ルーゲラー元帥はちょうど手紙を書いているところだった。
筆を止めた彼は、少佐に顔を向けた。
堀の深そうな顔にがっしりとした体格、紙は短めに切り揃え、花の下には立派なカイゼル髭を生やしている。
彼は普段から性格がよく、部下の面倒見がとても良い。よく前線に足を運んでは、兵卒や下士官兵などに頻繁に声をかけたりする。
部下からも人望があり、上層部からも優秀な将軍として一目置かれている。彼を慕う兵の中には、影でおやじさんと呼んでいる。
「各部隊の準備の具合はどうかね?」
「はい。全て順調に進んでおります。2日後には鉄道で、サイフェルバンより10キロ方面まで、兵を運べます。」
「そうか。」
その言葉を聞いたルーゲラー元帥は満足したように頷いた。
「エンボスト少佐、突っ立ってないで座りたまえ。君も疲れておるだろう。」
ルーゲラーは空いたイスを用意した。少佐は恐縮です、と言いながらイスに座った。
「エンボスト少佐も聞いていると思うが、今日、バリアングルブが爆撃されたことは知っているかね?」
「ええ、魔法士官から聞かされました。」
今日の昼方、ファルグリンより西300キロ離れた工業都市、バリアンブルグが爆撃を受けた。
バーマント側は知らなかったが、この日空襲に参加したのは、第689、第790航空隊のB−24爆撃機80機と、
P−51ムスタング36機である。
B−24爆撃機は500ポンド爆弾を定数の半数搭載で出撃した。バリアンブルグは、軍の魔法専門の施設と、兵器工場があった。
この空襲によって、バリアンブルグの施設と工場は壊滅に近い打撃を受けた。
このバリアンブルグもまた、バーマントで有数の大都市であり、市民はファルグリンと同様に混乱を起こしている。
それに、このバリアンブルグ空襲では、20発の500ポンド爆弾が、隣接する市街地に着弾して多大な被害を与えてしまった。
これが混乱に一層拍車をかけてしまった。唯一、この誤爆による死傷者が1人も出なかったことが、不幸中の幸いであった。
「市街地にも爆弾が落ちたらしいぞ。どうやら、これは早く勝負を決めないといかんな。
作戦開始が1週間遅れれば、また都市が敵の爆撃を受けることになる。」
「同感です。」
エンボスト少佐はうんうん頷く。
47 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:34:20 [ D4VsWfLE ]
「それにしても、あれほど待機にこだわっていた皇帝陛下が、一転して侵攻せよと言うことから、
上層部はかなり頭にきているな。先日送られてきた魔法通信を見ても分かる。」
「閣下、我々は勝てるでしょうか?」
エンボスト少佐は、いきなり不安げな表情で彼に言ってきた。
「サイフェルバンが陥落する前、ローグレル閣下の軍団は18万もいました。
ですが、あの異世界軍は18万の大軍もものともせずに包囲し、サイフェルバン方面軍をあっさり殲滅しました。
あの精兵の誉れ高いサイフェルバン方面軍がですよ?その部隊を追い詰めた敵軍に、我々は勝てるでしょうか?」
「勝てる。」
ルーゲラーは即答した。
「確かにサイフェルバン方面軍は強かった。だが、わが東方軍集団と、サイフェルバン方面軍には違いがある。
それは、勝ち負け、そして武器の優劣差だ。
サイフェルバン方面軍は確かに精兵であったが、ヴァルレキュア戦初期には敵の精鋭軍団と真っ向から対立して敗北している。
それに、敵異世界軍が侵攻してきたときには、銃器の部隊配備は方面軍の6割程度しか進んでいなかった。
だが、わが東方軍集団は元々、無敗軍団と呼ばれたグランスプ軍団の生まれ変わりだ。」
グランスプ軍団とは、バーマント軍でも最も歴戦の部隊と言われている軍で、30年前の隣国の侵攻以来、常に最前線に投入され、勝利を収めてきた。
このヴァルレキュア戦でも、グランスプ軍団は多大な犠牲を出しながらも常に、味方の道を切り開いてきた。
この東方軍集団は、消耗し尽くしたグランスプ軍団を再編成した部隊である。
当然、兵の錬度も士気も高い。それに、問題の銃器の配備も、この東方軍集団は100%配備されている。
ちなみに、バーマント軍の武器更新は、第1に海軍、第2に空中騎士団、第3に陸軍とされて来ている。
なぜ陸軍が第3とされていると言うと、上層部は常に陸軍の強大な支援ができる兵器の開発を望んだ。
48 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:34:59 [ D4VsWfLE ]
その結果、飛空挺、高速力の戦闘艦が開発され、陸軍の作戦はスムーズに行われるようになってきた。
だが、肝心の陸軍の装備は、つい最近まで剣と盾、弓矢といったものに過ぎなかった。
実は、航空機、戦闘艦の開発が、莫大な資金と手間を要したため、
陸軍の銃器などの近代兵器を整備する資金や時間が足りなかったのである。
だが、ここ数年の努力と、陸軍の交渉によって、陸軍は念願の各種近代兵器を装備するに至った。
現在、銃器の配備は、正規軍だけで70%が完了しており、現在も残りの部隊が更新中である。
「そう・・・ですよね。」
エンボスト少佐は、表情に笑みを浮かべて答えた。
「なんたって、我々は最強軍団、グランプス軍団の生まれ変わりですから。」
「おう、そうだとも。たかだか6万の敵上陸軍にビクビクしたんじゃあ、最強軍団の名が泣く。」
ルーゲラー元帥は、水の入った杯を掲げた。
「不幸な異世界軍の前途を憂い、乾杯。」
エンボスト少佐も、用意された水を飲み干す。
「閣下、私はこれから第8軍のほうに行かねばならぬので。」
「おお、そうか。苦労をかけるな。」
エンボスト少佐は一礼して、部屋から出て行った。
少佐が出て行ったとき、ルーゲラーは元の冷静な表情に戻った。
「最強軍団・・・・・か。」
49 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:35:58 [ D4VsWfLE ]
彼は複雑な念を込め、呟いた。
(錬度も申し分ない、それに士気も高かったのは、サイフェルバン方面軍といえ同じだった。
しかし、我らとほぼ互角の精鋭軍団が、敵の機動作戦にあっさりはまり、包囲された。
もしかしたら、同じようなことが、わが東方軍集団に起きるのではないか?)
実を言うと、ルーゲラーは不安だった。確かに数は多い。それに敵軍には無い倍以上の軍を持っている。
だが、足りないものはある・・・・・・・・・
それは。
(飛空挺・・・・・だな。)
ルーゲラーは今、サイフェルバン方面軍が負けた理由が分かりつつあった。
サイフェルバン戦で味方の明暗を分けたもの、それは、航空戦力である。
確かに、サイフェルバン戦での機動作戦は、敵ながら見事だった。だが、その機動作戦を支えていたものは、飛空挺だった。
そう、敵の機動作戦が成功したのは、圧倒的な航空戦力を持つことだから、成しえたものだった。
かつて、グランプス軍団もヴァルレキュア戦時にはよく空中騎士団の支援を受けた。
中には空中騎士団の支援があったからこそ、作戦が成功したと言うことも何度かあった。
だが、味方の進撃を支えてくれた飛空挺は、今では西部に引っ込んでいる。東部には1機として見当たらない。
(もし、飛空挺の支援なしに、味方を進めたら・・・・・・・・・・・・)
彼はあることに思い至り、思わず目を覆ってしまった。
彼はその思いを忘れようと、手元にあった酒をがぶ飲みした。
その夜、ルーゲラー元帥は酔っ払いながら眠りに付いた。
50 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:38:49 [ D4VsWfLE ]
9月8日 午後9時 ファルグリン
ファルグリン南部にあるとある酒場、クライク。
この店は、相変わらず人が大勢入っており、売り上げも悪くは無い。
だが、店の雰囲気は以前と異なっていた。
以前は、仕事帰りの労働者などが集まり、日々の苦労をねぎらいながら談笑をし、酒を飲み交わしていた。
だが、今日はどこか静かである。話し声は聞こえるが、どの声も陰鬱そうなものだった。
「なんか、みんな元気がないですね。」
カウンターの前で、テーブルを吹いていた店主のオーエル・ネイルグは、給仕の中年の女性店員の声を聞いた。
「元気か。あの日からずーっと、こんな感じだな。」
ネイルグは、そう言って溜息をついた。
9月1日の異世界軍の空襲は、ネイルグも見ていた。
どこからともなく現れた異形の飛空挺が、いきなり要塞に爆弾の雨を降らせたのだ。
黒煙に包まれていく要塞を、ネイルグは信じられない気持ちで眺めていた。
ファルグリン要塞は、その大きさからバーマントの守護神のように語られてきた。
そのバーマントの軍事力のシンボルとも言えるファルグリン要塞が、わずか80機の大型飛空挺
によってとんでもない被害を受けたのである。
その後、ダム崩壊によって起きた鉄砲水によって、一部の穀物畑が甚大な損害を被り、
3日前から国民生活には欠かせなかったパンが、食卓から消えてしまった。向こう1ヶ月ほどは、このままだという。
それだけでなく、飲料水の20%をダムの水に頼っていたファルグリンは、ここ4日ほど水不足に悩まされた。
その水不足も、西の大河から取り寄せることでなんとかなった。
「あの空襲で、俺は何かが崩れ去ったような気がするんだな。」
「と、いいますと?」
51 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:41:03 [ D4VsWfLE ]
「ほら、このファルグリンって、一度も敵軍に攻められたことが無いだろう?恐らく、このファルグリンに
敵が見えないと言うことは、まだ敵に対してあまり苦戦していないという表れだったのかもしれない。
だが、この間の空襲で、敵軍の飛空挺は我が物顔に首都上空を飛び回り、やすやすと目的の施設に爆弾を叩き込んだ。」
「つまり、敵の軍隊は、自分達がこんなに遠くからでも襲うことが出来る、ということをあたし達国民に
知らしめようとした、ということですか?」
「その通りさ。」
ちなみに、9月1日の夕方の広報紙は、異世界軍のファルグリン空襲を報じたが、政府側はこのような文面を載せている。
「「不遜なる敵異世界軍は、汚らわしい作戦を立てた。それは、首都のかけがえの無い国民を狙った悪逆非道な無差別爆撃である。
だが、首都に飛来した敵の飛空挺は、ファルグリン要塞の威容に恐れをなし、この要塞と、近郊の軍事施設を爆撃した。
結果、要塞は甚大な損害を被ることになった。しかし、我々は懸命な反撃で、敵飛空挺を10機撃墜した。
残る敵はこれ以上の被害拡大を恐れ、尻尾を巻いて逃げていった。敵異世界軍とはいえ、最強ではないのである。
目下、軍上層部は、次なる敵の空襲に備えるため、対抗策を検討中である」」
その文面の下には、撃墜され、バラバラになった米軍機の写真が掲載され、翼の白い星がこれ見よがしに写っている。
この機体は、錬兵場空襲のさい、撃墜されたP−51であるが、このP−51は、被弾した後に火を噴きながら
建物に体当たりし、パイロット自らの命と引き換えにこれを爆破している。
文面の内容は、米軍側から見たら目を剥くような内容で、文の半分以上は嘘で散りばめられている。
大体、ファルグリン上空で撃墜された米軍機はP−51と、B−25の各1機、2機にすぎない。
あの空襲以来、ファルグリン市民の中にも、影ではあるが公国側の広報紙の内容を信じなくなったものが急増している。
このネイルグも、もはや広報紙は胡散臭いと思い始めている。
「第一な、サイフェルバンの戦闘に関しては相変わらず激戦中としか書かれていない。内容も2ヶ月前とさっぱり変わらん。」
52 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:42:02 [ D4VsWfLE ]
ネイルグは、一層、声のトーンを落として言った。
「まだ陥落していないはずのサイフェルバンが、既に敵の手に落ちたと考えたら、
9月1日の異世界軍の空襲も説明が付くんだよ。」
「ネイルグさんもそう思うのかい?あたしも前々から同じようなことを思ってはいるんだけど。」
彼女も、周りの変化を肌に感じている。
彼女の隣の家は、息子が第2空中騎士団に所属しているが、ここ最近全く文通がないと言う。
「あの子は、2週間に1回は必ず手紙をよこすのに、手紙を出せないほど軍の仕事が忙しくなっているのかしら。」
息子の母親は心配している。戦死したなら、すぐに戦死公報が届くのだが、それも届かない。全く音沙汰無しである。
「俺も似たようなことを客から聞いた。サイフェルバンの従兄弟から手紙の返事が来ないとか言っていたな。」
「これは・・・・・何か裏にあるんじゃない?私達に伝えたらとてもまずいことが。」
「敵軍の捕虜に対する待遇とかも怪しいぞ。」
広報紙では、驚くべきことにこれまで行ってきた捕虜や、軍が行ってきた、敵国国民に対する蛮行が全く掲載されていないのだ。
掲載しない理由は簡単。国民の対外政策の支持が得られなくなるからである。
「まあ、言えることはひとつ。この戦争は・・・・・・・」
ネイルグは、囁くようにしていった。
「負け始めているな。」
53 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:44:11 [ D4VsWfLE ]
同日 午後11時 ファルグリン郊外
納屋の中に、彼らはひっそりとたたずんでいた。そこに、戸を叩く音が聞こえた。
合言葉があっていることを確かめると、影の1人が入る許可を下した。
そこからフード帽の男が入ってくる。
「皆様、お久しぶりです。活動のほうはいかがですか?」
「うむ。こっちは新たに数人の同志を得た。いずれも、この戦いに疑問を持つものだ。」
フード帽の男、アートル中将が尋ねると、髭面の男は満足そうに応えた。
他のメンバーも似たようなことを報告してきた。
「あの空襲が、よっぽど応えたみたいね。」
女性メンバー、アートルの妹が何かをかみ締めるような表情で言う。
ファルグリンの空襲の報は、行商人や各種ギルドを伝って瞬く間に地方に波及した。
バーマント公国の住人達は恐れている。特に、サイフェルバンから1000キロ圏内にある規模の大きい都市では、
西のほうに住人が逃げ出していると言う報告が、2日前から首都に届いている。
それも2、3件ではない、20件、30件といった多さである。この数は今も増え続けている。
それに乗じるゆすりたかりも起き始めている有様だ。
「それはそうさ。なんと言っても、建国以来常に守り続けられた首都侵攻というタブーを、
敵さんはあっさりとやってのけたんだ。」
「そうだ。そして、その未知の敵の出現により、バーマント国民は皇帝を疑い始めている。
逆に言うと、これは我々にとって大きなチャンスでもある。」
髭面の男は、頬を紅潮させながらまくしたてる。
「あの30年前の戦争で、皇帝は常に疑心暗鬼になっている。しかし、あの皇帝にこの国はもう、任せてはおけぬ。
昔の古きよき時代、子供が笑って暮らせ、皇帝も穏やかな時代に戻さねばならない!」
54 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:46:45 [ D4VsWfLE ]
古きよき時代・・・・・・バーマントも昔は平和だったのだ。
あの血で手を染めるような、大陸統一戦争が続けられている今とは大きく違っていた。
各国との文化交流も盛んに行われ、他の国からはバーマントはとても穏やかな国、と言われたこともある。
昔の前皇帝、エルゲンス・バーマント皇はどんな飢饉に会おうとも、どんな国に攻め入れられても、
そして自分が死に伏す寸前になっても、こう言い続けた。
(穏やかで、そして強さに溢れたバーマント国民なら、どんな試練も乗り越えられる)
と。
だが、それも今では現皇帝のお陰で見る影も無い。
「諸君、我らは前皇帝陛下の言葉を忘れてはいないであろう。今は未曾有の軍勢に攻め入れられているが、話の分からぬ相手ではない。
あの異世界軍は、確かに不意打ちを食らわせてきたが、あれは、いずれ私達はこのようになる。そうなる前にもどうしても戦いを
やめて欲しいという言葉が込められた攻撃だった。」
「そうです!あのララスクリス、クロイッチの惨状を見る限り、実力の差は歴然でした。
あの後の交渉を引き受けておれば・・・・・・・・それをたかだか10万程度の軍勢と見誤ったばかりに・・・・・」
彼らは、一度、米軍側が交渉の席を設けようとした事を知っていた。
だが、度重なる侵攻遅延に理性的な判断の出来なくなっていた皇帝は、交渉の席に着こうとしなかった。
そればかりか、みせしめとしてヴァルレキュアの王都ロイレルを、飛空挺部隊の空襲で焼き払おうとしている。
交渉を蹴った代償は大きかった。
ララスクリス、クロイッチの第1回空襲が終わった後、米軍は7月にその両都市を攻めると思い込ませて、
いきなりサイフェルバンに侵攻してきた。
そして幾多もの艦艇、航空機、そして人員がサイフェルバンに散っていった。
その消耗振りは凄まじかった。
サイフェルバンの味方軍を、飢えた猛獣のごとく喰らい尽くした米軍は、今やバーマントの首都を射程に収めた。
そして今日もまた、大型飛空挺の爆撃により、内陸の都市がまた1つ、燃えた。
55 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/04/27(木) 10:47:31 [ D4VsWfLE ]
「皇帝陛下は、東方軍集団に攻撃を命令されました。」
・・・・・・・・・・・・・・・
もはや誰も言葉が出なかった。
恐らく、飛空挺の支援の無い東方軍集団は、非常に苦しい戦いを余儀なくされるだろう。
ああ、なんたることか・・・・・・・
髭面はそう思うと、頭を抱えた。
「もう、時間は無い。」
髭面は顔を上げると、皆を見回した。
「諸君、これ以上不要な犠牲が出る前に、この国を正しい道に進ませねばならない。
革命の準備は、着々と進みつつある。だが、これからも、活動はいつもの通り、焦らず、慎重にやってもらいたい。」
髭面が手を前に差し出す。意図を察したメンバーは、自分の片腕も前に差し出した。
「諸君、国民は知りつつある。そして、国民は望みつつある。
その望みに、我らは応えていこう。バーマントのよき未来のために!」
「「バーマントのよき未来のために!!」」
彼らは決意をあらわに、その言葉を唱和した。
63 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:43:27 [ D4VsWfLE ]
9月8日 午前10時 サイフェルバン西12キロ地点
サイフェルバンから西10キロは広大な草原が続いている。
その光景はとても良く、所々に小高い丘が聳え立っている。
古くから旅で疲れた旅人や、行商人は広大な草原を見ながら、体を休めていた。
そこから西には、広大な森林があり、どんな季節にもかかわらず森林の中はひんやりとした空気に包まれている。
夜中はかなり冷え込むが、昼間は気温も上がるため、それほど寒くは無い。
しかし、森林の外から入ってくると、やはり少々肌寒く感じた。
その森の中にある、とある村。この村には、合計で数百は下らないバーマント軍の軍勢が集結していた。
この森林はエイレーンの森と呼ばれ、古くからエルフが住んでいた森として知られている。
エイレーンの森は、北はサイフェルバンから600キロ離れたフレンスボルクから、
南は300キロ離れたアルイーゼと呼ばれた地域まで繋がっている、とても広大な森林である。
その広大な森の主であったエルフ、ダークエルフはバーマント軍によって叩き出され、今ではヴァルレキュアに逃れている有様である。
このエルフの住んでいた森の中の村や町は、今ではバーマント軍にとっての格好の軍事施設に改造されている。
そのバーマント軍が居座っている村を、ひっそりと見守るいくつかの人影があった。
「こちらブラックウィード、数時間前からバーマント軍が集結しつつある。数は2個大隊以上。」
「こちらマリーンリーダー了解。ブラックウィードは引き続き、敵の監視にあたれ。無理と判断した場合にはすぐさま撤退せよ。」
「こちらブラックウィード、了解。」
偵察チーム、ブラックウィードのリーダーであるウィリアム・ワシントン大尉は受話器を戻した。
64 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:45:23 [ D4VsWfLE ]
「オブザーバーさん、これを見てどう思う?」
オブザーバーである、ダークエルフのフランチェスカ・ラークソンはしぶい表情で言った。
「これは、恐らく侵攻準備ですね。先ほどから敵兵の数が徐々に増えてきています。」
「俺も同感だ。」
「それに、バーマント軍の武器は、見た限り、銃器ばかりです。腰には長剣を吊っていますが、あれは白兵戦用です。」
「となると、バーマント軍はいよいよサイフェルバンに侵攻してくるな。」
ワシントン大尉はそう言うと、軽く舌打ちをする。
ワシントン大尉は、第4海兵師団の第25海兵連隊に所属していたが、
2週間前にワシントン大尉は、連隊長に呼ばれて、西側の森の偵察を命じられた。
バーマント軍は、米軍の空襲を恐れているのか、森林とサイフェルバンの間、
12キロ地帯には全く部隊を置かなくなった。
また、米軍もこの地帯には軍をおかず、この12キロの草原地帯が一種の境界線の役割を果たしていた。
1ヶ月ほどの静寂が続いた9月1日、米軍が放ったスパイからバーマント軍の不審な動きを掴んだと、
報告が入った。
米軍は直ちに偵察隊を増やし、第4海兵師団だけで70名もの兵員を偵察隊として派遣した。
偵察隊は9人の将兵と、1人のエルフ、又はダークエルフを伴って出動し、
9月6日からバーマント軍の基地と化した村落の偵察を開始した。
エルフ、ダークエルフは森の生活に長けており、長年狩猟や、戦などを経験しているものがかなり多かった。
そこで米軍側は、戦場オブザーバーの中からエルフ、ダークエルフを探し出し、彼らの許可を得た後に偵察チームとして組んだ。
偵察チームとオブザーバーは、これまでの戦場でよく顔をあわせていたため、混乱などは起こらなかった。
今のところ、どのチームも無事で、刻々と司令部に情報を伝えつつある。
これにより、米軍側はバーマント軍の一大反撃作戦が近いと確信していた。
65 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:46:13 [ D4VsWfLE ]
「大尉、そろそろ下がったほうがいいですぜ。」
毛むくじゃらの軍曹、ホットニー軍曹が注意を促した。敵の兵も馬鹿ではない。
空襲を恐れて、森林地帯に集結するぐらいである。
敵としてもなるべく、部隊の位置を探られまいと、何らかの対応を行うはずだ。
「そうだな。他のチームも、敵の情報を充分に送った頃だ。引き揚げるとするか。」
これまで2日間、彼らは危険な偵察任務を行ってきた。
昨日は敵の巡回兵に危うく見つかりかけ、なんとか難を逃れたことがあった。
その時ばかりは、全員が肝を冷やしている。
だが、この2日間に報告した情報は、確かに有意義なものだった。
バーマント側の反攻作戦は、開始直前になって米側に察知されることになる。
引き揚げ始めて7時間半あまり、時刻は午後の5時を過ぎていた。
ワシントン大尉のチームは一列になって、周囲を警戒しながら森を進んでいた。
ふと、フランチェスカがワシントン大尉の袖を引っ張った。
「どうした?」
フランチェスカは真剣な表情で、彼に伝えた。
「何かに見られている感じがします。」
「本当か?」
「はい。10分前から異様な気配が、後ろからします。」
「どうする?」
「これからいいますから、よく」
フランチェスカは最後まで言おうとしたその時、後ろと右側方から強烈な殺気を感じた。
「全員伏せて!!」
すかさず彼女はそう叫んだ。彼女の声に反応した海兵隊員はすかさずその場に伏せた。
その瞬間、バシィッ!という電撃が走る音が聞こえ、その直後にパーン!という何かの破裂音が聞こえた。
66 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:47:46 [ D4VsWfLE ]
木屑が辺りに飛び散った。
弾けとんだ太い枝が、海兵隊員のすぐ側に落ち、その海兵を仰天させる。
「一体なんだ!?」
ワシントン大尉は思わず喚いた。この偵察作戦が始まって初めての襲撃である。
「敵のようです!」
フランチェスカは即答した。その時、後ろから猛然と走りよってくる人影があった。
その人影は、黒い服装に身を包んだ男だった。
それも速いスピードだ。
海兵達がすかさず銃を向けようとするが、
(間に合わない!)
フランチェスカは、後ろの敵のスピードのほうが速いと確信した。
そうと決まったときには体が動いていた。
すぐに起き上がった彼女は、敵に近付きながら腰に吊ってある刃渡り24センチのナイフを抜いた。
黒服の敵が横薙ぎに剣を振るう。
胴体を一気に両断しかねない凄まじい剣撃だが、彼女はさっと屈伸の要領で下がり、剣撃を交わす。
その後、すぐにナイフで右わき腹を切りつけようとする。
敵も去るもので、開いた左手を使って、向かってくるナイフを持つ手を押さえた。
次の瞬間、腕を押さえられた彼女が跳躍した、と思った直後に下から繰り出された横蹴りが敵兵の肩にぶち当たる。
物凄い勢いで繰り出された蹴りに、敵はよろけた。
油断したのか、一瞬フランチェスカは敵に後ろをみせる格好になった。
経験を積んでいると見られる敵兵は、それを見逃さなかった。
すかさず右手の長剣で彼女を串刺しにしようと、肩の痛みに耐えながら長剣を突き出した。
しかし、その敵兵の顔面に何かがよぎる、と思わせられた時、彼女の後ろ回し蹴りが顔に叩き込まれていた。
67 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:50:42 [ D4VsWfLE ]
この時、攻撃を諦めていなかった彼女は、わざと背を見せた後にいきなり姿勢を前にかがめて腰を振り、
強烈な左回し蹴りをお見舞いした。その時の彼女の姿勢は、傍目から見ても綺麗に斜め一直線に伸びていた。
ガシ!という音と共に、敵兵は大きく後ろに仰け反った。
敵兵の闘志は見事なもので、先の強烈な回し蹴りを受けてもまだ倒れない。
逆に話していない長剣を振りかざして切り付けてくる。
だが、先とは違って敵の動きは鈍かった。
フランチェスカは敵の剣撃を避けると、右の頬に左の拳を叩きつけ、よろけた隙に足払いを食らわせて、
敵兵をうつ伏せに倒した。
それでも起き上がろうとする敵兵に、持っていたナイフを心臓の位置に突き刺した。
黒ずくめの敵兵は、うっ、と唸るとそのままうずくまり、次第に力が抜けていった。
時間にしてわずか1分ほどである。
もう1人の敵兵は、パートナーがやられる様を見て、15メートルまで迫っていたのに途中で引き返し、逃げ始めた。
だが、その姿を確認した海兵隊員によって背後から銃撃を浴びて戦死した。
「こいつらは一体なんなんだ?」
起き上がったワシントン大尉は、うつ伏せの死体を見つめながら彼女に問うた。
「この敵兵は、バーマント軍の特殊部隊の兵です。暗殺術、諜報術にすぐれ、私達のような偵察チームを追跡する任務も行っています。
普通のヴァルレキュア兵では、彼らの熟達した体術についてこられずにやられる場合が多いです。」
「だが、君はあっさりと倒したじゃないか。それほど強そうには見えんな」
「いえ、今日はまぐれです。こういう敵に対しては、常に先手先手を取ることが必要です。でも、今日のようにうまく言ったのは初めてですね。」
フランチェスカは、荒れた息遣いを抑えながらそう言った。
彼女は布で、愛用のナイフについた血を拭き取っている。
ふと、彼女の左頬に切り傷があり、うっすらと血が流れていた。しかし、フランチェスカは気に留めていない。
「それでも、君の行動は見事だったよ。」
ワシントン大尉は、彼女の方をポンッと叩いた。
68 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:52:12 [ D4VsWfLE ]
9月9日 午後8時 サイフェルバン
第5水陸両用軍団司令官であるホーランド・スミス中将は、渋い表情を浮かべながら作戦地図を睨んでいた。
作戦地図にはサイフェルバンの東の端と草原地帯、そして森林地帯が描かれている。
この地図は、オブザーバーの協力のもと、1週間ほどをかけて作られたものである。
その地図上に赤い駒と青い駒が置かれている。
青い駒には、サイフェルバン西端に配置されている第3海兵師団と、第4海兵師団、陸軍第27歩兵師団の駒が置かれている。
それに対峙するように、森林地帯にはバーマント軍の赤い駒が置かれている。
ちなみに大きな駒は1個師団を表している。米軍側は3個。
バーマント側は、なんと9個がそれぞれ距離を置いた場所に置かれている。
バーマント軍の駒は、ここ数日間の偵察で確認したその地域の敵戦力を統合した数を表したものだが、それでも米軍の数を上回っている。
参謀長であるハリー・シュミット少将がスミスに向けて言い始めていた。
「軍団長、偵察隊がこれまでに確認した敵勢力は、少なめに見積もっても8万〜9万はいます。
それに、その位置は、3つの地域に固まっています。サイフェルバンより南西側、西側、北西側、
それぞれが距離3〜6キロの間隔で布陣しています。この部隊は1週間前まではいませんでした。」
「それが、ここ1週間で敵兵力が爆発的に増えた、か。」
スミスは腕を組んで唸った。
「提案します。このサイフェルバンには陸軍航空隊、海兵隊航空隊の航空機がおります。
その航空機で、森の中の敵兵を一気に叩くのです。」
「いや、それは難しいと思います。」
69 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:54:06 [ D4VsWfLE ]
この時、他の声がシュミットの意見に待ったをかけた。
それは、数日前に第5水陸両用軍団のオブザーバーに赴任した、ローグ・リンデルの声だった。
「確かに、航空機の爆弾で被害を与えることは可能です。しかし、エイレーンの森林は、
木々が暑く生い茂っており、また木自体も燃えにくい材質になっています。
5年前にエルフ族の狩り出しをバーマント軍が行った際、ワイバーン・ロード、
今では完全に退役した飛竜ですが、それを使った爆撃がありました。
その際、20発ほどの焼夷弾が森に投下されましたが、火は大して燃え広がらず、
5時間ほどで鎮火したようです。」
「と、言うことは、敵を草原地帯に引っ張り出してから叩くしかないのか。」
思わず、スミスは唸る。
「いくらなんでも、正気ではない。草原地帯に出張っていけば、多大な被害を出すのは分かると
思うのだが、バーマント軍の指揮官には冷静な判断能力が欠けているのか?」
スミスは、攻撃軍である東方軍集団が、皇帝に急かされていることを知らない。
もしも知っていたら、スミスはその場で罵詈雑言を撒き散らしていただろう。
しばらく考え抜いた末に、スミスはあることを考えた。
「こうしてはどうかな。まず、前線配備の第3、第4海兵師団、陸軍第27歩兵師団を
2キロほど草原地帯に前進させる。敵は我々が会戦を企図していると思って、
この3方向から一気に出てくるだろう。そして、大方の数が草原地帯に出張ったところで、
一斉に航空攻撃をかけ、雌雄を決する。」
スミスは指揮棒で3つの丸を描きながら、皆にそう説明した。
「この作戦はリスクが大きい。もし間違えれば、こちらが敵に包囲される恐れがある。
だが、敵は大軍だ。頭を使えば、勝てない相手ではない。私の考えとしては以上だ。」
スミスは、他に考えは無いか?と言って周りを見回した。幕僚達は誰もが黙っている。
実際、スミスのやり方のほうが、リスクはあるが見返りは大きい。
それに、こっちが一向に引っ込んだままであれば、相手も森林地帯から出てこない、という事も考えられる。
彼我の実力差をハッキリさせるためには、なるべく、大きな損害を今一度、敵に与える必要がある。
「では、防衛作戦に関しては、このやり方でやって行きたいと思う。それでいいかね?」
スミスがそう言うと、皆は納得したように頷いた。
70 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:55:32 [ D4VsWfLE ]
9月9日 午前7時
サイフェルバン北部にあるバーネガット飛行場。この飛行場が、にわかに喧騒さを増してきた。
エンジンの始動音が響き、轟音が飛行場に響き渡った。
海兵隊第121航空隊のF4Uコルセア戦闘機60機は、
緊急出動の命令を受けて、今しも飛行場から飛び立とうとしていた。
この20分前の午前6時40分、森林地帯から東3キロ方面を、進軍する大軍団を発見したとの報告が入った。
その報告を受けた各航空隊はすぐさま、航空機を発進させることにした。
その先駆けとなるのが、海兵隊のコルセア戦闘機隊であった。
アメリカ軍3個師団は、予定通り2キロ先に、ゆっくりと進軍中で、まもなく目標地点に到達する見込みである。
作戦の内容はこうである。まず、各航空隊ごとに大規模な航空攻撃を加えた後、
3個師団の後方で待機していたロングトム重砲や榴弾砲の一斉砲撃で敵をさらに弱める。
そして、敵に大損害を与えた後に3個師団がこのバーマント軍を包囲、殲滅する。というものである。
飛行場から次々に飛び立っていったコルセアの編隊は、中隊ごとに西に向かっていった。
第121航空隊の第1中隊は、午前7時15分に草原地帯に到達した。
米軍3個師団の西の向こうには、地を埋め尽くさんばかりのバーマント地上軍の大軍があった。
71 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:56:52 [ D4VsWfLE ]
「こちらマックリー1、バーマント地上軍を確認した。現在高度1500、これより攻撃に移る。」
第1中隊の隊長であるスティーブン・クラーク少佐は無線機に向けてそう言った。
コルセア12機は、しばらく進んだ後、翼を翻してバーマント軍の大部隊めがけて突っ込んでいった。
この時、バーマント軍の前衛部隊から、何か巨大な人形のようなものが、速いスピードで米軍陣地に向かっているのが見えた。
「マックリーリーダーより、敵は何か人形のようなものを走らせている。第1中隊はこの不審なものを攻撃する!」
彼は知らなかったが、その人形はバーマント軍が保有する、陣地突破用のストーンゴーレムであった。
コルセアは2機ずつに分かれると、大量に放たれたストーンゴーレムに向かっていった。
体格は3メートルはあろうという巨大な石の人形が、時速20キロはあろうかというスピードで草原を疾走している。
数はざっと見ても60以上はいる。
「バーマント軍の奴らは、あの巨大な人形を陣地に突っ込ませ、味方を混乱させるつもりだな。」
クラーク少佐はそう呟いた。コルセアは670キロの猛スピードで、ストーンゴーレムの背後上空に迫っていた。
照準機に、そのごつごつした体が、徐々に大きくなってきた。
「だが、俺たちがそうはさせん!!」
距離が800メートルまで迫ったとき、少佐は発射ボタンを押した。
ダダダダダダダダ!というリズミカルな音と共に、両翼の12.7ミリ機銃6丁が吼えた。
無数の機銃弾が、ミシンを縫うように草原を駆け抜け、ストーンゴーレムに突き刺さった。
最初の命中弾は、頑丈なゴーレムの体に当たって砕け散るだけであった。
だが、銃弾の嵐は止まない。2連射、3連射と、6丁の12.7ミリ高速弾を無数に浴びては、
さしもの屈強なゴーレムといえど、耐え切れぬはずが無い。
次第に背中の窪みが深くなり、そこに新たな12.7ミリ機銃弾が容赦なく突っ込んでくる。
72 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:58:29 [ D4VsWfLE ]
1発1発の威力ではどうしようもないが、無数に束ねられて発射された機銃弾の前には、
さしものゴーレムもついに屈した。
300発もの機銃弾を一箇所に手中して受けたゴーレムは、そこから次第にひびが広がり、
次の瞬間、自分の自重に耐え切れずに胴体上部から崩落した。
第1中隊の中には、ゴーレムめがけて、搭載してきた500ポンド爆弾を叩きつけるコルセアもいる。
ゴレームに向けて投下された500ポンド爆弾は、惜しくも外れて後ろで着弾、炸裂した。
猛烈な轟音と爆風に煽られ、ゴーレムは前のめりに倒された。
起き上がろうとするゴーレムに、2機1組のコルセアが容赦なく、12.7ミリ機銃弾を叩きつける。
頭、胴、足と、万遍無く機銃弾が突き刺さる。
頭部に集中した機銃弾が炸裂し、頭が吹き飛んでしまった。
魔道師の魔法通信を、頭から受けて動いていたゴーレムは、その役目を果たすことなくただの石の塊に成り下がった。
コルセア群は、歩兵部隊などには目もくれずに、ひたすらゴーレムを襲撃した。
1体、また1体と、次々にゴーレムは倒れつつある。
気がつく頃には、60対以上はあったゴーレムは、今では30体しかいなかった。
コルセア群は機銃弾が無くなるまで、執拗にゴーレムを攻撃し続けた。
第1中隊が弾切れで引き返していく頃には、第2、第3中隊のコルセアがゴーレムに襲い掛かった。
24機のコルセアは、10分ほどで搭載した爆弾と、機銃弾を浴びせてゴーレムの第1波攻撃を完全に撃滅した。
機銃弾に余裕のあるコルセアと、戦場に到着した第4、第5中隊はバーマント軍に襲い掛かった。
73 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 10:59:59 [ D4VsWfLE ]
バーマント軍第8軍に属する前衛部隊の第89師団は、コルセアの編隊に襲われた。
第89師団は対空機関銃大隊を保有しており、3個中隊で編成されている。
1個中隊14丁、3個中隊42丁の機関銃がコルセアを迎え撃った。
第1中隊の3番機銃の11.2ミリ機銃を操作するレイックル騎士軍曹は、
味方に機銃弾を撃ち込みながら遠ざかろうとするコルセアめがけて引き金を引いた。
ガガガガガガガガ!という音を立てて機銃が振動し、銃弾がコルセアに飛んでいく。
曳光弾が何発か吸い込まれたが、コルセアは平気そうな態度で飛びぬけていく。
そして反転してまた向かってきた。
「なんて頑丈な奴なんだ!」
レイックル軍曹は忌々しげに喚いた。ドーン!という爆発音が背後から聞こえた。
コルセアが投下した爆弾が味方の中に落下、炸裂して、何人かのバーマント兵が吹き飛ばされた。
グオオオーー!というエンジンの唸り声を上げて、反転したコルセアがレックル軍曹めがけて飛んでくる。
その飛空挺は特徴のある姿をしていた。その極端に湾曲した主翼は、どこかまがまがしさを感じる。
まるで悪魔の化身のようだ。レイックルはそう思いながらも、引き金を引いた。
振動と共に曳光弾が、コルセアに注がれる。
コルセアもまた、両翼からマズルフラッシュを焚いて無数の弾丸を叩きつけてきた。
「負けるか畜生!貴様と刺し違えてでも落としてやる!!」
彼は自分を鼓舞するようにそう喚くと、さらに引き金を引いた。一瞬、コルセアの翼とエンジンに曳光弾が吸い込まれたと思った。
その直後、ミシンを縫うようにして進んできた機銃弾の弾着が彼の体を薙ぎ払おうとした。
レイックルは、機銃弾の弾着に間があることを瞬時にみつけ、その間に入った。
か細い機銃弾が両方に3列ずつ突き刺さり、草と土を跳ね上げる。生きた心地がしなかった。
轟音が過ぎ去った後、レイックルは後ろを振り返った。彼と相対したコルセアは、機首部分から黒煙を吹き上げ、急激に高度を下げている。
そして右500メートルほどの草原に墜落した。ドカーン!という轟音と共に猛烈な爆炎が沸き起こった。
74 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 11:01:14 [ D4VsWfLE ]
第89師団がコルセアにたかられている頃、第2波のストーンゴーレム、100体が米軍陣地に向かっていた。
この時、グリンスウォルド飛行場を発進したP−47サンダーボルトの編隊と、
A−20ハボックの編隊が上空に現れた。
A−20ハボックと、サンダーボルトは、低空に降り立つとストーンゴーレムの集団に襲い掛かった。
2機1組で、ゴーレム1体を銃撃する。
たちまち数百発以上の高速弾を叩きつけられ、頭部が吹き飛び、胴体に大きな亀裂が走り、足が叩き壊されて転倒する。
中には500ポンド爆弾の直撃を受けて、上半身が木っ端微塵に吹き飛ばされたゴーレムもいた。
米軍陣地から5キロまで迫ったゴーレムは30体以上を数えた。
5キロ圏内に入った瞬間、後方の野砲陣地がついに火を噴いた。
M1ロングトム155ミリ榴弾砲、105ミリ榴弾砲、計100門以上が一斉に射撃を開始した。
数秒後、米軍陣地まで5キロを切ったストーンゴーレムの集団に、ドカドカと砲弾が落下してきた。
盛大な爆炎と土煙を吹き上げる。
無数の爆炎が吹き上がり、ストーンゴーレムの集団は完全に覆い隠されてしまった。
そこに新たな砲弾が叩きつけられ、一層その場の視界を悪くした。
3斉射ほど放ったところで榴弾砲群は砲撃を止めた。
300発以上の砲弾の集中砲撃を受けたストーンゴーレムの集団は、わずか12体のみが前進してくる。
残りのゴーレムは、猛烈な砲弾幕に絡め取られて破壊された。
その生き残りの12体にも、榴弾砲陣地から新たな斉射が加えられた。
一旦、煙が晴れかけた草原に、またもや猛烈な爆炎と土煙が立ち上がった。
75 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 11:02:23 [ D4VsWfLE ]
「どうする?わが第58任務部隊も艦載機を出したほうがいいと思うかね?」
第5艦隊旗艦、インディアナポリスの作戦室で、スプルーアンス大将は幕僚らに質問した。
偵察部隊の報告では、敵バーマント軍は、約10万以上の大兵力でサイフェルバンに向かっているという。
既に戦闘は始まっている。情報によれば、バーマント軍は巨大な石造りの人形、
レイムから聞いたところによれば、ストーンゴーレムと呼ばれるものだ。
それをバーマント軍はフル投入してきているという。
このストーンゴーレムは陣地突破用の兵器で、バーマント軍のほとんどの師団に装備されているという。
前回のサイフェルバン戦では、ゴーレムは全く現れなかったが、前回バーマント軍がゴーレムを投入できなかった理由は、
事前に破壊されたためである。
サイフェルバン侵攻前に、第58任務部隊は述べ1000機にも渡る執拗な航空攻撃を行っている。
その侵攻前の空襲時に、偶然巨大な格納庫らしき建物をエンタープライズの攻撃隊が発見し、爆弾と機銃掃射を仕掛けて破壊した。
この建物には、サイフェルバン方面軍のゴーレム180体が保管されていたが、
この建物に1000ポンド爆弾18発、500ポンド爆弾28発がぶち込まれた上に徹底した機銃掃射を受けて、完膚なきまで叩き潰された。
そのことから、サイフェルバンのバーマント軍はゴーレムを使った作戦が出来なかったのである。
76 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 11:03:19 [ D4VsWfLE ]
今回の防衛戦で、米軍は初めて生のゴーレムと相対しているのである。
現在、第58任務部隊は、全艦が沖に遊弋している。これは万が一の自体を避けるためである。
スプルーアンスの言葉に、兵站参謀のバートン・ビックス大佐が反論した。
「長官、現在我が第58任務部隊に用意されている爆弾はあと7会戦分しか残っておりません。
もし、この防衛戦で爆弾を消費したら、以降の作戦に大きな支障を来たします。」
あと7会戦分、という意味は、機動部隊の全母艦に爆弾を積んで、作戦行動を行える回数があと7回しかないという意味である。
この7回を過ぎれば、機動部隊は空襲作戦が出来なくなってしまう。
「爆弾が底をつけば、あとはろくに使っていない魚雷だけとなり、母艦群はただの浮かべる鉄の箱に成り下がります。」
「兵站参謀、私は何も反復攻撃を行うとは言っていない。私が言うには、まず、機動部隊の全艦爆、艦功に爆装を施し、
敵地上部隊の本陣を一気に叩き潰したいのだ。確かに敵軍は強大だ。だが、機動部隊の攻撃隊を、一度だけでも良いから、
海兵隊、陸軍の支援に当て、敵軍に大損害を与えたいのだ。」
「長官、攻撃は1度だけ、でよろしいのですか?」
ビッグス大佐は心配そうな顔つきで彼の顔を眺める。
「いや、1度では流石に効果は薄いだろう、念のために2度出す。」
スプルーアンスは意を決した表情で頷く。
「参謀長、レキシントンのミッチャー中将に電文を送れ。第58任務部隊はこれより地上部隊の支援を行われたし。
ただし、今回は弾薬の節約のため、艦載機1機につき出撃は2度のみ、以上だ」
デイビス少将は命令を復唱し、通信仕官に電文の内容を伝えて送らせた。
78 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 23:14:26 [ D4VsWfLE ]
サイフェルバン方面の地図のAA
ミ ミ │ ヽ 、
ミ ミ ミ 森林地帯 │ バーネガット飛行場 ヾ
ミ ミ ミ/ │ 。 ヽ
ミ ミ ミ │ ヽ
ミ ミ ミ │ 精油所丶
ミ ミ │9月始めまでの 。 ヽ
ミ ミ ミ │米軍進出線 ヽ
ミ ミ ミ │ ヽ
ミ ミ │ ヽ
ミ ミ │ サイフェルバン ノ
ミ ミ │ イ
ミ ミ │ 丿
ミ ミ │ ノ
ミ ミ │ グリンスウォルド飛行場 )
ミ ミ ヽ丶丶 。 ヽ
ミ ミ ヽ 丶( イ
ミ ミ ゝ ( 。 ソ
ミ ミ ヾ ゝヽ^丶 ヽヽ \
ミ ミ ヽ 丶 ヾ サイフェルバン港
ミ ゝ 丶丶丶丶ヽ 丶
丶γ
79 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/05/02(火) 23:18:22 [ D4VsWfLE ]
サイフェルバン防衛戦 戦況図 第3海兵師団○
-→バーマント軍第4軍
ストーンゴーレム突入部隊第1波 ーーーーーーー×(全滅)
---------------------→ <―海兵隊航空隊戦爆連合48機 第27歩兵師団○
-→バーマント軍第8軍<−−−−−海兵隊航空隊戦爆連合12機
ストーンゴーレム突入部隊第2波
---------------------------→ <陸軍航空隊戦爆連合70機
←
-→バーマント軍第12軍 ーーーーーーーーー×(全滅)← 第4海兵師団○
←後方陣地より砲撃