784  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:34:33  [  D4VsWfLE  ]
レーダーに映るバーマント艦がアイオワと並ぶように向きを変えた。
その艦影はうっすらとだが、確認できた。
照明弾に映し出されたその形は、意外にほっそりとして、スマートな形だった。艦橋はどことなく
ニューメキシコ級のような感がある。煙突は3つあり、砲塔は前部に2基、後部に2基背負い式に配置している。
「左主砲戦!距離17マイル、速力23ノット!目標、敵1番艦!」
リーは凛とした口調で次々に指示を与える。3つの巨大な16インチ砲塔が、敵艦に向けられる。
主砲が生き物のように仰角を上げられる。
(アイオワよ。お前の力を見せ付けてやれ。)
リーは心の中でそう呟いた。
「発射準備よし!」
「撃て!」
リーが命じた瞬間、各砲塔の1番砲が咆哮した。ズドオーン!という大音響が鳴り響き、戦艦特有の発射音が海面を轟かせた。
その時、回頭を終えた敵艦隊も一斉に撃ち始めた。
アイオワが各砲塔1門ずつの交互撃ち方とは違い、バーマント側はいきなり全門斉射である。
シュー!という砲弾特有のうなり声が聞こえた、と思った瞬間、それは通り過ぎて行った。
アイオワの右舷側の海面2000メートル付近に多数の水柱が上がった。
「照準が甘いな。」
リーはバーマント側の射撃に対してそう評価した。
「弾着、今!」
敵1番艦の左舷側に3本の水柱が立ち上がった。25秒後に2番砲が唸った。その5秒後に敵艦隊が第2斉射を放ってきた。
アイオワの第2弾は敵1番艦の左舷側に着弾した。敵の砲弾はまたアイオワを飛び越えていった。
3番砲が放たれた。第3弾はまたしても敵1番艦の左舷側に着弾したが、弾着は400メートル手前に迫っている。
「よし、いいぞ。その調子だ。」
リーは精度が上がっていることに満足した。敵艦隊の第3弾が、今度はアイオワの左舷側に海面に着弾し、高々と水柱を上げた。  


785  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:35:21  [  D4VsWfLE  ]
だが、距離は1500メートルとまだ大分離れている。
「これじゃ落第だな。」
リーは思わずそう呟いた。1番砲が再び咆哮した。
今度も弾着は敵1番艦の左舷側400メートル付近に落下した。
(あと1射か2射で夾叉が出るかも知れんな)
リーはそう思った。アイオワのレーダー射撃は大分精度を増している。現に弾着は敵艦に近寄りつつある。
アイオワの2番砲が火を噴いた。そして、弾着した。敵1番艦の左舷に1本、右舷に2本の水柱が立ち上がった。
「よし!夾叉を得たぞ!」
リー中将は満足げな口調でそう叫んだ。この時、敵の第4斉射がアイオワの右舷側海面に落下してきた。距離は約800メートル。
第1斉射に比べれば、少しだが良くなっている。敵も照準を修正しながら撃っているのだ。
「早めに敵艦を減らさんと、こっちが危ないな。」
艦長が双眼鏡を見ながらそう呟いた。
3番砲が咆哮した。右舷側に2本、左舷側に1本、先と変わらない。
だがもはや命中弾を出すのは時間の問題である。
そして25秒後、1番砲が再び咆哮した。
砲弾はまっしぐらに敵艦に向かっていき、そして待望の光景が目の前に現れた。
敵艦の左舷側に2本の水柱が高々と立ち上がり、次に敵艦の中央部から命中弾の閃光が走った。
この時、リーは思った。  


786  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:36:15  [  D4VsWfLE  ]
(もしかして、敵は魔法使いを乗せて防御の強化を図っているのでは?)
彼は第1次サイフェルバン沖海戦で起きた出来事を思い出した。
あの時はモービルとデンヴァーが敵の魔法防御によって何発かの砲弾が無力化されている。
危惧は現実となった。命中と共に閃光の中に薄い緑色の光が混じっていた。
「くそ!敵艦は魔法防御を施しているぞ!」
艦長がうめくように言う。だが、いくら魔法防御とはいえ、それを打ち破ることは可能だ。
「一斉撃ち方!」
頃合いよしと判断した艦長は、ついに9門斉射に踏み切った。
砲の修正のため、しばらくアイオワは沈黙した。
その間に敵艦の第5斉射が襲ってきた。第5斉射はアイオワの左舷500メートル付近に落下した。
合計で40本はある。
「あんなのをまともに食らったら、アイオワといえどもひとたまりもない。」
リー中将は眉をひそめた。水柱が崩れ落ちると同時に、斉射が放たれた。
バゴオオーーーン!!という先とは比べもにならない轟音と衝撃が、アイオワをゆさぶり、わずかながら右舷に傾いた。
敵1番艦の周りにドカドカと水柱が立ち上がり、その中に3つの閃光が走った。
「3弾命中!」
第1斉射から40秒後に第2斉射が放たれた。今度は2発が命中した。
そして命中の瞬間、何かの破片も一緒に舞い上がった。
「よし、魔法防御を打ち破ったぞ!どんどんいけ!」  


787  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:37:52  [  D4VsWfLE  ]
リー中将は興奮してそう叫んだ。と、その時、敵艦隊の砲弾が降ってきた。
そして着弾した時、6本の水柱が反対側の右舷に立ち上がった。
「いかんな、夾叉されたぞ。」
リー中将は眉をひそめてそう呟いた。とりあえず、B部隊が来るまでに持ちこたえねば。
B部隊はあと10分ほどで現場海域に到着すると言う。
その時、敵艦隊の前方からこれまで以上に早いスピードでアイオワの右舷に回り込もうとする艦がいた。
それも10隻以上もいる。
「まずい、ベータ艦隊だ!」
28ノット以上のスピードで飛び出してきたベータ艦隊は、あっという間にアイオワの右舷側に回り込もうとした。
照明弾を放って視界を明るくすると、距離10マイルで前部の14・3センチ砲を放ってきた。
「右舷両用砲、目標敵高速船1番、撃ち方始め!」
右舷の5基の連装砲が4秒おきに咆哮し、無数の5インチ砲弾を敵艦に叩きつける。
敵のベータ艦隊に砲撃を開始して2分が経過した。
両用砲弾4発が、立て続けに高速戦列艦に命中した。5インチ砲の猛烈な弾幕は、敵のベータ艦隊を寄せ付けなかったが、
リーが安堵しかけた次の瞬間、ガーン!という強い衝撃がアイオワを揺さぶった。
「敵弾被弾!左舷第1両用砲使用不能!」
バーマント重武装戦列艦が放った砲弾がついに命中したのである
。命中弾数は5発、そのうち4発はまとまって中央部に命中したが、いずれも分厚い装甲版を抜けなかった。
5発目が1番両用砲を叩き潰した。
だが、アイオワも負けてはいない、9門の長砲身16インチ砲が大音響と共に咆哮する。
3発が敵1番艦に叩きつけられた。そして敵1番艦が中央部から火災を起こした。  


788  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:39:21  [  D4VsWfLE  ]
「敵1番艦火災発生!」
「よし、いいぞ。その調子だ。」
アイオワは30から33ノットにスピードを上げて、バーマント艦隊の頭を抑えにかかった。
一方、右舷の両用砲と砲戦を行っていたベータ艦隊は、28ノットの猛スピードで通り過ぎていった。
この間、敵1番艦に8発、2番艦5発の5インチ砲弾が命中していた。
アイオワは12発の14・3センチ砲弾、6発の9センチ砲弾が命中し、40ミリ機銃座3基が破損したものの、
幸いにも両用砲は全て無事である。
33ノットの韋駄天ぶりを発揮し始めたアイオワは、3分後には敵1番艦の頭を抑えかけていた。
このため、バーマント艦隊は前部の砲しか撃てなくなっていた。
一方、アイオワは全門斉射を続け、合計で7発の16インチ砲弾が敵1番艦に叩きつけられていた。

バーマント第3艦隊司令官であるバーミワンム中将は、33ノットで頭を抑えようとするアイオワを睨みつけていた。
バーミワンム中将はヴァルレキュアと開戦する6ヶ月前にこのバーマントでも最も打撃力に勝る
第3艦隊の司令官に任命された。
任命されて当初は少将だったが、ヴァルレキュア戦では指揮下の第3艦隊を縦横無尽に操って数々の武勲を挙げた。
その功績によって4ヶ月前に中将に昇進した。
バーミワンム中将は、今回の出撃に関してはなんら不安も無かった。
第2艦隊の生き残りの証言を聞いても、
「このザイリン級の砲戦力には遠く及ぶまい。それに敵の警戒部隊はたったの10隻というではないか。
こっちは30隻以上はいる。10隻そこらの艦隊など、包囲して袋叩きにしてやる。」  


789  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:41:38  [  D4VsWfLE  ]
と息巻いている。それに彼は積極果敢な提督であるため、以前からサイフェルバンに艦隊を進めようと
思っていたが、海軍上層部は一向に許可を出さなかった。
だが、4日前にようやく出撃命令が出た時には、彼は大喜びした。
そしてこの日の午後3時に軍港を出撃したのである。
だが、彼の余裕は、1隻の戦艦によって完全に吹き飛んでしまった。
突如目の前に立ちはだかった敵艦隊は、それぞれ分離していき、ついにはザイリン級のネームシップ
であるザイリンとグラングス、エリーブ、グリルバン、ファルアットの5隻と、敵のやたらにどでかい
戦艦1隻のみとなっていた。
初め、照明弾に移された米戦艦を見た時、提督はその洗練された形に思わず見とれてしまった。
ほっそりしながらも、力強そうな印象を持ち、中央部には尖塔のような艦橋、そしてコンパクトに
まとめられた2本の煙突、そして3基の巨大な砲塔。
艦体の中央部にこれでもかとばかりに取り付けられた副砲群、どれもこれもこの次元の物ではない。
そしてその巨大さたるや、まるで化け物である。
そして砲撃戦が始まって既に20分、旗艦のザイリンは中央部に4発、後部に3発の命中弾を受けていた。
その1発1発がこれまでに経験したことのない凄まじい物だった。
この砲撃で3本の煙突のうちの1本が根元から叩き潰され、右舷の副砲6門は5門までもが破壊され、
後部の第3主砲は16インチ砲弾によって叩きのめされ、沈黙している。
魔法防御を施していた魔道師は、最初の4発の着弾ですぐに限界を来たし、
今や自らの装甲でなんとか持ちこたえている有様である。
高速艦部隊が、右舷側に回り込んで、無数の砲弾を浴びせたものの、米戦艦はそれでも応えずに、
バーマント艦列の行く手を遮ろうとしている。
「取り舵!取り舵いっぱい!」
艦長が叫ぶ。操舵係が必死の形相で舵を回す。
その間にも、米戦艦は砲撃を浴びせてきた。ヒューッ!という空気を切る音が極限に達した、と思ったとき、
ドドーン!というもの凄い衝撃がザイリンの艦体を揺さぶった。後続艦も負けじと前部のみの主砲を打ち返す。  


790  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:42:52  [  D4VsWfLE  ]
命中弾はザイリンの3番目の煙突を根元から吹き飛ばし、艦内で炸裂した。
「艦中央部の火災拡大!」
応急班の悲痛な報告が届く。このまま行けば、艦中枢の機関部もやられるかもしれない。
今のところ、奇跡的に機関室はまだやられていない。
だが、今後も機関室が無事だという保証は無い。
味方の弾着が敵戦艦の周囲で着弾した。3発の砲弾が前部砲塔、中央部、後部と満遍なく命中した。
その内、中央部からちろちろと火災のようなものも見えた。
だが、敵戦艦はスピードを全く緩めない。また新たな砲撃を放った。
今度は2発がザイリンの後部を叩き据えた。この被弾で、早くも後部砲塔は完全に使い物にならなくなった。
砲戦開始わずか21分でザイリンは50%の戦闘力を失ったのだ。
バーミワンム中将は敵艦が悪魔の化身のように見え、ぞっとした。
ザイリンや他の戦列艦も負けずに打ち返す。敵艦にも新たに4発が命中した。その時敵艦の中央部から別の閃光が走った。
目立った損傷の無かった敵艦から明らかに火災炎が吹き出ている。
「やったぞ!敵艦に手傷を負わせたんだ!」
この時、33.8センチ砲弾の1発が左舷2番両用砲を直撃した。砲弾が炸裂した際、
たまたま別の両用砲弾にも引火し、一気に10発以上の5インチ砲弾が誘爆したのである。
「どんどん撃ち込め!敵も所詮船だ、たらふくぶち込めばいずれ沈むぞ!!」
彼は小躍りしながらそう叫んだ。これに応えるかのようにザイリンの前部4門、
後続艦の主砲が次の砲弾をぶっ放す。  


791  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:44:03  [  D4VsWfLE  ]
だが、敵艦もだまれと言わんばかりに新たな砲撃を行った。そして、ついにザイリンに破局が訪れた。
突如ガガーン!という今までに感じたことのない衝撃を感じ、バーミワンム中将を含む艦橋要員、
いや、ザイリンの乗員全員が飛び上がった。
衝撃でバーミワンム中将は床に叩きつけられた。この時、アイオワが放った砲弾は、
3発がまとまって後部に命中した。
そして砲弾のパワーは、ザイリンの第4砲塔から10メートル後ろを引きちぎったのである。
後部のスクリュー部分を叩き割られたザイリンはガクッとスピードを落とし、惰性でノロノロとしか
前に進まなくなった。ザイリンが完全に停止するのもそのすぐ後だった。
ザイリンが最後に放った砲弾は、惜しくもアイオワの後部、スクリュー付近に着弾し、
水柱を上げたに過ぎなかった。

アイオワに新たな命中弾が襲った。今度は4発の砲弾が左舷にぶち当たった。
1発は後部の第3砲塔に命中したが跳ね飛ばされた。
2発は中央部に命中し、火災を一層ひどくさせた。1発は2つある煙突のうち、後ろのほうの根元に命中した。
この被弾で煙突は破片でずたずたに引き裂かれた。
アイオワが級にスピードを落とし始めた。今まで33ノットの快速で突っ走っていたアイオワだが、
いきなり減速を始めたのだ。
「どうしたのだ、艦長?」
リー中将は艦長に聞いたが、艦長も突然の事に理解できなかった。  


792  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:45:23  [  D4VsWfLE  ]
「敵1番艦大破!後部付近に大火災!!」
見張りの上ずった声が聞こえた。敵1番艦は、艦の後部から火災を発生させている。
双眼鏡でよく見ると後ろの一部が千切れてなくなっている。それに微かながらだが、
後部にやや傾いている。今は判断できないが、恐らく撃沈に近い損害を与えたに違いない。
それに急速にスピードを落としており、停止するのも時間の問題である。
「敵1番艦戦闘不能!」
艦長の言葉に、アイオワの艦内は沸き立った。初めての砲戦で敵戦艦を叩きのめしたのである。
これが異世界の軍艦であろうと、喜びは大きかった。
「浮かれるのはまだ早い!」
リーは荒々しく声を上げた。いつもは冷静沈着な彼には珍しかった。
「敵艦はまだ4隻いる!それにワシントンとサウスダコタはまだ到着してはいないぞ。
B部隊が来るまで気を抜くな!」
リーの声によって、喜びに満ちていた艦橋内は再び元の状態に戻った。そこに電話がかかってきた。
艦長は急いでそれに飛びつく。
すると、なぜか艦長の表情がみるみるうちに変わっていく。もしかして、この急な速度低下に関係があるのでは?
彼は思い立った。そして艦長が電話を置くと、リーに何事かを説明し始めた。
「閣下、先の被弾で、艦尾付近の至近弾がありましたが、実はその至近弾の影響で、
左舷側のスクリューが2基とも破損し、先ほどから1度も回転していないのです。」
「何だと!?」
リーは思わず絶句した。実はこの時、撃破されたザイリンの砲弾は、アイオワの艦尾にあるスクリューを痛めつけていたのだ。
爆圧によって捻じ曲げられた2つのスクリューは電器系統を断ち切られ、本来の活動を停止してしまった。
これにより、アイオワのスピードは一気に22ノットまで低下したのである。
「起きてしまったことは仕方がない。速度が低下せれども、こっちにはまだ9門の16インチ砲があるんだ。
やれるだけやってみるぞ。」  


793  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:46:45  [  D4VsWfLE  ]
アイオワがバーマント軍の5隻の大型艦相手に奮戦している間、重巡洋艦のウィチタとキャンベラ、
軽巡洋艦ホノルルもまた、不利な戦いを強いられていた。
本来ならば、軽巡オークランド率いる水雷戦隊がバーマント軍の小型戦列艦を叩きのめして、
6隻の中型戦列艦を相手にするはずだったが、12隻の小型戦列艦はなかなか侮れなかった。
最初の距離4000での魚雷攻撃で2隻の敵艦を撃沈したが、敵もさるもので集中射撃で
駆逐艦セルフブリッジが避退中に敵弾7発を受け、速度が低下したところに集中射撃を受けて大破した。
米水雷戦隊は再び反転してセルフブリッジを叩きのめした小型戦列艦相手に真っ向から向き合い、
激しく打ち合った。
米艦艇の中では、一番オークランドの射撃が凄まじかった。5インチ連装砲を前部に3基、
後部に3基、計12門の集中射撃は、あっという間に1隻の小型戦列艦を叩きのめし、1隻を撃沈した。
バーマント側も負けていない。
彼らも数にものを言わせた集中射撃で駆逐艦ベネットを撃沈した。
そして両者の殴り合いは今でも続いている。
こうした中、重巡ウィチタとキャンベラ、軽巡ホノルルは、最初は有利に戦いを進めていた。
バーマント軍の中型戦列艦は、17センチ連装砲を4基積んでおり、これまでの軍艦と同じように
前部に2基、後部に2基ずつ背負い式に配備し、米巡洋艦に向けて猛射していたが、
ウィチタ、キャンベラ、ホノルルは、5インチ砲が届く距離12マイルまで接近し、猛射を浴びせた。
最初は主砲のみの交互撃ち方で砲撃し、直撃弾が出ると、5インチ砲も交えた全門斉射に切り替えた。
バーマント側はこれまた同じように魔法防御で対応したが、わずか5分ほどで魔法防御は打ち破られ、
みるみるうちに被弾数が増え始めた。  


794  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:47:59  [  D4VsWfLE  ]
砲戦開始から12分後にまず、敵の1番艦がウィチタによって全砲塔を叩き潰され、落伍した。
次いで2番艦がキャンベラの砲撃で爆発轟沈し、3番艦がホノルルの砲弾に艦橋を直撃され、
戦闘不能に陥った。
この時、米側の被害はウィチタが被弾7発で5インチ砲1門喪失、キャンベラが被弾5発で
前部の20センチ砲塔1基使用不能、ホノルルが被弾12発で前部6インチ砲塔1基が
使用不能となったが、まだまだ戦闘は可能である。
「これで勝ったぞ!」
ウィチタに司令部を置く、デイビット・バーケ少将は勝利を確信した。
だが、右舷側の別の標的に狙いをつけようとした瞬間、左舷側から別の艦隊が現れた。
それはアイオワを砲撃したが、たちまち追い払われた敵のベータ艦隊であった。
ベータ艦隊は、調子に乗って残りの中型戦列艦にT字を描こうとする3隻の後ろから追いすがってきた。
ベータ艦隊は距離9マイルに近づくや、3隻の一番後ろのホノルルに集中砲火を加えてきた。
たちまち多数の14・3センチ砲弾を叩き込まれたホノルルは、速度が低下し、23ノットにまで落ちた。
そこに手負いの獲物を狙うハイエナのごとく、8隻の小型高速戦列艦が群がり、ホノルルを滅多打ちにしてしまった。
落伍したホノルルは、それでも奮戦した。
2隻の小型戦列艦を、生き残った前部の6インチ砲や5インチ砲の釣瓶撃ちで撃沈し、1隻を中破させたが、
ホノルル自身も実に58発の9センチ砲弾を受け、敵小型戦列艦がホノルルから離れたときには、
このブルックリン級軽巡は全砲塔を沈黙させ、左舷に傾斜し、力尽きたように停止していた。
残された2隻の重巡、ウィチタとキャンベラは、敵のベータ艦隊と生き残りの中型戦列艦の集中射撃を受け、
一気に不利な体制に陥った。
だが、ウィチタとキャンベラ自慢の8インチ砲や5インチ砲を乱射しながら、荒れ狂った鬼神のように戦い続けた。  


795  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:49:14  [  D4VsWfLE  ]
B部隊の戦艦サウスダコタ、ワシントンが砲戦に加わろうとしたとき、警戒部隊旗艦のアイオワは
敵の乱れうちにあっていた。
アイオワに砲戦を戦っている敵艦は3隻。いずれも200メートルはありそうな大型艦である。
そのずっと後方には2隻の軍艦が海面に停止し、激しく炎上している。
だが、アイオワ自身も左舷側がひどく損傷しており、既に5基の連装両用砲は破壊され、
大火災が起こっている。
砲撃を行っている砲も後部砲塔がなぜか沈黙している。砲撃を行っているのは前部だけである。
「アイオワが頑張っているが、かなりやばい状況だな。」
B部隊の指揮官であるサウスダコタ艦長のブルース・ウッドワード大佐は額に汗を浮かべながら
そう呟いた。海戦は3つの海域で行われている。
まずこの戦艦同士の海戦、次に巡洋艦同士の砲戦が行われているここから8マイル南西の海域、
そして軽巡オークランドが率いる水雷戦隊と小型戦列艦が戦っているここから12マイル離れた
西の海域。
ここで死闘が繰り広げられている。やがて、増援に向かった各部隊の指令艦から報告が入ってきた。
「こちら重巡ニューオーリンズ、敵巡洋艦部隊との交戦を開始せり、既に重巡キャンベラとホノルルが
大破、落伍せり。」
「こちら駆逐艦バターソン、敵艦と戦闘を開始、軽巡オークランド、駆逐艦バグリーが大破、落伍、
駆逐艦ベネットが沈没せり。」
各艦の通報から、A部隊がどれだけ苦しい戦いを迫られていたかがよく分かる。
「戦力分散のつけが一気に来たな。」
ウッドワード大佐はしかめっ面でそう呟いた。この時、急にアイオワが右に回頭し始めた。
もはや危険な状態になりつつあるのだろう。  


796  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:50:04  [  D4VsWfLE  ]
現に左舷側からもうもうと黒煙を噴出している。それにアイオワ自身のスピードもどことなく遅い。
彼らは知らなかったが、この時、撤退していくアイオワを見て、バーマント軍の3隻の重武装戦列艦
の乗員たちは、狂喜していた。
だが、彼らの喜びは続かなかった。先のどでかい戦艦よりは少々形は小さいが、それでも彼らの
艦より巨大な軍艦が、今度は2隻も現れたのだ。
2隻の大艦は戦列に入ってくるなりいきなり主砲をぶっ放してきた。
だが、3隻のバーマント艦もアイオワを大破させ、戦列から追い払ったため、士気は旺盛だった。
それに射撃の精度も増しているため、余計に始末が悪い。
「左主砲戦!サウスダコタ目標、敵3番艦!ワシントン目標、敵4番艦!」
ウッドワード大佐は、それぞれの目標を決めた。まず、サウスダコタは火災を上げつつも、
いまだに戦列に留まっている3番艦を狙うことにした。
「発射準備よし!」
「撃ち方始めぇ!」
各砲塔の1番砲が吼えた。その時、敵艦もサウスダコタ、ワシントンに向けて33・8センチ砲を放った。
20秒後に2番砲が撃つ。その時、風邪を切り裂く音が聞こえてきた。次の瞬間、サウスダコタの
左舷側1000メートルの海域に水柱が立ち上がった。
敵3番艦の右舷にはそれ以上の水柱が立ち上がった。
20秒後に3番砲が放たれる。その間に第2弾が落下した。位置は先とあまり変わらない位置だ。
敵バーマント艦は3番艦と4番艦がサウスダコタを、5番艦がワシントンを狙っている。
「ワシントンに1弾命中!」  


797  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:51:07  [  D4VsWfLE  ]
見張りの声が艦橋に響いた。ワシントンが先に敵弾を浴びてしまったのである。
だが、ワシントンの装甲は敵弾の貫通を許さなかった。
第3弾が敵艦の周囲に落下した。右舷側に2本、左舷側に1本、一気に夾叉を得た。
「ようし!いいぞ、その調子だ。」
その時、砲弾が落下してきた。3、4番艦の主砲、合計12門分の砲弾がサウスダコタの周囲に
ドカドカと落下してきた。ガーン!という衝撃が伝わり、35000トンの巨体は揺れ動いた。
敵弾はサウスダコタの左舷中央部に落下し、甲板上で炸裂した。
この被弾で40ミリ4連装機銃1基が叩き壊されたが、貫通しなかったので被害はそれだけである。
周囲の水柱が晴れるのを待ってから第4弾を放った。今度は敵艦を飛び越してしまった。
20秒後に第5弾が放たれた。第5弾は敵艦の周囲に落下し、再び夾叉を得た。そして次の第6弾で命中弾を得た。
敵艦の中央部にピカッと閃光が走り、中央部から猛烈な黒煙が噴出した。
「一斉撃ち方に切り替えろ!」
ウッドワード艦長はすかさずそう命令を発した。サウスダコタの主砲がしばらく鳴りを潜める。
サウスダコタが斉射を撃つ前に12発の敵弾が落下してきた。
3発がサウスダコタに命中した。1発は後部甲板の被装甲部に命中して第1甲板で炸裂し、
あたりをめちゃくちゃにぶち壊した。
2発は中央部に命中して5インチ砲1基を破壊したものの、分厚い装甲は貫けなかった。
「お返ししてやれ!」
サウスダコタの主砲が唸った。
16インチ砲9門の一斉射撃は物凄い轟音と共にサウスダコタ自身も揺さぶる。
そして距離14マイルの彼方にいる敵戦艦の周囲に、水柱が高々と上がった。そして命中弾の閃光も2つ確認した。
「2弾命中!」  


798  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:52:15  [  D4VsWfLE  ]
水柱が晴れると、敵3番艦の後部から猛烈な黒煙が吹き出ていた。そして敵艦が発砲してきた。
敵3番艦は前部2門の主砲しか使えなくなっていた。
1発がサウスダコタの後部第3砲塔に命中した。
だが、40センチ砲弾にでも耐えられるように作られた砲塔は、敵弾をあっさりと跳ね飛ばしてしまった。
「敵4番艦も大火災!」
ワシントンの砲撃を受けている敵4番艦も後部と中央部から火災を起こしている。
だが、敵艦隊のスピードは相変わらず23ノットをキープしている。
第2斉射が放たれた。砲弾は敵3番艦の中央部に1発命中し、度重なる被弾で悲鳴を上げていた艦体は、
ここにして限界に達した。
「敵3番艦は戦闘力を失いつつある。」
ウッドワード艦長は満足げに頷いた。太平洋戦線では日本艦載機の攻撃を受けたり、敵艦の集中砲火を浴びたりなど、
いい所を見せられなかったサウスダコタだが、ここに来て自身の持つ戦闘力を十二分に発揮できている。
その事が彼は嬉しかった。
その時、敵弾が落下してきた。そして着弾の瞬間、ズガーン!という耳を劈くような轟音が聞こえた。まさか、
「敵弾4、前部に落下!第2砲塔の電路切断!砲操作不能!」
不運なことに、4発の敵弾がまとまって全部に落下したことにより、衝撃で電路が切断してしまったのである。
「残りで砲撃を続ける!敵3番艦に止めを刺すぞ!」
彼の号令の元、第3斉射が放たれる。そして、その砲弾は2発が敵3番艦を打ち据えた。
次の瞬間、敵3番艦がぶれて見えたと思うと、いきなり中央部から大爆発を起こした。
中央部から真っ二つに割れた敵3番艦は、艦首と艦尾をせり立てて、5分も立たずに海面に引き込まれていった。
「敵3番艦、轟沈!続いて敵4番艦沈黙、速度落としています!」
バーマント軍と米軍の態勢が逆転した瞬間だった。  


799  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:54:56  [  D4VsWfLE  ]
午後9時30分、海戦は終わった。
敵重武装戦列艦の4番艦が戦闘能力を失った後、サウスダコタとワシントンは、逃げる敵5番艦を
追い越して7マイルの距離から16インチ砲を多数叩きつけて撃沈した。
この初めての激戦で、米海軍は軽巡洋艦ホノルル、駆逐艦ベネット、セルフブリッジ、
モンセイを失い、戦艦アイオワ、重巡洋艦ウィチタ、軽巡洋艦オークランド、駆逐艦モンセイが大破し、
戦艦サウスダコタ、重巡キャンベラ、軽巡モントピーリア、駆逐艦ヤーノールが中破し、
戦艦ワシントン、重巡洋艦ニューオーリンズが小破した。
これまでの戦いで、一気に4隻もの沈没艦が出たのは始めてである。
一方、健闘したバーマント第3艦隊はもっと悲惨だった。
米艦隊に立ち向かった事は確かに良かったが、性能の差はやはり埋められなかった。
重武装戦列艦5隻は全て撃沈されるか、降伏し、中型戦列艦6隻のうち、4隻が沈められ、2隻が大破している。
小型戦列艦は12隻全て失われ、3隻高速戦列艦は2隻、高速小型艦は6隻を失った。
残りの艦艇は、よろけるようにして母港へと帰っていった。
この海戦は、比較的沿岸に近い海域で行われたため、付近の住民は何事かと、
無数に明滅する海面にずっと見入っていた。
この海戦は後に第3次サイフェルバン沖海戦と呼ばれた。  


825  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:27:52  [  D4VsWfLE  ]
大陸暦1098年  7月19日  午後10時30分  サイフェルバン
海戦中、戦闘海域より南200マイルの地点で遊弋していた第58任務部隊は、迎撃部隊
とバーマント第3艦隊との決戦を艦内のスピーカーで聞いていた。
第58任務部隊旗艦レキシントンの艦橋にも、無線通信から送られてくる生々しい戦闘状況
が伝えられた。
オブザーバーであるリリア・フレイド魔道師も、艦長にすすめられて、艦橋でラジオに聞き
入っていた。
海戦が始まる前に、リリアは機動部隊の幕僚達にバーマント第3艦隊の大体の編成を聞かせた。
「フレイド君、バーマント第3艦隊は、ヴァルレキュア戦の開戦時期から派手に暴れまわって
いたようだな。」
ミッチャー中将が聞いてきた。
「はい。第3艦隊はバーマントでも最も優秀かつ、戦力の大きい部隊で、従来艦でも20隻以上、
新型艦も含まれているとすれば30隻ほどになりますね。」
「そうか・・・・・迎撃部隊にはアイオワとサウスダコタ、ワシントンの3戦艦も含まれている
から何とかなると思うが、同数で戦った前回の海戦でもモービルとデンヴァーが大破させられたからな。
リー中将は少々苦しい戦いを強いられるかも知れんな。」
ミッチャーは不安げな表情を浮かべて心配する。
リリアの脳裏に、学者肌の風貌を持つウイリス・リー中将が思い浮かんだ。
「でも、リー中将はこの艦隊の中でも最も戦艦の扱いに長けた提督でしょうから、大丈夫だと思いますよ。
それに数は22隻しかいないにしても、この時代とは別次元の軍艦ばかりですし、きっと大丈夫ですよ。」  


826  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:29:19  [  D4VsWfLE  ]
彼女はミッチャーにそう言って勇気付けようとした。その言葉を受けたミッチャーは、彼女に
微笑んだ。
「艦隊決戦ですか。ある意味、私としては羨ましい限りですな。」
参謀長のアーレイ・バーク大佐が腕を撫しながらそう言ってきた。彼自身、元は水雷出身である。
駆逐艦を率いて、精鋭日本海軍水雷戦隊と戦った時期を思い出すのだろう。
「ハハハハ。31ノットバークらしい言葉だな。」
ミッチャーは笑いながらそう言った。

それから次々と無線の内容が入り始めた。戦況は意外なことに激戦の模様を呈していた。
敵艦を撃沈、撃破した時は歓声が上がったが、味方艦が沈没、大破した時は沈んだ気持ちになった。
そして戦いの結果は、
「撃沈、戦艦(重武装戦列艦)3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻。撃破、戦艦2隻、巡洋艦2隻」
この報告を聞いた艦隊の将兵は喜んだ。だが、味方の被害を聞くと、その被害の多さに息を呑んだ。
それも当然である。
敵艦隊をほぼ全滅させたはいいが、米海軍の被害も、軽巡1隻、駆逐艦3隻沈没。
戦艦1、重巡、軽巡、駆逐艦各1大破、戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦格1中破、戦艦1、重巡1小破と、
この世界に来て最大級の被害を受けた。
この海戦がいかに激戦であったか。それを物語るのが、この損害報告であった。
「フレイド君、やはり精鋭艦隊の名はウソではなかったようだな。」
ミッチャー中将は、無表情でリリアにそう言った。
「だが、劣勢の艦隊で、30隻以上の大艦隊を食い止め、逆に撃滅したことはめったに無いことだ。
沈没した艦の乗員には悪いが、むしろ被害はこれだけに抑えられて正解だったと私は思う。」
バークは怪訝な表情を浮かべた。
「正解ですか・・・・・私には少々納得できませんが。私的には分散行動を取ったのは、いけないと
思うのですが。」
「後方にいた我々があれこれ言ったって仕方がないよ。多くの損傷艦が出たのは痛いが、
虎の子の敵艦隊を撃滅したんだ。そこの部分は、両手を上げて喜んでいいのではないかな。」
ミッチャーは苦笑しながら、バークに言った。  


827  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:30:34  [  D4VsWfLE  ]
7月19日、午前7時  サイフェルバン沖
作戦室に入ってきたスプルーアンスは、幕僚達に朝の挨拶を行った。
「さて、昨日の海戦の詳細は?」
まず、彼は昨日の海戦の続報を幕僚達から聞きだした。昨日の海戦の終了宣言が、
旗艦インディアナポリスに報告されたのは9時40分の頃だった。
スプルーアンスは暫定的な結果報告を聞くと、後は幕僚達に任せて睡眠を取っていた。
「味方艦の被害、戦死傷者の報告から教えてくれ。」
情報参謀のアームストロング中佐が、紙を見ながら説明し始めた。
「味方艦の被害ですが、沈没艦は軽巡ホノルル、駆逐艦モンセイ、ベネット、セルフブリッジ、
大破は戦艦アイオワ、重巡ウィチタ、軽巡オークランド、駆逐艦ゲスト、中破は戦艦サウスダコタ、
重巡キャンベラ、軽巡モントピーリア、駆逐艦ヤーノール、小破は戦艦ワシントン、重巡ニューオーリンズであります。」
「多いな。」
スプルーアンスが思わず呟く。昨日も一度伝えられているが、改めて伝えられると、ショックが大きい。
軽巡や、駆逐艦の損失は覚悟していた。
だが、戦艦のアイオワが傷ついた事は少々胸が痛んだ。だが、沈まないだけましだと思った。
「A部隊の損害が特に多いな。」
「敵艦隊が全力でA部隊に突入したため、結果的にA部隊に損害が集中することになりました。」
「だが、もし分散していなければ、敵艦隊を逃していた可能性もあった。リー中将の選択は正しいよ。」
スプルーアンスはリー中将の選択を評価した。
「死傷者は?」
「死傷者ですが、沈没艦のホノルルが戦死84、負傷127。モンセイが戦死50、負傷58。
ベネットが戦死78、負傷130。セルフブリッジが戦死43、負傷120。他、
大破した戦艦アイオワを始めとする損傷艦は、合計で戦死480、負傷1500です。
合計すると、戦死735、負傷1935人となっております。」  


828  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:32:04  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスは顔をしかめた。
「約2800人以上の死傷者を出したわけか・・・・・・・・これはまずいな。」
「今回の海戦では、戦力が少なかったことが大損害を出す原因です。」
作戦参謀のフォレステル大佐が言い始めた。
「今後はあらゆる手段をもって、敵の水上部隊侵攻に備えるべきです。」
「確かにそうだ。それにしても、旧式戦艦部隊があればなあ。」
スプルーアンスはそう呟いて天井を見つめた。
第5艦隊には、リー中将指揮下の機動部隊随伴戦艦7隻の他に、6隻の旧式戦艦主体の艦隊があった。
だが、その旧式戦艦部隊は、現世界のマッカーサー率いる南西太平洋軍の支援をしていた最中で、
メジュロ環礁にはいなかった。
(せめて、旧式戦艦部隊がいる時に、この世界にタイムスリップしていたらなあ)
スプルーアンスはそう思った。だがその思いをすぐに打ち消した。
(無いものねだりしても始まらんな。いや、旧式戦艦部隊はいなくても、高速空母部隊がある。
夜間は使えんが、昼間の攻撃には絶大な威力を発揮する。この高速空母部隊も、ホーランジアに
出港する予定だったから、タイミング的にまだ良かったのかもしれん)
彼はそう思い直し、視線を戻した。
「まあ、大損害は出たとはいえ、敵の重武装戦列艦などのバーマント海軍の主力を、一気に壊滅できたことは賞賛に値する。
さて、敵の損害はどれぐらいだね?」
「捕虜にした戦列艦の情報によると、重武装戦列艦には1600人、中型戦列艦には800人、
駆逐艦クラスの小型艦には250人が乗っていたと言っております。このうち、我がほうが救助した敵兵は3800人です。」
「合計すると、戦死者、行方不明者は16000人以上か・・・・・・・敵ながら悲惨なものだな。」
実に米側の8倍ほどの被害である。スプルーアンスは内心でぞっとした。
「今度からは警戒部隊の対策も、もっと練らねばならんな。」
スプルーアンスは、この後、損傷艦にウルシーの帰還を命じた。  


829  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:33:35  [  D4VsWfLE  ]
会議が終わった後、インディアナポリスの甲板上でスプルーアンスは散歩を行った。
今回は参謀長のデイビス少将を誘った。
散歩が開始されてから10分ほどたった頃、デヴィソン少将が話し始めた。
「司令長官。」
「どうした、デイビス。」
「実は以前から気になっていた事があるのですが。」
「気になっていることか。もしや、将兵のことかね?」
「はい。この異世界にマーシャル諸島ごと連れて来られ、もう2ヶ月以上経ちます。その間、
わが第5艦隊は軽空母をはじめ、少なからぬ艦と人員を失い、傷つけられました。上陸軍にも
少ないながら、犠牲者は出ています。」
「君が言いたいのは、将兵の士気低下のことだな?」
「はい。その通りです。我々は帰る故郷を失ったもの達です。今は第5艦隊の各将兵達は懸命に
バーマントと戦っております。しかし、これも長続きはしないのではないのでしょうか?」
「ふむ。私は時折インディアナポリスの乗員連中と話をするのだが、よく聞かれることがあるのだ。
いつ帰れるのですか?とな。その度に、私は答えに困ったものだよ。」
「そうなのですか・・・・・・・その時、長官はなんと言っておられるのですか?それとも、
答えてはいないのですか?」
「必ず答えているよ。気が付くと、どれも同じような答えだったな。私はこういっているのだ。
「「いつかは分からない。だが、あのような大国には必ず政策に反しようとするものがいる。
特に国家が悪逆な政策を実施するときは、それを心良しとしない人もかなりいるはずだ。
我々はヴァルレキュアも救うと同時に、バーマントの国民に、自分達の軍隊が行ってきた愚かさ
を知らしめる必要がある。そして、我々が、バーマントの国家体制を転覆させる原材料となれば、
その時は必ずもとの世界にも帰ることができる。希望は無いと言うわけではない。必ずあるのだ。」」
とな。まあ、どこぞの神様が訓示しているような文体みたいだが、兵は熱心に聞いていた。」  


830  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:35:07  [  D4VsWfLE  ]
そう言いながらスプルーアンスはやや顔を赤らめた。彼は考えながら言っていただけであったが、
バーマント国内には、少しずつとだが、革命の準備が進められていた。
「どうも、私はこういう、人を納得させるのが昔から苦手でな。相変わらず、自分がまだまだ未熟
だと言うことが分かるよ。」
彼は苦笑しながらそう言った。
「いや、別に下手糞ではありません。むしろ長官の判断能力はうまいです。」
「買い被りすぎさ。私など、ただの平凡な軍人だよ。むしろハルゼーのほうが合衆国海軍には必要
かもしれんよ。」
そんなことはない、あなたはかのキング提督に認められている人ですから。デイビス少将は内心で
そう言った。
米海軍の実質的ナンバー2であるアーネスト・キング提督はスプルーアンスの事を高く評価している。
キングの評価はもともと厳しいことで有名で、現世界の太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将をあまり
信用してはおらず、米海軍で最も有名なハルゼー提督などは、ただの猪突猛進が取り柄の馬鹿者
としており、噂ではハルゼーを首にするタイミングを図っているという。
そんな中で、自分は平凡と言っているスプルーアンスを、キングは将来合衆国海軍を担う提督に
なると予想していた。そして実際に、第5艦隊という史上最強の艦隊を任されているのである。
(あなたは平凡な軍人などではありません。むしろ智将ですよ。)
デイビス少将は、ここ2ヶ月間のスプルーアンスの仕事振りを思い出しながらそう思った。
「とりあえず、今後は上陸部隊の将兵の事も、これまで以上に考える必要があるな。
近いうちにサイフェルバンに上陸して、将兵の意見を聞きたいな。」
スプルーアンスは、いつもと変わらぬ表情でそう呟いた。
その後、2人は40分ほど、甲板上の散歩に興じた。  


831  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:36:14  [  D4VsWfLE  ]
7月20日  午前8時  バーマント公国首都ファルグリン
「一体、なんだこの数字は!!」
皇帝は、渡された紙を握りつぶしながら、海軍最高司令官のグラッツマン元帥をなじった。
「たかが10隻そこらの艦隊に、第3艦隊がやられるとは!海軍の将兵は居眠りでもしておるのか!?」
「いいえ。敵艦隊は20隻おりました。」
「20隻だと?敵主力艦はどれも中型戦列艦ぐらいの大きさではなかったのかね?」
「違います。実を言うと、敵艦も巨大な軍艦を投入してきたのであります。」
グラッツマン元帥は副官に向かって顎をしゃくった。副官が1枚の紙製の封筒を差し出した。
乱雑な方法でひったくると、中から何枚もの写真が出てきた。
「高速戦列艦リューリングから捉えた敵艦の写真です。距離は1万メートルほど離れています。」
写真は合計で8枚ある。そのうちの4枚は敵の巨大艦を写したものだ。この写真は、艦橋にいた映写機を
持った兵が、決死の覚悟で撮影したものである。
写真は白黒だが、ハッキリとわかる。4枚の写真には、尖塔のような艦橋を持ち、中央部にはコンパクトに
纏められた2本のほっそりとした煙突、それでいて巨大な3つの砲塔が、左舷側に向かって閃光を放っている。
イメージからしてほっそりとしており、優美な感じがある。
「美しい・・・・・」
皇帝は思わずそう呟いた。
そして同時に、皇帝はその大きさに息を呑んだ。写真からして、この巨大艦の全長は、バーマントにあるどの
重武装戦列艦よりもでかい。  


832  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:38:26  [  D4VsWfLE  ]
現在就役間近のゲルオール級よりも巨大だろう。
「生き残りの情報によれば、巨大艦は1隻で5隻の重武装戦列艦を相手に5分に戦っていたようです。
その後、この写真に写っている艦は撃破されます。」
「撃破したのか。ならなぜ負けたのだね?」
「巨大艦はこれだけではありませんでした。これよりは少々小さめではありましたが、さらなる巨大艦が
2隻も現れました。性能的には、いずれもこちらの33・8センチ砲を上回ります。口径は、恐らく
40センチ以上はあり、スピードは1隻目が30ノット以上、他が28ノットは出ていたと、生き残りは
そう話しています。」
「40センチ以上!?」
皇帝は思わず唖然とした。ゲルオール級でさえ、35・7センチ砲なのである。これでさえ、
起工当初はこのゲルオールこそ世界最強だと考えていた。
だが、異世界軍の巨大艦の主砲は40センチ!
当然それに対応した装甲になるから、艦自体も極めて頑丈である。1隻相手に5隻が束になってかかっても、
なかなか打ち倒せない理由もわかる。
皇帝はそう納得した。
「だが、現有戦力がこれだけしかない以上はいたし方あるまい。それに、頑丈な敵艦とはいえ、無敵ではない。
現にこの写真の巨大艦は数に負けたのだからな。」
皇帝はそう言うと、やや気が楽になった。所詮船は腐っても船。沈まないものは無いのだ。
「壊滅した第3艦隊ですが、他にも敵艦を多数撃沈し、また多数に被害を与えました。現時点では、
戦術的には引き分けであります。」
「引き分けか・・・・・・・・敵輸送船団を討ち取らなかったことは気に入らんがな。」
皇帝は玉座にふんぞり返ってそう言った。  


833  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:40:22  [  D4VsWfLE  ]
「だが、数さえ揃えれば、敵艦も撃沈できることが分かった。この事が分かっただけでも、
今回の海戦の得るものは大きかったな。」
(高い授業料を払わされましたがね)
グラッツマンは内心で毒づく。現在、バーマント海軍にはザイリン級が2隻しかいない。
ゲルオール級が3隻、1ヶ月単位に就役するから戦力差は埋まると思うものの、敵艦に対しては
あまりにも役不足である。
(だが、ありったけの艦艇をアメリカ艦隊にぶつければ、敵に望外な被害を与えることもできるな。
だが、やはり第3艦隊壊滅は痛すぎるな)
内心でそう思った。その時、若い士官が血相を変えた表情でグラッツマンに耳打ちをした。
それを聞いた瞬間、グラッツマンは卒倒しそうになった。

7月20日  午後4時  グランバール沖南東200マイル
艦載機が空母に着艦したあと、エレベーターによって格納庫に入れられていった。
「司令官。最終報告です。」
艦橋から作業を見つめていたミッチャー中将は、バーク参謀長から報告を聞く。
「第4次攻撃隊、敵鉄道施設および軍港施設をおよび。敵施設の壊滅に成功。以上であります。」
「4次合計600機の攻撃は成功か。これで敵の軍港はしばらく使えないだろう。」
第58任務部隊は、グランバール沖まで北上した後、7月20日の午前7時に第1時攻撃隊160機を
第1、第2群から発艦させた。
午前9時には第3、第4群から第2次攻撃隊200機、午後1次に第1、第2群から第3次攻撃隊160機、
午後2時に第4群から第4次攻撃隊80機を発艦させた。
この攻撃で、敵軍港にいた中型戦列艦3隻、小型戦列艦7隻を大破着低させ、軍港から脱出した3隻の小型戦列艦も、
ヨークタウン隊のヘルダイバーが急降下爆撃で撃沈した。
それに軍港施設、鉄道施設、軍事施設は残らず爆弾や機銃弾を受け、ここにしてバーマントでも有数な軍港、
グランバールは潰滅した。

その日以来、バーマント公国は、ついに海軍も増援部隊を送らないことを決定し、包囲されたサイフェルバンは、
事実上、陸の孤島と化した。  


834  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:41:37  [  D4VsWfLE  ]
7月30日  午後4時  サイフェルバン
ここはサイフェルバン方面軍の司令部地下壕。
ここの作戦室で、ヴァルレキュア殲滅軍総司令官であるバリッチ・ローグレル騎士元帥は、幕僚達と
共に今後の作戦について話し合っていた。
「さて、今日おきなわれた第3回目の突破作戦も中止に終わったわけだが、今後はどのような方針で
行きたいと思うかね?」
ローグレル騎士元帥はしわがれた声でそう言った。
元々、健康な顔つきであったが、今では顔はげっそりと痩せこけ、目にくまができている。
それでいて目だけはぎらついている。
他の幕僚たちもみな似たようなものであり、傍目から見ると、まるで幽鬼の集団である。
「今後の作戦ですと?」
バーマント第1航空軍司令官クローン・アイク中将がひきつった笑みを浮かべた。
「もはや飛空挺部隊も、地上部隊もすっかり壊滅した今、作戦などまともにできやしませんよ。」
「私もアイク中将に同感です。」
参謀長のジュレイ中将も言う。
「残った兵員は半数以上がまともに動けぬ負傷兵ばかりです。こんな状態でもはや装備優秀なアメリカ軍に、
さらに戦いを挑むなど、部下に死ねというものです。」
米軍の包囲されたサイフェルバン方面軍は、3度の突破作戦を敢行した。2度目は夜で、3度目は昼間に行った。  


835  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:43:10  [  D4VsWfLE  ]
だが、いずれも米軍の猛烈な反撃に会って撃退された。特に今日行われた3回目の突破作戦では、
これまで以上の兵力を投入しながら、陸空一体作戦を取る米軍の前に全滅に等しい損害を受けてしまった。
この3回目の突破が失敗した時点で、18万いたサイフェルバンのバーマント軍は、まともに動ける
ものだけで2万。
負傷者も含めると7万と、身の毛のよだつような損耗振りである。
あとの兵は死ぬか、敵の捕虜となっている。
「ファルグリンの総司令部からは、全滅を賭してでも敵中突破をせよと、念を押すように言って
きている。これで6度目だ。」
ローグレル元帥は、力の無い口調でそう呟いた。
「いや、司令官!兵員は少なくなったとはいえ、まだ戦力はあるのです!!」
バーマント第9軍司令官であるレリルグ中将が肩を怒らせてそう言ってきた。
「わが第9軍の兵力はまだ8000ほどが健在です!残りの兵も総動員すれば、今度こそ突破できます!」
「敵に与えた損害を知っているのかね?」
ローグレル元帥は冷たいまなざしで彼を見つめた。
「ここ3度の総攻撃で、敵に与えた損害は、推定でわずか2500だ。
こっちは何万もの犠牲を出しているのに、たったの2500だ。損害甚大戦果僅少。
レリルグ君、もはやこれは戦争ではない。」  


836  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:45:29  [  D4VsWfLE  ]
ローグレル元帥は、頭を抱えながら言った。
「これは・・・・・虐殺だよ。」
彼の言葉に、一同はしーんと静まり返った。
「私は、今まで祖国に尽くしてきた。どんな命令にも従ってきた。
だが、この戦いで我々がヴァルレキュアにしてきた事がよく分かったという気がするのだ。」
かつて、ローグレル元帥の部隊もヴァルレキュアに侵攻して、わずかながらの敵を何度も
包囲殲滅してきたことがあった。
その包囲されてきたヴァルレキュア軍の将兵の気持ちなど、全く分からなかった。
だが、こうして米軍に包囲されると、いかに恐ろしい結末になるか、今身をもって知ったのである。
「私は・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ローグレルは次の言葉を言おうとして口を塞いだ。だが、彼は考えた。
(味方の死も、全く気に留めず、無茶苦茶な命令ばかりを出す祖国に一体何の後悔がある?
疑心暗鬼だけで敵国に攻め込むことを決意した国にこれ以上尽くす必要はあるのか?
そして、俺たちをあっさり見捨てた祖国に、あれこれする必要があるのか?)


そんなものは・・・・・・・・・・










ない!!

内心、決意した彼は、顔を上げて自分の今の心境を打ち明けた。  


837  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:47:59  [  D4VsWfLE  ]
大陸暦1098年  8月1日  サイフェルバン
アメリカ第5艦隊司令長官、レイモンド・スプルーアンス大将は、破壊を免れた
サイフェルバン軍政庁舎に幕僚を連れて入っていった。
3階建てのこの建物の天辺には、悠然と翻るアメリカ合衆国の国旗があった。
「それにしても、敵さんがいきなり降伏してくるとは予想外だったな。私が思うには、あと3週間
は包囲状態が続くかと思っていたのだが。」
スプルーアンスは歩きながら後ろのマイント・ターナー魔道師に問いかけた。
「捕虜から聞いた話では、総司令官のローグレル元帥は、部下思いの将軍として知られていたようです。」
「という事は、これ以上部下が死んでいくのは耐えられなかったということのなのか?なんて無責任な。
自分達だって多くの無実のヴァルレキュア人を殺めたくせに。」
参謀長のデイビス少将がはき捨てるような口調で言う。
「しかし、今回のサイフェルバン戦では、意外に味方の損害が少なかったですな。武器などはある程度節約
しながら使用していたので、犠牲は多くなるだろうと思っていたのですが。」
第5水陸両用軍団司令官であるホーランド・スミス中将が、拍子抜けしたような表情で言った。
上層部が推定した数字では、上陸軍のサイフェルバン戦での戦死者は1780人、負傷者は5800人と出ている。
本来はこの2倍の死傷者が出ると予想されていた。
なにしろ相手は10万以上の大軍である。それに対し、こちらの攻略部隊は6万ほどしかいない。
しかし、装備の優秀さ、そして将兵の闘魂が、明暗を分けたのである。  


838  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:49:30  [  D4VsWfLE  ]
2階の真ん中にある大きな部屋の入り口に来た。
入り口の両脇には、武装した海兵隊員が直立不動の体制で彼らを出迎えた。
「どうぞ、こちらです。」
先導していた大尉の階級章をつけた若い将校がドアを開ける。
キイッという音がして2枚のドアが、左右に開いた。
そこには長いテーブルにいくつかのイスがかけられている。そこには6人ほどの人がいた。
その真ん中に総司令官らしき人物が座っている。
スプルーアンスらが入ると、彼らは一斉に立ち上がった。
彼らは、スプルーアンスを見て少々驚いているようだが、すぐに元の無表情に戻った。
スプルーアンスが彼らの反対側に来ると、バーマント側から自己紹介を始めた。
「私が、サイフェルバン方面の最高司令官である、バリッチ・ローグレルです。」
それから次々と、バーマント側は自己紹介行った。
「私は第5艦隊司令長官のレイモンド・スプルーアンス大将です。あなた方の奮闘振りは、
敵ながら見事なものでした。」
スプルーアンスの言葉に、ローグレル元帥は目を丸くした。
まさか敵将から褒めの言葉があるとは思っても見なかった。
それから米軍側も自己紹介を終え、席に座った。
「それでは、最終確認に移ります。あなた方バーマント軍サイフェルバン方面軍は、降伏するのですね?」
「はい。」
「分かりました。では、この文書にサイン願いたい。ここの欄に、あなたの名前を書いてもらいたい。」
スプルーアンスは降伏文書の紙を渡した。
ローグレルはしばらく見つめた後、参謀長から書き物を渡され、バーマント後の自分の名前を書いた。
「どうぞ。」  


839  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:50:29  [  D4VsWfLE  ]
ローグレルは感情のない口調で文書をスプルーアンスに渡した。
スプルーアンスは渡された文書の欄に、自分の名前を書いた。
(敗軍の将というものは、こうもみじめなものなのか。)
スプルーアンスは、名前を書きながらそう思った。
内心、彼はバーマント軍側代表の姿を見て仰天していた。
その姿は、まるで生ける屍のような感じであった。
もはや何もかも絶望した。そう言わんばかりの姿だった。
書き終えたスプルーアンスは、傍らの士官に文書を渡した。
「これで正式に降伏を受け入れました。あなた方は名誉ある捕虜として、我が軍とヴァルレキュア軍
の管理下に置かれます。」
「はい。」
「それから、余計な事かもしれませんが、おひとつ質問してもよろしいでしょうか。」
「なんなりと。」
ローグレルは、表情を少し変えながら頷いた。
「あなた方はどうして降伏を決意したのですか?」
彼の問いに、ローグレルは腕を組んで考え込んだ。2分、4分と時間は流れていく。
ヴァルレキュア側随員として参加していたマイントは、このまま何も語らないのではと思った。
6分ほど経ってローグレルは口を開いた。  


840  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:52:12  [  D4VsWfLE  ]
「降伏を決意した理由は、本国に愛想を尽かしたからです。元々、我が祖国バーマントは、皇帝も
国民も穏やかで、いまのような過激な事をする国ではありませんでした。しかし、現皇帝が即位し
たとたん、私たちの国は隣の国、グレンドールという国に侵略を受けました。この国からは前々から
緊張関係にあったのですが、それがついに爆発したのです。それは30年前のことです。その時は
敵軍を完膚なきまでに叩き潰し、国境まで押し返しました。わが国がおかしくなったのはそれからです。
以来、バーマントは対外政策を積極的に取るようになり、ついには大陸統一を旗印に各国に侵攻したのです。
そして大陸もほぼ統一し、しばらく平和であった3年前、ヴァルレキュアがわが国を狙っているという噂が起こりました。」
「噂ですか?」
スプルーアンスが怪訝な表情で聞いてきた。
「はい。最初はちょっとした噂だったのです。ですが、近年、技術力が格段に向上してきた
ヴァルレキュアを潰そうと言う一派が、この噂を勝手に広げ、ついには技術力の充実しつつある
ヴァルレキュアが、わが国を根絶やしにしようと準備していると言うとんでもない噂に発展しました。
そして2年前、ついにわが国はヴァルレキュアに進軍したのです。
当時、進軍する2ヶ月前までは、統一派と反対派がおりました。反対派が活動している間は、
ヴァルレキュア進軍は行われませんでした。ですが統一派の一部が反対派を嵌め、それがきっかけで
反対派はほとんどが粛清されました。」  


841  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:53:50  [  D4VsWfLE  ]
「あなたはどちらの位置にいたのだ?」
横からホーランド・スミス中将が入ってきた。
「私はどちらかというと、統一派の位置にいました。昔は私も、大陸統一こそが、この国を救うと
考えていました。ですが・・・・・・」
ローグレルはスプルーアンスたちを見回した。
「あなた方のお陰で、私は祖国の政策の間違いに気づきました。」
「先ほど、あなたは祖国に愛想が付いたといったが、どうしてなのだね?」
「実を言うと・・・・・・我々は見捨てられたのです。包囲された後、首都の司令部からは、全滅を賭して
でもサイフェルバンで時間を稼げと言ってきたのです。しかし、もはや、食料も付き、戦う気力も失い、
戦える状態にはありませんでした。わが国では、現皇帝に変わってからは部隊の撤退などが
認められなくなりました。その結果、全滅した軍も少なからずあります。その方法でも、まだ敵が我々より
劣っている場合は良かった。ですが、その方法もあなた方には通用しない。それが分かったから、私は降伏を決意しました。」
ローグレルの話しを聞いていたスプルーアンスは頷いた。
「あなたの判断は正しい。その英断によって、多数の将兵の命が救われました。ローグレルさん。
私としても、若い将兵の命を失わずに済んだことは本当にいいことだと思います。」
「そうですか。」
最初は無表情だったローグレルも、今では微笑を浮かべていた。  


842  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:55:23  [  D4VsWfLE  ]
「私は、武人として貴方のような素晴らしい軍人と、そして軍隊を相手に戦った事を本当によかったと思う。
そして、私は貴方の軍に負けたことに悔いはない。」
最初、スプルーアンスが現れる前までは、ローグレルは米軍の代表に罵詈雑言を言われると思っていた。
実際、バーマント軍では勇戦するヴァルレキュア軍に対して、聞くに堪えないような言葉を浴びせたり、
降伏してきた司令官を罵ったりするなどは日常茶飯事だった。
(きっと俺も、色々言われるのだろうな。だが、それも仕方が無い。)
彼はそう思い、これから起こるであろう聞くに堪えない言葉に耐えようとしていた。
だが、実際に現れた敵の総大将は、一見どこぞの教師を思わせるような風貌で、彼のイメージとは
全く違っていた。
それに言葉遣いも丁寧で、覚悟していた罵詈雑言も全く聞かれなかった。ローグレルは拍子抜けした。
むしろ、彼らの待遇ぶりには好感を覚えた。
(ヴァルレキュアの軍も確か、こういう感じだったな。)
ローグレルは、とある将軍の体験談を思い出して、内心で呟いた。
「今後、あなた方はウルシーの捕虜収容所に送られます。不遇な事もあるとは思いますが、
我慢をお願いします。」
「分かりました。」
こうして、米側とバーマント側の降伏確認は終わった。
サイフェルバン戦では、米軍は上陸軍が1780人、海軍が1509人の戦死者、負傷者が
上陸軍5800人、海軍3000人となっている。負傷者で再起不能者は2000人に上る。
バーマント側は戦死者67500、負傷者80000、捕虜40000を出した。

ここにして、バーマントでも優良な港を持つサイフェルバンは陥落したのである。  


843  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/04/06(木)  13:56:03  [  D4VsWfLE  ]
8月3日、午前8時  サイフェルバン米占領軍司令部
スプルーアンスは、魔道師であるリリア・フレイドとマイント・ターナーと話をしていたとき、
直属副官のチャック・バーバー大尉がスプルーアンスの肩を叩いた。
「司令長官。」
「なんだね、チャック。」
スプルーアンスは振り向いて答えた。
「実は、バーマント軍の捕虜の高官が、司令長官に会いたいと。」
「どうしてだね?」
「なんでも、司令長官に是非話したい事があると言っておりました。」
「そうか。で、本人は?」
「個室で待っています。」
バーバー大尉は、とある部屋を指差した。
「そうか。では会ってみよう。」
スプルーアンスは、リリアとマイントの話を一旦中断し、バーバー大尉と共に捕虜の高官が待つ部屋へと急いだ。
バーバー大尉がドアを開けると、そこには、サイフェルバン方面軍参謀長であったジュレイ中将が畏まった姿勢で座っていた。
スプルーアンスはやや距離を置きつつも、用意されたイスに座った。
「あなたはジュレイ中将だね?始めてあったときから思っていたが、中将にしては少々若いね。年はいくつだね?」
「38になります。」
「なるほど。で、早速本題に入ろう。私に話したいこととは何だね?」
スプルーアンスは腕を組みながらそう言った。
「はい。実は、司令部の要因には黙っていたことなのですが、わがバーマン公国内では、
革命の準備がゆっくりとですが、着々と進行しつつあります。」
スプルーアンスは、一瞬電撃が走るような感じがした。革命?まさか、
「嘘ではないだろうね?」
「いいえ、本当です。実は、私もその革命グループのメンバーなのです。これが証拠です。」
ジュレイ中将は左腕をまくった。そこには、微かだが何かの紋章があった。  



864  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:27:49  [  D4VsWfLE  ]
その紋章は、刺青状になっている。
絵柄は人間が、剣を上に掲げているもので、シンプルながら意思の強そうなものだ。
「我ら革命グループの信頼の証です。」
ジュレイ中将は真剣な表情でそう言った。
「なるほど・・・・・一応聞くが、これは本当なのだな?」
スプルーアンスは、ジュレイ中将の心の奥底を眺めるような気持ちで、彼の目をじっと見つめた。
ジュレイ中将の目は、一点の曇りもない。
「はい。」
「よろしい。では、話を聞こう。」
彼は頷きながらそう言った。それを聞いたジュレイ中将は、少しほっとしながら口を開いた。
「私たち革命グループは、3年前に6人のメンバーから始まりました。私たちは以前から現皇帝の
対外政策に対して、反感を覚えていました。軍部のほとんどは統一派にわかれ、反対派はほんの
わずかしかいませんでした。しかし、ある時反対派は謀略に巻き込まれ、国王に残らず粛清されて
しまいました。その中には、現皇帝の第3皇子であるグリフィン様も一緒でした。現在グリフィン様
はここから北500キロの監獄に幽閉されています。」
「自分の家族まで投獄したのか!?」
スプルーアンスは珍しく仰天した。  


865  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:28:28  [  D4VsWfLE  ]
「はい。現皇帝は、目標の達成のためにはいかなる手段も問わぬ人です。半年前、とある場所で
革命グループのメンバーの1人が話しておりました。皇帝陛下は第3皇子を粛清したことを自慢
げに話していたのです。」
「ひどいものだ。」
スプルーアンスは、皇帝のあまりにもひどい性格に吐き気がした。
こんな馬鹿な王に率いられているとは、バーマントも哀れだ。彼はそう思った。
「3年前は、細々と活動していたにすぎない私たちでしたが、今では500人の同志を集めました。
その中には皇帝の直属将官や高級軍人、上流貴族などがおります。」
「君は途中から入ったのかね?」
「いや、私は結成以来のメンバーです。スプルーアンス長官、はっきりいいますと、私たちバーマント
公国の国民には、この戦争に疑問を持つものが多数います。それに、バーマント国内では、外地軍の
苦戦などは・・・・・・」
彼は思わず体を震わせた。
(怒っている・・・・・・)
スプルーアンスはすぐにそう判断した。
ジュレイ中将の目は、今にも炎が噴出さんばかりに怒りに満ちている。
ジュレイ中将はやや気持ちを落ち着けてから、言葉を続けた。
「苦戦などは、全く報告されていないのです。逆に、都合のいい内容のみ、国民に知らされているのです。」
実際、サイフェルバン方面軍の戦いは、バーマント公国の広報は、
「我が軍は、敵異世界軍を殲滅しつつある!」  


866  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:30:33  [  D4VsWfLE  ]
としか伝えていない。とくにこの間の第13空中騎士団の夜間空爆などは、
「敵大型軍艦8隻、小型軍艦4隻撃沈!」
という誇大戦果を発表し、第3次サイフェルバン沖海戦の戦果発表も、敵大型戦列艦3隻、
中型艦2隻を撃沈したと、米軍側から聞いたら目を剥かんばかりの情報が垂れ流されていた。
そして、悲しいことに国民はこれを鵜呑みにしてしまっている。
ジュレイ中将の言う疑問を持つ国民はあまり信じてはいない。外見だけは信じているふりをしている。
「ひどいものだな。まるで現世界の対戦国みたいだ。」
スプルーアンスは苦笑しながら呟いた。
(最も、我が軍も苦しいときには、B−17たった1機で戦艦1隻撃沈とかの誇大戦果を垂れ流して
いたか。人のことは笑えんな)
そう思い、スプルーアンスは元の表情に戻った。
「そこでですが。」
ジュレイ中将が、身を乗り出して言ってきた。どうやらここからが本題だな。
「あなた方の軍で、国民の目を覚ましてもらいたいのです。」
「目を覚ます、だと?」
「はい。」
ジュレイ中将が頷くと、懐から数枚の紙を出した。それをテーブルに広げた。  


867  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:33:01  [  D4VsWfLE  ]
「これは、首都近辺のファルグリン要塞の図です。」
「要塞?」
「はい。以前、私はここの参謀長をやっておりました。1ヶ月だけの勤務でありましたが、その間
にこっそりと、この図を盗み出してきたのです。」
「なるほど・・・・・・それにしてもすごいものだな。」
スプルーアンスは思わず驚きの声を上げた。
この要塞は、首都ファルグリンを防衛する目的で作られたもので、建造は今から30年前になる。
要塞は2つあり、それぞれが幅3キロのドーム状になっている。
この要塞2つは、ファルグリンに続く街道を塞ぐようにして立てられており、もし攻め込まれた場合
は、首都の防衛体制が整うまで、ここで時間を稼ごうというものである。
2つの要塞の間には、巨大なダムがあり、それは南6キロの河に繋がっている。
このダムは、2つの要塞にも繋がっており、戦闘中にはここから莫大な量の水を補給できる。
それに要塞自体の防御も非情に強固で、各種の武装が施されている。
現在は2つの要塞とダムに機関銃を配備中である。
「しかし、なぜこれを私に?」
「実は、この2つの要塞を、あなた方の飛空挺で破壊してもらいたい。」
スプルーアンスは突然の提案に再び驚いた。
「君、どういう根拠があって、そういうことを言うのだね?」
スプルーアンスは冷静な口調で言ったが、内心では困惑していた。
「昨日、あの窓から海沿いの飛行場に降りていく大型飛空挺を見たのです。」
スプルーアンスはある事を思い出した。陸軍飛行隊である。
召喚された当時、マーシャルごとここに連れてこられたため、占領したマリアナに常駐予定で
マーシャルのクェゼリン、メジュロ、エニウェトク、ウォッゼ、ビキニといった環礁の飛行場に
多数の陸軍航空部隊が常駐し、トラック島やマリアナ諸島に空襲を行っていた。  


868  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:34:23  [  D4VsWfLE  ]
部隊は、第774航空隊、第689航空隊、第790航空隊、第121海兵航空隊である。
第774航空隊は、陸軍のP−47サンダーボルト40機、P−51ムスタング40機で編成されている。
この部隊は現在、ヴァルレキュア王国の王都周辺に展開している。
第689飛行隊は、B−24リベレーター爆撃機50機、B−25ミッチェル爆撃機40機で編成され、
第790航空隊はP−47サンダーボルト30機、B−25ミッチェル爆撃機30機、A−20ハボック
30機、B−24リベレーター爆撃機30機で編成され、第121海兵航空隊はF−4Uコルセア60機で
編成されている。
合計すると430機もの戦闘機、爆撃機が一緒に連れてこられたのである。
ジュレイ中将が見たのは、ウルシーから飛来した第790飛行隊のB−24である。
ここで各機の性能を見てみると、B−24は爆弾を満載した状態で3000キロは飛行できる。
B−25は航続距離2200キロ、A−20は航続距離3000キロ。
戦闘機はP−47が増槽つきで1800キロ、P−51が増槽つきで3000キロ。
F−4Uコルセアが増槽つきで2000キロ。
ここで敵の要塞を爆撃するとしたら、爆撃機は今ある全機種、護衛機はP−51が理想的だろう。
「それで、もし爆撃するとして敵の要塞はここら何キロ離れている?」
「ここから直線距離で、およそ1000キロ北西です。」
1000キロか・・・・・・・スプルーアンスは考える。
見た限りでは、1000キロという距離はとても遠いと思える。
だが、それは海軍の艦載機から見た視点だ。航続距離の長い陸軍機ならば、1000キロ先の爆撃などお手の物だ。
それに、航続距離が2000キロ以上の爆撃機は3機種もある。
(この細かいところは、後で陸軍航空隊のブラッドマン少将に聞くとしよう。)
そう思い、彼は頷いた。
「うむ、確かにいい案だ。我が軍の飛行機は航続距離の長いものが何機種かある。
それを使えば、君が持ち込んだ図の要塞に、爆弾の雨を降らすことができる。」
「では、攻撃は可能なのですね。」
「可能だ。」  


869  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:36:41  [  D4VsWfLE  ]
それから1時間後、スプルーアンスはジュレイ中将を連れて、第5艦隊司令部幕僚に彼と
話したことを伝えた。
当初、革命の準備を聞かされた幕僚達は驚いた。
だが、スプルーアンスとジュレイ中将の言葉に、みなは納得した。
それからさらに1時間後に、陸軍第3戦術爆撃兵団司令官であるチャールズ・ブラッドマン少将や、
ホーランド・スミス中将、リッチモンド・ターナー中将も呼ばれて、あらゆる面に対して
議論が戦われた。

8月4日  午前9時  サイフェルバン
第58任務部隊旗艦レキシントンは、他の僚艦と共に少し沖合いに停泊していた。
第58任務部隊のヴァルレキュア側オブザーバーである、リリア・フレイド魔道師は、左舷側後部の
20ミリ機銃座からずっと、港の方向を見つめていた。
サイフェルバンの港には、空だったリバティ型輸送船に、多数の人影が乗り組んでいる。
その人影こそ、陥落したサイフェルバンに駐留していた、バーマント軍将兵である。
侵攻前、さかんに開かれた第5艦隊の作戦会議で、捕虜に関する問題があった。もし、15万以上
の大軍がいる拠点に攻め入れば、必ず何万と言う捕虜が発生する。
しかし、第5艦隊や、ヴァルレキュア側が、食料などの世話をしっかりできるのか?
それは難しいのでは?という問題が起こった。
それに捕虜収容所に対しても問題が起こった。
しかし、ここで助け舟が出た。それはマイントの発言だった。
実は、ヴァルレキュアは、大陸でも一番穀物などの農作物が、多く取れる国であり、その出荷量は、
国民を食わしていくには十分すぎるほどあり、毎年、農作物が過剰に栽培されるのである。  


870  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:38:25  [  D4VsWfLE  ]
ヴァルレキュアは、国に食料が溜まりすぎないよう、周辺諸国に輸出していた。
だが、ここ数十年で起こったバーマントの一大暴挙によって輸出先の国が次々と取り潰された。
この事で、国内に食料が溜まりすぎ、しまいには腐れた膨大な食料が原因で、村が疫病で壊滅する
という悲劇が起きた。
やむなく、溜まった食料は地中に埋めることを決定した。
それから、農作物の栽培を制限し、何とか溜まり続ける備蓄食料を減らそうとした。
しかし、今現在をもってしても、一旦減らされた備蓄食料がまた溜まりつつあり、1098年には
自国の3倍の人口を養えるほどの食料が集まってしまった。
ヴァルレキュアの首脳は再び頭を痛めていた。
そんな中に、第5艦隊や捕虜の問題が降りかかってきた。膨大な備蓄食料を使えるチャンスが
やってきたのである。
この事から、捕虜の食料関する問題は解決した。
次に収容所であるが、これに関しては未開の土地が多い(ほとんどが草原)ウルシーの地域を、
現地の住民の許可をえて、作ることで解決した。
その面積は膨大なもので、工兵部隊の指揮官の話によると、実に30万ほどの捕虜を収容できる
スペースが確保された。
警備に関しては各師団から3個中隊を引き抜き、ヴァルレキュア側と共同で捕虜の警備、
監視に当たることでなんとか解決した。
陥落当日から、各部隊に配置された戦場オブザーバーと共に、捕虜の振り分けが行われた。
捕虜の振り分けとは、魔法使いとそれが使えない敵兵を分ける作業である。  


871  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:39:55  [  D4VsWfLE  ]
まずは捕虜第1陣の1万から振り分けが始まった。
振り分け作業は、敵兵の服装や腕を見ながら行われた。魔道師の場合は白い長袖、長ズボンに、
腕に紋章があるため、すぐに見つけることができた。
振り分けには3日ほどかかり、1000人の魔法使いが一般兵と隔離された。
隔離された敵魔道師は、ヴァルレキュアが開発した魔力抑制剤を、米軍監察官が普通の薬と偽って飲ませた。
この薬は、1年前にレイム・リーソン魔道師が、リリアやマイントと共に開発したもので、
戦場で捕虜の魔道師が盛んに魔法通信を送ることがあり、その魔道師の持つ魔力を抑える意味で
この魔力抑制剤が開発されたのである。
効果は魔法通信系から爆発系全ての魔法を抑え、それが1粒で2ヶ月間持続する。この魔力抑制剤を、
アメリカ側は40000錠ほど渡されている。
魔力抑制剤を飲まされた後、魔法使いは一般兵と共に輸送船に乗り組み、ヴァルレキュア本土の
アメリカ、ヴァルレキュア連合の捕虜収容所に移されていくことになる。
そして、その作業を終えた捕虜の集団が、輸送船に乗せられていく。
(彼らの思いは、どんなものなのかなぁ?悔しいのか、それとも、ほっとしてるのかな?)
それを遠くから見つめていたリリアは、ふとそう思った。
遠くのバーマント兵は、かつて自分の肉親を殺めた憎き敵である。
恐らく、彼らバーマント将兵は、ヴァルレキュア攻略まであと一歩と信じていたのだろう。
それが、未知の異世界軍に完膚なきまでに叩きのめされ、そして祖国からも見捨てられ、
今ではみじめな敗残兵として収容所に向かう。  


872  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:40:31  [  D4VsWfLE  ]
(天国から一気に地獄・・・・・なんだろうな)
かつて、あたしが体験したように・・・・・・・・
彼女がそう感慨にふけっている時、後ろから声をかけられた。
「やあフレイド君、考え事かな?」
後ろを振り向くと、そこにはバーク参謀長が立っていた。
「あ、参謀長。」
「仲間のことでも考えていたのかい?」
「まあ、そんなものですね。」
リリアは微笑みながらそう言った。バークはへりに肘をかけながら、輸送船を見つめた。
「今頃、バーマント兵達はどんなことを考えているのかな。」
「内心、絶望しているのではないですか?」
「絶望か・・・・・まあ、彼らの気持ちは分からんが、そう思う奴が多いだろうな。」
そして、この停泊している機動部隊の姿を見て、どう反応するのだろうか?
バークはそれも気になった。輸送船には、船倉に舷窓がついているため、外部の様子が見て取れる。
そして、そこに見える異世界の艨艟達を見てどう思うのだろうか?
「それにしても、君はだいぶ成長したな。」
「え?なにがですか?」
リリアはきょとんとした表情で聞いた。  


873  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:42:35  [  D4VsWfLE  ]
「仕事振りさ。君は以前まではだいぶ粗相をやらかしていたようだね。
でも、ここに来てからは失敗もなしに仕事をこなしている。私は君の仕事振りを見ていて
、乗艦当初と比べても結構動きがよくなっていると思う。それに、常に明るい表情を絶やしていない。
その心意気はとても良いと思うぞ。」
「そんな、私はまだ未熟ですよ。未だに勉強しないといけないこともありますし。」
リリアは謙遜して言った。
「そんなことはないさ。我々は君の知識に色々助けられているんだ。君は気づいていないようだが、
今では第58任務部隊に欠かせぬ存在だよ。」
バークは本心でリリアを褒めた。実際、今までに気づかなかった海竜の存在に気付いたのも、
彼女の助言のおかげである。それだけではなく、リリアの助言は第58任務部隊にとって
大きな支えとなっている。
最初は憎しみを込めた視線でリリアを見つめるものもいたが、今では皆が、彼女の実力に心底から
敬服していた。別のことでもあるが。
「いえ、そこまで買い被らなくても」
「全く、鈍感な奴だな君は。少しは自分自身を見つめたまえ。」
それでも謙遜するリリアに、バークは少々呆れた。だが、逆に自分を飾らない性格が、リリアの
良い所なのだろうと、彼は思った。
「そういえば、明日にもレイム・リーソン魔道師がここにやってくるそうだ。」
「えっ、本当ですか!?」
リリアは喜びに満ちた笑顔を浮かべた。
彼女にとっては師匠であると同時に、心のうちを知り合っている姉妹でもある。
そのレイムとは既に2ヶ月以上会っていなかった。
「レイム姉さんどうしてるかな〜。」
「ん?君はリーソン魔道師を師匠とは呼ばんのか?」
「仕事上では師匠と呼んでいますが、プライベートでは姉さんと呼んでます。
まあ、実際血は繋がっていないんですけど、いつの間にか定着しちゃって。」  


874  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:45:07  [  D4VsWfLE  ]
「そうか。ま、何年も君達は付き合ってるからな。」
そう、バークは納得したように呟いた。
「あ、いたいた!」
その時、後ろから声がした。
「あ、バウンズ兵曹長。」
リリアは、髭面の兵曹長を見て微笑んだ。
「おはようございます参謀長。」
バウンズ兵曹長はバークび気付き、敬礼した。バークも答礼する。
「兵曹長、どうした。私に何か用か?」
「いえ、実は用があるのはリリアちゃん・・・じゃなくて、フレイド魔道師のほうなのですが。」
リリアちゃん?その言葉が一瞬引っ掛かったが、バークは敢えてそれを無視した。
「いつもの奴ですか?バウンズさん、今日は艦載機の整備の仕事はないのですか?」
「今日は非番でね。俺の分隊の奴らが、いつものを習いたいと言ってるんだが。」
「いいですよ。」
リリアは快く引き受けた。
「おい、兵曹長、いつもの奴とは何だね?」
「参謀長、実は私共は、このリリアちゃ、もといフレイド魔道師から時折格闘術を習っているのです。
私としては、これからの軍事教練に使えると思い、魔道師殿から習っているのであります。」
「格闘術?」
思わずバークは首を捻った。
「ええ、実はこの間のことなのですが・・・・・」  


875  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:48:15  [  D4VsWfLE  ]
3週間前のこの日、格納甲板にいたバウンズ兵曹長らは、休憩の時にリリアを話しをしていた。
その時、とある事に話が及んだ。
「なあ、リリアちゃん。格闘術が得意とか言ってたね。本当に強いの?」
ある整備兵がそう話した。だが、別の整備兵が、
「見かけだけじゃねえの?」
というとんでもないことを言ってきた。こん整備兵、ロバート・ハート1等整備兵は前々から
リリアの事がいまいち好きになれなかった。
理由は、わけも分からぬ世界に連れ込んだから、である。
「魔法使いなんて、魔法使えればそれだけでしょ?
格闘ができると言っても、相手をただ叩きのめす程度だろ。」
彼は次々と、リリアを馬鹿にするような事を言い出した。他の仲間が口を塞ごうとしたとき、
「あなたはあたしに何をしろというのですか?」
珍しくリリアも喧嘩腰で聞いてきた。
「ん〜〜〜〜、あのドラム缶を20メートル先まで蹴っ飛ばしてくれ。もちろん側の艦載機に当てずに。」
ハート1等整備兵は無茶なことを言ってきた。
ここから艦尾に向けて50メートルほどが、何も無い通路のようになっている。両脇にはヘルダイバー
とアベンジャーが駐機している。幅は数メートルほどである。
そもそも、空のドラム缶といえども、重さはかなりある。
それに硬い。そんなものを20メートル先まで蹴り飛ばすことなど、できもしない。
それにやったところで、自分の足を壊すだけ、無駄である。
だが、
「いいわ、よく見ておくことね。」
顔を真っ赤にしたリリアは、本気で側に置いてあるドラム缶を蹴ろうと立ち上がった。
「おい、本気でやるのか?」
挑発したハート1等兵も、まさか本気で蹴ろうとは思わなかったので、やや驚いた。  


876  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/09(日)  18:49:51  [  D4VsWfLE  ]
「ええ、本気よ。」
そう言うと、いきなり殺気めいた視線でドラム缶を睨みつけ、次の瞬間
「ハアァッ!!」
気合と共にものすごい速さの蹴りがドラム缶に叩きつけられた。右の横蹴りを受けたドラム缶が、
ガーン!という金属音を発して蹴り飛ばされた。
そして30メートル先まで吹っ飛ばされ、異音を発してドラム缶は転がった。
幸いにも艦載機には当たらなかったので何事も無かった。
格納庫内の将兵たちは何事か出てきて、べっこりと蹴り潰されたドラム缶を見て仰天した。
リリアは平然とした姿で右足をやや上げていた。だが、その目は殺気だっている。
彼女を焚きつけたハート1等整備兵と、その仲間たちは、ただ唖然とするばかりだった。

「そんな事があったのか!?」
バウンズ兵曹長からその話を聞くと、バークは仰天した。
「駄目じゃないか!万が一、君が大怪我したらどうするんだ。」
「すみません。あの時はついカッとなってやってしまいました。
とにかく力を見せ付ければよかったと思ったんです。今は反省しています。」
全く、と言ってバークはため息をついた。だが、つい最近はリリアに対する不満などが、
レキシントン乗員からは全く聞かれなくなった。
乗艦からしばらくは、少なからず批判があったのだが、ちょうど2週間前ほどからぱったりと止んでいる。
最初は不思議に思ったものだった。
(あっ、もしや不満が聞かれなくなったのは・・・・・・)
バークは先の話を思い出した。それでバークは納得した。
「軽率なことをしてすいません。」
リリアは顔を曇らせながらバークに謝った。
(力を見せ付けて黙らす・・・・・なかなかうまいもんだ)
バーク大佐は、虫も殺せぬといった顔つきのリリアを見て、そう思った。

彼は知らなかったが、リリアは過去にバーマントの暗殺者2人を相手にし、その2人の命を奪っていた。
そしてその時の事を今も思い悩んでいることを、彼は知らなかった。  



892  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/13(木)  12:50:50  [  D4VsWfLE  ]
8月12日、午前8時  サイフェルバン南飛行場
ここサイフェルバン南飛行場には陸軍第790航空隊が、急造された滑走路の脇に
所属機をずらりと並べていた。この日は雨だった。
「では、ちょっと司令部に行ってくる。」
航空隊司令官のビリー・ゲイガー大佐がそう言って、サイフェルバンの中央にある
司令部に出かけていった。
その光景を、愛機のB−25を機内で点検しながら見ていたポール・フランソワ大尉は、
後ろにいるドイツ系アメリカ人のトニー・バイエルン軍曹に声を掛けた。
バイエルン兵曹は新人で背が低いために、仲間からはちびのトニーとあだ名されている。
「なあトニー。最近おかしくないか?」
「え?何がっすか?」
「航空隊司令さ、5日前から3回も司令部に出かけている。この間はずっと指揮所に
張り付いていたのに、ここ数日はずっとおでかけだ。」
「そういえば、何か多いですよね。」
バイエルン軍曹は首をひねる。だが、歴戦の猛者であるフランソワ大尉は自信ありげに言った。
「トニー、もしかしたら、近いうちに俺たちの出番があるかも知れんぞ。」
「なぜ分かるんです?」
「まあ、俺が今考えたんだが、作戦前には必ず高級将校があちらこちらに飛び回るもんなんだ。
高級将校がそこらに飛び回るとしたら、次に来るのは作戦だ。ダンピール海峡の爆撃作戦でもそうだった。」
フランソワ大尉は、1942年に陸軍飛行中尉として前線任務についた。
8月になると、フランソワは南西太平洋軍所属のカクタス航空隊に配属され、B−26に乗って日本軍と渡り合った。  


893  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/13(木)  12:52:39  [  D4VsWfLE  ]
その後、ダンピール海峡海戦やニューギニアの爆撃作戦にも参加し、今では第790航空隊
でも屈指のベテランパイロットとして知られている。
フランソワ大尉の左頬には痛々しい傷跡がある。その傷跡は、ニューギニアで日本軍の戦闘機、
隼の機銃弾でつけられた傷である。
その後、なんとか基地まで辿り着いたものの、機体はひどく損傷し、後日廃棄されている。
搭乗員は彼と2人が生き残った。
44年4月に第790航空隊に転属になり、4月29日にクェゼリン環礁の飛行場に配属となった。
そしてこの召喚に巻き込まれたのである。
召喚された当初、陸軍航空隊の乗員たちは口々に召喚した魔道師たちを罵った。フランソワも、
「所詮、剣と盾しか使わん奴らに、俺たちが出て行く必要が無い。元の世界のほうが危険だが100倍ましだ。」
と、皮肉を言ったものだ。
しかし、バーマントという敵は意外に発展した国で、航空機や強力な軍艦で、第5艦隊の
新鋭軽巡や新鋭戦艦などを相手に猛然と戦いを挑んでいる。
陸軍航空隊も、戦闘機主体の第774航空隊が王都上空戦で敵飛空挺集団を相手に
暴れ回って全滅させる快挙を上げた。
それに対し、召喚した側のヴァルレキュアは、文字通り剣と盾が主体で、文字通り中世の軍隊を持っているに過ぎない。
大砲は装備しているが、威力はバーマント軍の砲に劣る。
銃器の開発も急いでいるというが、こっちはまだ実用化のメドに至っていない。
あらゆる点でバーマントに遅れを取っているが、軍はとても精強で、少ない兵力にも関わらず装備に
勝る大国バーマントを四苦八苦させている。
この事には誰もがバーマントを賞賛している。
それはともかく、陸軍航空隊の爆撃機乗り達は内心不満だった。
主に活躍しているのは第58任務部隊や護衛空母の航空隊ぐらいで、陸軍航空隊はあまり敵と戦っていない。
唯一、B−24爆撃隊によるララスクリス、クロイッチ空襲が1回だけあったほどで、
あとは基地で座学やイメージトレーニングなどの訓練に勤しんでいるだけであった。
だが、その悶々とした日々も終わるかもしれない。フランソワ大尉はそう思ったのだ。  


894  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/13(木)  12:54:04  [  D4VsWfLE  ]
「近いうちに何かあるな。」
「何かですか・・・・・例えば、どこぞの大きなダムを吹っ飛ばすとかですか?」
「スキップボミングでか?」
「そうです。最近敵さんもスキップボミングを活用して、海軍の駆逐艦や軽巡、空母
を痛めつけたそうです。なんか敵に持ち技をパクられたような気がして、仕方がないと思うんすよ。」
「俺も同感だね。まあ、バーマントはあの技を自分で開発したのだろうが、ここはいっちょ
本家の技を敵さんに見せたいものだな。本物のスキップボミングを。といっても、
何を攻撃するか分からんから、スキップボミングを見せられんと思うがね。」
フランソワ大尉はぶすりとした口調で言った。だが、近々出撃があるのは間違いないだろう。
フランソワはそう確信しながら、計器の点検を続けた。

8月13日  午後4時  
この日の夕刻、魔道師のレイム・リーソンが、リリアとマイントを連れてインディアナポリスにやってきた。
3人は作戦室に案内された。作戦室には第5艦隊司令長官であるスプルーアンスとその幕僚、
それに第58任務部隊司令官ミッチャー中将とバーク参謀長が座っていた。
「かけたまえ。」
スプルーアンスは空いている3つの席に座らせた。
「さて、本題に入ろう。君たちが呼ばれたのは、ある事を確認しようと思ったからだ。」
「ある事とは、元の世界に帰る方法・・・・・ですね?」
レイムがそう聞くと、スプルーアンスは頷いた。
「そうだ。リーソン魔道師、何か方法はあるかな?」
その問いに、リーソンは待ってましたとばかりに口を開いた。
「方法はあります。私はここ2ヶ月間、召喚魔法を応用した帰還魔法の基礎を開発していました。
開発には私と他の魔道師で行いました。現在、工程は3割がたが終わっています。」  


895  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/13(木)  12:55:20  [  D4VsWfLE  ]
レイムの答えに、米側一同からほっとするようなため息が漏れた。
レイムらが来る前に、彼らはもし彼女が帰る方法が無いと応えていたらどうなったかと色々討議していた。
まず第1案がバーマントを攻略した後、バーマントの領土を一部割譲してそこに新たな国家を作るか。
第2案がヴァルレキュアの庇護の下にそのままそこに住み着くか。
しかし、珍しいことにどっちの案でも結論は見出せなかった。そうして延々と話し合っている
うちにレイムらが来たのである。
「現状でいくと、帰還魔法の完成には早くて4ヶ月、普通で行くとあと半年かかります。」
「そうか。」
彼女の言葉を聞いて、スプルーアンスは満足そうな表情を浮かべた。
「君たちの努力に、私が全米軍を代表して礼を言う。ありがとう。」
スプルーアンスはわずかに頭を下げた。
(これで兵の士気もなんとか保つことができる)
スプルーアンスは、ここ最近兵の士気が落ちてきているという話を聞いている。
士気は依然高いものの、中にはこの戦争に悲観的な感じを抱くものも少なくない。
だが、これからは違う。帰る方法は確実にあるのだ。
レイム達には多大な負担を掛けることにはなるが、それでも頑張ってもらうしかない。
「ちょっと聞きたいことがあるのだが」
その時、ミッチャー中将が声を上げた。
「君たちの製作する帰還魔法だが、その魔法というものは元の時間、つまり召喚された5月の時点
に戻るのかね?」
ミッチャーの問いにレイムは表情を曇らせた。
「実は、元の時間に戻すのは、はっきり言って不可能です。」  


896  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/04/13(木)  12:56:21  [  D4VsWfLE  ]
彼女はその後、理由を長々と説明した。レイムの話によると、召喚された時の日付は5月。
今は8月である。仮に今帰るとしても、元の召喚された時間には戻ることができず、
現世界でも時間の進んだ時間にしか戻れないのである。
例を挙げれば、1944年5月に召喚され、異世界で半年を過ごしたとする。
そうすると、異世界から戻るときは、現世界の半年後、つまり1944年11月に戻るというわけだ。
これはいくらレイムらでもどうしようもなく、第5艦隊幕僚は、ややがっがりした。
(しかし、ようやく道が開けてきた。バーマント国内には、ジュレイ中将の言う革命グループも
存在しているという。我々は確実に、この戦争を終わりに導くことができる。そして、元の世界に戻ることができる。)
そうスプルーアンスは確信した。
その後も、今後の作戦内容などについて、2時間ほど彼らは話し合った。