683  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:30:49  [  D4VsWfLE  ]
軽空母サンジャシントは災難に見舞われていた。
まず9機の敵機がサンジャシントに襲い掛かってきた。サンジャシントの左舷前部の
40ミリ連装機銃を操作する射手のチャーリー・ギルバート兵曹は、迫り来る敵機に
向けて引き金を引いた。
ガンガンガンガン!という重々しくもリズミカルな音が鳴り、曳光弾が敵機に向かっていく。
サンジャシントの左舷側は、まるで活火山のように沸き立っていた。無数の光が敵に対して
これでもかとばかりに注がれる。
左舷前方を行く第5艦隊旗艦のインディアナポリス、左舷後方を行くモントピーリアも
苦境に陥る仲間を救おうと、狂ったように機銃弾を吐き続けた。
連続して3機が火を噴いた。だが、ギルバート兵曹が狙う一番右側の敵機にはなかなか当たらない。
わずかに狙いがずれているのだ。
「当たれ畜生!さっさと落ちやがれ!」
ギルバートは罵声を浴びせながら、敵機を撃ち続けた。その時、曳光弾が狙っている敵機を薙いだ。
と思った瞬間、胴体が真っ二つにちぎれた。
2つに叩き折られた敵機は海面に墜落し、2つの水柱を上げた。
「イーヤッホウ!ざまあ見ろ!」
ギルバート兵曹は歓声をあげた。だが、2機に撃ち減らされた敵機のうち、1機が火を噴きながら
サンジャシントの左舷中央に体当たりしてきた。
「当たる!」
ギルバートがそう叫んだ瞬間、グワーン!という激突音が響いた。激突した敵機はサンジャシントの船体
と飛行甲板の間の格納庫の外壁にぶち当たった。
翼に入っていた残存燃料が一気に爆発し、この外壁を叩き割って格納庫にも吹き荒れた。
この影響で艦載機2機が破損し、1機が炎上し始めた。幸いにもこの時点では飛行甲板にも船体にも傷はなく、
激突位置が喫水線よりも大分上の部分であることから、航行には全く支障はない。  


684  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:32:31  [  D4VsWfLE  ]
だが、その次には250キロ爆弾が、左舷の艦橋と正反対の位置に命中してしまった。
この被弾でサンジャシントはボディーブロウを食らったように大きく揺れた。
被弾箇所は喫水線よりも上2メートルしか離れていないところで、被害は艦内にも及んだ。
だが、まだサンジャシントは屈していない。むしろ怒り狂ったかのように一層激しく撃ちまくった。
この時、第13空中騎士団の第8中隊がサンジャシントに迫りつつあった。
「格納庫の消火急げ!」
マーチン艦長の緊迫した声が艦内に響く。激突された位置は、近くに航空燃料の収納タンクがある。
万が一、そこに引火したら目も当てられない惨状となる。
既にダメージコントロールチームが現場に急行して消火にあたっている。
その間にも敵機はサンジャシントに襲い掛かりつつある。
「通行料は払ってもらうぞ!」
ギルバート兵曹は新たな敵編隊に向かって40ミリ機銃を撃ち始めた。
2本の銃身が生き物のように前後にスライドし、弾丸を闇夜の彼方に弾き飛ばす。
サンジャシントだけではない、インディアナポリスとモントピーリアも苦闘を続ける仲間を救うように援護射撃を続けた。
だが、バーマント機はそれを跳ね除けるように弾幕の中にあえて突っ込んできた。
1機が左主翼を吹き飛ばされ、もんどりうって海面に叩きつけられる。
その右隣の敵機が、高角砲弾の破片をもろに受け、瞬時に空中分解を起こす。  


685  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:36:23  [  D4VsWfLE  ]
サンジャシントまで1000メートルに近づくころには、12機いた敵機は
たったの6機に撃ち減らされていた。爆弾を投下しようと500メートルに接近した時には、
さらに2機が連続して機銃弾に撃ちぬかれ、海に叩きつけられた。
サンジャシントは左舷に急回頭した。
だが、艦が曲がろうとしたとき、敵飛空挺は次々と爆弾を投下した。
400キロ近くで放たれた爆弾のスピードは、魚雷とは比べ物にならぬ速さで接近してきた。
その内の1発は、ギルバート兵曹が操作する機銃座の下の位置に迫っていた。
「危ないぞ!逃げるんだ!」
彼は給弾作業を行っていた部下の兵にそう告げた。彼らは慌ててその場から逃げ始めた。
ドカンドカンドカン!という連続した爆発音が鳴り響き、サンジャシントが右舷側にのけぞった。
命中弾のうちの1発は、運悪く先の敵機が激突した格納庫付近で炸裂していた。
サンジャシントはツキに見放されていた。
炸裂した爆弾は、消火業に当たっていたダメージコントロールチームを皆殺しにし、
航空燃料収納タンクに熱風が吹きつけた。
次の瞬間、バゴオオオーン!という大音響と共に火山の噴火のような爆炎が飛行甲板を突き破って上空に吹き上げた。
さらに2発が後部に命中し、うち1発が艦内で炸裂して喫水線や機関部をめちゃくちゃに壊した。
爆発が収まると、サンジャシントはガクリとスピードを落とし、這うようなスピードでしか動けなくなった。
まるで猛獣の攻撃に致命傷を負わされ、その場にへたり込む草食獣のようだったと、生き残りの乗員は
そう話していた。  


686  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:41:03  [  D4VsWfLE  ]
午後11時20分
「消火急げー!」
レキシントンの飛行甲板で兵員がホースを持って左舷側の被弾箇所に集まっている。
視界からは被弾箇所の様子が見えない。ただ黒煙が噴出しているのみだ。
「司令官、大事な母艦を傷つけつけることになり、申し訳ありません。」
艦長のリッチ大佐は、残念そうな表情で頭を下げた。
今は敵機が去っていき、第3群の艦艇は損傷艦の消火作業などで多忙をきわめていた。
レキシントンには12機の敵機がやってきた。
対空砲火でほとんど叩き落したが、近距離で放たれた爆弾を交わすことは困難だった。
放たれた爆弾5発のうち、1発がレキシントンの中央部より20メートル前側の位置、
右舷側の艦橋前の高角砲が取り付けられている正反対のところに命中した。
被弾箇所は船体の喫水線より上1.5メートルで、艦内の防御区画で炸裂した。
のため、全長2メートルの穴を開けられてしまった。
また、吹き上げられた爆風によって20ミリ機銃6丁が破壊され、2人が戦死、
10人が負傷し、3人が海に吹き飛ばされている。
だが、航行に支障は無く、母艦機能も全然損なわれていない。
「リッチ、そう思い悩むな。君の腕があったからこそ、被弾を1発に抑えることができたのだ。
それに被害も大きくない。安心しろ。」
ミッチャーはなだめるようにそう言った。それを聞いたリッチ大佐はやや表情を緩めた。
(それにしても、今回の敵はうまかった。100機の攻撃で5隻のわが艦に損害を与えた。
その中には無視できない損害を被った船もいる。バーマントにも出来る奴はいるのだ)
ミッチャーは心の中でそう思うと、体が身震いした。
後方のサンジャシントの被害はかなりひどい。
今は停止して、寮艦が消火に当たっているが火災は衰えるどころか、ますます広がっているように見えた。  


687  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:43:08  [  D4VsWfLE  ]
午後11時50分、第58任務部隊第3群
サンジャシントは左舷に大きく傾き、今にも転覆しそうだった。
先の被弾に伴う航空燃料の誘爆で機関が停止し、喫水線下の排水が出来なくなったサンジャシントは、
格納甲板の大火災の消火も出来なくなっていた。
火災は拡大しつつあり、艦長のマーチン大佐は総員退艦を命じた。
そして5分前にサンジャシントの乗員は、救助艦に全て移送が終わった。
今も赤々と燃える断末魔のサンジャシントを、司令長官のスプルーアンスは複雑な表情で眺めていた。
甲板上には救助されたサンジャシントの乗員が、今しも沈み行く自分達の艦を食い入るように見つめている。
「燃料庫の誘爆さえなければ、サンジャシントを救えたのに・・・・・・・」
スプルーアンスはやりきれない思いでそう呟いた。
傍らにいるサンジャシント艦長のマーチン大佐は、煤けた顔を悔しさでゆがめている。
「大事な艦を失うことになってしまい、本当に申し訳ありません。」
「そう自分を責めることもない。今回はたまたま当たり所が悪かったのだ。戦場ではこういうことはつき物だよ。」
スプルーアンスはマーチンに穏やかな口調でそう語りかけた。
時速が100キロ以上を超えているスキップボミングを交わすのは至難の業である。
どんな艦長でもその攻撃方法にはおそらく対応しきれないだろう。
ダンピール海峡海戦以来、日本軍に対して味あわせた恐怖を、所を変えて米海軍が体験するハメになったのである。
だが、スプルーアンスの表情はそれほど暗くはない。むしろ、安堵しているようにも思えた。  


688  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:46:09  [  D4VsWfLE  ]
被害を受けた艦はサンジャシントだけではない。
駆逐艦インガソルとドーチ、軽巡クリーブランド、正規空母レキシントンが同じように被弾している。
インガソルは1発被弾で機関部を直撃したために速度が22ノットに低下。
ドーチは5発被弾し、20分前に沈んでいる。クリーブランドは速度が25ノットまで低下して中破の判定を受けている。
レキシントンは比較的マシなほうで、スピードも31ノットまで発揮でき、判定は小破となっている。
一方敵機撃墜は、総合で78機と確認されている。
「サンジャシント、沈みます!」
見張りの声が聞こえた。艦橋の全ての目がサンジャシントに注がれる。
サンジャシントは、後部からするすると沈みつつある。やがて、艦首が持ち上がった。
クリーブランド級軽巡を改造した軽空母のため、その船体部分はほっそりとしている。
サンジャシントの周りの海面は、火災と艦が閉じ込めていた空気によって白く泡立ち、水蒸気を発した。
後部側が没すると、次いで中央部が水につかり始める。飛行甲板の破孔から吹き上げる火災が水につくと、
ジューという音を立てて白煙をあげた。
艦橋の乗員たちは皆が敬礼を送っている。
サンジャシント艦長、マーチン大佐にいたっては、涙を流しながら、自分と共に過ごした“家”が、
最後を迎える一部始終をずっと見つめていた。
「お前を救ってやれなくてすまない。」
彼は誰にも聞こえないような小声でそう呟く。
午後11時58分、CVL−30サンジャジントは、異世界の海でその生涯を閉じた。
竣工してからわずか半年の命だった。  



707  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:39:12  [  D4VsWfLE  ]
7月11日  午前1時  第58任務部隊第3群
先の空襲で軽空母サンジャシント、駆逐艦ドーチを喪失した第3群は、損傷した艦艇のうち被害が大きい
クリーブランドとインガソル、それに乗員を救助した駆逐艦ブレインとテリーを後方に下げることにした。
その命令が出されたのは午後0時の事である。その後、スプルーアンスは自室に閉じこもった。

そして1時間後の午前1時、スプルーアンスは自室から出てくるなり、フォレステル大佐にこう言った。
「ミッチを呼んでくれ。彼と話したいことがある。」
それから10分後、内火艇に乗せられたミッチャー中将はインディアナポリスに向かい、そこで彼と今後の作戦について打ち合わせた。

午前2時、第58任務部隊はサイフェルバン沖から東に向けて遠ざかっていった。

同時刻、グリルバン郊外  バーマント軍飛行場
「1、2、3・・・・・・・・16機・・・・・・・戻ってきたのは16機だけか。」
第13空中騎士団の司令官代行を務めるイーレル大佐は、あまりにも少ない帰還機の数に愕然とした。
「敵艦隊の対空砲火は正確かつ熾烈でした。」
頭に包帯を巻いた飛行長のダルキア中佐が彼に言ってきた。ダルキア中佐の第1中隊は、輪形陣外輪部の駆逐艦を狙った。
第1中隊は8機を失ったが、米駆逐艦に5発の爆弾を命中させ、撃沈確実の被害を与えている。
だが、彼の機も被弾し、ダルキア中佐は頭部に高角砲弾の小さな破片が刺さった。幸いにも傷が浅かったので大したことはなかった。
だが、後部座席に座っていたグロルズは腹部に受傷し、到着したときには既に意識を失っていた。
医官の話では助かるかどうかは本人次第と言われ、グロルズは寝台の上で死の淵をさまよっている。
「途中、燃料切れで海に降下していく機体なども何機かいました。」
「なるほど。よくわかった。」
彼は頷いた。
「だが、104機が出撃して80機以上を失い、戦果が敵艦8隻撃沈破とは。
もはや精鋭をもってしても、敵機動部隊の防空網の前には打つ手なしか。」  


708  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:41:31  [  D4VsWfLE  ]
まるであり地獄だ。そう彼は思った。詳しい戦果は海竜隊の報告を待つしかない。
その海竜隊の報告は未だに届いていなかった。
(早く届かないものかな?そうしないと、明日以降の作戦が実行に移せない)
焦りが見え始めたその時、若い将校が紙を持って彼のもとに走り寄ってきた。空中騎士団直率の若い魔道師である。
「イーレル司令官代行、海竜収集隊から魔法通信です。」
彼は差し出された紙をひったくり、目を通した。
「貴空中騎士団による敵機動部隊に対する確認戦果は以下のとおり。敵大型艦1隻、小型艦1隻撃沈、
敵大、小型艦4隻戦場離脱。敵機動部隊は2群とも東南に後退せり。なお、分派された敵機動部隊も
針路を北東に変針せり。明日いっぱいは敵機動部隊の上空援護はないと思われる。」
彼はつかの間目を疑った。敵機動部隊が後退している!そして敵艦を2隻撃沈し、
4隻に戦場離脱させるほどの手傷を負わせたのである。
彼はダルキア中佐に視線を向けた。そして紙をダルキア中佐に見せた。中佐も紙を見た瞬間、顔色が変わった。
「よくやったぞ。爆弾を食らわせた8隻の敵のうち、2隻は傷が浅くて戦列を離れていない。
だが、敵機動部隊は一時的とはいえ後退し始めている。貴様たちのおかげで敵に一泡吹かせることが出来たのだ!」
そう、勝ったのだ。イーレル大佐の顔は紅潮していた。
今まで敵に跳ねつけられてきた空中騎士団の攻撃が、敵に手痛い一撃を加え、敵を退かせたのである。
この報告はすぐさま他の空中騎士団にも伝えられた。バーマント軍の飛空挺乗りの士気はこの時、頂点に達した。
「白星の悪魔の軍艦も沈むときは沈むのだ!」
「そうだ!奴らとて同じ生き物だ!生き物は必ず傷つき、死ぬのだ!」
「白星の悪魔に死を!蛮族に死を!」
夜中にもかかわらず、各空中騎士団の将兵は、初の敵空母撃沈に沸き立った。そして、みなの思いは夜明け後の作戦。
米上陸軍に対する絨毯爆撃の成功を誰もが確信していた。
敵の抵抗もあるだろうが、300機以上はいる飛空挺の襲撃に、たちまち押し潰されてしまうだろう。
バーマント兵たちはそう思いながら、夜明け後の出撃に備えていった。  


709  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:43:31  [  D4VsWfLE  ]
7月11日、午前8時40分、サイフェルバン西100キロ
グリルバンを飛び立った第3、第4、第7、第14空中騎士団、合計360機の飛空挺の大編隊は
それぞれ180機ずつにわかれながらサイフェルバンに向かっていた。
第3空中騎士団第6中隊長のマイザー・アス騎士大尉は、興奮冷めやらぬ表情で味方編隊を見回した。
空一面味方の飛行機で溢れかえっている。
おそらく、300機以上もの飛空挺を繰り出すと言う事は、今回が初めてだろう。
「壮大な光景ですな。」
後ろから髭面のゴーレッツ曹長が野太い声で語りかけてきた。
「そうだな。貴様と組んで色々な任務についてきたが、こうして多数の味方の
飛空挺に囲まれながら、進撃するのは初めてだ。」
「今回の任務、敵さんの地上軍を爆撃する任務のようですね。」
「ああそうだ。」
「あの白星の悪魔、高速飛空挺は伴っていないのですか?」
「いや、いるぞ。おそらく50機以上はいるらしい。」
「そうですか・・・・・・おそらく味方はまたかなりやられますね。」
ゴーレッツ曹長は苦い表情でそう言った。
「なあに、心配するな!問題の敵機動部隊は第13空中騎士団の夜間空襲に痛めつけられ、後方に下がって
いったようだぞ。確かに敵の護衛機にだいぶやられるかもしれんが、今日はいつもと数が違う。
なんせ300機以上だ。こんな大群に押し寄せられたら、いくら高速飛空挺とはいえ、全部は落としきれないさ。」
アス騎士大尉は明るい口調で彼を元気付けた。昨日まで空中騎士団の士気はいまいち上がらなかった。
ついこの間までは、無敵の空の勇者と呼ばれた飛空挺部隊が、2ヶ月前に突如現れた異世界軍の飛空挺や軍艦によって、
的よろしくバタバタ撃ち落されたのである。
「異世界軍に攻撃に行ったら絶対に助からない。」  



710  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:45:58  [  D4VsWfLE  ]
パイロットたちの間では、これまでの戦闘の結果から見てそう判断していた。
2週間前には第7空中騎士団で、パイロット10人が集団脱走する事件まで起きた。
バーマント軍の飛空挺乗りの士気は、従来よりも格段に落ちてしまったのである。
だが、それを第13空中騎士団が吹き飛ばした。彼らは多大な犠牲を出しながらも、
敵の飛空挺母艦、略して空母を見事撃沈しえたのだ。正確にはわからないが、
すくなくとも大型空母1隻と護衛艦艇1隻を撃沈し、2隻の空母に命中弾をあたえ、
うち1隻を戦列から脱落させたと報じられた。
そしてその敵機動部隊はサイフェルバンの後方に下がっているという。
この戦果は意気消沈していたバーマント軍パイロット達の士気を向上させた。
「夜の悪魔に続け!」
誰もがその言葉を叫びながら、意気揚々と出撃していったのである。
「確かに。これまでのツケを返さないといけませんな。」
曹長は不敵な笑みを浮かべた。
「ツケか、こいつはいい。笑える。」
アス大尉はハッハッハと笑い飛ばした。
編隊は相変わらず時速250キロのスピードでサイフェルバンに向かっている。
目標は、サイフェルバン精油所および地上軍、そして海岸に積み上げられた物資。
これを大量の飛空挺で大空襲を仕掛けるというのだ。
爆弾は通常の250キロ爆弾を各機1発ずつ抱いている。
誰もが、業火のなかで逃げ回る異世界兵の事を思い描いていた。  


711  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:46:28  [  D4VsWfLE  ]
「ん?」
ふと、アス大尉は東の空に何かが見えたような気がした。
空は快晴で、よく晴れた青空が広がっている。見るだけで気持ち良い青空だ。
その空に何かが見えた。彼は座席から前に姿勢を乗り出して、前方をよく見ようとした。
「機長、どうかしたんですかい?」
ゴーレッツ曹長が訝しげな口調で聞いてきた。
いくら見ても空には見えない。見間違いだろうか?いや、なんでもないだろう。彼はそう思い、姿勢を正した。
「いや、なんでもないさ。」
彼は微笑みながらそう答えた。そのまま前を見て・・・・・・・・・
そして彼の表情は凍りついた。
最初は一塊ほどの黒い粒が見えた。それがだんだんと増えていき、少しすると40機以上はいるF6Fの姿だとわかった。
最初、大尉は護衛機が慌てて出張ってきたか。と、思った。だが、その黒粒は増えていく。
増えていく増えていく増えていく増えていく・・・・・・・・・無数に増えていく。
そして、気がつくころには、前面の空には300機以上という膨大な数のF6Fが、
彼らの前方に立ちふさがっていたのである。  


712  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:47:43  [  D4VsWfLE  ]
話は少し先まで遡る。
午前1時、インディアナポリスの作戦室に、第58任務部隊司令官の
ミッチャー中将と参謀長のバーク大佐が入ってきた。
「よく来てくれたミッチ。早速だが本題に入りたい。」
「司令長官、今後の作戦について話し合いたいとありましたね。」
「それを今から言うのだよ。」
そう言うと、スプルーアンスは側にあるコーヒーをすすった。それを置くと、意を決したような表情で口を開いた。
「機動部隊を一旦、ここに向かわせよう。」
スプルーアンスは、指揮棒で図面をトントンと叩いた。そこの位置は、なんとサイフェルバンの東南、
160マイル地点の方角である。
「後方に下げるのですか?」
「そうだ。」
スプルーアンスはすかさず答えた。
「ミッチ、君は敵の出方について不思議に思わんかね?」
「不思議・・・・と申しますと?」
「先の飛空挺の攻撃だ。あの飛空挺部隊は夜間にもかかわらず、正確にわが機動部隊にたどり着き、
サンジャシントとドーチを叩き沈めた。敵の飛行工程がまるで誘導されているみたいに思わんか?」
「長官もそう思いますか。」
ミッチャーはスプルーアンスが同じ意見を持っていることに内心やはりか、と思った。  


713  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:49:17  [  D4VsWfLE  ]
「潜水艦の電波誘導を受けているみたいでした。そう言えば、レキシントンに乗り組んでいる
フレイド魔道師から、さきほどこんなことを聞きました。バーマント軍は過去に一度、海竜を
使って敵側の海上交通路を調べまわったことがあると。」
「海竜と言うと、第2任務群に襲い掛かったあの巨大海蛇か。」
スプルーアンスがそう言うと、ミッチャーは軽くうなずいた。
「そうです。」
「しかし、海竜は人間にはなつきにくいのではないのか?シュングリル
漁師協会の会長がそういっていたような気がするが。」
そこへマイントが話しに加わった。
「確かに成熟しきった海竜は人間にはなつきません。ですが、比較的若い海竜なら、話は別になると思います。
おそらく、私の仮定ではありますが、バーマント軍はこの侵攻部隊に対して、大量の海竜を放って情報を集めているかもしれません。」
「つまり、その海竜とやらが何か情報を魔法で発信しているわけか・・・・・こいつは一杯取られたな。」
スプルーアンスが珍しく、苦悶な表情を浮かべた。だが、それもすぐに元に戻った。
「と言うことは、その海竜共がわが機動部隊を監視しているとすれば・・・・・・なるほど、私の考えた作戦も成功するかも知れん。」
「作戦と申しますと、どういう風なものでしょうか?」
フォレステル大佐が聞いてきた。  


714  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:51:07  [  D4VsWfLE  ]
「実は、自室で考えたものなのだが、一旦機動部隊を後方に下げる。そして夜明けと共に反転し、
出せる限りの戦闘機をサイフェルバンに向けて送り出そうというものだ。なぜ反転するのかというと、
先の話に出た海竜があるだろう?あれと似たようなものが存在していると私は思っていたのだ。
その目に見えぬ監視者を欺くために、一度後退したと見せかけ、敵がのこのこと飛空挺の大群を出して
きたときに、機動部隊の大量の艦載機で一気に雌雄を決するというものだ。まあ、作戦立案の
フォレステルにはかなわんと思うが、私が考えたものとしては、こういうものだよ。
フォレステル君、どう思う?」
「これはいいアイデアだと思います。」
彼は頷いた。

「しかし、これはある意味賭けでもあります。現在、護衛空母は南部攻撃軍を乗せた輸送船団
に5隻が分派されており、サイフェルバンには5隻しかありません。その7隻のF6Fは
各艦15機ずつとして合計85機。一応まとまった数ではありますが、これらは地上部隊の
援護に駆り出されているので、大量に敵機が襲ってきたら阻止するのはきわめて難しいです。
そこにわが機動部隊の艦載機がサイフェルバンに着く前に敵機に取り付かれたら、地上部隊に
被害が出るでしょう。これは発艦のタイミングが遅れれば、非常にまずい結果になります。」  


715  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:53:39  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスは腕を組みながら唸った。タイミングがすれれば、わが機動部隊の後退に好機とばかり
に発進した無数の飛空挺によって地上部隊が被害を被る。
地上部隊は補充が利かない貴重な部隊だ。それをここで多く傷つけられれば、以降の作戦に大きな支障が出る。
「だが、バーマント軍の残った飛空挺を壊滅させるには、これしかないだろう。」
「では長官・・・・・・・・」
作戦室は静まり返った。誰もがスプルーアンスを見つめている。彼の決断を待っているのだろう。
(ここは・・・・・・・これしかないだろう)
彼はそう心を決めると、うつむいていた顔を上げた。
「私が考えた作戦で行こう。各任務群に伝えよ。第1、第2群は艦隊針路を北東へ、
第3、第4群は艦隊針路を南東へ、速度は28ノット。夜明け前に艦載機を発進させろ。
合流地点はサイフェルバン南東340マイル地点とする。機動部隊全艦艇にこう伝えよ。」
スプルーアンスが決断すると、機動部隊の全艦艇は、その所定の位置に向けて動き始めた。
ミッチャー中将が内火艇でレキシントンに戻ると、第3群は第4群と共に時速28ノットの
スピードで南東に向かい始めた。

午前6時、夜明けが近くなったこの時間、第3群から艦載機が発艦していった。第4群は
正規空母レキシントンからF6Fヘルキャット36機、エンタープライズからF6Fが36機。
軽空母プリンストンからF6F12機が発艦した。
第4群も合計で96機が発艦し、午前5時にクロイッチ空襲から戻った第1、第2群も
合計で180機が発艦、エセックスのデイビット・マッキャンベル中佐を指揮官機にした
合計360機の大編隊は、誘導機のアベンジャー2機を先行にサイフェルバンに向かっていった。
インディアナポリス艦上のスプルーアンス大将は、次の指令を下した。
「艦隊針路変更。針路は北西、サイフェルバンに向けろ。速力は24ノット。」
「針路北西、速力24ノット、アイアイサー。」
若手士官の声が聞こえ、インディアナポリスは左舷に回頭し始めた。
艦隊は一斉に回頭し、舳先をサイフェルバンに向けた。  


716  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:55:17  [  D4VsWfLE  ]
午前8時30分、サイフェルバン西50マイル地点
「こちらキャリー1、エックフォックスリーダーへ。お客さんがやってきたぞ。」
先頭を行くアベンジャーが、マッキャンベル中佐を呼び出した。よく目を凝らすと、
前方にうっすらとだが、バーマント軍機の編隊が見えてきた。
「こちらエックフォックスリーダー。確認した。たまげたな。すごい数だ。」
「俺もさ。とりあえず俺たちは後方に避退する。地上部隊を守ってくれよ。」
「了解。これからショーの始まりだ。」
(とりあえず間に合ったわけだな)
マッキャンベル中佐は内心でそう思った。今朝方発艦したヘルキャット隊は、時速450キロのスピードで
急ぐように向かった。
既に敵機が地上部隊を空襲し、被害を与えているのではないか?今にも無線機に、空襲を受ける
味方の悲鳴が聞こえないか?その思いが何度も湧き上がってきた。
だが、そうなる前に自分たちはしっかり、敵の眼前に立ち塞がっている。
これから起こる戦闘は一方的なものになるだろう。だが、迷いはない。
彼らの仲間だって、昨夜味方機動部隊を空襲し、大勢の仲間の命を奪ったのだ。
手加減などする必要はない。
「こちらエックフォックスリーダー。各機へ、敵機を発見した。これより攻撃位置につけ。
目標割り当ては、第1、第2群隊が後方集団を、第3、第4群隊は先頭集団を叩く。
包囲するように襲い掛かるんだ。1機も逃がすな。かかれ!」
マッキャンベル中佐の声に、各母艦の戦闘機隊長が威勢のいい返事を送ってきた。高度は5000メートル、
敵機は4000メートル付近にいるから、優位はヘルキャット隊にある。
第1、第2群の戦闘機が別れ、スピードを上げて敵の後方に回り込むコースに向かおうとしている。
マッキャンベル中佐を始めとする第3、第4群の戦闘機はそのまま敵に向かって進む。
心なしか、敵機の編隊が乱れているように見える。いや、少々乱れていた。
(敵さん、こっちが大量の戦闘機を出して迎撃に来るとは思っていなかったのだろう。)
彼はふとそう思った。敵機がF6Fの下に覆いかぶさる位置に来た。  


717  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:56:11  [  D4VsWfLE  ]
「第3、第4群隊、突入せよ!」
マッキャンベル中佐は無線機に向かってそう叫ぶと、操縦桿を左に倒した。
それを機に、F6Fは次々と翼を翻し、飛空挺部隊に向かって襲い掛かった。
その光景は、まるで獲物を見つけた猛禽類が、猛然とそれに突っかかっていくようなものだった。

2000馬力エンジンがごうごうと鳴り響き、照準機の中の敵機がみるみるうちに大きくなっていく。
機体のスピードは600キロを超え、敵機との距離はすぐに縮まった。
「サンジャシントとドーチの仇だ!」
マッキャンベル中佐はそう叫ぶと、発射ボタンを押した。
両翼の12.7ミリ機銃が振動と共に吐き出され、6本の線となって吐き出された。
そのうちの何発かが命中し、胴体から破片が飛び散る。だが、機銃弾はまだ降り注ぐ。
翼、エンジンに多数の12.7ミリ機銃弾を食らった飛空挺は、黒煙を噴きながら
まっ逆さまになって墜落していった。  


718  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:57:23  [  D4VsWfLE  ]
高度6000から後方に回り込んだ第1、第2群の戦闘機隊は、バーマント飛空挺部隊の最後尾
に到達した。
空母ヨークタウンUのVF−10飛行隊隊長のブルース・グリューン少佐は先頭集団のほうに
ちらりと視線を移した。
先頭集団は、F6Fの大群に引っ掻き回され、既に隊形が崩れかけている。
火を噴く敵機の数は10〜20機と多い。
「マッキャンベル中佐は派手にやってるな。こっちも負けてられんぞ。」
そう呟いた彼は、全機突撃を命じた。すぐさま180機のF6Fが襲い掛かる。
高度6000からまるで隕石のごとく降りかかったF6Fの集団は、みるみるうちに
敵機との差を縮めた。
「よし、いただきだ。グリューン少佐は1機の飛空挺に狙いをつけ、機銃を放った。
その時、照準機の向こうの敵機の後部座席から、機銃らしきものを振りかざした敵兵が
それを向け、そしてバリバリと撃ちまくってきた。
米軍が保有する後部旋回機銃と同様なものだ!互いの銃弾が交錯し、たちまち無数の
12.7ミリ機銃弾が飛空挺を打ち据えた。
F6Fの機体に何かが連続してあたり、震えた。被弾したのだ。
グリューン少佐はそれでも機銃弾を撃ちまくった。  


719  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:58:42  [  D4VsWfLE  ]
新たな被弾が後部座席の射手を捉え、射手が仰け反る。そして胴体から赤黒い炎が湧き出し、
力尽きたように機首を下にして、その飛空挺は墜落していった。
「ヨークフォックスリーダーより全機へ、敵飛空挺は旋回機銃を持っている!
後方から狙うときはその旋回機銃に注意を払え!」
彼は繰り返しそれを言おうとした時、恐れていた事態が起こった。
「第2中隊長機被弾!」
「第1中隊4番機被弾!」
彼が後方を見ると、2機のF6Fがうなだれたように機首を下げ、墜落していく。
パイロットが脱出していく気配がない。恐らく、敵機の機銃弾がコクピットに飛び込んだのだろう。
なんという悪運か。
だが、彼は感傷にひたらず、自分の愛機を確かめる。各種計器は問題ない。
機体もこれまで通り動いている。
「さすがはグラマン鉄工所の機体だ。頼りになる。」
そうニヤリと笑みを浮かべると、グリューン少佐は反転上昇に移った。
その頃には敵機はだいぶ撃ち減らされていた。
180機のF6Fは初撃で40機の飛空挺を撃墜し、60機に損傷を負わせていた。

反転上昇に移ったグリューン少佐は、右前方を行く飛空挺に狙いをつけた。
彼はそれを狙うことにした。
高度は3000まで下がっていたが、2000馬力のエンジンは、
重いF6Fの機体をぐんぐん上空に押し上げていった。  


720  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  12:59:43  [  D4VsWfLE  ]
彼は敵機の後ろ下方から狙おうとした。敵機はそれに気づいたのか、急に爆弾を捨て、
急降下に移った。
(畜生、感づかれたか。)
彼は内心で舌打ちしたが、その敵機を追った。急降下性能でも断然F6Fが早かった。
すぐにその敵飛空挺に追いついた。
敵機の後部座席から機銃弾が放たれてくる。だが、それは見当違いの方向に流れていた。
「射撃がなっちゃいねえな、バーマントさん。」
彼は物凄い笑みを浮かべながらそう呟いた。
「射撃というものは、こうやるんだ!!」
照準器に捉えた敵機めがけて、6丁の12.7ミリ機銃が放たれる。
ダダダダダダダダダ!というリズミカルな振動がF6Fをゆらし、曳光弾が敵機に注がれる。
さすがは頑丈といわれたバーマント機。一連射を浴びせたが破片を飛び散らせただけで火を噴かない。
だが彼にはそんなことは関係ない。一連射で屈しなければもっと叩き込めばいいことだった。
無数の機銃弾に貫かれた飛空挺は、あっという間に空中分解を起こした。
彼はその破片に当たるまいと、機を巧みに操作して避けた。  


721  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  13:00:46  [  D4VsWfLE  ]
バーマント第14空中騎士団第3中隊長のオスト大尉は、もはやサイフェルバンを攻撃
できないことを確信した。
目の前の光景は想像を絶するものだった。周り中に敵味方の航空機が入り乱れ、
味方の航空機のほうが一方的に叩き落されている。
旋回機銃を持たない第3、第4、第7空中騎士団の飛空挺はあっという間に敵機に食らいつかれ、
戦闘開始20分たった今では、先頭の第3空中騎士団は既に20機しかおらず、全滅も時間の問題だ。
第14空中騎士団も既に30機が撃墜され、20機が被弾し、隊列から脱落している。
そこを別の高速飛空挺が群がり、1機、また1機と撃ち落されている。
だが、第14空中騎士団の飛空挺には、後部座席に10.2ミリ機銃が装備されており、
この旋回機銃によって6機のF6Fを撃墜し、12機に損傷を与えた。
しかし、それも雲霞のごとき大編隊相手には通用しない。またも1機が派手に爆発し、
自らの破片を空中に撒き散らした。
このまま行けば、全滅だ。もし全滅したら、この戦闘の模様を誰が知らしめるのか?
ここは敵に背を向けてでも生き残るべきだ!
そう決意した彼は爆弾を捨て、機を元来た方向に向けた。
その時、
「後ろ上方より敵機接近!向かってくる!」
ついに彼の機にもF6Fという悪魔が取り付き始めたのだ。
「タイミングを見計らって急降下するぞ!お前は敵の目測の距離を俺に伝えろ!」
「わかりました!」  


722  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  13:02:34  [  D4VsWfLE  ]
後部座席の部下が上ずった口調で返事した。F6Fのずんぐりとした機体がぐんぐん迫ってくる。
1200・・・・1000・・・・800。
「600です!」
「急降下するぞ!」
オスト大尉はそう叫ぶと、操縦桿を下に倒し、急降下に入った。
ガクンと機首が下を向き、降下を始めた機のすぐ後ろを、6条の光が駆け巡っていった。
間一髪、F6Fの銃撃をかわしたのである。
グオーン!という悔しげなような音を立てて、F6Fは飛び去る。
だが、敵は諦めていなかった。飛び去ったF6Fは、大きく左旋回し、またもや彼らに向かってきた。
「また向かってきましたぁ!」
悲鳴のような報告が、オスト大尉の耳に届く。
畜生、何が敵機動部隊は後退しただ!あの数の高速飛空挺は一体なんだというのだ!?
心の中で、上層部を罵った。その間にも敵機は彼らの右斜め後ろの位置についた。
急降下速度も敵機のほうが速い。小さな点だった敵機の姿は、段々と大きくなってくる。
高度はまだ2400、地表すれすれに飛行すれば、なんとか敵をかわせると思っていたが、
その思いは甘かったようだ。
「敵が近くに来たら撃て!死ぬか生きるかはお前にかかっているぞ!」
オスト大尉は、後部座席の部下を叱咤した。その間にも、F6Fの姿は大きくなっている。
後部座席の機銃手であるグリンス軍曹は、高まる鼓動を抑えながら、F6Fをにらみ続けた。
そして頃合よしと判断すると、機銃の引き金を引いた。
ドガガガガガガ!という重々しい発射音と共に機銃弾が銃身から吐き出される。
反動で跳ね上がる銃身を力ずくで押さえながら、F6Fに向けて銃弾を送り続けた。  


723  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  13:03:34  [  D4VsWfLE  ]
同時にF6Fも両翼をマズルフラッシュで染めて、機銃弾を叩き付けた。
その時、グリンス軍曹は、機銃弾がF6Fの胴体、そしてエンジンに突き刺さるのが見えた。
「やった、命中した!」
彼はそう喝采を叫んだ。次の瞬間、ガンガンガン!という殴りつけられたかのような振動が
機体を激しく揺さぶった。
グリンス軍曹は左肩に焼き付けるような激痛を感じ、座席に座り込んだ。終わりだ。
ここで死ぬんだ。彼はあきらめた。新たなる被弾でこの飛空挺も終わるだろう。
そして俺と機長の人生も。
だが、敵弾は来なかった。後ろに位置していた敵機もいなかった。
「ど、どこに行った?」
グリンス軍曹は辺りを見回した。そして、うっすらと黒煙を吐きながら、
逃げるようにして東の空に避退していくF6Fの姿があった。

午前9時17分。辺りは静けさを取り戻していた。
「こちらエックフォックスリーダーより、マザーグースへ。敵機の攻撃は撃退した。
撃墜戦果は300機以上。味方の損害は撃墜8機、被弾20機。我、作戦終了。これより帰還す。」
戦闘機隊指揮官のデイビット・マッキャンベル中佐は戦闘終結宣言を高らかに上げた。
彼自身、6機の飛空挺を撃墜している。
彼を始めとするF6Fの編隊は、勝ち誇ったように西の空に向けて飛んでいった。  


724  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/23(木)  13:05:19  [  D4VsWfLE  ]
この日、勝利を確信して飛び立った360機の飛空挺部隊は、無数のF6Fに襲われて壊滅した。
米軍機の被害は8機が撃墜され、4機が着艦事故で失われ、1機が修理不能とみなされ、
合計13機を失い、8人が戦死した。
バーマント側は第3、第4空中騎士団が全滅し、第7空中騎士団が8機、第14空中騎士団が
20機を残したのみとなり、合計で332機が撃墜されてしまった。
搭乗員の戦死は撃墜機だけで600人以上を数えた。

ここにして、バーマント軍のサイフェルバン方面の航空戦力は壊滅したのである。
この戦いは、後に「サイフェルバンの七面鳥撃ち」とあだ名されることとなる。  



742  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  22:49:36  [  D4VsWfLE  ]
7月11日、午前10時  サイフェルバン東沖230マイル付近
レキシントンの艦尾に向けて、1機のF6Fが最終アプローチラインに入った。
そのF6Fは失速することもなく、見事な着艦を見せた。
「司令官、戦闘機隊の収容終わりました。」
参謀長のアーレイ・バーク大佐がミッチャー中将に報告した。
「うむ。」
ミッチャーは頷いた。今回の空中戦は、敵バーマント軍の飛空挺の大多数をサイフェルバンに
たどり着く前に多数のF6Fで叩き落したことで、米側が完勝した。
空中戦では8機のF6Fを失ったが、敵の飛空挺300機以上を撃墜した。
この戦果は昨夜の空襲で少なからぬ犠牲を出し、敗北感に打ちのめされていた第58任務部隊の
気分を明るくさせた。
「これでサンジャシントとドーチの仇は取れましたな。」
「敵さんも、わが機動部隊を怒らせたらどうなるか、骨身に染みただろう。
だが、まだ仕事は残っているぞ参謀長。偵察機が敵の飛行場を探している。
見つけたらすぐに待機していた攻撃隊で叩くのだ。」
午前9時ごろからサイフェルバン内陸に向けて8機のアベンジャーが飛び立った。
今のところまだ報告は入っていないが、第3、第4任務群の格納庫には合計で240機の攻撃隊が
既に装備を終えて待機している。
今は戦闘機の収容が終わったから、じきに飛行甲板上に上げられていつでも発艦できるように準備が始まるだろう。
「お返しはたくさんしないといけないからな。」
ミッチャーはぶすりとした表情でそう呟いた。
午前10時50分、ランドルフの偵察機からサイフェルバン西300キロの地点に敵の本格的な飛行場があると報告してきた。
第58任務部隊の第3、第4群から合計で240機の攻撃隊が発艦したのは、これから30分後の事である。  


743  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  22:50:53  [  D4VsWfLE  ]
午後2時30分、グリルバン郊外  バーマント軍航空基地
グリルバンの航空基地に米艦載機が来襲したのは午後0時を少し過ぎた後である。
グリルバンに司令部を置いているサイフェルバン方面航空隊統括司令官のライクル騎士中将は、
未帰還機の余りの多さに愕然としていた。
360機の大編隊で送り出したのに、わずか28機しか戻らなかったのだ。
ライクル司令官はしばらく執務室から出てこなかった。
その悲しみなどどうでもいいとばかりに来襲した米艦載機はグリルバンの飛行場を傍若無人に
荒らしまわった。
米艦載機の空襲によって、2000メートルの滑走路はたちまち穴だらけにされ、主要な建物、
指揮所や整備部品が置かれている倉庫、宿舎、弾薬、燃料タンクなどは片っ端から銃爆撃を受け、
見るも無残な姿に変わり果てた。
特に、燃料タンク、弾薬庫の大爆発は5キロ南に離れたグリルバンの住民たちまでも仰天させた。
空襲の間、パイロットやライクル司令官らはすぐさま地下壕や物陰などに隠れて難を逃れようとした。
米艦載機は思う存分暴れまわった後、塩が引くようにいつの間にかいなくなっていた。
そしてその後に残されたのは、破壊しつくされた飛行場だった。
今は消火活動や後片付けに基地の兵士たちは従事している。その破壊された基地を見ると、
いかに米艦載機がこの手のプロであるか理解できた。
激しく燃え盛っている燃料タンクに消火隊が群がり、必死に水をかけている。
弾薬庫の消火は既に終了していたが、2階建ての施設は跡形も無く吹き飛んでしまっている。
滑走路は小さいもので5メートル、大きいものでは10メートル以上の穴が無数に開いており、
最低でも2週間は使えないだろう。  


744  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  22:53:25  [  D4VsWfLE  ]
飛空挺の生き残りは、退避させる暇も無かったため、全機が機銃弾によって
ただの鉄製のぼろに成り代わってしまっていた。
パイロットが無事だったのが不幸中の幸いである。
「うまいものだな。」
破壊された基地を見渡しながらライクル司令官は呟いた。彼の自信に満ちた闘志は、
今ではすっかり消え失せていた。顔は10年分は老けたように見えた。
懐から思い出したように一枚の紙を取り出した。それは飛空挺を全機送り出した20分後に入ってきた
魔法通信の内容を書き写したものだ。
「サイフェルバン南東に敵機動部隊あり。敵艦隊は高速でサイフェルバン方面に向かいつつあり」
ライクル中将は紙をくしゃくしゃにすると、残骸の中に捨てた。
顔にはやりきれない怒りが浮かんでいた。
「この通信が、出発前に届いていたら・・・・・・・・・・・多くのパイロットを死なせずに済んだものを・・・・・・・」
そう、海竜情報収集隊はアメリカ機動部隊の欺瞞行動に嵌められたのだ。
これまで、海竜情報収集隊は多くの有力な情報をバーマント軍に送ってきた。その情報は常に正確だった。
だが、今回はそれを逆手に取られたのである。
(敵が海竜の存在を知ったとなると、今後は正確な情報が届きにくくなるな)
彼はそう思った。そしてこれからは海竜自体も敵によって次第に数を減らされていくだろう。
「敵に与えた損害はわずかで、我がほうの損害は極大とは・・・・敵将はかなり頭が切れるな。」
ライクルは内心で敵将を褒めた。
(一度、敵の総司令官、スプルーアンスとやらに会ってみたいものだ)
これまで縦横無尽に活躍してきた、バーマント軍の空の精鋭を壊滅させた敵将に対し、
僅かながら尊敬の念が沸き起こった。
その時、若い魔道将校が紙を持って彼の側にやってきた。空襲が終わった10分後に、
ライクル司令官は被害の実情を報告していた。
その返事がやってきたのだろう。
「司令官、先ほどの報告の返事が来ました。」
「読め。」
彼は魔道将校に背を向けたまま答えた。
「ハッ。サイフェルバン方面の全空中騎士団は、至急作戦行動を中止せよ。
後の指示は追って連絡する。とのことです。」  


745  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  22:55:05  [  D4VsWfLE  ]
7月12日  午前7時  バーマント公国首都ファルグリン
公国宮殿にある大会議室に、陸軍と海軍、それに空中騎士団の総司令官、そ
れに皇帝と直属の将官が集まっていた。
この他に皇帝の娘であるエリラ・バーマント皇女もなぜか席に座っていた。
「さて、サイフェルバン方面の詳しい話を聞かせてもらおうか。」
玉座に座るグルアロス・バーマントの冷たい声音が凛と響いた。彼の機嫌はかなり悪かった。
(これは皇帝陛下の雷が落ちるぞ)
海軍最高司令官のネイリスト・グラッツマン元帥は内心でそう呟いた。
戦況が悪くなると、時たま何人かの高級将官が罰を受けるのである。
死刑になることは滅多に無いが、その代わり一生牢獄に放り込まれ、
日の目を見ることなくそこで息絶えることになる。
「わが陸軍は、敵異世界軍の侵攻に対し、勇敢に戦っております。しかし、サイフェルバン駐留軍は、
既に6万を超える死傷者が出ており、敵上陸軍はサイフェルバンのわが軍を包囲しようとしています。
現状から行きますと、包囲された場合、サイフェルバンは持って3週間ほどです。」
「なぜだ?敵の蛮族共なぞ、我が強大なバーマント陸軍の前には蟻と獣でしかない。すぐに増援を送るのだ。」
「しかし、肝心の鉄道は敵飛空挺によって各所が寸断されており、今現在も修理中です」
「海軍は?海軍はどうなのだ。まだ主力部隊が突入していないぞ。」
皇帝のその言葉に、グラッツマン元帥は口を開いた。
「我々海軍も高速艦10隻をサイフェルバン沖に突入させようとしました。
しかし、突入した第2艦隊は1隻も帰ってきていません。
恐らく敵の有力な艦隊と交戦した後、全滅したようです。
海竜隊の報告では、敵の大型艦2隻と小型艦1隻が南に避退して行ったとあるので、
第2艦隊は3隻の敵艦を撃破したようですが。」  


746  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  22:57:39  [  D4VsWfLE  ]
「そうか・・・・・・・・・」
皇帝は気持ちを落ち着かせようと、腕を組んで下にうつむいた。その表情には怒りが渦巻いている。
グラッツマンはちらっと皇帝の側に座る皇女のエリラに視線を移した。
(なんでこいつがいるんだ。)
グラッツマンは苦々しい気持ちでそう思った。
顔立ちは美しいながらも精悍で、体つきはとても良い。
普段は格闘や剣術といった武芸もたしなむため、肌は小麦色に焼けている。
一見美人のこの皇女だが、グラッツマンは彼女が大っ嫌いだった。
エリラは時折、このような会議に姿を現すかと思えば、彼らの言うことにあれこれ口を出すのである。
実は彼女はこのバーマント公国の次期皇位継承者で、父であるグルアロスは彼女が勝手に進言するのは
何も気に留めていない。
それどころか、勉強になるからいいという始末である。
1ヶ月前などは、まだ準備が整っていないのに、
「王都に侵攻したほうがいいんじゃないの?」
と皇帝に進言した。その事がきっかけで王都侵攻が皇帝によって決められ、2個空中騎士団が
侵攻するまでの間、王都を爆撃しようとした。
だが、この時王都には異世界の航空隊が進出しており、これらに襲撃された空中騎士団は全滅してしまった。
この時はまだいい。しかし、彼女は以前にもこういう横槍を入れては勝手に軍を動かすときがあった。
成功するときは成功するが、失敗するときは目も当てられない結果になる。
将軍連中の頭越しにあれこれ指図するエリラは、今では彼らに嫌われていた。
(今日は珍しく黙っているが、いずれ口を出してくるかもしれんな)
彼は内心で心配していた。できればこのまま彼女には黙ってもらいたい。  


747  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:00:41  [  D4VsWfLE  ]
皇帝はしばらく考え込んでいた。その間、不気味な静寂が辺りを包み込む。
飛空挺の戦力も壊滅し、サイフェルバンの陸軍は劣勢、そして海軍部隊は最新鋭の
高速艦を参加艦艇全滅という悲運に見舞われている。
しかし、殴られたままでは引き下がれない。
「だが、打つ手は打たねばなるまい。我が軍だって敵に被害を与えている。
第13空中騎士団は敵の空母を撃沈したし、惨敗した航空戦でも、
機銃で少ないながらも敵機を撃墜している。それに前にも言ったが敵はわずか15万の少数だ。
今はサイフェルバンで苦戦しているがいずれ、我が軍は大軍を送り込んで目に物を見せてやれる。
だからサイフェルバンは当分の間、持ちこたえねばならん。」
「しかし、鉄道の修理がまだ済んでおりません。」
「なら早く直したまえ。」
皇帝は有無を言わさぬ表情でそう言った。オール・エレメント騎士元帥は、蛇に睨まれた蛙のように押し黙った。
「皇帝陛下、空中騎士団の増援についてですが、現状では新たに空中騎士団を送り込むのは自殺行為も同然です。」
バーマント空中騎士軍司令官のジャロウウス・ワロッチ騎士大将は、哀願するような口調で話し始めた。
「立て続けに起こったアメリカ軍との戦闘で、我が空中騎士団のこれまで被った損害は飛空挺886機、
パイロットは1508名を失っており、もはや半分の戦力しかありません。それにあてになるのは首都にいる
4個空中騎士団400機のみで、残りは訓練中か、編成を終えたばかりの新米です。この4個空中騎士団を失えば、
我々バーマント航空部隊は壊滅します。」
「ふむ。で、君は何が言いたいのかね?」
「サイフェルバン方面の増援中止です。」
しばらく会議室はしーん、と静まり返った。  


748  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:02:22  [  D4VsWfLE  ]
その静寂を破ったのは皇帝だった。
「そうであれば・・・・・仕方が無かろうな。空中騎士団は陸軍や海軍と違い、数も人員も少ない。
よろしい、増援中止を許可しよう。」
(さすがに、皇帝陛下も空中騎士団を失うのは痛いのだな)
グラッツマンは恐らく、空中騎士団の増援を断行させるだろうと考えていたが、これまでの優位は、
空中騎士団があったからこそ実現したものだった。
もし空中騎士団を失えば、バーマントの大陸統一は遠のくだろう。
皇帝陛下はそれを恐れ、空中騎士団の温存を決めたのだ。彼はそう確信した。
(賢明な判断です。皇帝陛下)
彼は内心で喜んだ。だが、そこへある人物が口を開いた。エリラ皇女である。
「お父様、まだ手があるじゃないですか。海軍はたかだか10隻の軍艦を失っただけです。
まだ主力は敵船団に突入してはいませんよ?」
会議室の司令官たちは、電撃が走ったかのような感覚に見舞われた。
またいらぬ事を!!このまま黙っていればいいものを!!
誰もが口や表情に表さなかったが、内心ではそう思っていた。
「そう言えば、確かにそうであるな。夜間に突入した第2艦隊は、確か3隻の敵艦を撃破したと言ったな?」
グラッツマン元帥は内心しまったと思った。報告に敵艦3隻撃破したと言ってしまったのだ。  


749  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:04:11  [  D4VsWfLE  ]
アメリカ軍の艦艇は我がバーマント軍より勝っているものの、数が揃えればそれを撃破、うまくいけば
撃沈できることも不可能ではない。皇帝はそう思っている。
エリラはむしろ皇帝より強く思い込んでいるに違いない。
畜生、次期皇位継承者だからといって調子に乗りおって!皇帝も皇帝だ!
グラッツマンは内心で2人を罵った。既に皇帝は乗り気になっている。
「皇帝陛下、私もそれはいい案だと思います。重武装戦列艦5隻を擁する第3艦隊は最強です。
これらを投入すれば、敵アメリカ軍の艦隊と5分に渡り会えるはずです。」
皇帝直属将官であるミゲル・アートル騎士中将も頷きながらそう言った。
彼は35歳で中将に上り詰めた実力派の将官だが、常に皇帝のイエスマンであるために、
グラッツマンは彼のことを皇帝の腰巾着と陰で罵っている。
(貴様まで口を出すな!)
彼は怒声を上げかけたが、寸前のとこで抑えた。
彼自身もバーマントの大陸統一を熱心に願っている。あの馬鹿皇女も、腰巾着の言う事も全てが間違いではない。
時には2人の皇帝に対する助言がきっかけで大勝利を得たこともあった。
(たまたま通りかかった破壊船が第2艦隊の乗員を救出し、事情を調べたが、敵の警戒艦は思ったより少なく、
数は10隻程度しかいなかったと聞く。ならば、今回第3艦隊を送れば、10隻しかいない敵艦を蹴散らして、
サイフェルバン沖の貧弱な武装の敵輸送船を叩き沈められるかも知れん。)
考えれば意外に出来なく無さそうでもない。彼はそう思った。
その時、皇帝が声をかけた。
「グラッツマン元帥、第3艦隊をサイフェルバン沖に突入させられないかね?」  


750  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:06:27  [  D4VsWfLE  ]
7月13日  午前0時  バーマント公国首都ファルグリン郊外
ここはファルグリン郊外の森の中にある墓場。普段は誰も通らないひっそりとした場所である。
その墓場のすぐ近くにある貧相なボロ屋に、髭面の男は待っていた。
「来るのが遅いですね。」
髭面に対して、敬語で痩身の男がそう話した。
「あの人は普段忙しいからな。それに遅いのはいつものことだろう。」
髭面の男はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
「それにしても、毎回思うことなのですが、集合場所が墓場の近くというのはもう止しませんか?
なんか幽霊が出てきそうで嫌なのですが。」
「馬鹿野郎。幽霊が何だ、むしろ幽霊なんかかわいいほうだ。本当に怖いのは人間なのだよ。
命令ひとつで何の罪も無い国を潰そうとするのだからな。」
髭面の男が淡々とした口調で言う。
「馬鹿げている。全く馬鹿げている。疑心暗鬼で他国に攻め込むなんて、愚か者のすることだ。
いくらヴァルレキュアの技術革新が進んでいようと、明らかにバーマントに攻め込もうとはしなかった。
しかし、統一したい欲望に皇帝陛下は溺れて、この国の歴史に大きな影を作ってしまった。
そんな時に異世界軍が現れるのは、神が天罰を与えたからさ。」
「その天罰を、我々が味合わされているというわけですね。」
「ああ、そうだ。たかが欲望のために、外国民や臣下を狂気に等しい戦争で殺しまくる。
本当に馬鹿げている。」  


751  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:07:13  [  D4VsWfLE  ]
髭面の男はそう言うと、深くため息をついた。
その時、ドアを叩く音が聞こえた。
「誰だ?」
痩身の男が聞くと、外から返事があった。
「皇帝陛下は大逆人だ。」
髭面と痩身は互いに顔を見合わせ、頷いた。
「いいぞ、入れ。」
髭面がそう言うと、ドアがぎいっと音を立てて開いた。ひんやりとした夜風が吹き込んだ。
黒いフード帽をつけた男が入ってきた。
「待たせて申し訳ありません。」
「いや、いいんだ。あんたは重要な職種についているんだからね。どうだ、何かバレた兆候はないか?」
「いえ、今のところ何もありません。それにしても毎回ここの集合場所は何かいるのかといつも心配になりますよ。」
「なあに、今のところ幽霊なんか出ていないよ。心配しなさんな」
そう言うと、髭面はガッハッハッ!と豪快に笑った。
「おーい!君の兄さんが来たぞ!」
髭面は大きな声で奥を呼びかけた。奥からは長髪の女性が出てきた。
「兄さん!」
長髪の女性は、フード帽を見るなり走りより、抱きついた。
「お前か。久しぶりだな、元気だったか?」
「ええ、元気よ。兄さんこそ元気そうね。」
長髪の女性はニカっと笑い、互いの再会を喜んだ。再会の喜びもそこそこに、髭面の男が本題を切り出した。  


752  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:08:49  [  D4VsWfLE  ]
「所で、宮殿のほうはどうなのだね?」
「ひどいです。」
フード帽は、途端に苦々しい表情でそう言った。
「昨日の会議で、皇帝陛下は空中騎士団の増援を中止しましたよ。」
「なんだ、それなら別に酷くは無いと思うが?」
「問題はここからです。空中騎士団の増援は中止になりましたが、代わりに海軍の第3艦隊が、
サイフェルバンに派遣されることになりました。」
「第3艦隊だって!?」
髭面は驚いた表情でそう叫んだ。
「そうです。さらに詳しく言うと、第3艦隊派遣の原因はエリラ皇女にあります。」
「またあの馬鹿娘が口を出したのか。」
髭面はため息混じりにそう呟いた。第3艦隊とは、バーマント公国屈指の打撃艦隊で、
重武装戦列艦ザイリン級5隻を基幹に中型戦列艦6隻、最近配備されたばかりの高速戦列艦3隻、
小型戦列艦12隻、小型高速戦列艦8隻、合計34隻の大艦隊である。
ザイリン級は米海軍で言う戦艦の艦種で、速度は燃料が石炭であるにもかかわらず23ノットという
信じられないスピードを出せる。
主砲は33・8センチ砲10門を持ち、ヴァルレキュア戦では、第3艦隊が、当時ヴァルレキュア領
だったクロイッチの要塞砲と激しい撃ち合いを演じ、これに勝利している。
その他の艦も26ノットのスピードを出せ、高速戦列間にいたっては、先の第1次サイフェルバン沖海戦で
数の優位性もあるが、米軽巡モービルとデンヴァー、駆逐艦マグフォードを叩きのめした侮れない敵である。
だが、いくら優秀な艦が揃っている第3艦隊でも、それをさらに上回る艦を山ほど持っている米艦隊相手には、無謀もいいところである。  


753  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/28(火)  23:10:00  [  D4VsWfLE  ]
「既に皇帝陛下が作戦の立案を命じました。」
「・・・・・・・・」
髭面は目を覆った。これでまた多くの命が散ってしまうだろう。いくら重職にあるフード帽でも、
むやみに反対意見を唱えれば、たちまち投獄されてしまう。
「こうなる犠牲がまた新たに出る前に、早く革命をやらなければ!」
痩身の男が拳をあげて髭面に言う。
「だからこうして集まっているのだ。だが、最初はこのように少数のほうがいい。そうじゃないと、
官憲に見つかって終わりだ。」
「焦りは禁物です。今は徐々にやっていくしか。」
長髪の女性もそう言う。
「そうです。今しばらくは辛抱するべきです。」
フード帽も同じことを言った。
「そうだな。そのためには、まずは情報だ。さて、次の情報だが・・・・」
髭面はフード帽から新たな情報を聞き出そうとした。

密会は40分続いた。
「とりあえず、今日はこれまでにしておこう。」
髭面は今日の密会を終わることを告げた。
「これからも苦難の連続になるだろう。だが、革命の成就まで我々が、他の同志達と共に味わった事は、
これからのバーマント、そして大陸にとってもかけがえの無いことになるだろう。バーマント公国に栄光あれ。」
髭面がそう言うと、他のメンバーも最後の言葉を唱和した。
4人はそれぞれバラバラになって散っていった。夜はまだまだ深い。
(革命のため、そして俺と妹のためにも、失敗は許されない。)
フード帽の男、ミゲル・アートルは改めてそう決心した。  


764  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:48:10  [  D4VsWfLE  ]
7月16日  サイフェルバン市街西端  午前8時
第4海兵師団は、サイフェルバン軍事都市と大陸奥地につながる境界線まで進出していた。
5日に始まったバーマント地上軍との戦闘は、いよいよ大詰めを迎えてきた。
バーマント側は幾度と無く米軍側に反撃を加えてきたが、その都度追い返された。
サイフェルバン攻略軍は、南側を第4海兵師団、中央を第27歩兵師団、北側を第2海兵師団が受け持ち、
両翼の第2、第4海兵師団が、サイフェルバンをぐるりと取り囲むように進み、中央から第27歩兵師団が
ぐいぐい押し上げる形となっている。
そしてこれらの後方には陸軍の第24砲兵旅団が各部隊の後ろに陣取り、進撃を支援している。
これまでの戦闘で第4海兵師団は140人の戦死者に800人の負傷者を出している。
だが、まだまだ海兵隊員の闘志は健在で、敵の障害を次々と排除しながら、順調に進撃していた。

第25海兵連隊は、この日サイフェルバン西端にある宮殿付近の制圧を命じられた。
宮殿付近とは、貴族が住んでいたと見られる宮殿や、鉄道の駅、その他の施設や住宅地である。
北側には第2海兵師団が同じように展開している。これら2つの師団によって、サイフェルバンの輪を閉じようと言うのだ。
第4海兵師団の師団長ハリー・シュミット少将は、腕の時計に視線を移した。8時。攻撃開始は8時5分である。
「砲兵部隊は配置についたか?」
「配置につきました。」
「各部隊の様子はどうか?」
「予定通り、配置についています。皆意気軒昂です。」
若い士官に確認した彼は、満足そうに頷いた。
「今回は敵の有力な部隊が、これから進撃する地域にいるらしい。
恐らくこの戦いは、このサイフェルバンの戦いで最も激しい戦いになるだろう。
だが、我々マリーンなら、どんな敵でも打ち砕いてくれるだろう。」
シュミット少将は自信に満ちた口調でそう言った。時間は午前8時4分を指していた。  


765  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:49:32  [  D4VsWfLE  ]
第25海兵連隊第3大隊A中隊は、物陰に隠れながらその時を待っていた。
「中隊長、まだですか?」
兵士が中隊長であるウイリアム・ワシントン大尉に聞いてきた。
「もう少しだ。我慢しろ。」
彼はそう言って部下を黙らせた。その時、後方から砲声が聞こえてきた。
シューという音も聞こえたと思うと、前方400メートル先の住宅地から爆炎が吹き出した。
ドカンドカンドカン!という銅鑼太鼓連続で鳴らしまくるような轟音が聞こえた。
次に地震のような振動が、カタカタと地面を揺らした。
木造の住宅地は、次々に吹き飛んだ。だが、その奥にある硬そうな施設や宮殿などは、
直撃でもされない限りすぐに壊れると言うことが無い。
砲撃は10分ほどで終わった。
「もう終わりか?本来なら1時間は撃ちまくるのに。」
部下の下士官が不満そうに言う。
「仕方が無いだろう。弾薬の補給が無いのだ。連隊長から聞いたが、前のようなやり方で撃ちまくったら、
弾薬は半年も持たずに使い果たしてしまうそうだ。だからこうして節約しているのさ。」
彼が部下に対してそう説明すると、今度は西側から爆音が響いてきた。
「味方機だ!」
ある兵士が叫ぶ。その機影は40機ほど。それは海兵航空隊第121航空隊のF4Uコルセアだった。
海軍工兵大隊は、戦線が橋頭堡から遠のいた10日に飛行場の建設を開始し、昨日の朝、1500メートルの滑走路が完成した。
その日の午後に第121海兵航空隊80機が進駐し、その1時間後には早速、地上部隊の支援に飛び立っている。
コルセアの胴体には500ポンド爆弾が1発抱かれている。
独特の逆ガル翼を翻えし、分散してそれぞれの地点に爆弾や機銃弾を見舞う。
大した損傷の無かった宮殿に1発の500ポンド爆弾が見舞われた。  


766  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:50:43  [  D4VsWfLE  ]
宮殿は一瞬黒煙に覆われて見えなかったが、黒煙が晴れると、右側が叩き壊されていた。
コルセアの事前爆撃を、ワシントン大尉の側にいるある人物はじっと眺めていた。
「そんなに空襲がすごいのかな?オブザーバーさん。」
彼はその人物に声をかけた。
「勉強になりますから。」
海兵隊員と同じ服を着たオブザーバー、浅黒い肌をした耳長の女性は真摯な表情でそう言った。
ダークエルフのフランチェスカ・ラークソンは、米軍の戦場オブザーバー募集の噂を聞くと、
すぐにウルシーの米軍基地に向かい、申し込んだ。
アメリカ側はバーマントの言語が読めないため、バーマント語の堪能なヴァルレキュア人を
戦場オブザーバーとして5月20日、募集を開始した。その結果、4000人を超える志願者が米軍基地に押し寄せた。
米軍側は厳正な審査のもと、3900人をオブザーバーとして迎え入れ、5月23日から6月16日まで、
アメリカ軍の基礎訓練や作戦行動などを細かく教えた。
志願者の大部分は、予備兵力の登録を受けている人達で、どんなに厳しい訓練でもすぐに自分のものにした。
そして3日間の休暇のあと、志願者達は米兵と共に敵国の地に乗り込んだのである。  


767  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:52:14  [  D4VsWfLE  ]
フランチェスカは、ワシントン大尉から見れば時には寡黙で、時には明るい人柄だと思った。
そして何より勉強熱心であり、覚えが早い。
格闘術も持っており、輸送船では彼女にいやらしいことをしようとする兵が何人かいたが、
そんな事をしようものならば、すぐに叩きのめされた。
聞けば、彼女は過去にバーマント軍との戦闘にゲリラ戦ではあるが、何度も参加していると言う。
つまり海兵隊員と同じく、実戦を掻い潜ってきたのである。
さらに詳しく聞くと、志願者は全員が元軍人だったりする。
それはともかく、フランチェスカの勤勉さには、ワシントン大尉も下を巻いていた。
(もしバーマントと同じような武器を持っていたなら、ヴァルレキュアの運命は大きく変わっていただろう)
大尉は、彼女の横顔を見ながらそう思った。やがて、事前爆撃を終えたF4Uは引き返していき、辺りは静かになった。
「前進!」
ワシントン大尉は大声でそう叫ぶと、A中隊の将兵が立ち上がり、ぞろぞろと進み始めた。
右側から第4戦車大隊A中隊から派遣されたM4シャーマン戦車が現れた。
歩兵は戦車の後ろに隠れながら、ゆっくりと前進していく。
ここサイフェルバンでは何度も繰り返された戦法だ。
戦車を前面に押し、その後ろから歩兵がつき、敵の陣地に突入する。
戦車の支援を受けながら、歩兵は陣地の敵を掃討してそこを確保し、後続が来ればまた進む。
これの繰り返しである。
「オブザーバーさんはいつもの通り後ろからついてきてくれ。」
「わかりました。」  


768  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:57:40  [  D4VsWfLE  ]
フランチェスカは付き添いの海兵と共に後続部隊に下がり、ワシントン大尉は前方部隊に加わり、進撃していく。
軍事都市でありながら、以前は人が住んでいた住宅地は、砲兵隊やコルセアの事前攻撃で大部分が破壊しつくされている。
その建物を1つずつ丹念に調べる。中には運良く原型を留めた家屋もある。
そこには敵兵が生き残っている可能性が高いため、1個分隊の海兵が、慎重に調べていく。
その建物は1階建てで、意外に大きい。砲弾の破片によって酷く傷ついているものの、中は目立った被害は見当たらなかった。
「敵影なし!」
無線機から分隊長の声が聞こえた。ワシントン大尉は通信兵の無線電話を借りると、さらに命令をした。
「本当か?もう一度調べてみろ。念のためだ。」
5分後、分隊から報告が入った。
「敵影なしであります。」
「そうか、では隊列にもどれ。進撃を続ける。」
その後も住宅地の捜索が続けられたが、敵兵は1人もいなかった。
住宅地は1人の犠牲も出すことなく、無事に占領することができた。
次に木造住宅地より頑丈な施設区域に、A中隊は進撃した。施設区域は、2階建ての大小の建物が宮殿まで400メートルの
距離にびっしり並んでいる。半数ほどが崩壊しているが、残りは以前として、海兵隊員の進軍をふさぐように聳え立っている。
戦車が施設区域まであと30メートルまで迫ったとき、突如戦車の前方5メートルに青白い雷が落ちた、と思った瞬間、
バーン!という音を立てて地面が弾け飛んだ。
「敵だ!物陰に隠れろ!」
ワシントンはすかさずそう叫んだ。兵士は一斉に建物の壁や戦車の陰に隠れたり、地面に伏せたりした。
パパパパパパパパ!というバーマント軍の機関銃の発射音が聞こえ、多数の銃弾が彼らに向かって降り注いだ。
バスバスバス!という銃弾が地面に突き刺さる音が聞こえた。何人かの兵士が運悪く銃弾を手足に受け、昏倒する。  


769  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  09:59:06  [  D4VsWfLE  ]
物陰に隠れた海兵たちも、手持ちの銃で反撃する。
「不用意に頭を出すな!銃弾に吹き飛ばされるぞ!」
彼は頭を出しかけている後ろの海兵にそう叫んだ。カンカンカン!という金属音がワシントン大尉の
頭のすぐ側で鳴り、仰天した大尉が慌てて地面に伏せる。
M4戦車の砲塔が動き、無数の銃弾を吐き出すバーマント軍の銃座に向けられる。
ドン!という重々しい音が響き、盛んに光るマズルフラッシュの左に離れた位置で砲弾が炸裂した。
「へたくそ!ちゃんと狙え!」
海兵が戦車に文句をたれる。黙れと言わんばかりにM4戦車が再び咆哮した。
今度は右のすぐ側の2階で砲弾が炸裂した。煙が沸きあがり、銃座から機関銃の音が消えた。
「今だ!前進!!」
戦車がスピードを上げて進み、その少し離れた両脇から歩兵が進む。各分隊は施設区域に入ると、
それぞれの施設に突入を開始した。
施設内の中央にある2階建ての細長いレンガ造りの建物に、A中隊の第1小隊30名はジョン・スコット少尉
と共に突入した。
スコット少尉は、トミーガンを構えながら、第1分隊に指示を下した。
第1分隊が警戒しつつも素早く1回の最初の戸の両側の壁に張り付き、素早く引いた。
すると中から何十発という銃弾が放たれてきた。両側にいる先頭の兵2人が銃だけ中に突っ込み、撃ちまくった。
「手榴弾!」
1人が手榴弾を投げ込んだ。すかさず分隊の全員が窓を離れる。バーン!という音が鳴り、爆風が戸を吹き飛ばした。  


770  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:00:00  [  D4VsWfLE  ]
「行け!」
分隊指揮官の軍曹が叫ぶと、全員が素早く中に突入する。6人のバーマント兵が血を流して倒れていた。
4人が死亡し、2人は腹や胸を押さえながら呻いている。
もはや戦闘力は無かった。
「制圧完了!」
軍曹が部屋の外に向けて叫んだ。小隊は二手に分かれ、次々に部屋を制圧していった。
第5分隊は、1階最後の部屋に到達したときには、バーマント兵30名を死傷させていた。
「軍曹、なんかこの部屋・・・・・・」
先頭の兵が、嫌な顔をしながら言ってきた。軍曹もうすうす気付いていたが、
この部屋からは独特の雰囲気が流れている。何か、見てはいけないものがある。
この閉ざされた部屋の空気がそう言っていた。
「一応調べるんだ。この中に敵兵がいるかも知れんぞ。」
そう言いながら、いつもと同じようにドアの両側に3人ずつ壁に背中を張り付ける。
ドアの右側の兵が、木製のドアを足で勢いよく蹴破った。
すかさず横に跳ね除ける。
敵兵からの銃弾は飛んでこない。変わりに悲鳴が聞こえた。
「ひ、ひいぃぃーーーー!こ、殺しに来た!」
中から何か怯えたような声が聞こえる。いや、実際怯えていた。
「突然の出来事に海兵達は困惑した。」
「とりあえず入ろう。」
軍曹が先頭になって入ってきた。そこには、骨と皮だけになった人が3人牢屋に閉じ込められていた。
いずれも酷く痩せこけている。  


771  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:02:03  [  D4VsWfLE  ]
「おい、水だ。水をあげてやれ。」
ここは捕虜の牢屋だったのか。すると、奥にあるもう一つの扉は一体?
軍曹は不審に思った。
「あ、あんたら・・・は。い、一体?」
無精ひげの生えたやせた男が聞いてきた。
「アメリカ人さ。それよりも、あの奥の扉はなんだ?」
軍曹が聞くと、捕虜の怯えは余計にひどくなり、何も語らなくなった。
「スエンソン、ミルスキー。あの部屋を調べるぞ。」
3人は警戒しながら、ドアを蹴破り、中に突入した。
そこには、無数の人骨と、四肢が切断され、死亡した男の死体があった。
そしてその後ろには、解剖された無数の死体と内臓が散らばっていた。
あたりは言葉には想像を絶する光景が広がっていた。
軍曹は思わず戻しそうになったが、辛うじて抑えた。
2階部分は敵の抵抗に会いながらも、無事に制圧完了。第1小隊は捕虜20人を得た。

第2小隊はそう簡単にはいかなかった。
突入した建物は第1小隊となんら変わらなかったが、1階に突入した瞬間、いきなり10人単位の騎士の反撃を受けた。
すぐさま猛烈な銃撃を浴びせられてこれらの騎士は全滅したが、今度は部屋から出てきたバーマント兵が多数、
小銃を乱射しながら突撃してきた。
たちまち敵味方入り乱れての白兵戦となった。白兵戦は、バーマント側のほうが優勢で、第2小隊は壊乱しかけたが、
B中隊が応援に駆けつけ、これらのバーマント兵を建物の中に押し返した。
この建物は40分で占領したが、なんと、この建物には80名のバーマント兵が立て篭もっていた。
事実を知った第2小隊長は仰天した。
午前10時までに、第25海兵連隊は施設区域の8割を占領した。
だが、バーマント兵も頑強に抵抗したため、戦死者80、負傷者200名を出す損害を負った。  


772  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:03:31  [  D4VsWfLE  ]
午後0時  サイフェルバン西端
宮殿の地下にあるバーマント軍第5軍司令部は驚愕していた。
第5軍は第30歩兵師団、第22重装騎兵旅団、第46歩兵旅団から編成されている。
米軍の攻勢開始からわずか4時間で、第22、第46の2つの旅団は、支配区域から叩き出されてしまった。
両旅団の残兵はこの宮殿周辺に逃げ帰ってきたが、その数は驚くほど少なかった。
「増援部隊はどうした!?方面軍司令部は増援部隊を出すと言っていたぞ!」
第5軍司令官であるバリラー騎士中将は苛立ちまぎれに喚いた。
「実は、増援部隊も、敵の飛空挺の空襲によって進路を妨げられており到着は遅れるとのことです。」
「何分ほどだ?」
「3時間です。」
バリラー軍司令官は地図をじっと睨んだ。宮殿の両側から赤い線が向かってきている。
この赤い線は、アメリカ第2、第4海兵師団が進撃している証拠である。
バーマント軍の激烈な抵抗にあっているため、普段の進撃スピードではないが、
それでもじりじりとこの宮殿ににじり寄ってきている。
(この宮殿が占領されれば、本国に繋がる街道も抑えられてしまう。
そうすれば、わがサイフェルバン方面軍は輪の中に閉じ込められてしまうだろう。
なんということだ。こんな事になるなら、さっさと撤退すればいいものを・・・・・・)
これだから現場を知らない奴は!!
彼は、心の中で皇帝を罵った。
作戦室に伝令兵が息を切らしてやってきた。
「報告!敵兵が宮殿付近に進軍して来ました!」  


773  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:04:18  [  D4VsWfLE  ]
アメリカ第4海兵師団第25海兵連隊は、午後0時5分、ついに宮殿付近に姿を現した。
ここを守るのは、第30歩兵師団と、第22、46旅団の生き残りである。
第1砲兵中隊は、破壊された瓦礫の隙間に大砲を置き、進軍してくるであろう米軍を待ち構えた。
3番砲の射手であるレノール・クリッヅ軍曹は、じっと前を見つめながら、今か今かと待ち焦がれていた。
米軍の戦車は、バーマント兵達にとって死神に等しい存在である。
どんなに頑強に食い止めても、そこには必ず戦車が出張ってきて、すぐに味方の陣地を吹き飛ばすのである。
「いいか、まずは敵の戦車を狙え!その後は歩兵を撃て!」
中隊長の声が聞こえたが、緊張のせいで遠くから聞こえるようだ。喉がかわいてきた。
クソ、早く現れねえかな?
彼がそう思ったとき、何かが聞こえてきた。それは徐々に迫ってくる。彼らの目前には破壊されたレンガの塀がある。彼らが狙いをつけているのは、10メートルに渡って崩れた塀の穴である。
地面がカタカタと揺れる。間違いない、話に出てきた戦車とやらだ。彼は確信した。
キュルキュルキュルという耳障りの音がすぐ近くに来た、と思ったとき、塀の穴から敵の戦車がぬうっと出てきた。
「撃て!」
指揮官の叫び声と共に、彼は7センチ砲を撃った。バン!という音が鳴り、砲弾が放たれた。  


774  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:05:17  [  D4VsWfLE  ]
それは80メートル離れた敵戦車のすぐ側に着弾し、土ぼこりを上げた。
だが、他の砲弾が1発、敵戦車に命中した。戦車の砲塔が白煙に包まれた。
「やったぞ!」
彼は喝采を叫んだ。だが、恐ろしいことに、敵戦車はまだ動いている!
「次!急げ!!」
グリッヅ軍曹は装填係をせかした。装填係は緊張しているのか、砲弾を落としそうになった。
「何してる、この間抜け!さっさと装填しろ!!」
彼の怒声に、気を取り戻した装填手は素早く弾を込めた。
狙いをつけ、砲弾を放とうとしたとき、敵戦車が大砲を放った。
シュー!という音が鳴ったと思った瞬間、30メートル横の4番砲が吹き飛ばされた。
「死ね!白星の悪魔!」
3番砲が第2弾を放った。砲弾は前進してくる敵戦車の右キャタピラに命中した。
爆煙が収まると、敵戦車の下部が破壊されていた。
彼らは知らなかったが、このシャーマン戦車は、キャタピラを破壊されていた。
敵戦車は急におかしな動きをし始めた。なんと右側に旋回して、次に止まってしまったのである。
「いい所に命中したかも知れんぞ。よし、止めを刺すぞ!」
足回りを破壊したことで満足した彼は、この瀕死のシャーマンに息の根を止めてやろう思い、
新たに砲弾を撃とうとした。  


775  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:06:43  [  D4VsWfLE  ]
だが、彼らが弾を込め、砲を撃とうとした時には、そのシャーマンが彼らを見つけ、先に砲弾を叩き込んだ。
次の瞬間、グリッヅ軍曹は宙に吹き飛ばされたと思うと、そのまま意識が暗転した。
機関銃手であるオデレ・マルス2等兵は、塀の近くの砲陣地を吹き飛ばし、分離してきた米兵めがけて引き金を引いた。
ダダダダダダダ!という軽快な発射音が鳴り、米兵の集団に向けて銃弾が飛ぶ。
目標の米兵はすぐさま遮蔽物に隠れるが、機銃弾は1人の足を撃ちぬいた。
動きが止んだその米兵に対して他の兵も小銃を撃ちまくり、その米兵を射殺した。
遮蔽物に隠れた米兵は、タイミングを見計らいながら盛んにこっちに向けて撃ちまくってくる。
ヒューンという音が耳の近くでなり、彼は思わずぞっとした。
窓際の壁に銃弾が命中し、石の破片が辺りに撒き散らされる。それにめげずに、マルス2等兵は撃ち続けた。
10分ほどこの状態が続いた。
「やったぞ、米軍を足止めしている。」
彼はそう思うと、表情が緩んだ。今、都市の中央から増援部隊が向かっている。増援部隊が来るまで持ちこたえれば俺たちの勝ちだ。
米兵が居座っている遮蔽物に爆発が起きた。魔道師が爆破系の魔法でも使ったのだろう。少しだが火力が弱まった。
何人かの米兵が、その仲間に抱えられて行くのが見えた。
その時、どこからともなく爆音が聞こえてきた。彼はそれに見向きもせずに機銃を撃ちまくる。
しかし、爆音が大きくなると、ただならぬ予感がしてきた。
次の瞬間、ダーン!という耳を劈く轟音が鳴り響き、次いで体が一瞬、ふわりと浮き上がった。
ゴー!という猛烈な爆風に吹き飛ばされ、彼は背中から壁に叩きつけられた。叩きつけられた瞬間、彼は一瞬息が止まった。
次いで意識を失った。
しばらくして目が覚めた。耳がキンキン鳴っている。周りにいた10人の仲間は、ほとんどが死ぬか、ひどい重傷を負っていた。
まともに動けるのは彼1人ぐらいだった。彼は、転がっている機銃に取り付こうとしたが、破壊された壁の穴から米兵がにゅっと入り込んできた。
すかさず腰につってある長剣を抜こうとしたが、すぐに米兵に殴り倒された。  


776  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:07:52  [  D4VsWfLE  ]
午後6時30分  宮殿内地下壕
パパパパパン!ドン!ドン!
けたたましい銃声が地下壕内にも聞こえてきた。地下壕の入り口では米兵と味方の間で壮絶な戦いが繰り広げられている。
「司令官、もはや最善は尽くしました。ですが、宮殿の南側、北側とも敵に占拠されてしまいました。」
主席参謀は、憔悴しきった表情で言った。
増援部隊は、宮殿にたどり着く前に米艦載機の猛烈な空襲にあって引き返していった。
いまや宮殿のいたるところに、海兵達が陣取り、最後の戦いがあちらこちらで繰り広げられている。
「・・・・・・・・・・」
第5軍司令官であるバリラー騎士中将は、何も言わなかった。ただ腕を組み、地図を睨んでいるだけである。
重い沈黙が流れた。
外に聞こえる銃声が、どこか遠くに聞こえるようだった。

午後7時10分  宮殿は第25海兵連隊によって占領された。また同時刻、街道も第2海兵師団によって占領された。
この戦闘で、米側は戦死者340名、負傷者2400名を出した。
バーマント側は戦死者2200名、負傷者9600名、捕虜1万名を出す大損害を被り、バーマント第5軍は壊滅した。
ここにして、バーマント1の優良な港を持つサイフェルバンは、米上陸軍によって包囲されたのであっ  


777  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  10:10:36  [  D4VsWfLE  ]
た。
7月18日  午後5時30分  サイフェルバン沖北東200キロ
空母レキシントンに所属するTBFアベンジャーは、定期哨戒から戻る途中だった。
この日、偵察機がサイフェルバン北600キロの沿岸に港を発見した。
その港にはバーマント軍の軍艦らしきものが何隻も停泊していた。数は10隻ほど。第58任務部隊はすぐに攻撃隊を発艦させようとしたものの、時刻は既に5時を回っており、夜間での着艦作業になる可能性が高く、攻撃は明日黎明に延期された。

そんな中、帰路についていたアベンジャーは、とんでもないものを見つけてしまった。
なんと、アベンジャーの真下には、20隻以上の艦隊が、陣形を作って航行していたのである。
そう、この艦隊こそ、根拠地グランバールを出港したバーマント第3艦隊であった。
アベンジャーはすぐに第2報を第58任務部隊に送った。  


780  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:27:02  [  D4VsWfLE  ]
午後8時  サイフェルバン北東沖80マイル地点
アメリカ艦隊は、サイフェルバン沖に急遽、増援艦隊を派遣した。
サイフェルバン沖には重巡洋艦サンフランシスコ、軽巡洋艦ブルックリン、ホノルル、
駆逐艦5隻が二手に分かれて警戒に当たっていたが、スプルーアンス大将はレキシントン偵察機の
報告を受けるや、護衛部隊から戦艦3隻、重巡3隻、軽巡2隻、駆逐艦6隻を抽出し、
増援に向かわせた。
午後7時30分、警戒部隊は増援部隊と共に、再び二手に分かれて警戒に当たった。
まず沿岸から距離30マイルの海域まで警戒するA部隊、次に30マイルから60マイルの距離を
警戒するB部隊に分かれた。
A部隊は戦艦アイオワ、重巡洋艦ウィチタ、キャンベラ、軽巡洋艦オークランド、ホノルル、
駆逐艦モンセイ、ゲスト、ヤーノール、ベネット、セルフブリッジ、バグリーの計11隻。
B部隊は戦艦ワシントン、サウスダコタ、重巡洋艦サンフランシスコ、ニューオーリンズ、
軽巡洋艦ブルックリン、モントピーリア、駆逐艦バターソン、フラム、ハドソン、カニンガム、
トワイニングの計11隻。
合計22隻の艦隊がバーマント第3艦隊を待ち構えた。  


781  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:30:18  [  D4VsWfLE  ]
戦艦アイオワに座乗している迎撃部隊司令官のウイリス・リー中将は司令官席に座っていた。
その表情は微かに緩んでいる。
「どうかされたのですか、司令官?」
艦長のハンス・ブラック大佐が訝しげに聞いてきた。
「艦長、わからんのかね?艦隊決戦だよ。この世界に来てこの軍艦の使いどころは大して無いだろうと
確信していたが、敵も大したものだ。戦艦を持ち出してくるとは。」
リー中将は笑みを消して真顔でそう言った。それ以前に、バーマント軍が意外に強力な海軍を持ち、
戦艦も保有していることはオブザーバーと話したときに聞いている。
だが、リーはどうせこっちの軍艦を恐れて1隻も出てこないのではないかと思っていた。
だが、敵は出てきた。それも2度も。
1度目は巡洋艦クラスの艦を基幹とした艦隊で、警戒部隊の艦隊に撃滅されたが、警戒部隊も軽巡2隻、
駆逐艦1隻を大破させられ、戦列を離れている。
そして今回は戦艦である。大艦巨砲主義者であるリー中将は、久しぶりに戦艦同士の砲撃戦が
起こりそうな気配に満足している。
ウイリス・リー中将はレーダー射撃の権威としても知られている。それに実戦経験も積んでいる。
ガダルカナル島を巡る戦いでは、戦艦ワシントンとサウスダコタを指揮し、サウスダコタが集中砲火
を浴びて叩きのめされたが、ワシントンで戦艦霧島を撃沈すると言う戦果を挙げている。
あの時の興奮は、未だに根強く残っている。そしてその興奮を再び味わえることができるのだ。
彼はそう思うと、身震いした。  


782  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:31:54  [  D4VsWfLE  ]
司令官、このアイオワの16インチ砲がいよいよ敵に向かって放たれる時がやってきましたな。」
「ああ。敵戦艦、正確には重武装戦列間と言うが、情報によると33・8センチ砲を持っているらしい。
それも8門だ。あのザイリン級とやらは5年前に次々と竣工してから各地の侵略戦争でそれなりの働き
をしてきているようだ。」
「と、言うことは、相手も実戦を大分積んでいることになりますね。」
「そうだ。敵戦艦が何隻いるかは分からないが、それでも我々のほうが遥かに有利だろう。
夜間では砲戦距離も2万メートルほどに下がるが、こっちは16インチ、あっちは13インチだ。
なめてかからなければ、負けはしない。」
リー中将は自信たっぷりの表情でそう言った。彼がそう思うのも無理はない。
旗艦のアイオワは1943年1月に竣工した最新鋭戦艦である。
主砲はこれまでの16インチとは異なる50口径の長砲身砲で、威力が従来の砲よりアップしている。
それに33ノットの快速を発揮できる。
それに残りの戦艦ワシントン、サウスダコタも開戦前後に竣工した新鋭戦艦であり、実戦も経験している。
こちらはスピードが28ノットとアイオワより一段劣るが、それでもバーマント軍の戦列艦よりは優れている。
このスピード差で敵艦にT字を描き、全主砲で撃ちまくれば、敵重武装戦列艦は全て撃破できる。リーはそう確信している。
「まもなく敵艦が来る頃だろう。さあ、戦いが始まるぞ。気を引き締めておけよ。」
リーは強い口調で皆に向けて言った。

午後8時、A部隊旗艦アイオワのレーダーが敵艦隊を捉えた。
「CICより報告。敵艦隊発見、針路は南、距離25マイル。艦種は不明。」
彼はそう聞くと、すぐさまB部隊に連絡を取った。
「こちらA部隊だ。敵艦隊を発見した。敵はまっすぐこっちに向かっている。こちらの位置は沿岸より30マイル地点だ。」
「こちらB部隊、我が部隊はそちらより15マイル離れている。現場到着までは約25分ほどかかります。」
「OK、できる限り急いで来てくれ。」
リーはそう言うと無線のマイクを元に戻した。その直後にCICから第2報が入った。
「敵艦隊は戦艦クラス5、巡洋艦クラス6、駆逐艦クラス12、さらに後続に巡洋艦クラス3、駆逐艦クラス8の艦隊あり。
なお、敵艦隊はこちらに向けて針路を変更。」  


783  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/31(金)  19:33:07  [  D4VsWfLE  ]
「高速艦を分離したか。よし、これより戦闘に入る。敵戦艦を伴う艦隊をアルファ、
高速艦部隊をベータと呼ぶ。」
この時を境に、米艦隊は警戒運動をやめ、敵艦隊に向かった。
A部隊に随伴する軽巡ホノルルとリノは、ゆっくりと戦艦、重巡列から離れ始めた。
敵の高速艦の突撃に備えるためである。
距離が18マイルになった時、敵戦艦が発砲してきた。そして米艦隊の頭上にぱあっと光が沸きあがった。
「敵艦、照明弾を使用!」
「面舵一杯!」
リーはすぐさま叫んだ。艦長がこれを操舵員に伝える。
やがて、アイオワの艦首が波を切り裂きながら、次第に右舷に回頭をしはじめた。
速度は30ノット。米艦隊は敵の頭を押さえる形になりつつあった。
「敵アルファより巡洋艦、駆逐艦クラスの艦が分離、我が艦隊の後方に回ろうとしています!」
リーは舌打ちした。せめてB部隊が到着するまで待てばよかったかな?その思いが頭をよぎった。
だが、B部隊も向かっているから、不利な状況はすぐに挽回されるはず。
そう思ったリーは新たな命令を下した。
「ウィチタとキャンベラを分離させろ!敵巡洋艦、駆逐艦クラスを迎撃。戦艦クラスはわがアイオワが引き受ける!」
彼の命令が伝わると、後続のウィチタとキャンベラは、後方に回りこもうとしている敵巡洋艦、駆逐艦に向かっていった。
「敵艦回頭!」