606  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:01:24  [  4CUjn9IY  ]
大陸暦1098年  7月4日  バーマント公国サイフェルバン
サイフェルバンの朝の静寂は、突如来襲してきた第58任務部隊の艦載機によって打ち破られた。
7時10分、第58任務部隊第3群、第1群から発艦してきた184機の攻撃隊はサイフェルバン
に到達、サイフェルバン南10キロと、北20キロの所にある飛行場を爆撃した。
飛行場は瞬く間に壊滅し、飛空挺120機が地上で撃破されてしまった。
7時40分、第1次攻撃隊と入れ替わるように、今度は第2群、第4群から発艦した第2次攻撃隊
200機が来襲。第1次攻撃隊は郊外の飛行場、軍事施設を狙ったのに対し、第2次攻撃隊は
サイフェルバン市内の総司令部や、港に停泊するバーマント海軍の艦艇を狙った。
目立つ建物である総司令部は真っ先に破壊され、港に係留してあった木造の破壊船12隻が撃沈
され、鋼鉄製の戦列艦3隻が爆弾を食らって大破した。
続いて第1、第3群から第3次攻撃隊120機が来襲し、今度は鉄道や海岸要塞を爆撃した。
午前9時には第4次攻撃隊200機が、再び港湾施設を爆撃し、半数の倉庫や建物などが爆破
され、黒煙を大きくたなびかせた。
午後1時には第5次攻撃隊220機が来襲し、海岸要塞や、サイフェルバン市内を銃爆撃し、またもや
甚大な損害を負わせた。  


607  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:02:04  [  4CUjn9IY  ]
午後2時50分  サイフェルバン沖東180マイル地点
攻撃隊の最後の機が戻ってきた。そのヘルダイバーは、レキシントンの艦尾方向から速度を緩めつつ、
ゆっくりと迫ってきた。やがて飛行甲板に足をつけ、着艦フックにかけられたワイヤーがスピードを
急激に落とし、そのヘルダイバーは停止した。
艦橋上のミッチャー中将は、そのヘルダイバーの胴体を見て、顔をしかめた。
「被弾しているな。」
よく見ると、ヘルダイバーの胴体にいくつかの傷がついている。それは、対空砲火を浴びたときに出来る
傷である。機銃弾のような弾痕が4つあった。
「パイロットの報告では、バーマント側は対空機銃で応戦してきたとのことです。これまでの統計で、
F6Fが1機、SB2Cが3機喪失。F6Fが12機、SB2Cが24機、TBFが6機被弾しています。
修理不能機は出ていません。」
「そうか。」
バーク参謀長の説明に、ミッチャーはそう呟いた。今回の空襲で、バーマント側は初めて機銃で応戦してきた。
既にバーマントが、銃器などの新兵器の開発は終えているとヴァルレキュア側から伝えられているからある程度
予想は出来た。
米側では、せいぜい小銃が配備された程度で、機関銃などの類はまだ配備されていない。配備されるにしても
少数であろうと考えていた。
だが、バーマント側の機銃配備は予想よりも早かった。そして飛行場やサイフェルバン市街などには、多数の
発砲煙が見えたと、パイロットは言っている。
「敵にも対抗手段が出来たか・・・・・・こいつは少し厄介になってきたな。」
ミッチャーは眉をひそめた。  


608  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:02:51  [  4CUjn9IY  ]
「しかし、被撃墜数は若干です。敵が機銃弾を開発したからと言って、威力はそれほどでもないようです。」
バークが言う。
「わが艦載機は12.7ミリ機銃弾に充分に耐えられるように設計されています。被弾機を見たところ、敵の
機銃弾の口径は、明らかに12.7ミリと同等か、それに劣るように思えます。これは被弾によって生じる
修理不能機が未だに出ていないことから見て明らかです。」
米軍機の防御能力は、ことさら頑丈なことで広く知られている。特にグラマン社製の艦上機であるF6Fや、
TBFアベンジャーは相当頑丈であり、20ミリ機銃で撃たれてもすぐには火を吹くことが無い。
それに、鉄のぼろになるようまで撃たれても、パイロットや主な機器は無事で、見事に母艦に戻ってきた事も
何度もある。この事から、パイロット連中はグラマン社を「グラマン鉄工所」と呼んでいる。
その頑丈さは、ここ異世界のサイフェルバン空襲でも充分に発揮されたのである。
「おそらく、敵はこれでわがほうの飛行機が、配備されたばかりの機銃でばたばた落とせると確信していたろう。
しかし、今頃は撃墜した数が極端に少なく、自軍の損害の多さに途方にくれているだろうな。」
ミッチャーは微笑みながらそう言った。  


609  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:03:31  [  4CUjn9IY  ]
午後3時、サイフェルバン
町の光景はすっかり変わっていた。総司令部の城は完膚なきまでに叩き潰されている。町のあちらこちらから黒煙が噴出しており、
まるでサイフェルバン全体が地獄の釜に変わったように錯覚させる。
総司令部より900メートル西に離れたところにある地下壕でバリッチ・ローグレル騎士元帥は、朝から幕僚と共にここに篭り、
米艦載機の空襲をじっと耐えていた。
地下壕にいる時でも、米艦載機の激しさは用意に想像できた。一時などは至近弾が豪の付近で炸裂し、激しい衝撃と共に彼らは
床に投げ出された。
やがて爆撃の音が無くなり、彼らは意を決して外に出てみたのである。
「新兵器の機関銃を配備しても、敵には太刀打ちできんかったのか・・・・・・・」
参謀長のマヌエル・ジュレイ中将が失望した口調で呟いた。サイフェルバン市街地や飛行場には、2週間前に大量に届いた
機関銃が配備されていた。将兵は配備早々、訓練に励み、錬度は格段に向上しつつあった。
それをもってしても、白星の悪魔には太刀打ちできなかったのである。
「まさか、ここサイフェルバンに敵軍が来るとは。後方基地に展開させていた2個空中騎士団をクロイッチに
配備させた今、あとは4個空中騎士団しかない。敵に嵌められた。」

3日午前8時。サイフェルバンの総司令部には、クロイッチ、ララスクリスの各司令部から悲痛な魔法通信が次々に
入ってきていた。
「こちらクロイッチ。海岸要塞壊滅せり。第64歩兵師団は壊滅せり。」
「こちらララスクリス。敵軍戦列艦により海岸要塞は壊滅。第39歩兵師団は60%の戦力を喪失。」
アメリカ艦隊から派遣されてきた砲撃部隊は、両都市の海岸要塞を砲撃で叩き潰したのである。
クロイッチは25分、ララスクリスは20分という信じられないような短時間で壊滅したのである。明らかに
敵はララスクリスとクロイッチを狙っている。総司令部ではその考えが、ついに確信となった。
もし、シュングリル侵攻の足がかりを失えば、バーマントの今後のスケジュールは大きく遅れることになる。
総司令部は、サイフェルバンに駐留している7個空中騎士団のうち、2個空中騎士団をクロイッチ後方の
飛行場に派遣し、敵上陸軍にぶつけようと考えた。  


610  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:04:30  [  4CUjn9IY  ]
3日午後1時、第12、第14空中騎士団160機が後方のガスエル基地から発進していった。
そしてサイフェルバンより300キロ離れたウッドル軍港にいる最新鋭戦列艦6隻と、高速艦6隻をサイフェルバン
に呼び寄せ、好機を見て夜間に突入させようと考えた。
「まずは、最善を尽くして、ララスクリス、クロイッチの敵軍上陸を阻止せねば。」
しかし、4日午前6時、当直の参謀は驚くべき情報を通信参謀から渡された。その魔法通信は、岩島に駐留する
第23海竜情報収集隊からの緊急文であった。
「敵大輸送船団は、クロイッチより北東にあり。敵艦隊の進路は北。敵軍の目標はララスクリス、クロイッチにあらず」
通信参謀は急いでローグレル騎士元帥にその報告を伝えた。
この情報はサイフェルバン中を震撼させた。敵はここを狙っている。それも、バーマントにとってかけがえの無い重要拠点
であり、大陸一の良港と呼ばれたこのサイフェルバンに。
ローグレル騎士元帥はすぐさま迎撃準備を各部隊に伝えた。しかし、わずか1時間後に、米艦載機は姿を現したのである。

彼らの元に伝令兵が紙を持ってきた。通信参謀はそれをしばらく見続け、ローグレル騎士元帥に報告した。
「閣下、暫定の損害報告ができました。損害は戦死8400、負傷3万500、海岸要塞の30パーセントが喪失、飛空挺
120機が地上撃破されました。それに海軍の重武装戦列艦3隻、破壊船30隻が沈没、着低。港湾施設の45パーセントが
破壊されました。」  


611  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:05:49  [  4CUjn9IY  ]
「そんなにか!?」
ローグレルはぎょっとなった表情で彼に向いた。その表情は青白く染まっていた。
「はい。今は暫定報告でありますから、今後も増える可能性はあります。」
「・・・・・・・・・・・・」
あまりの被害の大きさに、ローグレルは絶句した。今サイフェルバンには18万の地上軍がいる。
その4万余りが満足に戦わないうちに作戦地図から姿を消したのである。
それに期待されていた新型戦列艦や、通商破壊に大きな功績を残した破壊船も。
製油所の被害が少ないのは不幸中の幸いであろう。、
(俺が貴族から軍人になったのは、ヴァルレキュアの軍を叩き潰して功績を作り、
今後のライバル貴族に対して発言権を増すためだったのだ)
彼はすっかり変わり果てたサイフェルバンを見回した。港湾施設は半数が破壊され、
それ一つ一つが粗大ごみの集積場を思い浮かべる。軍事都市として発展した町はどこもかしこも黒煙が吹き上がっており、
それに慌しく対応している将兵の姿が見て取れた。
(それが、こんな大失態をやらかすとは。空中騎士団を割かなければ良かった。今不用意に動かせば、敵に悟られて切り札の
空中騎士団まで失ってしまう。おのれ、白星の悪魔め!)
彼は心の中で米艦載機を呪った。いつしか、米軍機が飛び去っていった洋上を、物凄い目つきで睨んでいた。  


612  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:07:38  [  4CUjn9IY  ]
7月5日  午前5時
うっすらと明けてきた朝。サイフェルバン沖は、無数の輸送船団で覆い尽くされていた。
数は400隻は下らない。
「今頃、バーマントの奴らは度肝を抜かれているだろうな。」
ロッキー・マウント艦上で、上陸軍総司令官のホーランド・スミス中将はニヤリと笑みを浮かべた。
「恐らくそうだろうな。リバティ型輸送船でも、奴らの大型帆船よりでかい。
それが何百隻と沖合いにいるんだ。驚かんほうが不思議だろう。」
傍らにいるターナー中将が当然だ、と言わんばかりの表情で答える。
「それにしても、久しぶりの上陸作戦だ。リッチ、君はどう思う。スムーズに行くと思うか?」
「それは分からんな。だが、少なくともタラワ戦のような混乱ぶりは見せんと思う。
敵兵は小銃を装備しているらしいが、敵さんが海岸で小銃を撃つ前に、海岸要塞ごと艦砲射撃に
吹っ飛ばされるだろう。」
「そうだといいな。」
スミスはうんうんと頷いた。午前5時10分、輸送船で待機している将兵に上陸前恒例のステーキが出された。
米兵達は一切の迷いを断ち切るかのごとく、これをぺろりと平らげる。
午前5時30分、上陸用舟艇への兵員の以上が始まった。輸送船の舷側に接舷した舟艇に、
海兵隊員が縄梯子を使って降りていく。
時折、足を滑らせて群衆の頭に落ちる兵員がいる。その兵士には、
「馬鹿野朗!どこ見てやがる!!」
「貴様、酔っ払ってるのか?」
「臭いケツをこすりつけんじゃねえ!」
などと、あちらこちらから罵声が浴びせられる。軍曹や士官の上に落ちた兵はさらに容赦ない罵声か、
鉄拳制裁を浴びせられた。
そうこうしているうちに、第1波上陸部隊である8000名の将兵が順調に乗り込み、
午前6時には全員の乗り込みが終わった。
午前6時10分、戦艦7隻、巡洋艦6隻、駆逐艦24隻が、サイフェルバンの海岸に艦砲射撃を行った。
海岸要塞は、前日の空襲で傷ついていたが、いまだに健在であった。そこへ、8000メートルまで
近づいた砲撃部隊の艦砲射撃を受けた。
午前7時、ターナー中将は上陸開始を指示、この命令を機に無数のLVTが、一斉に海岸に向けて動き始めた。  


613  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:10:26  [  4CUjn9IY  ]
第4海兵師団第23海兵連隊第1大隊B中隊に属するウィリアム・アービン2等兵は、やや青ざめた
表情で下にうつむいていた。
「どうしたウィリアム?」
同僚であるギリアム・オールドウェル2等兵が聞いてきた。
「船酔いでもしたか?」
「いや、ちょっと緊張してな。ギリアム、お前、怖くないか?」
「俺か?もちろん怖いさ。でも、そんなに心配することはないさ。現世界のジャップと違って、
相手はつい最近まで剣や弓を振り回ししていた連中だ。いくら小銃を装備してようが、
現代戦では俺達にかなうものなんかいねえさ。」
と、そこへ波が艇内に降りかかってきた。何人かがまともにかかって罵声を上げる。
上陸用舟艇は天蓋がなく、高さも低いため、航行すると波がどんどん入ってくる。
排水機構がついているから沈みはしないものの、中の将兵は全員が濡れ鼠となってしまう。
「そう・・・だな。」
「ああそうさ。なんたって、俺達はマリーンだからよ。」
ギリアムがそう言って、笑いながら腕をさすった。ウィリアムは少しばかり緊張が解けたような気がした。
上陸用舟艇は相変わらず揺れている。誰かが船酔いの余り、胃のものを吐き出す。
「あと2マイル!」
舟艇を操縦する兵士が海岸までの距離を言う。時速数ノットというスピードがひどく遅く感じる。
畜生、もっと早く進まんのか。
ウィリアムは舟艇のスピードの遅さにやや腹を立てた。
誰もが押し黙っている。あたりは舟艇のエンジン音と波が切り裂かれる音、艦砲射撃を行う艦船の発砲音、
砲弾が通過する音、爆発音が響くが、人の声は全く聞き取れなかった。
「あと1マイル!」
操縦兵の声が聞こえた。一応距離は縮まってるんだな。彼はふとそう思った。  


614  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:11:07  [  4CUjn9IY  ]
そしてそれからしばらくたった時、
舟艇が急に何かに乗り上げた。海岸だ。海岸についにのし上げたのだ。
「開けー!」
その号令と共に前の開閉扉が倒れた。ドスン、という音と共に、前列の兵が走って進む。
「行け行け行け行け!」
先に外に出た下士官が、手を振りながら兵達を施す。ウィリアムは舟艇から出て、
まず完膚なきまでに叩き潰された大きな要塞が目に留まった。爆炎に撫でられた後があちこちにあり、
ところによっては大きく抉れている。
原型をとどめない戦死者の死体も散乱しており、凄惨さを極めた。綺麗な死体もあれば、
四肢がちぎれた物、首が無くなっているもの体の中身が出ているものなど、死体の見本市のようである。
「うっ、うげえ。」
側にいた別の同僚が思わずうずくまって吐いた。ウィリアムもつられて吐きそうになるが、なんとか耐えた。
あたりには硝煙の匂いと死臭が充満していた。これが戦場だ。彼はそう思った。
と、その時、
ダダダダダダダダ!という射撃音が響いた。海兵隊員の何人かが悲鳴を上げて倒れた。
「敵だ!敵が生きているぞ!!」
彼らは一斉に砂浜に伏せた。銃弾の飛び去ってくヒューンという音が頭のすぐ側でなった。頭を上げたら撃たれる。
彼は思わずぞっとなった。その時、青白い雷が側を通った、と思いきや、いきなり後方でダーン!という爆音が響いた。
衝撃と爆風が吹き荒れた。ザーッと砂が降りかかってきた。射撃音はまだ止まず時を追うごとに、1人、
また1人と負傷者が続出する。  


615  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:15:31  [  4CUjn9IY  ]
銃声にはパン、パンという乾いた音が混じっている。それもますます増え続けている。
(畜生、何が剣と弓を振り回していただけの連中だ!?全然違うじゃねえか!)
ふと、彼はあるものを目にした。それは、破壊された豪内から光る発砲の閃光だった。
何人かがあそこで立て篭もっているのだろう。
12,3人の人影が見えた。
「あそこだ!あそこのガレキの穴を撃て!」
他にも同じものを見たのがいたのだろう、海兵隊員たちの銃口が一斉に豪内に向けられた。
ウィリアムは伏せ撃ちの体制で愛銃のM−1ガーランドを構えた。
そして、パンパンパンパンパンパンパンパン!と弾倉内の銃弾を連続で放った。
最後の1弾を撃つと、カランという音と共にカートリッジが吐き出される。そ
こに新たな8発入りのカートリッジを入れ、さらに撃ち続ける。
そこにいたバーマント兵の何人かが打ち倒された。そこの周辺に弾着の煙が次々と立ち上がる。
やがて煙に覆われて見えなくなってしまった。
銃声はあちらこちらから聞こえる。生き残りのバーマント兵が、配備されたばかりの銃器を使って防戦を行っているのだろう。
豪内からは銃弾が飛んで来なくなった。それでも何人かが銃を撃ちまくる。
「撃ちかたやめー!」
どこからともなく声が聞こえると、彼らの隊からは銃声が止んだ。
「穴を調べる。お前とお前、それからお前とお前来い。」
ウィリアムも指を指され、その軍曹と共に穴に近寄る。豪の壁に背中をつけ、軍曹がこっそりと覗いた。
その瞬間、パン!という銃声が響いた。
「うわ!」  


616  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:16:45  [  4CUjn9IY  ]
軍曹は慌てて首を引っ込めた。これに刺激されたのか、複数の銃声がなり続けた。
軍曹は胸についている手榴弾のピン引き抜いた。
「手榴弾!伏せろ!!」
そう叫んで彼は穴の中に手榴弾を放り込んだ。5人はすかさず伏せる。バーン!という音と共に爆風が
穴から吹き出た。爆風が鳴り止むとパラパラと破片が落ちてきた。
「行くぞ。」
軍曹は起き上がると、先頭に立って穴の中に入った。入り口には5人の男性が血を流して死んでいた。
さらに奥に入ると、2つの死体と2人の女性兵が呻いている。傷の深さからして助かりそうにも無い。
豪内に入っていくと、T字状の分岐に当たった。壁に背をつけ、先と同じようにこっそりと覗き見る。
「よし。」
彼は頷いて、まず右の通路に入った。その瞬間、いきなり甲冑姿のバーマント兵が、目の前の分岐から
十人以上姿を現した。手にはいずれもよく切れそうな長剣を持っている。
「騎士だ!!」
軍曹はそう絶叫すると、トミーガンを騎士に向けて乱射した。
「撃て!撃ちまくれ!」
彼はそう言うと、全員がはじかれる様に銃を撃ちまくった。何人かを撃ち倒した時、騎士に混じって白い
ローブをつけた女性が何かを叫んだ銃声が邪魔して聞こえない。とおもった瞬間、
薄暗い壕内がまばゆい光に覆われた。
(見てはいけない!!)
ウィリアムはそう悟って目をつぶった。
「ぐわああ!目が、目が見えない!?」  


617  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:18:40  [  4CUjn9IY  ]
彼以外の海兵隊員から悲鳴が上がった。その時、先頭の軍曹が生き残った3人の騎士に斬殺された。
軍曹の悲鳴が聞こえる。
騎士はかなりのヤリ手だった。軍曹の息の根を止めたと確信するや、光で盲目になった海兵隊員に
次々と襲い掛かった。
「ぎゃああああああ!」
悲鳴と共に血しぶきが吹き上がり、首が飛んだ。
「くそったれ!」
仲間の死に逆上した彼はガーランドライフルを乱射した。最後尾にいた彼は運良く生き残っており3人
の騎士を打ち倒すことができた。
カランとグリップが吐き出される。彼はカートリッジを入れて最後の敵、魔法使いと思われる
女性兵に向けようとしたが、
「死ねえ!蛮族!!」
鮮やかな身のこなしで彼に体当たりしてきた。ウィリアムは肩に激痛が走った。
彼は仰向けに倒れ、敵兵が馬乗りになって、予備のナイフでウィリアムを殺そうとしてきた。
ナイフを振りあげ、思いっきり振ってきた。ナイフが刺さる位置は、額だ。
「くそったれ!」
ウィリアムは左の手のひらを広げた。その瞬間、左手に鋭い痛みが走り、ナイフが手を貫通した。
「うっぐう!!」
彼は激痛のあまり、気絶しそうになる。だが、敵は諦めていない。
「しね!しね!しね!」
見た限りでは若い女性だが、その表情は怒りで赤く染まり、まるでこの世のものとは
思えない化け物を思わせた。
徐々にナイフが頭に押し下げられていく。女とは思えない物凄い力だ。
これが火事場の馬鹿力というものか。
こんなところで死んでたまるか!!ウィリアムは右の腰に吊ってある銃剣を抜いた。
そしてそれを思いっきりその敵の腹に突き刺した。敵兵の表情が痛みに歪んだ。
だが、まだ彼を殺すことを諦めていないのか、さらにナイフが押し下げられる。
彼は腹から引っこ抜くと、また刺した。何度何度も刺した。必死にそれを繰り返した。
頭の中がカッとなっている。
この敵を倒さないと、自分が死ぬ。やれ、やれ!仲間の仇だ!彼はそう思った。
気がつくと、側にはうつろな表情となった敵魔道師が、腹を真っ赤に染めて横たわっていた。  


618  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:19:17  [  4CUjn9IY  ]
上陸第1波は、早速バーマント兵の反撃を受けた。この反撃で89人が戦死し、234人が負傷したが、
バーマント兵の生き残りが少なかったことと、装備の優劣さが幸いし、バーマント兵は射殺されるか、降伏した。

午前9時20分、内陸部に第4海兵師団の第23海兵連隊は、内陸部へ向けて進撃を開始した。
ウィリアムの同僚であるギリアムは、傷を負って後送されていく彼を見ていた。
5人中4人が、突如現れたバーマント騎士に襲われて戦死、ウィリアムも肩や左手に重傷を負っていた。
「豪内で不意打ちにあったんだな。」
ギリアムはそう呟いていた。
その時、遠くから何かが振動するような音が聞こえてきた。それもどんどん近くなりつつある。
「止まれ!!」
先頭の兵が手を上げて伏せた。何かがおかしい。携行機銃を据え付け、何かに備えた。いきなり
上空警戒にあたっていたF6F6機ががスピードをあげて前方に飛び去っていった。
前方は小高い丘になっていて見えない。
「何かが迫ってくる。」
ギリアムは喉が干上がりそうな気分だった。その時、機銃の発射音が聞こえた。結構長めに撃っている。
もしや、中世のような騎兵突撃では・・・・・・・・
彼の予感はずばり的中してしまった。なんと、丘の頂上から、無数の騎兵の大群が姿を現したのである。
陸の頂上から彼らの距離は300メートルもない。
「撃てぇ!!」
ドダダダダダダダダダダダダッ!M−1ガーランドを初めとする小銃、機銃、そして迫撃砲が一斉に放たれた。
まるでミシンを縫うかのようにバタバタとなぎ倒されていく。
騎兵群の真ん中にいくつもの迫撃砲弾が炸裂し、何人かの騎兵を馬共々吹き飛ばした。
騎兵突撃は、第2次大戦直後のポーランド戦で、ポーランド群がドイツ軍機甲部隊に向けて騎兵突撃を行った。
しかし、無数の機銃弾や砲弾を浴びせられて無残な結果になった。  


619  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:19:57  [  4CUjn9IY  ]
この騎兵突撃もそれと同様な結果になりつつある。
「どうやらなんとか、」
と最後まで言うまでも無く、中隊長の肩に穴が開いた。
「ぐわ!」
中隊長は被弾の衝撃で後ろに吹き飛ばされた。それを皮切りに、次々と騎兵側から銃弾が浴びせられてきた。
なんと、敵は小銃を撃ってきている!
ギリアムは絶句した。この軍隊は一般兵といった部隊ではない。精鋭部隊だ。彼はそう確信した。
馬の乗り方も操り方もうまい。
おそらく、長年馬に携わったものばかりなのだろう。
彼は元々乗馬クラブに小さい頃から通っていたことがあり、一目で分かった。
次々に被弾して命を落とすもの、負傷して撃てなくなる物が続出した。
このままじゃ、騎兵部隊に蹂躙される!誰もがそう思った。そして結果は現実となった。
生き残った数十頭の騎兵が、第23海兵連隊の隊列に殴りこんだ。馬に踏み潰される兵や、弾き飛ばされる兵、
乗っている騎士に切りつけられる者が続出した。
だが、騎兵の奮戦もそこまでだった。30人の騎士は、無数の銃弾を四方八方から浴びせられて全滅した。

午後2時、バーマント兵の度重なる反撃に損害を出しつつも、上陸部隊は幅10キロ、
奥行き2キロの橋頭堡を築くことに成功した。
バーマント兵の反撃は、鬼気迫るものがあり、多くの米兵を傷つけたが、上空警戒機や、最新装備の海兵隊の前に
次々と駆逐されていった。

7月5日午前3時  サイフェルバン沖北20マイル地点
米軍は橋頭堡の守りを固め、夜までに2万4千の将兵が、橋頭堡に上陸した。作戦の第1段階は成功であった。  


620  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/25(土)  19:20:34  [  4CUjn9IY  ]
この日の夜、輸送船団の警戒にあたっていた重巡洋艦サンフランシスコ軽巡洋艦ブルックリン、デンヴァー、モービル、
駆逐艦ルイス・ハンコック
ステファン、マグフォード、ドーチ、ガトリングは、サイフェルバンの北20マイル地点で行ったりきたりしていた。
部隊は2部隊に別れ、サンフランシスコ、ブルックリンとルイス・ハンコック、ステファンがAグループ。
デンヴァーとモービル、マグフォード、ドーチ、ガトリングがB部隊に分かれて警戒任務についている。

B部隊の司令官である軽巡洋艦モービル艦長のクルーズ大佐は、艦橋でコーヒーを飲んでいた。
「副長、警戒任務といっても、バーマント軍はまともな艦をもたないだろう?そんな海軍が、装備優秀な艦艇のいる輸送船団に攻撃
を仕掛けるとは思えんのだが。」
副長のロスワード中佐が苦笑する。
「まあ、いいたいことは分かりますよ。しかし、バーマント軍は鉄道も、油で動く船も持っていたそうですよ。予想以上に
科学力が進んでいるようです。ですからそんな国の海軍にも、それ相応の技術が詰め込まれているかもしれません。それに
いくら貧相な軍艦が襲ってきても、相手は本気ですから放っておくと危ないですよ。」
「まあ、確かにそうだろうな。だが、敵艦なんて鉄製といってもお粗末なものだろう。到底無茶するはずがないと思うのだがな。」
彼はそう言ってコーヒーをすすった。時間は午前3時。開けられた窓からひんやりとした夜風が、艦橋内に入ってくる。
それが艦長の眠気を加速させた。
(副長にゆずって2時間ほど仮眠するか)
彼がそう思い、副長に言いかけたとき、
「CICより報告!未確認艦発見!」  


623  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:18:11  [  4CUjn9IY  ]
クルーズ艦長はすぐさまCICに確認の電話を取る。
「未確認艦だと?何隻いる?」
「合計で10隻です。うち6隻は巡洋艦クラス、4隻は駆逐艦クラス。25ノットのスピードで
南下しています。」
「南下・・・・・・もしや、バーマント海軍か?」

バーマント海軍第2艦隊は、時速25ノットのスピードでサイフェルバン沖に向かっていた。
艦隊の先頭を行く高速戦列艦ガスタークの艦上に、艦隊司令官であるデイトル・ワームリング少将
は、じっと前の海域を見つめていた。
バーマント海軍は、ヴァルレキュアの輸送船を、帆船の破壊船で行っていたが、帆船ではスピードが
あまり早いとは言えず、せいぜい20ノットまでが限界だった。
それに、最近ではヴァルレキュア海軍が、輸送船に擬した軍艦で破壊船を見つけるや否や、たちまち
撃沈したり、輸送船にも恒常的に大砲が積まれ、破壊船に反撃をしてくる。このため、破壊船の
損失が20隻、損傷が12隻と馬鹿にならない被害を受け、海軍司令官からは、より早く、より頑丈で
より大き目の大砲を積んだ船を、と言う性能が求められた。
そこで開発されたのが、ガスターク級高速戦列艦である。1097年に1番艦ガスタークが就役して以来
9隻が建造された。
そして実戦配備されているのが6隻である。14,3センチ砲を防盾式の連装砲にまとめて、
全部に2基、後部に2基配置し、さらに8センチ砲を12門搭載している。
艦の真ん中には小さな艦橋があり、そこで艦長が指揮をとっている。速力は28ノットまで出す
ことができ、世界で最速の軍艦である。
一方、後方の小型戦列艦も9センチ砲を4門搭載し、これも28ノットのスピードで航行できる。
この二つの艦種も、バーマントで初めて油を燃料とした軍艦である。その事から、今後の通商
破壊に大きな功績を残すものと期待されている。
そんな中、第8艦隊にサイフェルバン沖の異世界艦隊の攻撃を命じられたのである。
「正直、初めて戦う相手だ。どんな武器を使い、どんな方法で我々に対応してくるのだろうか。」
ワームリング少将は、不安そうにそう呟いた。
「なあに、司令官。この艦はかつてないほどに重装甲で出来ているのです。異世界軍の軍艦
ごときに引けはとりませんよ。」
楽天的な性格である艦長が、笑みを浮かべて彼を励ました。  


624  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:19:04  [  4CUjn9IY  ]
「そうだな。調子に乗っている蛮族共を叩き殺してやるか。」
彼も獰猛な笑みを浮かべて答えた。その時、右横にいた中年の魔道師が表情を変えた。
「司令官、前方の海域に生体反応があります。」
「何?まだサイフェルバンまで30キロ以上あるぞ?」
「敵の警戒部隊のようです。」
「警戒部隊か。」
彼は腕を組んだ。そこですぐに思い立った。
「警戒部隊は前方遠くにいるのか?」
「はい。およそ20キロほどです。」
「砲の射程外だな。よし、迂回するぞ。」
ワームリング司令官は艦隊進路をいったん南東に向けて、警戒部隊をやり過ごすことにした。」
それから30分後、突如、右舷の海面から何かが光った。それは発砲の閃光だった。
ヒューッという空気を切り裂く音が極大に達した。と思った瞬間、右舷海面に水柱が立ち上がった。
ドーンという音と共に8本の水柱が、ガスタークの右舷600メートル付近で上がる。
「見つかったのか!?」
彼はなぜと思った。夜間なら、ある程度速度を落とし、近寄らず、ひっそりと進めば敵に発見
されずに済んだはずだった。現に何度かこの方法でヴァルレキュアの輸送船を襲って成功して
いる。今回も成功するはずだった。だが、彼らの艦隊はあっさり見つかっていたのである。  


625  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:19:37  [  4CUjn9IY  ]
一方、こちらは軽巡モービル
「敵艦隊、わがB部隊を迂回しようとしています。」
CICからの報告に、クルーズ大佐は眉をひそめた。
「何だと?という事は、敵は我々を見つけたのかな?」
「敵にはレーダーがありませんが、魔道師が乗っているはずです。」
副長が助け舟を出す。
「ああ、魔法使いか。」
「はい。バーマントの魔法使いは、人間の生体反応を感知できるのが居ると聞いています。
おそらく、この魔法使いが、我々のレーダーのような役割を果たしているのでしょう。」
その答えは半ば違っていた。確かに反応は読み取って、数や船が居ることを探れることはできる
が、正確に米艦隊の位置を特定できるまではできない。
それに対して、モービルのレーダーは、しっかりとバーマント艦隊を捉えていた。距離はおよそ15マイル。
「もう少し様子を見てみよう。」
そう言いながら、彼はA部隊の旗艦、サンフランシスコに連絡を取った。

距離が10マイルになってもバーマント艦隊は発砲してこなかった。逃げるどころか、速度を
落としてこそこそと逃げるように前進を続けている。
「よし。発砲しよう。左砲戦!」
4基の3連装砲塔が左舷側に向く。砲身が生き物のように動き、狙いを定めている。
目標は、バーマント艦隊だ。
「敵艦の速力、16ノット、距離10マイル。」
CICからの報告が入る。そこへ、
「各砲塔、発射準備良し!」
の報告が入った。
「オープンファイア!」
クルーズ艦長が号令する。それを待っていたかのように、各砲塔の1番砲が火を噴いた。
ドドーン!という腹にこたえる様な音が響き、衝撃が艦橋に叩きつけられる。
後方のデンヴァーも6インチ砲を放った。デンヴァーは2番艦、モービルは1番艦に割り当て
を決めた。  


626  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:20:36  [  4CUjn9IY  ]
「弾着、今!」
4発の砲弾は、全て敵艦の前に落ちた。距離は約800〜600付近。
「まあまあかな。」
クルーズ艦長は双眼鏡で眺めながらそう呟いた。その時、敵1番艦に動きがあった。敵艦は
速力を上げ始めた。さすがに発見されたことに気付いたのだろう。
敵艦から光が放たれた。敵も発砲したのである。その時、敵艦の艦影が一瞬ながら見えた。
シルエットは、4つの砲塔らしきものの真ん中に小さな構造物と、3本の煙突である。傍目
では英海軍の巡洋艦に似ている。
その時、米艦隊の上空がぱあっと輝いた。
「照明弾!」
彼は思わずそう叫んだ。見つからないのなら視界を広げればいい。そんな意図が見えたような気がした。
「流石は文明国バーマント。虐殺だけが取り柄ではないようだ。」
その声を掻き消すかのように、2番砲が放たれた。ドーンという音と共に6インチ砲弾が敵艦に向かって
放たれる。
さらに20秒後に3番砲を放った。この間に敵艦も砲弾を撃ってきた。
砲弾特有の甲高い音が聞こえ、それが最も大きくなったとき、音はモービルを飛び越えた。
モービルの右舷側に8本の水柱が立った。距離は1000メートルほど。
「甘いな。」
クルーズ艦長は、敵の照準の甘さに嘲笑を浮かべた。20秒後に1番砲が再び火を噴いた。
そして、1番艦が発砲したとき、敵艦の左右に4本の水柱が立ち上がった。
夾叉弾を得たのだ。これは命中精度が高くなっていることを意味する。  


627  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:21:23  [  4CUjn9IY  ]
一方、14キロ先の敵艦は8門全てを撃っているが、いっこうに当たらない。
先よりも弾着は近くなっているが、それでも艦を飛び越えたり、艦のはるか手前で空しく水柱を上げている事が多い。
2番砲が発砲された。相変わらずの振動と衝撃が、艦橋をひっぱたく。今度は左舷側に3本、
右舷側に1本の水柱が立ち上がった。
敵艦も負けじと撃ち返す。だが、モービルの優秀な弾着とは対照的に、敵1番艦の射撃はうまい
とはいえず、今度も手前の海面に空しく水柱を上げた。
「砲術!もう少しだぞ!!」
クルーズ大佐はそう叫んだ。そして、3番砲が発砲された。砲弾はまっしぐらに敵艦に向けて
落下していく。
次の瞬間、敵艦の中央部に発砲とは異なる閃光がきらめいた。だが、それと同時に薄緑色の
光も混じっていた。
「今のはなんだ?」
彼はふと、混じっていた異なる色が気になった。だが、それを吹き飛ばすかのようにさらに
1番砲が発砲され、交互撃ち方が続けられる。
後方の海域では、分離した駆逐艦と小型戦列艦の砲戦が行われている。戦闘能力が格段に劣る
異世界の軍艦とはいえ、乗っている乗員の錬度は高そうだ。
その証拠に、今に至っても発砲の光がさかんに起こっている。
敵主力艦6隻に対し、こちらは新鋭軽巡とはいえ、わずか2隻。明らかに不利だ。  


628  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:21:57  [  4CUjn9IY  ]
またもや敵艦の艦上に閃光がきらめいた。今度は2発命中した。だが、今度も先の薄緑色の
光が混じっていた。
(まさか・・・・・・・・いや、この世界ではあり得ないことではない)
彼はある考えを思いついた。それと同時に頃合よし確信した彼は次の指令を下す。
「一斉撃ち方!」
しばらく調整のため、砲撃が止む。彼はその間、発砲を繰り返す敵艦を見つめていた。無い。
火災炎が無い。それに、着弾と同時に破片らしきものも飛び散るはずだが、その艦には目立った
損傷も無ければ火災を起こしたようにも見えない。
敵艦が照明弾を打ち上げる。光に照らされた艦影は、明らかに無傷だった。
(やっぱり・・・・バーマント軍は魔法というものを使っているな。だとすると、あの艦には
魔法使いが乗っているのか、こいつはかなりやばいぞ)
彼はそう思い立つと、背中がぞっとした。バーマント軍も、対応策として、防御強化のために
魔道師を乗せて、その放つ魔力で砲弾の威力を減殺しているのだろう。
(そんな事に頭を使っている暇があったら、さっさとその虐殺好きを直せ、馬鹿野朗)
彼は内心で敵艦を罵った。そしてモービルの12門の6インチ砲が一斉射撃を始めた。
ドドーン!!先の交互撃ち方とは比べものにならない衝撃が艦橋を揺さぶった。そして敵1番艦
の周囲に多数の水柱が吹き上がった。そしてその中に3つの閃光が走った。
後方のデンヴァーも一斉射撃に入ったのだろう。6インチ砲12門の一斉射撃を始めた。
形成は、米側に不利な状態にある。砲戦を行っているのは、バーマント軍の高速戦列艦6隻と、
米大型軽巡2隻、バーマント側は大型軽巡1隻に対し、3隻で砲撃を行っている。
弾着も、最初はお粗末なものであったが、今ではかなり精度を上げている。唯一、発射速度が
30秒に1発という遅さなのが救いである。これに対し、モービルとデンヴァーは20秒に1発
の速さで1分間に4斉射できる。  


629  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:22:27  [  4CUjn9IY  ]
そして斉射開始から2分、既に敵1番艦には実に10発の6インチ砲弾が命中していた。まさに
連打である。だが、その好成績とは対照的に、敵1番艦は損傷した様子も無ければ火災炎を
上げる様子も無い。
「なんてこった!敵の防御は戦艦並みだぞ!」
クルーズ艦長は、敵の魔法防御の硬さに下を巻いた。距離は8マイルまで下がっていた。
「よし、5インチ砲射撃初め!!」
たまりかねたクルーズ艦長は、5インチ砲の射撃を許可した。艦橋前、後部、右舷の合計
4基の連装両用砲が敵艦に向けられた。そしてその第1弾を発射した直後、右舷側の海面に
3本の水柱が立ち上がった。
「夾叉されました!!」
見張り員の悲痛めいた声が艦橋に聞こえた。
「うろたえるな!!砲の発射速度ではこっちが勝っている!それにA部隊もまもなく来るはずだ。
このまま行けば負けんぞ!!」
彼の言葉を裏付けるかのように、
「CICより報告、A部隊わがB部隊後方10マイルに接近せり。」
「よし。騎兵隊がおいでなすったぞ。」
彼は額にかいた汗を拭った。5インチ砲弾も加わった砲撃は激烈だった。
敵1番艦の艦上には数秒ごとに5インチ砲弾が炸裂し、間断なく閃光が走っている。
そして9斉射目を放ったとき、敵1番艦の艦上に4発が命中した。そしてその閃光
のなかに何かが飛び散るのが見えた。破片だ。
「やったぞ!敵の魔法防御を打ち破ったぞ!!」
その光景に、艦橋内はわあっ!と歓声が上がった。続いて第10斉射目が放たれた。
新たに2発が命中し、敵1番艦の艦首からうっすらと火災煙らしきものが見えた。
「よし、その調子だ!一気に畳み掛けろ!!」
クルーズがそう叫んだとき、シャシャシャシャ!という砲弾特有のうなり声が聞こえた。
それも今度のばかりはかなり強かった。  


630  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:23:03  [  4CUjn9IY  ]
「来る!」
そう確信したとき、ガーン!という衝撃に艦橋は揺さぶられた。ついに被弾したのだ。
「左舷1番両用砲損傷!40ミリ機銃座1基全壊!!」
被害報告が届けられた。今まで間断なく砲弾を送り続けていた5インチ砲塔が1基やら
れた。
「両用砲の兵員はどうなった?」
「2名戦死、3人が負傷しました。」
その答えに彼は眉をひそめた。だが、まだまだ行ける。彼がそう思ったとき、新たな被弾が
モービルを襲った。今度は3弾が命中した。1発はモービルの煙突の1本を叩き折った。
残りの2発は中央部で炸裂し、あたりをめちゃくちゃにした。
モービルも敵1番艦に負けじと撃ち返す。敵1番艦に6発が命中した。その時、後部に命中した
閃光が大きくなった。瞬間、猛烈な爆発が起こり、後部2基の砲塔が見えなくなった。
爆炎のなかには、細長いものが何本か吹き上がっていた。
「やった!砲塔を吹き飛ばしたぞ!」
彼は思わず拳を上げて笑みを浮かべた。しかし敵1番艦は相変わらず28ノットのスピードで
航行し、甲板上でいくつもの火災炎を上げながらも前部の砲塔でモービルに向けて撃ちまくっている。
最後の1門まで減っても戦いは絶対に止めない。そんな猛烈な闘志が、直に伝わってくるようだった。
さらに5弾がモービルを打ち据えた。このうち、3弾が後部にまとまって命中した。
そして恐るべき事態が起きた。
「第3砲塔損傷!旋回不能!」
「なんてこった!」
彼は思わず声を上げた。モービルの要とも言うべき6インチ砲が3基使い物にならなくなったのだ。
これで砲戦力の25%を失ったことになる。だが、まだ砲は9門ある。
お返しだ、と言わんばかりに9門の6インチ砲が斉射をし、砲弾を敵1番艦に叩き込んだ。  


631  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:23:42  [  4CUjn9IY  ]
ズガーン!という衝撃がガスタークを襲った。ワームリング少将は足を踏ん張って耐えた。
既に旗艦ガスタークは魔法防御を破られてから、実に16発もの砲弾を浴びている。
それ以前に、多数の砲弾が艦上で炸裂したばかりに、魔道師の体力に限界が生じて、ついに
倒れてしまった。そもそも敵艦の砲弾の威力が強すぎたばかりに、魔道師の魔力切れを加速
させることとなった。
「諦めるな!見ろ、白星の悪魔の船も傷を負っている。このまま行けば敵艦を叩きのめす
ことができるぞ!」
左舷を航行する、スマートで精悍な感じの軍艦が、3連装の頑丈そうな砲塔がガスタークを
向いている。
艦橋と思われる鉄片には、四角の網を思わせるものがある。おそらく装飾のためにつけて
いるのだろう。
ガガーン!という衝撃がして、またもや揺さぶられた。その衝撃がやまぬうちに敵艦に対して
前部4門の14.3センチ砲が咆哮する。
砲弾は1発が艦橋の横の甲板に命中した。そして寮艦から放たれた砲弾のうち、6発が敵艦
に対して満遍なく叩きつけられた。
敵艦の火災が一層ひどくなった。特に中央部と、艦首のほうから黒煙が激しく噴出している。
なぜか敵艦は砲撃をしなくなった。
「どうしたんだ?30秒立っても発砲しないとは。」
彼は不思議に思ったとたんふざけるなとばかりに新たな発砲の閃光が走った。
「くそ、またあたるかも知れんな。」
ワームリング司令官はそう思った。だが、意外な事に敵艦の砲弾ははるか左舷海面に着弾し
空しく水柱を上げた。  


632  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:24:32  [  4CUjn9IY  ]
続いて20秒後に斉射が放たれるが、今度は手前に落下した。先の驚異的な命中率とは
えらい違いだ。
「なるほど・・・・・被弾のダメージが蓄積して正確な照準が出来なくなっているな。」
ワームリング司令官はそう確信した。モービルからの射撃は甘いものだった。3斉射目も
遥か手前に落下している。
「ハハハハハ!何が最強の異世界軍だ!いくら強い軍艦でも沈むものは沈むのだ!その事を
思い知るがいい!!」
新たにガスタークから砲弾が発射される。今度も1弾が敵艦の前部の砲塔を叩いた。敵艦
も負けじと打ち返す。
「もうやめろ。貴様はさっさと体を休めていろ。」
彼は突き放したような口調でモービルに向けてそう言い放つ。だが、次の瞬間、既に経験した
6インチ砲弾の衝撃が、再び艦体を叩いた。
瞬間、目の前が真っ赤に染まったと思うと、ダダーン!という轟音が鳴り響いた。猛烈な衝撃に
ガスタークは打ち震えた。艦橋内の職員は全員が床を這わされた。
しばらくたって、ワームリング司令官が起き上がった。まず、目に入ったのが、既に沈黙した敵1番艦
であった。4基の砲塔は発砲炎を吹くことも無く。ただガスタークに指向されているだけだ。  


633  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:25:02  [  4CUjn9IY  ]
機関部に損傷は無いのか、相変わらず高速で突っ走っているが、甲板のあちらこちらから火災が
発生していた。それの黒煙がもうもうとたなびき、モービルの無念を現しているかのようだ。
そしてモービルが”前方へ遠ざかりつつ”あった。
「ふん。思い知ったか。異世界軍め。」
そう思い、前部砲塔を見てみた。そして艦首が消えていた。彼は目を疑った。
「艦首が・・・・・消えた!?」
なんと、艦首がざっくりと切断されているではないか!
ガスタークは艦首が切断され、今にも沈没寸前の状態だったのだ。そして、現に沈みつつ
あった。彼は知らなかったが、モービルの放った砲弾は、ガスタークの第1砲塔をひき潰し、
艦内の弾火薬庫で炸裂、呼び弾薬が誘爆して、そのパワーが艦首をもぎ取ったのだ。
「俺の最新鋭艦が・・・・・自慢のフネが。」
艦長が放心状態でそう呟いている。その目には、涙が浮かんでいる。
「それよりも総員退去だ。このフネはもう助からない。」
ワームリング司令官は艦長にそう伝えた。艦長は頷くと、艦橋から飛び出していった。
と、突然前方からまばゆい光が発せられた。
その光は、バーマント公国軍の艦列の前方から発せられていた。  


634  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:25:40  [  4CUjn9IY  ]
モービルとデンヴァーは善戦していた。まず、モービルが敵1番艦を、デンヴァーが2番艦
に多数の5インチ。6インチ砲弾を叩き込んで魔法防御を突き崩すと、敵艦はたちまち猛射
に捉えられ、鉄のぼろと化した。そして敵1番艦が弾薬庫誘爆で艦首を切断され、その場に
停止した。続いて2番艦が真ん中から真っ二つに割れて爆沈した。
デンヴァーとモービルは残された砲で敵3番艦を狙った。だが、この時モービルは6インチ砲
全てが使えなくなり、5インチ砲が3門使用できるのみで、デンヴァーは6インチ砲2門、
5インチ両用砲3基が叩き潰されていた。
特にモービルはレーダーが損傷して使用不能になると言う由々しき事態に陥っていた。
無傷の敵3番艦に猛射を与えているうちに。まずモービルが残りの5インチ砲を全て叩き潰
されてしまった。次いで速力が低下して落伍した。残るはデンヴァー1艦のみとなった。
既に驚異的な猛射で敵3番艦の魔法防御は崩されてており、既に5インチ砲2発、6インチ
砲6発が命中して砲塔1基に煙突1つをなぎ払ったが、すでにデンヴァー自体、満身創痍である。
「畜生、せっかくバーマント野朗を討ち取ったのに、ここでやられるのか・・・・・」
デンヴァー艦長、フェリル・リュート大佐はそう言った。その直後、ガガーン!という被弾音
が鳴り響いた。それも何かが壊れる音。
「第3砲塔損傷!使用不能!」  


635  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:26:39  [  4CUjn9IY  ]
彼は青ざめた。そして絶望しかけたとき、急に影が敵の間に割って入ってきた艦があった。
それはルイス・ハンコックを初めとする駆逐艦部隊であった。
駆逐艦部隊は、まず2隻が敵の小型船戦列艦相手に激戦を繰り広げた。この戦闘で、マグフォード
が大破したものの、増援の3隻の駆逐艦が加わってからは形成が逆転した。
新たにガトリング、ドーチが損傷したものの、4隻の小型戦列艦を撃沈した。そしてその足で
苦境に陥るB部隊に加勢したのである。
37ノットのスピードで、5門の5インチ両用砲を乱射しながら、距離4000で53センチ魚雷
を投下した。
次の瞬間、敵3番艦の横腹に3本の水柱が立ち上がった。3番艦は一瞬、左舷側に仰け反った後、
その後、猛烈に右舷側に傾斜し、あっという間に転覆した。
4番艦は4本の魚雷をまともにくらって、一瞬で轟沈してしまった。5、6番艦はそれぞれ
魚雷1本ずつを食らい、速力が大幅に低下してしまった。
そこへやっと到着した重巡洋艦サンフランシスコ、軽巡洋艦ブルックリンが砲撃を行った。
「フェリル、聞こえるか?」
サンフランシスコ艦長アルア・リットマン大佐の声が聞こえてきた。
「ああ、聞こえるよ。アルア、遅すぎだ。」
彼は苛立ちまぎれにそう返事した。
「遅れてすまなかった。これからは俺達に任せてくれ。」
「もっと早く来てくれりゃあ、こんな酷い目に会わずに済んだのに。まあいい。後で一杯おごれよ。」
「分かった。約束する。」
そう言うと、無線が切られる音がした。リュート艦長は、頑張れよと心の中で声援を送った。  


636  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/02/26(日)  01:27:26  [  4CUjn9IY  ]
午前4時10分、海戦は終わった。米側は、迎撃に当たった軽巡洋艦モービル、デンヴァー、
駆逐艦マグフォードが大破し、ガトリングが中破、ドーチが小破するという被害を受けた。
またA部隊も重巡サンフランシスコ、軽巡モービルが敵弾を受けて小破した。
一方、バーマント第2艦隊は参加艦艇全てが撃沈されるという事態になった。この海戦で、
バーマント軍の艦艇は、全般的に米軽巡劣ると言うことがハッキリとなった。
逆に米海軍も、バーマント新鋭艦が魔法を使って強靭な防御力を得ていることに衝撃を受けた。。
この海戦は、後にサイフェルバン沖海戦と呼ばれることとなる。  



648  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/04(土)  11:31:07  [  4CUjn9IY  ]
7月5日  午前10時  サイフェルバン沖東30マイル地点
第58任務部隊第3任務群は洋上補給を行っていた。給油艦の側に大型は空母、小型は駆逐艦
といった艦が、順番に舷側に近づき、給油パイプから燃料を受け取る。
その間、順番待ちの機動部隊の各艦は、停止する給油艦の周囲を回りながら、高角砲や機銃を
空に向けて将兵が空中を睨んでいる。上空には上空警戒のF6F50機が、上空をぐるぐる旋回
して、バーマント側の襲撃に備えていた。
インディアナポリスの艦橋に若い士官が入ってきた。
「艦長、本艦の給油作業が終わりました。」
艦長のマックベイ大佐は頷くと、次の指示を下した。
「機関始動、前進微速!」
「アイアイサー!」
生きのいい返事が伝わり、命令が伝達されていく。やがて、9800トンの艦体がゆっくりと
給油艦の近くから離れていく。
インディアナポリスが給油艦から離れた後に、今度は軽空母のプリンストンがその給油艦に
近づいていった。
艦橋で給油作業の様子を見ていたスプルーアンスはふとある事を思いついた。彼は右隣に居る
ターナー魔道師に声をかけた。
「ターナー君、甲板で散歩でもしないかね?」
突然の彼の言葉に、マイントは思わず耳を疑った。
「え?さ、散歩ですか?」
「そうだ。君はここ数日、ずっと緊張してばかりだろう。」
実際そうだった。彼はここ連日、ずっと緊張していた。それのせいで夜は眠れなくなるという
事まで起きてしまった。彼の顔は、インディアナポリスに乗艦した時と比べると、やつれている
ように思えた。その反面、第5艦隊司令部幕僚も疲れてはいたが、マイントのように急激に疲れては
いない。
「気分転換にどうだね?」
流石に断っちゃまずいかな・・・・・・・・  


649  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/04(土)  11:32:07  [  4CUjn9IY  ]
彼はそう思った。
「では、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます。」

甲板上に降りた彼はスプルーアンスを待っていた。そして降りてきたスプルーアンスは短パンに
半そでというかなりの軽装だった。その姿で見る彼は、意外にスプルーアンスががっしりとした
体つきなのに少し驚いた。普段、軍服を付けているスプルーアンスは痩身のようで、体重も
軽いのでは?とマイントは何度も思った。しかし、こうして見ると印象はかなり違った。
「さて、歩くかね。」
そう言うと、スプルーアンスは甲板上を歩き始めた。マイントはスプルーアンスという人物が
どんなものであるかと言うのを最近分かり始めてきた。
ある時、第5艦隊の司令部幕僚がせわしなく働いていたとき、スプルーアンスは時計を見るなり、
「時間なので私は寝る。」
と言っていきなり自室に戻って行った時があった。時間を見るとまだ夜の9時。
「え?いいんですか!?」
彼は仰天して参謀長のデイビス少将に聞いたが、彼は苦笑して、
「いいさ。あれが長官なんだ。」
と言いながら作業にとりかかった。この時のマイントは、納得できないとばかりに首をかしげた。  


655  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:48:24  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスは、それ以降も毎日夜の9時には自室にとじこもって眠りについた。
それとは別に第5艦隊の司令部幕僚は、マイントも交えながらバーマント軍の出方や味方機動部隊の行動日程など、色々な問題について議論を重ねた。
一見、スプルーアンスは怠けているのではないか?と思ったマイントだが、スプルーアンスは的確に指示を下し、直すべきところは直すように言い、それでその案が正しいのなら、幕僚と協議を重ねてその案をさらに煮詰める、という事をやっている。
怠けるときはあるが、司令長官としての仕事は十二分にこなしている。マイントは心の中で、スプルーアンスは頭のよい怠け者なのだ、と思い始めている。
ヴァルレキュアにはこういう軍人は全くといっていいほど存在しなかった。

(アメリカという国は、人材の育て方もうまいのかもしれない)
甲板上で柔軟体操をするスプルーアンスを見ながら、マイントは内心でつぶやいた。
スプルーアンスが柔軟体操を終えて立ち上がった。
「さあ、歩こうか。気分がすっきりするぞ。」
スプルーアンスはやけに晴れ晴れとした表情で、マイントにそう言った。2人はインディアナポリスの甲板上を歩き始めた。20分ほど歩くと、服が汗で体に張り付いた。
「マイント君、船酔いの方はもう慣れたかね?」
「はい。もうすっかり慣れました。」
マイントはけろりとした表情でそう言った。彼はインディアナポリスにオブザーバーとして乗艦したその3時間後に、早々と船酔いでダウンしてしまった。
彼はバイアン号で、マーシャル諸島に向かう時もずっとベッドで苦しんでいたほど、船は苦手だった。これを見たインディアナポリスの乗員は、彼を「船酔い魔法使い」と影であだ名した。  


656  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:50:15  [  D4VsWfLE  ]
彼の船酔いは予想以上にひどく、その日に行われた会議ではずっと青い顔をしたままで参加していた。翌日は午前中ずっと倒れていた。
「あの魔法使いは本当に使えるのか?船酔いで伸びちまってるぞ。」
参謀長のデイビス少将は本気でそう心配したほどである。それも4日目にはすっかり直り、普通に船内で生活できるまでになった。
一方、レキシントンUに乗り込んだリリアのほうは、なぜか全く船酔いをしなかった。
「そうか、それは良かった。」
スプルーアンスは頷きながら言った。
「船になれていない頃は誰でもそうなる。私だって最初はひどかった。だが、人間とは不思議なものだな。長時間同じ環境にいると体がそれに順応してしまうのだ。」
「とすると、私はもう海の環境に順応する体になったのですね。」
「うむ、おそらくそうだろうな。」
スプルーアンスはさっきと同じように頷く。彼はさらに言葉を続けた。
「しかし、それは普通の海での話だ。これが波の荒れる嵐の海なら環境大きく違ってくる。
私が若いころ、軍艦に乗って世界一周の遠洋航海に出た事があった。ある日、ひどい嵐の中に艦隊がまともに突っ込んでね、
船はカヌーのように揺れまくったよ。軍艦の乗員はほとんどが海に慣れたものばかりだったが、人間限界はあるものさ。その時ばかりは
皆がひどい船酔いになった。あちらこちらで乗員は吐きまくるし、備品も揺れで散らかり放題。艦内は最悪だったな。私もひどく気分が悪くなって、海に飛び込みたいと何度も思ったよ。」
彼は笑いながら過去の体験談を話した。
「それはひどい災難でしたね。」
「ああ、災難だったな。」  


657  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:51:25  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスはふと、妻のマーガレットのことを思い出した。今頃、マーガレットはどうしているだろうか・・・・・・・
きっとマーシャルごと無くなった私をひどく心配しているだろう。この異世界で戦っているとは思わないだろう。
ビル・ハルゼーやニミッツ長官もどうしているだろうか。それに日本やドイツはどうなっているだろうか。
頭の中には元の世界で深く関わった人達や、出来事が次々に思い浮かんだ。

散歩はその後、30分ほど続いた。
「よし、これぐらいにしよう。どうだな、気分は?」
「一汗かいたおかげでしょうか、なかなか良いです。」
マイントは爽快な顔立ちでスプルーアンスに言った。それを聞いたスプルーアンスは満足そうに頷いた。
「それなら誘った甲斐があったな。私は時々、気分を落ち着けるためにこうして散歩をしているのだ。こういう時は何もかも
頭から追い出して、ただひたすら散歩に集中するんだ。君もむしゃくしゃしたら散歩に行くといい。すっきりするぞ。」
彼の散歩好きは広く知られている。スプルーアンスが少々に昇進し、プエルトリコの基地司令官に任ぜられた時、基地の幹部が
「今度の休日に何かイベントを催したいのですが、閣下は何がいいですか?」
と聞くと、スプルーアンスは冷めた表情で
「私は散歩が好きだね」と言い、部下が唖然としたことがあるほどである。
マイントは時には散歩も悪くないなと思った。
「そうですね。これからは時たま、そうしてみます。」
マイントはニカッと笑みを浮かべて彼に答えた。  


658  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:53:06  [  D4VsWfLE  ]
2人は一通り休んでから艦橋に上がろうとしたが、インディアナポリスの左舷から3隻の船が現れた。それらはゆっくりとしたスピードで近づいてきた。
そして、その姿が明らかになった時、マイントは思わず息を呑んだ。3隻はひどく損傷していた。
「ひどくやられたな」
スプルーアンスがそう言った。その3隻は、未明に行われた海戦を戦った軽巡洋艦のモービルとデンヴァー、駆逐艦のマグフォードであった。
未明の夜に、3隻の艦は寮艦と共に泊地突入を狙うバーマント第2艦隊を捕捉、追跡した後に猛烈な撃ち合いとなった。結果、バーマント側の艦艇10隻を撃沈するという大戦果をあげた。
だが、米側の被害も馬鹿にならなかった。モービルとデンヴァーは、まだ増援艦が来ないうちに戦端を開いたため、両軽巡は、1隻で3隻を相手取らなければならなかった。
だが、6対2という劣勢の中、モービルとデンヴァーは善戦し、1番艦をモービルが、2番艦をデンヴァーが撃沈し、3番艦を中波させたが、モービルが12門の6インチ砲弾
を全て使用不能にされた挙句、機関出力が低下して落伍、そしてデンヴァーも12門中9門を使用不能された。モービルは32発、デンヴァーは24発の砲弾を受けていた。
いくら頑丈で、優秀なクリーブランド級軽巡も、物量にはかなわなかったのである。
この後に増援のサンフランシスコとブルックリンを始めとする部隊が到着し、敵艦を砲雷撃で海底に送り込んだ。
最後の駆逐艦マグフォードは、バーマント軍の小型千列艦の猛射を浴びて10発が被弾。3基の5インチ砲が使えなくなり、速度は25ノットに低下している。

近づいてくるモービルは、4基の宝塔が全て左舷を向いたままで、艦体の傷やすすけた後がかなり痛々しい。デンヴァーやマグフォードも同様である。
「浮きドッグで修理できるとはいえ、少なくとも1ヶ月以上はリタイア確実だな。」
スプルーアンスはそう言った。マイントの目には、いかにも廃艦寸前のボロ船に見えたが、それでも直せると聞いた彼は、いかにアメリカという国の技術力が優れているか、
彼の言葉を聞いてやや驚いた。スプルーアンス本人の表情は、いつもと変わらない冷静なものである。  


659  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:55:50  [  D4VsWfLE  ]
サイフェルバン軍事都市の攻防は、バーマント側にとって非常に厳しいものだった。上陸初日に行った騎兵突撃は
騎兵が全滅したため失敗に終わっている。この時、米側も24人が同士撃ちで死傷してしまった。
7月5日にはバーマント第2歩兵師団と、第3重装騎士旅団が、米側橋頭堡に対して夜間強襲をかけた。バーマント軍は米橋頭堡に何度も何度も押し寄せてきた。
特に第3波の重装騎士による突撃は壮絶で、陸軍第27歩兵師団の第1線陣地を突破し、その際に陸軍兵多数を負傷させて第2線陣地に追いやるという奮迅ぶりだった。
だが、バーマント側が想像もしなかった化け物が姿を現した。それはM−4シャーマン戦車である。見方の苦境を聞いて駆けつけてきたM−4シャーマン戦車は、
増援の歩兵と共にバーマント兵を叩きのめした。
シャーマンの主砲がうなると、一塊のバーマント兵が吹きとぶ。機銃が一薙ぎし、たちまちバタバタと打ち倒されて死屍累々と敵兵が転がった。最後にはほうほうの体でバーマント兵は逃げ散っていった。
攻撃は第7波まで続いたが、いずれも猛烈な(彼らからして)銃砲火の前に力尽きた。最も、米側に関して言うと、重火器はいつもと違って少なめの使用だった。
米側は戦死78名、負傷者240名を出したが、バーマント側は戦死12000、負傷5000を出して2つの戦闘団は壊滅し、作戦地図から消えた。
翌6日、米側はついにサイフェルバンを落としにかかった。まず、サイフェルバンの北にある精油所に第4海兵師団が襲い掛かった。
精油所は、橋頭堡に年へと繋ぐ道を分断されていたため、増援が来なかった。ここの守備隊は銃器装備の第64歩兵旅団7000人だった。このバーマント兵たちも勇敢に戦ったが、夕方には装備優秀な米海兵隊に押され、
現地司令官はついに精油所の爆破を敢行した。だが、油タンク1つか爆発を起こしたのみで、残りの爆破チームや仕掛け済みの爆薬は、海兵隊に確保されていた。隣接していた2個のタンクが誘爆で吹き飛んだが、製油施設に被害は無く、
他にも大小12個の油タンクが米側の手に落ちた。
バーマント側の残兵3000は米側に降伏し、捕虜となった。
8日午前には、米側は年の30%を確保し、軍港も奪取された。バーマント側は5万以上  


660  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:57:29  [  D4VsWfLE  ]
の死傷者を出す甚大な損害を被っており、サイフェルバンの総司令部では、増援が得られなければ、少なくとも2ヶ月で陥落すると判断した。

7月10日、午後4時  グリルバン
ここグリルバンは、サイフェルバンの東350キロにある内陸で、人口34000人が住む草原に囲まれた町である。ここの郊外には、バーマント軍の航空基地があった。
ここに駐留する部隊は第3、第4、第7、そして今日到着した援軍の第13と第14空中騎士団である。合計で400機以上の航空兵力が集結している。
指揮所でそれを眺めていた初老の男がつぶやいた。
「あれが、今日私が同行することになっている第13空中騎士団、通称夜の悪魔か」
よく見ると、第13空中騎士団のパイロットはどれもこれもくせのありそうな顔立ちをしている。中には悪魔がそのまま姿を現したかのような、恐ろしい顔つきのものもいる。
彼らこそ、夜間爆撃専門の特殊技能を持つ者達だ。彼らは開戦以来もっぱら夜間空襲を行ってきた。任務内容は夜間の都市爆撃から戦場支援、航行中の船撃滅など様々で、
彼らはその困難な任務を次々とこなしていた。また、攻撃方法が通常は一撃で十分なのを何度も何度も繰り返し反復爆撃して、相手の完全撃滅を徹底することから、
味方から夜の悪魔、敵からは吸血鬼とあだ名されている。
それに機体もこれまでとは違う機体だ。他の機体と比べると、少し大きく、かつ早そうに見える。
「まるで血に飢えた獣を見る目ですな?」
ふと、男の声が聞こえてきた。どこか陽気な声である。振り返ると、士官の服を着た男がいた。顔は端整ながらよく日焼けしている。顔を真一文字に横切る傷跡が、
その男の雰囲気をすごいものにしている。体つきはがっしりしており、総合的にたくましく見える。  


661  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  15:59:43  [  D4VsWfLE  ]
「いや、そうではないよ。精鋭とはこういうものかな、と思ってな。」
「そうですか。私は第13空中騎士団飛行隊長のミロウル・ダルキア中佐と申します。あなたがかの有名な。」
「クリル・グロルズだ。別に有名にはなりたくなかったさ。ただ探知魔法系がよくできるかの違いだけだよ。」
初老の男、クリル・グロルズは苦笑しながら、白髪交じりの頭をかいた。彼は生命反応の探知魔法が人よりもかなり使えることができ、
その筋ではバーマント1とうたわれているほどで、彼自身、何度も地上戦を渡り歩いている。グロルズは現在、魔法使いながら、騎士中将の位を持っており、
2ヶ月前までは士官学校の教頭を務めていた。
「それでも、私はかの有名なグロルズ中将に会えることを光栄に思っております。」
「そうか。まあ、老いた今となっても、このような重要な作戦に参加できるということは私もうれしいよ。」
彼は本心でそういった。
「グロルズ閣下、まもなく作戦の説明がありますので移動しましょう。」
ダルキア中佐は、グロルズを外に連れ出した。第13空中騎士団が装備する機体は、BA−2と呼ばれる飛空挺で、6月に生産が始まったばかりの新型機である。
BA−1と呼ばれる飛空挺は、これまで使われた機体で、一部を除いて防御力強化型のBA−1B型が既に前線に配備されている。
それでも性能が不足している考えた上層部は、BA−1Bの生産を終了し、後継機であるBA−2を生産し、一部の部隊に既に引渡しを始めた。
このBA−2は、スピードが400キロ、航続距離1800キロ、爆弾搭載量が450キロで、前の機種のBA−1と比べて性能が大幅にアップしている。
しかし、故障もまだ多く、墜落事故も何件か起きている。
第13空中騎士団も、司令官がテスト飛行中に墜落事故が起きてしまい、司令官は全治半年の重傷を負っているので、副司令官のイーレル大佐が指揮を執っている。
指揮所の前に立っているダルキア中佐とグロルズ中将を取り囲むようにパイロット全員が集まった。パイロットは第13空中騎士団の兵員のみである。  


662  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  16:01:29  [  D4VsWfLE  ]
「諸君!今回の作戦はこれまで以上にきわめて困難なものになるだろう!」
中佐の明瞭な声が響き渡った。
「今回、我々が討ち取るべき敵は、これまでとは全く次元が違うものである。今夜、日没を合図に、我が第13空中騎士団は、
稼動全機をもって洋上の異世界軍、あのにくきアメリカ機動部隊を攻撃する!」
その言葉を聞いたパイロット達は、全員が緊張した顔つきになった。
これまでの3週間、彼らは新鋭の機体を使って彼らは必死に水切り爆撃の訓練を海で行ってきた。先日の航空戦で壊滅した
フラッカル少尉から聞いた話では、たまたま敢行した水きり爆撃で、異世界軍の飛空挺母艦にかなりの損傷を与えたと言っていた。
それで、パイロット達は必死に水切り爆撃、米軍呼称、スキップボミングを訓練してきたのである。
訓練はとても厳しいもので、事故機も出た。実に6機が事故で失われ、5人が帰らぬ身となっている。
だが、パイロットは3週間というかなり短い期間で夜間水切り爆撃をマスターしたのである。すべては空から味方を苦しめ続ける
あの卑劣な飛空挺母艦を叩き沈めるため・・・・
その思いが、血を吐くような猛訓練を耐え続ける原動力となった。
そして、ついにその宿敵との対決が来た。くるべきものがついに来たのである。
「アメリカ第5艦隊という異世界軍が、数日前にサイフェルバンに来襲したことは知っているだろう。そのサイフェルバン沖には、今もあの憎き
敵高速機動部隊が居座り続けている。今回の作戦では、我々は夜間にこの敵艦隊を襲う。なぜ夜に襲うのかと、不思議に思うものもいるだろう。
昼間、敵の高速飛空挺は常に艦隊や上陸部隊の上空を多数がうろうろしている。だが、夜間にはその飛空挺が全く上がっていないことが、
海竜情報収集隊によって明らかになった。」
どよめきがパイロットの間で起きた。米機動部隊の上空援護を任されているF6Fは、バーマントのパイロットに白星の毒蜂とあだなされ、恐れられている。
その高速性能を持つF6Fにたかられれば、戦闘機を持たない空中騎士団はばたばた落とされてしまう。  


663  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  16:02:57  [  D4VsWfLE  ]
しかし、そのF6Fが夜間に飛べないとすれば、敵艦隊に取り付けられる飛空挺の数は一気に多くなる。
願っても無い好機。そしてその任をこなせるのは、俺たち第13空中騎士団しかいないではないか!
パイロット達は最初、休暇を取り消されてすぐにここに移動したため、ぶうぶう不平を言っていたが、
この話を聞いて気持ちが入れ替わった。
「そこで、わが空中騎士団が、明日の航空総攻撃に先立ち、敵に痛撃を与えようというのだ。
攻撃隊の誘導は、ここにおられるグロルズ閣下を私が乗せ、閣下の探知魔法を頼りに敵に向かう。
知っているものもいると思うが、閣下は探知魔法系の権威でもある。」
「私がグロルズだ。今回、勇猛の誉れ高い君たちと再び戦えることができ、私もうれしい。
私は飛空挺は初めてだが、諸君らの足は絶対に引っ張りはしない。私の持つ魔法で、諸君らを必ず、
敵艦隊まで誘導する。共に敵艦が沈む姿をながめようではないか!」
パイロットたちは頬を紅潮さえながら話を聞いていた。その目の奥には熱い炎が燃えたぎっていた。  


664  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/15(水)  16:04:25  [  D4VsWfLE  ]
7月10日  午後10時  サイフェルバン沖西150マイル
「ふぁああ〜、今日もつかれたな〜。」
あてがわれた個室に入ってくるなり、リリア・フレイド魔道師は猫のように背をのけぞらせて姿勢を伸ばした。
彼女はこの第58任務部隊旗艦である空母レキシントンUに、オブザーバーとして乗り込んでいる。
オブザーバーとしての仕事はかなり重労働である。連日、レキシントンの飛行長や艦長、
あるいは司令官のミッチャー中将やバーク参謀長と連日話し合いをしている。そのため、朝早くから夜遅くまで
艦橋やCIC、格納甲板などに移動を繰り返すため、かなり疲れる。
最初は簡単だと楽観していたが、それはとんでもない。むしろあれこれ神経を使うため大変である。
だが、同時にやりがいのある仕事でもあった。疲れはするが、意外と楽しい。それが彼女の印象だった。
「明日もまた忙しくなりそうだわ。」
そう言いながら、彼女はメガネをはずし、寝間着に着替えるとベッドに大の字になって寝込んだ。
やがて、彼女の意識は、まどろみの底へと落ちていった。

だが、突然耳障りな音が彼女を眠りの底からたたき起こした。
「なっ、何!?」
リリアははっとなってベッドから跳ね起きた。けたたましい音が艦内中に鳴り響き、ドアの外では怒号や、
ドタドタという何かが慌ただしく走り去っていく音が聞こえた。
何かよからぬものが迫っている!彼女はそう思うと、眠気が綺麗さっぱり吹き飛んだ。
「敵編隊接近!総員戦闘配置!総員戦闘配置!」
スピーカーから緊迫した声が鳴り響いた。  



676  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:18:12  [  D4VsWfLE  ]
レキシントンのCIC内に設置された丸い円盤、もとい対勢表示板にオペレーターが
緊張した表情で書き込んでいる。
中心から北東方向に飛行機のマークが描かれ、その上に104と数字が書かれている。
レーダー表示機には、マストのSKレーダーが捉えたおびただしい数の機影が映し出されていた。
距離は80マイル。
「まさか、敵の夜間空襲部隊が襲ってくるとはな。」
CIC内にいる班長のデイル・パーキンソン少佐は苦々しい表情でそうつぶやいた。
「もっと外洋に機動部隊を配置したほうが良かったんじゃないか?」
第58任務部隊は、前日に第1、第2群が分離してクロイッチ沖まで南下して、その艦載機で
後方に配置されていたバーマント軍の飛行場を叩いた。
この時、バーマント軍第16、第17空中騎士団がサイフェルバンの後方基地に戻ろうとして
全機がエンジンを回していた。
そこに米艦載機が来襲したのである。この攻撃でタイミングよく200機の飛空挺を地上撃破し、
基地も完膚なきまでに叩き潰した。
第3、第4群もサイフェルバンより南東200キロの野戦飛行場を空襲して80機のバーマント
軍機を破壊、その周辺にあった鉄道も叩き潰して敵の補給能力を大幅に削いでいる。
これで第58任務部隊の将兵は付近一体の飛空挺を一掃したと確信したのである。
だが、敵はまだ余力を残していた。このレーダーに映る敵編隊がなによりの証拠である。
「まだ見つけていない飛行場があるのだ。やつらはここから飛んで、わが機動部隊に反撃を加えようとしているんだ。」
F6Fの援護がない今、艦隊の防空を一身に担うのは各艦取り付けられた対空火器。己の武器が敵に対する唯一の対抗手段。
空母搭乗員は、エスコート艦の奮闘に期待するほかなかった。  


677  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:19:13  [  D4VsWfLE  ]
「この方角だ!この方向から強い生命反応がある!」
愛機の後部座席に乗っているグロルズがそう叫んだ。
「本当にこっちで良いのですね!?」
ダルキア中佐は聞き返した。
「ああ、ここの方角だ。間違いない!」
「了解!」
彼はそう言いながら後ろを振り返った。後続機の主翼の夜光塗料がうっすらと見える。
まるで夜光虫の群れを思わせる光景である。
「ついてきてるな。」
彼は満足した。第13空中騎士団は午後8時に発進した。
サイフェルバンを北に迂回する形で飛行し、それから南西に変針して海に出た。
それまでは、海竜が誘導魔法を使って途中まで攻撃隊を誘導していた。海に出ると、
グロルズが生命反応を探知し始めた。
そして南西に進むこと30分、ついに生命反応を捉えたのだ。
各機とも、胴体には250キロ爆弾を1発ずつ積んでいる。命中したら5秒で
爆発するように遅延信管がセットされている。編隊は高度700メートルを維持している。
「今に見ていろよ、白星の悪魔。今日が貴様らの命日だ。」
彼は獰猛な笑みを浮かべながら、そうつぶやいた。  


678  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:20:22  [  D4VsWfLE  ]
「敵編隊、北東からわが第3群に近づきます!距離は30マイル、スピードは200、
いや、敵編隊増速!250マイルで向かってきます!」
オペレーターの声がスピーカーから聞こえた。やがて、レキシントンの左舷方向から
いくつもの閃光がきらめいた。輪形陣外輪部のエスコート艦が高角砲を撃ち始めたのである。
リリアは、艦橋の張り出し通路で戦闘の成り行きを見ていた。貸し与えられた双眼鏡で
閃光の場所をながめる。盛んに閃光が湧き上がっている。バーマント機は輪形陣のすぐ
そばまで来ているのだろう、駆逐艦や軽巡が5インチ砲を乱射している。
対空砲火はかなり正確だ。すでに砲弾の炸裂とは別の光が、沸き起こってはすぐに消え、
あるいは、光をたなびかせるように海中に落ちている。
それも1つや2つではない。3つや4つ、いやそれ以上である。
「なんて激しい対空砲火なの・・・・・・・あんな中に突っ込むこと自体自殺行為だわ。」
夜間にもかかわらず、エスコート艦の高角砲は正確に敵機を捉えている。
リリアは、その激しい対空砲火に息を呑んだ。
(これがレーダー射撃)
彼女はそう思った。
彼女が初めて目にするレーダー射撃は、見方を変えればまるで夜に打ち上げられる
花火大会のようにも思えた。  


679  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:22:11  [  D4VsWfLE  ]
米艦隊に接近しつつある第13空中騎士団のパイロットは、まるで悪夢を見ているかのようだった。
アメリカ艦の放つ砲弾はいずれも至近距離で炸裂している。それもほとんどの砲弾がである。
既に先行していった4機の照明隊は、高度2500まで上がったところで全機が叩き落された。
彼が直率する第1中隊12機も、この激烈な砲火によって2番機と6番機が撃墜された。
「照明隊がやられた時はどうなるかと思ったが、敵さんが盛んに発砲を繰り返しているおかげ
で位置がモロバレだな。」
視界の前には、狂ったように対空砲火を吹き上げる米駆逐艦、その後方には大きめの米軽巡が
第13空中騎士団に対して応戦している。その発砲炎が敵艦の位置を割り出していた。
「あっ、4番機が!」
後部座席のグロルズが叫んだ。4番機が左主翼から猛烈な火炎を噴出し、海面に叩きつけられた。
高度は150メートルという低空に下げてはいるが、敵の応戦は激烈だ。
敵艦はさらに対空機銃を撃ち出してきた。奔流のような機銃弾が彼らに向けて注がれている。
(なんということだ!私は彼らを地獄に連れ出してしまったのだ!)
グロルズはこの作戦の誘導役を引き受けたことを激しく後悔した。彼も米艦隊の対空砲火は
厳しいとは聞いていたが、夜間ではそれも大分和らぐだろうと考えていた。
それはとんでもない誤解だった。
米機動部隊の対空砲火は夜間でも正確かつ、猛烈なものであったのだ。
この砲火に突っ込む事は、地獄の鍋に頭から突っ込むことと同義語だったのだ。
だが、もはや後戻りはできない。それなら、しゃにむに突っ込み、敵艦にダメージを与えることを考えるのみだ。
「これより敵艦に突入します!」
ダルキアは攻撃開始を言ってきた。
「ああ、思う存分暴れてやろう!」
グロルズも吹っ切れたような口調で言い返した。人生57年。おそらくここで命を落とすだろう。
だがそれもいい。未知の強敵と戦って死ぬのもいいではないか。
やがて後続の第2、第3、第4中隊が分離し始めた。作戦前の打ち合わせで、
第1、第2、第3、第4中隊は米艦隊の輪形陣外輪部に陣取る米艦を爆撃し、防御網を食い破ろうと考えていた。
それで敵の防御網に穴を開け、後続が内側にいる空母を叩く、という作戦である。
敵艦に向かっていく第2中隊は、わずか6機しかいなかった。  


680  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:24:09  [  D4VsWfLE  ]
軽巡洋艦クリーブランド艦長のプラド・バージニア大佐は異変に気がついた。
敵の一部が分離し始めたのだ。
「輪形陣の右側に回りこむつもりか?」
だが、彼の予想は違っていた。
なんと、その敵機は、駆逐艦のインガソルとドーチに襲い掛かったのである。
狙われたインガソルとドーチは、狂ったように高角砲、機銃を乱射しながら、必死に回頭を繰り返した。
だが、敵も執拗に両艦を狙った。
ついに駆逐艦インガソルが、250キロ爆弾1発を食らってしまった。
その爆弾は後部に命中し、機関室の一部を叩き壊した。
]インガソルは浸水と機関損傷で隊列から落伍し始めた。続いてドーチにも命中弾が出た。
ドーチには5発が艦体にまんべんなく命中してしまった。
この被弾でドーチはあっという間に火に包まれ、機関停止を起こした。
「左舷から8機、本艦に向かってくる!」
CICから報告が届く。
「なんてこった!敵はエスコート艦を叩き潰して後続隊の道を作っているぞ!」
敵の意図を確信したバージニア大佐はぞっとした。そして、脅威はこのクリーブランドにも迫っている!
「目標、本艦に向かってくる左舷の敵機。全力射撃はじめえ!」
40ミリ機銃、20ミリ機銃が超低空で迫るバーマント機に向けて射撃をはじめ、
左舷側に向けられる4基の連装高角砲もガンガン唸った。
先頭の1機の目前にVT信管が作動した高角砲弾が炸裂し、無数の破片が風貌ガラスを叩き割った。
破片に切り刻まれたパイロットは瞬時に絶命した。
主を失った機にさらに40ミリ機銃の集中射撃が加えられ、あっという間にバラバラになった。  


681  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:26:54  [  D4VsWfLE  ]
続いて左の敵機が砲弾の破片を受けてぱっと火を噴いた。
次の瞬間、大爆発を起こして火の玉に早変りした。爆弾が誘爆したのだろう。皮肉にも
敵艦に叩きつけるはずの爆弾で自機が吹き飛んだのである。
残りは臆した様子もなく、クリーブランドに向けて、まっしぐらに突っ込んでくる。
これらに対してもさらに容赦のない砲火が放たれる。クリーブランドまであと1000メートル
に来たときにさらに2機が機銃弾に絡めとられて、あっという間に海面に引きずり込まれた。
しかし、残りの敵機は、600メートルで爆弾を投下した。その直後に新たに2機が撃墜されたが、
艦長の注目は海面をテンテンと跳ね飛ぶ爆弾に向けられていた。
「取り舵いっぱい!」
バージニア艦長はすかさず指示を下す。操舵員が必死の形相でハンドルを回す。
軽快なクリーブランドは、瞬く間に回頭を始めた。
艦尾方向をきわどい位置で2発の爆弾が通り過ぎていった。だが、
「爆弾2、左舷中央に接近!避けられません!!」
見張りの絶叫が聞こえた瞬間、ガーン!という衝撃が10000トンのクリーブランドを揺さぶった。
次いで轟音が鳴り響き、クリーブランドは痛みに耐え切れないようにガクガク揺れた。
被弾してしまった!バージニア大佐は悔しさで胸がいっぱいになった。
爆弾は1発が左舷中央の舷側に命中し、爆弾は艦内に侵入してから爆発した。
この被弾で缶室1個が損傷してしまった。2発目は甲板上に命中し、そこで炸裂。
40ミリ連装機銃座1つと、20ミリ単装機銃2丁をそこにいた将兵ともども吹き飛ばした。  


682  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/03/16(木)  16:29:00  [  D4VsWfLE  ]
「クリーブランド被弾!速度低下!」
艦橋は騒然となっていた。
戦闘開始20分で駆逐艦インガソル、ドーチ、軽巡クリーブランドが相次いで被弾してしまったのである。
それに3隻は低空でのスキップボミングを食らって舷側を破られているため、速度が低下して定位置から離れている。
これによって、第3群の対空砲火網に大きな穴が開いてしまった。もし、こんな所に敵の大群がやってきたら、
主力空母にも被害が及ぶ。
「敵50機以上、輪形陣に突入開始!」
CICからスピーカーごしにそう告げてきた。ミッチャー中将はしぶい表情を浮かべながらじっと黙っていた。

後続部隊として輪形陣に突入してきた第8中隊は、大型空母の後ろを航行する小さめの空母を狙うことにした。
米機動部隊の対空砲火は、先頭隊が護衛艦の一部を引っ掻き回したため、定位置についていない。そのため、
そこの部分だけ対空砲火の密度は薄かった。
だが、その部分を通り過ぎたとたん、嵐のような猛烈な歓迎を受けた。
「なんて両の放火だ。まるで焚き火に頭から突っ込んだみたいだぜ。」
中隊長のルアーノ大尉は素っ頓狂な声を上げた。
米機動部隊の対空砲火のすごさは、生き残った第2空中騎士団のパイロットから聞かされたが、まさにその通りである。
先行の第7中隊は次第に撃ち減らされていく。それも尋常じゃない速さだ。
2,3秒立つたびに必ず1機が火を噴いて落ちていくほどである。
小型空母に向けて爆弾を投下したときには2機に減っていた。
そのうちの1機が火を吹きながら敵艦の高い舷側に体当たりをかました。その直後に、やや左に離れた位置で閃光が光った。
爆弾が命中したのである。
やったぞ!やがて、第8中隊も爆撃位置につこうとした。
その間にも部下の機が次々と被弾し、射点についたときには既に6機に減っていた。