302  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:45:32  [  4CUjn9IY  ]
第58任務部隊  第2任務郡  午前8時15分
第2任務郡の正規空母バンカーヒルのレーダーに、帰還してきた攻撃隊が映った。第2任務
郡は、直ちに収容作業に入った。攻撃隊は200機中全機が無事だった。
バンカーヒル艦上のアルフレッド・モンゴメリー少将は冷静な表情で、帰還してきた攻撃隊の
機影を双眼鏡で見ていた。
「敵には対空砲火が無かったのか。」
彼はふと、そう呟いた。攻撃隊は、着艦コースに乗り始めた。まずはF6Fから着艦を開始した。
そのF6Fが着艦を終えると、次のF6Fがアプローチラインに乗って着艦コースに入る。
着艦したF6Fがエレベーターに載せられ、下の格納甲板に下ろされていく。
そんな光景を彼は見つめていた。攻撃隊の着艦作業が半ばまで終わった時、通信士官が血相を変えた
表情で艦橋に飛び込んできた。
「司令!」
「どうした?」
「敵襲です!発艦した第2次攻撃隊が、敵機の大編隊を捉えました!時速180マイルでこちらに
向かっています!」
「敵との距離は?」
「およそ80マイルです。低空で来たため、レーダーには映らなかったようです。」
モンゴメリーの決断は早かった。
「上空直掩機に艦隊から西60マイルに進出しろと伝えよ。」  


303  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:46:13  [  4CUjn9IY  ]
空母バンカーヒル所属のF6Fヘルキャット12機は、他の母艦の戦闘機と共に艦隊より西60マイル地点
に進出した。
「こちらバンカーフォックワン。目標地点に進出した。」
「こちらマザーバンカー。そのまま待機せよ。」
航空管制官の機械的な声がスピーカーから流れた。5分後、航空管制官から通信が入った。
「レーダーに反応があった。敵編隊は高度2500メートル付近で上昇中。このまま行けば君達の戦闘機隊とあと5分で会敵
する。」
「バンカーフォックスワン、了解した。」
バンカーヒル戦闘機隊の隊長であるウイリアム・ゴッサム大尉はそう言ってマイクを戻した。
その次にあたりを見回した。この日の空模様は、やや雲が多い。うっかりすれば見落とす可能性
があった。
(見落とさんように注意しねえと)
彼はそう思いながら辺りを見回す。そして、ついに見つけた。雲の切れ目に飛行物体を。
「こちらバンカーフォックスワン、各機へ。右前方に敵機を発見した。これより確認する。」
バンカーヒル隊は、先行して雲の切れ目に突入した。そして雲はすぐに抜けた。そこには、緊密な編隊を組みながら、
威風堂々と進撃している飛行物体の群れがあった。
いずれも彼らと似たような単翼、そしてプロペラエンジン付きである。
「タリホー!奴らを見つけたぞ。全機突撃しろ!」
そう言うと、ゴッサム大尉はスピードを上げた。次いで12.7ミリ機銃の安全装置を解除し、発射ボタン
に指を添えた。敵に戦闘機らしきものはいなかった。
戦闘機らしきものがいたら、すぐさまこっちに突っかかってくる機があるはずだ。だが、彼らの編隊の中に
そんな機は見当たらなかった。
(こいつらの相手は航空戦力を持たないヴァルレキュア軍だったからな。きっと爆撃機だけで十分だと考えていたんだろう。
そして、俺達にも対しても、爆撃機だけで十分ということを)
彼は1機の飛空挺に狙いをつけた。その距離はどんどん縮まってきた。
(弱いものいじめは終わりだ。今度は俺達が相手になるぞ、野蛮人共!)
彼は心でそう叫ぶと、12.7ミリ機銃を撃った。ダダダダダダダ!というリズミカルで軽快な音と、振動が伝わった。
奔流のような機銃弾の束が、飛空挺を一薙ぎにした。これで火を噴くだろう。
しかし、1連射では火を噴かなかった。  


304  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:46:48  [  4CUjn9IY  ]
「なんだって?」
彼はもう一度引き金を引いた。今度は前よりも多く機銃弾を吐き出した。相当数の機銃弾を食らった飛空挺は、片翼から
ボッと火を噴いた。そこまで確認して彼のF6Fは、飛空挺の編隊の下に飛びぬけた。
「何機落としたかな?」
彼は下降旋回を行っている間に、飛空挺の編隊を見上げた。予想としてはかなりの数の飛空挺が火を噴いて落ちているはずだ。
だが、彼には意外な光景が眼に入った。10〜20機は初撃で撃墜したはずなのに、現実には5〜6機ほどしか墜落していない。
第2任務郡全体のF6F、合計で60機が上空から飛空挺の編隊を狙い撃ちにしたが、撃墜できたのは半分以下の20機だけで
あった。
本当なら初撃で全機撃墜を狙っていたのだが、それは崩れ去った。
「こいつら、意外に頑丈だぞ。」
ゴッサム大尉はそう呟いた。彼らだけではない、第2任務郡の直掩隊のパイロット全員が同じ事を考えていた。それでも、F6F
はバーマント軍の飛空挺部隊にまとわりついた。
そして20分後、ゴッサム大尉は3機目、部隊全体としては45機目を撃墜したとき、高角砲弾が、先行していた敵飛空挺
のまわりで炸裂し始めた。  


305  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:48:24  [  4CUjn9IY  ]
バーマント軍第1空中騎士団、第4中隊15機は、米機動部隊の輪形陣外輪部に差し掛かった時、突如周りに小さな黒煙が沸いた。
第4中隊長であるベイルツ・オールトイン騎士少佐は、最初から驚きの連続だった。
まず、上空から見慣れない高速の飛空挺が現れたと思いきや、いきなり両翼から何かをぶっ放した。たちまち6機もの味方機が
叩き落された。その後はまるで悪夢のようだった。かつて精鋭無比を謳われていた第1空中騎士団の飛空挺が、わずか20分で
壊滅したのだ。それも、バーマントにも無い、それにヴァルレキュアにも無い未知の飛空挺によって。
そしてその悪魔がどこかに去って、ほっとしたと思いきや、今度は回りに黒い煙が咲き始めた。そして、オールトインは海上
を見て圧倒された。
なんと、20隻以上はあろうかという大船団が、立派な陣形を組んで、高速で海を驀進している!それも見た事も無い船ばかり
だ。その陣形は、何かを守るような形だった。そう、陣形の真ん中にある平べったい船を守るかのような。
「もしかして、あれが奴らの指揮船だな。面白い。爆弾でグチャグチャにしてやるぞ!」
彼は知らなかったが、この船団は、第58任務部隊の第2任務郡であった。彼は速度を最大の320キロに上げ、陣形の真ん中
に向かった。高度2500からやや下降する形、いわゆる暖降下爆撃を敢行するつもりだった。
「後部座席!準備はいいか!?」
「いいです!敵を早く殺してやりましょう!」
後部座席の部下が、威勢のいい声音で返事してきた。彼はようしと呟くと、そのまま平たい船を見つめた。
その時、目の前を黒煙が吹き出た。高角砲弾の破片は、オールトイン騎士少佐の飛空挺を傷つけた。
ガリガリ!という機体を引っ掻く音が鳴り響いた。
だが、機体は耐えてくれた。周りには次々と黒煙が湧き出している。さらには、平たい船、
それを守る船から猛烈な光の束が彼らに注がれてきた。その激烈さに、彼は仰天した。
「なんだあれは!無数に光の束が向かってくるぞ!」
彼は思わず声を上げた。無数の光は、際限なく放たれている。だが、不思議な事に当たらない。
そうこうしている間に目標の平たい船に近づいてきた。オールトインは左側の大きな平たい船を狙う事にした。
そして、ついに高度1200あたりで彼は爆弾を投下しようとした。その時には船の形がはっきり見えていた。どことなく
精悍な感があり、ある程度の優美さを兼ね備えている船だ。その船の平らな甲板には、彼らと似たような、しかしなぜか翼が
折りたたまれている飛空挺の姿があった。
(こんな美しい船に爆弾を叩きつけるのか。戦争とは酷いものだな)  


306  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:50:16  [  4CUjn9IY  ]
彼はふと、そう思ったが、次の瞬間には彼は号令を発していた。
「投下!」
彼がそう叫ぶと、後部座席の部下が爆弾投下レバーを引いた。爆弾が離れ、
機体がフワリと軽くなった、と感じた瞬間、彼らの意識は暗転した。
そして二度と光が見える事は無かった。

「左舷の敵機、爆弾投下ー!」
艦橋見張りが絶叫した。
「取り舵一杯!」
艦長のジーター大佐が叫ぶと、操舵員が指示に従い、ハンドルを回した。バンカーヒルに向かってきた15機の
飛空挺は、猛烈な対空砲火を受けて12機が撃墜された。
だが、彼らは諦めなかった。残り3機になってもバンカーヒルに向かってきた。
そしてその3機は一斉に爆弾を投下した。
高角砲がガンガン唸り、機銃が登弾した3機に猛烈な機銃弾を叩き込んだ。3機のうち、1機は四散し、
2機は全体が炎にくるまれた。
2機はバンカーヒルの右舷側海面に墜落して水柱をあげた。
しかし、関心は爆弾の行方と、舵が利き始める時にあった。3つの黒い物体が落下してきた。そこにバンカーヒルがやっと、
艦首をまわし始めた。
バンカーヒルが左回頭を半ばまで終えたとき、1弾目がバンカーヒルの右舷に落下した。
ドーン!という衝撃がバンカーヒルを打ち振るった。至近弾のせいで2つの銃座が破損し、
6人が負傷した。他に細かい破片がバンカーヒルの艦体を微かながら傷つけた。
2弾目はバンカーヒルの艦尾150メートルの所に落下し、1弾目と同じように水柱を跳ね上げた。
「いいぞ。この調子なら」
全てかわせる。そう思ったとき、ダダーン!という轟音が鳴り響いた。衝撃で艦橋が大地震のように震えた。
この時、3弾目はバンカーヒルの右舷後部に命中した。
爆弾は飛行甲板をぶち抜いて格納甲板で炸裂した。
この損害でバンカーヒルの後部飛行甲板に穴があいた。機銃員3人が戦死、12人が負傷した。また、格納甲板で整備
していたヘルダイバー3機がメチャクチャに破壊されてしまった。
米海軍がこの世界で始めて、損害を被った瞬間だった。  


307  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:51:57  [  4CUjn9IY  ]
警報ブザーがけたたましく鳴り響き、ダメージコントロールチームが急いで損傷箇所に向かう。負傷した乗員が、
呻きながら担架で艦内に運び出されていく。戦場の惨状が現出されていた。
そこに新たな報告が入った。
「敵第2波接近!数は50機!」

バーマント軍第2空中騎士団の生き残り50機は、第1空中騎士団が攻撃した第2任務郡に
突入を開始した。

バーマント軍第2空中騎士団、第4中隊に属するライリン・フラッカル少尉の飛空挺は、
ただ1機だけ低空で米機動部隊の輪形陣に進入しようとしていた。
「あの〜。フラッカル少尉?」
「何よ!?」
後部座席の若い男の搭乗員、ロイグ・クラーソン軍曹が恐る恐る尋ねると、
今にも本人を殴りだしそうな口調で女性パイロットであるフラッカル少尉は問い返した。
「仲間と、一緒に上に行ったほうがいいのでは?」
どこか気弱そうな彼は、おそるおそる聞いてみた。女性パイロットは紫色のショートヘアに
気の強そうな感じで顔は端正である。性格的には、今で言う「ツンデレ」であろう。
中隊内ではトゲのある女性として広く人気がある。そんな気が強い彼女でも、今日の出来事
には相当なショックを感じた。まず、精鋭で謳われた第1空中騎士団があっという間に、火の海のような
防御放火に包まれて全滅した事、それに未知の高速の飛空挺が次々に仲間の飛空挺を叩き落した事である。
だが、彼女も敵側の船が傷ついている事にホッとした。所詮人が作ったもの。壊れないものはないのだ。
そう彼女は思った。フラッカル少尉の飛空挺は、現在仲間とはぐれて1機だけ低空で突撃している形である。
「遅いわよ!このまま突撃よ!」
彼女は彼の考えを一蹴した。そしてそのまま進撃を続けた。上空の味方機に激しい黒煙の嵐が吹き荒れている。その量
は半端ではない。さらには火弾のようなものまで吹き上げられている。
その猛烈な対空砲火に、1機、また1機と、翼を叩き折られ、全体を炎に包まれ、墜落していく飛空挺がある。また1機
が空中で爆発した。
だが、それでも第2空中騎士団の残存勢力は突撃を諦めなかった。何機ずつかの編隊に分かれると、それぞれの目標に向かって
急降下を開始した。第1空中騎士団と第2空中騎士団が装備している飛空挺は、ララスクリスに配備されていた飛空挺とは違い
防御能力が格段に向上していた。そのため、前の機種では到底できなかった急降下爆撃ができるようになったのである。
十分な高さ、高度3500から急降下を開始した数機ずつの編隊は猛禽の如く襲い掛かった。  


308  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:52:56  [  4CUjn9IY  ]
空母ワスプU艦長のスプレイグ大佐は、急降下してくる4機の飛空挺を見つめていた。
(急降下で来るとなると、ヴァルレキュア側からあった改良型の飛空挺か。)
彼はそう心の中で思いながら、操舵員に指示を下した。
「面舵、5度。」
彼の言葉に従い、操舵員が面舵を少し回す。操艦のやりにくい巨艦では、あらかじめ切りたい方向に
舵を少しだけ切り、敵機が爆弾を投下する寸前になったら急回頭で爆弾をかわすという方法がある。
スプレイグ大佐はそれをやろうとした。ワスプUは30ノットの速度で驀進し、艦首がドーンという
音と共に波をかぶる。艦首の機銃員は波で濡れ鼠になっていた。
ワスプUの全砲火が上空の飛空挺に向けて、狂ったように撃ち出される。艦橋前・後部に取り付けられている
5インチ連装高角砲4基8門も、砲身も溶けよとばかりに最大仰角でガンガン撃ちまくった。
(俺達の大事な「家」を傷つけられてたまるか!)
乗員、いや、ワスプU自体がそう叫んでいるかのように、撃って撃って撃ちまくった。
敵機の1番機が高度900を切ったとき、敵機の機首がアッパーカットを食らったかのように吹き飛んだ。
次いで40ミリボフォース機銃の曳光弾が飛空挺を突き抜けた。その次の瞬間、ドーン!という音と共に
1番機は弾けとんだ。
「ブラボー!!」
機銃員達が歓声を上げる。その間も引き金は引き続けている。さらに2番機、3番機が火に包まれて落ち
て行った。最後の4番機も片翼から炎を噴出した。  


309  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:54:31  [  4CUjn9IY  ]
バンカーヒルは2機の飛空挺を撃墜し、高空からの襲撃を返り討ちにした。
高空からはもう敵機はいない。
「敵機はもう、」
いないと言おうとしたとき、
「左舷低空より敵機接近!」
見張りの絶叫が響いた。モンゴメリー少将は左舷の方向を見てみた。そこには1機の飛空挺が、
海面にこすりつけんばかりの高度でバンカーヒルに迫っていた。
「左舷方向の敵機、距離3000!撃ち方はじめ!」
ジーター大佐の指示が伝わり、左舷の機銃座が射撃を開始した。物凄い数の曳光弾が、
たった1機の飛空挺に注がれた。高角砲も俯角で狙いをつけ、猛然と射撃を開始する。
だが、不思議に当たらない。飛空挺の周囲には、高角砲弾の黒煙や、曳光弾の着水など
で海面が泡立っている。
機銃弾は当たっているように見えても、微かに逸れる。
「くそ!高度が低すぎてなかなか当たらん!!」
とある機銃座の射撃指揮官が、焦りの表情を浮かべてそう言う。
そして、その飛空挺が距離700まで迫った時、急に腹に抱えていた爆弾が落ちた。
そして水しぶきをあげた。
「爆弾を落として逃げるつもりだ。」
誰もが安堵した瞬間、なんと、爆弾は水をとんとん飛び渡る石のようにバンカーヒルに向かってきた。
「スキップボミング!」
モンゴメリーが思わずそう叫んだ。爆弾はバンカーヒルの左舷後部の舷側に消えた。と見るや、いきなり轟音と衝撃が
バンカーヒルをゆさぶった。ズダーンという爆音と共に舷側から爆炎が吹き出した。  


310  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:55:55  [  4CUjn9IY  ]
バンカーヒルの単装高角砲が2基まとめて被害にあい、そこにいた48名の兵士のうち12名が戦死し、
30名が負傷した。
飛行甲板から吹き出る黒煙と、左舷後部舷側から吹き出る黒煙が一緒に重なり合い、バンカーヒルは、遠目では大損害
を被ったように感じられた。

バンカーヒルに手痛い一撃を追加した飛空挺、フラッカル少尉機は、輪形陣からなんとか抜け出ていた。
機体のあちらこちらはボロボロで、これでよく飛んでいられるなと思われた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
2人の搭乗員はしばらく声が出なかった。やがて、クラーソン軍曹が恐る恐る口を開いた。
「機長・・・・・やっちゃいましたね。」
フラッカル少尉は、疲れたような口調で言い返した。
「そうね。」
彼女は輪形陣の内部を見ていた。20隻のうち、1隻の平らな大型船から猛烈に黒煙を噴出している。
もう一隻の同じような大型船も甲板から煙が上がっていた。他にも、陣形の前を航行していたとてつもない
巨大な大砲を積んだ巨大船、それに中型(といっても彼から見たら大型船)からも煙が吹き上がっている。
「一応・・・・・・成果はあったね・・・・・でも、あたし達の何人が生き残ったと思う?」
彼女は見ていた。味方機が攻撃するとき、猛烈な防御砲火によって仲間の飛空挺がばたばた叩き落された光景を。
「わかりません。でも、この事を報告するのが、自分達の使命です。帰りましょう。」
「そう・・・だね。帰ろう。」
彼女は、機首を陸地に向けた。  


311  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  18:56:39  [  4CUjn9IY  ]
この一連の戦闘で、米機動部隊はバンカーヒルが爆弾2発、至近弾1発、ワスプUが飛空挺の突入1、
戦艦ニュージャージーが爆弾3発、軽巡洋艦サンタフェが爆弾1発を受けた。
特にバンカーヒルは後部舷側に被弾した影響で推進器が損傷、速度は28ノットに低下してしまった。だが、各艦とも
ダメージコントロールのおかげで被害を抑える事に成功、中破レベルはバンカーヒルだけで、残りは小破状態だった。
一方バーマント側は1個空中騎士団が全滅し、こうひとつの空中騎士団も残存機わずか12機という身の毛のよだつ
大損害を被った。その12機も使い物にならず、結果的に全滅してしまったのである。
だが、この戦いで、米海軍もバーマント軍の見方を改める事となる。  


365  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/15(日)  23:19:44  [  4CUjn9IY  ]
5月17日  午前8時  クロイッチ
シュングリル侵攻軍のグレイソル・キアルング元帥は、打ちのめされた表情で、目の前に
広がるクロイッチの光景を見つめていた。
昨日までは、美しい町並みをこの小高い丘から一望できた。だが、今日、いつものように
一望できるクロイッチの町は、もはや美しい町並みではなかった。
「なんてことだ・・・・・・・なんてことだ・・・・・・」
彼は、それだけしか言えなかった。キアルングは、昨日の第58任務部隊が放った第1次攻撃隊
によって自らが構えていた司令部の城を爆砕されてしまった。
彼を初めとする幕僚は、その時既に城の外にいたため、無事だったが、城の中にいた将兵に
多数の死傷者を出してしまった。
そして、あの悪魔のごとき未知の飛空挺は何度も何度もやってきては、この町に破壊をもたらした。
その行為には容赦が無かった。人が集まっている場所があれば、すぐに俊敏な飛空挺が駆けつけ、
その集団にまとわりついてはバタバタとなぎ倒してしまう。
目に付くもの、軍用の馬車や倉庫などはあらかたが吹き飛ばされたり、無数の穴を開けられたりした。
目立つ宿舎などは言うまでも無く、真っ先に叩き潰されてしまった。

特に彼がショックを受けたのは、バーマント公国きっての精鋭部隊、第1、第2空中騎士団が、海上
で忌々しい飛空挺を飛ばしてくる艦隊に攻撃をしかけ、ほとんど全滅してしまったことだ。
バーマント軍第1、第2空中騎士団は、第1航空軍という航空部隊の指揮の下に作戦行動に出ていた。
第1航空軍司令官は、形式的にはシュングリル侵攻軍の指揮下にあるものの、第1航空軍司令官は、独自
の命令権を有していた。このため、司令官であるグルースロッド騎士中将は出撃を決定した。が、勇躍して、
慣れない洋上飛行に飛び立っていった精鋭航空隊は、米機動部隊の激烈な反撃によって壊滅してしまった。
生き残りの12機ももはや使い物にならなかった。
国の象徴でもあり、選りすぐりの部隊が、敵の船に対して若干の被害を与えただけで全滅してしまった。
彼は夜中にやってきた伝令兵にそう聞かされた。そうすると、敵の攻撃力、防御力は相当高いものである。
いや、もはや次元を超えていると言っても過言ではない。  


366  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/15(日)  23:20:29  [  4CUjn9IY  ]
「未知の敵・・・・・・現るか。」
彼は力ない声でそう呟いた。


「未知の飛空挺・・・・それを大量に載せ、飛空挺を好きな時に出せる平らの軍艦・・・・・飛空挺母艦
か・・・・・」
彼は昨日、徹夜で行われた緊急会議の席で、騎士団の生き残りである女性パイロットが口にした言葉を呟い
ていた。
「そして、その船と、護衛する船に取り付けられた恐るべき対空火器。それがいともたやすく、精鋭の空中
騎士団、それも新鋭機を装備した部隊が、全滅した・・・まるで悪魔が生み出した産物だ。」
彼は唇を強くかみ締めた。この一連の大空襲で、ララスクリス、クロイッチにいた兵員は、暫定的な数値で
7400人が戦死、34789人が負傷するという未曾有の大損害を被っている。
それも、たった1日で!
それにララスクリスとクロイッチの町は、もはや灰燼と化している。その下に埋もれているであろう幸無き
者も、そして空中騎士団の戦死者も含めれば、犠牲はさらに増える。もしや、万の単位に達するかも知れない。
「ひどい・・・・・・あまりにも酷すぎる。もしや、俺達にこの戦争を続けるなと言う警告なのだろうか。」
彼はそう力なく呟いた。彼の深緑色の瞳には、灰燼と化し、未だに炎上を続けるクロイッチの姿が映し出されていた。  


367  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/15(日)  23:21:06  [  4CUjn9IY  ]
重巡洋艦インディアナポリス艦上の第5艦隊司令部では、スプルーアンスを初めとする司令部幕僚が作戦室で地図を
見ながら額を集めあっていた。
「第58任務部隊は、北方攻撃部隊の第1、第2任務群がクロイッチを、南方攻撃部隊の第3、第4任務群がララス
クリスを爆撃しました。南方部隊は合計で6波、北方部隊は合計で7波の攻撃隊を出し、周辺の軍事施設や飛行場
に攻撃を加えました。この間、敵の飛空挺部隊の攻撃を北方部隊の第2任務群が受けましたが、敵機多数を撃墜して
これを撃退しました。被害はバンカーヒルが中破、ワスプが小破、戦艦ニュージャージー、軽巡サンタフェも小破の
損害を受けましたが、各艦とも作戦続行に支障はありませんでした。」
「あの対空砲火をくぐり抜けて手傷を負わせるとは、それだけでも侮れない奴らだな。」
スプルーアンスは、顎をなでながら呟いた。
「今回、突入してきた敵飛空挺部隊は100機にも満たなかった。だが、敵をほとんど叩き落したのにもかかわらず、
バンカーヒルとワスプなどが傷つけられた。もし、突入機が多かったら。そして敵が300機、400機と突っ込ん
できたら、「大破」と言う判定を付けられた艦船が増えるかも知れんな。いや、最悪の場合、撃沈されるのも出てくる
だろう。」
「それを未然に防ぐためには、」
参謀長のデイビス少将が口を開いた。
「機動部隊の全戦闘機を上空に上げ、進撃してくる大編隊にぶつけなければなりません。今回の航空戦では、第2任務群
のF6F60機、それに他任務群からの救援30機で突入前のバーマント群の飛空挺を75機撃墜し、20機以上に損傷
を与えました。現在第58任務部隊が保有するF6Fは合計で400機以上です。これのほぼ全てをあげてバーマント軍
の飛空挺部隊を迎撃すれば、敵の対艦攻撃力を多く削ぐ事ができ、あるいは攻撃前に完全に撃墜することが可能になります。」
作戦参謀のフォレステル大佐も加わる。
「長官、もし敵の飛空挺部隊の大攻勢が、我が機動部隊に掛けられれば、貴重な高速空母を撃破、最悪の場合撃沈される可能性
があります。今後の作戦には各任務群の距離が30マイルほどの近距離で集合すれば、戦闘機の集合密度は上がります。」
「うむ。作戦参謀の言うとおりだ。」
スプルーアンスは頷いた。
「私も色々考えたのだが、結論は君と同じだった。高速機動が売りである機動部隊だが、分散していては、大量の敵に襲われては
ひとたまりも無い。今後、敵の主要基地を叩くときには、4群がほぼ集合してから攻撃隊をとばさせよう。」  


368  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/15(日)  23:24:33  [  4CUjn9IY  ]
翌日、20機のヘルダイバーが、根拠地、今では半分以上が焼けてしまった町、クロイッチに姿を現した。
バーマント軍の将兵はこのヘルダイバーの襲来に、恐怖の眼差しで確認した後、一斉に勝手な方向に逃げ始めた。
だが、ヘルダイバーの爆弾倉から落とされたのは、何かが書かれたビラだった。ヘルダイバーはビラを、
未だに燃えている建物に落ちないように避けながら落とした。

キアルング騎士元帥は、従兵が持ってきた一枚の紙を彼に渡した。その紙には、バーマント語でバーマント元首、
国民、将兵へ、と書かれた文があった。
その文の続きはこうである。
我々は、貴国のヴァルレキュアに対する蛮行を承認する事はできない。民族浄化は悪である。彼ら、
ヴァルレキュア人は確かに貴国バーマントよりも技術などで劣っている。
しかし、彼らは決して殺してはならない。なぜなら、彼らも同じ人だからである。
彼らヴァルレキュア人はとても素晴らしい民族であり、将来、貴国に勝るとも劣らない国に
成長するであろう。そして、互いに戦争をやめ、共同歩調を取っていけば、貴国もヴァルレキュアも
大いに発展するであろう。
我々が要求するのは、ヴァルレキュア王国の主権、それに占領地の返還である。それ以上は望まない。
もし、貴国がこの要求を踏みにじり、ヴァルレキュアに侵攻を続けるならば、我々も更なる武力行使を行うであろう。
それが行われれば、ララスクリス、クロイッチ、そして飛空挺部隊の犠牲を大きく上回る数の、
大損害を貴国が被るであろう。

最後に、この文を貴国の王に届け、拝見してもらうように

被召喚者、アメリカ合衆国第5艦隊司令長官、レイモンド・エイムズ・スプルーアンス大将  


369  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/15(日)  23:26:11  [  4CUjn9IY  ]
「被召喚者だと!?ヴァルレキュアの奴ら、もしや異世界からあの飛空挺部隊を召喚してきたのか・・・
・・・・なんて卑怯な奴らだ!!」
キアルングは激怒し、側にあったくずかごを思いきり蹴飛ばした。
従兵や彼の幕僚達は、普段温厚な彼が突然激情に駆られた事に、仰天した。
キアルングはしばらく怒りのあまり、体を震わせていた。しばらくすると、落ち着きを取り戻したのか、
椅子に座った。そして、彼は頭を抱えて何かを考え始めた。
(アメリカ合衆国?そんな国はどこにも無い。それに主だった国はわがバーマントが全て占領しているし、
しかしあの見慣れない飛空挺は確実にこの世に無い。それより飛空挺はわが国しか持っていないし、ヴァルレキュア
が持つ予定だったのみで、これも他には無い・・・・・・と言う事は、あの大部隊は本当に異世界から来た事に
なるのか?でもどうやって・・・・・・それになぜヴァルレキュア側に付き、我が国に敵対するのだろうか?)
彼は考えを浮かべては自問自答した。彼は深く考え続けた。

それから1時間後、彼は従兵を呼んだ。
「この通告文を、首都におられる陛下に渡して欲しい。」  


380  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  11:06:00  [  4CUjn9IY  ]
大陸暦1098年  5月19日  バーマント公国首都  ファルグリン
ファルグリンはバーマント公国の首都として建国以来、発展を続けた町である。市街には
立派なレンガ造りの建物が並び、市場には人手溢れかえっていた。
そんな中、このファルグリンの真ん中に、どっしりと構えるように居座った城があった。
その城こそ、バーマント公国の皇帝が居座る根城であり、この国の心臓である。
その巨大な城の中のとある一角で、円卓に座った6人の男達が話を重ねていた。
「諸君は、この紙を見てどう思うかね?」
1人の、白髪交じりの男が顔を上げ、口を開いた。尊大そうな服装ながら、がっしりした
体格で、顔立ちは白髪が多少混じっているが、目が鋭く、まるで獣のようである。
このいかつい顔した男こそ、この国の皇帝、グルアロス・バーマントその人である。
「私としては、理解に苦しむ内容です。」
頭が禿げ上がった男がそう言った。バーマント公国海軍の最高司令官、ネイリスト・
グラッツマン元帥である。
「そもそも、なぜヴァルレキュア人が、このアメリカとやらの蛮族共をどうやって召喚したのか、
その、理由は分かります。魔法においては世界一のヴァルレキュアの魔術師が、起死回生のために
異世界から助っ人を呼んだのでしょう。そしてそれを持って我々に対抗するとの算段です。」
「対抗?敵は一体何人いるのだ?」
バーマント公国陸軍騎士元帥であるオール・エレメントがふんと鼻を鳴らしていった。
「我が軍には200万の軍隊がいるのだぞ。だが、召喚された第5艦隊という変な名前の軍隊には
一体何人の兵隊がいると思う?私的には我が軍の10分の1、いや、100分の1もいないと思う
が。それに、いくら敵が攻めてこようとも、我が軍の精鋭が叩き潰してくれる。」
そこへ、バーマント空中騎士軍司令官であるジャロウス・ワロッチ騎士大将が口を挟んだ。
「叩き潰すですと?叩き潰されるほうは、むしろ我々のほうかもしれませんよ。」
円卓の一同の視線が彼に集中した。  


381  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  11:06:36  [  4CUjn9IY  ]
「実は、第2空中騎士団のとある飛空挺が、映写機で攻撃した敵を捉えています。その敵の写真が、
皇帝陛下に渡されたその文書の中に入っています。」
「ん?これかね?」
バーマント皇帝が別の袋に入った映写機の写真を取り出した。ワロッチ騎士大将は既に報告書と写真
は見ていたが、彼はそれを見終わった時、自分達が積み上げてきた自身や誇りが一気に崩れさったと
思った。
皇帝陛下は、映写機から映し出された、未知のものに釘付けとなった。それぞれの写真には、彼らが
しらない未知の船、米機動部隊から繰り出される猛烈な反撃の模様が映し出されていた。
空母を守る護衛艦から吐き出される、目を覆うような対空砲火、連続でVT信管つきの高角砲弾で
撃墜される数機の飛空挺、とてつもなく巨大な砲塔を持った巨大船、30ノット以上の高速で
投弾を次々とかわす平らな甲板の巨大船・・・・・・・・・・・・
まさに、想像を絶する光景が、その写真には映し出されていた。
「その映写機を搭載した攻撃機は、敵弾によって大破しましたが、なんとか基地に帰還しました。
しかし、飛空挺は使用不能になり、2人のパイロットは共に重傷、一生空を飛べない体になりました。」
ワロッチ騎士大将はそう付け加えた。バーマント皇帝は、写真を見終えるとグラッツマン元帥に
手渡した。写真は順めぐりに全員に渡せられ、見せられた。
誰もが言葉を失っていた。
「なるほど・・・・・・・・それなら、陸軍が被ったこの被害も納得がいきますな。」
エレメント元帥が、報告書にあったララスクリス、クロイッチの両軍が被った望外の被害を思い出して
頷いた。  


382  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  11:07:14  [  4CUjn9IY  ]
「しかし、私としては対抗策はあると思います。我が軍には近々、小銃、機関銃といった近代兵器が
装備されます。これらの兵器は剣や槍に比べて手軽かつ、威力のある武器です。飛空挺に機関銃を積め
ば、今回全滅した2個空中騎士団のようにはなりません。」
ワロッチ騎士大将はそう確信したように言った。報告書の中では、被撃墜機の半数が、敵の速度の速い
飛空挺に叩き落されたとある。ならば、速力を早めた飛空挺を開発し、これに機関銃を装備して、
これを攻撃部隊の護衛にあてればある程度の被害は軽減できるかもしれない。
彼はそう思っていた。
「私としては、」
バーマント皇帝が言い始めた。
「シュングリルの侵略は諦めるつもりは無いと判断する。陸軍や空中騎士軍の被害は大きいが、まだまだ
戦力はある。よって、殲滅作戦は続行する。それから、海軍にも今回はシュングリル攻撃に出てもらう。」
「はい。分かりました。我々は、意外な敵の出現に思わぬ被害を食らいました。しかし、敵の正体さえ分かれば
こっちのものです。あとは新たな蛮族共の敵襲に備えつつ、準備を整えます。」
「うむ。今回の戦いで、我々は馬鹿にならん被害を受けたが、敵の船も1隻使い物にならなくした。より戦備
を充実させれば、いずれはこの海の蛮族共も皆殺しにできるであろう。」
皇帝はそう言いながら、一枚の写真を見下ろしていた。その写真は、平らな甲板の大型船が、甲板から黒煙を
吹き上げて航行している姿があった。

5月22日、とある前線にバーマント側の返事が届いた。その返事は、四肢が切断された死体つきで送られてきた。  


383  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  11:10:08  [  4CUjn9IY  ]
5月25日  午前8時、シュングリル北方20キロ、ウルシー
アメリカ第58任務部隊の延べ1000機以上にも渡る艦載機の猛攻を受けた、バーマント公国のシュングリル侵攻
軍は、喪失した戦力を立て直すため、一旦進撃を停止し、ララスクリス、クロイッチ方面で戦力回復にあたった。
一方、シュングリル沖合いには、マーシャル諸島を出航してきた多数の輸送船団が次々とシュングリル沖に到着し、
ロタ半島の一角は、米の大船団に覆われた。

5月19日に、スプルーアンス大将は、攻撃成功の見返りとして広大な泊地を提供してほしいと頼んだ。ヴァルレキュア
側はすぐに泊地の捜索にあたった。これには米側も協力した。
5月22日、捜索隊はシュングリルより北20キロに艦隊の泊地に理想的な地域を見つけたと報告してきた。
すぐさまスプルーアンスのインディアナポリスが急行した。
その地はウルシーと呼ばれる地域で、現在は小さな村が少数あるだけだが、港としては十分すぎるほどの広い入り江があり、
大船団の停泊には最適だとスプルーアンスは判断した。
そしてその日の午後から早速、米海軍の移動サービス部隊が、シュングリルの北方20キロにあるウルシーに急行した。
村の住人達は、最初は突如見慣れぬ大船団が現れた事で戸惑い、警戒心をむき出しにしたが、上陸してきた米軍将兵は
むしろ低姿勢で彼らに接した。その事から、かれらの警戒心も薄れ、そしてあの凶暴なバーマント軍の侵攻を阻止した
軍隊だと知ると、米軍は熱烈な歓迎を受けた。
村は内陸部にあるため、海岸地帯は無人であった。そこで、米側はまず飛行場などの施設の建設を始めた。輸送船の中から
何台もの土木工作機械が吐き出され、飛行場建設、宿舎建設に最適と思われる土地に派遣された。
翌24日には浮きドッグが、広大な入り江に入港してきた。それから続々と、空母や戦艦といった戦闘艦艇も入泊し、
25日には総勢で400隻以上の大船団が停泊する事となった。  


384  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  11:11:25  [  4CUjn9IY  ]
25日午後1時  重巡洋艦インディアナポリス
インディアナポリスの艦橋で本を読んでいたスプルーアンスは、唐突に昼休みの読書を取り上げられた。
その理由は、アームストロング中佐が持ってきた報告にあった。
「長官、バーマント側の反応がありました。」
「どんな反応があった?」
彼は無表情で彼に質問した。
「返事は・・・・・・・・・死体付きで送られてきました。バーマント側の返事は、唯一つでした。
回答は、「「蛮族の意見は聞くに値せず。直ちに死すべし」」でありました。」
スプルーアンスはそうかと言って頷いた。彼は相変わらず、冷静な表情を変えなかった。
「バーマント側はよほど、敵を殲滅しないと納得できないらしい。ならば、我々も彼らを
徹底的に叩くまでだ。弾薬の続く限りな。」
彼は淡々とした口調でそう言った。

午後2時、スプルーアンスら、第5艦隊の主だった首脳は、第3海兵師団の護衛1個大隊を引き連れて、
ヴァルレキュア王国の首都に向かった。  


395  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  17:25:06  [  4CUjn9IY  ]
5月26日  ヴァルレキュア王国首都  ロイレル  午後3時
スプルーアンス大将一行は、無事にヴァルレキュア王国の首都であるロイレルに到着した。
ロイレルに向かう際、最初はこの時代と同じような馬車で行くかと考えたが、調査の結果、
シュングリル〜ロイレル間の道路は十分な幅があり、トラック2台分が入る広さがあると
分かり、急遽ジープやトラックに乗って向かう事になった。
彼らは、道を行く現地民などに当初は困惑した表情で見られた。なんせ、見た事も無い車
が堂々と街道を突っ走っているのだから当然だろう。だが、やがては行く先々で歓迎を受けた。
この時までに、スプルーアンスの第58任務部隊が、猛烈な攻撃を行ってあの怒涛のごとき
のバーマント軍の侵攻を阻止した事は、口コミで広がっており、最初は警戒心丸出しで見ていた
人も、やがて通過していく米軍車両に向けて手を振ってきた。
彼らはあまり知らなかったが、ヴァルレキュアの民達は、彼らを英雄、救世主と呼んでおり、
集落を米軍の車列が通れば、たちまち街道の両脇に人が集まり口々に
「勇者万歳!救世主万歳!」
と、拳を振ったり、握手を求めたりなどの熱烈ぶりだった。これには米軍の車列もゆっくりと
しか走れず、ロイレルの1歩手前の村では、歓迎してきた村人が急に道に飛び出してきて、危うく
轢きそうになったほどである。これにより、予定は遅れ気味になった。
しかし、そんなこんなでも米軍の車列はやっと、首都のロイレルに着いたのである。  


397  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  17:26:26  [  4CUjn9IY  ]
「スプルーアンス提督閣下、ロイレルが見えてきました。」
一緒のトラックに同乗していたフランクス将軍が、前方を指で指してそう言って来た。第5艦隊の
司令部幕僚はその周辺を見て思わずおお、と声が漏れた。
彼らが見る初めての首都、それは、彼らがすごした現代の町とは大きく異なるものだった。どこか
幻想的な感のある街、ロイレルに対する第一印象はそう思われた。
スプルーアンスは何事も言わず、ロイレルを見つめたが、すぐに彼は姿勢を戻し、何やら思考を
始めた。
(司令長官、シュングリルを出て以来ずっと考えっぱなしだな。)
参謀長のデイビス少将は、ずっと思考を続けたままのスプルーアンスを一瞥しながら、そう思った。
デイビス少将は知らなかったが、スプルーアンスは、この後どういう方法でバーマントを叩きのめし、
そしてどういう風に戦争を終わらせて、現代に帰るかと、トラックに乗ってから、ずっと思案を重ねていた。

米軍の車列は、ロイレル市民の熱烈な歓迎を受けながら、王国宮殿に到着した。既にスプルーアンス一行
が来る事を知らされていた国王は、直属の騎士団と共に宮殿の玄関で待っていた。
スプルーアンスら第5艦隊の幕僚、首脳は護衛の海兵隊と宮殿前で一旦別れてから、宮殿に入った。
彼らは、やや緊張した足取りで大玄関に向かった。そこには、両脇に甲冑を被った完全武装のヴァルレキュア
兵が、背筋をピンと伸ばし、誇らしげに立っていた。
彼らは階段を上がると、そこで待っていた国王、クルー・バイアン王と対面を果たした。
第5艦隊の首脳、幕僚らが、スプルーアンスを先頭に並び、立ち止まって立派な敬礼をした。
「私はアメリカ第5艦隊司令長官、レイモンド・エイムズ・スプルーアンス大将であります。国王
陛下にご対面でき、心から光栄に思います。」
「遠いところから、ご足労ありがとうございます。私はクルー・バイアンと申します。」
バイアン王は、その皺が刻まれたいかつい顔に微笑を浮かべると、彼らに頭を下げ、一礼した。  


398  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/21(土)  17:27:28  [  4CUjn9IY  ]
スプルーアンスら一行は、宮殿の中に招き入れられた。彼らは会議室のような部屋に招かれた。
バイアン王が、玉座に座ると、
「どうぞ、席に掛けてください。」
と、一行を椅子に座らせた。バイアン王の側には、フランクス将軍が立っていた。長旅に疲れている様子は
無かった。
「スプルーアンス提督。」
バイアン王が口を開いた。スプルーアンスははいと答え、バイアン王に姿勢を向けた。
「あなたは道中ずっと無口のままであったと聞きましたが、どこかお体の具合が良くないのですか?」
彼は心配しているかのような表情で聞いた。スプルーアンスは微笑を浮かべてかぶりを振った。
「いいえ、私はどこも悪くありません。ただ、少々考えことをしていたので、ずっと無口になって
いました。」
「考え、と言いますと、どんな事を?」
「ええ。この戦争を出来るだけ、早く終わらせる方法を考えておりました。」
彼は、いつもの怜悧な口調で、バイアン王にそう言った。  


405  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:06:35  [  4CUjn9IY  ]
「戦争を終わらせる方法ですか。確かに考えるべき問題です。」
バイアン王は感心したような表情で、スプルーアンスを見つめた
「考えるだけで、まだ結論は出せません。問題が難しいもので。」
スプルーアンスは、首都に向かう道中、ずっと戦争の終わらせ方を考えたていた。しかし、
相手がこちらの話に応じないため、頭脳明晰と謳われたスプルーアンスは全く結論を出せないでいた。
ある時は、陸軍航空隊のB−24を使って首都を無差別爆撃させることを考えた事もあり、ある時は
機動部隊にバーマント公国沿岸の港町を荒らし回らせ、敵国民の厭戦気分を誘わせ、それを拡大させ
ようとも思った。
しかし、それは長期間続けてこそ効果があるもので、弾薬に制限があるアメリカ側はせいぜい3ヶ月、
長くても4ヶ月で続行不能となってしまう。いくらマーシャル諸島に膨大な物資を蓄えたと
言っても、補給を絶たれた今、消費を続ければ爆弾が無くなる事は確かである。
では、いっそバーマント公国の首都に、マリアナ侵攻部隊の全軍を突入させようとも考えた。
バーマント公国の首都は、最寄の海岸から100キロの所にあり、途中険しい山脈や森林地帯
があるが、今もっている工作機械などを使えば、道を開いて進軍する事は出来る。
だが、スプルーアンスはこの考えも保留している。いくら強力な機動部隊の援護をつけても、
そこはバーマントの庭でもあるため、バーマント軍は各地から防衛軍を掻き集めて、米軍の侵攻
部隊を迎撃できる。現に、バーマント軍は動員兵力の約140万、全軍200万のうちの半数以上
を本土防衛にあてている。これには空中騎士団や海軍兵力は含まれていない。
それらも含めれば、敵の防衛兵力はさらに上がる。いくらこの時代より遥かに優れた兵器を持つ
米軍も、敵の大群の猛反撃を受けては損害は馬鹿にならないだろう。
他の考えも浮かんだが、結論は見出せないでいるか、見えかけても補給の問題、損害の問題が常に
つきまとった。  


406  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:07:09  [  4CUjn9IY  ]
「戦には、常に問題がつきものです。もし、バーマントがもっと理性的な国であれば、こういう
悲劇も起こせずに済んだのですが。」
バイアン王は苦りきった表情でそう言った。
「我々はバーマント公国に幾度か講和の申し入れを行いました。2ヶ月前にも、我が国は大幅に譲歩
して講和の申し入れを行いました。」
「大幅に譲歩したとおっしゃりましたが、どのような条件で送ったのですか?」
スプルーアンスに対面する格好で座っていたホーランド・スミス中将が聞いてきた。
「条件としては、占領地をそのままバーマントに委譲してもよい代わりに、我がヴァルレキュア王国の
残存する国民、領土の保障を求めました。しかし、バーマント公国はそれを無視し、見せしめとして
首都近郊の村に飛空挺の絨毯爆撃を行いました。この絨毯爆撃で300人の命が失われ、3000人が
傷を負いました。」
ひどい!いくらなんでも、そこまでする必要があるのか!?スプルーアンスら一行の気持ちは、この時
偶然に一致した。
「国王陛下、私は前にフランクス将軍から聞いたのですが、バーマント公国は相手からの講和を一方的
に一蹴し、敵の領土を完全に占領するまで戦闘をやめないと聞いていますが、かの国は始めからそうで
あったのですか?」
スプルーアンスの隣に座るウイリス・リー中将が質問した。それにバイアン王は答えた。
「そうです。バーマント公国は、占領しようとした国には一切の容赦をせずに相手を攻め滅ぼすまで
戦い続けます。しかし、今回のような全て皆殺しという残虐な方法はあまり取らず、降伏した相手には
それなりの対応で応じていました。しかし、現皇帝になってからは殲滅作戦が好まれて使用されるように
なり、バーマントはこの大陸で最後に残った我が国に初めて、敵を皆殺しにする戦法を使ってきました。
この絶滅戦法により、我が国の国民58万余、将兵40万余が犠牲になりました。捕虜は一人として残って
いません。この調子で行けば、残った100万の国民、40万の軍将兵は文字通り・・・・・・・」
そこまで言ってバイアン王は口をつぐんだ。無理も無い、彼が愛してきた国が、文字通り「消滅」しようと
しているのだから。  


407  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:07:54  [  4CUjn9IY  ]
民族完全絶滅か・・・・・我が先人達も、インディアンに対して相当酷いことをしてきたが、完全にその
民族を「消滅」させるまでは行かなかったぞ。バーマントのやり方は先人達よりも酷すぎる)
スプルーアンスは、完全に消滅しきったヴァルレキュアの領土にバーマントの国旗が翻る姿を想像した途端、
かの国に対する呆れと共にどこか背筋が凍る思いがした。
「私は、これも運命なのかと諦めかけた時もありました。しかし、どうせなら一時でもバーマントの進撃を
阻止するべく、王国の臣民、軍将兵を激励叱咤してきました。その甲斐あって、我が国は2年間もバーマント
による領土の完全占領を防いできました。」
バイアン王は力強い声音でそう言った。その言葉一つ一つに、彼が味わってきた苦悩が滲んでいた。
スプルーアンスはある事に気が付いた。それは、バイアン王の目の下に濃いくまが出来ている事である。
もしや・・・・・彼はある事を思った。それを聞こうとしたが、その事は王自らが口にした。
「ここ最近は睡眠時間が3時間しかないもので、いやはや、本当なら私の見苦しい顔などお見せしたくなかった
のですが。」
バイアン王はいかつい顔に微笑を浮かべてそう自嘲した。顔とは対照的に、性格は結構温厚のようだ。
(王様とは、昔から楽ばかりしているイメージがあったが)
スプルーアンスは、他の将星と言葉を交わすバイアン王を見つめながら思った。
(この人は違うな。むしろ自分から試練に立ち向かっていく方だ。それ故、あらゆる人に信頼されているのだろう
それに、普段の激務にも耐えてよく仕事をこなしていると見える。こういう人物こそ、まさに名君と言うのだろう)  


408  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:08:56  [  4CUjn9IY  ]
話はバーマントの話題以外にも、色々な話題が飛び出し、最初はぎこちない感があった会見も、
長時間言葉を交わすことによって解消された。
生い立ちの話、個人の思い出話、そしてこの大陸にあった元々の国の話、ヴァルレキュアの
自慢話など、両者は次第に打ち解けて行った。

会見から3時間が経った時、第5艦隊将星、幕僚と、ヴァルレキュア王国の重臣がまだ話を続けている時に、
突然一人の高官が慌てた表情で何か紙を持ってきた。
衛兵が何事かと聞いた。すると、その衛兵の表情ががらりと変わり、すぐにそのひげ面の高官を通した。
高官はバイアン王の側に来ると、紙を渡した。
それまで明るい表情だったバイアン王は、紙を一読すると唖然とした表情になった。そして次第に顔が青白くなった。
「なんて事だ・・・・・・バーマント軍の飛空挺部隊が・・・・・首都を爆撃しに来る・・・・」  


409  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:10:22  [  4CUjn9IY  ]
大陸暦1098年6月1日午後1時  
この日は雲の少ないよく晴れた日だった。その気分が良くなるような空に、一群の飛行物体が、
エンジン音を轟かせながら南に向かっていた。
その飛行物体の集団は、緊密な編隊を組み、統率の取れた動きで飛行していた。その物体の翼や
胴体にはいずれもバーマント軍の国旗が描かれていた。
この飛行物体こそ、バーマント軍第3航空軍に属する第5空中騎士団、第6空中騎士団の飛空挺の大群だった。その数
は合計で140機。まさに雲霞のごとき大群であった。
この2個空中騎士団は、首都の爆撃の先陣を切って投入された部隊であり、今日が首都爆撃の初日であった。
その大編隊の先陣を行くのが、第5空中騎士団飛行隊長であるギラ・ジュング騎士大佐の飛空挺であった。
「真下にフリットの街が見えます。」
後部座席の部下がそう伝えてきた。真下にはかつて街であったものが見えていた。今では完全に町とは呼べないもの
になっていた。このフリットは、首都より北60キロ離れた小規模の町で、開戦前は綺麗な城や建物が並んでいた。
だがそれらは、第3航空軍の連日の猛爆撃によって焦土と化してしまった。
今ではフリットは完全に人がいなくなり、ゴーストタウンそのものになっている。
「首都まであと60キロほどか・・・・・今回はヴァルレキュア人の本拠地だ。壊し甲斐があるぞ。」
ジュング騎士大佐は、その浅黒い顔に獰猛な笑みを浮かべた。今日は炸薬量を変えた新型の250キロ爆弾を搭載している。
この新型の爆弾は、これまでの250キロ爆弾より威力が1.5倍アップしており、実験の結果は好評だった。
(実験は、捕まえた捕虜を建物の中に入れて行われた)
その新型爆弾の実地テストを、第3航空軍の2個空中騎士団がすることになったのだ。
「テスト結果が楽しみだな。ハハハハハ。」
シュング騎士大佐はそう微笑んだ。  


410  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:11:34  [  4CUjn9IY  ]
ふと、太陽に何かが光った。雲の少ない、青い空。そして大地を照らし出す太陽。その太陽の中から
何やら小さい豆粒のようなものが見えた。
「なんだ、あれは?」
彼は別段気にも留めない口調でそう呟いた時、その豆粒は大きくなった。それも早いスピード
でぐんぐん迫ってきた。
「な、何だと?」
シュング騎士大佐はそう答えた瞬間、急激に迫ってきた影、自分達が乗っている
飛空挺の似たようなものが両翼から光を発した。その刹那、無数のオレンジ色、もしくは赤い色の球が
無数にシュング騎士大佐の機体に突き刺さった。
ガリガリガリ!という猛烈な乱打音が聞こえた、とシュング騎士大佐が思ったときには
彼自身何かに体を貫通され、即死した。

陸軍第774航空隊第3中隊のP−51ムスタング4機が襲った飛空挺のうち、先頭を飛んでいた隊長機と思わしき飛空挺
ががくりとよろけ、黒煙を噴きながら逆落としに墜落していった。
他に2機が翼から白煙を吐いて編隊から脱落しつつあった。
「こちらガルムワン、敵機1機を撃墜、2機が脱落しつつある。」
第3中隊の中隊長であるトッド・ゴア大尉はマイクに向かってそう告げた。
「了解、後続部隊がそちらの空域に到達する。今君の中隊の所属機が敵の飛空挺部隊に突入している。味方同士の接触に気を
つけろ。」
「OK,では俺達は接触に注意しながら、奴らを歓迎してくる。」
そう言ってゴア大尉はマイクを戻した。  


411  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:15:09  [  4CUjn9IY  ]
話は26日に遡る。スプルーアンス第5艦隊司令長官は、運良く入ってきた味方の
スパイ情報を見て愕然とした。なんと敵が王都の無差別爆撃を計画している。
それも6月1日には爆撃を開始できるとの情報であった。
失意の表情を浮かべたスプルーアンスは、とある提案をした。
それは王都郊外の空き地のどこかを貸してほしいと伝えたのだ。バイアン王は、
「空き地なら、ちょうど王都の西北5キロの所に草原がありますが、何をされるのですか?」
「バーマント軍の空襲をなんとか防ぎたいのです。」
スプルーアンスの言葉に、バイアン王は彼をまじまじと見た。
「防ぐ?どうやってです?」
彼は手順を熱心に説明した。その説明を聞いたバイアン王は二つ返事で
スプルーアンスの提案を受け入れた。
その翌日未明、シュングリルから海軍工兵大隊の一部隊が、建設機械等を運んで出発した。
工作機械を積んだ米軍車両は、街道を補給しながら走りぬけた。途中賊らしき者20人が、
米軍車両の荷を強奪しようとして武器を携えて襲撃してきたが、護衛の海兵隊によって瞬く間
に駆逐されてしまった。
盗賊側は全員が負傷して、近くのヴァルレキュア軍の憲兵詰め所に連れ込まれた。
そして移動に丸一日費やし、28日早朝、王都西北の建設予定地に着いた工兵大隊
は、ついた早々、早速仮飛行場の建設を始めた。
建設予定地は王都から街道沿いにあるため、往来する現地人は見慣れぬ工作機械を見ると誰
もが目を丸くして立ち止まった。一部の住民は建設予定地に入ろうとしたが、護衛の米兵に
注意されてすごすごと帰っていった。
それから昼夜交代の突貫工事で、6月1日早朝。王都の西北に長さ1500メートルの
急造滑走路が完成した。
レーダー完備の施設、対空火器も備えられた。
6月1日午前11時、マーシャル諸島のエニウェトク環礁からシュングリルを経由してきた、
陸軍第774航空隊のP−51ムスタング、P−47サンダーボルトの混合80機が、ロイレル飛行場と呼ばれた
急造滑走路に着陸。第774航空隊の航空機はすぐに燃料補給を受け、いつでも離陸できる態勢にあった。

そして午後0時50分、対空レーダーが接近してくる大編隊を感知した。
第774航空隊の専任士官であるウイリアム・ラーキン中佐はすぐに全機出撃を命じた。  


412  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:18:53  [  4CUjn9IY  ]
第2中隊のP−51ムスタング12機は、敵飛空挺部隊の後方上空にたどり着いた。
集団の前方の飛空挺部隊は、第3、第1中隊に襲われて既に6機が撃墜され、3機が脱落していた。
高度は5000メートル。真下に進撃していくバーマント軍の飛空挺が見えている。
第2中隊長であるハンス・ベルガー大尉はマイクを握った。
「野郎共!行くぞ!敵機を残らず叩き落してやれ!」
彼は荒っぽい口調でそう叫ぶと、
「ラジャー!!!」という部下の威勢のいい声が聞こえた。
「元気な奴らだ。」
彼は内心で微笑むと、操縦桿を倒した。眼下に悠然と飛行する敵飛空挺部隊が見えた。
それもたくさん。迎撃に出た第774航空隊の数を上回っている。
(畜生、いくら相手がただ飛ぶだけのトンボとはいえ、頑丈な上に数がこんなにいたんじゃな。
全て叩き落とさねえといかんな)
彼は内心で舌打ちした。その間にも、彼は一番左を飛ぶ飛空挺に狙いを定めた。だが、この時、
飛空挺の編隊に異変が起きた。飛空挺の編隊はパッと散開したのである。
「クソ!敵もただ真っ直ぐ飛ぶだけではないのだな。」
だが、その間にも700キロを超えるスピードでベルガー大尉のP−51は、目標に急速に迫った。
「だが、逃がしはしない!」
照準にピタリと狙いを付けた飛空挺に向けて、彼はボタンを押した。ダダダダダダダ!という
リズミカルな音が鳴り響き振動が伝わった。
6丁の12.7ミリ機銃は、奔流のような銃弾の嵐を飛空挺に放った。
無数の曳光弾が飛空挺に注がれ、何発かが命中して破片を飛び散らせた。彼の機体はそこまで
確認したところで飛空挺の右側を降下していった。
ベルガー大尉は機を左旋回させ、今度は上昇に移る。急速な上昇によってGがかかり、頭がぼうっとなる。
それを耐えて、ベルガー大尉の機は上昇を始めた。後部集団の敵機はほとんどがバラバラになっている。
だが、それによって集団で撃墜される事は無くなっていた。  


413  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:20:55  [  4CUjn9IY  ]
先日のクロイッチ沖海戦(米側呼称)では、2〜3機がF6Fにまとめて撃墜される事が何度
も起きたため、バーマント側は米軍の飛空挺がもし現れたら、バラバラになってそれぞれで目標
に向かえと言われていた。
この対策は見事に図に当たった。相変わらず撃墜される飛空挺は相次いでいるが、
米軍側は6機で1機を追い回したりと、迎撃の効率が悪くなっていた。
とある飛空挺は爆弾を捨てると、途端に身軽な旋回性能を発揮し、高速で突っ込んでくる
P−51の攻撃をひらりひらりとかわし始めた。その飛空挺は、通過した米軍機の後ろを取るという
戦闘機らしい行動を取り、後ろを取られたP−51のパイロットは、現世界での体験が脳裏をよぎり、
一瞬撃たれたと思った。

P−47サンダーボルトを装備している第7中隊は、すでにバラバラで動き回る両軍の空域に到着した。
「こいつはひどいな。」
第7中隊長のジェームズ・オヘア大尉は眉をひそめた。先程まで緊密な編隊を組んでいたバーマント軍機は、
先行したP−51の攻撃に掻き回され、すでにバラバラの状態となっていた。
この時、P−51隊は48機を撃墜し、12機を傷を負わせていたものの、バーマント軍機はバラバラに
なりながら王都を目指していた。
「こいつらは撤退と言う言葉は思い浮かばないのか!?」
オヘア大尉は半ば近くを叩き落されたバーマント軍の飛空挺部隊にある種の恐怖を感じた。
落としても落としても突っ込んでくる。まるで空中のバンザイアタックのように思えた。
「ええい、各機散開!敵機を逃がすな!」
「ラジャー!」  


414  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:21:50  [  4CUjn9IY  ]
部下の声が響くと、サンダーボルトは散開し始めた。オヘア大尉は1機の進撃してくる飛空挺を見つけた。
「ようし。あいつを狙うぞ。」
彼は冷静な口調でそう呟くと、機首をやや下に向けて、飛空挺を目指した。グオオオオオーーー!という
エンジンの回転数が上がる音が聞こえ、速度計が700キロを指した。
距離が700まで迫った時に彼はボタンを押した。リズミカルな振動と共に、赤い糸のような12.7ミリ
機銃弾が雨あられと飛空挺に注がれた。
何発かが翼や胴に突き刺さったと見た途端、風防ガラス砕け散った。飛行眼鏡をかけた操縦士が
赤い血煙を吹き出しながら仰け反る姿が見えた。そこまで見た時、彼の機は飛空挺の後ろ下方
を飛びぬけた。
(あの機は操縦士がやられたから助からんだろう)
彼はそう思って後ろを振り返った。案の定、彼が銃撃を加えた飛空挺は錐もみ状態で墜落していった。
彼は機を左旋回させながら上昇させた。首を上下左右後方に振りながら、敵味方の飛行機に接触しない
よう、注意を払う。
そして距離1200メートルのところで右側前上方を飛ぶ飛空挺を見つけた。今度はあれを落としてやると
決めた。すぐにスピードを上げる。
飛空挺はやっと彼の機に気づいたのか、右旋回で逃げようとした。だが、その飛空挺は彼に腹をさらす格好に
なった。
「逃がさん!!」
彼は絶叫し、機銃を発射した。ダダダダダダ!という音と共に機銃弾の曳光弾が敵機の腹に注がれた。
数発が命中した。
(手ごたえあった!)  


415  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:22:24  [  4CUjn9IY  ]
彼がそう思ったその時、突然飛空挺の腹に抱いていた爆弾が大爆発を起こし、木っ端微塵に吹っ飛んで
しまった。ドガーン!という爆裂音が鳴り響いた。
「うおっ!畜生!!!」
彼は慌ててその爆炎をさけようと機体を捻った。爆炎の側を通り過ぎる際、破片がガツン!ガツン!と
機体をたたく振動が伝わった。彼の風防ガラスの顔の横の部分に、ビシッ!と雲の巣状の割れ目が入った。
それに構わず、爆風で失いそうになるコントロールを懸命に取り戻そうと彼は必死に機体を動かした。
爆風の振動が収まったところで、彼は機体を水平にした。高度は1000まで下がっていた。
「ふぅ〜・・・・・・・危なかった」
危うく死に掛けた。そう思うと、体中から冷や汗が吹き出し、体がガタガタと震えた。だが、これで彼は
2機を撃墜した事になる。
先の破片で機体が損傷したものの、エンジンは快調だった。よし、後一戦やるか、と気を取り直そうと
した時、左前方で1機の飛空挺と1機のP−47が正面から向かいあっていた。
「正面からか。」
彼はそう呟いた。距離が縮まった時、P−47が機銃弾を撃ってきた。たちまち何十発と機銃弾を叩き込まれた
飛空挺は、エンジンからどっと黒煙を噴き、風防ガラスが割れた。  


416  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:23:28  [  4CUjn9IY  ]
「お見事だ!」
オヘア大尉は、たった今撃墜戦果1を数えた味方機に賞賛を送った。
そのままP−47はその飛空挺の側を通り過ぎようとした。
だが、ここで悲劇が起こった。被弾した飛空挺が、なんとP−47の進路をふさぐようにして旋回
を始めたのだ。それに気づいたP−47がかわそうとした。

だが、遅かった。P−47と飛空挺はまともにぶつかった。その次の瞬間、
2機とも大爆発を起こし、空中に大きな火の玉ができあがった。
「ああ!?」
彼は思わず声を上げてしまった。味方のあっけない散華に彼はただ驚かされるばかりだった。
そして、オヘア大尉は、帰還してもしばらくふさぎこむ事になる。  


417  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:24:01  [  4CUjn9IY  ]
バーマント軍第6空中騎士団の第8中隊9機は、王都の右側にある米軍の急造飛行場を見つけると、
そこに機を向けた。
「まずは王都よりも飛行場を叩くんだ。そうすれば、あの白星の悪魔どもも降りる事ができなくなる!」
臨時中隊長になった3番機のグルアッツ・イーエン騎士中尉は、そう叫んだ。
次第に飛行場に近づいてきた。その時、飛行場の外縁からいくつもの光が放たれた。その直後に飛空挺
の周りで黒煙が吹き上がった。
飛行場の防空部隊が高角砲弾を放ってきたのだ。高度は2000メートル、風向きは西向き。後部座席の
照準手は、冷静にそう判断した。
「これが、クロイッチの飛空挺部隊を襲った大砲か。聞きしに勝るものだ。」
彼は、全滅した第1、第2空中騎士団が対面した、敵の高速船部隊の猛烈な防御放火を聞かされた。それによる
と、敵高速船の大砲は、まるで面を耕すかのように前方や周辺に弾幕を張るという。
次いで小型の火弾が上げられてそれに機体が当たると、破壊されると聞いた。
その噂の対空砲火が、目の前にある。数はそれほど多くは無いものの、精度はかなりのもので、常に周りで炸裂している。
「あっ!6番機が!」
3番機の左後方を飛んでいた6番機が、高角砲弾に左の翼を叩き折られた。6番機はバランスを失ってコマのように
落ちていく。
その間にも、飛行場の上空に間もなく達しようとしている。今度は高角砲だけではなく、機銃弾が打ち上げられてきた。
無数の曳光弾が機体の横をかすめる。
「おい、あの木造の建物を狙うぞ!」
彼は手近にある木造の建物を指向した。このまま行けば、滑走路に爆弾を叩きつける前に落とされるかもしれない。
そうなる前に、滑走路の左脇にある木造の建物を吹き飛ばそうと思いついた。
「わかりました!」
爆撃手は了解すると、照準機を覗き込み、コースに乗っている事を確かめる。
「ちょい右・・・・・・・ちょい左・・・・・そのまま・・・・・そのまま。」
周りで砲弾がドン!ドン!と音を立てて炸裂する。その度に機体にカツンカツンと破片が突き刺さり、
横やたてに揺さぶられる。それを必死に操縦桿で抑えながら、目標上空に向かう。
そして、ついに、待望の目標にやってきた。目標の左の小さな陣地から、数人の兵士が何かを向けて
放っているのが見えた。  


418  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:25:20  [  4CUjn9IY  ]
「今です!」
「投下!!」
2人の声が響き、爆弾投下レバーを引いた。250キロ爆弾が機体から離れ、フワリと浮き上がる
感触が伝わる。
やがて、目標の建物が爆発し、黒煙と破片が吹き上がった。
「命中です!」
後部座席の兵が叫ぶと、イーエン騎士中尉は歓声をあげた。
「やったぞ!」
その瞬間、ガーン!と機体が激しい衝撃に揺さぶられた。まるで金属製でかい棒で殴られた
ような感触だった。
彼は右主翼と左主翼を見た。左主翼を見た時、彼は愕然とした。
なんと、半ばから吹き飛ばされているではないか!
「ああ、くそったれ!」
イーエンは罵声を漏らしながら必死に操縦桿を引いた。機体を立て直そうとするが、
操縦桿は硬いままウンともスンともしない。
(動け!動いてくれぇ!!)
彼は懇願するように思いながら必死に引いた。そして、操縦桿がそれに答え、手前に引かれた。
機首が上に上がり、機体が上向きなったと思った時、飛空挺は地面に叩きつけられた。
イーエン中尉の飛空挺は300メートルに渡って地面を滑走した。  


419  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:25:55  [  4CUjn9IY  ]
飛行場守備に当たる陸軍第456防空中隊は、海兵隊の防空部隊と共に進入してきたバーマント
軍機に向けて対空砲火を撃ち込んだ。
34門配備された5インチ(12.7センチ)高角砲は、飛行場上空に黒煙の花を多数咲かせた。
仮宿舎の側に設置された40ミリ連装機銃は5人の海兵隊員によって操作されていた。
機銃手のアル・クローズ軍曹は、宿舎に向けて迫り来る3機のバーマント軍機に向けて機銃弾
を撃ち込んだ。曳光弾が赤い糸を引くように上空に注がれる。
1機が唐突に爆発した。高角砲弾の直撃か、爆弾に破片が当たって炸裂したのだろうか。
その光景に部下の兵は仰天した。
「びびるな!作業を続けろ!!」
彼は手を止めた部下を叱咤すると、すぐに敵機に向き直った。すぐに引き金を握って空に機銃弾
を注いだ。
曳光弾は2機のうちの後続の1機の翼に突き刺さったと見るや、付け根から翼が吹き飛んで、
その後、きりきり舞いしながら墜落し、地面に火柱を上げた。
だが、最後の1機が腹から黒い物を吐き出した。爆弾である。
「やばいぞ。」
彼は点となって落ちてくる爆弾を見つめた。機銃座のすぐ横には木造の仮宿舎がある。爆弾が指向
している先はまさにそこだった。
「逃げろ!吹き飛ばされるぞ!」
5人はわあっと悲鳴を上げながら、銃座から脱兎のごとく逃げ散った。その5秒後、物凄い音の
爆発音が辺りに鳴り響いた。クローズ軍曹は爆裂音を聞いた瞬間、地面に伏せた。
その直後、ゴオオオオォーーーー!という爆風が音を立てて彼の背中の上を走り去った。怖い、死にたくない。
彼は恐怖に震えながら爆風が止むのを待った。爆風が止むと、回りにパラパラと破片が落ちてきた。
恐る恐る顔を上げ、後ろを振り向いた。そこにあったはずの仮宿舎は、跡形も無く吹き飛ばされ、
炎と黒煙が上空に舞い上がっていた。
上空には、翼をもぎ取られた飛空挺が墜落していった。  


420  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/22(日)  21:26:42  [  4CUjn9IY  ]
午後1時40分  第774航空隊は、敵機を完全に阻止する事は出来なかった。襲来してきた140機の
うち、120機を撃墜したが、米軍側も敵機の体当たりによって2機を失い、爆発に巻き込まれて6機が
損傷し、そのうち2機は使用不能とされ、合計4機を失った。
飛行場には残りの20機が進入してきた。防空部隊が全機撃墜したものの、8機が爆弾を投下した。
爆弾のうち、1発は滑走路脇の仮宿舎を吹き飛ばし、1発は高角砲座を叩き壊した。
2発は滑走路付近に落ちた。うち1発が滑走の左端に着弾して穴を開けたが、発着に死傷は無い。
また、1発がブルドーザー2台が入ったテントを直撃し、少数の予備機材共々吹き飛ばしてしまった。
結果的に、バーマント軍は2個空中騎士団をまたもや全滅させる事となってしまったが、米側はP−47
を3機、P−51を1機失い、爆撃で海兵隊員2名、陸軍兵3人が戦死し、32人が負傷した。
他に米側が痛手となったのは、貴重な工作機械の喪失で、高角砲座や宿舎の喪失よりも、ブルドーザー
2台の喪失は、補給の無い米側に取ってやや痛い結果となった。  


439  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/29(日)  10:16:21  [  4CUjn9IY  ]
6月1日午後5時  バーマント領バビラ飛空挺基地
ロイレルを襲った140機の飛空挺は、ロイレルから北340キロのところにあるバビラという
地域から発進した。
ここは元はヴァルレキュア軍の根拠地で、1年半前まではヴァルレキュア領だった。バーマント
はここを5万の軍で攻め込み、わずか1万1千しかいなかったヴァルレキュア軍はよく戦った。
しかし、力戦敢闘空しく、ヴァルレキュア軍は包囲全滅してしまった。
バーマント軍はここに航空基地を設営し、占領から1ヵ月後には、ただの原っぱだった土地が
十分な燃料、爆弾、飛空挺を備えた一大航空基地に姿を変えた。
ここからたびたび、飛空挺部隊が発進しては、王都北方にある街や村を無差別爆撃で焼き払った。
喪失は不慮の事故などで少ない数を失ったが、戦闘喪失は皆無であった。
そんな中、6月1日、第3航空軍創設以来初となる大規模な爆撃が実施される事となった。
第3航空軍に所属する140機の飛空挺は、腹に新型の爆弾を抱え、ロイレル爆撃に勇躍出撃
していった。

そしてそれ以来、誰が待っても帰ってくることは無かった。  


440  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/29(日)  10:18:03  [  4CUjn9IY  ]
この日、第3航空軍司令官であるヨヘル・ルバントス騎士中将は、どこかうつろな表情で南の空を
眺めていた。その表情は、年齢の割りには老けが増したような感じがあった。
「こんな・・・・・こんな馬鹿な事が・・・・・・・」
彼はしわがれた口調でそう呟いた。彼がこうも気を落とす原因は、出撃して行った第5、第6空中
騎士団の壊滅を聞いた事だった。

この日の午4後時、いつまでも帰ってこない攻撃隊の前途を、全滅という二文字が頭に浮かび始めた時、
彼の執務室に一人の男性が飛び込んできた。その男は白い薄めの長袖を付け、下は紫色のズボンを付け
ている。彼は魔道師、つまり魔法使いであった。
その彼が血相を抱えた表情で彼を見つめていた。
「リーグラン魔道師、どうしたのだ?」
いきなり入ってきた彼にやや驚きながら、ルバントスは問うた。
「ロイレル周辺にで活動を行っていたスパイから、魔法通信で連絡がありました。空中騎士団は・・・・」
その後の言葉がなかなかでて来なかった。
魔法通信とは、今に言えば無電のようなものであり、それを魔法使い同士が使える通信手段としてバーマント
では使用している。魔道師は、あらかじめ送りたい人物に向けて、従来の魔法通信の呪文に加えて、特定の
魔道師の特徴や名前などをつけて送るのである。
しかし、遠ければ遠いほど、伝達速度が遅くなるという欠点があり、魔法通信は最大で600〜700キロまでしか
使えない。
今回は送られてきた通信内容は、創造しがたい内容だった。彼は魔法通信で入ってきた内容を、一字も逃さずに紙に
書き写した。そして書き写した3枚の紙を、持って執務室に飛んできたのである。  


441  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/29(日)  10:19:17  [  4CUjn9IY  ]
リーグランは青ざめた表情で全滅と言う言葉を出そうとした。だが、なかなか言葉が出せない。
だが、彼がその言葉を言う必要は無かった。
「全滅・・・・・・・したのだな?」
ルバントス騎士中将はそう言った。リーグランは頷いた。
「その紙をちょっと見せてくれ。」
彼は、震える手を押さえながらルバントスに渡した。ルバントスはその紙に目を通した。
何度も何度も読み返した。やがて・・・・・彼の体は熱病に冒されたかのように、ブルブル震えた。
「な・・・・・何と言う事だ。」
彼の顔は真っ赤に染まっていた。3枚の紙には、米陸軍第774航空隊に襲撃され、全滅していく
様子が簡潔ながらも刻々と記されていた。
その内容は、空中騎士団が一方的に叩き落とされていく様子が書かれていた。
ルバントスはしばらく、怒りに満ちた表情で紙にらんでいた。しばらくして、彼は落ち着きを取り戻した。
椅子から立ち上がり、彼は手を後ろに組んで、窓に向かって歩いた。
「5日前の定時の通信では、何も以上はないと言っていた。だが、それからわずか5日後の今日。
攻撃部隊を送り出したら、異世界の高速飛空挺に襲われて全滅した。」
彼は夕焼けに染まる空をながめながらそう言った。
「飛空挺の飛行場を作るには、最低でも1週間半か2週間。大量の人員を投入して造られる。だが、スパイが異常
なしと送って、わずか5日でロイレルの空に、あの第1、第2空中騎士団を襲った高速飛空挺が現れた。」
ルバントスはリーグランに振り返った。  


442  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/29(日)  10:20:33  [  4CUjn9IY  ]
「この意味は分るか?」
「い・・・・・・・・・・もしかして。」
リーグランはおぼろげながらも、思い立った。敵は短期間で飛行場を作れる能力を持っている。
それも我がバーマントよりも短い時間で!
「敵は、こちらが1週間以上はかかる飛行場、それも簡易の奴を、わずか5日。いや、場合によっては4日以内に造った
事になる。この意味、分るな。異世界軍は、わずか数日で簡易飛行場を作れる力を持っているのだ。それも大量の
航空機を保有できる飛行場を。」
彼はそう言うと、がくりと肩を落とした。
「我々は、とんでもない相手を敵につけてしまったのかもしれない。」
ルバントスは、呻くような口調でそう呟いた。彼の脳裏には、親しく言葉を交わした飛行隊長や各中隊の
指揮官の顔が浮かんだ。どれもこれもいい奴だった。
第1、第2空中騎士団ほどでないにしろ、彼らは経験を積んだパイロットだった。技量も優秀なものばかり
だった。その貴重な人材を、一気に失ってしまったのである。もはや死んだ者は二度と生き返らない。
リーグランは、血色のよかったルバントスの顔が、一気に20年分は老けたと思った。それほど、彼の
落胆振りは激しいものだった。

窓から差し込んでくる夕焼けの色は、ひどく黄昏ていた。