874  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/03(日)  15:07:30  [  XwixsAvk  ]
退避壕の正面には、剣や防具が保管してあった区画が見える。
その区画が、爆弾の直撃を受けて派手に吹き飛んだ。

「あっ、腹から何か出したぞ!」

甲高い音に、何かが猛り狂うような音が加わる。
1等兵は知らなかったが、それはヘルダイバーが上げるエンジン音だった。
ヒューッという心臓を締め付けるような音が聞こえてきた。

「伏せろ!落ちてくるぞ!」

軍曹が退避壕の中へ叫んだ。咄嗟に1等兵も頭を抑えてしゃがんだ。その直後、
ズダアーン!という雷が耳元で鳴り響いたような轟音が轟き、地面が大地震のように揺れた。
轟音は3回鳴った。
爆弾が炸裂するたびに、皆が悲鳴を上げて、すぐそこまで迫っている死の恐怖に戦慄する。
1000ポンド爆弾は、仰向けに寝かされているストーンゴーレムに命中すると、すぐに爆発した。
爆弾の直撃を受けたゴーレムは、粉々に砕け散った。その周囲のゴーレムも、胴と言わず、頭部といわず、深刻なダメージを受けた。
3発目の着弾では、爆風がすでに胴体を粉砕されたゴーレムを外側に吹き飛ばし、運搬用に飼われていたルエスの飼育小屋を押し潰し、
孵化したばかりの卵14個も巻き添えを食らって全滅した。
ルエス自体は、空襲を予期した別の兵士によって逃がされており、小屋はもぬけの殻であった。
だが、ここしばらくは、ルエスが気持ちよく眠れる場所は無くなってしまった。

甲高い音はいつの間にか鳴り止んでいたが、爆音はまだ続いている。
ヘルダイバーが投弾し終えると、今度は28機のアベンジャーが、東側から進入してきた。
てっきり空襲が終わったと思い、外に出てきた兵達は、再び退避壕の中に逃げていく。
アベンジャーは悠々と、補給施設の真上に到着した。そして、胴体から2発ずつの500ポンド爆弾を投下した。
再び、爆弾の炸裂音があたりに木霊した。1発は、D区画と呼ばれた緑色の表面に落下した。
その次の瞬間、火山噴火のような大火柱が立ち上がった。  


875  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/03(日)  15:11:25  [  XwixsAvk  ]
これには、アベンジャー隊のパイロットも仰天した。
このD区画には、各種砲弾、銃器の弾薬や装薬、燃料、油脂類が貯蔵されていた。
ヘルダイバー隊の投弾を免れたこの区画も、アベンジャー隊の到着によってついに命運が尽きた。
爆弾は装薬類が貯蔵されている場所に命中した。500ポンド爆弾の爆発は、次の爆発を誘発する。
装薬の次は銃器の弾薬、そしてその破片が燃料、油脂類の貯蔵場所に降り注ぎ、新たなる誘爆を招いた。
とある砲弾は、誘爆によって吹き飛ばされた後、黒煙の中のゴーレム貯蔵施設飛び込んで暴発。さらなる被害をゴーレムに与えた。
軍用列車の車長であるサピワイ・デバンズス大尉は、急いで列車を発進させようとした時に、アベンジャー隊の爆撃が始まった。
線路は補給施設のすぐ南にあり、線路は先ほど爆弾で破壊された黒い区画より30メートルしか離れていない。
残骸が散乱しているが、彼の列車は、3本ある線路のうち、真ん中の2本目であり、残骸もさほど散乱していない。
列車ゆっくりと動き出した。

「ひとまず、南に逃げるとしようか。」

デバンズス大尉がこの後の避難場所を考えていた時に、急に不思議な音が聞こえてきた。
基地司令のクェーク中佐は、勝手に動き出した列車を止めるように言いつけた。

「あれではいい的だ!列車の避難は後にさせて、乗員に退避壕に戻れと伝えろ!」

その刹那、アベンジャー隊が爆弾を投下した。
高度3000でばら撒かれた56発の爆弾は広範囲に着弾した。
ゆっくりと、線路を走りぬけようとする列車の目の前に、小さな黒い陰が落下してきた、
と思った直後に、ダーン!という轟音が鳴り響き、列車の先頭部分が吹き上がった。
3メートルの高さまで飛び上がった先頭部分は、燃えながら線路に着地、もとい、落下した。
先頭部分は左側の線路にのし上げ、後続部分もそれにつられて脱線する。  


876  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/03(日)  15:12:31  [  XwixsAvk  ]
4両目には油脂、弾薬が既に満載されていたが、急な衝撃で弾薬が爆発、油脂にも引火して火達磨になってしまった。
爆弾を投下し終えた米軍機は、それだけでは飽き足らず、今度は攻撃機も低空に降下し、残っている物資に機銃弾を浴びせまくった。

午前7時34分
今や、物資集積所は黒煙に包まれていた。どれぐらいの被害を与えたのかは正確には分からない。
だが、少なくとも4割以上の物資は使い物にならなくした。マルコム少佐はそう確信した。

「こちら指揮官機。敵物資集積所の攻撃は成功せり。我がほうの損害は被弾9機のみ。オーヴァー。」

そう言って、彼は母艦への報告を終えた。攻撃隊は全機が無事であり、被撃墜機は1機もいない。

「隊長。南側からも黒煙が上がっています。」

マルコム少佐は確認できなかったが、この時、ホーネットとバターンの攻撃隊も、継戦派の駐屯地に対して、やりたい放題の攻撃を加えていた。  


885  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:03:10  [  XwixsAvk  ]
10月5日  午前7時  カウェルサント
「ワイバーンロードだ!」

それは、突然やって来た。
俺はその時、砦の中でオイルエン大尉と話し合っていた時、突然見張りの叫び声が聞こえてきた。
その時、俺はオイルエン大尉と顔を見合わせた。

「オイルエン大尉、なんか厄介なものが来たらしいぞ。」
「ええ、空はこんな状態です。航空戦力を動かすには最適な天候ですよ。」

空は青空が広がり、心地の良い天気であるが、それとは裏腹に、彼の表情は曇っている。
ワイバーンロードは一体どれぐらいいるのだろうか?

「何体がこっちに向かってるのだろうか。」
「事前情報では、40〜60騎以上のワイバーンロードが、飛空挺部隊とは別に用意されています。
もし、継戦派がここを消し炭にしてやろうと考えているのなら、その全力が向かっていると考えたほうが。」
「くそ、とんでもない事になったな。」

敵の航空部隊は多くて60騎か。それに対し、こっちは上空援護のない裸の拠点か。
恐らく、敵ワイバーンロードは暴れ放題に暴れるだろう。ひでえものだ。

「マッキャンベル中佐、この砦にも対空陣地が設置されています。
ワイバーンロードはここも狙うかもしれませんので、降りて退避所に行きましょう。」
「名案だね。」

俺は頷く。オイルエン大尉の後に付いて、砦を後にした。
地上に降りた時、革命派の兵達が慌しく配置に付こうと、辺りを走り回っている。  


886  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:06:29  [  XwixsAvk  ]
「オイルエン大尉、この拠点には、確か対空火器があったはずだが。」
「あるにはあるんですが・・・・・・」

いきなり彼の声が曇る。
「内情は少々、芳しいものではありません。主力の対空火器は、11.2ミリ機銃が9丁しかありません。
高射砲は1門も無く、大砲は全て対地射撃用のものばかりです。」
「それだけしかないのか!?」

俺は思わず声を上げた。ますます酷い状況じゃねえのかこれは?

「いえ、他にも携帯用機銃を対空機銃に仕立てたものが16丁あります。
魔道師も対空用の攻勢魔法で迎撃にあたります。」
「なるほど。」

なんだ、他にもあるんじゃないか。だが、それはあると言うだけの話だ。俺の懸念は他にもある。
それは、初めての対空戦闘を行う彼らが、どれだけ多くのワイバーンロードを仕留められるか、だ。
ワイバーンロードが迫っている以上、対空要員の奮戦に期待するしかないが、初めてとなる対空戦闘で、
訓練どおりに出来るかはかなり怪しい。
人間、初めての事にはかなり動揺する。
俺自身、ギルアルグ上空で、愛機がやられた時にはかなり動揺し、何をすればいいのか分からん時があったからな。

「敵ワイバーンロード視認!数は42!」

遠くからそんな声が聞こえてきた。

「42か。オイルエン大尉、君は42という数字にどう思うね?」
「多いですね。この状況では、多すぎると言ってもいいでしょう。」
「俺もそう思ったよ。」  


887  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:08:15  [  XwixsAvk  ]
退避所の30メートル右にある11.2ミリ機銃座の横を抜けて、俺とオイルエンは退避所に入る。
退避所は、半地下式になっており、天井には、頑丈な木材が張られている。
外から見ると、地面から盛り上がった形の天井には、周りの土と同じ色をした塗料が塗られている。
敵航空部隊が迫っていると言うのに、いつも体験しているような音は全く聞こえない。
それも当然だろう。敵はエンジンを持たぬドラゴンだ。航空機よりは遥かに小さい羽音しか立てない。
いつも聞き慣れているエンジン特有の音が聞こえない分、かなり不気味に思える。
退避所には、あっという間に20人ぐらいが入ってきて、中が9割方埋まった。
戦いはその時始まった。
機銃が放たれる音が聞こえてきた。
11.2ミリか、携帯用の軽機関銃が撃ちまくっているのだろう。
退避所は、砦の左斜めに位置している。銃声は正面から起きているため、戦闘の様子が見えない。

「マッキャンベル中佐!入り口に立たないで下さい。流れ弾にやられちまいますよ。」

後ろから声がしているが、俺は無視した。
前から30メートルにいる機銃座では、要員が機銃を構えている。
炎が一気に噴出されるような音が聞こえた。その時、前を向いている機銃座も射撃を開始する。
上空を影が通り過ぎていく、影とはもちろんワイバーンロードだ。
羽音を立てながら、飛び去っていくワイバーンに向けて、機銃が追いかけ射撃をしている。
ワイバーンロードに視線を向ける。ワイバーンロードは右旋回で機銃の曳光弾を避けている。
それ以前に、やや狙いが甘すぎるような感がある。
「ああいう時は、旋回している目標の前方を狙うものなのだが。」
冷静な口調でそう呟くが、まあ、最初はこういうものである。
ワイバーンは一旦、砦から離れていく。機銃の火箭は、前の銃座からのみではない。別の所からも放たれている。

「中佐。ここは対空要員に任せましょう。」
「ああ、分かってるよ。」  


888  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:10:27  [  XwixsAvk  ]
ふと、俺はあるものが見えた。それは、遠くからこちらに向かってくるワイバーンの姿だ。
距離はざっと1000メートルと言う所だ。
だが、前の機銃座は先ほど通り過ぎて言ったワイバーンロードに夢中で、背後の敵に気が付いていない。
その背後の敵は、機銃座を指向している。狙いは明白だった。

「タリホー!」

なぜか、反射的に叫んでいた。体中から何か熱いものが沸き立つような感じがした。
俺は退避所から半ば飛び出し、機銃座に向けて声を放っていた。

「後ろだ!後ろに敵機がいるぞ!!」

いきなり、機銃の操作要員達が俺を見て唖然としている。

「ボサッとするな!ここは戦場だ!いいから後ろを見ろ!」

向こうの彼らが後ろを振り向く。ワイバーンに気が付いたのだろう、機銃手が慌てて銃身を向けた。
給弾係が慌てて弾を込める。弾が込められ、射手が銃弾を撃ち出した。
今度の狙いはなかなかよかった。曳光弾が敵のワイバーンに注がれている。
だが、なかなかワイバーンロードは落ちない。
射手の顔は見えないが、恐らく、いくら撃ちこんでも落ちない敵に、焦燥の念を浮かべている違いない。
距離が600ぐらいになってようやく、ワイバーンはよろめき、右側の砦の外の森に落ちていった。
俺は左右、後方も見てみる。不気味な事に、ちらほらとワイバーンロードの姿がある。
まるで拠点を取り囲むかのように。

「奴ら、どこの防備が薄いのか見極めようとしているのか。」

そのうちの1騎がこっち側に向きを変えた。今度は機銃側も見張りを怠っていなかったらしい。  


889  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:12:33  [  XwixsAvk  ]
機銃弾がそのワイバーンロードに注がれていく。
今度のワイバーンは、右に左にと、機銃弾を交わしていく。

「今度の敵はうまいぞ!」

思わず俺もそう言ったほど、動きが鮮やかだった。
そのワイバーンにさらなる攻撃が襲い掛かる。黄色の光の線のようなものが、ワイバーンの右方向を掠める。
銃座に魔法使いがいたのだろう。
だが、銃座側の防戦も空しく、ワイバーンロードが400メートルまで距離を詰めてきた。
ワイバーンの顎が開かれる。俺は炎を噴き出すと思ったが、そのワイバーンは無数の小さな光のようなものを出してきた。
それは、機銃弾のようにブスブスと着弾し、銃座の周りに土を跳ね上げる。
2人がその小さな光に貫かれのか、腕や腹を押さえて倒れ付してしまった。
ワイバーンロードはそれだけではなく、なんと、爆弾らしきものを投下してきた。
いや、爆弾であった。
俺はすかさず伏せた。次の瞬間、轟音が当たりに響き渡って、地面が揺れた。

「これで、銃座は吹っ飛んじまっただろうな。」

そう呟いて、俺は退避所の入り口から中に入ろうとした。不思議にも、射撃音が再び鳴った。
銃座は生きていたのだ。

「爆弾は外れたのか。」

あの操作要員達は運がいい。俺はそう思った。

「マッキャンベル中佐、大丈夫ですか!」
「ああ、大丈夫だ。」
オイルエン大尉が心配そうに尋ねてきたが、俺はなんともない。  


890  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:14:29  [  XwixsAvk  ]
外はかなりの激戦のようだ。機銃の射撃音と共に、炎を吐く音や爆弾が炸裂する音が混じってくる。

「せめて、俺に飛行機があれば・・・・・あんな奴らの5機や6機、振り回してやれるのに。」

全く、愛機を失ったパイロットはなんと惨めなものか。
時間が経つにつれて、対空機銃の発射音が減ってきた。対空機銃はかなり健闘しているようだが、敵もプロだ。
連携プレーで次々に潰しまくっているのだろう。
突然、爆発音が上から轟いた。

「砦の屋上がやられたみたいですね。」

オイルエン大尉が険しい表情で言う。

「この分だと、敵がポイントを稼いでいるようだな。その証拠に、機銃の発射音が少なくなっている。」

俺は再び、入り口に視線を向ける。何度か見た前方の銃座に、今度は2騎のワイバーンロードが襲い掛かっている。
機銃座が懸命に撃ちまくるが、ひらりとかわす。
かなわぬと思ったのだろうか、生き残っていた5人の操作要員が機銃座から逃げ始めた。
要員達は二手に分かれて逃げる。3人は砦の中のほうへ。2人はここ、退避所に逃げてくる。
すると、ワイバーンも二手に分かれた。砦に逃げた3人が建物に影に隠れて見えなくなる。
そのすぐ後に1騎のワイバーンが付いていく。
隠れる瞬間、ワイバーンの口から炎を吐いていた。

「急げ!早く走れ!」

視線を逃げてくる2人に移した俺は、退避所の他の連中と一緒に、彼らを手招きする。
ワイバーンのほうが早かった。  


891  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:16:45  [  XwixsAvk  ]
このワイバーンは、ブレスではなく、光の弾丸のようなものを吐き出した。
光の弾丸は1人の体を、胴体真っ二つにちぎり飛ばし、もう1人の体も貫いた。
もう1人が倒れる。その上をワイバーンロードが通り過ぎていく。

「やられたか!」

だが、俺は目を見張った。もう1人の兵士は生きていた。
口から血を吐き、苦痛に顔を歪めながらも、這ってここに戻ろうとしている。
「頑張れ!もう少しだ!」
皆が声援を送る。
深手を負いつつも、その男性兵は必死に生きようとしていた。じりじりと、しかし確実に、退避所に近づいていた。

「俺が連れてくる!」

退避所にいた、別の兵士が2人、入り口から飛び出した。彼らは瀕死の兵士を担ぎ、退避所に戻ろうとする。
1人が顔を向け、一瞬絶望したような表情になる。その直後、無数の光の弾丸が3人を隠した。

「あっ!」

思わず、声にならぬ叫びを発した。ワイバーンの影が通り過ぎていき、3人がいた辺りには、もはや立っている人はいなかった。
そこには、生きていたモノが横たわっているだけだった。

「・・・・・・なんてこった・・・・・・・」

愕然とし、一瞬目の前が暗くなる。
ふと、何かが目に入る。それは、あの操作要員達が捨てた銃座。その中に、11.2ミリ機銃が残っている。  


892  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:19:12  [  XwixsAvk  ]
それを見た瞬間、思わず俺は退避所から飛び出していた。
後ろから何かの叫び声が聞こえたが、不思議に遠くから聞こえるように思える。
心の中にあるのは、革命派の兵士を殺したワイバーンロードを撃ち落すと言う激情のみ。
30メートルの距離を走りきって、俺は11.2ミリ機銃に取り付いた。
引き金がしっかりある。弾帯に繋げられている機銃弾はまだかなり残っている。
試しに、空に向けて撃って見る。
ドドド!
弾はしっかりと込められている。これなら、敵と撃ち合える。
俺は戦闘機に乗っていたように、前後左右、上方に顔を振り回す。いた。
敵ワイバーンロードが砦の左側から迫りつつある。撃つ前に、左右も改めて見る。
今のところ、ワイバーンロードは先ほど見かけたのしかいない。
距離は、目測で900ぐらいに迫っている。
公式には、11.2ミリ機銃の射程距離は1000メートル以上はある。あのワイバーンロードは射程距離に入っている。

「食らえ!」

そう言って、引き金に力を込めた。
銃身が衝撃で揺られる。その揺れを両腕でなんとか抑えようとする。
曳光弾は敵ワイバーンのやや下に逸れている。
一旦射撃をやめて瞬時に狙いを修正し、再び撃ちまくる。今度は過たず敵ワイバーンロードに向かっていった。
命中弾があったのだろう、ワイバーンの体に煙が湧き上がる。しかし、なかなか落ちない。
機銃弾が命中するたびに、微かながら、青白い色が混ざっているような気もするが、ともかく、弾が無くなるまで撃ち続ける。
くそ、馬鹿に硬い!これでは、ヘルキャットの12.7ミリでも、なかなか倒せないのではないか?
そうこうしている内に、敵ワイバーンロードが口を開き、いきなり光の束を吐き出した!

「やばい!」  


893  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:22:21  [  XwixsAvk  ]
俺は射撃をやめ、咄嗟に防壁の中に伏せる。
ババババババ!!という弾丸が着弾するような音が鳴り、小さな振動が連続する。
真上を、ワイバーンの羽音が通り過ぎていく。いつものと比べて、間近だ。

「かなりの低空だな。」

そう言った刹那、防壁にドスン!という大きな衝撃が伝わった。面食らった俺は、慌てて機銃座から出る。
機銃座の防壁に、背中を叩きつけられ、横向けに倒れた甲冑姿の敵がいる。
そして、その敵兵は、いきなり起き上がり、俺に襲い掛かってきた。

「嘘!?死んでない!?」

あの高さから落ちたら、普通死ぬはずなのに。
咄嗟に、体を逸らせて長剣の一閃を避けた。避けた際に、頭のすぐ上を剣が通り過ぎ、髪が何本か切られた。
俺は懐にあるガバメントを取り出し、その甲冑姿の敵に2発撃ち込んだ。
甲冑の腹や胸のブ無人に穴が開き、敵は仰向けに倒れた。

「なんて奴だ。まるで化け物じゃないか。」

砦のほうを見ると、そこには壁に突っ込み、無残な姿を晒すワイバーンロードがあった。
そのワイバーンロードの体にはいくつもの穴が開いている。
ふと、背後に殺気を感じた。後ろを振り向くと、別のワイバーンが口を開いていた。

「やべ」

横合いから何かに突っ込まれ、吹き飛ばされる。倒れた俺の側を、物凄い温度の輻射熱が舐めていった。
辺り一面が火の海になり、銃座や戦死した敵味方の死体が、たちまち火達磨になる。  


894  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:25:23  [  XwixsAvk  ]
倒れた俺を何者かが引き起こし、強引にどこかに連れて行く。
そこは、先いた退避所ではなく、完全に地下式になっている倉庫だった。
俺を連れてきた人物が、壁に背を押し付けるなり、いきなり殴りつけるような怒声を吐いた。

「あんた、正気ですか!?」

鋭い声音が響く。その声は、聞きなれた者の声。オイルエン大尉の者だ。

「なぜ、自分の静止を振り切って飛び出したんですか!?」
「・・・・い、いや。つい、カッとなっちまって」
「カッとなっちまってではありません!」

オイルエン大尉の双眸は、いままで見たものより鋭く、怒気に満ちていた。

「対空要員に任せておけと、私はあれほどいったではありませんか!
それなのに、あなたは勝手に飛び出して行った。あなたは、自分に起ころうとしていた事をおわかりですか!?」

・・・・・・言葉を返せなかった。
あの時、俺は危うく、ワイバーンロードの炎に焼き殺されかけた。そこを救ったのが、オイルエン大尉だった。

「マッキャンベル中佐。戦いたいのはわかります。ですが、戦っても絶対的に不利な状況もあるんです。あの時がそうです。」
「ああいう場合、君はどうするんだね?」
「逃げます。戦う条件が良くなるまで、逃げて、そして耐え忍びます。」
「逃げて、耐え忍ぶ・・・・・か。」

俺は、今さっき行った、自分の行動が浅はかだった事を思い知らされた。  


895  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:26:54  [  XwixsAvk  ]
「中佐。今は、耐えましょう。」
「・・・・・そう・・・だな。」

オイルエン大尉の話を聞いたお陰か、段々と冷静さを取り戻してきた。しかし、今度は内心に後悔の念が起こってきた。
「マッキャンベル中佐、さっきは」
「いや、いいんだよ。」

謝ろうとするオイルエンを、俺は制した。

「頭に血が上ってる奴をおとなしくさせるには、有効な手だよ。」

そう言ってニヤリと笑う。オイルエンも、表情を和らげる。
外から聞こえる喧騒は、依然として続いていた。

午前7時40分、カウェルサントに対する攻撃を終えた。
今、カウェルサントの革命軍の砦周辺が、所々炎上している。

「これで、地上部隊も攻撃がやりやすくなっただろう。」
攻撃隊の隊長であるクランベリン少佐は満足したような表情を浮かべた。
クランベリン少佐は、42騎のワイバーンロードを率いてカウェルサントに襲い掛かった。
結果、砦周辺の対空陣地全てを叩き潰し、敵の防壁にも少なからぬ損害を与えた。
しかし、クランベリン隊も無傷とは言えず、反撃で4騎失っている。だが、これで第77歩兵師団は後々の作戦が非常にやり易くなった。
クランベリン隊が潰した対空火器も、もし地上軍に向けられれば、侮れない威力を発揮する。

「ひとまずは、基地に帰って補給だ。またお呼びがかかるかもしれないからな。」

こうして、凱歌をあげたクランベリン隊は悠々と基地に帰っていった。  


896  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:28:53  [  XwixsAvk  ]
午前7時50分  
継戦軍総司令部のある、ヴァルケリン公爵の邸宅の1室では、7人の男達が、困惑したような表情で地図を眺めている。

「ミルクリンスの補給施設と、駐屯地が爆撃を受けたのか・・・・・・
ミルクリンスは、ここマリアナより更に内陸にある。」

ヴァルケリン大将が地図を指でトントン叩く。

「敵飛空挺部隊は北から飛んで来たと言われております。」

作戦参謀が、しわがれた声で説明する。

「数は150〜200。補給施設と駐屯地はこの飛空挺部隊の攻撃で大損害を被ったと言われております。」
「ギルアルグの北北西には発見済みのアメリカ機動部隊がいる。最初、我々はアメリカ側の空母部隊がこの1個部隊のみと思っていた。」
ヴァルケリンはそこで言葉を区切り、大きくため息をつく。

「だが、敵機動部隊は2個部隊いた。」

ヴァルケリンは、ラグナ岬の北方海域にあたる部分を指でなぞった。

「海竜部隊は向かっているのか?」
「はい。海竜部隊のグッツラ中佐によりますと、現在14匹の海竜が現場海域に急行中であるとの事です。」

室内の空気は、とてつもなく重い。
本当ならば、彼らが相手にするものは、革命派の部隊のみであった。
本国に降伏したところで、待っているのは死刑か、監獄の中だ。
そして、刑を免れたにしても、今のような生活は絶対に望めない。  


897  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:32:28  [  XwixsAvk  ]
そうなるよりは、最後まで猛々しく戦い、キメラを放って少なからぬ損害を与えようと決めていた。
キメラとは、継戦側が密かに作り出した生態兵器であり、現在司令部より3キロ北の川沿いにある、
偽装された中央研究所と呼ばれる施設で開発されている。
素材には、志願した兵士が使われている。
キメラになることを志願した兵は200名。そのうち、50名が手術の後に発狂して死んだが、150名が無事に生き延びた。
キメラは魔獣並みの怪力と、並みの魔道師をしのぐ魔法技術を持っており、姿形も化け物そのものである。
2日後には1個小隊が編成を終え、すぐに革命側の地域に送り込まれる予定である。
その地域はリエリンズと呼ばれる東部の都市であり、人口は50万を超える。今は革命側の支配地域だが、ここで実地テストを行うのである。
しかし、状況は大きく変化した。
当初、帰還して行ったと思われるアメリカ艦隊だが、現実には2個の機動部隊が分散しており、
その内の1個が遂に牙を剥き始めた。
ギルアルグ北方に展開していると思われる米機動部隊は、未だに鳴りを潜めているが、それがかえって不気味である。
この時点で、アメリカ機動部隊という存在は、継戦軍にとって悪魔と同義語的な物になっていた。

「厄介な置き土産を、アメリカ野朗は残してくれたものだ。前には革命軍がいて、後ろにはアメリカの空母部隊か。」
ヴァルケリンは頭を振った。

「ですが、その敵も、万能ではありませぬ。」

作戦参謀が窓の外を見た。今、司令部周辺には黒い雨雲が広がっている。

「彼らにも敵がいます。」
「それは、天候だな。」
「そうです。気象班の予測によると、ギルアルグでは雨が降ると報告されています。
ちなみに、アメリカ機動部隊の飛空挺は、雨の時には活動していません。」
「と、言うと。敵の航空部隊は悪天候時の攻撃には向いていない、という事だな。」
「その通りです。現に、これまで敵飛空挺に攻撃を受けた時間は、いずれも晴れか、やや曇っている程度の天候です。」
「と、なると。ギルアルグの敵機動部隊は、雨が止むまでは飛空挺をこちらに向けられないという事だな。」  


898  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:36:55  [  XwixsAvk  ]
「そうです。その間に、各拠点の対空火器を増やすべきでしょう。」
「その間と言っても、短い時間だが・・・・・・・・・やらないよりはましであろうな。
よし、やれ。準備に当たる将兵にはきつい仕事になるが、それも仕方が無いだろう。」

午前9時  ギルアルグ北西76マイル沖
輪形陣の外輪部で、対潜警戒にあたっていた駆逐艦のケイスは、パッシブソナーを使って海竜の捜索に当たっていた。
上空では、3機のアベンジャーが対潜爆弾を腹に収めて艦隊の上空を旋回している。
その一方で、1機のヘルキャットがエセックスから発艦した。

「こちらクロウ。これより標的に向かう。」
「了解、クロウ。後方のサンディエゴに向かえ。」

無線がそこで切れた。ヘルキャットを操縦するバリー・ベニントン中尉は、機首をサンディエゴに向ける。
サンディエゴは、艦隊の最後尾で標的を曳いている。今回、ベニントン中尉が発艦したのは、ある兵器のテストをするためであった。
ヘルキャットの両翼には、新兵器の5インチロケット弾が4発搭載されている。
この5インチロケット弾は、補給されてきた弾薬の中に混じっていた。
ロケット弾の使用は、既に欧州戦線で行われており、ドイツ軍のタイガー戦車も一撃で破壊できたと言われている。
本来ならば、今年の6月に行う予定であったマリアナ侵攻作戦で使用されるはずだったが、
この異世界に召喚されてから、ロケット弾は輸送船の船倉に置かれたままであった。
保有数も少なく、せいぜい正規空母1隻分の艦載機に積める量しかなかった。
それが、前回の補給時に、エセックスに保有数の80発全てが届けられたのである。

「ちゃんと作動するかな?整備の奴らが発射装置の設定に手間取っていたようだが。」

まあ、あれこれ言うのは後だ。そう思って、彼は操縦に専念する。
軽巡洋艦のサンディゴの上空をフライパスし、彼は機体を右旋回させた。
機体が、サンディエゴの後方500メートルに曳かれている標的に向けられた。  


899  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:39:12  [  XwixsAvk  ]
高度を徐々に落としていき、時速500キロで標的に向かう。
サンディエゴの右舷側が次第に大きくなり、艦上には観測班らしき人影が、こちらを見ている。
標的がはっきりと形になってくる。標的まで2000メートルを切った時、突然無線が入った。

「駆逐艦ケイスより、旗艦に報告!敵海竜を発見せり。これより爆雷攻撃に移る。」

海竜は、ケイスの左舷に抜けた。

「いました!やはり海竜です!」
「よし、全速前進!海竜狩りを始めるぞ!」

ケイス艦長はすぐさま命令を伝える。24ノットで航行していたケイスが、機関の唸りと共にスピードを増していく。
24から26.26から29ノットと、速度計の針はどんどん上がっていく。

「海竜の音信が途絶えました。水中騒音で聞き取れません。」
「OK、そのままスピードを上げろ。」

ケイスはスピードを上げ続ける。

「よし、パッシブソナーを入れろ。出力全開だ。」
「アイアイサー!」

ソナー手が命令に従い、パッシブソナーのスイッチをつける。次に、出力を最大に上げた。

「副長、今回は仕留められると思うか?」
「まあ、どうなるかは分かりませんが、敵さんが近くにいるよう祈るのみですな。」
パッシブソナーの出力を全開にして3分ほどが経った時、  


900  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:41:20  [  XwixsAvk  ]
「左舷300メートルに海竜発見!」

ケイスの左舷側海面から、海竜が勢いよく飛び出してきた。
飛び出した海竜は、そのまま海に突っ込んで、海中に潜ろうとする。
しかし、先は30ノット出せた海竜のスピードは、驚くほど低下していた。

「スピード落とせ!18ノット!」

34ノットで航行していたケイスが、今度はスピードを落とし始める。
やがて、ケイスは18ノットまでスピードを落とした。

「ソナー室より報告。海竜、本艦の右舷200メートル。深度30メートル」
「了解。面舵一杯。爆雷投下用意!」

ケイスの艦首が右に振られる。艦尾では、爆雷投下要員が、爆雷を投下する準備を整えていた。
3分後にケイスは、海中の海竜を追い越した。

「爆雷投下!」

艦尾から爆雷が2個投下された。投下要員が続けて爆雷を載せ、再び投射器に転がして、海中に放り込む。
都合12個が投下された。爆雷が投下された20秒後に、いきなりケイスの後方の海面から水柱が立ち上がった。
その水柱が崩れ落ちる暇も無く、2個目の水柱が吹き上がる。
3個目、4個目と、海中が盛り上がり、海水を周囲に撒き散らす。
8個目の水柱が立ち上がった時、海竜の胴体と思わしきものが空中に吹き飛ばされた。
12回、似たような水柱が立ち上がったのを確認したケイスは、艦を反転させて、爆雷投下地点に戻った。  


901  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:43:18  [  XwixsAvk  ]
「艦長、海竜のものと思わしき肉片を確認しました。ソナー室からは、海竜の高速推進音は探知されていません。」

副長からの報告に、艦長は頷いた。

「よし。これで2匹目だな。」
「やっと2匹目ですね。これまでに6回も逃げられましたからな。」
「海竜は生き物だからね。頭がいいんだよ。よし、報告だ。こう送れ。我、敵海竜1匹を撃沈せり。これより隊列に戻る」

その時、後方から航空機のエンジン音が聞こえてきた。

「後方からヘルキャットです。」
「ヘルキャット?アベンジャーじゃないのか?」
「いいえ、ヘルキャットです。」

その報告に、艦長は首を捻った。
その刹那、

「左舷に高速推進音接近!」

ソナー室から緊急の連絡が入った。

「高速推進音だと!?」
「海竜です!もう1匹いました!距離800!」

艦長は慌てて左舷側海面を見てみる。魚雷のような小さな水しぶきが、航跡を引いてケイスに向かいつつある。

「いかん!突っ込むつもりだ!!」  


902  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/09/17(日)  20:45:53  [  XwixsAvk  ]
艦長は表情を歪めた。稀に、逃げ切れぬと察知した海竜は、米艦に突っ込んでくる事がある。
サイフェルバン戦時には、海竜が哨戒艇の1隻に体当たりして爆発、哨戒艇を危うく沈没寸前まで追い込んだ事がある。
また、ここマリアナに来る前にも、第2任務群の駆逐艦が、自棄になった海竜に襲われ、若干の損傷を受けている。
海竜には、自爆魔法を身につけているものも混じっており、米艦に突入した瞬間に、自爆魔法を作動させているのだ。
この魔法を装備している海竜は少ないが、海竜の散開線には必ず2匹は混じっていると言われている。
いきなり、後方からやってきたヘルキャットが、スピードを上げた。
ケイスの見張り員が驚いて、ヘルキャット見つめる。そのヘルキャットは、ケイスの左舷側海面に向けて、翼から何かを撃ちだした。
長い棒状の物体が、火を吹きながらケイスまで500メートル迫った海竜の前面に着弾した。
ドーン!という爆発音が鳴り、3本の水柱が立ち上がった。
水柱の中には、海竜のバラバラになった惨死体が混じっており、一瞬だけ見えると、水柱の中に消えていった。

「こちらクロウ。海竜を撃沈したぞ。」
「クロウ、勝手な真似はするな!君の任務はロケット弾のテストだ。」

管制官が怒りを含んだ声音でベニントン中尉に言う。

「こちらは駆逐艦ケイス。そこのヘルキャットのパイロット、海竜を吹っ飛ばしてくれて礼を言うぞ。」
「OK。自分はエセックス戦闘機隊所属のベニントン中尉だ。お礼にコーラを一本くれ。」
「上陸したらやるよ。とにかく、ありがとう。」

それで会話は切れた。ベニントン中尉は、管制官の説教を聞き流しながら、機体を母艦の方向に誘導していった。

後々、ベニントン中尉は上官にきついお灸を据えられたものの、この実地テストで5インチロケット弾の威力は実証され、
のちにエセックス戦闘機隊の武器となった。  


908  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  18:48:35  [  XwixsAvk  ]
10月5日  午前8時  カウェルサント
ワイバーンロードの被害は結構ひどいものであった。
まず、対空陣地は、11.2ミリ機銃座は全滅。にわか造りの機銃座もわずか3つしか残っていないという。
まさに全滅寸前である。
対空機銃の次は、砦の敷地内を取り囲む木造の壁だが、こちらは入り口付近が焼け落ちている。
その他に、西側の一部分が焼かれて、灰にされてしまった。
敷地内では、馬車12台が馬ごと焼かれてしまい、テントなどにも被害は及んでいる。
人的被害は、戦死162名、負傷者218人。
まさに被害甚大だ。

「以上が、このカウェルサントが受けた被害ですね。」

オイルエン大尉は、俺に対して、淡々とした口調でしゃべっている。
一見、冷静そうな顔を浮かべているが、内心では悔しさで一杯だろう。なにせ、多くの仲間がまた命を落としたのだから。

「・・・・・マッキャンベル中佐、聞いていますか?」
「聞いてるよ。」

素っ気無い口調でそう答える。どうも、体に力が入らないような感じがする。
「幸いにも、弾薬庫などの重要物資には、わずかながらの被害しかありませんでした。
最悪、それらも全部やられるかと思いましたが。これで、しばらくはここで粘れるでしょう。」
「しばらくは・・・か。」

俺は頷く。しかし、少し気になったので、また質問してみる。

「そのしばらくというのは、いつぐらいなんだ?」
「まあ、ワイバーンロードがこなければ、最大2日は持てるでしょう。それ以上は持てませんね。
あとは森の中に逃げるだけです。」  


909  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:11:21  [  XwixsAvk  ]
「まあ、この部隊ならそれぐらいは可能だな。」

そう言って、俺は空を眺める。空は快晴で、気持ち良いぐらいに、青空が広がっている。

「じゃあ、もし、ワイバーンが来たら?」
「1日も持たないね。」

後ろから聞き覚えのある声がする。振り向くと、そこにはイメインと、魔道師のマルファがいた。
マルファは自分を見るなり、笑って手を振ってくる。一方のイメインは、相変わらず機嫌の悪そうな表情を浮かべている。

「それでもいいほう。最悪の場合は、夕方には森で逃げ回っているわ。そんな事聞いて楽しい?」

一瞬、心臓が跳ね上がるような思いがした。

「イメイン!」
「いや、大尉。私が悪かった。よく思えば、君達はこれから継戦派の連中と戦うのだったな。
それなのに、士気を削ぐような質問をしてしまった。」

イメインの行った事は瞬時に分かった。俺も空母の戦闘機パイロットだ。
敵の空母部隊や、戦闘機隊と戦う前に、負けるか、母艦が撃沈されるかなどという話をされたらあまりいい気はしない。
俺はそのような話は、冗談の時でもあまりやるなと部下に言いつけている。
それなのに、自分がこのような事をしでかしたのだ。はっきり言って、恥以外なにものでもない。

「馬鹿な事を聞いてすまない。」

俺は、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。彼らの気持ちも考えずに、余計な事を口走った罪は重い。  


910  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:13:13  [  XwixsAvk  ]
(全く、俺はなんて馬鹿な奴なんだろうか。畜生め!)
自分自身に対して、腹が立つ。

「それは仕方ない。」

イメインが口を開いた。

「戦場と言う空気は、本来の自分を忘れさせる。その事は、あんたも軍人なのだから、よく分かっているはず。
このような事は誰にでもある事よ。ボロが出るのは仕方が無い。」

そう言って、彼女は地面に腰を降ろした。マルファも彼女を見習って座った。

「あなたは自分の言った事を、しっかり理解できている。それができれば、いざ失敗した時でも、次は同じ間違いはしないわ。」

イメインは、腰の水筒を取り出して、俺に差し出してきた。

「飲む?」
「おい・・・・いいのか?」
「飲みなさい。少しは気分も落ち着く。」

本当にいいのか?マルファは犬系の獣人だが、女だ。よく見たら、そこそこいい線いっている。
それなのに、いきなり自分の水筒を、それも他人の親しくない男に、飲め、とは。

「この水筒には、興奮を抑える薬が入っている。今のあなたは、さっきからずっと落ち着いていない。
これを飲めば、落ち着く。」

なるほど、何かの薬草を水に溶かして、水筒に入れているのか。
イメインから、水筒を取って、一口飲んでみる。甘い。  


911  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:15:45  [  XwixsAvk  ]
「すまないな。それにしても、なんか重いな。」

まるで、一度も飲んでいないみたいだ。

「私は必要ない。自分で適度に抑えられるから大丈夫。」

そう言って、彼女は立ち上がった。
それが合図だったかのように、全員(といっても今は3人しかいないが)が立ち上がる。
マルファは、先の空襲で怪我を負ったのか、左腕に包帯を巻いている。
それに気が付いたのか、マルファが視線をこちらに移す。

「あっ、これはですね。さっき敷地内に着地してきたワイバーンロードと戦った時に出来た傷なんです。
いやぁ〜、ワイバーンロードって強いですよぉ。」

マルファはやたらに調子のよさそうな口調だ。
どうも、この娘が気を落としているところは見たことが無い。いつも明るい。いや、明るすぎだろう。

「ワイバーンロードと戦ったのか。何人でやったんだ?」
「私とイメインさんです。」
「他には?」
「えっと・・・・・・・私とイメインさんの2人だけですよ。まあ、相手は1体だけだったけど。」

2人であんな化け物を相手にしていたとは。普通なら消し炭にされてもおかしくはないのに・・・・・・

「あと一歩で、片目を潰せたんだけど。まっ、死ななかっただけでも良しとしようか。」

イメインがさらりと言う。全く、なんて奴らだ。  


912  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:18:26  [  XwixsAvk  ]
「おい、あんたら、海兵隊に来ないか?あんたらなら引く手数多だぜ?」
「「遠慮するよ」」

なぜか2人同時に言ってくる。まあ、大方冗談のつもりだったが。

「それではマッキャンベル中佐。自分達は敵に備えないといけないので、これで失礼します。
運が良ければ、また後で会いましょう。」

オイルエン大尉が微笑みながら言ってきた。

「運が良ければとか言うなよ。必ず会えるさ。オイルンエン大尉、英雄になるなよ。」
「・・・・・・まあ、確証は持てませんが、出来る限り努力します。それでは。」

彼は敬礼した。俺も姿勢を正し、オイルエン大尉に敬礼を返した。
そう言って、彼らは砦の板壁のほうに走っていく。ふと、あるものを返し忘れて、俺は呼び止めた。

「イメイン!忘れ物だ!」

彼女の犬耳がピクッと大きく動く。彼女は振り返った。

「それはあんたにやるよ。それにさっき言ったでしょ。あたしには必要ないって。」

相変わらず、機嫌の悪そうに見えたが、なぜか少しだけ微笑んでいた。
それを隠すかのように、イメインは慌しくオイルエン大尉らの後を追った。

午前8時30分  カウェルサント西2キロ
「見た感じでは、あまり打撃を受けたようには感じんなあ。」
小高い丘から、カウェルサントの砦を見たイアム・ワフィムル大佐はそう呟く。  


913  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:22:01  [  XwixsAvk  ]
「火災の煙がまだ上がってはいますが、ここからじゃ確かに見えづらいですな。
まあ、見えずらいだけで、実際は大損害を受けているはずです。」
隣で、第2大隊長のローストルイ騎士中佐がワフィルムに言う。
「ワイバーン部隊から伝えられた戦果は、敵兵300人殺害、200人を負傷し、対空機銃と備蓄物資を全滅させたとありますぞ。」
「本当にあてになるかねえ。」

ワフィルム大佐は望遠鏡を目元から降ろした。

「航空部隊の戦果は話半分、もしくはそれ以下と考えたほうがいいぞ。」
「どうしてですか?」
「君は分からんのかね。このような報告はあまり当てにせんほうがいい。これまでの例がそうさ。
サイフェルバン戦の時には、夜の悪魔(第13空中騎士団)が米機動部隊に空襲をかけて、空母2隻撃沈、
空母1隻とその他4隻を大破させて敵を追い払ったという戦果発表があったが、翌日には、勇躍出撃した
空中騎士団が、敵戦闘飛空挺の大群に捕まって全滅に等しい損害を受けた。そして、この前の戦いでも、
670機の飛空挺を投入して空母2隻、護衛艦6隻を沈め、空母3隻を大破させたと報告してきた。
その翌日、大魔道院はどうなったと思う?」

大佐はローストルイ中佐にずいっと顔を近づける。

「大魔道院は、大雑把に数えても1500機を越える敵飛空挺にたかられて潰された。
合計で5隻の空母を戦列から失った敵機動部隊が、そんなに飛空挺を飛ばせるか?否、飛ばせん。
なぜなら、空中騎士団が撃沈、撃破した空母はわずか1,2隻ぐらいしかない。先のサイフェルバン戦でも同様だ。」

彼は憮然とした表情で、そうまくしたてた。

「私がさっき、航空部隊の戦果はあてにならぬといったのは、こういう事があるからだ。」
「なる・・・ほど。」  


914  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:26:50  [  XwixsAvk  ]
ローストルイ中佐は、冷や汗を浮かべながら頷いた。
(大佐、かなり気が立ってるな)
ローストルイ中佐は、昨日の夜戦の戦果にがっかりしていたワフィルム大佐の姿を思い出した。
あの時は、追撃を失敗した第3大隊の隊長に対して、無能者と叫んだほど、ワフィルムは激怒していた。
「さて、後は私達の仕事だ。あと何度かはワイバーンロードの支援も要請するだろうが、とにかく、
昨日の失点をこの攻撃で取り返すぞ。中佐」

ワフィルム大佐がローストルイに顔を向けた。

「君達の大隊は所定の位置に付いておるか?」
「はっ。先ほど、配置完了の報が届きました。全部隊、意気軒昂であります。」
「よろしい。第3大隊ももうすぐ・・・・いや、配置に付いたな。よし、私達もワイバーン部隊に負けぬ仕事をしよう。」

ワフィルム大佐は、南400メートル離れた森から、配置完了ののろしが上がっている事に気が付いた。

1098年10月5日  午前8時30分〜午後4時
カウェルサントの攻防戦は凄絶を極めた。
まず、第77歩兵師団の第1連隊の残余が砦を攻撃した。
第1連隊の総数は、昨日の夜戦で相当数減少していたものの、士気は旺盛であり、彼らは一気に攻めて行った。
革命側は、これまで秘匿していた大砲7門を引っ張り出し、迫り来る敵歩兵部隊やゴーレムに叩き付けた。
第1連隊は一時、砦のバリケードを突破し、敷地内に暴れこんだものの、オイルエン大尉らの分隊がうまく足止めし、
敵の第1連隊に多大な損害を負わせて撃退した。
第1連隊は夥しい死傷者を出して交代したが、今度は無傷の第2連隊が攻撃を開始した。
第2連隊は、第1連隊が攻撃を行っている最中に強引に森を切り開き、急増の砲兵陣地を作った。
そこから30分ほど、砦に砲弾を叩き込んだ後、第2連隊の主力が攻撃を開始した。
午前10時に開始された第2連隊の攻撃で、革命側は一歩も引かぬ姿勢で応戦。
数は1200人ほどに減った革命側だが、流石は精鋭の名を頂いた部隊だけはある。  


915  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:29:31  [  XwixsAvk  ]
その間、肝心のワイバーンロードの支援は、基地が突然の悪天候に見舞われて、ワイバーン部隊の発進
が出来なくなっていた。天候は、継戦派と革命派、アメリカ側の敵となり、味方にもなったのである。
革命派は倍以上の敵の攻勢を、なんとか最小限に収め、気がつく頃には、もはや4時を回っていた。


「イメイン!危ない!!」

オイルエン大尉が、敵と切り結ぶ傍らにイメインに注意を呼びかける。
しかし、その言葉が終わった直後には、イメインは体を捻らせ、鋭い回し蹴りを敵兵に叩き込んでいた。
横っ面を蹴り飛ばされた敵兵は、首を反対側に曲げられて絶命してしまった。

「言われなくても分かってますよ!」

イメインは微かに笑みを浮かべる。2人とも、体が返り血で真っ赤に染まっている。
今、敵部隊の一部が再び砦の中に入り込んできている。
オイルエン大尉は、自分達の部隊を率いて、侵入してきた敵兵を排除している。
しかし、いかんせん数が多すぎる。
現在、敵兵は300人が敷地内に入っている。そのうちの大多数は味方と交戦して追い返されている。

「それなら安心だね!」

オイルエン大尉は相手を押し返し、相手がひるんだ隙を突いて、一気に腹を抉った。
敵兵が苦痛に表情を歪め、腹を抑えながら倒れ付す。
既に、同じような光景は飽きるほど見ている。敷地内や、砦の外は、今や双方の死体で一杯であった。
いつも側にいるはずの魔道師のマルファは、現在この場にいない。
彼女は、2時頃に始まった戦闘で、継戦側のクロスボウで右胸を串刺しにされて重傷。砦内の救護所に担ぎ込まれた。  


916  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:32:49  [  XwixsAvk  ]
マルファのみならず、いつものメンバーのうち、2人は既に戦死し、3人は救護所で傷の苦痛に耐えている。

「畜生、後から後から・・・・・・これじゃあキリが無いな。」

2人とも疲労困憊であった。体中が重く、腕に思うような力が入らない。
イメインは、相変わらず冷静そうな表情であるものの、彼女自身も疲労の色は隠しきれていない。

「腕、使えるか?」

オイルエンは、イメインの右腕を見た。イメインの右腕はだらりとぶら下がっており、流血の跡がくっきり残っている。

「今すぐには使えないですね。どうも、傷が思ったよりも深かったみたいで。」

そう言いながら、彼女は包帯で右腕の傷口を巻いて縛る。縛った瞬間、激痛に顔をしかめた。
この傷は、昨日の砲兵陣地攻撃の際、敵の女性魔道師と戦った時につけられた傷である。
イメインは、この傷が思ったよりも深いことは分かっていたが、それを隠し通し、今日の戦いで右腕も使いまくった。
彼女は今日だけで、40人あまりの敵兵をなぎ倒したが、その代償に、右腕が使えなくなってしまった。
さっきまで、彼女は左腕と足で戦っていたのである。

「それじゃあ、手当てしない限り無理だな。」

そう言って、オイルエン大尉は舌打ちした。
外壁の外では、相変わらず剣を打ち合う音や、銃声がひっきりなしに鳴っている。
前者のほうはやや少なく、後者の銃声のほうが多い。

「敵は一旦引くつもりだな。」
「出来れば、一生来ないで欲しいわ。」  


917  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:35:36  [  XwixsAvk  ]
イメインが忌々しげに呟いた。その時、

「敵の新手部隊出現!」

悲鳴のような声が聞こえてくる。静かになりつつあった門前が、再び敵兵の雄叫びで染まりつつあった。
この時、ヌーメアから派遣されてきた第3連隊の1個大隊が、増援に駆けつけたのだ。

「どうやら、まだまだ仕事に追われるようだな。イメイン、君は下がっていろ。」
オイルエン大尉は、イメインの事を思ってそう言った。が、
「まだ左腕が使えます。それに、私は敵がいる限り、戦い続けます。」
「・・・・・勝手にしろ。」

イメインの目は真剣だった。彼女は頑固な面があり、自分がやると決めたらなかなか変えないふしがある。
そんなイメインを説得するのは、かなり苦労させられる。
オイルエンはそれが分かっているから、仕方なしに彼女が戦線に留まるのを認めた。

「では、行きましょうか、大尉。」
「そうだな。とことん付き合ってもらうぞ。」

一旦引いていた闘志が、再び上がってきた。来るなら来い。貴様らが懲りるまで、俺達は何度でもぶちのめしてやる!
オイルエンとイメインは、再び門前に向かって走り始めた。
もはや、頭の中にあるのは敵を追い返すことしか考えていなかった。2人だけではない。
革命軍の将兵、全てが新たなる敵を追い返すべく、再び闘志を沸き起こさせた。
そんな時に、珍客は突然やってきたのである。

「・・・・・・ここの空域の地図はいまいち鮮明じゃないな。」

パイロットであるラリー・ヴォールソン少尉は後ろに話しかけた。  


918  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:38:26  [  XwixsAvk  ]
「ここらへんは先の攻撃目標に入っていないですからね。一応索敵コースには入っているんですが。」

後部座席に座っているニュートン兵曹がそう答える。
彼らは午後3時にエセックスから発艦した。
ヘルダイバーを240マイルのスピードで南東区域に向け、索敵を始めた。それから早1時間が過ぎている。

「森ばっかりじゃねえか。所々、山か小さい草原があるだけで、後は何も変わらないな。」
「そういえば、そろそろヌーメアという地域を通りますが。」
「地図に乗っているこれか。確か村があると聞いているが。その村って、どこが支配しているんだ?継戦側かな。」
「革命側じゃないですか?ここらへんは既にギルアルグより相当離れていますから。」

ニュートン兵曹の言葉に、ヴォールソンはなるほどと言って頷いた。
本来ならば、第4任務群はトラップの城こと、グレンドルス城と、その東にある継戦軍司令部らしき豪邸を叩く予定であった。
午前9時頃には、エセックス、ラングレー、カウペンスから合計120機の攻撃隊が発艦するはずだった。
だが、先に発艦した策敵機が攻撃予定地点の天候は雨と伝えてきた。
エセックスに座乗しているハリル少将は、雨が止むまで攻撃隊の発進を取り止め、そのまま待機していた。
だが、今も攻撃目標地点は雨雲に覆われている。  
午後3時半頃に、カウペンスのアベンジャーが現場に向かったが、依然としてギルアルグ全体が雨雲に覆われており、
一部には発達した積乱雲も存在しており、攻撃できる状態には無いと報告された。

「なんてこった。いざ攻撃と言う時に、天候に阻まれるとは。運は継戦側に味方してしまったか。」

ハリル少将はげんなりとした表情で、幕僚にそうぼやいている。
3空母の甲板上では、今も艦載機が並べられているが、今日の出撃は取り止めになる可能性が高い。

「あんな忌々しい雨さえなけりゃ、俺達は継戦側の奴らにプレゼントを落とせたのに。
それがこんな暇で退屈な索敵任務に駆り出されるとは。全く、アンラッキーだぜ。」  


919  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:41:38  [  XwixsAvk  ]
「機長、ため息ばっかついてますね。そんなに索敵が嫌なんすか?」
「まあ、嫌いと言えば嫌いだね。いつものように、敵を攻撃しに行く時は自然に体の調子が出るが、
このような任務の時はな、どうも頑張ろうという気持ちがわかねえんだ。」

そう言ってまたため息をつく。

「そんなにため息ばっかりついてたら、幸せが逃げますよ?」
「これぐらいで幸せが逃げるもんか。逃げるって言われてるんなら、もっとため息をしまくるぜ。」

そう言って、少尉はニヤリと笑みを浮かべる。
しばらく単調な飛行が続いた後、ようやくヌーメアと呼ばれる地域に差し掛かった。
彼らのヘルダイバーは、途中で森が無い場所を見つけた。ヴォールソンはそこに機を導いていく。
高度を下げて、目標の上空に達した時、ヴォールソンの気持ちは一気に高ぶった。

「おいニュートン。見ろよ、家が焼け落ちたような跡があるぞ。」
「なんかテントらしきものがかなりありますな。あっ!!」

その時、2人は地上から対空機銃らしきものが、彼らのヘルダイバーに向けられている事に気が付いた。

「機長!高度を上げてください!撃たれますよ!」
「言われんでもわかっとる!」

ヴォールソンは慌てて操縦桿を引き上げた。
彼は800メートルまで高度を落としていたが、対空機銃が向けられるのを見て上昇に転じる。
ヘルダイバーのエンジンが大きくなり、高度計の針がグングン上がっていく。

「機銃、撃った!」  


920  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:44:28  [  XwixsAvk  ]
複数の箇所から銃撃のマズルフラッシュと、白煙が見えた。
曳光弾がヘルダイバーの機尾やコクピットを掠めていく。
「こんな所に居やがったとは。ニュートン!艦隊に報告だ!我、ギルアルグ西方のヌーメアで地上部他と遭遇。
兵力は連隊規模。触接の際に銃撃を受く。地上部隊は継戦派の可能性が大なり、以上だ!」
「アイアイサー!」

ニュートン兵曹は打鍵を叩いて、緊急電を送り始めた。機体がガンガン!と振動した。

「チッ、当たったか。」

ヴォールソンは苦々しい表情を浮かべた。
ヘルダイバーは上昇を続け、やがて高度3000メートルまで上昇したところで水平飛行に移った。

「送信終わりました。それにしても機長、ありゃあ継戦派の軍隊ですよ。
自分達があの破壊された村を通過した時、誰もがこっちを見て驚いていましたよ。」
「俺なんかは微かながらだが、悪魔って聞こえたような気がするぞ。空耳かもしれんが。」

ヴォールソンは下界を見てみる。下には、無数のテント群が並んでおり、その周囲には小さな黒い点が見える。
その黒い点は、自分達を撃墜しようとした対空機銃である。今はヘルダイバーが彼らの射程外を飛んでいるため、機銃を撃とうとしない。
だが、しっかりと狙いだけは定めているだろう。

「しっかし、こいつらはなんで、こんな辺ぴな村に居るんだ?」
「革命派の掃討作戦でもやっているんですかね?」
「さあな。出来れば、奴らから話を聞きたいが・・・・・それは無理だな。あちらさんは気が立っているみたいだし。」

そう言って、彼は前に向き直る。母艦に帰ろうかと思った時、不意に何かが見えた。

「ニュートン。確かヌーメアより西に何かあるか?」  


921  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:46:30  [  XwixsAvk  ]
「何かですか・・・・・・ちっこい村があるみたいですが、軍事用の施設とかは何もありません。
まあ、何も無い田舎ですよ。」
「田舎ねえ。」
「最も、地図に乗っていないだけかもしれませんが・・・・・機長、どうかしたんですか?」

ニュートンは、じっと前を見据えているヴォールソン少尉に訝しげな口調で尋ねる。

「ちょっとな。」

ヴォールソンは持っていた双眼鏡を取り出して、ある方向をみつめる。

「ニュートン、見てみろ。2時方向だ。」

ヴォールソンに促されて、ニュートン兵曹は双眼鏡で2時の方向を見てみた。最初は分からなかったが、彼はあるものを見つけた。
森の生い茂る地平線の向こうで、盛んに閃光や、火災煙らしい煙が上がっている。

「機長、あれって。」
「貴様も気が付いたか。ありゃあ、戦闘だぞ。」
「見に行きますか?」
「勿論だろ。燃料も残っている。」

ヴォールソン少尉は、戦闘が行われていると思われる地点へ、機首を向ける。

速力を240ノットから260ノットに上げたヘルダイバーは50キロほど進んだ後、
周囲を木造の防壁に囲まれた砦と、その砦に殺到しつつある歩兵部隊を発見した。
歩兵部隊が、軍旗を振りたてて、防壁に向かっている。防壁の前には無数の死体らしきものがあり、人影が何かを向けて構えている。
「おい、本当に戦っているぞ!」
「あの砦の天辺に掲げられている旗、バーマント軍の旗とは違います。あれはたぶん革命軍の旗ですよ!」  


922  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:49:06  [  XwixsAvk  ]
「と言う事は、あの砦の奴らは革命派、それを攻め立てているのは継戦派、というわけだな!」
彼らのヘルダイバーは、高度1000メートルで砦の上空を通過した。
突然やってきたヘルダイバーに砦の天辺にいた人影が視線を送る。
「ニュートン、母艦に打電だ!我、ヌーメアの東方50キロ地点で、革命派と継戦派の戦闘を確認せり、以上だ!」
「これだけですか!?」
「それだけだ。詳細は後で送れ!」

400キロのスピードで飛行していたヘルダイバーを右旋回させて、再び砦の上空に向かう。
砦の敷地内は、かなり酷い。あちらこちらに死体が散乱し、焼け爛れた小屋やテントらしきものが放置されている。
防壁も門らしき部分が酷く損傷しており、もはや防ぐ物が余り無い。何人かの革命派の兵は配置されてはいるだろう。
しかし、迫りつつある継戦派の部隊は数が多い・・・・・・

「いかんなこれは。革命派は相当追い詰められているぞ。」

その時、砦の最上階に、1つの人影が何かを降っている。
最初、ニュートン兵曹は革命派の兵が、ヘルダイバーが援軍に来たと思って、何かメッセージを伝えているのだろうか?
と思った。だが、その振っているものを見た瞬間、彼は体が熱くなった。

「機長!砦の天辺、最上階を見てください!」
「どうした!?」

言われるがままに、ヴォールソン少尉は視線を移した。
そこには、1人の男が、みすぼらしそうな星条旗を振っている姿があった。
少尉はヘルダイバーを砦の最上階に近づけ、その降っている人物の顔を見てみた。

「・・・・・信じられん・・・・・・」

思わず、ヴォールソン少尉は顔から血の気が引いた。  


923  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:51:54  [  XwixsAvk  ]
「あれは、マッキャンベル中佐だ!」
「ほ、本当だ・・・・・飛行隊長です!!」

思わず、2人はその人物、エセックス飛行隊長のマッキャンベル中佐に向けて思い切り手を振った。
ヴォールソンは片手で、ニュートンは両手で、マッキャンベル中佐に手を振った。

「ニュートン、母艦に送れ!我、革命派の砦で、墜落機パイロットを発見せり。
パイロットはマッキャンベル中佐なり、至急エセックスに送れ!」
「アイアイサー!」

ニュートン兵曹は、再びエセックスに報告を送る。
いつの間にか、砦の天辺にいる革命派の将兵までもが、ヘルダイバーに向けて手を振ったり、布切れを振り回している。

「送信終わり!」
「よし。ニュートン、母艦に帰る前に、ちょっくら暴れるぞ。」
「ええ。敵さんを脅かしてやりましょう。」
「おう。そらよっと!」

ヴォールソンはいきなり、ヘルダイバーの高度を上げた。
急上昇したヘルダイバーは、しばらくしてから、高度3500メートルまで這い上がった。
眼下には、継戦派の部隊が、砦の防壁に迫りつつある。防壁と、敵地上部隊に小さな爆発が起こる。

「機長、機銃を撃つんじゃないんですか?」
「その前に、少し脅かしてやる。今日は両翼にドロップタンクを付けてるだろ?」
「ええ。って機長、もしかして・・・・・」
「ハッハッハ!貴様の予想したとおりだよ。」
「爆弾じゃありませんぜ?」
「敵さんから見たら、立派な爆弾だよ。敵を倒せないかもしれんが、脅しにはなる。さあ、ダイブに移るぞ!」  


924  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:54:37  [  XwixsAvk  ]
しばらく旋回を続けていたヘルダイバーが、翼を翻して機種を下界に向けた。
眼下にゴマ粒のような人の集団が見える。

「3200・・・・3000・・・・2800」

ニュートン兵曹が高度計の推移を報告してくる。両翼のダイブブレーキが起き上がり、甲高い音が鳴り始める。
その音は次第に大きくなっていき、周囲を威圧する。
ゴマ粒のように見えていた敵地上部隊の姿が、次第に大きくなり、ハッキリしてくる。

「2200・・・・2000・・・・1800」

投弾高度は800メートル。あと少しもすれば、両翼のドロップタンクは爆弾のように切り離され、継戦側の地上部隊に向けて落下する。
猛然と急降下してきたヘルダイバーに恐れをなしたのか、進撃していた敵部隊が少しずつバラけはじめた。
ダイブブレーキから発せられる音は最大級に達した。
それと比例するかのように、敵の地上部隊もまた、逃げ出す兵が増えてきた。

「800です!」
「プレゼントだ!受け取ってくれ!!」

ヴォールソン少尉は両翼のドロップタンクを切り離した。
切り離されれたドロップタンクが、僅かに残っているガソリンを撒き散らしながら、地上に向けて落下していく。
敵軍のバラけるスピードがいきなり速くなった。
それまで、なんとか突撃の体制を保っていたが、2つのドロップタンクが落下してくるのを見て、四方に散らばった。

「敵さんが散らばりました!」  


925  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  19:57:49  [  XwixsAvk  ]
ニュートンの声が聞こえてきた。その間、ヴォールソンはヘルダイバーの機体を水平に戻そうと躍起になる。
高度400辺りで水平飛行に移った後、彼は機首を門前に向けた。
ドロップタンクを爆弾と思い込んで散らばった敵地上部隊は、爆発が起きない事から、不思議な気持ちで、落下してきた白い物体に見入っていた。
幸いにも、ドロップタンクの直撃を受けたものはおらず、死者、負傷者はいない。
その時、ドロップタンクを投下したヘルダイバーが猛速で突っ込んできた。

「白星の悪魔が突っ込んで来るぞ!」

誰かが悲鳴のような声を上げる。ヘルダイバーは最高速度で継戦軍部隊に向かって来た。
かなり近くまで来たと思うと、いきなり両翼から機銃をぶっ放してきた。
機銃弾が、ミシンを縫うように地上に突き刺さる。
密集体系を取っていた集団にそれが通過すると、たちまち何人かが銃弾に体を抉られてしまった。
ヘルダイバーの銃撃は執拗だった。
ヴォールソン少尉は、後部座席のニュートンにも旋回機銃での掃射を命じ、何度も地上の継戦軍部隊を追い回した。
朝、ワイバーンロードがやった砦の攻撃のような派手さは認められない。
それでも、継戦軍にとっては、ヘルダイバーは悪魔と同じ存在であった。


午後5時20分  カウェルサント

上空の8機のヘルダイバーが、次々に翼を翻して、森や地上の継戦軍部隊に向けて突っ込んでいく。
継戦派の部隊は、成すすべも無く、地上を逃げ回るだけである。
1番機の腹から1000ポンド爆弾が投下されると、まっしぐらに地上に向かい、突き刺さる。
その刹那、爆発が起こり、逃げ送れた何人かの敵兵と共に地面が派手に掘り返される。
爆発は森の中でも起きている。爆発のたびに森の中から黒煙が噴き出し、何かの破片が飛び散っている。
ヘルダイバー隊の爆撃が終わったのを確認すると、今度はアベンジャー隊がいつも通り、
爆撃地点上空に進入し、500ポンド爆弾を2発ずつ投下する。  


926  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  20:00:43  [  XwixsAvk  ]
森の中と、門前の地面に爆弾が落下し、何もかもが粉微塵に吹っ飛ばされた。
爆弾のうち1発は、防壁の至近に落下してしまった。
だが、それ以外はほとんど継戦派の部隊に落下していった。
上空にはF6Fが乱舞し、アベンジャー隊が爆撃を終えるのを待っている。
アベンジャー隊が爆撃を終えると、ヘルキャットが再び低空に下りて、森や地上を虱潰しに機銃掃射を行う。
砦の門前には、爆弾孔の横に、多くの敵兵の死体や、破壊されたストーンゴーレムが散乱している。
継戦軍は、第58.4任務群から発艦した攻撃隊が来る前に、全軍を上げての総攻撃に取り掛かった。
この攻撃で、革命派は門から多数の敵兵に侵入されそうになったが、そこを救ったのがヘルキャット隊だった。
既に、ヴォールソン少尉のヘルダイバーにさんざん蹂躙された敵部隊は、このヘルキャット隊の襲来で恐慌状態に陥った。
算を乱して逃げようとする継戦部隊に、攻撃隊はヘルキャットのみならず、艦爆や艦功も投入して容赦ない攻撃を加えたのである。
攻撃開始から20分足らず。砦に迫ろうとする敵兵は、もはや1人も居なかった。

「・・・・・・・・・・・」

砦の防壁を守っていた革命派の将兵達は、この光景が信じられなかった。
あれほど苦戦を強いられてきた敵部隊が、わずか66機の飛空挺によって追い払われたのである。
それに、米艦載機の攻撃は鮮やかであり、まるで演習をやっているかのような錯覚すら感じた。

「イメイン。君はどう思う?」

オイルエン大尉は、隣のイメインに話しかけた。

「あまり離す事が思いつきませんけど・・・・・・これで、自分達は楽になったというのは確かでしょう。」
「ああ。」
彼は前を見ながら小さく呟いた。
「俺としては、継戦派の将兵でなくてよかったと思う。」

革命派の将兵達は、だれもが無言のまま、しばらく立ち尽くしていた。  



927  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  20:04:30  [  XwixsAvk  ]
攻撃はカウェルサントだけではなく、ヌーメアに対しても空襲は行われた。
ヌーメアには54機が来襲し、テントや対空機銃、物資集積所等に爆弾や機銃弾を叩き込み、壊滅させた。


俺はバンクを送りながら通り過ぎていくヘルキャットに手を振って見送った。
機体に書かれている番号からして、エセックス戦闘機隊だ。
機体の番号からして、乗っている奴はベニントン中尉だろう。
攻撃隊が去った後、下にいた革命派の兵隊達が、後片付けを始めた。
ひとまず旗を丸めて細長い布袋にしまった。
砦の敷地外で、艦載機はさんざん暴れまわった。お陰で、攻撃隊が去った今でも、敵部隊が攻勢をかける気配が無い。
俺は最上階から地上に降りて、オイルエン大尉を探した。最初にヌーメラー中尉をみつけた。

「中佐、怪我はありませんか?」
「怪我はないさ。それよりも、ヌーメラー中尉はどうだね?」
「まあ、怪我はないですけど、これがやられてしまいましたね。」

彼は、割れた眼鏡を取り出した。

「6年ほど使っていたのですが、敵とやり合っている時に潰されてしまって。」
「それは災難だな。眼鏡が無くて大丈夫かい?」
「少しぼやけてしまいすが、別に視力がかなり悪いと言うほどでもないんです。
だから眼鏡なしでも大丈夫です。とは言っても、長年使っていただけに、ちょっとさびしいですけどね。」

彼は、やや苦笑して言った。

「でも、命が助かった分は、これぐらいは何ともありません。」
「確かにな。命があるだけでも儲けものさ。」  


928  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  20:06:20  [  XwixsAvk  ]
それから、俺はヌーメラー中尉と共にオイルエン大尉を探した。大尉達はすぐに見つかった。

「マッキャンベル中佐、ご無事でしたか!」
「ああ。無事だったよ。とは言っても、最上階に上がってこれを振り回してただけだよ。」

俺は手に持っている細長い布袋を叩いた。

「布袋を振り回していたんですか?」
「いや、旗だよ。」

そう言いながら、俺は布袋から旗を取り出した。丸めた旗を広げて、俺は棒を持って掲げた。

「俺の国の国旗だよ。かなり荒いがね。」
「へえ〜。これを最上階で?」
「そうだ。さっき、1機だけ偵察機が来ただろ?俺はその偵察機に向けてこれを振り回した。
相手は一発で分かってくれた。あの偵察機は俺の空母の搭載機で、パイロットも俺の部下だったからな。」
「では、あの偵察機がたった1機で暴れまわったのも、あなたが何か指示したんですか?」
「いや、あれは俺の指示じゃないな。俺はただ、自分がここにいると合図を送っただけなんだ。
詳しい事は分からないが、苦戦している君達を見て何か手助けをしたかったのだろう。」
「なるほど。」

オイルエン大尉の表情はいまいち浮かないものだ。

「敵も味方も・・・・・今日一日でかなり死んでしまいましたね。」
「でも、これで当分は継戦軍も手出しは出来ません。」  


929  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  20:09:34  [  XwixsAvk  ]
イメインが言ってくる。

「幸いにも、アメリカ軍の飛空挺のお陰で、敵側に望外の被害を与えました。
こっちの犠牲も大きかったですが、最終的には援軍が着てくれたお陰で、態勢を挽回できました。」
「敵の警戒は怠ってはいけないでしょうが、しばらくの休息は確実に確保できました。」

ヌーメラー中尉も言う。

「マッキャンベル中佐の艦隊は、これまでの例から見て必ず複数箇所を攻撃しています。
恐らく、継戦派は他の場所にも飛空挺の攻撃を受けているでしょう。その被害は、先ほどの空襲を見れば用意に想像できます。」
「つまり、俺が所属する機動部隊が近くに貼り付いているとなると、敵さんも迂闊に兵を向けられなくなるな。
継戦派の敵は機動部隊のみならず、革命軍本隊もいるからな。」

要するに、海から我が機動部隊。陸から革命軍本隊という2大勢力に、継戦派は挟まれたのだ。
これは軍人にとってはかなり嫌になる戦い。2正面作戦だ。今頃、継戦派の首脳達は悩み、苦しんでいるのだろう。

「とにかく、今は一段落付いた事ですから、休めるものは体を休めておいたほうがいいでしょう。」

ヌーメラー中尉の言葉に、誰もが頷いた。ふう、これでやっと一段落か。
地上戦というものは、その場に居るだけでもかなり神経が参る。
やはり、俺には母艦勤務のほうがまだ合っていると思う。


10月5日  午後10時  ギルアルグ北北東40キロ沖
海上は、夜の闇に包まれて真っ暗である。星が煌いているものの、その微かな光も、夜の闇は容赦なく吸い取っていた。
そんな海を、第67空中騎士旅団の24騎のワイバーンロードは、ひたすら北北東に向けて飛んでいた。

「推定地点まで、あと40キロ。」  


930  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/09/24(日)  20:12:26  [  XwixsAvk  ]
先頭を行く飛行隊長のヴェルイス中佐は、部下に向けて魔法通信を送る。
彼らはある目標を攻撃するため、夜を待って出撃した。
ある目標・・・・・・・それは、ギルアルグ沖に遊弋するアメリカ機動部隊である。
命令が伝えられたのは、午後6時を少し過ぎてからであった。
命令の発行者は継戦派のナンバー1であるヴァルケリン公爵である。
彼らの任務は、第68空中騎士旅団と合同して、ギルアルグ北方90キロに遊弋する米空母部隊を攻撃し、空母を戦闘不能、あるいは撃沈する事だ。
ヴァルケリン公爵は、アメリカ機動部隊の存在が癪に触っていた。
それは、今日行われた空襲によって一気に爆発した。
今日だけでミルクリンス、ヌーメア、カウェルサントの継戦軍部隊や施設が、敵機動部隊から発艦した飛空挺によって甚大な被害を負わされた。
カウェルサントの革命派殲滅作戦も、革命派残党の健闘と、米機動部隊の空襲によって完全に頓挫。
第77歩兵師団は第1、第2連隊長と3900人の兵を失い、2800人が負傷して師団としての機能を喪失してしまった。
この報告を聞いたヴァルケリン公爵は激怒し、残存航空部隊によって、まずギルアルグ北方に遊弋するアメリカ機動部隊殲滅を決め、
2つの空中騎士旅団に出動を命じた。
だが、ここでも天候が作戦の支障をきたした。
38騎を保有する第68空中騎士旅団は悪天候のため、出撃が不可能。
第68旅団側は、天候が収まってから共に出撃しようと伝えたが、2時間待っても天候は回復せず、結局、第67旅団で攻撃を行う事にした。
午前9時30分に飛び立った24騎のワイバーンロードは、敵機動部隊に張り付いている海竜の誘導魔法に誘われて順調に飛行を続けていた。
現在、高度は2000メートル。各騎とも、一定の間隔で飛行を続けている。

「アメリカ空母部隊の対空砲火は凄いと聞いているが、わずか24騎とはいえ、空母の1隻や2隻は甲板に穴を開けて戦闘不能に
陥れられるかもしれない。ふん、いつまでも調子に乗るなよ、蛮族共。」

これまで、幾多災厄を呼び出したアメリカ空母部隊。だが、奴らにも弱点はある。
夜だ。夜には戦闘飛空挺を飛ばす事が出来ない。

「戦闘飛空挺さえいなければ、いくら対空砲火が激しかろうと、こっちのものだ。」