811 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:28:07 [ XwixsAvk ]
午後1時40分 ギルアルグ西北海域100マイル付近
第58任務部隊の第4任務群は、ギルアルグまで100マイルの沖まで進出していた。
「艦長、少し早いだろうが、策敵機を飛ばさんかね?」
司令官のハリル少将が、予定よりも早く策敵機を飛ばそうとしたのはこの時である。
当初、救出部隊の空母は、目標地点の80マイル沖合いに達してから艦載機を発艦させると決めてある。
しかし、ハリルは唐突にその言葉を言ってきたのである。
「司令、80マイル付近まではあと1時間半ほどで到着いたしますが。」
空母エセックス艦長のオフスティー大佐は、やや驚きつつも、彼にそう答えた。
「艦長、確かに早すぎるかもしれんが、航続距離が1800キロもあるアベンジャーやヘルダイバーは10マイルや20マイル
の距離など、あっという間だ。それに、森林や革命軍に匿われているだろう墜落機のパイロット達は、私達の救援を今か今かと、
待ちわびているに違いない。その彼らに、私は勇気を与えてやりたいのだよ。」
ハリルは、エセックスの艦橋を行ったり来たりしながら、そう言い放った。
「その考えには、私も同感です。」
オフスティー大佐は頷いた。
彼らは知らなかったが、策敵機のパイロット達は、必ずや、地上で待っているはずの戦友を必ず見つけると誓っており、
発艦の時をやきもきしながら待っていた。
「ですが、取り決めでは80マイルです。」
「それは、おおまかな取り決めだろう?」
812 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:32:13 [ XwixsAvk ]
オフスティー大佐は、はあ、と言って困った表情になった。
「ミッチャー提督は、場合によっては任務群の各司令の判断に任せると言っていた。
私は、一分一秒でも、味方を早く救うために、策敵機を上げたいと思うのだ。」
「・・・・・分かりました。」
艦長は納得したように頷いた。
「少々早いですが、策敵機を発艦させます。」
「うむ。そうしてくれ。」
艦長は、ハリル少将の言葉が終わるのを確認すると、マイクを手に取った。
現在、第4任務群の艦載機の総数は153機である。
輪形陣の真ん中には、正規空母のエセックスがおり、その左舷後方にラングレー。右舷後方にカウペンスという順になっている。
この3隻の空母の艦載機の内訳は、まず第4任務群唯一の正規空母であるエセックスが
F6F32機、SB2C29機、TBF19機。合計80機である。
次に軽空母のラングレーがF6F21機、SB2C3機、TBF14機。最後の軽空母カウペンスが、F6F23機、TBF12機である。
本来なら、第4任務群には空母ランドルフもいて、艦載機の総数は290機を数えていた。
だが、打ち続く激戦で、ランドルフは異世界の水面の底に召され、生き残った空母の航空団は、大魔道院を巡る激戦で少なからぬ被害を受けた。
大魔道院戦が始まるまでは、ランドルフを失ったと言えど、189機を数えていた。
しかし、大魔道院が爆砕された後には、第4任務群が即座に準備できる艦載機は120機、要修理機を含めても138機に減っていた。
エセックスに関しては、艦載機のうち、32機が戦闘や事故で失われており、100機あった搭載機は68機にまで激減していた。
今現在は、優先的に回された補充機によって、なんとか80機を数えるまでになった。
ちなみに、大魔道院戦での各任務部隊の航空機喪失数は、第1任務群が47機、第2任務群が42機、
第3任務群が31機、そして第4任務群が69機と、各任務群の中でダントツに被害が大きかった。
813 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:34:43 [ XwixsAvk ]
第4任務群は、第2、第3、第5、第6次の際に攻撃隊を送り込んでいる。
その際、第4任務群の部隊は常に防備の厚い対空陣地に突っ込んでは、それらを潰し続けた。
一見、勇気のある行動であったが、その代償は69機の艦載機、パイロット多数の命と言う手痛いものとなった。
しかし、第4任務群の将兵達は、その献身的行動が、作戦成功に少なからぬ影響を与えたと自負している。
話は逸れたが、第4任務群は、まず第1段策敵隊12機、第2段索敵隊14機、第3索敵隊12機、合計38機を用意している。
それらは第1段索敵隊が発艦した後、30分おきに空母から飛び立つ予定である。
時間や、天気の具合では、さらに第4、第5の索敵隊が出される事も計画されている。
午後2時10分。
空母エセックスから6機、軽空母ラングレー、カウペンスからそれぞれ3機ずつ、計12機のアベンジャー、ヘルダイバーは、
未だに救援を待っているであろう、味方のパイロットを探すため、大陸の内部へ向けて飛び立っていった。
「こちらムーンライト7。現在、ギルアルグ西南80マイル、高度1500。味方の姿は無し。」
アベンジャー雷撃機を操縦するクリス・ヘンダーソン中尉は、定時電報を後部座席の電信員に打たせた。
ムーンライト7とは、第1索敵隊につけられた呼び出し符丁である。
現在、第1索敵隊は、ギルアルグの西方、及びギルアルグ周辺か、その後方を偵察している。
エセックスから発艦したムーンライト1は一番西側を飛行しており、ムーンライト7はギルアルグの上空を通り過ぎて、眼下には広大な森が広がっていた。
電信員や後部射撃手は、目を皿のようにして辺りを見回している。
「どうだ。何か見つからんか?」
ヘンダーソン中尉は後ろの2人に問いかけてみた。この日で既に同じような事を3度も言ってきている。
「だめっすね。この濃い森じゃあ、発見は難しそうですな。」
電信員が残念そうな口調で言ってくる。
814 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:38:08 [ XwixsAvk ]
「煙とか、鏡の反射らしきものなどは無かったか?」
「ありません。あるとしても、変な牛のようなモンスターや変わった鳥ぐらいしか見つけていません。」
射撃手もそう答えた。
「くそ、見つけるには骨がいるな。」
ヘンダーソン中尉は舌打ちした。
「何度もくどくてすまんが、とにかくどんな変化も見逃すな。」
「「アイアイサー」」
部下の声が重なって聞こえた。
20分後、ムーンライト7号機はギルアルグ西南130マイル付近上空に到達した。
「中尉、左前方に何かあります。」
電信員がヘンダーソン中尉に報告してきた。
この時、ムーンライト7号機は母艦の軽空母ラングレーに向けて、引き返そうとした最中であった。
ヘンダーソン中尉は、電信員に言われた方向へ視線を向けた。双眼鏡を使い、少しでも目標を見やすくした。
「あれは・・・・・何か覚えのある城だな。」
「もしかして、あれがグランスボルグで有名な、トラップの城ではないですか?規模からしてなかなか大きいです。」
「トラップの城か。あの話に出てきた、悲劇の姫様の城だな。」
トラップの城・・・・・それはグランスボルグ地方では120年前に建てられた城といわれている。
元々はバーマント軍の軍事施設であったが、一時、運営に困ったバーマントが民間に解放した。
815 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:45:38 [ XwixsAvk ]
しかし、その民間に解放された城は、とある富豪が入居した後に不思議な改装を施された。
城のあちらこちらに、なぜかトラップが仕掛けられていった。
そして、解放されてから3年後。
ライルフィーグ王国の第2皇女が誘拐されると言う事件が起きた。
当時、ライルフィーグと友好関係にあったバーマント側はすぐに調査を開始。
事件発覚から6時間後には、グレンドルス城に不穏分子が集結しており、第2皇女誘拐はその不穏分子らの仕業であると分かった。
バーマント側は直ちにグレンドルス城に部隊を派遣した。部隊はグレンドルス城の数々のトラップに苦しめられ、
不穏分子らの攻撃に疲労困憊していたが、なんとか城を制圧した。
しかし、城の中の牢屋には第2皇女はおらず、見つかったのは、トラップの設置場所であった。
第2皇女は、自ら監禁されていた部屋を抜け出し、脱出を図ったものの、武運つたなく、トラップの餌食になっていたのである。
木の杭に体を貫かれ、致命傷を負った第2皇女は、腹の急所に受傷しつつも、救助隊が来るまではなんとか生きていた。
しかし、救助隊の手当ても功を奏せず、第2皇女は息を引き取った。
以来、グレンドルス城は再びバーマント軍の元に戻っている。
現在も、トラップの大部分は可動はしていないものの、未だに残されていると言う。
俗に言われているグレンドルス事件は、大陸中に悲劇の代名詞として広く知られている。
第5艦隊の将兵らも、ヴァルレキュア人から聞かされ、誰もがこの事件のことは耳にしていた。
816 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:46:42 [ XwixsAvk ]
「ちょうど、帰還ラインに入っていますが、あの城も偵察しますか?」
電信員が聞いて来た。
「もちろんだとも。これから、トラップの城を偵察しよう。」
ヘンダーソン中尉はフットバーを踏み込んで、操縦桿を左に倒す。
アベンジャーの機体はゆっくりと、そのトラップの城へと向けられた。
現在、アベンジャーは時速180マイルのスピードで飛行している。
問題の城までは約40、50マイルほどであるから、10分ほど飛行すれば、上空に到達する。
「トラップの城か・・・・・・噂でしか聞いた事は無かったが、どんなものかな。」
ヘンダーソン中尉は、話でしか聞かれなかったグレンドルス城が見れる事に、内心では嬉しかった。
しかし、そのグレンドルス城も、今では継戦派の拠点となっている可能性もある。
もし、継戦派の拠点となっていれば、機動部隊の艦載機は容赦なしに爆弾や機銃弾を叩きこむだろう。
あまりやりたくないではあるが、任務は、救出と継戦派の戦闘意欲を削ぐ事だ。
彼らの行動如何では、後々、艦爆や艦功の爆弾で、グレンドルス城をたたきのめす事になるだろう。
(だが、任務であれば、やらねばならない。それが軍人だ)
15分後、ムーンライト7号機は、緊急の無電を母艦のラングレーに送信した。
820 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 12:28:14 [ XwixsAvk ]
午後3時20分 ウィザードリィ4号機
空母エセックスを発艦したヘルダイバー、ウェザードリィ4号機は、ギルアルグの東方10マイル付近に到達した。
「機長。」
「ん?なんだ?」
機長のボルス・プラウンズ少尉が聞き返した。
「どうも、今回の偵察はやりにくいですなあ。」
「お前も思うか?」
「はい。ギルアルグ以外は、あたり一面緑の森ばっかりですよ。」
「同じ光景だと、なんか暇になってくるよな。ただ色が緑に変わっただけだな。」
長い洋上飛行になると、飛行中の光景はだだっ広い青い海しか見るものが無い。
それが、今では海から森、そして色が青から緑になっただけで、普段の偵察につきものである、単調さは全く変わってない。
それに、味方のパイロットを見つけると言っても、こう森が広がっていると、何がどれだか判断がつきにくい。
それ以来、彼らは押し黙って、周りを見渡す。
最初こそは、
「よし!早めに戦友を見つけて、元の世界に連れ帰ってやるぞ!」
と意気込んだプラウンズ少尉であったが、今ではその意気込みも少しばかり萎えていた。
821 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 12:31:00 [ XwixsAvk ]
それから5分後。
「機長!」
後部座席の部下が声を上げた。
「何か見つかったか?」
「あそこだけがなんか・・・・・森の木々が無いですよ。」
彼は、言われた右方向を見てみた。
約5、6マイル離れたところに、そこだけ森の途切れている部分がある。
それは横に細長く途切れている。
一瞬飛行場か?と思ったが、飛行場にしてはかなり短い。
せいぜい横に200メートルぐらいしかない。
200メートルでは、飛行機の発着は難しい。
ちなみに、200メートルの距離では、空母の艦載機ならば発着が可能である。
だが、それは空母の行進時の合成速力と兼ね合わせながらのものだ。
合成速力が作れない地上基地でやるとなると、200メートルでは足りない。
航空機発進用作るとすれば、せめて500。欲を取って800メートルは欲しい所である。
「様子を見てみよう。」
プラウンズ少尉はそう言うと、機首をその怪しげな空き地に向けた。
スピードを速めて到達時間を早くした。
5分ほどで上空にやってきた。彼らは旋回しながら、その開けた空き地を眺めた。
空き地には、いくつかの建物があり、人も何人か見受けられたが、航空機や対空火器といった戦闘に必要なものは見受けられない。
農民らしき人が集まって、高度600付近で旋回しているヘルダイバーを見つめている。
822 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 12:33:17 [ XwixsAvk ]
「なんかの集落ですかね?」
「たぶん・・・・・・そうだろうな。」
プラウンズ少尉はそう思った。しかし、なぜか引っ掛かる要素もある。
その要素というのが、農民達の中に、ほんの一瞬だけだが、きびきびとした動きをする者がいたのだ。
次の瞬間にはそのようなものはいなかったが・・・・・・
(どうも臭いな)
プラウンズ少尉はやや、不審に思った。
30分ほど、その空き地と、その周辺数キロ四方を偵察したものの、これと言ってめぼしいものは見当たらなかった。
「何もないようですね。」
「・・・・・・元のコースに戻るか。」
上空を旋回していた米軍機は、やっと南の方角に去っていった。
「くそ!あの白星のせいで、ワイバーンロードの出撃が大分遅れたぞ!」
森の中に隠蔽されたワイバーンロードの側にいた、クランベリン少佐は呪詛を吐くような口調で呻く。
本当ならば、空中騎士旅団のワイバーンロードは40分前には出撃している筈だった。
だが、出撃1時間前になって、耳慣れぬ爆音が聞こえてきた。
北に20キロ離れた所にある監視小屋から、
「敵飛空挺接近!」
の、緊急信が届けられ、旅団の施設には慌しく偽装が施された。
ワイバーンロードはあらかじめ用意してあった、森の中にある専用の囲いに入れられた。
偽装が終わった時には、米軍機は既に1,2キロも離れていない上空に来ていた。
823 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 12:36:34 [ XwixsAvk ]
農民に化けた者は、何食わぬ顔で施設を出たり入ったりしたり、農具を馬車に入れて運んだりした。
完全に無視すると、いらぬ疑いをもたれるかも知れないから、一部の者は、わざとらしく飛空挺を見て驚くふりをする。
といっても、正直言って、驚くふりではなく、本当に驚いていた。
なにせ、行方知らずであった敵機動部隊の艦載機が、突然姿を現したのだ。
しつこく偵察する米軍機に苛立つものは、口々にさっさと叩き落してしまえ、などと、罵声をあげた。
だが、米軍機を撃墜でもしようものならば、後が怖い。
31日の戦いでは、戦闘飛空挺がアメリカ軍の偵察機を撃墜している。
これで基地の所在を隠し通せたと思われたが、しばらくすると、100機以上の大編隊が押し寄せてきた。
この時、ギルアルグの第3飛行場が猛烈な爆撃を受けて、瞬く間に壊滅してしまった。
「アメリカ軍の飛空挺にも、魔法通信を送る魔道師が乗っているのかもしれない。
それに手を出そうものならば、真っ先に通信が送られ、こちらの所在がばれてしまう。」
部隊の全員が、この事を痛感しているため、上がりたくても上がれなかった。
米軍機は30分ほど、上空を旋回して去っていったが、彼らにとって、この30分間は数時間分ほどの長さに感じられた。
「これで、やっと出撃できるな。」
クランベリン少佐はほっと、胸をなでおろした。一時はどうなるかと思ったが、敵飛空挺は南に去っていった。
これからは本来の仕事ができる。
「カウェルサントの敵を消し炭にしてやる。」
少佐はニヤリと笑みを浮かべたが・・・・・・・・・
824 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 12:37:27 [ XwixsAvk ]
5分待っても、10分待っても、肝心の出撃命令が来ない。
それに、森の中からワイバーンロードを出そうともしない。
「なぜ出撃しないんだ?」
彼が首をかしげた時、指揮所から副司令がやってきた。
副司令は彼らのもとにやってくると、大声で言葉を発した。
「出撃は中止だ!戦闘区域は大雨が降っているため、ワイバーンロードの支援は出来ない。
出撃は現地の天候が回復次第行う!」
その日の継戦側は、とことんツキに恵まれていなかった。
828 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/20(日) 13:11:30 [ XwixsAvk ]
もう一度トライ
ゝ
丶
●第58.4任務群 ヾ
ゝ
ノ
ノ丶ヾヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
丶ヽ ヽ
丶丶 丶 ヽ
ヽ 丶
丶ゝ`´丶丶ヽO`ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
ガレンスアロ軍港
ヌーメア
○ギルアルグ 。 カウェルサント
。
第68空中騎士旅団航空基地
。
。グレンドルス城
O継戦軍総司令部
第67空中騎士旅団航空基地
。
835 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:11:48 [ XwixsAvk ]
午後9時 カウェルサント西7キロ
「ひどい雨だ。あれから全く止む様子が無い。」
防衛線の塹壕の中で、カーロ・オウルアン少佐は眉をひそめた。
「しかし、敵はどうしたんでしょうかね。たったちょっとの砲撃だけで、後は何もなしですよ。」
となりの若い士官が不思議そうな表情問いかけてきた。
「まあ、詳しくは分からないが、撹乱部隊の攻撃がかなり功を奏したようだ。大雑把な情報だけしかないが、
高地に陣取った敵の砲兵部隊を壊滅させたり、進軍中の敵部隊を足止めしたそうだ。」
オウルアン少佐は、伸びた無精髭をさすりながら語った。
「だが、一番の効果は、この雨だろう。天候が悪くなると、敵側が出来ない事がある。それは何だと思うね?」
「ワイバーンロードの支援・・・・ですか?」
「そうだよ。継戦側は、まず砲撃で地ならしをした後、ワイバーンロードでここやカウェルサントをある程度焼く。
その後、地上部隊で攻撃する腹積もりだったんだろう。だが、最初の砲撃は撹乱部隊が阻止したし、
肝心の航空支援は、なぜか現れず、ついには天候が荒れてできなくなっちまった。」
彼は空を見上げた。夜の空は真っ暗に染まっており、大粒の雨がこれでもかとばかりに降り注ぐ。
「このまま突入させたんじゃ、被害は抑えられないから、一度は待機してるんだ。」
「てことは、明日が勝負ですね。」
「明日じゃない。」
オウルアン少佐はかぶりを振った。
836 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:13:55 [ XwixsAvk ]
「雨が止み次第、と言った方が正しい。雨もいつまで続くか分からない。1時間後か・・・・
それとも明日の朝か。とりあえず、雨がやむまでは、少し気楽にできるというわけさ。敵を恐れずにね。」
そう言って、彼は微笑む。それを聞いた若い士官も苦笑した。
「できれば、ずーっと続いて欲しいですけどね。ワイバーンロードさえ来なければ、自分らも派手に暴れ回れますから。」
「それに関しては同感だね。」
オウルアン少佐はそう言って頷いた。
彼の身長は190センチあり、体つきは幾分がっしりしている。
しかし、はたから見ればのっぽのようにもみえる。
顔つきは穏やかで、部下からは面倒見の良い上官として部下から慕われている。
「例のものは、確か20体しかなかったな。あっちは師団規模で来るから、5、60体ぐらいで来る。
奴らが本気で押してきたら、ちと危ないな。」
「危ない時はどうしましょうか?」
「打ち合わせどおりに、後方に退くさ。」
そう言って、彼は顎をしゃくった。
「だが、俺は最後に戻る。部下達を置いては行けないからね。」
837 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:15:36 [ XwixsAvk ]
少佐はニヤリと笑みを浮かべた。
その時、少佐の耳に何か違う音が紛れ込んできた。
「その時は、自分も一緒に闘います」
士官の声を、手を上げて制した。オウルアン少佐は、耳を傾けて、一定方向の音を聞き取っている。
その方向は、西側だった。
雨音に混じって、何かの音が聞こえてくる。それは、次第に大きくなってきた。
しばらく経つと、パキッという枝を踏んだような音が聞こえた。
誰かが木の枝を踏んだのか?若い士官はそう思ったが、次の瞬間
「総員戦闘配置!敵が来るぞ!!」
オウルアン少佐は大音声を上げて、防御戦の将兵達に伝えた。
その声は、雨音をかき消してそれぞれの耳にしっかりと入っていった。
誰もが、オウルアン少佐を向き、一瞬ポカンと、間の抜けた表情を浮かべる。
しかし、どことなく、地鳴りのような者が、地面を微かに振るわせた。
それが、彼らの警戒心を沸き立たせた。その直後には、全ての将兵が、慌てながらも配置につこうとした。
「少佐、もしかして・・・・」
「そのもしかしてだよ。」
オウルアン少佐は、持っていた小銃に弾を入れ終えると、それを肩にかけずに、そのまま両手で持ち続けた。
彼の戦闘準備は既に完了していた。
「奴ら、我慢しきれなくて行動を起こしやがった。それも、ゴーレムを前面に出してな。」
838 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:18:34 [ XwixsAvk ]
午後9時 第77歩兵師団の第1、第2大隊はついに前進を開始した。
本来ならば、午後5時頃には敵陣地に向けて兵を進めていた筈なのだが、予定が狂いに狂い、
攻撃の決断が出されたのは9時を迎える少し前である。
前線より3キロの地点に進出していた第1連隊は、まず第1、第2大隊を順番に突入させる事にし、第3大隊は
第1、第2大隊が敵陣に突っ込んで、しばらく経ってから突入を開始する。
本当ならば、3個大隊が一斉に突入する予定であったが、急遽、予定を変更して突入部隊を2つに分ける事にした。
これは敵に息をつかせぬように仕組まれたもので、第1、第2大隊の戦闘に敵軍が忙殺されている間に、
第3大隊が敵陣地の後方に回りこんで包囲する、という狙いである。
全部隊が一斉に突入すれば、圧力も高められるものの、敵側の攻勢魔法や、銃火器が向けられる方向も
一方向に限られるため、敵の反撃の密度が高くなる。
その場合、連隊が丸ごと撃退される恐れがあった。
それよりかは、第1、第2大隊が敵に圧力をかけつつも、視線前方に注目させ、その隙に第3大隊が機動を行って敵陣地を包囲、火力を別方向にまで割かねばならなくなった敵に対して一気に突入し、雌雄を決するというものである。
第1大隊の先鋒を務めるデューツ・ジュフパン大尉の中隊は、ストーンゴーレムを前面に押し立てて、ゆっくりと前進しつつあった。
前進を始めてから20分が経過した。ストーンゴーレムは、邪魔な木々を叩き倒し、跳ね除けながら進んでいく。
そのやや離れた後方に、兵員が続く。誰もが緊張と興奮で、殺気立った表情を浮かべていた。
それぞれが、左右を振り返ってしきりに警戒している。
ある者は、突然草の陰に向けて銃弾をぶち込んだ。
その草の陰が大きく動いたため、兵は隠れていた敵がいると判断して銃を撃った。
しかし、そこには人がおらず、大きな木の実が砕け散っているだけであった。
その木の実は枝に生えている果実で、ストーンゴーレムの歩く振動で落ちたものである。
それを敵と間違えて撃ったのだ。
昼間に、連隊の各部隊は突如として、革命派の攻撃を受けている。戦闘は凄まじく、いずれの戦闘地区でも、攻撃を受けた側のほうが損害は多かった。
「前進中にも、急に敵に襲われるかもしれない」
誰もが、そう確信しており、ストーンゴーレムの後ろに隠れつつも、彼らはどこに潜んでいるかわからぬ敵に怯えていた。
839 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:20:54 [ XwixsAvk ]
幸い、前進中には敵の攻撃は全く無かった。
「ジュフパン大尉、先頭の第1小隊が間もなく敵陣地前面に突出します。」
「よし。俺達もすぐに突っ込むぞ。急げ!」
そう言って、大尉は後ろの魔道師に視線を送った。
彼の真意を受け取った魔道師は、ゴーレムに対して魔法通信を送る。
やがて、石造りのゴーレムの巨体はスピードを上げ始めた。
体重は3トン、体長2.2メートルもあるゴーレムが前進していくさまは、どこか安心感がある。
「敵陣地まであと20メートル!」
その時、前方で激しい銃撃音が轟いた。連続して音が発せられているから、敵か味方のどちらかが、機銃を撃ちまくっているのだろう。
「第1小隊が敵に突っ込んだぞ!奴らに遅れを取るな!」
ゴーレムもさらにスピード上げる。目の前の木を、固い石の手で跳ね除ける。
そして、ついに敵陣地の前面に躍り出た。
その時、突然目の前のゴーレムに何かが突っかかってきた。それは、味方と同じゴーレムであった。
だが、
「敵もゴーレムを突っ込ませてきた!まずは敵のゴーレムを薙ぎ払え!」
ジュフパン大尉は早口でそうまくしたてた。第1小隊は、敵が繰り出してゴーレムに、自分達のゴーレムを相手取られてしまった。
敵が顔面に拳を叩きつければ、味方のゴーレムは足を払って倒そうとする。
しかし、敵のゴーレムはそれを避けて、渾身の一撃を味方のゴーレムに叩き付けた。
バガアン!
石が砕ける音が発せられ、第1小隊についていたゴーレムの1体が胴体を叩き潰された。
840 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:24:30 [ XwixsAvk ]
頑丈さで定評のあるゴーレムだが、その自重は叩かれた胴体を余計に圧迫する。
構造に限界を来たし、ついには体が真っ二つに折れてしまい、その場に倒れ付した。
第1小隊の将兵らは、ゴーレムがやられる前に、敵陣に向けて突入したが、あと一歩で塹壕に切り込もうとした
時に、敵側も飛び出して第1小隊の相手をする。
しかし、その時には第1小隊は、機銃や攻勢魔法の攻撃で24人いたのが、たったの7人まで減っていた。
それに対し、相手は17人いた。
相手側は、塹壕から飛び出してくるなり、剣を抜き放ち、第1小隊の残余と激しく斬り合った。
4人を殺害し、2人に負傷を負わせたところで第1小隊は力尽き、全員戦死した。
しかし、攻撃側の戦力はますます増えつつあった。後ろの森のあちらこちらから、継戦側の部隊が踊りだしてきた。
ジュフパン大尉が直率する第3小隊は、2体のゴーレムを率いている。
そのうち1体を叩き潰されたものの、1体は生きており、敵側のゴーレムを2体破壊している。
敵の塹壕まであと60メートルという所だが、革命側は盛んに銃を撃ちまくり、攻勢魔法を放ってくる。
ゴーレムの後ろから、ジュフパン大尉らは姿勢をかがめ、適度に銃で応戦しながら前進していく。
部下の魔道師が一瞬の隙を突いて、ゴーレムからそっと体を飛び出し、手を敵陣に向ける。
青白い閃光が両手から放たれた。
次の瞬間、敵陣に爆炎が吹き上がり、何人かの敵兵が宙に舞った。
機銃弾の弾薬箱にでも命中したのだろう、しきりに火花を飛び散らした。
彼らに向かってくる銃弾の数は少しは減少した事になる。
「よし、これでまた進みやすくなったな。」
彼が少しばかり安堵した瞬間、青白い閃光が左斜めから向かってきた、と思った瞬間、バーン!という鼓膜を破らんばかりの音が響いた。
爆風が背中に叩きつけられ、思わず前のめりに倒れる。悲鳴や罵声が、背後から聞こえてきた。
「畜生!敵の攻勢魔法だ!」
「う、腕が!腕が無い!」
「誰かこいつの面倒を見てやれー!!」
841 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:28:03 [ XwixsAvk ]
後ろで負傷者と、それを慌てて介抱する味方兵の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
だが、今はそれにかまっている暇は無い。
戦死者や、負傷者の無念を晴らすためにも、今はひたすら前進し、敵陣地を突破するのみだ。
銃火は前進するにつれて激しくなってきた。
盾の役割を果たしているゴーレムに数え切れないほどの銃弾が命中する。
しかし、10ミリ未満の機銃弾では、表面を傷つけることしか出来ない。
ジュフパン大尉の部隊は17人に減ってしまったが、今尚、全員が戦意を失っていない。
彼らと同じように、ゴーレムを盾にして進む小隊は幾つもいる。
革命側はいくつかのゴーレムに攻撃を集中している。そのゴーレムは第3中隊のゴーレムである。
しきりに爆発や、機銃弾の弾着で土や水しぶきが舞い上がる。
それでも、彼らは諦めておらず、ひたすら前進を続けている。
その傍らには、無念にも戦死した味方の死体や、ゴーレムの破壊された巨体が横たわっている。
敵ゴーレムのうち、5、6体はなんとか破壊したようだが、こちら側も何体のゴーレムがやられたか、全く分からない。
最初のゴーレム同士の白兵戦では、敵のほうがやや押していたから、恐らくは味方のほうが、敵よりも多くやられているに違いない。
そう思うと、ジュフパン大尉はやや陰鬱な気分になった。
その耳元を、機銃弾が掠めていき、彼は慌てて首を引っ込ませた。
「こんな雨の日に攻め入ってくるとはね!思いもよらなんだ!」
オウルアン少佐は、口々に文句を言いながら、機銃を撃ちまくっていた。
本来ならば、彼のほかに機銃手はいたのだが、その本命の射手は彼の右隣でただのモノと化している。
よく見てみると、額に銃弾が命中した後があり、後頭部には目を背けたくなるようなモノが飛び出している。
敵はゴーレムを前面に押し立てて進撃を続けている。
頑丈なゴーレム相手では、機銃弾は通用しておらず、空しく弾着の音を上げているだけだ。
842 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:29:26 [ XwixsAvk ]
「おい!お前!」
彼は側でしきりに魔法通信を送る魔道兵に声をかけた。
「なんでありますか!?」
「あれを攻勢魔法で吹き飛ばせ!」
「攻勢魔法で!?」
「そうだ!頭を狙えよ!」
雨音が大きいため、声を大きくしないと相手に伝わらない。
この会話は、他から見ると怒鳴りあいの喧嘩に思えた。
頷いた魔道師は、魔法通信を一旦終了して両手を伸ばし、狙いをつける。
意識を集中する。術式を頭の中で素早く組み立て、そして完成する。
広げられた両手から雷のような青白い光が飛び出した。光はゴーレムの体に命中して、爆発音をあげた。
しかし、煙が晴れると、ゴーレムは傷を負いながらも全身を続ける。
「馬鹿野郎!頭を狙え!」
「狙ってます!しかし、この雨の影響で、青雷を放つときには誤差が生じるんです。
正確に狙うと、撃つまでの時間が長くなっちまいます!」
「なら仕方が無い。通常の方法でやれ!」
そう言って、彼は再び前を向いて機銃を撃った。
機銃の曳光弾がゴーレムに向かっていくが、それらは当たった瞬間、別の方向に飛んで行ったり、弾けたりする。
その時、魔道兵の放った青白い光、青雷よばれる攻勢魔法が放たれ、それがゴーレムの頭部に突き刺さった。
ゴーレムの頭部が爆発し、それまで前進を続けていた体が急に停止する。
この時、青雷はゴーレムの唯一、脆弱な(といっても銃弾は跳ね返す程度の強度がある)頭部に命中した。
爆発は魔法通信の受信源をたたきのめし、一切の情報が入らなくなった。
843 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:31:58 [ XwixsAvk ]
そして、ゴーレムは動きをやめてしまったのだ。敵の災難はこれだけではなかった。
前進中のゴーレムは左足を上げた瞬間に青雷が命中した。
急停止をかけられたゴーレムは、バランスを失ってそのまま後ろ向きに倒れていく。
後ろで姿勢をかがめながら前進していた継戦側の兵が、いきなり倒れてくるゴーレムに仰天し、慌てて離れていく。
が、不運な者もいた。3人が間に合わずに押し潰され、圧死した。
「やったぞ!」
「すげえ、まぐれ当たりだ。」
オウルアン少佐が快哉を叫ぶ横で、魔道兵はやや信じられない取った口調でそう言った。
倒れたゴーレムの左右に散らばった敵兵は、すぐに横を前進している別のゴーレムの影に隠れようとした。
その前に革命側の集中射撃を受けて、ほとんどが薙ぎ倒されてしまった。
「少佐!」
隣の魔道兵が森の方向を指差す。
敵の突入部隊の後ろから、さらなる敵部隊が姿を現してきた。
数は今突進中の敵部隊とほぼ同数である。
「次から次へと!」
少佐は忌々しげにそう叫んだ。
敵の第1波は既に半数以上の兵を失っているものの、まだ前進を続けている。その残余が塹壕に侵入しようとしている。
この敵部隊を追い払うにはかなりの手間がかかる。
そこに新手が出てくると、ただでさえ押され気味なのにこちら側が陣地から追い出される可能性がある。
そうなれば、後はカウェルサントの砦に篭城して戦うしかない。
「もっと、兵力があれば・・・・・・」
現在、防御陣地には1400人の兵がいる。それに対し、敵は2000以上いる。
844 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:33:40 [ XwixsAvk ]
明らかに不利だ。
そんな思いをよそに、敵第1波が塹壕まで目と鼻の先に迫って来る。
ストーンゴーレムが急に速度を上げて、防御陣地に向けて走ってくる。
敵ストーンゴーレムの残余は5体。
そのうち2体が攻勢魔法の攻撃を受けて頭部を吹き飛ばされたり、足を叩き割られて先頭不能に陥った。
しかし、2体が防御陣地に暴れ込んだ。
この2体は攻勢魔法の乱打で破壊されたが、それまでに21人の兵が殺され、12人が傷を負わされた。
「ウオオオーーーー!」
続いて、敵兵が雄叫びを上げて陣地に暴れ込んで来た。
「近寄るな!どこかに行けえ!!」
オウルアン少佐は突入してくる敵兵の群れに対して機銃を乱射する。3、4人の敵兵がばたばたと撃ち倒されたが、そこまでだった。
機銃から手を放し、彼は長剣を抜き放つ。そして、敵兵が勢いをつけて、彼を剣で串刺しにしようと、猛然と駆け寄ってきた。
「死ねえ!裏切り者!!!」
物凄い形相で、敵兵は塹壕の上から落ちてくるように突っ込んできた。
「それはお前だよ!」
すかさずその突きを、体を捻ってよけた。敵の長剣は脇腹を横切っていく。
845 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:35:54 [ XwixsAvk ]
飛び込んできた敵兵が満足に着地できず、一瞬よろめく。
その敵兵の背中に、オウルアン少佐は容赦なく剣撃を放った。
肉を深く切り裂く感触が伝わる。背中を深く、真一文字に薙ぐ。悲鳴をあげるが、少佐は容赦しない。
今度は血の吹き出た背中に思いっきり剣を刺した。
突き刺された敵兵がビクンと体を反り返らせ、あっという間に脱力した。
すぐに剣を抜き放ち、彼は死に絶えた敵兵の長剣を奪い取る。
そして、後ろから切りかかろうとした髭面の敵兵めがけてそれを投げた。
剣は敵の腹に深く突き刺さった。背中から突き出てはいないが、それでも人間の生活に必要な臓器をいくつか使用不能にしてしまった。
すぐに塹壕から這い出し、彼は周りを見てみる。
あちらこちらで敵味方が剣を混じり合わせ、互いを銃で撃ち合っている。
あたりは乱戦の巷と化していた。既に多数の死体が塹壕や地面に横たわり、血だまりを作っている。
「死んだ戦友の仇だ!」
オウルアン少佐は、後ろの声に振りむくまでもなく、すぐに体をかがめた。
何かが頭の上を横切った。それが通り過ぎてから、彼は後ろを振り向く。
見ると、将校らしき人物が、血走った目つきで彼を睨んでいる。
「くそ、いくらでもいるな。」
彼は小さく呟く。その時、敵兵が剣を腰の左側に構えて突っ込んできた。かなり早い。
(逃げたらやられる!)
そう思った彼は、後ろに下がるのをやめた。鋭い剣撃が逆袈裟に放たれる。
オウルアン少佐は自分の剣をかばうようにして前面に構えた。甲高い金属音が鳴り、火花が散った。
それだけに留まらず、敵の将校は右から切り下ろしてくる。少佐はすかさず、剣を頭の前に上げた。
再び、金属音が鳴り響く。間一髪のところで、頭を叩き割れる事は避けられた。
846 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:55:24 [ XwixsAvk ]
しかし、
(手がしびれてる!)
重い剣撃を受けた両腕は、ぶるぶると震えている。敵将校はかなりの腕前だ。
オウルアンより、剣技は上だろう。このまま互いに打ち合えば、オウルアンのほうが剣を弾き飛ばされてしまう。
少佐は剣を押しのけて、後ろに引いた。
「逃がさないぞ!裏切り者!!」
敵将校は憎悪に捕らわれた口調でがなりたてた。
「貴様らのような奴らがいるから、あのような悪魔の艦隊までもがしゃしゃり出てくるのだ!!」
そう喚き散らしながら、敵将校は再び向かってきた。
再び、2人は剣を打ち合った。敵将校の剣撃を、オウルアンはうまく交わすが、左腕に刃先が当たり、血が吹き出る。
敵将校は何度も何度も剣を繰り出してくる。
最初は互角に打ち合ってきた2人だが、矢継ぎ早に繰り出される敵将校の攻撃に、オウルアンは対応が遅れ始めた。
「ほらほらぁ!情けないぞ!戦いはまだまだ始まったばかりだ!」
敵将校は獰猛な笑みを浮かべながら、オウルアンを挑発してくる。しかし、息も絶え絶えのオウルアン少佐はそれに答える暇が無い。
敵将校の剣撃を受け流すのが精一杯だ。
(・・・・・野郎、次第に技が大振りになってやがる)
そして、幾度が剣を打ち据え、オウルアンの手や足に切り傷が3つ新たに出来た時、ついに致命的な事態が起こった。
ギィン!!
敵将校が振り上げた剣が、オウルアン少佐の剣を跳ね上げた。
既に重い剣撃を何度も受け止めた両腕は、既に本来の力を喪失していた。
847 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:57:33 [ XwixsAvk ]
「殺ったあ!」
思いっきり長剣を振り上げて、一気に切りかかる。
その直後、一か八か、少佐は回し蹴りを敵将校に放った。
ドスン!という鈍い音が鳴って、蹴りは見事に、敵将校の脇腹に命中した。
突然の激痛に、呻き声を上げた敵将校は、一瞬だけバランスを崩した。そして、少佐はその敵将校に体当たりをかます。
振り上げた長剣が手元から離れ、敵将校はあえなく倒されてしまった。
馬乗りになったオウルアンは、両腕に最後の力を振り絞って顔面を殴りつけた。
これまでの憂さを晴らすかのように、2度、3度と殴りつける。
悲鳴をあげた敵将校が少佐を押しのけて、顔面を押さえつけてのた打ち回る。
起き上がったオウルアンは、容赦なしに敵の体を蹴り上げ、側にあった小銃を拾うとその敵将校に対し、銃弾を4発撃ち込んで射殺した。
敵の第1波は陣地内に殴り込んだものの、優勢の革命側に追い立てられて塹壕からたたき出されてしまった。
だが、休む暇も無く敵の第2大隊が突入してきた。
これらに対して残り12体となったストーンゴーレムが迎え撃つ。
今度も互いのゴーレム同士が激しい肉弾戦を繰り広げる。
そのゴーレム達の死闘も長続きはしなかった。
次第に革命側のゴーレム達は継戦側の数に押され始める。その横を敵兵達が防御陣地に向けて駆け寄ってきた。
対して革命側は生き残った機銃や各人の小銃を撃ちまくる。
またもや何人もの継戦側の兵達がばたばたと撃ち倒されるが、第1波を迎え撃ったような激しさは無かった。
再び、敵兵達が陣地に殴りこんできた。前回は300人と少なかったが、今回は600人が殴り込んで来た。
互いに銃を撃ち、剣で刺し合い、首を絞めあったりする。
壮絶な白兵戦が繰り広げられた。
848 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/26(土) 18:58:50 [ XwixsAvk ]
午前10時30分、後方に回ろうとした第3大隊は、たまたま帰還中であった撹乱部隊と遭遇し、20分ばかり戦闘を行った。
戦闘は互いに戦死者1名を出し、負傷者継戦側が21名と多く出した。この20分のタイムロスが、防御戦の革命派将兵の運命を決定付けた。
10時50分に、第3大隊は防御戦の後方2キロに進出し、敵部隊に対して攻撃を行ったが、それは敵部隊ではなく、
陣地を占領し、革命派の追撃に当たっていた第2大隊の部隊だった。
この攻撃で、5人の継戦側の兵が命を落とした。
本当ならば、命を落としているのは敵側のはずだった。しかし、奪った命は味方のものであっだ。
そう、第3大隊は敵の退路を断つことに失敗したのである。
人員の極度の損耗を恐れたガルファン将軍派、魔法通信で敵にある程度の打撃を与えた後に防御陣地から離脱せよと命じた。
防衛部隊は適度に反撃しながらも、敵の第2波攻撃が落ち着いた隙を見て戦線から脱出を始めた。
損害の多さに、しばらく攻撃を中断していた第1、第2大隊はすぐに攻撃を再開。
もぬけの空となった防御陣地を占領した後、2個中隊を持って敵革命軍の追撃にあたった。
後一歩で追いつくはずだったが、いきなり第3大隊から攻撃を受けて前進はストップ。
敵の残存部隊を取り逃がしてしまった。
第1連隊の包囲殲滅作戦は失敗したのである。
この攻撃で、革命側は1400人中233人が死亡、300人が負傷した。
継戦側は420人が死亡し、720人が負傷。第1連隊は戦力の40%以上を失うという大損害を受けた。
当初の目的である、敵の包囲殲滅は果たせなかったものの、敵革命軍に痛撃を与えて後退させた戦果は大きい。
一方、人名の損耗を恐れて、なんとか退却に成功した革命軍であったが、これで革命軍側は後が無くなった。
こうして、戦いは新たな局面を迎える事になった。
854 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:17:09 [ XwixsAvk ]
10月5日 午前4時30分 カウェルサント
俺は目が覚めて、寝床から起きた。
緊張しているためか、起きた時に来る眠気があまり来ない。
「たった4時間しか寝ていないのに、頭が冴えているな。」
俺はそう呟く。ふと、自分の左脇に置いている、とあるモノに目が止まった。
「・・・・本物と比べたら、みすぼらしいけど、なんとかなるかな。」
と、苦笑混じりに言った。
なぜか、外がガヤガヤと騒がしい。なんだろうと思った俺は、ひとまず寝床のあるテントから出てみた。
辺りはかがり火が消されて、暗かった。太陽はまだまだ上がっていない。
それなのに、門の周辺には大勢の革命派の兵士達が集まっている。
「おい!こいつを手当てしてやれ!」
「水だ!水をもってこい」
「他に空いている部屋は無いか!?」
門の手前で、なぜか革命派の兵が寝かされて、味方の叱咤激励を受けている。その寝かされている奴は門の手前だけではなく、奥のほうにもいる。
10人や20人ではない。100単位の数の負傷兵が、仲間の介抱を受けていた。
「なんてこった・・・・・」
俺は思わずそう漏らした。なにせ、負傷兵のみならず、門から中に入ってくる兵の顔が、疲労で顔が死んでいる。
精も根も尽き果てたと言わんばかりだ。
その疲労に満ちた表情にも、目だけは鋭くぎらついており、まるで地獄から這い上がってきた幽鬼のように見えて、ぞっとする。
855 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:19:48 [ XwixsAvk ]
「継戦軍を食い止められなかったのか。」
彼らは防衛線を守っていた部隊だ。継戦軍が攻撃を仕掛けた場合、彼らは真っ先に攻撃を受ける。
そして、その攻撃を跳ね返すのが彼らの任務である。
敵味方が受けた被害がどうであれ、本来、防衛線で居座っているはずの彼らが、ここに逃げているという事は、防衛線から叩き出されたのだ。
「ポイントを継戦軍に取られたか・・・・・・」
となると、敵地上軍はこの砦に殺到してくることになる。
早くもピンチに陥るとは・・・・・・・・
「他に部屋は無いのか!?」
「今探していますが、どこも先に収容した兵の治療に当たっております。空くのはもうしばらくかかるかもしれません。」
「こんな泥だらけのとこで、長い時間負傷兵は寝かせられん。」
すぐ近くで、革命派の兵が話し合っている。
俺が寝いている間に雨は止んだのだろう、空は再び星空が除いているが、地面は先の豪雨の影響で、まだぬかるんでいる。
その泥だらけの地面の上に、100、いや、200は下らぬ負傷兵がいる。そのうちの半数が地面に寝かされている。
一応、何かを敷いてから寝かされているが、これでは、負傷兵の衛生環境に悪い。
「おい、君達。」
俺は後ろを振り返った。押し問答を繰り返していた革命派の兵2人が、俺を見て驚いている。
「あ、あなたは。」
「部屋を探しているんだろう?なら俺の部屋を使え。狭い部屋だが、5、6人は寝かせられる。
医療設備はないが、こんな汚い地面の上で寝かせるよりマシだろう。」
856 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:22:08 [ XwixsAvk ]
彼らが驚くのを無視して、自分の部屋を使うように勧めた。
「え、でもマッキャンベル中佐。あなたの部屋を勝手に使うなど、自分達はとても。」
背の低い、ピンク色の目をした女性兵が言ってくる。この兵の表情にも、かなりの疲労が滲んでいる。
「あなたはいわば客人です。その客人の部屋を勝手に使う事は、」
「馬鹿野郎。そんなことはどうでもいい!君達は傷を負った仲間を助けたいんだろう?
ならばなおさらだ。俺の事など気にせず、部屋を使え。」
じれったい奴らだ。こんな時にまでわざわざ遠慮なぞする必要もないだろうに。
本人がOKと言っているのだから、さっさと使えばいいのだ。
「「あ、ありがとうございます!」」
2人が言葉を重ねて言ってきた。最初からそう言え。
「俺の部屋はあそこ、すぐ近くだ。」
指を指して、自分の部屋を教えた。2人の兵は、他の手の空いている仲間を呼んで、負傷兵を運ばせた。
自分も誰かを呼んで、負傷兵を運ぼう。おっ、あいつがよさそうだ。声をかけてみよう。
「そこの黒い外套を着た君!ちょっと来てくれ!」
すたすたと歩き去っていこうとする兵を呼び止める。その黒い外套の兵が足を止めて、俺のほうを振り返った。
・・・・・・・・畜生、苦手な奴を呼んでしまったな。
「なんですか?」
「イメイン、君か。」
857 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:24:24 [ XwixsAvk ]
彼女の顔がやや青ざめている。
確か彼女自身も撹乱部隊に参加していたというから、戦闘をやって来たに違いない。
「負傷兵をあの部屋に一緒に運んでもらおうかと思ってたんだが・・・・疲れているみたいだな。他を当たるよ。」
「手伝う。」
不機嫌そうな口調で言ってくるなり、俺が持とうとした負傷兵の側まで寄ってきた。
負傷兵の下に敷かれている紫色の薄布を握って、俺のほうを向いた。
「あなたは頭の部分を。」
「あ、ああ。」
その言葉に施されて、俺は頭の自他にしかれている薄布を握った。
俺が合図をして、その負傷兵を持ち上げた。
負傷兵がうっと、うめきを上げたが、俺とイメインはそれを無視するかのように、そのまま歩き続けた。
部屋にかけられている天幕を、さっき押し問答を繰り返していた男性兵があげてくれた。俺は後ろ向きに天幕の中に入った。
ベッドの上に1人、床に3人が既に入っている。俺とイメインは、右側の空いている部分にその負傷兵を寝かせた。
「マッキャンベル中佐、部屋の中にこのようなものがありましたが。」
さっきの男性兵が、俺の飛行服が入った手さげ鞄と(オイルエン大尉に譲ってもらった)、包まれた布を持って来てくれた。
「ああ、ありがとう。」
俺は微笑んでから、それを受け取った。
「医務官はまだか?」
「今、こっちに向かってるところです。マッキャンベル中佐、部屋を貸していただいてありがとうございます。」
858 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:26:07 [ XwixsAvk ]
「俺に感謝するのもいいが、それよりも、戦友を励ましてやれ。見たところ、みんな傷が酷い。
俺に対する感謝はどうでもいいから、先にあいつらを手当てするんだ。」
「はっ、分かりました。」
思わず、面食らったような表情になったが、すぐに男性兵は俺の言葉の意味を受け取り、天幕の中に入っていった。
イメインと共に天幕から出た俺は、ふと、彼女の右腕に白い包帯が巻かれているのが目に入った。
「おい、負傷したのか?」
イメインが俺を見た。一瞬だけだが、どこか痛みに耐えているような表情が見えた。
しかし、それはすぐに冷静な表情へと変わった。
「敵とやり合っているときにつけられたの。これぐらいはかすり傷よ。」
そう言って、彼女はどこか行ってしまった。
かすり傷か、じゃあさっき、一瞬だけ見たあの表情はいったい?
俺はイメインを見てみた。彼女はどこかに行ってしまい、見えなかった。
かすり傷といっていたが、包帯に付いていた血はだいぶ滲んでいた。
「かすり傷で、あんなに血が出るものか?」
戦闘中は激しく動いている分、血液のめぐりも早くなる。なるほど、その時に傷を受ければ、出血もやや多くなるだろう。
だが、彼女の表情は明らかにおかしかった。
「あれは、絶対にやせ我慢している。かすり傷ではないな。」
俺はそう思った。
それはともかく、今度の戦いは、この砦を巡るものとなる事は確かだ。
その時に、彼らは優勢な敵に対して、どのようにして戦うのだろうか?
859 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:27:17 [ XwixsAvk ]
午前5時 ヌーメア
ゼルポイス大佐は、やや晴れた表情でザルティグ少将に報告した。
「現場付近の天候は次第に回復しつつあり、午前6時ごろには現地の天候はだいぶ回復するようです。」
「雨雲は北に向かったようだな。よし、これでワイバーンロードの支援が受けられる。」
椅子に座っているザルティグ少将は満足そうな笑みを浮かべて頷いた。
昨夜の戦いで、第77歩兵師団に所属する第1連隊は、豪雨の中、敵の防御線に突入している。
戦いの結果、第1連隊側に多くの死傷者が出てしまったが、当初の目的であった、防御陣地からの敵軍の排除は達成させられた。
また、防御陣地は開けた土地となっているため、第1連隊指揮官から砲兵陣地には最適である、と報告されている。
「占領した防衛線に配置する砲兵隊はどうなった?」
「既に準備を終え、10分後には防御線に向けて出発する予定です。」
「万事順調だな。」
最初こそ、革命派の思わぬ攻撃によって混乱したものの、物事はうまく進んでいる。
相手は数が少ないとはいえ、精鋭だ。死に物狂いで反撃してくる。
そのため、味方の損害率は敵よりも高い。
(だが、数の優位は全く動かぬ。このまま、一気に押し潰すぞ!)
遠いながらも、勝利を確信したザルティグ少将は思わず微笑んだ。
その時、いきなり魔道兵が、天幕の中に入ってきた。何か紙を握りしめている。
「報告します!」
「なんだ?読め。」
ゼルポイス大佐にほどこされて、その魔道兵は紙を読み上げた。
「海竜情報収集隊から連絡です。我、ギルアルグ北北東120キロ地点で・・・・」
思わず魔道兵が息を呑んだ。魔道兵は気を取り直して読み続ける。
860 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:30:52 [ XwixsAvk ]
しかし、小型戦列艦3隻に、中型戦列艦が2隻しかいないとなると・・・・・
いや、まさか。
ゼルポイス大佐がある事を思い立った時、魔道兵が第2報を読み始めた。
「続いて第2報です。敵艦隊は、艦隊の後方に空母3隻の機動部隊を伴う。
送られてきた魔法通信の内容はこれだけです。」
機動部隊だと!?
ゼルポイス大佐は心臓が跳ねた。彼はザルティグ少将の顔を見つめる。
先ほどまで、微笑を浮かべていたザルティグの顔は、やや暗いものになっている。
「これは、少々意外な事態だな。いや、少々でなく、深刻・・・・・といったほうがいいかもしれんな。」
昨日から、2通ほどの興味のある魔法通信が送られてきた。
2通とも、アメリカ軍の偵察機が偵察にやってきた、との報告である。
「敵の空母はマリアナの沖合にいるかもしれない。」
ザルティグは昨日の作戦会議で、そう漏らしている。
彼らは敵空母部隊が付近にいるかもしれないと思っていたが、付近といっても、てっきりマリアナ付近であろうと思っていた。
その予想は、この魔法通信であっさり打ち砕かれた。
ギルアルグからこのヌーメアまでは直線で270キロある。
そのギルアルグから北120キロのとこに、あの忌まわしき空母部隊がいるのだ。
その海域からヌーメアまでの距離は直線でおおよそではあるが、400キロ。
一方、大魔道院が破壊される前に生起した海空戦で、第5艦隊が距離500キロ以上離れたアメリカ機動部隊から、
実に3波、300機の航空攻撃を受けている。
861 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:32:51 [ XwixsAvk ]
やべ、失敗した。
862 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:34:07 [ XwixsAvk ]
「120キロ地点で、敵艦隊を発見。小型戦列艦3、中型戦列艦2。」
「なんだ、これだけか。」
ゼルポイス大佐は、てっきり異世界軍の空母部隊かと思った。
しかし、小型戦列艦3隻に、中型戦列艦が2隻しかいないとなると・・・・・
いや、まさか。
ゼルポイス大佐がある事を思い立った時、魔道兵が第2報を読み始めた。
「続いて第2報です。敵艦隊は、艦隊の後方に空母3隻の機動部隊を伴う。
送られてきた魔法通信の内容はこれだけです。」
機動部隊だと!?
ゼルポイス大佐は心臓が跳ねた。彼はザルティグ少将の顔を見つめる。
先ほどまで、微笑を浮かべていたザルティグの顔は、やや暗いものになっている。
「これは、少々意外な事態だな。いや、少々でなく、深刻・・・・・といったほうがいいかもしれんな。」
昨日から、2通ほどの興味のある魔法通信が送られてきた。
2通とも、アメリカ軍の偵察機が偵察にやってきた、との報告である。
「敵の空母はマリアナの沖合にいるかもしれない。」
ザルティグは昨日の作戦会議で、そう漏らしている。
彼らは敵空母部隊が付近にいるかもしれないと思っていたが、付近といっても、てっきりマリアナ付近であろうと思っていた。
その予想は、この魔法通信であっさり打ち砕かれた。
ギルアルグからこのヌーメアまでは直線で270キロある。
そのギルアルグから北120キロのとこに、あの忌まわしき空母部隊がいるのだ。
その海域からヌーメアまでの距離は直線でおおよそではあるが、400キロ。
863 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:35:43 [ XwixsAvk ]
一方、大魔道院が破壊される前に生起した海空戦で、第5艦隊が距離500キロ以上離れたアメリカ機動部隊から、
実に3波、300機の航空攻撃を受けている。
そう、このヌーメアは敵飛空挺の航続距離内にすっぽりと入っているのだ。
「海竜は、情報を事細かく伝えてくるように訓練されています。」
ゼルポイスト大佐が言う。
「魔法通信の内容はかなり簡潔で、短い。恐らく、魔法通信を送っている途中で敵の攻撃を受けたのでしょう。」
天幕の中の雰囲気は、一気に重く沈んだ。
「唯一の救いは。敵飛空挺に発見されていない事だ。」
ザルティグ少将がしっかりとした声音で言ってくる。
「発見されていないという事は、ヌーメアはまだ攻撃目標に含まれていない。それだけは確かだ。」
ザルティグ少将は立ち上がった。
「時間との勝負だな。敵空母がこっちを見つけるか、俺達が革命派を叩きのめしているか。参謀長!」
「はっ!」
「天候が収まり次第、至急第68空中騎士旅団に支援を要請しろ。」
10月5日 午前5時20分 ラグナ岬北北西80マイル地点
第58任務部隊第1任務群は、午前5時から攻撃隊の発艦準備を開始した。
その前日の4日、第1任務群は策敵機を内陸に向けて発艦させ、墜落機パイロットの捜索、もしくは敵施設捜索を行った。
午後4時には、ラグナ岬より南西の沿岸に、4人のパイロットらしき人物が、革命派と思われる集団と共に、偵察機に手を振ってきた。
この墜落機パイロットの発見は、第1任務群の将兵を勇気づけた。
864 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:38:29 [ XwixsAvk ]
午後5時には、魔法都市マリアナから20マイル南のところにある、敵の物資集積所のようなものを
ヨークタウンから発艦したアベンジャーが発見。
その際、アベンジャーは敵の対空砲火を受けて損傷している。
他にも、物資集積所から南に6マイル付近に、継戦軍のものと思わしき駐屯地があった。
この駐屯地を発見したのはホーネットのヘルダイバーである。
駐屯地には錬兵場や宿舎などがあり、基地の周囲には対空陣地が配備されている。
また、中には捕虜収容所のようなものもあり、その収容所付近には死体らしきものが散乱しており、それを片付けている継戦派の兵も確認された。
このヘルダイバーも、いきなり高射砲の砲撃を受けた。こちらも損傷を受けたが、なんとか母艦に辿り着いた。
しかし、軽傷で済んだヨークタウンのアベンジャーと違って、受けた傷は大きく、修理に2日はかかると言われた。
第1任務群司令のクラーク少将は、偵察機に対して敵対行動をとったこの2つの施設を艦載機で攻撃することに決めた。
5時20分を回ったのにも関わらず、海面はどこか薄暗い。
ヨークタウンの飛行甲板に取り付けられている前、後部のエレベーターが上下運動を繰り返し、格納庫内の艦載機を飛行甲板上に出している。
「よし、いいぞ。押せ!」
前部甲板に上げられたヘルキャットを、10人ほどの甲板要員が後ろに押していく。
後部甲板では、ヘルダイバー艦爆を10人ほどの甲板要員が、班長の指示に従いながら決められた位置に押す。
「う〜ん・・・・・・舷側エレベーターがつかえない分、準備にしわ寄せが来るな。」
艦橋から発艦準備の模様を眺めていた飛行長のジョン・ピーターズ中佐は眉をひそめる。
「ホーネットでは、後部甲板があんなに埋まっているのに、こっちはあっちの6割程度しか埋まっていない。」
薄暗い洋上をひた走る寮艦の空母ホーネットの飛行甲板上には、既に大多数の艦載機が後部甲板に集まっている。
それに対し、ヨークタウンの飛行甲板上では、出撃予定数の半分強しか並んでいない。
865 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:40:48 [ XwixsAvk ]
「敵さんも、うまい所を壊してくれたものだ。」
左隣にいる艦長のジェニングス大佐がやや苦味の混じった表情で呟いた。
「攻撃隊は本艦からヘルキャットが16機、ヘルダイバーが23機、アベンジャーが16機出るが、
出撃数が6機多いホーネットに先を越されるとは。」
そう言って、彼はため息をつく。
現在、第1任務群の編成は、正規空母のヨークタウンとホーネット、軽空母のベローウッドとバターンが機動部隊の中核である。
これを援護する艦艇は、戦艦ワシントン、重巡洋艦ボルチモア、キャンベラ、軽巡サンファン、駆逐艦10隻。
本来は重巡のボストンと軽巡のオークランド、それに駆逐艦4隻が加わるはずであったが、
オークランドは30日の航空戦で撃沈され、ボストンは損傷のため後方に後退。
駆逐艦4隻は負傷兵を乗せてボストンと共に後退している。
艦載機はヨークタウンがF6F36機、SB2C29機、TBF23機。
ホーネットがF6F36機、SB2C27機、TBF23機。
軽空母のベローウッドではF6F22機、SB2C6機、TBF12機。
バターンはF6F28機、TBF14機となっている。
合計で256機。本来と比べて33機の減勢ではあるが、それでも強力な航空兵力だ。
第1次攻撃隊はヨークタウンからF6F16機、SB2C23機、TBF16機。
ホーネットからF6F20機、SB2C25機、TBF16機。
軽空母からはバターンとベローウッドがそれぞれF6F8機、アベンジャー12機を出す事になっている。
合計で156機を継戦側の残存部隊に叩きつける。
「今回の攻撃は、継戦派の戦闘意欲を失わせるためのものだ。そのためにも、攻撃隊の連中には派手に暴れ回ってもらわんとな。」
ジェニングス大佐はやや弾んだ口調でそう言った。
866 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:45:37 [ XwixsAvk ]
「偵察写真によると、継戦軍は相当量の物資を備蓄しているようです。
5万以上の軍団が戦うには、写真に写っている集積所の分では足りませんが、それでも1個師団は充分に戦える量です。」
「同様の集積所は他にもあるかもしれないな。」
「クラーク司令はどのような判断をされるでしょうか。」
「俺はクラーク司令じゃないからあまりわからんが、そうだな。今回の攻撃で敵が音を上げる様子が無ければ、
今回のような空襲を何度でもやるだろう。それに、敵は前からではなく、後ろにも居座っているという印象も与えられる。
まっ、要するに、必要な物を全て破壊して、敵側の敢闘精神を寸刻みにすり減らしていく、という訳だ。」
「なるほど。」
ピーターズ中佐は納得して頷いた。
発艦準備作業は一応進捗しており、彼とジェニングス大佐が話している間には、作業は8割方完了した。
「もうそろそろですな。」
飛行甲板を見下ろしたピーターズ中佐が、やや表情を明るくさせた。
その時、右舷側を航行する空母ホーネットから、エンジン音が聞こえてきた。
最初は小さなものであったが、それは次第に響いていき、やがては50以上のエンジン音が海上を圧するまでに鳴った。
「やっぱり、舷側エレベーターが無いと困るな。」
午前6時 ミルクリンス
ミルクリンスは本来、草原の中にたたずむ小さな村であった。
7年前にバーマント軍がミルクリンスの近郊に基地を構えると、村は兵士達の落としていく金で次第に大きくなり、今では4000人の住民が住む町に成長した。
ミルクリンスの近郊には、バーマント軍の巨大な補給基地があり、そこに多種多様の物資が備蓄されている。
銃器、弾薬、大砲、剣、盾、ストーンゴーレム等・・・・・戦いに必要なものはなんでも揃っている。
1年前には、この補給施設の近くに鉄道が敷かれ、今まで馬車に頼っていた補給物資の運搬は、今では運搬のスピードが格段に向上した。
バーマント軍第290兵站連隊は、このミルクリンス物資補給施設の主である。
867 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:48:26 [ XwixsAvk ]
「おい、新入り!さっさっと起きろ!」
盗賊の棟梁のような顔をした軍曹の階級をつけた男が、仮眠室で休憩を取っていた若い男性兵を叩き起こした。
「え〜、もう6時ですか?まだねむいのに。」
「馬鹿野郎!二度寝なんかしたら、川へ放り込むぞ!!」
軍曹の怒声に、ぼんやりとしていた頭は瞬時に覚めた。
「す、すいません!今すぐ支度します!」
「10秒でやれよ。」
そんな無茶な!と思いつつ、彼は軍服に着替えてベッドから降りた。
「遅い!16秒もかかってる。」
「毎回毎回思うんですが、10秒以内に着替えるのは無茶っすよ〜。それに、自分はこの部隊に配備されて1年以上経つんですが。」
「何を言う。俺が新入りといったら新入りなんだ。」
そう言って、軍曹はがっははははは!と、豪快な笑い声を上げた。
この部隊に配備されて1年になるが、1等兵はこの軍曹に一番好感を持っている。
色々と無茶なことばかり口走る軍曹だが、その反面、部下や上司の信頼は厚い。
「今日はストーンゴーレムを30体、貨車に移動させる事になっとる。気を引き締めていけよ。」
「ゴーレムは重たいですからねえ。それにしても、いきなり30体とは。何かあったんですか?」
「あったんだよ。ギルアルグの西にあるヌーメアというとこで、革命派の生き残りと味方が派手に叩き合っているらしい。
そんな中、30分前にゴーレム30体を移送せよと命令が来てな。これからギルアルグ行きの列車に乗せるんだ。」
「へえ〜。」
朝っぱらから疲れる仕事だなあ、と1等兵はそう思った。
868 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:51:11 [ XwixsAvk ]
「それはともかく、稼動魔法の付いていないゴーレムは重たいからな。専用の鉄車で運ぶから、
最低でも2時間はかかるな。よーし、今日もバリバリ働くぞ!」
そう言って、軍曹は1等兵の肩を叩く。
作業は、ゴーレムが仰向けに寝るようにして陳列されている区画で、まず引き揚げ機を使って体を上げる。
次にルエスと呼ばれる小さめの竜が引く鉄の荷車に載せて、貨車まで持っていく。
持っていく際は、作業に携わる者全員で押していくが、ゴーレムが保管されている区画から貨車までは
500メートルの距離があり、10分ほどかけて運んでいく。
かなりの重労働であるから、軟弱者にはゴーレムの移送は勤まらない。
「載ったぞ!」
5体目のゴーレムが、鉄車に載せられる。鉄車の車輪が地面に食い込む。誰もが汗みずくとなって働いている。
「さてと、押すぞ!」
「おうっ!」
13人の屈強な男達が、鉄車も含めて3トン近くある荷を押す。緑の色をした竜。ルエスも渾身の力を込めて荷を運ぶ。
ゆっくりとだが、鉄車はスピードを上げていく。
男達が仕事に精を出している時、災厄は突然やって来た。
「空襲警報―!」
遠くから、いきなりその声が上がった。
「へっ?」
1等兵は思わず間の抜けた声を漏らした。
869 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:53:32 [ XwixsAvk ]
だが、鉄車を押していた先輩達は、誰もが立ち止まり、顔を見合わせた。
昨日、敵の飛空挺が1機だけやって来た時、彼らは慌てて作業を中断して退避したが、
敵は爆弾を落とさなければ、機銃も撃たず、高射砲によって追い払われている。
皆は、その敵飛空挺の逃げっぷりに、
「白星の悪魔も大した事無いじゃないか」
と言い合っていた。しかし、1等兵は楽観できなかった。
もし爆撃を行うとすれば、まず、事前に目標を偵察する。
その後に、大量の爆撃機を飛ばして、一気に撃滅する。
1等兵は、あの偵察活動が、爆撃が始まる兆候なのでは?と思っていた。
しかし、昨日はその高射砲に追い払われた1機が来ただけで何も無かった。
1等兵は何も無かった事に安堵していたが、敵は日付が変わってからやってきたのだ。
伝令があちこちに走り、声を枯らしながら叫んでいる。
「敵飛空挺部隊接近!敵部隊はマリアナ上空を通過した模様!直ちに退避壕に避難せよ!」
「なんてこった、こんな辺ぴな補給施設を襲いに来るとは。
とりあえず、このゴーレムを貨車のところまで運んで、退避壕に逃げるぞ。」
かかれ!といって、彼らはこれまで以上に力を入れて鉄車を押した。
貨車の側にゴーレムを降ろした時には、北の空から爆音が轟いていた。
「急げ!ずらかるぞ!」
軍曹は皆にそう言うと、軍曹と1等兵以外は退避壕に逃げ始めた。後ろで弾薬箱をもった兵が3人ほど、対空陣地に向けて走っていく。
その3人表情は、どれもが青ざめていた。
再び1等兵は、北の空に目を向ける。爆音だけだったはずなのに、今では多数の芥子粒が見えていた。
「ルエスを離すのを手伝ってくれ。」
870 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:55:45 [ XwixsAvk ]
軍曹が言ってきた。1等兵は慌てて軍曹と共にルエスに付けられている牽引ロープを放す作業に取り掛かる。
ルエスは緑色のやや小さな竜である。小さめと言っても、人間より少々大きい。
愛嬌のある顔が特徴だが、その反面力強く、牛よりも頼りになる。
爆音が次第に近くなってきた。手が震えて、なかなかロープを外せない。
「落ち着け。」
軍曹は穏やかな表情で言ってくる。1等兵は頷きながらも、ロープを外そうとする。
ロープが外れて、2頭のルエスは専用の退避壕に逃げていく。
その時には、高射砲が射撃を開始していた。
「俺達も逃げるぞ!」
2人は退避壕に向けて走り出した。退避壕に向けて走る際、彼はちらっと、北の空を見てみた。
既に上空に来ていた敵飛空挺が、猛然と対空陣地に向けて突進し、両翼から光を発した。
ミルクリンスの補給施設を襲ったのは、空母ヨークタウンと軽空母ベローウッドから発艦した75機の攻撃隊である。
「敵補給施設を視認!」
補給施設攻撃隊の指揮官は、ヨークタウンの艦爆隊長であるビリーズ・マルコム少佐である。
「確認した。全機に告ぐ、攻撃方法はBだ。繰り返す、攻撃方法はBだ。全機突撃せよ!」
彼は無線機を置き、目標を双眼鏡で確かめる。
物資集積所は、長方形の形をしており、種類ごとに区画に分けられている。
おおよそで、縦に200メートル、横に400メートルはある。
「1個師団分の量とか言っていましたが。この量からすると、1個師団どころではないですね。」
871 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 14:57:45 [ XwixsAvk ]
「君もそう思うか?」
発艦前のブリーフィングでは、この補給施設には1個師団分の補給物資が備蓄されていると聞いていた。
しかし、よく見てみると、写真で見たものよりどこか多いような感がある。
「1個師団どころか、下手すりゃ2個師団分はあるな。それはどうであれ、
俺達はあの蓄えられた物資に1000ポンドをぶち込む事だけ考えればいい。」
ヘルダイバーは、腹に1000ポンド爆弾を抱えている。アベンジャー隊は500ポンド爆弾を2発ずつ搭載している。
ヘルキャットは今回、爆弾は搭載していない。
75機の編隊が補給施設の上空に来るまで、そう時間はかからなかった。
高射砲弾が周りで炸裂する。8個の黒い煙が、攻撃隊の300メートル下で炸裂する。
その8秒後に、今度は上方1000メートルで炸裂した。
「やっこさん、慌ててやがるな。」
その時、ヘルキャット隊の隊長機が翼をバンクさせた。
その直後には、ヘルキャット隊が1機、また1機と、左右に別れて行く。
彼は再びマイクを取って、攻撃隊に指示を与えた。
「第1中隊はA区画、第2中隊はB区画、残りはC区画を狙え。アベンジャー隊は西のB区画側から爆撃を開始せよ。」
後続のアベンジャー隊が指示に従い、ヘルダイバー隊から離れていく。
ヨークタウン、ベローウッドのアベンジャー隊28機は、しばらく左旋回を行った後、補給施設に機首を向けた。
ヘルダイバー隊と交差する形である。
低空に舞い降りたヘルキャットが、周囲に散らばる対空陣地に向けて猛進する。
対空陣地に取り付けられている11.2ミリ機銃がヘルキャットに放たれる。
ヘルキャットは機を横滑りしてこれを交わし、距離700で12.7ミリ機銃を撃ちまくった。
6本の線が機銃座に近づくと、操作していた敵兵が慌てて逃げ出す。
872 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 15:00:59 [ XwixsAvk ]
ヘルキャットの機銃弾は、射手のいなくなった11.2ミリ機銃を容赦なく叩き壊し、周りに積まれていた土嚢を打ち砕き、周囲に飛び散らせた。
2番機は逃げ惑う敵兵に対して機銃を撃ったが、これは外れてしまった。
高射砲に襲い掛かったヘルキャットも、4機1組で順番に機銃弾を叩き込む。
とある高射砲座は、ヘルキャットの機銃弾が予備の砲弾に突き刺さり、操作要員もろとも吹き飛んでしまった。
また、ある高射砲座では、無数に受けた機銃弾で砲の操作機構が滅茶苦茶に叩き壊された。
一度逃げた操作要員が戻った時には、高射砲はただのどでかい鉄屑に成り代わっていた。
継戦側の兵が、怒りの形相でヘルキャットに機銃弾を撃ち込む。そして、何発かは翼や胴体に命中した。
落としたと思って笑おうとしたが、機銃弾を受けたヘルキャットは、なんともなかったように突き進み、
遠慮介錯無く12.7ミリ機銃をぶち込みんで11.2ミリ機銃と射手をただの残骸へと変えてしまった。
まだヘルキャットに機銃弾を撃ち込める者はましである。
中には、ヘルキャットの猛スピードに付いていけず、弾を空振りさせる者がいる。
スピードに付いていけないものが、大多数に上った。
そして、ヘルキャットが猛スピードで通り抜けていった直後、上空から甲高い音が響いてきた。
地上の継戦派の兵達は、誰もが上を振り向く。
高度3000メートルの上空から、ヘルダイバーが次々と、翼を翻し、急角度で突っ込んできた。
「2500・・・・2300・・・・2100・・・・1900」
後部座席の部下が、高度計を読み上げる。
マルコム少佐が直率する第1中隊は、表面が黒く塗られている区画を狙った。
1箇所と言っても、範囲は広いから、4機ずつが個別に投弾箇所を決めている。
マルコム少佐は、黒い区画の左上を狙った。
ヘルダイバーの両翼についているダイブブレーキが、空気を切り裂き、艦爆特有の甲高い騒音を振り撒いている。
高度が1200に達した時、地上から機銃弾が放たれた。だが、向かってくる火箭は少ない。
そのささやかともいえる弾幕をあっさり突き抜けて、ヘルダイバーは尚も急降下を続行する。
873 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/09/03(日) 15:04:10 [ XwixsAvk ]
「700!」
「投下!!」
その声と同時に、マルコム少佐は1000ポンド爆弾を投下した。
思い1000ポンド爆弾は、懸架装置によってプロペラの回転圏外に誘導され、放り投げられる。
一瞬、先頭部が陽光に当てられ、黒光りした。
爆弾は、くるくると回転しながら、黒い表面に向けてまっしぐらに落ちていった。
爆弾は黒い表面に突き刺さり、尾部まで深くめり込んだ。次の瞬間、爆弾は内部のエネルギーを解放した。
赤黒い爆炎が沸き立ち、何かの破片が巻き上げられた。
「爆弾命中!」
マルコム少佐が狙った黒い表面の木箱。それは、黒布に覆われた、長剣が詰められた木箱であった。
1000ポンド爆弾が爆裂するや、1箱10本の剣が箱ごと叩き割られる。
鍛冶屋が精魂込めて作り上げた長剣が、異世界の爆弾によって、100本単位で叩き割られ、捻じ曲げられた。
この区画には、1万1千本の長剣と、今は使用されなくなった騎士用の防具などが貯蔵されており、防具は鉄部分を溶かして、再利用される予定だった。
しかし、ヨークタウン隊のヘルダイバーは、その防具が送るはずであった、第2の変わった生を打ち砕いてしまった。
ヨークタウンの第1中隊12機が放った12発の1000ポンド爆弾は、黒い区画に満遍なく着弾し、叩き折られた剣や鎧の破片を上空に吹き上げた。
災厄は剣、防具の貯蔵場所だけではない。
退避壕の左300メートルには、表面が白い区画がある。そこは、ゴーレムの貯蔵場所であり、現在200体が保管されている。
その白い区画に、3機のヘルダイバーが突っ込んできた。
「畜生、対空陣地は何をやっているんだ!?」
退避壕の小さな窓から、若い1等兵が悔しそうに叫んでいる。3機の敵が指向しているのは、今さっきまで、自分達が貨車に運んでいたストーンゴーレムの保管場所だ。
「馬鹿野郎!窓から離れろ!破片に吹っ飛ばされるぞ!」
その時、別方向から爆発音が響いた。軍曹が退避壕の正面を見据える。