744 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/07/29(土) 19:12:47 [ XwixsAvk ]
「面白い人だな。うちの海軍も似たような人は何人かいるが、流石に大勢の前で無理矢理紹介させられる
事に関しては、少しばかり気が引くな。」
「うちの大将は新人やお客さんが来ると、いつもああやるんですよ。
まあ、それがきっかけで、昇進が遅れておったんですがね。」

髭面の男が自慢げに言ってくる。

「と言っても、本人は階級なんざどうでもいいと言いまくってますが。」
「なるほど・・・・・・まあ、そんな将軍もいた方がいいだろう。堅苦しい指揮官ばかりじゃ、鬱憤も溜まりまくるからな。」

彼はもう一口酒を飲む。まだ2口目だというのに、なぜか頭がくらくらしてきた。

10月1日 午前7時 第5艦隊旗艦戦艦ノースカロライナ
ノースカロライナの作戦室に、スプルーアンス大将はいつもと変わらぬ表情で現れた。

「お早う諸君。」

彼が言うと、幕僚やオブザーバー達が挨拶を返してきた。

「デイビス。補給作業は確か8時からだったな?」
「はっ、そうであります。」
「弾薬の余裕の無い艦を優先的に補給させるように言っておいたが、最初はどの艦から補給が行われる?」

デイビスは持っていた文書に目を通す。

「第4任務郡の軽空母ラングレーが最初に補給を受けます。」
「よろしい。対戦警戒、対空警戒はどうなっている?」

745 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/07/29(土) 19:15:49 [ XwixsAvk ]
「補給時には常時、40機のヘルキャットを飛ばし、エスコート艦の見張りを倍に増やしております。
補給船団のほうも、我が機動部隊の北方18マイル地点に迫っております。」
「予定通りだな。」

スプルーアンスは満足して頷いた。

「長官、第58任務部隊司令官のミッチャー中将から意見具申であります。」

作戦参謀のフォレステル大佐が、おずおずとした口調で言ってきた。

「ミッチから?具申の内容は?」
「ミッチャー提督は、墜落機のパイロット救出を行いたいと申しております。」

スプルーアンスは腕を組んで、少しばかり考えた後、

「ベルーク大佐。どう思う?」

彼はベルーク大佐に向けて言った。

「パイロットの救出・・・・でありますか?」
「そうだ。出来ると思うか?」
「救出は・・・・・・・難しいでしょう。」
彼は地図を指差した。
「ギルアルグには、継戦派の殲滅を逃れた革命側の部隊が多数残存しております。革命軍上層部では、
もし部隊の付近に艦載機パイロットを発見した場合はこれを保護せよ、と命令を送っています。
しかし、革命側の残存部隊は各地に分散していて、どこにいるのかも分からぬ状況です。」

746 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/07/29(土) 19:19:08 [ XwixsAvk ]
「では、出来ないと思うかね?」
スプルーアンスは表情を変えずに言った。
「革命軍上層部には、未だにパイロット救出の通信は送られておりません。現地では、継戦側の追撃が厳しく、
魔法通信を送ろうものならば、継戦側に察知される可能性があります。それを恐れて、魔道師は通信を
送って来ないのかもしれません」
「ふむ・・・・・・敵のボスはなんとか倒したが、その子分連中が未だに抵抗をやめないとなると、少し厄介であるな。」

「では、ミッチャー提督のパイロット救出の申し出は断りますか?」
「断らん。」
スプルーアンスは即答した。
「我々は2日後には全部隊が撤退する手筈になっているが、予定を変更し、一部の部隊をこのマリアナ沖に貼り付けさせる。
もし、ギルアルグの継戦軍が熱くなっている場合は、機動部隊の艦載機でその熱を冷ますことも出来る。
そうすれば、バラバラになった革命軍への視線も我々に向けられるはずだ。

彼は決心したように言い放つ。

「ミッチに連絡だ。具申了解。パイロットの救出作戦案申し込みを容認する。具体的な作戦内容は追っ手連絡する。以上だ。」
「分かりました。」
メモ用紙に文を書き写したアームストロング中佐は、すぐに作戦室から出て行った。

「1人でも多くの将兵を連れて帰る。これからはそれが、第5艦隊の主な任務になる。
諸君、まだ戦いは続いている。その事を肝に銘じていてくれ」

スプルーアンス大将は、幕僚達に向けてそう言った。



750 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 20:54:57 [ XwixsAvk ]
10月3日 午前7時 ラグナ岬沖北230マイル
空母ヨークタウンUの飛行長であるジョン・ピーターズ中佐は、格納甲板に降りてきた。
格納甲板に降りると、翼を折りたたまれた艦載機が駐機され、整備兵が機体を点検している。
彼を見かけた兵が敬礼し、彼は素っ気無い動作で答礼をする。
やがて、左舷中央部のハンガーに辿り着いた。
ハンガーの開口部には10人以上の兵が話し合っているが、どこか諦めたような表情である。
その兵達のリーダーらしき人物が彼を認めると、全員に直立不動の態勢を命じる。

「いい、休め。」

ピーターズ中佐は手を振ってそう言う。
彼は、背後のハンガーを見てみた。
30日のギルガメル諸島沖海戦で、ヨークタウンはこの箇所をバーマント機に突入され、損傷した。
その際、格納甲板にあったアベンジャー2機とヘルキャット1機が破壊され、ヘルダイバー3機が傷ついた。
しかし、被害は艦載機のみならず、開口部のハンガーと、下げられていた舷側エレベーターにも及んでいた。
ここにいる12人の将兵は、ダメージコントロール班のメンバーである。
彼らは被弾直後から、この損傷箇所の修理にあたっている。
しかし、彼らの表情からして、満足の行く成果は収められていないらしい。

「破孔は大分塞がっているな。」

ピーターズ中佐はダメージコントロール班の班長、ロイス・スフィスト少佐に向かって言う。

「ええ。とは言っても、開口部の右側にしか亀裂は入っていなかったので、後は大した損傷ではありませんでした。
その為、ここからここまでを溶接して、なんとか修理できました。」

彼は誇らしげに言う。だが、次の言葉を言う直前になって、表情を曇らせる。

751 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 20:58:28 [ XwixsAvk ]
「ですが、問題なのはハンガーと、あのエレベーターですよ。」
「難しいか?」
「難しいも何も・・・・・・・」

彼は移動してとある箇所を指差す。そこは舷側エレベーターの駆動レールであるが、レールが歪められ、寸断されている。

「これでは、自分達の手の施しようがありません。壊れ方が少しまずいですね。
溶接しようにも、あの状態で溶接したら、二次被害の原因になります。
缶ドックか、ハワイかサンディエゴあたりに持っていくしかないでしょう。」
「ハンガーも似たようなものか?」
「ハンガーはさらに酷いです。衝突と、火災の影響でハンガー自体、完全にオシャカですよ。これも本格修理が必要ですな。」
上を見てみると、ハンガーがあったはずの部分が、綺麗さっぱり切り取られている。開口部が上50センチ分広くなっている。
「そのまま放置すると、あとの作業に影響しますので、やむなくハンガー収納機ごと撤去しました。」
「意外に酷いものだな。」

彼は知らなかったが、ヨークタウンの左舷側エレベーターは、寮艦から見ると海側に傾いてみるため、
エセックス級独特の精悍な艦影が、エレベーターの傾斜によっていささか損なわれている。
軽巡サンファンの乗員は、いかにも修理待ちの空母だなと、言い合っていた。

「しかし、こんな酷いような損傷でも、先に逝ったランドルフやサンジャシント、戦線離脱を余儀なくされたビッグEよりはましですぜ。」
「確かに。本艦は空母としての機能はまだ生きているからな。
それなのに、舷側エレベーターがぶっ壊れたぐらいで不平を言っていたら、連中に申し訳ないな。」

ピーターズ中佐は頷きながらそう言った。

752 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:01:42 [ XwixsAvk ]
「要するに、ハンガーとエレベーターの修理はドックの連中に任せるしかない。そう言うことだな?」
「そうです。この事を艦長に報告しようとしたんですが、そこへあなたが来たんですよ。」
「ああ、そうだったのか。邪魔してすまないな。」
「いや、いいですよ。」

スフィスト少佐は微笑んでからそう言う。

(いくら優秀なダメコンチームでも、直せないものはあるのだ。)
「それでは、艦長に報告に行ってきます。」

スフィスト少佐は彼に敬礼する。中佐も答礼し、スフィストは足早にその場を離れていった。

「直せないものは仕方ない。ここしばらくは、ヨークタウンは格好悪い姿で洋上を走り回らないといけないな。」

彼は残念そうな口調で言う。

「中佐。」

ふと、ダメコンチームの水兵が語りかけてきた。

「なんだね?」
「昨日聞いた艦内放送で、墜落機パイロットの救出作戦を行うと言っていましたが、救出作戦は任務部隊全体でやるのですか?」
「詳しい内容は私も分からんのだ。しかし、任務部隊の一部は護衛艦艇の護衛に引き揚げて、海兵隊1個大隊を乗せた輸送船と、
護衛空母数隻が救出部隊と共にこの周辺海域に残されるらしい。」
「一部は引き揚げですか。任務部隊全体で行ったほうが手っ取り早いのでは?」
「俺もそう思うが、上の連中が考えている事だ。理解したくても、難しいよ。」

753 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:03:19 [ XwixsAvk ]
彼は肩をすくめた。
「色々決めるのはお偉方さ。俺達はそれに従うだけだ。」

そう言って、彼はその場から離れた。
飛行甲板に上がるまでに、彼は格納甲板を見渡す。

「・・・・・少なくなったなあ」

ふと、そう漏らした。
ヨークタウン・エアグループは、30日と、31日の海空戦で、合計29機の喪失機、修理不能機を出している。
現在、即時使用可能な艦載機は、ヘルキャットが28機、ヘルダイバーが20機、アベンジャーが18機である。
ヘルダイバー2機と、ヘルキャット3機は損傷が酷いため、今も修理中だ。
整備兵の話によれば、5機の中からあと1、2機は修理不能機が出そうだと話している。
今日の昼にはヘルキャット、アベンジャー各3機が補充されるから、可動機数は上がるだろう。
それでも、出撃時の100機搭載時と比べると、いささか戦力低下の見は拭えない。
(戦争とは、まさに消耗戦だな。いい奴も、悪い奴も。新人も、ベテランも。そして友人も居なくなって行く。
いくら我が合衆国が豊かとはいえ、これはどうしようもない)
脳裏に、ある友人の顔が浮かぶ。
(マッキャンベルの奴、なんで逝っちまったんだ。帰ったら一杯やろうと約束していたのに。)
彼はどことなく空しい思いがしたが、それをすぐに振り払った。

754 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:05:22 [ XwixsAvk ]
同日、午前7時 カウェルサント
視界がやたらに白い。
その白い光によって、頭の中がハッキリしてくる。
俺は白い光の先をよく見ようとした。

「・・・・・・・・・ここは?」
俺は寝ぼけながら、周りを振り返った。周囲は布が張られている。
すぐ右側には、ガラス瓶に入った水とコップが置かれている。
しばらくぼんやりとしていたが、俺はやっと思い出した。
「そうか・・・・・俺はバーマントの革命側に救助されて、このカウェルサントという所に連れて来られたんだったな。」
ふと、頭を横に2、3度振ってみた。
「頭痛は収まっているな。」
俺はなんとも無い事に安心した。ここに連れて来られた時、俺は調子に乗って酒を飲みまくった。
オイルエン大尉と肩を組んで大声で歌いまくった後の記憶がさっぱり無い。
その次に起きたのは翌日の昼が2時間も過ぎてからの事だった。
起きようとした時に、強烈な頭痛に思わず唸ってしまった。その日はたったの5時間しか起きてない。
5時間が過ぎた後、俺は頭を抱えながらまた眠り込んでいた。
翌日の2日には、頭痛は幾分和らいだが、少し痛かった。
その日は確か、代わりの服に着替えさせてもらって、今まで着けていた服は洗うといって、どこかに持って行かれた。
で、今現在も俺は服を返してもらっていない。
今着けているのは、上が茶色のTシャツのようなものと、下が毛深い黒いズボンのようなもの。
ここに住んでいる者たちが着けているのと似たような格好だ。
着け心地は意外に良く、すぐに気に入った。
2日はカウェルサントの砦内をぶらぶら歩き回るだけで、何もしていない。
オイルエン大尉に聞いたところ、この砦だけがカウェルサントではなく、他にも幾つか村があるらしく、それも全て含めて、カウェルサントと呼ばれているらしい。
村があるのなら、後々見に行きたいもんだ。
とりあえず、腹が減ったから何か食べなければ。

755 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:06:47 [ XwixsAvk ]
テントから出ると、外は静かだった。
外にいるのは当直の者しかいない。残りは、砦の中で何かをやっている。

「マッキャンベル中佐、おはようございます!」

この声は、

「ああ、オイルエン大尉か。おはよう。」
「酔いはさめましたか?」
「すっかり収まったよ。」
「ネイル酒はがぶがぶ飲みまくると、後が怖いですからね。
中佐にはそれを前もって注意しようと思ったんですが、その前に飲んじゃっていたんで出来なかったんですよ。」
「迷惑かけてすまんな。俺は調子に乗ると、とことんやりまくっちまうからね。
いつも気をつけるようにしてるんだが・・・・・まあ、俺もまだまだ未熟だな。」

畜生、あの日の事を思い出すと、恥ずかしくなっちまう。

「それよりも、メシでも食べないかね?」
「ええ、いいですよ。」

オイルエン大尉も腹が減ってるようだ。

756 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:08:34 [ XwixsAvk ]
今日の朝食はちょっといまいちだったな。

「マッキャンベル中佐・・・・・大丈夫ですか?顔が青いですよ?」
「大丈夫さ。変わった味だったね。」

もっとも、あまり食いたくない、と言うのが本音。
出てきた朝食は、卵焼きらしきものと、何かの肉だった。見た目はうまそうで、早速かぶりついた。
肉はなんともなかった。
だが、卵焼きらしきものが曲者だった。

この卵焼きもどき・・・・・物凄く苦いのだ。

あまりの苦さに、思わず吐いてしまいそうだった。
しかし、吐くのは失礼だと思って、俺は作り笑いを浮かべながら、なんとか食べきった。
量が大して少なくて良かった。皿一杯ではなく、4分の1しか量は無かった。
あれが皿一杯まんまであったら、恐らくまずさに耐え切れずにぶっ倒れていただろう。

それに対して、周りのバーマント人はばくばく食べやがる。俺がなんとか食べきった頃には、連中お代わりを要求していた。

「ルエスの卵焼きはどうでした?」

オイルエン大尉が聞いてくる。

「ま・・・・・まあまあだったかな?」

まずいって言っちまうとこだった。あぶねえ。

「かなり変わった味だったね。ステイツ(本国)ではあのようなもんは食った事が無い。」

757 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:12:35 [ XwixsAvk ]
「そうですか。ちなみに、ルエスってどんな物か教えましょうか?」
「・・・・・・いや、今はいいよ。」

どうせゲテモノの類の植物か、生き物だろう。ここはあえて聞かないことにしておく。

「ところで、大尉。砦の中には入れるのかな?」
「砦の中ですか?入れますよ。」

俺は砦を見てみた。
砦は5階建ての岩を削ったような建造物で、ざっと見たところ、高さが28メートル、横幅は80メートルという所だ。
砦と聞いているから、結構目立つと思っていたが、砦自体には迷彩が書かれていて、上空からは見えずらそうになっている。
といっても、高度が100メートル以下であれば、判別されるだろうと、オイルエン大尉は自信なさげに言っている。
まあ、無いよりはましというものだろうか。
砦の周囲には、丸太を切ってそのまま使用したような、木造の壁が直径500メートルの円を描いており、壁の少し内側は、
兵が上に乗れるように通路が敷かれていて、所々に一段高い櫓が作られている。
壁の外側には、約3メートルの堀があり、外敵を寄せ付けない工夫がされている。
元々は、この陣地は20年前に立てられた演習場で、ここで各種の訓練が行われたようだ。
3年前からは歩兵旅団の駐屯地として使われていた。その歩兵旅団というのが、今この砦に居座っている連中だ。
元々は第241歩兵旅団という部隊で、7000の兵を有していたものの、集結地でまさかの奇襲を受けて以来、部隊はバラバラになった。
そしてここに戻ってきたのが半分以下の2800人のみ。
残りはどこかに潜んでいるか、捕まるか、あるいは殺されたか、だという。

「じゃあ・・・・中に入って見ましょうか?」
「そうしようか。」
「案内は自分がしますんで。」
「よろしく頼むよ。」

758 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:15:11 [ XwixsAvk ]
砦の中は、複雑に入り組んでいる。時折、立ち入り禁止という札が書かれている(オイルエン大尉が字を読んで教えてくれた)部屋があった。
彼の話によると、立ち入り禁止の部屋には、武器類が納められているか、またはトラップの仕掛けた部屋があると言う事だ。
トラップか・・・・・・恐ろしいものだ。
とりあえず、自分達は1時間ほど各階を回って、今は最上階にいる。
28メートルの頂上からは周りが見渡せた。
周囲には3つほど村があった。砦から南西3キロの所に1つ、北西の所に1つ、そして後ろに当たる東5キロの所に1つだ。
特に後方の部落がどことなく大きく見えた。

「オイルエン大尉、3つの村には人は住んでいるのか?」
「住んでいますよ。でも、ここ最近、継戦側の動きが活発化していて、カウェルサントにも幾度か不審な人物が見つかっています。
ガルファン将軍は継戦側の侵攻が近いと見て、3つの村の住人に避難するようにおっしゃっていました。
今現在は村から人が避難しつつあるようです。」
「可哀相だな・・・・・・住人は合計で何人ぐらい居たんだ?」
「ざっと3000人ですね。こっちより少し多いぐらいです。」
「ってことは、村は空になりつつある、ということか。」
「そうですね。はあ、非番の日は村の酒場で飲んでいたんですが、それもしばらくはお預けですね。」
「何言ってるんだ。3日前、俺と浴びるほど飲んだじゃないか。それで満足だろう?」
「あれだけじゃ、ちょっと足りませんねえ。」

マジで残念そうな顔している。こいつ、3日前の宴会で俺と同じような量の酒を飲んでいるのに、翌日はやたらに元気だった。
恐らく、酒が強いタイプなんだろう。俺だって別段弱い方ではないのだが・・・・・・・
どこの世界にも酒好きな奴はいるものだな。

「味方が救援に来るまで、我慢したほうがいいよ。味方が救援に駆けつけた時に飲めば、酒は格段にうまくなるはずだぞ。」
「はあ・・・・そんなものですか?」

759 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:16:49 [ XwixsAvk ]
「そうさ。人間、楽しみは後に取って置いた方が、それを受け取った時に喜びも格段に大きな物になる。
それと同じさ。」
「なるほど・・・・・・・では、少しばかり我慢といきましょうか。」

そう言いながら、満面の笑みを浮かべる。
思うんだが、このオイルエン大尉はよく笑っている。それにどこか楽観的な風潮を漂わせている。
大雑把に言えば楽天的な奴だ。
この若い大尉と会って、まだ数日しか経っていないが、見た限りではこの大尉は楽天的な性格なのだろう。
しかし、若くして大尉という階級を貰っているのだから、楽天的な性格とは別に、しっかりした部分も持ち合わせているのだろう。
「しかし、村の住人が居ないとなると・・・・・村の散策出来なくなるなあ。
無理して行っても、人のいない所に言ってもつまらないし・・・・・・・・」

俺としては、周囲の村を見て回りたかったのだが、人が居ないのなら仕方がない。

「散策は取りやめにするか。」
俺は諦めてそう言った。

午後2時
昼飯を食べ終わってから、俺はオイルエン大尉に白、赤、青色の塗料が無いか聞いた。
大尉の答えはイエスだった。
それで、3色の塗料と、白い布を調達した俺は、時間を見てあるものを描く事にした。
ちなみに、昼飯にもあのまずい卵焼きが出てきた。
あんな強烈な苦味を味わうのは2度とごめんだと思った俺は、食欲が少し無いと言ってその場から離れた。
なんだかんだやって、今は再び砦の頂上に向かっている。

760 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:18:32 [ XwixsAvk ]
砦の最上階は、展望台のように周りが見渡せてなかなか良かった。
一目で気に入った俺は、時々そこを訪れる事にしている。
2回目とあって、俺も道順を覚えているから、今回は1人で最上階に上がった。
今頃、エセックスの仲間達はどうしているだろうか・・・・・・・
家族の事を考え始めた時に、最上階に出た。
おや?珍しい人が居る。
・・・・・・・いかんな。少し俺が苦手な奴が周囲の風景を眺めている。
イメインだ。
こいつは、俺達の機動部隊によって、弟が今も生死の境をさまよう重傷を負わされている。
というよりも、その弟が所属している第13空中騎士団が襲ったのは、同じ第58任務部隊でも、第3任務群だ。
俺のエセックスは第4任務群に所属している。つまり弟を酷い目に会わせたのは俺ではない。
げっ、こっちを向きやがった。いかんな、また据わった目つきに変わっている。

「やあ。」

とりあえず、元気そうに声をかける。
って、黙ってないで何か言え!

「ここから見る風景はかなりいいな。君もここがお気に入りなのかな?」

ひとまず、ここは動揺を感じられないように、平気なツラをして適当に言おう。

「ええ・・・・・お気に入りよ。それがどうかした?」

声に感情がこもってない・・・・・・・さっさと区切りをつけて切り上げたほうがいいな。
「別にどうもしないが。」
はあ、気まずい。
「ハッキリ言っておく。マッキャンベル中佐。あたしはあなたが好きになれない。どうしてだと思う?」

761 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:21:20 [ XwixsAvk ]
「別にどうもしないが。」
はあ、気まずい。
「ハッキリ言っておく。マッキャンベル中佐。あたしはあなたが好きになれない。どうしてだと思う?」
「君の弟を酷い目に合わせた敵の仲間・・・・・だからか。」
「ご名答。元気な姿で居た弟は、いつ覚めるとも分からない眠りについている。医者の話では、最悪、ずっと眠り続けるだろうと言われている。そんな風にしたのは、あんたらアメリカ軍。違う?」
「確かにそうだな。」

イメインの目、かなり怒っているな。
恐らく、内心では俺を殺したいと思っているのかもしれんな。怖い奴だ。

「イメイン、君は軍人だな?」
「そう。軍人よ。軍曹の階級も持っている。」
「俺も軍人だ。軍人は、敵と闘わねばならない。君の弟は、俺達の仲間の軍艦に爆弾を叩きつけて殺傷した。
そして弟も負傷し、意識がいつ戻らぬか分からない傷を負った。」
「・・・・・何が言いたい?」
「イメイン。これは戦争だ。戦いは相手を傷つけ、自らも傷つく可能性が高い。確かに弟は君と血の繋がった姉弟だ。
その弟が帰らぬ身になると言う事は考えなかったのか?」
「考えた。覚悟もしていた。」
「弟さんが酷い目に会ったことに関しては、同情する。だが、戦争とはそういうものだ。仕方が無いだろう。」
「仕方が無い・・・・確かにな。」

ん?剣に手が・・・・・まずい!剣を抜く気だ!糞、言葉がまずかったな。
懐に拳銃があるから、それを取り出して威嚇・・・・・・・なんてこった。彼女の長剣が首元にぴったりくっつけられている。

「あたしが、ここであんたを殺しても、仕方が無い。戦争とは復讐の連鎖でもある。違う?」
「分かっているな。その通りさ。君がこの剣を一振りすれば、俺は首が離れるだろう。だが、そうなる前に教えてやる。」
「何?」
「弟さんの話だが。俺はその場にいなかった。」

762 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:24:53 [ XwixsAvk ]
「何?」
「弟さんの話だが。俺はその場にいなかった。」
「はぁ?それはどういう事?」
「分かるかな・・・・・・とりあえず。俺達の艦隊は、第5艦隊と呼ばれる艦隊に所属している。」
「第5艦隊・・・・・あのビラに書かれていたあんたの所属する異世界軍だな。」
「そう。俺達は第5艦隊の第58任務部隊と呼ばれる部隊に所属している。君も高速機動部隊という名は聞いたことはあるだろう。」
「ある。」
「その高速機動部隊は4つに分かれている。第58.1任務群、2任務群、3任務群、4任務群。
それぞれが空母4隻を主力とする独立した機動部隊だ。俺はその第4任務群の空母に乗っていた。
ちなみに、弟さんらに襲われた艦隊は第3任務群だ。」
「・・・・・・と、なると・・・あんたはその場にはいなかった。という事?」
「そうだ。俺達は第3任務群より30キロ離れた海域に居たから、何の異常も無かった。
つまり、俺は弟さんには何も手は出しては居ないのさ。」
どうせこれだけ言っても分からないだろう。
こんな頭でっかちの犬女には、母艦部隊を直接見せる意外、話がわからんだろう。
それにしても、味方である革命軍にやられるとは・・・
ん?剣が首筋から離れた。で、鞘に戻した。
「あたしから見れば、アメリカ軍のパイロットは全員、弟の仇に見えるね。でも、あなたは弟の仇よ。」

無愛想な表情で言いやがる。アメリカ人は軍艦に帰れって奴か。

「仇ね。そう思われるとは、俺達の第5艦隊も落ちたものだな。」

ふんっ、て鼻を鳴らしながら帰っていく・・・・・・畜生、海に放り込んでやりたいぜ。

「言っておくけど、あなたを殺す気なんて、無かったよ。少し、試させてもらっただけ。」
「試・・・・・させたあ?」
「そう。あなたも意外と度胸があるのね。まあ、あなたも戦闘飛空挺乗りだから、結構死線をくぐってきているみたいだらか、度胸はついてるんだろうけどね。」

一瞬、笑ったように見えたが、また嫌そうな表情に戻った。
この女、結構な食わせ物だな。それに度胸もいい。オイルエン大尉が頼りにするのも、どこか分かるような気がする。

763 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:27:07 [ XwixsAvk ]
1098年 10月3日 午後3時
目の前に、焼け爛れた1機のヘルキャットがあった。

「これが・・・・・・・あの白星の悪魔か。惨めな姿だ。」
「味方戦闘飛空挺の攻撃、または対空砲によって傷つき、ここまで飛んできたのでしょう。」

ヘルキャットの周囲には、調査班が現場検証を行っている。
マルガ・ザルデイグ少将は、調査班班長の少佐と共に、このヘルキャットを眺めていた。

「調査の結果、おおまかな事が分かりました。まず、あれを見てください。」

彼は、ヘルキャットの機尾部分を指差す。そこから数百メートルにわたって、地面が抉れている。

「地面が抉れておるな。」
「はい。どうやら、この敵飛空挺は胴体着陸を行ったのでしょう。
恐らく、胴体着陸時に欠損した翼部分から燃料が漏れ出し、引火爆発したようです。」
「中の奴は死んだのか?」
「死体らしきものは見つかっていません。逃げたか・・・・・もしくは骨も残さずに燃えたか。どちらかでしょう。」
「後者であればいいのだがな。蛮族の丸焼きが1つ完成することになる。」

そう言って、陰険そうな笑みを浮かべた。

「それにしても、なぜ東から来るようになっとるのだ?ギルアルグは西にある。」
「原因としては、あれでしょうな。」
彼は指差した。西のほうには、小高い丘が所々浮き上がっている。
「西からはあのように、丘や山があるので、着陸場所には適していません。
しかし、北の山をぐるりと一周すれば、東の平坦部に出る事が出来ます。
恐らく、パイロットはそれを知った上で、胴体着陸を行ったのでしょう。」

764 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/03(木) 21:28:31 [ XwixsAvk ]

「ふむ。それなら、あのように地面が傷つく事も説明ができるな。」

その時、伝令がやってきた。

「ザルデイグ少将でありますか?」
「そうだ。わしだ。」
「第1連隊はヌーメアに到着いたしました。」
「カウェルサントにはいつ頃着きそうか?」
「あと1日ほどでしょう。」
「分かった。下がってよろしい。」

伝令は敬礼を行ってから、その場を離れていった。

771 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:41:47 [ XwixsAvk ]
1098年 10月3日 午後7時 オルフォリゲンスク
ゼルネスト・パルンク騎士中将は、オルフォゲリンスクの基地に戻ってきた。

「司令、お疲れ様です。」

指揮所に入ってくると、飛行隊長のクランベリン少佐が出迎えてくれた。

「ああ、ただいま。」

そう言って、彼は深いため息をついた。どことなく顔色が冴えない。

「作戦会議はどうでしたか?」

主任参謀であるバーキリアン中佐が質問してきた。

「どの司令官も、ショックが残ってた。ただ、自分で決めた信念をひたすら貫く。
そんな思いで一杯だったな。」

この日、オルフォゲリンスクより南西60キロにあるクアイオルグで、継戦派の主だった司令官が集まった。
クアイオルグには、ヴァルケリン大将の総司令部(住居も兼ねている)があり、大将が直々に皆を呼び出したのである。
午前11時までには各司令官が集まり、作戦会議が開かれた。
会議の題目は、敵輸送船団の対処と、アメリカ空母部隊への対策。そして革命軍への対抗策の立案である。
しかし、会議が始まって20分が経った時、会議室に深い衝撃が走った。
それは、海竜情報収集隊が送ってきた情報だった。

「敵輸送船団は、空母部隊に対して補給を開始せり。輸送船団に兵員輸送船はあらず。全て補給船、補助船であり」

772 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:45:21 [ XwixsAvk ]
会議の最初の要目は、敵上陸部隊に対する作戦を考えるものであったが、この情報では兵員輸送船はいないと伝えている。
つまり、継戦側は存在しない上陸部隊に怯えていたのである。
それはとにかく、題目の1つ目はこれによって議論の必要が無くなり、すぐに2つめの題目に議論が移された。
2つ目の題目は、現在消息不明であるアメリカ機動部隊の対処法である。
マリアナを巡る防衛線で、継戦側はこの機動部隊に対し、かなりの打撃を与えたと確信している。
それでも、敵飛空挺がどこから襲ってくるかわからない。
この敵機動部隊に対しては、各基地の対空見張りや、対空火器を強化すること。
または、敵空母の戦力が少ないときにはパルンク中将のワイバーンロード部隊で奇襲を仕掛け、撃退することで合意した。
3つ目の革命軍に対する対抗策としては、南東に集結中の革命軍部隊に対して、構築した防衛線を放棄。
その後、後部の山岳地帯に後退して革命側の侵攻部隊を迎撃する。
一方で、グランスボルグ地方に残っている革命軍残党部隊は、後顧の憂いを絶つため、早々に捜索、殲滅することで合意した。
会議が終わったのは午後4時であった。

「そうですか。」
「うむ。今後の計画は、会議で合意した内容に基づいて立案する事が決められたよ。」

パルンクは机に座って、書類を取り出した。

「敵上陸部隊が来なかったのは・・・・・良いと言うべきか、悪いと言うべきか。」
「閣下に言われて、作っておいた上陸部隊襲撃案は、これでボツということですな。」

バーキリアン中佐は、顎鬚を撫でながらそう呟いた。

「本当ならば、こんな襲撃案も、今日行った作戦会議も・・・・・・無かったはずなのだが。」
椅子から腰を捻り、すっかり暗くなった夜空を見つめた。
「今頃は、敵の蛮族共をエンシェントドラゴンのブレスで焼き殺し、自分達の国をやりたい放題に作ってやると、
そんな言葉が交わされるような宴会が行われていたはずなのに、現実では大魔道院が崩落し、エリラ殿下が自らの血の海に沈んでいた。
このような事態を、誰が予想したと思う?」

773 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:48:06 [ XwixsAvk ]
9月31日 午後7時・・・・・・・・・・・それは、唐突に送られてきた。

「マリアナから魔法通信です。」

その時、パルンクはマリアナからの通信が途絶えた事にやきもきしていた。
苛立つ事1時間、やっと情報が入ってきたのである。

「紙を見せてみろ。」

彼は魔道将校から紙を渡すように命じ、その将校は従った。
ふと、その将校の顔色が真っ青になっている事に気がついた。
(・・・・・・・まさか!)
そう思いながら、紙を見てみた。

「大魔道院は崩落、エリラ・バーマント殿下は、敵飛空挺の銃撃によって戦死。」

何かが崩れ去るような音がした。頭の中は真っ白になり、しばらくは何も考えられなかった。
10分ほど沈黙した後、彼はようやく事態が飲み込めた。
大魔道院は強固な防御魔法で覆われており、その防御魔法は数百年に1度にしか見られないほど、
完璧かつ強固なものであると言われている。
敵の空襲などは簡単に防げると思われていた。だが、相手が違いすぎた。
確かに前半戦はそのように上手くいった。しかし、敵は圧倒的多数の航空機を持って、執拗に反復攻撃を繰り返した。
そして、完璧であったはずの魔法防御は、敵の「物量」に屈してしまったのだ。
それも、最高指揮者の戦死というおまけもついて・・・・・・・・・
20分後、継戦派ナンバー2であるヴァルケリンが、継戦派の指揮をこれから取ると書かれていた。
同時に、今後も革命軍やアメリカ軍上陸部隊に対して徹底抗戦すると、魔法通信によって各部隊に伝えられた。

774 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:50:15 [ XwixsAvk ]
「3日前の出来事だったが、あの時ほど時間の流れを遅く感じたことは無かった。」
「流れ・・・・・ですか。」

バーキリアン中佐はかみ締めるような口調で言う。

「魔法ばかりに頼る時代は、もう終わったのかもしれん。そして、ワイバーンロードも。」

クランベリンがうっと小さく声を漏らした。

「飛空挺・・・・・空母・・・・・この2つを持つ者がどのような成果を挙げるか。
私達はこの一連の戦いで見せ付けられたような気がする。高速で海上を機動し、好きな所を
飛空挺で気の済むまで叩ける艦隊。高速機動部隊・・・・・・か。
本当に、ヴァルレキュアはとんでもないものを召喚してくれたものだ。」

彼は自嘲しながら、苦笑を浮かべた。

「バーキリアン、クランベリン。」

パルンクは2人の名を呼ぶ。

「これからカウェルサント攻撃について話をしたい。」

10月4日 午前5時 カウェルサント
どうも外が騒がしい。あちらこちらで叫び声や何かを運ぶ音がする。
外の騒がしさに目を覚ました俺は、テントから出てみた。
そこここに、甲冑や戦闘服を着込んだ兵隊がいて、木箱や物資を運んでいた。
ただならぬ雰囲気が流れている。通り過ぎる兵の誰もが、緊張に顔を歪めている。
俺はこのような表情を、エセックスに乗っていた時に何度も見ている。

775 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:54:37 [ XwixsAvk ]
そう、戦闘が近いのだ。

「マッキャンベル中佐。」

背後から聞き覚えのある声が上がった。だが、オイルエン大尉ではない。
振り向くと、オイルエン大尉の副官であるシャルカ・ヌーメラー中尉が走り寄ってきた。

「ヌーメラー中尉か。なんか砦全体が、かなり殺気立っているような気がするが。」
「実は、ヌーメアの町に継戦派の部隊が進出してきたのです。」
「なんだって!?」

思わず驚いてしまった。

「もしかして、ここに向かっているのか?」
「そうで。ヌーメアには1個連隊2400人ほどが進出しており、その部隊の一部は4時間前にヌーメアを出発したようです。」
「なんでここが狙われたんだ?」
「私の推測では、カウェルサントにいる部隊はグランスボルグに点在している他の革命軍部隊と比べて、規模が多い。
近々、革命軍本隊が侵攻してくる。それまでに、継戦側は後顧の憂いを絶つため、革命側残存部隊を殲滅しようと考えたのでしょう。
その手始めに制圧するのが、ここカウェルサントというわけです。」
「革命軍本隊が集結中の南東にはいけないのか?」
「南東部には2万以上の継戦側の部隊が、侵攻してくるであろう革命軍部隊に備えて待機しています。
それ以前に、南東部には長大な山岳地帯があり、南東部へ抜けるには、この山岳地帯を抜けなければなりません。
しかし、自分達の装備は山越えに必要なものはありません。山越えは、達成できるでしょう。
その後は待機している継戦側部隊に頭から突っ込む事になります。」

厳しい表情浮かべて、彼は言った。

「現状では、このカウェルサントで敵を叩けるだけ叩いて、一度引いた時に北東部に逃れるしかありません。」

776 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 20:58:49 [ XwixsAvk ]
「そうなのか。」
「でも、すぐに負けはしません。」
「すぐに負けないだと?どうしてそれが言える。」

ここにいる革命軍は2800人しかいない。それに対し、敵は確認されている1個連隊だけとはいえ、2000人以上いる。
敵はこれだけではない。師団単位で攻めてくるであろうから、少なめに見積もっても8000人、多くて1万人はいるだろう。
敵は、戦場の常識である、攻める側の必要兵力は守る側の3倍の法則をしっかりとクリアーしている。
4倍から5倍近い相手では、すぐにもみ潰されるだけじゃないのか。

「自分達は、たった2度だけですがゲリラ行動も行っています。それに、付近は自分達の庭みたいなものです。
敵戦力の完全撃滅とまではいけないでしょうが、大いに引っ掻き回したやることなら、なんとか可能です。」

まるで先生のような口調で言ってくる。うちの総大将と似たような話し方だな。
さっきからずーっと無表情だ。でも、心なしか、結構自信があるような口調だ。

いや、元々、彼らはこの砦付近に駐屯していた部隊だ。訓練などで周囲を見て回っているだろうから、土地勘はある。
なるほど・・・・・大軍で迫る敵に対して、地の利を生かしたゲリラ戦法で敵の側面や後方を突くというわけか。
それならば、ヌーメラー先生が自信ありげに言うのも納得がいく。
敵の腕前はどんなものかは分からないが、彼らほどこの土地の周辺を知り尽くしている訳ではない。
だったら、後に行われるはずの戦いでは、地の利に関してはこちら側が結構有利かもしれない。

「なるほど。」

ふと、俺はある疑問が沸き起こった。なぜ、彼らは同じバーマント人なのに、継戦側の事をいともあっさりと敵と認識できるのだろうか?
「ちょっとおせっかいな質問かもしれないが、聞いていいか?」
「自分が答えられる範囲なら。」

777 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 21:01:54 [ XwixsAvk ]
「なんで、君達は同じバーマント人なのに、継戦側のことをはっきり敵と認識できるのか?
普通なら、敵といっても多少ためらうはずだが。」
「同じバーマント人ですよ。一応はね。」

ヌーメラーは含みのある言葉を言った。一応?

「正確に言えば、“20年前からは”と言ったほうがいいですね。
元々、自分達はライルフィーグ王国という国の国民だったんです。」
え?ライルフィーグ?
「何だと?初めて聞いたぞ。その話は。」
「あなたには、なるべく言いたくはなかったのですが。」

ヌーメラーは声のトーンを落として言ってきた。俺のようなよそ者には、あまり話したくなかったのだろう。

「20年前、ライルフィーグはバーマント公国に強引に併合されたのです。きっかけは、バーマント皇帝の
たんなる領土拡張のためだったんです。ライルフィーグの当時の国王陛下は、併合か、戦争かの選択を迫られましたが、
7000万の人口を誇るバーマントに対し、ライルフィーグは・・・・・・たったの100万の民しかいませんでした。
国王は断腸の思いで、ライルフィーグをバーマントに明け渡したのです。」
「もしかして、ヌーメアで亡くなった人達も」
「彼らもバーマント人ではありません。僕たちと同じように、ライルフィーグの国民であったもの達です。」

それで、無差別にヌーメアの町を焼き払ったのか。虐殺好きな継戦側のやりそうな事だ。

「今回、ガルファン将軍がカウェルサントの住人達を避難させたのも、ヌーメアの二の舞を避けるためです。」
「住人達を避難させたのは正しい判断だよ。そうでなければ、戦闘に巻き込まれる危険が高いからな。
それにしても、君達がバーマント人ではなく、併合された国の国民だったとは・・・・・正直、驚いたね。」

778 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 21:03:16 [ XwixsAvk ]
「ヌーメアから東のパレイラまでは、元々ライルフィーグ王国の領土でした。
ヌーメア、パレイラ間までは、住人はほとんどがライルフィーグ人ばかりです。
バーマント人は少数のみです。」

その時、オイルエン大尉がやってきた。

「ヌーメラー中尉、全員集まったか?」
「はい。いつもの場所で集合しています。」
「よし。出発するぞ。あっ、マッキャンベル中佐。おはようございます。」
「おはよう。朝っぱらからやけに賑やかだから、思わず目が覚めちまったよ。」
「まあ、賑やかなのは違いないですけどね。それでは中佐。自分達は急いでいるので。」

そう言って、彼らは直立不動の態勢を取って、手のひらを左胸にピシっとあわせた。

これが、彼らバーマント軍の敬礼の仕方だと言う。

「大尉、無茶するなよ。」

そう言いながら、俺もいつもの敬礼をした。

「大丈夫です。これでも不死身野郎とあだ名されてますからね。ヌーメラー、行くぞ!」

彼はヌーメラーを引き連れて、俺のもとから離れていった。

恐らく、ヌーメラーの言っていた撹乱作戦に参加するのだろう。彼らには生き延びて欲しい。
無意識のうちに、そう思った。

779 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 21:05:48 [ XwixsAvk ]
10月4日 午前8時 マリアナ沖270マイル地点
「旗艦より入電。救出部隊の指揮を任せる。」

第4任務群司令官である、ウイリアム・ハリル少将は、通信士官が読み上げる声を黙って聞いていた。

「旗艦に返信。我、必ずや戦友を救出する。以上だ。」
メモを取った通信士官が、艦橋から出て行った。
「救出部隊の名にしては、どこかを占領しに行くような編成だな。」

ハリル少将は、エセックス艦長のオフスティー大佐に話しかけた。

「占領と言っても、機動部隊の艦載機のみでは、爆撃だけしかできませんよ。
上陸部隊はいるにいますが、1個大隊のみですからねえ。」

第5艦隊司令部は、30、31日の海空戦で、墜落した艦載機のパイロットが、マリアナ、ギアルグ周辺
でパラシュートを使って脱出した事を確認していた。
報告だけでも、20以上あり、そのうちの大多数がマリアナ周辺の山岳地帯や、ギルアルグ周辺の森林地帯に逃げ込んでいると思われている。
第5艦隊は1人でも多くのパイロットを連れて帰るため、艦隊の一部を引き抜いてパイロット救出を行う事を決定した。
救出作戦を行うと同時に、継戦側の抵抗意欲を喪失させるため、残った敵拠点への捜索爆撃が行われる事になった。

救出部隊は、第58任務部隊の2個空母群と第52任務部隊のタフィ2。
そして海兵隊1個大隊を載せた輸送船と、弾薬運搬船、給油艦を含む支援部隊8隻である。
救出作戦の際、主役になるであろう空母部隊は、第58.1任務群と第58.4任務群である。

780 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 21:06:20 [ XwixsAvk ]
救出部隊配置図

                                           
                        ブリュンス岬                                  
      TF58.1                     ソヽ                                    
      ●                   ミ ° ゝ                           
           TF52.tfi2 TF58.4    丶    ヽ                            
ゝ   ヾゝゝ    ●     ●      ゝ     ヽ
 ヽ、!)   ゝ                 丶    ゝ
        丶丶丶丶丶丶丶   ゝヾ丶      丶
                  ヽ丶丶         丶丶丶ヽヾゞ
    ○マリアナ       。ギルアルグ                 \  ヽ'’'〜丶
                                        ヽヽ    丶ゞゝヽ丶
 

     グ ラ ン ス ボ ル グ 地 方

781 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/06(日) 21:07:14 [ XwixsAvk ]
空母は正規空母がヨークタウン、ホーネット、エセックス。
軽空母はバターン、ベローウッド、カウペンス、ラングレーである。
これに戦艦サウスダコタとワシントンを始めとする各任務群のエスコート艦が空母の周囲を固めている。
艦載機は7隻合計で409機が使用でき、もし敵対勢力を発見した場合は、これらが攻撃を行う。
救出作戦は、主に2つの海域に展開してから行う事が決定された。
まず、第58.1任務群は、ラグナ岬北方70マイルに進出して、偵察機を発艦させる。
次に、第58.4任務群がギルアルグ沖北方80マイル付近に進出し、同じように偵察機を内陸に向けて発艦する。
第52.タフィ2は、支援艦隊と共に第1、第4任務群の昼間海域に待機し、いつでも支援ができるようにする。
万が一の場合は、輸送船上の海兵隊1個大隊を、奇襲部隊として継戦側にぶつけ、地上軍と空母艦載機で打撃を与える事も視野に入れられている。
各空母の弾薬庫は、2日前に行われた補給で再び満杯になっており、艦載機もいつでも発艦できるように、整備済みである。

「これより、第4任務群はギルアルグ周辺海域に進出する。艦隊針路を東に変針。」
「アイアイサー。」

やがて、遊弋していた第4任務群の各艦は、ギルアルグの北方80マイル付近に舳先を向けた。

784 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:38:53 [ XwixsAvk ]
1098年10月4日 午前10時
バーマント陸軍第77歩兵師団は、先頭の第1連隊をまずカウェルサントに向け、出撃させた。
第1連隊は2500人の将兵から成っている。彼らは3日の夜にヌーメアを出発した後、ひたすら東に向かった。
連隊は大きく3つの方向に別れ、それぞれの大隊が距離1キロの間隔を取って進撃を続けている。
カウェルサントの西10キロには、革命側の防御陣地があると報告されている。
第1連隊の連隊長であるイアム・ワフィムル大佐は、そこからさらに西北3キロにある高さ70メートルの
高地に砲兵中隊を布陣させ、準備砲撃の後に部隊を突入させようと考えた。
午前10時にはカウェルサントまで18キロの位置に到達した。
左翼(北側)の第3大隊に所属する砲兵中隊は、ポールレントと名づけられた目標の高地へ向かうため、2個小隊に護衛されながら部隊から離れた。

午後2時40分 ポールレント高地
砲兵中隊は、開けた高地に大砲の砲列を敷き終えた。

「ヴィキク大尉、砲の設置が完了いたしました。」

砲兵中隊の中隊長であるヌクキュビ・ヴィキク大尉はそれを聞いて、満足そうな表情を浮かべた。

「素晴らしい。さすがはベテランの砲兵部隊だ。動きがいい。」
「ありがとうございます。これも日々の訓練の賜物です。」
「さて。森の陣地でうずくまっている革命派の連中に渇を入れよう。砲撃準備用意!」

彼の号令が高地に木霊する。
砲兵中隊の各将兵は、急ぎで行われた設置作業に疲労の表情を浮かべていたが、
その疲れが吹き飛んだかのように、素早く動いた。
彼らが操作する大砲は、13センチ口径のKIB−21と呼ばれる砲である。
この大砲は砲身の全長が5メートルで、砲弾を9キロ先まで飛ばす事が出来る。

785 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:40:50 [ XwixsAvk ]
このKIB−21は、東海岸にも配備され、サイフェルバン奪還作戦の時には地上部隊と、
要塞に配置された砲がアメリカ軍の砲兵部隊や、第5艦隊の砲撃部隊と撃ち合っている。
砲はKIB−21だけではなく、KIB−12と呼ばれる7センチ砲も配備されている。
この7センチ砲も7.2キロ先の敵を撃つ事が出来る。
KIB−21が6門、KIB−21が8門。計14門の大砲が、3キロ先の革命派の陣地に照準を合わせている。
最も、森に覆われているため、大体の位置しかつかめていない。
そのため、この砲撃はめくら撃ちに近い形となる。
それでも、割り当てられた区域を満遍なく叩けば、敵陣地にも被害を与えられると、ヴィキク大尉は確信していた。
それぞれの砲に、50発の砲弾と適量の装薬が割り当てられる。
各砲には4〜6人の兵がつき、砲弾の補充や照準を合わせている。
そして10分が過ぎた。

「大尉。砲撃準備が完了いたしました。」
「よし、撃て!」

ヴィキク大尉は鋭い声音で命じる。直後、14門の大砲が一斉に火を噴いた。
やや間を置いて、3キロ先の森に白煙や黒煙が吹き上がった。
待機していた装填係がすかさず行動し、合図と共に砲弾を込め、装薬を放り込んだ。

ドオン!ドオン!
砲声が断続的に聞こえてくる。
「砲撃を始めたな。」
砲兵中隊の護衛を行っている小隊の兵士は呟いた。
彼は疲れていた。何故疲れているのかと言うと、彼も砲の設置作業に加わったためだ。
ヴィキク大尉は、自分達の中隊のみならず、警護の兵をも無理矢理動員して設置を急がせた。

786 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:43:47 [ XwixsAvk ]
そのため、比較的短い時間で設置は終わったものの、警護役である2個小隊の将兵達は疲れていた。
作業終了後、ヴィキク大尉に対する不満の声が、2個小隊の兵達から上がったのは言うまでも無い。

「攻撃開始まで、あと30分もあるというのに、そんなに早く攻撃する必要があるのかねえ」

兵士は苦りきった表情でそう言った。
砲兵中隊指揮官であるヴィキク大尉は、兵達からは出世欲しか無い将校とみなされている。
ヴィキク大尉はその通りの人物である。
他の上官や同僚に取り入っては、対立している者の秘密をばらして失脚させ、自分がその階級に進級する、と言う事が2度もあった。
本来ならば、彼は少尉、良くても中尉のはずなのだ。
なぜか世渡り上手のヴィキクは、23歳の時に少尉だったのに、26歳の今では大尉の階級を得ている。
彼に関する悪い噂はこれだけではない。
彼は気に入らない部下を見ると、何時間もネチナチと、言葉でいたぶるのである。
粘着塗料のようにいつまでも文句を言われた兵は、説教が終わる頃には、その日一日、心が荒れ果てて、後の業務に支障をきたしている。
この事から、ヴィキク大尉は部下達から影で“粘着荒らしのヴィキク”という不名誉なあだ名を頂戴している。
だから、2個小隊の兵達が最初に文句を言わなかったのは、“粘着荒らし”に逢わないようにするためである。
その部下達から嫌われているヴィキクの砲兵中隊は、革命派の陣地に向けて、盛んに大砲を撃ちまくっている。
最も、この砲撃は脅しの目的であるため、さしたる効果は与えられないだろうと誰もが思っていた。

「ヴィキク大尉が、東海岸戦線に投入されてれば、あの砲兵中隊の奴らも不幸な目に会わずに済んだのに。別の部隊でよかったもんだ。」

微かな幸せをかみ締めているその時、いきなり背後から誰かに羽交い絞めにされた。

「うっ!―――――――――――――!」

口を押さえられて言葉が発せない。顔は強引にやや右に向けられている。

787 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:46:08 [ XwixsAvk ]
その視線の先には、戦闘帽を被った犬耳の女、いや、冷酷な殺戮者の顔があった。
次の瞬間、首に激痛が走ったかと思うと、女の後頭部が視界に入った。
(首とは、こんなにも回せるものなんだな)
彼が意外な関心を思ったとき、視界は真っ暗になった。
敵兵の首をへし折ったイメインは、それが息絶えた事を確認すると、姿勢をかがめ、手をあげた。
後ろから9人の仲間たちが続々と出てきた。
仲間達が反ろうと、イメインは静かな声音で話し始めた。

「ここから400メートル行った所に、敵の砲兵陣地があります。ここの見張りはこの死体だけですが、陣地に近づくにつれて厳重です。」
「厳重か。それなら、暴れ甲斐があるというものだ。」

オイルエン大尉は、午前5時ごろにカウェルサントを出た後、他の班と共にこの高地に向かった。
現在、この高地には40名の撹乱部隊がおり、それらが攻撃開始の合図を、所定の位置でじっと待っている。

「敵戦力は、砲兵1個中隊に歩兵2個小隊です。見た限りでは、見張りの2個小隊は作業の疲れが
完全に取れてはおらず、注意も散漫になっています。」
「それなら、やりやすくていい。みんな、いいか?」

彼は振り返って言う。誰もが早くしてくれといわんばかりの表情だ。

「よし、各員、散開して敵を仕留めろ。以上!」

オイルエン大尉はたったそれだけを言うと、皆がどこかに散らばっていった。
イメインは振り返り、そのまま、まっすぐ歩いた。
彼女は2メートルほどの高さの岩に隠れた。そして、そっと見てみる。
20メートル右方向の木に2人。その10メートル先に2人がいる。
警備らしい警備は行っていない。それどころか、談笑さえしている。

788 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:48:03 [ XwixsAvk ]
(お気楽なものね・・・・・・・でも)
彼女は越の革ベルトから、4本のダガーを取り出した。刃渡りが10センチの投擲用の刃物だ。
岩に背を預け、一呼吸する。
刹那、彼女は岩から右横に飛び出した。
(それが命取りとなる!)
両手に2本ずつ持ったダガーが、右手、次に左手から放たれた。
気楽な表情で談笑をしていた男性兵2人が、彼女を見て呆然とする。その首もとや、顔面にダガーは容赦なく突き刺さった。
目標奥深く突き刺さったダガーは、目標に対して致命傷を与えた。30メートル先の別の2人にも、胸や腹にダガーが突き刺さった。
気の側に居た2人は即死であったが、第2目標の2人のうち、1人は致命傷とならなかった。
すかさず走り寄る。腹にダガーを突き立てられた兵士は、しばらくは何も叫べなかったが、イメインが近づくなり、絶叫を上げようとした。
しかし、それよりも早くイメインが寄ってきて、喉もとをナイフで切り裂く。
兵士は吹き出る血を抑えようと、喉もとを両手で押さえて、のた打ち回ったが、その行動は結果的に実らなかった。

ダガーが突き立てられて2分後に、その兵士は出血性ショックで死亡した。
彼女はすぐに次の行動に移る。
土手を越えると、なだらかな斜面があり、その下に10人ほどの兵士が散らばって警備にあたっている。
最初の1人に目をつけたイメインは、背中にかけていた小銃を手に取り、狙いをつける。
うつ伏せに姿勢をとり、目標に照準を合わせる。
パーン!という音が鳴り、60メートル先で彼女に背を向けていた男性兵が、銃弾を受け、胸から血を噴き出した。
残りが銃声に反応し、あたりを見回そうとする。イメインは2人目の女性兵に照準を代え、銃弾を放つ。
銃弾は見事に額に命中し、後頭部を吹き飛ばした。
わずか6秒で2人も打ち倒された敵側は、その場に伏せる。
そのため、イメインの3発目の銃弾は、3人目に当たることなく、空しくかわされた。

「あそこだ!あの土手の上を撃て!」

彼女が狙った、指揮官らしき男がそう叫ぶと、残りが一斉に小銃を撃ってきた。

789 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:49:24 [ XwixsAvk ]
イメインは上げていた頭を下げる。銃弾の唸り声がいくつも近づいては過ぎ去っていく。
銃弾が土手の下側に着弾し、土を跳ね上げた。
姿勢を起こして、彼女は4弾目を撃った。銃弾は指揮官の手前に着弾した。

「これはちょっと不利ね。」

そう呟いた彼女は、土手の後ろに転がりながら、その場を離れた。

「敵が居たぞ!逃がすな!!」

殺気立った声が聞こえてくる。それを無視して、イメインは土手より数メートル後方の木に隠れた。
隠れる間に、予備弾薬袋から銃弾2発を補充する。
土手の上に2,3人の敵兵が現れた。素早く木陰から姿を現し、その2、3人に向けて5発全弾を叩き込んだ。
半ば乱射に近い撃ち方だったが、それでも2人を射殺した。

「野郎!ぶち殺してやる!」

逆上したもう1人が小銃を撃って来る。イメインは鮮やかな動作で左に避ける。
避けると同時に、10メートル手前の相手に1本のダガーを放った。
惜しくも敵兵の顔を掠めただけであったが、相手は射撃を中断した。
(今だ!)
彼女は敵に走り寄った。あっという間に相手と目と鼻の先にまで接近する。

「は、はや」

言葉を続ける間もなく、小銃の銃床で叩き倒された。倒した後に、相手の喉に、ナイフで赤い線を一本引く。

790 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:52:41 [ XwixsAvk ]
すぐ目の前に、先の指揮官らしき男が現れた。
いきなりの遭遇に、敵が顔を歪ませる。その横っ面に回し蹴りを叩き込んた。
蹴り飛ばした時、ゴリッといういやな音が鳴ったが、けり倒された指揮官は、首をあらぬ方向に曲げていた。
土手のすぐ下には彼の部下達が迫っていた。一番後ろにいる敵兵でも、6メートルと離れていない。
やや密集する形で向かっていた。
(距離が近すぎる。弾を込める時間が無いね。ならば)
そう思った彼女は、あろう事か、自分の小銃を放り投げた。
そして左に落ちていた指揮官の小銃を拾って、まず先頭の敵兵を射殺する。
弾は2発しか入っていなかったため、すぐに弾切れとなった。
2人目に弾切れの小銃を投げる。銃を撃とうとしていた2人目は、慌てて避ける。
しかし、次に銃を構えた時、イメインは長剣を抜き放って、2人目を右下腹から逆袈裟に切り捨てた。
悲鳴が上がり、鮮血が迸る。イメインは帰り血を浴びるが、それを気に留めない。
残りが慌てて小銃を撃って来る。しかし、当てずっぽうに撃ちまくるため、素早い動きを繰り返すイメインに掠りもしない。

「うわ!来るな!!」

悲鳴じみた声が上がったが、それに構わず、彼女は3人目の首を切り落とした瞬間、素早くダガーを抜き、
1メートル離れた4人目に投げた。それは敵兵の右目に命中した。

「ぎゃあああー!」

激痛のあまり、小銃を離して刺さったナイフを抜こうとしたが、それは出来なかった。
4人目は腹に深い斬撃を叩き込まれ、鮮血を振りまいてうつ伏せに倒れた。
最後の5人目は、イメインの人間業とは思えない攻撃に臆したのか、慌ててその場から逃げようとしている。
彼女は、4人目の銃を取ると、それを5人目に向けた。

791 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:54:10 [ XwixsAvk ]
パン!パン!パン!パン!
弾倉に残っていた銃弾全てを叩き出し、内3発が背中に命中する。
背に3つの穴を開けられた敵兵は、痛みに呻きながら、うつ伏せに倒れた。
辺りの敵兵は、これで全部だった。

「掃除完了。」

そう言って、彼女は小銃を捨てて、倒れた5人目のとこに向かう。
5人目は若い男性兵だった。その敵兵が持っていたものは小銃ではなく、7ミリ口径の機関銃だった。

「こいつが腰抜けじゃなかったら、今頃は苦戦を強いられてた。」

抑揚の無い声でそう呟くと、イメインは息絶えた5人目から機関銃と予備弾薬を取り上げた。
イメインは、上半身が返り血で真っ赤に染まっており、まるで血に飢えた狼のようである。
砲撃開始から4分が経っていた。砲兵中隊は、徐々に着弾を南にずらしつつ、砲撃を続行していた。
砲声の合間に、銃声のようなものが聞こえてきた。

「おい!今銃声が聞こえなかったか?」
「銃声ですか?」

ヴィキク大尉は、隣の副官に聞いたが、副官は銃声を聞いていないようだった。
「あれは確かに銃声のような」

ドーン!という砲声が言葉を中断させた。
(気のせいか・・・・・・ここは敵の戦線から離れている。それに敵はたったの3000人弱しかいない。
革命派が攻勢にでるなんぞ、夢のまた夢だな)

792 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:57:33 [ XwixsAvk ]
そう思うと、彼は笑みがこぼれてきた。
とりあえず、今自分達がやるべき事は、この砲兵中隊の砲撃で、できるだけ敵を叩いて、
味方歩兵部隊の作戦をやりやすくする事だ。

(余計な考えはせず、今は自分の仕事に専念すべきだな)
そう思った彼だったが、どこからともなく、タン!タン!という銃声のようなものが聞こえた。

「・・・・・・そんなはずは。」

ヴィキク大尉はある考えに思い立ったが、とても信じられるものではない。
しかし、次の瞬間、後ろから爆発音が轟いた。
突然の、思わぬ方向からの異音に、誰もがぎょっとなって動きをやめた。
砲撃が中断され、あたりが静かになる。
だが、完全には静かにならない。
なぜかと言うと、後方で警備のため布陣していた2個小隊の方角から、間断なく銃声や爆発音が響いてたからだ。
その時、ぼろぼろになった警備小隊の兵士が、息も絶え絶えにヴィキク大尉のもとに現れた。
若い兵士の傷はかなり酷く、右目からは血が流れ、左腕は半ば千切れ、左胸と脇腹に銃創があった。

「て、敵が現れました。数は不明。自分達の部隊は・・・・奇襲にあって・・・・全・・・め・・・つ」

その兵士は力尽きて倒れてしまった。副官がその兵の脈を計る。しばらくして、副官はヴィキクに顔を向け、首を横に振った。

「敵襲だ!敵が後方に居るぞ!」

ヴィキク大尉は、すぐに叫んだ。その声を聞いた砲兵中隊の将兵達が、携行武器を引っさげて、応戦しようと、敵が居ると見られる後方に向かおうとした。
この時、警備の2個小隊は、革命派の撹乱部隊の奇襲を受けてしまった。
油断していた警備部隊は、手練ばかりの撹乱部隊の奇襲の前に混乱に陥り、次々と討ち取られてしまった。
革命派は40名ほどの部隊を各地に分散し、タイミングを見計らった上で攻撃を開始したのである。

793 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 12:59:49 [ XwixsAvk ]
革命派の思惑は見事に当たり、継戦派の部隊は面白いように次々と倒されていった。
そして、ヴィキク大尉が命令を発したタイミングもまずかった。
砲兵中隊の兵達が、小銃を手に増援に向かおうとした時、いきなり4人の人影が現れた。

「継戦派の連中だ!撃ちまくれ!」

オイルエン大尉は、部下にそう命じると、機関銃、小銃が一斉に火を噴いた。
パン!パン!ドドドドド!
2種類の銃声が重なり合い、曳光弾が走り寄ろうとしていた砲兵中隊の兵達に注がれる。
何の遮蔽物も無い所で、小数とはいえ銃の乱射を受けたのだからたまらない。
たちまち、7人の敵兵が打ち倒された。
残りの敵兵はその場に伏せて、小銃を撃ってきた。慌てて撃ったとはいえ、敵兵は40人以上いる。
つまり向ける銃口もこちら側の10倍である。

「マルファ!」
オイルエン大尉はマルファの名を呼ぶ」

頷いた彼女は、小銃を側において何かを唱え始める。
それが少しだけ続いた時、彼女はいきなり飛び出した。

「焼き払え!」

マルファは両手を前に出した。両手からは、なんと炎が噴き出し、それが40メートル手前で伏せていた敵兵達を薙いだ。
半数の兵が炎に包まれ、20の人型の炎が出来上がった。

「砕け散れ!」

794 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 13:01:52 [ XwixsAvk ]
マルファはそう言い放つと、彼女から何か青白い光が発せられ、敵兵達の目の前に突き刺さった。
と見た瞬間、ダーン!という轟音が鳴り響き、爆炎と土砂が吹き上がった。
火達磨になってのた打ち回る敵兵も、炎の惨禍を逃れた敵兵も、これに吹き飛ばされる。

「大尉!」

マルファは鋭い声音でそう言った。3人はすぐに小岩から飛び出し、銃を乱射した。
逃げ惑っていた敵兵のうち、3人がこれに叩き伏せられた。

「おい、あれを狙え!」

オイルエン大尉は、とあるものを指差した。100メートル手前にある大砲の側に、弾と装薬が積まれている。

「わかりました!」

マルファは威勢のいい返事で叫んだ後、飛んでくる銃弾を気にせずに呪文を詠唱。そして

「雷よ、敵を砕け!」

その瞬間、先と放たれたような青白い光が構えられた両手から発せられる。
しかし、その光は先のものとは、太さが違っていた。
青白い“雷”は、寸分たがわずに大砲の右側の弾薬置き場に当たった。
その次の瞬間、ズダアーン!というまさに雷のような大音響が鳴り響いた。
オイルエン大尉らはその場に伏せる。爆風が音を立てて背中の上を駆け巡っていく。
砲弾の誘爆は、13センチ砲を大きくひしゃげさせ、さらに隣の砲の弾薬置き場をも誘爆させ、新たな破壊を起こさせた。
ヴィキク大尉は、青白い光が見えた直後、すぐに斜面を降りようとしたが、大爆発に巻き込まれてバラバラになってしまった。

795 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 13:03:33 [ XwixsAvk ]
その時、第3大隊はポールレント高地より南東1キロの所で陣を張っていた。

「予定30分前から砲撃を始めるとは、ヴィキクの奴はかなり仕事熱心だな。」

天幕の中で部下と雑談を交わしていたワフィルム大佐は、砲兵中隊の砲撃に対して、そのような感想を漏らした。

「そのヴィキク大尉ですが、あまり彼の評判は良くないようです。」
「奴の評価なら聞いている。気に入らない部下に対する粘着ぶりはすごいそうだな。」
その刹那、ドーンという腹に応えるような音が聞こえた。
「・・・・・・今の聞こえたか?」
「ええ。聞こえました。」

ワフィルム大佐はさっと血の気が引いたような顔になり、すぐに天幕から飛び出した。
彼らが布陣している場所は、ポールレント高地が見える所にある。
大佐はその高地を見・・・・・・そして肩を落とした。
高地が黒煙に包まれている。左側から爆発が起こり、火炎と砲の破片らしきものが噴き上がる。

「まずったな。」

ワフィルム大佐はそう呟いた。

「連隊長!ヴィキク砲兵中隊より魔法通信です!」
「今入ったばかりか?」
「はい。内容は・・・・敵発見、兵・・・・・これだけです。」
「たったのそれだけ!?」
「そうです。恐らく、敵の兵に討ち取られたか・・・・・」
「あるいは、爆発に巻き込まれたか、どちらかだな」

ワフィルム大佐は、黒煙が噴き上がるポールレント高地を顎でしゃくった。

796 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 13:07:24 [ XwixsAvk ]
「ああ・・・・あ・・・・・」

仕留めた敵兵が、苦しそうに体を震わせる。敵兵の首には、イメインの右腕が巻かれている。
右腕さえ解けば、命は    助からない。
なぜか?答えは簡単である。右腕は首に巻かれ、左手には長剣が握られている。
そして、その長剣は背中に根元まで押し込まれ、切っ先が敵兵の胸の真ん中から突き出ていた。

「あなたも、軍に志願さえしなければ、このような目に逢わずに済んだのに。でも、いくら女と言えど、敵は敵。今回は諦める事ね。」

その女性魔道師の黒いローブは、胸と背中のあたりが血に濡れ、肌に張り付いていた。
敵魔道師はイメインの言葉が終わるのを待っていたかのように、脱力した。
敵魔道師の体を地面に倒し、長剣を敵の体から引き抜く。それは真っ赤に染まっていた。
戦闘中に拾った、白い布で血と脂を拭った。

「軍曹!ここにいたか!」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
オイルエン大尉だった。

「大尉、ご無事で。」
「砲台はあらかた潰したよ。これで、味方も幾分か、戦いがやりやすくなっただろう。」

砲列を敷いていた14門の大砲は、全てが爆発によって破壊され、そここに砲兵中隊の将兵の死体が散乱している。
生き残った敵兵達は、高地から逃げて行った。

797 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/08(火) 13:08:12 [ XwixsAvk ]
「その魔道師は?」
オイルエン大尉が姿勢をかがめて、顔を確かめる。金髪碧眼の女性で、イメインと同じぐらいの年であろう。
その魔道師の手には、血に染まった短剣が握り締められていた。

「他の仲間に魔法通信を送ろうとしていたのです。間一髪阻止しましたが、彼女もなかなかの手練で、自分も傷をつけられてしまいました。」

イメインの右腕に、1本の赤い線が入っており、そこから血が流れている。
見た限りでは深いようにも見える。

「大丈夫か?」
「ええ。後の任務には支障はありません。」
「そうか・・・・・よし、撤退だ!騒ぎを聞きつけた敵がやってくるぞ。残りは皆撤退している。」

さあ、行くぞ!と、オイルエン大尉は足早に歩き始めた。イメインはその後を追う。
右の二の腕の傷が、やたらに痛かった。

808 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:07:30 [ XwixsAvk ]
午後4時40分 ヌーメア
第77歩兵師団はヌーメアに司令部を置いた。
77師団の司令官であるマルガ・ザルディグ少将は、苦りきった表情で作戦地図を見つめていた。

「どうもな・・・・・敵にしてやられたとしか言いようが無い。」

彼は呻くような口調で言う。
彼の顔色が良くない原因はいくつかあった。その1番目が、侵攻部隊の損害であろう。
左翼の第3大隊は、途中でポールレント高地に砲兵中隊を分離させ、そこから革命軍の陣地を砲撃した。
しかし、砲撃開始からわずか5分後に、砲兵中隊は謎の敵部隊に襲われてしまった。
護衛に当たっていた2個小隊の歩兵は奇襲を受けて半数が戦死。残りが逃げ散った。
特に酷いのが砲兵中隊の損害で、大砲14門は全てが予備弾薬と共に吹き飛ばされ、全門使用不能。
砲兵中隊も中隊長ヴィキク大尉を始め、3分の1が戦死し、残りは先の歩兵小隊と同じように逃げ散って行った。
それが合図だったかのように、各所で革命側の小部隊による奇襲が頻繁に行われた。
奇襲を受けたのは、第3大隊本隊の他に、第1、第2大隊の最後尾部隊である。
第1大隊は戦死者76名、負傷者34名の損害を出しながらも、敵部隊40名を全滅させると言う戦果を挙げた。
しかし、残りの部隊は敵部隊に対してかすり傷しか与えきれず、逆に134人の兵員が死に、200名余りが負傷して戦いに参加できなくなった。
この時、革命側は2個中隊相当の兵力を、それぞれ40名ずつ、5チームに分けて各所に展開させた。
展開した場所や、オイルエン大尉らが襲撃した高地や、敵の最後尾部隊が通る森林の中である。
隠れ場所はいくらでもあり、木陰や藪の中、岩の陰などにひっそりと隠れていたのだ。
そして、ポールレント高地の爆発音を合図に、撹乱部隊は一斉に動き出した。
第1大隊を襲ったクァルツ大尉の部隊は、武運つたなく、全員が取り囲まれて、討ち死にしてしまったが、
残りの部隊の損害は、合計で戦死者6名、負傷者10名というかなり軽微なものであった。

「緒戦で、4個中隊相当の部隊がやられるとはな。」
「ここは、いわば敵の庭のようなものです。」

809 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:17:15 [ XwixsAvk ]
参謀長のゼルポイス大佐が隣で口を開いた。
「確かに、我々は警戒しながら進みましたが、地の利に関してはあちら側が上手だったのです。
我々と対峙している敵部隊は、ガルファン将軍の森林旅団です。彼らは革命の数年前から、あの砦を
根城に訓練を重ねてきました。革命直後の我々の奇襲で、ガルファン将軍の部隊も壊滅的打撃を受けていますが、
いくら少なくなったと言えど、彼らの部隊はあの森林を訓練で知り尽くしています。
我々は知らず、敵には分かる隠れ場所などはいくらでもありますから。」
「うーむ・・・・・・これでは先が思いやられるな。」

当初は、ポールレント高地からの準備砲撃の後、第1、第2、第3大隊の総力を持って、敵陣地を突破。
一気にカウェルサント門前で立ちはだかる砦まで進軍しようと考えていた。
だが、このままでは準備砲撃が不十分なまま、奇襲でやや減勢した戦力で敵陣地突破を図らねば成らない。
実を言うと、支援は準備砲撃だけではなかった。

「こんな時に限って、雨雲が出てくるとは。」

天幕に、ポツ ポツ という雨が滴り落ちる音が聞こえてきた。
ゼルポイス大佐は出入り口の幕を退けて、外に顔を出してみた。
廃墟と貸したヌーメアの町並みには、あちらこちらに第77歩兵師団の陣地があり、町の外縁には、
師団の標準装備になった11.2ミリ機銃が上空を睨んでいる。
そのヌーメアに、雨が降ってきた。雨足はたちどころに増していく。

「前線部隊より報告。作戦区域の天候は雨なり。」

テントの中に居た魔道将校が、受信した魔法通信の内容をザルティグ師団長に伝えた。

「これで、ワイバーンロードの支援はなしか。全くついていないな!」

810 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/08/19(土) 13:21:59 [ XwixsAvk ]
ザルティグはふてくされたような表情になり、椅子にふんぞり返った。

「でも、この雨ではアメリカ機動部隊も艦載機を飛ばせないでしょう。」
「アメリカ機動部隊だと?」

ザルティグ少将は嘲笑を浮かべた。

「そんなどこぞに姿を消した艦隊の事を言って何になる。海竜情報収集隊の情報では、
敵機動部隊は大魔道院の爆砕に満足して引き返した、と言われているぞ?」
「一部の敵艦隊の所在が不明ともありましたが?」

ゼルポイス大佐は釘を刺すような口調で言う。
ザルティグ師団長は、基本的に思慮深く、堅実な作戦を行う事で知られている。
しかし、時折、状況を深く考えずに決定したりする欠点もある。
今日のザルティグは、その欠点が出てしまった。
このような欠点が出る場合は、彼がかなりイラついていると言う証拠である。

「その一部の艦隊だって、海竜の探知範囲外に居ただけだろう。それに、万が一敵機動部隊が出現したとしても、
このような辺ぴな場所には来ないだろう。来るとしたら、ギルアルグあたりか、ヴァルケリン閣下のお膝元だろう。」
彼は大佐の不安を打ち消すような口調で言った。

「敵の機動部隊も、こんな廃墟よりは、“迷宮の城”を狙うだろう。」
「そうですか・・・・・・」

外の雨音は、彼の不安を助長するかのように、まずます大きくなってくる。

「こいつは・・・・本降りですなぁ。」

別の幕僚がそう呟いたとき、外で青白い雷が光った。