150  名前:ヨークタウン  投稿日:  2005/12/31(土)  15:05:49  [  4CUjn9IY  ]
「すごいぞこれは!たまげたもんだ!」
カー艦長と似たようなことを口走っている者がここにもいた。ヴァイアン号船長
プラットン船長である。
煙突からもうもうと煙を上げ、船特有の揺れが少ないその船は、全体的に黒く、
ごつごつとした感じだ。それでいて何かと美しい印象を持つ形をしていた。
細長い感じの大砲が1個の砲塔に3門つなげられ、それが前部2基、後部1基、
合計3基もある。砲の口径もこのヴァイアン号の7センチ砲より大きいだろう。
それだけではなく、さらに幾つもの副砲らしき物がある、大砲を2つずつ繋げた
砲塔が4個もある。恐るべき重火力だ。
その時、停船してきた船がいきなり小さな副砲を向けた。それに乗員らしきものが
何かのカバーを取り、そこから出てきたまたまた小さな砲を彼らに向けている。
「おいおい!俺達はなんもしてねえぞ!それなのに砲撃で沈める気か!?」
船員たちの声が聞こえた。いきなり大砲を向けられたことに驚いているようだ。
「おめえら!絶対に大砲に触れるんじゃねえぞ!相手はでかい。それに頑丈そうだ。
1発や2発食らわせても勝てっこねえ。逆にこっちがやられるだろう。いいか、絶対に
撃つんじゃねえぞ!」
プラットン船長は大声でそう叫んだ。浮き足立っていた船員も、彼の大渇に足を止め、
そして頷いた。
彼はすぐ右にいるリリアに声をかけた。
「おい、魔道師さん。アレを見てどう思う?」
「はあ、私が見た限り、アレは鉄でできていますね。」
「鉄だって!?」
彼は驚いた。鉄の船が浮くはずは無いとかれは反論した。
「いいえ。アレは見た限り鉄です。私も信じられない思いですが・・・・」
「まあ、俺も同じだ。ところで・・・・・あっちの言葉分かるのかい?あの、70
と数字の書いた船の乗員の言葉を。」
彼が聞くと、リリアは黙った。
「おい、もしや・・・・」
分からないのかい?と言おうとした時、不意に言葉が聞こえた。それも鉄の船のほうから。
「こちらはアメリカ合衆国海軍重巡洋艦キャンベラである。こちらの言葉が分かるか?分かるのなら
その白旗を4回振れ。」
聞こえそうも無いのだが、どことなく大きな声が鉄の船から聞こえてきた。よく見てみると船の甲板に
何人かの人が見える。それでも大声出して明瞭に聞こえる距離ではない。
(まあ、そんなのは後だ)
彼はそう思い、白旗を4回振った。
「なんだ。相手の言葉も分かるじゃないか。これなら問題ないな。」
彼はそう呟くと、またもや船、キャンベラから声が届いた。
「よし。これより貴船の臨検を行いたい。許可するなら旗を2回振れ。」
プラットン船長は旗を2回振った。
「それではこれより貴船に近寄る。」
この言葉を皮切りに会話は終わった。重巡キャンベラは舷側に用意してあった小さな
ボートを海に下ろし始めた。  


151  名前:ヨークタウン  投稿日:  2005/12/31(土)  15:13:00  [  4CUjn9IY  ]
その時、上空の鳥が右舷方向の海面に降下を始めた。エンジンの唸り声が響き渡り
猛禽のような勢いで海面に突っ込んでいく。
「なっなんだ!?」
プラットン船長は仰天した。まさか、海に突っ込むつもりか!?アベンジャーの降下に
驚いた乗員は誰もがそう思った。その時、胴体から何かが落とされた。
それは2個あった。それを胴体から落とすと、「鳥」は機首を上げて上昇に移った。2個
の小さな物体が海面に落下した。直後、猛烈な水柱が2個も上がった。
何かがバラバラになりながら吹き上げられた。そう、海竜だ!海竜とは、5月4日に第58・2任務郡の
護衛艦を襲ったあの巨大海蛇である。
時を置いてドーン!という爆発音が鳴り響いた。腹にこたえる音だ。乗員の誰もが、いきなりの
化け物退治に度肝を抜かれた。
「す・・・・・すげえ。」
プラットン船長も例外ではなかった。海竜はアベンジャーが爆弾を叩き込んだ1匹だけで他には見えなかった。

20分後、あたりは暗くなりつつあった。夕焼けがうっすらとオレンジ色の光を放つ中、上空には
星が見え始めていた。
重巡洋艦のキャンベラはヴァイアン号に向けて内火艇を発進させた。やがて、内火艇はヴァイアン号に到着した。
相変わらず副砲らしきものは向けられていた。臨検の武装兵が垂らされた縄梯子を使ってヴァイアン号に乗船した。
臨検班の班長であるアルバート・グレグソン少佐は、船長らしき人物に声をかけた。
「あなたが船長ですか?」
その人物は白いラフなシャツに黒いズボンらしきものを履いているが、その人物が部下を仕切っている姿
を見たグレグソン少佐は、彼だろうと思って聞いてみたのだ。
「そうです。私が船長のプラットンです。」
「私は臨検班長のグレグソン少佐です。これより貴船を臨検いたします。」
彼はカッと踵をあわせ、敬礼した。  


152  名前:ヨークタウン  投稿日:  2005/12/31(土)  15:15:33  [  4CUjn9IY  ]
その時、3人の男女が彼の前に現れた。1人は中年の男性で2人は若い女性だった。
「失礼だが、ちょっと質問してもいいですか?」
中年の男が聞いてきた。
「あなたは?」
「私はヴァルレキュア王国第5騎士団長、フランクス将軍です。」
「私はグレグソン少佐です。」
互いに紹介し合うと、いきなり女性の一人が聞いてきた。
「あの、グレグソン少佐。あなたは5日前に何か感じませんでした?」
「リーソン。いきなりどうした?ちょっと待て。」
フランクス将軍が止めに入る。
「将軍閣下、別に構いません。ええ、確かに何かを感じましたよ。あの時、視界が一瞬
真っ白になって、嵐がやんだら、あなた方の世界に連れてこられたのですよ。」
彼は口調に怒りを込めながら言った。内心ではこんな世界に連れてこられた事を恨んでいた。
「もしや、あなた方が・・・・・私たちを連れてきたのですか?」
「そうです。」
彼女は即答した。その時、彼は別の事に思い至った。普通ならこいつらを海に叩き込んでやりたい
と思うだろう。だが、それとは違う方向になった。
「あ、あの・・・・・どうかしました?」
唖然となった米海軍将兵を見て彼女は戸惑いを見せた。グレグソン少佐は後ろを振り返った。そして
誰もが同じように驚いた表情を見せた。
「少佐・・・・・・気づきましたか?彼女の声・・・・・・」
一人の下士官が声を忍ばせて言う。彼も頷いた。
「ああ・・・・・・これは、東京ローズの声だ。」  
彼ははっとなってそれどころではないと言うと、彼女に向き直った。
「いえ、何でもありません。とりあえず、臨検を済ませてからあなた方の話は詳しく聞かせて
もらいます。」  


157  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  13:24:44  [  4CUjn9IY  ]
5月8日  マーシャル諸島メジュロ環礁  午前8時
メジュロ環礁のカラライン水道から4隻の艦船が、泊地に入ってきた。4隻は
単縦陣で水道を抜けた。その内の3隻目は異様に小さく、この時代ではあまり
見かけなくなった大きな帆を、2本のマストに広げている。
この船こそ、警戒部隊が拿捕してきたこの世界の船である。

昨日の夜、不審船を臨検中との報告を受けた第5艦隊幕僚は、急いで作戦室に移動し、
海図をにらみ合いながら互いに話し合っていた。そこに新たな報告が入った。
「何だと。船の乗員の中に私達をこの世界に連れてきた奴がいると言うのか?」
最初、不審船の臨検を行ったキャンベラの電文が読まれたときに、スプルーアンスは読んだ主、
通信参謀のアームストロング中佐にそう聞いた。
「はい。キャンベラからの報告ではそうなります。」
そこへ参謀長のデイビス少将が提案を持ちかけた。
「長官、思いついたのですが、その臨検した船を一度拿捕し、このマーシャルに連れてきたら
どうですか?」
「ここにかね?」
「はい。先に通信参謀がお伝えしたようにその船には、私達をこの世界に連れてきた張本人が
乗っているのです。その人物達に直接、私達が会って色々と聞いたほうがいいと思うのですが。」
「なるほど。」
スプルーアンスは腕を組んで考え込んだ。作戦室内に不気味なほど静けさ伝わった。
彼が考えること5分。スプルーアンスは口を開いた。
「この世界が何が分からん以上、情報が必要だからな。よし、その船を拿捕し、このマーシャルに
連れて来たまえ。もし、途中で敵対行動に移るようであればその時は警告を発し、警告に従わぬ
場合は即座に撃沈しろ。私が言うのは以上だ。」
重巡のキャンベラに拿捕せよとの命令を送ったその10分後、返信が来た。
「長官、問題の船は我々の指示に従うと、キャンベラから返信がありました。」
マコーミック中佐がそう言うと、スプルーアンスは表情を変えることなく頷いた。  


158  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  13:43:26  [  4CUjn9IY  ]
そして今に至るのである。

「参謀長、あの船の名前は確かヴァイアン号とか言ってたな?」
双眼鏡で入泊してきた木造船を見ながらスプルーアンス大将は、右にいる参謀長
デイビス少将に聞いた。
「はい。」
「ふむ。なかなかいい名前だな。見たところ船の整備も結構出来てる。あの船の乗組員
は相当なベテランだろう。」
彼は、ヴァイアン号をそう評価した。そこへマコーミック中佐が入ってきた。
「長官、木造船に搭乗している魔道師と将軍を名乗る人物たちが、艦隊の責任者に会いたいと
申していると、キャンベラから報告がありました。」
「いいだろう。では1時間後にこのインディアナポリスに呼びたまえ。詳しい話を聞きたい。」

ヴァイアン号の乗員たちは、メジュロ環礁に広がる光景を見て圧倒された。
「な・・・・・なんだぁ、こいつは!?」
船首で環礁内を見渡したプラットンも驚きの声を上げた。船首甲板には彼の他にも「積荷」である
4人もいた。彼らもまた驚きの表情を表していた。常に平静を努めていたフランクス将軍や
リーソン魔道師も例外ではない。
「でかい船が、1・2・3・・・・・・ありすぎて数え切れん。」
彼が数えていたのは、泊地に横一列に並ぶエセックス級空母や戦艦郡である。普段見たことも無い巨大
船がうじゃうじゃいる状況に、プラットン船長は目が回りそうな気分だった。  


159  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  14:01:01  [  4CUjn9IY  ]
「フランクス将軍。召喚は大成功ですね。」
魔道師チームのリーダーであるレイム・リーソンは笑みを浮かべて彼に語りかけた。
「これほどの強大な戦力があれば、あのバーマント公国に大出血を強要出来るかもしれません。」
「そうだろうな。」
彼は頷いた。しかしやや渋めな表情でレイム言い返した。
「しかし、私が思うには、どうも歓迎されているとは思えんのだよ。」
「どうしてですか?」
彼女が首をひねった。
「船の乗員を見たまえ。」
彼の言うとおり、彼女は1隻の巨大砲塔を付けた、61と描かれた船を見てみた。ヴァイアン号は
この61の船の前をゆっくりと通りすぎようとしていた。
その巨大さに圧倒されつつも、彼女はこちらを見てる何人かの乗員を見つけた。互いに顔の表情が
分かる距離である。
その乗員たちの視線は、どこか刺々しいものである。相手の心の中を見れば、貴様らここに何しに来た?
ここは貴様らの来るとこではない。と言いたげな殺伐とした雰囲気をかもし出している。
「将軍の言うとおりです。乗員はこちらをあまり好意的思っていないようです。視線はこちらを明らかに
憎んでいるような感じです。」
「君も分かったか。どうやら私たちは、彼らの寝込みを襲うような形で、この世界に強引に引っ張り出して
しまったのかもしれん。相手の気持ちを考えないで召喚するのは、少し迂闊だったかもしれん。」
彼がそう言うと、会話を聞いていた4人は失望したような表情になった。
「まあ、いずれにせよ。相手ともっと話し合えば、あちらもこっちを理解できるかもしれん。そう気を落とすな
、相手も同じ人だ。野蛮な連中ではないだろう。」
彼はそう言って皆を励ました。それが功を奏したのか、4人の表情も少しは和らいだ。  


160  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  14:22:36  [  4CUjn9IY  ]
午前9時20分、インディアナポリスから左舷400メートルの沖合いに投錨
したヴァイアン号から、迎えの内火艇がインディアナポリスに戻ってきた。
内火艇には4人の変わった服に身を包んだ人物が乗っていた。内火艇がインディアナ
ポリスの左舷に接舷すると、水兵に先導された4人の人物が、慣れない足取りで
乗艦してきた。
スプルーアンス大将は、参謀長のデビソン少将と作戦参謀のフォレステル大佐と共に
4人を出迎えた。
4人のうち1人は中年男性で、騎士風な衣装をつけており顔の下半分が黒い髭で覆われ
ており、体つきはごつい。体全体が、歴戦の戦士であることを強調しているように思えた。
残る3人は似たような衣装をつけている。黒い上着に白いズボンと共通している。
2人は女性で1人が青色の長髪、2人目が栗色のショートに眼鏡をつけている。
残る1人は男性で、中肉中背といったごく普通な感じである。

「私はアメリカ太平洋艦隊所属、第5艦隊司令長官、レイモンド・スプルーアンス大将です。」
スプルーアンスは、敬礼しながら自己紹介を行った。
「私はヴァルレキュア王国第5騎士団長、グイン・フランクス将軍です。」
フランクスも自己紹介を行った。
「魔道師のレイム・リーソンです。」
「同じく、リリア・フレンド、じゃなくて・・・フレイドです。」
「同じくマイント・ターナーです。」
彼らが自己紹介を終えると、スプルーアンスは彼らを食堂に案内した。  


161  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  14:39:56  [  4CUjn9IY  ]
インディアナポリスの食堂には、第58任務部隊司令官のマーク・ミッチャー中将
と第7郡司令官ウイリス・リー中将、上陸部隊指揮官のリッチモンド・ターナー中将、
軍団司令官のホーランド・スミス中将が招かれていた。この他にも第5艦隊の司令部
幕僚がおり、合計で9人が待っていた。
インディアナポリスの作戦室では、狭いために10名しか入らないため、急遽食堂で
話し合いが行われることになった。
「どうぞ、こちらへ。」
スプルーアンスの副官であるチャック・バーバー大尉が、用意されている4つの椅子
に彼らを座らせた。
4人の反対側に米軍の将星、つまりマリアナ侵攻部隊の首脳が座り、対面する形とな
った。
4人の側には、スプルーアンスと作戦参謀、参謀長が座った。
「さて、わざわざご足労痛み入るが、早速話を始めたい。」
ホーランド・スミス中将が葉巻を加えながら4人に語りかけた。目には微かながら憤り
が浮かんでいる。
「まず、私が聞きたいのは、なぜこんな世界に連れてきたのか、である。これについて
お答え願いたい。」
「分かりました。」
フランクス将軍は頷くと、話を始めた。
「私たちヴァルレキュア王国は、2年前、大国であるバーマント公国という国の軍隊の
一方的な侵攻を受けました。現在、国土の40パーセントがそのバーマント公国に占領され、
敵軍は今にも首都に向けて攻勢を開始しかねない状況です。それに対し、我が軍は精鋭部隊
を主力とする防衛軍を編成して敵と戦っておりますが、それも減りつつあります。先日も
我が軍屈指の精鋭部隊が敵に壊滅させられました。我々は最後の手段として、強大な戦力を
保有する島を召喚魔法で呼び寄せることにしました。」  


162  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/03(火)  15:05:05  [  4CUjn9IY  ]
フランクスは一旦言葉を切り、周りを眺めた。どの人物も痛々しい視線を送っている。
彼に代わってレイムが話し始めた。
「召喚魔法は3ヶ月前から作成し始めました。作成には王国屈指の魔道師、いわゆる魔法使い
6人が担当しました。私や彼女、彼もその内のメンバーです。召喚2日前に術が完成し、私たちは
嵐の夜に召喚魔法を発動しました。結果、3人が意識を失って倒れてしまいましたが、召喚はこの通り
成功しました。本当は6人でこの島、あなた方言うマーシャル諸島に来たかったのですが、残り3人は
来られず、私たち3人と、フランクス将軍の4人だけで、船を調達し、ここに来ました。」
ミッチャー中将が聞いてきた。
「リーソン魔道師に聞くが、倒れた3人はどうなったのだね?亡くなられたのか?」
「いえ、3人は意識を失っただけで、まだ生きています。その内1人はいまだに生死
の境をさまよっています。」
「そうか・・・・・・大いに結構。」
スミス中将が大きく頷いた。彼は葉巻を灰皿に置くと、彼らの方に顔を向けた。
「君達は、このメジュロ環礁に入るときに夥しい数の船を見なかったかね?」
4人は頷いた。
「実は、君たちがここに我々を引っ張り出す前は、我が軍は日本という国と戦っていた。
我々は準備を終えつつあり、1ヵ月後には日本軍の重要拠点を占領する作戦を発動し、
我々はここから打って出て行くつもりだったのだ。だが、」
次の瞬間、スミスは声音を変えた。
「それは必要なくなった!」
いきなりの怒声に4人はビクッとなった。
「君たちのせいで、14万を超える将兵が孤立したのだ!!本来行うはずだった日本軍
との決戦。それを迎えるあたって将兵の士気は上がっていた。しかし、君たちがこの世界に
無理やりに引っ張り出してきたばかりに、祖国にも帰ることが出来なくなった将兵は元気
をなくした!!士気を落とすと、どうなるか分かるか!?軍隊としての機能するのが難しくなる
のだぞ!何が最後の手段としての召喚魔法か!?ふざけるな!強引に異様な世界に引っ張り出された
我々の気持ちを考えんで何が最後の手段か!!馬鹿野郎!!!!」
彼はバン!!と手でテーブルを叩いた。あまりの怒りに、4人はただオロオロするばかりだった。
リリアにいたっては瞳から涙が滲んでいた。それほど、スミスの剣幕は凄まじいものだった。  


197  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  08:08:04  [  4CUjn9IY  ]
普段、冷静なフランクス将軍も例外ではなかった。スミスは言葉を続けた。
「君たちがこの世界に引っ張り出さなければ、我々は予定通り、マリアナに進撃し、
あの戦争の雌雄を決する戦いが出来るはずだった。それが君たちのお陰でご破算だ!」
彼は憤然となり、忌々しげに置いていた葉巻を加えた。
「あなた方は、このメジュロ環礁に入る前に、巨大な船を見ただろう?平べったい甲板
を持つもの、巨大な砲塔を持つもの、だ。」
今度はミッチャー中将が声をかけてきた。4人はミッチャーの皺だらけ顔に視線を移した。
「はい。見ました。ですが、あたしにはあれは何だか分からないのですが。」
リーソン魔道師は声を震わせながら答えた。
「君たちが見た平べったい船は航空母艦というものだ。航空母艦は何十機もの飛行機を載せ
る事ができ、それを武器として使えるのだ。」
(飛行機・・・・・昨日見た、バーマント軍が持つ機動式飛空挺の似たようなものね)
彼女は、昨日見たアベンジャーを思い出して、心中でそう呟いた。
「君達は大きいのと小さいほうの航空母艦を見たね?ほら、こんなのだ。」
ミッチャーは2枚の写真を取り出した。1枚目の大き目の空母はエセックス級、2枚目の
小さいのがインディペンデンス級である。
「大きいので飛行機が100機。小さいので45機は積める。我々はこの航空母艦を中心
兵力とした大艦隊で、日本と呼ばれる我々が敵対していた国の航空母艦を相手に戦いを挑
む予定だったのだ。こっちはこの大小の主力が15隻、日本側は9隻持っている。我々は
日本機動部隊の空母9隻を、全て沈める意気込みで、今まで訓練を重ねていたのだ。」
ミッチャーの表情がやや自嘲めいたものになってきた。  


198  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  08:21:16  [  4CUjn9IY  ]
「将兵の錬度は相当上がった。「「今回はどの空母が我が無敵の機動部隊の餌食に
なるんだ?」」そのような余裕を言う将兵も出てきた。来るべき宿敵との決戦が近い事を誰もが
感じ取っていた。だが、」
ミッチャーは伏せ気味になっていた視線を彼らにじろりと向けた。その相貌には明らかに
怒りが混じっていた。

「君達のお陰で大事な機動部隊決戦を取り上げられはしたが、空母を失う確率が格段に減ったよ。
ある意味では君達に感謝してるよ。」
と、嘲笑を浮かべた。
「ミッチャー提督が言っていた大きな砲塔を持つ船だが、」
今度はウイリス・リー提督が話し始めた。
「あれは戦艦というものだ。戦艦は水上艦の中ではもっとも強力な軍艦だ。航空機の大群には敵わんが、
敵の水上部隊相手には対等以上に立ち向かえる。だが、この世界に引っ張り出されたせいで、ただでさえ
出番の少ない戦艦が、余計に出番が少なくなった。私はそう確信したのだよ。」
ミッチャー、リー両提督は、ホーランド・スミス中将のような激しい罵声ではなかったが、その言葉の裏には
スミスと同様の、「怒り」、がひしひしと感じられた。
言うなれば、わざわざ呼ばれてもいないのにこんな世界に連れて来るとは何事か!迷惑千万だ!!と言っている
ようなものであった。  


199  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  08:39:58  [  4CUjn9IY  ]
「・・・・・・すいません。私達が・・・・・余りにも軽率な事をしてしまったばかりに
・・・・・申し訳ございません。」
レイムは後悔した。召喚に成功したときの喜びは、召喚者である米軍将兵の冷遇、そして
首脳部の激しい怒りと不満を目の当たりした事から、綺麗さっぱり吹っ飛んでしまった。
「申し訳ないで済むんなら、こうも怒りはせんよ。」
リッチモンド・ターナーが突き放したような口調で言う。
「召喚主を選ぶことだな。お嬢さん。」
レイムは、その美貌に深い失望を浮かべていた。彼女は腰に吊ってある短剣を握り締めた。
(こんな状態では、彼らはこっちの用件も聞かないでさっさと帰れというかもしれない。いや、
絶対にここからたたき出されるわ。もはや、召喚は失敗したも同然。なら、この剣を胸に突き刺して
死んでしまおう)
彼女が失望に追いやられ、自殺を考えたとき、先程、激しい口調で彼らを罵ったスミス中将が声を上げた。
「おい!何しけたツラしとるんだ?話は終わったと思うのか?言っておくが、私たちはまだ君達の話を
聞いてはおらんぞ。話し合いはまだ終わってはおらん!」
スミスは葉巻を吹かしながら4人に、特にレイムを見ながらそう言った。そのまま叩き出されると思っていた
4人は唖然とした。
「さあ、君達の話を聞かせてくれ。まだ詳しい話を聞いておらん。」
スミスは、太った丸顔にニヤリと笑みを浮かべた。
「バーマント公国とやらはどういう国なのだね?」  


200  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  09:10:47  [  4CUjn9IY  ]
レイムは言葉に詰まった。彼らが話を聞いてくれる。彼女は嬉しい気持ちで一杯になった。
これで、あの悪魔のごときバーマント本性を彼らに教えられる。
「どうした?言わんのか?」
スミスが催促する。そこへフランクス将軍が会話に入ってきた。
「スミス将軍。私が説明してもいいですか?」
「フランクス将軍だったな。あんたは軍のことに詳しいだろうから・・・・・まずは、なぜ
精鋭部隊が壊滅したのか。それを聞きたい。」
「分かりました。」
彼は、1週間前に起きた王国軍とバーマント軍との激戦を事細かに語った。精鋭部隊が、孤立しかけている
味方部隊を助けるために敢えて敵の大群に立ち向かった事、奮戦し敵に多大な損害を与えたこと、やがて敵に
包囲され、壊滅したこと。そして戦死した旅団長が彼の無二の親友だったこと。
その激戦模様を知らされた第5艦隊一同は静まり返った。やがて、しばしの静寂の後、スミスが口を開いた。
「勇敢でいい指揮官だったな。あなたの友人は。数倍の敵に立ち向かうことは余程の勇気がいることだ。」
スミスは頷きながら言った。
「だが、壊滅するまで引かなかったのは、少し評価できないな。」
彼は、故スプレル将軍をそう判断した。
「しかし、勇敢で、いい軍人であることには間違いない。誇りに思いたまえ。」  


214  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  21:23:34  [  4CUjn9IY  ]
「話を聞いていると、君達はバーマント公国の事をかなり恐れているようだが、
彼らは敵陣を占領した後、捕虜やその現場周辺の住民に対してどんな対処を取って
いるのかね?」
黙って聞いていたスプルーアンスが口を開いた。
「よっぽど、ひどい対処をしているのかね?」
その問いに、フランクスらはすぐに頷いた。
「バーマント軍のやり方は・・・・・・・・・・・」
レイムが言葉を続けようとしたが、なぜか体を震わせたまま黙ってしまった。第5艦隊
の将星、参謀達は何事かと眉をひそめた。やがて、震えた口調でレイムは続けた。
「最低なやり方です。」
「最低なやり方?」
スミスが首をひねった。だが、すぐに彼女が言わんとしている言葉を思いついた。まさか・・・・
「皆殺し・・・・・・・なのかね?」
スプルーアンスがいつもの怜悧な口調で聞いてきた。
「はい。あなたが言われるとおりです。戦争が始まって2年。バーマント軍に国土の40パー
セントが占領された事は先にフランクス将軍が申しましたね。この40パーセントの占領地には
我がヴァルレキュア王国の国民、約60万人が住んでいました。バーマント公国は、占領地の我が
国民を・・・・・・・虐殺したのです。「「ヴァルレキュアの赤い悪魔に死を」」を合言葉に。」
「なんだって!?」
ターナー中将が仰天したような言葉を上げた。この時会議室はざわめいた。
「ヴァルレキュアの赤い悪魔だと?それはどういう事だ?赤いと言えば君達の眼が赤いぐらいだが。」
「答えの1つはそこにあります。」
「もしや、ただ眼が赤いだけで、バーマント公国は君達を悪魔と決め付けたのか!?」
スミスも驚いたような口調で叫んだ。
「はい。ですが本当は、バーマント人と変わらぬ人間なのにも関わらずです。しかし、本当の理由は、自らの国土
を増やしたいがために、わが国に一方的な理由を突きつけて侵攻してきたのです。バーマント公国の首脳は、我々を
絶滅させるまで戦争をやめないと言ってきています。ただ、国土を増やしたいがために!」
レイムは、拳を強く握り締めながら言った。彼女の話は続く。  


215  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  21:41:48  [  4CUjn9IY  ]
「実は、私は家族と共にバーマントとヴァルレキュアの国境付近で生活していました。
2年前の戦争勃発時、私はたまたま故郷に帰っていました。私はその日の朝、突然、
バーマント公国がヴァルレキュアに侵攻を開始したと、逃げ出してきた兵士に聞きました。
その時、私は疑問に思いました。なぜ国境守備兵がここまで逃げてきているのかと。
私は聞きました。そしてその時初めて、国境の守備軍が壊滅し、圧倒的な戦力のバーマント
軍が国内に雪崩れ込んできていると。バーマント軍は私達が逃げる間もなく故郷の町に入って
来ました。」

「国境守備軍が壊滅したと言っていたが、その時国境の守備隊は何人ほどが動員されていたのだね?」
スミス中将が聞いてきた。
「国境守備軍は、私が住んでいた故郷の方面に1万人配備されていました。侵攻軍は10万の大群で攻め
行って来たので、防衛もままならなかったのです。」
「10対1・・・・・・・完璧だな。」
スミス中将はそう呟いた。
「町に入ってきたバーマント軍は700人ほどでした。町には300人の住民がいました。敵の侵攻が余りにも
急だったので、逃げ切れなかった私と家族は、敵の捕虜になると思いました・・・・・・
しかし、彼らが待ちに入ってきた理由は私達を捕虜にするためではありませんでした。私達を
「「殲滅」」するために町に押しかけたのです。」  


216  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  22:11:37  [  4CUjn9IY  ]
「バーマント軍の「「殲滅作戦」」はすぐに始まりました。私達の目の前で町長が
切り殺されたのです。それを皮切りにバーマント軍は町の人達を次々と襲い始めました。
男は、敵軍の兵士の剣術練習の的となって殺されました。女の人も同じように殺害されました。
それだけでなく、1人の女性に群がって犯し、次々と殺していきました。中には体の中のものを
生きたまま抉り出して、反応を見て笑う敵軍兵士もいました。子供はもっと残忍な方法で殺されました。
手足を切り落として動けなくし、出血多量で死なせたのです・・・・・あまりにも酷すぎました。

私達の家族は、幸いにも町から逃げ出す寸前まで行きました。私達のほかにも何家族かが一緒でした。
ですが敵軍の兵士に見つかってしまいました。私は戦いました。5人のバーマント軍の兵士を返り討ち
にしましたが、6人目を討ち取ろうとしたとき、その兵士が持っていたクロスボウで左胸、心臓に近い
位置に打ち込まれました。矢は私の体を串刺しにする形で止まりました。今もここにハッキリと傷跡が
残っています。」
レイムは自分の左胸、乳房から少し右に離れた位置に手を当てた。服に隠れて見えないが、そこが傷跡の
ある位置だった。
「私は痛みに屈して倒れました。私は薄れ行く意識の中で、母、父、兄の3人の家族が次々に殺されるところ
を見ました。わずかな時間でした。バーマント軍の兵士は、私を襲ってきませんでした。矢が刺さった位置が
急所の近くであったことから、私を完全に殺したと勘違いしたのでしょう。私はそれから7日後に、ヴァルレキュア
軍の陣地で眼を覚ましました。私を連れてきた兵士から聞かされた話ですが、あの傷で普通は死んでもおかしくなか
った。矢が心臓を逸れていたことが助かった原因だと、言われました。村は私以外を除いて全ての住人が殺害されました。
それから2年の間、確認できただけでも58万人が虐殺されていると言われています。これはバーマントから死体付きの手紙
で知らされました。私は、村人が・・・・・家族が・・・・・・悲鳴を上げながら死んで言った事を・・・・忘れてはいません。」
レイムの赤い瞳から涙が滲み、やがて彼女の頬を伝った。

彼女から伝えられた、バーマント軍の蛮行に、インディアナポリスの食堂はシーンと静まり返った。  


217  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  22:33:07  [  4CUjn9IY  ]
話のあまりにも衝撃的な内容に、誰もが黙り込んでしまった。沈黙は実に15分
も続いた。後に、作戦参謀のフォレステル大佐が、この食堂だけ暗黒の世界に引き込まれた
ようだった、と言わしめたほどだった。

「ひどい・・・・・・余りにもひどすぎる・・・・まるでどこかの国の原始バージョンじゃないか。」
やがて、スミス中将が、呻くように言葉を紡ぎ始めた。
「ハラワタを抉り出して反応を楽しむ・・・・・剣術練習台にする・・・・・無抵抗な住民を皆殺し・・・
なんて野郎どもだ。バーマント軍のど畜生どもめが!!」
残虐非道なバーマントに対する罵声が、彼の口から飛び出した。彼はスプルーアンスに顔を向けた。
「スプルーアンス長官。やりましょう。彼らに協力しましょう。このままでは彼らは遠からずバーマント公国に蹂躙され、
絶滅の憂き目に会うことは間違いありません!国土を拡張するだけで、その国を侵略し、その国の住民を残らず殺す。
そんな国が考えられますか?長官、わがマリアナ侵攻部隊の装備なら十分に敵を叩けます。協力しましょう!」
彼は熱に浮かされたような口調で一気にまくし立てた。
「私も賛成です。」
リー中将も頷く。
「原住民が邪魔だから皆殺し。そんな国は滅ぼしたほうがいいです。」
簡単ながらも、彼もやや上ずった口調でそう言った。
「そうです!長官、行きましょう。バーマントのような技術格差のある原住民を虐殺する蛮国など、
生かす価値はありません!あの憎きジャップも、捕虜を全員皆殺しというのは、バーマントのように
頻繁にやっているわけではありません。我が機動部隊の艦載機、マーシャル諸島航空隊の全力を持って、
バーマント公国に空襲をかけましょう!」
第5艦隊幕僚からも同じような言葉が次々と出てきた。スプルーアンスは、しかしいつもと変わらぬ冷静な
表情で聞くだけだった。  


219  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/05(木)  23:08:59  [  4CUjn9IY  ]
会議室代わりの食堂に、バーマント討つべし!蛮族を撃滅しろ!との強硬論が
増えつつあった。その時、スプルーアンスは口を開いた。
「話はよく分かった・・・・・所で、諸君に聞きたいことがある。我々合衆国の先人
達は、過去に祖国で何をした?」
突然のスプルーアンスの問いに、誰もが戸惑った。なんで関係のない話を?誰もがそう
言いたげだった。
間もなく、スミスが答えた。
「開拓を行いました。」
「そう。開拓を行った。あらゆる手段で。バーマント公国が取ってきたような手段も用いてな。」
4人は驚いた。バーマントが取ってきたような手段も用いて?どういうことか?彼らはそう思った。
「先人達は本来の先住民族、インディアンを迫害しながら開拓を行ってきた。この迫害で何万もの
インディアンが犠牲になった。私が言いたいのは一つ、祖先もバーマントと同じような手段で富を開いたのだ。
それを忘れるな。」
スプルーアンスの一言に、会議室は静かになった。つまり、自分達の祖先も、バーマントと同じような事
をしてきた。それを棚上げにしてバーマントを撃滅しろなどど言うな、と言うことなのだ。
スプルーアンスは、先人達のインディアン迫害を嫌っていた。
「いくら開拓とはいえ、無実であるインディアンを迫害することなど、馬鹿げた事である。原住民も人なのだから
話し合えばもっとましな道を歩めた事だろう。先人達のインディアン迫害は、開拓の焦りが感じられるものである。」
彼はこのように言っている。

スプルーアンスは4人に顔を向けた。
「私達も、過去に先人がこのような事を行ってきた。そう、血塗られた歴史がある国の国民なのだ。それでも、
あなた方は私達に協力して欲しいのか?私はその是非を聞きたい。要請するのも、断るのも自由だ。」
フランクスは迷った。まさか召喚主の祖先が、バーマントと似たような方法で国土を広げたとは思わなかった。
それを知って彼は迷っている。いずれ、この召喚主達がヴァルレキュアを占領しようと企むのではないか。
その考えが頭をもたげてきた。すると、スプルーアンスが新たに付け加えた。
「私はこの召喚された部隊の最高責任者だ。私がいる限り、植民地も、君達の国を滅ぼそうとはしない。それだけは
約束できる。」
スプルーアンスは断言した。
「あなたは・・・・・あなた方の先人達が歩んできた事をしないと?」
「そうだ。」
フランクスの問いにスプルーアンスは断言した。
「分かりました。スプルーアンス大将、私はあなた方の部隊に協力を要請したい。わが国を、
かけがえのない住民をバーマントの牙から守ってください。」
彼の答えに、スプルーアンスはいつものように、
「分かった。」
と、冷静な表情で答えた。  


229  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  13:32:31  [  4CUjn9IY  ]
5月9日  午前7時  マーシャル諸島メジュロ環礁
レイム・リーソン魔道師は、ヴァイアン号の割り当てられたハンモックで寝入っていた。
そこへどこからともなく、楽器が吹かれる音が聞こえた。それはあちらこちらから聞こえてくる。
レイムはその音で眼を覚ました。その音は聞いたこともない楽器の音だった。
「何かしら?」
彼女は起き上がると、甲板に上がって行った。甲板に上がると、その音がはっきり聞こえてきた。
彼女が何気なく視線を左舷のインディアナポリスに移したとき、インディアナポリスの後部甲板
で何かをやっていた。
レイムは後で知ったが、それは海軍軍楽隊による朝の国旗掲揚だった。音楽と共に旗がするする
とあがり、やがて一番上らしい位置に止まった。
赤い縞模様に上のある程度の部分に青い下地、その青い下地の上に50ほどの星。それこそアメリカの象徴
である星条旗であった。やがて演奏が終わると、後部甲板に集まっていた人たちは艦内に入っていった。

レイムはあたりをぐるりと見回した。回りは船、船、船である。それもヴァイアン号よりでかい
船ばかりだ。
「すごいのね、アメリカって国は。一地方の艦隊でこれだけの軍艦を持ってるなんて、もはや神
すらも恐れる勢いかもしれないわね。」
レイムはそう言いながら、昨日のインディアナポリスでのやり取りを思い出していた。  


230  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  13:33:12  [  4CUjn9IY  ]
「長官、協力するのですか?」
参謀長のデイビス少将は、恐る恐る彼に聞くと、スプルーアンスは頷いた。
「座して待っても何も変わらない。それよりかは彼女達に協力して、活路を見出したほうがいい。」
彼は淡々とした口調でそう言うと、スプルーアンスは突如席を立ち、インディアナポリスの艦橋に向か
った。そこで隊内無線で、マーシャル諸島全域の米軍に、先の話し合いの事を伝えた。そして彼は最後に
こう伝えた。
「我々が挑もうとしている戦いは、これまでとは全く違う。これは救う為の戦いだ。」
スプルーアンスが隊内無線、そして電文でそう伝えた後、2時間ほどの間に各任務郡司令官から指示に従う
との通信が入ってきた。
スプルーアンスは、レイムらに向かってこう言った。
「皆の意見が一致した。我が第5艦隊は、これよりヴァルレキュアに協力する。」
スプルーアンスは珍しく微笑みながら4人に握手を求めた。
「これから長い付き合いになるかもしれん。よろしく頼むよ。」
レイムはこの時、彼が微笑んだ事に驚いていた。常に寡黙な表情であったことから、
「この人は笑う事を知らないのね。」
と、スプルーアンスを冷血人間のように思っていた。だが、彼女の考えは改められたのである。
スプルーアンスが握手した時、彼の手は程よいほどに暖かかった。  


231  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  13:33:44  [  4CUjn9IY  ]
「やあ、魔道師さん。眠れたかい?」
後ろから野太い声がかかった。プラットン船長である。
「なんとか眠れました。」
「そうか。それにしても、雄大な光景だねぇ。周りを見てると、俺の自慢の船が虫けらに見えるよ。」
そう言うと、彼はハッハッハ!と豪快に笑った。
「でも、スプルーアンス提督は、この船をいい船だと言っていました。よく整備もされ、乗員の腕も
見た限りではベテラン揃いみたいだと。」
「ほう、そなのか・・・・・・まっ、それはそうだ。」
彼は傲然と胸を張った。
「なんたって、トラビレス協会一の稼ぎ船だからな。」
彼はニヤリと笑みを浮かべると、すぐにまた仕事人の顔に戻り、船員が寝ている船倉に入って言った。
「おい、てめえら!いつまで寝てやがる!起きろ!今日も忙しくなるぞぉ!!」
プラットン船長の怒鳴り声が響き、ヴァイアン号の今日が始まった。

ヴァイアン号は、この日の朝に早速メジュロを出発することになった。それと同時にスプルーアンスは
第58任務部隊に出動を命じた。もちろんスプルーアンスのインディアナポリスも機動部隊に混じるつも
りだった。
午前9時、まずヴァイアン号が先にメジュロ環礁を出た。ヴァイアン号には護衛が付けられ、第2任務郡の
軽空母キャボット、軽巡モービル、駆逐艦ルイス・ハンコック、マーシャル、デューイがヴァイアン号を取
り囲むように輪形陣を作って航行した。
その翌日、アメリカ海軍自慢の高速空母部隊が次々と、メジュロを出航した。
ヴァイアン号は14ノットのスピードで北上し、第58任務部隊の4個空母郡は、海賊船や巨大生物の存在
を警戒しながら、ヴァイアン号を追いかける形で、ロタ半島に向かった。  


236  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  17:20:49  [  4CUjn9IY  ]
5月16日、午前5時30分  第58任務部隊第4任務郡旗艦エセックス
エセックスの飛行甲板上には、16機のF6F,20機のSB2C、14機のTBFが並べられ、
轟々とエンジンの唸りを上げていた。
エセックスの左舷1000メートルを航行する空母ランドルフも同様に、飛行甲板に艦載機を
並べ、艦載機がエンジン音を上げていた。
「久しぶり、いや、この世界に来ては初めて、と言うべきか。」
エセックスの艦橋から攻撃隊を見つめている士官、ウイリアム・ハリル少将はそう呟いた。
「司令、間もなく発艦準備が終わります。」
艦長のオフスティー大佐が言うと、彼は頷いた。
「通信士官、各艦に連絡。準備でき次第発艦せよ。」
通信士官は命令を復唱し、艦橋から飛び出していった。やがて、命令が各母艦に伝えられた。
5分後、先に空母ランドルフから艦載機が発艦し始めた。朝焼けのオレンジ色の光が、周りを
幻想的な色に彩っていく。
「綺麗だな・・・・・朝日というものは。どんな異世界にも、太陽はあるのだな。」
ハリルは感動したように朝日を眺めた。
「発艦準備OK!」
甲板士官がそう叫ぶと、オフスティー大佐は、
「発艦はじめ!!」
と、大声で叫んだ。
甲板要員がフラッグを振った。F6Fの1番機、デイビット・マッキャンベル中佐の機が発艦を開始した。
手空き乗員が、帽子や手を振って発艦を見送った。様々な声援に後押しされるかのように、滑走速度を早めていく。
F6Fは先端を蹴ると、大空に舞い上がっていった。それを皮切りに、次々と艦載機が発艦してい
いった。発艦は25分ほどで終わった。
既にランドルフ隊の攻撃隊は編隊を組み終えていた。エセックス隊は上空で編隊を組むと、ランドルフ
隊と共に一路北東に進んでいった。第58任務部隊は第3郡と第4郡から合計で200機の第1次攻撃隊
を発艦させた後、第1、第2郡から第2次攻撃隊を発艦させようとしていた。
目標はロタ半島の付け根に当たる町、ララスクリスと、その北40キロにあるクロイッチであった。  


237  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  17:21:53  [  4CUjn9IY  ]
話は5月11日に遡る。その日、ヴァイアン号はロタ半島の港町、シュングリルに戻った。シュングリルの住人は
ヴァイアン号と共にいる見たこともない船に仰天した。
平べったい甲板を持つ船、明らかに大きい船体の上に大砲をこれでもかと積んだ大型船。小さいながらも、速度が
でそうなスマートな小型船。どれもこれもが彼らの考えを超越していた。
ヴァイアン号を護衛していた船は、シュングリルまでは入ってこず、やや離れた沖合いで錨を下ろした。
港町は騒然となった。その騒ぎを聞きつけたトラビレス協会の会長であるバベルは、急いで港に飛んできた。
午前10時にヴァイアン号は港に戻った。桟橋にはバベルが出迎えに来ていた。
「よお、フランクス。変わったものを連れて来たな。」
「ああ。最初はかなり罵声を浴びせられたよ。馬鹿野郎って怒鳴られてな。俺達はその場で殺されるかも知れんと
覚悟したよ。」
「本当か?」
「本当だ。あちらさんは、最初そっちの都合だけで呼び出すとは考えが甘すぎる。相手を選んでから召喚しろと言われた。」
「散々だな。しかしそんな相手と話してよく、ああいうのを連れて来たな。」
「こっちの状況をこと細かく話したら、協力を引き受けてくれたんだ。最初の雰囲気で断られるなと確信していたが、
レイムの体験談を聞かせたら、情に打たれたのか引き受けてくれた。」
彼はレイムに顔を向けた。
「君のお陰だよ。」
「いえ、それほどでもありません。私はただ、バーマントの蛮行を知って貰いたくてやったまでです。別に大したほどでは。」
彼女は謙遜して首を振った。  


238  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  17:22:58  [  4CUjn9IY  ]
「しかし、お前達も大変な時に来たな。」
バベルはそう言うと、深くため息をついた。表情が暗い。フランクスはどうしたのだ、と聞いた。
「バーマント公国が、このシュングリルを攻略するために進撃を始めた。昨日、敵の根拠地と化したクロイッチから20万の
兵力が南下して3日前にララスクリスを襲ったんだ。防衛軍は6万ほどいたがほとんどが壊滅した。敵は機動式飛空挺をフル
に投入して味方を襲っている。防衛軍の大半はこの空からの爆弾攻撃で戦意を喪失したところに敵に突っ込まれた。6万の防
衛軍は必死に戦ったが、数に飲まれた。ほとんどが殺されたらしいぞ。幸いなのは住民は逃げ出していた事だな。だが、この
シュングリルが襲われるのも時間の問題だ。防衛軍がこの町の郊外に布陣しているが、数はたったの5万だ。敵はまだまだ強大
だから前線から逃亡する兵士もいる。この町から逃げ出す住民も増え始めた。」
バベルはそう言うと、頭を抱えた。
「この状態じゃ、この故郷も、家も、全て失うだろう。状況は最悪だ。」
「そんなに情勢は悪化していたのか・・・・・」
フランクスは、あまりにも情勢が変わりすぎることに絶句した。彼もまさか、ここまで酷くなるとは思わなかったのである。
だが、フランクスは表情を変えた。
「バベル、この町はなんとか救われるかもしれないぞ。」
「なんだと?本当か?」
「ああ、本当だ。」
「もしや、君が連れてきたあの5隻の船が何かしてくれるのか?」
「してくれるが、あれだけでは数は足りないな。」
そう言うと、フランクスは人の悪そうな笑みを浮かべた。
「そのうち、やってくるさ。俺がこう言う証拠がな。」

午後4時、日がようやく傾いたところに、シュングリルの沖合いに見慣れぬ大船団が姿を現した。それは20隻前後の集団を組んだ
大小の船が、整然と航行してくる姿だった。それだけでも凄いのに、それと同様な集団が、なんと4つもある!
シュングリルの町が見渡せる高台から、この船団を見たバベルは再び驚いた。
「すごい・・・・・すごいぞこれは。」
彼はその後の言葉が思い浮かべられなかった。ただ凄いという言葉をおうむのように繰り返すだけだった。高台には彼の他にもいつもの
4人や、町の人が数十人ほどいた。
「フランクス、本当に彼らは敵ではないのだな?」
「ああ。そうだ。」
フランクスは即答した。バベルが初めて目にしたこの大船団こそ、アメリカ海軍の空母機動部隊、第58任務部隊に他ならなかった。
「住民はきっとあの船団を見て不安に思っているだろう。彼らは敵ではないと伝えねば。」
そう言うと、彼は急いで町に戻って行った。  


239  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/06(金)  17:27:44  [  4CUjn9IY  ]
インディアナポリスは、機動部隊と共にシュングリルにやってきた。スプルーアンスは早速、
第5艦隊の司令部幕僚を連れてシュングリルの要人と会談を行った。
当初は誰もがスプルーアンスら異世界から来た人間に驚いていた。
だが、話すうちに互いが打ち解けあい、会談は長時間にわたって続けられた。
この時、スプルーアンスらに防衛軍の司令官が、侵攻してくるだろうバーマント軍の主力がいる
ララスクリスとクロイッチの攻撃を要請された。
スプルーアンスは二つ返事で受け入れた。彼が即答した理由は。バーマント軍にヴァルレキュア側に
強力な助っ人がいること、またその助っ人が膨大な破壊力を持つと言うことを思い知らせることが出来る、
と言うことである。
スプルーアンスらにはロタ半島の地図が渡された。それは距離などが正確に記されていたが、
書かれていた文字はあまり分からなかった。
しかし、大事な資料であることには変わりなく、彼はありがたく頂戴することにした。スプルーアンスは
インディアナポリスに帰ってすぐにミッチャーの第58任務部隊に、このララスクリスとクロイッチを攻撃するように命じた。
ミッチャー中将の司令部は、スプルーアンスの副官が渡した地図を元に作戦計画を練った。文字の通訳として、ターナー魔道師
も交えて、解読しながら作戦の開始時刻などを話し合った。
そして15日の夕方に機動部隊はシュングリル沖から出航。目的地であるララスクリスと、クロイッチ空襲に向かった。

ララスクリスとクロイッチは、シュングリルから北400キロの所にある。機動部隊はまず、陸地から100マイル地点まで接近してから艦載機
を発艦させることにした。
その間、敵の襲撃船や巨大生物に襲われる可能性もあるため、上空直掩機を飛ばし、周囲の警戒に当たった。そして5月16日午前5時30分。
機動部隊は、まずララスクリスで戦力を再編中のバーマント軍に対して、第1次攻撃隊200機を差し向けた。  


260  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:25:31  [  4CUjn9IY  ]
大陸暦1098年  5月16日  旧ヴァルレキュア領ララスクリス  午前6時20分
米攻撃隊は、途中第3郡から発艦した攻撃隊と合流してララスクリスに向かった。朝焼けの美しい
色が空に広がる中、200機の大編隊は、240ノットのスピードで威風堂々と進撃を続けた。
第1次攻撃隊指揮官であるデイビット・マッキャンベル中佐は、首を後ろに振り回しながら、編隊
が戦闘機隊の後ろから追尾していることを確認した。
「異世界か・・・・・・・どんな空でも、見た目的には変わらないな。」
彼はそう呟いた。すると、雲の切れ目からあるものを見つけた。それは木造の建物が多い町だった。
それこそ、機動部隊が目標にした町、ララスクリスであった。
(ララスクリスの住人はとうの昔に逃げているから、徹底的に壊しても構わん、とか言っていたな。
それなら、今度配備された新人連中も少しはやりやすいだろう)
彼は補充のために配備されてきた新人連中のことを思った。いずれも出撃前、初めての実戦でやや緊張
していた様子だった。
(新人君が頑張ってくれることを期待しよう)
彼はそう思いつつ、隊内無線のマイクを握った。
「右前方に目標発見。各隊、攻撃に移れ。」
その命令が発せられると、攻撃隊は雲の切れ目に向かった。雲が切れると、そこには一つの町が姿を現した。
「よし、全機突撃せよ!思う存分にやれ!」
攻撃隊は、3つに分かれた。まず、ヘルダイバー隊が高度4000まで上昇し、戦闘機隊がスピードを上げ、
町に猛然と向かっていく。
水平爆撃をするアベンジャー隊は、高度1500まで下げて、悠然とした格好でララスクリスに向かった。
マッキャンベル中佐は、あるものを見つけた。それは、町の西側にあった。一見すると飛行場みたいなものだ。
(そういえば、敵は機動式飛空挺、つまり飛行機を持っていたな。だとすると、あれはその飛行場かもしれん。
潰すか)
彼は機首を、町の西側にある開けた草原に向けた。そこには何十機という飛行機らしきものが整然と置かれていた。
「ビンゴ!やっぱり飛行場だぜ!」
彼は速度を600キロに上げ、徐々に降下を始めた。制空戦闘機隊の半数が、彼の後ろに続いた。指揮所らしい大
きなテントから何人かが慌てて外に飛び出してくるのが見えた。
その数人の人影はこちらを見ると、突っ立ったまま動かなくなった。
「悪いな。あんたらの大事な物を壊そうとして。」
彼は次第に近づいてくる飛空艇に照準を合わせ、トリガーに指を置いた。そして十分に射程内に入った。
「だが、これも戦争だ。運が悪かったと思いな!!」
マッキャンベル中佐は指を押した。F6Fの両翼にある6丁の12.7ミリ機銃が、ダダダダダダダ!という軽快な
音と共に吐き出された。機銃弾が線を引いて飛空挺に突き刺さった。
マッキャンベルは飛空挺の列線を飛びぬけるまで機銃弾を撃ちまくった。彼が列線を飛びぬけると、すぐに後続機が
両翼から光を発し、機銃弾を撃ち込み、たちまち飛空挺をたんなるぼろに変えてしまう。
かつて、太平洋戦線で現出された米艦載機の航空威力が、この異世界のララスクリスでも力を発揮し始めた瞬間だった。  


261  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:26:27  [  4CUjn9IY  ]
バーマント軍第12空中騎士団の団長であるクエル・リーギン騎士少将は、突然、空を圧し始めた爆音に眼を覚ました。
「何だこの音は?味方の飛空挺部隊か?」
初老の皺だらけの顔に眠気が満ちている。彼は半ば寝ぼけながら指揮所のテントから飛び出した。彼の他にも数名の
幕僚が共に外に出た。次の瞬間、彼は眠気が綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
なんと、別の機動式飛空挺がまっすぐ飛空挺の列線に突っ込んでいくではないか!それも、我が飛空挺よりも早い速度で!
それはマッキャンベル中佐のF6Fだった。形は見たこともない無骨な格好で、まるで太い棒を加工したような形だ。
しかし、その無骨な機体が信じられないスピードで飛んでいる。
その時、その飛空挺の翼から火を噴いた。いくつもの線が、リーギン騎士少将のパイロットが大事にしていた飛空挺に突き刺さった。
バキバキバキバキ!!というけたたましい音を立てて飛空挺から破片が飛び散った。翼、胴体を蜂の巣にされた飛空挺は、
さらに後続の機から容赦の無い攻撃を受けた。
攻撃開始からわずか20秒で、列線の飛空艇は、たんなるぼろに変わり果ててしまった。
「こっちにも来ます!!」
副官の絶叫が響いた。1機のF6Fが彼らを見つけ、猛然と突っかかってきた。
「逃げろ!殺されるぞ!!」
グオオオオオオー!!という2000馬力エンジンの轟音が徐々に大きくなってきた。リーギンらは蜘蛛の子を散らすようにパッと
逃げ散った。ダダダダダダダ!機銃が撃たれる音が鳴り響き、リーギンの左横を機銃弾がブスブスと、突き刺さり、土を跳ね上げた。
「ヒィィィィ!」
彼は仰天して、その場にへたり込んだ。機銃弾を撃ったF6Fが轟音を発しながら飛びぬけていった。彼はあまりの恐怖に体を震わ
せた。股間から生暖かいものが流れ出していた。
リーギンは、別の1機が、巨大なテントを狙っていることに気が付いた。そのテントには、飛空挺飛ばすのに必要な油がたっぷり
入っていた、いわば大切なテントだった。
「ま・・・・まずい。」
彼が呻くように言った直後、F6Fがそのテントに容赦なく機銃弾を叩き込んだ。幾つ物光の束がテントを一薙ぎにした。
F6Fが通り過ぎた直後、テントが大爆発を起こした。
ドーン!という腹にこたえる様な音と共に爆風が周囲を駆け巡った。リーギン騎士少将は、爆風で飛んできた木の破片に胸を
叩き割られて戦死した。
F6Fは、簡易の飛空挺基地を縦横無尽に荒らし回り、駐機してあった60機の機動式飛空挺は容赦無しに破壊されてしまった。  


262  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:28:55  [  4CUjn9IY  ]
その頃、ランドルフのヘルダイバー隊20機は、とある大きな建物を見つけた。
それは、町の中心部にどっしり腰を据えるように造られた大きな屋敷だった。
その屋敷のてっぺんに大きな旗が誇らしげに掲げられている。バーマント軍の旗だ。
「いかにも、あれが敵の司令部みたいだな。」
ランドルフ隊の隊長であるグリーンウッド少佐は、そう判断した。彼は直率の小隊で
この屋敷を爆撃することに決めた。
「他のチームは敵が集結しているところを見つけて爆弾を落とせ。以上!」
少佐はマイクに向かって、各機にそう伝えると、ランドルフ隊は4機ずつの編隊に別れ、
思い思いの目標に向かった。
やがて、目標の大きな屋敷上空に差し掛かった時、グリーンウッド少佐は機首を下げた。
眼前に俯瞰図のような大きな屋敷が見えた。
ヘルダイバーは唸り声を上げて、突っ込むように屋敷に襲い掛かっていった。高度は4000から
3000、3000から2000へと早い勢いで下がっていった。ダイブブレーキから発せられる甲高い音が響く。
その音に仰天したのか、何人かの人影がベランダに飛び出した。
「800!」
後部座席の乗員が高度計を読み上げたとき、
「リリース!!」
グリーンウッド少佐は投下レーバーを引いた。開かれた爆弾倉から1000ポンドの爆弾が落下し、
機体が軽くなった感触が伝わる。彼は急降下に伴う急激なGに耐えながら操縦桿を思いっきり引いた。
ヘルダイバーは徐々に機首を上げ、高度が300メートルの所で水平になった。
「爆弾命中!ナイスショットです!」
後部座席から弾んだ声が聞こえた。少佐は機を左旋回させ、窓から爆弾を叩き付けた屋敷を見てみた。
綺麗な姿だった屋敷は、真ん中から猛烈な黒煙を吹き上げていた。  


263  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:30:21  [  4CUjn9IY  ]
バーマント軍第87軽歩兵旅団に所属するクルーズ・グラバット軍曹は、突然始まったけたたましい音に眼を覚ました。
「何?今の音は?」
彼の横で寝ていた裸で、褐色の肌をした女性兵が寝ぼけた口調で言った。町の西側の草原から、タタタタタと言う音が聞こえた。
初めて聞く警戒でリズミカルな音だ。その音は徐々に増えていく。それにグオー!という変な音も聞こえる。
「さあ、分からんな。西の草原のほうからだな。」
2人は最初怪訝に思ったが、昨日の夜は派手に遊びすぎて疲れていたために、そのまま寝る事にした。
「どうせ敵はみんな殺したんだし、何でもないでしょ。」
「ああ、そうだな。寝ようか。」
女性兵、ミルア・ヘルンベも頷くと、再びうす布を体にかけて寝ようとした。その刹那。
ズドーン!という音が鳴り響いた。振動で、薄暗い部屋がガタガタ揺れた。その突然の音に2人はぎょっとした。
「え!?」
二人は互いに顔を見合わせた。
「何かおかしいよ、もしかして、敵!」
ミルアが確信したように言うと、突如甲高い音が鳴り響いた。彼は慌てて窓を開けた。窓には、ララスクリスを占領した後、
司令部が置かれた屋敷があった。その大きな屋敷の上に、小さな影が猛スピードで突っかかっていた。
キーーーーーン!というけたたましい音が極大に達したと思うと、その影の腹から一つの黒い物が落とされた。
「何か落としたぞ!」
彼はその黒い物が、まっすぐ屋敷のてっぺんにすっぽりと突き刺さったところを見た。そして次の瞬間、
バゴオオォォォォーーーーン!!彼らが寝宿にしている所から200メートル足らずにあった屋敷の真ん中が轟音と共に吹き飛んだ。
余りの突然の出来事に、彼は口をあんぐりと開けた。爆風が窓に吹き込み、彼は爆風で床に倒された。
ダーン!という轟音と衝撃が起きた。寝宿は大地震でもあったのかのように猛然と揺れた。轟音はさらに3回目、4回目と続き、
その度に大地は揺さぶられた。  


264  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:32:54  [  4CUjn9IY  ]
衝撃が収まり、彼は爆風で半ば壊れた窓の外を見てみた。そこから見えた司令部の屋敷は、真ん中が黒煙に包まれて見えなくなっていた。
「ねえ、なんなのあれは。一体なにがあったの?」
ミルアが泣きそうな表情で彼に聞いてきた。当のクルーズはガタガタ体を震わせるばかりで、言葉が浮かばなかった。
外には、炸裂音で叩き起こされたバーマント兵がわらわら出てきて、怒号や悲鳴が聞こえてきた。
その時、グオオーーー!という何かが近づいてくるような音が聞こえた。ミルアは黒い長髪を後ろに束ね、露になった豊かな胸を
適当に隠しながらドアを開いた。
そこには、無骨な格好をした初めてみる飛行物体が、両翼から幾つもの光を放ちながらこっちに突っ込んでくる光景が広がっていた。
「あ、あれは!?」
彼女の美貌に驚愕の表情が浮かんだとき、自身の胸と腹に焼け火箸が突き刺さったような痛みが走った。ドアの入り口で立ってい
たミルアの周辺にバリバリ!と音を立てて木屑が大量に飛び散った。
この時、F6Fから放たれた機銃弾は、小さな寝宿に何十発と降り注がれた。機銃弾は、この不運な女性兵を貫き、部屋を無数の
弾痕で穿ち抜いて木製のぼろへと瞬時に変えた。
クルーズは突如巻き起こった衝撃に身を縮めて耐えた。顔すぐ横をガン!というハンマーを打ちつけたような衝撃が伝わった。
轟音が過ぎ去った時、クルーズは体を起こした。
そこには仰向けに倒れているミルアの姿があった。すぐにそばに駆け寄った。彼女は胸の真ん中と腹から血を流していた。
眼は堅く閉じられている。そう、彼女は死んでいるのだ。12.7ミリ機銃は、最初の胸の被弾で心臓を貫通していたため、即死だった。
「な・・・・・なんてこった・・・・・」
彼は次の言葉が出なかった。それよりも気を取り直そうと、彼は急いで散らばっていた荷物から服を取り出してつけ、
剣を持って外に出ようとした。周辺からは、ドーン、ドーンという爆発音が鳴り響いている。
「死んでしまったものは仕方ねえ。まずは何が起こっているのか確かめんとな。」
彼は拳を握りながら外に出ようとした。この時、ヒューーという不思議な音が聞こえていたが、彼は無視することにした。
その直後、彼は寝宿から出る寸前に、部屋ごと吹き飛ばされて死んだ。  


265  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/07(土)  23:35:00  [  4CUjn9IY  ]
エセックスのアベンジャー隊14機が投弾した28発の500ポンド爆弾は、屋敷周辺にあった家を瞬く間に吹き飛ばした。
吹き飛ばされた家からはもくもくと煙が吹き上がり、空を黒く染めつつあった。

米攻撃隊は容赦が無かった。投弾を終えたヘルダイバー、アベンジャーは見えるもの全てに機銃弾を撃ちまくった。人、馬車、
木造家屋などは米機に見つかると必ず機銃掃射を受けた。バーマント軍の兵士が集まっているところを見つけたとあるF6Fの小隊は、
容赦ない銃撃を加え、ばたばたとその戦闘員達をなぎ倒した。
別の小隊は衝撃的な光景を見た。町の一角に串刺しにされたヴァルレキュア兵された死体が一箇所にまとめて集められていたのである。
なかには5体がバラバラになった死体も多数あり、凄惨な情況を呈していた。このF6Fの小隊長は、3日3晩悪夢にうなされたと言う。

攻撃開始から30分後、全機が爆弾、機銃弾を使い果たした。指揮官のマッキャンベル中佐は、町の全体をぐるりと見回した。
町の半分ほどの地域からいくつもの煙が上がっている。町の中心部にある大きな建物は特に被害が酷く、その建物自体全壊状態にあった。
また、町の西側にある簡易飛行場からももうもうたる煙が吹き上がっていた。マッキャンベル中佐はマイクを取った。
「マザーグースへ、こちらパッカードワン。敵占領地の攻撃成功はせり。敵飛行場、施設に甚大な損害を与えたり。尚、いまだに敵施設多数が健在なり。
第2次攻撃の要ありとみとむ。」  


291  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  11:43:58  [  4CUjn9IY  ]
午前7時  クロイッチ
バーマント軍の侵攻拠点クロイッチから、黒煙に包まれるララスクリスの容貌が見て取れた。
クロイッチは、ララスクリスと違ってやや標高が高いところに町が置かれている。
そのため、遠いながらもクロイッチが見渡せるのである。ララスクリスには間もなく編成を
終えるはずだった第12軍、第8軍、第6軍、その他、飛空挺部隊など、合わせて15万の
兵員が休息を取っていた。その、15万の兵員が居座るララスクリスが、燃えていた。

クロイッチに司令部を置くシュングリル侵攻軍司令部でも、ララスクリスの黒煙は見えた。
「ララスクリスは、一体どんな敵から攻撃を受けたのだ?」
シュングリル侵攻軍総司令官、グレイソル・キアルング騎士元帥は、イライラした表情で参謀
に聞いた。
「今、連絡用の飛空挺を飛ばしました。その飛空挺が帰ってきたら詳しい情報が入ります。
それまでは、我慢するしか。」
キアルング騎士元帥は、自慢のカイゼル髭を震わせながら、そして深くため息をついた。
その時、聞きなれない爆音が聞こえてきた。
「参謀長、あの音は何だ?」
彼は聞いてみたが、参謀長は首をかしげた。しかし、キアルング騎士元帥は顔色を変えた。
「もしや・・・・・・」
彼は急いで司令部の城のベランダに出た。ベランダからは、海が一望できた。そして、その
音は、海から聞こえ、やがて幾つもの豆粒のような影が現れた。
「参謀長、あれが敵の正体だぞ。あれに間違いない。」
彼はそう確信したように言った。そうしている間にも豆粒はクロイッチに近づきつつある。
そして、その数はとてつもなく多かった。
「なんて数だ!50や100どころじゃないぞ!」
キアルングは、その数の多さに舌を巻いた。普段、バーマント軍の航空部隊は滅多に100機以上の
飛空挺やワイバーン・ロードで編隊飛行などあまりやらない。やるとしても1年に1回か2回で、
それ以外は30機か60機ほどが普通である。
しかし、目の前の豆粒のような影は、それを超えていた。いくつかの集団には分かれているが、それ
でも全体の数は多い。まるで空を覆いつくさんばかりの大編隊だ。
「おい!衛兵!!」
キアルングは衛兵を呼んだ。すぐに衛兵は駆けつけた。
「この城にある鐘を鳴らせ!ガンガン鳴らしまくれ!急げ!!」  


292  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  11:44:40  [  4CUjn9IY  ]
バーマント軍第45歩兵旅団の旅団長であるグルエ・エンチャー騎士少将は、突然、小高い丘にある
城が、鐘を大きく鳴らした事に仰天した。
ガラーン!ガラーン!大鐘特有の音が、クロイッチの町に響いていく。
「何だ?8時の時報はまだなのに。」
クロイッチの町には、8時、12時、7時に10回ずつ鐘が鳴る。しかし、今は7時ちょっと過ぎなのに
鐘が鳴っている。それも10回ではない。20回、30回と鳴らしまくっている。
(もしや・・・・・・ララスクリスの異変と何か関係があるんじゃ?)
エンチャー騎士少将はそう考えたとき、鐘の音とは明らかに異なる音が聞こえた。それは時間が経つにつれて
大きくなってきた。
「あの鐘の音は・・・・・・空襲警報だったのか!」
彼がそう確信したとき、異音はどこか音の調子が変わった。その音は、まるで何かに挑みかかっている
ような感じがした。その音は、近づくにつれて大きくなってきた。
「どこから来るんだ?」
彼は外に出てみた。外には将兵が相当数出ており、猛然としたスピードで近づいてくる飛行物体を
見つめていた。彼は次の瞬間、殺気めいたものを感じた。それは、図太いながらも、俊敏そうな感
がある飛行物体の、姿がハッキリした時だった。
「おい、貴様ら!危ないぞ!中に入れ!」
彼と同様に何か異様めいたものを感じたのか。彼の声にハッとなった将兵は宿舎やテントの中に入り始めた。
その時、飛行物体の両翼の付け根から光が発した。ともった時、
「ダダダダダダダダ!!」
というけたたましい音が鳴り響いた。オレンジ色の光が地面に突き刺さって土ぼこりをあげた。幾多もの光は
容赦なく将兵達をなぎ倒した。  


293  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  11:45:35  [  4CUjn9IY  ]
たちまち、悲鳴と共に血飛沫をあげて何人かが倒れた。飛行物体はいくらでもいた。別の1機は旅団の武器倉庫、
剣や鎧などが入った倉庫にオレンジ色の光を叩き込んだ。木造の倉庫は何度も何度も繰り返される攻撃に耐えか
ねて倒壊した。
別の飛行機がやってきた。その飛空挺は、甲高い音を回りに撒き散らしながら、旅団の別の宿舎に腹から黒い物
を叩き付けた。エンチャーはそれが宿舎の屋根にすっぽりと入る光景をハッキリと見た。
次の瞬間、ピカーッという閃光に眼をくらまされた。と思った瞬間、ドガアアァーーン!!という猛烈な轟音
が鼓膜を打ち振るった。轟音と共に衝撃があたりを揺さぶった。その余りにも激しい衝撃に、エンチャー騎士
少将含む司令部スタッフ全員が飛び上がった。
スタッフのうち何人かは転倒した。衝撃は連続して続いた。ドカンドカンドカン!という音が鳴り響き、爆風が、
衝撃があたりを襲った。
エンチャー騎士少将が気が付いたのはそれから少し経ってからだった。頭の中がキンキン鳴ってぼうっとしている。
司令部のスタッフ全員は、どこかを打ち付けたりして傷を負っていたが、一応無事だった。
鐘はまだガラーン、ガラーンと鳴っている。それがどこか悲しげに、彼は聞こえた。エンチャー騎士少将は、窓
を見てみた。いつもなら、2階建ての木造の宿舎が、広場を囲むように4つ並んでいる。
並んでいるはずだった。だが、現実には、4つの2階建ての宿舎のうち、2つが全壊して炎上しており、残る2つ
も建物自体がズタズタに切り裂かれていた。この2つも使い物にならない事は、一見して明らかだ。
「酷い光景ですね。」
彼の副官が、比較的落ち着いた声で呟いた。
「ああ、全くだ。」  


294  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  11:47:01  [  4CUjn9IY  ]
彼は、まるで雷に直撃されたみたいだ、と付け加えようとした時、先程聞こえた甲高い音がまたもや鳴り響いた。
「一体どこが狙われているんだ?」
エンチャーはふと、鐘を鳴らし続けている城に視線を移した。そして、その上の上空に、猛禽のごとく、総司令部の
城を狙う4つの影があった。まるで、その翻っているバーマントの国旗に吸い寄せられているかのごとく、猛然
と急降下をしていた。
時間はあっという間だった。4つの影が腹から黒い物を吐き出すと、総司令部の城に突き刺さった、と見た次の瞬間、
バコオオォォン!ダダーン!という遠いながらも腹に応える音が鳴り響いた。城は爆炎に包まれ、次いで破片が城の
中央から飛び散った。その後、司令部の城は真っ黒な黒煙に包まれて見えなくなってしまった。
クロイッチ名物となっていた大きな鐘の音も、既に聞こえなくなっていた。
「こいつは・・・・・やばいことになったぞ。」
旅団司令部のスタッフは絶句した。いかなる外敵からも身を守れそうな、堅牢な城があっさりと破壊されてしまった。
そして、城には総司令部がある。彼らの頭の中に総司令部全滅という、最悪の状況が浮かんだ。
「それよりも、我が旅団の被害集計だ!」
エンチャー騎士少将は、打ちひしがれるスタッフに向けて、大声でそう言った。
「戦場で呆然とするな!ボーッとしたら死ぬぞ!さあ、働け!仕事は山ほどあるぞ!」
彼の大渇に、我に返ったスタッフは、被害集計を調べるために外に出たり、
倒れた机や窓を直したり、片付けたりし始めた。エンチャーもそれに加わった。
未知の飛空挺の攻撃はまだ続いていた。タタタタタという音や、ドーンという音は
まだ止みそうにもなかった。  


295  名前:ヨークタウン  投稿日:  2006/01/11(水)  11:47:56  [  4CUjn9IY  ]
午前7時35分  クロイッチより南南東130マイル地点  第58任務部隊旗艦  空母レキシントンU
「クロイッチ攻撃隊の攻撃は成功せり、敵司令部、飛行場に甚大な損害を与えたり、尚敵地上施設は未だに
多数あり。引き続き第2次攻撃の要ありとみとむ」
参謀長のアーレイ・バーク大佐が、渡された電文の用紙を読み上げると、ミッチャー中将は軽く頷いた。
「クロイッチの第2次攻撃はもう準備出来ているのだろう?」
「はい。第1、第2任務郡の軽空母4隻からそれぞれF6F15機、SB2C8機、TBF8機の合計124機が
既に発艦準備を終えています。」
「よろしい。すぐに出したまえ。」
ミッチャーはそう言った。今のところ、作戦は順調に進んでいた。予想されていた巨大海蛇、この時代で言う海竜
の襲撃も無い。だが、念のために上空直掩機は出している。
「順調だな。」
彼は小さく呟いた。その声はバークには聞こえなかった。
(このまま、何事も無く済めばよいが、どうも変な胸騒ぎがする)
ミッチャーはなぜか不安に思っていた。いきなり飛空挺がこちらの位置を突き止めて襲ってくるのではないか。
そして、大事な母艦が傷ついたりしないか。
(それは・・・・・・大丈夫だろう不用意に入ってきた敵の航空機はF6Fに任せればすむ事じゃないか。大した
事ではない)
彼はそう思い、不安を打ち消した。

南東の方角に、その小さい粒は向かっていた。バーマント軍第1空中騎士団のダイル・フランクル騎士大佐は、部下
の飛空挺、約60機と共にそれを追っていた。
彼らの飛空挺にはいずれも250キロの爆弾が抱かれていた。彼らの他にも、第2空中騎士団の80機も、彼らから
離れた後方を飛行していた。