676  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:14:22  [  D4VsWfLE  ]
こんばんわ〜、外伝を投下いたします!  


677  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:15:43  [  D4VsWfLE  ]
1098年  9月30日  午後3時  ギルアルグ西飛行場上空
照準機の中の敵機は、巧みに左や右に機体を捻らせて、照準を逸らそうとする。

「畜生!ちょこまかと動きやがって!」

デイビット・マッキャンベル中佐は忌々しげに喚いた。
敵機が照準機に入った瞬間、すかさず引き金を引く。両翼から6丁の12・7ミリ機銃弾が、奔流のように弾き出される。
照準機の左から右にはみ出ようとする敵機の機影に、幾つかの曳光弾が突き刺さった。
胴、尾翼、主翼を数発の機銃弾が突き刺さり、敵機から破片が飛び散る。
その時、反り立った敵機の垂直尾翼から、大きな破片がちぎれとんだ。直後に、敵機はバランスを失って下降していく。
退避時の下降ではない。あきらかに墜落前のダイブである。

「垂直尾翼を吹っ飛ばしたな。」

マッキャンベル中佐は、敵機から破片が飛び散ったときに、尾翼が大きく欠損していたのを目の当たりにしている。
それが致命傷となって、バーマント機を墜落に至らしめたのである。

「これで18機目だな。」

彼は一瞬、頬をほころばせた。その時、

「隊長!右上方に敵機!」

不意に味方機からの無線が入った。
はっとなった彼は右上方に向く。  


678  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:16:49  [  D4VsWfLE  ]
そこには、まっしぐらに突っ込んでくる別のバーマント機があった。
彼はスロットルレバーを開き、機を増速させた。
プラットアンドホイットニー社製の2000馬力エンジンが力強い音を立てて、520キロ
まで下がっていたスピードを再び、600キロの最高速度まで引き上げる。
重い機体にもかかわらず、ヘルキャットはすぐにスピードを上げていく。
580キロのラインを超え、590キロに達しようとしたその直後、何かの小さな光が眼前に立ちはだかった。

「!?」

マッキャンベル中佐は咄嗟にラダーを踏んで、機体を捻ろうとする。
だが、
ガガガン!ベギャアン!
機銃弾の命中する音と振動がヘルキャットを揺さぶり、眼前のエンジンカウリングが火花を散らした。
その刹那、コクピットの外側が真っ黒になった。ベチャッ!という気色の悪い音が耳に飛び込んで来る。

「ああっ!オイルが風防に!!」

マッキャンベル中佐は驚愕の表情を浮かべた。
機体がガクンとつんのめり、心なしかスピードが落ちていくように感じられる。
速度計を見てみると、590キロ近くまで増速していた速度が、今では500キロを割り込み、速度の下降が止まらない。
(なんてこった!俺とした事が!!)
マッキャンベル中佐は、先ほど、敵機を撃墜した時に、一瞬だけ警戒を緩めてしまっていた。
その時は、彼は数秒ほど直線飛行を行っていた。そこへ、別の敵機が横合いから突っ込んできて、マッキャンベル機に機銃弾を叩き込んだのである。
頑丈なヘルキャットは、少しばかりの損傷は大丈夫であるが、今回は運が悪すぎた。
機銃弾の内、数発はエンジン部分にまとまって着弾していた。その際、エンジン内部のパイプを切断し、機構部の一部が破損してしまった。
機銃弾の破孔から真っ黒なオイルが漏れ出し、コクピットの視界を悪くしている。
だが、悪い事はこれだけではなかった。  


679  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:18:20  [  D4VsWfLE  ]
「こちらエックフォックスワン!被弾した!これより戦線を離脱する!」

マッキャンベル中佐は無線機に向けてそう言う。せめて、離脱する事を仲間に知らせねば。
しかし、

「・・・・・・・・・・・・」
「?・・・・・・・・こちらエックフォックスワン!被弾により戦闘を継続できない。これより戦線を離脱する。」

無線機からは、返事がない。
それどころか、交信のさいに聞こえる雑音も全く聞こえない。
すぐ右横で、2機のヘルキャットの挟撃を受けたバーマント機が、火を噴いて墜落していく。
そのヘルキャットは、すぐに地上に降りて行く。
恐らく、攻撃隊の投弾をやりやすくするために、地上の対空砲火を掃討するのであろう。

「こちらエックフォックスリーダー、3番機、4番機、聞こえるか?」

無線機からは何も反応がない。そして、マッキャンベル中佐は確信した。

「無線機もやられている・・・・・・・」

まさに不運としかいえなかった。
バーマント機の放った機銃弾は、エンジンに傷を負わせたばかりか、無線のアンテナまでもを吹っ飛ばしてしまったのだ。
しかも、線を切ったとかではなく、コクピットのすぐ後ろ上に取り付けられている無線の柄そのものが根元から折られていた。
それに、戦線離脱をするといったものの、エンジンの計器類はどれもが危険値を示そうとしている。

「なんてこった・・・・・・これじゃあ家族の元に帰れなくなるぞ」

マッキャンベル中佐は、顔からサッと血の気が引いたのを感じた。  


680  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:20:45  [  D4VsWfLE  ]

星の国の勇者  外伝

 
陸の海鷲



被弾してから5分が経過した。
エンジン出力は、さらに落ちている。速力は400キロを出せればいいほうであり、それも落ちつつある。

「今敵機に狙われたら、真っ先にあの世逝きだな」

彼は自嘲しながら、エンジンをだましだまし動かす。ここで出力を上げよう物ならば、エンジンはすぐに火を噴いてしまうだろう。
辺りはマッキャンベル中佐のヘルキャットしかおらず、平穏そのものである。
現在、彼は北東に向けて飛行している。
本当ならば、すぐにでも北西に機体を向けたいところだが、エンジンの状態から言って、海に出る前に墜落する可能性が大である。

「迂闊だった・・・・・・・」

マッキャンベルは、あの時、一瞬警戒を怠った事を酷く後悔している。
普段、部下に対して、耳にタコが出来るほど、周りに気を配れといい続けている。
その自分が、皮肉にも自分が警戒したやり方で、今しも墜落しようとしている。
「本当に皮肉なものだな・・・・・・・・それにしても、死んだらどんな世界にいけるのかな?」
ここは、現世界とは全く違う、異世界の土地である。
搭乗員の間では、死んだらどこぞの教会か、墓場で生き返るとか、魔法の燃料にされるとか、
はては現世界に戻れるのでは?と言われている。  


681  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:21:58  [  D4VsWfLE  ]

マッキャンベル中佐は、そのような類の噂に関しては知った事ではないと思っていたが、今考えると、その死の世界というのも気になる。

「いっそ、これが悪夢であって、墜落したらベッドに寝ている、という事にならんものかな。」

彼はそう呟く。少し考えた後、

「馬鹿馬鹿しい。んな事はあり得んな。」

と呟いて、再び操縦に専念する。
機体の速度の下降は一向に収まる気配が無い。

「ここらが潮時か。」

彼は計器をコンコン叩きながら、残念そうな口調で呟く。
海軍のエース、デイビット・マッキャンベル。敵機撃墜後に壮絶な自爆を遂げたり。
となるのだろうか・・・・・・・・
ふと、右に何かの光景が目に入った。横目で見たため、最初は何か分からない。
彼は顔を右に向ける。
そこには、森と、岩山の間に、幅800メートル、長さ1キロほどの草原があった。
「・・・・・・・・あそこに不時着してみようか。」
そう呟いた時には、体が反応して、機体が右方向に向けられた。
「革命軍ももうすぐ侵攻を開始するとか言っていたな。それならば、辛抱しつつも味方に助けられたほうがいいかもしれん。」
マッキャンベル中佐は、心のうちでそう呟く。脳裏には、エセックスで共に過ごした中間達の顔が脳裏に浮かぶ。
もう一度会いたい。会って、奴らと共に再び空を飛びたい。
そのためには、まずは生き残る事だ。  


682  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:23:37  [  D4VsWfLE  ]
そう決心したマッキャンベルは、機体を慎重に操りながら、西側から草原地帯に侵入していく。
エンジンはもはや死に体である。計器が危険数値を指しっ放しで、いつ発火するか分からない。
開かれたコクピットから顔を出して、機体の姿勢を調整する。
草原の地面は、凸凹であるから、脚をだしての着陸は危険である。
かといって、胴体着陸も危険だ。
死ぬ確立としては、どちらも似たようなものであるが、胴体着陸のほうが、少しばかりは助かる確率が上がるはず。
マッキャンベルは胴体着陸を行う事にした。
脚は出さない。それよりかは胴体着陸を行って、滑走距離を短くし、さっさと脱出したほうがいい。
高度は徐々に下がっていく。500から400。400から300と、どんどん下がっていく。
岩山を超えて、草原地帯に達した時には、高度は200を切っている。
もうすぐである。
次第に動悸が激しくなってきた。
胴体着陸時の衝撃は凄まじいものになるだろう。
彼はそれに耐えて、すぐに脱出しなければならなかった。
コクピットが開かれている事を確認する。
草原地帯は既に3分の1を飛び越えた。残り3分の2で決めなければならない。
ゆっくりと、高度が下がっていく。地面が近づく。
高度が10メートルを割り込み、もうすぐ機体が地面に接する。
咄嗟に、彼はエンジンを切り、弱弱しく回っていたプロペラが停止する。

「燃えないでくれよ!」

彼は願いを込めて、ヘルキャットに対して叫んだ。
次の瞬間、ドズン!ズザアアアァァーーーー!という胴体下部をこする衝撃と音が聞こえた。
その衝撃に、マッキャンベル中佐は思わず飛び上がった。止められていたベルトが千切れないかと思うほど、彼の体は座席から浮き上がった。
体の浮き上がりがベルトに止められた、かと思うと、今度は尻が座席に叩き付けられ、顔面を計器類に強打してしまった。
ガツン!という音が鳴って、額に激痛が走った。頭の中がぼうっとなって、一瞬なにをしているのか分からなくなる。  


683  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:25:24  [  D4VsWfLE  ]
やがて、機体は滑走をやめて、草原に止まった。

「い、今すぐ脱出しないと。」

マッキャンベル中佐は、痛みが走る頭を無理やり上げて、安全ベルトを外しにかかる。
しかし、どうしたことか、全く外れない。
仕方なく、彼は懐からナイフを取り出して、ベルトを強引に切断した。
ベルトを全て切断した後に、マッキャンベルは前方を見る。
エンジン部分から白煙がもうもうと噴き出しており、焦げ臭い匂いもする。

「くそ、モタモタしてる場合じゃねえ!」

機体には、まだ燃料が残っている。この胴体着陸で破損し、漏れ出している可能性が高い。
それに引火すれば、マッキャンベル中佐の体はバーベキューのごとく、猛火にあぶられるであろう。

「バーベキューになってたまるか!」

脱出する事で頭が一杯の彼は、すぐにコクピットの左から飛び出した。
草原に着地した中佐は、ガソリンの匂いが漂っている事に気が付いた。
頑丈なヘルキャットの機体も、さすがに胴体着陸の際の衝撃にはどうしようもない。
右主翼が中ほどから千切れとび、左主翼は底部がざっくりと裂け、そこから燃料が漏れ出している。
燃料の一部は、機首部分に達しつつあった。
彼は脱兎のごとく、森に向かって逃げ始めた。森までは100メートルある。
その場でぐずぐずしていれば、火災発生時の炎に巻き込まれる。
マュキャンベル中佐が盛りに辿り着いて、木の幹に姿を隠す。
だが、いつまで経っても恐れていた爆発は起こらない。
マッキャンベルは恐る恐る顔を出してみた。  


684  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:26:39  [  D4VsWfLE  ]
その時、
ボーン!という鈍い爆発音が鳴り、ヘルキャットの機体が破片を飛び散らし、火達磨になった。
主翼の機銃弾がパンパンと音を立てて弾け飛び、彼の愛機は真っ赤な炎と、黒煙を噴き出している。

「畜生・・・・・・・これからどうすればいいんだ・・・・」

彼は、懐をごそごそとまさぐりながら、諦めたように呟く。
懐から出したのは、飛行経路が描かれた地図と、1丁のコルトガバメント、そして刃渡りが14センチしかないナイフ。
食料は脱出時に持ち出した1日半分の簡易食料と、水1リットルのみ。
この状態で、継戦派の部隊と出会えば、真っ先にやられてしまうだろう。
ガバメントの装弾数は7発。そして、密かに持っていた予備のマガジンを含めて、14発。
これを1人1発ずつで倒しても、14人が限界であり、ナイフも使えば少しは増えるかもしれぬが、
いずれは圧倒されて殺される運命である。

「こんなはずでは・・・・・・・」

マッキャンベルは頭を抱えたい気分であった。
革命軍がやってくるとしても、果たして何週間待たねばならぬだろうか?
それに、燃えているヘルキャットは、既に敵軍も黒煙で位置を確認しているはずである。
当初、このグランスボルグ地方を征圧する予定であった革命軍も、いまや散り散りとなって継戦側から隠れている有様。

「八方塞がり・・・・・・・話にならんな。」

彼は自嘲めいた口調で、そう呟いた。
まずは、森の奥に逃げよう。決心した彼は、森の奥に逃げる事にした。  


685  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:29:58  [  D4VsWfLE  ]
この未開の土地で、何がいるか分からない。
人食いモンスターなどが出てくる可能性もあるであろう。
その類が出た場合、彼の命は危うい。だが、待っていればバーマント軍もやって来る。
座して滅ぶよりは、自ら進んで行き、手を尽くしながら生き延びる方法を模索したほうがいいだろう。
マッキャンベル中佐は立ち上がって、一度東の空に目を向けた。
飛行場の方面からは、猛烈な黒煙が上がっている。
マッキャンベル中佐は、飛行場攻撃隊のアベンジャーを護衛する任務に当たっていた。
その護衛したアベンジャー達は、立派に任務を成し遂げたようだ。
その一方、味方機がここの上空に来る様子がない。

「せめて、何機かがこの黒煙を見つけてくれればいいのだが・・・・・・」

彼は心の中でそう祈った。
攻撃隊の機影は見えないが、微かながらも爆音は聞こえる。だが、それも徐々に遠ざかりつつある。
恐らく、攻撃隊は彼の未帰還を知ってはいるであろうが、細かな事までは分からないだろう。
それに、帰りの燃料も半分近くしかないから、彼らは早く母艦に帰りたがっている。
結局、第3次攻撃隊の面々は、マッキャンベル中佐が何処に墜落したか分からなかった。
この後、160機の攻撃隊がギルアルグに向かっている。
敵戦闘機はマッキャンベル隊がほとんど駆逐しているから、第4次攻撃隊は思う存分暴れられるだろう。
しかし、第4次が来るまではまだ時間がある。それまでに、ここにバーマント軍が来ないとは限らない。

「厄介な事になったなあ・・・・」

その時、後ろで何かの気配を感じた。振り向くと・・・・・・

「・・・・・・・こうも、悪い事は連続して続くものなのか?」  


686  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:32:38  [  D4VsWfLE  ]
彼は絶望的な表情で、諦めたように言い放った。
彼の背後には、いつの間にか、10人ほどの人影がいた。
そのうちの3人は女性らしい。10人は彼に小銃や弓などといった武器を向けている。
頭には戦闘帽らしきものを被っている。
バーマント兵。彼はそう思った。
(俺のヘルキャットの不時着を近くで見ていたのだろう。)
マッキャンベル中佐はそう思いながらも、死を覚悟した。
連続する味方機動部隊との対決で、継戦派の将兵は、機動部隊を目の仇にしているという。
そして、目の前で武器を向けている者達は、明らかに殺気を放っている。
今は武器を向けているだけだが、瞬きした次の瞬間に、息の根を止められるのは確実である。
(死ぬんだな・・・・・・だが、ただでは死なん。懐のガバメントで、2、3人は道連れにしてやる)
彼はそう決め、懐に忍ばせたガバメントを抜こうとした時、意外な事が起きた。
その10人のバーマント兵達は、いきなり武器を下ろしたのである。

「あんたは飛空挺乗りだよな?」

先頭の赤い長髪の男が声をかけてきた。よく見ると、どことなくあどけない印象がある。
まだ子供と言っていいような顔つきではあるが、なかなか端麗な顔立ちである。
それに加えて、戦士のような印象も持ち得ているようだ。

「そうだが・・・・・・なぜ質問を?」
「少しばかり興味があってね。」
その男は顔に笑みを浮かべる。いかにも安心したような表情である。
「バーマント軍じゃないな?」
「そうだ。」

と言いながら、マッキャンベル中佐は
(バーマント軍じゃないな?貴様らはバーマント軍だろう)  


687  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:34:20  [  D4VsWfLE  ]
と思ったが、それは赤紙の男の言葉で覆された。

「俺は革命軍に所属しているんだ。森の中を進んでいたら、いきなりあんたの飛空挺が不時着してきてね。所属はどこなんだ?」
「所属か・・・・・・少し長いが、アメリカ合衆国海軍第5艦隊、第58任務部隊・第4任務郡、
空母エセックス所属。名前はデイビット・マッキャンベル。階級は中佐だ。」

10人のバーマント人、もとい、革命軍の兵達の顔色が変わった。
しかし、その内の数人はどこか別の表情を浮かべている。なんとなく恥ずかしそうな表情だ。

「中佐・・・・・か。ってことは、自分はあんた、いや、あなたより階級が下ですね。」

いきなり語調を変えて、彼は歩み出てきた。

「自分はアムクス・オイルエン大尉です。」

そう言うと、彼はかぶっていた戦闘帽を取った。そして、手を差し出した。
しかし、マッキャンベルは躊躇った。
(嘘じゃないのか?)
未だに彼らに対する不信感は抜けていない。それどころか、増したと言ったほうがいい。

「大丈夫ですよ。マッキャンベル中佐殿。」

彼の表情からは、真意は感じ取れない。嘘なのだろうか、それとも本当に革命軍なのだろうか。

「・・・・・・・来る。」

唐突に、小さな声が上がった。一番背後にいる女性兵が険しい顔つきでオイルエンに話しかけている。  


688  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:36:17  [  D4VsWfLE  ]
マッキャンベルは、彼女を見た瞬間、目の前にあるものが信じられなかった。
彼女のショートカットの頭に、2つの獣耳がついているのだ。見たところ、犬のような感じである。
しかし、顔は普通の人間であるが、目は金色である。
その女性兵は顔をマッキャンベルに向ける。険しい顔が、なぜかもっと険しくなる。

「あたしの顔に何か?」

冷たい口調で彼女は言ってきた。

「い、いや。なんでもない。」

マッキャンベルは慌てて否定する。
その女性兵は、ふんと鼻を鳴らして冷たい態度を崩さぬまま、オイルエン大尉に顔を向ける。

「敵が来る。今すぐここから離れたほうがいいわ。」
「分かった。それでは進もう。恐らく、先の爆発音に引き付けられたな。」

彼は顎をしゃくると、全員に進むように命じる。

「マッキャンベル中佐。あなたの身は私等が保護します。
上の命令で、墜落してきた乗組員は、極力救出するように命じられています。さあ、行きましょう。」
「あ、ああ。」

突然の展開に、マッキャンベルは戸惑いつつも、彼らと進む事にした。

「中佐殿、イメインの事に関しては申し訳ありません。」

オイルエンはマッキャンベルに、小さな声で謝って来た。  


689  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/16(日)  23:37:35  [  D4VsWfLE  ]
「イメイン?ああ、あの女の人か?」

「はい。彼女はああですが、根はいい奴なんです。でも、あなたに特に冷たい態度を取られる理由には訳があるのです。」
「訳?」
「ええ。実はイメインには弟がいたんですが、第13空中騎士団に所属していたのです。
その弟は、実施された夜間空襲の時に重傷を負って、今も意識不明の重体なのです。」
「!」

夜間空襲・・・・第13空中騎士団。
第58任務部隊の将兵にとっては忘れる事が出来ない、第2次サイフェルバン沖海戦を引き起こした航空部隊である。
あの海戦で、第13空中騎士団は8割以上の喪失を出しながら、軽空母サンジャシントと駆逐艦ドーチを撃沈し、
駆逐艦コットンと軽巡クリーブランドを大中破させ、旗艦のレキシントンに傷を負わせている。
あの時は夜間戦闘機のF6FN−3を、ウルシーの飛行場に上げていたのが失敗だった。
今では機動部隊将兵の語り草となっているあの海戦に、あの女性兵、イメインの弟が参加していた・・・・・・・・・
(だから、先は俺に冷たい態度を取ったのか)
そう思い、彼は後ろを振り向く。獣耳を生やしたイエメンは、彼を見た瞬間、厳しい目つきになる。
(畜生・・・・・・寝込みを掻かれるんじゃないか?)
参った。
マッキャンベルは率直に思った。それを無視するかのように、オイルエン大尉は、

「とりあえず、グランスボルグにようこそ、マッキャンベル中佐殿。あなたの身は、我らがお守りします」

と、やや明るい口調で彼に言った。  


716  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:28:48  [  D4VsWfLE  ]
森・・・・・森・・・・・森・・・・・・
行けども行けども、見えるのは木と緑の葉。
時たま、リスのような小動物や、鳥の鳴き声が聞こえるが、周りの光景はここ数時間、
日が落ちて暗くなった以外、大して変わっていない。
(単調なもんだな)
デイビット・マッキャンベル中佐はそう思った。
マッキャンベルは、今10人のバーマント兵達と共に、森の奥深くを進んでいる。
時計を見てみる。
午後8時40分・・・・・・
彼らに見つけられたのが午後3時40分ぐらいであったから、かれこれ5時間ほど歩いている事になる。
足が痛くなってきているが、彼らは休もうともせずに、ただひたすら歩き続けている。
森の中には太い木の幹や、落ち葉などが地面に落ちており、彼は何度か、木の枝に足を取られて転倒しそうになっている。
しかし、バーマント兵達には、そんな事は一度も起こっていない。

「大尉、もうそろそろいい頃です。」

後ろから声が上がった。最後尾のイメインである。

「よし、皆も疲れているだろう。小休止する。」

振り返ったオイルエン大尉がそう告げ、彼らは適当な場所に腰を下ろした。
オイルエンは、木の根に座ったマッキャンベルのもとに歩いてきた。

「マッキャンベル中佐。体の調子はどうですか?」
そう言って、彼は左隣に腰を下ろす。  


717  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:30:07  [  D4VsWfLE  ]
「足がガタガタさ。疲れてはいるが、今のところそれだけだ。」
「そうですか。」
「それにしても、5時間ぶっ通しで歩くとはね。敵さんはよっぽど近くに来ていたのかい?」
「いえ、それほど近くには来てませんでしたよ。それに、近くにいた場合声は出さずに、身振り手振りで合図しています。」
「なるほどね。」

マッキャンベル中佐はため息をつきながらそう言った。

「さっきは聞きそびれたんだが、大尉達はどこに向かっているのだね?」
「カウェルサントです。」

オイルエン大尉は、懐から地図を取り出し、それを広げた。

「おい、マルファ。ちょっと来てくれ。」

大尉は誰かを呼び出した。数秒ほど立って、1人の女性兵がやってきた。

「何ですか親分!」

元気のいい声が彼女の口から飛び出した。マッキャンベルはその魔法使いの顔を見る。
暗くて分かりづらいが、身長は164センチほどはある。

「親分はやめろよ。今は隊長と呼べ。」
「じゃあ、隊長で!」

女性魔道師、マルファの言葉に、オイルエンが苦笑を浮かべる。  


718  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:31:45  [  D4VsWfLE  ]
「全く・・・・・・それはいいとして。お前は魔法でちょっと明かりをつけてくれ。」
「火は使わないんですか?」
「火をおこす時間がない。それよりかは、君の魔法が役に立つ。」
(火か・・・・・ん?ちょっと待てよ)

いきなり、マッキャンベルは懐を探り始めた。汗で濡れた飛行服が肌にまとわり付いて気持ち悪い。

「何を探してるんですか?」

マルファはかがんでマッキャンベルを見る。
それに反応せず、彼は懐を探り続ける。目的のものはあった。

「これを探していたのさ。」

マッキャンベルは微笑みながら、ジッポライターを取り出した。
蓋を開けて、親指でフリントホイールを回す。シュッ、という音が鳴って、ライターに火が灯った。

「ああっ!すごい!」
「こ、これは・・・・・・」

初めて目にするジッポライターに、オイルエンとマルファは驚いた。

「シッポライターさ。これで地図が読める。嬢ちゃん、わざわざすまねえな。」
「・・・・・・いやはや、こんなものがあるとは。」
「大尉、ライターに目を奪われるのは後にして、その地図の説明をやってもらいたい。」

オイルエン大尉は彼にそう言われ、気を取り直して説明を始めた。  


719  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:34:40  [  D4VsWfLE  ]

「カウェルサントは、ギルアルグより東120キロの所にあります。おおよそですが、
私達はそこから50キロ東の所を歩いていました。そこへあなたの飛空挺が不時着して、
この森に逃げ込んできたのです。で、現在我々がいるのは、ここです。」

オイルエン大尉は、ライターの薄明かりに移る地図を指で撫でる。

「俺たちは南南東に向かってるな。どうして真っ直ぐ東に向かわなかったのだ?」
「敵の目を欺くためです。カウェルサントには、自分達革命軍の秘密の根拠地があります。
そこで、革命軍本隊がグランスボルグに侵攻するまで、私達はここを拠点にゲリラ活動を行っているのです。」
「革命軍は何人ほどが残存している?」
「14000です。そのうち、カウェルサントには合計で2800人の革命軍部隊があり、ゲリラ活動の本拠地となっています。」

当初、グランスボルグ地方の革命勢力は3万と、かなりの兵力を有していたが、
革命直前に、計画を察知した継戦軍に先手を打たれて、革命勢力は次々に包囲殲滅されていった。
包囲を逃れ、バラバラになった革命勢力は、ひとまず息を潜めて、革命軍本体が侵攻するのを待つ事にした。
その間、少数の部隊が、臨時に作られたそれぞれの拠点を出発し、継戦軍の基地や兵達にゲリラ攻撃をしかけている。
オイルエン大尉の部隊も、2日前に継戦軍の輸送部隊を襲っている。
このゲリラ攻撃に対して、継戦派は2個師団を投入して鎮圧に向かう予定であったが、今日未明に現れた米機動部隊が
後方に輸送船団らしきものを後続させているとの情報が入ると、継戦側は海岸線の防衛兵力を増やす事にした。
このため、追跡部隊は1個師団と、その半分しかいない。
にもかかわらず、追跡部隊の追及は厳しく、これまでに20チームのゲリラが消息を絶っている。

「追っ手の追及はなんとか逃れたようですし、今後は方向を東北東に変えて、本拠地に戻る予定です。」
「大体何日ぐらいかかる?」
「50〜60キロ以上歩きますから・・・・・・休止も含めれば1日半か2日かかります。」  


720  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:36:28  [  D4VsWfLE  ]
それを聞いて、彼は少し顔をしかめたものの、追ってらしきものから逃れたと聞いて、張り詰めていた気持ちが少し解れた。

「なるほど・・・・・スプルーアンス長官のような散歩好きではないが、まあ仕方ないな。」
「スプルーアンス?誰ですか?」
「俺たちの艦隊の指揮官だよ。灯りはもういいか?」
「ええ、消していいですよ。」
オイルエンの了解を得て、彼はジッポライターの蓋を閉じる。
パチンという音が鳴ると、薄明かりが消えて、再び辺りが暗くなった。

「それにしても、そのライターというものはすごいですね。」
「コレか?」
「はい。このようなものは初めて目にします。」
「マッキャンベルさん!ちょ、ちょっとだけ、借りていいですか?」

後ろで話を聞いていたマルファがマッキャンベルに頼み込んできた。
いきなりのお願いにさしものマッキャンベルも少し戸惑った。
「おいマルファ!さんづけで呼ぶな!この方は中佐殿だぞ。それに応じた呼び方で言え。
それに、お前はまだ悪いクセが治ってないようだな。初対面の方にあれこれねだるとは、無礼千万だ!」
「大尉、いいんだよ。」
しかめっ面で説教するオイルエン大尉を宥めつつ、マッキャンベル中佐はマルファに姿勢を向ける。

「嬢ちゃん、貸してやるよ。ただし、1、2分だけだぞ?」

彼はマルファにジッポライターを差し出した。
説教されて、落ち込み気味になっていたマルファは、途端に明るい表情になってライターを受け取った。

「あ、ありがとうございます!」
「なに、いいって事さ。」  


721  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:39:15  [  D4VsWfLE  ]
そう言うと、彼女は蓋を開けて、マッキャンベルがやったようにフリントホイールを回す。
シュッ、という音が鳴って、ライターの小さな火が灯る。
「わあ・・・・・」
思わず、感動の声が漏れる。

「大尉。あの子は元気があるな。」
「元気だけが取り柄の奴なんですが、人懐っこすぎる面もあるので、あまり甘やかさぬようにしています。」

マッキャンベルは視線をちらっとマルファに移す。
さっきは暗くて分からなかったが、よく見ると、確かに元気のよさそうな顔をしている。
髪は肩までしかなく、体のスタイルは少しいいぐらいであろう。
顔立ちはそこそこ整っている。一見どこにでもいそうな普通の女だが、目を凝らせばそうではない。

「なんか、若いな。何歳だ?」
「マルファは19歳です。」
「19・・・・・・若いな。」
「元気が常に有り余っているような奴ですけど、それでも魔法使いとしての経験はなかなかなものです。」
マルファの周囲に、他のメンバー達が集まって何やら話をしている。

「マルファ、そいつあ何だ?」

小太りの髭面男が話しかけてきた。

「ライターよ。マッキャンベル中佐が貸してくれたの」
「ライター?変わった名前だな。」
「コンパクトな灯りだな。これさえあれば、火起こしがかなり楽になるかも知れん。」  


722  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:41:05  [  D4VsWfLE  ]
風変わりな眼鏡の男が真剣な表情で言ってきた。

「ヌーメラー先生、早速分析ですか?」
「何か問題でも?」
「それにしても、これはどんな構造と仕組みで火を発しているんですかね?」

「オイルエン大尉、時間はあるか?」
「あと7分ほどはありますが。」
「そうか。俺は君の仲間たちに、ジッポライターについて講義してくるよ。」

ジッポライターは1932年にジョージ・ブレイズデルが開発した。
当時、シンプルな構造と高い耐久性などを秘めたジッポは、最初こそ売れ行きはなかったものの、近年では相当数が世に出回っている。
構造はいたってシンプルで、外板の内に納められているインサイドユニットと呼ばれる中に、
綿球が敷き詰められ、そこにナフサというオイルを注入、吸収させる。
注入されたオイルは毛細管現象の原理で、発火口に吸い上げられ、揮発。
その揮発した燃料を、発火石とフリントホイールを摩擦させ、その火花で火を起こすというものである。
このライターは燃料注入式であり、いつかは必ず燃料が切れて火が灯らなくなる。
だが、その時は中のインサイドユニットを抜き、綿に燃料を染み込ませればいいだけで、手間はあまりかからない。
その扱いやすさから、軍はジッポを大量に購入して、将兵達に(全員というわけではない)与えている。
お陰で、ジッポライターの人気はうなぎ上りであり、最近ではGIの友ジッポという言葉もちらほらと聞かれるようになっている。

「と、まあこんなものだな」

マッキャンベル中佐は、ジッポライターに関して一通り説明した後、皆の反応を見渡す。
けれども、暗いので表情は分からない。  


723  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:44:16  [  D4VsWfLE  ]
「すげえな・・・・・」
「似たような言葉しか思い浮かばないぜ。」
誰もが感嘆したような口調で言う。

「これ下さい!」
「駄目だね。」
唐突に、マルファが切り出すが、マッキャンベルもすぐに打ち消した。

「さっき言ってなかったか?こいつはGIの友と。それは同時に、俺のようなパイロットの友でもある。
だから、そう簡単にこいつは渡せないね。」
「あう・・・・・・すいません。」

マルファは謝ると、素直にライターを渡した。

「休憩終了!出発だ!」

その時、オイルエン大尉の鋭い声が響いた。

9月31日  午前11時
マッキャンベルを引き連れたオイルエン大尉の部隊は、30日の午後12時に再び足を止めて、4時間30分ほど眠った。
睡眠時には、2人1組で見張りにあたり、1時間おきに交代した。
午前5時には再びカウェルサントを目指して歩き始めた。

森の中は空気がひんやりとしており、とても気持ちよかった。
昨日は撃墜されたショックもあってか、そのような事は感じられなかった。
今では少しばかり気持ちが落ち着いているので、その分周りを見渡す余裕も出てきた。

「敵の追っ手は今のところいません。」  


724  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:45:18  [  D4VsWfLE  ]
「そうか。なら大丈夫だな。イメイン、君も休憩しろ。」
「分かりました。」

オイルエン大尉と、イメインが離れて行く。
大尉はマッキャンベル中佐のほうに振り向いた。
「中佐、あと1分ほどで出発します。」
「分かった。ところで、今はどの辺なんだ?」
「今は・・・・・・・ここですね。」
大尉は広げた地図を指差した。東に向かって矢印が伸びている。しかし、それは少ししか伸びていない。

「まだまだ散歩が楽しめそうだな。」
「ご冗談を。」

大尉は苦笑しながら言う。
1分はあっという間に過ぎ去った。オイルエン大尉は全員を立たせて、再び東に向けて前進した。

4時間後

「オイルエン大尉。」
いきなりイメインが切羽詰ったような口調で言う。
「どうした?」
「ワイバーンロードです。東からやって来ます!」
その言葉にオイルエン大尉は表情をがらりと変えた。
「木の影に隠れろ!」
皆が素早い動作で、程よい場所に隠れる。マッキャンベル中佐は真上を見る。
緑の葉はそこの部分を中心に10メートルほど無くなっている。  


725  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:48:44  [  D4VsWfLE  ]
時折、森の中ではこのような上が開けた場所がある。

「中佐、こっちに来てください!」
ただならぬ雰囲気を感じたマッキャンベル中佐は、すぐにオイルエン大尉が隠れている太い木の幹に移動した。
「ここで伏せて起きましょう。」
「なあ、ワイバーンロッドって、ドラゴンか?」
「そうです。あっ、来ました。」
オイルエンは自分の口を押さえる動作をする。喋るなということだ。
彼は頷いて、右斜めの空を見渡す。ふと、味方部隊の事が頭に浮かんだ。
今頃は、機動部隊の艦載機が多数発艦し、魔法都市マリアナに押し掛けている頃だろう。
魔法都市マリアナは敵機や、ワイバーンロードこそいないものの、大量の対空火器が配備された対空要塞を形成していると聞いている。
本来ならば、自分もエセックス・エアグループの艦載機隊を率いて、その激戦の渦の中に飛び込む予定だった。
だが、いまではどうか?
撃墜され、革命勢力と合流できたまではいいが、敵の追跡やドラゴンに怯えている。
そんな自分が、とても頼りないように見えて仕方がない。
マッキャンベルはそう思った。
その時、遠くから何かが羽ばたく音が聞こえた。それはすぐに大きくなってきた。
右上の開かれた空に、ワイバーンロードの姿が見え、すぐに消えて行った。
姿が見えたのは一瞬だけではあるが、戦闘機乗りであるマッキャンベルはその全体像がはっきり視認できた。
獰猛そうでありながら、頼りがいがありそうなドラゴンの横顔。そして鍛えられた胴体と大きな羽。その胴体に乗る槍を持った人。
胴体の下部には4つの突起があった。紛れもない手足だ。
(あんなのに狙われたら、そら恐ろしいものがあるな)
彼は始めてみるワイバーンロードに対して、畏怖の念を覚えた。
ワイバーンロードの通過はそれだけであった。
「いいぞ。起きろ!」
オイルエン大尉が皆に言う。メンバーが立ち上がって、オイルエン大尉のもとに歩み寄って来た。  


726  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:50:38  [  D4VsWfLE  ]
「大尉、おかしいと思いませんか?」
小太りの髭面男である、ドワーフのキレスク曹長が言って来た。
「君も思うか?」
「ええ。ワイバーンロードは東から飛んできました。ですが、東にはまだ継戦派の部隊は進出しとりません。
それなのに、ワイバーンロードが飛び去った、ということは・・・・何か胸騒ぎがするような・・・・・・」
「東にはヌーメアの町があったな。」
ヌーメアと聞いて、一瞬マッキャンベルはニューカレドニアのヌーメアを思い出した。
(どうしてか、この世界には聞いたことのある名前がちらほら出てくるな。)
彼は不思議そうに思うが、そんな事は知らずに会話は続けられる。
「ヌーメアは一般人が住んでないはずですが。でも、町長が継戦派にはやや否定的でしたな。」
「そのかわり、革命側には賛同している。俺たちも2度ほど、あの町には世話になったからな。一応、何事もなければいいが。」

午後2時  ヌーメア
「街道だ。」
マッキャンベルは、森の中に開かれた街道に視線を向けた。
幅が4メートルほどはあり、馬車が充分に通れる広さである。
街道が見えたと同時に、異常な光景も見ることが出来た。
いや、見せられたといったほうが正しいであろう。
「!・・・・・馬車が!」
街道には、脇に転倒した馬車があり、くすぶっていた。
その馬車の右脇を通っている道は、50メートルに渡って焦げ付いていた。
馬も御者も乗客も、全員が焼死体となっている。
「ひ、ひでえ・・・・・・・」  


727  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:54:27  [  D4VsWfLE  ]
マッキャンベルは思わず目をそむけた。
恐らく、必死に逃げ延びようとしたものの、追いつかれて焼き殺されたようだ。
街道の遠くは、森が切れている。どうやら森を抜ければ、そこがヌーメアの町に繋がっているようだ。
一行は敵がいない事を確認した上で、町に進んだ。
町の様子は・・・・・・まさに悲惨であった。
町といっても、人口は500〜700人しかいない村のようなものだが、住人達はとても気前がよく、平和な町であった。
しかし、町の主だった建物は焼け落ち、くすぶっていた。まだ炎上している建物も少なくない。
周囲には焼死体が主に散らばっている。
マッキャンベルは、周囲に漂う肉の焼ける匂いに思わず吐き気を催した。
耐え切れず、彼は左にあった木の影に吐いた。

「これじゃあ、人っ子1人いないですね。」

誰かの淡々とした口調が聞こえる。

「いくら自分達の意に反するからといえ、これは酷すぎるな。」

これはオイルエン大尉の言葉だ。  
マッキャンベルは幾分落ち着くと、周りの光景を見渡した。中世風の家々が、ほとんど燃え、焼け落ちている。
視線を左側に移すと、焼死体とは異なる死体が、串にくっつけられ、いや、刺さっている状態で放置されている。
奥のほうは血だまりで地面が真っ赤に染まっているが、とても確認しようとは思わなかった。

「さっき。ワイバーンロードが飛んでいったが・・・・・これは・・・・」
「奴らですね。明らかに。」  


728  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:56:54  [  D4VsWfLE  ]
オイルエン大尉は断言する。
そう、先ほど、上空を悠々と飛んでいったワイバーンロードは、この町を焼いた張本人なのである。
ワイバーンロードは、あの後も別のものが3、もしくは12といった編隊で幾度か上空を通過している。

どんな理由で焼いたのかは分からないが、マッキャンベルの内心には蛮行をしでかした
ワイバーンロードに対する怒りが沸々と湧き上がっていた。

(俺にヘルキャットがあれば、あんな奴らを好き勝手させずに済んだのに・・・・・・・畜生、戦闘機が欲しい)

「今は・・・小休止できない。ここを離れましょう。継戦軍の地上部隊はまだ付近にはいないはずです。」

オイルエン大尉の怜悧な言葉が、マッキャンベルの耳に入ってきた。  


729  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/23(日)  13:58:18  [  D4VsWfLE  ]
SS投下終了です。
米機動部隊が魔法都市相手に奮戦している間、別の場所ではこのような悲劇が・・・・

継戦派各部隊にも、次第にそれぞれの思惑の違いが現れてきます。  


730  名前:名無し三等陸士@F世界  投稿日:  2006/07/24(月)  21:04:21  [  k43acqvQ  ]
戦闘機乗りはこう考えるんでしょうね。これが攻撃機や爆撃機乗りだったら
また違った感想を抱くんでしょうけど。  


731  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:31:23  [  XwixsAvk  ]
>>730氏  マッキャンベル中佐はそう考えていますが、大量にいる戦闘機乗りでも、
人はそれぞれなので、彼とは別のことを思うでしょう。

それでは、SS投下します。  


732  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:34:53  [  XwixsAvk  ]
午後4時30分  オルフォリゲンスク
「帰ってきたぞ!」
基地の作業員が指を指して叫んだ。
その声は基地全体に響き渡った。東の空から、30の黒い粒が基地に向かってくる。

「クランベリン隊の帰還か。」

木造の指揮所からこの黒い粒を見た初老の基地司令が呟く。

「基地司令、なぜクランベリン隊をマリアナではなく、ヌーメアに向かわせたのだね?」

椅子に座り、テーブルに足をのせている男が横柄そうな口調で聞いてきた。

「ヴァルケリン閣下。600キロ以上のスピードが出る敵艦載機に、420キロしかスピードの
出せないワイバーンロードが勝てるとお思いでしょうか?」
「勝てないまでも、負けることはなかろうが。それに、敵の高速飛空挺を狙わずに攻撃用飛空挺を狙えばよいだろう。」

ヴァルケリン公爵はそう言い放つ。
彼は1時間前にこの基地に来て、エリラ・バーマントのいる魔法都市マリアナ護衛に、ワイバーンロードを差し向けたらどうか?
と、基地司令に提案しに来た。
ヴァルケリンは公爵という爵位を持つ貴族であるが、同時に継戦派ナンバー2でもある。
彼は公爵であると同時に、騎士大将の階級も有している貴族軍人であり、革命前にはグランスボルグ方面軍の司令官であった。
体格はがっしりしており、顔つきは武人そのものである。
ただ、人のやることにあれこれ指図する事が多く、軍の中、いや、貴族の中でも彼を敵視するものは多い。
しかし、彼が来た時には、ワイバーンロードは12騎しかいなかった。
クランベリン隊が帰還した今では、数も増えるから、彼は再びワイバーンロードを総力出撃させて、マリアナ攻撃に
出張ってくる敵艦載機を迎え撃っては?と言う言葉が口から出かかっている。  


733  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:37:36  [  XwixsAvk  ]
「お言葉ですが閣下、敵編隊の半分、最低3分の1は高速飛空挺で埋まっています。
その最低の3分の1でも、およそ50機があの白星の悪魔で編成されているのです。
それに対して、ワイバーンロードは何騎だと思いますか?42・・・・・・たったの42騎です。」
「42でも充分だ。少し休養したらすぐに再出撃させるのだ。」
「昨日の決戦の詳細はあなたもご存知の筈だ。600のうち、160機は新開発の高速飛空挺で出撃し、
敵高速飛空挺多数をひきつける事が出来ました。しかし、160出撃した戦闘飛空挺は、わずか40機しか帰還していません。
それに、航空基地に残した60機の高速飛空挺も、白星の悪魔によってほとんど撃ち落されています。そんな中に、
ワイバーンロードを突っ込ませて幾つの時間が稼げると思いますか?」
「機動性においては、ワイバーンロードのほうが遥かに上だ。」
「戦闘飛空挺もその筈だったのに、あっさりと撃ち落されたではないですか。」
「出来る!いくらあの蛮族共に性能が劣るとはいえ、ワイバーンロードと操る竜騎士達はいずれもベテランだぞ!」

いきなりヴァルケリンは怒声を発した。
しかし、それにたじろぐことなく、基地司令、ゼルネスト・パルンク騎士中将は冷静に言葉を続けた。

「確かに・・・・・確かにそうです。出撃させれば、何らかの戦果は上げるでしょう。」
「その通りだ。だから出撃する必要がある。」
「戦果を上げるだけです。そして、その後は多量の敵飛空挺に押し捲られるだけです。」

彼は数枚の紙を取り出した。それをヴァルケリンに放り投げる。

「アメリカ軍の機動部隊は、早朝から8時間、たった8時間で何機の飛空挺を繰り出している思いますか?」

彼は上官であるヴァルケリンに憤りの表情を浮かべる。その気迫に、ヴァルケリンはややたじろいだ。  


734  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:40:48  [  XwixsAvk  ]
「1000機。1000機ですよ!?それに対して、こっちに残っているのは、第68空中騎士旅団の
ワイバーンロード42騎のみ。これでは戦争になりません。」

パルンク中将は窓のほうに姿勢を向ける。
先頭のワイバーンロードが、翼を羽ばたかせて、ゆっくりと地上に降りてきた。

「例え、42騎が1機ずつ、いや、10機ずつの敵を落としても、敵には何の打撃になりません。」

彼は振り向いて、人差し指を上向きに伸ばした。

「これでは、洪水を指一本で阻めと言っているのと同じですよ。」

彼の言葉に、ヴァルケリンは顔を真っ赤に染めた。

「・・・・・・それじゃあ、他にどんな方法があるのだね?」
「私の考えはこうです。」
彼は地図をテーブルに置いて説明を始めた。

「今現在。我が空中旅団は、革命軍の攻撃を続行しています。ちなみに、今回出撃してきた敵機動部隊ですが、
閣下もご存知の通り、敵は相変わらず、空母10隻以上を伴う大機動部隊です。現状ではこのワイバーンロードを
向かわせても航続距離が届きませんし、届いたとしても大量の敵飛空挺に食われるのがオチです。それよりかは、
敵機動部隊が2〜3隻の空母部隊に減り、そして陸地に近寄れば、なんとか攻撃ができるでしょう。」
「敵機動部隊か・・・・・・あ奴らはあの空母という味気もない軍艦の使い方がうまいからな。厄介なものだ。」
「しかし、私が本来攻撃すべきと思うのはこの機動部隊ではありません。敵艦隊の後方には上陸部隊を乗せた輸送船団がいます。
敵がマリアナに地上軍を投入するのは、ここ数日の行動で明らかです。私としては、地上部隊を上陸させ、それを護衛する敵飛空挺の交代の合間を縫って、
ワイバーンロードを投入してはどうかと思うのです。あるいは、夜間に停泊している敵輸送船団にワイバーンロードを突っ込ませて、
積まれている物資ごと、焼き払うという作戦も考えております。」  


735  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:43:27  [  XwixsAvk  ]
なるほど・・・・・敢えて弱敵を狙うか。」
「敵も所詮は人間です。敵機動部隊や高速飛空挺に立ち向かうとなると、かなり厳しいですが、
このような相手ならば、ワイバーンロードも十二分に暴れ回れます。」
「生贄用に多数徴発されたのは痛かったな。」

ヴァルケリンは顔をしかめて言う。

「しかし、逆らえば死罪でした。それに、エリラ殿下の切り札は未だに健在です。」
「おお、そうであったな。大魔道院がやられたとの報告は未だに入って来てないしな。
まだ希望はある。軍人と言うものは常に最悪の想定もせねばならぬが、今は大魔道院が耐えるのを待つしかない。」

神妙な面持ちで、ヴァルケリンは呟いた。ふと、外が何故か騒がしくなった。

ブレスが逃げ惑う人間達を飲み込んだ、と見た直後には、10は下らない人の形をした炎の塊が激しく動き回り、すぐに倒れて止まった。
家にワイバーンロードの降りかかると、たちまち黒煙を吹き上げて炎上し始める。
まるで悪夢を見ているかのようだった。
今自分達が攻撃してきた場所は、ヌーメアと呼ばれる町であり、“軍事施設ではない”
そう、一般住民が住む、のんびりとした雰囲気の町であった
そこを、30騎のワイバーンロードが襲撃したのである。
作戦目的は、革命軍の補給地であるヌーメアを捜索し、殲滅すること。
本来ならば、軍事施設があるはずなのに、ヌーメアには主に小ぢんまりとした町しかなかった。
だが、あろう事か。クランベリン隊長は無警告で町を焼き払ったのだ。

ワイバーンロードが地上に接地した。竜騎士であるドラース・ヴァルス騎士大尉は機嫌が悪かった。
顔は若く、あどけない感じがする美男子であるが、その顔は黒煙で煤けている。  


736  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:45:48  [  XwixsAvk  ]
しかし、この年で彼は32歳になる。
顔と年齢が合ってないように思えるため、仲間内からは学生というあだ名をもらっている。
彼はワイバーンロードから降りると、甲冑を脱いでそのままある人物に会った。

「どうした学生?」
「あんた正気か?隊長さんよ。」
「?いきなりどうしたんだ、大尉。」

むっとなったクランベリン少佐は大尉と言う言葉の語調を特に強くして発する。

「どうしたもこうしたもない。なぜ、満足に調べずに町を焼いたんだ?」
「あそこの町は敵に協力していたんだぞ?ならばヌーメアの奴らは敵しかいない。」
「無抵抗の人間が敵なのか?」
「そうだ。」
「狂ってるぜ。」

ヴァルス大尉は苦々しそうに呟く。

「エリラ・バーマント殿下の言葉を忘れたのか?敵は残らず殺せ、と。」
「聞いたともさ。だが、あれは戦闘員限定ではないのか?」
「敵に戦闘員も市民も関係あるか。ちょっとどいてくれ。基地司令に今日の戦闘の報告をしてくる。」
「何が戦闘だ!あれはただの虐殺じゃないか!!!!!」

いきなりの大声に、誰もが彼のほうに振り向いた。  


737  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:48:25  [  XwixsAvk  ]
「あんなの戦闘じゃねえ。戦闘と言うのは、敵と命を奪い合ったりするものだ。
それに対して、今日の行動は、ただ身動きの取れない一般市民を焼き殺したり、町の奴らを見つけ出して
一方的に斬殺しただけだ!それを戦闘と呼ぶあんたは狂ってる!」
「野郎・・・・・・言わせておけば!」

クランベリン少佐は唸るようにそう言うと、いきなりの肩を掴んだ。
その直後、ヴァルス大尉は肩を掴む左腕を払うと、顔面にパンチを見舞う。

「ぐ!・・・・・・貴様ぁ!」

よろけたクランベリン少佐は、すぐに体制を立て直して彼に掴みかかってきた。
少佐はヴァルス大尉に体当たりをかまそうとしたが、大尉は左によけて少佐の体当たりをかわす。
だがその直後、少佐は姿勢を捻った瞬間に右足で回し蹴りを繰り出した。これは大尉の背中に当たった。
蹴りに吹っ飛ばされたヴァルスは、地面にうつ伏せに倒れた。そこに、少佐がやってきて、大尉の長い前髪を引っ張って顔を上げた。

「お前は昔からの仲間だったが、さっきの言葉を聞いて見損なったぞ。」
「あんたのやった事は犯罪だ。告発してやる。」
「まだ!分からんのか!今は戦争なんだ!いつまでも理想論を言いまくるんじゃない。目覚ませ!!」

その時、

「貴様達何をしとる!」

いきなり基地司令の声が聞こえた。見ると、基地司令のパルンク中将が走り寄ってくる。
2人はすぐに立ち上がって、直立不動の態勢を取った。  


738  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:50:37  [  XwixsAvk  ]
「喧嘩か?」

にじり寄って来たパルンク中将が、2人を睨み据える。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

2人は黙って何もいわない。

「まあ、見ていたから聞かないでも分かるがな。だが、これを見過ごすということは出来んぞ。
お前たち2人は隊を引っ張っていくベテランだ。そのお前たちが何が理由か知らんが、喧嘩をするとは、私はつくづく情けない。」

その時、大尉は今日、クランベリンらが行った蛮行を告発しようと、口を開きかけた。

「閣下!」

だが、口を開いたのはクランベリンが先であった。

「どうして我々をマリアナへ向かわせなかったのでありますか?」
「必要ないと判断したからだ。」
「なぜです!?我々は敵飛空挺と充分にやり合えます!それに、大尉と喧嘩したのも、マリアナに向かうかどうかで
議論になり、それが高じて先のようになったのです。閣下、我々はいつでも死ぬ覚悟はできています。」
「敵機動部隊は既に1000機の艦載機を送り出してきている。1000機だぞ?お前たちにはこの数字がどれだけのものか分かるか?」
「その気になれば、敵の10や20ぐらい叩き落とせます!」
「その言葉は、自分達が乗っているものの性能を見てから言う事だ。」

その言葉に、クランベリンのみならず、ヴァルスも気が重くなった。  


739  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  18:53:15  [  XwixsAvk  ]
「要するに、現状では敵機動部隊や敵艦載機とは戦闘を行ってはいけないと言う事だ。
それに、希望はまだある。大魔道院が日没までに破壊されなければ、もはやあの忌々しい
艦隊とも戦う事もなくなる。後は生き残った革命軍の連中を虱潰しに探すだけだ。」

彼の目が光った。

「今はこれまで通りの作戦を行う。その際、貴様らのやった事は問わない。」
その言葉に、ヴァルスははっとなった。
「ヴァルス・・・・・・君は配属されてまだ1ヶ月だ。色々見てきて、言い分もあるだろう。
しかし、貴様も他の隊で充分に暴れまわった猛者だろう?つらい事は我慢しなければならない。」
「司令!自分としては」
「告発・・・・・したいのだな?クランベリンを。」
「!?」
「顔にはっきりと書いてある。だが、俺はクランベリンを告発する気など、さらさら無い。
中部辺りで“優しい騎士道”を吹き込まれたのだろうが、ここはそんなもの必要ない。」

ヴァルスは体に戦慄が走った。

「ここで生きるには、それは捨てたほうがいいぞ。敵に兵隊も住民もない。
敵と決めたら敵。それがここのやり方だ。そして、それが効果的なやり方だ。」

パルンクはポンと、彼の右肩に手を置いた。

「これのほうが、いちいち時間をかける必要が無いのだよ。作戦は早急にやるべき。エリラ・バーマント殿下もそう言っていただろう?」

他の地上勤務員や、竜騎士達の冷たい視線が彼に集まる。

「だ・・・・だからといって」
「話はそこまでだ。とにかく、貴様らに言っておく。決して、勝手にマリアナへ進出することのないように!
それを破ろうとした者には容赦なく、檻にぶち込んでやる。」

パルンクは皆に聞こえるように、大声で言い放った。
孤立無援を感じ取ったヴァルスに、その言葉は入らなかった。  


740  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  19:00:44  [  XwixsAvk  ]
ふと、男が視線を止める。彼はマッキャンベル中佐を見ていた。

「あなたが墜落した飛空挺のパイロットかね?」
「そうであります。マッキャンベル。デイビット・マッキャンベル中佐です。」
「私はイルクラ・ガルファン。階級は少将だ。君のお仲間が迎えに来るまで、我々が保護する。
短い期間だが、よろしく頼むよ。」

ガルファンは笑みを浮かべながら、中佐の肩を叩いた。
ガルファンの体格は大きく、身長は190センチあり、体つきはがっしりとしている。
顔つきはいかつく、右頬に痛々しい傷跡がある。しかし、どことなく頼れる親父というイメージが強い。

「任務ご苦労であった。そういえば、1時間前に朗報が入ってきた。アメリカ軍の空襲が成功した。
空襲は早朝から日没直前まで続けられ、6時過ぎに大魔道院が爆発、崩壊したとの情報が入っている。」

それを聞いた瞬間、マッキャンベル中佐は内心大いに喜んだ。
日没を過ぎる時、彼はエンシェントドラゴンが上空から飛んできて、業火で全てを焼き払ってしまうのではないか?という思いがあった。
もしかして、既に第5艦隊は壊滅しているかもしれない。
今頃はドラゴンが各地を暴れ回っているかもしれないと思ったが、日没を過ぎても、周りには何の変化も無かった。
恐らく、作戦は成功したのだろう。
マッキャンベルは内心確信していたが、改めて聞かされると、嬉しさがこみ上げてきた。

「そうか・・・・・機動部隊はやってくれたか。」
「やってくれたから、我々はこうしているんでしょう?」

オイルエンが、人懐こい笑みを浮かべて言う。  


741  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  19:05:31  [  XwixsAvk  ]
「あんた達、アメリカ人のお陰だな。」

マッキャンベルの前に、木造りのカップが右横から差し出された。
オイルエン大尉のチームのメンバーである小太りの髭面男が、彼に酒を渡そうとしていた。

「受け取って下さい。いい酒ですぜ。」
「あっ、ああ。すまない。」

彼は少し戸惑ってから、カップを受け取る。

「ここに辿り着くまでに、いつエンシェントドラゴンに丸焼きにされるかと、
内心肝を冷やしていましたが、これでぐっすりと寝れそうですぜ。」
そう言って、髭面男は豪快な笑い声を上げた。
「そうだな。まだ戦いは完全に終わったわけではないが、これで継戦派の連中に深いダメージを与えたわけだ。
諸君、あと少しの辛抱だぞ。」
ガルファンは弾けた様な口調でそう言った。
「隠れまわるのも、あと幾日のみですか・・・・・」

オイルエン大尉は神妙な顔つきで呟いた。グランスボルグの革命軍が決起しようとしたのが9月25日未明。
たった1週間前の事である。だが、その1週間の間が、彼には1ヶ月も2ヶ月も過ごしたように感じられる。
継戦派の重囲を突破した時や、休む間もなく行われた2度のゲリラ作戦。
1週間という短い期間の間に、色々な事が起きた。いや、起きすぎた。

「みんな!こっちを見てくれ!」

いつの間にか、テーブルに立ち上がったガルファン少将が、酒で赤くなった顔を周囲にめぐらす。
なぜか、横にはマッキャンベル中佐がいたりする。  


742  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  19:08:07  [  XwixsAvk  ]

「大尉、親父の悪い癖が始まっちゃいましたね。」

マルファがちょっとだけうんざりした表情で言ってくる。

「昔からああいう人だからね。止めようとしても無駄さ。」

オイルエンとマルファはため息をついた。そんな事は露知らずに、ガルファン少将はがなり声を上げた。

「酒を楽しんでいる時に悪いな。今、俺の横に立っている人物は、あの大魔道院を破壊した空母艦載機のパイロットだ!」

皆が驚きともつかない声を漏らす。

「この兄ちゃんは、不幸にも乗っていた機体がオシャカになって、この場で立っているが、
今こうして酒を飲めるのも、この兄ちゃん達、アメリカ軍のお陰だ!」

当の本人は、恥ずかしさの余り、顔を隠したい気分になった。

(このおっさん、いくらなんでもこんな事はやめたほうがいいんじゃねえか?それに)
彼は、脳裏にイメインの澄ました顔を思い浮かべた。彼女はマッキャンベルに対してあまりよく思っていない。
周りのガルファンの部下には、獣人などの亜人種も含まれているが、彼らも革命前までは立派なバーマント兵である。
昔別れた仲間や肉親が、味方機動部隊の行った空襲で戦死したものもいる筈だ。
だが、周りの雰囲気はそれを表している様子ではなかった。むしろ、彼を歓迎しているように見えた。
本当に歓迎しているのだろうか、それとも内心では憎しみを抱いているのだろうか。
マッキャンベルから見た限り、それは分からなかった。  


743  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/07/29(土)  19:10:30  [  XwixsAvk  ]
「名前はデイビット・マッキャンベル中佐だ。訳あって、しばらくここにいる事になった。
まあ、堅苦しい挨拶は後にして、今は乾杯をしよう!」
「閣下、さっき乾杯したばかりっすよ?」

目の前にいた痩身の兵が苦笑する。

「さっきのは予行演習だ!さあ、カップを上にあげろ。中佐殿も一緒にやってくれ。」

皆が持っていたカップを上にあげる。
(この人って・・・・・・どんちゃん騒ぎが大好きな男か。見るからに酒が強いです、
て言うような面構えだし、何かと理由を見つけてはこうやって宴会を開いているのかもしれんな)
マッキャンベル中佐は内心でそう思った。

「大陸をエンシェントドラゴンから救った、この勇敢なアメリカ人達に、乾杯!」
「「乾杯!」」

マッキャンベルはその声が聞こえると、カップをあおぎ、酒を飲んでみた。
今まで飲んだ酒とは、一味も二味も違う。

「マッキャンベル中佐、今日はゆっくり休んでくれ。私は少し、回ってくるよ。」

ガルファン少将はテーブルを降りると、部下達の所へ混じっていった。彼も慌てて降りた。

「すみませんねえ。うちの将軍がご迷惑をかけて。」

歩み寄ってきたオイルエン大尉が、苦笑交じりに言ってきた。