467 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:04:21 [ D4VsWfLE ]
午前9時40分 魔法都市マリアナ
第1次攻撃隊の総数は381機であった。
攻撃隊はまず、第1任務群のヨークタウンがヘルキャット12機、ヘルダイバー24機、アベンジャー18機で、合計54機。
寮艦の空母ホーネットもこれと3機少ない51機を発艦させた。
軽空母のベローウッドとバターンはそれぞれヘルキャット、アベンジャーを合計24機発艦させた。
第2任務群からはバンカーヒルとワスプから合計104機、軽空母のキャボット、モントレイから合計44機が発艦。
そしてレキシントンとプリンストンから80機である。
これらの攻撃隊は、40分間の間に魔法都市マリアナを襲撃し、30〜50ほどの銃座を潰したり、
大魔道院に爆弾を叩きつけた。
継戦派側は、この第1次空襲で無視し得ない損害を被ったが、戦闘能力は未だに健在である。
第1次攻撃隊は、午前8時35分に来襲し、午前9時20分にはいつの間にか消えていた。
ようやく一息つけたと思い、少し気が緩みかけた午前9時40分、第2次攻撃隊276機がマリアナに姿を現した。
第2次攻撃隊は、第1任務群から74機、第2任務群から68機、
第3任務群から32機、第4任務群から102機の集団で編成されている。
攻撃隊指揮官は、空母バンカーヒルから発艦したSBDドーントレス搭乗のマック・フレイサー少佐である。
フレイサー少佐は、前日のバーマント第5艦隊攻撃に、23機のドーントレスを率いて参加し、
内2機が撃墜されているものの、目標の重武装戦列艦に爆弾を8発命中させている。
意気揚々と帰還したはいいが、帰って来た頃には、彼らの家のエンタープライズは左舷に傾き、
猛烈な黒煙を噴き出して海面をのた打ち回っていた。
フレイサー少佐は仕方なく、第2群のバンカーヒルに着艦し、
この作戦が終わるまではバンカーヒルの指揮下に入る事となった。
着艦したドーントレス21機のうち、10機がバンカーヒルに、8機がワスプに、
そして3機が軽空母キャボットに収容された。
今日の作戦に参加したのは、ワスプとバンカーヒルに着艦した機である。
ちなみに、フレイサー少佐が攻撃隊指揮官に選ばれた理由は、
彼が攻撃隊の中では最も場数を踏んでおり、かつ、最先任の少佐だからである。

468 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:05:39 [ D4VsWfLE ]
「こちらビッグE01、目標付近に到達した。各機、それぞれ割り当てられた箇所を攻撃せよ。それでは、全機突撃せよ!」
指示を受け取った各母艦の攻撃隊が、それぞれ低空に降りたり、高度を上げていく。
100機以上いる戦闘機隊は、敵の対空砲火を制圧するために、全機が高度を下げて、思い思いの目標に向かっていく。
雲量は多くは無いが、不思議な事に、やや赤みがかった空である。
その赤みは、マリアナに近づくごとに濃くなっているように思える。
「まさに邪気が充満している、ってやつか。」
フレイサー少佐は、その空を見てどことなく気分が悪くなるように感じた。
対空砲火の制圧を命じられたF6F戦闘機隊は、全機が低空に舞い降りていき、
高度500まで下がると、スピードを上げ始めた。
第2次攻撃隊の中で、一番早く銃火を交えたのは、空母ホーネットの戦闘機隊12機であった。
空母ホーネット戦闘機隊の第2小隊長のトニー・ジャンセン中尉は、魔法都市マリアナから放たれる対空砲火の量に驚いた。
「畜生め!敵さんの対空陣地はまだ健在だぞ!」
思わずそう罵った。第1次攻撃隊の攻撃の様子は、無線機から聞いていたが、バーマント側の対空砲火は聞きしに勝るものである。
数え切れない数の建物が破壊されたり、黒煙を吹き上げてたりするが、
それでも数百は下らない対空陣地が、ホーネット隊に向けて撃ちまくっている。
「全機散開!派手に食い散らかすぞ!」
中隊長が陽気な声でそう言ってきた。陽気な口調なのは、こみ上げてくる恐怖を無理やり押し殺しているのだろう。
中隊の各機が分散すると、思い思いの目標に向かっていった。
ジャンセン中尉は小隊を散開させると、大魔道院より西に700メートル離れた所にある3階建てで、
横幅の広い建物を狙う事にした。
その建物には、当然ながら2〜3丁の機銃が設置されている。
「野郎、腹の500ポンドで吹っ飛ばしてやる!」
ジャンセン中尉は唸るような声で言うと、スピードを上げた。
速度計が一気に上がり、スピードが乗ってくる。
腹の500ポンド爆弾が重いせいか、600キロにはいかない。だが、それは仕方ない。
距離が目測で1600メートルまでに詰まる。

469 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:06:51 [ D4VsWfLE ]
その間にも、別の対空陣地から彼の機めがけて機銃弾が放たれてくる。
時折右や左に、曳光弾が飛んでくる。
かと思えば、破壊されたはずの建物からも機銃の発射炎が見えてくる。
正面600メートルのその破壊された建物から、断続的に機銃弾が放たれる。
「てめえはすっこんでろ!」
ジャンセン中尉は一度、その破壊され建物に照準を合わすと、12.7ミリ機銃を放った。
6つの線が、瓦礫の山に注がれて、破片や土煙が舞い上がる。その中に、何かがうごめく様な感じがした。
それをすぐに飛び去ると、いよいよ目標の3階建ての建物が見えてきた。
その建物は貴族か、要人の屋敷なのだろうか、どことなく豪華な作りである。
その屋上から、設置された機銃座が狂ったように機銃弾を撃ちまくっている。
ガンガン!と、機銃弾が命中する音が聞こえる。
命中したのは、11.2ミリ機銃弾だったが、胴体に命中した機銃弾は、1、2発では
「グラマン鉄工所」の機体に致命傷を負わせる事が出来なかった。
距離は、700を切った。
「エリラ様にプレゼントだ!俺の愛の記しだぜ!」
ジャンセン中尉はそう叫ぶと、爆弾の投下ボタンを押した。
ヘルキャットの胴体から500ポンド爆弾が離れ、ヘルキャットの機体が軽くなる。
飛び去るついでにジャンセン中尉は屋上に機銃掃射を仕掛けた。
ドダダダダダダダ!と、リズミカルな音と、振動が伝わり、6本の線が屋敷の屋上を右から左に縫った。
白煙が吹き上がり、機銃座が見えなくなる。その上空を、ヘルキャットは600キロのスピードで飛び去る。
不意に、機銃座の中に伏せていた敵兵と目が合った。
ほんの一瞬の出来事だったが、それはまだ20代になったばかりのような、若い女性だった。
その黒いローブを来た緑眼の女性兵と彼は目が会ったのである。どことなく不思議な感じがした。
しかし、それも一瞬で、すぐに後方に吹っ飛んでいく。
(女も前線で戦うとは・・・・まるでソ連のようだな)
ジャンセン中尉はそう思った。彼は戦果を確かめようともせずに、次の機銃座に襲い掛かった。

470 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:07:58 [ D4VsWfLE ]
彼は知らなかったが、実は、この屋敷はエリラの公邸であった。
エリラの侍従を務めているイレオロ・アルイスは、2階の廊下で配置についていた、継戦派兵士たちの手伝いを行っていた。
アルイスは普段、エリラの食事などを運ぶ仕事をしていたが、彼は自ら、手伝いを願い出た。
この時も、彼は廊下で、地下室から機銃弾の弾を運んでいた。
ふと、外の様子がおかしくなった。
何かが唸りを上げて接近し、屋上の対空機銃座が一層激しく撃ちまくっている。
「なんだ?もしかして、こっちにも敵の飛空挺が近づいてきたのかな?」
彼はここが爆撃を受けるとは思わずに、不審に思った後も弾運びを続けようとした。
だが、唸りはますます大きくなってくる。
その時、外から何か小さなものが立て続けに当たるような音と振動が伝わった。
10メートル後ろのドアが、いきなり無数の穴を勝手に開けた、と思った時にはボロボロにぶち抜かれていた。
そして、グオオオーン!という何かが通り過ぎる音が聞こえた。
「ここにもやってきたのか・・・・・という事は、銃撃を受けたのか。」
アルイスは驚いたような口調でそう呟いたとき、いきなりバゴーン!という聞いた事も無いような轟音が炸裂し、
大地震のような振動が屋敷全体を襲った。
振動に足を取られた彼は、仰向けに倒れてしまった。
いきなり前から爆風が押し寄せ、ゴー!という音を立てて吹き荒れる。
彼はその爆風に吹き飛ばされ、20メートルも床を転がされた。
爆風が収まると、彼はなんとか起き上がった。
服はあちらこちらがかぎ裂きが出来ており、背中や手足が痛かった。
「・・・・やられた」
起き上がった後の第一声がそれであった。そして、前方を見てみた。
屋敷は横に80メートルの長さがあり、3階建てであるからなかなか大きな建物である。
それもそのはず、ここはグルアロス・バーマントが作らせた別荘であり、たまの休みにはここで公務を忘れてくつろいでいた。
エリラは、思い出のあるこの屋敷を自分の寝床にして、日々の仕事もここを中心に行われていた。
しかし、米軍機にはそんな事は関係なかった。容赦なく機銃弾を撃ちこみ、爆弾で吹き飛ばしたのだ。

471 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:09:02 [ D4VsWfLE ]
アルイスはゆっくりと、爆弾で開けられた穴に近づいた。爆弾穴は1階から3階の屋上に吹き上がるようにして開けられている。
その命中箇所の1階は、エリラの寝室であった。
「おのれ・・・・・無法者めが!」

ヘルキャット隊は継戦側の対空砲火を相手に縦横無尽に暴れまわった。
そのお陰で、艦爆隊や艦功隊は続々と、大魔道院上空に向かいつつあった。
対空砲火は3割方が潰された。一方で、ヘルキャット隊は8機が撃墜され、21機が被弾していた。
ヘルキャット隊と入れ替わるように、今度は艦爆隊が上空にやってきた。
先頭隊は、エンタープライズ搭載機である18機のドーントレス艦爆である。
その先頭のドーントレス隊の目の前に、高射砲弾が次々と炸裂する。
しかし、幾分か高射砲の弾幕が薄いように思える。
「ヘルキャット隊はよくやってくれた。お陰でこっちの風通しが良くなったぜ。」
フレイサー少佐は満足したような笑みを浮かべた。
この前に、ヘルキャット隊は高射砲を中心目標に銃爆撃を浴びせていた。
結果、高射砲28門を完全破壊し、100の機銃座を破壊か、人事不省に陥らせていた。
だが、完全に潰す事は出来なかったようだ。
ボーン!ボーン!と、周囲で高射砲が炸裂する。
炸裂した爆風が、ドーントレスの機体をガタガタ揺さぶり、破片がカツンと機体に当たる。
「降下地点まで、あと2000メートル!」
後部座席のグレゴリー兵曹長がそう伝えてくる。彼とはパートナーになって2年の付き合いになる。
対空砲火は、大魔道院に近づくに連れて、より激しくなってきた。
最初は見当外れの位置で高射砲弾は炸裂し、そのお粗末さに米艦載機のパイロットは嘲笑を浮かべる。
だが、それも次第に精度が増して行き、しまいには余裕の笑みを浮かべているものさえ、じっと押し黙ってしまう。
(デコボコ道を車で飛ばしているみたいだな)
高射砲の炸裂の衝撃に、盛んに振動を起こす機体に対し、彼はそう思う。

472 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:09:57 [ D4VsWfLE ]
いや、車で走っている時はまだいいだろう。
だが、今は高度3400メートル空だ。
いつ、何時、敵弾が至近で炸裂したり、直撃するか分からない。
つまり、すぐ目の前に死が広がっているのである。
そして、死ぬ確率は、車に乗っている時より遥かに高い。理由は簡単である。
なぜなら、辺りは鋭い断片が飛び交っているからだ。
「降下地点まであと1000です!」
「1000か、ダイブするまでは撃墜されたくないものだな」
フレイサー少佐はぼそりと呟いた。
周りは、高射砲弾炸裂の黒煙で埋め尽くされており、その黒煙をドーントレス隊は突っ切っていく。
破片が、カーンと当たるが、今のところはまだ致命傷を負っていない。
しかし、致命傷を負わない保証も無い。
その時、
「4番機、被弾!」
後部座席のグレゴリーが悲鳴のような声を上げた。
この時、4番機にの至近で後者砲弾が炸裂した。機体の上方で炸裂し、右主翼から中ほどから叩き折られた。
バランスを崩したドーントレスは錐もみ状態になって墜落していった。
「グレッグ・・・・・テイル。くそ・・・・・一緒に元の世界に帰ろうと、約束したじゃねえか。」
フレイサー少佐は唸るような声で、撃墜されたドーントレスのペアの死を嘆く。
嘆くのは一瞬で終え、すぐに本来の任務に向けて、頭を切り替える。
「距離は?」
「あと400、もうすぐです!」
「もうすぐか・・・・俺にとっては長く感じられるな。」
400の距離を越えるのに、時間はあまり費やさなかった。
しかし、フレイサー少佐にとっては、時間の流れは遅いように感じられた。
「降下地点です!」
「ようし、突っ込むぞ!」

473 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:11:18 [ D4VsWfLE ]
フレイサー少佐は気合を入れるように言うと、操縦桿を手前に倒した。
機首が礼をするかのように下方に向けられる。スピードがつきすぎないように、エンジンの出力を抑え、後は効果速度に任せる。
両翼の赤いダイブブレーキが開かれ、機速が制限され始める。
「3400・・・・3200・・・・3000・・・・2800」
グレゴリーは高度計を読み上げる。
照準機には、大魔道院の一段下がった真ん中の屋根が移っている。
屋根にしては、ガラスのように少し透明である。
やがて、それはガラスであることに気が付いた。
「敵さん、ガラスに魔法防御を施してあるな、赤く光ってやがる。」
フレイサーは忌々しげに呟いた。第1次攻撃隊はヘルダイバーと、アベンジャーが100機ほど、
この大魔道院に1000ポンドや500ポンド爆弾を叩きこんでいる。
しかし、大魔道院に施された魔法防御は、それらをことごとく跳ね返し、施設には全く損傷が無かった。
その同じ施設を、今爆撃しようとしている。
「確かに魔法防御は有効だろうな。魔法使いさんよ。」
高度が1800を切ると、機銃弾が撃ち上げられてきた。大魔道院自体にも対空機銃が設置されているのだろう。
約20箇所から機銃の発射炎が見えている。機銃も加わった対空砲火は熾烈さを増した。
高射砲弾がすぐ後ろで炸裂する。ガリガリ!という大きな振動が機体を揺さぶり、風防ガラスの向こうも大きく揺れた。
「やられたか!?」
衝撃の大きさに、フレイサーはしまった!と思った。が、
「大丈夫です!機体に以上はみられません!」
グレゴリーの報告を聞いて、彼はやや安堵する。それに、計器類にもさっと目を通すが、どこにも以上は見られなかった。
「1200・・・・1000・・・・800・・・・」
「400で投下する!」
400と言えば、かなりの低高度である。しかし、フレイサーは危険を顧みずに、降下を続ける。
「400です!」
「投下ぁ!」
彼はすかさず投下レバーを引き起こし、咄嗟に操縦桿を引く。
プロペラの旋回半径から放り出された1000ポンド爆弾は、まっしぐらに大魔道院のど真ん中に向かった。

474 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:12:43 [ D4VsWfLE ]
体に急激なGが圧し掛かるが、それになんとか耐えたフレイサー少佐は、高度100で水平に移った。
「命中!どんぴしゃですぜ!!」
グレゴリーは弾んだ声で報告してきた。
「そりゃあそうだろう。なんせ俺はミッドウェーで」
突然ガリッ、バガン!!という衝撃が機体を揺さぶった。
フレイサー少佐はその衝撃と共に腹に激痛が走った。
彼は知らなかったが、この時、彼が通り過ぎようとしていた400メートル右の対空機銃座が機銃弾を放った。
その射弾は過たず、ドーントレスに殺到。機銃弾は装甲をぶち破って、2人にも襲い掛かったのだ。
機銃弾は18.5ミリであった。
「く・・・・そ、やられちまったか。」
フレイサーは口から血を滴らせながら呟いた。腹から突き刺すような激痛が襲い、今にも痛みで死にそうだ。
操縦桿は相変わらず握っているが、もはや気力で掴んでいると言ったほうがいい。
「おーい・・・・・グレゴリー・・・・・・無事・・・か・・?」
彼は途切れ途切れに成りながらも、後ろの戦友に問いかけた。だが、後部座席のグレゴリー兵曹長は既に戦死していた。
ふと、機銃弾を撃ってくる対空機銃が見えた。無意識のうちに、フレイサー少佐はそこに機首を向けていた。
ドーントレスの機体も、彼の状態を示すかのように、左主翼とエンジンから黒煙を噴き出している。
「持ちそうにも・・・・ないか。フッフッフ・・・・」
なぜか、彼は笑った。対空機銃座までは距離は少ししかなかった。もはや目の前に迫っていた。
(ファンタジーのような世界で死ぬ・・・・か。まあ、仕事を終えた後だから、
悪くは無いな。まあどうせ、来るべきものが来たのだから・・・・・)
フレイサー少佐は死に間際にそう思った。
ドーントレスは、逃げ惑う継戦派側の対空要員達を薙ぎ払い、建物に激突すると、
そのまま爆発を起こして、破片と燃料を辺りに撒き散らして火災を拡大させた。
それによって、新たに3人の敵兵が焼き殺されてしまった。

475 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:14:03 [ D4VsWfLE ]
空母ホーネットのアベンジャー隊12機は、今しも大魔道院に向けて爆弾を投下しようとしていた。
アベンジャー隊は12機が雁行隊形を取り、目標を覆いかぶさるようにして近づきつつある。
投下地点到達まではあと1分半ほど。
「針路よし。このまま」
教導機を努める、ジョージ・ブッシュ中尉は、部下の声を聞いてただ頷く。
「1分半か。ちと長いな。それまで、バーバラが持ってくれればいいが。」
ブッシュ中尉は心配そうな口調で呟いた。現在、高度は2500メートル。
敵の対空砲火は熾烈だが、味方機動部隊のそれと比べると、どこか優しいように見える。
しかし、優しいように見えるだけであり、実際は直撃する事もありえる。
先行していった、ヨークタウンのヘルダイバーの中には、高射砲弾の直撃を受けて、バラバラに砕け散るのもいた。
(あんなふうにはなりたくないものだな)
ブッシュ中尉は、背筋をぞっとさせる。人間、誰もが死にたくないと思うものである。
こういう危険な場面でも、本能は現れる。
しかし、それを抑え、任務を達成しなければ、軍人は成り立たない。
軍人は、恐怖に打ち勝つ事で始めて戦う事が出来るのである。
ブッシュ中尉は恐怖心を押さえ込んで、機を適正位置に誘導する事のみに集中する。
ボーン!と高射砲弾が炸裂し、機体が揺れる。黒煙を突っ切って行くが、火薬の匂いが鼻をつく。
風防ガラスに閉じられているとはいえ、それでも入ってくるようだ。
「投下地点まで、あと40秒!」
あと40秒。もっと早くならんものかな。
彼は内心で、時間の流れが遅い事に腹を立てた。ドンドンと、砲弾が周りで炸裂する。
目標の大魔道院は、先の艦爆隊の爆撃で黒煙に包まれており、正確に把握する事が出来ない。
(もし、これまでの攻撃が成功したとすると、合計で200機以上の艦爆や艦功が投弾している。
爆弾は300〜400発以上ぶち込まれている計算になる。だが、それでもまだ傷を負っていないとしたら・・・・・・)
彼は最後まで考えない事にしたら。
もし、結論に達したら、第58任務部隊はとんでもない無駄をしたことになり、
この攻撃に加わった者はとてつもない徒労感に見舞われることになる。

476 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:14:56 [ D4VsWfLE ]
(いや、そんな事はない!)
彼はその考えを否定した。魔法防御とて、打ち破られるはずである。
「投下地点まであと15秒!カウントダウン開始!」
いよいよ待望の投下ポンイント上空にやってきた。大魔道院は相変わらず、黒煙に覆われて見えない。
「10・・・・9・・・・8・・・・7・・・・」
無機質な声が機内に響く。その間にも、対空砲火は止まない。
照準機の目標は、高射砲弾が炸裂するたびに揺れる。
「・・・・3・・・・2・・・・1・・・・針路適正、リリース!」
その声と共に、投下ボタンを押す。
開かれた爆弾倉から2発の500ポンド爆弾が投下され、アベンジャーの機体がフワリと軽くなる。
「後続機も爆弾を投下!」
教導機の投下を見かけた寮機もバラバラと爆弾を投下した。
ホーネット隊12機、合計24発の500ポンド爆弾が、風にゆらゆらと振られつつ、煙の向こうの施設に消えていく。
「ようし!このまま避退に移る!」
ブッシュ中尉はそう言うと、高度を上げ始めた。
ボン!と高射砲弾が近くで炸裂し、ガガン!と機体が振動する。
「破片が右主翼に命中!あっ、燃料を噴き出しています!」
「なんだって!?」
ブッシュ中尉はぎょっとなって右主翼に視線を移す。
右主翼の燃料タンクは少なくなっているが、それでも5分の1ほどの量が残っている。
「あれに引火したおしまいだぞ」
ブッシュ中尉は額に汗を浮かべながら、そう呟いた。
「命中!命中です!」
機銃手が弾んだ口調で報告してきた。
薄くなりつつあった煙の向こうから、連続する爆発光がきらめき、大魔道院にさらなる黒煙がたなびいた。

477 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:16:23 [ D4VsWfLE ]
その上空を、今度は第2群のバンカーヒル隊、ワスプ隊が覆いかぶさるように進んできた。
高射砲弾の標的はこれらに移り、周囲に砲弾が炸裂し始めた。
3機を撃墜したものの、バンカーヒル隊、ワスプ隊は全く止まらなかった。
やがて、アベンジャー隊は腹の下からバラバラと爆弾を投下し始めた。

ドドーン!ダーン!
第1次攻撃とは比べ物にならぬ轟音が、大魔道院内部に響き渡った。
「く・・・・鼓膜がやられそうだわ。」
エリラは連続する爆弾の炸裂音に耳を塞いで対応していた。
だが、弾着音は耳を塞いだ手を貫通して、耳に木霊していた。
「グール!この炸裂音はなんとかならないの!?」
エリラは八つ当たり気味にグールに問う。
「こ・・・は・・・・です・・・・よ・・・あるか・・・・はびに」
「もういいわ!後で話す!」
轟音でグールの声は全く聞こえなかった。エリラはジェスチャーを交えてグールの発言をやめさせた。
やがて、弾着音は終わった。だが、エリラの頭の中には、轟音が、がんがんなり続けている。
「あの音は何とかならないの?」
「それは無理です。先ほどお渡しした耳栓はどういたしました?」
「・・・・無くした。」
「あの耳栓は、こういう轟音を減殺させる効果があるのです。私が魔法補正をつけて開発したのでございますが・・・・・」
エリラは、第1次攻撃隊が帰還したあとに、一時、耳栓を取っていたが、彼女はどこかに置き忘れてしまった。
それいらい探しているのだが、なかなか見つからないでいる。
「まあ、それはいいわ。それにしても、魔法防御の効果はてきめんね。これなら、うるさい騒音以外、なんともならないわ。」
「ヒッヒッヒ。その言葉、ありがたき幸せでございます。
それよりも、今すぐ部下に、新しい耳栓を持ってこさせますので、今しばらくご辛抱を。」
「ええ、いいわよ。」
エリラは機嫌がよさそうな表情で、耳栓が届くのを待つ事にした。
5分後、エリラの元に魔道将校が現れた。

478 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:17:47 [ D4VsWfLE ]
「あら、耳栓じゃないのね。まあいいわ。報告を聞かせて。」
魔道将校はやや強張った顔つきで、エリラに第2次攻撃隊のもたらした惨禍を告げた。
途中までは、エリラは平然と聞いていたが、ある報告文に耳を疑った。
「・・・・・何?今さっきのもう一度言ってみて。」
「もう一度報告します。機銃座32」
「そこじゃなくて、その後の文を読みなさい。」
「は、はっ!」
魔道将校は畏まった表情で言い始めた。
「他にも、西700メートルの屋敷が敵飛空挺の銃爆撃を受けて大破しました。」
「屋敷ね・・・・・・・・・・・・」
いきなり落ち着きが無くなったエリラは、急に走り出し、西が見渡せるバルコニーに躍り出た。
そして、目的のものを探し出し、それを見た。
「・・・・・・やられた・・・・」
エリラが見たものは、黒煙を吹き上げる、半壊した建物であった。
覚悟はしていたが、エリラの内心は、爆弾を叩き込んだ無法グラマンに泣かされていた。

午前10時40分 第5艦隊旗艦戦艦ノースカロライナ
「第2次攻撃隊より報告です。敵施設、および対空陣地に甚大な損害を与えるも、
目標の大型魔法施設には目立った損傷はあらず。第3次攻撃の要ありと認む。」
その言葉を聞いたスプルーアンス大将は、すぐに言葉を返した。
「で、第3次攻撃隊の発艦時刻はいつ頃だね?」
「ハッ、第3次攻撃隊の発艦開始時刻は、午前11時を予定しております。」
「第1次攻撃隊の着艦収容は完了したか?」
「10分前に、レキシントンから攻撃隊収容完了の報告が届きました。」
デイビス少将はそう言う。
「レイム君。敵の魔法施設は思ったより硬いようだ。」
「そのようですね。」

479 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/16(金) 00:19:18 [ D4VsWfLE ]
レイムが気難しい表情をしながら説明をする。
「革命勢力の情報では、大魔道院の魔法防御は硬いと言っていましたが、
それでも爆弾200発を浴びれば崩壊すると言われていました。」
「だが、敵施設は400発近い爆弾を浴びても健在だ。
レイム君も思い当たっただろうと思うが、敵は魔法防御に何か細工を仕掛けているな。」
スプルーアンスは確信した。
「たった1週間強にエンシェントドラゴン召喚を短縮した連中だ。これぐらいの事は予想済みだったのだろう。」
彼は椅子から立ち上がると、運ばれてきたコーヒーを持ち、地図の前で立ち止まった。
地図には、魔法都市マリアナの簡単な図が書かれている。
「だが、人間が作り出したものはいずれ壊れる。この戦艦も。そして、魔法防御も。」
スプルーアンスは、日の続く限り攻撃隊を送り出す腹だった。
各空母の弾薬庫は、3分の2ほど残っているが、それを送り出す攻撃機の数は限られている。
そして送る爆弾も限られている。
しかし、パイロットの体力と、爆弾が続く限り、スプルーアンスは攻撃の手を緩めようとは考えていなかった。
「これは・・・・物量と、魔法の力比べだ。」
スプルーアンスはそう小さく呟いた。
彼は熱いコーヒーをすする。
コーヒー独特の苦味が、彼の口を満たしていった。

















「護衛空母部隊はどこにいるかね?」

486 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 22:58:21 [ D4VsWfLE ]
午後0時10分 魔法都市マリアナ
第58任務部隊は、1次と2次合わせて657機の攻撃機を発艦させ、敵の総本山であるマリアナに打撃を与えた。
この攻撃で高射砲53門、機銃座212を破壊し、その他の施設にも爆弾を叩き込んだ。
しかし、主目標である大魔道院は依然健在であり、米側は第3次攻撃隊の派遣を決定した。
第3次攻撃隊は、第1任務群の軽空母ベローウッド、バターンからF6F18機、TBF6機ずつ、
第2任務群の正規空母バンカーヒル、ワスプからF6F12機、SB2C8機、軽空母キャボット、
モントレイからF6F16機、TBF5機ずつ。
第4任務群の正規空母エセックスからF6F12機、SB2C12機、TBF6機。
軽空母カウペンス、ラングレーからF6F10機、TBF4機ずつ。
合計で188機の艦載機が、午前11時に発艦した。
これまでの陣容からして、かなり少なめに見えるが、それでも戦闘機124機、艦爆28機、
艦功34機と、普通の海戦ならば、大型艦の1、2隻は海底に送り込める戦力である。
その第3次攻撃隊は、午後0時10分にマリアナ上空に到達した。

「敵戦爆連合200機、まもなくマリアナ上空に到達する見込み!」
伝令兵が息を切らしながらも、銃座に報告にやってきた。
「ご苦労。」
銃座の指揮官は、その伝令兵に労いの言葉をかけて、再び別のところに向かうその兵士を見送った。
「さて、レイックル曹長」
鼻に髭を生やした指揮官は、後ろで機銃の動作を確認していたレイックル曹長に姿勢を向けた。
「その11.2ミリ機銃が、新たに君が操作する武器である。できるかね?」
「大丈夫です。動作もバッチリ」
そう言いながら、レイックル曹長は弾帯を機銃に入れて、いつでも発射できる状態にした。
「それに、自分はもともとこれを主に使って、訓練していましたから。」
「そうか。頼りにしているぞ。」
指揮官はそう言って、彼の側を離れて言った。ここは2階建ての魔法関係の建物の屋上に設けられた銃座である。
2階建てだが、横幅が40メートルあり、建物自体も石造りのために作りも頑丈である。

487 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 22:59:46 [ D4VsWfLE ]
この施設は、もともと魔法研究が行われていた所で、
主に情報操作や思考操作関係の魔法を中心に研究が行われていた。
この施設は、大魔道院の西200メートルに位置する場所で、西側の空域を、他の銃座と共に防衛する事になっている。
レイックルらは、この魔法研究施設を間借りする形で、ここに18.5ミリ連装機銃1基、
補充用の11.2ミリ機銃3丁を設置する事が出来た。
設置に要した時間は1時間で、午前11時40分には陣地は完成した。
陣地といっても、簡易の防御壁を積み立てただけの代物で、本来の対空陣地よりは防御力はいくらか劣る。
ないよりもまし、といった程度である。
そして、準備ができ、兵達が一息ついていたところに、第3次攻撃隊はやってきたのである。
午後0時16分、北東の空に無数の羽虫のような物体が見え始めた。
それは緊密な編隊を組みながら、徐々に近づきつつあった。
第58任務部隊より発艦した三の矢は、ついに敵地上空にやってきたのである。
「そろそろ敵の戦闘飛空挺が襲ってくるぞ!やられないように気をつけよ!」
指揮官が割鐘のような声音で、部下達にそう告げる。
「今度ばかりは、生きて戻れんかも知れんなあ。」
レイックルは、誰にも聞かれない声音でそう呟いた。
敵攻撃隊は、まず高速の戦闘飛空挺を先にけしかけてくる。
この戦闘飛空挺が非情に厄介な代物で、600キロ以上はありそうなスピードで突進してくるのである。
外見はずんぐりとして、鈍重そうなのに、動きは俊敏である。その猛スピードに機銃を合わすのはなかなか難しい。
彼自身、1機のF6Fを、煙を吐かせて撃退し、1機を撃墜しているが、それは彼に幸運がついていただけといえる。
6丁の機銃で掃射し、爆弾を叩きつけてくるF6Fの存在は、今や継戦派将兵にとって悪魔と同義語的な存在になっていた。
実際、F6Fが通り過ぎた後は、体が千切れたり、大穴を開けられた死体が散乱しており、悪魔と思われても仕方ないではある。
そして、その戦闘飛空挺は、定石通りに対空陣地の掃射にかかる可能性がある。
「来るなら来い、白星の悪魔め。」
レイックルは体を引き締めて、襲ってくるはずの敵戦闘機を迎え撃つ準備を整えた。
爆音が再びマリアナに木霊し始めた。米機動部隊から発艦した艦載機群は、ざっと見ても200機近くいる。
少なめに見積もっても、150機以上はいるであろう。
その大編隊は、都市の一番外側の上空に達しつつある。

488 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:01:20 [ D4VsWfLE ]
これまでの攻撃で、白星の悪魔共は、戦闘飛空挺が対空陣地を掃射して、風通しを良くした後に、
高空から急降下爆撃機、水平爆撃機が防空網を突破、目標に爆弾を叩きつけている。
少なからぬ敵機が、味方の対空砲火で撃墜されているが、洪水のような米軍機の進入を防ぐには、
現在の対空火器は威力不足である。
主に狙われている大魔道院が、強力な魔法防御で自らの施設を覆っておかなければ、後の想像は容易につく。
その敵の爆撃作戦、第1段階は、もうすぐ始まろうとしていた。
米軍機の編隊は、そのまま都市の外縁部を・・・・・・そのまま編隊を組みつつ、進入してきた。
恐れていた敵戦闘飛空挺は、編隊から離れない。
「ん?」
レイックルは不審に思った。
「おかしい・・・・・・」
戦闘飛空挺は、高度2500付近から全く降りようとしない。
そればかりか、攻撃機の前面に張り付いてばかりだ。
「怖気づいたのか。」
レイックルは呟く。傍若無人な銃爆撃をさんざん行ってきた戦闘飛空挺だが、彼らも無敵ではない。
レイックルも敵を撃墜しているし、他の対空陣地でも撃墜の報告は挙がっている。
(敵も馬鹿にならぬ損害を負っているのだな)
彼はそう思うと、いささかいい気分になってきた。やはり、彼らも人間なのだ。
馬鹿一文字のように突撃するだけが能ではないのだ。
高射砲が撃ち始めた。50門以上が破壊された高射砲だが、米軍機が来ない間に、
武器庫から予備の砲を引っ張り出して、14門が新たに配置されている。
そして7門が移送中であったが、恐らくこの戦闘には間に合わない。
米編隊の周囲に黒々とした、小さな煙が沸き立つ。
40門以上の高射砲が弾幕を張るのだが、どうしてどうして、敵は1機も落ちる気配が無い。
「下手糞な射撃しやがって!」
弾帯を持つ部下が、高射砲の要員を罵る。
(いや、当たってないのではない。当たっているが、敵飛空挺の耐久力が頑丈すぎて、破片が傷を負わせにくいのだ)

489 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:03:17 [ D4VsWfLE ]
レイックルはそう判断した。
実際、彼も対空射撃を行っていたときに、米軍機は頑丈だと言う事を思い知らされている。
機銃弾が何発か命中しても、エンジン部分か、操縦席といった、当たったら危ないとこ以外ならば、
米軍機は平気で突っ込んでくる。
撃墜するには、まず多量の弾をぶち込む事。
いくら頑丈な装甲でも、連続する着弾にいつまでも耐え続けられるわけが無い。
米編隊は、高射砲の弾幕をものともせずに突き進んでくる。
やがて、それらは外縁部と大魔道院のちょうど中間辺りまですすんできた。
突然、先頭の1機が高射砲弾の破片を至近に浴びた。
その敵機は、ぐらりと機を横滑りさせると、その4秒後には機首を真下にして落下していった。
その次に、後部集団の1機が白煙を吐いた。
その敵機は、慌てふためいたように爆弾を投下すると、来た道を戻り始めた。
恐ろしい事に、高射砲の戦果は今現在、たったこれだけであった。
その時、急に先頭集団が翼を翻し、猛然と急降下を開始した。
「!」
誰もが息を呑んだ。その先頭集団は全て戦闘飛空挺であったが、
それらは対空陣地に対して、無視を決め込むと思われた時、急に牙を剥き出しにしてきたのである。
戦闘飛空挺の指向する目標・・・・・・・それは紛れも無く、大魔道院の周辺に位置する対空陣地であった。
グオオオオオオオーーーーーー!という猛烈な唸り声を上げて、ずんぐりとした機体が襲い掛かってきた。
レイックルの所属する魔法研究施設にも、2機が向かってきた。
「撃てぇ!」
指揮官がすかさず叫び、機銃が射撃を開始する。
レイックルは敵機が目測で1300を超えたところで機銃を撃った。
曳光弾が敵機に向かっていくが、狙いがなかなか定まらない。
その間にも、F6Fは急速に距離を縮めつつあった。

490 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:05:00 [ D4VsWfLE ]
先頭の1機が胴体から黒い物体を投下した。
40度の角度で突っ込んできたF6Fは、爆弾を投下した直後に距離700で12.7ミリ機銃をぶっ放した。
敵機の搭乗員も頭に血が上っているのだろう。弾着は左端の18.5ミリ機銃の左に離れたところに命中して煙を上げる。
1番機が猛スピードで過ぎ去った直後に2番機が突っ込んでくる。レイックルはそれに照準を合わせて、引き金を引く。
1番機の爆弾が、施設より100メートル離れた位置に着弾する。爆発しない。
1番機のはなった爆弾は、不運にも不発弾であった。
2番機が爆弾を投下すると、定石どおりに機銃を撃ちまくってきた。
機銃の狙いは正確で、18.5ミリ機銃のすぐ右にある11.2ミリ機銃にぶすぶすと突き刺さった。
機銃手やその要員たちが12.7ミリ機銃に体を貫かれ、胴や手足がもぎ取られ、頭部を吹き飛ばされた。
「伏せろ!爆弾が来るぞ!」
レイックルは辺りにそう叫んだ。彼と彼の部下達はすぐに床に伏せる。
2番機の爆弾は、施設より20メートル手前という至近で着弾した。
ドーン!という爆発音が鳴り響き、施設ががくがくと揺れる。
ガラスの割れる音が聞こえ、煙が辺りを覆い隠した。
破片が体に落ちてくる。言いようの無い恐怖が体を侵食していく。
だが、レイックルはそれを振り払う。煙が収まると、指揮官の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「レイックル曹長!そっちの要員は大丈夫か!?」
「しばしお待ちを!」
彼はそう言って、部下達を見回した。
皆、土煙でひどく汚れているが、先の爆弾で怪我を負ったものはいない。
「無事です!」
「そうか!よし、応戦を続けるぞ!」
指揮官は生き残りにそう命じた。レイックルは機銃に取り付いて、異常が無いか確かめる。
異常はなかった。
「敵機左方向より接近!」
1機のF6Fが彼らの施設に向かってきた。
そのF6Fは、進路上の対空機銃座に対し、片っ端から機銃を撃っている。

491 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:07:00 [ D4VsWfLE ]
そして、次に狙いをつけたのは、彼らの対空陣地であった。
18.5ミリ機銃が最初に射撃を開始する。その後に11.2ミリ機銃も続いて撃つ。
3つの銃座から放たれる曳光弾が、接近するF6Fを絡めとろうとするが、
F6Fは巧みに機体を動かして、全て空振りに終わらせる。
「敵はうまいぞ!」
レイックルは、その敵のあっさりとした手際に舌を巻いた。
F6Fはひらりひらりと射弾をかわすと、距離800で機銃を撃ってきた。
6つのオレンジ色の線があっという間に施設に取り付き、ついには屋上にも取り付いた。
その取り付いた先は、11.2ミリ機銃座がある所だった。
操作要員が絶叫を発して叩き伏せられ、伏せた女性魔道兵が背中に
12.7ミリ機銃弾を撃ちこまれて、屋上に縫い付けられる。
機銃弾は11.2ミリ機銃にも襲い掛かり、部品や弾帯を弾き飛ばした。
そして、この対空銃座の指揮官にも、機銃弾を襲い掛かった。指揮官の姿が派手な煙に包まれて見えなくなった。
レイックルはそれに構わず、F6Fに向けて11.2ミリを撃ちまくる。
機銃弾は6発がF6Fの左主翼に命中したが、11.2ミリ機銃弾では頑丈なF6Fに致命傷を与える事が出来なかった。
敵機が過ぎ去り、辺りは一時的に静かになった。
「くそ・・・・・次はどこから来るんだ?」
レイックルは、体にぐっしょり汗をかいていた。
さきほど銃撃された機銃座には、新たに2つの死体が転がり、血だまりを作っている。
機銃本体は銃身が半ば吹き飛ばされ、それ以外にもひどく傷つけられて使用不能であった。
指揮官は、というと、不幸にも、彼も仰向けに倒れ、ぴくりとも動かない。
その指揮官の体にも、左胸の辺りに大きな穴が開いている。
戦死していることは一目瞭然であった。
「指揮官が戦死」
その時、言葉が甲高い唸り声にかき消された。

492 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:09:36 [ D4VsWfLE ]
言葉を遮られたレイックルは、腹立たしそうな思いを胸に、音のする方向を見てみた。
なんと、いつの間にか敵機が大魔道院の上空に来ていたのだ。
20機以上の敵飛空挺が、甲高い音を上げて真ッ逆さまに急降下していく。
彼はすぐに機銃の方向をそれらに向ける。しかし、弾が切れていた。
「おい、弾を込めろ!」
レイックルは給弾係りにそう命じる。給弾係りは慣れた手つきで素早く弾帯を取り替えた。
後ろの18.5ミリ連装機銃が重々しい射撃音を響かせる。
思い出したように、高射砲弾が敵の周囲で炸裂し始めた。
この時、他の機銃座は襲ってきた米戦闘機の対応に追われており、ほぼ同時に襲撃してきた米艦爆の応戦が出来ないでいた。
「装填よし!」
給弾係りが作業終えた。レイックルはすかさず引き金を握り、第一弾を薬室に入れて、射撃を開始した。
ドダダダダダダ!というリズミカルな音が鳴り、機銃の振動が体を震わす。
曳光弾が、降下していく米艦爆隊の未来位置に向けて飛んでいく。
(落ちてくれよ!)
レイックルは心の中でそう願う。他の銃座もこの米艦爆隊に向けて射撃を開始する。
何条もの火箭がヘルダイバーを射抜こうとするが、どれも降下するヘルダイバーに命中しない。
3番機に火箭が集中したかと思うと、破片が飛び散り、ついには右主翼から火を噴き出した。
次に7番機のヘルダイバーがコクピットに機銃弾を叩きこまれて、操縦手を射殺されてしまった。
操縦する主を失ったヘルダイバーは、そのままきりもみで墜落し、
まだ生きていた後部座席の味方をあの世に引きずり込んだ。
対空砲火の支援は、驚くほど少なかった。
なぜなら、大多数の対空陣地が、傍若無人の機銃掃射を繰り返す、グラマンの対応で精一杯であった。
そのため、最初に撃墜できた米艦爆はわずかに2機のみであった。
甲高いおめき声が極大に達したかと思うと、腹から黒い物体を投げ捨てた。
黒い物体を投げ捨てたヘルダイバーは、今度はエンジン音をがなり立てながら機体を立て直そうと、懸命に水平に移ろうとする。
26機の艦爆は、次々と爆弾を投下し、全てが大魔道院に突き刺さった。

493 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:10:48 [ D4VsWfLE ]
たちまち、大魔道院は26の閃光と、黒煙に包まれる。
米側は継戦側に休む暇を与えなかった。
艦爆隊が投弾を終えた直後には、アベンジャー隊が既に、目標施設上空に到達していた。
別の高射砲がこれらに向けられ、すぐに発砲を開始する。だが・・・・・・・
「ああ・・・・・応戦する砲が少なすぎる。」
レイックルは、すっかり薄くなった高射砲弾の弾幕に愕然とした。
数時間前までは、米攻撃隊の前面に数十以上の黒煙を張り巡らしていたものが、今ではポツ、ポツ、と。
5〜6つの黒煙しか吹き上がらない。
息つかせぬ、米攻撃隊の攻撃テンポの速さに、応戦する側の対応がついていけていない。
アベンジャー隊は、1機が高射砲弾のまぐれ当たりで爆裂した以外は、全機が投弾に成功した。
大魔道院を覆っていた黒煙がさらに濃く染まる。
黒煙は、レイックル達の銃座にも流れ込み、彼らを咳き込ませた。
やがて、黒煙が晴れてきた。
「さすがは・・・エリラ殿下のお膝元だ。」
レイックルは、無事な姿を見せる巨大な魔法施設を見て、そう思った。
これまでに、無数の爆弾を叩きつけられている。
大魔道院が黒煙に包まれるたびに、魔法防御が打ち破られ、施設が崩壊するのではないかとひやりとする。
しかし、大魔道院に張られた防御魔法は、しっかり持ちこたえていた。
魔法都市、マリアナが吹き上げる何十条もの煙は、高々と空に吹き上がっている。
中には大火災を起こしているとこもあり、兵士達が懸命の消火活動を行っているが、焼け石に水の状態である。
しかし、レイックルの関心は、やや意外なところにあった。
「敵は、攻撃方法を変えてきましたね。」
彼の部下の女性魔道兵、ルイラ・アグルレが思い出したように彼に言ってきた。
「お前もそう思うか?」
「はい。」
彼の問いに、アグルレは頷いた。
「攻撃のテンポが、どこか速いように感じられます。」

494 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:12:44 [ D4VsWfLE ]
「ほぼ、同時に近かったからな。」
レイックルは、今日体験してきた、米軍の空襲の様子を思い出した。
まず、思い出したのは空襲の方法である。
これまでの空襲では、まず、機銃を主に積んだ、ずんぐりとした格好の戦闘飛空挺を最初にけしかけてきた。
戦闘飛空挺があらかた暴れまわると、今度は急降下爆撃主体の攻撃機が突っ込んできた。
その後に、水平爆撃機が進入し、最後の仕上げ、というのがこれまでの方法だった。
だが、今回の空襲では、戦闘機が暴れこんでから、少ししか経っていないのに急降下爆撃機が突っ込んで
来て、その直後には水平爆撃機が爆弾の雨を降らせている。
3種類の攻撃が、非常に早いテンポで、大げさに言えばほぼ同時に行われたのである。
その影響で、撃墜した米軍機はこれまでより少なく感じられた。
現在、米軍機はサッと、潮が引くようにもと来た空に帰っていった。
「早く攻撃を済ませて、帰りたかったのでしょうか?」
「いや、違うな。」
レイックルは否定した。
「一見早く帰りたがっているように見えるが、あれはあれでかなりいい手だ。
前回までは順序良く攻撃してきたが、今度は戦闘飛空挺、攻撃飛空挺が同時に攻撃してきている。
俺の推測だが、戦闘飛空挺は対空砲火を引き付けるオトリで、それに引き付けられている隙に、
敵攻撃部隊が迫って、爆弾を叩きつけたんだ。君も見ただろう?急降下爆撃機や水平爆撃機の迎撃に
当たった対空陣地が少なかった事を。」
実際、ヘルダイバー隊が攻撃を終えるまで、ヘルキャット隊は対空陣地に攻撃を仕掛けては、視線を自らの元に引き付けていた。
頭に血が上っている対空要員たちは、大多数が、小生意気なヘルキャットを叩き落そうと夢中になっていたが、
早い段階で突入してきたヘルダイバー隊やアベンジャー隊には気が付かないものが多く、応戦した機銃や高射砲も、
大魔道院の近くに来てやっと気が付いたという始末である。
「戦闘飛空挺が去ったら、今度は攻撃機が来る。」
その先入観が、米軍機の戦爆同時攻撃の意図を読み取れぬ結果となった。

495 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:13:57 [ D4VsWfLE ]
「以上が、第3波空襲で受けた被害です。」
エリラの専属魔道将校のマルス・パスキ大尉は、すらすらと報告文を読み上げた。
目の前の女性は、彼に見向きもせずに、ただ下の階の魔法陣を眺めているだけである。
「ご苦労。下がっていいわ。」
エリラは、パスキ大尉に向けてしっしっと手を振った。
エリラは別にどうも思っていなかったが、パスキ大尉は、自分が邪魔であると表現しているみたいで、少し不快に思った。
(畜生が。こっちだって、こんな報告を届けたくて届けているわけじゃないんだ。
外見は美人だが、中身は問題ありだな)
彼は内心で、エリラを皮肉りつつも、すごすごと下がっていこうとした。
その時、何人かの人が、慌しく会談を駆け上っていく音が聞こえてきた。
階段から、黒いローブをつけた若い魔道師が、息を切らしながら通路に踊り出し、エリラ達のもとにやってきた。
「グール様!」
年長らしき男の1人が、血相を変えた表情でグールの名前を呼んだ。
「なんじゃ、騒がしい。」
グールは、顔に不快な表情を表しながら、彼らに聞いてきた。
「まあよい。何か以上があったのかね?」
「はい。じ、じゃなくて、あの・・・・じ、実は」
「実は?」
「ええ・・・・水玉、いえ、ヒビの・・・・割れ目。」
「何もじもじしてんだ!男ならしっかりしゃべろ!!」
側でやり取りを聞いていたエリラが、きつい口調でその年長の男に向かって怒鳴る。
「ひ、・・・・じゃなくて。水晶の・・・」
そっぽど慌てているのか、それでも言葉がうまくかみ合わない。
その時、エリラは突然、男の胸倉を掴むと、拳で殴った。
よろめいた男が、殴られた左頬を押さえながら、驚いた表情で彼女を見つめる。
「気合が足りないようだから、あたしが入れてやったよ。さっ、少しは落ち着いただろう?」
彼女は鋭い口調で言ってきた。
「はっ、申し訳ありません。」

496 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:15:24 [ D4VsWfLE ]
やっとの事で、気持ちを取り直した男は、彼女らに向かって説明を始めた。
「実は、2階に差し込んだ、水晶玉に・・・・・・傷が付いていました。」
「なんじゃと!?」
グールが素っ頓狂な声を上げる。その直後、グールは急ぎ足でどこかに向かい始めた。
エリラもそれに続く。
やがて、朝訪れた2階の白く聳え立つ、壁画の入った壁の前にやってきた。
その真ん中に、赤い水晶玉が入っている。
グールは水晶玉を見てみた。最初、
「傷は無いではないか。」
グールはそう呟いた。だが、よく見てみると、上の辺りに、傷が出来ていた。
その傷は、横に3センチの亀裂となっており、ヒビは、水晶玉の中に達している。
「グール、傷の具合は?」
「殿下、これは少々、由々しき事態かもしれませぬ。」
グールは、珍しく顔を青ざめさせている。彼女の顔が、まるで屍のようになった、と、パスキ大尉は思った。
「由々しき事態・・・・・・ちょっと待って。それはどういうことなの!?」
「まことに申し上げにくいのでございますが、このまま、敵機動部隊から空襲が続行されると、
水晶に秘められた魔力が力尽きる恐れがあります。」
一同に衝撃が走った。これまで、大魔道院が無傷で済んできたのも、グールらが作った、この赤い水晶玉のお陰である。
グールは、この水晶玉を作る際、バーマントの中でも指折りの人材を交えて製作し、たっぷりと魔力を注ぎ込んだ。
しかし、米機動部隊の物量作戦は、この貴重な魔法道具までも蝕んでいたのだ。
(そういえば、数時間前に・・・・あれは第1波の攻撃が終わったあとだったが、ここを通る時に変な音がしたな)
パスキ大尉は、数時間前の出来事を思い出した。
あの時、彼はこの壁画の前を通り過ぎている。

497 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/22(木) 23:16:33 [ D4VsWfLE ]
(もしかして、あれは、この水晶玉のヒビが入る音なのだろうか・・・・いや、そうだったのだ)
「グール、では魔法防御はもう役に立たないの?」
「いえ、エリラ様。魔法防御は今も続けられております。」
グールはエリラの質問に答えた。
「しかし、このまま、第4波、第5波と、延々と空襲が続けば、この水晶玉も魔力が尽く恐れがあります。それに」
「とりあえず、何時間持つ?」
エリラはグールの言葉を遮った。彼女は、もっと別な事を聞こうとしている。
「あたしの考えでは、日没の召喚時まで持てばいいと思っているわ。」
「日没までですか・・・・・・・・・・・」
グールはしばらく考え込んだ。そして、
「敵の攻撃力次第でありますが、作用限界に達しなければ、魔力は保ち続けられます。」
「つまり・・・・敵があと何波、攻撃隊を出すかなのね。」
エリラは不快そうな表情浮かべた。
「運命は、敵の手にありか・・・・・・それじゃつまらない。」
対抗手段が対空砲しかない今は、じっと耐えるしかなかった。

503 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:16:16 [ D4VsWfLE ]
9月31日現在の戦況地図
                                ▼補給船団




                                          

                              ■第58任務部隊
                              ↓午前7時 第1次攻撃隊381機発艦
                               午前8時 第2次攻撃隊276機発艦
                               午前11時 第3次攻撃隊170機発艦






           /丶ヽ)ヽ\丶
          ′      丶
         ∫         。ヽ
        ソ          ラグナ岬
       /               ゝ                  
      /                 ヽ
丶ヽヾゝ/                   ソヾヽ丶亠∝t彳θヽ
                                ヽ丶″′ソ
                                    ヽ丶))ヽゝ丶
                                          ヽ丶
          
         ○マリアナ
          午前8時30分 第1次攻撃隊来襲
          午前9時40分 第2次攻撃隊来襲
午後0時10分 第3次攻撃隊襲来

504 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:18:14 [ D4VsWfLE ]
午後4時 ラグナ岬沖北東130マイル地点
第58任務部隊は、午後1時50分に、第3、第4任務群から第4次攻撃隊174機を発艦させた。
その1時間半後の午後3時20分には、第1、第2任務群から248機の第5次攻撃隊を発艦させている。
第5艦隊旗艦、戦艦ノースカロライナの作戦室内では、誰もが緊張した顔つきで、何かを待っていた。
その時、ドアが開かれた。
通信参謀のアームストロング中佐が、紙を持って作戦室内に入ってきた。
「長官、第5次攻撃隊指揮官より戦果報告です。」
「読め。」
「我、敵対空陣地60以上を完全撃破せるも、魔法施設に損害なし。
わが方の損害、11機被撃墜、8機被弾。第6次攻撃の要ありと認む。」
誰もが落胆したような表情になる。
「どうも、実感が沸かぬものだな。」
スプルーアンスは、重々しい口調でそう呟いた。
「レイム君、マリアナから感じられる魔力はどうなっている?」
彼は、椅子に座っているレイムに視線を向けた。
「反応は時間が経つにつれて、大きくなっています。さきほど、召喚儀式の最終段階に入りました。」
「最終段階か・・・・・・・・」
さしものスプルーアンスも、この時は珍しく焦りを感じていた。
「第6次攻撃隊はどうか?」
「今のところ、準備は半分以下までしか進んでおりません。搭乗員、整備員の疲労も限界に近づきつつあるようです。」
この時までに、機動部隊は5次、合計で1267機の戦闘機、攻撃機を送り出している。
この強大な航空戦力を叩きつけられた魔法都市マリアナは、持てる対空砲火を総動員して迎撃に当たったが、
物量で押しまくる米艦載機群に、次々と潰されていった。
第5次攻撃隊が帰路に着いたときには、マリアナに残されている対空陣地はわずかに機銃座が58、
高射砲にいたっては17という有様であり、大魔道院周辺の建物に無傷なものは全く無かった。

505 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:19:42 [ D4VsWfLE ]
それどころか、原形をとどめている建物を探したほうが早いという有様であり、
米軍の空襲が如何に仮借ないものか、それを知らしめている。
だが、主目標の大魔道院はどうか?
3次から5次に至っては、アベンジャーやヘルダイバー、ドーントレスという攻撃機類は全て、
この大魔道院に殺到し、容赦なく爆弾を叩きこんでいる。
だが、叩かれても叩かれても・・・・・・黒煙が晴れると、大魔道院はその重厚な姿を現し、
米艦載機のパイロット達は、それを見るたびに深くため息をついていた。
米軍機の被害は、この5次の攻撃によって、ヘルキャット38機、ヘルダイバー42機、
アベンジャー24機、ドーントレス5機、合計109機が撃墜されるか、着艦事故などで失われた。
その後、損傷機の中にも、ヘルキャット17機、ヘルダイバー5機、アベンジャー6機が修理不能と見られている。
それも入れると、合計で137機が失われた事になる。馬鹿に出来ない喪失数だ。
それだけ、継戦派も必死に戦っていると言う表れでもある。
「参謀長、もし現時点で発艦できる艦載機があるとしたら、何機ほどが確保できるかね?」
「現時点でありますか・・・・・・・しばしお待ちください。」
そう言うと、デイビス少将は作戦室から出て行った。
15分ほど経って、デイビスは紙を携えて戻ってきた。
「長官、現時点で発艦できる数はこの通りであります。」
そう言って、デイビスは読み上げようとするが、
「いい。自分で読もう。」
彼はそう言って、デイビスから紙を取った。
(現時点で攻撃可能機は・・・・・第1任務群は空母ホーネットがF6F12機、
SB2C13機、TBF6機、ヨークタウンがF6F4機、SB2C9機、TBF7機、
軽空母ベローウッドはF6F15機、TBF3機、ベローウッドは搭載爆弾があと1撃分か。
バターンはF6F3機、TBFはまだ準備中。こちらも搭載爆弾が欠乏・・・・・第1任務群は少々厳しいな)
スプルーアンスは眉をひそめる。

506 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:21:13 [ D4VsWfLE ]
正規空母は余分に爆弾や魚雷を積んでいたため、あと4〜5回の攻撃が行え、
一番弾薬の少ない正規空母エセックスとバンカーヒルでも、あと3回は航空攻撃が行えると、
バートンビックス大佐から報告を受けている。
だが、軽空母は、弾薬は定数のままであった。
本来なら、軽空母にも余分に爆弾を積ませようと思っていたのだが、時間の都合上、それはできなかった。
それに、本来は攻撃機のみに爆弾を積むはずが、ヘルキャットにまで爆弾を回さねばならず、
軽空母の弾薬庫から爆弾が見る見るうちに減っていったのだ。
気がつく頃には、第1任務群の軽空母は2隻とも、少ない数であと1撃分のみ、
第2任務群の2軽空母ではあと2撃分、第3任務群のプリンストンはあと1撃。
そして、第4任務群にいたっては、ついに軽空母のカウペンスが爆弾切れという目がくらむような事態を引き起こした。
寮艦の軽空母ラングレーも、F6F4機、TBF5機にしか爆弾を搭載できず、
これらを放ってしまえばラングレーも爆弾なしとなる。
調べた結果、第1任務群の他に、第2任務群ではF6F21機、SB2C32機、SBD9機、TBF27機。
第3任務群ではF6F12機、SB2C17機、アベンジャーは修理中か、補給中で参加可能機なし。
第4群ではエセックスがF6F6機、SB2C3機、TBF7機使用可能という状態である。
合計すると、F6F73機、SB2C74機、SBD9機、TBF50機。
206機が出撃できるのである。しかし、第6次攻撃隊は、本来ならば360機は確保できる
予定であったが、360機が発進準備に入るのは、午後6時20分。
日没は7時18分を予定されているから、もはや間に合わない。
「護衛空母部隊は・・・・・・・」
スプルーアンスは海図を眺めてみた。
第58任務部隊の後方260マイル地点には、護衛空母部隊である第52任務部隊が続航している。
護衛空母部隊は、本来は艦載機とパイロット補充用に取っておいていたが、
スプルーアンスは第52任務部隊にも空襲に加わるように命じていた。

507 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:22:22 [ D4VsWfLE ]
持てるものは全て使う。スプルーアンスはそう腹に決めていた。
だが、肝心の護衛空母部隊は、補給船団から離れ、こちらに向かったはいいが、
スピードが18〜19ノットしか出せず、今現在もその「全速力」で戦場に向かっている。
だが、現時点ではまだ260マイルの距離にしかおらず、この作戦には間に合うかどうか怪しくなってきた。
マリアナまでは650キロあり、護衛空母搭載の補充機のみならず、本来の艦載機であるFM−2や、
アベンジャー、ドーントレスの後続半径に入っている。
しかし、肝心のパイロットはまだ技量が未熟であり、機動部隊のパイロットと比べると、
いささか色があせる感がある。
これは補充機のパイロットにも言える事であり、スプルーアンスは第52任務部隊は戦場には間に合わぬだろうと思っていた。
「206機・・・・・・・・・それで充分だ。
参謀長、もはや時間が無い。今発艦できるだけの艦載機で第6次攻撃隊を編成する。」
「長官、しかし、パイロットは相当疲労しております。
それに、今日だけで3度出撃したものもおり、疲労が重なると、着艦事故が増える可能性があります。」
デイビス少将はスプルーアンスに思いとどまるように言う。
「被害報告を見ましたか?敵の対空砲火は減少したといえど、未だに残っています。
それに、着艦事故も9件、艦隊近くでの不時着水も29件報告されています。おまけに外をご覧ください。
太陽は傾いております。」
だが、スプルーアンスはデイビス少将の意見を退けた。
「時間は無い。それに待っている余裕も無い。
参謀長、敵は最大のカードをあと一歩で切れる立場にあるのだ。それも、とてつもなくな。」
もはや止められまい。スプルーアンスの意志に、デイビスは言葉を失った。
「直ちに第6次攻撃隊を編成し、発艦準備を行え。諸君、第6次攻撃隊の勇士に祈ろう。」

508 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:25:34 [ D4VsWfLE ]
午後4時30分 ラグナ岬沖北東385マイル
第52任務部隊は、2つの護衛空母を中心に輪形陣を敷いている。
輪形陣は2つあり、左側の陣がタフィ1、右側の陣がタフィ2と呼ばれている。
タフィ1は護衛空母ガンビア・ベイ、キトカン・ベイ、ファーション・ベイ、カリーニン・ベイ、マニラベイ
の5空母を中心に、重巡洋艦チェスターと軽巡のデンヴァー。
それに駆逐艦6隻が周囲を取り囲んでいる。
司令官はレイノルズ少将が執り、将旗をガンビア・ベイに上げている。
タフィ2は護衛空母セント・ロー、ネヘンダ・ベイ、ホワイト・プレーンズ、ナトマ・ベイ、ホガット・ベイ
の5空母が中心。
重巡洋艦のルイスヴィル、スプリングフィールド、駆逐艦5隻が周囲に展開している。
指揮官はブランディ少将である。
その中の1群、タフィ2の旗艦であるセント・ローの艦内で、トーマスブランディ少将は
ややげんなりした表情を浮かべていた。
「艦長、マリアナまではあとどれぐらいだね?」
この日、何回目か分からぬ質問を艦長に問いただした。
「あと385マイルです。」
「385か・・・・・さすがは19ノットだ。」
ブランディ少将は、護衛空母の足が遅い事にいささか苛立っている。
スプルーアンス長官から戦闘参加の要請を受け取ったのは、午前11時を回った直後である。
第58任務部隊の後方460マイルを航行していた補給船団から、第52任務部隊は離脱して、
一路、第58任務部隊のもとに向かった。
しかし、いかんせん、空母自体の足が遅いのではどうにもならず、なんとか艦載機の攻撃半径に
入ったときには、午後4時を過ぎていた。
それに、パイロットも技量が不十分なものが多い。技量の満足なものは大多数が、高速機動部隊のほうに取られてしまっている。
彼が座上する護衛空母は、カサブランカ級に属するもので、1年間でなんと50隻もの同型艦が、
カイザー造船所に発注されており、その多数の姉妹艦は、太平洋戦域で後方支援や地上部隊援護、船団護衛などで活躍している。

509 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:26:54 [ D4VsWfLE ]
カサブランカ級などの護衛空母部隊は、その数の多さと、汎用性の高さから、将兵の間では
「シープ空母」とあだ名されており、護衛空母群は犠牲を出しながらも、文字通り「ジープ」のごとく働いていた。
この第52任務部隊もそうである。だが、その足の遅さが、味方機動部隊の足を引っ張っている・・・・・・・・
(役立つはずが、逆に足を引っ張る結果となってしまった。)
ブランディ少将は、内心でそう思っていた。
実は、護衛空母の艦長の中に、あらかじめ船団からはなれて、第52任務部隊と共にマリアナ攻撃に加わってはどうか?
という意見があった。だが、ブランディ少将は、
「戦場では何があるか分からない。それに、護衛空母の艦載機は半数以上が
機動部隊の補充用で埋まっている。その少ない戦力でも、第58任務部隊に足しになるとは私も思う。
しかし、私達には守るべき補給船団もいる。先日の空襲では我が空母のワイルドキャットの活躍で被害を最小限に抑えているし、
今後のことも考えて、護衛空母は補給船団護衛に付かせるべきだ。」
と、意見を押しのけてしまった。同僚であるレイノルズ少将もこの案には賛成であった。
しかし、今思うと、その意見を押しのけたのは間違いであったと後悔せざるを得ない。
「司令・・・・・私達が不甲斐無いばかりに、申し訳ありません。」
護衛空母セント・ローの艦長、ジョー・オフスティー中佐がすまなさそうに謝ってきた。
最初、なんだ?と思ったブランディだったが、彼はさきほど、独り言を呟いていた事を思い出した。
「いや、あの言葉は気にしないでくれ。別に君を批判しているわけではないさ。
しかし、不快な思いをさせたのは申し訳ないと思っている。」
そう言いながら、ブランディはふとした失言を取り消した。
「パイロットの連中はどうだね?」
彼は別の話題に話を変えた。
「ずっと静かだが。」
「さあ、私も分かりかねますが・・・・しかし、彼らも発艦したいとは思っているでしょう。
前線では支援するはずの味方機動部隊が頑張っているのですから。」
「そうか。気持ちは分かるが、腕前はまだ未熟だ。その彼らのためにも、早く距離を積めねば。」

510 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:29:05 [ D4VsWfLE ]
その時、数人のパイロットが艦橋に押し掛けて来た。
「おお、どうした?」
オフスティー中佐はやや顔を驚かせつつも、彼らに問うた。
「艦長・・・・ブランディ司令。どうか、行かせてください!」
1人のパイロットが懇願する。そのパイロットは機動部隊補充機の搭乗員である。
その他にも、セント・ローのパイロットも混じっている。
「行かせてくださいだと?君達はまだ腕前が十分ではない。それに、もう夕方だ。じきに日が落ちる。」
「それでも構いません!どうか、第58任務部隊の戦友達の負担を軽くするために、自分達をマリアナ爆撃に行かせてください!」
「私達は確かに腕前はまだまだです。しかし、発艦と着艦、それに一通りの技術は身につけています。
こんな私達でも、役に立てるはずなのです。艦長・・・・・司令・・・・どうか、行かせてください!」
米軍機のパイロットにしては珍しい。司令や艦長に直談判など、滅多に無い。
「私も君達を送り出したい。だが、太陽は既にああだし、それに距離がある。
360マイル地点までに到達したら、私が行けと命令する。それまで、君達は待機していてくれ。」
「待機待機じゃあ、時間がありません。飛行機とは、1000キロ以上の距離をひとっ飛びで行けます。
しかし、この速力では、時間に間に合うかどうか分かりません。
それよりかは飛んで、敵に爆弾を叩きつける以外にありません。」
「だが、君達はまだ技量が足りぬ。それにワイルドキャットは、」
「他にどんな僕達の使い方があるんですか!?ありゃしませんよ!
それに、敵は日没には化け物を召喚するそうじゃないですか。それが召喚されれば・・・・・・・・・・・・」
彼らの熱意は熱かった。仲間の負担を減らしたいがために、わざわざブランディを説得しに来たのである。
「それでは聞く。貴様らは、本当に行きたいのだな?」
「はい!司令・・・・艦長・・・・・どうか行かせてください!」
もはや、彼らに迷いは無かった。彼らは、行きたがっている。それを除外するのは、どことなくブランディには躊躇われた。
しばらく、ブランディは黙り込んだ。

511 名前:ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ 投稿日: 2006/06/24(土) 18:30:05 [ D4VsWfLE ]
そして沈黙する事10分。
「よろしい。君達を送り出そう。」
ブランディはついに決心した。やらないで破滅を待つよりは、まずは手を尽くすべき。
彼はそう決めたのである。
「必ず、生きて帰って来い。これは命令だぞ!」
「アイアイサー!」
6人のパイロットは、全員が直立不動の態勢を取り、ブランディらに敬礼をした。ブランディも彼らに答礼する。
それを確認したパイロット達は、固い表情をゆるめて艦橋を飛び出していった。

午後5時
甲板上には、6機のF6Fと6機のアベンジャーが並べられていた。
それらはいずれもプロペラを轟々と回しており、出撃できる喜びを味わっているかのようだった。
風上に立ったセント・ローは、発艦に適した合成速力を作り出し、艦載機の発艦を促進させる。
セント・ローの左舷800メートルのホワイト・プレーンズも同様に19ノットのスピードで海上を疾走する。
「発艦始め!」
艦長のオフスティー中佐が号令すると、命令を受け取った甲板要員が頷く。そして合図をヘルキャットに送った。
カタパルトが強引に、重いヘルキャットの機体を引っ張り、艦首方向から海上に放り込もうとする。
ヘルキャットは風に乗り、鳥の如く高度を上げていく。2番機のヘルキャットがすかさず前進し、カタパルトの位置に止まる。
カタパルトにワイヤーが装着されたのを確認すると、発艦よしの合図を送る。2番機も同様に上空に上がっていった。
攻撃隊の発艦には、レイノルズ少将も同意し、右に10キロ離れた洋上を航行するタフィ1も、艦載機を発艦させ始めた。
発艦は17分かかり、午後5時42分には第1次攻撃隊120機は30機ずつの編隊を組んで南西に向かっていった。
午後5時36分には第2次攻撃隊120機が発艦を終え、同じく南東に向かっていった。