401  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:59:20  [  D4VsWfLE  ]
後部艦橋の見張り所から、兵が夜光塗料を塗った旗で何か信号を送る。
ゲルオールの主砲弾が吼える。そしてまたもや1発がアイオワの中央部に命中した。
「当たってはいるが、本当に効いている」
のか?と言おうとしたとき、アイオワの第2煙突から後部の第3両用砲座あたりから突然大火災があがった。
その炎は今までのより格段に大きい。
彼らは詳しく知らなかったが、この時、ゲルオールの砲弾はアイオワの第3両用砲の両用砲弾庫に
飛び込んで、20発以上の両用砲弾を一気に爆発させた。
このため、弾庫から火柱が吹き上がって、甲板上に炎が広がった。
「敵艦に大火災発生!」
弾んだ声が艦橋に飛び込んできた。
「よし、その調子だ!砲術、敵艦の姿は丸見えだ!どんどん撃て!」
艦長も声の調子を上げて砲撃を命じる。
しかし、この時のバーマント艦隊は決して楽観できる状態ではなかった。
旗艦のゲルオールは既に主砲塔2基を潰されている。
2番艦のリルオールは、戦艦のニュージャージー相手に12発を命中させて、第1煙突を左舷側に叩き倒し、
後部の被装甲部から火災を発生させていたが、自らも魔法防御を打ち破られてからは後部主砲2基が使用不能にされている。
3番艦のファルグリンにおいては、戦列に留まっているものの、
インディアナに前部2基、後部1基の主砲塔を叩き潰され、2門の砲でしか射撃していない。
そして4番艦のウロンズは後方で沈みつつあり、5番艦のロンボストのみが無傷の状態で、損傷しているアラバマと渡り合っている。
一応敵に手傷を負わせている。
だが、ただ傷を負わせただけであり、敵艦は盛んに砲弾を撃ちまくっている。戦闘不能に陥らせた艦は1隻もないのだ。
「いかんぞこれは・・・・・」
エレゲルスは内心、ある不安がよぎりはじめた。
「敵4番艦がさらに砲火を減少させました!」
アラバマは、確実にロンボストに命中弾を叩きつけており、ロンボストに対する3度目の斉射は
6発中4発が命中という信じられない精度で、ロンボストは魔法防御を叩き割られた。  


402  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:01:15  [  D4VsWfLE  ]
だが、その直後にロンボストが放った斉射が、アラバマの第3砲塔の電気ケーブルを切断。
砲を操作不能に陥れてしまった。
「ロンボストも頑張っている!我々も負けてられんぞ!」
この日何度目かの励ましの言葉をエレゲルスは口走る。
だが、それをあざ笑うかのように、2番艦リルオールが斉射を放った瞬間にニュージャージーの砲弾が前部に命中。
この被弾はリルオールの2基の砲塔の旋回版を歪めてしまい、リルオールの重武装戦列艦としての機能を失わせた。
だが、リルオールの砲弾も、最後の1発がニュージャージーの左舷中央部に命中し、破壊された両用砲の破片を吹き上げた。
それが最後だったかのように、リルオールは急に速度を落とし始める。
「リルオール、落伍!」
「ひどい・・・・・本当に負けてしまうぞ。」
エレゲルスは思わず目を覆わんばかりだった。
やっと敵の1番艦に目立った損傷を与えられたと思ったら、こっちの艦が息切れし始めている。
態勢は明らかにバーマント側に不利である。
それに追い討ちをかけるかのように、さらなる異変が起きた。
「敵小型艦6!敵艦艦列後方より出現!我が艦隊の左舷に回ります!」
それは、分派されたはずの駆逐艦部隊の一部だった。
駆逐艦部隊は、最初は敵の小型戦列艦14隻と対峙した。
戦った海域は戦艦部隊の決戦場から東23キロの地点である。
米駆逐艦はまず、35ノットのスピードで敵小型戦列艦に反航した。
距離はどんどん縮まり、先頭艦のハルフォードが距離7000で5インチ砲をぶっ放した。
敵も触発されたように9センチ砲を米駆逐艦に撃ってきた。
距離が4000に縮まったところで左回頭し、敵に舷側を見せる形となった。
そして3800でまず、ハルフォードが53センチ魚雷を4本発射した。
ハルフォードはその直後に3発の砲弾を受け、前部の5インチ砲2基が使用不能となった。
ハルフォードが魚雷を発射した事を確認した別の寮艦は次々と魚雷を発射した。
最終艦のザ・サリバンズが魚雷を発射した後に、空の発射管を敵の9センチ砲が叩き潰した。
幸いにも発射管の中身は空であったので、誘爆轟沈の悲劇は避けられた。  


403  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:02:54  [  D4VsWfLE  ]
敵艦14隻のうち、まず先頭のEA−63が、艦尾に魚雷1本を叩き込まれ、たちまち操舵不能に陥る。
その後続のEA−64が3本の魚雷を受けて、艦体が真っ二つに割れてしまった。
EA−66は前部の2番砲の横に魚雷が命中。
その直後に弾火薬庫が誘爆を起こし、1800トンの小型戦列艦は220人の乗員共々木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
この一斉雷撃で小型戦列艦4隻が沈み、3隻が大破し、洋上を漂流し始めた。
一方、米側は最初の段階でハルフォードが中破、ザ・サリバンズが小破という軽微な被害に抑えられている。
その後、米駆逐艦は反転して距離4000で健在な小型戦列艦と激しく撃ちあった。
継戦派側は1隻の艦に集中して射撃を行い、ハルフォードとデューイを完膚なきまでにたたきのめした。
だが、次第に米側の猛射の前に勢いも減っていき、3番艦のルイス・ハンコックの砲2門を使用不能にし、
機関室に砲弾を叩き込んで速度を低下させた頃には、継戦側の残存艦7隻は、2隻に減っていた。
残りの5隻は米駆逐艦の猛射に逆に返り討ちにあっていた。
そしてそれから間もなく、この2隻の小型戦列艦も砲火を沈黙させ、力尽きたように停止した。
米駆逐艦は6隻が反転し、戦艦部隊の援護に回った。
それからしばらく経った後、米駆逐艦6隻は突如、バーマント主力艦群の前に現れたのである。
「敵艦、左舷に回ります!」
「両用砲、撃ち方はじめ!」
艦長が米駆逐艦の迎撃を命じ、距離6000に迫った米艦に9センチ口径の砲弾が撃ち出される。
距離4500に迫ったところでようやく命中弾が出、敵先頭艦が黒煙をたなびかせる。
しかし、それでも敵艦は進撃をあきらめない。
むしろ砲撃を行ってきた。5インチ砲弾の曳光弾がゲルオールに降り注ぎ、次々と命中する。
そして距離が3000に迫った時、艦首を向けていた米艦はいきなり右舷側を見せた。
その直後、アイオワの砲弾がゲルオールに突き刺さって被害が増大する。
アイオワの砲弾は1発が命中し、中央部の第1煙突を根元から叩き折った。
米駆逐艦は先頭からヤーノール、マグフォード、パターソン、ゲスト、ストックハム、ザ・サリバンズの順で進んできた。
そして、それらは残った魚雷を、戦列に残っていたゲルオール、ファルグリン、ロンボスト、
そして今しがた戦列を離れようとしていたリルオールに向けて一斉に発射した。  


404  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:04:36  [  D4VsWfLE  ]
先の戦闘で、右舷側の4連装発射管1基を使用していたが、まだ魚雷が装填された発射管が2基残っていた。
左舷側と、その後ろの中央軸線に配置された発射管である。
1隻8本、6隻で合計48本の53センチ魚雷が扇状に発射されたのだ。
そして少し経ってから、効果は現れた。
まず1番最初に被雷したのが今しがた避退しようとしていたリルオールだった。
左舷側に前、中、後部と1本ずつが満遍なく叩き込まれた。
喫水線下にも防御は施してはいるが、それは魚雷を想定した防御ではない。
そのため、53センチ魚雷はリルオールの下部装甲板をあっさりと突き破って、
その300キロの炸薬のパワーを艦内で炸裂させる事が出来た。
リルオールに3本の水柱が立ち上がる。
その直後、1番艦のゲルオールにも後部に2本、前部に1本の魚雷が叩き込まれた。
エレゲルス大将らは、突然、下から突き上げられるような、一風変わった衝撃に仰天した。
「な、一体どうしたのだというのだ!?」
「私も詳しくは分かりませんが、敵は喫水線下を破る兵器を使用したようです!」
衝撃が収まってきたが、それと同時に、速度も“収まって”きた。
それに、次第に左舷に傾きつつある。この傾斜で、主砲は照準が出来なくなってしまった。
「艦長!左舷第4甲板あたりに急激な浸水が・・・」
突如、伝声管からの声が途絶える。
「どうした?おい、機関室!応答しろ!おい!」
だが、返事は無い。
そして、被雷から10分経って、ゲルオールは右に12度傾いた状態で、完全に洋上に停止してしまった。
この一斉雷撃で、重武装戦列艦はゲルオール、リルオール、ファルグリンが魚雷を受けてしまった。
ゲルオール、リルオールは3本ずつ、ファルグリンは5本を受けた。
ファルグリンは3分後に左舷に転覆している。
そして、唯一魚雷を受けなかったロンボストは、米戦艦の集中射撃を受け、今しがた、燃える松明に変化したばかりである。
傾く艦橋中から、爆発炎上するロンボストを眺めていたエレゲルス大将は、愕然とする思いだった。
南の洋上では未だに撃ち合いが続いているが、中型戦列艦部隊からは、敵艦制圧の砲は入っていない。
先ほどまで砲火を交えていた米戦艦部隊は、先頭艦を始め、1隻も戦列から脱落していない。  


405  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:05:36  [  D4VsWfLE  ]
先頭艦と4番艦の火災が(特に4番艦)ひどいが、スピードは全く衰えていない。
それに対し、こちらは魚雷を受ける前に、既に敵弾によって主要装甲部を撃ち抜かれている。
被雷が無くても、それは重武装戦列艦部隊が負けるのを遅めたに過ぎないのだ。
(やられるのならば、せめてもっと時間を稼いだほうがよかった。
それなのに、敵小型艦に喫水線を食い破られて、さっさと退場するハメになるとは!)
エレゲルスは、敵艦隊を阻止できると言い放っていた自分が悔しくて仕方が無かった。
確かに味方の技量もよかった。だが、敵はそれを上回っていたのである。
「艦長、左舷の浸水が止まりません。もはや状況は・・・・・」
「そうか・・・・・」
艦長は頷くと、エレゲルスに姿勢を向けた。
「司令官、もはや本艦は助かりそうにもありません。
敵小型艦にあけられた喫水線の穴からの浸水が止まりそうにもありません。」
「そうか。」
エレゲルスは諦めたような表情でそう呟いた。
「艦長、総員退去を命じたまえ。」
「わかりました。」
艦長がすぐにその命令を全艦に伝える。
「艦長、司令官も一緒に行きましょう。」
「いや、参謀長。私はこの船に残るよ。」
「ええ!?い、いえ、しかし司令官」
「わしは残る。」
彼は断固たる口調で言う。
「艦長、君も退去したまえ。」
彼は艦長にも退去をすすめた。  


406  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:07:24  [  D4VsWfLE  ]
「今回の敗北は、全て私の責任だ。君達には大した責任はない。」
「・・・・・・わかりました。それでは、司令官。」
「さあ行け!もうこの船はあまり持たないぞ!」
エレゲルスは躊躇う艦長や幕僚達を艦橋から追い出した。ハッチを閉めると、再び艦橋の窓に近づき、海上を眺める。
所々に炎の色をした所がある。大きめの炎は全て、バーマント艦である。
「エリラ殿下。不甲斐無い結果に陥ってしまい、申し訳ありません。
しかし、どうか、部下達は責めないでください。私1人を責めてください。」
彼は苦痛に満ちた表情で、そう呟いた。

午前3時50分
アイオワの前部の非装甲部に開いた穴へ、ダメージコントロールチームが、消火ホースを使って水を注ぎ込んでいる。
その光景を、アイオワの艦橋からウイリス・リー中将は眺めていた。
「司令官、前部、左舷中央部の火災はあと1時間で鎮火できます。」
「そうか。アラバマの状況はどうだ?」
「アラバマは目下消火作業中でありますが、主要部分の損害は砲塔を除いて軽微だそうです。」
「そうか。」
迎撃部隊の戦艦のうち、4隻の戦艦全てが損傷している。
その中でも、アイオワとアラバマの被害が大きい。アイオワは中破。
アラバマは左舷の火災が予想以上に酷い事と、砲塔2基が使用不能という事で大破と判定されている。
ニュージャージーは14発受けたが小破、インディアナは7発を受けたが、これも小破に留まっている。
それに対し、駆逐艦の援護はあったものの、敵重武装戦列艦5隻は、全てが撃沈されている。
それに3分前に入った報告では、駆逐艦部隊がハルフォード沈没、デューイ大破、
ルイスハンコック中破の損害を受けたものの、小型戦列艦8隻撃沈、4隻大破の戦果をあげている。
巡洋艦部隊は、重巡洋艦のサンフランシスコが大破、ボストンとクリーブランドがそれぞれ砲塔1基を潰されて中破、
残りは小破したが、敵艦4隻を撃沈し、2隻を大破させた。
損傷艦は多いものの、沈没艦は第3次サイフェルバン沖海戦より少ない。
それでいて前回と同等の大戦果をあげたのである。これは圧勝といっても過言ではない。
「これで障害は取り除いた。あとは明日、機動部隊の活躍如何に掛かっている。」
その時、通信士官が1枚の紙を持ってきた。それを受け取ったリー中将は、文面を見る。
全部見終わると、顔を曇らせた。  


407  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:10:25  [  D4VsWfLE  ]
9月31日  午前3時  ギルガメル諸島西南370マイル沖
第52任務部隊のタフィ2は、その日、補給船団の北10マイルを時速16ノットで航行していた。
現在、艦隊は右後方に地図に無い島を背にしている。島自体は広くも無く、狭くも無い。
その島の南方30マイル地点を今しがた通り過ぎたばかりだ。
タフィ2は護衛空母キトカン・ベイを旗艦にしており、トーマス・ブランディ少将が座上している。
タフィ2はキトカン・ベイ始めとする護衛空母5隻の他に、重巡1、軽巡2、駆逐艦6で編成されている。
この護衛空母群は、搭載機数28機のうち、16機を機動部隊の艦載機補充用に当てている。
16機の内訳は、F6Fが8機、SB2Cが4機、TBFが4機という割合である。
自身の艦載機はFM−2ワイルドキャット6機、TBF6機のみである。
その6機しかいないFM−2でも、タフィ1とタフィ2全部を合わせば、60機という纏まった数となる。
この60機は、今日の防空戦闘で大活躍している。
艦隊は16ノットの速度でギルガメル諸島を通過、ゆっくりと西進している。
軽巡洋艦のブルックリン艦長であるロイ・コール大佐は艦長席に座ってコーヒーを飲んでいた。
「艦長、対抗部隊は敵艦を何隻沈められますかね?」
「う〜ん・・・・・俺の予想としては、3分の2撃沈がいいところだと思うぞ。」
「3分の2ですか・・・・味方は何隻やられると思います?」
「おい、あんま縁起悪い事言わすなよ。と言っても何が起こるのかが分からんのが戦争だ。
とりあえず、3隻喪失、4隻大破というところか。それにしても、TF58の奴らはいいよな。
自分達だけでドンパチやって。」
「自分らも参加したいところですね。」
2人が雑談を交わしていると、右舷後方の駆逐艦コンウェイが隊内無線で海竜らしきものをソナーで探知したと報告してきた。
やがて、コンウェイがしばしの間、隊列から離れ始める。
3分後、コンウェイから新たな通信が入った。
「我が艦隊より北北東20マイル地点に南下する艦隊あり。」
「南下する艦隊だと?」  


408  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:13:07  [  D4VsWfLE  ]
コール大佐は首を捻った。
「TF58は西に離れている。TF54は・・・・・おい!TF54は船団の護衛についているか?」
「はい。全艦艇が所定の位置で船団の護衛に当たっております。」
TF54もいる・・・・・・・そういえば、第58任務部隊の空襲を受けて何隻か沈没し、撤退した敵艦隊があった。
だが、もし、その部隊が、撤退すると見せかけ、こちらの目が襲撃してくる空中騎士団や、敵飛行場に移っている間に、
ギルガメル諸島、あるいはクリオメール島に回りこんでいたとしたら・・・・・・・
「コンウェイから報告!未確認艦応答なし!」
「敵だ!敵艦隊だ!」
コール大佐はいきなり、血相を変えた表情で叫んだ。
「その未確認艦は、午前に機動部隊の艦載機を受けて壊滅したはずの敵艦隊に間違いないぞ!」
ふと、彼はあることを思い出した。
20分前、12ノットの速力で通過していく小艦隊があった。
それらは損傷した空母エンタープライズを始めとする軽巡1、駆逐艦2の艦隊であった。
それらは、先に後退していった損傷艦の後を追うように後方に下がりつつあった。
(もしや・・・・・・)
その時、コンウェイからの新たなる情報が入る。
「未確認艦隊は東南に針路を変更せり。時速25ノット。」
東南。エンタープライズ隊が避退していった方向である。
(待てよ。さっきコンウェイは海竜を追いかけていった。
もしや、その海竜が、これまでの損傷艦の通過状況を味方艦隊に教えていたとしたら・・・・・・)
エンタープライズが危ない!
その時、旗艦のキトカン・ベイから緊急通信が入った。

時系列はここからしばらく遡る。
午後1時30分  第58任務部隊の第3次攻撃隊の最後のドーントレスが、重武装戦列艦ムルベントに爆弾を叩きつけ、戦場を去っていった。
中型戦列艦チャイエイトに旗艦を移したオルコイヅ大将は、無念の思いでその一部始終を見守っていた。
ムルベントは左舷に5本、右舷に2本の魚雷を叩き込まれた上に、8発の爆弾を受けていた。
ムルベントは黒煙を盛大に上げ、洋上に停止している。沈没は誰の目から見ても明らかだ。
「上空が丸裸の艦隊が、こうも敵の航空戦力に対して無力だとは。」
彼は愕然としていた。
これまでに襲撃してきた敵機動部隊の艦載機は、まるで演習をやっているかのように、
回避運動を繰り返す第5艦隊の艦艇に、あっさりと爆弾や魚雷を叩きつけた。  


409  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:14:38  [  D4VsWfLE  ]
そして、1時間後に送られた被害報告書に、彼は愕然となった。
第5艦隊は重武装戦列艦3隻、中型戦列艦4隻、小型戦列艦16隻。計23隻で編成されていた。
だが、たった2時間の戦闘で、重武装戦列艦3隻、中型戦列艦2隻、小型戦列艦4隻が撃沈され、
2隻が大破して、スピードが出せなくなっている。
残存兵力は中型戦列艦2隻、小型戦列艦10隻のみ。
だが、オルコイヅ大将はこの直後、ある考えが浮かんだ。
「参謀長、確かここはギルガメル諸島より西に920キロ離れていたな。」
「はい。ここからちょうど東に920キロほど行けば辿り着きます。」
しばらく何かを考えた後、オルコイヅ大将は艦橋の後ろにある海図室に幕僚を連れていった。
「司令官、どうされました?」
「いやな、少し面白い事を考えたのだ。」
そう言うと、オルコイヅ大将は海図のある地点を指差した。
「クリオメール島・・・・・ですか。」
「そうだ。ここから西に410キロだ。ちなみに、今、敵の機動部隊がここ、
ギルガメル諸島の南西272キロの所で味方空中騎士団と戦闘を行っている。」
「それで、司令官の面白いお考え、とはなんでありますか?」
「ああ。それを今から言おうと思っていた。我が艦隊は今より第6艦隊との合流をやめ、クリオメール島に避難する。」
それを聞いた幕僚達は誰もが仰天した。

時は流れ、午前2時50分  クリオメール島
「しかし、こんな島に、このようなものがあるとは。」
現在、第5艦隊はクリオメール島の北側の入り江に停泊していた。
だが、この入り江はただの入り江ではない。一見緑に覆われているように見えるが、
実は伸び切った木の枝が高く生い茂り、入り江を隠しているのである。
実は何度かこの島の上空を米機が飛んでいたが、米機のパイロットは無人島と報告している。
1時間前の午前1時50分に、第5艦隊はアメリカ側に見つかる事無く、クリオメール島に辿り着いていた。
午後1時45分から時速25ノットのスピードで進み、13時間近くをかけて到着したのである。  


410  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:19:48  [  D4VsWfLE  ]
そして午前1時30分、
「敵艦隊の一部発見。その敵艦隊の16キロ後方に、損傷した大型空母が撤退中」
との報告を受けた。
「司令官。どうやら本当に、敵をあっと言わせそうですな。」
「これまでにさんざん敵空母には手を焼かされた。それに、昨日の戦闘で沈んで行った3隻の重武装戦列艦も、
敵空母の艦載機にやられている。だが、今度はこっちが襲う番だ。さあ、出港だ。
派手に暴れまわってやろう。」
オルコイヅ大将が自ら提案した作戦。それは、損傷して、後退してくる敵艦を討ち取ろうというもの
であった。
幕僚達は反対した。第6艦隊との合流はどうなるか?
クリオメール島まで無事に行けるのか?
議論は長く続くかと思われたが、オルコイヅ大将は命令を強行し、第5艦隊の残存艦は、損傷の
ひどい2隻の小型戦列艦を避退させ、クリオメール島に向かったのである。
米軍偵察機は、この艦隊を発見せず、策敵線の抜け穴にいた第5艦隊は粛々と、そして確実に
目的地に向かう事が出来たのである。

午前3時16分  クリオメール島東南20マイル
左舷に敵弾を受け、大破した空母エンタープライズは、軽巡洋艦バーミンガム、駆逐艦コットン、ナップに
護衛されて避退中であった。
艦長のガードナー大佐は艦長席で居眠りをしていた。
「艦長!起きてください!」
「・・・・う・・・すまん。居眠りをしとったようだな。どうした?何か異変でも起きたのか?」
「バーミンガムから通信が入りました!艦隊左舷後方から接近中の未確認艦発見せりとの報告です!」
「はぁ?」
ガードナー大佐は思わず間の抜けた声を漏らした。
「未確認艦だと?TF52か54の艦隊じゃないのか?」
「違うようです。」  


411  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:22:05  [  D4VsWfLE  ]
現在、エンタープライズは12ノットしか出せない。
昨日の海戦では、敵機の爆弾6発が左舷に命中し、そのうち4発が喫水線付近に、
2発が格納甲板の外壁にあたって炸裂した。
左舷側に浸水が起き、一時は12度まで傾斜したものの、乗員の懸命な処置のお陰で浸水は止まった。
エンタープライズは一旦応急処置を施し、午後5時に護衛艦を伴って後方に避退し始めた。
その応急処置の際に、右舷側に注水してバランスを取る事が出来たが、
最高速度が12ノットに落ち込んでしまっている。
ダメージコントロールチームの報告では、修理に3ヶ月はかかるだろうと言われている。
その手負いのエンタープライズと、護衛艦の後方に現れた未確認艦。
そして、TF52、54から後退している艦がない事を考えると・・・・・・
それを裏付けるかのように、バーミンガムから訂正の通信が入る。
「バーミンガムから新たなる報告。未確認艦は敵艦隊の誤り。我、これより迎撃する。」
続いて、TF52からも連絡が入った。
「我、応援部隊を貴艦隊に増派する。」
彼らは知らなかったが、この時、ブランディ少将の命を受けて、軽巡のブルックリンと駆逐艦6隻が反転、
エンタープライズ隊のもとへ急いでいた。
護衛船団とは通り過ぎて大して時間はたっておらず、両者の距離は数マイルしか離れていない。
味方艦の来援は早い。だが、敵の来援も早かった。
エンタープライズの護衛をしていたバーミンガムは駆逐艦コットン、ナップを引き連れて反転、敵艦隊に向かった。
そして午前3時25分  バーミンガムのレーダーが2つの艦隊を捉えた。1つは巡洋艦2、駆逐艦10を引き連れた艦隊。
もう1つは巡洋艦1、駆逐艦6の艦隊。
前者は北、後者は前者よりやや西側から来ている。
「こちら軽巡洋艦のブルックリン艦長、ロイ・コールだ。そちらは味方艦だな?」
「そうだ。私は軽巡洋艦バーミンガム艦長のフリッツ・クリルだ。」
「あと少しで合流できそうだが、敵のほうが先に君達に突っ込んでくるな。」
「ここはひとつ、挟み撃ちでやろう。そうすれば敵に動揺を与えられるし、こっちに飛んでくる砲弾も少なくなる。」
「OK。では君達が敵の右側、俺たちが敵の左側を行く。エンタープライズを守るぞ。」
その言葉を最後に、無線が切れた。  


412  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:24:07  [  D4VsWfLE  ]
敵艦隊まではあと12マイル。もうすぐそこである。
バーミンガムと駆逐艦2隻は、33ノットのスピードで敵艦隊に向かった。
そして5分後、ついに敵艦隊が姿を現した。
バーミンガム隊の上空に、敵艦隊が発砲した照明弾がきらめく。
「敵との距離、10マイル!」
「ようし、左砲戦、撃ち方始めえ!!」
前部の6インチ砲2基のうち、1番砲が砲弾を放つ。
まずは定石通りに交互撃ち方からだ。
敵艦隊とはすれ違う形で対峙しているため、前部の砲しか使えない。
ドーン!と音を立てて1番砲が火を噴く。敵艦も前部砲塔を撃ってきた。
まるでどけ!と言わんばかりである。
バーミンガムの右舷後方に水柱が立ち上がる。
バーミンガムは33ノットの高速で突っ走っているため、照準がいまいち合わせにくいのだろう。
8秒後に2番砲が6インチ砲弾を放つ。敵艦隊の左舷前方に2本の水柱が立ち上がる。
敵艦隊の砲火が増えた。先は1番艦だけしか撃ってこなかったが、今度は2番艦も砲撃に加わっている。
8本の水柱がバーミンガムの右舷後方に立ち上がる。
「敵さん、こちらの速度を掴み損ねてるぞ」
クリル艦長はニヤリと笑みを浮かべた。
彼らの役目は、ブルックリン隊が来るまで、敵艦隊を足止め、もしくは掻き乱すことである。
ここで敵艦隊の進撃を阻み、ブルックリン隊と共同して叩けば、エンタープライズを守る事が出来る。
「敵との距離、8マイル!」
CICからの報告が艦橋に入る。3番砲が吼える。
砲弾は惜しくも敵艦を飛び越えてしまう。それを払拭するかのように、1番砲がすぐに撃つ。
弾着は敵艦の左舷側に至近弾となった。そして第5射で夾叉が出た。
バーミンガム隊は敵艦隊の1番艦の左舷側に回り込もうとしている。
ここでようやく、第3、第4砲塔も使用できるようになり、砲撃可能な砲が増えた。
「よし、一斉撃ち方だ!」
それを機に、しばらく砲が静かになる。そして30秒後、バーミンガムの左舷側が真っ赤に染まった。
「5インチ砲撃ち方はじめ!」  


413  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:25:13  [  D4VsWfLE  ]
左舷側に射撃可能な5インチ連装両用砲が咆哮を始める。
第1斉射が敵1番艦の周囲を取り囲む。その中に3つの命中時の閃光が走る。
さらに5インチ砲弾が殺到し、再び命中弾の閃光に覆われる。
1番艦に3斉射を叩き込んだところで、目標を2番艦に変える。
2番艦からは6インチ砲は交互撃ち方ではなく、一斉射撃で対抗した。
バーミンガムの艦体にガーン!という衝撃が走る。
「左舷3番機銃座損傷!」
敵弾の1発が左舷の40ミリ連装機銃座を叩きつぶした。
後続の駆逐艦も5インチ砲を乱射している。遠距離なので、魚雷は撃てないでいるが、
それでも、5インチ両用砲の速射性能はめざましいものがある。
バーミンガム隊は高速で敵とすれ違いながら、会敵からわずか10分の時間で敵艦隊を通り抜けた。
バーマント艦隊は、バーミンガムに17センチ砲弾3発、9センチ砲弾2発を食らわせた程度で終わったが、
米艦隊もまた、バーマント艦隊に致命傷を負わせていない。
元々撹乱が目的であるから、最初、バーミンガム隊は早撃ち逃げに徹した。
「面舵一杯!」
クリル大佐がすかさず号令を下す。今度は同航する隊形で、敵艦隊の後方から迫る位置だ。
こちらが有利な態勢である。
(エンタープライズとの距離が6マイルしか離れていない。もっとこいつらを遠ざけなければ)
彼はそう思い、再び全速前進を命じた。
この時、敵艦隊に異変が起こった。
敵艦隊の3番艦と4番艦がいきなり西に分離し、エンタープライズの方向に向かったのである。
「いかんぞ!目標変更、あの分離した敵小型艦を狙う!」
クリル艦長は素早くそう命じた。だが、それと同時に最後尾の敵小型艦が艦隊の針路をさえぎるような形で前進してきた。
敵艦隊は25ノットの速度しか出せていない。
だが、バーミンガム隊はこの時、敵艦隊に近寄りすぎていたため、敵艦隊の妨害をモロに受ける事になった。
「艦長!衝突の恐れが」
「わかっとる!取り舵一杯!先に邪魔者を片付けるぞ!駆逐艦部隊は敵に肉薄して、雷撃せよ!」  


414  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:26:40  [  D4VsWfLE  ]
バーミンガムの艦首が左に振られる。敵艦隊は回頭中であるが、最後尾の敵小型艦がバーミンガムの右舷7000メートルを航行する形になっている。
「目標、右舷の敵小型艦!撃ち方はじめ!」
バーミンガムはいきなり6インチ砲を斉射した。それのみならず、5インチ砲の動員して撃ちまくる。
砲戦開始2分で、バーミンガムは9センチ砲弾3発を受けたものの、敵艦に6インチ砲弾7発と5インチ砲弾10発を撃ち込み、完膚なきまでにたたきのめした。
「ブルックリン隊が当海域に到着しました!」
CICから喜びの混じった声が響く。10キロ離れた海上から盛んに発射の閃光がきらめいている。
この時、ブルックリンは最初から15門の6インチ砲を一斉撃ち方で射撃し、
5インチ砲も動員して敵中型戦列艦の1番艦を叩きまくっていた。
敵1番艦も負けじと、17センチ砲を撃ち返してくる。
敵艦が第3斉射目でブルックリンに2弾命中させたが、その間に、1番艦は12発の6インチ、5インチ砲弾を受けていた。
2番艦も傘にかかってブルックリンを撃つ。
後続の6隻の駆逐艦は別の小型戦列艦を戦列から引きずり出して、至近距離で殴り合っている。
しかし、個艦性能の差は技量だけで埋めるのはとても難しい。
1隻、また1隻と小型戦列艦は5インチ砲の猛射の前に力尽き、沈んでいく。
ブルックリンと中型戦列艦2隻の撃ちあいが始まってから4分足らずで魔法防御を打ち破られる。
「敵巡洋艦の魔法防御を粉砕!敵艦の後部に火災発生!」
「ようし、このまま一気に畳み掛けるぞ!」
コール大佐は弾んだ声で言う。
それからブルックリンは8秒おきに6インチ砲弾を、6〜7秒おきに5インチ砲弾を撃ちまくった。
当然ブルックリンにも敵弾が集中する。
だが、手数はブルックリンが多い。そして、敵をノックダウンさせるのもブルックリンが先だった。
魔法防御を叩き割られてから8分後、敵1番艦は6インチ砲弾28発、5インチ砲弾37発を叩き込まれて大破炎上、
戦列から離れていった。  


415  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:28:20  [  D4VsWfLE  ]
艦橋は跡形も無く吹き飛び、オルコイヅ大将は艦橋職員や幕僚と共にあの世に送られてしまった。
そして2番艦との戦闘に移る。
2番艦にも6インチ砲の一斉射撃で応戦する。
ブルックリンが第4斉射を放った時に、後部に強い衝撃が襲った。
この時、2番艦の17センチ砲弾2発が、後部の第5砲塔を叩き、砲塔を粉砕してしまった。
ブルックリンと敵2番艦の撃ちあいは1番艦の時より壮絶であった。
ブルックリンの10斉射目で魔法防御が叩き割られると、その次には前部の第3砲塔が被弾して使用不能になる。
そして12斉射目で敵の後部砲塔を打ちのめし、2基とも使用不能にした後、
今度は敵の砲弾が後部の第4砲塔をたたきのめして砲火を減少させる。
まさに殴り合いの様相を見せた。だが、ブルックリンは残りの6インチ砲6門と
、左舷に残っている5インチ単装砲2門を乱射して、敵2番艦との殴り合いに勝利した。
ブルックリンは敵2番艦から17センチ砲弾16発を受けたが、逆に6インチ砲弾30発、
5インチ砲弾22発を叩き込み、最終的には前部弾火薬庫を誘爆させて撃沈した。

12ノットの速力で、逃げるように東に向かうエンタープライズの左後方から、2隻の艦影が現れた。
エンタープライズに現れたその艦影は、距離8000で砲を撃ってきた。
「敵艦だ!」
艦長のガードナー大佐は驚いたような表情を浮かべた。
敵艦隊は、西の洋上で味方艦隊と戦っているはずだった。
現に西の洋上では盛んに砲火が交わされている。
なのに、敵は突破して来たのである。
砲弾はエンタープライズを飛び越えて右舷側の海面に落下した。
敵が第2射、第3射撃ってくるが、全てが外れ弾になる。
「下手糞ですなあ。こんな巨体に当てる事すら出来ないとは。」
「馬鹿野郎、下手糞で充分だ。」
敵艦の粗末な射撃をあざ笑う副長を、ガードナー艦長が叱責する。  


416  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:31:52  [  D4VsWfLE  ]
「こっちは手負いなんだ。いつ滅多打ちに撃たれてもおかしくない。だから敵さんには下手糞じゃないと困る。」
そういった直後、飛行甲板の後部に1つの閃光がきらめいた。青白い光が混じった閃光は一瞬で消え、白煙が覆う。
「くそ、当り始めたぞ。左舷で後部高角砲が使えたな。そいつで敵を迎え撃つんだ。」
彼の命令はすぐに伝わり、1分後に5インチ砲が敵艦に向けて砲弾を放つ。
しかし、敵はこれに刺激されたかのように、ますます精度を上げて、9センチ砲を撃ってくる。
敵艦2隻はエンタープライズの左右に回ろうとしている。
「そうはさせん!面舵一杯!」
「面舵一杯、アイサー!」
操舵員が必死の形相で舵を回す。だが、海水を飲み込んだエンタープライズの回頭は恐ろしくのろい。
その間にも、飛行甲板や舷側に命中弾が増えていく。
ついに、応戦していた左舷高角砲座が叩き潰された。
「左舷後部に浸水!」
「後部付近に火災発生!現在消火作業中!」
艦橋に次々と報告が入ってくる。どれもこれも、悲痛な叫びが混じっている。
(ビッグEが・・・・・歴戦のエンタープライズが、異世界の小型艦になぶりものにされるとは!)
ガードナー艦長はエンタープライズが沈む時は、敵航空機の爆弾や魚雷を受けて沈むと思っていた。
その覚悟もしていた。
だが、現実には、敵小型艦の小さな砲でちまちまと、一寸刻みに破壊されつつある。
彼はやりきれない怒りで一杯になった。
しかし、エンタープライズに居ついていた幸運の女神は、この時もビッグEに味方した。
突如、右舷側に付こうとしていた敵艦の近くに、6本の水柱が立ち上がった。
その敵艦は泡を食ったような動きで急に回頭を始め、別の方角に向かっていく。
その方角から、またもや閃光が走る。左舷側の敵艦も、エンタープライズから離れていき、
やがて2隻は向こうで砲火を放つ艦、バーミンガムのほうに向かっていった。  


417  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:33:07  [  D4VsWfLE  ]
「敵艦2隻、我が艦に向かってきます!」
見張りの声が聞こえ、クリル大佐は頷く。
「敵艦との距離、8マイル!」
「よし、取り舵一杯!」
バーミンガムが軽快な動作でたちまち回頭を始める。敵艦が先に撃って来た。
水柱が、バーミンガムの右舷2000メートルに立ち上がる。
「敵さん、慌ててやがるな。」
クリル艦長は嘲笑を浮かべる。右舷の5インチ砲から星弾が発射され、上空に明かりが灯る。
敵艦の小柄なシルエットがぼんやりと浮かび上がる。
「右砲戦!距離7マイル!」
12門の6インチ砲が生き物のように動き、敵艦に照準を定める。
「エンタープライズ、火災発生の模様。」
遠くにエンタープライズのぼんやりとした艦影が見える。うっすらとだが、火災を起こしているのが見える。
(俺たちのビッグEをよくも傷つけてくれたな。その倍返しを、今、お前達に叩きつけてやる!)
クリル艦長は目をかっと見開いた。
「撃ち方はじめえ!」
一旦中断されていた砲撃が、再び開始された。
12門の6インチ砲が一斉に咆哮し、ドドドーン!という先の交互撃ち方とは比べもにならない衝撃が、艦を通じて体を伝う。
敵艦の前方に12本の水柱が立ち上がる。敵小型艦はそれを振り払うように突進を続け、前部2門の9センチ砲を撃ち返す。
バーミンガムの右舷側800メートル付近に水柱が立ち上がる。
新たにバーミンガムが斉射を放ち、舷側を真っ赤に染める。
曳光弾がすうっと敵のほうに伸びていき、それが落ちた、と思った瞬間に水柱が立ち上がる。
「敵1番艦を夾叉!」
CICから弾んだ声が、スピーカー越しに聞こえる。
さらに第3斉射が放たれる。その直後に、バーミンガムにガツン!という衝撃が伝わる。
「敵弾、右舷中央部に命中!20ミリ機銃座損傷!」
「ふむ、まだ軽微の範囲だ」  


418  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:34:02  [  D4VsWfLE  ]
送られてくる被害報告を聞いて、クリル艦長はそう判断する。
6インチ砲弾は、1発が敵1番艦の前部に命中した。砲弾は1番砲を叩き潰して、少ない敵の砲戦力を削ぎ取った。
敵艦2隻はこのままでは不利と判断したのだろう、すぐに回頭してバーミンガムと同航する形となった。
敵艦からの砲火が一気に2倍に増える。
ガガン!と2発命中する衝撃が、バーミンガムを揺さぶる。だが、それだけではバーミンガムを倒す事は難しい。
バーミンガムは対抗面積が大きくなった敵艦に対して、容赦ない射撃を浴びせる。
敵1番艦が新たに3発の砲弾を叩き込まれる。
大きいとはいえない敵小型艦から、猛烈な黒煙が吹き上がる。
それは後方にたなびき、2番艦の姿を覆い隠そうとする。
1番艦が残り1門だけとなった9センチ砲を撃つ。
しかし、照準が滅茶苦茶に狂ったのか、あらぬ方向に飛んでいく。
バーミンガムがその1番艦に第5斉射、第6斉射と遠慮なしに砲弾を撃ち込む。
この2斉射だけで6発の砲弾が叩き込まれ、敵1番艦はガクッとスピードを落とした。
それに怖気付いた様子も無く、2番艦が4門の9センチ砲を乱射する。
「目標変更、敵2番艦!」
バーミンガムの砲がしばらく鳴り止む。
その時、ガン!という今までよりかなり近い位置で衝撃が走った。
思わず艦橋職員の誰もがよろめいた。その直後、
「レーダー使用不能!」
CICから悲鳴じみた声が届く。この時、敵2番艦の9センチ砲弾は2発が命中していた。
1発が右舷の艦橋横の第1甲板に、そして2発目が艦橋のすぐ後ろのマストを真ん中から叩き折っていた。
そして破片がレーダーを傷つけてしまっており、射撃用レーダーでは射撃管制ができなくなった。
「光学照準切り替えろ!星弾を撃て!」
右舷の5インチ両用砲から星弾が撃たれる。
ぱあっと青白い輝きが海上にきらめき、敵艦のシルエットが浮かび上がる。  


419  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:35:38  [  D4VsWfLE  ]
「射撃準備よし!」
「撃て!」
再び、バーミンガムの砲撃が始まる。最初は目標を飛び越したり、目標の手前に弾着を繰り返していたが、
第7斉射で命中弾を得た。
そして第15斉射で敵艦に8発目を叩き込んだ時、突如大爆発を起こし、真っ二つに轟沈してしまった。
その壮絶な最後に、誰もが息を呑んだ。
敵艦は中央部から綺麗に切断されて、艦首と艦尾を逆立てて、急速に沈みつつある。
クリル大佐は、その壮絶の最後を遂げた小型戦列艦に、いつしか敬礼を送っていた。
(最後まで諦めない気持ち・・・・・・その精神は感服に値する。敵ながら見事な戦いぶりだった)
最後までバーミンガムに食らいつき、手傷を負わせ続けた小型戦列艦を、クリル艦長は感慨深げな表情で眺めながら、
そう思っていた。

9月31日、2つの異なる海域での戦闘は、終わりを告げた。
この2つの海戦は、それぞれブリュンス岬沖海戦、クリオメール島沖海戦と呼ばれ、アメリカ軍と継戦派の最後の艦隊決戦となった。
ブリュンス岬沖海戦では、米側は駆逐艦ハルフォード沈没、戦艦アラバマ、ニューオーリンズ、デューイ大破
戦艦アイオワ、ボストン、クリーブランド、ルイス・ハンコック中破。
戦艦ニュージャージー、インディアナ、重巡洋艦ボルチモア、サンタフェ、駆逐艦3隻小破の損害を受けたが、
重武装戦列艦5隻、中型戦列艦4隻、小型戦列艦10隻を撃沈。
残りを全て大破した。
クリオメール島沖海戦でも、空母エンタープライズが敵弾37発を受けたが、大事には至らず、
航行速度は8ノットに低下したものの、自力航行が可能。
軽巡洋艦ブルックリン、駆逐艦コンウェイが大破し、軽巡バーミンガムと駆逐艦2隻が中破し、駆逐艦1隻が小破。
逆にエンタープライズを狙った中型戦列艦2隻、小型戦列艦10隻全てが全滅するという被害を受けた。
こうして、継戦派最後の望みも完全に粉砕されたのである。  


420  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  15:36:15  [  D4VsWfLE  ]
31日の午前4時に、機動部隊は再び前進を開始。
午前7時までには、マリアナ沖北東350マイル付近に到達すると見込まれている。
次なる目標は、魔法都市、マリアナ。



最後の戦いが、ようやく始まろうとしていた。  


436  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:25:49  [  D4VsWfLE  ]
9月31日  午前7時  魔法都市マリアナ
エリラ・バーマントは、午前6時40分頃に突然来訪した、アリフェル・グールに叩き起こされた。
(実際はグール魔道師が、エリラの部下に頼んで起こさせてもらった。)
グールの話によると、エンシェントドラゴンの召還魔法が夕方までには終わり、
その後はエンシェントドラゴンを呼び出すことが出来ると言っている。
エリラはこの話を聞くと狂喜した。
彼女は9月29日に、グールにもっと召還魔法の期日を短く出来ないかと催促している。
「エリラ様、それは少々難しいかと思われます。
最も、ある程度の無駄を省けば、できぬ事もありませぬが・・・・・・」
「ならその無駄をなんとかしなさい。あなたは魔道院の最高責任者でしょう?」
「・・・・・そこまでいうのならば、手は尽くしてみましょう。
ただし、期日を短く出来ぬ可能性のほうが高いので、期待はせぬように」
グールは渋々といった表情で引き受けた。
その事から、エリラは大して期待していなかった。
むしろ、少し指図を入れすぎたかも、と、自分の言った事にやや後悔していた。
だが、その難しいと言われた期日の短縮を、グールはやってのけたのである。
その功労者であるグールは、高齢にもかかわらず全く疲れを見せていない。
「よくやったわね。あなたは最高の魔道師よ。」
「お褒めの言葉、有難く頂戴いたします。」
グールはうやうやしく頭を下げた。その後、エリラは早々と支度をし、大魔道院へと向かった。  


437  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:28:03  [  D4VsWfLE  ]
大魔道院の中は、むわっとする熱気と、血生臭い匂いが充満していた。
エリラとグールは、3階の内側通路へと上がり、魔法陣を眺め渡せる位置まで歩いた。
「すごい・・・・・・」
魔法陣は、数日前までは何の変哲も無い、ただ黒い文字が描かれていたにすぎなかった。
だが、今では、その字は血の色のように赤くなっている。
その魔法陣の外縁には、相変わらず魔道師が陣を取り囲むように配置され、呪文を延々と唱えている。
誰にも聞かれないような声で・・・・・・・
「呪文の一部に、召喚魔法の促進をやや妨げる部分がありました。
それを取り除くのは難しいと思われておりましたが、その部分の呪文をもう一度組みなおす事で
それを取り除き、取り除いた部分には別の新しいものを組み込んで構成しました。」
グールが淡々とした口調で説明する。
「内容的には旧文と変わりはありません。
しかし、召喚魔法をより促進する部分を入れましたので、儀式の手間はこのように短縮できました。」
説明を終えると、エリラは魔法陣を眺めながら口を開く。
「素晴らしいわ。もし、エンシェントドラゴンで敵を焼き払い、新しい国が出来たら、
あなたを魔道師専門の重役に、それも今までより権力の強い役に任命するわ。」
エリラは喜びに満ちていた。
だが、3時間前の午前4時頃のエリラは、今とは全く違う表情を出していた。

「第6艦隊が、全滅・・・・・・・全・・・・滅?」
連絡役の魔道将校から報告を受け取ったエリラは、内心のたうちまわりたい気分になった。
第6艦隊は5隻の重武装戦列艦、6隻の中型戦列艦、14隻の小型戦列艦で編成され、
新鋭艦も多い事からかなり戦力が高く、米艦隊を足止めできると期待されていた。
だが、海戦を見守っていた数匹の海竜報告では、重武装戦列艦は全て沈没。
他も全て沈むか、大破、航行不能に陥り、帰投しようとする艦は全くいなかった。
足止めするどころか、玉砕してしまったのである。  


438  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:30:07  [  D4VsWfLE  ]
さらに、どこぞに消えていた第5艦隊がクリオメール島付近に現れ、
損傷した大型空母を撃沈しようとしたが、逆に全滅したとの報告が届いた。
わずか1日半の間に、航空部隊は壊滅し、艦隊はほぼ全てが海の藻屑と消えたのだ。
それに対し、敵に与えた戦果は空母1隻撃沈、2隻大破、1隻中破、重武装戦列艦2隻大破、
中型戦列艦3隻撃沈3隻大破、小型艦5隻撃沈、6隻大破。
航空機撃墜70機のみ!
そして問題の敵機動部隊は健在で、昨日以降全く所在がつかめていない。
いいところがほとんど無いのである。
敵を阻止するどころか、逆に殆どの味方戦力を食われ尽くされてしまったのである。まるで飢えた猛獣の如く。
怒りの余り、エリラは鏡を殴って、粉々に割ってしまった。
拳から来る痛みで、なんとか暴れだしそうな気持ちを抑え、彼女は残り少ない希望にかけようと思い、
ベッドに潜り込んだ。
しかし、今ではどうか。
彼女の最後の望みは、すぐに実現できる領域まで迫ってきている。
そう。敵を一掃出来うる、最後の手段が。
「しかし、まだ問題は残っている。」
エリラは忌々しげな表情で言う。
「夕方まであと11時間。それまでに、アメリカ機動部隊が襲い掛かってくる可能性が高いわ。
この大魔道院周辺に張り巡らされた対空砲火も、魔法防御も、反復攻撃を加えてくる敵飛空挺の爆撃を抑えられるかどうか。」
魔法防御、この魔道院では、防御結界が、天井のガラス部分に張り巡らされており、飛空挺の爆弾を何百発浴びても大丈夫と言われている。
だが、その強度は信用できない。
軍艦に張り巡らされた魔法防御も、砲弾100発まで耐えられると太鼓判を押しておきながら、
異世界軍の重武装戦列艦の砲弾の前には全く歯が立たなかった。
「私も心配しております。しかし」  


439  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:31:14  [  D4VsWfLE  ]
グールが、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
その笑みは、まるで生ける屍が笑うようでぞっとした。
「対策は講じておりますゆえ。」
グールは、先ほどから持っていた包みを開けた。
中には、アメリカで例えるならば野球ボールをふた回りほど大きくしたような、赤く、透明な球体が入っていた。
それを持ったグールは、2人の部下を連れて、2階に降り始めた。エリラも後についていく。
やがて、白く聳え立った巨大な壁の前に来た。壁には、竜の上に乗った人が描かれた、壁画がある。
その真ん中に、くぼみがある。
「これ、その水晶玉を、ゆっくりと入れなさい。」
黒いフードで顔を隠した部下が頷き、グールから水晶玉を渡されると、2人でゆっくりと運び、くぼみに差し込む。
ゴトッ、という音が鳴ると、赤い水晶玉はくぼみにぴったりと入った。
部下が落ちないようにそっ、と手を離す。
差し込まれた水晶玉は落ちることなく、くぼみに取り付いていた。
すると、腹の底に響くような、唸りが聞こえた。
ブゥーンという音が聞こえたが、すぐに鳴り止んだ。  
彼女らはまた3階の元いた場所に戻った。
「あれ?」
エリラはすぐに異変に気が付いた。
「ガラスの天井が・・・・赤くなっている。」
さきほどまで、白い色をしていたガラスの天井が、今では鮮やかな赤色に変わっている。
まるで人の鮮血のような色である。
「この、魔道院にかかっている結界の防御力をあげました。これなら、幾ばくかの空襲にも耐えられましょう。」
そう言って、グールはヒッヒッヒと薄気味悪い笑い声を上げた。
「これで、時間稼ぎが出来るわね。さすがは魔法都市だわ。何でも揃っているのね。」
その時、後ろから魔道将校が、慌てた表情で紙を持ってきた。
「どうしたの?」
彼女は心当たりがあったが、何気なく聞いてみる。
「第12海竜情報収集隊より緊急の魔法通信です!」
その魔道将校は、上ずった口調で言った。
「ラグナ岬北東、380キロの地点において、敵大編隊を見ゆ!」  


440  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:32:32  [  D4VsWfLE  ]
9月31日  午前6時30分  ラグナ岬沖  北東260マイル地点
朝日が、東からゆっくりと昇りつつある。
真っ暗だった闇は、その神秘的な色に彩られつつ、新しい1日を迎え入れようとしている。
その上がりつつある夕日を遮って行くものがある。
平らな甲板に、中央部に纏まった艦橋。
その前後を、合計4基の砲が仰角を高めに上げ、上空を睨む。
その巨大な物体、第58任務部隊の旗艦である、正規空母レキシントンは、
寮艦と共に南南西の方角に向かいつつあった。
レキシントンの右舷には軽空母のプリンストンが随伴している。
その2隻の空母の周囲を、エスコート艦が取り巻き、迫り来るかもしれない外敵に備えている。
レキシントンの飛行甲板には、次々と艦載機が上げられている。
エレベーターから翼の折りたたまれたアベンジャーが上げられる。
エレベーターが上がりきると、そのアベンジャーを甲板要員が待機位置に押して行く。
艦橋には、第58任務部隊司令官、マーク・ミッチャー中将と、参謀長のアーレイ・バーク大佐などの
幕僚が、神妙な顔つきで、その準備を見守っている。
「リリア君、どうだね?」
ミッチャー中将は後ろを振り返って言う。
「ええ、相変わらず、マリアナの方向から禍々しい力が発せられています。
恐らく、最終的な準備段階に入っているでしょう。」
彼女は緊張したような表情で、そう答える。
先ほどのミーティングのさい、リリアは、マリアナ方面から強い魔力を感じると、幕僚達に話した。
その魔力は、今までに感じたことの無い、禍々しく、そして強いものだった。
旗艦のワシントンに乗っているレイムは、リリアよりも明確に魔力、もとい、邪気のようなものを感じ取っていた。  


441  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:34:26  [  D4VsWfLE  ]
レイムは、もはや準備が最終段階に入った事をスプルーアンス達に知らせた。
第5艦隊の面々は驚きを隠せなかった。
しかし、手は無いわけではない。
機動部隊には、艦載機と言う牙が残っている。
昨日の航空戦で、第58任務部隊は正規空母ランドルフを失い、エンタープライズを大破され、
ヨークタウンが中破、ホーネットと軽空母カウペンスを傷付けられている。
しかし、損傷空母で戦線離脱を余儀なくされた空母はエンタープライズのみで、残りは母艦昨日が健在である。
機動部隊の艦載機は、撃沈されたランドルフや、大破されたエンタープライズからの避難機も含めて957機残っている。
これは修理中の機を含めたもので、実際に使えるのは921機である。
内訳はF6Fが445機、SB2Cが205機、SBDが18機、TBFが253機である。
これを数波の攻撃隊に分け、魔法都市マリアナの攻撃に差し向ける。
今回はF6Fも500ポンド爆弾1発を抱いて出撃する事になっている。
本来、地上爆撃は艦爆や艦功の仕事だが、F6F自身も爆弾を搭載できるため、今回、戦闘爆撃機として爆撃に参加するのである。
爆弾は通常爆弾と、サイフェルバンの精油所の油を原材料としたナパーム弾使い、敵の対空陣地や魔法施設を爆撃する事になっている。
現在、空母レキシントンの甲板上には、16機のF6F、20機のヘルダイバー、18機のアベンジャーが並べられ、出撃の準備を待っている。
搭乗員待機所で椅子に座っていた、第1次攻撃隊のパイロット達はそれぞれが雑談を交わしていた。
「おい、どうやら継戦派の連中、問題の化け物召喚の最終準備に入ったらしいぞ。」
「奴ら、俺達の艦隊が、航空部隊と水上部隊を叩きのめしたんで、慌てて最終準備に入ったんだろう。」
「畜生、この攻撃が失敗したら、俺たちはエンシェントドラゴンとやらにローストビーフにされちまうぜ!」
「なあに、敵さんは慌てて最終準備に入ったんだろ?慌てて仕事をやるのは失敗の元さ。
色々、物事をはしょってやってるかもしれんぞ。」
「ありえるな。その手抜きが原因で、敵さんのほうが黒コゲになったりしねえかな。」
「おいおい、せっかく装備も詰まれたんだぜ?せめて俺達が爆弾を落としてから黒コゲになってもらいたいんだ。」
「そうだな。でも、現場に付いたとたん、敵のほうがローストビーフになってたらヤバイぜ?」
「魔法使いのバーベキューか。こりゃ傑作だな!」
「ハッハッハッ!言えてるな!」  


442  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:36:15  [  D4VsWfLE  ]
それぞれの笑いや、会話で室内がざわめきかけた時、飛行長のスノードン中佐が待機所に入ってきた。
「気をーつけぇ!」
誰かの声が聞こえ、全員が席を立ち、直立不動の態勢を取る。
「休んでよろしい。」
スノードン中佐はそう言って、椅子に座らせる。
「諸君!いよいよ、この世界、最後の航空戦を開始するときが来た。オブザーバーの魔法使いの話に
よると、マリアナ方面で行われている、召喚儀式は最終段階に入ったようだ。魔法使いの分析の結果、
儀式終了は、本日の夕方、もしくは日没となっている。」
レイムらの分析結果は、既にレキシントンの第58任務部隊司令部にも届けられ、そこから各母艦に送られている。
「もし、敵エンシェントドラゴンが召喚されれば、世界は灼熱の炎に包まれるであろう。そして、我々も、死ぬ。」
スノードン中佐は一旦言葉を切って、パイロットの反応を見る。
やはり彼らの衝撃は大きいようだ。
動揺を見せている兵が何人もいる。
だが、動揺はしても、誰も声を上げない。皆が、スノードン中佐を見つめている。
「しかし、手は無いと言う事ではない。我々には、機動部隊があり、艦載機があり、そしてそれを操る君達がいる。
君達はこの世界、いや、現世界でもよくやってくれた。君達はもはや、立派なベテランパイロットである。
お前達の腕を持ってすれば、この最後の強敵を討ち果たすことが出来るだろう。攻撃目標は、第1に敵大魔道院。
第2に対空陣地だ。恐らく、濃密な対空砲火を以って出迎えるだろう。だが、安心しろ!グラマン鉄工所の機体は、
敵のへなちょこ弾なぞ、受け付けん!」
「中佐。」
1人のパイロットが手をあげる。
「なんだ?」
「ヘルダイバーは?あのろくでなし野郎はどうです?」
「なあに、今回は一流の上等艦爆と誉めてやれ。そしたら防御力も上がるさ。」  


443  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:37:28  [  D4VsWfLE  ]
そのジョークに、皆がハッハッハと、笑い声を上げた。
「さて、母艦は現在、ここマリアナから北東260マイルの地点にいる。
機動部隊は255マイル地点で攻撃隊を発進させ、発進後は170マイル地点まで南下する。
発進予定は午前7時だ。今から時計を合わせる・・・・午前6時43分になったら合わせるぞ。」
時計の針は、現在41分20秒を指している。皆が時計をいじくり、調節を行う。
「20秒前・・・・・・・・・15秒前・・・・・・・5秒前、4、3、2、1、ロック!」
皆の時計が43分に合わされた。
「よし、これでブリーフィングを終わるが、最後に1つだけ言おう。」
スノードン中佐が、咳払いをして、声の調子を合わす。
「貴様達が運んでいく爆弾で、最狂技を使おうとする、陰気くさい野郎共の
腐った根性を綺麗さっぱり吹っ飛ばして来い!以上だ!」
彼の言葉に、誰もがニヤリと笑みを浮かべる。
スノードン中佐は、幾分すっきりしたような表情を浮かべ、待機所から出て行った。

艦橋の下部のハッチから、飛行服を身につけた搭乗員が、飛行甲板に飛び出して、それぞれの機に乗り移っていく。
1機のヘルキャットがエンジンを始動させ、3枚羽根のプロペラが回り始めた。
それが合図だったかのように、1機、また1機とエンジンがかけられ、次々とプロペラが回っていく。
気がつく頃には、60機の艦載機が、轟々とエンジン音を轟かせていた。
「参謀長、各艦に通信。準備出来次第発艦せよ!」
「アイアイサー。」
ミッチャー中将は、隣のバーク大佐にそう伝える。
バーク大佐は後ろで待機している通信士官にその命令を伝えた。
「面舵一杯!」
「面舵一杯、アイ・サー!」
艦長のリッチ大佐が凛とした声で指令を下し、操舵員がそれに従って舵を回す。
レキシントンのみならず、艦隊全体が一旦北西に転舵する。
やがて、レキシントンの艦首が風上に向かい合った。
「舵戻せ!速力28ノット!」  


444  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:38:24  [  D4VsWfLE  ]
回頭をやめたレキシントンは、今度は増速し、艦載機発艦に適した合成速力を作り出す。
艦首が波に乗り上げ、ドーンという音と共に艦首が下がる。
少々波がある。だが、発艦には支障は無いようだ。
「発艦準備完了!」
「よし。」
リッチ大佐は頷くと、目をかっと見開き、待望の命令を発した。
「発艦始めぇ!」
彼の命令が甲板要員に伝わる。
それを確認した兵が頷き、フラッグを振った。
先頭のヘルキャットがそれを確認し、スピードを緩め、出力を上げた。
スピードがついたヘルキャットは、ぐんぐん速度を上げ、
甲板要員や手空き乗員の声援に見送られながら飛行甲板を蹴った。
ずんぐりとした機体が、飛行甲板から舞い上がり、優雅に飛び立っていった。
すかさず次のF6Fが飛び上がっていく。これもさきのF6Fと同じように発艦していった。
右舷のプリンストンからも艦載機が発艦し、ヘルキャットと思わしき機体が大空に舞い上がっていく。
レキシントンの艦橋から発艦風景を見守っていたリリアは、この光景が聖なる儀式のように思えた。

午前7時10分、レキシントンから発艦した60機の艦載機は、プリンストンから発艦した
F6F12機、TBF8機と合同した編隊を作り、爆音を轟かせながら南南西に向かっていった。
だが、レキシントンの仕事はまだ始まったばかりである。
「第2次攻撃隊、発艦準備急げ!」
リッチ大佐は、攻撃隊発艦の勇壮な風景の余韻に浸る暇も無く、次の命令を早々と発した。  


445  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:39:47  [  D4VsWfLE  ]
午前8時10分  魔法都市マリアナ  
大魔道院の内部は、相変わらず不気味な雰囲気に覆われている。
しかし、それに加えて、ある種の緊張感が漂い始めた。
それは、エンシェントドラゴン召喚儀式の最終段階に入った事、そしてもうひとつ。
海から来る脅威、である。
エリラのもとに、魔道将校がやってきた。
「監視艇より魔法通信。敵機動部隊から発進したと思われる戦爆連合編隊を見ゆ。位置はラグナ岬北東60キロ。」
「ご苦労。」
それを聞いていたエリラは頷いた。
これまでに、2つの報告を受け取っている。
2つの報告はいずれも海竜情報収集隊からのもので、1つは敵編隊発見せりの報告。
もう1つは敵空母部隊発見せりの報告である。
報告によれば、敵空母12隻を含む大艦隊を、ラグナ岬沖420キロの海域で発見したとある。
そして今さっき、3つめの敵の情報が入ってきた。
(敵飛空挺部隊は着々と向かいつつある)
エリラはそう思った。
「でも、ただで爆弾を落とせると思ったら、大間違いよ。異世界の飛空挺乗りさん。」
彼女は卑屈そうな笑いを浮かべた。
「あなた達は、私達の歓迎委員会のおもてなしを受ける事になるわ。
そのおもてなし、たっぷりと受け取りなさいね。」
マリアナの大魔道院の周囲には、この時に備えて多数の対空機銃や、対空砲を設置してある。
対空砲は合計で93門、対空機銃は500丁以上が、ハリネズミのように配備されている。
それらは、魔道院の外壁の部分と、その周囲の建物に配備されており、互いの射線がカバーできるように工夫されている。
本当ならば、1000丁の機銃と、200門の対空砲で、一大対空要塞を作ろうと思っていたが、米機動部隊は待ってはくれず、
中途半端な準備のまま、迎え撃つ事となった。
機銃の口径は、最近開発されたばかりの18.5ミリ連装機銃も含めた3種類あり、それらが一斉に射撃を始めれば、
米艦載機をバタバタ撃ち落とせると、エリラは思っていた。  


446  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:41:05  [  D4VsWfLE  ]
午前8時30分  魔法都市マリアナ
「敵戦爆連合300機、マリアナ方面に向かう。」
ここから北北東51キロのところにあるラグナ岬の監視塔からそのような報告文が届けられた。
大魔道院周辺を守るのは、第67対空旅団の将兵である。
旅団の第1連隊第3大隊第2中隊に属するレイックル騎士曹長は、
大魔道院から北200メートルに離れた、とある2階建ての木造建造物の屋上に設置された、
18.5ミリ連装機銃の射手を任されていた。
「そろそろ敵が来るぞ!貴様ら、準備は言いか!?」
レイックル曹長は、12名の部下に声をかけた。
「はい!」
皆の威勢のいい声が返ってくる。
彼が操作する機銃座には、石や砂を詰めた固い袋で防御壁を作っており、胸の高さまである
それは敵飛空挺の機銃弾を防げると言われているが、彼はいまいち信用していない。
どうせたらふく機銃弾を叩き込まれればすぐに叩き壊されるだろう思っている。
午前8時35分。
「来た!飛空挺です!」
北東の晴れた空に、小さな羽虫の群れのようなものが見えてきた。
最初、それらの数は30ちょっとと、少なく見えた。
だが、その30ちょっとの集団が、やがて何個も見えてきた。
いつの間にか、飛空挺が発するエンジン音が聞こえてきた。
だが、いつも聞きなれたエンジン音とはどこか違う。
重々しくも、力強さのある音だ。
それに比べると、味方飛空挺のエンジン音は、軽やかな感じがする。
彼はそう思った。
米編隊が現れて、彼らの近くに飛行してくるまでの時間は、早々と過ぎた。
そして、ついに敵編隊の一部が高度を下げ始めた。
前方の監視小屋が、機銃を撃ち始めた。それに触発されたかのように、大砲も砲撃を行った。  


447  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:42:06  [  D4VsWfLE  ]
幾条のオレンジ色の線が、徐々に向かってくる敵編隊に注がれ、周囲に黒い花が咲く。
「敵機が射程に入りました!」
「よし、射撃開始!」
レイックル曹長は気合を入れるように叫ぶと、機銃の引き金を引いた。
ドンドンドンドン!という、11.2ミリ機銃より幾分重い発射音が響き、体に振動が伝わる。
この18.5ミリ機銃は、射程距離1800メートル。
ベルト給弾式で、80発入りの給弾ベルトを右から入れて弾を発射している。
その2つの銃身から炎が噴き出し、曳光弾が線になって飛んでいく。
敵機はさらに低空に舞い降りると、今度は増速して、機銃を撃っている建物に突進してきた。
1機の敵飛空挺がずんぐりした機体から機銃弾を迸らせ、味方の機銃座を狙い打つ。
味方の機銃座も対抗して射弾を叩き込む。
米機の機銃弾は、その機銃座の射撃要員を射殺した。
米機はそれだけに留まらず、胴体に搭載していた500ポンド爆弾を、機銃座の置かれている建物に叩きつけてきた。
腹から黒い塊が離れ、それが木造の建物にすっぽり突き刺さった、と思った瞬間、ドドーン!という轟音をあげて吹き飛んでしまった。
レイックル曹長の機銃座に1機のF6Fが向かってきた。
グオオオー!という音をがなり立てながら、騎兵突撃のように猛スピードで突進してくる。
レイックル曹長の連装機銃も調子よく、機銃弾を叩き出す。
F6Fの両翼が発射炎に染まり、6条の弾着煙が機銃座の横を通り過ぎる。
惜しくも射弾を外したF6Fは、そのまま600キロの猛スピードで上空を通り過ぎていった。
「また来ます!右方向!」
別のF6Fが、レイックル曹長の機銃座に猛然と突っ込んでくる。
彼はすかさず銃身を向け、引き金を引く。
曳光弾が米機の胴体に注がれる。当たっている、と思ったのにそのF6Fは平気で突っ込んでくる。
機銃弾がわずかに左に逸れているのだ。彼はすぐに修正し、改めて射撃を再開させる。
今度はF6Fも6丁の12.7ミリ機銃を撃ってきた。
ドダダダダダダ!という軽快な射撃音が響く。
弾着が機銃座の右横を縫っていき、銃座の防御壁が破片を飛び散らせる。  


448  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:42:56  [  D4VsWfLE  ]
米機は胴体から爆弾を投下すると、射撃音を響かせながら飛び去っていった。
「爆弾だ、ふせろお!」
レイックルは絶叫すると、射撃をやめてすぐに伏せた。
ドガーン!という爆発音が木霊し、建物がグラグラと揺れる。
頭の上に吹き上げられた土や、木屑、石の破片が落ちてきた。
「敵の野郎、はずしやがったぜ。」
レイックルはニヤリと笑みを浮かべ、すぐに射撃を再開した。
F6Fが投下した爆弾は、惜しくも建物を飛び越えて、すぐ後ろの小屋に命中し、それを木っ端微塵に吹飛ばした。
「更に左方向から1機!」
またもや敵機が襲い掛かってきた。
これまでの銃撃は、なんとか機銃座を縫わなかったが、今度ばかりはそうも行かないかもしれない。
そうならないためには・・・・・敵を落とす事!!
そう思い立ったレイックル曹長は弾が無くなるまで、引き金を引き続ける。
曳光弾が敵機に向けて飛んでいくが、どうした事か、敵は全く応えた様子が無い。
そればかりか、ぐんぐん近づき、しまいには機銃弾を撃ってきた。
「畜生!当たれ!当たらんかぁ!!」
彼はそう喚きたてながら、機銃弾を撃ち続ける。
銃弾が切れたと同時に、米機の主翼から白煙が長々と引いた。
「やったぞ!命中だ!」
部下の1人が歓声を上げる。米機はレイックルの鬼気迫る銃撃に腰を抜かしたのか、機を翻らせて、そのまま避退に移る。
敵機を撃退した喜びもつかの間、更なる敵機が襲い掛かってきた。
今度は2機が前方から襲い掛かってきた。別の対空機銃が射弾を送るが、全く命中しない。
「何機でもかかって来い!みんな俺が叩き落してやる!」
レイックル曹長はそうまくし立てると、たった今給弾の終わった機銃を撃ち始めた。
リズミカルな音と共に、再び18.5ミリ機銃が銃弾を弾き出した。  


449  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:44:13  [  D4VsWfLE  ]
米機も時速600キロの猛スピードで、かれらめがけてまっしぐらに突っ込んでくる。
先頭の機には爆弾はついていない。だが、2番機には胴体に爆弾が抱えられている。
1番機の胴体に曳光弾が突き刺さり、破片が飛び散った。
しかし、被害を受けたはずの1番機も12.7ミリを撃ち返してくる。
レイックルが放った機銃弾に照準を狂わされたのか、6条の弾着が見当違いのほうに流れていく。
そのまま1番機が轟音を立てながら通り過ぎ、2番機が突っ込んでくる。
それにもレイックルは機銃弾を叩きつけた。
機銃弾は、距離800メートルまで迫った2番機の主翼の真ん中あたりに命中した。
すると、いきなり主翼が折れ、2番機はバランスを崩して、レイックルらの前方230メートルに落下した。
バァーン!という爆発音が鳴り響き、爆炎と破片が吹き上がった。
「白星の悪魔を1匹やっつけたぞ!」
この日の初戦果に、一瞬だが、誰もが手を挙げて喜んだ。
辺りは激戦が繰り広げられていた。
先行し、低空で突っかかってきたF6Fは、600キロの猛スピードですぐに敵の機銃座を飛びぬける。
その飛び抜けた後には、血まみれになって息絶える継戦派の兵士か、
難をのがれ、相変わらずF6Fに向けて機銃弾を撃ちまくる兵士の姿がある。
現状では、前者のほうが後者を上回っている。
そして、たとえ後者のほうであっても、すぐに向かってきた別のF6Fとの戦いに入り、生きるか死ぬか、分からぬ戦を繰り広げる。
中には機銃弾を撃たずに、持っている爆弾から叩きつけるF6Fもいる。
500ポンド爆弾の直撃を受けた機銃座は、何もかも全てが吹き飛ばされ、そこには何かの残骸が散らばる。
継戦派側も犠牲を出しながらも戦果を出していた。
敵の機銃座を掃射で潰したと、気を緩めた1機のF6Fが、横合いから別の機銃に狙い撃たれ、たちまち散華してしまう。
かと思えば、不運な一弾が、投下しようとしていた爆弾を直撃し、木っ端微塵に吹き飛んでしまう光景も見られた。
米艦載機と、継戦側の死闘は熾烈を極めた。  


450  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:45:22  [  D4VsWfLE  ]
そして、敵戦闘機の襲撃が一段楽したと思いきや、今度は高空から艦爆が襲い掛かってきた。
「前方上方より敵が急降下!」
それはヘルダイバー隊だった。
高度4000の位置から、高射砲の弾幕の中を突き進んできたヘルダイバーは、ついにその牙を剥いたのである。
1機が鮮やかに翼を翻し、機首を下に向けながら降下を始める。
それに続くかのように、1機、また1機と、次々とつるべ落としのように急降下に入っていく。
ヘルダイバーの目標は、レイックルらには向いておらず、大魔道院周辺の施設。
高さ4階建ての石造りの施設(小さな砦のようなもの)が並ぶ付近を狙っている。
それは20個あり、それぞれに機関銃や高射砲が2〜3ほど配備され、米艦載機を撃ちまくっている。
この施設は、元々最後の砦として作られたものであるが、今回はこの多数残存する砦を対空陣地として活用している。
本来は20個全てに対空兵器を備え付けるはずであったが、
米機動部隊の急な進撃に準備が間に合わず、18個の施設にしか配備されてない。
ヘルダイバーが、不気味なおめき声を上げながら、砦に向かって突っ込んでいく。
その黒い機体に狙いを定め、砦の援護射撃を行う。
同じ事を考えているのが他にもいるのだろう、複数の外周側の対空陣地からも曳光弾が飛んでいく。
ヘルダイバーの前方に高射砲が炸裂し、黒い花が咲く。
それを突っ切って、依然として急降下を続行する。
2番機が大量の機銃弾を浴びせられ、いきなり空中分解を起こした。
だが、そんな事はどうでも良いとばかりに、残りの敵は降下を続ける。
高度が900になった時、1番機の胴体から爆弾が落とされた。
1番機がエンジンを咆哮させて、機体を引き上げようとする。
味方の対空砲がそれを狙って撃ちまくるが、全く当たらない。
爆弾は砦の左側30メートルの位置に着弾し、大量の土砂を噴き上げた。
3番機も爆弾を投下し、避退に移る。  


451  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:46:50  [  D4VsWfLE  ]
その3番機が味方の機銃弾の集中射撃を受けた、と思った時には左主翼をたたき折れられた。
3番機は錐もみ状態になって墜落してしまった。
砦のすぐ前方に閃光が走ったかとおもうと、爆炎まじりの爆発が吹き上がる。
ドーン!という轟音と共に砦の石屑や、地面の土砂が吹き上がる。
砦の屋上で対空砲を撃っていた兵士達はなんとか無事だったが、全員が土砂を頭からかぶり、土色一色に染まった。
4番機の爆弾が新たに砦のすぐ後ろに着弾し、さらなる土砂を対空砲の要員に浴びせる。
レイックル曹長の機銃の弾が切れた。
「おい、弾切れだ。給弾を頼む!」
彼は給弾係りに言って急いで弾を補充させる。その時、砦の屋上にピカッと閃光が走った。
5番機の爆弾がクリーンヒットしたのである。
黒煙が砦から吹き上がる。その直後に、砦自身が猛烈に光を発した。
ドガアーン!という大音響が周りを木霊し、4階建ての砦が吹き飛んで崩落してしまった。
5番機の爆弾は、砦の屋上に突き刺さると、屋上を貫通して4階部分で炸裂した。
この砦には3門の高射砲が据え付けられていた。
爆弾炸裂の火災は、その予備弾薬にまで回り、多量の高射砲弾が瞬時に大爆発を起こしたのである。
つまり、敵を葬り去るはずの弾が、要員達自身を葬り去る、皮肉な結果となったのである。
急降下しつつあった残りの7機は、そのまま他の目標を見つけると、バラバラに向かっていった。
その中にはレイックル曹長に向かった1機のヘルダイバーもいた。
「敵機急降下!」
甲高い轟音が、みるみるうちに増大していく。
最初は粒ほどだった機影が、いつの間にか大きくなっている。
弾の補充を終えた18.5ミリ連装機銃が再び唸りだす。慌てて発射したので、機銃弾はヘルダイバーを逸れている。
それを修正しつつ、さらなる射弾を送り込む。曳光弾はヘルダイバーに注がれ、何発かが胴体に命中して破片を飛び散らせる。
だが、よほど頑丈に出来ているのだろう、容易に応える様子が無い。
「なんて頑丈な機体なんだ!さっさと落ちやがれ!!」
レイックルは喚きながら引き金を引き続けた。
だが、今回ばかりはこれまでの幸運にめぐり合えなかった。  


452  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:47:41  [  D4VsWfLE  ]
ヘルダイバーは胴体から爆弾を投下した。
当たる!爆弾の位置からして、危険を感じたレイックルは、すぐに避難する事を思いついた。
「逃げろ!ここは吹っ飛ぶぞ!急げ!!」
レイックルは部下に命じると、全員があたふたと階段を下り始めた。
レイックル自身も最後に階段を下りる。
ヒューン!という音が徐々に大きくなってくる。あの世からの使いの声のようだ。
レイックルが階段を下り、駆け出した瞬間、
ズドーン!という重々しい爆発音が鳴り、背後から吹いてきた爆風に吹っ飛ばされてしまった。
爆風に吹飛ばされた彼は、爆弾穴に落下した。
その上を、破片まじりの爆風がゴー!という音を立てて吹き荒れていく。
爆風が鳴り止むと、辺りは幾分か静かになった。
「う・・・・・くそ、機銃がやられたか。」
うつぶせになっていたレイックルは起き上がろうとする。右肩がかなり痛い。
触って確かめてみる。
骨は折れていないようだが、痛みがある。
「打撲したようだな。」
念のため、体全体を確かめる。
足に小さな破片が突き刺さっていたのと、腕に切り傷を負った意外は負傷していない。
傷のレベルはいずれも軽傷レベルだ。傷は痛むが、機銃を撃てない事は無い。
そう確信したレイックルは嬉しくなった。その次に、彼は部下の名前を呼んだ。
名前を呼ぶ度に、声が上がり、次々と彼のほうにやってくる。
「班長、怪我してますよ!」
彼の隊に付いていた、若い女性魔道師がぎょっとした表情で言う。
「自分が治癒魔法で直しましょう。」  


453  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:49:48  [  D4VsWfLE  ]
「いや、これぐらいなんともない。それよりも、治癒魔法は他の奴に使え。」
レイックルは女性魔道師にそう言いながら、集まった部下達を見る。なんとか全員が揃っている。
それを見た彼は安堵した。
(戦友を失うのはごめんだからな)
彼は内心でそう呟いた。サイフェルバン奪還作戦では、多くの戦友が、米軍の反撃で命を失っている。
部下も多くを失った彼としては、今回の防衛戦で、1人も部下を死なせまいと誓ったのである。
「おい!貴様達!」
不意に後ろから声がかかった。
機関銃を運んでいるとある一団が後ろを通り過ぎようとしており、その中の将校が彼らに声をかけたのである。
「なぜ持ち場を離れている。貴様達の持ち場はどこだ?」
「持ち場ですか・・・・・あそこです。」
レイックルは半壊して、炎上している木造建築物を顎でしゃくった。
「そうか。ならわしらの班に加わらんかね?今から別のところに対空機銃を設置するところだ。」
「ええ、私達としてもこのままブラブラするわけではありません、加わらせてください。」
「よし、わかった。ではついて来い。」
将校はそう言って頷くと、隊列のほうに戻っていった。
「お前ら、聞いての通り、仕事はまだある。行くぞ。」
レイックルはそう言うと、皆に付いてくるように命じた。
皆も従う気満々だったから、当然のように隊列に加わった。
魔法都市マリアナのあちらこちらでは、依然として爆弾や機銃弾が叩きこまれ、空襲は未だに止む気配が無かった。

大魔道院の内部に、甲高い喚き声が聞こえてくる。それは中からではない、外からである。
それは極大に達したかとおもうと、今度はエンジン音をがなり立てて飛び去っていった。
ドーンという音が鳴り、大魔道院の建物が揺れる。爆発は依然続き、最終的には24回の
“小さな”振動が伝わった。
「ヒッヒッヒッ、どうやら魔法防御はしっかり効いておるようです。」
側にいる老婆が、若い女性に声をかける。それはグールと、エリラである。  


454  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:51:24  [  D4VsWfLE  ]
「これなら、なんとかなりそうね。」
エリラは満足したような表情で言うと、上空を見上げる。
「白星さん達はさぞかし悔しがっていそうね。必死こいて投下した爆弾が、全く効果を表さないのだから。」
彼女の卑しげな笑みが天井に向けられた。
この時、爆弾を投下したのは、空母バンカーヒル所属のヘルダイバーで、2個中隊24機で1000ポンド爆弾を投下した。
爆弾は、いずれも“赤い濁った光を放つ”ガラス部分に着弾した。
だが、驚くべき事に、爆弾は全く効果を表さなかった。黒煙の中に現れたのは、無傷のガラス部分であった。
外からは、高射砲の射撃音や、機関銃の発射音、そして爆発音が微かに聞こえてくる。
分厚い壁に周囲を覆われているが、外の喧騒は大魔道院の内部にまで、その激戦の様子を捻じ込んできた。
新たなる喚き声が外から聞こえてくる。新たなヘルダイバー隊が大魔道院に向けて急降下を開始したのである。
そして20発の小さな振動が大魔道院を揺るがす。だが、魔法防御を突き崩す事は出来なかった。
「被害の暫定統計が出ました!現在までに、対空機銃座28、高射砲22が全壊、機関銃座34、
高射砲12が半壊、戦死者は289人です。」
「ご苦労。下がっていいわ。」
彼は通信係りを下がらせる。正直、今のエリラの心境では、味方の被害はどうでも良かった。
それよりも、米艦載機の攻撃をあっさりと跳ね返した事が、彼女は嬉しかった。
この後、アベンジャー隊がナパーム弾を含めた水平爆撃で、大魔道院を爆撃した。
大魔道院は炎に包まれ、アベンジャー隊の指揮官は攻撃成功を確信した。
だが、黒煙が晴れた後にあったのは、相変わらず健在の、大魔道院の姿であった。

「急に静かになったわね。」
エリラは外の騒音が鳴った事に対し、そう呟いた。
「エリラ様、どうやら敵の第1波攻撃隊は撃退したようですぞ。」
グールがニヤリと笑みを浮かべる。
「撃退ね・・・・・ふふふ。気持ち良い言葉だわ。」
彼女が喜びをかみしめながら、そう呟く。
5分後、魔道将校が報告に現れた。
「報告します。先の戦闘で、敵機78機を撃墜しました。」
「78機!凄い数ね。」  


455  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/10(土)  10:52:27  [  D4VsWfLE  ]
「ええ。どうやら、対空陣地の密集型の配置が功を奏したようです。
現に小官も、何機か墜落していくのを見ました。」
「そう・・・・・・ありがとう。下がっていいわ。」
魔道将校はそう言われると、うやうやしく頭を下げ、その場を離れていった。
彼らは知らなかったが、この報告は誤りで、実際に撃墜されたのは、
F6F12機、SB2C13機、アベンジャー9機にすぎない。
だが、エリラはとても嬉しかった。この大魔道院が無事である事と、敵艦載機に大打撃を与え事が。
「クックック・・・・・これで最後の手段も出来るわね。さあ、白星さん、無駄な行動を一杯しでかしなさい。
その度に、私は笑って出迎えてあげるわ。」
そう言うと、エリラはアハハハハハハハハハハ!と、哄笑を上げた。

エリラに戦況を報告した魔道将校は、別の情報を確かめようと、大魔道院の正面の壁を通り過ぎようとした。
その時、微かにだがピシッという音がした。
「?」
不審に思い、振り返る。だが、何も無い。
側に水晶玉がくぼみに差し込まれているだけである。水晶玉を確かめるが・・・・・・・
「なんでもないか。」
異常はなく、そのまま去っていった。







水晶玉には、僅かながら。見えない、小さな傷が生じていた。