345  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:50:54  [  D4VsWfLE  ]
午後0時58分  第58任務部隊第4任務群
「敵大編隊接近!距離30マイル。機数120機!」
第4任務群旗艦、エセックスの艦橋で、CICから切迫した声が流れてきた。
「何てことだ。400機近いF6Fの防御が破られるとは・・・・・」
司令官席に座る第4任務群指揮官、ウイリアム・ハリル少将は顔を強張らせながら、小さな声で呟く。
防空戦闘機隊は、敵の戦闘機集団との乱戦で、約200機以上が戦闘に参加した。
残る機体は、後続してきたバーマント攻撃隊本隊に殴りこんだ。
バーマント攻撃隊は260機以上の大編隊で、これが本当の攻撃集団第1陣であった。
念の為に飛ばした策敵機の情報によると、この大編隊の後方に更なる敵攻撃隊、約200機、
という恐るべき報告がもたらされている。
つまり、バーマント軍は持てる限りの飛空挺を持って、米機動部隊と雌雄を決する腹積もりだ。
それも総力戦と言う形で。
米戦闘機隊は阿修羅のように奮戦し、攻撃隊の第1陣のうち、130機以上を叩き落していた。
だが、数の不足は如何ともしがたく、ついに攻撃集団に防御ラインを突破されてしまった。
その攻撃隊は、全てが第4群に向かっている。
「降りかかる火の粉は払わねばならない。」
ハリルは、南西の方角を睨みすえる。
現在、第4群にはエスコート艦として、戦艦サウスダコタ、重巡洋艦ウィチタ、
軽巡洋艦ヒューストン、マイアミ、ビンセンズ、駆逐艦スタンリー、コンバース、
スペンス、サッチャー、ダイソン、ランズダウンチャールズ・オスバーン、ラードナー、
マッカラ、エレット、ラング、スタレットウィルソン、ケイス、ストックハム、トワイニング。
計19隻が、エセックス、ランドルフ、カウペンス、ラングレーの周囲を取り囲んでいる。
エスコート艦のうち、戦艦サウスダコタ、重巡洋艦ウィチタ、駆逐艦ストックハム、
トワイニングは第7群から貸し与えられている。
それらが輪形陣を組んで、迫り来るであろうバーマント軍継戦派の攻撃に備えている。
第4群は、これが異世界に来て始めての対空戦闘である。
敵機の編隊は、半数が高度を上げ、半数が海面近くに高度を下げ始めた。  


346  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:51:44  [  D4VsWfLE  ]
輪形陣外輪部に位置する駆逐艦ケイスが5インチ単装両用砲を撃ち始めた。
それをきっかけに、外輪部の駆逐艦、少し内側の軽巡が一斉に砲弾を放ち、戦いの火蓋を切った。
軽巡洋艦ヒューストン艦長であるドミニク・クランチ大佐は、艦橋で敵機を眺めていた。
ヒューストンの5インチ連装高角砲が7秒おきに砲弾を放っている。
たちまち、バーマント軍機の周囲に黒い炸裂煙が湧き上がる。
その弾幕に、高空、低空のバーマント機は突っ込んでくる。
「畜生め、敵機が高空、低空と同時に進んでこなければ、全部の砲を一箇所に撃ち込めるんだがなあ」
クランチ大佐は苦虫を噛み潰したような表情で嘆いた。
実は、敵機が高空、低空の両方で進撃してきたため、対空砲火が分散されているのである。
分散されると、その方面の敵機の弾幕は薄いものとなる。だが、
「敵機1機撃墜!続いてもう1機が爆発!」
見張りの弾んだ声が聞こえてくる。
対空砲火は分散されているが、VT信管付の砲弾は、仕事をこなしているようだ。
敵機の編隊は、輪形陣の距離を詰めるたびに、撃墜機が増えていく。
分散されているとはいえ、猛烈な弾幕だ。駆逐艦は対空機銃も撃ち出した。
弾幕がより一層激しくなる。
(この激烈な対空砲火の前に、突破できるバーマント機はいないだろう。
最も、敵機が俺達を無視してくれればだが・・・・)
しかし、敵機の編隊は、突然何機かが分離して、目の前のエスコート艦に襲い掛かった。
上空に来ている敵機は、すぐに急降下に移り、低空進入の敵機は、味方駆逐艦の方向に針路を向ける。
合計で20機の敵機が、それぞれ分散して輪形陣外輪部の駆逐艦に襲い掛かった。
自らが聞きに陥った駆逐艦群はすぐに回避行動を取る。  


347  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:53:49  [  D4VsWfLE  ]
機銃や両用砲を撃ちまくりながら、敵機の急降下爆撃や、スキップボミングを外そうと必死に操艦する。
狙われたのは4隻だった。そのうちの1隻、駆逐艦ケイスに最初の爆弾が至近弾として落下した。
ケイスは高空から4機、低空から2機に襲われた。
急降下爆撃機を2機撃墜したが、2機に投弾を許してしまった。
1発目、2発目と水柱が上がる。だが、低空からの刺客も残っている。
すぐに目標を変更し、向けられるだけの対空砲火を撃ちまくる。
1機を叩き落したが、距離700で爆弾を投下、そのままは跳ね飛び、ケイスの艦尾に命中

しなかった。

ケイスは危うく被弾から逃れた
。誰もが少し安堵した時、突然爆発音が轟いた。
それは、ケイスの後方900メートルで対空射撃を行っていた駆逐艦エレットだった。
エレットには高空から6機、低空から4機が襲い掛かり、そのうち高空の爆弾1発と、
低空からの反跳爆撃2発を食らってしまった。
たちまち重傷を負ったエレットは、力尽きたようにスピードを落とし、艦隊から落伍し始めた。
さらにその後方の駆逐艦ラングまでもが中央部に急降下爆撃の爆弾を叩きつけられてしまった。
爆弾は2本の煙突の間に命中し、最上甲板下の機関室で炸裂した。
働いていた機関科員のうち、24人が即死し、14人が重軽傷を負った。
人事不省に陥った機関室は徐々に回転速度を下げていき、艦のスピードが低下。
そしてケイスと同様に輪形陣から後ろに取り残されていく。
4隻が狙われ、2隻の駆逐艦が落伍したのである。
「敵は相当な手練だぞ!攻撃の仕方がうまい!」
その一部始終を目の当たりにしていたクランチ艦長は思わず感嘆するほど、敵の手際はあっさりしていた。
ケイスとラングの抜けた穴から、飛空挺集団24機が入りつつあった。  


348  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:55:23  [  D4VsWfLE  ]
120機の敵機と言えど、全部が固まっているのではなく、20機、または30機以上の
梯団に分かれて、それが1個梯団ずつ進撃しているのだ。
当然、やや間のあいた時間差攻撃となる。
エスコート艦が2隻撃破され、2隻が定位置から大きく離れた今、輪形陣の左上には大きな穴が開いてしまっている。
その穴から、第2梯団の飛空挺群が入りつつあるのだ。
そして、その一部は当然、エスコート艦を狙ってきた。
次なる目標は、空母の横2500メートルで対空砲火を撃ちまくる巡洋艦だ。
24機の敵飛空挺はまず、2隻の巡洋艦、ウィチタとヒューストンを狙ってきた。
ヒューストンには高空から5機、低空から4機。
ヒューストンには高空から8機、低空から7機が襲い掛かってきた。
「なんで俺たちに多く向かってくるんだ!?」
クランチ艦長は、自分達の艦だけに向かう敵機が多い事に腹を立てた。
5インチ連装高角砲が高めに仰角を取り、7秒おきにVT信管付の砲弾を放つ。
それに負けじとばかりに、40ミリ機銃が撃ちまくる。
あたりは高角砲の連続発射と、機銃の射撃音で騒然となった。
「敵機、左舷上方より8機、突っ込んでくる!」
敵飛空挺が、唸り声を上げてヒューストンに突っかかってくる。
高度3500メートルから、65度の角度でまっしぐらに向かってきている。
それに向けて高角砲、機銃が激しく撃ちまくる。
第58任務部隊が襲ったバーマント艦隊の対空砲火など、この激しい銃砲火に比べれれば子供と巨人の違いがある。
先頭の1機が40ミリ機銃弾に機首を叩き潰され、プロペラを砕かれる。
そのままコントロール不能に陥り、悲鳴のような音を立ててヒューストンの左舷600メートルの海域に墜落した。
2番機にVT信管付の高角砲弾が至近で炸裂する。
次の瞬間、燃料、爆弾に多数の破片を食らった敵飛空挺がひとむらの炎に早変わりし、あっという間に砕け散った。
「左舷低空より敵機接近!」  


349  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:56:28  [  D4VsWfLE  ]
敵機は高空からだけではない。低空からも迫ってくる。
割り当てられた2基の連装高角砲と、機銃が釣瓶打ちを加える。
低空から接近した敵機も猛烈な銃砲火を浴びせられ、たちまち1機が爆砕される。
「敵機高度1200!」
「取り舵一杯!」
クランチ艦長はすかさず取り舵一杯を号令する。やや経って、艦首が左に振られる。
「敵機高度800!爆弾投下!」
「低空の敵機爆弾投下!」
高、低の敵が遂に爆弾を投下した。
まず、3番機が先に投弾する。その爆弾はヒューストンの右舷側海面に着弾し、空しく水柱を上げた。
20ミリ機銃も加わった対空防御は凄まじい。たちまち4、5番機が投下前に連続で撃墜される。
6番機が胴体から爆弾を投下した。6番機の爆弾は右舷中央側の海面に至近弾として落下した。
水柱によって破片が甲板上に飛び込み、機銃員6人が負傷した。
一方、ヒューストンから距離1000で放たれた爆弾は、既に600メートルの距離まで来ていた。
しかし、左回頭したヒューストンは、爆弾と向き合う形になっており、7発の爆弾のほとんどが、
ヒューストンから外れる事になった。
クランチ艦長は急降下爆撃よりも反跳爆撃を恐れていた。そこで彼は咄嗟に考えた。
横腹を見せて被弾面積を高めるよりも、爆弾投下と同時にその方向に向けて急回頭し、
対抗面積を一気に減らそうと考えたのである。
その考えは大分成功した。だが、1発がヒューストンの真正面に向き合う形になってしまった。
「舵戻せ!面舵30度!」  


350  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:58:12  [  D4VsWfLE  ]
クランチ艦長はすかさず次の号令を下す。その間にも、爆弾は迫ってくる。
爆弾が艦首真正面にぶち当たるか、ヒューストンが艦首を振ってやりすごすか・・・・・

時間との競争だ。

やがて、艦首が右に振られ始めた時、7番機の投下した爆弾が右舷後部に至近弾となった。
ズーン!という下から突き上げるような強い衝撃がヒューストンを揺さぶった。
それが、右回頭をやや遅らせる結果となった。
「爆弾接近!避けられません!」
「総員衝撃に備えー!」
クランチ艦長は絶叫した。
爆弾が左舷側第1砲塔の舷側に消えた、と思うと、突然ドーン!という轟音が鳴り響いた。
その直後に後部にも強い衝撃が起こった。
8番機が炎上しながら爆弾を投下し、後部第3砲塔に400キロ爆弾を叩きつけたのだ。
左舷前部舷側に命中した爆弾は、第2甲板の兵員室で炸裂し、浸水を招いてしまった。
第3砲塔は天蓋を叩き割って砲塔内部で炸裂。
砲塔内部で6インチ砲弾が誘爆し、砲塔は台座から外れ、第4砲塔の旋回盤まで歪めてしまった。
わずか2発の被弾で、ヒューストンは速力が低下し、砲戦力の50%を失ったのである。
「おのれえ・・・・よくも俺のヒューストンを!!」
クランチ艦長は悔しそうに地団駄を踏んだ。だが、ヒューストンはまだましであった。
前方のウィチタは急降下爆撃を2発浴びた上、低空からの反跳爆撃を舷側に3発も頂戴してしまい、
海面をのた打ち回っていた。

「ヒューストン、ウィチタ被弾!」  


351  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  21:59:50  [  D4VsWfLE  ]
艦橋に見張りの声が響く。左舷2500メートルの位置にいたヒューストンとウィチタが黒煙を噴出している。
特にウィチタの被害が酷いらしい。
ヒューストンは一旦後方に下がりかけたが、再び増速してランドルフとカウペンスの間に入る。
「ウィチタが落伍していきます。」
黒煙の量が多いウィチタは、スピードが出せないのか徐々に後ろに取り残されていく。
艦隊速力は戦艦サウスダコタが出せる28ノットの最高速度に合わせているから、
現在28ノットのスピードが出ている。
ウィチタは28ノットのスピードが出せないらしい。
「恐らく、機関部に損傷を受けたな。」
空母ランドルフ艦長、フランソワ・シアーズ大佐は眉をひそめた。
「敵第3梯団36機!本艦に向かってくる!」  
よく見ると、3つめの攻撃集団が、全てランドルフの方向を目指している。
他のエスコート艦には目もくれない。
「あいつら、ついに大物食いをやろうと決めやがったな。」
シアーズ大佐の顔が忌々しげに歪む。
「それも、俺のランドルフを、だが、その前に叩き落してやる。」
艦橋前、後部の5インチ連装高角砲がガンガン音を立てて撃ちまくる。
敵機は現在、輪形陣の開いた穴から進撃してきている。
敵編隊の内容は、高空から26機、低空から10機の割合である。
距離は4000。5インチ砲の射程距離に充分入る。
高空からの1機がいきなり火を噴いて墜落する。
かと思えば、砲弾の炸裂を近くに受けた敵機が、直後にバランスを崩して錐もみ状態で落ちていく。
その敵機は目立った損傷は無いが、砲弾の破片が搭乗員を抹殺したのである。
エスコート艦は減ったものの、艦隊上空の対空砲火は激烈である。
上空には無数の黒い花が咲き、それらが一寸刻みにバーマント機の体力を奪っていく。
高空の敵機がさらに3機叩き落された。これで5機が戦列から消えた事になる。  


352  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:01:08  [  D4VsWfLE  ]
やがて、高空の敵機がランドルフに向けて急降下を始めた。
「左舷前方上方より急降下!」
40ミリ機銃、20ミリ機銃も射撃を開始する。
右舷800メートルのエセックスも妹を救うべく、5インチ砲、40ミリ機銃を撃ちまくる。
無数の曳光弾がランドルフの上空に殺到し、たちまち空が機銃のアイスキャンデーに覆われた。
バーマント機はそれでも突っ込んできた。
まず、先頭の機がアッパーカットを食らったかのように機首を叩き壊される。
戦闘不能に陥ったその飛空挺に、さらに多量の機銃弾が、獲物の血をかぎつけたピラニアの如く殺到する。
その機銃弾に蜂の巣にされ、あっという間に空中分解を起こす。
2番機は高度2000付近で砲弾の破片を至近で食らい、直後に両翼から炎の尾を引きずる。
しばらくはそのまま急降下を続けていたが、高度1600付近で爆発した。
3番機は機銃弾に撃墜される事も無く、高度1000で爆弾を投下した。
「敵機爆弾投下!」
見張りが叫んだ。だが、シアーズ大佐は何も言わない。
そのまま、ランドルフは巨体を左右に振る事も無く、ひたすら28ノットのスピードで航行を続ける。
爆弾は艦首右舷側の海面に至近弾として落下した。ドーン!という音と共に水柱が立ち上がる。
下から突き上げるような振動がランドルフを揺さぶる。
至近弾は第1機銃群の機銃2丁を叩き壊し、兵員1人を戦死させ、3人を負傷させた。
4番機と5番機は撃墜され、6番機が弾幕を突っ切って爆弾を投下した。
その爆弾は、飛行甲板の中央に、綺麗に命中した。
ダーン!という轟音と共に再びランドルフが揺れる。爆煙でしばらく飛行甲板が覆い隠される。
「中央部に命中弾1!」
「うろたえるな!!」
シアーズ艦長は、興奮する見張りを叱咤する。
「大丈夫だ!1発や2発受けたって、飛行甲板には傷は付かん!!」  


353  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:02:14  [  D4VsWfLE  ]
彼の言うとおりだった。通常なら、めくれ上がって飛行甲板が見える。
しかし、爆煙が晴れた後に残っていたのは、なんら変わらない普通の飛行甲板であった。
「飛行甲板に損傷なし!」
その報告を聞くと、シアーズ大佐はニヤリと笑みを浮かべた。
「損傷なし・・・・か。」
この時、爆弾は中央部で炸裂していたが、飛行甲板に塗られた魔法塗料が被弾と同時に魔力を発揮。爆弾は飛行甲板を貫くことなく、瞬発弾のごとくその場で炸裂した。
爆発エネルギーも魔力によって減殺され、甲板は傷つかなかった。
7番機が火を噴きながらも、爆弾を投下する。爆弾は後部飛行甲板に叩きつけられ、ド派手な爆炎が湧き上がるが、みかけは損害を与えているように見えても、実際は無傷である。
8,9、10番機は降下中に連続で叩き落されてしまった。
11番機が弾幕を突破して爆弾を投下。これは左舷側に外れて、水柱を吹き上げる。
結局、高低同時攻撃にはならず、急降下爆撃だけが先に終わった。
ランドルフに投弾したのは26機中半数以下の12機で、そのうち命中したのが7発である。
敵飛空挺はいずれも新型攻撃機で、積んでいた爆弾も400キロ爆弾と、威力がアップしている。
被弾の内訳は、前部に2発、中央部に3発、後部に2発と、満遍なく叩き据えられていおる。
本来なら、7発被弾は完全に空母の機能を喪失してもいい数だ。
だが、ランドルフが被った損害は、わずかに40ミリ機銃座1基、2ミリ機銃4丁喪失のみ。
飛行甲板の損傷なしという軽微な損害だった。
リリア達が開発した魔法塗料が、しっかりと爆弾を受け止めてくれた結果である。
だが、まだ敵はいる。
それは、低空から敵だ。10機の敵機は、今は7機に減っているが、それでもランドルフに向かっている。
それらは、黒煙を上げながらも陣形に留まっているヒューストンを通り抜け、
ランドルフまであと1900メートル付近まで迫っていた。
すぐさま左舷側の全火器がこれを迎え撃つ。寮艦のものも混じった対空砲火は密度が高い。
1機、また1機と、次々と海面に叩き伏せられる。  


354  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:03:26  [  D4VsWfLE  ]
敵機が距離900に迫った時には、敵機はわずか2機しかいなかった。
「敵機爆弾投下!2弾本艦に向かいつつあり!」
「取り舵一杯!」
シアーズ艦長はすかさず号令を発する。操舵員が素早く舵輪を回す。
スクリューのギヤレバーを調節し、回転数を変える。
やがて、左舷側のスクリューの回転が遅くなり、右舷側のスクリューがより一層、回転速度を上げる。
ランドルフは巨艦のため、回頭速度が遅い。
しかし、
「爆弾1発、艦尾に接近!」
敵機の爆弾はランドルフ乗員の努力を一瞬にして奪い去った。
次の瞬間ズドーン!という猛烈な衝撃が、艦尾を持ち上げた。
爆弾はランドルフの艦尾に食らい付くと、装甲を突き抜けれずにその場で炸裂、
爆圧がランドルフのケツを少し持ち上げた。
(艦尾方向から!?まさか・・・・・いや、まさかな)
シアーズ大佐はある事が頭をよぎった。だが、すぐにそれを振り払う。
シアーズ艦長はハンケチで汗をぬぐい、損害報告を聞こうとしたその時、
「艦長!」
操舵室から悲鳴じみた声が届けられた。
「どうした!」
「舵が・・・・・舵が、動きません!!」
シアーズ艦長は、一瞬のうちに顔から血の気が引いた。
(舵が動かない!?舵が・・・・だと?)
あまりの出来事に、彼は一瞬思考回路がストップした。
舵損傷という事態は、船乗りにとって最も忌むべき事態である。
現世界の大戦中にも、舵損傷がきっかけで悲劇を生んだ軍艦は何隻もいる。  


355  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:04:33  [  D4VsWfLE  ]
特に独戦艦のビスマルクの事件は、その悲劇の代名詞とも言える。
「艦長、聞いてますか!?」
シアーズ艦長は、その声で我を取り戻した。
「聞こえる。状態はどうなのだ?」
「舵が左10度に固定されたまま、全く動きません!」
よく見てみると、ランドルフは輪形陣からやや左側に逸れながら、真っ直ぐ驀進している。
先ほど、左に急回頭しようとしたため、着弾時に舵が左10度に固定されたまま損傷。
ランドルフは回頭を急にやめて艦隊針路からやや左斜めに向けて航行しているのだ。
このままでいくと、ランドルフはずっと緩やかに左回頭を続ける事になる。
それも、戦場と言う最悪の場所で・・・・・・

その時、
「敵第4梯団40機以上、向かってくる!」
敵の最後の梯団が姿を現したのである。そして、間の悪い事に、
「敵の大多数は低空侵入!」
この集団は反跳爆撃を行う攻撃機が主体である。
急降下爆撃機は4分の1の10機しかいない。
だが、ランドルフの危急を知ってか、輪形陣のエスコート艦の一部がランドルフの左右に付き始めた。
それらの中には、損傷しつつも任務を遂行している軽巡のヒューストンや、戦艦サウスダコタがいる。
戦友の負担を出来るだけ軽くしてやりたい。そんな思いが伝わってくるかのようだった。
駆逐艦2隻、軽巡1隻、戦艦1隻に護衛されたランドルフに、最後の攻撃集団が襲い掛かってきた。
小さな輪形陣を組んだランドルフ隊は持てる限りの火器を持って迎え撃つ。
まず、先行してきた6機が急降下爆撃を仕掛けてくる。高度2000付近で連続して3機が叩き落される。
そして1000付近でさらに2機が撃墜され、最後の1機が爆弾を投下した。
爆弾は右舷200メートルの海面に突き刺さって水柱を上げる。
今度は、低空から32機の飛空挺がわらわらとやってきた。
ランドルフの左舷1000メートルに布陣したヒューストンが、突如前部の6インチ砲を斉射した。
6本の水柱がバーマント機の前面に立ち上がる。
2機がかわし切れずに水柱に突っ込み、海面に引きずり落とされた。  


356  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:05:40  [  D4VsWfLE  ]
他の艦もこれらに猛射を浴びせる。ヒューストンを通り抜けるまで、実に10機が撃墜される。
だが、残りはヒューストンを突破すると、一心不乱にランドルフに向かった。
ランドルフ自身も4機を撃墜した。だが、奮闘もここまでだった。
生き残ったバーマント機16機は、距離600で次々と400キロ爆弾を投下した。
機銃の目標は、海面を飛び跳ねる爆弾に注がれる。
後部に向かっていた爆弾が機銃弾に捉えられて吹き飛ぶ。
次いで、中央部付近に向かっていた1弾が打ち抜かれて炸裂、その爆風が別の1弾も巻き込んで炸裂し、
大水柱が立ち上がった。
だが、もはやこれまでだった。
最初の1弾がランドルフの左舷側前部に叩き込まれた。ズドーン!という猛烈な衝撃に、
ランドルフは一瞬、前につんのめった。
左舷側の舷側にドカンドカンドカン!と次々と爆弾が命中し、爆炎が吹き上がる。
機銃員は四肢をちぎり飛ばされ、粉みじんに粉砕される。
飛行甲板の左端が所々まくれ上がり、凸凹上に歪む。
合計で13発もの400キロ爆弾を浴びたランドルフは、艦内を食い荒らされ、浸水が増大。
速度は低下し、みるみるうちに左舷側に傾斜し始めた。
被弾は全てが喫水線付近に命中し、艦体に穴を開けていた。
その穴から、大量の海水が浸入し、ランドルフの艦内を侵食している。
被弾の一部は機関室や機械室も叩き壊し、機関部の半分が使用不能となった。
その直後、上空から再び唸り声が響いた。それは、残るバーマント機4機による急降下爆撃だった。
右舷側の対空砲火が迎え撃つ。寮艦と共同で2機を撃墜したが、2機が投弾してきた。  


357  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:06:34  [  D4VsWfLE  ]
唸り声が極大に達したと思うと、敵機の腹から爆弾が落ちてきた。
「・・・・・畜生、爆弾が丸く見えてるぜ。」
シアーズ艦長は、折れた右腕を抱えながら、爆弾の行く末を見守っていた。
「さきほどまで悠々と航行していたのに、舵が損傷して、射的の的よろしく、当てられ
まくってしまった・・・・・・」
なきたいと言うのを通り越し、彼は笑いたくなった。
爆弾の1発は、艦橋を指向している。
「さあ・・・・・来い!俺が受け止めてやる!!!!」
彼は大声でそう絶叫した。落ちてくる爆弾を睨み据える。

軽巡洋艦ヒューストン艦上からクランチ艦長は、ランドルフの艦橋に爆発が起きるのを見た。
その直後に中央部にも爆炎があがる。
「な・・・・なんてこった。ランドルフが・・・・・」
ランドルフの断末魔の状況を見て、彼は絶句した。
そしてたった今、最後の爆弾がランドルフを叩き据えた。
艦橋も被弾している。
飛行甲板の黒煙が晴れる。艦橋部は火災に包まれていて詳しく確認できない。
しかし、艦橋職員が全員絶望的である事は容易に想像できた。
そして、ランドルフ自体の生命も、それと同様に・・・・・・絶望的であった。
「ランドルフに近づけ!乗員を救助するんだ!」
クランチ艦長は次の命令を発する。
1分後、ヒューストンは、左舷に大きく傾き、黒煙を吹き上げるランドルフに向かった。  


358  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:07:56  [  D4VsWfLE  ]
午後1時10分  第58任務部隊第3任務群
第3任務群には110機のバーマント機が進軍してきた。
バーマント機は定石通りに一部を持ってエスコート艦を叩きに入った。
エスコート艦は5隻が狙われ、そのうち駆逐艦アンソニーが爆弾4発を受けて大破した。
エスコート艦を引っ掻き回した後、今度は敵の第2集団30機が侵入してきた。
第3群には第7群から戦艦ノースカロライナ、ワシントンが増派されており、猛烈な対空弾幕がバーマント機に襲い掛かる。
敵艦はまたしてもエスコート艦を狙いに来た。
そして、
「本艦に敵機12機、向かってくる!」
第5艦隊旗艦のインディアナポリスにも敵機は向かってきた。
高空から4機、低空から8機の割合で迫ってくる。
後方のモントピーリアには18機が向かった。
「長官、本艦が狙われているようです。ここはひとまず、作戦室にお戻りください。」
艦橋で対空戦闘を眺めていたスプルーアンスを、艦長のマックベイ大佐が万が一のことを考えて
非難するように勧めた。
「分かった。」
スプルーアンスはそれだけ言うと、艦橋から離れた。
物凄い量の機銃弾が、敵機に向かっていく。低空の敵機がたちまち2機続けて撃墜される。
「高空より敵機、急降下!」
艦橋、見張りが叫ぶ。
「取り舵45度!」
「取り舵45度、アイ・サー!」
マックベイ艦長の指示に従い、操舵員が舵を回す。
敵機が唸り声を上げて突っ込んできた。高角砲、機銃がガンガン撃ちまくる。
先頭の1機が高角砲弾の直撃を受けて四散する。  


359  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:09:50  [  D4VsWfLE  ]
2番機が胴体を真っ二つにちぎられ、別々に墜落していった。
3番機は耐え切れなくなったのだろうか、高度1600で爆弾を投下した。4番機もそれに続く。
爆弾はインディアナポリスを大きく外れ、左舷側800メートルの海面に連続して突き刺さり、
空しく水柱を上げる。
「及び腰では当たらんぞ。」
マックベイ艦長は、逃げ去る敵機を見ながらそう呟いた。
戦いは低空進入のバーマント機との対決に移った。
舷側の全力射撃が可能になったインディアナポリスの左舷が真っ赤に染まる。
40ミリ機銃6丁、20ミリ機銃19丁が、銃身も焼けよとばかりに機銃弾を大量に放つ。
残り6機となったバーマント機がさらに撃墜され、残存機の数がさらに減る。
敵機のがあと600メートルに迫った時には、さらに撃墜機が増え、ついに1機だけとなってしまった。
その最後の1機も、爆弾を投下しようとした矢先に炎に包まれた。
「敵機全機撃墜!」
艦橋に声援が上がった
だが、
「敵機・・・・墜落しません!そのまま向かってきます!!」
見張りは仰天した。
なんと!炎に包まれた敵機は墜落すことなく、まっしぐらにインディアナポリスに向かってきたのだ。
誰もが叩き落したと思っただけに、衝撃は大きい。
一旦中止されていた対空機銃の射撃が、再び開始される。
だが、敵機は400キロ近い猛スピードで、インディアナポリスに突進してきた。
次の瞬間、敵機は爆弾を投下した後、インディアナポリスの後部に激突した。
後部艦橋に命中した敵機はそのまま砕け散り、燃料がばら撒かれて火災が発生した。
激突した直後に、爆弾が左舷後部に突き刺さり、舷側を突き破って内部で炸裂した。
スプルーアンスは、作戦室の内部で対空戦闘が終わるのを待っていた。
「レイム君、継戦派の連中は総力で立ち向かってきているようだ。
第4群の空母ランドルフがだいぶやられている。」
「恐らく、継戦派もここが勝負時と」  


360  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:10:38  [  D4VsWfLE  ]
言葉は続かなかった。いや、続けられなかった。
突然ガシャーン!という何かがぶち当たる音と、その2秒後にドーン!という物凄い衝撃が起きた。
作戦室にいたスプルーアンスやレイム、第5艦隊の幕僚は全員が飛び上がった。
インディアナポリスの艦体が傷みに耐え切れず、ガクガクと揺れる。
大きな振動が収まった後、小さな振動が続いた。
「後部からです。もしかして、推進器系統がやられたのかもしれません。」
フォレステル大佐が言う。やがて、その連続した振動も止んだ。
艦内には警報ブザーが盛んに鳴っていた。
「い・・・・今のは?」
床に投げ出されたレイムが、額を押さえながら呟いた。
「被弾したんだ。それよりもレイム君、大丈夫か!?」
デイビス参謀長はレイムを見て仰天した。レイムの顔の右半分が血に染まっていた。
「頭を少し切ったようです。血は結構出ていますが、傷は大した事ありません。」
「そうか・・・・だが、念のため軍医に見せるといい。」
デイビスは軍医の診察をすすめた。
「チャック!いるか!?」
「はい、長官なんでありますか?」
スプルーアンスは副官のチャック・バーバー大尉を呼んだ。
「大丈夫か?」
「ええ。左腕を机にぶつけてしまいましたが、なんとか大丈夫です。」
「そうか。それより、君に頼みたい事がある。」
「なんでしょうか?」
チャックはすぐに聞き返す。
「まず、この艦の損傷具合を調べてほしい。それが1つ。次に、激突してきた敵機を調べてほしい。
もし、何かの文書か、暗号長があったら、それを回収するのだ。」
「分かりました。」
バーバー大尉はスプルーアンスに敬礼すると、すぐさま作戦室から出て行った。  


361  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:11:58  [  D4VsWfLE  ]
彼は左舷側の甲板に降りると、まず後部に向かった。
海上は相変わらず、寮艦の発射する対空砲火の喧騒でうるさかった。
後部の射撃指揮所には火災が発生しており、ダメージコントロールチームと乗員が、
共に消火作業に当たっていた。後部甲板には激突した敵機の破片が散らばっている。
担架に戦死者の遺体らしきものを運んできた兵とぶつかりそうになった。
「あ、すみません大尉。」
「ああ、こちらこそ悪かった。それは戦死した戦友の遺体か?」
すると、兵は首を横に振った。
「いいえ、敵機のパイロットです。右舷側の機銃座の近くに落ちてきたんです。
不思議な事に、原型を留めていますよ。」
兵は興奮した口調で言う。もう一人の兵が被されていた布の顔の部分をめくる。
それは、女性だった。まだ顔にはあどけなさが残っている。首には認識票らしきものがつけられている。
目は閉じられており、まるで眠っているかのようである。
「そこから下は見ないほうがいいですよ。胴体部分の損傷がひどいです。」
兵はバーバー大尉に見ないようにすすめた。
「認識票をとってもいいかね?」
「ええ、どうぞ。」
彼は認識票のヒモを引きちぎる。
「では、この遺体は別に運びますので。」
2人の兵は再び担架を持ち上げて、そそくさと去っていった。
バーバー大尉は、オブザーバーのマイントに少しだけバーマント語を教わっていたので、名前ぐらいは読み取れる。
「ライリン・・・・・フラッカル、22か・・・・・まだまだ若いのに。」
バーバー大尉は認識票をポケットに入れると、すぐに本来の任務に戻った。  


362  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:12:56  [  D4VsWfLE  ]
敵の第3集団28機は、空母エンタープライズに殺到してきた。
まず、急降下爆撃機6機がエンタープライズに突っかかる。
エンタープライズの左舷側第1機銃群の3番機銃を操作するジョニー・ウェイド1等水兵は、逆落としに突っ込んでくるバーマント機に向けて20ミリ機銃を放った。
ドガガガガガ!という振動が照準をつけにくくする。その反動を強引に抑えて、上空の敵機に叩き込む。
曳光弾がやや右にずれている。
「チッ、難しいもんだな。」
ウェイド1等水兵は断続的に引き金を引きながら、曳光弾を元に射線を修正する。
やがて、先頭の機が左主翼を叩き折られた。
次いで2番機が突っ込んでくる。これに向けてまた引き金を引く。
10発ごとに引き金から指を離し、1秒ほど間を置いて再び機銃を撃つ。これの繰り返しである。
2番機は両翼を叩き折られ、胴体のみとなる。その2番機が左舷側500メートルの海面に墜落する。
彼の射線が3番機の尾部を薙いだ、と思った瞬間、尾部が吹き飛んだ。
そのままきりもみ状態となって艦首前方の海面に墜落し、高々と水柱を跳ね上げた。
「やったぞ!撃墜した!」
彼は今日始めての戦果を喜んだ。
その時、吹き上がった水柱に視線を移した時、彼は恐ろしい光景を目の当たりにした。
吹き上げられた破片が、海面に落ちていく。その中に変わったものが破片と共に落ちてきた。
広げられた手足、そして前後に伸びた体。紛れも無く人間だった。
頭から落ちてきたその人影が、水柱の根っこに消える。
思わず吐き気をもよおしたウェイド1等水兵は、後ろに体を向けて嘔吐した。

4番機が高度500で爆弾を投下する。爆弾は右舷後部に至近弾となって水柱を吹き上げる。
5番機、6番機も同様に爆弾を投下した。右舷艦首付近に5番機の爆弾が着弾し、水柱を吹き上げる。
右舷側の前部機銃員3名が海中に放り出されてしまい、20ミリ機銃2丁が壊された。
6番機の爆弾は後部に命中した。命中した瞬間、エンタープライズはぶるぶる震える。
黒煙が吹き上がると、そこには無傷の飛行甲板があった。  


363  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:13:57  [  D4VsWfLE  ]
あわや損傷か!?と思った兵達だが、魔法塗料が働いたおかげで、飛行甲板は無事に済み、
心配した者達はやや安堵の表情を浮かべた。

急降下爆撃が終わると、今度は低空の敵機に銃口が向けられる。
既に距離1900まで迫ってきている。
エンタープライズの左舷側再び銃火に染まった。
敵機の爆弾を1発浴び、黒煙を吹き上げているモントピーリアも、機関に何ら損傷は無く、
定位置に留まって援護射撃行う。
エンタープライズ、モントピーリアから放たれる弾幕に、敵機の編隊は臆することなく突っ込んできた。
低空からの敵機は22機いたが、早くも4機が連続して撃墜される。
高角砲がガンガン唸り、機銃が狂ったように銃弾を弾き出す。目を覆うような対空砲火だ。
ウェイド1等水兵も気分を直して低空の敵機に向けて機銃弾を叩きつけた。
「これでも食らえ!」
ガガガガガガガ!という機銃発射時の振動が体をブルブル振るわせる。
彼だけではない、他の戦友の機銃も、敵機に向けて乱射している。
俯角をかけた5インチ両用砲が7秒おきに砲弾をぶっ放す。
海面は、無数の機銃弾が作る水しぶきと、砲弾炸裂時の水柱で熱く沸き立っている。
ウェイド1等水兵の20ミリ機銃弾が、一番右の敵機にしこたま注がれる。
たちまち、無数の火花と破片が飛び散る。
弾が無くなるまで撃ち続けると、敵機は急に炎を噴出して、そのまま機首から海面に突っ込んだ。
「おい、早く弾を補給してくれ!奴らの進撃を食い止めるんだ!!」
ウェイド1等水兵は給弾員を急かす。  


364  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:19:44  [  D4VsWfLE  ]
敵機がエンタープライズまで700まで迫った時には、敵機の数は11機に減っていた。
敵機群は一斉に400キロ爆弾を投下した。  
艦長のマイケル・ガードナー大佐は爆弾が投下される直前に取り舵一杯を号令した。
エンタープライズの艦首が、今まさに左舷に振られようとした時に、
「敵機爆弾投下!」
の報告が入ってきた。
一旦艦首が振られ始めると、後は早い。だが、タイミングはやや遅かった。
そのタイミングのズレが、エンタープライズに不本意な結果を残した。
11発投下された爆弾は、4発が射線からずれたが、7発がエンタープライズに向かってきた。
「くそ・・・・間に合わん!!」
ガードナー艦長は唇をかみ締めた。
1発が機銃によって爆破されたが、残りはエンタープライズに突進した。
左舷側の前部に1発が命中した。爆弾はバルジに命中すると、防水区画で炸裂した。
これを機に6発が次々に命中してしまった。
最後の同時に、後部機関部付近で突き刺さった1発は不発だった。
連続した轟音が鳴り響き、エンタープライズの艦体は飛び上がった。
「左舷中央部に浸水!」
「左舷前部に火災発生!」
「格納甲板で爆弾が炸裂、艦載機に延焼!」
被害報告が次々と艦橋に飛び込んでくる。
左舷の前部近くで作業をしていたロシア系アメリカ人のオットー・コワルスキー大尉は、
連続した爆発音に足を取られ、部下共々、床に這わされてしまった。
被弾の直後に、前から大量の水が流れ出してきた。
「浸水だ!全員逃げろ!!」  


365  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:21:37  [  D4VsWfLE  ]
彼は8名の部下にそう告げた。部下達は一斉にハッチの向こうへと逃げ始めた。
(俺も早くいかねえと)
コワルスキー大尉も駆け出した瞬間、後ろから何かがぶつかってきた。
足がゴキ!という嫌な音を立てて折れる音がし、何かが両足に乗っかった。
それは、水圧で破壊され、流されてきた太い鋼鉄製のパイプだった。
「くそ、足をやられた!」
コワルスキー大尉は苦痛に顔を歪めた。
体を動かそうとするが、その太いパイプはとても大きく、重い。
「おやっさん!今助けます!」
ハッチの向こうの部下達が血相を変えてコワルスキー大尉のもとに駆け出そうとした。
だが、
「来るな!」
彼は部下達を拒んだ。
「ここに来るんじゃねえ!それよりも、防水扉をしめろ!」
意外な言葉に誰もが仰天する。
「そ、それじゃあ、おやっさんが死んでしまいますよ!今助けますから!」
「馬鹿野郎!俺のような老いぼれはどうだっていいんだ!つべこべ抜かさずにさっさと閉めんかぁ!」
「出来ません!」
「やれ!」
コワルスキー大尉は物凄い形相で部下を睨み据えた。
「エンタープライズの戦友を殺してしまってもいいのか!?そのハッチを閉めなければ、
他の区画にも水が浸水して、艦のバランスが崩れるんだぞ!」
部下達はうっと、押し黙った。
「どうせ、俺は悪性の腫瘍であと1年しか寿命が無いんだ。」
コワルスキー大尉は、1940年からずっとエンタープライズに乗ってきた。
彼はエンタープライズの中でも古参の乗員で、年齢は42になる。  


366  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:22:50  [  D4VsWfLE  ]
その風貌と、性格からおやっさんの愛称で呼ばれ、エンタープライズの事なら何でも知っている。
体格もがっしりしており、艦内の腕相撲退会では常にコワルスキーが優勝をかっさらっている。

その頑健そうなコワルスキーも、今年の3月に医者に胃に悪性の腫瘍が出来ていると伝えられた。
それも末期の・・・・・・
彼はしばらくは何もかも嫌になったが、そんな彼を慰めたのが、エンタープライズの乗員達だった。
その事から、彼は倒れるまで艦隊勤務をやっていこうと決意したのである。
「このビッグEの命と、1人の古株の出来損ないの命に比べれば、やすい買い物さ。」
「・・・・おやっさん。」
「・・・・何してる!さっさと閉めねえか馬鹿野郎!」
彼は側にあった破片を投げつけた。破片が壁に当たって音を立てた。浸水は急激に広がりつつある。
既に彼を覆い隠さんばかりの水位まで上がっている。
「おやっさん・・・・・すいません!!」
部下の兵が泣きながらハッチを閉めた。扉の向こうでロックをする音が聞こえる。
ガチャン!という音と共に部下達の仕事は終わった。
ザー!という音が鳴り、水かさが増していく。
「ビッグEよ・・・・・おめえも痛いだろう?だが、安心しな。お前は絶対に生き残る。
俺が保障するぜ。」
コワルスキーは渋い顔に笑顔を浮かべながら、エンタープライズに問いかける。
思えば、エンタープライズは常に最前線で戦い、そして傷ついてきた。だが、傷つくたびに何度も何度も前線に姿を現し、味方将兵たちの勇気を与えてきた。
そして今回も致命的な損傷を負っている。だが、彼の判断で、浸水の拡大はひとまず、終わった。
「まっ、俺はどうにもならんがな。」
彼は自嘲めいた口調で言う。その時、防水扉の向こうから何かが聞こえてきた。
しゃくりあげるような音と、嗚咽の音・・・・・
「しみったれた奴らだな。いつもはまともに言う事も聞かん癖に。」
コワルスキー大尉は苦笑した。
水は彼の顔を完全に覆い隠し、次第に息苦しくなっていった。  


367  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:24:03  [  D4VsWfLE  ]
午後2時30分  第58任務部隊旗艦インディアナポリス
「まず、先の空襲の被害の暫定報告を申し上げます。」
作戦参謀のフォレステル大佐が、左腕を三角巾で釣りながら、強張った表情で言い始める。
「沈没、正規空母ランドルフ、軽巡洋艦オークランド、駆逐艦エレット、クレイブン、給油艦ミシシネワ。
大破、正規空母エンタープライズ、重巡洋艦ウィチタ、駆逐艦ラング、アンソニー、ベル。
中破、正規空母ヨークタウン、重巡洋艦インディアナポリス、軽巡洋艦ヒューストン、駆逐艦ベルム。
小破、正規空母ホーネット、軽空母カウペンス、戦艦ニュージャージー、軽巡洋艦モントピーリア。
被撃墜、F6F48機。戦果は護衛機が380機、艦隊で200機であります。」
報告が終わると、作戦室に重苦しい雰囲気が流れる。
「続いて、攻撃隊の戦果です。まず撃沈が重武装戦列艦3隻、中型戦列艦2隻、小型戦列艦4隻、
撃破が小型戦列艦2隻、損害は29機です。飛行場攻撃隊は航空基地1つを完全破壊。
被撃墜は10機、戦果は戦闘機21機撃墜であります。」
「敵も腕を上げたな。」
スプルーアンスは怜悧な口調でそう呟いた。

第58任務部隊は、敵空中騎士団の総攻撃を受けた。
攻撃を受けたのは第58任務部隊の第4、第3、第1任務群、補給船団である。
損傷艦にはインディアナポリスも混じっている。
インディアナポリスは敵機の捨て身の爆撃を受けた結果、後部の機械室と後部射撃指揮所に損傷を受け、
戦死26、負傷32人の損害を出した。  


368  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:25:56  [  D4VsWfLE  ]
この被害は左舷側のスクリューにも損傷を与え、推進器が捻じ曲げられてしまった。
そのため、しばらくは小刻みな振動が続いた。
マックベイ艦長が左舷のスクリューの運転を止めてからは、振動は収まったが、
速力が21ノットまで低下してしまった。
第1群には92機の飛空挺が進入してきた。この敵機群も最初はエスコート艦を狙ってきた。
一番攻撃が集中したのは、軽巡洋艦のオークランドで、実に30機もの敵機が襲い掛かってきた。
オークランドは機銃や高角砲を撃ちまくったが、最終的に急降下爆撃からの爆弾6発と、
低空からの爆弾5発を受け炎上した。
オークランドは被弾から45分後に転覆。戦死者194名、負傷者227名の損害を出した。
正規空母ヨークタウンには23機が向かい、高空から爆弾1発、低空から爆弾2発と、
左舷側中央部への体当たりを受けて中破した。
しかし、ヨークタウン艦長ジェニングス大佐からは、母艦機能は健在と伝えられているから、
戦闘力は維持している。
ホーネットには低空から左舷前部舷側に爆弾1発が食らわされたものの、小破に留まっている。
一方、補給部隊には、ブリュンス岬方面から飛来したと思われる100機の飛空挺が襲い掛かった。
だが、護衛空母から発艦した60機のFM−2ワイルドキャットによって片っ端から叩き落され、
最終的に1機が給油艦ミシシネワに体当たりし、これを道連れにした。
バーマント機に体当たりされた不運なミシシネワは、大爆発を起こして爆沈。
戦死者は64名、負傷者87名を出した。
この100機の飛空挺は、FM−2の迎撃と、補給船団の対空砲火によって全て撃墜されている。  


369  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/30(火)  22:28:40  [  D4VsWfLE  ]
しかし、一番損害を出したのは第4群である。
エセックス級初の喪失艦となったランドルフは艦長以下289人が戦死。
左舷側に13発の直撃弾を受け、復旧活動も危険とみなされて中止。
午後1時30分に左舷側に転覆し、沈没している。
いくら頑丈なエセックス級空母とえども、一度に13発もの直撃弾を受けてはひとたまりも無かったのである。

「損害が大きすぎるな。まさか、正規空母にまで損害が及ぶとは。」
デイビス参謀長が頭を抱えながら言う。
「一気に多数の敵機が襲ってきたのだ。濃密な対空砲火を以ってしても、決して万全とは言えぬ。」
スプルーアンスは表情を変えずに、一句一句に重みを乗せて言い放つ。
「確かに機動部隊も無視できぬ損害を負っている。だが、空母の中で沈没艦はランドルフ1艦のみで、
戦闘不能に陥った空母もエンタープライズのみだ。他は全て母艦機能を有している。
逆に、来襲して来た敵機の大半を叩き落し、600機以上一大航空部隊を壊滅させる事が出来た。」
実際、この戦果はごり押しで生まれたようなもので、敵機が今日のように多数で、
しかも高空、低空と別々に分かれていなかったら、投弾前に撃墜できた敵機は多くなる。
それに対空砲火は分散されたものの、米艦隊の統制射撃は見事に機能し、多くの敵機を叩き落している。

「結果的には、ランドルフを始めとする5隻が沈んでしまった。しかし、今回の戦闘で
少なめに見ても400機、いや、500機以上の敵機を撃墜した。それに比べて、
我が機動部隊には依然として、正規空母7隻、軽空母7隻を保有しており、
艦載機も800機以上を保有している。
諸君、我々はこの航空戦に負けてはいない。むしろ勝った、と言うべきであろう。」  


386  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:28:23  [  D4VsWfLE  ]
9月30日  午後4時50分  ギルアルグ第3飛行場
残されたのは、破壊された建物と、穴だらけにされた滑走路。
そして戦闘能力を失った空中騎士団・・・・・・・
第21戦闘空中騎士団の中隊長、アルヴェンテリー中尉は、周りを見てそんな事を思った。
アルヴェンテリー中尉は、午前に行われた空中騎士団の総攻撃に参加し、米機動部隊の艦載機、F6Fと渡り合った。
アルヴェンテリーは戦闘飛空挺が最初に開発された時、テストパイロットを勤めていた。
その技量を買われて、彼は第21戦闘空中騎士団の第4中隊長に任命された。
だが、後から入ってきたパイロットは技量が低く、戦闘飛空挺の操縦を思うように出来ないでいた。
そんな中、米機動部隊来襲の報が入ってきた。
第21戦闘空中騎士団は、当初は技量未熟者を除いた100機で出撃する予定であったが、
急遽、上層部から技量向上剤と言われた薬を配布され、技量未熟者にも分け与えるように命令された。
この技量向上剤は、バーマントが能力アップの魔法を加工して薬に転化したもので、
既に生産が始まっていた。
だが、この技量向上剤は、飲んだ後は確かに技量は格段にアップするが、任務後に強烈な頭痛が襲い、
半日は完全に動けにくくなると言う欠陥を持っている。
これを何十錠と飲んで行くと、しまいには精神が崩壊すると言われている、いわく月の薬でもあった。
しかし、状況は逼迫しており、エリラはやむなく、この薬を全空中騎士団の技量未熟者に配布するように命じたのである。
この薬のお陰で、本来は6割程度しか出撃できなかった飛空挺の数が、フル出撃できるまでになった。
そして670機の飛空挺集団は、空母ランドルフを始めとする正規空母、戦闘艦艇を10隻以上に撃沈、撃破。
あるいは損害を与える戦果をあげた。
アルヴェンテリー中尉も、1機のF6Fを撃墜する戦果をあげた。  


387  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:30:15  [  D4VsWfLE  ]
だが、代償も大きかった。
米機動部隊の迎撃は、こちら側の攻撃が激しくなる分、それに比例するかのように激烈なものとなった。
帰還機はわずか100機・・・・・
そして、大損害を与えたはずの米機動部隊からの空襲・・・・・・・
これによって帰還機の大多数が地上で木っ端微塵に吹き飛び、穴だらけにされた。
「この戦いは、俺たちの負けだな。」
彼は愕然とした表情でそう呟いた。
空襲の惨禍はこれだけに留まらず、帰還して、技量向上剤の副作用に苦しんでいた、
新人兵が寝込んでいた宿舎にも容赦なく爆弾や機銃弾が叩きこまれ、多くのパイロット
が避難する間もなく死んだ。
これでは技量向上剤に殺されたも同じである。
「釣り合わない・・・・・・いや、敵が上手すぎるんだ。」
彼は空を仰いだ。今日の航空戦で多数の血が流れ、損害を与えた米機動部隊も今だ健在。
そして航空基地の壊滅・・・・・・・・・
「もはや、地獄だ。」
彼の内心に、絶望的な思いが、ふつふつと沸き立ち始めた。

9月30日  午後7時  魔法都市マリアナ
「飛空挺640機を敵機動部隊攻撃に駆り出して、大型空母2隻、中型艦6隻撃沈、
そして大型空母2隻、小型空母1隻大破、護衛艦艇も5隻撃破・・・・・・」
エリラは、自室に持ち込まれた報告書に目を通していた。
「そして、670機中、帰還機は・・・・・・100機。」
エリラは思わず目を覆ってしまった。
「敵空母を6隻撃沈して見せるって言ったくせに、戦果が少なすぎるわ。」
エリラは報告書を床に投げ出すと、椅子にふんぞり返った。
今日の午前から午後の始めに、グランスボルグ地方に駐留する
第19、第21戦闘、第22、第23、第24、第25の6つの空中騎士団は、
偵察機と、海竜隊が発見したアメリカ機動部隊を、ギルガメル諸島から西に180マイル、
ブリュンス岬から北東80マイルの沖で集中攻撃を加えた。
これは空中騎士団が創立されて以来、始めての大航空作戦で、
グランスボルグ地方の空中騎士団を統括する第12航空軍では、
最低でも空母は5隻か、6隻は撃沈できるであろうと見込んでいた。  


388  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:32:05  [  D4VsWfLE  ]
「これなら、あの忌々しい機動部隊も以降の攻撃をためらうわね。」
空中騎士団の作戦をきかされたエリラも、大戦果を期待していた。
だが、現実は残酷だった。
念願の敵大型空母撃沈は果たせたものの、暫定ながら、撃沈が2、大破が3隻・・・・・・
暫定だからこの撃沈、撃破数は信用できないと、エリラは確信している。
彼女は、せいぜい空母は1隻撃沈、2隻大破と思っている。
そして、こちらは570機の飛空挺を撃墜されてしまった。
おまけに合流前だった第5艦隊が敵機動部隊から飛来してきた攻撃隊によって、
重武装戦列艦3隻、中型戦列艦2隻、小型戦列艦4隻が撃沈され、2隻が戦闘不能に陥っている。
その第5艦隊は残存艦艇を率いてどこかに逃げてしまった。
おかげで、第6艦隊は単独で米艦隊と戦う事になる。
被害はそれだけではない、空母を5隻撃沈破されたはずのアメリカ機動部隊は、
報復攻撃をギルアルグの飛行場に対して行った。
午後3時50分に戦爆連合160機、午後4時10分に戦爆連合130機が来襲、
激戦で翼を休めていた戦闘飛空挺、攻撃飛空挺のほとんどが破壊された。
アメリカ艦載機の攻撃は凄まじく、ギルアルグにあった3つの飛行場は全てが破壊された。
これだけの犠牲を払ったにもかかわらず、敵機動部隊は依然健在である。
「父上の気持ちが、少しは分かったような気がするわね。」
エリラはそう言うと、髪をかきむしる。
「とりあえず、打撃を与えられた事が、唯一の救い・・・・・か。」
エリラは窓を眺めた。空は既に日が落ちかけており、赤く染まっている。
それは、今日1日の決戦で流れた両軍の将兵の血で塗り固められたかのように、赤い。
(下手をしたら、あたし自身もあのように、血の海に倒れるのかしら・・・・・)
エリラはそう思った。
「縁起でもない!あたしは目的を果たす。まだ、望みが絶たれたわけでもない。」
まだ新鋭艦揃いの第6艦隊がいる。あの艦隊なら、きっと・・・・・・・
エリラは残り少ない望みに思いをかけた。  


389  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:33:52  [  D4VsWfLE  ]
午後8時40分  ブリュンス岬より西120マイル地点
第58任務部隊は、損傷艦や兵員を乗せた艦艇を後方の補給艦隊に預けると、
午後3時50分に再び進撃を開始した。
まず、軽空母のアベンジャーを中心にした飛行場攻撃隊を発艦させたあと、
敵艦隊攻撃に帰還してきた攻撃隊を再び敵地に送り出した。
午後7時40分までには全機が帰還し、艦隊は再び針路を西に取り始めた。
第5艦隊司令部は、損傷したインディアナポリスを後方に引き下げた代わりに、
戦艦のワシントンに将旗をかかげ、前線での指揮をとり続けた。
「長官、そろそろ決戦部隊を抽出したほうがよろしいかと思われますが。」
「うむ、いいだろう。」
デイビス少将の提案に、スプルーアンスは頷く。決戦部隊の陣容は既に決まっていた。
午後4時10分に、ホーネットから発艦したヘルダイバーが、西南400マイル地点に
新たな艦隊を見ゆとの報告を送ってきた。
それは継戦派の第6艦隊で、合計25隻の陣容で成っている。
その艦隊の針路は東、つまり、第58任務部隊に向かっていた。
これに対し、スプルーアンス大将は対抗部隊を各任務群から抽出することに決め、
この対抗部隊を持って継戦派艦隊を迎撃する構えを取った。
「それにしても、我々は今日1日で手痛い損害を受けてしまったな。
新鋭空母のランドルフの他に、歴戦の戦闘機パイロットも失ってしまった。」
午後に行われた飛行場攻撃の際、米側は290機の艦載機を送り込み、ギルアルグ周辺の航空基地を壊滅させた。
米艦載機が襲来して来た際、バーマント側も生き残った戦闘飛空挺30機をもって迎え撃ったが、
逆に20機が撃墜されてしまった。
270機中、敵戦闘機や飛行場側の対空砲火で、24機を失った。
24機の犠牲と引き換えに、20機を撃墜、70機を地上撃破、飛行場を壊滅したのだから、損害は軽微と言える。  


390  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:35:26  [  D4VsWfLE  ]
だが、未帰還機の中には、エセックスの戦闘機隊長であるデイビット・マッキャンベル中佐も含まれていた。
エセックスの乗員は大きなショックに見舞われたが、士気は依然として旺盛であった。
ドラゴンスレイヤー作戦は成功しつつある。だが、予想内とはいえ、被害が大きすぎる感もある。
「いくら損害を抑えようとしても、必ず出てしまう・・・・・・・戦争とは難しいものだ。」
スプルーアンスは複雑な表情を浮かべながらも、コーヒーをすすった。
コーヒーの味はほろ苦く、彼の心境を表しているかのようだった。

午後9時10分、各任務群から派遣された第7群の艦艇と、抽出された艦艇が集結した。
一方、第58任務部隊は針路を一旦東南に取り、万が一の事態に備えた。
対抗部隊の陣容は、戦艦アイオワ、ニュージャージー、アラバマ、インディアナの4戦艦。
重巡洋艦サンフランシスコ、ボルチモア、ボストン、軽巡洋艦クリーブランド、サンタフェの5巡洋艦。
駆逐艦ゲスト、ヤーノール、バグリー、マグフォード、パターソン、フラム、カニンガム、ハドソン、
ハルフォード、ストックハム、トワイニング、ザ・サリバンズ、デューイ、ルイス・ハンコックの14駆逐艦。
計23隻が継戦派艦隊を迎え撃つ。
敵側も重武装戦列艦5隻、中型戦列艦6隻、小型戦列艦14隻だから、戦力的にはほぼ互角であろう。
後はそれぞれの個艦性能と、乗員の腕前が明暗を分ける。
対抗部隊の司令官はアイオワ座乗のウイリス・リー中将が取ることになっている。
会敵予想時刻は、午後10時と見込まれていた。
9月31日午前3時  ブリュンス岬沖西北270マイル沖
「レーダーに反応!敵艦隊確認せり!距離25マイル!」
アイオワのSGレーダーが、バーマント継戦派艦隊を発見した。
「砲戦用意!」
アイオワの艦橋で指揮をとるウイリス・リー中将は明瞭な声で命令を発する。
前部の主砲塔が動き、仰角がかけられる。
「敵艦隊、速力23ノット。反航する形で接近してきます。」  


391  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:36:32  [  D4VsWfLE  ]
「速力上げ、28ノット。」
「速力28ノット、アイアイサー。」
これまで24ノットで航行していた艦隊が、28ノットの速力にあがる。
「距離20マイルで砲戦を開始する。」
「距離20マイル、ですね?」
「そうだ。」
幕僚の問いに、リーは即答する。
艦首が波を切り裂く。波しぶきが湧き上がり、艦首甲板に海水が降りかかる。
「敵艦隊との距離、23マイル」
CICから機械的な声が流れてくる。リーにとって、3回目の砲撃戦だ。
以前はアイオワ1隻で、敵の戦艦クラス5隻を相手にするという不利な態勢だった。
増援のサウスダコタとワシントンが来るまでに1隻を撃沈し、1隻を大破、停止させたが、
アイオワ自身も後部主砲を損傷され、左舷側をメチャククチャに叩き壊された。
結果、アイオワは大破の判定を受けている。
(前はやや心細かったが、今回はアイオワの他にも3隻の戦艦がいる。
個艦性能では勝っているから、圧勝できるかもしれない。)
リーはそう思った。
それに艦隊全体の数も、それほど差がついていない。圧勝の見込みは十分にある。
「敵艦隊との距離、22マイル」
敵艦隊との距離が徐々に縮まってくる。
米艦隊はアイオワを先頭にニュージャージー、アラバマ、インディアナ、そして5隻の巡洋艦の順で
単縦陣を作っており、両翼に駆逐艦が7隻ずつ展開している。
それに対し、敵艦隊は2個の単縦陣でこちらに向かっている。
「敵艦隊より一部が分離!数は20隻。あっ、さらに6隻と14隻に分離!我が艦隊の左右に回り込む恐れあり!」
「まずは巡洋艦、駆逐艦で包囲か・・・・よし、こちらも巡洋艦部隊と駆逐艦部隊を分離だ。
駆逐艦部隊は右舷方向に迂回しつつある敵小型艦群、巡洋艦部隊は左舷の中型艦群を迎え撃て!」
リーの指示のもとに、巡洋艦部隊、駆逐艦部隊がそれぞれの獲物に向かって分離して行った。  


392  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:38:38  [  D4VsWfLE  ]
「アメリカ艦隊も補助艦を分離しました。」
重武装戦列艦ゲルオールの艦橋に、年季の入った声が響く。艦内は灯火管制で真っ暗である。
ゲルオールの外見は、これまで3本煙突だったものが2本煙突になっており、
艦橋はザイリン級のより高く、先鋭的に見える。
現世界で似ている船を捜せば、イタリア海軍のリットリオ級に少し似ている。
「アメリカ人も邪魔者を取っ払いに行かせたか・・・・・後は我々と、敵の主力艦の直接対決だな。
魔道師、今回は大丈夫かね?」
「はい。今回は、コレで魔力増幅を行っておりますから、敵弾の7発や8発ぐらい受け止められます。」
その言葉に、第6艦隊司令長官のイルフェルム・エレゲルス大将は頷いた。
「我々は継戦派最後の望みだ。エリラ殿下のご期待に沿えるよう、派手に暴れまわろうではないか。」
「そうですな。空中騎士団の攻撃は不本意に終わりましたが、我々が代わりに敵空母を仕留めてやりましょう!」
幕僚達の威勢のいい言葉が次々とあがる。
「そのためにも、この迎撃部隊は撃滅しなければならん。諸君、訓練の成果を発揮する機会だ。存分に撃ちまくろう。」
その間にも、米艦隊と継戦派艦隊との距離は縮まりつつある。
「閣下、敵艦隊まで約32キロ地点まで迫りました。」
「よし、取り舵一杯!敵艦と同航戦で決着をつける。その前に、照明弾を撃て!」
「了解!」
それからしばらくして、第1砲塔の1番砲から照明弾が放たれた。ややしばらくしてぱあっ光がきらめいた。
光の下には、うっすらと、小さくだが、米戦艦の姿が見える。
「敵艦確認!主砲射撃用意!」
ゲルオールの35・9センチ砲の射程距離33200メートル。
航続のザイリン級2隻は30900メートルである。
しばらくして、米艦隊も針路を変更し、バーマント艦隊に同航し始める。
あえて乗ってきたのである。  


393  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:39:55  [  D4VsWfLE  ]
「艦隊の回頭、終わりました!」
「敵艦との距離、32000メートル!」
「射程内だな。」
エレゲルス大将はぼそりと呟く。
「主砲発射準備完了!いつでも撃てます!」
その時、右舷後方の海面から閃光が走った。それは米戦艦の砲撃ではない。
「中型戦列艦群が敵艦と交戦開始!」
「よし、こっちも始めよう。射撃開始ぃ!」
エレゲルス大将は号令を下した。次の瞬間、ズゴオーン!という轟音が鳴り、ゲルオールの8つの主砲が吼えた。
それと同時に、米戦艦がいる方角でも主砲発射と思わしき閃光が広がった。
今回は、双方が同時に発砲すると言う珍しい展開である。
やがて、砲弾の空気を切り裂く音が聞こえてきた。
「来たぞ。」
誰かが小さな声で呟く。
やがて、その音が極大に達した、と思った時、左舷側の海面に3本の水柱が立ち上がった。
砲弾はゲルオールの右舷700メートルの位置に落下し、16インチ砲弾の水中爆発の衝撃波が、ゲルオールをゆさぶる。
今までに経験したこの無い揺れに、誰もが驚きの声を上げる。
「弾着!」
こちらの砲弾も敵艦隊のほうに着弾した。砲弾は敵艦の位置より左舷側に遠ざかっている。
「近1700」
米戦艦が右舷600メートルの距離に着弾させたのに対し、こちらは1700メートル。
「最初の弾着にしては、かなり近いな。」
エレゲルス大将は、米戦艦の射撃精度にやや驚いた。
両艦隊は同航しているものの、距離は詰まりつつある。
「敵艦との距離、30000メートル。」
航続のザイリン級2隻も33・8センチ砲を撃ち始める。
先の弾着から30秒も立たぬうちに、早くも次の砲弾が落下してきた。
7秒後に今度は左舷側600メートル付近の海面に3本の水柱が立ち上がった。
「見たまえ、あの水柱を。敵艦の大砲は、35・7センチ以上は確実にあるぞ。」
エレゲルス大将は、水柱を指差しながらそう呟く。  


394  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:41:38  [  D4VsWfLE  ]
ドーン!と、第2斉射が放たれた。その時には敵戦艦は第3射を撃った。
左舷側500メートル付近に再び大水柱が吹き上がる。
その間から、米戦艦の左舷側に、うっすらとだが水柱が立ち上がるのが分かる。
「弾着!近1800!」
「さっきよりも悪いぞ。しっかり狙わんか!」
艦長の叱咤が響く。
「参謀長、敵艦には9門の大砲があるが、水柱は我が艦の周囲に3本しか立っていない。
主砲が故障しているのか?故障している割には、発射速度が速いな。」
「私の推測ですが、恐らく、敵艦は3門の主砲塔から1門ずつ、
交互に撃っているのではないでしょうか。一斉射撃よりも弾数は少ないですが、
発射速度は速いです。」
「なるほど・・・・・だから我が艦よりも早く撃てるのか。」
ゲルオールは45秒ごとに1回の斉射が出来るが、米戦艦はその間に2回撃って来ている。
参謀長の推測どおり、アイオワは3門の主砲塔を、まずは弾着観測を兼ねながら交互撃ち方で始めた。
「恐らく、交互に撃ってから、正確に修正したあとに、一斉射撃に切り替え、
それから決着をつけようとしているのかもしれません。」
「なるほど。厄介な相手だ。」
参謀長の言葉に、エレゲルス大将は納得したような表情を浮かべる。
その間にも、米戦艦の砲撃は次第に精度が良くなってきている。
第3射の砲弾は、ゲルオールの300メートル手前に着弾し、ゲルオールを大きく揺さぶった。
そして第4射目はゲルオールを飛び越えてしまったが、それでも400メートルの海面に突き刺さった。
「畜生、次第に正確になってきたぞ。」
エレゲルス大将は舌打ちをする。ゲルオールの主砲が第3斉射を放った。
その4秒後に米戦艦からも第5射が放たれる。
「弾着、今!」
敵1番艦の左舷800メートル付近に8本の水柱が立ち上がる。
「近800!」
こちらの射撃も少しずつ良くなってきている。エレゲルス大将がそう安心した時、米戦艦の砲弾が落下してきた。  


395  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:49:20  [  D4VsWfLE  ]
それも、今までのよりも大きな音だ。
次の瞬間、周囲に3本の水柱が立ち上がり、ゲルオールは大きく揺さぶられた。
「て、敵弾が本艦を夾叉しました!」
アイオワの第5射はゲルオールの右舷に2本、左舷に1本の水柱を立ち上げた。
「むむ・・・・これは少々、いや、かなりやばくなって来たぞ。」
思わず眉をひそめる。こっちの砲撃はやっと1000メートル以内に入ったのに、米戦艦は既に夾叉弾を得ている。
これが何を意味するかは、彼らは知っている。そう、近いうちに直撃弾を受けてしまう。
その可能性は今、非常に高くなった。
敵艦がさらに第6射を撃った。この時、両艦隊の距離は28400メートルまで縮まっている。
ゲルオールも負けじと、第4斉射を放った。弾着を確認する前に敵艦の砲弾が落下してきた。
今度は1発が右舷、2発が左舷に落下した。
水柱が晴れると、米戦艦の左舷側にも水しぶきが吹き上がる。
「近500!」
「こっちも着実に精度をあげている。この調子なら大丈夫だろう」
頷きながらそういった時、何度も聞いた音が向かってきた。それも、今まで聞いたことの無いほど、音がでかい。
「これは・・・・危ないな。」
エレゲルス大将がそう呟いたとき、突然ゴーン!という衝撃が走った。
バアーン!という音が同時に鳴る。まるで何かが耳元で破裂したような音だが、これは魔法防御が作用した証拠でもある。
「敵弾1、右舷中央部に命中!損害なし!」
魔法防御によって、敵弾のパワーはその場に食い止められ、艦は揺さぶられただけで損傷が無い。
「敵に先手を取られたか!」
今まで冷静にしていたエレゲルスも、やや顔をしかめる。
再び主砲が吼える。
その1秒後に米戦艦も主砲弾をぶっ放す。後続の艦もそれぞれの目標に向けて主砲を放つ。  


396  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:50:47  [  D4VsWfLE  ]
「ウロンズが命中弾を出しました!」
4番艦のウロンズが敵艦、サウスダコタ級戦艦の最終艦であるアラバマに砲弾を命中させた。
砲弾は1発が左舷の2番両用砲に命中し、その両用砲を粉砕した。
命中箇所から火災が発生し、アラバマの艦影がぼんやりと浮かび上がる。
だが、アラバマは大して傷ついておらず、命中弾を浴びせた不遜なウロンズに対し、
更なる砲火を浴びせている。
米戦艦の砲弾が落下する前に、こっちの砲弾が着弾する。8つの水柱が立ち上がる。
その水柱のうちの1本が、アイオワの右舷側に立ち上がった。
「夾叉を得ました!」
「ようし、いいぞ!」
その直後に、アイオワの主砲弾が着弾し、再びゲルオールが揺れる。
「後部に命中するも、損傷なし!」
「そうか、まだ魔法防御が効いているうちに、砲弾を叩き込まんとえらい事になる!
砲術、もう少しだぞ!」
艦長が、伝声管の向こうの砲術科を叱咤する。
それから30秒後に第6斉射が放たれる。そして、
「弾着!敵艦に1弾命中!」
艦橋がわあっ!と歓声に包まれる。砲弾命中の戦果を聞いて、自然と砲術科員の動きも早まる。
「変だな。25秒おきに敵艦は大砲をぶっ放してきたのに、急に静かになりよった。」
「恐らく、一斉射撃の準備をしているのでしょう。こっちは既に2発食らっています。
弾道計算が的確だと判断して、一気に砲弾を叩き込んで、カタをつけるつもりでしょう。」
参謀長が言葉を終えた直後、暗闇の向こうが急に明るくなった。
先の発砲炎とは比べものにならない明るさである。
(敵が一斉射撃をやったな)
エレゲルスはそう思った。そして、その思いは現実のものとなった。
先のものとは比べ物にならない轟音が空から降ってきた、と思った瞬間、
ゲルオールの周囲に砲弾がドカドカと落下した。  


397  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:51:40  [  D4VsWfLE  ]
その中で、2度の着弾音があった。
「うっ・・・・・」
衝撃に揺れる中、後ろで苦しそうな声が上がる。
この艦に乗り組んでいる魔道師が、不意にうめき声を上げている。
「大丈夫かね?」
「は、はい。大丈夫です。」
魔道師はそう言うが、顔はやや青い。魔道師は魔法防御を展開させている時は相当な体力を必要とする。
そして、魔法防御を展開させている時に何らかの砲撃を受けると、魔道師の体に刺激が走る。
その刺激に耐えられなくなると、魔道師は魔法防御を展開する魔力がなくなってしまい、
数日は使い物にならなくなってしまう。
今回は、魔力を増幅する指輪をつけているため、4発を被弾してもまだ魔法防御を展開しているが、
第3次サイフェルバン沖海戦では、魔力増幅指輪をつけていない魔道師が、
16インチ砲弾2発を食らっただけで魔力に限界が生じ、魔法防御を維持できなくなっている。
ゲルオールも斉射を撃った。
米戦艦もゲルオールが撃った20秒後に新たに撃ち返して来る。
続々と立ち上がる水柱の中に、2つの閃光が光る。
「2弾命中!」
その15秒後に、今度はアイオワの砲弾が3発叩き込まれる。
45秒立って新たな斉射が放たれ、その後に米戦艦が撃ち返す。
「斉射の発射速度も、あちら側が5秒か6秒ほど速いな。」
エレゲルスは苦い表情でそう言う。
「2弾命中!」
と、その時、またもや被弾の衝撃がゲルオールを揺さぶる。
魔法防御が作用する音が海面に木霊した。  


398  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:53:22  [  D4VsWfLE  ]
その時、後ろでドサッという音がする。振り返ると、魔道師が顔を真っ青にして倒れている。
魔力が尽きたのだ。そして体力も同様に尽きている。
「おい!急いで医務室に運べ!」
艦長が他の兵に命じ、2人の兵が倒れた魔道師を持って艦橋から消えていく。
「敵弾4発命中!されど被害なし!」
見張りの報告が入る。これで、ゲルオールは11発砲弾を受けている。
だが、既に魔法防御を敷く魔道師は倒れ付し、既にこの艦に魔法防御は無い。
後は、自艦の持つ装甲が頼りだ。
お返しにと、ゲルオールも第9斉射を放つ。
「敵4番艦、火災拡大!」
敵4番艦、アラバマの左舷の火災が酷くなった。
アラバマは既にウロンズの魔法防御を打ち破り、ウロンズの第2砲塔を叩き潰していたが、
敵はウロンズだけではない。
バーマント側には5番艦のロンボストがおり、ウロンズと共にアラバマを砲撃している。
アラバマが9発撃つと、相手は16発撃ち返してくるのである。
いくら新鋭戦艦といえども、劣勢になると戦いは苦しいものになる。
そしてアラバマは既に9発被弾しており、左舷側の両用砲、機銃座はほとんどが叩き潰され、
先の小火災がより一層ひどくなっている。
「ウロンズとロンボストも頑張っている。俺達も新鋭艦の名に恥じぬような戦いを見せなければ、
今日散っていた仲間達に申し訳が立たん!」
艦長は拳を振るいながら熱く語る。それに触発されたかのように、
米戦艦の周囲にも水柱が立ち上がり、弾着の閃光が走る。
「敵艦に命中3!あっ・・・・敵艦より火災発生!」
アイオワの左舷前部から、火災炎らしきものが上がっている。
ようやく手傷を負わせた、と思った瞬間、アイオワの放った斉射弾が落下してきた。
次の瞬間、ガガーン!というとてつもない衝撃がゲルオールを打ちのめした。
その凄まじい衝撃に、誰もが飛び上がり、壁に叩きつけられ、たちまち床を這わされる。
バーマントが威信をかけて作った最新鋭艦が、いまや頼りなく揺さぶられていた。
やがて揺れが収まる。
「敵弾、中央部付近に1発命中、第2、第3両用砲使用不能!」  


399  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:55:41  [  D4VsWfLE  ]
左舷に1本ずつ置かれている、バーマントが初めて製作した対空、対艦両用砲が
16インチ砲弾によってあっけなく爆砕された。

主砲弾は両用砲が置かれている最上甲板を貫き、第2甲板の通路で炸裂し、
周囲の区画を爆風が叩き壊し、めちゃめちゃにしてしまった。
ゲルオールも斉射で撃ち返す。そして少し経ってからいつものように米戦艦の周囲に水柱が立つ。
新たに3発が命中する。敵艦は左舷前部から火災を発生しているが、新たに中央部にも火災が発生し、
アイオワの姿がぼんやりと浮かび上がる。
「火災を発生しているのに、全く答えた様子が無いな」
艦長はアイオワの強靭な防御力に下を巻いた。
それもそうである。
本来、戦艦という艦種は、自艦と同等の主砲弾を受けても耐えられるような重装甲を施している。
アイオワの装甲は、日本海軍の大和級戦艦には劣る。
それでも40センチ砲弾には十分に耐えられるように設計されている。
当然、ゲルオールの主砲弾は、1発もアイオワのバイタルパートに入っていない。
連装両用砲3基と、40ミリ機銃座6基、20ミリ機銃9丁が叩き壊されているものの、
依然として3基の16インチ砲塔は健在であり、スピードも全く衰えていない。
「畜生、いくら叩き込んでも実感が湧かん!」
艦長は忌々しげにそう呟く。
だが一方で、航続のウロンズとロンボストは2対1でアラバマを叩いたのが功を奏したのか、
「敵4番艦からの砲火が減少!」
という報告が艦橋に入ってきた。エレゲルスは窓の右後方に視線を移した。
アラバマの左舷側の火災は、先と変わらず大きい。いや、むしろ広がっているようにも見える。
それに、前部2基の砲塔のうち、1基が砲を撃っていない。
「ウロンズとロンボストの奴ら、なかなかやりおるわい。」
エレゲルスは感嘆したように言う。その直後、またもやアイオワの砲弾がゲルオールに叩き込まれた。
先と似たような猛烈な衝撃が、ゲルオールを叩く。
「後部第3主砲塔に被弾!使用不能!」  


400  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/06/04(日)  14:56:59  [  D4VsWfLE  ]
魔法防御が切れて2分足らず。たった2分足らずで、ゲルオールは自身の命と同等な主砲塔を1基叩き潰されてしまった。
16インチ砲弾はゲルオールの第3砲塔の天蓋に命中すると、それをあっさり突き破って中で炸裂。
第3砲塔の中で作業していた17人の将兵は全員が粉々になった。
爆発は砲塔の天蓋に大穴を開け、砲の1門が海に吹き飛んでしまった。
「第3砲塔の火薬庫に急いで注水しろ!誘爆するぞ!!」
艦長が血相を変えた表情で喚く。しばらくして、
「注水完了!」
の報が届く。その間に放った斉射は1発が再びアイオワの艦体を捉え、破片を飛び散らせた。
その時、後方で何かがぱあっと光った、と思うと物凄い爆発音が海面を轟かせた。
この時の爆発は、アラバマと対峙していたウロンズが、第1砲塔に直撃弾を受け、弾火薬庫に誘爆した音だった。
ウロンズはたちまち第1砲塔と第2砲塔の間から艦体が千切れ、すぐにスピードを落とし始めた。
そして沈み始めるのも早かった。
「ウロンズ、戦闘能力喪失!」
先は明るい口調で報告を送ってきた見張りが、今度は悲鳴のような口調で報告する。
「ウロンズの仇だ!艦長、あの細長い敵艦を完膚なきまでに叩き潰すのだ!」
突然の寮艦の戦闘能力喪失に、エレゲルス大将の心は復讐心で一杯になった。
そこに、アイオワの砲弾が落下してきた。
三度、16インチ砲弾がゲルオールの艦体を容赦なく叩く。
「第1砲塔に命中弾、使用不能!」
「中央部に命中弾!缶室1基が損傷!」
アイオワの2弾目は右舷側中央部の装甲を叩き割り、第4甲板の第2缶室で炸裂し、缶室を使用不能にしてしまった。
この損傷で、ゲルオールは最高速度の25ノットを出す事が出来なくなってしまった。
「艦隊速度を22ノットに変更せよ!」
エレゲルスがすかさず命令する。