213  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:07:18  [  D4VsWfLE  ]
9月23日  午後11時40分  バーマント公国カルリア
目の前には、高々と聳え立つ城塞がある。
そう、この城塞こそ、現皇帝に疎まれ、粛清されたグリフィン第3皇子が収監されているカルリア監獄だ。
その城塞の所々には破壊された箇所や爆炎で撫で付けられた後がある。23日早朝の空襲によるものだ。
「全隊、止まれ!」
第232歩兵旅団はカルリアより南8キロのユウルリアからカルリア防衛の任を受けて転進してきた。
そして、ユウルリアに駐屯していた2個旅団は、1個旅団が23日午後までに南方に急送され、1個旅団が空襲によって戦力が減少している。
第232歩兵旅団は、エルヴィントに急送した1個旅団の代わりとして急遽カルリアに向かわされたのである。
(少々驚いた事もあったが、事は順調に進んでいる)
先頭を歩いていた第232歩兵旅団長、アレルグ・キリーファン少将はそう確信した。
顔つきは精悍で、日に焼けている。体はがっしりしていて、その腕っ節はなんら、若い精兵に劣らない。
止まれの指示を受けた旅団は、全員が行き足を止める。
かがり火がずっと奥まで続いている。7000人の将兵が、街道を埋め尽くしている。
「本日、我々は決起する!」
キリーファン少将の明瞭な声が響き渡る。
「今まで、我々は耐えてきた。現皇帝のどんな命令にも耐えてきた。だが、もはや、耐える時代は終わった。
味方を平気で見捨てようとする現皇帝を尊敬できるか?否!国民をうその情報でごまかすか?否!断じて否だ!!」
彼は拳を振り上げて、将兵に熱く語る。
「偽りが賞賛される時代は、終わったのだ!そして、我々は時代を作る!偽りが、そして愚考が賞賛されぬ時代を!
我々は、ただ今を持って、革命軍になる。我らの目的は、あの忌まわしき体制派の支配する、カルリアからグリフィン殿下を救う。
諸君!新たな時代は、我々にかかっている!勝利を、我らの手に!」
「「勝利を、我らの手に!!」」
旅団の兵は、一斉に気勢を上げた。目指すは、カルリア監獄。  


214  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:09:02  [  D4VsWfLE  ]
9月22日のエルヴィントは、米機動部隊の空襲によって大混乱に陥った。
午後1時までに200機の米艦載機が来襲し、施設や陣地などを壊しまくった。
午後には新たに300機の米艦載機が3波に分かれて来襲し、
大は司令部から小はエルヴィント岬の監視小屋まで、散々に暴れまわった。
米機動部隊はこれだけに留まらず、第4群の艦載機78機が北200キロのユウルリアまで来襲し、
ここでも傍若無人な銃爆撃を繰り返した。
ユウルリアの第232旅団は幸いにも人員の被害は無かったが、旅団の糧秣施設や倉庫などが叩き潰された。
他にもユウルリア南70キロのベイエリオにも米艦載機54機が来襲し、ここでもバーマント軍関係の施設を襲った。
ベイエリオでは、軍施設だけではなく、市庁舎も銃爆撃を受けた。
空襲を受けたのは午後4時で、市庁舎は既にもぬけの殻であったが、米軍機はこの装飾の入った市庁舎に容赦なく爆弾をぶち込み、
機銃弾を撃ち込んでただの巨大な粗大ごみに変えてしまった。
22日だけで、米機動部隊はバーマント本国の東海岸一体を荒らし回ったのである。
そして、その機動部隊の艦載機はこのカルリアにも現れた。
この敵偵察機は1時間ほど偵察して引き返していった。
翌日の23日、カルリア地方に第58、3任務群から飛び立った140機の攻撃隊が襲い掛かった。
カルリアには監獄の他に、飛行場と2個旅団の駐屯地、錬兵場がある
。米艦載機はまず、飛行場と第237騎兵旅団の駐屯地に襲い掛かり、滑走路と駐屯地に銃爆撃を浴びせた。
午前10時には第58.4任務群から発艦した120機の攻撃隊が別の旅団の駐屯地
(この旅団はエルヴィントに移送中)とカルリア監獄に襲い掛かった。
この空襲で、カルリア監獄に爆弾12発が落とされた。
このカルリア監獄を襲撃した部隊は、空母レキシントンのヘルダイバー12機と、ヘルキャット12機で、
18あった機銃座のうち、7つが爆弾で叩き壊され、8つがヘルキャットの機銃弾で制圧された。  


215  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:10:12  [  D4VsWfLE  ]
また、監獄敷地内にある1階建てのレンガ造りの処刑場と、監獄のシンボルでもある築30年の
巨大な木造の城門が1000ポンド爆弾によって破壊された。
カルリア地方を襲った米艦載機はこの2波だけである。

城塞の大正門の破片を片付けていたジリーグ・ピランツア中尉は、ふと、不審なものを見かけた。
監獄に繋がる道に、無数の黒い人影がある。
それらはかがり火を焚いて、淡々とした調子で向かって来ている。
「手伝いに来たんですかね?」
彼の部下の軍曹が、疲れたような表情で言ってきた。
城門の破片を片付ける作業は意外に難関だった。
木造で高さ4メートル、幅6メートルもある城門は頑丈な作りになっているはずだったが、
ヘルダイバーの1000ポンド爆弾は難なくこの頑丈そうな城門をぶち壊した。
実を言うと、ヘルダイバーの爆弾は城門から内側10メートル離れた機銃座を狙ったものであるが、
たまたま城門のすぐ前に着弾した。
爆風は凄まじいもので、たちまち厚さ60センチの城門は下部分が吹飛ばされ、大量の木屑をばら撒いた。
城門の修復作業をするにはまず、破壊された木造の扉を撤去し、破片を集めなければならない。
この作業は交代でピランツア中尉は2直目になる。
作業を開始してから2時間。だいぶ破片も取れ、城門の撤去作業も大詰めを迎えつつある。
そんな時に、不審な集団に出会ったのである。
「手伝いにしては・・・・・」
数が多すぎる。普通、道のずっと向こうまで人が埋め尽くすはずが無い。  


216  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:11:29  [  D4VsWfLE  ]
「人が多すぎだぞ。なんか怪しいな。」
ピランツア中尉はそう思った。
「そういえば、ユウルリアから第232歩兵旅団が来るらしいですよ。
なんでも、エルヴィントに移送された精鋭旅団の埋め合わせとかで。」
「ふーん。」
ピランツア中尉は適当に応える。
「全く、アメリカ軍の奴ら、やりたい放題やってくれたもんですよ。」
部下は憎憎しげにそう言う。不審な集団は、監獄まであと700メートルと迫っている。
「今日は家に帰って、恋人と一緒に夜を楽しもうと思ったのに。それが、こんな作業に追われるなんて。
敵の機動部隊もここに誰が収監されているかわかっちゃいるんですかね?」
「分かっていないから攻撃したんじゃないのか?まあ、敵さんが多くなかったから、被害が少なくてよかったけど。」
彼は収監者を思い出した。収監者は元王族のグリフィン・バーマントである。
そして視線を不意に向かってくる集団に向けた。
その時、彼の脳裏に不吉な思いがよぎった。
(もしかして、あの集団は、反逆者を奪還する兵力だとしたら)
相変わらず、不審な集団はゆっくりと向かっている。
あまりにも不審に思ったのか、完全武装の警備兵が20人ほど、門の前に立ちはだかった。
その時、
「「ウオー!!」」
という気勢を上げる声が聞こえた。その声に仰天した兵はみな、作業を止めて門の外に振り返った。
いきなり、集団が走り始めた。雄たけびを上げながら急速に門に(門跡と言った方がよい)迫りつつあった。
「止まれ!貴様達はどこの部隊か!!」  


217  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:12:24  [  D4VsWfLE  ]
警備兵が一斉に小銃を向ける。
しかし、集団は足を止めない。そして彼らが掲げている旗に思いがけない文字があった。
「革命」
その文字を見たピランツア中尉は背筋が凍りついた。
「あいつらは叛徒だぞ!!」
同じ文字を見たのか、部下が顔を真っ青にして叫んだ。警備兵が小銃を放った。
数人が撃たれて倒れ、あるいはよろける。
だが、手遅れだった。洪水の如く接近してきた集団は、立ちはだかっていた警備兵をたちまち蹴散らしてしまった。
小銃、長剣を振りかざした不審な集団は、あっという間に監獄内になだれ込んだ。
ピランツア中尉はあまりの恐ろしさにその場から逃げ去ろうとした。
だが、いきなり後ろから何者かに掴まれ、引きずり倒されてしまう。
転倒したピランツア中尉は唯一の武器であるナイフを取ろうとした。
だが、左の腰のナイフはあっさりと取り上げられてしまった。
彼を倒し、ナイフを奪った兵士は、彼の胸を踏みつけると顔面に小銃を向けた。
「降伏するか!?」
その男性兵士は物凄い剣幕で彼を睨み付けた。否と答えればすぐに殺す。そんな雰囲気が漂っている。
「わ、わかった。降伏する。」
そう言うと、ピランツア中尉は納得がいかないままうつ伏せにされ、両手を後ろ手で縛られた。
男の腕章には、第232歩兵旅団のマークがある。
この時、中尉は第232歩兵旅団が反乱を起こしたとようやく分かる事が出来た。
事件がおきてからわずか2分ほどの事である。  


218  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:13:23  [  D4VsWfLE  ]
第2連隊は監獄の東棟を占拠するように命じられていた。
カルリア監獄は、東棟、西棟に別れていて、それぞれが6階建ての建造物となっている。
各階には政治犯用の独房が40部屋あり、東棟、西棟合計で840名の囚人が収監できる。
この日は540名の囚人が収監されており、東棟には213名が独房に入れられていた。
監獄突入部隊は第1、第2連隊の計3000人。包囲部隊は第3、第4、第5連隊4000人である。
これに対し、監獄側は守備隊が1000人、警備兵が200人、計1200人しかいない。
それが各所に散らばっているため、監獄側は常に3倍近い敵を相手しなければならない。
第2連隊に所属する第2大隊の第6中隊は監獄の4階部分に突入しようとした。
先頭の兵が4階の警備兵詰め所に近づいた時、無数の銃弾が襲い掛かってきた。
先行していた2人が不意打ちを食らって倒れる。
残りはなんとか這って味方の元に引き返す。攻勢魔法の爆発の閃光が走り、幾人かが一時的に視力を失った。
ここの敵は意外に頑強であった。蟻一匹通さぬとばかりに、銃弾、攻勢魔法を浴びせてくる。
中隊長のエルフェルム中尉は、4階の敵が頑強に抵抗している事に何かが引っ掛かるような感じがした。
他の階でも戦闘が繰り広げられているが、どこも反乱側が押している。だが、ここの敵だけはある種の気迫が感じられる。
(なるほど・・・・・ここの階に殿下がおられるな)
エルフェルム中尉は確信した。
(ならば、それを打ち砕くのみ!)
彼はそう決意すると、後ろを振り返った。
「おい!例のヤツを持って来い!勇者からの贈り物だ!!」
彼の声に触発されて、1人の兵士が肩に担いでいた長い布を渡す。それを受け取ると、エルフェルムは布を取っ払った。  


219  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:14:47  [  D4VsWfLE  ]
それは、驚く事なかれ、米軍のロケットランチャーである。
実は移送前の21日に、ユウルリア沿岸に2隻の米潜水艦が秘密裏に接近していた。
アルバコアとガバラは、2艦合計で120個のロケットランチャーを、指導員つきでバーマント側の革命勢力に渡した。
指導員は捕虜から志願したバーマント人で、この作戦の前にロケットランチャーの使い方を米側の教官から習得していた。
そのロケットランチャーが、威力を発揮するときが来た。
「敵は100メートル前方の事務所にいます。結構腕の立つ奴がいますよ。」
「奴らも必死なのさ。」
エルフェルム中尉は部下が弾を込めるのを確認した。
「俺たちも必死だけどな」
彼はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべる。すぐに左に顔を向け、待機していた女性魔道師に顎をしゃくる。
意味を理解した女性魔道師は、左腕前に出し、呪文を唱えた。
呪文詠唱が3秒ほど続いた後、通路にボフッ、という音が鳴り、黄緑色の煙幕が現れた。
一瞬戸惑ったのか、向こう側から銃撃が止む。当然向こうも魔道師がいる。
魔法で作られた煙幕は当然打ち消す魔法を持っている。
その一瞬の隙を付くかのように、エルフェルム中尉はバズーカを構えた。
煙幕が打ち消されるまでわずか3秒。その間にバズーカの引き金を引くのである。一歩間違えれば、返り討ちにあう。
それを承知で、彼は構えた。肩膝をつけ、右肩にかつぐ。そして煙幕の彼方に向けて引き金を引こうとした。
その瞬間、煙幕がパッと消えた。
「食らえ!」
彼はそう叫ぶと同時に引き金を引いた。バシュウ!という音と共にロケット弾が撃ち出された。
エルフェルムはすぐに左の物陰に飛び退く。彼が立っていた場所に無数の銃弾が撃ち込まれる。
次の瞬間、ドーン!という轟音が鳴り響いた。
ガラスの割れるけたたましい音が鳴り、爆風が彼らの待機している所まで吹き荒れる。  


220  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:15:53  [  D4VsWfLE  ]
「突撃ぃ!」
螺旋階段で待機していた兵達が起き上がり、一斉に通路に踊りだす。
全力疾走で警備兵詰め所に突っ込む。
よろめきながら出てきた警備兵を味方兵が取り押さえて捕縛する。
警備兵詰め所には20人の警備兵、守備兵がいたが、ロケット弾の爆発で6人が死亡、14人が負傷していた。

「指揮官!首都から通信であります!」
4階の奥に立てこもる部隊の指揮官に、魔道師が書いた通信文を渡す。
「直ちに、グリフィン・バーマントを・・・・処刑せよ。発、グルアロス・バーマント皇帝」
指揮官は頷くと、残りの部下12人を見渡した。
「これより、反逆者の処刑を行う!これは、皇帝陛下直々の命令である!」
カイゼル髭の指揮官は威圧するかのように大声で言う。突然の事態に、誰もが唖然とする。
今、カルリア監獄は未知の勢力に襲撃されている。
既に4階の第1防御線は突破されている。今は第2防御線が踏ん張っているが、敵は圧倒的多数である。
いずれ押し切られるのは目に見えている。
それに、この急な命令文、もしかして、首都まで反乱勢力に襲われているのだろうか。
恐らくそうだろう。そうでなければ、こんな急な命令は送りつけてこない。
「わかりました皇帝陛下。貴方への最後のご奉仕、しかとやらさせていただきます。」
指揮官はそう言うと、部下達を率いてとある独房に向かい始めた。
向かう独房は、グリフィン・バーマント収監されている独房である。
(もはやバーマント皇の公国は無くなるだろう。だが、自分は皇帝陛下に忠義を尽くした身。
それならば、私は最後の最後まで、皇帝陛下の言うとおりにしよう)
指揮官は昔からバーマント皇の対外政策に賛成だった。
彼は30年前の戦争で、12歳のときに両親を亡くしていた。  


221  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:17:02  [  D4VsWfLE  ]
その時から、彼は大陸を統一さえすれば戦争は無くなると思い込んでいた。
その事から、本来の仕事。反乱者の死刑執行は嬉々として行っていた。
「公国の素晴らしき政策に反するものに必要なのは牢獄ではない。死である。」
指揮官は常日頃からそう公言している。
そしてこの時も、最後の“仕事”をこなすべく、独房に向けて歩みを重ねていた。
(皇帝陛下の政策に一番反対し、挙句の果てに反乱者と手を結び、国家転覆を図った反逆者、
グリフィン元殿下を処刑できるとは、私の最後の仕事にこれほどふさわしいものはないだろう。
皇帝陛下、感謝いたしますぞ)
指揮官はそう心の中で呟くと、不気味な笑みを浮かべていた。
指揮官、殺人狂のヴレルのあだ名で呼ばれるヴレンデルス大佐はグリフィンの独房が見えるのを、今か今かと待っていた。
左の角を曲がれば、グリフィンの独房はすぐそこである。
角を曲がった。そして待望のときがやってきた、と思った時、少々意外な光景がそこにはあった。
独房の前には、監獄副長のルワイス・エルレイドと付き添いの女性秘書と男性魔道師がいた。
「やあヴレンデルス大佐。」
「これはこれは、エルレイド副長。どうしてこのような場所へ?」
「ああ、実はな。中の反逆者を処刑せよと私の魔道師に陛下からの直接命令が来たのだ。」
「なるほど・・・・・副所長。その仕事は我らにお任せ願い無いでしょうか?」
「仕事か。うむ。」
エルレイド副長は頷いた。ヴレンデルス大佐らは再び歩き始めた。独房まであと3メートルの位置に来た。
その時、前の通路から味方の兵が、慌しくやってきた。どれもこれも、顔が酷く汚れている。
「副長、すぐに・・・・」
「・・・・そうか。わかった。」
ヴレンデル大佐は第2防御線から逃げてきたなと思った。その兵士達は第2防御線で見かけた事がある。
(おそらく、脱出を促そうとしているのだろう)  


222  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:18:21  [  D4VsWfLE  ]
彼はそう確信すると、その兵士達に顔を向けた。
「脱出もいいが。私達は最後にもう一仕事をやらねばならんのだ。だから少しばかりでよい。時間を稼いではくれないか?」
「・・・・・・分かりました。」
兵士達の指揮官らしい先頭の男が頷いた。
(これで、最後の仕事を終わらせられる)
そう思った瞬間、いきなり兵士達がヴレンデル大佐らに飛びかかった。大佐は指揮官の男に思い切り顔面をぶん殴られた。
いきなりの不意打ちに、彼らはなすすべも無く叩きのめされた。数は大佐らが13人、兵士達が7人と優勢であった。
だが、まさか味方が殴ってくるとは思わなかった。彼らは味方だと思って安心しきっていたのだ。
しかし、それはとんでもない間違いだった。ヴレンデル大佐らは、縛り上げられる時に彼らが敵だと確信した。
しかし、時既に遅し。
13人はわずか1分も経たないうちに全員が床を這わされる結果となった。
「くそ、貴様ら!これはどういうことか!?」
左頬を赤く腫らしたヴレンデル大佐が彼らを睨みつける。
「どういうことだと?」
副長がせせら笑う。
「つまり、こういうことなのだよ。」
副長は独房の鍵を開けた。
中から、粗末な囚人服を着た金髪の若い男が、のっそりと現れた。
「殿下、お待たせいたしました。」
副長と、秘書、男性魔道師、そして兵士達は肩膝を地面に付け、右手を胸につけて頭をたれた。
グリフィンはあたりを見回した。10人ほどの男が縛り上げられ、それ意外が自分に対して頭をたれている。
「貴方達が、僕を助けようとしたのですね。」
「はい。その通りであります。」
副長のエルレイドが顔を上げた。気がつくと、銃声は4階から鳴らなくなっていた  


223  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:20:12  [  D4VsWfLE  ]
午前0時20分  エルヴィント岬沖北東160マイル沖
スプルーアンス第5艦隊司令長官は、個室で眠っていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
最初は遠くから聞こえるようであったが、徐々に鮮明になってくる。
目を開けたスプルーアンスは、ドアの向こうに答えた。
「入れ。」
その声が聞こえたのだろう、ドアの向こうの主が失礼しますと言ってくる。
ドアが開かれ、廊下の薄明かりが長官公室に差し込む。
入ってきたのはアームストロング中佐である。
「長官、緊急信が入りました。」
「読んでみろ。」
スプルーアンスは姿勢を起こした。
「レキシントン搭載のアベンジャーからです。我、カルリア監獄で暴動らしきものを確認せり、以上であります。」
「そうか。革命勢力がついに決行したか。」
スプルーアンスは珍しく、満足そうな表情を浮かべた。

話は少し遡る。
9月20日、突如、降伏してきた6人のバーマント兵はいきなり上層部の人に合わせてほしいと頼んできた。
最初、現地指揮官は彼らの話をまともに聞かなかったが、詳しく聞いてみると、彼らは革命決行の日時を教えると言って来たのだ。
これに飛びついたのが第5艦隊司令部で、スプルーアンスらはすぐさまインディアナポリスから、
サイフェルバンの第5水陸両用軍団司令部へと向かった。
話は明け方まで続いた。
話によると、バーマント公国の革命勢力は9月24日を期に一斉に革命を起こすと、第5艦隊司令部に伝えてきた。  


224  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:22:25  [  D4VsWfLE  ]
その決行日時までに、東部のとある地方になんらかの攻撃を加え、敵の目を逸らしてほしいと言って来たのである。
米上層部はすぐに協議に取り掛かった。そして出来上がったのが今回の偽装侵攻作戦なのである。
まず、侵攻前に潜水艦2隻でユウルリアの決起軍に武器を貸与する。
潜水艦が出航したあとは第58任務部隊の全任務群、そして80隻の輸送船団が抜錨し、エルヴィント沖に向かった。
そして輸送船団をこれ見よがしにエルヴィント沖に現し、エルヴィントを始めとする
東部一帯を機動部隊の艦載機で爆撃する事で、バーマント側にあたかも、米軍が新たな侵攻を
行おうとしていると思わせようとしたのである。
バーマント皇を始めとするバーマント側上層部は、東部海岸を荒らし回る米機動部隊と、
突如として、エルヴィント沖に大挙して現れた米軍輸送船団に仰天した。
「すぐに増援部隊をエルヴィントに向かわせよ!!」
バーマント皇は直ちに増援部隊の派遣を命じた。
そして、有力部隊を最も重要な場所に貼り付けず、決起軍にその場所に向かわせてしまうと言う
致命的なミスを犯したのである。
それに気が付いたときは、もはや後の祭りであった。

午前0時30分  カルリア監獄
監獄の周囲は、第232歩兵旅団の将兵に取り囲まれていた。
そして、監獄の各所は猛烈な攻勢によって次々に陥落、守備兵、警備兵達は降伏した。
監獄の入り口に、周りを囲まれながら出てきたグリフィンの姿があった。
兵士達は、作戦の成功を祝すかのように、小銃、長剣を上に掲げ、しきりに新生バーマント万歳!を叫んでいた。
「殿下、この兵士達は、あなたと同じ志を持つものたちです。」
グリフィンは思わず感激してきた。今まで、自分は孤立無援だと思っていた。
これまでただ、独房で暇を持て余し、そして無機質に1日を終える生活をしていた。
そしてこれからも続くだろう。彼はそう確信していた。したはずだった。
だが、今ではどうか。2年半前に絶滅していたはずの反対派の芽は生きていたのだ。
「あなたはもう、孤立無援ではありません。」
副長は感慨深げにそう言った。
自然に、周りの声が静まって行く。やがて、声は聞こえなくなった。
誰もが、グリフィンを見つめている。
何かを待っている。兵士達は、確かに待っていた。グリフィンの決意を。
「みんな。」
グリフィンは良く透き通る声で、将兵達に語りかける。
「私のために、この様な事をしてまで尽くす精神はとても誇りに思う。ありがとう。」
グリフィンは皆に向けて、一礼した。  


225  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/21(日)  13:23:39  [  D4VsWfLE  ]
「皆も知っていると思うが、もはや、このバーマント公国はもとの姿とは遠くかけ離れたものとなってしまった。
他の国々は統一派の侵攻で次々と滅び、荒廃した国も幾つかある。そして、今も、おろかな政策に幻惑された
同胞達が、ヴァルレキュアを狙っている。」
グリフィンは表情を曇らせる。
「だが、我々はそのような政策には屈しない。そう、悪しきバーマントの国策は、この日をもって終わるだろう。
いや、終わらせる!そのために、我々は立ち上がった!諸君、皇帝に怯え、ゴマすりをする時代はもう終わった。
これからは、かつてのような、穏やかな国だと言われるように戻る。だが、戻るには試練を超えていかなければならない。
そう、今。今この時だ!これからは、厳しい試練が待っているだろう。だが、我々バーマント人が誇りとする、
粘り強さを持ってすれば、この試練にも打ち勝つはずだ!」
グリフィンは、自分が思っていたことを全てぶちまけた。
「諸君、1つだけ聞いておこう。本当に・・・・・私でいいのだな?」
グリフィンは皆に問うた。そのこへ、1人の女性兵士が歩み出た。
「殿下。そのために、我々はここに来たのであります!」
彼女の言葉に触発されたように、兵士達は言葉をグリフィンに浴びせた。
「分かった。みんなの気持ち。私は確かに受け取った。」
グリフィンは、旅団長の剣を借りた。それを、彼は高々と掲げた。
「私と共に、昔のバーマントを取り戻そう!」
「「バーマント公国万歳!!!!」」
何千人という大人数の雄たけびは、轟々とカルリア、そして大陸の大地に響き渡った。  


232  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:10:38  [  D4VsWfLE  ]
9月23日  午後10時40分  バーマント公国首都ファルグリン
バーマント公国の首都ファルグリンは、公国でも一番人口の多いところであるが、
同時に各種施設の総本部も多い。
その中には当然軍の司令部も含まれている。
陸、海軍の総司令部も、ファルグリンの中枢に集中している。
中方方面軍総司令部は、その中枢部からはやや離れた東部地区にある。
細長の2階建ての建物で、よく待ち合わせの目印にもなっている。
その2階の一室。中央方面軍司令官室で、クライスク・アーサー騎士元帥は窓の外の風景をじっと見据えていた。
町は静寂そのものである。9月始めに起きたアメリカ軍機の来襲以来、首都には厳重な灯火管制がしかれている。
その前までは、首都の建物はあちらこちらから明かりが灯っていたが、今では見事なまでに真っ暗になっている。
(現皇帝陛下の心情を表しているみたいだな)
アーサー元帥はそう思った。
その時、ドアの向こうからノックする音が聞こえた。
「入れ!」
彼はドアの向こうの気配にそう言う。
失礼します、と声がしてドアが開かれ、人が入ってくる。
彼の参謀長であるネオロ・ウラルーシ少将が入室してきた。
細長で痩せていて、黒い髪を短く刈り上げている。一目で見ると、どこぞの教師を思わせる風貌である。
「参謀長か。」
アーサーは振り返る。
「最終確認をしようか。まず、皇帝陛下はどうだ?」  


233  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:11:16  [  D4VsWfLE  ]
「皇帝陛下は宮殿におられます。」
「内務大臣のネリレイギは?」
「内務省で残業を行っております。」
「宣伝長官のワンスバイルは?」
「自宅に帰りました。」
アーサーは、これから逮捕する予定の安否を確かめた。
バーマント公国には8つの省庁がある。
8つの省庁のうち、革命勢力に加わる大臣は軍需省のマルホルン大臣、警務庁のヘルレイズ長官の2名である。
この他にも、陸、海のトップや他の重要人物の安否がウラルーシ少将から確認された。
「ふむ。最後にだが、エリラ第4皇女は?」
「エリラ皇女は現在、西部のマリアナの視察から首都に戻られている途中で、間もなく首都に到達するとの事です。」
「・・・・エリラ。あの女は少々危険だな。逮捕したらカルリア監獄に放り込んでやろう。」
アーサー元帥は顎鬚を撫でながらそう呟いた。
「閣下。各部隊、準備は出来ております。」
「時間は・・・・・」
彼は時計を見た。10時54分。決行まであと6分である。
「そろそろ、カルリア監獄に現地の決起軍が突入する時刻ですな。」
「成功してくれる事を祈ろう。さあ、我らも行動を起こすぞ。」
アーサー元帥は意を決した表情で、ウラルーシ少将を伴って足早に司令官執務室から出て行った。  


234  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:12:05  [  D4VsWfLE  ]
9月24日  午前11時8分  公国宮殿
ドンドンドン!
寝室のドアが激しく叩かれる。
眠っていたグルアロス・バーマント皇帝はドアから響くノックの音に目を覚ました。
(こんな時間になんだ?うっとおしい!!)
彼は苛立ちながら、毛布をはいでベッドから起き上がった。
「何事か!?」
「陛下、緊急事態でございます!!」
その声は、侍従長のベンティだ。何やらやけに慌てた口調だ。
「・・・・入ってまいれ。」
バーマント皇は横柄な口調でそう言うと、ドアが開かれ、禿頭のベンティ侍従長があたふたと入ってきた。
「貴様!今何時だと思っておるか!?」
「申し訳ありません。ご就寝の時に起こしてしまいまして。」
「緊急事態とは何か?報告せよ。」
「はい。実は、魔道師からこのような報告を受け取りました。」
ベンティ侍従長は懐から1枚の紙を取り出した。それをバーマント皇はひったくる。
「緊急、カルリア監獄司令官  カルリア監獄に1万規模の反乱軍が襲撃せり。」
「反乱軍だと!?」
バーマント皇は仰天した。カルリア監獄と言えば、投獄したグリフィンが収監されている。
(もしや、この反乱軍はあのグリフィンめを釈放させ、担ぎ上げるつもりなのだな。
それならば・・・・・・・)
バーマント皇はすぐに思い立った。そしてベンティに伝えた。
「魔道師にこの文を伝えよ。現地のカルリア監獄の魔道師に向けてだ。こう遅れ。
直ちに叛徒グリフィンを処刑せよ。以上だ!」  


235  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:12:58  [  D4VsWfLE  ]
彼の言葉に、ベンティは驚いた。
「ほ、本当に」
「処刑だ!!つべこべ抜かさず、さっさと魔道師に送らせろ!!!」
彼は有無を言わさぬ口調で釘を刺した。ベンティは慌てて一礼すると、寝室から出て行った。
ベンティと入れ替わりに、今度は直属将官の1人であるベンデレル騎士中将が寝室に入ってきた。
「何用か!」
「報告に参りました!」
ベンデレル騎士中将の表情は真っ青である。
「言うてみよ。」
「ハッ。さきほど、首都周辺で中央方面軍の2個軍団が一斉に叛乱を起こしました!」
「叛乱だと!?」
バーマント皇は最初、その言葉が嘘のように聞こえた。
「ハッハッハッ!貴様、何を言うか。中央方面軍は我が公国主力部隊。その軍が」
「現に起こしているのです!」
いつもは小心な彼が珍しく、バーマント皇の言葉をさえぎった。
「貴様!わしの言葉をさえぎるとは何事か!?貴様も監獄に放り込まれたいのか?」
「私の処罰は後です。この寝室のベランダを開けてもらえば分かります!」
「ふむ・・・・では開けてみるか。」
バーマント皇は理解できなかった。なぜ中央方面軍が叛乱を?
彼らは他の部隊に比べて公国側に対する忠誠度が高い。
バーマント皇はとりあえず、寝室のベランダのドアを開けてみた。
ガチャッ、と、音が鳴り、鍵が開けられる。ついで、ドアが外側に開き、首都を一望できるベランダに出てみた。
首都の状況は・・・・・・革命軍が焚いたかがり火によって、既に3分の1が埋まっている。
彼は知らなかったが、決行5分前に革命軍の構成員が住民を叩き起こした。
官憲は当然その構成員を見つけ、怪しんだが、見張り役の別の構成員に気絶させられる。  


236  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:14:28  [  D4VsWfLE  ]
そして各所で熱弁を交えた演説を行った。
話はわずか5,6分ほどの短いものであったが、首都の住民達は革命軍の話を理解した。
そして住民達も、それぞれの武器を取って革命軍と共に蜂起したのである。
最初、東側だけだったかがり火の集団が、ふと、ぽつりと西部にも現れ始めた。
それに触発されたかのように、次々とかがり火が増えていく。
「あああ・・・・・・・い・・・・・一体・・・・・一体・・・・いっ・・・たい」
余りにも突然の出来事にうまくしゃべれない。
かがり火の集団の中に、べつの火が現れた。それはやがて大きくなり、わずか2,3分で炎が建物全体を嘗め尽くした。
それは、内務省のある施設。別名、市民監視省の施設だった。
「一体、どういうことだ!?」
バーマント皇は凄い剣幕でベンデレル騎士中将を睨み据えた。ベンデレルはたちまち縮み上がってしまった。
「それは、小官にも理解しかねます・・・・と、とりあえず、時間が経てば、情報も入るかと。」
「何が、時間が経てば分かるだあ?馬鹿者!役立たず!貴様はこの宮殿から追放だ!!」
バーマント皇は顔を真っ赤にしてそう喚き散らした。
彼はベランダから離れ、寝室から出た。宮殿内が何か騒がしい。
(騒がしいな。)
彼はイラついた表情で周りを見回した。すると、階段から完全武装の宮殿警護軍の将兵がドッと津波のように現れた。
その先頭には、直属将官のアートル中将がいる。
「おお、アートル君か。」
バーマント皇はぶっきらぼうな口調でそう言う。
警護軍の将兵は、皇帝を見つけると、その足を止めた。いずれも、頑丈な甲冑を身につけ、手には小銃を携えている。
(外は革命軍がいっぱいだが、宮殿内には精兵ぞろいの宮殿警護軍がいる。  


237  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:16:18  [  D4VsWfLE  ]
こやつらが時間を稼いでいる間に、わしは脱出できるだろう)
バーマント皇はそう思った。彼は知らなかったが、首都の各所では宮殿警護軍の第2親衛師団、
第9親衛師団が革命軍を辛うじて食い止めており、宮殿から直径300メートルの地域はまだ侵入を許していない。
しかし、数は革命軍のほうが上である。いずれ押し潰されるのは目に見えている。
その前に、隠れ通路から西部へ抜けて、革命軍が来る前に首都を抜け出さなければならない。
「革命軍はかなり多いようだな。それに対し、こちらは宮殿警護軍の2個師団しかおらん。
前線は兵力が少ない。そこで、この宮殿の警護兵も一部を残して、革命軍と戦わせたほうがいいと思うのだが、どう思うかね?」
「確かに。前線では兵力が少ない。いいでしょう。その案でいきます。皇帝陛下は我々が叛徒どもを食い止めている間に、
お逃げになってください。」
(私には、このように忠誠を尽くすものも残っている。)
バーマント皇はそう思うと、いくらか自信が戻ってきた。
「と、言いたいところですね。」
アートルはそう言って笑みを浮かべた。
「?????アートル君。意味が分からんのだが?」
「意味でありますか?陛下ともあろうお方が分からないとは。」
アートルはわざとらしい口調でそう言う。
「アートル!こんな時にふざけとる場合か!!」
「いえ、ふざけてなどいません。」
アートルはあごでしゃくった。その時、彼の後ろにいた2人の兵士がバーマント皇に飛び掛った。
あっという間にバーマント皇は両腕を後手に捻り上げられてしまった。
「な、何をするか!?わしは皇帝であるぞ!き、貴様ら、全員斬首に処すぞ!」
「皇帝陛下、理解できませんか?」
「な、何をだ?」
「今の状況を、ですよ。」
バーマント皇はしばらく黙った。そしてやっと理解できた。宮殿内の警護軍は・・・・・
自らの手を離れたのだ!
そう確信した瞬間、バーマント皇は愕然とした。
「な、なぜ。このような事ができたのだ?叛徒の貴様が、なぜ部下を率いる事が出来た?」
「そうならしめたのは・・・・・陛下。あなたですよ。」  


238  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:17:19  [  D4VsWfLE  ]
実は、現皇帝の政策に不満を感じていたのは現地軍や市民だけではなかった。
この宮殿警護軍も、元々は国民の軍隊である。
その兵士達は、一般部隊以上に皇帝の忠誠心は厚かった。そのはずだった。
だが、バーマント皇の政策に疑問を抱くものも多かった。
それを、日々の仕事をこなす事で、警護軍の将兵は紛らわせてきた。
バーマントが勝ち戦を続けている間はなんら問題ではなかった。
しかし、突如現れたアメリカ軍が、彼らの本当の気持ちを呼び覚ましたのである。
そして、その気持ちが一気に爆発するきっかけとなったのが、
9月始めの空襲と、B−24が行ったビラ撒き作戦だった。
それでも、皇帝に中世を誓うものは多かったが、内心では皇帝をも限ったものもかなりの数に上った。
人の口には戸は立てられない。不満を持つものは、影でバーマント皇の政策を批判していた。
そこを、アートルが話しに加わり、革命軍に加わらせたのである。
30000の宮殿警護軍のうち、4000の将兵が革命軍に加わった。
そして決行の日まで、バーマント皇の忠実なる僕を演じていたのである。
その4000の兵は、革命が決行されると、すぐに皇帝の下に駆けつけた。
彼らが疑われる事はなく、難なく皇帝のお膝元に辿り着いたのである。
そして、この思わぬ伏兵によって、バーマント皇は革命側の手に落ちてしまったのである。

「あなたは、私達や国民全てが忠実なる僕である、と、以前おっしゃっておりましたね?」
アートル中将がバーマント皇を睨みつけながら、彼に問いかける。
バーマント皇はうなだれたまま、うんともスンとも言わない。  


239  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:18:23  [  D4VsWfLE  ]
「確かに忠実なる僕も多くいました。しかし、あなたは目先の事ばかり気にして我々の気持ちを
全く知ろうとしなかった。」
アートルの言葉1つ1つが、バーマント皇に重くのしかかる。
「これは・・・・・起こるべくして起きた事態です。」
「起こる・・・・べくして・・・・・」
バーマント皇は喉から搾り出すような声音でそう呟いた。
「わ・・・・私は・・・・・私は・・・・・・・・・・国の事を思って・・・・
国民の事を思って・・・・一生懸命、努力した。」
グルアロスは、震えた声で、言葉を紡ぐ。
「わしの・・・・努力を・・・・貴様らが・・・・・貴様らが!!!」
顔を上げたバーマント皇はアートル、いや、その後ろの警護軍だった兵士達を睨みつける。
だが、それに対して返されるものは、それぞれの冷たい視線。
「貴様らが・・・・・・・」
バーマント皇、いや、皇帝だったその男はその言葉を言ったきり、押し黙った。
体が熱病にかかったかのように痙攣し、顔を腕の中にうずめ、泣き出してしまった。

9月24日  午前0時20分  首都ファルグリン
宮殿警護軍の守備地域は、圧倒的多数の革命軍と、蜂起した市民の攻勢を受けた。
最初はよく粘っていたが、午前0時35分に西地区の一部が突破されてしまった。
宮殿警護軍の司令官は直ちに全部隊を後方100メートルまで下げ、新たに防衛線を引いて革命軍に対抗した。
午後11時50分、宮殿内で、革命側に寝返った警護軍の部隊がバーマント皇を捕らえたとの情報が入った。  


240  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:19:43  [  D4VsWfLE  ]
この報告が皇帝側の警護軍の士気をどん底まで叩き落してしまった。
午後11時52分、突如、警護軍が武器を捨てて革命軍に投降してきた。
さらに午前0時55分、東部地区のカルリアでも決起軍が監獄を制圧、
危うく処刑されそうになったグリフィン第3皇子を救出したとの情報が入った。
この情報は、革命軍と、蜂起した市民を大いに勇気付け、首都ファルグリンには
新生バーマント誕生万歳が、あちらこちらで歓呼された。

周りの兵士、市民が肩を抱き合って歌い合っている。
とある市民が歓喜の表情を浮かべ、アーサー元帥に握手を求めてくる。
「革命万歳!」
「国民を騙した皇帝は監獄に放り込みましょう!」
「これで無意味な拡大戦争が終わる!」
握手を交わしたもの達は口々にそう言ってきた。
「閣下、第18航空軍の司令官です。」
目の前の人ごみを掻き分けて、2人の人物が現れた。
1人は第18航空軍のギリアール中将、もう1人はアーサーの幕僚である。
「閣下、我々の空中騎士団も、革命軍に加わらせていただきます。」
「ありがとう。空中騎士団がいれば百人力だよ。」
第18航空軍は第23、第24、第25の空中騎士団から成っている。
駐屯地はファルグリンの東北東100キロで、2個空中騎士団が先日編成されたばかり、
1個空中騎士団が8月編成で、まだまだ新米の航空軍である。
それぞれが90機を保有しており、合計で270機の飛空挺を保有している。
革命決行の午前12時に、第18航空軍は突如革命宣言を発し、革命軍に加わると宣言した。
まだ技量未熟の部隊で、今では旧式化したBA−2しか配備されていないが、
万が一、公国側が軍を差し向けてもそれに対応できる。  


241  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:20:57  [  D4VsWfLE  ]
「まだ西部や西北部に駐屯している軍が、革命宣言を出していないのが気がかりですな。」
右隣にいるウラルーシ少将が不安げな表情で言ってきた。
「う〜む、確かにそうであるな。特に西北部は厄介だからな。それに海軍部隊の動向も気になるな。
彼女はちゃんと説得できただろうか?」
周りの市民は革命成功に沸き立っているが、まだ問題が残っている。
西北部は別の高級将官が説得に当たっているが、決行から1時間経っても蜂起したとの報告が入っていない。
「きっと大丈夫です。現皇帝、いや、前皇帝の不満は全体的にかなりくすぶっていました。
グルアロス帝が捕らえられたと聞けば、我々革命軍に同調するでしょう。」
幕僚の1人がそう言ってくる。
「そうだな。」
そう聞くと、アーサーも不安な気持ちが大分晴れた。革命は成功しつつある。
こうしている間にも、各地から次々と蜂起の報告が入ってきている。
国民はようやく、立ち上がりつつあった。

午前0時10分  エリオンドルフ
港が燃えていた。赤く赤く燃えていた。その炎は、暗闇を打ち消さんばかりに猛り狂っていた。
「く・・・そ。なんで、こんな事に。」
第4艦隊司令官、エルマスター大将は、横目で炎上している大小の艦船を眺めていた。
窓から移るその光景は断末魔の状況を挺している。
その炎上艦から離れた沖合いに、10隻以上の軍艦が遊弋している。
それは、第5、第6艦隊の艨艟達である。
「なんで、こんな事に、ですって?」
前から不敵な口調で言ってくる人物がいる。  


242  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:22:04  [  D4VsWfLE  ]
それはゆっくりと、部屋の中を行き来している。
「あたしが、やれと命じたから。納得したかしら?」
エルマスター大将に顔を近づける。その表情は、明らかに彼を馬鹿にしていた。
「くっくっく。本当に人ってのは弱いものよねえ。」
懐から写真を取り出す。
「たかが、妻や子供のために、簡単に裏切ってしまうんだから。もっとも、本人は妻子の所へ召されちゃったけどね。」
ツインテールの戦闘服姿の女性、エリラ・バーマントはわざとらしく、悲しいふりをする。
「こんの、薄汚いメス犬が!!」
エルマスター大将の隣に立たされているレラ・アルファール中佐が、憎悪をむき出しにしてそう叫んだ。
「あらら、美しいレディが、なんて汚い言葉を。」
「あんたにならいくらでも言えるわよ!」
レラはそうはき捨てた。

午後11時  第4艦隊司令部でとある取り決めが行われていた。
「決起軍は蜂起した模様です。」
第4艦隊司令部がある陸の宿舎に、通信兵が慌しく入ってきた。
「長官、ご決断を!」
作戦副参謀であるレラは、未だに渋るエルマスター大将に決断を促した。既に、第4艦隊では革命軍に同調していた。
後はエルマスター大将の決断で全てが決まろうとしている。彼は両腕を組んで黙っていた。そして・・・・・
「分かった。これからは、新しい祖国に尽くすとしよう。」
彼の腹は決まった。  


243  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:23:20  [  D4VsWfLE  ]
「既に艦隊は出動準備ができております。」
「よし。直ちに出動だ。魔道参謀、ファルグリンの革命軍司令部に送れ、第4艦隊は、
今より新しい祖国の指揮下に入る。」
全員が腹を決め、宿舎から出ようとしたとき。突然、軍港の沖合いに第5、第6艦隊が姿を現した。
最初、第4艦隊の将兵は、それらが革命側についたのだなと確信した。
だが、その確信は、午前11時15分に始まった突然の砲撃によって消し飛んでしまった。
まだ停船中であった第4艦隊の艦艇は滅多撃ちに合った。
第4艦隊には重武装戦列艦のウエンディール、シンファニー、ファンボルの3主力艦。
中型戦列艦のオールスレイグ級4隻、小型戦列艦のEA−21を始めとする7隻。
計14隻で編成されている。
これに対し、軍港に現れたのは第5艦隊、第6艦隊の8隻の重武装戦列艦を始めとする合計47隻の大艦隊である。
これらは停泊中の第4艦隊の艦船群に対して容赦ない射撃を加えた。
第4艦隊側も反撃し、小型戦列艦1隻を大破させ、重武装戦列艦ゲルオールを小破させた。
だが、第4艦隊の戦果はそれだけであり、砲戦開始から40分後、14隻全艦がたたきのめされてしまった。
そして、たたきのめされた艦船は、その不運を悔やんでいるかのように、高々と夜空に向かって炎を上げていた。
第4艦隊の駐屯地には、エリラ自らが率いた軍が突入し、第4艦隊側の抵抗を蹴散らし、次々と要所を占領した。
司令部に突入したのは午後11時55分ごろで、その際、8人いた参謀のうち6人が射殺されるか、斬殺されている。
残ったのは、腕を負傷したエルマスター大将と、レラのみである。
「まあ、あの砲術参謀さんはよくやってくれたわ。
あたしが皇帝なら、今頃勲章を授与してるわね。本当、勉強になったわ。」  


244  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:25:15  [  D4VsWfLE  ]
エリラは薄笑いを浮かべながら、倒れている死体、砲術参謀の遺体に持っていた写真を置いた。
「貴様、革命軍を相手にして勝てるとでも思っているのか!?」
エルマスターはそう喚いた。
「もちろん、勝てる。魔法都市マリアナで召喚儀式を行えば、
今のような態勢はあっという間に無くなるわ。そして・・・・・私が大陸を統一するの。」
彼女は胸に右手をかざしてそう言う。
「父よりももっと手っ取り早く、そして確実な方法でね。」
「召喚儀式・・・・・まさか、エリラ、あなたは!」
「ん?気が付いたの?流石は名家の出のお嬢様、色々学んでいるのね。」
「もしかして・・・・・エンシェントドラゴンを召喚しようとしているのか!?」
エルマスターの顔がみるみる内に青くなっていく。
「ご名答。マリアナは既に私の一派が抑えているわ。今頃、決起軍はあちこちで包囲されている頃ね。」
エリラが笑みを浮かべながらそう言う。その美貌は恐ろしいまでに自身に満ち、目は悪魔的な輝きを放っている。
「1000年前の過ちを犯すつもりなの!?あれはやるべきじゃないわ!!」
「レラ、あなた馬鹿?魔法技術は1000年前と比べて遥かに進歩しているのよ?
たった2、3国潰して自爆するようなエンシェントドラゴンを召喚しようとしてる訳ではないのよ。
と言っても、今からやって2週間近くはかかるけどね。」
それを聞いた時、レラは絶句した。もう既に準備に取り掛かっている!!
「仕事の速くこなすことが、私の生きがいなのよ。さて、あなた方にはもう消えてもらうわ。」
そう言うと、彼女は後ろで待機していた兵士から小銃を受け取った。
その直後、エルマスターの胸に1発の銃弾を撃ち込んだ。エルマスター大将は心臓を撃ち抜かれて即死だった。
「ひ・・・・ひどい・・・・・そこまでして、あなたは国を統一したいの!?」
レラはそう喚いた。  


245  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/23(火)  16:27:43  [  D4VsWfLE  ]
「だからこうやって行動してるのよ。」
彼女はそっけなく返事した。銃口が縛られているレラに向けられる。
2人の部下の兵士が暴れないように両肩を掴む。
「じゃあね。」
そう言って引き金に指をかけた。
「く・・・・・バーマントの未来に・・・・・栄光あれ!!」
乾いた銃声が響いた。レラの胸の真ん中に穴が開き、背中から銃弾が突き抜け、血と肉片が飛び散った。

この日の午前0時40分  魔法都市マリアナでワイバーンロードを生贄に使用した、エンシェントドラゴン
の召喚儀式が始まった。
儀式が終わるまで、あと2週間近くはかかると見積もられていた。  








254  名前:陸士長  投稿日:  2006/05/24(水)  20:59:39  [  u/6ZUJpo  ]
感想代わりに小ネタをば。

革命軍の必死の抵抗、スプルーアンス大将の妨害にも関わらず。
魔法都市マリアナでワイバーンロードを生贄に使用した、エンシェントドラゴン
の召喚儀式は成功した。

「あははは、これであの忌まわしい艦隊も愚かな革命軍も一掃出来る!!」

現れたドラゴンを見上げ狂気の哄笑を上げるエリラ。
確かにドラゴン召喚は成功した……のだが。

「アハハハハ!!  ……ん?」

何だか、呼び出されたレッド・エンシェントドラゴンの背中に人が乗っかっている。
ツルツルの頭に眼鏡、仙人のように長く伸びた白髭とボロボロの軍服。

「何だ貴様等は?  此処は何処だ?  何故小官は一体全体どうなったと言うのだ?」

そう、呼び出されたエンシェント・ドラゴンには乗り手がいた。
見た感じ、仙人のなり損ないのような老人であるため、エリラ達は一目見ただけで彼の排除を決定した。

「このエンシェント・ドラゴンは私のモノになる。邪魔だからどきなさい」

配下の魔術師に命じ、精神操作の魔術を男にかけさせる……が、

「何のこれしき!」
「な、なにぃ!?」

念には念を入れ、数個小隊で一斉に魔術をかけたにも関わらずあっさりレジストされた。
ならばとばかりに一斉に放たれた銃弾と攻撃魔法も、

「心頭滅却せば銃弾もまた涼しよ!」

老人が曲刀を一閃しただけでこれまた一蹴されてしまった。
今更ながらにエリラは思い知った。エンシェント・ドラゴンを乗りこなしている以上。
この男もただ者ではないのだと。だが、後悔はあまりにも遅すぎた。

「帝國軍人に銃を向けるとは、覚悟は出来てるのであろうな……天誅!」
「こ、此処まで来て……ば、馬鹿なぁぁぁぁ――――――!!」

エンシェント・ドラゴンの放つ凄まじい火炎放射によって。
エリラ達継戦派は一瞬にして灰燼へと化した。


こうして、狂気の野望を成就させようとしたエリラは倒れ。
バーマントには平和が訪れた……筈だが。


「スプルーアンス大将閣下、大変です!  我が艦隊に向けてエンシェント・ドラゴンが突進して来ます!」
「ぶふぅ!」

バーマントの情勢が一段落して安心していたスプルーアンス大将は思わず飲んでいたコーヒーを噴き出す。
当然の事であろう。かつて、老人の祖国はかの国と戦争寸前まで言ったのだ。
いや、老人の中では開戦前から米国は倒すべき存在になっていたのである。
帝國軍人たる彼が、米艦隊を見逃す筈も無かったのだ。

目の前の海原に布陣する数十隻の米艦隊。
そして、エンシェントドラゴンを迎え撃つべく空に舞い上がった戦闘機群。
バーマント軍を蹴散らした無敵艦隊にも臆さず、老人は刀を振り上げ雄叫びを上げた。

「うぉぉぉぉぉ鬼畜米英〜〜突撃ぃ!!」

完  







261  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:30:00  [  D4VsWfLE  ]
9月25日  午後1時  カルリア沖100マイル地点
米第5艦隊旗艦である重巡洋艦インディアナポリスの作戦室は、やや重い空気に包まれていた。
「その話は本当なのだな?」
第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は、1人の男にそう問いただす。
「は、はい。先ほど受け取った魔法通信では、西北部の継戦派が蜂起し、革命側と対峙しているようです。」
男、捕虜になったバーマント人であるアルラルト・ベルーク大佐は、布で冷や汗を拭きながらそう言った。
インディアナポリスには、2名のバーマント人が乗り組んで、革命派との連絡役を任されている。
もう1人のバーマント人である魔道師の男性は、午前2時に革命成功の第一報を第5艦隊の幕僚に伝えた。
7時にはスプルーアンスも話し合いに加わり、革命の模様を刻々と伝えられた。
革命は大部分の地域で成功を収めていた。
まず、カルリア地方では、監獄に収監されていたグリフィン第3皇子の救出作戦が成功を収めた。
第5艦隊は、第58任務部隊から分離させたウイリス・リー中将指揮下の戦艦部隊を一部割いてカルリア地方の沿岸に派遣。
駐屯地で決起軍と戦おうとしていた公国側の1個歩兵旅団を艦砲射撃で威圧し、その行動を封殺した。
次に首都ファルグリンで革命軍が住民と共に決起し、首都を制圧。
宮殿のグルアロス現皇帝は決起軍に寝返った宮殿警備軍に逮捕された。
この報は魔法通信によって各地へ転送され、住民の蜂起を促した。
エルヴィントでは午前6時に避難中の住民が公国側を離反すると宣言を発した。  


262  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:34:08  [  D4VsWfLE  ]
バーマント側はこの決起した住民を抑えようと、兵力を送ろうとしたが、
沖には米輸送船団が接近しつつあり、米側の上陸を恐れていたため、身動きが取れなくなっていた。
結局、エルヴィントのバーマント軍も、形勢我にあらずと判断し、皇帝側から離反した。
バーマント側は知らなかったが、この輸送船団はいずれも空船で、その3分の1は、
米機動部隊への弾薬、給油艦などの補給船団であった。
しかし、午前9時には信じられない報告が入ってきた。
首都80キロ西のエリオンドルフで、駐留していた革命側の第4艦隊が、突如第5、第6艦隊の
襲撃を受け、主力艦を含めた14隻全てが撃沈破され、陸の第4艦隊司令部では司令官、
幕僚全てが殺害されるという惨事が起きた。
このエリオンドルフに到着したのは、革命側の軍で、到着時は午前7時を過ぎていた。
現場一帯は襲撃軍の姿は無く、基地には死者と負傷者が横たわっているのみだった。
西北部の決起軍は、各所で継戦派に包囲され、殲滅されてしまった。
そして1時間前には西北部のグランスボルク地方が公国から独立するという事態が起きた。
グランスボルク地方には58000の地上軍、それに訓練部隊も含めた6個空中騎士団、
そして第4艦隊を叩きのめした第5、第6艦隊がおり、さらには2つの魔法都市が存在している。
つまり継戦側は一地方を支配下に収めたのである。
そして、継戦派の代表は、信じられないことに逮捕者リストに乗っているはずの、エリラ・バーマントであった。
「魔法都市マリアナとギルアルグが継戦派に乗っ取られた、となると・・・・・・スプルーアンス長官。
これは厄介な自体かもしれません。」
ヴァルレキュア側オブザーバーとして参加しているマイント・ターナーが顔を青ざめて言ってくる。
「この2つの都市には、何か忌まわしいものでもあるのか?」
この魔法都市に対して知らないスプルーアンスらは、オブザーバー達が顔を青ざめるのが不思議でならない。
第5艦隊の幕僚達は、たかが都市2つごときで、恐れる必要があるのか?と言いたげだ。
「革命側のほうが戦力は上だし、別にそれほど恐れるものではないと思うが。」
参謀長のデイビス少将が訝しげにそう言ってくる。だが、
「いいえ、とんでもありません。」  


263  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:38:40  [  D4VsWfLE  ]
レイムは首を横に振った。
「あなた方はこの都市がただの市街地であると思っているようですが、それは違います。
この大陸では過去に1度、とある災厄によって大陸中の生き物が抹殺されかけた事があります。」
彼女は、第5艦隊の幕僚達に説明を始める。誰もが、ただならぬ様子に動揺している。
「遥か1000年の昔。この大陸にはエルボストという大国がありました。
エルボストは他の国相手に次々と侵略戦争を起こしました。しかし、エルボストの
残忍なやり方は反感を買い、ついには別の国が連合を組んでエルボストに挑みました。
結果、エルボストは大陸西北部の首都、ギルアルグ付近までに後退しました。
エルボストは起死回生の案として、ここ、マリアナである儀式を行いました。」
レイムが床に広げられた大陸の地図の、ある一転を指し示す。そこはマリアナと呼ばれる地点である。
首都ファルグリンから西に800キロの所にあり、海から30キロ内陸にある。
「その儀式が、ワイバーンロードの血と屍を使った・・・・・エンシェントドラゴンの召喚でした。」
「エンシェントドラゴンとは一体どのようなものなのかね?」
作戦参謀のフォレステル大佐が質問した。
「エンシェントドラゴンは、普通のドラゴン、絵のワイバーンロードがありますね?それの100倍
もの大きさを持つ大型の竜です。現実には存在しませんが、私達魔法使いの間では、物と、優秀な人員が揃えば、
このドラゴンは召喚出来るといわれています。召喚の際、このエンシェントドラゴンは召喚主の願いを
1度だけ実行できます。つまり、この世界の生き物全てを滅ぼせと言われれば、滅ぼすまで止まりません。」
会議室が驚きともつかない声でざわめいた。第5艦隊の誰もが、継戦派は自爆覚悟の作戦に出たかと思った。
普通のドラゴン、通称ワイバーンロードの大きさは全長が7メートル、
全翼が8メートルとなっている。
米機動部隊の主力艦載機のF6Fヘルキャットや陸軍航空隊の新鋭機P−51マスタングに比べると速力は低く、
体形も小さいが、その俊敏な機動性は計り知れない。
しかし、それが100倍の大きさだとすると全長が700メートル、全翼が800メートルというとんでもない大きさになる。
「そして、その恐るべきエンシェントドラゴンは、1000年前のある日、1ヵ月半の召喚儀式を終えてついに地上に現しました。  


264  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:43:07  [  D4VsWfLE  ]
エルボストの王は自分達以外の国を滅ぼせと願い、エンシェントドラゴンはその願いを忠実に実行しました。
たった1匹のこの巨大竜は、わずか1日半で2つの国を焼き滅ぼし、1つを全滅寸前までに追い込みました。
亡くなった人数は2000万とも、3000万とも言われています。」
ざわめいていた室内は、一気に静まり返った。
誰もが、エンシェントドラゴンのもたらした惨禍に息を呑んだ。
つまり、そのエンシェントドラゴンとやらが召喚されれば、最強の打撃力を持つ高速空母部隊も、
そして精兵揃いの第5水陸両用軍団も、ひとまとめに潰されてしまうのである。
しかし、別の事も分かった。話によれば、エンシェントドラゴンは自爆用の生物ではないと言う事だ。
簡単に言うと、滅ぼす相手を事細かに言い伝え、その目標だけを滅ぼす事が出来るのである。
(前に、何かの科学雑誌で、将来は原子力を使用した強力な爆弾が登場するだろうと書いてあったな。
1発で町が消し飛ぶとか書いてあったが・・・・・)
スプルーアンスは、いつか読んだ雑誌の内容を思い出した。
(仮に原子力の爆弾を装備していても、召喚されたエンシェントドラゴンはそれを遥かに上回る攻撃力を持つ。
そんなのが出てきたら、もはや戦争どころではないな)
スプルーアンスは内心でそう呟く。伝説級のドラゴンに出てこられたら、戦争もあったものじゃない。
「エンシェントドラゴンは・・・・その後どうなったのだね?」
スプルーアンスはレイムに質問する。
「自爆しました。」
「「自爆?」」
この時、幕僚達の素っ頓狂な声が重なって響いた。派手に暴れまわったのだろうと誰もが思っていた。
その続きが、自爆である。驚くのも無理は無い。
「召喚されたエンシェントドラゴンは確かに最強でした。ですが、召喚時に欠陥の入った呪文が混じっていたため、
エンシェントドラゴンは突如、爆裂したそうです。恐らく、敵の侵攻に焦った魔法使いが、欠陥の入った一文を
誤って交えてしまったため、自爆に繋がったと、最近の研究ではそう言われています。」
「ヴァルレキュアの世界史の研究はすばらしいものだな。」  


265  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:47:02  [  D4VsWfLE  ]
バーマント側の魔道師であるオスルが感心したように言う。
「世界史の研究ではわがバーマントが一番と思っていたのだが、いやはや、ヴァルレキュアも
素晴らしいものだ。」
「ヴァルレキュア人は元々勤勉だからな。頭がいいのがごろごろいる。それだから、
統一派が行った侵攻にも2年間も耐えて見せたのだろう。」
ベルーク大佐も感心したような表情でそう言う。
「大体の内容は掴めて来た。オスル魔道師、ベルーク大佐。今現在、マリアナとギルアルグ、
2つの魔法都市が、エリラ率いる継戦派に占領されているわけだが、エリラはこのエンシェントドラゴン
を召喚しようと思っているのかね?」
スプルーアンスは怜悧な表情で2人に問う。
「エリラ皇女は元来、目標のためには手段を問わぬ人物です。これが、エリラ皇女の肖像です。」
ベルーク大佐は内ポケットから一枚の紙を取り出し、スプルーアンスに渡した。紙にはエリラ皇女の姿が写っている。
皇族にもかかわらず、戦闘服のようなものを来ている。
容姿は端麗で、特徴を挙げれば、その鷹のように鋭い眼であろう。
華奢にも思えるが、女の割には体つきがしっかりしている感じだ。
「1年前に描かれた肖像です。」
「自己中心的な面構えだな。」
印象からして、スプルーアンスは肖像を見てそう呟いた。
「おっしゃる通りです。エリラ皇女は本当に自己中心的で、人泣かせの性格ですが、
やるべきことは素早くこなそうとする努力家でもあります。このため、エリラ皇女を
崇拝する軍人や国民が相当数おります。その大部分が西北部の者達です。
今回の継戦派の蜂起は、このエリラ皇女が、自らを慕う一派をそそのかして行ったと思われます。」
「やるべきことは素早く・・・・か。なら、」
スプルーアンスの眼が鋭く光った。
「エンシェントドラゴンがこの間にも呼び出されようとしている可能性は充分にある。
いや、そのマリアナと呼ばれる魔法都市で、既に儀式を行っている事も考えられる。」  


266  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:48:48  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスの表情は、相変わらず無表情に近いままだ。
だが、彼が海軍で培ってきた勘は、既に危険信号を捉えている。
「これまでの話を聞いてきたが、私の結論はこうだ。一見、このエリラ皇女の行動は無謀にも思える。」
スプルーアンスは肖像をヒラヒラさせながら言う。
「だが、よく考えてみると、その行動にはある自信が裏付けられる。
そう、今マリアナで行われているかもしれないエンシェントドラゴンの召喚儀式だ
。魔法をよく知っているレイム君らが言うように、エンシェントドラゴンは自滅の兵器ではない。
一方的に相手を滅する事が出来る、れっきとした戦略兵器だ。そう、このエリラ皇女は、
その戦略兵器を使って、思うように自分の国が作れるのだ。召喚儀式には1ヶ月かかったと言うが、
今と昔では魔法技術も進歩しているだろう。そうなれば、儀式の期間は短くなるはずだ。」
スプルーアンスはバーマント人の魔道師、オスアルスに視線を向けた。
「オスアルス魔道師、もし今からエンシェントドラゴンの召喚儀式が始まるとして、終わるのは何日かかる?」
「長くて2週間ですが・・・・・急いでやれば・・・・・・1週間半ぐらいでしょう。」
またもがや会議室がざわめいた。今からB−24で爆撃しようにも、航続距離が足りない。
それに革命側の手に落ちた飛行場を使うにしても、滑走路が短いなど、各種問題が立ちふさがる。
「君達の軍で、マリアナの都市を攻撃できないものかね?」
デイビス少将が聞いてきた。
「それは・・・・無理でしょう。」
ベルーク大佐が陰鬱そうな表情で言う。
「グランスボルク地方には58000の地上軍に6個空中騎士団が駐留しています。
これらの部隊はエリラ皇女に忠誠を誓い、革命軍と対峙しています。革命側が全面侵攻しても、
制圧には最低でも2ヶ月はかかるでしょう。」  


267  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:50:00  [  D4VsWfLE  ]
「とても間に合わないのね・・・・・・」
レイムも不安そうな表情で言う。会議室は、重苦しい沈黙に包まれ始めた。
が、
「意見具申よろしいでしょうか?」
突然、ある人物の声が響いた。それは、作戦参謀のフォレステル大佐だった。
「なんだ?案があるのか?私もこれから言おうとしていたのだが・・・・まずは言ってみたまえ。」
スプルーアンスが顔を上げる。
「では申します。問題のエンシェントドラゴンの召喚儀式が完了するまで長くて2週間、
短くて1週間半と、先の話で出ていますが、確かにこの期間は非常に短いでしょう。
陸軍航空隊のB−24を進出させても、航続距離、基地施設の問題などで間に合いません。
しかし、我々にしかない武器があります。」
「高速空母部隊・・・・・そうだな?」
デイビス少将が尋ねる。
「そうです。マリアナまでの距離は、この地図から見て、北に500マイル北上した後、
西に700マイル進んだ真下にファルグリン、そこから500マイル進めばマリアナの沖に到達します。
距離にして1700マイルほどです。これを18ノットのスピードで行くとすれば、4日もしくは
1週間でマリアナに到達いたします。」
「つまり、わが機動部隊の持つ航空打撃力で、魔法都市を潰す・・・・と言う訳だな?」
「そうであります。」
アメリカ海軍は、太平洋戦争が始まって以来、常に空母を先頭に数々の激戦を戦い抜いてきた。
1942年中は強敵日本海軍の空母機動部隊相手に5分の戦いを繰り広げている。
1943年になると、新鋭空母のエセックス級、インディペンデンス級が次々と就役し、
壊滅しかけた米機動部隊の戦力は、徐々に潤ってきた。  


268  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:52:41  [  D4VsWfLE  ]
そして召喚前の4月末時点で、太平洋艦隊全体で正規空母10隻、軽空母9隻を有する
大機動部隊を編成するまでに至った。
召喚時には、機動部隊は太平洋艦隊の全空母を有していない。
数々の戦闘で軽空母サンジャシントを失うと言う手痛い喪失を被ったものの、戦力的にはまだまだ健在である。
依然として、第58任務部隊は正規空母8隻、軽空母7隻を有する大機動部隊である。
全体の航空兵力は戦闘機、艦爆、艦功合わせて1115機というとてつもない航空兵力を保有している。
これは、マリアナの継戦派が保有する6個空中騎士団を凌駕する戦力で、
その航空打撃力は計り知れないものがある。
この異世界のみならず、現世界でも、第58任務部隊に匹敵する機動部隊は無い。
それに加え、第52任務部隊の護衛空母10隻も加われば、航空兵力はさらに増大する。
フォレステルとスプルーアンスは、この大規模な航空部隊を、マリアナの魔法都市に
一気に叩きつけようと考えているのである。
「手は無い、と言うわけではないのですね。」
ベルーク大佐は、やや安堵したような表情でそう呟いた。
「ああ、その通りだ。燃料も弾薬もまだある。この通り、手段があるのだ。
まあ、私と、フォレステルの考えはこの通りである。他の意見は何か無いか?」
誰も反対意見を問わない。彼らの作戦案に誰もが納得している。
「では、継戦派に対する召喚儀式阻止作戦は機動部隊を以って行う。」
「分かりました。ですが司令長官、問題があります。」
「何だ?」
「継戦派には6個空中騎士団と2個艦隊がおります。仮に1週間で到達できるにしても、
これらに阻止されれば、召喚儀式の阻止は難しいと思われます。」
「6個空中騎士団と2個艦隊は、機動部隊の艦載機で片付ける。
それに敵艦隊と夜戦になっても、我々には新鋭戦艦が7隻いる。恐らく、
継戦派は手ぐすね引いて待ち構えているだろうが、最後に勝つのは、我々だ。」
スプルーアンスは相変わらず、無表情に近い顔つきで、淡々と述べる。  


269  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:54:10  [  D4VsWfLE  ]
しかし、その瞳の奥では闘志が燃え盛っている。
もし夜戦になれば、このインディアナポリスを動員してでも全力で叩き潰す。
そう思っているかのようだった。
「分かりました。あと、問題がもう1つあります。」
「補給の事だろう?」
「はい。機動部隊はここ連日の攻撃で、弾薬の残量が4分の1ほどに減っております。
それと、艦艇の燃料給油なども含めますと、補給には2日かかると思われます。」
第58任務部隊は、大陸東海岸空襲を行ったため、各種の弾薬を消耗しているし、
駆逐艦の燃料補給も行わなければならない。
燃料補給のみならば1日で済むが、空母の弾薬補給となると、2日はかかってしまう。
「こればかりは仕方ないな。」
デイビス少将が腕を組みながら言う。
「時間は確かにないが、燃料、弾薬補給は難仕事です。2日近くは見込まなければなりませんね。」
情報参謀のアームストロング中佐も同意見である。その時、

「1日だ。」

スプルーアンスはおもむろに口を開いた。
「1日でやれ。」
「長官・・・・それは少し・・・・」
「敵は既に召喚儀式を始めているかもしれないのだ。いや、始めていると言った方がいい。
継戦派は急いでいるのだ。それならば、我々も急ぐべきだ。ひょんな事から、召喚儀式が
さらに縮まる事も考えられん事もないのだからな。」
スプルーアンスは席から立ち上がると、壁に掲げられている地図を眺めた。  


270  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/24(水)  23:56:28  [  D4VsWfLE  ]
マリアナ・・・・・
かつて、召喚される前にスプルーアンス率いる第5艦隊が、向かおうとしていた名の諸島と同じ名前だ。
(これで、名実共にマリアナ侵攻部隊となったわけか)
彼はそう思った。
「我々には時間がない。」
そう言って彼は後ろを振り返り、皆を見渡す。
「1日でやれないことは無い筈だ。それぞれの無駄を省き、皆が的確に動けば出来るはずだ。
いや、必ず出来ると、私は確信する。」
スプルーアンスは語調を強くしてそう言い放った。誰もが納得している。
「そこでだが、1つ特例をやろう。この補給作業で、1番短い時間で補給作業を終えた、
戦艦、正規空母、軽空母、巡洋艦、駆逐艦各1隻ずつに、アイスクリームを普段の2倍与えよう。」