83  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:27:57  [  D4VsWfLE  ]
同日午前8時30分
ストーンゴーレムの敵陣地突入は、バーマント側にとって思わしくない結果になった。
バーマント軍はこの作戦に400体以上のストーンゴーレムを用意し、突っ込ませた。
だが、最初の第1波は、突如現れた敵飛空挺によって陣地に近づく前に全て倒された。
第2波は米軍陣地に接近したはいいが、これまた飛空挺の攻撃と、後方の砲陣地からの猛砲撃で全滅してしまった。
第3波もほとんどが空襲で破壊されたり、砲撃によって吹き飛ばされた。
第3波120体のうち、7体が陸軍第27歩兵師団の陣地へ突入した。
ゴーレムは持ち前の怪力で、陣地の米兵を蹴散らした。
小銃弾は効果が無く、手榴弾を投げて、爆発させても少し傷つくだけで効果が薄かった。
逆にゴーレムの攻撃を受けて戦死するものが続出した。
だが、体勢を立て直した米側はロケットランチャーと、対戦車砲の集中砲撃を行い、7体のゴーレムを全て破壊した。
このゴーレムの突入で、米側は戦死12名、負傷18名を出した。

砂煙を上げながら灰色の人の形をしたものが、こっちに向かってくる。
上空には陸軍航空隊の爆撃機や戦闘機が乱舞し、その敵に対して爆弾や機銃弾を浴びせている。
今しも、1体の石の敵、この世界で言うゴーレムと呼ばれた兵器が、3機のコルセアに機銃弾を叩きつけられている。
何発もの機銃弾がストーンゴーレムに命中し、白煙をたなびかせるが、惜しいことに動きを止めるまでには至らない。
その少し右に離れた所で爆発が起きた。
さっきまでその場所を疾走していたゴーレムの姿が黒煙に覆われて見えなくなる。
だが、残りは全く気にも留めずに、淡々とした調子で陣地に進んでくる。
その白い巨人の集団を見て、陣地のタコツボに居座るクラウストン曹長は思わず気味が悪くなった。
クラウストン曹長は第3海兵師団第9連隊の第1大隊D中隊に所属している。
元々は第1海兵師団に所属していたが、今年の2月に第3海兵師団に配置換えとなっている。  


84  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:29:28  [  D4VsWfLE  ]
双眼鏡の向こうのゴーレム群は、未だに多数が残っている。
正確には知らなかったが、この第4波攻撃は、これまでより最も大規模なものである。
第4波攻撃は、実に170体のストーンゴーレムが稼動し、その全てが第3海兵師団に向かっていた。
そのストーンゴーレムの群れを、陸軍航空隊の戦闘機、爆撃機が必死に銃爆撃を加えて阻止しようとしている。
この爆撃には第774航空隊のP−51ムスタング36機、第689航空隊のB−25ミッチェル30機、計60機が参加している。
戦爆連合60機といえば、いささか少ないように思える。
しかし、P−51とB−25の銃爆撃は、数の問題を感じさせないほど熾烈なものだった。
(頑張れ、陸軍航空隊!その調子であの化け物共を全滅させてしまえ!)
クラウストン曹長は内心で、陸軍航空隊に声援を送った。
陣地の将兵は物言わぬ石の怪物と、陸軍航空隊の死闘(といっても一方的だが)を固唾を呑んで見守っている。
曹長の声援に答えるかのように、反復銃撃を受けていた1体のストーンゴーレムが、頭部を吹き飛ばされてその場に倒れ伏した。
また、1体のゴーレムの至近に爆弾が落下、炸裂し、ゴーレムの石の体をたちまち吹き飛ばしてしまった。
1体、また1体と、ゴーレムが葬り去られるごとに将兵達は歓声をあげた。
20分ほど経つと、P−51とB−25は爆弾、機銃弾が尽きて後方に下がっていった。
この間、陸軍航空隊は88体のゴーレムを撃破していた。
残りのゴーレムは距離7000まで迫っていた。
航空部隊の次は後方の榴弾砲陣地からの盛大な歓迎を受けた。
この砲撃で、さらに70体のゴーレムが破壊されてしまった。
しかし、残りの12体のゴーレムは幸運にも生き残り、うち4体がクラウストン曹長の陣地に向かいつつあった。
「対戦車戦闘用意!」
彼は大声でそう叫んだ。ゴーレム群は20キロのスピードで向かっている。
調子も最初と変わらず、淡々とした歩調である。  


85  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:30:32  [  D4VsWfLE  ]
むしろその淡々とした調子が、一層恐怖感を増した。
「距離300メートル!」
誰かの声が陣地内に響き渡る。
さきほどまで歓声をあげていた将兵は、今は誰もが黙り込んでゴーレムに自分達の武器で狙いをつけている。
クラウストン曹長も、バズーカ砲を構えてその狙いを先頭のゴーレムに定める。
その頑丈そうな巨体が、淡々とした調子で、しかし確実と迫ってきている。
外見からして相当硬そうである。機銃掃射を1連射食らって平然としていたのにも頷ける。
(航空隊は2機か3機で集中射撃を行ってやっと倒していた。
そんな敵を俺たちが食い止められるだろうか?)
彼は不安に思った。もしかすると、ゴーレムは自分達をなぎ倒して、後方に進軍を続けるのでは?という思いが沸き起こる。
「距離250メートル!」
「撃てぇ!」
後方から射撃開始の命令が発せられた。何十という小銃や機関銃が一斉に撃ちまくる。
たちまち草原やゴーレムに銃弾が多数命中する。石つぶてが飛び散る様が見て取れる。
だが、ゴーレムは平然として進み続けている。
迫撃砲弾が周囲で炸裂する。爆煙と土煙であたりが見えなくなる。
誰もがやったか、と期待するが、それを裏切るかのようにストーンゴーレムは煙を突っ切って走り続ける。
「距離180!」
その声が聞こえると、曹長は右隣の装填役、ドイツ系アメリカ人であるヘルムート1等兵注意を促した。
「バズーカをぶっ放す!後ろに出るなよ!」
曹長は念のため周りを確かめ、巻き込む危険が無いことを確認した彼は対戦車ロケット砲、通称バズーカ砲をゴーレムに向けて放った。
シュバン!という音と共に、ロケット弾が砲身から飛び出していった。
ロケット弾はゴーレムの胴体に命中した。その直後、他のバズーカ砲が放ったロケット弾もそのゴーレムに命中した。
「やったぞ!」  


86  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:31:12  [  D4VsWfLE  ]
曹長は初弾命中に満足した笑みを浮かべた。
「装填!」
曹長は鋭い声でそう言うと、ヘルムート1等兵は大急ぎで、ロケット弾を砲に込めた。
先のゴーレムは、驚くことにまだ前進していた。調子も先ほどと変わらない。
だが、胴体には大きな亀裂が走っていた。無傷というわけには行かなかったらしい。
装填したヘルムート1等兵がすかさず後ろから側に避ける。
「装填良し!」
ヘルムートが叫ぶと、彼は損傷したゴーレムの胴体に狙いをつけた。そしてロケット弾を発射した。
ロケット弾は惜しいことに、ゴーレムのすぐ右脇をそれて行った。狙いが僅かにずれていたのである。
飛びぬけたロケット弾は、時限信管が作動して後方で空しく炸裂した。
「くそ、外れちまった。装填急げ!」
「距離あと90メートル!」
報告の声が同時に聞こえる。
それを無視するかのようにヘルムート1等兵は機敏な動作でロケット弾を砲身に込めた。
「装填良し!」
すかさず、クラウストンはゴーレムの胴体に狙いをつけ、引き金を引いた。
(今度は外れてくれるなよ!)
彼は心の中でそう祈った。ロケット弾が砲身から弾き出される。
1点の光がゴーレムの胴体に吸い込まれた、と思った瞬間、爆煙に包まれた。  


87  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:32:53  [  D4VsWfLE  ]
ドーン!という轟音が鳴り響いた。その黒煙の向こうからゴーレムがその場に倒れ付すのが見えた。
倒れたゴーレムは胴体が両断されており、上半身と下半身が別々になっていた。
「やったぞ!」
「ブラボー!」
ゴーレム撃破に、海兵達は歓声を上げた。
そしてさらに1体のゴーレムが、バズーカに東部を吹き飛ばされた。
このゴーレムも仰向けに倒れて、戦闘不能になった。
「よし、その調子だぞ!どんどんぶっ倒せ!」
海兵達の士気は上がった。
だが、その時、今までみたゴーレムとは違い、珍しく黒く塗られたゴーレムが姿を現す。
そのゴーレムは右腕を振り回したかと思うと、指を米軍陣地に向けた。
そしてその指から雷状のようなものが飛び、それが壕の近くに当たった、と思われた直後、ババーン!という爆裂音が鳴り響いた。
この爆発で3人の海兵が吹き飛ばされた。
「攻勢魔法だぞ!あの黒い奴は魔法を使ってるぞ!!」
誰かが悲鳴じみた声で叫んだ。その声に答えるかのように、ゴーレムはまた指から雷状のようなものを出した。
海兵陣地にさらに爆発音が響き、その直後に負傷者の苦痛の叫びが響き渡った。
よく見てみると、生き残ったゴーレム2体は、共に黒い奴だ。それらは攻勢魔法を乱射しながら陣地に突っ込みつつある。
「ヘルムート!一時後方に下がるぞ!」
「はい!」
彼と同じ考えの者がいたのか、どこから似たような声が聞こえてきた。慌てて海兵達が後方に下がる。
100メートル下がったところで、2人は改めてバズーカ砲を操作し始める。その時、彼は信じられない光景を見た。
一部の逃げ遅れた海兵が、ゴーレムに踏み潰されようとしている。
「ああ、やめろお!」  


88  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:34:15  [  D4VsWfLE  ]
曹長はそう叫んだ。だが、それがゴーレムに聞き入られるはずもなかった。
その巨体に胴体を踏み潰された海兵は、血反吐を吐いて息絶えた。
別の海兵は襟首を捕まえられると、さんざん振り回された挙句に思い切り地面に叩きつけられた。
その海兵も首の骨を叩き折られて戦死した。
「戦友の仇を討つ!装填!」
クラウストン曹長は先とは打って変わった口調で命令した。その口調の変わりように、ヘルムートはやや仰天していた。
先ほどまではどことなく気楽な調子でバズーカを構えていた。
だが、目の前で戦友が無残に殺される光景を見たとき、クラウストン曹長はカーッと頭に血が上った。
(よくも戦友を!返礼はたっぷりと返してくれる!!)
彼は怒りに血走った目を80メートル先のゴーレムに向ける。そのうちの1体の胴体に照準を向けた。
「装填良し!」
その声を聞いたとき、すかさず引き金を引く。バシュウ!という音と共にロケット弾が勢い良く飛び出す。
ロケット弾は見事、黒いゴーレムに命中して炸裂した。戦友を殺害したゴーレムも、ロケット弾の直撃に大きく仰け反った。
「装填!」
彼が叫んだとき、後ろから何かがやってきた。第3戦者大隊のM−4シャーマン戦車が応援に駆けつけたのである。
「戦友!あとは俺たちに任せろ!」
左隣に停車したシャーマン戦車の砲塔に、車長らしき将校が言って来た。
「今から砲撃を行うから、君達は下がっていろ。砲声で耳が使えなくなるぞ。」
「わかった。頼んだぞ!」
クラウストン曹長とヘルムート1等兵は慌ててその場から離れた。
それを見計らったかのように、2台のシャーマン戦車が75ミリ砲を放った。砲弾は1体のゴーレムの右肩に命中した。
さらに第2射が放たれる。これに加えて3つの対戦車砲も加わった。
2体のストーンゴーレムのうち、1体は3発、もう1体は6発の砲弾を受けて破壊された。  


89  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:35:56  [  D4VsWfLE  ]
ストーンゴーレムの攻撃を退けたいいが、新たなる報告が全部隊に伝わった。
バーマント軍は米軍がゴーレムと対戦している間に大規模な突撃を敢行した。
第3海兵師団の陣地には、バーマント軍第4軍の所属部隊である第214騎兵師団、第215騎兵師団、
合計で17000人による騎兵突撃と、その後方には第98歩兵旅団の全勢力が歩兵突撃に移っていた。
第3海兵師団だけでもざっと、24000人という膨大な兵力が向かいつつあった。
その先頭である第214騎兵師団の突撃隊は防衛線まであと5キロ地点に迫っていた。
その頃、第58任務部隊はサイフェルバン沖で、地上部隊支援の攻撃隊を発艦させた。
まず午前8時50分に第1群、第2群から第1次攻撃隊230機が発艦し、10分後には
第3群、第4群から第2次攻撃隊200機が米空母の飛行甲板から飛び立った。

先のストーンゴーレムの突入は、第3海兵師団に対して戦死21、負傷者8名を出す損害を負わせた。
これに対して米側はシャーマン戦車と対戦車砲、対戦車バズーカを用いて防衛線突破を図った12体のゴーレムを次々に破壊した。
バーマント側のストーンゴーレムはこうして全滅した。だが、さらに恐るべき敵が陣地に向かっていた。
それはバーマント側の本格的な突撃である。
前線より後方6キロの第5水陸両用軍団司令部では、この報告を聞いた時、敵の数が多すぎる事に動揺していた。
この事は予想はしていた。だが、実際にやってこられるとそのショックは大きい。
今までのような節約を念頭に置いた砲撃では、たちまち前線は敵の大軍に蹂躙されてしまう。
やむを得ず、スミス中将は通常の撃ち方で対応せよと命じた。
通常の撃ち方とは、米軍のお家芸である弾幕射撃である。
今まで米軍はその弾幕射撃を極力控えてきたが、今、本来の実力を発揮されるときが来たのである。
その頃には、米軍陣地まで8キロ地点に進出したバーマント軍の砲兵部隊が射撃を開始していた。
射撃は米3個師団全てに向けられた。
弾着は第3海兵師団の陣地に48、第27歩兵師団の陣地に56、第4海兵師団の陣地に38発という具合である。
後方の米軍砲兵隊は、それぞれ割り当てを決め、陸軍のB−24を観測機代わりに使用しながら射撃を開始する事にした。  


90  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:36:58  [  D4VsWfLE  ]
最初の目標はバーマント軍砲兵部隊、そして突撃しつつある敵騎兵部隊である。
午前9時20分、上空には第58任務部隊を発艦した第1次攻撃隊240機が上空に現れ始めた。
その時、後方の砲兵陣地が一斉に吼えた。
バーマント軍第8軍に属する第194砲兵団は、56門の9センチ砲を1分間に4発の
速さで米軍陣地に向けて撃っていた。
9センチ砲3門を束ねる小隊長のイートン・クルアロク中尉は、上空に聞こえ始めた異音に最初
首をかしげた。
「小隊長、この音は一体何なんですか?」
「俺もすぐには」
最後まで言おうとしたとき、彼は急に背筋が凍りついた。まさか、異世界軍の砲撃では?
そう思った時、いきなりドドドドドーン!という大太鼓を耳元で鳴らしまくったかのような轟音が鳴り響いた。
ついで激しい振動が大地を揺さぶった。
「敵の砲撃だ!!!」
ハッとなったクルアロク中尉は思わずそう喚いてしまった。
隣の小隊の砲兵陣地が爆煙と土煙に包まれて見えなくなっている。
彼はそれを見て確信した。自分達の部隊が砲撃を受けている事を!
弾着から10秒も経たないうちにまたもや空気を切るような音が鳴り響いてきた。
「伏せろー!」
彼はそう叫んで、見本を見せるかのように自らその場に伏せた。
直後ドドドドーン!という轟音と凄まじい衝撃が辺りを襲った。  


91  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:37:53  [  D4VsWfLE  ]
起き上がると、右隣の2番砲の周りが滅茶苦茶に吹き飛ばされ、砲自身もあらぬ方向を向いていた。
「逃げろ!ここにいたら砲撃にやられるぞ!!」
彼は部下達にそう告げると、彼らは一斉に後方に逃げ始めた。
そしてまたもや例の音が聞こえてきて、その後に連続して着弾した。
10秒ほど走っただろうか、最初はそれほどでもなかった空気を切るような音が、
今度は空を圧するかのように大きく聞こえてきた。
そして直後、何十という今までに経験したことの無い激しい衝撃が大地を揺さぶった。
実は、数回試射を行った米側砲兵部隊は、ついに効力射を開始したのである。
この第194砲兵団に向けられた榴弾砲は合計で45。砲数から見えればバーマント側が勝っているが、
射撃速度は信じられないくらい速かった。
後方から500メートルの位置まで逃げ戻った彼らは後ろを振り向いた。
第194砲兵団が陣取っていた丘は、いまや無数の砲弾によって左側から順に“耕されつつ”あった。
砲弾の一斉爆発が10秒ちょっと置きで繰り返される。
その発射速度、投射量は自分たちバーマント軍砲兵隊に比べても半端ではない。
「なんてこった・・・・・・・これじゃあ1発撃ったら100発のお返しじゃねえか。」
クロアルク中尉は、砲撃を受ける丘を見ながら呆然としていた。  


92  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:39:22  [  D4VsWfLE  ]
午前9時40分  バーマント軍東方軍集団司令部
エイレーンの森の中の司令部にいるルーゲラー騎士元帥以下の司令部幕僚は、
誰も彼もが暗い表情を浮かべていた。
まず、午前7時から4波に渡って行ったストーンゴーレムによる陣地突破作戦は、
敵異世界軍の飛空挺による空襲と、砲撃によりほとんどが破壊されてしまった。
一部のストーンゴーレムは米軍陣地に見事取り付いて、散々暴れまわったものの、
結局全滅してしまった。
第4波のストーンゴーレムの突撃が行われている最中に、ルーゲラーは全部隊に突撃命令を下した。
その第1陣の7万以上の小銃装備の騎兵部隊、歩兵部隊が進軍を開始した。
午前9時20分に、草原地帯上空に敵機動部隊から発艦したと思われる
戦爆連合230機が来襲し、突撃部隊相手に散々暴れ回っている。
突撃部隊には、対空機関銃を装備した対空部隊も同行し、来襲する米軍機相手に盛んに機銃を撃ちまくっている。
これまでの報告で、敵機12機を撃墜したとの報告が入っている。(実際には7機)
そして同時刻、10分前に砲撃を開始した砲兵部隊に敵軍の猛烈な応戦を受けた。
この砲撃に支援に当たっていた第194、第301、第284砲兵団はほとんどが壊滅してしまった。
報告によると、敵軍の砲撃は正確かつ早く、こちらの砲撃1発に対し、100発の応戦が来た、
というやや誇張気味の部分もあった。
そして5分前に新たに戦爆連合200機が草原地帯に出現したとの情報が入った。
(味方の損耗が大きすぎる。)
誰もがそう思っている。だが、テーブルに置かれた1通の紙が、場の雰囲気をさらに悪くしていた。
それは、バーマント皇が魔道師に送らせた激励分であった。
「東方軍集団の必勝を祈る。」
ただそれだけであったが、その言葉の裏には、貴様らは制圧に成功するまで決して攻撃の手を緩めるな、
という恫喝めいた気持ちが隠されている。
「・・・・・・・・・・」
司令部要員は重苦しい沈黙に包まれていた。次々と寄せられる味方の惨状、悲痛な報告。
その全てが、彼らが攻撃を決心した事をひどく後悔させていた。  


93  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:41:15  [  D4VsWfLE  ]
空母エンタープライズを発艦した38機の攻撃隊は、第4海兵師団の陣地に
迫っているバーマント軍突撃部隊の上空に達した。
攻撃隊指揮官であるマック・フレイサー少佐は各機に全機突撃せよと伝えた。
フレイサー少佐直卒のSBD−ドーントレス艦爆12機は、先頭を走る大きな馬車らしきものに狙いをつけた。
その馬車には対空機銃が搭載されており、低空で攻撃に当たっているF6Fに向けて撃ちまくっている。
その馬車自体、赤く塗られており、彼は用意に発見できた。
「第1小隊は敵先頭集団を走る馬車を狙う。他の小隊は別の目標を狙え!!」
そう言うと、フレイサー少佐は無線機を置いて機体を下降に移らせた。
翼を翻したドーントレスは、高度4000の高さから真っ逆さまに急降下し始めた。
「高度3800・・・・・3400・・・・・3000・・・・・」
後部座席の部下が高度計を読み上げる。両翼の赤く小さな穴を開けられたダイブブレーキから甲高い音が鳴り始めた。
急降下の時にはお馴染みの急激なGが体にかかり、いつもながら息が苦しい意感じになる。
機体がガタガタ震える。照準機の目標がそれと連動するかのようにブレて見える。
ドーントレスは、現世界の戦争で最も武勲を挙げた機体である。
特筆すべきはミッドウェー海戦時における日本の4空母撃沈破という快挙を成し遂げた事である。
最も、武勲機と言われたドーントレスも多くが日本機の餌食となり、多数の命と共に太平洋の諸戦場で散っている。
それでも、この機体の信頼度や功績は大きく、
一度などは劣悪なヘルダイバーよりはドーントレスを乗せたほうがましである、とまで言われたほどである。
その武勲機が、今しも異世界軍相手に必殺の爆弾を叩き込もうとしている。
今回の出撃で、ドーントレスは胴体に1000ポンド爆弾を積んで出撃している。
高度が2000を切った。
ドーントレスが狙っている事に気付いたのか、機銃がドーントレスに向けられる。
高度は1500・・・・投下高度は800メートルだからもう少しである。  


94  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:42:03  [  D4VsWfLE  ]
馬車の機銃が撃ってきた。最初はゆっくり、近づくと急激に速いスピードで機銃弾が飛び去っていく。
ガン!と何かが当たった。機銃弾が命中したのだろう。
(爆弾には当たらんでくれよ)
フレイサー少佐は、内心そう思った。緊張と興奮のため、喉がからからしてきた。
機銃弾に撃ちぬかれて落とされるのではないか?
爆弾が離れずに引き起こしができないでそのまま地面に叩きつけられないか?
この時に限って不吉な思いが次々と頭をよぎる。
(くそ!こんなときに限って、縁起でもない!!)
彼は不吉な思いを頭から叩き出した。
「1200・・・・900!」
その声にフレイサー少佐は反応した。
「投下ぁ!」
気合と共に叫ぶ。同時に投下レバーを引いた。
胴体から1000ポンドの爆弾が懸架装置にプロペラの回転圏外に誘導されて落下する。
爆弾が離れた瞬間、機体がフワリと浮かぶような感じがする。
少佐は操縦桿を思いっきり手前に引いた。引き起こしの急激なGが体を押し潰さんばかりにのしかかる。
そのGにフレイサー少佐はなんとか耐え切った。途中、後部座席部下が
「目標に命中!ナイスショット!」  


95  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:43:05  [  D4VsWfLE  ]
と報告してきた。高度400で水平飛行に移った。
「今度は機銃掃射に移る!」
フレイサー少佐は機を再びバーマント軍の突撃部隊に向けた。今度は集団の横幅の層が厚い所から突入した。
一旦高度800メートルまであげたドーントレスが、再び旋回してバーマント軍に向かっていく。
所々、大集団の中に猛烈な爆発と土煙が吹き上げられる。寮機が投弾しているのだ。
先頭集団は、今度は後方の榴弾砲陣地からの砲撃を受けている。
低空には何機ものF6Fが乱舞して、何機かが機銃掃射を行っている。
それに対抗しているのか、地上からも何条かの曳光弾らしき線が吹き上がっている。
1機のF6Fがその曳光弾の集中射撃を浴びて白煙を吹き上げる。どこかまずいところに被弾してしまったのだろう。
そのF6Fは慌てて上昇に移り、東に逃げるようにして帰っていく。
「味方にも被害が出ているのか。」
フレイサー少佐は舌打ちした。
ドーントレスは徐々にバーマント軍の大集団に突入しつつある。
そして高度100メートルまで降下し、頃合よしと判断した彼は、機銃の発射ボタンを押した。
機首の12.7ミリ機銃2丁がダダダダダ!と調子の良い音を出して銃弾をはじき出す。
2つの線となって敵地上軍の集団をなぎ払う。
400キロの猛スピードで集団の上空を飛び続け、機銃を撃ちまくる。
後部座席の部下も7.62ミリ連装機銃を振り回して下方の敵を撃ちまくった。  


96  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:44:13  [  D4VsWfLE  ]
榴弾砲、艦載機の機銃掃射にも臆せず、バーマント軍の騎兵部隊は第3海兵師団の前線に向かいつつあった。
さんざん撃ちまくられたバーマント騎兵部隊だが、それでも1万を超える騎兵部隊が、
怒り狂った猛牛のように米軍陣地との距離を急速に詰めつつある。
距離は現在2000。クラウストン曹長もバズーカに弾を込めて来るべき敵に備えている。
そして幾ばくかの時間が流れたとき、砲撃を受けながらも敵騎兵部隊は距離500メートルまで迫った。
「撃ち方はじめえ!!」
指揮官の声が聞こえると、後方のM−2ブローニング重機関銃が射撃を始めた。
何丁もの重機の射撃で、最前列のバーマント騎兵がドミノのようにバタバタと撃ち倒される。
M−2ブローニングの射撃で相当数が倒されたものの、それでも敵は突撃をやめない。
距離が200メートルになったところで他の小銃や軽機関銃、迫撃砲などが一斉に射撃を開始した。
もの凄い弾量が鉄の雨となって敵騎兵部隊に叩きつけられた。
たちまち、さきとは比べ物にならない人数が弾幕射撃に屈した。
ある者は顔面を跡形も無く吹き飛ばされ、あるものは四肢を持っていかれ、
ある者は胴体の致命的な部分に銃弾を叩き込まれ、戦死していく。
まさに阿鼻叫喚の地獄だった。だが、
「畜生!なぜ奴らは引かない!なぜそれでも向かってくる!!」
1人の機関銃手が悲鳴のように叫んだ。
そう、バーマント軍は自ら自殺するかのようにあえて突っ込みをやめていなかった。
そして距離が100メートルになった時、バーマント側も小銃を撃ち始めた。
この攻撃で米側にも死傷者が出始めた。
数を著しく減らしながらも、バーマント騎兵は小銃を撃ちまくりながら前進を続けた。  


97  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:45:41  [  D4VsWfLE  ]
そして大損害を出しながらもついに、バーマント騎兵残余300が第3海兵師団の陣地に殴り込みをかけた。
クラウストン曹長に騎兵の1人が馬ごと向かってきた。
クラウストンはすかさずガーランドライフルを構えて撃った。
馬が悲鳴を上げて倒れるが、乗っていたバーマント兵はすぐに飛び降りた。
飛び降りたバーマント兵は曹長を始めとする海兵達に向けて、手当たり次第に小銃を撃ちまくった。
この敵の射撃で2名の海兵に銃弾が命中した。
弾倉内の弾丸を撃ちつくすと、その敵兵は銃をクラウストン曹長に投げつけた。
すんでのところで彼は避けた。敵兵はすかさず長剣を抜き放って、曹長に切りつけた。
彼は左に体を避けて剣を避ける。敵兵はいかつい顔を曹長に向け、すぐに切り返す。
慌ててガーランドライフルで受け止めた。だが、信じられないことにガーランドライフルが曲がってしまった。
(やばい、殺される!)
クラウストン曹長は死を覚悟した。だが、ここで思わぬ事態が起きた。
なんと、ガーランドライフルが敵兵の長剣にくっついているのだ。
チャンスと見た彼はすかさずタックルをかました。
学生時代にラクビーで鍛えたタックルの威力は、ここでも発揮された。
頭が敵兵の腹にぶち当たる。体当たりを受けた拍子に武器の長剣が手元から離れた。
そのままもつれ合うように2人は地面に転がった。
馬乗りになったクラウストン曹長はこぶしを振りかぶったが、殴る前に曹長が敵兵のパンチを受けてしまった。
ガツン!というとてつもない衝撃に顔面が揺さぶられる。
(くっ、しまった!)
衝撃にフラつく頭の中で彼は自らの失態を悟った。勝機ありとみた敵兵は逆に体制を変えて、クラウストン曹長に馬乗りになった。
「死ねい!白星の悪魔め!これは今まで犠牲になった見方の分だ、しっかり味わえ!!」
物凄い剣幕で敵兵は喚きたてた。それと同時に両手を首にあてて力を入れた。
急に苦しくなってきた。危ない。  


98  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/04(木)  18:46:13  [  D4VsWfLE  ]
バーマント兵は興奮して息が荒い。腕にますます力を入れてくる。
両腕や足はすっかり押さえつけられて思うように抵抗できない。
視界が暗くなりつつある、バーマント兵の罵声が遠くに聞こえる。
(ああ、これが死ぬ直前なんだな)
そう思った時、後ろから何かの影が現れた、と思うと、いきなり敵兵の頭を殴りつけた。
バーマント兵は頭を抑えて地面を転げまわった後、気を失った。
「大丈夫ですか!?」
彼の相棒であるヘルムート1等兵が心配そうな表情で眺めていた。
曹長はヘルムート1等兵を確認すると、なぜか涙が出てきた。  


107  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:07:52  [  D4VsWfLE  ]
午前10時20分  第27歩兵師団陣地
先の大規模な騎兵突撃で、敵バーマント軍は合計で5万人以上の騎兵部隊を米軍陣地に突っ込ませてきた。
最初、戦いは一方的な虐殺だった。
バーマント軍は空から、そして地上の砲兵部隊から散々叩かれまくった。
この航空攻撃と猛砲撃で4割が戦死するか落伍した。
そして米軍陣地からの猛烈な弾幕射撃に生き残りの8割以上がバタバタ撃ち倒された。
だが、恐ろしい損耗率を出しながらもバーマント騎兵部隊の生き残りは米軍陣地に取り付いた。
第3海兵師団の陣地には300人の敵騎兵が殴り込み、海兵隊員と壮絶な白兵戦、銃撃戦を演じたが、
わずか15分で全員が戦死するか捕虜になった。
第27歩兵師団では600人の騎兵が第1線陣地に殴り込んで、陸軍兵達と激しくやり合い、
今でも第1線陣地の一部にはバーマント兵の残余100が、米兵と激しく撃ち合っている。
第4海兵師団には500の敵騎兵が殴り込みを行い、一部の部隊は第1線陣地から逃げ出すものが続出するほど壮絶だった。
一部のバーマント騎兵は第2線陣地にも暴れ込んだが、そこの米兵と激しくやりあった後、全員戦死した。

体勢を立て直した海兵隊は、第1線陣地に陣取るバーマント兵に容赦ない攻撃を加えて全滅させてしまった。  


108  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:09:20  [  D4VsWfLE  ]
第27歩兵師団の師団司令部では、師団長であるラルフ・スミス少将が、机の地図とにらめっこしながら
報告を聞こうとしていた。
「前線から報告です。第1線陣地に残存していたバーマント兵は全て撃滅せり。
前線部隊のこれまでの損害は、戦死98、負傷212であります。」
「うむ、ご苦労。」
彼はそう労いの言葉をかけると、通信兵を下がらせた。
「死傷者300人ですか・・・・」
師団参謀の1人が憂鬱そうな表情で言う。
「被害を受けるスピードのペースが速いからな。だが、一応予想の範囲内だ。」
スミス少将はその参謀を元気付けるようにして言う。
(むしろ前線の将兵の心理状態が気になるな)
この作戦で、米軍は初めて通常の作戦に移行した。
それまでの戦闘は、米軍から見ればちびちび撃っていたような感じだった。
だが、今回はいつものような砲弾幕である。
既に砲兵隊は後方の敵砲兵陣地を砲撃しているさい、割り当てられた砲だけでなんと1門あたり100発。
合計で4000発以上を叩き込んでいた。
この4000発と言う数字は、驚く事にサイフェルバン戦で1週間かけて消費した数である。
それに機銃弾も何千発、いや、万を超える数を撃ちまくっている。
この圧倒的な銃砲火に草原地帯は無残な光景が広がっていた。
(おそらく、何人かは精神を壊す奴が出るかも知れんな)
スミスは精神崩壊者が出る事が気掛かりだった。  


109  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:10:46  [  D4VsWfLE  ]
バーマント軍の歩兵部隊は、騎兵部隊が攻撃を受けている間に防衛線まで4キロ地点に迫っていた。
そして午前10時30分までに防衛線まで距離3キロ地点まで無傷で進出していた。
ゴーレム部隊、騎兵隊が壊滅したにもかかわらず、歩兵部隊の士気は旺盛だった。
彼らは戦友の屍を乗り越えながら、鬼気迫る双眸で確実に米軍陣地に向かいつつある。
そこに米軍機がわれ先にと襲い掛かってきた。度重なる攻撃で、歩兵部隊は数を減らしていった。
残存部隊が陣地に迫ると、猛烈な銃砲火が彼らを迎え撃った。
バタバタとなぎ倒される敵兵、爆発に巻き込まれ、体の一部を持っていかれる敵兵。
先の騎兵攻撃よりも凄惨な状況を呈している。
しかし敵は諦めなかった。
いくら戦友が叩かれようが、全ての思いを胸に全力で米軍陣地に向けてぶち当たっていく。
陸軍第27歩兵師団の陣地には1000人のバーマント兵が、銃砲火を受けながら陣地内に
今しも突入しようとしていた。
軽機関銃の射手であるイリスト・コンプトン1等兵は、軽機関銃の引き金を引き続けた。
ドタタタタタ!という軽快な音と共に機銃弾が吐き出される。
まるで水をまくように、曳光弾が横にサーッと流れていく。
それに体を貫かれたバーマント兵は、当たった部位を抑えてうずくまるが、
中には撃ち抜かれても平然そうに走り続けるものがいる。
他の機銃も猛烈に撃っているのだが、はっきり言って敵の阻止が出来ていない。
むしろ機銃弾を浴びてからますます好戦的になっているようである。
敵兵も小銃や機関銃を走りながら撃ってきた。敵にも似たような銃器があるのだ。
7.62ミリの給弾ベルトを持っていた同僚がいきなり肩を抑えた。手の隙間からは血が噴出している。
銃弾にやられたのだ!  


110  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:11:44  [  D4VsWfLE  ]
「衛生兵!ここに負傷者だ!!」
彼は後ろに向かってそう叫んだ。その間にも敵兵はわらわらと押し寄せつつある。
いきなり軽機の目の前でバスバスバス!と、連続して土煙が上がった。
慌てて彼はタコツボに引っ込んだ。すぐに顔を上げて周りをすばやく見る。
(居た!)
彼は80メートル右斜めに軽機らしきものを撃ちまくるバーマント兵を見つけた。
そのバーマント兵は、彼の後ろの味方を狙っている。
おそらく自分を狙ったのはあいつだ!
コンプトン1等兵はすぐに、軽機を振り回す、顔がハッキリしない敵兵を撃った。
腹と胸に8発の銃弾を食らわせた。その敵兵は倒れる拍子に帽子が取れて長髪が露になる。
女だったのか。彼はそう思うだけで次の獲物を見つけて軽機を撃ちまくる。
その時、額にハンマーで叩かれたような衝撃が伝わり、コンプトン1等兵の意識は暗転した。
衛生兵のチャーリー・ミランは、戦死したコンプトン1等兵の右で負傷に呻く味方に近づいた。
その味方は肩とわき腹に負傷していた。
「戦友、今助けるぞ!」
ミランはここにいては適切な治療が出来ないと思い、その味方兵を運ぶ事にした。
負傷兵の傷ついていないほうの右肩を引っ張って、後ろ5メートルに置いてある担架まで引きずった後、負傷兵を担架に乗せた。
その時、後方でダーン!という轟音が鳴った。ミランと担架を持ってきた兵はすかさず伏せた。
土が体にパラパラと落ちてくる。その直後にヒューン!という音を立てて彼の頭のすぐ上を銃弾が掠めて行く。
(狙われている!)
ミランはそう思い、ぞっとした。恐らく、腕章の赤十字の意味を理解していないのだろう。
その事は前々から覚悟していた。だが、実際に狙われると、体が恐怖に縮み上がってしまった。
「おい、ミラン!早く行こうぜ!」
同僚の兵が彼を急かす。彼は恐怖を強引に振り払って起き上がり、担架を持った。
銃弾が唸りをあげて周りを飛んでいく。後方で何度も爆発の音が聞こえる。
「いてえ・・・・耐えられん、殺してくれ。」
傷の激痛に耐えかねた負傷兵が、泣きながら訴えてくる。
「馬鹿野郎!それぐらいの傷がなんだ!安心しろ、それぐらいの傷じゃあ死にはしない!」  


111  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:12:27  [  D4VsWfLE  ]
泣きべそをかく負傷兵を、ミランは叱咤する。彼の叱咤に負傷兵は押し黙った。
だが、よほど痛いのだろう、負傷兵はしきりに唸る。
このままでは可哀想だと思ったミランは、担架を少しの間だけ止めて、負傷兵にモルヒネを注射した。
モルヒネを打たれると、負傷兵はようやく黙った。
ようやく後方から500メートルの所にやってきた。トラックに負傷兵を乗せる。
そのトラックには20名ほどの負傷兵が乗っていた。
銃弾を腕や足に受けて戦闘が出来なくなったもの、一見無傷そうだが、実際は内臓を傷つけられて瀕死の者もいる。
良く見てみると、隣のトラックには負傷兵が40人も乗っている。
そのどれもが、激烈な白兵戦を経験していて、銃創や刀傷を負って治療が必要だった。
さらに後方に目をやると、他の兵に運ばれた負傷兵が、担架に乗ってやってくるところだった。
それも1人2人ではない。6人、7人といった多さである。
「こんなに・・・・・味方はやられたのか・・・・・・」
ミランは負傷兵の多さに愕然とした。  


112  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:13:46  [  D4VsWfLE  ]
バーマント軍第8軍に所属する第89歩兵師団は、多大な犠牲を出しつつも米軍陣地に取り付いた。
先の対空戦闘で、コルセアを撃墜するという殊勲をあげたレイックル軍曹も生存していた。
盛り上がった丘に隠れて米兵の銃撃をかわす。
銃撃が止んだとたん、彼は壊れた馬車から引っ張り出してきた11.2ミリ機銃を、
部下と共に素早く丘の上に設置した。
11.2ミリ機銃はかなり重いが、それでも、勝利を求める軍曹と部下達は
その重い機銃をずっと離さなかった。
そしてそれがついに火を噴くときが。
「くらえ!今までのお返しだ!」
ドドドドドドド!という音を立てて60メートル先の米軍陣地に機銃弾を叩き込む。
いきなりの機銃掃射に米兵は慌ててタコツボに隠れる。
「今だ!突撃しろ!」
軍曹は後ろから付いてきた歩兵の小隊に向けてそう叫んだ。
歩兵小隊はすかさず丘を駆け上がって米軍陣地突入していく。
その後方から敵軍の機銃らしきものが歩兵小隊を狙い、火を噴いた。
たちまち2、3人の味方兵が打ち倒される。
それに照準を変えて引き金を引く。無数の曳光弾が敵の銃座、M−2ブローニング重機の周辺に突き刺さった。
突然の銃撃に米兵は撃っていた機銃を離した。
そして隠れようとしたときに1人が何発か浴びて絶命する。
もう1人の敵兵は慌ててタコツボの中に引っ込んだ。  


113  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:15:26  [  D4VsWfLE  ]
11.2ミリ機銃弾はそればかりでなく、ブローニング重機自体にも襲い掛かった。
それまで無数のバーマント兵をなぎ倒してきた重機に火花が飛び散る。
11.2ミリ機銃弾が、ブローニングの特徴ある長い銃身を数発が命中して断ち切る。
その次に機構部に多数命中してたちまちその鉄製部分を、音を立てて打ち砕く。
引き金部分が吹き飛ばされる。
無数の銃弾を撃ち込まれたブローニング重機は、射手同様、無残な姿に成り果てた。
「軍曹、あそこにも!」
部下が左の方向を指差した。別の機銃が歩兵小隊を狙っている。
レイックルはその重機に対して、素早く銃身を向けた。
11.2ミリ機銃弾は米軍の機銃座に次々と突き刺さり、射手を射殺して給弾手の腕を吹飛ばした。
その時に機銃がウンともスンとも言わなくなった。弾が切れたのである。
コルセア戦闘機に馬車を破壊された際、残りの予備弾薬に機銃弾にやられて爆発してしまった。
持ち込めたのは機銃本体と、弾薬100発のみだった。
「俺たちも突っ込むぞ!」
レイックルは6人の部下に対してそう言うと、自ら先頭に立って陣地内に突入した。
その頃には、彼の機銃の援護を受けた歩兵小隊が、米軍の守備兵相手に激烈な白兵戦を演じていた。
バーマント兵の標準装備である長剣は、この白兵戦で威力を発揮した。
あるものは米兵の体を串刺しにし、あるものは体の一部を切り飛ばした。
米側も負けてはいない。ガーランドライフルを棒代わりに振り回したり、被っていたヘルメットを使うもの、
中にはスコップを武器にするものもいて、お互いに切り合ったり、叩きのめしたりと、いわばどつきあいが展開されている。
レイックル軍曹の分隊は、20メートル進んだところで迫撃砲を操作している部隊に遭遇した。  


114  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:16:19  [  D4VsWfLE  ]
5人の米兵は彼らを見つけると、慌てて発砲しようとした。
レイックル軍曹は小銃で1人を撃った。銃弾はその兵士の足に命中。
米兵もガーランドライフルを撃ち返す。
部下の1人が数発を体に受けて絶命する。レイックル軍曹に銃弾が飛んできた。
1発が右肩を掠めた。銃弾がかすった瞬間、焼けるような痛みが全身を走った。
「野郎!」
彼は怒りを上げて小銃を乱射する。弾が切れると、彼は小銃を捨てて腰の長剣で切りかかった。
1人を切り倒す。残りの仲間も米兵に群がる。
あっという間に囲まれた米兵達は、彼らに袋叩きにされてしまった。
これまでやられてきた仲間の敵討ちとばかりに、容赦なく剣を突き下ろし、銃弾を米兵に叩き込んだ。
誰も彼もが目を血走らせている。
この時ばかりは、彼らは血を追い求める魔物でしかない。
米兵5人の殺害を確認すると、彼らはさらに進もうとした。
この時には、第27歩兵師団の第1線陣地の将兵は、バーマント兵の気迫に押され、
残りが後方200メートルの第2線陣地に逃げ散っていた。  


115  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:17:14  [  D4VsWfLE  ]
「第89歩兵師団が敵軍の陣地を制圧しました!」
朗報が司令部に飛び込んできた。
この時、甚大な損耗に頭を痛めていた司令部の面々はこの報告を聞いて、最初は耳を疑った。
「何?それは本当か?」
ルーゲラー騎士元帥は訝しげな表情で通信兵を見つめる。
「撤退の報告ではないのか?」
「いえ、違います。制圧したとの報告であります。」
通信兵はもう一度同じ事を言った。そして次第に司令部の面々に喜色が現れてきた。
「司令官、やりましたな!これで敵異世界軍に我々の実力を思い知らせてやりましたぞ!」
その直後、別の通信兵が入ってきた。
「報告します。第12軍所属の第94歩兵師団が敵陣地を征圧しました。」
この報告に、司令部の作戦室に歓声が上がった。
「すごい快挙だ!」
「見たか!異世界軍め!」
誰もが喜びを分かち合っている。
なにしろ、膨大な犠牲が出たにもかかわらず、一部の米兵を陣地から追い払ったのである。
あのサイフェルバン方面軍を機動作戦で殲滅し、手強しと恐れられていた異世界軍に煮え湯を飲ませたのだ。
「静かに!」
ルーゲラー騎士元帥は、まるで勝ったと言わんばかりの司令部の面々に対して怒鳴り声を上げた。  


116  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:18:07  [  D4VsWfLE  ]
「まだ戦いは終わってはおらん!制圧したと言っても、敵の陣地の一部に過ぎない。
それに第4軍からはまだ制圧の連絡が入っていない。恐らく苦戦しているのだろう。
諸君らは陣地を制圧したと喜んでいるが、敵はまだあきらめてはいない。
敵も総力を結集してくるであろう。現に海上にいると思わしき敵機動部隊も、
大量の飛空挺を放っているではないか。確かに勝利の1歩は掴んだ。
だが、これからも苦しい戦いが続く事には変わりはない。」
彼は一旦言葉を切って周りを見つめた。誰もが彼の言葉に頷いている。
そう、戦いはまだこれからなのである。
「この勝機は、数万の将兵の犠牲の下に培われたものだ。我々は、その事を忘れて
勝った勝ったと叫んではいけない。では、これからの予定だが、各軍の予備師団を
敵の制圧した陣地に増援部隊として送れ。」
彼は次なる命令を発した。その命令を実行させるため、幕僚達は再び、慌しく動き始める。
この勝利が、後に東方軍集団に災厄をもたらす事になる。  


117  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:21:43  [  D4VsWfLE  ]
午前11時  第5艦隊旗艦インディアナポリス
「それで、各師団の損害はどれぐらいなのだ?」
スプルーアンス大将は、腕を組みながら情報参謀のアームストロング中佐に質問する。
アームストロングは持っていた紙面に目を通しながら口を開いた。
「暫定ではありますが、被害の結果は次の通りです。第3海兵師団、戦死164、負傷521。
第27歩兵師団、戦死、204、負傷691。第4海兵師団、戦死138、負傷600。
合計で2339人の死傷者が出た事になります。」
この数字を聞いて、会議室にどよめきが走った。
1日だけで被った被害は、この数字で最大記録を早々と更新してしまったのである。
スプルーアンスとレイム、マイントはいたって冷静である。むしろこうなる事は予想済みであったのだろう。
「想定内の数字とはいえ、酷いものだ。」
参謀長のデイビス少将は顔をしかめてそう呟いた。現在、第27歩兵師団と第4海兵師団の第1線陣地には、
それぞれ600人、480人のバーマント兵が陣取っている。
最初、第1線陣地が占拠されたと聞いた時には誰もが驚きに包まれた。
バーマント兵の先頭で死傷者は出ると思ったが、まさか占拠されるとは思っても見なかった。
現在、海兵隊、陸軍航空隊の戦爆連合240機がそれぞれ分散して、陣地内の敵兵をあぶり出しにかかっている。
その時、通信副参謀のマコーミック少佐が血相を変えた表情で入ってきた。
「敵軍に新たな動きです!」
「どうした?」
「森の付近から新たに2個師団相当の兵力が東に移動中との事です。
それから、空母ヨークタウンの偵察機が、エイレーンの森に向かう1個軍相当の兵力を発見したとの事です。」  


118  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:25:12  [  D4VsWfLE  ]
「何だって!?」
今度は会議室が静まり返った。敵はある限りの兵力を全て使おうとしている。
誰もがそう確信した瞬間であった。
「1個軍とは・・・・敵も随分な増援をよこしてきたじゃないか。」
フォレステル大佐が舌打ちしながらそう呟く。
「敵は勝負を一気につけるつもりだな。」
「だとすると、上陸軍も予備師団を投入するかも知れんな。」
「海兵隊は機動作戦を取るつもりのようだが、敵が新手を繰り出したとなると、
少々やりづらくなるかも知れない。」
参謀達は頭を抱えながら、議論を重ねていく。作戦室の雰囲気は次第に熱気を帯び始めてきた。
「通信参謀、次の攻撃隊が出るのは何時ごろか?」
「参謀長、第4次攻撃隊は午前11時40分に発艦予定です。」
「うーむ・・・・・敵の新手部隊も叩かないといけないのだが。しかし、味方の防衛線にへばりつく敵もいる。」
「畜生、こういう時にもっと、弾薬輸送船があれば良かったのだが。」
「無い者ねだりしても始まらんよ。それより新手部隊を叩くか、
防衛線の敵部隊を叩くかは第58任務部隊司令部が決める事だよ。」
色々な議論が沸き起こるが、どれもこれも後の問題が付きまとってくる。
誰もが頭を抱え始めていた。同様の苦悩は、第58任務部隊の旗艦、レキシントンでも起きている。
「ここは・・・・・少しばかりに派手な方法で敵を驚かすしかないかも知れんな。」
それまでやりとりを黙って聞いていたスプルーアンスが口を開いた。
「このまま撃ち合いの戦を続ければ、弾薬の乏しい我が軍は危なすぎる。
ここはドーンと一発、何かの方法でハッタリをかましたほうがいいのかもしれないな。」
「なるほど・・・・それも一案かもしれません」
レイムもうんうん頷きながらそう呟く。
「何か方法があるはずだ。」
スプルーアンスはふと考えた。現在、航空部隊の空襲は敵の突撃部隊に対して行われていた。
その攻撃隊を後方の森へ回せないものか?
スプルーアンスは腕を組んで考え始めた。その時、彼の脳裏にある事がよぎった。  


119  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/05(金)  22:26:02  [  D4VsWfLE  ]
午前11時40分に発艦した第4次攻撃隊200機は、第27歩兵師団の防衛線の一部を
占拠している第89歩兵師団の残余に襲い掛かった。
攻撃は40分間続けられた。この攻撃で第89歩兵師団の残余は200名までに激減してしまった。
この部隊はその後、1時間頑張ったが、結局大多数が捕虜になり、第89歩兵師団は全滅してしまった。
第4海兵師団に突入した第94歩兵師団は、全滅を恐れて残余300名が後方に撤退していった。
ちなみに、これら2個師団と共に突撃した第4軍所属の第97歩兵師団は、
前線に取り付く前に全滅を恐れた指揮官によって途中で引き返した。
第97歩兵師団も残余は2000しかいなかった。
戦果甚大、戦果僅少。まさにその言葉どおりの被害状況である。
この事から、ルーゲラー騎士元帥は一旦昼間の攻撃を中止した。
しかし、彼は諦めていなかった。ルーゲラーは夜戦を企図していた。
バーマント軍の士気もまだまだ旺盛であり、残存部隊は静かに森の前に引き返し、夜が来るのを待った。  



134  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:23:16  [  D4VsWfLE  ]
9月9日  午後9時  エイレーンの森
東方軍集団の司令官であるルーゲラー騎士元帥は、しきりに時間を気にしていた。
この日、バーマント軍の東方軍集団は、7万以上の大兵力を注ぎ込んで、米軍3個師団が守る防衛線を攻撃した。
だが、航空支援のないバーマント地上軍は非常に苦しい戦いを強いられた。
米機動部隊、陸軍航空隊、海兵隊航空隊の戦闘機、爆撃機は入れ替わり、立ち代り襲い掛かってきた。
そして航空攻撃に数を減らされながらも、やっとのことで米軍陣地にたどり着いた部隊にも
猛烈な砲撃、弾幕射撃が待ち受けていた。
苦闘5時間の末、7万の突撃部隊はあっけなく壊滅してしまった。
あまりの損害に驚いたルーゲラー元帥は昼間の攻撃を中止し、夜戦で新たに勝負を決めようと考えた。
理由は敵機の行動が無くなるからである。
夜戦の開始時刻は9時20分。攻撃部隊は新たに到着した第16軍を中心に行われる。
第16軍は4個師団が全て騎兵と言う、機動力に長けた軍で、過去に所属していた
グランスプ軍団でも数々の戦果を収めている。
「第16軍を中心に野戦を行えば、今度こそ、敵異世界軍陣地を全て突破できる。」
ルーゲラーはそう確信している。
何しろ、圧倒的不利な状況で戦った昼間の味方部隊も、最終的には米軍陣地に突入して少なからぬ被害を与えている。
航空機の支援が出来にくい夜間ならば、戦果は格段に上がるだろう。
攻撃中止の時は憂鬱そうな表情を浮かべていたルーゲラーは、今では元の自信に満ちた表情に戻っている。
「早く攻撃が待ち遠しいですな。」
参謀長が軽い口調で声をかけてきた。
「うむ。今度こそ、我が軍自慢の騎兵軍団で目に物を見せてやるわ。」  


135  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:24:07  [  D4VsWfLE  ]
彼は居丈高にそう言った。
その直後、窓の外から青白い光が差し込んできた。
「ん?何だ?」
不審に思った参謀長が首をかしげる。
「敵の飛空挺の攻撃か。」
ふと、ルーゲラーはそう思った。
敵の飛空挺は照明弾の明かりを元に、森に空襲をしかけるのだろう。
「ふん。上空からは下の様子が見えないのに、どうやって狙うのだ?」
彼は米軍の攻撃のやり方に対して、嘲笑を浮かべる。
「司令官!敵の飛空挺が照明弾を落としました!」
「わかっておる。だが、ここは鬱蒼とした森に覆われた森の中だ。爆弾を落としても正確には狙えまい。」
微笑みながらそう言う。それから20秒立った時、何かの空気を切るような音が聞こえた。
「この音」
最後まで言い切ろうとした瞬間、ドガーン!という腹に応えるような音が鳴った。
衝撃でテーブルがガタガタ揺れる。
「な、何だ!?」
幕僚の1人が仰天した表情でそう喚いた。その直後、通信兵が血相を変えた表情で入ってきた。
「ルーゲラー司令官!ザラーク要塞から緊急信です。内容は、敵軍艦10隻現れ、以上です!」
「それだけか?」
「はい。恐らく、発信中に戦死したものと思われます。」
その時、シュウウゥーという音が聞こえ、南側のほうからドドーン!という雷が落下したような音が鳴り響いた。  


136  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:25:31  [  D4VsWfLE  ]
「戦艦を突っ込ませる?」
インディアナポリスの司令部幕僚は、誰もが素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ。」
スプルーアンスは、地図のとある部分を指差した。
そこは、サイフェルバン南西部にあるザラーク湾である。
「ここザラーク湾は、幅が約2マイルある。潜水艦部隊の調査によると、
水深も湾から500メートル部分までは大型艦が停泊できる深さがある。」
「しかし、このザラーク湾の西側には要塞砲があります。我々はここを叩くにしても、
戦略的な価値はないからここはパスしていましたが、この要塞には70〜200門の砲台があり、
近づくのは少々危ないような気がします。」
フォレステル大佐が異を唱える。
「私も同感です。ザラーク要塞には7センチから13センチ、大きいものでは26.5センチという
大型の要塞砲も存在します。いくら戦艦を突っ込ませても、無傷ではすまないと思われます。」
レイムも待ったをかける。しかし、スプルーアンスの意は硬かった。
「では、諸君らは地上軍の兵が、バーマント兵の凶刃に倒れる事を望むのかね?」
スプルーアンスは、その怜悧な双眸で周りを見回した。
作戦室の中は、雰囲気が凍りついたように静まり返る。
「確かに、正攻法もいいだろう。しかし、戦いはとは常に流動的なものだ。
被害に恐れをなした敵軍の司令官が攻撃を一旦中止して、航空作戦の取れにくい
夜間に地上部隊を突っ込ませるかもしれない。我が地上軍は優秀だし、敵に屈しないだろう。
だが、味方にも多大な損害が出るに違いない。」  


137  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:26:46  [  D4VsWfLE  ]
スプルーアンスの言葉に、皆が真剣に聞き入っている。
「それを未然に防ぐためにも、敵の指揮を落とす必要があるのだ。
今回、なぜ私が戦艦を突っ込ませようとしたのか、感付いているものもいるかもしれんが」
スプルーアンスはコンパスを取り、ザラーク湾を中心にして円を描いた。
その大きな円は、エイレーンの森も範囲内に入っている。
「これは、我が戦艦の射程距離、22マイルの範囲内だ。範囲内には、我が3個師団に攻撃を
仕掛けたと思われる、突撃部隊の出発位置も入っている。我々はこの、敵軍の司令部が駐屯している
エイレーンの森を、艦砲射撃で叩き潰す。航空機でやったほうがいいと、諸君らは思うだろう。
しかし、リーソン魔道師が言うように、奥は鬱蒼とした森に覆われている。
それでは爆撃しても、効果が上がらないだろう。それならば、軍艦の砲弾を撃ち込むしかない。」
「榴弾砲はどうです?ロングトムなら、森を狙えると思いますが。」
「確かにそうと思うだろう。だが、ロングトムの6インチ砲は榴弾だ。
榴弾では木々に当たっても上で爆発してしまう。だが、分厚い装甲を打ち抜くように作られている、
我が戦艦の主砲弾なら効果はもっと上がるはずだ。」
「なるほど・・・・確かに。」
デイビス少将は頷く。その後、色々議論が交わされた末、戦艦部隊のザラーク湾突入が決定された。  


138  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:27:56  [  D4VsWfLE  ]
午後8時40分  ザラーク要塞
ここザラーク要塞は、3年前にヴァルレキュア軍の侵攻に備えて建造された施設だ。
この要塞は、ザラーク湾西側の断崖を削って作られており、岩肌から多くの大砲が、
来るべき外敵に備えて海上を睨んでいる。
ザラーク要塞の真ん中側、13センチ砲の2番砲を受け持つ、ジィルウッド騎士軍曹は、
あくびをかいていた。
「敵の野郎、内陸ばかり攻撃してこっちには見向きもしねえぜ。」
傍らにいる同僚が、皮肉そうな口調で言ってくる。
「暇だよな〜。」
「全くだ。それとも、俺達を恐れて向かってこないんじゃないのか?」
「だとしたら、敵は腰抜けだな」
そう言うと、2人はハッハッハと笑いあった。7月のサイフェルバン攻略戦の時には、
米艦隊はこの要塞にも来ると、何度も現地指揮官に言われていた。
だが、待てども待てども、敵は全く現れなかった。
そればかりか、敵異世界軍はこの要塞を無視して、サイフェルバンの攻略を推し進めた。
サイフェルバンが占領された8月上旬には、この要塞に配置されていた9センチ砲30門が東方軍集団に回されてしまった。
何人かは反対の意見が出たものの、
「どうせ敵はこっちには見向きもしていないんだ。持っていくのなら全て持っていくがいいさ。」
と、ジィルウッド軍曹は疲れたような口調でそう言ってきた。
そして現在、敵も全く来ないこの要塞で、彼らは暇な警戒任務についている。  


139  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:29:09  [  D4VsWfLE  ]
「そういえば、俺たちは近く、東方軍集団に編入されるらしいぞ。」
「それは本当か?」
ジィルウッドはそう質問する。
「ああ。なんでも、3時間前に東方軍集団の参謀が来て、ここの大砲を
全て取っ払って急増の砲兵軍団にするそうだ。」
「へえ〜、そいつは面白そうだな。俺は普段から、調子に乗っているアメリカ軍とやらが
気にいらねえんだ。そうか、砲兵軍団か。」
彼はうんうんと頷きながらそう呟いた。この噂はあちらこちらで広まっている。
退屈な要塞任務に辟易としていた彼らだが、やっと自分達にも働きどころが出来たか、と満足していた。
「それなら、大砲で敵異世界軍を吹飛ばせるな。で、準備はどれぐらいかかるかな?」
「さあなあ。まあ短くても3週間はかかるんじゃないか?長くても1ヶ月ぐらいだな。」
「なるほど。実戦が楽しみだな。」
ジィルウッドはにやりと笑みを浮かべた。
その時、遠くから何かの音が聞こえてきた。飛空挺が真上を通り過ぎていく音である。
何だ?と、誰もが思った時、いきなり上空に青白い閃光が走った。その光は、ゆらゆらときらめいている。
「照明弾!?」
彼はすかさずそう思った。その時、
「海上に不審船!距離およそ、9000!」  


140  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:30:11  [  D4VsWfLE  ]
のぞき穴から海上を見張っていた見張りが、突然不審船発見を報告してきた。
「不審船だと?なぜこんなところに・・・・・もしや、異世界軍!?」
彼がそういった直後、1隻の不審船から閃光が走った。
しばらくすると、600メートル南側の第1砲台群の付近から爆発音と衝撃が伝わった。
「敵だ!敵がやってきたぞ!おい、砲撃の準備だ、急げ!!」
彼は慌てて部下に砲戦の準備をさせた。普段から訓練しているため、動きは良い。
だが、準備している間にも、第1砲台群の付近に敵の砲撃が殺到しつつある。
準備開始から1分後、13センチ砲に弾が込められた。
「装填よし!」
ジィルウッド軍曹は射手兼、照準手を勤めている。照準の中に黒々とした軍艦が見える。
2つの砲塔らしきものと、その後ろに先鋭的な艦橋、そして2本の煙突が見える。
ごつごつとしつつも、スマートで、力強さを感じさせる。
軍曹は知らなかったが、その軍艦は重巡洋艦のニューオーリンズだった。
「照準よし!発射!」
彼は引き金を引いた。ズドォーン!という轟音と共に砲弾が飛び出した。
弾はニューオーリンズの手前、1000メートルに落下した。
他の砲台からも砲撃が始まった。先頭艦のニューオーリンズに弾着が集中する。
だが、どれもこれも外れだった。1発もかすってすらいない。
「くそ、ハズレだ!次弾装填!」
「敵軍艦は10隻以上、敵艦からの砲撃は熾烈!」
この時、米艦隊はニューオーリンズを先頭に重巡洋艦ミネアポリス、サンフランシスコ、
軽巡洋艦のマイアミ、ヒューストン、ビンセンズが主に砲撃を行っている。
6巡洋艦の後方には、戦艦インディアナ、アラバマ、ノースカロライナの3戦艦が続航している。  


141  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:31:16  [  D4VsWfLE  ]
ニューオーリンズはしょっぱなから9門全てを使って、断崖沿いの砲台群を撃ちまくった。
最初は見当ハズレの所に命中したが、2斉射目で7センチ砲群のど真ん中に命中。
3斉射は砲弾の1発が砲戦用の穴から進入して施設内部で炸裂、この砲台の弾薬庫が誘爆起こした。
これに追い討ちをかけるかのように、残る5巡洋艦も砲弾を叩きつける。
特に激しく撃ちまくったのが、クリーブランド級軽巡の属する3艦で、6インチ砲12門を急斉射で相当数を発砲している。
普通なら20秒おきに斉射だが、急斉射になると、15〜10秒おきの発砲となる。
マイアミ、ヒューストン、ビンセンズが発砲を開始してから5分が経ったが、3艦だけで合計600発を第1砲台群に叩き込んでいた。
それに両脇を固める駆逐艦も砲撃に加わったため、第1砲台群はたちまち、多数の砲弾を浴びせられる事になった。
そして砲戦開始から7分後に、第1砲台群70門の各種大砲は、一方的に撃ちまくられて壊滅してしまった。
「第1砲台群が壊滅しました!」
「早すぎるぞ!!」
「敵の大砲の発射速度が速いんだ。これは大変な事になったぞ!」
要塞内の兵は、半ば恐慌状態に陥っていた。
「ぐずぐずするな!さっさと弾を込めろ!」
ジィルウッド軍曹は先ほどからのそのそとしか動かない部下達を叱咤した。
そして8発目を放った。
砲弾はニューオーリンズの中央部に命中した。
「やった!命中だぞ!」  


142  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:32:40  [  D4VsWfLE  ]
ニューオーリンズの艦体に命中弾を認めた彼は、思わず歓声を上げた。
「次だ!急げ!!」
ニューオーリンズも、彼が所属する第2砲台群に向けて射撃を開始した。
時速18ノットの低速で、照明弾に照らされた砲台群に照準を合わす。
9門の8インチ砲が吼えた。
「発射!」
ドーン!という発射音がした直後、猛烈な衝撃が、頑丈な要塞内を激しく揺さぶった。
「3つ隣の13センチ砲台がやられました!」
「畜生、やりたい放題やりやがって!」
ジィルウッドは忌々しげに呟いた。
その時、繰り返し起きたニューオーリンズ付近の弾着に、新たに3つの異なる閃光が走った。
水柱が晴れると、ニューオーリンズは中央部と艦首から黒煙を吹き上げていた。
「敵艦火災発生!ですがまだ健在です!」
「なら健在じゃなくするぞ!」
13センチ砲に弾が込められ、照準を合わせる。そして引き金を引く。
強い衝撃と共に砲弾が放たれる。
要塞側にも次々と命中弾が出て、多くの砲が沈黙に追い込まれている。
軍曹の放った砲弾は、ニューオーリンズの前側の煙突に命中した。
根元で炸裂した砲弾は、あたりを滅茶苦茶に叩き壊して、煙突を右舷側に傾斜させる。
ニューオーリンズも健在な8インチ砲9門を振りかざして、砲撃を続ける。
「敵2番艦にも火災発生!」
集中射撃を受けているのはニューオーリンズとミネアポリスである。
この時点で、ニューオーリンズは6発、ミネアポリスには3発の砲弾が命中している。  


143  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:34:04  [  D4VsWfLE  ]
ニューオーリンズが新たな砲撃を行った、と思った瞬間、これまで以上の水柱が立ち上がった。
第3砲台群の9門の26.5センチ砲が砲撃を行ったのだろう。
水柱が晴れると、ニューオーリンズに異変が起きていた。
なんと、艦前部の前側の砲塔が叩き潰されているではないか!
ニューオーリンズは第1砲塔を敵の大口径砲弾によって叩き潰されており、
左舷を向いていた3門の8インチ砲は、いずれも飴のように捻じ曲げられていた。
「敵は大怪我を負ったぞ!このままいけば叩き沈められるぞ!」
ジィルウッド軍曹は感激した口調で喚いた。
行けるぞ!彼は弾が込められた事を確認すると、ニューオーリンズ向けて新たな射弾を送った。
その直後、ドガーン!という轟音が間近で鳴り響く。
ジィルウッド軍曹は、部下と共に飛び込んできた8インチ砲弾に吹飛ばされてしまい、
何事かと気付く前に、意識は強引にかき消される。
彼の砲台は、誘爆を起こして崩れ去っていった。

重巡洋艦サンフランシスコ艦長のアルア・リットマン大佐は、左前方5000メートル付近で
一際大きな閃光が走ったのを確認した。
「敵要塞、第3砲台群に大口径砲あり!数、約8ないし9!」
その閃光を確認した見張り員が艦橋に報告してきた。
先の被弾で、黒煙を吹き上げるニューオーリンズの周囲に水柱が立ち上がった。
第3砲台群は、7センチ砲8門、13センチ砲12門、26.5センチ砲9門で構成されている。
そのうちの26.5センチ砲9門の砲弾が、一斉にニューオーリンズに襲い掛かってのである。
周囲に上がった水柱の中に、また1つ命中弾の閃光が走った。
この時、26.5センチ砲弾はニューオーリンズの左舷中央部に命中し、第2甲板で炸裂した。  


144  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:35:37  [  D4VsWfLE  ]
この炸裂で中央部の兵員室が滅茶苦茶にされた。
しばらくすると、火災が発生し、区画の周りを炎が蹂躙しようとする。
そこにダーメージコントロールチームが早々と到着し、炎との格闘を始める。
だが、ニューオーリンズは先頭を譲ろうとしない。
健在な6門の8インチ砲を向けて、尚砲撃を続けている。
これを援護するかのように、後続のミネアポリスとサンフランシスコ、
軽巡マイアミ、ヒューストン、ビンセンズも、生き残りがいる第2砲台群に向けて砲撃を続けた。
第2砲台群もまた、敵に負けじと必死に応戦する。
ガーン!という衝撃がサンフランシスコの艦橋を揺さぶった。
お返しだ、と言わんばかりに、9門の8インチ砲が咆哮する。
偵察機が繰り返し投下しる照明弾に、うっすらと断崖に作られた砲台が見える。
その砲身の周囲に砲弾が炸裂する。
「左舷40ミリ機銃座1基破損!それ以外は被害なし!」
「敵砲台、4基沈黙!」
「マイアミに命中弾!」
様々な報告が一気に寄せられる。状況はめまぐるしく変わりつつあった。
第2砲台群は、第1砲台群よりもしたたかであったが、6巡洋艦の8インチ、
6インチの集中射撃を受けてはひとたまりもない。
砲戦開始から20分、第2砲台群は粘ったが、最終的には壊滅してしまった。
「旗艦ニューオーリンズより、砲撃部隊へ、目標、第3砲台群。」
ニューオーリンズから各艦に向けて通信が入る。
ニューオーリンズの砲撃部隊司令官、バーケ少将は、新たな砲撃目標に対して砲戦開始を命じた。
「さて、次はあいつだな。」  


145  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:37:15  [  D4VsWfLE  ]
リットマン大佐は、依然として砲撃を続ける第3砲台群を見つめた。
「照準よし!」
艦橋に報告が入る。一旦休められていた砲が、また再び咆哮した。
8インチ砲24門、6インチ砲36門、護衛駆逐艦の5インチ砲20門が一斉に打ち出される。
そして、後方で戦闘を見守っていた戦艦群もついに砲撃を始めた。
前部主砲塔のみながら、18門の16インチ砲の咆哮は、ザラーク湾を圧した。
砲撃を続ける第3砲台群の断崖に、無数の砲弾が命中する。
その直後に4つの巨大な爆発が沸き起こった。
16インチ砲弾4発が命中したのである。残りは断崖の上で炸裂した。
この第1斉射で、バーマント側は7センチ砲2門、13センチ砲4門、
26.5センチ砲5門を破壊されてしまった。
生き残ったバーマント側も撃ち返す。
射弾は、先頭のニューオーリンズと、2番艦ミネアポリスに降り注いだ。
この頃には、バーマント側も砲の命中精度が上がっており、7センチ砲弾1発、
13センチ砲弾2発がニューオーリンズに、13センチ砲弾2発、26・5センチ砲弾1発がミネアポリスに命中した。
さんざん撃ちまくられたニューオーリンズは、合計で19発の命中弾を受けている。
その中には戦艦クラスの26.5センチ砲弾も3発含まれている。
艦の損害レベルは大破の域に達している。
だが、6門の8インチ砲は健在で、今でも第3砲台群に砲撃を続けている。  


146  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:39:05  [  D4VsWfLE  ]
ミネアポリスも7発の砲弾を受けているが、こちらは今しがた、
中央部に26.5センチ砲弾が命中して、大火災が発生している。
しかし、ダメージコントロールチームの決死の消火作業のお陰で、延焼は避けられた。
お返しだとばかりに、米艦隊が砲弾を叩きつける。
8インチ砲は急斉射で20秒〜17秒、6インチ砲は15〜10秒の発射速度で撃ちまくる。
これに駆逐艦の5インチ砲弾、戦艦の16インチ砲弾も加わるからたまらない。
砲台の中に飛び込んだ砲弾が内部で炸裂し、中の人員もろとも砲を破壊する。
たちまち人員を皆殺しにされてその砲は沈黙を余儀なくされる。
かと思えば、とある砲台は、16インチ砲の爆発で崩落した岩の塊に砲身を叩き折られ、
あっと言う間に戦闘不能に陥ってしまった。
また、とある砲台は、砲弾の連続した絶壁での炸裂に天井の強度が限界に達し、
砲撃を行っている人員の上に何十トンという膨大な崩落が起きて、あっという間にあの世送りとなる。
米艦隊の猛砲撃は、第3砲台群との戦闘開始からわずか10分で、16インチ砲200発、
8インチ砲600発、6インチ砲1700発、5インチ砲も含めると、
合計で4800発以上を第3砲台群に叩き込んだ。
そして第3砲台群からは、2度と発砲炎が見える事はなかった。

戦艦ノースカロライナは、ザラーク湾の海岸より2000メートル離れた位置で停止した。
そして後続の戦艦、インディアナとアラバマも、それぞれ700メートルの間隔を取って停船した。
停船と言っても、いつでも動き出せるように缶の圧力は高めている。
戦艦群の両脇には、護衛の巡洋艦、駆逐艦が辺りに目を光らせている。
「それにしても、巡洋艦部隊は派手に撃ちまくったな。」
艦長のフロック・サイモン大佐が副長に向かって言う。
「ええ。通信によれば、巡洋艦、駆逐艦部隊は砲弾の残弾が残り少ないようです。」
「そうか・・・・だが、あれだけ巨大な要塞だったんだ。
あんなのを静かにさせておくには、この方法が一番だったのだ。」
今回の作戦で、サイモン大佐は戦艦部隊が先頭に立って前進すると思い込んでいた。  


147  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:40:37  [  D4VsWfLE  ]
砲撃部隊司令官のバーケ少将は、巡洋艦部隊を先頭にすると決めた。
彼は疑問に思って彼に聞いてみた。
バーケ少将の言い分によると、戦艦は大口径の大砲を積んではいるが、その分発射速度が遅い。
そうなると敵の集中砲火を一身に受けてしまう。
それよりかは、頑丈な戦艦と比べてやや貧弱だが、発射速度の速い巡洋艦部隊を先に進めて、
砲の発射速度で敵を圧倒したほうが良い。と、バーケ少将は言っていた。
最初、サイモン大佐は不満だったが。結果を見るとバーケ少将の考えが正しかった。
重巡洋艦のニューオーリンズが大破し、ミネアポリスが中破する損害を受けたものの、
バーケ部隊の巡洋艦は、見事に砲戦力で圧倒し、巡洋艦、駆逐艦のみで敵第1、第2砲台群を叩き潰している。
「さすがはソロモン帰り。本国勤務ばかりだった私とは違う、と私は思ったよ。」
「バーケさんは昔からの巡洋艦乗りですからね。」
副長はそう相槌を打つ。彼の言うとおりバーケ少将は、ガダルカナル、ソロモン沖で数々の
海戦を巡洋艦の砲術長として参加している。ヘレナが魚雷で沈没した時も、バーケはヘレナで砲術長を勤めている。
サイモン大佐と副長が話し合っているその時、遠くの陸地から青白い光が浮かび上がった。
双眼鏡で覗いて見ると、下のほうにうっすらとだが、木々が見える。
「左砲戦、距離9マイル。」
「左砲戦、距離9マイル、アイサー!」
復唱の声が上がる。少し時間が経ち、9門の16インチ砲が左舷を向く。
左舷を向くと、それぞれの砲身が生き物のように上下に動く。  


148  名前:ヨークタウン  ◆r2Exln9QPQ  投稿日:  2006/05/07(日)  18:41:56  [  D4VsWfLE  ]
「撃ち方準備良し!システムオールグリーン(異常なし)」
彼はふと、この砲撃がバーマントの歴史を変えるきっかけとなるのでは?と思った。
(いや、細かい事は後だ。今は自分の仕事に集中するんだ)
彼は、そう思って振り払った。
「撃ち方はじめえ!」
サイモン大佐は号令した。ドドーン!という音と共に各砲塔の1番砲が咆哮する。
後続のインディアナ、アラバマも交互打ち方で発砲する。
時間を置いて、遥かかなたの森の方向に、オレンジ色の光が広がった。
「第1目標付近に至近4。」
その通信の直後に2番砲が発砲する。
そしてしばらく経って、再び森の方向にオレンジ色の光が広がる。
「第1目標付近に命中4。照準、適正なり。」
観測機から次々と報告が飛び込んでくる。
3番砲が咆哮すると、サイモン大佐は新たな命令を発した。
「一斉撃ち方用意!」
砲がしばらく鳴りを潜める。やがて、調整を終えた16インチ砲9門は、一斉撃ち方を開始した。
ドドドーン!という強烈な轟音と衝撃が、ノースカロライナを揺さぶる。
しばらく経つと、森の方向の光は、一層大きなものとなった。
「第1目標に命中弾多数。森方面から数人の敵兵を確認。敵兵は西に逃走しつつあり。」
観測機パイロットの機械的な声が、艦橋に聞こえた。