20 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/09(金) 10:54:53 [ FcpoPYRk ]
1944年5月 メジュロ環礁
ここはマーシャル諸島にあるとある環礁、メジュロである。
この環礁には、無数の軍艦がひしめいていた。空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦。
ざっと数えても100隻はくだらない戦闘艦艇の群れだ。この艦隊こそ、
アメリカ第5艦隊の尖兵、第58任務部隊である。
このメジュロの他にビキニ環礁には、上陸用の輸送船団が待機している。これらの
数はさらに多い。護衛艦艇も含めて大小500隻以上が、環礁の中、あるいは外で停泊している。
マーシャルに停泊しているこの大部隊は、来月に行われるサイパン侵攻作戦の攻略部隊
である。数の規模からして、アメリカがこれまでに行ってきた上陸作戦でこれほどの
大戦力をそろえたことはない。
21 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/09(金) 11:12:05 [ FcpoPYRk ]
第5艦隊司令長官のレイモンドスプルーアンス大将は、旗艦インディアナポリス艦上で、
ウォーキングをしながら、艦隊をながめた。
スプルーアンスは、時折スポーツ着に着替えると、インディアナポリスの艦上でウォーキング
をして汗を流している。今日は一人であるが、時折他の幕僚とともに一緒にウォーキングをする
こともある。
「いつもながら思うが、1942年末期、壊滅状態に陥った機動部隊が、今や日本海軍を凌ぐ大戦力
となっている。わが祖国の力は強大だな。」
彼はそう呟いた。ここ1年ほどで、新鋭のエセックス級空母、インディペンデンス級の軽空母や
新鋭の艦艇が続々と太平洋艦隊に配備されて以来、機動部隊は縦横無尽に暴れまわった。
肝心の日本機動部隊は、米艦隊を迎え撃つことはなかった。しかし、スプルーアンスは、
日本機動部隊は既に戦力を回復し終え、猛訓練に励んでいるとの情報を知っている。
おそらく、日本機動部隊は死に物狂いの戦いを挑んでくるに違いない、そして味方機動部隊
にも必ず犠牲が出る。最低でもここに浮かんでいる空母の何隻かは、海底に叩き込まれている
だろうと思った。
「司令長官、そろそろ作戦会議の時間です」
艦橋から、スプルーアンスを見つけた参謀長が、彼に声をかけた。
「ああ、今からいく。」
22 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/09(金) 11:21:59 [ FcpoPYRk ]
彼は思考をやめて、艦橋にあがった。
ウォーキングでかいた汗をタオルで拭いた。ふと、とある方角に視線がとまった。
それは、南の方角にある大きな入道雲だった。
「参謀長、あれをみてみたまえ。結構でかいな。」
スプルーアンスは、参謀長であるデービス少将に入道雲を見せた。
「ほう、なかなか大きな雲ですな。あんな大きな入道雲は初めて見ました。」
「ああ、私もだ。」
スプルーアンスもうなずく。ふと、彼はあることに気がついた。
(南から風が来る・・・・・)
彼は、入道雲がある方角から風が吹き付けてることに気がついた。しかし、この時は
気にも留めなかった。
「長官、ミッチャー提督とホーランド・スミス閣下がすでにお見えになっています。それから
もう少しでターナー提督もご到着します。」
「そうか。参謀長、これから忙しくなるな。」
彼は表情を変えずにそう言うと、着替えのために自室に向かった。」
43 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/12(月) 12:35:19 [ FcpoPYRk ]
スプルーアンスは、軽くシャワーを浴びてさっぱりした後、自室で軍服に着替えた。
軍服に着替えてから、彼は作戦室に向かった。
作戦室に入ると、そこには彼の参謀長であるデイビス少将、恰幅のいい体型の
スミス海兵中将、顔が皺だらけの老人のようなミッチャー中将が席に座っていた。
「ターナーはまだ来てないか。」
「もうそろそろ来るかと思われます。」
デイビス少将はそう答えた。そこへコンコンとノックする音が聞こえた。扉が
開かれ、眼鏡をかけた将官が入ってきた。
「やあ、レイ、待たせたな。おっと、ここでは敬語でしたな。失礼」
ターナー中将は、そう苦笑しながら言った。スプルーアンスとターナーは、アナポリス
時代の同期生である。仲は昔からとても良く、日本海軍で言う「俺、貴様」の関係である。
「ハハハ、そんなことはいいさ。今日はトップ会談で少ない人数しかおらんからな。
そんなことより、今日は珍しく酒を飲んでいないな。」
「そりゃそうさ。俺は昔から酒は大好きだが、飲みたくない時は飲まんさ。」
「そうか、まあ座れよ。」
スプルーアンスに施されて、ターナーはミッチャーの隣に着席した。
ターナーは元来酒が大好きで、勤務中の時にも時折飲んでいるときがある。
たまにその酒好きが災いして、酒癖が悪くなるときがあり、あちらこちらで
癇癪を爆発させていることから、将兵はかげで「テリブル、鬼のターナー」
とあだ名をつけられている。
44 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/12(月) 12:56:41 [ FcpoPYRk ]
そのターナーが口を開いた。
「それにしても、今度のマリアナ侵攻部隊はまさに大軍そのものだな。俺が見る
限り、合衆国始まって以来だ。」
その言葉に、一同が頷いた。
「私が指揮する機動部隊だけでも、4個空母郡あります。この勢力なら、オザワの
機動部隊と対等以上に戦えます。」
ミッチャーが顎をなでながら言う。
「空母はTF58だけではない。ターナー提督指揮下にある護衛空母部隊もあります。
それらも含めれば、空母数は大小合わせて25隻にものぼる。」
「エニウェトクにいる北部攻撃郡もあわせれば、艦船数は800隻にものぼります。
この大部隊で行けば、東京の占領も確実ですな。」
スミス中将が冗談を交えながらそう言う。その言葉に一同は笑った。
「まあ、なにも東京占領は出来んと思うが、マリアナ制圧はこれで早く終わると思うな。
私の予想では、2ヶ月もすればマリアナは制圧できるでしょう。」
スミス中将は胸をはり、自身たっぷりにそう言った。
「なにせ、頼れる大艦隊がついておるのですから。」
「うむ。わが第5艦隊は、総力を挙げて君たちを支援しよう。」
そう言ったスプルーアンスは、やがて本題に入った。
「さて、マリアナ侵攻の手順だが、上陸予定は6月の中旬を予定している。
第1目標はサイパンだ。」
スプルーアンスは、ふと絃窓に視線を移した。南の方からは、入道雲がゆっくりと
迫ってきていた。その姿は、幾分大きくなっているように思えた。
(これは一嵐来そうだな)
彼はそう思いつつも、話を続けた。
45 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/12(月) 13:09:28 [ FcpoPYRk ]
大陸暦1089年 5月 ヴァルキュレア王国
「畜生、バーマント公国アホ共め。」
ヴァルキュレア王国第3騎兵旅団の旅団長であるローグ・スプレル将軍
は、目の前で対峙する軍勢をそう罵って睨み付けた。
「宣戦布告もしないでいきなり大侵攻とは、卑怯者め。」
ヴァルキュレア王国は、2年前、東の大国バーマント公国の一方的な侵攻
を受けた。戦争原因は、ヴァルキュレアを植民地にするため。
あまりにも唐突に行われた戦争は、ヴァルレキュア国民を恐怖のどん底に叩き落した。
戦争開始以来、ヴァルレキュア軍は開戦2週間で軍の半数にあたる20万の兵を失った。
それ以来、劣勢のヴァルレキュア軍は奮闘の甲斐あってなんとか軍の崩壊を免れていた。
しかし、ヴァルレキュア軍は歩兵主体なのに対して、バーマント軍は、時速300キロ
も出る小型飛空挺やワイバーンロードなどで陸空立体攻撃仕掛けてくる。
歩兵のみなら五分の戦いに持ち込めるヴァルレキュア軍も、航空部隊出てこられたらお手上げだった。
また、海上交通路も、バーマント軍の巧みな破壊戦術によって壊滅状態に陥っている。
もはや戦局挽回することは難しくなっていた。
46 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/12(月) 13:20:21 [ FcpoPYRk ]
この日は、第3騎兵旅団の上空には飛空挺やワイバーンロードはいない。だが、
3個師団の敵軍が迫っていた。数は第3騎兵旅団3000に対し、20000
だが、勇猛果敢なスプレル将軍は、これに立ち向かおうとしていた。
「バーマント軍なぞに、わが第3騎兵旅団はひけは取らん!すぐに蹴散らしてくれるわ!」
彼は鼻息を荒くしながらそうまくし立てた。
そこへ、馬周り兼参謀役の若い女性騎士、ジェネッサ・ロックウェルが、浮かない表情で声をかけてきた。
「将軍閣下、大変申し上げにくいのですが。」
「なんだ?」
「我々は確かに王国で精鋭と謡われる部隊です。ですがいくら精鋭部隊といえども、あの大軍には
とても太刀打ちできないのでは?」
彼女は冷静な表情そう言ってきた。
「それはわかっておる。だが、やつらは後方に3万の新手を用意している。撤退中の第22騎兵師団を
助けるためには、ここで敵に大損害を与えて進撃を遅らせるしかない。」
彼の決意は固かった。彼女はさらに言葉を続けようとしたが、これ以上は無理だろうと
思い、口をつぐんだ。
「ようし!全軍出撃!」
スプレル将軍は、大音声を上げてそう叫ぶと、部下たちも高々と雄たけびを上げた。
47 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/12(月) 13:45:12 [ FcpoPYRk ]
バーマント軍第12騎兵師団に所属する騎士、フランスリング・マールズは、
師団の前衛中隊を率いて、突進してくる第3騎兵旅団に向かった。
先頭の馬に乗った指揮官らしき人物が、大剣を振りかざして向かってくる。
「あいつが指揮官だ!無謀にも大将直々に先頭とは、ありがたい。先頭に攻撃を手中しろ!」
彼はそう指示を飛ばし、先頭の小隊を指揮官に向かわせた。
小隊がその指揮官を包み込んだと思ったその時、2、3人の味方兵が血しぶきをあげて吹き飛ばされた。
さらに残りの部下も、指揮官の腕前にたじろいだところを突っ込んできた騎兵にやられた。
串刺しになったり、首を叩き落された味方兵の姿が見えたが、一瞬のうちに敵の軍勢に呑まれて見えなくなった。
「相手は手ごわいぞ!全部隊突っ込め!」
彼は次の指示を飛ばし、中隊全体が敵との交戦に入った。だが、猛進する敵を食い止めることは出来なかった。
「ぐわ!やられた!」「バーマントの犬!しねえええ!!」「来るな畜生ー!!」
たちまち、あたりは剣と剣、体と体がぶつかり合う乱戦と化した。
第3騎兵旅団は、精鋭の名の通り、バーマント軍を圧倒した。だが、やはり精鋭といえども
数にはかなわなかった。第3騎兵旅団は、バーマント軍相手に力戦敢闘し、2300人を戦死させ、3200人
を負傷させた。だが、敵3個師団も精鋭部隊であった。第3騎兵旅団は包囲され、猛攻を受けてしまった。
結果、3000人中戦死者2700人という大損害を受けて壊滅してしまった。
包囲網脱出の際、スプレル将軍は戦死してしまった。これで第3騎兵旅団は作戦地図から
消えてしまったのである。
参謀兼馬周りであったジェネッサ・ロックウェルは途方にくれた表情で歩いていた。
生き残りはバラバラになってしまい、彼女は一人で退却していた。
「将軍閣下・・・・・いい人だったのに・・・・・」
彼女は、金髪の長髪をかきながらそう呟いた。2年前、20歳のころに第3騎兵旅団に入隊した彼女は
スプレル将軍に才能を見込まれ、わずか22歳という若さで参謀けんに任じられた。
スプレル将軍は、彼女によくしてくれた。恋人で悩んでいたときも、彼は的確なアドバイスをしてくれた。
どんな時もよくしてくれた人が、死んでしまった。
「人の死は・・・・・はかないものなのね。」
彼女は再びそう呟いた。もはや彼女にとって王国は戦争に負けると思っていた。近頃、魔道師達が何かを
召喚しようとしている、という噂が立っている。彼女はデタラメだと思い、気にしてなかった。
52 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 21:30:25 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年5月 ヴァルレキュア王国首都ロイレル
ロイレルはヴァルレキュア王国の首都で人口が100万人の大都市である。
しかし、ここ数年続いていた戦争で、人口は150万に増えていた。
街には戦争で家を無くした者や、孤児などが溢れ返っていた。それでも、中世風の
美しい町並みは損なわれていない。そんな街中を、一台の馬車が音を立てて走り去っていた。
「そこどけ!ぶつかるぞ!!」
人ごみの中を分け入るようにして馬車が進んで行き、御者が声を枯らして通行人に注意を
繰り返した。
馬車は人ごみを抜け、街の中心部から郊外にむけて走り去った。
夕方、馬車は郊外のとある田舎町に到着した。
「着きました。」
御者が後ろを振り返ってそう言うと、中から野太い返事が返ってきた。
「うむ。ご苦労だった。」
中から現れたのは、腰に剣を吊った初老の騎士だった。顔はいかめしく、顔の下半分が
髭に覆われている。体格はがっしりとした感じでいかにも歴戦の戦士といった風貌である。
彼は早歩きで小川の橋を渡った。橋の側では老人が釣り糸をたらして釣りに興じていた。
戦なんてどこ吹く風。老人の表情はそういっているかのようだった。
(釣りか・・・・そういえば戦争が始まって以来は一回もやってないな。戦争が終わったら
また釣りをしてみたいものだ)
彼は感慨深げに沿う思いながら歩き続けた。
2分もしないうちに小さな木造の小屋が目に入った。見た目的には質素な感じだ。
ドアを蹴破ればたちどころに崩れ落ちるのではないか、そう思うほどひどいオンボロ
部屋だった。
そのボロ部屋から一人の若い男が出てきた。メガネをかけた痩せた男性である。
「フランクス将軍閣下、よく参られましたな。ささ、こちらに。」
若い男に誘われ、フランクスはふとさきほどの老人に振り向いた。
「あのお方なら大丈夫です。あの人は見張り役ですよ。ああ見えても昔は騎士旅団
を率いていたそうです。」
「そうか。」
彼は無表情でそう頷くと納屋に入った。若い男が床下に手を伸ばし、板を取った。地下室の階段が
現れた。
若い男が先に入り、次にフランクスが入った。会談を下り終えると、そこには
魔方陣のような紋章を囲み、何かをやっている男女5人がいた。彼が入ったことに気付いた
彼らは何かをやめた。
「ようこそ。フランクス将軍閣下。」
一人の女性が笑顔を浮かべながら彼に声をかけた。
「私はリーダーのレイム・リーソンです。」
彼女がそう言うと、彼はあることを思い出した。
53 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 21:52:46 [ 4CUjn9IY ]
(ほほう。こいつがあのリーソン魔道師か)
リーソン魔道師は、ヴァルレキュア王国の中でも五本の指の中に入ると言われた
優秀な魔道師で、若い魔道師(彼女も27歳なのだが)からは羨望の眼差しで見つめられている。
彼女を一躍有名にしたのが、1年前の7月に起きた首都のバーマント軍スパイとの
死闘で、彼女を命を狙った屈強な敵スパイ7人があっという間に彼女に叩きのめされたのだ。
このことから、リーソンは近接格闘も出来る魔道師ということで広く知られた。
「君の勇名はかねがね聞いてるよ。なんだって正規兵が手こずる敵特殊兵をぶちのめしたんだからな。」
「あの時は必死でしたからあまり覚えていないんです。まあ、昔から続けていた格闘術が役に立ったのが
嬉しいですけど。」
彼女はそれよりもと言って残るメンバーを紹介した。
「私の側にいるこのメガネの女の子がリリア・フレイド、隣の男の子がローグ・リンデル
で次がフレイヤ・アーバイン、その次にナスカ・ランドルフ。であなたを案内したこの
男の子がマイント・ターナーです。いずれも優秀な魔道師です。」
紹介を受けたメンバーが頷く。彼はうむ、というだけだった。
「この計画についてはご存知ですね?」
「ああ、市街地から出るときに聞かされたが、君たちは魔法で何かを召喚するようだな。
私は国王からその瞬間を見て来いと、ここに派遣されてきたのだ。」
「ええ、その通りです。」
「で、そこで聞きたいのことがある。何を召喚するんだね?」
「それは、勇敢な戦士がいる島を、この世界に呼び出すのです。」
「そうか。」
彼は頷き、質問を続けた。
「それで、召喚された島はどこに出る?」
「予定としては、ここです。」
彼女は地図を取り出して予定地点を指した。その地点はヴァルレキュア王国の
ロタ半島からやや離れた所だった。
「この地点から南に2日。さらに船で4日か・・・・・大分遠いな。」
「現状ではこれで限界です。」
「そうか、なら仕方ないな。重ねてすまないがもう一度質問がある。召喚時期は
いつになる?」
彼が聞いたとき、納屋がガタガタと風で揺れ始めた。その跡にポタッポタッと何かが
屋根に何かが滴り落ちる音がした。
「2日以内です。」
54 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 22:30:10 [ 4CUjn9IY ]
1944年5月2日 マーシャル諸島メジュロ環礁
あたりはすっかり暗くなっていた。時間は8時を過ぎ、将兵は当直を残して
今日の業務を終えていた。
「スプルーアンス長官。」
長官室で休憩を取っていたスプルーアンスに、通信参謀のジュスタス・アームストロング
中佐が電報を持って来た。
「空母ランドルフから入電です。」
「読め。」
「我、間もなくメジュロに到着す、であります。」
「分かった。ランドルフは当初の通り、ハリルの部隊に預けよう。他にはないか?」
「気象班から南30マイルにハリケーンがあり、マーシャルに迫っているようです。」
それを聞くと、彼は眉をひそめた。
「弱ったな。明日、2個空母郡をハルゼーの元に貸す予定だったのだが。」
彼はコーヒーカップに注がれているコーヒーを見つめた。コーヒーが揺れている。
実は接近するハリケーンのせいで、環礁内の波も少しずつ荒れ始めてきた。
環礁に囲まれているから波の荒れは抑えられているほうだが、それでも波はやや
高くなり始めている。
外海ではもっと波が高い。外洋訓練に出ていた軽巡ビロキシの艦長がこの波では
大型艦でも操艦は難しいとこぼしたほどだった。
「仕方ない。派遣部隊は一旦出港を中止だ。空母や艦艇が傷ついたら困るからな。」
「分かりました。派遣部隊にそのように伝えます。」
アームストロング中佐は敬礼をして長官室を出て行った。
「空がだいぶ荒れてきたな。こいつは出港できんかもしれんな。」
第58任務部隊司令官マーク・ミッチャー中将は陰鬱そうな表情でそう呟いた。
「マーシャル諸島近海に大型のハリケーンが接近しているようです。聞いた話によれば
かなりでかいとのことです。観測史上最大とも。」
参謀長のアーレイ・バークがそう言うと、ミッチャーは、
「ハリケーンの時には航海しないに限るよ。」
とため息混じりに言った。
「昔、候補生の時に軍艦に乗ったんだ。ある日、ハリケーンに突っ込んで乗っていた
軍艦はもみくちゃに揺られたよ。私の友人がゲエゲエ吐いてな、思わずつられて床に
嘔吐したものだ。あれから何十年と経ったが今でもハリケーンの中は入りたくないな。
このレキシントンだってハリケーンの前には無力だろう。」
「しかし、これでホーランジアの支援は遅れてしまいますな。」
「ホーランジアは陸軍機もいるからいい。問題はトラックだ。あそこにはまだ日本海軍
の航空隊が多数居座っている。アレを叩き潰さん限り、基地航空隊に側面を衝かれる恐れがある。」
ミッチャーはそう言うと、外に視線を移した。夜空はどんより曇っていた。その時、艦橋のスリットガラス
に水滴がついた。
55 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 22:55:11 [ 4CUjn9IY ]
午前3時、マーシャル諸島
ザアアアアーーーー!という音と共に金切音のような風のカン高い音が、インディアナポリス
に鳴り響いた。
当直将校であるカイル・ロック中尉は艦橋でその音を忌々しそうに聞いていた。
「ロック中尉、今度のハリケーンはやたらにでかいようですね!」
部下の下士官であるアーバイン・エミリアン兵曹長が聞いてきた。体ががっしりした偉丈夫である。
「ああ、そのようだな。お前が自慢しとるイチモツより遥かにでかいぞ。」
「なあにいってるんすか。ハリケーンには負けるに決まってるでしょうに。」
「おやあ?貴様はこの前言ってなかったか?俺のアレは何にも負けん!と酒を飲みながら
言ってたじゃないか。」
「人間限定ですよ。」
彼がそう言うと、艦橋に爆笑が広がった。
「そらあ、無理も無いですな。先任。」
「なにを貴様。馬鹿にすると貴様の睾丸を引き抜くぞ!」
冷やかしに入ったアーウィン・スタンス1等水兵の股間を握ろうとする。もちろん
悪ふざけである。
そこへ一人の将校が入ってきた。
「あ、フラック大尉。」
艦橋にいた5人の将兵は彼に向かって一斉に敬礼した。口ひげを生やした中肉中背の仕官である。
「おう、任務ご苦労。ほれ、コーヒーを持って来たぞ。」
フラック大尉自ら皆に手渡した。
「しかし酷い嵐だな。外海は大荒れだぞ。」
フラック大尉はロック中尉に話しかけた。
「ええ、おかげで機動部隊はホーランジア出港を見送ったそうですよ。」
「まあな。この嵐じゃ仕方ない。」
ロック中尉は窓の外を見つめた。外は大粒の雨が降り注ぎ、暴風が吹き荒れていた。
「そんな事より、東京ローズでも聞かんか?電波状況が悪くて聞き取れにくいが。」
彼がそう言うと、5人はおっ!と声を上げた。この時間、彼らが楽しみにしているのは
東京から発信される東京ローズと呼ばれるラジオ番組だ。
この敵国のラジオの人気の訳は、アナウンサーにあった。
フラック大尉が持って来たラジオにスイッチを入れた。ガガガー、ピーという嫌な音が鳴った。
56 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 23:07:53 [ 4CUjn9IY ]
最初は途切れ途切れにしか来なかったが、やがてまとまった声が聞こえた。
「ハロー、アメリカ兵の皆さん。東京ローズです。マーシャルなんかで日光浴
なんかしてる場合かな〜?そんなとこでブラブラしてると、愛する彼女が他の
人にとられてるかもよ?」
美麗な声が聞こえると、皆がニンマリした。
「ローズちゃんよ。生憎だが、俺はまだ彼女無しなんだよな。」
エミリアン兵曹長が皮肉ったようにラジオに向かって言う。
「まっ、日本に着いたら、俺が君の彼氏になってやるからよ!」
彼がそう言うと、他の水兵がヒューヒュー!と口笛を鳴らした。人気のわけは
アナウンサーの美しい声にあった。太平洋戦域に進出しているアメリカ軍将兵は
敵国人ながらも、その美しい声がするラジオ放送を聞きながら、任務で荒んだ
心を癒しているのだ。
ラジオからは音楽が流れ始めた。嵐のせいで明瞭ではないが、それでも彼らには
心地よく聞こえた。
その時、目の前が一瞬真っ白になった。
(ん?なんだ?)
ロック中尉はそう思ったが、真っ白な視界が元の暗い艦橋に戻った。
周りは何の変わりも無い。疲れたのだろう。彼はそう思った。
「あれ?ラジオがまたおかしくなったぞ。」
フラック大尉がそう言った。ラジオからはガーーー!という雑音しか聞こえない。
「おかしいなあ。」
彼はつまみを回すが、一向に戻らない。いろいろ試してみたが、結局元に戻らなかった。
57 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/20(火) 23:24:34 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年5月 マーシャル諸島メジュロ環礁
コンコン コンコン コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえる。眠っていたスプルーアンスは安眠から現実に戻された。
まぶたが重い。眠気がする。スプルーアンスは時計を見てみた。まだ4時近くである。
「何だ?」
彼は不機嫌そうな口調でそう言った。いや、実際不機嫌だ。彼は夜中に起こされることが大っ嫌い
であった。
失礼します、と聞きなれた声が聞こえ、ドアが開かれた。そこには参謀長のデイビス少将がやや緊張した
表情で長官室に入ってきた。
「長官、報告したいことがあるのですが。」
「どうした、何があった?」
彼はそのまま寝そべったまま顔を向け、聞いた。彼はたいした報告ではなければもう一度寝ると決めた。
「実は、本国との通信がまったく入らなくなりました。」
「この艦の通信装置の故障か?それなら早く直したまえ。」
スプルーアンスはインディアナポリスの通信装置が故障したと思った。だが、デイビスは首を振った。
「味方艦隊からの通信は入ります。クェゼリン、エニウェトク等の各基地への通信も可能」
「何?」
スプルーアンスはこの時疑問に思った。本国との通信は不能でマーシャルだけが可能・・・・
どういうことだ?
「ハワイは?ミッドウェーは?」
「駄目です。日本の謀略放送も聞けません。」
「東京ローズもだめなのか。」
彼は思案した。そして何かを思い立ち、ベッドから姿勢を起こした。
「参謀長、嵐がやみ次第、各任務部隊の司令官を集めろ。」
61 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/21(水) 12:27:02 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年 5月2日マーシャル諸島メジュロ環礁
ハリケーンはその後6時間程荒れ狂った。嵐が止み始めたのは午前10時を過ぎてからであった。
午前11時、第58任務部隊司令官であるマークミッチャー中将がインディアナポリスに来艦した。
11時10分にはターナー中将、ホーランドスミス海兵中将が姿を現した。
最後に戦艦部隊司令であるウイリス・リー中将も現れ、インディアナポリスの作戦室に案内された。
スプルーアンス側も参謀長のデイビス少将、作戦参謀のフォレステル大佐、通信参謀のアームストロング中佐
が出席した。
「さて、諸君に早速集まってもらったのだが、今日未明に起こったことはもう既に知っている
だろう?」
スプルーアンスが口を開いた。
「外部との通信がマーシャルのみ。ということですな?」
ミッチャーがたずねると、スプルーアンスはそうだと言って頷いた。
「本国のみならず、ミッドウェーやウェーク。それにハワイといった各基地にも
全く連絡が繋がらない。まるでこのマーシャルがタイムスリップしたようだな。」
彼の言葉に、一同の視線が彼に注がれた。
「ハッハッハッ!スプルーアンス閣下。何を言うんですか。そんな事が起きるはずが無いでしょう。
ここはH・G・ウェルズの世界ではないのですから。」
スミス中将が笑いながらそう言うと、リー中将も同感だと頷く。
「私も同感ですな。きっとハリケーンの影響でまだ電波状態がおかしいのでしょう。」
そこへミッチャーが待ったをかけた。
「いや、それでも電波は通じるぞ。こういう時は無線が聞き取れないのが難点だが、
通信は可能だった。それが全く通じないということは今までに無かったことだ。」
「なら、マーシャルの全通信装置が壊れたことになるぞ?」
ターナーも会話に入ってきた。
「それとも、無線機がマーシャルだけの通信しか入れてないか、あるいは先ほど長官
が言ったとおり、タイムスリップしたか、あるいは世界がここだけを残して一気に
滅んでしまったか。どっちかだぞ。」
「通信参謀。」
スプルーアンスが彼に顔を向けた。
「何度も聞くようでくどいかも知れんが、本当にどことも繋がらないのだな?」
「はい。昨日の3時ごろ以来全く。」
「3時ごろか・・・・・確かあの時は一瞬目の前が真っ白になったな。」
ターナーがふと、思い出したように言った。
「でかい雷だなと思ったんだが、全く音もならなかった。」
「ん?君も見たのか?あの白い光を?」
スミスが奇遇だなと言いながらターナーに言ってきた。
「ああ。見たよ。ちょうど書類に目を通したときにいきなり回りが真っ白になったんだ。
それも一瞬だ。瞬きしたら普通の光景に戻っていたよ。あっ、確かロッキー・マウント
の乗員連中も視界が真っ白くなったとか言ってたな。」
「私もだ。私は寝ているときに見たんだが、いきなりカッと変な白い光を見たんだ。それで
目を開けたら、君と同じようになんとも無かった。」
言葉を終え、スミスが周りを見渡すと、あたりは異様な雰囲気に包まれていた。だれもがその
白い光に心当たりがあるような感じだった。
「お前たちも見たのか?」
スプルーアンスが幕僚に問いかけると、全員が頷いた。
「私も見たのだが・・・・・これは何かあるな。」
彼はそう呟いた。これは何かある。もしかしてどこか異様な世界に引き込まれたのだろうか?
彼がそう思ったとき、ミッチャーが何か言ってきた。
「長官、ではホーランジア出港は見送りということですね?」
スプルーアンスは出港という言葉が引っかかった。そしてすぐさま返事を返した。
「いや、第58任務部隊はこれより出港してもらう。4個郡すべて出す。」
「では、出撃ですか?」
ミッチャーはいささか驚いたような口調だった。
「うむ。出撃だ。機動部隊の偵察機でマーシャルの周りを調べてほしい。それから
マーシャルのカタリナも出す。」
彼の決断は固かった。
「現状があまりにもわからなすぎる。まずは情報収集に当たろう。」
彼がそう言うと、皆が戸惑いの表情を浮かべた。会議は開始わずか15分で終わってしまった。
62 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/21(水) 12:48:04 [ 4CUjn9IY ]
午後2時 ホーランジア支援の為、出港準備を終えていた第58任務部隊は
急遽、情報収集のため4個郡すべてが外洋に出撃した。
西側には第1、第2任務郡、東側には第3、第4任務郡がそれぞれ向かっていった。
同時に、クェゼリンに駐留しているカタリナ索敵機も同時に四方八方に飛ばした。
インディアナポリス艦上の通信室に午後6時、カタリナからの第一報が入った。
「我、現在ギルバート諸島上空に到達せり、されどもギルバート諸島はあらず。」
その50分後に今度はウェーク島に向かったカタリナからも連絡が入った。
「ウェーク島上空に達するも、同島はあらず。海しかあらず。」
この報告は第5艦隊司令部を驚愕させた。
「長官、どうやら我々は未知なる世界に放り込まれたようです。」
参謀長のデイビス少将が顔を青ざめてそう言った。
「機動部隊はどうなっている?まだ索敵機を飛ばさんのか?」
「ミッチャー提督の機動部隊は、この4つの地点にいます。」
作戦地図にマーシャルを囲むようにして離れていく線がある。それはミッチャーが率いる
TF58である。各任務郡とも24ノットのスピードで航行しているから約180キロ
離れている。
「ミッチャー提督はあと200マイル進んでから索敵機を発艦させるようです。ですから
翌日にはミッチャー機動部隊も索敵行動に移ります。」
本来、機動部隊の分散は避けたい行動だ。なぜなら、日本の基地航空隊、機動部隊に捕捉
されれば大量の攻撃機が向かってくるからだ。
そうなれば、1個郡のみの機動部隊では敵機の攻撃を支えきれず、たちまち叩き潰されてしまうだろう。
だが、今は違う。この世界は、元の世界にあるはずのものがない。
ひょっとしたら日本機動部隊、基地航空隊も無いのかもしれない。そう思ってミッチャーは普段なら
2郡以上で密集させるのをあえて分散させたのだろう。
「明日はより有力な情報が入るでしょう。」
「うむ。明日を待つとしよう。」
スプルーアンスは頷いた。心中では、なんでこんなことになったのか?という疑念が常に渦巻いていた。
63 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/21(水) 13:09:50 [ 4CUjn9IY ]
5月4日 午前4時 マーシャル諸島北西380マイル地点
第58任務部隊の第1郡は、午前4時に索敵機の発艦準備を終えた。空母ホーネット
から4機、ヨークタウンから5機、軽空母ベローウッド、バターンからそれぞれ3機
が発艦する予定だ。
第1郡の司令官クラーク少将は、艦橋から偵察機の発艦を見守っていた。柔和な風貌で
体つきは普通であるが、どことなく人が良さそうなおじさんと言う印象がある。
ずんぐりした格好のアベンジャーが飛行甲板をするするとすべり、艦首から空に舞い上がった。
それが合図だったかのように、後続機が次々に轟音を立てながら発艦していった。
左隣の正規空母ヨークタウンも偵察機を発艦させている。
「司令、第1索敵隊、発艦終わりました。」
「うん。ご苦労。」
敬礼をした通信士官に答礼して、彼は偵察隊が飛んで言った北方の空を見つめた。
「本当ならジャップの機動部隊を見つける任務であればうれしいのだが。」
クラーク少将は苦笑しながら呟いた。
「偵察任務に使われるとはな。まっ、情報が全然足りないから収集活動は必要か。」
その2時間後、クラークはコーヒーを飲んで艦橋で艦長と立ち話をしていた。そこに通信士官
が電報を持って来た。
「司令、索敵3番より電文です。」
「読んでみろ」
「はっ!我、南鳥島上空に到達せるも同島は見当たらず。」
「無かった・・・・のか。」
「いえ、続きがあります・・・・・」
「どうした、言わんか。」
艦長が催促すると、通信士官は謝って続きを読んだ。
「南鳥島の代わりに大陸を発見す。木造の帆船、水車を発見せり。」
その報告に、クラークは思考が停止した。
69 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 10:01:41 [ 4CUjn9IY ]
空母ホーネットから発艦したジョージ・リンデマン少尉が機長の策敵3番機は
快調な飛行を続けていた。
「ロン、何も見つからんか?」
後部機銃座に座るロン・タイラー兵曹に聞いてみた。
「いえ、何もありません。海ばっかりです。位置ではここが南鳥島なのですが」
タイラー兵曹は困惑した表情でそう答えた。本来ならば、ここに南鳥島があるはずなのだ。それが
忽然と姿を消している。
「なんてこった。俺達は本当にどこか飛ばされてしまったのか。」
彼はそう呟いた。もし本当だとすれば、母や父に会えないのか?だとすれば最悪だ。
彼は一気に気持ちが萎えてしまった。彼は顔をうつむいて考え事を始めた。
その時、電信員であるルイン・オーウェン兵曹が上ずった口調で叫んだ。
「左側方に島らしきもの!」
考え事をしていたリンデマン少尉はハッと顔をあげ、双眼鏡でその地点を見てみた。だが、見えない。
「本当か?見えないぞ。」
「いえ、確かに見えました。島のようなものが・・・・いや、もっと大きいかも。」
「念のため、左に行ってみよう。」
彼は操縦桿を左に倒し、機首をその方向に向けた。あそこに・・・・あの方向に何かある。
もしや、疑惑の答えがあるのかもしれない。
彼はそう思うと、緊張と興奮で体が震えた。
70 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 10:30:49 [ 4CUjn9IY ]
しばらくはまたいつもの通り単調な飛行が続いた。だが、それも10分ほどで終わった。
「見えました!島です!」
オーウェン兵曹が叫んだ。リンデマン少尉も双眼鏡で前方を見てみた。雲の隙間に海岸線が見える。
それに港らしきものも、うっすらとだが見えている。
「見えた・・・・ジーザス・・・・こいつはどでかい島かも知れんぞ。」
彼はその海岸線の広さに息を呑んだ。島ならポツンとそこにあるように見える。だが、彼らが見ている
それは今まで見てきたものとは違った。海岸線は左右にずーっと繋がっている。
「島ではありませんよ。」
オーウェン兵曹はトーンを下げた口調で言った。恐怖でも感じているのか、やや言葉が震えていた。
「こいつは・・・・・大陸です。」
「大陸か・・・・・よし、あそこに行ってみよう。今回の任務は情報収集だ。出来るだけ情報を集めよう。」
彼はそう言うと、スピードをやや上げた。
近づくにつれて、海岸線がはっきりしてきた。さきほどうっすらと見えていた港町は、今でははっきりと
見えるようになった。
町の規模は大分大きい。それに港の規模もかなりある。港には帆船らしき木造船ひしめいており、外洋に出たり
入ったりする船も多い。
「どうやらこの港町は結構大きめですね。建物も結構ある。ですが、なんていうか、レンガや木造だらけですよ。」
「まるで中世ヨーロッパだな。」
リンデマン少尉はそう答えた。見た限り、明らかに今の文明のものではない。煙突を載せた船が見当たらない。
建物は中世風のものばかり。
「ヨーロッパに移動してしまったのではないですか?」
タイラー兵曹がリンデマン少尉に言ってきた。
「この町並みはまるでイタリアかフランスの港町ですよ。」
「いや、違うな。」
少尉は首を横に振った。
「イタリアやフランスでも、煙突を載せた船はゴマンといる。木造船も多いが、このような
時代遅れのようなものではない。」
「と、すると・・・・・本当に異様な世界に連れて来られたになりますよ。」
「そうだろうな。」
彼はそう答えた。
「だが話は後だ。今は任務に集中しよう。高度を下げるぞ。」
リンデマン少尉は機体を高度1000まで下げた。3番機はそのまま内陸に進んだ。港町から
10分ほど離れたところに広大な森があった。その森の前には小さな水車があった。
そこで何人かの人影が見えた。彼はさらに高度を500まで下げた。
リンデマン少尉は珊瑚海海戦に空母レキシントンの乗員として参加した。それ以来、ミッドウェー、
第2次ソロモン海戦、南太平洋海戦などに参加してきた古参のベテランである。
彼は視力が2・7ととても良く、友人の戦闘機パイロットからは、
「お前は戦闘機乗りに向いているぞ」
と言われたが、彼はこのアベンジャー艦功が気に入っていた。スピードはいまいちでないものの、頑丈さと
操縦性の良さは好評であり、米艦載機のパイロットからは大いに気に入られていた。
「悪いが、俺はアベンジャーひと筋なのさ。」
彼はその友人に対しそう言った。残りの2名も、当初は新兵だったが、昨年の11月に初陣を
飾って以来、すっかり頼れる存在になった。
71 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 10:45:53 [ 4CUjn9IY ]
リンデマン少尉はその数人の人影を凝視した。一人の人影が彼らの機体に驚いて
指を向けた。すると残りの人影も一斉に彼が操縦するアベンジャーに向いた。
彼はさらに高度を下げ、高度が100になるまで下げた。そして400キロのスピードで
通り過ぎようとしたとき、彼はある人影と目が合った。
その人影を、彼は顔や体つきをハッキリ見て取れた。褐色の肌に膨らんだ胸、やや露出が高い上着に短パン
それに女性らしい顔つきと長い耳。
アベンジャーは水車小屋を通り過ぎると、高度を上げた。
「・・・・機長、今の見ましたか?」
オーウェン兵曹がおずおずとした口調で聞いてきた。彼はうなずいた。
「耳が、やけに長かったな。それに褐色の奴と白人系の奴もいた。」
「普通の人らしきものもいましたね。」
タイラー兵曹も会話に入ってきた。
「男が2人に女が3人でした。」
「確かそうだったな。」
彼は燃料計を見てみた。燃料ゲージが半分近くまで下がっていた。
「頃合だな。オーウェン、ホーネットに打電だ。電文を組め。」
オーウェンは彼の指示に従い、暗号帳を開いた。
時に午前6時34分のことであった。
76 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 11:16:00 [ 4CUjn9IY ]
午前6時40分、第1任務郡旗艦ホーネット
通信士官の報告に彼は思考が停止し、思わず耳を疑った。
「なんだと?」
彼はもう一度聞いた。そして通信士官がもう一度電文を読み上げると、彼はようやく
理解できた。
「そうか。分かった。他の策敵機からはまだないな?」
「はい。リンデマン少尉の3番機のみであります。」
「よろしい。」
彼はそう言うと、コーヒーを飲み干し、長官席に座った。
この時、艦橋見張りが叫んだ。
「ヨークタウンより発光信号!」
クラークはホーネットの左舷2000メートルを航行しているヨークタウンに
視線を移した。
「我、策敵機の電文を探知せり。策敵4番機は大陸らしき地形を発見せり、」
この直後からホーネットに続々と情報が入ってきた。まず先ほど電文を送ってきた
策敵3番機から続報があり、現地人数人を確認、現地人に耳長の人種がいるとの追加電が入った。
また、軽空母ベローウッドの策敵機が、艦隊の南西280マイル地点で炎上中の木造船を発見し、
その数海里離れたところに襲撃船と思われる船が北に向けて遁走していると報告してきた。
また、軽空母バターンの策敵機は、3番機が一番内陸に入り込んだ。そのバターン3番機が
「我、地上戦闘と思しきものを発見せり、位置は艦隊より西300マイル地点なり。」
次々と入ってくる情報に、クラークは思わず眉をひそめた。
「これで、別の世界に放り込まれたのは確実となった訳か。」
彼はどこか力のない口調でそう呟いた。だがこの時、南方400マイル地点に位置する
第2郡では別の事件が起きていた。
77 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 11:41:25 [ 4CUjn9IY ]
アルフレット・モンゴメリー少将が指揮する第58任務部隊第2任務郡は
第1郡と同じように策敵任務に当たっていた。
午前6時50分、輪形陣外輪部を守る駆逐艦のルイス・ハンコックは艦隊速度の24ノット
で航行していた。
見張り員のスペイン系アメリカ人、セバウス・オリガロ2等水兵は左舷の海面を見張っていた。
「なあ、どうせここは異世界なんだろ?ならジャップの潜水艦はいないんじゃないのか?」
同僚であるバイラ・マーザー2等水兵が口を尖らしながら言う。
「それはそうだが、異世界だから別の怖いものがあるんじゃないか?例えば、シーサーペントのような
巨大海ヘビとかよ!」
彼はふざけて指を海面に伸ばした。その時、ザー!という水を掻き分ける音が聞こえた。彼が左舷を向いたとき
ルイス・ハンコックの左舷4000メートルに巨大な生物が表した。
それは海蛇のような巨大生物だった。その凶暴な相貌は明らかにルイス・ハンコックに向いていた。
「何だあれは!」
オリガロ2等水兵は絶叫した。
「海蛇だ!それもとてつもなくでかい!10、いや!30メートルはあるぞ!」
左舷側に視線を移したルイス・ハンコックの艦長は、巨大海蛇の姿に絶句した。
だが、すぐに我に返り、号令を発した!
「戦闘用意!総員戦闘配置につけ!」
危険を感じた彼は、スピーカーに向かってそう命じると、水兵が艦上、艦内で慌しく動き始めた。
ルイス・ハンコックはフレッチャー級駆逐艦に属していて、5インチ単装両用砲5門に53センチ魚雷発射管
4連装3基、20ミリ機銃4丁、40ミリ連装機銃3基6丁を装備しており、38ノットの
高速力を発揮できる快速艦である。
砲弾が込められた5インチ両用砲が巨大海蛇に向けられた。
78 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 12:09:27 [ 4CUjn9IY ]
海蛇はまっしぐらにルイス・ハンコックに突進してきた。この海蛇の意図は明らかだった。
「オープン・ファイヤ!」
艦長が号令を発すると、5門の5インチ砲が咆哮した。ガガーン!という轟音と共に、砲弾が放たれる。
巨大海蛇の周りに5本の水柱が立ち上がった。
この時、騒ぎを聞きつけた軽巡洋艦のモービルと駆逐艦のマーシャルが現場に急行していた。海蛇は時速30ノットは
ありそうなスピードでルイス・ハンコックに迫ってきた。
第2斉射が放たれた。これも外れ弾となり、巨大海蛇の周りに水柱を吹き上げただけだった。だが、この砲撃にたじろいだのか、
まっしぐらに突きすんでいた巨大海蛇は急に右に向きを変えた。
この時、ルイス・ハンコックの機銃が火を噴いた。左舷中央部に設置されている40ミリ連装機銃の射手であるフランク・
ヘンドリックス兵曹長は、照準器に海面下にうっすらと見える巨大海蛇の影に機銃弾を撃ち込んだ。
ガンガンガンガン!というリズミカルな音を立て、機関砲弾が弾き出された。たちまち、巨大海蛇が泳いでいる海面は多数の機銃弾
によって泡立った。
だが、それでも巨大海蛇は動きをやめない。この時、見張り員のオリガロ2等水兵は新たに2匹の巨大海蛇が接近してくるのを見つけた。
「巨大海蛇があらたに2匹!距離3000!」
彼はこの時愕然とした、巨大海蛇は知恵を持っている。1匹が機銃や砲弾をひきつけている隙に、残りの2匹が目標に襲い掛かると言う算段
なのだ。なんて頭のいい生物なのか。
彼はそう思った。速射性のある5インチ砲は続けざまに砲弾を叩き込むが、1匹目の巨大海蛇を捕まえることが出来ない。
あまりにもすばしっこいため、砲の操作が追いつかないのだ。その間にも、残る2匹の巨大海蛇はルイス・ハンコックまで距離2000まで迫っていた。
この時、ルイス・ハンコックが速度を上げた。軽快な駆逐艦はたちまち38ノットの高速で逃げ切ろうとした。
だが次の瞬間、目の前の海面に巨大海蛇が姿を現した。その海蛇はこれまでのとは違い、長さが40メートルはあろう。
つまりあの海蛇のリーダーなのだ。
その距離はわずが100メートルだった。巨大海蛇が大きな顎を開いた。そして猛烈なスピードでルイス・ハンコックに噛み付いてこようとした。
「面舵一杯!急げ!」
艦長の言葉にすかさず反応した操舵員が猛烈な勢いでハンドルを振り回した。間一髪のところでルイス・ハンコックの艦橋は巨大海蛇の凶牙から逃れた。
巨大海蛇は艦橋の左舷側をなめるようにして通り過ぎようとしていた。
79 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/22(木) 12:39:26 [ 4CUjn9IY ]
40ミリ連装機銃の射手であるヘンドリックス兵曹長は、艦首の前に現れた
これまでよりも一際大きな巨大海蛇を見て度肝を抜かれた。
「こいつはたまげたぞ!」
かれは素っ頓狂な声を上げて驚いた。巨大海蛇が大きな顎を上げて反り返った。
「来るぞ!どけ!」
機銃弾の装填手を脇に寄せると彼は機銃を旋回させ、巨大海蛇に照準を向けた。その時、艦
が右急回頭を行った。このお陰で巨大海蛇は艦橋に噛み付けなかったが、なんとかれのほうに
牙を向けてやってきた。
「海蛇なんぞにやられてたまるかぁぁぁぁ!」
彼は絶叫しながら引き金を引いた。ガンガンガンガンガンガン!という連射音が鳴り響き、オレンジ色の
アンスキャンデーが巨大海蛇に注がれた。
巨大海蛇は顔面を無数の40ミリ弾に抉られ、ギャーーー!という獣らしい叫びを上げながら海に落下した。
リーダーの巨大海蛇が海面にでのたうち回っている。そこに12本の水柱が立ち上がった。
水柱の中にバラバラに引き裂かれた巨大海蛇の姿があった。
「化け物に命中!四散しました!!」
見張り員がそう叫ぶと、乗員がワァー!と歓声をあげた。軽巡洋艦のモービルは、ルイス・ハンコック
に噛み付こうとし、血を振りまきながら海面をのたうっていた海蛇に12個の6インチ(15・2センチ砲弾)
を叩き込んだ。結果は初弾命中となった。
その後方には駆逐艦のマーシャルが5インチ(12・7センチ)両用砲を猛烈に撃ちまくっている。
ルイス・ハンコックに新たにすがり付こうとした巨大海蛇が1匹、たちまちの内にリーダーの後を追った。
モービルはクリーブランド級軽巡洋艦に属する艦で、基準排水量1万トン、6インチ砲12門、
5インチ連装砲6基12門という重火力を持っている。
対空火力も強力で4連装40ミリ機銃6門、20ミリ機銃20丁と強化されている。
速力は33ノットと、バランスがよく、高性能の新鋭軽巡である。
残った巨大海蛇は、ルイス・ハンコックを追うのをやめ、その場から逃げ去ろうとしたが、
「2匹固まって逃げるとは、馬鹿な奴らだ。ファイヤ!」
モービルの3連装6インチ砲3基が再び咆哮した。今度はやや後方に落ちてしまったため、目標を外れた。
20秒後に第3斉射が放たれた。左舷の舷側一杯に砲光が閃き、ドドドドーン!という腹に答える射撃音
が海面を圧した。
猛スピードで離れ去っていく2匹の巨大海蛇の辺りに12本の水柱が立ち上がった。水柱は80メートルまで
あがると、ゆっくりと落ちていった。
間をおいてドーンという爆発音が広がった。モービルの左舷7500メートル付近には、海蛇たちの死骸が
浮いていた。
95 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/23(金) 10:48:58 [ 4CUjn9IY ]
でかすぎました。ちょっと修正
丶
ヽ 1、空母ホーネット所属機が港町を発見
丶
ゝ 2、同空母機が現地人数人を確認
)
丶 3、軽空母ベローウッド機が炎上船と
ロタ半島 ヽ 襲撃船を発見
\ ヽ
ヽ ノ 2 ) 4、軽空母バターン機が地上戦闘を発見
ヾ ミ ・ 丶
ゝ ミ 1 丶 5、未知の生物と同任務郡の護衛艦が交戦
ゝ ( ・ 丶 護衛艦がこれを撃沈
ヽ ( /
) ( 丿
ヽ ( 〆 ●TF−58、1任務郡
・4 丶 ∨
ヾ
大陸本土 ヽ
ヾ
ゞ
ヽ
ヽ ・3
ヽ
ヽ 至マーシャル→
ヽ
ヽ
ヽ
ヽ ・5
ヽ ●TF-58、2任務郡
ヽ
ヾ
丶
\
106 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/24(土) 10:20:37 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年 5月4日午後2時 マーシャル諸島メジュロ環礁
第5艦隊旗艦インディアナポリスの作戦室では、第5艦隊の幕僚らが額を集めて
これまでの情報を分析していた。
「第1郡の謎の大陸発見、第2任務郡の巨大生物との交戦。この他の情報を見てもこれで
異世界に飛ばされたことは明らかです。」
通信参謀のアームストロング中佐が言った。
「まだ第3、第4任務郡からは連絡は入っておりませんが、このまま機動部隊を現場海域に
留めると第2、第3の巨大生物が機動部隊に襲い掛かる可能性があります。」
「ふむ。これでわれわれは八方塞がりとなったわけか。事実は小説よりも奇なりだな。」
スプルーアンス大将は腕組みをしながらそう呟いた。
「本国がなくなったと言うことは補給の問題があります。これまでは膨大な物資をハワイや
合衆国本土から輸送し、このマーシャルやギルバートと言った拠点に備蓄してきました。」
兵站参謀のバートン・ビックス大佐が陰鬱そうな表情で言い始める。
「私が分析したところ、このマーシャル諸島には来るべきマリアナ侵攻作戦等の上陸作戦のため、
膨大な物資が備蓄されました。その量は、これまでの方法で使い続ければ6ヶ月、長くて8ヶ月
は持ちます。」
「だが、それを過ぎたら・・・・・・・・アウト。」
スプルーアンスの怜悧な声が響くと、作戦室に沈黙が流れた。それはつまり、武器弾薬がある期間
は命の保障はされるが、それを過ぎたらもはや対処不能と言う事なのだ。
ちなみに、これまでの戦法とは地上戦における絨毯爆撃や猛砲撃といった物量にものを言わせる
攻撃方法である。
マーシャルは、後方兵站基地としても機能しているため、このように武器弾薬が豊富にあるのである。
もちろん食料品やその他の物資も同様だ。
107 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/24(土) 11:33:40 [ 4CUjn9IY ]
だが、裏を返せばそれは普通にやれば6ヶ月、頑張っても8ヶ月しか使いのばしが
出来ないと言うことだ。
武器弾薬は節約できる。備蓄重油や航空燃料も使い方を制限すればだいぶ使い伸ばしはできる。
だが、問題は食料である。この6ヶ月という数字は食料があってこその数字である。
普通に3食つきなら6ヶ月、2食にしたら8ヶ月ということなのだ。周りの海からは魚なども
釣れるかもしれないからこの6、8ヶ月と言う数字も伸びるだろうが、それでも上陸部隊、艦隊将兵、
マーシャルに駐留する陸軍航空隊、基地隊員は合計で14万人を下らない。いずれ飢餓状態に
陥るのは火を見るよりも明らかであった。
「畜生・・・・どこの馬鹿がこんな世界に呼んだんだ。」
参謀長のデイビス少将が怒りに体をわななかせながら言った。
「こっちはこれから決戦に向かおうとしていたのに、それを無しにしたばかりか、逆に補給
不足に陥らせて私達を飢え死にさせようとしている・・・・・こんな馬鹿な話があるかぁ!?」
彼はそう叫ぶと、頭を抱えた。
「しかしこれは事実です。事実は受け止めねばなりません。私だって参謀長と同じです。」
作戦担当のフォレステル大佐がなだめるように言う。
「何か打開策はあるはずです。まずはそれを考えましょう。」
「・・・・・まあ、確かにそうではあるな。」
デイビスは顔をあげた。
「まずはこれまでの情報を洗い直して、これからの対策をたてよう。それから
第58任務部隊に帰還命令を伝えよ。機動部隊は燃料を食うからな。」
スプルーアンスはそう言うと、今度は打開策について話を始めた。
112 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/24(土) 23:48:02 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年 5月5日午後6時ロタ半島の港町シュリングル
港町シュリングルは戦時中にも関わらずに活気に満ちていた。シュリングルはヴァルキュレア王国
建国以来、常に王国の海運業の中心となってきた。
人口は40万を超える大都市で、主に漁業や海運業が盛んな町として広く知られている。だが、裏には
わいろなどの汚職や窃盗、強盗などといった犯罪も起きている。
そんな町に1台の馬車がやってきた。馬車は慌しく中心街を過ぎると、港に近い所にある豪邸に入っていった。
その豪邸は、シュリングル一の海運業者、トラビレス海運協会会長の家だった。
邸宅の玄関前には3人の人物が待っていた。馬車は家のドアの前に止まった。フランクス将軍が馬車の扉を開け、
先に出た。
「フランクス、久しぶりじゃないか!元気にしていたか!」
真ん中のカイゼル髭を生やした色白の男が、笑みを浮かべてフランクス将軍に声をかけた。この人がバベル・トラビレス。
トラビレス海運協会の会長である。
「おう、トラビレス元気しとったか。10年ぶりだな。見ないうちにすっかり立派になったな!」
2人は満面の笑みを浮かべると、互いに抱き合い、久しぶりの再会を喜んだ。
実はトラビレス会長とフランクス将軍は元はこの町で生まれ育ち、共に兵隊の道を歩んだ戦友だった。15年前に
騎兵大隊長で軍歴を終えたバベルは、実家の海運業を引き継いだ。
彼は、当時潰れかけていた父の海運会社を見事な手腕で立ち直らせ、今ではシュリングル一の海運会社に育て上げた。
会社再建中の彼が、部下からは神がかりみたいだと言われたことから、彼は「神懸りのバベル」というあだ名を頂戴していた。
「どうだ?会社の運営は?」
「いまの世の中じゃ、すっかり駄目だね。バーマントの馬鹿共のお陰でどこの会社も経営が行き詰まりかけている。昨日だって
近くを通りかかった別の会社の輸送船がうちの会社の船が燃えているところ見つけたよ。」
「なに?まさか、バーマント軍の通商破壊船に?」
「ああ、そうだ。積荷の上物の剣が船ごと海底に叩き込まれた。前線じゃ粗末な剣しかないと聞いたが?」
フランクスは表情をくらませて頷いた。
「うん。品質が悪いせいで、あちらこちらでポキポキ折れやがるし、切れ味もいまいちだ。」
「そうか・・・・・全く、神は俺達を見放したんだろうかねぇ。」
バベルは自嘲気味に笑った。彼はもう戦局は絶望的になりつつあると感じていた。
「まあ、立ち話もなんだ。中に入らんか?」
バベルはフランクスを屋敷の中に招いた。
113 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/25(日) 00:26:58 [ 4CUjn9IY ]
「ちょっと待ってくれ、まだ馬車の中に人がいるんだ。おい、出て来いよ。」
彼は馬車の中に声をかけた。中からは若い女性2人に男性1人が出てきた。
「紹介する。この背の高いお嬢さんがレイム・リーソン。魔術師、まあ一般に言われている魔法使いだ。
この眼鏡の女の人がリリア・フレイド、この人がマイント・ターナーだ。この2人も同じく魔術師だ。」
3人はバベルに一礼した。バベルもよろしくと言って一礼した。
一行はバベルの屋敷に招きいれられた。フランクスらは屋敷に入ると、応接室に招かれた。最後にバベルが
席につくと、彼らに質問してきた。
「2週間前に領主様から聞いたが、君達は魔法で何かを召喚する計画に携わっていたようだな。なにを召喚したんだ?」
レイムがこれに答えた。
「島です。私達は強大な戦力が居座る異世界の島を召喚しようとしました。召喚方法は私達で試行錯誤を重ねながら決め、
昨日の未明、計画を実行しました。計画は成功しました。成功するときには何かの紋章がこの腕にでるのです。」
彼女は左腕の袖をまくりあげ、何かの紋章を見せた。それは船のような物が移っていた。しかし船にしては甲板が平べったい
ような印象がある。
「召喚した最大の戦力のシルエットがこのように浮き出るのです。失敗した場合は何もありません。召喚には成功しましたが、3人が
過労で倒れました。」
その答えに、バベルは眉をひそめた。
「倒れた?待てよ、当初は6人いるはずだったのに3人しかいないのことに俺は不思議に思っていたのだが、成るほど。倒れて
来れなかったということか。」
「はい。3人は成功時に倒れて、今も意識を失っています。3人は医者の下で治療を行っていますが、助かるかどうか・・・」
「召喚時には相当な体力を削られます。3人は優秀な魔道師ではありましたが、同時に体力面に不安があったのです。ですが、彼らは
祖国の危機の前に我らだけが参加しないことは納得できないと言い、この召喚計画に参加したのです。」
補足にマイント・ターナーが付け加えた。
「そうだったのか・・・・リーソンさん。あんたもいい部下を持ったな。」
バベルは感慨深げに彼女に言った。
「部下はまだ意識を失っていると言ったな。その部下が無事に復帰できるように私も祈っておくよ。」
「そういえば、聞きたいことがある。」
114 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/25(日) 00:54:23 [ 4CUjn9IY ]
フランクスが本題に切り替えた。
「ここ2日の間に、何か変わったことは無いか?変な島を見たとか。」
「島か・・・・・あっ。」
彼は思い当たることがあるのか、表情を変えた。
「そういえば、昨日の朝だったかな。このシュリングルの町の空を見たことも無いのが
飛んでいたな。」
「見たことも無いのだと?」
「ああ、なんと言ったらいいかな。」
彼は頭を掻きながら、昨日見た不思議な事を思い出した。
「鳥にしてはやけに高い所を飛ぶなと思ったんだ。確か音も鳴っていたな。ゴオォォーとい
う地鳴りなのかわけの分からん音が。それは確か南東の方角から来たな。」
「南東?・・・・・・リーソン。地図を見せてくれ。召喚したものが現れる予定の。」
フランクスに言われ、彼女は懐から地図を取り出した。その地図はロタ半島から離れた南東の
海域に罰印が書かれていた。それは今回、召喚した物が現れる予定地だった。
「この距離は・・・・・ざっと見ても1000マイル以上はあるな。快速船で行っても3日はかかる
距離だ。」
この時代の快速船は時速が15ノット出ればいいほうで、キロに直すと27キロである。風の有無に
作用されるが、一日に約680キロ航行できる。
「もしかして、この地点に行くというのか?」
「ああ。今日はな。おまえんとこの快速船を1隻貸してもらいたくてここに来たんだ。」
「本当かおい。」
「ああ、本当だとも。これはこのヴァルキュレアの存亡に関わる事なんだ。その為にも、この町
一番の有力者であるお前に協力してもらいたいんだ。」
彼は必死にバベルを説いた。バベルは複雑な表情を浮かべた。1000マイル以上の船旅は決して
楽なものではない。それに、海には少ないながらも凶暴な巨大生物がいる。
襲われないとは言い切れないが、この国の存亡という言葉が、彼の心を動かした。
「いきなりのことで、俺も戸惑っている。だが、俺はこの町で育ってきた。この愛する町がバーマントの侵略者共
に踏みにじられるには耐えられんな。よし。船を出してやる。優秀な船乗りもつけてやるよ。」
彼は意を決した表情で口を開いた。その言葉に、一同に安堵の色が浮かんだ。バベルが断る思っていたからである。
「ありがとう。恩に着る。」
フランクスは笑顔を浮かべて彼に握手を求めた。
「なあに、気にするな。貴様と俺は同じ鍋の飯を食った仲じゃないか。困ったときはお互い様さ。」
バベルは笑いながら握手を握った。2人の握手は力強く交わされた。
119 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 12:22:50 [ 4CUjn9IY ]
大陸暦1098年 5月7日午後4時
重量680トンの帆船であるヴァイアン号は時速14ノットのスピードで南南東
に向かっていた。
船には乗員20名の他に「積荷」である4人の人物が乗っていた。その「積荷」の1人である
フランクス将軍は左舷の中央甲板からずっと海を眺めていた。
「将軍閣下、気分はいかがですか?」
後ろから声をかけられた。フランクスが後ろを振り向くと、色黒の筋肉質の男が立っていた。
「プラットン船長か、気分は悪くないよ。むしろいい気分だ。」
「将軍は船は初めてでしたね。」
彼の傍らにやってきたプラットン船長が聞いてきた。
「ああ、そうだが。」
「初めて船に乗る人は大抵船酔いになりやすいんですよ。私も初めの頃はしょっちゅう
舷側に顔をうずめてましたよ。」
そう言うと、フランクスが笑った。
「ははは。あなたにもそんな事があったのか。私のイメージでは船乗りは一度も船酔い
したことが無いと思っていたのだが。」
「そんな事はありませんよ。最初は大体の人が、慣れるまで船酔いに苦しむもんです。
あなた方だけであなた以外はみんな船酔いで伸びちまってますよ。」
フランクスら4人のうち、彼以外はみんな初めて経験する船酔いに苦しんでいた。特に
リーソン魔道師の酔いはひどかった。ベッドがある船倉に戻れば、
「船からおりたいぃ〜・・・・・・しぬ〜」
というリーソン魔道師のうなり声がしょっちゅう聞こえてくる。人間は得意不得意
というものが誰にも限らずあるのだ。
120 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 13:03:57 [ 4CUjn9IY ]
「ところで船長、昨日の朝に出航してから大体何マイル進んだと思う?」
「私の推測では、」
彼は懐から海図を取り出した。その海図には大陸とロタ半島が書かれている。その
ロタ半島から南東向きに進んでいる線がある。このヴァイアン号の進んできた航路だ。
「今速度は14ノット出ています。ですからこれまでの風や速力の増減、それに時間
を計算すれば・・・・・・・・約800ないし900マイルをノンストップで進んできた
事になります。」
「そうか、さすがはバベルが選んだ高速船だな。普通ならこれの倍以上はかかるところだ。」
「この船はトラビレス協会一の高速船なのですよ。それに幸運の船でもあります。」
「幸運の船?」
フランクスが怪訝な表情になった。
「襲われたことがあるのか?」
「ええ。去年の12月でしたか、この船はシュングリルを出航した2日後にバーマント軍
の通商破壊船に襲われたんです。破壊船から大砲の弾が雨あられと飛んでくるんで、あの時、
私はだめだと思いました。でも、この船に取り付けれている大砲が偶然にも破壊船の舵に当た
ったんです。自由の利かなくなった敵船はぐるぐる回り続け、私らはすぐに窮地を逃れました。」
「ほう。それは良かったな。」
「それだけではありません。今年の2月に航路を誤って猛烈な嵐に突っ込んでしまったんです。
嵐の中でマストが折れたり浸水が始まったり、もはや危ない状況でした。今度こそ死ぬなと思い
ました。ですが船は嵐を抜け、九死に一生を得ました。」
「なるほど。」
フランクスは頷いた。この船は結構ツキのある船だな。彼はふと、そう思った。
「ちょっとお聞きしますが、召喚した島と言うところに一体何があるのですか?」
「それは・・・・・言ってみなければ分からない。敵なのか、味方なのかも。だが
行けば分かるさ。あの方向には必ず何かある。」
「それは・・・・・戦士としての勘・・・・ですか?」
プラットン船長がおずおずとした口調で聞いてくると、フランクスはニヤリと笑った。
「それも混じってるけどな。」
121 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 13:37:32 [ 4CUjn9IY ]
午後5時 マーシャル諸島から北西300マイル地点
第5艦隊司令部はマーシャル諸島を中心に沖合い200マイルのピケットライン
を張り巡らすことにした。
哨戒艦は駆逐艦と重巡、軽巡洋艦、軽空母を使うことにした。東側に12隻、西側に14隻が配備され、
軽空母・軽巡・駆逐艦、もしくは軽巡、駆逐艦、または駆逐艦・駆逐艦のチームで編成され、互いに
5000メートルの間隔を置いて哨戒活動にあたった。
ピケットラインを敷く理由としては第一に海賊船と思わしき船舶をマーシャル諸島に入れないこと、
第2に巨大海蛇がどの海域に多く生息するか調査するものであった。
西側警戒ラインに位置するAグループは軽空母ベローウッド、重巡キャンベラ、駆逐艦ブラッドフォード
で編成されていた。警戒ラインにいる艦艇は、燃料の節約のため、毎時16ノットの速度で
割り当て区域を行ったり来たりしていた。
軽空母ベローウッドの艦長であるジョン・ペリー大佐は、艦橋で沈み行く夕日を見ていた。その夕日は
とても美しく、彼は美しさのあまり見とれていた。
「いい夕焼けですな。数日前の荒れ模様とは大違いです。」
副長が彼に声をかけてきた。ペリー大佐は窓に肘をかけたまま答えた。
「全くだ。あの嵐のせいで変な世界に放り込まれた。俺は話を聞いたとき、この世界に呼び出した奴を
このベローウッドのマストに縛り付けてやりたいと思ったもんだよ。しかし、夕焼けとはいいものだ。
荒んだ心を癒してくれる。」
艦長は夕焼けに顔を赤く染めながら、淡々と言った。その時、電話が鳴った。副長は何事かと思いながら
受話器をとった。
「こちら艦橋だ。」
「こちらはボルチモアの艦長だ。そっちの艦長はいるか?ちょっと代わってくれ。」
「はい。今すぐ代わります。」
彼はすぐにペリー大佐を呼び出した。
「こちらペリー艦長だ。ブラッシュ、何かあったのか?」
「こっちのレーダーが北西12マイル地点で船舶を探知した。見張り員が見たところ、帆船がいる。」
「なんだって!?」
彼は驚いた。12マイルと言うと、すぐ目の前と同じである。その時、艦橋の見張りが叫んだ。
「北西の方角に船舶らしきもの!!」
122 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 13:56:59 [ 4CUjn9IY ]
「なに!」
彼は驚き、双眼鏡で見張りが指を向けた方角を見てみた。なるほど、確かに
水平線上に小さな影がある。船の上には帆らしきものがる。
「こいつは驚いた。帆船らしいな。」
彼はすぐに電話に食いついた。
「こっちでも確認した!」
「そうか。どうする?」
「ひとまず艦載機を上げて上空から見てみよう。」
「同感だな。頼むぞ。」
そう言うと、受話器からブツッという音が聞こえ、回線が閉じられた。
すぐに彼は別の電話に手をかけ、ベローウッドの飛行隊長であるリンク少佐
を呼び出した。
「リンク少佐、今から艦載機を1機出したい。」
「1機、ですね。ヘルキャットを出すんですか?」
「いや、アベンジャーだ。そいつを1機出したい。」
「分かりました。10分前に対潜哨戒から戻ってきた機がありますのでそいつを出します。」
「わかった。」
そう言うと、ペリー大佐は電話を置いた。
ベローウッドの前部エレベーターから1機の折りたたまれたアベンジャーが上がってきた。3人の
パイロットが艦橋から走り、アベンジャーに飛び乗った。
エンジンが回され、轟音が飛行甲板に鳴り響く。翼が展開され、アベンジャーがカタパルトに繋げられた。
「面舵一杯!全速前進!」
ペリー大佐が指示すると、操舵員がハンドルを回す。元々、クリーブランド級軽巡洋艦の船体を流用したので、
舵の利きはなかなかいい。機関音が徐々に大きくなり、次第にスピードが上がり、5分後には31ノットの
最高速度に達した。
ベローウッドは回頭し、艦首が風上に立った。発艦要員が伏せ、上げられていた手が艦首方向に向けられた。
次の瞬間、カタパルトが重いアベンジャーの機体を引っ張った。アベンジャーは艦首から一旦沈み込んだが、
すぐに大空に舞い上がって行った。
123 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 14:08:50 [ 4CUjn9IY ]
「水平線上に何か見えまーす!」
マストの一番上に立っていた見張りが叫んだ。夕焼けの赤茶けた空模様を眺めていた
フランクス将軍は、何事かとその水平線上を見つめた。
何も見えない。一体何を見たのだ?彼はしばらくその方角を凝視したが、すぐには見つけられなかった。
しばらくすると、うっすらとだが黒い煙のようなものが見えた。
「あれは・・・・・もしかして、破壊船にやられた輸送船!?」
彼はそう思って愕然とした。
「どうした?何があった!」
その時、船倉にいるリーソンらに酔い止め薬をあげに行ったプラットン船長が、マスト
の上にいる見張り員に大声で聞いた。
「船らしきものが見えます!小さくてよく分かりませんが、煙を吐いているようです!」
「なに!破壊船にやられたのか!?」
彼は縄梯子を駆け上って、マストの上にある見張り籠ににのぼった。
「いえ・・・・・その・・・・・何といったらいいか。」
「なんだ?」
「何か、変なのです。」
「馬鹿野郎。何か変とは何だ?答えが曖昧すぎるぞ。望遠鏡を貸せ。」
彼は見張りから望遠鏡をひったくると、彼が見ていた方向に視線を向けた。
124 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/27(火) 14:20:41 [ 4CUjn9IY ]
しばらくは見張りが言っていた煙らしきものが見つからなかった。
「どこだ?」
彼が見張りに言ったその時、3つのシルエットが見えた。
「見つけた。あれか・・・・・・・・・・・・・一体・・・・あれは?」
彼はそのシルエット見て愕然とした。なんと、船に必要な帆がないのだ!普通ならどの船も
帆を張るマストがあるのだ。それが全く見受けられない。
遠くて分かりづらいが、3隻のうち1隻は申し訳程度の船橋しかない。それ以外は真っ平で、
まるで料理に使うまな板を海に浮かべたようなものだった。
残る2隻のうち1隻は大きく、1隻は小さかった。船橋構造物があるが、その姿形は全く異なった
物だった。大きいほうに関しては力強く、やや優美な印象があり、小さいほうは、小ぶりながらも
ある種の勇敢さを感じさせるものがあった。
3隻の未確認船はやにわに向きを変え、速度を上げたように思えた。いや、実際上がっている。
「ん?向きを変えたぞ。もしかして、俺たちを発見して逃げたのか?」
彼はそう呟いた。だが、彼はさらに驚いた。なんとスピードが早いのだ。それも20ノットどころではない。
「早い。早いぞ!なんということだ、25ノット以上はでてるぞ!」
「25ノット!?」
部下の見張りが素っ頓狂な声を上げた。
「そんなのありえませんよ!」
「だが実際に早いぞ。ん?」
その時、彼は真っ平な甲板を持つ船から小さく、黒い何かが舞い上がったのを目撃した。
133 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/31(土) 11:15:45 [ 4CUjn9IY ]
オレンジ色に染まる空から、ヴァイアン号に向けて一粒の黒い点が向かってきた。
鳥?いや、鳥にしては異様だ。それに、この不思議な音は一体なんだ?
フランクスは頭の中が謎で一杯だった。やがて、その「鳥」が高度を下げてきた。それは
鳥らしからぬ轟音をあげ、高度を下げながらヴァイアン号の左舷から向かってきた。
グオオオオオー!という何かの唸り声のようなものが徐々に大きくなっていく。彼はそれを
凝視した。それは、先端に何かが取り付けられ、物凄い勢いで回転している。
「あの回転しているのはなんだ?羽か?」
彼はそう呟いた。「鳥」はもの凄い勢いでヴァイアン号の左舷から右舷上空を飛びぬけていった。
普通の鳥では絶対にあり得ない速さだ。それに、バーマント公国軍が所有する高速の飛空挺よりも
幾分早いように感じられる。
フランクスは「鳥」が通り過ぎる際、その全体像を見ることができた。その「鳥」は太い胴体をもち、
その真ん中に長い真っ直ぐな剣のようなものを串刺しにしたかのように取り付けられ、その胴体の上に
細いかごのようなものが乗っかるようにしておかれている。印象としてはごつく、美しいとは言えなかったが
、それでもある程度の力強さと安定感が見られた。
それに、細長いかごの中には3つの人影、その内の一人に目が合った。眼鏡のようなものを取り付けていたが、
その目は青かった。
「なっ、なんだあありゃあ!」
マストの上で部下の見張りと共にその「鳥」を通り過ぎるのを見たプラットン船長は仰天してそう叫んだ。
仰天するのも無理は無い。見たことも無い飛行物体が400キロを超える猛スピードで通り過ぎたのだ。
その韋駄天ぶりは彼のみならず、乗員を驚かせるには十分だった。
134 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/12/31(土) 11:31:35 [ 4CUjn9IY ]
「船長!通り過ぎていた船影がまた近づいてきました!」
見張りがそう叫ぶと、彼は望遠鏡を船首方向に向けた。先程は彼らの船から逃げるように
向きを変えたのだが、不思議な飛行物体を飛ばすと、今度は彼らのほうに舳先を向けたのである。
右舷の方向からグオオオー!という獣の唸り声にも似た音が聞こえてきた。
「また来たぞ!」
下から乗員の上ずった声が聞こえてきた。彼が視線を向けた時、その異様な鳥は、轟音を上げて
船上を通り過ぎていった。
船上を通り過ぎると、今度は上昇し始めた。上昇の仕方も早い。それどころか、鳥なんてものでは
なかった。
「あれは・・・・・一体何だ?」
彼は困惑に満ちた表情で呟く。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「船長!」
下からフランクス将軍の声が聞こえてきた。
「なんですか!閣下!」
「ここは白旗を揚げたほうがいいぞ!私の勘からして、彼らはいきり立ってるかも知れん!」
その言葉に彼はぎょっとした。
「いきり立ってる!?何でそんな事が分かるんですか!」
「彼らの目を見た!かすかとだが、どこか恨みを持っている目だった!ここは自分たちが敵ではない
ことを見せるしかない!」
「そうです!早く白旗をあげましょう!」
フランクスは、いつの間にかリーソン魔道師がいることに気が付いた。
「君?いつからここにいた?確か船倉で寝ていたんじゃ。」
「あんな轟音が聞こえれば眠気も吹っ飛びますよ。せっかく酔い止めが効いて
眠りやすくなってたのに。」
上のマストからプラットン船長の声が聞こえてきた。
136 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 11:46:10 [ 4CUjn9IY ]
「いいでしょう!白旗をあげましょう!目的地に着かんうちに沈められたらたまり
ませんからね!」
プラットン船長がそう言うと、マストからプラットンが下りてきて、下の船員たちと共に
白旗の代わりになるのを探し始めた。
「閣下、あの飛んでいるものは?」
リーソン魔道師が怪訝な表情で飛んでいる異様な鳥を指差した。その「鳥」はグオングオンと音を立てながら
ヴァイアン号の上空を旋回していた。
「おれもハッキリとは分からんな。だが言えることは、あれがこの世のものではないと言う事だ。」
「この世の物ではない・・・・・」
彼女はその言葉を呟きながら上空の「鳥」に見入っていた。
「だとすると、私達の召喚は成功したと言うことですね。」
「ああ、その通りだ。」
彼がそう頷いた時、
「閣下!白いものを見つけました!」
後ろから声がかかった。トーンがやけに高い声、眼鏡の魔道師リリア・フレイドの
ものだ。メンバーの中では一番若く、19歳だ。
「ああ、ご苦労。」
彼がそう言って振り返ろうとしたとき、ドサッ!という何かが倒れる音がした。
137 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 11:58:49 [ 4CUjn9IY ]
振り返ってみるとフレイド魔道師が倒れていた。
「イタタタタタ、邪魔なものに引っかかってしまったのかなあ。」
その言葉に、フランクスとリーソンは顔を見合わせた。
「何か邪魔なもんあったか?」
「全くありません。平坦です。」
実は彼女、リリア・フレイドはよくコケる。何にも無い平坦な場所に限ってなぜか
足と足を引っ掛けて転んでしまうのである。それだけではなく、召喚作戦の時にも
重要な書類を危うく捨てそうになったり、薬の入ったガラス容器を落としそうに
なったりとドジを起こしまくっているのだ。このお陰で、彼女は「ドジッ娘リリア」
というあだ名を頂戴している。
それでも、魔道師としての腕前は一流で、彼女自身も格闘術を身に着けている。昔は
町の飲み屋で、数人の男に囲まれてレイプされそうになったのを彼女はそいつらを
容赦無しに叩きのめした経験がある。
起き上がった彼女は白旗をフランクス将軍に渡した。
「プラットン船長!あったぞ!」
彼が大声を張り上げてそう言うと、棒切れを持ったプラットン船長が船倉から飛び出してきた。
「おお!見つけてくれれましたか。ありがとうございます!」
彼は笑みを浮かべてそう言うと、白布を棒切れにつけようとした。
138 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 12:16:50 [ 4CUjn9IY ]
軽空母ベローウッドを発艦したアベンジャーは、木造船の上空を旋回していた。
操縦士のクルツ・グリーン中尉は、木造船の左舷から何かが振られているのを見た。
「機長!不審船から旗が振られてます。白旗です!」
電信員席のウッドワード兵曹長がそう伝えてきた。
「俺も見てる。」
不審船からはさかんに白旗が振られている。ラフな格好をした男が棒切れに付けられた
白旗を左右に振り回している。横にいる男が手を振り、横の女性らしき2人の人も、ハンカチ
らしきものを振り回している。
「どうやら、彼らは敵意が無いみたいですよ。さかんに旗を振りまくってます。」
後部機銃員のマルクスター兵曹が冷静な口調で言ってきた。
「わからんぞ。こっちを騙しているかも知れんぞ。先日お前も見たろ?炎上する船と
襲撃船らしいものを。」
彼らは5月4日の時に策敵飛行に参加していた。その時に炎上し沈みかけてる船と襲撃船
らしき船を見たのだ。高度3000から遠目で見たので詳しいことは分からなかった。
だがこの世界にも危険な者がいると、その時に確認できたのだ。
「まさか、この間の襲撃船ではないでしょうね?だったとしたら・・・・・」
「500ポンドをぶつけるのか?」
アベンジャーには胴体の爆弾倉に2発の500ポンド(225キロ)を積んでいる。もし
この船が敵対行動に移れば、直ちにこの爆弾で撃沈せよとの命令を受け取っていた。
「それには及ばないだろう。それに相手は木造船だぞ?喫水線下に機銃弾をぶち込むだけで
済むだろう。爆弾は今回は使えないさ。」
彼は無線機を取り、マイクに向かってしゃべり始めた。
「こちらパッカードワン、マザーへ。目標は白旗を振っている。敵対の意思は無いようだ。」
139 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 12:25:36 [ 4CUjn9IY ]
軽空母ベロー・ウッドの艦橋で艦長のジョン・ペリー大佐は偵察機からの報告を
受け取った。報告によれば不審船の乗員が白旗を振っているという。
彼はしばらく考えたが、考えを決め、彼は通信士官を呼んだ。通信士官が艦橋に
入ってきた。
「第5艦隊司令部に電文を送れ。」
「ハッ!」
「我、不審船を発見せり。不審船の乗員は敵対の意思は無い模様。指示を仰ぐ。以上だ。」
「分かりました!」
通信士官が内容を復唱し、持っていたボードに内容を書き写してから艦橋を離れていった。
20分後、返電が帰ってきた。
彼は通信士官から紙を渡すとすぐに目を通した。
「第5艦隊司令部より、不審船を拿捕せよ。尚、拿捕前に船員が敵対行動を取り、わが将兵に
危害を加えた場合は直ちにこれを撃沈すべし。」
彼は読み終えると、すぐに電話を取った。電話の相手はキャンベラの艦長だった。
140 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 13:07:40 [ 4CUjn9IY ]
重巡洋艦のキャンベラは、26ノットのスピードで不審船に近づいていた。やがて
不審船の全体が明らかになってきた。
2本の帆つきマストに中央の船橋。まぎれもなく中世風の木造船だ。船首はやけに細い。
おおかた高速性を増すために細く作ったのだろうか。
艦長のブラッシュ・カー大佐は素っ頓狂な声を上げた。
「こいつぁたまげたぞ。ひどい旧式の帆船だ。これじゃせいぜい16ノットが限界だな。」
「16ノットですが・・・・輸送船並みですな。」
副長が相槌をうってくる。カー大佐はがっしりした体形に鼻の下にコールマン髭を生やしている。
その顔の左頬には6センチにも渡る傷跡が残っている。
一目で見るとどこぞかの戦場を潜り抜けてきた戦士の印象がある。
不審船との距離が2000を切ると、彼は機関室に命令を下した。
「14ノットまで減速!」
ゴンゴンゴンゴンというディーゼルエンジンの鼓動が小さくなり、やがては艦のスピード
が落ち始めた。
不審船まで1000までと迫ったときに彼は次の命令をくだした。
「砲撃戦用意!目標は不審船。」
彼がそう叫ぶと、3連想8インチ砲が動き始めた。前部2基、後部1基。合わせて9門の
8インチ(20センチ)砲が、不審船にぴたりと狙いを定めた。
何か不審なそぶりを見せたら、例えば舷側から口を開けている大砲が火を噴いたら即座に
発砲する予定だった。
(9門の8インチ砲が火を噴いたら、この近距離だ。おそらく9発まともに食らって粉砕
されるだろう。できれば撃ちたくないものだな。)
カー艦長は、そう心の中で思った。
148 名前:ヨークタウン 投稿日: 2005/12/31(土) 14:57:52 [ 4CUjn9IY ]
遠くから黒っぽい軍艦がやって来た。目測でだいぶ離れたところからスピードを落とし始めた。
おそらく6000ぐらいからだろう。プラットンはそう判断した。
その軍艦はゆっくりとスピードを落とすと、ヴァイアン号から300メートル離れた所で停船した。
重巡洋艦のキャンベラは、ゆっくりとしたスピードで不審船に近づいていた。やがて
不審船の全体が明らかになってきた。
2本の帆つきマストに中央の船橋。まぎれもなく中世風の木造船だ。船首はやけに細い。
おおかた高速性を増すために細く作ったのだろうか。
艦長のブラッシュ・カー大佐は素っ頓狂な声を上げた。
「こいつぁたまげたぞ。ひどい旧式の帆船だ。これじゃせいぜい16ノットが限界だな。」
「16ノットですが・・・・輸送船並みですな。」
副長が相槌をうってくる。カー大佐はがっしりした体形に鼻の下にコールマン髭を生やしている。
その顔の左頬には6センチにも渡る傷跡が残っている。
一目で見るとどこぞかの戦場を潜り抜けてきた戦士の印象がある。
不審船少し過ぎた所でキャンベラは停止した。彼は砲術長に命令を下した。
「砲撃戦用意!目標は不審船。」
彼がそう叫ぶと、左舷の5インチ連装両用砲と各機銃が不審船にぴたりと狙いを定めた。
何か不審なそぶりを見せたら、例えば舷側から口を開けている大砲が火を噴いたら即座に
発砲する予定だった。
(5インチ砲や機銃が火を噴いたら、この近距離だ。まともに食らって穴だらけに
されるだろう。できれば撃ちたくないものだな。)
カー艦長は、そう心の中で思った。