960 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/03(土) 23:57:50 [ Pusv3SwY ]
考察スレに落とそうか迷いましたがとりあえず小説仕立てにしてみたのでここにて。
投下用意!

961 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/03(土) 23:58:44 [ Pusv3SwY ]
進め! SF(すごく ふしぎ)研究所

これはF世界に飛ばされ悪戦苦闘する日本人と、
転移先で技術の停滞に悩む魔法使いとの、
汗と涙と努力と……趣味と伊達と酔狂の物語である。

「所長! 聞いてください。 世紀の大発見です! 」

「どうした所員A(仮)! 」

ここは国立魔導研究所所長室。 とは言っても事務所の隅に間借りして区切ってあるだけだが。
決裁書類を山と積み上げせっせとサインする手を休めて顔を上げる

「聞いてください所長! そして存分に褒め称えてくださって結構ですよ! 
 この機関が実用化の暁には産業史、魔法史、歴史に名を残すことは確実!
 ああ、こんな事なら赴任の時、責任回避のためとはいえ所員A(仮)などと名乗らなければ……」

「良いから早く言え、この○野郎!!」

陶酔して語り始めた所員A(仮)の後ろからヤクザ蹴り一発。
壁にべしゃりと張り付いた所員A(仮)を後目にデスクに戻る。

「酷いじゃないですか初潮、もとい所長。 自分だってよく暴走するくせに。」

瞬時に復活した所員A(仮)をなだめながら話を続けさせる。

「良いから早く本題に入れ。 好き放題ヤルのは俺だけで良いんだ。 」

「畜生、いつか殺してやる。 とまぁそれは置おいといて、画期的機関を考案しました。
 実用化のためにスタッフを割いてください。」
 
「話を聞いてからだな、判ってるんだろ? 」

962 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/03(土) 23:59:48 [ Pusv3SwY ]
__しばらくして所員A(仮)研究室にて__

「今回の研究の目的は魔法の技術を既存の動力に替えることです。
 今までの魔導技術では長時間の使用に耐えず、そのため実用化にこぎ着けることが出来ませんでした。
 しかしながら私、所員A(仮)は発想の転換を行いこれに対処することに成功しました。」

「ほぉ! それはイイ! 早速説明をしてくれたまい。」

「コンセプトは極限の省力化です。 まず一つ想像してください。
 それは『腕時計』です。 自動巻の腕時計はゼンマイを人が巻くことで動いています。
 しかし、それは日常では意識されません。
 なぜなら日常の動作、腕を振って歩く事の中にそれが含まれているからです。」
 
「なるほど、意識しないくらいに小さな力で、自然な仕草に組み込むことで、仕事を仕事としない ということか。」

「ええ、そうです。それでこのフリップを見てください。」

そういって後ろからフリップを取り出す所員A(仮)。

 __________________________________
「                                  |
|魔法                                |
|儀式(身振り、詠唱)→マナ集中→制御→発動→制御→終了       |
|                                  |
|__________________________________」

「これは魔法の発動に関する手順です。 どのような流派も基本的にこの手順を踏みます。
 第一に儀式準備、これには呪文詠唱も含みます。 そしてその結果、あるいは経過として第二の手順に入ります。
 第二はマナ制御です。 これは周りにあるマナを必要量集め、集中し、魔法発動の糧とします。
 第三は魔法の発動です。 集めたマナに意識を反映させ、効果を発揮させます。
 第四は魔法の制御です。 発動した魔法をコントロールし、持続、あるいは終息します。
 第五は魔法の終了です。 効果を発揮した魔法はマナを不活性マナに替え、
 場合によっては各属性マナを残すことがあります。
 以上ですが、ここで重要なことは流派によって『意識しない内に行っている手順がある』ということです。」
 
「確かに今まで見た魔法で『発火』なんかは制御なんてほとんどして居なさそうだったな。 」

「ええ、その通りです。
 つまり事前準備や機械的補助などで代替することも出来ると言うことです。
 わたしの考えではかなりの部分を省くことが出来ますよ! 」

963 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/04(日) 00:00:29 [ Pusv3SwY ]
 そう言いながら、またもやフリップを取り出して説明しだした。
  ___________
 「           |
 |儀式(準備)     |
 | ↓         |
 |マナ集中(吸気)   |
 | ↓         |
 |圧縮         |
 | ↓         |
 |発動         |
 | ↓         |
 |終了(排気)     |
 |___________」
 
「これを見て何か気づきませんか? 所長。」
 
「なんだか転移前にも見たような気がするな? ええと……」
 
「いやまぁ、先に言っちゃいますが、これ内燃機関、エンジンと同じなんですよ。
 そして可能な限り省力化した場合、
 儀式は刻印魔術で発動条件を決めれば人が魔力発動圏内にいれば事足ります。
 マナ制御は吸気圧縮の手順で自動化できます。 
 発動は先に言った『条件指定の刻印魔術』で自動発動できます。
 終了は排気を行うことで、生成された不活性マナを除去、次回発動に備えます。」
 
「すぅばらすぃ〜!! ヤルじゃないか所員A(仮)!! 
 と喜んだ所でまた何か問題があるんだろう?
 そうでなければお前が他人に実用化の手柄をわけるはずがないだろ? 」
 
「バレてましたか? 実は実用化までに問題が二つ。」

ごそごそとエンジンのミニチュアを取り出した。
まさかあれが試作品か?

「一つは長時間稼働させると急激に出力が落ちます。
不活性化したマナ、私はエーテルと仮に呼びますがそれが増加し、
 おそらく相対的にマナが薄くなっているのではないかと思われるのですが、解決の目処が立っていません。」
 
 軽くマナ機関に手を置くとピストンが動き出し、クランクが円運動を取り出す。
 数枚の歯車を経て円盤が回り出した。
 そこに透明な箱をかぶせると急激に速度を落とし始めた。
 
「もう一つはエーテル(仮)と共に出る少量の火属性マナです。
 ご存じの通り大気中に火属性マナが増えると、酸素濃度が高まったかのような爆燃現象を起こします。
 それを何とかして処理しないとこのように……」
 
そう言いながら、マナ機関にかぶせた透明な箱上部に付いていた小窓を開き、ポケットからマッチを……

轟!!

「やはり白衣は耐爆性がないとな、防弾防刃だけじゃ不安が残る。 
 所員H(仮)と所員R(仮)を付ける。何とかしたまい。以上だ。」
 
「了解しました。」

一瞬とはいえ炎に包まれた研究室内で会話が続けられる。
それが国立魔導研究所所クオリティ。
人はここをSF研究所。
すごく ふしぎ 研究所 または すごく ファンキー 研究所と呼ぶ。
ちなみに所員E(仮)はエルフだし、所員D(仮)はダークエルフだ。


975 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:25:40 [ Pusv3SwY ]
進め! SF(すごく ふしぎ)研究所 そのに

これはF世界に飛ばされ悪戦苦闘する日本人と、
転移先で技術の停滞に悩む魔法使いとの、
汗と涙と努力と……趣味と伊達と酔狂の物語である。

「所長! 聞いてください。 世紀の大発見です! 」

「どうした所員D(仮)! 」

ここは国立魔導研究所所長室。 とは言っても事務所の隅に間借りして区切ってあるだけだが。
決裁書類を山と積み上げせっせとサインする手を休めて顔を上げる

「聞いてください所長! そして存分に褒め称えてくださって結構ですよ! 
 この機関が実用化の暁には産業史、魔法史、歴史に名を残すことは確実!
 ああ、こんな事なら赴任の時、責任回避のためとはいえ所員D(仮)などと名乗らなければ……」

(ここまでテンプレ)
「お前ら揃いも揃って、ネタ合わせでもしてやがるのか? 
 まぁいい、それでどんなものを開発したって? 」
 
「私は幸い他の所員とは違って魔法技術に関しては飛び抜けた才能を持っているもので、
 既存の魔導技術を生かして、かつ斬新な手法で機関に組み込むことに成功いたしました。」
 
「……(所員Eだって才能的には)判ったから、とりあえず研究室に行こう。

976 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:26:14 [ Pusv3SwY ]
__しばらくして所員D(仮)研究室にて__

「今回の研究の目的は魔導機関の長期稼働及び科学技術導入による安定化です。
 従来の魔導機関では精霊機関をはじめとする魔導機系とゴーレム技術などの魔導器系に分かれておりました。
 
  精霊機関では精霊魔法による炎、水、風の制御による、風、水車機構を基本原理とするため、
 長時間の稼働が出来ず、最大出力には優れていても多勢の同時制御という難点と
 消耗の激しさが解決できませんでした。
 
  また魔導器系に置いては、エンチャント、ゴーレムを基本動力とするため、
 出力の安定度が高く、運用時に比較的少人数ですむという利点があれども、
 機構の複雑化及び価格の高騰が避け得ませんでした。
 
 しかしそれらの難題も私が解決いたしました。
 これもひとえに我らが種族が長く放浪したために得た柔軟性とも言うべき利点であり、
 あの白○野郎とは一線を画する所であります。 」
 
 「それはいいからいい加減に本題に入れ! 」

977 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:29:10 [ Pusv3SwY ]
 「ええと、どこまで話しましたっけ?」
 
 「魔導器系と魔導機系の長所短所までだ。」
 
「ああ、はい、それでですね、魔導機系は根本的に科学と代替でき、
 またその難点から大きな機構に組み込むことが難しいため、私は魔導器を機構に組み込むことにいたしました。
 基本的に魔導器は大型になればなるほど力が強く、また高価な材料を使用するため高額とならざるを得ませんでした。
 また小型化や機構の簡素化も行われましたが、低出力化と動力伝達機構のロスから発達しませんでした。
 何よりその制御術式が人形(ひとがた)からの大きな逸脱に制約があったためです。」
 
フリップを出しながら説明する所員D(仮)。 だいぶ毒されてきたかな。
 _________________
「                  |
|    魔導師__        |
|    ↓     ↓       , |
|ゴーレム生成・維持 制御       |
|    ↓              |
|    ↓←初期封入魔力       |
|  伝達機構             |
|    ↓              |
|    出力             |
|________________」

978 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:30:03 [ Pusv3SwY ]
魔導師はゴーレムの維持と制御に魔力を二分しなければならず、
 制御に割く魔力量と動作パターン数、精度は比例関係にあり、まともな運用を考えるならば、
 事前に蓄えられた魔力を補助としても制御に多大な魔力を消費しました。
 あくまで基本パターンの動作のみで燃費優先の『あみだくじレール方式(仮称)』と
 動作パターンは最小に押さえ、基本的には付きっきりで操る柔軟性優先の『マリオネット方式(仮称)』
 この二種に限られこの分野の発展を阻害していたのです。
  私はここに科学技術の導入を思いつきました。 それがこれです。」
 
そう言いながらデスクの隣のシーツで覆われていたものを指さし、
シーツをはぎ取った。

「フライホイールと発電機? どこに魔法が使われているんだね? 」

「いえ、これは所長の考えている方向とは逆なのです。
 つまりこの『歯車型小型ゴーレム』に『EMETH』と刻み発動させ、フライホイールに接続します。」
 
 所員D(仮)は説明しながら手のひら大の歯車にEを打刻し、ギアボックスに納めフタを閉じた。
 ゆっくり、ゆっくり動き出すフライホイール。

979 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:30:35 [ Pusv3SwY ]
「見ての通り、非常に非力ですが同じようなギアボックスが、あと五つあります。
 連動すればそれなりの出力になります。 
 またこの機構の特筆すべき点はゴーレム制御にはたった一つの命令、すなわち
 『○○回転/分で回転せよ』しか刻まれておらず、その制御に手間暇がかからないということにあります。
 要は機械制御で細かな出力設定を行い、大きな出力変更は歯車ゴーレムの接続数で行うと言うことです。
 これにより効率の良い燃費と大出力、更には微細な制御の三点を達成しました。
  更に電気という使い勝手の良いモノに変換することで汎用性をも高めました。
 その上、同出力の旧型機関に比べ導入コストの大幅削減に成功いたしました。」
 
「ふぅん、それで、何でフライホイールの回転が落ちてきてるのかな? 」

「ばれましたか? 」

「ばれるよ。 どれだけ君らとつきあってると思っているんだ。」

「実は難点がありまして。
 最初に歯車ゴーレムに打刻したでしょう?
 あれは起動に絶対必要で無くせないんですが、打刻できるような強度の歯車だと消耗が激しいんです。
 複数運用で一つ辺りの負荷を減らすことは出来ますが、想定以上に運用コストが跳ね上がり、
 旧型機関と大差なくなってしまったんです。」

980 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:31:08 [ Pusv3SwY ]
「最初から刻んでおくのは駄目なのか? 」

「ええ、封入魔力を消耗して、
 スイッチ入れっぱなしの乾電池式の機械の様に機械的摩耗とは別に消耗してしまうんです。」

「判った。 所員W(仮)と所員T(仮)を付ける。 なんとかしたまい。以上だ。」

どうにか出来ることも有れば、どうにも出来ないこともある
それが国立魔導研究所所クオリティ。
人はここをSF研究所。
すごく ふしぎ 研究所 または  Scheme(計画) Fabricate(でっち上げ)研究所と呼ぶ。
ちなみに今回は電気溶接技術を使い刻印して、どうにか出来た。

981 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/05(月) 01:32:45 [ Pusv3SwY ]
投下終了
んで書き込めなかった小ネタ。

前回の不活性化したマナ云々と絡む今回のネタ。
・マナと不活性マナ(エーテル)がありエーテルを人為的に活性化させる技術は(今のところ)無い。
・属性マナが溜まり、凝ると精霊になる。 人魂のような火精等。
・精霊は同属性マナの濃い所にいると成長、分裂し、増える。対抗属性マナの濃い所、マナの薄い所では消耗し消滅する。
・精霊は時間経過を経ると強力になる。従えるのが困難になる。
・十分なマナとその意志がある精霊はエーテルを活性化できる。
・他のマナ活性化機構があるらしいが解明されていない。
・マナと魔力は実包の発射薬と雷管の関係に例えられる。効果は発砲で、儀式は発射機構。
変化を伴うから蒸気機関の水(蒸気)と燃料とに例えるべきか。水の補給が必要。


11 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:30:13 [ Pusv3SwY ]
進め! SF(すごく ふしぎ)研究所 3

「我が国の科学力は世界いちぃぃぃっっっっっ!!!! 」
「『こんな事もあろうかと』いつかはこのセリフを言うために!! 」

狂気じみた心の叫びが魔導の城にこだまする。
科学と魔導に身を捧げたモノどもが、今日も妖しげな薄笑いを浮かべながら、研究室に泊まり込む。
常識を忘れた心身を包むのは、防刃防弾耐爆耐薬品白衣。
危険な薬にふれないように、狂気の呪いに当たらぬように、ゆっくり慎重に歩くのがここでの嗜み。
もちろん、稼働中の妖しすぎる器具に手を出すような「はしたない」所員など存在できるはずもない。

 国立魔導研究所
転移歴元年創立のこの研究所は、もとは転移直後のどさくさに紛れあらゆる実験に手を出すために作られた、
伝統ある狂科学者の巣窟である。
某市郊外。人里から隔離され緑に覆われたこの地区で、科学と魔導にのみ忠誠を誓い、
養成から就職まで一貫して行われる漢奴(おとめ)の園。
時代は移り変わり、転移暦に改まった今日でさえ、通い続ければ常識知らずのマッド技術研究者が隔離される、
という仕組みが確立される異常な施設である。

研究員として配属された新人の大多数が重軽傷、呪い、行方不明となると噂されるこの研究所の所員は皆、
この件に関しては曖昧な笑いで誤魔化すという。

12 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:30:45 [ Pusv3SwY ]
いつものように書類を裁いていて、ふと、顔を上げた。
パーティションを叩く音がする。
ノックか?

「失礼いたします! 所長殿。 所員L(仮)であります。 報告があります。
 少々お時間をいただけますか? 」
 
彼か、相変わらず堅い。

「どうぞ。」

「失礼します」

所員L(仮)がやっと入ってきた。
きびきびとした動作でデスクまで歩み寄り、隙のない陸式敬礼をきめると、直立不動の姿勢を保つ。

「既存の魔法行使に革新的発展をもたらす機器の開発に目処が立ちました。 
 所長殿の裁可をいただき、 実用化に向けての人員の配備をお願いしたく参上いたしました。 
 これから30分ほどよろしいですか?」

「ああ、かまわないよ。 ここを片づけて、すぐにそちらに向かおう。 先に行って準備しておきなさい。」

「はい、いいえ、所長殿。準備は完了しております。 邪魔でなければお待ちしておりますが。」

「すまんすぐ片づける。」

13 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:31:24 [ Pusv3SwY ]
――しばらくして所員L(仮)研究室にて――

「今回の研究の目的は既存の魔法技術の省力化であります。
 今までの魔法技術では詠唱の短縮は高等技能であり、短縮言語の文法の難解さ、発音の微妙さ故、
 ごく限られた者しか使用に耐えず、また、心身に重圧がかかる場合も使用の制限が課されておりました。
 それを一挙に解決するのがこの『詠唱筒(えいしょうとう』と『術式符(じゅつしきふ)』であります。
 これは転移前の世界にあった『マニ車』という…」

そう言って取り出したのが電池につながったモーターとギアボックス、
そしてそれに接続された200ml缶、もとい詠唱筒。

「ってちょっと待て! 詠唱筒? 誰も研究してなかったのか? 」
 
「はい、自分も不思議に思ったのですが、この間の飲み会で基礎理論を聞き、
 誰が開発しているのか調べた所、皆がとっくに誰かが研究中と勘違いされておりました。
 実はこの試作品も他の研究室で実験に利用されていた物を参考にいたしました。」
 
「誰もが思いついて、それ故、研究対象にならなかったワケか……頭痛い……判った、続けてくれ。」

14 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:32:23 [ Pusv3SwY ]
「はい。了解しました。続けさせていただきます。
 これは転移前の世界にあった『マニ車』という物を参考に作られています。
 『マニ車』とはチベット仏教で使われる法具で、筒にチベット仏教の経典が巻き込まれていて、
 これが一回転すると教典を一回読んだことになるという ものです。
 これを呪文詠唱に置換えた物が『詠唱筒』です。
  書き込む文字数にも依りますが基本的に初級から中級の単純な魔法が発動できます。
 魔力消費が減るわけでも、制御が楽になるわけでもないですが、
 魔法の瞬時の発動や逆に長期持続に有効かと思われます。
 また副次的な効果がありまして、所長殿、魔法の詠唱技術の一つで、
 『詠唱を長く取ることで制御の難度を下げる、消費魔力を落とす』という技法ご存じですか? 」

「聞いたことはあるな。術式制御安定に式を組むとか、初級魔法の重ね掛けで中級魔法に替えるとか。
 なるほど、まさにピッタリだ。やるな所員L(仮)。」

「ありがとうございます、所長殿。
 しかし、ここまでは他の皆さんも感覚的に掴んでいたようなのです、
 あくまで体系立てて纏めただけです。 
 ですから私自身のアイデアとしてもう一つの『術式符』と組み合わせました。
 これは既存の魔法陣や詠唱の一部を抜き出したのもがベースになっています。
 これを組み合わせることで魔法に幅が持たせられます。
 これをご覧ください。」

15 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:33:33 [ Pusv3SwY ]
先ほどの試作詠唱筒のギアボックスのふたを取り外して見せた。

「これが術式符です。 この効果をご覧ください。」

術式符を外したままスイッチを入れると
詠唱筒が回転を始めた。 意外と早い。 2〜3回転/秒位か?

「これには『発火』の呪文が刻まれています。初歩の初歩、自分でも使えます。
 まずは自力での『発火』。****〜〜。」
 
ボッ!マッチを擦ったような音と共にこぶし大の火がともり、数秒で小さくなり、消えた。

「次が詠唱筒利用です。 こちらに来てください。」

そう言いながらアクリル盾を取り出すと手招きをした。

「良いですか?いきますよ?***!」

ごぉっっ!!
構えた盾の向こうに1m近い火球が生まれ、同じく数秒で消えた。

「今のでだいたい五倍拡大です。魔力消費は5倍。効果は相乗効果もあり実質7〜8倍近いんじゃないでしょうか。
 しかし、あくまで拡大であり、効果範囲を大きく取るか、時間を取るか、威力を取るか、その複合かは、
 術者本人のコントロールが効くとはいえそれまでです。
 しかし、更に術式符を使うと……」

16 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:34:13 [ Pusv3SwY ]
そう言って術式符を元に戻した。

「良いですかあれを見ててください。」

そう言って2mほどはなれた所に転がっている七輪を指さした。

「いきますよ?*****!」

ぼぁっ!
今度はドッジボール大の火球が浮かび上がり、それを投げつけるような動作をすると、
七輪めがけて飛んでいき……ボン! 爆発した。

「ふうっ!ど、どうですか? 私自身はあくまで初級魔法の『発火』や『発光』位しか使えません。
 しかし拡大された『発火』は中級魔法に当たる『火炎』並に効果を発揮しました。
 術式符を使うことで中級魔法の中でも上位に当たる『火球』並の効果を発揮しました。
 本来使えないはずの高位魔法を低位の魔法で替えることが出来ます。
 それに私のような低位魔法使いでは有効とはいえませんが、
 より高位魔法使いなら魔力消費を押さえる効果も期待できます。
 それに……もしかしたらという話ですが、記述式や記述言語を洗練することで更に改良出来るかもしれません。
 こればかりは魔法研究者の力を借りないとどうにもなりませんが。」
 
「採用だ! 所員L(仮)。所員E(仮)と所員M(仮)それに王国魔導師組合にも人材派遣を打診しよう。」

「はっ! 光栄であります。」

17 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:34:48 [ Pusv3SwY ]
たまには画期的成果を上げることもある。だから潰すに潰せない。
それが国立魔導研究所所クオリティ。
人はここをSF研究所。
すごく ふしぎ 研究所 またはSACIENCE(科学) Fanatic(狂的) 研究所と呼ぶ。
 結局実用化された装置は杖に付けられ、3Kg程重くなった結果、魔法使いの重砲化が進んだという。
 もう一つの進化はまた今度。 多分次回は外伝。 仮題 FMJです。

18 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:35:21 [ Pusv3SwY ]
 投下終了
んで書き込めなかった小ネタ。参考:ソードワールドetc

今回は魔法使いのランク分け。所謂レベル。
(最もシステム化された古代語(神語)魔法の場合。神聖魔法も似たようなシステム)
Lv-:一般人――魔法知識なし。識字率自体も低い。
Lv0:初心者――基礎学力底上げ中+初歩の初歩魔術修得(発火、発光、等)
Lv1:低級魔法使い――魔法使いのスタートライン。低級魔法修得中
Lv2:――低級魔法修得
Lv3:中級魔法使い――中級魔法修得(火球、眠りの雲、等)。『学園』卒業程度
Lv4:中級+魔法使い――上位魔法修得中(雷撃、飛行、等)。 大学の修士のようなもの。
Lv5:高級魔法使い――上位魔法修得。導師級。大学の博士成りたて程度。
Lv6:――最上位魔法、秘奥修得中(メテオ、津波、等)または新魔法探求
Lv7:
Lv8:――人間の魔法使い最高峰。英雄クラス
Lv9:
Lv10:――半神クラス
Lv10〜:神いわゆるゴッド

19 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/06(火) 02:36:01 [ Pusv3SwY ]
魔法は修得レベルが定められており、その位階にならないと教えてもらえないし、使いこなせない(非常に困難)
また消費魔力は決まっているがレベルが上がると割引される。
例)
発火 Lv1 消費2
火球 Lv3 消費16
割引率はだいたい、__基本消費/(修得レベル/自レベル+1)*拡大率
低級魔法使いが発火lv5 拡大を使うなら__2/2*5で 魔力5消耗
高級魔法使いが火球を使うなら__16/(3/6)*1で 魔力8消耗。

通常人が魔法使いを目指すときあんまりにも才能無いのは切られるから、
魔法使いの魔力は20〜30くらい(6D*3+6D*3位)だから、学園卒業時火球3〜4発で打ち止め。
詠唱は流派によって異なるが長い。だから実戦では符や魔法陣、短縮言語、魔法器具を使い早める。
でも、どんなに頑張ってもぶん殴る方がなんぼか早いので、前には出れない。


45 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:23:03 [ Pusv3SwY ]
進め! SF(すごく ふしぎ)研究所 3 外伝 FMJ!

 詠唱筒システムの普及に伴い、高速詠唱の可能になった魔法使い達。
 彼らはその力を生かすため複数の詠唱筒と複数の術式符を組みあわせ、機杖と呼ばれる武器を作りだした。
 機杖は魔導師団に圧倒的な火力を与え、そして何より攻防共に使い勝手の良い優秀なユニットとした。
 また、後方においても魔法具の生産規模の拡大や、他の業種への進出を促した。しかし、機杖には致命的欠陥が一つ存在した。
重いのである。
 システムには稼働のために発動機(電池、燃料)が必要であり、長時間稼働のために交換用電池あるいは燃料が必要であり、詠唱筒と術式符を必要に応じて接続する機械部があり、実用に足る信頼性保持のためそれらを覆うカバーが必要であり、それら全ての重量を支える強度保持が必要だった。

 例を挙げるなら当時、魔導学院卒業時、優秀者に与えられる汎用機杖のスペックを挙げよう。
 詠唱筒六基、術式符12枚(リボルビング式)、電池式(駆動時間最大3時間)、ステンレス製軽量カバー装備、全長1.5mの代物の重量は実に12kg。
 魔法使いの貧弱な体には重すぎる代物だった。
 何しろ考えてみて欲しい。
 屈強な兵が持ち歩く小銃が4kg強、背嚢に20kgだというのに、貧弱な魔法使いが軍用機杖(15kg〜)を持ち、最低限切りつめたとはいえ、背嚢10kg以上を背負うのである。
 戦場において自然と重砲化が促進された。

 そんな中異端ともいえる彼らが生まれ落ちた。
 フィジカル メイジ(Physical-Mage)の誕生である。
 中級魔法と僅かの上級魔法を修得し、強靱な精神を持ち、機杖と装備の重量を苦にしない頑健な体。
 ひとたび任務にあたれば肉体強化や飛翔、生命関知などを駆使して戦う漢。
 短時間に限っては獣人並みの能力と魔法を使い、あらゆる場所で戦い、兵の中で最も精強といわれた者達。

 Fire Magic Jointed Force FMJFの誕生である。

――統合魔導兵団 教本 序章より抜粋――

46 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:24:06 [ Pusv3SwY ]
「統合魔導兵団は失敗だったのでは?」

 そのような声が聞こえ始めたのは、組織として発足してから一月に満たない五月のことだった。
 事実、選抜され軍、学園から送られてきた者達は、そのプライド故、お互いを認めるととが出来ずにただ時間だけが過ぎるそんな日々を送っていたためである。
 対応に苦慮した帝国上層部は『機杖』開発者にして、FMJF提唱者、李 安明(り あんめい)特務曹長を訓練教官として派遣することを決定。 研究機関よりの引き抜きと現役復帰の手続きを取った。

五月某日 FMJF訓練兵舎

 訓練開始から一ヶ月、未だに、いや、更に兵士出身と魔導師出身かで大きな溝が開いたままだ。
 その為だろうか、寝所を一つに纏め交流を図り、それに併せて新教官が着任すると通達があった。
 たかがその程度であの体力馬鹿共がまともな魔法使いになれると思っているのだろうか?

「傾注! これより5分後、新教官が到着する。身支度を整え寝台前に整列せよ」

新しい教官付き従兵らしき男が入り口で怒鳴っていた。

「5分? 正気かよ? 」

 奥の寝台の一つ前、つまりは俺の唯一のお隣さん、魔導師仲間のルークが隣でつぶやくのが聞こえた。
 全くだ。 口には出さないが胸の内で同意を返しておく。
 だいたいこの服はボタンが多すぎる。 全部しめると窮屈だし息苦しい。
 魔導師のローブにすれば動きも妨げないし、楽なのにな。 
 そうは思いながらも急いで外していたボタンを留め直していく。
 向かい側を見ると兵士共は既にほとんど並び終えている。
 クソ、あいつらは慣れてやがる。
 早くしないと、教官とやらになめられる。

47 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:25:18 [ Pusv3SwY ]
「傾注! 着任の挨拶の前に諸君らに言わねばならないことが出来た。
 もう5分だけ待つ。 速やかに服装を正し、整列したまえ 」

 もう来たのか、早すぎだろ?
 判ってるよ。
 最後のボタンを留め終え、寝台前に立つ。
 バラバラと魔導師組がやっと並び終えた。

 ゆっくりと無言で俺たちの前を歩く教官。
 髪を刈り込み、がっしりとした兵士のような体つき。
 そのくせ軍用機杖を抱え込むその手に惑いはない。

「まず貴様らの勘違いをただしておこう。
 魔導師組にしろ、兵士組にしろ、妙なプライドを持っているようだから、はっきり言っておく。
 俺に言わせれば貴様らは出身に関わりなく、敵前逃亡者で、裏切り者で、寄生虫だ。
 人間のくず以下だ。」
 
 「なんだと! 無礼な!」
 
 ルークや皆が毒づく。
 するとものすごい目つきで教官がにらみつけた。

「最初に言っておくべきだったな。 許可無く口を利くな! そして『いいえ』と言うことは許さない。 わかったか! 」

「はい、わかりました! 」

48 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:26:00 [ Pusv3SwY ]
くそっ!むかつく教官だ。
そうでなければぶん殴ってやるのに。

「では説明してやろう。
 今も辺境区で戦闘が続いていることは知っているな? 
 そのため、『学院』生徒すら魔導具の生産に力を貸してもらっていることを。
 兵科出身の諸君! 戦闘から逃げ出した兵は『逃亡兵』とよぶ! 
 罰則はなんだ!? 」
 
 振り返って兵士組に問いかけた。
 
「銃殺であります!」

一斉に唱和、乱れすらない。

「魔導師組諸君、君らの戦場は実際の戦場だけでなく後方の戦争協力も含まれる。
 そして兵士組、魔導師組諸君! 戦場を離れ、おのが役目を果たさないものは『敵前逃亡者』だ!
 違うか? 」
 
「はい!そうです!」

 そう答えざるを得ない。
 確かに役目を果たしているとはいえないのだから。
 また、ゆっくり歩き出しながら教官は続ける。

49 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:26:38 [ Pusv3SwY ]
「諸君らはひとたび戦場を離れ、再び『統合魔導兵』として戻ることを友に告げた。 そうではないか?
 ならば、安全な場所で、何もせず、戻ることもしない。 
 これはつまり、友に対する裏切りではないか!? 」

「はい、そうです」

 確かにそう言えなくもない。
 否定できない。

「諸君らは与えられた仕事を中断しここに来た。
 統合魔導兵になるために。 ここでの仕事は一刻も早く課程を修了し、元の仲間達に、国に、国民に、報いることだ。
 なぜならここは国費で運営されているからだ。
 時間を無為にすればするほど、税を無駄にする。
 そのように国費を無駄に吸い上げるだけの者は『寄生虫』と言わざるを得ない。
 違うか、諸君!? 」
 
「はい、そうです」

「では、まさしく貴様らは敵前逃亡者で、裏切り者で、寄生虫だ。 
 そうだな?」
 
「はい、そうです」

「声が小さい! 理解していないのか?」

「はい、そうです!! 」

50 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:27:26 [ Pusv3SwY ]
「貴様らは銃殺に使う弾すら惜しいクズだ。 
 だから俺は貴様らが訓練を終えるまで人間扱いしない!
 それまでは貴様らはウジ虫だ!
 そして俺は貴様らウジ虫を鍛え上げる訓練教官、李 安明 特務曹長だ!
 わかったか!? 」
 
「はい、わかりました!」

大声で怒鳴って、ふと気づくと教官が俺の前に立っていた。

「貴様の名はなんだ!」

「マットです。教官殿!」

「貴様は俺が入ってきたとき、身支度も整列もしていなかったな!
 貴様の師は言葉も教えてくれなかったのか? それとも貴様の頭には名前の通り泥(Mud)でも詰まっているのか?
 貴様は以降『泥人形』と呼ぶ! わかったら返事! 」

51 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/08(木) 00:28:01 [ Pusv3SwY ]
「はい、わかりました」

教官は怒りにふるえる俺をおいて、ルークの方に歩いていった。

「貴様の名はなんだ!」

「ルークです。 教官殿! 」

「ルーク? 城塞にしては貧弱すぎる。
 腹に力を入れろ!」
 
そう言うや否や腹を殴った。
膝から崩れるルークを見下ろしながら教官は言った。

「酷い名前負けだ。貴様は以降『廃屋』と呼ぶ! さっさと立て! わかったら返事! 」

よろよろと立ち上がったルークは何とか姿勢を正すと大声で叫んだ

「はい! わかりました。 教官殿! 」

こうして俺の訓練生活はスタートしたのだった。


65 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:17:12 [ Pusv3SwY ]
 私、クルト・シュタイナはドイツ軍人である。
 そしてこれからもそのつもりであった。 彼女に出会うその日まで。

進め!SF研究所出張版 皇軍世界Another 鷲は舞い降りた?

1941/12/01
 ドイツ空挺団がクレタを攻撃し1941/06/11 完全に占領したとの報は私を喜ばせた。
 何しろ日本に来るまで所属していた部隊が大戦果を上げたというのだ。
 しかし、私はここ日本で妻の家に入り、日本国籍を得た。
 かつての部隊に戻れるはずもない。
 今はただ、その能力を新たな祖国に捧げるだけだ。
 幸いと言うべきか、陸軍は南方作戦に空挺降下を行う案があったらしく、軍歴を知った彼らから接触があった。
 一月末までに行動を完了すべく邁進してきたわけだが、幸か不幸かその機会は失われてしまったのだった。
 仕事が減れば綾とラヴラヴ出来る時間が増えるだろうか。
 
 
 1941/12/25
 ここはF世界。
 剣と魔法の世界……らしい。
 私たちが研究してきたプランは瓦解した。
 石油はまさに血の一滴あるいはそれ以上に匹敵する価値を持ち、空挺作戦などできようはずもない。
 空挺部隊は歩兵師団としか扱われず、その研究チームにいた私は妖しげな研究施設に異動となった。
 平和を満喫しろとでも? 酷いジョークだ。 クリスマス万歳。
 軍属で強権を発動できる内に綾にケーキを買って帰らなければ。

66 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:17:44 [ Pusv3SwY ]
1942/05/15
 酷い目にあった。
 魔法の研修だと? あれは実験台と言うべきものだった。
 だが一つ希望があった。
 コモンルーンとか言うヤツだ。
 あれで魔法使い共の見せた「飛行」や「落下制御」を使えれば空挺作戦に有効ではないだろうか?
 綾、今帰るからね、はぁと。

1942/08/15
 紆余曲折あったが落下制御のコモンルーン完成。
 遠からず飛行の物も出来上がるらしい。
 それまでに新たな空挺装備を開発しなければ。
 個人用グライダーとコモンルーンの組み合わせは戦術に新たな地平を示すに違いない。
 綾が妊娠三ヶ月だって? 素晴らしい。
 
 
 
1942/11/03
 個人空挺装備完成。
 高度6000mの輸送機から飛び立って、最大50kmもの彼方まで侵攻できるようになった。
 皇国のロケット技術もなかなかやるものだ。
 また、ロケットと組み合わせたおかげで、精神力に余裕が出来た分継戦能力の向上も見込めるだろう。
 あとは実戦配備を待つだけだ。
 綾の経過も順調だ。 男だろうか、女だろうか。
 
 
 
1943/02/14
 皇国の上層部は空挺装備の価値を認めていない。
 くそっ!
 綾が貴重品となったチョコレートを贈ってくれた。
 バレンタインにと言ってくれた。
 中を見たら『クルト大好き』と書いてあった俺も愛してるよ綾。

67 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:18:15 [ Pusv3SwY ]
1943/07/21
 ロッシェル戦役が終わったと思ったら、今度はレムリアという国と戦争だ。
 皇国は手を広げすぎではないか?
 このままでは完全に忘れ去られてしまう。
 何とかアピールせねば。
 むすめの聖良(せいら)がハイハイをした。
 綾も聖良も可愛すぎる。聖良は絶対嫁にださん!


1943/08/01
 突然、妙な問い合わせがあった。
『時速400km程度の速度で急降下中の機体から、高度200mの時に離脱すればどれくらい飛べるか?』だと?
 パラシュートに使う気か? まぁ、一応
『条件によるが、おそらく数キロ程度の飛行は確実に出来るだろう』と答えるとニヤニヤしながら帰っていった。
 聖良が俺のことを「パパ」と呼んでくれた。 人生でも指折りの良い日だ。

68 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:18:45 [ Pusv3SwY ]
1943/10/06
 妙なプロジェクトに放り込まれた。
 「紳士的(スマート)爆弾計画だと?
 俺の空挺装備をどうする気だ!
 娘と妻との時間がとれなくなったら呪う。
 
 
1943/10/07
 話を聞いてみると意外にもまともそうなプランだった。
 要は有人誘導爆弾で精密爆撃、誘導手は空挺装備で離脱後、自軍勢力圏に戻り、最出撃を待つ。
 課程はこれだけで、効果は命中率の格段の上昇が見込める。
 その結果、軍事的、政治的効果が見込める。
 軍事的には、攻撃機の数が減らせ、ローテーションが楽になり兵站が保持しやすくなる。
 政治的には誤爆が減り、「民衆に優しい皇国」というプロパガンダで民心が得られ、ひいてはレジスタンスが減る。
 敵国上層部が落ち延びても再興が難しくなるだろう。
 しまった! いくら暴れて殴ったからと言って吉田に聖良の写真を見せてやるべきじゃなかった。
 もし、ヤツが聖良を嫁に欲しがったらどうしよう?

69 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:19:19 [ Pusv3SwY ]
1943/11/22
 大まかなプランがまとまった。
 幾つか案はでたが単純なものが良かろうとのことでまとまった案は、ドイツのSD1400X(フリッツX)とイタリアの誇る、ジブラルタルで戦果を上げた人間魚雷と、日本の個体ロケット技術、それに加えて俺の空挺装備。
 これをまとめ上げて滑空爆弾に舵とロケット、操縦席を設けたものになった。
 吉田のヤツが家に来たがっている。娘に手を出される前になんとかせねば。
 
 
 1943/12/25
 試作一号機完成。
 テストを行って問題点を出さなければ。
 テストパイロットには吉田を推薦した。
 データをとれるだけ取って限界試験中に爆死すればいいのに。
 
 
 
1944/01/20
 第一回飛行試験。
 今回は高度6000mから落とすだけだが、問題なければ次回からはロケットの点火、加速実験も行う。
 早く帰りたい。 今日は聖良の一歳の誕生日なのに遅れたらどうする気だ!

70 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:19:52 [ Pusv3SwY ]
1944/02/15
 試作二号機に改装を施す。
 操縦席を小型化、操縦姿勢をバイクのような姿勢に変更。
 誘導時に使う照準機を取り外して再使用する方式から、簡略化して使い捨て方式に変更。
 空挺装備の調整に入る。
 これで最終稿か?
 綾の誕生日。 花を山ほど買って帰る。 綾の顔をを見るのが楽しみだ。
 
 

1944/03/03
 第二回飛行試験。
 試作二号機の落ちた所は、目標から僅か5m手前にずれただけだった。
 素晴らしい精度。そして吉田は怪我一つ無く2km離れた広場に着地したそうだ。
 さすが私の作品吉田のようなヤツに扱わせても完璧だ。
 
 最終的には我が試作個人空挺装備も半ば機体に組み込まれるような形になった。
 全幅4mの後退翼をリュックサックのように背負い、1mほど飛び出した機首部には風防と僅かながらの貨物スペースを提供する。 エンテ型という革新的形状で膝より後ろは、自由な空間を確保し着陸後の行動を妨げない。
 鋼管帆布張りと木材を組み合わせた機体は軽く、十分な強度を提供した。
 ひとたび舞い降りたなら翼は1.5m、1m、1.5mと三分割され、甲虫のように翼を折り畳むことが出来る。
 機首はヒンジで前掛けのように垂れ下がり、胸甲のように体を覆う。
 少々かさばるのは否めないが、再使用可能な自力で飛行して離脱できる個人装備となれば、いつかはこれ以外の用途に使われるのも遠い日のことではあるまい。

71 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/11(日) 00:21:29 [ Pusv3SwY ]
194X/XX/XX
 増加試作を命じられた。
 事実上の量産開始ともいえる。
 紳士的爆弾に名前が付いた。
 『荒鷲』だそうだ。
 となれば我が個人空挺装備も名を付けるべきだ。
 鷲の頭の猛々しい戦士とあれば、もう決まったも同然。
 すなわち、「鷲頭獅子(グリフォン=Gryphon)である。



95 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:00:50 [ Pusv3SwY ]
 詠唱筒システムの普及に伴い、高速詠唱の可能になった魔法使い達。
 彼らはその力を生かすため複数の詠唱筒と複数の術式符を組みあわせ、機杖と呼ばれる武器を作りだした。
 そしてそれは魔法使いの重砲化を促した。
 
 しかしその流れに真っ向から逆らう一団が存在したのである。
 フィジカル メイジ(Physical-Mage)これは彼ら、
  Fire Magic Jointed Force FMJFの記録である。

進め! SF(すごく ふしぎ)研究所 3 外伝 FMJ! act.2

五月某日 FMJF訓練兵舎 10:30
 
 悪夢のような30分はすぎた。
 李教官への名乗りの後、教官から非常にありがたい一言をいただいたためだ。
 曰く、
「これより明朝0900まで自由時間とする。
 これからみっちりしごいて(PT)やる。
 その前にやり残したことがあるならやっておけ!
 借金のあるヤツは返しとけ!
 言い残すことがあるなら言っておけ!
 だが、それを過ぎたなら貴様らのケツは残らず俺のものだ!
 これから貴様らのケツは俺に蹴り飛ばされるためだけに存在するのだ!
 わかったか!? 返事!」
 
 「はい!わかりました!」

96 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:01:32 [ Pusv3SwY ]
 一糸も乱れぬ唱和。
 嫌でも慣れた。
 
 「よし!では解散」
 
 そう言って教官はくるりと向き直ると大股で歩み去った。
 扉が閉められ、ブーツの音が離れていくのを確認すると部屋中にため息が満ちた。
 
 床が近い?
 知らず知らずのうちに床にへたり込んでいた。
 周りを見ると部屋中で似た様な光景が見られた。
 隣のルークに至っては腹を押さえてうずくまっていた。
 
 「おいルーク、大丈夫か?」
 
「……平気なように見えるのなら眼科に行った方が良いな。
 めちゃくちゃ痛い。
 なんなんだ、あの親父」
 
「なにって、新教官様だろ?
 それよりお前、これからどうする?」
 
「ふざけるなよ! 
 俺は絶対抗議するぞ。」
 
「やめた方が良さそうだがな」

――結局、ルークの抗議は笑顔で却下されるだけの結果になった。――

97 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:02:32 [ Pusv3SwY ]
五月某日+1日 FMJF訓練兵舎 09:00

指定の時間の5分前、0855に教室に入ってきた教官は、それより後に教室に入ったもの、身支度の出来ていないものに左右のビンタをくれ、宣った。

「貴様らのような愚図が、俺より後からくるとはどういうことだ?
 まさか貴様らまだ時間を無駄に浪費する気だったのか?
 昨日十分な休養を取ってまだ休む気だったのか?
 信じがたい愚鈍さだ!
 これより腕立て伏せ50回。 はじめ!」
 
「はい、わかりました」

 一斉に寝台の前で腕立てをはじめた。

「1,2,3,……14、おい貴様、なぜ寝ている?」

 隣で教官の声がした。
 ルークだ。

98 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:03:05 [ Pusv3SwY ]
「眠いのか! では起こしてやろう」

 横目で確認すると予想通り。
 へばって潰れた蛙のようになったルークの脇を軍用ブーツで蹴り上げた。

「14!14!」

 何度かカウント14が続いた。

「『廃屋』お前のせいで皆がよけいに苦労しているぞ。
 さっさと続けないか! 15、16……23、23,23,23どうした?まだ半分以下だぞ?
 貴様だけ回数が少ないのは皆に申し訳がないと思わないのか?」

 もう既に横を見ている余裕はない。
 カウントの10回以上余計にやっているんだ。
 そしてこれから余計に多くはなっても、少なくはならない。
 ただ教官のカウントを聞きながら腕立てを続けた。

「50! よし立て!」

99 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:03:39 [ Pusv3SwY ]
 終わりの声がかかったのはおそらく100は越えた後だった。
 カウント30以降は覚えていない。
 のろのろと立ち上がり呼吸を整える。
 魔導師組はほぼ例外なく、早くも死にそうな顔をしていた。
 だがそれには全く気にせずに教官の声が響いた。

「魔導師組は俺の右手に、兵士組は俺の左手に並べ! 早く!」

「はい、わかりました」

出来うる限り早く皆が並ぶ。
また、腕立てなどやらされたら、多分死ぬ。
おそらくはそれが魔導師組の総意だったと思う。
普段だったら成績順がどうとか言う所が、誰もがリスト順に文句も言わず並んだのだ。
これが指導のたまものなら、確かに恐るべき指導力といえた。

「それではお互い向かい合え! 
 向かい合った相手がこれから貴様らの相棒(バディ)だ。
 これから貴様らのどちらかに問題があれば、両方に責任を負わせる。
 わかったか! 」
 
「はい、わかりました」

100 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:04:20 [ Pusv3SwY ]
横に並んだヤツ、俺のバディを頭からつま先まで眺める。
確か教官曰く「ほほえみデブ」横永(よこなが)上等兵。
確かに太り気味だがデブと言うほどでは……いつも笑ってるような顔は本当だが。
お互い十分眺めた所で握手を求めた。

「よろしくな」

「おう、よろしく」

「それでは初日だし軽い運動にする。
 全員兵舎から出ろ」
 
やっと息が整ってきた所なのに運動?
冗談だろ!

101 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:04:51 [ Pusv3SwY ]
五月某日+1日 FMJF訓練兵舎前 10:00

「早く!早く!早く! さぁ、先ほどの二列縦隊に並べ!」

教官殿の気が変わらないウチと皆が思ったかどうかは知らないが、あっという間に並んだ。

「それではこれより長距離走を開始する。
 コースは外周の2を二周。 走れ!」
 
 外周の2コースは一周5km、二週目に入る頃には魔導師組の中でも体力のないヤツが列から外れた。
 例えばルーク、教官曰く「廃屋」だ。
 最初遅れたヤツに教官は罵声を浴びせて回っていたが、ルークが最後尾になる頃にはもうほとんど聞こえなくなっていた。
 つまり付きっきりで罵られていたわけだが。
「走れ! 早くしないと戦場に出る前に『統一戦争』が終わっちまうぞ! アホ!!」
「死ぬか? 俺のせいで死ぬつもりか? さっさと死ね! 貴様のようなクズはその方が迷惑にならん! 」
「走れ!遅れるな! 急げ!急げ! トロトロ走るなこの雌豚ども! 腕を振れ!」
 ルークにつき合ってるバディはヤツを引きずるようにして走っていた。
 教官のルークへの罵声を耳元で聞きながら。 かわいそうに……

 走り終えた頃には思考が蒸発して反射で動いていた。
 正直言って教官は嫌いだが、あれだけ叫び、罵り、それでいて余裕で走り終えた辺り、評価せざるを得ない。
 化け物だ。

102 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:05:25 [ Pusv3SwY ]
 最初の兵舎前広場に全員が到着して1分、再び教官の怒声が響いた。
 
「非常に残念なことにこの後予定していた、障害器具走を行うには全く時間が足りなくなってしまった!
 後10分ほどで食事だが、その前に腕立て100、腹筋100、スクワット100をこなした組から食事に行って良い。
 終わるまで食事はお預けだ。 では開始!」
 
「腕立て伏せは肘の角度を90°以上に曲げろ! それ以下の時はやり直しだ!」

マジで死ぬ。
誰かヤツを止めろ……

103 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:06:21 [ Pusv3SwY ]
五月某日+1日 FMJF訓練兵舎食堂 11:45

 本来よりも15分遅れで食堂着。
 食欲は全くない。
 そして出てきたメニューは2種類、パンか飯か。
 どちらか選んで良いと言われても普通パンだろ?
 妙に旨い帝国黒パンと野菜のスープ、肉の厚切り焼き。
 パンにはラードコンテナからマーガリンかフルーツジャムを付けることができる。
 
 バディの横永上等兵は飯を選択。ありえねぇ。
 内容はパンと飯が入れ替わっただけ、ああ、かける物も違うか、飯用の……ジャム?なに?は見たことがないものだ。
 
「横永上等兵、その飯にかけている物、何ですか?」

声をかけたのに驚いたのか、内容に驚いたのか、ちょっとびっくりした顔で答えてくれた。

「ああ、横永で良いよ。 かけてるのはごま塩。もう一つは納豆だ。
 ごま塩は名前の通りごまと塩を併せた物。ごまは知ってる? 
 もう一つは大豆をゆでて発酵させた物」
 
「じゃ、俺もマットで良いです。
 それでこれ腐ってるんじゃないんですね? 
 糸引いてますよ。 臭いし」

「みんな同じこと言うよ。
 こういう食べ物だ。
 君らもチーズは知ってるだろう? あれと同類だ」

104 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/15(木) 00:06:57 [ Pusv3SwY ]
「へぇ、そうなんですか」
 
パンとスープを少し食べてやめた。
もう食えない。
食器を片づけようとした俺に横永が声をかけた。

「マット。無理してでも食べた方が良い。
 午後に何をやるかは知らないが、午前のようなペースで詰め込まれたら倒れる。
 明日もあるんだ、少しでも回復に努めるべきだ。
 幸い食事時間は1230時までだ、食休みを入れて何とか食っちまえ」
 
明日も! そう今日訓練は始まったばかり、何とも気が重くなる話だ。
ため息一つついて、また食事に戻る。

「良いかマット、食べながら聞いてくれ。
 魔導師組と兵士組で組まされたのは間違いなくお互いの手助けをさせるためだ。
 幸いにも俺は魔導師徽章を持ってるし、きみは体力がある方みたいだ。
 俺は軍事教練で手助けするから、君は魔法教練の手助けをしてくれ。
 俺はさっきの『廃屋』組のようなことは絶対に嫌だ」
 
悪い取引じゃない。
どっちの問題も二人の責任と言われた以上、運命共同体だ。
今も食堂にすら来れないヤツのことを考えるとこちらから言うべきだったかもしれない。

「分かった。 よろしく頼む」

 そうして俺は右手をさしのべ、バディ結成の時とは違う、本気の握手を交わした。



109 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:00:15 [ Pusv3SwY ]
すすめ! SF研究所 4 近未来転移バージョン  ザ・ライトスタッフ(The Light Staff)

ロケットマン大原則その一:ロケットマンは宇宙にでるためならどんな手段を取っても許される。
ロケットマン大原則その二:ロケットマンは常に宇宙に、そしてその先に行くことを考えなければならない。

民明書房刊 「ロケッティア」より抜粋。

それはいつものように所長室から始まった。
「所長、わが研究所、いや、我が国が総力を挙げて推進すべきプロジェクトを提案いたします」

「どうした所員I(仮)!」

「我が国が『大戦争』に勝利した今、その国威を示し、技術を知らしめるものが必要と考えます。
 然るに、未だ余裕があるとはいえない今、全く実用的価値がないものを建造する無駄もご理解いただけるかと思います。
 そこで、我々が提案するものは『軌道カタパルト』です」
 
「軌道エレベーターではないのかね? 」

「残念ながら、軌道エレベーターは今の技術での運用は難しいと言わざるをえません。
 いくら我が国でも36000kmのエレベーターは技術の限界を超えています。
 更にその先へ延ばしカウンターウェイトを乗せなければいけないことを考えると、まず実現不可能でしょう。
 故にその妥協点といえるものが軌道カタパルトです。」

110 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:00:57 [ Pusv3SwY ]
「ロケットでは駄目かね?」

「歴史に名を刻むならロケットでも良いですが、それでは限界があります。
 何より我が国にはロケットの実用化したもの。すなわちICBM等、弾道弾を配備する理由と実益が薄すぎます。」
 
「わかった、話を聞こうじゃないか」


__しばらくして所員I(仮)研究室にて__

「今回のプロジェクトの根幹技術は『浮遊船』及び『浮遊島』に使われる『浮遊石』の建材としての実用化です。
 今までの浮遊石は脆く、また稀少なものであったため、ごく一部で浮遊船や、あるいは空中要塞と言うべき浮遊島の利用に限られました。
 しかし、我が国の科学技術の導入により、今までと違って浮力を落とさずに十分な強度を持たせることに成功いたしました。
 また、定性分析をすすめ、世界中の魔導師協会を傘下に治め、あるいは協力関係においた結果、量産に成功いたしました。」
 
「それは素晴らしい。
 実用化が為れば、飛行船を常に浮かべられる様になり、対地対空監視網に劇的な改善が見られるだろう。
 高層建築に使うことで荷重を減らし、さらなる高層化にすら使えるだろう。
 全く素晴らしい。 軌道カタパルトを作らねばならない理由とは言えないとは思うがな。」

111 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:01:34 [ Pusv3SwY ]
「そう言わないでください所長。
 幾つか利点はありますがまず一つは、これからの衛星需要をロケットでは支えきれないと言うことです。
 ロケットは大量の燃料と資材を使い捨てます。100dのロケットで運び上げることが出来るのは3d程度。
 そしてその大半は貨物であり、再利用できる部分は1%を割ります。
 それをGPS、気象衛星、偵察衛星、etc 50じゃ効かないだろう。
 最初の幾つかはかまわない。 実験データは欲しいしな。
 だが、代替えやら何やら、ICBMの戦力化やら考えると初期投資、運用コスト共に厳しい。
 
 第二に、荷物を制限有りとは言え、世界中どこへでも、ほとんど燃料を使わずに、二時間以内に届けられる。
 大型グライダー程度の機体を射出することで爆弾、人員、戦略物資何でもこいだ。
 
 第三に、我が国の国力を示し、宇宙への一番乗りを軌道へも、月へも、それ以上へも成し遂げられます。
 
 第四に、おそらく今以外これを作る機会はありません。
 後、半世紀もすれば軌道エレベーターが作れるかもしれませんが、誰がどこに立てるかでさらに半世紀はもめるでしょう。
 それに軌道カタパルトには軌道エレベーターに無い利点があるんです。
 大気層から完全には出ないので、スペースデブリ、つまり星くずにぶつかる可能性が低いんです。
 だいたいは地上に落ちていて、新たに落ちてきても、小さいものなら燃え尽きるし、大きなものならプラズマですぐ分かります。
 さらに大きなもの、分かっても対処できないようなものなら確率的にはほぼ無視できます。
 
 だからこそ今、我が国が軌道カタパルトを作るべきなのです。
 今と、これからの未来のために!」
 
「ご託はわかった。
 で、出来そうなんだな? 設計はどうか?」

112 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:02:07 [ Pusv3SwY ]
「無論出来ています。
 まずは通常の浮遊建材の釣り合い点である高度15kmにプラットフォームを作り、そこからエレベーターを垂らした上で、そこで新たに高空用の低強度浮遊建材を円錐に作り組み上げます。
 さらに低強度浮遊建材の釣り合い点である高度35kmで同じくプラットフォームを作り、そこでさらに低強度の高々度用浮遊建材を作り、さらに円錐に組み上げます。
 ここまでで高度50km、そして地上には1KGの荷重もかかっていません。
 釣り合い点まで組み上げ、アイスクリームのコーンのようになった所で、こんどはアイスクリームのように半球状に高々度浮遊建材を積み上げ、頂点にプラットフォームを作り、今度はさらに高々度浮遊建材で塔を作ります。
 ここで地上に積み上げた半球部分と塔の重さが僅かにかかるので、周りに超高々度浮遊建材を作り塔の周りに浮かべ、浮き輪のように塔を釣り上げます。
 半球部分の頂点は高度70km、さらに塔が25kmこの高度で浮遊建材はコンクリートの強度:重量比が十倍以上、強度自体はコンクリートより劣るので多少割り引いて考えても地上で250mのビルを建てるのと大差なく立てられます。

完成した塔は高度100kmのつりの浮きのような形になります。
これを橋脚として50km間隔で21本立て、橋でつなぎます。
 
これで高度100kmに長さ1000km。幅50mの橋が出来ます。
空気抵抗なんか無いも同然ですから、相当弱い加速力でも長さを取って加速できるので橋にかかる負担は小さく、搭乗者にも普通車に乗ったときくらいの感覚で軌道速度まで加速できます。
何よりこれだけの構造物を作るのに既存の技術と検証された技術だけで作られています。
時間と金の手配さえ出来ればどうにでもなります」

「正気を疑うサイズだな。
 だが出来るんだな?」
 
「もちろんです。
 それにこれなら脱出速度が多少違っていても問題になりませんから。

113 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:02:40 [ Pusv3SwY ]
以下真面目な検証、分かり易く書いてはいますが多分に個人的趣味が入ってますので読まなくても全く問題ありません。
 
 空気抵抗を無視できる様な高度で、脱出速度を得られれば軌道に乗せることが出来ます。
 ( 以下の式中の^の後の数字は乗数を表します)
 第一脱出速度、すなわち惑星の周りを回り続けるために必要な速度は地球では7.9m/s
 本来の公式では G を万有引力定数、M を惑星の質量、r を惑星の半径とすると、
 
 v= √(GM/r)
 v= √{( 6.67 * 10^-11 *5.98 * 10^24 ) / ( 6.37*10^6 )}
 v=7.9m/s
 
 と出ますが、あえて高校生くらいの物理に置換えると、
 重力のみを考えると、地表付近ではあらゆる物体は等しい加速度9.8m/s2(重力加速度と呼びgという文字で表す)で落下すること、落下する距離yは落下時間tの二乗に比例して公式はこう。
 
 y=(gt^2)/2
 1を代入するとy=(9.8m*1)/2=4.9m
 
 となり、どんな物体をどんな速さで水平に投射しても、1秒後にははじめの高さより4.9m下がっていることになります。
 しかし地球は丸いので、落ちる距離と惑星の丸みから出来る水平面の低下が釣り合えば、物体は行った先の地面から見ると、もとと同じ高さにあることになり、一見落ちていないように見えることになります。{ここ大事!)
Rは地球の半径6400kmを表します。するとこのとき三平方の定理により。
 
R^2 +v^2=(R+h)^2
展開すると
v^2=R^2+2Rh+h^2-R^2=2Rh+h^2

となりますが、Rに比べてhは比較にならないぐらい小さいので、右辺の第二項を無視して、さらにhに先に出た落下運動式を代入すると次の式が得られます。

v≒√(Rg)

≒でむすんだから適当に分かり易く数値を整理すると、R=6400km2=6.4×10^6m、g≒10m/sとしたとき

v=√(6.4*10^6*10)=8.0*10^3 m/s=8.0km/s

(ちなみにくろべえ氏の帝国転移世界だと地表面積は2倍で、重力がほぼ同じなので、球の表面積は 4π r^2、
 (5.1×2x10^8 km2)=4π r^2だから
 r^2=(10.2x10^8km2)/4π
 πは3.14として
 r=√(0.812x10^8km2)
 r=9.01x10^3km=9010km
 
 v= √(GM/r)に当てはめると6.7m/s
 減ってる? 表面積でかくなって傾斜が緩くなったのに?
 多分重力定数が変化してるっぽい? 惑星内に浮遊石でもあって重量と質量が違う?質量なら重量関係無いか? 
 要「キャベンディッシュの地球の重さ秤」
 簡易式で計算すると
 
 v=√(9.01x10^6mx9.8)で=9.4m/s
 どうもこっちの方が近いような雰囲気。
 ロケットだと相当厳しい。今のロケットでも中型以下の物なら人が乗れるかどうか、実質ペイロードはなくなるな。
 これならロケットじゃなくて超音速ジェット重爆{ハスラーくらい)にロケットエンジンの子機を乗せてやる親子式にして宇宙にいくことを考えた方が良いかも。 それともこの話みたいに浮遊大陸で高度と速度(空気抵抗減+浮島の速度)を稼ぐか。
 もし、空気がないも同然な所まで浮島でいけるなら、一段目のエンジンをカットできるから未来は開けるかも。)
 
 
 検証終わり。

114 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:03:17 [ Pusv3SwY ]
「技術面以外の最大の問題は雨風でした。
 雨は浮遊建材のマイナス加重を相殺し、荷重をかけたり、場所によってはバランスを崩したりします。
 また、風はとてつもなく軽い軌道カタパルトを動かすおそれがあります。
 しかしながら、雨は先ほど言った形状の工夫と表面加工によって処理し、対処チームをおくことで対応します。
 風に関しては赤道収束帯に置き、可能な限り低減した上で、対流圏内に風力発電によるプロペラや動翼制御を行うことで対処します。
 どちらもエネルギー自体はほとんど風力から取り出すため、僅かに電力供給するだけで対応できます。」
 

顔は紅潮し夢見るように熱く語った所員I(仮)。
私の答えをじっと待っている。
一つ深呼吸して、覚悟を決める。

「やるぞ! 以降このプロジェクトは『Light Staff {軽い杖}』計画と呼ぶ」

115 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:03:47 [ Pusv3SwY ]
ダダンダダン!  風の中のす〜ばる♪

プロジェクト ×(ばつ) 〜星への架け橋〜 軌道カタパルトを完成させろ!

――困難な政府との交渉――
「なぜ!理解してくれないんですか! これこそ未来に誇れる計画ですよ! 」
「そのような予算がどこにある! 顔を洗って出直せ! 」

――新たな問題点――
「予定の浮力が得られない? なぜだ!!」
「おそらくはマナ濃度の問題かと思われますが……」

――新たな仲間――
「お困りのようだな。 だがその心意気、気に入った!」
「あなたは?」
「勇気の導き手 バルキリーだ。貴様らの計画手伝おう。高空でのマナ活性は任せろ!」
「さすが無謀と慢心の精霊! 是非お願いします。」
「……喧嘩売ってるのか……」

116 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:04:22 [ Pusv3SwY ]
――立ちふさがる敵――
「我々はBF団(Ballistic Flier 団)だ!
 我らがロケットの、弾道学の灯は消させない!」
 
「いや、高軌道に出すときはロケットも使うよ?」

「じゃ、良いや」

「なにぃ! 十傑衆のお前が裏切るのかNASDAの土門!」

「軌道カタパルトにも弾道学の意志は受け継がれている!
 抹殺しようとする軌道カタパルトもまた弾道学の中から生まれたもの。いわば弾道学の一部!
 それを忘れロケットに固執するなど愚の骨頂! 」
 
「ならばお前も拳で語って見せよ! ゆくぞ!!」

「応!」

突如殴り合いを始めたBF団幹部達。
それを呆然と見つめる研究員達。

「……じゃ、作業再開ということで……」

117 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:04:56 [ Pusv3SwY ]
――完成の時――

軌道カタパルト管制室
「カタパルト、コンディショングリーン」
「リニアドーリー、及び搭載マジックハンド コンディショングリーン」
「無人機テレメトリ問題なし」
「カウントダウン、Tマイナス60」
「レーザーレーダーデブリ検出せず。」
「Tマイナス30」
「フライホイール及びコンデンサ接続」
「Tマイナス10.9.……GO!」
「加速開始。 1.5、2,2.5,3Gに到達」
「マジックハンド解放」
「こちら第11橋脚、無人機の離陸を確認。」
「ドーリー減速開始。」
「こちら第21橋脚、無人機の射出を確認。」
「こちら第20橋脚ドーリーの停止を確認。これより回送する」

「こちら国立天文観測所、無人機の飛行を確認。スケジュール通りの軌道だ。」

「海軍所属第25観測機、無人機の飛行を確認。スケジュール通りの軌道だ。」

118 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:05:35 [ Pusv3SwY ]
軌道カタパルト管制室
「Tプラス5400。レーザーガイドにコンタクト。」
「軌道修正、RCS噴射……コンタクト。」
「回収軌道に乗った。ドーリー加速開始。」
「たった今、第1橋脚を通過。」
「こちら第8橋脚、無人機、ドーリーとのランデブーに入った。」

「無人機、ドーリーに回収、減速に入る。」
「コンデンサ接続。蓄電モードへ。 フライホイール回転開始」
「こちら第20橋脚、ドーリー停止、回送する」
「Tプラス6000全行程終了。試作機に問題なし。 カタパルトに異常なし。 電力の60%の回収に成功。
 成功だ!」
「万歳!」

119 名前:所員F(仮) 投稿日: 2006/06/16(金) 00:06:06 [ Pusv3SwY ]
第1橋脚 カタパルト開始点

戻ってきたドーリーに触れ、所員I(仮)はつぶやいた。

「これで完成だ。だが俺たちの道はまだまだ続く。
 この果てしない『月への道程(ムーンライトマイル)』はよ……」
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「         |
| 第一部 完   |
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「作業開始したいんでどいてくれますか?」

普段は遊んでばかりだがたまには真面目なときもある
それが国立魔導研究所所クオリティ。
人はここをSF研究所。
すごく ふしぎ 研究所 または  STAR Flier研究所と呼ぶ。
次は宇宙ステーションだ。
書かないけどな。