370  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  18:56:38  [  sO8IPh/o  ]
どうもはじめまして。
本家でSS書いてるものです。
ラノベっぽい設定のSSを考え付いたのでこちらに投稿させてもらいます。
では、投下ー。  


371  名前:日活ファンタジー映画「轟沈」(嘘)  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  19:02:37  [  sO8IPh/o  ]
可愛い魚雷と  一緒に積んだ
青いバナナも  黄色く熟れた
男所帯は気ままなものよ
髭も生えます  髭も生えます
無精髭・・・


「これより我々は、東シナ海を南下し、かねてより報告が相次いでいる敵性海生生物の発見と殲滅の任務に
 当たる。繰り返す、これは実戦である・・・」

第一潜水隊群、おやしお型二番艦「みちしお」の狭い艦内に、野太い声のアナウンスが響く。
艦内電話の受話器を握るのは、艦長の片倉2佐。平時は柔和な顔つきの、優しげな中年で通っているが、潜
水艦の中においては冷静沈着なベテランとして、乗員の信頼を集めるまさしく「海の中の男」である。

「はじまりましたね、とうとう。」

受話器を置いた片倉に、艦内帽を被った背高の男が不敵に笑う。彼は副長の東名3佐。艦長と並び、この艦
の舵取りを任される男である。
戦乱の”大陸”に突如召喚された日本。右も左もわからぬ日本が最初に遭遇した国は、侵略を受ける小国で
あった。帝国主義国家からの防衛行動。はたまた侵略を受ける国への人道的な派遣。とさまざまな難癖をつ
けて帝国との戦いに「派遣」された自衛隊員たちは延べ四千人以上に上り、当初の隠された目的である、様
々な資源の発見と国家の血液たる油田の発見を達成し、戦役が一段落するまでに、その中の四百人以上が白
木の箱で帰還する羽目になった。
特に戦役中盤の厳しい燃料制限による装甲車、ヘリの支援なしの攻勢はさながらマレー進撃の様相を呈し、
銀輪部隊の設立などの苦し紛れも空しく、多くの犠牲者をだしてしまった。
「この世界」において、潜水艦の活躍する機会は、殆ど無かった、いや全く無かった。
その隠密性が必要とされる作戦も無く、またコストの高い魚雷や対艦ミサイルなどの武装しか持たない潜水
艦は、全くもって、暇な日々を送っていたのである。潜水艦の乗組員達のなかには、係留されている黒い船
体を眺めては、ため息をつく毎日を過ごす者もいた。
しかし現在、日本が”大陸”において油田をようやく発見し、プラント化と輸送経路の整備にはいった時、
その事件は起こった。
海上自衛隊の輸送艦が、敵海上戦力によって占領された事件。それは、事件が起こった海の名にちなんで
「ルフェルト湾事件」と呼ばれた。  


372  名前:日活ファンタジー映画「轟沈」(嘘)  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  19:03:31  [  2MQXFm3Y  ]
帝国はマーマン、海竜、クラーケンなど、水中機動に優れたユニットを数多く保有し、ソナーなどに察知さ
れにくいその特性を利用して、艦に乗り込んでの白兵戦を展開したのである。輸送艦は特殊部隊によって間
も無く奪還されたが、敵性水中生物の早期発見と殲滅、及びそのプラットフォームである帝国の艦、港湾施
設の撃滅は急務となった。
そこで、潜水艦にお鉢が回ったのである。
今回は、海上自衛隊水中部隊の、栄えある初任務であった。

「試製魔力ソナーの感はどうか?」

片倉は受話器を再びとり、ソナー室に繋いだ。

「感動ものですよ。出力を絞らないと何が何だかわからなくなります。」

片倉の問いに、水測員は自嘲気味の笑みをこぼす。ヘッドセットを当てている耳には大変な轟音が響いてい
る。ヘッドセットのコードは、なにやら通常の機器とは違う、鉱石やらコードやらがごちゃごちゃした物体
に繋がれていた。混在する機械的なツマミやディスプレイが、何ともいえない不気味さを引き立たせている。
試製魔力ソナーは、例えばゾンビの使役魔法やそれらから屍を守るためのプロテクト魔法など、生命を操る
魔法の理論を応用し、様々な魔法機械を電子機器と結合し、生命反応そのものを探知する、技研の意欲作で
ある。これにより、従来のソナーでは検出しにくい目標・・・つまり海中生物を素早く探知し、警戒に移る
ことが可能となった(魚雷への搭載は、未だ実験段階であり、技研の中の人は日夜可哀想な努力にいそしん
でいる)。
その第一号を、この「みちしお」は試験的に搭載していた。
画期的な新式機材の、唯一の欠点は、海が生物の楽園である、という事一点のみである。

「調整が難しいですね。あまり出力を上げると魚群の生命反応まで拾ってしまって・・・」

不気味な機械から生えているツマミを弄りながら、その水測員はため息をついた。
東名はふと不安になり、片倉に尋ねた。  


373  名前:日活ファンタジー映画「轟沈」(嘘)  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  19:04:06  [  sO8IPh/o  ]
「そういえば、あの機械は我々の生命反応も拾っているのでしょうか?」
「いや、一応指向性がある、という話だからな・・・大丈夫だと思うが」
「なんというか・・・よくわかりませんな、魔法というのは。」

そんなやり取りを尻目に、、「みちしお」はスクリューを唸らせ、少しずつ東シナ海を脱し、”大陸”の沿
岸へ向かっていく。そこからは彼らのあずかり知らぬ海が広がっているのだ。

「よし、定期時間だ。潜望鏡深度に浮上。」
「了解。メインバラストタンク、ブロー!」

進路西へと  波また波の
飛沫厳しい  見張りは続く
初の獲物にいつの日会える
今日も暮れるか  今日も暮れるか
腕が鳴る・・・


「それ」は悠々と、深い海中を滑り往く。
とんでもない巨体と、それに伴う力を持つ、彼らは海の王者である。
彼らの仇敵は、憎むべき鉄の艦。多くの仲間がその艦の吐く業火に焼かれてしまった。
帝国に従属する身の彼らであるが、仲間意識はあった。
敵討ちの心もこめて、彼らは力強く、水を掻き分けた。

「艦長、ソナーに二つの感あり。並走しています。深度60、距離1000、速力20kt。この生命反応
 の大きさは・・・」
「おでましか・・・魚雷戦用意だ。」
「了解。」

敵発見の報に、総員は俄かに緊張し、急いで戦闘配置につき始める。  


374  名前:日活ファンタジー映画「轟沈」(嘘)  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  19:05:06  [  sO8IPh/o  ]
片倉も、普段の柔和な表情はどこへやら、きりりとした「海の中の男」の顔に切り替わっていた。

「船体正面を目標に向けろ。一番、二番、四番、五番の発射管に試製魚雷装填。」
「了解。一番、二番、四番、五番、試製魚雷装填。」

試製魚雷とは、「試製」とは名ばかりの撃ちっ放し魚雷である。
89式魚雷から誘導制御部を取っ払い、そのかわり直進性と高速性を重視したもので、魚雷に魔力誘導を導
入するまでの、いわばつなぎである。
少なくとも、爆雷などの時代錯誤な兵器よりは頼れる代物であった。

「装填完了。」
「よし、一番、四番に注水。敵は?」
「ただ今距離900。」
「よし、深度を敵と同じにして、接近しろ。」

ボコボコと泡ぶくを立てながら、「みちしお」は海面に近づいていく。
目標深度に到達してから体勢を立て直し、徐々に「みちしお」は目標への接近をはじめた。
その時、異変は起こった。

「艦長、敵の進路が変わりました。真っ直ぐこちらに向かっています。速力も30ktに増速しました。」
「気付かれたのか、今の距離は?」
「現在、距離600です。」

片倉は焦った。
深度が浅いのが災いし、視認されてしまったのだ。

「注水完了しました。」  


375  名前:日活ファンタジー映画「轟沈」(嘘)  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/05(日)  19:05:43  [  2MQXFm3Y  ]
魚雷発射、準備完了の報が片倉に渡された。
片倉は少しだけ安堵した。

「ようし、よく狙って発射しろ。」

落ち着き払って、片倉は命じる。
最後の姿勢制御を終えた後、一撃必殺の魚雷が発射管から飛び出し、一直線に目標へと向かっていった。

「命中まで後何秒だ?」
「およそ15秒です。」

15秒。それは「みちしお」乗組員達にとって、余りにも長い時間であった。  



397  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/07(火)  23:49:31  [  2MQXFm3Y  ]
鉄の匂いがする方向から、何かが飛び出した。
ぐんぐん速度を上げて、こちらに近づいてくる。膨大な気泡を撒き散らしながら。
いけない。
何か、アレは危ない。
もしかしたらこの匂いの正体は・・・
その時、その「何か」が、轟音を上げて炸裂した。


「命ちゅ・・・わああ!!」
「ど、どうした!?」
「わ、判りません。命中した途端に・・・」

ちょうど命中を確認した瞬間、魔力ソナーの画面は一瞬にして真っ白にぼやけ、先ほどとは比べ物にならな
いほどの叫び声のようなビープ音がヘッドセットに響き、担当水測員は余りの音に悶絶した。

「くそ。副長、推進機停止。パッシブソナーで何か拾えるか?」
「・・・魚雷二本の炸裂音を確認。命中した模様です。」
「よし、ご苦労・・・水測員は大丈夫か?」
「鼓膜が破れているかもしれません。医務室へ搬送します。」
「わかった、そうしてくれ・・・くそ、試製機材のポンコツめ。」

受話器を置いて、片倉は大きくため息をついた。東名も重々しい空気に、思わずうつむいた。
試作機器の事故も想定内ではあったが、大きな事件であることはたしかだった。

「副長、目撃されていた敵性生物の種類と数は?」
「はっ、クラーケンが二杯にマーマンが不特定多数であります。」
「マーマンが気になるな・・・しかし、アレを烏賊と同一視していいのか、疑問が残る。」  


398  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/07(火)  23:49:59  [  sO8IPh/o  ]
クラーケンは、烏賊をそのまま巨大化させて細部を凶暴にしたような風体のモンスターである。
片倉は、不用意に海上に現れ、護衛艦に抹殺されたクラーケンの死骸を見たことがあった。
アレを見た時ほど片倉が驚いたことは無かった。というか腰を抜かした。今でも片倉は、あの巨大な死骸の
夢を時々見る。

「悪夢的だからな、アレは・・・」
「艦長、魔力ソナーが回復しました。」
「む・・・注意して周囲を索敵しろ。」

並走していた二目標は、十中八九クラーケンである、と片倉は確信していた。
命中した魚雷が二目標両方を撃破出来たかどうかは、これから判ることであった。

「・・・ソナーに感あり。目標1、深度130、距離200・・・突っ込んできます!」
「何、回避機動をとれ!」


炸裂によって、幾らかのマーマンと、片割れが死んだ。
接近して目に見えた、あの鉄の塊は、鉄の艦の仲間に違いない。
許すわけにはいかない。
渾身の力で叩き潰して、仲間の仇をとってやるのだ。


「間に合いません、衝突します!」
「総員何かに掴まれ!」

片倉が叫ぶと同時に、轟音と共に艦が鳴動した。  


399  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/07(火)  23:50:57  [  2MQXFm3Y  ]
「どわぁっ!!」
「うわぁ!」

左舷からの衝突が、右へ左への大揺れを起こした。
予想外の衝撃に、椅子から投げ出されてしまうものもいた。
片倉もよろめいた拍子に潜望鏡に頭をぶつけて額が割れ、血が流れ出した。

「か、艦長!」
「被害を報告しろ!」

揺れが収まり、片倉は頭を押さえながら何とか立ち上がって、叫んだ。
倒れていた乗組員達も何とか起き上がり、配置に戻る。
比較的に無事だった東名は各部署と連絡を取り始めた。

「配電系、照明に多少の異常あり。修復可能。」
「推進器正常、いけます。」
「バラストタンクに異常ありません。」

次々と各所から通信が入り、ほとんど損害が無いことを伝えた。

「ご無事ですか、艦長?」

全部署の通信を終わらせた東名は、急いで医官を呼ぶように催促し、自らも片倉のそばに駆け寄った。

「問題ない。この艦も、この程度ではやられなかったようだな・・・」
「はい、大丈夫です。しかし、まだ周囲には敵が・・・」

そう言いかけた東名は、そこで息を詰まらせた。
東名の耳が、不吉な、建物が軋むような音を聞き取ったのだ。  


400  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/07(火)  23:51:35  [  sO8IPh/o  ]
ギギギ、ギギギ。
締め付けるような音は、「みちしお」のそこかしこから聞こえていた。

「な、なんなんだ?周囲の状況は?」
「生命反応、至近距離・・・いや、密着されています!」
「アクティブソナー、使用不能!何かが船体に覆いかぶさっているようです!」

片倉の顔から血の気がたちまち引いた。
額から噴き出す血の赤さとのギャップが痛ましい。

「し、しまった・・・」

強烈な体当たりのあと密着し、その自在な腕を伸ばして高張力鋼の船体に張り付く。
そして、慢心の力をこめ、ぎりぎりと締め上げる。
「みちしお」は、クラーケンに捕らえられつつあったのだ。  



423  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/11(土)  13:56:10  [  88LMY5m2  ]
「機関は、推進器は大丈夫か?」
「特に異常なし、いけます!」

ぎり、と唇をかみ締め、片倉は決心した。

「魔力ソナーの感度を上げろ。・・・海面に突っ込んで振り払うぞ。副長、頼む。」
「し、しかし、上空に敵脅威がもしいたら・・・」
「ここらの海底は浅い。潜行して振り切りたいが・・・それも出来んからな。」
「っ・・・了解、メイン・バラストタンク、両舷トリムタンク、ブロー!姿勢をしっかり保てよ!」

東名は不安げな顔をしていたが、片倉は確信に満ちた顔で、ただ立っていた。
指令が各部署にいきわたり、まるで意思を持っているかのように「みちしお」が動き出す。
バラストタンクの水を噴き出し、クラーケンをものともせずに海面へ一直線に駆け上がる「みちしお」を、
片倉は頼もしく思った。
推進器に電気が行き渡り、スクリューが始動すると、絡み付いていたクラーケンの腕がたちまち引っ張られ、
千切れ飛んだ。

「海面まであと10秒!」
「小型の生命反応、多数!マーマンです!」

やはり、と片倉は思った。
クラーケンは、マーマンを迅速に運ぶ、いわば特殊潜航艇だったのだ。
片倉は、敵の用兵を見抜いて、浮上を命じたのである。
「みちしお」がクラーケンに取り付かれている今、マーマンも張り付いているのは自明の理だった。

「あと5秒!」
「水測員、ヘッドセットを外せ!総員何かにつかまっていろよ!!」  


424  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/11(土)  13:56:56  [  88LMY5m2  ]
何という力。
鉄の塊は、この巨体を軽々と海面へと運んでいってしまう。
この水流を起こす物体さえ壊すことが出来れば停めることが出来るのに。
塊に張り付いていた腕を振り上げる。
それに触れた途端に、青い液体を噴き出して、腕が砕け散った。


今まさに突き破られんとする、異世界の清い海面が、片倉には見えたような気がした。
轟々。
晴天の蒼海に、巨大な波柱があがった。
まるでイルカのようにつるりとした「みちしお」の船体が、その飛沫の合間から飛び出し、その腹を海面に
叩きつける。船体にしがみついていたマーマンは、その衝撃で木の葉のように弾き飛ばされた。
あるものは高く投げ出されて海面に叩きつけられ、またあるものは振り落とされて、潜水艦の船体が起こす
強烈な水流に巻き込まれ、艦尾のスクリューに切り刻まれた。
乗組員達は、固唾を呑んで揺れに耐えていた。

「・・・ふう、皆、無事か?」

ある程度揺れが収まってから、片倉が言った。

「異常なしです・・・全く、観艦式ではないのですから」
「何事も臨機応変だよ、副長。・・・周囲の状況は?」
「マーマンは殆どやりました。三体流されていきますが、それだけです。クラーケンは未だ張り付いていま
 すが、生命反応、微弱になっています。」

生命反応が弱まっているということは即ち、本体が弱っているということである。
船体を締め付ける不吉な音ももう聞こえなくなっていた。

「よぉし、もう一度潜行だ。見つからんうちに・・・のぉわっ!」  


425  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/11(土)  13:57:29  [  88LMY5m2  ]
一難去ってまた一難。
再び猛烈な水柱が、「みちしお」の至近で隆起する。
一度安心したところを強烈な揺れにさらされた乗組員達は、何が何だかわからないうちに薙ぎ倒されてしま
った。

「な、なんだなんだ一体!?周囲の状況は?」
「感なし、周囲クリアです!」

二度もすっ転び、ぼろぼろになった片倉だが、持ち前の「海の中の男」魂を発揮し、むっくり起き上がって
再び指示を出しはじめる。東名の握る受話器からは、悲鳴のようなソナーマンの声が響いていた。

「上空脅威か!」
「急速潜行!」

片倉と東名が叫ぶ。ぼろぼろの男達が、息も絶え絶えに諸所の操作を行い、再び「みちしお」が動き出す。
高張力鋼の船体は、死に掛けのクラーケンをぶら下げたまま、またもや仄暗い海中へと遁走した。

「艦砲さえあればなあ・・・」
「どこの伊号ですか、それ・・・」  


491  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:21:29  [  88LMY5m2  ]
「全く、上空に敵が現れるとはなあ・・・」

東名が冷汗をぬぐう。対潜爆弾並みの炸裂が、未だ足先をじんじんと痺れさせていた。
何とか海中に逃げおおせたが、艦尾には瀕死のクラーケンがへばり付き、上空には強力な敵。いい感じにピ
ンチではあるが、あくまで片倉は策を冷静に考える。

「上空の脅威は何なのかな?あれほどの火力を持つ魔物というと・・・」
「かなり限定されますね。」

照明の異常で薄暗くなってしまった艦内が、片倉には暗黒の棺おけに思えた。
制帽のつばを持ち下げ、目深に被る。まずは状況を理解すべきである。そう結論付けた。

「・・・そういえば、今まで会敵した魔法生物についてまとめたデータがあったな。」

この特異な世界に召喚されてからの自衛隊にとって、一番の脅威は未知の魔法生物と、魔術であった。
どちらも強力な力を持つが、一番厄介なところはやはり「得体の知れない」ということである。
自衛隊も、彼らについて少しでも情報を集め、対策を練るべく、データベースを製作し、各部隊に配布して
いた。かなり分厚いファイルで、各生物の大きさや攻撃方法などをまとめてあるが、まことに残念ながらデ
ータ化は遅々として進んでいない。

「検索してみますか。空が飛べて、強力な攻撃を行える奴を。」

担当の隊員が劇的な分厚さのファイルを重そうに引っ張り出し、手馴れた様子で開く。
しばらくの間、沈黙がながれ、全力で推進器が稼動する音と、紙をめくる音だけが聞こえた。周囲の隊員は
固唾を呑んで見守っていた。

「海面の様子はどうだ?」
「無茶苦茶ですね。正確な音が聞こえないくらい炸裂が起きています。めくら撃ちです。」  


492  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:22:13  [  88LMY5m2  ]
敵も躍起になっている。ここでこちらが焦らなければ、この任務は成功する。片倉はそう心に言い聞かせ、
ぐっと丹田に力を入れる。冷静な片倉も、これが初任務である。胸にまとわりつく緊張は持続していた。
あくまで落ち着いて。片倉は重ねて心で呟いた。

「判りました。」
「む?」

小声ではあったが、片倉はしっかり聞き取っていた。
東名は隊員からファイルのあるページを受け取り、片倉に差し出した。

「火竜・・・ファイアドラゴンか。」
「航続距離約120km、大威力の火炎弾を撃ちだす。小型軽量。帆船に積載された目撃例あり。」

片倉が読み上げる。この飛竜の一種が上空を飛び回り、自分達を脅かしていると想像すると、急に乗組員達
の間に緊張が走った。
潜水艦では外の様子が見えない。従事する隊員達はこうしてデータを見せられることによって、初めて脅威
に実感を持つのだ。
緊迫した艦内で東名は、ふと妙なことに気付いた。

「艦長、ここから最寄の海岸まで、少なくとも200kmはあります」

ぼそりと、東名が呟く。片倉は、その言葉に息を呑んだ。
航続距離が足りていないのだ。上空を制圧しているファイアドラゴンは、本来ここにいられない筈の敵だっ
た。暫くの逡巡の後、片倉はその矛盾に一つの答えを出す。それは、元いた世界で彼らも使用した戦術だっ
た。思わぬ武勲の好機に、片倉は口の端が思わず吊りあがるのを感じた。

「そうか副長、この世界の連中も、我々と同じことを考えるものだな。」
「・・・航空戦力を有効に利用する、運び屋が何処かにいるということですか。」
「おそらく、そんなに遠くは無いだろう。・・・副長!」  


493  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:22:43  [  88LMY5m2  ]
「は、はぁ?」
「魔力ソナーで空中を走査出来るか?」

東名は思わず「へ?」と間抜けな呻きを上げるところだった。ソナーで空中の物体を探すなど、まともなサ
ブマリナーなら考え付きもしないだろう。
しかし、「みちしお」の魔力ソナーは、「魔」という、所詮異世界の日本人には理解できない理で敵を探知
するのだ。

「確かあのソナー、特殊な波長を放つ魔法の反射を解析して、投影する方式らしいな。」
「はあ、慣熟訓練の時、そう教わりました」

魔法の理論とか、全くもってさっぱりでしたが。と東名は言いかけて、すんでのところで飲み込んだ。
片倉は、異世界の良くわからない生物は大嫌いだが、よくわからない魔法理論は大好きだった。

「魔力の波長は特殊でな、音波とも電波とも違う性質を持ち、障害物の干渉を受けない。大気の中も、水の
 中も、変わらぬ速度で進行するという。・・・いや、ある種の魔力を付与された金属は、この波長を跳ね
 返したり、変調させたりするらしいが、まあ限定された状況だな。・・・ならば、上空も正確に索敵する
 ことが出来るのではないか?」
「はぁ・・・」

脳がスポンジになりそう。東名は辛うじて相槌を返すだけはやっていたが、頭脳はほとんど停止していた。
物は試し。ソナー室に伝令が伝わり、上方の敵を走査する要領で魔力ソナーが起動した。
怪しげな音と共に、接続された鉱石がチカチカと点灯し、目に見えない魔力の波長が飛ぶ。
それは海中も空気中も変わらぬ速度で飛翔し、空に陣取るファイアドラゴンに当たって跳ね返った。

「ソナーに感あり。距離200、深度・・・マイナス60。上空目標のようです。」
「よし。技研の連中も、中々いい物作るじゃないか。」

ニヤリと笑う片倉。
罵倒したり褒めたり忙しい。  


494  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:23:32  [  88LMY5m2  ]
「海面への攻撃が止みました。」
「!?反応遠ざかります。現在距離900。」
「変化がありましたね」
「よし、増速。反応についていけ。」

どうやら敵は攻撃をあきらめ、帰還するようだ。片倉は迷わず追尾を命じた。
ゆっくりと動き出す鋼鉄の男所帯。
飛竜は深く潜航した「みちしお」に気付く筈も無く。真っ直ぐにある方向に向かっていった。

「反応の移動が停止しました。」
「お出ましだ。魔力ソナーの感を強めろ。」

感を強めると、微弱な生命反応も察知することが出来る。
水測員がソナーのツマミを操作すると、飛竜の反応の周りに、みるみる多数の反応が現出していった。

「魔力ソナー、飛竜の周囲に感多数。」
「機関停止、深度そのまま。アクティブソナーで海上を探れ。」
「水上に帆船見つけました。反応は3。距離1800。錨下ろしているようです、停止しています。」

東名は胸をなでおろし、片倉はまたもやニタリと笑う。
とうとう「みちしお」は、その牙を突き立てるべき「空母」を見つけたのであった。

「潜望鏡深度。魚雷戦用意だ。」  


495  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:24:36  [  88LMY5m2  ]
「ほら、とっととその綱を繋げ。急げ!」

海上では、火竜の収容が行われていた。帝国の期待を背負って、この実験船団は行動していたのだ。
クラーケン、マーマンの運用をする艦、ファイアドラゴンを3体収容し、沿岸にまで勢力を伸ばした「ジエイ
タイ」を攻撃するための艦、補給艦の三隻で構成された船団は、帝国の技術を尽くして製作された大型艦で、
実験的なものとはいえ、かなりの攻撃力を有していた。乗組員達も、選りすぐられた兵達である。

「クラーケンを斃したジエイタイの連中をやっつけたか?」
「だめだった。連中、水の中に潜りやがったんだ。」
「本当か?今までそんな奴は報告に無かった筈だが。」

甲板に着陸してから、綱に繋がれる火竜を尻目に、帰還した竜騎士と、艦長が戦果について話し合っていた。
艦長は、得体の知れぬ不安に駆られていた。敵の正体が判らない。クラーケンを運用する艦の専属魔道士か
らクラーケンの生命反応が途絶えた、という連絡を受け取ってから、ファイアドラゴンを哨戒に向かわせた
が、まさか正体不明の敵に遭遇するとは思ってもいなかった。
そう、潜水艦部隊は、今回が初任務。彼らは「潜水艦」という兵器を知らないのだ。

「・・・なんだありゃ?」

乗組員の一人が、艦に接近する水跡を見つけた。
ぐんぐんと速度を上げていく。それを見た艦長は恐慌に陥るが、遅かった。
そして、その白波が艦にぶつかった時。
一瞬にして、帝国の精鋭は海の藻屑と化した。


「命中。十中八九轟沈です」
「魔力ソナー、使用不能。」

片倉は、「魔力ソナーが使えなくなる」ということが一体なぜなのか、半分判っていた。
出来るだけ思考からそれを追い出し、片倉は淡々と、次弾装填の指示を飛ばす。  


496  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:25:14  [  88LMY5m2  ]
彼らには、もはや「みちしお」を察知することも、攻撃することも出来ない。
ただただ、死の恐怖に怯えるのみである。

「三番、六番管、注水完了。」
「発射。一番二番に注水。」

その一声で魚雷は放たれ、数百人の命が消え去る。
魔力ソナーに写る真っ白の影は、ビープ音は、魂消る犠牲者の断末魔。
その命が消えていく様を、機械を通してしか理解できない自分を、片倉は悔しく思った。
少しだけ、水上艦勤務の者達を羨ましく思った。

「命中しました。」
「一番、二番、注水完了。」
「発射。」

「命中。」水測員の通信が、戦闘終了の合図だった。

「魔力ソナー回復。周囲クリア。」
「任務完了だな・・・」

潜望鏡を覗くと、僅かな波柱と、三つの黒煙が見えた。
片倉は潜望鏡を放すと、制帽を元に戻して、目深に被る。つばを押さえる手は、しばらくそのままだった。
東名にはそれが、死に逝く帝国の兵達への黙祷に見えた。

「クラーケンの反応が遠ざかります、離れたようです。」

仲間の死を追うように、死力を尽くして「みちしお」に食らいついていた大烏賊は徐々に、暗い水底に沈ん
でいった。  


497  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:26:28  [  88LMY5m2  ]
轟沈  轟沈  凱歌があがりゃ
積もる苦労も  苦労にゃならぬ
嬉し涙に  潜望鏡も
曇る夕日の  曇る夕日の
インド洋・・・


今日も今日とて、潜水艦部隊は平和を謳歌していた。
片倉達が使用した試製魔力ソナーのデータは富士の技研にすぐさま渡され、様々な改善をなされた後、対潜
戒機に搭載されることとなった。
潜水艦による攻撃は非効率である。
それが統合幕僚会議の結論であった。
そして同時に、再び潜水艦部隊は、第一線から干される羽目となったのだ。

「任務に出る時はハラハラしましたが、こう暇だと何だか・・・」

呉の基地では潜水艦の乗組員達が、今日もまるで窓際社員のような生活を送っていた。
東名はため息をついて、自分で湯飲みに注いだ茶を啜る。
ちらりと横目で、東名はどっかりと椅子に座る片倉を見た。
まるで好々爺のような片倉の様子に、東名は

「はぁ・・・」

盛大にため息をつく。
聞いているのか居ないのか、ただ静かに、片倉は笑っているのみであった。

「副長」
「はい!?」
「暇だな」
「・・・」  


498  名前:銀輪  ◆2LyZBX0jcM  投稿日:  2006/03/22(水)  21:27:04  [  88LMY5m2  ]
一方。
「みちしお」は呉の軍港で、燦々と降り注ぐ日光を、気持ちよさそうに浴びていた。
あちこちに、クラーケンや、マーマンや、ファイアドラゴンがつけた傷がついている。
誇らしげな、誉れの傷。
軍艦旗は高く、瀬戸内海の潮風になびいていた。
                                                               終