743 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:05:56 [ h4aEybGQ ]
エルフレア戦記:ファーストコンタクト - 少女とヘリとドラゴンと -
「味方のヘリ2機、本艦上空を通過。エコーへ向かいます」
薄暗いCICの中、機械音が響く以外静かな室内で艦長が言う。
「ジャベリン5・・・だったな?となると一昨日ドラゴンを撃ち落した機か」
「おそらく。彼女らは何かに憑かれてるんでしょうかね?」
「さあな。しかし東二尉と有坂二尉は仙台で事情聴取されてたんじゃなかったのか?」
「そこまでは自分にも分かりません」
火器管制担当士官が首を振る。
「まあいいか。航空支援も来たことだしこっちもそろそろ反転するか」
そう言うとどかっと椅子に腰を落とす。
そこでCICのマイクを通じて艦内放送が流れる。
「誰かパンツ持って来い」
艦長は未だにバスタオル一枚だった。
確かに今日、7月5日の午前、東と有坂は仙台に居た。
しかし会議での大暴れ(主に東)で流石に仙台は居心地が悪く、さっさと霞目飛行場から逃げ出すように飛び立ち、臨時に第4対戦車ヘリコプター隊基地と指定された新潟空港に飛んだのだった。
そして到着しまだ着任挨拶中だった彼女らは、ちょうど何時でも飛べるように用意されてしまっていた愛機で飛び立つことになったのだった。
ゆきかぜ上空をフライパスして20分ほどついにそれが見えた。
「さーて、今度は何かなー?天使の女の子ならいいな」
何時もと違い任務中ながら割りと気楽でハイな口調で言う東。
「F15もちょうど来たぞ。だがこっちがまずはファーストコンタクトだね」
そういう右手のほう、はるか上空に尾を引くように飛行機雲を作る機影、三沢基地第8飛行隊所属のF15Jが見える。
「じゃあ行くか。何時もどおり頼む」
東が念を押すと有坂はおっしゃあとばかりにスティックを握りなおす。
「さて、まずはどうする上か横か?」
「横だ。カメラ構えとくから撃たれたら避けろ。全速で頼む」
「はっはっは。剛毅だな。じゃあ最高速度で行くぞ。ジャベリン6、援護位置についてくれ。こっちは向こうの偵察を第一にする!」
ゴマ粒のようだった影が鳥のようになる。
有坂がスロットルを目一杯上げて速力を上げる。
エンジンとローターがうなりを上げ、風防内部にまで轟音のような風の音が聞こえてくる。
744 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:09:47 [ h4aEybGQ ]
そして段々と黒い点の輪郭が明瞭になり、その形が一昨日の空の上で有坂と東の目に焼きついたものと一致する。
ただ二人にはその影の歪さに少し違和感を感じる。
AH64は機体を傾け、機体を軸線上からずらす。
距離は3000メートルをきる。
「エコー1、エコー2ともにドラゴンと確認。これよりさらに接近する。」
ドラゴンは前後に並ぶ形でこちらと正対する。
「距離2000。安全装置解除」
東が前回と同じようにチェーンガンを起動させておく。
「距離1000・・・」
僚機のジャベリン6も幾分はなれた後左上方で目標に狙いを定める。
「ふう・・・、来る!」
肺に溜まった空気を吐き出し、備える。
ほんの一瞬、本当にまばたきする時間も無いぐらいの短い間で2頭のドラゴンと2人の乗る攻撃ヘリは何事も無くすれ違う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
思わず無言になる二人。
「ジャベリン5。東二尉!有坂二尉!どうした」
「二尉!こちらジャベリン6!応答してください」
まったくの無反応に無線のマイクからは僚機の不安そうな声が漏れ出てくる。
それを無視するように有坂がドラゴンを追跡するため急旋回させる。
そして東がおもむろに口を開く。
「あー、こちらジャベリン5・・・。重大な報告がある」
AWACSも同僚の登場するAH64のコックピットもそして無線の届く各基地、ゆきかぜ艦内も静まり返る。
「目標に人間が搭乗している」
凍りついたように静まり返る。
「しかもドラゴンを人間が操縦している模様」
前と違いかなり遅いスピードのためすぐに二頭のドラゴン後方につく。
先にすれ違ったととき同様に太陽を受けてきらめく髪が目に映る。
「しかも女の子です!」
745 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:13:22 [ h4aEybGQ ]
「・・・冗談かな?」
「冗談にしては幾らなんでもタチが悪すぎます」
思いがけない報告にゆきかぜ艦内にも動揺が走る
「しかしこれでいきなり撃墜ということは出来なくなったな。目標の方向は?」
「南よりに変えてます。このまま行きますと・・・」
「柏崎・・・。まずいな」
そこは原子力発電所がある最重要拠点ともいっていい場所だった。
「陸の上からは何か言ってきてるか?」
「いいえ何も。向こうも混乱してるようです」
思わず舌打ちする佐藤。
「上の連中にこのまま南に行かせるな。追い払うか空港に誘導させるように伝えろ!」
「それでどうする?人間付きは想定外だぞ」
「人間じゃない。女の子だ!」
「いや、そんな声荒げんでも同じだから」
東が妙に熱っぽいが、ドラゴン二頭の追跡はAH64DJによるドッグファイトの様相を見せ始める。
双方90キロと言う低速ではF15Jによる細かな追跡は難しく、時折脅かすように接近しては離れる意外出来ない。
ただ二人にとって余裕があるのは撃ち落したドラゴンと違った点があったことだ。
「下手な飛行だねー。向こうのほうが旋回性能はいいようだけど雑だわ読みやすいわで楽だね」
「わたしは観察続けるから万が一撃つほうもおねがいね」
若いながらもトップクラスの技量の二人にとって目の前の竜はよたよた飛んでる標的機みたいなものだった。
後ろを行く少し大きな竜は何度か追跡を振り切ろうとしてか、それとも妨害しようとしてか旋回を繰り返すもあっさり有坂の前に徒労に終わるのだった。
「で、どうする?追い払うか空港に連れて行くかの二択だぞ」
「ちょっと待って。今気になることがあってカメラ見てる」
「何だ気になることって?」
東はデジタルカメラの画像を再生しながら言う。
「前のほうのドラゴン、どう思う?」
「前の?うーん、ぶっちゃけ意味不明」
後方のドラゴンが空戦機動を行っている時、それを援護しようとも離脱しようともなんら行動を動かさず、ただ前に進んでいるだけだった。
「あれ、多分・・・」
「多分・・・?」
「操縦してないんじゃないかな」
746 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:14:29 [ h4aEybGQ ]
「はあ!?」
その答えに思わず東の手元をのぞき見る有坂。
「前見ろ前。・・・お、あった。うーん見れば見るほど。ほら」
そう言って東は体をひねって停止させたデジカメのディスプレーを有坂に見せる。
それを見て有坂は思う。
「よくこの速度でピントあうなあ・・・」
「煩悩の力と反応速度には自信がある。って待て待て見るのはそこじゃない」
「いや・・・、まあ何だ」
目に入ったのを見て思わず押し黙る。
「10歳、ってとこかな?」
「いい線だ。これからに期待だな」
そこには表情を強張らせて手綱を握る小さな女の子が写っていた。
小さな身によく似合う白いワンピースの上からカーディガンを羽織り、肩口で揃えられたぐらいの綺麗な銀髪が風を受けてもみくちゃになっていた。
「じゃあ後ろのはなんだと思う?」
「たまには有坂の意見が聞きたい」
「空をかける少女、ただし家出」
即答する有坂。
「空をかける少女、ただし家出娘の連れ戻し、ってとこかな?顔立ちそっくりだし姉妹ね」
動画を早送りし遊んでる(ドッグファイト)時に最接近したところで止める。
妹と思しき少女よりも一回り、10代半ばぐらいの少女。
髪は妹と同じプラチナブロンドを短く切りそろえた顔立ちは凛々しく、その黒く澄んだ瞳がカメラをヘリを睨みつけていた。
服装は青い簡素ながらしっかりした作りと思しき乗馬服のパンツルック。
「こっちも若いな。操縦もだけど」
「武田やシルメリア、司令部も突っ突いてきてるぞ。何か言ってくれ」
「むう・・・。分かった」
僚機や地上の司令部がせっつく中みょんなうなり声を上げて無線機のスイッチを入れる。
「あー、こちらジャベリン5の東二等陸尉です」
747 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:17:24 [ h4aEybGQ ]
「空港に頑張って誘導するんで、あとよろしくお願いします。あー無線機が壊れたー」
東は恐ろしいまでの棒読みの後無線機を切る。
「で、どうやって?向こうに無線機なんてないぞ」
何気に機体はシザーズを繰り返しお互いが左右を入れ替えながらぱっと見激しく、実際は中の人は余裕でドラゴンとその乗り手をいなしていた。
まったく優位に立てない謎の少女の眼光はさらに厳しくなり、何があろうと後ろを取ろうと意固地になっているようだった。
ドラゴンもその乗り手の少女の屈辱と怒りが乗り移ったかのように牙を剥いてAH64を威嚇する。
東はそんな様子を見てはっとひらめく。
「おい、前のドラゴンにギリギリまで寄せろ」
「ほー。そいで?」
「煽れ。ひたすら煽れ。とにかく煽れ。ひぐらしが鳴こうとも煽れ」
「族か」
有坂に白い目で睨まれる。
少し精神的に傷つく。
「あのドラゴン、結構、いやかなり気位が高そう」
「ほうほう」
「だから煽ってやりゃあ食いつく」
「へえへえ」
「・・・なんかむかつくな。さっさとやれよ」
「あいあい」
恐ろしく気だるげにやるき無さそうに機体を操る。
幾らなんでも、幾ら空を飛んでも、爬虫類だぞ、トカゲだぞ、そんな高等な頭なんて・・・。
少し速度を上げると小さな少女が乗る少し小さめのドラゴンにあっという間に追いつき、機体を傾け斜め後ろからドラゴンの身体、鼻っ面ギリギリのところをすれ違う。
ヘリの風圧に思わずドラゴンの背に体を倒し身をすくめる少女。
それを後ろで見て血相を変えて手綱を握る姉と思しき少女。
そしてスレ違いざまにドラゴンの目を見据えて嘲る様に笑い、舌を出して挑発する東。
すると
「あ、反応した」
「え?何が・・・、ってマジで来た!?」
東の挑発を知らない有坂は牙を剥いて追っかけてくるドラゴンに面食らいながらもすぐさま機首を北へ向ける。
そこはすでに新潟の海岸線が見えるところまで来ていた。
「しかし・・・、うまくいくもんだね」
有坂は肩を少し落とし嘆息する。
「自分が一番驚いたよ」
「東、いっぺんぶちのめしたろか?」
久しぶりに相方に殺意が湧いた瞬間だった。
748 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:19:43 [ h4aEybGQ ]
「エコー1、エコー2ともに北に進路を変えます。ジャベリン5の誘導にしたがっている模様です」
「うまくいきましたね艦長」
「まあそうだな。撃墜しなくて良かったよ」
艦長はそう言うとそれまで開いていたESSM発射用スイッチにカバーを被せる。
それまで続いていた緊張感が緩み弛緩した空気が戦闘指揮所を覆う。
そこかしこで背伸びをしたりため息が漏れる。
ディスプレイの明かりだけの暗い冷たい室内にようやく明るい声が戻る。
「よし。このまま目標が着陸するまでは戦闘配置のままだ。あまり集中を切らすんじゃない」
言葉は厳しいもののその端々に安堵感が漂う。
「あ」
突然のソナー員の声に室内の視線が集中する。
みなの視線に動揺して手を振る。
「いや・・・、別になんでもないです」
「なんでもないとは何だ?報告しろ」
艦長の軽い詰問にソナー員は口を開く。
「一瞬ですが何か聞こえました。ただ・・・」
「まだ30ノットを維持してるからな。聞こえたほうが奇跡だ」
「はい、すみません」
「いや、いい。今は上のほうに集中しよう。こんなところに居るわけ無いしな」
そう言う艦長の肩を叩く手が。
ふと振り返るとそこには口の端を吊り上げた般若もかくやという形相の副長が。
「うん・・・、そのあれだ坂上三佐」
「・・・・・・」
「・・・まあ、あの」
「・・・」
「・・・すみません」
バチーン!
綺麗な紅葉が出来上がった。
夕闇が迫る新潟空港には近隣の集められるだけの陸上自衛隊、ならびに警察官が動員され物々しい雰囲気に包まれた。
洋上には海保の巡視船が浮かび、ターミナルビルや格納庫に狙撃手が並び各々の銃を念入りに整備する。
滑走路脇の芝生や誘導路上にまでSAMや装甲車両がアイドリングさせながら待機する。
ぴりぴりとした空気を切り裂くようにヘリのローター音が近づいてくる。
はっとしたように地上に居る者はみな空を見上げる。
そこには紅に染まった背を背後に来る4つの影。
749 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:24:06 [ h4aEybGQ ]
「うまくここまで着いて来てくれたな」
「あれならここに下りざるをえないだろうね」
ここに来るまで2頭は激しく急旋回や急加速などを繰り返していた。
既に目に見えて分かるほどに2頭とも2人とも疲労しているのが見て取れる。
二人とも阿吽の呼吸でうなずくとすぐに後ろの、姉らしき少女の隣に着く。
ただ、まだその二人を睨む少女の琥珀色の瞳には力はあるものの既に体力が限界に来てるのが分かる。
東はその目を見るとにっこりと笑いかけ下の、滑走路を指差す。
その視線が動くのを確認すると同じように寄り添うように位置を変えていた小さな体に目を向ける。
すると彼女もその瞳は目の前に広がる日本の大地を見つめていた。
しかし思いもかけないことに妹らしき彼女が乗るドラゴンが突如翼をはためかせ一気に急降下していった。
目標はどうやら目の前の新潟空港、いやその後ろの住宅地かもしれない。
「ちょっと!」
「まずい!あんな降下じゃ下手したら撃たれる!」
すでに下では臨戦態勢を整えており下手な動きは即発砲へと繋がる。
せっかくここまで連れてきたのに、それとこんな可愛い娘ざくろになんかさせるかという微妙に不純な動機も絡み、有坂と東もヘリを降下させる。
片方の突然の動きに反応が遅れた少女は出遅れ、疲れからか随分と離されてしまう。
こうなってしまっては誘導するにしろ何にしろ有坂の腕次第となる。
「有坂!」
「分かってる!ぎりぎりまでいくよ!」
ローターがドラゴンの羽ばたかせる翼ぎりぎりまで寄せる。
突然のことからか竜の背に乗る少女は不安からか目に涙を光らせるのが見えた。
そうするといきなり東はコックピットのガラスを押し上げ、叫び大仰な身振り見せる。
地上ではヘリの前席から身を乗り出す飛行服姿と手綱を操る少女、そしてその後方には急追するもう一頭のドラゴン。
ヘリが徐々にスピードを落とし東が指差す場所、ターミナル正面の地面へとドラゴンが降りていく。
有坂はそれを見ると少し機体を離し、先にお手本とばかりにすっと着陸していく。
そのAH64DJが着陸するやいなやすぐにシートベルトを外し東は機を降り、地面に降り立とうとするドラゴンの元に駆け寄る。
ただし、走りながらも腰の後ろのホルスターに入った拳銃の位置を確かめながら。
小さな少女を乗せたドラゴンは着陸すると疲れきったように四つんばいとなり体を横たえていた。
周囲には89式小銃やMP5を携えた自衛官や警官が近寄ろうとしていたが、東はそれを手で制し近づいていく。
東が近づいたことに気づくとドラゴンは頭を向け、今まで散々おちょくられていた恨みを晴らすように威嚇する。
だが東はそれに動じず笑顔で応じながらゆっくりと背にまたがったまま少女へと近づいていく。
少女が疲労を浮かべた顔を向けると東は人好きのする表情で笑いかけ、両手を広げて降りてくるように促すもどうやら長時間の飛行のせいか体がうまく動かないようだった。
仕方なく東はドラゴンの背によじ登り、途中ドラゴンが牙を剥いて威嚇してきたが鼻をひっぱたき軽くいなしながら、上へと上がる。
黒い鱗に覆われた竜の背には牛革で作られたと思しき鞍が結わえられ、少女は手綱をしっかりと握り、落ちないようにか腰紐はしっかりと紐で鞍に結ばれていた。
「大丈夫よ。安心して」
そう優しく一声かけると安全用の紐を解き、硬く握られていた小さく冷たい指も解放する。
冷たくなっていた体には自分のパイロットスーツの上着としていたジャケットをかぶせてやり、少しぐずっていた鼻にハンカチを当ててやると少し遠慮がちながらもずびーっと鼻をかむ。
そうやって西に沈む夕日に照らされ少女のまんまるで小さな顔を覗きこむと、朱がさしたように真っ赤に染まりなにやら困ったようなはにかんだ表情を浮かべていた。
ぱっと見仲の良い姉妹のようなことをしていると、東はつい目の前のお人形のような銀髪の少女が愛しくかわいく思えて抱きしめる。
ぎゅっと抱きしめると少女はもごもごと動くも抵抗はせず暖かい東の体についそのまま身を委ねてしまう。
750 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:26:26 [ h4aEybGQ ]
下からぎゃあぎゃあ声がするのに気づくと、すると何時の間にか下には例の姉らしき少女が。
まだそんな体力が残ってたのかと驚くも、どうも妹を放せといっているようで、帯剣を抜き放つとそれは血で染まったかのように紅く光りを放つ。
それを見た周囲の自衛官達は一瞬銃を構えるも、有坂が好きなようにさせてろと静止する。
東は身を離した少女と目を合わせると抱きかかえ滑り台の要領で硬い灰色の地面にに滑り落ちる。
降りた東の首に細身の剣が突きつけられる。
抱きかかえられたままの少女が身を固くするが、すでに慣れた東はそのまま進みお姫様抱っこのまま目の前の少女に渡す。
少しも動じない東に動揺したが、まったくの無抵抗の東に剣を突きつけるのは不味いと感じたらしく剣を鞘に収めると少女は妹を受け取る。
二言三言腕の中の少女と話すと妹を立ち上がらせると二人は正面の東を見つめる。
東はそれを見て微笑を浮かべ、すぐに表情を何時もの無表情に戻し敬礼する。
「自分は陸上自衛隊東北方面隊直轄第4対戦車ヘリコプター隊所属二等陸尉、東真由美であります」
東の名乗りをぼんやりしたふうに聞く二人。
その反応に少し戸惑いながらも東は一歩進み右手を出す。
「東、真由美、です。よろしく」
表情を和らげにっと笑う。
それに少し安心したのか少し表情を緩ませる妹。
まだ硬い表情だったが今までの張り詰めた空気は緩ませて少女が口を開く。
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
一瞬、時が止まる。
東が顔を引きつらせているのを不審に思いながらもう一度少女は言う。
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
「お、リアルで_| ̄|○やってる人、初めて見た」
何時の間にか近寄ってきたのか東の横からカメラを回しながら有坂はのんきに言う。
そんな同僚のほうにぎぎぎっと首を動す。
「・・・じゃあお前、今彼女が言ったことばわかるか?」
「全然。地球語には聞こえんかった」
4人の間を風が通り抜け、夏の長い太陽はようやく沈もうとしていた。
751 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 06:28:24 [ h4aEybGQ ]
「と、とりあえず中に入ろう・・・。お互い疲れているだろうし・・・」
身振り手振りで二人を促しターミナルビルへと案内していく。
すると東の裾を小さな手が掴む。
「ん?」
少女はよれよれとなってしまった自分のワンピースの胸元を指差していた。
「くぁwせsアリシアtgふじこlp」
東が首を傾げると、余計な言葉をのぞいたのか単語だけを繰り返す。
「アリシア、アリシア!」
合点がいった東は破顔する。
「そうか、君の名前はアリシアだね!私は、真由美、真由美だよ」
「マ・・・マニュ、・・・マユ、ミ?」
「そうそう。真由美」
「マユミ!」
アリシアと名乗る少女も相手が名前を覚えたこと、名前が分かったことがうれしくて花のような笑顔を浮かべる。
ただ、脇の少女はそれがどうにも不満らしくむっとした表情で歩いていく。
するとアリシアは傍らの少女を指差し言う。
「トルシア」
「そう、トルシアって言うの・・・。よろしくね!」
有坂が馴れ馴れしく肩を抱くとその手をぱしっと撥ねつける。
「まったく・・・、もっとフレンドリーにいこうよ。そんなんじゃ友達無くすよ?私は有坂恵子!恵子って呼んでね、アリシア」
有坂が身を屈めて笑いかけるとアリシアは恥ずかしがってか目を伏せる。
その和やかな空気に当てられてか周囲の自衛官も笑みを浮かべる。
もっともドラゴンのほうを向いてる者はびくびくしっぱなしであったが。
続く
762 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/02(土) 01:27:55 [ h4aEybGQ ]
よし、作中の奇想天外兵器の設定を投下(オイ
これのせいでSSまったく進まなかったw
先に3行に要約すると
FXはストライクイーグル
性能最高!兵装一杯!
実戦にも参加したお
↓はチラシの裏と思って読んでくださいw
F15J ストライクイーグル
F15Jとは日本が80年代半ば以降から取得したF15C/D系列機ではなく、
老朽化したF4EJ改の後継機FXとして採用されたF15Eの最新型であり最後のF15となった機体である。
そのFXは一旦はF2スーパー改(仮称)に決定された。
理由としてはタイフーンが欧州製では補給・整備面での煩雑化、FA18E/Fは加速性や価格面から外れ、
最有力視されていたF22は価格の高騰とアメリカ議会による反対によって完成品の輸入のみとされたことで、
日本の一部国防族議員や航空産業界の巻き返しにより内定したものであった。
しかし、その後その決定時のドタバタから特にアメリカからの圧力が増したため、急遽再度入札が行われることとなった。
この時ボーイングが日本向けとして提案したのがF15FX、後のF15Jだった。
だがこの時問題となったのは今さら30年前のF15かという疑問の声が高まり、F2も順調にマルチファイターとして再設計されていたため、
再度F2が採用されるのは確実視されていた。
これをひっくり返したのはF15FX開発チームの不断の努力とある日本の航空産業界の人間だった。
ある時両者の関係者が一同に集まり会合が持たれた。しかし途中から議論は白熱化しFXに必要なのは何か激論が交わされた。
その中で日本のある会社の重役が言った言葉がきっかけとなったという。
「我々は君ら見たく国に甘えて圧力なんかかけずに実力でシェアを伸ばしてきたんだ。
ビッグ3のように巨大化して身動きが鈍くなったボーイングが、性能と価格の両面でF2を凌駕できるわけが無い」
「日本は海に囲まれているから対艦ミサイルは最低4発積めないとね」
「ボーイングよりボンバルディアのほうが優秀だ」
どれが言われたのか今のところ分かってはいない。ただ一つ間違いないのがこの会合はボーイングを本気にさせたということだ。
会合から帰るや否や技術陣はソフトウェアの改良、プログラミングの変更、
またハードポイントの改良までもわずか3日でこなしあっという間にASM4発積載可能とした。
また日本で開発中の2000ポンド級対艦ミサイルXASM3までも搭載可能となった。
生産コストにしてもボーイング側はライセンス料の引き下げの提示、部品の徹底的なコスト対策、
改修点を出来る限り減らし尚且つ性能アップを図るという無理難題をやり遂げることでもって、
僅かながらF2スーパー改以下の価格とすることに成功した。
僅か3ヶ月と言う期間で胡坐をかいていた日本側はボーイングのこの努力には降参する他なく、FXはF15FXとなった。
F15採用決定の報を受けたボーイング社技術陣は夜も開けきらない時間であったが技術者達はみなで祝杯を上げ、
その日は部屋から笑い声が耐えることは無かったという。
763 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/02(土) 01:30:16 [ h4aEybGQ ]
本文が長すぎると言われたので分割
アビオニクス以外の性能面は本家アメリカのF15E以上とも言われ、ダウングレード版ではなかったのはFA22の存在あればこそと言われた。
そのF22AはF15FXのコスト削減の影響からか日本でも採用されることとなり、F15C/DJのMSIPは約120機に留まり、86機のFA22がアメリカ以外では初めて、航空自衛隊に採用されることとなった。
勿論、こちらはきっちりとダウングレードされいている模様だった。
エンジンは最新型のF100-PW-232を搭載し一部兵装を制限すればアフターバーナー無しでも超音速飛行が可能で、レーダーもAN/APG-63(v)3の採用によって多目的任務が可能となり、
特に合成開口レーダーによる優れた地上マッピング能力の保持によって強力な対地上攻撃能力を持つこととなった。
またCFTも当然のように装備され積載燃料の増加によって長距離侵攻能力が強化されている。
搭載兵装も多岐にわたる。
対地攻撃ならばJDAMやSLAM、GUB24ペイブウェイ3といった精密誘導兵器のほかに、Mk81ー500ポンド爆弾を最大26発搭載可能であり、また航法・照準兼任のFLIRを装備をすれば完全な全天候の作戦能力を持ち、AGM65マーベリックや日本独自の光ファイバー誘
ア爆弾GCS3によるピンポイント攻撃も可能となった。
対空対艦兵装でも日本のAAM4やAAM5だけでなくAIM120アムラームやAIM9L/Mが合計で最大8発、ASM1C/2なら最大4発、ラムジェットエンジンの大型対艦誘導弾ASM3さえも同様に4発ずつという凶悪な対艦能力を有している。
日本製、アメリカ製の大部分を搭載可能にしたことにより柔軟な作戦遂行能力と補給の負担の軽減へと繋がった。
日本のF15は戦闘に参加したことがなかったからピースイーグルと呼称されていたが、2011年に勃発した日本海紛争において戦後史上初めての実戦を経験している。
三沢基地所属のF15Jや千歳基地のF15C/DJ改はアメリカ海空軍協力し北朝鮮空軍と交戦した。
この時F15Jはその強力な対地上攻撃能力を遺憾なく発揮し、米第25戦闘航空団のSEAD任務による支援の元、北朝鮮の航空基地やミサイル基地を粉砕たのだった。
この時F15C/DJ改とともに11回の空中戦が行われたが損害ゼロで17機の敵機を撃ち落とし、損耗はエンジン不調による1機だけだった。
775 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 01:55:11 [ h4aEybGQ ]
新潟空港ターミナルビル内に入ると外とは違いひんやりとした風が体を覆う。
トルシアはその涼しさに驚くとともにその建物の内装にも眼を奪われる。
白を基調に統一された床や内壁は大理石とも違う。
天井も高くそこかしこから漏れる照明によって足元まで明るく照らされる。
思わず自分の暮らす館と比べ、そして何故こんなところへ来たのかとため息が出る。
つい隣で疲れて入るものの興味深々と落ち着きの無い妹を見る。
多少表情に硬さは残るものの元来好奇心の強いアリシアは見たことの無い建物を観察することに熱中していた。
それを見るにつけて自分が何をしたかと思い返し、頭が痛くなるトルシアだった。
今日は別に何の変哲もない一日だった。
王国男爵である父は出征のため西の地にあり、私は長子として領主代行の母を助ける毎日。
今年で10歳になる妹も時折おてんばな面も見せたが家族3人で、執事や家人を養いながら頑張っていた。
そんな今日、私がワイバーンの遠乗りから帰ってくるとアリシアがやってきた。
妹には今年の春にワイバーンを与えられていた。
貴族の務めとして一事あったならば剣を取り王のため国のために戦うことが義務付けられている。
男子の居ない、また男女区別無く武芸に親しむ我が家では女も例外はなく、そのため馬か竜が与えたれることとなり、彼女は私と同じくワイバーンに乗ることを選んだのだ。
それ以来、私はアリシアにディルと名づけられたワイバーンの乗り方を教えていたのだが、今日唐突に遠乗りに連れて行ってくれとせがまれたのだ。
しかし、ちょうど遠乗りから帰ってきた私は、また明日ね、と軽く受け流してしまった。
そうしたら勝手に竜舎に繋いだディルに乗って出て行ってしまうなんて!
最近は大人しくしていたので油断してしまった・・・。
幸い羽音ですぐに気づいてジュリ、私のワイバーンで追いかけることが出来たが、そうしたら今度はディルが何を考えたか何時ものお遊び、追いかけっこと間違えたか速度を上げてしまい、遠乗りで疲れていたこちらは前に回りこめなくなってしまった。
長いこと追いかけ真っ直ぐに北西に進み、頭が痛いことに大海原の真ん中でようやく押さえ込めるというところで、東から見たこともないワイバーン、いや空を飛ぶ以外ワイバーンとは違う何かと出会った。
その先導、いや挑発に乗ってしまった私と妹がこうして見知らぬ土地に来てしまったわけだが、アリシアはどうも何時もの悪い癖、新し物好きが出てしまっている。
しかも、困ったことに私たちをここまで案内してきた、素性の分からぬ女に懐いてしまったようだ。
大体、何なんだあいつは。
金属製っぽい濃緑のワイバーンを、その、ちょっと私よりも操れるからって・・・、鼻で笑うなんて!!
先の屈辱を思い出してこぶしを強く握りかおをまっかにしていたら突然肩を叩かれる。
はっと驚いて振り返るとくだんの女、マユミと言うらしいがそこにいた。
「! 何よ!」
思わず怒りに任せて怒鳴ってしまったが、相手はまったく動じなかった。
まったく何故言葉が通じないんだ。
私のちゃんとしたレスペラント公用語を聞いて向こうも変な顔をするし・・・。
エルフレア語が分からないなんて、どれだけ未開の地の野蛮人なのか。
奴もこちらが言葉が通じないと分かっているせいか、ジェスチャーで伝えてくる。
「後ろ?向こうに何が・・・って、アリシア!ちょろちょろしないの!!」
何時の間にか、おてんばな妹は帽子を落とさないように押さえながら鉄砲玉のように階段を上っていっていた。
トルシアも疲れた体でアリシアを追いかける。
そして周囲を囲む面々を見ながらため息をつく。
こっちは招かれざる客なんだろうから、止めなさいよあんたたち・・・。
776 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 01:58:31 [ h4aEybGQ ]
「いただきま〜す!」
昨日から臨時休業だった空港内のレストランに明かりがつき、そこから鼻腔をくすぐるいい匂いが漂う。
周囲を警察、自衛隊が警備する物々しい雰囲気の中、自衛隊ならびに警察の現場指揮官、入管関係者、空港の責任者らを交えての夕食が始まった。
他のものが遠慮してか、トルシアらとは少し離れた席で食事していたが、東と有坂は堂々と空からの客人と同じテーブルで天麩羅せいろ(大盛り)をぱくついていた。
もっとも謎の少女達はというと、姉は席につこうとする東を追い返そうとした。
しかしその隙に有坂がすかさず妹の前の席を奪う。
「!?」
と姉がそちらに気を取られた隙に今度は東が少女の隣につく。
普段どおりの完璧な連係プレー。
仕方なくトルシアは妥協し、嫌々ながら同じテーブルでの食事を許す。
ただし、隣は譲らなかったが。
普段なら一日中働いた後のお楽しみといえる夕食とはいえ、ぴりぴりとした緊張感が辺りに漂う。
トルシアとアリシアは用意されたハンバーグセットとお子様ランチ(日の丸つき)に手をつけない。
周りの人間はそれに気づきながらもどうしたものかと頭をひねる。
だが同席の二人は気にせず蕎麦をすすり天麩羅に噛り付く。
先ほどの外でのやり取りなどから姉妹とのコンタクトは東・有坂の両二尉任せてみようということにしてはみたものの、トルシアとは険悪でありどうしたものかと考える。
そうこうしているうちに食の早い二人は食べ終えて蕎麦湯まで飲み一息つく。
熱い番茶を手に東は正面のアリシアを見る。
どうもトルシアに何かきつく言われていて、手が出したくても出せないらしい。
ただ表情からはもうお腹が空いて空いてしょうがなく、涎まで垂らしている。
隣のトルシアも表情を引き締めているもののお腹までは難しいらしい。
実際、アリシアが二階の土産物屋を覗き込んでいるところを引き剥がそうとしている時に腹の虫が鳴いたのは姉のほうだったりする。
喉の渇きまでは我慢できないようで水だけは飲んでいるところを見ると、警戒感もそれほどきついというわけでもない。
777 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 02:03:03 [ h4aEybGQ ]
すると東が食べ終わった食器を片付け戻ってくると、二人のお盆を持ち上げ厨房へと引き返していく。
あっと声を上げ瞳をうるうるさせる妹とぎりっと歯噛みする姉。
周囲には重い空気が立ち込め非難の視線を向けるも、有坂は我関せずとお茶を飲む。
ただ、すぐに様子が変だと二人は気づく。
東は厨房から戻らず、その厨房からは調理らしき音といいにおい。
3分後戻ってくるエプロン姿の東とその両手にさっきは冷えていた料理が温めなおされて載っていた。
温めなおされたハンバーグと前に座る東を見る。
有坂もドリンクバーからアップルジュースと牛乳を持って来てトルシアとアリシアの前に置く。
トルシアはその光景におかしくなってしまい思わず息を吐く。
自分の一人相撲で早合点し折角の親切を駄目にしてしまうところだった。
隣を見ると妹のアリシアじっと見つめてくる。
「しょうがないか・・・。ここまでしてくれたなら食べないと失礼よね」
姉は苦笑し、妹は表情を輝かせる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
トルシアが礼を言うと、東も言葉は通じてはいないが理解したようで微笑む。
笑えばかわいいのに・・・、と思いながらフォークとナイフをとりハンバーグを食べ始める。
「美味しい・・・。アリシア、その卵に包まれたご飯美味しい?」
「うん!家で食べるよりずっと美味しい!」
「ちょっと味見させてくれない?」
「いやー。マユミに作ってもらって」
「・・・いいわ。私のあげないから」
「えー!ちょっと頂戴!!」
正直言って今まで館で食べる料理は王城専属シェフ並みの腕と評判の者が作っていて、味に不満を覚えたことは無かった。
しかし、今日からはそれも変わりそうだった。
きゃんきゃんと騒ぎながら楽しそうに食事を始める姉妹を見て、周りもほっと一息つく。
一時険悪なムードになってからはどうなることやらと思ったが、それも一安心だった。
すっと席を立った東が端の席にいた現場の最高責任者、基地司令となっていた第32普通科連隊長に声をかける。
「ドラゴンのほうはどうです?何かおかしなことはしてませんか?」
「いや、大人しいもんだよ。君らの映像で見たときは正直おっかなかったが彼女らが飼いならしているところを見ると、少しかわいく思えてきたぐらいだ」
「彼女らは今日はどちらに?ここの仮眠所を使うんですか?」
「うーん。本当は近隣のホテルに移ってもらいたいが、下手に動くと警戒するだろうからな」
これからの二人の処遇について話し合う二人。
「それで君、あの二人をどう思う?」
「姉は少々シスコンの気がありますが、理性的であまり攻撃的ではありません。服も簡素ですがしっかりとした作りですし、また食事を見ると格式高い家柄の生まれだと思います。」
「そうか。それと言葉だが・・・」
「それはどうにも。言語学者を呼んできていただきたいとしか申し上げられません」
「わかった。あとは君と有坂に任せる。明日には帰ってしまうだろうが何とか交流を維持しよう。」
「はい」
東はそう言うと会話を終え有坂がアリシアにプリンの食べ方を教えているテーブルへと戻る。
778 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 02:06:01 [ h4aEybGQ ]
「本当にここでいいのかー?」
新潟空港と同じ敷地内に設置されている空自・新潟分屯基地格納庫内に有坂の愚痴染みた声が響く。
何時もならヘリが格納されている鉄骨で組まれた無骨な建物の中には機影はなく、代わりに急遽自衛隊や警察が近隣の農家を駆けずり回って集めた藁の山、その上で丸くなっているドラゴンと基地から借りてきたパイプベッド。
自分らのドラゴンに自衛隊が用意した食事(骨付き肉など肉200キロ)から必要な分だけ与え、WAC二人に案内されて入浴しさっぱりした姉妹は、用意された部屋を首を振って断った。
では何処がいいのかという問いに彼女らはドラゴンの元に行くことで答えを示した。
何度か身振り手振りで説得しようとしたものの、彼女らの意志は固くしょうがなく格納庫を貸すことになった。
その二人にくっ付く形で東と有坂もベッドを持ち込んで彼女らと床を共にすることになった。
「よし。これでベッドメイク完了」
東が寝床を整えると、周囲には蚊取り線香の匂いが立ちこめ、扇風機の風がその煙を周囲に散らす。
アリシアはもう船をこぎ意識は半ば以上が飛んでいた。
トルシアも仕方ないとばかり妹を自分のベッドに横たえ頭を撫で、毛布をかける。
「電気消すぞーー!」
有坂の大声に目をやると今まで明々と照らされていた照明が消える。
扉の間から少しだけ明かりが漏れる暗がりの中、疲れた体を休めるため瞼を閉じる。
色々ありすぎて疲れ、すぐに眠り込んでしまいそうだった。
トルシアは最後に風呂場であったことを思い出す。
自分の体をまったく恥ずかしげもなく隠さないケーコ。
その女性としては羨ましいばかりの豊満な肉体に思わずため息をつく自分。
アリシアは羨ましそうに自分には無いその大きな胸をさわってきゃいきゃい言っている。
そしてその胸を見て刺し殺さんばかりの視線を湯船から放つマユミ
鉄仮面かとばかり思っていたが、意外と女らしい一面があってほっとするとともにおかしくなってしまう。
そう思い返しているうちに意識は底に沈んでいく。
そして最後に思ったことは、
「マユミだって、胸は私より大きいじゃないの・・・」
有坂(F)>東(D)>トルシア(C)>>|10歳児には越えられない壁|>>アリシア(AA)
779 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 02:09:45 [ h4aEybGQ ]
翌7月6日午前7時。
既に軽い朝食を終えたトルシアとアリシアは既に自分たちのドラゴンの上にいた。
手にはお土産とばかりに渡されたサンドイッチとペットボトル入りのオレンジジュース。
昨日はこのペットボトルや缶入りのジュースなどに驚きっぱなしだったが、何度も味わううちにフタの開け閉めぐらいは出来るようになっていた。
「アリシア!ちゃんと手綱は握っておきなさいよ!」
「うん!大丈夫!」
妹は私のジュリに乗せ、私は妹のディルに乗っていた。
ディルは私の言うことならよく聞くし、妹とも仲が良く振り落とすことは無いだろう。
トルシアがふと向こうを見やると昨日から一緒にいる二人がヘリに乗り込み最終チェックをしていた。
そしてその向こうには黒山の人だかりが。
「私たちは珍獣か何かなのかしら・・・」
その光景に呆れたような訝しげな表情を浮かべるトルシア。
昨日からの自衛隊と警察の異常な行動は当然マスコミの目を引き、目端の利くカメラマンは新潟空港のフェンスの外から見事昨日のファーストコンタクトを撮影していたのだった。
その夜のニュースで放映されるや否や、一気にボルテージは高まり、新潟空港には一目異界の少女達とドラゴンを見ようとヒマな野次馬とマスコミが集結することとなったのだ。
しかしテレビも見ず、当然に新聞も見ない彼女達には一体何事かさっぱり分からず、外の異常な喧騒に首を傾げるばかりだった。
後ろで同じように手綱を握るアリシアと視線を合わせる。
妹が黙って頷くと、足でワイバーンの脇を蹴り手綱を引く。
それを合図にディルは羽ばたき宙に浮き、ジュリも同じようにアリシアに従い、同じように雲ひとつ無い鮮やかな青い空に向かって飛ぶ。
少し離れたところにいる自衛官らは歓声を上げ、帽子や手を振る。
それを見て姉妹は笑って同じように手を振って応える。
東と有坂が乗るAH64−DJも同時にローターの回転数を上げ発進していく。
同時に滑走路からは増槽を抱えたF15Jが飛び立つ。
それを横目、朝のことを思い返す。
780 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 02:13:28 [ h4aEybGQ ]
起床して顔を洗い、用意された食事を取るとそこには昨日有った時と同じ緑色のつなぎっぽい服を来た東と有坂らが来る。
彼らの手には何かを写した紙があり、トルシアはそれを見ると思わず声を上げてしまう。
そこには鮮明な自分らの国の海岸線が写っていた。
よく見るとそれは随分高空から描かれた絵であるようで、それが何枚も、中には自分の居城があるユーリエの街まであった。
トルシアが驚き、アリシアが無邪気に感嘆していると、床に同じようなものが何枚も敷き詰められていく。
それは大きな、このあたり一帯を表した鮮明な地図となり、その中に白い丸と赤い矢印、白い矢印がある。
見るとどうやら白丸が今、自分がいるところで、赤い矢印が途中からではあったが昨日の自分の動き、そして白いのがマユミとケーコの動きらしい。
そこでトルシアは理解する。
彼らは私が何処から来たのか知りたいのだ。
一宿一飯の恩もあり、またどうにも敵意が感じられないので素直に自分の街を指で教える。
ここ数日空を轟音を上げて、自分たちを悩ませていたはるかかなたを飛ぶワイバーンは彼らだったのだ。
そしてこの国のことを詳しく調べている。
だが先の地図で見るとここはトルシアの父の領土とは100マイルほどしか離れていないで、こんな変わった国は知らない。
一体何なのか、まったく想像だに出来ない。
ただ分かることは何か大変なことが起こったということ。
「ただでさえ西では・・・」
トルシアはワイバーンの上で懊悩する。
そんな彼女の前を朝のブリーフィングどおりに先導するために東と有坂のヘリが行く。
「風防もなしに何であんなに早いスピードが出せるんだろう・・・。てかほとんど髪乱れてないぞ」
「・・・言葉が分かれば分かるんだがなあ」
トルシアが高尚な悩みを抱えていた時、ヘリコプター内のお気楽な彼女らは別なことに頭を悩ませていた。
新潟空港を出発し南東へ時速200キロ、およそ一時間の行程で海岸線が見えてくる。
AH64は速度を落とし、トルシアらの横に並ぶと東と有坂は手を振る。
トルシアはさっさと帰れとばかりに、アリシアは名残惜しそうに手を振る。
それを見て有坂は180度旋回し機首を北西へ向け帰還する。
そしてそれまではなれて哨戒しながら付き従ってきたF15Jもワイバーンに近づき翼を振り轟音だけを残し去っていった。
少し名残惜しそうにトルシアは見送りながら、思う。
「父様に何て報告すれば・・・。ああ、先に母様になんて言い分けを・・・」
憂鬱な面持ちは自分の館についた後も変わることはなかった。
781 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/03(日) 02:17:24 [ h4aEybGQ ]
空港に戻ると早速基地司令らに出頭を命ぜられる東らだった。
「ご苦労。それで彼女らは?」
「はい、途中までですが無事に彼女らの家の近くまで送っていきました。」
「うむ。彼女らが着陸するところはAWACSのレーダーでも捉えていた。トルシアさんが指し示したところだったよ」
「へー。レーダーに映ったんですか?」
「ああ。昨日と違ってばっちりな。昨日は機器の調子が悪かったのだろう」
そして他に幾つかやり取りをすると、隣にいた臨時政府の外務官僚が口を挟む。
「しかしこのまま返さないで、留め置くべきだったのでは?折角の情報源をみすみす・・・」
人を見下した詰問調で言う男に東はむっとして言い返す。
「言葉が通じない以上、返して次を待ったほうがいいかと思いますが」
「それなら、なおさらこちらの言語学者らの研究対象とすべきだった!君らは政治の何たるかがわかってない!」
「自衛官が政治を語ったらヒス起す方が何をおっしゃるんでしょうか?第一、あのドラゴンの応対はあなたがしてくれるんですか」
東の反撃に男は口角泡を飛ばす。
「何だと!貴様らが撃てばいいだけだ!!」
「正当防衛ってご存知?ROEってご存知?」
お互い掴み掛からんばかりのにらみ合いとなり、基地司令の一等陸佐が一括する。
「やめないか二人とも!東も言いすぎだ!」
その言葉に基地司令に向き合うと頭を下げる東。
「君もだ向井課長。どちらにしろ私にあんな子供達を抑留する気はありません。何か我々にさせたければ、しかるべきところのしかるべき命令書を持ってきたまえ」
「なっ!外交は我々の領分だ。武官はひっこんでいろ!!」
「子供相手に何が外交か!!もう帰りたまえ。ここに貴方の居場所は無い。すぐさま仙台に連絡して代わりの柔軟な人に来ていただく」
その言葉に顔を真っ赤にしドアを蹴り開けて出て行く外務省の向井課長。
それを見送って東は一佐に聞く。
「良かったんですか、あんなことを言って。昇進に響きますよ?」
「かまわん。日本が滅びるかの瀬戸際で役人根性出されるよりマシだ。それで次の手はあるのか?」
「はい。彼女らにはまた来ていただきます。そこで将来的に会話がなんとか出来るよう、言語学者らを出来る限り用立てていただきたいのですが」
「それは仙台も喜んで派遣してくれるだろう。だが迎えにでも行くのか?危険ではないか?第一、訪ねる理由が無い」
「姉のトルシアはともかく、妹のアリシアはかなり好奇心が強いようです。数日以内に必ず来ます。それに」
「それに」
懐から何かを取り出す東。
「アリシアの帽子をかっぱらっておきました。これで理由が出来ました」
そういってにやっと笑い、誰にも聞かれないように呟く。
「あんな可愛い子そう簡単に手放してたまるか・・・」
東は生粋の年下好みであった。
しかし三日後、彼女の予想が的中し、外れることになる。
837 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/10(日) 23:02:25 [ YJREuXcA ]
エルフレア戦記 番外編その二
理系のちょうせん
転移の日、陸上自衛隊所属のAH64-DJに撃ち落されたドラゴンの遺骸は新潟県南部沖35キロの海上で回収された。
その死体は腐敗する前にただちに新潟大学の研究施設に運び込まれた。
しかし
「・・・大きいな」
「大きいですね」
「これじゃあ解剖室に入りませんよ」
翼を広げたら全幅が30メートルほどの巨体、何時もは豚ぐらいの大きさの動物を扱う実験室には入りきらなかった。
てか輸送されてくる前に気づけ。
話し合った結果、サンプルが欲しいという他の研究機関の意向もあって駐車場で大まかに解体することとなった。
もっとも頭部は直撃した30ミリの弾丸で半ば以上は木っ端微塵で中の脳細胞が飛び出ていたし、首も引きちぎられていた。
スプラッタな肉体をのこぎりを使い、翼や足を取り払って小さく解体していく。
解体した胴体以外の部分は腐敗しないように東北大などへと運ばれていった。
駄菓子菓子
「胴体だけでも無理かー」
「いや、解体する前からわかるでしょ。目分量でも」
やっぱり入らなかった。
仕方なく解剖は近所の倉庫を借り切った上で行われることになった。
まずは外見や皮膚をじっくりチェック。
「この鱗は皮膚が硬質化したにしてはずいぶん硬いな」
「しかも硬度は強化プラスチック並ですがそれよりも随分薄くて軽いですね」
「ただ腹部は大抵の爬虫類と同じで幾分柔らかいですね」
そんなこんなであーだこーだやっていると開腹作業に取り掛かる。
心臓や肺、胃などといった内臓や皮膚を切り離し、台に乗せていく。
この作業のためにわざわざ冷房を設置したものの、北国新潟といえども7月の陽気はいかんともしがたく、厚い白衣にマスクでは体中から汗が噴き出し、その熱気に思わず倒れそうになる。
そうこうしているとようやく大まかな解体が終わり、みな一息を入れるため倉庫の外に出て行く。
血や脂がべったり張り付いた手をよく洗い、マスクを取り白衣を脱いで一息を付く。
あるものは煙草をふかし、あるものは麦茶で喉を潤したり、水道を頭から被ったりとそれぞれの短い休憩を楽しむ。
そこに助手の一人があわてふためいたようすで駆け込んでくる。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
ぜえはあぜえはあと肩で息をする助手が口から泡を吐く勢いで叫ぶ。
「に、新潟空港にドラゴンが!生きたドラゴンが来たっていう連絡が!!」
ナッ(; ・`д・´)(`・д´・(`・д´・ ;)ナンダッテー!
解剖を優先すべきか、それとも生の生きてるのを見るか。
みなの心は一つだった。
やっぱり動いてるほうでしょ!!
車を飛ばして一路新潟空港へ。
研究者達はそこでおっかなびっくりながら生きてるドラゴンとじっくりと心行くまで触れ合えるのだった、まる
もっとも時折怒らせて噛まれそうになったりブレスをかけられそうになるのはご愛嬌。
838 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/10(日) 23:06:21 [ YJREuXcA ]
色々ありほったらかしにされたドラゴンの検体はその後しばらくたってから解剖されることになった。
すると、調査の前に一人の研究者がある提案をした。
「このドラゴン、食べれませんかね?」
かの生きた化石の代表格シーラカンスも捕獲されて、それが日本で調査された時にもフライや焼き魚にされたという。
そこで急を要することも無いので調査は後回し。
みなもノリノリで痛んでなければ食べてみようとあいなった。
しかもこの時、転移時に尾瀬を散策していた秋篠宮殿下も見学に訪れられていたので、味見していただくことに。
サンプルを調べた結果毒物も無いことが判明。
言うが早いかちゃんとした料理師免許を持った者が呼ばれ、保管されていたドラゴンから切り出された一部、切り身があれよあれよと言う間に料理になっていく。
唐揚げ、ソテー、具沢山の味噌汁etc
美味しそうな匂いが部屋中に充満する。
みな興味深深で待ちきれない表情をして箸を握る。
そうすると場の最高責任者である教授が一言。
「まあ、まずは私が毒見と言うことで。すみませんが殿下は後ほどでお願いいたします」
周り中のブーイングを一心に受けて教授はまずは唐揚げを口に含む。
「うん!これは中々いける!少し歯ごたえがあるが臭みも無く美味い」
それを聞いて場のボルテージが最高潮に達した。
するとそこへ一人の少女が自衛官とともにやってきた。
大学を見学しに来ていた王国貴族令嬢トルシア嬢と半ば腐れ縁になってしまった感のある有坂と東の両二等陸尉だった。
盛り上がった場に不意に訪れてしまった彼女はこの場は何のパーティーかと尋ねる。
「・・・ドラゴン?ワイバーンのことですか?私は食べませんが、野生のを食べた人の話を聞いたことはありますから毒は無いはずです・・・」
なにやらもごもごと言い難そうに言葉を濁らせる。
少し不安になったのか若い研究者が彼女に尋ねると
「・・・もしかして、そのワイバーンの足には目立つ金属製の輪がありませんでしたか?」
その不意の質問に場が静まるとそのうちの一人が確かあったと言ってその写真を見せた。
写真を見ると少女は表情を曇らせる。
「あー、その言いにくいことなんですが・・・」
一瞬言葉を切る。
すぐに場の不安げな空気を察してわたわたと手を振って言う。
「いえ、体に害はありません!それは間違いないです。ただ・・・」
みながその続きに耳を傾ける。
意を決してトルシアが深呼吸して言う。
「このワイバーンは恐らく竜騎士団を脱走して、山脈を越えてグランザに来たと思われるもので・・・」
「最近辺境の村を襲うワイバーンとして騎士団が追っていたものなんですが・・・、その際、村人を何人も食べたと・・・」
それを聞いてぶはっと噴き出す教授。
顔を青ざめさせる研究者達と殿下、口元を痙攣させながらこらえようとする東、そして部屋を出て思いっきり大笑いして転げまわる有坂。
「味とかには問題ないでしょうが・・・その、精神的によろしくないかと」
すまなそうに言うトリシア。
確かに人の血肉を餌に育った肉なんて誰も食べたくないよ、とは危うく食べそうになった研究者の言である。
その後保管されてた消化器官からは人骨が推定(最低)6人分ごろごろと。
この顛末は大学だけでなくマスコミにも知られてしまい、割を食った教授は赤っ恥をかくことになってしまったのだった。
ちゃんちゃん♪
「人を食った竜を食う・・・。まさに人には怨念がおんねん」
終われ
16 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/28(木) 03:00:36 [ .o.AnDnw ]
糸魚川より西南西の方向におよそ150キロ。
海から少し離れ内陸に入り込んだ先に、ザビエフ子爵領の中心地、ユーリエの街がある。
陸地の大半が厚く暗い緑に覆われたこの大地、周囲でほんの僅かだけ開けた土地におよそ1万人の人々が暮らす。
ここは主に内陸を東西に貫く街道沿いにあり、また南の鉱山都市と海とを結ぶ中継地として栄えていた。
もっともこの周囲にある集落は大体そのような街が多いので、いうなればよくある町、普通の田舎町ではあったが。
その落ち着いた街より少し離れ閑静な森の中に建てられたしザビエフ家邸宅。
万が一には水堀で囲まれたこの城塞に立て篭もることが出来るようになっているこの石造りの建造物の一室、ここ数日は屋敷の人間たちが戦々恐々としていた部屋。
その一室のドアが開きその部屋の主が憔悴仕切った面持ちで出てくる。
細く白い手には分厚い書類が入り蝋で封印が施された二通の封筒を手に持ち、誰かを探すように左右を見渡す。
ちょうど折りよく、トルシアが探していた初老の執事長が皺深い顔にさらに眉間に皺を寄せてやって来た。
彼女は執事長に早馬を仕立て、片方を父に、もう一方は王城の外務卿に届けるように言付ける。
彼は昨日来の悩み、かわいい姫気味の部屋からうめき声や叫び声、何かの破砕音がようやく聞こえなくなることに心底安堵してその旨を了承するが、主筋の少女の身なりに眉をひそめ苦言を呈す。
ここ三日ほぼ自室に閉じこもり、あーでもない、こーでもないとうんうん唸りながら、時折思わず机を蹴り壊したり涙を流しつつ修理しながら机に向かいっぱなしだったトルシア。
当然の如くと言おうか髪はばさばさ、着たきり雀の服はよれよれ。
貴族の子女の格好ではなく、ぶっちゃけ締め切り前の作家といった風貌だ。
「・・・分かっています。今日は湯浴みをしてゆっくりするので、用がなければもう行きます。」
「分かりました。ああお嬢様。アリシア様は今日はどちらに?」
「確か昨日会った時、今日はカノンの家に行くと言っていたわ。何時ものことでしょうから心配する必要は無いわ」
そう言うと踵を返し、足早に三日ぶりの念願の風呂場へと向かった。
「カノンー。アリシアちゃんが遊びに来たわよ」
「はーい!今行くー」
町外れの森の中に立てられたこじんまりとした家に二人の女性の声が響く。
テーブルに向かい何やら紙に絵筆で文様を描き込みながら念じる見目麗しい20代ぐらいの若い女性。
その脇をドタバタと身支度を整え、収納箱から何かをひったくる様に掴む幼い少女。
綺麗に整えられたさらさらの長い髪、まん丸いガラス玉のような瞳を輝かせて外に向かうその格好は遠出をするような服装をしていた。
一瞬、また何か仕出かすのではないかと思った母親はやんちゃざかりの娘に釘を刺す。
「あまり森の奥に行っては駄目よ。アリシアちゃんは一応お嬢様なんですからね」
娘は母親の心配そうな声に首をぎぎぎっと回すと勤めて平静を装う。
「大丈夫だって。今日はディルと遊ぶだけだから!」
カノンはそう言って母親を安心させようと懸命に引きつった笑顔をみせる。
こうして生来のおっとりさんだった彼女の母親は娘の三文芝居にあっさり騙されることになった。
17 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/28(木) 03:11:24 [ .o.AnDnw ]
「大丈夫?例のものは?」
やんちゃざかりのお嬢さんは丸太作りの簡素な家から出てきた腐れ縁の友人に首尾を問う。
それにぐっと握りこぶしをして見せ、もう片方の手はその成果を見せる。
しかしカノンは自分のやったことに罪悪感を感じ不安げな色を浮かべる。
「ばっちりだ!だけど、これ全部は不味いんだけど、信用していいのか?」
相方の不安を聞き、アリシアは任せておけとばかりに右手で無残な絶壁を叩くといけしゃあしゃあと言う。
「安心して。うちは三流貧乏貴族だから払えないわ」
「本気で殴るよ」
カノンが頑丈な革製のブーツのコツコツと足音高く歩く横には同じように動きやすい服装に身を包んだアリシア。
何時もの無邪気な姿と違い、無断で商売品を持ち出した友人にどうどうと問題発言で返す友人に冷たい視線が投げかけられる。
「あてはあるから心配しないで、必ず全部売れるわ!!」
「でもこれって幾らだったかなあ・・・。私知らないんだけど」
「そんなの適当で大丈夫よ!いざとなれば差分も請求するわ!」
計画性は皆無ですと自白した令嬢は無い胸を張り根拠の無い自信を振りかざす。
無体な発言に呆然とする友人の手を掴むとさっさと彼女は自分の愛竜に引きづり上げた。
自室の大きく開け広げられた窓からは夏の強い陽射しとともに草花の強い緑の香りを風が運んでくる。
薄い布地一枚のみ着込んだだけの湯上りの火照った体を僅かばかりでは合ったが心地よく冷してくれた。
「ああー、もう今日は何もしたくないわ・・・」
タオルで首筋の汗を拭いながら戻ってきた部屋の主はほっと一息つく。
ようやく全ての何時から開放され、三日ぶりの入浴に気分は爽快、表情は緩みっぱなし。
待ち焦がれたとばかりに思わず大の字模様にベッドに倒れこむ。
昨日侍女が干したばかりのふかふかの布団に体が埋まる感覚がとても心地よい。
それに何より先に爺やに渡した書簡が大きい。
3日前のあれを関係各所に報告するため延々今朝まで悩み続け、途中父親より先に禿げてしまうんじゃないかと思いながら書き上げたあの書簡。
正直そんなのは勘弁して欲しい。
「あんなのどう報告すれば信じてもらえるのよ・・・。でももう出したからあとはなるように・・・」
おかしな土地であったあの摩訶不思議な人との出会い。
もっとも言葉が通じないという致命的な問題はあったが、それはもう気にしていない。
この辺境ではそうそう他の言語圏の人間に会うということはないので必要ではなかったあれがあれば。
明日にでも他に誰か連れて行ってみよう、誰かいい伝書使になれる人いないかなあ、と思いつつ瞼を閉じたのだった。
18 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/28(木) 03:14:12 [ .o.AnDnw ]
ところがどっこい
「・・・しかし今日は一段と暑いわ」
彼女はあっさりとは眠れなかった。
この日ユーリエは日本で言うなら真夏日。
いくら緑に囲まれ東京のような24時間ヒートアイランド現象な大都市と比べればマシなほうではあるが、疲れた体にこの暑さはきつかった。
「あそこの涼しさが恋しい・・・。言葉さえ通じていれば・・・」
新潟空港でのちょっと匂いが気になったが、爽やかな空気を思い出し何度も何度も寝返りをうつ。
こういう暑い時は思わず冷たい場所を探す悲しい人の性。
ただその分摩擦で余計に暑く感じてしまったり。
動くたびに寝巻きがずれて体に違和感を感じる。
彼女は暑さにイライラが募り、邪魔よとばかりに寝巻きを脱いでは放り投げる。
思い切った生まれたままの姿で微風に何とか涼を求める。
今度行ったら絶対あの冷房魔法覚え・・・、は無理だから何とか買ってこよう。お小遣い足りるかな・・・。
そう心に強く誓うトルシアだった。
33 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/29(金) 03:35:02 [ .o.AnDnw ]
第5話 小さな小さなセカンドコンタクト
7月9日午前10時。
ちょうど大陸ではトルシアが熟睡をむさぼっている頃。
新潟空港には明日の出発を前に各種約30機のヘリコプターやその他航空機が雑然と並んでいた。
さらには陸上自衛隊の諸部隊に急遽偵察任務から呼び戻されたSEALs・特殊作戦群の混成部隊などが待機している。
整備員は急な集結に何時もより余計ひどくオイルの匂いにまみれ、うらみ節を漏らしたが、他に集まった人間、特に陸上自衛隊普通科連隊の隊員などは自分の装備を点検に勤しみつつ周囲との歓談を楽しむ。
大多数が日本人の中、例外的な極少数の外国人もその輪に混じり、SEALsのレイナ大尉はここ2週間連れ立っている日本人士官とともにUH60−JAのハッチに腰掛けていた。
「しかし、あのドラゴンとの空中戦は何時見てもエキセントリックだ。自分もあんな風にリナやトンヌラみたいな冒険がしてみたい!」
「ヤンキーなんだからせめてハリーポッターって言えよ。しかも言うに事欠いて今さらトンヌラかよ・・・」
「あんな3流小説は読まん!それに最近ソフトと一緒にSFC買ってな。結構これが面白くて」
「あーあー、そうかい。ところで今浦、色々大活躍の東と有坂にはあったのか?」
日本人かぶれな白人に佐々木一尉は苦笑すると、顔を正面のパイプ椅子に座る今浦二尉に向ける。
「会いましたけど、何時もどおりおちゃらけた二人でしたよ。今日はもう自機の整備終わらせて明日のために英気を養うー、とかぬかして中で大騒ぎやってますよ」
以前佐々木の部下だったこともある彼は思わずにやけてしまう。
「ただ個人的には竜なんかとはやりあいたくは無いです。出切れば明日のお届け物は無事に終わって欲しいですね」
「そりゃ自分もそう思うよ。しかし、アポ無しで行くのは大丈夫なのか?」
佐々木の言葉は不安を表すも表情は大変面白そうににやにやと笑う。
「しかしよりにもよって大人数で、チャイムを鳴らして 「忘れ物の帽子届けに参りしましたー♪」 は無いよな」
そう言って三人で顔を見合わせてげらげら笑う。
「でも東はあれで頭は抜群に切れますからね。見込みが無いことなんて絶対にしませんよ」
防衛大で同期であり、色々知りっている今浦はそう太鼓判を押す。
「そうかあ?どうにも行き当たりばったりと言うか、何と言うかだが・・・」
「でも、もう決まったことですし。それでは自分はそろそろ戻ります。まだ「しもきた」で調べ直しておきたいことがありますので」
「例の空撮のか?」
それは昨日撮影されたばかりの写真のこと。
「はい。あれなら仕事が出来るでしょうから入念な準備が要りますしね。有馬には任務にへぼって救援要請を出すように仕込んでおきますよ」
「馬鹿!」
そう言ってにやにや笑って今浦は立ち去り、残った佐々木とレイナも苦笑してその背中を見送る。
立ち去る今浦を見送ると、佐々木はヒマそうに89式小銃を整備する。
レイナは傍らにあった読みかけライトノベルに見入る。
日本のじめっとした汗ばむような7月と違い、気候が変化したせいか転移してからは暑い陽射しも日陰なら涼しく感じられるようになった。
過ごしやすくなった夏に恩恵を預かってか、格納庫では金属音を響かせ整備が進む。
34 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/29(金) 03:38:28 [ .o.AnDnw ]
穏やかな午前中、少しは作業が一段落着いたのか何人かの整備員はそこかしこで一休みを思い思いの方法で楽しんでいた。
作業でかいた汗を拭い、冷えた飲み物で喉を潤す。
しかし、そんなゆったりとした時間は長くは続かなかった。
突如空港中に鳴り響くサイレンとともに、整備員達は機体の発進準備に走り、お茶を飲んでいた陸自隊員は茶碗をひっくり返しながらSAMの元へ散っていく。
「AWACSからの情報だがこちらに一直線に向かってくる機影1を確認したそうだ。速度と方向から例のドラゴンらしい。目視で確認し、人が乗っていた場合はならマニュアルどおりに誘導しろ」
スクランブル機に素早く乗り込んだF15J戦闘攻撃機のパイロットのインカムに管制からの声が流れ込む。
空港全体に甲高いエンジン音が雷鳴のように轟き、青白い光を発して飛び立っていく2機の戦闘機。
ターミナルを飛び出してきた女性二人は、それをぼんやりと見送る。
「彼女かな?」
「案外、撃墜マークをつけることになるかもしれんよ。どちらにしろ私たちの出番は無さそうだ」
もしトルシアのドラゴンだった場合、ジェット機では速度差が有り過ぎ誘導に問題が出ると思われた。
そのため司令部では誘導のために空自のUH60Jを派遣することにしていた。
既に竜と腐れ縁気味で、少々問題児的な扱いになっている東と有坂はシフトの関係上誘導任務から外れていたのだった。
「まあ、いずれにしろ今日を楽しむとしよう」
「明日からは忙しくなりそうだからな」
およそ10数分後、亜音速で西の空に消えていったF15Jから、半ば予想通りの連絡が入る。
「目標はドラゴンと確認。乗員付き。これより誘導する」
1時間後、濃紺のヘリのあとを追う様に少女を乗せた黒い翼が、3日前とは違いゆっくりと再び新潟の地へと舞い降りる。
少女を乗せたドラゴンがその身を滑走路脇の芝生の上で腹ばいとなると、乗っていた少女が慣れた様子で地面に飛び降りる。
今浦とは別に偶然、臨時配属された普連の連隊長のお付きとして新潟空港の司令部に顔を出していた有馬二等陸尉は、遠巻きにして顔を見合わせていた自衛官に訝しげな表情を浮かべる。
「何を驚いているんだ?この前来たお客さんじゃないのか?」
傍らの前から新潟空港警備の任についていた高射隊の隊員は頭を左右に振る。
「片方だけはな。だがもう一人はあんなに小さくは無かったよ」
彼らの前でドラゴンから降り立つ少女は二人。
片方はアリシアと名乗ったと夜空の星のように輝く銀髪の少女。
だがもう一人は、遠目からも目立つ翡翠のような深い緑がきらめく長い髪。
アリシアと大して変わらない背丈の小さな体には涼しそうな簡素な短パンとノースリーブのシャツ。
手には飛行中の寒さ対策のためか服と同じ白いマント。
けれども、もっともその場にいた者達の注目を引いたのは、翠髪の間から突き出していた体のある一部。
普通の人間ならありえないほどにとがった長い耳。
転移してからみなが勉強するように流行ったファンタジー小説や映画。
その中の多くに登場するある者たちの特徴をみなは思い浮かべる。
少女らを眺めていると、何時の間にか現れた東と有坂が小さなお客さんたちに近づいていた。
それを見て、有馬はなんとなく思う
「だけど、今さらエルフぐらいじゃ誰も驚かんだろうなあ」
ただこうも思う。
「規制食らいそうなエ○ゲー業界は大丈夫かな?折角いいネタが来たんだ、死ぬなよエウ○ュリー」
35 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/29(金) 03:41:41 [ .o.AnDnw ]
「トルシアじゃないな。もう12人の妹のうちの3人目か?」
「いや、明らかに種族違うって」
有坂と冗談を言いつつにこやかにアリシアたちに近づき、気楽そうに片手を上げる。
「こんにちわ、って言っても分からんか。まあ、雰囲気は伝わるか」
自分の言葉に苦笑する東にアリシアは意地悪そうに微笑む。
「こんにちわ。遊びにきましたー!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・どうかしましたか?」
にこやかな表情を凍らせたまま押し黙り顔を見合わせる二人に、アリシアは疑問符を浮かべる。
もっとも分かってての所作ではある。
「ま、まま、まだ慌てて、てる時間帯じゃ、ないにょ?」
「東、とにかく落ち着け。あー・・・、アリシア?」
「はい?」
有坂の疑問を承知でアリシアは小首をかしげて言葉を待つ。
「何で言葉が通じてるんだ!?」
予想外の展開に泡を食った二人だったが、落ち着いて2人に質問を投げかける。
するとあっけらかんと簡潔明瞭な答えが返ってきた。
「ふむ、つまりその護符というかお守りというか何と言うか」
「その胸に下げてる、魔法の呪文が書かれた板が翻訳してると」
「ボクたちはタリズマンって言ってるんだ。便利でしょう?」
アリシアの友人が笑いながら胸元のペンダントのような金属板を手に持ちひらひらと振ってみせる。
話を聞くと彼女はアリシアにいきなりここに連れて来られたようで随分と緊張していた。
ただアリシアが何時もと変わらない様子なのに安心してか、彼女の友達同様の好奇心が首をもたげてきているようだった。
アリシアたちが言うにはタリズマンとは魔法の力を封入した、ある種のお守りのようなものとのことらしい。
これを身につけると種類に応じて様々な魔法効果を、魔力が無いものにも使えるようになるという。
その効果は今使っているように翻訳などの補助用途の他、彼女らが乗ってきたドラゴン、彼女ら曰くワイバーンに付けた風除けの結界や戦闘時の防御目的、中には時限発動の暗殺用途のものまであるという。
ただ彼女らにしても専門的ではないため細かい質問には答えに窮してしまうことも多々あり、原理などはそのうちカノンの母親に尋ねに行くことになる。
36 名前:5xd2uHUE ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/09/29(金) 03:51:12 [ .o.AnDnw ]
エルフの少女が手に提げた布製の鞄を叩く。
「私のお母さんが作ってるんだ。せっかくだから一つ20クローネでどう?普通は30クローネするんだからね」
「ちょっと待て。是非買いたいがそっちの通貨を換金できないからバーターにしてほしい」
「バーター?バターじゃどう見積もっても樽10個ぐらいになっちゃうよ」
「物々交換って意味よ。しかし、なんか時々翻訳が変になるなあ」
そうは言うものの、会話が可能なことに一安心した一同の間には和やかな雰囲気が流れる。
ただその中で忘れられている肝心なことが一つ。
「アリシア。こちらの、今日始めて来たお客さんを紹介をしてもらえるかな?」
会話にすっかり気を取られていた一同は、東の一言でエルフの少女に一同の視線が集まる。
あっ、とアリシアは思い出したように声を上げる。
その当の本人も自分が忘れていたことを棚にあげで傍らの友人を肘で小突く。
「そうだよ。ボクもここが一体何なのか聞いてない。早く説明して」
「そうだ。早くしてくれ。オレは事情に疎いんだ」
「この子はカノンって言うんです。私の友達なんです。今日は私が無理言って連れてきちゃいました。ダメだったでしょうか?」
「こっち入国許可さえとってもらえれば問題ないはずよ・・・、っておい」
女性4人のはずが何故か混じる男の声。
さっと身構える少女二人と何の躊躇無く声の主に回し蹴りと左フックをお見舞いするWAC二人。
「どっから湧いて出た?」
「ママンの胎内から・・・、って冗談だ。連隊長のお付きでな。出切ればそちらのリトル・レディーを紹介して欲しいんだが」
いつの間にか会話に加わっていたのは、北方機動演習からそのまま輸送艦ごと新潟へと移動して来た有馬だった。
何食わぬ顔をして会話に混ざってきた男に冷ややかな視線を浴びせかける女性陣。
「いや、出会いは貴重だし、将来性に期待が持てるし。いいじゃないか」
「五月蠅い馬鹿者。ここは暑いし、悪い野良犬に食われる前に早く冷房の効いた場所に行きましょう」
東はそう言うとアリシアとカノンの二人の背中を押すようにターミナルビルへ歩を早める。
室内に入ると外とは違う、からっとした冷気にアリシアは極楽というふうに顔を緩ませる。
現代生活初心者のカノンはエアコンの送風口から冷気が出ているのに気づき「これなんて魔法?」と目を白黒させていた。
さらに周囲の自衛官らはエルフと言う未知の存在に、前回の訪問以上にボルテージは上がる。
カノンは二度目と言うことで慣れて大人しくしているアリシアを放り出し、遠慮なく建物の中を飛び回っては大人たちをやきもきさせる。
ただ、周囲の大きい人たちはみな見た目はそこらのアイドル以上の二人に目尻は下がりっぱなしであったが。
そんな中、興奮の坩堝と化した室内で唯一肩を落とす一団が。
セカンドコンタクトのために一昨日から新潟に詰めていた大学などの学者、研究者たちであった。
彼らは自分らが来た意味は何だったのかと肩を落として帰っていく。
ただし、文学者だけは文字解読の仕事が楽になったと喜んでいた。
150 名前:アルザス ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/10/09(月) 01:44:01 [ .o.AnDnw ]
番外編その一
×あずまのですのーと(脳内設定で横線で消してください)
あずまのふつうのにっき
7月2日
今日は北方機動演習。
北海道に向かう陸自の面子にくっ付いて行くことになった。
正直、最近少し疲れているけど書類仕事の無い演習はうれしい。
北海道に着くと早速間借りしてたDDHあまぎから出撃。
だけど昨日のあまぎでの晩御飯、シチューは美味かった。
しかし何故カレーじゃない。
材料同じじゃないか。
ちょっとムカついたけど美味いシチューだったので赦す。
何時もどおり有坂と空中散歩。
やはり空はいい。
海岸線を飛んでると櫓を発見。
左翼の抗議っぽい。
折角なので挨拶をしてやろうと思う。
有坂に高度ギリギリスレスレのところを最速で飛ばせる。
ああっ、計器が狂って高度計も速度計のメーターが振り切れてしまった(棒読み)
味方にも被害が出た。(やるき無し)
君達の犠牲は忘れない(敬礼)
あまぎに戻ったら怒られた。
左翼やマスコミのボケからクレームが来たらしい。
折角なので有坂に責任を擦り付けてみる。
やっぱりひっかかった。
お説教が終わって有坂が無言でデンプシーロールをかましてきやがった。
叙々苑1万円で手打ち式。
艦長にもう今日中に帰れと駄目だし食らった。
マジうざ、ヘルファイアでカマ掘ったろか?
有坂になだめられる。
有坂に慰められるなんて、死んだほうがマシだ!!
艦長のことを、忘れない。
1700、八戸到着。
さっさと整備する。
朝一で帰るんだ。
原稿が私を待っている。
有坂に食堂で私が食ってるいちご煮文句言われた。
この肉女めーーーーーー!
そんなに胸の肉を削り取られたいか!!
朝早いのでもう寝る。
作家の朝は早いのだ。
167 名前:アルザス ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/10/10(火) 23:30:03 [ .o.AnDnw ]
第6話 姉襲来
「いやあ、僕たちの世界にはエルフもドラゴン、ワイバーンもいなければ魔法も無いんだよ。だから多少話しが食い違っても勘弁してね」
「魔法もエルフも無いなんておかしなところ。」
「うんうん、変だよ絶対。でもこのぱふぇってのは魔法よりいいな!」
「悪い事は言わない。でもぷくぷく太るからお替りは止めておきなさい」
ここは前回同様新潟空港ビル内の食堂。
アリシア、カノンの異世界の少女達と担当(仮)の東と有坂、結局ついてきた有馬の5人でテーブルを囲む。
東がティーカップを下ろすと備え付けの液晶テレビのほうを向く。
「これが私たちが撮影したこのあたり一体なんだけど分かるかな?」
「ちょっと分かりにくいけど、おそらく間違いないです。でも随分綺麗な絵ですね〜」
少女達は画面に映し出された航空写真や映像に目を白黒させている。
転移してちょうど1週間、日本としては流石にこれ以上の閉塞状態を打破するため、ヒューミント、人間による情報収集が必要となっていた。
アリシアやカノンの存在はまさに僥倖であった。
まらカノンが持っていた異言語間の翻訳を行う魔法のタリズマンは、言語学者と同様に待機していた科学班らにはにわかに信じがたい存在だった。
しかし、カノンが実際に魔法をやってみると言い出し、その通りに光球、照明魔法をやって見せたため彼女らの言を信じるしかなった。
最初は基地司令や他の人間を交えて、この世界のことやこの周辺の地理状況についてアリシアらに質問をぶつける。
ただ彼女らはまだ子供と言うこともあって年相応の見聞きした知識しか有しておらず、それほど収穫があったわけではなかった。
それでもある程度の断片的の情報でおぼろげながら世界が分かってきていた。
大まかな国家の配置状況、魔法や亜人種族の存在、宗教、文化、風土etc
168 名前:アルザス ◆VlV/rBMb16 投稿日: 2006/10/10(火) 23:32:52 [ .o.AnDnw ]
見知らぬ大人たちに囲まれた硬く重い話は子供達には苦痛であり、体力を使うものだった。
アリシアやカノンが疲れてきているの感じた東は一時の休会を提案すると、あっさりと了承される。
東たちに懐いたアリシアたちを不快に晒すことはない、という気遣いと打算。
ある意味さらに日本を悩ますことになる話ばかりであったが、事情聴取はひとまずは終わり、一同は昼食と食後のデザートを楽しんでいた。
その席上エルフの少女は鞄をさかさまにすると護符の山をテーブルの上に築くと「買わないか?」と提案する。
およそ200枚、思わず顔を見合わせる3人。
どうもアリシアに唆されて言葉が通じないこちらは買うだろうという目算を持ったらしい。
しかも高額な商売品を親に内緒で、しかも全部持ち出したためか少し必死な感じ。
その場にいた日本人一同はどうにもエルフというものに対する先入観、純粋さ、神秘的とは少しかけ離れた感じのする少女に苦笑いしつつも、お買い上げとあいなった。
しかし、問題が一つ。
「お金どうすんの?」
アリシアは自分の手持ちの硬貨、帝国公用銀貨と銅貨を見せ、有馬が自分たちの日本銀行券を見せると逆に変な顔をされる。
現代世界の信用通貨と言う概念が無い世界では(手形・小切手という概念はあるらしいが)紙幣の出番は無い。
みながどうしようか考えている中、思い立った有馬がひとっ走りして出て行く。
10数分後帰ってきた有馬の手には砂糖や塩、香辛料の袋にブランデーやワインの瓶。
これらは幾らぐらいするのか?と聞くとアリシアやカノンが自分らの街での相場を答える。
また、その間に基地司令を通じて貴金属店に要請して純金のインゴットを持って来させる。
持ち込まれたのは総計10キロの金塊や銀塊に宝石ちらほらだったが、あっという間に集まった金塊にアリシアとカノンは顔を見合わせた。
「・・・銀貨とかならともかく金塊じゃ計算できないよ」
結局、バーター取引が成立としてタリズマンは受け取り、後日交換対象の物品、とりあえずは金の価額を計算することとなった。
前金として金の延べ棒1キロ分と有馬が持ってきた砂糖や酒、これはどちらかというとお土産であったが、これらも持っていくこととして。
ついでにタリズマンを、出来れば1万個は欲しいと注文をつけて。
思わぬ大量発注に喝采を挙げたが、ふと気づいて眉をひそめる。
「うちだけで1万個なんて1年はかかるよ。帰ったらユークリッドや問屋に手紙書かなきゃないなあ」
「個人的には魔法の道具1万個が1年で、しかも個人で出来るというのも信じがたいんだけど。てかそれならもう少しまけろ」
「材料費がかかるだけでこの種の魔法はそれほど難しくないんだ。そっちが材料だすならまけるよ」
午前中の話の延長やお互いの身の上を談笑していると別の自衛官がかけよってくる。
「ドラ、もといワイバーンが一騎こちらに向かってきてます。すでにヘリが接触して誘導中ですがトルシアさんのようです」
その一言にびくっと身を震わせるアリシアとカノン。
実は来た時からその挙動に不自然さを抱いていた東はあっさり心中を見透かしていた。
「トルシアたちに黙ってきたろ。あんたたちが悪いんだから大人しく説教されなさい」
「・・・庇ってくれないの?」
瞳をうるうるさせて上目遣いで言うアリシア。
「・・・もう一声」
「助けてお姉ちゃん」
親指立てる、見事なサムズアップ。
「任せておけ」
「前言翻すのが早いな」
「だが断る、って言えよ・・・」
やれやれとため息をついて有馬らは冷めたコーヒーをすする。