545 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/15(火) 04:47:02 [ OELr2/0w ]
(仮定名称)北日本・エルフレア戦役
201×年7月某日
海岸に轟音と共に現れたLCACが装甲車を運び、自衛隊員がライフルを携え緊張した面持ちで上陸していく。
彼らの頭上には迷彩塗装に彩られたAH64が睥睨するように舞っている。
そんな怒鳴らなければ隣の人間とも会話できないような状況の中、戦車や装甲車の前進を支援するため上陸第一陣、第一普通科連隊が各自の装備を点検しつつ前へ進む。
そのうちの180cm半ばぐらいの大柄な隊員が併走していた頭2つ分は小さく見える小柄な同僚に話しかける。
「今のところ順調だな。これで何事も無く終われば楽で助かるんだが」
「それは後ろの本庄次第じゃないのか?昨日の雨で少しぬかるんでるからな。戦車じゃスタックするかもな」
偵察隊所属の今浦響太2等陸尉はそういって笑うとちょうどLCACから降りていた新型の10式戦車を指し示す。
「まあ奴ももう慣れただろうから大丈夫だろうが、こっちもきちんと情報は送ってやらんとな」
「それはお前さんの仕事だろう。偵察屋の」
「それもそうだね。では先に行かせてもらうよ。前に敵さんがいるという仮定だしね」
苦笑しつつその小柄な体に似合わない大きな荷物と自動小銃を揺らし、部下に細かく指示を与えながら有馬謙吾2等陸尉ら普通科隊員達を追い越していく。
その時突如として上空を旋回していたアパッチのうちの一機が海岸線に平行して低空飛行を始め、その影響で海岸の砂塵が猛烈な勢いで辺りを覆いつくす。
これには隊員や金切り声を上げていた一般人も蜘蛛の子を散らすように逃げたりその場にうずくまる。
その状況に苦笑いを浮かべながら前方を進む隊員の連絡を待っていた戦車の車長がインカムに怒鳴る。
「あー、そっちの様子はどうですか?何も無ければ前進したいと思います!・・・はい、了解!これより前進する!行くぞ!!」
その成り行きを見ていた砲手は車長であり小隊長の本庄悠2等陸尉に尋ねる。
「いいんですか?あんな状況で・・・」
「かまわん。どうせそろそろ行くはずだったんだ。上を飛んでた馬鹿姫が居なくてもな」
車長のその単語に少々戸惑いながら砲手は
「馬鹿・・・。噂のあのペアですか?」
「ああ、東と有坂だ!まったく、煙幕代わりにでもしろってか、あの砂埃を」
そう言うともう関わりあいたくないように眉間に皺を寄せながら本庄は進出ルートを操縦手に指示する。
546 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/15(火) 04:48:50 [ OELr2/0w ]
下の怨嗟の声を知らん顔するように我が物顔で飛ぶAHー64DJアパッチロングボウ戦闘ヘリ。
その中ではお気楽な声が飛び交っていた。
「けっけっけ、革○派の連中もこれにこりて仕事に行けばいいんだがなあ」
「ああ、そうすればあんたももう少し真面目に仕事して、私の仕事が減って助かるしね」
パイロットの朗らかな口調とは対照的にガンナーはため息をつく。
「有坂よ、もう少し穏便とか普通とかいう言葉を覚えてくれないか?お前の相手は面白いんだが時折大変なんだ。」
「東・・・、それ何度も聞いたよ」
「ああ、何度でも言うから覚えてくれ。まったく、地上の偵察の許可を取ったかと思ったらぴーぴー騒いでる連中の脅しとは・・・」
「あと普通科や機甲の連中の尻叩きだよー。早く終わらせたほうがいいよ。天気悪くなってきたし」
自分のやったことについてまったく反省の色を見せない操縦士の有坂恵子2等陸尉に、ガンナー席に座る東真由美2等陸尉がぴしゃりと言う。
「それで私や東、福島の定年も早めてくれているのかい?それとも始末書書きの特訓かい?」
「・・・分かった、私が悪かった。当分はしないよ」
「頼むからもうせんでくれ。流石にそろそろ一杯一杯だ。私は介錯役なんてご免なんだからな」
それを聞き彼女にしては珍しく真面目に頷く。シート越しにその雰囲気に満足したのか海岸の様子を話し合う。
「下に居るのは確か、富士教のだったよな?」
「ああ、本庄が居るはずだ。てか先頭は本庄の第2小隊だな」
ディスプレイには砂塵を巻き上げ前進していく戦車の画像が鮮明に捉えられる。
「ふむ、じゃあ先導してやるか?それとも有馬の上にでも行くか?」
有坂は先のフライバイで有馬の第1普通科連隊を見つけていたのだ。
「・・・いや、看板だな」
「ん・・・?んむぅ・・・」
東の声とインカムから流れる音声に妙な声を上げ操縦桿を動かす有坂。そしてヘリの機首は沖合いに展開している海自の艦艇に向かう。
周囲に展開していた陸海空3自衛隊全部隊の無線に繰り返し連絡が入る。
「本日の演習はこれにて終了とする。繰り返す本日の北方機動演習は台風接近のため天候の悪化が見込まれるので現時点をもって終了とする」
547 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/15(火) 04:49:36 [ OELr2/0w ]
「ご苦労様。天気も悪くなってきたし今日はもうこれでお仕舞いにしよう」
「はい。ではお疲れ様です。知事もお気をつけて」
「ははは、そこまで老いてはいないよ」
宮城県仙台市、杜の都と呼ばれる百万都市。
その中心部、県庁で政務を執る宮城県知事近藤和久は政務を早めに切り上げることとした。
県知事室で帰り支度を整えながら窓の景色を見やる。
晴れた日なら少し離れた青葉山や太白山を見える県庁舎であったが生憎の雨模様。
町は煙ったように見渡すことは出来ない。
「台風はまだ確か・・・」
「はい、日本海上をゆっくりとした速度で東進中とのことです。今夜夜半に新潟〜山形のどちらかから上陸し東北を横断するかと思われます」
「今日の昼の予報ではもう太平洋に抜けているはずだったんだがなあ・・・」
「ええ。それが急激に速度を落としたようで・・・」
新美秘書官も困ったように言葉を濁す。
「9月ではなくこの時期にこのコースを取るだけでも珍しいのに」
二人の話題に上っていた台風3号は当初勢力を保ったまま九州西方を北進、その後偏西風に乗り日本海上を東北東に進んだ。
しかし、それまで順調に勢力を落とし、速度を上げていたのが日本海のど真ん中で急激に停止。
そのため海上で水分を増したせいか勢力を再度強め、東北地方にゆっくりと近づいてきた。
「迷走するぐらいならこの時期はよくあったと思いますが、まさか日本海で止まるとは思いもしませんでした」
「私も60年生きてきて初めてだよ。長生きするもんだね」
秘書官の感慨に気分良さげに答える知事。
それを見てため息をつく秘書官。
「知事たるあなたが災害を面白がってどうするんですか・・・」
「では現状はどうなってるのかね?」
その近藤の問いに待ってましたとばかりに新美は答える。
「市内の川は通常よりは水量が多いものの、これからの予想降水量には十分耐えられます。ダムも元から空きが多かったせいでもありますが。それからもっとも注意すべき鳴瀬川、北上川についても同様です。よって現状は土砂災害にもっとも注意すべきだと思われます」
「何時もどおりの対応と言うわけだな」
「平たく言えば、そうなります。通常通りの人員配備で大丈夫かと。今日は私の当番日ですが」
「頑張れ」
「頑張ります」
ぐっ拳を握る知事に同じようにグーで応じる秘書官。
「では私はこれにて失礼するよ。」
「はい、何かありましたら一報お入れしますので携帯の電源だけは切らないようにお願いします」
「分かってるよ。あともう一つ」
「はい。なんでしょうか」
「グーで殴ることは無いだろう」
「ツッコミです。お気になさらずに」
548 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/15(火) 04:51:15 [ OELr2/0w ]
「おーこーらーれーたー」
「当たり前だ。むしろ大目玉一発だけなんだから喜べ」
青森県八戸基地、時計の針が9時を指すころ、有坂は食堂内でテーブルに突っ伏し、そしてそれを冷たく突き放し、名物のイチゴ煮を食べる東。
その言葉に有坂はむっくりと顔を東に向け口を尖らせる。
「へーへーへー、私はどうせ鉄砲玉ですよーだ。性分は腐ってますよーだ。どうせダースベ○ダーには勝てないヨーダ」
「はいはい。機嫌を直せ、ほらうまいぞ」
と海栗を差し出すが、有坂はくわっと起き上がり後ずさる。
「・・・それゲテモノっぽくない?材料は高級だけど」
「・・・じゃあラーメンでも食ってろ。ついでに厨房に土下座しにいけ」
そう言って東はずずずっと汁をすする。
「でもさあ、何でうちらだけ八戸まで飛ばなきゃならんかったのか。私ってやっぱ嫌われてるのか!?」
有坂はがびーんいう感じでショートヘアの頭を抱えうずくまる。
「帯広から来てたのがちょうどエンジントラブル起こして、そんでたまたまあまぎが一杯になっただけだろうが。そしてうちらがちょうど立川から来てるからさっさと帰れるように取り計らってくれただけだろう」
「結局貧乏くじじゃん。他にもいるがな」
「悪天候でも安心して飛べると信用されてると思え」
そう言うと食べ終わったお椀をもってさっさと愛機の整備に向かう東。
途中、外に目を向けると未だに激しい雨の音。
「せめて夜明けには止んでてくれよ」
明日は朝日を拝みながら飛ぶんだからな、と呟く。
同時刻、北海道大樹町。
先ほどまで激しかった雨は小康状態となり、野営していた自衛官にとって少しは気の休める状態となっていた。
そんな中あるテントに3人の自衛官が集まりトランプに興じていた。
「はい8切り、2の連番、さようならー」
「「 ま た 今 浦 か 」」
「人をNYタイムズ見たく言わないで。最初の平民のうちに勝てなかったほうが悪いんだよ」
そう言ってニコリと笑い他の二人の戦況を眺める今浦二等陸尉。
その耳に着けっぱなしのラジオの声が入ってくる。
「やっと柏崎に上陸したようだね。もっとも速度は随分遅いようだけど」
「水不足解消にはちょうどいいんじゃないのか」
そう軽く言う有馬を本庄がたしなめる。
「幾らなんでも台風は邪魔だ。それより聞いた話だが東と有坂の奴、もう八戸まで帰ったらしい」
本庄が昼に騒ぎを起した同期の二人のことに触れると、さも当然なように今浦が口を開く。
「そりゃあ帯広には行けないよ。第一対戦車ヘリ隊の指揮官に有坂がヘタクソ呼ばわりしたらしいしね」
「それはらしいじゃなく本当だ。実際操縦はあまりうまくなかったしな。」
有馬が今浦の言葉を補強する。
「まあ何があってもあいつらのことだうまくやるよ」
その本庄の言葉に頷く二人。
「クビになってもな」
「「おい!」」
549 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/15(火) 04:52:35 [ OELr2/0w ]
そうしているうちに時が過ぎ、ようやく夜が白み始めようかという午前4時。
それは静かに始まった。
ある一部の地域にのみ微弱な揺れが何分も続いた。
ゆっくり、ゆっくりと大地を動かしていくかのように。
しかし人々はその震度1になろうかという小さな揺らぎに誰も気づかず、不思議なことに震度計にすら反応することは無かった。
誰もがまだ続く大雨に気を取られていた。
大きな異変に気づいたのは東北道を南下していたトラックドライバーだった。
彼はそれを見るやすぐにトラックを停車させ、道路わきの緊急用の電話機に向かって怒鳴った。
道路が隆起していて寸断されている、と。
その連絡を受けた道路公団はすぐさま各方面に連絡を入れた。
白河ICの南、約5キロの地点で土砂崩れが発生、という常識的に考えれば至極真っ当な連絡が。
しかし、夜が白み始めた頃、現場に着いた彼らが見たものは全く違うものだった。
「な・・・なんなんだ・・・これは・・・」
「何故、潮の香りがするんだ!?」
7月3日午前4時35分。
道路公団所属の高速管理隊は見た。
それが土砂崩れではなく、本当に地面が盛り上がった様子を。
そしてその向こうに白んだ空が写りこみ、多くの島々が浮かぶ水面を。
県境の栃木県側、そこには
道路など無く、ただ穏やかな海が広がっているだけだった。
台風など無かったかのように、鏡のように光る海と空だけが。
555 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/16(水) 00:09:54 [ OELr2/0w ]
「こちらガブリエル。レビンA聞こえるか?」
「こちらレビンA。通信状態良好。現状を知らせ」
「ガブリエルは現在、高度3000フィート、巡航速度を保ったまま磐城市上空を通過中。・・・茨城は見えず。海のみ」
「・・・他には何か見えないのか?」
「あちらこちらに小島が見えますが、どれも無人の模様。たった今そのうちの一つの上空を通過。林しか見えない・・・。レビンA聞こえるか?」
「聞こえるぞ」
「こちらの、福島県南岸の海岸線よりおよそ50キロメートル南に陸地らしきもの発見。これより接近する。不測の事態に備えて空自の護衛を要請する」
「どのような形だ」
「それも東西に広がってます。大陸のように見えます」
「・・・了解した。三沢に指示を出す。それから不測の事態に備えて良く注意しろ。」
「ガブリエル了解。それから自衛のための射撃の許可をお願いします。何かあってからでは手遅れですので」
「・・・緊急事態にのみ許可する。交信終わり」
「了解、レビンA」
「・・・もう陸地に着いちまったぞ。とりあえず旋回するぞ。」
「ああ、そうしてくれ。しかし森と草原以外何も無いな・・・。街道らしいのはあるが人が居ないな」
操縦は有坂に任せ、東はガンナー席から身を乗り出すように持ち込んだ双眼鏡で眼下を偵察していた。
「八戸で聞いた時は冗談だと思ったが、これじゃあなあ・・・」
「まあ、カメラで撮らなきゃ誰も信じないわね」
地上には欝蒼とした森林と草原、それを貫くように海岸近くには舗装されていないながらもそれなりに小奇麗な街道が東西に向かって伸びていた。
しかし、そこにもそしてその周囲にも人の影は見当たらなかった。
「ここには何も無いな。さて東西南、どっち行く?それとも北にするかい?」
「私の苗字は何だ?」
「じゃあ東か。どんだけ進む?」
「だからその反対で西に行こう。150ばかし飛んだら新潟空港に向かう」
「それなら聞くなよ・・・」
556 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/16(水) 00:11:44 [ OELr2/0w ]
その日台風一過で夏らしい蒸し暑い朝となった、八戸基地。
さっさと所属基地の木更津基地へ帰ろうと発進準備を整えていた有坂・東両2等陸尉のAH−64DJは、泡を食って走りこんできた伝令の口から発進許可と急遽偵察任務が与えられることとなった。
福島・新潟両県の南側の県境が海岸線となり寸断されている。
関東地方の現状を報告せよ、と。
その命令に半信半疑ながらも、命令は命令、ただちに発進することとなった。
本来ならP−3C、あるいはOH−6が適任だったろうが、この時既に発進体制にあったこの機を真っ先に飛ばすことにしたのだった。
ただし、両名ともその摩訶不思議な命令に不安を覚えたのか、急遽30ミリチェーンガン満載にヘルファイアを4発、増槽にスティンガーと対地対空両用の装備を備えて発進した。
途中、福島空港で給油と新たな情報を得た。
曰く、栃木ないし茨城県境が海岸線となり、新潟方面では糸魚川付近は陸続き。
糸魚川以西は同じように県境で土手のようになってるがその向こうは草原。
明らかに日本ではない光景が広がっている、と。
この情報に出切れば夢であって欲しいと願いながら再度大空に飛び立った。
だがしかし、目に飛び込むは明らかに異常な風景。
それもアジア的な植生ではなく、ヨーロッパ的な植生をもった大地が。
「しかし、道はあるのに人通りが無いな。今何時だ?」
「10時だ。それで他の機や新潟のほうは何か分かったか?」
「うーん、千歳や仙台から海保、三沢から米軍も偵察に出てるがこっち以外には何も無いらしい。」
「そうか・・・、そろそろ終わりだな」
「そうだな戻ると・・・、左、10時の方向。あれは煙じゃないのか?」
周囲を観察する側ら世間話に興じていると、陸地側に注意を向けていた東が内陸側にうっすらと煙が立ち上っているのを発見した。
「あれは、村のようだな。それも炊事っぽいな」
「土壁に茅葺き、板葺きもあるが・・・、現代ではないな」
二人に目に付いたのは見慣れた長閑な日本の農村ではなく、映画のセットを思わせるような粗末な、小屋と言って差し支えないような家がおよそ20軒の小さな集落だった。
小さな広場と井戸を囲むように配置し、そこかしこに家畜の鶏やら何やらが動き回る。
そこに見える人たちもみな粗末な飾り気の無い服を着込み、映画とは違うリアルな情景が広がっている。
「・・・時代は中世ってところだな」
その東の言葉に、はああ、と二人そろってため息をつく。
こうなってはもう納得するしかなかった。
自分たちが何処か別の世界に転移したということを。
557 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/16(水) 00:13:35 [ OELr2/0w ]
既に十分な記録を取り、とりあえずは既に燃料も半分以上を使い果たしていたので、当初の予定通り新潟空港へ向かうこととした。
念には念を入れて、管制に連絡をいれこちらの機位を確認してもらう。
速度計算だけであったがほとんどずれることなく、どんぴしゃりで新潟の真南にいることを確認すると、悠々と海を渡っていく。
若いがお互い腕のいいペアであった。
ヘリは海峡の半ば、見慣れた日本の景色、越後山脈が眼下に迫ってきた。
すると突然有坂が声を上げた。
「東」
「どうした?」
有坂はディスプレイを確認、後ろを振り返りながら言う。
「空自の援護はあったか?」
「・・・いや、今は白河南方にいるそうだ」
素早く基地に確認を取る東。
有坂はそれを聞くや否やすぐさま操縦桿を握りなおし、速度を上げる。
「レビンA!聞こえるか!こちらガブリエル、アンノウンの追跡を受けている。至急戦闘機を寄越してくれ!!」
東も有坂の怒鳴り声を横目にFCSを起動させ各武装をチェックする。
ローターマスト上のAH−64DJ自慢のAN/APG−78ロングボウ・ミリ波レーダーも作動させ出来うる限りの体勢を素早く整える。
「レーダーにも映ったぞ。良かったな、奴は幽霊じゃないぞ」
「五月蠅い!」
増槽を切り離し、ガスタービンエンジン2基約3200馬力のエンジンが唸りを上げて機体は急降下、振り切ろうと速度をさらに上げる。
しかし、発見が遅れたこと、そして相手がより高度が高くより高位の運動エネルギーがあることから振り切るのは不可能だった。
「ちぃっ!向こうのほうが100キロは早いな!東!」
「一瞬だけでいい。位置だけ取ってくれ。一回で決めてみせる」
東の何時もどおり冷静の自信たっぷりな返事にニヤリとすると、素早く旋回する。
そうして正対する形になり、すでに目視するには十分な距離に近づいた目標を見ると二人とも目を剥いた。
「うわっ!幾らなんでも・・・」
「ドラゴンかよ!DQじゃねえんだぞ!!」
二人を獲物としようというのか、猛烈な勢いで接近していたのは翼長が30メートルになろうかという巨大な竜であった。
558 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/16(水) 00:15:58 [ OELr2/0w ]
あたかもファンタジー小説かゲームと錯覚しそうな光景に目を奪われそうだったが、二人とも訓練をつんだ自衛官であり、現実主義者であった。
そして二人とも現代っ子らしく一通りのゲームやらマンガは見ていた。
「となると・・・、不味い!」
予想される接触コースから素早く愛機をずらす。
案の定ドラゴンの口から火炎らしきものが吹き出し紙一重でよけた外装を焦がす。
「有坂、向こうのほうが旋回が早い。もうこっちの後ろに付いたぞ」
「どんだけ小回りが利くんだよ!」
考えられるだけの罵声を呟きながら、相手の射線上に入らないように旋回を繰り返し、相手の隙とクセを伺う有坂。
しかし、口惜しいことに直線となってもドラゴンのほうが幾分優速であり振り切れそうにはなく、巴戦も難しいようである。
だが既に燃料も危なく、援護のF2が来るのもあと10分ほどかかる見込みでは、勝負するしかなかった。
「しゃあない。一か八かだ!」
そう言うと、操縦桿を倒し速度を上げ海面めがけて突っ込んでいく。
ブレスを避けるべく、蛇行を繰り返しながらと狂気染みた操縦にも何時もどおり東は我関せずといった形で、チェーンガンをスタンバイする。
いくらフルスロットルでの急降下とはいえ、条件は相手も同じ、すぐさま距離を詰めてくる。
相手の距離を東が逐次確認復唱しながら、有坂は海面ギリギリまで降下させた機体を一転急上昇に転じさせる。
そして思い切って、空戦機動のバレルロールかける。
機体を横倒しにし、樽の内側をなぞるような軌道を描き速度を殺し、相手の射線上から素早く抜ける。
この有坂の急激な機動に流石のドラゴンもオーバーシュートし、AH−64の前方へ出そうとなる。
有坂は見た。
一瞬だが併走するドラゴンが口をこちらに向け、その中から光が漏れ出し急激に大きくなるのを。
しかし、それは東が冷静に機体側面に見えるドラゴンをロックオンし、M203 30ミリチェーンガンで打ち抜くのと同時であった。
「こちらガブリエル。アンノウン、いやドラゴンをを撃墜。これより帰還する」
その30分後、駆けつけたF2の護衛の下有坂・東両2等陸尉が搭乗しただ第4対戦車ヘリコプター隊所属AH−64DJ4番機は無事越後山脈を越え、
だが運悪く、空中戦により燃料を消費したためあえなく新潟空港手前三条市内に着陸する羽目になったのだった。
「あのトカゲめえええーーー!次会ったら八つ裂きにしてやるうううーーー!!」
「いや、もうしたから」
651 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/24(木) 21:42:47 [ h4aEybGQ ]
北日本隷下の現状における戦力
陸上自衛隊(以下は駐屯地ごと転移した部隊)
第7師団
第2師団
第5旅団
第11旅団
第1特科団
第1戦車群
etc
北部方面隊欠隊無し
第9師団
第6師団
東北方面混成団
etc
東北方面隊欠隊無し
第12旅団(ただし一部部隊欠)
第2普通科連隊
第30普通科連隊
第5施設群
海上自衛隊
第25護衛隊
etc
大湊地方隊欠隊無し
第2航空群
航空自衛隊
第2航空団
第201飛行隊
第203飛行隊
第3航空団
第3飛行隊
第8飛行隊
etc
北部航空方面隊欠隊無し
652 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/24(木) 21:44:08 [ h4aEybGQ ]
その他臨時北日本配属部隊(演習、移動中などにより転移)
陸上自衛隊
富士教導団所属戦車教導隊第2中隊(北方機動演習)
特殊作戦群第1中隊(演習場にて演習中)
第1ヘリコプター団第1ヘリコプター隊(北方機動演習)
第4対戦車ヘリコプター隊(北方移動演習。ただし参加8機のみ)
西部方面普通科連隊第1普通科中隊(北方機動演習)
第16普通科連隊(北方機動演習)
第4特科連隊第1・第2中隊(北方機動演習)
第4高射特科大隊(北方機動演習)
第12ヘリ隊(新潟県内で演習中の部隊のみ転移により一部欠)
第12後方支援隊(新潟県内で演習中の部隊のみ転移により一部欠)
第12施設中隊(新潟県内で演習中の部隊のみ転移により一部欠)
航空自衛隊
第204飛行隊(三沢訓練空域にて訓練中の6機のみ)
飛行教導隊(三沢訓練空域にて訓練中の2機のみ)
航空支援集団第1・第2輸送航空隊(北方機動演習。ただし第1のみ一部)
第501飛行隊(北方機動演習に参加の2機のみ)
海上自衛隊
第1護衛隊群(北方機動演習)
ましゅう型補給艦おうみ(北方機動演習)
とわだ型補給艦はまな(日本近海を航行中転移)
第1輸送隊(北方機動演習)
特別警備隊第2小隊(北方機動演習)
第2潜水隊群所属潜水艦5隻(1隻のみ北方機動演習参加。残り4隻は通常業務、ならびに移動中に転移)
在日米軍
第35戦闘航空団
海兵隊1個砲兵中隊(王城寺原演習場にて演習中)
海兵隊一個小隊(王城寺原演習場にて演習中)
ヴァージニア級原子力潜水艦ニューハンプシャー(日本近海にて航行中転移)
ロサンジェルス級コロンバス(日本近海にて航行中転移)
ワスプ級強襲揚陸艦エセックス(日本近海にて航行中転移)
ミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバー(日本近海にて航行中転移)
以上、第2回北日本臨時閣議に提出された「201×年7月 北日本に関する緊急報告」より一部省略した上で抜粋
691 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:34:56 [ h4aEybGQ ]
「わたしは今、茨城県日立市久慈川河川敷にいます。普段ならここからは対岸の東海村が見渡せるのですが、
2日前の7月3日の台風通過、ならびに微弱な地震の観測以降このように久慈川は姿を消し、鹿島灘と一体化した海となっています」
表情は幾分青ざめさせながらも、興奮した口調で女性レポーターは自分の背後を指し示すような手振りを交え、この異常事態をマイクに向けて話し続ける。
周囲には同じように取材を続ける民放のテレビクルーや新聞記者が同じように取材を続けていた。
彼らの周囲には福島から出動した普通科連隊や茨城県警が緊張した面持ちで南方を監視している。
重MATや12.7ミリ機関銃、あるいは93式SAMなどを配備し不測の事態に備えていた。
「この海はこの久慈川河口、いえ元久慈川を境として遡上する形で続き、常磐自動車道より先が河口となり、その南側が無人の陸地となっています」
ここでレポーターが一瞬深呼吸し、レポートを続ける。
「しかし、その南側も私たちが知っている土地ではなく、砂地、草原が広がっており、やはりその先は海となっているとのことです。」
彼女を映し出すテレビは自衛隊と警察が撮影した久慈川南方の地上の写真を映す。
「この土地の消失現象はこの茨城中部日立市から久慈川沿いに茨城を北西に方向に分断し、その後その分断線は湯沢温泉から那須白河方向に転じています。
那須市から西はほぼ福島栃木県境を境として進んでいます。」
女性レポーターはフリップに書き込まれた簡易な地図をカメラに良く見えるように胸元に持つ。
「つまり、現在西は新潟糸魚川を境として、福島、そして栃木と茨城の一部から南は現在連絡が完全に途絶、いや消滅した状態となっています。
この分断消失現象はうまく川や田畑、山岳地帯を境目となっており、それ以北での死傷者は幸いなことに確認されておりません」
しかし、家族が東京や大阪に出張なり旅行なりで行方不明、もしくはその逆の家族はかなりの数に上っており、決して楽観できる状況ではなかった。
だがこの異常事態に北日本の市民はせめてなりとも明るい話題を欲した。
ただ彼女はその点不運としか言えなかった。
マスコミというそれなりに学が必要な仕事で十分すぎるほどの情報が集まる環境で、現状に希望を持てというのは、不可能だった。
彼女は仕事に専念することで考えることを止めるしか無かった。
そしてレポーターは埼玉出身であった。
692 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:35:52 [ h4aEybGQ ]
新潟県糸魚川東側堤防。
ここには2日前から陸上自衛隊第12旅団所属第2普通科連隊が展開していた。
糸魚川の分断線境界から10キロは民間人の立ち入りを禁止し、そこに居住する住民は既に全員が新潟市や中越地方に避難していた。
茨城南岸や福島新潟南岸は分断線から南は、何も無い草原や森林が覆うだけでそこは最大でも50キロも進めば海となっていた。
道路も住宅地も一つの例外が無くある場所から先が忽然と消えていた。
しかし、この糸魚川から西はただ唯一の例外だった。
幸か不幸か、いや不幸でしかないかもしれない。
無かったのだ。
海も。
川までも。
ただ唯一、ここだけが陸続きになっていたのだった。
幅約5キロの地峡を境に日本海と日立市とも繋がる、突如出現した海は隔てられていた。
昼夜を無視した幾度にも渡る偵察情報収集活動の結果、自衛隊はここが地球ではないと断定していた。
何せ星座すら一変していたのだからそう判断せざるを得ない事態に追い込まれるのも早かった。
しかし、決断した自衛隊は早かった。
陸上自衛隊東北方面隊総監岡田恵次陸将は即座に独断で動いた。
第12旅団残存部隊をを臨時に指揮下に加えた上でまずは地峡を監視下に置く。
同様に海で隔てられた地域に一個班強で編成した警戒部隊を多数配備し、何者かの接近を即座に目視で発見できるように手配した。
一部の地方自体も迅速に事態の収拾に乗り出した。
分断線に近い住民には避難所を提供し、寸断されたライフラインの復旧に全力を上げ、48時間経過した今日にはほとんどが復旧していた。
さらに自衛隊や警察から報告を受けた各県は対応を協議するため、各県知事ならびに現状における陸海空自衛隊の各司令、オブザーバーとして東北大学や北海道大学の教授に元国会議員、
三沢基地の在日米軍司令官を交えて、現在仙台において現状の認識等のすり合わせ、日本国政府消滅に伴う行政権の所在についてなど多岐に渡る難題について協議していた。
音頭を取ったのは新潟県知事泉川裕輔、そして宮城県知事近藤和久。
マスコミの報道では現在協議中のメンバーで内閣を組織するという見方が大勢を占めていた。
これで少しは落ち着くのではないかと言う楽観論から協議が決裂するという悲観論まで、色々な意見が生き残っているネット上の掲示板やマスコミを駆け巡っている。
693 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:36:57 [ h4aEybGQ ]
ただ、既に防衛出動がかかっていた、それも分断線沿いに展開する自衛官にとってそんなことはどうでもよいことだった。
確かにああなればいい、こうすればいい、という考えはあった。
しかし戦闘配置、名目上は警戒ではあったが最悪の事態に備えている身としては、正直言って明日のパンより今日のおにぎりという感じであった。
堤防沿いの陣地、宿舎として接収された小学校で椅子に腰掛け、上の空という風にテレビを眺めている一人の自衛官が居た。
そこに別の自衛官が入って来て声をかける。
「前田中隊長、L90の整備終了したそうです」
「ご苦労さん。半数は地峡側に向けて面制圧出来るように、残りは対空用として堤防沿いにだったな。」
「はい。しかし、まさか倉庫で冬眠させてた35ミリを引っ張り出すことが来ようとは・・・」
報告に来た若い三尉が頭を振る。
「自分だって思いもしなかったさ」
苦笑しながら視線を外に向けると、窓の外では綺麗に整備されたL90−連装35ミリ高射機関砲が自衛隊員の操作にあわせて左右に揺れる。
遠くからは偵察だろうかプロペラの風を切る音も聞こえてくる。
「だが今はあれのほうがいいだろう。ミサイルなんか威嚇には使えんし、ドラゴンを捕捉出来るかまだ分からんからな」
そう言うと前田三佐は昨日撮影されたばかりの、例の映像を思い出す。
ほぼ24時間体制で流れているニュース。
その中で最も衝撃と動揺と興奮を誘った映像。
テレビ画面一杯に映し出された黒い巨体。
突如カメラに向かって吐き出される炎。
そして機関砲によって血しぶきを群青の空に撒き散らしながらくるくると落ちていく肉塊。
「お前はあんなのに89式やミニミでどうにかなると思うか?てかやりたいか?」
三尉もあの映像を思い出してぶんぶんと頭を横に振る。
「命令とあらばやって見せますが、出切れば御免こうむりたいです。」
「おれもだ」
そういって二人して笑いあう。
「配備が終わったらみなにコーラでも振舞って休憩するように言っておいてくれ。それと第一小隊から8時間交代で警戒に当たるぞ」
「了解しました」
敬礼し三尉が立ち去ろうとすると突如爆音が近づいてきた。
「いきなり何だ?」
「警戒中のヘリが何か見つけたんでしょうか?」
三尉のその言葉をすぐに否定する。
「いや、これは複数だ。・・・来るぞ」
そういいながら二人はだべっていた事務室から飛び出すと空を見上げた。
そこにはローターをはためかせ鼓膜を破らんとばかりにエンジン音を轟かせたヘリコプターが舞い踊っていた。
黒く低視認性に塗装された機体の両脇には70ミリ多連装ロケット弾ポッドやM134ミニガンを備え、機首からは特徴的な給油用プローブが突き出しているUH60JA改3機が着陸ポイントを見定めたかのように順に着陸態勢を取る。
地上の普通化隊員たちが蜘蛛の子を散らすように離れる中、ヘリのダウンバーストが舞い上げた砂塵を掻き分けるように着陸していった。
あたり一面に荒れ狂っていた空気がエンジン音とともに緩んでいくと屈強な男達が前田たちのもとへ歩いてきた。
694 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:37:44 [ h4aEybGQ ]
そのうちの隠すように一尉と大尉の階級章をつけた二人と前田は敬礼を交わす。
「自分は特殊作戦群第一中隊第一小隊長佐々木順一郎一等陸尉です」
少し細身な体ながら十分異常に鍛え上げられた身で綺麗な敬礼を見せる佐々木一尉。
そして側らのもう一人を紹介する。
「こちらはアメリカ合衆国海兵隊のクラウディオ・レイナ大尉です」
こちらは佐々木より少し小柄な170後半ぐらいのがっちりとした体躯を持った白人で、敬礼するとにこりと笑って前田に握手を求める。
突然のことに動揺しながらも、空からの来客を冷房の効いた室内に招き入れる。
部屋に入ると部下に持ってこさせたキンキンに冷えた麦茶と羊羹で三人は一息つく。
在日米軍が、そして日本の特殊部隊の一つである特殊作戦群が来るとは夢にも思っていなかった前田は正直な感想を漏らす。
「でも驚きました。増援が来るとも、それも特殊作戦群が来るとは聞いていなかったもので」
その言葉に意外そうな顔をする二人。
「連絡が来てなかったのですか?」
「ええ」
「・・・仙台や千歳、三沢も混乱しているようですからね。どこかでミスがあったのかもしれません。私たちの任務は向こう側の偵察任務です」
「向こう側・・・ですか。それはまた、いやあなた方だからなのでしょうな」
前田は驚いたものの二人の熟練した兵士特有の雰囲気に納得する。
そして今現在の堤防の向こう側について佐々木は尋ねる。
「この旧、と言ったら良いんでしょうか。旧糸魚川の堤防北側からおよそ10キロまでは多少の起伏はありますが車両での移動が可能です」
テーブルに広げた地図と、何度も行われた偵察飛行で撮影された映像、写真を元に前田は説明を始める。
「ただここは他の地域と違って、向こうの、謎の陸地と完全に繋がってます。茨城や福島とは違う、生の他の何かが居る陸地と」
真剣な表情で空撮写真を見つめる二人。
マイペースに麦茶にクリームと砂糖を入れる者も一人。
「その先からは森が広がっていて標高がおよそ300メートルの小高い山になってます。そしてそこを越えていくと・・・」
「この街道に出るというわけですな・・・」
「うん、これならコーヒーの代用になるな」
「出切れば地上からも偵察したかったのですが、何分、不慣れでしかもこの状況では何が起こるか分からないので・・・」
悔しそうに臍をかむ前田三佐。
だが植生も全く異なり、また例のドラゴン騒ぎがあってはとてもじゃないがこちらから出て行くことは選択できなかった。
「確かこの街道まではここからだとおよそ30キロというところですかね?」
「ええそうです」
それを聞いて一瞬押し黙る二人。
「何か、問題でも?」
「・・・前田三佐」
「はい?」
「このあたりの地盤は固いですか?」
695 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:38:39 [ h4aEybGQ ]
「よし、そこに据え付けろ!カモフラージュ用のネットも忘れるな!!ドラゴンに見つかってホットドッグされないようにきっちりやれ!!」
今までは自衛隊員の談笑ぐらいしかない静かなところに、突然のウェスタンティストな粗野な英語が飛び交い始める。
ホンモノの増援として糸魚川ラインに派遣されてきた、合衆国第三海兵遠征軍所属の砲兵中隊6門の155ミリ榴弾砲が急ピッチで周囲の空き地に配置されていく。
草を掻き分け、土嚢を積み上げてきぱきと用意をしておく。
無論、傍に弾薬を積み上げるなんて危険なまねはせず、少し離れたところにライナーブレードを使って急造の地下弾薬庫も作り始める。
高速道を使って王城寺原からやってきた第二海兵砲兵連隊所属第7中隊は迅速に砲兵陣地を作り上げていった。
その光景に多少面食らいながらも前田中隊長は先の二人の要請を思い出す。
「では自分らは砲兵と稜線を守るだけでいいんですか?」
「はい、そのとおりです」
少し拍子抜け気味に繰り返す三佐を見ながら佐々木一尉はうなずく。
「自分らはそう遠くに行くわけではありません。ただ何が起こるかわからないのでその保険ということです」
それではお気をつけて、と互いの幸運と無事を祈って彼らは分かれた。
佐々木一尉らを見送る前田の下に三尉がやってくる。
「彼らは大丈夫でしょうか・・・」
堤防に向かいながら不安そうに言う三尉の言葉を無視するように歩を進める前田。
そのまま堤防に登り、そこの機銃座にある双眼鏡を覗きながら言う。
「彼らなら・・・、下手に我々が手助けしないほうがいいだろう」
「それは特殊作戦群だからでしょうか」
「半分は正解だ」
その言葉に若い三尉は聞く。
「ではあの海兵隊が何か?」
「海兵隊ではないよ」
前田のその思わぬ答えに言葉が詰まる。
「しかし、彼は海兵隊だと」
正面の魔境に向けてアリスパックや機関銃などを軽々と担いで歩いていく佐々木たちがレンズに写る。
頭上からはウミネコの甲高い鳴き声が響く。
梅雨も明け夏が近づく生暖かい風を感じる。
「あれは・・・レイナ大尉らはSEALだ」
戦闘服に縫い付けられた部隊章は正に、世界最強と言われるあの部隊のものだった。
696 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:39:38 [ h4aEybGQ ]
「はあー」
部屋に入るなり男は乱暴に背広を脱ぎそれを革製のソファーに向かって投げる。
ネクタイも緩めシャツの前もだらしなく開いて、ドカッと椅子に腰掛ける。
天井を見つめ、やれやれといわんかばかり大きく深呼吸する。
それを見て部屋で留守番をしていた者は上司のだらしの無い格好に眉をひそめる。
「節電のため冷房を切っているからわかります。ですがものには限度と言うものがあります」
「わかったわかった。お偉いさんの勤めと思ってきちんとする。ただ部屋で二人きりの時ぐらいかまわんだろう?」
上司の少し哀願気味の言葉にもう一人は口の端を少々吊り上げる。
「ですから、やるならきちんとパンツ一丁なり徹底的にお願いします」
「ちょっと待て。そっちの方向にか」
部下の突っ込みに思わず噴き出す男。
「そこまでやればみなも遠慮なく涼しい格好が出来ますゆえ。それに自分もこの格好では暑すぎるのでできれば半袖短パンが着たいので」
言葉とは裏腹にスーツをぴしっ決め、涼しげにそういう男に苦笑いする。
「だが県民に我々がそんな格好を見せるわけにもいかん」
「窓口は最低限のクールビズで行きましょう。それ以外は自由にさせてやりましょう。今は格好どうのこうのという状況では有りません」
部下は提案しさらに言葉を続ける。
「エネルギーは今はまだ何とかなります。ですが市場に出回ってるものや備蓄分合わせてもどうみつもっても2年持てば奇跡です。節約するに越したことはありません」
新美秘書官は言う。
「それに知事が考えなければならないことは県民のことではなく、国民です。それはお間違えないようお願いします」
「・・・出切れば逃げ出してしまいたいものだ。だがそれは護民官として出来んことだな」
「みな不安なのです。決して慌てないよう余裕を持ってください。上が不安なら下も不安になってしまいますゆえ」
そう言って自分の上司である宮城県知事の机によく冷えたお茶を淹れる。
今まで整理していた書類に関し二、三報告すると新美は近藤に質問をする。
「それで、会議のほうは?」
「自分と増子さん、それに泉川さんで押し切った。先に出した素案どおりで当面は乗り切る」
「それでは・・・。しかし反対が多かったのなら無理をしないほうが良かったのでは?」
「みなほとんどに賛成してくれたよ。この状況ではとにかく安定させることが第一だからな」
そう言って麦茶をすする。
よく冷えた麦茶が喉を通り先の気だるい体をリフレッシュさせてくれるように感じる。
「では反対と言うと・・・?」
疑問を呈すが、すぐに得心言った表情を見せる新美。
「彼女ですか・・・」
とあの女性知事の顔を思い浮かべ思わずため息をつく。
「高崎さんにも困ったものだ。もう少し理性的になってほしいものだ」
「そんなに酷かったのですか?」
会議には出席しなかった秘書官の問いかけにその時の情景を思い出し、思わず噴き出してしまう。
首を傾げる新美に近藤は会議であった、もとい決まったことを話し始める。
697 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:40:32 [ h4aEybGQ ]
北日本が突如として他の地域と切り離された2日後。
この事案に対処するため臨時政府樹立、そしてこれからの方策を話し合うために臨時の地方自治体の長による首脳会議が初夏の暑さが厳しくなった杜の都、仙台市の県庁舎の一角で開催された。
主なメンバーは都道府県代表として以下の9人。
宮城県知事近藤和久
福島県知事佐藤大作
新潟県知事泉川裕輔
山形県知事斎藤博史
岩手県知事増子宏也
秋田県知事小寺典城
青森県知事三田村信二
北海道知事高崎はるこ
そして一部のみ存在した茨城県から日立市大村千秋
安全保障の観点から東北管区、北海道県警の長が。
それに自衛隊からは東北方面ならびに北部方面隊総監、大湊地方総監、北部航空方面隊司令官。
オブザーバーとして東北大、ならびに北海道大から物理学教授や経済学者など。
さらに在日米軍の三沢基地司令官も同席していた。
約20名で会議は粛々と始まった。
「だが最初の報告であっという間に大爆発さ」
人ごとのように面白そうに近藤はしゃべる。
まず最初に会議室のスクリーンに映し出されたのは、朝から何処のニュース番組でも持ちきりだったドラゴンとヘリの空中戦の映像だった。
最初の空中撮影は大人しく見ていたが、みなドラゴンの出現、その口から吐き出される火炎に冷房が効いた部屋ながらも手に汗握り興奮する。
しかし、ここでテーブルを叩く者がいた。
ただ一人の女性、北海道知事の高崎だった。
彼女はいきなり声を荒げるやこれはCGか映画かと騒ぎ始める。
転移以前から左よりの言動が目立つ彼女にとって自衛隊の情報を丸呑み出来ようはずも無かった。
また転移だ異世界だドラゴンだというまるで、映画化された某ファンタジー小説の出来損ないのようなこの状況は理解の範疇に無かった。
彼女の頭は既にパンク状態で極度のストレスで精神を病んでいた。
ぎゃあぎゃあと現状認識が甘いとしか言えない発言を繰り返す挙句、自衛隊は信用できない、米軍は侵略者云々と怒鳴り散らす。
これに油を注いだのが最初の映像の当事者、東と有坂だった。
もっとも発言したのは東ただ一人だったが、女同士の壮絶なやり取りに男陣営は何も出来ない。
東は暴言を吐く高崎を真っ向から論破し斬り捨てる。
698 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:41:46 [ h4aEybGQ ]
「お前みたいなのがこの場にいるのはシビリアンコントロールに反する!」
「私たちがやってるのは報告だけ。決めるのはそっちでうちらはその通りに動くだけ。ついでにその命令で何かあったら責任もそっち」
「大体人殺しの組織が何を言うか!!」
「まずは自分の後援会に言ったら?中核派に核マル派も居たでしょ」
「軍靴の音が聞こえてくるわ!」
「いや、ここ、絨毯だから無理無理。耳鼻科逝っとけ」
「それ見たいですね。1本1000円でどうにかなりませんか?」
腹を抱えながら情景を想像する秘書官に知事も同様に肩を震わせながら言う。
「そう遣り合ってたら怒って彼女は出て行ってしまったよ。10時ぐらいかな」
「ああー、では会議中に出て行った黒塗りは高崎知事だったんですね」
「しかし、彼女とやりあった東という自衛官は凄かったぞ。平然とお茶まですすってたからな。総監らは胃が痛そうにしてたがな」
「でもそれで話をまとめても良かったのでしょうか?問題になりませんか?」
新美の疑問は、元はこの会議は出席者による全会一致で議決するという方針だったからである。
「実は最初に増子さんから提案があって、この会議の結果がどうあれ舵取りは早く進めねばならない、多数決にしよう。と言われてな」
それで一人ぐらい出てっても問題なかったんだ、と苦笑する。
高崎知事の退出後、東二等陸尉は何事もなかったように同僚の有坂二等陸尉とともに自分らが撮影した映像について説明していく。
その説明は簡潔ながらも適格で分かりやすい報告であった。
またその途中で撃ち落されたドラゴンの死体を運よく、ヘリコプターと関越道群馬側の出口を抜けて輸送したボートで回収することに成功したこともあわせて報告された。
その遺骸は現在、新潟大の研究室に運び込まれて調査中であり、その報告は後日ということだった。
参加者からの質問にもよどみなく答え時にはジョークも織り交ぜて場を和ませた。
最後に会議室を後にしようとした時、彼女は口を開いた。
「政治家が、自衛隊を指揮する権限を持った政治家が命令すれば我々は如何様にでも動いて見せましょう。しかし、信用していただけなければそれは無意味です。」
上には上の下には下の義務がある。
今まで国政には携わらず、国防、外交と言うまったく違う重圧に立ち向かってもらわなければならない。
全てが一体となって国難に当たらなければ。
一旦言葉を切り、続ける。
「ですが自分はあなた方を信用します。何せ好き好んで厄介ごとを背負おうとしているのですから」
そう言って笑うとぺろっと舌を出す。
それは年相応、というか元々の幼い顔立ちもあってか妙に愛くるしい笑顔だった。
「では国民の行く末もありますのでよろしくお願いします」
そう言ってもとの鉄面皮の真面目な顔をし敬礼をすると部屋を出ようとドアノブに手をかけ、重厚なドアを開く。
有坂も続いて出て行くが、閉まる直前に東が思い出したように言う。
「会議の邪魔者は除いておきましたので、踊らないでちゃっちゃかお願いします。アリーナ司令官もうんざりしていておいでようですので。では失礼します」
そう言うなりドアはぱたんと閉まり、室内には静寂が漂う。
すまなそうに頭を下げる各自衛隊の長、そして
「コミュニストが居なくなってようやく空気が吸えますな」
ニヤリと笑う三沢基地のブルース・アリーナ司令だった。
699 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:43:07 [ h4aEybGQ ]
その後は続いて行われた自衛隊、アメリカ空軍による南の大陸の航空偵察の結果が報告された。
それによると、新潟と繋がっている陸地はやはり大陸だろうということ。
三陸とは違ったなだらかな海岸線が今の日本を基点として最低1000キロは続いているということ。
東側はほとんど森林、そして荒野が続き集落らしきものは片手に数えられるほどしかないこと。
西は東よりも人口が多いようだった。
漁村や山村、畑も幾つも見つかり、城塞に囲まれた比較的大きな町も見つかった。
陸地を南に向かうと東西変わりなく緑が深くなり、さらに標高が段々と高くなり、およそ500キロ南下すると3000メートルから4000メートル級の山脈が存在した。
元居た世界では太平洋、日本海、オホーツク海が存在した方向にもP−1Aなどを派遣して偵察したもののそちらには何も発見できなかった。
日本の現状に関しては、まずエネルギーは当面問題ないものの、配給制などの規制を設けなければ1年、策を講じても原子力以外の化石エネルギーは2年で尽きるだろう。
食料も米や野菜、乳製品、魚介類は問題なく、カロリーベースでも水準以上を維持できる見込みだが、砂糖や香辛料、お茶などといった嗜好品は早急に手立てを考える必要があった。
失業者や離散家族に対する手当て、これからの工業製品の市場と原料の輸出入先、国からの支出金消滅に伴う財政面税制面の問題。
とにかく難問は山積みであった。
その中で特に問題だったのは三権、つまり行政権、立法権、司法権の取り扱いだった。
最高裁判所は当面は札幌ないし仙台高裁に設置することで合意したが、問題は立法権だった。
一旦、臨時政府に委ねるか、それとも各県議会を糾合して臨時国会を開くか、それとも総選挙か。
議論は紛糾しかけたものの、それを押し留めたのは最年長の福島県知事の佐藤だった。
今は喧嘩している場合ではない、どうするかだけを考えるべきだ、と。
そして決が採られた
臨時議会創設のため総選挙を行う、ただし緊急性が必要とされている事態のため総選挙は先送りとし、1年以内に必ず行うことを発表すること、その上で国会開催まで臨時政府に特別に立法権を付与する。
首都は仙台。
臨時政府の首相は宮城県知事近藤和久とし他の県知事は閣僚として参加、国防大臣には元海上自衛隊で幕僚長として辣腕を振るったことのある水田圭二がその任に当たることとなった。
また在日米軍も緊急事態と言うことで自衛隊とともに臨時政府の指揮下へ編入されることとなった。
そして最後に首相の任に付くこととなった近藤が質問をする。
自衛隊、在日米軍は何処まで出来るか。
武官を代表して東北方面総監岡田恵次は立ち上がり静かに答えた。
「やれとおっしゃれば200万から300万は殺して見せましょう」
そして
「大陸への進出、いえ侵略は、現状では不可能です」
巷で言われているように自衛隊は演習での弾薬は少なかった。
しかしその裏返しで実戦用の備蓄はかなりの量に上っていた。
これは陸海空同様であった。
しかし、今までの防衛主体の戦力編成が裏目に出た。
いや、21世紀の現代、世界の軍事システムの進化は兵器の高度化と価格の上昇を招き、そして世界経済のグローバリズム化、価値観の変化によって超大国のアメリカですら長期戦には耐えることは困難になっていた。
武力による侵略は完全に否定され、長期に作戦可能なのは支援体制が整ったPKFや、あるいは自動小銃とロケット弾、市販の4WDで行われる第三世界間における紛争ぐらいのものになってしまった。
そして9条に未だ囚われ続けている日本の自衛隊に侵略のノウハウは最早なく、また兵站線を確保できるだけの余剰戦力はなかった。
また東北と言う農林水産業主体地域のため食料の心配はなかったが、代わりに武器弾薬の補給、特に航空関係、誘導弾のが現状ではほとんど不可能になってしまっていた。
福島県にのみ運よく12,7ミリ〜35ミリの弾薬製造工場はあったもののそれだけであり、もし戦争を行うならばその手当てが必要だった。
「兵站線の確保に民間を使うのは現状では難しく、防衛戦以外は不可能です。せいぜい南東北、運が良くて東北全体ぐらい領土を保持するのがやっとでしょう」
それだけではとても必要とされる資材、食料は調達できないだろうことは全員が理解できていた。
暗い影を落とす会議室に岡田総監の声だけが響く。
「出来うる限り、外交力だけで、交渉だけで決してください。万が一戦争を決定しても戦争を終わらせる見通しを、短期間で終わらせる自信が無ければ、私は身命を賭してでもその決定に反対させてもらいます。部下に死ねという命令を私は出せません・・・」
700 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:44:04 [ h4aEybGQ ]
会議の概要を話し終えると近藤は窓際に向かい街を見下ろした。
台風が過ぎ去り空気は澄み切り、青々とした緑の匂いが辺りに漂う。
眼下の道路はまばらで、人通りも何となく少なく、その顔には不安の影が色濃いものがほとんどだった。
「宮城だけでも荷が重いと思っていたが、まさか国の舵取りをまかさようとはな」
若い頃には情熱と野望に燃え国会議員を目指したこともあった。
何度も苦渋を飲み、当選したのは中選挙区があったころのわずか一回。
その後は大学で教鞭を取るなど穏やかな生活をしたものの、周りからの後押しもあり知事になった。
去年めでたく再選挙にも勝利し二選目となる今年。
まさかこんな波乱があるとは。
もう還暦を越えた身で体が思うように動かないこともたまにある。
お爺ちゃん、なんか古臭い臭いがすると孫に言われ本気で泣きたくなったこともある。
だが先ほどから体は歓喜に震えるように熱く感じていた。
2000万の命、日本の将来、全てが自分の双肩にかかっている。
そのあまりの荷に押しつぶされるそうな不安があった。
けれども、それ以上に大きかったのはもはや消え去ったとばかりに思っていた野心と情熱。
国民の期待に答え、それ以上の日本丸の舵取りをして見せようという野心。
国家の一大事に力を出そうという情熱。
「この老骨に働き場をくれた神様に感謝しなければならないかもしれんな」
少し不謹慎なことを自嘲気味に呟く。
振り返り秘書官の新美に指示を出す
「臨時政府首相として、泉川外務大臣と水田国防大臣、それに岡田総監を至急呼んでくれ」
近藤和久日本臨時政府首相としての最初の命令だった。
「隣接地域を支配しているであろう国家に対し使節を派遣する」
日本最初の、そして最大といえる難事の始まりだった。
701 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/29(火) 00:44:57 [ h4aEybGQ ]
ほぼ同時刻。
佐渡沖100キロの海上。
灰白色に染められた艦艇が群青の上を進む。
船型は三胴船体という独特のトリマランを採用した近未来的な外観。
ステルス性を高めるため傾斜面で構成された上部構造物とVLS。
同様な形状を持つアメリカのLCSよりも飛行甲板は狭く大きなブリッジと格納庫。
船腹に白くくっきりと書かれた番号は先頭の艦に「DE301」後方の艦に「DE302」という文字が波を被り、太陽の光を受けて輝いていた。
その二隻のうちで先を進む第25護衛隊所属ゆきかぜ型護衛艦「ゆきかぜ」艦内。
「ふぁああーーあ」
「艦長・・・。もう少し緊張感と言うものをもってください」
護衛艦の薄暗いブリッジ。
幾つもの計器が淡い光を放ちその動向に何人もの乗組員が注意を払う。
その中で一人席に座り前を見据えたまま暢気にあくびをする男が一人。
それにたまりかねたかのように傍らに居た女性が注意する。
「一応、作戦行動中なんですよ!」
「実戦なんだから余計に緊張しないほうがいいと思うんだが、副長はそういうのは駄目か?」
艦長席に座る佐藤祐一二等海佐が副長の坂上優子三等海佐の剣幕にいささか動揺しながら答える。
「当然です。大体普段はちゃんとやっているのにどうして今・・・」
「いや、演習なら評定に響くじゃないか。実戦なら死ぬだけだから考えなくていいし。よし、何も無さそうだからちょっくら風呂入ってくる」
そう言うとすたこらとブリッジを降りていく艦長を副長は呆然と見送り、我に返った後は顔を真っ赤にするのだった。
後でどうとっちめてやろうかと坂上が考えていると、一人の乗組員が叫んだ。
「上空のAWACSより入電!アンノウン2機が接近中、本艦より西南西距離100マイル!」
720 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/31(木) 00:52:14 [ h4aEybGQ ]
見覚え聞き覚えの無いものの説明
地方隊用ゆきかぜ型DE
全長 120m
全幅 30m
基準排水量 2000t
機関 ガスタービン
最大速度 40kt(公称)
主砲 OTOメララ76mm62口径スーパーラピッド砲 1基
対空・対潜・対水上兵装 VLS16基
(任務によって変更。通常は改良型SSM2対艦誘導弾8発・ESSM2基8発・改良型アスロック6発)
対空・対水上兵装 40mmCTA高性能機関砲(CIWS) 1基
対潜兵装 3連短魚雷発射機 2基
対潜多連装ロケットランチャー 1基(着脱式)
補助兵装 50口径12.7mm機関銃 4基
Mk38 25ミリチェーンガン2基
搭載航空機 ヘリ1機 UAV2機(固定配備なし。任務に応じて配備)
乗員 70〜130名
アメリカのLCS準同型艦。P-8やDDXとともに開発費・価格高騰に頭を悩ませたアメリカが日本を巻き込んだ形で完成。
日本も地方隊用のDEを欲しがってたことにより船体の8割の共用化や民生品の導入の増加、日本の発注による量産効果により価格の低減に成功(約400億)
なお、LCSと違い多用途性はそれほどなく、通常はほぼ純粋にDEとして対空・対水上・対潜任務に着く。
ただしLCSと同じようにミッションパッケージの交換は多少時間がかかるが可能なので機雷戦(掃海&敷設)は可能。
しかしそのパッケージが置かれるヘリ甲板下は何時もは普通に曳航ソナーなどの対潜用機材ならびに搭載艇が置かれている。
無論、それをどかせば臨時の高速輸送艦にも使用可能。
またゆきかぜ型の特徴としてそこに、従来型のランチャーを無茶すれば積載可能。
広めのランプドアはそのため、ただしとてもじゃないが荒天下では使用不可。
ゆきかぜという名前は自分の趣味w
http://mil.homeip.net/oekaki/bbsnote.cgi?log=85&fc=thread&res=0-13
http://mil.homeip.net/kako/image/1204.jpg
彼女は疫病神なんかじゃないやい!!(つД`)
UH60−JA改
両脇にロケット弾、スティンガー、ヘルファイア、機関砲等積載可能なパイロンの増設、ならびに空中給油用のプローブ設置。
それと地形追随レーダーの増設と暗視装置の強化。
また74式機関銃以外に96式自動擲弾銃やM134ミニガンの搭載も可能に
これだけ
721 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/08/31(木) 01:12:40 [ h4aEybGQ ]
今回のは、まあ何と言うか、大まかな大雑把な動きですね。
さっさと知事を集めて方向性を決めて、自衛隊は陸自が新潟に集結中、海は茨城沖と新潟沖に不測の事態に備えたのが稚内に。
空自は整備班+機材・武器弾薬を南東北の空港に集めた上で千歳の隊を移動させてます。
それまでは当分、一番南にある松島のF2が各種お仕事にてんやわんやしてもらいます
自衛隊は今のとこ、はっきり言って専守防衛主義になってしまいました。
個人的には左翼が居ようが居まいが関係なく、いくら民間の協力仰いでもイラクみたいな大規模占領政策は無理ポと思ってます。
能力的にもですが、民意を問うたら多数の人はまずはギリギリまで交渉でODA渡して開発させて購入or採掘権ゲットに落ち着くかと。
もっとも、そのうちげ(ふんげふん)ですが(´・ω・`)
ついでに中央省庁はほとんど東京ですしねー(ちょいと意味深
あとゆきかぜ投入で大湊の備蓄弾薬量や整備部品は増加してるので第1護衛隊群もこれで受け入れできるw
後付万歳w
あー、次回予告ー
次も戦闘にはなりません_| ̄|○
投下予定品を3行で表すと
餌付け
東○女子!?
SEALs&特殊作戦群空気(笑
レイナと佐々木には違う仕事をそのうちw
ただ初期じゃなく中期に入れようと思った戦闘を前倒してファーストコンタクト後に持ってくることにケテーイ
ただし、北海道新聞曰く「戦闘と言うよりむしろ虐殺」
恐ろしいキルレシオにしちゃいます
何故か自衛官よりもマスコミの死傷率が大きいw かも
737 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 01:50:09 [ h4aEybGQ ]
けたたましいサイレンとともに乗務員が持ち場に急ぐ。
甲板上では76ミリ速射砲が空を睨むように旋回する。
ブリッジでも副長の坂上三佐があわただしく乗員に指示を出す。
そこに先ほど風呂へ向かった佐藤艦長が飛び込んでくる。
「例のドラゴンか?速力、位置、高度知らせ!」
「目標のアンノウン2機、本艦より2時の方向約150キロ、速力約100キロ、高度約3000フィート!!」
レーダーを睨んでいた隊員が怒鳴り上げるのを聞いて愕然とする。
「待て!それではAWACSは何をしていた?佐渡上空からもそう離れては居ないぞ!!」
空飛ぶレーダー基地と言われるAWACS、その中でも日本が所有するのは最高の性能を誇るといわれるE767である。
その探知距離は航空目標なら最高で800キロ先の目標を探知するといわれている。
それが今回ではおよそ150キロという至近距離にまで近づかれてたことに佐藤は戸惑いを覚えた。
「艦長、目標は恐らく例のドラゴンかと思われます。あれは生物と思われますのでその分RCSが小さくレーダーに映りくいのではないかと」
佐藤の疑問に坂上はよどみなく仮説を述べる。
恐らく今まで指示を出しながら考え続けていたようである。
「うーん、流石に常識に囚われてはいかんな。対空対水上戦闘用意!はつしもに打電!「我に続け」だ」
副長の説明に納得するが早いか、第25護衛隊支隊の先任指揮官として僚艦にも矢継ぎ早に指示を出す。
「一戦交えるんですか!?」
副長の問いに首を振る艦長。
「んなわけあるか。こんな訳分からん状態で戦闘はできない。速力最大戦速!操舵手方位2-7-0!新潟港へ向かう」
即座に撤退の決断を下すとCICへ通じるドアへ向かう佐藤二佐。
「では副長、ブリッジを頼む。自分は下に下りる」
しかし、それを呼び止める坂上
「艦長!!」
「どうした?」
「・・・艦長」
「だからどうした?」
「せめてパンツをはいてください」
生まれたままの姿でブリッジに飛び込み指揮を取っていた艦長だった。
「いい風呂だった」
「はよ行け〜〜〜〜〜〜!!!」
738 名前:アルザス ◆ZsTd1BUFKk 投稿日: 2006/09/01(金) 01:52:10 [ h4aEybGQ ]
新潟空港では到着したばかりの攻撃ヘリが発進準備を整えていく。
整備員は手際よく対空兵装と燃料を補給していく。
スクランブル発進を命ぜられた2機のパイロットとガンナーが素早く打ち合わせし自機に乗り込んでいく。
2基合わせて3200馬力をひねり出すガスタービンエンジンを唸らせ、発進していく2機のヘリコプター。
ゆきかぜからの緊急要請を受けた自衛隊臨時統合司令部は天候不良で発進不可能な松島基地ではなく、仕方なくより遠い三沢基地からF15J戦闘攻撃機をスクランブル発進させるとともに、新潟空港に展開したばかりのAH64−DJも支援として出撃命令を下した。
それは前回の空中戦から十分対抗可能と言うこと、ジェット機では速度差がありすぎて迎撃に失敗するのではないかと言う保険のためでもあった。
しかし、新潟から発進したヘリのパイロットの名前を聞いた統合幕僚会議議長の任に付いた岡田陸将や米軍のアリーナ少将は苦笑いを浮かべることになった。
「またあのペアが出たのか」
「そういう星の元に生まれたのではないかな。彼女達は」
だが当然の疑問も。
「しかし、会議で仙台に居たはずなんだがなあ・・・。何時の間に」
速力はF15のほうが圧倒的であったが最寄の新潟空港から素早く発進したAH64とほぼ同時間に到着する見込みであった。
「こちらシルメリア、ジャベリン5聞こえるか?」
現場へ近づくAH64−DJアパッチロングボウ攻撃ヘリ。
その内部のガンナー席に座る士官のヘルメットと一体化したイヤホンからAWACSの管制官の声が響く。
「こちらジャベリン5、聞こえる。目標、エコー1、エコー2の位置を知らされたい」
「現在、貴機より方位0時方向。距離はおよそ100キロ、速力90キロ」
「エコーは両方ともほぼ同位置か?」
「そうだ」
「了解した、ありがとうシルメリア。この後も誘導頼む」
「了解。健闘をガブリエル」
前回ドラゴンと空中戦をかました時に叫んだコールサインで呼びかけられるジャベリン5。
「それはパーソナルサインだ。今は僚機と行動中だからジャベリンで頼むぜ」
そう妙に気取った口調で更新を終わらせる東。
AWACSとの交信が終わったところで有坂が右手に佐渡を見ながら話しかける。
「霞目からここまで飛んできたばかりなのに、人使いが荒いよな。馬梨邑でハンバーグ食ってくれば良かったなあ」
思わず基地近くの隠れた名店の味を思い出しよだれが出る。
「あそこはソースがいいんだよなあ・・・。最初からかかってるドミグラスとは別の・・・」
「手製のをたっぷりかけるといいよねー」
「ああ、ヒレカツとハンバーグ・・・。いや馬梨邑はいいんだよ。まずは・・・、おっ、ゆきかぜが見えてきたぞ。」
東が我に帰り空腹を抱えながら飛行していると白波蹴立てて進むゆきかぜが眼下に見える。