247 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:26:26 [ C3L2eSiU ]
できました。
「続 出動!独立偵察隊」です
(前作は前スレ参照ください)
物語はあれから5年後の世界が舞台です

2010年12月21日10時34分 北九州市門司区門司港沖

 輸送艦「おおすみ」の甲板で元陸上自衛隊二等陸尉である重岡竜明は胃の中身を海にぶちまけていた。相変わらず、船には弱かった。そんな重岡を近くにいた少女が笑った。
「重岡のおいちゃん、情けない!」
 その侮辱的な言葉は、今の彼の肩書き、ガシリア王国親衛騎士団団長であれば手打ちもできるんであろうが、言葉を発した相手が悪かった。
「パパ、重岡のおいちゃんは船に弱いの?」
 無邪気な少女の見事な金髪が海風に揺れる。彼女は、ステア・ミランス・村山。ガシリア王国大公の村山とガシリア王国大神官、ドローテアとの間に産まれた子供だった。その父親は娘をのんきに肩車して見えてきた九州の陸地を見せている。
「重岡、もうすぐ門司港だぞ」
 父親である村山は大公らしからぬよれよれのスーツで娘を肩車しながら言った。5年前、九州地方がこの世界に召還された。村山は自衛隊を退職して小倉で探偵家業をしていたが、ひょんなことからドローテアと切っても切れぬ間柄となり、彼女の任務であったアジェンダ帝国魔道大臣ドボレク探索に秘書の田村美雪と加わった。秘書の美雪はドローテアの従者だったバルクマンに一目惚れ。重岡の娘の美咲もバルクマンをすっかり気に入ってしまった。その後、すったもんだの末ドボレクを捕らえたが、ドローテアの妊娠が発覚。村山は貴族としてガシリア王国に迎えられた。その際に、重岡。伊藤三尉、津田三尉は村山に誘われ彼らの親衛騎士団を率いることになったのだ。
「あれがパパの産まれた国?」
「ああ、そうだよ」
 父親の肩の上でステアが無邪気に尋ねる。彼女も公女と言われているがまだ5歳。村山夫婦が公務で九州を訪問するのを機会に連れてきたのだ。
「村山様、重岡様。まもなく到着です。ご準備を」
 いつの間に近づいていたのか、長身で金髪のイケメン騎士が重岡のすぐ近くにいた。彼がバルクマン。バルクマンを見つけてステアがうれしそうに笑った。
「バルにいちゃん。もう着くの?」
「はい、ステア様。まもなくお父様の産まれ故郷に到着いたします」
 恭しくステアに受け答えするバルクマンにも今回は大仕事がある。美雪のご両親と面談するのだ。そんな大仕事が控えていながらも彼はそんなことをおくびにも出さない。さすが騎士と言ったところだろうか・・・。

248 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:28:37 [ C3L2eSiU ]
2010年12月21日10時56分 北九州市門司区門司港

 門司港の岸壁ではそれぞれの所属の正装に身を包んだ丸山、田島、岩村が岸壁に控えていた。3人ともそろって仏頂面だ。
「なんで我々が散々迷惑をかけられた村山の出迎えをしなければいけないんだ?」
 九州地方暫定政府の統合幕僚会議議長になった丸山が思わずぼやいた。
「統幕議長。ここはひとつ、にこやかに・・・」
「さよう。今や村山は貴族なんです。耐え難きを耐えです」
 同じく幕僚会議に加わった田島陸将補と福岡県警岩村本部長が丸山をなんとかなだめる。それを横目にして、茶髪の防衛庁長官、田所がため息をついた。まったく。5年前と変わらないな。
「到着したようですね・・・」
 暫定政府首班の浅川はネクタイを締め直すと、報道陣のフラッシュがこれでもかとたかれる方をにこやかに見やった。彼の視線の先には、報道陣に囲まれるドローテア、5年前と変わらないよれたスーツの村山。そして2人に手を引かれる女の子が見えていた。その後ろにはばしっとスーツを着こなした重岡たちが続く。約1名を除いては国賓にふさわしい趣だった。
「これはこれは、ドローテア様。」
 村山を見て崩れそうになった満面の笑顔をなんとか維持しながら、で浅川はドローテアと握手した。フラッシュの数が一斉に増えた。
「浅川殿、我が娘、ステアだ」
 ドローテアの紹介で浅川はしゃがんでステアと視線を合わせた。きょとんとした表情を浮かべるあたり。所詮5歳児だ。ここはひとつ、子供好きをアピールして支持率を上げておきたいところだ。
「やあ、ステアちゃん。ようこそ九州へ」
 彼なりに精一杯子供向けの笑顔を向けたつもりだった。だが、ステアは次の瞬間眉をしかめて、父親の足にしがみついた。
「パパ、この人たばこ臭い!パパと同じにおいがする!」
 周囲の記者から失笑がこぼれた。浅川は、公式上タバコは吸わないことになっているのだ。これもイメージ戦略のためだ。記者の失笑を我慢しながら浅川はいささかひきつった笑顔を浮かべた。
「そ、そうかい?健康のために禁煙してるんだがねぇ・・・・・」
 精神的ダメージの大きい暫定政府首班に変わって田所が前に出た。ぱっとステアの顔が明るくなった。
「田所のおいちゃんだ!」
「ステアちゃん!大きくなったね!」

249 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:29:08 [ C3L2eSiU ]
 若い防衛庁長官はステアを高く抱き上げた。カメラマンはこの瞬間を捕らえるべくシャッターを押しまくる。今や、5年目を迎えた浅川政権の後継者としてまことしやかに噂されているのが田所だった。来年、浅川は任期切れを迎えて、再び首班選挙が行われる。再選を目指す浅川の強敵が、同じ政権内の田所というわけだ。国賓を迎えての第1ラウンドは田所に軍配が上がったと、マスコミは書き立てることだろう。
「ドローテア様も村山さんも元気そうですね」
「おかげでのんびりやってるよ」
 村山が娘をだっこした田所と握手した。今回、村山夫婦がステア同伴で来訪したのも、田所をバックアップするという目的をかねてだった。ガシリア王国としても、より理解の深い田所にリーダーシップをとってもらった方が何かとやりやすい。国王ヴェート王の希望でもあった。
「まあ立ち話もなんですから・・・。こちらへどうぞ!」
 田所はステアを抱いたまま一同をエスコートし始めた。輪の外で、直立する丸山たちに気がついた村山はいじわるい笑顔を浮かべ、丸山たちはぎくりとした。
「皆の者・・・・、ごくろうであるぞ・・・ぷっ!!」
「これ、大公殿。ふざけるでない」
 苦笑いするドローテアにたしなめられながら、村山は丸山たちに捨て台詞を残して歩いていった。その後ろをかつては彼らの部下だった重岡たちが、軽く会釈しながら通り過ぎていった。
「ぬぬぬぬぬ・・・・・。村山ぁ・・・・・」
 額に血管を浮かべる統幕議長が腰の拳銃を抜こうとするのを田島と岩村が必死で止めていた。

250 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:29:40 [ C3L2eSiU ]
2010年12月21日21時43分 北九州市門司区門司港 門司港ホテル

 「ドローテア様、村山さん。今日は遅くまでお疲れさまでした」
 エレベーターホールで田所がにこやかに言った。彼らは今までレセプションやらなにやらでずっと拘束されていたのだ。ようやく解放されて厳重な警備の敷かれた部屋に戻ってきたのだ。
「明日は家族水入らずであちこち回れるように手配しましたから・・・・」
「いろいろとすまぬな、田所殿」
 田所の心遣いにドローテアが思わず礼を述べた。礼を言われた田所は苦笑いしながら手を振った。
「水くさいことをおっしゃいますなぁ。どうです?ステアちゃんを寝かしつけたら上のバーでやりませんか?」
「お、いいねえ!」
 すでにほろ酔いの村山は2つ返事で賛成した。そこでバルクマンと美雪が申し訳なさそうに言った。
「センセー、悪いけどさ。あたしとバルクマンはパスするわ・・・・」
「実は下のレストランで美雪さんのご両親がお待ちなので・・・・」
 村山は「しょうがねぇな」とため息をついた。ドローテアは美雪に目で無言のエールを送った。伊藤、津田の2人は実家に帰り、重岡は別の階でもう寝ている頃だろう。なにしろひどい船酔いだったから。
「じゃあ、ぼくは上のバーで待ってますから。後ほど・・・」
 そう言って田所はエレベーターに乗り込んだ。残った村山とドローテアはステアの待つ部屋に向かって歩き始めた。
「こうやって飲むのも久しぶりではないか・・・」
「そうだな。ところでステアはもう寝たかな?」
 そう言って村山がキーをドアに差し込んだ。「ん?」違和感に思わず声を出した。それに気がついたドローテアが夫に声をかけた。
「どうした?」
「カギが開いてんだよな・・・・」
 村山は首を傾げながらキーを抜くとドアを開けた。中にはステアと侍女のミランダが留守番しているはずだ。
「おおい!ミランダ・・・・・」
 2人はなぜか真っ暗にされている部屋に入りながら、ミランダを呼んだ。だが、何も聞こえない。首を傾げながら村山が電気のスイッチをオンにした。一瞬で部屋に明かりが灯った。次の瞬間、自分の目に入ってきた光景を見て、大公は叫び声を出さずにはいられなかった。
「ああああっっっっ!!!」

251 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:30:37 [ C3L2eSiU ]
2010年12月21日21時53分 北九州市門司区門司港 門司港ホテル

 エレベーターホールで下りのエレベーターを待つバルクマンと美雪に、悲痛な村山の叫び声が聞こえた。思わず2人は顔を見合わせた。
「今の声、センセーじゃない?」
「そのようですね」
 ただごとではない事態を察した2人は、村山とドローテアの部屋に走った。開けたままにされているドアから部屋に入った2人はとんでもない光景に出くわして絶句した。
「これは・・・・・」
 部屋には、さっき別れたばっかりのドレスアップしたドローテア。同じく珍しくタキシードを着た村山がいた。だが、ドローテアは縛られて床に放り出された侍女のミランダを介抱し、村山は腰を抜かしている。初めて見る村山の呆然とした姿に思わず美雪は、センセーを激しく揺すった。
「センセー!ステアちゃんは?」
「いないんだ・・・・。どうしよう・・・・」
 完全にテンパってしまった村山はもはやあてになりそうもない。美雪は侍女を解放するドローテアに駆け寄った。
「ドロちゃん、ステアちゃんは?」
 村山に比べれば、ドローテアは遙かに冷静だった。侍女から話をちゃんと聞いて状況を理解していた。
「2人組の男にさらわれたそうだ。まだそう遠くへは行っていないだろう」
 さらわれたって、誘拐?でも、なんで侍女が部屋のカギを開けたのか?カギを開けないと賊はこの部屋に入ってステアをさらうことなどできないはずだ。だが、その答えは侍女自身が語った。
「ホテルのルームサービスを装った男でした。シーツを取り替えるとか言っていました。着衣もこのホテルの従業員のものです」
「とはいえ、この階だけでなくホテルは警察と自衛隊でびっちり固められていますよ。ステア様を外に連れ出すことは困難です!」
 そう。バルクマンの言うとおりだった。門司港ホテルはびっしりと制服の自衛官。私服の警察で固められている。金髪の5歳児を連れて脱出できる環境ではない。だが、美雪は侍女の言葉を聞いてはっとした。
「シーツの取り替え・・・。リネン室よ!」
 彼女の思惑を察したバルクマンが一番に部屋から躍り出た。それに続いてドローテアや美雪、呆然としたままの村山も続いた。

252 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/03(金) 22:31:19 [ C3L2eSiU ]
2010年12月21日21時59分 北九州市門司区門司港 門司港ホテルのリネン室

 畳10畳ほどのリネン室。壁を覆う棚には新しいシーツが納められている。あちこちにある大きな台車には使用済みのシーツが山のように積載されている。美雪はまようことなく、荷物用のエレベーターのドアを開いた。
「やっぱり・・・・」
 そこで見つけたものを見て、彼女は確信した。賊はステアをシーツにくるんでこのエレベーターから階下に降ろして屋外に出たのだ。もはや、誘拐されたというのは疑う余地もないように思えた。
「ドロちゃん、これだけど・・・・」
 美雪は積載量70キロほどの荷物用エレベーターから見つけた物体をドローテアに見せた。バルクマンもそれを見た瞬間、事態を察したようだ。ドローテアの方を見た。彼女は無言でうなずいた。ドローテアの言葉を代弁するようにバルクマンが言った。
「ステア様のお気に入りの人形です」
 美雪の発見した物体、ステアが大切にしているキューピー人形だった。一同は重苦しい雰囲気に包まれた。これだけ状況証拠がある以上、ステアは何者かに誘拐されたと考える他はない。ドローテアが悲痛なため息をこぼしながら口を開いた。
「バルクマン、田所殿が上の階にいるはずだ。呼んできてくれないか」
「はっ」
 そう言ってイケメン騎士がリネン室を出ようとしたときだった。黙って事態を見ていた村山が突然部屋中のシーツを引っかき回し始めた。
「ステア!隠れてるんだろ!出てきなさい!」
 まだ娘が誘拐されたと認めたくないようだ。一通り、リネン室をひっくり返した村山はその場にしゃがみこんだ。
「やっぱりいない・・・・。ドローテア、どうしよう・・・・?」
 ステアはどっちかというとお父さん子だ。そして村山の親バカぶりはガシリア王国でも屈指と言われている。彼の慌てようは察するに安い。思わず美雪とバルクマンが駆け寄った。
「センセー、落ち着いて!ね。」
「そうです。今は田所様を呼んで相談しましょう!」
 2人の言葉に村山はゆっくりと立ち上がって壁に向かって歩き始めた。その行動をドローテアも止めることができないくらい悲壮感漂っていた。
「田所さんを呼ぶんだな・・・・」
 そう言って村山は壁にあるボタンを押そうとした。慌てて美雪が止めようとする。
「あああああ!!センセー!それはダメだって!!」
 美雪の制止もむなしく、村山は「強く押す」と書かれた赤いパネルに囲まれたボタンを押してしまった。とたんに、けたたましいベル音がホテル中に響きわたることになった。しかも、村山たちのいる階はそれだけではすまなかった。
「ひゃっ!冷たい!」
 首筋に当たった何かに思わずドローテアが叫んだ。だが、その叫びも無駄だと言わんばかりに天井のスプリンクラーから大量の水が注がれ始めた。
「ステア、どこだぁ?」
 廊下と言わず部屋中水だらけの中、村山は廊下に向かって歩き始めた。このままでは村山は何をしでかすかわからない。ドローテアが覚悟を決めて夫の首筋にチョップを入れようと身構えた。
「うわっ!」
 だが、彼女が行動を起こすまでもなかった。床に落ちた水で足を滑らせた村山はそのまま頭を打ってのびてしまったのだ。












263 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/09(木) 00:19:08 [ NaWZEexQ ]
171氏乙です

こっちもできました
続編なんで思いっきりバカ路線です

2010年12月21日23時6分 北九州市門司区門司港 門司港ホテルの一室

 厳重にドアが閉められた一室に、顔をひきつらせる例のトリオがいた。その中でも県警本部長の岩村の顔は、顔面の神経が全稼働しているかのごとくぴくぴくしていた。
「で、ホテルの従業員の身元確認は行っていなかった・・・・ということですか?」
 丸山、田島、岩村の前を言ったり来たりするのは、ずぶ濡れの田所だった。騒ぎを聞きつけた田所は、バルクマンと村山を部屋に運んで、緊急事態として彼らを呼び出し状況確認を終えたところだった。すでに警察は非常線を張っており、夜間偵察に優れた自衛隊の偵察ヘリも出動している。
「岩村君、これはまずいぞ・・・・。来年の浅川先生の選挙に響くことにもなる」
 丸山が本部長に小声で言った。それを田所は聞き逃さなかった。
「これはそんな問題ではないですよ!国賓が誘拐されるなんて外交問題にもなりかねない!しかも、ホテルの従業員に扮した賊に悠々とさらわれるなどとは・・・・」
 吐き捨てるような田所の言葉に3人は複雑な表情を浮かべる。ポスト浅川を狙っているとされる田所の言葉だ。自分のポイントを稼ぐために全力を尽くすんじゃないのか、そんな表情が見て取れた。だが若き長官はそんな3人の腹のうちを知っているかのようだった。
「ぼくは自分の保身のために言ってるんじゃない。はっきりさせましょう。ぼくは国家の威信うんぬん以前に、絶対彼女を助けたいんです。」
 突然始まった長官の激白に3人は顔を見合わせた。
「ステアちゃんは独身のぼくにとってはかわいい姪っ子みたいな存在です。それに村山さんもドローテア様とも個人的に親しいおつきあいをさせていただいている友人です。こんなこと、議員であり公職にある人間の言うことではないかもしれませんが、ぼくにとっては彼女は国賓以上の存在なんです。むしろ!あなたがたにお願いしたい!どうか!彼女を助けてやってください!」
 そう言って茶髪の頭を深々と下げた。こんな風に言われたら丸山たちとしては下手なことは言えない。
「長官、わかりました。わたしたちもできることは何でも致します。」
 丸山の言葉を聞いた田所は頭を上げてにやっとした。そしてドアの方を振り返ると大声で言った。

264 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/09(木) 00:19:47 [ NaWZEexQ ]
「お聞きの通りです、ドローテア様」
 その言葉と同時にドアが開かれて、これまたずぶ濡れのドローテアが入ってきた。ようやく一杯食わされたと気がついた丸山は、ぶるぶると肩をふるわせた。
「丸山殿。ご協力感謝する。ついては、我が国からも捜索隊を出したいのだ。輸送関係の協力をお願いしたい。」
「捜索隊・・・・ですか?」
「うむ、まず透視魔法を発動させるための魔導師中隊を緊急に空輸して欲しい。それから、ありったけの輸送力で捜索隊を運んで欲しいのだ。」
 ドローテアは日本国内にガシリアから捜索隊を送り込みたいというのだ。これは明らかに丸山たちを信用していないということだ。これ以上の屈辱はない。しっかり言質を取った田所も、彼女の言葉に援護射撃をくわえた。
「なんでも協力してくれるということでしたんで、よろしくお願いします。それから在日米軍にも協力を要請しますんであしからず」
「は、はあ・・・・・」
 突拍子もない申し出を引き受けてしまった丸山たちが呆然とするのにかまわず、ドローテアと田所は部屋を出た。廊下に出て長官がドアを閉めると、ドローテアは大きくため息をついて肩を落とした。
「大丈夫ですか・・・・?」
 うなだれるドローテアに田所が声をかけるが、彼女は手でそれを制した。
「大公殿は頼りにならぬし、ああいったやり方はあまり好きではないが、この際仕方あるまい・・・・」
 村山は部屋に運ばれ、医者も呼ばれたがショックですっかり寝込んでしまったのだ。彼が当てにならない以上、妻であるドローテアが動かねばならない。正直、田所と示し合わせてあんな猿芝居をして丸山たちを騙すのも気が進まなかったが、ああでもしないと彼女の要求は受け入れられなかっただろう。
「それに、マスコミも準備してありますが・・・・。ホントにいいんですか?」
 田所の質問にドローテアは今度は大きく深呼吸すると姿勢を正した。
「うむ。決めたのだ。わたしはステアを助けるためなら詐欺師にでも鬼にでもなるとな・・・・」

265 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/09(木) 00:20:20 [ NaWZEexQ ]
2010年12月21日23時41分 北九州市門司区門司港 門司港ホテルロビー

 ホテルの外には大勢のマスコミが詰めかけていた。混乱した村山が押してしまった火災報知器のためだった。もはや情報を隠すことは困難だった。
「ドローテア様、本当によろしんですか?」
「ドロちゃん、いいの?」
 バルクマンと美雪が心配そうにロビーに立つドローテアに声をかける。そんな2人に彼女は無理して笑顔を作って答える。
「いいのだ。もはや秘密にはできまい。秘密にできない以上、こちらの態度を賊どもに示す方がよかろう」
 そう言ってドローテアは田所をともなって報道陣の待つホテル前に歩み出た。次々と記者から質問とカメラの閃光が投げかけられた。
「ドローテア様!ステア公女様が行方不明との情報がありますが本当ですか?」
「誘拐説もありますが、どうなんですか!」
 矢継ぎ早に繰り出される記者の質問をドローテアは無言で制した。その威圧感に普段は小うるさいマスコミも思わず黙ってしまった。記者たちが沈黙したことを確認したドローテアは小さく息を吸い込むと無表情のまま、語り始めた。マイクの束が彼女の前に差し出された。
「何人かの人々はすでに知っているようだが、我が娘ステアは誘拐された。何者が誘拐したかはわかっていない。現在、警察と自衛隊の一部が出動して捜索を開始した。」
 ここで彼女は言葉を切った。だが、記者たちは茶々を入れることなく固唾をのんで次の言葉を待っている。
「先ほど、防衛庁長官と協議して我が国から、精鋭の魔導師中隊を空輸することを決意した。透視魔法で犯人を割り出し、一気に殲滅するためだ。また、在日米軍にも協力を要請し、我が国の捜索隊を投入することも決定した。」
 ドローテアは生中継しているカメラの方を向いた。そしてカメラ目線になると画面の向こうの犯人を指さすように、人差し指を突き出した。
「犯人に告ぐ。すぐに我が娘を返せ。もしも娘に傷一つでもつけようものなら、我が国の精鋭50万の騎士団が乗り込んで、貴様らをメテオの業火で炭にしてくれようぞ。ヴェー王はすでに我が娘に万一のことあれば、自ら騎士団を率いてこの国に乗り込み、貴様らの潜む街ごと禁呪で消し去ると言われておる。覚悟して待っておれ!」
 それだけ言うとドローテアは颯爽とホテルの中に引き揚げていった。残された田所に報道陣が殺到した。
「ドロちゃん!なんて事いってんの!」
 ロビーに戻ったドローテアに美雪がほとんど信じられないという表情で言った。まだ何か言いたげな美雪をドローテアはエレベーターに押し込んだ。後に続いたバルクマンが慌ててドアを閉めた。ドアが閉まると同時に彼女は美雪にしがみついた。
「わたしとて、怖いのだ。だが、これも作戦のうちなのだ・・・・」
 その言葉に美雪が再度質問しようとしたとき、エレベーターのドアが開かれてもみくちゃにされた田所が駆け込んできた。
「そうです。これは作戦です。犯人は手口からして行き当たりばったりの変態野郎じゃない。かといって計画的な営利誘拐は日本ではほとんどない。とすれば、犯人は政治的な目的でステアちゃんを誘拐した可能性が高い。半端に頭の回転がいい連中でしょうから、奴らの予想もしないリアクションを見せれば、かなり混乱するはずです。それに・・・・」
 ここまで言って田所はメガネの位置をなおした。彼がこのポーズを取るときは何か考えのあるときだ。
「犯人の目星はすでについています。連中の性質からして、簡単にステアちゃんを殺したりはしないはずだ」

266 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/09(木) 00:20:50 [ NaWZEexQ ]
2010年12月21日23時46分 九州のどこか

 「くそっっ!!!」
 ぼろぼろのソファーに座ってテレビを見ていた男は腹立たしげに缶ビールを画面に向かって投げつけた。そのソファーの向かいにあるパイプイスに座った別の男はその様子を見てきょとんとしている。
「何がそんなに腹立たしいんだ?」
 パイプイスの男の間抜けそうな声に、ソファーの男は彼をにらみつけた。
「何がだって?あんなことを言われてみろ!市民はびびって町中であの娘を捜してまわるぞ!それに俺たちはこれで完全に悪役だ!日本とガシリアの帝国主義を打破するための今回の正義の行動がただの誘拐事件になっちまったんだ!」
 ソファーの男、高橋は苦々しげに言った。5年前、田中が起こしたリーガロイヤルホテルのテロ事件を思い出していた。高橋はあの時は連絡役でホテルに潜入はしていなかった。田中たちメンバーの弔い合戦として今回の作戦を考案した彼にとって、ドローテアの強気の発言は計算外だった。彼女が弱気な発言をしていれば、高橋は犯行声明を出して日本・ガシリアの帝国主義を批判し、アジェンダから軍を撤退させ政治的な方向転換を迫るつもりだった。そうなれば、彼は平和を守った英雄として迎えられたことだろう。子供を殺すつもりはない。高橋の要求をのませた後、感動的な親子の対面を実現させてやれば、世論も彼の平和を求める行動を理解するはずなのだから。だが、これはあくまで彼の脳内の話だ。
 高橋の作戦は早くも、大きな転機を迎えていた。ドローテアがここまで強気に出るとは思えなかったのだ。例えそれが虚勢としても。この局面で子供を殺すことはできない。毅然としたドローテアに世論はびびりつつも彼女を受け入れるだろう。
「こうなったら、持久戦だ。あの女が折れるまで粘ってやる・・・・」
 誘拐犯として、最大のアドバンテージである「子供を殺す」ことをその政治目的で除外していた高橋に残された選択肢はこれしかない。いらいらしながら、高橋は8畳ほどのテレビの部屋にあるドアを開けた。中は3畳ほどの物置になっていた。その中に、手足を縛られた小さなステアが転がされていた。
「おまえの母親は相当に気が強いみたいだな・・・・」
 5歳児に対してとは思えない難しい言い回しで高橋が彼女を見下ろしながら言った。まけじと小さな公女は彼をにらみ返す。
「ママは強いんだから!すぐにパパとママが助けに来てくれるもん!あんたたちもママの剣と魔法で一発でやられちゃうんだから!それに、パパは・・・・・」
 ステアはそこで口ごもった。母親譲りの強気な性格の子供を高橋は面白そうに見下ろしている。
「パパは何だ?」
 高橋にせかされて少しの間考えていたステアはきっと彼をにらみ返しながら叫んだ。
「パパは毎日ビールばっかり飲んでるけど、お酒に強いんだから!!」
 いかにも子供らしい答えに高橋は声を出して笑った。ひとしきり笑った後、その表情をこわばらせて叫んだ。
「無駄だ!パパにもママにもおまえは救えない!せいぜい帝国主義者の両親を恨め!!」
 とても子供には理解できないだろうという思慮を巡らせる余裕もないのだろう。そう言い放つと高橋は乱暴にドアを閉めてカギをかけた。カギの音を確認したステアはふーっとため息をついた。
「ばっかじゃないの、あのおっさん」
 父親の言葉をまねして小さな声でひとりごちた。ママの前でパパの言葉をまねするとひどく叱られるのだ。そう言いながらステアは周囲を見回した。さっき見つけた換気用の窓が目に入った。高さ2メートルほどのところにある小さな窓だ。とても彼女の背丈では届かない。真っ暗な部屋で再びため息をつく。
「パパ、ママ・・・・バル兄ちゃん、重岡のおいちゃん・・・・早く来てくれないかなぁ・・・・」














278 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:16:18 [ IghMM.PU ]
できました。
本スレでカキコされた「異世界を駆け回る90式戦車」って表現ですが、
これが逆になるとどうなるのか?きっとこんな感じでしょう
続きです

2010年12月22日1時21分 北九州市小倉南区曽根 北九州空港

 深夜の空港に数機のヘリが着陸した。重岡は空港職員に用意してもらったテーブルに座って滑走路の隅に張られた仮設テントの中にいた。「MARINE」と書かれたヘリから数十人のフードをかぶった連中が走ってこっちにやってくる。
「第2魔導師中隊であります!」
 ドローテアの呼び寄せた魔導師だった。これから透視魔法でステアの居場所を探すのだ。重岡は所属を確認すると隊長とおぼしき魔導師に声をかけた。
「ごくろう!警察の先導で門司港ホテルに向かってくれ!そこでドローテア様の指示を受けるんだ!」
「はっ!」
 隊長は部下をまとめると用意されたバスに乗り込んで門司港に向かった。魔導師たちがすばやくステアの居場所を見つけてくれるといいんだが・・・。一息入れようとした重岡の耳にものすごい数のヘリのローター音が聞こえてきた。
「おいおい・・・・・」
 夜空を見上げると、ものすごい数のヘリが滑走路に次々と到着して、中から甲冑の騎士団が続々と降りてくるのが見えた。それぞれの隊長とおぼしき騎士がこっちにむかって走ってきた。降ろされた兵士は数え切れない。一糸乱れぬ規律で整列しているが、まるで全校集会みたいだ。
「親衛騎士団第12中隊であります!」
「親衛騎士団第135弓兵中隊であります!」
「親衛騎士団第15長槍中隊であります!」
 見れば重岡の指揮下にある騎士団の連中だった。彼らは全部隊を率いて空輸されてきたのだった。
「おまえたち、どうしたんだ?」
 びっくりして質問する重岡に、第12中隊の隊長が答える。
「はっ!ドローテア様の指令により、捜索隊の先遣隊として到着しました!」
 先遣隊ってことはもっと来るのか・・・。重岡はため息をついて、あらかじめ用意しておいた発泡スチロールでできた九州の地図を示した。
「ここがステア様が行方不明になったホテルだ。君たちはこの周辺を徹底的に探せ。」
「はっ!」
 重岡の命令を受け取ると、数百名の騎士が鎧をがしゃがしゃさせながら空港の出口に向かって駆け足で進んでいった。先遣隊で数百名って・・・・・。重岡はポケットから胃薬を取り出した。

279 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:17:00 [ IghMM.PU ]
2010年12月22日12時38分 北九州市門司区門司港 1号岸壁

 大型船も接岸できる大水深港に、米軍の強襲揚陸艦が接岸した。そこから降りてきたのは海兵隊ではない。2000名近いガシリア兵だった。急遽、実家から呼び出された津田と伊藤がテントの中で各隊長に捜索範囲を指示していく。
「親衛騎士団第135騎兵中隊は、小倉北区室町から三萩野。親衛騎士団第32中隊は城野から北方・・・。えっと、南区は・・・第24司令部中隊と第187弓兵中隊・・・・あと第2野戦補給大隊・・・・・」
 2人は立体地図に次々と爪楊枝で作った隊旗を刺していく。すでに朝から米軍の輸送艦が4隻。海自の輸送艦が1隻到着して、空輸を含めると3万名近い騎士団が北九州市内を捜索していることになる。米軍はサラミドから九州にかけて数隻のイージス艦を配備してヘリの補給ステーションを作って部隊をピストン輸送している。海自も練習艦まで動員して輸送任務に就かせ、あまったフェリーも動員しているという。
「後何人来るんだよ・・・・」
 津田が思わず机に突っ伏してぼやいた。そんな彼の前に1人の騎士が直立不動で立っている。彼のぐったりとしたテンションとは裏腹に、公女様捜索の栄えある任務に選ばれたことで胸を張る騎士が元気よく所属部隊を申請した。
「親衛騎士団第67長槍中隊であります!!」

280 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2005/06/14(火) 22:17:39 [ IghMM.PU ]
2010年12月22日14時22分 福岡市東区志賀島沖 強襲揚陸艦「エセックス」

 エセックスの甲板にはすでに10機近いヘリがスタンバイを完了していた。そのそばに100名近い海兵隊が整列している。世界最強のマッチョの隊列を率いるホプキンス上級曹長が1人の将校を迎えた。
「ガルシア少佐!」
 イタリア系の優男、海兵隊らしからぬ風貌の将校が屈強な黒人曹長に耳打ちした。曹長は頷いてマリーンたちに向き直った。
「いいか!野郎ども!今日からしばらくの間、おまえたちの仕事は少しばかり変わったものになる!」
「サー!イエス!サー!」
「今回の任務は、おまえたちの目の前に見える「志賀島」である少女を捜すことだ!」
「サー!イエス!サー!」
「この島にいるかどうかはわからない!だが、死ぬ気で探せ!おまえたちの目玉か尻の穴かわからない目玉かっぽじって探して探して探しまくれ!!そうだ!おまえたちの今日からの仕事は、探せ!探せ!探せだ!いいな、野郎ども!」
「サー!イエス!サー!」
 マッチョな部下たちのリアクションに満足したのか、ホプキンス上級曹長は部下たちに質問を許した。すぐに、軍曹が質問を投げかけてきた。
「サー!これから我々が探す少女はいったいどういう少女なのでありますか!?サー!」
 この質問に思わずホプキンスはガルシアを見た。ガルシアは彼に「どうぞ」と言う感じで合図した。
「これからおまえたちが捜索する少女は、ステア・ミランス・村山!ガシリア王国の公女様だ!この方は、将来!ガルシア少佐殿の娘となるかもしれない方だ!つまり!海兵隊は鉄の絆で結ばれている!家族も同然だ!我々の家族同然であるガルシア少佐殿の娘になるかもしれない少女!すなわち、我々海兵隊の家族だ!いいか!気合い入れて探せ!死んでも探せ!おまえたちの臭い足の皮が破れるまで、探して探して探しまくれ!俺たちの家族を捜し出せ!」
「サー!イエス!サー!」
 いまいちよくわからないホプキンスの説明に元気よく返事した海兵隊員は次々とCH−53に分乗した。

281 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:19:03 [ IghMM.PU ]
同時刻 福岡市中央区天神 カラオケボックス「メンチカツクラブ」

 フロントは大忙しだった。年末に向けたかき入れ時で部屋は早くも満室近い。スタッフは入室状況を見ながら、誰かやってきた気配を察してマニュアル通りの対応をする。
「すいません。今は1時間待ちですが・・・・」
 そう言って目の前の団体に視線を移したスタッフは固まってしまった。彼の目の前にいるのは忘年会の団体ではなく、銀色の甲冑に身を固めた数十名の騎士団だったのだ。
「あ、あの・・・・・その・・・・」
 マニュアルにない受け答えを脳内で必死に検索するスタッフに、騎士のリーダーとおぼしき男が1枚の紙を見せた。それには日本語の文章が書かれていた。
「特別捜索許可・・・・?」
 目を白黒させるスタッフを後目に騎士団は「では、失礼します」と言うが早いか、階段を昇って各階のボックスを捜索し始めた。客たちの驚く声と、騎士たちの「少しの間失礼します」という声が交錯している。
「なんなんだ・・・・」
 スタッフは呆然としながら捜索を終えて次の捜索場所に向かう騎士団を見つめるばかりだった。

282 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:19:36 [ IghMM.PU ]
2010年12月22日19時19分 北九州市門司区門司港 門司港ホテルの一室

 門司港ホテルのベッドで点滴を打たれている村山を囲んで、ドローテア、バルクマン、美雪、田所が集まっていた。田所の横には公安の職員が立っていて、彼になにやら書類を渡している。
「オッケー、ご苦労さん」
 田所の言葉に敬礼して彼が部屋から退出した。放心状態の村山以外の面々の視線が田所に向けられた。
「やはり、思った通りでした。主犯は高橋という学生崩れの活動家です。防犯カメラ、履歴書の写真などからすぐに特定できました。ヤツは、5年前に小倉のリーガロイヤルホテルでテロを起こした田中の仲間ですな。ほとんど予想はできていましたが、これで記者会見でドローテア様が強気の発言をしたことでステアちゃんの安全が保たれる確率が高くなりましたよ」
 まだいまいち、彼の思考を理解できない美雪が不思議そうな顔をした。それに答えるように長官はメガネをぐいっと持ち上げた。
「つまり、彼らは革命家です。彼にとって我々は憎むべき軍国主義者であり、彼らは一般市民を解放しなくてはいけないわけです。だが、彼らにはそれを公然と実行する力はない。しかもテロという手段はすでに失敗して国民の支持を得られない。だからステアちゃんを誘拐したわけです」
「それはわかりますが、なぜそこで強気に出ることがステア様のためになるのですか?」
 美雪に代わってバルクマンが尋ねた。
「彼らにとってはステアちゃんの誘拐は、力がないから実行したやむにやまれぬ手段なのです。しかも我々はステアちゃんの居所を知らない。そういう意味では現在は彼らにアドバンテージがあります。もしも彼らがこの時点でステアちゃんに何か手を下してしまえば、世論は彼らの味方をしないでしょう。そうなれば彼らのもくろみは失敗します。だから彼らはステアちゃんを殺さないわけです」
 田所の言い分は確かに説得力があった。しかし、それでも美雪は食い下がり、今度は自分で彼に質問した。
「それはわかるけど、なんで記者会見でドロちゃんにあんなこと言わせたのよ?」
 彼女の質問に田所は「待ってました」と言わんばかりにうれしそうな表情を浮かべた。
「いいポイントです。ぼくが言ったような目的で彼らが動いているならば、ドローテア様の強気の発言は彼らを逆に追い込むことになるんです。犯人は頭のいい連中だ。ドローテア様の強気になる動機をそれなりに推測するでしょう。まずは「娘を見捨てた」ってパターンです。これだとステアちゃんを殺してしまうよりも、生きたままにした方が、ドローテア様を批判できます。「娘を見捨ててまで軍国主義に走った」とね」
 縁起でもない仮定だが、ドローテアは厳しい表情のまま彼の話に聞き入っている。
「次に、これはドローテア様の「虚勢」と判断したら。ドローテア様が折れるまで待つでしょうね。決定的な譲歩を導き出すまで待つでしょうね。最後に、本気の強気と判断すれば。彼らは「人でなしの軍国主義者」としてドローテア様をつるし上げます。そのシンボルがステアちゃんです。どのみち、政治的な目的で彼女を誘拐してしまった奴らには、ドローテア様が強気に出たらその時点で選択肢が限られてしまうんです」
 田所の戦略は大ざっぱには説得力があるが詳細になるといまいちって感は否めない。それを補強するために今回のガシリア軍の「大移動」もオプションにくわえられていた。
「犯人がドローテア様の真意をわからない。迷っていれば必要以上に事件は長期化します。でも、今回はこれでもかってくらいに捜索隊を投入すれば犯人は当然、焦りまくるでしょう。彼らの中で明確な結論も出ないままこっちにアクションをとるかもしれないし、ホントにステアちゃんの居所が見つかれば最高です」
 田所の一見突拍子もないが、奇抜な作戦に一同はぐうの音も出なかった。

283 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:20:11 [ IghMM.PU ]
2010年12月22日20時04分 北九州市門司区門司港 門司港ホテルの一室

 門司港ホテルの一室では魔導師中隊が全力で、透視魔法を発動させるべく作業を続けていた。なぜか、召還された九州では魔法力が集中しにくい。そのため、比較的大規模な魔法である透視魔法を使うにはそれなりの人数が必要だった。
「あとどれくらいかかりそうだ?」
 魔法陣を描いて延々と続く作業にドローテアが少しやきもきしながら中隊長に聞いた。
「ドボレクも魔法力の集中にかなり手こずったそうですが、こちらもあと半日はかかりそうです」
「できるだけがんばってくれ。」
「はっ!!」
 ドローテアの言葉に魔導師中隊の隊長は直立不動で答えた。

284 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:20:43 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日5時12分 九州のどこか

 ステアは縛られた両手に小さな火の玉を作っていた。決して遊んでいるわけではない。自分の両手を縛るロープを少しずつ焼き切っているのだ。ほどなく、彼女を縛るロープは切られて、両手が自由になった。すぐにステアは両足を縛るロープもほどいて完全に自由になった。
「らくしょう・・・」
 父親譲りの不敵な笑みを浮かべながら、ずっと気になっていた窓を見つめた。逃げ出すにはあそこからが一番だが、彼女の背丈ではとうてい届かない。ステアが思案に開け暮れていたときだった。
「あっっ!!」
 不意にドアが開かれてパイプイスの男が入ってきたのだ。男は当然、縛っていたはずのステアが自由になっていることに気がついた。状況を理解した男は顔をさっと赤くした。
「このガキ!なめたまねしやがって!」
 男はそう言ってバタフライナイフを抜いた。
「高橋さんは手を出すななんて言ってるが、逃げようとしたんなら関係ねえ!おまえのせいで俺たちは数え切れない騎士に追われる羽目になっちまったんだ!」
 こういう場面では子供は普通、泣くか怯えるかするのが当然なんだろうが、目の前の子供は違っていた。つかつかと男に歩み寄った。あまりの落ち着きように思わず男が、目の前の子供を見下ろした。
「えいっ!」
 ためらうことなくステアは強烈なパンチを男に食らわせた。彼女の背丈では拳はちょうど男の股間にジャストミートする。
「はぶらっっっ!!!」
 男は思わず絶叫をあげるが、ステアは容赦なかった。さらに、先ほどの火の玉を出すと男のズボンにためらうことなく火をつけたのだ。股間への強烈なパンチにくわえて火までつけられた男はパニックになってナイフを放り投げていた。
「ひ、ひいいいいい!!!!」
 座り込んで必死にズボンの火を消そうとする男に、ステアはそばに落ちていた角材を拾い上げるとにっこりと笑いかけた。
「ざけんなよ、この野郎!」
 パパの口癖をまねしながら、これから面白いゲームでもするように無邪気な笑顔を浮かべたステアは、バティスタのオープンスタンスを彷彿とさせるバッティングスタイルで、角材を思いっきりフルスイングした。

285 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:21:19 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日6時12分 佐賀県鳥栖市 九州自動車道鳥栖ジャンクション

 早めに年休を取ったある一家は、早朝の高速を妻の実家である熊本県目指して急いでいた。まだまだ帰省ラッシュには早く、車はすいすい進んでいる。後部座席では子供たちが寝息を立て、助手席では妻がいびきをかいている。
「はあ・・・・」
 運転席の夫は自分の眠気を我慢しながら黙々と運転主役をこなしている。と、さっきから路肩にちらちらと見える物体が気になっていた。まだ完全に明るくなっていないのでよく見えないが、さっきから数秒おきに見えるのだ。ライトや街灯で幻惑されたわけではないのに・・・。
「いかん、眠気が来たのかな・・・・・」
 夫は思わず、近くの駐車帯に車を寄せた。目薬を注そうと思ったのだ。ハザードランプを点灯させて車を停めると、朝の冷気で目を覚まそうと窓を開けた。
「う、うわぁぁぁ!!!」
 夫のすっとんきょうな悲鳴で思わず助手席の妻は目を覚ました。
「なに?どうしたのよ?」
 巨体をゆすりながら運転席の夫に向き直るが、その時点で妻の動きは止まった。運転席の窓の向こうに、金髪のいかつい男の顔があったのだ。慌てて周囲を見ると、車の周囲を鎧に身を包んだ男たちがびっしりと集まって取り囲んでいる。その腰にはそれぞれ、長い剣がぶら下がっているのも見て取れた。
「あ、あの・・・・・。何かご用でしょうか?」
 高速道路でいきなり騎士に囲まれた夫がどうにか口を開いた。運転席に近い騎士があるものを夫に見せた。女の子写真だった。金髪の、まるでフランス人形のような女の子だ。
「この女の子をみかけられませんでしたか?」
「へ?」
 意味のわからない夫は思わず聞き返す。騎士は同じ質問を繰り返す。
「この女の子をみかけられませんでしたか?」
 どうやら人捜しをしているようだ。と夫は混乱しながらも理解した。そして自分の記憶をたどりたどって写真の人物に見覚えがないことを確認した。
「いえ、すいませんが・・・・、見たことありません」
「そうですか、すみませんでした」
 あっさりと騎士は引き下がった。その時、騒ぎに気がついた後部座席の子供が歓声をあげた。
「あっ!ガシリアの騎士団だ!かっこいい!!」
 子供の言葉にはっとした夫は、車から降りて高速を見やった。そして、さっきからちらちらと目に映っていた物体の正体を知った。
「な、なんなんだ・・・・こりゃ・・・・」
 高速道路の路肩には数十メートルおきにガシリアの騎士が並んで、猛スピードで走る車の中を目を皿のようにしてチェックしていたのだ。

286 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:22:46 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日8時32分 北九州市門司区門司港 門司港ホテル

 透視魔法を準備していた魔導師中隊の隊長が部下に肩を抱かれながら、隣室で待機するドローテアのところにやってきた。
「ドローテア様・・・・、増援部隊のおかげで・・・・予定より早く透視に成功しました・・・・」
 その言葉に、彼女と一緒に待機していたバルクマンと美雪が互いの顔を見やった。うとうとしていた田所も飛び起きた。ドローテアはへろへろになった隊長の手を取った。
「ごくろうだった。して、結果はどうだ?」
 隊長は渡されたコップの水を飲み干して、荒い呼吸をしている。召還された九州地方が魔法力を結集するのに、かなりの労力を要するためだ。
「犯人の居場所は特定できました。しかし、ステア様はそこにはいらっしゃいません。どこかを移動しているようです」
「移動だって?」
 思わず田所が聞き返した。彼は隊長をイスに座らせて地図を見せた。
「犯人の居場所はどこですか?」
「ここであります・・・」
 隊長は田所の見せた地図の一点を示した。北九州市と芦屋町の境にある遠賀川の鉄橋だった。
「なるほど、鉄橋の下ならヘリからも発見されないし。往来も激しいから捜索も手薄だ。橋げたの作業場に隠れてるんだ・・・・。」
 田所はすぐさま、県警に出動を命じた。そして問題はステアが移動しているということだ。これにはいくつかのことが推測できた。
「犯人が連れだしたのか?」
 ドローテアの質問にやっと落ち着いてきた隊長は首を横に振った。
「どうやらステア様単独でおられるようです。そこからどちらに向かっておられるかは・・・魔法力が足りなくなりましたので、少し時間がかかります・・・・・」
「そうか・・・。よくやってくれた。少し休むがよい」
 肩を落とす隊長をドローテアがねぎらった。隊長が部下に支えられて部屋から退出すると、彼女はテーブルに突っ伏した。
「きっとステアは逃げ出したのだ・・・・。そうに違いない」
 ドローテアの前向きな推測を彼女の肩を抱いて美雪が後押しした。
「そうよ。ステアちゃんならそんくらい朝飯前だって。後は探し回ってる騎士団が見つけてくれるはずよ」
「そうだといいがな・・・・」
 緊張が極限に近づくドローテアは突っ伏したまま誰にともなくつぶやいた。

287 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:23:27 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日10時09分 遠賀郡水巻町筑豊本線架橋下

 「このバカ野郎!」
 橋げたに作られた作業小屋で高橋は例のパイプイスの男に怒鳴っていた。男は頭から血を流し、ズボンは焼けこげて無惨な姿でパイプイスに座っている。
「相手はドローテア・ミランスの娘だぞ!魔法くらい使えるに決まってるだろうが!」
 高橋は5歳児相手にぼこぼこにされてしまった相棒にさらに罵声を浴びせた。大の大人が魔法使いの娘とは言え、5歳児にいいようにやられて逃げられるなんて。自分の作戦が完全に齟齬をきたしてしまったことを認めないわけにはいかなくなった。
「くそお・・・。俺たちはあの親子には勝てないのか・・・・」
 唇を血が出るほどかみしめながら高橋が肩をふるわせた。
「警察だ!おとなしく出てこい!」
 その時、高橋の耳に拡声器を通した声が耳に入った。慌ててのぞき窓から外の様子をうかがう。河川敷に警官が集結している。その後方にはガシリアの騎士団までいるようだ。
「高橋!おとなしくステア様を連れて出てこい!」
 盾を持った機動隊を先頭に、騎士団と警官隊はじわりじわりと、高橋たちのいる橋げたに接近してきた。もはやこれまで、と観念しそうになるが。最後の革命戦士を自負する高橋はまだ、最後の抵抗を考えていた。
「これ以上近づくと娘を殺すぞ!!」
 のぞき窓から警官隊に向かって大声で叫んだ。パイプイスの男は腫れ上がった目をぱちくりさせている。
「高橋さん、ガキはもう逃げてしまってんですよ」
「いいんだよ、そんなこと連中は知らないんだ」
 高橋はせめて、逮捕はさけられないにしても、自分の要求の一部だけは実現させようとしていたのだ。由井正雪の心境と言っても過言ではないだろう。あくまで彼の脳内での話だが・・・・。
「要求は何だ?どうすればステア様を解放するんだ?」
 警官が高橋に問いかけてきた。「かかった」と彼は確信した。ポケットから要求をまとめたメモを取りだして、のぞき窓から彼を取り囲む「帝国主義者」に向かって宣言した。
「ひとつ!アジェンダ帝国領からの在日米軍とガシリア軍の撤退!ひとつ!ガシリア国王のアジェンダ帝国への謝罪と賠償!ひとつ!自衛隊のガシリアとの交流を停止!この要求を受け入れない限り、我々は娘を解放することはない!!」
 自分なりに完璧な要求だった。高橋は窓から権力の犬たちのリアクションを見つめていた。それは高橋にとって意外なアクションだった。機動隊が後退を始めたのだ。代わって数百名のガシリア軍が前面に押し出した。

288 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:23:58 [ IghMM.PU ]
「魔導師中隊!前へ!」
 乗馬した隊長の号令で200名ほどのフードをかぶった連中が進み出た。その後方には弓兵が控えている。さらにその後ろには抜刀した徒歩の騎士が隊伍を組んでいた。魔導師中隊は呪文を唱えると手に手にスイカ大の火の玉を作り出した。彼らの意図を察した高橋は慌てて窓から叫んだ。
「待て!中の公女がどうなってもいいのか!!」
 そう叫びながらも彼は確信していた。きっと連中はここにはステアがいないことを知っていると言うことを。
「くそ!来るなら来い!!」
 高橋は隠していたトカレフを抜いた。それを見たもう1人の男は隙を見てドアから外に飛び出した。
「待ってくれ!撃つな!」
 たちまち、股を黒こげにして顔面血塗れの男は盾を持った警官隊に取り押さえられた。それを見た高橋は仲間の裏切りに激昂した。
「くそ!裏切り者め!!」
 投降した仲間に向けて発泡するが、ことごとく警官の盾に阻まれてしまった。警官隊の後退を見届けたガシリア軍の指揮官は魔導師中隊に命令を下した。
「よーし!発射!」
 約200個の火の玉が、立てこもる高橋に向けて発射された。のぞき窓からそれを見ていた高橋は目を丸くしてそれらが迫ってくるのを見るしかなかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 橋げたと一体化した小屋は炎に包まれて、その直後小規模な爆発を起こした。明治時代末期、「どてら婆さん」と呼ばれた女渡世人が人足を率いて建設したと言われる橋げたは、ガシリアの魔法攻撃で見事に炎上した。

289 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:24:35 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日11時00分 北九州市門司区門司港 門司港ホテル

 「ドローテア様!犯人の1名を拘束したそうです!」
 田所の報告にイスに座ったまま微動だにしなかったドローテアがぴくりとした。
「魔導師たちの透視通り、犯人は2名だけでした。目下、周辺を徹底的に捜索中です。ほどなくステアちゃんも見つかりますよ」
 この報告にさっきまでぐったりしていたドローテアも勢いよく立ち上がった。
「こうしてはおれぬ!わたしも現場に行くぞ!バルクマン、小娘!一緒に来てくれるか?」
 彼女の横に座っていた美雪も、後ろでずっと立ったまま控えていたバルクマンも二つ返事で了承した。
「もちろんオッケーに決まってんじゃない!」
「早速参りましょう!」
 3人と田所はすごい勢いで部屋から飛び出して、自衛隊の用意した高機動車に飛び乗った。

290 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:25:11 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日18時49分 北九州市若松区本町 パブリックハウス「カミーユ」

 若松駅にほど近い店で、若松商店街連合会の会長山下は副会長の園田と酒を飲んでいた。ドローテアと村山の愛娘が行方不明になって、福岡どころか九州がガシリア騎士の捜索隊で埋め尽くされているというネタは誰もが知っていた。
「しかし、すげえなあ・・・。ヤフードームに集まった騎士団が1万人で、試合中にドームを大捜索っちな」
「JRも駅で停車するたんびにホームに500人くらいの騎士がいて全車両チェックだってよ」
 カウンターに立つ店の50代のマスターも苦笑いを浮かべながら2人の会話に入ってくる。
「鹿児島中央駅にいた友人がね。特急が到着して友達を迎えに行くとね。駅の階段にびっしりと騎士が並んでたんだって。路面電車にも騎士が乗り込んで、天文館も騎士だらけだったってさ」
 マスターのその言葉に園田も焼酎のロックを煽りながら応じる。
「うちの女房は昨日から阿蘇から別府に行っとるんやけど、町営やら市営の温泉があるやろ?あの脱衣所の前に騎士が立ってな、阿蘇山の火口に行くロープウエーにまで騎士が100人くらいおったらしいぞ」
 彼らの言葉通り、この時点でガシリアから送り込まれた捜索隊は10万名を越えていた。アジェンダ帝国に派遣された部隊を除けば、国内にいるほとんどの部隊が九州に送り込まれたことになる。今や、九州では都市部の繁華街、駅だけでなく、住宅街。高速道路、山の中。田舎の県道にいたるまで、騎士たちがびっしりと張り付き、ステアの行方を追っていた。
「うちの商店街も朝から300人くらいうろうろしよるよ。商店街のみんなでお茶やら出してあげよるけど、ありゃ大変な仕事やなあ」
 今や、九州はガシリア軍に埋め尽くされようとしていた。10万を越える騎士が黙々とたった1人の公女を探し続けるのだ。すごい光景と言えた。その時、店のドアがゆっくりと開けられた。
「いらっしゃい・・・・・・・ませ・・・・・?」
 マスターはドアを開けた人物を見てきょとんとしている。山下と園田がマスターの対応に気がついてドアの方を振り返った。マフラーを頭に巻いた小さな女の子が不安そうに店を見回している。女の子の不安そうな顔を見て取った店の女の子がしゃがんで視線を下げて少女に尋ねた。
「どうしたの?お父さんとお母さんは?」
「おトイレ・・・・」
 女の子は聞こえるか聞こえないかの声で言った。店の女の子、聖美ちゃんが女の子の手をつないでトイレに案内してあげた。
「まったく、親は何をしとるんかのお!」
「おおかた近所のパチンコ屋でパチンコでもしよるんやろう」
 山下と園田が口々に言い合う間に、女の子はトイレから出てきた。聖美ちゃんがカウンターの席に座らせている。マスターがホットミルクを作って出してやると、女の子はうれしそうにそのカップに口を付けた。
「あったかい・・・・。ずっと歩いてここまで来たから寒かった・・・・」
 そう言って女の子が頭に巻いたマフラーをほどいた瞬間、店の中の面々は文字通り、そのまま凍り付いた。女の子の髪の毛はフランス人形のような金髪だったのだ。

291 名前:228 ◆st/L1FdKUk 投稿日: 2005/06/14(火) 22:25:46 [ IghMM.PU ]
2010年12月23日19時21分 北九州市若松区本町 パブリックハウス「カミーユ」

 山下から電話をもらったドローテアが、「カミーユ」のドアを勢いよく開けた。カウンターのマスターや聖美ちゃん。客席には山下や園田の姿が見えた。その中に、見間違うことのない娘の姿を見つけた。
「あ!ママ!」
「ステア!心配したんだぞ!」
 山下と園田に挟まれてカウンターのイスに座ってジュースを飲みながらが無邪気な声をあげる娘にドローテアが駆け寄って思いっきり抱きしめた。ドローテアに続いて店内に入った、美雪とバルクマン、田所がステアを見つけて安堵のため息をつく。
「みんな来てくれたんだ!あたしね、悪いヤツをやっつけたんだよ!それでね、自転車に乗ったお兄ちゃんに海沿いを走ってもらってね。駅で降ろしてもらってここまで歩いてきたの!」
 母親の腕の中でステアが自慢げに武勇伝を話すところに、重岡に肩を担がれた村山が到着した。げっそりとした顔でステアを見つけると、重岡をふりほどいてものすごい勢いで娘に駆け寄った。
「パパ!」
「ステア、無事でよかった・・・・・えぐっ、えぐっ」
 ガシリア王国一の親バカは妻と娘を抱きしめると人目もはばからずに泣き出した。ひとしきり泣いた後に重岡に連れられて、村山とステアは表に用意した車に案内された。
「村山、さあ。車に乗ろう」
 父親にだっこされたステアは店にいる山下やマスターたちに無邪気に挨拶した。
「おいちゃん!お姉ちゃん!またね!」
 重岡に連れられて村山とステアが外に出ると、残ったドローテアは山下たちに頭を下げた。
「このたびは本当にお世話になった。わたしからはお礼の言いようがないくらいだ・・・・。なんと言えばいいのか・・・本当にかたじけない」
 平身低頭するドローテアにほろ酔いの山下たちが笑いながら言った。
「まあまあ、わたしらみたいな連中にお礼は言わんでいいですけん、娘さんと一緒におってやんなさい。」
「かたじけない、山下殿・・・・」
「まあ、ドロちゃん。ここはいいからさ。早くステアちゃんの顔を見に行ってあげなよ」
 ぺこぺこするドローテアを見かねた美雪が彼女に言う。いつの間にかカウンターに座ってビールを飲む田所も彼女と同じような言葉をかけた。
「我々はここで打ち上げです。あとは家族水入らずでね・・・・。あ、明日のスケジュールはフリーにしておきますんで、ご心配なく!」
 村山とステアを車に送った重岡も店に戻ってカウンターに座った。ちょっと慌ててバルクマンも座らせてソローテアに言った。
「感動的な親子の再開をじゃまするつもりはありませんから」
「お2人もドローテア様を待ってますよ。いっておあげなさい」
 そう言って頷くバルクマンの顔を見るとドローテアは事件後初めて、妻であり母親の顔に戻った。半分涙を浮かべながら、みんなに一言いった。
「みんな、ありがとう」
 そう言うとドローテアは待ちきれないようで、外に用意されたセダン車の後部座席のドアを開けた。ドアを開けてみると、中の光景を見て思わず、安堵の笑みを浮かべずにはいられなかった。後部座席ではステアを抱きしめた村山が寝息を立てて、彼の腕の中のステアも大冒険に疲れたのか、父親の腕の中で小さな寝息を立てていたのだ。