509 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:08:11 [ OTJyFFp6 ]
「国王陛下。まもなくウラガ水道を抜けます。」
「うむ。何か起こるのではないかと心配したが、何も起こらなかったな。クラーケンの襲撃があると警戒して損をした。」
第一飛竜機動艦隊は大きなトラブルも無く東京湾に進入していた。最初に来た時は海路に悩まされたが、二回目となると流石に慣れてくる。
『カンノン崎を通過します。距離6海里!』
『フッツ岬先端との距離7海里!』
「ここからはニホン沿岸警備隊に誘導してもらう。全艦ににその旨を伝えろ!」
『ヨーソロー!』
前回は横須賀までしか艦隊の主要艦艇を進めていない。東京湾深部の航海は、一部の小型艦が富津岬周辺までしか行っていないのだ。
「単縦陣を維持。10ノットまで減速。魔探は岩礁への警戒を厳にせよ!」
『ヨーソロー!』
『沿岸警備隊哨戒艇および海上ジエイタイ巡洋艦が増速!我々の前方へ進みます!』
510 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:09:34 [ OTJyFFp6 ]
飛竜機動艦隊の周囲を固めていた、といっても護衛艦一隻に巡視艇数隻の船が、滑るように艦隊の前に出た。
「ニホンの船は速い。素晴らしいエンジンを持っている!」
「ニホンの艦船は、そのほとんどが石油を燃料とする内燃機関で動くと聞いております。我が海軍の軍艦とは根本的に違うようです。」
チカチカッ チカッ
『ジエイタイ巡洋艦より発光信号!『ジンケイト ソクドヲ イジシ ワレニ ツヅケ』です!』
「了解と返信しろ!・・・陛下、間もなくニホンの中枢に入ります。しかし、寄港地はヨコスカの軍港でも良かったのではないでしょうか?」
日本政府からは、警備や受け入れ態勢の取り易い横須賀を寄港地に提案してきたのだが、国王の半ばひらめきで、より首都圏に近い横浜港に寄港することになったのだ。
「貨物専用埠頭まで借りてまで、ヨコハマに寄港する必要もないのではないでしょうか」
「うーむ・・・。見栄もあるが、ケーヒン工業地帯という、大規模な産業基盤を間近で見てみたかったのだ。」
(ミエと、自国の艦隊自慢をしにきたのでは?)
「ニホン国民に戦艦の自慢をして何が悪い!艦隊司令長官!!キミの考えなどお見通しだ!」
511 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:12:01 [ OTJyFFp6 ]
やがて艦隊は東京湾を横断し、横浜港の入り口付近までやって来た。
「あのような建造物を作れるとは・・・なんて技術だ!」
橋や高層建築物を見た国王が感嘆の声を漏らす。
『海上ジエイタイ巡洋艦より通信!指示通り艦隊を分離し、指定ブースに大型艦を入港させよと、言ってきております!』
「了解と伝えろ。あと、案内を感謝するとも伝えろ!」
『ヨーソロー!』
「・・・静かだ・・・」
「静か?船体が波を切る音、乗組員の声、風の音。十分騒がしいではないか」
「ニホン側の反応が静かなのです。前回は・・・」
前回の訪問時には、多数の護衛艦・巡視艇・潜水艦・偵察機・回転翼機(報道ヘリ)・謎の小型船(某団体の抗議船)が艦隊の周囲を取り巻いていて、本当に騒がしかったのだ。
「二回目だからなのか、はたまた数ヶ月の間に燃料がいよいよ厳しくなってきたのか・・・」
『司令!国王陛下!間もなく本艦ブルードラゴンは接岸準備に入ります!』
「では、私は使節団を連れてニホン国の皇帝のご尊顔を拝してくる。司令、艦隊を頼むぞ!」
512 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:13:20 [ OTJyFFp6 ]
・・・同日、連合帝国帝都・・・
王城のバルコニーから見る大広場には、各地より馳せ参じた精鋭の帝国軍が居並んでいた。
「皇帝陛下・・・いよいよ出陣と相成りました。後は陛下の言葉お一つで、我等は南下を始めます。」
帝国軍副司令官・・・自分の長男の言葉に皇帝は大きく頷き、バルコニーへと歩みだした。
『皇帝陛下万歳!皇帝陛下万歳!』
荘厳な鎧に身を包んで現れた皇帝を見て、兵士達から大歓声が上がった。
(出陣の演説をしようと思うておったが、これでは無理じゃな)
皇帝は兵士達を一通り見渡すと、抜刀して剣を掲げた。一瞬広場が静まり、そして
「出陣!!!」
その一言、唯の一言で、再び広場は割れんばかりの歓声に包まる。
513 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:15:35 [ OTJyFFp6 ]
「さすが皇帝陛下。兵達の士気は昂ぶっております!」
「これならばナイトロスの蛮族や南大陸の怪物どもも叩き潰せますぞ!」
大臣や大貴族の言葉にも皇帝は浮かない顔を見せた。
「急いで行くと、国境にはいつ頃着くのか?国教会に出し抜かれたら末代までの恥じゃ」
「南方方面軍司令部まで一月半、国教会軍主力は各地で合流しながら南下しているようですので、到着はほぼ同時期になると思われます。」
国教会軍は南方に突出した一部部隊を除くと、進軍速度はそれほど速くはない。
「兵糧の損失が無ければもっと早く出立できたのでしたが・・・無念です。」
長男が悔しそうに言う。それらが帝国内に潜むナイトロス情報局エージェントの仕業であるとは露ほどにも思っていない。
「もうよい。今はナイトロス半島に、我が帝国の軍旗を掲げることを目標とし邁進せよ!」
「ハハッ!!」
皆が恭しく頭を垂れる中、伝令が入ってきた。
『陛下に御報告!辺境地域より強行軍で南下させた軍勢が、半月以内に全て南方方面軍領内に駒を進めます!』
「そうか。実に重畳!エーテルガルドならうまく使ってくれるじゃろうて!」
514 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/24(金) 19:17:36 [ OTJyFFp6 ]
・・・近衛天馬騎士団・前線本部・・・
「こ・・・高名なる・・・・エーテル・・・ガル・・ド・・・に」
ガリガリに痩せた騎士団長らしき男が、私に口上を述べようとしている。
「話はもういい!誰か彼に水と食料を!!」
「ハッ!」
今日やって来た辺境地域の騎士団も、可哀相なくらいみんな痩せ細っていた。
「副団長・・・今の騎士団はどうだ?」
「定員の9割が到着しましたが、とても戦争できる状態ではありません」
「でしょうね。強行軍に強行軍を重ねて来たんだから。先発隊はいよいよゴミの掃き溜めになってきたわ!」
「団長。ゴミは食料を食べません。・・・また食料の手配をしなけれならないようです。」
ハァ・・・元気な兵隊は空中騎士団だけで終わりそうね。そのうち、心労で血を吐くかも・・・
519 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/30(木) 23:23:52 [ OTJyFFp6 ]
「陛下、正装の支度は万全です。これならばニホンの政治家に笑われることも無いでしょう。」
侍従の言葉に、心の中で不安を感じていたナイトロス国王は、安堵の表情を浮かべた。
「私はニホンの風習に疎い。万が一があった時には」
国王の着ている服は、中世ヨーロッパの領主が着ているようなゴテゴテの礼服を、幾分スマートにしたような服だ。
「ニホンとナイトロスの服装は似通っておりますから、失礼には当たりませぬ。」
「ニホンの皇帝も特に何も言っていなかったということからには、大丈夫なのだな。うむ、大丈夫だ。」
国会の演説に先立ち皇居を表敬訪問した国王一行は、天皇及び皇族との簡素な会談を済ませている。
「あのような柔和な御仁が、かのような軍事力を持つ国の元首であるとは。全くニホンはつくづく変わった国だ!」
的外れな考えが出てくるのは、未だに未知の大国たる日本の議会で、ナイトロス元首として、自国そして南大陸と連合帝国との戦争への介入を求める演説をしなければならない。という緊張感のせいだろう。
「私がニホン国民や政治家の機嫌を損なったら、南大陸の未来は暗い。・・・そろそろ行くか。」
「陛下、行ってらっしゃいませ。王宮の侍従達は、地獄の底まで陛下についてまいります!」
そこまで思いつめているのかと思うと、国王は憂鬱な気持ちにならざるを得なかった。
520 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/30(木) 23:24:54 [ OTJyFFp6 ]
…ナイトロス王国・作戦司令部…
紛糾が当たり前の作戦会議は、例に漏れず紛糾している。
「馬鹿げている!海軍は頭が壊れてしまったか!!」
「二個海軍歩兵師団と二個艦隊を動員してまでやる必要があるのかね!!?」
今日の会議は、海軍が槍玉に上げられていた。
「陸軍と空軍が怒るのは痛いほどわかる。だがこれは海軍歩兵の今後の運用と我が国の未来を占う、千載一遇のテストケースであると海軍は考えている。国王陛下からも内密に了承はもらっている。」
国王の名前が出てくると、それまで怒鳴り散らしていた高級軍人や参謀達は黙るしかなかった。
「我々の提案した作戦案は、我が国が北大陸での影響力を増すという、国家の戦略を鑑みて提出したものだ。」
「・・・国軍大臣はどうお思いですか?」
「まぁ作戦の骨子はもともと三軍が共同提案したものであるし、海軍の新案を加えてもそう問題もあるまい?」
国軍大臣の返答に、陸軍の参謀はひたすら失望した。国軍大臣の言いぶりは、海軍が根回しを既に済ませているのを匂わせていたからだ。
521 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/30(木) 23:26:12 [ OTJyFFp6 ]
「国軍大臣はこうおっしゃっている。この追加作戦は海軍の責任で実施するので、海軍と空軍に責任は及ばないようにしておく。」
「そう言うなら・・・」
「海軍が責任を取るなら・・・」
海軍が責任を全て被ると言った途端、陸軍はしおらしい態度に変わった。半島での防衛戦が主体の陸軍にとっては、海軍が行う作戦が自らの兵員運用に差支えなければ、特に興味が無い。今までの反対は陸軍としての面子があるのでそうしていただけだったのだ。
「必要な物資を海軍独自で確保できるなら、陸軍は文句は言いません。更に責任も負いません。」
「我々が配備するはずだった飛竜と同じくらいの働きをしてくれるのでしたら、まぁ良しとしましょう。」
空軍もイヤミを言ったが、最終的には折れた。
「他国との折衝は外交省次第だが、アスターとコバルタは静観するものと思わる。ニホンは・・・国王陛下とその後の外交官達の努力次第だ。」
会議は一旦お開きとなり、休憩後に帝国領南部に集結を始めた軍勢の扱いを決める会議に移ることになった。
522 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/30(木) 23:27:06 [ OTJyFFp6 ]
…日本・迎賓館の控室…
国会・衆議院での演説、有力議員や大臣、経済界の重鎮等との会談と一通りのスケジュールをこなした国王一行は、天皇主催の晩餐会に出席するべく、各国の駐ニホン大使(といっても数人だが)や随行員と準備をしていた。
「・・・。」
国王は黙りこくって顔を歪めていた。ニホンに対し軍事行動の重要性を唱えたはずだが、見ている議員の顔は憤怒か、賛否のわからない曖昧な表情のどちらかだったのだ。
「国王陛下、ニホンの町並みはどうでしたか?私がこの地に赴任してきた時には、腰が抜けるほど驚きましたよ。」
会話の口火を切ったのはナイトロス駐ニホン大使だ。ナイトロス大使館は麻布にちゃっかりと門戸を構えている。
「都市が瀕死でなければ感動したのだろうが、雰囲気はスラム街のそれと同じだ。」
燃料不足により自家用車はスクラップ同然、まともに動いているのは政府、自衛隊の車輛と一部の鉄道のみである。
「そして、夜だというのに外は真っ暗ではないか。立ち並ぶビルディングは幽鬼そのものだ。」
「仕方がありません陛下。都市をかつての明るさを取り戻すのには、ナイトロスと南大陸全土で産出する石油の数十倍から数百倍必要とのことです。石油を使わない裏技があるとも電力会社の社長は言っておりましたが・・・」
電力不足は原子力発電所のフル稼働で完全停電には至っていないが、夜間は節約ために停電、昼間も地域ごとに時間を決めて停電する方法を取っている。
523 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/03/30(木) 23:27:47 [ OTJyFFp6 ]
「ナイトロスの国王殿。間もなくニホンの方が見える頃です。そろそろ宜しいですかな?」
「おーし!ニホンの高級料理を食うか!」
ウェッセンラントとノステルの大使(エルフ族とドワーフ族)は大使というより、国内の鉱区開発の商談をするために日本に駐在しているようなものだ。
「皆様、会場の準備が整いました。SPの誘導に従ってください。」
「おー!噂をすればなんとやら!さぁ行こ行こ!」
「では・・・。船中ではまともな食事を取っていなかった。少し楽しみだ。」
SP達は人間ならざる種族を見て一瞬立ち止まったが、これといった表情を出さずに粛々と仕事をこなしていく。
「ナイトロス、アスター、コバルタ、ウェッセンラント、ノステル、サマリム、メリダの来賓の方々はこちらです・・・」
十数分後、予想以上に質素な料理の前に一同が絶句したと、同行した記者は記事に記している。
534 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/01(土) 23:50:17 [ OTJyFFp6 ]
パパパパ!
『派遣03撃破!』
ボン!
『派遣02撃破!!』
パパパン!
『派遣05撃破!』
『見習いだからって手加減はしないぞ!残りの飛竜はどうした!?早くかかって来い!!』
『派遣01了解!よろしくお願いします!』
『ジーク02了解!一対一で勝てない相手には複数で来い!連携を重視しろよ!』
『『了解!!!』』
535 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/01(土) 23:51:30 [ OTJyFFp6 ]
フランシア基地上空は飛び交う飛竜で入り乱れている。この基地の竜騎兵でも屈指の実力者アレックス大尉と、徴集された複数の竜騎兵訓練生たちだ。
「訓練生にいきなり大尉をぶつけるのはあんまりだと思うんですが?私ならちょうどいい感じに、倒せそうで倒せない仮想敵になれますよ!」
「それをアレックスの前で言えるのか?」
「隊長、それはできません。そんなこと言ったら、日が暮れるまで模擬空戦や体力作りをやらされるに決まってます。」
「彼が副隊長職に着任して始めての直属部下なんだよ君は。アレックスは君を一人前以上の竜騎兵にしようと努力しているんだ。」
「はぁ・・・。大尉を凌ぐ竜騎兵になれるように努力します。」
大事な部下止まりだったんだ。そう思うとリサは忸怩たる気持ちになってしまう。
「アレックスの奴、張り切り過ぎだぞ。」
上空では訓練生の包囲をやすやすと突破し、各個撃破を始めたジーク型飛竜:アレックスの姿があった。
「リサ。降りてきた訓練生を慰めてやってくれ。」
撃墜と判定された飛竜に乗っていた訓練生の顔は、どれも暗い。泣いてる者もいる。
「分かりました!!励ましてきます!!」
536 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/01(土) 23:53:54 [ OTJyFFp6 ]
「同志大尉に追まわされているのは・・・ジーク・タイプ11か?」
「いやいや。大尉が追いまわしているのはタイプ17でしょう。あ、落されましたね。」
「同志はこれで七騎目だ。真のエースだな。」
「ですね。」
アレックスの部屋に居候する二人は、食事を取りながら上空の様子を見ている。
「ナイトロスは全くもってケチだ!私が参加してもいいだろうに!衆人環視のもとでは機密もへったくれもあったもんか!」
軍事機密という建前で、フランシア基地にいる他国の竜騎兵は、地上で空の様子を観察している。
「フフッ。貴官の乗るイリューシン10は空戦には向いてないでしょ」
「同志中尉のポテーズ630C1は空に出た途端に、炎上して墜落だろう。」
『また来たぁ!』
『きゃぁぁ!』
『神様ーー!!』
漏れ聞こえてくる魔法通信には悲鳴が混じっている。
537 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/01(土) 23:55:44 [ OTJyFFp6 ]
「大尉は容赦が無い。訓練生には鬼神にしか見えてないでしょうね。」
「同志大尉は何事も本気になりやすい性格らしいからな。ところで同志、あの二人どうだと思う?」
あの二人というと、彼らの脳裏にはあの二人しか出てこない。
「大尉にその気が無ければなァ。人間族は妙な部分で奥手かつ鈍感だ。」
「猫人族には片思いの浪漫など分かるまい。」
「失礼な!故郷にいる許婚は自由恋愛で射止めたんだ!」
「む。だが、私には子供というかけがえの無い至宝を授かっている!」
暫く押し問答が続くが
『ジーク02より管制塔!仮想的は殲滅した!着地する!』
『管制塔了解。戦闘開始から30分かかってないぞ。着地地点は・・・』
「大尉のは終わりましたよ。我々の押し問答もここまで!」
538 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/01(土) 23:57:10 [ OTJyFFp6 ]
「結論は、同志大尉に精力の付く食事をあげることぐらいか。今の私たちにできることは。」
「物価が安くて夜間外出禁止令が出てなければ、ホテルでの一泊をプレゼントしたいんですがね。」
そう言って中尉はかじっていた干魚を、大尉は噛み砕いていた骨付き肉を懐にしまって、アレックスの着地した場所に向かった。
「同志少尉よ。唐突なのだが、この戦争が終わったらどうする?」
「それはまた本当に唐突だ。・・・・・許婚と挙式を挙げて、再来年の春には子供の顔が見る!これは譲れませんね!」
「自分は・・・戦争が終わったら、卵から孵って一度も見ていない子供の顔をじっくりと見て、君たち二人に写真を送りつけて進ぜよう!」
ケビシニアの猫人少尉には、自衛隊の隊員が口にしていた映画の定番プロットというものが浮かんできたが、大尉の姿が見えてきたので頭の隅に追いやった。
「おぉ二人とも!どうだ!今の戦いは!?」
「同志大尉、子供相手に恥ずかしくは無いのですか?」
「おいおい!敵は子供かもしれないんだぞ!」
「張り切り過ぎですよ大尉。ジーク型飛竜にあんな無茶な動きをさせるなんて!」
「無茶だぁ?子猫ちゃんは無茶をする勇気を無くしちまったか!戦争は無茶の連続だろう!ゴーアヘーーッドの連続だフハハハハ!」
戦争馬鹿にしか見えない今の大尉に、恋愛沙汰の話は不可能だろうと二人は確信した。
(リサ一等飛行兵は苦労の日々が続きそうですね)
(同感だ。)
548 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/02(日) 21:36:39 [ OTJyFFp6 ]
「失礼します団長。皇帝陛下の軍が移動を本格的に始めました。」
父上も重い腰を上げてくれたわ。私に課せられた意味の無い重責も、あと少しの辛抱ね。
「到着は?」
「本陣がこちらに来るのは、10月中旬から下旬にかけてだそうです。」
「一月くらい先ね。はいはい了解!」
帝都からここまで一ヶ月半ちょっと・・・少し速いわね。国教会軍を意識しているのかしら。
「東方方面軍所属の水軍は10月始めに出港し、東海岸沿いの有力騎士団を乗せつつ南下して、そのまま海峡付近まで向かうそうです。」
「東方水軍は別行動なのね?西方水軍は?」
西方方面軍は初夏の謎の奇襲攻撃で船舶の一部を失っているけれど、まだ動かせる数は充分あるはずだし・・・
「西方方面軍は艦隊を動かすのをひどく恐れているようでして、海岸沿いの拠点防衛の名目で、水軍は南下させないようです。」
挟み撃ちにしなくていいの?東方方面水軍は強いから大丈夫よね・・・敵の船は鉄製らしいだけど。
549 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/02(日) 21:37:28 [ OTJyFFp6 ]
「皇帝陛下からの伝言も、伝令は預かっています。」
「内容は?」
ちょっとイヤな予感。
「『エーテルガルドよ、お主と我が軍勢はナイトロス半島最南端で会合することであろう。それまで南方方面軍に集結した先発隊をよろしく頼むぞ』です。」
イヤな予感的中・・・気分悪くなってきた。
「うっ・・・」
「どうしたのですか団長!?・・・まさか悪阻な」
「副団長!冗談はいいから!処女懐胎なんて聖母じゃないのに不可能でしょ!!伝令の続きは?!国教会のことがまだでしょ!!」
副団長なりに私の気をほぐそうとしたんでしょうけど、真面目人間の冗談は洒落になってないわ!
「エーテルガルド団長に私の冗談は通じませんでしたか・・・。えぇとですね・・・」
550 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/02(日) 21:38:12 [ OTJyFFp6 ]
「団長もよくご存知とは思いますが、国教会軍の先発隊は既にこの土地に到着しております。」
先発隊(希望・強制)の陸軍総軍勢の六割以上、空の騎士団の三割は国教会軍の手の者。残りの殆どは辺境からかき集めた兵士と、ちょっとだけ帝国軍の軍勢。
「毎日のように出立を要求してくる殺気だった連中ね!」
「『聖戦の実行を速めるため』と彼らは言っております。南方方面軍の軍団長と団長が諌めておいでですので、勝手に出て行くことはないと当方は考えております。」
国教会軍の竜騎士団はすぐにでも南に行ってしまいそう。ま、彼らと一回も戦ったことがないから、一人も帰って来れないでしょうけどね!
「彼らにはもう少し我慢してもらいましょう。兵糧の備蓄と兵士の休養が必要と言っておきなさい!で、他の国教会軍は?」
あちこちで国教会軍が集結しているとは聞いているけど、詳しくは分からないよね。
「集結そのものは完了しているとのことです。幾つかのグループに分かれて南下し、全部隊の到着は帝国軍本隊と前後する頃かと・・・」
「一度にそんな人数は、この周辺じゃ受け止めきれないでしょ!」
数万人がこの辺で野営してるのに、これ以上来たら日々の食事にも・・・
551 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/02(日) 21:39:47 [ OTJyFFp6 ]
「そのあたりに関しては、団長の一番上の兄殿が一筆書いてくれています。」
あの兄上が?
「『帝国軍本隊と国教会軍本隊が来たら大変であろう?南方方面軍軍団長に話は通しておくので、我等の到着前にはエーテルガルドの名で旧支配者回廊に向かえ。敵軍の戦力を充分削っておけ』・・・」
もうダメ!こんなの!従騎士の頃に受けたイジメのほうがよっぽどマシよ!!!
「副団長・・・私もう駄目かも。きっとナイトロス半島のどこかで私は虫ケラ以下の死に方をして、本国では反逆者や異端者呼ばわりされて歴史から抹消されるのよ・・・!」
「エーテルガルド騎士団長!!そのような弱気な発言は団長には似合いません!どうか私に語ってくださった野望を叶えてください!」
春先にはそんなことも言っていたわね。あの頃は兄や貴族達の嫌がらせも大したことなかった・・・彼らを甘く見てた。ここまでねちっこく嫌がらせしてくるなんて!
「もう帝位なんてどうでも良くなってきたわ。でも、私を何としてもはめようとする連中に一矢報いるわよ!全身全霊をかけて!!!!」
コンコン
『団長!副団長!面会要求者・・・あ、勝手に進まれては困ります!止まってくだs』
バターーン!!
「たのもーー!なぜエーテルガルド近衛騎士団団長殿は、我等の名誉ある突撃を阻止なさるのか!!我等の牙とブレスにかかればナイトロスなど一網打尽であるぞ!!!」
壮大な目標の前に、目の前の問題の解決ね。ふぅ。
557 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/05(水) 22:43:07 [ OTJyFFp6 ]
「アレックス!いるか!」
隊長だ。何だろう?
「隊長なんですか?私は訓練生を仕込みにいかなくてはならんのですが」
「それはオスカー隊に任せたから、君が心配する必要は全くない。」
じゃぁ一体・・・
「何をするのですか?」
「帝国の竜騎士を吊り上げる」
は?
「言っている意味がわかりませんよ?」
「とにかく私と一緒に来い。司令部から直々のお客様だ」
558 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/05(水) 22:43:41 [ OTJyFFp6 ]
隊長に意味も分からず連れてこられたのは、フランシア基地の上級軍人が使うような応接室だった。一介の士官でしかない俺が、めったに入れる場所ではない。
「君の武勇伝は聞いている。」
「ハッ!ありがとうございます!」
武勇伝・・・内容の想像はつく。話している相手は軍服をビシッと決め込んだ、参謀風の軍人だ。無難に敬礼をしておいたほうが良いな。
「君の技量は、この基地でもトップクラスらいいな。」
「恐縮であります!」
「では参加してもらおうか。」
「はい・・・?」
何にですか?
「聞いてしまったからには、強制参加してもらうよ。ジーク飛行中隊副隊長アレックス大尉。」
卑怯だ、卑怯すぎる。
559 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/05(水) 22:45:07 [ OTJyFFp6 ]
「詳しい理由は言えないが、この基地の腕っこきとエルビヌメイン基地の飛竜で、国境やその南部にいる帝国の飛竜の相手をしてもらおうと思っている。」
「彼らは一定地域より南下してくるまで放置すると聞いていましたが、なぜ今更・・・」
連合帝国の内情なんぞ知ったこっちゃないが、この時期に敵サンの相手をしたって、『本番』で不用意に警戒させるだけだろ。
「越境してくる帝国の飛竜の数は高が知れております。」
「意見具申は不要。期日が来たら召集する。それほど未来ではない。数日か一週間か、ちゃんと連絡するので心配しなくて大丈夫だ。」
それだけ言うと、隊長と一言二言話してから、警備兵に引き連れられて帰っていった。なんなんだよ!
「聞いたか大尉。軍部は何かやりたいらしい。私とアレックス、後は古参を何人か引き抜いておく。」
「いきなり急に、司令部は何考えてんでしょ?」
こっちには都合ってもんがよー!
560 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/05(水) 22:46:56 [ OTJyFFp6 ]
「今来たのは司令部お抱えの高級参謀だ。そういった情報将校に憶えてもらえるというのは、君の飛竜乗りとしての技術が本物だということだ。喜ぶべき事態だ。」
隊長の仰る通りなんですが・・・
「訓練生をあのまま空に上げていたら、敵の飛竜ならまだしも、天馬騎士の長槍に首を持っていかれてしまいますよ!そうならないように、俺が特訓を」
俺も一回ばかり首を持っていかれるところだった。敵にもかなりの乗り手がいるようだ。
「作戦そのものは短いだろうから、その件は居残り組に任せておこう。リサが『私は訓練生に負けそうで負けないぐらいの実力がある』と、あぁ、これはリサに口止めされていたな。」
ハァ!?あいつはあんだけしごいて、その程度の実力しか無ぇのか!
「国王陛下のお出迎えするための出動以降は、いつでも長距離飛行できるように準備をしておくんだ。」
「まったくカネには貪欲だと言うのに。・・・準備はしておきます。では、訓練生を即席の一人前にするべく、臨時教官業に戻らさせて頂きます!!」
「リサ一等飛行兵もしごいてくるのだろう?」
うん。隊長は全てお見通しだ。さすがこの基地ナンバーワンの竜騎兵!
「そりゃもちろん!基地一周走を20回はやらせますよ!では!」
部屋から出る直前、隊長が『ニホンとナイトロスの・・・』と言ったような気がした。気のせいだ!怯えて待機している訓練生に、雷を落さなくちゃな!あくびをしてるであろうリサにもだ!!
574 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/07(金) 23:23:12 [ OTJyFFp6 ]
・・・エルビヌメイン空軍基地・・・
バラバラバラ・・・
「また来たなぁ」
「これで合わせて何機目だ?」
「4か5?警備が厳しくて確認できねぇよ」
「ジエイタイ本隊が全然来てねぇのに、こんなとろいのがなんで・・・」
エルビヌメインで日々精神を削られている竜騎兵達には、着陸しようとしている目の前のブツが貧相にしか見えなかった。
「間もなく何かの作戦が始まるらしいが、その前触れかな?」
そのブツ、輸送ヘリコプターはエルビヌメイン基地の駐機場に静かに着陸した。着陸と同時に整備士たちがヘリの周りを囲んでいく。
「アレは航続距離は飛竜より全然短いし、速度は鈍足そのもの。色々運べるらしいとは聞く。」
「人を一杯運ぶから遅いらしいぜ。」
575 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/07(金) 23:25:07 [ OTJyFFp6 ]
「ヘリコプターは後ろからの攻撃に滅茶苦茶弱いらしい。攻撃手段が無いんだと!」
「らしいな。ジーク隊のアレックス副隊長が自慢げに言っていた。」
アレックスは模擬空戦で何機かのヘリコプターを撃墜しているが、その時の話を周囲の人間に自慢していたのだ。
「予想だが、俺達はアレを護衛しそうな気がする。」
「同感!」
「意義なし。」
「国境警備隊の回収にでも行くんかね・・・そう言えば国境警備隊には陸上ジ・・・」
『敵飛竜が接近中!数4!西北西約50キロ!高度1200!待機中のトニー隊は緊急発進せよ!』
彼らの雑談は、以前よりは減少したが、未だに越境してくる連合帝国竜騎士の接近を告げる通信でお開きになった。
576 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/07(金) 23:28:12 [ OTJyFFp6 ]
・・・作戦司令部・・・
「万事問題ありません。ジエイタイからゴーサインが出れば、今すぐ作戦に移せます。」
空軍の参謀(フランシア基地でアレックスを強引にスカウトした彼)は、自身満々に言う。
「本当かね?ニホン政府の"交換条件"の一つであるからには、ヘマは許されないぞ。空軍は大丈夫なのか?」
「海軍に出来ることはない。帰港直前であるから、海軍竜騎兵隊は出せぬぞ。」
陸軍と海軍の突込みにも、まるで動じない。
「確かに帝国の竜騎士が駆けつけてくる可能性は高い。だが、数は多くはないはずだ。理由は・・・」
『一つ。国教会と帝国の牽制合戦で、大規模な出兵を見合わせている。』
『一つ。兵糧の不足で、進軍前に無駄な資源を使えなくなっている。』
『一つ。有力な戦力である近衛天馬騎士団とその配下の兵力は補給路の警備に忙殺されており、前線を偵察するどころではない。』
牽制は帝国・国教会の主導権争いとエーテルガルドの抑止によるもの、兵糧不足はナイトロスの妨害工作や飢餓状態だった兵士を救ったことによるもの、近衛天馬騎士団関連はエーテルガルドが権力闘争の貧乏くじを引いたことによるものである。
「以上のことを考えれば何も問題ありません。これは開戦に至る門の一個でしかないのです。」
586 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/09(日) 23:18:47 [ OTJyFFp6 ]
『ジーク隊副隊長アレックス、離陸する!』
バサッバサッ
「大尉行ってらっしゃーい!」
「同志!お土産は肉で!」
「私は魚を!」
一人として俺の身を案じた言葉をかけてくれない・・・。リサぐらいには『大尉・・・どうかご無事に』っていう風に言って欲しかったなぁ。・・・ニホンの小説の読みすぎだ。
『ジーク01よりジーク隊選抜騎!管制塔およびダイナ隊の指示に従って飛行する!』
『ジーク02了解!』
『ジーク03了解!』『ジーク04了解!』『ジーク05了解!』『ジーク06了解!』
ジーク隊選抜メンバーは俺込みで6人。オスカー隊は4人。全部で10人がフランシア基地から離陸した。
『フランシア基地管制塔よりジーク、オスカー選抜隊!北フランシア基地より離陸したニック隊と合流し、北進せよ!後はダイナ隊の誘導に従え。武運を祈る!』
速度、方位の確認・・・。徐々に西からの風が強くなってきているな。気をつけていこう。
587 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/09(日) 23:19:27 [ OTJyFFp6 ]
『こちらダイナ01!速度を180ノット、高度1500にせよ!このままエルビヌメイン守備隊の部隊と合流する!』
15分ほど飛んだところでダイナ隊の隊長騎と合流した。更に東方から・・・
『こちらフランク01!ここより先は帝国の飛竜が闊歩する場所になる!注意せよ!』
『こちらトニー01!緊急時にはエルビヌメイン基地に急行するように!』
『こちらアーヴィン01!ジョージ隊が「お客」を連れてくる!』
お客さん?そんな話聞いてねぇぞ!エルビヌメインにちょっかいを出してくる敵飛竜にダメージを与えろとしか言われてねぇ!
『ジーク02よりジーク01!事前の説明では・・・』
『ジーク01よりジーク02!何も聞かずに作戦を続けろ。以上!ジョージ隊が来るぞ!』
理由は聞かないほうが良さそうだな。ジョージ隊も来たし・・・!?
『こちらジョージ01!お客を連れてきた!』
ジョージ隊の後ろに編隊を組んで飛んでいるのは・・・
588 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/09(日) 23:20:26 [ OTJyFFp6 ]
『こちらエルビヌメイン基地管制塔!陸上ジエイタイのUHー60ヘリコプターとの合流を確認した!』
UH−60か。強襲やら輸送をするらしいが。・・・言われないでも何をするのか分かってきた。
『管制塔より各騎へ!ジエイタイとの歩調を合わせるため、速度を130ノットに変更!指示があるまで維持せよ!』
『『了解!!』』
『ダイナ01より各騎へ!進路を北東に変更、このまま200キロ進め!』
『『了解!!』』
ヘリコプターを護衛しつつ編隊飛行する飛竜!映画に出来そうなシチュエーションだ!
ヘリコプターの数は6か。兵士を運んでは・・・いないみたいだ。空荷なら何かのお迎えか?
まぁいいさ。もう少し空の旅を楽しもう・・・
589 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/09(日) 23:21:10 [ OTJyFFp6 ]
・・・。
国境から150キロほど、旧支配者回廊手前まで飛んできた。低速で飛んできたせいで滞空できる時間は長くは無さそうだ。
『ダイナ01より各騎へ!間もなくヘリコプター部隊が目標地点に到着す・・・』
『ッッ!敵騎影確認!ヘリコプターはそのまま前進させる!迎撃せよ!この場を見た敵を一騎たりとも帰すな!!』
領空を四六時中侵犯されているとは聞いていたが、早速やってくるなんて!数は2、3、4・・・6くらいか!
『ダイナ01よりジーク隊各騎!二時方向の3騎を任せる!』
『ジーク01了解!ジーク隊各騎へ!以上の通りだっ かかれ!』
敵はこちらに完全に気付いているな。数でも質でも劣っているのに踊りかかってくるなんて愚かにもほどがある!普通は司令部への伝令ぐらい出すだろ!
『フランク隊は11時方向の敵を迎撃!トニー隊は更なる敵への警戒!アーヴィン隊は降下するヘリコプターの上空掩護!』
ダイナはどんどん指示を加えていく。それに合わせてヘリコプターが高度を下げ始めた。森の中に開けた場所に降りるのか?
『ジーク02!アレックス!!よそ見していないで敵を迎え撃つんだ!ヘリコプターに指一本触れさせるな!!』
隊長は本気か・・・・・俺も本気になんなくちゃな。芥子粒程度だった敵影もかなり大きくなってきやがった。
『ジーク02了解!敵を殲滅する!』
594 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:29:44 [ OTJyFFp6 ]
俺たちに向かって来ていた3騎は、散開してこちらに向かってきた。
『ジーク01よりジーク隊全騎!敵1騎に2騎で迎撃する!01と02!03と04!05と06で当たれ!』
『『了解!』』
隊長からの命令で隊形を組み替え、敵に向かっていく。
『ジーク01、敵を引っ張る!』
『ジーク02了解!』
隊長自ら囮になってくれた。隊長がヘマをやらかすとは到底思えないが、速やかに敵を片付けないとな!
『行くぞ!』
『いつでもどうぞ!』
隊長は前に飛び出して、反転。敵にわざと追いかけられる格好になる。俺は高度を上げてその様子を見守る。
1騎引っかかった。隊長に追いすがろうと、脇目も振らずに追いかけていやがる。
ヒィィィン!
隊長と敵の斜め上後方、二人の死角から降下を始める。降下速度いっぱいだと光弾魔法は発射しづらい(両手で手綱を握らないと振り落とされる!)が、幸い敵の速度は速くない。
敵の姿が大きくなる。ブレスはまだまだ、光弾はあと少し・・・今だ!
595 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:30:51 [ OTJyFFp6 ]
パパパパ!
光弾を敵に発射!敵の方に光弾が向かっていく。
パパパパ!
更にもう一連射。
バッバッバッ
加えて相棒にブレスを吐かせる。未来位置を予測して発射しているから・・・
ヒュン!ヒュン!バン!バン!
敵飛竜のあちこちに光弾が命中し、急減速、いや失速して墜落しようとしている。
バガッ バン!
そこへ追い討ちをかけるようにブレスが命中した。敵兵は「運悪く」光弾とブレスの直撃を逃れてしまったようだ。墜落するしかない飛竜にしがみついて死を待つなんて・・・俺は想像したくもない。
『ダイナ01よりジーク隊!手の空いている者は、北東より接近中の新たな2騎の迎撃に向かってくれ!』
感傷に浸る暇もない!
『ジーク01よりジーク02!戦争とはこんなものだ!気持ちを切り替えて次に行くぞ!』
敵は組織だって迎撃してるのではなく、この騒ぎを見つけて急遽駆けつけているようだ。
『ジーク02了解!迎撃に向かいます!』
596 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:31:35 [ OTJyFFp6 ]
・・・地上・・・
バラバラバラ
「急げ!回収次第、離陸する!」
「モタモタするな!」
UH−60が着陸するなり、着陸地点付近で待機していた空挺団員と彼らが同行していた国境警備隊が、ヘリの乗員に急かされて我先に乗り込んでいく。
「これが君たちの言っていたヘリコプターか。乗り心地は・・・悪くないよ」
「10人以上も乗り込めるなんて!ナイトロスにはここまで搭載量の大きな飛行兵器はないぞ!」
ほぼ成り行きでヘリコプターに同乗することになった国境警備隊員たちは、この乗り物に感嘆の声を上げていた。
「そこまで褒められると、これを操縦しているのを誇りに思えますよ!そろそろ離陸しますが上空では空中戦が起きているので、それに巻き込まれないようにしばらくは超低空飛行をします!操縦が荒っぽくなるかもしれませんが、勘弁してください!」
5分とかからずに、全員がヘリコプターに乗り込んだ。
「ナイトロス国境警備隊の皆さん!離陸しますよ!」
597 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:34:56 [ OTJyFFp6 ]
『ダイナ01より各騎!ヘリコプターが離陸した。もう少し踏ん張ってくれ!』
バン!ドガ!
俺が敵に光弾をぶつけ、隊長がブレスを寸分の狂いなく命中させたところで、ダイナから連絡が入った。最初に向かって来た敵とその後来た敵はほぼ駆逐できたんだが、2、3騎単位であちこちから湧き出てくる!長時間の飛行に加えてだらだら続く戦闘のせいで、相棒がだいぶへばってきた。
『こちらジョージ01!ジョージ隊は限界に達したので撤退する!』
『こちらフランク01!これ以上空中戦はできない。撤退する!』
『トニー01!飛竜の調子が悪くなってきた!撤退する!』
げげっ。ジョージやトニー型飛竜は長時間飛ぶようにはできてなかった!アーヴィンはヘリの護衛だし・・・
『ジーク01よりジーク02!ジョージ隊とフランク、トニー隊の抜けた穴を何とかして埋める!オスカー隊と連携して敵を引き付けるぞ!』
『りょ、了解!』
こっちはまだ10騎、敵はもう数騎だ。増援さえ来なければこっちのもんだ!!
『前方に敵騎4!格闘戦に持ち込む!』
・・・結局、五月雨式に現れた敵は20分ほどで全て地上に叩き落した。相棒はもうバテバテだ。
598 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:35:38 [ OTJyFFp6 ]
その帰り道。フランシア基地までは帰れないので、エルビヌメイン基地に立ち寄ることになっている。
『隊長、私の戦果は単独撃墜1、共同撃墜2です。本当にありがとうございます。』
単独撃墜の戦果は、隊長が囮役になってくれたおかげで取れたようなもんだ。本当なら隊長の単独撃墜か、隊長と俺の共同撃墜にしても良かったはずだ。
『気にすることではない。隊長職は撃墜数を誇るのではなく、部隊の損害を抑えて且つ戦果をあげることにある。』
目先の戦果に囚われるようでは、隊長にはなれないって言いたそうだ。
『ところでアレックス。いや、私以外のジーク隊の隊員か・・・戦争童貞卒業おめでとう。』
そう言えばそうだった。何回か実戦を経験していたけど、敵を撃墜したのは始めてだ。胸糞悪くなるとかは無かった。
『敵を屠るので精一杯で、そんなの考えているヒマなんてありませんでした!』
正直な感想だ。リサや同室の二人の前ではとても言えない。
『アレックス、積もる話は帰還してから話そう。・・・口止め料として何をもらおうかな?』
隊長も結構あくどい。他の四人にもせびられるな、こりゃぁ。
599 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/13(木) 22:36:10 [ OTJyFFp6 ]
・・・。
「そんなに未帰還の竜騎士が!?」
今までそんなこと無かったのに!どうして・・・?
「副団長。正確な未帰還数と分かった情報は?」
「未帰還数は18。時間を過ぎても帰還しなかったため捜索したところ、旧支配者回廊を出口付近で墜落しているのが確認できました。」
時々帰ってこない竜騎兵はいたけど必ず生還者もいたから、いろいろ情報を知ることができた。けど、生還者が一人もいないなんて。
「その場所で何が起きたのか、分からずじまい?」
「そういうことになります。強力な敵に出会ったぐらいしか現状では・・・」
『団長!国教会軍と帝国軍の使者がお見えになっております!』
イヤな予感・・・
「『少数しか偵察に出さなかったから、強敵に出会って全滅した』ぐらいの言いがかりはしてきそうね。」
「多数の竜騎士を継続して越境させられるほど、わが軍にゆとりは無いことを彼らは理解できないのです。」
竜騎士をただ飛ばすだけでも、兵糧は使っているのよ!まぁいいわ。
「入るように言いなさい。」
622 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/16(日) 21:17:09 [ I3HkQ/Bs ]
使者は私を呼びに来たらしい。
「ムッター将軍閣下がおいでになりました。南方方面軍司令部にお越しください。」
・・・!
「分かった。すぐに出頭すると伝えてくれ。」
「畏まりました。お待ちしております。」
バタン
「厄介なのが来たわね・・・」
「『あの』ムッター将軍ですか。国教会と帝国の両方にコネのある厄介な御仁です。」
あの性格だから、てっきり本陣で来ると思っていたわ。
「副団長!今すぐ行くわよ。準備しなさい。」
「ハッ」
623 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/16(日) 21:18:10 [ I3HkQ/Bs ]
・・・南方方面軍司令部・・・
「近衛天馬騎士団長エーテルガルド、ただいま参りました。」
「ほっほっほっ。畏まらんでも宜しい。卿との邂逅も、神のなせる業であろうて・・・」
うわっ。いきなりムッター将軍から声をかけられちゃった。・・・筋肉ダルマ。
「高名なるムッター閣下と共に戦うことを誇りに感じます。」
「ほっほっほっ」
ムッター将軍、宗教に帰依した軍人。『兵が神への信仰心と強い精神力を持てば、勝てぬ戦は無い』と言って憚らない人間ね。国教会の熱心な信者のおかげで、国教会軍の指揮を任されることもある。
「このムッター、先陣に加わり卿等と共に信仰心をかけて戦うぞ。」
とりあえず最前線で戦っているけど、負け戦の時にはいつの間にか後方に下がって、撤退してきた部下を『信仰心と精神力が無い』と糾弾しているとも聞いている。本当は弱虫なのね。
「敵など、私の力で握りつぶしてくれようぞ。」
勝ち戦の時には、私は見たこと無いけどムッター将軍は「素手」で戦うらしい。その戦いぶりから兵士たちは、影で『グレート・ムッター』と呼んでいる・・・グレートって仰々しいわね・・・。
624 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/16(日) 21:19:15 [ I3HkQ/Bs ]
「エーテルガルド団長。」
「はい」
南方方面軍の軍団長。最近は私に自分の失敗を押し付けるようになった。慣れてきちゃった。
「ムッター将軍が来てくださったならば、国教会軍との折り合いも少しは良くなるであろう。そこで・・・」
そこで?
「予定より早く出立しようかと思っている。無論、帝都と協議はする。どうかね?」
どうかねって!!
「今しばらく待っていただければ、十分な兵糧を徴集できますが」
「ほっほっほっ。信仰心と精神力があれば、空腹なぞなんともないであろう。」
なんて無茶なことを!辺境から来た兵士達の様子を見なさいってのよ!!
641 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/19(水) 00:24:22 [ I3HkQ/Bs ]
「ほう?ナイトロスは大樹を素手で切り倒そうと言うのですか。」
「錆から剣を作るようなものであると言えます。」
「卵に小麦を与えるようなものです・・・」
「牙を抜いて狩りに行かれるというのですか?」
「垂らした尻尾で魚を釣ると?」
「潰れた鼻で肉を探すのはいかがなものかと。」
主要国の大使や公使たちのナイトロス王への返答は、一様に不可能か極めて難しいという風であった。ニホン大使は口をヘの字に曲げて表情一つ変えていない。それらの反応をナイトロス国王は織り込み済みでもある。
「南大陸各国の外交官各位の戸惑いを、我が国は良く分かっている。・・・今の提案が著しく我が国に有利であると言うことも。だが、連合帝国の帝都から大部隊が南下を始めたのは事実であり、それを主に受け止めるのは我が国だ。苦情を言いたいのは分かるが、事情を察して欲しい。」
この場には国王と大使・公使、後は警備の兵士しかいない。
(いささか都合が良すぎたか。首相がやるべきことだが、あのへっぴり腰には荷が重いだろう)
「最終的な結論を、今出すことはしません。各国の指導者に意見を伺う必要があるでしょうし、まずは帝国を撃退しなければ何も始まりません。今日は解散とし、一週間から二週間後に改めて開きましょう。・・・帝国軍が国境を越えてなければ。」
642 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/19(水) 00:27:34 [ I3HkQ/Bs ]
・・・。
「さて、どうしたものか・・・。」
南大陸の大国が一つアスターの大使は、思索にふけっていた。考え過ぎのせいか、鱗が剥がれやすくなっているのが気になっている。
(提案はあまりにもナイトロス有利だ。普通なら認めることなどできない。)
だが、とも思う。
(影響力を与えるだけの兵士を運ぶ手段があまりない・・・)
アスターは陸軍の国だ。海軍の発達が非常に遅れていた。最近、やっとナイトロスの旧式艦を購入することで体裁が整ってきたくらいだ。その程度では、自前の大戦力を海峡の向こうに運ぶなど不可能だ。
「南部の国と共同で反対・・・それも難しい・・・」
アスターと付近の衛星国を除けば、南大陸南部は資本主義だ。おまけに、大祖国戦争時に混乱をばら撒いてしまった。間違いなく我々を警戒し、簡単には話に乗ってこないだろう。
(連邦首都の同志書記長に連絡しなくては!私の手には負えない!)
とても自分の決められる範疇を超えている。本国の指示を仰がなければならなくてはならないようだ!
643 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/04/19(水) 00:28:48 [ I3HkQ/Bs ]
「うーんうーん・・・」
もう一つの大国がコバルタの大使は、延々とうめき声を上げていた。
「コバルタ大使、いつから貴殿は軋む枯れ木になったのだ?」
同じ控室にいた他国の大使に注意されることで、くちばしの奥から出るうめき声をようやく止めた。
(困った。本当に困った・・・)
まさかナイトロス国王が、ここまで自己主張するとは思っていなかった。普通なら外交大臣か首相が説明するところを、帰国したばかりの国王自身がやってのけるなんて!
(本国は紛糾するに決まっている。)
コバルタの政治状況はかなり悪い。連邦首脳部が派閥を作り、政治家、軍人、官僚を巻き込んだ政争を繰り広げている。緊急事態が迫っているというのに、だ。
(伝え方次第では、今度は私が死ぬ!)
前任の大使はコバルタでは比較的珍しいエルフ族の外交官僚だったが、自殺・・・暗殺されている。自分が政争に巻き込まれず、かつ職務を全うするか。帝国との戦争を回避するより難しいだろう。
(我が祖国がこのようなことになるとは・・・。科学も産業も進歩しているのに、この国の中枢は陸の上の魚となっている!永き歴史を刻むコバルタも終わってしまうのか?だが・・・)
仕事とは関係ないことが次々と浮かんできて、彼は結局、本国に連絡を出すのをかなり遅らせてしまった。