12 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/04(水) 23:43:13 [ XitU55gg ]
「団長、後はこの書類にサインをお願いします。」
「・・・。はい!」
「必要書類は全て書き終わりました。ありがとうございます。」
 ふぅ。兵糧の手配と軍夫の徴集、魔術師ギルドへの人員派遣要請、進軍路上の野営地の確保・・・
「父上も急過ぎるわね。一ヶ月以上早いわ!」
「陛下も色々と御焦りなのでしょう。教皇への面子もあるでしょうし。」
「西海岸を攻撃されたのはよほどショックみたいだったし、怒るのも仕方ないわ。」
 どうやって多数の飛竜でかなり北の西海岸を攻撃できたのか、方法は結局分からずじまい。父上の怒り方は尋常ではなかった。
「諸侯と国教会はどう?」
「東方方面軍と北方方面軍は既に出発し始めたようです。国教会も・・・」
「もう!?無茶してるわねー。」
 父上の裁可が下ってまだ一週間しか経ってない。帝国の主戦力なんだから、準備不足じゃ無ければいいけど。国教会は・・・準備いいわね。

13 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/04(水) 23:43:58 [ XitU55gg ]
「いいわ。私達は遅くとも一ヵ月後に配下の騎士団を南方方面軍領に移動させ、国教会と帝国の部隊が集結するまで訓練と待機ね。」
「近衛天馬騎士団は既に南に移動させてあるので、それ以外ですね。」
「・・・みんなに死にに行くようにサインしてるのかしら・・・」
「団長!滅多なことを言うものではありません!裏でどのような思惑が動いていようと、陛下がご裁可なさったことです。我々はその中で最善を尽くすまでです!」
 私と配下の竜騎士団と天馬騎士団は、辺境の各軍団と共に帝国軍の最先鋒として敵とぶつかることになった。平たく言ってしまえば
「本隊が少しでも戦いやすくなるように、私達はその撃ちっ放しの弓になれってことね。私は生きて帰れる自信があるけど、つまらない後継者争いに部下を巻き込むのは心が痛むのよ・・・」
「私達が兄皇太子がたの陰謀で倒れようとも、団長が軍功を上げてくださればそれで身に余る光栄です。」
「そうならいいけど。被害を出しすぎたとして断頭台に直行するか、戦闘のどさくさに紛れて暗殺されるような気がするわ。」
「し、しかし団長は女帝になると何度も・・・」
「なるわ!そんな小汚い戦術には引っかからない、いえ、跳ね返して見せるわよ!!」
「それでこそ団長です。では、魔術師ギルドに頭を下げに行きましょう。」
「・・・。」

14 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/04(水) 23:46:17 [ XitU55gg ]
 ・・・ナイトロス国営鉄道・フランシア港駅・・・
「特別貨物列車110−C19−3Aは間もなく発車します!」
 駅員の警笛で、貨物車を数珠繋ぎにした機関車が発車する。
「次の発車は臨時列車です!指定された軍関係者のみご乗車できます。発車予定時刻は・・・」
 ナイトロス半島の鉄道網は貧弱なため、ちょっとした増便ですぐにダイヤグラムがぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
「注意して貨車に載せろよーー!」
 港内では大砲や大きな資材が、クレーンを使って輸送船から貨車に直接積み込まれる。また、労働者達が麻袋や木箱を運び込んでいく。
「ニホン向け大豆は第三埠頭!小麦は第四埠頭!とっとと運び出すぞ!」
 鉄道は民間と共有で、半島から輸出される品々もやはり鉄道でやって来る。それによってさらなる混雑になっている。ニホンの機材の手助けが無ければ、パンクしているだろう。
「オキシゼ港とここは違うってのに!」
 最初から貿易港として開発の進んだオキシゼ港と違って、フランシア港は南大陸進出拠点の軍港として歴史が始まった。産業革命が始まるまでその役割は大して変わらず、貿易は副次的なものだった。
「その鋼板と紡糸は第二埠頭に持ってけ!こんな場所に置いとくな!」
 フランシア市周辺で発達した工業地帯から輸出・搬出される加工製品の取り扱いでかなり限界に来ている。隣接する軍港も使用せざるを得ない状況なのだ。
 活況で賑わいつつも、能力的に限界が近づきつつあった。

15 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/04(水) 23:47:26 [ XitU55gg ]
 ・・・フランシア基地・・・
「隊長の言った通り、ジーク隊はしばらくはこの基地にいる。最後の最後まで、首都防空部隊としての役割を果たす。」
「ただし、時期は不明だが最終的には前線に移動するだろう。その時まで鍛錬を怠らないようにして欲しい。」
「「了解!!」」
 前線といっても北に100キロばかしだ。飛竜で30分とかからない。生き物である飛竜には、その100キロはかなり重要なものだが。
「では、今日の分担は・・・」
 ・・・。
「写真ですか隊長?」
「ニホン向けの写真だそうだ。数日中にカメラが来るらしい。」
 今日の俺はデスクワークだ。日程を組む仕事をしてるが・・・
「ジーク隊を撮影しに来てくれるなんて、嬉しいじゃないですか。」
「ジーク隊だけじゃない。この基地も撮影しに来る。ニホン政府の情報公開とジエイタイと原住民との仲の良さを示すのに使うのだろう。」
 なんだ。つまらん!
「この基地の普段の姿を撮影したいそうだ。直前まで言うんじゃないぞ。」
「当然ですよ。何も言わないでおいた方が面白いじゃないですか!」

20 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:12:41 [ XitU55gg ]
 パッパッパッ!
 バン!バン!バン!
『「コブラ」さらに被弾!今の攻撃で撃墜と判定!』
『よし!!』
 陸軍演習場上空を飛行していた陸上ジエイタイの「ヘリコプター」はほとんど撃墜と判定された。
『上空飛行中の飛竜は地上に帰還せよ。』
 ・・・。
「対空兵器が無ければ、回転翼機は倒せますね。」
 ジェット戦闘機や四発エンジンの航空機を相手にするはまず無理だ。ヘリコプターならどうにか相手にできる・・・
「アレックス、地上の対空兵器に何回撃ち落されたのだ?」
「・・・タイプ87とL90の弾幕に二回捕まり、タイプ81に一回、タイプ93に三回捕捉されて、まぁ撃墜されました。」
「対空兵器と連携されたら、近付く前にこちらが火の玉になるな。帝国の天馬騎士のようになるんだろう。」
 この演習場に接近しようとした天馬騎士は、ジエイタイの火器で文字通り木端微塵にされたそうだ。細切れの死体を集めるのに非常に苦労したと、警備の兵士がぼやいてたな。
「兵器レベルの差は仕方の無いことだ。ここは潔く引こう。我々は、我々ができることをやるべきだとは思わないかね?」
「隊長は良いことを言いますね。」
「大尉もゴマすりが上手くなったな。・・・陸上部隊の演習が始まるようだ。少し観戦しようか?」
「もちろん!」

21 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:15:03 [ XitU55gg ]
『魔導カノン砲発射準備!』
『重砲発射準備!』
『要塞砲発射準備!』
『敵戦車は距離10000より接近中!タイプ90とタイプ74を前面に出している。座標・・・』
 前方には擬装を施した野砲陣地、歩兵の這う塹壕、やや深い穴に身を潜める戦竜・・・。戦車で突撃してくるジエイタイを迎撃する、という内容らしい。本当はずっとアウトレンジから重砲をぶち込まれるそうだ。
『ジエイタイ戦車との距離が8000を切りました!』
『要塞砲発射!』
 要塞砲とは聞こえがいいが、本当は旧式の艦砲を陸に上げただけの代物だ。艦載砲だけあって、射程はかなりあるらし・・・
「アレックス!耳を塞げ!」
 ドドーーーーン!
 あぶないあぶない!鼓膜が破れるところだった。
『だんちゃーく!・・・命中なし!』
 演習用とはいえ、大口径の模擬砲弾は危ない。ジエイタイも腰が据わってるな。はなから命中するとも思ってないのかもしれない。

22 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:17:13 [ XitU55gg ]
『要塞砲は次弾発射用意!』
『ジエイタイ戦車7000を切りました!』
『重砲発射!』
 ドドドドン!
 複数の重砲がまとめて砲撃するので、耳を塞いでいてもすごい轟音だ!帝国兵はこんなのを喰らうのか・・・
『タイプ74が1両、キャタピラ破損と判定され行動停止!』
 こんだけ撃ってそれだけ!?相当早く動いているんだな。
『距離6000!』
『距離5000!』
 どんどん近付いてくる。ジエイタイは緩やかな丘陵から進撃しているので、姿はまだ見えない。
『魔導カノン砲発射!』
 シュバ!シュバ!
 火炎の塊が、放物線を描いて丘の向こう側に落下していく。そろそろやばそうだ。続きは後ろの退避壕で観よう!

23 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:19:02 [ XitU55gg ]
『タイプ74に要塞砲命中!大破と判定!』
『タイプ90キャタピラ破損!』
 盛大な砲火の割には、ジエイタイの損害が少ない。なんでも、至近距離に着弾しないとまともなダメージは与えられないらしい。本当にジエイタイは底知れない・・・
『戦車の先鋒が丘陵を越えてくる!距離3000!』
 3000も離れていては、あまり良く見えない。空とは違うな。
『アレックス、君も双眼鏡を使うか?』
 用意のいい隊長は、双眼鏡を貸してくれた。
 パッ!パッ!
 下ってくる「戦車」は、こちらに向けて大砲をぶっ放しながら接近してくる。かなり高速で回避しながら撃ってきてるし、当たりはしないだ・・・
 バン!バム!
『ガトリング砲破損と判定!』
『高射魔導砲が大破判定!!』
『戦竜損傷!』
 すげぇ・・・明らかに接近するのに邪魔そうな障害物から破壊してやがる。

24 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:20:46 [ XitU55gg ]
『仰角0!高射魔導砲発射!』
 ドム!ドン!
 最新の戦竜D80も一発で沈黙させられるという高射魔導砲の水平射撃だ。実弾だったらジエイタイの戦車もただでは済まない・・・と、思う。
 バシュ!ババン!
『戦車の正面装甲はぶち抜けないぞ!側面を見せた戦車から殺れ!』
 そう言っている彼らだが、戦車の模擬弾が陣地内にかなり沢山落ちてきている。これでも、ジエイタイはナイトロス兵や装備に損害が出ないようにわざと照準をずらしているそうだ。そんなに離れていないこの退避壕付近には、一発も着弾してないもんなぁ。
『D62とD64は射程に入り次第、ブレス攻撃始め!』
『ガトリング砲発射!』
 ガガガガガ!
 距離は2000無さそうだ。ジエイタイの戦車は大体15両くらいか。少しづつだが確実にジエイタイの戦力は増強されているそうだが、フランシア基地のジエイタイの人数は大して変わってない。
『A陣地壊滅判定!』
『B陣地壊滅判定!』
 なんと言うか、丘を越えられてからは抵抗らしい抵抗もできないまま、一方的にやられてるって感じだ。
「アレックス。この演習の結果は見えただろう?本当のジエイタイは、あの戦車にヘリコプターや長射程の重砲、戦闘機が加わって攻撃して来るのだぞ。」
「一方的な虐殺になりそうですね。私達は対空ロケットの餌食にならないように、神に祈っておきますか。では、演習場の責任者に報告を上げて、早く基地に帰りましょう!」

25 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/08(日) 01:23:56 [ XitU55gg ]
 ・・・。
「ニホンの撮影隊は満足して帰っていったか。」
 隊長と俺のいない間に来て、帰ってしまった。「ジーク隊にこの人あり」な隊長と、二番手の俺の勇姿を撮ってもらいたかったな。
「ありゃ、リサはどこだ?」
 一人だけ姿が見えない。
「大尉、いるにはいるんですがね・・・。更衣室に閉じこもって出てこないんですよ!」
 ニホンのカメラマンだか誰かからリサは服を貰ったらしく、それを着るために更衣室に行ったらしいが、そのまま篭城してしまったらしい。
「リサー!出て来ーい。他の人に迷惑をかけるなよ。」
「大尉?!あーもー出られません!!!」
「とにかく出て来い!」
「ニホン人に騙されました!!こんなのが騎士の格好なはずないです!」
「上司を困らせるな!出てこないと営倉送りだ!」
 きつく言い過ぎたかな。でも鍵を開けて出てきた・・・!?
「な、な、なんだその格好は!!?」
 騎士っぽい格好の姿をしているが、スカートの丈が無茶苦茶短い!いや、なんで上は軽装鎧で下はスカートなんだ!?
「もうお嫁にいけないーーー!こんな服着なきゃ良かった!!」
「って、着替えて出てくればいいじゃないか。何を騒いでいたんだ!」
「あっ・・・」
「改めて着替えて出て来い!」
 パタン・・・
 この場にいた全員が絶句だ。ニホンの騎士はあんななのか。防御力もそうだが、太ももが寒くないのだろうか。恐ろしい、ほんの数秒なのに完全に目に焼き付いている。当分、夢にでてくるな。
 この前の小説といい、ニホンは不思議なクニだ。戦争が終わって治安が良ければ、いっぺんは行ってみたいな!


57 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/12(木) 23:58:46 [ XitU55gg ]
「国教会軍や帝国軍の大半の人間は、ナイトロスや南大陸の獣人国家を完全になめきっているわ。」
「は、はぁ・・・」
 集まっている配下の竜騎士団・天馬騎士団の団長や参謀達はきょとんとした表情で私を見つめている。
「近衛天馬騎士団は犠牲を出しつつも、ある程度の情報を持って帰れたの。・・・彼らの戦い方は今までの敵とは違っているわ!」
「エーテルガルド団長殿がおっしゃる通り、これまでの敵とは次元の異なる存在であると近衛天馬騎士団は判断し、陛下などにご報告しましたがまともに取り合ってはいないようです。」
 良いところを副団長に持っていかれたけど、仕方ないわね。
「・・・まず、敵の竜騎士。彼らはペガサス以外の全ての飛竜より速いわよ。それに短い間隔でブレスを吐いてきて、魔法も使ってくるの。」
 ペガサスが遅かったら、私は今頃天国にいるわね。
「そして飛竜の中には、竜騎士が二人以上乗り込んだ飛竜も存在し、不用意に近付くと魔法攻撃をされるということが判っています。」
「・・・という訳で、敵に向かう際は出来るだけ二人以上で攻撃し、攻撃する時には無理に竜騎士を狙わず、面積の広い翼を狙って戦場から離脱させるのを優先させなさい!」
 止めを刺すのが私達の今までのやり方だったけど、そんな悠長なことしてる間に後ろにつかれておしまい・・・になってしまうわ。

58 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/13(金) 00:00:56 [ XitU55gg ]
「次は地上からの攻撃だけど・・・」
 今のところ飛竜とこれが一番危険というのが判ってる。
「地上からの魔法攻撃は恐ろしく命中率が高く、近衛天馬騎士団の中で数人の死傷者が出ています。」
「よって、地上への攻撃は緊急時を除いて禁止!ペガサスで危ないのに、それより遅い飛竜じゃ低空に降りただけで格好の標的よ。功名心に駆られて勝手に行動しないように!」
 不満そうな顔が広がる。こっちは部下を守りたい一心で考えたのにねぇ。
「ナイトロスはこちらより優れていると考えなさい!技量でどうにか出来る問題じゃないの!」
 辺境からの寄せ集めのような竜騎士団もあるから、無茶させても意味無いのよ。あぁ、お腹痛い。
「残りの話は副団長がお願い。」
「はい。我々は帝国軍本隊及び国教会軍の到着までに敵に出血を強いて、本隊の進撃を援護する役割を申せ仕っています。出来るだけ我々が長時間に渡って敵の攻撃を受け付ける為には、エーテルガルド団長が言った通りにする必要があり・・・」
 こんな事を話し合ってるけど、同じように会議・・・というかパーティーを開いている諸侯や枢機卿たちは何を話しているのかしらねぇ。

59 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/13(金) 00:02:41 [ XitU55gg ]
 ・・・帝都・某有力諸侯の邸宅・・・
『連合帝国の勝利に!』
『皇帝陛下の勝利に!』
『教皇睨下の勝利に!』
「「乾杯!!!」」
 舞踏会や演奏会も兼ねた豪華絢爛なパーティーが始まった。
「お宅の領地の騎士団も出兵させるそうですなぁ!」
「ナイトロス制圧に乗り遅れたら、色々と立場が悪くなりますからな!!」
「あそこの豪商は、所有する船のほとんどをするらしい。」
「誰も彼も勝ち馬に乗ろうと必死ですよ!」
「来年の今頃は、ナイトロス半島の新領地で同じパーティーを開きたいものです!」


75 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/14(土) 22:07:02 [ XitU55gg ]
「先日のナイトロス陸軍と今までの我々の戦い方では、ジエイタイに歯がたたん!」
 派遣されているのはアスター連邦陸軍・西アスター戦車軍団の精鋭部隊である。しかし、最新の戦竜を前面に押し出したにもかかわらず、今までの演習では戦車の火力の前に簡単に封じ込められてしまっていた。
「杓子定規な戦法は、ジエイタイに簡単に簡単に打ち破られる。よって、別の戦い方をするのだ!」
 このままではここにいる兵士や政治将校は、戦意の不足や技量の不足ということで本国での扱いが悪くなるかもしれない。対帝国の戦いで挽回するということもできるが。
「同志大隊長、D80の零距離ブレスで表面が焦げる程度の相手を、普通の方法で倒せるとは思いませんが・・・」
「ナイトロス陸軍の重砲や要塞砲ならば、至近距離で炸裂すれば動きを止められるが、破壊させるのは至難の業ということだ。」
 アスター陸軍の配備している重砲や野砲類はナイトロスよりも鋳造技術が低いため、威力や射程の面で劣っている。面制圧兵器として多連装ロケットも装備しているが、射程が圧倒的に短いので対ジエイタイ模擬戦闘では役に立った試しがない。
「”人海”を使えばあるいは行けるかもしれないが、そんな人員はここにはいない。」
 アスター内戦(大祖国戦争)の序盤、アスター国内の権益を狙ったコバルタが多数の兵力を派遣したが、後から後から押し寄せてくる竜人族兵士の前に押し潰されて多大な被害を出している。技術的に進んでいたコバルタを圧倒的な数で蹴散らしたこの「人海戦術」は、後に多用されて戦乱の被害を大きくした。
「弾切れが先か、こちらに動ける者が一人もいなくなるのか。ジエイタイ戦車の装弾数が不明な以上、分の悪いチキンレースだ。」
「しかしながら、最低でも戦車の動きくらいは止めなければ、話になりません!」
 戦竜の数倍以上の機動力をどうにかしなければならない。
「うーーむ・・・」

76 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/14(土) 22:08:43 [ XitU55gg ]
 ドウン!ドウン!
「重砲陣地б発砲開始!距離5000!」
「重砲陣地ё発砲開始!距離4500!」
 重砲が向かってくる戦車群に向けて砲弾を撃ち込みはじめた。当然のように命中弾や至近弾は無い。
「防衛線Аに到達します!」
『偽装野砲は砲撃開始!』
 林の中などに隠れていた野砲が一斉に射撃を始めた。
 ドン!ドン!
 カン!カン!カン!
 戦車との距離は、最も近いところで1000メートルを切っていた。流石に何発かが命中する。
「命中されど撃破判定なし!!」
 最大でも75ミリ級のカノン砲では、撃破など不可能であった。
 ズズーーン!
「野砲部隊が次々と撃破されていきます!!」
「構うな。敵戦車の進路は?」
「遮蔽物から距離を取るように針路変更しました!」
「よし!そのままいってくれよ・・・」

77 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/14(土) 22:10:36 [ XitU55gg ]
「同志大隊長殿!前方に配備した兵力はほぼ消滅しました・・・!命令を!!」
 90式・74式は防衛線Аの砲や兵士を撃破判定に追い込みつつ、防衛線Вに向けて模擬弾を放ち始めていた。
「距離3000!ここもジエイタイの戦車の射程に入ったと思われます!」
 ドム!ドドン!
「RS(ロケット弾)で牽制しろ!」
「射程は1000メートル強しか・・・」
「警戒させるだけでいい!行動に移せ!」
「ダー!」
 シュババババ!
 前線にわずかに生き残っていた連装ロケット砲と本陣のロケット砲が、火薬推進ロケットを続々と発射していく。
「戦車直進・・・あっ!?」
 戦車の姿が何両か消え去っていた。
「やればできるじゃないか。」

78 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/14(土) 22:14:37 [ XitU55gg ]
「やってくれましたね・・・アスター陸軍のみなさん・・・」
 落とし穴に嵌った90式戦車を90式戦車回収車で引っ張り上げつつ、陸上自衛隊の幹部が恨めしそうに言った。
「普通にやって勝てない相手には、これぐらいやらないと危ないですから。急ごしらえの割には上手くいきましたよ。」
 90式戦車がすっぽり嵌る位の落とし穴をいくつか作り、何両かは落ちてしまった。
「最終的に我々は全滅したが、戦車の能力に限界があるのが判っただけで良しとしよう。」
「はじめてですよ・・・この陸上自衛隊をここまでコケにした軍隊は・・・」
「そう言わずに。そちらが本気を出したら我々は手も足も出ませんよ。」
「ゆ・・・ゆるさん・・・ぜったいゆるさんぞアスター人!」
 その陸上自衛隊幹部は9mm拳銃を抜こうとして、警務隊に連行されていった。
「彼は整備の担当です。最近疲れていたようですので、大目に見てやってください。」
「ジエイタイもニホンも色々と大変なのだな・・・」


90 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/18(水) 00:13:10 [ XitU55gg ]
「なにもんやワレェェ!」
「若頭の仇じゃ!死に晒せーーー!」
 ズギューン!ズギューーン!
「グアッ」
「裏切りモンの末路じゃぁ!目をよーーくかっぽじって見ろや!」
「アニキー!?」
「よくも!死ねやーーー!!!」
 バキューン!バキューン!バキューン!
「グ・・・」
(カシラの無念は晴らしやしたで・・・)
 ・・・。
『こうして二つの組の抗争は、泥沼へと嵌っていったのであった・・・』

91 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/18(水) 00:14:29 [ XitU55gg ]
 ニホンの映画は長くて綺麗で(本当はカラーらしい)、音声付だ。この映画の内容が本当じゃなきゃいいが。ニホンマフィアは街中で銃撃戦するんだろうか?
「大尉ーー。こんな映画楽しいですか?私はエノケンの喜劇が見たかったんですよ!」
「そんな硬いこと言うなよ。お前の方が確実にブルジョワなのに、俺の金で映画見てるんだ。文句をいわれる筋合いは無い!」
「じゃぁ、じゃぁ今度は・・・」
「ちょび髭のおっさんが演説したり、工場の歯車に巻き込まれるやつだな」
「ちょっと違いますよ」
「未来都市で、怪しげな腰振りダンスを踊るやつだ!」
「違います!」
「ニホン初という小型セットを使った戦争映画か?」
「大尉はひねくれ者です!!」
「落ち着け、吸血鬼のだろう?いや、狼人間か。間違いない!」
「あれはちょっと怖いです・・・」
「お前の金で見ろよ。俺はまたニンキョー映画を見るからな!」
「もう!私は別の映画館でエノケンとロッパに喜劇を見てきます!!」
 あーあ、帰っちゃった。リサにはこの躍動感が理解できないのか。でも、ニンキョー以外の映画も見てみようかな・・・

92 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/18(水) 00:16:37 [ XitU55gg ]
「同志少尉。同志大尉が二人で帰ってくるのに、1000シリングだ。」
「二人とも帰ってこないに、1000シリング。中尉の負けです。」
「それはどういう意味だ?」
「二人でよろしくやってるってことです。」
「随分とお盛ん・・・」
 ガチャ・・・
「ふぃーーー。疲れた・・・。二人とも仲良くやっていたか?」
「一人で帰ってきた・・・。さっきの賭けは不成立だ。」
「そのようです。魚の天日干しを食べましょうか?」
「魚は好きじゃないが、頂こうか。」
「・・・?」
 二人とも何を話していたんだ?
「大尉?久しぶりの非番は楽しめましたか?」
「まぁな。ニホン映画はいいぞ〜。今までの映画がゴミのようだ!」
「ゴミ、ですか・・・。民族の祭典しか見てませんが、確かに別次元の出来ですね。」
「小官はポチョムキンのみですが、革命の素晴らしさを実感できました!」
「あ・・・あ、そうか!」
 共産主義とは距離を取れと言われてるからなぁ。適当に相槌打っておこう。

93 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/18(水) 00:18:28 [ XitU55gg ]
「リサ一等飛行兵とはどうでしたか?」
「どうもこうも・・・見解の相違で、途中から別行動で別の映画を見ていたよ。」
「そういう時は、切なくなるような恋愛ものや、恐怖を煽るホラー映画を見るべきなんですよ。」
「少尉!お前の祖国に映画なんて無いはずだぞ。何でそんなに詳しい?ニホンの本を読んだな?!」
「・・・・・。」
 映画だってナイトロスでも珍しいモンだったんだ。ニホンの文化開放とやらのおかげだな。
「俺はそんなことは気にしないから良いさ。それより二人とも」
「はい?」
「なんでありますか?」
「夜の歓楽街に出かけるぞ!いかがわしい店には行けないけどな!」
「今からですか?明日がありますが。」
「同志大尉殿は大丈夫でありますか?」
 消極的だな。
「海軍や南大陸の陸軍どもが、最近歓楽街で幅を利かせてやがるんだ。たまには顔を出さないと色々面倒なんだよ!」
「同志、喧嘩は勘弁してくださいよ。それさえ気をつけてくだされば・・・」
「我々は夜行性じゃないんですがね。大尉がそう仰るなら!」
「では出発だ!・・・勘定は割勘だぞ。」
 二人の嫌そうな顔は見ていないことにした。


117 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/20(金) 19:02:20 [ XitU55gg ]
 ・・・アスター社会主義連邦共和国首都・書記長の執務室・・・
「ニホンの共産党との連帯は駄目かね?」
「同志書記長、奴等は社会主義の名を借りた猿の集まりです!唾棄すべき存在でしょう!!」
「もう一つ似たような政党を確認しましたが、同志の耳目に入れるほどの価値は無い存在です。」
 社会主義/共産主義の概念の誕生後、社会主義の盟主たるアスターは各国の共産党と関係を持ち、様々な工作活動を行ってきていた。その活動ゆえに、かなりの国から仮想敵国扱いを受けるはめになったが・・・。
「ニホンの共産党は、口に出すのも憚るような腐った理論を展開しています。同志!連中は味方ではなく、敵です!」
「ニホン共産党と手を結ぶかどうかは最高評議会での多数決で決めるが、内務省は一応準備しておけ。ニホンと距離が離れているとはいえ、ニホン船舶の乗組員がニホン共産党の工作員かもしれないからな。フランシア港の一件もある。」
「ダー!同志!今すぐ手配します!」
 現在の書記長職には、かつてのような絶対権力はない。一言で収容所に連行されたり、粛清される時代は既に終わっているのだ。また、そういった行いが内戦時の強硬派の求心力低下に繋がった。
「ナイトロス派遣軍は順調かね?」
「若干ニホン・ナイトロスかぶれになってはいるようですが、問題無いでしょう。兵器売却もほぼ順調です。」
「しかし、ナイトロスでの物価の上昇は凄まじく既に派遣予算が尽きかけています!同志書記長、追加予算が必要です!」
「次年度の五ヵ年計画予算の一部を前倒しして使うことを許可する。今戦争での存在感を示すには安い出費だ。ニホン政府と民営企業から支払われた鉱山開発権の資金を流用しても構わん。」
「早速取り掛かります!」

118 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/20(金) 19:03:22 [ XitU55gg ]
 …コバルタ連邦・戦争省大会議室…
「新型戦艦は!?新装備は!?魔法は!?まるで準備が整っていないではないか!!」
「派遣した空軍のみが準備が完全でだっただけでありまして・・・」
「全く!駐ナイトロス大使は何をやっていたのだ・・・。あのエルフには脳味噌が詰まっていないようだな!」
 連邦の指導者達は非常にあせっていた。他国、特に先進二ヶ国が着々と準備を進めている中、コバルタは遅々として準備が進んでいなかった。任期の中で大した成果を上げられなかったナイトロス大使だけを責めるのは、八つ当たりとしかいえない。
「民間企業は我々の言うことなど全く聞かず、好き勝手にニホン向けの輸出を行っている!」
 アスターは国営企業、もしくは他国や他国の民営企業との合弁国策会社なので、国の命令一つで動かすことができる。ナイトロスは軍需企業の規模が大きいので、その資本つながりで生産を調整できる。
「クソッ!一世紀前の失敗に引きずりまわされるとは!」
 アスターへの派兵失敗により、コバルタは混乱状態に陥った。その際、コバルタ政府は国策会社のほとんどを手放すはめになった。結果として、今では国の受注が無くてもそれらの企業や民間企業はやっていけるようになってしまったのだ。
「だが、軍需関連へ生産を振り向けさせれば、貿易額は簡単に赤字だ。」
 コバルタは、他国にも増して輸出頼みの傾向が強い。そして長期の貿易赤字に耐えられるだけの財政の厚みを、コバルタは持っていない。
「陸軍を動かそうと思えば動かせますが、それだけの輸送船団を配備するのには時間がかかりますし、そもそもナイトロスが各地の商船会社の空いていた船団をほとんど押さえているのが現状です。」
「空軍もこれ以上の派遣は正直厳しいとしか言えません。飛竜の数も膨大ですし、海峡警備を委託されている以上そちらの費用も余計にかかるわけでして・・・」
「あのひょろなが大使は『海峡警備を肩代わりすればナイトロスに恩を売れる』などとほざいていたが、ナイトロスに赤字を押し付けられただけではないか!!」
「もうあの大使は駄目ですな。せっかく民族間協調ということで取り立ててやったのに。しかるべき処分をすべきでしょう。」
 コバルタの闇と苦悩は大きい・・・。

119 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/20(金) 19:06:03 [ XitU55gg ]
『ウェッセンラント・デイリータイムス7月○×日号』

「伸長する経済!!」
 ここ数ヶ月の急速な好景気で、鉱山成金と呼ばれる者たちが急増している。各地の鉱山は、かつてのコークスラッシュを再現しているかのような忙しさが続いているのだ。それを示すように、先月の鉄鉱石産出量は先々月より30%以上増加し、それ以外の鉱石産出量も20%近い伸びを示している。
 鉱業関連企業の株価は天井無しの上昇を続け、証券取引所の連日の高値更新の主因となっている。一方で物価の上昇も深刻で、主食の小麦は二割以上上昇している。大陸各地の農業地帯は、ニホン向けの輸出を優先して行っており、物価の上昇はウェッセンラント経済に悪影響を受けていく可能性がある。

「動向不明の帝国」
 消息筋の話では、帝国軍が移動を始めたとの情報が入ってきているが、これに対して政府は『情報が入ってきていない』と繰り返している。ナイトロス政府へ問い合わせてみたところ、国家機密であることを盾にコメントを拒否した。
 このことから、『少数偵察隊が既に来ている以上、帝国軍が大規模な軍事行動を起こしている可能性は高い(専門家)』との声もあり、政府の対策が急がれている。

「ニホンブーム!」
 ナイトロスでは、ニホン式娯楽が老若男女問わず大人気だ。本は「内容の斬新さ(支局員)』が人気で、活動写真は『弁士要らずで画質も綺麗・とにかく長いが飽きない(活動写真館の客)』ということで、連日ニホン関係を扱う場所は連日の大盛況だ。
 一方で「性的嗜好のおかしな人間が増えた(精神病院の院長)』、『妙なプロパガンダが混じっている(配給会社支配人)』といった声がある他、『技術的情報を含むものが少ない(大学教授)』との意見も出されている。ニホンは単に情報公開をしているわけではないようだ。

「コバルタ駐ナイトロス大使自殺」
 ○△日、コバルタのナイトロス大使館で、ナイトロス大使が自殺しているのが見つかった。警察によると、執務室で拳銃自殺しているのを、銃声を聞いた駐在武官が発見したという。付近に大使のものと思われる遺書が発見された為、フランシア市警察は大使が過労で拳銃で自殺を図ったものと判断している。
 この事件に伴い、コバルタ政府は近日中に新しい大使を派遣する人事を発表するとした。(ナイトロス通信)


147 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/24(火) 22:58:00 [ XitU55gg ]
 帝国北部から、北大陸中部へ抜ける街道。普段は旅人や行商人が通る程度だが、今は街道をはみ出すほどの人間であふれている。
 帝国軍北方方面軍。連合帝国の片割れ、帝国の現在の主力である。もっとも、その地域有力諸侯や高級軍人配下の寄せ集めとも言えるので、いささか連帯感に欠けている。
 (何だか頼りないだんべ)
 (んだんだ。纏まりの無ぇ騎士サマ達だ)
 行軍の様子を遠目に見ながら農夫たちは談話しているが、彼らが見ているのは正規の帝国兵ではなく、比較的最近帝国に併合された地域にあった国々の兵士だ。装備も統一されていないので、バラバラに見えるのもしょうがないだろう。
 更に彼らは最前線に最初に辿り着くべくかなりの強行軍を続けてきたのだ。普通の帝国兵が最大で一日30キロなのに対し、彼らは道の状態がよければ一日で50キロ以上行軍しているのだ。おまけに兵糧が不足気味なので、士気も一向に上がらない。
「腹減ったな・・・。」
「貴様!嘆く暇があったら前に進め!」
 督戦隊同様の帝国兵が彼らを監視しているので、逆らうこともままならない。
「畜生、これも家族のためだ!」
 古今東西、家族を人質に戦争に行かせるというのは、常套手段の一つだが帝国もそれに倣っていた。

148 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/24(火) 22:59:23 [ XitU55gg ]
 一方の帝国軍と国教会軍も、別の問題に悩まされていた。
「また物資集積所と倉庫で火事だぁ?!」
「これで一体何件目だ?」
 大陸を南下すればするほど放火と見られる火災が相次ぎ、少なくない損害が出ている。ナイトロスが放った密偵による妨害工作なのだが、よもやそんな者がいると考えていない彼らにとっては奇怪極まりない出来事だった。
「不満分子や反乱民の仕業に違いない」
 至極普通の結論に落ち着き、周囲で捜索を行ったが当然見つかるはずも無く、日々神経をすり減らしていく原因の一つとなっていく。
 また、西方方面軍は超高空を飛ぶ正体不明の飛竜(北大陸西部を哨戒飛行するP3C)に監視されているなどの報告が続発していた。しかし、一度動き始めた巨大な流れを止めるのは不可能というものだ。
『そのような些細な事は捨て置け』
『是が非でも南下せよ』
 結局そういった出来事はいつの間にか握りつぶされ、「万事順調!」の報告のみが皇帝や教皇に上がるのみだった。

149 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/24(火) 23:00:26 [ XitU55gg ]
 …帝国・ナイトロス国境上空…
『敵飛竜・・・後方!・・・急速上昇!』
 巨体に似合わぬ速度でその飛竜、SW29は高度を上げていく。帝国の飛竜は3000を超えた辺りで失速し、4000を超えた時には姿は見えなくなっていた。
『高度6000維持!速度毎時200ノット!』
『了解!高度6000!速度200ノット!』
 南大陸南方の大国メリダ帝国が心血注いで開発した飛竜なだけあり、それまでの大型飛竜とは一線を画する性能を持っていた。
『帰還用意!』
『了解!』
 惜しむべくはSW29は量産性に乏しく、非常に高価でメリダではほとんど産み出すことが出来ないことと、メリダの魔法通信技術が未熟で有効に使いこなせていないことである。
 W6WやW51など列強の飛竜と互角に戦える飛竜を持ちつつ、それを持て余しているのが現在のメリダ帝国だ。それを積極的に売り込むべく、ナイトロスの飛竜派遣要請にも無理して応えたのだ。
『天測・・・!方角修正!』
『了解!・・・帰還する!』

150 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/24(火) 23:04:13 [ XitU55gg ]
 …フランシア基地…
『メリダ陸軍SW29A・C12U3が着地体制に入った。飼育員は準備に入れ!』
 SW29は地上に降り立つ。それに合わせて飼育員達が色々な検査を始める。新型なだけあって飼育は非常に大変なのだ。
「国境付近は帝国の飛竜の跳梁がひどい!エルビヌメインにいる飛竜だけではとても押さえきれてないぞ!」
「次からは護衛にナイトロスのジークかうちのW51の・・・A型でもB型でもいい。何か一緒にいないと心臓に悪すぎる。・・・やっぱり、D型だな。」
 搭乗員は仕舞いこんでいた尻尾を手入れしつつ、不満そうに言った。
 帝国の竜騎士団が南方に相当数移動してきたらしく、国境以北の制空権は徐々に帝国側に落ちていった。最初は前進基地やエルビヌメインから制空戦闘飛竜を出して追い払っていたがまるで効果が無かったので、今では国境を飛び越えてくる飛竜のみを迎撃することにしている。
「SW29は速いから羨ましいなぁ。俺たちのネルはとろくて敵わん!国境を偵察するたびに生きた心地がしないぜ!」
「とてもじゃないが、低空で帝国領に侵入するなんて不可能だ。」
 南大陸の飛竜は4000メートル以上でも飛べるものがほとんどだが、高度に反比例して航続距離が低下する。常に高空を飛ぶわけにもいかないのだ。
「連中、本当はこっちに来たくてしょうがないらしいが、エンペラーが来るまでは待機しなきゃならねぇんだってよ!」
「俺たちは直接戦うわけじゃない。奴らを地面に叩き落すのは戦闘飛竜の仕事だろ?」
 責任転嫁な発言を彼らは繰り返していた。


157 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:19:07 [ XitU55gg ]
「今日はみんなでどこ行こうか?」
 こんな世知辛い世の中じゃぁ飲み食いしなきゃやってらんないよな。
「ケビシニア鮮魚料理屋!」
「いったい何人で来てると思ってんだ。却下!」
 ジーク隊からリサ含めて5人、リサ繋がりの他隊の女子兵数人、部屋の同居人二人、二人の関係者数人、結構な人数だ。
「物価がクソ高いのに高い店に行けると思うなよ?」
 予想以上に支払額が高くて、ボコボコにされたこともあったな。その轍を踏むわけにはいかない。
「サマリム郷土料理屋!」
「アホ!郷土料理なんかじゃねえぞ!立派な高級料理じゃないか!」
「同志。アスターの肉料理など良いとは思いませんか?」
「肉料理というか・・・酒を飲むためだろう・・・」
 まとまんねぇな・・・。
「よし!上官権限発動!俺が行く店を決めるぞ!」

158 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:21:20 [ XitU55gg ]
 ・・・。
「大尉!どう見てもここは場末の酒場であります!?」
「うるさい!自分の財布の中身とよーく相談しろ。」
「私は高級サマリム料理もどーーんと来い!・・・なんですけど?」
「リサ・・・。お前は株で儲けたからなぁ。文句があるなら金を出してくれ。」
「それは無理ですよ大尉。みんなから集めたお金だってあるんですから。一人分ならオーケーなだけです。」
「そうかいそうかい。毎月の配当はちゃんと出してくれよ。・・・ほら!全員店に入るぞ。」
『いらっしゃいませ!』
 やっぱり混んでるな。当然というか、軍人がめちゃくちゃ多い。考えることは同じなのか。
「お前らフランシア基地の空軍か?!一緒に飲もうぜ!割勘してやるからさ!」
「キレーなネーチャンもいるもんなぁ!」
 海軍の・・・竜騎兵隊と水兵か。航海から帰ってきてたんだな。他に席は空いてないみたいだし・・・
「海軍サンの招待に預かって・・・」

159 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:23:19 [ XitU55gg ]
 ・・・。
「それでよー。連中慌てて弓を射やがったんだぜ!もちろんよー、んなぁ攻撃あたるわきゃねぇだろーー」
「連中の船を火達磨にしてやったんだぜ!」
「貴様ら空で戦って無いじゃねぇか!俺は天馬騎士に首を刎ねられそうになったんだぞ!」
「それはアレックス大尉さんの不注意だろ?先制攻撃して飛竜を空に上げさせないのも戦い方の一つだぞ。」
「ジエイタイみたいなことを言いやがる。『空で戦うロマン溢れる時代はまもなく終わる』なんてジエイタイは知った口聞くんだぜ。」
「ふーーん。俺たちはジエイタイとあんまりと一緒に居なかったからよくは分からんが、空の騎士と謳われる時代が終わっちまうのか。」
 話に盛り上がるのはいいんだが、俺は若年のジエイタイ兵士が死ぬほど憧れるという「コンパ」なるものを目指してたんだが・・・。
「大尉!飲みっぷりが足りないぞ!もっと飲もうぜ!」
「ああ」
 男の話なんてのは後回しなんだよ!だが、無下に話を切り上げるわけにもいかないぞ・・・

160 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:24:22 [ XitU55gg ]
「へぇー。ケビシニアはそんなところなんですかぁ」
「ちょっと行って見たーい!」
「落ち着いたら観光旅行なんかに来てもいいんじゃないですかね。国のみんなは歓迎しますよ。」
「それだったら、私たちが案内しましょうか?」
「ヤダー!見え透いた誘い文句になんか乗らないわよ?」
「冗談ですよ。冗談。」
 猫は女性の心を掴み易いってか!!
「同志政治将校。ナイトロスの酒は水同然としか言えません!」
「地酒はそこそこだが革命精神がまったく欠けている!」
「店員さん!この蒸留酒と地酒をもう一本ずつ!」
 竜人は酒か。文句言いつつ結局飲むとは、神経の太い生き物だ。
「大尉!止まってるぞ?もっと飲め!」

161 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:25:21 [ XitU55gg ]
「お会計は・・・34名さまで738950シリングになります。」
 なにーーーー!?一気に酔いが醒めた。あの悪夢が再び・・・デジャヴだ。
「馬鹿な!ちょっと見せてくれ!」
 頼んだ品の内訳は・・・
「一本15000シリングの蒸留酒10本、4000シリングのワイン15本に2000シリングの果物酒30本、ノステルビール20リットル?!・・・ステーキ肉30人分に南国魚類の酒蒸セット16人分・・・」
 酒は決して高級品じゃないが頼みすぎだ・・・。
「おいおい空軍のみなさんよぉ・・・俺たちをコケにしてんのか?ワリカンするからって礼儀をわかってねぇんじゃねぇか?」
「俺たちはロクなモンを飲み食いしてねーぞ!俺たちは15万ちょいしか頼んでねぇ」
 ああやばい。海軍がぶちぎれてる!遠慮せずに頼みすぎたかな。
「とりあえず俺たちは払い切れねーぞ!何か落とし前つけてもらおうか?」
 落とし前といったって・・・。ニンキョー映画みたいに小指をつめるとか・・・
「おい中尉!アスター人!飲んだ酒代を全部払えよ!」
「同志、それは不可能です。我々は一人10000シリングしか持ち合わせていません。アスターでは酒は水より少し高い飲み物ですから」
 お品書きの値段くらい見ろっっ!!
「リサ!お前なら・・・!」
「20万シリングしか・・・」

162 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/25(水) 22:27:33 [ XitU55gg ]
「埒が開かねぇな。・・・そうだ!俺たちが15万シリングまでは出してやるから、全員この歓楽街で払い切れない金額分働いてこいよ!」
 こういう場末な場所で稼ぐったら・・・
「売春?体を売るなんて出来るかよ!第一女子兵以外は無理・・」
「大尉ひどい!私達を売り飛ばす気ですか!!?」
「冗談だって」
「冗談に聞こえませんって」
「とにかく!俺たちや人間族以外はここじゃ無理だぞ!」
「最近は男相手の男娼もいるんだぜ!カマを掘られるのもいい経験じゃないか?獣人が好きな好事家もいないわけじゃない。」
 最低な経験だ。想像したくない!
「アレックス大尉!決断しろ!部下と一緒に娼館に行くかマフィアの高利貸しに頼るか。それとも俺たちを張り倒して逃げるか?」
 最後は無理だな。海軍陸戦隊の猛者も混じってるぽいし。こっちの主戦力、アスターの竜人は健全に萎縮してやがる。
「ほら!ケジメをつけろ!」
 俺は俺は・・・
「て、店員さん!は、払いきれない分の領収書を、フランシア基地の空軍ジーク飛行中隊の会計宛てで回してください。着払いで決済するから!」
 明日は隊長に殴り倒されるかも・・・



190 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/30(月) 22:18:59 [ XitU55gg ]
「我等に出撃の許可を!」
「野蛮人に死の鉄槌を!!」
「静かにしなさい!陛下の御到着までナイトロスの侵入を防ぐのが我々の役目でしょう!」
「近衛天馬騎士団長殿がかくも戦意に乏しかったとは!南方方面軍軍団長閣下にお目通しをお願いしていただきたい!」
「軍団長も私と同じ事を考えていらっしゃる。勝手な行動は軍紀に違反すると思いなさい!」
「エーテルガルド団長は公務に忙しいのです。もう宜しいでしょうか?」
 私を突き上げてきた竜騎士団長達は、渋々帰っていった。副団長ナイスフォロー!
「こっちの苦労も知らないで好き勝手に言ってくれるわね、連中は。」
「自身の出世しか頭に無いのではないでしょうか?」
「好き勝手やられても本当に困るのよ!」
 勝手に行動を起こして不測の事態になったら、責任を被るのは南方方面軍の軍団長(私は居候だからあまり関係ない)。そんなことしたくないから、最高責任者の皇帝が来るまでは待機。なんて素敵な責任転嫁なのかしら!
「軍団長は出兵の責任を被るのが嫌らしいけど、私は兵糧が集まってないという現実的問題の方が重大な問題なんだから!」
 領地や商人から徴収・買い集めいている兵糧類が、目標の六割程度しか集まっていない。
「現地調達なんてのたまう輩もおりましたねぇ・・・」
 ナイトロスの都市に到着する前に餓死するわね。

191 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/30(月) 22:20:31 [ XitU55gg ]
「それに放火なども。近衛天馬騎士団及び配下の天馬騎士団と竜騎士団は警備を厳重にしましたので、我々の管轄内での放火事件はこのところ発生していません。」
 以前は毎日のように火事が起きていたけど、天馬騎士や竜騎士を警備に組み込んだら、私達の管理する場所での放火事件や盗難事件は激減した。
「後ろでナイトロスあたりが手引きしてるんでしょうけど、全然尻尾を掴めないのが不気味ね。」
「かく乱専門の部隊でしょうか?どちらにしろ、警戒を怠るわけにはいきません。」
「そうね。部隊の訓練割り当てに問題が起きるけど・・・って、それも考えているのかしら。恐ろしい・・・!」
 日々の鍛錬を怠るのも嫌だけど、明日の食事に困るのも困る・・・。
「あーもー!やってらんないわ!何もかも速過ぎる!!」
「団長、落ち着いてください。それはどの軍人も感じていることですし・・・。」
「北部都市国家同盟との戦いから数年の時間が必要だったの。たかだか数ヶ月では兵糧も資金も兵力も回復できるわけないのよ!!」
「・・・資金の調達は確かに。近衛天馬騎士団の財政は火の車です。そのうち何かを差し押さえられるかもしれません・・・」
 近衛天馬騎士団に限らず、空中騎士団は大した領地を所有していない。だから出兵の際は自腹を切らなくちゃいけない。戦功に応じて払われる褒賞や少数の新領地で埋め合わせを行う。流石に近衛部隊なので少々の軍資金を事前に渡されるけど、団員達の俸給一回分で無くなる程度しかない。残りは出世払いの借金・・・
「皇帝直属の近衛部隊がこの有様なんて・・・天馬騎士の先輩達に申し訳が立たないわ。」

192 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/30(月) 22:21:26 [ XitU55gg ]
「もう一つ。魔術師ギルドより手配した魔術師達は約二週間後に到着します。」
「そう。正直不安だけど、払ったお金ぐらいの活躍はしてくれるわよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうでしょう・・・・・・・」
 副騎士団長が自信無さそうに言う。私も不安・・・。
「大騎士団や水軍の金貨攻勢には敵わなかったわ。メンツは見たけど一線級の魔術師には、贔屓目しても見えなかったし。」
 魔術師ギルドが派遣してくれる魔術師は若いか年寄り、魔法学校卒業ホヤホヤの見習魔術師か引退間近の老人ってところね。
「ま、まぁ魔術師ギルドの幹部は将来有望の若者とかつての大魔術師だと言っていましたので、頭を下げてお金を出した分の働きはしてくれる・・・のではないでしょうか?」
 本陣は地上に作らなくちゃいけない。本陣を飛竜から守るのは魔術師の魔法が一番!お金さえかからなければ。
「どの騎士団や戦士団も魔術師を雇うのに必死でしたから、何時もにも増して雇用費が増えて質は低下する。魔術師を直接組み込めればいいのですけが。」
「各地の魔術師ギルドが国教会や皇帝に多額の献金をしているうちは無理よ。私達から巻き上げた金が上に渡り、そのほんの一部が私達に戻る。良く出来た流れじゃない?」
「この国はいつの間にか腐ってしまったんです。私達がいくら頑張っても、柱の腐った家を無駄に支えているのかも・・・」
「副団長もかなり危険な事を言うわね。今の発言は聞かなかったことにしとくから、引き続き・・・」
 トントン
『団長、副団長!面会希望者です。』
「また来たわ。今度は何かしら?」
「では団長、取次ぎに行ってまいります。」
 こんな所で腐ってないで、空を飛んでいたいわ。


198 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/04(土) 00:59:20 [ XitU55gg ]
「アレックス副隊長!今月分のツケは三ヶ月分割で給料から天引きしておきますよ!」
 会計担当の主計兵からきつく叱られる。俺には文句を言う資格は無い。
「何か文句ありますか?イヤなら戦時特別手当からでもいいですよ!」
「文句なんかない。早く次の議題に移りましょう、隊長?」
「そうか。では次は各隊員の勤務状況の評価だが・・・」
 出世にも影響する勤務評定は、戦争が近付こうとも変わらない。部下との信頼関係を壊さないように正しく技量や勤務態度を評価しなくちゃならない。本当に不愉快極まりない仕事だが、ジエイタイ兵士に言わせるところでは、サインするだけの上級役職と平社員に挟まれた「中間管理職」の悲哀なんだそうだ。
「・・・ということで、彼の技量は急降下後の引き起こしに難があるが、ロッテを組んだ時の連携攻撃は特筆すべきものがある。」
「勤務態度に問題は無いですね。無難にこなしています。」
 一人一人こんな調子で、日々の模擬空戦の記録や哨戒飛行・緊急発進なんかの様子などを見て、評価をまとめて基地の責任者に渡す。俺や隊長の評価?基地の司令官が中心に、基地幹部が決めている。
「次は少々問題のあるリサだが・・・」
「問題があるなんて。私の可愛い部下ですよ?」
「空戦技術に関しては伸びが著しい。部隊の序列では真ん中くらいだ。他国の飛竜、コバルタのスピットやアスターのヤコブレフとも負けないぐらいの力もつけ始めている。しかし・・・」

199 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/04(土) 01:01:35 [ XitU55gg ]
「・・・ナイトロス軍は軍務以外の兵士の行いには比較的寛容だ。だがなぁ・・・」
「アレックス大尉。主計として出過ぎた発言かもしれませんが、リサ一等飛行兵は資金集めと株への投資、さらに新設された鉱石採掘会社の株式を取得したりと色々やっているようですが」
「俺の500万シリングもふんだくられましたよ。ちゃんと配当は払ってくれているし、問題は・・・」
「大損して無一文になったらどうするんだ?彼女は人前に出られなくなるぞ。」
 リサは商才があるらしく、多少の損を補填して余りある利益を出しているようだ。
「大丈夫じゃないですかね。本人曰く『中古のフリゲート艦ならキャッシュで買える』ですから。」
「そうか。場合によっては直接の上官であるお前に、責任問題がいくかもしれない。」
「それぐらいの覚悟は、大尉になりジーク飛行中隊の副隊長になってから出来ています!」
「覚悟があるなら、飲み食いのし過ぎで部隊にツケを払わせないで欲しいです。」
 主計は痛いところを突く。この行いも基地司令には悪印象なんだろうな。まぁ大丈夫だろう。俺は実力で出世する!
「一時解散しよう。アレックス、君の私的評価をまとめておいてくれ。」
「了解」

200 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/04(土) 01:03:51 [ XitU55gg ]
 ・・・。
「おばちゃん!うんと濃いコーヒーを頼む!」
 食堂のおばちゃんは夜にも関わらずコーヒーを作る準備をしてくれる。
「あいよ。顔色が悪いね?忙しいのかい?」
「戦争近いし、やらなきゃいけない事はいっぱいあるんだよ!」
「まぁまぁ。やっぱり戦争かい?あたしも逃げなくちゃいけないかしらねぇ。」
「ここまで帝国が来たらどこへ逃げたっておんなじだよ。俺たちが前線で食い止めてやるから、安心して食事を作っていてくれ。」
「大尉さんも頼もしいこと言ってくれるじゃない。このコーヒーはおばちゃんの奢りだよ!中央アルエス産のね!」
「あんがと」
 自分の技術でなく部隊の運用で悩むなんてな。士官学校時代には思いつきもしなかった。多分、帝国の人間にも同じ考えのヤツが何人かいるに違いない。
「今夜も徹夜かい。本当に大変だねぇ。私はもう帰っちゃうよ。悪いけど欲しいものがあったら、ジエイタイの人に頼むか外に買いに行っておくれ。」
「だいじょうぶだよ。お疲れ様。」

201 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/04(土) 01:05:31 [ XitU55gg ]
 本当は士官用宿舎でこなすはずの仕事なんだが、俺の部屋には居候がいるからそんな場所でやるわけにいかない。
「もうひと頑張りするか」
 食堂には俺以外いなかったが、基地の会議室や待機室に明かりが灯っているのを見かけたから、結構残業してんだな。
「一応勤務報告書には目を通しておくか。」
 目の前には大量の書類。南大陸産の木材をニホンの製紙産業が加工したという紙は、格段の美しさ・・・いや、そうじゃなくて書類に目を通すんだったな。
「七月○○日。アスター空軍のシュトルモビクを仮想敵に飽和攻撃阻止訓練。ジーク隊は撃墜7、撃破18、被撃墜は0で被撃破は5」
「七月○◇日。高高度を飛ぶSW29の迎撃訓練。高度6000を維持するSW29の迎撃に失敗。ほうほうの体で降下したところを護衛のW51Dに襲撃され撃墜5、被撃墜7の判定」
 その日の日程の記録と、それに付随する各隊員の報告を照らし合わせる。
「ジーク飛竜は6000を超えると急速に飛行性能が落ちる。ジークより高高度戦闘に適したサムやジョージ飛竜ならどうにか出来ると考えられる」
 なんて報告書や
「反航戦ならば、一回に限って正面からの攻撃ができる」
「地上の魔導高射砲の弾幕射撃に任せて、護衛戦闘飛竜と空戦したほうが効果的」
 知恵を絞ったのや身も蓋も無いのもある。これを判断材料の一つとして部下ごとの勤務評価を決め、隊長と意見をすり合わせて最終的な評価を決める。
 ・・・・・
「面倒くさい!毎月毎月なんでこんなことをしなきゃならない!!戦場に出ていたほうがよっぽど楽にちがいない!」


209 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/06(月) 23:33:48 [ XitU55gg ]
 ナイトロス王国・南大陸南方地域
「帆を揚げ!微速前進!」
「命令復唱!帆を揚げ!微速前進ヨーソロー!」
「僚艦との距離は300!」
「装甲巡洋艦部隊、先行します。」
「速力8ノットまで増速!」
「増速8ノットヨーソロー!」
 第二艦隊(予備役で地方艦隊)に配属されている旧式の装甲艦や気走帆船が、抜錨して続々と出港していく。
「中央は本気なのか?こんなオンボロ艦隊のフネを引っ張り出すとは」
「この辺りに残っている船と言ったら、水雷艇や本当の帆船、沿岸警備隊の高速艇ぐらいだぞ!」
「第一艦隊と第一飛竜機動艦隊が海峡からお出かけしている間は、俺たちが海峡でお留守番するんだと。」
「んじゃぁ、連中は俺たちが来るのを待ってんだな。」
「といっても、この船は風が吹いても15ノットがやっとだ。風があれば20ノット以上も出せる民間の快速帆船にゃ敵わない。」
「しゃべっとらんでとっとと帆を広げろ!!」

210 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/06(月) 23:36:40 [ XitU55gg ]
 ・・・。
「長官。第二艦隊が各根拠地より出港したとの連絡が入りました。」
「フム。海峡の警戒をコバルタ航空騎兵隊に任せるのも不安だからな。」
「情報局からの情報では、コバルタが指導層の権力闘争で政情不安に陥る可能性もあると指摘されているくらいですから・・・」
「この戦争中に馬鹿を考えるほどコバルタは阿呆ではない。コバルタの権力闘争など捨て置け。」
「では、第一艦隊及び第一飛竜機動艦隊の今後の予定ですが・・・」
 今、二つの艦隊は母港であるフランシア軍港に錨を下ろして、補給や修繕・乗員の休息をしている。
「第一飛竜機動艦隊は、暫く待機だ。首相と国王陛下が例の作戦を中々承諾してくださらない。」
「了解しました。魔法兵器と魔探の整備が長引きそうでしたので、整備を急かさずに済みます。」
「竜騎兵も初の実戦を経験して、かなり鬱積したものがあったようです。良い休暇を与えられました・・・。」
「海軍歩兵師団は・・・例の作戦の合否に問わずニホンに派遣してしまいましたが、大丈夫でしょうか?帰還時に船団護衛艦が不足する可能性があると」
「海上ジエイタイの護衛艦が測量船を送るついでに、途中まで護送してくれそうだ。心配しなくてもよい!」
「長官がそう仰るなら。参謀如きでは政治的問題には介入できません。」

211 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/06(月) 23:38:14 [ XitU55gg ]
「それとな・・・ここから先は口外無用。まだ正式には決定していない事柄だが・・・」
 海軍司令長官が急に深刻な顔をしたので、参謀達も押し黙ってしまった。
「海上ジエイタイが軍艦を派遣してくれる可能性がある。」
「本当でありますか?!」
「素晴らしい!!」
 周囲が色めき立つが、長官はそれを押さえる。
「待て。『可能性がある』だ。向こうの燃料事情や政治の行方次第では、水に流れる可能性もあるのだ。」
 一呼吸おいて話し始める。
「ハツユキ級、ムラサメ級の巡洋艦(ナイトロスの判断では巡洋艦となった)数隻に、旗艦としてコンゴウ級一隻、オヤシオもしくはハルシオ級潜水艦1〜2隻、掃海艇や補給艦も出すと言っていた。」
 一個護衛群に準じる規模である。
「海上ジエイタイの燃料事情はかなり悪い。これはリップサービスだろうから、巡洋艦2〜3隻に支援艦艇数隻の規模で派遣してくれるやもしれん。」
「それはそれで素晴らしいことです!」

212 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/02/06(月) 23:39:56 [ XitU55gg ]
「第一飛竜機動艦隊の司令長官がおっしゃっていた、在ニホンのアメリカ軍の艦艇はどうなるのでしょうか?」
「それはそれは巨大な空母だと言っておりました。」
「待て待て。その空母はガス欠で行動不可能だ。海上ジエイタイの軍艦を動かすのに精一杯で、それ以外の船は港に係留中だそうだ。」
「戦力にはならない・・・」
 参謀の一人が、それは残念そうな顔をする。
「その代わり、艦載機とその他航空機は少ない回数ならニホンの基地から帝国西部を空爆できると通達してきている。」
 F−15、F−16、F/A−18などはほとんどが翼を地上に休めて、パイロット達も必要最低限の飛行時間を維持できず、かなり苦労している。
「そのアメリカの海兵隊が、是非ともオキナワではなくイオウ島で我が海軍歩兵を鍛えたいと通達してきた。」
「イオウ島?・・・オガサワラ諸島の南にある島ですね?」
「アメリカ海兵隊はオキナワで訓練していると」
「オキナワは完全に騒乱状態で、それは無理らしい。要請自体はまたとないお誘いだ。関係省庁と折衝の後に了承するつもりでいる。」