870 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:26:55 [ XitU55gg ]
ガチャガチャ・・・
「おーい!落とすなよ!」
ゴトゴト・・・
「信管に気をつけろ!」
フランシア基地には、アスターからの大量の荷物が運ばれてきた。今朝来たばかりの輸送船団から運んできた物資だそうだ。
「おい中尉。戦竜師団は港なのに、この重そうな箱だけ何で運んでくるんだ?」
「同志大尉でありますか。戦竜師団の兵士と戦竜は船酔いのため、しばらく休んでから所定の地域に移動するそうです。あの中に入っているのは・・・」
「入っているのは?」
「艦船の砲弾を改良して作った、触発式テルミット閃光爆弾です。」
なんだそれは?
「わがアスターでは飛竜による地上攻撃の際、飛竜はこれを投下して攻撃するのであります。すごい光と火柱が上がるので、敵を混乱させるのと飛竜のブレス攻撃の目印にするのです。」
「そんな機密教えていいのか?それにそんなの括りつけていたら、飛竜の動きが鈍って危ないじゃないか。」
「これはナイトロスに売り込む目的もあって持ち込む、と同志政治将校殿は申しておりました。小官の乗るイリューシン10なら一発50kgを二発、普通の戦闘飛竜なら一発、大型の飛竜なら四発積み込んで出撃です。確かに速度と航続距離は落ちますが、敵飛竜と遭遇したらとっとと落としますし、かえって操縦能力が上達すると小官は考えております。」
「丁寧にありがとう。天気が悪くなってきたな。早く宿舎に戻ろう。」
空には暗雲が立ち込めている。この雲が取り払われれば夏がやってくる。それにしても、雨も降っていないのに嫌な天気だ。
871 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:28:23 [ XitU55gg ]
…連合帝国南部・南方方面軍司令部…
「全員揃ったわね・・・。さっき選抜した40名は、指定されたグループでそれぞれ南下しなさい!半島東部は危険なので避けること!敵と遭遇しても無理をせず、危なくなったらすぐに逃げなさい!」
「「ハッ!!」」
南方方面軍のあるこの街からペガサスを飛ばしていけば半島の先端くらいまでは辿り着ける、古文書ではそう書いてあるから信じるしかないわ。
「残った者たちは、念のためにいつでも飛べる準備をしておきなさい。万が一の時にはナイトロスの軍勢を迎え撃つように。」
「「ハッ!」」
「団長。どうしても陣頭指揮をなるのですね。」
「副団長は心配のし過ぎよ。強行偵察は今まで何度もしてきたことじゃない。ペガサスに追いつける飛竜だっていないわよ!」
「はぁ。」
「改めて言うけど、留守を頼むわよ。今日の夕方には帰れるはずだから。」
「御武運をお祈りします・・・」
「全員ペガサスに搭乗!目指すはナイトロス領深部!!!!」
872 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:32:01 [ XitU55gg ]
・・・
「同志大尉殿には想い人はいないのですか?」
「いないなぁ。仕事が忙しいし、隊長は俺に縁談を紹介するつもりもないようだしな。そういう中尉と・・・少尉、君はどうなんだ?」
「ケビシニアの故郷には、幼馴染で許婚を残してきています。故郷に帰ったら結婚するつもりです。」
「小官は・・・妻が卵の世話をしている最中です・・・」
ふん!子持ちか。
「しかしながら、大尉殿には女性がいつもいらっしゃるようにお見受けしますが。」
「あいつは俺の部下だ。俺の隊に入隊してから面倒を見ている。結構よさそうな人材だ。」
「リサという人ですね。アレックス大尉はこの人との目合いはもう済まして・・・っぶぅぅ?!!」
一発ぶん殴ってやった。とんでも無いこと平然と言いやがって!
「この盛ったオスネコ!そこまで職権乱用するほど俺は腐っていない!」
「・・・その言い方はまんざらでもないみたいですね。彼女は人間族のなかでも美人の部類に入るん・・・」
「少し黙っていろ。・・・中尉!」
ガシ!メギメギ・・・
「ミギャァ!!」
「その五月蝿い猫がこれ以上妙なことを喋ったら、遠慮なく頭をミートソースにしてくれ。」
「わかりました。同志大尉!」
873 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:36:27 [ XitU55gg ]
…エルビヌメイン基地…
「早期警戒魔探に感あり!北方およそ100キロメートルよりアンノウン、複数接近中!」
「駐屯中の戦闘飛竜はスクランブル発進せよ!」
「通常魔探は、可能になり次第走査開始!」
「八つのグループに分裂。進路変更しました!南下は止まりません!」
「一部アンノウンが早期警戒魔探の探知限界より外側に出ます!」
「アンノウンは高度1000、速度370ノット弱。探知できる数は15!飛竜ではなくペガサスと思われます!!」
「早いぞ!飛竜は発進急げ!!」
「この基地の方向には10騎が向かってきます!他のアンノウンはこの基地を避けていきます!」
「司令部に緊急通達だ!!」
この基地に配備されているフランク、最近配属されたトニー、管制の中継をするダイナの各飛竜が次々と飛び立っていく。
『フランク01よりダイナ12へ!中継の必要はない!敵は目の前だ!』
『トニー01より各騎へ!敵の侵入を食い止める!突撃!』
874 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:41:28 [ XitU55gg ]
「総員急げ!とっとと空に上がれ!」
基地司令の訓示もなしに発進は珍しい。すごいことが起きた・・・
「アレックス!考え事をする暇があったら、飛び立て!」
「了解!隊長!」
飼育係による最終確認も程ほどに、とっとと空に舞い上がる。
『エルビヌメインの防御を突破している!』
『対空部隊は準備!』
『第一飛竜機動艦隊は艦載戦闘飛竜を全て迎撃にまわせ!!』
『第一艦隊艦艇は対空防衛陣形!!』
『海峡の各艦艇は、独自に対空戦闘を始めろ!』
『戦闘飛竜はすべて空に上げるんだ!!』
『ジエイタイとフランシア市民に警報を出せ!!』
司令部は相当混乱しているのか、長距離魔法通信の回路を全開にしたままだ。帝国軍が来たのは間違いないようだ。
『ジーク01よりダイナ01へ。誘導を頼む!』
『とにかく北進するんだ。敵はペガサスらしく、エルビヌメインの飛竜を振り切ってこちらに来ている!数は全部で40ぐらいだ!高度は約1000!雲のすぐ下を移動中!』
フランク型飛竜はナイトロスでもトップクラスの速度の飛竜だ。それを振り切るっていうのは、尋常じゃない!
『フランシア基地の戦闘飛竜は、ほぼ全て発進完了!』
空には三桁に迫る飛竜がいる。よく見ると、他国の飛竜も続々と空に上がってきているようだ。地上で指をくわえているつもりは無いらしい。
875 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/04(日) 23:43:30 [ XitU55gg ]
どうやら振り切ったみたいね。相手にさえしなければ、逃げ切れるみたい。視界に入ってくるのは自分を含めて5頭のペガサス。別れたみんなは無事ならいいけど・・・。
(このまま南に向かう。敵に構うな。)
飛行中の会話は不可能だから、簡単な手信号で意思を伝える。
(了解。進路を維持。)
森林や草原の丘陵が続いていたけど、段々開けた土地になってきた。小さな集落らしきものも見えるようになってきている。街路も多くなったわ。
(大きな街が近い。注意しろ。)
雲の少し下を飛んでいるせいで視界が広がらない。雲の上に出るのが一番だけど、未知の場所では危険だからやめたほうがいいわね。
(飛竜らしき姿を確認。)
来たわね!ナイトロスの実力を見せてもらおうじゃない!
(構わず直進!)
885 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:03:14 [ XitU55gg ]
「な・・・あ、あ・・・」
なんなよ・・・この飛竜の数は・・・!多過ぎる!
部下たちは、逃げる為に進路を北に戻し始めている。でも、このままでは旋回中に敵の攻撃をまともに受けてしまう!
・・・
『敵天馬騎士一体が、こっちに突っ込んでくる!』
『司令部より伝達!オスカー、アーヴィンは北西の敵を迎撃!ジーク、ジャック、ジョージは前方の敵を迎撃!』
もう完全に混乱状態だ。通信からすると、目の前で突撃してくるペガサス以外にも、何ヶ所かで敵が出てきたようだ。
『ジーク01よりジーク隊!進路を塞ぐ!』
『ジャック01よりジャック隊!右に回り込め!』
『ジョージ01よりジョージ隊!左に回れ!』
『他国の戦闘飛竜は、逃走を始めた敵の追跡!』
俺たちは命知らずか、気の狂った敵を撃ち落さなければいけないようだ。
『総員、光弾およびブレス用意!実戦用のやつだ!!』
886 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:05:38 [ XitU55gg ]
海峡東部・第一艦隊、戦艦ヘブンキャッスル
「駆逐艦ウィンタームーンより通信!敵を視認!まもなく陣形の中に突入します!」
「魔探も完全に捕捉!数は5!速度は350ノット!高度900!速度落としません!」
「突っ切るつもりか。全艦対空戦闘・・・」
「始めッッ」
ドンドン! ドム!
ダダダダダダダ!
「もっと高角魔導砲があればいいのだが・・・」
対空ガトリング砲と普通の単装砲は、敵になかなか命中しない。第一艦隊の大型艦艇の殆どは、対空戦闘を重視した兵装にはなっていない。
「アッ!一体に命中!命中!墜落します!!」
「残りの四体が引き返します!」
「魔探での追尾を続ける。司令部に連絡。」
「ヨーソロー!」
887 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:07:48 [ XitU55gg ]
フランシア市・対空陣地
『上空を飛行中の全飛竜に警告!間もなく射撃を始める!』
「対空魔法は高度を500〜1000、高射魔導砲は1000から2000を担当せよ!」
「空域から友軍飛竜退却します!!」
「撃ち方、始め!」
ドン!ドン! バガァ! ズゥゥン!
「敵天馬騎士が高度を上げます!」
「高度1200!雲の中に入りました!」
「攻撃を継続!」
雲の中で閃光がいくつも走る。
「一体、・・・更に一体の反応が消失!二体を撃墜と確認!」
あまりの攻撃の激しさに驚いたのか、残った天馬騎士はほうほうの体で逃げ出した。
888 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:10:47 [ XitU55gg ]
フランシア市北方・陸軍演習場
「ZD57準備急げーー!」
「対空ガトリング砲はまだかっ」
「ジエイタイの人間は何をしているんだ?!」
対空兵器や対空戦竜の準備をしているなか、陸上自衛隊は何両かの車両をいじくっていた。
「何をしてんだ!敵が来るぞ!」
「迎撃の準備をしているんですよ。」
あくまで冷静である。
「離れてくださいね。」
「九三式近SAM発射!」
シュパパ!シュパ!
「はや・・・」
超音速に達した対空誘導弾は、あっという間に敵に到達した。
・・・・ズズーーン・・・
「スティンガーと八七式その他は用なしだな。五発撃って命中は三発、生き物相手では命中率が低いのか、それとも整備不良・・・」
「敵が引き返していく・・・」
「ジエイタイはやっぱすげぇなぁぁ・・・」
889 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:14:19 [ XitU55gg ]
パパパパ!
『またかわされた!』
敵の腕は相当な物のようだ。はるかに多数の飛竜相手に、まったく逃げようとしない。
『帝国の天馬騎士は化け物か?!』
天馬騎士は長槍を持っているようだが、攻撃はあまり仕掛けてこない。スピードで俺達を翻弄しているだけだ。
『ジャック隊は前に出ろ!』
『敵が雲の中に入った!』
頭に来るぜ!他の天馬騎士が逃げ切るまで、俺達をここに縛っているつもりらし・・・
『敵だ!』
言ってるそばから目の前に出てきやがった!
パパパ!バン!バン!
ブレスと光弾を発射する。だが、・・・突っ込んでくる!!
『アレックス!高度を下げろ!』
ヒュン!
さっきまで首のあった空間を、長槍の刃が通過していった。帝国の騎士とは反航戦はしないほうが良さそうだ。別の意味で命が縮む。
『敵はまた雲の中だ!』
『ダイナ01より各騎へ。敵天馬騎士は高度2000の雲中を逃走中。これ以上の攻撃は不要。引き返せ!』
今日は相当無茶な動きをしてしまった。相棒はもう明日まで飛べないだろう。
890 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:19:22 [ XitU55gg ]
・・・。
「今日中に反撃?それはあまりにも無茶かつ無意味です!」
「夜間空襲を帝国領土で実施しろと?!」
控え室は喧々囂々だ。上層部の意向は知らないが、攻撃されて準備なしで攻撃は無理がありすぎる!それに・・・
「爆撃飛竜を帝国内に送るのはいいのですが、護衛はどうするのですか?ジークやオスカー隊は今日中の飛行は無理です!」
「・・・護衛無しで飛んでもらう。」
「密偵からの情報で、詳細な地図は手に入っているから安心して欲しい。」
基地司令は、爆撃飛竜の搭乗員に未知の土地で死ね、と言ってると同じだ!
「政府と国軍は緊急の会議を開催し、今回の奇襲の報復として帝国・南方方面軍司令部への空襲を直ちに採択した。ナイトロスに帝国領への攻撃能力があることを示さなければならない。」
「先導は、ダイナ隊とエミリー隊の飛竜が行う。出撃するのはベティ、フランシス隊の他、アスター航空騎兵隊のランカスター、アスター空軍のTB3、メリダ陸軍竜騎兵隊のSW29が参加する。該当者は準備に取り掛かれ!」
政府の見栄と面子の為だけの出撃か。爆撃飛竜の奴らもかわいそうに・・・。
891 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/09(金) 02:23:22 [ XitU55gg ]
連合帝国南部・南方方面軍司令部のある街/郊外
「六人が未帰還で、負傷が七人ね。」
「はい、残念ながら・・・」
犠牲が出るのは覚悟していたから、特に感情は湧いてこない。このくらいの損失は、北部都市国家同盟との戦いで何度も出しているから。
「軍団長に報告を出したいから、全員の話を聞いておきなさい。」
「御意。しかし、一部の者が錯乱状態になっているので事情聴取はもう少し後になるでしょう。」
犠牲者を出した班の生き残りのほとんどが、錯乱同然で帰ってきていた。私も恐怖で一杯だったけれど、そうはならなかった。彼女達に話を聞いても「強力な魔法攻撃を受けた」とか、「仲間が突然爆発四散した」としか話してくれない。・・・疲れているのね。少し休ませたほうがいいみたい。
「でも、もう夜になるし今日のところは休ませておきましょう。」
「仰せのままに・・・」
ドーン!ドガ!
「な、何事だ!」
「分かりません!」
急いで外に出ると、司令部や城下町のあちこちで激しい閃光と爆発が起きている。
「ナイトロスの飛竜・・・!歩哨はどこ見ていたの!!」
たくさんの飛竜と上空の雲が閃光に照らし出されるのが見える。厚い雲に隠れつつここまで来たのね!
「叩き落すわよ!」
「団長!ペガサスは今日は無理です!新人たちではもう間に合いません!!」
クッ!南方方面軍の飛竜が飛び立ってくれれば・・・
ボン!ドン!ガガッ!
司令部周辺に火球がたくさん撃ちこまれてしまった。どう見ても地上の飛竜は無事では無さそうね・・・。私達はあまり目立たない場所に陣を構えていたから、見つからなかったみたい。
「副団長、攻撃が終わったら司令部の状況と、南方方面軍の軍団長の安否を確認しに行くわよ。」
「御意。」
907 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/13(火) 01:10:02 [ XitU55gg ]
「ヒッ!!嫌!こ、来ないで!誰か助けて!!」
「グハハハハ!助けなど来んわ!肉体の革命は必然なのだ!大人しく革命を受けれるのだ!」
メイド服を切り裂かれた20代前半のメイドは、それでも必死の抵抗をした。
「離して!離し、ふぐぅぅ・・・」
その小さな口に、切り裂かれたエプロンドレスが押し込まれる。
「何を怖がっている?!革命の味を私から受け取れる事を感謝しなければならぬのだぞ!同志レーニン!!」
レーニンは暴れるメイドの足を押さえつけ、僅かに残されていた衣服を剥ぎ取ってしまった。
「小娘!お前はマルクスとレーニンという、二人の革命家の革命精神を一手に受け取れるのだ!」
「んんんーー!んぐー!ムグ!!」
「グフフ・・・体は正直ではないか!本心では革命を起こされたくてしょうがないのだろう?」
(こんなのイヤ・・・誰か・・・)
908 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/13(火) 01:11:52 [ XitU55gg ]
「おい!人の話を聞いているのか!相棒の調子はどうだ?」
「こ、これはアレックス大尉殿!大尉殿のジーク・タイプ32はまぁまぁ好調です。最高速度を出さなければ普段通りに飛べるはずです!」
「分かった。・・・おまえ達は何の本を読んでいるんだ?」
飼育係(男)たちが車座になって一冊の本を読んでいるというのは、滑稽を通り越して異様だ。
「二人の革命家が時を越えて、純粋で可憐な女性達に陵虐の限りを尽くすという極めて興味深い本でして・・・」
アホな内容の本だ。ニホンという国がますます分からなくなる。この基地にいるジエイタイ兵士も、こんな与太本を読んで劣情を掻き立てられるのだろうか。周囲で見かける本は、戦艦が空を飛んだり擬音語の多い(たぶん)空想小説だったり、さっきみたいな煩悩全開の小説ばかりだ。俺より上の階級のやつらが、まともな本を優先的に持ち去ってしまったからか。
「分かったから、発進準備に入る。それと、その本はアスター人には見せるなよ。お前達が身をもって革命の代償を償うことになるだろうさ!」
「当然です!・・・ジーク02、ジーク04、ジーク09が発進準備に入る!」
ニホンも微妙な時に微妙なものを持ち込んでくるから困る。正直、戦争を起こす気構えがあるのか?
『ジーク02よりジーク04、09へ。魔法通信開け!発進後は上空を旋回しダイナと合流後、ジエイタイのC1輸送機を途中まで護衛、更に指定された地点の哨戒飛行を行う。」
『『了解!』』
まぁジエイタイの偵察機が周辺地域の地形の把握を始めたというし、一応のやる気はあるんだろう。
『帝国の飛竜に遭わないことを祈ろう。俺はまだルフトバッフェの歴史の半分も読み終わっていなんだ!』
909 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/13(火) 01:15:55 [ XitU55gg ]
現在の日本=ナイトロス+α間の貿易は、日本側の圧倒的な輸入超過、貿易赤字である。食料から始まり、あらゆる戦略物資を輸入に頼っている。だからこそ本来なら尽きているはずの石油や小麦の類が、綱渡りながらも供給できている。
保有している貴金属がどんどん減っていく中で、日本政府は少しでも輸出を増やして金の流出を防ぐ必要があった。
だが、高性能な機械類は輸出しても使いこなせる人間は皆無であるし、技術は易々と放出するわけにはいかない。大陸各地への投資が国庫を潤し始めるのは数年先である。結果として、多量に保存していた情報を切り売りする次第に至ったのだ。
かねてより進められていた日本語とハフニー語の相互翻訳もほぼ終了し(日本の処理能力にナイトロス側はただ驚くばかりだった)、日本国内の稼動する数少ない印刷工場や、ナイトロス国内の印刷所に原版を持ち込むことで、大急ぎで各種の本をナイトロス向けに作ったのだ。
一般的な書籍や、機密に該当さすると判断された部分を削除した専門書が輸出・販売される。初回は政府・軍向けに販売されるが、これには南大陸の一般人が日本に対するイメージを向上させるという最終目標のための前段階で・・・
「リサさんはやっぱり経済の本ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・違うわ・・・」
「でも、軍から配られた本は入手できたんですよね?」
「・・・そう、階級が上の人間から好きな本を選んでいったの。私はなんとか本は手に入れられたんだけど・・・」
「見ていいいですか?」
「後悔しない?」
「ニホンの本が見れるなら!」
「はい・・・」
・・・・・・・・。
「あの、貸してもらえませんか?私の隊のみんなに見せてみたいんですけど。」
「いいわよ。私には男同士の恋愛には興味が湧きそうもないから。」
918 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/15(木) 00:09:09 [ XitU55gg ]
「エーテルガルド近衛天馬騎士団長!貴殿のやり方には問題があったとしかいいようがない。」
好き勝手言ってくれるわね。
「ナイトロスによる攻撃の被害が大したこと無かったのが幸いだが、熟練者を偵察に回してしまった為に迎撃を失敗してしまったのではないかね?」
帝都に呼び出されたと思ったら、将軍・有力諸侯達の糾弾を受ける羽目になってしまった。兄上達には後継者のライバルとして嫌われているし、諸侯たちには自分達に便宜を図らないじゃじゃ馬と妬まれている。
「聞いているのかね?先の攻撃で南方方面軍軍団長は軽傷、街と兵力にも若干の被害が出た。その責任は君にあるのではないかね?!」
ろくに警戒していなかった南方方面軍にこそ、その責任があるんじゃない!私はナイトロス半島の強行偵察の為に出向いただけよ!
「何か言いたそうだな?」
「いえ、そのようなことはありません。」
「ふん。では南方方面軍軍団長、君の意見を聞きたい。」
火災の中で狼狽しきっていたけど、今は尊大な態度に戻ってる。
「エーテルガルド殿は、偵察の結果からナイトロスに帝国内まで攻撃できる飛竜の存在を予見できたはずです。帰還後すぐに教えていただければば、一応の対処は出来たと考えております。」
完全な言いがかりじゃない!敵の竜騎士とは戦ったけど、長距離を飛べるような飛竜の存在に気付くはずないでしょうに!
919 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/15(木) 00:10:52 [ XitU55gg ]
「貴殿はナイトロスの竜騎士と戦ったそうだが、戦果は挙げたかね?」
「いえ、味方を退避させる為に、ただ引きつけていただけです。」
「そこが問題なのだよ。帝国軍人そして帝室の一員として如何なく攻撃精神を発揮し、刺し違えるくらいの気概を持っているべきなのだ。敵の一人でも倒しておくべきだったのだよ。」
数十体の飛竜に囲まれて脱出したことを、是非とも誉めてほしかったわ。
「圧倒的多数の敵に囲まれていたので、逃げるので精一杯でした。」
「ならば、逃げずに戦って帝国の為に散華するのも、貴殿の役割であったろうに・・・。」
つまり、悲劇のヒロインと死ねと?帝国内はそれで纏まるでしょうね。
「まぁ、今日はこれで終わりとしよう。エーテルガルド近衛騎士団長、皇帝陛下の御前会議までに偵察の結果をまとめておくように!」
「ハッ!皇帝陛下と救世主の御心のままに・・・」
920 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/15(木) 00:12:18 [ XitU55gg ]
・・・・・
「エーテルガルド騎士団長よ。私との縁談に応じてもらえれば、卿の今回の失態を帳消しにするよう、働きかけても良いのだがね?」
変態ハゲ!!私を舐めまわすようないやらしい目つき!見ているだけで反吐が出そう!
「私の失態は、私自身の努力で取り返したいと考えております。気持ちだけで結構です。」
「そのような強気の態度、いつまでも通せるとお思いでしたら大きな間違いですぞ!」
あんたに身体を預けるくらいなら、舌を噛むわ!
「団長。お取り込み中申し訳ありませんが、騎士団の参謀達の招集が完了しました。団長が来て頂ければすぐにでも会議を始められます。」
「そういうわけですので、今日のところは失礼させていただきます。」
「お前は私に膝を屈するのだ!そして・・・」
ハゲは放っておいて、早く会議を始めなくちゃ。
「副団長、助け舟ありがとう。危うくハゲに貞操を奪われるところだったわ。」
「それは言い過ぎと思いますが・・・。偵察班のリーダー達も到着しましたので、事情聴取も可能です。」
「分かったわ。騎士団本部に戻りましょう。」
921 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/15(木) 00:13:57 [ XitU55gg ]
「かくめい・・・ばんざい・・・ぷろれたりあ・・・しょうり・・・・」
気丈で快活だったメイドの目は濁り、視線はどこを見ているわけでもなかった。
「この娘は、革命に耐えうるだけの精神の強さを持っておらんかったか。」
「同志マルクス。革命には犠牲が付き物です。このメイドは革命の尊い犠牲となったのです。」
「ふむ、そうだな!では、次はどの娘に革命精神を叩き込もうかのう・・・!」
「東洋のミコという神官、あるいはシスターもよろしいかと・・・」
「よろしい。神などという虚像ではなく、共産主義という絶対無比なイデオロギーを教育するのも、また一興なり!!」
精神の崩壊したメイドを残して、二人の偉大な革命家は何処かの時代に向けて旅立っていった。
・・・。
「これでおしまいか?!次刊はどこだ!」
「大尉・・・、ルフトバッフェの歴史はどうなさったのですか?」
「デブ元帥の話など後でいい!今はアフリカの星や黒い悪魔よりもメイドの次だ!」
アホな本とは言ったが、読んでみると結構面白かった。ニホンの毒牙にかかったかもしれない。
「次と言われましても・・・。続編があるのかどうか、ジエイタイに聞けば分かるのでは?」
「・・・それは恥ずかしいな。読ませてもらってありがとう。シュバルムの研究でもしているよ。」
・・・ミコとはどんな神官なんだろう?
930 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/16(金) 23:25:56 [ XitU55gg ]
作戦司令部の会議は、いつもにも増して加熱・・・を通り越して冷え込んでいた。
「我々はジエイタイの本格的な参加を見込んで、戦争計画を立てたのですよ!それをいまさら・・・!」
連絡係の陸海空自衛隊の幹部と外務省の担当者は、会議の開始冒頭こう言ったのだ。
『法整備が進まず、大規模な自衛隊の派遣は難しくなる可能性がある』
『派遣に反対して各地でサボタージュが起きている』
『深刻な物資不足が自衛隊の能力を著しく阻害している』
など、遅々として派兵の準備が整っていないことを説明した。
「国会は、派兵賛成派と派兵反対派双方の非難合戦で完全に空転しています。反対派最後の抵抗と我々は受け取っていますが、法整備が間に合わなければ最悪の場合、現状以上の兵力の派遣は厳しいかもしれません。」
ナイトロス王国周辺地域には、輸送艦と航路警備の為の少数の艦艇、輸送機・回転翼機と少数の地上兵力があるだけだ。
「南大陸同盟各国は、貴国が毅然たる態度を示していただけることを望んでいます。我々が帝国に敗北すれば貴国は干上がってしまう事をお忘れなく。」
「・・・連合帝国の技術水準は、南大陸の国々よりかなり低いそうですが、問題なく撃退できるのではないでしょうか?」
「払いのけるだけの大規模な動員が、貴国への物資の輸出でかなり厳しい状態に陥っている事をお忘れなく!」
「ほ、本国では検討を重ねておりますので、いずれ良い返事を提示できるかと・・・」
「いずれとは何時のことですかな?」
「私どもは長距離爆撃という形で行動を起こしました。ニホンはどのような軍事的プレゼンテーションを披露するのか、楽しみにしていますよ。」
931 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/16(金) 23:28:26 [ XitU55gg ]
ニホン関係者が退出した後も、更に会議は続く。
「第一飛竜機動艦隊を大陸西岸沿いに北上させる準備は整っています。ブルードラゴンとクラウドドラゴンの搭乗竜騎兵の選抜も完了しています。食料品の積み込みが終わり次第、約一ヶ月の航海に出る予定です。」
飛竜母艦の飛竜搭載数は一番艦のブルードラゴンで約50、二番艦のクラウドドラゴンで約70である。搭載される飛竜隊の数はそれよりずっと多いので、技量の優れた者を搭乗員とし、残りは予備兵力として後方に配備される。
「ジエイタイの偵察機がトウホク地方とホッカイドウ地方の基地から時折飛び立っているようだが、北大陸内部へは侵入していないようだ。」
「ジエイタイと密偵からの情報では、西海岸のライヒスマリーネ(帝国海軍)は数も少なく、発見される可能性は少ないでしょう。」
「見つかったところで、撃沈すれば良いだけの話だ。」
第一飛竜機動艦隊司令長官は言い放った。木造帆船と鋼鉄の戦艦では、最初から勝負は見えているから当然だ。
「多くの軍艦のある東海岸は流石に危険なので、境界線近くには第二艦隊の船を派遣するにとどめます。」
「エルビヌメイン防衛線の工事進捗率は約五割です。基礎工事が終了し、基地や陣地の本格的な造成を始めます。」
「国境警備隊は、大規模な侵攻が起きた場合を想定し、いつでも後方に下がれる用意をしておきます。」
「北大陸の各鎮守府には戦時動員令を発令し、部隊の移動がいつでもできるようにします。」
「南大陸の部隊輸送用の輸送船団の編成はもう少し時間がかかります。貿易量の増大で民間輸送船の融通が難しくなったことによるものです。ニホンの外務省と海上ジエイタイに要請し、使われていない大型船舶を貸し出してもらいます。」
「空軍は海峡警備をコバルタの航空騎兵隊にほぼ委託し、半島北部及び国境地帯への警戒にシフトします。」
「外交省は、アスター連邦の提示したいくつかの新兵器を試験購入する為の資金の準備を・・・」
帝国との戦争の機運が高まり、決めるべきことはたくさんあった。
932 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/16(金) 23:30:32 [ XitU55gg ]
「重要なのは格闘戦での見越し射撃か・・・」
相手の動きを読んで、未来位置への射撃か。言ってることは簡単明快だが、すごく難しい技だ。飛竜は揺れるし俺も揺れる、ブレスや光弾は直進性に欠ける。今まで通り、大雑把な位置に光弾をばら撒くぐらいしかできないな。
「だが大尉、一撃離脱でも良さそうではないか。」
「隊長。ジーク飛竜に急上昇と急降下ばかりさせていたら、一週間でジーク飛行中隊は開店休業ですよ?」
「機械の強みは頑丈さだからな。我が隊にできるのは、ロッテを組んで敵を格闘戦に引き込むことだ。」
先進的な空軍の技術を取り入れ、研究するのはかなり楽しい。新たな技術を他隊の奴らに試すたびにさせる驚いた顔は、何度見ても飽きない。
「ニ騎一組での戦法は隊員に徹底させよう。」
「うちの隊は15騎ですよ?隊長は?」
「一人でも大丈夫だ。それに隊の責任者は空戦する以外にも、全体を把握して随時命令するという仕事もある。」
隊長は強気だなぁ。空中戦で隊長を落とせる竜騎兵は殆どいないだろうから、気にする必要もないか。
「君の本は実に面白い。大尉、後で君の本を貸してくれ。私が手に入れた『死に至る病』という本を君に貸すから。」
縁起でもない名前だ。飼育係たちの本を読んでしまった俺には、刺激が少ない可能性もある。だが、上官命令だしな!
「隊長がそう言うなら。他の人間に見せてもいいですが、無くさないようにして下さい。」
939 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:48:19 [ XitU55gg ]
「エーテルガルドよ。先の強行偵察の結果はどうだったかのう?」
犠牲は出ましたが、中々有益な情報は得られましたよ、父上。
「端的に言いますと、国境付近からしばらくは要塞や城砦のようなものはありません。歩哨や前哨基地らしきものをいくつか確認できたのみです。敵の攻撃もそれほどありませんでした。」
国境にはあまり兵を置いていないみたい。最初から焦土作戦をやるつもりなのかしら・・・。
「旧神回廊(国境付近の草原と森林の通り道)をかなり南下したところには大規模な陣地らしきものがあり、ここから発進したらしい竜騎士の迎撃を受けました。この陣地には魔術師がいるらしく、上空通過中に魔法攻撃を受けました。」
「何?!魔術師がそのような場所におるのか!」
魔術師と言ったら、研究室に閉じこもって怪しげな研究をしているイメージしか湧いてこないわ。やたらとプライドも高いし。魔法の威力は確かに凄いけど・・・。
「大臣。魔術師ギルドと魔法学校に使者を送り、人員をもっと送るように頼んでおけ。」
「御意。」
「・・・報告を続けさせて頂きます。半島西部と中部の南側ではかなりの抵抗を受けました。西部と中央部では、海峡まで辿り着くことが出来ませんでした。かなりの数の竜騎士と魔術師が控えているようです。東部は海峡まで到達しましたが、鉄製の船からの攻撃を受けて退却しました。」
「よくやってくれたぞ。お主の考えでは、竜騎士を直接ナイトロスに投入できるかのう?」
940 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:49:16 [ XitU55gg ]
「無理ではないと思いますが、」
ペガサスで苦戦するくらいだから、他の飛竜ではちょっとねぇ・・・。
「着地と離陸を繰り返せば可能と考えられますが、地上で休憩中に南方方面軍司令部を襲撃したような飛竜に襲われないとも限りません。やはり・・・」
「エーテルガルド騎士団長殿。そこから先は将軍たちが決めることではありませぬか?畏れ多くも皇帝陛下に意見を具申なさるというのでしょうか?王族で在らせられる騎士団長と言えども、職務の範疇を超えた越権行為は諌められたほうが宜しいのではないでしょうか?」
自分のことを差し置いて、よくもそんなことを父上の前で言えるじゃないの!!
「大臣よ。それは言い過ぎであろう。余はエーテルガルドの意見を聞こうと思っていたのじゃが。」
「ハハッ。陛下の御前ででしゃばった真似をしてしまいました。」
はらわたが煮え繰り返りそう!誰も助けてくれないし!・・・私を嵌めようと全員で結託してるわね。
「詳細は書物に書き記しておきました。それをご覧になってください。」
941 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:51:00 [ XitU55gg ]
・・・・・
「団長、また挑発的な態度を取ったようですね。本当に暗殺されてしまいますよ?」
「私は死にはしないわ。」
私の後釜で揉めるのを警戒して、派閥ごとに牽制しあっている間は大丈夫だから。
「迎えの御者が来ています。」
「今日は徒歩で騎士団本部へ帰りましょう。夕刻までは時間があるから安全よ。」
「そうですか・・・。」
「副団長は心配のし過ぎよ?もう少し気を楽に・・・」
殺気を感じる。戦場で感じているものよりはずっと弱いけど、確かに殺気を孕んだ波動だ。護身用の剣を抜刀して身構える。
「団長!空を!」
雲のほとんど無い空に、数条の細長い雲、目を凝らすと何かが・・・
「鳥?」
それにしては大きすぎるし、古竜にしては速すぎるわ!
「見ろ!何か落としたぞ!」
周囲の警備兵が口々に言い始めた。黒っぽい物が地上に降ってきて・・・
942 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:52:20 [ XitU55gg ]
・・・! ドドーーーン!
閃光の後、一瞬の間を置いて響く爆音、攻撃された?!
「一度本部に戻りましょう!」
「ぁあ?!このまま王城に・・・」
「ペガサスに乗っていない天馬騎士は、ただの役立たずよ!!」
一目散に王城から離れる。
「副団長!今、煙の上がった場所は?!」
王城は狙わなかったみたい。何か意図があるのかしら?落ち着いてこんなことを考えられるのは、数百年ぶりに帝都が敵の攻撃を受けたことが、あまりにも非現実的だったからかもしれない。
「・・・川の方向ですので、橋でしょうか。」
目に入る範囲内では煙は四ヶ所から噴きあがっている。帝都の大きな橋は五ヶ所だから、一ヶ所を除いてやられたみたいね。
「はぁ・・・はぁ、団長は落ち着いていますね・・・はぁ、はぁ・・・」
「副団長もね。・・・はぁ・・・はぁ」
全速力で近衛天馬騎士団の本部に駆け込む。軽装備に着替えておけば良かったわ・・・。
「団長!副団長!ご無事でしたか?!」
門番の兵士と非番の騎士たちが駆け寄ってきた。
「はぁ、はぁ。・・・被害は分かる?!」
「四ヶ所の橋が崩落している模様です!被害の詳細は不明!」
「分かったわ!今すぐ出来るだけたくさんのペガサスを出して!王城に向かうわよ!騎士達を招集しなさい!近衛部隊としての役目を果たすわよ!」
943 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:57:21 [ XitU55gg ]
「こ・・・これは・・・!!」
「間違いない!帝都の写真だ!」
情報局の将校たちの前に差し出されていたのは、総カラーの航空写真だ。
「百里基地所属の偵察機が、護衛を伴って偵察飛行をした時の写真です。百里から三沢に部隊を移して、三沢から発進させたものです。まだ詳しい解析をしていないので、兵力の配置などはよく分かっていませんが・・・。」
「いや、密偵からの情報である程度のことまでは分かっています!」
・・・。
「写真も、ここまで綺麗に撮れるのか・・・」
「いくつかの騎士団が、郊外で野営しているようです。北部都市国家同盟から引き上げてきた部隊と思われます。」
「大きさ・形式の統一されていない飛竜とペガサスの部隊が多数あります。情報にあった、新編成の騎士団でしょう。」
「帝都近辺の騎士団等の動員はかなり進んでいます。これで地方の兵団と国教会軍の動員が完了したら、ほぼ間違いなく連合帝国軍は南下を始めるでしょう。」
何枚かの航空写真をめくっていくと
「おお!煙が!」
「F2支援戦闘機の爆弾懸架装置の故障という『事故』で、誤って4つの橋を爆撃してしまいました。橋脚部分を完全に破壊してしまったようですので、復旧にはかなりの時間がかかるでしょう。また、低空を飛行したF15Jが「誤って」水道橋を銃撃し、この水道橋の機能を喪失させてしまいました。」
「『事故』ですか。随分精密な事故ですな!ハハハハハ!・・・・・・。」
944 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 21:59:13 [ XitU55gg ]
・・・・・。
「たいい〜・・・もっひょのみましょうよ〜〜」
「リサ、呑み過ぎだ。もう止めておけ。」
「だってぇ〜〜・・・あの場面なら金は買いちゅうもん・・・うー」
少しくらいの商取引の損で騒ぐべきじゃないと思うんだが。
「リサさん、早く女子寮にお帰りになったほうが・・・」
「同志一等飛行兵、うら若い女性が男ばかりの宿舎にいつまでもいるのは、あまり宜しいことではないですよ!」
「うるひゃい!ネコ!トカゲ!!」
「少尉、中尉すまん・・・。」
「トカゲ!ろーれん・くらとら!!」
あのアルコールか!やばい!
「中尉!止めろ!!」
「飲んでは駄目です!」
中尉が立ちはだかったが・・・
「どけー!トカゲェェ!」
ガリガリガリ!
945 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/22(木) 22:01:17 [ XitU55gg ]
「ギャーーー!」
竜人族を引っ掻くなんて!完全に酔ってやがる!
「ゴクゴク・・・・ぷはぁ!」
「いっき飲みしたぁ?!」
今飲んだ瓶には四分の一は残っていたぞ!
「もっとさけーー!・・・・さけ・・・、・・・ぅ」
バタン!
「寝たか・・・。中尉、傷は大丈夫か?」
顔には痛々しい引っ掻き傷がある。
「自分は大丈夫ですが、明日は隊の同志達になんと言われるかとても不安です。」
すまん、本当にすまん・・・。
「二人ともリサを女子寮まで運ぶのを手伝ってくれないか?出来の悪い部下で迷惑をかける。」
「いえいえ、空戦と金儲けに関しては、いい技術を持ってると思いますよ?」
「同志大尉が監督官としてしっかり成長させていけばいいのです。」
「うぅ・・・なんていい人たちなんだ!最初の頃は君達を警戒していたんだ!!それが、それが・・・!」
「「泣かなくても・・・」」
954 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/25(日) 21:49:24 [ XitU55gg ]
『ジーク01より各騎へ。まもなく危険地帯へ突入する!充分に警戒せよ!』
危険地帯。帝国との境界もそうだが、ここで言うのは半島東部に広がる地域だ。危険生物がいっぱいなんだな。
『初夏のこの時期は、ガスキンツリーとテッポウユリの亜種のコウシャホウユリの「攻撃」を受ける可能性がある。』
士官学校で教わったガスキンツリーの性質は・・・
棒状の実にガスが詰まっていて、飛行する生物を精神感応波で探知するとガスを噴射して飛び出す。木と実は連携して相手に精神攻撃を仕掛け、速度を落とさせる。目標の間近まで来ると自爆して、種の混じった粘液を周囲に撒き散らして飛行生物に付着させ、遠くの場所で剥がれ落ちるようにする。
魔探や高射魔導砲と同じ原理を、こういった植物は備え付けている。獣の毛に種とかを付着させて広がる植物もあるけど、精神攻撃を仕掛けてくるってのがすごい。おまけに自立誘導だ。ジエイタイでいうところのミサイルってやつだな。
『こちらジーク13!前方に何かが!!』
何か?何もない。
『ジーク13、前方にはあるのは綿雲だ。』
『大尉!大尉!見えないのですか?!何かがこちらに向かってきます!!』
『見えるぞ。だが、あれは雲の切れ端だ。』
『大尉!大尉!!何かが私達を飲み込もうとしてます!』
955 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/25(日) 21:49:57 [ XitU55gg ]
俺はぎょっとしてジーク13=リサのほうに近づいた。飛竜の操縦を上手く出来ず、編隊から落伍しそうになっている。
『ジーク13!リサ!どうした!』
『何かが!あぁぁああ!!』
何か別の世界を見ているようだ。この前の酒の暴飲が堪えてるのだろうか?
『ジーク02へ!ガスキンツリーの精神攻撃だ!女性は精神攻撃に対して敏感だという。そろそろ我々にも・・・』
く・・・視界が歪む・・・。・・・周囲に例えようのない物体が!悪夢から出てきたような!なんだこれは!!
『ジーク01だ!これは幻覚だ!意識を集中しろ!飛竜の様子にも注意しろ!』
とても幻にはみえない!!だが、相棒は・・・、様子がおかしい。何かに怯えているようだ。クソ!飛竜にもきっちり効いてるじゃないか!!
『リサ!大丈夫か!返事しろ!』
『!・・・どうにか!でも、恐怖でどうにかなりそうです!』
これだけ精神攻撃を受けるって事は、もうそろそろ来るのか。
956 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/25(日) 21:50:34 [ XitU55gg ]
『10時方向より高速飛翔物体多数!こちらに向かってくる!!』
尾を引きながら向かってくるアレが、植物の実だってのか?!
『散開!緊急時には攻撃しても構わない!!』
相棒が怯えているせいで動きが鈍い。それに、明らかにペガサスより速いものを撃ち落せるはずないだろうに!
『了解!』
押し寄せてくる幻視・幻聴と戦いつつも、右にブレークする。俺には二つの「実」が向かってきた。
バン!ドドン!
「実」に向けて砲火を加える奴もいるようだが、当たりはしないだろう。
『こちらジーク01!ガスキンツリーの実の射程は短い!回避を続けろ!!』
二個の実に追われているのに?!正気を保つのも大変だってのに!ちくしょーめ!!
パパン!パン!
後ろを見ずに、とりあえず当てずっぽうに光弾をぶっ放す。
『駄目だーー!』
そんなもので落ちるはずなかった!あと数秒で爆発に巻き込まれる!それは断じて嫌だ!
ヒィィィィィン!
捨て身の急旋回!これで振り切れなかったら、俺は粘液まみれだ。
ヒュン!ヒュン!
急旋回について来れなかった実はそのまま直進し、実の中のガスが尽きたのか、失速して墜落していった。
『ジーク01よりジーク02から15へ。ガスキンツリーの実の襲撃は終わったようだ。基地に帰還する!』
957 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/25(日) 21:51:44 [ XitU55gg ]
ベチャ・・・ネチャネチャ・・・
「うぇぇ、気持ち悪いな」
爆発には巻き込まれなかったはずなんだが、飛び散った粘液と実は、相棒の翼に張り付いていた。しばらくは乾かさないといけないらしい。
「大尉!その実は捨てないで下さいね。後で焼却処分しますから。」
飼育係たちに指摘される。こんな悪趣味な植物を育てる人間なんているはずないだろう。
「何個かはニホンの研究所に引き渡すらしいですよ」
この半島でも屈指のオモシロ植物だ。研究者ならあるいは・・・
「まさか、これのためにわざわざあんな場所に行かされたのか?戦争が近いのにそんなはずは。緊急時の対策を練るためかもしれないし」
「大尉・・・」
「うるさい。考え中なんだよ。」
「大尉、助けてください・・・」
「その声はリサか?さっきからなんだよ・・・ヒッ?!!」
そこには粘液まみれのリサが。爆発をまともに喰らったか。
「ベチャベチャしてて気持ち悪いんです。うぅー。」
だが、全身粘液まみれという姿は妙に「そそる」。
「変な顔で見ないでください・・・。体中にくっついた種と粘液をどうにかしてくださいーー」
963 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/29(木) 02:55:51 [ XitU55gg ]
「これより、対オスミア=ハフニー連合帝国防衛戦のためのの最終討議を開始する。」
ナイトロス上院議長の宣言によって、ナイトロス王国の戦争への準備は最終段階に入ることとなる。
「三軍の司令官はそれぞれ現状を説明しなさい。」
・・・。
「陸軍はエルビヌメイン防衛線構築の最終段階に入りました。およそ二ヶ月、九月頃には完成します。その他の防衛線の構築は、資材不足によって放棄せざるを得ませんでした。」
日本とナイトロスの共同作業で、防衛線(といっても大軍が移動可能な唯一の場所を押さえている程度のものだが)はほぼ形が出来上がり、塹壕の構築や兵員・火器配備、拡張工事中のエルビヌメイン基地に飛竜部隊を増強すれば、おそらくこの世界で最も強固な防衛線となるのだ。
「しかし、首都フランシアとエルビヌメインは百キロ程度しか離れていないではないか!もっと遠くに防衛線を作るか、攻勢に出るだけの兵力を出さないのか!突破されれば首都まで数日でやって来るぞ!そうなったら軍はどう責任をどう取るつもりだ!」
(形式上の)野党からの批判にも陸軍参謀総長は動じない。その問題は既に話し合われている。
「ニホンに資材と物資を取られてしまったため、攻勢に出ると二回、場合によっては一回の大規模な戦闘で、我が軍の兵糧は尽きてしまいます。ニホンを批判したい気持ちは理解できます。しかし、彼らはその見返りにその高度な軍事力を提供してくれるはずです。ジエイタイは我々南大陸連合軍についてくれるのです!」
ジエイタイ。その響きは議員たちの心に訴えかける。魔法技術は無いに等しいが、その代わりに高度な科学技術によって成り立つニホン、その軍隊であるジエイタイの戦力は目を見張るものがある。演習場で見た、高射魔導砲の水平射撃にも耐え、アスター自慢の最新鋭戦竜D80の至近距離ブレスにも耐え抜いた「戦車」が良い例ではないか!
「ジエイタイがどの程度派兵してくれるかは不明ですが、もしかしたら現状の戦力でも攻勢に出れるかもしれません。」
「追加しますが、我が軍も手をこまねいているわけではありません。半島に展開中の第二・第三歩兵師団はいつでも前線に向けて出発できます。南大陸の第四・第五・第六歩兵師団は船団の手配が済めば半島に移動できます。その他の魔法部隊・砲兵・騎兵部隊もそれに準じた用意は出来ています。」
964 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/29(木) 02:58:03 [ XitU55gg ]
「続いて空軍司令長官。発言を許可する。」
・・・。
「前線で使用可能な飛竜は約300です。諸外国から派遣される予定の飛竜が約450。合わせて750が今回の戦いに投入されます。エルビヌメイン基地は、フランンシア基地よりはるかに巨大になっているので、大型で航続距離の大きい飛竜はフランシアとその周辺基地に配備し、それ以外の飛竜はエルビヌメインに移管するでしょう。」
「他国の飛竜との連携や意志の疎通は?数は足りているのですか?」
どの国の竜騎兵も、魔法通信は一応出来る。ただしその性能は千差万別で、未だに手信号や信号弾を主要通信手段にしているところも多い。
「各国の派遣飛竜部隊の先遣隊との連携は上手くいっています。単純な作戦ぐらいなら、特に問題無いでしょう。・・・予想される敵の数ですが・・・」
「一騎士団の人数は100名前後ということになっておりますが、少なくとも20個騎士団、約2000の天馬騎士や竜騎士が立ちはだかる予想です。」
最低でも2000、もっと多くの敵が攻めてくる可能性があるのだ。
「心配には及びません。帝国のこれまでの戦い方では、占領地から供出した兵士と地方の騎士団を第一波として敵にぶつけ、第二波に皇帝及び教皇直属部隊と有力諸侯の軍勢が攻めてくるという戦いをしてきています。実際に一度に攻めてくるのは、半分くらいの戦力です。更に敵はブレスの他は剣や弓が主装備ですが、我々は魔法を使えます。飛竜の性能も隔世の隔たりがあります。」
本心としては、航空ジエイタイの戦闘機が敵を刈り取ってくれることを期待しているが。
965 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/29(木) 02:59:10 [ XitU55gg ]
「最後に海軍司令長官。発言後は、国軍大臣・財務大臣及び首相による予算の最終修正案発表と採決を行う。」
・・・。
「西海岸に展開中の第一飛竜機動艦隊は、所定任務を終了後は一度フランシア軍港に戻り、補給を行います。海峡の第一艦隊と連動し、開戦後は東海岸に向かってくるであろう大艦隊を迎撃する。第二艦隊は予備戦力として、本国近辺の哨戒を引き続き行う。」
陸戦と空戦が主体となる戦争になるので、海軍は敵船団の攻撃で、物資と人員を出来るだけ海に沈めるのが仕事となる。
「海軍の当面の仕事は、ニホン行きの船団護衛と帝国軍艦船の侵入を防ぐことにある。」
「質問ですが、第一飛竜機動艦隊の任務とは?この時期に本国から離れた場所にいると言うのは・・・」
「軍機につき、詳細は申し上げられない。軍機を解除されれば、お話できるだろう。」
966 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/29(木) 03:00:28 [ XitU55gg ]
「一体どういうことか!南方方面軍は兎に角、聖なる帝都を襲撃されるとは!!卿達は余に恥をかかせるつもりか!万代の祖先に申し訳が立たぬ!」
どちらかと言えば温和な皇帝が、今日は怒り心頭であった。圧倒的軍事力を誇るはずの帝国軍が、常にナイトロスにイニシアチブを握られているからだ。
「教皇に対してどれほど恥をかいたことか!」
この辺りは微妙なところである。連合帝国は皇帝と教皇の共同統治となっているが、どちらが主導権を握るかは戦果や人望で決まるのだ。
「このままでは終わらせぬ!各方面軍と国教会軍の出立準備はどうじゃ?!」
「遠距離の北方方面軍と東方方面軍は兵糧がまだ足りません。西方方面軍と南方方面軍は、一応出撃可能です!国教会軍は、聖戦への最終準備に入ったようであります。遠方の騎士団が動き始めているとの情報があります。」
「北方方面軍と東方方面軍の出発を急がせるのじゃ!」
今までの帝国の敵は北部にあったので、帝国の主力部隊は北に配備されている。一部は既に帝都に帰還しているが、多くはまだ領地や占領地から出ていない。
「兵糧が不足・・・」
「構わん!東方方面軍の水軍も動員しても構わん!兎に角三ヶ月以内に、国境に必要戦力を集結させるのだ!ナイトロスにこれ以上帝国の矜持を傷つけられてはならんのだ!!」
967 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/29(木) 03:02:30 [ XitU55gg ]
修正アカシニホン標準時七月上旬某日午前5時・エリモ沖約350Km・帝国本土より約150Km
『飛竜母艦ブルードラゴン第一次攻撃隊発艦準備完了!』
『飛竜母艦クラウドドラゴン第一次攻撃隊発艦準備完了!』
『魔探に敵影なし!』
『直掩騎は先行して発艦!』
『マート隊は発艦!』
「司令。準備が整いました。いつでも行けます!」
「ふむ。戦略的にはこの攻撃に意味は無い。だが、海軍竜騎兵隊初の実戦である。成功するよう総員奮起せよ!」
『第一次攻撃隊発艦!』
974 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/30(金) 23:17:13 [ XitU55gg ]
第一次攻撃隊は、順調に連合帝国本土に向けて飛行していた。第一次攻撃隊の陣容は
【ブルードラゴン隊】
クロード×14
スージー×10
ジーン×12
【クラウドドラゴン隊】
サム×12
ジル×10
ジュディ×8
グレース×6
その他に連絡・偵察用のマート×3、ノーム×1、ポール×1が帯同している。第二次攻撃隊は、第一次攻撃隊発進後1時間半後に、予備の飛竜と直掩飛竜を除いたほとんどの飛竜が参加して発進する。
975 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/30(金) 23:18:27 [ XitU55gg ]
『マート08より第一次攻撃隊指揮官へ。目的地上空に敵影なし!雲量はごく少数。艦艇は複数確認した!野積みの物資も確認!!』
『了解!・・・攻撃隊全騎へ通達!速度を150ノットから各飛竜最大速度まで加速!事前協議通りに攻撃しろ!』
ブルードラゴン隊飛竜は旧式のため、彼らの巡航速度に合わせていたのだが、それをを遂に解いたのだ。
『サム隊最大戦速!制空権を掌握する!』
彼らの中で最も高速なサム隊が一気に加速し、目標へと向かう。
『ジーン・ジル隊は高度を1000に下げる』
『スージー・ジュディ・グレース隊は高度4000に上昇!』
それぞれの隊も高度の調整をしていく。
『陸地が見えた!突入用意!』
目標とされた港は、連合帝国西方方面軍水軍の拠点の一つで方面軍最北端の拠点でもある。しかし、西方方面軍の規模が元来小さいこともあって港の割に船は少なく、防衛戦力も貧弱だ。だからこそ攻撃目標に選ばれたのだが。
976 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/30(金) 23:19:50 [ XitU55gg ]
『奇襲成功!奇襲成功!』
真珠湾攻撃に参加した日本海軍航空隊の乗組員がこの場にいたなら、半世紀以上前へ戻ったように錯覚しただろう。それ位完璧な奇襲だった。
『迎撃は皆無!突入せよ!』
埠頭とその周辺には大小様々な帆船が錨を降ろしていた。帆も閉じられたままで、奇襲は完全に成功したのだ。
『ジュディ隊は左下方の大型ガレアス船群に急降下攻撃を行う!我々が先鋒だ!失敗は許されないぞ!』
ヒィィィィィン! ババッ! ドム!
ドカーーン!!
『3隻に命中!大破を確認!高度を3000に戻せ!目標を再選択するぞ!』
『スージー隊は6時方向のガレー船を攻撃!』
『グレース隊は埠頭を破壊する!』
この時点で、ようやく帝国軍人と周辺住民は異変に気付いたが、真珠湾の前例に倣えば「手遅れ」である。
977 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/30(金) 23:20:32 [ XitU55gg ]
「竜騎士は早く飛竜に乗れ!」
近くの竜騎士団分隊の駐屯所では、飛竜の発進が始まっていた。何が起きているのかは分からないが、空に舞い上がらなければならない。
「何か来る・・・!」
物見やぐらの兵士はそこまでしか言えなかった。サム型飛竜のブレスが直撃したのだ。
『一騎も上げるな!地上で撃破せよ!!』
パパパパパ!
羽ばたき始めた飛竜に光弾が撃ちこまれ、その動きを止める。
バン!ボン!
辛うじて飛び上がった飛竜も、次々と狙い撃ちにされていった。
「こんなの無しだろ・・・」
生き残った竜騎士は、そんな事をうめいた。
978 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/12/30(金) 23:23:04 [ XitU55gg ]
バガァァァァン!
巨大な火柱が上がり、一隻の帆船が海に沈み始めた。すぐ脇の帆船は必死に動こうとしている。
「錨をあげろーーー!」
「帆を張れーー!!」
水兵達の努力を嘲笑うように、低空から攻撃飛竜が攻撃を仕掛けてきた。
「弓を射ろッッ」
周囲から飛んでくる弓などもろともせずに、超低空を飛んでくる飛竜。そして・・・
ボン!ボン!ボン!
ドーーン!ズズーーン!
「この船は駄目だ!海に飛び込め!」
再び数隻の帆船が烈火に包まれた。各隊数回の急降下攻撃や低空攻撃によって港は煙に覆われ、同時に攻撃できるような目標もかなり減っていた。
『ブルードラゴンに通信!第一次攻撃隊は奇襲に成功せり!港の被害は甚大なり!飛竜の活動限界が近づいたため、これより退却に入る。』
・・・第二次攻撃隊は、残敵の掃討と倉庫や露天の積荷の焼却をしていった。
983 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:50:26 [ XitU55gg ]
「これが日本式浴場「露天風呂」です!!」
ジエイタイ兵士が意気揚揚と紹介したのは、屋根なしの浴場だ。基地の隅に突貫工事で作られた。
「男女別れて風呂に入ってください。」
ガラガラッ
この辺ではあまり見かけない木造の建物だ。ニホン式なんだろう。木の香りが漂ってきていい匂いだ。
「男子は腰巻用のタオル一枚で露天風呂に入るのが通例です。そのようにして下さい。」
そうなのか、言う通りにしよう。
「景色をたっぷり楽しんでください!」
・・・。
「隊長〜。変わった風呂ですが、すごく気持ちいいです!」
「ニホン人がこだわる『風流』というやつだろう。」
よく見慣れたはずの空だが、風呂から眺めるのもまた一興だな!
「しかし、なんで果物や葉っぱを浮かべてるんですかね?」
「はて?暖めて食べる果物なのかもしれない。葉は何なのだろうか?」
ニホンはよく分からないな。
984 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:52:14 [ XitU55gg ]
「リサ先輩!すごく空が綺麗です!」
「本当!気付かなかったわ!」
・・・!隣は女性用の風呂か。それもまた『風流』という・・・
「先輩ってよく見ると大きいですねぇ。着やせするタイプですか?」
「ウェッセンラントやマルグラントのエルフ竜騎兵には敵わないわよ。」
「エルフ族は別格ですよ!先輩は人間としてってことですよ!」
「そーです!」
「先輩は謙遜し過ぎですね!アレックス大尉を他の女性に盗られちゃいますよ!」
「あんた達はなんてことを言うの!!」
「あーー!リサ一等飛行兵殿の御乱心!であえー!であえー!」
隣に男がいてする話じゃないぞ!はしゃぎ過ぎにもほどが・・・大きい?
985 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:54:41 [ XitU55gg ]
「隊長、失礼します。」
「どうしたんだね?」
「ちょっとですね、用が出来たんです。中尉ー!いるかー!?」
「はい?」
中尉は桶を湯に浮かべ、桶の上に酒瓶を乗せて悦に浸っている。
「酔っ払い竜人族!俺を肩車しろ!今すぐ!」
「同志。別に良いですが、何故でありますか?」
「隣を見る!それがどうした!」
「女性専用のお風呂ですが」
「大尉命令だ!」
渋々ながらも肩車をしてくれた。やはりいいヤツだ!
「行きますよ?」
「合点承知之助!!(年配のジエイタイ兵士が言ってた。相槌の掛け声らしい)」
竜人族に肩車してもらって少し無理をすれば、仕切りの板を超えて向こうが見える!
986 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:55:53 [ XitU55gg ]
「中尉!もう少しだ!」
「同志大尉!これで限界であります!」
「ぐぬぬっ!・・・おぉ!見える!見えるぞ!見え・・・」
湯煙が邪魔でよく見えないぞ!
「風よ吹け!吹くんだ!吹け・・・!?」
グラッ
急に足元がぐらつき始めた。
「中尉!何をして・・・」
「大尉!何やってんだ!卑怯者!」
「俺にも見せろ!」
野郎どもがいつの間にか集まってきていた。
「揺らすな!貴様等は俺より階級が低いのに、俺より先に地上の楽園を見ようなんぞ百万年速い!!」
987 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:57:09 [ XitU55gg ]
「キャーーーー!覗きよーー!」
「ヘンタイ!!」
騒ぎすぎてばれちまったじゃないか!
「中尉!もういい!風呂に戻る・・・ぐえっっ」
桶が俺の顔にクリーンヒットした。石鹸やら果物も飛んできて危険だ。何より・・・
「総員風呂に戻れーーー!何事も無かったように振舞え!!」
女子兵に殺されかねない!他種族の女性もいたようだから、冗談抜きでやばい。
「ここは男性専用ですよ!?入るのは・・・」
「どいて!!」
「はい・・・」
ジエイタイ兵、弱すぎる!追い返してくれよ!
ガラガラッピシャ!
扉を物凄い勢いで開けたのは、リサを始めとする女子兵の面々だ。
988 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:58:10 [ XitU55gg ]
「男性の皆さん?お風呂は楽しいですか?」
「楽しいぞ。そんな格好で何しに来たんだい?」
みんな揃って満面の笑みだ。だが手には箒やモップを持っていて、目は笑っていない。
「タオル一枚で男子風呂に来るのは嫌だったんですが、不届き者を成敗するためですから問題無いです。」
「不届き者?知らないぞ。ねぇ隊長!」
「そうだな。不届き者はいなかったが、みんな揃って覗き見をしようとしていたな。若いうちは色々とやりたくなるものだよ。」
隊長は助け舟を奈落の底に突き落としていった・・・。
「そうですか、隊長。じゃぁそれ以外の人は、そうですね・・・」
ジリッジリッ
彼女達がにじり寄ってくる。・・・・・・神様!!
「「天誅!!」」
989 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/01(日) 18:59:53 [ XitU55gg ]
・・・。
「イタタタタ・・・本気で殴らなくてもいいだろうに。」
結局修羅場になってしまった。ニホンの諺の「骨折り損のくたびれもうけ」を実感できた。
「やましいことを考えるのがいけないんです!大尉のバカ!」
「そう怒るなよ。結局誰も裸を見れなかったんだからさ!」
「そこが論点じゃないですよー!勝手に見ようとするのが」
「合意があればいいんだな?」
「大尉のへりくつ!」
「まぁ許せ。飯は豪華なのを奢ってやるから。中尉も呼んでやろうかな。」
「・・・そういうことなら許してもいいですけど・・・。」
「ところでリサ?」
「はい?」
「着やせするのか?」
「最低です!!並大抵の奢りじゃ許しませんよ!!!
996 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/01/02(月) 22:39:05 [ XitU55gg ]
「お客さん?お客さん!朝ですよ!起きてください!!」
「うっ・・・痛っ」
えっと、大尉と中尉さんと一緒にこのお店に来て、お酒を飲んで・・・
「朝!?みんなは!?」
「お客様が完全に泥酔してテコでも動かなかったので、閉店時間でお帰りになりました。私どもは、朝になったらお客様を起こすように言付されておりました。」
は、早く基地に戻らなくちゃ・・・
「すいません!その、何か軽食はありませんか!」
取り敢えず何か食べておかないと!
「朝食メニューに500シリングのトーストセットがありますが?」
「それちょうだい!すぐに帰るから!」
・・・。
「トーストセットです。お熱いうちに・・・」
「目玉焼きとトーストだけもらってくから!」
バタバタバタ!
トースト咥えながら走る軍人も間抜けだけど、遅刻は恥ずかしい。基地まで走って10分!あの交差点を左に曲がって・・・
ドン!
「うわ!」
「きゃ!」
咥えてた目玉焼きトースト!私の朝ご飯!?
「前を見なさい!危ないじゃないの!パンを落としちゃったじゃな・・・」
「リサか。前を見なきゃならないのはお前だろう?朝早く何を騒いでいるんだ。お前を迎えに行くところだったんだぞ。」
「大尉!!?遅刻しそうだから・・・」
「遅刻?こんな朝っぱらから遅刻?時間は確認したのか?」
落ち着いて周囲を見ると、人通りはまばらで早朝。私は一人で騒いでただけ・・・
「あせらず基地に行こう。」
「大尉・・・。大尉とぶつかったせいで朝ご飯が駄目になっちゃいました。」
「分かった分かった。食堂でおごってやるよ!」
「大尉やさしい!昨日のことは水に流します!!」