733 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:20:51 ID:inOd/tU.
・・・。
「・・・朝?・・・痛っ」
昨日は、違う。今日までお酒を飲んでいて、何とかホテルまでタクシーを使って帰ってきたんだった。見事に二日酔いしちゃった。
昔みたいには飲めないか。あれだけコジェドフに鍛えてもらったのに・・・。
今、何時だろう?部屋に備え付けの時計を見る。
「8時40分!?」
いけない!取引が始まるまで、あと5分しかない!
洗面所に向かって水で顔を洗い流す。何とか眠気だけは覚まさないと!
後は後は・・・コンピュータと魔法通信機と・・・ああーー!!カゴシマ空港行きの航空チケットを予約しなくちゃ!
ニホン製のコンピュータの電源を入れて、起動する間に秘書に魔法通信して・・・
『おはようございます、ゴールトン理事長。』
「おはよう。早速だけど、ニホン時間10時から11時までの出発時間で、ハネダ発カゴシマ行きの航空便のチケットを押さえて。夕方までにはタネガシマに到着したいの」
『分かりました。クラスは?」
「取れるならどこでもいいわ。東大陸に行くわけでもないし。・・・取引開始前に集まった主な商業情報は?」
734 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:22:33 ID:inOd/tU.
コンピュータからインターネットに接続して、各種情報を閲覧する。ニホンの強みは、他惑星に行ける卓越した技術と、インターネットに代表される広範な情報網の整備。
私達も、それなりの使用料を払ってインターネットを利用しているけど、魔法通信を利用した情報交換が子供のお遊戯に見えるくらい差がある。
機密情報のやり取り以外は、南北大陸の先進国ならインターネットを利用してるはず。
『北大陸北部のパラジウム採掘プラントで大規模な火災が発生して、グリューネブルグ貴金属先物取引市場のパラジウム価格が急騰しています』
「トウキョウの取引が始まったわ。それ関連は?」
『エデン合衆国イーストニューヨーク市の第二期開拓事業を、ニホンのJV(共同企業体)が総額約8000億円で落札しました』
「参加企業の株を買い増しなさい」
『ナイトロスシリング、ライヒスシリング、EFCシリング、DFCシリング、アスターシリング、連合シリングは各地の取引所で円に対して安くなっています』
「為替取引は少額に。暫くは他の機関投資家の動きを観察して」
『ソニー社の新発売家電の不良問題で、各地で集団訴訟が同時に開始されました。推計では懲罰的賠償金を込めて一兆円前後の損害賠償を請求されています』
「あの会社はもう駄目よ。損切りでもいいから、全株売り払って!」
ニホンがやって来て半世紀も経たないのに、世界は著しく狭い存在になっている。
735 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:24:15 ID:inOd/tU.
秘書に一通りの指示を出して、もう少ししたら迎えに来るように言った。
「ふーっ」
内線電話でホテルのフロントに朝食を頼んで、ようやく落ち着く。
まだ痛む頭を抱えつつ、窓の外を見た。
フランシアとは比べようも無いほどの超高層ビルが立ち並ぶ、ニホンの首都トウキョウ・・・。
この風景は、何十回見ても畏怖すべき物があると思う。
東大陸の居住可能地域の半分以上と北大陸のツンドラ地帯を支配し、月にまで到達した文明。そして数千万キロ離れた氷星まで、人を送り込まんとしている。
間違いなく、世界はこの国を中心に動いている。
『リサ ゴールトン様。ルームサービスの朝食をお持ちしました。』
流石は格式高い帝国ホテル!準備もサービスも良いわ!着替えるのは後にして、先に朝ご飯にしましょ。
736 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:27:07 ID:inOd/tU.
終了。
次は、悲喜こもごものパーティー
737 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:28:34 ID:inOd/tU.
エルフ族は5年に一回、国や地域の代表者が一同に中央アルエスに集合し、交流を深めるという集会がある。
エルフ族がアルエス森林同盟という一つの国家にまとまっていた頃の名残で、その当時は同盟の盟主の富と力を示す場所であったという。
それも今は昔。かの同盟の正統な後継者と言える中央アルエスの王族は、アフリカの破綻国家よろしく首都とその近辺しか支配しておらず、こういった催しを開く余裕など無いはずであった。
しかし、それを中央アルエスの王族は『伝統を捨てるわけにはいかない』と、他のエルフ族国家が開催権を譲るよう申し出ても、頑として首を縦に振らなかった。
普段の生活を切り詰め、貯めた資金をただ一日開かれる式典の為に消費する。そんな無限ループをこの国(王族)は続けていた。
そんな昔気質の中央アルエス王族を、北のエルフは半ば呆れて、南のエルフは憧憬を持って接していた。
それでも最終的には、彼らの涙ぐましい努力を無下にはできないと、ずるずるとこの集まりは惰性のみで続いていたのであった。
738 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:30:17 ID:inOd/tU.
「いやー、この川魚の卵の塩漬けは美味いなぁぁ!!満足満足!」
太った身体を揺らして、スプーン一すくいが数千シリングする高級料理を、サマリムの総統は遠慮なく何口も口に運んでいく。
「偉大なるドゥーチェ、お気に召しましたか?」
民族衣装を着た中央アルエスの姫が、彼の接待をしていた。
「パスタが無いのと、綺麗な女性が少々足りないのが不満かな?姫、後で私とイイコトしませんか?」
いきなりの事に、腰に差していた剣を抜刀しそうになったが、寸前で抑えて笑顔で切り返す。
「申し訳ありません偉大なるドゥーチェ。私には婚約者がおりまして・・・」
「それは残念ですな。据え膳は食わねば損と言いますが、予約が入っているのなら仕方がありません。また機会がありましたら・・・」
そう言ってドゥーチェは席を外して、別席のノステル国王とマルグラント公の二人と会話を始めた。
739 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:32:30 ID:inOd/tU.
「姫、あのような資本主義の俗物と関わってはなりません。あのデブは、油田採掘ラッシュで景気がいいのを自慢したいのですよ!」
ドゥーチェかそれ以上に厄介な、シェデルの国家主席が姫に言った。主席はアスター連邦の軍服をエルフ用に改造した、仕立ての良い礼装軍服を着ている。
あのデブ呼ばわりされたドゥーチェと国家主席はしばし睨みあっていたが、すぐに互いに目線を外して、何事も無かったように振舞った。
「主席閣下、そのようなお心遣い、私のような小国の姫には身に余るお言葉です。」
「貴殿は姫にしておくのは勿体無いお方だ。我が国か、宗主国たるアスターに留学してはいかがだろうか?」
「気持ちだけは受け取ります。」
共産主義のシェデル・エルフは、(旧来のエルフ族から見て)デリカシーの欠片もないサマリム・エルフと並んで、危険な存在と見なされていた。
同時に、この二ヶ国がエルフ族主体の国家中で、最も発展しているのも周知の事実である。
異色のエルフたちを、最も重要な国賓として扱わなければならない中央アルエス王族の悩みは深い。
「森の神よ・・・慎ましく暮らしていた我らが、一体何をしたというのですか?」
姫は心の中でこう祈る他無かった。
740 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/11/28(火) 23:35:58 ID:inOd/tU.
終了。
発展の為に心を売りますか?それとも、心の為に発展を諦めますか?
ドゥーチェは某剣の国の宰相様を、もっと太くした感じでイメージしてください
748 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:14:34 ID:inOd/tU.
投下!
>>741
2007年までには子が出来なかったので、ちょい時間オーバーですね
sir!! わっふるしたければ私にネタ・お題をください! sir!!
皇帝陛下の新婚初夜以外は、今のところ書く予定がありません
>>742
世界中を飛び回ってます。日本滞在時には帝国ホテルを頻繁に利用するのです
転移から30年経てば、宇宙には進出できてると信じてます。そして返信
兎人のホジャスがコスプレを披露して数週間後、戦竜戦術を学ぶために北の共統帝国から武官が派遣されると連絡が入った。
アスター連邦から強制的に購入させられた戦竜を本格的に実用化したいので、隣国であるナイトロスの戦竜を見学したいとのことだった。
事務をこなす者として、ホジャスは迎え入れる準備をすることとなったのだが、武官の名前を見た時、彼の明晰な知能は良からぬことを考え付いた。
「共統帝国近衛兵団戦竜中隊より派遣されました、クリスティーナ・ウェーバーであります!」
ナイトロス陸軍基地(自衛隊と敷地を共有)にて、帝国式敬礼をして武官(女性)は自己紹介をした。
と、この武官は何故か場の雰囲気が重いことに気付く。
「貴様、何だその小綺麗な格好は!戦竜兵になる気があるのか!?」
声の主は、D62主力戦竜の背中にいた。
「??」
近衛兵団の礼装に何か問題があるのでしょうか、と問いかける間もなく、背中から素晴らしい跳躍力でジャンプした声の主は、武官の前に降り立った。
(う、ウサギ・・・)
兎人族を見るのも初めてだったが、その服は周囲のナイトロス兵とは明らかに異なっていた。
「何だその反抗的な目は?この○○○・・・」
(ホジャス、それは中尉じゃなくて先任軍曹・・・)
周囲のナイトロス兵や自衛官は萎縮しきっている武官に同情しつつ、罵詈雑言を吐いて気勢を上げるホジャスを見つめていた。
それにしてもこの兎人、ノリノリである。
「バカヤロー、俺のケツを舐めろ!」
武官は、出発前に皇帝から直々に言われていた言葉を思い出す。
『どんな奇怪な文化風習でも受け入れて、出来る限り従うこと』
兎人にはそのような風習があると言い聞かせ、自分を見上げている兎人にひざまずいた。
「始めてなので上手に出来るか分かりませんが・・・」
「え?ちょっと待って。それは冗談で本当に・・・あ、ぁあ!?アッー!!?」
ホジャスがコスプレ(下半身)を脱がされたところで、慌てた周囲の兵士が事情を説明して、「事件」は未遂に終わった。
その夜、危うく襲われ(?)そうになったホジャスの寝室から、羞恥の嗚咽がいつまでも漏れ聞こえてきたという・・・
749 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:18:18 ID:inOd/tU.
王国軍には少なからず亜人・獣人はいます。一般兵ではなく、何かしらに特化した兵としてです
>>774
源文先生は描いてましたね・・・
>>775
・・・2000年代初頭、コバルタ連邦北部のとある海岸・・・
滑走路から飛び立った手作り羽ばたき飛行機は、自由落下運動軌道を描いて海に転落した。
観客はそれを笑っているが、作っているほうは、本気で飛ばすつもりでいる。
そんな観客の中で、二人の鳥人族青年だけは真剣な表情で見つめていた。
「足こぎの振翼機はやっぱり駄目なんだよ。ちゃんとエンジンを着けて飛ばさないと!」
「でも兄さん。飛行機に乗せられるエンジンなんてないよ?蒸気機関じゃ大きすぎるし、でも噂の内燃機関はナイトロスにしかないよ・・・」
「それを俺達で作って、飛行機にくっつけて空に飛ばすんだよ!」
「空を飛ぶなら飛竜・・・」
ガスッ
兄の容赦ないパンチが、弟の顔にめり込んだ。衝撃で、羽毛がいくらか抜けて宙を舞っている。
「この大馬鹿野郎!!もともと空を飛べる生き物に頼って、それが空を飛んだと言えるのか!?俺達の作ったもので空を飛ぶのが、本当の『飛行』だ!!!」
観客達が訝しげに睨んできたので、そそくさとその場を後にする。
「痛いよ兄さん・・・。でも、僕達の飛行機は模型を作って、風洞の中で飛ばしてるだけだよ?」
「それが大事なんだ。錐揉みする飛行機なんて誰も乗りたくないだろうが。帰って機体とエンジンの設計をやるぞ」
飛ぶか飛ばないか分からない怪しげなグライダーが滑走路に引き出され、観客はまた盛り上がっていた。
・・・この兄弟は動力航空機の開発を続けていたが、2006年から始まった内戦を避ける為に、資料一切を持ってナイトロスに亡命する。
身近で見るニホンの航空機に感銘を受けて更に精力的な研究開発を続行し、2009年、遂に複葉機を開発して飛行実験を行った。
(中略)この世界の文明で、始めて生物の力に頼らないで人間が自由に空を飛ぶことに成功し、新たな空の時代が訪れたと言える・・・
『飛行機狂の詩』より
751 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:21:55 ID:inOd/tU.
降下から30分ほど、ヘリコプターからジエイタイが全部降りて(ヘリは武装がほとんど無いらしく、気持ち程度の攻撃を加えて去っていった)、防御陣もほぼ築き終わった。
城壁の外側から回りこんできた騎兵と、正面の魔法使い、剣士、弓兵に全方位を囲まれている。
ジエイタイが来たから快進撃だぜ!なんて思ってたが、甘かった。
近寄ってくる敵兵の排除と、魔法を撃ってくる魔術師への牽制で精一杯のようだ。
「クソッ!魔術師は擲弾筒並みの火力だ!誰だよ火炎瓶を持った暴徒程度って言ったのは!!」
マシンガンの引き金を握りっぱなしの、同じバリケードに居座るジエイタイ兵がぼやいていた。
去年の戦いじゃぁ、魔術師はろくな活躍をせずにやられちまったらしいしな、ジエイタイは本格的な魔術師の攻勢を初めて受けてるんだな。
「大尉!弾を分けてください!もう無くなりそうです!」
リサが俺に向かって怒鳴った。こいつは早々に魔力を使い果たして、ライフル銃のみの攻撃に切り替えていた。
俺も魔力がそろそろ尽きそうだ。弾に余裕はあったので、10発ちょっとをリサに手渡す。
「ありがとうございます!」
そう言って、手早く弾込めしていく。6発詰められて連射できる分、一回の装填時間は結構かかる。
「無駄遣いするなよ!」
弾痕で穴だらけの家に立て篭もっている魔術師たちに向けて、ライフルを撃つ。
パン!
ドン! ボウン!
弾一発のお返しは、数発の魔法だった。貫通力に欠けているおかげで、バリケードに使っている石材の表面を焦がすだけで終わってるが、これだとジリ貧だ!
「あーいうのは・・・こうやって倒すんだ!」
屈強な数人のジエイタイ兵がバリケードに乗り込んでくるなり、持っていた携帯式の砲を家に向けて構えた。
「目標、正面住宅二階!ファイア!!」
ズガガン・・・
真っ黒い煙を上げて、家が破壊された。もう魔法は飛んでこなかった。
「見たか!カールグスタフの威力!」
喜んでいるようだったが、また別の場所から魔法が飛んで来た。もぐら叩きだぜ!
752 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:23:55 ID:inOd/tU.
・・・。
戦局は膠着していた。予想以上に敵が粘り、また予想以上に魔法の威力が高くて、前進どころか戦線の維持で手一杯だった。
円陣の中央に設けられた応急の救護所には、負傷者が運び込まれている。死者が出ていないのが、奇跡といっていいくらいの状況だ。
「こちらアジサシ!早く西海岸からの応援を!!・・・・・天候の悪化で一時間遅れる!?とにかく急いで・・・」
「特殊作戦群は30分前後で到着!」
通信はかなり現状が厳しい事を伝えている。
特に魔術師の存在が作戦に齟齬を来たしている。弓と剣だけなら、釘付けされることは無かったはずだった。
ポン ヒュルルルル・・・ ドン!
敵の接近は、機関銃による弾幕と迫撃砲や無反動砲の大火力で防いでいる状態である。
「魔術師ギルドには、まだ優秀な人材が残ってたみたいね・・・」
出戻りしてきた皇女がそう漏らしてから、陸上自衛隊の指揮官に一つの提案をした。
「あれを少し早めですが、使ってよろしいでしょうか?彼らを抱きこみます。」
詳細を聞いた自衛隊の指揮官は、半信半疑ながらも、実行しないよりはマシということで、それを(自己責任ということで)了承した。
「ロベルティーネ!部下を何人か連れて、あれを渡してきて!後は・・・」
『おつかい』の内容を聞いて、第一天馬騎士団長は荷物を数人で分けて、ペガサスにくくりつけた。
「では、言って参ります!」
敵の攻撃を受けないよう、飛び立つ周辺に煙幕を焚いてから一気に飛び上がった。
753 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:25:45 ID:inOd/tU.
戦場となっている帝都外輪を飛び越え、未だ落ち着きいている市内へと飛んでいった。
激しい交戦の音は町中に響き渡っているので、動揺した一部の市民が荷物をまとめて逃げ出そうとしている以外は、誰もが家に閉じこもって、災厄が去るのを待っていた。
そんな街の一角に、有力な魔術師ギルドや魔法学校の出張所が建ち並んでいる区画がある。
名は特に無いが、「魔術師通り」と通称されている。
第一天馬騎士団員と団長は手分けして、魔術師通りのそれぞれの建物の中に入っていった。
「何なのだ君は!?」
ペガサスごと入ったので当然だが、非友好的な出迎えが待っていた。
「私は第一天馬騎士団長ロベルティーネ フォン コルネリウス。皇女エーテルガルド殿下の命に基づき、あなた方に協力を求めたい。」
「・・・ギルド長を呼んでまいります。」
それ程待たず、ギルドの代表者がやって来た。
「これは・・・エーテルガルド殿下は生きておいででしたか。して我らに何の御用入りでございましょうか?」
事態は切迫しているので、彼女は手早く話を進めることにする。
「現在帝都に駐在し戦っている魔術師を、全て下げていただきたい。」
ギルド長は目を見開いた。
「ご冗談を!帝国とは既に契約を結んでおります。新たに契約するのでしたら、それ相応の費用が・・・」
「これなら?」
ペガサスに括り付けていた荷物を降ろし、箱を開ける。
「これは・・・黄金?しかしこれだけでは・・・」
金の延べ棒が何本もあったが、それだけではとても再契約できる金額には足りない。
「これは前金です。殿下は新たなスポンサーをつけております。我々の側につけば、後に悪い扱いはしません。それに・・・」
帝位争いが起きているのだと、ギルド長は直感する。下手な態度を取れば、明日は訪れない。
それまでに集められた情報を総合し、取るべき道を考える。
そして・・・
754 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:27:12 ID:inOd/tU.
・・・。
「早く!早く!」
ジエイタイのマシンガンが弾を使い果たし、慌てて弾を再装填している。
弾幕が薄くなったのに気付いた敵が、剣を振り上げてこのバリケードに向かって突っ込んできた。
タン! タン!
「大尉!私も弾が・・・!」
リサに弾を渡すが、間に合わない!
タン! カチカチ・・・
「!? こんな時にジャムりやがった!」
「そんな!」
「勘弁してくれ!」
何で俺を責める?悪いのはあの技師長だろうが!
「騎士だ!こっちに来たぞ!」
ジエイタイ兵が怯えた声を上げた。焦ってるせいか、こっちの弾の装填も間に合いそうに無い。
「畜生め!」
腰の剣に手をまわしたが、これも・・・
『地獄に落ちぎゃぁぁ!!』
至近距離まで来ていた騎士の声が、断末魔に変わった。
「同志諸君。銃に頼りすぎるのは良くないと、小官は思います。」
馬ごと騎士を倒したのは中尉。後姿がかっこいいじゃないか・・・。
755 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:29:30 ID:inOd/tU.
直後に再びマシンガンが火を噴いて、敵は薙ぎ払われた。
「どこに行っていた?」
「反対側の陣地に斬り込んできた騎士を、皇女殿下と一緒に排除しておりまして、到着が遅れました。」
バリケードの中に戻ってきた中尉は、血濡れの剣をかざして竜人族なりに笑ってみせた。
この頃から、敵方からの魔法攻撃が極端に減ってきた。丁度、どっかへ飛んでいった天馬騎士が戻ってきてからだな。
それ以外の敵兵は抵抗を続けていたが、徐々に押し返していった。
勇ましく前進して、ついさっき逃げ出した場所に戻るのが筋なんだろうが、そろそろ弾薬が寂しくなってきたんで、無理っぽい。
そろそろ来るんじゃないかな、ニホン自慢の特殊部隊(この中にもいる空挺団も特殊部隊らしいけどさ)が来るはずなんだが。
『騎兵隊の到着だ!』
どこかで誰かが言った。
上空から響くプロペラ音・・・
幌馬車隊がやられそうな時に来るなんて、都合の良い登場じゃないのか、オイ?
756 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/01(金) 00:33:08 ID:inOd/tU.
”貴族・国教会関係者の醜聞に関する調査報告書”
各魔法ギルドの情報提供に基づき作成。関係者以外の閲覧を厳しく禁止する
『コルネリウス・レポート』表紙より
761 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/02(土) 22:28:30 ID:BBOheoWI
日本からもたらされた品々の中には、元の世界で普及していた数々の商品作物も含まれていた。
それらは有償で各国に販売され、それぞれの気候にあった作物が続々と作付けされた。
国土のほとんどが寒冷な共統帝国では、ジャガイモとダイズが広範な地域で栽培され、温暖なナイトロスでは各種農作物が均等に作られた。
亜熱帯のコバルタや熱帯のメリダ・ケビシニアではタバコ、茶、コーヒーなど嗜好品の原料が育てられていく。
土地の痩せた地域やアスターなど乾燥地域にはコウリャン、ヒエ、アワ、サツマイモ、ソバなどが普及した。
三大穀物とされるトウモロコシ・コメ・コムギは、地域の別け隔てなく世界中で栽培されることになった。
それらは元々この世界にも存在していたが、味や収穫量が天と地ほどの差があって、従来種はあっという間に廃れていく。
生産量は、2015年度には小麦が4000万トン、コメが1500万トン、トウモロコシが4500万トンとなっている。
この世界の人口は60億人を超えていた地球とは異なり、転移してきた当初は日本人を含めて3億人を超えるかどうかという程度だったので、充分に需要に応えられていた。
前後してユーラシア大陸に匹敵する面積の東大陸の開発が進み、食料の増産は加速していく。
762 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/02(土) 22:30:16 ID:BBOheoWI
結果として起きたのが、人口爆発だった。
医術の進歩・普及と重なり、食料供給の安定化は人を大量に増やす結果となった。
一回の出産数の多い獣人達は多産多死から多産少死になり、フィボナッチ数列もかくやと言う増え方(女性の社会進出で暫くすると増え方も鈍ったが)をした。
人間型の少産少死な亜人や獣人そして人類も、死亡率の急減と平均寿命の伸長でじわじわと人が増えていく。
その後の世界人口は2050年には3億5000万人、2100年には5億人・・・惑星が政治的に統一された2200年代初頭には10億人を超えている。
それでも21世紀初頭の地球の6分の1程度で、どの国も余裕を持った食糧増産を行えたのである。
農薬の散布や肥料による土地の荒廃などの問題こそあったものの、最後まで重大な問題になる事は無かった。
問題が深刻になる前に、工場設備での水耕栽培や惑星外での食糧生産が、更に時代が下って炭水化物からナノ技術で作物が合成されるようになったのだ。
この世界は、人口増加による食糧不足の恐怖に晒されることは無かった。それは地球人類に比べて恵まれていると言えるだろう。
770 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/06(水) 23:19:57 ID:iiK7Ab7s
降下一分前・・・』
C−130機内は極限まで空気が張り詰めている。
特殊作戦群は、先行している部隊の増援として物資と共に降下する。
弾薬や車両は降下予定地付近へ既に投下され始めているはずだった。
ドアが開けられ、寒気で未だに冷え込む空気が吹き込んできた。その眼下には雪原が広がっている。
『降下三十秒前・・・』
隊員達が落下傘や装備の確認を全て終え、作戦の内容を頭の中で何度も反芻する。
『降下十秒前。9、8・・・』
機内の緊張感は最高潮になり、風の吹き込む轟音の中で唾を飲むのも憚られるくらいだった。
『3、2、1・・・降下!降下!』
刹那、次々と隊員がドアから飛び出し、落下傘を開いて風に煽られながらも降下地点へと向かってゆっくりと落下していく。
敵は何も出来ず、味方は歓声でそれを迎えた。
771 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/06(水) 23:20:52 ID:iiK7Ab7s
・・・。
後方に降下兵が降りていくのが見える。流石に弓や魔法の飛び交う戦場の真ん中には降りてこないよな。
「特殊作戦群だ!もう少しの辛抱だ!」
ミニミだか何とか言うマシンガンを、銃身が焼けるんじゃないかというくらいぶっ放しているジエイタイ兵が嬉しそうに言っている。
空挺団という精鋭兵部隊はこの場にもいるが、そんなにすごいのか?こいつらだって化け物ばりにすごいぞ。
「アレックス!リサ!増援が到着し次第、前進する!」
隊長がジーク隊員を何人か引き連れて、バリケード内にやって来た。敵の抵抗は急速に弱くなっていて、魔法攻撃は疎らになって飛んでくるのは弓ばかりだ。
「「了解!」」
光弾を撃ちながら、リサと二人揃って返事した。魔法通信の時のクセか、やたらと返事が同調しやすい。
『同志中尉!前進の指示を!』
「上からの魔法通信を伝える!『友軍と共同歩調を取れ』だ!命令があるまで勝手に前には出るな!」
『ダーッ!』
中尉も銃を撃ちながら(さっきの見得きりは何だったんだ・・・)付近のアスター竜騎兵に指示を出している。
後ろから、姿勢を低くしたり匍匐前進(これはジエイタイだ)した兵士が続々とやって来て、瓦礫の後ろに取り付いている。
後方に回り込んでいた敵は、排除されたようだ。
772 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/06(水) 23:22:00 ID:iiK7Ab7s
・・・。
「団長閣下!敵は全て倒しました!」
ペガサスに跨った副団長が高らかに宣言した。その顔は次の指示を待っている顔だった。
ハフニノープルに近い所では戦いは続いているみたいだけど、この辺の敵はジエタイと南大陸の竜騎士に悉く倒され、最後に白刃を煌めかせて突撃してきた騎士も、私達が切り伏せた。
それによる天馬騎士団全体の損害が軽傷者十数名だなんて、魔法使い以外は気合入ってないわね!連中もどうにか抱きこめたみたいだし・・・。
それよりも、空から降ってきたジエイタイの兵士達にも注目が集まっている。
乗り物ごと降ってきた彼らは、僅かに残っていた連合帝国兵と国教会兵を瞬く間に倒すと、徒歩や車でこの場までやって来た。
武器も凄いけど、動作に無駄が(普通のジエイタイ兵士より)少ない。"出来る"わね。
ジエイタイの偉い指揮官と何か話している。あ、降りてきた兵士がこっちに来た。
「皇女殿下ですか?」
「ええ。」
「道案内をお願いできますか?一応の情報はあるのですが、詳しい事情は掴んでいません。殿下を危険な目に遭わせるのは心苦しい事ですので、他の・・・」
「私は何度も戦場に出ているので、そのような配慮は結構!『男女平等』ではありませんか?」
女性だから後ろに下がってろなんて、戦場で散っていった部下や歴代の殉職者に申し訳が立たないわよ。
773 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/06(水) 23:22:52 ID:iiK7Ab7s
渋い顔はされたけど何とか言い包めて、私達天馬騎士が案内することになった。途中からこの街に潜んでいる(いつの間に!?)ナイトロスの工作員も加わるらしい。
『このまま直進します!』
車から顔を出した兵士が車内に引っ込んでから、もう一回顔を出して言った。
「いったい何と言って?待ち伏せされるに決まってるでしょう?」
『もう少しすれば応援が来ますよ!』
この期に及んでまだ来るの?凄いじゃない!
今は乗り捨てられて体力を回復させている飛竜や負傷兵は少数の兵士に任せて、ほとんどの友軍が城への道に進むことが決まり、早速準備に取り掛かる。
「副団長!私達はジエイタイと一緒に一番前を行くわよ?」
「御意。近衛天馬騎士団は空でも陸でも何処へでも進撃します!」
「フォルトナーとコルネリウスは、南大陸の味方が迷わないように案内してくれる?」
「「御意」」
帝国人のほとんどが見たことのない鉄製の車を見て、数少ない敵は武器を放り出してどんどん逃げていく。
「これより我々は王城に突入する!!これは私のわがままだが、それでもついて来てくれるか!?」
返事は彼女たちが掲げた槍の輝きだった。
774 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/06(水) 23:26:03 ID:iiK7Ab7s
・・・。
「い、一体何が起こっているのだ!?」
第一皇太子が喚いても、状況は好転していない。
「魔術師共はどうした!?アレは何なのだ!?」
大広間にいる者は沈黙しかできなかった。唯一、伝令の兵が良くない報告だけを携えてくる。
『国教会騎士団、損害により退却!』
『各魔術師ギルドから、契約の破棄と所属魔術師の引き上げの通知が来ています!』
『敵が・・・空から降ってきました!』
不意に大広間から出て行こうとする者が現れた。
「皇太子殿下・・・所用を思い出しましたので・・・領地に帰らさせていただきます。」
「何を言っている?」
それにつられる様に、何人かが引きつった笑顔で広間から出て行った。
「待て!皇帝はまだ決まって・・・」
ダダッダダダッダダダ
『ぎゃあぁーー!!』
「!?」
轟音が室外から響き渡り、ついさっき出て行った者たちの絶叫が聞こえ・・・
『こちらクロタカ1。敵数名を銃撃、殲滅した。滞空時間の許す限り援護に回る。どうぞ』
780 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/10(日) 00:54:55 ID:iiK7Ab7s
西海岸から派遣されてきたのはUH−60ヘリコプターわずか5機。それでも何も無いよりは良いというものである。
1機が王城の一角に銃撃を加えて集結に遅れたことを除けば、全機が同時に地上部隊の上空に張り付いて、上空から敵の制圧を始めた。
進んでいるのは王城までの目抜き通り。そのまま行けば王城の正面入り口まで着いてしまう。
敵は当然待ち構えている。が、魔術師は上からの命令で各自撤退し、投下されたトラックや装甲車を撃破できる者はいなくなってしまった。
96式装輪装甲車や73式トラックを前面に出し、後続の歩兵を引き連れて、通りに面した家に立て篭もる敵を地道に排除していくことになる。
ブラックホークのガンナーが、路地裏を進んでいる敵に銃弾を浴びせかける。
窓から弓を射る弓兵を、狙撃して倒す。
赤外線ゴーグルで、敵の潜んでいる家に手榴弾を放り込み、生き残った敵を無力化する。
そう言った屋内戦闘を、特殊作戦群の隊員は手際良くこなしていく。
781 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/10(日) 00:55:47 ID:iiK7Ab7s
・・・。
ターーーン
空から降ってきたジエイタイ兵は、たった一発で数百メートル先の騎士の頭を撃ち抜いちまった。優秀な照準装置があるからって、馬に乗って上下に動いてたんだぞ?
タタタタ!タタタ!
トラックの上に備え付けられたごついマシンガンが、隘路から飛び出してきた兵士数人を、文字通り細切れにした。
人数の確認ができないくらいバラバラだ。ジエイタイのマシンガンは一発でも当たったら死ぬな。
ほとんどの敵がジエイタイの車両と降下歩兵と特殊部隊が片付けている。俺たちの出番が無いぞ?
シュバン! ・・・ズズゥゥン・・・
上空を飛んでいたヘリコプターからロケットが発射され、どこかで盛大に爆発する音が聞こえる。
「大尉!」
「!?」
人が住んでいなさそうなボロ小屋の中から、敵が剣を煌かせて突撃してきた。何で俺なんだ!?
パン! どさ
引き金に手をかけといて良かったぜ。
「ありがとうリサ。俺が油断してた」
「まだ戦いは終わってませんよ!
782 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/10(日) 00:56:36 ID:iiK7Ab7s
その後も、ジエイタイが圧倒的暴力で破壊した後を忘れた頃に散発的に攻撃してくる敵を排除する道中が続いた。
結構はりきってた中尉が、ひどく暇そうにしている。
それでも欠伸しながら敵を斬り捨てるなんて、俺にはできん。
「同志大尉、ジエイタイに良い所を持っていかれてしまいます。」
「俺は知らんよ。竜人族ほど人間族は好戦的では無いんでね。」
途中、近衛天馬騎士団本部も制圧・・・の予定だったが、さっきまでここにいた敵は逃げ出していて、騎士団で元から雇っていたという下働きの人間しか残っていなかった。
しっかりと食料や数少ない現金は無くなっていたそうで、報告を聞いていた皇女様が呆れていたのが、遠目に見ても分かった。
ここも少数の天馬騎士と負傷者を残して、大多数が王城に行くんだそうだ。さっきから銃と剣と魔法の使いすぎで、休みたいなぁ。
・・・それまで低階層の民家が続いていたが、唐突にそれが途切れて広間が広がっている。その壁の向こうは?
「これが王城か・・・」
ひゅん トストス!
「わわっ!?」
弓だ。城を囲む城壁の銃眼や尖塔から射掛けてきやがった!
783 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/10(日) 00:57:41 ID:iiK7Ab7s
・・・。
「殿下!城への入り口はあそこだけですか!?」
「そう!地下の通路はさっき破壊したでしょ!あの城門が地上唯一の出入り口よ。」
「堀のようなものは!?」
「この城にはないわ!古代の『ポリス』からの伝統だそうよ!」
車体の陰に隠れて、弓やさらに大きな弩弓が当たるのを防ぐ。ジエイタイの質問には答えるけどね。
パン! ドドドド! ドン!
ここぞとばかりに、ジエイタイの武器が次々と火を噴いていく。
ヘリコプターってすごい。止まりながら攻撃してる。
ばらばらと人間が下に落ちてきているけど、見なかったことにする。だって、人間としての原型を保ってないのよ?
「行け!」
激しい攻撃の隙を突いて、何人かのジエイタイ兵士が城門に駆け寄って行った。あの扉は鉄製で、内側からしか開かな・・・
戻ってきた。何をしたの・・・
ドゴーーーーーン
・・・信じられない。あの扉を破壊するなんて・・・えーーと・・・
「と、突入!!」
789 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/11(月) 20:36:40 ID:gEf86l7I
謎の転移現象によって未知の世界に飛ばされた日本政府は、国情が安定した後に大規模な学術調査を開始している。
地質、化学、気象、生物、物理などありとあらゆるこの惑星の事象が丹念に調べ上げられた。
それは、科学の進歩を謳うテクノクラシーを標榜する国家として、当然の行いであったと言える。
ほとんどの現象はかつての世界と同じ原理で動いていて、理解の範疇に収められるものであった。
しかしながら、「魔法」の存在は学者達の頭を悩ますことになる。
一つとしてあげられたのが、巨大生物の存在である。
海中に生息するクラーケンやシーサーペントは、重力の影響が少ない場所に住んでいるので、地球でも存在しうると結論付けられた。
だが、巨大な物はB−52の倍近い大きさを誇る古竜は、重さが10トン以上あるのに時速数百キロで飛び回り、あまつさえ偏西風や貿易風に乗って世界中を飛び回るのだ。
スケールは小さいが、体重が1トン前後の飛竜も更に高速で飛び回る。
採取された遺伝子によれば、この世界の爬虫類の近縁種で南大陸アスター地方に居住する竜人族とも遠いながらも繋がりがあることを除けば、これといった遺伝子異常も無い。
790 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/11(月) 20:37:19 ID:gEf86l7I
もっと悩ませたのは、日本人(正確に言えば地球人類)は魔法を使えないことであった。
この世界では植物ですら魔力を行使するのに、日本人がどんなに呪文を唱えても、魔法の「ま」の字も起こらないのだ。
むしろ、普遍的に魔法が存在していると考えていた魔法学者たちが頭を悩ますのだが。
いわゆる霊能力は、魔法学者に言わせれば魔力の発現の一種とも取れるとのことだったが、霊能力者を調べて何か分かる訳でもない。
日本はこの世界に転移後も科学技術の進歩に邁進していくが、魔法に頼れない恐怖に駆られた面もある。
この世界の人々は、次々と日本の牙城だった技術も少しずつ理解していったからだ。日本人には理解不能な理論を構築していく魔法論にもである。
魔法と科学が根本的に同じであって、日本人が使えないのは内なる魔力を打ち消す因子があるためと結論されたのは、物質と空間と生命への理解が深まったはるか未来のことである。
791 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/11(月) 20:37:53 ID:gEf86l7I
法則V:充分に発達した魔法技術は、科学と見分けが付かない
『SF(Sorcerous Fiction)へのプロフィール』より
795 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/12(火) 23:54:39 ID:gEf86l7I
カツ カツ カン!
装輪装甲車の車外からは、何かが当たる音が断続的に響いている。まだ生き残っている弓兵が弓を射っているのだろう。
装甲車には例え弩であったとしても害は無いが、作戦群を含めた普通の人間には、アーマーを着けていても危険だ。
トラックや車両だけがまず城門からヘリの援護のもとに突入したのは、こういった長射程の敵を排除する為だ。
『敵戦力を無害化する!』
ドドド! ドドド・・・
銃塔ハッチから乗り出した乗員がM2を操作して短時間の射撃を繰り返しながら、敵兵をけん制し出した。
敵も銃の存在はそれなりに知っているらしく、一度至近距離に銃弾が着弾すると、その後は積極的に攻撃してこなくなってきた。
命中すれば、50口径は容易く人の命を奪う。
城壁と王城の間に広がる雪の積もった庭園は、タイヤ痕とブラックホークが発射したロケット弾の破片と、人間の死体に埋め尽くされている。
雪が黒と茶色と白と赤に彩られ、奇妙なほど美しいコンストラストを醸し出している。
ひゅるるる・・・ズズン!
城外に控える普通科が、送られてきた情報を元に迫撃砲で曲射を始めた。
如何に投石器や通常の魔法攻撃に超えられない高さの城壁があったとしても、なんら意味を持たない。
城内から飛び出してきた敵兵が、迫撃砲弾の爆発に巻き込まれて突っ伏し、そこにブラックホークから機銃弾が撃ち込まれて挽肉となった。
796 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/12(火) 23:55:49 ID:gEf86l7I
『降車!降車!』
降り注ぐ弓矢がまばらになったのを確認してから、装甲車やトラックに分乗していた特殊作戦群や第一空挺団の隊員が続々と降車していく。
匍匐前進で彫像や花壇の背後まで進み、持っている小銃や狙撃銃で、入り口らしき場所にいる敵兵を一人一人沈黙させた。
後詰めの部隊や南大陸の兵士たちも、城門から次々と突入してくる。あたりの惨状に戸惑うそぶりも見せたが、すぐに立ち直って身近な遮蔽物に身を隠して、敵を攻撃しだした。
ペガサスに乗っていた天馬騎士たちも、屋内では不利と見てかペガサスから降りて徒歩でやって来ている。
タタタタタタ!
ヘリコプター部隊が一斉に城のあちこちを銃撃し、弓矢はほとんど飛んでこなくなった。
それが合図だった。自衛隊には無線で、南大陸連合軍と天馬騎士団は鬨の声で突入が開始された。
王城の入口には敵兵が折り重なって倒れている。それを踏み越え、特殊作戦群隊員が扉の両脇に控える。
そして「突入」の合図。
壊れて半壊状態になった扉の隙間から、閃光手榴弾や普通の手榴弾が放りこまれる。
爆発音が響き、間髪いれず赤外線ゴーグルを装着して、扉を破壊し屋内へと雪崩れ込む。
エントランスらしき場所には死体以外は見えない・・・赤外線は複数の熱源が、扉の向こうや柱の後ろに隠れている事を伝えている。
797 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/12(火) 23:57:29 ID:gEf86l7I
・・・。
「リサ、アレックス!早く来い!」
隊長が拳銃片手にどんどん前へ進んでいく。弓矢が飛んでこないからって張り切り過ぎですよ!
入口らしい壊れた扉の周りには、ジエイタイのごつい装甲車が停車していた。
タンタン! タタタタ・・・ タン!
城内からは軽快な銃撃音が響いている。ジエイタイの特殊部隊が頑張ってるようだ。陸軍じゃない俺たちが出る幕はあるのか?
「・・・天馬騎士団の人たち、遠慮なく入ってきますね・・・」
「ああ・・・」
リサの目線の先には、城内に入っていく槍を構えた天馬騎士のお嬢さん方の姿が。ジエイタイの水先案内人をするんだろう。
「ジーク隊、突入!」
隊長を先頭に、俺たちも装甲車の脇をすり抜けて屋内に突入した。
「うわ・・・」
死体だらけだ。銃声は少し遠い所から聞こえる。最前線は別階層に移ってるっぽいな。
「おいこらリサ!一応調度品は帝国のモンだ!俺は部下の略奪行為を庇うほど聖人じゃねぇぞ。」
「分かっていますよ・・・」
奇跡的に残っていた高そうな花瓶を、リサが怪しげな目で見ていた。
798 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/12(火) 23:58:50 ID:gEf86l7I
「ほら、部屋から出て来い!早く!!」
中尉やその仲間や部下があちこちの部屋に入って、中に残っていた人間を外に出させようとしていた。ジエイタイは武器を持った敵兵だけ殺して回ったみたいだ。
・・・。
誰も出てこない。普通に考えれば、人を食いそうな竜人族に従う奴はいないだろ!・・・中尉には内緒な。
こういう時にはあれだよ。
「隊長!リサちょっと・・・」
俺なりの考えを隊長とリサに伝えた。リサは少し嫌そうだったが、隊長は納得してくれた。
リサが他の隊の女子兵に声をかけて、入口で少しイラつき始めていた竜人族を押さえて室内に入っていった。
・・・出てきた。使用人ぽいのやメイドだ。後は戦意を喪失した敵兵士か。
他の部屋にも順次入っていって、暫くするとひどく怯えた人間が出てくるという事が続いた。
中尉、そんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ。人は第一印象で相手を判断してしまうんだよ。
800 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:30:57 ID:gEf86l7I
そして関係ないの投下。ある世界の崩壊
801 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:32:01 ID:gEf86l7I
「大統領閣下。ご決断を・・・」
エアフォース・ワン機内は、ブラックボックスから取り出した核ミサイル発射の為の暗号キーを握る大統領の、深いため息に満たされていた。
「なぜ、このようなことになってしまったのだろうか・・・」
それに答えられるスタッフは存在しない。
「国防総省とホットラインを結びました。発射管制官に暗号を送ってください」
手順に従い、暗号を送信する。後は二人の発射管制官が同時にロックを解除すれば、核兵器は目標に向けて順次発射されていく。
眼下に広がる合衆国の美しい大地も、これで見納めになるに違いなかった。
802 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:33:33 ID:gEf86l7I
2005年の日本国の突然の消滅は、世界に激震をもたらした。
その日のうちにシティ、ウォール街の株は制限幅一杯まであらゆる株が暴落し、市場は閉鎖された。煽りを受け、世界各地の商取引所も閉鎖に追い込まれてしまった。
臨時の安全保障理事会と国連総会で日本の消滅が正式に認定されると、日本国債と日本円は紙くずとなり、便所紙と同じ価値になってしまった。
日本消滅から一ヶ月で世界の主要銀行は倒産するか、預金の引きおろしを制限せざる終えない状況になっていた。
その後、世界は急速に破滅に向かっていく。その兆候は、日本と距離の近い極東地域で発生した。
真っ先に経済の破綻した韓国は、在韓米軍が撤収した隙に南進した北朝鮮にあっという間に征服され、反北朝鮮ゲリラと北朝鮮正規軍との泥沼の戦いが半島各地で始まった。
中国も進出日本企業の操業停止で数十万人単位の民工が職を失い、それに半島からの難民が流入して収拾がつかなくなっていった。
そこへ職を求めてデモ行進していた失業者を強制排除するという、第三次天安門事件が発生して国内は完全に乱れた。
新疆ウイグル地区やチベットが、経済的混乱を収められない中央政府に悲観した上海や地方省が、各地の「取り残された」人々がそれぞれ別個に反乱を起こしたのだ。
騒乱は中央アジア、南アジア、東南アジア、オセアニアへとドミノ式に広がっていき、宗教対立や領土問題も相まって悲惨な戦争へと繋がった。
欧米諸国も失業者であふれ、各国で国粋主義・民族主義的運動が先鋭化していく。
反ユダヤ思想の高まりで、ヨーロッパ諸国とイスラエルの溝が急速に深まり、それにつけこんだ中東の国々が(国内の混乱の目をそらす為に)第五次中東戦争が勃発し、スエズ運河は完全に機能停止してしまった。
これらに対応すべきアメリカは、国内で頻発するロス暴動級の暴動や南米の反米政権の連合対策に忙殺され、それどころではなかった。
803 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:35:01 ID:gEf86l7I
数年後、世界は最悪の結末を迎える。
インドとパキスタンは、ニューデリーとイスラマバード、更には互いの主要都市へ核攻撃を実施し、国家として崩壊した。
中東でもイスラエルが秘匿していた核を実戦で使用し、アラブ諸国は報復として生物細菌兵器をイスラエルに投下する。
ロシアや中国から核兵器が次々と流出し、躊躇うことなく使用されていく。
制御を失った核大国は、遂に敵国へICBMでの攻撃を開始した。
間もなく、合衆国も否応なしに破滅のロンドに巻き込まれ、今まさに国家存亡の瀬戸際に面していた。
「主よ、願わくば・・・」
数メガトンクラスの水爆の閃光が、専用機を真っ白に光らせた。
804 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:35:57 ID:gEf86l7I
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず、只春の夢のごとし
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ
『平家物語』より
805 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:37:20 ID:gEf86l7I
まず終了。世界の中心はソマリランド共和国に移りましたとさ
続いて待ちぼうけの人
806 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:38:13 ID:gEf86l7I
搭乗する飛竜の航続距離の問題から置いてけぼりを食らったロラン少尉は、一人でたそがれていた。
慣れない寒さに毛と生え直ったばかりの髭ははごわごわに凍りつき、気力も萎えっぱなしだった。
寒さには慣れているナイトロス人や高山地帯にも住む鳥人やエルフ、ドワーフ、寒暖の差の激しいステップ地帯に居住する竜人は比較的早く慣れていた。
だが親しい人間が一気に居なくなったのが、彼を最も落ち込ませていた。心を許せる友を作るのが、この女好き猫人は存外に苦手なのである。
祖国ケビシニア人は彼一人しかいないし、こちらに来てから腐れ縁で仲良くなったコジェドフ中尉や、ナイトロス空軍の猛者アレックス、彼とデキたリサは更に北の帝都に出向いている。
話す相手も少なく、彼の状況を真に理解できる南大陸南部の種族はメリダ人くらいしかいなかった。
結果として、少尉はマタタビに逃げた。
来る日も来る日も焚き火に当たりながら、マタタビの匂いを飽きもせず嗅ぐ。
マタタビに常習性が無くても、歩哨時以外は廃人のようになっている少尉は、明らかに人生を転落していく人間の縮図を具現化していた。
807 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/13(水) 22:39:09 ID:gEf86l7I
「ロラン少尉殿、一緒に食事をしませんか?」
「?」
少尉に声を掛けたのは、ケビシニアとは緩衝国家を挟んで隣接するメリダ帝国・陸軍航空隊の獣人竜騎兵だった。
「今、忙しいので」
濁った目で言い返した少尉に若干怯えつつも、居残り部隊の士気に関わるし少尉の未来にも悪影響が出る。
無理やり連れて行くことにした。
「少尉殿、ほら塩漬けのウニとヤシガニですよ?一緒に茹でて食べましょうよ!」
「・・・ウニの中から声がする・・・ヤシガニは屠らないと・・・」
(この人、寂しさで廃兵になったのかな?蒼い兎人じゃあるまいし)
「少尉殿!キャベツを切るのを手伝ってください!」
「この丸い緑のボールがキャベツ?冗談も大概にすべきですよ・・・」
会話はまるで成立しなかったが、食事を一緒に食べることには成功した。
「早く帰ってこないかな・・・」
少尉は髭を震わせて食後にポツリと言った。
816 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:06:44 ID:BFBYLMCY
パパパ!
ジエイタイ兵の射撃で、大広間に続く階段に残っていた兵士の一人が崩れ落ちた。
エントランスや使用人の部屋が集まる第一階層は既に制圧して、大臣の執務室や国教会の礼拝所のある第二階層をまさに制圧し終わったところ。
そして偉い連中が集まってる大広間と、その家族がいるかも知れない幾つかの控え室と、皇帝の執務室と私室のある第三階層だけが残ってる。
退路は経ったし、飛び降りでもしなければ逃げ場は無いはず。何人かの貴族が逃げてきて保護を求めてきたけど、今は役に立たないので第一階層に送っておいた。
今頃は、富の不当な占有を否定するというアスターの竜人族に「歓迎」されてるかも。
知ったこっちゃないわ!
「殿下、出入り口はここだけですか!?」
顔を隠したジエイタイ兵が、油断なく銃を構えて私に聞いてきた。
「もう一ヶ所地下通路に続く通路もあったけど、あなた達の攻撃で潰れたはず!逃げても途中で立ち往生するわ!」
それを聞いたジエイタイが手で何かサインをして、階段を駆け上がり始めた。
「副団長、私達も行くわよ!!」
「御意!」
私と近衛天馬騎士団の精鋭数人を先頭に、負傷したり他階層の鎮圧に残った者を除いた天馬騎士全員が駆け上がっていく。
817 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:08:06 ID:BFBYLMCY
タン!タン!
『ぐっ』
『!!?』
銃声と声にならない悲鳴が、上から聞こえてきた。
「・・・。」
第三階層に駆け上がって一番最初に目に入ったのは、赤く染まった大理石の床。
通路上には折り重なるように警備の兵士が倒れている。
ジエイタイ兵は順に部屋の中に突入している。
また何かジェスチャーで連絡を取り合っている。私には分からないのよ!
「殿下、奥の大部屋に多数の人間がいるようです。」
奥の部屋?確かその脇に上の階への階段があって、その部屋は・・・
「貴族か教会の関係者のいずれかだと思いますが。」
「身柄は確保しますか?」
・・・それは。
「貴族は帯剣していることが多々あります。放置するべきではありません。」
私は彼らの死刑執行サインに半分くらいサインしたかもしれない。
818 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:10:06 ID:BFBYLMCY
部屋の扉の両脇に、ジエイタイ兵が何人も張りついている。
私達は入口正面の少し離れた位置に陣取っている。開いても中からは私達天馬騎士しか見えないはず。
でも扉を開ける(破る)のは私達じゃない。
ジエイタイ兵が扉に近づき・・・目一杯に蹴った!当然、扉は内側に向けて開いた。
「天馬騎士!?おのれ反逆者・・・」
タタタ!パン!パン!
私達に向けて何か言おうとしたところで、ジエイタイが前に飛び出して室内に発砲した。
入口近くに集まっていた数十人の男は例外なくなぎ倒されて、奥にいる・・・!?
「攻撃を止めて!中に兵士はもういない!!」
「!!・・・撃ち方止め!」
やかましかった銃声は反響音を残して止まった。ジエイタイ兵に先んじて室内に死体を避けて突入する。
「閣下、これは貴族の子息ですね」
「ええ」
折り重なって倒れているのは少年から青年と言える年頃の若者だけ。服装や剣の豪華さから見る限りは、貴族のボンボン息子かしら。
819 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:12:09 ID:BFBYLMCY
広い室内には、かなりの人数の女性や子供それに従者がいた。部屋の隅に固まっていたおかげか死人はいないみたいだけど、近いうちに私が死に追いやるのかも・・・。
「わ、私の息子が!!返して!返して!!」
身なりのいい貴婦人が私に詰め寄ってきた。言い掛かりでしょ、それは。
「副団長、フォルトナー、コルネリウス!ここにいる方々も第一階層に連れて行きなさい」
「「「御意」」」
『ああああぁぁああ!!!!』
先ほどの貴婦人が、床に転がっていた剣を握って振りかぶってきた。
「ちっ」
ザン!! ブシュゥゥゥ・・・・
手加減せずに首を刎ね、鮮血が私に降りそそいだ。
「閣下!?」
「気にしないで副団長。・・・ここにいる者達は、天馬騎士の誘導に従え!!さもなくばこの場で死ね!!!」
実際の惨劇を見たせいか、私の怒声に腰が抜けながらも部下達の誘導に従い始めた。一体、何人が来年まで生きてることやら・・・。
820 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:16:18 ID:BFBYLMCY
部屋の外で様子を見ていたジエイタイ兵は、私が鮮血に染まっていても動揺しなかった。隊長格の男が、『疫病に注意して』とだけ言ってくれた。
「後は、階段を何階か上れば目的地よ」
抵抗らしい抵抗はほとんど無い。スムーズに一階ずつ制圧していった。
皇帝の執務室は兵士による抵抗は無かった代わりに、玉璽(ぎょくじ)など連合帝国の執務に必要な品を守っていた武官数人が抵抗してきた。
多分、後々の部下になるだろうし武器も持っていなかったので、ちょっとだけ手荒な方法で拘束して下の階に送った。
その先、張り出しの通路・・・細切れの死体が転がってるけど・・・を超えれば大広間に着く。
「この先になります」
「ここまでは日本列島連合の領分です。後は帝国人で決めてください・・・」
ジエイタイは広間の閉ざされた扉の前までらしい。残っていた二十数名の天馬騎士で突入することにする。
「いくわよ・・・」
ゆっくりと、扉に力を入れる。予想に反して扉はしっかりと開く。
『お、お前は・・・』
「借金皇女の異名を持ち天馬を自在に操る下賎なる女性騎士エーテルガルドです、兄上・・・」
821 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/16(土) 21:18:22 ID:BFBYLMCY
・・・血濡れの粛清帝エーテルガルドは、政変当日だけで三つの公爵家、五つの侯爵家を後継者死亡で取り潰しを宣言した!
流さなくともよい戦闘の結果で!!これこそあの魔女の本性だ!!帝国人はだまされてはならない!
我らに従わなければ、君たちが簒奪されるのだ!!!・・・
『地球市民平和主義共和国プロパガンダ放送』より
826 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/19(火) 22:39:27 ID:BFBYLMCY
頂点を極めようとした第一皇太子の野望は、根底から覆りそうだった。
扉を開けて入ってきたのは、権力闘争の末に前線へと飛ばされ戦死したはずの妹だ。
「・・・。」
いつもはどこか疲れたような表情をしていたが、今日は意志のこもった強い眼光をその眼差しに宿している。
そして自分と周囲の人間に対する強い怒りも。
「エーテルガルド、何故」
「背教者エーテルガルド!神より定められし運命に逆らい、おめおめと帰ってくるとは何事であろうか!!」
皇太子の言葉は、ムッター将軍の場の空気を読まない罵声が区切ってしまった。
「・・・・・」
「よく聞こえない!」
「・・・馬鹿」
「ほほほ?」
「この無能筋肉馬鹿!!」
ムッター将軍が凍りついた。
「あんたみたいな馬鹿の尻拭いをしたせいで、こっちは死にそうになったのよ!それが命の恩人に対して言う言葉!?坊さんは教会の中で説法垂れていればいいのよ!!」
今度は聖職者たち全員が凍りついた。火刑どころの騒ぎではない侮辱である。
「皇女エーテルガルド!そちの発言は地上に楽園をもたらさんと身を粉にする全ての聖職者に対する・・・」
827 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/19(火) 22:40:01 ID:BFBYLMCY
「うるさい!薬物中毒のおっさんは黙ってて!!今私は兄上と話しているのです!!!」
教皇をおっさん呼ばわりして本当に絶句させると、改めて兄と向かい合った。
「兄上、帝位継承権を放棄してください。そうすれば兄上と家族の身の安全は生涯保障します。」
「ふざけるな!皇帝の座は皇帝選出会議によって決まる!それを無視するのか!」
「はい。帝位は長子継承で充分です。有力者の綱引きで生まれる皇帝は簡単に傀儡となります。皇帝が無能でも国が運営できるような政治を、私は目指すのです。」
皇太子は沈黙した。エーテルガルドがここまでやってくるとは思いもしなかったのだ。これは反抗どころではなく、クーデターと言っても良いものだ。
「今はニホンに西部を譲り、ナイトロスの王子を迎えますが、彼らを使って帝国を発展させます。文句はありますか?」
無いわけがない。
「許さん!許さんぞエーテルガルド!血を分けた妹と言えど、数々の暴言は死に値する!」
「殺しますか?でも、殺せますか?」
天馬騎士が続々と入ってくる。それに続いて見慣れない服装の人間、絵画でしか見たことのない獣人類や亜人類も入ってきた。
南大陸の兵を少し引っ張って来たのだ。特殊作戦群があくまで傍観を決め込んでいる。最終的に勝ったほうに味方する気なのだろう。
二十人ばかりで入ってきたので、大広間に残っていた兵でどうにかなるかと考えていたが、大剣を構えた竜人族を見た時にはそんな気持ちは吹き飛んでいた。
残っていた兵で天馬騎士に太刀打ちできたかどうかも、かなり怪しかっただろうという事には思い至らない。
「神に逆らいし魔女め!地獄に落ちろ!」
828 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/19(火) 22:40:38 ID:BFBYLMCY
ムッター将軍がモーニングスターを振り回して突撃してきた。パワーはありそうだが、動きは単純だった。
「死ぬのですっ」
モーニングスターの先の鉄球が振り下ろされ、ものすごい音と共に床にぶつかった。つまり、人間を潰していない。
「ウスノロ!どこ見てるのかしら?」
「!!」
エーテルガルドはムッター将軍の後ろに回りこんでいた。
「逃げ足だけは早いようですね、ほっほっほっ。次は逃しませんよ」
「次は無いわよ。この馬鹿!」
不逞な小娘に再びモーニングスターを振るおうとして違和感に気づいた。
「腕は?」
モーニングスターを握った両腕が切り落とされていた。血が噴き出している。
「さよならムッター将軍。二度と現世に転生しないでよ」
そう言ってエーテルガルドは、呆然としているムッターの首を槍の切っ先で斬り飛ばした。
「うひぃぃいいーー!!」
首は腰を抜かした教皇の足元に転がった。教皇の股間からは湯気が立ち上っている。
829 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/19(火) 22:41:52 ID:BFBYLMCY
「教皇猊下、勿論私の即位を支持していただけますね?」
血を滴らせる槍を握り、やはり返り血で真っ赤な近衛天馬騎士団長の視線は、穏やかな表情に地獄の憤怒を燃え上がらせていた。
「するする!神と救世主の名の下に、皇女エーテルガルドに俗世の指揮を!!」
皇女は他の聖職者や貴族を見た。
愛想笑いを浮かべる者、かつてのいじめの仕返しを恐れて剣に手をかけた者など、多彩だった。
「皇女万歳!皇女あわびゅっ」
教皇の頭が真っ二つに割れた。式典用の剣を抜いた第一王子が振り下ろしたのだ。
「教皇猊下は神の国に召された!剣を取れ!我等の自由を守るのだ!」
多くの貴族や護衛が剣を抜いた。数の上では彼らの方が大きく上回っている。
武器を持たない聖職者や貴族は、反対側の通路から逃げ出していった。直通の地下通路は航空自衛隊が破壊したので立ち往生するだろう。
「兄上・・・分かり合えずに残念です」
槍を構えなおす。それが最後の戦いの始まりを告げる合図だった。
834 :171 ◆IJDVx.pBRY:2006/12/21(木) 22:01:27 ID:BFBYLMCY
最終話 核兵器を胸に すべてを終わらせる時…! SSは、年末完結予定ですです。 171
ライオン宰相「バンザアアアアイ!くらえ皇帝!新必殺ラインメタル滑腔砲!」
ハフニー皇帝「さあ来なさい首相オオ!私は実は一回撃たれただけで死ぬのよオオ!」
(ドン)
ハフニー皇帝「ギャアアアア!こ、この再生帝と呼ばれる帝国のエーテルガルドが…こんな爺に…バ…バカなアアアアアア」
(ドドドドド)
ハフニー皇帝「グアアアア」
ナイトロス国王「エーテルガルドがやられたようだな…」
コバルタ大統領「フフフ…奴は四大国の中でも最弱…」
アスター書記長「ニホンごときに負けるとは世界の面汚しよ…」
ライオン宰相「くらええええ!」
(ドウン)
3人「グアアアアアアア」
ライオン宰相「やった…ついに四大国を倒したぞ…これで古竜のいる東大陸の航路が開かれる!!」
古竜族長老「よく来たなサイエンスマスタージャパン…待っていたぞ…」
(ザザザザザ)
ライオン宰相「こ…ここが東大陸だったのか…!感じる…古竜の魔力を…」
古竜族長老「首相よ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに『核兵器』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
ライオン宰相「な 何だって!?」
古竜族長老「そしてニホンの探検隊は扱いに困ったので南大陸に返しておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
ライオン宰相「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある このオレに総理再任が適当な気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
古竜族長老「そうか」
ライオン宰相「ウオオオいくぞオオオ!」
古竜族長老「さあ来い首相!」
日本の軍事力が世界を覆うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!