644 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:56:58 [ 6LnEKb3. ]
 目を開けると、気だるさが襲ってきた。
 そうだ。昨日はパーティー帰りに、どこかの国の大使館の娘を引っ掛けていたんだった。
「ペサール閣下・・・」
 その娘は私の腕枕の中でゆっくりと覚醒した。
「起こしてしまったかな?」
「いえ、大丈夫です。」
 昨夜の情事を思い出して、少し身体が疼く。
 まぁ、起き抜けに一発するのも悪くないかな。
「なぁ」
「はい?」
「もう一回・・・」

645 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:59:38 [ 6LnEKb3. ]
 バターン!
 ドアが開け放たれる音で続きはかき消されてしまった。
「だ、誰だ!?ここはホテルの個室だ!すぐ出て行きたま・・・これはこれは、アスターの英雄様ではありませんか。」
 入口にはコジェドフ中将が従卒も伴わずに立っていた。
「同志ロラン、嫁さんはさぞ悲しんでいるだろう。」
 ちくりと心が痛むことを言うじゃないか。あいつへの愛は不滅なんですよ。
「今日は、げっ歯類のお嬢さんかい?お嬢さん、その男は嫁さん以外と結婚するつもりは無いらしいから、一期一会の関係と割り切ったほうがいい。」
「コ、コ、コジェドフ閣下!?失礼しました!!」
 娘は慌てて服を着ると、風のような速さでベッド、そして個室から出て行った。

646 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 23:01:57 [ 6LnEKb3. ]
「あ〜あ。コジェドフ、老い先短い猫人爺さんの楽しみを奪わないでくれるか。君とは違って私の人生は短いんだ。」
「いつか腹上死しても文句は言えないぞ。昨夜はお楽しみだったようではないか?」
「腹上死は臨むところです。・・・で、何で入ってきたんですか英雄様?」
 私用でナイトロスまで来て、その足でニホンの宇宙船出発式に出席するのが今日の夜と明日の朝だったかな?
「お迎えの時間?そう言えば、コジェドフに航空機の手配を頼んでいたような・・・」
「準備が出来たので、少し早めに自らお迎えに上がったわけですが、同志?」
 備え付けの時計を見ると、成る程、もういい時間だ。取りあえず着替えなくては・・・
「よいしょ。コジェドフ、君は今年か来年の人事異動で大将に昇進すると聞いたんだけど、本当かい?」
「退役まで30年ぐらいあるんだが、どうもそうらしい。困ったものだよ。後二回しか昇進できない。」
 まったく、私を含めた四人は老人になりつつある(なってる)のに、この竜人族の心はまだ若いらしい。



658 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:25:38 [ 6LnEKb3. ]
 ギィィィィイン
 滑走路をC−130輸送機が滑走路を目一杯使って離陸していく。
 更に数機が離陸待ちをしている。
 フランシア航空基地からは三機のC−130が離陸し、更に北方のエルビヌメイン航空基地からは五機が飛び立つことになっている。
 フランシア発の輸送機には投下用の物資が積まれ、エルビヌメイン発のそれには特殊作戦群の隊員が完全装備で搭乗し、途中で合流した後、帝都周辺で降下することになる。
 彼らを、大型輸送ヘリで先発する普通科隊員と第一空挺団員がサポートする手筈だ。
 自衛隊そして日本政府は、出来て間もない特殊作戦群とその周辺がきちんと機能するかどうかのテストケースとして、この作戦に参加したのだ。
 この世界の人間はそのような事を知る由も無いので、エリート兵が助っ人に来てくれたと、多少は理由を勘繰りをしながらも喜んでいた。

659 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:26:14 [ 6LnEKb3. ]
 そしてエルビヌメイン航空基地。C−130が全て飛び立つと、CH−47数機が離陸準備に移っていた。
「第二王子殿下!!準備は宜しいですか!!?」
 ローターの回転音にかき消されないために大声を出した乗組員が、準備の出来ていた王子に問いかけた。
「大丈夫!!行けます!!」
「では搭乗してください!!到着は四時間から五時間後です!!」
 王子を見送る人間は、警備兵ぐらいである。王族関係者は王子自らが来るのを断っていた。
(私だって子供ではないし、永遠の別れというわけでもない。落ち着いたら会いに行けばいいさ)
 荷物を載せ終えた王子が最後に乗り込むと、ヘリコプターはゆっくりと垂直上昇し、北へと機首を向けた。

660 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:27:48 [ 6LnEKb3. ]
 ・・・。
『ジーク隊、離陸せよ!』
『『了解!』』
 相棒を羽ばたかせ、リューベンの空を上昇していく。
 幸いなことに、この都市では最後まで戦いは起こらなかった。
 この町にあった騎士団の食料などで補給を済まし、朝一番で出発した。
 俺達以外にも、西と南(本国)から帝都に向かう部隊があるらしい。
 司令官は詳しく教えてくれなかったが、ナイトロス空軍は皇女様配下の天馬騎士団と並んで、帝都一番乗りの役目を担ってるそうだ。
『ダイナ01より各隊へ。高度2000、速度200ノットを維持、敵の接近に注意せよ。』
 ジーク隊の数百メートル前には近衛天馬騎士団が飛行していて、前方警戒に当たっている。
 何かあれば、異常を知らせてくれるはずだ。
 今の所は、その手の異常は発見されてない。

661 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:28:31 [ 6LnEKb3. ]
 何というか拍子抜けだ。普通に考えれば迎撃に飛竜が上がってきて当然なのに、それが全く無い。
 青い空と白銀の大地を延々と眺める作業を続けるのも、意外と嫌なもんだな。
 文字通り、帝国の竜騎士団は壊滅したんだろうな。あんだけバカスカ落とせば当然か・・・。
 それにしても寒いなぁ。与圧の魔法は空気を暖めてくれるほど優れてねぇ。
 相棒の動きが鈍っているのも気になるんだが、元々温暖なナイトロスで育った相棒を責められはしない。
 もうちょい頑張ってくれ、と応援するのが関の山か。
『ジーク13より各騎!前方下に不明騎!数、2ないし3!』
 目の良いリサが、異常を知らせてピクニック気分の飛行は少しお預けとなった。

662 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:29:20 [ 6LnEKb3. ]
 ・・・。
『前、下、敵、3』
 近衛天馬騎士に混じって飛んでいたナイトロスの大型飛竜(司令偵察飛竜のダイナとか言うらしい)の最後部搭乗員が、事前に教えていた手信号でこう伝えてきた。
 下に敵が3!
 私達より少し前の地面近くを、3騎の飛竜が全速で飛んでいた。普段よりゆっくりと飛んでいるせいで、距離は少しずつ離されている。
(伝令の竜騎士ね)
 彼らの向かっている先は・・・帝都。
 兄上や貴族や聖職者は護衛にそれなりの兵力をつけてるに違いないから、通報されると強襲になる可能性が高まる。
 かわいそうだけど、今以上に帝都の警戒レベルを上げさせるわけにはいかないわ。

663 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:30:18 [ 6LnEKb3. ]
 後ろにいたナイトロスの竜騎士たちが、編隊を解いて攻撃態勢に移ろうとしたけれど、すぐに編隊を組みなおした。
 そして大型飛竜の搭乗員が、『攻撃しろ』の手信号。私達に手柄をくれるみたい。ナイトロスも気前がいいじゃないの。
 単純に私達の方が近くて早いからかも。そういう功を焦らないで命令をしっかり聞くのが、彼らの良い所ね。
『攻撃!』
 私を含めた手練数人で一気に方を付けることにする。
 かなりの低空を飛んでいた伝令は、急降下する私達に気付いたのか、散開して逃げ出そうとしていた。さすがに敵わないと知ってるのか、立ち向かっては来ない。
「はぁっ!」
 一人の伝令に狙いを定め、乗り手ではなく飛竜の翼を斬り裂く。
 飛竜は錐もみ状態となり、そのまま白い大地に叩きつけられた。対南大陸戦で使った戦い方でここでも通じるとは思わなかったわ。
 他の伝令も、あっけなく墜落していった。

664 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:31:22 [ 6LnEKb3. ]
 ・・・。
『ダイナ01より各騎へ。敵は排除された。配置に戻れ』
 本当に近衛天馬騎士もやるじゃないか。こんな連中ばかりだったら、俺達が負けてたかもしれん。
 再び編隊を綺麗に組みなおし、戦闘を避ける為に変更した進路を元に戻す。
 距離のロスは、飛行とそれなりの戦闘行動には影響なさそうだ。
 帝国はパーティーの準備をしてるんだろうか・・・
 是非とも俺にも空戦というパーティーを用意してくれてるとありがたいな。

665 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:33:33 [ 6LnEKb3. ]
 アレックス ゴールトン(1977〜2059)

 ・・・ナイトロス王国空軍の大将。退役時元帥昇進。この世界で初めて日本と接触した人間の一人である。
 その際、哨戒偵察機に攻撃を加え、世界で初めて日本航空機を損傷させた人間でもある。
 北大陸戦役には終始従事し、その間だけで公式撃墜は単独撃墜が11、共同撃墜が9。
 所謂撃墜王と称され、戦役中の出来事を記した『大空の竜騎兵』を出版し、好評を博する。
 軍人としては、国内企業にとらわれず各国の飛竜・動力航空機を採用したため、敵が多かったとされている。
 新型飛竜配備に伴い退役した乗騎を買収し、死の直前まで頻繁に搭乗していたという・・・

 『世界の撃墜王』より



667 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:35:49 [ 6LnEKb3. ]
 ・・・標準歴2068年、南部民族連合(旧パジャリクス連邦)領内・・・

『敵接近中!攻撃を開始する!』
『航空支援を!』
『照準が合わない!!』
 指揮官戦車の戦車長のイヤホンに聞こえてくる魔法通信は、殆どが味方の苦戦を伝えていた。
「第14戦車大隊、全速前進!」
 逡巡せず、直ちに前進を指示する。このまま隠れていてもなぶり殺しにされるに違いない。
 重厚なディーゼルエンジン音を鳴らし、戦車部隊が擬装ネットから次々と出発した。

668 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:36:50 [ 6LnEKb3. ]
『敵軍主力は三三式戦車や五四式戦車にあらず!あれは・・・』
 そこで通信が途絶えた。
「装填手!貫通魔法弾の準備!すぐに発射できるようにしろ!」
「アイ。貫通魔法弾準備します!」
 ある程度来たところで、敵の攻撃が始まった。
『7号車、対戦車ミサイル攻撃を受けつつあり!』
『19号車、エンジン破損!乗員は脱出する!』
 良くない通信がうなぎのぼりに増えていく。
 が、敵は近いことが予想できる。

 そして彼らと遭遇した。

669 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:38:28 [ 6LnEKb3. ]
「いた!砲手、照準合わせ!」
「アイ!」
 砲手のスコープの先には敵が捉えられていた。数は少なく、戦場に姿を現した友軍戦車に応戦をしていた。
 まだ、この指揮官戦車は狙われていない。
「距離1500まで射撃待て」
 充分に引き付けなければ、命中は難しい。危険を承知で接近を試みた。
 が、流石に近づきすぎたのか、敵の砲口がこの戦車へと向けられた。
「・・・!撃て!」
 パン!
 通常砲弾と異なる軽い発砲音を立てて、戦車砲が火を吹いた。

670 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:39:34 [ 6LnEKb3. ]
 ドウン!
 スコープ内の敵は閃光に包まれ、姿が見えなくなった。
「やったか!?」
 戦車内が喜びに湧く。が、それも一瞬のことだった。
 閃光が消えると、狙った敵は動かなくなっていたが、新たな敵が出現していた。
「後退だ!後退!!」
 その砲口はこちらを向いている。装填手は必死に魔力を込めているが、発射が到底間に合うはずもない。
「神様・・・!」
 乗組員の一人がうめくのと、敵が攻撃が命中するのが同時だった。

671 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:41:00 [ 6LnEKb3. ]
 ・・・。
「見事にやられちゃいましたね。」
 キャタピラを検査していた操縦手が、訓練の評価を聞きに言って戻ってきた戦車長に話し掛けた。
「ナイトロスのポンコツ、スウィフト戦車で敵を倒せたのだから仕方ないのではないか?」
「だからってニホン技術者の、自慰の結晶みたいな兵器に負けるのも悔しいじゃないですか!」
 陸上自衛隊が研究開発を行っている二足歩行ロボット兵器の研究モデルが、今回の敵だった。
 アスター、共統帝国、ナイトロスのいずれでもこの兵器を役立たずと結論している。
 現有兵器で出来ることを、あえて新兵器で運用する理由もない、制空権を維持できなければ高価な的・・・であった。
「近衛兵団みたいなカッコ良くて、最新鋭装備が欲しい・・・か?」

672 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/21(火) 23:43:32 [ 6LnEKb3. ]
 一段楽して戦車長はヘルメットを脱いだ。仕舞われていた獣耳と長い髪が外気に晒され美しくそよぐ。
「今は亡きペサール閣下なら、近衛兵団に倣って創設された女子軍に惜しみなく出資していただろうが・・・」
「貧乏国家の寄り合いに、一両15億シリングのナイトロス製テンペルU戦車は買えませんよ〜、でも、あれの120ミリ両用魔導砲ってステキ〜」
「その前に私たちのお給料を値上げすべきですっ」
「旧式の戦竜と飛竜で数合わせしているウチの軍は、ミエなんか張らないで新しいのに更新すればいんじゃないの?」
「そうしたら、私たちなんて真っ先にクビでしょ!」
 戦車の周りに広がる黄色い笑い声。システムエラーでロボットの再起動に四苦八苦している日本の技術者の耳には、入っていなかった。



678 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:34:04 [ 6LnEKb3. ]
 ハフニノープルの王城では、遂に皇帝を選ぶ皇帝選出会議が始まろうとしていた。
 有力な貴族や、連合帝国の権力の片割れである国教会の聖職者によって、次代の皇帝を選ぶのだ。
 ただし、今回の会議はそれまでの会議とは情勢が異なっていた。
 まず、皇帝となりうる皇位継承者が第一皇太子一人しかいないこと。
 それに加え、(この会議で死亡認定されるだろうが)現皇帝の生死がはっきりしないこと
 次に、帝国西部から中部にかけて貴族が怪死し、後継者のいない領地が激増して、その処遇をめぐる争いが水面下で始まっていること。
 更に、東方方面最大の都市グリューネブルグがナイトロス王国に占領され、戦力を喪失している周辺の貴族が善処を要求していること。
 最後に、空前絶後の大敗北で第一線級の兵力をほぼ失ってしまっていることである。

680 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:34:56 [ 6LnEKb3. ]
 会議の出席者は、以上のような事情をそれぞれ抱え、表面上は和やかに内側は謀略を張り巡らして臨んでいた。
 晩餐会や舞踏会が開催される大広間は、そういった出席者が勢ぞろいしていた。
「お集まりの方々、遠路遥々寒い中をお越しいただき感激に堪えません」
 第一皇太子が、次期皇帝は自分と言わんばかりの豪奢な服を着て、広間全体を見渡して礼をした。
 参加者たちも健やかな笑顔で会釈した。
 正統な皇位継承者はこの第一皇太子のみで、他の存命後継者は、皇位継承者と呼ぶのがおこがましいほど遠縁だった。
 彼を受け入れない理由がどこにあるというのだろうか?
「皇太子殿下万歳!」「連合帝国万歳!」
 誰かが言い始めた賛辞を、会場一杯の人間が唱和した。

681 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:36:06 [ 6LnEKb3. ]
 それが終わると、国教会の教皇が皇位継承者(と言ってもこの場には一人のみ)を紹介し、投票を始める
 ・・・のだが、後継者が一人故に信任投票と言う形になったので、投票は後回しになった。
「殿下、グリューネブルグに居座るナイトロスをどうにかしていただきたい!東方方面軍は水軍ごと海の底に沈んでしまった!!」
「雪解け後、直ちに攻略軍を編成して奪回してみせましょう!」
「先の戦いの敗因と責任の所在は?」
「エーテルガルドがムッター将軍の命令を無視して、勝手に行動したがために敵軍の排除に失敗したからだ。全ての敗因はあのアバズレに帰すると考えている。」
「皇帝陛下の扱いは?」
「戦死したとみなし、間もなく国葬を執り行う」
「空白になった荘園の所有権は?」
「地域ごとの差を考慮し、最大限損の無いよう努力します。」

682 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:37:04 [ 6LnEKb3. ]
 想定の範囲内の質疑応答も終わり、教皇が無記名による投票を開始しようとした時、血相を変えた兵士が転がり込んできた。
「今は重要な会議の最中だ!勝手に入って来・・・」
「伝令より報告します!『リューベン市方面より天馬騎士及び竜騎士の大群を確認!』であります!」
 近衛天馬騎士団に撃墜された伝令兵たちより少し前に出発した伝令が、全速でやってきたのだ。
 ざわめきが会場内に広がった。参加者が第一皇太子に何事かと問い質すより先に、皇太子のヒステリックな声がそれを制した。
「それは味方を騙った敵だ!帝都内に残っている竜騎士は全て空に上げろ!!そして撃墜しろ!会場の皆さん!皆様方の私兵もお借りしたいが宜しいか!?」
 事情が良く飲み込めず、首を縦に振るしかなかった。
「しかし殿下、竜騎士団は再建途上で・・・」
「構うな!上がらぬ者は反逆罪で死刑だ!」
 何を恐れているのか自分でも分からないほど、皇太子を恐怖が包んでいた。

683 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:38:28 [ 6LnEKb3. ]
 皇太子の命で、100以上の竜騎士が空に上がり、一路南を目指した。
 100を超える数ではあるが、ベテランが陸上自衛隊と航空自衛隊に悉く落とされた状態では、戦場に出ていない二線級の竜騎士が中心である。
 その様子を窓から見ながら、皇太子は努めて冷静を装った。
 彼らが「敵」を排除して凱旋帰還し、自分は勝利を飾って皇帝に即位することを信じて。
 急に心細くなった。
「市内の兵士に非常態勢を取らせろ!市民は屋内に入れろ!門は全て閉鎖だ!!」
「りょ、了解しました!」
 軍の将軍達に命令させる。
「お、俺の栄達を邪魔されてたまるか!!!」

684 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/22(水) 22:40:01 [ 6LnEKb3. ]
 レェェッツパァァァリィィィィ!!

 ようこそパーティー会場へ

 アッツアツのローストドラゴンにしてやるぜ!!
 
 "紳士"なのは17時からだ

 俺の信念は揺るがない!何故なら俺はナイトロス王国空軍大尉だからだ!!
 ンフハハハハハハハ!!!

 ホッホー!そんなステキなことが言えるなんてリサ感激!

 『魔法通信 交信記録』より一部抜粋



688 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:37:44 [ OFSVe7yo ]
 ・・・中央アルエス、タンタル鉱石鉱山・・・

 ズガァァァン!!!
 何の前兆も無く、精錬工場が爆発した。
 警備についていた兵士は、異常を軍と警察に伝えるべく、魔法通信の準備を始めた。
 サク・・・
 飛来した弓矢が彼の眉間に突き刺さり、声を上げる間もなく絶命した。
 同じようにして、兵士達は一人一人、確実に息の根を止められていく。

689 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:38:34 [ OFSVe7yo ]
 兵士がほとんど居なくなったことで、彼らは姿を現した。
 粗末な服装ながら、手入れの行き届いた弓を構えているのは、この地では多数派のエルフ族だった。
「裏切り者は死んだ!森を焼いたニホン人を殺せ!」
 一部のエルフが弓から剣に持ち替え、あちこちの施設に突入していく。
 そして響き渡る絶叫。護身の術を持たない技術者は、まともに抵抗できず虐殺された。
 鉱山の管理していた人間があらかた死ぬと、武装したエルフ達は風のように去っていった。
 騒動を聞きいて駆けつけた雇われの現地労働者たちは、それを見ても騒ぎもせず、むしろ食事などを彼らに渡して励ましたりしていた。

690 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:39:13 [ OFSVe7yo ]
 地元の新聞社には、翌日になって犯行声明分が送られていた。
 内容は、急激な森林破壊に手を打てない政府への批判から始まり、失業、貧困への無策を糾弾する内容と続いていた。
 この国の問題を一通り上げた後、高度な環境復元技術を持ちながら出し渋りをする、ニホン列島連合への痛烈な皮肉で締めくくられる。
 過激なテロ行為に眉を顰めるエルフも多かったが、「傲慢で不遜な」ニホン人を成敗したと一応の評価をするエルフもまた多数いた。
 この事件後、地元への利益還元を求める抗議集会が多発し、他の希少金属鉱山がストで操業停止するなど、安定しかかっていた地域情勢は再び混迷を迎えることになった。

691 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:40:54 [ OFSVe7yo ]
 今回の襲撃事件は、複合的な要素が重なったものであると結論できる。
 ・エルフ達が神聖視していた森を無遠慮に開拓してしまったこと
 これが原因ではあるが、要因ではない。
 一般の中央アルエス人(以下エルフ族)は、鉱山の恩恵が全くと言って良いほど受けられておらず、不満が蓄積していた。
 ごく一部の上流階級のみが富を独占し、それ以外は安い給料で働くというのは、前世界のコンゴ民主共和国と酷似している。
 恩恵を受けていたのは、他ならぬ日本人も含まれている。
 森を失った代価を受け取れなかった者達は、怒りの矛先を何の対策も採らなかった日本に向けたのは仕方が無いこととも言える。
 (中略)
 鎮圧部隊を投入すれば一時的に治安は改善すると予想されるが、早期に根本的な対策を採るべきと提言する。

 『アルエス甲事件 中間報告書』より


693 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:44:15 [ OFSVe7yo ]
「船長!2時方向に小型艦です!」
 双眼鏡で周辺海域を監視していた甲板乗組員が、伝声管で操舵室に異常を伝えてきた。
「了解。国旗は掲げているか?」
 国際条約で公海、領海では船舶は所属国の国旗を掲げる事が定められている。
 ちなみに国ごとの所属船舶総トン数は、海のないサマリム共和国が、簡単な手続きやタダ同然の関連税が好まれ最も多い。
「いえ。掲げていませんが、形状はニホン製の沿岸漁船です!」
 ここは海峡から30海里ほどだが、日本本土からは300海里以上離れている。沿岸漁船がそんな場所までやって来ることはない。
 エンジントラブルで流されたか、あるいは・・・
「機関最大。停船命令を出す。臨検用意!」
 臨検の言葉に、艦内の空気が固まる。
「ヨーソロー。機関最大24ノット!停船命令だします!」
「復唱!・・・」

694 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:45:54 [ OFSVe7yo ]
 その船はナイトロスあるいはコバルタ方面へ向かっていたが、沿岸警備隊ぼ船が接近しているのに気付くと、急に進路を変更した。
「小型船転進!北西に逃走しています!」
 見張りが苦々しげに伝える。日本の船はどれも30ノット以上の快速で動き回り、日本製部品の導入と蒸気機関や魔法推進機関の改良を進めて、恒常的に20ノット超を出せるようになった程度のナイトロス船は、追いつける道理が無かった。
 汽笛が鳴り響くなか、近づいていた小型船は少しづつ確実に遠ざかっている。
 船長は一つの決断をするしかなかった。停船命令を無視して逃げ出した段階で決断はしていたが。
「主砲は警告射撃用意。主砲班と機銃班以外の甲板要員を船内に収容。」
「・・・!ヨーソロー!主砲は警告射撃用意!甲板要員は主砲班と機銃班を除き船内に退避!」
 陸用の小型カノン砲を転用した主砲に、炸薬と信管を抜いた砲弾が直ちに装填される。
『こちら主砲。準備整いました!』
「撃て!」
『テェッ』
 ドン!

695 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:47:05 [ OFSVe7yo ]
 ザバァァン!
 砲弾は小型船を飛び越え、50メートルほど離れた海面に着弾し、水しぶきを上げた。
 それでも漁船は止まらない。
「次弾発射用意・・・撃て!」
 バシャン!
 次の弾は小型船の真後ろに至近距離で着弾した。水しぶきを被った小型船は、衝撃でスクリューか何かを損傷したのか、徐々にスピードが低下していった。
「接近する!臨検用意!」
「ヨーソ・・・」
 パパパパ! パン! パン!
「船長!発砲してきました!」
「これは大当たりだぞ!機銃班に実弾射撃を許可する!敵を制圧するまで自由に撃て!」

696 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:48:07 [ OFSVe7yo ]
 命令を受けた機銃の操作員は、防盾に隠れながら照準を合わせ、躊躇い無く引き金を引いた。
 タタタタタン タタタタタタン
 給弾と射撃を繰り返しながら、数百発の銃弾を敵船体に叩き込んでいく。
 暫くは撃ち合いが続いていたが、遮蔽物の陰から銃撃と魔法攻撃を開始した哨戒艇側が俄然有利となった。
「撃ち方、止め!」
 時間にして10分とかかっていなかったが、漁船は穴だらけになり、所々から煙が噴き出していた。
 エンジンが破壊され、完全に止まっている。
「上船用意!」
「ヨーソロー!上船します!!」

697 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:49:21 [ OFSVe7yo ]
 接舷するなり、武装した沿岸警備隊員が何人も乗り込んでいく。
 漁船の甲板には数人の男が倒れていた。いずれも武器を握っていて、既に息は無い。
「こいつらニホン人だな。持ってる武器はカラシニコフ、トカレフ・・・」
 普通の日本人は漁船に武器を持ち込んで武装したりはしない。
「船内に突入する!」
 船内に敵が隠れていることが懸念されたが、全員が甲板に出て応戦していたのか、無人だった。
 そして船倉内で、予想された物が見つかった。
『こちら突入隊。船倉で合成麻薬らしい錠剤を多数確認。押収する。』
 近年、日本の暴力団と大陸の犯罪シンジケートが手を組んで、日本からは合成麻薬や武器、南北大陸からは不法採掘された宝石などが双方で密輸入されている。
 そのルートは、海上自衛隊と海上保安庁の管轄する北大陸西岸は避けられ、距離的に近いナイトロスと政情不安がいまだ続くコバルタの2ルートだった。
 ナイトロス王国沿岸警備隊は海軍と海上保安庁と共同歩調を取り、そういった密輸船を摘発しているが、いたちごっこが続いている。


699 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:54:07 [ OFSVe7yo ]
 分譲マンションの説明会には沢山の人が参加していて、立ち見が出るくらいだった。
「ロラン、ミツビシとセキスイを見て、このダイワのマンションはどう思う?」
 嫁はあちこちのマンション説明会で配られたパンフレットを、それぞれ見比べている。
「ここが一番広いかな?今住んでいる場所からも近いみたいだ。」
「ロランがそう言うなら、構わないわよ。ローンはあんたのお給料から引かれるんだから。」
 嫁は資金的なものを私に押し付けるつもりらしい。オプションで購入できる家具のカタログを見て髭をピクピクさせているのだから、間違いない。
「抽選で受かればいいんだけどね。」
 分譲戸数は200戸強だが、抽選用紙を渡した人間は少なくとも300人はいた。厳しいですよこれは。

700 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:56:35 [ OFSVe7yo ]
 私たちも用紙を記入してニホン人の社員に手渡し、帰路についた。
「それにしても凄い建設ラッシュよね。ニホンが来て10年くらいしか経ってないのに・・・」
 全くそう思う。今、ケビシニアはニホン資本不動産会社の進出で、空前の建築ブームが起きている。
 それまで平屋ばかりで平らだった街並みは、5階建てくらいの集合住宅があちこちに立ち並び、高所得者向けの高層マンションもチラホラ建ち始めている。
 資源の輸出が順調に進むようになって国内が急速に豊かになったのと、ニホン起源の医薬品や医療技術がもたらされた事で死亡率が急減し(猫人は子沢山だ)、それまでの建築様式と開発技術では人口増加に耐えられなくなったのだ。
 それに気付いたニホンの不動産会社が、ニホン様式の高層建築住宅・・・マンションやアパートと呼ばれる建物をこの国に持ち込んだのが全ての始まりだった。
 新規開発が人口増加に追いついていなかった政府はこの様式をとても喜び、上下水道の整備を条件に直ちに許可が出された。
 最初は胡散臭く見られていたものだったが、住み心地はとても良く、ナイトロスで言われていた兎小屋(兎人に失礼でしょ!)とはかけ離れていた。
 でも、この前ナイトロスに行ったら、ニホンの建設会社が施工主の20階〜30階建てのオフィスビルが何棟も建造途中だった。

701 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 22:58:25 [ OFSVe7yo ]
 まぁフランシアのあの夫婦は今でも一戸建てで、これからも一戸建てだろう。
「ねぇロラン。留守番している子供達に何か買ってく?」
「メンタイコかな。スダコも・・・」
「ちょっと!それはアンタの酒のつまみでしょ!子供をダシにおねだりなんかしないの!」
 むぅ。嫁は厳しい。
「メージかモリナガのお菓子で大丈夫かな?」
「そんなところかしらね?デパートに寄りましょ。」
「うん」
 勿論、嫁はデパートで私の財布を使って、メイドインジャパンな商品を買い込んでいた。

702 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:02:58 [ OFSVe7yo ]

 エレベーターの輸出許可が果たして下りるのか
 最悪、エレベーターアクションならぬステップアクションに・・・
 全ては建設・不動産業界にかかっている!頑張れ建設族!
 道路とか鉱山とか工業プラントのような、箱物以外の民需も重要なはずです

 前進を続けて『こんにちわ赤ちゃん』

703 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:04:49 [ OFSVe7yo ]
「ただいま」
 はやる気持ちを抑え、出来る限り落ち着いて玄関の扉を開けた。
 空軍本部に出頭して勲章を受けている最中も、妻と雛のことで頭が一杯で、何をしていたのか良く憶えていない。
「・・・おかえりなさい」
 奥から聞こえてきたのは、何ヶ月も聞いていなかった妻の声だが、その声は衰えていて弱々しかった。
「まさか・・・あれ程、抱卵婦を雇えと言ったのに、自分で抱いていたのか?」
 竜人族は卵生で、卵を産むと五ヶ月ほど抱卵で暖める必要がある。
 孵化した後も、雛は体温調節があまり出来ないので、暫くは懸かりきりで暖めなければならない。
 大概にそれは産んだ夫婦(主に妻)の仕事であったが、文明化が充分に進んだ現在では、抱卵婦に頼めば代わりに卵と雛を温めてくれる。
 大祖国戦争で人口に打撃を受けた政府は補助金を出して、そうした負担の少ない円滑な育児を指導していた。

704 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:07:06 [ OFSVe7yo ]
「でもアレクサンドル・・・結婚して10年経ってやっと授かった子供を、この手で育てたいという気持ちは解ってくれるでしょう?」
 奥から顔を出した妻は、痩せこけた顔に必死な表情を浮かべて自分を見つめてきた。
 彼女の気持ちも汲んであげるのも、大事な時期に出征していた不肖な夫の役割というものだろう。
「すまない。君の言う通りだった。しかし、休息と食事はしっかり取らなければ子供も不幸せだ。食事を取る時間ぐらいは抱卵婦を呼ぶんだ。」
「そうしましょう。」
「自分も少しは手伝おう。ところで・・・」
「・・・エゴールは眠っているの。見たい?」
 手紙で自分に似ていると言われただけで、満足できていただろうか!いや、満足できていたはずが無い!
「た、たた頼む!みみ見せてくれ!!それも今すぐに!!!」

705 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:08:50 [ OFSVe7yo ]
 起こさないようにと、きつく念を押されてから、エゴールの眠っている寝室へ足音を立てないように入った。
 何かが入っていて小さく上下している毛布を、慎重に取り去っていく。
「やっと、長時間抱いていなくても大丈夫なようになってきたの」
 妻の声が遥か遠く聞こえた。
 鱗と翼と尻尾は、小さいながらも竜人族であることを顕著に主張している。
 しかし静かに触ると、どれも軟らかくて強く抱いただけで壊れてしまいそうだった。
「かわいい?」
「・・・。」
「泣いてるの?」
 自分の子供を見て、不覚にも感動してしまった。
「もちろん嬉しくて!二人で頑張って育てよう!」

 ケビシニアとナイトロスの友人宅に、うざいくらいの家族自慢が綴られた手紙と家族写真が送付されたのは、それからすぐのことだった。



707 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:13:54 [ OFSVe7yo ]
『セパレート!』
 F−2支援戦闘機隊は妨害の無い空を編隊を組んで飛んでいたが、攻撃ポイントが近づき編隊を散開して各機が個別に目標に照準を合わせる。
(慣れは恐ろしい)
 一機のパイロットが頭の中で考えていた。
 去年からの空爆では、最初の頃こそ誰もが興奮していたが、今ではルーチンワークをこなすように冷め切っている。
 爆撃への反対運動もいつの間にか下火になり、騒音に対する苦情以外はすっかり静かになってしまった。
 対する自分は、まともな空戦相手がいないのを不満に感じていた。
 その証拠に、今のF−2は対空装備が短距離空対空ミサイル二基しかない。残りは増加燃料タンクと対地兵器と固定装備の機関砲だけである。
『ターゲット・・・タイドオン!』

708 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:15:29 [ OFSVe7yo ]
 警報一つ無く目標を捉えた。後は荷物を落とすだけだった。
『ナウ!』
 500ポンド爆弾とGCS−1赤外線誘導爆弾をまとめて投下し、機体が一気に軽くなる。
 着弾の様子は見るまでもない。
『目標の破壊を確認。・・・帰還する!』
 編隊長機が戦果を確認して帰還を命令する。
『20マイル南東で空中戦が発生中。手出し無用』
 AWACSが更に指示を出す。レーダーは数十以上の輝点が映し出されていた。
 IFFを着けていなければ、友軍誤射をしかねない。竜騎兵は独力でどうにかしてもらう必要があった。
(古竜か・・・一度手合わせしてみたいな)
 出張先のフランシアで、現地の竜騎兵から聞かされた古竜の強さと恐ろしさを、おぼろげながら思い出していた。

709 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:17:12 [ OFSVe7yo ]
 ・・・。
 パパパ・・・バシュ!
『敵騎撃墜!何だこいつらは!弱すぎるぞ!』
 帝都にいる竜騎士だからどれだけ強いかと思ったら、士官学校の訓練生と同じかそれ以下の腕しか持ってねぇ!
 鼻歌歌いながら倒せるような相手にあんだけ張り切って戦いに挑んだ俺は、どんだけ恥さらしなんだ・・・。
『ジーク02よりジーク01。敵を排除。単独撃墜1、ジーク13との共同撃墜2です。』
『ジーク01了解。』
 相手が頑張らなかったせいで、戦果のほとんどを前を飛んでいた近衛天馬騎士団に持っていかれ、俺達はおこぼれに与る程度しか戦えなかった。
 その近衛天馬騎士は、先行して帝都上空を飛んでいる。降りられる場所を探してるのだろう。
 肝心の帝都からは煙が何筋か昇っている。暴動でも起きたか?

710 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:18:32 [ OFSVe7yo ]
 降りる場所を見つけたのか、ダイナが俺達を案内するように飛び始めた。
『ダイナ01より全騎。これより降下を開始する。ただし、飛行時間に余裕のある隊は支援の為に滞空せよ!』
 ジークはそろそろ限界かもしれない。隊長と少し相談して、地上に降りると決める。
『ジーク01より各騎。地上戦用意!どんなに叫んでも衛生兵は来ない。損害に億劫なニホン人を引っ張り出す為だ。覚悟してかかれ!』
『『了解!』』
 降りる場所は・・・あれ?煙が出てる場所?お城か天馬騎士団の本部じゃないのかよ!
 敵が待ち構えてたのか。それもそうだろうな。
 あのずれた技師長の銃がどんだけ凄いのか、確かめてやろう!

711 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:20:22 [ OFSVe7yo ]
 ・・・。
「近衛兵より報告!城内で爆発が発生し、地下通路が破壊されました!」
「監視哨より急報!市を取り囲む城壁の一部が破壊されました!兵を向かわせる許可を!」
 続々と伝えられる悪報に、第一皇太子は真っ青になっていた。
 本当なら城の爆発が起きた時点で逃げ出したかったが、衆人の目もある上に、恥さらしな真似は出来ようも無かった。
「皇太子殿下!」「殿下!!」
 貴族の何人かが詰め寄って、起きている事への説明を求めるが、分かるわけが無い。
「皆様落ち着いてください!これは私が帝位を授かる事に不満を持つ者の仕業です!すぐにでもその不届き者の首を刎ねて見せましょうぞ!」
 言っている本人が死人のように白くなっているので、この宣言は本当に白々しく響いて終わった。

712 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/24(金) 23:21:53 [ OFSVe7yo ]
「監視哨より続報!『近衛天馬騎士団が崩落した城壁付近に降りつつあり』です!」
 この報告に、皇太子は間違いなく破滅の足音が近づいているのを実感した。
「教皇猊下、ムッター将軍閣下!全滅した近衛天馬騎士団を騙る蛮族が迫りつつあります!お二方の手勢を向かわせて頂きたい。帝国も兵を直ちに出します!」
「よきに計らえ」
「許しがたい蛮族ですね。ほっほっほっ・・・」
 100を超える飛竜があっさりと負けるなど信じたくなかったが、敵はやって来た。
 恐らく自分を消す為に・・・。
 檻の中の熊のようにうろつき回る第一皇太子と、どうすればいいのか分からず呆然とする貴族と聖職者。
 帝国の悪癖が一ヶ所に凝り固まっている。


721 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:18:21 [ inOd/tU. ]
『ジーク隊、着地!』
 隊長の命令で、崩れた外壁の中にあちこちで来たくぼ地の中へ着地する。特に街に近いくぼ地だ。目と鼻の先にレンガ造りの家が立ち並んでいる。
 一般住人はいないようだ。逃げるよなぁ普通・・・。
 相棒から飛び降りて、とにかく銃を構えた。
「アレックス、リサ!二人はそっちだ!ぼさっとするな!来たぞ!」
「「了解!」」
 街の中から・・・来た。脇道や建物の中から、とても友好的には見えない人間はわらわら湧いてきた。
「リサ!ブレスで追い払うぞ!」
「当然です!!」
 飛竜も一応は地上でのブレス発射も出来る。不得意この上ないんで、めったにやるもんでもないが、重火器が無いんじゃ文句は言ってられん!
「撃て!」
 ドン! がしゃん!
 住宅らしい建物に命中して、ガラスやらレンガの破片が街路に飛び散った。
 敵兵は一瞬ひるんだが、剣を構えて突撃してくる。

722 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:20:59 [ inOd/tU. ]
 リサもブレスを撃たせたが、これも敵の一団には命中せず、止めるには至ってない。
「地上だと勝手が違うぞ!リサ、光弾!!」
「了解!」
 パパパ・・・パパパ!
 二人で薄いながらも光弾の弾幕を張って、今度はいい感じに命中する。一人、二人と倒れていく。
「これはいいぞ!相棒、やれ!」
 グルルルッ
 充分に近づいたから、もう外さないぞと言わんばかりに唸ってブレスを発射した。
 バウン!
 敵の目の前に火球が着弾し、生き残っていた敵兵は火達磨になって突っ伏す。あれで死ななかったら、バケモンだ。
「なんとか片付いたか・・・」
「いいえ、大尉。本格的に歓迎してくれるみたいです!」
「!?」
 弓、騎兵・・・
 タン!タン!タン!
 魔法やブレスは間に合わないと思ったのか、リサはライフル銃を撃って、一人の騎兵を昏倒させた。

723 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:21:51 [ inOd/tU. ]
「リサ、少し踏ん張ってくれ!隊長と相談してくる!相棒!貴様、リサの言うことを良く聞けよ!」
「早くお願いします!!」 ガウ!
 こんな状況では、悠長に魔法通信用の魔法など唱えてられない。別の方向に向かって攻撃をしている隊長に駆け寄った。
「隊長!」
「何だ!!」
「我々だけ突出してます!他隊と友軍が占拠してる場所まで退却しましょう!」
 弓矢も飛んでくるようになり、飛竜の後ろに隠れて(ジークの鱗は硬くないが、地上での弓矢ぐらいは弾ける。空で飛んでる時は相対速度がヤバイ)身を屈めて相談する。
「分かってるが、後ろを見ろ!友軍はまだ着陸中だ!!ジエイタイが反撃を始めるまで粘れ!」
 ヘリコプターが、ようやくジエイタイを降ろし始めているのが見える。
「・・・分かりました!しかし、航空支援を要請してください!」
 数は少ないが、空を飛んでいる飛竜が、地上に向けてブレスを発射している。
「何とかする!リサの支援をしてやれ!おい、ベティでもランカスターでもいいから支援を要求しろ!」
『了解!』
 何とか支援は取り付けられそうだ。

724 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:23:37 [ inOd/tU. ]
 リサのいる場所に取って返すと、お客が増えていた。
「あんたたちは・・・皇女様とその副官じゃないか!何やってるんだ!」
 図々しくも、リサと俺の相棒の後ろにペガサスと一緒に隠れていた。皇女様は俺の相棒の後ろだ。
「お邪魔している。」
「あら、私をブン殴った不届き者じゃない。部下は危ないから後方に下げちゃったの。」
 あんたも乗って帰れよ!
「何を考えてるのか分かるわ。指揮官が真っ先に逃げたらかっこ悪いじゃない!飛竜の後ろはまだ開いてるから大丈夫でしょ♪」
 可愛く言ったって無駄だ。が、リサが必死で防戦してるのを放っておけない。
 銃と光弾を交互に撃ちながら、槍を構えるだけで何もしない役立たず二人を叱責した。
「何かしろよ!」
「団長閣下に討ち死にせよというのか!」
「無駄死にはイヤよ。相手が剣だけならいけるんだけどね。弓相手だと分が悪いの」
 ・・・。

725 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:25:10 [ inOd/tU. ]
「もういい。なんでここに来た?」
 そうだよ!ほとんどの天馬騎士は、もっと城の近くに降り立とうとしてたはずだぞ!
「近衛天馬騎士団本部と城に魔法使いが結構いて、近づけなかったのよ。想定外だったわ!」
「それで、惨めにもここまで逃げ帰ってきたってか?」
「何とでも言いなさいよ!」
「大尉も皇女様もいい加減にして下さい!」
 敵はさっきにも増して増えていた。そろそろ支えきれるか怪しくなってきたぞ!
「リサ!それとお二方!飛竜がブレスで敵を追い払うから、その間に後ろに退却!了解?」
「了解!」「心得ました」「ちゃんと来るんでしょうね?」
 ジエイタイも、準備が終われば援護してくれるかもな!
「・・・言ってる間に来たぞ。退却の準備をしておけよ!」
 太陽の逆光で種類は判別できなかったが、数騎の飛竜が、魔法攻撃を受けないくらいの高度でやって来た。
 パッ パッ パッ
 ズガァァァァン!!
 放たれたブレスが俺達の前方ウン十メートルの所に着弾した。俺達のいるくぼ地まで破片が飛び散ってきた。

726 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:26:45 [ inOd/tU. ]
「ジーク隊、退却だ!!」
 隊長の号令で、身を潜めていたジーク隊員が、飛竜を引き連れて後ろへと後退していく。
「もう少し相棒に飛べる時間が残ってたら、飛んで逃げるのに!!」
 愚痴っても仕方ない。とっと逃げなくては!
「リサ!あんた達も味方ん所まで逃げるぞ!」
 返事をするまでもなく、ブレスや銃を最後っ屁に放ってから、穴を飛び出した。
 味方が防御陣を築きつつある場所まで100メートル超。地上ではのろい飛竜を連れてるが、何とかなるか?
「騎士が来たわよ!副団長、この連中が後ろに下がるまで相手をしてあげましょう!」
「御意!」
「あんた達、何言ってるんだ!?」
「土煙が晴れるまでよ、不届き者。死に急ぐつもりなんてないわよ。早く行きなさい!」
 変なところで英雄ぶりやがって。だが、その好意は受け取るぞ!
「リサに対する贖罪か何かは知らんが、無茶するなよ!」
 二人の天馬騎士はペガサスに乗ると、爆発の土煙を超えて出現した数騎の騎乗した騎士に立ち向かっていった。

727 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:28:42 [ inOd/tU. ]
「リサ、相棒!急げ!」
 天馬騎士二人が応戦している間に、何とか味方が壁の破片で作ったバリケードの内側に逃げ込むことが出来た。
 南大陸の竜騎兵や天馬騎士、小型の砲やマシンガンを取り付けているジエイタイが待っていた。
「ジーク隊全員いるか!?」
 人数の確認を取ると、一人も欠けていなかった。
 後は、あの二人か。騎士と切り結んでいる二人に気づいた陣地内の天馬騎士が、応援の為に飛び出そうとして周囲の竜騎兵やジエイタイに取り押さえられていた。
 敵騎士の数は少ない。もっとも、混乱から敵が立ち直ればあっという間に増えるだろう。
 ターーン
 小さな銃声が響いた。騎士の一人が馬から転げ落ちる。その隙に、皇女様と副官は脱兎のごとく逃げ出していた。
「ハァッハァッ・・・今はこのくらいで勘弁してあげるわ!」
 俺達の所まで転がり込んできた。なんだか捨て台詞だな、それは。
「近衛、第一、第二天馬騎士は全員いるか!?」
『第一、第二天馬騎士団は全員います!近衛天馬騎士団は閣下たち二人で最後です!』
 てことは、味方は全員収容したのか?

728 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:29:34 [ inOd/tU. ]
 ドドドドドド!
 タタタン!タタタン!
 ポン! ヒュルルルル・・・

 どうやらそうらしい。ジエイタイのあらゆる火器が火を噴き始めた。
 味方が下がったのをいいことに前進しようとしていた敵は、弾幕と爆発に絡め取られてどんどん倒れていった。
 ヘリは着陸したままだ。物資の搬出が終わっていないようだ。
『魔法だ!伏せろ!』
 ボン!
 敵に魔術師が加わったのか、銃と魔法の撃ち合いが始まった。ジエイタイの方が有利に見えるが、弾は有限だ・・・
「我々も加わるぞ!」
 隊長の言葉に異存はない。体力を消耗した相棒は後ろに下げ、俺はリサと共にバリケードの一つに入った。
「ジエイタイにいい所を持っていかれるわけにはいかねぇからな。やれるだけやるぞ!」
「勿論ですよ大尉!」
 正に、戦いはこれからだ!

729 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/26(日) 18:30:24 [ inOd/tU. ]
 汝、止まることなかれ
 汝、振り返ることなかれ
 汝、死ぬことなかれ

 叙事詩『マイン カイザーリン』より


733 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:20:51 [ inOd/tU. ]
 ・・・。
「・・・朝?・・・痛っ」
 昨日は、違う。今日までお酒を飲んでいて、何とかホテルまでタクシーを使って帰ってきたんだった。見事に二日酔いしちゃった。
 昔みたいには飲めないか。あれだけコジェドフに鍛えてもらったのに・・・。
 今、何時だろう?部屋に備え付けの時計を見る。
「8時40分!?」
 いけない!取引が始まるまで、あと5分しかない!
 洗面所に向かって水で顔を洗い流す。何とか眠気だけは覚まさないと!
 後は後は・・・コンピュータと魔法通信機と・・・ああーー!!カゴシマ空港行きの航空チケットを予約しなくちゃ!
 ニホン製のコンピュータの電源を入れて、起動する間に秘書に魔法通信して・・・
『おはようございます、ゴールトン理事長。』
「おはよう。早速だけど、ニホン時間10時から11時までの出発時間で、ハネダ発カゴシマ行きの航空便のチケットを押さえて。夕方までにはタネガシマに到着したいの」
『分かりました。クラスは?」
「取れるならどこでもいいわ。東大陸に行くわけでもないし。・・・取引開始前に集まった主な商業情報は?」

734 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:22:33 [ inOd/tU. ]
 コンピュータからインターネットに接続して、各種情報を閲覧する。ニホンの強みは、他惑星に行ける卓越した技術と、インターネットに代表される広範な情報網の整備。
 私達も、それなりの使用料を払ってインターネットを利用しているけど、魔法通信を利用した情報交換が子供のお遊戯に見えるくらい差がある。
 機密情報のやり取り以外は、南北大陸の先進国ならインターネットを利用してるはず。
『北大陸北部のパラジウム採掘プラントで大規模な火災が発生して、グリューネブルグ貴金属先物取引市場のパラジウム価格が急騰しています』
「トウキョウの取引が始まったわ。それ関連は?」
『エデン合衆国イーストニューヨーク市の第二期開拓事業を、ニホンのJV(共同企業体)が総額約8000億円で落札しました』
「参加企業の株を買い増しなさい」
『ナイトロスシリング、ライヒスシリング、EFCシリング、DFCシリング、アスターシリング、連合シリングは各地の取引所で円に対して安くなっています』
「為替取引は少額に。暫くは他の機関投資家の動きを観察して」
『ソニー社の新発売家電の不良問題で、各地で集団訴訟が同時に開始されました。推計では懲罰的賠償金を込めて一兆円前後の損害賠償を請求されています』
「あの会社はもう駄目よ。損切りでもいいから、全株売り払って!」
 ニホンがやって来て半世紀も経たないのに、世界は著しく狭い存在になっている。

735 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:24:15 [ inOd/tU. ]
 秘書に一通りの指示を出して、もう少ししたら迎えに来るように言った。
「ふーっ」
 内線電話でホテルのフロントに朝食を頼んで、ようやく落ち着く。
 まだ痛む頭を抱えつつ、窓の外を見た。
 フランシアとは比べようも無いほどの超高層ビルが立ち並ぶ、ニホンの首都トウキョウ・・・。
 この風景は、何十回見ても畏怖すべき物があると思う。
 東大陸の居住可能地域の半分以上と北大陸のツンドラ地帯を支配し、月にまで到達した文明。そして数千万キロ離れた氷星まで、人を送り込まんとしている。
 間違いなく、世界はこの国を中心に動いている。
『リサ ゴールトン様。ルームサービスの朝食をお持ちしました。』
 流石は格式高い帝国ホテル!準備もサービスも良いわ!着替えるのは後にして、先に朝ご飯にしましょ。


737 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:28:34 [ inOd/tU. ]
 エルフ族は5年に一回、国や地域の代表者が一同に中央アルエスに集合し、交流を深めるという集会がある。
 エルフ族がアルエス森林同盟という一つの国家にまとまっていた頃の名残で、その当時は同盟の盟主の富と力を示す場所であったという。
 それも今は昔。かの同盟の正統な後継者と言える中央アルエスの王族は、アフリカの破綻国家よろしく首都とその近辺しか支配しておらず、こういった催しを開く余裕など無いはずであった。
 しかし、それを中央アルエスの王族は『伝統を捨てるわけにはいかない』と、他のエルフ族国家が開催権を譲るよう申し出ても、頑として首を縦に振らなかった。
 普段の生活を切り詰め、貯めた資金をただ一日開かれる式典の為に消費する。そんな無限ループをこの国(王族)は続けていた。
 そんな昔気質の中央アルエス王族を、北のエルフは半ば呆れて、南のエルフは憧憬を持って接していた。
 それでも最終的には、彼らの涙ぐましい努力を無下にはできないと、ずるずるとこの集まりは惰性のみで続いていたのであった。

738 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:30:17 [ inOd/tU. ]
「いやー、この川魚の卵の塩漬けは美味いなぁぁ!!満足満足!」
 太った身体を揺らして、スプーン一すくいが数千シリングする高級料理を、サマリムの総統は遠慮なく何口も口に運んでいく。
「偉大なるドゥーチェ、お気に召しましたか?」
 民族衣装を着た中央アルエスの姫が、彼の接待をしていた。
「パスタが無いのと、綺麗な女性が少々足りないのが不満かな?姫、後で私とイイコトしませんか?」
 いきなりの事に、腰に差していた剣を抜刀しそうになったが、寸前で抑えて笑顔で切り返す。
「申し訳ありません偉大なるドゥーチェ。私には婚約者がおりまして・・・」
「それは残念ですな。据え膳は食わねば損と言いますが、予約が入っているのなら仕方がありません。また機会がありましたら・・・」
 そう言ってドゥーチェは席を外して、別席のノステル国王とマルグラント公の二人と会話を始めた。

739 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/28(火) 23:32:30 [ inOd/tU. ]
「姫、あのような資本主義の俗物と関わってはなりません。あのデブは、油田採掘ラッシュで景気がいいのを自慢したいのですよ!」
 ドゥーチェかそれ以上に厄介な、シェデルの国家主席が姫に言った。主席はアスター連邦の軍服をエルフ用に改造した、仕立ての良い礼装軍服を着ている。
 あのデブ呼ばわりされたドゥーチェと国家主席はしばし睨みあっていたが、すぐに互いに目線を外して、何事も無かったように振舞った。
「主席閣下、そのようなお心遣い、私のような小国の姫には身に余るお言葉です。」
「貴殿は姫にしておくのは勿体無いお方だ。我が国か、宗主国たるアスターに留学してはいかがだろうか?」
「気持ちだけは受け取ります。」
 共産主義のシェデル・エルフは、(旧来のエルフ族から見て)デリカシーの欠片もないサマリム・エルフと並んで、危険な存在と見なされていた。
 同時に、この二ヶ国がエルフ族主体の国家中で、最も発展しているのも周知の事実である。
 異色のエルフたちを、最も重要な国賓として扱わなければならない中央アルエス王族の悩みは深い。
「森の神よ・・・慎ましく暮らしていた我らが、一体何をしたというのですか?」
 姫は心の中でこう祈る他無かった。