488 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/10/31(火) 20:56:28 [ Hy8GiDHc ]
この世界の音楽は、伝統音楽を除けば基本的に七音階である。1オクターブにドからシまでの音が含まれている。
1オクターブごとに、周波数が1:2になる関係は、元の世界と何ら変わりない。
古代ハフニー帝国の全盛期に始まったその区分は、北大陸に渡った獣人・亜人によって南大陸にもたらされた。
時代は下り、ナイトロスの誕生と南大陸への進出によって、音階に加えて、各種の楽器が伝わった。
これも管楽器、弦楽器、打楽器、鍵盤楽器などに区別され、元の世界と同じである。
北大陸では宗教勢力の拡大で、教会音楽以外は廃れたものの、南大陸では各地で音楽に対する関心が集まった。
しかし、本来音楽を愛し発展させるはずであったエルフ族は、国土を蚕食されていく過程でそういった芸術活動を庇護する力を失ってしまった。
強国のコバルタ王国やナイトロス王国やアスター帝国では貴族の力が弱く、歴代王権も音楽に関心を払わなかった為、やはり音楽を庇護することは無かった。
産業革命の到来で資本家と市民階級が力を持ち、それを頼る形で音楽の発展が始まるはずであった。
が、これからという時に、日本がやって来たのである。
489 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/10/31(火) 20:58:10 [ Hy8GiDHc ]
大音楽家達の曲が次々とこの世界の楽譜に(有料で)書き写され、各地の講演会でこの世界の人間の耳に入ることとなった。
・・・結論は言わずもがなである。
モーツァルトやベートーヴェンの交響曲は大喝采で、同時にこの世界で交響曲を作曲していた音楽家が、幾人も筆を折っている。中には自分の才能の至らなさに絶望し、自殺してしまった者も現れた。
ショパンやリストのピアノ曲はパーティー会場でのバックコーラスの定番となるのに時間はかからなかった。
数え切れぬ楽曲が伝えられ、一時は大打撃を受けたこの世界の音楽ではあったが、音楽家達は諦めることはなかった。
まず、演奏家と指揮者と作曲家が団結して楽団を結成し、日本のオーケストラに対抗するようになった。
そして一通りの楽曲の紹介がなされた後で、伝統的な楽器を使った曲の作成や、種族的情緒に訴える作品の発表など、新たな道を探る事になる。
491 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/10/31(火) 21:01:48 [ Hy8GiDHc ]
空対地、空対空、地対空、地対地・・・いずれの誘導魔法の研究は苦難の連続であった。
日本のような高度な識別装置を有した機械を持たない国々は、様々な方法で魔法に誘導能力を持たせようとした。
もともと魔法は撃ちっ放しで、撃った方向にのみ進み、衝撃や時間経過で効果が発動する。
一度詠唱者や各種魔法発射システムの手を離れた魔法は、その方向を変えるのは難しかったのだ。
これに誘導能力を持たせようという機運が起きたのは、魔法通信と魔探の進歩と、日本のミサイル兵器を目の当たりにしたためである。
魔法の超音速までの加速や有効射程の延長は、魔力の増強や発射システムの改良次第で(時間はある程度かかるが)どうにでもなることであり、問題にはされなかった。
ナイトロス半島東部自生植物のガスキンツリーの生態を参考に、いくつもの試作魔法が生み出された。
魔法と発射システム間で魔法通信を同期させ、特定の方向に飛ばすことも、改良を重ねるうちに可能となった。
492 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/10/31(火) 21:04:07 [ Hy8GiDHc ]
問題だったのは『どのように誘導させるか』である。
初期の頃は目視による誘導が行われていたが、空中での飛竜・動力航空機の高速化と、地上戦闘が徐々に長距離で発生するようになると、不便さが増すようになった。
考え出されたのは、魔探との同期で魔探の指定した目標に向かわせる事だった。
しかし、魔探は対象物性の解析能力でレーダーの数段上を行くものの、敵味方の識別は極めて厳しかったのだ。
敵と味方が全く同じ兵器を使い、見分けがつけられずに友軍誤射を起こした戦いは何度もある。
これは味方の兵器に特定の魔法通信の暗号を出させ続けることで、魔探から目標として外させることによって解決した。
日本と同じIFFのような装置を持つことで始めてまともな誘導魔法が完成したのだ。
勿論、その暗号は各国の最高機密に指定されている。
513 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:00:16 [ Hy8GiDHc ]
帝国の捕虜一行は、好天に恵まれた事と、整備の整った街路を利用したことで、二月末には半島の西岸の砂浜に到着した。
『一般の捕虜はあそこにある船に、近衛天馬騎士団長配下の捕虜は、向こうに見える船舶に移動してください。』
捕虜の警護をしている陸上自衛隊員たちが、拡声器を使って1万7千に迫る捕虜達に次々と説明していく。
「どういうことだ!我らとエーテルガルド団長の部下と乗る船が全く違うではないか!」
一般の帝国・国教会騎士・その他の捕虜約9000人が乗るように言われたのは、ナイトロスから借り受けた小型上陸艇(と母船の輸送船)や、海岸への接岸が可能な帆船ばかりである。
一方、エーテルガルドの配下の辺境出身騎士や雇われの魔術師など約8000人が乗るように言われたのは・・・陸上自衛隊と同じLCAC(と母船の揚陸艦)である。
彼らに技術的な物が解らなくても、艀やボートとホバークラフトでは明らかな差別待遇であることは解る。
「反乱を起こすかもしれない反抗的な人間は、米軍や海上自衛隊の揚陸艦に乗る資格はない。文句を言わずナイトロス船に乗れ。」
90式戦車から顔を出していた戦車長が、砲身を普通科隊員に詰め寄っていた騎士たちに向けてから言い放った。
戦車の恐ろしさを身に染みて感じていた彼らは、渋々ながらも船に乗り始めた。軍馬と飛竜も併せて乗船させていく。
514 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:01:21 [ Hy8GiDHc ]
「えっとですね・・・第三、第四、第五天馬騎士団と、辺境第一、辺境第二竜騎士団の空中勤務者の方々はこのまま飛び立って、沖に浮かぶ一番大きな船に降りてください。その他の方々は輸送艦にまとめて乗せます。」
各空中騎士団の団長達は、自衛隊の幹部から説明を聞かされていた。
「一番大きな船?随分抽象的ではないか?」
訝しげに聞かれる質問にも笑顔で「見れば分かりますよ」と笑顔で返した。
彼らは、それが自衛隊幹部の遊び心とは、船を見たその時まで気付かなかった。
「・・・そういう訳で、飛び立ったら西に向かい、一番大きな船に降りて欲しいそうだ。」
騎士団長達は、自衛隊の説明をそのまま団員達に伝えていく。
誰もが困惑しながらも、沖合いに浮かぶ、ナイトロスのそれなりに大きな船を見てから続々と飛び立っていった。
515 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:02:29 [ Hy8GiDHc ]
飛び立ってしばらくの沿岸には、ナイトロスの小型・中型船が何十隻も停泊していた。
更にもう少し飛ぶと、見たことも無い巨大な鉄の船(海上自衛隊の護衛艦と輸送艦)がぽつぽつと現れ始める。
そして海岸から40キロ程のところに目的の船はあった。
それらの周りには先ほどの鉄の船と同じかもっと大きな船(米海軍の駆逐艦と巡洋艦と揚陸艦)が何隻かそれを守るように浮かんでいた。
中心の船は二隻で、どちらも巨大だったが、一方の巨大さに天馬騎士と竜騎士は開いた口が塞がらなかったと、後に口を揃えて述べている。
気付けば、上空には鉄の怪鳥(ハリアー)が何機も飛び回っていた。
明らかにそれが目的の船だと言わんばかりの威容と警護である。
その最も大きな船に続々と着地していった。
516 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:03:56 [ Hy8GiDHc ]
その船は、250近い天馬騎士と竜騎士を搭載して、尚多くの余裕があった。
甲板で作業していた乗組員たちは、一様に手を止めて、ペガサスや飛竜を珍しそうに眺めている。
そして彼らに向かってくる人間。雰囲気と警備の兵士が両脇に控えていることから、偉い軍人だと言うことが知れる。
騎士団長達は礼儀として、ペガサス(と飛竜)から降りた。
『Welcome to the aircraft carrier Kitty Hawk!』
悲しいかな、この世界では日本語は通じても英語はあまり通じない。
通訳を通して彼がこの空母の艦長であることと、早期警戒機やヘリ以外の久しぶりの来客者で、乗組員一同は歓迎していることが伝えられた。
『全輸送船団が揃い、上陸するまでの三日ばかりの間だが、ぜひくつろいでいただきたい』
笑顔で艦長は(通訳を通して)言った。
517 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:05:18 [ Hy8GiDHc ]
・・・それで俺のダチはその三人に言っちまったんだ。
『女の騎士団長なんてお飾りだろう』ってさ。そん時の他のペガサスナイト達の殺気は凄かったぜ。
それが当の三人は怒りもせず、『なら試してみるか』なんて言ったんだ。
俺も他のダチも止めさせようとしたんだけどよぉ、ソイツは聞く耳を持たなかったんだ。
んで、艦内のジムで騎士団長さんたちとダチは武器防具を全て外してから戦ったんだ。
本当のところ、騎士団長さんたちはペガサスなし武器なしの三姉妹くらいかと思ってた。
だからダチはいい線行くんじゃないかと思ってたが、結果は悲惨だったぜ。
騎士団長さんたちは、一人でミネルバ王女とミーシャ隊長を足して1.5倍ぐらいした強さだったよ。
それが同時に・・・なんていうのかな、トライアングルアタックみたいなのを素手でしたんだ。
ダチは医務室に連れて行かれた後、ヘリで本土の病院に運ばれちまったよ・・・
『エデン合衆国空母キティホーク乗員のインタビュー』より
519 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/01(水) 22:07:59 [ Hy8GiDHc ]
近頃、ハロウィン強盗なる物が流行っているそうだ。
ハロウィンとは10月の末日に子供達が仮装をして、近隣の家にお菓子を貰いに行くニホン由来の祭典だ。
クリスマスとバレンタインデーと年末年始の神殿・教会参拝と並んで、近年では当たり前になったお祭りでもある。
10月末の銀行や商店に、ハロウィンの仮装をしてライフルや拳銃で武装して押し入り"money or kill!"(お金をくれないと殺しちゃうぞ!)と言う強盗がハロウィン強盗である。
街中には子供以外にも大人の仮装行列も多数練り歩いているので、警察は紛れ込んだ強盗犯の検挙に難儀している。
いずれのイベントも、本来はこの世界に存在しなかったはずで、ニホン人のみのイベントで終わるはずだったのだ。
それがなぜ、このように催しが広がってしまったのか。
私は、列島連合が世界の経済的・文化的支配を企んでいる可能性を指摘する。
ニホン人は救世主キリストや聖人バレンタインとカボチャ頭をダシに、ニホン製の商品を買わせようとしているのだ。
ハロウィンを楽しんでいる人達は、今一度、この可能性を忘れないで欲しい。
『ウェッセンラントデイリータイムス 2023年10月30日朝刊号 匿名寄稿コラム』より
532 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:12:22 [ Hy8GiDHc ]
三月に入ると大方の準備も終わり、遂に俺達も帝国領に入ることとなった。
「諸君らは我々の仲間である新帝国軍に協力し、栄誉ある任務を果たして貰いたい!」
エルビヌメインの基地司令官は勇ましく言ってるが、そんなに栄誉があるなら、アンタも来ればいいだろうが。
一部の爆撃飛竜隊を除いて、ほとんどの人間が帝国に行くのは初めてで、俺もその一人だからワクワクはしている。
「作戦通りに搭乗開始!」
一番最初に飛び立つのは、近衛天馬騎士団。次にナイトロスや南大陸の国々の飛竜。その後ろに第一天馬騎士団。さらに陸上自衛隊のヘリ部隊。最後尾は第二天馬騎士団。
どこかしらに帝国所属の天馬騎士がいないと、帝国の他の竜騎士に味方であることを伝えられないそうだ。
そうだろうなぁ。いきなり飛竜やヘリが来たら迎撃するに決まってる。
533 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:13:02 [ Hy8GiDHc ]
「同志大尉。いよいよでありますね。」
「大尉。私も微力ながら協力させて頂きますよ。」
少尉と中尉だ。少尉は荷物のほとんどを、中尉の飛竜に預けていた。出来る限り軽量化するためだそうだ。
「少尉。防寒着も最小限というのはヤバイと思うが?」
俺だってきっちりと、陸軍用の冬季戦闘服を着込んでるぞ。
「凍死はしませんよ。おそらく・・・」
髭を垂らしているくせに何言ってるんだ。絶対寒がるな。
「まぁ同志大尉。少尉はケビシニアの星でありますから、良いのですよ。」
そういうお前はメチャメチャ厚着してるじゃないか。お前には少尉の羨ましそうな表情が見えないのか!
「それより同志大尉、リサ殿とは仲直りできましたか?出発前に話はしておいた方が良いと思うのであります。」
んな事は言われなくても分かっとるわ!
534 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:13:35 [ Hy8GiDHc ]
阿呆な二人を放置し、ジーク隊の集合場所に戻る。隊員に混じってリサも出発準備をしていた。
「リサ・・・」
「ああ、大尉・・・」
皇女様と特訓をしていたせいで、退院直後と比べると随分とスリムになったようだ。
「ちと辛い訓練をさせて済まなかったな。気にしてたか?」
「別にそんなこと無いですよ。確かに大尉にはちょっと殺意は抱きましたけど、『おあずけ』にしたから、おあいこです!」
「そうか。そうだよなぁ。あれから一回もやらせてもらえなかったもんな。」
仲直りも何も、気にするほどの事でもなかった。
『ジーク02よりジーク01。ジーク隊は準備完了!いつでも行けます!』
『ジーク01よりジーク隊各騎へ。これよりジーク隊は近衛天馬騎士団の離陸後すぐに離陸する!』
『『了解!』』
535 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:14:15 [ Hy8GiDHc ]
「副団長!団員は揃った?」
「近衛天馬騎士団、各員の準備は終了しました!」
「分かった。」
帝国から離れて数ヶ月。まさか敵と手を結んで、おまけに婚約者までもらって帰国するなんて・・・
「奇跡だわ」
「?団長閣下、何か?」
「なんでもないわ。戦死した団員の遺品は忘れてないわね?」
「持てる荷物は全て持ちました。それ以外はジエイタイと海ルートの騎士団に預けてあります!」
「了解。諸君!遂に我々は祖国へ帰る!そして、その先に待つのは新たな国造りよ!準備はいいわね!!?」
おうっと、鬨の声が上がる。
「出発!!!」
536 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:14:59 [ Hy8GiDHc ]
・・・。
近衛天馬騎士団を追って飛び立ち、暫くする飛んでいると、森林が途切れて雪と泥が広がる大地が見えてきた。
『ジーク13よりジーク01!地上に・・・!』
そこまで言ってジーク13ことリサは絶句してしまった。高度はそんなに高くなく、地上から500メートルも無いと思う。地上は良く見えた。地上には・・・
(死体・・・死体だ)
人間や馬と分かる物の死体が転々と転がっている。ジエイタイの追撃を逃れたのはいいものの、ここで力尽きた帝国の兵士達だろう。
『ダイナ06より魔法通信可能な全騎へ。間もなくエリア・ショゴスを航過。高度を上げて山脈越えに備えよ!』
前方の山脈と雪雲は俺達を歓迎しているのか、はたまた拒否しているのか・・・
帝国まであと少しだ。死者への感傷に浸ってる場合じゃないな。
537 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:17:07 [ Hy8GiDHc ]
終了。そしてジャンク。
『サルナーダ技師長の憤慨(仮)』
538 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:17:59 [ Hy8GiDHc ]
出発に先立つこと数日前、陸軍の兵器開発局の技術者が、下士官・士官の前で御高説を垂れていた。
「今まで言われていた通り、三軍共通で配備されているライフルは単発・単装で、射撃間隔が長くなってしまう。」
うんうんと聴衆(士官と下士官)は頷いている。
「しかし、諸君らが行くと聞き、こんなこともあろうかと・・・」
ケースの中から、新品の銃を取り出した。
「6連射式レバーアクションライフル〜」
・・・。
反応はゼロだった。
「お、おい君達!これは給弾が射撃六回につき一回で済む優れものなのだぞ!それを・・・」
539 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/03(金) 18:19:29 [ Hy8GiDHc ]
「ニホン映画じゃ。カポネの子分がマシンガンで戦ってたぞ!マシンガンを出せ!」
「そうだ!ライフルよりマシな銃を出せよ!」
そうだそうだの嵐。技術者は孤立してしまった。
「無理を言わないでくれ!ガトリング砲の改良と速射光弾発射機の小型化が進めば可能かもしれないし、開発局では・・・」
『帰れ!帰れ!帰れ!』
激しいシュプレヒコールに怖気づいた技術者は
「もう来ないぞ!」
と捨て台詞を言って、泣きながら逃げ帰ってしまった。
546 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:24:58 [ RbvS7k7U ]
・・・航空母艦・キティホーク甲板・・・
「これより我々は帝国西部方面の都、レプスブルグに向かう。目的は唯一つ。かの地に駐屯する帝国軍と貴族に降伏を迫り、無血開場させる事だ。」
第三近衛天馬騎士団長は部下たちに説明している。他の天馬・竜騎士団長も同じようなことを説明している最中である。
揚陸拠点となるこの都市と、周辺に存在する貴族領と教会領に自衛隊進出の伝令として回り、彼らに恭順することを迫らせる。
無論、逆らえば彼らの未来は無いだろう。
しかし、逆らうであろう人間達は、年末から断続的に続く航空自衛隊の空爆で戦死するか、ナイトロス情報局のエージェントに暗殺されている。
ごく一部生き残った者達(大貴族・枢機卿等)は、新皇帝を選出する会議に出席する為に帝都におり、抵抗は無いか極めて少ない・・・
このように天馬・竜騎士団首脳部には知らされた。
国交を断っていたはずの国に、ここまで情報を握られていたことに非常に驚いていたが、だからこそ負けたのだと納得した。
「出発!陸地が見えるまではまとまって行動!後は部隊ごとに指定された街に進め!」
次々と天馬と飛竜が飛び立っていく。眼下の大海原には、揚陸準備を整えてその時を待ち構える輸送艦と揚陸艦が並んでいた。
547 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:26:01 [ RbvS7k7U ]
レプスブルグは、緯度的には青森と同じ位であるものの、大陸西岸沿いを流れる暖流の影響(日本列島の東岸は影響をほとんど受けない)で三月を過ぎると雪が降らず、晴れて暖かい日の増える街である。
街の監視哨が海から来た天馬騎士の一同を見つけたのは、そんな穏やかな早朝だった。
「な、なんで海から天馬騎士が来るんだ!確か天馬騎士は全滅したって・・・」
「んな事はどうでもい!領主様の館と騎士団と竜騎士団に連絡だ!」
が、いささか遅かったようである。半鐘を鳴らす前に天馬騎士数騎が彼らの前に舞い降りて、槍を向けたのだ。実戦をくぐり抜けた戦士と、戦場に出たことの無い兵士では話ならない。
「そういった物は、やらなくても結構!大人しく捕まってくれれば悪くはしない」
そのまま武装解除され、捕縛されてしまった。
そのまま点在していた全ての監視哨は無力化され、異変に気付いたのは朝早くから仕事を始める町民だけだったが、事情の良く分からないのでそのまま無視していた。
548 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:26:57 [ RbvS7k7U ]
天馬騎士の主力隊はそのまま街を通過し、領主の館へと向かった。途中、一部をこの街の城と騎士団駐屯地に向かわせている。
地面に舞い降りるその時まで、遂に迎撃を受けることは無かった。
「レプスブルグ領主の代理人はいないか!」
庭から館へと呼びかける。警備の兵が飛び出してきていたが、目の前にいるのが友軍の天馬騎士と知り、攻撃を留まっている。
領主つまりこの地の貴族は帝都に向かったことが伝えられていて、代わりの者しかいないはずである。
暫くは警備兵と天馬騎士たちのとの間で睨み合いが続いたが、館から出てきた人間の一言で終わった。
「ぼ・・・私が領主の代理だ!何故天馬騎士がこのような狼藉を働くのか!?」
出てきたのは10代半ばくらいの少年だった。恐らくは貴族の子息だろう。
549 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:27:48 [ RbvS7k7U ]
「私は第三天馬騎士団長クロジンデ カーマン!連合帝国第一皇女エーテルガルド殿下の名代として参上した!」
「私は第四天馬騎士団長ヨハンナ ファウルハーバー。右に同じ」
「私は第五天馬騎士団長エーリカ オルデンベルク。以下同文」
それぞれ名を名乗り、エーテルガルドの書いた書状を領主代理の少年に手渡した。
黙々と書状を読んでいたが、突然それを丸め潰して怒り出した。
「『帝国西部は一時的にニホン領に編入されることとなった。彼らと書状を持ってきた者たちに従うこと。従わなかった場合の命は保障しない」だと!一体何の権限があって・・・」
「近衛天馬騎士団長エーテルガルド皇女殿下は、れっきとした皇位継承者である。その決定をむげになさるのか?」
「エーテルガルド殿下はナイトロス半島で勇ましい戦死を遂げたと聞いている!」
550 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:29:18 [ RbvS7k7U ]
「埒が明かない。ヨハンナ、エーリカ。少しばかり時間をくれ。聞き分けのない少年を説得してくる。」
武器を手放して二人だけで話がしたいと持ちかけ、館の者を全て屋外に出した上で、二人は屋敷の中に入っていた。
一時間弱で二人は出てきた。領主代理は心ここにあらずといった雰囲気で、武装解除と書状の内容に従うよう従者達に伝えた。
敵対行動を起こさないように彼らへ伝え、天馬騎士団は一度キティ・ホークへと帰還することとなった。
「とんだ童貞キラーね。あの子をお婿さんにするつもりだったりする?」
「エーテルガルド閣下は喜ぶかもね。」
「ヨハンナもエーリカもやめてくれ。私は頑固な雛鳥の毛を少しだけ毟って、現実を教えただけだ。」
「へー」
「そうなら、そういう事にしてあげる」
帝都を中心に活動する近衛・第一・第二天馬騎士団と違って、辺境の天馬騎士達は傭兵同然の生活をしていたので、こういったすれた会話も平然と交わされていた。
551 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:30:09 [ RbvS7k7U ]
帰還してきた天馬騎士と竜騎士から報告がなされ、海上自衛隊・米海軍と陸上自衛隊の将官が最後のミーティングをしていた。
「大方、受け入れる勢力が多いようです。水軍の動向は不明です。」
「まだ分からない。もしかしたら奇襲してくるかもしれないぞ。」
「ゲリラ戦も考慮しないといけないか。」
「エセックスから追加のCAPを出しましょう。」
「本土からF2とF4EJ改が爆装してくるので、必要なら予備爆撃をしておこう」
このように話しているが、揚陸艦と輸送艦は既に陸地から確認できるところまできていた。
それを見た帝国軍がどう動くか、それに全てがかかっていた。
552 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/05(日) 22:31:08 [ RbvS7k7U ]
もし攻撃されていたらどうしようかと、内心冷や冷やしていた。
幸い、彼らは聞き分けのよい者達の集まりだった。
(中略)
何事も時流を読む力が必要とされる。読めない者は取り残されて死ぬだけだ。
『世界の名言・迷言』より
562 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:41:22 [ ONRHDd5U ]
海岸に最も接近していた海上自衛隊の四隻のイージス護衛艦は、時速300キロから500キロの低速で接近する物体と、海上を数ノットで移動しだした敵艦を複数確認した。
直ちに他の護衛艦と米海軍艦も同じ情報をキャッチし、データリンクで情報を確かな物にしていく。
飛行物体・・・恐らくは連合帝国西方方面軍に所属する竜騎士とその飛竜は百以上、ただし一つ一つの集団は10から20程度であることがフェーズドアレイレーダーから容易に知れた。
冬季、航空自衛隊の散発的な空爆の中で西部駐屯の竜騎士団は損害が増加し、春になる時点で五割近い損害を受けた竜騎士団すらあった。
そして、今回の迎撃発進を見合わせた竜騎士も多く、飛び立ったのは独自判断か部隊命令で仕方なく飛び立った者達だった。
敵艦、即ちナイトロスの港湾奇襲以来、港や沿岸に閉じこもっていた西方方面水軍の残存艦艇40は、レプスブルグの港より帆を立てて出撃しようとしていた。
本拠地を叩かれようとしているのに、それを座して待つほど彼らは臆病ではなかった。いや、彼らの存在意義に関わる。
水平線の彼方に見える敵に向かって、絶望的な戦いを挑もうとしていた。
563 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:42:58 [ ONRHDd5U ]
最初に連合帝国西方方面軍の迎撃に向かったのは、強襲揚陸艦エセックス所属のハリアー艦上戦闘機と上空掩護についていたF−15Jであった。
『フォックスワン!』
まずはF-15J隊がスパローミサイルを発射し、十数騎の飛竜を一瞬で爆砕する。
『フォックスツー!』
ハリアー戦闘機は幾分接近してからサイドワインダーを発射し、やはり十数騎を挽肉にした。
本来ならこのまま近接戦闘に発展するが、陸地に近づいていた日米連合艦隊と飛竜との距離は最初からかなり近く、戦闘機隊が攻撃一回を終えた時点で敵の一部は艦隊の防空守備範囲に侵入していた。
歯軋りしながら、パイロットたちは万が一の同士討ちを避けるために戦闘空域から一時退避していった。
564 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:43:47 [ ONRHDd5U ]
友軍機が退避し遮る物がなくなった今、する事は一つしかない。
『ファイア!』
各艦の艦長の号令で、スタンダードミサイルが次々と発射され、慣性軌道を描いて敵へと向かっていく。
『エンゲージまで5、4、3、2、1・・・今!』
その瞬間、レーダー上の敵機影は半数以上が消滅した。
『叩き落せっ』
ドンッ ドンッ ドンッ
刹那、76ミリおよび127ミリ単装速射砲が残存の飛竜に向けて射撃を開始した。
それに加え、短SAMも続々と発射され、空は無数の煌きに彩られていく。
565 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:44:35 [ ONRHDd5U ]
「!?」
多くの竜騎士は異常を感知できずに爆砕した。
遥かな高みから自分たちを攻撃した敵が逃げたと思った矢先の攻撃。視界に入ってきた敵艦隊によるものに違いなかった。
が、攻撃開始の合図すら出せなかった。飛竜の至近距離で次々と爆発が発生したのだ。
装甲を持たず砲弾の破片を浴びた竜騎士と飛竜は、例外なく高度を落とし、地面や海面に叩きつけられた。
高度を上げるとミサイル、下げると速射砲の嵐の中、彼らは絶望的な前進を惰性に任せて進んでいった。
戦闘開始から10分強、CIWSを発射する距離に達することなく、勇敢あるいは無謀とも言える帝国の竜騎士達は神の盾に一人残らず弾かれた。
566 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:45:27 [ ONRHDd5U ]
残された敵は木造の船のみ。ハープーンを使うなど考えられなかった。
こんごうと数隻の護衛艦が単縦陣で港湾に突入し、敵船の進路を塞ぐ。
ここでも前年の東方方面水軍と同じ戦闘が繰り広げられた。
速射砲が船体に穴を穿ち、CIWSが粉砕する。
単純作業は5分と経たず終了し、海面には木片と人間だった物が浮かんでいる。
『海空の脅威は排除。揚陸部隊は前進せよ』
停船していた輸送船と揚陸艦は、海岸に向けて移動を開始した。
567 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:46:34 [ ONRHDd5U ]
イージスは真に神の盾だ。我等の艦隊防衛があのレベルに達するのは何十年後だろうか?
『ナイトロス海軍24年型多目的巡洋艦配備に伴う海軍大臣の発言』より
569 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:49:34 [ ONRHDd5U ]
エルフ族は長い耳を持ち、強大な魔力を持ち、森と自然を愛する民である。
光・闇・森とそれぞれの混血種からなるが、肌の色と生息域の違い以外に能力の差は無い。
はるか昔、アスター竜王国の被支配民族になっている。
そして竜王国がコバルタとの争いの中で衰退する中で民族的自立を遂げ、南大陸中南部にアルエスを建国した。
一時期は南大陸内陸部をドワーフ族のウェッセンラントと二分するほどの勢力となり、大変に栄えた。
しかし、ナイトロスが南大陸へ進出する前後から、徐々に雲行きが怪しくなっていく。
ナイトロスは火薬兵器と詠唱時間を短縮した簡素な攻撃魔法を駆使して領土を拡大し、コバルタとアスターも彼らに倣って銃の配備や魔法の規格化を開始した。
しかしエルフ達は、威力は高いが詠唱時間が長くかかり、個人の資質に左右されやすい魔法を引き続き使用し、剣や弓での戦いにあくまでこだわった。
570 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/11(土) 22:51:06 [ ONRHDd5U ]
結論として、エルフ族は近代化の遅れたドワーフ族と並んで覇権を喪失していった。
一の大魔法を唱える間に十の魔法と百の銃弾を受け、巨大だった領土は少しずつしかし確実に縮小していく。
ウェッセンラントと連合を組んで、三大国中で最も近代化の遅れていたアスターに侵攻して起死回生を図ったものの、損害に見合わぬ領土しか得られず、実質的に敗北した。
帝国主義の時代になり、エルフ族の中心的国家であったアルエスも三大国の干渉によって崩壊し、覇者としてのエルフの価値は完全に消滅した。
以後、分裂したエルフ達の国々は互いに争い、種族としての団結も失っている。
大陸北部のエルフ達は豊かな資源を背景に、現在は準先進国クラスにまで進歩したものの、中南部地域は度重なる戦争によって荒廃してしまった。
それにアスター連邦の内戦の余波が追い討ちをかけ、前世界のアフリカも同然の状態になっている。
エルフ族は『古き民』である。過去の栄華を懐古する旧時代の象徴の民族である。
576 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/12(日) 23:31:27 [ bVh3PVHk ]
2007年末、日中の留守を預かるメイドを除けば、普段は二人しかいないゴールトン家は、この家の主の親しい友人とその家族で賑わっていた。
「ほら同志少佐。これが自分の息子エゴールであります。2歳を過ぎて牙も綺麗に生え揃ったんですよ。」
「喋れるようになるには後1、2年か。頑張って育てろよ。」
「私の四人の子供だって!四人とも、この人に挨拶するんだ!パパの大切なともだちだよ。」
「アレックスおじさん!あたしシュゼット!」「パメラ!」「オーギュスト!」「ユーグ!」
「「こんばんわ!」」
「こんばんわ。・・・猫人は喋りだすのが早いなー。1歳ちょっとなんだろ?」
既に子供のいるコジェドフ大尉とロラン中尉は、家に来るなりアレックスに子供自慢を始めていた。
そんな惚気た二人をアレックスは少しうるさく、同時に羨ましく思っていた。
「コバルタじゃぁ内戦の真っ最中なのに、こんなに平和な時間が過ごせるのか。」
577 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/12(日) 23:33:46 [ bVh3PVHk ]
「ところで、少佐も子供を作ったらどうですか?」
「そうであります同志。家も賑やかになりますし、子の成長を楽しむのも良い物です。」
「そうは言ってもなぁ。頑張ってるんだが、中々出来ないんだよ。ロラン、お前は俺達の努力をよく知ってるだろ。」
「・・・。」
「パパー?どうしたの?」
「な、な、なんでもないよ!ほら!エゴール君と遊んであげなさい!」
「「はーい!」」
猫人の子供四人は、毛布に包まって暖炉の前でまどろんでいた子竜人に話し掛けて、一緒の玩具で遊びだした。
「あの事は言えないよな?ロラ〜ン中尉殿?」
「あんなのがばれたら、父親の沽券に関わります!言えるわけないですよ・・・」
「同志も人が悪いですね。あの頃から変わっていません。」
三人の仲は、戦役が終わって2年が過ぎても全く変わっていなかった。
578 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/12(日) 23:36:22 [ bVh3PVHk ]
一方、この家の台所では別の問題が起きていた。
「どれを入れればいいのかしら?」
「やっぱり魚は入れるんじゃないの?」
「肉は入れるべきだと思うのですが」
三人の夫人は、それぞれ買い込んだ食料品の前に悩んでいた。
今夜は、ニホン冬の名物『鍋』にすることとなっていた。ただし誰も鍋を情報媒体以外で見たことがなく、材料や作り方もフランシア駐留の自衛官から間接的に聞いた物だけである。
肉、魚、野菜。それにトウフやシュンギクなどニホン産の材料。三人が別々に市場で買ってきてしまった為、どれを入れるべきなのか酷く悩むこととなった次第であった。
三人が腕を組み、髭と尾を垂らして考え込んでいると、二人の自慢話から開放された(名義上の)家主が台所にやって来た。
「ありゃ。まだ作り出してなかったのか?下ごしらえはあるじゃないか。全部入れちまえ!」
「あ、アレックス。全部入れちゃうのは流石に危ない・・・って、言ってる側から!」
切り揃えられた野菜、肉、魚に、正体不明のニホン物産等の一切合財を、鍋奉行(自称)は鍋にぶち込んだ。
「腹に入れば同じさ!」
「野性的な殿方ですね」
「ちょっとステキ」
「あはは・・・(この馬鹿飛竜乗り!!)」
579 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/12(日) 23:38:54 [ bVh3PVHk ]
夕食の宴は、テーブルの真ん中に置かれた鍋を開くことで始まった。
鍋の中身は・・・赤かった。無遠慮に投入された七味や赤唐辛子による物である。
片栗やチーズに包まれた具材は完全に煮崩れし、原型を留めていない。
日本なら汚れの芸人がバラエティー番組で食べるような代物だったのだが、悲しいことにその異常を察知できる者はこの場にいなかった。
誰もが、この納豆やくさやが混じり異様な刺激臭を放つボルシチ状物体を『鍋』と思って(言い聞かせて)いたのだ。
そしていただきますと共に始まる夕食。
その夜、子供達の悲鳴と泣き声と、五人の男女から暴行された一人の男が、自宅前のゴミ捨て場に捨てられる醜い音が住宅街に響き渡ったという。
580 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/12(日) 23:41:39 [ bVh3PVHk ]
被告人アレックス ゴールトンを食品濫用罪により鍋奉行職から解任し、私刑に処す。
被告の弁明は認めない。子供達が泣き止み次第、直ちに刑は実行される。
『臨時食卓裁判所・裁判長リサ ゴールトン判決文』より
584 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/13(月) 23:56:58 [ bVh3PVHk ]
『上陸まで一分!上陸に備えよ!』
海上自衛隊及び米軍のLCACは、海岸に向かって驀進していた。彼らの進撃を阻む敵空軍と海軍はつい先ほど沈黙し、陸軍は混乱の中で対処が出来ていない。
乗せられているのは、いずれも陸上自衛隊員とその装備である。
それに加え、低空をUH−60やUH−1が人員を満載して飛行し、海岸への降下準備に入ろうとしている。
その周囲をAH−1Sが固め、遥か上空をF−15JとF−2更にハリアーが飛行している。
「帝国の連中に挨拶しに行くぞ!無様な真似はするんじゃない!」
いずれの隊員も表情は暗くない。昨年末の帝国軍との交戦が圧倒的勝利に終わっていることが、彼らを安心させていた。
『上陸地点に到達・・・!』
585 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/13(月) 23:58:31 [ bVh3PVHk ]
LCAC群からまず最初に出てきたのは、73式装甲車、96式装輪装甲車、89式装甲戦闘車、87式偵察警戒車など機動性を重視した兵器だった。
連合帝国には陸上自衛隊の主力戦車どころか、装甲車両を破壊できる兵器は(高位の魔術師は別だろうが)存在しない。
こういった装甲車両でも生存性が高いと判断され、また移動に燃料を大量消費する戦車は運用を嫌われた。
ただし、ナイトロスの魔導砲や要塞砲、アスターの最新鋭戦竜のブレスには必ずしも耐えられないことは、合同訓練で確認済みであった。
そして、ナイトロス半島では多数派遣されていた機甲科や戦車や特科の自走砲は数が減り、普通科主体の第一次派遣となったのだ。
車両に乗り込んでいた普通科隊員と、LCACから直接離船した隊員は海岸線で直ちに簡易な防衛線の構築を始めた。
輸送ヘリからも隊員が吐き出され、89式小銃を油断なく内陸部へ向け、前進の準備を始めていた。
586 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/13(月) 23:59:25 [ bVh3PVHk ]
・・・。
『降下!降下!』
天馬騎士たちは手信号で、レプスブルグ市を囲う外壁の内で最も大きな門に向けて降下を開始した。
レプスブルグに面した海岸は港湾整備で浜とはなっておらず、揚陸部隊は町のすぐ側の浜に展開している。
彼女達のやる事はただ一つ。その門を開けることである。天馬騎士団で開けられなければ、航空自衛隊の爆撃で外壁を破壊する手筈となっていた。
自衛隊はそこから市内へ入るのだ。
ヒュン! ヒュン!
高度が下がり、地上から弓が射かけられてきた。その数は少なく、命中などする筈もなかった。
第三天馬騎士団長が降下の勢いのまま槍で弓兵を貫き、地上に降り立ち
「門を制圧しろ!降伏しない者は殺せ!」
鬨の声を上げたのが短い戦いの始まりの合図だった。
587 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/14(火) 00:00:33 [ bVh3PVHk ]
上空を飛んでいた飛竜のブレスが、反抗の意思を持った兵士に向けて放たれ、幾人も吹き飛ばした。
そこへ天馬騎士が乱入し、一人残らず抹殺していく。
門を守っていた守備兵の士気が一気に低下し、降伏するのに時間はかからなかった。
「ま、待ってくれ!降伏するから殺さないでくれ!!」
数が三分の二まで減ったところで、守備兵たちは武器を次々と捨てて降伏した。
「終わったか。ヨハンナ、エーリカ、卿等の部隊で開門させてくれ。私は兵士達を一ヶ所に集める。」
「分かった。」「無理しちゃ駄目よ。」
皮鎧に刺さっていた弓矢を引き抜き、部下の手を借りて簡単な応急処置をしながら、開け放たれようとしている門を見つめた。
上空にはここ数日ですっかり聞き慣れたヘリコプターのローター音が響き渡っている。
588 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/14(火) 00:01:31 [ bVh3PVHk ]
・・・。
予め無力化されていた海岸沿いの歩哨を一つ一つ制圧しながら、車両と隊員は前進していた。
一部の隊員はヘリボーンでもって外壁に覆われた町の中に侵入を果たし、彼らより地理や情勢に明るい天馬・竜騎士が市の要所の制圧の手引きを始めているはずだった。
ドーーー・・・ン
不意に響く爆発音。町の一角から煙が上がっていた。
投降勧告を拒否したレプスブルグの駐屯騎士団が、拠点ごと誘導弾と爆弾で破壊された音だった。
町に近づいても迎撃らしい物はなにもない。
門をくぐると、先に門を制圧していたエーテルガルド派閥の天馬・竜騎士と、始めて見る自動車に怯える敵兵、窓をきっちりと閉めながら、そこで起きていることを隙間から覗いている市民が彼らを出迎えた。
「隊員は降車し、所定の位置に移動せよ」
ナイトロスによるグリューネブルグ市征服よりずっと早く、静かにレプスブルグ制圧は終了した。
589 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/14(火) 00:02:11 [ bVh3PVHk ]
来た 見た 占領した
『世界の名言・迷言』より
596 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/15(水) 23:01:24 [ bVh3PVHk ]
眼下に見えるのはリューベン市。南方方面軍の拠点で、私が去年の秋ぐらいまでいた街。
出発した時と違って、雪に包まれ歓迎が(どころか迎撃も)ないけど、故郷の国に帰ってきたのね。
『部隊を分けて降下』
手信号で部下たちに指示を出す。市内と、私たちがかつて野営した付近の広場に降りる二部隊に別れる。
この期に及んで竜騎士の一人も上がってこないなんて!熱心に兵を出してたから、南方方面軍は暫くダメね。
これだと、軍団長以下主だった軍人は鬼籍に入ってて間違いなさそう。
小うるさい貴族や腐れ坊主も死んでればいいんだけれど・・・。
597 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/15(水) 23:02:28 [ bVh3PVHk ]
南方方面軍の司令部に設けられた広場に、近衛天馬騎士の半分を降下させた。
「副団長、不気味なくらい静かね。武器で出迎えられる方が良かったわ。」
「静かなら静かで構いません。責任者を見つけて、混乱が起きないように早く話し合いをつけましょう。」
間もなく南大陸の飛竜部隊が、次いでニホンのヘリコプター部隊がやって来る。彼らが攻撃されたりしたら・・・
私は処刑間違いなし!
「司令部に人は・・・ちゃんといるじゃない」
司令部の中から、数は多くないけれどそれなりの人影が現れた。武器は鞘に収まっていて事を荒げるつもりはないみたい。
『・・・エーテルガルド近衛天馬騎士団長殿?』
598 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/15(水) 23:03:24 [ bVh3PVHk ]
司令部内に案内されたけれど、人の数がまばら・・・
『殆どの騎士や上級軍人が出征してそのまま帰ってきませんでしたので、司令部を維持するので精一杯なのです。』
案内をしてくれた若い騎士はそう教えてくれた。ここにいるのは、郷土防衛や治安維持が主任務の地方の騎士団出身者ばかりらしい。
そのまま、事なかれ主義だった軍団長とその取り巻き連中が無駄な話し合いをしていた部屋へと入れられた。
「エーテルガルド閣下・・・生きておいででしたか。第一皇太子殿下以外の皇族はお隠れ遊ばれていた物かと思っておりました。」
代表者らしい男が私に挨拶してきた。兄上が生きてたのは本当なのね・・・チッ
「これはどういう体たらくなのだ!竜騎士の一人でも飛ばして飛行生物の確認をしなければ」
「そうは言われますが閣下、南方方面軍の竜騎士団は全て壊滅して、現在再建中です。分かっていても出せる飛竜はありませんでした。」
599 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/15(水) 23:04:16 [ bVh3PVHk ]
この男には罪は無いし、仕方ないわ。
「ここの貴族は?」
「皇帝選定会議出席の為、殆どの貴族の方と枢機卿や大司祭が帝都に出向いておりまして、それもあって南方方面軍は機能が停止中です。」
ここの連中は、まず軍の建て直しっていう仕事があるでしょうに!それを放って社交パーティーに行くなんて腐ってるわ!
「ま、まぁ再建は春になってから始めるとして、ナイトロス等と和睦をして彼らを連れてきた。領地に入れて構わないか?」
『あなたは何を言ってるのですか』っていう顔をされた。私にもオトナの都合って奴があるのよ。
「許可できないなら連合帝国の皇女の権限で彼らを招き入れる。これなら問題無いだろう?」
「・・・分かりました。市内の兵に伝令を飛ばして、よく伝えておきます。」
600 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/15(水) 23:05:22 [ bVh3PVHk ]
「あー、竜騎士団が残した飛竜用の餌があったら、かき集めて欲しい。宜しいかな?」
副団長ナイス!それは思いつかなかったわ。
「了解しました。いくら確保できるかは分かりませんが・・・」
死に掛けていた本部はにわかに騒がしくなってきた。
「副団長、何人かを空に飛ばして誘導をさせて。」
「御意。」
副団長は控えていた近衛天馬騎士に耳打ちして、彼女を伝令として外へと出した。
するべき事はしたし、今頃西海岸にはニホンの占領部隊が出てたはずだから、この二つを知ったら兄上はどんな顔するかしら?
『団長閣下!後続部隊が接近中です。友軍が誘導を開始しました。』
兄上は束の間の栄達を、せいぜい楽しむことね。
615 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/16(木) 22:30:24 [ bVh3PVHk ]
200X年某月某日、ナイトロス陸軍の演習場の一つで、新兵器の売込みを兼ねた演習が行われていた。
長距離爆撃飛竜リタや高速戦闘飛竜仮称J6K、更には少人数で運用可能な機関銃(マキシムやオチキス相当)、ナイトロス十八番の魔法兵器も多数参加した。
大国の武官は、発表された兵器の自国の同種兵器との性能比較を行う。
有力国の軍関係者は演習を見た上で購入するか、あるいは自国の兵器は更に優れていることを話して購入を促すこととなる。
資金のない小国は、それらの兵器配備に伴い退役する旧式兵器の購入を目当てに、演習に参加するのである。
ナイトロス兵器開発局の有力者サルナーダ技師長は、大方の兵器の実演が終わった頃に登場し、数年前と同じく演説を開始した。
616 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/16(木) 22:31:48 [ bVh3PVHk ]
「お集まりの皆さんはご存知だとは思いますが、我々はニホン列島連合政府陸上ジエイタイの、タイプ74及びタイプ90戦車に対抗できる兵器を持っていません。」
落とし穴、戦艦・重巡の主砲、地雷などは戦車の行動を封じる事が、とりあえず可能であることが確認されていた。
が、子供だましが何度も通じるほどジエイタイは優しくない。
「こんな事もあろうかと、我々は対戦車兵器を開発しました!」
と、いつの間にか彼の後ろに置かれていた車輪付き兵器を指差した。
「炸薬は約1トン!!戦車に限らず全ての陸上障害物を破壊可能です!!」
おー、と上がる歓声。極秘開発中の対戦車ロケット砲の存在を知られていたら、おもちゃだと馬鹿にされていたに違いない。
「では、実戦テストをしてみましょう。」
617 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/16(木) 22:33:47 [ bVh3PVHk ]
目標に決められたコンクリート塊から数百メートル離れた場所に、その兵器は置かれた。
「点火!」
車輪部に取り付けられたロケットが続々と着火され、車輪が回り始めて移動しだした。
そのまま加速し、直線に進む
・・・はずがなかった。小石に乗り上げた拍子に進路が変わり、あろうことか来賓席に向かってきたのだ。
「逃げろ!」
「退避!」
来賓(他国の軍関係者)は近くの塹壕や退避壕へと慌てふためいて飛び込んでいく。
来賓席に達したところで新兵器は炸裂し、宣伝文句どおり周囲の障害物(来賓席)を吹き飛ばした。
これ以降、この危険極まりない兵器は歴史に登場していない。
626 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/17(金) 23:56:29 [ bVh3PVHk ]
『ジーク01よりジーク各騎へ!ジーク隊、着地準備!』
先行して到着していた近衛天馬騎士の誘導で、城の中庭のような場所に、今着地しようとしている。
ぼふっ
雪を踏みしめる音と共に着地した。
「銃構え!」
着地するなり、肩にかけていた新型銃を持ち替え、いつでも撃てる態勢にする。
万が一に備え、今回の俺達は陸戦もとりあえず出来る装備で来ている。
『大丈夫だ!敵はいない!』
天馬騎士の呼びかけで、構えていた銃を戻した。杞憂だったな。
「ジーク隊は飛竜を脇に寄せろ。後続部隊の邪魔になる。」
隊長の命令で、相棒を庭の端に移動させた。
627 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/17(金) 23:57:24 [ bVh3PVHk ]
続々と後続がやって来る。オスカー隊やベティ隊。どれも長距離の移動が可能な飛竜に搭乗している。
ナイトロス空軍飛竜に混じり、中尉のイリューシンが単独でやって来た。
「同志大尉・・・ここは寒いであります。」
降り立った始めの一言がそれかよ!てめえのご先祖様はここを首都にしてたんだぞ。
「自分は友軍の着地地点を確保しなければならいので、これで失礼します。」
白い息を吐きながら、中尉は発煙筒と発光魔法で友軍の着地誘導を始めた。
「大尉。大尉は放っておいても大丈夫ですから、荷物の整理をしましょう!」
リサに促され、相棒に括り付けていた予備の弾薬やら食料やらを降ろして、チェックもする。
携帯食料はどれも凍りついてやがった。食う分くらいは温めないといけないな。
628 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/17(金) 23:58:21 [ bVh3PVHk ]
少尉は結構最後のほうで来た。
「あ、あ、あにゃ・・・」
軽量化のために防寒服もまともに着ていなかったこの馬鹿猫は、全身に霜が降りていて、真っ青な顔でこの地に降り立った。
「寒・・・」
そのまま倒れこんだ。可哀相なので、奴が大尉に預けていた防寒服を取ってきてやり、焚き火の近くまで運んでやった。
「後はジエイタイだけですね隊長。」
「噂をすれば何とやらだ。来たみたいだアレックス。」
ヘリコプター部隊は雪を撒き散らしながら、ゆっくりと着陸してジエイタイ隊員を続々と吐き出していく。
一機あたりの人数は10人ぐらいか?残りはいろんな物資を積んでいるようだ。一度降り立って点呼が終わると、機内に戻って物資の搬出をしている。
俺達の準備は終わっていたので、銃や護身用剣の手入れをしながら、せわしなく動き回る彼らをずっと見ていた。
629 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/17(金) 23:59:26 [ bVh3PVHk ]
・・・。
「ふー、このスープあったかいなぁ。そう思わないか相棒?」
ジエイタイから支給されたスープを啜り、相棒に話し掛ける。
相棒は天馬騎士団が用意した餌を一心不乱に食っている。久しぶりの長距離移動だから腹は減って当然だ。
焚き火を囲んで、あるいは薄暗い電気灯を囲んでみな食事を取っていた。
飛竜用の竜舎は航空ジエイタイの空爆で破壊されていた為、やむを得ず露天で飛竜を配備している。
「少しぐらい寒いのは我慢してくれよ。な?」
グルルルッ
機嫌は・・・よく無さそうだ。
630 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 00:00:29 [ bVh3PVHk ]
右隣では、リサが彼女の相棒に包まれて仮眠していた。暖かい・・・のか?
正面、少尉は毛布の中でガタガタ震えていた。怯えた子猫ちゃんだよな、これは。
左隣、中尉は例の工業用エタノール酒をあおっていた。仲間と何か革命歌らしいのを歌っている。
酔っ払っている様子はない。体を暖める為に飲んでるんだろう。
少し離れたところでは、隊長クラス以上の竜騎兵と帝国の皇女様に、ジエイタイの指揮官らしい男が何やら会話している。
いつ出発かは分からんが、もう夜だし見張りの時間がくるまでリサに倣って眠っておこう。
「なぁ相棒?リサみたいに・・・ぐえっ」
ガルルッ ゲシ!
尻尾で思い切り叩かれ、不本意なうちに仮眠を強制的に取らされることになった。
639 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:45:20 [ 6LnEKb3. ]
「ジーク隊、全員準備はできたか!?」
「準備完了!いつでもいけます!」
結局一泊でこの街を去ることになった。少尉は体調を悪くしたので、同じく残る部隊と留守番だ。
中尉は俺達についてくる。剣を入念に手入れしてるって事は・・・
皇女様とその部下は、地図をジエイタイ指揮官に見せながら最後の調整をしてるようだ。
あれが終われば出発なのかな。
「相棒、もう何日か我慢してくれよぉ」
相棒は何も言わない。喚くと体力を浪費する事を悟ったのか、必要な時以外はあまり動かなくなった。
「大尉・・・また戦うんですかね?」
リサ・・・
「俺には分からないよ。あの血みどろの戦いはうんざりだけどね。」
640 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:47:38 [ 6LnEKb3. ]
・・・。
「後方から兵士を直接運んでくる?ここにいるジエイタイ兵でも十分ではないのか?」
「彼らは普通科隊員・・・所謂軽装歩兵ですから、市街戦や屋内戦闘も得意なはずの特殊作戦群を追加で落下傘降下させます。」
ニホンが大丈夫というなら文句はないけど、ラッカサン降下?何それ?
「そちらが兵を出して頂けるなら文句はない。ではアレはヘリコプターで輸送という方向で宜しいか?」
「皇女殿下の御心のままに・・・」
あ、そう。ペガサスで運ぶのは結構大変なのよね。重いし。まとめて持ってきてくれるに越したことはないわ。
「ジエイタイそしてニホンの協力に深く感謝する。」
なんだかゾクゾクする。戦いがそう遠くないのを身体は知ってるんだ。
「副団長・・・」
脇に控えていた副団長に話しかける。
「これから先、私が起こす事を黙って受け入れてね。命令よ。」
641 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:49:31 [ 6LnEKb3. ]
・・・後方、エルビヌメイン航空基地・・・
「これに乗るのですか?」
「そうです第二王子殿下。」
王子の前にあるのは、大型輸送ヘリのMH−53。彼を帝都まで運ぶのだ。
「王子殿下は乗り物は駄目でしょうか?」
「一通りの乗り物には乗ったけれど、飛行機には乗ったことがなくて・・・」
「このへりコプター以外では、あれに乗って行けますが?」
自衛隊幹部が指差す先には、輸送機が何機か並んでいる。
「パラシュート降下で帝都に入ることとなりますが?」
パラシュートが何かは分からなかったが、身の危険を王子は感じた。
「ヘリコプターで行きます。荷物を搬入するのでもうちょっと待ってください。」
642 名前:171 ◆IJDVx.pBRY 投稿日: 2006/11/18(土) 22:51:39 [ 6LnEKb3. ]
・・・帝都ハフニノープル市・・・
第一皇太子を皇帝として認可する皇帝選定会議の日を迎え、当の皇太子はかなり浮かれていた。
ライバルとなる下の皇太子達や皇女は戦いの中で戦死し、現皇帝の所在も不明とあっては、自分以外に皇帝になれる人間がいるはずがない。
軍事力の極端な低下は問題だが、時間をかければ再建可能と踏んでいた。
帝国全土から有力な貴族や聖職者が帝都に集まっており、怪死を次々と遂げている中堅以下の貴族の領地を巡る争いの方が大変になると、皇太子は読んでいる。
どちらかと言えば薔薇色の未来を創造していたところで、伝令の伝言を聞いた腹心が、血相を変えてやって来た。
「レプスブルグとリューベンに敵が現る?余はそのような戯れ言に付き合っておる暇はない。」
「しかし、その中に天馬騎士団とエーテルガルド殿下が居たという・・・」
「ええい!天馬騎士もエーテルガルドも、ナイトロスの野蛮人に捕まってむごい殺され方をしたのだ!」
彼は都合の悪い情報を封印することにした。
「全く、最近の伝令はなっておらん!」