327 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/17(火) 00:00:38 [ yED6NQag ]
『殿下、外惑星基地及び全ての宇宙都市との通信が取れません』
 通信士は申し訳なさそうに報告する。
「月面基地はどうしたんだ。いくらなんでも帝國政府が基地を引き払うはずが・・・」
『能動的応答ありません。基地機能の低下を告げる自動発信通信は出しております・・・』
 月面基地すら放棄したと言うのだろうか。
「殿下・・・幾年ぶりの故郷の歓迎は寂しい限りですな。」
 司令官席に座る探査団司令は寂しそうに言う。
 それを見て、大日本帝國の血統を残した皇太子は肩を竦めるのだった。

 遡ること約千数百年前、皇紀3200年の某日、帝國皇太子を代表とする恒星間探査船団が月面基地を出発した。
 皇太子は閉塞感極まりない地上世界に苦痛を感じ、星の海へ出ることを願った。
 当時の帝國および世界は爛熟の域に達していた。そして同時に腐敗が始まっていた。
 星を越える力を持ちながら人々は地上にしがみつき、星系内各所に散っていった移民たちも、続々と地上世界へと帰還してきていた。
 人々は目先の利益と享楽にとらわれ、冒険心という物を喪失しきっていたのだ。
 一際強い好奇心を持って、その時代に生まれてしまった皇太子には、毎日が汚泥に身を沈めるような苦痛だったのである。
 そして、宇宙開発省の皇紀3200年記念・他恒星系探索隊の募集に、いの一番に応じたのだ。
 親族たる皇族や政府は強硬に反対したが、その頃はまだ皇位継承者は少なくなったとは言え複数いたので、最終的には押し切ってしまった。
 そして、その時代の意欲ある者たちを乗せた探査団の船団は、この時代に今生の別れを告げて旅立った。

 いくつもの恒星を巡り、様々な発見をした探検団は意気揚々と帰還し、歓迎のなさにがっかりしていた。
「皇紀も4000年、5000年となれば、我々を忘れてしまうのでしょうか?」
「分からないよ。引き続き月面基地、本土防空識別局、フランシアーノ低緯度地区航宙管制・・・どこでもいい。連絡を試みてくれ。」
『了解しました殿下。』
 通信士たちは再び、あらゆる場所と連絡を試み始めた。
「二時間で返答がどこからもなければ、本星に独自航法で着陸する。分かったかい、司令?」
「了解しました。念のため、護衛艦の火砲使用権限を小官に委譲してください。」
「どうぞ」
 皇太子の目線の先には、徐々に大きくなる青い惑星が浮かんでいた。


329 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/17(火) 00:02:54 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「旦那様ー!そろそろ準備を始めませんと、出立が遅れてしまいますよー!」
 私室の外でメイド達がわめいていた。
「待て。『皇紀5000年宇宙の旅・前編』を見始めたばかりでな』
「旦那様!そんな長編映画を見ておりましたら、後編を見終わる頃にはお昼になってしまいますよ!」
「待ってくれ。付属映像の『大内海の嵐・予告編』くらいなら・・・」
 メイド達が足音を立てて部屋に入ってきた(突入とも言う)。その猫耳はいずれもピンと立っている。
 怒らせるのは得策ではない。
「確かに列島政府を怒らせるのは困るしな。そして空軍大将としての責務を果たさないと・・・」
 着替えながら、言い訳じみたことを言う。メイドたちの目は冷たかった。
 話題を変えよう。
「アイツはどうした?」
「奥様ですか。特に連絡はありません。」
 アレのことだ。前日まで接待で泥酔しても、次の日には礼装に身を包んで笑顔で会話する女だから、大丈夫だろう。
 案外、先に乗り込んで日本の各コングロマリットの経営者と接触してるかもしれない。
「旦那様、あと30分で軍の公用車が到着します。急いでください。」
「公用車ねぇ。味気ないな。」
 2040年の静かな一日が、また始まった。



332 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/18(水) 01:23:57 [ yED6NQag ]
「さぁ王子様!どうしたの?まだ私に一太刀も浴びせてないわよ!」
「そんな事言ったって・・・せいっ」
 木槍を構えた帝国皇女へ距離を詰め、木剣を振り下ろす第二王子。
 あっさりとかわされ、槍の柄で腹部を突かれる。が、わずかに手元が狂い、急所に当たってしまった。
 王子は惨めに崩れ落ち、声にならない悲鳴を上げ、股間を押さえて悶絶した。
「エーテルガルドは強いな。連合帝国随一の戦士というのは偽りではないか・・・」
 離宮の中庭で繰り広げられた訓練(第二王子にとってはただのシゴキ)はこうして終わった。
「私は連合帝国で十本の指に入る戦士ですが・・・一番ではありません。天馬騎士としてなら五本の指に入るでしょうか。」
「謙遜などするものではないぞ。」
「いえ、ご光栄に預かり感謝しております。」
 第二王子が泡を吹いて転げまわる中で、ナイトロス王とエーテルガルド皇女はにこやかに会話をしていた。

333 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/18(水) 01:24:49 [ yED6NQag ]
 こうなったのには色々と理由がある。
 捕虜になった後、エーテルガルドはペガサスの騎乗どころか、まともな鍛錬をしていなかった。
 つまり、身体が鈍りつつあった。近衛天馬騎士団長として、それは好ましいことではない。
 捕虜と言う立場故にその手の要求はしていなかったが、鬱積した気持ちを国王が察したのか、離宮の警備をしている兵士訓練の相手をしないかと誘われたのだ。
 ナイトロス半島の捕虜収容キャンプから届けられた武具一式を見た時の感動は例えようがなかった。
 着慣れた姿になった時、彼女は近衛天馬騎士となった。さすがに槍は木製の訓練槍だったが。

「遅いわ!私とダンスしたいならもっと早くなりなさい!!」
 数人の警備兵がエーテルガルドを取り囲み、攻撃している。得物は木製の戦棍や剣、槍だった。
 彼らは王室の護衛官であり、銃と剣の両方に精通している。それが、子供のようにあしらわれていた。
「はい!不合格!魔法無しにしては頑張ったんだけどね。」
 槍を一閃。それだけで全員が武器を叩き落されていた。拳で殴りかかろうにも、槍を構えた帝国の貴人には隙が無かった。

334 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/18(水) 01:25:47 [ yED6NQag ]
 そんな中で、彼女の将来の夫である第二王子が、将来の妻に恥じない程度の力を持つのを期待されるのは仕方なかったのかもしれない。
 たしなみ程度しか持った事のない剣を構えて、婚約者の前に立ちはだかる。
 目の前には、二人でいる時に見せる愛らしさの欠片もない天馬騎士たちの長がいた。
 戦いの結果は火を見るより明らかだった。
 標準レベルの剣術では、剣を交えることすら許されなかった。
 剣を振って、剣が振れなくなるまで回避されてへばるか、戯れに反撃されて地面に倒されていた。
「ほら、立ち上がりなさいよ。まだ一回倒れただけよ!」
 そんな二人を、国王は満足そうに眺めていた。

335 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/18(水) 01:27:02 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「あのひどいよエーテ。急所攻撃は反則じゃないかい?」
「避けられないほうが悪いし、戦場なら何でもありよ。」
「王族が戦場に出る時は、この国が終わる時だよ。」
「私も?実際、終わったようなものだけど。」
「どうかな。未来の皇帝陛下、そして我が妻よ。」
「何よ改まって・・・気持ち悪い!」
 いつものように離宮を抜け出し、酒場で酒を飲み明かしていた。
 最初の頃よりぎこちなさが減っている。
 オキシゼ離宮と第二王子のエーテルガルド社会学習の成果かもしれない。
「銃と魔法に頼りすぎるから負けるのよ。ま、最初よりは強くなったわ。」
「ありがとうエーテ。今日はもう少し飲もう。」
 1月は静かに終わろうとしていた。



357 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/19(木) 01:27:50 [ yED6NQag ]
>>340

「貴様・・・閣下の事を『エーテたん』とお呼びになったな・・・!」
 近衛天馬騎士団副団長は、表情の無い顔で>>340を見おろしていた。
 もっとも>>340は喉と目を潰され、耳と鼻を削ぎ落とされ、全身の腱を切られていてそれどころではなかった。
「皇帝陛下も貴族も部下も私も、閣下のことを「エーテルガルド」とフルネームで呼んでいたのに!!」
 副団長の拳はこれ以上ないほど強く握られ、鮮血が溢れ出していた。
「閣下の事を『エーテ』と呼べるのは、根暗王子だけだ!その罪、全身に刻み込んで地獄に落ちろ!」
 その時、副団長は間違いなく血の涙を流していた。
 先の拷問で>>340の血がこびり付いた槍を、何度も何度も、周囲に控えていた近衛天馬騎士達が制止するまで振り下ろした。

 数日後、沿岸警備隊の哨戒艇が大陸海峡で、樽詰めにされた人間の様なものの死体を引き上げた。




379 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:16:45 [ yED6NQag ]
 二月に入り数日、連合帝国の皇女エーテルガルドとナイトロス王国の第二王子は、船上の人となっていた。
「これが二つの大陸を隔てる、海峡ね。」
「そうだよ。・・・大丈夫?」
 第二王子がそう聞いたのも無理は無い。婚約者は真っ青な顔で甲板に座っていたからだ。
 覇気の無い顔で海をずっと眺めていた。全てを失った悲劇のヒロインの情緒を醸し出している。
「船室に戻ったほうがいいよ。」
「・・・戻ったら、間違いなく粗相をするわ。ここは風が気持ちいいし・・・」
 エーテルガルドが始めて船で渡航したときの失敗は、本人から聞かされていたので、それ以上は言わないことにした。

380 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:17:43 [ yED6NQag ]
「本当に不思議な船。帆なしで動くなんて。」
 話題は船そのものに移った。煙突から黒煙を吹き上げて、王室貸切の貨客船は海峡を北上している。
「熱と蒸気の力で動くんだっけ?」
「うん。水から蒸気になる時の体積の変化で・・・」
「いろいろ教わったけど、良く解らないわ。一月ぐらいであなた達の学問を理解できるわけないじゃない。」
 普段なら声を張り上げるところだが、船酔いした彼女は静かに否定しただけだった。
「ごめんごめん。落ち着いてから、ゆっくり学ぶといいよ。」
 エーテルガルドは基礎教養を習得していたこともあって、ナイトロス文字や文化・風習についてはすぐに理解した(ナイトロスの元が帝国なので、極端な差が無かったせいもあるが)。
 それでいても当然といえば当然だが、科学や一部の魔法学分野の学習に関しては非常に苦労している。
 中世クラスの人間に、工業化時代の英知をいきなり学ばせるなど、非常に困難だ。

381 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:18:35 [ yED6NQag ]
「この後、フランシアから一度前線まで行くのよね?」
「国軍大臣が言ってたね。君の部下や他の捕虜に説明しに行くんじゃないかな。」
 国王の要請で、三月初めまでに連合帝国側の捕虜は、陸上自衛隊の北大陸西部派遣部隊と共に返すことになっている。
「ナイトロス人ならともかく、君は軍人で皇族だからね。君の説得があれば、動いてくれるさ。」
「ならいいけど。私の直接の部下なら従ってくれそうだけど、他の捕虜はどうでるか分からない。」
 二人とも黙ってしまった。そこへ声がかけられる。
『王子!皇女殿下!前方から船が来ますので舵を切ります!何かに掴まってください!』
 船員が言い終わる前に船は進路を変え、甲板は大きく傾いた。
「きゃぁっ」
 船酔いで足元のふらついていたエーテルガルドは見事に転び、それを引き止めようとした王子も巻き込み・・・
(くちづけしちゃった・・・でも、憶えてないけど副団長としたと皆言ってたし・・・)
 驚いて目を見開いている第二王子に対して失礼なので、その事は今は言わないでおこうと決めたエーテルガルドだった。

382 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:19:25 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「・・・・・。」
「副団長閣下?」
「・・・・・。」
「副団長閣下!」
「え、ええ。何?」
「この辺りの雪かきは終わりました。次はどこの雪かきですか?」
 怪訝な顔の近衛天馬騎士を無視して、副団長は矢継ぎ早に命令を出した。
「あの子たちはもう少し東を、あなたは部下を連れてあっちを、残りは警備兵に場所を聞いて移動しなさい。」
「了解しました。」
 事務的な返事をして、その近衛天馬騎士は指示を出すために去っていった。

383 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:20:28 [ yED6NQag ]
(団長閣下が帰ってくる・・・)
 エーテルガルドの副官である彼女は、同時に配下の軍団の次席指揮官である。
 エーテルガルド帰還の報は、ナイトロス王国軍から直接伝えられた。
 そして、捕虜の中では彼女しかその情報を知らない。
(第二王子を連れて・・・!)
 雪かき用のスコップの柄が、握り締める力に悲鳴を上げている。
 それすらも聞こえず、心の中はどす黒い妄想に侵されていた。
(きっと閣下は高慢で不細工なナイトロスの第二王子に、無理やり関係を迫られて・・・)
 泣き叫びながら第二王子に組み伏せられる近衛天馬騎士団長。王子はそれすら楽しみながら彼女の純潔を・・・
 ベキッ
「副団長閣下!どうかなされましたか!?」
「何でもない!作業に戻りなさい!!」
 スコップの折れる音を聞きつけた何人かが駆け寄ってきたが、適当に追い返す。
(私が・・・決着をつける・・・!!)

384 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:21:11 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「暖かい。暖炉は良いな同志少尉。」
「いや全くです、中尉。」
「おい・・・」
 こいつらときたら、訓練以外では一歩たりとも外に出なくなっちまった。
「外で遊んで来い!」
「何故です同志大尉?」
「大尉が外に行けば解決しますよ。」
 少し前、アホみたいに基地の雪原で遊びまわってたのは、どこのどいつだ!

385 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:22:49 [ yED6NQag ]
「同志大尉は、小官の飛竜に追いつけないのが悔しくて八つ当たりしてるんだ。」
「大尉も負けず嫌いですね。新型飛竜に乗り換えるのを待てばいいじゃないですか!」
「ば、馬鹿野郎!長年連れ立った相棒を捨てられるか!」
「・・・同志、少し頭を冷やしましょう。」
「うん。それがいいです。」
 畜生め。最初の頃は純朴な人間だったのに、今じゃこの調子だ。
「いってらっしゃい大尉。猫と竜は暖炉で丸くなってますね。」
「丸くなる?あれか!警戒心を解いた猫人族の!同志少尉・・・一緒に丸くなって・・・」
「ちょ、え、あ、ああ・・・あああ・・・アッーーー!」
 中尉よ、それは格闘技の技か何かか?

386 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/20(金) 23:23:55 [ yED6NQag ]

 クレーグ ナイトロス(1981〜2058)

 ・・・共統ハフニー帝国皇帝エーテルガルドの夫。一般にナイトロス大公の名で知られる。
 標準暦2006年、オスミア=ハフニー連合帝国皇女エーテルガルドの皇帝即位と共に結婚する。
 一部の人間に極めて不人気ではあるが、彼は妻である"再生帝"エーテルガルドを愛していたのは間違いなく、
 最初に肉体関係を迫ったのはエーテルガルド帝のほうであり、彼には罪が無い。
 そして腰巾着でも無能でもなく、ナイトロス王国の人脈を使って帝国の再建と成長に尽力している。、
 武人にして麗人で政治家の妻を、たなぼた的に手に入れたことをひがむ勢力によって不当な扱いを受ける悲劇の人である・・・

『帝国最終王朝興隆史 第一巻』より


396 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:17:10 [ yED6NQag ]
「同志大尉!早く早く!」
 扉を開けるなり、中尉がいきなり叫んだ。
「何だぁ中尉!寒くて風邪引いたか?」
「違いますよ同志大尉!決闘であります!」
「決闘〜?」
 いつの時代の言葉だ?中尉の雰囲気からして嘘・・・じゃないな。
「どこのどいつとどいつの決闘だ?」
「王子様と副官であります!」
「!?」

397 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:17:51 [ yED6NQag ]
 走りながら中尉に聞くながら、決闘に至った経緯を聞いた。
 俺とリサが戦った皇女様が、第二王子殿下を引き連れて基地に来たらしい。
 そうしたら、皇女様のいた騎士団の副官が、王子殿下に決闘を申し込んだそうだ。
「あの時の副団長の決意の目は・・・正直言って自分も恐怖を感じました。」
 中尉が怖くなるというのだから、相当なものだったんだろうな。
 騒ぎを聞いたのか、あちこちから人が集まってる。
「あー二人とも!ここです!いい場所を取っておきましたよ!」
 人だかりの中に少尉がいる。場所取りしていたようだ。
 ギャラリーを押しのけて、少尉のいる場所に着いた。
「良かった二人とも、丁度世紀の大決闘が始まる所です!」

398 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:18:31 [ yED6NQag ]
 ・・・。
 第二王子は両手剣を、副団長は両手槍を構えている。どちらとも斬れば死ぬ真剣である。
「副団長!馬鹿な事は止めなさい!この決闘に何の意味があると思っているの?」
「団長閣下!聞かないで下さい!私はこの男が閣下に相応しい人間か試すだけです!!」
 決意が固いのか、近衛天馬騎士団長の声にも頑として首を縦に振らない。
「王子も!あの程度の剣術だと細切れにされて一巻の終わりよ!」
「皇女様、漢には引けない戦いがあります。例え相手が女性であったとしてもです。」
 王子は兵士から借りた王国陸軍の正装を、副団長は近衛天馬騎士の鎧を纏っている。
 エーテルガルドは遂に沈黙した。王子はどうか分からないが、副団長は本気だったからだ。
 二人を遠巻きに囲むこの基地の兵士や捕虜は、色々と囃したてている。

399 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:19:04 [ yED6NQag ]
「尋常に勝負!」
 副団長の一言が合図だった。
 一気に間合いを詰め、必殺の一突きを王子に繰り出す。
 ガキィィン!
 第二王子は辛うじて剣で槍の軌道を変える。
「お前が・・・」
 素早く槍を引き、再び王子に向けて突く。
「お前のせいで・・・」
 今度は剣で受け流さず、身体を捻ってかわす。
「団長が私を!」
 それを見越して、副団長は槍を持ち直して、王子へと槍を振り下ろす!
「私を必要としなくなる!!」

400 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:20:08 [ yED6NQag ]
「待ちなさい!」
 第二王子に突き刺されるはずの槍の切っ先は、横から突き出された槍に阻まれ、雪原に突き刺さった。
「閣下!どうしてですか!」
 そのまま副団長を抱きすくめる。
「副団長・・・あなたらしくないわ。」
「どいてください!私はその男を・・・!」
「参ったわね・・・。」
 副団長は熱病に浮かされたようになっている。エーテルガルドは童話じみた解決方法を、内心恥ずかしがりながら実行した。
「私は・・・!」
 言い終わる前に、口をふさがれた。敬愛する上司で連合帝国の貴人の唇に。
「・・・心を閉ざした氷の国のお姫様。王子様ではなく無骨な女騎士の接吻ではありますが、お目覚めになられましたか?」

401 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日: 2006/10/21(土) 23:20:23 [ W3TZZwyY ]
結局、エーテルガルドは「さげまん」なのか「あげまん」なのか解らん。

402 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:21:47 [ yED6NQag ]
「・・・閣下、閣下!私、閣下に必要とされなくなるのが怖かったんです!だから!」
 緊張の糸が切れたのか、副団長は泣きながら心の中のわだかまりを吐露しだした。
 王子やギャラリーは空気を読んで、続々と退散していく。
「あなたを捨てるわけないでしょ。あなたは大事な部下よ。今もこれからも変わらない事実。」
「う、う、うわぁぁぁぁああ!」
 恥も外見も無く、副団長は泣き出した。
「今日は私に好きなだけ愚痴を言いなさい。全部聞いてあげる。」

 その夜、副団長はエーテルガルドの前で誓いを立てた。証人となる天馬騎士たちを脇に控えてである。
「団長閣下。私は死ぬまで閣下を支えます。閣下の望む未来が私の望む未来です。」
「分かったわ副団長。・・・近衛天馬騎士フランツィスカ エンツェンベルガー、お前は私に忠誠を尽くすか?」
「はい。私は死しても閣下を守り、補佐し続けます。そして、この誓約を未来永劫守ります。」
 ・・・この『エルビヌメインの決闘』後、副団長は一切の嫉妬心を見せることなく、エーテルガルドを終生補佐し続けた。

403 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:23:05 [ yED6NQag ]
 フランツィスカ エンツェンベルガー(1983〜2072)

 ・・・"天馬六星"の一人であり、後世の人間は彼女を忠義の人間と評する。
 近衛天馬騎士団に入団後、順調に出世してエーテルガルド近衛天馬騎士団長の参謀職を務める。
 北大陸戦役で虜囚となった後、一時期精神に異常を来たすが、後に回復。
 エーテルガルドの皇帝即位後は、主席執政補佐官として長く皇帝の補佐を勤める。
 高齢により公務を退いた後も、良き相談相手として皇帝の傍にあり続けた。 
 標準暦2072年のエーテルガルド帝崩御と国葬の後、霊廟前で服毒自決。
 近衛天馬騎士の正装で、霊廟入口を守るように死んでいたと伝えられている。
 皇帝との誓約と家族に残した遺書を尊重し、彼女の墓は霊廟の入口に佇み、訪れる者を今も監視している・・・

『母星観光地ガイドブック 北大陸編』より

404 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:25:19 [ yED6NQag ]
おまけ>>389-390

「やっぱり来たね皇帝陛下・・・」
 部屋の中に、(おそらく槍を構えた近衛天馬騎士装束の)皇帝が入ってきた。
「ええ。貴方との戦いに決着をつける為に。・・・覚悟は出来てる?」
 大公は後ろにいる皇帝を見ない。振り返って顔を見せれば、皇帝の決意を鈍らせてしまうだろうから。
「・・・君と最初に会った日の事は憶えてるかい?」
「もちろん。オキシゼ離宮の浴場で全裸で、私は絶叫したわ。」
 互いに顔を会わせず、二人が仲睦まじかった頃の思い出が次々と語られていく。
「良かった。君は全て忘れてしまったのかと思っていたよ。」
「何言ってるの!あんなに楽しかった頃の事を、どうやって忘れろっていうの・・・」
 皇帝の声には嗚咽が混じっていた。泣いているのかもしれない。
「思い出話はもう止めよう。皇帝陛下、私に止めを。そして帝国の未来をお造りになってください。さよならエーテ。私の愛しい妻よ・・・」
「・・・・・さようなら、私が愛した唯一の男性。貴方の事も思い出も決して忘れない!」
 寸分の狂い無く、皇帝の槍は夫の心臓を貫いた。

405 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/21(土) 23:26:50 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「あなた、大丈夫?すごくうなされてたわよ?衛兵か医者を呼ぶ?」
 目を開ける。ここは皇帝宮の寝室で、不安そうな顔で自分を見つめているのは・・・
「いや、エーテ。悪い夢を見ていただけだ。大丈夫。」
「どんな悪夢?」
「帝国が内戦になって、エーテと私が別々に担ぎ上げられて戦う夢。最後に君に殺された。」
「大した悪夢ね。そんな事を扇動しそうな連中は全員首を刎ねたでしょ。」
 皇帝でもある妻は苦笑している。全くその通りだった。
「守らなくちゃいけないものが増えたのに、正夢になるはずないわ!」
「選ばなかった選択肢の未来を垣間見たのかもしれないね。その世界からの警告だったのかな。」
 夫婦の間には、二人の未来と愛の証しが小さな寝息を立てている。



411 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/22(日) 21:35:16 [ yED6NQag ]
「天馬騎士団長は全員集まったかしら?」
 目の前には5人の天馬騎士が居並んでいる。第一天馬騎士団から第五天馬騎士団の騎士団長たち。
 第一・第二天馬騎士団は元々私の配下の騎士団で、第三天馬騎士団は辺境の女性騎士たちをかき集めて結成、第四・第五天馬騎士団はそれを更に分割して結成・・・
 我ながら、よくこんな編成で善戦できたわ。まぁ、最初から居た部下は私を信頼して、辺境の兵士達は戦い方に拘らない集まりだったから、良かったのよね。
 正規の帝国軍や竜騎士団だと言うことを聞いてくれなかったはず。これはこれで結果オーライだわ!
「久しぶりだけど、何か問題はあった?」
 色々と報告を受ける。
 食事は単調ながら充分支給されている。襲い掛かってこない。・・・などなど。
「そちらの方は大丈夫みたいね。」

412 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/22(日) 21:37:02 [ yED6NQag ]
 私の方からも色々と伝える。私とナイトロス王子との事、負傷した兵士の扱い、配下でない捕虜の処遇、父上の状況。そして・・・
「第三、第四、第五天馬騎士団と、近衛天馬騎士団を含めた全ての徒歩騎士は、全て西に移動。ペガサス騎乗の近衛、第一、第二天馬騎士団員はここで待機して、北上の準備を整えておきなさい。」
「エーテルガルド閣下!理由を教えていただきたい!帰還するならば全員が北に・・・」
 眼帯の第三天馬騎士団長が、生真面目に聞いてくる。昔、会った時と(→エログロスレ参照)全然変わってない。結婚して落ち着けばいいのに。
「それは副団長の私から。南方方面軍司令部のあるリューベン市から帝都ハフニノープルへ、閣下を含めた天馬騎士だけで北上します。」
 副団長は、この手の語りには欠かせないわ。
「残りの方々は、ナイトロス半島西岸の海岸から、船で帝国西部に直接上陸していただきます。」
「しかし何故・・・」
「ごめんなさいね。それ以上は秘密で副団長にも伝えてない。西に向かうのは数日後だから、該当する兵士達を行軍させる準備を始めて。それと、王国から許可を取ったから、ペガサスはいつでも実戦に出せるようにしておきなさい。」
 最後の一言に全員の顔が喜色に彩られた。フランシアに一度帰らないといけない私から出来る、数少ない贈り物かしら。

413 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/22(日) 21:38:20 [ yED6NQag ]
「副団長、私は王国首都フランシアに出向かないといけないから、これで失礼するわ。それまで頑張ってね。」
「はい、団長閣下。」
 天幕から出て、ナイトロスの兵士に囲まれて基地の外へと向かう。天幕内からは矢継ぎ早に指示を飛ばす副団長の声が漏れ聞こえている。
 もう彼女は大丈夫。立派にやってくれるはず。
「エーテ、話は終わったかい?」
「終わったわ王子様。それともクレーグと読んだほうがいい?」
 第二王子は私を待っていた。怪我はしてないみたいで、冬服を着込んでいるだけだった。私も鎧類は脱いでいる。
「どっちでも良いよ。これから、フランシアで国軍の重鎮と官僚や政治家達に会うよ。魑魅魍魎の集まりだから心してほしいな。」
「会議の時よりも凄いの?」
「あれは外交上の付き合いもあるから。内向きの会談ならもっと酷いよ。」
 気が滅入りそう・・・

414 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/22(日) 21:40:06 [ yED6NQag ]
 天馬六星
 ・フランツィスカ エンツェンベルガー(1983〜2072)
 ・ロベルティーネ フォン コルネリウス(1978〜2053)
 ・ティルラ フォン フォルトナー(1979〜2052)
 ・クロジンデ カーマン(1972〜2048)
 ・ヨハンナ ファウルハーバー(1978〜2068)
 ・エーリカ オルデンベルク(1975〜2045)

 ・・・エーテルガルド帝即位時の、六つの天馬騎士団の代表者(近衛天馬騎士団は副代表)達の尊称。
 それぞれ主席執政補佐官、帝国警察軍長官、帝国議会議長、辺境管区司令、東管区司令、西管区司令が代表される職。
 エンツェンベルガー、コルネリウス、フォルトナー以外は北大陸戦役寸前で天馬騎士団を任される。
 戦役後は捕虜になるが、帰国後もエーテルガルドに付き添い、帝国の再生を軍政両方から支えた。
 彼女達の存在が帝国内での女性進出を大幅に促し、発展に寄与したことは間違いない。 
 そして、全員が平民か名前だけの下級貴族で、階級社会を打ち壊すきっかけも作り上げた。
 エーテルガルド帝の活躍ばかりが注目されるが、彼女達やナイトロス大公、名も無き文官・武官や帝国人民の協力があってこそ、再生帝の改革が実行できたことを忘れてはいけない・・・

『受験生のための母星史 事件・人物・用語解説集』より


421 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/25(水) 01:20:53 [ yED6NQag ]
「アレックス、ジーク隊に新しい任務だ。」
 二月に入って久しいし、帝国がやって来ることは無いだろうし、・・・首都防空に戻るのか?
「北に行くぞ。」
「北?エルビヌメインより北って、まさか・・・」
「そのまさかだ。基地司令官閣下からニホン国との共同作戦が間もなく発表される。ジーク隊は強制参加だぞ。」
 ジエイタイと共同で北に行く。リサも病み上がりでくっついて来るんだろうか。
「いつ頃ですか隊長?」
「3月の始めらしい。あまり早く行っても降雪がひどいだろうから。それと、ジエイタイの準備に少し時間がかかるそうだ。」
 ふむ。ジークやオスカーは足が長いから強制参加だろう。
「リサはどうなるんですか?」
「三月までに退院できるなら、無理して参加してもらうかもしれないが、まだ分からない。」
 ・・・この作戦を聞いたリサが、俄然やる気になってリハビリに励み、作戦開始前に帰ってくるとは、予想だにしていなかった。

422 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/25(水) 01:21:32 [ yED6NQag ]
 ・・・。
 ケビシニア軍の定期集会は、苦悩に包まれていた。
 南大陸連合軍航空部隊の北進。それにケビシニア軍が参加してはどうかという誘いが、連合軍の盟主のナイトロスが持ち掛けてきたのだ。
 それは名誉な事でもあるが、深刻な問題があった。
 『帝国領まで飛べるのか』
 先の連合帝国軍先発隊との交戦で、少なくないケビシニア飛竜と竜騎兵が失われている。元々数は少なかったが。残された飛竜の航続距離は短い。
 もし断れば、ケビシニア本国に恥を掻かせることになる。が、残された竜騎兵たちでは不安が・・・
「自分が行きます!」
 煮詰まった会議は、一人の挙手で動いた。
「少尉!君のポテーズでは・・・」
 指揮官が不安そうに尻尾と髭を揺らして応える。
「荷物を減らして、上手く風に乗れればリューベンまでなら行けます。それに緊急時には降りて休む事も・・・」
 伸び始めた髭を摘まんで、少尉は毅然と言い放った。

423 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/25(水) 01:22:21 [ yED6NQag ]
 ・・・。
 最初から選択権は無かった。
「我が軍の長距離爆撃飛竜は、全て北進させる。そして同志中尉。君はイリューシン28でリューベンに向かえ。片道なら辿りつける。」
「ダー!同志司令官閣下!万難を排して準備に取り掛かります。」
 実験配備の飛竜の性能を見るには、丁度良い機会なのだろう。
 自分が死んでも『赤軍の英雄、帝国で戦死す』みたいな記事で格好良く葬られる。
 が、妻と雛を見るまではそれはない。
 それに、あのお転婆皇女様の行く末を見通してやりたいとも思う。帝国に帰って、何をやらかすのか非常に楽しみだ。

424 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/25(水) 01:23:15 [ yED6NQag ]
 ・・・。
「・・・という訳で、我々は帝国西部及び南部から帝都に帰還する。出発まで期日はあるので、荷物の引き払い等は各自済ませておくように。」
 団員達の顔は半信半疑ばかりだった。かなり自由にさせてもらっていても、捕虜であるはずの自分達が、いきなり返されるのを不審がっているのだろうか。
「エーテルガルド閣下は南大陸の国々と手を結んだ。我々はそのお手伝いをする。」
 団長の名前を出すと、疑念の表情は一気に減った。やはり団長閣下、私にはないカリスマをお持ちです。素敵です。
「これも団長からの贈り物だが、ペガサスに乗っても良い。ただし逃げるな。連帯責任で全てのペガサスがステーキになってしまう。」
 喜ぶ団員、泣く団員。これも団長の心遣いの賜物です。
 これから、久しぶりに空を飛べる。私も空が恋しくて仕方がなかった。
 団長閣下がいらっしゃらないのがひどく残念ですが、今の私には何でもありません。
 これから死ぬまで、その先も閣下の傍に居られるのですから・・・

426 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/25(水) 01:25:13 [ yED6NQag ]
待った!これを追加!

 ロラン ペサール(1983〜2049)

 ・・・ケビシニアの伊達男。生涯花の絶えなかった猫人である。
 北大陸戦役に従軍後、母国空軍に在籍し、2013年に軍を退役。
 そのままダッソー・ワイバーン社の社外取締役に就任。エグゾセ空対艦誘導魔法やシュペル・エタンダール亜音速攻撃飛竜の開発を指揮。
 退社後、南部民族連合議員への誘いは幾度もあったものの、全てを断って気ままな退職金生活を続けた。
 また彼は軍時代の経歴を使い、多くの大使館主催パーティーに参加して、そこで数多くの駐在武官や文官の女性を手にかけたとされる。 
 そこから礼装崩し(彼と一緒に出て行った女性が、30分後にヨレヨレの服で戻ってきたことに由来)や悪食猫(ほとんどの種族と関係を持った)と呼ばれるようになる。
 一見すれば馬鹿げた行為と非難される。しかしそこで築いた関係が、その後の南部民族連合結成の為の布石だったとも言われるが、真相は定かではない。
 その行動とは裏腹に愛妻家で、2039年に妻を亡くしても遂に後妻を娶ることはなかった・・・

『南部民族連合…全ての少数民族が手を取り合って… 第3章』より


428 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 01:58:35 [ hcXctpKE ]
 パパパパ! ボン!
 俺が放った光弾と相棒の火球は、天馬騎士が直前までいた空間を通過した。これで何度目のスカだ?
 ブン!
 おまけに別の天馬騎士の槍がすぐ近くを通過する。・・・ちょっと待て!?どう考えても今の槍は本物だぞ!
『ジーク01よりジーク02。槍に頭を持っていかれて戦死だ。飛竜損傷無し、騎手死亡!』
『了解。基地に戻ります。』
 死んだ。一回生存、一回戦死か。高速のペガサスは、新型飛竜に比べると速くはないジーク型飛竜には辛い相手だ。後ろから攻撃されるとかなりまずい。
 降下中、あちこちで起きている飛竜とペガサスの戦いは、互角か若干ペガサス有利に見える。
 ジークでも二対一では苦戦必至なんだから、これでペガサスが火を噴くか天馬騎士のお嬢さん方が魔法を使えていたりしたら・・・
 全くもって、首都防空隊の華と謳われたジーク飛行中隊も落ちぶれたもんだ。
 コバルタのスピットファイアMk\やアスターのラボーチキン7に、訓練で何回も負けた時点で諦めてけどさ!

429 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 01:59:27 [ hcXctpKE ]
 本日二回目の模擬空中戦は、友軍がジーク、オスカー、ジャック、ジョージと他の部隊が少数、敵は天馬騎士・近衛天馬騎士混成部隊。数はきっかり100同士で戦った。
 最初は速度に勝る天馬騎士が優勢に進めていたが、魔法通信による連携と、ブレスや魔法といった手数の多さで、最終的にはナイトロス側が勝利した。
 一回目は各国の飛竜がざっくばらんに集められて(俺も参加した)、ぐだぐだの戦いになって負けた。少尉もいたが、あっという間にやられて、ふてくされてしまった。
 どちらでも撃墜騎を出しているから文句はないが。
 戦闘終了の合図で敵味方が続々と帰ってくる。天馬騎士たちは笑顔が眩しい。久しぶりに乗れたのが余程嬉しかったんだな。
「おい、お前。ジーク飛行中隊のアレックス・・・大尉だな?」
 知らない女に後ろから声をかけられた。リサがこの場所にいたら、俺は半殺しにされただろうなぁ。
 戦々恐々として振り返る。
「貴女は誰ですか?」
「エーテルガルド団長閣下の副官をしている、フランツィスカと言う者だ。すこし話がある。」

430 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 02:00:35 [ hcXctpKE ]
 その近衛天馬騎士は俺の隣に来た。兜は無く、動きやすさと軽さを重視した皮鎧と刺繍の施されたマント、肩当・手甲に金属靴と一般的な近衛天馬騎士の装備だな。
 髪は短い。天馬騎士は(ナイトロスの女性竜騎兵もそうだが)髪を短く切り揃えているか、長くても、束ねて戦闘中は鎧の中にたくし込んでいる。
 顔は、終始楽しそうなリサとは違って、どこか憂いを含んでる。ちょっとタイプかも知れない。でも・・・あの決闘を見た後では付き合う気にはなれねぇ。
「近衛天馬騎士団副団長のフランツィスカ殿が私に何か用かい?」
「お前が、閣下を殴ったと聞いたからだ。」
 一瞬、空気が信じられないくらい重くなった。相棒も目を見開いた。
「そうだと言ったら?」
「いや、そうでも構わない。お前が戦いの中で閣下を殴ったのなら、文句はない。もし、やましい理由で・・・」
「勘違いはするなよ。あの時は俺の部下を守るのに手一杯で、あの英雄ばりの強さな団長さんを怯ませるにはそれしかなかったんだぞ。」

431 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 02:01:15 [ hcXctpKE ]
 相棒を背もたれ代わりに座り、話を続けた。フランツィスカ副団長さんも同じく座る。
「私は閣下が甘すぎると思っていたが、お前の話を聞く限りでは、選択は間違いではなかったようだ。」
「そりゃどういう意味でしょうかね?」
「天馬騎士に限らず、天馬騎士団所属騎士の戦争での死亡原因は何だと思う?」
「戦死だろうが。」
「それは一番だが、二番目は・・・」
 生々しい話になって来たぞ。止めようにも、語り口調で止められそうもない。
「南大陸とナイトロスでは女性兵士は珍しくもないようだが、北大陸では天馬騎士か魔術師以外の女性兵士は居ない。もし戦闘で敵に生きたまま捕まれば、いや、死んでいたとしても・・・」
「もういい。言わんとすることは何となく分かった。俺達がそんな野蛮人だと?」

432 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 02:02:09 [ hcXctpKE ]
「そんな事はない。今までの行動を見ていれば、規律の守られた軍だと良く分かる。」
 そこまでに至る数百年の苦労は、この娘に言うのはやめとこう。騒乱期の南大陸はそんな物だったらしいしな。
「暴虐の限りを尽くすナイトロス人、人肉を食らう竜人族、人間を縊り殺すのが好きなエルフ族、斧の試し斬りに人間を使うドワーフ族・・・こう教わってきたのだ。」
 とんでもない悪意がこもってやがる。・・・真実を一片含んでいるのは否定できない。
「閣下はコジェドフとか言う竜人族を見て、『そんなの脚色された誇張よ』と言っていたが、私や部下はいつ寝首を掻かれるか不安でしょうがなかったのだ。」
「同志大尉!自分を呼びましたか?」
 げげっ中尉!?
「何でもないぞ中尉。三回目はお前が行くのか。頑張れよ。俺は見てるからさ!」
「その・・・副団長殿とは何か?同志リサが憤怒しますよ。」
「これは飛竜とペガサスの戦術比較の話し合いの最中だ!とっとと行け!」
 中尉は、新たな愛騎に颯爽と乗り込んでいった。

433 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 02:02:54 [ hcXctpKE ]
「副団長さん。あの中尉が人を喰うように見えるか?」
「いや、見えない。」
「団長は俺達を信じたんだろ。それにアンタ、団長の前で誓いを立てたんだろ?」
「何故それをッ・・・いや、それは仕方が無い。何も迷う必要は無いな。無粋なことを話して済まなかった。」
「まぁいいさ。俺達もあの皇女様にお付き合いしなきゃならんようだから、暫くは・・・中尉張り切ってるなぁ」
 上空の中尉は、抜群の加速力で天馬騎士を追い掛け回し、引っ掻き回していた。
 それだけだが。発射するブレスは命中とは言い難いものばかりだ。所詮は地上攻撃が得意な飛竜。空中戦には向かない。
「速いな、あの飛竜。南大陸ではあれが普通なのか?」
「違うと思うが、数年後は分からないぞ。それに見ただろう?ジエイタイの乗り回す航空機の速さを・・・」
「次元が違い過ぎて比較が出来ない。しかし、あんな連中が我々の味方になるのか?」
 副団長の問いに答えられない。この所、動静の伝えられていないニホンが何を策動してるのか・・・不気味だ。
 メディアや政府は食糧確保がひと段落して落ち着いてるとは言ってるが・・・。遠くない未来に一悶着ありそうだ。

434 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/26(木) 02:05:34 [ hcXctpKE ]
 アレクサンドル イワノビッチ コジェドフ(1953〜2159)

 ・・・竜人族の偉大な元帥。公明正大でありながら抜け目の無い軍人と語り継がれる。
 北大陸戦役で皇女(後の皇帝)エーテルガルドと一騎打ちをして連合帝国の捕虜となるが、第一次会戦後に彼女を降伏に追い込む。
 終戦後も幾つもの紛争や戦争で陣頭指揮を執り、英雄の名を欲しいままにする。
 2073年に軍を退役。最終階級は空軍元帥。退役時に終身元帥に昇格。
 そのままアスター社会主義連邦共和国書記長に推薦されて就任。2098年にこの職からも引退して、完全に身を引く。 
 静かな老後を過ごし、2159年に大往生。遺体は終生愛した妻の墓の隣に葬られた。
 クリメントグラード宇宙港には、彼の記念像が佇んでいる。
 現在に至るまで軍人の鑑、規範とされている・・・

『銀河軍人列伝』より


438 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/27(金) 23:42:08 [ hcXctpKE ]
 ナイトロス王国首都フランシア市の王宮。前年の王室及び政府機構のオキシゼ市移転以来、約二ヶ月ぶりに主たちを迎えていた。
「あなたが独り立ちだなんて・・・帝国ではエーテルガルド殿下・・・陛下と仲良く過ごすのよ。」
「はい母上。今まで育てて頂き、本当にありがとうございました。」
「クレーグ!それは辞世の句だぞ。母上に縁起でもない言葉をかけるな!」
「兄上は本当に厳しいよ。兄上も軍にいるのはいいけど、早く所帯を持てばどうですか?王位継承者なのですから。」
「ぐぐっ・・・」
「二人とも仲良くするのだ。こうやって家族団らんで過ごすのは久しぶりではないか!父上は悲しいぞ!」
 晩餐会でも食事会でもない、普通のありふれた家族の食事だった。
「エーテルガルドがいないのが残念ではあるな。」
 エーテルガルドは、王国関係者との利害調整などで疲れ果て、宛がわれた寝室で死んだように眠っていた。

439 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/27(金) 23:42:58 [ hcXctpKE ]
「クレーグ。あの娘とはどう?」
「それは母上・・・」
「クレーグも立派な大人だ。な?」
 な?と父親に同意を求められ、顔をしかめる第二王子。一緒に寝たり、手を繋いだり、タオルで隠した上で一緒に風呂は入ったが・・・
 『まだ清い関係です』とは口が裂けても言えなかった。婚前交渉が禁止されるほどナイトロスの倫理は厳しくは無かった。たとえ王族でも。
「そうです父上。母上、彼女は強くて聡明で、素敵な女性です。』
「あの娘は連合帝国の皇帝に即位して、あなたは皇帝のお婿さん。準備はいい?」
「母上!クレーグは帝国に行くと決まってるのに、今更それはないでしょう!」
 第二王子は、残り少ない団らんの時間を楽しく過ごすことにした。

440 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/27(金) 23:43:33 [ hcXctpKE ]
 ・・・帝都ハフニノープル・・・
 風雪に包まれた王城には久しぶりに主人に値する人間が帰ってきた。
「畜生!畜生!何であんな事に!」
 雪山越えと行軍でやせ衰えてはいたが、それは間違いなく第一皇太子だった。
 陸上自衛隊と航空自衛隊の掃討を辛うじて逃れた連合帝国軍の残存勢力は、旧支配者回廊で多数の死者を出して、辛うじて帝都まで逃げ帰っていたのだ。
 帝国各地のナイトロス王国情報部の休眠工作員が、適宜周辺国へ連絡を入れていたが、それもすり抜けたのだ。
「だが、私こそが・・・!」
 皇帝末子のエーテルガルドは先発隊の戦いの中で行方不明。戦死か、捕まって嬲られて既にあの世だろう。
 他の兄弟もほぼ間違いなく鉄の塊や鉄の鳥に殺されている。
 そして父親の皇帝自身も・・・
「俺が・・・俺こそ・・・」
 狂気に包まれた絶叫が城内に響き渡った。
「皇帝だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

441 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/27(金) 23:44:47 [ hcXctpKE ]
 世の中にはすぐ死ぬ人間と、しぶとく生き残る人間がいる。
 往々にして善人はあっけなく死に、悪人が生き残る。
 それが当てはまらないのが英雄だ。

『世界の名言・迷言』より



452 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:28:32 [ Hy8GiDHc ]
『諸君達は西に向かい、船を使って帝国西岸に上陸する!ジエイタイの言うことはなるべく聞き、協力しなさい!帝都で会いましょう!』
 隊列を組んでいた部下達が一斉に敬礼する。私もそれに応えて敬礼を返した。
「閣下、それでは行って参ります。」
 最前列にいた第三、第四、第五天馬騎士団長が合図を出し、部下とそれ以外の捕虜達は、駐留部隊を除いて連合帝国西部に進駐する陸上ジエイタイと共に移動を始めた。
「パンツァー カンプフ ワーゲン・・・戦車?だっけ。あれまで帝国に持っていく気かしら?」
 戦車やそれより小さな乗り物が、列をなして移動している。
「そのようですね。」
 副団長は肩を竦めた。剣と魔法の相手に対して、過剰すぎじゃぁないの。
 圧倒的な力でねじ伏せるつもりなんでしょうけど。

453 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:29:34 [ Hy8GiDHc ]
 彼らが大分離れてから、基地(捕虜収容所が基地内に移動になった)に戻った。見張りの警備兵は、もういない。
 基地とその周辺はとても騒がしい。荷物をまとめる兵士や、南に向かって行進する騎兵隊・・・
 ナイトロス軍の高官が言う所によると、私達と戦った陸上部隊は元の任地に戻し、国境警備隊を再配備するらしい。
 私達との戦いは終わったも同然てことね。事実だけど。
「しかし閣下。第一皇太子の件は・・・」
「捕虜の中には兄上のシンパの者もいる。知らせたら反乱を起すかもしれないわ!」
 一番上の兄の生存は、ナイトロス軍との会談の中で知らされた。噂によるとムッター将軍も・・・帝国の捕虜の中では私と団長と、天馬騎士団長達にしか伝えていない。
 更に、帝国各地の貴族や聖職者に、帝都に集まるように呼びかけているらしい。
「皇帝の即位式でもするつもりなんでしょうけど、まとめて"消す"いい機会とは思わない?」
「団長閣下!そのような危険な考えは・・・」

454 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:31:27 [ Hy8GiDHc ]
「・・・帝国を変えるのよ、私は。数万の血が流れて、それで未来を切り拓けるなら、私は喜んで返り血を浴びるわ。」
「確かにそうです。彼らの度し難さは身に染みています。」
 少し危険な話し合いは、喧騒に包まれて周りには漏れていない。
「時代は大きく動いてる。ナイトロスの軍人達も、嘆きつつ受け入れていたわ。」
 ナイトロス軍高官との会談、と言うよりは愚痴の垂れ合いを思い出した。
 陸軍高官曰く、陸軍は防衛線構築は凍結されて、戦竜の購入枠は減らされ、魔法兵器と砲発射魔法と誘導魔法の更なる開発を促され、高射魔導砲を乗せて移動できる兵器や歩兵火器の開発を急がされている。
 海軍高官曰く、戦艦の建造は無期限に中止され、大型飛竜母艦と護衛艦艇の建造が求められ、魔探の高性能化が要求され、潜水艦や揚陸艦の開発が求められている。
 空軍高官曰く、国土全体を覆う防空網の構築を要求され、飛竜の高速化と航続距離延長が厳しく要求され、飛べるか不明な民間の航空機開発に予算を提供させられ、高度な航空管制の出来るシステムの制作が要求されている。
 オッサンやジイサンの戯言にしか聞こえなかったけど、そうしなければ変化に対応できないと言っていた。

455 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:32:40 [ Hy8GiDHc ]
「変に拘ってたら、時代の波に揉まれて死ぬわよ?今の私達に出来るのは、その波を越えられる船に乗ることでしょうけど・・・」
「乗船料は北大陸北部と帝国の西部ですか・・・」
「ふん。西部はそのうち返してもらうわ。」
 強がりじゃないわよ!多分。
「閣下、我々の出発には余裕があります。残った近衛、第一、第二天馬騎士団で訓練を続けましょう。」
「そうね。久しぶりにペガサスに乗れそうね。フランシアの王子様に見せてあげたいわ。」
「・・・第二王子殿とは上手くいっているようですね」

456 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:33:34 [ Hy8GiDHc ]
 ・・・。
「本日よりジーク飛行中隊に復帰しました!改めてよろしくお願いします!」
 リサが帰って来た。めちゃめちゃ元気だ。そして以前には無かった色気も・・・。
「お帰りリサ。元気になって良かった。」
「これも大尉のおかげですよ!」
 隊の連中が薄ら笑いしてやがる。隊長まで・・・少尉と中尉だな。あいつらめ!
「リサ。我々には大きな任務が迫っているのは知っているな?」
「はい隊長。私も参加させてください!」
 隊長は俺のほうを見た。
「アレックス。リサをみっちりとしごいてくれ。」
「了解。リサ、飛竜を休ませたら早速訓練だ。」
「はいアレックスた・い・い!」

457 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:34:22 [ Hy8GiDHc ]
 ・・・。
「で、最初からこれですか?」
「『これ』とは何よ!死に損ない!」
「・・・と言うわけで、リサ。団長閣下相手に頑張れよ。」
「ア、アレックス大尉は!?」
 そんなに必死になるなよなぁ。殺されはしないって。
「書類の準備だが何か?」
「人でなし!悪魔!」
「では団長閣下。彼女を宜しくお願いします。」
「・・・さぁ、この前の決着をつけましょうねぇ〜」
「やだぁぁぁっ!!」
「500万シリングの配当が滞っているツケだ。」
 翌日。リサは5万シリングを渡してくれた。

458 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/29(日) 20:36:15 [ Hy8GiDHc ]
 リサ ゴールトン(1984〜2060)

 ・・・母星の金融資産の一割を支配したフランシア投資財団の初代理事長で、アレックス大将の妻。
 北大陸戦役前後から投資事業を始め、2009年の投資財団設立と共に軍を退役した。
 2010年度は50億シリング、2020年には4000億シリング、2030年では1兆7000億シリングを運用していた。
 南・北・東大陸の富裕層は、ほとんどこの財団に資金を委託していたと言う。
 日本企業の株を株価低迷の際に買い漁り、外部役員を派遣するなど、かなりの支配力を誇った。
 守銭奴ともされるが、貯めた資金を使うのに躊躇うことはまず無かったと言われている。 
 宇宙進出事業に多額の出資を行い、ナイトロスの有人宇宙進出をそれなりに早めたと評価される。
 彼女の財団は形を変え、現在でも最大の投資組合である・・・

『SPEND YOUR MONEY』より



466 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/31(火) 00:47:29 [ Hy8GiDHc ]
 ギイィィィン・・・
「また輸送機か。色々運び込んできたんだなぁ」
 掘っ立て小屋でくつろいでいると、今日何度目かの輸送機・・・多分C−1とかいう輸送機の着陸する音が聞こえてきた。
 大量に来るのは、ここに始めてジエイタイが来たとき、戦争開始直前と数日前の陸上ジエイタイ転進以来だ。
 それに合わせてなのか、大型輸送ヘリコプターと小型ヘリコプター・・・確かチヌークとブラックホークとか言うのかな、それも増えた。
 しかし、リューベンで補給するとしても、帝都まで1000キロ以上離れてるのに、届くのか?
 ヘリは飛竜にも弱いが、超音速の戦闘機の支援があれば・・・!
 ・・・アイカワの兄貴、ニホンは不思議の国のままです。
 その時、ドアを開けて誰か・・・堂々とした体躯で翼と尾と言ったら・・・中尉か。

467 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/31(火) 00:48:21 [ Hy8GiDHc ]
「同志大尉。同志リサはいいのですか?」
「あぁん?ブランクを埋めるには、近衛天馬騎士団長な皇女様の御相手をなさっている方が良いだろうが!」
 今日も悲鳴を上げながら皇女様に追い回されてたな。皇女様に落とされないなら、大抵の飛竜には落とされないだろうさ。
 死ぬ気になってやっているおかげか、飛行技術の回復もすばらしい。俺は少し恨まれたが、リサを生き残らせるには必要な処置だとしておく。
「その前に中尉。何か用か?」
「おお同志!これですよこれ!ジエイタイの同志から物々交換で貰った『焼き芋』であります!同志が食べてください。」
 中尉の手には紙に包まれて香ばしい香りを放つ芋が・・・
「同志少尉にも残しておいてください。」
「そうだな。・・・中尉は食べないのか?」

468 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/31(火) 00:49:01 [ Hy8GiDHc ]
「一本だけ。私の目的はこいつですよ」
 一本の焼き芋を齧りながら、片手で芋を包んでいた紙をペラペラさせる。
「そいつは、新聞か?」
「ダー。ニホンも防諜には気を使ってるようですが、『がりょーてんせーを欠く』というやつです。芋が熱くて持てないと言ったら、火にくべる予定だった新聞に包んでくれたのですよ。」
「お前、いい人ぶって意外とやな奴だな。」
「自分はやる時にはやりますよ。世の中、誠意だけでは馬鹿を見ますからね。」
 こいつは出世する。間違いない!
「ちょっと見せてくれないか?どうせ俺はニホン文字は理解できないからさ。」
「どうぞ。」
 やな奴だが、やはり基本的にいい人だ。

469 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/31(火) 00:50:03 [ Hy8GiDHc ]
 新聞には、ニホン文字と絵というか写真が載っている。
 (おそらく)最初のページには会議場みたいな場所で何かを読み上げている男。政治家みたいだ。
 だが、裏側のページでその男が囲まれて、何故かもみくちゃにされている。
 ナイトロス上下院でも、野党議員が与党の演説中に掴みかかることはたまにあるから、それなんだろうなぁ。
「アスターのニホン大使館でも同じものは手に入れてるでしょうが、持ち出しは難しいでしょうから、自分が現物を持っていけば情報部は喜ぶはずです。」
 さぞ面白いことが書かれてるんだろうが、この世界のいずれの語族にも属していないニホン文字はちんぷんかんぷんだ。
 芋を齧りながら、読めもしない新聞を暫く眺めていた。

470 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/10/31(火) 00:53:39 [ Hy8GiDHc ]
 ・・・地方行政を北海道、東北州、関東州、中部州、近畿州、中国州、四国州、九州に一任し、中央政府は軍事・治安と科学と経済に集中する体制を取り、日本列島連合は成立した。
 首相の権限拡大、中央官庁の巨大化、自衛隊と警察の拡張、参議院の廃止と衆議院の議席削減・権限縮小、独占禁止法の緩和は、議会制民主主義の形骸化と転移前世界でも進行していた階級の固定化を更に招いた。
 所謂テクノクラート(技術官僚)によるテクノクラシー(科学技術主義)体制によって科学全般が急激に進歩したものの、一般人の不満が警察機構に抑え込まれた、管理社会であったことは否めない。
 軍事力と科学力は(2100年代前後には断トツではなくなったが)統一政府誕生のその時まで優位が崩れることが無かった。
 幸いな事に、南北大陸で日本の軍事力は殆ど行使されていない。北大陸戦役、コバルタ日本大使館包囲事件、カーフネア諸島紛争、その他ごく少数である。
 日本人の気質なのか、原住民の多かった南北大陸の面倒事には、極力関わらない主義を貫き通した(項→日本モンロー主義/東大陸覇権論/高天原計画)。
 大半の軍事力は、未開の東大陸開拓に於いて、古竜を除く現住の危険生物に対して遺憾なく発揮された。
 (中略)
 あくまで、二大陸と東大陸の国家群は、日本の取引先の一つのそれ以上でもそれ以下でも無かったのである・・・

 『母星地政学入門・日本列島連合の歴史と外交姿勢』より