787 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/05(火) 01:39:09 [ ll2Uv/Qs ]
 カリカリカリカリ・・・
「・・・。」
 ガリガリガリ・・・
「・・・ウォアァァーーー!!」
「静かにするんだ!大尉!」
 そうは言うんですけどね隊長!何の因果で
「真夜中まで交戦記録の記述作業をやらなくちゃならんのですか!」
「ジエイタイは明日にでも行動を開始するのだ。それまでに一個前の記録はまとめないといけないだろう?」
 隊全体の時間ごとの行動や、個人の動き、撃墜記録とかいろいろ書かなきゃいかんことがある。
 リサは俺と一緒にいたから、まぁ大体彼女のやったことは分かる。
 それだって昼間は損害の計上やら、経費を主計に要求する書類を書いてんだ!夜くらい安眠を要求する!
「管理職が文句を垂れるな。とっとと書け!」
 副隊長や隊長のやる仕事なんてこんなもんだな。

788 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/05(火) 01:40:00 [ ll2Uv/Qs ]
「それはそうと隊長?ジエイタイの戦いを観戦できるっていうのは本当ですか?」
「どこで聞いた?」
「みんな噂していますよ。」
 ジエイタイが戦う際には、俺たちは地上待機で、陸軍は防衛線から退避することになっている。
「私たちは遠くで眺めるだけなのに、隊長クラス以上の指揮官は至近距離での視察が許されたと聞いてますよ!]
「うん?まぁそうだな。」
 隊長の口調の歯切れが悪くなる。どうも本当のようだ。
「先に言っておくが、いくら頼んで随行は不可能だ。各隊の隊長一人が特別に呼ばれたのだからな。」
 という事は、明日は・・・。
「この書類が今夜中に終わらなければ、残った分を明日アレックス、君一人でこなすのだぞ?」
 ゲゲッ!?こりゃ頑張らないと!
 夜は更けたばかり!日付が変わる前に終わらせるぞ!!

789 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/05(火) 01:40:30 [ ll2Uv/Qs ]
 ・・・。
「同志コジェドフ。君の処遇が本国から通知された。」
 政治将校が自分に宣告する。自分の行いは吉と出るか凶と出るか?
「飛竜の損失はやむを得ないとして、その後の行動はサボタージュと解釈されても仕方の無いものであった。」
 側から見れば逃げてたとも無駄に歩き回っただけとも言える。勿論違うがここは抗弁しない。
「が、連合帝国皇女エーテルガルドを我が国に投降するように働きかけたのは、評価に値する。」
 今の昔もアスター連邦は名誉にこだわる傾向が強い。エーテルガルドの身柄は協定でナイトロスへと引き渡されたが、彼女が連邦へ投降したという事実は揺るがない。
「これからの世界中の歴史書に、『連合帝国軍先鋒は、アスターに投降した』と書かれるはずである。この事を同志書記長や上層部は喜んでおいでだ!」
 エーテルガルドと決闘したり愚痴を聞かされたりした苦労は報われたな。
「よって、昇進は難しいが勲章の賞与は行う。そして現在の地位に留まって国家のために奉仕せよ!」
 これで故郷で待つ妻と、まだ見ぬわが子を悲しませずに済みそうだ。

790 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/05(火) 01:41:19 [ ll2Uv/Qs ]
 ・・・。
 つい数日前も、部下たちは同じようにして夜の大地を歩いてた。
 その時と違うのは、部下たちの顔が落ち着いたこと、監視の兵の敵意がかなり減ったこと、私は彼らと離れてこの場に残る事かな。
 数日前まで死体と残骸が広がっていた戦場は、今は焼け焦げた木や掘り返された地面が続くだけで、とても数万人が死んだとは思えない場所になっちゃってる。
 そして、いかついジエイタイの兵器。戦車とかジソウホウとか名前はあるらしい。監視兵の雑談を盗み聞きして得た情報だからあてにはなんないわ。
 その筒の先は、どれも北を向いている。明日になれば、連合帝国軍本隊に魔法でも吹くんでしょうね。
 慰問に来た(そうは見えなかった。政治に疎い私にでも良く分かった)ジエイタイの武官は
「エア・ランド・バトルを見せてしんぜよう!」
 みたいなのを散々言っていた。チンプンカンプンだけど、凄い何かというのは理解できる。
 明日の朝は、連合帝国最後の日になるのかしらね。予言めいた考えまで出てくる。
 全ては明日!部下たちの後姿を見送って、それから寝床に行こ!



801 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/06(水) 23:45:38 [ ll2Uv/Qs ]
 数ヶ月ぶりに、自衛隊は活気が戻っていた。
 各地(主に関東・東北)の基地格納庫で埃を被りかけていた戦闘機や支援戦闘機は、燃料弾薬を満載している。
 そして、滑走路から東の空へと飛び去っていく。
 同時に、在日米軍の機体も積めるだけの弾薬を積んで出撃していく。
 主な目標は南大陸連合軍が防衛線を張っている北大陸・ナイトロス半島中部、そして連合帝国の中西部と南部の一部である。
 半島は皇帝の親征軍をこの世から消すためである。地上の陸上自衛隊と協力して、敵を殲滅する。
 連合帝国領への空爆は、ナイトロス王国情報局から情報に基づき、遠征に参加しなかった大貴族や聖職者を消すのだ。
 帝国内で最も発言力の強い東部への空爆は、本土から距離があるので却下された。
 東部中心のグリューネブルグ市が制圧されているので、雪解けの時期になれば軍を差し向けてくるかもしれないが、その時は海上自衛隊艦船が彼らを迎え撃つ。
 ほとんどの基地で、出撃可能な機体全てが出撃していた。今後数年あるいは十年は同じ光景を見ることができないだろう。

802 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/06(水) 23:46:37 [ ll2Uv/Qs ]
 ・・・。
 ずうっと北の方を見ていた。遠雷のような音が聞こえてくる。
「動き始めたようですな。本当に殿下は最後まで見るのですか?」
 司令官がしつこく聞いてくる。何か同情されてるのかしら?見るって言ってるんだから、見るのよ!話題を別の方向に振んなくちゃ。
「ジエイタイは動き出さないのですか?」
 ジエイタイの乗り物は、唸り声を上げているけど、動き出してはいない。
「空の応援が来るまで待っているのですよ、殿下。」
 待ってるって。待つ暇なんてあるの!?だって・・・
「飛竜が見え始めてるじゃない!数刻もしないうちにここまで来ちゃうでしょ!?それに彼らは帝国軍の精鋭・・・」
「ジエイタイの前に、速度や熟練度は全く意味を為さないと思いますがね?」
 皮肉めいたムカつく言葉に何か言い返してやろうと思った時、上空を物凄いスピードで「何か」が飛んでいった。

803 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/06(水) 23:49:32 [ ll2Uv/Qs ]
『高度、速度、進路、全てそのまま維持せよ!!』
 ジエイタイ火器の攻撃の巻き添えを食らわない為に、ジエイタイから示された場所を決められたとおりに飛んでいるのは、主だった飛行中隊の隊長である。
 上空から自衛隊の戦いを観戦することを、彼らは許されたのだ。IFFなど無いので、帝国軍との戦いには直接巻き込まれない場所からの観戦ではあるが。
『管制塔より各騎へ!超高速金属飛行物体接近中!!距離は200キロ!ジエイタイ戦闘機だ!!早い!音速を完全に超えている!?』
 今までのジエイタイは、日本国内以外で超音速飛行をあまり行っていなかった。
『ジーク01より管制塔へ。帝国軍の飛竜を多数視認。指示を請う。』
『あ・・・とにかく今の状況を維持だ!』
 魅入った管制官が飛び立った帝国の飛竜を見落としてしまうほど、ジエイタイの戦闘機は早かった。しかもそれが数十機でまとまっているのだから。
 十分かからずに彼らはやって来た。
 本体ではなく白い煙を吐き出す地獄の毒蛇が。




811 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/07(木) 21:52:36 [ ll2Uv/Qs ]
・・・某大学の講義ホール・・・
「・・・日本政府、後の日本列島連合の登場は、母星の歴史にどのような影響を与えたと思うかね?」
 壇上で教授が学生に質問をする。学生たちの情報端末には、母星の歴史のダイジェストが三次元ホログラムで表示されている。
「北大陸と南大陸の紛争が早期で決着したことにあると思います。」
 学生の一人が回答した。
「そうだね。当時の南大陸諸国、特に国境を接していたナイトロス王国は、帝国の制圧に十年はかかると見ていた。それが一年かからずに終了した。」
 情報端末には、当時の政府機密書類のデータベースが開かれている。
「科学の進歩や東大陸の開拓が大幅に加速された事のほうが影響が大きかったのではないでしょうか?」
 更に別の学生が発言する。
「それも正しい。日本登場時から半世紀を経ずに、文明は宇宙へと進出している。日本がいなければ200年以上かかっていたというシミュレーションもある。」
 ナノテクノロジー、核融合、遺伝子操作、空間跳躍・・・科学と魔法学双方で実現された技術の開発年度などが表示される。

812 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/07(木) 21:53:25 [ ll2Uv/Qs ]
「これらは日本が世界に与えた正の影響だね。では、負の影響はどうかな?」
「一時的な食糧事情の逼迫と、インフレです。」
 タキオン通信の立体画像で遠方から参加している学生が、当時の食糧供給や物価上昇率のグラフを示して答えた。
「ふむ。急に一億人を養えるはずが無いからね。東大陸と日本が一時的に割譲を受けた共統帝国西部の開発が進むまで、どの国も食糧不足に悩まされた。他には?」
「日本のテクノクラシー体制への移行で南北大陸と冷戦状態になり、不要な緊張状態が長く続いたことです。」
 転移数年で、日本はそれまでの議会制民主主義から、政治家や技術官僚、自衛隊支配による科学主義/軍国主義国家「日本列島連合」へと政体が変わっている。
「日本の極端なまでの科学進歩への執着と軍備増強は、南北大陸に不要な警戒感を抱かせたのは間違いないね。」
 情報端末には、当時の二次元一方向画像メディアのニュースが流れている。内容は日本の軍備を憂うものや、声高に自国の軍備増強を唱えるものまで様々だ。
「幸い戦争には至らなかったけれど、一歩間違えれば核兵器と戦略攻撃魔法の撃ち合いになってもおかしくなかった事件は数回おきている。」

813 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/07(木) 21:54:32 [ ll2Uv/Qs ]
「では教授、東大陸での数々の紛争も日本のせいなのでしょうか?」
 最前列の学生が教授に質問する。
「母星唯一の核戦争を起こした、地球市民平和主義共和国と世界連邦は日本人主体の国だったね。そして、エデン合衆国やユーロ大同盟や新華国と言った国々も日本にいた外国人が建国したものだから、その指摘は間違いではないね。」
 一説には、日本国内にいた別民族が原因で起きた戦争ともされているが、その民族が日本国内から根絶され、開戦詳細も惑星統一政府ができる段階の混乱で失われ(意図的ともされる。混乱期に消えた情報は少ない)、歴史のミステリーのひとつになっている。
「エーテルガルド帝の死後出版された彼女の手記には、『自らの手を汚さず、自国兵器の性能を試せる絶好の場所』と記されており、コジェドフ書記長は『貿易黒字を作る魔法の泉』と非公式の場で何度も発言している。紛争にはうんざりしつつ、儲かって良かったというのが本心だろう。」
 情報端末には更に多くのデータ・・・紛争が最も激しかった明石標準暦2030年代初頭の各国の貿易情報が投影される。南北大陸諸国と日本は、兵器・軍事物資輸出で大幅な黒字を記録している。
「東大陸の紛争介入で得た資金は、例えば日本では惑星探査計画、ナイトロスでは宇宙軍増強、共統帝国では再併合した西部の再開発に充てられている。この点はどの国も共犯といえるな。」
 東大陸は荒廃したが、この潤沢な資金のおかげで文明の宇宙進出は早まった、とも教授は付け加える。
「最終的には標準暦2200年代初頭、恒星系内宇宙戦艦カイザーリン・エーテルガルド・デア・グロッセでの国際首脳会議によって惑星統一政府創設が決定され、日本と他国のいさかいは完全に無くなった。日本は、世界に混乱と同時に発展をもたらしたと・・・私は考えている。」
ここで講義時間終了のアナウンスがホールに流れる。
「では、次回講義までに2020年代より本格化した宇宙開発の歴史と考察をレポートにまとめ、私の情報知覚化サーバーに転送しておくように!」



823 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/09(土) 23:34:50 [ ha6uMnfc ]
「いったい何事だ!?」
 地上にいた皇帝には、数十の飛竜が突如として爆発したようにしか見えなかった。
「敵の攻撃なのか?敵はどこだ!?」
 皇帝の問いに誰も答えられない。攻撃を受けた竜騎士にすら戦友が吹き飛んだ理由が分からなかったのだから。
 それでもまだ数百の飛竜が空を飛び、10万を超えんとする軍勢が移動しているのだから・・・
 その甘い考えは、侍従の声で中断させられてしまった。
「陛下っ!!あれを!!」
 侍従の指差す方向を見た皇帝は、声を出すのも忘れて「それ」を見た。
 白い雲を引きながら、どんな飛竜より早く飛んでいるモノ。それは一瞬にして連合帝国軍の飛竜目がけて飛んでいき・・・
 最後の瞬間を、皇帝は信じられなかった。今度は回避行動をとり始めていた飛竜に「向かって」いったのだ。
 ズズズズーーーー・・・ン・・・
「いかなる魔法を使ったというのだ・・・!」
 一国の支配者たる皇帝も、この言葉を絞り出すので精一杯だった。

824 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/09(土) 23:35:36 [ ha6uMnfc ]
 そして、空の混乱はそんなものではなかった。ただの二撃で、数十騎が落ちるなどということは今まで無かったからだ。
 何より驚愕したのは、飛んできた「何か」が味方を追尾するような形で爆発したことだ。
 どんな魔法も、今の攻撃ほど正確に目標へ命中される能力を持ってはいない。
 が、そんな物を恐れていては竜騎士の名折れである。彼らはどんな敵にも引かず、立ち向かっていく。
 今回の戦いは、その蛮勇が彼らの寿命を一気に終わらせることになるとも知らずに。
 乱れた編隊を組み直した時、彼らの敵がやって来た。
 胡麻粒のような銀色の物体が正面から向かって来ている。直ちに手信号を飛ばしあい、迎撃の隊形へと組み替えていく。
 南大陸諸国ぐらいの飛竜相手なら、それでも充分間に合っていただろう。しかし相手は音速を超えて飛ぶ機械兵器だった。
『FOX2!』
 中距離空対空ミサイルに続き、短距離のAAM-3が次々と発射される。発射すると、編隊を解いて格闘戦の準備を始めた。
 あまりに多くの目標があったため、ロックオンした標的以外を追いかけたミサイルもあったものの、9割近い命中率で飛竜を撃ち落していく。

825 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/09(土) 23:36:12 [ ha6uMnfc ]
 そのまま戦闘機は帝国の飛竜を飛び越え、後方に回り込む。その際に機関砲をばら撒くのを忘れずに。
 一部の飛竜がブレスを放つが、軽くかわされて逆に叩き落された。
 ただ一発の機関砲弾でも飛竜と竜騎士には致命傷だった。文字通り、地上には血の雨が降り注いだ。
「陛下!竜騎士団があの化け物の注意を惹いているうちに突撃しましょう!混戦になれば攻撃できなくなるはずです!」
 副官である一番上の皇太子が必死に助言する。このままちまちま移動していては格好の的になる。これは皇帝も同意だった。
「よし。全速で移動だ!竜騎士の犠牲を無駄にはするな!神に祝福されし戦士たちよ!帝国魂を南大陸の蛮族に見せつけよ!」
 上空の竜騎士と飛竜は、あきれ返る速さで数を減らしていく。
 マリアナの七面鳥撃ち、もといエルビヌメインのトビトカゲ撃ちである。
 歴史ある竜騎士団の多くが、この戦いで消え去ろうとしていた。

826 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/09(土) 23:37:22 [ ha6uMnfc ]
 ・・・。
 シュババババ!
 近くから発射された地対空みさいるなる兵器が、ジエイタイのキカイ飛竜の攻撃を突破した少数の飛竜へと向かっていく。
「駄目!!」
 みさいるは無慈悲に帝国の飛竜を爆砕した。
「あ、あ、あ・・・」
 ありえない光景。数百の飛竜が全く手出しできずに負けていく。一体、これをどうやって例えればいいのよ!!!
 ドドドドドドドド!
 超低空から接近していた飛竜は光の塊の帯に絡めとられ、「弾けた」。
「こんな馬鹿なことが起きていいの!?」
 南大陸の飛竜相手でもそれなりの戦いは出来たのに、見てられ・・・!
「殿下!目を逸らさずに!ニホンの力、技術をよく焼き付けておきなさい。我等の未来の姿が、彼らです!未来から目を逸らしてはいけない!」
 そんなこと言われると、目を逸らせないじゃない!戦いが始まって半刻も経っていないのに、帝国の飛竜は半分以下に減ってるのよ・・・。

827 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/09(土) 23:38:11 [ ha6uMnfc ]
 ・・・。
「どうした?」
 飼育員と協力して相棒の体を拭いていると、それまで首を丸めて寝そべっていた相棒が起き上がり、首を北に向けた。
 他の飛竜も同じように揃って北を見ている。
「北?そろそろジエイタイが戦争をおっぱじめる頃だな・・・!?」
 タタタ・・・ドン・・・・ヒィィィィ・・・ドン・・・
 爆発の重低音が風に乗って聞こえてきた。相棒は音が着く前に戦いを感じ取ったのかな。
「どうした。何か気になることでもあるのか?」
 それなりの期間過ごしたおかげで、相棒の感情や考えていることは分かっていたつもりだったが、一心に北を見つめる相棒の気持ちは全然読めなかった。
 普通に考えれば、ジエイタイの戦闘機に飛竜が敵うはずがネェ。爆発音一つで飛竜と竜騎士がセットでくたばってる最中だろう。
「敵とは言え、同族の死を悼んでるのか?」
 激戦が行われているであろう北の方を見つめた。


850 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/12(火) 00:32:27 [ ONRHDd5U ]
 戦闘開始から20分弱で、連合帝国の飛竜はほぼ駆逐された。空を覆わんばかりの飛竜の大群は、航空自衛隊に羽虫のように叩き落された。
 わずかに残った飛竜も、陸上自衛隊の短距離地対空誘導弾と高射機関砲に掃討されていく。
 皇帝がふと空を見つめると、見方の飛竜は消えてなくなり、奇妙な形の飛竜が空を物凄い速さで席巻していた。
「なんということだ!一刻の猶予も無いぞ!急げ!急ぐのだ!」
 あの飛竜が地上軍に手を出す前に、彼らの友軍との混戦に持ち込まないといけない!戦争に疎い皇帝にはこれぐらいしか思い浮かばなかったし、他に手段も無かった。
 騎馬の兵士たちは全速力で前進していく。先鋒部隊と同じように徒歩の部隊との差が開いていく。
 カッ! ドドドドドン!!
 騎兵部隊の後方で凄まじい爆発が発生した。数個の閃光と刹那の後の数百の小さな爆発は、5000以上の兵士を即死させ、万を超える兵が行動不能になった。
 F−2支援戦闘機が投下したCBU−87クラスター爆弾を皮切りに、爆装したF−2とF−4EJ改がMk82爆弾を歩兵に投下した。
 同時に、機関砲の残弾があったF−15も地上掃射で 敵兵を地面へと縫い付けていく。
 瞬く間に、徒歩で移動していた兵士40000のほとんどが地上から消え去った。

851 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/12(火) 00:33:32 [ ONRHDd5U ]
 最早後ろを振り返ることは出来なかった。後ろは猛烈な炎に覆われている。如何なる魔法を使ったというのだ!?
 彼は逃げ出したかったが、皇帝の威厳と退路を絶たれたことがそれを許さない。
「前方に敵軍勢らしき集団!」
 疾走していた騎士の一人が、はるか前方に敵の軍勢のような集団を見つけ、皇帝に報告した。
 皇帝の目にも入る。その事を全軍に伝え督戦するために伝令の兵を呼ぼうと口を開いた。
 この時、連合帝国軍は陸上自衛隊の布陣していた場所から15キロを切る場所にいた。長距離の砲やロケットなら余裕で射程内である。
 日本政府は帝国要人の捕縛を望んでいた(皇女が南大陸の手に落ちたのがショックだった)ので、OH−6などを途中に配備して皇帝や皇太子などを探していたのだ。
 そして、望遠カメラは皇帝や皇太子などの使用する軍旗を捉える。連合帝国軍の将官は軍旗の近くにいることが多い。
 直ちにそれらのデータは特科に送られ、皇帝や皇太子のいない場所に照準を合わせる。
 挨拶代わりに12発の227ミリ多弾頭ロケットが、MLRSから発射された。
 陸上自衛隊は挨拶のつもりだったのだが、悪運の女神は日本に邪悪な笑みを浮かべたのだった。

852 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/12(火) 00:34:22 [ ONRHDd5U ]
「・・・・・」
 白煙を吹き上げて空高く上る何かを、皇帝は口を開けたまま見ていた。命令を下すことすら忘れる。
 それは頭上で炸裂したかと思うと・・・皇帝はそこまで思考することは許されたが、子爆弾が彼を騎乗する馬ごと吹き飛ばし意識を失った。
 炸裂した12発のM26ロケット弾からばら撒かれた数千発のM77子弾は、皇帝のいる付近から数百メートル離れた場所に着弾して、人間も馬もずたぼろにした。
 そんな中、子弾の内のたった一発が目標を外れ、たまたま皇帝のいた辺りを直撃したのだ。
 後世の歴史家は「それほど幸運ではなかった皇帝が、最後の最後で大当たりを当てた」と皮肉っている。
 MLRSの攻撃を皮切りに、沈黙していた155ミリ榴弾砲が咆哮し、敵軍の右翼と左翼を端から吹き飛ばしていく。
 航空自衛隊は引き返し始めている。弾薬をほぼ使い果たしたのだ。
 残念なことに、それは数を減らしつつも突撃を敢行する連合帝国軍への福音とはならなかった。
 鉄の獣は出番を待ちわびて唸っている。



868 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/13(水) 23:57:47 [ bVh3PVHk ]
 90式戦車の隊員は大変張り切っていた。それはもう、見える敵全てを葬り去らせようというぐらいに。
 出撃の合図と共に90式戦車と74式戦車、普通科隊員が搭乗した89式歩兵戦闘車など諸々の車両が移動を始める。
 ・・・否。彼らより先に戦場に到着した兵器があった。
 AH−1とUH−60、そして数は極端に少ないが異彩を放つAH−64。
「あいつら獲物を全部横取りしちまうんじゃないか!?」
 前方で派手にヘルファイアやTOWにロケット弾を織り交ぜた花火大会が始まっている。
 はやる気持ちはあっても、ヘリコプターと戦車では速度の差は如何ともしがたい。
 その上空を9機のAH−1Sが通過し、大量のロケット弾を敵集団のど真ん中にぶち込んだ。
 もちろんパイロットやガンナーはワーグナーのワルキューレの騎行を口ずさみながらトリガーを引いている。

869 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/13(水) 23:58:52 [ bVh3PVHk ]
 ビシャ!
 M230自動式機関砲とM197三連装ガトリング砲の直撃を受けた騎士が、乗馬ごと水入り風船が破裂するような音と共に弾けとんだ。
 超低空を飛行し飛ぶヘリコプターに、空への攻撃手段を持たない騎士はいいようにやられている。
 迎撃できたかもしれない魔術師や弓兵は、航空自衛隊の攻撃であの世に旅立ってしまっていた。
 先日の南大陸(主にナイトロス)連合軍の砲爆撃よりも効率的に連合帝国の軍勢を削り取っていく。
『逃げる騎士は駄目な的だ!向かってくる騎士は良くできた的だ!!』
 タタタタタ!
 UH−60に乗り込んでいた空挺団員の一人がが、89式自動小銃で地上の騎士をなぎ倒していく。
 後に問題になりそうな発言も、高揚した気持ちになっていた団員やヘリ乗員は聞き流していた。
 初めての実戦に張り切りすぎていたのは否めない。

870 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/13(水) 23:59:57 [ bVh3PVHk ]
「くそっ!退却だ!体制を立て直すぞ!」
 あまりの見方の劣勢に驚いた騎士団長の一人が、撤退命令をだした。その直後、彼は戦場に到着した90式戦車の最初の犠牲者となってしまったが。
 120ミリ砲で吹き飛ばされる前に出された命令はきちんと伝わり、彼の騎士団の生き残りは大慌てで引き返し始めた。
 それにつられるように、他の騎士団の騎士も次々と逃げ出していく。
「待て!第三皇子の私は撤退など認・・・」
 ダダダ!ドチャッ
「妙な術を使う蛮族め!我こそは連合帝国の第二皇子!正々堂々と一騎打ちを・・・」
 シュバッ  ドーーーン!
 上級将官や皇室関係者の捕縛を命じていた日本政府だが、現場は狂気に近い熱気に包まれていた。
『騎士相手に35ミリと重MATはちょっとやばかったか?まぁいいか!』

871 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:00:34 [ bVh3PVHk ]
 追撃は暫く続いた。いくら馬が速くとも所詮はナマモノ。距離は縮まれど広がることは無い。
 装甲車等で追い回し、戦車で仕留める狐狩りのようになっていた。
 ただし、空爆でも破壊しなかった本陣まで追い詰めるのではない。適度に数を減らして、本陣まで追い返すのだ。
 そこで残った皇族をヘリで降下した空挺団員が・・・が当初の予定だったが、皇族関係者や高級軍人をかなり倒してしまったことに、まだ気づいていない。
 帰ってこれた兵力は1万強。出撃した時の兵力の1割程度に減っていた。後にも先にもこれだけの戦力で惨敗した戦いは(先遣隊はもっとまともな戦果を残している)帝国に無かった。
 大勝を期待してくっついてきた大貴族はその様子を蒼白な面持ちで見ていた。機転の利く者は逃げ出す準備をしている。
「第一皇太子殿!話が違うではないですか!なぜこのようなことに!?」
「知るか!知らん!」
 貴族に言い寄られた一番上の皇太子は、それだけ言って逃げ出していた。
 指揮系統が消滅し、連合帝国軍は急速に瓦解しつつあった。

872 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:02:12 [ bVh3PVHk ]
終了。ですがもう一発投下。本編とはそんなに関係ないです

『酒は飲んでも飲まれるな』

873 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:02:59 [ bVh3PVHk ]
「エーテルガルド殿下。お仲間と一緒にこれを飲みませんか?」
「コジェドフか。何それ?」
「ノーメン・クラトゥーラ。アスターの美味しい酒です。」
 近衛天馬騎士や天馬騎士が杯を交わす。
「乾杯!(ごくごく・・・)」
 そのまま三分の一の兵士は倒れた。
「コジェドフ!この酒美味しいじゃない!もっと頂戴!」
 エーテルガルドはノーメン・クラトゥーラが口に合うようだ。
「いい飲みっぷりですね〜」
「ゴクゴクゴク・・・ぷはーっゲプッ」
(うわっ、いきなりオッサンの飲み方になったぞ。はしたない・・・)

874 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:03:39 [ bVh3PVHk ]
「ちょっと!しけた顔してちゃ駄目よ!私が励ましてあげるわ!」
「・・・?」
(エーテルガルド殿下は飲むと陽気になるタイプなのか。これもナイトロス情報局に通達しておかないと・・・)
「ヘイ!中尉さん!私の踊りを見なさい!」
 腰を左右に振って怪しげな踊りを踊っていた。ブンシャカブンシャカ・・・
「はうあ!!!」
(何だこの踊りは!?)
「そんなかお」
「にあわないわよ」
「コ」
「ジェ」
「ド」
「フ」
「さん」

875 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:04:39 [ bVh3PVHk ]
 満面の笑みで踊っている。更にくるくる回り始める。
「さあ」
「わらって」
(良く分からないが、笑える踊りだ。笑顔を・・・)
「笑うなー!!」
 バキッ
 コジェドフの横っ面に肘鉄を食らわせた。
「ぶべら」
(な、なんで・・・)
「こちとら」
 ドカッ
 顔面に足蹴が炸裂する。
「真剣なのよー!!」
 バチーーーン!
 最後の張り手でコジェドフは吹っ飛ばされ、地面を何メートルも転がり気絶した。
「つ、強い・・・(ガクリ)」

876 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:05:57 [ bVh3PVHk ]
「・・・。」
 酔いつぶれていなかった天馬騎士たちは、その様子を呆気に取られてみていた。
「副団長!」
「は、はい!!」
 据わった目で副団長を見ている。睨まれた副団長は逃げることも目を逸らすことも出来なかった。
「いつも迷惑かけてるから、少ないけどご褒美をあげるわ!こっちに来て!」
「はぁ・・・」
 エーテルガルドにちかづく副団長。そして
 ズキュウゥゥン
「!!?」
 エーテルガルドに唇を奪われていた。

877 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 00:07:05 [ bVh3PVHk ]
(嬉しい・・・団長はやっと私の思いを・・・!?)
「オゲェェェ・・・・」
「ЮЙ◆#¶!?」
 副団長の口の中いっぱいに広がる酸味と不愉快な・・・
(あぁ・・・神様、これも試練なのですか?)
 副団長はショックで気絶した。
「や、やった!さすが団長閣下!私たちに出来ないことを平然とやってのける!そこにしびれるあこがれるゥ! 」
「えへへ。どんなもんよ〜〜!・・・Zzz」
 どこぞのボクサーのような勝利宣言をしながらエーテルガルドは眠りについた。
 そして翌日。彼女は全てを忘れていた。
「コジェドフ?傷だらけよ?」
「いろいろあったんですよ・・・」
「副団長?私の顔に何か付いてる?」
「ぃぇ・・・」




888 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 23:04:54 [ bVh3PVHk ]
 UH−60からヘリボーンで降下した空挺団員は、身分の高そうな帝国人の捕縛を目指し、行動を開始した。
 戦車隊は、帝国軍本陣を包囲するような隊形を取りつつあり、そこから逃げ出すのは極端に難しくなっていた。
「何奴!?姿を見せろ!」
 ある大貴族の護衛をしていた騎士が、火災の煙で視界の悪くなった林の向こうに、味方でない人間を発見した。
 他の騎士たちも次々と抜刀し、謎の敵の襲撃を迎え撃とうとした。
 タン! ビシッ
「うっ?」
 騎士の一人が突如として後ろ向きに倒れ、動かなくなった。その額には穴が開き、血が流れ出している。
 タン! タン!
 他の騎士たちも次々と倒れる。大貴族の男が異変に気付いたときには、周囲には彼と空挺団員しかいなかった。
「我々と来てもらおうか?」
「ひぃゃぁあぁ!!!」
 情けない声を上げて逃げ出す大貴族。直ぐに足がもつれてすっ転び、あっけなく捕まった。

889 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 23:05:28 [ bVh3PVHk ]
 おおかた戦いは自衛隊有利に進んでいたが、一部では頑強に抵抗される局面もあった。
 ヒュン! ドウン!
 魔術師の放った魔法が着弾する。断続的な攻撃で、空挺団員は効果的な反撃が出来なかった。
「こんなこともあろうかと・・・」
 業を煮やした小隊長が無線で応援の要請をする。
 タンタンタンタン!
 魔法を詠唱していた魔術師が、96式40ミリ自動擲弾銃によって粉々に吹き飛ばされる。
 巻き添えで数人の護衛兵も命を落としてしまう。
「今だ!行け行け!!」
 魔法が途切れた隙に、装輪装甲車からおりた普通科隊員と共に空挺団員は一気に突撃した。
 火傷や矢の切り傷での数人の軽傷者を出した程度で、その場の戦闘は集結する。

890 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/14(木) 23:06:11 [ bVh3PVHk ]
 ・・・。
「・・・・・。」
 戦闘が始まって大した時間も経ってないのに、十万の軍勢が消えるなんて、どういう魔法!?
「殿下、顔色が悪いですぞ?」
 そういう司令官も顔色悪いわよ?戦いを見ていた人間と獣人や亜人類はみんなお口があんぐりだけど。
 父上、生きて・・・無いわね。いい人だったのに。父上のことは諦めていたから、悲しみは少ない。
「ところで、これも片付けるの?」
 穴だらけになった戦場を指差す。あの激戦じゃ死体なんて細切れでしょ?大地の肥やしにした方がいいと思うわ。
「さて。ジエイタイ次第でしょうな。」
 凄い爆音はめっきり減って、目に見える範囲での戦いは終わってるみたい。緑の服の兵士があちこち歩き回ってる。
 私は絶対イヤよ!
「全く、ジエイタイはとんでもない戦いをしてくれたな。これから一体どうやって対策を立てればいいのだ・・・」
 遠くから爆音が何回か聞こえてくる。もう連合帝国軍は国教会軍とセットでお仕舞いよ!!!!



895 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/17(日) 00:55:10 [ bVh3PVHk ]
 ・・・北大陸西部・某領主貴族の館・・・
「おい!誰かおらんのか!?」
 用事で使用人を呼んでいるのに、主人である彼の元に誰一人としてやって来ない。
「一体何だというのだ・・・」
 寝室から外に出て、誰かいないか探していく。
 誰もいない訳ではなく、彼の家族と私兵として雇っている騎士はいた。
 だが、一般の使用人の姿だけ掻き消えていた。
「つい先ほど、使用人たちは外へ出て行きました。」
 騎士の報告では、メイド長が使用人全員を外へ呼び出したのだという。
 外を見るが、窓の外は吹雪が吹き荒れていて寒そうだ。余程のことがなければ出たいと思う気温ではない。
「とりあえず呼び戻して来い!」

896 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/17(日) 00:56:30 [ bVh3PVHk ]
 その貴族の館に向けて二機のF/A−18スーパーホーネットが飛行していた。
『キラービーよりビホルダー、目標に接近中。雲が多くて地上が確認できない。』
『ビホルダーよりキラービー、周囲に脅威となるような敵は存在しない。高度を下げて目標を視認してくれ』
『キラービー了解。ビホルダーではなくスズキドゲザエモンじゃないか。役立たずめ』
『衛星も正確な地図もないんだ。諦めてくれ。』
 高度を15000メートルから一気に降下。眼下の雲は視界一杯となり、雲に代わり雪が視界を覆った。
『キラービーよりビホルダー、目標らしき建造物を確認。攻撃を開始する。』
 投下するのは普通の250キロ爆弾。目標はそんなに大きな建物ではない。1発命中すれば大破するだろう。
『目標をロック。・・・投弾。』
『キラービー2、投弾。』
 投下されたのは4発。いずれも投下された時の軌道を維持して目標へと向かっていった。

897 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/17(日) 00:57:40 [ bVh3PVHk ]
「近くにはいませんでした!かなり遠くへ行った模様です。」
 雪まみれになった騎士が白い息を吐いて、主人である貴族に報告する。
「給金を払ってるのに、なんて連中なのかしら!」
「あなた、帰ってきたらしっかりと叱ってくださいな。」
 娘と妻の言葉に貴族は大いに賛成だった。卑しい身分の分際で・・・
 吹雪の音は、低空を飛ぶスーパーホーネットの音と姿を完全に消していた。落下する爆弾の発する甲高い音も。
 一発が屋根を突き破る。二発目もほとんど同じ場所へ落下する。三発目は庭に四発目は厩舎に。コンマ数秒でそれらは一斉に爆発した。
 貴族は、灰色の二つの物体が妻と娘を押し潰したのは確認できた。が、それまでである。
 閃光と爆風に貴族は巻き込まれ、屋敷ごと綺麗さっぱり吹き飛んだ。

898 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/17(日) 00:58:42 [ bVh3PVHk ]
「屋敷が・・・」
 メイド長に呼び出され、屋敷から数百メートル離れた場所にやって来ていた使用人たちは、屋敷が爆発して消え去るのを余すところなく目撃してしまった。
「ゴメンナサイねみんな。あなたたちならちゃんと再就職できると思うから頑張ってね。」
「あ!メイド長!」
「その格好は?」
 特に親しかったメイド達が、旅服で馬上の人となったメイド長に駆け寄った。
「私のお仕事は終わったから。あの貴族のところで働いて6年だったけど、楽しかったわよ。・・・じゃあね」
 雪原で呆気に取られる使用人達を残して、ナイトロス王国情報局所属の女エージェントは吹雪の彼方へ去ってしまった。
 春になり、占領地となったこの場所にアドバイザーとして再び戻ってきたが。
 こんな調子で、在日米軍機を中心とした爆撃隊は有力な貴族や聖職者を爆殺していった。
 そしてこの日、それ以外に帝国の有力者が数多く亡くなった。毒殺や首吊り、中には腹上死した者までいたのだ。



904 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/19(火) 00:38:46 [ 9YxPRMP6 ]
 戦闘は開始2時間で、ほぼ決着した。大地を覆い尽くさんばかりの兵は全て大地に倒れ伏していた。
 数日前の南大陸連合軍と連合帝国の戦いの痕跡を全て吹き飛ばすような、大小様々のクレーターが戦場に広がり、月面さながらとなっている。
 エーテルガルドはそれを呆気に取られて見ている所を、用があると言われてどこかに連れて行かれた。
「どこに連れて行く気だ?」
「帝国の残滓が集まる所だ。」
 ナイトロス兵の残滓・・・残りカスという言葉に首を捻りつつつれてこられた場所を見て、目を見開いた。
 小型の火縄銃を構える緑の服を着込んだジエイタイ兵士と、彼らに取り囲まれていたのは・・・
「ああ、エーテルガルド殿下!お助けください!!」
「どうか殿下の御力で、この不埒な輩共を成敗してくださいまし!!」
 帝都で散々エーテルガルドをいびっていた貴族達だった。彼女の姿を見るなり、それまでの全てを翻して醜悪なまでに媚を売ってきた。
 彼女が敵の手に落ちたと察して、糾弾ではなく彼女に懐柔してもらおうという、どす黒い判断からだろう。
 エーテルガルドは純粋に嫌悪感を抱いた。連合帝国の腐敗の全てがそこに凝縮しているような錯覚を覚える。
「私はナイトロスの虜囚だ!貴公らは貴公ら自身で何とかしろ!」
 突き放され、絶望の表情を浮かべる塵以下の存在を一瞥し、自衛隊に貴族達の名や役職、領地などを簡潔に教え、次に指定された場所へと向かっていった。
「いやだーー!金も何でもやるから命だけはーー!」
 残滓は喚いていたが、エーテルガルドはもう関心を示さなかった。

905 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/19(火) 00:40:24 [ 9YxPRMP6 ]
 次に連れてこられた場所で、彼女は死んだと思っていた人間と再会した。
「父上!!」
 包帯でぐるぐる巻きにされ顔は分からないが、甲冑は皇帝のものに間違いなかった。
「この重症患者が連合帝国の皇帝ですか!?この人は子爆弾の爆発を至近距離で受けて瀕死です。たまたま馬が破片の殆どを浴びて、この人はそのおかげで命を取り留めたのです。」
 運よく五体満足で命は繋ぎとめたが、どう見ても皇帝としての公務は続けられそうになかった。
「・・・その声、エーテルガルドか・・・」
 エーテルガルドに気付いた皇帝が話しかけてきた。衛生科隊員に長時間の会話は禁止された上で、会話を許可された。
「はい、エーテルガルドです!父上・・・うっ・・・うっ・・・」
「泣いているのか?私のことは気にするな。あれは慢心ゆえの敗北だった。お前は立派に戦ったのだろう?その事を誇りに・・・うぬぅ」
 ここまで話すのがやっとだったのか、以降は苦しそうな呼吸を繰り返すだけとなった。
「父上・・・・・」
 兵士に促され、踵をかえした。
「エーテルガルド!」
 皇帝の一声に歩みが止まる。
「余は負傷によりオスミア=ハフニー連合帝国皇帝の職務の遂行に支障をきたす事になった!余は第一皇女エーテルガルドに帝位を禅譲する!・・・即位の方法は・・・お前に任せる・・・」
 慌てた医務官に麻酔を打たれて、皇帝は静かになった。

906 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/19(火) 00:42:49 [ 9YxPRMP6 ]
 夜になり、捕虜達のいる所に帰されたが、エーテルガルドは食事も取らず、一人で物思いにふけっていた。心配した天馬騎士も適当に追い払う。
(どうしよう。父上が生きていたことは嬉しいんだけど、皇帝の座を譲るってイキナリ言われても・・・。)
(あの貴族達の面倒を見るなんて考えたくもない。皇帝なんて損な仕事よ。)
 色々な事が頭の中をめぐって、考えがまるでまとまらなかった。
 半年前までの野望などとうに霧散している。
(どうすれば・・・どうすれば・・・!!)
「悩んでいては何も進みませんよ、閣下。」
 いつもの様に、副団長は団長の元にやって来た。団長はそれを拒まない。
「副団長・・・。私、もう何を信じて何をしていけばいいのか分からないわ!」
 副団長は、団長の口から紡ぎ出される不安や愚痴をいつものように聞いて、そのたびに相槌を打った。
「団長・・・」
 一通り話を聞いたところで、副団長は優しい口調で語りかけてきた。その優しさはエーテルガルドの記憶の彼方に眠る、夭逝した母の雰囲気に似ていた。
「団長閣下は、閣下が正しいと思ったことをすればいいのです。戦の前、同じことを申したではありませんか・・・」
 団長の顔が少し明るくなったのを、副団長は感じた。
「そうだったわね。副団長、朝まで私を一人にさせて。心の整理をつけるから。」
 副団長も言うことはない。暖を取る焚き火をじっと見つめる、敬愛して止まない上司の言うとおりにした。

907 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/19(火) 00:45:03 [ 9YxPRMP6 ]
 ・・・。
「どうしたんですか隊長?落ち込んでますよ。」
 隊長は帰ってきてから酷く落ち込んでいる。ジエイタイの戦いを見て興奮してるもんだとばっかり思ってたんだけどなぁ。
「ジエイタイの戦いは、未来の我々の戦いだ。アレックス!お前なら分かるな!?」
 中尉からせしめたやばい酒を大量に飲んでいる。隊長はのんだくれになっちまった。
「まあ何となく」
「そうだろ。あの戦いは浪漫も騎士道もへったくれもない!我々の戦いには少しは残っていた風潮が微塵もなかった!!」
 ドン! 激しくカップを机に叩きつけた。
「私は空を飛ぶ竜騎兵に憧れて空軍に入隊したのだ。それの結末と未来が、あの戦いというのは・・・」
 酔いが回ってきたらしく、言ってることがおかしくなってる。察するに、相当酷い戦いだったんだろうな。
 隊の連中はもう寝ちまって、俺以外に隊長の話を聞く人間がいない。
「聞いているのかいアレックス?ジエイタイのボタン戦争は、人殺しを最もスマートに行う・・・」
 隊長も理想と現実に悩んでるんだな。俺もそんな戦いに関わる日が来るんだろうか。



917 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/20(水) 23:30:31 [ 9YxPRMP6 ]
「エーテルガルド殿下、こちらへ。」
 私の前には馬車が停まってる。私を乗せるつもりらしい。
「聞いていいかしら?どこに行くの?」
「・・・。」
 沈黙。言うつもりはないのね。あえて聞くこともないでけど。
「殿下にはある場所に行って頂きます。場所は到着するまでご説明できません。」
「分かったから、早く連れてけばいいでしょ!」
 馬車や私の周りには、私の部下が大挙押しかけてる。みんなを落ち着かせてから出かけないと不味いわね。
「私は殺されるために出かけるわけじゃないから安心して!!大事なコマの私が酷いことされるわけないでしょう!?」
 警備兵を噛みつかんばかりに睨みつけていた部下達も少しは落ち着いたみたい。コマはコマでも捨て駒の可能性もあるけどね・・・。
「副団長!いつも通り、皆のことは頼んだわよ!」
 群衆の中にいた副団長が頷き、「任せてください」という笑顔を浮かべた。
「じゃ、行きましょうか。煉獄でもどこでも行くわよ!」

918 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/20(水) 23:31:06 [ 9YxPRMP6 ]
 ・・・。
 馬車に乗せられ、両脇を屈強な男に挟まれ、旅を・・・楽しめなかった。すぐに目隠しされちゃったから。
 ガタゴトという音と、振動しか楽しめ・・・たわけないでしょ!!!
 一刻か一刻半で馬車は停まり、目隠しのままどこかへ歩かされた。
 何か炭臭いわね。木か何かを焼いてるのかしら?でも、それとも匂いがちょっと違うわ。
「どこに行くのよ!この匂いは何!?」
「秘密です。はい、段差に気をつけて!」
 石っぽい床の感触から、急に木みたいな床の感触に変わった。建物の中かしら?
『殿下が乗りこんたぞ!保安要員を配置したら出発だ!!』
 しゅ、出発!?
「では、ここに座ってください」
 すとん。やわらかい材質の何かに座った。
「汽車を出せ!」

919 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/20(水) 23:32:54 [ 9YxPRMP6 ]
 ゴトゴトゴト・・・
「!!!??」
 私のいる場所が動いてる!?な、なんだかどんどん早くなってるみたいだし!
「何で動いてるのよ〜〜!?私どうなっちゃうの!?」
「泣き言は聞きませんよ殿下。もうちょっとしたら目隠しは外しますから。」
 本当に?やった!!
「目隠しを外してください。」
「じゃ、遠慮なく・・・・・嘘・・・」
 どこかの個室みたいな部屋にいた。そこには数人の兵士以外いなくて、窓は閉められてた。
 音と雰囲気から、高速で動いてるというのは理解できる。
「窓は?」
「開けてはいけません!これでも見ててください。疑問点などは随伴員の171に聞いてください。」
 つ(カサマツさんアップローダー1MB ichi53422.zip)
 暇そう・・・仕方ないわ。渡された本でもゆっくり読みましょ。・・・これ、歴史書?


767 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/02(土) 22:38:38 [ 5iy4fk2w ]
 早朝、部下と顔を合わせるため、ナイトロス軍司令官とその護衛を引き連れて歩いていた。
 ゴゴゴゴゴ・・・
 地鳴り・・・土煙もすごい。
「これが・・・」
「これがジエイタイの兵力ですよエーテルガルド殿下。」
 私には動き回るそれらを、他のものに例える語彙を持ち合わせてない。
「もう数日で連合帝国軍の本隊が彼らとぶつかります。宜しいのですかな?」
 司令官の問いかけは私に重くのしかかる。
 事大な兄や、ろくでなしの将軍たちが何人死んでも知ったことではない。敵の力を甘く見た報いを死で受け取るだけだし。
 ただ、父上・・・度量不足だけど子煩悩な皇帝陛下は・・・
 唇を噛む。私は捕虜で、敵の軍門下にいるんだ。
「もう私にはどうしようもありません。そちらに全て任せます。」
「承知しました。殿下は連合帝国軍の消滅を見届けていただきます。」

768 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/02(土) 22:39:34 [ 5iy4fk2w ]
 一日ぶりに部下たちと顔を合わせた。疲労は溜まっているみたいだけど、ひどい扱いは受けてないみたい。
「みんな久しぶり。仕事ははかどってる?」
 部下たちがさせられていた事は知ってたから、こんな風に言える。
「死体を焼く匂いと、竜人族の肉料理の匂いが混じって大変でした。それ以外は大丈夫です。」
 副団長はそれに加えて、各騎士団の近況やあちこちで発見した団員のことを説明してくれた。
「分かったわ。・・・司令殿。撤去作業はそろそろ終わるのでしょうか?」
「ジエイタイの力を使ったので、早ければ明日、遅くとも明後日には全て終了します。」
 数万人の死者を出した戦場が、一週間もかからずきれいさっぱりになるなんて!ニホンてすごい国だわ!
「エーテルガルド殿下。そうなれば、ほぼ全ての人員を後方へ下げます。殿下の配下の部隊もです。殿下は戦闘をご覧になっていただきます。」
 大きな不安と、見たことのない兵器がもたらす戦場を見たいという軍人の心がせめぎあっていたけど、すぐ決着が付く。
「見させてください。あなたがたの言う戦いが本当に起きるのか・・・見てみたいです。」

769 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/02(土) 22:40:31 [ 5iy4fk2w ]
 ・・・。
「先鋒隊が壊滅!?」
 皇太子達や将軍が逃げ帰ったきたムッター将軍の報告に驚く。
「何かの間違いではないのか!?本隊よりは数は少なかったが、一会戦ぐらいで壊滅するような兵力ではなかったはずであるぞ!」
 皇帝が平伏するムッター将軍に詰問する。
「ハハッ!敵軍は悪魔の力を借りたが如く、友軍を打ち倒したのであります!私は最後まで残りましたが一歩及ばず、無念の退却をしたのであります!」
 ムッター将軍が最後まで戦ったという言葉を信じるものはいないが、友軍が倒されたのは紛れもない事実だった。
「ムッターよ、何人残ったのだ?」
 ムッターはさらに頭を下げる。
「き、騎士5000!歩兵4000!竜騎士30強であります!」
 将軍たちの顔が曇る。生還率は二割行くかどうかと言う低さだった。飛竜に至っては一割も帰ってこなかった。
「これは由々しき事態だ!」
 将軍たちは皇太子を交えて相談を始める。が、引き返すという選択肢は無いのだから、「数はこちらが倍いるから大丈夫」という当たり障りの無い結論に至るだろう。

770 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/02(土) 22:41:13 [ 5iy4fk2w ]
 皇帝にはもう一つムッター将軍に聞くべきことがあった。
「エーテルガルドはどうした?」
 残存戦力の中にエーテルガルドの指揮していた兵は全くいなかった。
「エーテルガルド近衛騎士団長は、敵の飛竜の中へ勇壮にも突撃していきました!以降は我々も会敵し、空の状況は確認できませんでした!」
 帰ってこないということは、恐らく戦死してしまったのだろう。唯一の娘だったエーテルガルドの死を嘆いた。
 彼女の兄に当たる皇太子たちは、その報告を別の感慨を持って聞いていた。
 皇帝の寵愛を受けていた邪魔者が一人消えた、と。そしてこの戦いが終われば、今度は兄弟間で潰しあいが始まる。
 それら全てを、はるか上空の偵察機が撮影していた。


931 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/21(木) 23:22:16 [ 9YxPRMP6 ]
 ガサガサ
 下草が生い茂り、木によって視界の悪い森の中を陸上自衛隊の第一空挺団分隊6人が、歩いていた。
 日はとうに沈み、周囲を暗黒が包んでいる。暗視装置を装着しているので、移動には困らない。
 パキン!
 最後尾の一人が、小さな小枝を踏んだ。その音はごく小さい音で、他の隊員は気にも留めなかったが、彼らを狙うの者たちには、その音でも充分だった。
 ヒュン! とすとすとす!
「ぐっ!?」
 小枝を踏んだ隊員の背中に、数本の弓矢が突き刺さった。
「敵襲!」
 直ちに暗視装置で弓矢を射た敵を探そうとするが、敵はそれを許さない。
「しまった!目を瞑れ・・・!」

932 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/21(木) 23:23:16 [ 9YxPRMP6 ]
 三人は間に合ったが残り二人は間に合わず、魔法による閃光によって視界を奪われてしまった。
「慌てるな!撃て!!」
 分隊長は混乱する分隊をまとめ、暗視装置に写った敵影に向けて銃撃を始めた。
 タタタタ!
 当たらない。正確には木などを巧みに使って、弾が命中しないように動いているのだ。
 パン! ビシ!
 銃弾によってもう一人が倒れる。分隊は四人まで減ってしまった。
「上だ!撃ちまくれ!!!」
 銃撃のマズルフラッシュで、木の上に潜んでいた一人をやっと見つけた。
 視力の戻ってきた隊員も加わり、猛烈な銃撃を浴びせかけた。
 さすがにそれは避けきれず、大量に被弾して地面へと落下した。

933 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/21(木) 23:24:02 [ 9YxPRMP6 ]
 その後は一進一退の攻防が続いた。
 圧倒的な銃弾の嵐で敵を屠り、給弾で弾雨が弱まった隙に敵の弓や銃で倒される。
 これを繰り返すうちに、分隊は遂に隊長一人となってしまった。
 今の分隊長は降伏を許されず、敵を殲滅するか、全滅するしか選択肢がない。
「そこか!」
 前方に現れた敵影に向け発砲する。やはり木の後ろに素早く隠れて、命中しない。
「ハ・ズ・レ♪残念でした!」
 突如として後ろから声をかけられる。だが、本能が「振り返れば殺される」と告げていた。
「ジエイタイってスゴイわ!20人が3人まで減らされるなんて。でも、これでおしまいね♪」
 そして剣が分隊長に・・・

934 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/21(木) 23:24:45 [ 9YxPRMP6 ]
 ・・・。
「ジエイタイってすごいね〜。森林戦闘に特化したエルフ族や猫人族、犬人族、梟型鳥人族相手にここまで戦えるなんて!」
「伊達に訓練してるわけじゃないですから。」
 訓練も終わり、戦闘に参加していたジエイタイと南大陸各国の特殊部隊員は、サマリムの森林野戦部隊の作る夜食を待ちながら、談笑していた。
「いやー、調子乗って鉄砲撃ったら蜂の巣にされちゃったよ!ジエイタイには光を増幅して見れる装置あったんだよなぁ。忘れてたよ。」
「エルフ族や猫人族の動きは異常だったのですが、あれは一体何なんですか?」
「エルフ族は森の民。生まれついて森の中での戦いに慣れてます。夜間視力もそれなりにあるんです。」
「猫人族の祖先は木の上で生活してたって、偉い先生が言ってたよ〜。だから、木登りとか得意なんだって!」
「犬人族は・・・夜目と鼻は優れてますから。夜でも昼間みたいに動けます。」
 誰もが、少人数で健闘したジエイタイを称えていた。そして料理が配られた。
「サマリム名物のパスタをどーぞ!」
「「「いただきます!!」」」
「ちょっと待ってください!山篭りの合同演習はもう二日あるんですけど、こんなにパスタで水を使って大丈夫なのですか?」
「「「・・・。」」」
「パスタは伸びる前に食べてください・・・」


941 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/23(土) 23:02:32 [ vfr.33Fk ]
 長時間の移動が終わると、再び目隠しされて、今度は歩かされた。距離的には近いみたい。
 「あれ?この匂いって・・・海?」
 海の匂いと、油みたいな匂いが混じってる。それに周囲が物凄くウルサイ。
「殿下。これから船に乗っていただきます。」
「あら。教えてくれるなんて嬉しいわね。」
 では行きましょうの声で、また何かの乗り物に乗せられた。海なんだから船に乗ったんだと思う。
 そう言えば、船に乗るのって始めてかも。移動の時にはいつもペガサスだったし。
 ちょっとワクワクしてきちゃった!
「この部屋の中で三時間ぐらいお待ちください。先ほどの本を読んでいれば良いでしょう。」

942 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/23(土) 23:03:32 [ vfr.33Fk ]
 目隠しを外すと、さっきと同じく数人の兵士のいる窓の塞がれた船室にいた。パターンが同じなのに飽きないのかしら?
「好きにさせもらうわよ。」
 さっきの本の続きを読み始めた。
 ・・・ ・・・ ・・・?
 あ、あれ?目の前がフラフラする。何だろ?船は動き出したみたいだけど、その揺れかしら・・・
「殿下、顔色が悪いですよ?酔ってしまいましたか?」
 船に酔う・・・聞いたことはあったけど、これがそうなん・・・う゛っっっ!!!
「殿下!?」
 その後のことは聞かないで欲しいの。私の人生でも一、二を争う汚点だから・・・。

943 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/23(土) 23:04:11 [ vfr.33Fk ]
「殿下・・・到着しましたよ。」
 動けない・・・。目の前がぐるぐる回るぅぅ・・・
「完全にグロッキーだな。おい!殿下を外まで運ぶぞ!!」
 引きずられるように歩かされた。目隠しはされなかったけど、景色を見る余裕なんて本当に無かった。
 そのまま馬車に連れ込まれ、どこかへと連れられていく。馬車の揺れで気持ち悪さが戻ってきた私にはどうでもいいこと・・・
 ナイトロスの兵士にまた何回か迷惑をかけてから、馬車が止まった。
「到着しましたよ。降りてください」
 重い足取りで馬車から降りると・・・
「ナイトロス国王がいらっしゃる、オキシゼの離宮です。」
 ナイトロスの国王?何をしようって・・・うぷ・・・
 さすがに離宮の中で粗相をしたら話にならないわ。無理して酸っぱい物を喉の奥に押し戻した。



946 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:16:54 [ vfr.33Fk ]
 離宮という割には小ぢんまりとした宮殿の中を歩かされ、どこかの部屋に連れて行かれた。
「浴場でお身体を綺麗にしておいてください。代えの服は使用人に言いつければ用意してくれると思います。その後は少し休憩するといいでしょう。」
 どうやら浴槽に連れてこられたらしい。ちゃんとしたお風呂には何日も入ってないわね。水浴びぐらいは時々してるから臭いとかは・・・
 そうだ。ナイトロス王のいる離宮に来てるんだから、王に会うんだろうな。清潔な身なりで会わないと軽蔑されるかも。衣服だって近衛天馬騎士の汚れた軍装だし。
「分かりました。御好意に甘えさせていただきます。」
 そのまま男の兵士や使用人らしい人間は場を離れ、女性の使用人や兵士だけが残った。
「それじゃぁ・・・」
 服を脱いで、扉の向こうにある浴場に向かった。・・・大きい。おまけにガラス張り!・・・え?
「安心してくださいな。飛び上がったりしない限りは下からは見えませんよ。」
 使用人に言われて、とりあえず安心!

947 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:17:34 [ vfr.33Fk ]
 ・・・。
「気持ちいい〜〜・・・この香料、いい香り・・・」
「これはニホン製の、体を綺麗にする石鹸と髪を綺麗にする洗髪剤というものです。効果も抜群ですし、ナイトロスでは品切れ必至の逸品なんですよ!」
「へえぇ・・・」
 体中を包んでいる泡からは、とてもいい香りがする。時々使う臭い消しと違って、クセになりそうだわ!
「お湯をかけますので目は瞑ってください。目に石鹸や洗髪剤が入るとしみてしまいますので」
「はい。」
 熱いお湯が頭から流されて、それまで汚れが綺麗さっぱり洗い落とされる。
「洗い流し終わりましたので、浴槽に浸かると良いと思います。我々は近くで控えておりますので、声をかけて頂ければすぐに対応させていただきます。」
 言われたとおり、浴槽に浸かった。凄く温かい。今は冬で寒いのに、どうやってお湯をこんなに沸かしたんだろう?
「殿下。この浴槽から見るオキシゼ市の光景は最高ですよ。見てはいかがでしょうか?」
 ふーん。そこまで言われたら見なくちゃ損よね!浴槽の中を窓際まで移動して、ガラス窓の向こうを覗いた。

948 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:18:17 [ vfr.33Fk ]
 外はもう夕焼けで、日が暮れかかってた。この離宮は高台の上にあるみたいで、街や海が良く見える。
「うわぁぁ・・・綺麗・・・」
 街が宝石箱を散らしたみたい!東のグリューネブルグ以外でこんなに美しい街があったのね!
「あの、大きな船は?」
 海には何隻も船が停泊しているみたいだけど、そのうちの一隻が物凄く大きい!
「あの軍艦ですか?確かあれは・・・ねぇ?あれどこの船だっけ?」
「あれはコバルタ連邦海軍の戦艦チーターであります、殿下。グリューネブルグ攻略に参加するはずだったようですが、本国の指揮系統が乱れているようで、オキシゼに居座っています。」
 コバルタは鳥人族って習った。連合帝国なら蛮族の見本みたいに言われてたけど、あんな大きな船を作れるなんて、どこも蛮族には見えないわ!
「凄い。こんな国々と戦ってたんだ・・・」

949 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:18:50 [ vfr.33Fk ]
 暫く景色を楽しんでから、お風呂から上がることにした。
 使用人たちが一から十まで全部やってくれる。便利ねぇ。
「こういったことは帝国でなされていたのではないですか?」
「私の騎士団は貧乏だから、使用人とかは最小限しかいないし、基本的に自分のことは自分でやる主義なの。」
 ちょっと憐れむような顔をされる。ひどい。貧乏が悪いのよ貧乏が!
「お着替えが終わりました。・・・気にっていただけましたか?」
「お風呂は最高!この服は・・・ドレスじゃないの?それも大胆な・・・」
 背中の大きく開いた白いスカート。この手の礼服って嫌いなのよね。いろいろ面倒だし。
「この後、国王陛下主催の晩餐会がありますので、それに合わさせていただきましたが、ご不満ですか?」
 そんなこと無いわよ。と言って、髪の毛をしっかりと(短く切り揃えてるからすぐに)乾燥させ、あちこちにアクセサリーを装着させられた。
「お綺麗ですよ」
 帝国でも舞踏会や食事会には近衛天馬騎士団の礼装で行ってたから、ちゃんとしたドレスって久しぶりかも。

950 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:19:28 [ vfr.33Fk ]
 ・・・。
 そのまま晩餐会の会場に案内された。離宮内は明かりが灯されていて、とても明るい。夜じゃないみたい。
「こちらです。お入りください。」
 ギギギギ・・・
 重そうな扉が開き、中からいい匂いが漂ってくる。そして・・・
「エーテルガルド殿下、これは私的な食事会です。気にせず入らしてくださって構いませんよ。」
 テーブルの奥に座っているのはもしかして、ううん。それ以外に無い。
「あなたがナイトロスの国王陛下ですか??」
「よろしく。夕食は楽しくするもの。お席について食事を始めましょう」
 誘われたものは断っちゃいけない。席の一つに着席して、食事を始めた。

951 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:20:12 [ vfr.33Fk ]
 食事作法は・・・帝国と大差ないみたい。食事も・・・帝国の、庶民料理に似た料理が出されている。
「お口にあいますかな?」
「はい。帝国の料理に良く似ています。」
「そうだろう。ナイトロスは連合帝国住民が作った国です。文化は数百年経ってもつながっているのですよ。」
 そう言われると感慨深いわ。
「失礼ですが、陛下お一人ですか?」
 席には私とナイトロス王しか座ってない。部屋の端には料理人や使用人が何人も控えているけど・・・
「妻はもっと南に避難している。第一王子は軍人としてナイトロス半島で働いている。第二王子は、今こちらに向かってきている最中だ。」
 料理を口に運びながら王の話を聞く。四人家族らしいってことは分かる。
 そして、私が聞きたいのはそれだけじゃなくて

952 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/24(日) 23:21:30 [ vfr.33Fk ]
「私とどういうお話をしたいというのですか?」
 国王の食事を進める手が止まった。
「色々ありますが、今日は長旅でお疲れでしょう?今日は食事が終わったらそのままお休みください。詳しい話は明日以降にしましょう。」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
 まともな食事って一ヶ月ぶりくらいかしら。明日のためにいっぱい食べましょ!
「良くお食べになりますね。おいしいのなら、おかわりも結構ですよ。」
 そのまま色々食べて、食べ終わるとドレスから夜着に着替えて寝室へと案内された。
「部屋からの外出の際は、歩哨に声をかけてください。では、おやすみなさい。」
 バタン
 質素だけど手入れの行き届いた部屋ね。
 ベッドに腰掛けてこれからの事を良く考える。
 帝国の事。自分の事。部下の事。・・・
 眠くなってきたので、私はそのうち考えるのをやめた。



965 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/26(火) 01:26:25 [ vfr.33Fk ]
 朝、寒さで目が開いちゃった。冬になるとこういうのが多くて本当に困るわ。
 二度寝しようとベッドに潜り込んだけど、眠れない。
「どうしよう・・・そうだ!」
 起き上がって、部屋の外にいた警備兵たちに声をかけた。
「この時間に風呂ですか?まだ掃除は後ですが、もう湯はあまり温かくないと思いますよ?」
「構わないわ。ちょっとすっきりしたいだけだから!」
 そのまま浴場まで案内してもらう。
「我々は部屋の前に戻っています。暫くすれば使用人が来ると思うので、その方に色々申し付けてください。」
 私一人になった。服を脱いで、大浴槽に浸かる。・・・あぁ、やっぱりいいわぁ!
 夜お風呂で、朝にまたお風呂なんて潔癖症もいいとこだけど、ここは何回入ってもいいわ!!
 朝焼けの街並みを見ているうちに、何だか眠くなってきた・・・。

966 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/26(火) 01:27:03 [ vfr.33Fk ]
 ・・・?やだ!お風呂の中で眠っちゃたの?もう上がろうかし・・・
 ばしゃばしゃ・・・
「誰かいるのか?」
 !!!!??? なっ何で男の声が・・・
 湯気の向こうから人影が現れる。
「あんた誰・・・女!!?」
「な、な、何で男・・・」
 私も相手も絶句した。そして状況を再確認する。ここは浴場で、当然裸で・・・
「い、い、い、い・・・」
「あわわわわ・・・」
「いやーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」



975 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:43:41 [ vfr.33Fk ]
 その日、離宮には各国の大使が集合していた。いずれも王国政府機能がオキシゼに転居した際、一緒についてきたのだ。
 大広間には巨大な円卓が備え付けられ、そこに大使と書記や護衛官が詰めかけている。
「此度の会議に、ようこそ集まってくださいました。我が王国の第二王子と、連合帝国の第一皇女エーテルガルド殿下です。」
 ナイトロス国王に紹介され、二人はそれぞれ王国式・帝国式の礼をする。二人の妙なぎこちなさには誰も気付かなかった。
 この三人が既に着席していたナイトロス首相の隣接席に座り、会議が始まった。入れ違いに首相が起立し、開会の挨拶を始める。
「ご存知の通り、連合帝国と南大陸連合軍及びニホン国との戦いはいったん終了しました。今、我々が会議で決めるべきことは『今後』です。」
 この会議はニホンを訪問したナイトロス国王とニホン政府関係者によって骨子が決められ、南大陸各国にそれを伝えた上で事前協議を行っているので、言わばこれは連合帝国代表者に各国の意思を伝えるために開かれたのである。
 帝国の代表者とは、早朝の出来事があって憂鬱なエーテルガルドである。彼女は会議で自分がどのような立場か知らされている。

976 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:44:58 [ vfr.33Fk ]
「南大陸の殆どの国が連合帝国に求めるのは、交易の再開と国交の樹立、国民の入国許可です。」
 一部の国を除いて、多くの国が求めたのはこれだけだった。賠償金や領土割譲を要求するには貢献度が少なかったからである。
 ごく一部の国だけが具体的な要求をしてきた。
「アスター社会主義連邦共和国は、連合帝国に1000億シリング(約250億円)の賠償金を要求します。」
「支払い方法が分からないのですが・・・」
 エーテルガルドは質問した。帝国のライヒスシリングが南大陸で通用するとは思えない。
「貴金属あたりで結構です。」
 他に金銭的要求がコバルタ、メリダ、ケビシニア、ウェッセンラント、ノステル、サマリムなど、それなりの兵を派遣した国から出された。

977 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:45:34 [ vfr.33Fk ]
 続いて最も被害を受けたナイトロス。
「我々が要求するのは占領中のグリューネブルグ周辺の割譲、北大陸東岸海域の水産・地下資源の優先採取権、帝国南方方面と半島を結ぶ陸路を、そちら持ちで建設することです。もう一つは後で・・・」
 もう一つが気になる所でも、他の要求について考えなければならない。
「割譲などは・・・やむを得ないです。帝国には大規模な土木工事は難しいのですが?」
 しっかりした出来の帝国建築物のほとんどが、古代かルネサンス期に作られた物で、今の帝国では失われた技術も多い。
「それはニホンの土建屋に丸投げすれば宜しい。彼らなら数年で見事な街路を作りますよ。どちらにしろ二兆か三兆シリングは必要かと」
 とても即答できる金額ではない。帝国が破産するかもしれない。
 しかし、帝国の解体とか強制移民とか変なことを要求されると予想していた中では、まともと言える内容と判断した。

978 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:46:07 [ vfr.33Fk ]
 ニホンがどのような要求をするのか、エーテルガルドは全く予想できなかった。この国を知ったのは、半年前なのだから無理は無い。
「日本国政府は連合帝国西部と北限以北の凍結地帯の日本への編入、北大陸西岸海域の全資源の管理権限と、帝国産出資源の安値での販売・・・これらを認めていただきます。」
 ニホンに面しているという西部を要求されるのは理解できても、誰も住んでいない極寒の地を要求する理由が分からない。
「ツンドラ地帯は宝の山なんですよ。」
 答えはこれだった。雪と苔の世界にどんな宝があるのだろう?
 彼女は場に流されていた。雰囲気に飲まれかけている。何とかしなければ!
「皆様は私が皇帝に即位する前提でお話しているようですが、私が帝位に就くとは限りません。帝位に就くのに必要な準備を手伝っていただけませんか?」
 皇帝になりたいとはもう思っていなかったが、父親に帝位の禅譲を宣言されたのではしょうがないし、有り得ないくらい腐っていても祖国、どうにかしなければという気持ちはある。
 会場はざわついたが、肯定の沈黙が場を包んだ。

979 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:47:06 [ vfr.33Fk ]
「まず、私と配下の騎士団の借金をどうにかして欲しいのです。」
 エーテルガルド名義の借金は既に5000万ライヒスシリング、近衛天馬騎士団では15億を超えている。近衛天馬騎士団の年間予算が2億弱、騎士団長職の年間俸給(カット前)が200万強の中、である。
 ちなみに、配下の天馬騎士団や竜騎士団全てを含めると、借金は30億から40億を軽く超える。どれも辺境部隊の寄せ集めで、装備の増強などは全て借入金で賄ったからだ。
「各天馬騎士団は伝統的に領地を持ちません。帝国からの予算内でやりくりする必要があります。戦時には予算が不足するので、借り入れと戦果の報償での返済でどうにかしていたのですが・・・」
 表情が一気に暗くなる。
「そういった借金に加え、破壊された帝都での橋と付随の水道橋の修理費が8億ライヒスシリング以上かかってしまって・・・今帰ったら、全財産を没収されてしまいます。それどころか私や部下達が・・・」
 日本の大使が渋い顔になったが、それは外交儀礼として誰も突っ込まない。
「後は、私を排除しようとする人間をどうにかしてください。私には敵が多いので。」
 その後、会議は煮詰まったが日程は数日間組まれている。幾度かの小休憩を挟んで、その会議はお開きになった。

980 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 01:48:31 [ vfr.33Fk ]
 ・・・。
「これは・・・」
「あう・・・」
 第二王子とエーテルガルドは何故か一緒の部屋で寝ることになった。
 蝋燭の光のみの部屋。枕が一つしかない大きめのベッド・・・狙っているとしか考えられない。
「今朝のことは済まなかった。悪気は無かったんだ。」
「私のほうこそ。あんなに叫んじゃって。」
 二人はベッドに腰掛けて、ぽつぽつと会話を始める。
「今日はもう寝ようか。私は床でも構わないよ。」
「大きいベッドだから、二人でも大丈夫じゃないかしら?寒いから風邪引くわよ。」
 結局、ベッドを半分づつに区切って(枕はエーテルガルドが手に入れた)寝ることとなった。



992 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 22:33:01 [ vfr.33Fk ]
 会議が数日続く中で、私は一つの決断をした。
 第二王子と一緒に寝ているだけの生活と別れを告げる決断を。
「じゃぁ今日も・・・」
 第二王子は、いつものようにベッドで寝ようとする。
「待って」
「え?何か・・・」
「私を抱いて。抱いてあなたのモノにして」
「え、え?何を?」
 こんな恥ずかしいこと、一回しか言えるわけないでしょ!!

993 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/09/27(水) 22:33:33 [ vfr.33Fk ]
「あなたが私を押し倒して、犯せばいいのよ。子供ができれば、帝国と王国は血縁関係になるわ。」
 ナイトロスはそれを望んでいるみたいだし、他国も私が変な人間と結婚してしまうよりは・・・って考えてるみたい。
「でも、愛情とかそういうのは・・・」
「そんなもの、そのうちついて来るわ!政略結婚に愛もへったくれも無いことぐらい知ってるわよね?」
「・・・・・。」
 はっきりしないわね!もういいわ!!
 ぱさり・・・
「これで抱かなくちゃいけなくなったわよ。ここまでした女性をほうっておくつもり?」
 私は寝巻きを全て脱いで、全裸で第二王子の前に立った。
「・・・分かった。後悔してない?」
「後悔なんてこの戦争に加わったときに全て済ましたわ。さぁ、好きにして!」
 これでいいのよ。これで・・・