503 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/08(火) 23:35:45 [ mGYIa2O2 ]
エルビヌメイン防衛線には、多数の敵飛竜がなだれ込んで来ようとしていた。
数は100以上。友軍が阻止し切れなかった分だ。これ以上は防衛線の対空兵器で対処するしかない。
『防衛線に接近中の友軍飛竜に告ぐ!!間もなく対空射撃を開始する!空域を離脱せよ!!』
魔法通信が伝わり、友軍飛竜は踵を返して別の敵を探しに行った。
そうとは知らない敵は、遮二無二突っ込んでくる。
『全高射魔導砲、対空魔法・・・発射!!』
味方が退避したのを確認するなり、陣地内各所に備えられた高射魔導砲や対空魔法、魔法兵・対空戦竜ZD57の対空射撃が一斉に始まった。
もともと明るかった空は、長時間見ていられないほどに明るくなった。
504 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/08(火) 23:36:18 [ mGYIa2O2 ]
ドウン! ゴガ! ボン!
猛烈な弾幕が連合帝国飛竜を包み、直撃弾や至近弾を受けて次々と地面に落ちていく。
彼らはこれほど激しい対空攻撃に晒されたことが無かった。北大陸の戦場の対空魔法は、気持ち程度の効果しかない。
驚いて逃げようにも、そこには敵が待ち構えている。高度は上げられないので下げても、あまり意味はなく、かえって地上から狙われやすくなる始末だった。
くしの歯が欠ける様に数を減らしていくが、いきなり全滅するわけでもない。ある程度の数の敵飛竜が攻撃を仕掛けてくる。
パン!パン!タン!
超低空の飛竜に高射魔導砲や対空魔法は使えない。魔法や対空戦竜ブレス、ライフル銃等で迎撃していく。
・・・この攻撃は不完全に終わった。有効な連携をとれずに各個バラバラに攻撃したため、被害は防衛線全体で出たものの、小規模な被害で終わってしまった。
が、彼らの攻撃が終わる頃に、エーテルガルド配下の飛竜がやはり100以上侵入してきた。うまいこと空戦空域を避けてきたのだ。
505 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/08(火) 23:37:08 [ mGYIa2O2 ]
『照準なおせーーー!!』
ぎりぎり低高度を攻撃するように仰角を合わせていた高射魔導砲や、炸裂高度を低く設定していた対空魔法陣地は、対応が遅れてしまう。
「魔探は何をやっていた!?」
魔探システムは、対象の種類や物質構成を調査できるが、それが敵味方を判別する能力は無い。乱戦に次ぐ乱戦で魔探は完全にマヒしていた。
対空兵器が照準を修正している間に、次々と飛竜が突撃してきた。普通の魔法や対空戦竜だけでは阻止など不可能である。
ゴァァ!
南大陸の飛竜のような火球を連射するブレスではなく、古式ゆかしい火炎放射のようなブレスである。舐めるような炎が地上を焼いていく。
ズズーーーン!!
506 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/08(火) 23:37:52 [ mGYIa2O2 ]
「何事だ!?」
野戦司令部にも、はっきりと爆音が轟いている。そして振動。
『野砲連隊より緊急魔法通信!右翼の重砲陣地各所で砲弾が誘爆!損害不明!!以上です!』
非常に悪い知らせである。敵の地上部隊はすぐそこまで来ている。
「このままでは右翼からの砲撃が著しく衰えてしまうぞ!」
「連合帝国にも出来る指揮官がいるようだ・・・」
最初に攻撃してきた飛竜は大したことは無い。アスター陸軍の人海戦術以下だった。
今攻撃している飛竜たちは、一定の場所を集中的に攻撃していたようだ。
その飛竜も損害が増えてきたのか、遁走しようとしている。
『司令部!司令部!こちら第18偵察騎兵分隊!敵地上軍を目視で確認!一直線に向かってきます!!』
514 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/10(木) 23:56:11 [ 2h23inLc ]
ヒィィィィン! ズガァァァン!!
遠方に聞こえていた爆音はどんどん近づいている。これはまずい!今すぐ逃げないくては!
自分は鎖で木に巻きつけられている。このまま木に張り付けられていたら、木と心中しかねない。
いろいろ力を込めて鎖を引きちぎろうとするが、なかなかうまくいかない。
深呼吸だ。深呼吸。落ち着いて力を込めれば、この程度の鎖など屁でも・・・
ドドーーン!
かなり近くに爆弾が落ちた。やばい!
「うおぉぉおお!!」
空腹を我慢し、全身全霊をかけて力を込める。
515 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/10(木) 23:56:48 [ 2h23inLc ]
ばきん
「はぁ・・・はぁ・・・」
辛うじて鎖が外れた。空きっ腹の運動は激しく疲れる。とりあえず木から離れて、匍匐前進で近くのくぼ地に逃げ込んだ。
あまり意味は無いかもしれないが、突っ立っていて吹き飛ばされるよりは安全に違いない。
警備兵に貰ったニンジンの残りを口に放り込んだ。肉食生物に野菜とは、非常識な連中だ。野菜もたまに食べるが。
相変わらず周囲を爆音が包んでいるが、絨毯ブレス攻撃なら密度はもっと高いはず。
このあたりは「ついで」の攻撃目標か、目標に選ばれていないのかもしれない。
ここまで攻撃する余裕が無い・・・とは考えたくないが、それで自分が安心できるとは皮肉なことだ。
516 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/10(木) 23:57:38 [ 2h23inLc ]
ニンジンを胃に流し込み、次の行動を考える。
このまま逃げていてもしょうがないし、戦意不足を政治将校に宣告されて、帰国後は鉱山労働に就く未来が見えてくる。
地上攻撃の頻度が減ってきたようなので、上空を気にしつつ、移動を始めた。
所々クレーターが出来ていたり枯れた下草が燃えてるが、ひどい被害ではない。
「うぅ・・・」
人の声?剣に手を・・・剣は取り上げられていたので手ぶらだ。いざとなれば素手と魔法で戦えばいい。声の方向に近づいた。
「見えない・・・」
「目が、目がぁ・・・」
数人の兵士が倒れていた。少し離れた場所に、強烈な閃光を放つテルミット焼夷爆弾の残骸が散らばっている。
まともに閃光を見てしまったのか。少し破片も浴びているようだ。
517 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/10(木) 23:58:31 [ 2h23inLc ]
敵の増援が来る前に逃げようかとも思ったが、倒れている兵士の顔を見て考え直した。
「ニンジンをくれた警備兵じゃないか」
アスターには『食事を施してくれる敵は良い敵だ』という諺がある。
放っておいてもいいが、ニンジンはとりあえずくれた相手だ。
「ニンジンの分の義理は返してやるぞ!」
そう言ってその兵士と、うずくまっていた他の兵士を背負った。
背負ったり、担いだのは四人。きつい。
「その声は・・・竜人族か・・・何のつもりだ・・・」
弱弱しい声で警備兵が聞いてきた。視力はまだ回復していないようだ。
「竜人族が心の広い種族であることを感謝しろ。少しは安全な場所に運んでやろうと言ってるのだ。」
535 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/13(日) 22:08:42 [ rh/WUutU ]
パパパパ!
『大尉!またかわされました!』
『わかってる!援護しろ!』
さっきからずっと二対一の空中戦が続いてる。俺とリサ、敵は天馬騎士一人だ。
相手は相当のベテランだ!速度を活かしてこっちを引き離し、やはり速度を活かして距離を詰めてくる。
長槍メインの攻撃じゃなかったら、既に数回首や胴体を刈り取られてるな。
パパパパパ!
光弾魔法を発射する。当然回避されるが、んなことは織り込み済みだ!
ドウン! パパパ!
リサが光弾とブレスを乱射して突っ込んでいく。
『おしい!』
際どいところで外れたが、無理に回避した所為で天馬騎士は失速している。
536 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/13(日) 22:09:27 [ rh/WUutU ]
『よし、リ』
『私がやります!』
『おい!ちょっと』
待て、と言う前にリサが敵に飛び込んでいった。あの馬鹿!!
パパパパ・・・
光弾をぶっ放しながら無計画に距離を詰めて・・・
『な・・・!?』
『しまった!避けろ!!』
敵が急旋回してリサに向かっていく!?いや、もう間に合わない!!
『うあっ・・・!!』
二体は衝突こそしなかったが、制御できないくらい体勢を崩して地面へ落下していった。
537 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/13(日) 22:09:59 [ rh/WUutU ]
・・・。
はぁ はぁ はぁ
自分自身の息が酷くうるさい。寒いはずの身体も汗が出るくらい暑い。
ボウン!
私のポテーズ630C1も口が焼けるほどブレスを吐いている。
ゴバァァァ・・・
すぐ近くをブレスが通り過ぎていく。一瞬だけ猛烈な熱を感じる。
もはや、髭や毛のことは構っていられない。少しでも気を抜けば死ぬ。
周囲には爆撃を終えて帰還する爆撃飛竜とそれを追う敵飛竜、すがる敵を攻撃する味方飛竜・・・
敵はかなり減っているが、まだ油断はできない。
動きの鈍くなった相方を励まし、襲ってきた敵に進路を変えた。
538 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/13(日) 22:10:43 [ rh/WUutU ]
・・・。
「このあたりなら大丈夫だろう。落ち着いたら持ち場なりどこへなりに戻るといい。」
湧き水のある沢の近くで警備兵たちを降ろした。敵兵の姿は見えない。陣地から離れた場所か。
爆音はほとんど聞かれなくなった。攻撃を終えたのだろう。
「く・・・どこに行くつもりだ?」
警備兵が問い詰めてきた。視力は完全ではないのようなので、声をかけてくるだけだ。
「自分にもアスターでの地位と生活があるのだ。それを少しでも守るための行動に出るのだよ」
「・・・おい。」
「何か?」
「ありがとう・・・」
後ろに感謝の言葉を聴きながら、エーテルガルド配下軍団の本営を探し始めた。
警備兵たちに場所を案内させたら、彼女たちの立場が無くなるだろう。
このあたりの疎林は広くはない。すぐに見つかるだろう。
570 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/16(水) 23:08:51 [ DCZeW4UQ ]
ドウン!ドドン!
先の襲撃で破壊されなかった重砲群が、突撃を続ける敵に対して続々と砲門を開いていく。距離は6000メートル強、重砲の有効射程いっぱいに近い。
敵の真っ只中に砲弾が落下し、数百の人間と馬が吹き飛ばされた。
それを踏み砕き、後続の兵が押し寄せてくる。数万の騎兵突撃は生半可ではない。
第二、第三射と重砲は攻撃を加えるが、突撃は全く止まらない。防御陣右翼の重砲の四割、全重砲の二割が破壊されるか砲撃が難しくなっているせいだ。
やがて小口径野戦砲や魔導カノン砲も砲撃に加わり、凄まじい砲声が戦場を包んだ。
それですら敵は止まらない。倒されても倒されてもひたすらに突き進んでくる。
敵の予想以上の粘りに驚いた司令部は、次の命令を各部隊に伝えた。
敵との距離は、もっとも近いところで既に1000メートルを切っている。
「ガトリング砲、速射光弾発射機、魔法兵、アスター連邦陸軍ロケット砲兵隊・・・攻撃開始!!」
571 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/16(水) 23:09:31 [ DCZeW4UQ ]
ガガガガガガガガ!
シュバババババ・・・
今までより更に多くの敵兵が倒れていく。敵の数もいつの間にか半分に減っていた。
『全隊、ッテエェェェー!!!』
タン!タン!パパン!
追い打ちをかけるように、塹壕の中に立てこもる兵士たちがライフル銃を連射した。
土煙の中の敵が区別できるくらい接近している。そして次々と落馬していくのに全く引かない。
「話が違う!」
多くの兵士がこう感じていた。騎兵突撃に参加していた国教会軍(の一般騎士)は、滅多なことでは退却しないということを知らなかったのだ。
ムッター将軍は無能だが、その部下たちは別の意味で更に無能だったのだ。
572 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/16(水) 23:10:06 [ DCZeW4UQ ]
「パイク兵前へ!!」
ライフル兵が銃を打つ傍ら、槍を持った兵士が槍を斜めに構えた。
槍衾と呼べるものでもないが、最前線の塹壕で同じような光景が繰り広げられている。
「銃剣装着!」
同じくライフル兵も銃撃を止め、銃剣を用意したり腰に差していた剣を抜刀した。
敵との距離は数百メートル、防衛線全体で均等に押し寄せてきている。
地鳴りのような音が、砲声銃声全てを包み込んでいる。
それに、鬨の声と衝突音が混じった。
579 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:51:55 [ DCZeW4UQ ]
・・・エルビヌメイン防衛線・戦竜待機所・・・
「出撃急いでください!!」
「了解!」
実戦初出撃のナイトロス戦竜部隊は、最後の準備に忙しい。
「ナイトロスの同志、前線の状況は?」
「はっ。第一壕の中央付近を突破され、一部敵兵力は第二壕に迫りつつあります!!」
「了解した。同志諸君!そういうことだ。歩兵はデサント急げ!D80を前面に楔形隊形で突入するぞ。それと、長距離砲撃戦竜2D1および2D19はナイトロス戦竜の支援に回れ!」
『ダー!』
伝令の報告にも、一方のアスター連邦の戦竜部隊は落ち着いている。まるで訓練を行うようなムードである。
「み、皆さんは怖くないのですか?見方はおされ気味だというではありませんか・・・」
堪りかねたナイトロス戦竜兵の一人が、手近にいた古参アスター戦竜兵に問いただした。
「あん?この程度の戦場はまだ良いほうだ。前の戦争ン時にゃ、まともな情報がない中で突撃を良くやったモンだ。」
「そういうものですか?」
「いっぺん酷い戦場で戦うと、それ以外の戦いはマシに感じるんだぜ。ま、浮き尾(足)立たずに落ち着いて行動しろっつうことだ。」
580 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:52:29 [ DCZeW4UQ ]
「同志諸君!共産主義と南大陸の文明を守らんが為、我等は出撃する!」
『同志師団長閣下!抵抗する敵は?』
「粉砕しろ! 当然だ。不愉快極まる。消し炭にしてしまえ」
『逃げる敵はいかがいたしますか同志師団長閣下!』
「燃やせ 逃亡兵は我等が粛清だ。騎士 弓使い 魔法使い 全て粛清しろ 不愉快だ」
『敵将は?』
「首を同志書記長閣下に献上するのだ!」
「諸君!今こそ竜人族の戦いを愚昧な帝国人に焼き付け、連中を地獄に落とすのだ!」
広がる歓声。ナイトロスの兵士(人間族)から見ると異様だ。改めて彼らが戦闘種族であると認識させられるのだ。
「ナイトロス陸軍、戦竜実験大隊出撃!」
「アスター連邦陸軍、西アスター戦竜軍団北大陸派遣隊出撃!」
戦竜に合わせ、連合帝国を追い返すべく各所から高速の騎兵が同じく出撃していく。
581 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:52:59 [ DCZeW4UQ ]
・・・。
ドスッ
「ぐあっ」
わき腹に槍を突き刺された騎士がまた一人落馬した。
ザシュッ
「ガ・・・!」
突き刺したパイク兵は後続の兵士に斬り捨てられる。
最前線はこのような戦いが続いている。野砲類は近すぎて砲撃できず、重火器や魔法兵器は操作する兵士自身が戦闘に巻き込まれ攻撃どころでは無くなっていた。
忘れた頃に友軍の飛竜が敵にブレス攻撃するが、焼け石に水もいいところだ。
全てを叩き潰しながら進む帝国兵に気後れしたナイトロス軍は徐々に押され、一部の戦線は崩壊し始めていた。
582 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:53:47 [ DCZeW4UQ ]
『司令部!司令部!こちら第15トーチカ群指揮所!!敵兵が大挙して押し寄せてくる!早く増援を!!』
第二壕・戦線中央部の第15トーチカ群周辺で最も激しい戦いが始まっていた。
第一壕から逃げてきた兵士もここで踏みとどまり、必死の抵抗をしている。
「速射光弾発射機・・・撃てッ!」
パパパパパ・・・
生き残っているトーチカからの断続的な攻撃を押し退け、帝国軍は塹壕を乗り越えようと迫ってきていた。
「撃て!撃ちまくれーー!」
タン!タン!ボウッ
あと数秒で敵の切っ先が兵士たちに届こうかというとき
583 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:54:49 [ DCZeW4UQ ]
ズズズズズーーーン!!!
火球が頭上を飛び越え、刹那、帝国騎士を跡形も無く焼き払っていた。
「よし、ダンスの時間には間に合ったか・・・!デサント兵はナイトロス兵の支援しろ!戦竜は引き続き帝国兵を焼き払う!」
「ダー!了解しました師団長閣下!」
移動速度が毎時10キロ強の戦竜の到着はかなり遅れてしまった。その鬱憤を晴らすかのような攻撃で、最初の一撃で300以上の敵が倒された。
戦竜に取り付いていた竜人族が続々と飛び降り、地上戦に加わっていく。
「前進だ!このまま敵本陣まで往くぞ!ナイトロスのひよっこ戦竜兵に戦果を横取りされてたまるものか!!ウラーー!!!」
その声は、途中でD80とD72戦竜の一斉ブレス攻撃にかき消された。
584 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/19(土) 00:55:37 [ DCZeW4UQ ]
戦竜の投入で、戦況は南大陸連合軍側に有利となった。圧倒的な火力で、戦竜は敵を薙ぎ払った。
勇敢に戦竜に立ち向かった騎士は、デサント兵の銃や剣に貫かれ息絶えた。
帝国の突進速度は急速に薄れ、直ぐに退却へと移っていく。
「撃て!」
ドウン!
戦竜と敵との距離がどんどん広がっていく。馬と四速歩行竜では圧倒的に馬のほうが速い。
「アレは騎兵隊がどうにかしてくれるだろう。我々は敵陣に向かうぞ!ナイトロスの戦竜は・・・ナイトロス陸軍に指揮権を移譲する。」
「ダー!・・・一部の国の陸軍特殊部隊が同行を願い出ていますが?」
「うーーむ。本国からは各国と出来るだけ友好的に付き合うように命令されている。・・・許可しよう。」
遠くで、連合帝国軍を追撃する騎兵の発射する短銃の音が響いた。
603 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:23:30 [ DCZeW4UQ ]
「いたたた・・・やっちゃった・・・」
失速して地面に軟着陸なんて、帰ったら大尉にどやされるんだろうなぁ。許してくれるかな?
「ハァ。戻ろう。ほら、怒らないで。戻りましょ。」
相棒は無茶な機動を要求した私に対して怒っていた。でも、戦闘中だからそれに構っていられない。
グルルル・・・
「どうしたの?」
何かに警戒している。近くには敵はいないし、戦場は落ちた場所から離れている。
「少し確認するぐらいなら・・・大丈夫よね?ね?」
・・・
飛竜は作戦行動中、主人に最終的には服従するように躾けられている。
不満そうな相棒をその場に待たせて、近くの探索に向かった。
604 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:24:42 [ DCZeW4UQ ]
相棒は何に警戒していたんだろう?歩き回りながら考えてみる。
砲声や銃声にはいちいち反応しないし、無害な生き物にも反応しない。
混線した魔法通信にも感応するらしいけど、それはこの戦いが始まった時からだし。
私に接触しそうになったペガサスと天馬騎士が。でも、まさか私を狙ってなんて・・・だって私はしがない一等飛行兵で・・・
「!!!」
場の空気が一気に冷たくなった。この雰囲気は・・・殺気!?
『やあぁぁ!』
草むらから突然槍を持った騎士が飛び出してきた!ご、護身用の剣を・・・!
605 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:25:36 [ DCZeW4UQ ]
・・・。
「大丈夫?」
私の問いかけに、ペガサスは力なく起き上がろうとした。足取りがふらついている。
着地の時の衝撃が大きかったのかも。怪我らしい怪我はないみたいだから、少し休ませておけば大丈夫かな。
ペガサスを潅木の中へ歩かせて姿を隠させた。近くまで敵が来なければたぶん大丈夫。
私も姿を隠したほうがいいかしら?上空では変わらず激闘が続いているし。
それにしてもペガサスが回復しないと話になんないわ!
『・・・、・・・』
人と竜のような声が?さっき私と相討ちしそうになった竜騎士かもしれないわね。
名のある将星なら、倒す価値はある・・・よね?
見つからないように下草に隠れながら、声のするほうに近づいていく。
606 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:26:56 [ DCZeW4UQ ]
(竜騎士の・・・女!)
飛竜の近くにいたのは女性だった。それも若い。多分、竜騎士。連合帝国で竜騎士は男と決まっているのに!
強行偵察の時に迎撃してきた敵の中に、女性竜騎士がいたような気もするけど、ちゃんと見るのは始めて・・・。
確証はないけど彼女が私と戦った相手だ!
階級とかは分からないけど、私と(二対一でも)やりあえるからかなりの上級職よね!
そう言い聞かせる。そうじゃなかったら、こんな事してる私が滑稽なバカになっちゃう。
飛竜から竜騎士が離れた。こちらに来てる。
(殺られる前に殺れ!)
本能がそう訴えてくる。私はそれに従う。
槍を構える。意識を集中させる。一撃で相手の喉笛を切り裂くか首を刎ねるために。
「やあぁぁ!」
槍の切っ先を敵竜騎士に・・・!
607 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:27:49 [ DCZeW4UQ ]
ガキィィィン!
辛うじて剣で槍の軌道を逸らす。耳元でうなる風音が怖い!もし受け損ねていたら・・・
「はっ」
槍を持った敵はめげずに次の一撃を放ってきた。
ガンッギリギリ・・・
今度はきっちりと止め・・・られない!?訓練の時の大尉の剣戟よりずっと重い!どんどん押される・・・!
「・・・え」
敵と目が合う。よく見ると敵は女性だった。私より少し年上ぐらいの綺麗な女性が私を殺そうと槍を振るっている。
余計なことを考えたせいか、槍が食い止めていた剣を振りほどき、私に向かってくる。
「くっ」
かわそうと身体をよじった。
608 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:29:12 [ DCZeW4UQ ]
ざしゅっ・・・
視界の端に血が飛び散っているのが見える。私の左肩からだった。私、避けきれないで斬られたんだ。
認識したとたん急激に痛覚が戻って・・・
「ぁああぁぁぁぁ!!?」
(痛い!いたい!にげなきゃ・・・!ころされる!しにたくない!!)
早く相棒の所に戻らないと!大尉に連絡しなくちゃ!
(わたし、まだ大尉に・・・!!)
(ここからはやく!)
痛みが私の意識をどこかに連れ去ろうとしてくる・・・
(はやく、大尉・・・)
609 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/20(日) 23:30:55 [ DCZeW4UQ ]
付きまとってきた敵飛竜を一通り叩き落してから、リサの探索を始めた。
『リサ、応答しろ!』
『・・・。』
魔法通信に反応がない。墜落に近い落ち方はしたが、あれなら地面に叩きつけられることはない。はずだ。
リサには緊急対処の技術もきっちり教えたんだ。死んではいないだろう。
個人用の魔法通信は通信距離がかなり短い代わりに、混線は少ない。
それでも通信が無いっつーことは、魔法通信できないヤバイ状況か。いやまさか・・・
『・・・!・・・・・!』
魔法通信だ!ひどく混乱してるのか、何を言ってるのかさっぱり分からねぇ。
『今そっちに行くからな!』
地上にリサ(じゃないかも)らしい姿を見つけた。こっちに気づいてないのか?
もう一人の人影も見える。見方じゃない!?・・・拳銃と剣をいつでも持てるようにしておこう。
612 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:51:48 [ p8AFBIMc ]
「はぁっはっはっ・・・」
距離を取らないと・・・
『やぁ!』
槍が来る!
「ひゃうっ」
後ろの木に飛び退いて辛うじてかわす。と、同時に木にもたれてかかってしまった。
もう、動けない・・・。相手は相棒のいる所に向かわせてくれない。
出血がひどいのかな。目の前がふらふらしてきた・・・。
『逃げてばっかりとは。竜騎士の誇りはないのか?』
敵はそんなコトを言ってる。私は職業軍人なの。
「・・・。」
口が渇いて声が出ない。
『言い残すことはないか。では・・・』
そうか、私、殺されちゃうんだ。涙が出てきた。
「・・・大尉・・・・・」
イヤだよ・・・こんな終わり方・・・
613 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:52:33 [ p8AFBIMc ]
『相棒!ブレス攻撃!弱いの一発でいい!その後俺を二人の間に落ちるように調節しろ!』
相棒が地面すれすれまで高度を落とし、限界まで速度を殺す。
『今だ!!』
一発だけ、弱い火球を発射する。二人から少し離れた場所に着弾するように!注意を惹ければいい!
ドウ! バガン!
一人がブレスの着弾地点を振り返った。
『相棒!高度と速度を落とせ!』
鐙から足を外し、拳銃を抜く。
「リサ!」
614 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:53:12 [ p8AFBIMc ]
轟音の後、どこからか大尉の声が聞こえたような気がした。幻聴なんて・・・
パン!
今度は銃声。
『な、何だ貴様は!?』
『そいつの上官だ。大事な部下を傷つける奴は、女と言えど容赦しねぇぞ!』
『名を名乗れ!』
『ナイトロス王国空軍ジーク飛行中隊副隊長のアレックスだ!』
『私はオスミア=ハフニー連合帝国第一皇女!近衛天馬騎士団長のエーテルガルドだ!!』
今度は古風な名乗りあい。
「おりゃあっ」
「はぁぁっ」
剣と槍のぶつかり合う音。目の前の出来事なのに、なんだか遠くの世界の・・・
「リサ!」
私に背中を見せている人が私の名前を・・・
「リサ!今のうちに逃げろ!!」
あ、ああああ!!幻聴でも幻視でもない!!この人は!
615 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:53:45 [ p8AFBIMc ]
「リサ!今のうちに逃げろ!!」
どこかに旅立ちそうな顔をしていたリサが「こちらの世界」に帰ってきた。
身体を引きずりながら逃げていく。彼女の傷はかなり深手みたいだ。いますぐ介抱してやりたいが
「せいっ たぁっ」
ガン! ブン! ガキィ!!
この状態じゃ無理だ!怒涛のように繰り出される槍をガードしながら避けていく。
本当なら拳銃の鉛玉が命中して敵が倒れ、芝居の王子様みたくリサを助けようなんて
「どうしたっ!?反撃してみろ!」
ブン! ぶわっ
甘かった。動き回ってるときに拳銃なんて滅多なことじゃ当たらねー!
616 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:54:23 [ p8AFBIMc ]
「わーったよ!!」
敵の攻撃の合間を縫って剣を繰り出す。
「それが反撃か!?ナイトロスは腰抜けだな!」
「うおっ まじっ?」
軽やかなステップで簡単にかわされる。まずいぞこりゃーーー!!?
「アレックスとやら!充分楽しんだろう?・・・死ね!!」
本当に殺される!ええい!一か八かだ!
間合いを詰めてタックルする。
「グッ!?」
エーテルガルドの名乗った女はたたらを踏んで姿勢を崩した。こちらも崩れかかっている。
「剣が駄目ならこいつでどーだ!!!」
殴った。手を握って。当然手甲をはめた状態で。女を殴り倒すことに心が騒ぐ。が、こいつはリサを殺そうとした敵だ!
「・・・!!」
左頬を殴られて吹っ飛んだ。思ったより手の衝撃が少ない。咄嗟にパンチを避ける姿勢にしたのか。何て反射神経だよ!
617 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:54:59 [ p8AFBIMc ]
「・・・!!」
何とか力を逃がす体勢にしてまともに殴られるのを防いだ。派手に吹き飛ばされたけど、痛みは少ない。
受身を取って、倒れこまないようにした。敵がとどめの一撃を・・・
放ってこなかった。代わりに飛竜を呼び寄せたところだった。
「団長サマ?俺の大事な部下を痛めつけたお礼だ。受け取ってくれ。・・・焼き払え!」
ボウ! ゴバ!
「いらないわよ!ブレスなんて!!」
ブレスを放ってきた。結局地面に伏せるはめに。そしてブレスを放つ間隙を縫って逃げ出す。
追っては来なかった。さっきの女竜騎士と私を引き離すためだって気づいたけど、もう戻る気は起きない。
ブレスは当たらなかったんじゃなくて、当てる気がなかったんだ。ここで引き返したら、今度は殺されちゃう。
もう空に戻るしかない。かなり見方の数が少ないわね・・・
私が不在の時間が長すぎた?とにかく残存戦力を集結させなくちゃ!
ペガサスを起こして、空に・・・。
618 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/21(月) 23:55:37 [ p8AFBIMc ]
危険な近衛天馬騎士をどうにか追っ払った。
あれはもう襲ってこないな。・・・今はリサだ!アイツの怪我は!?
飛び上がり、リサのいる場所に飛び降りた。彼女の相棒の脇で倒れこんでいる。
「大丈夫か!?」
「ぅ・・・大尉・・・」
リサの顔は涙で濡れていた。その顔は白い。
「私・・・穢されちゃいました・・・もう・・・お嫁に・・・」
妙なことを口走った。誤解されそうな例えだ。混乱してるのか?
「何を言ってる。使い方が違う。怪我を見せてみろ。」
リサの左肩からの出血がひどい。それ以外にもあちこちに切り傷が刻まれている。
「私・・・」
「喋るな。肩のは止血するから。」
首に巻いていた白いマフラーを外し、肩を縛る。すぐに真っ赤になった。
「基地に帰って急いで軍医に診てもらうぞ。俺が背負って運ぶから、相棒は自分で基地に戻るよう命令しろ。」
「私、飛竜に乗るくらいなら・・・」
「お前は重傷人だ。まともな操縦なんてできない。分かったな?」
「はい・・・」
リサを背負い、相棒を離陸させた。まずは隊長に報告しないとな・・・
624 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:29:16 [ p8AFBIMc ]
「くっ」
肩が痛い。傷口が広がったのかも・・・
『大丈夫か?』
『だい・・・じょうぶです』
大尉にはこれ以上迷惑をかけられな・・・!?
『この体勢なら少しは楽になるだろ?』
大尉に抱きかかえられていた。片手は手綱を握り、もう片手で私を掴んでくれている。
「こんなことしなくても・・・」
『動くんじゃない!重傷なんだぞ。いいからそのままでいろ!』
『はい・・・』
有無を言わせない大尉の声だった。大尉の顔が私の顔のすぐ上にある。
『・・・隊長と基地に連絡を取った。基地に帰ったら、衛生兵がお前を待っている。』
「大尉は?」
『すまない。お前を看病したいが、帝国の追撃に戻らないといけない。』
そうなんだ。基地に着くまで大尉の顔を見ておこう。
625 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:30:12 [ p8AFBIMc ]
『ほら、基地が見えてきた。着地の時すこし辛いかもしれないが、我慢してくれ。』
地面が近付く。そしてほんの少しの衝撃・・・全然辛くない。大尉はここまで気を使ってくれるんだ。
『衛生兵!彼女だ!!肩をかなりやれている!』
『分かりました!・・・リサ一等飛行兵殿!ここがどこか分かりますか!?』
安心したら気が抜けちゃった。ものすごく眠くなってきた・・・
『意識が混濁している!早く止血だ!もしもし!気をしっかり持って・・・』
なんだか、遠くで私を呼んでいるみたい。答えるのはおっくうだな。
『リサ!』
大尉の一喝。意識が一気に回復する。
「なんですか?」
「しっかりしろ。これから俺は戦場に戻る。待っててくれ。」
「私、大尉を待ってます・・・。」
飛竜に乗り込む大尉の後姿がすごく大きく見えた。
626 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:31:28 [ p8AFBIMc ]
・・・。
リサを衛生兵に預けて空に舞い戻っていく。
にしても、最後は随分と臭いセリフを吐いたもんだ。身悶えしそうだぜ。
『ジーク01からジーク02!リサの様子はどうだ?』
隊長からの魔法通信が入る。前線から30キロも離れてない。数分飛べばあっという間に戦場だ。
『やばそうですが、致命傷ではないと思います。ただ、当分は軍務の遂行は厳しいでしょう。』
『そうか・・』
『あいつは敵の将軍と一人でやりあったんですよ!全く馬鹿げてます。」
『彼女の望んだことではないだろう?雑談はここまでだ。敵は敗走しつつある。それをできるだけ追うぞ。』
『了解です』
数はいくらか減っているが、ジーク隊がいつの間にか勢ぞろいしていた。
『心配無用だ。負傷兵を基地に帰しただけだ。死者はまだ出ていない。』
良かった!撃墜されたのかと思っちまった。
『ジーク01よりジーク隊残存騎へ。ジーク隊再攻撃!敵は遁走しつつある敵飛竜!』
『『了解!』』
たぶん今日これが最後の仕事だな。
627 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:32:13 [ p8AFBIMc ]
・・・。
私が空に戻ると、戦況は一気に帝国不利になってた。半刻も経っていないのに!
嘆いてもしょうがないわね。失われた時間は帰ってこない。
「撤退」の合図を味方に伝えていく。
飛竜は逃げたのか墜落したのかほとんどいない。残っていたのは天馬騎士ばかり。
私の合図を見て、次々と本陣の方へと逃げていく。
逃げ足勝負なら、ペガサスはいかなる飛竜にも負けない。どんどん敵との差が広がる。
本陣に近づくにつれて、自主的に撤退してきた味方が増えてきた。私にはそれを戦意不足とは責められなかった。
だって、相手は私たちより高性能で多数の飛竜を繰り出してきた。良くやったと誉めてあげたいわ!
見覚えのある森林が見えてきた。敵に見つかる前に着地して、姿を隠さないと!
628 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:33:06 [ p8AFBIMc ]
適当な空き地を見つけて、すばやく降下する。
「団長閣下!ご無事でした・・・!?お顔をその怪我は!?」
近くにいた兵士に、開口一番そう言われた?顔の怪我って・・・
ずきん
「うっ?」
人間の痛覚って、なんていい加減なのかしら!指摘されてから痛み出した。
「いろいろあったのよ!」
女性の顔をブン殴るなんて!あのアレックスとかいう男、次に会ったらくびり殺す!!
そんなこと考えているひまは無かったわ!
「今の指揮所はどこ?副団長や参謀は?」
629 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/22(火) 22:33:49 [ p8AFBIMc ]
ペガサスに乗って、言われた場所に直行した。・・・けど
「うう・・・」
「痛い・・・痛いよぅ・・・」
何十人もの負傷した兵士が寝かせられていた。
「これは・・・」
「ここが一番場所を取れるので、緊急の看護所にしました。団長閣下。」
副団長・・・彼女も全身煤まみれで火傷していた。本陣の周囲は確かに広いスペースがある。仕方ないわね。
「副団長。単刀直入に聞くわ。どんな状況?」
「御覧の通りです。敵の攻勢に耐え切れず、我々は退却してきました。かなりの死傷者が出ています。」
「先鋒隊の総本陣と連絡は?」
「先ほど伝令を出しました。飛竜も地上部隊も我々以上に打撃を受けたことは確認済みです。」
参ったわね・・・。
642 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/24(木) 00:09:06 [ p8AFBIMc ]
「団長閣下!今すぐペガサスに乗ってお逃げください!今なら逃げられる可能性が」
「無理と出撃前に言ったでしょう?忘れた?」
参謀の一人の提案をすぐに蹴った。
「しかし、不仲といえど皇太子の方々は閣下と血の繋がった兄妹ではありませんか!」
「甘いわよ。あの人たちは私を消したがっていたわ。帰還しても適当な理由を付けられて火炙りにされるわ。口封じの為にあなた達も一緒にね。」
「閣下は・・・国教会とも友好的ではありませんでしたね。」
「異端者認定されたら、火炙りの前に拷問も追加よ?私は仕方ないとして、ここにいる全員が鉄の処女のお世話になるわ!」
これ以上は参謀や副団長は話しかけてこなかった。今も負傷者は増えつづけている。敵は間違いなく迫ってきている。
「八方塞がりとはこの状態ね。・・・いっそのこと、最後の殴りこみをしましょうか?」
643 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/24(木) 00:10:15 [ p8AFBIMc ]
「・・・指揮官がその発言は良くないな。最後まで生き残る方法を考えるのが指揮官だ。」
私の捨て鉢な発言を否定したのは、側近たちじゃなかった。
「貴様!竜人族!?」
「どうやって脱走した!?」
木陰からのそりと現れたのは、コジェドフと名乗った竜人族。
「まぁいろいろあってな。言っておくが、戒めを解いた後は誰も殺してはいない。」
得物を手にとって一気に殺気だった部下を制し、彼と話す。話さないといけないような気がする。
「逃げても良かったのに、なぜ舞い戻ってきた?」
「いろいろあると言っただろう。今の論点はそこではない。私はアスター連邦軍に降伏するよう警告しに来た。戦いの前に貴女も聞いてきたではないか?」
まぁ確かに降伏のことは聞いたけど、数ある選択肢の一つとして聞いただけで、それを選ぶとは言っていない。
「今の貴女と信頼する部下たちは、連合帝国に帰る場所はまずない。」
「・・・そうだ。間違いなく消される。」
「このままここにいても、いずれ我が軍の戦竜が貴方達を吹き飛ばし、踏み潰しにやってくる。明日の朝には一人残らず飛竜と戦竜の餌だ。」
「そんな馬鹿な」
644 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/24(木) 00:11:11 [ p8AFBIMc ]
「竜人族は戦いで血が上ると、相手を殲滅するまで戦うぞ。竜人族でなくとも他国の軍はここを蹂躙するはずだ。」
「・・・・だが・・・」
「処刑されるか戦死するか陵辱されるか野垂れ死ぬか。降伏しなければこの程度の未来しかないぞ。」
「・・く・・」
「・・・?おお、死神は早く君たちの魂を刈りたがっているようだ。」
コジェドフが何かに気付いたように言う。同時に火縄銃と魔法の炸裂するような音が連続してしてきた。
「銃声は騎兵隊が潰走する騎士に追いついたのだろう。戦竜のブレス斉射音は・・・?」
「団長閣下、徒歩の騎士や戦士が攻撃を受けているのかと。閣下の配下の辺境から徴収した兵士もいます。彼らには無理をしないよう命令してあるので、こちらに逃げ込んでくると思われます。」
そうだったわ。でも、今から督戦・死守命令を出す気にはなれない。
「・・・か、閣下・・・!」
伝令兵が帰ってきて・・・ペガサスから落馬した。背に何本か弓が刺さっている。
「どうしたの!?」
「エ、エルフです!総本陣と・・・ここの間に・・・エルフらしき人間の攻撃を・・・!」
645 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/24(木) 00:13:15 [ p8AFBIMc ]
「エルフの兵士?・・・サマリムの森林野戦部隊あたりか。調子のいい連中め。・・・エルフ族の森の中の戦闘力は竜人族を上回るぞ。後は足も早い。決断を早くしたほうがいい。エーテルガルド近衛天馬騎士団長閣下?」
恭しく目の前の竜人族が話し掛けてくる。彼の提案はとても良い気がする。確かにこのままじゃ、みんな死んでもおかしくない。でも本当に良いの?
「私は・・・」
続きが出てこない。
「閣下・・・我々は閣下の判断を尊重します。徹底抗戦でも降伏でも構いません。」
副団長はこう言ってくれた。
「目の前の負傷兵は明後日には全員死んでいる。降伏するなら、彼女たちの治療を約束してもいい。連邦は最大限の努力をする!」
そう、気がついたら私に大した選択肢は残されてなかった。
「私のことは後回しだ。私の配下にある部下の安全を保障できるのか?」
「当然だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。アスター連邦に対して、私は配下の部隊と共に降伏する。」
言っちゃった。皇族としての私の人生は終わったわ。
「フフッ・・・了解した。魔法通信を出すから少し待ってほしい。」
妙な含み笑いをして、コジェドフは魔法のようなものを唱え始めた。
646 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/24(木) 00:14:34 [ p8AFBIMc ]
ズズーン!ドーン!
「小賢しい敵め!蹴散らせ!」
司令官の命令で、戦竜が一斉にブレスを発射する。
ナイトロスとアスターの戦竜部隊は、先発した騎士の後続として行軍していた歩兵と接触し、戦闘が始まっていた。騎兵隊は騎士の追撃に専念している。
「歯ごたえの無い連中だ。演習と大差ないぞ。」
一部の兵が向かってきたが、ことごとく消し炭となり、残った敵兵たちは弓の反撃もそこそこに、すぐに逃亡していた。
逃亡する先は本陣とは少し離れた森林地帯のように見える。
「追撃だ!ウラーー!!」
『待ってください!』
景気良い命令の直後、指揮戦竜に駆け寄ってきた伝令兵に水を注された。
「何だ!?これからという時に!?」
『空軍経由で派遣軍総営から緊急指令です!「一部部隊が我が方に投降したため、彼らの身柄拘束を優先せよ」最優先命令とのことです!』
「最優先の命令か・・・ならば仕方ない。全隊追撃は中止し、投降兵の身柄拘束に向かう。・・・伝令兵、それはどこだ?」
「あそこです。」
「あそこ?・・・敵の逃げ込んでいる場所ではないか!」
656 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 00:00:09 [ p8AFBIMc ]
デサント兵を乗せたアスターの戦竜部隊は、投降兵がいるという森に突入した。長距離砲撃戦竜やナイトロスの戦竜は、万が一に備えて森を半包囲する隊形を組み始めた。
降伏の話は伝わっているのか、敵兵は戦う意思を見せず大人しくしている。一部では先に突入していたエルフ族系国の特殊部隊の兵士が武装解除の準備をしている。
「アスター戦竜部隊の司令官でありますか!?こちらに連合帝国の皇女がいらっしゃいます。」
司令官は皇女の降伏など眉唾だと思っていたが、案内されるうちに女子兵の姿が増え、傷ついたペガサスを散見するようになると本当だと確信した。そして・・・
「これは同志司令官殿!こちらにおわす方が連合帝国の皇女にして近衛天馬騎士団長のエーテルガルド閣下であります!」
空軍の軍服を着込んだ同族が、隣にいる疲れた表情の若い人間族の娘を紹介してきた。
「本当に皇女のエーテルガルドなのか?信じられん・・・」
「同志司令官殿。彼女は確かに皇女です。」
「そうなのか?・・・待て、お前は何者だ?名と階級を名乗れ!」
「小官は連邦空軍中尉、アレクサンドル コジェドフであります!」
「コジェドフ中尉はどういった経緯で・・・
「お二方・・・お話よろしいだろうか?」
657 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 00:00:59 [ p8AFBIMc ]
所在なげだったエーテルガルドが口を開いた。
「私の身柄をアスター連邦に預ける代わりに、私の配下の兵たちの安全と治療を約束してほしい。」
投降の条件としては悪くないか、皇女の身分では不釣合いとも言える。
「人数はどれ位かね?」
「副団長・・・どれくらいだ?」
「天馬騎士団と竜騎士団の残存が450弱、地上勤務約1000、辺境の兵士が6000ないし7000・・・約8000人です。」
「空中騎士団は三割近くやられたわね・・・・・お二方、何か問題はあるだろうか?」
「・・・中尉の私には決定権はありません」
「一介の司令官にも決められない。政治将校たちと相談した上でもう一度総営に問い合わせよう。」
658 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 00:01:31 [ p8AFBIMc ]
・・・。
竜人族たちが何かをひそひそと話し始め、魔法のような呪文を織り交ぜながら会話している。
その間に私の出来ることは無い。ただ裁定(?)を待つだけ。
部下たちに武器を向ける竜人族とエルフ族の兵士。上空は敵飛竜が覆っている。逆らったら虐殺されちゃう・・・。
不安げな部下たちを励ます言葉がでてこない。でも、何か言って安心させないと!
「心配しなくていいのよ。皇女の身分は伊達じゃないわ!あなた達の面倒を看る分を差し引いても価値はあると思うの。」
静かな失笑が起きる。
「私たちのことは心配しなくても大丈夫です。我々は団長閣下が南大陸の不埒な輩に何かされるのではないかと心配です。」
「そんなこと分かってるわよ副団長。私は箱庭育ちのお姫様みたいないい育ちはしてないから、どうってことないわ。」
「いえ、私は生活面での扱いではなく、貞操の面で心配しております。」
「あ、それは・・・」
すっぽり思考から抜け落ちていた。貞操の危機?
659 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 00:02:03 [ p8AFBIMc ]
「エーテルガルド殿」
「な、なんだ!?」
司令官と呼ばれていた竜人族に声をかけられた。
「暫定的な処置が決まった。あなたと上級幹部はナイトロスの司令部に連れて行く。他の者たちは我々の防衛線まで来てもらう。言っておくが逃亡を防ぐため、徒歩だ。」
「重傷の負傷者は・・・喜べ。ニホンがまとめて運んでくれるそうだ。ヘリコプターに乗ったことのある人間は恐ろしく少ないのだ。」
コジェドフの言うことはよくわからない。治療してくれるというのは何となく理解できる。
決まったならそれに従うまでね。
「私は連合帝国皇女としてその決定に従う。・・・聞いたか?総員、移動準備!私の出す最後の移動命令だから頑張ってくれ。」
「ハッ!」「御意!」
参謀たちが竜人族やエルフ族の兵を連れて、散らばる兵たちに命令を伝えに駆け出していった。
「これでなーんにも無くなったわ。すっきりしちゃった。」
「エーテルガルド団長。これは貴女のお終いではなく、始まりですよ?」
コジェドフは再び意味深長な言葉を、私に投げかけてきた。
666 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 22:39:59 [ p8AFBIMc ]
バラバラバラ・・・
「な、な、な・・・」
これは・・・
「何なのこれはーー!?」
「静かにするんだ!」
エルフ族の兵士に注意されて口を閉じた。でも、でも、どうやってあの乗り物は空を飛んでるの!?飛竜もペガサスもいないのに!
「乗ってみたいなぁアレ・・・」
コジェドフが、ぽろっという感じで喋った。扉を開けて出てきた緑服の人間が、負傷者を運び込んでいく。
「彼らは何者?」
コジェドフに聞いてみた。
「ジエイタイ。平和ボケと軍国主義が混在する飢餓国家ニホンを守護する軍隊だ。」
ニホンってそんな国だったんだ。小耳にはさんだ時には南大陸の名も無き小国だと思ってけど。
667 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 22:40:38 [ p8AFBIMc ]
集めていた負傷者は回転する羽が二つある、大きなへりこぷたーなる乗り物に続々と入っていく。
「エーテルガルド殿。重傷者はニホンに任せて、軍団を移動させてください。」
竜人族の司令官に促された。私も含めて殆どの兵士が行軍の準備を整えてある。
「・・・分かりました。総員移動開始!」
整然とまではいかないけど、それなりに規律を保って部下たちは移動を始める。列のあちこちには、竜に乗った竜人族が私たちを監視している。
パン!ターーン!
はるか遠方から銃声が聞こえてきた。逃げ出した連中が追撃されてるのかしら。諦めて投降すればいいのに。あ、ムッターはどうなったんだろ?
(さすがに死んでるよね?)
妙な胸騒ぎが残るけど、気のせい!気のせいよ!
私もペガサスを引いて歩き始めた。すぐ隣をコジェドフが歩いている。干し肉の塊を貪っていた。いつの間に?
「ここから・・・・・あるので、気長に行きましょう!」
肝心の距離の部分は、私たちを追い抜いたへりこぷたーの羽が回る音にかき消された。なんだか遠そう・・・
668 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 22:41:36 [ p8AFBIMc ]
・・・。
「はー・・・はー・・・」
限界まで私と飛竜を酷使し、基地に帰った時には歩く気力もなくなっていた。飛竜の脇で仰向けになって寝転がった。
普段なら飼育係が文句を言うものだが、今日は彼らもこれを注意する余裕が無いらしく、特に咎められていない。
(大尉は大丈夫だろうか?中尉は生きているだろうか?)
熱で縮れてしまった髭を伸ばしながら、二人のことを考える。
異国の地で楽しくやっていけたのは二人のおかげだ。異種族では始めての友人でもある。
最初の頃こそ警戒したが、まず中尉と打ち解け、次いで大尉と仲良くなった。
二人に私の初撃墜と死闘の自慢をしないと収まらない!
何しろ二人は私のポテーズ630C1を散々けなしたのだ。しかしケビシニアの戦闘飛竜も捨てたものではないと・・・
「生きていたんだな少尉・・・」
「・・・!大尉無事だった・・・その血は一体!?」
669 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/25(金) 22:42:25 [ p8AFBIMc ]
起き上がって、大尉の声のした方に向いた。恐ろしいことに血まみれだった。
「こいつはリサの血だ。あいつアホだから、敵の大将の一人とやりあって大怪我したんだよ。それをこの基地まで運んだんだ。」
いつも明るい大尉が、珍しく沈んだ顔をしている。
「そうでしたか。彼女は無事なのですか?」
「失血以外に大きな負傷はないようだ。お前こそ大丈夫か?服と毛があちこち焼けてるぞ?」
「激闘の勲章ですよ大尉!中尉の消息は掴めましたか?」
「うん。まぁな・・・アスターの魔法通信を傍受した範囲では、アイツは生きてるみたいだ。」
「本当に!?中尉は本当に世渡り上手ですね。大尉はリサさんに会いにきたんですか?」
「その予定だったんだけどな、面会謝絶で諦めた。近くフランシアの軍病院あたりに移送されるそうだ。」
話しているうちに大尉の表情に光が戻ってきていた。
「聞いてくださいよ大尉!大尉は私の飛竜をダメダメ言ってましたけど・・・」
677 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/28(月) 00:35:31 [ bgQ0g9h2 ]
日付が変わり、深夜。エルビヌメイン航空基地の司令官室にこの国の人間ではない軍人が複数入室していた。
「我々の損害は、歩兵や騎兵が死者5000人以上、重傷者は1万人以上。飛竜は各国で合わせて100以上を全損。まだ増えそうな勢いだ。」
総兵力約9万人のうち、6分の1以上が何らかの損害を受けたことになる。
「そして捕まるか降伏した敵兵が1万人弱。ナイトロスは彼らの面倒を見なければならない。弾薬は派手に使ったので、残弾は0.5回戦を下回っている!」
そして苛立たしげに言った。
「貴国との協定に基づき、ナイトロスおよび南大陸諸国は前線から一部の兵を除き撤退する!宜しいかね?」
黙っていた異国の軍人はここで始めて口を開いた。
「結構です。我々は連合帝国本隊をこの世から消し去ります。」
「そう来なくては。それぐらいしてもらわないと、ナイトロス国民は黙っていないからな。」
また別の軍人が口を開く。
「明朝より戦場の残骸の撤去を始めます。それに合わせて派遣部隊を前線に運び込みます。貴国の兵士は後方に下げてください。」
「協定だからな。観戦武官を除いて、全ての兵を防衛線から後退させる。」
「お願いします。」
678 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/28(月) 00:36:07 [ bgQ0g9h2 ]
・・・。
焚き火の周りで部下たちは眠り込んでいた。そんな私も今すぐ寝てしまいそう。
私たちは結局夜まで歩かされ、彼らが防衛線と呼ぶ場所に着いたときには日は暮れて完全な夜になってた。
そこで支給されたパンやスープを食べると、薬でも入ってるんじゃないかと思うぐらいみんな簡単に眠っちゃった。
空腹の中、延々と歩いたんだからしょうがないわ。皆には元気になってもらわないと・・・
「団長閣下。まだ起きておいでですか?」
副団長・・・すっかりやつれた顔が痛々しい。
「副団長。今日は遅いから何もないけれど、明日からは尋問や死体の確認とかをしなくちゃいけないだろうから、ゆっくり眠っておきなさい。」
「・・・はい。団長閣下もお気をつけください・・・」
そのまま副団長は目を瞑った。嫌な眠り方ね。まるで死ぬみたいじゃない。
これでこの焚き火を囲んで起きているのは私だけになった。あ、警備の兵士(みんな異種族)は起きてるけど。
どこもかしこもこんな風景が続いている。私も少しだけ休みましょ・・・。
679 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/28(月) 00:36:42 [ bgQ0g9h2 ]
・・・。
今の私はひどく機嫌が悪い。何の因果で、眠っている人間族の小娘どもの寝顔を延々と観察しないといけないのだ!?
(え?警備でありますか?)
(そうだ。投降した人間族の女性を、同じ人間族の男のナイトロス兵が警備するのは流石にまずいということだ。)
(暴行事件が発生したらまずいでしょうが、しかし私は・・・)
(頼んだぞ!)
(はい・・・)
上官とのやり取りを回想するたびに胃がむかむかする。今頃大尉と中尉は屋根のある部屋で眠っているんだろう。
「何で中尉は警備に参加しないんだ?」
あの世渡り上手で頑丈な中尉は、かなりの戦果を立てたらしい。いつもはむっつりしている政治将校が、赤軍勲章の授与云々話していたから。
飛竜を落とされて、あの中尉はどんな手柄を立てたんだ?さっぱり分からない。
昨日は適当にかわされたから、今日こそ問い詰めよう。
680 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/28(月) 00:37:35 [ bgQ0g9h2 ]
・・・。
「どーしても教えてくれねーのか?」
「同志大尉と小官との間柄でも駄目であります。」
せっかく再開して積もる話もあるというのに、中尉はいなくなってからの事を話したがらねぇ。
「とにかくいろいろありました。しばらくしたら教えますから!」
「ん〜〜。しょーがねー・・・リサを見舞いに行く時には、とびっきりのプレゼントを用意しろよ!」
「勿論ですよ同志・・・。先に寝させていただきます。」
教えてもらえずじまいだった。シケた野郎だ。リサの顛末を話した俺の大損じゃないか。
建てつけの悪い壁の隙間から冬の空気が入り込んでくる。とっとと寝ないと、寒さで寝不足になるな。
翌日からはしばらく地上勤務が続くっつーし、今日はじっくり寝てやるぞ。
706 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/30(水) 00:24:08 [ p8AFBIMc ]
『起きろ!』の掛け声と共に叩き起こされた。まだ日の出の時間じゃない!大して寝てないわよ!
「しゃきっとしろ!貴様らは捕虜なんだぞ!」
うっさいわね・・・。猫人族ってみんなこういう風にカリカリしてんのかしら。
逆らうと不味そうだから、大人しく従った。パンと水と何かの果物の干したものを食事として支給される。待遇は悪くないわね。量は少ないけど。
食べている最中に偉そうな人間が何人かやって来た。私に用があるみたい。
「連合帝国皇女エーテルガルド殿下ですかな?」
「そうよ。私は久しぶりに甘いものを食べてるんだから、少し待っていなさいよ。」
言い方がぞんざいだったかしら?その事は先方に関係なかったみたい。
「急いでください。殿下からは色々とお話を聞きたいのでして・・・」
私の話を聞きたい?帝国の内情とかを聞いてくるんでしょうけど、仮にも母国、あまり裏切りたくないわ。
それも見透かされたのか、更にこんなことを言ってきた。
「殿下の行いひとつで、いまここにいらっしゃる部下の方々の待遇も変わりますよ?」
完全な脅しだけど、今の私には拒否する権利は全くない。
「今食べ終わるからちょっと待ってなさい。」
707 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/30(水) 00:24:44 [ p8AFBIMc ]
食事をさっさと口に放り込んで水で流し込む。あーもったいない!
「では行きましょう。」
「ちょっと待ちなさい!私をどこへ連れて行く気?部下はどうするのよ?」
それぐらい聞いたって問題ないでしょ?
「殿下にはいろいろとお話を聞かせていただきます。部下の方々は戦場の片づけをしてもらいます。これで満足ですか?」
「いいえ。どこえなりと私を連れて行けばいいわ」
もう腹を括るしかない。約束を破る人間だと思われたくは無いわ。
「じゃぁみんな、ちょっと出かけてくるから、彼らの言うことはちゃんと聞いて仕事するのよ?」
「団長閣下・・・」
周囲にいた部下(上級仕官や参謀クラスばかりだけど)たちが駆け寄ってきた。
「取って喰われるわけじゃないから。安心しなさいって!末端の兵士が動揺しないように頼んでおくわ。」
気休めだけど、皆を安心させないと。
「では良いですかな?野戦司令部に行くだけですから、楽な気持ちでいてください。」
両側を屈強な男二人、周囲は馬に乗った騎兵が何人も固めている。すこし過剰じゃないかしら?
「アレは何?」
へんてこな鉄の塊が、煙を吐き出して動き回っている。
「なんたら式ドーザーとか言ってましたね。ジエイタイの連中は。地面を掘り起こしたりするのが得意な機械らしいですよ。」
「へぇ〜」
すごい物みたい。あちこちでそれと同じ物や別の物が動き回っている。
「暫くすれば殿下の軍団も片付けと死体の確認等をしてもらいますよ。」
死体の確認ねぇ。まさに敗残兵のする仕事・・・
周囲にはナイトロスの軍服を着た兵士以外に、緑の服を着込んだ兵士も結構いる。あれがニホンのジエータイなる軍の兵士なんだ。
・・・あんまりやる気のある顔じゃないわね。私たちと同等かそれ以下の元気しかなさそう。
708 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/30(水) 00:25:44 [ p8AFBIMc ]
「この中にお入りください。」
司令部というかちょっとでかい天幕じゃない!?近衛天馬騎士団の本陣よりよほど出来がいいから口には出さないけど。
入り口から中に入ると、小さな机とそれを囲んで座っている人間が数人、その脇に何かの入った箱を抱える見るからに怪しい人間が数人。
「君がエーテルガルドか。私はナイトロス王国軍エルビヌ防衛線守備隊司令官だ。その椅子が空いているから座りたまえ。」
相手は偉い軍人みたいだから、逆らわずに椅子に座った。
「単刀直入に聞く。君は我々の言うとおりに行動できるかね?」
前置きも何もなく、いきなり交渉の本質を質問してくるなんて!信じらんない。
「私はアスター連邦に降伏しましたが、貴国とは・・・」
「それは心配しないでもいい。捕虜は全てナイトロスが管理する取り決めだ。歴史上では君は連邦に降伏したことになるだろうが、管理するのは我々だ。」
ナイトロスがいいとこ取り・・・でもないわね。私がいなかったら捕虜全部の面倒を見返り無しで世話しなくちゃいけなかったんだろうな。
「どうかね?」
この状況で断ったら、処刑してくださいと言ってるようなもんよ。
709 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/30(水) 00:26:52 [ p8AFBIMc ]
「変な事は無理だけど、実現できる範囲で頑張らせてもらうわ。」
そう言うなり、何かの入った箱を持っていた人間が天幕の外へ出て行った。
後で、私が協力を拒否したときに拷問するための器具があの箱の中に、いろいろあったことを聞かされた。意外と野蛮ね。
「それは結構。近いうちに殿下は、南大陸のオキシゼ市に退避中の国王陛下と会っていただきます。」
「南大陸はここよりあったかいなら構わないわ。」
「少しは暖かいはずです。しかし、その前にジエイタイに働きを見てもらいましょうか。」
何でそんなことを?
「見れば分かりますよ。」
見れば分かるって。当たり前でしょ!
「それだけ?」
「今日はこれから殿下にさまざまな質問をするので、覚えている範囲で答えてください。」
「分かったわ。役立つとの思えないけど、知ってる範囲でなら大丈夫よ。」
外からは猛烈が轟音が轟いていた。
729 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/31(木) 23:19:13 [ p8AFBIMc ]
昨日の戦場まで歩かされ、私達は死体の確認や撤去をやらされることになった。
文句も言いたいところだが、団長閣下が人質にされていては滅多なことは言えない。
副官としての役目は果たさないといけない。
「担当のナイトロス兵に従って行動するように。特に軍高官の遺体を発見したら速やかに報告をするように。」
指揮官クラスの天馬騎士へ手短に説明し、彼らを指定された場所に移動させた。もちろん監視つきで。
「貴方の部隊も移動させてください。」
監視兵に促され、私も近衛天馬騎士を歩かせる。唯一の救いは、食事が与えられているので血色は良くなったということだろうか。
歩いている途中では、未知の乗り物が多数動いていた。生き物なしでどうやって動いているのだ?
「あれは熱で動いているんだ。詳しいことはわからないね」
監視兵の一人は教えてくれたが、どんな理屈で熱が鉄の化け物を動かすのか理解できない。
730 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/31(木) 23:19:56 [ p8AFBIMc ]
「この辺に散らばっている死体と武器その他の残骸を一ヶ所にまとめろ!きれいに片付けるんだぞ!」
そう言っている監視兵や普通のナイトロス兵も片づけを始めている。人手不足か、とにかく早く片付けたいらしい。
冬ならば、死体は数日放っておいても腐敗しないはずだが。
『う・・・うぇ・・・』
見習い天馬騎士や若い魔術師数人が、死体を見て吐いていた。死体の状況は、五体満足なものがひとつたりともない。
何度も死体を見てきた私でも胃からこみ上げてくるものがあるのに、初陣の彼等にはあまりにもきついだろう。
しかし、言われたものは実行しなければならない。彼らを何とか励まし、片づけを開始した。
まともな死体はほとんど無いと言ったが、確認は出来るぐらいの形状を保った死体が多い。所持品からどこの所属か階級かぐらいは特定できる。
こうして死体の確認をしてそれを監視兵に報告していく。馬や飛竜は人の力では動かせそうもないので、竜人族の乗った大型竜が引っ張っていった。
「副団長殿。かなり集めましたが、どうやって彼らはこれを片付けるんでしょうか?」
近衛天馬騎士の一人が私に聞いてきた。目の前には死体が山のように積まれている。100人分以上はあるのではないか?
ここに埋めるでも燃やすでもないようだ。
731 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/31(木) 23:20:27 [ p8AFBIMc ]
「あー、来た来た。おーいここだ〜。」
監視兵が手を振っている先には、ジエイタイなる軍の乗り物が列をなして走ってきていた。
「この辺のは全部集めた。ほとんどが国教会騎士団か竜騎士団の一般騎士で、下級指揮官らしいのも何人かあった。」
「了解しました!」
ジエイタイの兵と監視兵の隊長は短い会話を交わすと、ジエイタイはイチイとかサンサとか呼び合いながら作業を始めていた。
「便利そう・・・」
鍬のような手を持った乗り物が死体を掴み上げ、あるいはジエイタイが幌のついた乗り物の中に死体を運び込んでいる。手作業でやっていた私達が馬鹿みたいだった。
一通り死体や瓦礫を載せ終わると、彼らは風のように去っていった。死体は一ヶ所でまとめて処分するらしい。
「このあたりはきれいになったな!次の場所に移動するぞ!」
まだ昼にもなっていない。一日が死体探しと確認で終わりそうだ。
732 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/08/31(木) 23:21:23 [ p8AFBIMc ]
・・・。
片付けは夕方近くで切り上げとなり、元いた場所まで帰ってきた。そして夕食を支給される。
団長、副団長クラスの兵を集めて(許可さえあれば自由に行動できるようになった。団長の配慮かもしれない)車座になって食事を取る。
「エーテルガルド団長・・・戻ってきませんね。どうしちゃったんでしょうか?」
南大陸南部原産という魚の干物を齧りながら、第一天馬騎士団長が聞いてくる。滑稽な姿だが、話の内容は深刻だ。
「今頃閣下は、汚らわしい軍人の慰み者にされているかもしれませんね・・・」
辺境天馬騎士団の団長の一人がポツリと言う。彼女達の中にはそういう経験を持った者も少なくないというから妙に説得感がある。・・・と、感心してはいけない。
「団長閣下は尋問が長引いているだけだ!団長が大丈夫と言ったのだから、大丈夫と信じるのだ!」
賛同の眼差しと、「偉そうに何言ってるんだこの人は」の眼差しが半分ずつ。エーテルガルド騎士団長。私では団長閣下の軍団をまとめるのは不可能なようです。
私は団長の補佐であって、団長の代わりにはなれない。あの人にはやはり何だかんだで人を魅了する能力があるのだろう。
どこからか、肉のこんがり焼けるような匂いが漂ってきた。