968 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/05(月) 00:28:47 [ wZ5STlsc ]
飛び立った攻撃隊は、陸地まであと10キロというところまで来たところで、前方に複数の光点が出現した。
『マート01から司令部!敵の迎撃を受けた!高度500から1000に複数!』
東方方面軍根拠都市グリューネブルグの守備隊竜騎士は、遠征に参加できなかった落ちこぼれと言う訳ではなかった。海の向こうから現れた騎影を確認した段階で、危険と感じた各竜騎士が独断で飛び立ち始めたのだ。
『サム隊突撃!攻撃・爆撃飛竜を守れ!!』
『クロード隊、サム隊の掩護にまわれ!』
『マート01から司令部!奇襲失敗!強襲強襲!!』
ゴバァ!
戦闘飛竜の迎撃を避けた一体の飛竜が、攻撃型飛竜の集団前方に位置していたマート01に下から火炎を浴びせ掛けた。
『高度を2000まで上げるぞ!航法士!光弾発射!』
パパパ!
その攻撃をかわすなり、光弾をその飛竜に向けて発射した。
命中こそしなかったが、敵飛竜は一気に高度を下げた。現在の高度は1500メートル。与圧魔法技術に疎い帝国の竜騎士は、この高度で限界が来てしまうのだ。
『マート01よりスージー、ジーン、ジル、ジュディ、グレース隊は高度を2000まで上げろ!港攻撃は中止だ!』
969 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/05(月) 00:30:15 [ wZ5STlsc ]
敵飛竜の数は五月雨式に50近くにまで増えている。
パパパパ! ドン! ドン!
王国の戦闘飛竜が光弾と火球ブレスによる攻撃を行い
ゴバァァ!
帝国の飛竜が豪快なブレスで応酬する。
手数と正確さで上回る王国の飛竜が押してはいるが、完全な乱戦となっていた。
『・・・司令部よりマート01!優先攻撃目標を駐屯騎士団本部周辺に変更!敵兵の集合等を確認した場合、その場所を各自の判断で攻撃せよ!』
『了解!・・・マート01から攻撃飛竜各隊!・・・・・』
命令を聞いた各隊は敵飛竜の襲撃を警戒しつつ、高度を下げ始めた。
970 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/05(月) 00:31:48 [ wZ5STlsc ]
グリューネリッター城に併設された竜騎士団の敷地からは続々と飛竜が飛び立っていくが、性能の差は埋めがたく、次々と敵が突破していく。
ここにやって来る
駐在の魔術師たちは、帝国の飛竜が次々と落とされるのをみてそう判断した。
「とにかく空に向けて撃って撃って撃ちまくるんだ!」
攻撃の際には高度を下げなければならないので、命中までといかなくとも、敵の攻撃を惑わすことはできるはずと考えたのだ。
ヒィィィィン!
空から風の悲鳴が聞こえてくる。
「「撃て!!」」
それとほぼ同時に魔術師達が魔法を発射し始めた。
地上と空に爆炎が広がっていく。
971 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/05(月) 00:33:19 [ wZ5STlsc ]
空での空中戦と城から聞こえる音によって市内は恐慌状態となり、数多くの市民が安全だと思う場所に脱出しようと逃げ惑っていた。
その流れは川の西岸から東岸へ、市内から市外へと続いていく。
あちこちで人の渋滞が起こり、将棋倒しとなった。
落下してきた飛竜の火の粉を浴びて、抱えていた荷物や着ている服が燃え上がり、川の西岸のあちこちで小規模な火事が発生した。
「城との連絡が取れないぞ!」
「斥候を出せ!」
「住民で一杯だ!主だった通りは塞がれていやがる!」
市内各地に散らばっていた兵士達は、互いの連絡がとれずに混乱していた。しかし少しでも数が集まると、とたんに飛竜の攻撃に晒された。
972 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/05(月) 00:35:14 [ wZ5STlsc ]
・・・。
『マート01より残存各騎!退却する!』
東西10キロ南北に5キロほどのグリューネブルグ市の西半分はあちこちが黒煙で覆われ、東半分も混乱の中で発生したらしき火事の煙が出ていた。
『了解』『了解』
市の上空に散らばっていた飛竜が次々と集合し、隊ごとに編隊を組んでいく。旧式の飛竜部隊を中心に、編隊のあちこちに穴が開いていた。
被弾し、早期に撤退した竜騎兵もいるので、見た目より損害は少ない。
『高度を3000まで上げろ!敵の追撃を振り切る!』
帝国の飛竜は追ってきたが、高度を上げると引き返していった。
『マート01より司令部・・・攻撃は当初の目的は完遂できず。航空戦力は大部分を駆逐するも陸上戦力の損害不明。港に大型艦は無く、攻撃の必要なしと判断。』
それだけ報告して、攻撃部隊と艦隊司令部の両方に宣言した。
『攻撃を終了し、帰還する。』
32 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/06(火) 21:22:08 [ wZ5STlsc ]
吾輩は飛竜である。
名は・・・ジーク02と人間たちが呼んでいる。真の名は人間に秘密と決められている。
生まれはトリダイヤモンド社の飛竜舎のいずれかと記憶している。
吾輩はそこで始めて人間を乗せた。しかも話を聞くと竜騎兵という奇怪な職業だという話である。
その当時は何という考えもなかったから別段怖いとも思わなかった。
ただフランシアに移り今の竜騎兵を主と定められてからは無謀な要求する度にあきれるばかりである。
その竜騎兵・・・アレックスという人間の雄がいわゆる相棒という関係の始まりであろう。
吾輩の食事をねだる人間は相棒以外に一度も出会わした事がない。
33 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/06(火) 21:23:29 [ wZ5STlsc ]
この竜騎兵に好意を持つ雌の竜騎兵がいる。
ジーク13に騎乗する新米の竜騎兵で我輩の相棒を師と仰いでいるように見受けられる。
人間とはまことに不思議な生き物で二人は互いに好意を持っているようだがまるで交尾をしようとせぬ。
人間の雌は初めての交尾に苦痛を伴うと聞くがそれを気遣っているようには思えぬ。
ジーク13に尋ねると相棒の事で苦悩を聞かされる事が時折あるという。
相棒はその竜騎兵を繁殖相手と見る節もあるようだが自制をしている。
自制などせずに交尾をして子種を・・・
『相棒起きてるか!』
件の相棒がやって来た故この話はお終いといたす。
だが我輩は二人の行く末をもう暫く観察しようと考える。どのように転ぶかこれからも見ていきたいのである。
34 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/06(火) 21:25:03 [ wZ5STlsc ]
終了。
もう一発は「2040年 皇帝の朝」
36 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/06(火) 21:28:21 [ wZ5STlsc ]
「皇帝陛下・・・起床の時間でございます。」
四十年来の付き合いになる主席執政補佐官の言葉が、ここ何十年かの起床の合図になっている。
「おはよう。毎日飽きないわね。」
「陛下が近衛天馬騎士団に御在籍の時分からのお付き合いです。飽きを通り越して日課となっております。」
そう。とだけ言って、控えていた侍女の手を借りて着替えを始める。
「今日は少し早くないかしら・・・あぁそうだ。これからニホンに行く予定だったわね。私もいよいよおばあさんの仲間入りかも?」
「あと二十年は共統帝国に御奉仕していただかないと、粛清帝の汚名は返上し難いと」
「そんな名称は数年前に滅亡した世界連邦の人間と私を妬む一部のニホン人しか使わないわ。私を八十歳過ぎまで働かせるつもり?」
「陛下が御公務を遂行できているならば」
「帝国憲章に皇帝の定年を明記すべきだったわ!」
三十年以上前に自分で定めた法にうんざりさせられるなんて、私も腐ったものね。
37 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/06(火) 21:30:04 [ wZ5STlsc ]
・・・。
子供たちは成人して王宮を離れ、夫は公務で東大陸各国を訪問中。なので食事は部下以外私一人。
「この後国際空港まで移動して、皇帝専用機でナイトロスのフランシアに立ち寄り、ニホンのカゴシマから海路でタネガシマ島に向かいます。」
遠くに行くからって、いちいち呼ばなくてもいい気もするけど、大国ニホン列島連合の招待を断るなんてできないわ。
「結構な長旅になりそうね。ナイトロスで休めるかしら?」
正直、体の衰えは著しい。昔みたいに天馬も乗り回せなくなっちゃった。
「半日滞在する予定です。政府関係者と会談を開く予定でおります。」
「あの空軍大将とフランシア投資財団理事長は来る?」
「大将閣下は来るでしょう。理事長もおそらく。場合によっては南大陸有力国の来賓とお会いできるかもしれません。あそこは東大陸-南北大陸-ニホン国際空路の中継地ですから。」
二人と直接話すのは五年ぶりくらい?いろいろ話したいことがある。
「わかったわ。食事が終わったら出立の準備を始めましょう。・・・氷結と乾燥の二つ世界へ向かう旅人を励ます為にね・・・」
56 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/08(木) 21:41:45 [ wZ5STlsc ]
『駆逐艦フロストムーンより通信!敵飛竜が我々に向かって接近中!』
戦艦四隻を引き連れた艦隊は、海岸より30キロ・・・戦艦の主砲射程まで約10キロ・・・というところで、敵飛竜に発見されてしまった。
「ダイヤモンドとエメラルドは対空戦闘配置!」
「ヘブンキャッスルとレッドキャッスル対空戦闘用意!」
「各艦対空戦闘用意!」
艦隊の進む先の空には、閃光が瞬いている。一部残っていた戦闘飛竜が食い止めようと攻撃を加えているのだ。
それでも迎撃網を突破する飛竜が増え始めた。
「ジエイタイの対空誘導ロケットは!?」
『敵味方が混在する中で使用したら、味方も落としてしまうと言ってきています!!』
慌しく戦闘配置につく第一飛竜機動艦隊旗艦ダイヤモンドの戦闘艦橋で、司令官は仁王立ちしている。
「いよいよ戦場らしくなってきたな。偵察の天馬騎士を撃墜した時とは違う!油断すると丸焼けにされると思え!」
57 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/08(木) 21:42:43 [ wZ5STlsc ]
戦艦の周りを巡洋艦が囲い、さらにその周りを駆逐艦が囲む。
『ウィンタームーン発砲!』
『フロストムーン発砲!』
『フラワームーン発砲!』
前方に位置する駆逐艦から次々と報告が来る。高角魔導砲の炸裂する爆炎がチラホラ見える。
『敵は本船の高角魔導砲および両用魔導砲の射程内に入ります!』
「発砲を許可する」
それと同時に各所の砲が発砲を始めた。数キロ離れた僚艦エメラルドもである。
ドン!ドン!ドン!
バァン!バァン!
魔法信管の発動を信じて、敵のいる周辺へ魔法を撃ちこみ続ける。
58 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/08(木) 21:43:54 [ wZ5STlsc ]
だが、いかんせん数が多い。およそ30の飛竜が巨大な戦艦に一直線に向かってくる。戦闘飛竜部隊は敵を壊滅させたと報告してきたが、かなり残っていたようだ。
「我が艦に向かってきます!15前後!」
「突出しすぎたか・・・」
半分の敵が、戦艦の中では最も前方にいたダイヤモンドに突撃してきた。戦艦を見たことがなくても、その巨大さから最も脅威と思ったのだろう。
「敵、高度を下げます!」
船体にブレスを吐きつけるつもりらしく、高度を下げてきた。高角魔導砲では狙いづらくなってくる。
ダダダダダ!
対空ガトリング砲も火を吹いて、敵を落さんと気勢を上げる。次々と対空火器に捕まり、敵は5以下に減っていたが突撃は止めなかった。
「緊急回避!」
「緊急回避ヨーソロー!!」
司令官の命令は無駄に終わりそうだった。
59 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/08(木) 21:46:54 [ wZ5STlsc ]
攻撃の瞬間、戦闘艦橋の衝撃は全く無かった。
「被害知らせ!」
『第三ガトリング砲座大破!死傷者複数!』
『後部甲板で小規模火災発生!消火活動始めます!』
『第二高角魔導砲塔、旋回装置に異常発生!』
『対空魔探破損!機能が停止しました!復旧作業に移ります!』
防盾が無ければ、被害はもっと大きかったに違いない。対空魔探の異常以外は船の行動を妨げるものでも無さそうだった。
「他艦の被害と残敵は!?」
「重巡洋艦エルダーホークが敵飛竜と衝突して艦橋軽損傷のみ。敵は全て掃討したと思われます。」
『司令!エメラルドより通信が入りました!「貴艦は健全なりや?」』
間を置かずにこう答えた。
「『主砲の咆哮を敵に聞かせるまで意地でも健全である』と返信だ!それと隊形を組み直すように第一艦隊の二隻に要請しろ!」
80 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/11(日) 22:15:10 [ ilEQSKD2 ]
敵の攻撃を受けなかったヘブンキャッスルとレッドキャッスルの二隻は、海岸から20キロを切る所まで進んでいた。ダイヤモンドとエメラルドは回避運動を取ったので遅れてしまっている。
「ダイヤモンドとエメラルドに通信。沿岸部と海岸に面した橋以外の全ての橋を砲撃せよ。城郭は第一艦隊が潰す。」
「ヨーソロー!連絡します!」
ヘブンキャッスルは戦艦部隊の先陣を切って突き進んでいる。
「乗組員に訓示を伝える。低速ゆえに帝国艦隊との戦いに参加できなかった鬱憤を、この砲撃で発散せよ。ただし無駄弾を使うな。以上。」
第一艦隊の二隻の戦艦は、敵艦隊と地上目標を破壊する為に建造された。帝国軍東方方面水軍の戦いにまるで参加できなかったので、乗組員は鬱屈した気持ちでいたのだ。
『着弾観測飛竜と常時連絡を開始。座標を送ってきています!』
「司令!全主砲塔準備完了!」
「よし。発砲を許可する。」
一閃の後、四基八門の30センチ砲から、帝国の人間が誰も経験したことの無い破壊力を伴った砲弾が放たれた。
81 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/11(日) 22:17:05 [ ilEQSKD2 ]
「着弾まで3、2、1、今!」
黒煙で霞む陸地の一点に、複数の閃光が走る。
『命中1!至近3!近4!』
艦橋からワッと歓声があがる。
「動かぬ城に対して何を喜んでいる!?徹甲弾を七発も外すとは何事だ!次斉射は・・・」
司令の声は、1キロ後方のレッドキャッスルの砲声にかき消された。
『発射準備完了!』
「撃て!!」
船体を轟音と激しい揺れが襲う。それが収まらぬうちに、ダイヤモンドとエメラルドの甲板からも閃光が迸った。
82 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/11(日) 22:19:46 [ ilEQSKD2 ]
五斉射を終えたところで、砲弾を榴弾と黄燐榴弾に変更して敵の城周辺を砲撃した。射撃間隔の短いダイヤモンドとエメラルドも、海岸と橋に対してかなりの数の砲弾を叩き込み終わっている。
『爆炎で目標が隠されたと飛竜が伝えてきました。』
「よし、全艦射撃中止。」
十五斉射を終えて、ようやく攻撃中止の命令が下った。四隻の戦艦で400以上の主砲弾、重巡洋艦の砲弾600以上がグリューネブルグ市に降り注いでいる。
「上陸船団護衛に残る船を除き、海岸より15キロまで後退しろ。」
ナイトロスの冶金技術は未熟で、景気良く射撃を続けると砲身がすぐに磨耗してしまうのだ。当分滞在する以上、最初から使いまくるわけにはいかない。
「偵察飛竜と着弾観測飛竜の報告では、目標から外れた砲弾によって先ほどにも増して市内で火災が発生しています。」
「上陸に影響しそうか?」
「大規模な火災は少ないようです。石造りの町なので、延焼も広くはならない見込みです。」
「ならば第一艦隊司令長官と第一飛竜機動艦隊司令長官の連名で命令を出せ。上陸部隊第一陣を上陸させろ、とな。」
83 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/11(日) 22:23:12 [ ilEQSKD2 ]
敵の飛竜は去ったが市内は混乱は続いていた。グリューネブルグ城はあちこちが焼け焦げ、航空戦力となる飛竜も送り狼として出撃させたものでほぼ全てだった。
全てが混沌の坩堝にあるそんな中に砲弾が降り注いだ。
海岸や港に逃げ込んで、沖の巨大な船を呆然として見ていた住民と、指揮系統をまとめようとしていたグリューネブルグ城の高級軍人と集まってきた兵士が、まず洗礼を受けて消滅した。
次に渋滞で動くに動けなかった橋の上の人々が吹き飛ばされ、飛び散った橋の破片一つ一つが、それぞれ数十人の人間を叩き潰した。
神に助けを求めて大聖堂に集まっていた人々には流れ弾の黄燐榴弾が炸裂し、人々はマッチのように燃え上がって神の下に召された。
戦艦ほどの精密な射撃装置や観測飛竜の無い重巡洋艦は、市内全域といってもいいくらいに砲弾をばら撒く。
貧民街も高級住宅街もあちこちに穴が開き、瓦礫が人を押し潰していく。
爆発と爆風と爆炎は、多くの兵士とやはり多くの一般人を最も平等に鉄槌を振りかざしていった。
89 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/14(水) 22:33:01 [ wZ5STlsc ]
上陸用の小型舟艇が、散発的に発砲を続ける駆逐艦や軽巡洋艦の間をすり抜けていく。
「いいか、上陸したら戦艦が作った穴に飛び込むんだ。海岸で突っ立っていたら敵魔術師や弓兵のいい的だ!」
「第一目的は後続部隊のために海岸の制圧!第二に橋の遮断!それが終わるまでは死ぬな!!」
それぞれの舟艇の小隊長が、緊張する兵士達に命令を出していく。
もっとも、この世界で始めての近代的な強襲上陸作戦なので、ニホンのイオウ島においてアメリカ合衆国ニホン駐留海兵隊の指導は受けているが、誰も実戦を経験したことが無い。
「うぷ・・・」
「救世主は現世にいまし・・・」
船の中は吐気を抑える者、聖書の言葉を唱える者、無言で海岸を見つめる者など行動はいろいろだが、不安な心は同じである。
『着岸まで1000メートル!』
90 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/14(水) 22:33:45 [ wZ5STlsc ]
避難民と瓦礫と死傷者で埋め尽くされた通りでは、市外周に配備されていた部隊が慌てて海岸に向かっていた。
帝国では一般的に都市の周りから、敵を攻めていく。まさか海から直接攻めてくるとは考えてもいなかったのだ。来たとしても小規模で、充分な戦力でなくても駆逐できるとしていた。
そのような前提は沿岸部と城の壊滅と、市内と市の外周各所に降り注いだ砲弾によって崩れ去ってしまった。
生き残った部隊は、自分たちを狙ってくる軍艦の砲撃を浴びながら海岸を目指す他なかった。
「東方方面軍の名において撤退は許されない!不埒な敵を海に追い返せ!」
「歩兵は置いていけ!騎兵だけでも辿りつくんだ!」
「帝国魂を今こそ!」
最初の迎撃戦力になり得た竜騎士団は、周辺地域へ伝令として出した者を除くと既に壊滅していた。残った陸上部隊で迎撃するしかない。水軍など一隻残らず木片になっていた。
指揮官は発破をかけるが、道路のあちこちが寸断されて進撃は遅々として進まない。おまけに海からと思われる攻撃によって吹き飛ばされる始末だ。
波打ち際に近寄る船への迎撃は遅れそうであった。
91 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/14(水) 22:34:30 [ wZ5STlsc ]
「間もなく上陸する!衝撃に気をつけろ!」
上陸用舟艇と言っても、普通のボートに気持ち程度の鉄板を張り付けたようなものだ。接岸したら各自飛び降りるしかない。
「上陸用意!!」
「次が来るまでその豆鉄砲を手放すんじゃないぞ!」
兵士達がライフル銃を構えた。竜人族を中心に騎兵対策の長槍を持つ兵士もいる。魔法兵や重火器、戦竜は第二上陸部隊以降にやって来るので、これらの装備を持っていない。
ザバン!
衝撃を伴って、多数の舟艇が川を挟んだ海岸周辺に上陸した。心配された水際での迎撃は皆無に近かった。
「行け行け!!」
次々と兵士が船から飛び出して砲撃のクレーターへと飛び込んでいく。
パン!パン!
散発的に銃声が響いている。ごく少数の敵兵がいたようだが、これといったことも出来ずに打ち倒されている。
上陸の最初の段階は比較的スムーズに進んでいた。
124 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:06:45 [ wZ5STlsc ]
パン!パン!
「ぐぁっ」
帝国の騎士は馬ごと射殺された。
「進路確保!行け!」
海軍歩兵師団上陸部隊第一波は海岸線東西1キロ強を確保し、海岸沿いの街路の占拠を始めた。
「こいつはひでぇな・・・瓦礫のどこかに敵が隠れているかもしれないぞ!警戒しつつ前進!」
住宅や商店の残骸が軒を連ね、足元にはあちこちに人間だった物の破片が散らばっている。一般市民は王国兵を見ると一目散に逃げたが、帝国兵は向かってきた。
組織的抵抗は少なかったものの、川の東西に別れていた上陸部隊がグリューネブルグ大橋を占領したあたりから、敵の数が増えてきた。
パン!パパン!
最初は橋を目指していて偶然戦闘に至っていただけだったが、しばらくすると情報が伝わってしまったのか、まとまった数の敵がひっきりなしにやって来るようになった。
125 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:08:00 [ wZ5STlsc ]
「また団体さんだ!」
グリューネブルグ大橋に繋がる最も大きな街路では、騎士と歩兵が続々と押しかけていた。ライフル銃で射撃を続けていたが、やがて対応しきれなくなってきた。ナイトロスの銃は単発式で、いちいち装填し直さなければならないのだ。
「引き付けろ・・・まだだ・・・・撃て!!」
パンパン!パン!
『ぎゃぁ』『ごっ』
歩兵は次々と倒れたが、騎士の半分は生き残って突撃を続けた。
「パイク兵!パイク兵を前に出せ!」
「銃剣用意!」
ここまで接近されると、艦砲での支援砲撃はできない。よって上陸部隊でどうにかするしかない。
瓦礫で作った即席のバリケードの中で輝く長剣と銃剣の列に、生き残った騎士が突っ込み血飛沫と怒号が轟いた。
そこへ更なる敵が現れ、最前線は混乱していった。
126 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:09:04 [ wZ5STlsc ]
橋とそこに通じる街路には、第一陣の半分の1500人が陣取っている。それでもばらばらに押し寄せる帝国兵に手間取っていた。
少しづつ押され始めていた海兵師団だったが、上陸から一時間半、彼らを喜ばせることがついに起きた。
敵を駆逐した海岸に輸送船が次々と乗り上げ、中から重装備の兵士や兵器が続々と吐き出されていく。
『橋までの進路は確保するも、敵も橋を目指してきて埒が開かない。救援を請う!』
『橋だ!橋に来てくれ!敵がどんどん来る!・・・に来たぞ!!クソッ撃・・・!』
帝国兵は各所で迎撃を始めていたが、グリューネブルグ大橋周辺で特に激しい戦いが始まっていた。地の利がある帝国兵は正面からの攻撃以外にも、路地裏や建物の中から奇襲攻撃を仕掛けてきている。
「城の制圧は後回しだ!橋周辺の敵の排除を最優先とする!」
比較的抵抗の少ない場所へ行く部隊を除いたほぼ全戦力が、橋を目指し始めた。
127 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:12:03 [ wZ5STlsc ]
「おりゃぁ!」
竜人族用の特大長槍が唸り、敵兵を一刀両断にする。
「はぁはぁ・・・・・キリがない!竜人族の体力は無限じゃ」
南大陸出身の竜人族の体力を持ってしても、対応できる限界を超えていた。
「ほら来たぞ!」
「畜生!」
既に複数の敵兵がバリケードの内側に侵入し、統制された魔法攻撃や銃撃ができる状況ではなくなっていた。更に接近戦では帝国兵に分があり、苦しい戦いが続いている。
「通信兵!増援はまだか!?」
「通信兵はやられました!」
グリューネブルグ大橋東の大通りでは死闘が続いていた。この周辺には700人の海兵を割り当てていたが、敵はそれ以上の数を繰り出してきて、押し切られそうになっていた。
「また敵が来ます!!数は100前後!!!」
高い建物の中から狙撃をしていた兵士が大声で叫び、その方向に銃口を向けて発砲した。
128 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:14:37 [ wZ5STlsc ]
だが、敵の増援を気にする必要は無かった。
「魔法攻撃だ!!」
「やったッ敵に向かっていくぞ!!」
バァァァン!
降り注いだ火球によって焼き払われてしまったからだ。辛うじて間に合った魔法兵が、最大射程ぎりぎりの魔法攻撃を始めたのだ。
それに呼応するように騎兵隊と新たな海軍歩兵が(味方のいない所へ)銃撃をしながら戦場へなだれ込み、その場の敵を駆逐していく。
「登場が遅い!」
「途中の道が通りづらくてな。壊滅前にたどり着けたんだから、勘弁してくれよ。西にも応援は到着しただろうから安心してくれ。戦竜はもう少し待ってろ。」
双方の指揮官は軽く言葉の応酬をしたが、すぐに指揮系統を合同し、橋の反対側の部隊と呼応して敵を迎撃していく。
・・・上陸から4時間を過ぎた頃には、ナイトロス軍は海岸の東西4キロと、その沿岸部の1キロ、グリューネブルグ大橋と港(跡地)周辺を完全に制圧していた。
129 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/17(土) 00:16:00 [ wZ5STlsc ]
・・・。
ドウン!ドーン!
野戦砲と軽魔導カノン砲の砲声が響き渡り、偵察飛竜の情報に基づいて砲撃を開始していた。
向かってくる帝国兵は既に殲滅され、残りの敵はどこかに逃げ込むか砲撃で傷つくかしている。
「D62全騎異常なし!」
「D64全騎異常なし!」
「ZD57、全騎行けます!」
市内の重要地点制圧に向かう部隊には、ナイトロス王国で実戦初参加の戦竜部隊が加わっている。大火力で歩兵と騎兵隊を支援するためである。
「戦竜のすべき事はただ一つ!敵を破壊し叩き潰すことだ!歩兵の血路を開くことだ!実行できない奴は戦竜の鱗磨きだ!」
時間は正午に差しかかろうとしている。戦いはまだまだ終わっていない。
138 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/19(月) 01:49:41 [ wZ5STlsc ]
「右前方の家屋二階に狙撃手!」
「了解!」
ドウッ ズズーーン!
戦竜兵の掛け声と共に戦竜D64がブレスを発射し、弓を射ていた敵兵を二階ごと爆砕した。
「よしっ前進!」
グリューネブルグ城に通じる道は、通り沿いの家屋を一軒ずつ調べては前進するという戦いが続いていた。
魔術師や弓兵が隠れていて、窓から突然攻撃してくるのだ。
「ぐぁっ」
「撃て!」
パン!パン!
そして剣士なども隠れていて、海兵に斬りかかってくる。
139 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/19(月) 01:50:34 [ wZ5STlsc ]
だが・・・
「焼き払え!」
ゴアァァァ!
そうした抵抗も先頭に立つ戦竜の火力がものを言い、次々とねじ伏せられていく。
「すげぇ・・・アスター内戦で活躍しちまう訳だぜ」
小道から飛び出してきた騎士達は、戦竜のブレスが命中し、先頭の一人が上半身を吹き飛ばされ二人目で炸裂して、一人残らず肉片になった。
最新のD80戦竜は、陸上自衛隊の軽装甲車両や旧軍の中戦車の一部までなら撃破可能と評価されている。D62や64は旧世代の戦竜といえど、ブレス一発がこの世界の小口径カノン砲と同程度の威力があるのだ。
「この区画は制圧した!次の区画に行くぞ!斥候を出せ!」
城への道は、今しばらく時間がかかりそうだった。
140 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/19(月) 01:51:42 [ wZ5STlsc ]
一方、市の東側は進軍がスムーズに進んでいた。最初の抵抗で戦力を使い切ったのか、攻勢に出てから大した反撃も無く、破壊の度合いが西部より少なかったので、速いペースで前進できたのだ。
「そろそろ魔法学校だ。」
「反撃されたら、即艦砲射撃を食らわせてやんなきゃな!」
斥候に出た騎兵が本隊より一足早く、グリューネブルグ市西部の重要拠点の魔法学校に到着していた。所々に砲撃による大穴は開いているものの、建造物の被害は少なそうだった。
「おい・・・」
「?・・・これは」
校内の敷地にはかなりの数の人間がいた。服装で見る限り普通の市民がほとんどと、制服を来た10代半ばから後半ぐらいの、この学校の生徒らしい少年少女ばかりだ。
軍人の姿は見えない。ここは避難所か野戦病院になっているらしい。こちらの姿を認めて、生徒の一部が魔法を詠唱する準備をしているが、撃ってくる気配は無い。
「どうする?逃げないが攻撃もしてこないぞ。」
「上に報告しよう。数騎じゃあどうにかできる数じゃない」
141 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/19(月) 01:53:02 [ wZ5STlsc ]
およそ30分で本隊が到着し、この魔法学校を占領した。学校関係者は抵抗を無駄と思ったのか大人しく捕縛され、市民も逃げなかった(後に、町の外に出る道が艦砲射撃で潰され、逃げ道が無くてここに逃げ込んでいたことが分かった)。
「生徒に手を出さないでくれ」
攻略部隊の指揮官の前に引き出された魔法学校の学長の願いはこれだけだけで、反抗しないことを条件に、市の掌握が終われば行動の自由がある程度まで許されることになった。
「ヒッ!化け物!!」
「食べないで・・・」
「嬲り殺しにするくらいなら一思いに殺せ!」
亜人類の兵士達への反応は、こんな感じだった。
「竜人族は人間なんて食べないぞ。」
「エルフ族に拷問趣味は無い。」
本人達がそう言っても、血糊のこびり付いた槍を持つ蜥蜴の化け物や、全身返り血を浴びた美麗な人間もどきの言葉は説得力ゼロであった。
「それに人間の肉は硬くて」
「あ、あ、ああ・・・」
「今のは冗談!冗談!ほら笑って!」
142 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/19(月) 01:53:47 [ wZ5STlsc ]
・・・。
ドウン!タタタタタタタ!
グリューネブルグ城へ繋がる道で最後の攻防が繰り広げられている。通路は限られており、どれも帝国兵で封鎖されている。
「突撃!」
戦竜のブレスと、速射光弾発射機の制圧射撃で敵の抵抗が弱まったところで、数度目の攻勢が始まった。
「ここを破られたら後が無い!抑えろ!」
生き残っていた魔術師が、最後の魔力を振り絞って魔法を叩きつけてきた。
「うぎゃあっ」「熱い熱い!」
海兵が何人も火達磨になる。それを飛び越えて騎兵が銃撃をしながら突撃し、魔術師を射殺していく。
その勢いは槍ぶすまと弓矢に阻まれるが、その時には戦竜がすぐ後ろまで来ていた。
「殺れ」
最後の戦いが城周辺で始まった。
149 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:06:30 [ wZ5STlsc ]
「グリューネブルグ城攻略の状況は!?」
『城までの・・・通路と城郭以外の敷地は・・・全て確保!城・・・内部への突入を始めています、サー!』
現場からの魔法通信には、怒声や銃声が至近から聞こえてくる。
「飛竜部隊を出撃させろ!支援攻撃だ!」
「了解!」
魔法学校に設置された臨時司令部。海軍歩兵師団の司令官と幕僚が到着している。
こことグリューネブルグ城は数キロ離れているが、砲声や銃声が遠雷のように響いてくる。
「攻略にてこずっているか・・・」
「艦砲射撃で城が半壊しています。残った部分に敵兵が逃げ込み、降伏勧告にも応じません。逆に他の場所の敵は全て我が軍の軍門に下っておりますので」
「あとひとふんばりだな。」
150 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:07:00 [ wZ5STlsc ]
連合帝国東方方面軍の中心たるグリューネブルグ城は、帝都ハフニノープルの皇帝宮・王城に負けない豪華な城であった。
それも戦艦の砲弾は大量に浴びて見るも無残な姿となり、王国軍の突入で修羅場となっていた。
ザシュッ
タン!
「ぐぶぁっ」
「ぎゃっ」
そこかしこで銃声と剣戟の音が聞こえている。帝国兵の捨て身の攻撃に犠牲を出しつつも、銃器と獣人の力を借りて少しずつ城内を制圧していった。
地下層は既に掌握されていた。そこは破壊も少なく、そこにいた人間はわずかな警備兵と使用人だったからだ。残るのは通路があちこち潰れた地上階のみだ。
「扉を開けるぞ・・・1、2、3、おら!」
「撃て!」
タンタン!パン!
「突入!」
151 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:08:04 [ wZ5STlsc ]
・・・。
グリューネブルグ城突入から二時間。冬と夜が早く訪れるこの地域では、夕日が訪れようとしていた。
『こちら第一海軍歩兵師団所属、第四混成歩兵中隊!城内を完全に制圧!敵は沈黙しました!!!』
銃撃音が止んで暫くして、ようやく待ち望んだ報告がやって来た。
「や、やった!!」
「万歳!」
「勝ったぞーー!!」
臨時司令部には歓声が広がった。初めての上陸戦で初勝利を飾ったからだ。
「静かに諸君!」
この上陸部隊の指揮官、第一海軍歩兵師団長が喜ぶ幕僚や兵士達を制した。
152 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:08:41 [ wZ5STlsc ]
「本当の戦いはこれからだ。遠くない未来に帝国軍は奪還しにやってくるであろうし、この町の復興もしなければならない。」
町の住人は、戦闘が下火になった頃から帰宅し始めていた。この時季は雪が降るほど冷え込む。数万の人間を凍死させるわけにもいかず、武器類を没収するのを条件に、王国軍は市民が市内に戻るのを許可している。
「食料も問題になるかも知れないが、時間が経てば交易が復活するだろう。需要のある場所に物を運ぶのが商人の使命だからだ。帝国が禁止してもやってくるだろうさ。」
「・・・占領の第一歩は、今までの被害の集計だ!急げ!!」
「了解!」「イエッサー!」
彼らの顔には疲れが浮かんでいたが、同時に喜びの表情も浮かんでいた。
「後は、海上の二艦隊とジエイタイに連絡を入れておくんだ。彼らの力がなければこう上手く制圧できなかっただろうから・・・」
破壊を免れた家々に明かりが灯りはじめていた。
153 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:10:08 [ wZ5STlsc ]
・・・。
彼女は今日ほど酒場の給仕になったのを後悔したことがなかった。
突然の攻撃に慌てて逃げ出し、落ち着いてから店の人間数人と酒場に帰ったところ、そこには「彼ら」がいた。そして今に至っている。
「ほらねーちゃん!もっと酒を出してくれよ!」
「こっちにもだ!」
席に座っているのは御伽話でしか見た事のなかった、南大陸の「獣人」たちだった。人間も勿論いるが。
「帝国の酒は薄いなー。アスターの酒はもっとアルコールいっぱいなんだよ!」
「やだね、下品な竜人族は。謙虚に飲むということを知らない。」
「どっちにしろ、一仕事終えた後の酒は喉越しが最高だ!」
逃げようとしたら何をされるかわかった物ではない。何もせずに帰ってくれるのを祈るばかりだ。
「ちょっと」
「ひぁっ!・・・え、えぇと何でしょうか?」
「支払いはどうすればいいですかね?シリングは通用しないでしょうから、そのうち軍票が発行されると思うんで、それで支払っても宜しいですか?」
「あっハイ・・・」
彼らの上官らしい鳥類人が礼儀よく尋ねてきた。信用はとても出来ないが、邪悪な生き物ではないと少しだけ感じた。
154 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/23(金) 00:20:18 [ wZ5STlsc ]
終了。本編に戻ります。
王国損害
死者800人
負傷者3500人
飛竜損失7
小型舟艇沈没5
駆逐艦5、巡洋艦2、戦艦1軽損傷
帝国損害
死者(軍人)8000人
死者(民間人)7000人
負傷者(軍人)3000人
負傷者(民間人)14000人
飛竜損失80以上
艦艇沈没10以上
損傷家屋5000棟以上
160 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/25(日) 22:25:13 [ wZ5STlsc ]
「雪だ・・・」
薄暗い空から雪が降ってきた。フランシア近辺は雪は滅多に降るもんじゃないが、この辺では珍しくも無いそうだ。訓練は実戦ぽくなって、緊張感は増すが。
「大尉。この天気でやるんですか?」
リサだ。しけた顔をしてやがる。
「リサ。フランシア基地じゃ模擬戦闘訓練なんて、どんな天気でもやってただろ?首のマフラーは防寒用じゃないが」
「べ、別に寒いとか雪が降ってるかっらて訳じゃないです!!」
ちょっとからかうとすぐ怒るというリサの性格にも、すかっり慣れた。というかなんか可愛らしさを感じるようになってきた。
「大尉聞いてますか!?」
いかんいかん。思考が変な方向に逝っちまった。
「何か嫌なことがあるのか?今のうちに教えてくれ。」
「それは」
161 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/25(日) 22:26:37 [ wZ5STlsc ]
「私たちというか、ジーク隊がここのところ負けっぱなしじゃ無いですか!実戦でも大丈夫なのか心配になりますよ。」
それか。それはそうなんだよな。他国の飛竜と模擬空戦を始めた当時はジーク隊はかなり強かったんだけど、そのうち対策を打ってきて歯が立たなくなってきた。
「近頃はスピットの\型にも勝てなくなってきたし、アスターの高性能なヤコブレフやラボーチキン相手でも辛いっていうのは認める。」
リサはほぼ毎回撃墜判定を受けている。俺も2〜3回に一回は落とされる。まだ撃墜判定をもらってないのは隊長ぐらいだ。あの人は別格の強さだよ。
「グリューネブルグ攻略戦では何騎か落とされたって。私たちもあっけなく落とされちゃうんでしょうか?」
「心配しすぎだ。空中戦で落ちたのは4騎だけだとさ。それに彼らが戦ったのは、グリュ−ネブルグ周辺の竜騎士団で少数しか使われていないGf−109Gという種類の飛竜だとよ。そんなにたくさん来ないから安心しろって。」
「・・・。」
「リサ」
「はい」
「お前が落ちる原因の半分は、飛行技術が未熟だからぞ。半年前よりはマシになってるけど、まだまだだ。今日もみっちりしごくからな!」
「分かりました!よろしくお願いします!」
元気になった。この立ち直りの早さも・・・嫌いじゃなくなってきている。
162 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/25(日) 22:27:20 [ wZ5STlsc ]
・・・。
「この、茶色っぽいのは何かしら?」
前より一層貧相になったスープの中に、ペラペラの皮のような変なのが入ってる。
「これは木の皮です。灰汁抜きしてスープに加えてるんです。・・・団長閣下には木の実のパンもあるから安心してください。」
敗残兵か飢饉の農民が食べるような、酷い食事ね。
今の食糧事情だと、敵が待ち構えているらしき地点にたどり着いて戦って、そこで空っぽ。敵から押収できればいいけど。
「全く!みんな頭が固いわ!・・・ズズ・・・できるうちに飛竜とペガサスで先制攻撃すればいいのに!・・・・ズズズ・・・それが出払ったら上空が心配だなんて!そんな余裕かましてる暇なんて・・・ズズズズ・・・はぁ」
やるせない。私にもうちょっと権力があったら、あの筋肉馬鹿や能無し将軍たちの口を黙らせられるのに。
「それに、上の方は私たちが全然空を飛んでないから敵は油断してるなんて・・・モグモグ・・・考えが甘いわ!それぐらいばれてるってぐらい・・・クチャクチャ・・・こっちが飛ばさないと油断してる時に奇襲するのが・・・ごく・・・ふぅ」
本当だったら、今頃水軍が海峡に突入してたんだろうなぁ・・・。
163 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/25(日) 22:28:46 [ wZ5STlsc ]
「だ、団長!エーテルガルド団長!!」
「何事!?」
副団長だ。水軍壊滅の報を伝えに来た時よりも焦ってる。何かしら。
「は、はぁ、東方領の、東方領のグリューネブルグが・・・」
「グリューネブルグがどうしたの?東方領随一の街が何かあったの?」
「占領されました!!!」
つい数分前に食べた物が逆流してきたのが、分かる。それを意志の力で胃まで押し戻してから、口を開いた。
「詳細を教えてちょうだい!」
「東方方面軍水軍を壊滅させたのと同じらしい艦隊が海上から奇襲してきて、半日で・・・」
「もういいわ。何となく分かった。」
「それよりも、グリューネブルグ周辺から来た国教会騎士団が、帰還して奪還すると騒ぎ始めて大変なことになってます!」
意志の力でも抑えられないくらい逆流してきた。
「分かったわ。私は彼らを説得しに行く。念のために天馬騎士団員を・・・陸戦装備にして待機させて。・・・すぐ戻るからちょっと待ってて」
そのまま手近な大木の木陰に、私は駆け込んだ。
176 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/30(金) 23:54:37 [ HMtRg.Sk ]
・・・ナイトロス王国・オキシゼ市・・・
海辺沿いの緩やかな丘陵地帯に建造された王族の離宮は、首都フランシアから王族や政府が退避してきてからは、臨時の議場として使われている。
「では、三軍と官僚から現状の報告をしてもらう。よろしいですかな国王陛下?」
「よろしい。」
大広間には国王と首相の他に、複数の上級軍人・官僚が集まっている。戦時体制に移行しており、上下院は承認するだけの機関になっているので、政治家はそれほど呼ばれていない。
「メリダ帝国空軍とわが空軍の共同偵察の結果、ここ数日で再び飛竜とペガサスの活動が活発になっていることが分かりました。」
「同時に進軍速度を上げています。敵は速戦を選んだ模様です。」
帝国軍の進軍速度は、徐々にだが確実に減速していたのが偵察から確認されていた。それがある日を境に再び加速し、更に地上にいる時間の長かった飛竜やペガサスが、空に舞い上がり始めている。
「空軍は、以下のような結論に達しました。帝国軍先鋒の兵糧は底を尽きかけています。完全に無くなる前に、わが軍と一戦交えるつもりなのでしょう。」
先鋒の到着は、11月終盤になることがほぼ決定的になった。
177 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/30(金) 23:55:07 [ HMtRg.Sk ]
「後方の帝国軍本隊は、先鋒から一週間分遅れて侵攻しています。到着も一週間遅れるでしょう。」
本隊への対処はニホン政府にほぼ一任している。そもそも、先鋒との1〜2会戦に耐えられるだけの量の備蓄しかない。
「空軍と各国の飛竜は、臨戦態勢に入っています。命令さえあれば、400の戦闘飛竜、300の爆撃飛竜が直ちに出撃できる状態になっております!」
「陸軍も防衛線の構築と人員の配置は完了しております。後は重砲やトーチカに擬装を施せば完璧です。」
「教導隊として陸軍戦竜部隊の指導に当たっていた、アスター連邦陸軍の西アスター戦竜軍団派遣隊も前線に到着しています!」
「食料の不足が気になりますが、節約で凌げる範囲です。」
弾薬は必要量を満たしていても、食料が不足気味だった。これはどうしようもない。
「海軍は北大陸東岸の航路をほぼ手中に収めました。第二艦隊とコバルタ海軍を護衛につけて、輸送船団を出しました。」
海軍はかつて豪語したとおり、陸空軍に物資の融通を求めていなかった。その代わり、貯めこんでいた物資は急激に減っている。
「帝国軍西方方面軍水軍は全く出撃するつもりがないのが、ニホン政府から提供を受けた偵察情報から分かっています。もう、海に関する問題点はありません!」
178 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/30(金) 23:55:52 [ HMtRg.Sk ]
「以上です陛下。」
「うむ・・・。」
首相や国王にはこれぐらいの情報は流れてきているし、門外漢なので口出しすることもない。情報の再確認程度のものだ。
「軍の状況は分かった。治安や経済の状況はどうなっている?」
「フランシア港は一時期の騒乱状態からは落ち着きを取り戻しましたが、未だに客船は避難民で一杯です。」
「南大陸北岸の諸都市は、避難民の流入で治安がやや悪化しています。いずれ憲兵隊の出動を要請するかもしれません。」
「また、許可を取らず勝手に海峡を横断する船が相次ぎ、大型船と衝突未遂を起こす船が激増しているのも気掛かりです。」
これも想定されていたことで、警官の増員と沿岸警備隊のパトロール増強で決着した。
179 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/06/30(金) 23:57:48 [ HMtRg.Sk ]
「ナイトロス半島の鉱石産出量は9月から比較して半減、鋼鉄生産量も半減、農業生産は3分の2で、南大陸側もそれぞれ微減。これは予想されていたのですが・・・」
「問題はそれか・・・」
「ニホン・・・」
突如として出現した大量消費国ニホンは、各国を亜圧迫している。必要な量まで半ば強制的に輸出させられているからだ。
「逃げる人間を捕まえて工場や鉱山に連れ戻すなど、不可能だからな。ニホン政府には私と首相と外交省から説明しておく。」
ここ最近のナイトロス全体の第一次・第二次産業の生産量は限界に来ている。初期にあった、過剰開発と豊作続きでダブついた農業製品を受け入れる新たな市場、という楽観的見通しは既に無くなっている。
「物価の上昇も、ここに来て再び上昇しています。5月から比較して4割近く高くなっているのです!」
「・・・。」
徐々に、帝国よりこちらの方が問題ではないかと、参加者は確信し始めていた。
193 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/07/04(火) 22:46:50 [ Ivg.jqkg ]
「近衛天馬騎士団の諸君!」
精一杯の威厳を繕って、団員たちの前で演説を始める。
「あと数日で私たちは旧支配者回廊を完全に脱し(帝国側の認識。ナイトロスでは既に抜けている)、ナイトロス半島中部に侵入する!」
森は途切れ途切れになり、疎林と平地が増えてきている。これを抜ければ、敵が居るっぽい場所まで強行軍で二日・・・今なら三日かしら?
「天馬騎士団に限らず、ほとんどの空中騎士団が地上を移動していた!地上軍と歩調を合わせるためにね。」
本当なら空中騎士団が何回か攻撃しといて、そこを地上軍で突くはずだったんだけど・・・。
半島到着後の補給の当てにしていた水軍の壊滅にびびった将軍たちと、それを諌められなかった私の責任で、波状攻撃をする時機を逸してしまった。
グリューネブルグ陥落の報告を聞いた後には、食料が底を突く前に敵と合戦するために前進するよう彼らを何とか説得した。その後のことは分からない。
負けて惨めに死ぬか(冬季は国境周辺は天候が最悪で、ここから帝国領までひとっとびなんて不可能。その前に凍死するわ!)、勝って死ぬか、生き残るか。この三つくらいしか思いつかない。
死ぬより辛い仕打ちを敵から受ける可能性もあるけど、それなら自害する。
194 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/07/04(火) 22:47:20 [ Ivg.jqkg ]
「あと三日待て!そうすれば今のように騙し騙し飛ぶような真似をしなくて済む!自在に飛び回り、敵を叩き落す!!」
疲れの見えていた団員たちの顔に若干の笑顔が浮かぶ。みんなほとんど飛んでいないから、鬱屈した日々を送っていた。思いっきり大空を飛ばさせてあげる。
最後かもしれないから・・・こういう悪い未来は言わないほうがいい。
「もうひとつ。全天馬騎士団と辺境から集めた空中騎士団は、私が独立した指揮権を貰った。徴収した戦力もね。諸君には・・・頑張ってもらうわよ。」
父上と兄たちから引き渡されたいくつかの空中騎士団は、出発前には並より少し上の戦力として期待できるだけの能力を持つに至っている。
辺境からかき集めた兵士たちは・・・無理はさせられない。地上勤務の参謀たちに指揮は任せるけど、中央突破みたいなことはやらさせないようにしなくちゃ。
空中騎士団は私が育てた戦力。阿呆たちの捨て駒にされるのはまっぴらごめんよ!戦闘中の自由な指揮と引き換えに、彼らの主張する作戦を大方許容するはめになったけど。
作戦内容に反しない限りで、自由にやらさせてもらうわ。
整列した近衛天馬騎士たちが、寸分の狂いも無い敬礼を一斉にした。
195 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/07/04(火) 22:48:10 [ Ivg.jqkg ]
・・・。
「え?夜襲?」
中尉からその話を聞いた時、正直驚いた。
「同志大尉、敵の油断する夜間に敵地を奇襲するのは、かく乱の基礎中の基礎であります。」
「うん。まぁそうなんだが・・・」
飛竜による夜襲は、ナイトロスでは行われていない。この国が大きな戦乱を長いこと経験していないのもあるが
「超低空でブレスとかを浴びせかけるんだろ?弓や魔法は大丈夫なのか?」
「小官が騎乗しているのは、頑丈さでは指折りのイリューシン10であります。多少の攻撃ではびくともしません!」
「実戦でしたことがあるのかよ!」
「大祖国戦争の折には幾度と無く夜襲が行われ、敵に甚大な被害を与えております!」
その時の飛竜の被害を、中尉は頑として教えてはくれなかった。
196 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2006/07/04(火) 22:49:26 [ Ivg.jqkg ]
夜間戦闘は非常に危険だ。低空ではいざ知らず、高空でも高度を見誤って墜落する可能性がある。
ナイトロス他の国々では、一定高度からの大型爆撃飛竜の地上攻撃に切り替えている。テルミット焼夷爆弾なんて積み込むアスター空軍じゃ尚更なはずだ。
「パフォーマンスというものです。敵にアスター・・・南大陸の力を見せ付けるのが主目標であります。」
中尉はこう教えてくれた。暗に戦果は期待してないとも言っている。
政府も自軍に先駆けた軍事行動をよく許可したもんだ。アスターの能力を測るつもりなんだろうか?
「いつ頃だ?帝国軍の先鋒はそろそろエルビヌメイン防衛線に引っかかると聞いたぞ。」
「三日後の夜、四日後の未明出撃になりま・・・これは同志と小官の間の秘密で宜しくお願いします。他言はやめてください」
「言わないさ。そうかそうか・・・」
「明日か明後日には告示されますよ」
「なんだよ。秘匿の作戦じゃねーのか」
「秘密基地でもないのに隠せませんから。」