175 名前:171 投稿日: 2005/05/07(土) 01:05:12 [ tR.ESYHI ]
「ふぁぁぁ〜〜〜」
我慢しきれずについあくびをしてしまう。みんな前を見ているので大丈夫だと思ったが
「アレックス副隊長!何やってんですか!?副隊長としての自覚が無いんですか!?」
見られていたか、しょうがないな。
「リサ一等飛行兵?キミは迷子になったときの夢でも見ていたのか?」
彼女が習熟飛行訓練をしていた時の失敗を突きつけてやる。
「なっ!!?そんなわけ無いじゃないですか!!私は子どもではありません!!!」
ムキになってるな。
「違いましたか。では目尻の涙は何者ですかな?」
と、慇懃に答える。お、顔を真っ赤にしていやがる。
お前があくびをかみ殺したのを見逃していたとでも思っていたのか。まわりの連中もクスクス笑っていやがる。それを見たリサが何か言おうとしたその時
「アレックス大尉、彼女をからかうのもそのくらいにしなさい」
隊長が口を開いた。場の空気が和んだのを見計らってのことだろう。
「了解」
「り・・・了解」
重苦しい空気を和らげるダシにされたのだと気付いたリサもおとなしく引き下がる。うん。彼女には悪かったが、場の雰囲気はだいぶ良くなったな。
176 名前:171 投稿日: 2005/05/07(土) 01:07:29 [ tR.ESYHI ]
こんな事になったのも、3時間ほど前に起きた西の海の発光現象のせいだ。無論、軍人である俺達には非常召集がかかった・・・基地内にいるから問題は無いが・・・
街に出ていた奴らも慌てて戻ってきた。酒を飲んでいたようだが、今は酔いも醒めているようだ。開けられた窓の外は明るくなってきている、夜明けが近いな。
時折話し声が聞こえるが、やはり帝国が何かをやらかしたんじゃないかといった話をしている。俺だって、この北大陸の覇権をほぼ握っているオスミア=ハフニー連合帝国が、俺達のナイトロス王国に何かを仕掛けたと考えてる。戦争をはじめる気か?
ここまで考えていたところで、基地司令官が慌てて入ってくると同時に、緊急事態を知らせる半鐘が鳴り響く。待機室にいた基地竜騎兵隊全員が姿勢を正す。
「緊急事態だ!現在西の方角より正体不明飛行物体が接近しているのを魔探が確認!首都フランシア方面に向かっている!このままでは首都に侵入される!また港には竣工直前の飛竜母艦もあり、これを発見・破壊されてはならん!我々首都防空隊は正体不明「アンノウン」を追い返すか、撃破する!この基地からはジーク隊を出す!先行したダイナと合流して指示を待て!オスカー隊は待機!時間を置いて発進させる!他の隊は空中退避用意!行け!!」
司令官は矢継ぎ早にしゃべるが、俺達も話し終わるか終わらないかのうちに走り始める。
「隊長、やはり帝国が仕掛けてきたのでしょうか?」
俺は発進場に向かいながら隊長に話しかける。隊長は少し困った顔をして
「分からん、こっちに向かってきているもの次第だ。古竜(エンシェントドラゴン)ならいいんだがな。」
世界を一周できるほどの航続距離を誇るという古のドラゴンの名を挙げる。彼らは知能が高い(らしい)のでこちらが警告をすれば、進路を変えてくれる。
177 名前:171 投稿日: 2005/05/07(土) 01:10:56 [ tR.ESYHI ]
こっちだって、翼の全長が100メートルを超えるものまでいる古竜を叩き落そうなんて願い下げだ。ブレスで消し炭にされるのがオチだ。まぁ、古竜の接近自体は、年に数回あるし、アンノウンは古竜の誤認、とも思うが今は「飛行物体」の正体を探ってるひまは無い。帝国の秘密兵器とは考えないようにする。
発進場に着くと、既に飛竜とさらに大型の竜たちが羽を並べていて、そのまわりを飼育係たちが慌しく走りまわっている。この基地の広さの割に、竜たちの姿が少ない。多くの部隊は、帝国と国境を接する北部地域に引き抜かれてるからか。それでも数十体の竜がいるのは、さすが首都の基地ということか。
そんな竜たちの中から、俺はすぐに「相棒」を見つける。相棒も俺を見つけたようで、首をこっちに向ける。駆け寄るとそのまま相棒に飛び乗る。鐙に足をかけ、手綱を握る。
ここまで準備したところで、飼育係が俺に声をかけてきた。
「調子はイイですよ!万全といっていいです!」
そうか?こいつ、機嫌が悪いみたいだが。・・・・・ははぁん。
「相棒、起こされたからってぐずるなよ。後でゆっくり休ましてやるよ」
・・・機嫌が良くなったようだ。現金なやつめ。
通信用の魔法と、与圧の風魔法を自分にかける。魔法発動の確認をしている魔術師が、俺の「騎」にゴーサインを出した。相棒が翼を羽ばたかせ始める。まわりの飼育係、魔術師が俺達から離れる。
準備万端だ!行くぞ相棒!!
「ジーク隊副隊長騎アレックス離陸する!!」
羽ばたきが増して、徐々に飛び上がる。吹流しを見ると風がほとんど無い。風にあおられる心配はなさそうだ。基地から離れつつ、隊全員が揃うのを待つ。
・・・それほど時間をかけずに全員が揃った。経験が浅いとこうはいかない。先ほどからかったリサも滞りなく離陸して合流する。彼女も精鋭で名高いジーク隊の一員なのだから、当然だ。
『全員隊列を組んで飛行する!このまま港まで行くぞ!』
隊長が全員に呼びかける。
『『了解!!!』』
178 名前:171 投稿日: 2005/05/07(土) 01:13:02 [ tR.ESYHI ]
空はかなり明るくなって、日の出寸前のようだ。高度が低く速度もまだ出ていないので、黎明の明かりでも街の様子が見て取れる。街路には人があふれていてパニックに陥っているのがわかる。それを騎馬警官が制止している。国防軍の兵士もまじっている。群集に向けて威嚇射撃しているのか、銃声が散発的に聞こえる。
高度が上がってくる。眼下には港と街の間の丘陵が見える。対空魔法陣地が点在している。今ごろ、大急ぎで照準を合わせてるんだろう。こいつらに仕事をさせるわけにはいかないな。
港に差し掛かると、抜錨している海軍艦艇群手前のドック内に帆を持たない甲板の広い巨大な船が見えた。司令官の言っていた飛竜母艦か。俺の知っている限りでは飛竜母艦はコイツを含めて2隻しか知らない。そもそも飛竜母艦を組み込んだ海軍竜騎兵隊が成立したのが去年なんだからしょうがないか。だからこそアンノウン一体に最初から竜騎兵隊1個部隊を差し向けたわけだな。
港上空まで来たところで「ダイナ」に合流した。
『ダイナ03よりジーク01へ。アンノウンは進路を変えず東進中。高度は約4000。速度は約250ノット。現在、高度・速度を下げつつあり。我、アンノウンへ誘導する』
俺達の魔法通信よりずっと雑音の少ない魔法通信が聞こえてくる。ダイナ隊の飛竜は偵察/指令型三座ドラゴンで、3人のうち2人は魔術師が乗って、通信なんかをするんだっけ。にわか魔法しか使えない一般竜騎兵の魔法通信とは、格段の性能の差だ。ん?
『ジーク01よりダイナ03へ。速度250とは本当か。速すぎる。相手は何者だ?』
俺が口に出すより早く隊長がダイナに質問をした。俺達は最高でも300ノットだぞ。ダイナのほうも困っているようで
『魔探班によると、アンノウンはほぼ金属製、分類不能の成分を含む。全長は30ないし40メートル、翼らしきものはおよそ30メートル。一部に生物反応あり、だそうだ』
なんだそりゃ。一部しか生物反応が無いとはどういうことだ?ドラゴンゾンビか。だが、やつらは飛べない。金属で出来ているわけでもない。書物の中の知識だが。
『アンノウンに接近したらすぐに散開する。どんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。』
隊長が俺達に言う。同じことを意見具申しようとしたのに。隊長!部下の仕事を奪わないでください!俺は副隊長ですよ?
179 名前:171 投稿日: 2005/05/07(土) 01:15:28 [ tR.ESYHI ]
『ダイナ03よりジーク01からジーク15へ。アンノウンは高度3000に降下。この高度を維持している。速度は200。まもなく目視で確認可能になると思われる。これよりダイナ03は速度を落とし、後方へ下がる。ジーク隊の幸運を祈る』
『ジーク01了解』
『ジーク02了解』
『ジーク03了解』
・
・
・
俺達を誘導していたダイナが速度を落として後ろに下がっていく。俺達に並んだときに敬礼された。おい、俺達は死地に赴くわけじゃねーんだぞ。もちろん礼儀としてこちらも敬礼を返したがな。
気を取り直してこちらの陣容を見渡す。こちらの高度は目視でおよそ4000、速度は250ノットといったところか。数は15だ。相手は1体(?)だからおそらく大丈夫だろう。前方に目を凝らしてアンノウンを探す。
飛竜たちの翼と、首に巻いた純白のマフラー----首都防空隊に限らず、ナイトロス王国全竜騎兵のシンボルのひとつ----が風を切る音が聞こえてくる。そして、魔法で緩和されていても身を切るような寒さだ。完全に目が覚める。
後ろから強い光を感じる。日の出の時間か、空がどんどん明るくなってきた。アンノウンを発見しやすくなっt
『ジーク13より各騎へ。10時方向に光点を確認』
ジーク13ことリサから魔法通信が入った。彼女にいいところを持ってかれた!彼女をからかった罰ってやつか。いいさ、フン。とりあえず10時の方角を見る。
確かにキラキラ光っている何かが・・・こっちに近づいてくる。このままだと港のほうから首都に侵入されるな。だが、そう簡単に行かせるわけにはいかないぜ?
『ジーク02よりジーク01へ。隊長!オスカー隊が着く前に片付けましょう!!」
あちこちから苦笑が聞こえてくるが、未知の物に対する恐怖は減ったかな。俺は場の雰囲気を盛り上げる役目があるらしい。
俺は、改めて手綱を握りなおした・・・
186 名前:171 投稿日: 2005/05/11(水) 22:47:58 [ tR.ESYHI ]
『ジーク01より各騎へ、これより散開する。合図と共にアンノウンの進路前方に向けてブレス攻撃!それでも進路を変えなければ光弾による攻撃を許可する』
隊長の言葉を合図に、俺達はあたりに散らばる。先制攻撃されるんじゃないかと思っていたが、取り越し苦労だったか。一度通過した後、反転してアンノウンに並走する態勢をとる。
アンノウンとの距離はかなり詰まってるので、充分にその姿を見てとれるが、全身は白と灰色、翼と胴体に赤丸。翼には4つ、何かがついているのがわかる。なんだろうか?
これは、どうみてもドラゴンではない!翼は羽ばたいていない。日光を浴びて光る様子は、生き物の皮膚ではなく鉄板が光を反射しているのに似ている。金属で出来ている活動的なモノというとアレくらいしか無い。
『ジーク02よりジーク01およびダイナ03へ。アンノウンは「機械」と思われる!だがデカイ!こんなやつをどうやって飛ばしているんだ!』
機械はポンプや紡績機などの総称。・・・鉄砲も機械の一種か?数百年進歩の無い帝国には無い「技術」だ。理論上では、機械を魔法や飛行生物などの力に頼らず飛ばすことも可能らしい。それにしたってコイツは・・・
『ジーク01よりジーク02へ。コレの詮索は後回しだ。ジーク01より各騎へ。これより、ブレスによる警告を開始する!』
それもそうだ。基地に帰ってから考えよう。相棒にブレスを吐かせる準備をする。打ち込むのはアンノウンの前方200メートルくらいにしておこう。アンノウンに変化は無い。高度が5000くらいに上がったが、俺達の迎撃に驚いたのだろう。これ以上高度を上げられるとさすがにまずいが。
『ジーク02警告射撃!』
『ジーク05警告射撃!』
『ジーク11警告射撃!』
相棒にブレスを吐かせると同時に、列騎もブレスを吐かせ始めた。ブレスといっても何の事は無い。出力を抑えているから火球になっている。威力に欠けるが、普通のブレスに比べれば遠くまで飛ばせる。それに速い。
放たれたブレス(というか火球)はアンノウンの進路を塞ぐ形で炸裂、あるいは通過した。これで止められなかったら、今度は連射式の光弾魔法で撃ち落さなければならn
言い終わる前に、アンノウンはいきなり速度と高度を上げ始めた!俺達も慌てて速度を上げるが、追いすがるのがやっとだ。進路は変えていない。クソッ!必死で高度を上げるがまったくダメだ。なんつー加速と上昇力だ!列騎の中には早くも脱落者が出ている。これはやるしかない!
『ジーク02光弾を発射する!!』
パッパッパッパッ・・・!
隊長の命令を受ける前に、俺は光弾を撃ち始めた。光弾がアンノウンに向かっていく。悠長に待ってたら引き離されちまう!・・・!光弾がおじぎしやがった!ついてきた仲間達も光弾を発射しているが、やはり光弾がおじぎしてしまって当たらない。ブレスも吐かせているが、これも当たりそうに無い。その間にも引き離されていく。不用意に近づいた数騎の飛竜が乱気流に巻き込まれて急速に高度を落としていく。
射程ぎりぎりのところで、俺の放った光弾が数発、運良くアンノウンの右の翼に命中した。アンノウンの翼から破片が飛び散る。悔しいが、大きなダメージは与えられなかったようだ。ただ、肝を冷やしたのか問題が起きたのか、アンノウンは進路を変え始めた。
俺も追尾しようとするが、ここで相棒の異常に気付く。首を大きく横に振り、翼をいつも以上に羽ばたかせている。アンノウンの追尾に夢中になっていたおかげで、飛竜の上昇限界高度まで昇ってしまったようだ。高度は6、7000くらいか。俺のほうも、空気の薄さで意識が遠ざかるのを感じたのであわてて高度を下げる。まわりには誰もいない。ここまで来たのは俺だけだったようだ。アンノウンは遥か上空を高速で遠ざかって行く。もう追いつけないだろう。
『ジー・・集け・・よ!ジークた・・結せよ!』
高度を下げたところで、魔法通信が入っていたことにようやく気が付いた。集結地点に向かう旨を連絡する。無理をさせ過ぎたせいか、相棒は完全にバテている。この後の出撃は無理だな。俺も正直、休みたい。
187 名前:171 投稿日: 2005/05/11(水) 22:49:57 [ tR.ESYHI ]
集合地点には俺以外のジーク隊全員と後発の「オスカー」隊、俺達を誘導したダイナがいた。
『アレックス大尉。大丈夫かね?』
『隊長・・・。独断行動をとって申し訳ありません』
素直に謝罪する。通信を聞いていなかったのは俺のほうだ。話によると、アンノウンは、高度8000、速度400ノットで西に戻っていったらしい。オスカー隊も追尾は最初から断念したようだ。アレに追いつける飛竜はいないと思う。無駄骨だ。
『副隊長!一体何をして・・・』
『リサ一等飛行兵。その話は基地に帰ってからいくらでも聞いてやる。今は勘弁してくれ。休ましてほしい。』
あたりがまぶしい。時間帯は夜明けから朝に変わったか。時間帯はどうでもいいから休みたい。
『ダイナ03よりジーク02へ。残念ながら休息は後回しだ。帰還後には、アンノウンに関する上層部の審問が待っている。』
・・・。
『ダイナ03より全騎へ。これより帰還する。港湾・首都地域の上空警備は北フランシア基地のニック隊が引き継ぐ。以上!』
帰還を始めるが、オスカー隊は疲労してないので先に返す。ジーク隊はほとんどの飛竜たちがへばっているらしく低高度・低速度で帰ることにした。港や街は落ち着きを取り戻しているようだ。アンノウンに侵入されていたら騒ぎは大きくなっていただろう。港や街中からぽつぽつ伸びている煙突からは、煙が立ち昇っている。
任務を解かれたので、魔法通信で話をすることにする。
『リサ一等飛行兵。乱気流に揉まれて高度を落としてしまったようだね。飛んでいるもののまわりには、多かれ少なかれ気流の乱れている場所があると教えたはずだが』
『アレックス副隊長。そんな副隊長は、追跡中止命令を無視して高度7000までアンノウンを追尾していたじゃないですか。ほら、飛竜がバテてますよ。副隊長も疲れた顔をしてますよ?』
ぐっ。痛いところを突かれた。これは俺のミスだ。相棒に無理させたのも事実だし、反論できない。誰か助け舟を・・・
『アレックス。熱くなるのは結構だが、魔法通信を聞き逃すほど熱中するのは良くない。お前は副隊長だぞ。自分と部下の状況もしっかり把握するんだ。』
隊長に諭されるように言われる。俺が訓練生だった頃を思い出させる台詞だ。追い討ちをかけられたので、リサには謝っておく。なんだ、あの喜びかたは。非常に悔しい!
188 名前:171 投稿日: 2005/05/11(水) 22:51:49 [ tR.ESYHI ]
話題を別の方向に振る。
『あれはどう見ても帝国の技術で出来るものじゃないです。この国の技術者だって飛ばせないと思いますよ。帝国の軍事行動ではないですよ、あれは』
「あれ」とはアンノウンのことに決まってる。
『そうだとしても、帝国はこの国を除いてほとんど北大陸を手中に収めてるんだ。北部都市国家同盟も崩壊寸前らしい。北大陸北部を制圧したら、間違いなく帝国はこの国に向けて南進してくるさ。』
ダイナに返答される。隊長に振ったつもりなんだが。まぁいいか。
『なら、俺は南大陸に逃げますよ。帝国の「竜騎士様」とは戦いたくないな。』
『何を言っている。南大陸と北大陸の間は幅50キロ程度の海峡しかないんだ。ガレー船でもたどり着ける距離だ。』
今度は隊長に返される。
『じゃぁ、東大陸・・・』
『大航海時代の遺産か?あんな遠くまでどうやって行く?定期航路なんてないぞ。第一、あそこはなーーんにも無い。荒野の木の本数を数えるくらいしかすることが無い。』
『北極大り・・・』
『凍死したいか?それに北大陸に近いじゃないか。』
ダイナがよく話すな。
『まったく!みんな揃って帝国と戦って戦争童貞を卒業したいんですか。ナイトロス軍人は貞操を失いたがる変態の集まりですか、そうですか。』
帝国とこの国は、この国の建国以来数百年間鎖国状態だ。帝国周辺の状況は、外交省が発表する情報に頼るしかない。
帝国は、この国を「逃亡者と異端者と南大陸の蛮族が建てたナイトロス半島の弱小国家」とみなして放置しているそうだ。・・・南大陸北部もナイトロス領だが。おかげでこの国は平和に保たれ、南大陸の国々との交易で豊かになり、科学と魔法学が進歩したんだから皮肉なもんだ。帝国と戦争したことが無いんだから、俺達も実戦は経験したことが無い。
189 名前:171 投稿日: 2005/05/11(水) 22:54:54 [ tR.ESYHI ]
『アレックス副隊長。職業軍人なのだから給料分は働かなければ。しかし、本当に疲れているのか。皮肉ってないで帰るぞ。軍のお偉方が首を長くしてお待ちだ。』
隊長、皮肉を言わなきゃ、やってらんないですよ。
基地が見えてきた。なんだか憂鬱だ。何を聞かれるんだろう・・・
・
・
・
幸い、俺は上官命令の無視は咎められなかったが、アンノウンの特徴やらをこれでもかと言わされた。隊長、副官である俺とダイナの騎長の三人で軍の高官達に受け答えしたが、よくあそこまでしゃべれたと、我ながら感心する。開放されたときには昼を過ぎていた。何時間話しつづけていたんだ・・・。アンノウンの追跡のほうが楽だったかもしれない。
先に帰っていた連中が話し掛けてきたが、さすがに口を開く気力が残っていなかった。彼らを適当に追い払って重い足取りで宿舎に戻る。部屋のドアを開けると同時にベッドの上に倒れこむ。士官用のベッドが柔らかいと感じたのは久しぶりだ。着替えをする気も起きない。
それにしても、アンノウンは何だったんだろう。飛竜でも撃墜が難しそうな空を飛ぶ機械。翼、胴体の赤い丸が印象的だ。どう考えても帝国の物には見えなかった。西の海からやってきたが、西の海には何かがあるのだろうか。あそこはかなり遠くまで何も無いはずだ。それとも・・・
ここまで考えたところで激しい眠気が襲ってくる。誰かが起こしに来るまで眠るとしよう・・・。
210 名前:171 投稿日: 2005/05/21(土) 22:21:20 [ tR.ESYHI ]
夜の帳が降りてガス灯の灯るフランシア市において、首相官邸はその明るさと活気を失っていなかった。上級軍人・官僚や閣僚、南大陸各国の大使達が閣議室に集合している。
「アンノウンの登場により、首都の防御力を上げる必要があります。」
首都鎮守府司令官が沈痛な面持ちで首相に報告する。
「首都近辺には、フランシア基地と北フランシア基地の2箇所で四個戦闘/制空飛竜隊・・・これらのうち、精鋭の首都防空隊は二個部隊、そして二個攻撃/爆撃飛竜隊、後は偵察や哨戒、訓練途上の部隊しかありません」
「充分な戦力だと思っているが?並大抵の軍隊では、まず倒せるレベルの軍勢ではないと思うが・・・」
首相が応える。首都鎮守府司令官の言わんとすることは分かる。だが、北の脅威がある限りそれは無理な話だ。緊急召集がかかったのは、アンノウンによるものだけではない。
「・・・先程、オスミア国教会が枢機卿会議を開く準備をしているという報告が、休眠工作員(スリーパー)からあった。議題は『聖戦』らしい。」
外交大臣の発言によって場が一気に凍りつく。事実上の政教一致体制国家オスミア=ハフニー連合帝国において、教会の決定は即ち国家の方針になる。そして、「聖戦」は邪教徒や敵対国を「浄化」するために発動される。
「やはり、か。予想はしていたが、かなり早いな。北部都市国家同盟の占領まで無いと思ったが。我々の読みが甘かったか。」
予想された事態なので、落ち着いて首相が応える。ますます、半東北部に軍を集中させなければならなくなった。国軍大臣が対策を述べ始めた。
「予定より早く部隊を北進させ、防衛線を築かせます。同時に、南大陸方面軍からも部隊を引き抜き、順次配備につかせます。しかし・・・」
ここまで言って、表情を曇らせる。
「本日未明のアンノウンの接近によって、警戒のために首都に部隊を増強する必要があります。鎮守府司令官の意見を取り入れる必要があると思われますが、飛竜部隊はあまり割けません。」
アンノウンは辛うじて撃退できたが、撃破や追尾は極めて困難との報告がフランシア基地から来ている。かといって地上の対空魔法では射程に捉えられないらしい。
211 名前:171 投稿日: 2005/05/21(土) 22:24:14 [ tR.ESYHI ]
首相は瞑目する。南大陸の飛竜部隊を派遣することも出来るが、環境の適応を考えると今すぐとはいかない。他の北大陸の基地からひっぱってくる訳にもいかない。・・・となると。
「海峡中央部で遊弋している第一飛竜機動艦隊に、戦艦ダイヤモンドとエメラルドをあわせて首都近海を哨戒させる。練成中の機動艦隊と最新鋭戦艦の回航で首都の守りを増強する。」
「待ってください!それでは海峡防衛に穴が開きます!それに、どちらの部隊も一人前とは言えません!」
国軍大臣が異議を唱える。飛竜母艦一隻のみの機動部隊と、まだ不安定な三次元魔探搭載の戦艦2隻では、大臣が不安になるのは当然と言える。
「この際仕方あるまい。訓練と警戒を一緒にやってもらう。海峡警備に関しては、海峡通商条約に基づき、コバルタ連邦の航空騎兵隊に引き継いでもらおうと思う。大使殿、どうですか。」
首相に指名されて、南大陸の有力国、コバルタ連邦の大使・・・長身痩躯で長耳の獣人・・・が武官に耳打ちされつつ、首相に返答した。
「わが国の航空騎兵隊は、スターリング、ランカスター、ハリファックス各連隊を派遣可能です。数で性能不足は補えると思われます。正式な要請があれば、準備に取り掛かります。」
アンノウンと海峡防衛に関しては、これまでと言うことなり、後回しにされる。
「今日の主議題は帝国だ。帝国は間違いなくこの国を蹂躙しにやってくる。少なくとも1年以内に。しかし、最新兵器の導入が計画より遅れているのはどうにかならないのか・・・」
「首相閣下。陸軍の野戦魔導カノン砲、高射魔導砲、海軍の飛竜母艦、一部の新鋭艦などに使われる魔法強化アルミニウム装甲はまだ高価な品です。また、魔法推進機関の燃料である魔導石の精錬は、時間がかかるので仕方がありません。現有の兵器でも充分すぎるほど帝国軍に対応できます。兵器の優劣より、人海戦術を取られる事の方が心配です。」
国軍大臣が応える。図上演習では、中世の軍隊そのものの帝国に「同数なら」勝利している・・・
「産業省も資源開発を急いでおりますが、南大陸のアルミニウム鉱山と精錬所は開発に時間がかかりそうですので、無理な配備計画には応じられません。陸軍に関しては、通常兵器の配備で間に合わせてもらいます。海軍に関しては、鋼鉄、石炭の供給は充分ですので、旧来の船を、快速スループ船や装甲艦に更新・改造することを勧めます。」
産業大臣が現実的な発言をする。資源開発事業のほとんどは、民間企業と共同で進められている。鉄鉱石、石炭の生産は飛躍的に伸びているが、アルミニウムのような新素材は産出量がまだ少ない。
「法務省は、民間人避難に関する法律を整備中です。ナイトロス半島全体の住民およそ150万人をどのように疎開、もしくは避難させるか検討中です。」
・・・すっかり夜が更けても、官邸の明かりは消えなかった。それどころか、隣接する上院・下院議事堂に明かりが灯り、更に明るさを増している・・・。
212 名前:171 投稿日: 2005/05/21(土) 22:27:05 [ tR.ESYHI ]
・
・
・
「・・・という訳で、アレックス大尉、明日からしばらく沿岸部と近海の哨戒と臨検任務についてもらう。もちろん、哨戒部隊の指揮官としてだ。」
隊長が、俺に向かって無慈悲に宣告する。眠りから覚めた後(日付が変わっていた)、基地の詰所に赴いた俺は、自分が沿岸警備の任務に推挙され、そのまま任命されたことを告げられた。
「待ってください!自分は何も聞いていません!一体いつそんな話・・・」
「君が聴取を終えた後、新しい任務に関する説明があるのですぐに出向けと言うように、何人かに言付したのだが。そのまま君が来なかったから、多数決により、指揮官に君が選ばれた。」
思い当たる節はある。聴取後、俺に話し掛けてきた連中の中に「任務」だとかなんとか言ってた奴がいたような気もするが、まとめて追い払ってしまった。クソッ!
「勝手に物事を決めるのは民主主義の基本理念に反しています!第一、哨戒・・・いや臨検を何で我々がやるんですか?!」
「『民主主義』の基本理念である多数決で君が選ばれた。哨戒の方は上からの命令だ。偵察飛竜隊代わりに我々を使うそうだ。応援も来ると言う話もしていたな。臨検は・・・諦めろ。」
飛竜の後ろに海軍歩兵を乗せて、船舶の臨検を行うっていうことぐらいわかる。経験したこともある。ただ、臨検は飛竜部隊、そして竜騎兵の任務の中でも特に危険な部類に入る。殉職原因のトップ3に入るんじゃないか?
「空を制する戦闘飛竜隊が、船のチェックですか・・・。犯罪シンジケートの密輸船や私略船に出会って、攻撃されたらどうするんですか!」
結果は士官学校で習っているが、言わずにはいられない。
「サポートの攻撃隊が船を沈める。」
「そういう事態になった時、間違いなく我々は死んでますよ。」
「大丈夫だ。臨検中に殉職すると、普通の事故死より多くの遺族手当が支払われる。」
「隊長・・・」
泣きそうになる。船の甲板の上で死ぬ為に竜騎兵になったんじゃない。部屋の中の石油灯の煌きが目にしみる・・・
213 名前:171 投稿日: 2005/05/21(土) 22:30:13 [ tR.ESYHI ]
「全てはアンノウン対策だ。アンノウンを操る国家や文明の船舶が来る可能性もある。胸を張っていけ!大尉だけがアンノウンに命中弾を与えたのだ!」
それなら通常の制空任務のほうが・・・。話を逸らされている。どっちにしろ、決められたことだし。任務を引き受けるほか無い。
「・・・謹んで任務を拝領いたします。」
その後は、基地の高官を交えて具体的な作業について話し合われた。ジーク隊からは5騎ほど供出するらしい。リサを推薦してやった。さっきのやり取りをニヤついて見ていた罰だ。この世の終わりのような顔をされたが、見て見ぬふりをする。彼女は実戦的な臨検は初めてだから、いい機会だ。
話を進めつつ、隊長の言葉を思い出す。詳しくは話していなかったが、アンノウンはどこかの文明の所有物みたいなことを言っていた。軍というか政府は、そういう風に判断したんだろう。アンノウンに関しての王国政府の正式発表は無いが、議会が開かれていると言うことだし、今日の朝には何か発表が・・・
「アレックス大尉。聞いているかね?」
「はっ!司令官殿!!我々は飛竜母艦「ブルードラゴン」から発進するクロード、スージー、ジーン隊及び各地の偵察飛竜の補佐が主目的でありまして・・・」
・・・徹夜になりそうだ。
229 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/05/29(日) 20:44:06 [ tR.ESYHI ]
『た・・・大尉・・殿・・・速度を・・・落として・・・くだ・・・』
後ろの海軍歩兵がうめいている。だらしない。100ノットぐらいしか出してないぞ。
『飛竜酔いするのに、なぜ海軍歩兵になったんだ?訓練では飛竜に乗ってるだろ?』
『訓練の・・・普通に・・大丈夫・・・ったんです・・・緊張した・・・吐き気・・・です・・・』
相当やばいようだ。最悪の事態になったら叩き落してくれる!
『申し訳ありません大尉。そいつは実戦で飛竜に乗るのが初めてなんです。大目に見てください。』
リサ騎に分乗している海軍歩兵が謝ってくれた。謝ってくれるのはうれしいんだが・・・
『君。戻したら、君の自前の翼で大空を飛んでもらうぞ』
『そん・・な。私達・・の翼・・・飛べない・・・』
後ろに乗っているのは人間ではない。竜人とか呼ばれている南大陸起源の種族の兵士だ。遥か昔に、竜族から進化したらしい。二足歩行の竜といった風情だが、背中の翼は退化していて飛べないそうだ。かなりの怪力らしいので、パイク兵や海軍歩兵に数多く登用されている。しかし・・・飛竜酔いした竜人族を見るのは初めてだ。
『ご先祖様に粗相のないようにしろ!』
『・・・はい・・・』
先輩の海軍歩兵に喝を入れられ、ようやく黙った。時折、うめき声が聞こえてくるが、無視だ、無視。
『引き続き、洋上哨戒を行う。このまま西進。エミリーは司令部に通信。』
『『了解!!』』
230 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/05/29(日) 20:45:04 [ tR.ESYHI ]
今、俺は首都西岸沖を哨戒中だ。俺とリサを含めて5騎のジーク隊と、機動艦隊から派遣されてきたジーン隊2騎、それにエミリー隊の1騎を引き連れている。哨戒を主任務にしているというよりは、他の哨戒部隊の援護が主任務だ。応援要請があったら、直行するように手筈が整えられている。
しかし、昨日の大騒動が夢のような快晴だ。・・・?昨日も晴れてたか。基地で昼寝したかったなぁ。
『アレックス大尉!3時方向に船舶!確認しますか?』
リサだ。相変わらず目がいい。そこは頼りになる。彼女に接近させ、船籍を確認させる。
『船名は・・・シャインウィンド。ナイトロス海軍旗を掲げています。念のため、エミリーは確認を取ってください。』
『・・・確認。第三艦隊所属の「駆逐艦」です。機関の不調で、艦隊と別行動を取っているそうです。』
ずぅっとこの調子だ。確認がとれたら上空で旋回。船の確認をして、異常が無ければその場を離れる。海軍が警戒態勢に入っているためか、民間の船はかなり少ない。見つかる船のほとんどが軍艦だ。
『「駆逐艦」とは新しいタイプの船だったかな』
海軍のことには詳しくないので、海軍歩兵(後ろに乗っているグロッキー状態の奴ではない!)たちに尋ねる。
『それまでの戦列艦やフリゲート、コルベット、ガレオンとは全く、蒸気船ともかなり違う船らしいですよ。他にも「戦艦」や「巡洋艦」、「飛竜母艦」とかもありますね。高価なので配備は進んでないらしいです。詳しくは我々も・・・。』
へぇ。俺がガキの頃には、煙を吐いて進む蒸気船は結構珍しかったが、それ上回るフネが現れるとは。「スクリュー」とやらで進むそうだ。「科学と魔法学は日進月歩」とは誰の言葉だったかな・・・。
『大尉。結構楽ですね!もっとひどい物かと思っていました!』
リサがのんきなことを言ってのける。今日はいい天気で不審船がいないから、そう言ってられる。俺が初めて臨検をした時は、大荒れでとんでもない天気だったぞ。先輩の話では、密輸船の乗員と銃撃戦になったこともあるそうだ。まぁ、不安がらせても仕方ないから、黙っておくか。
231 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/05/29(日) 20:46:28 [ tR.ESYHI ]
『臨検するたびに、危険な目に会うわけではないですから。エミリー隊の中でも、命の危険を感じるような体験をした竜騎兵隊員は、ごく一部ですよ。・・・?司令部から通信です・・・』
司令部のほうから連絡があるとは珍しいな。ただ、ろくでもない予感がする。これは・・・竜騎兵としての直感が訴えてきている!
『司令部から、フランシア西岸沖に展開中の全部隊に緊急伝達!哨戒中の部隊が国籍不明艦を3隻確認!大型艦を含む模様!周囲を警戒中の部隊は、現場に直行せよ!!地点は・・・』
・・・予感は当たった。指定された場所は、ここから西北西に40海里くらいか。飛竜たちの残り滞空時間が不安だが、あと1時間半は大丈夫だな。いざという時は滑空飛行させるまでだ。
『ジーク02より各騎へ!これより、国籍不明艦の確認のため現場に急行する!ジーク隊と海軍歩兵は装備の確認!ジーン隊騎は攻撃態勢の準備!エミリー09は司令部、周辺部隊との連絡を密にせよ!・・・ピクニックは終わりだ!気を引き締めて行くぞ!!』
一気にお気楽な雰囲気が無くなる。現場へ急行するために相棒を急旋回させ、一気に加速する。後ろからかなり辛そうな声が聞こえてくるが、本当にかまっていられない。根性で我慢しろ!
『エミリー09よりジーク02へ。飛竜母艦の艦載飛竜部隊と合流しますか?進路を南寄りに取れば合流できますが・・・』
『万が一と言うこともある。合流はやめておこう。共倒れになるよりはマシだ。どっちにしろ、合流するから問題ない。』
紺碧色の海が眼下に広がる。とても不審船が来ているとは思えない美しさだ。・・・。ったく!こっちは今から死にに行くかもしれないってのに!
『エミリー09よりジーク02へ。司令部より続報。「国籍不明艦は敵意は無い模様。増援の到着を待って、臨検およびコンタクトをとるように!だそうです!」
司令部も好き勝手言ってくれるぜ!まとめて攻撃されたらどーすんだっ!!
『艦載飛竜部隊とは、国籍不明艦のいる海域の直前で合流する!エミリー09は打電!』
後は、問題の海域に着くまで自由だ。手綱を握っていない手で、剣と銃の確認をしとくか。長剣の方は、・・・問題なし。こんな代物を使う事態は、まず起らないと思うが、念の為だ。銃も・・・大丈夫だ。普段は装備していないから、念入りに確認しとかないとな。
232 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/05/29(日) 20:47:56 [ tR.ESYHI ]
・
・
・
『エミリー09より各騎へ。間もなく不審船のいる海域に到着する!海軍歩兵を乗せた竜騎兵は、降下および着艦の準備!』
すでに飛竜母艦の部隊と合流しており、編隊はなかなかの規模だ。普通の船なら轟沈できるだけの戦力がある。が、アンノウンのこともあるからなぁ。正直通じるか不安でしょうがない。
『こちらジェーク04!国籍不明艦上空を旋回中!甲板上に人の姿を認む。手を振っており、攻撃の意図は無いと思われる!』
もう少しで現場に到着する。高度は低めだが、既に船の姿は見えてきている。かなりでかいみたいだな。1、2、3・・・。3隻か。情報どうりだ。
『ジーク02より全騎へ!搭乗中の全海軍歩兵は臨検準備!着艦に備えよ!』
後ろの飛竜酔いした竜人兵士も、準備を整えている。体調は悪そうだが、さすがに文句ひとつ言わず、装備の最終確認をしている。
『あと数分で到着する。初めて臨検に携わる奴もいるだろうが、訓練どうりにやれば問題ない!落ち着いていけ!以上!!なお、飛竜部隊は航続距離の問題により、あと30分ほどで引き返す!海軍歩兵は、あとで到着する艦艇に拾ってもらうように!』
安堵のため息が後ろから聞こえてきた。飛竜に乗ってるより、敵味方か分からん船に乗るほうがマシか・・・。
256 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/05(日) 23:26:22 [ tR.ESYHI ]
でかい!150メートルはある!飛竜母艦より一回り小さく、戦艦と同じくらいだ!!中央の奴は妙にすっきりしてるな。他の船も同じような感じだ。大砲は一門くらいしかないが、武装商船のたぐいか?箱っぽいものがあちこちあるし。大砲は・・・こっちを向いていないよな。
『最も大きい、中央の船に歩兵を降ろすぞ!降下用意!!』
相棒を減速させ、緩やかに降下させる。甲板まで10、9,8,7,6,5,4,3,2、1・・・着艦した。後ろの海軍歩兵がややふらついた足取りで相棒から降りる。そして、こっちは再び離陸する。後ろが詰まってるし、攻撃されるかもしれないし。後続の奴らも滞りなく降下、離陸している。
あわせて5人の海軍歩兵を降ろし終わる。海軍の艦艇が来るまで、この人数で頑張ってもらうしかない。
『ジーク02よりエミリー09へ。海軍はどのくらいで到着する?』
『あと一時間ほどで、駆逐艦とスループを主力とした高速部隊が到着します。』
30分は援護なしか。大丈夫かな・・・。彼らは精強だ。俺達が居なくても何とも無いはずだ。30分は、彼らのやり取りの一部を聞きつつ上空を旋回・・・撃墜されてなければ・・・していよう。ジーク隊は直上、他の連中はやや離れた場所に待機させる。
『我わ・・・トロス王・・軍第一海兵・・・属の・・・・先遣・・長の・・・・である!・・・・臨検・・・なう。貴官らの・・・を述・・・』
魔法通信は短距離で使うので、距離が離れるとすこぶる調子が悪い。魔導師ならば長距離通信も可能ではあるが。臨検隊の隊長はセオリー通りの問答をしているようだ。離陸間際に見た、青っぽい服の将校らしき人間と会話してるのか?
『私・・・・衛隊・・・横須・・・群・・・・海将・・・・・・・きり・・・・たかぜ・・・・はるさ・・・・・・・・・・国は知ら・・・・地球じょ・・・・・分か・・・・・・・りたい。・・偵・・・・竜・・・・P3・・・・銃撃・・・・被弾・・・・ので・・・中・・・した・・・・・』
おかしいな。魔法通信の魔法は、魔法がかかっている範囲の音を拾うはずなんだが、応対している人間の声があまり入っていこない。う〜ん、相手に魔法がかかってないのか?魔法は誰にでもかかるはずだが。それよりも・・・
『大尉?先方は、昨日のアンノウンのことを言ってるみたいですよ。もしかしたら、攻撃されたのを怒ってやって来たんじゃないですか?正直に大尉が名乗って、「攻撃したのは私です」って言ったほうがいいんじゃないですか?』
なっ!?とんでもない無いこと言うじゃないか、この小娘!何されるか分からんのに正直に言う馬鹿がいるか!!
『リサ一等飛行兵!それ以上言うと、憲兵に情報漏洩で突き出すぞ!傍受されていたらどうする!!!』
口からでまかせながらよく言ったぞ自分!リサも黙った。他の連中もTPOを察して黙っていてくれる。ありがとう、みんな。
257 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/05(日) 23:29:29 [ tR.ESYHI ]
『我々・・・・本・・・・消滅して・・・・シャットダ・・・・・・衛星・・・・・・・・・連絡・・・・貴国・・・・・・・たいと思・・・・・・』
『ニホンと・・・知らな・・存在しな・・・権限の範・・・・する艦隊と連ら・・・・・いいと・・・・』
話し合いは平行線なのか、まとまっていないようだ。高度を落とすか。
『ジーク02より臨検隊長へ。状況はどうなっている?』
『はぁ、彼らはニホン国の海上ジエイタイと名乗っていますが、私はそのような国は存じません。彼らの話では、突然世界中の国と連絡が取れなくなり、気付いたところ、ニホンはこの世界にあった。との事です。その他にも色々と言っているのですが、我々だけでは理解しかねます。』
ニホン・・・?知らないな。いや、そもそもなんで言葉が通じるんだ?・・・この疑問は心の中にしまっておこう。
『誰か知っているのはいるか?』
『・・・。』
だろうな。初耳だ。飛ばされてきたってのは、召還かなにかか?というより、まったく判断できん。司令部に判断を仰ぐ時だな。責任転嫁などでは断じて無い!!
『エミリー09。事の顛末を司令部に伝えて、指示を出すように言ってくれ。「現場では対応できない」とな。・・・・・臨検隊長。昨日の領空侵犯のことは何か言っているか?』
司令部の指示より、そっちの方が俺にとって100倍大事だ。
『昨日の明朝、シモフサより飛び立った対潜哨戒機P3Cが、迎撃に飛び立ったと思われるドラゴンに攻撃されたと言っています。コンタクトをとることが出来なかったそうです。アンノウンのことでしょう。ただ、彼らはドラゴンという存在に非常に驚愕しています。彼らはドラゴンを見たことが無いそうです。』
怒ってないみたいだ、良かった。それより、ドラゴンが存在しないってのは。この世界では、危険だが一般的な生物の一種なんだがなァ。
『あと、人間以外の知的生物を見たことがないと言っています。わが隊の竜人族の兵士にかなり驚いていますね。』
あいつか・・・。もう知らん。
258 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/05(日) 23:32:44 [ tR.ESYHI ]
水平線からマストらしきものが見えてきている。15海里も離れてないな。数と大きさからすると、小型艦ばかりのようだ。味方だな。
『もうすぐ時間だ。飛竜隊は基地に戻る!30分すれば・・・』
『この船は、数時間前から我が軍の艦隊を確認していたそうで、そちらに向けて航行していたそうです。』
どんな索敵能力があるんだ!?全く理解不能だ。魔探の性能はそこまで凄くはない。・・・という事は俺達も・・・
『その途中に、空から何かやってきたので、対空戦闘の準備もしていたそうです。』
対空兵器らしきものは見えないんだが。あの砲一門を空に向けて撃つのか?理解の範疇を完全に超えている。・・・本当の彼らの戦闘能力を、この時の俺は知らなかった。
『で、では、飛竜隊は退却する!臨検中の隊員は、到着する艦艇の部隊と合流した後、彼らの指示に従うように!・・・エミリー09へ。司令部は何か言ってきたか?』
『いえ。むこうも混乱しているようで、「現場の判断に任せる」だそうです。』
現場の判断ねぇ。ニホンの船は、この国の代表者と面会したいとか言ってるんだが。代表者って言ったって、国王陛下か首相のどっちに会うか、そんなの現場で決められるわけ無いだろう!
『それは、後続部隊に任せる!こっちは航続距離ぎりぎりなんだ!』
さっき言ったことと違うな・・・。・・・そういえば・・・
『臨検部隊長へ。最後に聞くが、ニホン国は、帝国と接触しているか?』
『・・・いえ。今のところ無いようです。昨朝のことがあったので、この周辺を重点的に調査するように決めていたそうです。』
「そうか。では、君たちの武運を祈る。」
259 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/05(日) 23:36:00 [ tR.ESYHI ]
『アレックス大尉。なんだが変なことになりましたね・・・。私には何がなんだかさっぱり』
俺のほうが聞きたいよ、リサ。頭をフル回転してるが、さっぱり分からん。
『後は、上層部や政府の領分だ。彼らに任せたほうがいいだろう。俺は、彼らの軍事力のほうが気になるな。』
『軍事力ですか?かなりありそうですよね。さっきの船にはたいした装備は無さそうでしたけど。』
見た目・・・はな。艦首方向に単装の砲一門、あと・・・大型の銃器一、二基程度しか確認できなかった。
『さっきの船。何か凄いものを感じたよ。何かあるな、あれは。俺の勘でしかないが・・・』
『大尉の勘なんて当たったこと無いね!』『まったくだ』『ハハハハッ』
ひどいなみんな。
『こちらクロード01。飛竜母艦所属の我々は、このまま母艦に戻ります。』
飛竜母艦の連中が別れていく。こっちは、またフランシア基地の見知った奴らばかりだ。
『考えてもしょうがないな!帰って飯だ!事故も無かった記念として、夕飯をおごってやるよ!』
士官たるもの、部下の面倒も見なくてはいけ・・・
『みんなで高級レストランに行くか!』
『賛成!!』
・・・前言撤回。上官に対する「遠慮」を教育しなくては・・・!
269 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/13(月) 00:26:12 [ tR.ESYHI ]
「帰ってきて早々で悪いのだが、明日は全日程をキャンセルして港湾地区の上空警備だ。」
隊長も人使いが荒いなぁ。明日の予定を全て白紙にするようなことといったら・・・
「ニホン・・・ですか。」
「そうだ。お前達が帰った後、ニホン国の船の指揮官が、『貴国と国交を結ぶために、外交官を乗せた上で、貴国に上陸したい。』と言ったそうだ。こちらとしては断れる立場に無いので、受け入れたそうだ。』
「しかし、信用できないので、念のために港に軍を待ち構えさせておくわけですか。」
「そういうことだな。首都近辺のほぼ全ての竜騎兵と、海軍艦艇、陸軍は砲兵を中心に『お出迎え」するそうだ。」
物騒なお出迎えだな。実際に銃火を交えるわけではないはずだが。そこまでこの国の指導者は馬鹿ではないし、ニホン国も愚かではない・・・はずだ。
「私は直接見たわけではないが、ニホン国の船はどうだったか?・・・そうだ、今日は審問は無しだ。合流した海軍から連絡が随時届いているそうだ。」
むさ苦しい部屋に缶詰にされずに済んだ!ではなくて・・・
「装甲は金属製のようでしたので、そこそこあると思います。武装は・・・正直分かりませんでした。友好的なら、是非聞いてみたいです。しかし、明日には、外交官を連れてきた上でここまで来るなんて、結構急ですね」
「先方には、かなりの危機感があるらしい。それに突き動かされて急いでいるのかも知れないな。」
危機感?よく分からん。戦争の類だろうか。
「では、ニホン海ぐ・・・ではなくて、えぇと・・・海上・・ジエイ・・タイの船は一度、ニホンまで戻るんですか?」
「いや、外交官を連れて来るそうだ。フランシアと、ニホンの首都は400海里くらいは離れているらしい。外交団を派遣準備中そうだ」
「到着予定時間は?」
「明日の昼過ぎぐらいと、上層部は言ってきている。」
270 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/13(月) 00:28:40 [ tR.ESYHI ]
へぇ、昼過ぎか。外交官達はよほど早い乗り物で、ニホン海軍・・・違うが、別にいいや・・・の船にやってくるわけだ。ドラゴン以上に早い乗り物は、ペガサスくらいだ。それとも、他の乗り物でやってくるのか?
「そうですか。なら、自主的に対策を考えておきましょう!そういうわけで、おごりは無し!!食堂の飯はおごってやる!」
「「えぇーーー!!!?」」
こっちの財布が空っぽになるような店に、行こうとすんのが悪いんだぞ。
「遅かれ早かれやるんだから、後で狼狽しないためにも、今やろうと言ったんだ。文句がある奴は挙手して理由を述べよ!」
「・・・。」
フン!
・
・
・
「賛成11、反対145、棄権4。よって、ニホン国に対する予備宣戦布告決議は否決されました。」
下院議長が宣言し、急進的な右翼政党の提案は却下された。当の議員たちは声を荒げるが、多くの政党や議員にとっては茶番程度の事でしかない。重要なのはこの先の議論だ。
「現在、ニホン国は我が国に対して中立的な感情を持っているようです。外交官が来ないと詳細は分かりませんが、友好条約は決して我が国に不利にならないはずですし、場合によっては相互安全保障条約も締結できるかも知れません。」
外交大臣が発言する。
「では、場合によっては帝国と共闘できるわけですか?また、その逆の可能性は?」
有力政党の大物議員が、この国の未来に関わるであろう問題を突きつける。発言しようとした大臣に外交事務次官が耳打ちした。大臣は顔が強張るが、発言を始めた。
271 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/13(月) 00:30:45 [ tR.ESYHI ]
「ニホン国は帝国とも接触したようです。彼らは、帝国に対しても同様の外交活動を行うでしょう。帝国との話し合いが上手くいくとは思えませんが、万が一帝国側につけば我々の負担は高まります。よって、我が国は全力を持って、ニホン国をナイトロス・南大陸国家群陣営に引き込む必要があります。最悪でも中立にする必要があります。」
議事堂内は喧騒に満たされ、収拾がつかなくなりそうになったが、議長の鶴の一声で静まり返る。
「いかんせん情報が少なすぎます!政府はどの程度ニホンについて知っているのですか?!帝国と同じような覇権国家だったらどうなるのですか?!もしくは分裂国家である可能性は?」
躍進著しい共産主義政党の議員が発言する。過激な共産主義者は、南大陸南東部の新興社会主義国家に「平和裏に」移民しているので、この国の共産党は中産階級以下の人々の支持を集めている。
「ニホン国は中央集権国家で、議会制民主主義を擁した立憲君主制、我が国の体制に近いようです。人口は一億以上だそうで、これだけで南大陸全体と我が国の人口の8割にあたります。巨大国家であることは間違いありません。」
一国家で一億人以上の人口を持つ国は存在しない。帝国は度重なる併合で、一時期一億人を超えていたが、苛烈な弾圧で現在は6000万人を下回っているとされる。反帝国最大のナイトロスで2000万人、コバルタで1500万人だ。あとは1000万人程度の国が数個。あわせて一億二千万人弱。恒常的に一億以上というだけで、ニホンの凄さが色々な意味で伝わってくる。
「そのような国に対して、軍隊で出迎えるのは問題は無いでしょうか?場合によっては、敵対行動と勘違いされるかもしれません。また、彼らが着くフランシア港の15000トン級ドック内には、進水前の飛竜母艦があります。この国に3ヶ所しかない15000トンドックのうちの2ヶ所は戦艦を建造中。フランシアの飛竜母艦が破壊されれば、建艦計画に悪影響が出る可能性が高いのですが?」
政権与党の国防族議員がいかにも、という質問をした。もっとも、彼はナイトロスの海軍力は、他国を大きく引き離していると確信しているし、それは事実だ。ニホンという不安を取り除きたい考えたのは、至極普通のこととも言える。
「警戒のために、軍が監視を行うということは連絡済です。飛竜母艦のドックのある湾には、彼らを侵入させません。侵入しようとしたら、強制的に進路変更させます。建艦計画は、帝国の南進の可能性を鑑みて全て前倒しすることが決定しています。この時、10000トン以上の艦艇の建造は後回しにされ、駆逐艦や巡洋艦のような新世代の軍艦を最優先で生産し、旧式化した汽走帆船や帆走船と更新します。旧式の船は他国に有償譲渡します。以上のことから、大型ドックを破壊されても極端な問題は起こらないと考えております。
海軍の造船将官が応える。海軍としては飛竜母艦や戦艦、魔探戦艦を配備したいが、それを賄える資源を調達できないし、人員の訓練が追いつかない。飛竜母艦にいたっては、ブルードラゴン級二番艦「クラウドドラゴン」以降の船を作っても、乗せる飛竜がいないという事態に陥る。
272 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/13(月) 00:32:30 [ tR.ESYHI ]
「最終的に首相は、どのような態度でニホン国との会談を行うのでしょうか。」
最大野党の党首が首相に質問する。まもなく帝国との戦端が開かれることで挙国一致内閣になるだろうが、「その後」が重要なのだ。ここで、首相の不備を突いておくのだ。
「我が国は、平和と安全を愛し、諸国とこれを遵守すると憲法に明記している。ニホンが、我が国及び南大陸諸国と友好的な関係を築くというなら、我々は喜んで彼らを迎える。敵対するなら、平和を守るために帝国以外にニホンとも戦わなければならない。中立の立場なら、彼らと交易を行い関係を深める。」
そつの無い返答を首相が返す。与党内の政争の妥協として就任した彼としては、充分すぎると言える回答だが、味気無さ過ぎた。
「それは日和見主義的な方法で、相手に優柔不断と思われるかもしれない!」
「ニホンという国の真意を掴めるまでは、態度を決めることは出来ない。」
「それは、真意を掴めなければ、いつまでも態度を決めないということですか?!」
「そうは言っていない」
「いや、言っている!」
不毛な言い合いは続いているが、明日にはこの国の未来を決めるであろう使者がやってくる。
305 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:40:00 [ tR.ESYHI ]
「長官、戦艦ダイヤモンドより通信。ニホン海軍艦艇は20ノット、単縦陣を維持して接近中。距離20000を切りました。我が軍の駆逐艦も一緒です。」
魔法通信兵が戦艦「ヘブンキャッスル」艦橋内に響く声で連絡する。
「20ノットか。どの駆逐艦がついていっているのかな、参謀?」
穏やかな口ぶりで、第一艦隊の司令長官が言う。
「ピークウィンド、スワンプウィンド、マストウィンド、ウィングウィンドの四隻です。」
参謀が間髪おかず応える。
「それだけか。とにかく、その四隻にニホン海軍の先導をさせるぞ。」
「了解。四隻の駆逐艦はニホン海軍艦艇を先導せよ!」
四隻の駆逐艦は、最大戦速ぎりぎりの、ニホン海軍の船と同じ20ノットを出している。
「しかし、あれだけの大きさの船が20ノットを出せるとは。こちらの重巡どころか、この戦艦と同じくらいの大きさだ。」
「長官、あれで重さは5000トン程度。大きくても7000トンしかないそうです。150メートルでそれだけ、ということは装甲はかなり薄いのでしょう。」
「彼らは、砲戦を挑まれたらどうするつもりなのだ?」
海の支配者が、戦艦から竜騎兵のような航空戦力に移りつつあるのは、彼らナイトロス海軍軍人にとっては常識であるが、軍艦は、それ相応の装甲を持たないければならないはずである。戦艦クラスの大きさがある船が、10000トンに満たないとはどういうことなのか。
306 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:41:25 [ tR.ESYHI ]
「全艦、取り舵!戦隊は単縦陣に隊形組替え!水雷戦隊は左右に分かれて輪形陣を展開。間隔は500とする!」
(とりかーじ!)
「長官!?なぜ・・・」
「紡錘陣のままでは、こちらが戦意満々だと思われるかも知れないだろう。」
「なるほど。さすがは長官です!」
(点取りは通用せんよ・・・・・参謀。)
「ニホン艦隊更に接近!距離15000を切りました!」
「ダイヤモンドより続報!ブルードラゴンより発進した飛竜部隊を確認。あと10分ほどで到着します。」
「全艦艇隊形組換え完了!全艦第一戦隊に合わせて12ノットを維持!ニホン艦隊に接近します!」
情報が次々と飛び込んできて、艦橋は慌しくなる。
「戦艦二、重巡三、軽巡四、駆逐艦十。これだけの艦隊が、たった三隻の異国の船を出迎えるとは。砲艦外交もいいところだ。」
司令長官は腕組みしながら嘯く。
「相手の戦力が分からなくても、こちらの軍事力を見せ付けるのは砲艦外交の基本です・・・が、いささか大艦隊過ぎるような気がします。」
彼らは、ニホン艦隊の全容を知ったら絶句するであろう。
307 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:42:38 [ tR.ESYHI ]
「ニホン艦隊、2時方向、距離8000!速度は変わらず20ノット!周囲を我が方の駆逐艦が固めている模様!」
「面舵一杯!ニホン艦隊がフランシア軍港に進むのを阻止する!駆逐艦ピークウィンドに連絡!『ニホン艦隊はフランシア商業港に接岸させよ!』」
(おもかーじ、いっぱーーい!!)
「ニホン艦隊、舵を右に切りました。フランシア商業港に向かうものと思われます。港湾内侵入まで、20分ないし30分!」
「さて、我々第一艦隊の仕事はほとんど終わった。このまま、遊弋するのかね?」
司令長官が言う。遊弋するわけがない。
「補給を済ませたら、北上して帝国との境界付近の哨戒でもするのでしょう。しかし、その前に部隊の再編成を行うかもしれませんね。」
参謀は答える。もうひとつ、「ニホン海軍との合同演習」という可能性も考えたが、不確定要素が大きいので、言うのをやめた。
「ダイヤモンドより緊急通信!!」
「「どうしたっ?!」」
「超高速飛行物体が接近中!」
308 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:43:39 [ tR.ESYHI ]
同時刻、フランシア港周辺
「港湾内の兵士の配備は完了しました!」
「民間船の退避は既に終了しています!」
「ニホン艦隊、湾内に侵入!埠頭に向かっています!」
首都鎮守府総出の警備によって、港を含めて首都の全般は落ち着いている。港湾地区への部外者侵入禁止や、鉄道の検問が行われている以外は、市民の生活は普段どうりだ。新聞各紙が、謎の訪問者の事をすっぱ抜いていたので、彼らの噂話は、そのことに絞られていた。
「先導の駆逐艦群、後方に回りました!」
フランシア商業港で最大の埠頭三ヶ所に、埠頭に収まるぎりぎりの大きさの軍艦三隻が近づく。港の職員はその大きさに面食らったが、立ち直って接岸作業を再開する。
「係留網かけるぞーー!」
「接岸準備ー!」
遂に、ニホンの船は岸壁に接岸し、乗員の下船準備が始まる。同時に、ナイトロス陸軍の完全武装した兵士や騎兵が、整列して不測の事態に備える。
309 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:45:45 [ tR.ESYHI ]
タラップから、階級章を輝かせた高級軍人と思しき人間と、機能的な服を着た気難しそうな人間が降りてくる。
「ようこそ、ナイトロス王国へ!私が首都鎮守府の司令官です。我々が責任を持って、あなた方を会議場まで護送します。なお、我々に対する敵対行動と取れる行動を起こした場合、安全の保障はしかねます。」
司令官は震えそうになる体を抑えて、精一杯の笑顔で手を差し出す。先方の軍人が、やはり笑顔で差し出した手に握手する。コミュニケートは成功したようだ。その軍人が口を開く。
「私は、海上自衛隊第一護衛群の司令です。本日は、日本国の特使と外交官達、その他省庁の官僚も若干名連れてきました。護衛には感謝いたします。こちらとしても、敵対行動を取られた場合を考慮して、先程連絡した航空部隊を、上空に貼り付けます。我々に何かあった時には、彼らは躊躇無く攻撃を行うでしょう。」
いきなり攻撃するはずなど無いので、半ばはったりなのだが、日本の事情を知らない鎮守府の司令官は萎縮してしまった。アンノウン・・・ジエイタイでは哨戒用だという・・・で手出しがほとんど出来なかったのに、それ以上のものを連れてくるというのか・・・!
「司令!第一艦隊より通信!超高速の飛行物体が高度10000、600ノットでそちらに向かったそうで・・・」
言い終わる前に、西から鋭い爆音が聞こえる。上空警備の飛竜隊は気付いたのか、一気に高度を上げる。しかし、追いつくどころか、届くことすら出来ないだろう。上空の飛竜隊は、猛者の多いことで知られるジーク、オスカーの二部隊で固めているというのに、だ。
「対空戦闘用・・・・!」
「待て!!」
現場の指揮官が命令しようとするのを、司令官は慌てて止める。海上ジエイタイの司令官が言うところの、航空部隊だろう。はるか上空に幾本もの雲が延びている。ゆるやかな旋回をしているようだ。
「彼らは航空自衛隊のF−15要撃戦闘機です。こちらの手違いで、彼らが来る旨の連絡が遅れたことを謝罪します。」
そして日本の外交団は、上空に強力な守護者が居る中、会議の行われる会場まで厳重に警備されながら、向かっていった。
310 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/20(月) 23:46:59 [ tR.ESYHI ]
・
・
・
『クソッ!ジーク01より各騎へ!追尾無用!追いつけるはずがない!!高度2000まで降りて、港湾地区の上空警備を続行する!』
隊長が怒ったような口ぶりで命令する。ここまで性能の差があると、俺の場合は、怒りを通り越して尊敬の念すら浮かんでくる。
『オスカー01よりジーク01へ!こちらも高度を下げる!こっちは6000でいっぱいいっぱいなのに、向こうは10000を平然と飛んでいやがる!!』
幾分苦しそうな息遣いをする相棒の手綱を引っ張り、高度を下げさせる。7000まで行こうと思えば行けるが、飛竜は完全にバテるだろうな。それですら、彼らは、はるか天空の彼方だ。
『・・・・・。』
言葉が出てこない。隊の連中は押し黙っている。俺も何か言おうかと思ったが、カルチャーショックを受けたような状態になっている時にかける言葉を、俺は持っていなかった。
ま、粛々と残りの任務をこなしますか。俺達の敵は帝国であって、ニホンではないはず・・・だ。
328 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/27(月) 00:53:06 [ tR.ESYHI ]
「もう一度言って下さい!小麦が500万トンに石油が3億キロリットル!?そんな資源はこの国にはありませんし、世界中捜しても見つかりませんよ!!」
ナイトロス外交省の外交官がまくし立てる。この国の小麦生産量は70万トン、石油はせいぜい20万キロリットルだ。
「我々は、1億2000万人の日本国民の飢えを避けるためにも、一年間でこれだけの資源が必要なのです。これらを提供していただければ、友好条約を喜んで締結します。」
「必要も何も・・・」
外交官は、日本の特使の言葉に絶句する。ナイトロスと南大陸全国家を集めても、それだけの資源は集まるはずも無い。鉄鉱石や石炭はある程度輸出できるが、石油は資源として利用され始めて日が浅く、灯火の燃料くらいの用途しか、まだない。
「日本は資源に乏しく、多くの資源を輸入してきました。食料から鉱石まで。日本がそれまでの輸入元から切り離されてしまった以上、新たな輸入元が必要なのです。」
「しょ、食料品に関しては関係各国と協議して、出来るだけ便宜を図ります。勿論、ニホンにもそれ相応のものを要求させてもらいます。エネルギー資源に関しては無理です。友好条約を結んだ上で、貴国と我が国等が共同で石油採掘施設の建設を行いましょう。ニホン政府は、南大陸の各国政府と話し合いを持つ予定はありますか?」
日本の特使は、はっとした表情になる。
「いえ、まずは貴国との交渉をまとめ、それから取り掛かる予定ですが・・・。」
「ニホン政府の欲する鉱業資源の多くは、南大陸諸国から産出されます。もし資源開発を行うならば、各国政府との協議が必要になります。ナイトロスは、それらを斡旋することが出来ますが、どうしますか?」
329 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/27(月) 00:54:53 [ tR.ESYHI ]
会話の主導権を、ナイトロスの外交官は握った。
「ナイトロス政府の申し出はありがたく受け入れます。」
一部の問題をはらみつつ、友好条約締結に向けた会議は、一応まとまりつつあった。しかし、
「日本政府は、貴国とその友好国との平和的関係を築くことを期待しています。しかし、貴国の要求の中にある『軍事協力』は、我が国の憲法に抵触する可能性があるので、この場で私はイエスともノーとも言えません。」
「『専守防衛』を掲げているならば、同盟国が戦争を仕掛けられれば自国が攻撃されたと同じ判断が下されるはずなのですが?」
「その点に関しては、後ほど資料をお渡しします。・・・こちらにも色々と困った問題があるのです。」
・・・ニホンは高度な軍事技術を保持する国でありながら、専守防衛、同盟国が攻撃をされたときには集団的自衛権が発動するか微妙。ジエイタイは一体なんのために存在しているのだ?・・・
「ナイトロス政府は、ニホンとの関係構築を強く望んでいます。いえ、純然たる敵性国家オスミア=ハフニー連合帝国に備えて友好国を増やしていく必要があります。この際、軍事協力は後回しにしてそれ以外の協力を、まずは深めていきましょう。」
「分かりました。日本政府は貴国との友好関係の構築を喜ぶでしょう。軍事協力に関しては、国会での審議を経てからになるでしょう。時間がかかるかも知れませんよ?」
「仕方ありません。貴国が常識的判断を下すと信じています。最後に、ニホンは帝国とも交渉しているそうですね。」
「はい。何か問題でも?」
「彼らに対する交渉はまず不可能だと思いますよ。」
330 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/27(月) 00:56:58 [ tR.ESYHI ]
会議場の別室。国土地理院や文部科学省、経済産業省、気象庁関係者等の関係者がナイトロス政府が派遣してきた学者達と会談していた。
「この星の大きさや、自転、公転周期、その他の情報は分かるでしょうか。・・・この国では地動説ですよね?」
見下したような言葉にムッとしつつ、ナイトロスの科学者が答える。
「この星は、公転周期は・・・あなた方の世界の時間に直すと361.16日、自転周期は23時間10分です。・・・衛星が一個あります。この星の赤道直径は11900キロメートル、重力加速度が赤道上で9.70メートル毎秒・・・」
日本にとって足りない部分も多いが、最初から調べるよりもはるかに楽だ。地球よりもやや小ぶりな惑星が、地球よりほんの少し主星に近いところを回っているようだ。
「次にこの星の地形ですが、主な大陸は、北大陸、南大陸、東大陸、北極大陸の四つです。それ以外にいくつかの群島があります。開発が進んでいるのは北大陸、南大陸の二つで、東大陸は半世紀ほど前から勇気ある移民によって開発が進められています。北極大陸は、極寒の地であることと帝国に近いことによって事実上の未開拓地です。」
ここまでは、普通の日本人なら充分理解できた。が・・・
「北極、東大陸は古竜のような危険な生物が多いので、中々開発できないのが実情ですし、クラーケンやサーペントがうようよいるので手を出すのが難しいのです。」
「竜、クラーケン?」
「あぁ、そうでしたね。ニホンのあった世界ではそのような生物は伝説上のものでしたね。あと、魔法もでしたか。この世界では魔法学と科学は、テクノロジーの両輪として切っても切れない関係にあります。科学で実現困難なものを魔法で再現する、こんな感じですかね。これ以上は口止めされているので、言えませんが。」
331 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日: 2005/06/27(月) 00:58:58 [ tR.ESYHI ]
「では、資源情報は・・・」
経済産業省の官僚が言い寄る。日本にとって必要なのはそれだ。地図を渡されただけでは、資源開発に莫大な時間がかかってしまう。
「石炭、石油、鉄、銅、貴金属、その他資源の8割は南大陸産、言えるのはこれまでです。ニホンがナイトロスや南大陸諸国と友好的関係になったらお教えできますが、帝国と手を組んだら、お教えできません。」
「貴国の領土でない場所の資源に、なぜそこまで確定的に言えるのですか。もしかしたら南大陸の国は我が国に資源の輸出を始めるかも知れませんよ?」
「各地の鉱山や精錬所は、多かれ少なかれ我が国の国営企業か民間企業の出資によって運営されていますし、南大陸の国々はナイトロスと貿易条約を結んでいます。」
たいした資源ナショナリズムだと経済産業省の官僚は思った。
「やはり、魔法とやらの原理を知りたいのですが・・・」
「それは不可能です。魔法技術はこの国の建国以来400年にわたる研究の一大成果です。それ相応の見返りが無ければ教えることは無理ですし、魔法に関する知識のないあなた方がすぐに理解できるとも思えません。今教えても意味の無いことかと・・・」
科学者としての欲求は跳ね返されてしまった。今まで魔法らしきものは見てこなかったが、船内にいたナイトロス兵は魔法通信なるもので交信していた。見た目には独り言を言ってるようにしか見えなかったが、話は出来ていたようだった。魔法の存在を認めるしかないだろう。日本国内に居る科学者達はなんと言うのであろうか。
「とても残念ですが、この世界に関する情報の多くを手に入れることが出来ました。日本とナイトロスが友好国となり、技術の交流が進むことを強く望みます。」
この場では先程の情報の入手と、日本語とハフニー語(ナイトロス標準語)の対訳の開始くらいしか決まらなかったが、外交交渉が上手くいけば更なる交流が出来るだろう。